kobotakeya
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工房竹屋
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kobotakeya · 5 years ago
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『ソウルメイツin中華街』
※あくまで二次創作であります。公式とは違いますので設定等変わっている所もあると思いますのでご注意くださいませ。
ACTORS二次創作ショートノベル
『ソウルメイツin中華街』
よく晴れた休日。陽太は珍しくスライヴセントラルを出て中華街まで来ていた。東門を出た後、近くを走るバスに乗ればすぐに中華街までたどり着く。人で溢れかえる賑わいの中、約束どおり延平門前で待ち合わせをしている。
普段スライヴセントラルから出る事が滅多にない陽太にとって中華街は初めてで、その賑わいが第七学区の商店街など比べ物にならない事に圧倒されていた。そしてこれまたお誘いなど初めての相手がもうすぐやってくる。陽太はまわりの風景を楽しみながらも、その待ち人を今か今かとそわそわしていた。
「遅れてすまん! ちょっと寝坊しちまった」
同じ路線のバスから降りてきた赤い髪の天翔学園の生徒が陽太のもとに駆け寄る。
「円城寺くんこんにちは!」
「ソウルメイトよ!」
待ち合わせ相手は三毛だった。三毛が陽太を誘って中華街に来るというのは珍しい話だが、彼を誘って出かけるというならば目的はひとつしかない。もちろんメンダコのマーチの購入である。よほど楽しみなのかテンションがいつもより高い。
「休日に誘って悪かったね」
「大丈夫だよ。僕も円城寺くんに誘ってもらって嬉しいよ」
「誘うなら陽太しかいないからね」
「本当に……中華街ってすごいね! こんなに人がいっぱいいるなんて。あと建物も独特でびっくりだよ」
陽太は嬉しそうにキョロキョロと辺りを見回した。
「陽太は中華街初めて?」
「うん。まだこっち来てからそこまで経ってないしね。特区の中をいろいろ散策するだけで手一杯かなぁ」
「ほかの学区まで見回ろうとするならかなり広いし時間かかるしなぁ」
「そうなんだよねぇ」
「じゃあとりあえず行く?」
「あ、そういや円城寺くんが教えてくれたメンダコのマーチ限定版ってどんななの?」
「中華街限定メンたん四聖獣バージョンな。白虎、朱雀、青龍、玄武を模したモンたんらしい」
「へぇ~面白いね」
「そんなに作ってないって噂だから今日中に買えないともう二度と手に入るかわかんねぇってさ」
「じゃあ急いで買いに行かないと……甲斐くんは待たなくていいの? 一緒に来ると思ってたんだけど」
「あいつは来ないよ。今家庭科室に篭ってカレー作ってる。新作思いついたとか言ってたな」
「休日なのに!?」
「カレーの事になると見境なくなるからな。ああなると完成するまで出てこないね」
「甲斐くんのカレー好きは筋金入りだね」
「ほんと意味わかんねぇ。美味いからいいけど」
「あはは」
「よしいこうか」
「うん。中華街って結構広いの?」
「それなりにね。だけどここはしょっちゅう来てるしそこそこ詳しいから案内は任せてよ」
「じゃあ僕は円城寺くんに付いていくよ!」
陽太と三毛のふたりは揚々と中華街に突入。人の群れを掻き分けながら、目的の品が売っている店に向かって歩いていく。赤と緑と金を基調にした装飾を施された大小の建物が並び、どの店にも多くの観光客が出入りしている。
キョロキョロとしている陽太を引率しながら三毛は細い路地に入っていく。その道は店の前に置かれた置物や荷物で溢れており、すれ違うだけでも窮屈そうだが、表通りに比べればかなり空いていた。
「三毛くんこっちでいいの? すごい道だなぁ」
「ああ、ここ抜けるのが近道なんだよ」
「こんな狭い道にもお店が並んでるんだ���ぇ。独特な匂いがするよ」
「ああ、それは八角の匂いだな。この路地は料理店向けの食材なんか売ってるんだ」
「へぇ。詳しいんだね」
「ここらに甲斐がカレーのスパイス買いに来てるんだよ」
「カレーなのに中華街なの?」
「東南アジア系の食材も揃ってるマーケットなんだってさ。そういうのならここに何でもあるって言ってたな」
「へぇ~面白いね!」
「この道抜けたらすぐの店だよ」
そういいながら三毛は路地から出た先の大通りに出ると、一際ひとだかりが出来ている土産店を指差した。その店には金の文字でドラゴンチャイナと英語で書かれた黒い看板がかかっており、店内にはさまざまな雑貨が所狭しと並んでいる。
「うわ人がいっぱい」
「ちょっとこれヤバいかも。売り切れてるやつあるかもしれない」
三毛は慌てて店に入り、限定版メンダコのマーチが置いてある場所を探す。 陽太も間もなく販売コーナーにたどり着いたが、そこでは三毛がしてやられたという顔をしていたため、よろしくない事になっていたのにすぐ気が付いた。
「三毛くんあった?」
「予想外だよ。玄武バージョンしか置いてない」
「あらら残念だったね」
「こんな速攻で売り切れると思ってなかったんだけどね。でもほかにも売ってる店はあるからまわってみよう」
