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11 15 水

家を出て、学校へ向かった辺りまでは不思議と身体の調子がよかったのだけれど、講義を受け始めた辺りでむかむかと来て、遅い二日酔いに撃沈する。ほとんどトイレに居た。二日酔いのわたしを見るたび、友達にヤン・ウェンリーの台詞を引き合いに出される。"酒は人類の友だぞ。友人を見捨てられるか！"

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11 14 火

結局、昼頃までぐっすりと眠ってしまった。ここ二日で疲れ切っていた身体を少しでも慰める。昨日間に合わなかった郵便局の貯金窓口でゆうちょのカードの再発行の申請、それから区役所へも行ってマイナンバーカードの再発行の申請。昨日から駆けずり回ったおかげで、ひと先ず必要な手続きはすべて済んだ。あとはそれぞれが届くのを待つだけになり、安堵。それまでは500円玉貯金を切り崩してゆこう。自分自身のこういうところ、凸凹としたところと付き合い続けるコツなどとっくに身に着けていて、そうならないよう気をつけることなんかよりも、そうなったとき直ぐに充分なフォローアップをすることの方がずっと有効であることを再確認する。とは言え、毎回、自分で自分にほとほと愛想をつかし、それでも生きてゆくことの美徳を宥め聞かす、何人もの人格が要る。

お呼ばれしていた店主夫妻の家パーティーは、そんな予感はもちろんしていたけれど、とびきり愉しかった。タコスパーティー、賑やかな食卓。大好きなひとたちがその縁を囲んでいる。美味しくって嬉しくって、たらふく食べ、飲み、よく食べるからと炊き込みご飯むすびまで頂き、喋り、笑う。居心地の好いひとの集いというのは本当に尊い。帰り道、寄ろうとした銭湯は機械トラブルで臨時休業していた。終電を逃した友達ひとり、うちに連れ帰り、一緒に眠る。

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11 13 月

芯まで冷えきって居て、とりあえず湯船に浸かる。こころがふわりとし、身体の疲れが溶け出してゆくのを感じる。縁に頭を乗せ目を瞑ったら、案の定寝落ちていた。お湯が冷め、目が醒める。1時間ちょっと眠ったらしい。冷えきった浴室内へと出られるだけの熱は残っていない。体温に同化した湯船から身動きが取れずにいる。疲れたな。ひとりになった途端どっと哀しさがくるんじゃないか、とか危惧していたけど、泣けるほどの体力もなく、すっかり諦めきっている。

キャッシュカードを停止しようと電話を掛けたら自動音声案内の後に人の声に代わって驚いた。朝4時だというのに、そういう仕事が存在していて、それはわたしみたいな人間が居るからであり、少しだけ申し訳なく、有り難くなる。眠たくってへばりながら、一応、試験の勉強もした。財布を失くしたことなんかより、こうした間に合わせの生活自体への自責感が色濃い。ここ最近ずっと思うこと、いつまで続けるつもりなのか！　こんな生活！

近所に越してきたテントコーヒーへ行った。ご無沙汰してしまってたけど覚えていてくれて、嬉しく思う。次はあのとびきり美味しい珈琲焼酎割りを久々飲みたい。

保険証の再発行のことなんかを話すため、恐る恐る父に電話。連休以来どこか気まずく思っていたけれど、疲弊したでしょう、と慰められ反射的に謝る。ごめんなさい、ありがとう。反対に、連休のときのことを改めて謝られた。あのLINEにはぐさりときた、と言われる。こんなときばかり言葉を最大限につかうような娘で申し訳ないよ、と苦笑い。

昨日誕生日を迎えた恋人とも電話。バンドメンバーが投稿していたパンダの写真の話をしたら、ああ、あの写真、あれタンタンじゃないねん、どっかの知らんパンダ、と言われる。(どっかの知らんパンダ、というパワーフレーズ)お祝いにお酒とカップの担々麺を買って貰ったらしい。細かな駄洒落、と突っ込んだら、まあ、俺が選んでんけど、食べたい気分だったから、はは、と笑っていた。幸せな歳にしてください。日々のことと世界のこと、並列に話してくれるところ、代え難いひと。

