lucewizard27
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路地裏
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二次創作、一次創作の断片
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lucewizard27 · 6 years ago
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隠れ家
甘いものが好きだと言う。そんな男を前にして、彼女は首を傾げた。甘いもの、甘いもの。名探偵、巌窟王、音楽家。セレブそうな集まりだなと思った彼女は、ごく普通な感覚でごく当たり前に言うのだった。
「カジノに行かない?」
昼下がりのカフェーで、意気揚々ともうすぐ成人になるかならないか、微妙なお年頃の若い女が成人男性三人に言うのだ。人の目は引いた。まして今回のレイシフトは保護者と言えるような立場には、むしろ彼女たちの方なのだ。
「カジノに」
「ウェイター!この娘にもスペシャルスイーツコース、わくわくざぶーんインラスベガスセットを!」
高らかに響く巌窟王の声に彼女は何だそれ、と小さく���いた。インラスベガスって何だ。ふと学生たちの集うクイズ大会が思い浮かんだが、それはそれとして。
「ふむ。君は何故我々をカジノに誘うのだね。そもそも我々は水着、ーーいや、」
名探偵は咳払いをする。この三名の中で夏の装いから程遠いのはホームズのみで、他二名はかたやルルハワ、かたや生前の短髪だった頃に扮しているのだから。彼女は暑そうだねと一瞥して、仕方なくーー仕方なく隣のテーブルにそっと座った。男三人の男子会に紛れ込む勇気はなかったのである。
「事情は大方察しているがね。我々よりも、その役回りに相応しい人物がいるのではないかね。」
音楽家は会話に一切参加せず、美味しそうにシフォンケーキをほうばっている。幸せそうだなと彼女はごくりと喉を鳴らした。あまりにも美味しそうに食べるものだから!
流石に視線に気づいたらしい音楽家がのそりと視線を押し上げ、盛大にため息をついた。そこへ運ばれてきたインラスベガスセットは、何を使えばそんなに青くなるといわんばりの、綺麗なオーシャンブルーをイメージしたホールのケーキをメインに、細々と色々なスイーツが南国を彩る目にも鮮やかなゴージャスな一品である。これには一瞬音楽家が目を奪われ、彼女と無言で見つめあった。
「ーーあ、の、先生」
彼女が先生と呼ぶのは妥協に妥協を重ねた結果、つまりこれは愛称なのだが。呼ばれた方はすでにスイーツセットに意識がいっているので、多分それどころではない。
「シフォンケーキが欲しいか?」
「物々交換、いいえ、このセット一人では食べきれないので!割り勘で如何でしょうか!」
巌窟王が奢りのつもりで頼んだセットを豪快に割り勘でと言い放つ彼女、百パーセントど天然ではと名探偵が視線を伏せる。案の定、巌窟王はふっとニヒルに意味深な笑みを浮かべてはいるが、やや拗ねているような。いや気のせいだろう。
「いいだろう。」
そんな合間にも二人の取引の話は進んでいて、あまつ音楽家は隣のテーブルに移動してせっせと幸せそうに消化していくのである。ああ、ラスベガスって平和だなあと見ていた店員はほのぼのとしていたようだが、きっかり1時間後現れたカーミラ嬢にぼろっくそ突っ込まれたのは言うまでもない。
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lucewizard27 · 6 years ago
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愛してるとは言わないで
もう一度会えたらと願わなかったら嘘になる。女はそう言って作家に笑いかけた。グラスを合わせて音を鳴らし、こういう時だけ寡黙な紳士になる男の思考など知れている。どうせこの独り言を、具に記憶してネタにするのだ。全く性質の悪い男だとセミラミス はため息をつく。あの長い旅を経た老成した少年だった男を、彼女は恋い焦がれていた。その在り方を好ましいと思っていた。だからこそだ。記録を持ち得ても、我々は重ならない。どうしたって、セミラミスは彼のアサシンではないし、天草四郎も彼女のマスターでないのだから。 ありきたりな恋の話だとアンデルセンが肩をすくめる。珍しくもないかもなとロビンが遠い目をする。女帝閣下の色恋など、話題にせずとも態度で知れる。なぞるように親しそうに振る舞うくせに、あれは彼ではないとセミラミス は理解しているし、天草四郎も彼女のことをそういう風に思っているわけではない。なぞるように、近付いても。辿るように、願っても。あのお話はとおに終わっていて、彼らは二度とこの世界のどこにも現れない。 そんなに拘る必要があるのかとアキレウスが首を傾げ、汝には理解できまいとアタランテが吐き捨てる。幼い暗殺者である少女が、アタランテの膝を枕に眠っている。痛々しいものを見るようにアキレウスが一瞥し、アタランテは視線を合わせないままだ。アタランテの視線の先には、いつもあるものは変わらない。平行線のまま、終わってしまった舞台上で生き果てた女の幻影に取り憑かれている。小僧、などと。最期に笑いかけた狩人の女の顔が、アキレウスは忘れられない。まるで、呪いのように、こびり��いて離れない。 ならそれはきっと人を愛するということなのでしょうと、シロウが言った。束の間、膝に擦り寄る黒猫をあやして。無くした面影をなぞることも、その行為を認めただ見守るのも、視線を合わせずとも側に近寄ることを許すのも、ーー方法はそれぞれ。けれどそれは愛ではないのでしょう、とシロウは笑う。この世界のおよそ数多の理不尽さを前に、束の間手が届いた断片に過ぎない。
真実の愛とは、天に御坐す。
猫の鳴き声を真似てみせた天草四郎に、セミラミスが苦笑する。可愛くなぞない、と。四郎はでしょうねと肯定して、膝が恋しいと鳴いているのかもしれませんと、冗談のように笑う。セミラミスは視線も向けず、それこそどうかしていると吐き捨てる。あの走り抜けた日々の果てに今があると言えたらいいものの、ここのどの誰においても継続性のない同一ではない影法師だった。
なんとくだらないのでしょう!
