mysteriouskor
35 posts
Don't wanna be here? Send us removal request.
Text
白すぎる蛍光灯が寒々しく、窓のない天井の低い予備校の教室で、世界史が得意な友達が持っている最新の電子辞書に図版付きの世界史用語集が入ってるから習う毎に調べてるのだと言う、分厚い参考書のページごと暗記するだけの一連の言葉はなんの意味も持っていなかったが、彼女はポルポト政権とかユーゴスラビア紛争の項目に付された図版を見せてくれた、血も凍る残酷博覧会、スレブレニツァ、地面の四角い大きな穴、画面は閉ざされたままになるかもしれない現実世界への小さな窓みたいだった
0 notes
Text
若い女が3人死ぬ。1人目はレイプされ首を絞められて川に捨てられる。2人目は過去の栄光のうちに生きている母親に顧みられずに。3人目は性的欲求と憎悪を募らせた男に殴られて。
3組の夫婦がいる。それぞれ浮気をしてはごまかしている。ペットとして扱われる小さな子どもたちは顔色が悪い。
3人の親がいる。大きくなった子どもの表情は翳っている。親は目の前の子に、私にはあの人しかいないとそこにいない人物の話を、あるいは過去の過ちと惨劇の話をする。
成り立つことのない対話。もう壊れているはずの関係。相互理解の不可能性。生き延びない娘たち。もう致死量の死の灰を吸い込んでしまっている。小さな傷が治らないうちにもう少し大きな傷ができて始めのは忘れてしまう。またひとつ別の傷がつき、気づけば全身は巨大な傷口となって、赤黒い血をどろりと垂れ流す。
0 notes
Text
死ぬのより、生きるのが恐ろしいです
地上に降りれば、あなたはそこに暮らす善良な人々を認めるでしょう、恐れは消え去ります
でも彼らは、人殺しと相違ない権力者に微笑み、戸惑う人々を病院へ追いやり、死刑を求め、飢える人々の前で高いビルを築き、無知な若者と貧者を戦争へ送り出します
私の中の悪意は黒く、葉脈のように延びて小さく息づくものですが
彼らの中に、石鹸のように無表情で、清潔で白い、それに似たものがあるのを知っています
触れることもできない、硬直してこちらの様子を窺っているものです
善意が、無垢が、悪意と変わらないと言うのですか
いえもっと酷い、白は血の上ではもっと白い
0 notes
Text
意味を無化することにも意味がある
自分がもっとも忌み嫌っている、骨髄にまで貧しさの染みた、黒く縮こまった田舎者として死ぬこと
0 notes
Text
象牙の塔から降りてきて
と語りかける空疎な歌
遠ざかっていく窓には
髪を梳かす乙女
薄水色の綿の寝衣
人影が行き交うと
たちまち炎に包まれた
瓦礫のなかの小さな手箱
零年
焼け落ちる暗幕はなにかの符牒ではない
切断された時のなかに
干上がった砂地に
膨張しつづける沈黙のなかに
黒い城を打ち立てる
0 notes
Text
12歳くらいの頃、言葉でなにかを
世界に自分に欠けているものを、
未だないものを形作れるかもしれないと
それが大切な仕事なのだろうと考えていた
渇望し、いつも探していた
周りを気にして自意識で頭がいっぱいになり
言葉にまつわる考えを途中でやめてしまった
新しい教室の匂いを思い出せる
今もう一度、探しに出たい
子供を産んだ親が世界と出会いなおすというのを
わたしはひとりで
なにもない国に出ていきたい
0 notes
Text
永遠であり透明な汚れることのない道徳法則と、一時的、可変的で一枚皮をめくれば不正と憎悪で腐って歪んでいる国家の法を、どうして取り違えることができたのか
0 notes
Text
見つめることと観察することは、似ているようで全く違う。見つめることは相手の中に入っていき、世界と溶け合うこと。観察することは相手を直立させ、ばらばらしてしまうこと、客体として意識の狭い空間に閉じ込めて、切り刻むこと。
0 notes
Text
一昨年の冬、一人で函館にいて、悪天候が続いていた。猛吹雪。あまり寒くはないが外に出る気が失せる。少し収まった日にぼんやりと坂の上の教会に入ると、中央あたりの席で跪いてひどく泣きながら何事かを祈っている若い女性がいた。私���りも少し若いくらいかもしれなかった。それか、幼く見える同年ぐらいか。ちょうどウクライナ侵攻が始まった頃だった。少し離れた席に座って教会内を見渡しじっとしている。ひんやりしている。木の感触。女性は振り向いて私の存在に少し驚いたあとびしゃびしゃの顔のままスマホを見ている。部屋にウォッカを2本蓄えていて、一息に飲もうと思っていた。
0 notes
Text
あなたは私の言ったことがわからなくていいし
あなたの日常とやらを脅かすかもしれない不穏な考えを少しも学ばなくていい
あなたに対するどんな批判も聞き入れなくていい
そのへんに漂っている甘ったるい霞を摘んで糧にすればいい
退屈なありふれた幻想を
その狭くも快適な部屋で
夢にみて時々跳びはねていればいい
その幻想のためにあなたが闇雲にひたむきに行うこと
それで得たものの手触りはどう
それを聞いてみたい
あなたの神経はその虚ろさに堪えるようにできていたのかどうか
0 notes
Text
昨夜 夢で 君と二人で
河の始まりを探した
老人が案内してくれた
のぼるにつれて 河は
細い流れに分かれた
雪をいただく 山頂のあたりで 老人が
青々とした ひそやかな草原をさし示した
茂る草の葉から 水がしたたって
柔らかな地に注いでいて
ここが 河の始まり と老人が言った
君が手を伸ばして
葉に触れ 水滴がしたたった
地に降る涙のように
0 notes