6月3日、トヨタ自動車が、2014年以降生産された7車種6事案(生産終了となった車種も含む)で、国が定めた基準とは異なる方法で試験を実施していたと発表した。
※いずれの事案も、社内で再検証した結果、法規が定める性能は満たしており、お客様に使用を控えていただく必要はありません。
今年1月26日、型式指定 * 申請に関する国土交通省からの実態調査の指示を受けて進めていた調査でわかった(調査は現在も継続中)。
* 型式指定制度:現車によるブレーキ試験等の基準適合性と品質管理(均一性)の審査の結果、指定された型式の自動車について、新規検査時の現車提示が省略される制度。主に、同一モデルが大量生産される乗用車に利用される。
なお、調査結果を踏まえ、現在、日本国内で生産中の3車種(カローラフィールダー/アクシオ、ヤリスクロス)は本日3日より一旦、出荷・販売を停止することを決定。国交省の指導のもと、速やかに適切な対応を進めていく。
豊田章男会長のあいさつ、および、宮本眞志カスタマーファースト推進本部長による事案の説明全文を掲載する。
豊田会長「正しい認証プロセスを踏まずに量産、販売してしまった」
豊田会長
本年1月26日、型式指定申請に関しまして、国土交通省から実態調査のご指示を受け、調査を進めてまいりました。
まだ調査の途中ではございますが、2014年以降、すでに生産を終了しているものも含め、7車種において、国が定めた基準とは異なる方法で試験を実施していたことが判明し、5月31日に国土交通省にご報告いたしました。
今回の事案はトヨタ自動車とトヨタ自動車東日本の2社にまたがる問題でございます。
日野、ダイハツ、豊田自動織機に続き、グループ内で問題が発生しておりますことに対しまして、トヨタグループの責任者として、お客様、クルマファン、すべてのステークホルダーの皆様に心よりお詫び申し上げます。本当に申し訳ございませんでした。
今回の事案はいずれも「認証」に関わる問題でございます。
日本国内における「認証制度」は、 主に「安全」と「環境」の分野において、ルールに沿った測定方法で、定められた基準を達成しているかを確認する制度でございます。
認証試験で基準を達成して初めて、クルマを量産、販売することが可能になりますが、今回の問題は、正しい認証プロセスを踏まずに量産、販売してしまった点にございます。
今回の問題の詳細につきまして、カスタマーファースト推進本部の宮本よりご説明させていただきます。
宮本本部長 発覚した7車種6事案の説明
まず、認証のプロセスについてですが、認証は、クルマを量産させていただくための、また、お客様に販売し、安全・安心にお使いいただくための最低限、かつ、最重要なプロセスだと思っております。
認証には、大きく分けて、3つのやり方があります。
1つは、試験時に、認証機関の審査官の方に立ち会っていただくもの。2つ目は、メーカーが自ら認証試験を実施し、そのデータを提出するもの。3つ目は、開発試験での有効なデータを認証データとして提出するものです。
今回、2つ目と3つ目のやり方で、問題がございました。
その中で、今回、具体的に見つかりました事案は、6種類ございます。こちらが、6種類の一覧でございます。
まず、1つ目の事案でございます。これは、2014年、15年当時、クラウンとアイシスのモデルチェンジの際にエアバッグをタイマー着火した開発試験データを認証申請に使用したものです。
衝突の際は、主にシートベルトとエアバッグで乗員を保護しますが、アイシスでは、シートベルトの性能向上にむけて開発しておりました。
この開発試験では、認証試験の基準よりも、厳しい衝突条件をつくり出すために、「タイマー着火」という手法を用いました。
また、クラウンでは、追加のモデルを開発しておりました。
この開発試験の目的は、シートベルトとエアバッグによる乗員保護性能を確認することであり、試験用の試作車で、確実にエアバッグを展開させるために、「タイマー着火」という手法を用いました。
なお、エアバッグの自動着火性能については、既存モデルにおいて性能が確認できております。
いずれのケースも、本来ならば、もう一度、認証試験として、お客様にお渡しするクルマに限りなく近い状態で試験を実施し、そのデータを提出することが必要でした。
ところが、開発試験データを申請に使ってしまいました。
次に、2つ目の事案でございます。これは、2015年当時、カローラの開発の際に、歩行者とクルマが衝突した際の、頭部へのダメージを確認した試験です。
より厳しい試験条件の開発試験データを認証申請に使用しました。
なお、図のとおり、衝撃角度65°の方が、より厳しい試験条件となります。
本来ならば、法規で定められた衝撃角度50°で改めて試験を実施し、そのデータを提出することが必要でした。
ところが、開発試験データを申請に使ってしまいました。
次に、3つ目の事案でございます。これは、2015年当時、カローラ・シエンタ・クラウンの開発の際に、歩行者とクルマが衝突したときの、頭部や脚部へのダメージを確認した開発試験です。
認証で申請した測定部位と、実際にぶつけた位置が左右で逆のデータを使ったことや、片側のデータを両側分のデータとして認証申請に使用してしまいました。