誰も彼もと女が笑い、業火をまといて旗を振るう。聖女の名前を冠した魔女が、そんな姿を見て嘲笑う。当の聖女はいつか見た姿を追いかけても、そこに至るのは自分ではないのだと言い聞かせる。
所詮、我ら影法師。なにもかもが泡型の夢なのだと劇作家が本を閉じた。
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lucewizard27 · 6 years ago
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愛してるとは言わないで
もう一度会えたらと願わなかったら嘘になる。女はそう言って作家に笑いかけた。グラスを合わせて音を鳴らし、こういう時だけ寡黙な紳士になる男の思考など知れている。どうせこの独り言を、具に記憶してネタにするのだ。全く性質の悪い男だとセミラミス はため息をつく。あの長い旅を経た老成した少年だった男を、彼女は恋い焦がれていた。その在り方を好ましいと思っていた。だからこそだ。記録を持ち得ても、我々は重ならない。どうしたって、セミラミスは彼のアサシンではないし、天草四郎も彼女のマスターでないのだから。 ありきたりな恋の話だとアンデルセンが肩をすくめる。珍しくもないかもなとロビンが遠い目をする。女帝閣下の色恋など、話題にせずとも態度で知れる。なぞるように親しそうに振る舞うくせに、あれは彼ではないとセミラミス は理解しているし、天草四郎も彼女のことをそういう風に思っているわけではない。なぞるように、近付いても。辿るように、願っても。あのお話はとおに終わっていて、彼らは二度とこの世界のどこにも現れない。 そんなに拘る必要があるのかとアキレウスが首を傾げ、汝には理解できまいとアタランテが吐き捨てる。幼い暗殺者である少女が、アタランテの膝を枕に眠っている。痛々しいものを見るようにアキレウスが一瞥し、アタランテは視線を合わせないままだ。アタランテの視線の先には、いつもあるものは変わらない。平行線のまま、終わってしまった舞台上で生き果てた女の幻影に取り憑かれている。小僧、などと。最期に笑いかけた狩人の女の顔が、アキレウスは忘れられない。まるで、呪いのように、こびりついて離れない。 ならそれはきっと人を愛するということなのでしょうと、シロウが言った。束の間、膝に擦り寄る黒猫をあやして。無くした面影をなぞることも、その行為を認めただ見守るのも、視線を合わせずとも側に近寄ることを許すのも、ーー方法はそれぞれ。けれどそれは愛ではないのでしょう、とシロウは笑う。この世界のおよそ数多の理不尽さを前に、束の間手が届いた断片に過ぎない。 真実の愛とは、天に御坐す。 猫の鳴き声を真似てみせた天草四郎に、セミラミスが苦笑する。可愛くなぞない、と。四郎はでしょうねと肯定して、膝が恋しいと鳴いているのかもしれませんと、冗談のように笑う。セミラミスは視線も向けず、それこそどうかしていると吐き捨てる。あの走り抜けた日々の果てに今があると言えたらいいものの、ここのどの誰においても継続性のない同一ではない影法師だった。 なんとくだらないのでしょう! 誰も彼もと女が笑い、業火をまといて旗を振るう。聖女の名前を冠した魔女が、そんな姿を見て嘲笑う。当の聖女はいつか見た姿を追いかけても、そこに至るのは自分ではないのだと言い聞かせる。 所詮、我ら影法師。なにもかもが泡型の夢なのだと劇作家が本を閉じた。
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lucewizard27 · 7 years ago
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Scrap Days
 古い紙特有の匂いがする。埃っぽいなと呟いて、ここに居るぞと主張する。ばさばさと音を立てて落ちて来る紙の資料の向こう側で、「あいよ」と聞き慣れた声がした。資料探しを手伝いに行ったまま戻らぬ相棒を捜して踏み入れた芸術家どもの魔の巣窟は、徹夜続きのアルコールの匂いと僅かに珈���の匂いと交じって煙草の煙と、妙に甘い匂いがした。声、らしきものは先程返事をしたもののみで、後は唸り声ばかりが響いている。踏み入れてはならない場所に来てしまったような気がしても、何時だって後の祭りだった。そもそも、ここカルデアでは珍しくもない光景でもある。ぱっと思いつくだけでも、数多の国から色んな時代の者達が集まっているのだ。文化のサラダボウルだと言うと、エジソン辺りが合衆国の建国について一言申して来そうな気もするが、安心して欲しい。発電マニアどもはエレナ女史の付き添いで『ちょっと』遠出している。何事もマハトマのお導き、大丈夫だ問題ない。 「友よ、」と声が聞こえた。意味のある音だ。視線を向ければ、平常からしてすでに色の白い名探偵中の名探偵が、迷探偵面をして視線を空に彷徨わせていた。考えるまでもなく、何処かに中身が旅立っているようだと頷く。探偵が座るこの部屋で一番高そうな革張りの赤いソファは、何をひっくり返したものやら濡れたような染みの痕がある。すぐ横の丸い猫脚のテーブルの上には、「 absinthe 」とラベルの張られた謎の瓶が幾つも空になって転がっていて、猫脚ににゃあとも鳴かない童話作家が頭を預けて低い声で唸っている。寝心地が悪いのだろう。そう言えば静かだなと辺りを見回せば、劇作家は据わった目つきで種火はもう食べさせないで欲しいとぶつぶつと呟いており、心持ち腹が膨れているような気もした。いつものメンバーだなと安堵したところで、ここでは見慣れぬ音楽家の二人が無言でダイスを転がしてカードを出しあっており、やれ「産地チェック」だとか小さい声で呟いている。唯一正気らしい復讐者、いいや、影のどうしようもない相棒はこてりと首を傾げていつの間にか目の前に立っており、「どうかしたのか共犯者よ」とそう言いながら卒倒した。末期だ、とてつもなく世紀末だ。なんぞかの合同の死がどうとか食堂でこのメンバーが会合をしていたのは知っていたが、謀反でも起こすつもりか。いやいや、と首を横に振る。そこでもう一つ。 「ロビン!」  素直に名前を呼んで助けてくれと主張を最大限にする。早く連れ去って欲しかった。だってここは、とっても教育に悪い現場だ。 「いや、まあ、なんです?締め切り前だから助けて欲しい、時給が出るってんでして。このご時世何かと入用でしょ、お互い。いざって時の貯蓄みたいなもんですよ。」  彼の言い分はこうである。別に悪くないし、仲間との交流を深めるのは今までの彼を思えばいいことだろうと頷いた。ロビンはそんな、……カルデアのマスター���前にして、盛大にため息をつきたいのを堪えた。朴念仁とは言うまい。気の使い方は人それぞれだ。好意に鈍感でなければ、発狂しかねない程パーソナルスペースを侵されているのにこの子供は指摘しない。できようもないのであろうが。今だって、個室に二人きりという環境がどうのとマスターである子供を思って、「保護者」と主張する何名かに視線をすれ違いざまに向けられた。マスターの部屋に誰かがスタンバイしているのはいつものことだ、と誰もが理解している筈だと言うのに。そもそも、保護者と主張している何名かというか正直なところ、ロビンにとって源の大将は頭の痛い種の一つではあった。アジア人の見た目が幼いということを抜きにしても、マスターである子供は生前のロビンよりは明らかに年下だった。懐かれるのは気分は悪くなかったし、距離を縮めれば時々甘えるような言動をするのが良かった。そういう趣味を持ち合わせているわけではないのだと言い切れるが、初めてありがとうとはにかんでくれた時は一瞬息を飲んだものだ。だって、ちっとも、この子供は心から笑うということをしなかったから。  以来、ロビンは保護者ではないが傍に居る。駄目そうだなと判断すれば手を伸ばすし、まだ頑張れそうだと思えばただただ見守っている。