aoalors
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fruitcake, 1992
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aoalors · 24 days ago
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窓を開けるのを忘れたまま眠って、気温の下がらない五月の夜にやたらと汗だくで目が醒める、網戸もせずにやっと窓を開けて、吹き込んでくる風の心地よさ、透明さ、柔らかさ。信号機の緩いループ、幹線道路の乾いたノイズ、目的を知らない灯りの明滅、春の空の無音。何も起こらぬ窓辺は美しい。毎日の整然とした蛍光灯の星で起こる物事について、実質的に無重力の今は何も考えなくていい。誰も邪魔をしないし、わたしもわたしの邪魔をしない。時間すら流れなければいいのにな、と思う。わたしが時計なら今ごろそっと止まっている。何もしなくていいことがこんなにも安らぎとして感じられるだなんて、十年前なら信じられなかった気がする。つまりこの心も十年後にはあらかた嘘になる可能性を秘めている。ある音楽家は今ある悩みなんて来年の今ごろにはきっと忘れていると言う。これらの提示してくれる清々しさに何度救われたかわからない。でも今が常に真実であって、今日に必死でいるから明日には嘘になれるとも思う。明日嘘になれるように今日を散歩でもしましょう、でも今日五月三十日はもう軋むほど充分に歯車を回したから、ずいぶん久々に、慣れきった星が山羊色の線路沿いを抜けて海の見える方に走り去っていくのを見ている。今は眠りも祝福の花も要らない、ただ夜風の香りの移ろいに意識を向けていられるのが、ひそやかに嬉しい。
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aoalors · 4 months ago
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あなたは初雪の眩しさに目を細めていた、砂漠を覆う数秒の手前でわたしたちは何処へも行かない、するり、するりとほどけていく連結点、白い帆は夜風に乗って街を離れていく。もう完成しなくていい、安定も不安定も必要ない、小さな魚たちの群れがあなたの黒い髪に焦がれて星を泳ぐ光景、何年経っても色あせない思いでの装幀、青くきらめく波が永遠のように続いていく。目が醒めれば明日が来るのだろうか、誰も彼もそれらしい風情で宇宙を演技している、あなただけが秒針をポケットに仕舞いこんでいる。あれほど目の前だった時代の果て、本当はもう大丈夫だよ、ひとつひとつこぼれてしまっても、眩しい生活の中に何も見えなくとも、あなたの中で世界が進んでいく。そこに夜明けを思う、するり、するりとほどけていく連結点、大好きだったキンギョソウ、青くきらめく波が永遠のように続いていく。それらすべて、もう完成して消えてしまったのなら、ではどうやって消せばいいのだろう?
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aoalors · 5 months ago
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静かな真昼に飽いているとそこに花が咲いていて、わたしは日曜日を思いだしている、春が来たら、一時間だけでも会えますようにと、立ち尽くす空はいつもジュラルミンばかり、それが信号待ちに焦げ付いたまま眩しい。今を知らず微笑むあなたが懐かしい、その手をとって歩く舗道のすべてはまだ崩れていなかった、ドウダンツツジの花が声なく演説している、誰もがいずれ長い手紙を書くのだと、そんなのは全然信じてなどいなかった。寝不足のまま夢にも見ぬほど思い浮���べたのに、鉛は溶け出して季節に香る、コンビニのレジに続く長い列に今日並んだら、偶然ひとつ前の後ろ姿が時間を失っていた、あれはきっと間違いではなかった。でもそれはもうなにでもない、思いではひとつに完成して、光を閉じこめてあるから、続きはもう続かない。街は破壊されていく、舗道が崩れて、あなたのもとへ行けなくなる。なお生きていくその傍らに花が咲いていて、楽しかった日曜日を、煉瓦造りの春風を、傘をさした雨のモザイクと、うつくしい時代の、今を知らず微笑むあなたの消えぬ翳模様。
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aoalors · 8 months ago
