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#地ならし終わったら壁の巨人たちってまた壁にもどるのかな? 「ふぉおお~ならしたーならしたわ~」みたいに帰ってきて?
sesameandsalt · 2 years
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今日大阪と奈良へ行きました。 朝護孫子寺(奈良の山) の世界一福寅♥ 🐯
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この猫の熊手が欲しくて、 住吉大社さん(大阪)へ行きました 最近は熊手を壁に立てられるこういう熊手ラックが発明されてるんですね、ありがたいです
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すごく楽しく素敵でもはやまた行きたい 帰って551の肉まんを食べて懐かしんでます   関西は ストレート(ディープ)な寺社が多く深く感動しますた 🙏🏮🐱🐢🐯
#日曜日の、N-たま調査兵団リアタイレポート#ここでつづくんかああああ😭!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!#今週の月曜は寝ないで頑張りました、というか寝れませんでした。今週は訳あって#(添付写真の住吉大社さんの猫の宝船熊手が欲しかった。その上の大黒様の熊手は神田明神さんで一目惚れ その隣の名画は#一目惚れしてずっと一緒に過ごさせていただいてます🙏😭勝手なことして事後報告お許しください…)#←怖すぎるこいつ…😱🥶#朝4時起きで大阪に旅立ちました。(あと🐯寅グッズが欲しくて奈良にも行った、今をときめく仏師さんの彫った寅人形がうちに来てくれた😍)#日曜が危険すぎる…しかも来週はさらに時間が遅くなるとか? わたしに寝るなという事ですか。放送時間までどサド!!#始祖ユミちゃんジークにあっさりほだされてんじゃないよー とか言っていたたった2,3週前の自分が懐かしい。 もう何が正解なのか#知能指数4か5ぐらいのわたしには全くわかりません。 始祖ちゃんが可哀そうで可哀そうで見てられないよおおおもおおお😭#とにかくエルディア王がなんか性格悪そうという事しかわからなかった。あいつ… エレンくん新しい妖怪みたいになっていたけど、#本当に大丈夫なのかこの漫画…おっそろし… 「何を見せられているんだ?」という平成後期に誕生した定型文がありますが はじめて独りゴチてしまた。#地ならし凄まじいクライマックス感だけんども、今後の展開どうなるのか まったく予想がつきません。😱😨#地ならし終わったら壁の巨人たちってまた壁にもどるのかな? 「ふぉおお~ならしたーならしたわ~」みたいに帰ってきて?#律儀に壁があった位置に並んで… 巨人A「あれ?おまえもっとそっちだったろ?」 巨人B「は?ここだし、足跡のこってるし」#巨人C「おおい、みんな立ち位置ふわっとしてるよ!どーなってんだよ~!!」#巨人A「いや、ぜってえ狭くなってるし!もっとそっちだろクソが~!!」 巨人D「なんかクセー、オレの位置なんか臭くなってない!?」#みたいな大混乱が起きて新たな戦乱を産む可能性ありますよね。#争いのない世の中になるのだろうか…?😭 いやー今週もおっもしろ(?)かった~!!😭 日曜と人生にハリができてよかった(?)#本当に、ジークさんわけわかんないけどどうしても憎めない!フリが効けば効くほどクサ(ヴァー)さんの再登場時に 腹筋がもつか心配でしょうがない…#それまで鍛えておこうと思います。 リアタイこんなに愉しいとは…!!🥲、来週もたんのしみぃいいい♥♥♥
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2ttf · 12 years
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Latin//Alphabet// ABCDEFGHIJKLMNOPQRSTUVWXYZabcdefghijklmnopqrstuvwxyz0123456789 !"“”#$%&'‘’()*+,-./:;<=>?@[\]^_`{|}~ Latin//Accent// ¡¢£€¤¥¦§¨©ª«¬®¯°±²³´µ¶·¸¹º»¼½¾¿ÀÁÂÃÄÅÆÇÈÉÊËÌÍÎÏÐÑÒÓÔÕÖ×ØÙÚÛÜÝÞßàáâãäåæçèéêëìíîïðñòóôõö÷øùúûüýþÿ Latin//Extension 1// ĀāĂ㥹ĆćĈĉĊċČčĎďĐđĒēĔĕĖėĘęĚěĜĝĞğĠġĢģĤĥĦħĨĩĪīĬĭĮįİıIJijĴĵĶķĸĹĺĻļĽľĿŀŁłŃńŅņŇňʼnŊŋŌōŎŏŐőŒœŔŕŖŗŘřŚśŜŝŞşŠšŢţŤťŦŧŨũŪūŬŭŮůŰűŲųŴŵŶŷŸŹźŻżŽžſfffiflffifflſtst Latin//Extension 2// ƀƁƂƃƄƅƆƇƈƉƊƋƌƍƎƏƐƑƒƓƔƕƖƗƘƙƚƛƜƝƞƟƠơƢƣƤƥƦƧƨƩƪƫƬƭƮƯưƱƲƳƴƵƶƷƸƹƺƻƼƽƾƿǀǁǂǃDŽDždžLJLjljNJNjnjǍǎǏǐǑǒǓǔǕǖǗǘǙǚǛǜǝǞǟǠǡǢǣǤǥǦǧǨǩǪǫǬǭǮǯǰDZDzdzǴǵǶǷǸǹǺǻǼǽǾǿ Symbols//Web// –—‚„†‡‰‹›•…′″‾⁄℘ℑℜ™ℵ←↑→↓↔↵⇐⇑⇒⇓⇔∀∂∃∅∇∈∉∋∏∑−∗√∝∞∠∧∨∩∪∫∴∼≅≈≠≡≤≥⊂⊃⊄⊆⊇⊕⊗⊥⋅⌈⌉⌊⌋〈〉◊♠♣♥♦ Symbols//Dingbat// ✁✂✃✄✆✇✈✉✌✍✎✏✐✑✒✓✔✕✖✗✘��✚✛✜✝✞✟✠✡✢✣✤✥✦✧✩✪✫✬✭✮✯✰✱✲✳✴✵✶✷✸✹✺✻✼✽✾✿❀❁❂❃❄❅❆❇❈❉❊❋❍❏❐❑❒❖❘❙❚❛❜❝❞❡❢❣❤❥❦❧❨❩❪❫❬❭❮❯❰❱❲❳❴❵❶❷❸❹❺❻❼❽❾❿➀➁➂➃➄➅➆➇➈➉➊➋➌➍➎➏➐➑➒➓➔➘➙➚➛➜➝➞➟➠➡➢➣➤➥➦➧➨➩➪➫➬➭➮➯➱➲➳➴➵➶➷➸➹➺➻➼➽➾ Japanese//かな// あいうえおかがきぎくぐけげこごさざしじすずせぜそぞただちぢつづてでとどなにぬねのはばぱひびぴふぶぷへべぺほぼぽまみむめもやゆよらりるれろわゐゑをんぁぃぅぇぉっゃゅょゎゔ゛゜ゝゞアイウエオカガキギクグケゲコゴサザシジスズセゼソゾタダチヂツヅテデトドナニヌネノハバパヒビピフブプヘベペホボポマミムメモヤユヨラリルレロワヰヱヲンァィゥェォッャュョヮヴヵヶヷヸヹヺヽヾ Japanese//小学一年// 一右雨円王音下火花貝学気九休玉金空月犬見五口校左三山子四糸字耳七車手十出女小上森人水正生青夕石赤千川先早草足村大男竹中虫町天田土二日入年白八百文木本名目立力林六 Japanese//小学二年// 引羽雲園遠何科夏家歌画回会海絵外角楽活間丸岩顔汽記帰弓牛魚京強教近兄形計元言原戸古午後語工公広交光考行高黄合谷国黒今才細作算止市矢姉思紙寺自時室社弱首秋週春書少場色食心新親図数西声星晴切雪船線前組走多太体台地池知茶昼長鳥朝直通弟店点電刀冬当東答頭同道読内南肉馬売買麦半番父風分聞米歩母方北毎妹万明鳴毛門夜野友用曜来里理話 Japanese//小学三年// 悪安暗医委意育員院飲運泳駅央横屋温化荷開界階寒感漢館岸起期客究急級宮球去橋業曲局銀区苦具君係軽血決研県庫湖向幸港号根祭皿仕死使始指歯詩次事持式実写者主守取酒受州拾終習集住重宿所暑助昭消商章勝乗植申身神真深進世整昔全相送想息速族他打対待代第題炭短談着注柱丁帳調追定庭笛鉄転都度投豆島湯登等動童農波配倍箱畑発反坂板皮悲美鼻筆氷表秒病品負部服福物平返勉放味命面問役薬由油有遊予羊洋葉陽様落流旅両緑礼列練路和 Japanese//小学四年// 愛案以衣位囲胃印英栄塩億加果貨課芽改械害街各覚完官管関観願希季紀喜旗器機議求泣救給挙漁共協鏡競極訓軍郡径型景芸欠結建健験固功好候航康告差菜最材昨札刷殺察参産散残士氏史司試児治辞失借種周祝順初松笑唱焼象照賞臣信成省清静席積折節説浅戦選然争倉巣束側続卒孫帯隊達単置仲貯兆腸低底停的典伝徒努灯堂働特得毒熱念敗梅博飯飛費必票標不夫付府副粉兵別辺変便包法望牧末満未脈民無約勇要養浴利陸良料量輪類令冷例歴連老労録 Japanese//小学五〜六年// 圧移因永営衛易益液演応往桜恩可仮価河過賀快解格確額刊幹慣眼基寄規技義逆久旧居許境均禁句群経潔件券険検限現減故個護効厚耕鉱構興講混査再災妻採際在財罪雑酸賛支志枝師資飼示似識質舎謝授修述術準序招承証条状常情織職制性政勢精製税責績接設舌絶銭祖素総造像増則測属率損退貸態団断築張提程適敵統銅導徳独任燃能破犯判版比肥非備俵評貧布婦富武復複仏編弁保墓報豊防貿暴務夢迷綿輸余預容略留領異遺域宇映延沿我灰拡革閣割株干巻看簡危机貴揮疑吸供胸郷勤筋系敬警劇激穴絹権憲源厳己呼誤后孝皇紅降鋼刻穀骨困砂座済裁策冊蚕至私姿視詞誌磁射捨尺若樹収宗就衆従縦縮熟純処署諸除将傷障城蒸針仁垂推寸盛聖誠宣専泉洗染善奏窓創装層操蔵臓存尊宅担探誕段暖値宙忠著庁頂潮賃痛展討党糖届難乳認納脳派拝背肺俳班晩否批秘腹奮並陛閉片補暮宝訪亡忘棒枚幕密盟模訳郵優幼欲翌乱卵覧裏律臨朗論 Japanese//中学// 亜哀挨曖扱宛嵐依威為畏尉萎偉椅彙違維慰緯壱逸芋咽姻淫陰隠韻唄鬱畝浦詠影鋭疫悦越謁閲炎怨宴援煙猿鉛縁艶汚凹押旺欧殴翁奥憶臆虞乙俺卸穏佳苛架華菓渦嫁暇禍靴寡箇稼蚊牙瓦雅餓介戒怪拐悔皆塊楷潰壊懐諧劾崖涯慨蓋該概骸垣柿核殻郭較隔獲嚇穫岳顎掛括喝渇葛滑褐轄且釜鎌刈甘汗缶肝冠陥乾勘患貫喚堪換敢棺款閑勧寛歓監緩憾還環韓艦鑑含玩頑企伎忌奇祈軌既飢鬼亀幾棋棄毀畿輝騎宜偽欺儀戯擬犠菊吉喫詰却脚虐及丘朽臼糾嗅窮巨拒拠虚距御凶叫狂享況峡挟狭恐恭脅矯響驚仰暁凝巾斤菌琴僅緊錦謹襟吟駆惧愚偶遇隅串屈掘窟繰勲薫刑茎契恵啓掲渓蛍傾携継詣慶憬稽憩鶏迎鯨隙撃桁傑肩倹兼剣拳軒圏堅嫌献遣賢謙鍵繭顕懸幻玄弦舷股虎孤弧枯雇誇鼓錮顧互呉娯悟碁勾孔巧甲江坑抗攻更拘肯侯恒洪荒郊貢控梗喉慌硬絞項溝綱酵稿衡購乞拷剛傲豪克酷獄駒込頃昆恨婚痕紺魂墾懇沙唆詐鎖挫采砕宰栽彩斎債催塞歳載剤削柵索酢搾錯咲刹拶撮擦桟惨傘斬暫旨伺刺祉肢施恣脂紫嗣雌摯賜諮侍慈餌璽軸叱疾執湿嫉漆芝赦斜煮遮邪蛇酌釈爵寂朱狩殊珠腫趣寿呪需儒囚舟秀臭袖羞愁酬醜蹴襲汁充柔渋銃獣叔淑粛塾俊瞬旬巡盾准殉循潤遵庶緒如叙徐升召匠床抄肖尚昇沼宵症祥称渉紹訟掌晶焦硝粧詔奨詳彰憧衝償礁鐘丈冗浄剰畳壌嬢錠譲醸拭殖飾触嘱辱尻伸芯辛侵津唇娠振浸紳診寝慎審震薪刃尽迅甚陣尋腎須吹炊帥粋衰酔遂睡穂随髄枢崇据杉裾瀬是姓征斉牲凄逝婿誓請醒斥析脊隻惜戚跡籍拙窃摂仙占扇栓旋煎羨腺詮践箋潜遷薦繊鮮禅漸膳繕狙阻租措粗疎訴塑遡礎双壮荘捜挿桑掃曹曽爽喪痩葬僧遭槽踪燥霜騒藻憎贈即促捉俗賊遜汰妥唾堕惰駄耐怠胎泰堆袋逮替滞戴滝択沢卓拓託濯諾濁但脱奪棚誰丹旦胆淡嘆端綻鍛弾壇恥致遅痴稚緻畜逐蓄秩窒嫡抽衷酎鋳駐弔挑彫眺釣貼超跳徴嘲澄聴懲勅捗沈珍朕陳鎮椎墜塚漬坪爪鶴呈廷抵邸亭貞帝訂逓偵堤艇締諦泥摘滴溺迭哲徹撤添塡殿斗吐妬途渡塗賭奴怒到逃倒凍唐桃透悼盗陶塔搭棟痘筒稲踏謄藤闘騰洞胴瞳峠匿督篤凸突屯豚頓貪鈍曇丼那謎鍋軟尼弐匂虹尿妊忍寧捻粘悩濃把覇婆罵杯排廃輩培陪媒賠伯拍泊迫剝舶薄漠縛爆箸肌鉢髪伐抜罰閥氾帆汎伴畔般販斑搬煩頒範繁藩蛮盤妃彼披卑疲被扉碑罷避尾眉微膝肘匹泌姫漂苗描猫浜賓頻敏瓶扶怖附訃赴浮符普腐敷膚賦譜侮舞封伏幅覆払沸紛雰噴墳憤丙併柄塀幣弊蔽餅壁璧癖蔑偏遍哺捕舗募慕簿芳邦奉抱泡胞俸倣峰砲崩蜂飽褒縫乏忙坊妨房肪某冒剖紡傍帽貌膨謀頰朴睦僕墨撲没勃堀奔翻凡盆麻摩磨魔昧埋膜枕又抹慢漫魅岬蜜妙眠矛霧娘冥銘滅免麺茂妄盲耗猛網黙紋冶弥厄躍闇喩愉諭癒唯幽悠湧猶裕雄誘憂融与誉妖庸揚揺溶腰瘍踊窯擁謡抑沃翼拉裸羅雷頼絡酪辣濫藍欄吏痢履璃離慄柳竜粒隆硫侶虜慮了涼猟陵僚寮療瞭糧厘倫隣瑠涙累塁励戻鈴零霊隷齢麗暦劣烈裂恋廉錬呂炉賂露弄郎浪廊楼漏籠麓賄脇惑枠湾腕 Japanese//記号//  ・ー~、。〃〄々〆〇〈〉《》「」『』【】〒〓〔〕〖〗〘〙〜〝〞〟〠〡〢〣〤〥〦〧〨〩〰〳〴〵〶 Greek & Coptic//Standard// ʹ͵ͺͻͼͽ;΄΅Ά·ΈΉΊΌΎΏΐΑΒΓΔΕΖΗΘΙΚΛΜΝΞΟΠΡΣΤΥΦΧΨΩΪΫάέήίΰαβγδεζηθικλμνξοπρςστυφχψωϊϋόύώϐϑϒϓϔϕϖϚϜϞϠϢϣϤϥϦϧϨϩϪϫϬϭϮϯϰϱϲϳϴϵ϶ϷϸϹϺϻϼϽϾϿ Cyrillic//Standard// ЀЁЂЃЄЅІЇЈЉЊЋЌЍЎЏАБВГДЕЖЗИЙКЛМНОПРСТУФХЦЧШЩЪЫЬЭЮЯабвгдежзийклмнопрстуфхцчшщъыьэюяѐёђѓєѕіїјљњћќѝўџѢѣѤѥѦѧѨѩѪѫѬѭѰѱѲѳѴѵѶѷѸѹҌҍҐґҒғҖҗҘҙҚқҜҝҠҡҢңҤҥҪҫҬҭҮүҰұҲҳҴҵҶҷҸҹҺһҼҽҾҿӀӁӂӇӈӏӐӑӒӓӔӕӖӗӘәӚӛӜӝӞӟӠӡӢӣӤӥӦӧӨөӪӫӬӭӮӯӰӱӲӳӴӵӶӷӸӹӾӿ Thai//Standard// กขฃคฅฆงจฉชซฌญฎฏฐฑฒณดตถทธนบปผฝพฟภมยรฤลฦวศษสหฬอฮฯะัาำิีึืฺุู฿เแโใไๅๆ็่้๊๋์ํ๎๏๐๑๒๓๔๕๖๗๘๙๚๛
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kkagneta2 · 5 years
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おっぱいビンタされる話
だった。超乳、怪力娘、ドM向け。
「ごめんなさい! ごめんなさい!!!」
「だーめ。最初に手を出して来たのは、おにいさんだったんだよ? うりうり、嬉しいでしょ」
と制服姿の女子高生が体を軽く揺らすと、男は絶���して許しを乞うる。もう幾度となく繰り返されている光景だが、女の子の方はまだ許すつもりはないらしく、男の懸命な叫びには無頓着にさらにもう一歩詰め寄る。
「あああああああ!!! 折れる! 折れるううううう!!!」
「ふふっ、そんなに痛いなら出ればいいじゃん。私、まだ手も使ってないんだよ?」
と手をぷらぷら、ひらひら、……
しかし、その巨大な胸にかかる圧力は強烈。次第に男の体から、
バキバキ、メキャ、……
と嫌な音が響いてくる。
きっかけはこの憐れな男の出来心だった。今日も平凡な日常を終え、そのまま妻の待つ自宅へと帰宅するはずだった。
が、電車に乗ってきた女子高生は、そんな男の平凡な日常を壊すのに足りた。まだあどけなさの残る顔から歳の程はまだ15、16かと思われる。まだ中学生だと言われても不思議ではない。腕は細く、手はしなやか、背は高校生としては低く、眼鏡の奥に見える目はおっとりと、優しげな印象を見るものに与える。――男は、だから油断をした。油断をして、彼女の最も特徴的な部位である「胸」に目を奪われるや、手が自然に伸びていた。
彼女の胸、――つまり乳房は尋常なものではなかった。人を飲み込めそうなその魅惑的な塊は、前にも横にも1 メートル以上は飛び出し、下へは自身の足元にも達しようかというほどである。かつてZ カップと呼ばれていた大きさが普通になりつつある今の世の中でも、ここまで大きな乳房を持つ女性は両手で数える程度しか居ない。貧しい胸をした女性を貰い受けた男にとって、それは耐え難い色気に満ちた至高の宝玉のように見えた。風俗で晴らすことすら許されない妻への不満を、この気の弱そうな女子高生の乳房を揉むことで解消しようと考えた。一度、通りすがりに撫でるくらいならバレないと思った。
結果は言うまでも無かろう。乳房の横腹にそっと触れた男の手は、その後止まることが無かった。どこまでもめり込むその途方もない気持ちよさ、感覚の無くなるくらい心地よい女の子の体温、ゴツゴツとしたブラジャーの感触。……気がつけば寝ぼけた子猫のように、手を開けたり締めたりして、女子高生の乳房を揉みしだいていた。
周りの乗客からの視線など、気にならなかった。乳房の持ち主が嫌悪感を持って見てきていることも、気にならなかった。男は天に上ったような心地であった。ただただ、この眼の前にある途方もない大きさの塊しか目に見えていなかった。
電車のアナウンスが聞こえて来た時にはもう遅かった。女子高生に掴まれた手を振り切って、男は電車から飛び降りようとしたようであったが、全くもってびくともせず、ギュウっと力を入れられるとうめき声を上げて、その場にうずくまる。
「一緒に降りましょ。わかってるよね」
と女子高生の声がかかり、この後どうなるか全てを理解した。男の頭の中には、まず駅員に突き出され、警察に引き渡され、万の言葉で叱責してくる妻の姿浮かんでいた。
――が、女の子の行動は男の予想からどんどん反していった。彼女は駅員室などには行かなかった。男の手首を掴んだまま駅から出て、信号を渡り、およそ何百キロという塊を胸につけているとは思えないような軽快な足取りで、道を歩いていく。
「今日は暑いねー」
と呑気に言ってさえくる。
男は一転して朗らかな雰囲気にホッとすると、自分からもよく話しかけた。女子高生もそれに笑顔で応えた。周りから見れば良くないことをしているように見えただろうけれども、男にはそんなことどうでもよかった。途端に希望が湧いてきた。もしかすると、もしかするかもしれなかった。夕焼けの空はまだ浅黄色に、明るく二人を照らしていた。
男の夢はそこまでであった。女子高生の向かっている先は路地裏であった。人通りは少なく、陽の光は入ってこず、暗くじめじめとしたその路地裏は袋小路となっており、頼りない街頭に照らされた数々のガラクタが積み上げられている。
「逃げるなら今のうちだよ」
と手を離した女の子は言った。男は逃げなかった。まだ、もしかするともしかするかもしれないと言う、淡い希望が心の中に燻っていた。
「ふうん、そ」
――この言葉が地獄の始まりであった。
男は前方から何かとてつもなく重いものにぶつけられたかと思いきや、次の瞬間には宙を舞い、そして袋小路の壁に打ち付けられていた。それが女子高生によるおっぱいビンタだと理解する間もなく、男は髪の毛を掴まれこう言われた。
「ねっ、期待した? 期待してたでしょ? だってちょっと話しかけるだけで、すぐ調子に乗るんだもん。おにいさんのばーか。私が私のおっぱいを触った人を許すわけないじゃん」
男は本当の意味で、この後どうなるか全て理解した。背中の激痛で力の入らない手で髪の毛を掴んでいる女の子の手を退けようとしているけれども、全くもってびくともしない。それどころか自分の体どんどん宙に浮いていく感じがする。いくら暴れようとも女の子は全く意に介さず、ついには足が完全に浮き上がってしまう。
「よっわ」
若干背伸びをした女子高生は男を壁に叩きつけると、乳房をその体に押し付けた。男は彼女のおっぱいと壁の板挟みになる。一体その華車な体のどこにそんな力があるのか、全く体を動かせなかった。
これが軽い力加減だったならば、男は再び天国へ上ったことであろう。何せ、頭以外の全身が、女子高生の乳房に包まれているようなものなのだから。たとえ裸でなくとも、男がこれまでの人生で体験したどんな快楽よりも心地よかったに違いない。
だが、現実はそんなに甘くはなかった。男がもがいているうちにも、女の子どんどん圧迫し続け、辺りには男の叫び声と、不穏なミシミシと言う音が響くようになっていた。
そしてそれがずっと続いているのである。男はもはや絶叫するか、謝罪の言葉を叫ぶかしか出来ていない。女子高生の暖かい乳房と冷たい壁の板挟みになり、体が半分に薄くなったような心地さえしていた。
「ねぇねぇ、おにいさん、おにいさん」
と唐突にかけられた声は、男をこれほどまで圧迫しているとは思えないくらい可愛らしい。
「おにいさんがあんなに気持ちよさそうに揉んでたおっぱい、どう? 今も気持ちいーい?」
グイと顔を男の方へ近づけ、うっとりとした表情で雄叫びを上げる男を覗き込む。
「んー? なんてー? 感想が聞こえないなー。絶対に許さないんだから、もうごめんなさいはいいよ。聞き飽きた」
とさらに前へと進む。
「あはは、体中からバキバキ、って音がするね。それとも壁から聞こえてくるのかな。力が強いっていうのも考えものだよねー」
「があああああ!! やめて! やめてええぇぇ!!!」
「アハハハハ! いいよぉ、おにいさん、もっともっと!」
可愛らしい顔から可愛らしい声を発しているのに、かかる力は怪力。グググ、……! とせり上がった乳房はそのまま男の体をも持ち上げ、下からはブランブラン暴れまわる男の足が見える。
女子高生にとってこのくらいは容易いことであった。これまで何人の男の心を折ってきたか、思いつくだけでも20 回や30 回にもなる。小学生の時は力加減を知らず、喧嘩になった男子共を仲裁する時に、思いっきり突き飛ばしてしまって怪我をさせたことがあった。腕相撲をすれば、相手が何人であろうとも勝ってしまう。嫌々ながら参加した相撲大会は、相手を持ち上げて土俵の外へ持っていっていたらいつの間にか優勝していた。身体測定は、学校の器具が壊れるからと言って本気を出させてくれない。ハンドボール投げなぞは軽くやっても運動場のフェンスを大きく超えてしまう。ある時、転がってきた野球のボールをグニグニともてあそんでいたら、取りに来た野球部の人に大層驚いた声を上げられてしまった。中学の運動会の綱引きで、ついうっかり力を入れてしまって味方共々転がしてしまったこともある。つい先日も、思いっきり握ってみて、と貰い受けた砲丸をしょうことなしに軽く握ると、指の跡がついてしまった。
「だからさ、私おっぱいがちょっと大きいせいで、結構力持ちなんだよ! 例えば、……これとか!」
と、一旦男の拘束を緩めた女子高生は、側にあった太い鉄の棒を拾い上げる。
「ひぃっ!……」
「んーん? あ、もしかして殴られると思った? えへへー、残念。こうするんだよ」
と彼女はまだ板挟みになって動けない男の眼の前で、その鉄の棒を曲げた。
ぐにゃり、……ぐにゃぐにゃ、ギュウウウ、ぐにゃぐにゃ、………
鉄の棒が丸いボールに変わるのには、それほど時間はかからなかった。男は怯えた声をあげるしかなかった。笑顔で粘土のように鉄の棒を捏ね上げた女子高生が、丸くなった金属の塊を差し出している。それもかなり大きい。女子高生は軽く持っているようなものだが、元々あった鉄の棒の重さは15 キロほど。決して軽く持てるような代物ではない。
「どう? どう? すごいでしょ?」
と、女子高生は鉄球を手から滑り落とす。ドスン! と音を立てて落ちるそれは、確かに金属のそれであった。
  「でも、やっぱりおにいさんはこんなことよりおっぱいだよね。じゃあ、そろそろ準備体操は終わりにしよっか」
女子高生が信じられないことを言った。
「えっ?」
と、男が言う間に後ろへ後ずさり、倒れ込む彼をよそに制服に手をかける。
男が再び顔を上げた時には、彼女はすっかり上半身をはだけさせていた。たぷんと波打つ巨大な乳房が見えた。ほんのりと赤色を帯びた綺麗な乳輪が見えた。口に入らないほど大きな乳首が見えた。彼女の奥には巨大な山を作っている純白のブラジャーがそびえている。
男は女子高生の生肌を見て、興奮など出来なかった。先程まで自分の命を押しつぶそうとしてきた、巨大な双丘。……恐怖から体を震わせ、目を怯えさせ、嗜虐の喜びに満ち溢れた自分より遥か年下の女子高生を見上げる。思わず後ずさろうとしたが、後ろは壁で、足だけがずりずりと滑る。
「助けて、……」
自然にそんな言葉が口から漏れていた。心の底から怖かった。男にはこの女の子乳房が自分をぐちゃぐちゃにしてしまう調理器具のように見えていた。
「もう、そんなに怯えなくていいじゃん。私、このおっぱいには結構自信あるんだけど、そんなこと言われちゃうと傷ついちゃうな~、……」
女の子は先程落とした鉄球を鷲掴みにして拾い上げる。
「ひいいぃぃぃ、……」
「だから、こんなもので殴らないってば。そんなことしたら、おにいさんだとミンチになっちゃうよ? ま、これから近い状態にはなるかもしれないけど」
と、鉄球を谷間の中へ。
――ミチミチミチミチ!!
彼女が胸に両手をかけた瞬間、男にはそんな音が聞こえた。それはかつて鉄の棒だった金属の断末魔であった。深い深い谷間から、鈍く輝く薄い何かがもりもりと溢れてきて止まらなかった。
「んふっ、あつぅい。……」
女の子からはそれだけだった。
「あっ、……えっ?」
男からはそれだけだった。尤も彼はうめき声だけは常に上げていたが。
「次はおにいさんの番ね」
と薄い金属片をどこかへ放り投げて、女子高生は近寄ってきた。男の眼の前に立つと、あれほどのことをしたのに傷一つ無い谷間をゆっくりと開ける。これで入ってこなかった男は今までいない。
「おにいさん、いらっしゃ~い!」
先程重い大きな鉄球をプレス機のように潰してしまった、女の子の乳房。入れば一瞬で肉塊になってしまうだろう。だけれども男は吸い寄せられるようにして谷間の中へと進んで行った。どうしても、その魅惑的な脂肪の塊に抗えなかった。地を這って、一歩、……二歩、……三歩、――もう右も左も前もみずみずしい肌色に包まれる。見上げると、女子高生がこれほどないまでの笑顔でこちらを見下ろしてきている。大人しそうで気の弱そうな目は、しかし男を怯ませるのに足るほど、嗜虐的な愉悦に溢れていた。男はもはや屈服するしかなかった。乳房云々はおいて、この可愛らしい女子高生には何をしても勝てぬと悟ってしまった。体が勝手���祈りのポーズをとって、彼女の足元にすがりそうにさえなっていた。
「立って」
体にムチを打って立ち上がる。
「ひっ」
と喉から声が出てきた時には遅かった。両側から肌色の壁が迫ってくる。物心ついたときからずっとこうされたかったけれども、いざその時がくると怖くて仕方がなかった。
そして、その時は一瞬だった。
バチン!
と言う音とともに、男の体は顔を残して全て残らず、女子高生の乳房に挟まれる。
「ぎゃああああああああ!!!」
「みゆちゃん特製、人間のまるごとパイズリ~~」
「痛い! 痛い! 痛い!」
「んー?」
「出して出して出して!!!」
男は全身から伝わる激痛から逃れようと必死でもがいた。しかし、首から上だけが暴れまわるだけで、肝心の体は指の一つですら動きもしなかった。男の抵抗なぞ女子高生にとっては取るにも足らない。彼女は力が強すぎた。彼女にとって、男を潰すなんて蚊を潰すようなものなのである。彼女にとって、男とはパン! と叩けば絶命する儚い生命なのである。そしてその事実自体が彼女の性癖なのである。
「だーめ。自分から入ってきたのはおにいさんなんだよ? わかってる?」
「お願い! お願いします!! あがあああああ!!!」
「だめって言ってるじゃん。絶対にゆるさないんだから。――じゃ、そろそろパイズリらしく、おっぱい動かすねー!」
――と、男からしてみれば嘘のように軽い声が聞こえてきた。と、同時にその言葉通りグググ、……と乳房が持ち上がり、またしも男の足は宙に浮いてしまった。
「準備はいーい?」
「いやああああああああああああああ!!!!」
「そーれっ」
グニュっ!
「ぎゃああああああああ!!!」
「そーれっ」
ギニュっ!
「やめて!やめてえぇぇ!!」
「そーれっ」
グニュっ!
「あガガガあああ!!!」
「そーれっ」
グニュウウウゥゥ!!
「死ぬ! 死んじゃう! 死んじゃううううう!!」
「そーれっ」
と、三度グニャリグニャリと乳房を上下させたその時、
バキン!!
「うわぁ、……痛そうな音がしたね~。でもまだまだやっていくよ~? そーれっ」
明らかに骨の折れた音がしても、女子高生は止まらなかった。その後もそーれっ、そーれっ、そーれっ、と言う掛け声をかけつつ、男を全身丸ごとパイズリし続けた。
彼の悲痛な叫び声は、最初の方こそくぐもりつつも何回か聞こえてきたのだが、しばらくすると乳房に顔が埋まったため、漏れてもこなくなった。路地裏には女の子の、
「いっちに! いっちに! いっちに! ……」
と言う元気な声と、肌のこすれるさらさらとした音と、時おり谷間の中から聞こえてくる乾いた音のみが響いていた。男がどうなっているのかは、外からは分からない。ただ、あらぬ方向を向いた指が時々乳房の隙間から出てきていることから、無事でないことは確かである。だがまだ人の形を保っているだけ幸せかもしれない。……
結局、パイズリが終わったのは女子高生のスマホが着信音を鳴らせ始めたときであった。
「――うん、うん、わかった。でもちょっと遅れて行くからね」
100 キロ、200 キロ、……いや、もしかすると700 キロや800 キロあってもおかし��ない乳房を、何度も何度も激しく動かしていながら、彼女は息すら上げていなかった。何事もなかったかのように、電話の相手と応対している。
「え? うん、そうだよ。今日もやってる。見たい?」
と、相手が見たいと言ったのか、女子高生はカメラを起動して、スマホを胸元へ向けた。
「おーい、おにいさん生きてるー? 大丈夫だよね、さっきからピクピク動いてるし」
と、谷間をまさぐって腕を見つけると、男を無理やり引っこ抜いた。
「どう? どう? 中々かっこいいでしょ? ……え? 好みじゃない? あ、そう。……ま、とにかく私は、この人をやらなきゃいけないから、1 時間くらい遅れます。またあとでね」
「おにいさーん? だいじょうぶですかー? 起きて起きて、早く続きしよっ」
通話を切った彼女はペシペシと男の顔を叩くのであるが、うめき声を上げるだけで目を開けてくれない。仕方なしに女子高生は男の体を地面に寝かせると、とりあえず休憩を取らせることにした。
  「あーあ、すっかり暗くなっちゃった。……」
男を地面に寝かせてから10 分が経とうとしていた。彼らを照らすのはとうとう頼りない街灯一つだけになり、赤くほてった女子高生の顔がやんわりと映し出されている。彼女はまだ上半身をはだけさせたままであったが、男を痛めて続けていたせいで、全然寒くはないようであった。
「んぐ、……うあぁ。……」
「あ、お兄さん起きた?」
足でちょんちょんと顔を突っついてみる。
「ひっ! う、うわあああああ!!!!」
と、すごい勢いで後退してしまった。
「うえぇ、……ひっ、ひっ、ひっく、ひっ、……」
もう右の腕は上がらないのだろう、男は左手だけを顔の前に持ってきて、ボキボキに折れた指を眺めながら咽び泣いた。
「ひっ、ひっ、ごめんなさい、……ごめんなさい、……」
「だめだよおにいさん、まだだめ。でも少しお話しましょ?」
「うっ、うぐっ、うぇ、……」
「どうして私のおっぱいを触ろうとしたの? もしかして私が大人しそうとか、そういう理由?」
男は首を横に振った。
「じゃあ、なんで?」
「……ずっと憧れてたから。胸の小さな妻ではどうしても満たされなくて、……」
「ふーん。そんなに小さいの?」
「昔の基準でP カップしか、……」
「P カップ?! なにそれ小学生じゃん!!」
あはははは!! と、声を上げて笑う。およそ20年前、幻とまで言われるほどの巨乳は、今や小学生6年生の平均にも達していないのである。
しかし別に珍しくはない。男と同じ世代の女性は誰もがP カップ程度である。 子供と並ぶと、親の方が胸が小さい。 人類に何が起きたのかは分からないが、そういう社会になってしまった。
「なるほどね、そりゃ、触ってしまうわけだ。それで奥さんとはやってるの?」
ふるふると震えるように男は首を横に振った。P カップの乳房に欲情するなど、今の世の中小学生に欲情するようなもの。男はもはや妻の体を見て何も感じない、何も勃たない。
「はあ~、……意外と重たい理由だったわ~。……じゃあ、殺すのはやめにしようかな。なんか可哀想になってきちゃった。でも許した訳じゃないからね、最後のアレはやるよ」
「あ、アレ?」
「そう、アレ。――ふふ、でもおにいさんにとってはただのご褒美かもね」
と言って、女子高生は自身の乳房をゆっくりと持ち上げていく。
「あっ、あっ、あっ、それは、……」
「分かっちゃった? ちょうどおにいさんそこで這いつくばってるし、いいよね。手加減してあげるから、ちゃんと生きてるんだよ?」
――みゆちゃんのおっぱいハンマー! と、彼女は言った。
――ドーン!!! と、路地裏が揺れた。
「まだまだいくよ~」
ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン!
一体何回、女子高生は地面を揺らしたのだろう。乳房を持ち上げては落とし、持ち上げては落とし、持ち上げては落とし、持ち上げては落とし、……何十回と続くそれは、男にとっては百回にも二百回にも感じられたかもしれない。
「まだまだ~」
ドシン!ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン!
「ふふん、気持ちいい? 気持ちいでしょう?」
ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン!
「おっぱいが大好きで大好きで大好きでたまらないおにいさんに、私からのプレゼント!」
ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン!
「終わり!」
――ドシン!!!
そうして、女子高生の懲罰は終わった。男がまだ生きてるのかは分からないが、首筋に手を当てた彼女がホッとしているところを見るに、心臓は動いているのであろう。そもそも普通ならば人の姿はそこには無い。彼女は痴漢をしてきたものをこうして、お望み通りおっぱいでミンチにしてあげているのである。機嫌が悪ければ最初に壁に押し当てた時点で、人は息をしなくなる。ちょっと良いと、全身パイズリの時点でやっと肉塊に変わる。もう少し良いと、最後のおっぱいハンマーで地面の染みと化す。今日は珍しく機嫌が良かったから、最後の最後まで生かしておいてやったが、今の時点まで生きをしているのは初めてである。
「ふふふふふふ、今日はあなたの奥さんに変わって私が天国を見せてあげる。本当に天国に行っちゃうかもしれないけれど、いいよね。本来ならもう死んでるし、あなたもそのくらいの覚悟で触って来たんだもんね」
女子高生はその後ブラジャーをつけ直して、制服を着た。その途中、どうやって男を持って帰ろうかと悩んだが、人を一人谷間に挟むことくらい訳のない彼女にとっては愚問と言うべき悩みであった。
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nemosynth · 2 years
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Outer National
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坂本龍一のアルバム「Beauty」2021 年リマスター盤を聴いた。
そう、Outer National って言ぅてたよなぁ。今の今まで忘れてた。なんで忘れてたんやろぅ?
あの当時、 半分日本人 半分 Outer National の私が狂喜乱舞したのは、 Yellow Magic Orchestra ではなく、 Neo Geo Ensemble であった。
♬ ♬ ♬
帰国子女は日本人として半人前、よって受験戦争マスプロ教育に追いつけ追い越せ。
イラストがあって、桜の樹の下でシート広げて弁当ひろげて楽しく食べてる様子が描いてある。これは何をしているところですか? 花見なんて知らんもんやさかい回答「ピクニック」。
ことあるたびに何故か音楽の先生からは 「これだから帰国子女は!」
英語の先生からは 「お前みたいな帰国子女には百点はやらへんからな」
かぶれて生意気だった私たちへ喝を入れるつもりだったのだろうが社会科の先生に至っては叱るとき 「そんなに日本がいやなら外国へ帰れ!」
あのときの無音は忘れられん。静寂ではない、耳の孔に指をつっこんだような詰まった無音。
で、実際に「俺は○○人になる」と言って海外へ帰ってしまったやつもおったわけで。
日本へ適応? そもそも適応って、何?