騎士中の騎士である円卓の面々に、「忠義あふれる行いだ」などと評された時は本気で喧嘩になりかけたが、特にマスターに報告はしてはいない。だって、ロビンは騎士にはなれない。柄でもないというのもあったが、主義に合わないのだ。何処にでも居て、ただ学校に通い、どうということもなく過ごせる筈だった子供。だから誰かが守らなくては、勿論、別にロビンは自分がそうでなければいけないとは思っていない。顔を隠して、影のように付き従う復讐者のような相棒にもなれない。何もかもが中途半端な立場で、でもそれでも英霊だから。幸いただの人間に負けるようなことは在り得ない。いつかいつもの日常が戻る時、その日に備えておくのだ。抜け駆けだとは誰にも言わせるつもりはない。これは正当な報酬なのだから。 「時間延長料金は貰うつもりですけどね。」  きょとりと瞬いた子供にロビンは笑いかけて、アンタにとっても悪い話じゃないぜと囁いたのだ。  ごう、と風が吹く。白い大地に雪が降り注ぎ、果ては見えない。今どこに居るのかと問おうとして、口を閉ざした。思考が明瞭になる。懐かしい瞬間は程遠い。次の氷雪の大地へと向かう筈だった一行が、不意に妙な隙間に迷い込んでから数日。時間経過��まったくない謎の領域で、本来であれば夏だった筈の日々を過ごしている。――ルルハワってなんだっけ、妙なワードが過ったが忘れた。忘れることにした。あまつ、NYに行きたいかあと声が聞こえた気もしたが、全くの幻聴であろう。 「先輩、良いお知らせと悪いお知らせがあります。どちらからお聞きになりたいですか。」  洋画でよくある台詞って、使ってみたいけど現実に使おうと思うと使えるタイミング全くないよね、なんて会話をしたのが五分前だった。頷いていた探偵に、思わず二度見をしたがこれも気のせいだろう。だと言うのに、愛すべき後輩は天然を惜しみなく発揮させ、結果的に場の空気を和ませることに成功していた。これを奇蹟と言わずして何と言おうか、そんなムニエルの叫び声も気のせいだろう。なんだっけ、これ、いつかの惨状に似ているなと立夏は思ったがなかったことにした。シリアスな状況が続かないのは仕方のないことで、空腹すら存在しないこのただ白い景色が続く退屈な時間は、精神的にひたすら摩耗するからなのだった。何の肉を使ったか当てよう、所長のお手製料理コンテストはすでに行った。マシュのましゅましゅコントは可愛かった。ダヴィンチちゃんのうんちくトークはもうマニアックなのでやめて欲しい。様々な要求があったが、ムニエル氏のお悩み相談コーナーは異常に盛り上がった。スタッフの探偵と接する時の会話のテンポが難しい、年頃であるマシュと立夏の情操教育上に正しい行動とはだの、割と平和じゃないかなと立夏が遠い目をしたくらいには時間が経過している、筈である。曖昧な時間が、焦燥感へと変わる。その瞬間はすぐそこだとわかっているのに、何も出来ずにいた。 「……良いお知らせは、特異点を発見したことです。悪いお知らせも特異点を発見したことです。」  つまりどういうことだってばよ、と立夏は瞬いた。うっかり忍者のような物言いをしたなと思ったものの、誰も同じ国の出身者がいなかった為にそのネタは通じなかった。唯一、ムニエル氏だけが口元をにまにまとさせていた。 「つまりだね、立夏くん。特異点が見つかったんだ。この何もない筈の氷雪の大地の上に、突如として現れたんだよ。」  ドクターみたいな物言いをしたダヴィンチが、咳払いをした。意識をしたのかもしれない。立夏は小さくはにかんで、こくりと頷いた。後にすることはわかっている。特異点があるならば調査をする必要があった。何か不測の事態が発生していることは確かだったから。  そうして氷雪の大地に踏み入れた途端、立夏の足は緑に覆われた大地に辿り着いたのだ。あっという間だった。まるで目隠しをされていたかのように、そこに在った。ぶあ、と生々しい生き物の気配が襲い掛かる。情報量は急に多くなり、立夏は一瞬眩暈を覚える。でも、懐かしいと感じた。何故だろうと首を傾げた横に、ダヴィンチが降り立��。上を見上げ青い空を、周りを見回し木々の木漏れ日を、耳を澄ませて鳥のさえずりを。「なんて、うつくしい」と幼い声でダヴィンチが言った。立夏は頷き、思い切り息を吐き出して、続けて胸いっぱいに吸い込んだ。冷たくない、温かな空気だ。マシュが恐る恐る降り立ち、探偵ことホームズは眩しそうに目を細めた。探索はいつも通り、二人で。何かあるかわからないと言う割に、ダヴィンチは危険性は低いと思うよと確信をもった様子で言い切る。ホームズは「成程、」と妙に嬉しそうに笑うのだ。 「常々、思っていたのだ���ね。会いたい、と言葉にしない理由を。成程、確かに願うまでもなかったわけだ。」  きょとりとする立夏に、ホームズは「さあ、行ってくるといい。懐かしい旧友に会えるだろう」と満面の笑みで言う。立夏は逆に警戒心を高めてしまいながら、マシュの手を強く握った。おや、と眉を跳ねあげたホームズは、今の言葉の何処に警戒心を高める理由があったのかということについて、すぐにダヴィンチに視線で訴えた。ところが全く伝わらず、ダヴィンチはお土産を楽しみにしていると手を大きく振ったのだった。  歩いて、歩く。踏みしめる大地の上に足跡が残る。雪に埋もれてすぐには消えない。振り返れば帰る場所へと通じる道筋はすぐにわかった。迷いそうでいて、迷わない程度にわかりやすく誰かが踏みしめたような小道があって。恐らくこの森の何処かに森の主が居るのだろうと容易に察せられた。特異点と言うからには敵も居るだろうと思ったのに、二人の行く手には何も遮るものがない。あるのはただ木々と、諸動物の気配と。人里を離れて、迷い込んだ森。そんな気分にさせられながら、立夏は歩みを進める。こんな風な場所を皆と歩いたなと思いながら、懐かしむ余裕すらでてきた。野営をすることはないだろうが、あまり遠くへは行かない様にしようかと手を繋いだマシュを振り返る。 「先輩、パンでもちぎって歩けばよかったですね。」  誰かに捨てられたわけでもないのにマシュがそう言って、立夏は食べる方が建設的じゃないかなと肩を竦めた。色気より食い気だからと言い訳をしてみて、マシュをちらりと見て。マシュはそれでも先輩と一緒なら、と笑うのだった。森の木々は時折かさりと音を立て、二人はその度に足を止めた。でも、その度に正体までは掴めずに、必死に気配だけを辿った。まるでわざと残されているような痕跡、歩いていた足が途中から走り出して、無我夢中に。アプリコット色の髪が揺れたのが見えたら、もう駄目だった。  白衣が、翻って。困ったように笑って。樹皮に縦に割れ目の走る、赤い小さな果実を無数につけた一際背の高い木の下で。その人は申し訳なさそうに、そこに居るのだ。 「「ドクター!」」  声が揃った。繋いでいた手もそのままに走って、���し倒さんばかりでしがみつく。誰なのかも、本人なのかもわからないまま、感じ慣れた気配ただそれだけに縋りつく。涙腺が緩んだ。頬を勝手に伝うものは止められずに、恋しくて寂しくて、手を伸ばしても届かなかったその人の名前を呼ぶ。ロマニ、ロマン、永遠に消えてしまった人。助けられなかった二人。後悔はいつだって尽きない。その中でも前所長とドクターだけは、二人に焼き付いているのだ。半ば呪いのように。 「……申し訳ないけど、先に言っておくよ。ボクはロマンその人ではないんだ。生前、ダヴィンチちゃんからのお願いで、ボクはボクのAIを造っていてね。だからこれは、ボクの代替品と言うか……データの集合体でしかない。この体は確かに人間によく似たものだけれど、年を取ることはない。あ、でもボク達が旅をした日々のこと、これまで二人がここに至るまでのこと。全部把握はしているよ。何せ、これはボクの我儘でもあるんだ。形がどうであれ、ボクは君達のつくる未来が見たかった。」  両腕は二人の背に回り、疑似的な回路で体温が点った手の平が二人の背を撫でる。撫でて、それだけでは足りなくて。頭やら頬を撫でて、触感を確かめるように。「柔らかいな、女の子だもんね」と言えば、マシュに無言で睨まれたりもして。 