「そうだね! コンプリート目指して頑張ろうね!」
そうしてふたりは残りの限定版を探すため中華街散策をはじめた。三毛は残りを見つけるため真剣な顔で探しまわるが、陽太は楽しくて仕方がないようで目新しいものを発見するたびに立ち止まり、三毛との距離が広がると急いで着いていくという事を繰り返した。
「陽太ぁ迷子になるなよ~」
「あ、ごめんね円城寺くん」
遅れ気味に歩いていた陽太が、謝りながら三毛に駆け寄る。
「中華街は初めてだとテーマパークみたいでわくわくするよな」
「そうなんだよね! 見た事ないものばかりでびっくりだよ」
「はは、それだけで誘ったかいがあったね」
「ホントありがとうね! でも残りまだ見つからないんでしょ? 僕はいいから円城寺くんが好きなように探してよ」
「たぶん、あそこに行けばまだあると思うんだよなぁ……あ、ここだここ」
三毛が陽太を先導しながらたどり着いたところには、土産屋ではあるが随分とこじんまりしていてあまり客入りがない店があった。
「この店、限定土産よく置いてるんだけどなぜかみんな知らないんだよね」
「詳しいねぇ」
「前に出た中華街限定版もここで買えたんだよ。でも必ず置いてあると限らないから」
「あるといいなぁ」
「えっと……メンダコのマーチは……お、あったよ!」
店に入った三毛はレジ横に置いてあった限定版メンダコのマーチを手に取った。彼の予想通りここにはそこそこの数が残っていたのだった。しかし満足する様子はなく、むしろ困ったような顔をする。
「よかったねこんなにたくさん残ってたよ」
「いやまだ一種類残ってる。朱雀と白虎はあったんだけど青龍がない」
「じゃあ限定版探しは続行だね」
「そうだね。ここまで来て諦めるなんて無理だよな」
「今度はどっちのほう探すの?」
「見つからないのに妙に嬉しそうだね」
三毛は陽太の反応にすこし笑ってしまう。
「あ、ごめんなさい」
「いやいいよ。揃ったら陽太の中華街散策も終わっちゃうしね。まだ見てまわりたいんでしょ?」
「あはは円城寺くんにはお見通しだね」
「見つかって時間残って��ら、今度は陽太の行きたい所いこう」
「ほんと!? ありがとう!」
「お願い聞いてもらってるんだし。当然だよ」
「僕も限定版欲しいから気にしないでね。そう思ってくれたから今日誘ってくれたんでしょ?」
「……さすがソウルメイトだけあるな!」
感動した三毛は照れる陽太の手をがっちり握ったのだった。
そしてふたりは引き続き、最後に残った限定版を探すため通りを練り歩いた。すでに目星を付けていた店はまわり切ってしまったため手当たり次第店内を覗いていく。
しかし望み薄の店しか残ってないためどこも当たり前のように置いておらず、かなり時間をかけて探したものの見つかることはなかった。
「さすがに足が痛いな……ちょっと休もうか」
中華街を隅々探しまわったためすっかり疲れてしまったふたりは、通りの中ほどにあった公園にて休憩する事にした。公園には中華風の東屋がありそこのベンチに腰掛ける。
「街の中にこんなところがあるんだね」
「ここで遊んだりするときはだいたいこの場所で休憩するんだよね」
「中華街って面白いねぇ。外国に来たみたい」
「陽太……見付けられなくて申し訳ない。さすがに諦めるしかないか。はぁ~コンプしたかった」
「人気あるからしょうがないよ。3種類買えただけで僕は大満足だよ!」
「陽太が寄ってみたいとこある? まだちょっと時間あるし」
「もう十分だよ。いっぱい見てまわったからね」
「じゃあ甘いもんでも食べて帰ろうか」
「うん。ゴマ団子とか食べたいなぁ。あ、月餅お土産に買ってこうかな?」
「そうだね。甲斐にも買っといてやるか……おっ!?」
「スイーツの名を言う聞き覚えのある声がすると思ったら円城寺ではないか。それに光司も一緒か」
三毛が立ち上がろうとすると、背の高い長髪を束ねた男性が近づいてくるのに気付く。そして彼はふたりが何か言おうとする前に話しかけてきた。
「鳴子くんじゃない?」
「こんにちは! こんなところで偶然だね!」
「新作スイーツのチェックをしに来たんだが、お前たちも食べに来たのか?」
「目的は別のものだったんだけど買えなかったから甘いものを食べて帰ろうかと思ってね」
「ふむ。何を買おうとしてたんだ? スイーツの事なら協力できるかもしれない」
「僕らはメンダコのマーチの中華街限定版を買いに来たんだよ」
「今日発売の四聖獣バージョンなんだけどもう売り切れててね」
「ん? そのスイーツなら今朝買っているぞ」
「マジか!?」
「ああ。今回の限定版は杏仁豆腐味ということだからな。気になっていたから朝一で入手したぞ」
郁は鞄の中からメンダコのマーチを取り出し取り出しベンチに置く。それを見た三毛の目が見開く。
「ああああ青龍メンたん!」
三毛がパッケージに書かれた絵に激しく反応した。それもそのはず、郁が買ったメンダコのマーチは、いくら探しても見つけられなかった最後の一種類だったのだ。
「ん? もしかしてこのキーホルダー目的だったのか? ならあげるよ。俺はスイーツにしか興味がないからな」
「サンクス! 恩に着る!」
「円城寺くんよかったね。これでコンプできたぁ」