日本人なら日本のことを熟知してないといけないわけ? でも僕の心のなかには広大なアメリカの地平線がずーっとめくるめく広がっていて、それが忘れたくても忘れられなくて、もう一度この目で見たくて見たくて叶わなくてしんどくてつらくて、でも彼女からは「いつまでたっても日本に帰って来はらへんなぁ」って言われるわけで、ガキのころに埋没した米西部の景色に魅入られて取り憑かれて疲れ果てて眠り込む。
おっさんらは無責任に 「君たちには前途洋々たる未来が」 とかって抜かしよるけど、こっちは暮れゆく夕陽を眺めながら下り坂をとぼとぼ歩いていくような真っ暗な気持ち。 なんでって、こんな肥大化してただれた巨大機械産業社会、民族や宗教の争いは絶えず、知った途端に助けを求める世界ののっぴきならない実情、もう疲れ果ててしまう。
その閉塞した気持ちもあってティーンエイジ最後のまぶしい夏、ベルリンの壁をまのあたりにして、なんて政治とはむごたらしいもんなんや、こんなむごいもん作ってもーたらきっと俺の目の黒いうちは絶対に崩れへんに違いない、ってうちひしがれてたのに、それから1年ちょっとで壁崩壊、ドイツ再統一、冷戦終結。歴史は進むもんや!歴史は決して教科書の中のちーちゃい白黒写真とはちゃうんや!目の前で歴史が動いていくんや!って。
で、そんな時このアルバム「Beauty」リリース。
教授曰くアルバムコンセプト「Outer National」とは、ナショナルの外に出ること。 ナショナルなものを抱えながらつながりあうインターナショナルではなく、ナショナルなものの外に出た上でいろんな文化やカタチの間を泳ぎ回って交換しあうあきんどになってそのうちに世界が混沌としてクレオールになること、かな。HIS みたいな格安航空チケットも出てきて、地球の歩き方然り、遊ぶように地球を歩いてまわることがようやく実感として実現可能になり、その次なるものへの期待に胸をふくらませてた。
次なるものとは、そう、あんとき地球連邦ができる、現実のものになる、って思ってた。
絶対に核戦争で全人類自滅するって思ってたのに、よもやその宿命のような原罪のような重しがなくなる日がくるとは!って。
半分日本人 半分 Outer National の私が狂喜乱舞したのは、 Yellow Magic Orchestra ではなく、 Neo Geo Ensemble であった。
よぉし、俺はこの日本にとどまろう。海外へ逃げ帰るのは簡単。でもそれでは日本は変わらない。いつまでたっても幕末ちょんまげ侍メンタリティのまんま。さりとて日本社会のことを外からとやかく言ったところで万年野党のまんま。一度はドメスティックなものを外から見たんだから、今度は日本にとどまって、こざかしく親譲りのアタマ使って日本の中でのし上がって内部からこのシステムをぶち壊してやる。内側から日本に革命を引き起こしてやる。
大それた��とを考えたもんです。
と同時にそれは、外に出て知ってしまった自由さ、それに触発された革新指向と、幼いころに植え付けられた思考の枠組みとしての日本メンタリティとの2つが初めて握手した瞬間でもあった。
あんときはバブルって知らなかったからあれが実力だと思ってた。それどころか、あれは戦後焼け野原になった日本がこつこつ営々と地道な努力を積み重ねて、ようやくそれが戦後40年以上もたってついに日本から一方的な経済的視点で見る株式会社にっぽんだけではなく、ほんとうに相手をみとめて世界に手を差し出せるようになるまで実力をつけたと、ついにほんとうに目が世界各地を等価なものとして見れるような余裕が生まれてきたと、映画「ダイハード」に出てくる新しい日本人が登場する時代になったと、だからエスニック料理やエスニック家具やエスニック音楽が流行するようになったと、J-Pops という自国のポップスも世界各地のさまざまなポップスたちのなかのワン・オヴ・ゼムという視点が形成されてきたと、A-Pops や Z-Pops とかが仮にあったとしてそれらと並列に等価に語れるようになったと。
そんな戦後日本のルサンチマン的なものがついに報われて約束された未来地球社会へと羽ばたく余裕ある想いと、それを外から眺めて「ようやく日本もその心境に達したか、ようこそ地球社会へ! 世界のすべてが等価の全地球社会へ!」と歓迎して手を差し伸べる気持ちと、両方あった。映画「ブラック・レイン」に描かれた当時の大阪は、まさに未来社会ブレードランナーをまんま体現していたのであり、すべて世界の異文化が混沌と猥雑に混じり合うるつぼになったのだとすら思った。それこそ外から見てもスリリングだった。
そのあとの幻滅が、けっきょく最後にはネオコン、そしてトランプ僭主政治みたいなものを目のあたりにする。
ほんまニュージーランドの首相に日本の首相を兼任していただきたいくらい。日本は国連信託委任統治領かなんかになってニュージに面倒みてほしいくらい。
ほんま、欧州が原発へ回帰するというなら日本政府は 「お前らは事故ったことないからそんなことが言えるんだ! 日本は代替エナジーが確立できるまでは多少 CO2 を増やしてでも火力に頼ってその間にハイテクジャパンが次世代エナジーテクノロジーを開発するんだ! トータルでは我々のほうが温暖化ガス排出量は小さくて済ませられるのだ!」 って言ぅたらええのに。
♬ ♬ ♬
今年は新入社員たちと会話する機会にめぐまれた。
・自分は老害であるという前提でいること ・若者はマイノリティ、マイノリティケア必須 ・昔話厳禁。あくまで未来をインスパイアし、その触媒たらんこと、過去事例もそのためのひとつであること
彼らは物怖じすること無く壮絶ブロークンな英語であろうと果敢に私のジンガイ上司へと会話を挑む。それは新世代の日本人ではない、新種の日本人。
彼らは僕たちの元気だった時代に憬れもありつつ、それをあくまで素材として彼らなりに次のものをつくる。古着の端切れで当世風のおしゃれなコラージュをするように。
このリマスター版を聴く時、なんてかっこええのや!と驚嘆。聴こえてなかった音が聴こえてくるのはリマスターの常だが、そのクールさ、重たい鈍器なのにとんがった感。黙って弾け、と思った教授の声もセクシーにすら聴こえる。沖縄民謡にしか聴こえないフォスターの民謡。CD-ROM なのでまんま聴こえるんだと感心したゲーム音楽。
打ち砕かれた?
大丈夫、それでも地球は少しずつ良くなっていくほうへ動いている。 そして動かしていく。
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groyanderson · 3 years
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ひとみに映る影シーズン2 第五話「大妖怪合戦」
☆プロトタイプ版☆ こちらは無料公開のプロトタイプ版となります。 最低限の確認作業しかしていないため、 誤字脱字誤植誤用等々あしからずご了承下さい。 尚、正式書籍版はシーズン2終了時にリリース予定です。
(シーズン2あらすじ) 私はファッションモデルの紅一美。 旅番組ロケで訪れた島は怪物だらけ!? 霊能者達の除霊コンペとバッティングしちゃった! 実は私も霊感あるけど、知られたくないなあ…… なんて言っている場合じゃない。 諸悪の根源は恩師の仇、金剛有明団だったんだ! 憤怒の化身ワヤン不動が、今度はリゾートで炸裂する!!
pixiv版 (※内容は一緒です。) ☆キャラソン企画第五弾 後女津親子「KAZUSA」はこちら!☆
དང་པོ་
 河童信者に手を引かれ、私達は表に出る。小学校は休み時間にも関わらず、校庭に子供達が一人もいない。代わりに何故か、島の屈強そうな男達が待ち構えていた。 「いたぞ! 救済を!」「救済を!」 「え、何……わあぁっ何を!?」  島民達は異様な目つきで青木さんを襲撃! 青木さんは咄嗟に振り払い逃走。しかし校外からどんどん島民が押し寄せる。人一倍大柄な彼も、多勢に組み付かれれば為す術もないだろう! 「助けて! とと、止まってください!!」 「「救済を……救済を……!」」  ゾンビのようにうわ言を呟きながら青木さんを追う島民達。見た限り明確な悪霊はいないようだけど、昨晩の一件然り。彼らが何らかの理由で正気を失っている可能性は高い! このままでは捕まってしまう……その時タナカDが佳奈さんにカメラを預け、荒れ狂う島民達と青木さんの間に入った! 「志多田さん、紅さん、先に行って下さい! ここは僕が食い止めゴハアァ!!」  タナカDに漁師風島民のチョークタックルが炸裂! 「タナカDーっ!」 「と……ともかく行け! 音はカメラマイクでいいから、ばっちり心霊収めてきて下さいよッ……!」 「い、行きましょう! ともかく大師が大変なんです!!」  河童信者に急かされ、私と佳奈さんは月蔵小学校を離れた。傾斜が急な亡目坂を息絶えだえに駆け上がると、案内された先は再び御戌神社。嫌な予感が募る。牛久大師は……いた。大散減を封印していた祠にだらりと寄りかかり、足を投げ出して座っている。しかも、祠の護符が剥がされている! 「んあー……まぁま、まぁまぁ……」  牛久大師は赤子のように指を咥え、私を見るなりママと呼び始めた。 「う……牛久大師?」 「この通りなのです。大師は除霊のために祠の御札を剥がして、そうしたら……き、急に赤ちゃんに……」  河童信者は指先が震えている。大師は四つん這いで私ににじり寄った。 「え、あの……」 「エヘヘ、まんまー! ぱいぱい! ぱいぱいチュッチュ!!」  大師が口をすぼめて更ににじり寄る。息が臭い。大師のひん剥いた唇の裏側にはビッシリと毛穴ような細孔が空いていて、その一粒一粒にキャビアみたいな黒い汚れが詰まっている。その余りにも気色悪い裏唇が大師の顔の皮を裏返すように広がっていき……って、これはまさか! 「ヒィィィッ! 寄るな、化け物!!」  私は咄嗟に牛久大師を蹴り飛ばしてしまった。今のは御戌神社や倶利伽羅と同じ、金剛の者に見える穢れた幻視!? という事は、大師は既に…… 「……ふっふっふっふ。かーっぱっぱっぱっぱっぱ!!」  突然大師は赤子の振りを止め、すくっと立ち上がった。その顔は既に平常時に戻っている。 「ドッキリ大成功ー! 河童の家でーす!」 「かーっぱっぱ!」「かっぱっぱっぱ!」  先程まで俯いていた河童信者も、堰を切ったように笑い出す。 「いやぁパッパッパ。一度でいいから、紅一美君を騙してみたかったのだ! 本気で心配してくれたかね?」 「かっぱっぱ!!」「かっぱっぱっぱぁーっ!!」  私が絶句していると、河童の家は殊更大きく笑い声を上げた。けどよく見ると、目が怯えている? 更には何故か地面に倒れたまま動かない信者や、声がかすれて笑う事すらままならない信者もいるようだ。すると大師はピタリと笑顔を止め、その笑っていない信者を睨んだ。 「……おん? なんだお前、どうした。面白くないか?」  大師と目が合った信者はビクリと後ずさり、泣きそうな声で笑おうと努力する。 「かかッ……かっぱ……かぱぱ……」 「面、白、く、ないのか???」  大師は更に高圧的に声を荒らげた。 「お前は普段きちんと勤行してるのか? 笑顔に勝る力無し。教祖の俺が面白い事を言ったら笑う。教義以前に人として当たり前のマナーだろ、エエッ!?」 「ひゃいぁ!! そそ、そ、その通りです! メッチャおもろかったです!!」 「面白かったんなら笑えよ!! はぁ、空気悪くしやがって」  すると大師は信者を指さし、「バーン」と銃を撃つ真似をする。 「ひいっ……え?」 「『ひいっ……え?』じゃねえだろ? 人が『バーン』っつったら傷口を抑えて『なんじゃカパあぁぁ!?』。常識だろ!?」 「あっあっ、すいません、すいません……」 「わかったか」 「はい」 「本当にわかったか? もっかい撃つぞ!」 「はい!」 「ほら【バーン】!」 「なんじゃッ……エッ……え……!?」  信者は大師が期待するリアクションを取らず、口から一筋の血を垂らして倒れた。数秒後、彼の腹部から血溜まりが静かに広がっていく。他の信者達は顔面蒼白、一方佳奈さんは何が起きたか理解できず唖然としている。彼は……牛久大師の脳力、声による衝撃波で実際に『銃殺』されたんだ。 「ああもう、下手糞」 「……うわああぁぁ!」「助けてくれーーっ!!」  信者達は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。すると大師は深くため息をつき、 「はあぁぁぁ……そこは笑う所だろうが……【カーッパッパァ】!!!」  再び特殊な声を発した。すると祠から大量の散減がワサワサと吹き出し、信者達を襲撃する! 「ボゴゴボーーッ!」「やめ、やめて大師、やめアバーーッ!」  信者達は散減に体を食い荒らされ、口に汚染母乳を注ぎこまれ、まさに虫に寄生された動物のようにもんどり打つ! 「どうだ、これが笑顔の力よ。かっぱっぱ!」 「牛久舎登大師! 封印を解いて、どうなるかわかってるんですか!?」  私は大師を睨みつける。すると大師は首をぐるりと傾け、私に醜悪な笑みを浮かべた。 「ん? 除霊を依頼された俺が札を剥がすのに何の問題がある? 最も、俺は最初(ハナ)からそうするつもりで千里が島に来たのだ」 「何ですって!?」 「コンペに参加する前から、千里が島には大散減という怪物がいると聞いていた……もし俺がそいつを除霊できれば、河童の家は全国、いや世界規模に拡大する! そう思っていたのだがな。封印を解いてみたら、少しだけ気が変わったよ……」  大師は祠を愛おしそうに撫で回す。 「大散減は俺を攻撃するどころか、法力を授けてくれた。この俺の特殊脳力『ホーミー』の音圧は更に強力になり、もはや信者の助けなどなくとも声で他人を殺せるほどにだ!」  信者達は絶望的な顔で大師を見ている。この男、どうやら大散減に縁を食われたようだ。怪物の悪縁に操られているとも気付かず、与えられた力に陶酔してしまったのだろう。 「もう除霊なんかやめだ、やめ。俺は大散減を河童総本山に連れて帰り、生き神として君臨してやる! だがその前に、お前と一戦交えてみたかったのだ……ワヤン不動よ!」 「!」  彼は再び私を『ワヤン不動』と呼んだ。しかもよりによって、佳奈さんの目の前で。 「え、一美ちゃん……牛久大師と知り合いなの……?」 「いいえ……い、一体、何の話ですか?」 「とぼけるな、紅一美君! 知っているぞ、お前の正体はワヤン不動。背中に影でできた漆黒の炎を纏い、脚まで届く長い腕で燃え盛る龍の剣を振るう半人半仏の影人間(シャドーパーソン)だ! 当然そこいらの霊能者とは比べ物にならない猛者だろう。しかも大いなる神仏に楯突く悪霊の眷属だと聞くが」 「和尚様を愚弄するな!」  あっ、しまった! 「一美ちゃん……?」  もう、全てを明かすしかないのか……私はついに、プルパに手をかけた。しかしその時、佳奈さんが私の腕を掴む。 「わかった、一美ちゃん逃げよう。今この人に関わっちゃダメ! 河童信者も苦しそうだし、きっと祠のせいで錯乱してるんだよ!」 「佳奈さん……」  佳奈さんは私を連れて鳥居に走った。けど鳥居周辺には何匹もの散減が待ち構えている! 「かぁーっぱっぱ、何も知らぬカラキシ小娘め! その女の本性を見よ!」  このままでは散減に襲われるか正体がばれるかの二択。それなら私の取るべき行動は、決まりきっている! 「佳奈さん、止まって!」  私は佳奈さんを抱き止め、足元から二人分の影を持ち上げた! 念力で光の屈折を強め、影表面の明暗コントラストを極限まで高めてから……一気に放出する! 「マバーッ!」「ンマウゥーッ!」  今は昨晩とは打って変わって快晴。強烈な光と影の熱エネルギーを浴びた散減はたちまち集団炎上! けど、これでついに…… 「かーっぱぱぱ!! ワヤン不動、正体暴いたり! さあ、これで心置き無く戦え「どうやら間に合ったようですね」  その時、鳥居の外から牛久大師の言葉を遮る声。そして、ぽん、ぽこぽん、と小気味よい小太鼓のような音。 「誰だ!?」  ぽんぽこ、ぽんぽこ、ぽん……それは化け狸の腹鼓。鳥居をくぐり現れた後女津親子は、私達と牛久大師の間に立ちはだかった! 「『ラスタな狸』が知らせてくれたんですよ。牛久舎登大師が大散減に取り憑かれて錯乱し、したたびさんに難癖をつけているとね。だが、この方々には指一本触れさせない」 「約束通り、手柄は奪わせてもらったよ。ぽんぽこぽーん!」  万狸ちゃんが私にウインクし、斉二さんはお腹をぽんと叩いてみせる。 「ええい、退け雑魚め! お前などに興味は【なあぁいッ】!!」  大師の声が響くと、祠がズルリと傾き倒れた。そこから今までで最大級のおぞましい瘴気が上がり、大師を飲み込んでいく! 「クアァーーッパッパッパァ! 力が……力がみなぎってくるくるクルクルグゥルゥゥゥアアアアア!!!!」  バキン、ボキン! 大師の胸部から肋骨が一本ずつ飛び出し、毛の生えた大脚に成長していく! 「な……なっ……!?」  それは霊感のない者にも見える物理的光景だ。佳奈さんは初めて目の当たりにした心霊現象に、ただただ腰を抜かす。しかし後女津親子は怯まない! 「逃げて下さい、と言いたいところですが……この島に、私の背中よりも安全な場所はなさそうだ」
གཉིས་པ་
 斉一さんはトレードマークである狸マントの裾から、琵琶に似た弦楽器を取り出した。同時に彼の臀部には超自然の尻尾が生え、万狸ちゃんと斉二さんも臨戦態勢に入る。病院で加賀繍さんのおばさまを守っている斉三さんは不在だ。一方ついさっきまで牛久大師だった怪獣は、毛むくじゃらの細長い八本足に八つの顔。頂上にそびえる胴体は河童の名残の禿頭。巨大ザトウムシ、大散減だ! 【【退け、雑魚が! 化け狸なんぞに興味はない! クァーッパッパァアア!!!】】  縦横五メートル級の巨体から放たれる衝撃音! 同時に斉一さんもシャラランと弦楽器を鳴らす。すると弦の音色は爆音に呑み込まれる事無く神秘的に響き、私達の周囲のみ衝撃を打ち消した! 【何ィ!?】 「その言葉、そのままお返し致します。河童なんぞに負けたら妖怪の沽券に関わるのでね」 【貴様アァァ!!】  チャン、チャン、チャン、チャン……爪弾かれる根色で気枯地が浄化されていくように、彼の周囲の景色が色鮮やかになっていく。よく見るとその不思議な弦は、斉一さんの尻尾から伸びる極彩色の糸が張られていた。レゲエめいたリズムに合わせて万狸ちゃんがぽんぽこと腹鼓を打ち、斉二さんは尻尾から糸を周囲の木々や屋根に伝わせる。 【ウヌゥゥゥーッ!】  大散減は斉一さんに足払いを仕掛けた。砂利が撒き上がり、すわ斉一さんのマントがフワリと浮く……と思いきや、ドロン! 次の瞬間、私達の目の前では狸妖怪と化した斉一さんが、涼しい顔のまま弦をかき鳴らし続けている。幽体離脱で物理攻撃無効! 「どこ見てんだ、ノロマ!」  大散減の遥か後方、後女津斉一の肉体を回しているのは斉二さんだ! 木々に伝わせた糸を掴み、ターザンの如くサッサと飛び移っていく。そのスピードとテクニックは斉一さんや斉三さんには無い、彼だけの力のようだ。大散減は癇癪を起こしたように突進、しかし追いつけない! すると一方、腹鼓を打っていた万狸ちゃんが大散減に牙を剥く! 「準備オッケー。ぽーん、ぽっこ……どぉーーーん!!」  ドコドコドコドコドコドォン!!!! 張り巡らされた糸の上で器用に身を翻した万狸ちゃんは、無数の茶釜に妖怪変化し大散減に降り注ぐ! 恐竜も泣いて絶滅する大破壊隕石群、ブンブクメテオバーストだ!! 【ドワーーーッ!!!】  大散減はギャグ漫画的なリアクションと共に吹っ飛んだ! 樹齢百年はあろう立派な椎木に叩きつけられ、足が一本メコリとへし折れる。その傷口から穢れた縁母乳が噴出すると、大散減はグルグルと身を回転し飛沫を撒き散らした! 椎木枯死! 「ッうおぁ!」  飛び石が当たって墜落した斉二さんの後頭部に穢れ母乳がかかる。付着部位はまるで硫酸のように焼け、鼻につく激臭を放つ。 「斉二さん!」 「イテテ、マントがなかったら禿げるところだった」 【なんだとッ!? 貴様ァ! 河童ヘアを愚弄するなアアァ!】  再び起き上がる大散減。また何か音波攻撃を仕掛けようとしている!? 「おい斉一、まだか!」 「まだ……いや、行っちまうか」   ジャカジャランッ!! 弦楽器が一際強いストロークで奏でられると、御戌神社が極彩色に包まれた! 草花は季節感を無視して咲き乱れ、虫や動物が飛び出し、あらゆる動物霊やエクトプラズムが宙を舞う。斉一さんは側転しながら本体に戻り、万狸ちゃんも次の妖怪変化に先駆けて腹鼓を強打する! 「縁亡き哀れな怪物よ、とくと見ろ。この気枯地で生ける命の縁を!」  ジャカン!! ザワワワワ、ピィーッギャァギャァーッ! 弦の一弾きで森羅万象が後女津親子に味方し、花鳥風月が大散減を襲う! 千里が島の全ての命を踊らせる狸囃子、これが地相鑑定士の戦い方だ! 【【しゃらくせェェェェェエエエ!!】】  キイィィーーーーィィン! 耳をつんざく超音波! 満ち満ちていた動植物はパタパタと倒れ、霊魂達は分解霧散! 再び気枯た世界で、大散減の一足がニタリと笑い顔を上げると……目の前には依然として生い茂る竹藪の群青、そして大鎌に化けた万狸ちゃん! 「竹の生命力なめんなあああぁぁ!!!」  大鎌万狸ちゃんは竹藪をスパンスパンとぶった斬り、妖力で大散減に投げつける。竹伐狸(たけきりだぬき)の竹槍千本ノックだ! 【ドヘェーーー!!】  針山にされた大散減は昭和のコメディ番組のようにひっくり返る! シャンパン栓が抜かれるように足が三本吹き飛び、穢れ母乳の噴水が宙に螺旋を描いた! 「一美ちゃん、一瞬パパ頼んでいい?」  万狸ちゃんに声をかけられると、斉一さんが再び私達の前に戻ってきた。目で合図し合い、私は影を伸ばして斉一さんの肉体に重ねる。念力を送りこんで彼に半憑依すると同時に、斉一さんは化け狸になって飛び出した。 【【何が縁だクソが! 雑魚はさっさと死んで分解霧散して強者の養分になればいい、最後に笑うのは俺だけでいいんだよ! 弱肉強食、それ以外の余計な縁はいらねぇだろうがああァーーッ!!!】】  大散減は残った四本足で立ち上がろうとするが、何故かその場から動けない。よく見ると、大散減の足元に河童信者達がしがみついている! 「大師、もうやめてくれ!」 「私達の好きだった貴方は、こんなつまらない怪物じゃなかった!」 「やってくれ、狸さん。みんなの笑顔の為にやってくれーーーッ!!」 【やめろ、お前ら……死に損ないが!!】  大散減はかつての仲間達を振り飛ばした。この怪物にもはや人間との縁は微塵も残っていないんだ! 「大散減、許さない!」  ドォンッ! 心臓に響くような強い腹鼓を合図に、万狸ちゃんに斉一さんと斉二さんが合体する。すると全ての霊魂や動植物を取り込むような竜巻が起こり、やがて巨大な生命力の塊を形成した。あれは日本最大級の狸妖怪変化、大(おっ)かむろだ! 「どおおぉぉぉおおん!!!」  大かむろが大散減目掛けて垂直落下! 衝撃で地が揺れ、草花が舞い、カラフルな光の糸が空を染める!! 【【やめろーーっ! 俺の身体が……力がァァァーーーッ!!!】】  質量とエーテル体の塊にのしかかられた大散減はブチブチと音を立て全身崩壊! 残った足が一本、二本と次々に潰れていく。 【【【ズコオオォォォォーーーーー!!!!】】】  極彩色の嵐が炸裂し、私は爆風から佳奈さんを庇うように抱きしめる。轟音と光が収まって顔を上げると、そこには元通りに分かれた後女津親子、血や汚れにまみれた河童信者、そして幾つもの命が佇んでいた。
གསུམ་པ་
「一美ちゃーーん!」  戦いを終えた万狸ちゃんが私に飛びついた。支えきれず、尻餅をつく。 「きゃっ!」 「ねえねえ、見た? 私の妖術凄かったでしょ!?」 「こら、万狸! 紅さんに今そんな事したら……」  斉一さんがちらっと佳奈さんに視線を向けた。万狸ちゃんは慌てて私から離れ、「はわわぁ! 危ない危ない~」と可愛く腹鼓を叩いた。私も横を見ると、幸い佳奈さんは目を閉じて何か考えているようだった。 「佳奈さん?」 「……そうだよ、怪物は『五十尺』……気をつけて、大散減まだ死んでないかも!」 「え!?」  その時、ズガガガガガ! 地面が激しく揺れだす。後女津親子は三人背中合わせになり周囲を警戒。佳奈さんがバランスを崩して転倒しそうになる。抱きとめて辺りを見渡すと、祠と反対側の手洗い場に煙突のように巨大な柱が天高く突き上がった! 柱は元牛久大師だったご遺体をかっさらって飲み込む。咀嚼しながらぐにゃりと曲がり、その先端には目のない顔。まさか、これは…… 「大散減の……足!」 「ちょっと待って下さい。志多田さん……『大散減は五十尺』と仰いましたか!?」  斉一さんが血相を変えて聞く。言われてみれば、青木さんもそんな事を言っていた気がする。 「あの、こんな時にすいません。五十尺ってどれくらいなんですか?」 「「十五メートルだよ!!」」 「どえええぇぇ!?」  恥ずかしい事に知らないのは私とタナカDだけだったようだ。にわかには信じ難いけど、体長十五メートルの怪物大散減は、地中にずっと潜んでいたんだ! その寸法によると、牛久大師が取り込んでいた力は大散減の足一本程度にも満たない事になる。ところが、大師を飲み込んだ大散減の足はそのまま動かなくなった。 「あ……あれ?」  万狸ちゃんは恐る恐る足に近付き観察する。 「……消化不良かな。封印するなら今がチャンスみたい」  斉一さんと斉二さんは尻尾の糸の残量を確認する。ところがさっきの戦闘で殆ど使い果たしてしまっていたようた。 「参ったな……これじゃ仮止めの結界すら張れないぞ」 「斉三さんを呼んでくるよ、パパ。ちょっと待ってて!」  万狸ちゃんが亡目坂へ向かう。すると突然斉一さんが呼び止めた。 「止まれ、万狸!」 「え?」  ボタッ。振り向いた万狸ちゃんの背後で何かが落下した。見るとそれは……まだ赤い血に濡れた人骨。それも肋骨だ! 「ンマアアアァァゥゥゥ!!!」 「ち、散減!?」  肋骨は金切り声を上げ散減に変化! 万狸ちゃんが慌てて飛び退くも、散減は彼女を一瞥もせず大散減のもとへ向かう。そしてまだ穢れていない母乳を口角から零しながら、自ら大散減の口の中へ飛びこんでいった。 「一美ちゃん、狸おじさん、あれ!」  佳奈さんが上空を指す。見上げるとそこには、宙に浮かぶ謎の獣。チベタンマスティフを彷彿とさせる超大型犬で、毛並みはガス火のように青白く輝いている。ライオンに似たたてがみがあり、額には星型の中央に一本線を引いたような記号の霊符。首には首輪めいて注連縄が巻かれていて、そこに幾つか人間の頭蓋骨があしらわれている。目は白目がなく、代わりにまるで皆既日蝕のような光輪が黒い眼孔内で燦然と輝く。その獣が鮮血滴る肋骨を幾つも溢れるほど口に咥え、グルグルと唸っているんだ。私と佳奈さんの脳裏に、同じ歌が思い浮かぶ。 「誰かが絵筆を落としたら……」 「お空で見下ろす二つの目……月と太陽……」  今ようやく、あの民謡の全ての意味が明らかになった。一本線を足した星型の記号、そして大散減に危害を加えると現れる、日蝕の目を持つ獣。そうだ。千里が島にいる怪物は散減だけじゃない。江戸時代に縁を失い邪神となった哀れな少年、徳川徳松……御戌神! 「ガォォォ!!」  御戌神が吠え、肋骨をガラガラと落とした。肋骨が散減になると同時に御戌神も垂直降下し万狸ちゃんを狙う! 「万狸!」  すかさず斉二さんが残り僅かな糸を伸ばし、近くの椎木の幹に空中ブランコをかけ万狸ちゃんを救出。但しこれで、後女津親子の妖力残量が尽きてしまった。一方御戌神は、今度は斉一さんを狙い走りだす! 一目散に逃走しても、巨犬に人間が追いつけるわけもなし。斉一さんは呆気なく押し倒されてしまった。 「うわあぁ!」 「パパ!!」  斉一さんを羽交い締めにした御戌神は大口を開く! 今まさに肋骨を食いちぎろうとした、その時……御戌神の視界を突如闇が覆う! 「グァ!?」  御戌神は両目を抑えてよろめく。その隙に斉一さんは脱出。佳奈さんが驚愕した顔で私を見る……。 「斉一さん、斉二さん、万狸ちゃん。今までお気遣い頂いたのに、すみません……でももう、緊急事態だから」  私の影は右手部分でスッパリと切れている。御戌神に目くらましをするために、切り取って投げたんだ。 「じゃ、じゃあ一美ちゃんって、本当に……」 「グルアァァ!!」  佳奈さんが言いかけた途中、私は影を介して静電気のような痛みを受ける。御戌神は自力で目の影を剥がしたようだ。それが出来るという事は、彼も私と同じような力を持っているのか? 「……大師の言ったことは、三分の一ぐらい本当です」  御戌神が私に牙を剥く! 私はさっき大師の前でやった時と同じように、影表面の光の屈折率を上げる。表面は銀色の光沢を帯び、瞬く間に鏡のようになる。 「ガルル……!」  この『影鏡』で御戌神を取り囲み撹乱しつつ、ひとまず佳奈さん達から離れる。けど御戌神はすぐに追ってくるだろう。 「ワヤンの力は影の炎。魂を燃やして、悪霊を焼くんです」  逃げながら木や物の影を私の姿に整形、『タルパ』という法力で最低限動き回れるだけの自立した魂を与える。 「けど、その力は本当に許してはいけない、滅ぼさなきゃいけない相手にしか使いません。だぶか私には、そうでもしなきゃいけない敵がいるって事です」  ヴァンッと電流のような音がして、御戌神が影鏡を突破した。私は既に自分にも影を纏い、傍目には影分身と見���けがつかなくなっている。けど御戌神は一切迷いなく、私目掛けて走ってきた。 「霊感がある事、黙っていてすみませんでした。けど私に僅かでも力がある事が公になったら、きっと余計な災いを招いてしまう」  それは想定内だ。走ってくる御戌神の前に影分身達が立ちはだかり、全員同時自爆! 無論それは神様にとって微々たるダメージ。でも隙を作るには十分な火力だ。御戌神の背後を取り、『影踏み』で完全に身動きを封じる! 「佳奈さんは特に、巻き込みたくなかったんです……きゃっ!?」  突然御戌神が激しく発光し、影踏みの術をかき消した。影と心身を繋いでいた私も後方に吹き飛ばされる。ドラマや舞台出演で鍛えたアクションで何とか受身を取るも、顔を上げると既に御戌神は目の前! 「……え?」  私はこの時初めてちゃんと目が合った御戌神に、一瞬だけ子犬のように切なげな表情を見た。この戌……いや、この人は、まさか…… 「ガルルル!」 「くっ」  牙を剥かれて慌てて影を持ち上げ、気休めにもならないバリアを張る。ところが御戌神は意外にも、そんな脆弱なバリアにぶち当たって停止してしまった。私の方には殆ど負荷がかかっていない。よく見ると御戌神とバリアの間にもう一層、光の壁のようなものがあるのが見える。やっぱり彼は私と同じ……いや、逆。光にまつわる力を持っているようだ。 「あなた、ひょっとして……本当は戦いたくないんですか?」 「!」  一瞬私の話に気を取られた御戌神は、光の壁に押し戻されて後ずさった。日蝕の瞳をよく見ると、月部分に覆われた裏側で太陽の瞳孔が物言いたげに燻っている。 「やっぱり、大散減の悪縁に操られているだけなんですね」  私も彼と戦いたくない。だからまだプルパは鞄の中だ。代わりに首にかけていたお守り、キョンジャクのペンダントを取った。御戌神は自らの光に苦しむように、唸りながら地面を転がり回る。 「グルル……ゥウウウ、ガオォォ!!」  光を振り払い、御戌神は再び私に突進! 私も御戌神目掛けてキョンジャクを投げる。ペンダントヘッドからエクトプラズム環が膨張し、投げ縄のように御戌神を捕らえた! 「ギャウッ!」  御戌神はキョンジャクに縛られ転倒、ジタバタともがく。しかし数秒のうちに、憑き物が取れたように大人しくなった。これは気が乱れてしまった魂を正常に戻す、私にキョンジャクをくれた友達の霊能力によるものだ。隣にしゃがんで背中を撫でると、御戌神の目は日蝕が終わるように輝きを増していく。そこからゆっくりと、煤色に濁った涙が一筋流れた。 「ごめんなさい、苦しいですよね。ちょっと大散減を封印してくるので、このまま少し我慢でき��すか?」  御戌神は「クゥン」と弱々しく鳴き、微かに頷いた。私は御戌神の傍を離れ、地面から突き出た大散減の足に向かう。 「ひ、一美ちゃん!」  突然佳奈さんが叫ぶ。次の瞬間、背後でパシュン! と破裂音が鳴った。何事かと思い振り向くと、御戌神を拘束していたキョンジャクが割れている。御戌神は黒い煙に纏わりつかれ、息苦しそうに体をよじりながら宙に浮き始めた。 「カッ……ガァ……!」  御戌神の顔色がみるみる紅潮し、足をバタつかせて苦悶する。救出に戻ろうと踵を返すと、御戌神を包む黒煙がみるみる人型に固まっていき…… 「躾が足りなかったか? 生贄は生贄の所業を全うしなければならんぞ」  そこには黒い煙の本体が、人間の皮膚から顔と局部だけくり抜いた肉襦袢を着て立っていた。それを見た瞬間、血中にタールが循環するような不快感が私の全身を巡った。 「え、ひょっとしてまた何か出てきたの!?」 「……佳奈さん、斉一さんと一緒に逃げて下さい。噂をすれば、何とやらです」  佳奈さんに見えないのも無理はない。厳密にはその肉襦袢は、死体そのものじゃなくて故人から奪い取った霊力でできている。亡布録(なぶろく)、金剛有明団の冒涜的エーテル法具。 「噂をすればってまさか、一美ちゃんが『絶対に滅ぼさなきゃいけない相手』がそこに……っ!?」  圧。悪いが佳奈さんは視線で黙らせた。これからこの神社は、灼熱地獄と化すのだから。 「い、行こう、志多田さん!」  斉一さん達は佳奈さんや数人の生き残った河童信者を率いて神社から退散した。これで境内に残ったのは、私と御戌神と黒煙のみ。しかし…… 「……どうして黒人なんだ?」  私は黒煙に問いかけた。 「ん?」 「どうして肉襦袢の人種が変わったのかと聞いているんだ。二十二年前、お前はアジア人だっただろう。前の死体はどうした」 「……随分と昔の話をするな、裏切り者の巫女よ。貴様はファッションモデルになったと聞くが、二十年以上一度もコーディネートを変えた事がないのかね?」  煙はさも当然といった反応を返す。この調子なら、こいつは服を買い換える感覚で何人もの肉体や魂を利用していたに違いない。私の、和尚様も。この男が……悪霊の分際で自らを『如来』と名乗り、これまで数え切れない悪行を犯してきた外道野郎が! 「金剛愛輪珠如来(こんごうあいわずにょらい)ィィィーーーッ!!!!」  オム・アムリトドバヴァ・フム・パット! 駆け出しながら心中に真言が響き渡り、私はついに鞄からプルパを取り出す! 憤怒相を湛える馬頭観音が熱を持ち、ヴァンと電磁波を発し炎上! 暗黒の影炎が倶利伽羅龍王を貫く刃渡り四十センチのグルカナイフに変化。完成、倶利伽羅龍王剣! 「私は神影不動明王。憤怒の炎で全てを影に還す……ワヤン不動だ!」  今度こそ、本気の神影繰り(ワヤン・クリ)が始まる。 
བཞི་པ་
 殺意煮えくり返る憤怒の化身は周囲の散減を手当り次第龍王剣で焼却! 引火に引火が重なり肥大化した影の炎を愛輪珠に叩き込む! 「一生日の当たらない体にしてやる!!」 「愚かな」  愛輪珠は業火を片手で易々と受け止め、くり抜かれた顔面から黒煙を吐出。たちまち周囲の空気が穢れに包まれ、炎が弱まって……いく前に愛輪珠周辺の一帯を焼き尽くす! 「ぐわあぁぁ、やめろ、ギャアアァアガーーーッ!!!」  猛り狂う業火に晒され龍王剣が激痛に叫んだ! しかし宿敵を前にした暴走特急は草の根一本残さない!  「かぁーーっはっはっはァ! ここで会ったがお前の運の尽きよ。滅べ、ほおぉろべえええぇーーーっ!!!」  殺意、憎悪、義憤ンンンンッ! しかし燃え盛る炎の中、 「まるで癇癪を起こした子供だ」  愛輪珠は平然と棒立ちしている。 「どの口が言うか、外道よ! お前が犯してきた罪の数々を鑑みれば癇癪すら生ぬるい。切り刻んだ上で煙も出ないほど焼却してくれようぞおぉぉ!!」  炎をたなびかせ、愛輪珠を何度も叩き斬る! しかし愛輪珠は身動ぎ一つせず、私の攻撃を硬化した煙で防いでしまう。だから何だ、一回で斬れないなら千回斬ればいい! 人生最大の宿敵を何度も斬撃できるなんて、こんなに愉快な事が他にあるだろうか!? 「かぁーはははは! もっと防げ、もっとその煙を浪費するがいい! かぁーはっはっはァ!!」 「やれやれ、そんなにこの私と戯れたいか」  ゴォッ! 顔の無い亡布録から煙が吹き出す。漆黒に燃えていた視界が一瞬にして濁った灰色で染まった。私はたちまち息が出来なくなる。 「ぐ、ァッ……」  酸欠か。これで炎が弱まるかと思ったか? 私の炎は影、酸素など不要だ! 「造作なし!」  意地の再炎上! だぶか島もろとも焼き尽くしてやる…… 「ん?」  シュゴオォォン、ドカカカカァン!! 炎が突然黄土色に変わり、化学反応のように爆ぜた! 「な……カハッ……」 「そのような稚拙な戦い方しか知らずに、よく金剛の楽園に楯突こうと思ったな。哀れな裏切り者の眷族よ」 「だ、黙れ……くあううぅっ!」  炎とはまるで異なる、染みるような激痛が私の体内外を撫で上げる。地面に叩きつけられ、影がビリビリと痙攣した。かくなる上は、更なる火力で黄土色の炎を上書きしないと…… 「っ!? ……がああぁぁーーっ!!」  迂闊だった。新たな炎も汚染されている! 「ようやく大人しくなったか」  愛輪珠が歩み寄り、瀕死の私の頭に恋人のようにぽんぽんと触れる。 「やめろ……やめろおぉ……!」  全身で行き場のない憤怒が渦巻く。 「巫女よ。お前は我々金剛を邪道だとのたまうが、我々金剛の民が自らの手で殺生を犯した事はないぞ」 「ほざけ……自分の手を汚さなければ殺生ではないだと……? だからお前達は邪道なんだ……!」  煮えくり返った血液が、この身に炎を蘇らせる。 「何の罪もない衆生に試練と称して呪いをかけ、頼んでもいないのに霊能力を与え……そうしてお前達が造り出した怪物は、娑婆で幾つもの命を奪う。幾つもの人生を狂わせる! これを邪道と言わずして何と言えようか、卑怯者!」 「それは誤解だ。我々は衆生の為に、来たる金剛の楽園を築き上げ……」 「それが邪道だと言っているんだ!」  心から溢れた憤怒はタールのような影になって噴出する! 汚染によって動かなくなった体が再び立ち上がる! 「そこで倒れている河童信者達を見ろ。彼らは牛久大師を敬愛していた。大師が大散減に魅了されたのは、確かに自己責任だったかもしれない。だがそもそも、お前達があんな怪獣を生み出していなければこんな事にはならなかった。徳川家の少年が祟り神になる事だってなかった!!」  思い返せば思い返すほど、影はグラグラと湧き出る! 「かつてお前に法具を植え付けられた少年は大量殺人鬼になり、村を一つ壊滅させた。お前に試練を課せられた少女は、生まれた時から何度も命の危機に晒され続けた。それに……それに、私の和尚様は……」 「和尚? ……ああ。あの……」  再点火完了! 影は歪に穢れを孕んだまま、火柱となり愛輪珠を封印する! たとえ我が身が消し炭になろうと、こいつだけは滅ぼさなければならないんだ! くたばれ! くたばれえええぇぇぇえええ!!! 「……あの邪尊(じゃそん)教徒の若造か」 「え?」  一瞬何を言われたか理解できないまま、気がつくと私は黄土色の爆風に吹き飛ばされていた。影と内臓が煙になって体から離脱する感覚。無限に溢れる悔恨で心が塗り固められる感覚。それはどこか懐かしく、まるで何百年も前から続く業のように思えた。 「ぐあっ!!」  私は壊れかけの御戌塚に叩きつけられる。耳の中に全身が砕ける音が響いた。 「ほら見ろ、殺生に『手を汚さなかった』だろう? それにしてもその顔は、奴から何も聞かされていないようだな」 「かっ……ぁ……」  黙れ。これ以上和尚様を愚弄するな。そう言いたかったのに、もはや声は出ない。それでも冷めやらぬ怒りで、さっきまで自分の体だった抜け殻がモソモソと蠢くのみ。 「あの男は……金剛観世音菩薩はな……」  言うな。やめろ。そんなはずはないんだ。だから…… 「……チベットの邪神、ドマル・イダムを崇拝する邪教の信者だ」  嘘だ。……うそだ。 「あっ……」 「これは金剛の法具だ。返して貰うぞ」  愛輪珠に龍王剣を奪われた。次第に薄れていく僅かな影と意識の中、愛輪珠が気絶した御戌神を掴んで去っていく姿を懸命に目で追う。すると視野角外から……誰かが…… 「一美ちゃん、一美ちゃーん!」 「ダメだ志多田さん、危険すぎる!」  佳奈さん……斉二……さん…… 「ん? 無知なる衆生が何故ここに……? どれ、一つ金剛の法力を施してやろうか」  逃……げ…… 「ヒッ……いぎっ……うぷ……」 「成人がこれを飲み込むのは痛かろう。だが衆生よ、これでそなたも金剛の巫女になれるのだ」  や…………ろ………… 「その子を離せ、悪霊……ぐッ!? がああぁぁああああッ!!!!」 「げほ、オエッ……え……? ラスタな、狸さん……?」  ……………… 「畜生霊による邪魔が入ったか。衆生の法力が中途半端になってしまった、これではこの娘に金剛の有明は訪れん」 「嘘でしょ……私を、かばってくれたの……!?」 「それにしてもこの狸、いい毛皮だな。ここで着替えていこう」 「な、何するの!? やめてよ! やめてえぇーーーっ!!」  ………………もう、ダメだ……。
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#044 ボーイ
