Tumgik
namuahi-san · 1 year
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 馬無山(うまなしやま、馬に乗らなくても登れることからその名がつけられた山)が噴火し、補修者(ぶっ壊れてしまった世界を補修する者たち)も、オルタナ力士(ぶっ壊れた世界に順応して生きる者の総称)も皆、黒焦げ骨付き肉と化した。つまりジ・エンド(おしまい)だ。神が不在(いない)のだから仕方がない。じゃあ、マチ子は? マチ子は肉全般が嫌いだった。が、嫌いな食べ物を食べることで魂がより高いレベルに達する(実際、鳩にちくわをやるおばさんは鳩の魂をそうしているわけで……)ことを知っていたので仕方がなく黒焦げを口に入れ、いそいで川の水で流し込んだ(ところで、実家から電話が来ると聞いたことないような方言で訛る猫の話はしましたっけ?)。お金がなさすぎて塩(主食)を買うのに躊躇してたら海の水を焼いて塩(主食)を作ることを思いつくような人だって世の中にはいるのだ(それはマチ子)。あまつさえ、それを売って儲けようだなんて(原価はゼロ円ですね)! そう思ってマチ子、三十五年ローンで七階建ての塩御殿を建てたが結果、塩屋大赤字(主にガス代です)。塩御殿は売却されパルコ(塩)とかになりました。マチ子はね、悲しみのあまり、こう、猫背になったんですってよ。猫だけに(だけに?)。バスに乗るマチ子(バチ子)。窓から見えた細い道に『猫背矯正! 直します、すごく!』の看板を発見した。降車ボタンを押すと同時に両手をクロスしたまま窓を突き破り(そのとき、一陣の風がマチ子の頬を凪いだら……?)バスを降りた。件の猫背矯正医院では医者と看護師が互いをメフィスト(看護師)、ゼロ(医者)と罵り合っており、壁には、生のサメが『神さまアレルギーで神様がいない世界に行った人も、まあ……なかにはいますかねえ!!』とトゲ吹き出しで叫んでいるポスターが貼られていた。マチ子、いつまで経っても自分の番が回ってこないことに腹を立てて、裸(ら)、併設されている教会へと。奥の大きな十字架には肋(ろっ)の浮き出た男が磔(くつろい)でいた(あるいは、男は本当に存在するのではなく、皆(みーんな)の無意識が作り出した幻想、なのかもしれませんね)。そのうちの一人が、さみしい、という名前の子供だ。さみしい、は、墓場(常温)、というあだ名の女性と結婚し、戦争(うぉー)、というあだ名のバイト先のおじいさんを産んだ。戦争(うぉー)はいつも左手で右の脇腹をおさえているところからついた名で、名札にも、あっ、ここでニュースなんですが! 鳩にちくわをやり続けているおばさんを黒く塗りつぶしたら、鳩を黒く塗りつぶすおばさんに進化しそうだったので! 鳩おば(鳩をどうにかしようとするおばさんの総称)をマチ子(西暦のことをキリストの何回忌って数え方するタイプの女)が滅することで、未然に止めることができました。良かった……鳩は平和のシンボルですからね、なるべくむごたらしく殺した。表彰式を途中で離(り)するマチ子。おい主役は……マチ子はどこだ! 一方その頃、インター・ネットでは。おや、夫婦でそれを描き続けてる絵本作家の担当編集者が困ってるようですよ。夫婦はしきりにヤバい虚構の国(滋賀県付近)で鳩をむごたらしく殺す話を描きたいと言ってきかず、結局その話は自家製本(玩具屋の床に転がり、欲しい! 買って! と無限に駄々をこねている子どもの皮を集めて造ったものではありませんよ、あしからず)され各地の公民館や幼稚園、図書館といった公共施設に配られたということです(その頃の町の子どもたちの総数は、若干、ですが……減っていたそうです)。え? だからマチ子はどうしたかって? それどころじゃないんだよ! 世界では体の先端が壊死するタイプの奇病が大流行! 指先から発症して、第一関節、第二関節とそのたび切っていくしかないって、これ、どういうことかわかります? はい……自分(っぶん)、いいっスか……? 考えたら、怖くなってきたんっスが(震え)つまり、ね、最終的に人間は完全な球体になります(わあ……きれい)。そんな病気を鎮めるために祈り師は生まれた。