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kuborie · 1 hour ago
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全国で展開された反対運動 地方議��署名は1233人
 「選択的夫婦別姓は家族が崩壊し、日本が滅亡する恐ろしい法案だ。我々は決して許してはならない」「知り合いに伝えて、参院選で真っ当な国会議員に一票を入れることが夫婦別姓を防ぐ一歩だ」
 通常国会の会期が残り1カ月余りとなった5月11日、岡山市で開かれた別姓制度の問題点を学ぶ勉強会で主催者は制度導入に反対するように呼びかけた。主催したのは民間シンクタンク「日本政策研究センター」の支部である「平成ビジョンの会」。同センターの代表である伊藤哲夫氏は故・安倍晋三元首相と近かったことで知られ、保守系の運動団体である日本会議の常任理事を務める。ゲストには、制度導入に反対し安倍氏側近だった自民の衛藤晟一参院議員が招かれ、地元県議や市議ら約50人が参加した。
 同センターの担当者によると、全国で地方議員や団体などを対象にこうした勉強会を実施。街頭活動などで配布したリーフレットは約6万枚にのぼり、反対運動を展開したという。
 こうした動きは自民所属の地方議員にも広がった。中心となったのは日本会議に所属する都道府県議らでつくる「日本会議地方議員連盟」だ。
自民党の森山裕幹事長(中央)に旧姓使用の法制化を求める要望書を出した日本会議地方議員連盟の幹部や自民議員ら=6月6日午後、自民党本部、笹山大志撮影
別姓の導入阻止に動いた日本会議
 「これだけの自民議員が夫婦別姓に反対している。もし自民党が賛成するなら、参院選でこの地方議員たちは動かない」。4月21日、議連幹部は自民の地方議員1647人(都道府県議・政令指定都市議)のうち約75%にあたる1233人の反対署名を携え、森山裕幹事長に迫った。別の日には、党の検討ワーキングチーム(WT)座長の逢沢一郎衆院議員にも直談判した。
 日本会議は1997年、「日本を守る国民会議」と「日本を守る会」が合流して発足。前身の団体時代から憲法に家族を尊重する家族条項の導入を訴えるなど、家族の絆を重視してきた。その前年��、法相の諮問機関「法制審議会」が別姓制度の導入を答申しており、「夫婦別姓は家族を破壊する」として反対運動を展開してきた経緯がある。
 今回、運動を活発化させたのは制度導入が現実味を帯びたからだ。昨年の衆院選で自民は少数与党に転落。衆院法務委員会の委員長ポストを立憲民主党に奪われ、立憲の野田佳彦代表は「自民党を揺さぶる意味では非常に効果的な委員会だ」と意欲を見せていた。
日本会議などが主催した別姓制度に反対する国民集会。自民党や日本維新の会、参政党、日本保守党など与野党の議員が参加した=2025年3月12日午後4時21分、国会内、笹山大志撮影
 団体の動きに、自民の国会議員は呼応した。WTの幹部が「知恵袋の一人」と挙げたのが日本会議の政策委員長を務める日大名誉教授の百地章氏だった。
 百地氏は、別姓導入を認めず、旧姓を併記した住民票などの公的証明書を提示すれば、他の公的・私的書類には旧姓の単記使用だけでも可能とする「百地案」をまとめた。その後、WT幹部がいくつかの独自法案を準備する過程で、百地案が参考にされたという。
 結局、自民は党内の分断を回避するため独自案の提出は見送ったが、WTが最後に取りまとめた「基本的考え方」では「旧氏の単記も可能とする法制化を含めた基盤整備」の文言が入るなど通称使用の拡大に重きが置かれた内容になった。
 WT幹部は「もう少し(別姓)推進派に寄り添った文言があってもよかったが、自民の多くの議員が保守系団体に支えられている。参院選前に自ら支持基盤を壊すことは出来なかった」と振り返った。 選択的夫婦別姓の賛否にみる年代差、若年層は? 高齢層はどう変化?
 「選択的夫婦別姓」についての全国世論調査(2月15、16日実施、電話)の結果を分析伝えます。どの世代も賛成が反対を上回りましたが、年代ごとの「賛成」率には、大きな開きがありました。その要因はどこにあるのか、掘り下げています。
別姓制度の問題点を学ぶ勉強会で講演する衛藤晟一参院議員=2025年5月11日午後3時56分、岡山市内、笹山大志撮影
夫婦の姓をめぐる自民党の議論と保守系団体の主な動き
1月30日 日本会議地方議員連盟幹部が森山裕幹事長らに旧姓の通称使用の法制化を要望 2月5日 自民党議員の政策集団・創生日本が通称使用拡大で進めていくことを確認 2月12日 党が「氏制度のあり方に関する検討ワーキングチーム(WT)」で議論開始 3月12日 日本会議などが主催し、通称使用の法制化を求める国民集会を��催 5月30日 衆院で野党が提出した別姓制度の導入法案が28年ぶりに審議入り 6月3日 党WTが「基本的考え方」を党総務会に報告し、結論の先送りを確認 6月6日 日本会議地方議員連盟幹部が、森山氏に参院選公約に旧姓使用の法制化を明記することなどを盛り込んだ要望書を提出
BossB (天文物理学者・信州大准教授) 2025年6月27日9時31分 投稿 【視点】
夫婦の姓が異なるだけで崩壊するような国は、もう元から崩壊している国です。   もしかしたら、「天皇制が崩壊する?」との主張でしょうか?夫婦の姓が異なるだけで崩壊するというなら、天皇制はもうすでに崩壊寸前なのでしょう。   もしかしたら、保守の方々の「伝統的価値観」(男女の役割分担、差別構造を含む)が崩壊する、と言いたいのでしょうか?それなら、むしろ崩壊させなければなりません。   今から未来を担う女子・女性たちは、そんな価値観の中では、子どもを産んでくれませんよ。科学・物理的に言って、女子・女性は精子さえあれば次世代を創っていけます。家族・結婚制度、伝統的男女観など、一切必要ありません。   また、夫婦の姓が異なるだけで崩壊する家族は、同性でも別姓でも崩壊します。
金?和 (韓国在住のメディア人類学者) 2025年6月27日10時39分 投稿 【視点】
選択的夫婦別姓をめぐって「子どもがかわいそう」「家族が崩壊する」といった反対意見ばかりが大きく取り上げられ、「性平等を実現する大事な一歩」「多様化する家族形態を反映する制度」といった賛成側の意見が、十分に報じられていないように感じる。また、夫婦同姓をいまだに「原則」として法制度に組み込んでいる国は、民主主義を基盤とする先進諸国の中では日本だけであるという事実も、ほとんど報道されることがない。 今回の記事も、客観的な事実を伝えていると自評するかもしれないが、実際には反対意見だけ詳細に紹介する一方で、賛成意見についてはほとんど触れておらず、読者に「反対する理由が十分にある」という印象を与えてしまっているように思う。選択的夫婦別姓がいまだに実現していない背景に、重要な人権問題さえ、単なる「賛否両論の論争」にしてしまう報道のあり方にも関わっているのではないか。
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kuborie · 19 days ago
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【前編】ロシアVS.ウクライナ トランプ、プーチン、ゼレンスキー「終わりなき戦争の落としどころ」
6/7(土) 8:00配信 FRIDAY 戦争から見えてきた”国民性の違い”
ロシアによるウクライナ侵攻から3年あまりが経過した。アメリカのトランプ大統領(78)が停戦調停に乗り出し、両国代表団による3年ぶりの直接交渉も行われたが、物別れに終わっている。
この戦争に落としどころはあるのか。ロシア、ウクライナ情勢に詳しい筑波大学の東野篤子教授と東京大学の小泉悠准教授が見ている未来とは――。
小泉 この戦争を通じて両国の国民性の違いが際立ってきました。
東野 ″諦めるロシア人″と″諦めないウクライナ人″ですね。「プーチンが戦争始めちゃったんだから、しょうがない」とロシア人が抵抗せず、戦時経済にアジャストしているのは諦めがいいから。
小泉 ロシア人は一度諦めると、どんな辛い状況にも耐えられる。それがロシアの強さだと思います。
東野 現実に合わせて生き抜くためにはどうすればいいかがわかっている。ある意味でリアリストなんです。対照的に、どれだけ犠牲が出ようとも不条理に立ち向かい、”悪い奴は叩きのめす”と考えるのがウクライナ人。
小泉 では、開戦前に対ロシアでウクライナ国内がまとまっていたかと言えば、決してそんなことはなかった。
東野 ロシアという国民共通の敵ができたことでウクライナはまとまりました。開戦からの3年で、猛烈な勢いで国民形成できた。
小泉 政治学者��ネディクト・アンダーソンが『想像の共同体』で提唱した国民の形成過程を100年遅れで見ているような感じですよね。国民って実は人工的なもの。沖縄だって、歴史が違っていたら外国だったかもしれない。けれど今は、日本人であることを誰も疑わない。ウクライナもロシアとの戦争前は、ドンバス地方の住民とリヴィウ州の住民は違う方向を向いていた。いま、ウクライナ人として団結できているのは、プーチン大統領(72)のおかげと言えるかもしれない。
東野 ドンバスの親露派の人たちは裏切られた思いでしょうね。ロシアに忠誠を誓っていたのに、SNSの書き込みまでチェックされるフィルタレーション(濾過)キャンプのような検査をされた挙げ句、拘束されたりしていますから。
小泉 欧米の支援を受けているウクライナに対し、ロシアが単独で3年も戦争を続けられていることを不思議に思う人は多いですよね。どうやって兵士を集めているか? これはロシアがとてつもない格差社会であることが大きい。ロシアのエリートって物凄く教養があってしかも平気で5?6ヵ国語をペラペラ話せる超絶エリートなんですよ。 その一方で、普通の労働者たちの教養レベルは想像もつかないぐらい低く、酷い暮らしをしている。世帯平均月収は6万円ですから。そういう人たちがお金に目がくらみ、軍に志願する。超低賃金でなんとか食いつないでいた人が一攫千金を夢見て志願しているのです。今、ロシア軍に志願すると月給60万円もらえます。
東野 10倍!
小泉 自治体によりますが、志願した時点で100万?300万円の祝い金が出て、戦死すると家族に300万円ぐらい支払われる。花火が上げられ、市長が″彼は立派な人間だった″と褒めてくれる。社会の底辺で生きていた人が英雄になれるんです。
東野 未払いの話もあるじゃない?
小泉 全体的には支払われているようですが、負傷者に対する補償金がどうも未払いになっているようです。前線の映像を見ていると松葉杖をついて歩くロシア兵が出てきます。国防省に負傷者として認めてもらえず、除隊させてもらえないのでしょう。ウクライナ軍が撮影した映像には、片足がない兵士が杖をつきながらヨロヨロと逃げているところに自爆ドローンが突っ込んでいくものが��くつかあります。松葉杖の負傷兵を殺して「やったぜ!」と喜んでいるウクライナ兵を見ていると、いかに戦争で人間が荒んでいくかがわかります。
『FRIDAY』2025年6月6日・13日合併号より
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kuborie · 2 months ago
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トイレ掃除、草むしり…悲劇招いたJR西の懲罰的管理 「日勤教育」の根底は誤った人間観 企業体質は変わったか JR福知山線脱線事故20年㊤ 2025/4/21 19:00
「鉄道ってね、(時速)130キロで走っている鉄の塊なんです」
今月11日、JR西日本社員研修センター(大阪府吹田市)。運転士などを目指す職種の新入社員約40人を前に、講師の森井健司(41)がこう語りかけた。
森井が強調したのはルールそのものではなく、ルールがなぜあるのか、それが守ろうとしているものに思いを巡らせること。「いろんなハードが充実してきたが、最後にそれを守るのは人です」
20年前の平成17年4月、快速電車がまさに鉄の塊と化したのが兵庫県尼崎市で起きたJR福知山線脱線事故だった。制限速度70キロの右曲線に116キロという大幅な速度超過で進入、1~5両目が脱線し、運転士を含む107人が死亡した。
新入社員はセンターに隣接する「鉄道安全考動館」でその事故現場を正確に再現した巨大ジオラマ模型も見学する。その生々しさに青ざめ、倒れ込��新人も少なくない。
研修に参加した安東茜音(18)は父親もJR西の現役運転士。「改めて責任の重い仕事に就くんだなと実感した」と神妙な様子で話した。
脱線事故はその発生当初から、運転士個人の異常運転では片付けられない、同社の体質に根差した「組織事故」と言われた。その象徴が、同社の運転士管理手法「日勤教育」だった。
運転室の赤鉛筆
事故列車の1両目は、線路脇のマンションの壁面に衝突し大破した。運転室の遺体のそばには、直前に外したとみられる右手袋と、赤鉛筆が落ちていた。
国土交通省航空・鉄道事故調査委員会(事故調、現運輸安全委員会)の報告書によれば、運転士のブレーキ使用が遅れたのは、車掌と輸送指令員との交信の傍受に「特段の注意」を払っていたためと推測される。
直前停車駅の伊丹駅で停止位置を72メートル行き過ぎるオーバーラン。定刻を1分以上遅れていた。「まけてくれへんか」。運転士は総合指令所に報告する車掌に〝過少申告〟を依頼した。
車掌は無線で指令員を呼び出し「えー行き過ぎですけれども、およそ8メートル…」と虚偽を告げた。事故発生はこの交信の直後。報告書は、このやり取りをメモするために運転士が赤鉛筆を取り出した可能性を挙げている。 「次は危ない」
運転士が虚偽報告を頼んだのはミスをした場合に受けさせられる「日勤教育」を恐れたためだとみられる。前年に起こしたオーバーランで13日間の日勤教育。「次は危ない」と乗務から外される不安も漏らしていた。
「教育というより懲罰」。当時の日勤教育の実態について、JR西の複数の乗務員はこう口をそろえる。社内規定の書き写し、トイレ掃除、草むしり…。教育とは名ばかりの「見せしめ」の意味合いが強かった。
ある40代の男性運転士が「敵対労組に入っていると期間も長くなった。組合からの脱退工作に利用された」と証言するように、日勤教育は、国鉄労働組合(国労)やJR西日本労働組合(JR西労)など会社と対立する組合員への統制の側面も持っていた。
国鉄時代の労使対立を踏まえ、職場管理と信賞必罰を重視した結果、精神論が幅を利かす素地ができた。JR西の問題はそんな組織風土にあったといえる。
JR福知山線脱線事故から2年が経とうとする平成19年2月。最終報告書の取りまとめに向けた国土交通省航空・鉄道事故調査委員会(事故調)の意見聴取会に、当時のJR西日本副社長(鉄道本部長)、丸尾和明が公述人として出席した。
「ヒュー���ンエラーを発生させた乗務員に対して、個々の事故や個人の特性に即した再教育を行い、再乗務させることは、鉄道事業者としての安全を守るための責務であると考えております」
丸尾の口から飛び出したのは事故直後から非難の的になっていた日勤教育の全面肯定論だった。日勤教育はその期間中、勤務種別が「乗務員」から「日勤」に切り替えられ、乗務員手当などが支給されないことからそう呼ばれたが、JR西側は乗務員の「再教育」と称していた。
丸尾は公述の中で民事訴訟における裁判所の判断も持ち出し、「有用性が認められている」と強調、事故調委員らを唖然(あぜん)とさせた。
丸尾はさらにこう続けた。「私どもは、鉄道の常識として、運転士が曲線の制限速度を大幅に超えて運転するということはないものと考えておりました」
脱線事故は「組織事故」などではなく、異常な運転をした個人の責任に帰すべきもの-。「鉄道の常識」という言葉には「事故調に何が分かる」と言わんばかりの、自負すらにじんでいた。
誤った人間観
「ミスをした人間を叱りつければ、エラーを起こさないようになる。そんな誤った人間観が会社の根底にあった」。鉄道の安全問題に詳しい関西大名誉教授、安部誠治(72)はそう指摘する。丸尾の公述は強い批判を浴び、それを許したJR西経営陣の人間観のズレを、白日のもとにさらす結果となった。
JR西はその後、脱線事故の遺族らも参加した「安全フォローアップ会議」などの議論を経て、人間は必ずミスを起こすというヒューマンエラーを前提とした制度設計にかじを切る。28年4月からは鉄道事業者としては初となる「ヒューマンエラー非懲戒」の制度もスタートさせた。
ただ、その2年後には第三者評価機関から「過度の組織防衛的、権威勾配(こうばい)的組織風土」の改善を求められてもいる。根性論からの脱却を誓ったものの、時にかつての権威主義的な残滓(ざんし)が頭をもたげる。それがJR西の現在地といえる。
「安全への仕掛けと仕組みはできているように思う。あとはそれを落とし込んで人づくりをすること。人を変え、安全意識の向上を促す社員教育を繰り返すしかない」と安部は言う。(敬称略)
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kuborie · 2 months ago
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「女さん」「子どもを守れ」… 〝犬笛〟が飛び交う社会で生きるには
哲学者・三木那由他=寄稿2025年4月14日 16時00分
Re:Ron連載「ことばをほどく」(第12回)
 選挙におけるSNSの使用が話題になることが増えた。これは、言葉というものが持つ影響力に多くのひとが注目しているということでもあるだろう。虚偽を語る、人々を扇動する、あるいはそうしたことに抵抗する、……。SNSやブログ、動画配信等を通じて容易に多くのひとに言葉を届けることができるようになった世界で、言葉のポリティクスはその悪しき面においても善き面においても、ますます重要性を増している。
 さて、そうした文脈で「犬笛」という単語を目にすることがある。
 犬笛とは、もともとは犬の訓練用に使われる笛のことを指す。犬は人間と異なる可聴域を持っているが、犬笛は人間には聴こえないが犬には聴こえる音を発するようにできている。それにより、人間は気づかない音を使って犬にさまざまな指示が出せるようになる(これを利用したミステリーのトリックなどがあったりする)。これが転じて、おおよそ「限られた集団の人々のみが理解できるメッセージを、ほかの人々には気づかれないように発する言葉」を「犬笛」と呼ぶようになった。
 近年、この犬笛という現象に哲学者も関心を寄せるようになった。例えば言語哲学者ジェニファー・ソールは2018年に「犬笛、政治操作、言語哲学」という論文を発表している(小野純一訳『言葉はいかに人を欺くか』〈慶応義塾大学出版会〉に収録されている)。さらにソールは、2024年にオックスフォード大学出版局より『Dogwhistles and Figleaves』(犬笛とイチジクの葉)という本を出版し、具体例を交えてさらに詳細に犬笛について分析している。日本でも、先日出版された藤川直也『誤解を招いたとしたら申し訳ない』(講談社選書メチエ)で紹介されている。今回は犬笛を取り上げてみたい。
 まずは具体例を見てみよう。
 ソールが取り上げて有名になった事例として、2003年のジョージ・W・ブッシュ合衆国大統領(当時)による一般教書演説がある。その一節で、ブッシュはアメリカ市民が持つ「奇跡を起こす力(wonder working power)」に言及している。これは、それだけ聞くとアメリカ市民の力強さを語っているだけに思えるが、実はキリスト教福音派で特徴的に用いられるフレーズであり、そのことを知るひとには福音派の思想へのコミットメントをこっそりと示す仕組みになっている。このように、ある人々にのみ隠れたメッセージを送り、それ以外のひとには素通りされるような言葉が、犬笛である。