「オリジナルのボクは、立夏くんとマシュのことをとても愛していた。データの集合体であるボクにあるこの感情を本当だと信じてくれるなら、ボクだって二人のことが大好きだ。……そういうわけで、」  少しだけ間をおいてロマニは言うのだ。 「戦闘に役立てるかと言うと全くなんだけれどね。ああ、本来のボクよりはその辺はマシになってるけれど。……―――なにより、おかえりって言えるんだ。また、キミ達に。」  また零れて来る涙を拭って、マシュが縋り付く勢いでしがみつく。何処へも行かないでもう二度と、なんて言葉を言わなくてもきっと伝わっている。偽物かかどうかなんて判断するまでもなかった。二人にはわかっていたから。  帰り道すがらにロマニを挟んで手を繋いで歩く。両手に花だと立夏が言うと、「確かに若い子を連れて歩くのは、気分はいいな。」などと神妙な態度でロマニは頷く。積もる話もあったが、いつものようなやり取りが何よりも。立夏が楽しそうに話して、マシュがロマニにほんの少し甘えた素振りをして、ロマニが困ったように笑って。何時だって、ここにダヴィンチが居て、メンバーは入れ替わっていったりもした。でも、ロマニが居なければやっぱり駄目なのだ。おかえりの声がないと言うだけで、踏みしめる足は心細くなる。もう大丈夫歩いて行けると思っていたのに、こんな風にされてはもう駄目なのだ。優しさに飢えていたわけではない。新所長や、スタッフ、ホームズもダヴィンチだって。こんな状況であっても、尽きぬものだ。人の優しさ、温かさ。触れ合って、例え壊してしまう世界の向こう側であっても。もしかしたら狡いのかもしれないと立夏が言うと、マシュが不安そうにロマニを見上げた。ロマニはやっぱり困ってしまったように笑って、 「というか、ボクそのものはボーナス支給みたいなものなんだ。そもそもの発端は君達もよく知る彼のお願いからで、ダヴィンチちゃんとボクは相応の対価と引き換えに実現したに過ぎない。それでも有り余る資源はこうして今目の前にあるわけなんだけど、……よく考えてごらん。森、目隠し、そして、――イチイの木。」  今の今まで歩いて来た方向を振り返り、ロマニは嬉しそうに口にする。 「サーヴァントには好かれていないってデータがあったけれど、記録を読む限りではそうではないと思うんだ。少なくとも、『認められていた』ってね。何よりボクはあの彼にそう願われたことが、何よりも嬉しい。」  好かれているとは思わなかったのだと語る口調は楽しそうでもあって、訝し気に見上げるマシュの手を揺らして、ロマニはまあまあ、と宥める。歩いて、歩いて、その内に森の終わりが見えてきて。またふわり、と幻影のように森が消えそうになったところで、ロマニが二人の手をやんわり解いて振り返り叫んだ。  「ロビンくーーーーーーーーーーーーーん!やっぱり二人に黙って置くのはかなり無理があると思うんだ!大体使い切れないリソースを廃棄するのはもったいない。限りある資源こそ有効に使うべきだ。肉体のあるロビンくんなら、戦力としても護衛役として十分な筈だろう?!」  ぶっと噴き出したのは立夏で、マシュはぱちぱちとしきりに瞬いている。一方、叫び声の木霊する森はゆるゆると消えて行き。やがてぽつんと緑色のマントを纏う人影へと姿を変えた。あの森そのものが彼の宝具だったとは、まさか思いもよるまい。立夏は何か逸話に大幅な変更でもあったのかと首をひねるが、勢いよくフードをとったロビンは舌打ち交じりに言い放つ。 「仕様変更でも何でもねえっての。こちとら、持ってるところからせっせとバイトをして隙間産業しながら溜め込んだんだ。聖杯?上限迎えてるってのに、人に捻じ込んで来たのは何処の何方でしたでしょーか。」  じと、と見つめる視線に立夏は何と無く気恥ずかしくなり、ロマニの後ろの隠れた。何だかビミョーなお年頃のような反応をされ、ロビンは閉口する。今それか、今になってそれかと内心で突っ込みつつ、ロビンにしては積極的に歩み寄って襟首をつかんで引きずり出せば、合わせる顔がないと来たものだ。ぼそぼそと語る言葉を繋ぎ合わせれば、もう会えないと思っていたから、だの、いつかまた会えたらいいとは思っていた、だのと。 「立夏くん、そこは素直に会いたかったでいいと思うんだ。データから見ても、こういうのはリリカルな展開を経てメイ・キングなだけにメイキングラブになると思うんだ。」  ロビンがついロマニの肩を軽く小突いた。流石に今のはなかったな、とお互いに視線を交わしたところで、マシュが咳払いをし、 「つまり……、どういうことなんでしょうか。ロビンさんは、あのカルデアに居たロビンさんなんですか?」 「まあ、なんです。宝石剣をちょいとレンタルし��してね。出所については聞かないでくださいよ。面白くもない苦労話が付録につくだけだ。――あー、そもそもあの宝石剣ってのは平行世界の」 「ロビン、もっとわかりやすく。」  立夏がかみ砕いてくれと言うと、そうでしたね、とロビンは立夏の頭を撫でる。こういう時、孔明大先生が居たらなとロビンは思うのだが、居ないものは仕方あるまい。 「宝石剣で平行世界からマジックパワーを集めたよってところですかね……」 「雑だね。ロビンくん。」  ロマニに雑などと言われると、ロビンも思うところはある。思うところはあるが、突っ込みを返したところで泥沼になるのが目に見えていた。まじっくぱわあ、とぼやいた立夏はじーとロビンを見上げている。 「そんなに熱心に見つめたところで、ハンサム顔があるだけですよ。」 「クラスがキャ��ターになったってこと?」 「違うな???」 「でもドルイドの関係なら、キャスターわんちゃん。」 「どこぞの御子様でもあるまいに、木を燃やすなんて真似しませんよ。一面焼け野原にでもなっちまったら、隠れる場所なくなるでしょうが。」 「あー、成程。そういう流れでなしなんだ。」 「いやまあ、どっかの誰かが新たな逸話でも発見したなら在り得ない、とは言い切れないけどな。…………、この話今必要だったか?」 「あんまり。」 「ですよね。」  成程と頷いている立夏の調子が相変わらずマイペースだなと思いながら、ロビンはふっと視線を逸らす。すると目に入ったのがにやにやしているロマニと、したり顔のマシュなのだから手におえない。まだそう言うんじゃないと主張したところで、もう手遅れだろう。ダヴィンチが顔を覗かせているのが遠くに見えるし、ここから待ち受ける盛大な言い訳と、新所長への御目通りと。これからのことを思えば、決して容易い日々ではあるまい。でも、立夏はそこに居て、守りたい者とその日々は此処にあるから。
 かくて、愛と希望の日々はまだ続き、旅はまだまだ終わりそうにもない。ロビンは冷たい曇り空を見上げ、肩を竦めて。仕方なさそうな素振りで笑って返して、いつもと変わらない素振りでそこに居るのだ。
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lucewizard27 · 7 years ago
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セルロイドの神様
