Tumgik
#雪の塊
homest · 4 months
Text
 ▽燃えさかる炎を前に「引けば記者失格」
 そして、誰も報道機関をとがめることができないまま、運命の日を迎える。6月3日、中尾さんは上司に「土石流の映像を撮ってきて」と指示された。カメラマンと2人で会社所有の乗用車に乗り込み、普賢岳の麓を流れる川沿いの山道を上流へと進んだ。定点を通り過ぎると、徐々に道は狭くなっていき、やがて行き止まりになった。
 結局、土石流は見つからず、定点まで引き返すことにした。中尾さんが運転していると、木の葉っぱの上で休む巨大なカタツムリを見つけた。捕まえて車のボンネットに乗せて数十メートルを走って遊び、逃がした。このわずかな時間が、奇跡的に中尾さんの命を救うことになる。
 突然、真っ黒で巨大な雲の塊のようなものが視界を横切った。ものすごい勢いでふくれ上がり、一瞬で辺りを覆い尽くした。高さ数百メートルの壁のように頭上まで広がり、辺りは暗くなったという。午後4時8分、大火砕流が発生した瞬間だった。車はたまたま小高い丘の陰に差し掛かっており、難を逃れた。「あと数秒、早くても遅くても確実に巻き込まれていただろう」。
 驚いた中尾さんは車を止めて外に出た。あちこちに燃えさかる家屋や車が見え、直感的に死者が出ていることを悟った。茶色っぽい火山灰が雪のように降りしきり、辺りの地面に積もり始め、触るとほのかに熱かった。
 別の方向から1台のタクシーが来た。系列局の別の取材班で、命からがら逃げてきたという。1人は首に軽いやけどを負っていた。すぐにすすまみれの車体を撮影し、乗っていた人に中尾さんがインタビューした。終えると、一行は火砕流が通った道とは別の方向から市街地に帰っていった。
 一方、中尾さんは炎上する被災地域へと車を進めた。「迷いは全くなかった。ここで引けば記者失格と思った」。第2波への恐怖心はあったが、「アドレナリンで『血湧き肉躍る状態』。自分も死ぬかもとは考えなかった」。途中で下車し、惨状をリポートして映像に収めた。市街地に戻ると、消防団員に「どこから来たんだ」と驚かれ、誇らしかった。「スクープをものにした。他社はどこも撮れていない」と達成感に満ちていた。
 ▽記者魂を「はき違えていた」
 だが、被害の全容が判明するに連れ、気持ちは沈んだ。定点を含む現場では報道関係者16人と同行のタクシー運転手4人に加え、地元の消防団員12人、警察官2人を含む計43人が命を落とした。「自分の行動は正しかったのか」。黒焦げの遺体が次々と安置所に運び込まれる光景を目の当たりにし、自問自答を重ねた。撮影した映像もほとんどオンエアされることはなかったという。
 大火砕流は結果的に、避難勧告の区域内で止まった。犠牲になった消防団員たちは一度は退避したが、一部の報道関係者が無人の民家の電源を無断使用する事件があり、見回りのために戻っていた。つまり、報道各社が市の要請に従っていれば、犠牲になることはなかったのだ。「マスコミが住民を殺した」との批判に返す言葉はなかった。
 「自分が生きていることを不思議に感じる。亡くなった人たちは、熱かったろうなぁ」。今年5月下旬、中尾さんは久しぶりに現地を訪れ、つぶやいた。高台から大火砕流が通った跡を見渡し、視線の先には定点があった。「自分を含め、あの時は記者魂をはき違えていた。本当は他社に勝ちたかっただけ。巻き込んでしまった人たちには申し訳ないと思う」
2 notes · View notes
being-time · 6 months
Text
タイムカプセル
 
 
 途切れた昨日を掘り返して
 夕日が窓辺を照らす
 
 雪解けの川が水塵をあげて
 橋桁を揺らす
 
 君に送った手紙
 思い出の中を流れていく
 
 作業机で広げたタイムカプセル
 繋ぎ目から剥がれた裏庭の砂
 
 見慣れた今日は足早に過ぎて
 星が空を覆っている
 
 木蓮が白い花を散らして
 緑の葉が芽吹き出す
 
 君を送った昨夜
 熱を残して去っていく
 
 作業机で広げたタイムカプセル
 繋ぎ目から剥がれた裏庭の砂
 
 夢見た明日に立ち尽くす
 春風が高く鳴る
 
 鼻先を土塊が薫って
 田に煙が舞う
 
 君の手を握りしめた
 薬指の冷たさ
 
 作業机で広げたタイムカプセル
 繋ぎ目から剥がれた裏庭の砂
 
2 notes · View notes
kandaanimalhospital · 9 months
Text
1月13日
雪がちらつく中、本日もご来院くださりありがとうございます。
今日は、午前診察中に帝王切開が入ったため、
11時半で診察を切り上げさせていただきました。
来院したら閉まっていた…というオーナー様には、ご迷惑をおかけし、申し訳ありませんでした。
帝王切開って、事前に日を決めてするんじゃないの?と思われがちですが、
帝王切開でないと出産ができない犬種、ブルドッグやフレブルなどは、きっちり交配した日が分かれば、日にちを決めて行いますが、
基本は、自然分娩を目指しお母さんに任せます。
交配した日が曖昧だったり、レントゲンで確認した時の骨の写り方が薄い、発育が遅れているコも中にはいるので、
おおよそで帝王切開に踏み切るのは良くありません。
最後の1週間でぐん!と成長する時期なので、最後の2.3日までとても重要なんです。
開けたはいいけど育ってない…では、取り返しがつかないので判断は慎重になります。
なので、基本は破水待ちです。
破水もして、1時間経っても、子供が出てこない時は、母子に何かトラブルが起きていることを示しますので、すぐに帝王切開になります。
陣痛が弱い、子供が産道に降りて来ない、引っかかってしまった、骨盤より大きくなってしまったなど。
Tumblr media
母子共にオーナー様にお返しすることができてほっとしました🥰
たくさん飲んで、寝て、大きくなってね❗️
バラバラに置いても、必ず3匹一塊になるんです、くっついてた方があったかいし、これも本能なのかな〜かわいい♡
2 notes · View notes
jaguarmen99 · 1 year
Quote
さて、日本共産党員の紙屋高雪というブロガーがいるのですが、日本共産党から見れば有望株の1人と言っていいでしょう。 なにせ日本共産党員を公言しながら評論家としてそれなりの知名度になるわけですから。 しかもまだ52歳。党員のコア層が団塊世代で平均75歳と超高齢化が激しい日本共産党ではまだまだ若手(笑)の部類です 日本共産党が党のトップを決めるのに開かれた選挙を求めた松竹伸幸を除名追放した件で、意見をブログに書いた事を理由にやはり除名されようとしているとのこと。 日本共産党は党の幹部達の貴族生活を維持するために独裁を維持するということが第一にあってそのためには民主主義は全否定、表現の自由も認めないというところは絶対に譲らないようです。 そんなのが「民主主義を取り戻す!安倍の独裁がー!」(なお、志位和夫は独裁23年目)と言い続けてきたのですから、やはり相当に地頭の部分が腐っていないと共産党員は続けられないように思います。
893なら排除されてる話 | パチンコ屋の倒産を応援するブログ
3 notes · View notes
kennak · 1 year
Quote
オタク差別が熾烈だったのは宮崎勤(89年)から冬彦さん(東大インテリ=マザコンオタク。92年)くらい。バブル時代のTV局のキャンペーンだな。団塊バブル高卒労働者の絶頂時代でもある/90年代後半から雪解け
[B! オタク] 「2006年はオタク氷河期!オタクには人権も発言権もない時代だった!」←そんなわけないだろ
3 notes · View notes
tokyomariegold · 1 year
Text
2023/3/11〜
Tumblr media
3月11日 夜中に地震があった気がする。 そこから目覚めて、昨日飲んだ花粉症の薬の取り扱い説明書を眺めていたら、1日2錠を、1回2錠と間違えて、1日4錠飲んでいたことが判明。
用事のキャンセルを埋める感じで美容室へ行った。4ヶ月に一度、一応行っておくか、的なイベントになっている。朝の知らない町の閉じてる商店街を歩いて、やたらオレンジが並ぶディスカウントストアや肉の塊のショーケースを見つけた。
Tumblr media
美容師さんがお店の雰囲気に反したコミカルなお兄さんだった。全てのエピソードに一言余計な感じで、それを拾って笑ってあげなくてはいけなさを全く掬えなかった。 おしゃれが分からなくなったときに道ゆく人の服をずーっと観察しつつ自論を手に入れた、と言っていて、アクロスとか今和次郎的着眼点で良いのでは?と聞いていたら、結論が「太っているとおしゃれじゃない」だった。個人的にとっても聞きたくない話だったので、調査スポットをラゾーナ川崎にしたのが間違えだったのでは?ということにしておく。 いろいろ不安だった。
その後、カメラの修理工房で露出計の調子を見てもらった。 「これ逆じゃない?」と店主のおじさんがボタン電池のプラスとマイナスを逆に入れ直したらすぐに復活!にこやかな感じで談笑して工房を後にした。
銀座に移動して新しい香水をみて、仲條さんの展示とシャネルのマベルポブレット展を鑑賞。 香水はMM6の定番を買ってみた。 タグや紙袋のロゴデザインの数字は、MM6の商品カテゴリーを意味しているとのことで、フレグランスは3。3に◯がついた紙袋に入れてもらう。
gggで開催されていると思ったらどうやら違う展示が開催されていたので、そのままシャネルへ。 上野も銀座も人が多くて平和な春っぽくて、何かとても不安になった。
マベルポブレット、知らなかったけれど若手の女性作家さんで、多分みんな好きなインスタレーションをつくられている方だった。海に行きたくなる!