「いや、これは陽太が貰っておいてよ。メンたん好きなんだし」
「でも……一生懸命探したのは円城寺くんだから」
「なんだふたりとも欲しかったのか。それを早く言ってくれ。同じものがあるかもしれない」
郁はまた鞄をまさぐるとメンダコのマーチを何個か追加で並べる。そして期待を込めて見つめていると、ふたつめの青龍メンたん入りの箱が出てきた。
「よっしゃ! もう一個あった!」
思わずガッツポーズする三毛。
「これでふたりともコンプできたね! 鳴子くんありがとうね!」
「よかったな。ならそのお祝いに俺と新作スイーツを食べに行かないか? 味は保証するぞ」
満面の笑みを浮かべたふたりの姿に満足したか、にやりとする郁。
「ああ! ぜひ行こう」
完全に元気を取り戻した三毛がそう応え、3人となった一行は足取り軽く公園を後にしたのだった。
END
前回に引き続き三毛がまた登場しましたが、もともと陽太と三毛のエピソードを書こうと思っていたことの方が先でして、前回の三毛登場がイレギュラーなんですよ。ソウルメイトというぐらいの仲なのにそれをクローズアップしたエピソードって自分が手がけた頃はなかったですからね。三毛を地の口調にしようか迷ったのですが時系列が適当なのでそこはやめときました。ただ、時間が経てば間違いなく素を出せる関係になれるでしょうね。
また郁が休日にスイーツ探訪するのもエピソードとして書いてみたいものだったのでミックスしてみました。郁と陽太三毛がどのぐらい交流していたのかってのは当時見せてなかったと思います。なので軽い友人程度には互いを知っている程度のポジションにしてみました。まぁ二次創作ですから何でも出来ます(笑)
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kobotakeya · 5 years ago
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『ちぐまん受難』
※あくまで二次創作であります。公式とは違いますので設定等変わっている所もあると思いますのでご注意くださいませ。
ACTORS二次創作ショートノベル
『ちぐまん受難』
放課後。学園のいたるところに設置されたスピーカー。そこから流れる倖乎の声。この放送は放送部が行っている活動のひとつで、リスナーとなっている生徒は多い。考古学準備室にて部活動に勤しんでいた三毛と甲斐も、作業しながらこの放送を流し聞きしていた。
『え~本日から始まるトークコーナー天翔学園ゲーム解放区、最初のゲストは……なんと丸目千熊先輩でぇ~す』
『えっゲーム!? あ……よ、よろしくお願いします』
倖乎に引き続き、なんとも自信なさそうな千熊の声がした。
「はぁ!? 千熊なにやってんだ。来ねぇと思ったら……」
三毛は予想外の出来事にうっかり立ち上がってしまった。その拍子に座っていた椅子を倒してしまう。
「ちぐまん先輩が放送部の番組出てるなんてねぇ。びっくりだよぉ」
「なんだお前も知らなかったのか」
「うん。今日はいつも通りの時間に来るって言ったよ」
『丸目先輩はぁ、どんなゲームが好きなんですか?』
『う~ん、な、なんだろうなぁ。しょ、将棋とか……』
『アナログですねぇ。テレビゲームとかはどうです?』
『ゲ、ゲーム……はは、あんまりやったことないし』
「あはははちぐまん先輩ウソついてる」
「ごまかすのに精一杯って感じだな。てかなんで隠してるのにわざわざこんな番組出てんだよ。バカなんか!?」
三毛は呆れた。
「たぶんね、芦原先輩に頼まれたんじゃないのかなぁ。ちぐまん先輩って頼み事断れないしねぇ」
「にしてもこれは選ばなきゃダメだろが」
「三毛くんどうしよう?」
『丸目先輩は携帯ゲームとかやらないんです?』
『携帯ゲー……あ、あんまり……』
『じゃあスマホゲームは?』
倖乎はしどろもどろになってしまう千熊に、ひたすら質問を浴びせる。
「マズイな。ちょっと連れ戻してくるわ。ありゃ無理だ」
「そうだねぇ。僕も一緒に行くよぉ」
考古学準備室からあわてて飛び出す三毛と甲斐。
「おや? お前らどうした? そんなに慌てて」
準備室から出たあたりで、顧問の鷲帆が非常階段のほうから上がってきていた。
「今から千熊を連れ戻してきます。あいつピンチっぽくって」
「ああ、この放送か。確かに丸目には都合が悪い展開だな。なるべく穏便に解決してやれよ」
スピーカーから流れる声を見るかのように鷲帆は天井に目をやった。
「了解しましたぁ」
事態を理解し苦笑いする鷲帆にふたりはそう答えると、駆け足で千熊救出に向かっていった――。
遡る事30分前。
午後の授業が終わるチャイムが鳴る。どの教室も騒がしくなり、ぞろぞろと生徒たちが教室から出てくる。いつも通りの風景。その生徒たちに紛れて放送室に向かうのは葦原倖乎と湯山靖隼のふたり。放送部の活動は放送室で行われるからだ。
放送室は部活目的のそれとはまた違った役割を持つため、視聴覚室などと同じ場所にある。倖乎たちの移動距離は長くなくすぐに到着するが、すぐに部活動を始めたいためいつものように少々早足で向かう。
