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(模擬戦:ヒヤエナ戦)
"後に『大戦』と呼ばれる、三勢力に寄る大いくさの渦中。 戦火もついに色濃く、多くの者が死に急ぐ戦場の末期になりつつある" "この身も後方に待機させられる事はなくなった。戦力を温存する余裕がなくなったせいか、あるいは安全圏そのものがなくなったのか。 どちらにせよ、己の日常が変わることは無い。ただ戦場に出て、強く名のある敵陣の将のところに乗り込み、首を取って名を上げる。それだけの日々。 とはいえど。実際にはそれを終えて手当てをしてくれる先ができたわけで。参戦した時からは想像もしなかった食事にも回復にもありつける――帰る場所のある、ありがたい状況が現状なのだった" "自分が心から何かに仕えたいなんて気持ちになるとは、始まった頃には頭の片隅にすらなかったので、不思議なこともあるものだと思う"
「ま、あんまり甘えてばっかもいられねえよな」
"帰る場所があるのはありがたくはあるが、自分にとってこの戦場で一つでも多くの敵を屠り、一つでも名を積み上げる、やるべきことは変わりはしない。 今日は警備の真似事をしただけ。大した戦場には行っていないので、体を動かしたくもあって。 最前線の少し手前の街の中。ぐるり、視線をめぐらせた。 聖印、邪紋、魔杖。戦場近いこともあって戦意に満ちた者も多い。さて、誰に声をかけようか――"
「……ん?」
"ふと。毛色の違う空気を感じ取った。 戦に逸る闘気や戦意とは違い、戦を疎む悲壮感や倦厭の空気とも違う。この末期の戦場において、未来を見据え『違うもの』を得ようとする風がある。 違和感の正体こそわからないが、他と違うというのはそれだけで魅力的だ。自分にないもの、見たこともないものを確実に見せてくれる確信がある。 受けるかどうかはダメでもともと。風に混じる気配を追い、その眼前に出る。 見たこともない鎧を纏う君主の姿。きっと、特殊な闘い方ゆえのものだろう。面白そうだと直感する"
「なあ、君主どの」
"期待をこめて、目線を合わせ声をかける"
「この宿場にいるってことは同盟領の君主どのだろう。実は今日の戦場が物足りなくて持て余しててさ」
"獣のように、笑って、誘う"
「よければ、一手あそんじゃもらえないか」
"不意の声に警戒心がよぎる。 『この時期』の自分は、自分を知る君主達の間では評判が芳しくない。 自己保身���自領の利益のため、不正に賄賂に寝技に工作、手をつけられるあらゆる事をしていたのだから、当然ではあるのだが" "後の盤面で無用になる面倒を起こさぬよう、同盟の陣幕から離れていたのだが一人でいるのなら好都合と刺客でも送られて来たのか。 しかし。振り向いた先の青年からは、刺客特有の剣呑さや悪意、殺意、害意といった特有の濁りが感じられない。 奇妙な誘い、現状を考慮するのであれば危うい橋を渡る必要は無い。断れるのならば断るべきだろう、が"
「……残念ながら。一介の君主に過ぎぬわたし如きを倒しても、誇れる功にもなりませんよ……。 不躾に伺いますが、何故そんなわたしに声を?」
"何が目的かを探っておく必要はある。 自分のことを知っている様子がないのをフェイクで無いとするのなら、同盟君主と知った上で挑発行為をかけていることになる。 ならば相手の所属は敵対勢力である連合か条約である可能性が高い" "この街は同盟の勢力下にあるが、当然、民間人も多い。力を持て余している輩を無碍に扱えば、今の自分の立場も相まって好ましくない結果を招くやも知れない" "――何よりも。 現在、密かに起こっている混沌災害の仕掛人からの刺客、という可能性もある。 相手の立場、目的、能力。全ての情報は力になる。この奇妙な相手が何者かは探るに値する価値がある情報と判断した"
"敵意や悪意は載せずの問いかけだったのだが、纏う空気が剣呑に変わった。 ……そういえば、誘うにしても名乗りもしていなかった。君主相手には失礼に過ぎる振舞いだ。 立場や礼儀で量られる事も珍しいことではないし、気にするタイプだったんだろう"
「──失礼した。 お初にお目にかかる、ロードどの。この身は同盟領ファルドリアに身を置く一介の傭兵。名をフーガという」
"深く、礼"
「何分碌な教えを受けて育ってない。無礼は容赦願えれば幸いだ」
"それから相手の顔を見上げた"
「──立ち合いはこの身にとっては重要な事だ。功が欲しいのは確かだが、同勢力の君主どのを襲う理由はこの身にはない。 望む理由は唯一つ。君主どのが『面白そう』だからって言って、伝わるかな。 知己の同盟君主はバケモノじみた奴ばっかりだ。アンタからも面白そうな風を感じてる。だから、あそんでもらいたい。それだけだよ」
"固い物言いは長く続かない。苦笑いで続けた"
「無論無理にとは言わないが。断られたなら取り下げるけど、もしアンタが少しでも気乗りしたなら。付き合ってくれると嬉しい」
"口からでた同盟の国の名に、拍子抜けして眼鏡がずれた。 同盟領のかなり東(の辺境の)方とあって親しい付き合いのある国では無いが、険悪になる要素もする理由も無い" "これでも真意を量る目は養っていると自負している。目前の相手の飄々堂々とした物言いに、嘘や謀略の響きは無い。 あまりに異様な事態に介入しているせいで、どうも神経質になっていたか――"
「フーガさん、ですか。 綺羅星の如き同盟諸侯と比較されては、気後れしてしまいますが……同盟領クロクター領主、ヒヤエナと申します。 わたしで宜しいのならば、お相手させて頂きますよ?」
"此の戦場で本格的な戦闘に加わって、未だ日が浅い身だ。 鎧は体に馴染み、戦術も自分に合っているが、完成されたものとはまだ言えない。 命の危険を気にすることなく腕試しに戦える機会は貴重だ。掴めるチャンスは逃さないのが身上。 背嚢を宿に預け、びきにあぁまぁの留め具を締め直しながら話しかける"
「南門を出た所に、軍がキャンプを張れるほどの平原があります。 門の内側の通りも、今の刻限では露天市も終わっていますから人は殆ど居ないでしょう。 人様にご迷惑のかからない場所となるとこの近辺ならばその辺りですが、どちらに向かいますか?」
「ありがたい」
"申し出に、礼を返す。事実土地勘はなかったので、提案は非常にありがたい。 戦場の案をされてしばし悩む。平原も都市もどちらも自分にとっては不利に働くフィールドではない。ならばあとは、判断材料になる要素は"
「そうだな、君主どのが全力出せる場所がいい、けど。どっちが好みだ?」
"問いに、逆に問い返された。 本来の自分は兵を動かし、己以外の力も総合的に使うルーラー。好み、と言われると選ぶべき場所は限られてくる。 しかし、今は。
「……では、予測の付かぬ乱戦により近い、門の内側で如何でしょう」
"事実、停戦直前の戦場は三軍相打つ泥沼のような様相を呈していた。 お互い、この後も戦場に向かうのだ。実地では味方の屍を潜り、矢の雨の中を走る事になる。障害物や予測不能な通行人を気にしつつ闘う方が、得られるものも多いだろう。 黄昏時、露天は殆ど片付けられ、人の姿もまばら。夕日の残照が、街を暗い赤に染めていた"
「宜しくお願いしますね、フーガさん」 「こっちこそよろしく頼む、君主どの」
"街中であそぶのは、実はこれがはじめてだ。 邪紋使いといえば白い目で見られるもの、長く街中に留まること自体少ないが、君主がいるならおおめに見てもらえるだろう。 しかし市井を巻き込んであそぶ提案を、領土を守るべき者がするとは実に面白い君主だ。 これで民を盾や武器にしようものなら所属に関係なく敵意を表すところだが、この君主は先に『迷惑のかからない』場所と口にしている。こういう義理堅さは好ましい。 好ましい気質があればその先だって当然楽しいはずだ"
「楽しくあそぼうぜ」
"これからの展開に思いを馳せる心に感応するように、風が弾んだ。 黄昏時。家路を急ぐものもあれば宿へ向かう足取りもある中。応じてくれた君主と、夕影と昏がりの街の中で向き合った。 酒場のある通りなどは盛況なのだろうが、ここいらはそうではないらしい。商店は店じまいした後。傭兵の食う寝るはもう宿や宿営地に入った後の時間だ。 こんな時間に通りの上に立っていることがないので、はじめて見る街の顔に物珍しく視線を巡らせて" "人通りの量を確認。判断としては多くはない。影と光の位置関係を把握。立ち位置を調整する"
「そんじゃ、君主どの」
"獰猛に笑って、一歩、左へ。 建物の隙間。沈む寸前の強い赤光を焚く太陽を背に。 逆光で眉をしかめた瞬間を狙い、発走。二歩目でトップスピード、風の如くに吹き抜けて、その真横をすり抜ける" "せっかくの街中だ、やったことのないことをしてみよう。 正面に迫った壁を蹴って真上に駆け上がり、屋根の継ぎ目を蹴って体をひねり、急降下。
「はじめようか!」
"遠心力に落下の勢いを載せて、後頭部狙いで回し蹴り。叩きつける"