象牙の代用品、翡翠のような色合いに疎らに混ざる白と青。高級なホテルのタイルのようで、ちょっと背伸びをして買ったのだ。万年筆、学生には高い買い物。でも憧れた。あんな風に美しいものを手にしても、不釣り合いでないような自分になりたいと思ったのだ。 「けど、使わないから」 カルデアにまで持ち込んだその品を、いとも容易く子供は手放した。召喚から月日を経て、自分が一番目をかけられているサーヴァントだと自覚したその日。お気に入りなんだ、そういったセルロイドの万年筆を軽々と手渡して笑う。ロビンは戸惑いを隠せず、どう受け取ったものか迷い、いつか受け取って結局他に渡せる価値あるものがないからと、バレンタインに手渡したコインのようにーーごとり、心の奥に重しが乗っかって。それでも不要だと言えぬ有様よ。ただ、顔のないこの身の上を、知っても自分がいいと一緒に居てくれたから。見返りが欲しかったわけではないのに、綺麗だといつか子供が手にしたくて背伸びして掴み取った美しいモノ。 「ーーなら、手紙でも書いたらどうだ?」 「嗚呼、それがいいでしょうな!古今東西、口下手な男がする手段とくれば、無難に手紙がいいでしょう!」 「それとも何か?趣味がナンパだとのたまう優男は、本命相手では筆もとれん腰抜けか!」 「ほほう、まるで心は童貞とでもいいた」 作家達の集まる部屋の片隅で、世間話のように切り出した話はあっという間に「ネタ」にされた。主に何某の合同誌の締め切りがらしいが、彼らの普段の行動からするにそうあることを好んでいるようにも見えた。どちらにせよ、ロビンはそこから延々とネタにされ続け、最終的には逃げ出すように部屋を後にしたのだった。 「へえ、手紙かい?悪い手段ではないとは思うけど、マスター周りでそういう遠回りな手段は事前に回収されるのがオチじゃないかな。」 悪友はそう言ってベビーフェイスにケーキをほうばる。そのケーキの出処は、小さなお嬢さんたちのお茶会の残り物である。目下、荒野のガンマンは銃の早撃ちよりも、ケーキの早食いに精を出していた。なにせ、ワンホールだ。これはその前日に行われて居た、小さなお嬢さん連合チームVSガンマン率いる悪いお兄さんチームによる、カードゲーム大会の結果によって決まった罰ゲームなのである。無論、ロビンも先程から延々と砂糖の塊をねじ込み、遠くに金平糖のきらめく美しい天の河が見えて居た。ならどうすれないいか、との問いかけに、ビリーは残りのケーキを見下ろし、 「持って行きなよロビン。甘いものが嫌いな子供はそう居ないさ。」 つい頷いてしまったのは、ロビンとて限界を感じていたからなのだがーーまあ、言わぬが花というやつだ。 ところで、廊下を歩いているとマスターの部屋に行く途中には喫煙者の集まる一角がある。分煙はしっかりと!だ。 特に吸う予定もなかったロビンは、ケーキを手に喫煙室を素通りし、することはできずに両手が塞がっているのをいいことに、クーフーリンの集団にメイヴちゃん(便宜上、メイヴちゃんを正式名称と見做す)から押し付けられたという色とりどりの花々を頭に(!)飾り付けられて。 「そういう流れがあったんですよ。それでまあ、色々とオレも考えてみたんですけどねえ。お茶を用意してケーキと、......手紙なんてのはどうにも。だなもんで口頭で伝えさせて貰いますわ。生まれてきてくれてありがとう、マスター。このカルデアでオレと出会ってくれて、」 選んでくれてありがとうとはにかんで笑う青年に、マスターはこてんと首を傾げた。 「今日、誕生日じゃないよ?」 どうにも、感情を伝えるのは今も昔も難しいらしい。
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lucewizard27 · 7 years ago
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赤と緑
黄昏時、海を見ながら浮かれている人の横顔を他人行儀に盗み見る。連れ合いにしてはあまりにも軽い足取りだったものだから、打ち上げだと称したその祭りの終わりに手綱をつけるつもりでその手を掴んだ。どうかしたのかと笑う赤ら顔は、橙色に染まって妙に色めかしい。あいもかわらず、無防備にさらけ出した素肌を前に何度しまえと言いかけたことか。おくびにも出さないくせに、そんなふうに考えている。一度重ねて知ってしまえば、甘い蜜なぞ飲み干してもたりはしない。 一言で言えば無著で淫ら、顕著なのは床の上。何も知らないくせに知っている素振りをするから、あまりの初さに失笑した。若いな、青いな、遠いいつかを見るように思う。愛しい人の顔は皆擦り切れて、よく似た誰かも居たかもしれない。郷愁を感じる程の接点があるとは思えない。生まれも育ちも違いすぎたから。時代も国も異なるのだから、あったとすればどこかの世界の終わりだろうか。 戯れに唇を重ねる。逃げるように隠れるように手を引いて。折り重なって絡めた指と、抱き寄せた腰に熱を感じた。なんとも素直なコトだとそこで苦笑する。ーー嗚呼、笑うなと言い返すから。冗談混じりに部屋に行こうと言い、二人でそっと抜け出した。 皆が泊まる宿泊施設からだいぶ離れた安宿は、いかにも現地の知られざるといった風の宿で。目的は容易に知れるような簡素な部屋と、愛想のない女将が印象的だった。シャワーを浴びて、つまりはそういうコトを。またするのだと期待に揺れる瞳が見ている。奥深いトコロを抉られてどうしようもなく揺さぶられる。この男としか知らない行為、少なくとも覚えている限り。生前も多分。それは初心にもなる、言い訳だった。 押し倒してさあやろうと促せば、若い勢いを宥めるように箱を押し付けられる。何だこれと勢いを削がれてやり返すと、ベッドのそばの白い質素な��の上、デザートでも載せるような丁寧な手つきでそれをのせた。ふるりと震える群青色にきらめく星空、その上にひょこんと出た紐に蝋燭かと瞬く。とってつけたような照れ笑いをし、青年に向けてお疲れ様いい子に頑張ったなと男が言った。ーー子供扱い、だなんて。不意打ちに涙腺が緩みそうになる。なんども重ねた一週間、会えない時間は気が遠くなるほど。涙の理由もわからぬ赤い弓兵は、慌てて蝋燭に火をつける。そこでまた、青年がきょとりとし。 「いつかこんな風に君と世界の終わりを見れたらいい」 到底叶わない夢を口にして、事情を知らない青年は気障ったらしいと言いながら男にのしかかる。束の間の夢、泡方のお話。どちらもよく知らないで、今ある時間だけが愛しくて。
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lucewizard27 · 7 years ago
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ルルハワ某日
潮騒が響く窓辺からがたがたと煩い物音がした。いい(ネタになりそうな)夢を見ていたのと忌々しげに瞼が開き、もう見慣れた天井を映す。数えるのも馬鹿らしい。天井の染みの数まで覚えたと舌打ちして、勢いよく起き上がれば、ちょうど騒音の原因だったらしい女と視線があった。 「内緒ですよ?」 人差し指を立ててはにかむ姿に、寝起きにこの女かともう一度ふて寝を決め込みたかったが日数的に厳しかった。だから何をして居たのかと妨害工作を疑うと(そんなコトする性質でもないと知りながら)女は気恥ずかしそうに言った。 「どうしてもお姉ちゃんも一枚欲しくなりまして」 「何がよ」 おずおずと差し出されたスマートホンの待受に映る、己が姿の惰眠を貪る様よ。絶叫が響いた。それはもう盛大に。 「だって、同室のみなさんはオルタのこんな顔をい」 「喧しい!立ち去りなさい!プライバシーの侵害です!!!!!」 なんとも賑やかな声にジャーマネが肩をすくめ、盾の少女は苦笑いし、マスターの少年は美しい姉妹愛だと絶賛し。作業の再開は1時間ほどずれ込んだのである。 さばふぇす 準備期間 あったかもしれない某日 ジャンヌとオルタ
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lucewizard27 · 7 years ago
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ヒーローにはなれないけれど
