#猫好きの輪を広げよう
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monthly-ambigram · 3 months ago
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2025-4月号
アンビグラム作家の皆様に同じテーマでアンビグラムを作っていただく「月刊アンビグラム」、主宰のigatoxin(アンビグラム研究室 室長)です。
『アンビグラム』とは「複数の異なる見方を一つの図形にしたもの」であり、逆さにしたり裏返したりしても読めてしまう楽しいカラクリ文字です。詳しくはコチラをご参照ください⇒アンビグラムの作り方/Frog96
 
◆今月のお題は「キッチン」です◆
今月は参加者の皆様に「キッチン」のお題でアンビグラムを制作していただいております。作家の皆さんがこのお題をどのように調理したのか、楽しみにご覧ください。
皆様のコメントがいただけますと幸いです。
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「台所」 敷詰振動型:ちくわああ氏
日本語で言うと台所。 「ム」の末広がりが「戸」の形にぴったり生きていますね。縦太横細のお作法が丁寧で気持ちいい作字だと思います。
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「厨/台所」  回転共存型:lszk氏
台所には厨という別の呼び方もあります。 本作では字画の大きな省略を使わず、大胆な変形で文字を両立させています。アルファベットのようにも見えてきて読むのが難しかったかもしれません。
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「焜炉」 回転型:うら紙氏
キッチンにあるもの。もともとは持ち運びができるものを言いました。 途切れている場所をつなげて読むか離したまま読むか、認識が自動的に切り替わります。文字の雰囲気がガスコンロの火のようにも見えます。
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「炊飯器/冷蔵庫」 図地反転型: いとうさとし氏
どちらもキッチンの必需品。 矩形枠から一部図形をはみ出させているのは仕方ないところでしょうか。それを差し引いても対応のすごさと可読性の高さですばらしい作品になっています。
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「製氷皿」 回転型:繋氏
冷凍庫で使いますが、最近の冷蔵庫には付属されていないことが多いです。 「氷」の形と配置がよいですね。「制」部分の省略が適切で非常に読みやすいです。
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「鍋掴み」 回転型:douse氏
日本では鍋が根付いているのがよくわかるネーミング。 「咼/国」の対応が見所です。てへんとの重なりや、字画を斜めに切ってある部分など、どれも絶妙です。
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「IH調理器」 鏡像型:螺旋氏
電磁誘導加熱式の調理器具。仕組みを知っている人はどれだけいるか。 「IH」で平行線部分の長さが違っているところも配置が適切なので不自然に見えません。「調理器」の字形も外枠の角丸矩形とそろっていてスマートです。
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「���烹着」 図地反転鏡像型: いとうさとし氏
和式エプロンであり、着物の袖が収まるようになっているのが特徴。 「烹」はほぼ左右対称の文字なので、これが図地反転鏡像軸の中心にきているのが驚きです。とても味わい深い字形になっていますね。
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「菜箸」 回転型:douse氏
調理、盛り付け、取り分けなどに使う長い箸。 余りがなく自然に対応付くのがすばらしい発見ですね。商品パッケージになりそうな趣のあるデザインでステキです。
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「圧力鍋 お米の旨味を逃さない!!」 鏡像型:すざく氏
圧力鍋は、蓋を密閉して鍋の内部の圧力を上げることで高温調理が可能。 文字列生成で。「圧力/咼」のところ、書体も含めて調整が上手ですね。左右対称な文字同士を左右鏡像で対応付けている「米/未」のところ��面白いです。
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「タルト・タタンの夢/近藤史恵」 回転共存型:兼吉共心堂氏
「タルト・タタンの夢」は近藤史恵による推理小説でシェフが主人公。 「罒」や「史」など、カスレを使って閉領域を形作るのは筆文字表現ならではでしょう。これで読めると割り切った「藤」の大胆さもよいですね。
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「変な家 第一章 知人からの相談」  回転(共存)型+鏡像型+敷詰[回転+鏡像]型:つーさま!氏
物語の中で話される謎の空間は「リビングと台所の間」。 可読性が高くすばらしいですね。「章」は左右対称ですが「第/章」のように鏡像で別の文字に対応付けされるのが気持ちいいです。
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「5分煮たものがこちらです」 回転型:Jinanbou氏
料理番組でよくあるやつです。 文字組みが巧みですね。各文字も読みやすいうえ、流れも自然になっているステキなデザインになっています。思い切った「が」が、こちら感があってよいですね。
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「危険!包丁二刀流」 回転型:かさかささぎ氏
やるならゲームだけにしておきましょう。 文字列生成で。三角形の部分は片方が細く、包丁感を表しているでしょうか。普通の文字と袋文字を行ったり来たりするのも一種の二刀流。
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「板前」 旋回型:douse氏
日本料理職人のことで、法律上は調理師。 絶品の輪郭調整で、「又/月」がきれいに切り替わります。お品書きの紙に書いたような表現がよいですね。
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「料理長」 鏡像型:てるだよ氏
飲食店の厨房を取り仕切る人。 「米」部分は右側がなくても自然に読めますし、「長」の平行線部分もこのような形状でも読めるのですね。よい作品に仕上がっています。
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「厨房の担当」 回転型:あおやゆびぜい氏
キッチンスタッフ。 お互いに入り組んだ文字組が面白いですね。先端を丸くする処理など、書体もポップで楽しい作品です。
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「家庭料理」 交換型:無限氏
一般家庭で日常的に作られ、食べられている料理。 「家/庭」「料/理」それぞれが交換型で表現できるというすばらしい発見です。「里」がよい形ですね。
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「火の用心」 鏡像型:lszk氏
火の扱いには気を付けましょう。 ギザギザの形状が巧妙で、「の/用」の切り替わりも自然に表現されています。水平ではないところも読みやすさの秘密ですね。
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「成��無調整牛乳」 回転型:ぷるーと氏
生乳の成分をそのまま保持し、加工時に脂肪分やタンパク質を調整していない牛乳。 それぞれの文字のポイントとなる箇所を意識して作字されているように見えます。つながってもよいところも隙間を開けたり、統一感を出すように調整されていますね。
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「食戟のソーマ」 回転型:douse氏
週刊少年ジャンプに連載されていた料理漫画。 縦の姫森ルーナ型ですね。かな部分の拾い方が上手で、文字のバランスがとても良いですね。「食」の縦画に施されたひげ処理により、縦画の位置の認識ずらしを実現しています。
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「みりん」 回転型 「とろみちゃん」 旋回型:kawahar氏
照りを付ける調味料と、とろみをつける調味料。 同じグリフを使用しているのでまとめて紹介します。「とろみちゃん」は絶妙な調整によって6面相になっています。交差部分の2種類の処理が巧みですね。
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「さとう/しお/す/せうゆ/みそ」 特殊敷詰回転共存型:松茸氏
調味料のさしすせそ。この順番で入れるのが好ましいとされています。 一つ読めれば全部読めてくる作品ですね。どうやってこの敷き詰め方を実装したのか、驚くばかりです。ずっと眺めていると、この不思議な文字たちがいとおしく見えてきます。
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「砂糖醤油」 特殊敷詰振動式複合型:Σ氏
比率はお好��で。酒・みりん・だしとともに煮切ったものもよし。 鏡映と180度回転を組み合わせた敷詰です。「糖/醤」は適切な変形の上できれいに対応付けられていて驚きました。ペン字風のちゃんとした文字然としているところがAI文字っぽく見えてきます。
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「黒酢」 旋回型:オルドビス紀氏
長期間発酵・熟成されており、アミノ酸が豊富です。 堂々としたひげ文字調の書体がステキですね。「酉」の下部ではカスレを効果的に利用しています。
 
 
最後に私の作品を。
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「賄い飯」 回転型:igatoxin
15年以上冷蔵庫の肥やしになっていたネタを調理しました。
 
 
お題「キッチン」のアンビグラム祭、いかがでしたでしょうか。御参加いただいた作家の皆様には深く感謝申し上げます。
さて次回のお題は「対語」です。賛成/��対、白い/黒い、夫婦、紅白、有の実、当箱、グループルビ など 参加者が自由に対語というワードから発想・連想してアンビグラムを作ります。
締切は4/30、発行は5/8の予定です。それでは皆様 来月またお会いしましょう。
——————————–index——————————————
2023年 1月{フリー}   2月{TV}        3月{クイズ}        4月{健康}   5月{回文}    6月{本}               7月{神話}   8月{ジャングル} 9月{日本史}     10月{ヒーロー}     11月{ゲーム}         12月{時事}
2024年 1月{フリー}         2月{レトロ}   3月{うた}         4月{アニメ}   5月{遊園地}      6月{中華}          7月{猫}     8月{夢} 9月{くりかえし}    10月{読書}          11月{運}           12月{時事}
2025年 1月{フリー}  2月{記憶}   3月{春}   4月{キッチン}  
※これ以前のindexはこちら→《index:2017年~》
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hrkwakrtxt · 1 month ago
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されど遠き窓
1年同棲した恋人のリリコに去られたヒロセ。
かつての遊び仲間たちとの再会を機に、自分を見つめなおしていく。
※性的描写があります。
 
 鼓膜をつんざくようなけたたましい音で三分経過したことが告げられた。iPhoneに入っているタイマー音はどれも、うるさすぎたり間が抜けていたりで、どうもいい塩梅にいかない。かといって好きな曲を設定するというのも、気取っていてなんだか嫌だし、なんて考えている間に、麺がどんどんのびてしまう。ここ一週間食べ続けているカップラーメンの新しい味をコンビニで見かけたのでついまた買ってしまったのだった。さすがに体に悪いか、と思わなくもないけれど、仕事が繁忙期だし、怒る人ももういないし、緩やかな自傷行為はだんだんと依存性を帯びてきた。アルミの蓋をぺりぺりと開け、頼りない麺を割り箸でずるずるとすする。想像通り、うまくもまずくもない。こういうのは結局一番最初に出たプレーンな味がいちばん飽きが来ないものだ。香辛料のききすぎたスープを飲み干す気にはなれず、流しに残りを捨てた。麺の欠片や掬いきれなかった具がステンレスに散らばり、排水溝の掃除をする必要があることを思い出して煩わしくなった。ゴミの日に合わせて、明日の夜やることにしよう。ベッドでは三毛猫のミナが僕の就寝を待っているが、寝る前に一杯やりたい。食器棚からグラスを取り出そうとすると、しばらく使っていない器達が無言の圧力をかけてきたので、結局今日もまた缶ビールを開けてじかに呷ることになった。チーズを囓りながら、さっきの残像で食器を数える。ペアグラスかける幾つだ、プレートもお椀もだいたいはお揃いまたは柄違いで二の倍数分あり、だけど今僕はそれらがなくても生活できてしまっている。
 一体、この大量の置き土産を、どうしたらいいのか。リリコがいなくなってから、もう三ヶ月が経とうとしている。一ヶ月めは現実と向き合う��に精一杯で気付かず、二ヶ月めは思い出に浸るために必要で、寂しいのが普通になった今やっと、やはりこのままではまずかろうと、彼女が残していったものを、たびたび眺めてみてはいる。一年も一緒に暮らしていたので、すぐには整理しきれない。リリコは料理好きで、腕をふるった品々を毎食SNSにアップしていたほどなので、食器類は特に数が多いが、それだけではない、いま僕が踏んづけている不思議な模様のラグも、天井からぶら下がっている星のかたちをしたライトもすべて、彼女のセンスで買いそろえたものだ。ぜんぶ置いてけぼりなんて、と何度目かの小さな憤りを感じた勢いで重い腰を上げかけては明日もまた仕事だと言い訳して、ずっと後回しにしてきたのだ。まる二ヶ月。やらなきゃいけない、と思うほど頭と体がぼんやりしてきて、やがて逃げるように眠りについてしまう。この部屋の中のすべてが、彼女のかわりに呼吸しているーーそんな妄想は少々ロマンチック過ぎるにしても、たぶんいつかは断ち切らないといけないものだし、断ち切りたいと僕自身も願っている。ああ、だけど今夜も、五パーセントぶんの酩酊を言い訳にして、ミナの待つ寝床に向かう。
 やっぱ、フリマアプリじゃないっすかねえ。心底どうでもよさそうな風情で煙とともにそう吐き出したのは、新入社員で唯一の喫煙者、塩崎くんだ。僕の若いころに輪をかけてぼーっとしていて、鬱陶しがられているかもしれないけれど、ついつい話しかけたくなってしまう。
「ていうか、広瀬さんも女にふられること、あるんすね」
「そりゃあるよ、ふったことのが少ないよ」
「女になんか全然不自由しなさそうに見えるのに」
「……不自由するかどうかはまた別の話かもね」
 しまった、失言だった。話を聞く限り、塩崎くんには女性経験がないのだ。背も高いし、肌もきれいだし、顔立ちも悪くはないのに、たぶん、ぼーっとしすぎているのだ。どうフォローしようか気を揉む僕をよそに、塩崎くんは、プロの女の子、必要になったら言ってくださいね、とにやついて仕事場に戻っていった。
 取引先からそのまま帰宅すると、宅配ボックスに母から荷物が届いていた。うちは農家でもなんでもないのに、定期的に野菜やら米やらが送られてくるのだ。お礼の電話をかけると、気忙しい母の声のうしろで、子供がはしゃいでいるのが聞こえた。
「まひろ、来てるの?」
「そうそう、今日は誠二が夜勤だから、うちで夕飯でもどうー、って」
 誠二というのは僕の弟だ。僕が秀一、弟が誠二。彼は五年前、二十四で十年近く付き合っていたひとみさんと結婚して、三年前、まひろが生まれた。高卒で消防士になり、地元で気の利く嫁をもらい、実家の近くに住み、可愛い孫の顔まで見せた彼の方に、秀の字がついていたらよかったと思う。
「あんたはどうなの、うちに連れてくるかもって言ってた子は」
「ああ、別れた……」
「あらっ、そうなの」
 数秒のあいだ沈黙があり、母のため息がきこえた気がした。
「まあねえ、おかあさん都会のことはわかんないし、元気でやってればいいのよ」
 優しく慰められ、情けなくなる。両親のことを喜ばせようなどと殊勝なことを思っているわけではないが、のんべんだらりと三十路を過ぎてしまって、なんとなく申し訳ないような気持ちはある。しかし去ってしまったリリコのことはもう、どうすることもできない。たしかに母の言うとおり、都会の三十代はまだまだ若い。正月には帰るから、みんなによろしくと言って電話を切った。ミナが足元に擦り寄ってきた。そういえばミナは、まひろとほぼ同い年だ。僕が会社に行こうとしたら、マンションの植え込みで震えていたのだ。体調不良で、と当時勤めていた会社に嘘をつき、病院に連れていった。三毛猫のミケでは安直すぎるので、ミナにした。漢字で書いたら、三奈だ。まひろは、ひらがなでまひろだ。どちらがペットかわからない。猫はものすごく好きというわけではなかったが、一緒に暮らしてみるとこれほどいい同居相手はいないように思えた。普段はお互い負担にならない距離を保ちつつ、自分がそうしたいときには思いっきり甘えてきて、逆に僕が疲れていれば癒やしを提供してくれる。リリコとミナは最後まであまり馴染まなかったように見えた。彼女は実家でダックスフンドを飼っていると言っていたが、猫にそこまでの思い入れはないようだった。
 ミナがキャットフードを食べている間、自分の夕飯を用意した。母と話したあとで不摂生をするのもなんだか悪い気がしたから、送られてきた野菜を適当に切って、冷蔵庫の隅にあったベーコンと炒めた。だけどそれでは足りなくて、結局買い置きしてあったカップ焼きそばを食べてしまった。ミナと戯れつつ食休みをし、風呂を沸かした。本当はシャワーだけでもいいのだが、リリコが置いていった高そうな入浴剤を入れてみたら案外よく、それから週末の夜はゆっくり湯船に浸かるようにしている。バスミルクやらソルトやらオイルやら、ひと揃い使い切ったら終わる習慣だろうけど。
 風呂から出ると、LINEが五件届いていた。三件は公式アカウントからで、一件は塩崎くんがフリマアプリのまとめ記事を送ってくれたものだった。金曜の夜なのに、暇な男だ。ざっと目を通し、とりあえず一番利用者数の多いアプリをダウンロードした。もう一件は月子さんからだった。明日、新宿で映画を観る用事があるのでそのあとお茶でもどうかという誘いだった。看護師をやっている月子さんが土日に会おうと言ってくるのは珍しかった。確かシフト制で、平日休みのときに声がかかることが多かった。いくつか年上のこの人と、どこで知り合ったかもいまいち思い出せないが、つかず離れずで長年やってきている。リリコと別れて初めての会合だった。
 伊勢丹近くの喫茶店で落ち合うことにした。雑居ビルの地下にあって、コーヒーが一杯千円もするかわり都内いち美味い。価格設定のおかげで店内が落ち着いているのもかなり気に入っているので、約束の時間よりも一時間早めに店に入った。今はナラ・レオンがかかっていて、いい具合に眠くなる。おかげで持ってきた本が全然進まなかった。あとから来た隣の席の男女がタロット占いに興じているのも、僕の気を散らした。壁側に座った髭もじゃの男が占い師らしく、ピンク色の髪をした女の子がぼそぼそと何か相談していた。髭もじゃがカードを切りはじめたころ、月子さんが現れた。とびきり短いショートカットに、真っ黒のワンピースという出で立ちだった。前に会ったときは、日本人形のように長い髪をしていた。
「髪、切ったんだね」
「そう!似合うでしょ」
「うん、すごく」
 脚本はいいのに女優の演技がひどくて興ざめだった、というのが今日の映画の感想だった。月子さんは映画や舞台がとても好きだが、誘われたことは一度もない。2人ですることといえば、セックスくらいだ。十年前からそんなふうにしてきて、でも僕がリリコと付き合っている間は指一本も触れずに関係は続いていたので、結局気が合うということなんだろう。月子さんが頼んだキリマンジャロが運ばれてきたところで、恋人が置いていったものを誰かに買ってもらうってどう、と相談してみると、悪趣味、と笑われた。
「そんなの、捨てたらよくない?ぱーって」
「結構高いものが多くて、惜しい」
「じゃあそのまま使ったら」
「いろいろ思い出されて、つらい」
 どんなのがあるの、と聞くので、iPhoneを手渡した。塩崎くんの指南のもと、出品用に写真を撮ってみたのだ。あとはアップロードをするだけなのだが、説明文を考えるのが面倒くさくてやめてしまった。月子さんが真剣な顔つきでフォルダを隅々まで眺めているあい��、僕はタロット占いの結果が気になってしょうがなかった。タロットは漠然とした悩みというより、誰かとの相性を知りたいようなとき役に立つのだと、昔どこかの飲み屋のママに聞いた。
 すべて見終わった月子さんは、彼女、センスのいい人だったんだね、と感心した。さらに精査したあと、寝室に置いてあるスタンドライトの写真を指差して、これ生で見たい、と言った。じゃあ見にきてよ、と店を出た。新宿三丁目から、都営地下鉄に乗る。