"呼びかけの言葉に聴覚が、赤い光に視覚が、僅かに奪われる。 耳も目も、相手の初動を見過ごした。気を逸らし機を奪う妙。巧みに立ち位置を調整し、仕掛ける時を計っていたか" "プロだ、この人。その上、疾い"
「……!」
"防御行動も聖印起動も間に合わない。 咄嗟に降ってきた声の方向に身を捻り、強烈な蹴りを額当てで受け止める" "あまりの衝撃に、目から火が出た。鼻血も出たか。鉄臭い。 しかし、完全な不意打ちの最初の衝突に対して辛うじて意識をつなぎ止める事は出来た" "無意味な防御姿勢を捨て、踏みとどまり耐えるのを放棄。蹴られた額を力点に、後方に倒れ込む。 石畳に後頭部が叩き付けられるのを、両手を着いて防ぎ――逆立ち状態から大きく脚を開いて腰から回す" "速度と重力を乗せた彼の蹴りは効いたが、跳んで蹴りを放てば攻撃直後の動作も制限される。 頭への衝撃を逃がす意味もあるため威力は充分ではないが、相手を逆立ち蹴りの回転半径間合いに捉える事は出来た。蹴りには蹴りを返しておこう" "……仮に彼がレイヤードラゴンのような飛行能力を持つのなら、蹴られた上に飛んで下がられるのか。 そんな考えて詮無いくだらない事を考えるのは、揺さぶられた意識を無理にでも思考で回して状態を十全に取り戻すため。 受け流し、くらい流しの問題点は、細い首の骨で支えられる頭。人体で最も不安定で、最も衝撃を受けやすく、更には影響が残りやすい"
「……他の方々のように、圧倒的武力も優雅さもなくて申し訳ありませんが……続けましょうか」
"……善し。 言葉がちゃんと出る。まだ続けられる。一度間合いを離し体勢を整えて鼻血を拭い、構え直す"
"声に反応。そこからまさかの額で受け。 面白い。面白い。奇麗な顔して、覚悟と合理とに満ちた実利主義。こういう相手からは片時も目を離したくない" "受けの勢いを利用して倒れ込み、地に手を突いて足を跳ね上げる。即座の対応。胸が沸き立つ。 全力には、全力で。前に重心を傾がせぐるんと身を回す。天地逆転、蹴り脚の真正面に相対。両腕を交差させて受ける。 ぎしりみしり、腕が軋む。こちらの蹴りの勢いも十分乗っている。ただの苦し紛れの蹴りじゃないのが肌身で感じ取れる" "受けきり、弾き飛ばされる。胸を中心にぐるり回って脚から着地、勢いを殺す。 あの体勢から腕が痺れるほどの蹴り。口元が緩む。獰猛に。 面白い。面白い。もっともっと、見せてほしい。オレの全力を、見せるから。 吐息、ひとつ" "陽も落ちた。薄暮の刻限。空は白と藍のグラデーション。 蹴りを受けた腕はまだ痺れてる。さて、どう攻めるか" (──らしくいこうか) "身を沈め、発走。一歩ごとに加速。目前。蹴り──を目前ですかし、防御をすり抜け地に抉りこむように突き立て軸足に" "真正面の真っ向勝負。 牙の如くに喉狙い、蹴り足跳ね上げ遠心力と速度を載せたつま先で穿ちにかかる"
"正面から来ると分かっているのに、動く影を追うのがやっとだ。 こちらの内に入り込もうとする相手にカウンターを放つより速く、懐に入りきられる。獲物に躍りかかる狼牙のような、勢いの乗った爪先" "目を閉じるな。自分の力量で、自分に出来る最善を" "蹴りの到達する寸前地を蹴り、跳ねる。鋼製の首当てに、爪先が激突する。 衝撃が通るも威力をそのまま受けたわけではない。防具が無かったら、気管を潰され戦闘不能に陥っていたろうけれど。 空に打ち上げられたボールのように宙へ――家々の間に張られた洗濯物を干すロープに指をかけ掴み取り、制動をかけた。 体を振り回す衝撃をいなしつつ、軽く咳きこみながら呼吸を確保する" "太股のホルダーから一息にナイフを抜き放ち、身を預けているロープを切断。 ロープの残骸と、残っていた洗濯物が地上へと降り注ぐ。薄暮の見えづらさに障害物を加えて、視界をさえぎる"
「そう言えば。わたしが周辺の領主から何と呼ばれているか、知らないご様子でしたね」
"空を自由に飛びまわる聖印は持っていない。降り注ぐシーツや下着たちと共に地上へ落下する"
「ちょうどいい機会だ。お教えしましょう」
"この状況。誰もが目眩ましに紛れての、頭上からの一撃を警戒する。だからこそ"
「外道目狐。 ハイエナ君主って」
"素直に狙ってなんて、あげない" "小狡くセコく、意地悪く。身上通りにいくとしよう。 着地の瞬間、身を沈め、腹を目がけて掌底一閃突き上げる"
"こちらの蹴りへの対応は、防ぐでもかわすでもなく防具を最大限活用したパリィ。 その思い切りのよさは、華麗美麗でこそないが。肌身にあう戦場で戦い抜き生き残るための術に相違ない。こういう奴が君主となると、よほど面白い国だろうと思える" "まったくもって、面白い。 君主だというのにどちらかといえば「こちら側」に近い人間なのだ。面白くもなる。 接触の寸前自分から飛ばされにきたのは感じていた。なら飛ばされたことにも意味はあるはず。まさか市街戦で空中乗騎を呼ぶとも思えないが、ならばさて何をしてくるか" "刃が白く閃く。 ぶつり音を立て落ちる洗濯物の雨。日が落ちたのに取り込まないとは呑気ものの町らしい。薄暮に落下物。視界が塞がれる。なるほど、目眩まし、常套だ" "落ちてくる声が聞こえる。目を閉じる。 この身はそもそも風のエーテル。かの戦う相手に纏う空気を探るのに、視覚情報は必要ない。 風を、頼る。声。頭上。直上。仕掛けてくるか" (何か──) "違うと感じるも、違和感の正体まではわからない。近くのシーツを掴んで、ひゅるり捻りあげ即席の槍と化しての衝き上げ。 布槍術は見様見真似で完成度も低いが、当たれば痛いし直撃でなくとも絡めて動きを制限できる。 しかし迷いをもったままの見様見真似など、仕掛ける側にとっては児戯にも等しい。ばさり短剣で布槍はただの布として切り裂かれ" (こっちが狙いか) "がら空きの腹に、掌底打。功撃でないだけマシ、というのはクリーンヒットには通用しない。 派手に吹き飛び、そのまま近くの物置の中に突っ込んだ" "せり上がるもののを飲み下して。こらえきれない愉しさを口元に浮かべて。 声を出す。名乗りには、名乗りを"
「……この戦からこっち、『風の牙』なんて大層な名前で呼んでもらってるけどさ」
"戦友に貰った名だ。誇らしいと思うし、それに恥じない自分でありたい。 けど。そう。その前、は"
「昔は凶犬って呼ばれてたんだよ、オレ。凶眼の犬、目つきの悪い犬っころってな」
"倉庫の中だからか、存外に響く。風を使わなくても。言葉は届く"
「だから、いいんじゃねえの。他の誰が何と呼ぼうが、オレにとっちゃアンタは戦場で生き抜く術と覚悟をもった君主どのだ」
"そう。だから"
「こんなんじゃ終わらないんだろ。全部見せてくれ、アンタを。 オレもこれから、届けに──」
"立ち上がり、見据える。相対してくれる相手唯一人。夜のエメラルドとも呼ばれる橄欖石の如くにぎらり、覆いはじめの宵闇に浮かぶ緑の双眸"
「──行くからさ」
"発走。 爆発的な加速をもって、至近戦距離へ踏み込む。 迎撃の為にぴくり動く肩、その機先を制して掌に握ったままの、シーツの切れた半分を投げつける。 目の前に急に広がった白い大布で眩まし、足払い。体勢を崩したところを肩から鎧に密着。貼山靠の要領で弾き飛ばし"
「おかえし、だ!」
"壁を背にした君主の腹目掛け。 鎧の真上から双掌で同時に浸透勁を叩き込む"
"――愉しそうだ" "声の響きが、過去を懐かしむようで、誇らしげで。 感情を燃やし滾らせている尋常でない瞳の輝きが、黄昏の陽光を反射し兆す。接敵" "三度、受ける――思考の瞬間、目の前に広がる白。 想定外に視界に広がった色に侵食されるように、脳内も塗り潰され、戦闘行動で行き交う信号が刹那停止する" "寸刻。 衝撃と浮遊感。天地の感覚が狂う。烈の波が体の中を暴れまわる。 受け身を――取るより速く、背中がレンガの壁に叩き付けられる。宙に浮いた状態で、知覚が距離感も誤ったか。 前方に跳ね返った体が、更にもう一度。掌が触れる。内蔵まで達する暴風と共に後方へ弾き飛ばされ、壁ごと崩して地を転がった" "それだけのことをされながら。浮かぶ感情は苦痛だけではなくて。 先の言葉をかみ締めて、声が漏れた"
「うれしい、言葉ですね……」
"生きるため、勝つため……そして何よりも、大事なものを守るために、鬼にも悪魔にもなる。 そんな生き方を、ずっと続けてきた。 そうしなければ、押し潰されそうだったから。 そうしなければ、喪った物と釣り合わないから。 そうしなければ、自分が保てそうになかったから。 「まぁ……”今”の評価は……人に任せます」
"さあ、頭を切り替えろ。 感傷に浸ったのはこちらが先だが、まだやれるのだ。まだできるのだ。礼に沿おう" "思考する。 負傷度合い、出血、骨折、臓器の損傷――損���報告、完了。 思考する。 脚に血を巡らせろ。上体を倒し推進力を――対案構築、終了。 己の五体を掌握し、意思の力で疾らせる" "あるいは。わたしは半ば気絶しているのか。 ――風が、心地良い" "駆ける、駆ける、駆ける。 上中下段、構える相手の何処にも隙は無し。どんな技も捌かれるなら。技などいっそ出す意味もない"