 さらにいくつか、私が日本語における犬笛ではないかと疑っている例を挙げてみる。
----------
 【女さん】
 インターネットスラングとして用いられる。それだけを見ると女性を指す「女」に呼びかけの「さん」を付けただけのユーモラスな言葉に見えるかもしれないが、女性を「愚かしい存在」や「感情的な存在」として語るのを好むネットユーザーが主に用いており、ミソジニー的な言説の呼び水になっている。
 【生活保護の不正受給】
 「不正」である以上は確かに問題だと多くのひとが感じるであろう言葉だが、一部の排外主義者のあいだでは「外国籍の人間による生活保護の受給を減らせ」というメッセージを伴っており、特に在日コリアンや在日中国人への敵対感情を共有するような仕方で用いられている。
 【行き過ぎた〇〇】
 「〇〇」には「ジェンダーフリー」や「多様性」、「ポリコレ(ポリティカル・コレクトネス)」などが入る。文字通りに取れば「確かに何事もやりすぎはよくないな」と納得しそうなところだが、一部の保守層はジェンダー教育や人権運動自体への否定的見解をこの言葉に込める。
 【子どもを守れ】
 それ自体はまったくもって正しい言葉だが、一部の人々にとっては「子どもがLGBTQ+に関する情報に触れないようにしろ」というメッセージを伴っている。
---------- 二重の意味を持つ言葉
 犬笛について理解するためには、これがとりたてて特殊な言語実践ではないということを意識することが大事だろう。言葉が二重のメッセージを持つというのは、私たちが日常的に当たり前に経験している事象なのだ。
 後半では、SNSの言説やコミック、ゲームなどから具体的な例を挙げて、なぜ〝犬笛〟が用いられるのか、どう対処すればいいのかを考えます。
 例えばパロディという手法を考えてみよう。私の最近のお気に入り漫画のひとつに藤巻忠俊『キルアオ』(集英社)がある。中学生の姿になってしまった中年の殺し屋を主人公にしたコメディだ。そのなかのあるエピソードで、ファミリーレストランにいた主人公が2人組の強盗に襲われるものの、即座に強盗の銃を奪い取る、というシーンがある。そして主人公は唐突に「お前…聖書読んだことあるか?」と言い出す。
 これは、何も知らずに読むといきなり脈絡なくちょっとかっこいい台詞(せりふ)を言うだけのコミカルなシーンに見えるかもしれない。けれど、クエンティン・タランティーノの映画を愛するひとにとっては、こうした状況でのこの言葉は、完全に「パルプフィクション」の一場面の再現であるとわかり、そのことがより一層おかしみを生み出す(ちなみに単行本ではパロディ元を明示している)。これは、一見するとなんでもないやり取りにタランティーノのファンのみに宛てたメッセージを組み込む手法だ。
 また、「Vampire Survivors(バンパイア・サバイバーズ)」 というゲームも興味深い。怒濤(どとう)の勢いで攻め寄せるモンスターたちと戦って既定の時間を生き延びるというゲームだが、膨大にいる操作可能なキャラクターのひとりにジオヴァーナという人物がいる。作中の敵キャラ図鑑(ベスティアリー)にひっそりとこのキャラクターの設定が記されているのだが、英語版だとそこに「assigned mage at birth」という記述がある。日本語訳だとわかりにくくなっているが、これはトランスジェンダーやノンバイナリーの人々がよく使う「出生時に割り当てられた性別(assigned gender at birth)」という言い回し、特に「出生時に男性を割り当てられた(assigned male at birth)」をもじった表現であり、そのことを知っている人間にはジオヴァーナが「出生時には男性魔術師とされていたが、いまは魔女として生きている」存在だということがわかるようになっている。実際、英語圏の攻略情報では、ジオヴァーナはトランスジェンダーの女性と記載されていることが多い。
 これらの例は無害であり、一部の受け手に特に面白さを感じさせるということを目指したものだ。そしてこういう例が私たちの言語使用のあちこちに見られるということは、多くのひとが同意するのではないだろうか。言葉は常にすべての受け手に同じメッセージだけを持つわけでもなく、また言葉は常にひとつのメッセージしか担わないわけでもない。パロディはこの特徴を面白さの創出に用いた例であるが、犬笛はこれを政治的なたくらみとともに用いたものだと言える。 隠れたメッセージが広がるのは
 なぜ犬笛は用いられるのだろう? ソールは、「差別はいけないことだ」のような規範が社会的に共有されたことの結果であると指摘している(厳密には犬笛は差別のみに関わるわけではないが、ここでは差別に話を限定する)。現代の社会ではほとんどのひとが「差別はいけないことだ」ということに同意するだろう。ただ、具体的に何が差別と見なされるかという点については、理解が異なっていることが多々ある。そして、政治家などが不特定多数に向けて発言をおこなうとき、そうした異なる理解の人々が同時にその言葉を受け取ることになる。そうすると、一部の人々にとっては、(1)差別に加担する人々が喜ぶようなメッセージを送りつつ、(2)差別的であると指摘されてもとぼけられるような発言を練り上げるというのが合理的な手法となる。そこで登場するの��、犬笛なのだ(このあたりはHenderson & McCready 〈2024〉Signaling without Saying, Oxford University Press=https://global.oup.com/academic/product/signaling-without-saying-9780198886341?cc=jp別ウインドウで開きます&lang=en& に詳しい)。
 もちろん、犬笛は「聴こえるひとには聴こえる」ものであるが、「聴こえるひと」がすべて犬笛の隠れたメッセージに賛同しているとは限らない。むしろ、犬笛を理解しつつそのメッセージに批判的であるというひとは、多くの事例で見られる。
 ただ、重要なのはそもそも事情に詳しくない層である、とソールは言う。事情に詳しく、かつメッセージに賛同する人々と、事情に詳しく、かつメッセージに反対する人々のあいだには、通常そもそも事情に詳しくない多数の人々が存在する。
 隠れたメッセージの持つ重要な役割は、こうした層に属す人々に対して発言者が「そんなメッセージはないですよ、怒っているひとたちが感情的なだけですよ」というポーズを取ることを可能にする。そうすると、犬笛を含む発言は「一部のひとは気にしすぎるが、実際には害のない言葉」としてスムーズに広まるようになる。これは、隠れたメッセージに同意する人々にとっては自分たちの見解をそれとなく言説の市場に送り出し、結束を高めたり、思想を共有したりする手法として働く。SNSなどのインターネット上でのやり取りが増えた現代において、特に注目されている事象だというのが納得いただけるかと思う。 批判にとぼける発言者
 犬笛が飛び交う社会で、私たちはどうすればいいのだろう?
 犬笛の厄介な点は、それに気づいたひとが批判をおこなったとしても、発言者がとぼけられるというところにある(これは「否認可能性〈deniability〉」と呼ばれる特徴だ)。なので、正面から批判をしても効力は薄いのだが、とはいえ当然ながら、犬笛に気づいたひとが「批判してもとぼけられるだけだから」と諦めたところで、状況はよくならない。大事なのは、犬笛の仕組みを認識し、しっかりと適切な批判をおこなうことだろう。
 ソールは、犬笛にはメカニズムの異なるふたつの種類があると論じている。ひとつは、一部コミュニティでのみ用いられる特定の言葉がそれとなく使われている犬笛で、ソールはこれを「明示的な犬笛」と呼ぶ。ブッシュの「奇跡を起こす力」やインターネットスラングの「女さん」はこの例だろう。こうした犬笛は、そもそも一部のひとしか一般的には用いない特殊な語彙(ごい)を含んでいるため、その語彙がどのような経緯で生まれ、どのように用いられているかを比較的わかりやすい仕方で論じていくことができる。例えば実際にそのワードを含む文章をリストアップしていくなどといったやり方が可能だろう。
 ソールが挙げているもう一種の犬笛は、「隠れた犬笛」である。これは、何ら特殊な語彙ではないにもかかわらず、一部のひとの思想に響き、一定の感情を引き起こすようなものだ。「子どもを守れ」などはその一例だろう。それ自体は何も特殊な言葉ではないのに、これを用いることで反LGBTQ+感情を高め合うやり取りがある、というのが問題なのだ。こちらについては、特殊な符牒が用いられているわけではないので、批判が難しくなる。
『言葉はいかに人を欺くか』(慶応義塾大学出版会) 意図ではなく、その効果と文脈の歴史を示す
 いずれにしても重要なのは、犬笛を発言者の「意図」の問題にしないことだ。というのも、犬笛を含むメッセージを、別のひとがそれとは知らずに反復するということが、しばしば起こるためである。
 パロディも、ミーム化したようなものについては、それと知らず「どこかで見かけたから」と真似をするひとだっているだろう。しかし、たとえ当人は知らずとも、パロディ元を知っているひとがそれを受け取れば、そこにパロディのおかしみを見いだすはずだ。同様のことが犬笛にも言える。発言をした当人は犬笛に気づいていないかもしれないし、そしてそのことが誰の目にも明らかだということもあるだろう。それでも、犬笛を聴き取るひとはそれがもたらす隠れたメッセージを読み取り、それに反応するはずだ。
 そうすると、発言者が意味を理解しているかどうかや、意図的にそうしたメッセージを発するかどうかは、犬笛がもたらす影響を防ぐという観点からは本質的なことではなくなる。むしろ、犬笛の影響を減じるためには、「果たして発言者はそれを意図しているのか」という問題に入り込むのは事態を泥沼化させるだけの結果に終わる、ということもありうる。
 犬笛を批判するには、何よりもその犬笛が持つ効果と歴史を語ることが重要だと私は考えている。
 実際にその言葉がどういった効果を及ぼしているのか、これまでどういった人々がどういった文脈で使ってきたのか。
 意図の問題にしてしまうと、明らかに悪意を持っていないひとの発言を批判するのは困難になるし、また「あなたは犬笛を使っている」と指摘されたときに自分が悪意を持っていると言われているものだと受け取ってついかっとなることもあるだろう。その道に進んでしまうのは、あまり効果的ではなさそうだ。言葉のもたらす効果と使われてきた文脈の歴史を示すことに、より焦点を当てるべきではないだろうか。
 とはいえ、犬笛への対処については、まだ十分にわかっていない。ソールは「予防接種」が大事だと主張し、学校教育の段階でいくつかの犬笛に触れさせつつその仕組みを教えることで、犬笛への耐性ができるのではないかと論じる。それはもっともであるし、現在の社会で生きていくための知識としてこうした言語のポリティクスについて教育するというのは大事でもあるだろう。ただ、すでに大人になっている者がどうしたらいいかは、このアイデアからは見えてこない。それでも、できることをやっていくしかない。ひとまずは、効果と歴史という観点に注目した批判を目指すというのが、私に思いつく第一歩だ。
commentatorHeader 雨宮処凛 (作家・反貧困活動家) 2025年4月14日16時0分 投稿 【視点】
「犬笛」について、モヤモヤしている人は非常に多いと思います。 そんな犬笛についての分析には大きな発見がありました。 この原稿で指摘されている通り、厄介なのは「発言者がとぼけられる」ということ。 ちなみに「言葉のもたらす効果と使われてきた文脈の歴史を示すことに、より焦点を当てるべきではないだろうか」とありますが、ここに時間と労力をさける人はなかなかに暇人で、結局、暇人しか勝てないゲームなのか・・・とも思いました。
村山祐介 (ジャーナリスト) 2025年4月14日16時0分 投稿 【視点】
犬笛が取りざたされた例として思い出されるのが、トランプ米大統領の常とう句「法と秩序」(Law and order)です。トランプ氏を支持する���人層や、過激な白人至上主義者に向けた犬笛ではないかと米メディアで指摘されてきました。 ニクソン元大統領のキャッチフレーズとして有名ですが、トランプ氏も2016年の大統領選から多用し、一期目末期の2020年に白人警官が黒人男性の首を押さえて死なせた事件を機にBLM(ブラックライブズマター)運動が全米に広がると、自らを「法と秩序の大統領」と宣言してデモ隊の強制排除に乗り出しました。 「法と秩序」は米国では奴隷制時代に黒人奴隷の反乱を制圧する際に使われたとされ、私がペンシルベニア州で取材した黒人青年は「黒人にとっては特別な含意があり、大統領が使えば『黒人を制圧せよ』と言っているのに等しく、警察は『殺してもいいんだ』と受け止めるでしょう」と怯えていました。 発言者であるトランプ氏の「意図」はわかりませんが、記事が指摘する「差別に加担する人々が喜ぶようなメッセージを送りつつ、差別的であると指摘されてもとぼけられるような発言」には当てはまるといえます。
藤田直哉 (批評家・日本映画大学准教授) 2025年4月14日19時36分 投稿 【提案】
 これは面白い記事です。「犬笛」とはどういうものなのかを、文学的にはアイロニーなどと通じるような言語実践の観点から論じています。  ただ、ネットのミソジニーや差別を見ていると、相手の「意図」を問題にするのではなく「効果」を批判するのだ、というだけでは、対処できない事態へと進展しているように思います。オンラインミソジニーの扇動者たちは、本記事にある通り、自分たち自身で「犬笛」を吹くからか、相手にもそのような意図を読み取る傾向があります。そして、「意図」は問題ではなく、「効果」あるいは「当事者がどう思うかが重要である」というロジックを簒奪・転用し、実際に書いていない内容・反対である内容を「書いてある」と主張し、拡散し、印象操作などをするタイプの「犬笛」の吹き方をしているケースが多く見受けられるように思います(リベラルだ、フェミニストだ、自分たちの敵だ、さぁ攻撃せよ、という風に……)。  それ自体が、パロディのような、相手の方法論を転用し転覆させる行為なのかもしれませんが、「意図」ではなく「効果」の問題に注目する方向も(「こういう効果があるんだ!」「起きるかもしれない!」という主張を判断するメタ審級があるわけではないので)、決して十分な解決に繋がる方法ではないかもしれない。では、どうしたらよいのか。  テクストそのもの、文脈などの実在にこだわり、実証的に読んだり、それへの解釈の複数性を学んだり、まずは「何が書いてあるか」の物質性のようなものにこだわって、アンカーのようにすることで、恣意性や主観性の抑制を出来ないものだろうか、などと思ったりもしますが。
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kuborie · 4 months ago
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トランスジェンダーを追い詰める大統領令 その危険性を考える 「Tネット」共同代表・野宮亜紀【時事時評】 2025年02月18日12時00分
 多くの人は生まれた時に「女」または「男」と判断され、その一文字が戸籍などに記録される。しかし、指定された性別に違和感を抱き、身体の特徴を変える治療を受けたり、社会的に性別を変えたりして暮らす人もいる。トランスジェンダーと呼ばれる人々がそれだ。医学的には「性同一性障害」と呼ばれてきたが、世界保健機関はこれを「性別不合」という名称に改め、精神障害ではなく性の健康に関わる状態の一つとしている。
「社会の敵」に仕立てられるマイノリティー  トランスジェンダーへの認知は、日本でも少しずつ進んできた。九十年代から人権問題としての認識が広まり、医療体制も少しずつ整備されている。しかし今になって、逆風が吹いている。その源は米国と英国の政治的な右派勢力だ。
 運動家や政治家はネットを使ってデマやゆがんだ情報を流し、マイノリティーを「社会の敵」に仕立て上げる。そして、それらの人々を攻撃することで支持を得ようとする。米国の地方部では、宗教的な背景から、性と生殖について自由な選択を尊ぶ考えを忌避する人々が多い。だが、同性婚が認められ社会に暮らす同性カップルの存在が可視化されて、同性愛者を攻撃することは難しくなった。そこで目を付けられたのがトランスジェンダーだ。人口の1%程度と数が少なく、実態が知られていないトランスジェンダーは格好の餌食だった。
 トランスジェンダーの中には、出生と異なる性別で職場や学校へ通い、人間関係を築いている者も多い。ただ、望む性別で暮らしている当事者が、出生上の性別を公にすることは少ないだろう。公にすれば「もとは女」「本当は男」といった偏見がつきまとうからだ。このため、多くの人はトランスジェンダーのことをよく知らず、エキセントリックな女装の男性や男装の女性を想像してしまう。仲の良い男性(または女性)の友人���同僚が、出生上は女性(男性)だったかもしれないという可能性を考える人はまずいない。
突然、逆の性のトイレ使用を強要されたら…  しかし、トランプ大統領が就任早々に署名した大統領令は、市民が持つパスポートや連邦職員の人事登録を「受精時の」性に合わせるよう求めている。すでに望む性別で暮らしているトランスジェンダーの性別の登録は、生活の実態と矛盾する状態に変更される。また、連邦政府の施設に、人々が受精時の性にしたがってトイレを利用する措置を講じることも求めている。あなたの友人や同僚が、ある日から突然、逆のトイレを使うよう強制されることを想像してほしい。その人が取ることのできる選択は二つだ。「トランスジェンダーだ」と周囲にカミングアウトし、強制された方のトイレをトラブルに遭う覚悟で使うか、職場や施設のトイレを使うことを諦めて自宅から外に出ないか、だ。
 別の大統領令は、青少年への治療の禁止を促している。必要な治療がされないことは、自傷行為や成人後の社会適応の困難を招く。国際的なガイドラインによれば、二次性徴が始まっている若者の場合、性徴を一時的に抑える抑制療法の適用を検討する。身体の特徴を変えるホルモン療法はその後だ。未成年に対する性別適合手術はもとより推奨されていない。しかし大統領令は、生殖機能を失わない抑制療法も「去勢」と称し全ての禁止を促している。
後を絶たない単純化された議論とデマ  この問題が複雑なのは、子がマイノリティーであることを親が認めないケースがあるからだ。親の立場から治療を問題視する議論には注意が必要だが、多くの人は「親が言うなら間違いない」と思ってしまう。トランプ大統領の側近とも言われるイーロン・マスクにはトランスジェンダーの娘がいるが、二人は絶縁状態だ。マスクは自分の子がだまされて治療を受けたと主張し、本人はこれに反論している。
 スポーツについても、多くの人はトランスジェンダーの女性のことを「体が男だから女より強いはずだ」と考えてしまう。しかし、ホルモン療法を続ければ、外見も筋肉量も一般の女性に近づいていく。思春期に抑制療法を受けていれば、効果はより大きい。競技団体や専門家は、どのような条件なら女性競技への参加が可能かを長い間検討してきたが、ネットでは単純化された議論やデマが後を絶たない。
 これらを考える上では、二つのレトリックに注意したい。一つは「性自認と生物学的性別のどちらを基準とすべきか」というものだ。多くの場合、単純な二択は適用できない。例えば、トイレや浴場について当事者は「入ってもトラブルにならない方」を使うのが普通だ。それがどちらかは、その人の身体の特徴や生活の状況などにより個々に異なるし、そうでなければ混乱を招く。青少年への治療もスポーツへの参加も、答えはゼロか一かではない。