Tumblr media
電車で自撮りについて書かれた本を読む。 増田さん(インスタの写真論や、パンのパンで読んだことがあるはず…)の文が読みやすく、いくつかダウンロードしていた論文も読んでおきたい。
土手の菜の花がちらつき始めて、昨年の10日間の在宅期間の悪夢を思い出す。
3月12日 マロンシャンテリーをした日! マロンシャンテリーは思った通りにプードルみたいで可愛かった。 友人の花柄のお洋服が素敵だったので、わたしも気になっていた花柄の春服ワンピースを買おうと思った。 伊東屋で退職される上司に送るメッセージカードを選んだり、お茶をしたり、東京駅まで歩いたりしながら、結婚記念日に実家から送られてきた冷凍のコース料理を解凍したり、雪で箱根一人旅ができなくなってしまったり、オオゼキのお肉売り場は安売りのときレッドチェッペリンが流れること等を話した。
Tumblr media
私は彼女に触発されて日記を書き始めていて、前回会った時に彼女はあまり日記をかけていないようだったけれど、先日送ってくれた手紙に“今年は書くことを大切にしたい”と書かれていて嬉しくなったところだったので、日記の様子を訊ねてみた。何かしらは書いてます、とのこと。 6人がけテーブルに2人で通してもらって、読売会館と遠くにたなびく日の丸を眺めながらお茶をした良い休日。東京駅まで歩いて友人と別れて、丸ビルと新丸ビルの間の歩道で路上シンガーが中山美穂の“世界中の誰よりもきっと”を歌っていて、この曲が人生のテーマソングと言っていた高校時代の同級生(名前は美穂ちゃん)をふと思い出したりした。 明日は雨が降りそう。曇天なのも春って感じ。 いつも頭が痛くて、いつもお部屋のフローリングがざらついている。
Tumblr media
5 notes · View notes
kachoushi · 1 year
Text
各地句会報
花鳥誌 令和5年5月号
Tumblr media
坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
………………………………………………………………
令和5年2月2日 うづら三日の月花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
厨女も慣れたる手付き雪掻す 由季子 闇夜中裏声しきり猫の恋 喜代子 節分や内なる鬼にひそむ角 さとみ 如月の雨に煙りし寺の塔 都 風花やこの晴天の何処より 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年2月4日 零の会 坊城俊樹選 特選句
暗闇坂のチャペルの春は明日あたり きみよ 長すぎるエスカレーター早春へ 久 立春の市の算盤振つてみる 要 冬帝と暗闇坂にすれ違ふ きみよ 伊達者のくさめ名残りや南部坂 眞理子 慶應の先生眠る山笑ふ いづみ 豆源の窓より立春の煙 和子 供華白く女優へ二月礼者かな 小鳥 古雛の見てゐる骨董市の空 順子 古雛のあの子の部屋へ貰はれし 久
岡田順子選 特選句
暗闇坂のチャペルの春は明日あたり きみよ 冬帝と暗闇坂にすれ違ふ 同 大銀杏八百回の立春へ 俊樹 豆源の春の売子が忽と消え 同 コート脱ぐ八咫鏡に参る美女 きみよ おはん来よ暗闇坂の春を舞ひ 俊樹 雲逝くや芽ばり柳を繰りながら 光子 立春の蓬髪となる大銀杏 俊樹 立春の皺の手に売るくわりんたう 同 公孫樹寒まだ去らずとのたまへり 軽象
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年2月4日 色鳥句会 坊城俊樹選 特選句
敬􄼲な信徒にあらず寒椿 美穂 梅ふふむ野面積む端に摩天楼 睦子 黄泉比良坂毬唄とほく谺して 同 下萌や大志ふくらむ黒鞄 朝子 觔斗雲睦月の空に呼ばれたる 美穂 鼻歌に二つ目を割り寒卵 かおり 三􄼹路のマネキン春を手招きて 同 黄金の国ジパングの寒卵 愛 潮流の狂ひや鯨吼ゆる夜は 睦子 お多福の上目づかひや春の空 成子 心底の鬼知りつつの追儺かな 勝利
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年2月6日・7日 花鳥さざれ会 坊城俊樹選 特選句
潮騒を春呼ぶ音と聞いてをり かづを 水仙の香り背負うて海女帰る 同 海荒るるとも水仙の香の高し 同 坪庭の十尺灯篭日脚伸ぶ 清女 春光の中神島も丹の橋も 同 待春の心深雪に埋もりて 和子 扁額の文字読めずして春の宿 同 砂浜に貝を拾ふや雪のひま 千加江 村の春小舟ふはりと揺れてをり 同 白息に朝の公園横切れり 匠 風花や何を告げんと頰に触る 笑子 枝川やさざ波に陽の冴返る 啓子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年2月8日 さくら花鳥会 岡田順子選 特選句
雪を踏む音を友とし道一人 あけみ 蠟梅の咲き鈍色の雲去りぬ みえこ 除雪車を見守る警備真夜の笛 同 雪掻きの我にエールや鳥の声 紀子 握り飯ぱりりと海苔の香を立て 裕子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年2月10日 鳥取花鳥会 岡田順子選 特選句
東風に振る竿は灯台より高く 美智子 月冴ゆる其処此処軋む母の家 都 幽やかな烏鷺の石音冴ゆる夜 宇太郎 老いの手に音立て笑ふ浅蜊かな 悦子 鎧着る母のコートを着る度に 佐代子 老いし身や明日なき如く雪を掻く すみ子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年2月11日 枡形句会 栗林圭魚選 特選句
朝光や寺苑に生るる蕗の薹 幸風 大屋根の雪解雫のリズム良き 秋尚 春菊の箱で積まれて旬となる 恭子 今朝晴れて丹沢颪の雪解風 亜栄子 眩しさを散らし公魚宙を舞ふ 幸子 流れゆくおもひで重く雪解川 ゆう子 年尾句碑句帳に挟む雪解音 三無 クロッカス影を短く咲き揃ふ 秋尚 あちらにも野焼く漢の影法師 白陶 公魚や釣り糸細く夜蒼し ゆう子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年2月13日 枡形句会 栗林圭魚選 特選句
犬ふぐり大地に笑みをこぼしけり 三無 春浅しワンマン列車軋む音 のりこ 蝋梅の香りに溺れ車椅子 三無 寒の海夕赤々漁終る ことこ 陽が風を連れ耀ける春の宮 貴薫 青空へ枝混み合へる濃紅梅 秋尚 土塊に春日からめて庭手入 三無 夕東風や友の消息届きけり 迪子 ひと雨のひと粒ごとに余寒あり 貴薫
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年2月13日 武生花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
浅春の眠りのうつつ出湯泊り 時江 老いたれば屈託もあり毛糸編む 昭子 落としたる画鋲を探す寒灯下 ミチ子 春の雪相聞歌碑の黙続く 時江 顔剃りて少し別嬪初詣 さよ子 日脚伸ぶ下校チャイムののんびりと みす枝 雪解急竹はね返る音響く 同 寒さにも噂にも耐へこれ衆生 さよ子 蕗の薹刻めば厨野の香り みす枝
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年2月14日 萩花鳥会
水甕の薄氷やぶり野草の芽 祐子 わが身共老いたる鬼をなほ追儺 健雄 嗚呼自由冬晴れ青く空広く 俊文 春の園散り散り走る孫四人 ゆかり 集まりて薄氷つつき子ら遊ぶ 恒雄 山々の眠り起こせし野焼きかな 明子 鬼やらひじやんけんで勝つ福の面 美惠子
………………………………………………………………
令和5年2月15日 福井花鳥会 坊城俊樹選 特選句
吹雪く日の杣道隠す道標 世詩明 恋猫の闇もろともに戦かな 千加江 鷺一羽曲線残し飛び立てり 同 はたと止む今日の吹雪の潔し 昭子 アルバムに中子師の笑み冬の蝶 淳子 寒鯉の橋下にゆらり緋を流す 笑子 雪景色途切れて暗し三国線 和子 はよしねまがつこにおくれる冬の朝 隆司 耳目塗り潰せし如く冬籠 雪 卍字ケ辻に迷ひはせぬか雪女 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年2月16日 伊藤柏翠記念館句会 坊城俊樹選 特選句
指先に一つ剥ぎたる蜜柑の香 雪 大寒に入りたる水を諾ひぬ 同 金色の南無観世音大冬木 同 産土に響くかしは手春寒し かづを 春の雷森羅万象𠮟咤して 同 玻璃越しに九頭竜よりの隙間風 同 気まぐれな風花降つてすぐ止みて やす香 寒紅や見目安らかに不帰の人 嘉和 波音が好きで飛沫好き崖水仙 みす枝 音待てるポストに寒の戻りかな 清女 女正月昔藪入り嫁の里 世詩明