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11 12 日

CHO CO PA CO CHO CO QUIN QUINのアルバムを垂れ流しながら身支度をし、無事、朝８時前の地下鉄に乗り込んだ。普���と違う、特別な日、というものにはいつも少し気疲れする。果ては楽しいことも知っているけど、ひとり出掛けて行く時間はどうしても、そわそわ、ぴりぴりと落ち着かない。ワタツミの“僕を許してよ海の神”というフレーズがいつまでも頭の中をまわっている。

会場の神戸ワイナリーに着いたら、ちょうどCHO CO PA CO CHO CO QUIN QUINがリハーサルをしていた。魅入る。配置なんかが決まり、ばたばたと受付業務から一日が始まった。子連れ、犬連れが多い。知り合いもたくさん遊びに来ていた。休憩中にCHO CO PA CO CHO CO QUIN QUINを観る。本当に、本当に、よかった。物販は買いそびれた。また絶対に観たい。

寒さでくたびれたけど、西神の山の上から見る夕焼け、それから星空は綺麗だった。こないだの視力検査のことから考えれば、多分、わたしの眼は大半のひとたちが見えないようなところまで見えているのだ。それなら、こういう細やかな煌めきを拾っていきたい。

問題は、さあ、最終のシャトルバスでみんなで帰ろうというとき、ふっと、財布が無いことに気がつく。思い出せば何だかもう、この時点で信じられない！　あるはずだ！なんていう気持ちすらなく、わたしならやりかねない、やらかしたよ、失くした、無いんだよ、と瞬時に受け入れてしまっていた気がする。ひとりだけバスを降り、主催の店主や音響のスタッフさんたちだけが残り僅かな片付けをしているところへ戻った。結局見つけられず、店主の車に乗っけて貰い、大人たちみんながラーメンを食べるのに着いてゆき、家まで送って貰った。なんだかそんなに、哀しくもない。ならいいか、よくないか。

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10 29 日

床で眠るうち、寒さで目覚める。生活のすべてが間に合っていない。掃除も洗濯も洗い物も何もかも。

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10 28 土

最近の土曜のバイトは何だかとてものんびりとしている。店主のぼやき声を背に、手持ち無沙汰をどうにかするべく空気清浄機のフィルター掃除を始めた。曜日固定で入っているだけに、楽チンさを喜ぶ気持ちと罪悪感が入り交じる。いつもは二人体制なのだけど、こんな調子だから今日はまず一人で、忙しくなったら洗い物要員で店主のお母さんが来てくれることになっている。まあ、大丈夫だろう、と気を抜いていたら、開店から２時間経った頃にぼちぼち客足が増えた。母呼ぼうか？と言う店主に、ちょっと意地を張り、まだ大丈夫です、と答える間にタイミングを失う。

くたびれて、けれど、そのまま次のバイトへ向かう。バーバパパのDJを観に、遠くは北海道から遥々、大勢駆けつけていた。あまりの人混みにおののく。はしゃぎ、わいわいと、楽しく働く。「少数派は声がデカイ！」 ふと振り返ったら、ラッパーの後輩がパパのビートに小声でフリースタイルを乗せていたのが可笑しかった。ミーハー心に、フルフェイスのパパと写真を撮って貰い、DJの動画と合わせてバーバパパファンの友達に送った。

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10 27 金

アラームをZOOMの30分前にセットしていたのだけど、どうせベッドを降りてPCを立ち上げるまでに５分もかからないのだからと悠長にSpotifyの最新情報を確認する。Teetheが新しい曲を出していた、とっても好い。しかもMoonという曲名だった、特別を感じてしまう。あ、FIDLARもリリースしてる、と開いたニューシングルがGet Freeという曲名で、THE VINESみたい、ん、みたいというか、VINESのそれのcoverだ、んん、！　嬉しい、青春のハッピーセット。ごろごろしてる間に時間がくる。

障がいを持っていることそのものでなく障がいを持ったことで他者や社会から受けたこころの傷、という言葉がずっと残っていて、障がいへの深い専門的理解はもちろん必須だし、幼少期の他者や社会との関わりがその後の心身の発達に与える影響、という一般化した視点を持つことも結構重要なんじゃないかとか、考えている。このままゆけばきっと、そういった子どもたちとたくさん関わるのだろうことを想えば背筋が伸びる。心底、楽しみでもあるんだけれど。