「女性を守る」という言葉のウソ  もう一つは、大統領令の中に記された「女性を守る」という言葉だ。このもっともらしいレトリックと裏腹に、それが示す方向は女性の権利の後退だ。右派は、性教育、妊娠中絶、性的マイノリティーを一貫して攻撃の対象としてきた。彼らにとって重要なのは伝統的な家族や共同体の立場から見た女性の身体的価値で、女性が自由に人生を選択することではない。青少年への治療の禁止と中絶の禁止は、この点で共通している。右派が守るのは、全ての女性ではなく貞淑な「女らしい女」だ。女子競技に参加するボーイッシュな少女が男だと非難され「女である証拠を見せろ」と言われる事件も起きている。スポーツについての大統領令署名を演出する際、大統領の周りに集められたのは長髪の少女たちで、スポーツチームによくいるはずの短髪の少女は見られなかった。
 大統領令が日本に及ぼす影響は未知数だ。そもそも日本では、トランスジェンダーの生活を守る法制度が欧米に比べて進んでいない。戸籍の性別を変更する法制度については多くの問題が指摘され、法改正が検討されているところだ。しかし、ネットでは「法改正によって、誰でも女だと言えば女風呂に入れるようになる」といったデマが飛び交い、いたずらに不安をあおっている。米国では毎年、二十人以上のトランスジェンダーが殺され、トランスジェンダーに間違えられて殺害されるケースも出ている。社会にとって本当の脅威は何なのか、一人一人が冷静かつ真剣に考える必要が生じている。
◇  ◇  ◇
野宮 亜紀(のみや・あき)1990年代からトランスジェンダーの自助・支援活動に携わる。現在、トランスジェンダーに関する情報発信に取り組む当事者ら有志によるネットワーク「Tネット」共同代表。神奈川大学非常勤講師。LGBT法連合会顧問。
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kuborie · 5 months ago
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ジェンダー・イデオロギーと闘う? 反トランスの大統領令を読み解く
群馬大学准教授・高井ゆと里=寄稿2025年1月30日 14時00分
 米国大統領に就任したドナルド・トランプは、初日から多くの大統領令に署名した。その一つが「ジェンダー・イデオロギーの過激主義から女性たちを守り、連邦政府に生物学的な真実を取り戻す」と題された大統領令である。
 トランスジェンダーの存在そのものを否定するこの大統領令は、言葉のうえでは「女性を守る」としているものの、その背景には「ジェンダー」を「イデオロギー」として敵視し、女性や同性愛者���権利を脅かそうとしてきた積年の右派運動が存在する。その運動の歴史をたどりつつ、大統領令が真に意味するところについて考えたい。
背景に「反ジェンダー運動」の歴史
 大統領令の表題にある「ジェンダー・イデオロギー」とは、研究者やジャーナリストが「反ジェンダー運動」と呼んできた右派政治運動で、広く用いられてきた概念である。
 反ジェンダー運動の歴史は1990年代中盤にさかのぼる。
 当時、国連の人口開発会議(カイロ会議、94年)や第4回世界女性会議(北京会議、95年)といった国際会議を通して、女性の人権としての「性と生殖に関する健康と権利(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ:SRHR)」が国際社会でも承認され始めていた。そしてそれは、フェミニズムの運動や理論を通して鍛え上げられてきた「ジェンダー」の概念が、女性に対して抑圧的な社会構造を指すための概念として、国際的に使われ始めるタイミングでもあった。
 女性や男性がもつ典型的な身体の特徴には、たしかに違いがある。しかしそうした「セックス(sex)」の違いがあるとしても、だからといって、女性は男性のみと性交渉すべきだとか、妊娠して子どもを産むべきだとか、そういった「べき」がそこから導かれるわけではない。にもかかわらず、そうした「べき」――すなわち性別にまつわる社会的期待――が文化・慣習・制度・経済・法律のなかに埋め込まれ、社会で「女性であること」や「男性であること」のリアリティーに深く影響を及ぼしている。このように、性別をめぐる社会的な構築物の存在を捉え、性差別を解消するための強力なツールとして、フェミニズムは「ジェンダ���」の概念を鍛えてきた。
 女性や(女性を含む)性的マイノリティーが、性と生殖の健康と権利(SRHR)を取り戻す闘いにとって、「ジェンダー」の概念は大きな役目を果たした。どんな身体に生まれようと、性や生殖について、ひとりひとりには自分で決める権利がある。「あるべき家族」のなかで、社会が期待する性や生殖の役目を強いられるべきではない。あるべき性行動や、あるべき生殖のありかたを「セックス」から一元的に決めようとする「生物学的決定論」から人びとを解き放ち、SRHRを取り戻す闘いは、他でもないジェンダー平等を求める闘いでもあった。
 しかし、SRHRが国際社会の承認を得ていったこのプロセスは、中絶を「罪」と捉える宗教右派や、人権教育としての性教育を「文化を壊す過激なもの」と捉える保守勢力にとって、大きな衝撃として受け止められた。そうして彼らは、SRHR(なかでも中絶へのアクセス)を抑止するための運動を国際的に展開し始める。
 攻撃の矛先は「ジェンダー」の概念そのものに向かった。「ジェンダー」の概念によってフェミニズムや性的マイノリティーの権利運動が勢いを得ているのだから、「伝統的な家族」の価値を重んじる彼らがそこに焦点を当てるのは必然でもあった。こうして始まったのが「反ジェンダー運動」である。
「道徳を腐敗させる」「男女の境界をなくす」
 反ジェンダー運動の旗手は、カトリック教会である。2002年、当時の教皇ヨハネ・パウロ2世は「性について、あるいは女性の尊厳や���命について、誤った考えに導く概念が広められている」と警告した。「『ジェンダー』についての特定のイデオロギー」が、それを広めているのだと。これが、現在まで用いられる「ジェンダー・イデオロギー」という語の起源とされる。
 「ジェンダー・イデオロギーは家族制度への攻撃であり、同性婚や中絶を認める法律は道徳を腐敗させる」。カトリック教会は00年代以降さかんにそうした主張を行い、「ジェンダー」を敵視しつつ「家族」の価値を守るための運動に多額の資金を投じた。つい昨年も、フランシスコ教皇が「もっともおぞましい危険はジェンダー・イデオロギーである。なぜならそれは、男性と女性の境界をなくすからだ」と述べている。
 彼らの認識では、男女の性差は社会的・歴史的な条件とは無関係に存在しているため、女性であることや男性であることのリアリティーに社会構築的な視点を持ち込む「ジェンダー」という概念や分析の視点そのものが、「男女の境界をなくす」イデオロギーだとみなされる。
 なお、このようにカトリック教会で「ジェンダー」が危険視されるようになったきっかけは、1997年にジャーナリストのデール・オレアリーが刊行した『ジェンダー・アジェンダ』にさかのぼる。同書では、「ジェンダー」は国際的なフェミニストの陰謀論であり、新しい植民地支配の道具であるとされていた。
写真・図版 2002年、バチカンで信者に語りかける当時のローマ教皇、ヨハネ・パウロ2世(右)=ロイター
 反ジェンダー運動の担い手は、カトリック教会に限らない。ナショナリスト・政治家・宗教団体など、それぞれの地域のアクターを巻き込みつつ、東欧、ラテンアメリカ、アフリカ、インド、そして米国などで運動を展開した。それにより、「世界家族会議」や「ファミリー・ウォッチ・インターナショナル」といった米国右派団体が、ガーナの反LGBTQ法の成立を支援するといったグローバルな連携がみられた。
 ある調査によれば、米国のキリスト教右派勢力が、生殖の権利とLGBTQ+の権利に対抗するために世界で費やした資金は、2007~19年の間だけでも280万ドルに上った。第1次トランプ政権が指名した最高裁判事らによって「ロー対ウエイド」判例が覆され、各州が独自の州法で中絶を規制・禁止できるようになったのも、米国における反ジェンダー運動の一つの「勝利」である。
中絶、性教育、同性愛…広がる攻撃対象
 反ジェンダー運動を理解する際に留意すべきことは、そこで攻撃の対象となる「ジェンダー」が「なんでもあり」である点にある。これまでみてきたように、「ジェンダー・イデオロギー」として攻撃される対象は、中絶の権利や(包括的)性教育、同性愛者の権利など多岐にわたる。
 しかし、これこそが反ジェンダー運動の強みである。とにもかくにも、市民社会の「常識」を破壊しようとする「イデオロギー」が存在し、性差にまつわる国家や宗教の価値観を破壊しようとしている――。そのような構図を作ることさえできれば、そこで敵対視される「ジェンダー・イデオロギー」には、どのような対象でも代入可能なのである。
 そんな反ジェンダー運動において、近年の主要な攻撃対象の一つがトランスジェンダーである。米国のキリスト教右派は、婚姻平等が最高裁で認められた15年以降、LGBを攻撃する��は得策でないと考え、「ジェンダー・イデオロギー」を体現する存在としてTに狙いを定めた。LGBTの連帯に亀裂をもたらし、フェミニズムを部分的に巻き込んで進められるこの政治戦略は、確かに功を奏した。ただでさえ人口が少なく、その生活の現実が誤解されていることも多いトランスジェンダーの存在は、人びとに「ジェンダー」の危険性を吹聴し、社会に分断をもたらす格好の材料となった。
 今回の大統領選挙でも、トランプ陣営はトランスジェンダーの存在を政治的な「火種」として用い、「トランスジェンダーの狂気を終わらせる」などと宣言した。「学校で子どもが性別適合手術を受けさせられている」といった虚偽も交えつつ、トランプは人びとの不安をかき立てる論争的なテーマ(トランスの女児のスポーツ参加や、未成年を対象とした医療など)を選び、トランスジェンダーの存在と権利を認めることは社会の「常識」的な秩序を破壊すると印象付けた。
 その戦略は、一昨年の時点ですでに確立していた。23年のサウスカロライナでのイベントで、トランプは次のように述べた。「私たちはジェンダー・イデオロギーというカルト宗教を打ち負かし、次の事実を再確認するつもりだ。神は、男性と女性という、二つの性別を創造したのだ」と。以上が、今回の大統領令を読みとくために不可欠の歴史的背景である。 トランスの人びとを概念のレベルで否定
 改めて、今回の大統領令に戻ろう。
 その表題は「ジェンダー・イデオロギーの過激主義から女性たちを守り、連邦政府に生物学的な真実を取り戻す」である。「ジェンダー・イデオロギー」という前半の表現だけでなく、後半の「生物学的な真実を取り戻す」という言い回しからも分かるように、これは反ジェンダー運動の思想を体現したものである。
 大統領令では、「男性(man)」と「女性(woman)」は、「オス(male)」と「メス(female)」と同義であるとされた。そのうえで、そうした「生物学的な性」とは異なる「ジェンダー」という新たな性別の枠組みを浸透させる「イデオロギー」によって社会の秩序が壊され、「女性」の安全や尊厳が脅かされていると主張する。
 この大統領令は、直接的にはトランスジェンダーを標的とする。およそ「性自認(ジェンダーアイデンティティー)」に一切の科学的・社会的な妥当性を認めず、出生時に割り当てられた性別とは異なるアイデンティティーや生活の現実を生きる人びとを概念のレベルで否定する、危険な文章である。日本の当事者団体であるTネットが、これを「トランスジェンダーの人びとの人権とその生活を深刻に脅かす危険なもの」と評するのも当然である。
 具体的な影響も懸念される。
 文字通りこれが実行されれば、連邦機関で働くトランスの職員はプライバシーを暴かれ、使えるトイレもなくなり、職場を追われる。刑務所に収容されたトランスの人びとは、最低限の医療すら奪われる。現実の生活に合わせて訂正したパスポートの性別欄は以前の表記に戻され、トラブルを経験する。
 そして、大統領がトランスジェンダーの存在を否定したのだからと、差別やハラスメント、暴力のリスクも世界中で増えるだろう。 大統領令の「女性を守る」は本当か
 しかしこの大統領令は、トランスジェンダーを否定するだけのものではない。これは、社会の基本的な在りかたを「セックス」に準拠させ、「ジェンダー」を「イデオロギー」と関連付け、「家族」に対する脅威として女性のSRHRやLGBTの権利を否定��てきた、反ジェンダー運動の一つの集大成なのである。
 さらに悪いことに、男女は「受精の時点で、身体で精子・卵子を作る性に属す人(パーソン)」として定義された。冗談に聞こえるだろうが、実際にそう書かれている。これは原文では「a person belonging, at conception, to the sex that produces the large/small reproductive cell」なのだが、この表現は受精の時点に人格を想定する点で、「胎児の人格性(fetal personhood)」や「未生の人格(unborn person)」に道徳的な地位を与える中絶反対派に秋波を送るものであると考えられている。
 「常識の革命」を掲げる米国大統領が、はっきり「ジェンダー・イデオロギー」を打倒すると宣言した。これから、この「ジェンダー」に様々なものが代入され、攻撃されるだろう。そこで失われるのは、トランスジェンダーの権利のみならず、LGBTQ+の権利であり、女性の健康と権利である。
 だからこそ、改めてはっきりさせておきたい。「女性を守る」と主張する右派政治家が、女性の人権を守ることなどありえないのだ。
高井ゆと里さん  たかい・ゆとり 群馬大学准教授。専門は西洋哲学、生命倫理学。ノンバイナリーの当事者で、トランスジェンダーの人権に関する発信もしている。著書に『ハイデガー』(講談社)、編著に『トランスジェンダーと性別変更』(岩波書店)、共著に『トランスジェンダー入門』(集英社)、『トランスジェンダーQ&A』(青弓社)。
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kuborie · 5 months ago
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「性別は男女のみ」 トランス否定の大統領令「公権力によるヘイト」 トランプ再来アメリカ大統領選挙2024
二階堂友紀2025年1月21日 20時06分
 米国のトランプ大統領は20日(日本時間21日)、「生物学的な男女」だけを性別として認めるとの大統領令に署名した。出生時に決められた性別と性自認が異なるトランスジェンダーや、男女の枠組みにあてはまらないアイデンティティーを持つノンバイナリーの権利を否定するものだ。米国で何が起きているのか。日本の当事者はどう受け止めているのか。
性別は「生物学的な男女のみ」トランプ氏、多様な性認めぬ大統領令  トランプ氏は支持者らに予告していた通り、就任初日に反トランスの大統領令に署名した。
 旅券など政府発行の身分証の性別記載は、出生時に決められた「生物学的な男女」とし、さらに「X」など男女以外の表記は認めない。刑務所や拘置所を出生時の性別で分けるほか、当局がホルモン剤など当事者に必要な医療を提供することも認めない。政府機関の男女別の空間を出生時の性別で分けるための措置や、「ジェンダーイデオロギー」に対する資金提供を終わらせる措置も求めた。このほか政府職員に出生時の性別に基づく申告を求め、学校における性的マイノリティーの生徒支援をうたった教育省の文書などを撤回させるとしている。
大統領選中から繰り返された、反トランス主張  「政治的な戦略によって、人口の1%程度であるトランスの人たちが攻撃対象にされ、公権力によるヘイトと言うべき状況が生まれている」。米国政治に詳しい三牧聖子・同志社大院准教授は指摘する。
 反トランスの主張は大統領選中から繰り返されてきた。トランプ氏の陣営は「カマラ(・ハリス前副大統領)は彼ら(They)のため、トランプ大統領はあなた(You)のため」というスローガンを掲げ、「カマラが大統領になれば、我々の税金が受刑者の性別適合手術に使われる」といった選挙広告を流した。
 「人びとが物価高に苦しむ中、民主党は庶民の暮らしに無関心で、LGBTQの権利など関心を持つ人が限られる問題に汲々(きゅうきゅう)としていると印象づけようとした」と三牧さん。これに対してハリス氏は、共和党に攻撃されることを恐れ、トランスの権利についてほぼ沈黙を貫いたという。
 「世論調査をみるとトランスの権利は保護されるべきだと考えている人が過半数を占め、共和党支持者でも後ろ向きな人ばかりではない。ただ米国では信仰の問題もあり、急速な変化についていけないと感じている人もいる。マイノリティーの権利を守るためにも、多くの人を包摂する政治の言葉が求められている」
自殺率72%上昇との論文も  反トランス政策はすでに全米各地に広がっている。連邦政府や各州の反トランス法を追跡しているインターネットサイト「Trans Legislation Tracker」によると、議会に提出された関連法案の数は、2022年174本(成立26)▽23年615本(同87)▽24年672本(同49)と急増しているという。
 内容は多岐にわたるが、性別移行のための医療を未成年に認めない▽公立の幼稚園や学校のスポーツチームを、生物学的な性別で分け、トランスの子どもや若者を事実上排除する▽親の許可がなければ、公立学校での名前や代名詞の変更を認めない▽公共施設のトイレなどを生物学的な性別で分ける――といったものが目立つ。
 米国のLGBTQ運動に詳しいジャーナリストの北丸雄二さんは「米連邦最高裁が15年に同性婚の権利を認め、同性婚の是非が政治的な争点でなくなった後、キリスト教右派などの保守勢力が標的をトランスに移し、資金集めの原動力としてきた。最初に仕掛けたのが『トイレ論争』で、その後、『トランス女性のスポーツ参加』『未成年に対する性別移行医療』へと広がってきた」と語る。
 「��Save Our Children(子どもたちを守れ)』などとうたい社会の不安をあおる手法は、過去の反同性愛運動でも使われてきたが、SNSによって政治的な動員力が強大になっている点が大きな違いだ。反トランス法のある州では、トランスやノンバイナリーの若者の自殺率が最大72%上昇したとの論文も発表されており、今後はいっそう当事者のメンタルヘルスが懸念される」
日本でも差別や偏見をあおる言説  日本の当事者はどう受け止めているのか。
 「トランスジェンダーやノンバイナリーの存在そのものを否定する大統領令。性別を移行して静かに暮らしている当事者をあぶり出し、排除しようとする意図も感じる。米国の大統領の発言や施策だけに、扇動される人が多いのではないかと恐怖を感じる」。トランスの女性で、当事者団体「Tネット」共同代表の野宮亜紀さんは話す。
 日本でも、23年に成立したLGBT理解増進法の議論などを通して、トランスの女性への差別や偏見をあおる言説が広がってきた。「当初は『トランスの女性とトランスを装った性犯罪者の区別がつかないから怖い』といった言説が多かったが、最近では今回の大統領令のように、性別の移行やトランスジェンダーの存在を否定する形に過激化しつつある」という。
 一方で、米国では州によって性別変更の要件が異なり、出生証明書も州の管轄だとして、「実質的な影響は冷静に見極めていきたい」とも語った。
 トランプ氏は就任前、女子スポーツからトランスの女性を排除し、第二次性徴の抑制や性別移行のためのホルモン投与・手術といった未成年に対する医療措置をやめさせるとも述べており、今後も反トランスの政策を打ち出す可能性が高い。
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kuborie · 5 months ago