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十八階の窓から何にも染まらぬ街を見下ろした朝、あなたがどんな話をしてくれたのかもう思いだせなくなってしまった。透明でいられたこと、何かがずっとこわかったこと、でもみんな身体をすり抜けていくようだったこと、ひとりきりさみしく過ごしていたその時間を、あなたはひとつひとつ拾いあげて赦してくれた。秋の夜のふくらんだ匂い、あかあかと燃える海辺の火を眺めて、あなたのことを思う時、今年もまた一年分とおく離れてしまった、と思うのにもかかわらず、すこしずつ大人になるわたしが、初めからずっと大人だったあなたの面影に近づいていくのを感じる。今になって手を堅く繋いでも、青空のキッチンはあまりにも高いだろう。風にゆるく揺られる花の前で手をあわせても、そのそばを鈍行列車が過ぎていくだろう。この暗がりの火を消して、街のコンセントを引き抜いて、あなたのことだけを見ていたい。やっと長い一日が終わって、やさしい音色が流れて、ふいにあなたのことを思いだしているこの涙を、あなたの袖にうずめたい。今でもみんな身体をすり抜けていくようだ、どれだけ大人になれてもひとりきりなのだから。今でもこわいものばかりだ、こわくないものだけに囲まれていても生きてはいけないと知っているから。まあいいか、と口に出す、疲れているだけだな、と考える。それから眠りにつく時、どんな夢を願っている?毎日がんばって、まだ知らぬどこかへ進もうとしている、それと同時に、どこにも行かないさみしさが、いつまでもずっと、あたり前のように心に灯っている。今でもまだ、青空のキッチンはあまりにも高いだろう、街のすきまから思いでが吹き込んで、ぜんぶ透明なまま、ひとつひとつ指のあいだからこぼれて、最後にあなたのたったひと言、必ず帰ってくるね、と。
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aoalors · 1 year ago
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帰り道は、毎日のように「もっと優しくあれたら良かったのにな」と考える。そう思えているだけ優しいよ、と評するひとたちにはきっとわからないだろうさ、とか撥ねのけてばかりで駄目だな、路傍の石とか見向きもされない青空だとか、そんな刻一刻と古びていく偶然の微笑みだけが今日も夢のようだ。わたしは何処にもいないふりで、誰かの中に生きたいな。
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aoalors · 1 year ago
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哀しい夢を見た小鳥になって大泣きする――という夢を見た。イタリアの何処か遠い山の中腹、引越してきたばかりの西向きのアパルトマン、薄暗い書斎の南側の壁に直径一メートルほどの石穴が空いていて、それは一年中雪化粧をして眩しい太陽を浴びる山肌そのものに繋がっている。そこから出て、すぐ下にあしらわれた乳白色の柵に腰かける時だけ、何もかもがひどく霞んでいて、夢の初めの方ではまだその斜めの景色が何なのか判然としない。登山をする家族連れがぼんやりと見える、わたしは失った大切な誰かの事を考えて、それから石穴をよじ登って部屋に戻る。いつの間にか部屋にはふさふさの大きな鳥がいて、でもそれは慣れた出来事らしくて、まんまるの目でわたしを認めると、アコーディオンのように過去を優しく手繰る歌声で聴いたことのない旋律を歌ってくれる。その天にも登るような素朴さ、テープが擦り減っていく音そのもののような静けさ、わたしはわんわん泣いて、言葉にもならないことを言いながらふさふさの大きな鳥を抱きしめる。柔らかくて、真っ白で、ただそこにある。たったそれだけでいいのに。たったそれだけで、これ以上差し出すものなどない空っぽなわたしでも、この霞んだ世界を好きになれるのに――そして夢から醒める、わたしは哀しい夢を見た寝起きの小鳥になっていて、どんな夢を見ていたのかはっきりと憶えている。でもあの旋律だけがどうしても脳裏に戻ってこない、羽繕いをしてひとしきり鳴いても聴こえるのは心の震える音だけだ。でもこれから先もすいすいと飛びまわって生きているうちに、美しい旋律はおろか、その夢を見ていたことも忘れてしまうだろう。失わずに���られるのは��だけだ、わたしはか細い声で何度も鳴いて、海の向こうの愛するひとの帰りを待つことにする。開け放たれた七月の窓から、きっとあなたの形もとりうる小さな空が見える。