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年2月17日 さきたま花鳥会 坊城俊樹選 特選句
奥つ城に冬の遺書めく斑雪 月惑 顔隠す一夜限りの雪女郎 八草 民衆の叫びに似たる辛夷の芽 ふじほ 猫の恋昼は静かに睨み合ひ みのり 薄氷に餓鬼大将の指の穴 月惑 無人駅青女の俘虜とされしまま 良江 怒号上げ村に討ち入る雪解川 とし江 凍土を突く走り根の筋張りて 紀花 焼藷屋鎮守の森の定位置に 八草 爺の膝捨てて疾駆の恋の猫 良江
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年2月19日 風月句会 坊城俊樹選 特選句
古玻璃の奥に設ふ古雛 久 笏も扇も失せし雛の澄まし顔 眞理子 日矢さして金縷梅の縒りほどけさう 芙佐子 梅東風やあやつり人形眠る箱 千種 春風に槻は空へ細くほそく ます江 山茱萸の花透く雲の疾さかな 要 貝殻の雛の片目閉ぢてをり 久 古雛髪のほつれも雅なる 三無 ぽつねんと裸電球雛調度 要
栗林圭魚選 特選句
紅梅の枝垂れ白髪乱さるる 炳子 梅園の幹玄々と下萌ゆる 要 濃紅梅妖しきばかりかの子の忌 眞理子 貝殻の雛の片目閉ぢてをり 久 古雛髪のほつれも雅なる 三無 老梅忌枝ぶり確と臥龍梅 眞理子 山茱萸の空の広さにほどけゆく 月惑 八橋に水恋うてをり猫柳 芙佐子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年2月21日 鯖江花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
師を背負ひ走りし人も雪籠 雪 裏庭開く枝折戸冬桜 同 天帝の性こもごもの二月かな 同 適当に返事してゐる日向ぼこ 一涓 継体の慈愛の御ん目雪の果 同 風花のはげしく風に遊ぶ日よ 洋子 薄氷を踏めば大空割れにけり みす枝 春一番古色の帽子飛ばしけり 昭上嶋子 鉤穴の古墳の型の凍てゆるむ 世詩明 人の来て障子の内に隠しけり 同 春炬燵素足の人に触れざりし 同 女正月集ふ妻らを嫁と呼ぶ 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年2月26日 月例会 坊城俊樹選 特選句
能舞台昏きに満ちて花を待つ 光子 バス停にシスターとゐてあたたかし 要 空に雲なくて白梅すきとほる 和子 忘れられさうな径の梅紅し 順子 靖国の残る寒さを踏む長靴 和子 孕み猫ゆつくり進む憲兵碑 幸風 石鹸玉ゆく靖国の青き空 緋路 蒼天へ春のぼりゆく大鳥居 はるか
岡田順子選 特選句
能舞台昏きに満ちて春を待つ 光子 直立の衛士へ梅が香及びけり 同 さへづりや鉄のひかりの十字架へ 同 春の日を溜め人を待つベンチかな 秋尚 春風や鳥居の中の鳥居へと 月惑 料峭や薄刃も入らぬ城の門 昌文 梅香る昼三日月のあえかなり 眞理子 春陽とは街の色して乙女らへ 俊樹
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年2月 九州花鳥会 坊城俊樹�� 特選句
ポケットの余寒に指を揉んでをり 勝利 黒真珠肌にふれたる余寒かな 美穂 角のなき石にかくれて猫の恋 朝子 恋仲を知らん顔して猫柳 勝利 杖の手に地球の鼓動下萌ゆる 朝子 シャラシャラとタンバリン佐保姫の衣ずれ ひとみ 蛇穴を出て今生の闇を知る 喜和 鷗外のラテン語冴ゆる自伝かな 睦古賀子 砲二門転がる砦凍返る 勝利 小突かれて鳥と屋や に採りし日寒卵 志津子 春一番歳時記の序を捲らしむ 愛
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
3 notes · View notes
yoshitugutuduki · 2 years
Text
ネオファウナ
Tumblr media
 白と黒。それがこの台地に登って抱いた最初の印象だった。起伏に富んだ白い氷原のあちこちから、黒い崖が顔を覗かせる。雪がちらついているせいか、それとも大地の白を映し出しているせいか、空もまた、灰色のはずが白んで見える。初めて訪れる北極圏は、太古の昔から日の沈むことのない、かといって日が高く昇り、大地の氷河を溶かすこともまたない、薄明の世界だった。  雪原専用の8脚車両で、傾斜の緩い台地の東側から登って早半日、狭い空間で疲れは溜まっていたが、私の体重が他の乗組員より重い分、贅沢は言えなかった。大丈夫、あと数時間もすれば、発掘のためのキャンプ基地に到着する。この辺りは雪の粘度が低く、おまけに雪の下の固まった氷河をうっかり踏んでしまうと、車両ごと転倒する危険がある。車体の脚部分に付いた音響センサーで、なるべく雪の厚い場所を探りつつ、進むしかないらしい。  私の隣では、ダンと名乗った白いクマの男性が車両に接続して操縦している。一見すると椅子にもたれかかっているようにしか見えないが、後頭部には電磁コントローラが付いている。彼自身によればちょっと前の型番だが、車両を動かすには使い慣れたものが一番しっくり来るらしい。後頭部樹状核増設手術を受けているらしく、扱いには手慣れているという。もう10年になるそうだ。他の2名が小柄で、荷物もかなり多い以上、体重の大きいゾウである私と、ダンの2名はそれぞれコクピットとサブピットに座ることになった。  「僕は地元の村の出なんですが」  思いのほか、荒々しげな見た目とは裏腹に、丁寧な口調でダンは喋り出した。運転中とはいえ、重苦しい静寂に耐えられなくなったらしい。  「どうもそっちでも、起きてるみたいなんですよ、失踪事件」  「本当なんですか」  それまで黙りっきりだったネズミの男、ジェイが、淡々と訊いた。別段驚くでもなく、寒い車内の温度に合わせたような冷やかさだった。仕事をし始めて半年間、ここに来て躓くまで彼と世界を巡ったが、未だに彼の感情の起伏は捉えられていない。  「えーと、報告では、確かに4件の失踪事件が、マクファーレンさんのご出身の村で確認されてますね、種はいずれもバラバラですが」  そそっかしいラエンの女性、ライラと名乗ったか、が手元の携帯モニタを叩いて読み上げた。ダン・マクファーレンと同じく、ここに着いた際に中央都市の空駅で出会ったばかりで、なおかつ、私とジェイの終盤を迎えた調査が躓くことになった原因だった。  いや、原因というのはよそう。別に彼女が引き起こした事態ではないのだから。  私たちはこの地に到着した瞬間に、すでに躓いていたのだ。
 私とジェイ・マウゼリンクスが実地調査を始めたのは半年前、そのきっかけになった、彼の調査に同行したのが1年程前だったか。赤道地帯の高地で発見された膨大な壁画、そしてそれを覆い隠していた巨大な洞窟は、数万年前に明らかな、我々知的生物による文明が存在した最古の証拠となり得るものだった。当時一介の動物文化学者だった私に、その研究の最前線に入って欲しいと言うオファーが来たのは、ジェイの横やりあってこそだと聞く。途中から研究に無理やり入り込んだジェイを疎む者はいたものの、全知的動物の大系統を、分子を用いて提示し、世界的に注目されている彼には、表立って反意を示すことができなかったようだ。無理やり私を暑い洞窟へ連れ出した彼は、これまでの古代文化とも違う、独特な意匠の壁画と、その物語る意味を教えてくれた。  それはカタログ、と言ってもいいものだった。中央に描かれた、楕円形の物体の中から、様々な種の、知的生物が出てきて、一様に並ぶ光景。そこには何万もの「立った絵」があったが、1色で描かれていながら、それぞれの絵はディテールが異なり、明確に別種と認識できた。赤道付近と言っても、安定陸塊上、そう、オセアニア大陸に位置する以上、ゾウやウマといった旧大陸を出自とする種は、ここには載っていないはずだった。だけれど、私の種だけではない。たぶん、あらゆる現生の知的生物が、この「カタログ」に載せられているのだろう。  分子生物学者のジェイは、恐らく人類のルーツを明確にしようとしているに違いなかった。そこで私に、手伝ってくれるように要請した。  誰もが気づかないふりをする。  感情の起伏に乏しいジェイが、この話をする時は苦々しい顔を必ず浮かべる。我々知的生物、つまり動物は、単一の系統である微生物として誕生し、無脊椎動物、魚類を経て、爬虫類となり、そこからそれぞれ鳥類と哺乳類が分かれた。これが、どんなにプロセスに疑問を抱こうと、この地球の教育機関で、幼獣ですら習っている仮説だ。  しかしこの仮説には矛盾が生じている。我々は進化の過程で、知能が発達したが、知能が発達するのが先だったのか、それとも様々な種に分化するのが先だったのか、という問題だ。