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   朝日新聞デジタル連載ダイバーシティ・共生記事
トランプ再来
   世界の視点    解説と展望    新政権の顔ぶれ
Re:Ron 多様性より能力?トランプ政権と「DEI」の行方 三牧聖子さん寄稿
ダイバーシティ・共生 国際政治学者・三牧聖子=寄稿2025年1月19日 17時00分
 ドナルド・トランプが大統領に就任したら、アメリカはどう変わってしまうのか――。そうした危機感が広がってきたが、既にアメリカは十分変わってしまった、そう痛感させる出来事が就任前から相次いでいる。
 1月7日、カリフォルニア州で未曽有の山火事が起こった。ロサンゼルス��発生した山火事は、高級住宅地パシフィック・パリセーズなど複数の地区に燃え広がり、これまでに少なくとも、150平方キロ以上が焼失し、約18万人が避難を余儀なくされ、25人の死亡が確認された。アメリカ史上、最悪規模の山火事となっている。
 この未曽有の大災害すら、共和党支持者と民主党支持者を団結させるどころか、政治の道具とされている現状がある。カリフォルニア州は民主党の牙城(がじょう)だ。トランプは自身のSNSで「ギャビン・ニューサム州知事とロサンゼルスのカレン・バス市長は全くの無能だ」「州が環境保全を優先して水がなくなり、被害が悪化した」と民主党所属の2人を批判。この発言にも促され、共和党系メディアやインフルエンサーは、カリフォルニア州やロサンゼルス市の山火事対応を大々的に批判し、州側は、根拠のない批判に反論するためのファクトチェックをウェブ上で展開しなければならなかった。
 もっとも、ロサンゼルス消防局の予算が昨年1700万ドル超も削減されたことは事実であり、予算削減が消火活動に影響を及ぼしたという批判は、ロサンゼルス市消防局トップのクリスティン・クローリーなど、内部からも出ており、厳しい精査が必要なことも確かだ。
 さらに共和党支持者の間では、山火事が拡大した原因は、民主党政権のもとで進められてきた「DEI」(Diversity Equity & Inclusion=多様性・公平性・包括性)の取り組みにあるとして、DEIを批判する言説が広まってきた。
 民主党が強いカリフォルニア州では、人種的マイノリティーや性的マイノリティーにも公平な機会を与えられるよう、様々なDEIの取り組みが進んできた。しかし近年、とりわけ共和党支持者の間で、DEIを「特定のマイノリティーを優遇するもの」「能力ではなく属性で人間を登用する、不公正なもの」と批判する声が強まってきた。特に2023年に連邦最高裁が、大学入試で人種を考慮する「アファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)」を違憲とする判決を下すと、多くの企業や大学でDEI部門が廃止され、DEIの取り組みを禁止する州も増えてきた。山火事が広がり、犠牲も増える中で、共和党系メディアやインフルエンサーたちは、カリフォルニア州がDEIの取り組みに巨額を費やし、そのことによって災害対策をおろそかにしたと根拠なく主張してきた。現在、ソーシャルメディア「X」の最大フォロワー数(2.1億超)を誇るのは、XのCEOでもある実業家イーロン・マスクだが、彼も、「命や家を救うことよりもDEIを優先した」とカリフォルニア州の対応を批判し、「DEIは死(DIE)を意味する」など連日、過激なDEI批判を展開している。
 DEI批判の矛先は、勇気を持って市の体制を告発したロサンゼルス市のクローリー消防局長にも向けられた。クローリーは22年、女性として、同性愛者として初めてロサンゼルス消防局のトップに就任した。消防員としてのキャリアは25年に及び、現場経験も豊富なベテランだ。しかし火事発生後、クローリーは「DEI登用」と中傷された。「DEI登用」とは、能力がないのに、多様性尊重の方針のもと、人種的・性的マイノリティーであるために登用された、という含意で、マイノリティーの社会進出を���く思わない人がマイノリティーに対して用いる侮蔑語だ。「消防局に、女性やLGBTQ+の人員を増やしたい」と語ったクローリーの過去のインタビューは、「災害への備えよりもDEIの取り組みを優先したために、今回の惨事を生んだ」といった根拠のないコメントとともに広く拡散された。
 トランプは選挙期間中、連邦政府の諸機関で実施されてきたDEIプログラムを廃止するとうたってきた。副大統領に就任するJ・D・バンスもDEI批判論者だ。24年6月、上院議員だった彼は、連邦政府で行われているすべてのDEIプログラムの廃止を求める「DEI解体法案(Dismantle DEI Act)」を提案した。法案の趣旨を述べる際、バンスは、DEIを「憎悪と人種的分裂を生み出す破壊的なイデオロギー」と批判し、「アメリカ人の税金は、この過激で分裂的なイデオロギーを広めるために利用されるべきではない」と強調した。
 DEIを先導し、社会に広めてきた牙城として、この2人が攻撃の主要なターゲットに見定めているのが大学だ。トランプはDEIの取り組みを実施している大学に罰金を科す考えを表明している。副大統領となるバンスも「教授たちは敵だ」と公言してきた。過去には、キリスト教や伝統的な家族の価値観にあわないとして、ジェンダー教育を厳しく制限したハンガリーのビクトル・オルバンを称賛したこともある。
 バンスはカトリックへの改宗者だが、彼のDEIへの敵対的な姿勢は、保守的なジェンダー観を持つ敬虔(けいけん)なキリスト教徒も多いアメリカ社会にあって、多様性と信仰の間にどう折り合いをつけるかという難しい問いも提起している。アメリカの大学で進められてきたDEIについては、人種や性の多様性の尊重が強調される一方、信仰の多様性への配慮を欠いているという不満は以前から存在してきた。DEIの試みが第2次トランプ政権時代のバックラッシュを生き延び、ますます多くの人々に共有されていくには、宗教の問題は避けて通れない難題になりそうだ。
論争を呼ぶ 型破りな人事
 多様性の実現のためにマイノリティーを登用する方針を、能力や適性ではなく、肌の色や性別を基準とした「DEI登用」と揶揄(やゆ)し、「そのような人事はアメリカを弱くする」と決めつけて批判してきたトランプだが、その閣僚人事は、能力や適性を基準としたものとはとてもいえない。
 最も論争を呼んできたのは、保健福祉省の長官に指名されたロバート・ケネディ・ジュニアだろう。
 ジョン・F・ケネディ元大統領のおいであり、無所属で今回の大統領選に立候補していたが、選挙戦終盤でトランプ支持を表明した。閣僚への登用はその「論功行賞」ともいわれている。ケネディはワクチンへの懐疑を呈してきたことで知られ、懸念を抱くノーベル賞受���者77人が連名で、「効果が実証されているワクチンに反対し、感染症をめぐる陰謀論を拡散し、国民の健康を危険にさらす」と、保健福祉長官にしないよう訴える書簡を公開したほどの人物だ。
 情報長官には、民主党から共和党へくら替えした元下院議員(ハワイ州)トゥルシ・ギャバードが指名されたが、情報機関を統括し、国家や国民の安全を担う存在として、これほど不適切な人選はないとの声があがっている。ギャバードは17年にシリアに極秘渡航し、自国民を抑圧・虐殺し続けたアサド政権を「敵ではない」と擁護し続けた。アサド政権が自国民に対して化学兵器を使用したと情報機関が判断した際は、その判断に疑問を呈し、22年にロシアがウクライナに全面侵攻した際には、ロシアの行動に理解を示す発言をした。
 この2人の他にも、国防長官に指名された元FOXニュース司会者のピート・ヘグセスや、教育長官に指名されたプロレス団体WWEの共同創業者で元CEOのリンダ・マクマホンなど、型破りな人事が目白押しだ。
 ヘグセスは、性的暴行疑惑や業務中の過剰飲酒疑惑がある他、「軍は能力よりも多様性を重視してきたことで、弱体化してきた」と決めつけ、女性が戦闘任務に就くことにも反対してきた。マクマホンは、コネティカット州の教育委員会委員に就任する際、取得してもいない教育学の学士号を持っていると虚偽の申告をしたことがある。専門性のみならず、人格についても大いに疑問が残る人事だ。
 トランプに忠誠を誓い、彼の覚えがめでたければ、その役職を務めるために必要な知識や経験を明らかに欠いていても、大抜擢(ばってき)される。「DEI登用は不公平だ」との声を強めてきた共和党支持者は、トランプ流の閣僚人事を「不公平だ」と批判することはない。17年に発足した1期目のトランプ政権の閣僚は、多数が白人男性で占められ、1980年代のロナルド・レーガン(共和党)政権以来、最も多様性を欠いた政権となったが、2期目のトランプ政権は、このままの人事が上院で承認されれば、1期目よりもさらに人種やジェンダーの多様性を欠いた政権になる見込みだ。
 もっとも、ケネディやギャバードのような論争的な人事を含め、過半数の国民がトランプの人事を支持しているとの調査もある。今のアメリカでは、国際金融資本や軍産複合体、官僚組織などから成る「ディープ・ステート(闇の政府)」に政府がのっとられていると考える人が3~4割に及び、政府への信頼は2000年代以降、ほぼ毎年下がり、近年は20%前後にとどまる。官僚や専門家への不信がはびこるアメリカの現状にあって、ケネディやギャバードのような、経験も知識もなく、専門家から見れば明らかに不適切で、官僚機構に混乱をもたらしうる人事は、だからこそ国民にうけている面がある。「ディープ・ステート」を解体すると豪語し、官僚組織や専門家集団への敵意をむき出しにするトランプの姿勢に共感しているアメリカ人も多いことも、���まえておかねばならない現実だ。 「共同大統領」と呼ばれるマスク氏
 正式な省庁ではないが、トランプ政権で最も注目された省庁人事といえば、規制の撤廃や公務員の削減、政府支出の削減などを目的に掲げて新設された「政府効率化省(Department of Government Efficiency:DOGE)」と、その共同責任者に任命された実業家マスクだろう。民間人でありながら、新政権の人事に介入し、Xでの発信力を生かしてアメリカ、さらには他国の政治にも介入し、既に「共同大統領」と呼ばれている。大統領選の期間を通じてそのX投稿の閲覧数は急増し、先月までに1330億回に及んだ。この数はトランプの15倍、アメリカの議員全体の16倍にのぼる数だという。
 マスクが、実業家のビベック・ラマスワミとともに責任者をつとめる「政府効率化省」は、連邦支出を2兆ドル削減するという大胆な目標を掲げている(1月に入って下方修正)。「DEIは人種差別の別の言い方」(マスク)、「効率的な政府にDEIの肥大化の余地はない」(ラマスワミ)と豪語する2人のもとで、DEI関連部署や関連予算は全廃させられるのではないかとの懸念も強まる。
 もちろん「効率化」という発想がまったく的外れというわけではない。昨今は、DEIを推進してきた専門家からも、DEIの取り組みに巨額が投じられるようになったものの、実際に差別や偏見は是正されているのかと、DEIのビジネス化を警戒する声があがっている。その上で、「効率化」という万人受けする言葉の裏に、人種的・性的マイノリティーへの敵意が潜んでいることは見逃せない。
 アメリカの歴史は、多様性と統一という二つの目的を排他的に捉えず、多様性の中に統一を追求してきた歴史であり、それこそがアメリカの魅力であったはずだ。
 2期目のトランプ政権のもとで、この試みは最終的に放棄されるのだろうか。それとも、吹き荒れる多様性へのバックラッシュやその停滞を乗り越え、アメリカは新たな多様性と統一を発見していくのか。
 後者の可能性を諦めずに、トランプ政権のアメリカを見ていきたい。
   【Re:Ron三牧聖子さんインタビュー】「私たちは安全圏」は本当か 気楽な強硬論と権威が対話にふたをする
 みまき・せいこ 1981年生まれ。東京大学教養学部卒。専門はアメリカ政治外交史、国際関係論。高崎経済大学准教授などを経て2022年から同志社大学大学院准教授。著書に『戦争違法化運動の時代』(名古屋大学出版会)、『Z世代のアメリカ』(NHK出版)、共著に『自壊する欧米 ガザ危機が問うダブルスタンダード』『アメリカの未解決問題』(集英社)など。
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kuborie · 6 months ago
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   朝日新聞デジタル記事
「昭和と平成で大きく変わった」 御厨教授が見た「ナベツネ」の実像 聞き手・池田伸壹2024年12月19日 18時29分
 19日に亡くなった読売新聞グループ本社代表取締役主筆の渡辺恒雄氏。渡辺氏に長時間インタビューし、「渡邉恒雄回顧録」を監修した御厨貴・東大名誉教授に、渡辺氏の記者人生や政界との関わりについて聞いた。
   読売新聞主筆の渡辺恒雄さん死去、98歳 政界やプロ野球界に影響力
 渡辺さんは昭和の男なんですよ。猛烈に勉強し、努力をした高度成長期の猛烈サラリーマン。猛烈記者になり、昭和の戦後を支えた人の一人です。もし、商社に入っていたら、猛烈社長になって世界に売り込みをかけていたと思います。戦争を経験した世代は、猛烈に頑張ることによって、戦争で亡くした友人に対して「生き残った自分は頑張っているぞ」との思いがあった。渡辺さんは、そうは言わなかったけど、やっぱり、そういう思いがあったんだと思います。
 入社当時は「あるべき新聞記者像」というのもなかった。特ダネを追っている記者と、書かざる大物記者の二つがいた。書かざる大物記者とは、相手の懐に飛び込んで情報は入るが書かない。渡辺さんは「書かない記者」を非常に嫌って、あるべき記者像を追い求めた。
 彼���言っていましたよ。「仲間と飲みに行ったら、『打倒! 朝・毎』って気勢をあげていた」って。彼が記者になったころは朝日新聞や毎日新聞が強くて、読売新聞の記者なんて政治家から歯牙(しが)にも掛けられなかった時代だった。それを彼は覆そうと頑張った。
 「今の若い記者たちは『打倒読売』と言っているに違いない。攻守ところを変えたんだ」と話していた。渡辺さんは色々策謀はするんだけれども徹底的に陽気なんですよ、陰気なところが全然ない。だから不思議に渡辺さんと直接会った人はあんまり悪口を言わない。
   渡辺恒雄さん、政界にも大きな影響 憲法改正、大連立構想など提言
 渡辺さんは「俺はここにいるぞ」って自らをアピールして、逆境にあっても、いかにそこを脱していくか考えていた。どんな逆境にあっても読売新聞を辞めたいと思ったことは一度もないんです。ただの人になる気もないから、社内��も猛烈に頑張って、大新聞記者になるぞと思った。だんだん読売新聞と一体化していって、2000年ごろには「我こそ読売新聞なり」となっていった。
吉田茂が嫌いで鳩山一郎が好きだった駆け出し時代
 政治記者としては、自民党副総裁や衆院議長を務めた大野伴睦や中曽根康弘元首相らに食い込んだが、事の始まりは「吉田嫌い」。首相を務めた吉田茂が嫌いで、鳩山一郎が好きというところからスタートする。吉田は外務官僚出身。彼は官僚派の政治家は元々肌が合わない。党人派が好きなんです。官僚派は、渡辺さんがいかに取材で仕掛けても、ある程度以上は絶対に内側に入れなかった。
 それで鳩山に食い込もうとするが、最初は苦労する。鳩山邸に行くと朝日の記者は中に入れてもらえるのに「読売です」と言うと、「お前のところは新聞じゃない」と言われて追い払われる。それが悔しくて、鳩山の毎日の散歩に付き合う。秘書に「お前は犬だから向こういけ」とステッキで追い払われるが、我慢して付き合って、家に入れてもらえるようになる。鳩山の孫の由紀夫、邦夫兄弟が芝生で遊んでいると、自分でお馬さんになって彼らを乗せる。「そんな新聞記者、絶対いない。孫を籠絡(ろうらく)するしか鳩山さんに食い込む手段がなかった」って言っていた。
 大野はまさに、昔風の党人派で開けっぴろげ。渡辺さんがずうずうしく近づくと、歓迎されて、派閥の運営も任される。大野派の会合で渡辺さんが講演したこともある。私が「記者が講演なんかしたら政治家が反発しませんか」と尋ねたら「そんな派閥じゃない、あそこは。話なんかろくにできないやつが集まっているんだから」と笑っていた。大野派はかくあるべしという話をしたら、拍手喝采だったとね。
 大野の回想録も「全部自分が書いた」と言っていた。「大野さんっていうのはエピソードしかない男だから、すぐ書けるんだよ」っていうわけ。出版記念パーティーの際、大野に渡辺さんが呼ばれて「何を書いたんだ?」って尋ねられたと。そのさわりだけ、大野がパーティーでしゃべったら拍手喝采だったと。やや演歌の世界に近い、人情べったりの付き合いをしながらも渡辺さんは大野が首相になるはずがないと分かっている。「総理からは情報が取れない。『副』の方が情報が取れる」と言っていた。
「中曽根を総理にしてやった」は後知恵だった
 中曽根さんは元内務官僚だったけど、若くして政治家になったから一応党人派だった。中曽根さんと渡辺さんとの関係は読書会から始まった。ネタを取るというよりも政治や国際関係について、書生たちが勉強会をしている感じだったんじゃないでしょうか。「中曽根さんを総理にしたい」という思いを持っていた。後年になってNHKのインタビューで「中曽根を総理にしてやった」と言っていたが、あれは後知恵だと思いますよ。「後から考えると俺しかいなかった」と。ただ、中曽根さんも、渡辺さんが「俺が中曽根政権をつくった」と言っても怒らない。「ナベさんがそう言いたいのであれば、それでいい」という関係だったのでしょう。渡辺さんも認めているんですよ。「総理になったこと、総理になってあれだけの仕事をしたこと。中曽根の方が俺よりも一枚上だ」と。
 中曽根さんは総理になって後藤田正晴さんを官房長官にしたけど、渡辺さんと後藤田さんは合わない人間同士の最たるものだったと思う。後藤田さんから見れば「渡辺は信用ならん。そもそもブンヤは何をするか分からない」、渡辺さんからすれば「後藤田は官僚の親玉みたいなもの。特に警察官僚なんて」という思いがあったはず。その2人が内閣を支えたというのは中曽根さんがうまく使ったんです。
「盟友ができなかった」憲法改正に意欲
 渡辺さんの原点は、戦時中の特高嫌い。軍国主義の教育に反発して、軍隊に行ってもひどい目に遭う。思想で取り締まる特高警察、当然、警察が嫌いなんです。渡辺さんは第2次世界大戦は日本の過ちだったとずっと思っていた。安倍晋三元首相とは違う。渡辺さんは「右」のイメージがあるが右派的イデオロギーが嫌いだった。戦後、共産党に入るが、あの時の一番の反戦勢力だったから。ただ、共産党を内側から見ているうちに「上が勝手に決めて、下を虫けらのように扱っている共産党は、俺が一番嫌いだった軍隊と同じだ」と感じる。それで共産党も辞めた。
 戦後当初は天皇制打破だった。天皇の名のもとで軍隊に行ったもんだから。でも、戦後の昭和天皇の苦悩を見ていて、戦後社会にある種の影響力を与えていく姿を見てだんだん変わっていった。日本で必要な存在じゃないかと。
 読売新聞は1994年、2000年、04年の3回にわたり、憲法改正試案を発表しました。彼には「盟友の中曽根ができなかったことを正面から取りあげたい」との思いがあったと思います。中曽根さんは「憲法改正をやる」と掲げて首相になったが、就任から1週間で改憲を見送った。それで渡辺さんは「中曽根ができなかった改憲のために国民運動を起こしたい」と考えたんでしょう。
 それに90年代は湾岸戦争も起き、日本は世界にどう貢献するかが問題になった。読売新聞として、そろそろ旗幟(きし)鮮明にした方がいいと思って改正試案を発表した。「他の新聞社にはできないだろう。特に憲法にしがみつく朝日新聞にはできないだろう」という彼なりのブンヤ魂だと思います。それに、読売新聞が「1千万部」と言っていた時期で、憲法改正を主張して部数が減るとも思っていなかった。