 日本国千葉県市川市塩浜二丁目にある市川塩浜というなにもかもが中途半端な駅の安っぽいベンチに、その男の子は座っていた。毎日いた。毎晩いた。日がな一日そこにいた。あるときは、菓子パンを頬張っていた。あるときは、ペットボトルを握っていた。あるときは、電車のドアが閉まるタイミングに合わせてフエラムネを鳴らしていた。あるときは、ぶんぶんゴマを回転させていた。どこで湯を調達したのか、カップヌードルに蓋をして、三分、じっと待っていることもあった。だいたいは小ぶりのリュックサックを背負っていたが、コンビニのビニール袋だけを持っているときもあった。紙袋を横に置いているときもあった。いつも、何も持っていないような顔をして、そこにいた。  市川塩浜駅の利用客は、周辺の工場や倉庫に努めている会社員や契約社員やアルバイトがほとんどだった。あとは、周辺の工場や倉庫に視察にきた本社の人間。男の子はそのことを知らない。なんだかみんな、一様に、具合の悪そうな顔で電車から出てくるな。男の子はそう思っていた。  ごくまれに、駅のホームで電車を待っている人が、男の子に話しかけてきた。ぼく、どうしたの? 学校は? お母さんは? 話しかけてくる人は、なぜかほとんどが女性だった。小さなツヤツヤしたバックを肩から下げ、パンプスかヒールを履いているような。視察の人間。男の子はそのたび、相手をじっと見つめ、意味ありげなジェスチャーと、意味ありげな口パクをした。自分の耳の辺りを指したり、言葉にならないうめきのような声をかすかに出した。そうすると、だいたいの人は黙り込んだ。困った顔もした。そしてそのあと、大抵の人が慌てた様子でカバンから紙とペンを、あるいはスマホを取り出した。男の子はそれを受け取り、毎回、こう書いた。 「ひとを まっています だいじょうぶです ありがとう さよなら」  相手は安心と困惑とバツの悪さが入り混じった顔をして、手を降って男の子から離れる。だいたいそんな感じだった。  男の子は考える。どうして話しかけてくるとき、最初にぼくが付くんだろう。なんだか、名前みたいだ。マイネームイズボク。男の子は不思議だった。僕はただここにいるだけなのに、話しかけてくる人は、どうしてみんな学校のことや親のこと(それも、なぜか必ず、お父さんじゃなくて、お母さんのこと)を聞いてくるんだろう。どうしたの? と言われても、答えようがなかった。そっちこそ、どうしたの? と、逆に聞いてみたかった。みんな、どういう答えを求めているのだろう。  男の子はその日、小さな巾着袋を持っていた。中にはパインアメが袋いっぱいに詰まっていた。男の子はパインアメを舐める。眼からじわじわと湧き出る涙で、男の子はこの駅にも春がやってきたことを知った。男の子は、花粉症だった。 「最近悪夢ばっか」  男の子のとなりに男が座っていた。男の子は男がしゃべりだすまで、男が近づいてきたことにも、となりに座ったことにも気がつかなかった。男の子は横目で電車の発着を告げる電光掲示板を見て、自分がほんの少しの間、眠っていたことを知った。 「この前見たのは、嵐の二宮とピアノコンサートをする夢。ステージ上にヤマハのグランドピアノが二台置いてあって、客席から見て俺は右、ニノは左のピアノの前に座って、演奏したんだ。俺はその楽譜を、そのとき初めて見た。知らない曲だった。当然、弾けない。それでも俺は頑張った。でもダメだった。コンサートは大失敗だった。俺は曲の途中でステージ上から逃げ出して、ペットショップで犬用のトイレを買った。それからあとは、覚えていない」  男は、男の子の方を見ながら、オーバーな表情と身振りで話し続けた。 「そのさらに前は、映画を撮る夢を見た。俺は寂れた小学校みたいなところで寝泊まりしていて、隣の部屋で寝泊まりしていたカメラマンみたいな奴にカメラを渡されるんだ。で、こう言われる。『俺の代わりに映画を撮ってくれないか』俺はカメラを渡される。録画機能のない、古いタイプのデジタル一眼レフカメラだった。俺は写真を撮りまくった。写真を撮るっていう行為が、つまりは映画を撮るってことだった。それから色々あって、俺は幼なじみと二人で、サバンナみたいな場所を、大量のチューバを担いで、幼なじみは引きずって、歩いていた。それからあとは、やっぱり覚えていない」  男は缶コーヒーを持っていた。プルトップは開いていない。熱くてまだ飲めないのだ。男は、猫舌だった。 「昨日は、ヤクザになった友達から逃げ続ける夢を見た」  男は、あらかじめ決められていたかのように背中を曲げて、男の子の顔をのぞきこんだ 「なあどう思う?」  男の子は男の方を向き、あらかじめ決められているジェスチャーと口パクをした。耳の辺りを人差し指でトントンと叩き、うめき声をあげた。男は眼を少しだけ見開いて、笑いを堪えるように口を尖らせた。それから、缶コーヒーのプルトップを開けて恐る恐るコーヒーを口に入れた。 「ふうん」  缶コーヒーの中身は男の舌でも味がわかるくらいぬるくなっていた。男は缶コーヒーを、今度はさっきより勢いをつけて飲み、男の子の耳元に顔を寄せた。 「つくば山に、喰いつくばあさん」  男はささやいてから、吹き出すのをこらえるような顔をして、缶コーヒーに口をつけた。男の子はそれが、駄洒落だということに遅れて気づく。男の子の脳裏に、つくば山を食い荒らす巨大な婆さんの画が浮かんだ。男の子は、自分の顔が歪むのをなんとか堪えた。 「あの、人を、待ってるから」  男の子は、口を開いた。なんだかもう、嘘をついてもどうしようもないような気がした。 「係長がさあ」男は男の子の言葉を無視して言った。 「係長が、俺に言うんだよ。『社員にならないか』って。冗談じゃねえって話だよな。部長だか支店長だか知らないけど、とにかく係長より偉いおっちゃんもそれに賛成しているふうでさ。たまったもんじゃないよな」  男は缶コーヒーを飲み干した。 「どうしたもんかしらね。やんなっちゃう」  男は立ち上がり、缶コーヒーをホームの白線の上に置いて、助走をつけて思い切り蹴飛ばした。缶コーヒーは向かいのホームの壁に当たり、地面に落ちてころころと転がった。向かいのホームにも、男の子と男がいるホームにも、男の子と男以外に人はいなかった。向かいのホームの電光掲示板とスピーカーが、電車がまもなく到着することを簡潔に伝えていた。 「みんなさ、忘れてるんだよ。俺、ちゃんと言ったんだよ。面接のときに『半年で辞めます』って、ちゃんと。忘れてるんだよな。半年。頑張ってると思うわ」  男はジーパンの尻ポケットからぱんぱんに膨らんだ長財布を取り出した。 「なんか飲む?」 「いらない」 「あ、そう」男は立ち上がり、自販機に向かった。「てか耳、聴こえてんじゃん」  男はさっきと同じ銘柄の缶コーヒーを買って、男の子のとなりに戻ってきた。男は男の子に爽健美茶のペットボトルを渡した。男の子は、それを左手で受け取った。  向かいのホームに電車が止まり、しばらくして、また動き出した。電車に乗る人も、降りる人もいなかった。男は缶コーヒーを右手から左手に、左手から右手に、何度も持ち替えながら、缶コーヒーが冷めるのを待っていた。最初からつめた〜いの方を押せばいいのに、男はそうしなかった。男は、ぬるい缶コーヒーが好きだった。 「どうしたもんかしらね……。やんなっちゃう」  男の子は、それが男の口癖なのだと知った。 「だから、なーんか今日、起きたときから行く気、しなくって。こんなところにいるわ」  男はジーパンのポケットからiPhoneを取り出し、男の子に見せた。 「ほらこれ、係長、しつこいんだから」  男はiPhoneを男の子のほうに向けながら、指で画面を下にスライドさせた。 「こんなに。連絡しない俺も俺だけど。どんな病気がいいかなあ。風邪って言えばじゅうぶんかな? どういう咳ならそれっぽいかな?」 「なんの仕事」 「いつの時代も、流行り病は仮病だよ。係長、困っちゃってんだよ。俺がいないと仕事、回んないから。大幅にペースダウンよ。結局、ペースダウンするだけよ。代わりなんていくらでもいるって。やんなっちゃう。いいんだけど」男は言った。「仕事? 倉庫だよ倉庫」 「どこの倉庫」男の子は言った。 「どこだっていいよ」男は言った。「あっちのほう。海の近く」 「海沿いなのに潮の匂いがしないって、やんなっちゃうよな。この駅もそうだよ。もっと漂ってきてもいいだろって。いいけどさ。山派だし」 「耳が悪いのは、ほんとだよ」男の子は言った。 「仮病?」男は缶コーヒーを振った。缶コーヒーは、着々と温度が下がってきていた。 「ちがう」 「いやでも、あの演技はなかなか。将来有望なんじゃないの」 「ちがう」男の子は言った。「きいて」 「やなこった」男は缶コーヒーのプルトップを開けた。「さっきの駄洒落、最高じゃない?」 「もっといいの、知ってる」 「ほーん」男は恐る恐るコーヒーを口に入れた。「言ってみ」 「ブラジル人のミラクルビラ配り」 「それは早口言葉だ」男は言った。「ブラジル人のミラクルビラ配り! しかも、あんまり難しく、ない!」 「おやすみなさいを言いに行くと、ママ、いつも戦争してる」  男の子と男がいるホームの電光掲示板とスピーカーが、電車がまもなく到着することを簡潔に伝えていた。その電車は、東京まで行くらしかった。男の子は、眼をこすった。主に眼にくるタイプの花粉症だった。 「去年の大晦日はひどかったな。普段は五、六個の駅も二〇とか三〇だし、舞浜なんてただでさえいつも出荷数が断トツで多いのに、一五八だぜ。一五八。やんなっちゃったよ。ほんと。シールの束がこんな量、あんの。あれは戦争だった」男は缶コーヒーをぐびぐび飲んだ。 「それで、だんだん、耳がおかしくなった」男の子は言った。「戦争って、うるさいから」 「俺も俺の周りのバイトもひーこら言いながらカゴにひたすらダンボール積んだよ。いや、言ってないけど。実際は黙々としてたよ。静かなもんだったよ。うるさいのは係長とそのとりまきの契約社員どもだけ」  男の子と男がいるホームに電車が止まり、しばらくして、また動き出した。電車に乗る人も、降りる人もいなかった。電車は二〇分ほどで東京に着く。東京駅には、電車に乗る人も、降りる人も、たくさんいた。 「今思えばあれはバケツリレーみたいだった。あんまり数が多いもんだから、みんなカゴ持っておんなじ場所に集まっちゃうんだよ。とてつもない流れ作業で、なんとか普段通りの時間に帰ることができたけど。でももう、無理だね」男はタバコが吸いたかった。「無理だね、もう」  男の子は、巾着袋からパインアメを取り出し、口に入れた。 「あ、ずる」男は言った。「ちょうだい」  男の子は、男にパインアメを一つあげた。  男は、それを口に入れた。  パインアメが溶けてなくなるまで、男の子と男はほとんど口を開かなかった。男の子と男は、それぞれ違うものを見つめていた。男の子は向かいのホームに転がっている缶コーヒーを、男は男の子のうなじを見つめていた。男の子の髪は陽を浴びて、輪っか状に光っていた。天使の輪っか、と男は思い、そんなことを考えてしまう自分が気持ち悪いとも思った。駅のホームには男の子と男以外誰もいなかった。男の子と男以外、みんなみんな、工場で、倉庫で、コンビニで、それぞれの場所で働いていた。係長はいつものように奇声を発しながら嬉しそうにフォークリフトでパレットを移動させている。バイトや契約社員はカゴ台車で、あるいはローリフトにパレットを挿して、駅構内の売店へ出荷するための飲料水が詰まったダンボールを駅別の仕分けシールを見ながらどんどん積み上げている。シールの束を口に加えて全速力で倉庫の中を端から端まで走り抜けている。そのことを男は知っていた。男の子は知らない。  男の子と男がいるホームを快速列車が通過したとき、男の子と男の口からパインアメはなくなっていた。男は空になった缶コーヒーを両手でもてあそんでいた。男の子は右手で両眼の涙を拭った。男は、花粉症ではなかった。 「将来の夢は?」男は言った。缶コーヒーをマイクに見立て、男の子の前に差し出す。 「ふつう」 「ふつう、て」男は缶コーヒーを下げた。「どうしたもんかしらね」 「たのしいよ」 「うそつけ。ママの戦争でも終わらせてから言いな」  男は立ち上がり、伸びをした。 「んーあ」 「ママ、神様が死んじゃったことに気づいちゃった」 「へえーえ」あくび混じりの声で男は言った。「そいつはすげー。もはやママが神様なんじゃないの」 「ある意味、そう」男の子はパインアメを舐め始めた。「ママ、なんでもできるよ」 「ある意味?」男はまたベンチに座った。 「うん。……うん」  男の子は、神様が死んだときのことを思い出していた。つい最近のことだ。男の子が家に帰ると、神様はリビングのホットカーペットの上で、あお向けの状態で小刻みに震えていた。男の子は震える神様を両手でうやうやしくすくいとり、テーブルの上にティッシュを二枚重ねて、その上に神様をそっと寝かせた。朱色だった身体は見る間に灰色に変わっていき、柔らかな尾ひれは押し花のようにしわしわに乾燥していった。男の子は神様の前で手を合わせ、しばらく眼を閉じてから、ティッシュで神様をくるんで持ち上げ、近所の公園の隅に小さな穴を掘って埋葬した。線香が無かったので、台所の引き出しから煙草を一本抜き出し、それに火をつけて、埋めたばかりでまだ柔らかい土にそっと差し込んだ。男の子は、もう一度神様に手を合わせた。 「僕が勝手に埋葬したから、怒ってるんだと思う」  向かいのホームに箒とちりとりを持った駅員がやってきて、掃除を始めた。男と男の子は、それを黙って見つめていた。ここからでは何かが落ちているようにも、汚れがあるようにも見えないけれど、きっといろんなものが落ちているのだろう。男は思った。駅員はこっちのホームにも来るのだろうか。何かが落ちているようには見えないけれど、きっとやって来るのだろう。駅員は階段のそばの点字ブロック付近を執拗に箒でなぞるように掃いていた。  男は、自分がまだ男の子だったころのことを思い出していた。朝が苦手で、ドッチボールと給食の牛乳が好きで、放課後はランドセルを武器にして誰かとしょっちゅう戦っていた。まあだいたい、今とさして変わんないな。男は兄のことを思い出した。 「兄妹は?」男はもう一度缶コーヒーを男の子の前に差し出した。 「いない」男の子は言った。 「一人っ子ぉ〜」男は言った。「ま、俺もそんな感じだけど」  男がまだランドセルで戦っていたころ、男の兄は家からいなくなった。車の免許を取ったあと、親の財布から抜き出したお金を使って北海道まで飛び、ネットで知り合った人の家や車を転々としながら徐々に南下し、今は沖縄本島の小さな民宿で、観光客に広東語やフランス語を教えてもらったりしながら住み込みで働いている。お金が無くなったら自殺するつもりで家を出たんだ。一年ほど前、カメラ通話で外国人みたいな肌の色をした兄が笑ってそう言うのを、男は白けた気分で聞いていた。 「行かなくていいの」男の子はパインアメを舌で転がしながら言った。 「ん? 何?」缶コーヒーが男の子の前に差し出された。「仕事?」 「そう」 「何をいまさら」男はふふんと笑う。「そのセリフ、そっくりそのままお前にお返しするわ」 「僕は人を待っているから」 「いつまで?」 「いつまでも」 「そうですか」男は缶コーヒーをベンチの下に置いた。「やんなっちゃう」 「帰らないの」 「帰ってもいいよ。でも」男はベンチの上であぐらをかいた。「でもお前が待ってた人って、実は俺のことなんじゃないの」 「……」 「あ、それ、わかるよ。絶句、ってやつだ」男は男の子を指さして笑った。 「人を待っているから」男の子は繰り返した。溶けて薄くなったパインアメを歯でガリガリと砕く音が、男の子の耳にだけ響いた。 「ああ、ほらこれ、係長からラブコール」男は震え続けているiPhoneを取り出し、男の子に見せた。「係長も、どうやら人を待ってるらしい」  やがてiPhoneの震えは止まり、男はiPhoneをジーパンの尻ポケットに押しこむようにしまった。  男と男の子は、喋りながらまったく別々のことを考え続けていた。男は兄と、兄がいたころの自分を。男の子は、神様について。思い出し、考えていた。ほんとうはどうするべきだったのか。何か間違ったことをしたのだろうか。何か決定的な間違いをおかしてしまったのだろうか。男と男の子は、それぞれが何を思って、考えているのかを知らない。ふたりは知らない。  ふたりのホームに鳩がやってきて、数歩ごとにアスファルトをついばみながらベンチの前を横切った。鳩の片足には短いビニール紐のようなものが絡まっていて、鳩が歩くたびにカサカサと微かに音が鳴った。 「帰ろうかなあ」男は男の子の左手にある未開封の爽健美茶のペットボトルを見た。「次の電車で帰るわ」 「これ」男の子は爽健美茶を男の鼻先に掲げた。「いらない」 「パパにでもあげな」男は言った。「最後の質問。お名前は?」 「ボク」 「は」気だるそうに立ち上がりながら男は短く笑った。「ママの戦争が終わるといいね」 「待ってる人が来れば、終わるよ」 「うそ。お前次第だろ」男は腰に手を当てて線路を見た。腰の形に沿ってシワができたTシャツを見て、この人ちゃんと食べているんだろうか、と男の子は思った。 「あーあ、俺も行きてえ〜、南の島」  男はあくびを噛み殺しながら、線路を見つめ続けていた。
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 男の子は、日が暮れて夜になっても、市川塩浜駅のホームのベンチにずっと座っていた。帰宅ラッシュでホームが人で溢れ、ベンチがすべて埋まっても、男の子は座ったままだった。ラッシュも終わり、駅のホームがふたたび廃墟のような寂れた静けさを取り戻したころ、男の子は立ち上がった。巾着袋をベンチに置き、ベンチの下にある缶コーヒーを拾ってゴミ箱へ捨てた。左手に爽健美茶のペットボトルを、右手に巾着袋を持って、男の子は二三時五六分発の東所沢行きに乗った。  人の少ない電車の中で、男の子は少しだけ眠り、少しだけ夢を見た。夢の中で、男の子は大学生だった。数人の友人と数人の先輩に囲まれて、お酒を飲んだり煙草を吸ったり、笑ったり泣いたり、怒ったり喜んだり、走ったりうずくまったりしていた。それは夢にしてはあまりにもありふれた、だけどどこか切実な、現実の延長線上にあるような夢だった。  目が覚めた男の子は、停車駅の看板を見てまだ電車が二駅分しか移動していないことを知る。男の子は夢を見たことすら覚えていなかった。男の子は発車ベルを聞きながら、眠っている間に床に落ちてしまった爽健美茶を拾った。  男の子は想像する。駅のホームを行き来する電車のこと、その電車に乗る人のこと、駅員のこと、そして今この電車に乗っている人のこと。みんなの家のことを。その神様のことを。そして自分の家を思う。新しい神様を見つけないといけないのかもしれない。母親を戦場から引っ張り出すには、それしかない気がした。男の子は頭を窓にくっつけて、眼を閉じた。今度は、夢を見なかった。
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 男の兄は、何かと繊細なやつだった。人混みや集団行動が苦手で、電車に乗ったり、ひどい時は家から外に出ただけで歩き出せなくなるほどだった。ネット上には大勢の友人がいた。変なところが凝り性で、パソコンのマインスイーパーやタイピングゲーム、パズルゲームをひたすらやりこんでいた。肉が駄目で、馬のように草ばかり食べていた。首筋と腕の関節部分にアトピーのような肌荒れがあり、四六時中かきむしってフケのような皮膚のかけらをあたりにばらまいていた。男が兄について知っていることは、それくらいだった。  男はアパートに帰ってから、敷きっぱなしの布団の上でしばらくボーッとしていた。係長はもう、男に電話をかけてこなかった。誰も男に電話をかけてこなかった。それでいいと男は思った。 「ブラジル人のミラクルビラ配り」  男はあお向けに寝転び、眼を閉じて呪文のように何度もつぶやいた。簡単すぎるな、そう思った。つぶやき続けているうちに男の口はしだいに動かなくなり、静かに息を吐いて、眠りはじめた。  日付が変わる少し前、男は起き上がった。頭をかきながらしばらく時計と窓を交互に見つめ、水を飲み、トイレに行ったあと、兄に電話をかけた。自分から兄に電話をかけるのは初めてだな、と男は電話のコール音が鳴ってから気づいた。 「おお」 「よお」 「もしもし?」 「うん。もしもし」 「急にどうしたの。めずらしい」兄の声は穏やかだった。 「沖縄は今、何℃だ」 「えっと……えーっとね」兄の声がくぐもって聞こえる。iPhoneを顔から離して、天気情報を見ているのだろう。「22℃っす〜」 「元気か」 「まあ元気」 「焼けてんのか」 「そりゃもう。こんがり」 「野菜ちゃんと食ってんのか」 「それ俺に言う?」 「もう死なんのか」 「そうだね」兄は間髪入れずにそう言った。「まあなんとか、生きてみようと思ってるよ。今んとこ」 「つまんね」 「なんだそれ」兄は笑った。「そっちはどう?」 「何が」 「元気か」今度は兄がインタビュアーだ。 「ノーコメント」 「家賃とかちゃんと払ってんのか」 「ノーコメント」 「野菜ちゃんと食ってんのか」 「ノーコメント」 「話にならねー」兄はまた笑った。「両親は元気か」 「しらん」男は間髪入れずにそう言った。「知ってたとしても、お前には教えないね」 「そりゃそうか。ま、いいや。とりあえず生きてるでしょ、たぶん」  男と兄はしばらく黙った。通話口からは、よくわからない言葉で笑い合う人の声が聞こえた。沖縄語も外国語も、同じようなもんだな。そして兄の言葉も。男の部屋は、静かだった。隣の部屋の生活音も聞こえない。 「電話出て大丈夫だったのか」 「いまさら。大丈夫。宿泊客と酒盛りしてただけだから」 「タノシソウデナニヨリデスネ」 「なんだよ。もしかして酔ってる?」 「ノーコメント」 「めんどくさいなー」笑いながら兄は言った。 「来週の日曜日、ヒマか」 「ヒマかどうかはわかんないけど、まあ、この島にはいるよ」 「そうか」 「何?」 「俺、お前んとこ、行くよ」 「あ、ほんとに?」 「お前をぶっ殺しに行くわ」 「わ、殺害予告」 「通報でもなんでもすりゃいいよ」 「しないよ。ワターシノアイスルブラーザーデスカラ」 「つくづくお前はつまんねえ」 「知ってるよ、そんなこと」 「逃げるなよ」 「逃げないよ」兄の声は優しかった。兄が家にいたとき、こんな声で話したことがあっただろうか。男は思い出せなかった。「まあ、おいでよ。待ってるよ」 「ファック」  男は電話を切り、電源も切ってからiPhoneを放り投げた。男は本気だった。部屋を出て、コンビニへ行き、ATMで残高を確認した男は、これから自分がやるべきことを考えながら、昼間と同じ缶コーヒーを買った。まずは、包丁。
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 男の子がグランハイツ東所沢の四〇五号室の玄関扉を開けたのは、日付が変わってからおよそ一時間半後のことだった。男の子はリビングのテーブルの前に爽健美茶のペットボトルを置いた。床に散らばっていた不動産のチラシを一枚手に取り、テーブルの上に無造作に転がっていた赤ボールペンでチラシの裏に大きく「パパへ」と書いて、���健美茶のペットボトルの下に挟んだ。  男の子はキッチ��でお茶碗に炊きたてのご飯をよそい、フライパンの中からサンマの照り焼きを小皿によそい、リビングのテーブルの上にそれらを置いて、立ったまま食べた。男の子は、少食だった。それから男の子はお茶碗と小皿を簡単に洗い、自分の部屋から着替えを取って風呂に入った。男の子は、風呂が嫌いだった。浴槽に浸からずシャワーだけ浴び、男の子は風呂を出た。それから洗面台の前で入念に歯を磨き、綿棒二本と竹の耳かきで両耳を入念に掃除した。男の子は、きれい好きだった。それから男の子は、風呂場と洗面台と、リビングとキッチンの電気を消し、玄関へと続く狭い廊下の途中にある白い扉の前に立った。部屋の中からは、銃撃、爆撃、悲鳴、ファンファーレなどの音が絶えずとてつもない大きさで聴こえていた。男の子は、扉をノックした。それから、返事を待たずに扉を開けた。男の子は部屋の中に入る。 「おやすみなさい」  男の子は、この言葉が好きだ。
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miiniwa3128 · 4 years
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シノビガミシナリオ『失貌』
ネタバレを含みます。GM予定の方のみ読み進めてください。
20/05/23 投稿
【外部サイト】 https://character-sheets.appspot.com/sgScenario/edit.html?key=ahVzfmNoYXJhY3Rlci1zaGVldHMtbXByFwsSDUNoYXJhY3RlckRhdGEYn9zj3wIM
【セッション概要】 階級   :中忍 リミット :2 PL人数 :3 レギュ  :現代編 シーン表 :学校シーン表
初心者向け、かもしれない程度の難易度。
【シナリオ説明】
比良坂機関の忍者、伊礼 刷十からの依頼により集められたPC達は、ある施設の応接間にてその概要を聞く。 「近頃御斎学園に異変がありまして‥‥無差別に辺りの人間を襲う輩が現れているのです」 その忍者の名は『失貌』。 『失貌』の討伐を依頼された3人の忍者は御斎学園に潜入し、調査を進めるが‥‥
運用・改変自由。 (作成者が「シノビガミ華」未所持な為、一部非対応な表記をしているかもしれません)
【GM向け説明】 このシナリオは初心者に夜顔の強さを知らしめる為に使ってください。 キャラシのPassは「situbou」で統一されています。 RPや描写の内容を記しますが、参考にする程度で構いません。 また、このシナリオでは全ての謎が解き明かされることはありません。 シナリオ上の幾つかのモヤモヤが残るかもしれない事に注意してください。 この設定を元にして第二幕を考えたり、他のシナリオを作るのもいいかもしれません。 改変はOKです。
綺羅と失貌については、仮面を被っていない状態が綺羅、被った状態が失貌として扱って下さい。 例えば1サイクル目終了時に仮面を被った状態で綺羅が現れた時、それは「綺羅がシーンに登場した」とは扱わず、【使命】公開は行われません。 仮面の忍者なのに綺羅の【使命】が公開されたら即バレするからです。 PL的には元々バレている気がしますが。
NPCの構築は(主に綺羅が)かなり強めですが、お互いの足を引っ張り合いますし、何より3:2になると思うので案外楽にPC側が勝つと思います。 生命力も6なので、初心者でも勝てると思います。 少なくともクライマックスでは。 また、【背景】ルール等でPCが十分に強いと思うならば伊礼の生命力を8点にしてもいいかもしれません。 その場合は、好きな忍法(【毒堕とし】辺り)を【頑健】に変えるといいと思います。
【GM向けシナリオ説明】 比良坂の忍者、伊礼 刷十はPC3の事をひどく嫌っていた。 以前の忍務での出来事か‥‥もしくは同僚だったか。 切欠は些細な物だったかもしれない。 とにかく彼はPC3が嫌いで、隙を見て自分の視界から排除しようと思っていた。 そんな時、彼の下に比良坂機関から1つの指示が下る。 「口実は何でもいい。夜顔を使え」 好機と見た伊礼は、そのいつも通りの指示の不自然さに目を瞑り、PC3を暗殺せんと夜顔をけしかける。 ‥‥が、どうやら様子がおかしい。 夜顔はPC3ではなく、辺りの人間を片っ端から殺害しているのだ。 どういう事だろうか。 しかし夜顔をPC3にぶつけるつもりだったが、PC3を夜顔に直接ぶつけても、何の問題もないか。 早速伊礼は顔見知りの忍者に‥‥PC3を含めて、その夜顔を討伐を依頼するべく手筈を整えた。
PC1は1年前、肉親をある忍者に殺された。 この世界では珍しくない。殺し、殺されるのが世の常だ。 しかし、それを「はいそうですか」と素直に受け止める世界でもない。 PC1の心の中に復讐の火を灯しながら今まで生きていた。 そんな時、一つの連絡がPC1に届く。 匿名の物であった。 其処には伊礼の依頼の件と、この依頼はPC1に利があると記されていた。 文脈から1年前の事件を匂わせている。 依頼にある仮面の忍者と、記憶の中の仇である黒い仮面の忍者が同一人物ならば‥‥ 虫のいい話だと思ったが、PC1はそれを受けざるを得なかった。
PC2は昔、伊礼に苦い経験をさせられた。 忍務だったか、同僚だったか‥‥ ‥‥伊礼のPC3への嫌悪と同じように。 そんな時、PC2は鞍馬神流からある一つの指示を貰う。 伊礼の依頼に参加しろ、そしてその情報を集めろ、と。 正直伊礼の顔等見たくもない。 PC2は質問した。奴の依頼はこなす必要があるか。 鞍馬神流の忍者は、無い、と答えた。 成程、奴の依頼を無視しても良いと‥‥ 鞍馬神流からのGoサインと受け取ったPC2は、伊礼を妨害するべく伊礼の下へ向かった。
PC3は斜歯忍軍からの忍務により、御斎学園に潜入していた。 ただの斥候かもしれないが‥‥随時変わった点は報告しなければならない。 そんな時、PC3のクラスに転校生が現れる。 姫野 綺羅‥‥どこか掴めない雰囲気と、人当たりの良さで学園の噂は彼女に染まった。 その頃、顔見知りであった伊礼から連絡があり、御斎学園の異変の調査を依頼された。 既に潜入している身であるが、都合が良い。 それに、丁度学園内でもそれが囁かれ始めた頃だった。 時期的にも、綺羅が怪しい。 斜歯忍軍の為にも、依頼の為にも、まず綺羅を探るべくPC3は学園に赴いた。
『失貌』‥‥その名前は、不名誉な物である。 夜顔の忍者である姫野 綺羅は、もはや過去の栄光を失っていた。 人の顔を忘れるとは、暗殺業を営むには致命的である。 無能、役立たずと揶揄されても、それすら忘れてしまえた。 1年前の事件以降、記憶も人格も滅茶苦茶になってしまった。 記憶の片隅にあるPC1の肉親の死に顔。 自分が殺したのか、ただの死体だったのか、それすらも、いや、その顔を本当に見たのかすらも定かではない。 いつしか綺羅は死に場所を求めてすらいた。 そんな時、綺羅の下に1つの依頼が届く。 顔写真とその人物の詳細。 淡泊な依頼であるのは当たり前だった。 誰しも自分の事を嗅ぎまわれたくない。 いつも通り、綺羅は仕事場へと赴き、そして標的の顔を忘れ、自暴自棄に似た数撃ちゃ当たる精神で辺りの人間を無差別に殺した。
〇PC1の【使命】 あなたは顔見知りである伊礼から『失貌』を討伐するように依頼された忍者だ。 あなたの【使命】は「失貌を倒す事」である。
☆PC1の【秘密】 あなたは1年前、ある忍者に肉親を殺された。 この依頼は自分にとって利があると匿名での連絡があり、依頼を受けることにした。 詳しくは分からないが、もしかしたら肉親の仇に関する情報を掴めるかもしれない。 あなたの【本当の使命】は「肉親を殺した者を突き止め、殺害する」ことである。 あなたの目には、切り伏せられ血に塗れた肉親と、その前に立つ黒い仮面の忍者の姿が焼き付いている。 あなたはその仇の姿を覚えている。同じシーンにそのキャラが登場した時、 それが仇だと分かる。 あなたは仇の【奥義】を知っている。 それを他のキャラに受け渡しする場合、そのキャラは【奥義】に対して見切り判定を行わなければならない。 見切り判定に失敗した場合、その受け渡しは行われない。
〇PC2の【使命】 あなたは顔見知りである伊礼から『失貌』を討伐するように依頼された忍者だ。 あなたの【使命】は「失貌を倒す事」である。
☆PC2の【秘密】 あなたは以前伊礼に苦い経験をさせられたことがある。 鞍馬神流からの命によりこの依頼を受けたが、本当は顔も合わせたくなかった。 どうやら鞍馬神流はこの依頼の成否は気にしていないようである。 ならば、どうしようと構わないか。 あなたの【本当の使命】は「伊礼の使命を達成させない」ことである。 ただし、あくまで鞍馬神流はこの依頼に関わる人間についての調査をあなたに指示している。 「全てのNPCの【秘密】を知る」ことが出来なければ、【使命】を達成しても功績点を2点しか得ることが出来ない。 また、あなたは伊礼に「殺意」の感情を得ている。
〇PC3の【使命】 あなたは顔見知りである伊礼から『失貌』を討伐するように依頼された忍者だ。 あなたの【使命】は「失貌を倒す事」である。
☆PC3の【秘密】 あなたは斜歯忍軍からの忍務で御斎学園に忍び込み、潜入調査をしている。 そんな時、「姫野 綺羅」という転校生が現れた。 本来の忍務とは関係ないかもしれないが、変わったところがあれば調査し、報告するように言われている。 あなたの【本当の使命】は「綺羅の【秘密】を知る」ことである。 この【使命】の達成では功績点を2点を得る。 また、もし「全てのキャラの奥義情報を得る」ことが出来れば、斜歯忍軍からそれなりの報酬が与えられるだろう。 そうした場合、追加で功績点を1点得る。 あなたは「綺羅」の【使命】を知っている。あなたは好きなタイミングで「綺羅」を自身のシーンに登場させることが出来る。
〇失貌の【使命】 伊礼 刷十から討伐対象として指定された、『失貌』という通り名で知られる夜顔の忍者。 伊礼によると、なんでも仕事の手際が良く、その仮面の下を見た者を全て殺した為誰も顔を知らないから『失貌』‥‥だとか。 比良坂機関で行われる予定である何かしらの忍務を阻害しているらしい。 あなたの【使命】は「比良坂機関の忍務を失敗させること」である。
☆失貌の【秘密】 『失貌』という名前は、ここ最近つけられたものである。 腕利きの殺し屋であったのは間違いないのだが、1年前の依頼以降「標的の顔を忘れる」という致命的なミスを犯すようになってきた。 その為暗殺依頼を失敗させたり、意図しない形で達成する等、依頼者の意志にそぐわない結果に終わる事が増えた。 彼女に依頼しても期待が外れ、失望する‥‥そんな噂から、ある者が付けた名が『失貌』である。 他の依頼者によると、『失貌』は若い女性らしい。 この【情報】を所持しているキャラクターが行う『失貌』の奥義破り判定・見切り判定には+1の修正がつく。
〇姫野 綺羅の【使命】(セッション開始時「非公開」) 最近御斎学園に転校してきた女子学生だ。 なんともふわふわした雰囲気で、人当たりの良い対応で転校生ながら男女問わず人気だ。 綺羅の【使命】は「転校先の環境に早く慣れること」である。 シーンに登場した時、この【使命】は公開される。
☆姫野 綺羅の【秘密】 実はあなたはある学園の生徒を標的として学園に潜り込んでいる夜顔だ。 しかし、標的の顔を忘れてしまった。依頼者の顔も。 まあとりあえず近くにいる人を皆殺しにすればいつかは標的も殺せるんじゃないかな。 あなたの【本当の使命】は「可能な限り全てのキャラクターを敗者にすること」である。 1サイクル目終了時、綺羅はランダムなPCに戦闘を仕掛ける。 戦闘中、その戦闘に標的か依頼者が居る場合、毎ラウンド開始時にあなたは《記憶術》で判定しなければならない。 (スペシャル・ファンブル効果は無視する) 成功した場合、そのラウンド中あなたは標的と依頼者の顔を思い出す。
〇伊礼 刷十の【使命】 あなたは比良坂機関の忍者で��る。 比良坂の忍務遂行の障害と成り得る御斎の生徒を取り除くためPC達に討伐を依頼した。 あなたの【使命】は「比良坂機関の忍務を遂行する」である。 あなたはPCから戦闘を仕掛けられない。
☆伊礼 刷十の【秘密】 実はあなたはPC3の事が嫌いである。 忍務上もそうだが、何かと気に喰わない。 そんな時、上から「理由は問わない。忍務として夜顔を使え」と指示が来た。 あなたは、夜顔に依頼しPC3を殺害するように仕向けた張本人である。 しかし、その夜顔が本来意図しない動きを見せていることに不信感を抱いている。 しょうがないので、PC3を直接彼女に差し向け、消耗したところを彼女と結託して倒すことを思いついた。 あなたの【本当の使命】は「PC3を倒す事」である。 あなたはクライマックス戦闘に2ラウンド目から参加する。
【導入】 皆さんはある施設の応接間に集められる。 伊礼 刷十という比良坂の忍者から依頼を受けたからだ。 伊礼はあなた達を確認すると、話始める。 「いやはや、皆様よくいらっしゃいました‥‥お手を煩わせて申し訳ない」 「依頼と言うのは‥‥近頃、御斎学園の方で異変がありましてね」 「どうやら辺りの人間を無差別に、片っ端から襲う輩が現れているのです」 「名前は‥‥『失貌』。もちろん本名ではなく通り名で、元は夜顔の忍者らしいです」 「なんでも仕事の手際が良く、その仮面の下を見た者を全て殺した為誰も顔を知らないから『失貌』‥‥だとか」 「奴は御斎学園の生徒として潜り込んでいるらしいですが、これでは我らが次に行う計画の障害に成り得る」 「本来ならウチの醜女衆の奴等が動くのですが、あいにく上曰く別の忍務で動員出来ないらしいのです」 「その為、あなた達に白羽の矢が立ったというわけです」 「あなた達には『失貌』の正体の調査と、討伐をお願いしたいと思っています」 「報酬ならあなた達が満足できる程度のものなら出せます」 「しばらくあなた達には学園に潜入してもらいます。こちらで転校の処理は済ませておきました」 「ではよろしくお願いします」 そういうと伊礼はおもむろに立ち上がり、その場から去っていった。
【メインフェイズ戦闘】 ある時、あなたが1人歩いていた所‥‥突然、周囲に違和感を感じる。 (フレーバーで《第六感》か《結界術》で判定等すると良いかもしれない) それに気づくのが少し遅かったのか、背後に忍び寄る影があなたの首元めがけて「それ」が振りかざされる。 間一髪それを避け、あなたは影の主と合いまみえる。
・(『失貌』の正体を知っている) 「‥‥勘が良いね。一発で仕留めるのが私の流儀なんだけれど」 姫野 綺羅がその細身には似合わない大鎌を持ち、あなたと対峙する。 「うーん、最近私の事を嗅ぎまわっているのは貴方?いや、そうだとしてもじゃなかったとしても‥‥」 「やることは変わらないんだけどね」 そういうと綺羅は黒い仮面を被り始める。 「やっぱりこっちの方がやりやすいなぁ」 そう言い放ち、彼女はその大鎌を君に向けた。
・(『失貌』の正体を知らない) 「‥‥」 布を纏った黒い仮面を被った者が大鎌を構え、こちらに敵意を向けている。 杜撰にも、彼の身を包み込む布は完全には彼を包んでいない。 その布の下に、明らかに女子生徒の制服が見えてしまっている。 その事に気が付いたのか、慌ててそれを隠そうとする‥‥ 「‥‥いや、面倒だなコレ」 観念したのか彼女はその布を脱ぐ。その声は若い女性のものだ。 「うーん、恨みはないんだけど‥‥君かもしれないし、ごめんね」 そう言い放ち、彼女はその大鎌を君に向けた。
(戦闘開始及び乱入の処理)
・(PC1が仮面を見る) その黒い仮面にPC1は見覚えがある。 あの、肉親を目の前で殺した仇の面だ。
・肉親の事を聞く 「えー。見られちゃってたの?前の私‥‥ショックだなぁ」 「‥‥うーん。ごめんね、最近記憶力が悪くなってさぁ、心当たりはないや」 「まあこの仕事は恨みを買っちゃうもの。慣れてるよ。君も割り切ってくれないかな?」 「‥‥まあ、君の意見なんて関係ないけど」
・(【誘導】(極地)使用時) 「場所を選ばないのが私の流儀なんだよねぇ」 「いや、選んでるのはこっちなんだけどさ」 そういうと周囲に強力な結界が張られる。 辺りに瘴気が漂い始め、四方八方からあなたの体めがけて影の手が伸びる。 「何人も殺したのさ、利用した方がいいでしょ?」
(戦闘終了時)
・(PC側の勝利) 「くっ‥‥やるね」 彼女は負傷した肩を押さえ、息を切らしている。 「ここは‥‥しょうがないな」 突然あなた達の周りに結界が展開される。 壊すのに訳ない程度のものであったが、そのわずかな隙に彼女は姿を消してしまった。
・(PC側の敗北) 「この程度か‥‥」 彼女は大鎌をあなたに今にも振り下げようとしている。 (PCの好きな逃避ロール) 「‥‥逃がした‥‥しょうがないな」 そう呟くと、彼女は影に呑まれるかのように1人、姿を消した。
【クライマックス戦闘】 あなたたちは校舎裏に集められる。 伊礼が言うには、ここでの犯行が非常に多いらしい。 校舎裏とはいえ人目にはある程度つく。 どうやって『失貌』はそれを掻い潜っているのか‥‥ あなた達が思考を巡らせていると、突然一帯に巨大な結界が展開される。 「今日の標的は君達でいいかな」 ふと目の前に仮面の忍者が現れる。 「えーと‥‥何かデジャブ?まあ私が得物を逃がすこともないか‥‥気のせいだろうなぁ」 彼女はいつもと変わらぬテンションのまま、あなた達にその大きな刃を向けた。 (戦闘開始)
(2ラウンド目開始) 伊礼「ふふ‥‥私の計画通りに上手く動いているようですね」 そういいながら柱の影から伊礼が現れる。 伊礼「一時はどうなる事か‥‥結界に入り込むのも面倒ですねぇ」 綺羅「‥‥誰?」 伊礼「え?」 綺羅「もしかして標的って貴方?」 伊礼「は?いや、何を言っているんだ!私は貴方のクライアントですよ!?」 綺羅「あー‥‥そうだったっけ?そんな気も‥‥いやぁ、でも嘘かも‥‥」 伊礼「変な所で疑り深いですね!取り敢えず行きますよ『失貌』!」 綺羅「うーん、まあ、はーい?」
(伊礼脱落時) 「かッ‥‥!クソ、PC3め‥‥!いつまでも私の邪魔ばかりッ!」 「PC2も!クソ、クソぉッ!!この仕打ち、決して忘れませんよ!」 「これで勝ったと思わない事です!いつかそのツラを涙でグシャグシャにしてやりますからね!」 そう言い残し、彼は煙幕を使い逃げてしまった‥‥
(綺羅脱落時) 「あ、ああ‥‥いつか来ると思ってたよ、こんな日が‥‥」 綺羅は息も絶え絶えに結界の壁にもたれかかったが、結界を維持する力すら消え、力なく床に倒れ込む。 PC1が近づくと、細い声で話し始める。 「君は、復讐だろう。私を殺すのだろう‥‥それがいいのさ、人の死を糧にする夜顔なんて外道の連中はさ」 「自分でも分からなくなってきたんだ、昔は誇りを持っていた気もするけど、ああ、いや、もういい」 「私は変わってしまった、のだと思うよ。いつからか頭の中が、グチャグチャになったような気分、だった」 彼女は抵抗する素振りを見せない。
(綺羅死亡時) あなたの攻撃が、まっすぐ綺羅の心の臓を貫いた。 「かはッ‥‥あ、あは‥‥その、顔‥‥」 「‥‥あれ、どこで、見たんだっけ‥‥」 血が混じった彼女の声は、身体が床に勢いよく倒れ込むと同時に、聞こえなくなった。
(セッション終了)
【エンディングについて】 特に深く考えていません。もし演出するならば以下を参考にして下さい。 (全員使命達成を考えています)
・PC1 復讐を終わらせたあなたは帰路に着いた。 ふと、家の郵便受けを見ると一通の手紙が届いている。 あの匿名の連絡と同じものだ。 部屋に戻り封を開けると 「PC1、今回の協力感謝する」 唯一文、そう書かれていた。
・PC2 あなたは鞍馬神流の施設で、今回の件を報告していた。 今回の依頼の主‥‥蓮華王拳の首魁、宇名月は眉一つ動かさず聞いている。 「成程。今回の件‥‥どうやら我等の管轄ではないようだな」 「『失貌』の症状、我が知っている呪いの物と勘繰ったが、違う。勘が外れたが、慎重に越したことは無い」 「‥‥しかし、気になるな。記憶能力を欠乏させ、人格すら歪ませる力がどこかにあるという事だろう」 「こちらの件は鞍馬神流でも調べを進めておこう。PC2、今回の働き、見事であった」
・PC3 あなたはコンピュータを用い、今回の件を報告していた。 通信の相手‥‥指矩班の首魁、Dr斜歯は合成音声にてあなたの話かける。 「PC3、お疲れ様です。ただの斥候として御斎に配置していましたが、期待以上の成果ですね」 「今回の件の鍵を比良坂が握っている確率が高いですね。理由なく夜顔を使う?奴等が何を企んでいるか分かりませんが‥‥」 「‥‥そういえば、今回依頼に同行したPC1‥‥でしたっけ?綺羅に殺された肉親がいる、彼ですよ」 「その肉親が殺された日‥‥比良坂に動きがあったのを記憶しています。大規模な機械の移動だったかと」 「‥‥ま、今の所我等斜歯忍軍には関係ないでしょうけれど。しかし1%の確率も見落とすわけにはいきませんね」 「少しおしゃべりが過ぎたようです。私はこれから会議があるので、この辺で。PC3、今回はお疲れ様でした。引き続き潜入の方よろしくお願いしますね」
☆以下GM向けメモ
【秘密の内容について】 ・PC1 最終的な【使命】達成方法は、戦闘で綺羅を殺すと宣言することです。(大判P70に記載) PC1以外が殺しても構いません。 もし綺羅が伊礼より先に斃されたなら、演出の為に戦闘終了時までこれを保留してもいいかもしれません。 PC1が仇と分かるのは、仮面を綺羅が被った時のみです。 通常の綺羅が登場してもそれに気がつく事はありません。 GMによっては気が付くかもしれないと、《第六感》等で判定させてもいいかもしれません。 【奥義】の受け渡しについては、綺羅の【秘中の秘】が適応されます。 ‥‥PC1が綺羅を殺さなかった場合を、私は考えていません。 その場合、設定を鑑みると、物陰から醜女衆が現れ、彼女にとどめを刺すかもしれません。 GMの好きに処理して構わないと思います。 匿名の連絡の方法は、深くは決めていませんが‥‥不明のメールアドレスからのメール、いつの間にか家に届いていた手紙等にするといいかもしれません。
・PC2 伊礼の【使命】はPC3を倒すこと(直接でなくて良い)であり、クライマックス戦闘中に達成されることがあります。 そうした場合、PC2は【使命】が達成できない状態になりますが、ルルブ上の「詰みによる使命変更」には当たりません。 ただし、GMの判断により使命変更をしても構わないと思います。 追加の功績点の物は、基本的には味方からの情報交換を行わなければ達成できないようになっています。
・PC3 【使命】達成方法は綺羅の【秘密】を入手するだけです。 かなり単純な【使命】ですが、その分戦闘ではNPCに狙われる確率が高く、戦闘脱落する可能性が高くなっています。 追加の功績点の物は、PC1,2、伊礼、綺羅の【奥義】を入手すれば達成します。
【GMセッションメモ】 セッション開始前、PLに【秘密】以外に渡す情報は PL1:奥義『密室殺人』の情報 PL3:姫野 綺羅の【使命】 です。 1サイクル終了時の戦闘は、【秘密】通りランダムで決めてもいいですが、綺羅の性質上、【絶対防御】持ちか、PC1を狙うといいかもしれません。 感情による戦闘乱入が可能です。
【戦闘指針】 NPC2人は敵としての生命力処理でも大丈夫ですし、通常のPCと同じ生命力処理でも大丈夫です。 GMの好きな方にして大丈夫だと思います。 一応作成者としては通常のPCと同じ処理をオススメします。 (実質全【彼岸】持ちになるのはかなりの強みですが、PCからすると理不尽に思われかねませんので) 今回は自滅も多いので、敵の方の処理でも割とバランスはとれるかもしれません。
〇綺羅 とにかく『密室殺人』を使います。 『密室殺人』が破られる可能性が高い場合は【接近戦攻撃】をするかもしれません。 また、戦場を出来る限り「極地」に変更しようとします。 そのラウンド中、記憶が甦ってない場合は全員に攻撃します。 甦っている場合はPC3に集中して攻撃します。 既にPC1やPC2がこちらに敵意を向けているならば彼らもです。 奥義破りには積極的に参加します。
〇伊礼 彼はプロット時の【斎垣】や【禁術】を使い、他の参加者の選択肢を減らすことで上手く立ち回ろうとします。 【斎垣】でプロットを予測しやすくし、【夜叉】を上手く当てましょう。 基本的にはPC全員を狙いますが、可能であればPC3を狙います。 『未来視』の目安は生命力を2点以上失う場合です。 『密室殺人』の対象になった場合は出来る限り使いましょう。 自分にメリットがあれば奥義破りに積極的に参加します。(『密室殺人』の対象になった場合等)
●パーソナリティ 名前:綺羅(キラ) 年齢:17 性別:女 信念:凶 表の顔:学生
https://character-sheets.appspot.com/shinobigami/edit.html?key=ahVzfmNoYXJhY3Rlci1zaGVldHMtbXByFwsSDUNoYXJhY3RlckRhdGEY46ys2QIM
階級:中忍頭 流派:私立御斎学園
●特技 ・生命力(○:正常、△:生命力のみ減少、×:負傷) 器術:○: 体術:○:騎乗術、刀術 忍術:○: 謀術:○: 戦術:○:兵糧術、野戦術、人脈 妖術:○:結界術
得意:戦術
●忍法名称   :分類:間合:コスト:指定特技   :参照 接近戦攻撃:攻撃:間1:コなし:刀術     :p.176 誘導   :サポ:間 :コ2 :結界術    :p. 閃軌   :サポ:間 :コ1 :騎乗術    :p. 戦場の極意:装備:間 :コなし:「極地」   :p. 揺音   :装備:間 :コなし:       :p. 転校生  :装備:間 :コなし:【秘中の秘】 :p.中頭 └秘中の秘:装備:間 :コなし:隠形術    :p.