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aoalors · 1 year ago
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満ち足りた空気の橋の上をふたりでそっと、なんでもない春の陽ざしのぴったり真ん中を探す足どり緩く、みんな何処かに行ってしまった?なぜわたしはいつもつまらぬ顔するのだろう、何度こころから笑っても作り笑顔ばかり得意だ、まぶたの裏庭で雨が止まなくなって、利己的なこの目で世界からふと離れていくこの一瞬にも、あなたといた宇宙をいつまでも眺めていたかった。規則的に揺らぐ酸素が綺麗だったな、星びかりしか知らない花のようだった、触れるほどすぐそばで呼吸していたのに、それらすべて洗い流されて四畳半に突き刺さる真昼の風景。これから暑い季節が来て、ふたりはよく冷えた世界の果てでも飲んで、窓の向う遠く霞んでいく、反転する空と地面、崩れて渡れなくなった橋と飛燕、何処かに今もあなたがいるのだと高く高く飛んで、それも春の陽ざしの真ん中へと満ち足りて消えていく。
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aoalors · 1 year ago
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それは紛れもなく、細くて長い指さきで完成に近づいていく、暖かな洋燈と物静かなフォーク、わたしを突き刺してしまわぬばかりに微笑む四月よ、ここから連れ去っておくれ、そしてもう何処にも行けないほど生活に舌鼓を打ちたい、空から地面までくるりとひっくり返してあなたと噴水のどしゃ降りに遭いたい。おやすみなさい、それは本当に眠るの?明日あなたにちゃん��会えるまではこれらみんな夢だなと思う、幸福をいちばんの現実と感じたって何もわるくないと知っているから、臆病なあなたがたったひとつ信じてくれるまで何枚でも街路の氷を踏む、そしてそのたび春になっていく錯覚にとらわれる。錯覚/空耳/蜃気楼/美しき連想、でもあなたといられる揺らぎだけが何より揺るがなくて好きだ、どれもこれも美味しそうで永遠にさまよい果てるメニューとのにらめっこ、春になったらよく晴れた日にそんな剣呑でもってあなたと散歩をする、風にそよいで花になれるくらい眼前のフォークを饗して微かに血がにじむ、それは紛れもなく、あなたが微笑む世界の痛みは紛れもなく、四月の雨の降る音が聞こえはじめる、錯覚、ここから連れ去っておくれ、細くて長い指さきで完成に近づいていく、明日あなたにちゃんと会えるまで、みんな眠っているこの街の外で。
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aoalors · 1 year ago
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誰にも必要とされてなどいないけれど、あなたを思うだけで神さまに許されたような思いあがりをして今日も頑張れている、この住み慣れぬ宇宙は考えても特に何かなるわけではないのに、ほんの少しでもあなたが笑ってくれたらいいなと願って、すべてあなたがくれた波のきらめきなのだと呼吸をやっと落ち着けて、寄せてはかえす青へ面影をそっと重ねて生きている。これから先もずっと、かなしくとも満ち足りすぎていてもずっと、あなただけが光っているだろう、指さきでふれている蜃気楼のまま、砂漠の真ん中で、ただ雨だけがずっと。
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aoalors · 1 year ago
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さよなら、数え切れない花と無機質な体温を思いだす、雪の降りやまぬ朝がまぶしくって、それは二月に何かを夢みては一月が終わるのを待ちわびたあとに寂しくなる末日の始発列車みたいなものだった、くるり、ガトーショコラを挟んで薄むらさきの宇宙と向い合せ、心のほかには何もあと戻りできないでしょ、いつまで細部をあれこれ入れ換えて繰り返すのだろう?幸せで幸せでたまらない、この序奏も息つけぬ平穏がいつまでも続いたらいい、表情を欠いたままの街を走り抜けたら行かないでとあなたは冗談めかして涙するだろう、無機質な体温を抱きしめて朝が来る、すべて憶えていないかのような朝の微笑みだけが宇宙を照らしてわたしは生きていく。新しい季節を祈るのをやめてしまうほど焦がれていて、それはずっと向こうからいつまでも手を振り返している姿を目に焼き付けてしまえたから、反芻しているから、ガトーショコラの最後のひと口を見やりながら啜る苦い珈琲の灰いろ、治りかけていく五感と一輪のハルジオン、心のほかには何もあと戻りできないでしょ、今朝もうわの空でフォークを手にしている、ついさっきまで宇宙を満たしていた口どけを思いだしている。