 生涯一記者を貫いた渡辺さんだけれども、中曽根さんという盟友が総理を終えた後にある種の脱力感があり、ある種の禁欲さがなくなった。タイミングとしては昭和が終わった後だけれども、渡辺さんは読売の社長の地位をいかに維持するかということに変わった。そのためにはネタ取りを自分でやらなければならないと考えた。読売の自分以外の記者なんて、まだまだだと思っていて、抑制力がなくなった。
政治家と会うことの意味が変わった
 昭和が終わったぐらいの時期の取材について聞くと、渡辺さんは「忍術を使って、ドロンドロンとやると、たちまち情報が集まってくる」と言う。これはウソですよね。この時期から彼はお座敷取材を始める。つまり、後につくるベテラン記者が政治家を呼ぶ「山里会」みたいなものですね。小沢一郎さんをどうやって知ったかというのも、お座敷に呼んで、ごはんを食べながら話を聞く。これはある意味、最後まで自分の耳しか信用しないという渡辺さんの思いなんでしょう。ただ、政治家と会うことを、純粋にネタを取って記事を書くというよりも、読売新聞社内の権力を維持し、他の新聞社を脅すことに使った。昭和と平成の渡辺さんは大きく変わった。
 彼からみると、派閥による権力闘争を乗り越えた昭和の首相と違って平成の首相は全然駄目という感じがあったんでしょう。自分より年下だし、「こんな子供じみたことをやっているんだったら、俺が出ていった方がうまくいく」との思いもあった。極めつきは福田政権の時の福田自民と小沢民主の大連立構想でしょう。やっぱり、首相官邸の福田康夫首相のところに自ら乗り込んでいく渡辺さんって何だ?ってことですよ。読売新聞グループ本社代表取締役会長の座を離れて、首相が「あなたのご見識を聞きたい」と誘ったことに対して官邸に出向くなら別だが、読売新聞を背負った立場だった。そして、翌日の読売新聞には「渡辺さんがやった」みたいな話が載るわけですが、これは絶対にまずい。
 渡辺さんが首相官邸に福田首相に会いに行った後、そのまま、私が司会をしていた時事放談の収録にやってくる。記者もいっぱい来る。メイクルームでメイクをしている際、官邸から渡辺さんの携帯に電話が来る。「俺は携帯の出方がよく分からない」とか言って、携帯を落として、スピーカー状態になって、向こうの声が全部聞こえるんです。「まだ決まらないのか。俺が時事放談を終えて帰るまでにおよそのことはまとめておけ」っていうやり取りが全部聞こえるわけ。中曽根さんは笑って「あれがナベさんの商売。ああやって記者に聞かせている。あれでみんな記事を書くだろ」って笑うわけ。
 中曽根さんと渡辺さんはこのころ、ほとんど直接会っていなかったようだった。時事放談の帰りに2人で手帳を出して次のゴルフの約束を決める。2人は、誰かの介在なくして、互いの約束を取り付けられない存在になっていた。渡辺さんは時事放談について「いい番組だ。ここでようやくゴルフの約束が取れる」って言うんです。
 昭和の猛烈記者、生涯一記者はほめないといけないが、平成になって権謀術数の政治をつくっていく側に変わった。社長や会長の座に固執しなければ、その評価も大きく違ったのかもしれない。
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kuborie · 8 months ago
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ドラクエ「性別」廃止で論争にゲームでも問われる「らしさ」の呪縛 小川尭洋2024年10月25日11時00分
来月14日に発売予定のロールプレイングゲーム「ドラゴンクエスト」(ドラクエ)のリメイク版ソフトで、キャラクターの性別表記がなくなることが公表された。SNS上では、多様性に配慮した変更として評価する声があがる一方、「原作を尊重していない」と反発する声も。ゲームにおける性別表現のあり方に一石を投じた「論争」を追った。
今作は、1988年のファミリーコンピュータ用ソフト「ドラゴンクエストⅢそして伝説へ…」のリメイク版。公式サイトの情報によると、主人公と仲間たちの「男」「女」が「ルックスA」「ルックスB」という表記に変更される。また、男女別に「性格」と「装備」が設定されていたが、この変更にともない、すべて共通になる見込みだ。
こうした仕様変更は、2010年代以降、世界各地で広がった多様性推進の流れを受けたものだ。以前のドラクエシリーズ10作目「Ⅹ」(2012年)やスマホ用ゲーム「ドラクエウォーク」(2019年)のほか、「ポケットモンスター」など多くの人気シリーズで性別表記が廃止されている。
今回の変更の理由や狙いについて、スクエニの広報室に取材を申し込んだが、「検討させていただきましたが、誠に勝手ながら辞退申し上げます」との回答だった。
「生みの親」の発言が波紋
リメイク版の変更を受け、ファンの間では賛否が飛び交った。
「最近は性別選択がないゲームも多い。名作ゲームも、多様な性のあり方に合わせて変わった方がいい」
「ポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ、ポリコレ)に配慮しすぎて、原作のイメージが壊れる」
特に注目を集めたのは、ドラクエの「生みの親」であるゲームデザイナー、堀井雄二さんの発言だ。
9月末の東京ゲームショウ内の対談で、「男女でいったい誰が文句を言うんだろう。分からない」などと今回の変更に疑問を呈した。この対談の動画の一部は非公式に英訳字幕がつけられ、X(旧Twitter)でも拡散。Xのオーナーである実業家のイーロン・マスク氏がこの動画投稿を引用リポストしたことで、トランスジェンダーの人々を差別するコメントが相次いだ。 ゲームの世界観がジェンダーバイアスに影響
一方で、近年のゲーム制作において、ゲームユーザーの多様性を踏まえた視点は欠かせないものとなっている。
アメリカの性的マイノリティー支援団体「GLAAD」が今年2月に発表したアンケート結果によると、アメリカのゲームユーザー(13~55歳)の17%が性的マイノリティーだと自認している。また、性的マイノリティーのユーザーは、自分と同じ性的指向・性自認のキャラクターが登場するゲームを買って遊ぶ可能性が、通常より1.4倍高くなるという。
性的マイノリティーの情報を発信する一般社団���人「fair」代表理事の松岡宗嗣さんは、ゲーム内での性別の枠組みを捉え直す必要がある理由として、主に二つの問題点を挙げた。
まずは、生まれた時に割り当てられた性別と性自認が異なるトランスジェンダーの人々や、性自認が男女の二元論に当てはまらないノンバイナリーの人々などに、ゲーム内での典型的な男女の2パターンに自身を投影できない人がいるという問題だ。松岡さんは「現実社会の多様な性のあり方をゲームに反映しないのは、そうした存在を見て見ぬふりをすることと同じだ」と指摘する。
もうひとつは、ゲーム内の男女の二者択一は、ジェンダーバイアス(性別をめぐる思い込みや偏見)を強化してしまう恐れがあるという点だ。ドラクエⅢの原作などで、キャラの性別ごとに設定が決められていたことについて、松岡さんは「幅広い世代が遊ぶゲームのため、影響が大きい。キャラの選択肢は多様化されてほしい」と話す。
また、今回の仕様変更への反発については「歴史の長い人気ゲームで、意図を実感できない変更に対してファンが違和感を持つことは一定理解できる。ゲーム会社などから変更の背景や姿勢が説明されていないため、変更した事実だけが独り歩きして意図が伝わらず、反発が相次いだ印象だ」と語る。
トランスジェンダーのドラクエファンも歓迎
ただ、今回の変更をめぐっては、トランスジェンダーの人々だけでなく、多くのゲームユーザーは前向きに受け止めている。
ドラクエのプレー動画を配信するYouTuber「ろびん」さんは「原作のドラクエⅢは男女選択が初めて導入された作品。原作とは楽しみ方が変わるのは複雑な気持ちだが、ドラクエの面白さ自体は揺るがない」と期待を寄せる。
トランスジェンダーの女性で大阪大学院講師の三木那由他さん(言語哲学)もドラクエファンの1人だ。奥深い世界観にひかれてプレーしてきたが、「過度に理想化された体形の男性や女性のキャラ」に戸惑いを覚えることも多かったという。
「私は生活・戸籍上は女性だが、背が高くて声が低いという特徴がある。ゲーム内で『女性』を選んだとしても、強調された『女性らしさ』に触れる度に、『まるで自分が本物の女性ではないと言われているみたい』と息苦しさを感じていた。性別表記がなくなると、心理的負担が減って感情移入しやすくなるので、うれしい」
三木さんにとって、ゲームは、子どものころから社会で息苦しさを感じた時の「居場所」でもあった。「まるで性的マイノリティーが最近突然現れて、ゲームに影響を与えたかのように言われることがあるけれど、私たちは昔からゲームを楽しんできた。それが少しずつ可視化され始めただけなのに」と話す。
今作ではキャラは2パターンのみだが、「ドラクエのイメージを尊重しつつ、次作以降、選択肢をどんどん広げてほしい」。今後も、多様な人々の思いをくみ取ったゲームが増えていってほしいと願っている。
仲岡しゅん(弁護士) 2024年10月25日11時0分投稿 【視点】
正直なところ、私はキャラの性別表記とか全く気にしてませんね。 というか、こういうのがいちいち「多様性への配慮」とか性的マイノリティ云々という観点から語られること自体に違和感があります。
���ャラクターを見てみましたが、形だけ性別表記をなくしているだけで、モチーフになっているのは明らかに典型的な「男性」と「女性」の二者択一。 それを「A」「B」と名前を付け替えたところで、良くも悪くも「それに何か意味があるの?」としか思えない。
むしろ大事なのは中身ではないでしょうか。 台詞の中で「女のくせに/男のくせに」といったバイアス的な発言がないかとか、女性キャラへのやたらセクハラっぽいイベントがないかとか、そういう中身こそが問われていると思います。
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kuborie · 9 months ago
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日本人初の所長語る「覚悟」 ロシアや米も圧力、国際刑事裁の役割は 聞き手 編集委員・佐藤武嗣 佐藤達弥2024年9月21日 16時00分
【動画】国際刑事裁判所(ICC)所長に就任した赤根智子さん=西岡臣撮影
 世界で「法の支配」が揺らいでいる。法に基づいて個人の戦争犯罪などを裁く国際刑事裁判所(ICC)は今、ロシアのみならず、民主主義の旗振り役を自任する米国からも圧力を受けている。今年3月に日本人初のICC所長に就任した赤根智子さんに、何が起きているのか、日本の役割とは何かを聞いた。
 ――ICCは昨年、ロシアのプーチン大統領や側近に、ウクライナ侵攻をめぐる戦争犯罪容疑で逮捕状を出しましたが、いまだ逮捕に至っていません。
 「我々も逮捕状を出す以上は、最終的には逮捕して裁判を経て結論を出すべきであり、逮捕状さえ出せばそれでよいとは思っていません。実際、ICC締約国でない国の個人は、締約国に行かない限り逮捕することが困難です。一方で、将来を見据えれば、締約国が増えていくと実効性は高まります。ですから締約国は、非締約国に対してICCに加わるよう働きかけてほしいのです」
 ――しかし今月、締約国のモンゴルがプーチン大統領を逮捕せずに訪問を受け入れました。
記事の後半では、ロシアから指名手配されていることについて赤根さんが率直な思いを語っています。日本のジェンダーギャップへの考えや、所長に立候補した理由を明かしたインタビュー動画もあります。
モンゴルのプーチン氏受け入れ、対応は
 「具体的な事案��ついてのコメントは控えます。一般論を申し上げると、重大な国際犯罪の刑事責任を追及する国際条約『ローマ規程』では、締約国のICCへの協力義務をうたい、逮捕と身柄の引き渡しの義務があると記されています。協力の実行に問題がある場合、その締約国はICCに事前に相談することもできる。締約国が協力義務を果たさず、ICCの業務が妨害された場合は、その旨の認定をして締約国会議に付託する仕組みがあります」
 ――国際刑事裁判所(ICC)と国際司法裁判所(ICJ)はよく混同されがちですが、役割の違いは何ですか。
 「ICCとICJは全く違う組織です。ICJは国連加盟国全てを管轄下に置き、基本的に国と国との紛争を解決する国連の裁判所です。一方、ICCはローマ規程に加盟した国でつくる裁判所で、対象も国家間の紛争ではなく、四つの中核犯罪であるジェノサイド(集団殺害)、人道に対する罪、戦争犯罪、侵略犯罪を犯した『個人』を、刑事的に裁く国際機関です。現在は日本を含む124カ国が締約国となっています」
 「ICCの源流は、第2次世界大戦後に、戦争犯罪などで個人が裁かれた東京裁判や、ナチス・ドイツ指導者を裁いたニュルンベルク裁判にさかの���ります。これらの裁判では、戦勝国によって個人が刑事的に裁かれ、被告の人権が十分守られていなかった。個人を戦争犯罪などで裁くのに、恒久的な法的ルールに基づく国際的な裁判所をつくるべきだとの議論があり、2002年に設立されました」
 ――ただ、米国やロシア、中国といった大国が、ICCの締約国になっていません。
 「全ての国連加盟国が締約国となれば、管轄は全世界に及びます。それが当初の理想でした。しかしそうした国がいまだに締約国とならないのは、自国の指導者や自国民が処罰されるのではとの懸念を払拭(ふっしょく)しきれないということだと思います」
もし制裁されたら「影響計り知れない」
 ――米政権はプーチン大統領への逮捕状を歓迎しつつ、ICCがイスラム組織ハマス幹部と同時に、イスラエルのネタニヤフ首相らに逮捕状を請求したことに反発しています。米下院は6月、ICC関係者に経済制裁を科す法案を可決しました。
 「我々は裁判所なので、政治的意図も、どこかの国に対抗しようという意識もありません。あくまで『法の支配』に基づき、独立性・中立性を保ち、犯罪を捜査・訴追・処罰するのが任務です。ICCの法的判断に意見を述べるならともかく、自国の政治的利益のため、一方的な立法でICCに経済制裁を科すべきではありません」
 「第2次世界大戦後、国連などの国際機関がつくられ、世界を『力による支配』から『法の支配』に変えていこうと、様々な国が努力を重ねてきました。ここで『力による支配』を容認してしまえば、これまで築いてきた努力が水の泡となり、再び『力による支配』が横行してしまう。今の国際社会で『法の支配』の正当性がゆがめられやしないかと懸念しています」
 ――トランプ米前政権は20年、アフガニスタン戦争での米兵らの戦争犯罪を捜査したICC検察官らに経済制裁を科しました。影響はどうでしたか。
 「当時の検察官とその部下の2人に制裁が科され、彼らは米国への入国禁止のほか、米国内の資産は凍結、米国と関係のある欧州の銀行との取引も停止され、家族への送金もできませんでした」
 「米下院で今回可決された制裁が実行され、対象が裁判官、検察官全体に広がれば、その影響は計り知れません。米国から2次制裁をかけられることを恐れ、銀行や企業がICC職員だけでなく、ICC自体との取引も停止しかねない。そうなれば、ICCの機能はまひし、ハマスやイスラエルの事件だけでなく裁判中の事件全てが停止し、ICCで証言しようとしていた世界各国の証人にも危害が及ぶ可能性があります。約1千人のICC職員とその家族も路頭に迷うことになります。これは、ICCをテロリストと同様に扱うということです」
 ――米国のそうした対応をいさめる国はないのですか。
 「英国やフランス、イタリアなどを含め多くの締約国はその危険性を認識し、締約国会議でも、『法の支配』の重要性とICC保護を宣言する議長声明を出すなどしています。『力による支配』を後押しする動きと、それではいけないと声をあげる締約国の動きが今、せめぎ合っています。日本を含む締約国は、米国に対し、自国の政治的利益を守るために、こうした行動をとるべきではない、と発信する必要があります」
 ――ロシア政府もプーチン大統領への逮捕状に反発し、赤根所長らを指名手配しています。こうした圧力によるストレスと、使命感のバランスをどのようにとっているのですか。
 「日本での検事時代にも、何らかの圧力を受ける可能性はあると認識していました。だからこそ我々は、政治的、外交的な圧力に屈せず、あくまで法と証拠に基づいて手続きを進める覚悟で仕事をしていました。こうした気概はICCでも同じです。ストレスとはうまく付き合っていくしかないです」
 「この原則を崩せば、裁判所とは何か、ICCの検察官の使命は何か、ということが正面から否定されてしまいます。捜査機関や司法機関はそうした使命の上に成り立っており、どのような圧力があっても、その原則は崩せません」
日本、「法の支配」の旗振り役に
 ――日本はICCに07年に加盟し、最大の分担金拠出国です。どのような役割を担うべきでしょうか。
 「日本は国際的にも『法の支配』を標榜(ひょうぼう)し、その重要性を広く訴えてきた国です。だからこそ日本政府は同盟・友好関係を育んできた米国に、様々な対話を通じて『法の支配を崩してはならない』と説得する必要があります。米国がICCの活動に不満を抱いても、力によって断念させるような手段をとるのでなく、『法の支配』の中で解決すべきで、米国も元々は『法の支配』を標榜している国だと再認識してほしい、と強く言える立場にあるはずです」
 「米国への働きかけに加え、締約国の少ないアジアの国々にも、ICCが世界で果たす役割の重要性を訴え、締約国になるよう働きかけてほしい」
 ――日本が「法の支配」の旗振り役をすべきだということですね。
 「そうです。ただ、日本の国内法は十分とは言えません。ローマ規程にある戦争犯罪など中核犯罪を犯した人が入国しても、日本には適切に処罰する法律が十分でない。ジェノサイド条約��批准していない。また、それゆえに日本の検察官や裁判官も中核犯罪への知見や経験がなく、中核犯罪の捜査・裁判はもちろん、ICCに協力することも難しいとさえ感じます。日本が目先の利益ではなく、永久に平和で、他国から信頼される国になるには、日本自らが『法の支配』を国内で体現するだけでなく、ICCの役割を補完する体制を作ることが大事です」
 ――大国が「力による支配」に傾き、ICC締約国も十分にその役割を果たせていない。「二重基準」がはびこり、世界で「法の支配」が揺らぐなか、ICCの存在意義をどう考えますか。
 「現在、欧州も含め様々な国で紛争が起き、国際的あるいは国内的な武装グループによる戦争犯罪も増えています。そうしたなか、ICCに事案を付託する国、また締約国も徐々に増えてきている。ICCが、事件を公正に裁いてきた地道な積み重ねが実りつつあるとも言えます。ICCは『法の支配』を標榜するだけでなく、裁判という形でそれを担保していきます」(聞き手 編集委員・佐藤武嗣、佐藤達弥) 写真・図版 国際刑事裁判所(ICC)の赤根智子所長=西岡臣撮影
 あかね・ともこ 1956年生まれ。東大法学部卒で82年に検事任官。最高検察庁検事、函館地方検察庁検事正などを経て、2018年に国際刑事裁判所判事。今年3月から現職。
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kuborie · 10 months ago
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「性別不合」の医師の診断規定、明確化 関係学会がガイドライン改訂 二階堂友紀2024年8月29日 13時44分
 トランスジェンダーの人たちが、ホルモン投与など性別移行に関わる医療を受ける際の医師の診断をめぐり、関係学会はガイドラインを改訂し、規定を明確化した。昨年10月の最高裁決定で、性別適合手術なしの性別変更に道が開かれるなか、診断の信頼性を担保する狙いがある。