知能が発達するのが先なら、例えば知能を退化させた種や、相応の歴史を示す物が残っていてもおかしくないが、実際はそんな種や事物は残っていないし、現在昆虫や魚類で示されているような、進化に至る原理、突然変異や、特に自然選択が、知能を持つと生じにくくなるのではないか、という仮説もある。一方で、様々な種に分化するのが先で、その後知能が発達したという仮説なら、上記の問題はクリアするが、いくら収斂進化という、似た生態的地位の生物に似た形質が出るという仮説があるとはいえ、そのような斉一的な知的生物化が起こり得るだろうか、という疑問が浮かぶ。そもそも、様々な種に分化しているのなら、我々には様々な、枝の途中となり得る、祖先種が数多見つかるはずだ。しかし、現状そんなものは一切見つかっていない。化石記録は魚類まで、それも現生の無脊椎動物や魚類とはかけ離れた姿で、我々の現在の姿を支持しない。  このジェイの主張に私は魅せられたのだろう。彼に伴って様々な古い遺跡をフィールドワークした。そうして、場所を絞り込んでいくうちに、文明誕生の起源となる候補が、この、新大陸の北極圏内にある、大きな台地で見つかった遺跡だと突き止めた。  残すは実地調査、既にキャンプ地が作られ、行われるはずだった大規模な調査に参加させて貰えることになり、北極へ向かう途上は、一睡もできないほどだった。しかし、いつまで経っても迎えの車両が来ない。どうもおかしいと思って、上空から気象観測用の無人機で見て貰ったところ、キャンプ地に誰の気配もない、ということが判明した。地元の警官隊に待機を命じられた私たちは、警官隊所属でこの地域を管轄していると名乗るライラと、この辺の地理に詳しく、仕事柄車両の扱いにも慣れているらしいダンと共に、キャンプへ向かうことになったのだった。
 洞窟の中は、明るかった。発電機が稼働したままになっていたせいか、洞窟の壁に設置されたライトが空間を照らし出し、携帯ライトを持たずとも奥深くまでの道は見えていた。ずっと昔読んだ恐怖小説と違って、静寂こそあれど、何十人ものスタッフが失踪したような、不気味な雰囲気は感じさせなかった。  先を行くジェイを呼んで、私より二回りは小さな彼の様子を聞く。  「キュクロプスさん、この先は若干狭いがあなたでも入れないわけではなさそうだ。ただ灯りがもう設置されていない。誰かライトを貸して欲しい」  そんな声が狭い道の前、ダンやライラの前から聞こえてくる。私は持っていた携帯ライト、ジェイには若干大きいかもしれないが、をダン、ライラに渡し、ジェイに渡すように促した。  「この奥は広い空間だ」  「慎重に進んでくださいね」  ライラが呼びかける。裂け目が出来て落ちていたりしたら大変だろう。  ライラに続いてダンが、そして私が狭い穴をくぐる。真っ暗であまり見えないが。空間が広いのは声の響き具合でわかる。  「これは、特に岩の裂け目とかはないみたいだ」  慎重に前進して、ジェイから渡された携帯ライトで周囲を見渡したダンが、何かに気づいた。  「なんだ、あれ」  真正面の、ライトで灯された場所を見る。明らかに場違いな物が、岩に貼りついていた。  「扉、ですね」  ライラが立ちすくんだまま不安げに言う。  鎮座している金属製の、明らかに現代的な円い扉は、私でも余裕で通れるぐらいには大きい。左側には、取手のような金属製の棒も繋がっている。  狼狽しているのか、先にこの空間に入ったジェイは、扉を見て何か考え込んでいるように見えた。そんな彼の横を通って、ダンがおもむろに取手に手をかける。  少しだけ、空気の吸い込まれる音がして、扉が開いた。  考え込むのをやめたらしいジェイが、吸い込まれるように扉の奥に入っていく。  「マウゼリンクスさん!」  ライラは止めに入ろうとしたのか、後を追った。私もそれに続く。  後ろから足音が聞こえる。ダンも来ているようだ。  扉の奥は、少し上向きの傾斜のある、通路だった。4名分の足音、金属音が響く。それ以外は、ジェイの今持っている携帯ライトが頼りだった。  こんなところに近代的な人工物があったなんて、何かの軍事基地とかだと、非常に私たちはまずいことをしているわけだが、なんでこんな洞窟の奥深くにあるのか、見当もつかない。  好奇心はとうに消え失せ、徐々に後悔と不安と恐怖が胸の奥を占めつつあった。そんな時、ジェイが立ち止まった。  「行き止まり?」  最後尾のダンが聞いた。ジェイは短く、いや、とだけ答え、目の前の壁、いや、長方形の扉だろうか、に設置された黒いパネルに、手をかざした。  扉が開くのと、視界が明るくなるのは同時だった。しばらく薄明りや闇の中で過ごしてきたせいか、目が痛い。なんとか視界を取り戻すと、通路と思しき、私たちが辿ってきた空間が明るく、ライトのようなもので照らされているのが見えた。扉の向こうは、少し落ち着いた明るさのようだ。ライラやジェイに続いて扉をくぐる。  そこは、一面緑色の森だった。
 唖然としていた私たちに、ジェイが呼びかけた。  「立体映像だ、本物の森じゃない」  各々が、凄まじい密度で生えている草木を触ろうとするが、すり抜けてしまう。どうやら本当に、偽物らしい。  「こんな植物見たことない。地球上でこんなの発見されてたっけ、それに日差しも」  「青い空だな」  上を見上げてジェイが言った。空と言えば、エアロプランクトンが漂っているため、地上からは緑色に見える、日差しもこんなに明るくはないはずだった。  「これが故郷の景色か」  そうジェイが呟く。  「その通りです、ここが本来の地球の景色です」  今までの穏やかな口調のまま、ダンが言い出した。  「マクファーレンさん?」  何を言い出すのか、と思い、私は振り向く。ライラも遅れて振り向いた。怯えているのか、その顔は強張っている。  「ようこそ、汎用生態系生産プラント、ネオファウナへ、私はこちらのオペレーションを行っているメインシステム、チャーリーと呼ばれています」  ダンは全員の方を向くと、恭しく礼をした。  「皆さんがご覧になっている映像は、本来の地球、東南アジアのカリマンタン島付近の熱帯雨林を再現したものです。本来の地球で最も多様性が保たれていた個所と言われています」  淡々と話すダンにはどこまでも表情が無かった。まるで愛想笑いを無理やり貼り付けたかのように、いや、人形や標本の魚のように、虚ろな笑みを浮かべたまま語り続けている。  「マクファーレンさん、どうしちゃったの?」  「私が現在操作しております個体は、身体の一部に改造を受け、なおかつ日ごろから電磁ネットワークに接続状態にありました。そこで、アバターを実体化させるよりも低電力で済むとみなし、デバイスとして使用するに至った次第です」  「俺をここに呼び寄せた理由はなんだ」  ジェイが、これまで聞いたことのない、敵意の籠った声で言った。赤い目が射止めるように、ダンを見つめている。しかしダンは答えなかった。  「ジェイをここに呼んだ理由は?」  今まで黙っていたライラが今度は言った。さっきまで怯えていたとは思えない、鋭い声だった。  「私は当該個体、あなたがジェイと呼ぶ個体を通して、ユーザーの設定した開始コードの発現タイミングを計算していました」  もはや私には何がなんだかわからなかった。洞窟の中の見知らぬ施設、見覚えのない緑、そして態度の一変した同好者たち。立っているのがやっとだった。  「一から説明してくれ、彼らがここに呼ばれた理由を」  ライラが続けた。ダンは薄笑いを浮かべ、苦虫を嚙み潰したような顔でジェイがそれをにらんでいる。  「始生暦時代に入って、人類の文明は大きく進歩し、大規模な星間文明を築くに当たりました。その過程で、本来の地球は大きく生態系を衰退させ、私が稼働を始めた段階では、乱開発防止のために所在不明とされていました。その代わり、多くの惑星が植民化され、人類は星間文明を自らの故郷とするに至りました。しかし、本来の故郷である地球への憧憬が無くなったわけではありません。数多の星々をテラフォーミングする過程で、人類はそのノウハウを蓄積させ、より高効率に、より速やかに他の惑星を地球化することを実現したのです」  「そして、故郷への憧憬は、私が制作されたネオファウナ計画に繋がりました。星間文明で用いられていた、地球由来の生物の遺伝情報を基に新たな労働力、知的生物を作り出す技術と、先に述べたテラフォーミング技術が結びつき、新たな地球を生み出すという計画へシフトしたのです」  「手順はまず、簡易な条件での地球化から始まります。条件に見合った惑星に、こちらのプラントで遺伝情報を改変し作製した大気性プランクトンなどを放ち、大気構成を地球により近いものとします。その後、水生プランクトンやごく微小な生物、水生生物、陸生植物、小型陸生動物といった順に作製し、放流します。