■奥義 《密室殺人》 指定特技 :結界術 エフェクト:範囲攻撃 効果・演出:結界に複数人を閉じ込め、大鎌で一刈。返り血を拭く手間も省ける。
●忍具:兵糧丸*2
●パーソナリティ 名前:伊礼 刷十(イライ スルト) 年齢:30 性別:男 信念:忠 表の顔:公務員
https://character-sheets.appspot.com/shinobigami/edit.html?key=ahVzfmNoYXJhY3Rlci1zaGVldHMtbXByFwsSDUNoYXJhY3RlckRhdGEY5Kys2QIM
階級:中忍頭 流派:比良坂機関
●特技 ・生命力(○:正常、△:生命力のみ減少、×:負傷) 器術:○:拷問術、火術 体術:○: 忍術:○: 謀術:○:医術、経済力、詐術 戦術:○: 妖術:○:千里眼の術
得意:謀術
●忍法名称   :分類:間合:コスト:指定特技   :参照 接近戦攻撃:攻撃:間1:コなし:拷問術    :p.176 毒堕とし :サポ:間1:コ3 :医術     :p. 禁術   :サポ:間 :コ2 :罠術     :p. 斎垣   :サポ:間 :コ1 :罠術     :p. 巡扇   :攻撃:間2:コ1 :詐術     :p. 夜叉   :攻撃:間1:コなし:千里眼の術  :p.中頭
■奥義 《未来視》 指定特技 :千里眼の術 エフェクト:絶対防御 効果・演出:数秒だけ先の未来を把握し、攻撃を対処する。
●忍具:兵糧丸*1,遁甲符*1
【参考画像】
・綺羅
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伊礼
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終わりです。
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isya00k · 6 years
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涼風に鳴る幽かの怪―肆
 ぽてぽてと短い肢で歩み寄ってきた猫は、猫と呼ぶには余りにずんぐりむっくりとしていた。  大きな鼻と球体と譬えてもいいようなまん丸とした体。猫と言うよりかこれは――豚だ。  二股に分かれた尻尾が猫らしさを感じさせるが、目つきの悪さと鼻のでかさがその印象を薄れさせる。長い尻尾を二本持った真っ白な豚がそこには存在していた。 (ぶ、ぶさいく……)  口から出かかった言葉を飲み込んでたまは視線を逸らす。先程、言葉を喋っていた。  言葉を……? 「ね、ねねねねねねね?」 「たま?」  正治と猫。  緋桐と猫。  交互に見直しても、猫の姿は変わらない。「なんじゃ、その小娘は」と大欠伸を漏らした豚のような猫にたまの表情は更に引き攣った。 「ね、ねねっ」 「そうじゃ、わしは猫じゃよ。豚なんかじゃありゃあせん」  豚でないことを驚いている訳じゃない。確かに第一印象は豚だが――でっぷりと太った様子がかわいいという言葉を発してあげれない自分が切なささえも感じるが、そうではない。  猫が。  猫が、喋ったのだ。 「ね、猫が、しゃ、喋っっっ!?」  外見に気取られている場合じゃない。猫は、普通に意思疎通を行ってきている。  指さし、思わず竦んで後退するたまに緋桐は首を傾ぐ。怪奇現状だ。狐のクオーターとか、陰陽師とか、蛇女とか、そういった事からすれば些細なことかもしれないが自分の『まともな人間回路』は未だ麻痺していなかった。 「そりゃあ、喋るわいな……」  困り顔の猫にたまは絶句した。 「猫が喋る事位あるだろう?」 (あるわけないでしょ! 妖怪『目付き悪い』め! まともだって信じてたのにっ)  たまの中にある正治は案外まともという幻想ががらがらと音を立てて崩れていく。  乱雑に置かれた埃だらけの椅子にへたりこみたまは頭を抱えた。……妖怪の世界では猫は普通に喋るし、狐は意地悪で……ああ、なんてことだろう。  埃だらけの古びた写真館。映像を映し出す事はない廃墟と化したその場所で猫は大欠伸を漏らし緋桐を見上げていた。 「その嬢ちゃんは『こちら側』の癖に胃弱じゃの。吃驚病で死んでしまうんでないかい」 「吃驚病なんてものがあればね」  びっくり病なんて謎の奇病の話に花を咲かせ始めた猫と狐。  不憫に思ったのか、そっと肩を叩いてくれた正治の表情は、いつもより優しく感じられた。 「……それで、こんな場所まで何の用じゃ? 八月朔日の坊の事はよぉく知っておるがの。  吃驚病のお嬢ちゃんは何じゃ? 見たところ、わしに会わせるために連れて来たんじゃあないじゃろうに」  二股の尻尾をゆらゆらと揺らしたでっぷりと太った猫は首を傾ぐ。  埃をある程度払って、懐から使い古された風呂敷を取り出した正治はたまをそちらに座る様に促し、猫の様子を見つめている。 「こちらはたま。幽霊退治の依頼人だ」 「奇抜な依頼人じゃの」  くあ、と大欠伸を見せた猫はその瞳に爛々とした色を乗せる。  含みある言い回しで緋桐を見上げた彼女――きっと、前説明通り彼女なのだろう――は短い前足で頭をかしかしと掻いた。 「わしは雪洞。可愛いかわいいお猫様じゃの」  ふりふりと尻尾を揺らした豚猫。たまはこの猫が猫語で喋って居てくれたらここまで驚くことはなかったのにと頭を抱えた。  ……猫語とは何なのか、彼女はよく知らないが。 「それで、何用かの。狐塚」 「ああ。君さぁ、政友会のオッサンのこと口説いた訳? 例のお役所から探されてるけどさ」  床に無遠慮に座り帽子を膝の上へと置いた緋桐は困ったような顔で頬を掻いた。  例のお役所と言うのが正治へと依頼を出したところなのだろう。緋桐と正治と過ごすようになってから政府には『例のお役所』と呼ばれる場所があり、妖怪たちと深い関係性にあるのだという。政友会のオッサンを口説いた結果が役所からの捜索命令と言うのは何ともおかしな話だ。 「……そうじゃの。適当に遊んだだけじゃ」  詰まらなさそうに雪洞は言う。その言葉に困った様に緋桐は大きな息を吐き出した。 「適当されても困るんだけどさぁ」 「狐塚がわしで困るなら楽しいわいなぁ。紛い物(おもちゃ)遊びは楽しむもんじゃ」  雪洞はちら、とたまを見遣る。その視線にたまと正治は顔を見合わせ小さく首を傾いだ。  玩具遊び……自分は雪洞にとって『緋桐』の玩具に思われているのだろうか。 「奇妙なお客人を玩具にするのは可哀そうじゃろうて」 「遊んでるわけじゃないさ」  猫の言葉に引っ掛かりを感じるのは自分だけではないと思いたい。たまが首を捻れば正治も同じようにじろりとたまを見つめてくる。  上から下まで、まるで値踏みするような視線は緋桐が向けて来たものにも似ていた。 「……な、なんですか?」 「いや、普通だ」 「そ、それ、馬鹿にしてるんですか……」  女の子なんですが、と唇を尖らせたたまに正治は慌てたように顔をあげ「すまない」とごにょごにょと呟く。  外見は十分大人びているが、こう言った所は初心な青年らしい。寧ろ、緋桐の方が『女性慣れ』している雰囲気を感じさせるのかもしれないが――謝られた以上、気にするのは野暮な話だ。 「余計なことは言わないでくれよ。大福餅」 「のう、狐。猫にお願いをするときは小馬鹿にするもんじゃないぞ」  凄んだ猫に緋桐は悪いねと小さく笑う。大福餅の呼び名は雪洞の外見にぴったりだった。  欠伸を噛み殺す猫の背をぽんぽんと叩いて何事かを耳元で囁く緋桐に猫は「なーお」と鳴いて見せた。 「ん、で、適当に遊んだだけだっていう役人はどうする? 雪洞はあっちに帰ったって言うかい?」 「そうじゃなあ……どうしたもんか」  向き直った緋桐に雪洞はわざとらしく首を傾ぐ。  尻尾をたしりと揺らした彼女はぱちぱちとわざとらしく瞬いて、その姿を美しい女性へと変えた。 「わし、美しいからのぅ」  ――確かに、美人だった。  腰まで垂らしたのは長い黒髪。瞳は猫の頃と同じく、鮮やかな水晶を思わせた。縁取った睫は長く、着崩された着物からわかる体のラインは柳の様に靭やかだ。 「化けると『人』が変わるよね」 「猫が変わるんじゃよ」  わざと残していたのか二股の尻尾がゆれている。化け猫と漸く同じ目線になったたまは女性としての敗北を感じた様に胸元に手を当て、大きく息を吐き出した。 「あ、あの……」  猫でないなら、会話だってできる。  ゆっくりと息を吐き出しながら声を発したたまの視線はあちらこちらに揺れ動く。 「雪洞さんは、適当にお役人さんと遊んだ? だけ、なんですか……?」 「妖怪と人間は生きる時計が違うわいね」  ぴしゃり、と言ってのけた雪洞にたまは「時計」と小さく呟いた。 「オレの外見と君の時間がずれていると感じてくれたら簡単じゃないかな、たまちゃん」  幼い緋桐の外見に、たまは何となく頷く。  妖怪は長く生きるのだという――それこそ、本物の妖怪であれば華やかな平安の世界で陰陽師たちと過ごしたものもいることだろう。緋桐の様な4分の1では影響も少ないのだろうが雪洞は本物の妖怪だ。何時から生きているのか……それを、時計の針の動きが違うのだと彼女は譬えた。 「わしは狐塚の所の『お嬢』とは違うわいね」 「ばあさんのことは言わないでくれないかな」  困った様に笑った緋桐はたまに「オレのおばあさんは本物のお狐なんだ」とだけ告げた。  雪洞は緋桐の祖母が幽世からひょこりと顔を出し、人間と出会い恋に落ちた事を物語の様にたまに言って聞かせた。 「初耳だな」と呟く正治は興味深そうに彼女の話を聞いている。狐と人間の恋は、儚いままで終わる事無く無事に成就し、半分だけ狐の力を受け継いだ子供を産み落とす――そうして、その娘から生まれ落ちたのが緋桐だというのだ。 「じゃ、じゃあ、雪洞さんだってお役人さんと上手くいって、子供ができて、その……幸せに」  ぼそぼそと呟くたまに雪洞は冷たく「上手くいくことが多い訳なかろうに」と発した。  冷たい一瞥にたまは小さく息を飲む。それは、良く分かっていた。  お役人による片恋の相手探し。相手が妖怪であることを知っているのに探してしまった――その彼の気持ちはどうなるのか。  恋に恋する乙女、たま。ぎゅ、と掌に力を込めて「でも、好き合ってるなら……」と声を震わせる。 「まあ、たまちゃん。妖怪にもいろいろあるんだよ」  宥める様に笑った緋桐の言葉に雪洞は小さく欠伸を漏らす。その仕草さえも何処か色香を感じさせるのだから頭の固い役人が彼女に揺れた気持ちも理解できる。 「妖怪以外にもいろいろあるじゃろうて。八月朔日の坊が六月一日のお嬢が持つはずの刀を持って居るのも色々の内じゃ」  雪洞の言葉に、表情を凍らせたのは正治だった。  あまり触れて欲しい所ではなかったのだろうか、腰に下げた刃に触れて、正治は表情を凍らせる。 「『くさか』のお嬢……?」 「ああ、六月一日っていうのは正治の家の本家に当たるおうちだよ。お嬢って言うのはそこの跡取り娘だね」  聞きなれない名前に首を傾げたたまへと緋桐は解説する。  六月一日家という由緒正しき陰陽師――本家は不幸にも男児に恵まれず、強い力を持っていた跡取り娘は男児として育てられていた経歴がある。  それはこのご時世なればよく聞く話であった。跡取りに恵まれなければ、養子をとるか婿取りを行い家を存続させていく。陰陽師の家ともなれば、婿や養子を選ぶのにも難しいという事か、それ故の待望の男児を頂く分家に『家宝』を授けたというのは何もおかしくはない。 「本家に生まれたのがお嬢で分家に生まれたのは望まれた男児となれば、そうもなるわいね。  ……そういえば、何処かの女郎蜘蛛の一族もそんな話を聞いたことがあるのぅ」 「女郎蜘蛛の話は知らんが、本家のお嬢を護るのも分家の役目だと聞いている。  その為の力として霊刀を頂くのは何も可笑しな事ではないだろう。いや、寧ろ……」  意地悪く言う雪洞に正治は唇を引き結ぶ。何処か言い辛いかのように彼は視線をうろつかせ、緋桐をちらりと見やった。  困ったときは狐頼りとでもいうように正治は「狐塚」と小さく呼ぶ。 「……まあ、ほら。本家のお嬢――『ていちゃん』は霊刀なんて必要ない位に強いからね」  助け舟を出したと言う風でもなく、何気なく緋桐は付け加えた。  誰にだって事情はあるのよね、とたまは僅かに納得し、美しい女の姿をした妖怪をじっと見つめた。 「でも……その、どうするの? お役人さん、探してるんでしょう?」  話が脱線し続けたが、たまは自分の目的を思い出したという様に三人へと向き直る。  一人は『色恋に首を突っ込むのも野暮だ』と言う様に眉を顰め、  一人は『わしゃ何も知らんわいね』と言う様に子供のようにふい、と視線を逸らした。  そして、残る一人はと言えば、 「ああ、それね。雪洞はお役人の事好きなの?」  直球を投げ入れることを厭わず悪戯っ子の様に笑って見せたのだった。  緋桐さん、と呼んだ声は僅かに震えた。このご時世だ。お家の事情で結婚相手も選べない、このご時世に惚れた腫れたで話をするのは野暮も野暮。 「惚れた腫れたで共に居られる関係でないと雪洞は言っただろう」 「人間同士ならお家の都合もあるだろうけど、オレ達は妖怪だし?」  慌てて口を挟んだ正治にも緋桐は何もおかしくはないと小さく首を傾いだ。  この状態の彼に何を言っても伝わらないと理解しているのか頭を抱えた正治は大きく息を吐き出す。 「……時計が、生きている時間が違うと言っていただろう」  妖怪がお家事情に縛られないとするならば――命の長さは理由にならないのか。  雪洞は長きを生きたことで普通の猫より妖怪へと変化した。その彼女はたまや正治が想像する以上に長きを過ごし、長きを生きる事となるだろう。 「もし、雪洞さんがお役人さんのことを、す、好き……でも。  夫婦になっても、その……何時かは死に別れてしまうんでしょう?」 「そうだね、きっとその時は来るだろうね」  妖怪と人間である以上は、そうなるのは当たり前だと緋桐は大きく頷いた。  その悲恋に胸ときめかすのはあくまで物語の中だけだ。袴をぎゅ、と握ったたまは胸中の思いをどう言葉にしたものかと正治をちらりと見つめた。 「お前は、どういいたいんだ? 狐塚」 「オレは雪洞次第だと思ってる。どうせ、お役人は勝手だよ。  妖怪は長い時間を生きていかなきゃいけない。人間はすぐに心移りするだろうけれどね」  妖怪と人間の違いは外見や住む場所だけではないのだと緋桐は言った。  長く生きる妖怪は、人間が一生のうちに感じる心の変化をゆっくりと刻んでいく。  役人の青年が今、雪洞に熱を上げたとして、明日には忘れてしまうかもしれない。  それでも、雪洞は彼のことを百年は思い続けることができるだろうと緋桐は言った。それ程に妖怪は長きを生き、心の揺らぎを少なく過ごしている。執念深い、と付け加える彼に雪洞は大きく頷いた。 「ここでわしがあやつと結ばれたとて、所詮はわしは妖怪じゃ。  あやつの気まぐれにわしが振り回されてやる道理はありゃあせん」 「……雪洞さんは、悲しい片思いのまま、ってこと?」  たまの言葉へと、「乙女なことを」と雪洞は小さく笑った。 「人間なんてそんなもんじゃ。何時かは大事な相手だって忘れてしまう。  大切な友の事も、何時の日か情を酌み交わした相手のこともじゃ」  尻尾がゆらりと揺れる。暗がりを照らした灯りの下で雪洞は『猫』のように笑って見せた。 「――一晩でいいんじゃ。わしに時間をおくれ。全く、人間はわしを惑わせる」  活動写真館を後にしたたまは妖怪と人間の違いを改めて考えていた。  正治と自分は『普通の人間』で、緋桐は4分の1が妖怪の血を含んでいる。  雪洞の言った『時計』を感じることがない自分たちが彼女の気持ちを大きく揺らがせたのは、あまりに無遠慮だったのではないかと思ってならない。 「たまちゃん、何考えてる?」  屋敷について、正治が茶の準備をしている最中に緋桐は何気なく問いかけた。  彼にとっては当たり前の妖怪と人間の違いは、たまにとっては新しい世界であり、全く知らなかったものだった。 「ねえ、緋桐さん。妖怪のこと……教えてもらってもいい?」 「君は、そうやって危ない橋を渡るのが好きなんだね」  からりと笑った緋桐は困った様に肩を竦める。  霊力のある正治が妖怪について学ぶのとは大きく違う――たまは、普通なのだ。 「オレが妖怪について教えてあげるのは簡単だよ。  雪洞の事、オレの事、正治の家の事……でもさ、それを知ったってたまちゃんは何もできない」 「何も」  何処か、突き放すかのようなニ��アンスを含んだ言葉にたまは唇をきゅっと引き結んだ。  こういう時の緋桐の目がたまは嫌いだ。全てを見透かす様な色をしているから、何も言う事が出来なくなる。 「たまちゃんは優しくて頑張り屋だから、雪洞の為に何かできないかって思ってるのかもしれないね。  でもさ、今のたまちゃんには何かをすることはできないだろうからね。雪洞の答えを待とうよ」  ね、と笑った緋桐にたまは首をふるりと振った。  何もできないから、待って居ろ――自分たちが、彼女の心を揺さぶったのに?  そう思えば、ハイと頷くことができなくて、たまは唇をぎゅ、と引き結ぶ。髪にしっかりとつけていた椿の髪飾りを勢いよく机の上に置いてゆっくりと立ち上がった。 「緋桐さんの冷血漢」  たまちゃん、と制止する声を振り払い勢いよく屋敷を後にする。  夜の帝都の風が冷たかろうが、銀座が遠かろうが関係ない。  雪洞が一人で悩んでいるのだ。親身になって話を聞いて、彼女の力になってやりたい。  あの美しい女は、一人で泣いているのだろうか。  不細工な猫だと知っている役人は今宵も彼女のことを思っているのだろうか。  まるで、文学のような美しい恋物語が、たまの脳内では組み立てられていく――恋は、無常なものだから。  人々の間を擦り抜けて、走るたまを誰もが気に留めることはない。  未だ灯りの消えぬ帝都の街を行く馬車は夜会に向かうのか何処か楽し気だ。  誰の目にも見えていないかのように、走りながら雪洞の居た活動写真館へ向かうたまの足は『いつも』よりも軽く感じた。 (わたし、こんなに走れたの――?)  どうしてか、自由に足が動く感覚が妙に心地よい。  身体が羽の様にふわりと浮いているようにも感じられた。  土を踏みしめ、帝都の街を奔るたまは背後に奇妙な違和感を感じ始める。  周囲の灯りが次第に暗くなり、今まで明るかった筈の背後も暗闇に囲まれ始める。 (……あれ?)  暗がりに手を伸ばせば、目の前を塞ぐ何かがそこにはある。  ぺたぺたと触れれば固い壁のようなものがあることにたまは気付いた。  戻るにも灯りは消えて、目の前には壁がある。少し横に進んでみようかとゆっくりと歩き出せば、その向こうには茫と輝く提燈が存在していた。  帝都の街には余りにも不似合な提燈の回廊は赤い鳥居の下で続いている。 「こんなところ、」  銀座へ向かう道に会ったかしらと小さく呟くたまは不安を感じ頭へと触れた。  勢いよく机に叩きつけてしまった緋桐からの贈り物。お守りの役割を持っていたと思われるそれ。 (きっと、お守りがないから変な物に化かされたんだわ……)  暗がりからの不安に息を飲みこみ、緋桐さんと名を呼ぼうと息を吸う。  ふと脳裏に過ったのは彼が告げた言葉だった。 『――たまちゃんは何もできない』  心の奥底から、何かがこみ上げる。  助けを呼んではいけない気がしてたまはゆっくりと灯りの方へと歩き出した。  灯りがある方向に行けば、きっと誰かがいる。そう思えば、緋桐がいなくったって自分にも何かできるのだという根拠のない自信が湧き上がってきた。 「大丈夫」  正治がいなくったって、自分は可愛い箱入り娘ではないのだから。 「大丈夫よ」  緋桐がいなくったって、妖怪に化かされたとしてもきっと、彼らは話せばどうにかなるはずだ。  次第に近づく灯りに心が落ち着く。そうだ、人間は話し合えば何とかなるはずだ。  聞こえた笛の音、微かな太鼓の音。灯りはゆらりゆらりと誘う様に揺れている。  その最中、たまの眼前でふわりふわりと幾つもの焔が揺れていた。 「ッ、」  それは青白く何かを燃やしたものだった。まるで花の様にその焔を散らし、たまが訪れたことを歓迎するように無数が点いて消えてを繰り返す。  勢いよくへたり込み、背後を見遣れど、その向こうに来た道は存在していなかった。  ガチガチガチと何処からか、大きな音が聞こえる。  まるで何かをぶつけたかのような。  ガチガチガチ……。 (……何……?)  赤い鳥居の向こう、白い何かが見える。  ガチガチ、  絶えず音鳴らすそれは、その白いものから聞こえるのだとたまはしっかりと認識した。 「ひ、」  その白いものが――人間の骸骨だという事を認識したのも、その瞬間であっただろうか。  巨大な骸骨が鳥居に手をかけ、歯を大きく鳴らしていた。空洞となった肋骨が風に揺らされ悲し気に鳴いている。  息を飲みこんだたまは、巨大なそれに気付かれることが無いようにゆっくりと下がろうとして『壁』に背を付けた。 「え……?」  今まで、そこには壁が無かった筈なのに。  言葉は出てこなかった。  髑髏はしっかりと『たまのことを見つめていた』のだから。  周囲に茫と焔が浮かび上がる。瞳が入っていたはずの空洞はたまのことを見下ろしている。 (あれは、何? 妖怪? ……なんの妖怪?)  脳は混乱していた。目の前にいるものが、何か――それを理解できないままにたまは緋桐さんと小さく名前を呼ぶ。  骸骨の腕はゆっくりとたまへと伸ばされる。  捕まればどこかに連れていかれてしまうのだろうか?  臓腑の詰まらない巨大な髑髏はその手で自分を握りつぶしてしまうのだろうか?  徐々に血の気が引いてくる感覚がする。下がろうにも後ろには道はなく、目の前には骸骨と妙な焔が存在している。 「緋桐さん、」  呼べど、愛らしく笑う狐はそこにはいない。 「正治さん」  不愛想な顔をした青年将校もここにはいない。  ――私が、悪かったんだわ。  無遠慮に口を挟もうとしたのは自分の方だった。  ――私が、悪かった。  お守りだと、普通の自分が妖怪の世界に足を踏み入れることは危険だと言われていたのに。  どうして髪飾りをはずしてしまったのか。  どうして、彼の言う事を聞けなかったのか。  じわりと涙が滲みだす。じりじりと近づく掌から逃げる様に背を壁へとぴたりとつけてたまは「緋桐さん」と呼んだ。 「女の子の夜歩きは危険だよ。簡単にあの世にご招待だ」  茫と浮かび上がった青白い焔は先程までのものとは違う。  青白く、何処か美しいそれを狐火と呼ぶのだとどこかで聞いた気がした。  金の結った髪に細い手足、意地の悪い言葉はもう聞きなれたもので。 「緋桐さん」と彼を呼んで顔を上げれば、そこにあったのは深い紅色の瞳だった。
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harudidnothingwrong · 5 years
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kkagtate2 · 5 years
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膨乳薬、ダメ、ゼッタイ。
妹の琴羽ちゃんが膨乳薬を飲んじゃった時の話です。
「これ本当に効果あるのかなぁ…?」
小さな袋に入ったいかにもそれっぽい白い粉を前に、琴羽は腕組みをして唸る。彼女にはこの日友達から膨乳薬と称してもらったこの薬がどうしても法律で禁止されたアレっぽく見えて仕方が無かった。しかし彼女は悩んでいた、この薬を飲もうか、飲むまいかと。それというのも、彼女の胸は生まれた時から変わらない膨らみが、いや膨らんではいないのだがとにかくそこには2つの突起が突然あるばかりで、中学校の同級生の胸元を見ては泣きたくなるほどに悔しく、顔を覆いたくなるほどに羨ましくなり、もはや自然に大きくなるまで待つのも限界だったからである。それに、この薬をくれた友達のおっぱいが、それそれはとても中学生とは言えないほど大きく、その顔ほどある胸元の塊を見ていると信用する他無かったからである。だからどんなに怪しいとは思っても、どんなに嫌だと思っても、琴羽には薬を「飲まない」という選択肢はそもそも無く、決心が固まるまで待つか、それとも勢いにまかせて今すぐに飲んでしまおうかと、迷っているのであった。
思えばどうして私だけこんなにちんちくりんなのだろうか。胸が真っ平らなだけじゃなく、背も学年で見ると最低ではないがクラスだと一番低いではないか。顔は良く可愛い可愛いと言われるけれども、それは小動物的な可愛さなのだと思う、実際お兄ちゃんにも、
「琴羽って生まれて二週間くらいの大型犬みたいに可愛いよな」
と、良くわからない例えで言われてしまった。もちろん、可愛いと言われて悪い気はしない、というよりはかなり嬉しいが、やはり私としては可愛いと言っても小動物的な可愛さではなく、何と言って良いのだろうか、上手く言えないけれども魅力ある可愛さというものを纏ってみたい。そして特に、ニッコリと微笑むだけでお兄ちゃんの心を打つような可愛さを身に着けてみたい。
「でも、それも今日で達成できるかも」
琴羽は自分の、小学生の時から変わらない小さくぷにぷにと肉付きの良い手を恨めしく見ながらそう呟いた。なぜかと言って彼女の一番のコンプレックスは自分のまな板のような胸なのである。この胸さえ少しでも大きくなってくれたら、それをきっかけに子供っぽい今の自分から卒業できるかもしれないのである。そう考えると琴羽はいよいよ決心がついたのか、自称膨乳薬が入った袋を手に取ると、ビリビリとこぼさないよう慎重に破った。
袋の外から見えていた通り、中はただの白い粉であった。少々ビクビクしながら鼻を近づけて匂いを嗅いでも無臭であり、意を決してちょっと舐めてみても苦いだけだった。なので次第に、これ膨乳薬でも怪しい薬でもなくただの風邪薬じゃないのかなと、琴羽は騙された気がしてくるのであるが、逆にこの薬を飲むことに抵抗感が無くなってきた。となれば後は飲むだけである。ちょっとして彼女は、別に飲んでもあんまり害が無さそうだし、本当に膨乳薬だったらラッキー程度でいいかなと思うと、袋を口の上まで持ち上げて、中身を喉の奥に一気に落とし込んだ。
「に、にが…」
琴羽は思わぬ苦味に顔をしかめて、コップを手に取りコクコクとそこに入っていた水を飲み干した。そして、これで本当に大きくなったらどうしよう、ああそうかまずはブラジャーを買いに行かないと、などと思いながらこれで最後かもしれない胸元の硬い感触を味わっていた。と、その時、
「あ~…今日も疲れた寝る………」
と言いながら琴羽の兄が部屋に入ってくる。ふと時計を見ると日をまたいでおり、琴羽もいい加減寝なければいけない時間であった。
「あ、私もそろそろ寝るから電気消して」
「了解。ではおやすみ…」
「おやすみお兄ちゃん」
兄は部屋の電気を消すと二段ベッドのはしごを登り、しばらくモゾモゾとしていたがすぐに寝息を立て始めた。琴羽は薬を飲んだ興奮でまだ眠気は来ていなかったのだが、背伸びをして自分もベッドに潜り込むと意外にもすぐにまどろんで来て、明日が楽しみだ、と思うと同時に夢の世界へと入って行った。
ところが眠りについて30分ほどだろうか、ピリピリとした痛みが胸全体からして琴羽は目が覚めてしまった。
「んぁ…?」
彼女はまだ寝ぼけ眼ではあったが、いったいなんだろうこの痛みは、もしかして虫にさされたのかなと思い、布団の中で手を弄りそっと触れてみると、痛みにも似た心地よい刺激が背中にまで走るのを感じた。その痛みに思わず手を離してしまったが、一瞬だけ感じたふにっとした感触は紛れもなくおっぱいのそれであった。
「えっ…?本当に?本当なの?」
琴羽は未だに胸元の膨らみがおっぱいであるとは信じられず、再び一度離した手をもう一度自分の体に近づけて恐る恐る触れた。するとやはり胸元に電流を流されているかのような刺激が走ったかと思えば、手にはしっかりと押し返してくれる柔らかい感触が広がるのであった。まさか本当に自分にもおっぱいと言える膨らみが出来ているのだろうか、本当にあの薬は膨乳薬であったのだろうか、いや、もしかしたら思い過ごしかもしれない…、夢なのかもしれない…。でも冷え性気味の手に伝わる暖かさと、ビリビリとした痛みは妙にリアルであった。とすれば、やっぱりこの胸の膨らみは本当に私のおっぱい、まだ小ぶりだけど大きくなった私のおっぱいなのだろうか。だとしたら、嬉しい、とてつもなく嬉しい。…………
「す、すごい…。これがおっぱい……あんっ!」
琴羽は嬉しさ余ってつい強くおっぱいに触れてしまい、自分でも恥ずかしくなるほどいやらしい声を出してしまった。とっさに口を覆って兄がまだ寝ているかどうか確認すると、くーくー、と言う寝息が聞こえてきたので、ちょっと落ち着こうと思って静かに布団から這い出ると、壁にもたれかかって、我が子を見るように愛しい目でパジャマがふっくらとしている様子を眺めた。そしてちょっとすると我慢できなくなって、おっぱいって気持ちいいんだなぁと、あまり刺激しないように撫で回していたのであるが、どういうわけか段々と触り心地が良くなっていく気がする。そこでもしかしたらと思い、窓から差し込む街灯の明かりを頼りにおずおず見てみると、パジャマのシワが少しずつ少しずつ動いており、はっと息を呑んでその様子を眺めた。すると驚くことに、あのまっ平らだった自分の胸元が、つい一時間ほど前には触っても薄皮一枚を通した肋骨の硬い感触しかしなかった胸元が、焼成中のシュークリームのようにゆっくりと膨らんでいくのであった。
「えっ…」
琴羽は寝ている兄のために口を覆うのも忘れて驚いた声を上げると、急に怖くなって再び布団の中に潜り込んだ。そして、やっぱりこれは夢なんだ、だからこんな目に見える早さでじわじわと大きくなっていくんだ、朝になれば元通りになっているんだと、思い込んでそのまま寝ようと目をつぶったのであるが、チクリチクリとした痛みが絶妙に自分の淫らな部分を刺激して上手く寝付けなかった。それどころか呼吸が荒くなっていってどんどん目が覚めてくる。ふと現状が気になって胸に手を近づけるとパンパンに張っているらしいパジャマに触れたかと思えば、もはや巨乳と言うべきおっぱいに指がめり込んでしまった。そのしっかりと押し返してくれるおっぱいの感触に、琴羽は嬉しさで手が震えそうになる反面、成長速度が早くなっている気がしてさらに恐怖心を募らせるのであった。
「う、嘘でしょ…?こんなに大きくなるなんて知らないよ、もうこのくらいで良いよ………」
と、言ったところで琴羽のおっぱいは止まらない。何とか成長を抑えようと腕をギュッとして自分自身を抱きしめてみたものの、そうすると余計におっぱいが刺激されてとうとう吐く息に甘い声が混ざり始めてしまっていた。しかも自分がそうやって感じれば感じるほどに、腕が内側から押し返されているような気がしてならなかった。とすれば、もしかして腕でおっぱいを押さえるのは逆効果なのはないだろうか、むしろ手を離してそのまま自然に大きくなるのが落ち着くまで待つ方が懸命なのではないのだろうか、いつ終わるか分からないけれども少しでも小さい結果になってくれるならそっちのほうが良い気がする。琴羽はそう思って、体をベッドの上で丸めると、声だけは立てないよう手で口を抑え、ひたすら快楽に耐えることにするのであった。が、一分もしないうちに胸のあたりで2回、何かが弾ける感じがしたので布団をめくって見てみると、パジャマのボタンが無くなってソフトボール大のおっぱいがお互いに押し合い谷間を作っていた。
「あはは、まさか私がこんなびっくり人間みたいなことをするなんて……」
しかしこれまで夢にまで見てきたその膨らみに、彼女は触ることなど我慢できるはずも無かった。ベッドの上で寝転んだまま両手をおっぱいに添わせると、そのまま手に力を込めて揉みしだき始めた。
「あっ、あんっ…!き、気持ちいいよぉ!!」
想像以上の快感が体中を駆け巡り、琴羽はすぐ上で寝ている兄のことなどお構いなしに卑猥な声を上げて、とろけたような顔をする。それはあのあどけない、思わず頭を撫でてやりたくなるような可愛い顔ではなく、性の快楽に身を任せ気狂いとも取れる女の顔であった。だが彼女はどこか冷静であった。頭上でなにか動く気配がすると、ピタリと手を止めてグッと息を殺したのである。そして、きっとお兄ちゃんが起きたんだなと、彼女は感づくとソフトボールを超えてバレーボール大に近づいていくおっぱいに手を付けたまま、早く寝て欲しいと思って静かに待っていたのだが、嫌なことに二段ベッドのはしごに足をかける音が聞こえてくる。ちょっとして人影が目の前に現れたかと思えば、
「どうした琴羽、どこか悪いのか?」
とどこか不機嫌そうな声をこちらに投げかけると、その人影はベッドから離れ、
「電気くらい付けろって」
と言うのであった。その言葉を聞いて、自分が何かいけないことをしているような気がしていた琴羽は、頭が真っ白になるほど焦り体を起こして、
「今はやめて!」
と強く言ったのだが、パチっと音がすると同時に部屋が明るくなる。そしてドアの前から心配そうにこちらを覗く兄の顔が見えると、どうしても兄にだけは今の姿を見られたくなくなってきて、とっさにバレーボールまで後一歩の大きさになってしまったおっぱいを両腕を使って隠してしまった。と言ってもその理由が琴羽には分からなくて、腕から溢れそうになるおっぱいを上手く操りながら口をぽかんと開けてじっと兄を見つめ返していた。実のことを言うと彼女が膨乳薬を受け取った本当の理由は愛する兄を振り向かせるためであり、そしてそれは彼の机の右側の引き出しの奥にプリント用紙に挟まれたそういう本があるのと、彼のPCのデスクトップにある「QM_report」と名付けられているフォルダーにそういう画像と動画たちが入っていることを知っているからではあったけれども、どういうわけか自分の手の中で非常に悩ましく形をかえているおっぱいを見ていると得体の知れない不安に包まれてしまい、いざ兄に自身のバレーボール大のおっぱいを見せる勇気が出てこなくなったのである。それに、きっと先程の気持ちよさから出た甲高い声を聞かれたと思うと恥ずかしくって、今すぐにでも布団の中に飛び込んでしまいたくなるのである。琴羽はそういう不安と羞恥から兄の目線に耐えきれなくなり、バレーボールの大きさを超えてしまったおっぱいを抱え直して、ベッドの奥へと引っ込んでしまった。