 改訂したのは「性別不合に関する診断と治療のガイドライン」。日本精神神経学会の性別不合に関する委員会と日本GI(性別不合)学会が合同で改訂作業を行った。29日ホームページで公表した。
 ガイドラインは1997年に初版がつくられた。改訂は2018年以来で、今回の改訂版は第5版にあたる。
 医師の診断は、ホルモン投与や手術を希望する場合などに必要となる。
 その診断を行う医師について、従来は、「十分な理解と経験をもつ精神科医が��ましい」「少なくとも1名はGID学会(現GI学会)認定医であることが望ましい」などとしていた。
 改訂版では、「日本精神神経学会が主催するワークショップおよび日本GI学会が開催するエキスパート研修会を受講していることが望ましい」と記した。そのうえで、手術なしで戸籍上の性別変更をする例が増えていることを受け、「戸籍の性別変更を行う際の医学的判断については、日本GI学会認定医またはそれに準じた診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有した精神科医2名の診断が一致することが求められる」とした。
 今回の改訂はもともと、国際的な疾病分類で「性同一性障害」が「性別不合」に改められたことなどを受けたものだ。その後、最高裁決定が出たことで、性同一性障害特例法の改正も念頭に置いた内容となった。 特例法の改正議論でも課題に
 特例法は性別変更に必要な五つの要件を定めているが、その前提として「診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有する2人以上の医師」の診断の一致を求めている。与野党の改正議論では、手術要件を見直す代替策として、この「診断要件」の厳格化も課題になっている。
 公明党の「性的指向と性自認に関するプロジェクトチーム」(座長=谷合正明参院幹事長)は、特例法改正に向けた見解のなかで、手術要件がなくなって性別変更の障壁が一部取り払われた場合、「『なりすまし』の可能性があるといった間違った認識がなされ」たり、「診断の正当性に疑いがかけられ」たりする恐れがあると言及。「診断の正当性を、より十分に確保する方法について検討する」と記した。
 自民党の「性的マイノリティに関する特命委員会」(委員長=高階恵美子衆院議員)も、特例法改正の方向性をまとめた報告書のなかで、「診断の適切性を確保するため、何らかの措置を講ずる必要がある」と指摘。認定医の資格や研修の修了などについて、家裁に提出する診断書に明記する方法を提案している。
 GI学会理事長の中塚幹也・岡山大教授は「ガイドラインに法的拘束力はないが、特例���の改正議論のなかで指摘されている『懸念』の払拭(ふっしょく)にもつながるのではないか」と話す。
 同学会の認定医は38人、このうち精神科医は15人。認定医や研修の機会を増やすことも課題だという。
 今回の改訂では、ガイドラインのタイトルを含め、「性同一性障害」の表記が「性別不合」と改められた。(二階堂友紀)
コメントプラス 仲岡しゅん(弁護士)    2024年8月30日2時56分 投稿
   こうして関係学会が新しいガイドラインを作成した努力に対して、まずは好意的に受け止めたい。    医師の診断にどこまで意味を持たせるかについては様々な意見があるだろうが、性同一性障害特例法の診断要件とも関わってくる以上、様々な方面からの懸念なども踏まえたガイドラインである必要があるだろう。
   通常、医師の診断は患者への医療の実施のために行われるものだが、性別不合の問題に関して独特なのは、それが医療の実施のみならず、法律要件とも関わってくる点だ。    そうである以上、多方面の利益に目を配ったガイドラインとなるべきことは必然だ。
   なお、記事の中では「なりすまし」への懸念があることが寄せられているが、法律家として「性別違和を申告する者」とそれなりに多く接してきた立場からすると、どちらかと言う���、当人自身も異性装やジェンダーバイアスへの嫌悪感と混同しているケースや、性別を移行して生きることの意味について理解ができていないケース、あるいは何らかの他の要因が疑われるといったケースは存在する。    「悪用される懸念」ばかりが論じられがちな昨今だが、上述したようなケースは、むしろ適切な情報が行き届いていないが故の現象だ。    この種の問題については昨今、世間では、賛成か反対か、アクセルかブレーキかという二項対立的な話になりがちだが、性別移行に関する現実的な実情がなかなか共有されていない部分があるように思われる。
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kuborie · 10 months ago
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2023年度ひょうご人権総合講座「ジェンダー①(総論)」中止に関する経緯と見解 一般社団法人ひょうご部落解放・人権研究所 2024年3月12日
 当研究所は、2023年11月2日に予定していた、2023年度ひょうご人権総合講座「ジェンダー① (総論)」(講師:牟田和恵・大阪大学名誉教授)を中止した。  ひょうご人権総合講座は、「部落問題をはじめとするさまざまな人権問題について学び、人権社会確立に資するリーダー養成を目的として」2022年度より開講している講座で、人権総論、部落問題、在日外国人、障害者、ジェンダー、子どもなどのテーマの講義をおこなっており、行政や企業、労働組合や宗教団体などに研修として利用していただいている。  冒頭でまず結論を述べる。講座を中止にしたのは、当研究所が、牟田和恵さんの言説をトランスジェンダー女性に対する差別を助長するものであり人権侵害行為だと判断するに至ったからである。  以下、この件に関する経緯と見解の詳細について明らかにする。
1、経緯 2022年1月頃  石元清英所長より牟田和恵さんに上記講座の講師を依頼した。 2023年 7月6日  牟田さんが「トランス問題と女性の安全は無関係か---「LGBTQ+への差別・憎悪に抗議するフェミニストからの緊急声明」についてフェミニストからの疑問と批判」(註1)という文書をnoteに公開した。 7月20日  それを受け、事業の責任者である石元所長(当時。その後、10月26日付で所長辞任)(辞任後は石元前所長)と細田勉事務局長及び事務局員で、対応を話し合った結果、牟田さん��「ジェンダー① (総論)」の講師を降りていただくこと「やむ無し」との結論に至った。  講師選定過程で、古くからの友人であるという石元所長の推薦があり牟田さんに決定、依頼も石元所長を通じてなされた経緯から、石元所長が直接、牟田さんに面会して伝えることとなった。 9月3日  石元所長が牟田さんに面会。なお、この日まで延びたのは、それまで牟田さんが遠方に滞在していたためである。 9月4日  石元所長より細田事務局長へ、「牟田さんが「講師の交代(講師を降りること)は了承するが、それについて説明した文書を出してほしい」と言っている」と、メールで伝えられた。石元所長の指示により、文書は事務局長の細田の名前で出すこととなった。石元所長名で出さない理由は「自分(石元所長)個人の考えと研究所の方針が異なるため」。文書は、石元所長と細田事務局長及び事務局員で検討し、研究所公印と細田事務局長の私印を押印した。 9月21日  上記、研究所からの文書を、石元所長が牟田さんに送付した。  また、石元所長と細田事務局長の協議で、11月2日の代替講師は石元所長が務めることに決定した。  文書では、講師依頼を取り消す理由として、以下の2点を示した。 ①研究所と関わりの深い方々が牟田さんの主張を批判しており、牟田さんに講義をしてもらうことで、研究所が牟田さんの主張に同調していると解釈される恐れがあり、今後の研究所運営に支障を来す懸念があること。 ②「ひょうご人権総合講座」は議論の場ではなく研修・啓発の場であるという性格上、大きく違うスタンスの講師の講義を同じ講座内で提供することは適切ではない。  「講師を降りることを牟田さんが了承している」という前提があり、かつ、牟田さんと石元所長の関係に配慮し、あえて批判はせず、上記の内容となった。 9月26日  牟田さんより研究所・細田事務局長宛に、「「研究所と関わりの深い方々の批判」とはどういうものか教えてほしい」という趣旨のメールが届く。 9月28日  石元所長と細田事務局長で協議。メールでやりとりするより、直接会って話し合ったほうがよいと判断し、「細田事務局長より「直に会って説明したい」と言われているので少し待っていただきたい」旨のメールを、石元所長が牟田さんに送付した。 9月29日  9月28日に石元所長からメールで伝えられた上記話し合いの件に対しては回答なく、牟田さんはnoteに「「キャンセル」が危うくするもの:ひょうご人権総合講座からの講演取り消し依頼を受けて」(註2)との文書を公開、X(twitter)上でも発信。9月21日付の研究所文書もPDFでそのまま掲載された。 10月2日  石元所長、事務局で対応について協議。以下の通り決定した。 ①「講師の交代は了承する」と言われたはずが、noteにはそれと合致しないことが書かれており、認識の違いについて石元所長から牟田さんに伝える。 ②10月12日を目途に、受講予定者に、「ジェンダー①(総論)」の講師が牟田さんから石元所長に交代する旨を連絡する。 10月5日  石元所長より細田事務局長に、牟田さんと話し合いの場を持つことが提案され、日時が提示されたが、調整がつかなかった。 10月10日  石元所長より細田事務局長に、所長辞任の意向が伝えられた。辞任の理由は「一度依頼したものを断るのは研究者の矜持に関わる」「牟田さんとは考え方が異なるが、7月6日付の牟田さんの文書は差別ではない」というものである。  11月2日の講義は、石元所長への講師交代ではなく、中止とすることに決定した。 10月26日  石元所長が10月26日付で所長を辞任した。 11月2日  牟田さんが自身のnoteに「本日2日予定の講義はキャンセルされました」との文書を公開。 11月9日  牟田さんと話し合い(石元前所長、細田事務局長、他1名(研究所研究員))。  後日、研究所としての見解を明らかにすることを伝え、話し合いを終えた。
2、 講師依頼取り消しについての見解  前提として、一つの文書は、それが出された背景や文脈、そして、それがもたらす影響等を含めて判断されるべきものであると考える。その観点から、牟田さんの7月6日付noteの文書が出されるまでの経緯や議論を記したうえ、当該文書と講師依頼取り消しについての当研究所の見解を明らかにする。 (1)トランスジェンターに対する差別、バッシング  トランスジェンダーとは、出生時に割り当てられた性と性自認(性同一性)が一致していない人を指す。性自認とはすべての人が持っているもので、単なる「自称」とは異なる。出生時に割り当てられた性と性自認(性同一性)が一致している人は「シスジェンダー」という。  当研究所でも、人権セミナーや「ひょうご人権総合講座」などで、トランスジェンダー当事者を講師に招き、成長する中での葛藤や、生活する中で経験する困難、差別などについて話を聴き、学んできた。そして、自分たちの中にもある「性に対する意識・偏見」に気づき、考えてきた。  ここ数年、特にインターネット上で、トランスジェンダー、とりわけトランスジェンダー女性(以下、トランス女性)に対して、ひどいバッシング、ヘイトが起きている。「女性と名乗れば誰でも女性になれる」「女性を自称すれば誰でも女性用トイレや風呂に入れるようになり、性犯罪が増える」といった言説がその典型である。これらはデマであり、誤解と偏見に基づく差別に他ならない。また、あまりにも当事者の実情を知らない、無理解としか言いようのない言説である。  住宅設備大手LIXILとNPO法人「虹色ダイバーシティ」が2015年に、日本在住の10代以上の性的マイノリティ当事者対象におこなった調査では、トランスジェンダーの6割超が「職場や学校のトイレ利用で困る、ストレスを感じる」、4分の1がぼうこう炎などの排泄障害を経験したと回答したという(註3)。  LGBTに関する情報発信などをおこなう一般社団法人「fair」の松岡宗嗣代表理事は、「心は女性だとさえ言えば女湯に入れる実態はない。一般の人々の「素朴な疑問」によっても、意図せず差別や偏見は広がる。疑問を持ったらイメージや臆測で終わらせず、本当にそうなのかと考えてほしい」と、昨年9月、埼玉県で開かれたシンポジウムで語っている(註4)。  先に述べたようなトランスジェンダー・ヘイトに、「性暴力への恐怖」が利用されている、というのが今の状況である。性犯罪・性暴力は「行為」の問題であり、「属性」の問題ではなく、加害行為をする個人の問題である。しかしながら、「トランス女性と偽って女性スペースに侵入してくる性犯罪者がいる」が「そうした性犯罪者とトランス女性は見分けがつかない」と混同させ、結果として「女性の安全」を名目にして、トランス女性と性暴力が結びつけられてしまっている。これは差別以外の何物でもない。たとえば被差別部落出身者が犯罪をおこなったときに、「だから部落の人間は危ない」「部落は犯罪者の集まりだ」と言われることがあるが、これは差別である。とりわけインターネットを通じたこうした言説は、被差別部落に対する差別や偏見を一層広げ、日々、差別の被害者を生み出していくことになる。これと同様のことが今、しかも勝手な想像と混同により、トランスジェンダーに対して起こっているのである。  もう一点、付け加えておく。性暴力は、力や立場の強い人から弱い人へ行使される「性」を使った暴力である。現在の社会構造上、女性は相対的に弱い立場にあることから、性暴力被害を受けるリスクが高いが、シスジェンダー女性に限らずトランス女性もそういったところは重なる。また、トランス女性は、女性であることとトランスジェンダーであることの二重の被害・差別を受けていると言える。「ひょうご人権総合講座」の「ジェンダー③(性暴力)」の講義でも、被害を受けるのはシス女性だけではなく、シス男性、トランスジェンダーなど性的マイノリティも少なくないことが指摘されている。 (2)LGBT理解増進法をめぐる議論  昨年2023年6月に、LGBT理解増進法が成立、施行された。  成立までの過程で、法12条に、措置の実施等に当たって、「全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする」という文言が追加された。マイノリティの権利保障ではなく、マジョリティの権利を確保しようというもので、マイノリティにマジョリティへの配慮を強いるような文言となっている。大野友也・愛知大学法学部教授は「この条文が根拠となり、「国民を不安にするから」としてセクシュアルマイノリティを保護する法律や政策の実施が阻害される危険性もある」と指摘している(註5)。  また、教育・啓発に関しても法6条2項で、「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する当該学校の児童等の理解の増進に自ら努める」の前に「家庭及び地域住民その他の関係者の協力を得つつ」という条件が付記された。三成美保・追手門学院大学教授(奈良女子大学名誉教授)は、「これにより、親や地域集団が批判的な声をあげると学校でのLGBT理解増進教育が阻害される恐れが高まる」と指摘している(註6)。  元々、当事者の人たちが求めていたのは、性的マイノリティに対する差別を禁止する「差別禁止法」だ。多数者による差別的な認識や誤解の中で、いじめ、就職差別、孤立、自殺未遂の率が高いなど、困難を抱えて生きざるをえない状況下、それを解消し、当事者が安心・安全に生活を送るために必要不可欠なものだからである。  2016年に自民を含む超党派の「LGBTに関する課題を考える議員連盟」が法案をまとめたが、この法案は、その後5年「棚上げ」されていた。東京五輪・パラリンピックが開かれた2021年、超党派の議員連盟が法案をまとめて五輪前の成立をめざしたが、自民党が保守系議員の反対で意見を集約できず、国会への提出は見送られた。  2023年の広島でのG7サミット(主要7カ国首脳会議)開催などを前に法案提出の動きが起こり、5月に国会にLGBT理解増進法案が提出された。与党法案では、2021年の超党派の法案にあった立法目的「全ての国民が、その性的指向または性自認にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、性的指向及び性自認を理由とする差別は許されないものであるとの認識の下に」の文言も削除された。その後、与党と日本維新の会・国民民主党の修正協議の中で、上記文言の追加が決まったのである。  こうして成立した法律案は、当事者が求めていたものとは程遠く、当事者団体や支援団体のほとんどが反対するものとなってしまった。  その過程でSNS(ソーシャルネット���ーキングサービス)を中心に、「(LGBT理解増進法ができると)身体的には男性の人が「心は女性」と言えば女風呂に入れるようになる、それを拒めば差別だとされるので拒否できない」というような、事実誤認と偏見に基づくデマ言説が広げられた。また、これまで同性婚に反対したり、性差別的な言動を取ったりしてきたような保守派が、急に「女性の安全」を声高に唱えるような状況にもなっている。  牟田さんが7月6日付noteで批判している「LGBTQ+への差別・憎悪に抗議するフェミニストからの緊急声明(註7)」は、こうした状況の中で、「女性の不安を煽る言説が拡散している状況を深く憂慮し、フェミニストのあいだでもそのような動きがあることを懸念」して、6月14日に、認定特定非営利活動法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)のホームページに掲載されたものである。 (3)牟田和恵さんのnote(7月6日付)文書と「ひょうご人権総合講座」講師依頼取り消しについて  牟田さんの7月6日付noteの文書のタイトルは、「トランス問題と女性の安全は無関係か---「LGBTQ+への差別・憎悪に抗議するフェミニストからの緊急声明」についてフェミニストからの疑問と批判」で、構成は以下の通りである。 1)「トランスジェンダーへの配慮」のもとに安全のハードルが下がっている 2)女性スペースが脅かされている現実がある 3)「すべての国民が安心して」はヘイトか? 4)WANサイトへの期待  ここでは関連する1)、2)、3)について述べる。 1)では主に「トイレ」の問題、2)では主に「風呂」の問題について論じられている。  「トイレ」と「風呂」の問題は、トランスジェンダー当事者にとって非常にストレスを感じる問題だと言われている。先に述べた住宅設備大手LIXILとNPO法人「虹色ダイバーシティ」の調査でも、多くの当事者がトイレ利用でストレスを感じ、トイレを我慢しており、排泄障害を患う人もいるという結果が出ている。当事者が苦しんでいる問題であるにも関わらず、これまで見てきたように、ことさらに「トイレ」と「風呂」の問題をクローズアップし、トランスジェンダーが性犯罪者であるかのような理不尽で差別的なバッシングがなされてきた。以下、項目を立てて詳しく述べる。 a.トイレについて  牟田さんは、トイレなどで女性や子どもが犯罪被害にあってきたと述べ、「これらは、男性加害者によるものであり、トランス女性とは何ら関係ありません」としつつも、「公共スペースにおいて女性トイレをなくしてオールジェンダートイレにするという事態が生じています」として、「「トランスジェンダーへの配慮」のもとに安全のハードルが下がっている」とする。  