生態系がそれぞれ安定してきた段階で次フェーズに移行し、最終的に大型動物を除いた不完全な生態系ができます」  「その後、大型動物をヒト型知的生物として作製し、惑星上に解き放ちます。初期はある程度の調整が必要ですが、徐々に文明化が進むと、自然と個体数も増えていくことでしょう。 ユーザーであるホモサピエンスに形態的に近いグループが作製されたのは、文化基準をかつてのユーザーの文明に合わせ、個体数増加を促すためです」 「ラエンのことだよ」  静かにライラが呟いた。  「私が開始コードを発現しようとしているのは、更にその次のフェーズです。当該個体を作製した私は、接続可能な別個体を使って、当該個体を外に出し、その脳を通して現在の惑星の状態を観察していました。もちろん、当該個体には脳神経の加速化措置と、私に情報を送るためのリソースも設置済みです。24年6か月を観察したことで、私は開始コードの発現を行うのに十分な時間が経過したと認識しました」  「それが、俺が作られた理由か」  相変わらずダン、否、チャーリーを睨んだまま、ジェイが吐き捨てた。  「開始コードの発現後はどうなる、先住種族と同じように、彼らを消去するのか」  「いいえ、開始コードの発現後は、現在作製している神経加速化の遮断、脳内の感覚抑制の解放、ボトルネック防止に用いられていた多系統繁殖用遺伝領域の切除、そして次代における原種形態への移行、これらを促すウィルス群を散布します。現在、その準備段階として、複数個体にこれらの措置が可能かどうかを試験しています」  「どういうこと?何が起きるの?」  何を言っているのか、門外漢の私にはわからない。だけれど何か恐ろしいことを言っている気がして、口走る。  「俺たち知的生物は知能を失い、動物に戻る。感覚も戻り、少子化対策に用いられかけてた遺伝領域はもぎとられ、子孫は四つ足の獣に、ってことだ。失踪事件は、その準備として、試験的にウィルスをばらまいたってことだ」  ダンは何も言わなかったが、ジェイが代わりに答えた。  「私に記録されている地球生命の情報は膨大ですが、基礎さえ完成すればあとは難しくありません。残りは生態系が安定するに従って、徐々に作製し定着させていく予定です。早ければ数十年で、この星は第2の地球となります。私やユーザーの願った地球の復活が遂に為されるのです」  ダンは両手を広げてまるで演説でもするかのように宣言した。私にはこれが夢の中の出来事のようでならなかった。  「当該個体と、そうですね、こちらの個体は私の本体にフィードバックすることにしましょう。現状のサンプルでは効率的なウィルスの散布が行えないので」  そう言うとダンの体は何も映っていない瞳で私の方を見た。ここが北極であることを思い出したかのような寒気が走る。先んじて捕まえられたジェイがもがいている。私も腕を強い力で引っ張られて、森の奥まで連れていかれそうになる。  「AIの癖によく喋るなお前は。中に誰かいるだろ、飛びっきりのイカれた奴が」  突然、腕が離れた。同時にジェイの咳き込む声がする。  見ると、大柄なクマを取り押さえているラエンの女性の姿があった。非現実的な光景に何が起こったのかわからなくなる。  「チャーリーだったか、以前遺跡を回って、似たような壊れた施設を見た時にあんたの名前を確認したよ。設置予定の生体プラント兼液体コンピュータの素体になるって時点でやばいと思ったが、こちとら先住種族を駆逐されんのも、せっかく根付いた知性を踏み台に懐古主義に走られるのもごめんでね、悪いが稼働停止してもらう」  出会った時の態度はどこへ行ったのか、荒々しい口調で告げると、周囲に火花が散った。  途端に、立体映像の森が消え失せ、通路と同じ無機質な灰色の部屋に変わる。  「案の定、システムはニューロン式を使ってたか。悪いけれど私はラエンじゃないし、体はあんたの言うホモサピエンスでも、宿っている意識は年季の入った量子の寄生虫なんだ。量子脳に関してはこっちの方が上手なんだよ。3億年かけて辿り着いた、被食者と捕食者が共にいられる楽園、そう簡単に潰されてたまるか」  「私の活動が停止すれば、今後エアロプランクトンが作製されることもなくなりますよ」  苦しげでもない、さっきと同じ淡々とした口調でダンの体が言う。  「エアロプランクトンも継代を重ねて、あんたの供給なしに殖えるようになってるんだよ。この世界は変わっていくさ。でもそれは地球と違う、大型動物相の代わりに知的生物が優占し、交雑を重ね、多様化と均質化を入り混じらせる世界としてだ。本来の地球生命が今も変化を続け、この星だって変化の最中にあるのに、時を戻して止めようとした時点で、あんたは詰んでたのさ。わかったらとっとと凍りな、あんたの望んだ永遠の停滞だ」  轟音が響き渡った。床が震える。部屋のライトが点滅して、消える。真っ暗になった部屋が振動を続ける。盛大に転倒した私は、解放され糸が切れたように崩れ落ちたダンと、同じく転げまわるジェイをなんとか抱きしめる。  「私はこいつのやらかした後始末に行ってくるから、またどこかでね」  覚えているのは、そこまでだった。
 台地で起こったことは、巨大な雪崩によってキャンプ地と、内部の空洞が崩壊した、というニュースで片付けられた。私は他の2人と共に病室に缶詰になり、あれこれと話し合った。ダンは荒っぽいが人懐こい性格で、私のことは全く知らないが、幼い頃に父親が連れてきて兄弟のように育ったらしいジェイのことはよく覚えていた。ジェイは遺跡巡りと、ダンがジェイを覚えていないことで気づいていたらしい。  キャンプ地で失踪したスタッフと、近隣の村から失踪した住民が保護されたのは、私たちが洞窟の入り口で倒れていたところを発見された翌日だった。ちょうど反対側の海岸で見つかったらしいが、不思議なことに皆が一様に「吹雪が酷くなったのでビバークした」という記憶しか覚えていなかった。1本だけ、空の注射器が置いてあったそうだ。  ライラの行方は分からない。そもそも、地元の警官隊にはそんなメンバーどころかラエン自体がいなかったのだ。  「これからどうするんですか」  ダンは寝ている。病室の窓から空を見ているジェイが、どうしても気になった。  生きる目的を失ったのではないかと、思ったからだ。  「枷が外れた気分だ、清々しましたよ」  いつもと同じ、だけれど少し晴れやかな声色で彼が返した。  「なに、資料は集まってますから、最後の仕上げだけできなかったってことで」  彼らしくない、楽観的な言葉だった。彼も、吹っ切れたのかもしれない。  「あの場にいた誰もが、あの場所に関係している者だった、あなたを除いて」  「そうですね、傍観者として、大事たと思われたのかもしれません」  「チャーリーが言ってましたね、星間文明がどうとか」  「言ってましたね、多種族からなる星間文明とか、地球由来の遺伝情報で人類の伴侶を作り出すとか、あれ」  「そんなこと、言ってましたっけ」  記憶と知識の食い違いに、戸惑う。すらすらと出てきた言葉は、私の理解を大幅に超えていたはずだった。  「磁気映像で撮影した、あなたの脳のカルテを見せてもらいました。先天的な改変の痕跡が見つかったようです」  「私には、そんな自覚は」  「無いんでしょうね。誰かが、どこか遠くからあなたの脳を介して、この星を見ている」  私と同じですね、と彼は言った。彼が言っている間に、まるで目の奥の濁りが取れるみたいに、目の前は鮮やかになっていった。  目の前に広がるのは、白い空。  でもその向こうに広がるのは、プランクトンに覆われた碧色の空。  脳裏に浮かぶのは、あの時見た青い空。  「モッティさん」  白い空をバックに、白い毛並みの彼が振り向く。その顔には、見たことのない表情が浮かんでいる。  「この世界って、綺麗ですね
#SF
5 notes · View notes
littlesallywalker · 2 years
Text
Tumblr media
日記。
800枚ちょうど。到達したので日記を書いてみます。
午前様のいうこと、ハハと読み流してください。
どのくらい経ったろうか。数えればわかるけどさ。
数えきれないものたちが渦巻いて人と人がいた。
ほとんどは流動して、すれ違っていったけど、
また会いたいと思う人が今になって浮かんだ。
喧嘩別れでももつれっぱなしでもない友だち。
タクシーで家から駅は幾らかと訊いてみた。
”1600円です”というので「たけぇな」とつい出た。
「たけぇとはなんだ」という顔をする間に、
「たかすぎだろ」と念を押して背中をむけた。
ささる視線はのりこえられなかった冷たい言葉に相当。
ぼくたちは真夜中から来たエンジェルダストなんだぜ、
得体のしれないひとつひとつの音の粒子をみていた.