税金の無駄遣いとの批判もあったが、彼らはシンプルに病気の鎮(ちん)を願った。祈り師たちの一日はこうだ。国から税金を貰う。ホテル暮らしで、好きなもの(湿らせたお麩等)を飲み食いし、ふて寝。で、時間が余り、尚且つ興がのったら激しく祈る。誰に? だから、まだいない、神に。一方マチ子(後にこの話をハッピーエンドで終わらせる存在)は、勤務先のスナックでいつだって常連のクソ客に絡まれていた。客はマチ子のことを姪だと思い込み、真(しん)には自分より年上のマチ子に対し、このタイミングで死することを勧め続けている。こんな調子だ。ヘイ、どうだろう、いま君は美しい……その美しさを永遠にするため死ぬという選択肢イェイ? マチ子はマチ子で叔父(叔父ではない)の顔に唾(だ)を吐きかけ耳たぶを思い切り捻り上げ部屋を後にした。バタン!(ヒュー!(口笛)) ドアが閉まる音。静寂(サイレンス)。マチ子の叔父(マチ子の叔父ではない)の、啜り泣く声。さて、君はこんなマチ子のことをどう思う? マチ子(苗字は川中島。浅くて広い川の中にある小島に代々住んでいる一族)はね、世界を救おうとしているんだ。嘘じゃあ……ない。現にマチ子はその足で叔父(叔父)の口座からありったけのお金を引き落とし、飲食店を開いた。店名はない。看板、いや、紀文のかまぼこ(赤、縁起が良さそうという理由で)の下に敷かれていた板が入口のドアの横に両面テープで貼ってはいるが……。食べログの唯一のレビューはこうだ『親兄弟を殺してでも食べたい名店の味!』。インター・ネットの効果だろうか。マチ子の店にはたちまち多くの人(じん)が並んだ! 並んだ数はあまりに多く、その行列は山(ざん)を越え、町(ちょう)をはみ出し、補修者も祈り師たちも踏みつけ、国(こく)を跨ぎ、海(かい)に浮かび、世界(ぜん)を繋いだ。そして食べた全員(みーんな)が、せーの、過激な食中毒! (もしくは)未知の病気! によってドラスティックに絶命した。巨大な両翼によって空に浮かぶオルタナ力士(本名)は、それをかなり満足そうに見ていた。するとどうだろう。『なにか』が集まり『なにか』が生まれた。やあ、俺さ。神は言った。こうして神は地上に降臨なさったのです(え? 話はこれで終わりかって……? いえいえ、本当のお話はここから、ですよ)。『それ』っぽいのがマチ子ひとりなことに神はひどく動揺(ヴァイヴ)していた。そして、マチ子に永遠の命を与えようと決めた。マチ子は口では文句を言いつつも満更ではなさそうで、むしろ(イェイイェイ)とさえ思っていた。神は、ひとりぼっちになったら正直……ちょっとキツいかな〜……と思っていたのだ。だが、それを知ったオルタナ力士がシュン!(音)と地上に舞い降り、神に反対した。神は突然の闖入者に驚き、多大なる衝撃を受けた(そう、神は反論とかに滅法弱いのだ)。そうして神は、喉越しの良い麺類しか喉を通らなくなる……。反抗したオル士(おるし、オルタナ力士の略称)もこれには驚き、甲斐甲斐しく風の強い島に行き本格的な歯応えとするりとした喉越しを両立させた素麺を自ら作るなどして永い時間(あいだ)尽くしていたが、その心にはある計画を秘めていた。オル士はそれを、鹵(ろ)と呼んでいた。床に伏せる神の前に出された素麺は、その日だけ特別なものだった。おお、いつもすまないねえという神に、オル士は何も言わず椀を差し出す。口を開くと余計なことを言ってしまいそうだった。神はそれを気にする様子もなく箸を持ち、以前よりもゆっくりとした動作で麺を口に運ぶ。ああうまい、と神が言おうとしたそのとき、素麺は意思を持っているかのように神の口蓋垂に絡みついた。別の麺が、口蓋扁桃、舌根扁桃をバウンドし気管に飛び込んでいく。それは賭けだった。神の身体の構造がマチ子と同じかはオル士には分からなかった。ただ、神は一瞬驚いたようにオル士を見たあと、胸の上あたりを押さえ、ゆっくりと目を細めると何事か唇を動かし、上半身を起こしたままの姿で動かなくなった。享年およそ四十四億歳であった。オル士はそれを見届けると、(手の代わりだろうか)両翼を自身を包むように前へと持っていき、静かに合わせた。オル士が立ち上がると、終わったの? と無邪気な声がした。