「トークで使うエフェクトなら手持ちの���マホで十分だろ」
「せめてタブレット使わせてよぉ。安いのでいいからさ」
「もう予算ほとんど残ってないんだが」
「その予算誰が使ったんですかぁ?」
「放送部だろ」
「そういう言い訳許さないよ~。DJミキサー購入に充てたいって言ったの靖隼でしょ」
「お前も便利だーって喜んでるだろ」
「僕が喜んでる機能はもっとグレード下げてもあったやつですぅ。有無を言わせず一番高いの選んだのは誰ですかぁ」
「……いいよ分かったよ。タブレット買ってもいいが予算足りないぞ」
「足りない分は小遣いで何とかするよ~」
「まあ頑張れ」
「いえ~い勝ったぁ! 久々の勝利! ううう僕、やりましたぁ~」
「よかったな」
「あ、そうそう。ねぇ靖隼」
「なんだよ」
「新しいコーナー始めようと思ってるんだけどさ」
「どんな?」
「面白いゲームを熱く語ったり、ゲスト呼んでみたりとか」
「倖乎ってゲームやってたか?」
「少しやってる程度だけどねぇ。ほら靖隼は好きでしょ?」
「俺任せかよ。やだね喋る気ないぞ」
「そこはゲーム好きのゲスト呼んだりしてさ、いろいろ聞いたり語ってもらうの」
「それならいいが。あてはあるのか?」
「大丈夫じゃよ~。倖乎様のネットワークを甘く見るでないぞ」
「で、最初のゲストは誰にすんだよ」
「一応リストは作ってあ……わわわあれ!?」
「どうした?」
「ほらあそこ! すっごい人いた!」
倖乎が嬉しそうに反対側から歩いてくる生徒に指を差す。
「あれ……丸目先輩だ」
「!」
靖隼は倖乎が指差した先を見ると声を出す事さえできず驚いた。 目の前の集団となっている生徒たちの中心に千熊がいたのだ。彼に幾人もの生徒が付いて来ておりそれで一団となっていたようだった。
「ねね、声かけてみようよ?」
「あんなに取り巻きがいるのに声かけんのかよ。無理だろ」
「成せばなる成さねばならぬ何事も……丸目センパーーーーイ!」
「おいこら倖乎やめろ」
靖隼の制止を聞かず、倖乎は一直線に千熊のもとに駆けていく。
「あ、芦原くんじゃない? それに湯山くんも。こんにちは」
千熊は二人に気付くと優しく微笑んだ。
「こ、こんにちは!」
少々声が裏返ってしまった靖隼。それを見て倖乎がニヤニヤしている。
「丸目先輩、こんなところでどうしたんですか?」
「職員室に用事があってね。その帰りだよ」
「先輩、もしよかったら放送部寄っていきませんか!?」
取り巻いていた何人かの生徒が怪訝そうな顔をする。 それを敏感に感じ取った靖隼が焦るが、倖乎はそんな事お構いなし。
「ん、まぁ……ちょっと待って。時間あるかな……?」
「おい倖乎、丸目先輩を困らせるな。迷惑だろうが」
「あはは。えっと……まだ時間あるからお呼ばれしちゃおうかな?」
「ほんとですかぁ? やった~」
「無理言ってしまって先輩マジすみません」
「気にしないでいいよ。僕もお誘い嬉しいしね」
「うう、丸目先輩神過ぎる。後光差してる……眩し過ぎる……」
靖隼は思わず千熊を拝んでしまった。
「うわ!? 靖隼が壊れたぁ~」
「こ、壊れたの!? 大丈夫!?」
「いえ自分は至って正常です。当然の反応です」
「そ、そうなんだ」
「ささ、丸目先輩行きましょ~」
そう言いいながら倖乎は千熊の腕をつかむ。
「わわっ!? み、みんなまた明日ぁぁぁ……」
千熊は倖乎に引っ張られながら、それまで一緒にいた生徒たちに苦笑いしながら小さく手を振った。 そして去り際に靖隼は申し訳なさそうに彼らにお辞儀をしたのだった。
「――いやぁ三毛くん助かったよぉ」
三毛らに救出された千熊は余程いっぱいいっぱいだったのか、解放され気が緩むとその場にしゃがみこんでしまった。
「ちぐまん先輩大丈夫?」
「うん。もう大丈夫だよぉ」
倖乎たちに連れられて放送室を訪れた千熊は、話の流れで放送部のトークコーナーに出演することになってしまっていた。三毛は鷲帆からの緊急の呼び出しがあると嘘をつき、千熊を半ば無理やり放送部から連れ出していたのだった。
「ったく、助けに行かなかったらやばかったぞ」
「そうだね。バレちゃうとこだったよ」
「ちぐまん先輩、なんであんなコーナー出ちゃったんですか」
「頼まれちゃってねぇ。でもゲームの話をするコーナーだと思ってなかったよぉ。てっきり考古学部の事を話するもんだと……」
「脇が甘すぎ。ちゃんと確認とっとけよ」
三毛はやれやれといった表情で千熊を叱った。
「心配かけてごめんね。でも芦原君たちは悪気ないからね。僕のゲーム趣味知らなかったんだし」
「そうだけどな。じゃあ助けた代わりに今日のノルマ俺の分もやってもらおうか」
「もぉ~そういういじわる言わないの。三毛くんの言うこと聞かなくていいですからね」
「えへへありがと。でもなにかお礼しないとね」
「そうだな報酬はコーラでいいわ。1.5な」
「甲斐くんはなにがいい?」
「じゃあ僕はヨーグルト系で」
「わかったよ。戻る途中購買部寄っていこう」
「やったぁ」
「あ、鷲帆先生の分はコーヒーでよかったっけ? 部室で待ってるでしょ?」
千熊はそういいながら立ち上がったのだった。
END