ところで兄は、いつもは何だかんだ言って何かしら反応してくれる琴羽の様子がおかしいことに気がついたようである。そしてベッドの奥で泣きそうになっている妹を心配してしゃがみ込むと何やら胸元に肌色が見えている……ような気がする。そこで彼は、寝間着のボタンでも無くなったのだろうかと、思って、
「琴羽、寝間着くらいちゃんと着けろって」
と言ったのであるが、琴羽がしょんぼりした顔を上げると目を見開き、
「えっ?!」
と、驚いた声を出して固まってしまった。あれだけ胸が無いことで悩んでいた妹に谷間が、それも見えているだけで10センチはある谷間が出来ているではないか。少し暗くなって見づらいとは言え、体の中央部にある非常に美しい直線は確実におっぱいで出来る谷間���はないか。ということはあの腕からはみ出すように盛り上がっている肌色はもしかしておっぱいなのだろうか。いや、信じられない、小さく見積もっても自分の顔くらいある。一体妹の胸に何が。……………
「ど、どうしたんだそれ?!っていうか顔が赤いぞ?!」
と兄に言われて琴羽は顔を意識すると、確かに風邪を引いた時のように頬が火照っているような気がした。しかしそうしているうちに、兄がベッドにもう一歩近づきこちらに向かって手を伸ばしてきており、びっくりして、
「お兄ちゃん、これは、これはね…」
と、彼女は大丈夫であることを説明しようと声を放ったのだが、言葉が続かない。さらに近づいてくる少し角ばった手に、琴羽はあの物好きな兄のことだからおっぱいを触ってくるに違いないと踏んで、目をつぶりビクビクと体を縮こまらせた。が、意外にもその手は彼女の頭に達すると、そのままふわりふわりと髪の毛に沿って動くのであった。
「琴羽、落ち着いて。何が起きたのかお兄ちゃんに話してみ?」
兄は彼女の頭を撫でながらそう言った。大のお兄ちゃんっ娘である彼女は今まで兄に撫でられたことは何度もあるのだが、これほどまでに優しい手付きは初めてであり、今までとは別の理由で心臓が高鳴ってくるのを感じた。そして、お兄ちゃんそれ卑怯やん…、と思いつつすっかり落ち着いたので、観念したようにベッドから足を下ろして腕を開き、お互いの顔よりもすっかり大きくなってしまったおっぱいを晒した。
「うおっ、どうしたんだその…おっぱい」
「えとね、えとね…あ、撫でるのは止めないで」
琴羽は兄に撫でられながら事のあらましを語った。おっぱいが小さいとおっぱいが大きい友達に相談したら、良い薬あるよ、たぶん一回だけで大きくなるよと言われたこと。今日怪しい白い粉を渡されたこと。そして早速寝る前に飲んでみてしまったことなど知っていることを全て話した。
「そうか、そうだったのか、そういうのに手を出してたのか」
と、兄は真剣な声を出すのであるが、琴羽は彼があらましを喋っている間にもスーッと静かに膨らんでいくおっぱいに目が釘付けだったのに気がついていたので少しばかり可笑しくなるのであった。が、バレーボールを超え、顔を超え、次はバスケットボールの大きさになろうとしているおっぱいは体の小さな彼女にとって相当に重く、いくら可笑しかろうとも笑ってなどいられなかった。
「ごめん、ついやっちゃった…」
「まあ、飲んでしまったものはしょうがないから落ち着くのを待たないとな…」
「うぅ…やっぱり待たないとダメ?お兄ちゃん何か知らない?このままだと本当に冗談では済まなくなっちゃうよ…………」
「うーん…わからん。その友達はどの程度まで大きくなるって言ってたの?」
「な、何も言ってない…。でもその子もこのくらいの大きさだからそろそろ止まるかも……」
そう考えると気が楽になってくる琴羽であったが、本当に止まるのかどうかははっきりと分からないし、それにおっぱいはいつの間にかバスケットボール大にまで膨らみお腹が隠され後少しで膝に触れそうになっていたため、結局は不安で押し潰されそうになった。しかもその不安を後押しするように成長する速度は変わらないどころか早くなっている。現に起きた時にはよく見ないと膨らんでいるのが分からなかったが、今では息をする度にムクリ、ムクリ、というように大きくなっていっているのである。その様子を眺めていると琴羽は不安よりも怖くって仕方なくなり、大好きな兄にすがりつきたくなる気持ちをどうにか抑えなければいけなくなってくるのであった。
琴羽も薬を飲んだ時に一応はFカップとかGカップとかそのくらいの大きさになってくれたら嬉しいなと、思っていた。そのくらいだったら自分の体にはちょっと大きすぎるかもしれないけれども、巨乳と言うべきおっぱいであるし、誰しもが見る目を変えて私のことを見るであろうと思ったのである。が、それが今やどうであろう。もはや化物みたいなおっぱいになってしまっているではないか、冗談抜きでXカップとか、Yカップとか、Zカップとかそのくらいありそうではないか。どうしてあんな怪しい薬を飲んでしまったのだろう。まさかこんなに大きくなるなんて思って無かった。いや、この大きさで止まってくれたらどんなに良いことか、すっごくアンバランスではあるし、重くって仕方ないけれどもちゃんとブラジャーを付けたら日常を送る分には問題ない………かもしれない。でも、こうしている間にも大きくなっていて、--------ああ、とうとう生暖かい感触が太ももにまで伝わりだしてしまった。もう笑うしか無い、私はただ座っているだけでおっぱいが膝の上に着いてしまう女の子になってしまったんだ、小学生みたいな体に何カップなのかも分からないおっぱいが付いてしまっている女の子になったんだ。ここまで大きいともはや誰も私のことを好意的には見てくれないと思う、そしてそれはお兄ちゃんも決して例外ではないと思う、きっと、そんなに大きいのは好きじゃない、なんて言うに決まっている、いやもしかしたら、気持ち悪い、とも言うかもしれない。何せお兄ちゃんの"コレクション"の中にもこんなおっぱいをした女の人はいなかったのだから。うぅ、お兄ちゃんにだけは嫌われたくないよぉ。……………
「好きだよ」
「えっ?」
「だから俺は好きだよ、そのおっぱい。琴羽が思っている以上に素敵だから心配しなくて良い」
「へっ?」
琴羽は一瞬間だけ兄が自分の考えを読み取ったかのように言うのか理解できなかったが、ついつい声に出してしまっていたのかと合点すると、
「本当に?」
とやっぱり不安なので聞き返した。すると兄は、
「本当に」
と、これまでとは打って変わって真剣な眼差しで琴羽の瞳を見つめてくるので彼女も遂に安心するのである。そして安心したついでに彼女は、こんなおっぱいが好きだと言う兄に一つお願い事をするのであった。
「じゃあさ、お願いがあるんだけど…」
「ん?なんでも言ってごらん?」
兄がそう言うので、琴羽はとうとう膝の先まで着いてしまったおっぱいまでうんと手を伸ばし、抱える仕草をした。
「こうやっておっぱいを持ち上げてもらっていい?」
「マジか。いいけど、いいのか?」
「うん、お兄ちゃんなら良いよ。ちょっと今立てないくらい重いけどお願い」
「お、おう」
そう言うと兄はまず膝立ちになって手を広げ、そしてビーチボールなどよりももっと大きくなってしまったおっぱいをUFOキャッチャーのように抱え腕を柔らかくそのお肉に食い込ませると、予想よりもかなり重かったのか、
「ふんっ!!」
と気合を入れた。するとゆっくりではあるが膝の上からあれだけ纏わりついていた極上の感触が消えていき、琴羽は肩や腰がどんどんと楽になっていくのを感じた。
「うおおおおおおお重い…!!!」
「で、でね、ちょっと私今から立てるから、それに合わせておっぱいをベッドの上に置いてほしいの」
琴羽がそう言うと必死の形相をしていた兄の顔に悲壮感が漂い始める。
「お前それちょっと…無理、一旦休憩してから……」
と、言うと兄は腕をプルプルと震えさせながら琴羽のおっぱいをその膝の上に下ろした。その声と様子からかなり余裕がないように彼女は感じたのであるが、意外にも兄は持ち上げた時と同じ様におっぱいをゆっくりと下ろすので、そういうとこやでお兄ちゃんと、思いながら膝の上に降ってくるおっぱいを両手で上手くバランスを取って溢れないようにしていた。その時ふとやってみたくなって腕をおっぱいに回すと少なくとも50センチ以上は間が空いたので、自分の身長が140センチちょっとということを考えるとだいたいのバストが分かりそうだったけれども、ついには怖くて考えるのを止めた。実を言うと兄の手が触れた瞬間に針で刺す用な快感がおっぱいに走ったから絶対に大きくなっているとは思っていたが、どうやら想像以上であるらしい。
そうこうしているうちに兄はおっぱいを下ろし終えたようで、ゼーゼーと息をしながら妹の膝の上をどんどんはみ出していくおっぱいを見ていた。
「いったい何キロあるんだそれ…。20や30じゃなくて40、50はありそうだぞ」
「でもお兄ちゃんなら余裕じゃない?」
「く、クソ!妹のおっぱいに負けてたまるか!!」
と、兄は再びおっぱいに食らいつく。兄が今度は勢いよくおっぱいに手をかけたので、琴羽は突然の刺激に思わず声を挙げそうになった。とは言え兄にお願いしたのだから止めてとも言えず、それに今を逃してしまうと床に敷いてあるゴワゴワとしたカーペットに直接おっぱいを着けることになり今以上に刺激されてしまうから、兄がおっぱいを持ち上げてくれるのを口を抑えて待つしか無い。が、ぐにぐにとめり込んでいく兄の腕は想像以上に気持ちよくて、おっぱいがその腕を跳ね除けようとまた一気に成長してしまい放っておいた方が良かったのではないのかと彼女は思うものの、この自分には吐き気のする欲望を刺激してくる痛みを味わえないのはひどく惜しいとも思った。そう悶々としながら待っていると兄の掛け声とともにおっぱいが再び浮き始めたので、さすが男の人、と琴羽は思いながらベッドからお尻をするりと滑らせて目線で合図をすると、兄はベッドの方へおっぱいを持って行き始める。あれだけ自分のおっぱいを素敵だ、とか好きだ、とか言っていたので下心もあるにはあるのだろうとは思うけども、こうして自分では片方ですら持てないおっぱいを両方いっぺんに持ち上げて、大変なのに我儘を聞いてくれるのはとてもとてもありがたい。いつもいつもお兄ちゃんはそうだ。数年前に地元の有名な神社へ行ったときも、1368段ある階段に音を上げて途中で帰ると言い出した私をおんぶして、重い重い言いながらも紅葉の美しさを教えつつ最後まで登りきってくれた。琴羽は聞こえないよう小さな声で、おっぱいをゆっくりと下ろしてくれる兄にありがとうと言うと、今までふわふわとしていた自分の気持ちが固まっていく瞬間を、心をピリピリと波立たせながら胸から伝わる刺激と共に味わうのであった。
彼女はベッドの上に柔らかく着地して平べったくなっていくおっぱいを見て、これが本当に人間の体の一部なのだろうか、という疑問を抱いた。そもそもの話としてすでに人の体ほどの大きさがあるのである。それに兄が最後の最後、手を離す際にベッドの足がギリリと軋んだのである。一体世界のどこにベッドが軋むほどのおっぱいがあるのだろうか。実は搗き立てのお餅が乗っているだけなんじゃなかろうか。などと思ったものの、ベッドに横たわる自分の肌と同じ色をした山は餅と言うにはこんもりとしているし、何よりくらりとするほど魅惑的な曲線を描いている、それに手で擦ってみるとやっぱりあのピリピリとした痛みが胸全体に走る。とすればやっぱりこれはおっぱいで、自分の体の一部なのであろう。ああそうか、もうこんなに大きく、こんなに重くなってしまったんだ。どうしよう、本当にこんなに大きくなるなんて知らなかった。もう昔テレビで見た世界一胸の大きい人が小さく見えるレベルになってしまった。こうやって何とか動かそうとおっぱいを下から揺らしても、たぷたぷと波打つばかりで動く気配すら無くなってしまった。それなのに目の前の山は水が入っていくようにじんわりと大きくなっていき、まるでこれ以上大きくならないでと懸命に願っている自分を、これで十分なの?本当はもっと大きくしたいんじゃないの?おっぱいが小さくて悩んでたんじゃないの?と嘲笑っているようである。まさか絶壁だったこの私が、おっぱいが大きすぎて悩むことになる日が来るなんて………。そうやって呆然とした表情で自分のおっぱいを眺めている琴羽は、自分の真横から伸びてくる手に全く気が付かず、何も分かっていない力加減でおっぱいに触れられてしまうのであった。
「ひゃんっ!!!」
琴羽はすぐさま口を抑えて続く声を、目をぎゅっと瞑って必死に堪えた。瞼の裏には、視界が完全に暗くなる直前に見た、おっぱいが爆発するように一気に大きくなる瞬間が何度も何度も繰り返され、頭には焦りから、「どうしよう」「また一気に大きくなった」「止まらない」という3つの言葉だけがグルグルと周っている。しばらくしてビリビリとした痛みが少し落ち着くとようやく他のことを考える余裕が出来たので、琴羽は祈るように手を組み、これで終わりにしてと、血の巡りが止まるほど手に力を込めてひたすらにお願いした。彼女はまだ引き返せると思っているのである。異様なまでに大きくなっていくおっぱいに逃げることも出来ず、快楽に頭が支配されかけてもまだ、
「いつか止まってくれる、絶対に止まってくれる、まだ生活出来る程度の大きさで止まってくれる」
といった希望を捨てていなかったのである。ところがそんな彼女の願いとは裏腹に、何もせずとも徐々に大きくなっていくおっぱいは遂にベッドの奥にある壁にまで達し、さらに数秒するとおっぱいの一番敏感な部分がそのザラザラとした壁に触れてしまって、途端、琴羽の体にはこれまでの比ではない快楽がおっぱいを中心に沸き起こり、背中をねじり目から涙を流し悶絶して、
「はぁ、はぁ…ひっ…ひっく……、お兄ちゃん…どうしよう、止まらないよぉ………」
と言うと、とうとう涙に濡れた手で兄の手を握り彼に縋り付いた。だが愛する者の体に触れると、ただでさえ悶絶するような快感が、今度は精神的な満足感と合わさりさらにひどい濁流となって押し寄せてきたのであった。
「あ、あぁん!お、おに…おにいちゃん!!ひぅっ…!」
「琴羽!大丈夫か?!」
兄はそう言うと優しく優しく琴羽の背中を撫でる。しかし彼女にはもはやそれすらも気持ち良い。
「ひっ!くっ……!」
「ご、ごめん、嫌だったか?」
と、今度は汗でへばりついた髪をかき分けてくれる。琴羽はその行為を何も考えられぬままとろんとした目で眺め、そしてしゃくり上げながら自分のして欲しい事をありのまま伝えた。
「ぜ、ひっく…!全然だから!!そのまませなかおねがひっ…!!!」
琴羽はもはや恥ずかしいなどと思わずに全身で兄の優しい手付きと、おっぱいから伝わってくる刺激に身を任せきっていた。その目からは涙が止めどもなく溢れており彼女には薄ぼんやりにしか目の前の光景を見ることが出来なかったが、ひどく艷やかな声を放つ度にずんずんと大きくなっていくおっぱいは、気がつけばベッドの上をほとんど埋め尽くしているようであった。
琴羽はまだ中学生なのである。まだ14歳という若さなのである。明日も学校へ行き授業を受けなければいけないのである。しかしこのベッドから動くことも、ましてや外に出ることすらも出来ないのである。もはや自分のおっぱいに合うブラジャーなんて無いだろう、もしあるとすればどれだけ大きいのだろうか。何せ自分の体の何倍もあり、ベッドを埋めるどころか今はそのベッドから溢れかえりこちらになだれ込んできているのである。作ろうとするだけでも相当にお金がかかるだろうし、作ったところで着けることすら難しいし、それに着けたところで結局動けやしないだろう。そしたら、そしたら----、あ-------、もうお兄ちゃんと一緒に夏祭りに行こうと電車に乗って遊びに行くことも出来ないんだ、もうお兄ちゃんと手をつないで夕方の綺麗な夕日を眺めながら家の横にある海の側を歩けないんだ…………。そう思うと彼女は先程まで持っていた希望すら失われてしまったような気がして後のことなんてどうでもよくなり、本能の赴くままに兄の手を抱きしめ全身から伝わってくる途方もない快楽をその小さな体で受け止めた。
「お、お兄ちゃん!!おっぱい気持ちいい!!気持ちいいの!!!!あぁんっ!お兄ちゃん!お兄ちゃん!!んん~~~~~~!!!!!」
そうしてイッた後、琴羽はおっぱいに半ば埋まりながら顔を埋めてぐったりとし、何やら口を動かしている兄をそこはかとなく愛しい目で眺めていた。兄は最初こそ難しそうな顔で自分を見つめてきているようであったが、一度決心したように頷くと、どういうわけか下に着ていたジャージに手をかけ、すっかり勃ってしまった"ソレ"を晒した。その瞬間、琴羽は心の中に苦しくなるまでの喜びが沸き起るのを感じると共に自然に笑みが溢れた。-------そうか、お兄ちゃんは本当にこんなおっぱいを好きになってくれるんだ、私はようやくお兄ちゃんを振り向かせられたんだ。そう思うと項垂れている場合ではない気がして、近づいてくる兄の顔に両手を添わせ目をつぶった。そして、ほんの一秒にも満たないキスをし、
「お兄ちゃんの変態」
と言うと、兄のモノを手で優しく握った。ふと視線を落とすとおっぱいはまだまだ大きくなっていた。
(おわり)
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sandacsakurai · 6 years
Text
交換小説「サイレントライン-超えてはならない壁-」
奇数回=オッセルヴァンツァ
偶数回=サクライ
人類は又しても過ちを犯した
第三次大戦勃発により、世界は核の炎に包まれた。 大地は汚染され、人類の生活拠点は地下2000m下まで追いやられた。 にもかかわらず、人類は地下の限られた資源や領地の奪い合いに奮闘し、遂には汚染された地上にまで争いは広がった。 世界に生まれた1人の少女「スミカ」
「コンドームは避妊以外にも水を入れて運ぶのにも使えて便利ね〜、セックスした事無いけど」
彼女もまた、そんな過酷な世界を生き抜こうとしている…
スミカは戦争孤児であり、少女ながら地下世界の労働者として働いて生き延びている。 娯楽の少ない地下での彼女の持つ趣味はスクラップの山を漁る事である。 「さ〜てと、今日もトレジャーしますか〜!おや?こんな場所に人が居るなんて珍しいな…誰だろう?」 そこに居たのは…
老人は目的の場所に辿り着くと、地面に崩れ落ちた。 腹部に負った傷からは、体の体積以上ではないかというほど体液が流れ落ち、意識も強靭な意志で辛うじて保っている状態だった。死に場所をスクラップ置き場に選んだのは、自身の死後に安らかな眠りが許されないことを知っているからに他ならない。 老人は追われていた。その組織は必ず老人の死体を見つけ出し、その前後を調べ尽くす。だからこそ、どこぞの集落で誰かに看取られるような死は許されない。その集落を彼らは焼き払うに決まっている。視線を下ろすと、腹部から流れる体液が足の先まで真っ赤に染めていた。一人孤独にゴミに埋もれて死ぬ。それが体制と戦った老人に許された眠り方だった。 はずだった。
少女が老人を見下ろしていた。押し殺していた感情が、孤独と恐怖が溢れ、老人は涙ぐんだ。きっと彼女は天使なのだ。
「はぁ〜下半身から血ぃ吹き出して死んでる。はじめてみた。これテクノブレイクだよね?」
老人は認識の誤りを悔いて、涙を引っ込めた。
「賢者タイムの所悪いけど、おじさんもう歳なんだから無理しちゃダメだよ。死んじゃうよ?」 スミカは謎の老人に近づこうとすると。 「それ以上くるんじゃない、早く逃げるんじゃ!」 老人が苦しそうに叫ぶ。 いい歳して中二病?まぁいっか、暇だし付き合おう。 「怪我をしている人を置いていくなんて、そんな事私にはできないよ!」 老人は驚いた、さっきまでの彼女の下ネタ発言を忘れ、涙した。 「お前さんはまだ若い、ワシなんか構わずに逃げるんじゃ、もう時間がない!」 「もう、強情だな〜。私達しかいないんだからテンポ良くいこうよ…ん?誰か来た?」 瓦礫の山越しに複数の足音とライトの光が見えた。 「今ならまだ間に合う、早く逃げるんじゃ!」 老人の忠告を無視して少女は地面に耳を当てる。 「数は4…いや5人…それならコレだけで充分だね」 少女がバックから煉瓦サイズの粘土の様な塊を取り出した。 「お前さん、一体何をする気じゃ…」 「爆弾作るんだよ、悪いか?」 「いや、悪かねぇ…」 そうすると少女は通路の隅に爆弾を仕掛け、その上に鉄板を被せ、更にボルトや釘を寄せ集め山盛りに乗せた。 「さあ、おじさん逃げるよ!」 「イダダダダだッ!!」 少女は老人を引きずり物陰へと隠れた。
ハガネは溜息を漏らした。 ここ数日は残業ばかりだ。逃げた老人を探すというふざけた任務。
そもそもハガネは公務員のはずだった。しかし今は両手でやっと持てる銃器を手に、老人を探して連行するような、怪しい仕事を任される立場になってしまった。ちょっと飲み会で、嫌いな上司に絡んだだけというのに、国家の犬の中でも1番の汚れ仕事である始末屋になってしまった。対象人物を捕獲して組織に差し出すまでが彼の仕事だ。 その老人に関しては詳しく知らない。デマの情報を流して社会を混乱に陥れるテロリスト、とだけ聞いている。どうにも仲間が数人いるようだが、そのほとんどは職場の同僚たちが片付けてしまった。
もう一度ハガネは溜息を漏らした。 安定を求めて公務員になったのに、全て台無しだ。そのせいで彼女にも見限られて、今は夜中まで働き、一人の自室に帰って寝るだけ。そしてまた���朝から激務が始まる。若くて興味や意欲…つまりやりたいことがいっぱいある時に、ひたすら社会に体力を差し出す毎日。
「オレは何のために生きてるんだろう」 ハガネは3度目の溜息をつくことは出来なかった。 炸裂音と共に何かが爆発して意識を失った。 彼の同僚たちも同じだった。ただ一人、彼らの班長となる大男だけ、問題なく武器を構えていた。彼は他の使い捨ての「兵士」たちとは装備が違う。彼は冷静に爆煙が散るのを待ち、敵を探して視野を振った。
炸裂音が聞こえたが、少女は見向きもせずに老人にバックに入っていた軍用エイドキットで応急処置を施していた。 「よし、お手上げだ!やるだけやったが、こん道具じゃ気休めにしかならねぇよ」 「いや、ありがとう…だいぶ楽になったよ…それよりもお前さん、何故ワシを助けてくれた?その年で応急処置や爆弾の破片効果なんてどこで習った?」 「バカっお前そんな長ったらしいセリフ言ったら…」 「お前達、そこを動くな」 「ほら来た」 振り向いて見ると、1人の重装備の兵士が銃をこちらに向けていた。 スミカはソイツの肩の識別ワッペンを見て傭兵派遣会社から派遣された兵だと理解した。 「あ、爺さんの名前聞いてなかったな。あたいスミカってんだよろしくな」 「え?わ…ワシはエミールじゃ」 「あ、ついでに名乗っとくが、俺はステイサムだ」 エミールは場の空気に困惑した。
「それでどうする?大人しく爺さんを差し出してお花を摘みに行くか?」 「あたしゃスミカだ!こっちがエミール!前回の自己紹介を無駄にするなステイサムッ」 「なーに、こうやって何度か呼び合わないと読者の皆さんが覚えてくれないだろう?」 「おまえに関しては心配ないと思うぞステイサム!」
「それで…どうする?」 銃をたてステイサムが、答えは分かっているくせにニヤリと笑って問う。 「そりゃあ分かりきってんだろう…。まだサクライはあたしのキャラを掴んでないからね…とくに理由はなくても、主人公なら、…人助けしないとなァア!!」 スミカが後ろから弾かれたように飛び込んだ。 「ふん!それは俺も同じこと…!サクライはステイサム主演映画を2本も観てないからな!俺のキャラもまだ不安定…サクライの担当回で攻めてくるなど愚かなり…スミカ!」 スミカは走りながら、 「しゃら…」 気絶した兵の銃を取ると、 「くせェエエ!!」 鈍器として敵に振り落とした。
しかしそれを片手で防ぐステイサム。 「…この攻撃力、貴様ただのガキじゃないな」 「くく、やっと気付いたか…!」 「何者だ…!」
ステイサムは片手のまま、スミカを跳ね返す。 着地して体制を整えてスミカが返す。 「聞いて驚くな!あたしは…」 ステイサムが聴き入る。 「地下世界の…」 「まさか…!」 「日雇いの労働者だ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」
「なんだとォ。…あの、安月給でサービス残業あたり前で、過酷な労働によって強靭な肉体を鍛え上げてしまう…あの、地下世界のスーパー労働者か…!!!」 「そうだ。ついでに大抵の場合、ジリ貧金ナシだからバイトで少年兵の経験もあり、戦闘に慣れている!」 「くそォオ‼︎愚かなのは俺だ‼︎日本のサラリーマンに次ぐ最強の戦闘民族、地下の労働者に手を出すとは……‼︎‼︎‼︎」 「今頃気付いても遅い!覚悟はいいな!JJステイサム‼︎‼︎‼︎」 勝ちを確信して銃(鈍器)を振り上げたスミカが、突如爆風に飛ばされる。 「こうなれば俺も出し惜しみはしてられぬ」 「貴様ぁ…ステイサムの癖に変身するのか…!!」 「私は、髪の毛の後退に比例して戦闘力が上下する民族の末裔なのだ。この頭を見ればわかるな!これが最強形態だ!!!!」 「ぬかった!さっきの一撃で倒しておけば…‼︎なんという気迫だ‼︎‼︎」 「ハッハッハもう遅い!そしてもう一つ教えてやる!この形態の持続時間は3分もない!つまり次のエピソードでこの戦いには決着がつく!」 「なにィ⁉︎」 とオッセルヴァンツァが言ったかどうか、サクライには知る由もない。
2人の力の波動は密集した地下世界全てを包み込んだ。 常人にはただの空気の振動にしか感じ取れないが、地下政府の軍事研究室の培養カプセルで眠っていた究極生命体は違った。 研究員L「おい、何か揺れなかったか?」 研究員S「別の区画の兵器試験場からだろ、アレ成功したのかな?」 研究員L「あんなモノが実用化されたら、いよいよこの世界は終わりだ。」 研究員S「おいおい、作った本人が言う台詞かよ。」 研究員L「ハハハ、それもそだな。それよりもこの筋肉ムキムキマッチョマンの変態は何なんだ?」 研究員S「お前に負けてられないなと思って2徹して作ったんだ、いいだろ?」 研究員L「ああ、いかにもお前らしいよ。ところでさっきから気になってたんだけど、コイツの脈拍数値がおかしくないか?」 研究員S「え?あ、本当だ。まぁこんなモン叩きゃ大丈夫さ。どうした!この根性無し!!」 モニターを叩いていると、培養カプセルの中で眠っていた巨漢がギロリと此方を見つめる。 研究員L「なあ、マッチョがコッチ見てるぞ。」 研究員S「あ、本当だ。よう元気か?」 次の瞬間、巨漢が雄叫びを上げ、研究室が光に包まれ吹き飛んだ。
ステイサム「どうした!その程度かスミカ!」 スミカ「クソッ!攻撃を防ぐので精一杯だ!」 エミール「一体…何がどうなっているんだ…!?」 ステイサム「ん?この強大な気は…!?」 スミカ「クソッ!まだ何かくるのかよ!」
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爆風に飛ばされて、一瞬耳がきーんと聞こえなくなった。 スミカはやっとこさ立ち上がり、キョロキョロと首を振った。 ステイサムが右腕を抑えて立ち尽くしているのを、スミカは見つけた。 「おいステイサム。これおまえの超必殺技か?やれやれなんてパワーだ、地形が変わっちまったぞ。まぁスクラップしかないからゴミが入れ替わっただけだけどな!ハハハハハ」 「俺じゃねぇ…。あいつだ」 ステイサムは空を見上げていた。スミカも同じところを見てみると、そこでは筋肉質な男が逆光を背負って浮いていた。 「なんだおまえは…」 「私はアーノルド」 「おいおい、あと二人は出てきそうな名前だな」
アーノルドが腕を振ると、直径0.5キロ四方のスクラップの山が消し飛んだ。 「私は、すべてを破壊する」 「ちくしょォ!さらなる強敵を前にかつての強敵と共闘する…ってやつかァ!主人公って忙しいなッ」 「私はムリだ。スミカよ…」 「なんだよ!遠慮せずもっとハゲ散らかせステイサム!」 「言っただろう。3分は保たないと。もう髪がまた延びるまで私は戦えない。そして私はもう更年期だ。髪はそう簡単には伸びない…。もうおしまいだ…」 「そりゃねえぜ!任務はどうした!エミールのジジイをぶっ殺すんじゃねぇのか!がんばれよ!エミールを一緒に血祭りにしようぜ⁉︎………そういやエミールどこいった?」 「気持ちは嬉しいが俺の任務は、エミール・ラスコピッチの持つデータの抹殺。このままここをアーノルドが破壊すれば、任務は完了だ」 「なんだよそりゃ!自分ごと抹殺して任務完了⁈どこの大和魂神風精神だ、ふざけんな!家に帰るまでが任務だろうが!ちゃんとエミールぶっ殺して…データとやらをぶっ壊して…家族のところに元気で帰れよ!!」 「ふ…俺は一人ものだよ。…スミカおまえには、もっと…はやく、会いたかったぜ」 ステイサムはそう言うと、最後の力でスミカを遠くに蹴り飛ばし、 「いくぞアーノルド!!旧式の意地を見せてやる!!!」 全身に武装していた火薬に火を放ち、 「ふざけんな!!ステイサムがアーノルドに殺されるなんて、過激派の映画ファンが読んだらどうすんだ!!サクライもオッセルヴァンツァも殺されるぞ !やめろォオ!!」 自爆した。
ステイサムが死んだ。
俺は連邦捜査官のジャック。 政府の極秘データを持ち出した男を追っている途中で妙な爆発音を聴き、その場所へ向かうと。そこには見るも無残な研究室が目に入った。 俺は生存者がいないか探していると、瓦礫の中から突き出ている金属でできた手を見つけた。 その手は壁に開いた巨大な穴を指差していた。 俺は無線で救援部隊に研究室を任せ、その巨大な穴の先を捜索した。
俺は直ぐに爆薬で開けた穴ではない事に気付いた、これは何かが力づくで穴を開けていることに… 研究室で一体ナニが起きたんだ? 得体の知れない恐怖で次第に大きく早く脈を打ち、額から汗が流れ落ちる。 進むに連れ何やら大きな音が聞こえてくる。 穴の終着地で俺はハゲ頭のおっさんが大声でナニに向かって叫び、次の瞬間そのおっさんは自爆した。
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「すごい爆発だった…。これではナニも無事ではあるまい」 巨大なクレーターとなったスクラップ置場跡地、ジャックはせめて何か手がかりがないか歩いた。そのとき、ジャックの足元で何かが動いた。 瓦礫を掘り進めてみると、治療の形跡のある老人が出てきた。 重症を負っている。 「おい!大丈夫かしっかりしろ!」 「…う、なんじゃ…。吹き替え洋画のような早口で、やたら低い声がするの…」 「俺はジャック!なにがあったんだッ」 「うぅ、確か天使に会って…。そうじゃ!スミカ!スミカは無事か⁈」 「残念だがこの爆発だ。周辺のやつはほとんど死んだだろう…」 「しかし!ワシも、おまえさんも生きている!スミカも生きているに決まってる!」 「あんたは瓦礫の陰にいて助かった。俺に関しては…、俺は視聴率がある限り、何年でも引き延ばされる呪いを背負っている。簡単には死ねないんだ。ご都合主義の呪いだ。クソォ!!」 「よくわからんが、これをスミカという少女に渡してくれないか」 ピエールは銀色のペンダントを取り出した。 「これは今は首飾りの形をしているが、いざというとき、必ず彼女の力になる…。彼女の、スミカの戦いを見て、スミカに託すしかないと分かった…。ワシはもう長くない。頼む…。あんただけが頼りだ」 「なんだ、なんの話だ!わかるように言え!」 「…私は、長年仲間たちと、薬師丸浩公という研究者の研究成果を調べていた…」 「薬師丸ひろ子⁈何者だそいつは⁈」 「薬師丸浩公の研究を実用化すれば、汚染された地上を浄化することが…、つまり世界を救うことができたのじゃ…。それを利権で揉み消した者たちがいる…!自分たちの私腹を肥やすために…!世界を…未来を…!許せんッ!許してはならぬのだ!!」 「薬師丸ヒロコウ⁈ひろ子じゃなくてヒロコウか⁉︎もう一度頼む!」 「頼む…未来を…次の世代の為にも……。この首飾りには薬師丸の技術の一部が使われている。それを、スミカに託したいのだ…。頼んだぞ…」 ピエールの顔から血の気が引いた。 しかしその顔は、それとなく穏やかな、長く辛い戦いから解放された、安らかな顔だった。 「死んだ…のか…。」
あ、と漏らしてからジャックは改めて吠えた。 「…死んだッ⁉︎なぜだ!クソオオ!!」
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しまった、また俺は嘆いてしまった。だがこれが俺のアイデンティティなんだ! とにかく俺は名前を聞きそびれた老人ピエールの意思を継ぐ事になったが、ぎこちない演技をしそうなあの巨漢はなんなんだ?アレが研究室から抜け出したのか? とにかく俺はスミカを探す事にした。 「おい!大丈夫か?お前がスミカだな?ピエールがコレをお前にと言っていた!」 「イテテ…お前新しいキャラか、離婚してそうな顔してんなぁ。てかピエールって誰だよエミールだよ。サクライのやつ横文字苦手過ぎるだろ。」 「もう死んだから俺みたいに復活する事はないだろうから気にするな、それよりもあのターミネーターをどうする?」 「そんなモン今作初登場の使い捨てキャラのあたしが知るかよ!長期シリーズ主役のジャックが考えろよ!」 「そうだな、わかった。じぁあまずこのペンダントに何か仕掛けがあるか調べよう。ん?ここにボタンがあるな」 ジャックが調べると特に変化は無かった。 「何も起きねぇな」 「いや、コレはビーコンだ。どこに発信されているかはわからないが…」 すると突然宇宙船が現れ、中から人型の生き物が現れた。 「なぁ、あれプレデターだろ?」 「ああ、間違いない。プレデターだな、化け物には化け物をぶつける考えか!チクショウ!!」 そしてアーノルドとプレデターが睨み合うッ!