オル士はやけに長い睫毛を二、三度瞬かせると、緊張した面持ちでマチ子の方へと手を伸ばした。マチ子はいつか祈り師の上着からくすねたハンカチで自分の手を拭き、差し出された手のひらを見た。水でもどしたばかりのどんこのような、ふっくらとした手。数十億年ぶりの神のいない世界。太陽の光はどこまでも白く、マチ子はその手を伸ばした(人類が誕生する、何千年も前の話だ)。え? マチ子たちはその後どうしたのかって? どうしたもこうしたも、あんたの知っての通りだよ。オル士は神との戦いを、一対一(タイマン)で、武器も持たず、だが局部だけは隠した格好で行ったと後世に伝えた。その結果、神は倒れ、世界に再び混沌(リアル)が戻ったのだと。当初、素の姿で舞うことで素舞(すまい、すまう)という名だったものは、やがて相撲(すもう)と呼ばれるようになった。戦う者は、オルタナ力士の本名から、力士と名付けられた。彼らは皆一様に、オル士のような肉体を目指した。素麺作りのための毎日の島への往復によって作り上げられた、豊満ながらも無駄のない肉体を。ん? だからマチ子はどうしてるかって? マチ子なら今日も海に出てるよ。今は砕けたガラスの破片が海の流れのなかでいい感じに丸くなったものを透明石と呼んで、ふらっと遊びに来た人に売りつけ���いるのさ。
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namuahi-san · 1 year
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繰り返す創生
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 そうして人類は永遠の眠りについた。猫たちも眠りについた。それはもう、すーすぴーと眠りについた。ある猫は人の隣に寄り添うように、ある猫は柔らかそうなお腹の上で、またある猫は人間が起きるのを警戒して少し離れた場所で眠りについた。ただし猫たちのそれは、人類と違い永遠ではなかなった。
 最後の一人(どのような場面でも寝付きの悪い奴というのはいるものだ)が眠りにつくと、隣で寝ていた猫が静かに立ち上がった。名残惜しさを感じさせない瞳で、もう動かなくなった人間を一瞥した。それを合図に他の猫たちも目を覚まし、その身を起こした。猫たちは、家族や仲間で集まった。それから、死んでしまったものたちの不在をほんの少しの間だけ悲しみ、すぐに忘れた。猫たちは目的の場所に向かって移動をはじめた。それぞれのヒゲが行き先を示していた。毛並みも模様も尻尾の長さも目の色も違う猫たちが、地球上のある一点に向かって歩いていた。人類がいない以上、国境というものは存在せず、ただ土やアスファルト(はたまた水)の上を猫たちは進んだ。
 長い月日が経ち、やがて猫たちは地球上のとある場所に集まった。そこは人類がついぞ名前をつけられなかった場所だった。人類にとっては見つけられなかった場所であり、猫たちにとっての特別な場所だった。怪我や病気、地理の関係で集まれないものはインターネットが使える場所に向かいパソコンを駆使し(それにしても肉球はキーボードの操作に不向きである)リモートで会議に参加した。そこにはもちろん、人類により神と呼ばれた存在も参加していた。
 地平線までネコ草で埋め尽くされたその場所の中心にその存在はいた。猫たちと、数多のウェブカメラがそこを向いて並んでいた。人類のいない世界において、神は神でなく、無数の猫たちの『親』であった。ダディ、マーム、にーに、おねちゃん、大いなる存在、創生者、ブラザー、パピー、にいちゃ、愛するもの、ボス、先生……猫たちは親である存在を、自分たちの好きなように呼んでいた。そして好き勝手に話しかけた。
 ハイ、調子はどう? 夢で見たよ。四千年ぶりくらい? 相変わらずだね。また滅びたの!? 少し痩せたんじゃない? とてもとても会いたかった。えこひいき。わたしたちのこと忘れてなかったの! 海って減らしてもいいんじゃないかなあ。もう会えないかと思った。飯がまずいよ。遠くて見えない! ネズミいる? 遠すぎるよここ。電池切れそう。電波ないって! 