「フッ!」
(最後まで、小細工はするけど) "口内の血を鼻先に吹き付け――止まる事無く正面『衝突』。 額当てを彼の額に叩き付け、諸共に縁台に激突した。
"目が変わった。纏う空気もまた同時に。 より強靭に。より野生的に。深慮奇策で世間を渡り歩こうとする領主でなく。独り、戦野と乱世に駆ける君主の風。 独立不羈。己を己の王と定めるもの。揺らぐことなく己の道を、自らでもって定め歩む者。 ああそうだ。それこそが"
「――アンタだ、君主どの」
"オレの、一番見たかったものだ" "馳せる。駆ける。あれだけ思う様打ち込んだのに一歩も譲る気などなく。最後の一撃を打ち込みにくる。さあ何が来る。どうぶつけてくる。さぁ。さぁ。 至近到達。何が来るかと構えて待ちわびる目の前に、赤い霧。 視界を眩まされるが、この距離では小細工らしい小細工も行えないはずだ。何を―― がつん、と。額に硬度と加速度" "頭がまるごと揺さぶられて、平衡感覚を失ったまま縁台にもつれ合って転がり込む。背中を強かに打ち、肺の中の空気を叩き出され、天も地もなく転がりながら。 目を見開く。まだ動ける。手足に力を叩き込む。鎧に手をかけ、しっかと掴み。 腕と体で相手を縁台の床に押さえつけ、動きを押さえつけ乗り上げて顔の真正面でぴたり掌底を止める"
「――オレの勝ち、でいいかな。君主どの」
"挑んだのは立ち合いだ。そもこれ以上は戦に障る。 こっちもあっちも明日は別の戦場。なら、これ以上の楽しみは、戦の後に回してもいいだろう"
"押さえつけられ目の前に迫った掌がぴたりと静止。 気の抜けた声がかかってふっと力を抜き、溜息一つ"
「ええ、あなたの勝ちです。 まだ負けてないなんて駄々っ子みたいな事は言いませんから、ご安心を」
"突き付けられた掌の向こう、暮れゆく空を眺める" "足りない、足りない、まだ足りないか。この立ち合いで掴んだものと及ばぬ力、どちらが多いことだろう"
「善い時間でした。 感謝致します、フーガさん。 終戦の暁には、是非ウチの領地に遊びに来て下さい。歓迎致します」
"聖印を励起。癒しの光で彼を包み。 飛んできた衛兵に身分を示し、特別演習だと説き伏せる" "諸々の修繕費を割り増しで払うと、それ以上面倒は無くなった。 面倒事を終えて、まだ待ちぼうけしている様子の相手にもう一度頭を下げ、笑顔を向ける"
「ありがとうございました」 「クロクタ-、だったよな。ちゃんと覚えてるよ君主どの。 今回はそっち持ちにしちまった。義理は果たすよ、次は土産持って参じる」
"だから"
「また気が向いたらあそんでくれ」
"戦もまだ終わりが見えぬというのに。少年は笑って『次』を口にした"
***
RESULT HYENA:19/50 FUGA:23/50
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模擬戦もろもろ:ガル戦
夜ねこ@のたのた暖気運転 @itonaka_24m @siegismund149 数年ぶりの顔と会って、元気そうにしているのを確認し。 会わなかった間に起きたことを徒然に語り合って、息災にやっているのに安心したようなやり取りをしあって。
まだ果たしていない約束を叶えようと、ふと思いたった。 思い立ったら即実行。 昔語りの席で話をした場所は、遠すぎるというほど遠くはない。風に乗り空へ躍って、雲と流れてその土地へ。 ふわりと降り立った場所で人を探していると声をかけていけば、目的の人物の居所へはすぐにたどり着いた。 何の知らせもなく来てしまったが、まあ、こんな稼業の再会なんて敵同士じゃないだけマシだろう。 手土産もあるにはあるし、門前払いを食らうようなことがなければいいのだが。 そんなことを考えながら扉を叩いて、中に声をかける。確か、こういう時は。
「たのもーう」
確かこんな感じで道場破れそうな勢いで行けって教えてもらったような気がした。 作法がそれならそれに則るべきだろう。 「ガルって御仁に会いに来た、ご在宅か?」
ガル@模擬戦(しいろ) @siegismund149 @itonaka_24m 昼食を用意していると、外から青年の声が響いた。この二年ほど留守にしている親友の忘れ形見が帰ってきたかと、一瞬の錯覚。だが、声の年の頃は同じ位でも声の質がこの青年の方が張りがあるし、まずもって第一声がおかしい。が、どうやら敵意は無さそうだと扉を開く。 昼食にするべく焼いていた獣肉とフライパンを片手に持ったまま、敵意がないなら問題なかろう。 「おい、うちには道場なんざねぇ、ぞ…………」 言いかけた口がにやりと歪む。 「なんだてめぇか。この通り在宅だ。元気みてぇだな」 随分と懐かしい顔だ、と思いながら、フライパンを片手で弄ぶ。 「腹減ってるか?とりあえず上がったらどうだ」 まるでただの友人が訪ねて来たかのように迎えつつ、青年の訪ねてきた目的は分かるし、その目的はこちらとしても歓迎だ。ただその前に腹ごしらえはしたいが。
夜ねこ@のたのた暖気運転 @itonaka_24m @siegismund149 「久しぶり、にいさん。息災そうで何よりだ」 共通の知人から話は聞いていたが、元気なのを直に見られるのはやっぱりいい。 「忙しい時に邪魔して悪いな。久しぶりにタンのあんちゃんと会って話してたらにいさんの話になってな。時間空いたからつい来ちまった」 視線で肩に担いだ大きな頭陀袋を指す。 「これ。手ぶらで来るのもなんだからって土産。 道中で畑襲いに来る途中のでっかい鹿がいたから持ってきた。血抜きしたしワタはとったし枝肉バラしたし温度は調節しといたから、村の皆ででも分けてくれ」 それから浅い鉄鍋を見て、くりんと首をかしげる。 「にいさん、料理作れるのか」
ガル@模擬戦(しいろ) @siegismund149 @itonaka_24m 「いんや、忙しくねぇぞ。単に飯食おうとしてただけだからな」 と流しかけてから、内容をつい聞き返す。 「……って、ええ?タンと会ったのか生きてんのか奴ぁ?」 ついさっき間違えかけた奴の居る所は案外近いのかもしれないと思うと、船乗りの血が疼きかける。 だが、堪えるより他無い。振り切るように、手土産だという鹿に目を向ける。 「こいつぁまた大物だな。しかも畑守ってくれたのか。色んな意味で助かったぜ」 礼は忘れない。 「おう。まあ俺の性格上、料理なんてったって大雑把なもんだが、食うかちょうど食材も来た」
夜ねこ@のたのた暖気運転 @itonaka_24m @siegismund149 「婿さんだか取るって話してたぞ」 そわ、と疼く感覚が視えたが、すぐに引っ込んだ。 「話に出したってことは、あんちゃんもにいさんに会いたがってんだろうさ。次に会うのは婿さんと一緒かもな」 どさ、と手近な台の上に土産を載せて、背筋を伸ばす。 「行きがかりの駄賃だ、土産に礼はいらねえさ。畑荒らしは困りものだからな」 むしろ土産ができた分こっちにプラスに働いてるような気がする。 食事をしていくか、という提案にきょと、と首を傾げた。 「……にいさんのメシだろ? オレ、人の物は盗らないぞ」
ガル@模擬戦(しいろ) @siegismund149 @itonaka_24m 「……むこ?」 目が点になる。むこ。無辜の民とかいうあれ……じゃあなさそうだ。むこ。むこ。 「婿ぉ!?!」 てことはタンが嫁か。��やそういう問題ではない。婿。予想を遥かぶっちぎった現状を人伝に聞くという、この、目眩がするような。 心当たりが約一名無きにしもあらず、然もありなん。だがこれで心当たりじゃない男がタンの相手だったらおったまげて卒倒するかもしれない、あんぐりと口を開けたまま固まった表情の中でそこまで考えてから、顎をカクンと閉じた。 「あー、えー、」 ショックが抜けきらないまま、口を開く。 「飯はそのだな、別に馳走するつもりだったんだが、盗むって意識になるなら、俺が食う間その辺でゆっくりしててくれ」 と作りかけだった料理を手早く終わらせて食べ始める。
夜ねこ@のたのた暖気運転 @itonaka_24m @siegismund149 何か変なこと言っただろうか、と考えるが、どうせ悪い頭じゃわからないので置いておくことにする。 言われた通りに椅子に座って料理を作る手並みを見ていると、迷いがなく手馴れているのを思わせる。 「にいさん、料理上手だな。どっかで料理人とかしてたのか?」
ガル@模擬戦(しいろ) @siegismund149 @itonaka_24m やっと立ち直ってきた頭で、投げられた質問に答える。その間にも、食事はみるみる内に腹へと消えていく。 「いや?だがまあ、三年位ずっと、俺が纏めて自分とタンのと二人分いっぺんに料理してたからな。その辺の慣れかね」 肉中心だから健康には悪いだろうが。