はじめ適当に倖乎と靖隼のやりとりに千熊絡めたシーンだけ書こうと思って書いてたんですよ。でも場面転換しようとしたところの切り替えがいまいちで、これじゃ書き上げてもしゃーないので時系列いじってみた結果、三毛甲斐出てきていつのまにかメインが誰か分からなくなるという主人公不在の事態に。まぁいいや。
比率変えたおかげで千熊が攫われたヒロイン役になっとりました。救出する王子は三毛という配置。気の向くままに書いたらこんなふうに収まるとは……しかし制限なく自由に書けるって楽しいですね。放送部のふたりはまた改めて書きます。
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kobotakeya · 5 years ago
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『歌唱部にて』
※あくまで二次創作であります。公式とは違いますので設定等変わっている所もあると思いますのでご注意くださいませ。
ACTORS二次創作ショートノベル
『歌唱部にて』
木々はすっかり葉を落とし、スライヴセントラルにも本格的に寒さが訪れたある日、美化推進部の一乗谷羚は早足で歌唱部部室に向かっていた。今度行われる持久走大会コースの美化の協力を頼むためだ。
放課後、キャンバスを生徒たちがせわしなく行き来している。部活棟に向かう道はかなり混んでいた。主に部活に向かう生徒たちの波ではあるが、部活動ポイント取得を狙い、最後の授業が終わると管理課にある依頼掲示板をチェックしに急ぐ者もかなりいた。
そのため生徒の流れはさまざまで、道が交わる場所などは特に混んでおり、気を付けないと怪我をしてしまうため注意喚起の立て看板が置かれるほどだった。
そんな場所を羚はストレスなくするするとすり抜けていく。スマートに混雑を交わす事は羚にとって美しい行為だ。また羚の存在に気付いた生徒たちが道を譲っているのも一因だった。その程度には羚は学園でも知名度が高い。道を譲った生徒には逐一礼をしているので好感度はすこぶる良かった。
羚は部室棟ではなく専門教科用の棟を四階まで上り、突き当たりの部屋のドアをノックする。そして特に返事を待たずドアを開き入っていく。
「失礼する。水月はいるか?」
羚は歌唱部に入ると、部長の水月を探す。しかしそこにたるのはソファーで惰眠を貪っている金髪の生徒がひとり。
「おい、五月女」
「ん、んん……」
燎は羚の声に反応したものの、寝返りをうって反対側を向いてしまう。
「まったくこの男は。五月女起きたまえ」
「うるせぇな……誰だよ。あ? なんでお前がここにいるんだよ」
いかにも不機嫌といった具合にむくりと起き上がる。
「水月はまだ来てないのか? 用があるのだが」
「ああ、まだ来てねぇよ。つってももう来るんじゃね?」
「そうか。なら待たせてもらおう」
「好きにしとけ。俺は昼寝の続きするからよ」
そう言うと燎はまた横になってしまった。
羚は手近にあった椅子に腰掛けると足を組んだ。
「おい五月女」
少し間があいた後、羚はふたたび燎に話しかけた。
「んだよ、まだなんかあんのかよ」
「五月女はここで普段何をしているのだ?」
「何って……なんもしてねぇよ」
「このように寝ているだけか」
「まぁそうだな。何もなきゃ寝てるわ」
そう答えた燎に、羚は眉を曇らせる。
「ほかの部活動に口を出すつもりはないが、五月女、もう少し水月の役に立ってやったらどうだ?」
「俺は水月からこうしてていいって言われてんだよ。それになんかあったらちゃんと活動してるぜ」
「そういう約束か。しかしそれは最低限というものだろう?」
「随分からんでくるな……喧嘩売ってんのか?」
流石にイライラして来た燎。
「勿体無い」
「はぁ? 勿体無い? なんだそれ」
「勿体無いのだよ五月女。お前は水月の傍にいながら言われなければなにもしないなど勿体無さ過ぎるのだ」
「何がだよ。訳分からん」
「傍にいるという事はいくらでも貢献できるという事だ。たまには水月を喜ばしてやってもいいだろう? ああ、実に勿体無い」
「はぁ……」
嘆く羚。困惑する燎。 するとドアが開き、水月が入ってきた。
「おや? 羚、ごきげんよう。どうしたのかな?」
「おお! 水月待っていたぞ」
「燎と話をしていたようだけど、ふたりが話しているなんて珍しいね」
「ああ、五月女が水月のペットのようだと話していたところだ」
「俺はペットじゃねぇ! それにそんな話してたか?」
「ところで水月、今日は歌唱部の力を借りられるか相談に来たのだ」
羚は燎の問いには答えず、会話相手を水月に切り替える。
「羚がわたしたちの協力を仰ぎに来るって事はそれなりに大きな案件かな?」
「そうだ。これが思いのほか緊急を要する話でな」
「おい! 俺を無視すんな……ったく、寝るぞ」
「ふふ、燎は寝てていいよ」
不貞寝する燎を見てつい微笑んでしまった水月。
「この時期に緊急という事は、天翔学園持久走大会に関するものかな?」
「ご明察だ。率直に話させてもらうと、持久走コースの美化の協力要請をしたい」
「おや、あれは確か実行委員会のほうですべてまかなうのはなかったかな? わたしはそう聞いているけど」
「当初は水月の言う通りだったんだが、行き違いがあって委員会のほうで人を集め切れなかったらしい」