 その存在は猫たちの呼びかけをゆっくりと受け止めると、すべてに答えるかのように二度大きく光った。次に風が吹いた。草の匂いのする暖かい風が猫たちの毛を揺らし、首の下とお腹を撫でた。猫たちが気持ちよさそうに目を細める。あちこちで、ぐるるる、と喉を鳴らす音が聞こえてきた。お腹を見せ寝転がる猫もいた。そんな無防備な姿を晒しても問題はなかった。ここには人類はもちろん、猫以外の生き物は一切いないからだ。猫だけが立ち入ることが許された場所だった。
「次回はどうする?」
 すべての猫を代表し、白い毛に黒ぶち模様の、尻尾の短い猫が問い掛けた。それがこの会議の唯一の議題だった。
「次回もいいんじゃないか?」
「だが我々をむやみに殺すものもいた!」
「そいつらの多くは裁かれただろ」
「そういう問題じゃない」
「我々全体の得と損を考えろ」
「確率の話じゃないってば!」
「自由は確保されてるといえるのか? 本当に?」
 猫たちはなによりも自由を重んじた。それはかれらか生きるうえでの絶対の指標だった。ある極東の島国で干支というものが生まれたときも、猫たちはそのなかに入ることを辞退した。大昔、方舟に乗るときだってかれらは誰よりも先に船内におり、誰にも見つからない場所から皆が乗り込むのを待っていた。動物園だなんていう束縛式住居に関与することなく、そのくせ自分達の名前を冠する小さな王国《猫カフェ》を築いたりもした。野良で生きたかと思えば人間から食事を搾取してみせ、その美しいフォルムと動作によって己の生きる道を切り開いてきた。
 かれらは神と呼ばれた存在が作った唯一の成功例であり、つまりは生き物の理想《イデア》でもあった。他のすべての生き物は猫たちの失敗作であり、猫が完成した時点で新しい生き物は必要がなくなった。だが、猫の後にもうひとつだけ世界に生み出された存在があった。それが人類だった。人類は繁殖し、発展し、繁栄し、けれど自ら滅びていく。それも、他の生物を巻き込みながら。生き物としてはとびっきりの駄作である人類は、けれども猫に必要とされてきた。神と呼ばれた存在は人類のことを猫に従う者として生み出したのだ。人類はその愚かさをもってしてもこの世界に存在を許容されてきた。
「次回も、人類を存在させるものとする!」
 まばらな三毛の、やはり尻尾の短いの猫が高らかに鳴き声をあげ会議は終わった。集まった猫たちはそれぞれ、欠伸をしたり、神と呼ばれた存在の膝あたりに頭を擦り付けたり、尻尾をぴんと真上に立ててみたり、お気に入りのご飯を食べるため早足だったりと、それぞれが好きなようにその場所を離れていった。
 猫たちの結論は出た。かれらを生んだ存在はそれを認めた。とはいえ、人類がまた生み出されるのはしばらく先だった。しばらく? そう、何千年《しばらく》先の話だ。人類の愚行により破壊され尽くした地球環境は、ゆっくりと、長い時間をかけて元の自然に戻っていった。人類の作り出した物々は風化し、強い雨や風に晒され、地上を覆うほどの炎に覆われた。崩れ、潰れ、砕け、生物の存在を揺るがすほどの地震に見舞われ、水位の上がった海に浸り、また何光年先の太陽の光に晒され、砂になり、分解されていった。
 大きな地殻変動により大陸が生まれ、離れ、移動し、そうしたなかで、人類はまた、何度目かの誕生を迎えた。環境は何度も変化し、ほとんどの生物はそれに耐えられず絶滅し、(だけどかれらはどうだったのだろうか)、何十年、何百年、何千年の時を経て、ひと繋がりの海から、またしても人類は生まれた。人類は生き、死に、道具を作り、生き、死に、言語を見つけ、生き、死に、命を知り、生き、死に、文明を築き、生き、死に、生き、死に、やがて自分たちの主人であるかれらに出会い、あとは一緒だった。
 人類はかれらを狩らず、食べず、愛でるようになる。かれらは人類が眠っている間のみ集まり、話し、現状の確認を行い、朝が来ると何も知らないみたいな顔をしてまたニャーと鳴いた。人類に文明が生まれ、数を増やし、便利な道具が生まれた。争いが起き、多くが死に、文明は滅びた。そのなかでも人類はかれらを愛し、崇め、ときに恐れた。かれらはやはりニャーと鳴いた。やがて、そのときが来た。