天秤の上に守りたいものがのっていて、もう片方には願いがあった。どんなコトよりも尊い筈の願いなのに、今は何故だか遠い気がししている。無辜の人を守るというただそれだけの願い、あるいは希望。そうあれたら、素敵なものになれる気がしたのだ。どうしようもない自分でも、手を取ってくれるあの人だから。 願いも、守りたいものも、どちらもなんて欲張り過ぎたのかもしれない。白い双丘の上を電子的雑音が侵す。噛み砕かれて、やわい肉の内を、覗かれて、大切なトコロまで、抉られて、あの人にだってまだ見せたコトもないのに!拒絶したいのに身動きの取れない大きいばかりだけの体が悔しくて!かなしくて! 「やめて、やめてください!」 泣き叫んでも届かない。自分を庇った少年はもう限界だったのだ。こんなにも大切なのに、大切にしていたかったのに。壊れてもいい、こんな自分壊れてしまってもいいからーーー! 「おっと、ソイツは早いんじゃないか?そんなみっともない泣き顔より、笑顔を覚えててもらいたいだろ?」 「あなたにそんなコト言われたくないです!知らないくせに、何も知らないくせに!」 泣き叫んでも届かないと思った声に応えた狩人を前に、少女は怒り奮い立つ。まるで存在を侮辱されたとばかりに。助けに来てやったのに、なんて奴だとロビンは苦笑し。
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lucewizard27 · 7 years ago
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野営
人を殺すとき、どんな気持ちで殺すんだろうと燃え盛る炎を見ながら少年が言った。今日は都の周りを巡回するという任務のため、駆り出されたマスターである少年の思いがけない言葉だった。 もう、そんなこととっくに慣れちまっただろうにと口にはしないランサーは、近頃召喚に応じたライダークラスのギリシャの英霊を前に、お手並み拝見とばかりに口を閉ざす。少年のそれは弱音ではなく、ただの確認行為に過ぎない。嘗て人であったものを屠り殺し壊すことでしか開放できない。歪に歪んだ言葉は断末魔なのだから。覚悟はしていて、後押しが欲しいだけ。そうだ、殺せ、壊せ、そうしなくては前に進むことすら許されない。 ライダー、.......アキレウスはいつかの師であったケンタウロスの賢者であれば、どうするだろうかと考える。誰かを導くような言葉など、まだ荷が重い。この場限り、この旅だけの従者であるアキレウスが、少年の長い人生を決めてしまえるだけの枷を嵌められるわけがなかった。少年は生きていて、何れ全ては遠い日の物語になる。望んでいた日常には戻れまい。そんなこと、どの英霊も知り尽くしていたけれど。例えば、盾の少女と笑い合う少年に、いつかの無邪気な己をアキレウスは見たのだ。戦さの手���どきなどろくに知らずに、少年は放り込まれたであろうに。そんな風に笑うから、やるせないと。 「っけ、やめちまえやめちまえ!ギリシャの大英雄様がなんてザマだよ」 煽るようなランサーの言葉にアキレウスの思考がとまる。口に出せなかった感情はそのまま、ランサーへと矛先を変える。野営の炎を移して、まるで焔そのものになったような瞳のアキレウスが喉の奥から一言、「何だと?」とだけ音にした。ランサーはすぐに鼻で笑い、 「青臭い質問なんざ、するんじゃねェってコトだ。いいか?この旅はもうすぐ終わりが近付いている。今更、ンなコトを聞くようなマスターじゃあ、生き残れるワケがない。そんなマスターの為に、適当にケツを叩いてやるコトもできねー英雄様なんざ、もっと生き残れるワケがない」 「貴様、」 「減らず口叩く暇があンなら、一つやり合って解決しようや。その方が楽でいい」 殺気立つ二人を前にただの人の子の少年は、おっかなびっくりに止めようと口を開く。そこを制してランサーは少年の肩をばしっと叩いてやるのだ。こんなものは適材適所、たまにはそういう役回りになるのも受け入れよう、と。ーーなどというのは建前で、本当はこの大英雄とやり合ってみたかったとは誰も知る由もない。 第1部 FGOより あったかもしれない野営風景
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lucewizard27 · 7 years ago
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緑影のメモリア
思えば夏になる度に、あの旅はどんな時であっても楽しかったように思う。窓の外を見なくとも聞こえてくる豪雪は、この先の日々の不透明さを示していた。二度と会えなくなるなら、何か言えた言葉もあったかもしれない。もう一度会えるとわかっていたから、刹那に呼び出す戦闘中の間に垣間見える影があの夏の瞳と同じで、多分「彼」なのだろうと朧気に感じている。 息を吸えばむせ返るような香りに、風に混ざる鳥の声とが重なって、そこら中に虫や小動物が居る生々しい現実に引き戻される。ほんの数日の調査という名前の旅路は、束の間に与えられた夏休みとも言えた。同行者は誰がいいかと問われ、単にサバイバルならエミヤかロビンだなあと名前を上げれば、エミヤが居なくなると昼食の味の質がどうのとスタッフからの要望(別に食堂のスタッフは別に居るのだが、彼の場合は自主的にそこに入り浸りなのだ)で、白羽の矢はロビンに立ったのである。自分としても、気心知れた仲ではあるから、愛すべき後輩が居ないという心細い旅であっても、どうにかやり過ごせそうだと安心しきっていた。 フィールドワークというのは学校にいた時、授業で経験したことがある。あの時は裏山に居るとかっていう希少種の昆虫を見に行くなんて名目で、科目の担任教師による半ば自由学習の時間のようなものだった。衣服は必ず長袖長ズボン、取り立てて運動神経がいいわけでもなかったし、虫が好きっていうよりは苦手な部類だった。家に口には出せないアレが出た時も、退治は家族内で押し付け合いで誰も動かないから泣く泣く自ら動いた程度のーーだからそう、好きじゃない。本当はロビンと一緒でも、虫除けを欠かさずにしていたくらいだ。ロビンはそんなに怖いものじゃないと笑っていたけれど。 草の葉を掻き分けて魔術の痕跡を追う。今回の調査の目的は、聖杯を作ろうとしているような痕跡がある......という欠片らしき気配を感じたなんてふんわりしたことが発端だ。大概の事件はそうでもなさそうに始まり、いつも始末に負えなくなるから、突っ込み役にロビンはいい配役だったかもしれない。ああ、とは言っても、思考する割に何もかもが稚拙なのだ。調査といってもロビンの後ろをついて回るのが精一杯。何かできるわけでもない。どうしたらいいのかなんて聞いて知っているはずなのに、肝心の調査のとっかかりが触れられない。そういうのは向き不向きがあると、孔明大先生が言う。だからきっと、魔術は向いていない。礼装を使って漸く邪魔にならない程度なのだ。先を歩いていたロビンが振り返り、足元に気をつけるように言う。この地域の猟師だろうか、ギザギザのついた罠があってうっかり踏みそうになった。咄嗟にロビンが戻って来て担ぎ上げたから、怪我はなかったものの。 ぺしり、と軽く頭を小突かれて、ロビンがため息をつく。ちょっと休みますかと気を使われて、体力と筋力が欲しいと心から思った。 川遊びなんてしたのは子供の時......今も、まだ成人はしていないけど、この状況で興じれるわけもない。そのくせロビンだけは気持ちいですよなんて笑いながら、足を水の中に突っ込んでいる。生前の森に近いのかなどと聞いたのは、いつもより距離が近いとか気心知れたように感じたからだろう。単に共にいる時間が長いから、理解できているような気がしているだけなのに。多分、この英霊の何も知らない。これから先も理解できない。問いかけた瞬間瞬いて、いや全然と言い切った懐かしむ眼差しは永遠に追いかけることは叶わない。 ロビンという存在は夢のようなものだ。もう死んでいる、死者だから。所詮は影法師、手は届かない。だからこんなにも鮮やかに残る。忘れられなくなる予感がした。 「足、冷やしておいたらどうです?こうも暑いと気分も滅入るでしょうしねえ」 ばしゃり、ロビンが水を掬ってこちらにひっかけて来た。放られた水滴が膝にかかり、じっとりと汗をかいていた衣服の下の足がひんやりとした。仕方がないからズボンを捲り、足を大人しく川に浸すとロビンは目を細めるようにして笑っている。まるで、借りて来た猫みたいだ、と。