バイト終わり、スーパーで安くなった野菜たちとレトルトのパスタソース、それからアイスをふたつ買った。もう少し、ほんの少しだけでもらくに生活を回せるようになればいいね。ガリガリ君を齧りながらゆく帰路で同級生に会い、すれちがいざまに、アイス、ふっ、とウケられた。行儀悪くてすいません。

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10 26 木

シフト変更の連絡やら、向こうひと月の予定の書き込みやら、へとへとでこなす。わたしが悪いけど、学校もバイト先も世界も悪いよ、みたいな気分。ふと10月の給与・勤務時間を計算してみたら眩暈のする数字だった。学校も普通にあったはずなのにね、そりゃ忙しなくて休まらない日々だよ。

ピアスの穴がようやく固定してきたみたい。外してバイトに入る。苦手なひとと重なってぴりぴりしながら働き、さっさと帰る。なんだか飲みたくて通常営業のOtohatobaに顔出したら見知ったひとばかり居てほっとした。年明けの主催企画の相談なんかをする。先輩にDJ出演をお願いし、ついでに最近の話。久しぶりにゆったりと話せた。数少ない気心の許し方をしている相手で、互いにしか解らない揺るがぬ信頼感のようなものがある。

スマホを確認すると、恋人から今どうしてる？とLINEが入っていた。今夜電話でも掛けようかと考えていたところなので嬉しい。何より早く、実習の話がしたい。聞いて欲しいことも、聞きたいことも、たくさん溜まっている。帰り道に逸る気持ちで発信し、順序もなく、ここ２日考えていたようなことをよく喋った。それから今度は、障がい者支援で働く恋人に色々と尋ねる。きっと音楽に並ぶくらい仕事のことへの言葉も持っているのだろうとこれまで話すなかで思っていたのだけど、それを今日はお互いに意味ある形で、いくつもいくつも交わせたことが本当によかった。出会った頃からずっと、この人に話したい、この人の考えが聞きたい、と特別思う相手で居て、付き合い始めてからは尚更にその代え難さを実感している。

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10 25 水

床にぼとりと落ち、身体を掬い上げられずに眠った。６時前に目覚め、薄暗い外を眺めながら固い身体を伸ばす。思ったほどは筋肉痛も残っていない。昨日の夕方、帰ってきて鍋いっぱいの肉じゃがを作り、タッパーに詰め直す気力もないまま置きっぱなしにしてたことを思い出した。ついでなので弁当を作り、水筒も用意する。一人暮らしを始めて初めてのことだと思う。不恰好なタッパー割り箸レジ袋には目を瞑りましょう。お昼の時間が楽しみに思えるのなら習慣にするのもいいかもしれない、いや、早起きが出来ないや、無理だな。

２日目の支援学校実習も楽しかった、学んだ！　呼んだら布団の隙間からひょこりと覗かせる顔。抱き上げて走る廊下。ポップコーンが跳ねるのをじぃと見つめる瞳。お裾分けしてくれる小さな手。口ずさむコマーシャルソング。彼らの世界を分けて貰う瞬間ばかりだった。

なんで？　どうして？と思いながら過ごしていたあの頃の学校生活を想う。結局のところ理由なんて無いようなことがほとんどだった。理不尽だ、と思うことが幾度も繰り返されて、果てに諦めを覚えた。強制する側の大人たちですらどこか諦めたような目をしていた気がする。だけども、支援学校の先生たちのそれは全く違っていて、勝手にどこか救われたような気持ちになった。どんな子どもたちにとっても、生きることが、学び考えることが、他人と関わることが、愉しいことだと知れる場であればいいのにね。