 人類の最後の一人が、それまで生きてきた世界をぐるりと見回したあと、何か言いたげな表情のまま目を瞑った。多くの時間を共に過ごした一匹の猫が、最後の人類に近寄りもう何日も洗われていない髪の毛に前脚をちょいと伸ばした。反応はなかった。猫は(もう知っているくせに)不思議そうな顔をして、髪をとくみたい今度は二度、ちょいちょいと前髪をいじった。やはり痛がりもしないが、念のため猫はそのが横向けで眠るお腹のあたりに丸まった。いつもより温かくはないが、風避けにはなった。そうして人類は永遠の眠りについた。猫たちも眠りについた。
(少しの時間ののち猫たちはまた目を覚まし、人類の存在はまたかれらの議題に挙げられる)
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namuahi-san · 2 years
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暴力はすべてを破壊する
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ご自由にお持ちくださいと書かれた変死体。暴力はいけない。暴力はすべてを破壊する。一緒に暮らしていた猫をドアに挟んで殺してしまった母は、自ら懇願してドアに挟まれて死んだ。とても、嫌な感触が残っている。世界から家がなくなったのでホームレスはいなくなった。正確には全員がそれだ。繰り返すが、暴力はいけない。暴力はすべてを破壊する。毎週火曜日の午後四時に下半身露出男が出没する私立図書館には、毎週金曜日の午後四時に裁縫鋏を持った陰部切断女が徘徊している。利用者はその二人しかいないが、二人が出会うことはない。図書館司書は思う。やはり暴力はいけない。暴力はすべてを破壊する、と。巨大な人型のはりぼてがあり、そこに満杯まで死者を入れると生者となると信じる集団がいた。集団は最初、事故や病気で死んだ者を回収しそこに入れていたが、そのペースでははりぼてが満杯になるまでに百と六十七年かかるという試算に、積極的に人を殺してはりぼてに入れるようになった。はりぼては三年を待たずに満杯になったが、そこには夥しい数の死体が入った巨大な人型のはりぼてが佇むばかりだった。ああ、本当に暴力はいけない。暴力はすべてを破壊するのだ。それは本場イタリアで修行を重ねた葬儀屋も証明している。インタビューで葬儀屋は言う。地獄が終着点だなんて誰が決めたのですか? と。人々は感動し、自ら地獄のその先に向かおうとする。それがどこなのかなんて考えもせずに。ところで、死んだ人間の脳を直列に繋ぐと電気が発生するのを知っていますか? そのことを利用して電源のない路上でもアンプを使用できるようになったストリートミュージシャン。彼らは念願のメジャーデビューと同時にプリン体に殺されました。ビール会社に向かって歴史上最も美しい火炎瓶が飛んでゆきます。ほら見たことでしょう。暴力はいけません。暴力はすべてを破壊するのですから。猫のことを生のドラえもんと呼ぶ姉妹。そうです、地獄は江ノ島にあります。ああ、こんなことを言っていると骨抜き男が来てしまいます。骨抜き男は恐ろしい。生きたままの人間の骨を抜くことに秀でているのです。そんな奴らが跋扈している繁華街は夜の六時に消灯。みんなすっかり夢の中。夢の中にだけは暴力はありません。良かったですね。本当に、良かった。嘘です。夢の中にだって暴力はあります。とても残念なのですが。肉宇宙がそれだ。夜見町に現れるカワイソ。歌うと死ぬと言われている聖歌。誰も死んでいない十字路に花束を置いていく。まるで人間みたい。イルカは洪水の夜に水族館から逃げ出した。寒地獄、暖地獄、孤地獄の三竦み。あなたは暴力から逃げるように目を覚ます。そうしてこう思う。どうあがいたって暴力はいけない。暴力はすべてを破壊する。スタンドアローン型の幽霊。