「ヒロセの家、久しぶり」
「そうだね」
「呼んでくれなくなっちゃったもんね」
「そりゃ、呼べないよね」
 リリコとの同棲は、僕のマンションに彼女がやってくる形で始まった。子供のいない裕福な叔父から譲り受けた、4LDKの部屋だ。付き合って二ヶ月ほどで、リリコの側から、将来のことを考えるためにまずは一緒に暮らしたい、という申し出があったのだった。そう、僕はお試し期間をクリアできず、持ち家というアドバンテージをもってしても捨てられてしまったのだった。
 三十分ほど電車に揺られて、最寄り駅に到着した。月子さんは懐かしい、と言いながら駅からの道をゆっくり歩き、玄関に入るなり、ああ、と感嘆の声を漏らした。
「これは、女がいる家」
「でもいないんだ」
「かわいそうにねえ」
 月子さんは上がり框に座り込んで、金具がいっぱいついた靴を脱いだ。ぴったりとしたスカートがあまりに短く、黒いストッキングに下着が透けそうでどきまぎした。ねぼけまなこのミナが僕を出迎えにやってきたが、月子さんの姿を認めると固まり、必死に記憶の糸を手繰りよせていた。月子さんがミナちゃん久しぶり、やっぱり美人さんだね~、と話しかけると、声で思いだしたのか、上機嫌でしっぽを震わせてこちらに寄ってきたばかりか、久しぶりの客人に背中を撫でさせた。
 お茶でも出そうかと思ったが、さっきまで飲んでたしいいと断られたので、さっそくお目当ての品のもとへ案内した。このライトはアンティークで、びっくりするほど重いので部屋の外に運ぶのが億劫だったのだ。
「ああ、やっぱり欲しいこれ」
ダブルベッドの傍らに置いてあるそれは、傘のところがステンドグラスでできていて、他のところの作りもいちいち凝っていて高級感があって、実際かなりの値段がしたらしいので、捨てるのが惜しいものの筆頭だった。役所に粗大ごみとして引き取りにきてもらう連絡をするのもこの上なく面倒くさかった。
「もらってくれるなら嬉しいよ」
「本当にタダでいいの?さすがに悪い気がする」
「じゃあ、五百円くらいで」
 なかなか食い下がらないので、気が済むようにして、などと言っていたら、月子さんはてきぱきと僕のうしろのドアを閉め、カーテンを下ろ��、かわりにステンドグラスのライトをつけた。長い爪を赤く塗った指先がスイッチの紐を引っ張ったのが、妙になまめかしかった。色とりどりのガラスの下に、赤みがかった光が灯る。
「すっごい、ムーディ」
「そう、寝室にしか置けないんだ」
「いつもこうして、してたの?彼女と」
「まあそういうこともあったような」
「久々にしよっか」
 マック行こっか、くらいの軽さで月子さんはそう呟いた。体で払う、ってことか。僕としてももちろん吝かではなく、僕達はまぐわった。薄ぼんやりとした明かりの中で、かつて散々貪ったはずの月子さんの体は天女みたいに神々しく見え、リリコに操を立てる前の数々の奔放な日々を思い出した。会えば挨拶みたいに体を重ねた。おっきい、と途切れる声で言う月子さんのヴァギナと僕のペニスの相性は相変わらずとてもよく、リリコとの性生活で少しずつ積み重なった消化不良に気付かされた。月子さんの細くしなやかな腰を掴み、後ろから責め立てているとき、なめらかで美しいリリコのうなじを思った。月子さんのうなじには、短く整えられた襟足の延長のように細かい産毛がびっしりと生えていて、だけどそれが生命力の強さの、淫蕩さの証に見えて、僕をますます昂らせるのだった。月子さんは僕を煽るのも上手くて、まだ足りないというように自分の性器を弄ったり、卑猥な言葉で強請ったり、この時間を最大限愉しむための努力を、決して惜しまないでいてくれる。リリコが寝転がって僕が前から入る、コンドーム越しの、正しさのかたまりみたいなセックスしか、僕たちはしなかった。リリコがそれを望んでいたから。だけど月子さんは、獣のように喘ぐ。僕も、獣のように求める。本能に駆り立てられるような行為は本当にしばらくぶりで、吐精しながらも力がみなぎってくるのを感じた。
 アキラさんのところに行こう。少し眠ったあと、月子さんが唐突に言い出した。性欲をすっかり発散させてしまったあとの変わり身の早さも、僕が月子さんを好ましく思うところのひとつだった。アキラさん。懐かしい名だった。僕たちが夜遊びばかりしていた頃知り合ったその人は、ある日突然、東京から去っていったのだった。たぶん二年くらい前のこと。僕とリリコが出会う前のこと。きれいで優しい男だった。久々に、声を聞きたい。 「いつ?」 「いまから」 「急に行って、迷惑じゃないの」 「あたしはどのみち今日、行く約束してたの」  一瞬で食べ尽くされてしまうことはわかりながら、ミナの夕飯のために置き餌をしてやり、車を出してくれると言う月子さんのマンションへ向かった。地下鉄で二駅だったので歩くことにした。こんなに近くに住んでたんだね、といまさら笑い合った。月子さんの家でしたことも、数えきれないほどあるのに。空は薄紫色で、呼気は白く曇り、冷たい空気が情事と昼寝のあとの惚けた頭をちょうど良く刺激した。日が落ちる前でも、だいぶ気温が低くなってきた。リリコが出ていったのは、夏の終わりだった。残暑が長かったから、暦の上では秋の始め、と言ってもいいかもしれないけれど。
 初めて見る月子さんの愛車は、真っ赤な外車だった。シャコタン、というのか、車体がものすごく地面に近く、こんなに華奢な女の人がオーナーだとは思えなかった。あたし運転がヘタな男大嫌いなんだよね、と言うからこわくなって、任せることにした。といっても、そもそもこれはマニュアル車らしいから僕には運転できなかった。
「看護師ってね、だいたい働きだしてすぐ高い車買うのよ」
「どうして」 「しんどい仕事やめないぞ、っていう、誓いみたいなもん」
「ローンで自分を律して���ってこと?」
「そう」
「払い終わったらどうなるの?」
 月子さんはそれには答えず、ため息のような笑いを漏らした。下道でもそんな遠くなさそうだけど、もう遅いから高速で行こうね、と手慣れた様子でカーナビを操作する月子さんに、アキラさんはどこに住んでるんだっけ、と訊ねると、千葉の、山と海がある町らしい、という答えが返ってきた。地元と東京以外の地理に、僕はあまり明るくない。
 初台から首都高に乗った。到着予定時刻は十九時四十五分。なんとなく流していたラジオがあまり面白くなくて、月子さんがspotifyで音楽をかけだした。九十年代ポップスをとりあえずのBGMに、仕事の話の続きが始まった。
「ヒロセは今もまだ、自販機売ってるんだっけ」
「それは前の前で、今は太陽光発電の会社にいる」
「バナナ売ってたのはいつだっけ?」
「青果卸ね、自販機の後だよ」
 ふうん、と興味なさげに月子さんは言い、なんだかもう話すこともあまりなくなった。もともとそんなに話が弾むふたりでもないのだ。丁寧な運転のせいでだんだん睡魔の波が押し寄せてきたので、一眠りしようと目を閉じた。途切れ途切れ、薄い夢を見たが、途中で月子さんが呟いたのは、多分夢ではなかった。
 なんでこう急にいろんなことがどん詰まっちゃうんだろうな。
 聞いてはいけないような気がしてじっとしていたらまた深く眠ってしまって、次に目が覚めると、車は千葉県の国道を走っていた。何度も塗り替えた跡が見えるスーパーの看板が現れ、ああ、田舎の都会だ、と思った。僕の故郷も、こういう街だった。沿道にはチェーンの飲食店やディスカウントストアがまばらにあった。古ぼけたラブホテルもちらほら営業していて、カタカナやアルファベットをかたどったネオンが粗野に光った。シルクロードって名前のラブホテルは、全国にいくつ��るんだろう。食事はどうするのかたずねようとした頃に、急に流していた音楽が途切れて、ちゃらちゃらと電話の着信音が流れた。
「え、なに」
 Bluetoothだよ、さっきまで音楽飛ばしてたでしょ、と月子さんは僕を笑い、僕に通話ボタンをタップさせた。スピーカーにして、というのでその通りにした。相手はアキラさんだった。懐かしい、懐かしい声だった。低く、優しいトーンで、ゆったりと話す。
「広瀬くんも、いるの」
「あ、います」
「久々に会えるね」
 たった一言アキラさんと言葉を交わしたら、こんなに便利な道具があるのに一度も連絡を取っていなかったことが急に薄情に思えた。だけどそれを咎めるような気色が全くなかったことにほっとした。そういうところが、アキラさんらしいのだ。
 あと五分で着くよ、と月子さんは電話を終え、次の信号で細い道に折れた。国道から離れるにつれ、民家が増え、車は住宅地に入った。「あれかな」
 月子さんが指さした先には団地が数棟立ち並んでいた。隣には打ちっ放しのゴルフ場の緑のネットが見え、まだ煌々と営業中のライトが光っていた。建物が近づいてきたのでスピードを落として進んでいると、駐車場の入り口とおぼしき辺りに背の高い男の姿があった。少し猫背で、足が長い。
 僕たちに手を振るアキラさんは、東京で最後に会った時より少し、線が細くなったように見えた。 ここ空いてるから、今日だけなら大丈夫、という言葉を信じ、白い線で区切られた駐車場の一角に車を駐めた。アキラさんはリノベーションされたこの団地の一室を買ったのだそうだ。最近は古い団地の再利用が流行っているそうで、確かに共用部分も新築のようにきれいになっていた。おれ一人ならほんとこのくらいの広さで十分、という十畳ほどのリビングには必要最低限の家具しかなく、よく整頓されていた。荻窪に住んでいた頃の部屋もいつもすっきりとしていたのを、思い出した。
 夕食には宅配のピザを取っていてくれて、酒も一通り用意されていた。パーティーじゃん、と月子さんは大喜びした。アキラさんは紙皿と紙コップを配りながら、洗うのめんどくさいからごめん、と笑っていたが、身軽な暮らしに憧れ、自分の部屋で待っている大量の食器のことを考え、うんざりした。
 酒もあまり回らないうちから、月子さんはけっこう荒れていた。仕事を辞めた、という薄々気付いていた話と、不倫をしていた、という完全に初耳の話とを、かなりの序盤で打ち明けられた。初耳ではあったが、そこまで意外ではなかった。月子さんには、動物みたいなところがあるから。僕の同棲解消については、冒頭で少し話題に上がったもののどこかに消え、まあそれはいいとしてもアキラさんの近況は聞いておきたかった。僕が彼の方を見ると目が合ってしまって、逸らせず、やけに緊張した。彼は面白がるように僕を見ていた。とりあえず月子さんに吠えたいだけ吠えさせようと、頷き合った。
「何回かやっただけの上司の奥さんが職場に乗り込んできたの」
それで居づらくなって、もう十年勤めたし、疲れてしまったし、依願退職した、と話す月子さんは珍しく泣いていた。
「その医者のことそんなに好きだったの?」
「ううん別に、出来心みたいなもん」
「割に合わないね」
「それが腹立たしいのほんと!!」
 そしてわっと大泣きしてはまた愚痴り、というのを間欠泉のように繰り返し、それをアキラさんが宥めていた。いつの間にか煙草を吸っていた。前もよく吸っていた銘柄だった。月子さんの支離滅裂な話から、医者のセックスがよかったということだけはわかったので、せめてもの救いだね、と慰めたつもりだったが、ものすごい目で睨まれた。月子さんが僕一人には甘えてくれないことを、当たり前だと思うとともに、少し情けなく感じた。僕はちびちびウイスキーを飲みながら、相槌を打った。
 泣き疲れて、酔い潰れて、月子さんはテーブルに突っ伏して眠ってしまった。実質アキラさんと二人、という状態になって、ようやくゆっくり話せそうだった。
「……アキラさん、いまはなにやってるの」
「昔のツテでデザインの仕事もらったり、FXやったり、あとはまあ、切り詰めて」
 田舎だからそんなにお金はかからない、家族も今後できることないし。淡々と話すアキラさんは十代の頃、年上の男の恋人に連れられて上京した。地元は宮城で、親は厳しくて、勘当寸前で、学校とか通ってこっちで仕事には就けたけど、その時の男とはすぐ別れちゃって、そんなことを寝物語に聞いたような気がする。
「おれもう、期待したくなくてこっち引っ越したんだ」
「期待?」
「東京、夢あるけど、夢見るのも疲れるからねえ」 
 僕はアキラさんともセックスまがいのことをしていた時期があった。好奇心なんかでは全くなかった。常連の店でいつも穏やかに店員と談笑していたこの男を、気づけば目で追ってしまっていた。仕立てのいいスーツに包まれた身体から滲み出る、どうしようもない諦めの空気が、僕を惹きつけて、不安にさせて、夢中にさせた。月子さんと3人で何度か会ったあと、僕の方から2人で会いたいと言った。やがて恋人同士のような関係になった。自分より体の大きな男に慈しまれると、言いしれぬ安心感と興奮を覚えた。僕たちは、同じ体で愛し合った。だけど男女でするようにはっきりと繋がったことはなかった。それはアキラさんの予防線だったと、今ならわかる。不誠実な僕は、そうしている一方で月子さんをはじめとする女の体を抱くこともあったから。月子さんは僕とアキラさんのことに気付いていたように思うが、だからといって関係が変わることはなかった。なにか言われたことも、詮索されたこともない。僕はあの頃から、自分のことがよくわからなくなっていた。恋ではない、とわかりながらも他人と肌を重ねることで、なにかがすり減っているような気もしていた。アキラさん���そうだったかもしれない。でも、その気持ちを分かち合ってどうにかするような2人にはなれなかったのだ。
「広瀬くんは彼女と別れたって聞いたけど」
 アキラさんがなんでもないことのように言うので、僕もなんでもないことのように話し始めた。こういうとき、リリコとの破局で実はさして傷ついてはいない自分に気づいて、辟易する。
「三十過ぎて、なんか焦って、婚活とかしてみたりしてさ」
 しっかりしなきゃ、と漠然と考えていた当初、運良く出会ったのがリリコだった。僕史上、いちばん礼儀正しく、理性的な交際のはじまりだった。いわゆる普通のおつきあいをうまくやれていると思っていて、自分もようやくそういう流れに乗れるのだと感慨すら抱きながら、給料三ヶ月ぶんには少し届かない指輪を買ってプロポーズもしたが、あなたと家庭を作ることは考えられない、という残酷な答えが返ってきた。数ヶ月の猶予ののちに同棲は解消され、僕たちは正式に別れた。彼女が持ち物を置いていったのは意外だったけれど、すぐに謎は解けて、そのあとわりとすぐ大企業のサラリーマンと婚約したと風の便りで聞いた。
「そういうのがいいならなんで僕と付き合ったのか不思議で」
「ふらふらしてる人の色気ってあるからねえ」
 俺もちょっとやられてたかも、とアキラさんは僕の方を悪戯っぽく見た。アキラさんのほうこそ、ちょっと痩せた肩とか、煙草を弄る長い指とか、相変わらずどうしてなかなか、と思ったけれど言わなかった。今のアキラさんに僕が触れることは失礼な気がした。
「念のため聞くけど、おれと寝てたせいじゃないよね」
「え?」
「別れたって」
「いや全然関係ないよ、知りもしないと思うし、そもそもかぶってないし」
 でも、見透かされてたんだと思う。アキラさんとっていうか、月子さんみたいな女の人たちとつるんでいたこととか、それどころか、やりまくってたこととか、職が続かないこととか、それらをそんなに駄目だと思っていないこととか、ただ自分が安心したいだけで、ほんとうはちっともリリコ自身のことなんか見ていなかったこととか。いつの間にか起きていた月子さんが、ヒロセ、いい人きっと見つかるよ、とまた泣きながら絡んできた。煙草を燻らせながらアキラさんは、人生相談室だな、きょうは、と可笑しそうに呟いた。ちょっと酔いが冷めてから順番でシャワーを借りた。月子さんは客間で、僕はソファで寝かせてもらった。アキラさんは自分の寝室に引き上げていった。
 夜中に肌寒くて目が覚め、体を起こすとベランダで一服するアキラさんのシルエットが見えた。窓を開けて、隣に立った。アルミの手すりと床板がひんやりと冷たかった。
「ねえ、煙草吸いすぎじゃない?」
「前と変わんないよ」
「前も減らしなよって言ってたじゃん」
「唯一の楽しみなんだって」
「……早死にしちゃうよ」
 いいんだよ、べつに。そう呟くアキラさんの横顔は東京にいた頃のままだった。あなたはいったい、あそこに何を捨てて来たの。
  あたりは真っ暗で、ぽつぽつと窓の明かりが見えた。こんな夜更けに活動している人間がいるのだ。風向きが変わるのか、時折、国道から車の走行音がきこえる。僕たちは黙ったまま、並んで立っている。離れていた数年をどうにかして埋めたい衝動がせり上がってきて、でもどうしたってできないから、アキラさんの左肩に、そっと凭れた。アキラさんが、囁くように僕の下の名前を呼んで、呼び終わらないうちに、やめてしまった。ためらいが、愛おしかった。
「アキラさんのこと、すごく好きだったよ」
「……わかってるよ」
     煙草を持っていない方の手が、僕の頬を撫でた。掌はすべすべしていて、冷たくて、泣けてきた。アキラさんが少しだけ身体を屈めてきて、煙たい匂いが鼻を掠めたかと思うと、かさついた唇が一瞬だけ触れた。目の前には、あの諦めたような優しい笑顔があった。
 翌朝は三人とも九時前にきちんと起きて、目が覚めちゃうなんてなんか年取った感じするな、と言いながらファミレスでモーニングセットを食べた。僕は食器のカチャカチャいう音を聞きながら、肝心のことを相談し忘れていたことを思い出した。
「恋人の置いてったものって、どうしたらいいと思う?」
 月子さんは、あたしは一個もらってあげるの、と恩着せがましくアキラさんに報告した。アキラさんは少し考えたあ���、おれなら、と前置きして、こう続けた。
 全部捨てる。一回全部きれいにしてあげないと、なかなか成仏してくれないとと思うから、残留思念みたいなもんが。
 帰りもまた、月子さんが運転することになった。昨日よくわかんなかったけど、車イケてるね、とアキラさんが褒めた。乗る前にすればいいのに、乗り込んだ後で窓を開けて別れを惜しんだ。出発した後、僕たちが曲がるまでずっと手を振ってくれていたアキラさんを見て、月子さんがまた来ようね、と言った。僕は頷いた。僕だけに向けられているんじゃないとわかっていながらも、またいつでもおいで、という帰り際の彼の言葉に、甘えてしまいそうだと思った。
 日曜日の高速道路はそこそこ混んでいて、痺れを切らした月子さんの判断により途中で降りて下道を走った。
「そういえばライト、持って帰る?」
「……やっぱいいや、知らない女のザンリューシネン要らないし」
「だよねえ……あれって粗大ゴミかな」
「そりゃそうでしょ、でかいもん」
 めんどいなあ、とぼやく僕に、月子さんは、めんどいけど、向き合わなきゃだめってことでしょ、と自分にも言い聞かせるように口にした。それはたしかに人生を前に進めるために必要なステップなんだろうけど、いまの僕にとってはリリコとの二年間より、この二日間のあらゆる場面の方がつよく胸に迫ってくるのだった。
 十五時前に家に着いた。一日空けた部屋は静まりかえって、知らない匂いがした。ミナはソファのクッションの上で丸くなって寝ており、僕がただいまを言うと片方の目だけ開けてまた眠ってしまった。飼い主が一晩いないくらい、どうってことないらしい。冷蔵庫の横に貼ってあるゴミの日カレンダーを見た。年始にもらったっきり、ほとんど使っていなかった。燃えないゴミ、火金。危険ゴミ、隔週水曜。粗大ゴミ、市役所に連絡。ため息。とりあえず窓を開け、空気を入れ換える。コーヒーでも飲みたくなって、お湯を湧かす。待っている間に、アキラさんからお裾分けに持たせてくれた蜜柑をざくざく剥く。皮を受け皿に、白い筋がたくさんついたままふた房頬張った。リリコは夕食後、必ず果物を出してくれた。重たいガラスのボウルに、冷たくてきれいな水で洗って一粒ずつしっかり拭いた葡萄、その正しさは誇らしくて面白かったけれど、僕はそんなこと、ちっとも望んじゃいなかったと思う。
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kaoriof · 10 months ago
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無題
平穏よりも胸のときめきをいちばんにしたら世界のぶあつい皮膚が一枚めくれたかのようになにもかもが歌い踊りかがやきはじめたのをいまでも覚えている。わたしは親が厳しくて外泊できないけれど、そのあいだに同級生の子たちはうつくしい島の海に反射する満月をみて、だれかと夜通しぴたりとからだをあわせて内緒話をするような、今にもぷつりと切れそうな糸のように細くて鋭い若さを世界の夢に浸らせている。感性を野放しにして、こどものころの感動をひとつずつ取り戻す時間がわたしにも必要だった。けれど思いどおりにいかないこともある、それも定めとおもって歯をぎゅっとくいしばる。わたしには必要だった。路上、白い廊下みたいに澄んだ朝霧をかんじる時間。薄いトップス。ズレた口紅。好きな男の子と寝て一限目をサボるとか、夜の街頭を走り抜け、くだらないことに時間とお金を費やすこと。「それだけじゃない、夜に遊ばなくても昼に釣りをしたりサッカーしたりそういう遊び方だってあるだろう。そっちのほうが幾分もまともだ」 おとうさんは夜遅くに帰ってきたわたしを叱りつけ、そう言った。わたしはけしてワルにあこがれているのではなくて、ただただ綺麗なものに飽きただけだった。わたしにとって祈りや信仰はさいしょから型があってそれに当て嵌めてハイ完成みたいなかわいいお菓子作りのようなものじゃなかった。昔も今も自分でうつくしい歌をつくれない。うつくしいものがたりをかけない。うつくしい絵を描けない。世の中にはフォロワーが万桁いる女子高生がいて、今、世界中では何千もの美術展が開催されていて、明日、いつかオリンピックに出るであろう少年がはじめてスケボーに乗るかもしれない。わたしには何もできないかもしれないけれど、彼らの生き様はわたしをわたしたらしめる微かなエッセンスとして��たしに溶け込む。それを祈りという言葉で表象してはだめ?これからのことをかんがえると、ずっとどきどきする。目の前の光景が、訪れたことのない地の光が、風が、わたしを、わたしのからだを必要としてる気がする。世界中に張り巡らされた血管がわたしの心臓部にも繋がっているような心地。死ぬ5秒前ってどんな感覚なのかしらないけど、築き上げた塔が崩れてゆく感じなのかな、雪景色のような。