「それで羚の美化部に声がかかったという流れだね」
「うむ。しかし持久走用のコースは10kmあるからな。時間があれば我々でもなんとかできるが何分緊急でな。ひとりでも多く助っ人が欲しいのだよ」
天翔学園の持久走大会はコースの半分は敷地内から外に出て住宅街と商店街を通るため、事前にゴミを掃除したりするだけでなく、道路の設置物や駐車された車といった危険物になりそうな障害物を事前に排除しておく必要があった。
そのため美化でもあったため、交渉役が必要であり羚はそのための要員として水月を選んだのだった。
「協力するよ。羚の頼みだものね」
水月は間も置かず即答する。
「そうか! ありがたい!」
「部活動ポイントも稼いでおきたかったからね。こちらからもお願いしたい」
「それに関しては大丈夫だ。すでに交渉済みで報酬は同じような案件のものより3割増になっている」
「さすが羚だね」
「はは水月に褒められるとむず痒いな」
「ほかに人手は必要かな? あるなら鷲帆先生にも頼んでみるけど」
「助かる。多い事に越した事はないからな。それは頼んでいいか」
「うん。了承したよ」 頷く水月。
「そうだな……あとは清洲らにも声をかけてみるか。水泳部もポイント取得に苦労しているようだからな」
「燎、美化部の手伝いしっかり頼むね」
「お、おうよ」
素直に返事をする燎。その様子を水月は不思議に思った。 そのふたりを見ていた羚は満足そうな顔をした。
「では、わたしは失礼するよ。詳細は本日中にメールする」
「了解。わたしも考古学部へ早めに連絡入れておくよ」
「ありがとう水月。ではまた」
そう言うと羚は退出していった。
「燎、君にしては珍しいね。美化の手伝いを嫌がらないなんて」
しばらく落着いた時間をすごした後、水月は横になったまま漫画を読んでいる燎に先ほどの反応について尋ねた。
「まあな。たまには真面目に部に貢献しなきゃなと思ってな」
「それは嬉しいね。積極的に活動してくれると部の維持がしやすくなるよ」
「寝床の維持費分はちゃんと稼ぐわ」
「ふふ、ありがとう」
「感謝される覚えはねぇよ」
燎は水月に視線を向けることなく、ぶっきらぼうにそう答えた。
(たぶん羚に何か言われたんだろうね。どんな話だったのかな……まぁ、尋ねるのは野暮だろうね)
「さっきの話だと考古学部に連絡入れるんだろ。しなくていいのか」
「そうだねそろそろ連絡を……」
水月がそう言いながらスマホを取り出そうとしたとき、部室のドアがまた開く。 歌唱部に来る前に、依頼をチェックしに行った陽太と颯馬が入室した。
「こんにちは! 遅くなりました!」
「水月先輩、申し訳ありません。依頼なのですがめぼしい物を見つけられませんでした」
「ごきげんよう、ふたりとも」
「颯馬、今日は空振りで大丈夫だぞ。依頼はさっき引き受けたからな」
「もしや水月先輩が貰ってきたんですか?」
「いや僕じゃないよ」
「な!? 燎……成長したじゃないか。驚きだぞ」
ありえないといった表情の颯馬。
「一乗谷が助けを求めてきたんだよ。あと先輩を呼び捨てにすんな」
「なんだ……ようやく水月先輩のペットを卒業したと思ったんだが。思い違いか」
「てめぇまでペット呼ばわりかよ!」
「その様子だと一乗谷先輩にもペットと呼ばれたようだな」
「おいこらいい加減にしろ」
「ちょっとちょっと! ふたりともダメですよぉ」
燎が立ち上がろうとしたため陽太が慌てて割って入る。
「颯馬、今回の依頼は燎もやる気になっているんだからそのぐらいで止めておくれ」
「ほう。一体どのような依頼なのですか? 燎がやる気になるなんて初めてではないですか」
「もうすぐ実施される持久走大会コースの美化の協力だよ。人手が足りないとの事でね」
「美化ってことは掃除なんですね」
「そうだね。陽太にも頑張ってもらうよ」
「はいっ」
「そんな仕事でやる気になったとは。燎、成長したじゃないか。賞賛に値するぞ」
「後輩のくせに上から言うな!」
「ほかにも鷲帆先生に頼んで考古学部にも協力してもらうつもりだからね。今、わたしから連絡しようと思っていたところだよ」
「おっと、余計な時間をとらせてしまい申し訳ありません」
「あ、鷲帆先生なら考古学部にいると思いますよ。さっきそう言ってました!」
「ありがとう陽太。なら、今から考古学部に行って直接話をしてくるよ。そのほうが手っ取り早そうだ。では行ってくるよ」
「いってらっしゃい!」
部室から出て行く水月。
「俺も行くわ」
すると歌唱部から出た水月の後を追うように、燎も立ち上がると走っていった。
「水月ー、待ってくれ俺も行く!」
「ふふ、本当にやる気があるようだね。じゃあ一緒に行こうか」
「腹減ったからパン買いに行く���いでだっての。俺が行ってもやるこたぁねぇだろ」
廊下から聞こえる声。そしてふたりは話をしながら考古学部に出向いていった。
「んーなんだこれは」
「どうしたの? 颯馬」
「あいつは何か悪いものでも食ったのか?」
「あはは……とりあえず、収録の手伝いお願いしたいんだけど、いいかな?」
「了解。しかし……理解に苦しむな……気でも狂ったとしか思えん」
陽太は困惑している颯馬に苦笑しながら部室に設置された録音ブースに入っていったのだった。
