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椿
何かが始まる予感がするのは、花が春を知らてくるからだろう。何が見たいのかと花が唄う。それが解らない男はチュイルリー公園の温室には招かれざる客だと、その場から退出しようと足を一歩踏み出した時ーー
男は自分の性質を理解しているつもりだった。天井を眺め、再びベットに目線を戻すとさっきは見えていなかったシワが顔を覗かせた。自己のアイデンティテーが崩壊する音に男は耐えられず、古き共に相談することに決めたのだ。 全てのチェック項目が得意げに笑うとも知らずに。
ピンヒールのかかとが石畳の溝に嵌り手を咄嗟に延ばすが支えてる程の力が無い花は、一人の女と共に散った。 「お怪我ありませんか?」 口紅の赤がやけに男の記憶に刻まれた瞬間だった。
題:好きかも、しれない ・赤い椿 「You’re a flame in my heart(あなたは私の胸の中で炎のよう��輝く) ・白い椿 「adoration(愛慕、崇拝)」「loveliness(愛らしい)」 ・桃色の椿 「A woman in love can’t be reasonable – or she probably wouldn’t be in love.(恋に落ちた女性は理性的でいられなくなる。そうじゃなきゃ、たぶん恋に落ちてないでしょう。)」 ・古き友 初めての同性愛 ・椿 フランスでは椿の裏花言葉/犯罪を犯す女
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有閑
「さよならって言ったじゃない」 徒労に終わると理解していても口から勝手に漏れるのは、生者の暇潰しだ。 全てがオレンジに染まった世界へ手を掲げ、橙の石に一つ口付けを落とした。 ・有閑 ひまがあること。特に、生活に余裕があり、ひまが多いこと
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苺
手袋を付けたままの手で一粒掴み半分口に入れ噛む。甘酸っぱく広がる春の果実汁が、口の端から垂れる。もう半分、口にする。また一つまた一つと食べてゆく。男は、ただ目の前の女をどう喜ばせるか策を思案する。
去り際の言葉を、男は竈門に焼べた石に水を浴び続ける。女が時間を埋めるために吐いた言葉を、食べ物の評価を聞く女に思えないと端から決めつける。
「マルクスは子供の泣���の中でも、資本論を書き上げたから彼は偉人である」
自分の中で言葉を自己完結させた男と鮮やかな笑顔を見せ続ける女の距離は、埋まることはない。似たもの同士の従姉妹は、捕らぬ狸の皮算用ばかり。どちらにしろ、死者は生きる者の血肉になり土に還るのだから。
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たられば
「難波潟 短き葦の ふしの間も」
女が強くなったと言われる今日でも、男女の恋はいつの時代も変わらない。言葉を紡ぎ態度で示す。感情を伝えるという行為は、馬鹿馬鹿しい程に複雑で難しい。男に伝えたい言葉を女はまだ幼く、持ち合わせてはおらず昔の人の恋文を借りて呟く。男は得意げに自分の教科ではないと返した。
自分達の関係性に名前を付けてからしばらくたったとある日、男女は冬の海に写真を撮りに来ていた。女が卒業を決意する少し前だった。
ほつれた記憶に思考が支配される。決断を下すのを躊躇っている。冬の重い波の音が自分達を空間から切り取られると錯覚する程、誰もいない。上と下が同じ深い黒の中、底の見えない水を眺め男女は互いの体温で暖をとる。まるで今の自分の様だと女は海を見て思う。
「逢はでこの世を 過ぐしてよとや」
女は建物のガラスを撮った写真を手に取る。借りる事の無かった下の句を一人吐き出す。目を合わせる様に振り向くことが出来る弱い女であれば、この話は存在しなかったのかもしれない。
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天気
珈琲の湯気を見て溜息を一つ。薄目で時計を眺める。聞こえてくる馴れない音に注意が引く。一週間の天気をキャスターが読み上げる。
多言語の勉強が嫌いだった。耳に頼るより見ることが好きだった。 「ガスパール、先生を困らせるのは君の価値を下げることだよ?」 「日曜日に『ポンペイ最後の日』の展示会が開かれるよ。一緒に行こうね」 「知ってる?彼はねローマに行ってから名が知られるようになったんだよ」 小さな弟をあやす兄に弟は、お腹の音で返事をした。
時計を見て目を見開く。冷めた珈琲を飲んだのは英語のことわざ辞典だ。地域雑誌は辞書を眺めて笑う。今週の特集、パリでの裏路地の店ーーーーーー
題:ひとつ、またひとつ
ーーーーーーーーーーーーーーーー ・明日はお天気<Demain il fera jour.>フランスの諺 日本語訳:明日は明日の風が吹く。
・歳月人を待たず<Time and tide wait for no man>英語の諺 日本語訳:人はすぐに老いてしまうものだから、二度と戻らない時間をむだにしないで、努力に励めよという戒めを含む
・ポンペイ最後の日 『ポンペイ最後の日』は、イギリスの作家エドワード・ブルワー=リットン が1834年に発表した歴史小説。西暦79年、ヴェスヴィオ火山の爆発により火山灰に埋もれて消滅したローマ帝国の町ポンペイを舞台に、正義と悪の相克、様々な立場の登場人物たちの行動を経て、最後に火山の大爆発によるカタストロフによって幕を下ろす。
・カール・ブリューロフ フランス人の両親の元にサンクトペテルブルク生まれた。幼年時代からイタリアへ絵を描きに行きたいと思っていた。己の名をあげるためロシアを発ち、ローマへ向かい、1835年まで滞在して肖像画家として活動した。芸術家としてのブリューロフの栄誉は、彼が歴史的題材を描いたことから始まった。
・書きたかったシチュエーション 汝の前の2.3月の冬の出勤前の朝にお天気キャスターが変わってふと兄に言われた事を思い出す。回想が長くていつの間にか時間が過ぎて慌てて家を飛び出すシーン。 絵が見るのが好きで解説が外国語だったとしても見るものが全てに感じてた幼少期のガスパ。家での家庭教師とトラブになってお仕置き部屋に入れられた腹を透かした彼に兄貴訪ねてくる。好きな絵師も外国の小説を推しで書いたんだよと兄から告げられ衝撃を受ける。その後言語の楽しさにのめり込んだ。一つに集中するのではなく視野を広げることで明日に先送りする事より今を生きるのが板についたのもこのエピソードから。でも、未来の予定を作る楽しさを知っちゃったっていうオチ。ひとつ、またひとつ彼女と行きたい見せたい共有したいことが増えていく。
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牛乳
「残念ながら、俺は英雄にはなれそうにない」 男は幼少期の自分に語りかける。少年は、英雄に憧れていた。 少年をクラスメイトが取り囲んで中傷した。少年が憧れた英雄は、世間からは悪だと言われている人物。世界の為に犠牲になるたった一人、沢山殺しそして自分も死ぬ。少年は混乱し反論したが彼らが、寄り添うことは無かった。 兄は少年に諭す。少年は誓った。 信念は他者が介入することを許さない。揺らぐのであれば、最早信念では無いのだから。
薄明が星たちの微睡みを消し去りに来る時間。ベット脇のサイドボードから水滴が等間隔に落ちる音がする。水溜りが出来た床は、嘲笑う。 男は女の髪を一房すくい口づけを落とす。男は誓う。 もはや今の目的を達成するには、決して自分を犠牲にするわけにはいかないのだから。
題:残念ながら、俺はヒーローにはなれそうにない
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