無題
朝起きたら腕に友達の噛み跡と身に覚えのない痣が3つくらいあった。耐え難い疲労がからだのあちこちにひっついて、入れ墨と化している。活字の海を、本をその背に背負えたらよかったのに、今のわたしを崖っぷちに引き止めているのはうつくしい言葉でもなくて、泥に塗れた重いカルマ。イヤホンの先から垂れ流れる音楽すらも風のように軽やかで自由なものではなくて、ねばねばした気持ちわるくてかなしいものに聴こえた。夏と、そのあつさと、その底知れぬ闇に街ゆくものすべてがこころのずっと奥の方で平伏している。昼過ぎにスクランブル交差点前の巨大スクリーンが薄青い空を泳いでいるようにみえたこと、街ゆく人の肌色が、シャボン玉のようにその熱を吸収して発光していたこと、ぜんぶなんか夢みたいにふわふわしているかんじがした。もうすぐでなつやすみなのに、大学入ってからそれまでもずーっと夏休みのような感じだったからあまりどきどきしない。みずみずしくずっと光っていたい。わたしもいつかデカい人間になりたい、いつかいつかいつかという文句ばかりが増えてゆくのを横目でみて、ぜんぶカサブタを剥がすように振り解いて拭ってくれる奇跡みたいな命、日々、音をどうしても期待してしまう。どうすればいいんだろーと思いながらまたあしたも友人と夜ご飯をたべにいく約束した。それでまた家に帰って、朝起きて虚無感に苛まされて、の繰り返しを大量の課題で中和する。薄暗い中でたべるごはんとか朝早起きして化粧をすることじゃない、今はなにもない海とか草原でなにも繕わずにその自然のデカさとか愛を仰向けになって享受するのがいちばんただしいきがする。たすけてと呼ぶには大袈裟すぎるし。
end
泣き出しそうに張り詰めた空気に鼻を啜る。世界の彩度が落ちて、ぶあつい服を着た街ゆく人たちが皆んなちっちゃな怪獣みたいにみえる。肌寒い。外はずっと灰色、モスグリーン、レモンみたいな匂い。大きな木が揺れて、木の葉の上に横たわっていた雨の滴が霧のように3秒間くらい降った。最近は毎日毎日やることが多くて、それをこなしているあいだに1日が終わる。3日連続で化粧を落とさずに寝てしまった。多くの人が電車にのっているときに外の景色に目をやらないのと同じ感覚で、わたしも生活の外側にひろがる微かな動きに鈍くなった。ずっと特別でありたかった、1番愛されたかった、そういった思春期的な熱望とどんどん疎遠になっていく自分に日々焦ったり安堵したりしている。だけど同時に、わたしの中をまだ生きている17歳のわたしがその面影をときどき覗かせる。期待させる。突拍子もなく走ったり、ゲラゲラ笑ったりする。些細なことで泣いたり、理不尽な世界に怒っている。良くも悪くも変わっていくのなら、これからの自分に期待をしたい。アルバイト先では後輩が6人くらいできて、みんなわたしよりも仕事ができる。わたしはもともと注意をされると衝動的に泣いてしまうところがあったし、シンプルに忘れっぽかった。あまりにも器用に仕事ができないので、ある日店長とそのことについて話し合ったら意識の問題と言われた。その1、人からのアドバイスに劣っている自分を見出してはだめ。その2、素直に人からの意見を受けとる。その3、自分のためでなくだれかのために働く。この3つを約束した。夜の繁華街で50歳の男性に飲みにいきませんかと声をかけられたり、あした授業にどんな服でいくかを考えながら化粧品を見に薬局に寄り道したり、腕に点々とのこる虫刺され痕をみて、それを残した蚊のことを考える。あした、図書館で借りた本の返却期限。わたしもちっちゃな怪獣になって寒さをまるごと食べてしまいたい、寒い日の、霞んだ光やクリアな淋しさ、果実のようにぎゅうぎゅうに酸っぱい気持ちを。
slow burning
大学一年生というよりも、高校四年生というような振る舞いをしているなあ、と自分のことを客観視する。新宿の横断歩道橋から行き交う人々を眺める。つい最近まで、委員会の同期の仲の良さにムラができていて、グループとかカーストとかそういう言葉が浮上してきてしまうほど揉めそうになっていた。それでも、それぞれが居心地の良い場所にしようと歩み寄っている。こういう、諦めによる愛想ではなくて心からの気持ちに胸を打たれる。明大前の飲み屋で酔っ払って「俺みんなのこと愛してるよ」と照れ笑いする先輩に、わたしたちみんな、キモいねーなんて言って茶化した。そのあと夜の大学で騒いでいたら警備員に注意された。机の下に10円玉を落としたのを拾わないで帰る。いつまでも赦されていたい。山猫のような女の子でいたかった。すぐ隣、肌すれすれにだれかの温もりを感じて弱さを誤魔化すのではなくて弱さを共鳴しあっていたい。「東京の人は生き急いでいる」なんて言葉があるけれど、わたしは美しい光景がそこに広がっていれば必ず立ち止まる人でありたい。仕事に遅れそう、とか、終電が、とかじゃない、好きな人たちのためだけに忙しくありたい。恋人は待ち合わせ���するとき、「どこでおちあう?」と聞くのだけど、高2の頃、初めて会う日、それを「(恋に)落ち合う」と勝手に解釈して勝手にどきどきしたのを思い出した。それからわたしも「どこで落ちあう?」と聞くようにしている。ドア窓の形に切り取られた青い影が電車のフロアに映って、がたんごとんという音に沿ってフィルム映画みたいに小刻みにうごいていた。池袋で新疆料理をたべて、お腹を下す。スペイン語の中間試験。渋谷で5分1000円の手相占いをしたら、鎖みたいにいくつもの線が絡まっていますね、と言われた。意外と気にしいなんじゃないですか?「そうですね」と答える。駄菓子屋で1000円使い切ったほうが幸せになれそうだとおもった。電車の隣の線路にカラスが一羽いた。こんなに近くでみるのははじめてだ、と思って、じーっとみつめた。黒なのに黒じゃなくて、光を受けて渋いグリーンや紫っぽくみえる羽毛に目を見張る。なんか、空はどこまでも真っ青なのに光の細部だけ色があたたかい夕方前みたい。ふわっとなにかに気付いて、じーっとそれを見つめて、そこになにかが“視える”とぜんぶ途端にスローモーションになって、焦燥感や虚しさがたちあがってくる瞬間がある。からっぽなのにぎゅうぎゅうな感じ。AirPodsをケースにしまう音が体感的に5秒間くらい耳に残ったり、自分の息遣いにどきどきしたり、すれ違う男子高校生の会話声や、鳥が羽をはためかせる様子がクリアに輪郭が保ったまま空中を転がる。ガムを買って噛みながら、心のもやもやしたなにかを同時に小さく噛み砕いてゆく。光の洪水。家に帰ってパスタをたべたあと、お風呂で下の毛をつるつるにする。夕方終わりにお風呂に入るの、とても好きだなあと思う。コンタクトレンズを外さないまま、化粧も落とさずベッドへダイブする。瞼の裏に東京タワーの赤がたましいの塊みたいにまあるく光っている、はやく何もかも諦められる年齢になりたいと思う。
無題
なんかまじでわたしが疲弊していて悲観しているのか、世界が残酷なのかわからなくなってきた。脳科学の講義を受講したあと、テキトーに混雑した休日の街をあるいていたら皆んなの脳みそが透けて浮きでてきそうで気持ち悪くなった。地球4周分の神経線維。そう、どでかい爆弾が街ゆく人々の頭蓋骨に葬られている。ニューロンが軸索を介してつながってゆく、放出と受容を繰り返してみんな手を繋ぎあってゆく。セール中でバイトの雰囲気がぴりぴりしていて、みんな資本主義の豚みたいに働いていた。うつくしくないとおもったし、私も美しくなかった。結いた髪に、ぴたっとあげられた前髪。なにを思っているのかを書くのがずっと怖かった。もしかしたら私の感じているこの欲望はとても���らわしいもので、それゆえにだれかを傷つけてしまうかもしれない。でも、言葉にしなければすぐにわすれてしまう感情に名前をあげなくなって、水をあげなくなって、そうしたら、じぶんの脳みその溝をうめていたみずみずしい苔までもがすっかり枯れきってしまって虚構を連ねるようになった。空洞に哀しみの音だけが響き渡る。友達はいるけど、私はその友達の1番になれない。恋人みたいな人はいるけど、私はその恋人の1番にはなれない。1番っていうのはほんとうの意味での1番、2番とか3番とかがいない1番。圧倒的な2人の世界の中でのフェアで高貴な1番。有名になりたかった。文章でも外見でも写真でもなんでもいい、だれにも敵わない羽根で世界を羽ばたいてみたかった。わたしを選ばないで、そこらへんのそれっぽくかわいい女の子を選ぶかっこいい男の子たちを信じられないでいる。外国に行ったらモテるよ^_^と投げかけられた言葉について何回も考えるけど、考えるたびにかなしくなる。でもね、神様はいるとおもう。木漏れ日の首筋に、砂丘のしずけさに、広大な空の一枚下に、その温もりと永遠が芽吹いているのをしっている。そのたびに、わたしはこの世界に愛されていて、まだ19歳で、まだ何にでもなれて、そして世界を(気持ちがあふれてしまいそうなくらい)等身大で愛しているドラゴンみたいにかわいい女の子だとまじないを唱えるようにして心を強く保つ。アスファルトに散った桜が朽ちて、吐瀉物のようにグロテスクにぬるい光を浴びている。走り抜ける。だれかの憎悪の中に、疑念の中に、見下しの中に憧憬の眼差しを覚えながら。東京で灯される光の数だけ、アフリカの広原でつややかな花が咲けばいいのに。光の重さの分だけ、銃弾が軽くなればいいのに。帰り道、ひさしぶりにパンを買って帰った。
日記
弟がiPadのタッチペンを無くしたらしくて、それを聞いた母がすぐにAmazonで検索して新しいのを買った。こういうとき、ほんとうになんか小さなことだけれど、すごく心が愛にみちる。
大学の新校舎の建物のにおいが400人もの人が集まった大教室の縁をすべっていく。扉を開けた瞬間、目と目と目がわたしの顔を捉える。湿気漂うフロアにだれかがペンを落とす音、先生のマイクが吐息までもを拾って湿った熱を加速させる。「儚いって聞いて何を思い浮かべますか?蝶?蛍?蝉?トンボ?」 教授がそう聞くと、みんなのえらぶ選択肢がちょうど均等に分かれる。講義が終わるといつもすぐに帰るイケてる男の子が蛍を選んでいて、なおさらかっこよく見えた。わたし、インスタのフォロワーが490人いるんだけど、その人数って今見てるこの人たちよりももっともっと多いのかと思うとなんか心強いような息苦しいような、不思議な気持ちになるなーとぼんやり思った��君たちはぶっちゃけ勝ち組です、という先生がキモかった。海外の大学院に行きたい。わたしはもっともっと色々な人を知るべきだし、美しい景色にであうべきだし、貪欲に学ぶべきだとおもうから。聡明になって、お金を稼いで、将来だいすきなひとたちにたらふくご飯をたべさせてあげたい。お母さんとお父さんが育ててくれた、守ってくれたこの心の真ん中にそびえる愛情のかたまりを誰かに分け与えていきたい。でも、そうとも思うけど、逆にそれをこなごなにさせてくれる危険性や若さゆえの解放にも目が眩んでしまうの。「今しかできない」ってとてもずるい言葉だなあ。
19さい
19歳とかいちばん呪われていた1年だった。まだハタチじゃないけど、もうそうさせて、と思うくらいに、1年のあいだに10年分くらいの幸せと不幸せがぎゅうぎゅう詰めに、どっちがどっちかわからなくなるくらいに入り乱れててくるしくてさみしくて悲しかった。くるしかった。わたしと同じ純度で、等しく、あいしてほしい。あいされたい。
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shukiiflog · 2 years ago
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ある画家の手記if.39  告白
三人で家族旅行をして、香澄の睡眠も落ち着きだしてからしばらく経ったある日に、情香ちゃんは唐突にこの家を出て行った。 もともとこのままずっとここにいる気じゃないのは僕も香澄も分かってたし、出ていくことに変な他意はなくて、そろそろいつもの体を動かす忙しい仕事に戻りたくなったんだろうなと思った。
荷物もないし玄関まででいいというから、香澄と二人で玄関で見送る。 一人靴を履いた情香ちゃんは玄関で香澄の頭を髪が爆発したみたいになるまでわしわし撫でたあとで、満足したみたいに笑った。 「ん。もうそんな痩せこけてないな」 「…うん。ありがとう。情香さんの料理おいしかった」 情香ちゃんが香澄をまっすぐ見つめる。 「困ったらいつでも呼びなよ」 「うん」 「…香澄の目は綺麗だな」 そう言って情香ちゃんが香澄の頭を両手で挟んで持って引き寄せ て 「?!」 「ちょっ…」 香澄の目元に軽くキスしていった。香澄はフリーズして目をぱちくりさせてる。 僕は後ろから香澄を抱きしめて牽制する。 「…情香ちゃん、や、やめて…。香澄口説かないで」絶対僕が負けるから。 「そう思うならもう少しお前も大人になるんだな」 情香ちゃんは笑いながら颯爽と扉の向こうに消えていった。 「……。」 「………。」 室内に残された二人でしばらく同じ体勢のまま固まる。 「……香澄…情香ちゃんに心変わり「してないよ?!」 つっこまれるみたいに否定されてほっと息をつく。…へんな感じだ。前だったらそんな、香澄が誰を好きだって、こんなに焦ったりしなかったのに…今僕に気持ちの余裕がないのかな、家族になろうって言ったときだって僕は、香澄にほかに彼女とかがいるならそれで…って思ったり…してたのに。 ……もしかしてこれが独占欲ってやつかな。 もやもやを新鮮に感じながら、香澄に提案する。 「…ねえ香澄。僕はこれからどうしてもやりたいことがある���だけど、香澄も手伝ってくれる?」 香澄は後ろから抱きしめてくる僕の腕の上に手を乗せて、僕の足の上に足を乗せて、僕もそれに合わせて足をぶらぶらさせたり体をゆらゆらさせて二人で玄関先で一緒に揺れる。 「いいよ。やりたいこと?」 僕はそのまま足の甲に香澄を乗せて二人羽織みたいな二足歩行を戯れにしながらリビングまで戻った。 香澄をソファに待機させると、家族旅行で買ったばかりの防寒具一式をすばやく取ってくる。 ソファに座った香澄にぐるぐるマフラーを巻いて頭に大きめのニット帽をしっかりかぶせて耳まで覆った。体にコートをかける。 僕は寒さに強いから適当なコート一枚でいいや。 「よし、出発」 二人で家を出て、すぐ隣のひらけた公園まできた。 まだ雪が積もったままで、隅のほうに少しだけ子供が雪で遊んだあとが残ってる。 一番綺麗に高く積もったあたりを二人で探して見つけた。 「…よし。香澄、雪だるま作るよ」 僕の真剣な声にとなりの香澄がふっと息を噴き出すみたいに笑った。 「…え。なにに笑ったの」 香澄は手袋をした手で口をおさえて笑いを堪えるみたいにしてる。 「な、なんでもないよ…作ろっか」 …また僕へんなことやらかしたのかな…でも香澄は嫌な気になってるわけじゃないみたいだ 「香澄…」 じと…と香澄を半目で見たら、香澄が笑って両手を掲げて降参しながら白状する。 「直人かわいいなと思ってつい、だってすごく気合い入ってて、ほんとに真剣にやりたいことみたいだったから、なにかと思ったら…」 まだ笑ってる。雪だるまは子供の遊びじゃないんだぞ。 二人で小さな雪玉を転がしながら、僕が胴体、香澄が頭を担当することになった。 香澄が凍った空気に白い息を吐く。 「はー…… 今日からもう情香さんいないんだね…」 「香澄が呼べばきっといつでもまた来てくれるよ。僕が呼んでもあんまり来てくれないけど…」 「そういえば直人は情香さんと一緒に暮らしたことないって言ってたけど、二人が一緒にいるのすごく自然だったよ。幸せそうだった。どうして別々に暮らしてたの?」 「………」 僕の返事がそこで途切れたから香澄は慌ててつけくわえた。 「ごめん、口出しなんて…「いや、なんでも聞いていいよ。香澄も家族なんだから」 笑って香澄が謝るのを遮ったものの、質問には答えられずに��話は自然と別のことにうつっていった。 かなり大きくなった雪玉を、バランスをとりながらふたつ重ねて、二人で支えてしっかり立たせる。 長身の男二人で丸め続けた雪だるまの身長はなかなかのものになった。少なくとも子供が集まって作れるサイズ感じゃない。 「僕は目を探してくるから、香澄は鼻か口を見つけてきてくれる?」 「なんでもいいの?」 「いいよ」 二人で手分けして公園内の木や石を見て回って、手頃なものを探す。僕は黒々としたつぶらな石の瞳と元気に広がった枝の腕二本を見つけた。香澄も尖った石を持ってきて、顔の真ん中に鼻にして刺した。 目も腕もついて、ちょっとだけ天を仰ぐ顔の角度で、かわいくできた。完成だ。 「香澄、ケータイ持ってきた?」 「持ってるよ。写真撮ろうか」 「うん、……誰か…撮ってくれる人がいたら…」公園内は平日だからか閑散としてる。香澄と僕と雪だるまを撮ってくれそうな人が通りがからないか待ってみる。 すると一匹の大きなシェパードが遠くから僕らのほうに向かって猛スピードで走り寄ってくるのが見えた。 人なつこいのか、雪だるまに興味があるのかな。 「首輪つけてるね、飼い主に写真が頼めないかな」 二人で飼い主の影がどこかにないか見回す。 すぐに体に触れられるほど近くにきた犬の頭を撫でる。吠えたり噛んだりもしない、よく躾けられたいい子だ。 「直人、犬には嫌われないんだ」 「ね、猫だけだよ…あんなに嫌われるのは」 「犬も好き?」 聞かれて一瞬ぼうっとする …似てるってよく言われるな 犬は好き 特に大きい犬は僕がぎゅって抱きしめても骨を折ったりしなくて安心だし 犬は好きだったよ 飼い主が …いや、飼い主のことだって別に嫌ってたわけじゃ その時、雪上に大きな指笛の音がまっすぐ空間を貫通するように響き渡った 「…あ、この子の飼い主さんかな」 香澄が音のしたほうに振り返って、丘の上の散策路に人影を見つけた。 笛の音で犬は全身をぴしっと引き締めてまた一直線に音のしたほうへ駆け出した。 犬の…首輪に下がってたあれは名札? BU…STER…? 「come,バスター」 散策路の人影が一言発した 介助犬とかの訓練用に共通で決められてる命令語だ 犬と一緒にすぐ木立の陰に消えていって僕にはほとんど見えなかった 襟を立てたロングコートだけちらりと見えた 「………人違い…」 …だと思う。あの人はこの時期に日本に滞在してることは滅多にないし ここに居るほうが変だ 「直人」 横から怪我してないほうの腕を香澄にひっぱられた。顔を覗き込まれる。 「変な顔してるよ。大丈夫?」 「…うん。なんでもない」 いつも通り笑ったつもりだったけど香澄に手袋をはめた手で顔を挟まれる。…心配かけちゃってる。 「…さっきの人、知り合いだった?」 「…ううん、人違いだよ」 今度こそうまくちゃんと笑って、香澄をぎゅっと抱きしめる。 「雪だるま…大きく作ったからきっと明日もまだちゃんと残ってる。今日は写真は諦めて帰ろうか」 「…うん」 二人で雪だるまを公園に残して家のほうへ歩き出す。 まだちょっと心配そうにする香澄の頭をわしゃわしゃ撫でて頭を胸に引き寄せてこめかみにキスした。 香澄の右手から手袋をすぽっと取ると、素手になった香澄の指に自分の指を絡めて、しっかり繋いだ手を僕のコートの左ポケットに突っ込んだ。 夜。久しぶりに二人だけで夕飯を作って食べる。 ひとり分の賑やかさが消えて、ほんの少しだけ寂しいような、不安なような。 それをかき消すように二人でいつもより手間をかけて凝った料理をいくつも作った。 食事が終わって���付けも済んで、僕がソファに座ったら香澄が横からするりと僕の膝の上に座った。…かわいいな。 香澄の体を包むように抱きしめる。 「…こういうの久しぶりだね」 って、自分で口に出しておいてだんだん恥ずかしくなる。 情香ちゃんもいたときはそういうことを意識して避けてたわけではなくて、自然とそういう気分にはならなかった。 「…香澄、こっち向いて」 僕の腕の中でゆったりリラックスしてた香澄が顔をあげて僕を見る、手で顎をとって軽く開かせると舌をさし入れて深くキスした。香澄も目を閉じて舌が口内でゆっくり絡み合う。一度少し唇を離してもう一度、角度を変えてもう一度、そうやって何度も深いキスを繰り返してるうちに、身体の芯からじんわり溶けそうになる。…気持ちよくて目が潤む。 一旦休憩。口を離すと少しだけあがった息が至近距離で混ざり合う。 「…香澄… …したい」 正直にこう言っても大丈夫。香澄はもう嫌なときはちゃんと嫌って言える。迫られても襲われても、意に沿わないときは自分の身を守れる。…帰ってきてくれた。それがすべてだった。 香澄の両腕が僕の背中に回って、ぎゅっと僕の体に絡められた。 「……うん…」 首元にあてられた香澄の顔は見えないけど、ちゃんと聞こえた、返事。 そのまま香澄の脚の下に腕を通してもう片腕で背中を支えて、横抱きにしてソファから抱え上げる。 左腕に少しだけ痛みがあった。負担がそっちにいかないように香澄の体の重心を少しずらす。 ドアを開けっぱなしだった僕の部屋に入ってベッドの上に香澄をおろすと、少し赤らんだ頰にキスを落とした。
続き
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gyohkou · 2 years ago
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29/07/23
会社の近くペルシャ料理屋があって、そこへいくと必ず幸福な気持ちになれる。店内にある大きなタンドールが放つ熱で店内がほかほか暖められていて(背中向かいの席では熱いくらい)、照明は薄暗くて、食事はおいしくて、なんだか居心地がよくて眠くなっちゃう感じ。ワンプレートメニューが大半だが、基本的な組み合わせとしては、バスマティライス、チキンorラムor両方の炭火串焼き、サラダ、焼きトマト、一欠片のバター、が盛り付けられている。若干酢にくぐらせたような風味のする、炭火で焼かれたチキンがお気に入りで毎回それを頼んでいたが、こないだはものすごくラムを食べたい気持ちになって、ラムはあまり好んで食べないけど美味しく食べられるのか心配半分、ラムが美味しいということになったならばそれはさぞかし美味しいだろうという楽しみ半分で店へ向かい、いつものチキンと、ラム(ミンチにしたラムを小さく成形した、ラム苦手な人にとって一番難易度低そうなやつ)が両方乗っているプレートをお願いして、食べたら、ラムが...とっても美味しかった..!