夜ねこ@のたのた暖気運転 @itonaka_24m @siegismund149 「へえ」 三年、と聞いて想像より短いなと思ったのは自分の経験のせいだろうか。 基本相手の事情には立ち入らないタチだが、じっと見られているだけでも食事はし辛いだろうと問いかけてみる。 「あんちゃんとにいさんは、もっと長い間一緒にいるように見えた」 若人の背中を押す力強さも、大人への微かな反抗心という甘えも。風に零れて視えた感情は睦まじくて、仲間とか同僚とかいうよりも『かぞく』と呼んだ方が近しいように感じた間柄だ。 かぞくが離れるのは、仕方がない事情があってもあんまり嬉しいものじゃない。 元気そうにはしていたが、ところどころ彼のことを話す青年の口調は懐かしそうだったと思う。足をぶらぶらさせながら問うた。 「あんちゃんはにいさんの事くすぐったそうに話してたけど。にいさんは寂しくないのか、あんちゃんがいなくてさ」
ガル@模擬戦(しいろ) @siegismund149 @itonaka_24m 「ん、ああ、三年が一緒にいた時間の全部じゃあねえぞ。毎日俺が飯作ってたのがその位で、交代で飯作るようになってからはもう二年位はいたしな。その後はブラキスの船で暫くお役御免だったが、またそのあと2年ばかり二人だったし、そう考えると長えな、あいつとも」 どこか自分が寂しそうに尋ねて来る青年に、苦笑と共に答える。 「んー、……寂しくないってったら嘘にならぁなぁ。そもそも二人になる前から育つとこは見てたしな」 照れくさいからあまり面と向かっては寂しかった等と言えそうにないが
夜ねこ@のたのた暖気運転 @itonaka_24m @siegismund149 「そっか。早合点した、悪い」 ぺこん、頭を下げる。 でも、この二人の間にあるのは自分の感じたことで正しかったのだろう。そう思うとあったかい。 「ん。かぞくが離れるのは、よくないからな。仕方ない理由もあるけど」 大事にしあってるかぞくなら。 「手紙とか、言伝とか。届けたいことがあるなら、オレが運ぼうか」 もちろんあそんだ後の話だけど。 「風が気まぐれに運ぶもんだ。そうそう気負うような事じゃない。 オレはアンタにあんちゃんの事届けたけど、あんちゃんはアンタがどうしてるか知らないからさ」
ガル@模擬戦(しいろ) @siegismund149 @itonaka_24m 「いや、なんも謝る事ぁねぇよ。そうさなぁ……『こっちは元気でやってるから、婿さんとやら連れてさっさと帰ってこい』って、もし会ったら伝えといてくれるか」 折角言伝てくれるそうなので、ごく短い伝言だけを頼む。そろそろ飯も食べ終わる。 カツン、と音を立てて食器を置いて、ニヤリと笑う。 「さて、と……お前さんが来た理由はこっちだよな」 左の手に邪紋を蠢かせる。食べ終わった皿は簡単に拭いて、洗い場に雑に放り込む。 「俺も腕鈍ってるかもしれんが、それで良けりゃ俺も大歓迎だ」
夜ねこ@のたのた暖気運転 @itonaka_24m @siegismund149 「承った」 言葉を忘れないように、滲んだ 感情(いろ)と一緒に刻み込んで。 不敵な笑みに、同じく返す。 「おう。話もそこそこで悪いけど、やっぱりそっちが本命だ。あそぶの歓迎してもらえるならこれ以上なく嬉しいね」 椅子から降りて戸の前へ。 「ここに迷惑かけるわけにもいかないし、案内してもらえるかな。あそんでも問題ない場所で、にいさんが本気出せるトコ。 連れてってくれよ、ついてくからさ」 土地勘のない身だ。全面的に任せることにした。
ガル@模擬戦(しいろ) @siegismund149 @itonaka_24m 「おう、それは実のとこ食いながら考えてた。こっちだ」 任された事に異存はない。先に立って家を出る。 行き先は村の裏手。森と山が程近く、地面にやや傾斜がついてはいるものの民家や畑からは離れていて多少暴れても問題ない広さのある空き地。 「ここでいいか」
夜ねこ@のたのた暖気運転 @itonaka_24m @siegismund149 着いた先は木々も生き生きと。生命の営みを感じる場所だ。 いい村だな、と口元を緩めて。 「おう」 それじゃ、と構える。 「随分時間が経っちまったけど。あんちゃんにあそんでもらった時よりは、できること増えたと思う。 ――楽しんでってくれ、にいさん」 出し惜しみなんてもったいない。相手に本気を出してもらえるくらいに、たのしんでもらえるくらいに――全力で、真っ向勝負。 ローから一気にオーバートップ。爆音を轟かせるのはただの一足の踏み抜きだ。 前触れもなく膨大な力でもって吹き抜ける、突風のように地を蹴って、走る駆けると呼ぶよりも、飛ぶ勢いを地に縛り付けているといった方が正しいか。 懐に滑るように疾駆した風は踏み込む一歩を軸にぐるり遠心力を追加。体を開いて胸を張り 「――はァっ!」 ガードごとへし折りぶち抜く勢いで、斜め下へ加速度と遠心力を十分に乗せた肘を叩き込む。
【頂肘・颪】 9 [3D6] 3,3,3 (15:26:57)
ガル@模擬戦(しいろ) @siegismund149 @itonaka_24m 相手の構えを受けて、こちらも左の邪紋を改めて起こす。目があった、その煌めく瞳のすぐ下の口角が上がった、そう思った次の瞬間小さな体は地を滑るようにして目の前の空へと��け上がっていた。 その体が器用に一回転した勢いと共に、下手に体で受ければ骨をへし折られかねない鋭さの肘。但し、その判断が出来たのは右前腕を咄嗟に合わせてしまった後。骨が軋む音が耳でなく体内で響いた。 受けてしまったものは仕方がない、せめてものダメージを減らすため、腕を引く──事はせず。 「くれてやるよ」 相手の上がった口角、こちらも同じ形をしている筈だ。 更に一歩、腕を自ら粉砕されんとするかのように踏み込んだ。 【HP:100→91】
踏み込んだ分、こちらの姿勢は低くなる。低くなり、相手の腹が、よく、見える! 「そら、」 左の邪紋の刃が一直線に走る、 「お返しだ!」
5 [3D6] 2,2,1 (12:45:42)
夜ねこ@のたのた暖気運転 @itonaka_24m @siegismund149 こちらの全速力に、相手の選択は回避ではなく防御。それも――退くどころか前に出るときた。 (ああ、たのしい) 心の底から沸き起こる歓喜。はじめて会った時に感じた同類の匂いは、こちらもかつてあそんだ青年と同じか、酔狂さでは上をいくかもしれない。 迷いなく、速力全載せで撃ち抜く。 初手だとか関係ない。渾身全力全速で、目の前の相手に届かせよう。 後も先も頭から追い出して、この一瞬に注ぎこもう。 ……そんな、視界の端にちらりと映った笑みに浮かされた行動への代償は安くなく。 がら空きの腹に狙いが注がれたと気づいたのは、すでに刃が肉に食らいついた後だった。
【HP】100→95
夜ねこ@のたのた暖気運転 @itonaka_24m @siegismund149 咄嗟に空いた手が動く。 伸びた先は自分の左腿。ホルダーの先。シースからこがねの閃きをひき抜き、深くもぐりこんで肉を割き続ける刃に苦し紛れにかち当てて、重心とずらし体を入れ替える。 刃筋から肉体そのものをずらしての、肉を割かせながらの回避。 相棒をかち合わせて潜り込んだ刃から体をひっこ抜く様な体の入れ替え方をしたものの、刃の入口の傷は深い。自分の未熟を思い知るが、何よりも相手の技量に感服する。これでこそアームズだ。 「こっちも」 せりあがる鉄錆を飲み下し、刃を持つ腕の更に外へ一歩。 対処に動こうとする肘に軽い裏拳を押し当て、滑るように二の腕を絡ませて取り。 「まだまだ、あるから」 足を払い、胴を肩に乗せ。 「見てってくれ」 ぽつり、呟いて。流れるように背負い放り投げる。
9 [2D6] 4,5 (16:15:24)
ガル@模擬戦(しいろ) @siegismund149 @itonaka_24m 自ら肉を断たせながらの回避。向かう口の端は、形はそのままに僅かに赤いものを浮かべて、顎の下に見えた動きによって赤いものの大半が再び嚥下されたのを察する。 続く動きは驚く程静謐に。伸ばしきった腕を引き戻そうとする動きの内側へ入ってきた。 余りに滑らかな動きに、一瞬反撃、対処、その全てをしなくてはならないという意識が脱け落ちていて、その身体は自分が一歩沈めた胴の更に下へと潜り込み、 視界が廻った。 背が地面を打ち、衝撃で自分の身体が跳ねる。 【HP:91→82】
以前横から見ていた時はこんな静かに、それでいて鮮やかな動きをする印象は無かった。成長したのだろう。流石に若者に成長が追い付かない、そんな理屈が過りかける。次の瞬間、負けては居られないと感情が吠える。 自分を投げたその腕を逆に掴んで引き寄せる。 左手は使えない、両足は少しばかり遠い。ならば。 身体の左右を僅かにずらし。 腹筋の力で壊れた前腕ごと肘を打ち込んだ。 先程作った傷口に重ねるように。
3 [2D6] 1,2 (17:59:46)
夜ねこ@のたのた暖気運転 @itonaka_24m @siegismund149 投げが通る。先の青年に見せた動きより幾分真っ当なものになっていたらいい。 背中から落ちた相手に追撃を加えようと手を伸ばす、その手を取られた。 体格差でも腕力でも真っ向からいけば勝負にはならない上、元々相手へ飛び込もうとしたのだ。抗える訳もない。 しっかと掴まれ引き寄せられて、回避は不能と覚悟を決める。 視線と筋の動きから狙いを読み取る。とっさに掌をその前にかざし、