END
執筆作業中の息抜きに書きなぐったヤツです。仕事で絵を描く人が息抜きに絵を描くじゃないですか? あれやってみたいなと。完全創作だと思考の切り替えが大変なんですけどこれなら去年すでにエンジンかけたあとですからね。余計な頭使わないので。まぁまた気まぐれに投下します。
そういや一週間で消すとかいってた様な気がしますがいつから一週間なのか考えてないんですよね。なんて。
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kobotakeya · 5 years ago
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『水泳部にて』
※あくまで二次創作であります。公式とは違いますので設定等変わっている所もあると思いますのでご注意くださいませ。
ACTORS二次創作ショートノベル
『水泳部にて』
水泳部部室から通路をちょっと進んだ先にある競泳用プール。鯆澄や一兎が練習メニューをこなし黙々と泳いでいるのに尻目に、後輩たちの泳ぎをチェックしているはずの鷹翌が、プールサイドでこれ以上なくふぬけた様子で大あくびをした。その後ろに立っていた竜之介は、書類をチェックしながら鷹翌のその様子を見ていた。
鷹翌は水泳の才能なら水泳部の歴史の中でも飛びぬけたものを持っているのにも拘らず、気分屋が過ぎてしまい、まともに成績を残せた事が最近ない。
水泳部はもとも部員の数が多かったものの、最近はほかの部活の人気に押されてしまっていて現状部員が4人しかいない。近年高い成績を残している部に生徒が相当数集中しているか、個人サークルのような少人数部活しか現状天翔学園にはなく、水泳部は後者にあたる。
歴史ある水泳部であってもわずか2~3年で没落してしまうのは天翔学園の部活ポイント制度が主な要因ではあるが、部長でありながら遊び呆ける鷹翌が水泳部の凋落を招いてしまっているといっても過言ではない。
現状部活ポイントのほとんどを鯆澄が稼いでいる状況で、しかしそれだけではランキング降格の恐れが出てしまっている。戦力がたった三人しかいない水泳部では、数で勝るほかの部活には相当な成績を残さないと対抗できないためだ。
次の県大会予選で、鯆澄だけでなく鷹翌か一兎が予選を勝ち抜かないといけない危機的状況となっており、しかし一兎もまだまだ発展途上で確実に計算に入れられないとなると、部長である鷹翌に活躍して貰う必要があった。
竜之介はこの危機的状況を回避すべく彼にこう話かけた。
「鷹翌、ちょっといいかな」
「おう、どうした竜之介。新しいナンパエリアでも見つけたか?」
「今日はその話はなしね。水泳部存続に関する大事なお願いがあるんだけど」 竜之介はそういいながら開いたファイルを閉じる。
「大事なお願い? なんじゃそりゃ」
「鷹翌……部長なんだから水泳部の状況を把握しておいてよ」 困り顔で鷹翌を責める。
「なんかあんのか? いつも通りだろ」
「鯆澄や一兎には頑張って貰っているけどね、そろそろポイントが足りなくなってきているんだよ」
「ああ、そっちの話か。俺にも頑張って泳いでくれって事だな」
「分かってるじゃない。次の県大会予選で、鷹翌には県大会の切符を手に入れてもらわないといけない」
「ったくめんどくせぇなぁ。あんま気分乗らねぇんだよなあ」  鷹翌は頭をポリポリと掻いて嫌そうな顔をする。
「鷹翌」
「な、なんだよ急に怖い顔してよ」
「気分が乗らなくてもこのノルマは必須だよ。そうしないとランキングが維持できなくなるからね」
「そうなのか? まあでもいいじゃねぇか。多少下がったぐらいなんも変わらんだろ」
「それが変わるんだよ。多分今のままだとこの部室からさようならしなきゃいけない」
「まじか?」
「まじ」
「次の部室はプールから遠くて広さも半分になるだろうね」
「ここはどうすんだよ? プール使わないとこの部室使っても意味ねぇだろ」
「最近部員が増えてきている水球部が手狭らしくってね。ここを上級生用に使うんじゃないかって話が出てるよ」
「おいおい、洒落になんねぇじゃないかよぉ」 ようやく事の重大さに気付いた鷹翌。ちょっと焦っているようだった。
「だから鷹翌に頑張ってもらわないとね。ほんとなら……僕が泳げればいいんだけどね」
「わ、わかった竜之介。そんな悲しい目をするな」
「じゃあそこで欠伸してないでちゃんと泳いでよ」
「しゃあねぇなぁ。ったく、なんでこんなになっちまったんだよ」
「清洲くん」
「う、俺、なんか不味い事いったか!? 名字で呼ぶなんてよ」
「他校から清洲鷹翌がなんていわれているか知っているかな?」
「い、いやわからねぇ。天翔学園のナンパ王とか?」 威圧的な竜之介にたじろぐ鷹翌。
「ふざけてる?」
「スマン! ふざけてません!」
「キミはね、ほんと凄いんだよ。それは分かってる。1年生のとき初出場の予選会でいきなり大会新記録出して全国までいったんだし。それにやる気があるときは余裕で優勝してるしね」
「なんだよ分かってるじゃネェか。ちょちょいとやる気出しゃなんとかなるって」
「でもね、そのやる気があった時がどれだけあった?」