疲れきって早々にご飯を食べ横になり、真夜中に目が覚めた。誰かに伝えたいようなことがぐるぐるとしていて、けれど時間も時間なので叶わず、少しだけ寂しさを覚える。

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10 24 火

二度寝からはっと目覚めたら、家を出ようと思ってた時間の５分前で嫌な汗をかいた。無事に西向きのJRに乗る。眠気と疲労でちくちくとした気持ちでいて、誰よりも自分自身が狼狽する。去年の実習先も西の方で、須磨の辺り、海辺の本当に際々を走る辺り、余りにも目映く、どこか全く知らないところへ連れてゆかれている気分になり心細かった。毎朝、毎夕、行き帰りにあんな海を見てしまったらおかしくなりそう。綺麗なんだけれど、きっと綺麗すぎて。朝という時間もそう、綺麗すぎて、まともでいられない。

特別支援学校の小学部に加えて貰い、開始15分くらいで気づけば子どもたちとトランポリンで跳び跳ね寝転んでいた。ひたすらに微笑み喋り走りくすぐり、無我夢中で１日が終わる。全身がずしりと重い。学んだこと、たくさんあった！　言葉にしきらない感動と興奮みたいなのがまだ整理もつかずに溢れかえっている。よかった、本当によかった。どうにかなってしまいそうな学��生活のなかに時々でもこんな煌めきというか標みたいなものをみつけられると、間違ってはいないのだとほっとする。

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ぎゃあと叫んでげえと吐いてなんの救いもなく���て阿呆らしいや。謹み深さを覚えたらいいのにね、ああでも必要なかったのか、彼女またよすがを移したんだって？　諦めを幸せと呼ぶくらいなら死んだ方がましなんだよ。だから放蕩の人生を選んだんだ、ひとより少しだけ強い決心でさ。安寧なんてその邪魔をするだけなんだからうまいこと避けて進んでかなくちゃいけない。だけども進んでくって云うけど、それじゃひとところをうろうろぐるぐるとしてるだけじゃないか。解脱の術のない輪廻って感じがするよ、永遠って感じがさ。それって案外と悪かないのかもしれないね、常に移ろい続けるけれどわたくしのままで居られるんだったら。穏やかに歳を取りたいなんてさ、早いとこ人生すげ替えてわたくしを放棄してしまってもっと大きな時間とか生命とかそういうのがまわってくれるのを期待しようってんだから、それって最悪だよ。阿呆らしい、阿呆らしいや。彼女も僕もただへべれけになって明日も何も失くしたいってだけなのに。鮮やかに生きるためにはお酒が必要なんだ、結局のとこ。

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10 23 月

１時過ぎに帰宅したら兄からの誕生日プレゼントが届いていた。兄妹間は完全リクエスト制なので、箱の中身がずっと読みたかった「太陽と月の鋼」であることを知っている。苦しかった８月の最終日に死んでしまいたい気持ちで、２巻までだけ公開されてたこの漫画を偶然に読んだ。すべてが好かった。カメラロールを見返してみると８月に撮った月の写真はどれも欠けていた。そういう月だった。

少しだけ、前に読んだ巻��け、とページを捲り始め、駄目だよもう、と思いつつも案の定７巻分を読みきってしまう。新刊は来年初春に出る予定らしい。苦。早く読みたいよ。

……"月"…！

そうして寝坊する。アラームに気づかず、９時からのZOOMに10分弱遅れて入り、自分を含めて責め得るものすべてを責めた。生活が崩れていく。

レポートを書くのもどうにも捗らず、本当は病院へだって今日行くつもりだったのに、床で突っ伏し眠るうちに１日が終わった。掃除も何も出来てない。ただの不用品として転がっていただけ。夜中にレポートをやっつけ終わらせ、セブンへ印刷に行くついでに夜食を買ってしまう。不摂生の末、明日の早起きに備えてまた床で眠る。

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10 22 日

日が昇るのがだいぶ遅くなった。前までなら音が止まるくらいにはもう空が白んでいて、燦々と照らす陽の下を最寄りから家までくらくらと歩く朝方、いつも消え入りそうな気分でいた。今朝はまだ薄暗く肌寒い街をゆく。オールナイト明けは身体中がどうにも煙草臭く、時折はお酒かヘドロか分からないものを全身に被ったかのような不快な心地すらする。帰宅して直ぐに衣服を脱ぎ散らかし、洗濯かごへ放り込んだ。