半端なガードなど生温いと、掌を弾いて使い物になりそうにない腕を凶器と見立ててばくりと開いた傷口へ肘が抉りこまれる。 重い肘の威力で中身がかき乱され、開いた傷口に異物を抉りこまれて筋が反射的に動く。 二重の激痛で頭がパンクする。こらえきれず鉄錆の塊を吐き出し、もがきながら腕を振り払い空気を蹴って辛くも脱出するのが、何とかできたことだった。 【HP】95→92
距離が離れた。当然無手のこちらは不利な距離。 しかも今の一撃は相当キいた。大抵の痛みにはアドレナリンが蓋をしてくれるのに、今はそれを軽々越えてきている。 (まだだ) 浅く呼吸を繰り返し、左に握ったままの相棒を右にスイッチ。 一息。切先を、前へ。 口元に刻んだまま離れない笑みを、前へ進む意志へと変える。 「『風の牙』」 まだ届くものは、届かせるものはこの身の内に。 「『護領の剣』」 だからこんなすごい相手には。
「フーガ・A・セリザワ」 まだ、終われない。 「――参る」 姿勢は低く、獣のように、駆ける。 刃圏突入。上から落ちる唐竹の一刃。 まともな斬りあいなど望めようはずもない。相手は戦場で研ぎ抜かれたアームズ、こちらは護身用剣術を少々程度。攻め入るなんてとても望めたものではない。 故に、否。だからこそ。 「――シッ」 上から来る流れに、相棒をかみ合わせる。河が支流を合流させて流れゆく先を変えるように。勢いはそのまま殺さず削がず、その『軌道』だけを書き換える。 しゃりん、しゃらん。響く金擦れの音は透き通る残響だけを残していく。 次。横薙ぎ。上へ。 次。袈裟懸け。身の寸前に流す。 次。逆袈裟。頭の上を凪がせるように。 次。突き。首の真横へ軌道を書き換える。 次。首を撥ねる横払い。刃の峰へ合わせて皮一枚で済ませた。 護身とは即ち防戦。 刃を己が身に『届かせない』。その一点において、生命の危険を感じ取る嗅覚そのものを磨いてきた過去は有為だ。 拙くとも、未熟でも、未だ誇れるほどの技術でなかったとしても。戦の嗅覚と合わされば、達人の数合を凌ぐまでには至っていた。 しかし、けれど。 通じているのは護身剣術なんてものの目新しさにも拠るのだろう。こちらの『書き換え』の精度が落ちたわけでもないが、相手はアームズ、即座に対応してきている。通じておそらくあと数度。 そこまで考えて、賭けに出る。 (頼むぜ) 任せる。 向かいくるは風を斬殺す一刀。 こがねの鋼を構える。狙うは加速が乗り切るその一瞬前。相手が刃に全体重を、剣戟の勢いを、心技体総てを載せきる、その一瞬前。 「――ふっ」 捉える。かち合わせ――きらず、刃を絡めて勢いを殺ぎ、力を削ぎ、上に跳ね上げる。 跳ね上げこそ成功してもこちらの狙いはすぐに知れる。全速の一刀の邪魔をして、ただで済むはずはない。 逆に半端者の短剣を絡め上げて空へと放らせ、返す刃を握り直し、振り下ろさんとするその――真下。
がら空きの胸から下に、背中をぴったりと押し当てて。 「いっ」 足運び。震脚。勁力。すべてを威力に転化した―― 「けぇ―――っ!」 鉄山靠をぶっぱなす――!
3 [2D6] 1,2 (19:19:43)
ガル@模擬戦(しいろ) @siegismund149 @itonaka_24m 突き立てた肘は相手の腹を深く抉る。差し込まれた掌も横へ払い、狙い通りの場所を穿った肘が膓を掻き分ける感触。相手の口から今度こそ嚥下されきらなかった赤の雨が身体に降り注いだ。 溺れたように暴れた少年によって、引き寄せていた腕が振り払われると共に、こちらも折れた右腕をぶら下げて立ち上がる。さあ、どう来るか。二歩分、後ろへ下がり、挑発するように構え直す。 名乗りを上げ、小さな身体が纏う空気がまた変わる。突っ込んでくるその身体を脳天から両断してやるとばかりに降り下ろした刃が、楽器のような音を立てて『流された』。 河は、風で流れを変えることはないが、激流に当たって尚動かぬ大岩に当たれば渦を描いて道を変える他ない。 『護領の剣』は、流れを決して内に染ませぬ大岩と化していた。 流れる、流れる、流れる。大岩は、今だ氷を染ませる隙間を生みはしない。 ──斬鉄、という技法があるらしい。この岩はそれならば斬れるだろうか。そう試すように思った瞬間、今までにない動きが混じった。 絡めるような上への動き。そのまま剣を弾き、振り下ろさんとした瞬きの間。 腕の下へと潜り込んで来た身体が、崖から投げ落とされた大岩のようなエネルギーで以て胴を打った。 肺から呼気が悉く強制的に吐き出され、先の投げと合わせて散々かき回されてきた内蔵が悲鳴を上げのたうつ。少年と揃いのように赤を含む体液が吐き戻されてくるのを、たたらを踏んで一歩後ろへ下がったと共に無理矢理飲み干す。 ああ、ああ、そうだとも、こうでなくっちゃなぁ。 【HP:82→79】
笑みは深まる一方だ。こんなに楽しいのはいつぶりだろうか。 「あの時タンに譲らなきゃ良かったな」 見ていけと、彼は言う。 魅せろと、弾けるように思った。 「こっちも視ていけよ?」 いざ、観せよう。 退いた一歩を即座に詰める。少年が構えきる前に、重心の残る上半身を再び払う。 そのまま返す刀が、手放させた剣ならぬ拳の骨で流される。 横薙ぎ。上へと流された/流される。 袈裟懸け。寸前へ流された/流される。 袈裟懸け。頭の上へ流された/流される。 突き。首の真横へ流された/流れる。 流れた手首をそのまま反転。さながら抱き締めるかのように腕と身体の輪の内へ相手の首を招き入れた。 足払い。 輪を、絞り上げた。
7 [2D6] 2,5 (15:12:41)
夜ねこ@のたのた暖気運転 @itonaka_24m @siegismund149 無理矢理隙間をこじ開けての鉄山靠。通りはしたが、耐え切られた。 さすがに古強者は一味も二味も違う。一撃で、だなんて贅沢にはまだまだ精度が足りやしない。 逆に言えば。その最奥を見る機会が、今この瞬間が。続いているということの証左でもある。 こちらは相手に背を向けた状態。向き直るよりも一歩距離を詰める方が当然速い。 次の対応に出遅れる。なら一歩でも早く。一瞬でも早く。隙を攻められる愚をおかさぬ為でもあるが、何よりも。 眼前の相手のすべてを、目に、体に、心に、魂に、焼き付けるために。 鋭さをより増す刃。すでにこの身の盾たる短刀は手にはない。 しかし。相棒が来るまではこの体で刃と相対してきたのだ。斬られるだけではなく、防ぐための心構えも、護身剣術の力の理もこの身から離れたわけではない。 見据えろ。見通せ。この先へ進む為に――! 横薙ぎの斬撃に、半歩前へ出て刃の腹に側拳を押し当て上へ押し上げる。 袈裟懸けに、半身を引き戻し掌を峰に沿え流しぬける。 返す刃の袈裟、裏拳で思う様打ち上げ叩いた。 突きには一歩前に出ながら掌でぎりぎり軌道を押しのけて、前へ。前へ。 リーチが足りない。挙動が遅れれば致命的。 なら攻めろ。まだ前にいける。防ぐだけでは届かない。その為に、この絶対的な刃の間合いを踏み越えて、無手の間合いまで詰めきれ。 突きが翻るよりも早く、己の間合いへと相手を取り込む為に更に一歩を踏み抜いて。 相手の纏う風に異変。 気づいた時にはもう手遅れ。 刃を握る腕は蛇の如くに首に絡みつき、脚を払われ、宙に掻っ攫われ締め上げられた。 【HP】92→85
(ま、ず……っ) 体格差では話にならない。腕力だけ取ったところで勝負にならないし、地に脚が着かないなら踏み込みに威力が載らない。 風の持ち味の高速機動も相手に捕らえられては意味がない。
力の勝負なら相手が上。無手の技も、風の利点も封じられた。 肺に空気を送る程度のことはできるから、水中活動には問題がないものの絞め技は訳が違う。一番致命的なのは頭にいく血を止められることだ。 風(さんそ)の操作は出来ても水(けつりゅう)は動かせない。血が止まれば意識が落ちる。そしたら終わりだ。 歯噛みする。声は出ない。 視界が暗くなる。狭まる。ぼやける。 ふざけるな。こんな、ところで――
(『おわれない』)
――ああ。 そうだ、その通りだ。 終われない。終われないなら、最後の最後まであがきぬけ。 まだ、届かせるものなら残ってる。 手を伸ばす。 伸ばす先は絞める腕でなく。それどころか、相手に向けてですらなく。
そらへ。
信じているのじゃない。 疑っていないだけ。 そう。今この地この場所で戦っているのは自分だけではなく。
天から、こがねが降ってくる。 唯一無二の相棒。 掴み取る。 (行こうぜ) 振りかぶる。
(相棒<シャムリーフ>)
応えた短刀の柄尻で、今持てる全身全霊を込めて。 受ければ脳震盪で最悪試合終了、腕を放せばこちらをフリーにする。 (さあ、どうする?) どう応じるか、不敵に笑って。 間近にある相手のこめかみめがけ、狙い違わず遠慮なく、加減もなしでぶっ叩く――!