美容師の友だちに髪の毛を切ってもらうようになってから3ヶ月経つ。今回は彼女のお家にお邪魔して、髪を切ってもらって、ビールとおつまみをいただいた。ヘアカット中のBGMは千と千尋で、おつまみは彼女のシェアメイトが作った夕飯の残り物で、ああいう時間がもっと人生の中にあればいいなと思った。またすぐね。
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金曜日に有給を取って3連休を作り、マルタへ旅行した。イギリスは秋みたいに寒��けど、ヨーロッパには記録的な熱波がやってきており、マルタも例外ではなく、空港を出たら暑すぎて、いっぱい歩くのはやめよう..と危険を感じた。マルタには電車がなくて、移動手段はバスだから、3日間で15回くらいバスに乗った。前回のオスロ旅行で、自分の興味関心に基づいて行きたいところをいくつか選んでおくべきだという教訓を得たため、ワイナリーとかレストランとか色々ピックアップしておいたのに、バスが来なくて閉館時間に間に合わないみたいな理由で立てた予定はほとんど全て崩れ、行きたかったところの9割は行ってない。
立てた予定が全て崩れて向かったバスの終点には、イムディーナという静まり返った美しい城塞都市があった。後から調べてみたらマルタ最古の都市で、かつてはマルタの首都だったらしい。なんか普通のマルタの街に到着したなと思ってぷらぷら歩いていたら、お堀じゃないけどお堀みたいな高低差のある場所へ出て、中へ入るととっても別世界だった。旅をしている時(文字通りの旅ではなく、その場に意識があってその場に集中してわくわくしながら歩いている時)は自分の足音が聞こえる、とポールオースターの友だちが言ってたが、わたしは匂いもする。暑すぎるのか、痩せた雀が何羽か道端に転がって死んでいた。馬車馬は装飾のついた口輪と目隠しをされ、頭頂部には長い鳥の羽飾りが付けられていた。御者がヒーハー!と言いながら馬を走らせた。とにかく暑かった。
ほとんど熱中症の状態で夕食を求め入ったレストランで、ちょっとだけ..と飲んだ、キンキンに冷えた小瓶のチスク(マルタのローカル大衆ビール)が美味しくて椅子からころげ落ちた。熱中症なりかけで飲む冷たいビール、どんな夏の瞬間のビールよりうまい。
安いホステルにはエアコン設備などもちろんついていない。さらに、風力強の扇風機が2台回っている4人部屋の、私が寝た2段ベッドの上段だけ空気の溜まり場になっていた。明け方に頭からシャワーを浴びてさらさらになって、そのまま二度寝する。隣のベッドのイタリアから来たかわいらしい女の子2人組が夜遊びから帰ってきて、わたしは出がけに、部屋で少し話す。8年前に来たコミノ島はプライベートビーチのようで素晴らしかったけど、昨日行ったらツーリズム化されていて悲しかった。耳の裏に日焼け止めを塗り忘れて痛くなっちゃったから、あなたは忘れないように。わたしたち今ちょっとおかしいのよ、と言いながらドレスも脱がずにそのままベッドの上で眠ってしまった彼女は天使か何かみたいだった。扇風機をつけたまま部屋を出て行く。
地面がつるつると滑る。
砂のような色をした街並みが広がるマルタにもイケてるコーヒー屋は存在する。これも近代化・画一化の一途かと思うと、微妙��気持ちにもなるが、こういう場所へ来ると息が深く吸えるので有り難くもある。
マルタは3つの主要な島から成る。そのうちのゴゾ島へ行く。首都のバレッタから港までバスで1時間強、フェリーで20分。
フェリーほどいい乗り物はない。売店でビールとクリスプスを買って、デッキへ出て、なるべく人がいない場所で海を眺める。乗船案内と音楽が止んで、フェリーが作る波と風の音しかしない中に佇むと、これでいいような気がしてくる。ビールはあってもなくてもいいけど、フェリーのデッキで飲むビールの味というのがあって、それはめちゃくちゃうまい。
ゴゾ島へ降り立つと、足音と匂いがした。適当に道路沿いを歩いていたら、また別世界に続きそうな脇道があって、進んだらやっぱり別世界だった。ディズニーランドのトムソーヤ島で遊んでる時みたいな気持ちで謎の小屋へ入り、人で満杯のhop on hop offバスを眺めやりながら、人懐こすぎる砂色の猫と涼む。港とは反対側の海辺へ行きたかったのでバスを待つものの、一生来ないため、バス停近くのローカルスーパーを覗く。これといった面白いものは置かれていなくて、見たことある商品ばかりが並んでいた。バスは一生来な���。
バスを降り、水と涼しさを求めて入った地中海レストランは目と鼻の先に浜があり、今回の旅は下調べなしの出会いが素敵だなあとしみじみする。カルパッチョと白身魚のライススープ、プロセッコと、プロセッコの10倍あるでっかい水(笑)。カルパッチョは、生ハムのような薄切りの鮪が敷かれた上に生牡蠣、茹で蛸、海老が盛られていた。鮪は日本で食べるのと同じ味がした。カルパッチョは旨く、プロセッコはぬるく、ライススープは想像と違った。パンに添えられたバターは外気温のせいで分離していた。水が一番おいしかった。
おいしいものとお酒が好きで楽しい。
ヨーロッパ人の色気の正体ってなんなんだろう?アジア人が同じ格好をしてもああはならない。胸元がはだけていてもスカートが風で捲れてもはしたないと全く感じない。むしろロメール作品のようにさえ見える。そもそも'はしたない'という概念がアジア(少なくとも日本)にしか存在しないのではないか?色気って品かと思ってたけどそれは日本だけかもしれない。
地元料理が食べられるワインレストランを夕食に予約してみたらコース一択だった。お昼食べ過ぎてあんまりお腹空いてなかったからちょっと小走りで向かってみる。ラザニア、ムール貝と魚のスープ、うさぎの煮込みなど。人ん家の料理みたいな美味しさだった。マルタのワインはほとんどが島内で消費されるらしい。ゴゾ島の白ワインの感想:暑い村、お絵描きアプリのペンの一番太い線(色はグレーがかった白で透過度50)。食後のグリーンティーは、TWININGSのティーバッグで、お砂糖をいれる選択肢が与えられて、洋風の装飾がたっぷりついた受け皿付きの薄いカップと共にポットで提供された。カップの底に描かれた静物画のような果物が綺麗でうっとりした。
どこにでもあるような早朝からやってるスタンドでドーナツとオレンジジュースとコーヒー。扇風機に当たり続けていたいが荷物をまとめて宿を出る。行きたい街へ向かうバスが一生来ないため、行きたい街に名前が似てる街が行き先に表示されているバスに適当に乗ったら、行きたい街より30度北へ行くバスだった。でもやっぱり行きたい街へ行きたかったので、30度北の街へほとんど到着してからバスを乗り換え行きたい街へ向かったが、Googleマップの示すバス停へは行かず、行きたい街を通過してしまったため、行きたい街から30度南の街に降り立つこととなった。海辺でチスクを飲みながらメカジキを食べた。暑すぎて肌着1枚だった。店先のガラスに映る自分に目をやると、いわゆるバックパッカーの様相をしていた。
空港行きのバスだけは遅延なくスムーズに来て着く。肌着状態からシャツを身につけ普段の姿(?)に戻ると、途端に具合が悪くなった。日に当たりすぎたみたい。お土産を買ってセキュリティを通過し、充電スポットの近くに座って搭乗を待っていたら、すぐそばにグランドピアノがあることに気がついた。誰か上手な人が演奏しないかしらと思っていたら、青年によるリサイタルが始まった。父親が彼を呼びにやってくるまで、クラシックからビートルズまで5-6曲。思わぬ良い時間だった。
都市に住むと、旅行から帰ってくる時安心する。
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会社の人たち語録 ・やりたいことたくさんあるけど、今はやりたくないです。 ・返事がないのはいい知らせではないので。 ・Are you alright? まあまあ、ぼちぼち。
夕方、商店街へ買い出しに行く時がすごく幸せ。食べたいと思うものしか買わなかった時は特に幸せ。ぱつっと瑞々しい野菜、ちょっといいパスタ、ジャケ買いしたクラフトビール、好きな板チョコ。そんでキッチン飲酒しながらご飯作る。ビールを開けて一口目を飲むまでの間だけは音楽を止めるというのにはまっていて、そういえばフェリーのデッキで乗船案内とBGMが止んだ時の感じに似ていなくもない。フラットメイトが、夜中3時まで友人とリビングで遊んでいたり、土曜の夜にパーティへ出かけたりしているのと比較して、わたしが幸せ感じてるポイントは内向的だ。
やりたいことが浮かぶ。それをやる前に、比較対象の選択肢や判断軸を不必要なほど増やしてしまいがちだが、最適な選択を選び取ることよりも、やりたいと思う気持ちを満たすことの方が幸せなんじゃないか?
色々比べて悩んじゃったら「朝から決めてたことだから」って言うとスッと選び取れる!
食材の買い出しで1週間くらいはもつかなと感じるくらいたくさん買っても実際3日もすれば冷蔵庫空になるやつ、悲しさというかやるせなさを覚えるんだけど、こないだ500gパックの美味しそうなミニトマト買った時に、長く保ち続けること(終わりを迎えないようにする、終わりを想像しないようにすること)よりも、きちんと消費する(終わりを気持ちよく迎えること)を考えるようにしたら明るくなれてよかった。終わりって何事にもやってくるもんね。
食の話ばっかり回。
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teddyysblog · 10 days ago
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### 『蜜月の絆 - 深淵の愛情編 -』
#### 【朝もやの寝室】
薄青色の朝靄がカーテンの隙間から差し込み、乱れたシーツの上で重なり合う二人の輪郭を浮かび上がらせていた。瑠奈の黒髪が私の胸の上で波打ち、桜色の毛先が朝日に透けて輝いている。彼女の左腕が私の腰を強く抱き締めたまま、まるで逃がすまいとする野生動物のようだ。
「ん...もう朝?」
瑠奈が瞼を震わせながら顔を上げた。睡眠で少し腫れた目元に、昨夜の涙の跡がかすかに光る。枕に滲んだアイライナーが、私たちの過ちの深さを静かに物語っていた。
#### 【覚醒の瞬間】
私が身体を動かそうとした瞬間、瑠奈の指先が鋭く腕に食い込んだ。
「どこへ行くの...?」
その声は、朝のしゃがれ声の中に鋭い緊張を孕んでいた。瑠奈の右目だけがカーテン越しの光を受けて、琥珀色に輝いている。まるで獲物を狙う猫科動物のようだ。
「いや、ちょっと...水を...」
「だめ」
瑠奈の足が私の脚に絡みつく。その肌は驚くほど熱く、汗で湿っていた。
「私がいるでしょう...?」
彼女はゆっくりと上体を起こし、乱れた前髪の向こうから私を見下ろした。首筋に浮かんだ赤い痕は、私が昨夜つけたものだ。
#### 【朝の儀式】
瑠奈がベッドサイドの水差しに手を伸ばした。グラスに注ぐ水の音が、異常なほど大きく寝室に響く。
「はい...」
唇にグラスの縁を当てながら、瑠奈の視線が私の喉元を追う。飲み込むたびに動く喉仏を、彼女は貪るように見つめていた。
「ごくごく...音、可愛い」
瑠奈の指が私の首筋を撫でる。その動きは優雅だが、明らかに所有を確認するような感触だ。
#### 【鏡の中の二人】
洗面所の鏡に映る私たち。瑠奈が背後から私に抱きつき、顎を肩に乗せている。
「ほら...同じだよ」
彼女の指が、鏡の中の私の鎖骨をなぞる。確かに、同じ形の赤い痕が二人の肌に刻まれていた。
「これで...誰が見てもわかる」
瑠奈の笑顔が鏡に映る。その表情は、満足感とどこか危うい優越感が入り混じっていた。
#### 【朝食の支配】
キッチンで瑠奈が卵を割る音が鋭く響く。彼女の動きはいつもより大胆で、フライパンに油が跳ねるのも気にしない。
「全部食べてね?」
私の目の前に山盛りの料理が置かれる。栄養バランスを考えた品数は、明らかに過剰だ。
「こんなに...」
「成長期だもの」
瑠奈が私の膝の間にすっと入り込み、フォークに巻いたパスタを口元に運ぶ。
「あーん」
その目は、拒絶を許さないほどに輝いていた。
#### 【登校前の儀式】
玄関で瑠奈が私のネクタイを直す。いつもの仕草だが、今日は明らかに時間がかかる。
「今日は...帰りが遅くなるかも」
私が呟くと、瑠奈の指先が瞬間的に止まった。
「...用事?」
「いや、部活の...」
「嘘」
瑠奈の声が鋭く切り込む。彼女の指がネクタイの内側に滑り込み、急所をかすかに圧迫する。
「あの...女子と?」
その目には、昨夜の優しい姉の面影はなかった。黒い瞳孔が恐怖するほど大きく開いている。
#### 【狂気��愛情】
突然、瑠奈の表情が緩んだ。
「ごめんね...疑っちゃって」
彼女の唇が私の頬に触れる。一見優しいキスだが、その直後に耳元で囁かれた言葉は冷ややかだった。
「でも...約束したよね?私だけの...弟くん」
鞄の中からスマホを取り出すと、画面にはGPSアプリが表示されていた。
「心配だから...つけておいたの」
瑠奈の笑顔が、一瞬だけ本物の幼い姉のように見えた。
「いってらっしゃい。一番好きだよ...」
ドアが閉まる音が、奇妙に長く耳に残った。
#### 【教室の幻影】
授業中、窓ガラスに瑠奈の顔が浮かぶ。瞬きしても消えない。首筋の痕が疼く。
「大丈夫ですか?」
隣の女子が心配そうに聞く。その声と同時に、スマホが振動した。
[お昼、屋上で待ってる♡ お姉ちゃんより]
#### 【屋上の真実】
屋上の扉を開けると、瑠奈が手作りの弁当を広げていた。
「驚いた?」
彼女の制服の第一ボタンが外れ、昨夜私がつけた痕がかすかに覗いている。
「どうして...?」
「心配じゃない?」
瑠奈の指が私の制服のポケットに滑り込む。中から取り出したのは、女子からのメモだった。
「...これ」
彼女の目が一瞬だけ潤む。しかしすぐに、笑顔に変わる。
「大丈夫...私、怒ってないよ」
弁当箱のふたを開ける音が鋭く響く。中身はすべて赤い食材で統一されていた。
「ほら...食べて?全部...私が作ったの」
トマト、パプリカ、赤いフルーツ...その色彩は不自然に鮮やかで、どこか非現実的だった。
#### 【帰路の心理戦】
下校時、瑠奈が突然私の手を握る。人目を気にしない大胆さだ。
「今日...楽しかった?」
その問いには、複数の意味が込められていた。
「ん...」
「良かった」
瑠奈の指の力が強くなる。彼女のスマホには、私のクラスメイト全員のSNSが登録されている。
「今夜も...お勉強、続けようね?」
その囁きは、甘くも恐ろしい調べを奏でていた。
#### 【夜の儀式】
寝室のドアが静かに閉まる。瑠奈が今日も黒い下着姿でベッドに近づく。
「昨日より...上手にできるかな?」
彼女の手に握られたのは、なんと家庭科の教科書だった。
「ほら...『生殖と健康』の章...」
ページをめくる指先が、不自然に震えている。
「お姉ちゃんが...丁寧に教えてあげる」
その夜も、私たちは罪深い絆をさらに深めていった。瑠奈の熱い涙が教科書のページを濡らし、知識は実践へと昇華していくのだった。
[翌朝、瑠奈のスマホには新たなアプリがインストールされていた-基礎体温を記録するためのものだ。]
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sogikun · 28 days ago
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◆memo-紫赤◆
服装は1~2枚目基準。 テーマカラーは赤と紫 身長差は高身長の大人と少女くらい。
■イメージなどを記載
●世界観  どちらも人間の道理や自然の摂理から外れた化物  裏社会の人間に仕えており、暴力や殺人は身近に有り臆さない。  近道も遠回りもしながら彼らなりに人のような恋と愛を知っていく。
●赤肌の女  図々しく我儘で自分本位で自信家。  精神面でも幼く子供のように好奇心旺盛で楽観的。  自分の知らない事を知りたがり、知識欲が貪欲にある。  紫肌男にベタ惚れしており常に構ってほしくて背後を飛び回り首元にくっついている。  性別は可変、最近は女の子の姿が多い。  服も自分で生み出しているので変幻自在で露出が多い。   ・頭上に液状のヘイロー(輪っか)、血液イメージ   ・猫耳だが つるつる ぷにぷに していて毛というより肉   ・白髪でインナーカラーは赤(赤というより肉や触手のイメージ)    前髪から下になるにつれて肉感がありぷにぷにした感じ   ・少女身長、体型はグラマラス   ・花弁のような内蔵のような羽根、触手のように可変できる。   ・口内は赤色、両八重歯(片八重歯の表現も可)   ・目は赤色、ニタ~とした笑み   ・「俺の事が好きでしょ?俺もお前のことが好きだから誇っていいよ♥よかったね♥」
●紫肌の男  社交的で飄々とした性格、交友関係も広い八方美人。  身なりに自信がありピアスやネイルやファッションや流行に関心がある。  女性に対して物腰柔らかく甘くチャラいが、  赤肌女に対してはげんなりした投げやり態度で応じている。  しかし面倒見が良く、なんだかんだで赤肌女の世話をしている。  ・2本の巻角、ツノのインナーカラーは黄色、黄色のひし形模様  ・身長は高く細身  ・左分けの紫色~ピンクのグラデーション髪、インナーカラーがピンク  ・薄紫色の肌  ・長耳にピアス(ピアスは好きに付け加えてください)  ・口内は紫色、ギザ歯  ・目はオッドアイ(右目が黄色、左目が青紫)
キャラクター性さえあっていれば服は好きに着せて大丈夫です。 不明際な部分も改変して構いません。
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kachoushi · 3 months ago
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各地句会報
花鳥誌 令和7年4月号
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坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
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令和7年1月4日 色鳥句会 坊城俊樹選 特選句
浪の花清張も見し日本海 久美子 嫁御振り褒め寒鰤に熨斗を掛く 美穂 去年今年あるやなしやの区切りかな 修二 凩や波たちあがる潦 成子 寅さんと共に過ごして寝正月 修二 水鳥は群れ鉄橋は連なりて 光子 啄みて捨てて怒りの寒鴉 睦子 海鳴りや落書の壁の凍てはじむ かおり 神ノ島へ掲げてみたる破魔矢かな 睦子 狐火の小径へ朱き紅をひき かおり ラガーマン荒ぶる君に前歯なく 修二 御影石冬野に開き納骨す 愛 祈るとは誰かを想ひ冬銀河 かおり
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和7年1月6日 花鳥さざれ会 坊城俊樹選 特選句
九頭竜の四季諷詠の去年今年 かづを 花鳥詠む心貫く去年今年 同 待春の聲と聞きゐる鳥語かな 同 犬と居てあつち向いてほいと日向ぼこ 清女 手袋の中に賽銭初詣 同 豊齢線ますます深く初鏡 同 北陸の冬波高し妻見舞ふ 匠 霊峰へ翳す手の先初山河 笑子 柏手にある玉響の初明り 希子 恐龍像摩那姫像も冬籠 雪 誰か聞く蝶深深と凍つる音 同 而して九十四の初鏡 同 思ひ出を閉ぢ込めてゐる瓢の笛 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和7年1月9日 うづら三日の月句会 坊城俊樹選 特選句
初御空穏やかに晴れ八十路入る 由季子 初旅や朱の橋渡り神の島 都 一輪の床の花にも淑気有り 同 東雲に光広がる初御空 同 装ひも新たお出まし雪女 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和7年1月10日 鳥取花鳥会 岡田順子選 特選句
経文の沁みたる罅の鏡餅 悦子 八十路来て皺も宝の初鏡 佐代子 蒼穹へ空の巣掲げゐる冬木 都 新色の紅の封開け初鏡 美紀 薄氷や予期せぬニュース聞いた日に 同 裸木に掛りしままの竹蜻蛉 宇太郎
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和7年1月11日 枡形句会 栗林圭魚選 特選句
手入れよき句碑の礎冬菫 亜栄子 雲脱ぎて聳ゆ初富士神々し 三無 浮かび来る発句掬ひゐる初湯かな 同 健やかを念じ願うて初湯かな 多美女 数の子の無数の命噛みしむる 三無 数の子の講釈長き老􄽆かな 多美女 鉛色光わづかに冬の川 幸子 山歩き終へて麓の初湯かな 白陶 蠟梅の香りに偲ぶとしあつ師 三無 餅花の一枝整ふ年尾句碑 亜栄子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和7年1月11日 零の会 坊城俊樹選 特選句
冬日影内股のまま少女像 小鳥 マスクとり生肌の笑みの美しき 軽象 狸穴にかつての上司ゐて御慶 久 坂に坂また坂ありて春を待つ 和子 お詣りのしんがりにゐて日脚伸ぶ 光子 静かなる鏡の瞳寒の紅 季凜 煎餅屋くわりんたう屋に日脚伸ぶ 美紀 おもちや屋の前で春着を褒め合うて 要 遠鐘に春著のひらと振りむける 順子 福耳に干支のピアスを春隣 同
岡田順子選 特選句
指先にうすうす流す寒の水 光子 餅花を飾り髪飾りを売れり 要 恐竜の果て裸木の大銀杏 同 柳の井汲む仏恩の水涸れず 昌文 石彫のみなし児に着せ冬帽子 美紀 狸坂暗闇坂へ松明けて 要 聖人の背後流るる叔気かな 三郎 寒晴を映す井水の余白なく 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和7年1月13日 なかみち句会 栗林圭魚選 特選句