けど今はひと塊にした面だけを見るようだ。
大人になるってことは過去を責められるが、
それぞれ必死にはちがいないので黙殺する。
はやく老害になって取っ組み合いをしよう。
ジョニーディーというバンドが好きだった。
その姿勢にめろめろだったがとっくに解散していた。
一枚のアルバム、二枚のシングルを聴いてた。
自慢に聞こえたら申し訳ない、自慢なんだが、
わたしはギターがいくらか弾けるのだ。
写真みたい、理屈はよく知らないけど手に合ってる。
シンセも弾いていたけどそれがいまいちだったことで、
たぶんギターは性に合ってるんだろうとわかった。
間に何人かのひとがいた、どうしてか今もみな友だちだ。
写真と映像との間柄/距離と似たようなもの。
今朝...といっても1:30に起きてしばらくして、
唯一ケースにいれているギターをだして久々に弾いた。
人が死ぬと萎える、仲間というか親友が死ぬと弱くなる。
歩みそのものがすべてなかったことのようになるのだが、
今となるとそのすべてを忘れてきた。若者のすべて。
横髪を耳にかけてこたつから出て佇んでただ弾く。
めっぽう下手になっていた、大風呂敷をまずはたたんだ。
ネットにあるおれや彼らの最後の記録はタトゥーではなく、
霧のようなもので、かすかなまでに夫々の蝋となり灯った。
「消えないですか?」と訊かれた青さもあったけど、
消えてそして去った。がでも残ってもいる雪柳の木がある。
好きな花の思い出はただれた胸の一片をとかしてくれる。
とぐろを巻いた明け方の乱反射はすべて川で霧に変わる。
ものわかりのわるかった君やぼくもいなくなる時間が来る。
仕組みを考えたら岩が落ちてくるような鈍い痛みがあるだろう。
何も考えないでいることで何が起こるかわからない天使と話す。
さきが見えるって致命的だぜ。岩がついて回ることだからね。
おれはここから駅まで1600円はたけぇと思う。
誰にも似てない馬となりもうここは夜明けとなった。
なんで別れたんすかね、は禁句にしないとまた長い朝になる。
”ぼくたちは風のように いつだって星が降るように"
朝食をぬいてタクシーに乗った。
4 notes · View notes
sasuray · 2 years
Text
Tumblr media
雪山を歩く。後ろで漣の音がする。東映の荒波の映像が脳内再生される。そんなことをぼんやりと考えている。雪山は降ってだいぶ日が経つのかもう氷の塊になっている。昔の実家の冷凍庫の霜を思い出す。よくプラスチックのスコップで霜を狩っていた。とれた霜は流しに置いて「どこからどうしてこんな塊ができたんだろう」と息を荒くして細々と言ったら栗の鬼皮を剥く一緒に住む祖母が「結露だよ」とつぶやいたことがあった。雪山の前で昔のことを思い出しながら突っ立ってる。そんな私は長野に旅行に来た。ふらっと出てったからもしかしたら、旅。北海道にしようか悩んだんだけど昔、家族と友達家族と行った時野沢菜がとても安くてびっくりしたから長野にした。うちの方と違ってやっぱり雪が降ってる。帰ったら雪見れないのかとじっとしているところ。
2 notes · View notes
kurano · 24 hours
Text
※ 「介護職」2040年に「57万人」不足の深刻、現場で起きている悲痛な実態
https://news.yahoo.co.jp/articles/1142cb5cb0bf4af33b629cd93e6483d927205dad
 介護ロボットは間に合わず、人手は減り続ける所に、団塊世代がどっと雪崩れ込む。仮にその頃、私がボケ始めたら、もう入れるホームなんてどこにもない。
1 note · View note
takahashicleaning · 3 days
Text
TEDにて
アリエル・ウォルドマン:南極の微生物たちの多彩な世界
(詳しくご覧になりたい場合は上記リンクからどうぞ)
この微生物の世界のツアーでは、探検家でアーティストのアリエル・ウォルドマンが南極の広大な氷床の下にいる魅力的な生き物たちをご紹介します。
抱きしめたくなるようなクマムシもいれば、ガラスでできた幾何学的な藻類もいて、この一見不毛な大地は、見方さえわかれば極地にある生命のオアシスであることをウォルドマンが示します。
これが何か分かりますか?
ガラスでできた生き物のいる場所が、あると言ったらどう思いますか?
私たちの目には見えないけど宇宙飛行士たちはいつも目にしている生物がいると言ったら?
目に見えないガラスの生き物というのは、彼方の惑星に棲む異星生物ではありません。珪藻のことです。
光合成をする単細胞の藻類で地球規模で酸素を生成して雲の形成を促し、その精妙な幾何学的造形の外殻は、ガラスでできています。
海面に渦巻く色として宇宙から見ることができます。死ぬと、そのガラスの体は、海の底に沈み取り除いた大気中の炭素を墓へと道連れにして海洋における炭素隔離に大きく貢献しています。
私たちは、知らないだけです。実は、SFみたいな惑星に住んでいるのです。
地球上には研究すべき奇妙な生き物がたくさんおり、その多くが、世界の辺境にいて私たちの目が届かず、理解も及びません。そういう辺境のひとつが、南極です。
南極というと不毛な生命のない場所でペンギンくらいしかいないと思われがちですが、南極は極地にある生命のオアシスであり、まったく素晴らしい無数の生き物に満ちているんです。
では、なぜ野生生物ドキュメンタリーでそういう生き物を目にしないのでしょう?
雪や氷の下に隠れていて、私たちには見えないからです。微生物なんです。
氷河の中に埋もれ、海氷の下に潜み氷河下の湖を遊泳するちっちゃな動物や植物たちです。自然物の番組でよく見る大型動物にも劣らず、魅力的な生き物です。
でも、どうしたら見えもしないものを探しに行こうと思わせられるでしょう?
最近、私は南極への5週間の調査遠征を率いて微生物サイズの野生生物映画を製作しました。84キロの機材を抱えて軍用機に乗り込み、顕微鏡を現地に持ち込んで、そういう小さな極限環境微生物を調査し映像にしようというわけです。
この地球上にありながら、よく理解されていない生態系のことをもっと知ることができるように。
そういう目に見えない生き物の生きる姿を捉えるため、その棲み家である氷の下へと赴く必要がありました。毎年、海氷で南極の大きさは、倍近くになります。
3メートルの氷の下を覗き見るため海氷に通した長い金属のトンネルを下り、生命に溢れた隠れた生態系を目撃しました。
海の底と光る氷の天井の間に宙吊りになりながら外から見るとこんな感じです。まったく魔法のような世界です。そこで見つけた生き物には、貝虫のような可愛らしものや美しく幾何学的な珪藻がいました。
そこからさらに進んでドライバレーで2週間、野営しました。南極の98%は、氷に覆われていますが、ドライバレーは、氷の下の大陸がどのようかを実際に見られる最も開けた場所です。
「血の滝」で細菌を採取しました。氷河下の湖が、酸化鉄を噴き出していてほんの十年前までまったく生命がないと考えられていた場所です。
氷河を登って穴を掘りに行きました、氷の層に埋もれながら生命を謳歌している無数の強靭な生き物たちを見るために。これはクリオコナイト・ホールです。
暗色の塵が、氷河の上に吹き寄せられ氷を溶かして穴を作り、それがまた氷で覆われたもので氷河の中に何百という塵の塊が保持されていて、そのそれぞれが固有の生態系を持つ島宇宙のようになっています。
そこで見つけた生き物には、みなさんもご存じだろう愛らしい緩歩動物がいて私も大好きですが、爪のあるちっちゃなグミの熊みたいです。
クマムシの名でも知られ、宇宙の真空を含む極端な条件でも生存できるすごい生命力で有名です。でも、クマムシを見るために宇宙や南極まで行く必要はありません。
道端や公園をはじめ地球上至るところのコケの中に棲んでいます。皆さんは毎日、そういう目に見えない沢山の動物たちのそばを通り過ぎているんです。
見慣れているようでいて少し奇妙なのが、線形動物です。ヘビでもミミズでもなく独自の生き物です。
ミミズのように再生したりヘビのように這うことはできませんが、短剣のような小さな針が、口の中にあってそれを獲物に銛のように突き刺して中身を吸い出します。
地球上には人間1人当たり570億匹の線虫がいます。
あまり知られていないけど同じように素敵な生き物もいます。ルンバみたいな口になるすごい冠を持った輪形動物、消化器官が透けてほとんどおはじきみたいな繊毛虫、パーティ用の紙吹雪をペトリ皿にぶちまけたような藍藻。
私たちがメディアでよく見かける微生物の姿は、恐ろしい化け物みたいな電子顕微鏡写真ですが、生きて動いているところを見なければ、たとえ身の回りの至るところにいてもその生活は分からないままです。
どんな生き方をしているのか?