16時前に起きる。ぽかん、としている。床に山積みになった洋服の山は少なくとも先週からあった気がするし、コップに挿していた花束はきちんと愛でる間もなく萎れてしまった。それらを片付ける気力は、今はない。何だか、何だかだね。

19時にまたRINKAITENへ出勤。知っているDJの方の結婚式の二次会パーティーだった。出席者にも知り合いが多く、愉しげ���飲んでいる。結婚式を、大勢の祝福の前で着飾り催し物をすることを、自分がしているところを想像すればひたすらにこっ恥ずかしく、首を振ってしまうのだけど、他人、特に知り合いの結婚式は本当によいものだと思った。これが自分の親友たちのであったならきっと当然に泣いてしまうのではとか考える。集った全員が一心にふたりの幸せを願うなんてとびきり幸せな行事で素敵だね。終電過ぎまで働いて、のんびり歩きながら帰った。

本当はラーメンがよかったけど、道中で開いてるとこがなく、すき屋にする。テイクアウト待ちの方から不意に名前を呼ばれ、大学の知り合いならなんか気分がぶち壊しだなと一瞬の間に警戒体制をとって振り向いたら、今日は欠勤していたRINKAITENの同僚だった。深夜の牛丼屋で安心して大笑いする。何がいいと思います？、チー牛やろ、えーわたしはネギキムチの広告見て来たんですけど、ピッ、結局チー牛頼んどるやん、いややっぱチー牛かなって。

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10 21 土

眠りが浅いのかアラームが鳴る１時間ちょっと前に目が覚めた。おろしたてのシーツに身を擦り付けうだうだとし始めたその瞬間、鮮やかな赤い染みに気づく。あぁ。全く同じ理由で長いこと使ってたシーツに見切りをつけたばかりだというのに、ため息。目が冴えてしまい、いそいそとベッドを降りた。朝の洗面台、空っぽのこころで鮮血を流し落とすこの時間がこの世で一番無意味で虚しいと前に友達も言っていた。女である煩わしさの象徴のよう。洗濯機に放り投げる。

蕎麦屋のバイト終わり、久々に喫茶しゅみへ寄った。出来ることなら決まって毎週通いたいし、土曜のバイト終わりに時間があれば大抵そうしてきたのだけど、今月は全く来れてなかった。どうにも忙しい月。毎年10月を境に生活のスピード感が上がる気がする。夏はあんなに冗長で何もかもを考え過ぎてしまってたのに、秋はあっという間で記憶も思考もどうにも薄い。時間だけが駆け抜けていく。先月までアイスコーヒーだったけれど、今日からはホットのカフェラテにした。寒い時期はこれが一番美味しい。ちょうど偶然に、友達とその恋人も来ていた。向こうから名前を呼ばれるまで気づかなかったのは、友達が珍しく甘い喋り声をしていたからなのだけど、きっとそのことを伝えたら嫌がるだろうと思い言わなかった。微笑ましいけどな。

八百屋やドラッグストアなんかで買い物をして一度帰宅する。これを本当は毎週末したい。生活の決まりごとがあれば身体が少し軽いことを知っている。それを気づけばいつも蔑ろにしてしまうのは、わかさ故、でしょうか。今日も夜から朝方までまたバイト。いつまで続くんだろうか、ううん、寧ろ、いつまで続けられるんだろうか、こんな生活。

RINKAITENはHIP HOPの日。東海で活動してるという、B.eというひとが好かった。写楽のビートの曲があり、しっくりとくる。近しい空気感のラッパーが何人か浮かぶけれど、うーん、形容はし難い。というか、こないだも直面した問い、HIP HOPってなんだ。深い疑問ではなくただ、これまできちんとは触れてこなかった未知のものへの改めての興味。

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10 20 金

大阪神戸間の移動にもだいぶ慣れた。阪神・阪急・JR・地下鉄、各々の案内表示の区別がつくようになって以来、梅田の地下で迷うことはめっきり減った。それでもGoogle Mapの示す所要時間通りに乗り換えられたことはまだ数える程しかないのだけど。阿呆みたく走ってゆくのに、大抵、さて何番線だろうかと目を泳がせたところでお目当ての電車が発車してしまう。