街頭の木々の葉散らし風冴ゆる 貴薫 朝の日の届き冬菊煌めける 秋尚 寒晴の空鋭角にビルの影 同 多摩川や寒の流れはおだやかに 和魚 梅の莟膨らみ初むる空青き 秋尚 影一瞬枝の寒禽躱しきる 聰
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和7年1月14日 萩花鳥会
つつがなく過ぐや晦日の陽が沈む 俊文 己が巳よた易く人は蛇となる 健雄 筆始め老僧一字「金」と書く 恒雄 信号を待つ間に溶けりしぐれ虹 明子 春よ来いつい口ずさむ凍る朝 綾子 初空もいつもと変はらずランニング 健児 冬風の波止に親子の釣り名人 美恵子
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令和7年1月14日 さくら花鳥会 岡田順子選 特選句
年毎に賀状の重み寂しめり 実加 震へたる弓引く腕や射場始 紀子 めづらしく福井は晴れて初御空 裕子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和7年1月15日 福井花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
春の月これより空を独り占め 世詩明 振り返ること許されぬ雪女郎 同 初諷経身内の仏偲びつつ 希子 飾り焚く顔てらてらに氏子衆 同 初詣いつもの場所に犬連れて 数幸 餅花や風の動きに揺れたまふ 令子 初場所の化粧回しに郷土色 同 初場所や郷土力士に北乃庄 千加江 初鏡九十四とはこんなもの 雪 去りし人胸の枯野に火を放ち 同 美しき月日重ねし暦果つ 同 年行くと云ふ大いなる音聞かん 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和7年1月17日 さきたま花鳥句会
左義長の炎を見つむ児の真顔 月惑 とぐろ巻く白蛇の絵馬や初詣 八草 寒鴉人なき米軍基地に戯れ 裕章 白足袋に祝ぎの余韻やこはぜ解く 紀花 若水をしたためし筆「金」と書く ふゆ子 ふだんより勢ひ盛ん初句会 としゑ 平和へと進む節目や去年今年 久絵 堂の奥閻魔舌出し冬うらら 康子 初みくじ凶にくじけず息災日 恵美子 巳年なる昭和百年初詣 みのり 午前五時なほ煌々と冬の月 彩香 雪見酒手酌の猪口は江戸切子 良江
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令和7年1月19日 風月句会 坊城俊樹選 特選句
天心へ直立のこゑ鳰 千種 朴冬芽尖りて天を刺す勢ひ 三無 鐘楼は高く臘梅香りきし 芙佐子 撞くことのなき梵鐘へ蝋梅黄 慶月 葦原の風ぐせ堅く枯れてをり 千種 寄生木の透け高々と春隣 久子 白鷲のふはりと跨ぎ霜の田へ 同 誰を迎ふ好文木の年尾句碑 幸風 雪富士の淡く城山見てをりぬ 慶月 冬蝶にかどはかされし園児どち 経彦
栗林圭魚選 特選句
膨らみて辛夷の莟混み合へる 秋尚 葦原の風ぐせ堅く枯れてをり 千種 笹鳴や桝形山の尾根の径 幸風 万両の実の熟したる常夜灯 文英 観音は胸に日を溜む冬うらら 三無 冬の日をふんはり溜めてねこじやらし 秋尚 代々の僧都の墓や冬木の芽 芙佐子 臘梅のこぼれし香り栞りけり 秋尚
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和7年1月16日・21日 柏翠館・鯖江花鳥合同句会 坊城俊樹選 特選句
閉ぢ込めし思ひ出を吹く瓢の笛 雪 初明り庭の一木一草に 同 謹みて猫には猫語もて御慶 同 大寒や西日ふくらむ日本海 ただし 大寒の日野山仰ぐ式部像 同 二人だけの内緒の話初電話 清女 待春の息吹き一木一草に かづを 真向ひの日野の霊峰初茜 英美子 冬晴れの指先までもはづむなり 洋子 女正月話あれこれ湧く如し みす枝 庫裡の窓埃いつぱい日脚伸ぶ 和子 葬送のリムジンに舞ふ雪の花 嘉和 無人駅一人乗込む雪女郎 世詩明 白山の雪の白さを拝しけり 同 雪解水九頭竜川を疑がは�� 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
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island9diary · 6 months ago
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2024年のメモ
〈読んだ本〉
三体(劉 慈欣) ひとつひとつが一作品級の想像力で、三体というゲームさえギミックのひとつに過ぎなかったのはいま思い返してもびっくり。読み終えるころにはとんでもない所まで来てしまったと思った。作中でも重要視される「責任を取ること」だが、黒暗森林で幕を閉じずに死神永生へ繋げたこと自体も、物語と登場人物への責任を取る作者の姿勢が重なり感銘を受けた。 ラブ・アセンション(十三不塔) 『2084年のSF』収録作の『至聖所』という作品が素晴らしく、その作者の新作ということで。宇宙生物×軌道エレベータ×恋愛リアリティショーの群像劇で、徐々に異能力ものの展開も見せる。『至聖所』でも感じたことだがとても映像的だと思った。キャラクターの動きがあるというよりは、構図がバチっと決まったクールなカメラ。最初にピックアップされたこともあって異相あざみさんに肩入れしてしまったし、後半の動きも嬉しかった。 ヤンキーと地元(打越正行) 文庫化にあわせて。確実にそこにあるものの、自分がこのまま生きていれば交わらない世界に興味がある。今後ももっとルポものを読んでみたい。観念としての沖縄像を崩すわけでもなく、その光が生む影にある厳しさを覗く。程度は違えども自分の人生も綺麗なアーチを描けているわけではなく、そういう自分の心をどうやって保っていくかというところに共振するところがある。 STATUS AND CURTURE(デーヴィッド・マークス) 本の情報をみて、私と無関係では無さそうだと思った。読み始めればその容赦なさに少し恥じ入ったり空しくもなったりするのだが、終盤では自己啓発のようにも読めるのではないかと思った。流行が起こり廃れていくことは世界が(一応)前転している証左であって、生きて何かしらのリアクションを取ることはその前転に加担することである。その加担の仕方が、あるジャンルでは最後尾であり、あるジャンルでは最前線であることができ、それが各々の個性なのではないか。愚かであっても歯車ではあるし、イカしていれば車輪にもなれるのかもしれない…と、割と前向きな印象で読み終えた。 〈観た映画〉 トラペジウム フックになる絵や台詞はあったものの、そういうセンセーショナルさを取り除けば、どれだけ語らないかという作品だった。語弊を恐れないまま原作の骨に近づきアニメ化という肉を与えたこのプロジェクトに本当に入れ込んだ。 関心領域 どうしても途中眠くなって、多分支障はないだろうと思って15分くらい寝つつ観た。とはいえ大きい画面と音響はしっかりと傷跡を残していって、レイトショーの劇場から出るとあたりは暗闇で、自販機のうなりや建物の水平垂直がズンと立ち上がってくる。寝たっていいしわからなくてもいいから劇場に行こう。 BanG Dream! It's MyGO!!!!! 前編 春の陽だまり、迷い猫/後編 うたう、僕らになれるうた & FILM LIVE ライブシーンが多い後編は特に胃にずしっと来るけど、フィルムライブが本当に良い。リアルライブではまだお目にかかれない、そよさんがやさぐれた状態でのライブなのが貴重。 劇場版アイカツ! メモリアルアンコール のっけから炸裂する「お疲れ様です!」「ありがとうございます!」の応酬にこの数年で失ったものを見る。諦め、受け入れた先に何があるのかわからないまま、心身の健康のために私はそういう状況に慣れていった。アイカツ!の中で誰が諦めただろう(天羽先生の厄介を被った紫吹蘭には同情する)。劇場には2度通ったが、いちごからあかりへの最後の台詞で2度とも泣いた。強者としての自覚だけでなく慈愛のある、アイカツ!らしい最高の台詞。90分ほどのコンパクトさで美月・いちご・あかり3人の機微を描きとる編集力に脱帽する。 〈聴いた音楽〉 いけない(Kaede) ミツメの活動休止は残念だが望めるならこういう楽曲提供が続くと嬉しい。2024年のベスト。 コントラスト(篠澤広 CV.川村玲奈) 令和っぽいかと思えばサビの不思議なノスタルジーに包まれる。一聴した瞬間からずっと好きな曲。 Luna say maybe(月村手毬 CV.小鹿なお) それぞれの要素はそれほど好きなものでなくても、一つのコンセプトのもとにガッチリと噛み合うことはこんなにも素晴らしい。 Reebok(柴田聡子) 柴田聡子さんについてはアルバムまるごと挙げたい。RYUTistへの提供曲も最高。 angel near you(Homecomings) もともと好きなバンドだったが、音楽性としてはドラマーが変わって好きなほうにさらに近づいた。牧歌的だったものが、骨太なドラムになることで浮遊感へとスライドした印象。 トレモロアイズ(Poppin'Party) この本格感はともすれば自身のキャラクターから脱線していそうだが、おたえがいるかぎりポピパの音楽への探求心は担保されていることを私たちは知っている。意外性と納得がメディアミックスされることで、キャラクターが生きていることを実感する。 人間になりたいうた(CRYCHIC) 歌詞ではないからフルコーラスもちゃんと短いという誠���さ。立希ちゃんのドラムが中学生とは思えない豊かな手数だが、これも祥子によるプロデュース能力によるものだとしたら?という妄想が捗る。 FUN☆FUN☆わんだふるDAYS!(石井あみ&後本萌葉) とにかく音作りの丁寧さ。テクニカルな単音が重なって粒の立った可愛らしさを演出している。ハイハットワークがすごい。 風に乗る船(MONGOL800) Salyuトリビュートアルバム素晴らしい。なかでもアレンジと大らかなメロディが合ったMONGOL800バージョン。 まちのう��(BUZZ) 2024年の曲ではないがラジオで流れて衝撃的だったのでよく聴いた。ミニマルだが開放的な展開。高橋幸宏のドラム最高。
〈買ったもの〉 PORTER×DIGAWEL ヘルメットバッグ ここ数年で最大のひとめぼれ。痛バッグをファッショナブルに展開するとこうなるのかなという。 ウエノスケ シタノスケ S 池尻のTENTで。2個一組のコップで、蓋のようにかぶせて収納、かつ埃の侵入を防ぐ。洗いやすさ、扱いやすさ、見た目最高。 立川 ピュアホワイト 05 白ペンの答え。隠ぺい性、速乾性、耐久性、書き味どれも理想的。今のところ詰まりもない。 adidas SAMBAE 刺繍で出来た漆黒のラインがコントラストがあり、カジュアル感抑え目で良い。 バンドリのペンライト 拳よりも先に頂点があり、さらにそこが光っている。演者は音で、ファンは光で、アリーナ級のコミュニケーションを実現しているのだと感動した。
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2024-6月号
アンビグラム作家の皆様に同じテーマでアンビグラムを作っていただく「月刊アンビグラム」、主宰のigatoxin(アンビグラム研究室 室長)です。
『アンビグラム』とは「複数の異なる見方を一つの図形にしたもの」であり、逆さにしたり裏返したりしても読めてしまう楽しいカラクリ文字です。詳しくはコチラをご参照ください⇒アンビグラムの作り方/Frog96
◆今月のお題は「中華」です◆
今月は参加者の皆様に「中華」のお題でアンビグラムを制作していただいております。中華といえば漢字発祥の地。現代の蒼頡たちの宴をご覧ください。今月も逆さまな作字が集まっております。
ではまずはdouse氏から。
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「麻婆茄子」 回転型:douse氏
180°回転させても同じように麻婆茄子と読めるアンビグラムです。中華には「福到了」という福の字を上下逆さにひっくり返して貼るアンビグラム的な縁起物の風習がありますが 本作は麻婆茄子が無限に到来しそうな御目出度い回転字面になっています。対応解釈が最高ですね。この語句でこの文字組みが出来るのはきっとdouse氏だけでしょう。
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「酢豚」 回転型:peanuts氏
世界範囲で有名な中華料理の一つです。酢豚は日本で付けられた名称で 中華料理においては広東料理の「古老肉」や上海料理の「糖醋排骨」が該当するようです。本作は作字のデザインと対応解釈が高次で両立した理想的アンビグラムです。「乍/月」部分のギミックは美しくてかっこいいです。
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「酢豚」 図地反転鏡像型: いとうさとし氏
左右の鏡像図地で酢豚。作者いとうさとし氏はネガポ字(図地反転)の達人です。本作は真ん中から折りたたむとピッタリ嵌ります。まるでこの漢字がもとより嵌り合う構造を持っていたかのような自然さです。
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「回鍋肉」 図地反転鏡像型:douse氏
四川料理の一つ。本作は斜め鏡像の図地反転アンビグラムです。文字の組み方がテクニカルでブリリアントカットされたような光学的な装いが抜群にカッコいいです。
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「回鍋肉」 図地反転鏡像型: いとうさとし氏
上下の鏡像で図地反転になっている回鍋肉。日本語のアンビグラムは2022年に入ったころから飛躍的に進化発展した印象がありますが とくにネガポ字(図地反転)の進化は顕著で 英語圏でも作例はさほど多くないこのジャンルが日本ではたくさん作られるようになりました。それも本作の作者いとうさとし氏の尽力が大きいでしょう。
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「酸辣湯」 鏡像型:螺旋氏
中国料理のスープの一つで 酸味・辛味・香味が特徴。本作は斜めの鏡文字で組まれています。斜めの鏡像型は漢字のアンビグラム制作に向いた対応だと思います。うまく作ればアンビグラムだと見破られない作字が可能で 本作も「束」部分が自然で驚きます。
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「中華そば」 敷詰振動同一型:Jinanbou氏
発想が面白いです。「華」の字の中に異なる文字を幻視し抽出するその眼力には感服します。これは文字に隠された秘密のゲシュタルトを解析する行為でアンビグラム作りには欠かせないセンスです。
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「青椒肉絲」 重畳型:きいろいビタ氏
ピーマンと細切りにした肉などを炒めた中華料理。本作 重畳型は同じ図形で韻を踏み 青椒肉絲と読ませるアンビグラムです。そのまま亜細亜のどこかの国で商品のロゴとして使用されているのではと思えるほど完成度が高いレタリングです。 
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「杏仁豆腐(⿸广フ)」 旋回型:Σ氏
中国発祥のデザート。135°回転の旋回型アンビグラムです。「腐」の字が「广」の中に片仮名の「フ」を入れた略字になっているところが凄すぎます。この略字は実際にゲバ字(アジビラ文字)などで使用例があります。柔軟な発想ができる人のアンビグラムは読みやすいですが 本作は作者Σ氏のアンビグラムが優れている理由の一端が垣間見える好例です。
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「中華/北京/上海/広東/四川」 共存型(回転・鏡像):ラティエ氏
一般に四大中国料理と言われている4つの場所に お題をプラスした多面相アンビグラム。なんと5パターンの変化が起こる作字なのです。北京/上海/広東/四川は回転型で 大きく表示された中華はその鏡像になっています。 多面相漢字アンビグラムの制作はある種「挑戦」ジャンルです。多面相を作ろうとするその発想や度胸だけでも凄いですし 本作はその挑戦に成功していると思います。
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「横浜中華街」 回転型:ぺんぺん草氏
東アジア最大の中華街を回転アンビグラムに。細かい説明は無用の傑作。この完璧な対応解釈をご覧ください。けしてアンビグラマビリティは高くない語句ですが冷静的確に作字されています。最高です。
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「神戸」 回転型: 「長崎」 鏡像型: 「横浜」 重畳型:.38氏
日本三大中華街。それぞれ趣向を凝らした楽しい対応解釈で可読性も充分高い設計です。 これは文字数寄にはたまらない作字ですね。そのまま都市の紋章に使用してほしいナイスデザインです。
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「横浜中華街散策中隠処的拉麺店発見」 回転重畳型:超階乗氏
ブレードランナーに出てきても違和感のないサイバーパンクアンビグラムの名作。文字の各所に丼図案などが組み込まれていて そのおかげで回転重畳構造を把握しやすい親切設計です。回転重畳型とは ある図形の上に同じ図形をレイヤーで重ね、上に重ねた図形だけを規則正しく回転させて文字を形成するアンビグラムです。
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「西安」 回転型:うら紙氏
陝西省の省都で、旧名は長安というのは有名でしょう。 かっちりした輪郭でありながら墨のカスレを生かしたステキなタイポグラフィですね。アンビグラマビリティの高い語句ですが図案としてきれいにまとめるには作家の力が必要で、うら紙氏はその能力に長けています。
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「Qingdao/青島」 図地反転回転共存型:ヨウヘイ氏
青島(チンタオ)は中国有数の港湾都市・商工業都市・国際都市。 図地反転で漢字の隙間にアルファベットを見出そうとすると、青島は横画が多くて打ってつけの言葉なのですね。省略があっても読み取りやすい作品です。
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「シャンハイ」 旋回型:つーさま!氏
上海は中国で最高位の都市である直轄市の一つ。 五面相の旋回型。「シ/ン」の点の有無のみの差をどう表現するか難しいところですが、少し角度を変えるだけで違って見えてきますね。羽様の形状とグラデーションも読みやすさに一役買っています。すばらしい作品です。
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「万里の長城」 回転型:douse氏
中国にある城壁の遺跡。中国の象徴の一つでしょう。 回転中心の作り方が見事です。「の」が伸びているのも不自然に見えず、「長」の横画を切っているので「長」のバランスもよく見えます。「万/戈」の字画接続の切り替えが見事ですね。さすがの一作です。
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「麺/龍」 図地反転鏡像型: いとうさとし氏
どちらも中国を象徴するものでしょう。 自然に読めすぎて言うことがないですね。図地反転にピッタリすぎる組み合わせが今回のお題によって発掘されたと言えるかも知れません。一点、「龍」の上部の突き出した部分は作者も悔しいところだと想像しますが、それを差し引いても可読性最高の傑作です。
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「伝奇/でんき」 振動型:kawahar氏
中国の古典的な演劇である戯曲形式の1つ。 氏の得意な「読み漢」で一作。ぐにゃりとした書体が「ん/ム」の振動などにマッチしていますね。読み漢はひらがなしか読めない人にも漢字が読めてしまう実用的な手法ですが、適用できる漢字は少なく本作のように限られた言葉だけです。
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「太極図」  図地反転回転型:lszk氏
「易」の生成論において陰陽思想と結合して宇宙の根源として重視された概念である「太極」を表した図。 中央の「極」に本家の陰陽魚太極図があしらわれています。太極図の円形を「太・図」にもあしらって統一感を出していますね。図と地が絡み合い逆転しながら文字を形成しているところが、陰と陽が互いに飲み込みあい無限に繰り返す太極の思想を表しているようです。
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「造書 研究」  回転共存型:意瞑字査印氏
「造書」を90°傾けると「研究」と読める対応です。造書とは文字を造るという意味。『蒼頡、鳥獣蹏迒の跡を見て分理の相別異すべきを知り、初めて書契を造る』 そのむかし蒼頡という人が鳥獣の足跡をヒントに漢字を発明した故事からの語句選択です。なるほどアンビグラム制作とは 新文字を発明する行為とも言えますね。