周りの環境と、どう関わっているのか?
ペンギンを動物園の写真で見たことはあってもよちよち歩いたり、氷の上を滑ったりする姿を見たことがなければ、ペンギンをちゃんと理解することはできないでしょう。
生きて動いている微生物を見ることで目に見えない生き物たちについて、より良い理解が得られます。
南極や裏庭の見えない生き物を記録しなければ、私たちがどれほど多くの生き物たちとこの世界を分かち合っているのか分からず、奇妙で気まぐれな故郷の惑星の全体像はつかめないのです。
ありがとうございました。
<提供>
東京都北区神谷の高橋クリーニングプレゼント
独自サービス展開中!服の高橋クリーニング店は職人による手仕上げ。お手頃50ですよ。往復送料、曲Song購入可。詳細は、今すぐ電話。東京都内限定。北部、東部、渋谷区周囲。地元周辺区もOKです
東京都北区神谷の高橋クリーニング店Facebook版
0 notes
kotobatoki-arai · 30 days
Text
ひどくもろくみえづらくさわれないもの
 たとえば  /むきだしの内臓  /メモワールの墓標  それなりの垂移にSpinを捧げる   この『たまらなく はがゆいうた』  あなた自身を映し出すわたしの瞳が存在を憶えているから、それ以上も、逸らすことも不能だった。ひらかれた例題にも、観測できず くそったれな月光の結合を視するうちに、(自嘲を溢している。)念入りな退屈の宙吊りを見物しながら……驚きのあまりに際して、睡ネブるのみ/では、影絵の受け答えはつづきもの、あの子はまだ遠くを眺めながらおはなししているらしかった。  あの摩耗したグリーンハウスの、ぬるめ触れ書きは無学の昔を留置している波が、羽根が、梢が躊躇うばかりの類例を喚ぶのだとおもった。死後に伴う永い切符を、いま、わらう主人を――芽生えだしたものは、また唄い肇めるまでわずかの差異を。   憐れな___を。跨ぐばかりで  振り子時計の針も戻った気がして。あんな虚ろな風貌を見せかける弱さを寂しさとして。ざらざらと遮るもの/ふわふわと授かること。隠蔽色に赤らめて(やまない)幸せを抱いたげて/こう平然とした古書だけが残る。斜向かいの馴染の靄に後ろが荒ぶるといえる駄物である。  見世物に記するグロテスクな溝にある関係をこうしてあらわにさせるが、今更 ないような感覚 思い浮かべたメロディを等分した インチキは贈呈品の一泡にすぎない。すべて空々しい鋳露に 色彩ができるなら。  やわらかな殖えは貧しさと撒く、入江に張り詰める、自我と対象と比べられない。水平線が熔けゆく有り様を来訪者と、見紛う 経帷子の花のきみわるさをチラつかせる、〝夕暮れ・朝焼け〟などに/余すところなく震えている。   海龜の泪をみた気がする  これは無自覚な両腕が掬う古びた箱。じかに封にするには。おそらくは乱暴ないい方では底の浅い人間 丁寧なわらい肩で。口元だけ温むけれども。掻爬したものの、きれぎれのいっぺんは荒野を泡立て無垢ないしのかけらを求め、喉に絡まる観賞魚を養いながら。垂れ込める鱗翅類の大池、むさぼり眺める、むしのいどころ/止め処無く、憐れむのですが。  なんていっても 帆を上げれない・なんて。おもえば・座敷に経る波紋に抜かれる。(もう掴めない風通しの両足、枝々と祀られる卑しい蛇を消せない、恋人が溺れている)〝有り触れて〟ゆずらない ほんとうのことは。手のひらで著アラワすけれども。迂曲するばかりに蔑んだ価値判断を、確かに。胸苦しい山頂には残照が灰で煤で、泥を吐く冬戯フユザれに、ある寂寥の旋律はふと咲ワラう。   意識朦朧の閃光でしょうか  あまり立見席はまだを識らないが。切ないおもいででも、途して締まって。塊の体系をまた肩紐の堅物の片方の形見だけ傾きつつある。白栲シロタエの余情だなとやはり責め立てるこのザマだ。引きだしの天井にのしかかり、わななく粒子と気体は こきあげるように巡り、両の眼だけ傍で在り続けるなら、しまいを頂戴。とあちこち空々しいばかりの雨 ぽつぽつと染み込んだあの、   よこしまな序文について (いままでを畏れ、従いましょう)  忘れ果て 無感覚になる 浮薄時半  徒労もないくせに、物静かに褪色する体言・壇 少焉は、薔薇色だった亡骸を。  描写するおろそかな滑車に軋み、うつ伏せの息吹の音一本ずつ。目眩に窃ヌスまれる砂を房で、咲かせたら? 餞ハナムケに由来するたなざらしの、ありきたりの見解や、次第に薄れゆく生形キナリ海図に応じて。複雑で干潮で頼りない朽葉が仰山、渇いた枝に絡まる名残/なんぼかの膨らみ。慢性的な土壌が折れ半角の目合い、相場より。あとが/ものが。どちらかを――刺し抜いた薄紫の風が気だるさに削られたほど小刻みに押しつぶされて。いきをのむ島へ、  けれど燦燦と域の音を絆ホダし残響を鳴らした鴉は? あたりいちめんそれきり。しどろもどろの――むこうは知っていたのでしょうね。こう揃えられた腹と腿と、つばさとハンカチと、言いなりの耳朶。まぁ小さな蜘蛛でしたわ。たったひとつだけ展望台で、しげく。 (いくつかの私物の糸があった。)  近く遺作の計画は前髪が濡れている  あらやだ。/「襟が汚れているな。」  ……末尾の賑やかなこと (さきもみえない/私は/あとがない)  たまゆらに咲きかけた水面下に、  『いまにして大地に、作り笑い 慎ましく 寂しかったよ』   ――おそらく輪郭は僅かにヌメる累の血を    磨りガラスの表紙に    やぶれかぶれと当たり散らしました  平行線の綱渡りと、たまらなく かゆいうた  それはきっと浜昼顔のように易しく有りましょう 私は 息苦しい みぎてのゆびきり。  すまなそうに被る月はそっとおぼろげ、意固地な人形の 星を鏤め埋め戻した、遊戯の最中でなきやんで。手渡されたこのごろも晴れて あえかに寄せた情景を鮮やかに遷した、完璧な欠乏がこうして呼吸を投げ出すとき。――それほどの多岐に亘り。  気が遠くなるほど 波をひきしだいて、いきものの美星は狭間で、無作為リズムひとつ。切手を貼らずに〝ふむ、潰す、つまむ、捻る〟黙想の腕、中だるみに痺れた約束とこれはもう雪の華だろうかねぇ。  不条理はその見栄を戸に預け、ひょろひょろと櫂をしずくを、崩れ落ちた小言を並べていった。一度にあたえる心臓のあたりが軽薄な童謡を焦らないように 譜を生きて往く尽きか展翅だった。たからかな理念か痩果・容姿類似がおおく夙に奔放とも閉口して。天明アシタにいいなおせるから、  そうだろ。感傷的なオラシオンならまだ追い縋る、暗外。完結済の。出入り口だというのに理コトワるまでもなく、手順を通りすがりの流行りにのせ。脈の目撃者の凹みを緩衝するこの完全な密室では、またずいぶん人馴れしていて暮色の濃淡とほおずりする、宴席がある。  どの少女も寝言なんて華やかな悪知恵だって  とんと音は溶けて、瞬間の真ん中に転がりこむ 『詞先シセンの助手は台本と斎サイを留めた罪人の献花をはじめる』   碑が透る思惑は鉛の頭が引き起こします。  またあなたは郵便受けから、かすかに若草の展望にひらかれた。浮世、ほのかにあふれる丘の靴音だけを期待し、踏み惑う木の葉と散り歩くこと。いくつもの汀線を/視線を気にして/眼尻を決して。闇に湾曲した傷だからこそ、空々しい獣を抱きかかえてみせるのに。この手を離れた影を再び見つけ全身に戯れてた香りはなんというか、伝わるのだろうが。――切り開いた気配として未来を天に還し、そして過去としてひかりを探りあて海に翔けることができます。  詩篇が胚を箸に変えることは指を汚すけれど、慌ただしく泥濘むだけで。延延とむずがる諦めだろ、と罵る鼓翼。事実より塵架かる。蛍火が細濁ササニゴり、惨い/ともしび。と夜を混めて流れ落ちた襞の暁は、「果たして衝動的な気分なのか。」 2024/06/15
0 notes
Text
Tumblr media Tumblr media Tumblr media Tumblr media
食べるのが大好きなブログ主にとって、天麩羅うどん様🥢という御馳走はあらゆる金銀財宝の塊に完勝する究極の山である。これと対になるペペロンチーノパスタ🍴😋
「純粋硬派柱ULtiMaTePureEgrosburst04 虚構締化 B(バグ)の家族達」が育てるレシラム⤵️
Tumblr media Tumblr media Tumblr media Tumblr media Tumblr media
相手は特殊攻撃のみで攻めてくる(威張りをメリットOnlyの決定打点とするべくそこから連発して勝利へ繋げる またこれを持ったサメハダーはスケイルショットもやり放題だと考える 凍てつく波動をやられた後も先手で攻撃する意識で行こう)。ダイアースで対策しやすいありがたみが強い 弱点が少ないように思うかもしれないが…相性の良いのは今回とことん有利な為、とことん攻めのバフで料理してやろう 一撃で沈むかもしれないウソッキーの地団駄が外した直後に輝くしガントルもまた同じ 全体攻撃をしてこないあまりにもなラッキーボス✌️ 厳選しなきゃ勿体ないぜ 雨パ〜ティを引き連れ水を降らそうが顔を見て存在感を見せ付ける砂嵐を呼び起こすも自由。徹底的にスクラッチ🎯 長期戦覚悟なのに雄叫びが弱い点は、相手がジリ貧をしてくれるからという意味(但し唯一のアタッカーが食らうならば注意で、マイナス状態のみリセットさせてもらえない)でいざという時が訪れるまで遠吠え返しのルガルガン(昼の姿)なら無駄なく積める しかし支援の代表ポジションに立つのはサイドンに2パンで仕留めさせるマホイップ レシラムは運ゲーに成りにくい戦闘を強いられてる感覚が凄い、積み重ねて来た残機が響くのだがマンタインが神々しい光を発するのはジガルデ依頼いつぶりだろうかとステータスを見て浮かれたのはぬか喜びだったと発覚 実は水タイプが一番頭にくるハズレ性能が多い。が、強いのは強い(しかし単タイプはおそらく二軍三軍が中心。地面&岩が混ざってるのが理想だが、ガマゲロゲは技が酷い戦力外だと切り捨てるのも状況次第では仕方ないと頭に留めておきながら補助技で立ててあげる) 敵の中でも要注意なのがコータス、安牌だと思って掛かると中々のダメージと共に全員嫉妬の炎で火傷を負わされて物理アタッカーを越えて結果をほぼ台無しにされる(嵌ると青いほのおの上位互換。連れて行くありがたみは薄くレンタルセレクトの段階から敵にも味方にも来て欲しくない) 他のルートに苦手な個体が居てもそっちを優先して戦うコト(このケースでも運良く勝てた、みんなも学べ。最後まで諦めるなよ🫡) トロッゴンの素晴らしさだけは真剣に刮目して満身創痍で奇跡が起こるかもしれないなんてエアプみたいな事は言わない。ターボフレイズは頑丈な天敵に勝ちうる最後の甘くない要素でありこれが立ちはだかる壁の中で最も厄介。実質的にはかたやぶりと何も変わらない特性がこの限られた世界で何を意味しているのか NPCに引かせる防衛に置いて最高のキャラはここでもトゲチックであります