車両上、左右で結果に差が出ない試験項目ということが確認できております。
本来ならば、もう一度、選定された測定位置にて認証試験を実施し、そのデータを提出することが必要でした。
また、測定位置の決定は、事前に認証機関に申請し、合意をいただくプロセスを取っておりますが、開発途中での構造変更や技術的な検証が進む中で測定点変更に関する、認証機関とのコミュニケーションが不足していたこともあったと考えております。
次に、4つ目の事案です。これは、2014年当時のクラウン、2015年当時のシエンタ開発の際に、後面衝突による燃料漏れ等の確認試験です。
より試験条件の厳しい台車を用いた開発試験データを認証申請に使用していました。
法規基準の1,100kgより重たい1,800kgの評価用台車を使用し、より大きな衝撃で評価をしました。
本来ならば、再度、法規で定められた1,100kgの評価用台車を用いて認証試験し、そのデータを提出することが必要でした。
次に、5つ目の事案です。これは、2020年当時の、ヤリスクロスの開発において、衝突時の積み荷の移動による後部座席へのダメージを調べる試験です。
法規の変更で、積み荷ブロックの要件が追加されておりました。
一方で、認証申請では、古いブロックを使った開発データを使用してしまいました。本来であれば、改めて、新しいブロックで試験し、そのデータを提出すべきでした。
最後に、6つ目の事案です。これは、2015年当時、LEXUS RX用のエンジンの開発において、エンジン出力を確認した認証試験です。
この試験において、狙った出力が得られませんでした。
本来は、問題が発生した際は、立ち止まり、 原因究明の上、対策をすべきでしたが、狙った出力が得られるようにコンピューター制御を調整し、再度、試験をしたデータを使用してしまいました。
これは、結果が基準を満たすように、手を加えてしまっていることが①~⑤とは性質が違う事案だと考えております。
その後の調査では、試験用の排気管の潰れが原因と判断しております。
以上、6つの事案を層別しますと①~⑤の事案は、開発試験データを認証申請に使用する際の事案、⑥の事案は、メーカー自ら認証試験を実施し、そのデータを提出する試験において発生したということでございます。
本日ご説明の認証に関わる規模感ですが、年間で約50モデルの認証、10年間では、約7,000件のレポートを提出しています。
1つのレポートの内容は、例えば先ほどの、歩行者保護のケースで申しあげますと、多数の打点や、バンパーの左右の試験結果等が含まれます。
今ここに、全体の試験内容の総数は持ち合わせておりませんが、総数につきましては、数万に及ぶ、試験結果を確認し、まだ途中ではございますが本日6事案の報告をさせていただきました。
豊田会長「私自身が現場におりて、責任をもって推進」
豊田会長
まだ継続中ではございますが、今回、数万におよぶ調査の結果、6つの事案が明らかになりました。
いずれにいたしましても、法規に定められた基準はクリアしておりますので、お客様に安全にお使いいただけることを確認しております。
しかしながら、こうした行為は、認証制度の根底を揺るがすものであり、自動車メーカーとして、「絶対にやってはいけないことだ」と考えております。
本年1月30日の記者会見を受け、私自身が、すぐに動き出しましたことは、私も含めた関係者が「何が問題なのか」を正しく理解することでした。
そこで、本年2月より、グループの責任者である私自身が中心となり、トヨタ、日野、ダイハツ、豊田自動織機に呼び掛け、法規認証をテーマとしたトヨタ生産方式、TPS自主研究会を実施いたしました。
まずは、認証に関わる業務の中で、特に不具合が多く発生している工程に着目し、「物と情報の流れ」を見える化することから始めました。
今は、それにより明らかになった仕事のしくみの課題に対し、具体的な改善活動に着手しております。
先日、私自身も現場に行き、これまでの取り組み状況を確認してまいりました。
各社の社長、現場を率いる“おやじ”たち、ベテランのエンジニアから入社数年目の若手社員まで。
参加した全員が、肩書も、会社の枠も越えて、「物と情報の流れ」を前に集まり、学び合う姿がありました。
今はまだ、仕事のしくみのどこに問題があるかがわかった。トヨタも含め、グループ各社が同じ課題を抱えていることもわかった。そういう段階だと思います。
しかし、「同じグループなんだから、声を掛け合いながら、トップと現場が一緒になって、改善を続けていく」。その第一歩は踏み出せた。私はそう感じております。
この活動をグループ全体に広げ、現場が主権をもって、「もっといいクルマづくり」に取り組める企業風土をつくってまいりたいと思っております。
地道で、時間のかかる取り組みではございますが、私自身が現場におりて、責任をもって推進してまいります。本日はどうぞよろしくお願いいたします。
<関連リンク>
ニュースリリース|型式指定申請における調査結果について
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