人は恐れているものに興味を示す。流行しているものというのは潜在的に人々が恐れているものに他ならない。幽霊がいい例だ。ああ、暴力は、暴力は。かつて人間は腸を裏返したものだった。活気のある商店街の二階には例外なく座敷牢があり天国に帰れない天使たちがいる。ヤマザキのダブルソフトがいまどき毎日九十八円で売られている秘密はそこにある。暴力では買えない柔らかさがふたつある。天使は毎日それを食べている。トーストせずに食べている。くどいようだが暴力はいけないのだ。暴力はすべてを破壊するのだから。男がいた。男はこの国に暮らす他のすべての人間同様に暴力を生業としていたが、あるとき潰れたレコード屋でマイルス・デイヴィスと出会った。マイルス・デイヴィスは芸術家だ、男はそう直感した。男は出会いに運命を感じた。そして自らも芸術家になろうと決めた。男は生活が芸術でないと理解していた。男は暴力が芸術でないと理解していた。だが、男が知る生活以外の何かは暴力だけであった。考えた男は、生活ではない新しい暴力を探しにいくことにした。マイルス・デイヴィスのレコードに棒をつけ旗のように掲げ、海へと進んだ。それまで暴力ですべてを破壊していた者たちはそれに気がつくと、歩く男にそれは何かと尋ねた。男は新しい暴力だと答えた。旗の人物がそれを唱えているのだ、とも。皆は困惑しながらも男についていくことにした。誰もが心のどこかで暴力がすべてを破壊することに疑問を持っていた。その夜、すべての暴力は思考していた。すべてを破壊するはずの暴力が。暴力は人を離れることにした。人を介して存在することをやめた。暴力はただ暴力として存在することを決めた。そうして。男たちは新しい暴力を探しに海に出た。その後、彼らがどうなったのかは誰も知らない。ただ言えるのは、暴力は、新しい暴力などとうの昔に破壊していた。ああ、これだから暴力はいけない。暴力はすべてを破壊する。
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namuahi-san · 2 years
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ああああ
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「もういいかなあ」と兄が言ったのでわたしは読みかけの本から視線を上げないまま「なにが?」と訊き返したけれど返事はなく仕方なしにスピンを挟み本を閉じ、読書を邪魔されことに対する文句でも言ってやろうと兄の方を見ると、兄は最初からそうであったかのようにいなくなっていた。わたしはまず部屋の中をくまなく探し、家中をひっくり返し、両親に訴え、警察署に届け、兄の行きそうな店や公園を巡り、学校に確認し、町中に尋ね人のビラを貼り、六年間通った学校に行かなくなり、水晶玉を覗き、Lロッドの行方を追い、恐山でイタコに口寄せしてもらうも圏外だと言われ、失意のわたしを車で轢きかけた男と結婚、兄のことをSNSで拡散してもらい、バズり、当時の同級生を名乗る人物から連絡があり、知り合いだという霊能力者を紹介され願いが叶う薄緑色の石を買い、徳が足らないので世界に三枚しかないというありがたいお札を買い、離婚と同時に出産、ダイソーで売っていたトンカチで薄緑色の石を割り、ガスコンロで札を焼き、海水から作った塩を売って暮らし、わたしが結婚したのと同じ歳まで育った娘が「会わせたい人がいるの」と言って初老の男(以下初老)を連れてきて、わたしはいま初老の運転するバスの中。
「みかん食べる?」娘が冷凍みかんを渡そうとしてきます。初老が娘の恋人なのか気になりましたが、彼がハンドルを握っておりますので機嫌を損ねたら窓の外に広がる渓谷に真っ逆さまということにもなりかねずわたしはなにも言い出せないのです。それにしても、どこに向かっているのでしょうか。ねえ、と娘に尋ねようとすると娘はみかん由来の黄色い手で機械を触っており「なにそれ?」「株」覗いてみようとすると画面を隠し「インサイダ!」と拒絶。反抗期なのでしょうか。