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aoalors · 1 year ago
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それからあなたが、朝の光のほかには何も届かない澄んだ空気を抜けた先の、宇宙トナカイも霞んでしまうほど穏やかな鈍行列車に揺られて、四月のくすぶる波の果てまでちょうど染め入りそうだったその瞬間に、くるり、うつくしい花であれますようにと、わたしは広すぎる横断舗道でそれを思いだしている、すべて灰色のままでも、路面電車の雑踏に消えていく夢でも、ぼんやりと歩いているだけであなたを百万回見つけては嬉しいそぶりをしている、単に緊張しきっているだけながら透明な足どりで、真正面の10°ほど空を見つめて、信号待ちの宇宙トナカイと時差で離れていく小宇宙、生ぬるい風がそれらすべてを吹き抜けていく。
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aoalors · 2 years ago
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七月二日、生れ変る青い花の日、定点観測の思いでに優しく繋ぎとめられて、楽しかった日曜日を探しに行った。すべて日常は美しいのだと今日から思うようにする、無表情なリヴィング・ルーム、金属片に揺られて夕方の高架線をなぞるシュールレアリスム、夏日の雑踏に懐かしい香りがひろがって、言葉少なに微睡む照明とジン・トニック、呼吸を止める理由より、この灰色の尊さを、安心できる場所へたどり着くまでの延命を。あなたがこの世界のどこかで無事にいてほしい、幾度となく現像して焼き付けた凡庸の上空で、今日という一日だけが特別だったよ、色とりどりと呼ぶにはほど遠い花緑青、ふたりで生き延びようねと雨止まぬヴェランダで言ってくれたから、今日もちゃんとアスファルトに立って空を見ていた。
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aoalors · 2 years ago
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何事もない帰り道の喧騒にまぎれて今はなき夢がひとつ、わたしたちは生まれ変わってちゃんと花になれただろうか、急行列車のアナウンスは生ぬるい風に吹かれて、すべてブルーグレイの綺麗な空の下だった。さよなら、沈黙、二、���秒、原稿用紙にして四枚半の夕暮れ、十まで数えて見つけられなくなったかくれんぼ、薄らいでいく雑踏を歩きながら、一瞬で意識をさらっていく懐かしい香りのこと、ちっとも大切にできなかったのに抱きしめられて離さなかったこと、百回も書き直した手紙の檸檬いろ、新しい季節を過ぎて、何ひとつ定まらぬまま永遠になっていく。わたしたちの声は日常のとてつもない静けさに掻き消されて、どれだけ遠のいても世界でふたりきり、きゅるり、きゅるり、空疎な部屋でそっとぜんまいを巻き直せば、ふたりは港町へ向かう懐かしい列車の中、さざ波の上を走るようなフィルム越しの午前二時、わたしには見えないあなたの心の中で、透けた宇宙の二重瞼で、あなたは何を考えていたのだろう?とても速く進んでいく日常に頭が追いつかないのに、どうしてそればかり未だに思うのだろう?原稿用紙はもはや数えきれぬ真夜中、沈黙はかぎりなく、あなたの帆は水平線の彼方へ消えていった、わたしたちは生まれ変わってちゃんと花になれただろうか、目が醒めても続ける祈り、最後まで渡せなかった手紙の檸檬いろ、無関心であたたかな街の喧騒。さよなら、指切り、二、三秒、すべてブルーグレイの綺麗な空の下だった。
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aoalors · 2 years ago
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凪いでいたい、退屈してしまいたい、あなたの前でだけゼロでなくなりたい、その気になればいとも簡単に手をふれてしまえる宇宙の果てのオートクチュール、一本だけ傘をひらいて眺めた驟雨、いつまでも忘れられぬほどあなたのその裾をぎゅっと引いていたい、あとはすべて、水あそびをする春の海辺を反射して揺れる鈍行列車のように過ぎてしまってもいい。
