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ナタナエル、私の本を棄ててくれ。そこに満足していてはならない。君の真理は誰か他人によって発見されるものだと信じてはならない。何よりも、そのことを愧じるがよい。私が君の糧を探したとしても、君はそれを食べるほど餓えてはいまい。私が君の臥床の支度をしても、君はそこで寝ようとするほど睡くはあるまい。
私の本を棄ててくれ。そこには人生に対する百千の態度のうち一つしかないということを解ってくれ。そして君の態度を探し給え。他人が君同様に立派になし遂げることを君はしてはならない。他人が君同様に立派に言えることを、君が言ってはならない。君同様に立派に書けるものを、君は書いてはならない。
君自身の裸以外どこにもないと感じるものに執着し給え。辛抱強く、でなければ気忙しくでもよい。ああ、生きとし生けるものものの中で、置き換えのきかぬものを、身をもって創造し給え。
地の糧/ジッド
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そもそも、さほどはっきりしていなくてとらえどころのない関係は、壊そうと思ってもほとんど壊せないものだ。私達はお互いに率直だった。それに、完全な誠実さをもっとも尊ぶのがあの時代の流行だったことも思い出さなくてはならない。私達は愛を語るのではなく、愛について語りあったのだった。他の人なら行為によって解消したであろう不安を、私達は言葉の力を借りて紛らわせていた。
とどめの一撃/マルグリット・ユルスナール
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