そんなことを言いながら、笑うのだ。別に不快ではない。クラスメイトとの悪ふざけを思い出して、実感のない旅の裏で、現実感が追いついてくる。平穏は程遠い。元いた場所には帰れない。先生、さようなら、冬休みのバイトが終わったらーー......もう夏だった。夏だったんだ。 結局、森の中には何もなかった。何も居ないし、痕跡もない。ただ、ロビンが何を思ったのか、数日でいいからマスターを日本に返してやってくれなんて言うから。夏休みと言えば何をしたいと聞かれて、お祭りに花火大会、あげれば幾らもあった。でも真似事だ。シミュレータでならと言ってくれたから、誰と行きたいかなんて決まってた。ロビンだ。甚兵衛にラムネに、狐のお面を渡して、ひまわり畑に連れ出した。年が明けたら行くはずだった祖母の家はもうない。親戚が遺産を分割して、もう土地ごとないらしい。本当は、冬のバイトが終わったら、春には行くはずだった。結局行けなくて、そういうことばかりが増えていく。その内、死んだことにされるのかもしれない。帰れないのなら同じことだ。でもそれでもよかった。あの子が笑うなら、マシュが普通の女の子みたいに笑ってくれるなら。自己犠牲のつもりはない、どれもこれも得難い日々だ。 「思うんですけどね。オタク......ああ、マスターは無理に子供ぶる必要も、普通の人間みたいな素振りも必要ないんじゃないですかね。アンタみたいな人間は、一見普通なんだが、その実何処かズレてるんだ」 ロビンが先を歩きながら狐面をかぶる。思い出の中そのままに、ひまわり畑に囲まれた一本道を進む。あの休憩場を越えれば公園があって、海が見える。そのすぐそばの坂道を下れば祖母の家だ。記憶をかき集めて実際の地理を見て、ダヴィンチちゃんプロデュースの夏休み。数時間なら、と。ああ、蝉の声がする。暑くて茹だるような、湿っぽくて潮の匂いがする。海くさいーーだから、山とは縁がない。 「普通であることをとったら何も残らないよ」 何処にでもいるようなが取り柄で、当てはめられた普通に焦がれた。友人と話していても、楽しいのに理解には及ばない。動じないんじゃない。不感症になったみたいだ。振り返りお面を指でちょいと押し上げて、ロビンが失笑する。 「世界を救ったってのになんて面するんですかねえ。そんなにあのドクターのいない世界が......取りこぼしたのが辛いのか」 全て救うだなんて傲慢がすぎるぜと、立ち止まったロビンに足が追いついた。横に並べばまだ見上げる背に、いつか追いついて並ぶのかなとも思う。変わらないで居たい。変わらないでありたい。ロビン、ドクターと同じように君のことも忘れたくない。 「......なあ、マスター。世界を全部救い終わったら、誰か一人くらいは護衛に残っていいんじゃないかとオレは思ってるんですよ。その役目、しがない弓兵で良けりゃあオレにしておいてくれませんかね」 拾った小石が捨てられないみたいに、お面から見えるだけの口元が笑みを形どる。 「ちったあ、気心しれてんでしょうが。そこら辺、最初から見てればわかりますよ。普通でなくなったアンタでも、あそこにいる連中は何も変わりはしない。外部の連中だって、怖がる必要なんてない」 だから一度くらい、褒めてくれと強請ったらどうだと。嬉しかったのかもしれない。褒められたかったわけじゃない。優しくして欲しかったわけじゃない。どういう顔をするのが、幻滅されずに済むかわからなかっただけなっだきっと。世界を救った藤丸立夏。英雄の顔なんて一生知りたくもない。ただ、もしそうならざるを得ないなら、この時のロビンみたいにありたいと願った。 救われたのだ、確かに。何も変わらなくても、決別があっても。救われていた瞬間はあった。ただそれだけの話。影の中で見返す瞳が、手を伸ばせばすぐに留まってしまいそうだから、ーー雪景色が終わるまでは立ち続けようと思う。冬が終われば、春が来て、夏が来ればときっと来年もロビン、君と過ごしたい。 今は、そう、雪はまだ続いていて。誰かの願いを踏み締めて。それでも歩くから、君の元まで。
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lucewizard27 · 7 years ago
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そういう風に生きている
息苦しさを感じさせることもなく、ただ前を向いている。真っ直ぐ突き進む我武者羅な有様だけが取り柄であるらしい。その他は点でダメだった。此度の聖杯探索の唯一のマスターは、セミラミスをもってしても先行きに不安しか感じさせない、愚かな程に真っ直ぐ突き進む、つまりは阿呆で馬鹿だった。死に急ぐつもりもなくば、周りも他の選択肢を与えず、ただ祭り上げられてそこに居続ける意志だけがあれのものなのだろう。
違和感、似てはいない。覚悟も願いも全く違う。比べるまでもない。平和を貪って居たただの子供と、あの少年は違う。背景にあるものが違う。絶望の規模が違う。いや、いや。誰かと願う声は、真に迫っていた。あまりの巡り合わせの悪さに、毒を用いて毒を制してやろうかと気まぐれを起こした程に。恐らくどうあがいても、己だけでは救えはしまい。誰かを救うなど、あの少年でもあるまいに。
似てはいない。ちっともだ。助けてと叫ぶこともしなかった、結局振り返らなかった共犯者。もし投げかけても好意に礼を述べただけだろう。なんて非道い男だ!己であって己ではない、強烈に焼き付いて離れない。感情の発露と同時に降り立った大地を薙ぎ払う。見上げて目を見開いた子供の顔が、今にも決壊しそうなのをこらえて見せたから、セミラミス は心底ほっとした。ーーならば、救う余地はある。
「ふん、この私を呼んだのだ。貴様ら雑魚風情の瘴気なぞ、毒酒で沈めてくれよう。」
さあ、求めればいい。望むのなら力を、望むのなら優しい言葉を、そうであってくれとセミラミスは願う。でなければ、似てもいない少年の面影を見てしまうから。
セミ様とぐだ
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lucewizard27 · 7 years ago
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真昼の星
※FGO脱出がもしアポクリファ脱出ならのネタ
チカチカと輝いて見える。答えは一つだけだ。どうするのかと問われて、隣に立つ見慣れた顔を見返した。例えば、聖職者は推理に向いているのかであるとか、作家であれば得意なのかであるとか。聞いてみたいことは幾つもあったかもしれない。でも隣に立つ彼女にそんな問いかけをしても無意味だ。
ここにあるのは箱庭の空想、傍に控えるは毒酒を盃に注ぐ女帝。犯人は貴女ではと首をかしげると、貴様は馬鹿かと呆れたように首を横に振られる。それなりに楽しんでいる様子が見受けられる。隣のテーブルで口やかましく、殺人だなんてと声を荒げた聖女が神父の少年に一瞥された。ホムンクルスがマスターであることが、神父の少年には気にくわないらしい。
「マスター、余所見をしている余裕があるとは。ならば推理とやらは一人で出来るだろうな?」
「できません!!!!!!!キャラ読みだから!!」
「キャラ読み」
さてはて、推理の答えは如何に。
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lucewizard27 · 7 years ago
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夢を見ない子供
悲鳴のようだ。立ち尽くし拳を握りしめている。赤々と燃え盛る炎を前にして、視線をそらすことを知らない。間違っていると声をかけることもできない。足を止めていいと誰かが言ったのなら、振り返るのだろうか。
いいや、それでは至らない。救いがあってはならない。悲劇でなければならない。報われてはならない。そうでなくては彼に繋がらない。