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「東夷/西戎」「南蛮/北狄」 回転共存型:兼吉共心堂氏
四つまとめて「四夷」、古代中国で中華に対して四方に居住していた異民族に対する総称。 筆文字の効果を生かした表現がすばらしいです。「夷/西」「虫/北」ではカスレにより字画の本数を増減させ、「南亦/狄」では墨垂れで字画密度差を克服しています。真似が難しいテクニックです。
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「東夷」「西戎」  重畳型: 「南蛮」「北狄」  振動型:lszk氏
「四夷」は「夷狄」あるいは「夷狄戎蛮」とも。 お誂え向きの言葉がきれいにそろっていたものですね。というのは簡単ですが読みやすく仕上げるのは難しい字形もあります。氏は知覚シフトのバランス感覚が抜群なので調整の妙もさることながらこの対応にも気付けるのでしょう。
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「劉備玄徳/関羽 張飛」 回転共存型:KSK ONE 氏
「蜀漢」を建国した劉備と、劉備に仕えた関羽・張飛。三国志の武将からのチョ��ス。 髭文字ならではのハネなど遊びの部分を生かした作字ですね。一文字目の「劉」が読みやすくすらすらと読みを捕まえることができます。関連する名前同士でうまく対応付けできるのが運命的ですね。
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「熊猫」 敷詰図地反転型:松茸氏
ジャイアントパンダのこと。 パンダの白黒は図地反転にもってこいの題材ですね。どうやって考え付くのかわからない図案が毎回驚異的で目を白黒させてしまいます。きちんと敷詰できるのか不安になりますがちゃんと隙間なく並びますので安心してください。
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「伊布」  旋回型:YФU氏
「イーブイ」の漢字表記。 久方ぶりに参加していただきました。言葉のチョイスも氏らしいですね。図形の長さを読みやすいところに調整するバランス感覚は健在です。
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「マオ」 交換式旋回型:ちくわああ氏
かいりきベア氏の楽曲名より。「猫」の意味もある中国語らしい言葉の響きです。 線種を変えているのでかわいらしい作字になっています。対応付く字画も分かりやすいですね。それでもうまく敷き詰めてみるのは骨が折れそうです。
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「西游记」 回転型:オルドビス紀氏
16世紀の中国の白話小説、繁体字では「西遊記」です。 簡体字をうまく活用しているのですね。「遊」よりも自然に回りますし、「記」よりも「西」との相性がよく一石二鳥です。「西・记」の右下がりのラインと「游」の右上がりのラインの視覚効果が心地よく作字として最高の仕上がりだと思います。
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「 不 此 君 我 / 当 今 災 偶 成 夕 已 為 / 時 日 患 因 長 渓 乗 異 / 声 爪 相 狂 嘯 山 軺 物 / 跡 牙 仍 疾 但 対 気 蓬 / 共 誰 不 成 成 明 勢 茅 / 相 敢 可 殊 嘷 月 豪 下 / 高 敵 逃 類 」 交換型:繋氏
「山月記」より。縦に読んでください。 7×4の組全体を縦横に交換するともう一方になるという超絶技巧です。「爪」(爪痕の装飾がにくいです)を基準にすると見つけやすいでしょう。じっくりご覧ください。
最後に私の作品を。
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「截拳道」 交換式旋回型:igatoxin
≪友よ水になれ≫で有名なブルース・リーの武術、截拳道(ジークンドー)から。
お題 中華 のアンビグラム祭、いかがでしたでしょうか。御参加いただいた作家の皆様には深く感謝申し上げます。
さて次回のお題は「猫」です。長靴をはいた猫、シュレディンガーの猫、仕事猫、吾輩は猫である、猫男爵、猫目石、煮干し、マタタビ、夏への扉、蚤、百閒、注文の多い料理店、ハローキティ、ドラえもん、など 参加者が自由に 猫 というワードから発想 連想してアンビグラムを作ります。
締切は6/30、発行は7/8の予定です。それでは皆様 来月またお会いしましょう。
——————————–index——————————————
2023年 1月{フリー}   2月{TV}        3月{クイズ}        4月{健康}   5月{回文}    6月{本}               7月{神話}   8月{ジャングル} 9月{日本史}     10月{ヒーロー}     11月{ゲーム}         12月{時事}
2024年 1月{フリー}        2月{レトロ}   3月{うた}         4月{アニメ}    5月{遊園地}   6月{中華}
※これ以前のindexはこちら→《index:2017年~》
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newyorkdiary7th · 7 months ago
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JOE MARTIN QUARTET
NOVEMBER 22nd
Joe Martin – Bass Mark Turner – Saxophone Kevin Hays – Piano Marcus Gilmore – Drums
あぁもう!最高of最高だった、2024年11月22日、金曜日のファーストステージ。
ジョーマーティンさんは存じ上げなかったのだけれど、マーカスギルモアは会った事あるし結構好きだしディスクも持っているし、これにしよう、とNYライフの初週にチケットを買った。あの頃は、11月22日に自分がどんな感じにNYで過ごしているのか想像もつかず、漫然とした楽しみの気持ちがあった。
さて、何から綴ろうか。時刻は既にミッドナイトを周り、そんなにタラタラ書いてもいられない。でも書き残しておきたいことで溢れんばかりの私。 チケットを買った頃の話はもう端折ろうか、とりあえず今日の日記にしましょうか。
今日は雨。昨日も雨。親知らずを抜いた痛みと格闘中のサティアが、こんなに雨が降ったのは2,3ヶ月ぶりだ、と言っていた。NY来て初めて、なんてレベルじゃなかったんですね。私はすこぶる雨が好きな人間なので、気分はよろしゅうございました。 雨とは言ってもザァザァ降るやつ、そうウガンダのようなざんざん降りではなくて、小雨だし、時々止んでいる。 雨だと分かっていても自転車を手放さないほどの自転車狂と化した私は、夜のVillage Vanguardまで部屋に戻らない支度をして昼過ぎに自転車でアパートを出た。でも出てみたらちょっと本降り気味のタイミングで、このまま40分ライドは辞めようとすんなり駅へ向かう。��ういえば、めっぽうチャリばかり乗っていて地下鉄は随分ご無沙汰だ、という気分でホームへ。
ところで、NYの地下鉄には、自転車も犬も、みたことはないけどきっと亀でも猫でも、まるでトランクをひいているくらい当たり前に乗せることができる。良いよねぇ、行動の幅がどれほど広がることか!
お決まりの図書館の部屋に入って、もう何回目かわからないや、と思った。冊子作業を進めて、暗くなってしまったので出る。チェルシーにでも寄って、ちょっとギャラリー数件散歩して、ヴィレヴァン近所のカフェで20時を待とう、そう思ってセキュリティーをくぐって外に出たら、雨はさらに強まっていた。Uターンをしてもう一度セキュリティでカバンを開けて館内のトイレへ行き、レインコートを着た。結局、登山グッズは何にでも役に立つねぇ、とNYPLのトイレで思うわたくし。 自転車は今日も無事盗まれていたなかった。Jimさんのアドヴァイスを受けて、前輪にも鍵をかけるようになった今週のわたくし。さて、この雨の中寄り道をする気力を無くしたので、一挙にヴィレヴァンを目指そう、ということになった。良さげなカフェで本でも読もう、そうしよう。
7th Aveをひたすらに下るだけ。本当に本当になんて分かりやすい仕組みなことか。いつ漕いでいてもその唖然とするほど利便性に長けた地理に脱帽ですね。雨もそこまで気にならない。ついに雨の中も走っちゃうほどの自転車ラバーになったのか、と感じながら普段以上の注意を払って滑走した。夜だし、チャリダーは皆フードで視界が狭く、歩行者は皆傘で視界が狭く、オンボロちゃんのブレーキはきっと雨には耐性が低い。そして毛糸の手袋と雨は相性が抜群に悪いだろうと我慢した素肌の手はばっちばちに冷たい。でも気持ち良い、やっぱり自転車はいつ何時でも気持ち良い。 濡れた夜の7th Aveの路面はトラフィックライトでピカピカと鮮やか。気づけば目の前にマディソンスクエア。そういえばここのクリスマスツリーは有名なんだって?と寄ってみた。それらしきものは見つからなかったから引き続き滑走していたら、あっという間になんかみた事ある景色になったので、止まって地図を確認したら、目的地を少し通り過ぎていた。戻って、ヴィレヴァンの隣のカフェに入ることにした。
Fellini Coffee. いつだったかインスタで見かけていたカフェ。かの巨匠、フェデリコフェリーニとの関係は全くわからないけれど、まぁ名前だけでそそられちゃうわよね。このカフェなら、何時くらいから入場の列ができるのか分かるし、ちょっと高くても長居の予定だしたまの贅沢ということで!と入店。 窓際の丸テーブル最高。床のモノクロタイルがシネマティックで最高。テーブルに常備されているガラスの水ボトルが到底出会ったこともなければ到底出会うことのなさそうなレベルで重かった。
メニューを見たら一番上のDOLCE VITAという文字が目に入る。やはり巨匠とは何らかの関係があるらしい。甘いキャラメルラテ、とのことで、ほんとは美味しいドリップコーヒーを飲みたい日だったんだけど、この店名にしてこの名前の飲み物を頼まないなんてことは無理があるってもんだった。みんなDOLCE VITA以外に何を頼もうっていうんだろう?(ハッピーアワーでワイン飲んでいる人が多そうだった。) そこからはもうご機嫌極まりない時刻だった。音楽もノリノリ。まぁいっそのこと50年代のイタリア音楽かけて欲しかったりもしたけれど。 読書が進むこと進むこと。
ふと母のセリフを思い出した。ちょうど同い年くらい、29歳の時にNYにひと月いたという母が、「思えば、本屋のそばのカフェで、日がな一日時間を気にせずに読書していた事とか、そんな貴重なことってなかったなって思う」そんなようなことを、私がNYに行くことにしたと言ったら話していた。その話を聞いた時は、知らず知らずに親の足跡を辿っている事がおかしかった。 そして不意に本を読んでいる最中の私の思考がふわふわと独り歩きを始めて、目は文章を追っているのに、思考は別のことを考え出した。母はNYでどんな本を読んでいたのだろう、と。日本語だろうか英語だったのだろうか?小説?エッセイ?何を読んでいたんだろう。その疑問が今の今まで湧かなかった、という事実がくっきりと感じられた。 そう、一人で過ごす時間の好きなところはこういう瞬間にある。妙に思考がクリアになって、秒単位での時間が染み込んでくる、そんな感覚に包まれる時間の流れ方に身を置くこと。 最近もちらりと思っていた事だけれど、一人での経験を充実させればさせるだけ深く、他人との時間が有意義なものになる、そんな摂理が訴えてくる今日この頃。
話を戻そう、DOLCE VITAに。LA DOLCE VITA、1960年、敗戦後イタリアの歴史的傑作。25,6歳の私に、いつかあなたはFelliniという名の店でDOLCE VITAというドリンクを飲む日が来る、と言ったら、笑うだろうか。間違いなくあの頃、LA DOLCE VITAというタイトルの散文を書き散らしたけれど、あれは一体どこに保管されているのだろう。読み返した事がないな。映画のイメージを裏切らない仕上がりの味だった。ブランデーが鼻の奥を香水のように刺激して、舌の上には濃厚な甘み。久しぶりにフェリーニが観たくなってくる。(そんな体力、30にもなってあるんだろうか?)
本の方は、こんな偶然ってあるだろうか、というほど、今いる界隈が舞台となっている小説で、行き過ぎた偶然を驚くことも忘れて楽しく読み進める。 大きな犬がカフェに入ってきて、外国だなぁと感じる。 マンハッタンはあるかと聞いたら、うちはない、と言われたので、ハッピーアワーはまだ良い?と終わる1分前に駆け込み。中々の重いボディの赤でした。
さて、時刻は18時、開演2時間前。19時には並ぶだろうな、などと思いながら、読書を堪能していると、18:20頃になんともう!数人が列を作り出した。1時間半も待つの!?この3℃の雨の中!?もう少し人が来出したら出るしかないか、と本を読み進めているとちょうど良い区切りに差し掛かったので、出ることにした。極暖ズボンを履きにトイレに行って、整列の準備を万全にしていざ。ワインがきっと身体を温めてくれたはず、なんて願いながら。 結局40分くらい待ったのだろうか。とっても前の席に座れた!大体どれくらい早く来なくちゃいけないのかがわかったので、それは良かった。 迷ったけれど結局またクランベリージュース。ホットコーヒーは置いていないと言われちゃったので。ペルグリーノにしたかったけど、ジュースの倍額だったので。ヴィレヴァンとクランベリージュースは、もしかするとタバコとオレンジジュースのようなマリアージュをいつしか構築するかもしれない、そんな思考がよぎった。 ヴィレヴァンの席はすこぶる暗いけれど、本を読み続けた。暗い中の読書は目を悪くする、子供の頃よく言われたっけ。
「ワインを被るのは人生で2度目だ」というメモを取ったのはきっと19:45くらいの出来事。びっくりした、何の前触れもなく白ワインが後ろから飛んできた。まぁ、前触れのある飛行なんてあるわけ無いのですが。My apologies!とスキンヘッドのおじさまが謝っていた。近所の人は皆いいよ~という感じでフキフキ。あたいの盛り上がっている本のページにワインが沁みていく。あたいの着すぎているセーターの背中にチラホラ飛んでいる。それからは何となく、空気に白ワインが混じっているような香りが充満していた。ちなみに人生で1度目の引っかぶりは、これもやっぱり突然の出来事だったけれど、でもその時は前から飛んできたので、全くなんの前触れもなく、というよりはコマ何秒かは覚悟があった。(何だそれ。)そしてあの時も冬だったなぁ。良いよ~と、謝る友に心からそう言って、洗濯をしたらセーターはえらい縮んだ。今でもよく着るそのセーターの縮み具合が、いつもあの時間を思い出させる。新橋の蒸し料理屋さん。あのレストランにまつわるいろんな時間が瞬時に漂う。
さて、20時。始まる。 2メートル前に、アーティストがいる、そんな世界に今自分がいる。始めましてのジョーマーティンさん。ピアニストはパックマンみたいな顔立ちだった。博士論文書いている学生みたいなつるんとした髪型で、黒いスーツ、おとなしそうな雰囲気。サックスさんはジャケットの中にダウンベストを着てらして、冬だなぁ、と思った。マーカスギルモアは、あれは制服なのかなぁ?あのアフリカンな上着、なんか見た���とある気がする。 あぁ、最高だ。すごいことだぁ。 一つの音が完璧に揃う時、質の高さが迫ってくる。
生のジャズを聴かない生活は、読書をしない生活と同じくらいあり得ない事だ。
我がジャズ師匠がコロナ前まで毎年NYにジャズのために来ていた事実が、今はもう、理解できる。やっぱこの手軽さは凄すぎる。日本の半額以下で、あり得ない迫力の席で、同等のアーティストがわんさか毎晩プレーしている。ジャズの街なんだ、世界一の。完膚なきまでに理解した。 娘のために描いた曲なんだ、とジョーさんが言う、ここに娘も今来ているんだ、というとめちゃくちゃ盛り上がった。アメリカンだなぁと思った。 この滞在はやはり、ジャズに集中しようか、そんなことを思った。クラシックコンサートもブロードウェイも、美術館も、行ってみたいところは山ほどあるけれど、そんなに多方面に行けるだろうか。ジャズに絞るのも一つの手かもしれない。こんなにも最高の体験なんだもの。
美術館で心を掴む作品に出会う時。写真展で心が躍る時。作品に心が答え出す時、自分の過去が呼び覚まされる。無秩序に突拍子もない過去が浮上する。 生死。葬式でお坊さんが言っていた言葉が浮かんできた。 現在は同時に過去であること。過去の全てが今の自分であること。そんな事象が浮かんできた。 今の自分の行いが、未来の自分にとってどんな時間になるのか。宝石のような時間になるんじゃ無いだろうか。少なくとも今夜はそうだ。ワインが飛んできたことも、何もかも吹き飛ばす音楽の中に入れた。ふと涼さんとイスラエル人のジャズラバーとブルーノート東京に行った時間も漂ってくる。あの時感じた事の全く同じ事を、涼さんはいち早く言葉にした。インプロヴィゼーションが物足りなかった、と。 今回のカルテットもやや優等生すぎるクリーンな音楽かなと感じていた。いつホットになるんだろう、と。まぁそう慌てなんさ。超優等生なクオリティでチューニングが済んだならば、始めるのです、どこまで上り詰められるか、競争のような協奏が。早まるテンポに部屋中の温度が上がっていくあの感じだ。ピアニストの表情、トランペットがクラリネットになる曲。ジャケットが、ダウンベストが、一枚また一枚と剥がれていく。 最高of最高だった。
演奏中に席に回って精算するヴィレヴァンのスタイル。お姉さんにバインダーに挟んだカードを渡した瞬間、なぜだか突然自分が大人になった気がした。もうとっくにオトナの歳なのだけれど、ふと実感がよぎった。どうしてあの瞬間なのか、不思議で不明。
だから私は小説を読むのが好きなんだ、と流れ着く思考。この不思議で不明な人生の一瞬を、世界のどこかにたった一文で表してくれる作品がある。そんな一文に出逢い続ける幸せが、私の小説好きの原因である。
寝よう。
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bearbench-3bun4 · 11 months ago
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猫は知っていた 7月4日 土曜日
さて、7月4日になり、仁木兄妹が箱崎医院に引っ越してくるところからです。
夏空に“ソフト・アイスクリーム”の形の入道雲という表現が面白いです。 今なら、ソフトクリームですね。
不二家が、昭和26年(1951年)にソフト・アイスクリームを作る機械をアメリカから輸入したそうです。 昭和27年(1952年)5月13日の朝刊に不二家洋菓子の広告に〈ソフトアイスクリーム〉の掲載があります。 昭和28年(1953年)には、ソフトクリームブームが到来したみたいです。   でも、ここでソフト・アイスクリームと表現したということは、不二家の影響が強いのでしょうか? 恐るべし不二家ですね。
荷物は、小さなオート三輪で運んできました。 昭和34年の話だとして、小さなオート三輪なら昭和32年に発売された「ミゼット」でしょうか?
さて、案内された部屋は七号室でした。 八号室では夕日のせいで暑くなるだろうからという理由でです。
わざわざ八号室から七号室に移ることを明確に書いているということはなにかあるのでしょうね。 というか、何かあるとしたら、部屋を変えさせた人物が関係しているのかも。 箱崎医院の関係者ですかね。
家永看護婦の嫌味がチクリと刺さりますが、これ��伏線でしょうね。 階段の上り下りはギシギシとでも音がするのでしょうね、手術があったので静かにといってます。
悦子は、そんな家永看護婦のようすを“権柄尽く”といってます。 権力に任せて、強引に事を行うことですね。
2階に上がると今度は野田看護婦とあいます。 野田看護婦は、悦子の持っているブラックの絵に関心を示します。 ブラックとしか書かれていませんが、ジョルジュ・ブラックですかね。 パブロ・ピカソとともに「キュビスム」を生み出したフランスの画家です。凡人には全くわかりません。
この後、入院患者がわざとらしく紹介されます。 これも、何かの伏線でしょうね。
一号室は、小山田すみ子という中年の婦人で、頸部リンパ腺炎だそうだが、もうほとんどいいらしい。一人で入院している。 二号室が例の平坂勝也です。例のというのは、プロローグに出てきたからですね。 清子夫人が付添って看護しています。 職業は貿易商で、外人に日本の浮世絵や古美術品を売りつけているみたいです。 三号室は空室です。 五号には若い男の患者がふたりはいっています。 宮内正は26、7の機械技師で職場で左手を負傷したのだが、もう痛みもないので毎日を退屈しきっている。 桐野次郎は大学生でサッカーの練習中ころんで足を折り、つい二日ばかり前に入院した。 六号室は、工藤(くどう)まゆみで、十三くらいの女の子です。 背中におできができて手術したのが今日です。 七号室は、引越し先ですね。 で、不思議なんですが、八号室についてはかかれていません。 誰かが入っていればそれを書くのでしょうから、空室なんでしょうがなぜそのことにふれないんでしょうか?