【強制二択】 6 [2D6] 2,4 (16:46:05)
ガル@模擬戦(しいろ) @siegismund149 @itonaka_24m 締め上げた腕の中の首は、数瞬前にこちらにあ���ほど重い打撃を与えたとは思えぬ軽さだった。体格の有利を生かすべくここぞと跳ね上げた脚が着地点を求めて宙を掻く。 もがき。 よじり。 あがき。 まだ、おわれない、でも、 そんな声が聞こえた気がしたのは、感覚で分かる、もう間もなく落ちる頃。 このまま落ちるか。少し、惜しいな。 そう思ったのに呼応するかのように天に向かって少年の手が伸びた。 最後の抵抗か、そう思って、即座に否定する。
違う、
何故なら、
無目的にもがく者、あがく者はこんなに真っ直ぐに天を見つめない。
視界にそれが入った瞬間、何が起きるか理解した。 天に伸ばされた手が迷いも驚きもなくそれを掴む。 そのまま、掴んだ手は後ろへと振りぬかれた。 まるで互いを呼び合う伴侶のように真っ直ぐに飛び込んできた短刀の柄を凶器として。 自分の石頭ぶりには大概自信があったが、万一気絶させられでもすればこの楽しみは終わってしまう。そしてその可能性は、この少年の打撃の鋭さならば十二分にあり得る。 なあ、もう少し楽しみたいよなあ? 寸前で離す。だが、それは完全に回避することを見込んだタイミングでは最早無かった。鼻梁に柄が激突する。首が激しく横へ振れたが、ノックアウトはひしゃげた鼻と当然のように噴出した鼻血を代償に回避した。 【HP:79→73】
こめかみへの直撃を回避したとはいえ、あれだけ殴られれば脳みそは外壁にぶつかり揺れる。 しばしの酩酊感にも似た感覚をやり過ごし、その中で相手の状況を見据える。自分も揺れる視界を立て直すのに時間が足りていない状況。 そして相手もまだ、締め上げられても全力で抗した結果再び機能するようになった血管を通して脳を再起動するのには時間が足りていない。 ここで攻めるのが卑怯に当るか。 当るという者もいるだろう。 それを否定する気は毛頭ない。 だが生憎自分が、そして相手も、生きて来た場所はそんなお上品な場所ではない。 出来る時にできる事を全てやらねば相手への非礼にあたる。 そういう、荒波の海に飛び込んで身一つで渡ってでもほしいものを勝ち取る無謀なまでの戦場こそが、自分たちの居場所だ。 未だ脳が処理しきれずに歪む視界の中で、少年の姿を見据える。 処理の追いついた、その瞬間飛び出した。 彼の右の肩口から左の脇腹にかけて、大きく袈裟に懸けた。 ――海の荒波を、超えて魅せろと。
8 [2D6] 2,6 (19:55:27)
夜ねこ@のたのた暖気運転 @itonaka_24m @siegismund149 直撃の寸前、腕が緩んで自由落下。 振り抜いた打ち込みは当然ズレて、それでも手ごたえそのものはあった。 地に足がつく。頭でというより本能的に前へと体ごと転がって距離を置く。 無防備な背をさらしたまま相手の間合いの中なんてぞっとしない。 滞っていた血潮の流れは解放されたが、視界が今度は真っ白だ。急激な血の巡りの変化に体の方が追いつかない。 相手の動きが見えない。それは致命的な隙を晒す事にほかならない。 だから他の感覚に頼る。耳で、気配で、何より風で。状況の変化を克明に感じ取る。 ざわり、風が異変を感じ取った。 纏う空気が徹底的に変わる。傭兵の剣士のそれから、風に波に大きく荒れる海そのものへ。板子一枚下は地獄、暴れる大海のうねりと律動――おそらく相手の最も馴染み戦ってきた、戦場の空気。 じわり、ようやく視界も回復しだす。 圧倒的に狭い視界の中で、風とあいまり見えたものは見上げるほどの波濤。 ともすれば船どころか、海の大怪さえ飲み込み押し潰さんばかりの莫大な暴威の体現。 「――は」 吐息が漏れた。 口元は笑みに形作られている。 そも、長く長く海を見た事がなかった。 抗え。 戦え。 これだけのものを見せつけて、これだけのものを示してくれた相手に。 己の持てるありったけを。絞れる限りの全力を。
届ける為に、打ち抜く為に、この一瞬、大海の山なす巨浪に向けてすら、己の牙を突きたてろ――!
振り下ろされる怒涛を前にしている。壁の如き威容を前に。 引くな。両足に力を込める。 臆すな。右手に相棒を握りこむ。 ――前に出ろ。 飲み込まんと落ちる激浪の一撃に向けて、勢いよく地を蹴った。 体調が万全で、状況が全部こっちに向いたとしたって自分の技量程度であんなものを捌けるものか。まして視界はぼやける上これだけ傷ついていては真っ当に防いだって波に飲まれるのが目に見えてる。 だったら、真っ当に防ぐなんて傲慢は最初に頭から消えうせる。 だから。落ちる波に、真っ向から飛び込んだ。 肩に落ちた刃の重さで体全体が軋む。重さだけで五体全部を打ちのめすそれは、しかし刃を伴っている。 刻一刻と潜りこむ刃。骨を砕き片端からひびを入れ、筋を次々裂断していくのが、体の内で起きるのを知覚する。 激痛に息すら吐けないが、こんなところでは止まれない。止まればそれこそ真っ二つだ。それでは何の意味もない。 刃筋が引っかかり勢いを殺すように骨をえぐる角度を微調整、前に出ることで勢いの乗る刃の点をズラす。 あたかも荒波をいなし超え行く船のように。 更には、まだ動く右腕を外から絡ませて相棒を刃にかちこませた。 力では適いはしないが、それでも食い込む速度を遅らせることができる。 ぎちり噛み合うこがねは、腕に今込められる力以上の働きをみせ大波の刃にくらいついてくれていた。
【HP】85→77
今にも飲み込まんとする大波に抗いながら、抗っているだけでは勝てないと理解している。 大波に対してみせるのは、己というただの風。 ――時に海のど真ん中に嵐を築き、時にスコールをもたらす雲を運び、時に帆を張り船を運ぶ力となる、ただの風だ。 風は。風は。 大波の前であっても。飲まれながらでも。 如何な暴威の前であれ――ただ、吹き抜けるのをやめることはない。
故に。 刃ごと砕かんとする刃を落とされてなお、その足は止まらない。
踏み込む。踏み抜く。 刃の距離を超え、拳の距離へと。 肉を裂かれ骨を断たれ、視界すらまともに確保できずに今なお刃にじわじわと侵食されながら。それでもなお吹き抜けんと。 「――ぶちぬくぜ」 左腕を腰だめに、大振りすぎるほどに大きく引き絞る。 その様は打突の為というよりも、弓に番えられた矢の様に近い。 手形は掌打。 最後の一歩。踏み込んだ足がそのまま震脚、地面を揺らして風が解き放たれる。 肘先に予め用意しておいた空圧を溜めた玉を炸裂。砲弾を打ち出すように、破裂音と共に撃発。生半可な防御なら触れただけで弾き飛ばす勢いを生み出した、一打を。 「もひとつ、おまけだ!」 それで終わらせるかといわんばかりに、接触の瞬間更にもう一つ風弾炸裂。 一陣の風は、大波に向け臆することなく真っ向から突き抜ける――!