研究室で染色作業。廃液トレー付きの台に昨日のスライドをずらりと並べ、液体をかけては捨て、かけては捨てを繰り返す。このトレー付きの台然り、科学系の実験器具は用途が余りにも限られたものが多くって、驚くほどに便利だけれど他に全く使いようのない、そもそもどこの誰がこんなもの商品化しようと考えたのか分からない(大体がTHORLAB)、それらの存在は、何と言うか、愛らしい。それらを使う研究者たちの在り方とどこか親近感を感じてしまうからなのかもしれない。

先週まで教育実習に行っていたという友達と深夜にzoomを繋いだ。正直なところ、学校の先生、という大人たちに関するよい思い出はまあほとんどないのだけど、活き活きと教育の可能性を語る彼女は眩しくって、彼女がこれから幸せにし得るだろう沢山の子どもたちのことを想った。

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10 19 木

マウスの脳��片をスライドに貼り付ける作業を始め、思ったより随分長いこと時間が経つ。嘘みたいな話ですが、計9時間、ほとんど同じ姿勢で黙々と手を動かしていた。意外と苦でなく、手持ち無沙汰な頭でゆらゆらと考え事なんかをしつつ、脳切片を前から順に綺麗に並べてゆく。好きだし向いているみたい。接客業なんかより案外ずっと職人的作業の方に適正があり、きっとベルトコンベアの側で１日を終えるような、ミシンを踏み続けて１日を終えるような、そういう労働生活を送ったのなら穏やかに生涯を終えられるのかもしれない。ある日唐突に自死しそうではあるけれど、それ以外の心配は無さそうだし。

多分中脳の手前くらい？の辺りの切片が犬の顔、というかポチャッコにしか見えなくて、院生とのやり取りの中でさりげなく、この犬みたいな辺り、と形容してみたら、いややっぱりそうですよね犬に見えますよね、なんか中々通じなくてと沁々言われ、だいぶ愉快だった。それですっかり機嫌よくなる。

母宅で今年初の鍋をした。母宅に泊まる日はいつも、本当にいつも、出されるがままに食べ飲み、挙げ句化粧も落とさず電気も消さず、リビングで寝落ちしてしまう。今さら母に大いに甘えてんのだと思う。高校生の頃は母のことを違う星の人だと強く思い過ぎていた節があり、気後れしたり、苛立ったり、不用意な自分の言葉で傷つけてしまうのを恐れたりしていた。心底大切だからこそ人として余りに違うことが難しかった。一度遠く離れて暮らすようになってからは、両親はしかしある種の他人、大切な他人、というのをよく意識出来るようになり、一緒に暮らしてたときなんかよりもずっと想い遣れているように思う。

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10 18 水

起きて直ぐ、ふと思い浮かべたMomの新曲を繰り返し再生していた。

(脈拍は秒針の音に掻き消されて過ぎゆく日々は所詮カレンダーのレイアウト…レイアウト…)

恋人とふたり口癖のように、いつか猫が飼いたいと話すときがある。確証のない毎日にい��たい何を信じてたらいいのかなあとぼんやり思う日があって、それは短絡的な淋しさとは何だか違う。遠い暮らしのことを想ってみる。猫を飼いたいな、今よりもう少し広くてテレビとステレオのある部屋で、誰かと(あなたと、と安心して言えるような日が果てに在ったらいい) 一緒に眠りたい。でも今はとにかく、過ぎゆく日々のことだけを考えている。

本当に数少ない大学の友達と3人で小洒落たランチをする約束があり身支度をしていたところへ、研究室の担当の院生から連絡が届いた。どうやら訪問日を間違えて伝えてしまっていたらしいことに気づく。慌てて、今日は行けません申し訳ないですと送り、それからランチ特価のワインで乾杯をした。3人とも夕方からは各々のバイトが入っている。

夜に恋人に電話を掛けてみたらメンバーの家で楽曲制作中だったようで、わざわざ外に出て小一時間ほど付き合ってくれた。改めて誕生日を祝われ、ここ数日のことやなんかを話す。

寝る前にもう一度、猫が飼いたいを聴いた。