設計において問題があるトイレがあるならば、これまでがそうであったように、すべての人が安心して使うことのできるトイレにするためにはどうすればよいかを考え改善していけばよいだけの話だ。そこに「トランスジェンダーへの配慮」を原因として持ち出し、問題を混同させている。そこにいささかの合理性もない。 b.風呂について  「風呂」の問題について牟田さんは、「トランス女性の方々で、性別適合手術を受けていない(以下、未オペと略)状態であるにもかかわらず、女風呂に入った体験を喜々と語り、またそうした行為を勧めているような発信・発言がネット上では見られます」と書いている。  しかし、インターネット上では、信憑性に欠ける情報でも容易に拡散されてしまうので、注意と確認が必要だということは常識の範疇である。たとえば、2023年11月、「埼玉県内の児童養護施設における寮の男女別が撤廃された」という誤情報がSNSを通して拡散したが、これは埼玉県も公式に否定した(註8)デマであった。  牟田さんは、「風呂」の問題について上記の発信をしている人が本当にトランス女性なのか、その発言は事実なのか、それら一つひとつを確認しているのだろうか。牟田さんの上記の文章からは不明である。また、仮にそれがトランス女性であったとしても、不適切な行為をおこなった個人の問題であり、トランスジェンダー一般の問題に拡大できるものではない。  また牟田さんは、「LGBT理解増進法が公布施行されたのと同日6月23日付で厚生労働省医薬・生活衛生局生活衛生課長名で「公衆浴場や旅館業の施設の共同浴室における男女の取り扱いについて」と題し「体は男性、心は女性の者が女湯に入らないようにする必要がある」とする通知が発せられました」として、「逆に言えば通知が出される以前には、「体は男性・心は女性の者」が女湯に入ることが起こりうるとの懸念には十分理由があった」と書いている。  この通知全文と、そこに「参考」として添付されている「公衆浴場法」や「旅館業法」、及び「令和5年4月28日衆議院内閣委員会会議録」は厚生労働省のホームページに公開されており、誰でも見ることができる(註9)。  これらを読めばわかるが、この通知は、LGBT理解増進法審議過程で、すでに述べたようなデマによって懸念が煽られたことから、「身体的な特徴の性をもって判断する」という従来からの運用をあらためて確認するために発出されたものであり、この通知によって運用が変更されたり、何かが付け加えられたりしたものでもない。したがって、牟田さんの(通知以前は)「「体は男性・心は女性の者」が女湯に入ることが起こりうるとの懸念には十分理由があった」という指摘は全く当たらない。  このように間違った認識と憶測で「女性スペースが脅かされている現実がある」と断じ、トランス女性への恐怖を煽る言説は許されることではない。  上記の6月23日付厚労省通知に関して一点付け加えておく。発出後の7月5日、この通知をめぐり立憲民主党が厚労省にヒアリングをおこなった。LGBT理解増進法の国会審議で、「公衆浴場を、自認する性で利用する人が出るのではないか」との質問が繰り返されたが、厚労省の担当者は、5日のヒアリングの際、「実際にトラブルがあったとは把握していない」と説明した(註10) 。 c.LGBT理解増進法について  「3)「すべての国民が安心して」はヘイトか?」で牟田さんは、LGBT理解増進法に「全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする」という留意条項が追加されたことについて、「女性という、数のうえでは多数ではあるが、性犯罪の被害や性差別にさらされ続けているマイノリティの立場にも配慮することを求めたものと解釈するのが妥当ではないでしょうか」と書いている。  これまで見てきたように、この条項は、デマに基づくトランスジェンダー・バッシングを背景に設けられたものである。また、この条項のように、マイノリティの権利保障をめざす法律において、マジョリティへの配慮を強いるような条項を許せば、被差別部落出身者や障害者、女性などへの差別の撤廃、権利保障をめざす法や施策の整備場面で、同じように波及していく恐れも十分にある。  「女性の安全」を名目に、シス女性が「トランスジェンダー・ヘイト」に利用されている中で、それを防ぐのではなく、(シス女性の立場にも)「配慮することを求めたもの」とだけ無邪気に評価するのは、あまりにも状況を理解していない。さらにそれは、マイノリティの権利保障に逆行する行為であると同時に、いたずらにマイノリティとマジョリティ(この場合、シス女性)との分断を煽り、人権社会確立を危うくする行為でもある。 d.トランス女性へのバッシングとジェンダー規範  LGBT法連合会が2023年3月 16日に出した「トランスジェンダー女性に対するデマへの毅然とした対応についての声明(註11)」には、次のように書かれている。  「そもそも、性的指向・性自認に関する困難は、その大部分が社会における家父長的なジェンダー規範と密接に結びつくものである。その意味で、性的マイノリティは、構造的に家父長的なジェンダー規範による被害を受けやすい立場にあり、このような知見はジェンダー研究をはじめとした学術分野において、確立されたものであると受け止めている。責任ある立場に就いている人びとが、このような基本的な知見を無視し、ジェンダーに関する暴力の「加害者」であるかのように煽り立てる言説は到底許されるものではない。こうした行為は自らに課せられた責任の放棄に等しいことを厳しく指摘する」  当研究所も、これに同意するものであり、「ひょうご人権総合講座」の「ジェンダー」も、「性的指向・性自認に関する困難は、その大部分が社会における家父長的なジェンダー規範と密接に結びつくもの」という上記の知見に基づき、「①総論」「②性的マイノリティ」「③性暴力」の3つのテーマで企画されている。当然、牟田さんに依頼した「総論」は、女性差別のことだけにとどまらない、②③も含めた、文字通りの「総論」である。 結論  これまで見てきたように、牟田さんは、事実を確認することもなく言説を発信している。現にトランスジェンダーに対する差別とバッシングが吹き荒れ、当事者への脅迫も起きている中で、牟田さんの言動は、トランスジェンダー女性に対する偏見を広め、差別に加担する人権侵害行為である。  以上の理由から、牟田さんは、当研究所が主催する「人権総合講座」の「ジェンダー① (総論)」の講師にはふさわしくないと判断した。 以上 註 (1)https://note.com/mutakazue/n/n38c390f8d59c (2)https://note.com/mutakazue/n/n0bc107aa2c15 (3)「性的マイノリティのトイレ問題に関するWEB調査結果」特定非営利活動法人虹色ダイバーシティ・株式会社��式会社LIXIL,2016年04月04日報告会資料(2016年11月18日資料改訂) https://newsrelease.lixil.co.jp/user_images/2016/pdf/nr0408_01_01.pdf (4)「「対立ではなく対話を」 STOP!性的少数者への差別助長デマ さいたま市で有識者が緊急シンポ」、『東京新聞』 2023年9月30日 https://www.tokyo-np.co.jp/article/280739 (5)大野友也「LGBT理解増進法の問題点と今後の運用について」、法学館憲法研究所「オピニオン」、2023年7月12日 https://www.jicl.jp/articles/opinion_20230712.html (6)三成美保「LGBT理解増進法案の問題点」、ウィメンズ アクション ネットワーク(WAN)、2023月6月10日 https://wan.or.jp/article/show/10665 (7)https://wan.or.jp/article/show/10674 (8)埼玉県「「埼玉県内の児童養護施設の男子寮・女子寮撤廃」のSNSは虚偽の情報です。」2023年11月9日 https://www.pref.saitama.lg.jp/a0608/top-news/1109sns.html (9)厚生労働省,薬生衛発0623第1号,令和5年6月23日 https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/001112499.pdf (10)朝日新聞、2023年7月6日 https://www.asahi.com/articles/ASR7576B4R75UTFL01H.html (11)https://lgbtetc.jp/news/2862/
※註のURLの最終閲覧日は、すべて2024年3月7日である。
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kuborie · 11 months ago
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朝日新聞デジタル連載オリンピックとジェンダー記事 パリオリンピック2024特集
ボクシング女子、性と出場資格めぐる議論 「公平性」模索の歴史
オリンピックとジェンダー 聞き手・寺島笑花 二階堂友紀2024年8月3日 20時30分 list 29 仲岡しゅんさんのコメント
写真・図版 中京大教授の來田享子さん 写真・図版  パリ五輪のボクシング女子で、選手の性と出場資格を巡る議論が起きている。昨年の世界選手権で性に関する検査によって「失格」となった2人の選手が、今大会への出場を認められたからだ。SNS上では、トランスジェンダーの女性と決めつけ、「公平性」を疑問視するなど、選手への誹謗(ひぼう)中傷や差別的な投稿も相次ぐ。
五輪ボクシング女子、出場資格巡り世界で議論 SNSに誤解や中傷も  こうした状況を、私たちはどう理解したらいいのか。スポーツとジェンダーに詳しい中京大の來田享子(らいたきょうこ)教授(スポーツ史)に聞いた。
 ――66キロ級のイマネ・ヘリフ(アルジェリア)が1日の2回戦で勝利し、57キロ級の林郁?(リンユーティン)(台湾)も2日の2回戦で勝利し、準々決勝に進みました。SNS上の反応など一連の事態をどのように見ていますか。  性のありようは、高度なプライバシーに関わる情報です。当事者が自ら公表していないにもかかわらず、推測に基づき、「トランスジェンダーではないか」「DSDs(性分化疾患)ではないか」などと公然と論じることは、あってはならない行為です。  確かに、「スポーツの公平性」をみいだそうとする議論は重要です。しかし、それは今回のように選手を傷つけるような形ではなく、競技関係者や専門家らによって冷静に行われるべきです。
 ――一般論として、DSDsとはどのような状態なのでしょうか。
 人間の性に関わる発達は、とても複雑な過程をたどります。多くの人とは異なる過程を経て、性染色体や性腺、内性器、外性器が非典型的である状態の総称がDSDsとされ、そこには様々な状態が含まれます。
世界ボクシング協会の検査、「公平性や妥当性に疑問」
 ――昨年の世界選手権で、林選手は準決勝で敗れて銅メダルとなるはずでしたが、世界ボクシング協会(IBA)が準決勝の2日後、メダル?奪(はくだつ)を発表しました。IBAは林選手に対して、性に関する検査を行っていました。
 両選手が実際に受けたかどうかは不明ですが、性に関する検査の一つに、テストステロン値を測るものがあります。  テストステロンはアンドロゲンと呼ばれる、男性に多いとされるホルモンの一種で、筋肉量を多くする作用があるとされています。ただDSDsの場合、テストステロンにほとんど反応しないケースもあり、筋肉量に直結するとは限りません。  そもそも、人種や住んでいる地域によっての差異や、それがスポーツに与える影響も把握できていません。  多様な性に関する科学的知見は進歩していますが、学校などで学ぶ機会も十分とは言えず、知識不足により差別的な言説を広げてしまうケースも少なくないと思います。
 ――IBAが行った検査について、どのように評価していますか。
 IBAの1日付の声明や、昨年の世界選手権で両選手の「失格」を決めた際の理事会の議事録などを読んでも、検査の具体的な内容は確認できません。  性のありようと参加資格に関するルールについても、IBAのホームページを見る限り、みつかりません。広く公開されていなければ、専門家や関係者が科学的な妥当性を判断することもできません。
 ただ、その検査が全ての選手に対して実施されたわけではないということは、はっきりしています。大会中に特定の選手をターゲットにして資格喪失の判断が行われた点だけをとっても、公平性や妥当性に疑問が残ります。
 ――国際オリンピック委員会(IOC)は、性のありようや大会における公平性について、どのような原則を示しているのでしょうか。
 2021年11月、「性自認やからだの性の多様性」に関する枠組みを策定しました。五輪の理念に基づき、「優位性に関する推定をしない」「プライバシーの権利の尊重」「関係者を中心に据えたアプローチ」など、10の項目を示しました。  例えば、「優位性に関する推定をしない」は、トランスジェンダーの女性だからといって有利だとは限らない、ということです。実際、米国では、トランス女性で代表入りを逃した選手もいれば、トランス男性で全米レベルの大会で活躍する選手もいます。  DSDsに関しても、スポーツのパフォーマンスに有利に働くかどうかは、その人がどのような状態にあるかによって違い、非常に個人差があります。
 ――IOCは8月2日に発表した声明で、パリ五輪のボクシング競技に参加している全ての選手は、参加資格を順守し、性別はパスポートに基づいていると説明しました。
 「プライバシーの権利の尊重」に即して、それ以上は言わないということです。  IOCとして、ボクシング女子のカテゴリーで出場できると判断した。検査をしたとしても、その詳細は公表しない。こうした姿勢は、国際的な人権基準にのっとっています。
背景に「女性差別の歴史」  ――五輪では、性のありようと参加資格に関するルールは、どのように定められていますか。
 IOCの原則に「関係者を中心に据えたアプローチ」とあるように、競技ごとに検討が進められています。私の研究室でパリ五輪に際して確認したところ、ルールを策定して公表している国際競技団体は13団体でした。  例えば、水泳は、トランス女性について「12歳以前に男性としての思春期を経ていない」ことなどを参加資格とし、12歳以降一貫してテストステロン値が基準以下だと証明する必要があります。
 ――出場選手の性のありようと参加資格を巡る議論が起きたのは、今回が初めてではありません。
 近年で注目を集めたのは、陸上女子中距離のキャスター・セメンヤ選手(南アフリカ)です。12年のロンドン五輪、16年のリオデジャネイロ五輪で、2大会連続で金メダルを獲得しました。  彼女は09年の世界陸上で急激に記録を伸ばしました。それを契機に、性別を疑う差別的な視線が注がれ、検査が行われました。  女性の平均値を上回るテストステロン値を計測したとの結果が暴露され、女性の競技カテゴリーで出場することが妥当かという議論が起こりました。その後も、ルールのあり方をめぐり欧州人権裁判所で係争中で、結論は出ていません。
 ――いつから同様の議論があったのでしょうか。
 スポーツの世界でも性別を移行する女性が出てきた1930年代にさかのぼります。40年代末には視認検査が行われ、68年の冬季五輪以降に「性別確認検査」が確立しましたが、当初から一部の医学者らは科学的な妥当性について疑義を示していました。  結局、この検査自体は2000年に廃止されます。性別の名称を競技のカテゴリーに貼り付けることの限界は、当時から指摘されていました。  競技の面白さを裏打ちする公平なカテゴリーとは、「男/女」で分けることなのか。見つめ直す時期にきているのではないでしょうか。
 ――パリ五輪は「ジェンダー平等」を掲げ、男女の選手数が同数になる見込みです。
 歴史的に、スポーツは男性がするものとされ、女性は排除されてきました。1900年ごろ五輪競技の種目として女性の参加が認められたテニスやゴルフ、アーチェリーは、もともと「お見合い」の場でした。男性と対等な意味において参加が認められたわけではなく、「女性としての役割」が明確に位置づけられていたんですね。  そうした時代を経て、ようやく「男女同数」の参加を掲げるまでになりました。  今回のボクシングのような事例は、「女子競技への『男性』の侵入」という論理で問題視される傾向にあります。その背景には、スポーツの世界で続いてきた女性差別の歴史があることを忘れてはなりません。  ただ、「公平」の概念は、時代によって移り変わるものです。ジェンダー平等と科学の進展によって、スポーツの「公平性」に関する考え方やルールも変化していくのではないでしょうか。(聞き手・寺島笑花、二階堂友紀)
この記事を書いた人
寺島笑花 ネットワーク報道本部 フォロー 専門・関心分野 社会福祉、平和
二階堂友紀 東京社会部 フォロー 専門・関心分野 人権 LGBTQ 政治と社会 コメントプラス
仲岡しゅん (弁護士) 2024年8月4日5時57分 投稿 【視点】この騒動を巡っては、当初、「トランス��ェンダーの選手が女性選手を一方的にボコボコにしている」といった形で話が流布され、炎上した。 しかしその後、トランスジェンダーではない女性選手であるということが公表されるや、次は「この選手は性分化疾患(DSDs)だ、性染色体はXXなのかXYなのか、XYならば男だ」という形で、身体的特徴を決めつけ、また詮索する論争が相次いだ。
しかし、IOCの判定によって女性選手として出場資格を認めている以上、それで十分であり、それ以上にその選手がXXかXYかなどという身体の機微な事柄を公表する必要性などない。(仮にXY型であったとしても、女性として出生する人は存在するのだから。) 他者の身体的特徴は、誰かの下世話な好奇心を満たすための見世物ではないのだ。
結局、この騒動は、トランスジェンダーへの差別と偏見、そしてDSDsへの差別と偏見、両方が重なった形で現れた。 トランスジェンダーもDSDsも一緒くたに叩きのめされたのだ。 その根底に存在するのは、「非典型的な存在」とみなした者を叩き、排除しようとする邪な欲望だ。 その邪な欲望は、いずれトランスジェンダーやDSDsだけでなく、また別のものを探しだして攻撃対象にするだろう。
そしてもう一つ、こうしたデマや詮索は、人々の下世話な関心に乗ってあっという間に炎上し拡散されるが、その後の訂正報道などの広がりは相対的に非常に弱いということだ。 実際、この騒動があってから、たまたま私は自分の講演会が二度あったため、会場でこの騒動について知っているか質問してみると、「トランスジェンダーの選手が女性選手を一方的にボコボコにしている」という話のまま鵜呑みにしている人が複数いた。 ネット情報を安易に鵜呑みにするのは本当にやめていただきたい。
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kuborie · 11 months ago
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トランスジェンダーのケア、求める若者たち 禁止する州法に憤り、「境界から」☆()米オハイオ州
2024.7.28
 「この法案を通せば多くの子どもたちが自ら命を絶とうとするだろう」。居並ぶ議員らを前に、声を震わせながら訴えかけたあの日をロビン・バラダバー(16)は忘れることができない。 若者のトランスジェンダーケアを禁じる法律を成立させた米オハイオ州議会の議事堂前に立つバラダバー。「議論は形式的で、反対意見を真剣に聴く気はなさそうだった」と語る=2024年6月、同州コロンバス(撮影・Jong Ryu、共同)