しらたまちゃん🐽様とは異なる愛玩神豚御🍑尻クリンちゃん様も可愛いんだよ〜〜‼️‼️❣️❗️ズームアップの怒迫力破壊御褒美チョキチョキ毛繕いもありがとうデゴザイマス💢マイクロ豚様の幸せが大好きです((💜(🙏o(*゚▽゚*)o)💢💙))🎉
Tumblr media
合計[[67周目]]で色違い🧡
累計[[22回全滅]]←全部不運と無能なCPUのせいでーす👎🙃🦶
1 note · View note
youkaidaimaou · 2 months
Text
療養日記・心臓(その1) / Recuperation Diary: Heart(part 1)
『 自律神経 / Autonomic Nervous System 』
2023年5月、原因不明で殆ど動けなくなり、急遽、入院した病院で告げられた病名が「心房細動」による「心不全」だった。心臓の動き・心拍をコントロールしている制御系(自律神経)の影響で、心拍数が大きく上昇する症状を指す症状だと後で知った。ただし、短時間、大きく心拍数が上昇する事は決して異常ではなく、誰でも一日の間に何度か訪れている自然な「不整脈」とか「動悸」とも呼ばれる症状だ。しかし、それが長く続いて身体的に様々な病状を引き起こす原因になるのが「心房細動」だ。
Tumblr media
In May 2023, I was told at the hospital where I was admitted that I had “heart failure” due to “atrial fibrillation. I later learned that it was a symptom of a large increase in the heart rate due to the control system (autonomic nervous system) that controls the heartbeat and heart movement. However, a large increase in heart rate for a short period of time is not abnormal, and is a natural symptom called “arrhythmia” or “palpitations,” which everyone experiences several times during the course of a day. However, it is “atrial fibrillation” that lasts for a long time and causes various physical medical conditions. 『 心房細動 / Atrial Fibrillation 』
心臓は筋肉によって動いているポンプだ。しかも 4つのポンプが一体になっている。そして、制御系(自律神経)の電気信号で 4つのポンプは同時に拍動する仕組みになっているが、時々、その制御がシンクロせず、心房(心臓の上部にある部屋・ポンプ)が暴走し続けるのが「心房細動」だと理解している。 実際、急遽入院して様々な検査の後、心拍数を抑える薬など 3種類の点滴投薬を 24時間体制で行なったにも関わらず、担当医は「脈がずっと 150を超えたままなのですよ」と言った。 が、僕の方は、入院して処置を受けた事で安心したのか、或いは、日頃から「心房細動」の不快感に慣れてしまっていたのか、気分は快調、すぐにでも退院したい気分も少しあった。しかし、担当医は「3週間の入院が必要です」と言った。
Tumblr media
The heart is a pump that is powered by muscles. Moreover, it is made up of four pumps that are integrated together. The four pumps are designed to beat simultaneously by electrical signals from the control system (autonomic nerves), but sometimes the control does not synchronize and the atria (the chambers/pumps at the top of the heart) continue to run out of control, which is what I understand to be "atrial fibrillation." 『 浮腫と血栓 / Edema and Blood Clots 』
よく誤解を受けるが、「心拍数が上昇すると血の巡りも速い」とか「血圧も上がるでしょう」と言う人が居る。しかし、実際は全く逆だ。4つのポンプが一緒に動いて初めて 心臓は 1ストロークの働きをする。しかし、エンジンに例えると、吸排気バルブが 異常なタイミングで開閉すれば、まともにエンジンは動かないのと一緒で、4つのポンプの動きがシンクロしなければ、全身への血流が悪くなる。身体中に老廃物が溜まり、ムダ打ちしている心房の中では、血の塊 “血栓” が育つ事になる。 実際、レントゲン写真を見れば、肺の下部にはしっかりと水が溜まっていて、両脚には老廃物(水分)が溜まって、脚がGパンに通らない程に太く膨れ上がった「浮腫」になっていた。その上、心臓エコー映像を見れば、心房の中一杯の大きさに育った、大きな雪の結晶の様な形をした「血栓」があって、心拍に合わせて時計の歯車の様に小刻みに動いていた。これでは退院できないのも当然だった。
Tumblr media
The heart only works one stroke when all four pumps work together. However, if the movement of each pump is not synchronized, blood flow will be poor. Waste products accumulate throughout the body, and blood clots (blood clots) will grow in the atria that are beating uselessly. In fact, an X-ray showed that water had accumulated in the lower part of the lungs, and waste products (water) had accumulated in both legs, causing edema that was so thick that the legs could not fit through jeans. Furthermore, an echocardiogram showed a large snowflake-shaped blood clot that had grown to fill the atrium, and was moving in small increments like a clock's gears in time with the heartbeat. It was no wonder that he could not be discharged from the hospital.
1 note · View note
wan-wan-wanko · 2 months
Text
「シベリアン・ハスキー:その美しさと驚異の性格を徹底解剖!」
皆さん、🎉今日はシベリアン・ハスキーについて語りましょう。この美しい雪の王者たちを家庭でゴージャスなペットに仕上げるための方法を紐解いていきます。この記事は、笑いを交えつつ、上手にハスキーをしつけるコツをお届けしますよ!🐶✨ ### ハスキーとは?🐺❄️ シベリアン・ハスキーは、その青い目と美しいコートで知られています。そして、彼らの独立心とエネルギッシュな性格は、まるで「わんこ版の冒険家」と言えます。もし「ハスキーをしつけるって、どんな感じ?」と聞かれたら、私はシンプルにこう答えます。「ジェットコースターでサーカスをする感じ!」😂🎢 ### 第一章:エネルギーを発散させよう!🏃‍♂️🐕 ハスキーは燃え盛るエネルギーの塊です。もしそのエネルギーを適切に発散させないと、あなたの家のソファが無惨な姿に…🛋️💥…
0 notes