 ハッピ、バッデ、トゥユ、
 ハッピ、バッデ、トゥユ、
 邪悪な秘術を想起させる汚らしい文句。声は娘と初老のものでした。「お母さん」顔を上げると娘がこれまで見せたことのないような笑顔でわたしにノートとペンを差し出しています。ありがとうございます。心根の優しい娘なのです。お義母さあん! と突然、運転席から初老がマイクで叫ぶのでノートを落としてしまいました。ちょうど開かれたページには赤のボールペンで『ギターピックとして代用可能な動物一覧』と書かれているではありませんか。ありがとうございます。ペンギン。ライオン。ワオキツネザル。
「クイズです」初老クイズが始まりました。
「東京タワーと東京スカイツリーは何がために建てられたでしょう」「答えは痛いから」
音割れした初老の声に娘が即答します。
「痛いから?」とわたし。
「東京にはかつて建設を予定されていた塔があった!」「名は東京バベルタワー」「東京は、夢想していた。正しい、理想の己の姿を」「だがそれが叶うことはなかった」「計画は頓挫したのだ」「なんという悲劇!」
 娘と初老が交互に、オペラのように歌い上げていきます。ありがとうございます。
「東京は悲しみました」「そして、いつしかそこが傷み、疼きはじめたのです」「東京の悲しみを受け、時の権力者はバベルタワーの代わりに塔を建てました」「順番に、二本」「ですが、それは両方的外れだったのです!」「正解はこれから向かう場所にあります」
「どこに向かっているの?」
「アール県」
 ふたりの声が重なり時間はズレます。アール県にある塔は巨大ですがまだ根元しかなく、建設反対派との戦争真っ只中。人を殺傷するのに最適な速さで銃弾が飛び交いバスを出るなり初老と娘がその餌食となりました。二人を埋める余裕もなく走りますと、作りかけの塔の先端にはギトギトとした黒い木でできた小屋。入り口の看板にはペンキで大きく『いろっしょい』と書かれています。ドアは開けっぱなしで、中に入ると小屋と同じくギトギトの木でできた本棚に手作りらしき本がいくつか並んでいました。
「いろっしょい」見ると焦げ茶色のエプロンのギトギトな男が口をOの字にして立っており、わたしにコーヒーを差し出しました。
「テンミニッツ・コーヒーです。黙祷」その十分間でわたしは全てを理解しました。このカフェにいつの間にか忍び込んでは自作の本を勝手に置いていく輩がいて困っているそうです。コーヒーはライカ泥水で、わたしはそれをマスターの顔面に浴びせ本棚に向かいます。悲鳴をあげるマスターこそが犯人なのです。そうやって他人の興味をひいてこの本を読ませようという肚なのです。たちの悪い妖怪のような男。ありがとうございます。そうしてわたしはマスターに代わりそこで本を作ることにしました。絵と文字、それと声。三十年もそうしていると分かります。兄は、そこで奇妙な人生を送っていたのです。兄はこちらで弁当屋の娘に恋をし、交換日記を始めようと迫り、右の耳を捻りちぎられ、通報され、服役し、気のいい模範囚として罪を償い、釈放後は殺人鬼のための懺悔室を西麻布にオープン、週五で気のない相づちを打ち、休みの日にはDIYでギロチン作り、ギロチン繋がりで知り合った女性と結婚するも新婚初夜に誤って妹である私の名前を呼んでしまい、手先の器用な兄の妻がハズバンドと物理的に距離を置くために増築し続けていった家は迷宮となり、膨大な固定資産税に兄がぐずりすぐ近くに地獄を顕現させたことで地価は暴落、やがて妻とも別居し地獄のすぐ隣にある三畳一間に住むことになった兄は、やることがないあまりペンとノートを手に取り本を作り始めました。絵と文字、それと声。その本にはわたしの人生が書かれているではないですか。でもよく見てください、兄の背後から地獄より漏れ出た炎がちるちると、兄(とわたしを)を舐めるようにああ(ああ)。
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