生前の強い想いこそが糧となる。影法師がこの世に染み付いて離れない。祈りに願うことに、全てに意味がない。予め結末は決まっている。この戦は勝てない。無駄死にだ。誰も彼もが悪夢の縁で、絶望と永劫に舞い続けるのだ。その死すらも救われるものか。ただ、そうでなくては面白くはない。
かの人の絶望の果てに願いはあるのだから。
シェイクスピアから見たシロウさんという人
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lucewizard27 · 7 years ago
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5/3 エア新刊
Fate/Ap エピローグイベントとコラボイベントに寄せてコピー本出します。
赤陣営本 「QED.」 聖杯大戦も終わり、エピローグイベント、そしてコラボイベントを終えた面々の心境とかどんちゃん騒ぎのようで、季節を駆け抜けたシロウさんの今だから出せる答えのようなもの。それでも変わらぬ彼の願いだとか。セミアタほんのり。
赤黒混合本 「カルナ カレー王の凱旋」鍋本いえ、闇鍋本。皆おもいおもいの具を持ち寄り、そして起こる壮大なーー失敗。「せめて食せるものを入れぬか!!!」セミ様の常識的なツッコミが儚く響く。ええい、救護班は間に合うのか!ツッコミとボケの割合はバランスよく計画的にね♡
黒陣営本 「ゴルドたんと48人の可愛いホムンクルス」えええ!ホムンクルスがアイドルに!?アストルフォの無茶振りにゴルドPが悲鳴をあげる。だってホムンクルスの寿命じゃトップアイドルまでなんて間に合わない!えーい、それならジークくん大聖杯を使って叶えちゃうぞ!アイドルはみんなのゆめ!世界平和!プリパラは永遠に輝いてる!さあみんな!ともチケの交換だよ!!!!
※出ません
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lucewizard27 · 7 years ago
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サーモンサンド
カフェが似合う男だと言われると、単純に顔面の偏差値が高いと言われているのか、単にお洒落な場所が似合うと褒められているのかロビンは悩む。どちらにしてもマイナスの評価ではない。ただ、女の子達の黄色い声というのが面倒なだけだった。
カルデアの食堂においてカフェテラスは偽物の空を見上げながら、時にはシーズンごとのイベントを楽しむためにも使われたりした。外は極寒の地であるからして、スタッフの精神衛生のためにダヴィンチが用意した場所でもある。サーヴァントは時折その中に混じり、談笑をしたりする姿もある。ーーロビンは混ざらないことの方が多いのだが。
どういうわけか放っておいて貰えないのだ。日頃のある種の面倒見の良さーー貧乏くじを引く姿がよくよく人に記憶されているから、などと言えばたちまち彼は姿を消すだろう。なんというか、面倒な性質であることは本人が一番よくわかっていた。
夕飯間際にカフェに踏み入れると、偽物とはいえ遠い空が���える。並べられた料理は作り物、ではなく本当で。鼻に香る美味しそうな匂いは、死者にとってもご馳走に思えた。ごくりと息を飲んだのを、めざとく見ていたビリーが「こっちに来なよ、グリーン。」と声をかける。ロビンが一瞬うえと息を詰まらせると、一斉に向けられた物好きな視線が容赦なく突き刺さった。会いたくないわけではなく、顔見知りとの唐突なエンカウントであるとか。
「今日のメニューはサーモンサンドだね。グリーンは何かオススメとかあるのかい。」
「........いや、オタクと一緒で。」
「あはは!まるで借りてこられた子猫のようじゃないか!珍しいこともあるもんだ。」
ニヤニヤとしているビリーにロビンは口を閉ざし、やれやれと肩を竦めた。だって、子猫だなんて可愛いものに例えられてもというわけだった。
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lucewizard27 · 7 years ago
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苺とミルク
大体大抵の女子という生き物は、甘いものとふわふわしたものときらきらしたものが好きだ。それは時代が変わっても同じことだろうとロビンは遠巻きに観察する。お茶の時間よ!とはしゃいだ少女たちに囲われた人類最後のマスターは、困ったような様子を見せながら楽しそうだ。そこにあの子が加われば、ロビンがいつか眩しく思えた光景にそう遠くはない。
溜息ーー幸せが逃げる。別に構いやしない。死んで終わったモノに続くものがあるとしたら、泡沫の夢だった。この旅は少なくとも騎士であるとか、そうではないからとか、正攻法がどうのだとか大した問題ではない。適材適所、各々が最大限のポテンシャルで挑んでも勝てるかどうかの大博打である。カードの勝負であれば、あいにくと今は負けが続いているものの、本番で勝てれば上々なのだ。この旅の終わりがハッピーエンド以外であることを認めるつもりはない。
努力!友情!勝利!使い古されたテンプレートのような、けれど一番大事なところをあのマスターは知っている。ロビンが生前どんなに願っても、いや願わなくても得られなかったものだ。当然のように笑い合う仲間だなんて、死んだ後に得られても。ましてこの旅は所詮は夢だった。
「なんてな。」
視線を逸らして苦笑いを浮かべる。やっかむつもりはない。羨ましいわけでもない。ただちょっと、やっぱり今を生きるマスターが眩しいのだ。
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lucewizard27 · 7 years ago
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呼び名
※アナスタシア後推奨
名前を呼ぶと躊躇したように返事をする。ゴーレムマスター、先生、あるいは。そう呼ばれるのはとやんわりと言われたのは最初の頃だった。私の知らないことをどうやら彼は知っていて、この先の旅路がいいものであるようと彼は尽力を尽くすと言った。思えば、きっと知っていたのだ。ドクターがそうなること、その後に訪れる真っ白な世界のことを。
少女が瞬く間、彼はほんの少しの歪さを見つけて口を閉ざす。そういうこともあるだろう。自分にとっては未来なのかもう経験し記録されている事象なのか、とはいえ同一ではない。懐かしむように頼りにしていると笑う顔も、ある種の慕情も。自分に向けられていながら、そうではないまっすぐな信頼が居心地が悪い。まるで借りて来たようだった。
いくつ目かの夜、昔の話を聞きたいと願えば、語られる言葉は遠く。やはり覚えはなかった。覚える程のものでもなかったか。刻まれる程に強い痕跡にはなり得なかったか。やはり、ズレが生じる気がした。慕われることは煩わしい。弁えた態度で子供らしからぬ様子の有様は、誰かと違い慣れているのだと知れた。だが子供だ。この世界を塗り替える意味をあえて考えていないのかもしれない。破綻はすぐそこだ。
続きを見届けたい、願ったのが間違いなのだろう。皇帝を前に手は天に届かない。導けると思ったわけではない。結末を知りたかったのだ。想像できるものではなく、去っていった彼らのようにではなく。最早救えまい。誰も動かない。あの目をもう少し見ていたかった。慕わしいわけではない。その感情は己のものではない。だから瞼を閉ざすのだ。願わくば呼んでくれるなと、そうでもなければ誰も彼もが救われない。
最初に呼んでたら、登録されててアウトだったりするのかなって疑問から。
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