【空弾掌:二段】 7 [2D6] 4,3 (00:49:35)
ガル@模擬戦(しいろ) @siegismund149 @itonaka_24m 波濤。 それを生身で超えて魅せろと、海の荒波のように、織り交ぜ、うねり弾けるものと、己が身を化した。
轟け 壊せ 呑め 押し潰せ
己の生きて来た『海』を体現せよと。 波は少年に刃を深く沈めた。刃が進むほどその骨を砕き筋を断つ感触が手には伝わる。その中で、少年の僅かな体捌きが、刃の進む勢いを僅かながらに削ぎ、絡む右腕とその手に握られた短剣によってさらに削っていく。 肉を断たせ、骨すら使いながら、自分の剣をいなしている事もまた、手の感触で伝わるのだ。 そして、その少年の顔に浮かぶものは、笑み。 「――ああ、最高だ」 さあ、その小さな体をこの刃の前に一層深く晒しながら前へ進んでくるお前は何を見せてくれる? 真っ向から飛び込んできた身体は、大波を超えた。 足元まで振りぬかれた刃はもう引き戻せない間合い。少年が最も得意とするであろう距離で、深い傷跡を一層広げるかのように身体が限界まで開かれ、拳が後ろへ引き絞られた。 身体そのものがその拳に力を与えるためのバネと化し、拳には風が更なる力を与える。その最高の一撃を、咄嗟に固めた筋肉の壁で以て耐える。 その予定だったのだが。 風は、吹き抜けるものだ。 一度で抜けられないならもう一度その風が同じ場所に至る時その風は一層強く、鋭くなる。 腹の真ん中近く、最も重要な臓器の存在する付近、一度の攻撃を耐えたことで緩んだ腹筋の防護を突き破って風そのもので出来た拳が殴りつけた。 【HP:73→66】
度重なる内臓への打撃ダメージがついに限界を超え、口から赤い液体が今度こそ溢れた。 それでも、口が描くのは楽し気な弧だ。 最っ高だ。 先程少年に向けて言った言葉をもう一度、口にする。 内臓が壊れたからなんだ。 右腕が折れているからなんだ。
魅せられたのだから。 値するものを観せなくては。
少年の掌打を放った右手をくるりと左腕で絡めるように引き寄せた。身体がゼロ距離になる。その勢いで右腕を左側へと振る。 上腕と肘で少年の頭を横から折るかの如く殴りつけた。 そのまま引いた右腕を肩ごと回し、少年の喉に肘を立てそのまま少年の背を地面にぶつけるように倒す。左手を離せばそのまま同じ左手を掴んで自分の有利にせんとする少年。 その身体との間に微かに空いた隙間に、右膝を潜り込ませ相手の胸に当てて、倒れ切った瞬間に一瞬さらに追加で圧を掛ける。 相手に掴み返された左手を無理矢理引きちぎるように払い、相手の顔の真横の地面に突き立てた邪紋の剣で、顔面衝突する前に己の身体を辛うじて支えた。
12 [2D6] 6,6 (01:39:05)
夜ねこ@のたのた暖気運転 @itonaka_24m @siegismund149 直撃。掌に伝わる強い手応え。 今の自分のありったけを打ち込んだ。だというのに少しも戦意は衰えることなく、闘志にぎらりと両のまなこが濡れている。 まったくタフなにいさんだ。これまであそんでもらった相手の中でも指折りかもしれない。 (ああ、楽しい) 掌打を打ち込んで伸びきった腕に相手の腕が絡む。体勢からして逃れるのは不可能。引き寄せられる。 先にこのまま締め上げられている。同じ轍は踏むまいと自分から地を蹴った。首に絡むようであればもう一撃腹に蹴りを通すつもりの一手。 直後。風の唸りを伴い折れて使い物にならないはずの腕が、こちらの頭に直撃した。 自分を引き寄せた動きすら狙いを隠す為、本命は折れた腕を動かす為の反動を欲したのだろう。 折れて力を込められない代わり、単純な重量と硬さと勢いが猛烈に頭をシェイクする。 三半規管がまとめてイカレる。認識感覚がぐちゃぐちゃに乱れる。 が。ある意味直前で跳んでいたのは僥倖だったかもしれない。下手に地に足をついて直撃を受けていたら骨とまでは行かずとも首の筋まで危うかったと思えるし、地に叩きつけられていただろう。 引き寄せられたことで距離は完全に密着距離。伸ばすまでもなく、相手の体に触れている状態であるなら、視覚聴覚が機能を放棄しても触覚と風だけで戦うことはまだできる。 まだ、終わらない。終わらせない。 どんな小さな動きも見逃すな。最後まで抗ってみせろ。 それが。 こんな未熟者の申し出に最後まで付き合ってくれた相手への礼儀ってモンだろう。
腕を引き寄せていた掌が外れる。その反動で折れた腕の肘先を器用にたたんでこちらの喉首に狙いを定められた。 逃すかとばかり、刃を握ったままの腕を掴み返す。 速さで勝負する。この距離体勢、その上ここまで消耗していては一か八かくらいの勝率だろうが、できることをやらない理由になんてならない。残った手に全精力を注ぎ込む。 構えは肘打。アームズの最大の脅威である武器を持った腕を封じた上で急所にねじりこむ―― 寸前。 ――背中から地面に落着。ついで、わずかな隙間を縫った膝が胸に押し当てられ、重量と落下の二段構えの衝撃が総身を打ちのめした。
【HP】77→65
骨の軋み。肉の悲鳴。肺は容量を全部吐き出さされて、余力すらも吹き飛ばされた。 それでも離さなかった最後の一打の構えすら腕力で振り払われ、こみ上げる吐き気と薄まった痛覚を通り越した筋肉の痙攣を耐えしのぐ。 ざく、浅く頬を割いた刃を見て息をついた。 戦意を解く。もとよりほとんど残っていなかった体から、戦闘行為のこわばりと力を抜いた。 二度三度咳き込んで、口の中に残った鉄錆を横に吐き捨てる。 ちゃんと、伝えることは、伝えないと。
「悪い。こっちは、ちょっと、限界。アンタの勝ちだ、ガルのにいさん」
屈託なく、笑って伝える。 心の内は晴れやかだ。見たこともない波濤を、海を。技を。余すことなく見せてもらったのだ。体がついてこない自分の未熟がもどかしいほどに。 「付き合ってくれて、ありがとな」 急に来た不躾な相手にここまで付き合ってくれた相手に、素直な賞賛と感謝を伝える。 「掛け値なしに楽しかった。凄いもの、たくさん見られた。すげえ嬉しい」
ガル@模擬戦(しいろ) @siegismund149 @itonaka_24m 突き立てた刃を引き抜くと共に、自分の身体で押し潰した小さな身体から戦意が消えた。 「──」 それを受けて、自分の身体をくたりと少年の隣に転がし���。 「後少し続いてたら俺も限界だったな」 僅かな体力の差が勝負を分けたか。まだ自分も捨てたものではない。 「俺こそ礼を言いたい所だぜ」 猛き風は、船乗りにとって敵にも、味方にも。海を離れて長い自分が忘れかけていたことを、久々に思い出した。 「俺も、楽しんだ。ここまで全力かけていいと思った勝負は何年かぶりだ」 隣の少年に笑い返す。 「また、来いよ。お前ならいつでも歓迎だ」 また次にやるときにも、いい勝負が出来るようにキチンと鍛えておかなければ負けそうだと独りごちて。
夜ねこ@のたのた暖気運転 @itonaka_24m @siegismund149 「ほんとか」 現金なもので、次を誘ってもらえると声が自然弾む。 「よろしく頼むな。その時は、もっともっと色んなこと、できるようになってくるから」 次の約束を笑って繋いで。
それから、苦笑い。 「けど。ちょっと情けないが頼み聞いてもらえるか」 実のところ、血も流しすぎの体中ぼろぼろだ。このまま帰るのはさすがに心配をかける。 できるならこの場で寝たいくらいだが、それはそれで問題があるだろう。村的に。 「二日くらい、逗留させてもらえると助かるんだけど。もちろん、対価は払うよ」 飯食わしてくれ泊めてくれとまではさすがに申し訳なくて口に出せないが。 「大きな木か軒下でも貸してもらえればありがたいんだけど」
ガル@模擬戦(しいろ) @siegismund149 @itonaka_24m 目を瞬く。 「悪ぃ、俺も気づいてなかったな。遠慮する事ぁねえ、泊っていきな、あんだけ楽しい勝負してくれた結果がこれなんだ、対価なんか別に要らんから」 ゆっくり体を起こして立ち上がり、ついで少年に手を差し出す。 「もらった肉で旨いの食わせてやるよ」 にかと笑う。 ただで泊って行って、また気軽に勝負をもう一度してくれる方がいい。
夜ねこ@のたのた暖気運転 @itonaka_24m @siegismund149 ぱちぱち。と目を瞬かせる。 くりん、と首をかしげた。 「……そんなのでいいのか?」 大したことは何もしていないし、迷惑かけたくらいなのに。
とはいえ、相手の言葉に二言がないのは視てとれる。 なんとも豪気なにいさんだ。 申し出そのものはとてもありがたいし、迷惑でないのなら。 「なら、言葉に甘えるよ。ありがとな、にいさん」 答えて、大きな手を取った。
ガル@模擬戦(しいろ) @siegismund149 @itonaka_24m 「いいさ。よし、そうと決まれば行こうぜ。ついでだ、一風呂浴びてきな」 手を引いて立ち上がらせる。少年がどれくらいの頻度で来てくれるかは分からないが、早くも次の来訪を心待ちにしている自分がいた。
***
ガル@模擬戦(しいろ) @siegismund149 何してるって聞いたら飯作ってるって言うから、フライパン片手の出迎えとかそんな面白い事になってしまった……ガルもお前人に飯食わせるの好きなのか……?