米オハイオ州コロンバス近郊にある自宅の玄関前に座るアルバレス。自分らしい性のあり方に父親の理解が得られず、早く高校を卒業して故郷を出る日を待つ=2024年6月(撮影・Jong Ryu、共同) 米オハイオ州コロンバス
 米中西部オハイオ州議会で2023年12月に開かれた公聴会。性同一性障害に悩む未成年者らに対し、心と体のギャップを緩和するホルモン治療などの性別適合ケアを施すことを禁止する法案が通過しようとしていた。多くの反対意見にもかかわらず州法は成立した。 幸いバラダバーは母クリスティーナ(46)の理解を得て治療を受けることができたが、なかには置き去りにされた若者もいる。「自分がどうあるべきかは自分で決める。政治家に決めてほしくない」と語る。 ▽違和感と救い 成長するうちに生まれた性別に違和感を抱くようになる子どもがいる。女性として生まれたバラダバーもそんな一人だ。 「トランスジェンダー」という言葉を初めて耳にしたのは4、5歳の頃。ニュースで聞いたが決して好意的な取り上げられ方ではなかった。 12歳になって思春期を迎えると違和感に耐えられなくなった。「自分を表現する言葉はトランス以外にない」と強く感じた。「男性として生きたい」と言うと、親はすぐに理解してくれた。 ただ学校では思うようにいかなかった。オハイオ州郊外の保守的な土地柄。教師に意思を伝え、同級生も知るようになると、悪意を持った生徒につきまとわれ、からかわれるようになった。 ある日、近所のプールで同じ学校の生徒たちに出くわし、溺れさせられそうになった。彼らはそのさなかに笑っていた。泣きながら帰宅すると、母が州都コロンバスへの引っ越しを決めた。 コロンバスでは専門家による心理療法を受けた。気持ちが安定し「命を救われた」。 そんな時に州法の案が提出されたのを知った。 ▽全米に広がり 心と体のギャップが大きくなると、精神的に混乱し、ひきこもりや自殺につながることもある。そうした場合に、思春期の進行を遅らせる薬剤を投与したり、ホルモン治療や性別適合手術でギャップを埋めたりする医療が有効とされる。 オハイオ州の法律は、医師らが18歳未満に性別適合手術やホルモン治療などを施すのを禁じる内容。キリスト教福音派の牧師でもある保守系の男性議員が提案した。 「子どもの健康と安全を守る」との名目だが、この議員は「未成年者には危険な医療行為に同意をする能力はない」と自己決定権を否定。条文には「性別に違和感を持つ子どもの大多数は成人までに出生時の性を自認するようになる」と治療の必要性を疑問視する記述も盛り込まれた。背景には性同一性障害を精神疾患とみなす考えがある。 そうした医療行為を制限する動きは2021年以降に全米20州以上に広がった。いずれも福音派が支持する共和党が州議会の多数派だ。オハイオ大教授のスーザン・バージェス(62)は「共和党の支持固めのためにトランスジェンダーが標的にされている」と分析する。 バラダバーが公聴会に出席したのはこんな状況を変えたかったからだ。「自分と同じ境遇にある若者がケアを受けられず、精神的に傷つくのを見たくなかった」 公聴会には母も同席した。言葉に詰まると背中をさすって勇気づけてくれた。証言の最後に子どもの自殺につながる可能性に触れ「議員の手は血に染まることになる」とあえて強い言葉で締めた。終わると緊張から解放され、母と抱き合って泣いた。 成立した法案には州知事が署名を拒否したが、議会に覆されて2024年4月に法施行された。施行時にケアを始めていれば継続が許されるため、バラダバーは精神科医の承認を得てホルモン治療を始めることができた。「こんなに急いでやるとは思わなかった」と寂しげに笑う。 ▽父の拒絶 「心にぽっかりと穴があいたようだった」。ナサニエル・アルバレス(16)は州法を知った時の衝撃を語る。女性に生まれたが幼い頃から女の子を好きになり、ズボンしかはかなかった。 父親は受け入れてくれなかった。「なぜ男物の下着を買うんだ」などと傷つける。一緒にセラピーにも通ったが、父は最後まで自分と異なる考えや自らの過ちを認めることができなかった。 親の同意が得られず、法施行前にケアを受けることはできなかった。心の穴は今も広がっているように感じる。「どうすれば自分を愛することができるかは分かっている。だけど女性の声や体のままではそれが難しい」 18歳になれば法的に自由になり、オハイオ州を去ることができる。「制度を変えてくれと嘆願するつもりはない。自分を受け入れてくれる場所に行くつもりだ」。アルバレスはその日を心待ちにしている。 【取材メモ/自己肯定感】 取材した2人の若者の表情が対照的だった。明るく活発で前向きなバラダバーに対し、アルバレスは心(しん)の強さを感じさせながらも悲観的な印象を残す。親や友人など周囲から積極的に受け入れられたかどうかが関係しているのかもしれない。地元で性的少数者の若者を支援する団体の関係者は「州法で性別適合の道が閉ざされても、未来がある、生きていてもいいと思わせる居場所を提供しなければいけない」と語る。若者が必要とするのは自分自身を肯定できる環境だ。 (敬称略、文は共同通信ニューヨーク支局員・稲葉俊之、写真は共同通信契約カメラマン・Jong Ryu=年齢や肩書は2024年7月24日に新聞用に出稿した当時のものです)
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kuborie · 1 year ago
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Think Gender KADOKAWAのトランスジェンダー翻訳本 刊行中止をどう考える 二階堂友紀2024年3月29日 8時00分
写真・図版 KADOKAWAが刊行を中止した翻訳本「あの子もトランスジェンダーになった SNSで伝染する性転換ブームの悲劇」の原著。タイトルは「取り返しのつかないダメージ 娘たちをそそのかすトランスジェンダーブーム」といった意味の英語だ  KADOKAWAが発売予定だった翻訳本「あの子もトランスジェンダーになった SNSで伝染する性転換ブームの悲劇」が昨年12月、「差別本だ」との批判があがるなか刊行中止になった。同社はなぜ出版をとりやめたのか。一連の経緯をどう考えればいいのか。(二階堂友紀)
 昨年12月3日、KADOKAWAの翻訳チームが、Xなどで同書の発売を告知した。「幼少期に性別違和がなかった少女たちが、思春期に突然“性転換”する奇妙なブーム」「ジェンダー思想(イデオロギー)に身も心も奪われた少女に送る母たちからの愛の手紙」などと宣伝した。  原著は米国のジャーナリスト、アビゲイル・シュライアー氏が、トランスジェンダーの子どもを持つ親などに取材し、2020年に出版した。「トランス差別本」として物議を醸した経緯があり、同���は「タブーに挑む大問題作!」とも紹介した。  これに対しSNSでは「色んな考え方を読むべきだ」との声があがる一方、「トランスジェンダーに対する誤解と悪意がある」「KADOKAWAがヘイター化」などと抗議が広がった。  保守系のインフルエンサーが4日、「角川書店よりゲラが送られてきた。女子のトランスジェンダーブーム。背後にいるのはあの勢力」などとXに投稿すると、「確信犯的な差別」と批判はさらに強まった。同社関係者によると、社内の資料には、ゲラの送付先として、複数の保守系論客らの名前とXのフォロワー数が記されていたという。  同社は5日夜、学芸ノンフィクション編集部名で刊行中止を発表。「欧米での事象等を通じて国内読者で議論を深めていくきっかけになれば」との考えだったが、「タイトルやキャッチコピーの内容により結果的に当事者の方を傷つけることとなり、誠に申し訳ございません」と陳謝した。  出版の権利を得て翻訳を進め、発売直前に至った本の刊行中止は異例。だが、同社はこれ以降、対外的な説明をしていない。 執行役「相応の準備、怠った」  同社関係者によると、当初は社内で説明がなく、「作家からの問い合わせにどう答えればいいのか、対応に苦慮している」などと不満の声があがった。その後、夏野剛社長と、出版部門の最高責任者(CPO)を務める青柳昌行執行役が8日付で、社員向けの声明を出した。  朝日新聞が入手した声明文によると、青柳氏はその中で「刊行中止の原因は、本書の内容によるものでも、SNSなどの抗議によるものでもありません」としている。  原著をめぐって米国で議論や抗議行動が起き、「データや主張に対しての反証も引き続き行われている」と言及。「トランスジェンダーへの理解を深めている途上にある日本の議論に一石を投じるために刊行するなら、相応の準備が必要だが、それを怠った」「社内で内容を検証し、識者からも意見を求めるなどして、ジェンダー平等社会の議論を活発にさせるという編集意図を明確にしてから告知すべきでした」と総括した。  さらに「Irreversible Damage The Transgender Craze Seducing Our Daughters(取り返しのつかないダメージ 娘たちをそそのかすトランスジェンダーブーム)」という原題を、「あの子もトランスジェンダーになった SNSで伝染する性転換ブームの悲劇」と翻訳した点に触れ、「扇情的なタイトルにすることで、もはや当初の編集意図が通じる状況ではなくなった」と指摘した。  夏野社長は同社が「ダイバーシティー&インクルージョン(多様性と包摂)」を掲げているとして、「特にジェンダーにまつわる様々な取り組みを行う際、世の中にどのような影響を与えることになるのかを想像した上で進めることが大事です」と呼びかけた。  社内では「差別的な本は一切出すべきでない」「どんなことがあっても刊行中止には慎重であるべきだ」との両論があるという。朝日新聞は刊行中止の理由について取材を申し込んだが、同社IR・広報室は「(昨年12月5日に)ホームページで案内した内容以外の回答は控える」とした。  原著の著者、シュライアー氏は2月10日、自身のXに「(KADOKAWAによる刊行中止後)複数の出版社が入札合戦を繰り広げた」「日本語版は近日出版予定!」と投稿した。翻訳本は別の出版社から4月に刊行される。
研究者ら原著を検証「実態踏まえない主張」
 「トランスジェンダー入門」の共著がある高井ゆと里・群馬大准教授は、昨年12月から医療社会学やトランスジェンダー・スタディーズの研究者ら数人で原著の内容を検証中だ。  検証チームのまとめでは、同書は「思春期の少女たちが、SNSでトランスイデオロギーに触れて自らをトランスジェンダーだと誤認し、不可逆的な医療を受けている」などと訴える内容。  検証の中核を担う研究者は「そもそもトランスジェンダーは政治的な思想や流行ではない。子どもへの医療は慎重に行われており、必要な医療資源の不足の方が問題になっている。実態を踏まえない主張で、具体的な問題も多い」と話す。  例えば、同書は第二次性徴を抑えるホルモン療法が危険だと訴えるが、この治療で「知能指数が下がる」としている根拠はサンプル1人の調査だった。トランス男性が胸の膨らみを隠す際に使うバインダーが「肺の機能を低下させる」としている部分でも、引用元は20人のデータで喫煙者4人、ぜんそく患者4人が含まれるなど、「信頼性の低い論文やデータを多用している」という。  また同書は、性別適合手術を受けた当事者と非当事者の年齢別の死亡率を比べ、「性別適合手術は自殺念慮を高める」と主張する。トランスの当事者はその生きづらさから、もともと自殺念慮の高い集団であることが考慮されていないという。  さらに、「米国の心理学会などが21年、エビデンスが不足しているとして、臨床や診断に使わないよう求めている論文の考え方に依拠している」「不安を訴える親の語りに焦点を当て、性別違和を抱える子どもの声にしっかり耳を傾けていない」といった特徴があるという。  検証チームは「性別違和の問題に明るくない保護者が影響を受け、当事者の子どもに対する適切な支援が遠のくことが懸念される」とみる。4月以降に、原著の問題点をまとめた啓発用のチラシやウェブサイトを公表する予定だ。
「公平な議論」容易ではない
 原著の検証をしている高井ゆと里・群馬大准教授の話 KADOKAWAのタイトルや宣伝文は、トランス差別をあおる扇情的な内容で、誠実な問題提起が目的だったとは考えられない。同社が刊行中止の理由を十分説明しなかったことで、「当事者らの批判のせいで読む機会が奪われた」との中傷を招いたことも問題だ。  米国では同性婚の権利が確立した後、LGBTQの権利擁護に反対する保守派や宗教右派が批判の矛先をトランスに変え、子どもを論争の手段に利用している。原著はそうした政治的対立の文脈の中で出版された。  「読んでから判断したかった」との声も多いが、日本の社会にはトランスに関する正しい情報が不足し、差別をあおる言説や虚偽の情報が広がる。社会にリテラシーが蓄積されていない現状では、残念ながら「公平な議論」は容易ではない。 あくまでも言論積み重ねて  田代亜紀・専修大法科大学院教授(憲法学)の話 表現の自由の観点からは一般的に、書籍の内容に問題があるとしても、刊行中止には慎重であるべきだ。淘汰(とうた)すべきかどうかの判断は、読者が主体の「思想の自由市場」に委ねるべきだろう。  そもそも憲法学が議論の対象としてきたのは、公権力による表現規制である。SNS上の異議申し立てを起点とした刊行中止は、憲法学の直接の対象ではないが、表現の自由の理念が問われている事案だとは言える。  今回のように広く議論が起きること自体は、健全な言論のありようとして評価すべきだ。マイノリティーに関する表現では「市場原理」が公正に働きにくい点に注意が必要だが、あくまでも言論の積み重ねで、差別や偏見を乗り越える社会をめざすべきではないか。
仲岡しゅん (弁護士) 2024年3月29日8時2分 投稿 【視点】
日本での性別移行医療に関して言うと、そもそもこの本の謳い文句とはかなり事情が異なる。 現在の日本の医療実態として、未成年のトランスジェンダー当事者に対しては、原則的に不可逆的な医療は行われていない。 行うことがあったとしても、本人の身体違和が極めて強いなど、かなり稀なケースである。 私も学校などで講演する機会や、未成年のトランスジェンダー当事者から相談を受ける機会は多いが、私自身、未成年の当事者に対して安易な医療を勧めてはいない。 むしろ本人と周囲の関係など、社会的な調整が必要な側面が大きい問題である。
また「思想の市場原理」に関して言うと、本書は公権力の介入によって出版中止となったわけではない。 また原著は既に出版されており、一部の人々の間では既に批評がなされているものであった。 そうした批評や、キャッチコピーに対する批判などがあり、また記事にもあるように出版社自身の内部での検討の結果として刊行中止になったのであれば、これも一種の市場原理が働いた結果と評価できるではないだろうか。
闇雲に何でもかんでも出版すれば良いというものではなく、それが社会に影響を与えるものである以上、出版する・しない、あるいは出版するにしてもどのようなプロセスを踏むかなど、出版する側でもその出版過程において当然に検証がなされるべきだからだ。 そうでなければ、出版社内での検証もなく粗雑な内容の本までとにかく出せばよいということになりかねず、それは「思想の市場」論の本来意図するところではないだろう。
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kuborie · 1 year ago
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同性カップルの権利保護、広がった道 「給付金の対象」最高裁初判断 遠藤隆史 横山輝2024年3月26日 21時08分
判決内容などが書かれた紙を掲げる原告ら=2024年3月26日午後3時53分、東京都千代田区、横山輝撮影
 同性パートナーが、犯罪被害者等給付金支給法(犯給法)に基づく遺族給付を受けられるかが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁第三小法廷(林道晴裁判長)は26日、「同性パートナーも支給対象になりうる」との初めての判断を示した。「支給対象にならない」とした二審・名古屋高裁の判決を破棄し、審理を高裁に差し戻した。今回の原告が支給対象になるかが改めて審理される。  犯給法は、遺族給付金の支給対象となる「配偶者」について、婚姻届を出していなくても「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」を含むと定め、異性間なら事実婚でも支給対象になる。  原告の内山靖英さん(49)=愛知県=は、20年以上パートナーとして生活してきた男性を2014年に殺害された。内山さんは、自身らの関係が「婚姻関係と同様の事情」にあたるとして県公安委員会に給付金を申請したが、不支給とされ、処分の取り消しを求めて18年に県を提訴した。  第三小法廷は、同法の遺族給付金の目的は「遺族の精神的・経済的打撃を早期に軽減し、被害者の権利が保護される社会の実現に寄与すること」だと指摘。こうした目的を踏まえて同法の文言を解釈する必要があるとした。  その上で、異性間の事実婚に給付金が支給されているのは、相手を失った打撃は法律婚の場合と同じだからであり、こうした点は「(パートナーが)異性か同性かによって直ちに異なるとは言えない」と述べ、同性パートナーも対象に含まれうると結論づけた。 弁護団「他の法令にも」期待  裁判官5人のうち4人の多数意見。裁判官出身の今崎幸彦判事は、同性パートナーの法的保護をめぐる議論の蓄積が不十分だなどとして、「同性パートナーを含むとは解釈すべきでない」とする反対意見を述べた。(遠藤隆史)
 判決後、内山さんは最高裁の前で取材に応じ、笑顔を見せた。パートナーを失ってから言葉が話せない状態だという内山さんに代わり、弁護団が「一言で言えば、ホッとしました」とのコメントを読み上げた。その後の会見では、弁護団の堀江哲史弁護士が「別の法令でも同様に解釈する余地が開けた」と判決を評価した。  犯給法のように、「事実上婚姻関係と同様の事情」との文言を使い、異性間の事実婚を法律婚と同様に扱う法令は200超に及ぶ。  今回の判決は「制度の目的を踏まえる必要がある」としたのみだったが、裁判長の林判事は補足意見で「(犯給法と)同一や類似の文言を用いた法令は相当数あるが、それらについて判断したものではない」と言及。今回の判断がすべての法令に当てはまるものではなく、個別の法例ごとに検討されるものだ、と釘を刺した。  一方、4人の裁判官の結論に反対した今崎判事は、「犯給法の解釈が他法令に波及することは当然想定され、社会に大きな影響を及ぼす可能性がある」と述べた。
専門家「行政は検討迫られる」
 専門家はどう見るか。  立正大学の濱畑芳和教授(社会保障法)は「最高裁は『影響は限定的』と強調したように見えるが、事実上の影響はかなり大きいのでは」と話す。  今回の判決を受けて、ほかの法令についても同性カップルの法的保護を求める訴えが相次ぐ可能性がある。また、都道府県レベルでは、同性パートナーを配偶者と扱って扶養手当を支給するなどの動きが進んでいる。こうした流れを後押しする可能性もある。  濱畑教授は「最高裁が同性カップルの権利に肯定的な判断を示した意義は大きい。(各種給付を所管する)省庁、自治体は、同性カップルも対象になるか検討を迫られることになる」と話した。(遠藤隆史、横山輝)
犯罪被害者への給付金  犯罪被害者への給付金 犯罪によって亡くなった被害者の遺族や、重傷を負うか障害が残った本人に一時金が支給される。8人が死亡した1974年の三菱重工ビル爆破事件を受け、事件に巻き込まれた被害者への公的支援を求める声が高まったことから81年に始まった。
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