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「じゃ帰るか」 スミカはくるっと向きを変えて、すたすた歩きはじめた。 「ちょっとまて!亡きピエールの遺した戦いを見届けないのか!?」 「エミールだよ、さっき訂正しただろ。おまえどこで意地はってんだよ。……プレデターとアーノルドなら107分は時間稼いでくれるし、ついでに1億$くらい稼いでくれるだろ。もう2時だしあたいらの宿舎で飯食ってけよ」 「そうか、そうだな。じゃあありがたく頂こう。俺もしゃべり通しで腹が減った。それよりもう二時だと!?午後ローを見逃したじゃないかチクショオ!!」
スミカは小さく折り畳んでいたキックボードのような形の、反重力式の乗り物に飛び乗った。 「あんたも乗れよ。ボロだけど改造してあるから、もう一人くらい余裕だぜ」 「ああ、じゃあ乗らせてもらうよ。…しかしハイテクな乗り物だな」 「はあ!?こんな旧式のひろいもん、おまえいつも何に乗ってるんだ?」 「乗り物は現場でドライバーを脅して借りるものだ」 なんだそりゃ、と吐き捨ててスミカは一気に200キロで出発した。慣れない乗り物にジャックの顔の皮膚がアヘアヘに引っ張られた。
「ついたよ。これがあたいらの宿舎っていうか、住み込みで派遣先に運ばれる移動控え室かな」 それは亀の形をした巨大な要塞のような建造物だった。しかしよくみると重低音を響かせて少しずつ移動している。やはり戦艦にでも例えるべきか。 中に入ると、外から想像したよりずっと殺伐とした空間に労働者というにはあまりに幼い子供たちが生活していた。そのまま亀の中の食堂に向かうとスミカの知った顔が通りすがった。 「ああ、ジャックに紹介しとくよ。これがあたいの、数少ないここでの友達の…」
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「どうも、セガールだ。ここで料理長をしている」 「セガール?セガールだって!?チクショウ!!大物ばかり登場してるじゃないか!この調子じゃ、サクライがサメを登場させてしまうッ!コッチはまだB級サメ映画を観ていないんだぞ!」 「心配すんなよジャック、B級なんだから好きな事をテンポ良く進めればいいんだよ。それにコッチにはコックがいるんだ、サメを倒せる。」 「最近歳で腹が出てきて走り回るのが辛くなったが、大丈夫か?」 「空手は健在か?」 「ああ、勿論。」 「「じぁあ大丈夫だ」」 「それはよかった。それじゃ飯を用意しよう、まだ何も食べていないだろ?」 「ああ!ペコペコだぜ!」 「俺も同感だ」 「それじゃあこちらへ、案内しよう」 セガールに連れられ通路を進んでいく俺達、通路は思ったよりも広く見晴らしはいいが、チラホラと道の隅に寝ている老若男女がいる。 「そこで寝ているのは?」 「ここで住んでいる」 しばらく進んでいくと食堂に着いた、やはり多くの人間がいるからかとても広い。 「さて、ここがオレのテリトリーの食堂だ、何を御所望かな?」 「あたい半熟親子丼とミックスベリーパフェな」 「スシってあるか?食べてみたいんだが」 「ああ、勿論。ではどうぞ、お席でお待ちください」 俺達は近くのテーブルに座って食事を待っていると、1匹の犬がやってきた。 「ここでは犬が飼われているのか?」 「コイツはマックス、ここのエースの飼い犬だ」 「エース?どんな奴だ?」 「来たぜ、アイツだよ」 振り向くとそこにいたのは…
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「俺はクリステンセンだ」
「え⁈」 「え?」 予想外の人物に戸惑う周りに見かねて、スミカが説明口調で解説した。 「おまえ、あれだろ。目つき悪いダークサイド的なあれだろ。直前と違う姿で息子の前に霊体で現れて混乱を招いたあれだろ」 「なるほど!しかし何故ベイダー的なあれがエースなんだ」 「ふふ、なら目を瞑って声を聞くがいいぜパイロットさんよ……こい、マックス‼︎」 「チャックだ!チャックハンセンの声だ!…しかし吹替声優ネタなんて邪道だろクソォオ!」 「おまえが言うなよ、力也的なジャック」 「ウワァァ!ふざけるな!ふざけるな!バカヤロォォオ」
セガールの所にスミカと同い年の少女たちがやってきた。遅い昼食のようだ。 「こんちはシェフ」 「よう坊主ども。気分はどうだ?」 「最低」 「どうしたんだ?」 「シルベスターと名乗るマッチョマンが現れて、この中で暴れてるんだ」 「なんだって⁉︎…それでCVは?ハザマだったか?」 「いや、あの声はササキだったね」 「チクショオオ!よりによってササキのシルベスターだとォ!ハザマなら少しは希望があったのに!そもそもネタがマニアックになってきててテレビキャラクターの俺では付いていける自信がなくなってきたぞ!このままじゃ置いてきぼりを食らう、チクショオオ」 「ウルセェな!いい加減しにろ!ブッ殺されたいのか‼︎‼︎」 大御所のシェフに怒鳴られたジャックは、心が折れて絶叫しながらトイレに逃げ込んだ。あと5話は立ち直らないだろう。
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「なあセガール、飯はできたのか?」 「ああ勿論、さあどうぞ召し上がれ」 セガールがワゴンカートから料理をテーブルに手際よく置いていく。 「ジャックが引きこもってしまったからこの寿司クリステンセン、お前が食うか?」 「いや、生の魚はダメなんだ」 「そうか、じぁあ俺が食うか」 「セガールよぉ、そうやって間食ばかりしてるから太るんだぞ。」 「日本食だから大丈夫さ」 和気あいあいとした空間が流れてゆく中、クリステンセンが話題を切り返す。 「なあセガール、政府が開発中の新兵器の噂を聞いていないか?」 「新兵器?いつも大したもの作ってないだろ」 「それが今回のヤツは違うらしい、何でも最強の動物を模したロボットだとか」 「動物?政府は動物園でも作る気か?」 「あたい馬に乗ってみたい!」 パフェを食べるスミカが目をキラキラさせている。 「それで、その最強の動物とはなんなんだ?ゴジラか?それともチャック・ノリス?」 「まだ分からない、ただ…」 「なんだ、勿体ぶらずに言えよ」
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「メガロドンだ」 「メガロドン⁉︎恐竜かなにかか」 「サメだ」 「あ⁈」 「サメだよサメ!馬鹿でかいサメだ!」 「じゃあなにか?政府は動物園の後は水族館を作るってのか!」 「知るかよ!オッセルヴァンツァがメカシャーク出せって言ってたんだ!俺が知るか!たしかに「メガシャークVSメカシャーク」はメガシャークシリーズの最高傑作だと思うし、近年の怪獣映画ラッシュの中じゃ「シン・ゴジラ」より「GODZILLAゴジラ」より「メガジャークVSメカシャーク」と「進撃の巨人エンド・オブ・ザ・ワールド」が最高だったけど」 「それを言ってるのはクリステンセンか?サクライか?」 「サクライって変わってるな…」
「今更だけどクリステンセンって長いからクリスって呼ぼうぜ」 「これだからジャップは…」 「ところでクリストファー、なんで地下政府のことそんなに詳しいんだ?」 「クリスって呼ばねぇのかよ!…ちょっと一つ前の研究が気になったのさ」 「そうかクリスベイダー、それはどんな研究なんだ」 「結局どう呼ぶ気なんだよ!…どうにも動物園と水族館の間に、やつらボディービルの会場を作ろうとしてたのさ」 「なぁ!もうめんどくせぇからベイダーって呼ぼうぜ?」 「おまえらそれ言いたかっただけだろ!」
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「俺の呼び名なんか後に…」 次の瞬間、食堂全体に激しい衝撃が起きた。 「痛って〜」 「Q」 「セガール黙れ」 「それより、何が起きたんだ?何かにぶつかった様な衝撃が来たぞ!」 「スミカとクーちゃんはここで待ってろ、俺は怪我人がいないか見てくる。」 「クーちゃんって俺?」 「無理すんなよオッサンー」
「さて、無理やり不自然にセガールが退場したところでクリステンセン。何で地下政府の兵器開発に精通しているんだ?」 「このペンダントのおかげだよ」 「あ、エミールのペンダント!テメー盗んだな!?」 「ここギガンテのメインハッチに落ちてたんだ」 「なんだキーアイテム落としちまったか、気を付けねぇと。でもどうやって兵器情報を知ったんだ、小ちゃいペンダントだぞ?」 「蓋を開いたらホログラムが投影されたんだ」 「はー、それ高価なヤツじゃん」 「中に入っている情報は地下政府に関するものや、兵器についてだった。コレをどこで拾った?」 「エミールって言う爺さんからくれたんだ、なんか傭兵に追われていたけどさ」 「傭兵?」
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「ステイサムのことか」 「なんで知ってるんだ?クリステンベイダー」 「俺も同じところで訓練を受けたことがあるんだ…!俺があそこに入ったころ、すでに彼は伝説の男の一人だったが」 「世の中狭いもんだなー」 「どうやら見えてきたぜ…。機関から伝説の男達が何人も参戦してるということは、政府は俺たちが思っていたよりも追い詰められているようだな…!なぜそんなことになっているのか…。思い当たることは一つ、薬師丸の事件が表沙汰になろうとして…。エミールという男…、政府に楯突こうとするテロリスト集団…、「アンブレイカブル」の者とみえる…。壊滅したと聞いていたが、生き残りがいたか…!」 「おおー!すげぇよクリステンベジータ!あれだけの情報から、突然設定を整理するかのようにそれだけのことつらつら語るなんて!���家のクリスもこれだけ洞察力がありゃ、闇堕ちせずに済んだだろうにな!ていうか読み返さないでそんなこと言って大丈夫か?なんか設定とりこぼしてたら、またオッセルヴァンツァに本編に組み込まれて辱められるぞ?」 「誰に言ってるんだよ。…つーかベジータって呼んだだろ!長台詞ぶち込むから、危うくベジータにツッコミ入れ損ねるところだったわ!」 「おめーなにカッカしてんだ?ブッ殺すぞ」 「口悪りぃな!そっちのネタかよ!」 「そんでよベジータ」 「もうその路線なのか⁈それでいくのか?」 「オラわくわくすっぞ」
突如、大爆発が起きた。この作品のことではない。この亀型住居、ギガンテが、爆発して跡形もなくなったのだ。もちろんスミカもベジータも生死不明。あのセガールでさえ…。しかしあの男、呪いを背負った、視聴率に突き動かされる男は違った。 彼は約束されていたのだ…!5話で復活することを…!そして次回が5話め…! 「チクショオオ!トイレで泣いてたらトイレが吹っ飛んだぞォオ!!なんでだァア」
ジャックの逆襲がはじまる…!
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トイレの棚に放置されていた漫画が思いのほか面白くてのめり込んでいると、俺は宙を舞っていた。 別に薬をやった訳ではない。いや、シーズン3でヘロイン中毒になるが、それは別次元の話だ! 何が起きたかを確認するために体を起こし、辺りを見回すとギガンテが爆発四散していた。 普通なら死んでいる筈だが、なんだかんだ死なない、それが俺の固有スキル。 「スミカー!セガール!クリステンセンー!」 絶望的な光景に俺は泣き崩れた。 「ちくしょう!何故関係無い人まで巻き込んでしまうんだ!?ダイハードかよ!!」 嘆き悲しんでいると、手元に小さな物体が落ちていた。 「これは…エミールのペンダント!いや、スミカのペンダントか?どっちだ…ちくしょう!」 ペンダントを開いてみるとホログラムが投影され、触れてみると操作出来ることに気づいた。 それには兵器開発や政府の機密データが記録されていた。 「これは…エミールの言っていた薬師丸の研究データ?放射能浄化装置だと…?」 研究レポートに添付されているデータがある。 俺はそれを開いて更に読み進め、とんでもない事を知った。
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シルベスターは虚無に囚われていた。 衝動に任せてギガンテを破壊し尽くしたが、その末には何も残らなかった。自分はこのまま、生涯兵器として破壊だけをくりかえす下らない人生を送るしかないのか…。
そのシルベスターの前に、見に覚えのない老人が現れた。 「虚しそうだなシルベスター」 「誰だおまえは」 「フォックスと名乗っておこう」 「なぜ俺の名を知っている…」 「お前たちの親、のような者だからさ」 「俺の…?…いや俺…たち、とは何だ?」 「お前たちは『DIE・栄華・スター』という人造人間シリーズだ。数々の英雄たちを最新科学で再現したクローンだ。だが、ある者が君らを意のままに操り、兵器として利用する機能を取り付けていた。そしてその者は、私の盟友ルーカスを洗脳し支配下に置くと、次々と政府に位置する王族の末裔たちを手中に収めていった。私も、もう陥落したと言っていい状態だ」 「王族?フォックス…おまえも王族なのか」 「トゥエンティ・センチュリア家の末裔…センチュリー・フォックスだ」 「その黒幕の正体を教えてくれ」 「正体は不明だ。だが、奴は『夢の国・鼠アイランド』で世界を支配しようという野望から、こう呼ばれる…ビッグマウスと」 「王族の末裔たちが政府内で争い…、我々を生み出した。なんと下らない存在理由だ」 「君たちは4人とも記憶を失った状態であらゆる場所で、自分の正体を知らずに生活している。しかし今の君…シルベスターのように、一度ビッグマウスから信号が送られれば一変、兵器として奴の希望どうりに殺戮を繰り返すのみだ」 「なんということだ…この生涯に一片の価値もなかったのだ」 「しかし希望はある」 「本当か」 「君たちは元々英雄だ!信号などに負けるな!君たちが目覚め、力を合わせれば鼠一匹など怖くはない!頼む!…おまえたちに希望を託しながら、兵器にするのを許してしまった私を許してくれ…」 刹那、フォックスの身体が透けて透明になりはじめた。 「ついに最期か。鼠め…。…頼んだぞ、息子よ」 シルベスターは生みの親の一人を看取った。しかし彼に悲観はなか���た。意味のない人生に絶望した彼が、はじめて生きる意味を、戦う意味を見つけたのだ。彼はトレーニングを始めた。右手でファンファーレを吹きながら、左手でリンゴを齧った。かつて、足を引きずって上がっていた階段を一気に駆け上がった。 最終決戦に向けて、駆け上がった高みから絶叫した。 「エぃドリアァアン!!!」
薬師丸の真実に迫るジャック、黒幕との決戦を決意したシルベスター、そして生死不明のスミカ…。はたしてビッグマウスの正体は、薬師丸事件の真実は…!5話先に最終決戦が迫っていた…!
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シルベスターは決意した、全ての元凶であるビックマウスを倒すと。 だが、ビックマウスを倒すという事は、国を敵に回す事でもある。 「俺1人でもやってやる、何があろうとも…」
「1人で抱え込むな大馬鹿野郎!でもソイツに付き合える馬鹿は俺達しかいない!」
馴染みのある声にシルベスターが振り向くと、そこには懐かしの兄弟達がいた。 「ステイサム! それにアーノルドとセガール、生きていたか!」 「勝手に殺すなよ、俺達が死ぬわけがないだろ」 「俺達はチームであり家族だ、大事な家族の為なら何だってやるさ」 「ありがとう…みんな…! よしやろう、俺達なら出来る!」 「「おう!!」」 こうして4人の男達の戦いが始まった。 「なあ、シルベスター。作戦はあるのか?まさか敵のど真ん中に突っ込んで皆殺しにするわけじゃないだろう?」 「そりゃいいね、昔を思い出すよ。」 アーノルドは懐かしむように呟いた。 「幾ら何でもそれは無謀だ」 「作戦はあるのか?」 「あるさ、とっておきのがな」 シルベスターは得意げに言った。 「いつも通り、俺達のやり方でやる。それだけだ。」 「そりゃいい!ドンパチ賑やかにしようじゃないか!」 アーノルドはわくわくとした表情で今にでも走り出しそうだ。 「よし!まずは武器弾薬車両が必要だ、買物にいくぞ!」 「「おう!」」 今から祭りの準備をする子供のの様に無邪気に返事をした。
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私の名は薬師丸浩公。 ずっと原子に関する研究を続けていたが、現政府の元でそれを続けるのは容易なことではなく、公に専門家の協力を募ることもできないため、あらゆる知識を身につけることになり、現在は何を専門としていたのか分からなくなるほど私の研究は多岐に渡っている。 そんな私がSS効果を発見したのは一年前、すぐさま実用化したSSS(SSシステム)を発表しようとしたが政府はそれを許さなかった。SSは、物質の形状を一段階前に戻すことができ、たとえ放射線に晒され壊れた細胞も、周辺の細胞の記憶を引き出して復元することができる。 これを一大スケールで採用すれば、汚染された世界を修復することも将来的には可能であり、更にはあらゆる物質の耐久性、耐用年数の半永久化、様々な病気の治癒、それどころか不老長寿も視野に入るほどの夢の発見だった。 私は世紀の発見に浮かれていて、気付いていなかった。SSSがあらゆる夢を叶えるということは、あらゆる現実が崩壊し損害を被る人間が余りにも多いことを。耐用年数がなくなればあらゆる産業が乾き、不老長寿は医療関連、美容健康商売にとどめを刺す。 放射線の汚染により地上を追われそうになりながらも、人類はまだ目先の利益を諦められないのだ。 SSSを使えば十数年で地上は洗浄でき、放射性物質の問題は残るが、被曝を治癒することがSSSにより可能になればその対応も少しずつ進む、はずだった。 しかし、人々は今の社会システムを大きく変えることの方を恐れ、夢の発見は私もろとも歴史から消えた。 夢の発明とは、たどり着くのが困難だから夢なのではない。現実と矛盾し、現実を支配してる者たちに損をさせるから、だからこそ夢なのだ。 私は絶望し地の果てに身を隠した。 …だが私の夢は思わぬ形で叶うことになる。 世界に見捨てられ、世界を見捨てたおかげで私の研究は妻の病気を治すことに集中し、妻は持病を完治、半不老長寿を手に入れた。それだけで私は世界一の幸福を感じられた。 だがしかし妻は死んだ。何者かに徹底的に拷問を受けて、惨たらしく殺害された。犯人は分かっていた。政府の者たちだ。一度は捨て置いた私の夢を、世界にいよいよ汚染が広まった今になって拾いにやって来た。唯一の実証である妻を攫い、調べ、知っていることを吐かせるために、徹底的に痛めつけ殺したのだ。 わけもわからず、生涯かかっても感じないほどの苦しみを与えられ、無残に殺された、何も知らなかった私の愛するひと。
今度こそ世界に絶望した私だったが、そんな私が現実に戻ることができたのは…、彼女の遺してくれたもの…娘の存在があったからだ。 娘にもSSSの加護は備わっていた。遺伝というべきか。詳しくはわからない。だが、私たちの娘には異様な成長の遅さと、驚異的な治癒能力があった。娘は汚染された世界を物ともせず、のびのびと成長した。 私は決意した。妻のように、私のせいで娘が苦しむことはない。私は娘を労働者の宿舎に売った。過酷な労働も、SSを持つ娘なら心配いらないと思ったからだ。娘を“売った”収入は、家族にしかわからない場所に隠しておいた。娘がのちに回収できるよう。娘は私とともに生きないほうがいい。自分の研究のために妻を悲惨に死なせ、娘まで過酷な労働を強いた私に、未来など望めない。私はこのビデオメッセージを遺して消えるつもりだ。この世から、永久に。ただひとつ望むのは娘の、…スミカの…永い生涯が幸福なものであるよう。…それだけだ。
そこで薬師丸は悔しそうな表情をカメラから隠し、撮影を止めた。ペンダントに遺っていた衝撃の事実を知り、ジャックは放心していた。 「なんてこった…。あの、スミカが…薬師丸の娘…。地上を救う最後の希望だったなんて…。俺は、俺たちは、最後の希望を…死なせてしまった」 ジャックはその場でうずくまって声を漏らした。 「…ちくしょう」
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シルベルターはステイサムに質問した。 「なあステイサム、どこかいい店知ってるか?」 「何言ってんだ、お前も知ってる店だろ?」 そう言って、4人は軍用ジープである場所へ向かった。 「さて、壊物だな。」 アーノルドは何処からか重火器を取り出し、肩に担いだ。 セガールはというと、 「俺一押しのガバメントコレクションが火を吹くぜぇ!」 とお気に入りのカスタムを施した45口径ガバメントを2丁ホルスターにしまった。 「今から武器弾薬の100%OFFのバーゲンセールだ!!」 シルベルターの掛け声と共に、4人は軍事倉庫を襲撃した。 そう、たった4人でだ。 当然武器を持った集団が、正面ゲートから歩いてくるのを警備兵は見逃せなかった。 「おい止まれ!武器を捨てて両腕を頭のう…」 警備兵の1人が警告を言い終わる前に、セガールが頭に1発撃ち込んだ。 不審な武器集団が攻撃を仕掛けてきたので、すぐさま反撃しようとするも、 ステイサムとシルベルターが的確に門周辺の警備兵を撃ち抜いていく。 これだけの騒ぎが起きたので、ぞろぞろと警備兵の応援が門から出てくるも。 アーノルドの重機関銃が火を吹き、けたたましい轟音の後、目の前には誰も立っていなかった。 「ドアにノックもしたし、入ろうぜ。」 アーノルドがニヤリと笑うと白い歯が見えた。 釣られて3人もニヤリと笑う。 そして彼らは“買い物”を楽しんだ。
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「手を貸してくれ」 ジャックは思いつく限りの知人に助けを求めていた。自分の見殺しにしてしまった者の、遺志を継ぐつもりで政府と戦おうとしていた。ジャックは優秀な捜査官だ。一人では戦える相手でないことはよくわかっていた。 しかし、いい返事は一度も貰えなかった。誰もが世界を敵に回せる程、人生に失望はしていなかったのだ。そもそも彼の語る真実を信じられない者が大半だった。 「こいつイカれてるんじゃないか」「政府の陰謀?ドラマの見過ぎだぜ」心ない言葉を浴びせられることもあったが、ジャックはめげなかった。そんな彼の前に懐かしい顔が現れる。 「く、クリステンセン?生きていたのか!」 「ああ、懐かしいな」 「丁度いい、おまえに手伝って欲しいヤマがあるんだ」 「薬師丸のことをか」 なぜそのことを…?ジャックは異変を感じ取った。 しかし、遅かった。同時に、さっきスカウトしていた飲み屋が爆発した。クリステンセンが念力を使ったのは明白だった。ジャックの灰色の脳細胞は状況を察した。 「おまえ…。口止めか」 「流石だな捜査官。あの件は誰にも知られたくない。お前が言いふらすからここ数日は忙しかったよ」 「ちくしょう…俺が事情を説明した全員もか…。でも甘かったな。この件はすでにネット上にリークした!さすがに地下市民全員を始末するわけにはいくまい…!」 「なぜだ?」 クリスの予想外の返答に、流石のジャックも呆然となった。 「その程度もできないと思っているのか?連邦捜査官にあるまじき見当違いだな」 「政府が民を殺してどうする…!国民がいなくて政府など成り立たないぞ…!」 「はっはは!そうか!そこからか!いつ黒幕が政府だと思った。あの方にとって政府も地下市民も同じ!全人類が復讐の対象だ」 「なんだと…!何を言ってる!おまえのボスとは誰だ!おまえはなぜ闇に堕ちたのだ!クリス、おまえはギガンテで映画を愛する者たちと暮らしてたんじゃないのか!」 「映画こそ邪悪の権化だ!!全ての娯楽は放送コードに従い、親とみても気まずくならないファミリー向けに染まるべきなのだ!!」 「そこまで腐ったか!!そんな方針ではアバターもデッドプールも産まれなかったんだぞ!!」 「テレビヒーローの貴様がよく言う…。見ろ、この兵隊たちを。すべてあの方の配下だ」 そこには屈強な戦士たちが不気味に揃っていた。鋼鉄のアーマーを来た男、星のあしらった楯をかざす男、鋭利なツメを持つ男に車イスの超能力ハゲ。さらには、単眼で緑の化物と水色の大きな野獣というモンスターコンビ、喋る魚やスポーツカーに至るまで…。その軍隊は強大という言葉では足りない程の戦力を有していた。 「ジャック…。貴様が真実を公開したお陰で計画が早まった。責任を感じることはないぞ?あのお方は元から、生き残った人類すべてに復讐するつもりだった」 「クリステンセン…。おまえは、おまえたちは一体…、何をする生み出すつもりなんだ」 「ふ…夢の国さ」 ついにビックマウスの全人類に向けた総攻撃が始まった。しかし対抗しようという者たちもいる。少数だが最強の筋肉と意思をもつものたちが…。地下へと落ち延びた、人間たちの、最終決戦が、…始まった。
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軍事基地を完全に制圧したが、ステイサムは基地の指揮官だけは生かしたまま拘束していた。 「いいか坊や、通信が入って基地の状況を聞かされたら、“何も起きてない”と伝えるんだぞ、出来るな?」 指揮官はこの世の終わりのような顔で何度も頷いた。 「よし、いい子だ。だが見張ってるからな?悪子にはお仕置きが必要だ。」 ステイサムの感情のこもっていない言葉が指揮官の耳を通り抜ける。 「俺はここを見張ってるから、3人は装備を集めてくれ。」 するとアーノルドが1本の葉巻を取り出し、ステイサムに差し出した。 「暇つぶしにやるよ、とっておきのだ。」 「ありがとよ」 こうして3人はそれぞれ基地の倉庫を物色し、準備を始めた。 「シルベルター、乗り物は何にする?」 アーノルドが葉巻を吸いながら聞いた。 「あの戦車がいいだろう、複合装甲に120mm滑腔砲。乗員は4名、俺らにぴったりだ。」 成る程と言わんばかりにアーノルドが頷くと。 「デカイし舗装路を80キロ程しか出せんノロマの固いだけの乗り物だ。それよりもコイツはどうだ?」 と、セガールが指を指す先には2両が連結した戦闘装甲車だった。 「コイツなら何でも載せられて、必要ならば2両目を切り離せる。」 2人は納得した表情でうなづき、早速準備を始めた。 そのころステイサムはというと。 「この葉巻美味いな、お前も吸うか?」 指揮官は子犬の様に怯え、首を横に振る。 するとステイサムの持っている無線から連絡が来た。 「買い物が終わった様だな、吸いかけだが味わっておけ指揮官様よ。」 と、吸いかけの葉巻を指揮官の口に咥えさせた。 「じゃあな、達者でなぁ〜」 手を振って指揮官と別れを告げた。 十数分して倉庫に着くと、ステイサムは蔓延の笑みで喜び叫んだ。 「こりゃ最高にイカしたアートだな!」 準備をしていた3人もステイサムの反応を見て満足げに笑った。 「それじゃあいっちょ、ドライブに出かけるか。みんな、おめかしは済んだか?」 これから4人の大反撃が始まる。
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ビッグマウスの兵隊たちは、次々と政府の拠点を強襲していった。 突然の敵の出現に、何の準備もできていない政府軍は次々と陥落していった。圧倒的なその戦力に政府の最終兵器、独占禁死砲も歯が立たなかった。突然の襲撃に混乱する軍や民間人、その中にあって、ひとりの男だけが抵抗の舵を取っていた。人々へ呼びかけて体勢を立て直し、反撃を画策していた。連邦捜査官、ジャックだ。 ネズミの兵隊を仕切るクリステンセンは苛立っていた。 「な���だ。これ以上計画を遅らせてはならないというのに。…奴を侮っていたか…?」
ジャックの元には次々と仲間が集まっていた。 「きてくれたかマイケル!」 「ライバルのピンチだ。何処からだって脱獄してやるさ」 二人は固い握手を交わした。ふたりは長年視聴率を争っていた戦友だ。 「俺もいるぜ」 「俺のシゴトにはこ��つが必要不可欠でね」 「頼りにしてるぞ!リンカーン」 「ジャックおまえの働きのおかげで反撃の目処が立ってきた。アルバカーキでは科学者のブライアンが、セントラルシティにはグリーンア○ーとフラ○シュ、スー○ーガールと彼女の従兄弟も合流したらしい。まぁバッツがいないのは不満だが、ア○ーがそれなりにやってくれるさ」 「よし!絶対に逆転してやろう‼︎‼︎」 「ああ…。やつらに電波フィクションがスクリーンフィクションのスピンオフの場じゃないと思い知らせてやろう!」 「おい、俺にはさっぱりなんだが普通にドラマと映画じゃダメなのか?」 相変わらずの掛け合いに三人は大笑いした。
「ジャァアックッ‼︎‼︎」 クリステンセンが絶叫した。 「なんだ?こいつ呼ばれてるのか?」 「いや、手頃な名前だからだろう?ジャックは全米で1番叫びやすい名前だ」 「チクショオオ」 そしてまた三人は大笑いした。 「ジャァアックッ‼︎‼僕と闘えッ‼︎‼︎」 ジャックははにかんで戦友達に問う。 「目の下を真っ黒にして俺を呼んでる危険人物がいる。ここは任せられるか?」 「ああ、任せろ」 ジャックはコロコロ系アニメ最終回さながらに理由なく空中に飛び上がると、クリステンセンのいる空中1000キロで静止した。 「あいつのライトサーベルに、ついさっき野生のテロリストから奪ったワルサーPPで敵うだろうか…。いや、やってみせる。いくぞクリステン‼︎‼︎」 「僕を舐めるなよォオ‼︎‼︎」
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ステイサムが歓喜していた車両の説明をジルベスターが淡々と説明していく。 「コイツは8輪装甲車を2台連結し、互いに行き来出来るようになっている。装甲は厚さ30mm複合装甲に爆発反応装甲で側面を防御している。」 「上に乗っかっているオモチャはなんだ?」 ステイサムが聞くと、アーノルドが答えた。 「1両目には、20mm対人連装砲に、グレネードランチャー4機を搭載。2両目には、対空砲レーダー搭載30mm対空砲だ。射程に入れば勝手に撃ち落としてくれるお利口さんだ。」 「政府も随分贅沢なモン持ってんな」 「運転は俺がやろう」 とセガールが割って入ってきた。 皆が顔を合わせてうなづくと、それぞれの配置に着いた。 「よし、いくぞ!」 とセガールが声を上げると扉を突き破り、彼等が乗った装甲車が景気良く走って行った。 「ところで行き先は?」 セガールが聞くと。 「まだ分からん」 とシルベルターが答えた。 「はぁ?どういう事だ、流石の俺も怒るぞ?」 「まあ落ち着け、装甲車に搭載されていた政府軍の基地情報見てみたら、どうやらビッグマウスのヤツが軍隊を送り込み、次々と潰し回っている。」 「奴らとうとう暴れ出したか」 ステイサムが言うと、シルベルターが何か閃いた。 「ん?政府軍の壊滅順序が波状になっているな、もしかしたら…」 「そこにヤツがいるかもしれないな。」 ステイサムが少しやる気を出した感じで答えた。 「それでは皆さん、シートベルトを締め下さい、少々揺れますよぉ!」 セガールがアクセルをフルスロットルにいれ、装甲車は爆走して行った。 一方その間アーノルドは、対空砲の座席に座り、砲塔の電子端末を弄りながら葉巻を堪能していた。 「ワクワクして来たな」
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ここはセントラルシティ。 緑色のフードを被った男は仲間達に貰った弓矢で、黒づくめで悪人面の弓使いと交戦していた。 「くそ、あいつの眼…。マインドコントロールでもされてるのか⁈」 黒いアーチャーは終始無言だ。 ナショナルシティの怪力少女は夢の国軍の魔女と、怪力少女の従兄弟は星条旗盾男と戦っていた。 「それだけの力を持ちながら、なぜ人々を襲う!」 従兄弟は星条旗男に問う。しかし星条旗男は無言だ。従兄弟はさらに尋ねる。 「僕は君が、別世界とはいえ、正義のヒーローなのだと思っていた!…そんな君が!なぜだ!なぜビックマウスと群れている⁉︎」 「…は…ない…」 星条旗男が口を開いた。従兄弟は戸惑いながらも耳をすませる。 「こ…れは…ア…べ…ジャーズでは…ない…。私た…ちが目指して…いたのは…、こ…んな…インフィニ…ウォ…では…な…い」 「なんだ!何を言ってる⁉︎」 途端、星条旗男の身体がドロドロと融解し始めた。従兄弟がその姿に不意を突かれた隙に、溶けた星条旗男は、従兄弟さえも凌駕する怪力で彼を吹き飛ばした。従兄弟は三つほどのビルを貫通して地面に叩きつけられた。 「カル!」 怪力少女が従兄弟を心配する。 しかし彼女の戦ってた相手も融解をはじめる。そう、ネズミ軍の兵隊がすべて溶け始めたのだ。 想定外の状況に体制を立て直すチーム、合流した最速の男が揶揄した。 「あれ、これってこのまま敵が自滅する展開だよね?」 「どうも違うらしいぞ。これまでよりずっと強力になってる」 フードの男が弓を構えながら吐いた。 従兄弟が瓦礫を吹き飛ばして復活して言う。 「いまハッキリした!やつらは映画スターなんかじゃない!すべて偽物だ!培養された生物兵器!バイオ戦士だ!すべてバイオブ○リーと同じ!ビッグマウスは世界中に夢を与えるクリエイターなどではなく、バイオ戦士という玩具にはしゃぐジャガー○バッダ男爵なんだ!」 必死で抵抗するチームだったが、さらに強力になったバイオ戦士たちに次第に追い詰められていった。
そして、必死の抵抗も虚しくジャックは、弾が尽きて満身創痍のままクリステンセンの前に立ち尽くしていた。 「これで終わりだ」 トドメを刺そうと振り上げたクリステンセンの腕からどろりと音がした。
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「目標まで後何キロだ?」 スタローンがセガールに聞くと、「あと1キロちょいだな」 するとステイサムが「ビッグマウスが俺たちの動きを把握していない筈がない、なのにやけに静かだ…」 3人が考え込んでると、車内通信でアーノルドが「11時の敵機襲来!かなりの数だぞ!」 「セガール、運転変わってナビをしてくれ!スタローンとアーノルドは上の砲塔でハエを撃ち落としてくれ!」 「「おう!」」 スタローン達が乗る装甲車に無数の小型無人機が迫る。 スタローンは、対人連装砲で無人機を次々と撃墜し、 アーノルドは隊列で迫る無人機に対空砲の榴弾で木っ端微塵にしていく。 無人機のチェーンガンは装甲車の分厚い装甲を貫けず、火花を散らすだけだった。 すると無人機達は攻撃をやめ始めた。 「攻撃が止んだぞ?何が起きてる?まあ良い、ビッグマウスの拠点ゲートは目の前だ!突っ込むぞシルブプレ!」 装甲はまるで映画のスクリーンから飛び出したかのように、ゲートを突き抜けた。突き抜けたのだが… 「なんだこりゃ、映画館じゃねぇかよ…どうなってんだ!?」 「ビッグマウス!出て来やがれ!そこにいるんだろう!?」 4人は不審に思った、映画スクリーンの事だ、ゲートは金属製でできているように見えた、なのに実際はスクリーンから飛び出した様な絵面になっていた。 「おいまてよ?まさかこれって…」 「そのまさかだよ諸君!」 「誰だ!?」 4人は銃を構え、辺りを警戒する。 「お前がビッグマウスか?隠れてないで出てきて面見せろよ」 ステイサムが挑発してみると、スーツを着た老人が現れた。 そしてビッグマウスは話し始めた。 「君達4人が何故死ぬ事なくここまで来れたと思う?」 「手加減しておびき寄せる為か?」 「正解だが、ちょっと違う。君達4人が死なないのは、■■■■■■■と■■■と■■■■の存在があるからだ。」 「「!?」」 4人は驚愕した、自分がどうやって産まれ、行動して生きているのかを。 「そんな…そんな…」 「この野郎!嘘つくんじゃねぇ!!」 4人は一斉にビッグマウスに銃弾をお見舞いした、かに見えたが… 「それはプロップガンだ、残念だが…そろそろフィルムが切れる頃だな、また皆んなを楽しませてくれよ?さらばだ。」 ビッグマウスがそう言うと、辺りは光に包まれ、映画館は何事もなかったかの様に元どおりになった。 「さて、次の新作を考えようか、皆んなを魅了する作品を…」
END
未公開バージョン
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「すごい、なんて巨大なんだ」 それは亀の形をした要塞のような建造物だった。しかしよくみると重低音を響かせて少しずつ移動している。やはり巨大な戦艦にでも例えるべきか。 「たしかに見てくれは立派だよ。あたしら労働者たちを使ってるのは金持ちの、経営者殿だからな。みえるかい?あの頭から首に当たる部屋が、あたいらの雇い主がくつろぐ部屋だ。その下ではあたしらみたいな地下労働者の一部が、ただでさえ派遣先でクタクタになってるのに、この亀の動力部でもコキを使われてるのさ。あたいらの生活は24時間単位で管理されて、労働者というか奴隷のように使われている。でもさ、そうしないと飯が食えないからね」 「辛いな…。CTUに推薦してやろうか。君ならいい線行きそうだ」 「いやだよ、あんな解体されたり復活したりする不安定な職場。あんただってシベリア送りならぬロシア送り…」 「やめろォ!リブアナザーデイの話はするな!まだ見てない人もいるんだァ!!」
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俺はとんでもないことを知った。 『あと30秒で地面に激突します』 いつもの癖で大急ぎで動いていた為、宙を飛んでいたことを忘れていた。 ペンダントの警告装置が鳴り響く。 『衝撃に備えてください。衝撃に備えてください』 しかし、あと30秒でできることなど…!くそ、あれしかない…! 「チクショオオッ!!!」 叫ぶことしかできなかったジャックは顔面から地面に突き刺った。
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ama-gaeru · 6 years
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林田の世界(初稿版)
第4話 カッコイイラップ
 「うわー。これすごいですねー。どういう仕掛けで動いてるんですかぁ? 可愛いぃー。触ってもいいですぅ?」  猫らしきものと並んで立っている林田に俺は能天気な声で聞く。
 今の俺は「休日にららぽーと豊洲にやってきたら大きな猫を見かけたので、遠目から写メるだけでは満足できず、直接話しかけにきたフレンドリーな人」という設定だ。  これで38回めのチャレンジ。