で、部屋の片付けの途中で、 兄が大事にしている“フレウム・アルピヌス”(Phleum alpinumフレウム・アルピヌムのことですかね)にちょっとふれてます。 これは、兄が植物学を専攻していることと、それ以外にもなにかの目的があってここに挿入されいるのかもしれません。 フレウム・アルピヌムは学名で、みやまあわがえり(深山粟返り)の頃らしいですが、7月だと花がしている時期だと思うのですが、そのことにはふれていません。
片付けをしていると、夕食の案内にユリさんが入ってきます。 ところが、このユリさん、様子が変です。 心ここにあらずで、顔色も青く、寝不足の時のように、いらいらと血走った目をしています。 これは、何かありますね。
さて、夕食です。 院長夫妻、おばあちゃん、英一さん、幸子ちゃん、それに仁木兄妹の七人が食卓を囲んでいます。 箱崎家のはなれの八畳の茶の間です。
・気分が悪いというユリのこと。 ・仁木兄は、大好きなくせにアルコールに弱く、すぐ眠くなってしまう。 ・幸子ちゃんが、金魚の模様のゆかたのことを。 ・おしゃれにうるさい敬二は、四月から医大へ行っていて、中野で下宿している。 ・病院と台所が離れているので、患者や看護婦の食事を運ぶのが大変だと。 ・洗濯も、病院専用の大きな電気洗たく機を買ってからは、楽になった。 ・調理場も建て増しして、家族と別にする。 ・親が読んでためになる小さい子供の音楽のおけいこに参考になる本このこと。
と多岐にわたります。
そして、これが一番の核心なんでしょうか。 英一が、“ヒヨドリジョウゴ”は、毒草なのかと、仁木兄に尋ねます。
鵯上戸(ヒヨドリジョウゴ)は、つる性多年草で日本全土の山野に分布しています。 ジャガイモの新芽に含まれることで有名な有毒成分である“ソラニン”を含むみたいです。 なんと、種が鳥や土に運ばれて、家庭の庭やベランダのプランターから突然生えてくることもあるようです。 他にも、モクレン科の常緑小喬木であるシキミにも、きれいな実がなるが、猛毒で子供が食べて死んだりします。 もともと『悪しき実』と呼ばれていたのが、シキミという名になったらしいです。 直接ではないのかもしれませんが、毒による事件でも起こることの伏線ですかね。
夕食の最後に女中のカヨさんが、水蜜桃を運んで来ます。 水蜜桃とは桃全体のことを意味しているみたいです。 そのため「水蜜桃」という品種はなく桃はほとんどがもともと「水蜜桃」だそうです。 知りませんでした。 ももではなく「水蜜桃」というと、通っぽくていいですね。
その後、仁木兄妹は、英一の書斎を訪ねることになります。
英一の書斎は、家の東側���あたる八畳の和室です。 窓際に勉強机と腰掛があって、本のぎっしり並んだ大きな書棚が二つあります。 きちんと整頓されていた書棚は、英一の几帳面な性格を表しているようです。 専門の医学書が大部分で、通俗科学書も少しありそれ以外の本は見当たらないようです。
英一は、平たいボール箱を探しますが、見当たらないようで、悦子が、壁ぎわの書類ののっている机を指さして「ここにあったのでは?」といいます。 理由は、丁度箱ぐらいの大きさの四角な物ぐらいに、ほこりがななかったからでした。 それに、英一は、例の用心深い目の色で、じっと悦子を見つめ、“置いてあったのは、人から預かって置きっ放してあったのを、返した”と答えます。 これも、なんだかわざとらしく挿入されていますね。 これも伏線なんでしょうか? いったいどんな箱なんでしょう?
英一が、探偵小説が好きなのかと悦子に振ります。 その部屋には敬二の本棚があり、探偵小説ずらりと並んでいます。
いくつか名の売れた一級品として挙げられています。
「ABC殺人事件」 ・1936年発表。 ・アガサ・クリスティの推理小説。 ABC殺人事件 (創元推理文庫) ISBN-10 ‏ : ‎ 4488105386 ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4488105389 ポアロの元に、「ABC」と署名された挑戦状が届いて、その通りに事件がおきます。 面白そうです。
「赤い家の秘密」 ・1921年発表。 ・A・A・ミルンの推理小説。 赤い館の秘密【新訳版】 (創元推理文庫) ISBN-10 ‏ : ‎ 4488116027 ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4488116026 「赤い館」で「銃声のような音が聞こえた」と、そこに人が倒れている。 この事件の謎を素人探偵のアントニー・ギリンガムが調査します。
「血の収穫」 ・1929年発表。 ・ダシール・ハメット作の1929年の探偵小説。 血の収穫【新訳版】 (創元推理文庫) ISBN-10 ‏ : ‎ 4488130062 ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4488130060 悪党たちの対立によって荒廃した町に主人公が現れ、複数の陣営に接触して扇動や撹乱を行い彼らの抗争を激化させて殲滅する。 ハードボイルドやアクション小説というところでしょうか。 大好きなジャンルなので、今度読んでみたいですね。
「Xの悲劇」 ・1932年発表。 ・エラリー・クイーンの長編推理小説。 Xの悲劇【新訳版】 (創元推理文庫) ISBN-10 ‏ : ‎ 4488104436 ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4488104436 密閉状況での殺人やダイイング・メッセージとして「X」の形を作っていたなど、推理小説しては非常に面白そうです。
「カナリヤ殺人事件」 ・1927年発表。 ・S・S・ヴァン・ダイン作の長編推理小説。 カナリア殺人事件【新訳版】 (創元推理文庫) ISBN-10 ‏ : ‎ 4488103200 ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4488103200 殺害現場が密室で犯人を特定するために、ポーカーによる心理探偵法を実践するという話です。
日本の作家がないのが残念ですが、ここにのは載せられないような事情があるのでしょうね。
英一と仁木兄は、毒草のことで盛り上がっています。 ヤマトリカブト(山鳥兜)は、特に根にアコニチン(アルカロイド)と呼ばれる毒が大量に含まれているみたいです。 アコニチンは、猛毒で、嘔吐・痙攣・呼吸困難・心臓発作を引き起こすみたいです。 そんなのここにあっていいのでしょうか?
英一さんのところから自分たちの部屋に帰るとき、桑田のおばあちゃんとあって、ユリさんの状態を確認します。 この状況は、ユリさんの部屋から出てきた桑田のおばあちゃんと仁木兄妹が会ったという感じでしょうか? その後、桑田のおばあちゃんは、脇玄関の戸をあけて外に出て行きます。 何をしに外に出たのかは説明されいません。 そのとき、桑田のおばあちゃんは、そでの中に何かをかくしてでもいるような感じだったとあります。 何かを持って外へ出たみたいですね。 様子のいおかしいユリさんも気になりますね。 これもなにかの伏線なのでしょうか?
これで、翌日に続きます。 特に何も起きないのが、かえってワクワクしますね。
つづく
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funniaking · 1 year ago
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タイ旅行記2019/09/24編③
10時に起床。同室は人気がなく恐らく一番寝坊しているのは自分だと気づいた。
ホテルの予約を全然していなかったので、連泊する旨を受付に伝えた。
ついでにネットから予約した際に朝食付きの内容だったので、どうやって朝食を食べられるのか質問すると、
追加で払ってくれと言われた。予約してるので、そんなことないだろうと戦う姿勢を見せたものの、
やはりダメと断られ、お腹も空いていたので、仕方なく払ってしまった。
まだまだ押しに弱いぜ。
朝ごはんはザ朝ごはんを食べ、目玉焼きとハッシュポテトを食べた。
日本なら和食とか洋食選べたりするが洋食オンリーだったので
洋食の広がりに驚きながら食べた。
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地球の歩き方を読みながら寝てしまったので、
ゲストハウスに併設しているプールに浮き輪でぷかぷか浮きながら当日の予定を考える。
BGMは爆音で流れるテイラースイフト。
ここでもまた洋の広がりを感じた。
ある程度予定が固まったのでプールから上がり、
着替えて部屋へ戻るとジム終わりのアンドリューが汗だくになっており、
「これからプールに飛び込まなきゃ」と言っている。すごい体つきだった。
お土産を買いにカオサン通りへ向かう前に、
タイに着いてからお気に入りになったレストランで昼から飲酒しながら前来た時と同じメニューを注文。
冒険しにきたが、この辺は冒険しない自分を嫌いではない。
昼食をとり終えると、時間があまりないことに気づいたためパタヤーへ向かうことを諦める。
アユタヤ同様、目的意識を持ってしまうとうまく思考ができずまたぼったくられることを
リスクと感じたのた。大人になるとリスクヘッジがうまくなる分、つまらなくなってしまうなあ。
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カオサン通りに着いて、まず自分のお土産からと、お香たてを探した。
前回来た時の顔を覚えていたのか、気にしてたお香たてを売ってるおばさんが表示価格より安くしてくれた。
(家について実際に使おうとしたら全く灰落としの長さが足りていなくて使えなかった。)
時間もなかったので一人一人考えるよりもまとめて買った方が楽だと思ったのでそのお店で10着以上のタイパンツを購入。
一着100Bだったが、値切って150Bにしてもらい安く購入できた。
値段の概念がわからなくなってしまう国だ。。
店主のおばあちゃんがなんか前回来たときよりも優しい顔をしていて微笑みの国たる所以を感じた。
衣類を大量に購入したのでもっと散歩しようと思っていた気持ちが荷物の煩わしさに負けてしまった。
煩わしくなったお土産をゲストハウスに置いておくために一度ホテルへ戻ることに決めた。
戻ったゲストハウスではたくさんの利用者がプールでわちゃわちゃしており、
大きめの手提げを抱えていた自分は田舎もの感がでてしまったことで、少し恥ずかしさを感じながら部屋へ向かった。
現在地から近い距離でタイをたくさん感じるために行くことに決め、
近場にあるワットポーを見に行くために外に出ると露天で190Bのアロハシャツが売っていた。
リゾートっぽいから着て歩きたいぞ!と思い浮き足だって覗いてみた。
結局はタイシャツを購入したのだが、友達にあげることにした。
ワットポーは徒歩圏内だったので、タイ旅行で培った徒歩移動しているとトゥクトゥクおじさんが声をかけてきた。
150Bというので50Bにしてくれというとダメだとの返答。
歩き出すと袖を掴んできて80Bならいいよという。
70Bでどうだいと返すと仕方なく了承してくれた。
おじさんの友達が笑いながら50Bでいいよ、と言ってきたので、
本当に50でいい?と聞くとトゥクトゥクおじさんにはシカトされた。
トゥクトゥクは移動にはコスパ悪いけど、折角だし乗ってよかった。
タイのほどよい暖かさにちょうどいい風を感じた。
次はリモバイクに乗ってみたいなあと思った。
ワットポーはメインだと思われる大きめな涅槃像よりも、寺院内にある大仏の方が趣があって好きだった。
理由は昨夜のレストランで、ライブを見ながら興奮気味にチップを渡して路上で呑んだくれてた青年が寺院内で静かに拝んでいた姿があったからだ。
ちょっとしたヒッピーみの彼の旅に幸あれと胸に秘めながら寺院を散策。
ワットポー内で猫が横になっているのを見つけたので、寝顔を納めようとカ��ラを近づけると
動物特有の複式呼吸がなかった。
しっかりと確かめなかったが、きっと亡くなってるんだろうと思いカメラを下げた。
ひとり旅はなんでも刺激的で記録として残したかったためいろんな箇所でカメラを向けてたけど
その瞬間ハッとしてしまった。
写していいものと悪いもの、BE HUMBLEしなきゃいけないことが頭によぎった。
(寺院内には至る所にBE HUMBLEという注意書きがあり、恐らくうるさくしないでといったことがメインであるが
生き物を尊重する、ということも含まれると勝手に解釈した。)
ワットポーは社会人1年目の研修のミャンマーで見た涅槃像がファーストインプレッションなので、ワットポーの涅槃像との違いがイマイチわからないかったので
刺激も興奮もなかった。
ただし、寺院内の装飾が素晴らしく、大仏や涅槃像よりもお寺の中の手入れのされ方などがタイの寺院の魅力なんだと個人的には感じた。
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ワットポーを見終わった後にワットアルンを見に船着場へ。
船着場の猫がフラフラと天井に上がっていて
猫特有の気ままさが可愛かった。
タイの猫は特に人懐こさがあり、飼い主によく躾されているように見える。
(もしくは野良だけど常識ある猫。)
人の言葉がわかるような印象がある、魔女の宅急便のキキのような佇まいだった。
タイでは犬よりも猫を見る方が多かった。
ワットアルンは厳かで感動した。
白を基調にした場所で、日差しが差し込むことによって言葉に言い表せない感動があった。
途中揉め事が近くで起こっていたけど、何が起きてるかは分からなかった。
(恐らくゲイのカップルが面白がられて写真撮られたりした雰囲気だった。そしたら最低だと感じる。)
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ワットアルンを一通り楽しみ、ワットポー側の岸に着いたとき
次のワットアルンへ向かう船の列に並ぶ日本人がちんたらと歩いており、欧米系の人に抜かされていた。
抜かされた日本人が日本語で「白人ってこういうことするよね」って言っており、
とてもイラついた。
海外に来ている以上、お前の常識ではないんだぞ?思った。
少し腹が立った状態でワットアルンを後にし、名所と思しきルンピニ公園の入り口を眺めながら、
歩きたくない病によりバスを待つことにした。
となりの欧米系の若いカップルがバスに乗ろうとするがタイ独特のパワープレイアピールでないと
バスが止まってくれないらしく、なんどもトライしていたが結局乗れず、諦めてバス停から去っていった。
俺もトライしようとしたが、まずこの路線のバスはどこへ行くのか調べてみようと思い、
地球の歩き方に書いてあったバンコクのバスアプリをダウンロード。
最寄りのバス停を調べるため目的地までの移動手段をグーグルマップで検索をかけると歩いて最寄り駅に行って、
メトロに乗れとのことだった。
(デジタルデトックス言うてる場合ではなく、インターネットさまさまになってしまっていた。)
サンセットが近づいており、フォトジェニックな風景を撮りたいと思い、
最寄り駅からメトロに乗ってリバーサイドレストランへ向かう。
一杯引っ掛けながら、日没を見ようと楽しみにしていたが、
到着すると船着場しかなくてレストランやバーが見当たらない。
残念がりながら駅周辺を探索をしてみた。
映画ハングオーバー!で使われていたスカイタワーがあるため、そこで飲むか!高いところの景色綺麗だし!と調べてみると
ドレスコードが存在し、サンダルがNGのためバカンス気分でサンダル短パン姿の俺はスカイタワーに行けなかった。
(次回リベンジしたい。)
目的地だったリバーサイドレストランも
タクシー、バスに乗ろうにも交通量が多く、結局向かっても日没は車内で迎えると判断して諦めた。
駅付近を探索してるとシャングリラホテルという有名なホテルの近くで見つけた「chill」の文字が書いてあるバーで
そろそろチルしたいと体が悲鳴を挙げていたため、
タイに着いてからずっと飲んでいるレオビールのブラックを注文し、少しのチルタイムを迎えた。
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特にすることもなく、手持ち無沙汰になったため、お土産を買いにサイアムへ向かう。
サイアムへ向かう途中で汗疹?もしくは蕁麻疹が出てきて、
悪いもの食べたかなと思い返しても直近はビールだからきっと疲れが原因だと思った。
サイアムに到着し、MBKセンターで買い物。
これは紛い物ばかりだー、ワハハ!という品揃えだったので全然魅力を感じない。
安いからとかそういうことじゃないだろう!と思いながら一種のエンタメを味わった。
MBKセンターではトムヤムクン味のプリッツを購入し、お土産ミッションをコンプリートしたので
MBKセンターを後にした。
流石にもうサイアムからカオサンまでは歩けないと思い、タクシーを捕まえる。
50Bでどうです?とタイ慣れてます、アホな日本人ではないです、というアピールを兼ね備え
交渉とメーターだよ、アホと言わんばかりの態度をされた。
(タイでは交渉式とメーター式のタクシーがあり、メーター式はある程度しっかり金額管理されている)
メーターならまだ安心かと判断し、乗せてもらった。
昨日のアユタヤからの帰りとほぼ同じ道中をタクシーで通った際に、この距離を歩いたんだなあと物思いに耽っていると
あっという間にカオサン通りに着いてしまった。
乗り物すげーな。と思いながら、徒歩でしか味わえない街の空気と、ドラマも楽しいよなと自分を正当化した。
カオサンに着くとメーター通りの70Bを請求されたので100Bを出すとお釣りが25Bで帰ってきた。
あれ?という大袈裟なリアクションをして再計算していると
運転手から早く降りろと言わんばかりの態度をされた。
5Bと10Bは似てるから単なる間違いだよなと思い、
100B出したから30Bのお釣りのはずだけど、5B硬貨だよ、これ、と渡すと「はて?」という顔をされた。
失敗から学び続ける気持ちで、折れてはいかんと思い、はい、5B!って運転手の顔の前に出すと
タイ語でブツブツ言われていたが、結局10Bのお釣りを返してもらった。
カオサン通りに着くと、連泊しているからか、もはや安堵感が生まれた。
相変わらず、賑やかな街並みを通り、お土産を置きにゲストハウスへ向かう。
昨日ついたばかりと言っていた、アンドリューがほかの宿泊者と仲よさそうに話しており、
アンドリューにとって第一ゲストハウス村人だった俺は謎の「一番の友達だよね、俺ら!」感を持ってた自分に羞恥心を感じながら
こうやってゲストハウス過ごすもんだよね!びびってるよね、俺!と反省した。
(転校生と一番最初に仲良くなったけど、そいつは別の友達と仲良くなった時の気持ちみたいな)
一息ついたのでシャワーを浴びた後、最終夜のカオサン通りに繰り出す。
さすがに今夜は行き慣れたレストランとは違うレストランに入ってみようとトライしたが、
きっと同系列のお店だった。なぜならメニューが同じだった。
タイ最後の晩餐はトムヤムクンとビール。
翌日の空港へ向かうタクシー代を考えると、あまり豪勢な食事はできなかった。
(あまりタイ料理で豪勢というのもイメージつかないが。。)
これで満たされるかと不安があったが、スープは意外にも腹にたまりビールがなかなか進まなかった。
ひとり旅だし、解放的になった俺は”なんか街で歩いている人みんな可愛く見える病”にかかりながら
カオサン通りを歩いていくバックパッカーや観光客を眺めていた。
持ってきていたブラッドベリの短編を読みながらビールを流し込んでいく。
しばらく過ごすことができたのだが、流石にビール一杯とトムヤムクンで
長時間居座るのも、居心地が悪くなりゲストハウスに戻ることにした。
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翌日のタクシーを予約するため、受付脇に置かれていた”taxi”と書かれたシートに記帳していたため、
タクシー来るまでの段取りをゲストハウスの受付に確認すると
「カープールは同じ方向に向かう人を集うシートであって、タクシーを予約するやつではない、自分で調整してくれ」と言われ、
無知って怖いなあと勉強できました。英語で書かれているんだから文字もちゃんと読むべきだよなあ、という反省。
どうしようかと考えあぐねていたが、まあ明日考えようという持ち前ポジティブマインドになってしまったので
お酒が買えなくなる24時前にビールとお水を買いに外に出た。
ゲストハウスへ戻ってくるとロビー内のテーブルが片付けられていたので
フロントでビールを飲みながらぼーっと旅の思い出を整理しながら時間を過ごした。
コンビニでも買うくらい、お気に入りとなったレオビールを飲み干し、最後の夜を無事に終えた。
あとは空港までの移動のみだ。
翌日のタクシーのことは明日の自分に任せて、ベッドに入った。
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yuupsychedelic · 2 years ago
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詩集『ELECTROCITY』
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詩集『ELECTROCITY』目次
1.「あるいは恋人のように」 2.「非労働讃歌」 3.「二十一世紀生まれのペシミスト」 4.「We Are Night Generation 2000/2046」 5.「人間という名の跳べない鳥」 6.「藍し哀しあって愛されなくて」 7.「私は孤児だった」 8.「あたたかいコンクリートジェイル」 9.「ほんとうに信じられる人」 10.「恋人は冷笑主義者」 11.「私も実存主義者」 12.「たとえば隣人のように」
1.あるいは恋人のように
喩えば…… あなたが非現実的な存在だとしても 私は何も気にしない お互いに愛���合えるなら それで良いんだよ
この国は変わった 二度の五輪と万博を経て かつて誰も気に留めなかったことが 政治すらも動かす
この世界は変わった 三度の戦争を経て 今や誰も互いの事など 信用してはいない
隣人の笑顔が無性に怖くなる 無条件で誰かを好きになれた 十代の頃に還りたい
私が生きる街に希望などない あるのは不信と絶望だけ 変わりゆく時代の果て 未来はどんな夢を見るのか
喩えば…… あなたが明日連れていかれるとしても 私は後悔しない 何度も言葉を重ね合って 決めたことだから
あの国は変わった 戦争は終わった しかし何も変わらなかった 世界は変わらなかった
あの時代は変わった 公正に変わった しかし何も変わらなかった 生きづらさは変わらなかった
長く付き合っている親友の事さえも いつか裏切られるんじゃないかと 不安になってしまう私が嫌いだ
私が生きる街に絶望などない あるのは信頼と希望だけ 変わりゆく心情の果て ふたりはどんな愛を描くのか
突然カットアップされた日常 誰も保証してくれない恒常 私たちはまるで社会という名の墓場 未だ醒めないままの臨場
すべてが癒えない傷になる 私という名の人生になる
私が生きる街に失望などない あるのは歴史と歓喜だけ 変わりゆく私の果て いつか老人になる日まで
この街には私がいて あの街にはあなたがいる すれ違う瞬間 あるいは恋人のように
2.非労働讃歌
ふと見えた後ろ姿が 無性に切なく見えた こんな風になるもんかと いつか誓ったのに
銀色の箱に揺られ 次の駅へと輸送される 僕らがかつて見ていた夢を 目の前の少年も見るだろう
職場で上司に怒られた その上司も社長に怒られている 繰り返される日常の果てに 私は会社を辞めた
働くな 働くな 会社のために働くな それなら自分のために やりたいことをやればいい
働くな 働くな 家族のために働くな 無責任な言葉を拾い集めて 人は人じゃなくなる
なぜ僕らは嘘をつき 希望を語るのだろう スーツ姿の学生街に 楔を打つ勇気もなく
金色の星を見つめ 明日なき今日を生き抜け 誰の理想でもなく己の理想を 素直に貫いていこう
自由への長い旅を 嫌いな上司もしている 長く生きてるだけで中身がない 大嫌いなアイツを蔑みながら
働くな 働くな そんなに無理して働くな まだ見ぬ世界を見つめて すべてを変える勇気を持て
働くな 働くな かつての夢に囚われるな 君はもう歳をとった 時代の海に溺れ死ぬ前に
この街は何度も生まれ変わり 明日を見つめていく 民家がビルに スタジアムがモールへ 誰かの青春を犠牲にしながら やさしさのせいにして 理想を貫く
働くな 働くな 会社のために働くな それなら自分のために やりたいことをやればいい
働くな 働くな 家族のために働くな 無責任な言葉を拾い集めて 人は人じゃなくなる
求めるな 求めるな 世界に何も求めるな 裸足で駆け出してく 無垢な理想を抱きしめたい
3.二十一世紀生まれのペシミスト
他人のウォッカをひたすら流し込むように 犬を愛人だと思い込むように せめて純情でありたかったけれども すっかり汚されちまったよ
涙に暮れながら 生きる気持ちはどうだい? 心の中の紳士が 静かに問いかける
厭世家と呼ばれても 私は笑わない 作り笑いで死んでく 感性を笑えない
真夜中の暗黒街で 女の歌声が聞こえる そこに佇む人の影には 見知らぬ獣の匂いがした
走り出す影に 気を囚われぬように 駆け出す私の右手を握る 何者かの差金!