「ん、たぶん……8回かな」 自信なさそうに答える鷹翌。
「3回」
「いや5回……」
「3回」
「そんなに少なかったか?」
「うん。たったの3回だよ。あれだけたくさん試合に出てね。1年生の頃は清洲鷹翌が出てくるだけで他校は勝つのを諦めてたぐらいだったのにね」
「今もそうじゃないのかよ」
「当たり前だよ。1年で2回、2年で1回、3年生になった今一度も勝てていないよ」
「ま、まぁそうだけどよぉ」
「それでね、他校の生徒は鷹翌のことを滅多に当たらない宝くじみたいなもんだから対策も必要ないってね。そう言われてるんだよ」
「俺は宝くじだってのか?」
「まず当たらない……要するにやる気出さないから勝ちはしないってね」
「なんだか腹が立ってきたな。そんなレッテル貼りやがってよぉ」
「だから他校の生徒じゃなくて自分に腹を立ててよ」
「わーってるよ!」
「あと数えるぐらいしか試合はできないんだから、せめて鯆澄や一兎にいいところを見せないとね」
「そうだな。偉大な清洲鷹翌を目に焼き付けてやらないとな」
「もし次の試合県大会まで出られたら、僕が知人から教えてもらったナンパスポットを教えてあげるよ」
「ほんとか!? というかさっきナンパの話はなしって言ってなかったか?」
「それとこれとは話しは別。それに嘘はつかないよ。チェックしに行ってみたところ女生徒が随分多くいたのを確認したよ」
「おお、ほんとにほんとなんだな!!!」
「うん。だから勝ってランキングの維持に貢献してよ」
「よっしゃ! ヤル気出たぜ! マーックス!!」
「マーーーーーックス!」 泳ぎ終わりプールから上がっていた一兎が真似をした。
「先輩、いったいどうしたんですか」 続いて鯆澄がプールから上がってくる。ゴーグルを外すと目が輝いていた。
「おう! 次の予選会は勝つことにしたぜ。なんか勝たないと不味いらしくてな」
「マジすか!? 鷹翌先輩やる気出してくれるんスか!?」 鯆澄が驚きつつも嬉しそうにそう言う。
「そうだよ。水泳部のランキング維持のために鷹翌が一肌脱いでくれるそうなんだ」 竜之介は少し嬉しそうにそう付け加えた。
「うおおおお! 鷹翌先輩の本気が見られるっス!」
「お前、俺の本気そんなに見たかったのかよ」
「見たいに決まってるじゃないスか」
「ふーん、鷹翌って本気じゃなかったの? オレも見たいー!」
「そうかそうか。一兎も見たいか。よし! いっちょやるか。泳ぐぞお前ら!」
「ういっス!」
「鷹翌ぉ競争しよ!」
鷹翌は後輩二人を引き連れるとプールに飛び込んでいった。そして騒がしかったプールサイドが静かになった。
そしてようやく上手く話が進んだ事にほっとした竜之介は、ふたたびファイルを開いてスケジュールの再確認をし始めた。
「ようやく清洲がやる気になってくれたようだね。目処は立ちそうかな?」 事が済んだのを確認したかのように、鷹翌たちがプールに飛び込んだのを見計らい牧がプールサイドにやってくる。
「はい牧先生。なんとかなりそうです」
「いいね。私も一安心だ」
「先生から教えてもらったナンパスポット情報はご褒美として有効でした。しかしこんな情報教師が生徒に教えていいのですか?」
「大丈夫だよ。それっぽい場所だけどね。まずナンパできるような場所じゃないからね」
「確かにそうですね。あそこは第五学区のすぐ近くですからね。あんなところでナンパしたら榊ノ木の女生徒たちから袋叩きですよ。先生も人が悪い」 苦笑いする竜之介。それは想像に容易い結果であった。
「女性が多いのは事実だからね。間違ってはいないだろう?」 にやりとする牧。
「ふふ。予選で勝てたらポイントの量、多めにお願いしますね。たぶんですが鷹翌がちゃんと勝てても当落線上ギリギリかもしれませんので」
「承知��るよ。そこは任せておいてくれたまえ」
「ありがとうございます」
「では引き続き部をよろしく頼むよ。花隈のマネジメントが頼りだからね」 そう言うと牧はプールから去っていった。
「鷹翌! ちょっと用があるから部室に戻るよ。ここは任せるから鯆澄たちをしっかり休ませながらトレーニングしておいて!」 竜之介はプールに向かって大声で叫んだ。
「わかったぜ! お前らは泳ぎっぱなしだから少し休んどけ」
「ういっス」
「えーもっと泳ぎたいよぉ」
「一兎、休まないと疲れて泳げなくなるって何度も言ってるだろ? さっさと鯆澄と一緒に上がれ」
「うーん……分かった」
鷹翌たちの返事を確認すると、彼らのやり取りを聞きながら牧に続いて竜之介もプールから消えていったのだった。
END
あけましておめでとうございます。先日呟いた水泳部の話を膨らませてみました。思いつきで特に何も考えずに書いたため、ただの日常のいちシーンを切り取っただけの構成になっておりますがいかがでしょうか?
今後も気まぐれにこういうのを投下出来ればと思っております。リクエストも受け付けますが、頻繁に書ける訳ではないと思いますのでそこはご了承くださいませ。
またここに投下したものは一週間ほどで消します。残すものではないと思いますので。
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