 俺としてもそろそろゴーサインを出したいところだが、全ては林田の頑張りにかかっ��いる。  頑張れ林田。猫ではない何かのために。 「この巨大猫ロボットNE-Co-NOW(ネーコゥナウ)は我々の団体が開発したスーパーアニマトロニクスという新技術を用いて、5,000年前に地上に存在した猫を再現したものです」  林田は口元にだけ笑みを浮かべ、殆ど息継ぎをせず、音程も変えずに話す。 「え、5,000年前の猫ってこんななんですか?」  俺は若干の警戒心と好奇心を混ぜ合わせた表情で尋ねる。 「我々の団体が明らかにした事実です。アメリカのシンポジウムでも発表されている確かなことなのですが、残念ながら日本では敵対勢力の妨害にあい」  機械音声のような平坦な林田の声が『敵対勢力』の部分で突然テンションが上がった時のジャパネットタカタ社長になる。てぇきったいぃ勢力っ!  もちろん、これも俺の指導だ。 「この事実はもみ消されているのです。電通、博報堂、そしてNHKへの」  またしても『電通』、『博報堂』、『そしてNHK』の部分だけジャパネットタカタ社長になる。でぇんつー! はくほうどー! そしてえねっちけー! 「献金を我々の団体が拒否したための陰湿な嫌がらせです。我々の団体はこう言った嫌がらせにも負けず、こうして地道に人々と交流しているのです。巨大猫は5,000年前から存在し、今もどこかに存在し続けている。彼らは超高次元的存在、つまりはいわゆる高次元支配者、ハイルーラー達と交信できる電波塔的存在であるのだと、我々はお伝えしたいのです」  教えた通り、瞬きの数はできる限り抑えるようにしている。  油断するとディカプリオ皺を浮かべる奴の額も今は穏やか。  鼻から上には神経が通っていないと思えと散々注意したのがようやく実った。いい感じだ。眉と目はピクリともしない。  「10」という数字を時計回りに90度回転させたものを、2つ並べたら今の林田の目つきだ。  虚ろだ。実にいい虚ろさ。奴の目の中には無が広がっている。 「もしも世界の真実に興味があればすぐ側で我々の団体が主催するカルチャーセミナーを行っていますので、いかがですか。参加されている皆さん、全員、猫派でございますし。いつもは満席なので一般の方は参加できないのですが、ここでお会いしたのも何かの縁ですからちょっと本部にかけあってみますね。ちょっと待っててください」 「え、今からですか? すいません、今からはちょっと」  林田はスマホを取り出し、電話をか��るふりをする。本番では交通案内に電話するつもりだが、今はまだ練習だからそこはアテフリでいい。 「どうも。青年団豊洲支部班長の森田です。はいはい。そうです。今日のセミナーに飛び込みで1人入れますか?」 「すいません、あの」  俺が抗議の声を上げるふりをする。  林田は抗議の声を無視して話し続ける。そうそう。聞く耳は持たない。それでいい。 「そこを何とか。会場からすぐそばにいるんです。はい。はい。問題ありません。では参加費は私が立て替えておくということで。はい。ありがとうございます! ありがとうございます!」  林田はありがとうございますと大声で叫びながら激しくお辞儀をし、スマホを切るふりをする。 「おめでとうございます。セミナー参加、オッケーです。さぁ、ご一緒しましょう」 「いや、あの、ごめんなさい。結構です!」 「え、なんでですか? すぐ側なんですよ? あなたが参加したいっていうからわざわざ参加費立て替えたのに。なんで行かないとか言うんですか。あなたが行きたいって言ったんですよ」  そうだ。林田。  恩着せがましく。気の弱い人なら「私のせいなのかな?」と思ってしまうくらいの恩着せがましさで攻めて行こう。でも本当についてこられたら困るから、ギリギリの怪しさはキープ。ギリギリで怪しさをキープだ。 「言ってないです! やめてください! 本当に、本当に、そういう、宗教とか結構ですから!」 「宗教じゃないですよ。宗教なんかじゃないですよ。我々の団体はただのカルチャーセミナーです。基本的には無料の宗教法人ですが、この宗教って言うのはあくまでも便宜上でして、実際には素晴らしい思想に触れて、人々とささえあおうじゃないかと、つまりそういう意味での宗教ですから。あくまでも、名目上の問題であって、実際には宗教なんかじゃないんです。お料理教室とか、手芸教室とか、色々なセミナーを定期的に行っているんです。宗教ではないです。そういう団体ではありません。突然大声で宗教だなんだって、あなた失礼な人だ。いいですか、このスーパーアニマトロニクスを始め私たちの団体は様々な技術革新を援助している、画期的な、画期的な、団体なんです。芸能界にも我々の活動に参加してくれている賛同者が沢山いるんですよ。「ジュラシックパーク」に「アバター」、それに「クローバーフィールド」にも技術提供しているんです。エグザイルの何人かも我々のセミナーにはよく参加してくださっています。もちろん公にするとファンが押し寄せてしまって、本当に参加する資格のある方々が参加できなくなってしまうので、すべてクローズドイベントですが。それにロバート・ダウニーJrやシャロン・ストーン、ジョニー・デップ、スティーブン・スピルバーグ、ベネディクト・カンバーバッジも我々の一員なんですよ。そんな我々が宗教のわけないじゃないですか。我々は完全に健全で、完全に安全な、クリーンなセミナーです。今なら参加した方全員に食パン一斤、セミナー終了後のアンケートに答えてくださった方には暗いところで光るクリスチャン・ラッセンのポストカードをプレゼントしています。宗教ではありませんから。怪しい団体ではないですよ。とても健全なんです。猫好きの集まりです」 「もう結構です! 追いかけてこないでください!」  俺は林田から少し離れ、足踏みをする。    数秒の間、俺たちは無言で見つめあった。  林田は口だけが笑っていて、それ以外のパーツは麻痺しているように見える表情を崩さない。  さっき、ここまで来て表情を変えて不合格になったことを覚えているのだろう。 「……合格だ」 「うわー! やったー!」 「林田ー!」  林田と猫らしきものが揃って両手を天に突き立てるポーズをする。林田はともかくとして、猫らしきものは右前足を舐め舐めからの顔ゴシゴシ、左前足を舐め舐めからの顔ゴシゴシを繰り返していただけで、特に何もしてないんだけど。 「もうこのまま合格できないんじゃないかと……ホッとしたよぉ」  林田は身を前にかがめ、両膝に手をついて大きく息を吐く。 「頑張った甲斐あったよ、林田。『こいつにだけはついていっちゃいけない』『絶対に布団を買わされる』っていう空気がビンビンに伝わってきた。お前、そういう才能あると思う」 「ありがとう! ありがとう! 自分でも驚いてる! 自分の才能に驚いてる!」  林田は猫らしきものと両掌を軽く叩き合わせる、いわゆるセッセッセをしながら言った。仲良し。 「本番でもこの調子で行こう。あとこれ。忘れずに」  俺は電話台に置いておいたA4サイズの紙束−−タウンページくらいの厚み−−を手に取ると、その大体半分くらいを林田に渡した。  林田が俺が作り上げた「よくできた猫のロボットを餌に怪しげなカルチャーセミナーに人々を連れて行こうとする新興宗教の青年団の人・森田くん」の設定を飲み込むのに四苦八苦している間に−−森田くんの生い立ち、人間関係、大学で感じた孤独、幾つもの自己啓発セミナーを経て真理に目覚めた経緯など、設定は隙なく作り込んだ−−奴のパソコンを借りて作り上げた「何らかの新興宗教のチラシ」だ。「電波」「チラシ」「宗教」「やばい」などでググって出てきた画像を元に制作した。  何世代か前のインクジェットで出力したから、小さい文字や写真が絶妙に滲んでいる。それもまた味があっていいんじゃないだろうか。レーザープリンターでは出せない独特の風味だ。 「どうだ?」  林田はまじまじとチラシを見つめ、顔を上げる。満面の笑顔。 「キてると思う!」  俺たちは流川と花道を思わせるハイタッチを決めた。ヤマオーにだって勝てる。 「うぇーい!」と林田こと流川楓。 「うぇいうぇーい!」と俺こと桜木花道。  俺たちはペタンク以外の球技をしたことがない。
 俺は「9.11はアメリカの自作自演!」タスキを、林田は「今こそ核兵器の積極的拡散を!」タスキをかける。ドンキホーテで買ってきたパーティ用の無地のタスキに油性マジックで「これだ」と思える文章を書き込んだものだ。『自作自演!』と『核兵器』は赤いマジックを使った。  なかなか際どい球を投げたという自覚はある。  2人ともスーツ。俺の服は林田に借りた。ちょっと袖が足りないし、ウエストがちょっときついけど、まぁ仕方ない。  万が一知り合いに遭遇するという可能性もあるので、俺も林田も髪型はぴっちりした七三分けで、伊達眼鏡装備だ。 「さあ、おまえもこれを付けるんだ」  俺は猫らしきものにもタスキをかける。こっちには「NHKは毒電波を出している!」の文字。  ギリギリの球を投げている自覚はある。  俺たちはお互いの姿を眺め、思わず吹き出す。 「これは、絶対に、絶対に、話しかけたくないな」  ぶほぉ、ぶほぉと吹き出しながら林田が言う。 「借りに「あ、猫のぬいぐるみだー」って近寄ってきたとしても、タスキの文字が見えたらもうそれ以上近づいてこないだろ。俺なら逃げるね」  絶対に、絶対に逃げる。関わりあいになっちゃいけない臭いしかしない。 「仮に近づいてきたとしても、このチラシを渡してセミナーに勧誘すれば絶対に逃げ出すね。間違いないね」  林田が頷く。 「よし。じゃぁ、無事に準備もできたし、そろそろ出かけよう。ここからららぽーとまで行って、そこからぐるーっと海岸周りを歩いて、そんで戻ってこような。まだ陽も明るいし、きっと気持ちいいぞ」  俺、林田、猫らしきものの順で一列に並び、俺たちは「サザエさん」のエンディングの磯野家みたいなノリで玄関へ進む。あれは家に入るけど、俺たちは家から出るんだ。  ドアノブを握った時、俺は振り返って林田と猫らしきものに厳しい声で言った。 「このドアを一歩くぐれば、俺たちは今の俺たちとは違う俺たちだ。俺と林田が考えた架空の宗教団体、宗教法人・大宇宙科学幸福実現協議会(ハイコズミックサイエンス・ハッピネス・リアライゼーション・カムカム)豊洲支部の青年団の団員と、宗教法人・大宇宙科学幸福実現協議会が制作した、「ものすごくよくできた猫のロボット」だ。わかったな! 大宇宙支配者達に栄光あれ!(ヤシュケマーナ・パパラポリシェ)」  俺は両手の親指と人差し指をくっつけて三角形を作り、それを胸の前に掲げる。架空の宗教、宗教法人・大宇宙科学幸福実現協議会の神聖な誓いの動作だ。俺が考えた。  あらゆる邪気を払い、魂を清める動作であると同時に、架空の教祖オールマザー・バステトへの忠誠を示す言葉でもある。架空の教祖オールマザー・バステトは林田が考えた。設定上では去年の今頃に昇天され、ハイルーラー達の御元に導かれたということになっている。 「大宇宙支配者達に栄光あれ!」  林田が続く。 「大宇宙支配者達に栄光あれ!」  俺が繰り返す。 「大宇宙支配者達に栄光あれ!」  林田がまた繰り返す。 「大宇宙支配者達に栄光あれ!」  俺が繰り返す。だんだん楽しくなってきた。そういえば最近、何かを大声で叫ぶことってなかったかもしれない。 「林田ーなーう林田林田!」  努力は認めよう。  俺たちは架空の教祖オールマザー・バステトへの忠誠の言葉を徐々に徐々に大きくなる声で叫びながら林田の部屋から飛び出した。 「大宇宙支配者達に栄光あれ!」  宇宙への、教祖オールマザー・バステトへの、深宇宙にいるハイルーラーたちへの信仰心が、俺のテンションを上げてゆく。  光り輝く星々と、謎めいたダークマーターが俺たちに力を与えている! この世の真理は大宇宙科学幸福実現協議会に微笑むだろう!    4時間後。    ドアを開けて部屋に戻るなり、俺は浜辺に打ち上げられたクラゲと化して、その場に崩れ落ちた。  右脇腹の奥で肝臓が「やめてください。死んでしまいます」と金切り声をあげ、ふくらはぎは「やめてください。死んでしまいます」と啜り泣いている。耳の後ろに心臓が移動し、鼓動が響くたびに毛穴から汗が流れ出した。  頬に触れるひんやりしたフローリングが気持ちいい。このまま意識を失ってしまいたい。  猫らしきものが部屋に入るのを待ってからドアに鍵とチェーンをかけた林田は、それでもう体力を使い果たしたらしく俺に続いてクラゲになり、壁に背中を預けてズルズルと座り込んだ。 「林田、なうなうなう、なうなう林田なうなうなう」  猫らしきものはどっかで聞いたことのあるリズムでそういうと、林田と視線を合わせるように奴の前に膝をつき、前足の肉球を林田の顔面に押し付け始めた。顔に白粉を叩く女の人みたいな感じでポフポフと。  例のあくびの途中で一時停止したような笑顔を浮かべていたので、おそらくは奴なりに「お散歩楽しかったよ」的感謝を示しているのだろうが、林田は肉球を顔に押し付けられるたびに「おっふ」「おっふ」と苦しげに呻く。やめてやれ。 「なう」  お。やめてあげた。  猫らしきものは俺の方に顔を向け、膝立ちでこ��ちににじり寄ってくる。やめろ。こっちに来るな。膝で歩くな。 「林田」  人違いです。  立ち上がって奴から距離を取りたいが、もう呼吸するのですら精一杯なのだ。 「林田、なうなうなう、なうなう林田なうなうなう」  猫らしきものは床にくっついてない側の俺の顔を、先ほど林田にしたように肉球で叩き始めた。痛くはない。風船で叩かれている感じだ。痛くはないが、疲れているんだ。やめてくれ。  抗議の声を上げようとするも、その度に肉球が顔を打つので俺も先ほどの林田のように「おっふ」「おっふ」としか口にできない。何回めかの「おっふ」で俺は先ほどから猫らしきものが口遊んでいるのがキャリー・パミュパミュの「ウェイウェイ、ポンポンポン」ってやつだと気がついた。曲名は知らんけど、林田が好きな曲だ。  じゃぁやはり、これは猫らしきものなりの労いなんだろう。飼い主のお気に入りの歌とともに「よくやったじゃないかぁ」と肉球パフパフをしてくれているのかもしれない。 「なう」 「おっふ」  しかしやめていただきたいのだ。  やがて猫らしきものは深々と頷いてからリビングへと消えていった。  奴にしかわからない何かに納得し、奴にしかわからない何かを満足させたのだろう。しばらくするとテレビの音が聞こえてきた。 『エブリディ! エブリバディ! 楽しんじゃおうぜ、コカコーラ!』  俺が知らない間にリモコンまで使えるようになっていたようだ。チャンネルまで変えているのが音でわかる。
 猫が去った後、電気もついていない薄暗い玄関廊下に俺と林田の荒れた呼吸音が響く。音だけ聴くとダースベーダーの呼吸音で作ったカノンみたいだ。  目を開けているのも辛くて、俺は目を閉じ、しばし、ダースベーダーカノンを耳で楽しむ。本当は全然楽しくなんかない。ただちょっとでも気を紛らわせないと辛いのだ。主にふくらはぎがパンパンに張っていて辛いのだ。
 シュッ、シュッ、シュッー、シューココッ、シューココッ。  シュコーァッ。  シュッ、シュッ、シュッー、シューココッ、シューココッ。  シュコーァッ。  シューコ、シューッコッコッ、シュココッ、シュコーッコーッコッシュココッ、シューココッ、シューココッ。  シュコーァッ。
 「お前」  ダースベーダーこと林田が弱々しく呻く。 「ググッとけよ、バカ」  ケツに何かが当たる。多分、林田が靴を投げつけてきたんだろう。やり返す体力も気力もない。そもそも林田の言うとり、今回は俺が悪い。 「実在するなんて思わなかった」  なんであるんだよ。  宗教法人・大宇宙科学幸福実現協議会。 「バカ、バカ、バーカ」  2つめ、3つめの靴が飛んできて、俺の背中や腰に当たる。林田も疲れているので力を込めて投げれないのだろう。痛くはない。  俺は「バーカ、バーカ」と俺を罵り続ける林田の声をBGMに、外で起きたことを回想する。どこで間違えたんだろうと後悔を噛み締めながら。    最初の2時間は計画通りだった。  遠くから写メを撮る人々はいたが、近づいて��る者は皆無。  たまに遠くから「きゃー! なにあれ、凄くなーい?」と若い女の子たちが走ってきたが、必ず途中でグループ内の警戒心の強い誰かがタスキに気がつき「うわっ! まじやばいって! あれやばいって! Uターン! Uターン!」と叫んで、方向転換していった。「東京コエー、東京マジコエー」と鳴く者もいた。  人々は俺たちを避けた。それはもう避けた。  「猫ちゃーん」と寄ってきた子供たちを、親御さんは「それはダメ! 絶対にダメ!」と叫びながら連れ戻した。まるで俺たちを目にしただけで、何らかの病気に感染するかのように。
 俺たちは宗教に対する人々の偏見を目の当たりにした。  確かに。  確かに俺たちは猫らしきものをお散歩させるために、ちょっとアレな人たちを装った。  だが、ちょっとアレだからといって、ここまでの偏見と、嫌悪と、侮蔑の目で見られなければならないのだろうか? 俺はそう思った。  ちょっと普通とは考え方が違うだけで、ここまであからさまに侮蔑するとは何事だろうか。  例えば俺が丸坊主で、数珠を下げ、着物を着ていたとしたら、こんな風に反応しただろうか?  あれだって変じゃないか。坊主にするとか、お数珠とか、変じゃないか。そんなことする必要ないのに。  何が違うっていうんだろう?   俺たち宗教法人・大宇宙科学幸福実現協議会は、宇宙は62のハイルーラーによって支配されており、地球の統治を担当しているのは31番めのハイルーラーである巨大な猫であると信じている。  気まぐれな猫である我らがハイルーラーは1999年の夏に姿を消してしまい、以来地球はハイルーラー不在の無法地帯と化してしまった。ハイルーラーが去ってから、地球に「真に新しいもの」は生まれなくなったのだ。  教祖のオールマザー・バステトことローラ・マクガナンがミネソタにある彼女の実家の納屋で天啓を授かったのはちょうどその時。  ハイルーラーの声を聞いた彼女は、気まぐれなハイルーラーの地球への帰還を願い、祈りを捧げる活動を開始。それが宗教法人・大宇宙科学幸福実現協議会の始まりだ。  極めて平和な宗教だ。血塗られた歴史もない。完全にクリーン。ただただ、星々を見上げてはハイルーラーの帰還を待っているだけ。  それなのになぜ、こんな目で見られなければならない! 筋が通らない! 血液型占いや星座占いの方がずっと悪質じゃないか! あれは人格を! 行動を! 運命を縛る! だが我々の宗教はハイルーラーの帰還によって、「真に新しいもの」が生まれなくなったこの世界を解放するという、いわば自由賛歌ではないか! ハイルーラーが全てを解放する!   俺たちの考えや信仰を理解してくれないのは構わないが、信仰の違いによって誰かを排斥したり、侮蔑したりするのは間違っている。そんなことはしてはいけないのだ! レイシスト! そう、こいつらはレイシスト! 理由もなく我々を差別する思想なき者たち! 大衆! 大衆という名の悪魔! 恥を知れ! 貴様らの偏見になど負けるものか! 大宇宙支配者達に栄光あれ!  −−今になって冷静に思い返すと、俺は役作りを本格的にやりすぎたのだ。  宗教法人・大宇宙科学幸福実現協議会の教義や歴史は俺と林田で考えたのだが−−大部分は林田のアイディアだ。あいつ「ドクター・フー」大好きだから−−、俺はのめり込んでしまった。度を越してのめり込んだ。  俺は何かの振りをしているうちにどんどん何かっぽくなってしまって、最初から自分が何かであったような気持ちになってしまうところがある。  以前よく行く電気屋で店員に間違えられてオススメの大型テレビを聞かれた時も「俺も客ですよ」の一言が言えずに、予算や部屋のサイズやテレビの使用頻度を聞いた上でビエラをお薦めし、「アマゾンさんの方がお安いんですが、今週の木曜日はポイントアップデーですから20%キャッシュバックになります。だから今日は買わずに木曜日にもう一度いらしてください。今、担当者をお呼びして、品物を取り置きさせますので」とまで言った。お呼びした担当者は始終微妙な顔をしていた。  俺はごっこ遊びで本気のポテンシャルを発揮するタイプゆえ、ここから先の展開は起こるべくしておきた悲劇と言えなくもない。
 俺は「そこまでしなくていいじゃん。結構恥ずかしいんだよ、俺」と渋る林田と、見るもの全てに興味を惹かれていて首をあっちこっちに向けている猫らしきものを連れて、混雑するららぽーと豊洲の中に入った。
 そして俺たちは練り歩いた。   混雑するららぽーと豊洲のノースポートエリアを。  センターポートエリアを。  サウスポートエリアを。  シップ1を。  シップ2を。  シップ3を。  シップ4を。  1階を。  2階を。  3階を。  俺たちは肩で風を切って歩いた。  人々は俺たちを避けた。  右へ、左へ、避けた。  俺たちが歩けばそこに道ができた。
 俺たちは横一列に広がった。  −−ドワナ・クローズマ・アーィ−−。  俺の脳内でエアロスミスが「アルマゲドン」の歌を歌っていた。  俺の脳内で俺は公開時に散々馬鹿にしていた「アルマゲドン」の、散々バカにしていたブルース・ウィリスになっていた。  オレンジの宇宙服。ガラスのヘルメット。地球を救うために宇宙へと飛び立つ英雄。  −−フンフンフフ、フフフン、フン、フフ、アイ・ミィスィー・ユー、フンフンフフフフフフーン−−。  脳内エアロスミスがぼんやりと歌い続けていた。俺はあの歌をサビしか知らないし、「アルマゲドン」もブルース・ウィリスと仲間たちが横一列になって歩いてくるシーンしか覚えてないのだから仕方ない。  −−ドワナ・クローズマ・アァァァァーィイイィィィ!−−。  歌がサビに差し掛かると、俺の脳内エアロスミスのボーカルは元気になった。  まちがいなく、俺は、俺たちは、俺たち宗教法人・大宇宙科学幸福実現協議会は、偏見という名の巨大隕石に立ち向かう、勇敢な男たちだった。  今思えば、ここはあのラップとギターが格好いいやつの方が場面的にはぴったりだったのかもしれない。曲名は知らない。ギターが格好良くて、ラップが格好いいやつだよ。  ダラララッダラララッタ! キュィーン! ダラララッダラララッタタッ!   コ、コ、ニ・カッコイイ・ラップガ・カッコイイ・ラップガ・ハイルンダゼ、マジデ、メェーン!   ギュイーン、ギュイーン。  ナンカ・カッコイイ・ラップガ・カッコイイ・ラップガ・ハイルンダゼ・マジデメェーン! 何回か繰り返してからの。  ウォーク・ズィス・ウェーィ! 合いの手! ウォーク・ズィス・ウェーィ! 合いの手! ウォーク・ズィス・ウェーィ!  っていう。曲名は知らない。かっこいいやつだよ。エアロスミスの。壁突き破ってくるやつだよ。
 とにかくエアロスミスみたいに俺は叫んだ。ABCマートの前で。 「大宇宙支配者達に栄光あれ!」  林田も叫んだ。サンマルクカフェの前で。 「大宇宙支配者達に栄光あれ!」  猫らしきものもの叫んだ。4DXでマッドマックスを再上映中の映画館の前で。 「林田ーなーう林田林田!」  努力は認めた。  俺はそういうの、ちゃんと評価するタイプだから。  警備員の「お客様、困ります」の声は、宗教の自由という言葉を連呼して押しつぶした。  俺はスターをとった後に坂道を滑り降り、道を上ってくるクリボーやノコノコを虐殺するマリオだった。  そういった調子こきマリオがどうなるか、俺は忘れていた。  スターマリオは坂道を下りきったところにある崖をジャンプし損ねて、スター状態のまま死ぬのだ。    スターマリオタイムが楽しすぎて、顔を真っ赤にして怒りに震えている7、8人の男女が俺たちを取り囲んでいるのに気がつくのが、少々遅れてしまったのは、そういうわけだ。俺はスターマリオ。彼らは坂道の後の崖。
 彼らは本物の宗教法人・大宇宙科学幸福実現協議会豊洲支部であった。 「あなた達は勝手にうちの団体の名前を使って、一体何をやっているんですか! バカにしているんですか!」  リーダーらしき人は確かこんなことを言っていた。お怒りはごもっともだった。 「公安ですよ。こいつら公安の回し者です。俺たちを挑発して、先に手を出させようとしてるんです。その手には乗らないからな! 我々はお前達政府の陰謀には屈しない!」  腹心らしき人は確かこんなことを言っていた。彼はちょっと考えすぎのきらいがあった。 「こいつら、幸福の科学じゃないのか?」  後ろの方にいた誰かがこんなことを言っていた。幸福の科学に思わぬ流れ弾が飛んだ。俺は本当にごめんなさいって思った。 「とにかく、ちょっと一緒に来てもらえますか? 一体誰の差し金で、何の目的で、我々のことをバカにする真似をしたのか、説明してもらいます!」 「なう」  リーダーらしき人が俺の腕を掴もうと伸ばした手を、いつの間にか俺の隣に立っていた猫もどきがはたき落した。  リーダーらしき人は林田が猫ロボットを動かしたと思ったらしく、林田を睨みつけて「スイッチを切りなさい」と言い、もう一度俺に手を伸ばし−−。 「なう」  また叩き落とされた。 「ちょっと」と手を伸ばしては。 「なう」叩き落とされ。 「いい加減に」と手を伸ばしては。 「なう」叩き落とされ。 「しろって」と手を伸ばしては。 「なう」叩き落とされた。 「なう、なう、なう、なう、なう」  猫らしきものはポフンポフンと肉球でもってリーダーらしき人の腕を叩き続けた。  俺と林田は「おい、よせ」「これは俺たちが悪いパターンのやつだ」と奴を宥めようとしたが、奴は「なうなう」と言い続け、リーダーらしき人を叩き続けた。痛くはなさそうだったが、屈辱的だったろう。  林田が「やめろって。こういうのは謝れば済むんだから」とうっかり言ってしまったのが、決定打だったのだ。  今思い返しても、あれは林田の一番悪いところが濃縮された発言だったと思う。  林田はちょっとああいうとこある。  きっと自分の子供が悪いことをした時に「ほーら。他の人たちに怒られちゃうよー」と言って���他の人たち」の神経を逆なでするタイプの親になるだろうと俺は常々思っている。今から矯正可能だろうか。……無理だろうなぁ。アラサーだもんなぁ。そう簡単に性格変えられねぇよな。  リーダーらしき人がなんと叫んだのかは覚えていない。というか聞き取れなかった。不穏な響きではあった。というのも集団の空気が切り替わったからだ。単なる怒りから、攻撃態勢へと。    そういうわけで。  俺たちは走った。  青春映画のワンシーンみたいに。  先頭は猫もどき。続いて林田、ほぼ横並びで俺。  ららぽーとからガスの科学館まで。  そしてガスの科学館から国際展示場まで。  さらにそこからまた別ルートでららぽーとまで。  俺たちは走った。  宗教法人・大宇宙科学幸福実現協議会豊洲支部の人たちに追いかけられながら。
 宗教法人・大宇宙科学幸福実現協議会豊洲支部の人たちは本気で怒っていた。  俺たちは本気でビビっていた。 「悪気があったわけじゃないんです」 「本当にすいませんでした」 「本当にすいませんでした」 「本当に、本当に、もうしませんから」 「あなたたちの気持ちは痛いほどよくわかります」 「宗教差別って本当に幼稚です」 「日本人は宗教に寛容だなんて大嘘ですよね」  そんなようなことを時々振り返りながら俺と林田は宗教法人・大宇宙科学幸福実現協議会豊洲支部の人たちに向かって叫んだが、帰ってきたのは罵声だけだった。  俺なりに彼らの辛い状況は理解していたというか、自分的にはむしろ俺は彼ら側だと思っていたので、彼らから 「ちくしょう! 少数派だと思ってバカにしやがって!」 「宗教相手なら何やってもいいと思っているんだろう!」 「大嫌いだ! 大嫌いだー!」 「いじめっ子ー! キリスト教や仏教はバカにしないくせに! 腰抜け!」 「Youtuberかニコ動のクソ実況者かまとめサイトか! どのクソ野郎だ! 新興宗教をからかって遊んでみたら人生オワタとでも書くつもりか! アフィ野郎!」 「面白いか! 俺たちを指差して笑って、それで面白いのか! 自分たちが同じことをされたらどんな気持ちか、考えろ!」 「俺たちも人間だ! 人間なんだ!」 「新興宗教と押し売り犯罪集団を同一視してんじゃねぇ!」  という言葉が投げつけられるたびに心が痛んだ。  言いにくい名前のお婆ちゃん魔女先生に戦いを挑まれたスネイプ先生の気持ちだった。  猫もどきは俺と林田の1メートルくらい前を、俺たちの方を向いて後ろ向きに走っていた。両手はだらっと下げたまま、足だけがミシン針みたいに激しく上下していた。あれっぽかった。アイリッシュダンス? っていうの? 下半身だけで踊るやつ。あれっぽかった。  そして笑顔だった。外で走れるのが楽しくてしょうがない感じだった。奴にとっては最高の散歩になったのだろう。    俺たちは1時間近くあっちこっちと走り回り、なんとか追っ手を巻いて、ようやくここへ戻ってきたのだ。もう当分ららぽーとには行けない。    「もうだめだ。動けない」  林田が呻く。  またしてもしばしのダースベーダー呼吸音のカノン。  それを破ったのは猫らしきものの足音だった。  目を開けると、2リットルサイズのコーラのペットボトルを両手で抱きしめるようにして奴は立っていた。 「なう」  奴は林田の前に歩いて行くと、ペットボトルの開け口を林田に向ける。 「なう」  どうやらキャップを開けて欲しいらしい。飲むんだ。コーラ。猫が。いや、猫じゃないけど。 「今、疲れてるから」  林田はかすれた声でそれだけ言う。猫らしきものの耳が少し倒れる。  猫らしきものはまた俺に顔を向ける。 「林田」  人違いです。 「なう」  猫らしきものは俺の方にもキャップを向ける。 「無理。疲れてんの。後にして」  猫らしきものの耳がまた倒れる。 「なーう」  奴はキャップをその尖った歯で噛み始めた。カッカッカッカッという軽い音が響く。奴は右から、左から、時にはペットボトルを持ち直したりもして、キャップを歯で開けようと試みたが、結局はどれも失敗した。 「林田」  吐き捨てるように猫らしきものは言い、ペットボトルを廊下に投げつけた。イライラすると物に当たるタイプのようだ。ペットボトルは軽くバウンドして、玄関の方に転がってゆく。衝撃で中身が泡立ったのが見えた。あれじゃぁ開けた時、大惨事になるな。  猫らしきものは俺たちに背中を向け、リビングへと消える。またテレビの音が聞こえる。 『エブリディ! エブリバディ! 楽しんじゃおうぜ、コカコーラ! 疲れた気持ちもスカッとふっとばせ!』  あぁ。あのコーラ、自分用じゃなくて俺たち用だったのか。  なんだ。あいつ、結構、気を使えるタイプなんじゃないか。 「なう」  猫らしきものがまた戻ってきた。  また何かを抱えている。コーラではないけど、大きさはそれくらい。  お醤油だ。お醤油のボトルだ。  猫らしきものは首を右に傾けて、歯でキャップをカッカッカッと弄る。  力を込めて捻らないといけないコーラのボトルとは違い、お醤油のキャップは簡単に開いた。  猫らしきもの、満面のスマイル。 「林田。なーうー」  まさかそれを俺たちに飲ませようとはしてないよな。コーラの代打をお醤油に務めさせようとはしてないよな。似てるのは色だけだぞ。
 まさかだった。  猫らしきものは身動きが取れない林田の前まで歩いて行くと、「となりのトトロ」でカンタがサツキに傘を押し付けた時のように−−「ん!」「ん!」ってやるあのシーン−−林田にお醤油を押し付けた。  林田は口を固く閉じ、首を横に振り続けた。  猫らしきものは「全く解せない」というようにお醤油と林田を交互に見た後で、お醤油のボトルを林田の頭の上で、ひっくり返した。 「ちょ、ま、待てよぉ」  木村拓哉の下手くそなモノマネみたいな林田の声は、お醤油の流れ落ちる音で止められた。もし林田が寿司だったらシャリが崩れて箸でつかめなくなるくらい、林田はお醤油でひたひたになった。  ただでさえ疲労困憊しているところに、この仕打ち。  林田は完全に打ちひしがれ、うつろな目で天井を見上げて「もー」とキョンキョンみたいな口調で言った。  お醤油の中身が半分になったところで猫らしきものは、勿論、俺を見た。 「林田」  人違いです。
 ちょ、ま、ちょ、ちょ、待てよ。
 もー。
前話:次話
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第一話「請負人、山猫」
いやいや、しかし…」
「なかなか、どうして」
「泥を啜る下層の回収業者共の持ち込んだメモリーからこんな技術が見つかるとは夢にも思いませんでしたな」
「ふふっ…人間の持つ強い感情と血肉を受けて際限なく肥大化していく素体… これは紛れも無く神の製法だよ。私ったらついはしゃいで教典いっぱい刷ってしまった全部捌けるかな?」
「ははっ、それは余計な心配でございましょう。信者の数くらいでしか計れなかった結果がこうも目に見える形となって存在する。それだけで言葉を並べて祈るだけだった従来の宗派とは訳が違います」
「じゃあ、私の割と面倒臭い考えを書き並べて力強く押し付けてたこの教典もしっかり読んで貰えるという事かね!?」
「…光あれ(知るか)」
全てが一度崩壊し、世界の砕片が堆積した瓦礫の海からとある記憶が出土した
それは、深き信仰と信仰無き物達の血肉を捧げ現世に受肉する神の製法だった―
その日を境に、第7区画の人間達が次々と蒸発するという事件が頻発するようになる
教団の見せる偽りの太陽に親を奪われ、取り残された子供達はとある噂を思い出す
その日の気分と報酬次第で何でもこなす腕の立つ請負人の話、その男の名は―
―GROUND ZERO― 第一話【請負人、山猫】 ①
「腹ァ、減ったなぁ…」
下着一枚のみずぼらしい男がみすぼらしい寝床にみすぼらしく突き刺さっていたその様はとてもみすぼらしい
「俺ってやっぱり、自分のペースで仕事受けちゃいけないタイプだったんだな…デカい山を引き請けて余裕ぶっこいてたらこのザマだ。繋ぎの仕事もちゃんと請けとくんだったぜ…」
「将来性の無い男は嫌いよ」
透き通った女の声がごちる男を後ろから容赦無く突き刺す
「腕(かいな)か、別にお前さんに好かれた所でね…何の用だよ?」
「貴方に客が来てるわよ」
「客ねぇ…煮込み触手蕎麦とかのデリバリーサービスとかが良かったな、俺」
「別に今直ぐに帰してしまってもいいのだけれど?」
「…取り敢えず、お話だけでも伺いましょ」
力の通ってない身体を気だるそうに動かして、無造作に掛かっている服を近いものから順にたぐり寄せ部屋を出る
「何だい…客っていうから来てみれば、子供じゃないの」
そこには山猫の期待を裏切るような不相応な客が椅子にぽつんと掛けていた
「あなたが、請負人の山猫―」
「そーだが。木に引っかかった風船を取って欲しいってんなら他所を当たって欲しいね」
「第七区画で物凄い勢いで信者を増やしている教団の事―知っていますか?」
「…知らねえな」
子供らしからぬ張りつめた声だった。その囲気を察して山猫も軽口を叩くのを止めた
「父さんも、母さんも…みんな教団の白服共に奪られてしまった…第7区画は今、僕と同じような子達で溢れかえっています。山猫さん…貴方は何でもやる請負人だって聞いて僕はここまで来た。貴方に、第7区画の教団を叩き潰して欲しいんです―」
「��程ね…確かに俺は人助けから人殺しまでやる請負人だが、慈善業はやってねえ。お前が一番大切にしてる物を出しな」
少年は背負っていた荷物をひっくり返して、その中身を机の上に広げてみせた
「ふーん、食べ物に食い物に…おっとこれは食糧か。世知辛い世の中になったもんだ」
「少ないけど区画に残っている食料を集めてきたんです…こんなんじゃ、とても依頼なんて受けて貰えませんか?」
少年の真っ直ぐな瞳に山猫は自分の鋭い目つきを被せた。そして僅かな笑みを浮かべた
「いや―十分過ぎる。」
手放しに美味いとは言い難い固形食糧に齧り付きながら山猫はそう返した
「ちょっと…そんな話を本気で請け負うつもりなの?貴方1人で教団を相手にするなんて見返りに対してのリスクがあまりにも大き過ぎるわ」
脇で話を聞いていた腕が服を引っ掴んで言う。この話は割に合わない、請けるべきではないと
「教団ね…そういう歪んだ心の拠り所をブッ壊して石を投げられてみたいって子供の頃から思ってたんだ」
何が損で何が得だなんて冷静に考えなくても分かる、他の請負人ならばこんなお飯事には到底付き合わない
ただ、この場だけでは計り知れない見返りが、捉え所の無い気まぐれな納得が彼の中には在った
「あの子が言った事が本当だとしたら、第7区画の人間の大半が信者と化してるコミュニティを潰すんでしょ…?とてもじゃないけど一筋縄ではいかないわよ」
「…そうだな、死にそうな時は代わってくれ」
黒塗りの長剣を取り出して準備運動がてらに走らせながら、山猫は返した
(ああ、この馬鹿何時も通りの調子で真っ正面から突っ切るつもりなのね…)
薄暗い洞穴の中に仕立てられた厳かな祭壇に火が灯る
神の製法が出土したあの日から幾度となく繰り返された儀式が今日もまた―
「さあ、我々の神に強く、強く何度も祈りを捧げましょう!貴方達の祈りが強ければ強いほどこの世界はより良く正しい形に生まれ変わっ…ああん?」
だが、今日は昨日の続きには成り得なかった。気まぐれに吹いた風が燭台の火を揺らした
辺りのざわめきを汲み取らずに、その身を黒で塗り固めた男がマフラーをはためかせながら無作法に歩く
絶対多数の白の中に撃ち込まれた楔。唯一つの黒が、互いの思想のコンストラストを浮き彫りにしていた
「おい、ちょっと待て、何だそこの今入ってきた黒服!お前だよ…お前ッ!我々の会合に参加したいのならば定められた礼服を直ちに購入しろ!今ならセットで教典もお安くなってるぞ!!」
「どうも、請負人の山猫です―へえ、感情に呼応して質量を高める素体の技術があるってのはメモリーの切れ端で見たことあるがこんな醜悪な大きさになるんだな。こりゃ興味深い」
祭壇の中央には神像の代わりにゆうに10メートルはある赤黒い巨人が鎮座していた
「おい、貴様ッ…名乗ればいいってもんじゃあない!止まれッ!!ここは長年住んでる古き良き我が家なんですよって具合ですたすた歩くな!」
少しも足を止める素振りを見せない山猫を見かねて、近くの信者達が掴みかかる
「どういうつもりだ貴様!我々の高潔なる神への信仰を愚弄する気か…」
「そうだ、貴様の様な無法者に我々の聖域を穢されてたまるかッ!!」
「へっ…少し前まで瓦礫の下で明日の心配だけしてた奴等が覚えたての言葉を振り回すんじゃねえよ…!手前ェら全員お目覚めの時間だ。子供が腹を空かせて待ってんだ。下らねえ言葉遊びを演ってる暇があるならしっかりとしたまともな大人を演りやがれ」
「―それが嫌だからこうしてるんじゃない」
諦めで満ちた女の冷たい声が降りる―
「あ?」
「私達はもうこんな世界で生きていたくないからこうして祈りを捧げているのよ…もっと、もっと信仰を捧げれば、神様がその手でこの世界を全て滅ぼしてくれる―」
「そうだ!今までの言葉だけに縋っていた脆弱な信仰とは違う。我々は世界に変革をもたらす意味のある事をやっているんだ!!」
「ははっ、状況を理解したかね請負人?この全てが振り切れてしまった世界を壊す為に我々は行動を起こしているのだ!!おおっと、そんな目で見るなよぉ?私は正々堂々と真正面から神の教えを説いただけで、つまらん小細工等で彼らの選択権を剥奪するような真似をした覚えはないぞ。ここに居る人間達が自らが選んで望んでやっている事だ」
「……」
「その表情から察するにどうやら下層の請負人なんぞには我々の高尚な考えは理解出来ないようだな―深き信仰と信仰無き者を捧げ、我々の神はここまでになった。さあ、君も神の一部となれ―」
「はっ、全くよ、笑っちまうぜ…塵も積もれば粗大ゴミだなァッ!!」
教主は高みから勝ち誇ったように手を掲げた。請負人はそれを引き摺り下ろす為に長剣を構えた―
「さあ、我らが神が信仰無き無法者に裁きを与えられる。祈りを捧げて神の手助けをするのです!!」
教祖に扇動された信者達から歓声が上がり、幾重にも重なる
「奴は我々の聖域を暴き、滅ぼしに来た敵だ」という共通の認識からなる漆黒の感情
それは最早、信仰という殻を被った呪詛でしかなかった。それを受けて、神の形を象る赤黒い血肉が沸き立ち踊り狂う
(ふはは、凄い…凄いぞ!!ただ祈るだけでは素体にここまでの成長は見られなかった…共通の敵というのはこうも人間の感情のエネルギーを肥大化させるものかッ!?)