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aoalors · 2 years ago
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大きな真っ黒の目で、なんでもないようにじっと見つめていたから、ただ同じ世界を、と彼女は涙も出ぬほど隅々まで、それなのにもう何年経ったのだろう、この景色のどのあたりで波が笑っていて、どんなふうに夜は解け落ちていくのだろう、あなたのすべてを奪ったアイスブルーのフィルターは、あとどれくらい深く透明なのだろう。もう一度眠ったら、優しいあなたはまた新しい一日を描いてしまうのにな、街路に立っている彼女は像を結んで、あおい空の下になまぬるい風、山茶花の香りの留め処ないあらわれ、新しい静けさに包まれるのならば、必死で引き止められるのもわるくない気がした、そうして何かを聞きとれる瞬間まで、途切れぬ雪解け水のように、花やいで気怠い日曜日のように、ひとりなら痛まぬ痛みのように、眠れなかった朝焼けのように、幾度となく木蔭を濡らす四月のように、すべてあのきれいな空の果てに、今もまだ永遠であり続けたかった。透明を上書きするように塗り重ねる街路、だいすきなひとを追いかける凪よ、次の季節の眩しさ、午後を抱いて翳る光の輪。
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aoalors · 3 years ago
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きれいな空だった、船のいちばん高いところから手を降る八月の終り、かわるがわる目の前をよぎる水滴のような天使たちの輪、小さな波に呑まれて消えていく彼女たちの真っ白な花束、つらいことをみんな忘れたふりをできた時にだけまぶたにかかるアイスブルーのフィルター、大好きな夏よさよなら、何ひとつ上書きできないまま作り笑いしてしまったね、単純化して、細分化して、抱きしめてほしくなって、元のばらばらな手のひら、少しサイダーでも飲む?それともみんな本当に忘れてしまうのかな、太陽の熱でかわいていく、涙でいつでも元に戻れると言い聞かせている、喧騒に悪酔いして、何もできなくなって、百万回思いだしたセピア色の鎮痛剤、どんな言葉でも、どんな抽象やタッチやマチエールでも、目の前に呼び起こせない映像が、その手ざわりがわたしの中にいる。単純化して、細分化して、ファインダー越しに覗きこんで、二度と抱きしめられなくなった、涙が流れるのを待つように毎日を生きている、誰ともうまく喋れなくなった?それはアイスブルーのフィルターの所為だろうか、手をのばして天使の小さなセーターにふれる、一緒に波に呑まれて、すべてが上書きされることばかり期待している、この灰色の地下鉄のホームで、何もない空間にそっときらめくあなたが、この世界のすべてならよかった。大好きな夏よさよなら、かわるがわる目の前をよぎる水滴のような天使たちの輪、この先に何が起ころうとも、そのたび何かを忘れられるとしても、サイダーの泡のように待ちきれぬまま、すべてあのきれいな空の果てに。
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aoalors · 3 years ago
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真夜中の穏やかなアスファルトの上で、他愛もない信号機へ手のとどかない事が急にもどかしくなった、あなたはあおいろ、世界もあおいろ、わたしは立ち止まって、無関心な車たちの過ぎるのを待ったあかいろ、一緒に光る事はできないまま、わたしたちは歩いたり休んだり振り返ったり、ひとりきり忙しく、笑っていたり笑えなくなったり、ひとしきり考え込んだり、それもやめたり、そんなことばかり、世界だけが今日も美しいようでいやだな、わたしたちは朝になるまで踊って、放たれた光の中で時間も忘れて眠っているだけだよ、もう二度と会えないのだとしても、遠く点滅するあなたの心へシグナルを送る、そういう儚さを片目で追いかけるそぶりで、押しボタン式信号機なのを思いだして、今でもまだ透明でいる。
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