せめぎ合う光に 惑わされぬように そっと私の左手を握る 何者かの誘惑!
厭世家と呼ばれても 私は笑わない 女の長い黒髪は 本音を取り繕うベールだ
真昼のカジノ街で 男の怒声が聞こえる そこに移ろう人の傍に 愛を確かめあった夜の気配がした
飼い猫が静かに駆け寄る 最近動悸が止まらない 溶けない流星 消えていく惑星 突然ニュース速報の音がした
二十一世紀の厭世家と呼ばれて 私は大人になった 世代をラベリングして 私は自由になった
自己責任から他己責任の季節へ 時には怒りを隠さずに
獣になれ 星空になれ 理想郷になれ
4.We Are Night Generation 2000/2046
私たちは夜の時代に生まれた 明日の希望もないまま大人になってく 私たちは夜の世代を生きてる 誰かに蔑まれることも慣れてしまったよ
大切なものなんて何もないさ 星空を埋め尽くす懺悔の涙に 怒りの矢を放つ勇気もない
摩天楼見下ろし 来世への祈り込めて 恋人たちはふたり 命を手放した
悲惨な戦争 未だ終わる気配もなく 人間の愚かさに 絶望する親友
もう振り向くな それでも行くんだ 私たちのジェネレーション 夜の世代のままで
私たちは毎日が死と隣り合わせ 嘘と真実のタイトロープに惑わされたまま 私たちに本音を話せる友はいない すべてが欺瞞だらけの世に本音など言えない
ミレニアム生まれの私は夜空を見上げ 見えないものを見ようとして 本当に大切な何かを見失う
電車に飛び込んだ 舌打ちする群衆 明日は我が身と思えない 無邪気な愚民よ
広がりゆく格差 貧困は個人のせい? 政治家の演説に 絶望する市民よ
もう頼るな それでもやるんだ 私たちのジェネレーション 夜の世代のままで
藍に生きていけ 私たちのジェネレーション 夜の世代として
ミレニアム・ベイビーと呼ばれ 希望の鐘が聞こえる あの頃はまだ夜明けが見えていたけれど
大人になる頃には 数十年後に人口が半減する そう知った時 何かを変えなければいけない そんな気がしたのさ
やさしさと厳しさ そして愛情 たとえ涙に包まれても 私は私のやり方で
自由になるために 今を諦めるな 希望を捨てないために 夢を諦めるな
摩天楼見下ろし 来世への祈り込めて 恋人たちはふたり 命を手放した
絶望した友のため 失望した君のため 私たちのジェネレーション 夜の世代のままで
瞳に映る涙は誰のせいでもない 踏み躙られたままで良いのか? 藍に生きていけ!
5.人間という名の跳べない鳥
「死にたい」と思わない夜が珍しかった 「生きたい」と思えない朝が当たり前だった
この街に生まれ育ち 今日まで生きてきたけれども 家族も友達も みんな傍にいたって いつも何故だか淋しかった
鳥になりたかった 自由になりたかった
アイドルになった友人が微笑んでいる 夢を叶えた親友が叫んでいる 僕はまだここで現実を嘆いている 君はそんな姿を見て笑い狂っている
ピアノの音が和音から不協へと移ろう ギターのぴんと張られた弦が切れる
マスメディアは誰かのプライベートを覗く カメラマンは秘密をストーキングする オーディエンスはありもしない正義を謳う
夜になると 平穏という名の仮面を外し 布団の中で 名もなき歌を口ずさむ 僕は明日もこの暮らしを続けながら 今日の不遇を嘆くのだろう
鳥になりたかった 自由になりたかった
君という存在に恋をしてからも ひとつも変わらない日常の中で 街と街を結ぶ銀色の鳥籠に乗り 神経質な言葉で誰かを傷つける
時代は変わった 季節は移った 世界は終わった 平穏は失われた
これから始まる何らかの物語に 僕は「くそったれだ」と嘲笑しそうになる でも止めてくれたのは 他でもない君だった
鳥になりたいなら 自由になりたいなら 今を抱きしめるしかないんだ そうなんだって
6.藍し哀しあって愛されなくて
恋人が別の女と浮気しているのを見た夜 私は思わず裸足で駆け出した すべてが壊れる音がする 次第に雨も降り出して
雨が染み込んだ服はあなたに貰ったもの 今やそんなのどうでもいい 何件も溜まったTinderの通知だって どうせ取り繕いでしょ?
人間なんて誰も同じさ 作り笑いと出まかせで生きている おべんちゃらじゃ何も変わらないのに 今日も心は泣いている
お金なんていらない 名誉だって程々でいい あなたがいればそれで十分 そう思い込んだ時期を返してよ
藍の季節を共に過ごした関係 なのに、何故あなたは簡単に捨ててしまえるの? 私が奥手だから? 人は週三度のセックスのために生きてるわけじゃない 何度言っても上の空だったよね
突然あなたが私を抱きしめて 哀しい顔で泣き出した夜を思い出す 言葉にならない言葉を発する恋人の真相(すがた)に ただ受け止めるしかなかった
もうすぐ二十五になる まだ夢も仕事もない 理想ばかりが膨らんで 中身は所詮空っぽ
あなたが求めたセックスは見知らぬ誰かに変わり 何度も流した結晶が人格を壊していく 死にたいなんて言えない ただ必要とされることに溺れたかった
こんなことで泣きたくはなかったよ こんなことで悩みたくはなかったよ こんなことで笑いたくはなかったよ こんなことで生きたくはなかったよ
表情を隠すための長髪と どんどん隙間が空いていく服に あの日壊れたままの私が詰め込まれている 返してよ……
藍し哀しあって愛されなくて 私はひとりになった 最後まであなたを怒れなかった 全部私が背負い込んだ
何を言っても聞かないだろうから 何かを始める気もないだろうから 最後まで話し合えないままだった 全部私のせいにした
もう、こんな私が嫌になって 乱雑に切り刻まれた髪 誰のものとも思えない表情 サヨナラすら言う勇気もない
あたたかい雨が冷たい青空に代わり 憂鬱さえも洗い流していく 夜明けなんて来なくたっていいのに 今日も空はなんて美しいんだろう
次の人生はもっと倖せになれるよね? ホームドアを飛び越えて 見えた景色はドローンの腕だった また死ねなかったよ
7.私は孤児だった
幼い頃から誰も頼れる人がいなくて 気づけばこの街を独り彷徨ってた 友達すら信じられない 恋人もいつ裏切るんだろう 大切な人をがっかりさせながら 私は大人になってしまった
孤独には慣れている ずっと独りだったから 虐めにも慣れている ずっと独りだったから
ハイスクールを飛び出し 見知らぬ路地へ行こう 何があってもいい 使い捨ての命だから 何時になったっていい 所詮独りだから
真夏の太陽に憧れ 明るくなってみても 真冬の月に付き纏われ そちらの方が似合うと悟った
ハイスクールを飛び出し 知らない人に恋しよう 何処へ行ってもいい その日限りの関係だから 何故だかわからなくてもいい 所詮小芝居だから
青春の風がいつか私にも吹くのかな 幾度も願うたびに裏切られ 碌でもない恋に恵まれ いつかのロマンスを思い出す 
やさしくあるために 私を捨てたんだ せつなくあるために 私を欲したんだ
もう戻れなくたっていい あの教室には帰りたくない もう生きられなくたっていい あの家には帰りたくない
顔も知らない親の子供になり ある夜に捨てられた そんな私の未来は真っ白
何もない 何もできない 何も知らないまま 何かを始めようとする
暴力的な涙と 理性的な怒りで すべてが変わる気がした あの日の私を 星空で覆い尽くしたい
8.あたたかいコンクリートジェイル
何かを始め��うとする勇気などなく 誰かを愛そうという気力さえもない
私はまるでマリオネット 社会の操り人形 学校という名のレールは ひとりの少女を廃人にする
付かず離れずのネットワーク 人生という名のシャドーワーク 何かのせいにして 誰かを傷つけた
それでも生きる理由は この街の冷たさが 私にはぬくもりだったから
幼い頃から街をひとり彷徨い 誰かに助けられて生きてきた ここまで大きくなれたのは 誰かの優しさがあったからだ
いつしか忘れてしまっていたけれど 都会は余所者には優しい 大人になってからわかったのは 若さが臭いものに蓋をさせていたこと
私はまるでトイレットペーパー 社会のはぐれもの 現代という名の季節は ひとりの少女を自由にする
付かず離れずのネットワーク 私という名のギグワーク 気まぐれのせいにして 自分を見失う
付かず離れずのネットワーク 人生という名のシャドーワーク ふとした瞬間に我に帰る 夜空を見つめながら
消費された後の真夜中 名もなき鋪道に跪く 涙が止まらない 私は何をしていたんだろう 何のために生きていたんだろう
付かず離れずのネットワーク 人生という名のシャドーワーク 親も友達も恋人も誰も信じられない それでも生きているのは 私を諦められないから
涙が私の道標になる 本当に愛したいのは私自身だった この街の冷たさが 私にはぬくもりになる
信じられなくても 愛せなくても 私は生きるんだ
9.ほんとうに信じられる人
手を繋げば 繋ぎ返してくれる 抱きしめたら 抱きしめ返してくれる
ほんとうに信じられる人が この世界にいたなんて 数ヶ月前の私に言ったところで 信じようとはしないだろう
言葉ではなく行動で 理性ではなく感性で
時代が変わっても あなたは変わらないで 歳を重ねても あなたは変わらないで
泣きたい時は ずっと泣かせてくれる 話したい時は ずっと聞いてくれる
ほんとうに愛し合える人が この世界にいたなんて 幼少期の私に伝えたところで 信じようとはしないだろう
共感ではなく沈黙で 対話ではなく傾聴で
時代が変わっても あなたは変わらないで 歳を重ねても あなたは変わらないで
もう裏切りはごめんだ あなたの傍で生きたい
一瞬ではなく人生で 恋愛ではなく日常で
時代が変わっても あなたは変わらないで 歳を重ねても あなたは変わらないで
この街に来てから やっと出逢えた人 繋いだ手はもう離さない 生まれ変わっても愛し合おう
時代が変わっても あなたは変わらないで 歳を重ねても あなたは変わらないで
あなただけは変わらないで 私がずっと傍にいるから
10.恋人は冷笑主義者
世界のどこかで戦争が起きても 僕にはどうでもいい 誰かがいつ命を落とそうが 僕らには関係のないことだから
この街のどこかで誰かが傷ついても 僕にはどうでもいい 男も女も若者も老人も 僕らには興味のないことだから
ニュースで子どもが映し出されるたびに お涙頂戴は嫌いだと激怒する恋人 私はいつも反論する これは現実に起きていることだと
それでも何も変わらない 生きものの記録 私があなたに恋したのは 優しさに惹かれたからなのに
あなたは冷笑主義者 誰に対してもそう いつか私も笑われるのかと ずっと怯えてる
それでも捨てられない あなたへの純情 親友も別れろというけど 今でも愛してる
格差も性差別も戦争も 僕は素通りする そんなもの気持ちの問題だ 僕らの問題ですらない
沈黙は加担だと言われたって 僕には聞こえない 涙を流すたびに嘲笑いたい 僕らには意味のないことだから
ニュースでハラスメントが取り上げられるたびに だから駄目になるんだと喚く恋人 私はいつも反論する いつだって駄目なものは駄目なんだと
それでも世界は変わってく 過去から未来へ 私があなたに恋したのは 知的さに惹かれたからなのに
あなたは冷笑主義者 知ってたら付き合わなかった いつもはあんな優しいのに どれがあなたなの?
それでも別れられない あなたへの慕情 言葉を交わすたびに もっと愛が深くなる
いつでもどこでも それでも離れられない 言葉を交わすたびに もっと愛が深くなる
たとえあなたが冷笑主義者でも 私が好きならそれでいい 誰に笑われてもいい これが青春と呼べるなら
ほんとうは変わってほしいけど 人はそんな簡単に変われない 今のあなたも嫌えないから きっと本気で愛してる
この時代に生まれて この国で生きるということ
それでも私は冷笑しない 私は人間だから 理性ある生き物だから
11.私も実存主義者
自分で断ち切ってしまえるならそれでいい そうじゃないから人生なんだ 最初に何者かわかってるなら楽だろう でもそうじゃないから人生なんだ
十代の頃にはわからなかった 二十代になってもわからない 三十代になったって変わらないだろうし 八十代になっても見えないかもしれない
百年経っても 私たちは私たち 生きる意味を自分で見つけるしかない そんなふうに生きていけばいい 死ぬ理由が生まれるまでは
あなたに決めてもらえるならそれでいい そうじゃないから楽しいんだ 最初から運命が決められているなら楽だろう でもそうじゃないから面白いんだ
十代の頃には見えなかった 二十代になっても見えない 三十代になってもつまらないだろうし 八十代になってもつまらないかもしれない
千年経っても 私たちは私たち 楽しい意味を自分で見つけるしかない そんなふうに面白がっていけばいい 生きる理由が死ぬまでは
目に見えないものだっていい 見えるものでもいい 人を愛することだっていい 愛せなくたっていい
自由に考えていけばいい 考えなくたっていい おもしろがって出来ることを 他の誰かがつまらなくたっていい
十代の頃にはわからなかった 二十代になってもわからない 三十代になったって変わらないだろうし 八十代になっても見えないかもしれない
百年経っても 私たちは私たち 人生の価値を自分で見つけるしかない そんなふうに生きていけばいい 実存しない日が来るまでは
わからないからおもしろい わかるからたのしい 人の価値は何者にも決められはしない
12.たとえば隣人のように
星空が見えない街に 引っ越してきた 最初は淋しくても 少しずつ慣れていった
大学生になって 出逢った友達 これまでとは違う関係性に 少しずつ馴染���でいった
運命に導かれるように ここまで歩んできた 何も見えない聞こえない 都会の静寂の中で
ひとりになりたいと思ってみたり みんなといたいと言ってみたり 気まぐれな私だけど その日々が青春へと変わるうちに すべて輝いていった
たとえば隣人のように この街で大人になっていく
青空が見えない街で 日々を駆け抜けた どんなにつらくても なんとか生き延びてきた
仮想彼女も 生成ツールも それよりもリアルな関係で ひとつずつ乗り越えていった
宿命に誘われるように ここまで走ってきた もうすぐ終わってしまう 都会の日常の中で
今が終わるなと思ってみたり 明日が来いと願ってみたり さすらう私だけど この日々が青春へと変わるうちに すべて思い出になった
たとえば隣人のように つまらない大人になっても
二十世紀に生まれたあなたと暮らした 地元での日々が時に懐かしくなる 初恋のあなたや親しかった友達が 今も元気であることを冬空に願う
無性に逢いたくなったり 無性に淋しくなったり わがままな私だけど あの日々が青春へと変わるうちに すべて愛おしくなった
たとえば隣人のような 何処にでもいる私になっても
ひとりになりたいと思ってみたり みんなといたいと言ってみたり 気まぐれな私だけど その日々が青春へと変わるうちに すべて輝いていった
たとえば隣人のように 何者でもない私になる どんなことをしたって 私は私にしかなれない
詩集『ELECTROCITY』クレジット
Produced / All the words were written by 坂岡 優
Drafted by Koharu Takamoto(「二十一世紀生まれのペシミスト」「恋人は冷笑主義者」) Sakura Ogawa(「ほんとうに信じられる人」) TORIMOMO(「人間という名の跳べない鳥」)
Written at Yuu Sakaoka House Studio, JR West Japan Series 223 Train
Demo Track Created by Yuu Sakaoka Music Assisted by Koharu Takamoto(「二十一世紀生まれのペシミスト」) TORIMOMO(「人間という名の跳べない鳥」)
Designed & Edited by Yuu Sakaoka Special Thanks by Yurine
Dedicated to YUKIHIRO TAKAHASHI, KEIICHI SUZUKI
Management by SAKAOKA PROJECT
Very very very thanks to my friend, my family, and all my fan!!
2023.12.25 坂岡 優
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azariy · 2 years ago
Text
【角川文庫/ラフカディオ・ハーン「怪談 奇談」の解説から】
―それから、もうひとつ、ハーンの作品や思想を理解する助けとなるものは、心霊的進化論ともいうべき、ハーン特有な世界観である。
彼がまだアメリカを放浪していたじぶんのこと、たまたまハーバート・スペンサーの進化論にふれて、思想的に異常な影響をうけ、人生にたいして新しい目をひらかれたのであるが、その後日本に渡ってきて、この国の文化を研究するようになってからは、彼の進化論的思想は、さらに仏教の輪廻説および神道の祖先崇拝の精神と、微妙な融合をとげて、いちじるしく詩的な風韻と宗教的な神秘性とを帯びるようになり、彼の詩人的な感傷性を別にすれば、ロマンティックな色彩において、どこかニーチェやベルグソンの哲学と一味通ずるところがある、と言われた。 
そうしたハーンの思想を、彼の幾多の著作から抽出要約してみると、だいたい次のように言えるだろう。
……およそ森羅万象の背後には、一種不可思議な霊的活動が存在していて、この宇宙はけっして固定した物質の世界ではなく、永遠の過去から悠久の未来へと無限に転移する霊的進化の世界であって、つねに万物の奥底には、神秘的な進化の力が働いているのである。
すなわち、この宇宙という一大幻像は、たんなる物質の発展と滅亡との交替ではなくて、無限の輪廻であり果しない転生なのである。
したがって、われわれの肉体は、幾万億の生きた実体からつくられた形態であり、われわれの霊魂は、幾億兆の霊魂の複合物である。
つまり、われわれは、一人のこらず、過去に生きていた生命の断片の、かぎりない混合体であって、いかなる人間の思想も感情も、詮ずるところ、死滅した幾億兆の過去の人々の、感覚や観念や欲望の、集合ないしは再集合にすぎないのである。
それゆえ、われわれの歓喜も恐怖も、そして恋愛の情熱すらも、すべて既往の人々の数限りない生活を通じて蓄積された記憶の再現であり、また美的感覚も芸術的技巧も、祖先伝来の経験の復活にほかならぬ、というのである。
こういう観念から、ハーンは、風のそよぎも、波の疾走も、影のきらめきも、日光の動きも、空と海との青色も、陸をおおう静寂も――すべて、自分と同一であると感じて、あらゆるものの背後に、精妙な心霊の働きを観る、という世にもうるわしい詩的な思想を抱くようになり、それが発展して、「万有は一なり」という汎神論的な世界観となったのである。
そして、これが基となって、ハーンは実生活においても、人間はいうまでもなく、牛馬犬猫等の動物、草雲雀、蟬、蟻その他の昆虫類、朝顔や松杉等の草木にたいしても、広大無辺な愛を抱くようになり、また夢を好み、怪談を愛し、さらに美と真実との探求者として、幾多の比類ない物語、随筆、論文を書いたのであった。
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mirumirusanae · 2 years ago
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