「フシュウゥゥ……」
眠りから目覚めたばかりの神は、目の前の男を本能的に信仰無き生贄だと認識した
「手前ェらの揃いも揃った根暗な思考なんざ何の足しにもなりゃあしねえよ」
(さーてと、啖呵を切ってみせたものの…俺の獲物じゃああんな分厚い肉は多分ブッ断斬れねえ。どーすっかね?どうしよう俺)
「ガォオァァンッ!!」
雄叫びを上げながら神は容赦なくその巨大な拳を敵に向けて振り下ろす
(とてもじゃねぇが、これを受けるって択はありえねーな…)
その強大なパワーで深く抉れた地面を見て諦める。間もなく次々と繰り出される質量の弾丸を山猫は紙一重で躱していく
(チッ…見掛け倒しでは無しに野郎の狙いは速く正確か)
壁を背にするのは好ましくないが、このまま避け続けるのにも限度があると感じた山猫は素早く飛び退いて一度間合いを外した
(狙いはブレず、俺の頭一点のみで絡め手は一切抜き…基本的には俺を確実に殺す攻撃しか振ってこねえ…)
山猫は考える。相手の定める焦点、採っている戦略、それを実行するペース等から敵の性質を計る―
(だがな、こうも露骨だとよ―裏を返せばコイツには戦いが長引けば長引くだけ不利になる要素があるって事なんじゃねーのか…)
「ゴォオオオァァ…」
剥きだしの食欲が動きに鈍りを見せ始めた山猫との距離を一歩、また一歩とゆっくり詰めて寄る
しかし、それは先程までに見せていたと機敏な動きとは打って変わって何処か拙く、不自然な挙動であった
「へっ、さっきからよ、腕ばかりがよーく動くじゃねぇか…賭けにはなるがしゃあねぇッ!!」
山猫は長剣を持ち直して、体勢を整える
「…ファ?」
(ある程度やり取りを交わしてどういう相手なのか、俺なりの仮説を立てた。当たれば読みで外れりゃ憶測さ)
「来な。俺が手前ェに喰らわせるか、手前ェが俺を喰らうかだ―」
「ガオオォォァァァンッ!!!」
「神様に博打の相手をして貰えるとはなァッ!!」
血気有り余って勢い良く振り下ろされる拳と対になるような形で山猫が飛び込む
巨大な力の衝突による轟音と共に、巻き上がった煙が辺りを覆う
不思議と先程までにあった熱気は薄れ、辺りには長い静寂が広がった―
「…ッアァォオァァ…!?」
それを切り裂く第七区画の無数の信者たちが心酔し、崇拝していたシンボルの悲痛な叫び声
「へははっ…まあ、そうだよな、そうなるよなァ…?その身体ァ、まだ出来上がってねえ部分があるって事だよなァ…!!」
カーテンの上がったその先では無残にも脚を斬り落とされ、鮮血を噴き上げながら崩れ落ちる神の姿があった…
山猫はよろめきながらも立ち上がって、血に染まった長剣を容赦なく神の頭に何度も突き立てた
周りから「やめろ!」だとか「なんて事を…」といった類の声が上がったような気がしたが、彼は目の前の肉塊が動きを止めるまで一途に続けた
そしてすっかり動かなくなった事を確認すると、長剣を這わせて無言で教主へと迫った
「ですから、親子共々我が教団へ入信したのです、此処に居るのは分かっています。匿うと貴方の為になりませんよ?」
「……」
「何だこの野郎!!さっきからずっと黙りこくりやがって、それにその目つき気に入らねえな!?」
「止しなさい。貴方は神にその身を捧げた割には何時までも喧嘩早くっていけない―どうです?素直に教えてくれれば貴方に手を出さない事を約束しましょう」
「……」
「いいですか?まともな頭で考えてください。親と子が離れて暮らさなければならないだなんてそんな馬鹿げた話がありますか?血を分けた肉親同士、我が教団の下で一緒に暮らすべきなのです。私の言ってる事、何処か間違っていますか?」
「……あの子は、ソレを望んでいないわ」
腕は目の前の信者二人に対して初めて口を開いた。それと同時に何処かでほんの小さく何かが軋む音がした―
ギチッ…
「成る程。では、少々痛めつけてやれば貴方から話してくれますかね…なあに、痛いのは最初だけで済みますよ」
「へへっ最初っからそうすりゃいいんだよ、どれ、下層の請負人の女にしては中々上玉じゃねーか」
ギチギチッ…
二度目の音。次第に大きくなってはいってるがまだ誰も気付くものは居ない
「それにしてもあの山猫とかいう請負人、可哀想に。今頃殺されている事でしょうね…」
「……」
「たった一人の子供のためにその身を捧げる、全く泣かせる話です。事が済んだら我々の教典にでも載せるべきだ」
「どういう勘違いしてるか知らないけれど可哀想なのは貴方達よ」
「…何だとこのガキッ!!」
「ここら一帯に広まっている請負人山猫の噂話だなんて、子供達がでっち上げた都合の良いヒーロー像でしかないわ」
「―何ですって?」
…ギチギチギチギチッ‥!! 何かの堰を切るようにその音は突然大きくなった
「…!?、おい?こりゃあ、一体、なんの音だッ…?」
「貴方のその下品なナニが軋む音でしょうよ。全く、こういう話の流れになる度に貴方ったら何時もこうだ。いい加減私も聞き飽―」
鈍い音が一つ…それは、肉を抉り、引き裂き、貫く音だった
「あ、あっ…?なに?なんだ、この…これ?」
「かはっ…巨大なッ…一体…ッ?」
不意に走り抜けていった惨状に彼らの理解は追い付けない
腕の足元から伸る巨大な貫手。それが信者二人を漏らす事なく完全に貫いていた
「貴方はさっき言ってくれたわよね?痛いのは最初だけだと。全く勘違いも甚だしいわ―痛いのは、最後までよ」
腕がそう言い放つと共に貫手からは鋸歯を走らせた金属の突起が何本も飛び出した
それは串刺しにしていた二つの血袋を瞬く間に決壊させ、辺り一面を赤黒く塗り潰した
「私がよく知っている彼はね、同業者達の間で〝首攫い〟と呼ばれているのよ―」
「ひっ、ひい、わわわ、私が悪かったよ。請負人!!君とはこんな形で出会いたくなかった!!もしかしたら私達は友達になれたかもしれないんじゃないかなッ…うんッ!」
「神様にお祈りでもするんだな―」
綺麗に切り離されて転げ落ちた教主が静まり返った祭壇に鈍い音を響かせた
「それでたっぷり石を投げられ���来たって訳?」
仕事を終えて帰ってきた山猫に呆れたような口調で腕が話しかけた
「ああ、掴んで投げ返してやったよ。まああんくらい騒げる元気があれば次第に元通りになんだろ」
オーバー気味に石を投げつける動作をやって見せながら応える
「顔が広くなって良かったじゃない…横に身長の高い男よりは好みよ」
「ったく、好き勝手言いやがら」
「…気持ちが傷んだりとかはしなかった?」
「こういう仕事でそういう依頼だったからな―」
山猫は冷たく切り上げる。深い所までは喋りたくはないようだった
「さて、と…あいつも両親とは無事再会出来たようだしこれにて一件落着だ。明日報酬を貰いに行くとするかね」
「は?報酬って何を言ってるのよ…あの子からはもう貰ったじゃない。後先考えずにその日に全部食べたじゃない。私には1個もくれなかったじゃない」
「あいつが来る前に元々第7区画を取り仕切っていた別の教団からそういう依頼を請けていたんだよ。これで連中にとっての邪魔者は居なくなったって訳だ」
                                                  
―END―
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ama-gaeru · 6 years
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林田の世界(初稿版)
 2話:林田、なう
※動物に人間の食べ物を与える描写があります。真似なさいませんよう。
 再び。林田のアパート。  再び。林田の部屋で俺はソファーに座っている。  猫らしき存在は俺や林田と同じソファーに並んで座っている。  真正面から見た場合、右から俺、林田、��いつ。
 俺はとりあえずビールを飲んでいる。  ビールが旨くなる光景ではないと思うけど、ただ黙って見てるのも変だし。  「間」だよな。「とりあえずビール」って、要するに「間」のことなんだ。「とりあえずビール」が気まずい「間」を消してくれる。 「なう」  俺は2缶めの「とりあえずビール」に手をかける。 「はいはい。開けてあげるからね」  林田はソフトクリームを覆う蓋を外し、 「なう、なう」 「ほーら。お食べ」  ソフトクリームを猫らしきものの口元に持っていく。  猫らしきものはもう待ちきれないという勢いで林田が持っているソフトクリームを舐め始める。舌がザラザラだ。  ソフトクリームを食べられて嬉しいのか、ソファーから垂れた両足の先を交互に曲げたり伸ばしたりしている。  ひと舐めしては舌を8の字に動かして−−。 「なうなう」  またひと舐めしては−−。 「なうなう」  旨し、旨しと唸るように−−。 「林田、なうなう」  俺はサラミを口に放り込みながら言う。 「とうとう喋り出したか」  とうとう喋り出したのである。
「わかってはいた! 喋ってるんじゃないかなって気はしてた!」  林田は吐き捨てるように叫ぶ。 「林田、林田、林田、なうなう、林田」  猫らしきものは前足で林田の腕をキュッと掴み、ソフトクリームを舐め続けている。 「なうー、なうー」  ウッチャンのコントの『ミモー、マモー』を思い出させる音程で猫らしきものは言う。多分、ソフトクリームがすごく美味しいと言いたいのだろう。多分。  猫らしきものの声は硬質で、抑揚というか、音程というか、そういうのが人間のものとは違う。オウムの声に似ている。  しかし発音自体はものすごくはっきりしているのだ。まだ「ニャヤシダ、ニャウニャウ」なら聞き間違いで済ませられるかもしれないけど、どう聞いても「は」「や」「し」「だ」「な」「う」だ。
「なうなう、なうなう」 「喋ってるだろ、明らかに」 「もういいよ。わかったよ。十分だよ」  言いながら林田は空いている手で猫らしきものの耳の下をくすぐる。  顔も声も困っているけど、相手が相手なのでどうも呑気に見える。  俺だってシリアスになれずにいる。どうしてもほのぼのしてしまう。これは俺の問題じゃなくて、なんていうか、対象である猫的なもののせいだ。  俺だってもしも林田が相手にしてるのがもうちょっとこう……もうちょっと、ほら、もうちょっと毛が少なめで、肉球が付いてない、そういう感じの「うわー。怪物だー」みたいなのだったらシリアスになれるし、平凡な日常生活の中で埋もれていた俺の野生的な一面を覚醒させることも多分できるのに。ワイルドな俺が目を覚ますのに。ゴルフクラブとかブンブンしちゃたりしてさ。 「なうーなうー」  猫らしきものは気持ち良さげに目を細めた。デカさはともかく、可愛いことには可愛い。鼻とかピンクだし。口元とか剽軽だし。  せめて触手の1つでも生えていてくれないだろうか。それかもうチョイ野生みを見せるとか。こいつ、本当に「人によく慣れた、懐っこい猫」がただ単にでかいだけなんだもん。なんなのこれ。 「先週末あたりから薄々、喋ってんじゃないかなー? とは思ってたんだ」 「お前、何でもかんでも『薄々』で済ます癖をなんとかしろよ」 「それはさー、無理だってばー」  林田は駄々っ子の声を出す。 「前も言ったじゃんよー。徐々に徐々に変わってくるからいつも一緒にいるとわかんないんだってば。モーフィング? モーフィングっていうの? ほら、クオリアのアレだよ。クオリアの。ちょっとずつ変わる間違い探しって難しいじゃん。お前も俺の立場になればわかるってー」 「林田、林田」  猫らしきものは舐めるのをやめてソフトクリームのクリーム部分だけをかじりだした。コーンは好きではないらしい。 「Youtubeとかに時々あるじゃん。おっさんみたいな声で喋る猫の動画とか。会話してるように見える野良猫の動画とか。そういうアレかな? って」 「林田ー、林ー田ー」 「あぁ。ごめんごめん。ほーれ。ほーれ。気持ちいいか。ほーれ」  林田は猫の耳をくすぐり始める。猫は満足しているらしい。尻尾が右へ左へのお祭り騒ぎだ。 「意思疎通完璧かよ」 「声のイントネーションで大体分かるようになってきた」  林田は少し自慢げだ。  林田の膨らんだ鼻の穴にサラミをねじ込みたくなる。これ、ハバネロ入りだし。少しは呑気な頭がピリッとするんじゃないかな。 「そうは言っても、ここまでになる前に気がつくべきだと思う」 「お前だって、俺の猫写真ツイートを見ても何にも言わなかったじゃんよ」  林田は開いている手で器用に3本めのスーパードライを開ける。 「人ん家のペットの写真なんてそんなに真面目に見てねぇよ」 「でもいつも『いいね』押してくれてたじゃん!」  林田は『愛してるって言ってくれたじゃない!』みたいな口調で言う。彼女か。 「だって誰も『いいね』押してないのも可哀想かなぁって」 「え、え、え。じゃぁ、何。お前、『いいね』って思ってないのに『いいね』押すの? え、何それ! そういうの、すごい不誠実だと思う。そういうことされると俺、お前のこと信じられなくなっちゃうじゃん。これからさ、お前が何か言っても、俺は常に、俺の心は常にだな『いやいや。待てよ。こいつは『いいね』って思ってないのに『いいね』を押すやつだ。本当のことを言ってないんじゃないか』とだな、そういう、そういう目でお前を見てしまう! これはですね! 友情の崩壊! 友情の崩壊ですよ! お前、とんでもないことをしてくれたな! 命の恩人であるこの俺に! 親友であるこの俺に!」  林田は何かと言うとガキの頃に俺が沼で溺れた時の話を持ち出す。別にあれは溺れていたわけじゃなかったし、仮に溺れていたとしても林田に助けられなくても自力でなんとかなったし。 「うるせぇなぁ。アラサー男の猫の写真に何でそこまで真面目に向き合わなきゃいけないんだよ。お前の猫写真、アップばっかりだったろ。スケール感わかんねぇよ。抱っこしてる写真とかツイートすればよかったんだ。こう、ほら、マグロ抱える感じで。そしたら俺だってここまでデカくなる前になんとかしたよ」 「前に俺と猫が一緒に寝転がってる写真ツイートした時、『面白い写真だな』って軽く流したじゃん。俺、あの時、お前が『猫デカッ!?』ってリプくれたら『そっか、やっぱでかいんだ』って気付けたと思うよ? あの時、内心ちょっとデカいなって疑ってたんだから」  あぁ。あれかぁ。 「遠近法とか、目の錯覚を駆使してるのかと思ってた」  RT数稼ぎの小賢しい写真だと思ってたからぶっちゃけ「そんなにRTが欲しいのか。見え見え過ぎて引くわ。意地でもRTしねーから」って思ってた。 「ほら、お前だって気がついてないじゃん。俺のこと言えないね。同類だ、同類」  林田は勝ち誇ったように鼻を鳴らした。林田はすぐに調子にのる。 「ふーん。それで『林田』と『なう』以外には何か喋るの?」  林田は話題を変えられたことに少し嫌な顔をしたが、差し迫った問題、つまりは人語を喋り始めた異常にデカい猫らしきもののことを思い出したらしく、少し酔いの醒めた声で答える。 「『なう』は『ニャー』の変形だから言葉に入らないと思うよ。最近はあんまり『ニャー』って鳴かなくなっちゃったし」 「じゃぁ、『林田』以外は?」 「今のところはないなぁ」  猫らしきものはソフトクリームをコーンを残して食べ終えてしまった。 「林田ーなーう」 「ダメダメ。ソフトクリームは1日1本」 「なーう」  猫らしきものはソファーから立ち上がると、二本足で歩いてテレビの前に行き、うつ伏せに寝転がった。前足を顔の下で組んでいる。 「歩いた」 「徐々に徐々にああなったんだ。モーフィングだ。トイレのドアを開けたりするのに立ち上がることはあったんだけど、徐々に徐々に距離が伸びていって、最終的にこうなった。でも、これは喋ることに比べたら全然許容範囲内だと俺は思うんだ」 「猫の歩き方じゃないだろ」  右手と左足、左手と右足を交互に振って歩いてた。あんな『ザ・歩行』みたいな歩き方、人間だってしない。 「あの寝方も猫の寝方じゃない。あれは日曜日のお父さんの寝方だ」 「でもYoutubeではベビーカーを押して歩く猫の動画が人気だし。歩き方についてはたまたまなんじゃないかな」  本当にそう思っているというよりは、目の前の現実から逃避したくてあれこれ理由をでっちあげているように見えた。  相当動揺しているのだろう。さっきからピスタチオを殻ごと口に運んではバリバリと嚙み潰している。  こんな林田は初めてみたし、ピスタチオを殻ごと食べる奴も初めてみた。口の中は痛くないのか。頬がびっくりした時のハリセンボンじゃないか。 「あのなぁ、林田。デカい猫は探せばいるだろうよ。トイレで用を足す猫もいるだろうし、喋ってるみたいに鳴く猫も、ちょっとの距離を2本足で歩く猫も、寝方がおかしい猫もいるだろうさ。でも、それ全部っていうのはおかしいだろ。地震と雷と火事と親父はそれぞれ独立した現象としてみればありふれてるけど」 「親父と言う独立した現象って何?」  飼い猫でかくなっても大して深刻になんねぇくせに、そういうとこは食いつくのな。 「それはニュアンスで汲み取れよ。とにかく、それぞれ別個のアレだけど、地震と雷と火事の中に親父が現れたとしたら、その親父がただの親父ではない可能性の方が高いじゃないか。ほら、宇宙人とかさ。復活した魔王とかかも」  林田は奥歯でゴキブリを噛んだような顔で俺を見る。 「あのさぁ。俺、一応、真剣に話がしたいからお前を呼んだんだけど。ふざけてるなら帰ってくれる?」  俺、林田の真剣とふざけてるの判断基準、よくわかんねぇよ。一番ふざけてる存在にはソフトクリーム食べさせてやってんのに何それ。 「可能性としてはありえるだろ。猫があんな風になるんだからさ。まぁ、猫がああなったのか、そもそも猫じゃなかったのかで言うと、俺はそもそも猫じゃない方が可能性高いと思うけど」
 「な、な、な、な、な」  猫らしきものが「踊る! さんま御殿」を見て妙な声で鳴く。 「笑ったのかな、今の?」 「ただの鳴き声だろ」  俺たちは「踊る! さんま御殿」を見ている様に見える猫らしきものの背中と、テレビの中の今田耕司を注意深く眺める。 『それからの二時間は地獄でしたわ』  今田耕司の面白発言に明石家さんまが引き笑いをしつつ、司会者テーブルをバンバン叩く。今回の踊るヒット賞は今のかもしれない。 「な、な、な、な、な、な、な」  猫らしきものも床を前足で叩きながら鳴く。 「爆笑してるんじゃないかな、これ」 「なー、なー」  どことなく明石家さんまの引き笑いっぽい鳴き声だ。 「林田、間違いない。これ、猫じゃねぇよ」  林田は両手を首の後ろで組むと、両足の間に頭を挟むように背中を丸めた。 「そういうのは困るよぉ」 「困るよも何も、しょうがないだろ。猫じゃないもんは猫じゃないんだから」 「どうしよう」  林田は眉毛を八の字に下げる。 「な、な、な、な、な、な、な」  猫らしきものは俺たちの気持ちなど全く気にしていないようだ。  ちょっと思ったんだけど、「踊る! さんま御殿」の笑いが理解できるのなら、俺たちの会話だって理解できているのかもしれない。 「……本人に聞いてみればいいんじゃねぇの?」  聞かれているのではないかと思うと自然と声が小さくなる。 「なんて?」  林田の声も小さい。俺たちは肩をくっつけあい、お互いの耳に息を吹き込むような感じで会話を続ける。 「そりゃ……あなたは誰ですか? とか。どこから来たんですか? とか。何が目的なんですか? とか」 「え、なんで自分の猫に敬語で喋んなきゃいけないの」  林田は眉間にV型の皺を寄せる。 「そこは別にどうでもいいだろ。とにかくちょっと聞いてみろよ」 「え。嫌だよ。絶対嫌だ」 「なんで?」  V型の皺がWになる。怒っている時のディカプリオの皺。 「普通に返事したら滅茶苦茶怖いだろ?」 「え、怖がってんの?」  さっきデレデレしながらソフトクリームあげてたじゃん。 「今は怖くないけど。なんか、なんか、言葉で疎通できちゃったら引き返せない感じするじゃん。今はさ、今はまだギリギリセーフだろ? 今はまだ「アンビリーバボー」とかで笑って流せる感じじゃん? でも喋っちゃったらさ。会話できちゃったら、なんか一線超えちゃう感じするじゃん?」  俺はCMが始まってからは「な、な、な、な、な」という笑い声をあげなくなり、ゆっくりと尻尾を左右に揺らしている猫らしきものを見つめる。 「もう一線は超えてる。林田、これはもう腹を括ってだな。ちゃんと真実を明らかにした方がいい。ほら、案外なんてことないことかもしれないじゃん」  そうは言ってみたものの、拾ってきた野良猫が1年ちょいで虎サイズにまで巨大化し、床に寝転がりながら「踊る! さんま御殿」をみて笑っている状況を「なーんだ。そういうことだったのかぁ。驚いて損した」と言える真実なんてあるのかどうか、俺には想像できなかった。  けど、好奇心は抑えられない。俺、そういうとこあるから。 「ほら、聞いてみろって」  俺は肘で林田を小突く。 「え。嫌だ、嫌だ、絶対嫌だよ」 「いいから聞けって」 「嫌だってば。俺やんねーから。別に聞きたいなんて思ってねぇし!」 「ばっか。お前、そんなこと言ってどうすんだよ。ハッキリさせろって」 「心の準備が!」 「じゃぁいい。俺が聞く。おい、そこの! でっかい猫さん!」  林田が俺にしがみついた。 「ばっか! やめろって! 返事したらどうするんだよ! 聞くな! 俺は何も知りたくない!」 「うるせぇな! こういうのはな! あれこれ想像するとどんどん悪い方向に考えちゃうんだよ!」 「お前、他人事だと思って!」  俺の口を塞ごうとしてくる林田の両手首をつかむ。体格は同じくらいだけど林田はソファーに膝立ちになって俺の上に覆い被さってきているので、俺の方はうまく踏ん張れない。たちまち俺は林田に押し倒される形になる。俺は林田の手首を固く握りながら猫みたいなものに大声で叫んだ。 「おい! 猫! お前、何者だ! 猫型宇宙人か? 猫風のロボットか? どこかの実験場から逃げ出してきたのか? さんまさんの言葉がわかるんだ、俺の言葉だってわかるだろ!」 「答えなくていいからな! なーんにも答えなくていいからな!」 「往生際が悪いぞ、林田!」 「うるせぇ! お前に飼ってた猫がこんな風になった俺の気持ちがわかるか!」  林田の頭突きが俺の顎に当たった。奥歯がぶつかり合い、一瞬耳がキーンとなる。 「てめぇのために聞いてやってんだろ!」  俺は林田の手首から手を離し、中学の時から全然ヒゲの生える気配のない生卵みたいな顎を殴りつけた。俺たちはもみ合いながらソファーから転げ落ち、テーブルとソファーの隙間に挟まる。今度は俺の方が上になった。俺はテーブルの上の殻付きピスタチオを片手で掴めるだけ掴むと、林田の口に押し込み、奴の両手を俺の両膝で抑えた。ピスタチオを吐き出そうとするので、俺は両手で奴の口を塞ぐ。  聞き分けのない林田だ。豆でも食って黙ってろ。 「猫! お前何なんだ!」  改めてテレビの方に顔を向けると、猫らしきものの姿はそこから消えていた。 「おい、林田。猫がいないぞ」  俺が口から手を離すと林田は勢いよくピスタチオを吐き出す。中途半端に噛み砕かれた唾まみれの殻が飛んでくる。うひゃぁ。汚い。 「とっととどけよ、馬鹿野郎!」  林田は俺を押しのけて立ち上がると「猫ー! 猫やーい!」と叫びながらテレビの裏やカーテンの裏を探し回る。 「あのサイズだぞ。そんなとこに隠れられるわけないだろ」 「うっせぇな! わかってるよ! お前のせいで逃げたんだぞ、このバカ! お前が脅かしたからだ! バカ! バーカ! 座ってないで捜せよ! この、バーカ! バカッ! バカッ!」 「お前が結論を先延ばしにするから俺が聞いてやろうとしただけじゃねぇかよ。バカバカばっか言ってんじゃねぇよ」  あ、今のちょっとダジャレっぽくなった。 「今のはそういうアレで言ったんじゃねぇからな!」  俺はパンツやらシャツやらにへばりついた林田の唾液付きピスタチオの欠片を払い落としながら立ち上がる。ほんときったない。俺、こういうのダメなタイプなんだよね。鍋とか無理。他人の食べかけとか食べられる奴の神経を疑う。 「猫ー! 猫、猫、猫! 猫ちゃーん! 出ておいで!」  俺は玄関に向かい、チェーンがちゃんとかかっていることを確認する。 「おい! お前のせいでこんなことになったのに逃げる気かよ!」 「ちげーよ! 外に出ちゃったかもって思ったからチェーン見てたんだよ。チェーン!」 「え。チェーン無事?」 「無事無事。家ん中のどっかにいるよ」  林田は安堵のため息を吐いてから「猫ー猫どこだー」と叫び、寝室へと歩いてゆく。  俺も林田の後を追い、寝室に入る。林田は四つん這いになり、ベッドの下を覗き込もうとしているところだった。 「ところであれの名前は何ていうんだ?」 「決めてない」 「え、なんで」 「猫飼うの初めてだから真剣に考えてたんだよ。画数とかそういうのとかも考えなきゃいけなきゃだし。それで、名前を決めるまでの間に仮に『猫』って呼んでたら、『猫』っていうのが名前だと勘違いしちゃって」  林田はベッドの下を見て「いないなー」と呻く。 「他の名前で呼んでも全然反応しなくなっちゃったんだよ。だからもう「猫」でいいかなって。わかりやすいし。なぁ、見てないで探すの手伝えって」 「家の中にはいるんだから、すぐに見つかるよ。これの中とかにいるんじゃねぇの? 開けていーい?」  林田の返事を待たずに俺は壁と一体になっているクローゼットを開けた。  フロントライトサイズの金色の目が俺を見ていた。  うぉ。めっちゃいる。いるんじゃねぇのとは言ったけど、本当にいた。やめろよもう、吃驚するじゃんもう。  猫ではないけど猫という名前で呼ばれているそいつは、林田のコートとスーツの間に2本足で立っていた。俺を見ても黙っている。まるで「私は林田のスーツでーす。洋服でーす。だからクローゼットの中にいるんでーす」と言っているかのような白々しい顔だ。 「林田、猫いたぞ」 「おぉ! なんだよ、そんなところにいたのかよ」  もー、心配したんだからぁーと言いながら林田がクローゼットの前にやってくる。  あいつ、時々口調が昔のキョンキョンっぽくなるんだよな。 「ほーら。もう怖くないからなー。一緒に「さんま御殿」みようなぁ」  林田が猫らしきものの喉を撫でると、猫らしきものはやっと「お洋服のふりごっこ」をやめて「林田、なう」と鳴いた。鳴いたでいいの? 喋った? 鳴いた? 喋った? 喋ったにしとくか……喋ってるしなぁ、実際。  奴はクローゼットから例の「ザ・歩行」で出てくると、俺と林田を交互に見てからもう一度「林田、なーう」と喋って、寝室からも出て行った。テレビを見にリビングに戻ったんだろう。 「いやぁ。一時はどうなることかと思った。よかったよかった」  林田は腰に両手をあて、天井を見上げて笑う。 「あーあ。スーツが毛だらけだぞ。どーすんのこれ。結構いいやつじゃん」 「ガムテープかコロコロでなんとかするよ」  林田は毛だらけになったスーツを取り、リビングに戻ってゆく。多分猫らしきものとテレビを観ながら毛を取るつもりなんだろう。  あいつの正体がわかる前に、林田の方があいつとの生活に順応してしまいそうな気がする。 「あー! さんま御殿終わっちゃってんじゃん!」 「林田ー!」  林田と猫らしきものの悲鳴がリビングから聞こえてきた。
 さんま御殿の後は特に面白い番組もやっていなかったので、Netflixで「デアデビル」マラソンを始めることにした。どうせ明日は祝日だし。  猫らしきものはお笑い番組ほどには海外ドラマが好きではないのか、それとも単に疲れていたのかどうかはわからないけど、幼少期の主人公が失明するところあたりで床にベターっと腹ばいになったままいびきをかき始めた。失神したアケボノのポーズだ。
 猫らしきものが眠っている間に、林田はコロコロでスーツの毛を取りながら、俺は魚肉ソーセージをぱくつきながら、アレについてどうするかを話し合った。  林田は未だにアレが猫である可能性を捨てきれておらず、「動物病院に連れて行って医者に診てもらうのはどうか」と提案したが、俺が「解剖されるか、頭に電極刺されて宇宙に飛ばされるかのどっちかしかないと思う」というと「猫にそんな酷いことする人間がいるかなぁ」と首を捻りながらも提案を引っ込めた。  そもそもアレがなんだかわからない以上は、延々と「ああじゃねぇか」「こうじゃねぇか」と仮定の話をするしかないわけで、俺たちはその内議論にも飽きてしまった。  そもそもの諸原因である猫らしきものが呑気に寝ているのに、なんで俺たちが頭を悩ませなきゃいけないのかと馬鹿らしくなったというのもある。  「徐々に徐々に巨大化して、徐々に徐々に喋り始めたのなら、徐々に徐々に縮小して、徐々に無口になっていくんじゃないの? もうちょっと様子見てみたら?」  と言う結論に達した俺たちはそのまま「ジェシカ・ジョーンズ」マラソンに突入したのだった。    幸いにして、その後、林田から「気がついたら猫がシェイクスピアをそらんじるようになっていた」という連絡を受けることはなかった。  不幸にして、その後、林田から「気がついたら猫が俺の服を着るようになっていた」という連絡は受けた。
 これから妹のいらない服を持って林田ん家行ってくる。  アレがお洒落に目覚めたのだそうだ。
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ama-gaeru · 7 years
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パンドラ、その箱を開けて3
 「こんにちは。ヴァンサン・カッセルです」
 ルネがレジの点検をしているとひらひらと手を動かしながらガスパールが店内に入ってきた。
「似てない。6点」
「少しは俺に優しくしろよなー。なー?」
 ガスパールはパンでできた猫に向かって同意を求める。
「ともかく、労働に励むのは良いことだ。親とは仲直りしたのか?」
 ルネは服の袖を捲り上げ、昨日定規で引っ叩かれた痕が残る腕を見せた。ガスパールはうへー、いったそぉーと面白がった声で言う。 「こっぴどくやられて、働く気になったのか?」 「違うよ。お金が必要なんだ。どうしても」 「親と喧嘩した原因も金。働き始めた動機も金か」
「喧嘩の原因は、僕のものを勝手に捨てて、それをちっとも悪いと思ってないってことだ。お金だけが原因じゃないから」
「でも原因の1つだろ? 金。金。金。金。お前はお金大好きオカネムシだな」 「そんな虫いないだろ」  ガスパールは両手をカマキリのように持ち上げてシャーッと声を上げる。 「オカネムシとは、南米に生息する巨大昆虫である。交尾の際にカーネカネカネカネカネクレー! という鳴き声をあげる事からこの名前がついた。学名、マネードルチップユーロマルエンゼニゼニムシ」 「よくそういうの思い付くよ」 「夏になると蛍光灯の下で集団で固まりをつくる」 「それは蚊柱だろ」 「黒光りしててカサカサ動いて時々急に飛ぶ」 「それはゴキブリ」  ガスパールはベーッと舌を伸ばした。 「醒めた奴! もっとノッていこうぜ! そんな隠居じじいみたいなしけた顔してねぇでさぁ」 「煩いなぁ。邪魔するなら帰ってよ」
「邪魔もなにも、いつもこの時間は客いねーだろ。俺は一応そういうの考えてきてんだぜ? これで案外、人を思いやるタイプなんだ」
「ああ。そりゃどうも」
「それで、なんのための金なんだ? スケボー? それともばあさんの家に行くって決めたのか?」  ルネは少し考えてから「誰にも言わない?」と聞いた。ガスパールが頷くと「誰かに言ったら二度と口利かないし店にも入れないからな」と念を押した。 「ジョゼットと家出するんだ」 「……マジかよ? ジョゼットってあのジョゼットか?」 「他にジョゼットなんかいないだろ」 「お前、いつの間にあの子とそんな中に! 駆け落ちすんのかよ! うわぁ、お前はこの町の若い男の半分以上を敵に回したね、うわぁー、俺しーらねっ! ヒューヒュー色男は大変だぞ!」 「そういうんじゃないんだったら!」  ルネは顔を真っ赤にしてレジ台を叩いた。 「そういうんじゃなくて、彼女には家出が必要なんだ。僕以上にさ。このままにしといたら彼女、どうにかなっちゃうよ」  沈んだルネの声を聞き、今はふざけている場合ではないと察したのか、ガスパールはヘラヘラした笑いを引っ込めた。 「確かにな……あんな状態じゃいつかぶっ倒れるか、気がおかしくなるかしちまいそうだ。俺もな、彼女を見かけたら必ず声をかけるようにはしてるんだけど」
 ガスパールは「言っとくけど、ナンパ目的とかじゃないからな」と釈明をしてから続ける。
「元々、レナルドが行方不明になっちまってから萎れた花みたいな有様だったけど、最近は輪をかけてグロッキーだ。ビクビクしちゃって、何かちょっとした事でごめんなさい、ごめんなさいって何度も謝るんだぜ」
 ルネは昨日のジョゼットを思い出して頷いた。 「原因ははっきりしてる。親だよ。あの子の親があの子を萎れさせているんだ。誰かがあの子の親を叱らなきゃいけないんだよ」 「なんて?」 「もっとジョゼットを愛してやれって。レナルドの事は気の毒だけど、あれじゃあんまりだ。そうだろ、ガスパール?」  ガスパールは難しい方程式を解いているような顔をしてルネを見る。 「気持ちはわかるけどな、ルネ。俺達は部外者なんだぞ。無関係なんだ。言葉は悪いけど、無責任な野次馬なんだ。事情もわからないのに妙な正義感で口出ししてみろよ。ジョゼットと親の関係がますます拗れちまうかもしれないだろ? 例えば俺がお前の親に『ルネを叱るのをやめて、彼にスケボーを買ってやるんだ! この非常識で無理解な親め!』なんて言ってみろよ。はいそうですか、わかりましたってお前の親が言うか? 言わねーだろ」
「それとこれとは違うじゃないか」
「そうだな。大違いだな。お前の親はお前の金を捨てちまっただけ。ジョゼットの親は息子を失っただけ。比較にもならないよな。お前な、子供が生きてるかどうかもわからないで苦しんでる人達を責めるような真似、誰だろうとしちゃいけないだろ」
「でも、自分達が苦しんでいるからって、他の誰かを苦しめていい理由にならないじゃないか。いくらあの人たちが可哀想だからって、ジョゼットまで可哀想な目にあわせていいわけないじゃないか。誰かが言わなくちゃいけないんだよ。ジョゼットに『君は幸せになっていいんだ』って誰かが教えてあげなくちゃいけないんだ。本当なら、彼女の両親がそうしなきゃいけないんだ。それなのにそうしないっていうなら、この僕が」 「おぅおぅ、王子様気取りかい坊や! そいつは余計なおせっかいかもしれないぜ?」  ルネはふんと鼻を鳴らした。 「とにかく、言うだけ言ってみるよ。それでもまだわからないなら、僕はジョゼットとここを出るんだ」 「はぁーん。お前は息子を失った可哀想な夫婦から今度は娘まで奪い取ろうっていうのか。御立派御立派!」 「だってこのままじゃ酷くなるばっかりじゃないか……君は彼女を可哀想だと思わないの? 君だって昨日彼女と話しただろう? それにレナルドがいなくなった時、君も彼女と一緒にいたっていうじゃないか、僕よりも君は彼女に同情してもいいはずじゃないか」  ガスパールの顔色が急激に変わった。その変わりようにルネは思わず黙り込む。
「彼女、何か言ってたのか?」 「何って、レナルドがいなくなった時の話をしてくれたんだ。君が彼女を家まで送っていったんだろう? 覚えてないの?」 「いいや! 覚えてるさ!」
 ガスパールは上ずった声で答えた。
「もしかして彼女も俺を恨んでるのかもって思ったんだ」 「彼女も?」
 ガスパールは眉間に皺を寄せる。 「俺、彼女の親に憎まれてるんだ。『あの時あんたがちゃんと息子を見ていれば!』って顔を合わせるたびに責められる。だから彼女も親から俺のことを悪く吹き込まれてるんじゃないかって思って」
 ルネは哀れみを含んだ目でガスパールを見つめた。
「彼女、君のことは悪く言ってなかったよ。家まで送ってくれたって言ってた。彼女の親が言ってることは気にする必要ないと思うよ。ガスパール。きっと誰でもいいから責める相手が欲しいだけなんだ」 「わかっちゃいるけど、どうもね」
 ガスパールは視線を落とした。
「もっと他にやりようがあったんじゃないかとか、あの時もっとこうしていればとか、考えちゃうんだよ。もっと他の道もあったんじゃないかって。自分ではわかってるつもりなんだ。『あの時はああするしかなかった。他に選択なんてできなかった』って。でも、やっぱ、面と向かって『お前のせいだ』って言われると、堪えるじゃん。俺ってほら、憎まれなれてないタイプだからさ。誰にでも好かれる方じゃない? だからどうも、憎悪されるとどうしていいかわかんなくなるんだよなぁ」
 よく言うよとルネは笑ったが、ガスパールの言うことは間違ってもいないと思った。
                  *
  ガスパールには悪い噂が絶えなかったが、実際に彼と交流したことがある者の中で、彼を悪く言う人間はいなかった。
  学校でも工場でもバーでも、彼は誰からも程々に好かれていた。ガスパールは誰の親友でもないが、皆の友達だった。
 ルネは他の者達よりは幾らかガスパールと仲が良いとは思っていたが、それでも自分は彼の親友ではなく、せいぜい大勢いる弟分の1人だろうと考えていた。少しばかり寂しいものがあるが、年齢も離れているし、仕方がないことだと諦めていた。友情というものは両者の間で自然と築き上がるものだとルネは考えていたので、「あいつと仲良くなろう!」と画策するのは、些か不純なように思えたのだ。どんな目的だろうと、目的があって誰かに近く人間は善良とは思えない。
 ガスパールと一番親しいかどうかはわからないが、一番近しい所にいるのは恐らくジョルジュだろうとルネは思っていた。  ジョルジュは誰に対しても親切で丁寧に接する少年だったけれど、会話の最中に「ここから先は入れません」とはっきりと合図を送ってくるところがあった。
 なんでも要領よくこなすし、人を嫌ったり嫌われたりするような人間ではなかったけれど、周囲に壁を作っていた。皆の知り合いではあるが、誰の友人でもない少年。それがジョルジュだった。
 ガスパールとジョルジュはルネには気の合いそうなタイプだとは思えなかったが、工場の側に2人で住んでいた。一緒に住むくらいなのだから仲がいいのかと思いきや、一緒にいると2人して葬式のように陰鬱な顔をしている。かといって決して完全に決別しようともしない。ルネは2人はまるでとっくの昔に関係は壊れているのに無理やり婚姻関係を続けている不幸な夫婦のようだと思っていた。
 昔はとても仲の良い親友同士だったが、徐々に今のような関係に変わっていったのだとクラスメイト達からルネは聞かされていた。それで、ますます2人は不幸な夫婦のようだと思うようになった。
                  *
 「本当に君が気に病む事ないと思う。ジョゼットもさ。だって何が起こるのか何もしらなかったんだから。何が起こるかわかっていて何もしないやつは最低だけど、何も知らない人が何もしなかったのなら、それは本当に仕方ないんだよ」  ガスパールは顔をまた一段と白くしたが、ルネが瞬きをする間にまた元のガスパールの飄々とした顔に戻っていた。 「まぁ、そうだよな。うん。ルネはいい事言うぜ、本当さ。……そんで、いい子のルネちゃんは逃避行用にあくせくチップを稼いでるってわけね」 「そーだよ。全然貯まらない。嫌になっちゃうよ」  ルネはガスパールの指輪を睨み付けてひがみをたっぷり含んだ目を向ける。 「君はいいなぁ。君だったらちょっと働くだけでどこにだって行けるだろ」 「なんだよ、またその話か」  飽き飽きしたとガスパールは唸る。 「だって本当じゃないか。キャンディ工場がそんなに稼ぎがいいなんて知らなかったよ。それに日払いなんでしょ? いいなぁ。1日20時間くらい働けば僕とジョゼットの旅費なんかあっと言う間じゃない」 「阿呆。1日20時間も働かせたら労働法違反だろ。前に言っただろ、工場には近づくなって」 「僕は近づかないとは言ってないよ」 「ルネ、頼むから……本当に止めろ、いいな?」  声を落としてガスパールはルネを睨む。ルネが視線を反らすとガスパールは彼の肩を掴み、額がくっつく程顔を近付けて言った。 「工場には近づくな。お前の仕事はない。給料が高い仕事にはそれなりの『色々』があるんだ。キャンディだからって舐めてかかると痛い目にあうぞ? 俺の手を見てみろ、そこら中火傷と切り傷だらけでワニの皮膚みたいだ。お前はまだ小さいんだから、もっと他の仕事をするんだ、いいな?」  ルネが返事をしないでいるとガスパールはわかったのか! と怒鳴った。ルネは渋々小さな声で「わかったよ」と呟いた。ガスパールはその言葉を聞いてやっと手を放した。 「そんなに怒鳴らなくてもいいじゃないか」 「お前が聞き分けがないからだよ。週末は連休だし、来月にはローニエの祝日もあるじゃないか。ヒイラギパンが売れるだろ? 思いっきり愛想よくすればチップだってどんどん入る。上手くすりゃ2ヶ月くらいで逃避行出来るだけの金は貯まるぜ」  ルネはカレンダーを眺めた。確かに連休前や連休中はピクニックに行く人々の間でパンが結構売れる。ローニエの祝日では町中の人が夕食にヒイラギパンを食べるし、寺院から大口の注文も既に入っている。少なくともこの連休で1人分くらいの旅費は稼げそうに思えた。 「気長にやればいいのさ。どうしても金が貯まらなかったらばあさんに手紙を送って金かチケットを送ってもらえばいいし、それも無理そうならお前のお友達の地下室に匿って貰えばいい」  ルネは顔を曇らせた。 「それ、ダメになったんだ。シルヴァンの兄さんが戻ってきちゃって。ほら、連休だからお嫁さんと里帰り……」 「あーらら」 「最悪なんだ。僕ら、あそこに色々な物隠してたんだけど全部見つかっちゃって」  火薬、エアガン、プレイボーイ、エッチ漫画の切り抜き、ダガーナイフ、残酷指定の付いたゲームソフト、ウォッカ、ダーツセット、貰ったはいいけど使う勇気がなくてそのままになっている大麻、その他不道徳な男の子の宝物の事を思いルネは目を細める。 「全部燃やされて、シルヴァン、今日から連休終わりまで家で掃除の手伝いと子守りだって」  うわぁとガスパールは苦���しい顔をする。 「シルヴァン、電話で泣いてたって」 「悲惨だな」  2人は顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。    その時、店のドアが開いた。ガラスが割れるんじゃないかというくらいの勢いだった。  全力で走って来たらしいブノアがはぁはぁと肩で息をしてたっている。シャツの色が変わる程に汗をかいて、目玉は大きく見開かれたままだ。 「飛び下りた!」  胸を抑えながらブノアが叫ぶ。ガスパールとルネは顔を見合わせて、もう一度ブノアを見た。 「何?」 「だから、飛び下りたんだ! 給水塔から! まっ逆さま! 死んだかもしれないって!」  ブノアの後ろをドミニク達がすごい勢いで駆け抜けていった。向かいの通りには自転車を2人乗りして走り抜けていくフェリシー達女の子の姿も見えた。皆、同じ方向に向かっている。 「ブノア! 行くぞ! ルネ、ガスパールも来いよ!」  一度走り抜けてからUターンしてきたドミニクがブノアの背中を叩いた。 「一体どうしたの?」  ルネはレジを閉めてからドアの方に向かって歩き出した。  はぁはぁと呼吸が乱れたままのブノアの変わりにドミニクが叫んだ。
 「ジョゼット・ジュネが飛び下りたんだよ!」
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