ガル@模擬戦(しいろ) @siegismund149 置いておかれたwwwこの混乱をwww
夜ねこ@のたのた暖気運転 @itonaka_24m @siegismund149 いや、こう、「なんかよくわかんないけどあんちゃんの婿取りってなると色々大変な立場なのかなあ。結納とか祝辞とか考えたり大変なんだろうなあ」って思ってますあいつはw 思ってるけど基本相手の事情には立ち入らない性質なだけなんです……w
ガル@模擬戦(しいろ) @siegismund149 @itonaka_24m 思ってるけど出てこない、成る程……。まあそれ以前の所(男同士な点)で奴はびっくりしてるので、もし拾ってもらってたら話噛み合わすの大変だったかもしれないですね……www
夜ねこ@ちび給仕とかわんわん @itonaka_24m うん、うん
そういうの大好き あー、いいな。 今すっげ熱(ねつ)い わーーーーー わーーーーーーー(すげえの出てきて顔覆ってる)
おっまえ、ほんっと中身が本気出そうとするとエンストするよな!!! (構築中のが出目3とは思えないちょい長めのロール) (知らぬ。数値とか知らぬ)
夜ねこ@ちび給仕とかわんわん @itonaka_24m ん、なんか久しぶりな挙動をするなあ。 面白いところが出てくるぞしいろさん相手だと。
ガル@模擬戦(しいろ) @siegismund149 うちの子相手だとやねこさんとこのフーガ君が普段出ない動きをするというのを見かけて喜んでたら鞄のチャックに指挟みかけるまぬけ
ガル@模擬戦(しいろ) @siegismund149 今は横腹狙ったけど殺しあいだったらさっきの腹狙いは背骨を通る線を狙って刺した後斬り上げてたなって思ってこいつ物騒
夜ねこ@ちび給仕とかわんわん @itonaka_24m (だいじょうぶ、スロースターターなだけ)(スロースターターなだけ……!)
ガル@模擬戦(しいろ) @siegismund149 (スロースターターなだけ、だといいなぁ)(この数字は今後12とかが連続しないと互角にもならないよね、という顔)
ガル@模擬戦(しいろ) @siegismund149 バイト終わって帰ってきたらちょうどやねこさんから最強にかっこいい模擬戦の返信帰って来てご褒美かと思った やねこさんのトップギアを出して頂けてるのホントに有り難さしかないし自分が相手なんだけどもう一ファンと化してロール読みながら声にならない悲鳴をあげてる…………なにこれかっこいい…… 見劣りしないように頑張る!!こんないいもの見せられて中身も全力出さぬ訳には行かぬ!!!口調変なのはテンションのせいである!!!!
ガル@模擬戦(しいろ) @siegismund149 鉄山靠受けるだけに何ツイートもかかるなこれ(書き出し中) ここまでがっつりの模擬戦初だな!!楽しいな!!
ガル@模擬戦(しいろ) @siegismund149 やっと普通の出目が出たか
ガル@模擬戦(しいろ) @siegismund149 なんか僕が帰ってくるタイミングに大体やねこさんの返信帰ってきたばっかりなこと多くて、こう、やねこさん千里眼持ってるのかなって気持ち
夜ねこ@ちび給仕とかわんわん @itonaka_24m 楽しんでもらえてりゃ僥倖 んむ、とりあえずうにょうにょしつつ打ち返し。 みっつめがどこまでするかで困ってんだなー。こっちはなー。 (にっこにっこにー) ああうん、楽しいね。 やーっぱなあ。それができるからギアあげるんだよ僕は。
夜ねこ@ちび給仕とかわんわん @itonaka_24m 楽しいことは!!!いいことだ!!!!
ガル@模擬戦(しいろ) @siegismund149 やああっと返せた!!! もうこのレベルになるとその場で文章組み上げるだけじゃ物足りなくて別所でまとめてからじゃないと満足できなくなるから時間かかってまうな!!!
夜ねこ@ちび給仕とかわんわん @itonaka_24m うむ、いいぞ。平均値、許す。 最後までもつれそうな数字だから許す。 はは、楽しんでくれてるなら上々だ
ガル@模擬戦(しいろ) @siegismund149 めっちゃ楽しんでます!!(首ぶんぶん)
ガル@模擬戦(しいろ) @siegismund149 は え? おどろき
夜ねこ@ちび給仕とかわんわん @itonaka_24m (腹抱えて笑った) (ねよ) (──いや、勝利条件クリティカルのみの状況でほんとにクリティカル出したやつ初めて見た。すげーわw)
ガル@模擬戦(しいろ) @siegismund149 まさかまさかの逆転勝利にむしろ中身が困惑であった……フーガ君に対して1差で競り勝つのはガルタンの性質だとでもいうのか……w
夜ねこ@ちび給仕とかわんわん @itonaka_24m 泥くさい、を褒め言葉としていいなら今回のそれは完全にそう。
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模擬戦もろもろ:ご主君戦(何度目だっけ忘れた)
マサキ・セリザワ@同盟君主 @GCserizawa @itonaka_24m (予定変更) (「――一人だけ楽しそうにしやがって。俺もマゼろよ」)
≪here comes a new challenger≫ ≪――『鉄拳君主』が乱入しました≫
夜ねこ@のたのた暖気運転 @itonaka_24m @GCserizawa いつもの執務室。書類整理と判子押しを終えてコーヒーを嗜んでいる君主が、こんこんと窓から音がするのに気づき窓を開けたその瞬間。
「あっそ」 腕を取られて 「ぼっう」 反射的に指を極めようとしたら首を脚に挟まれて 「ぜっ!」 窓から外へ放り出された。 まったく悪びれもしない青い頭が風に揺れている。 「ここしばらくあそんでもらってなかったからな、たまには付き合ってくれ。 頭使いすぎたら体動かさないと根っこが生えるからよくないってどっかの君主どのが言ってたぞ」 どこかでスイカバーがくしゃみしたとかしないとか。 頭使う気がない奴の発言を真に受ける辺りどうかと思うがそこはそれ。 「あそぼう、ご主君!」 溌剌となんかもうそれ以外頭になさそうな奴が目下でぴょんぴょんしていた。
マサキ・セリザワ@同盟君主 @GCserizawa @itonaka_24m 「流石に今のは驚いた。まぁ仕事も一区切り付いたところだし、身体を解すついでに付き合おう」 あのアクロバット中も手放す事は愚か零しもしなかったコーヒーカップを傾け、残りを飲み干して一息つく。すっとカップを脇に差し出すと、示したようにユカリが受け取った。 「全く……旦那様、フーガ、お二人ともやんちゃは程々に」 溜息を吐いて、カップを受け取ったユカリが下がった。 「すまんな。――さて」 首をごきりごきりと鳴らし、指をぱきぱきと鳴らして解す。この相手に下手な構えを取るだけ無駄だ、自然体で対応するに限る。 「来い、久々に一丁揉んでやろう。……覇ァッ!!」 言葉と共に、景気づけに一発震脚で大地を響かせる。 ビリビリと響く震動が、煉瓦の壁と庭の木々をまとめて揺るがせた。即席のゴングには丁度良かろう。
夜ねこ@のたのた暖気運転 @itonaka_24m @GCserizawa 「おうっ」 満面に笑みを浮かべ、は、と息を吐いて。 構える。久々の高揚感が体にしみこんで楽しくて仕方ない。 「――それじゃあ、はじめようか」 応えるように、風が波を打ってざわめいた。
相も変わらず隙だらけに見えて、すぐに返しを打てる構え。 何やったって返ってくる。この相手に考えるってこと自体無意味な気さえしてくるが。 それでも。 打ち倒すこともそうだが、それ以上に。 一歩でも、前に進んだことを示すのが。この相手とのあそびだから。 行こう。走り出す。駆け抜ける。届くまで、届けるまで。 蹴り脚を真っ向から打ち返す。いつもなら避けるか流すかの択を、加速度を乗せた蹴りで真正面から打ち合わせる。 反作用。技後硬直。それを突く。 小柄な身を利用して反発力を着地に、着地から加速に繋げる。 纏手の応酬を三手で切り上げ、腕に手をかけ支点とし。 体ごと内側にもぐりこみ地を蹴り離して逆上がり。 「ていっ!」 加減なしに両足��相手の顎先を狙って撃ちだし蹴り込む。
【格ゲー風天地逆転ドロップキック】 5 [3D6] 3,1,1 (23:41:12)
マサキ・セリザワ@同盟君主 @GCserizawa @itonaka_24m 打ち合いも早々に、踏み込んで強烈な一打を見舞ってきた。流石にもう受けられる前に機先を制するコツは解ってきたようだな、と笑みを深くする。 片腕を取られた状態で交叉気味にぶち込まれる蹴りだが、早々に直撃を受けては興醒めだろう。首の角度と腰の捻りでいなす。 危うい角度で身体を沈め、半瞬後に両足蹴りが顔横を掠めた。 模擬戦恒例メガネログアウト案件だけは避けたが、代わりに頬に蹴り足からの鎌風を受けて赤い筋が入った。完全にかわしてコレとは恐れ入る。 「――やるな」 賞賛の言葉は、それで充分だった。 【小ダメージ】
打ち合いを不利と見なし、一気に流れのまま攻め込む。普通なら充分カタがついている。いや、今までの俺であればマトモに喰らって吹き飛ばされていた可能性も高い一撃だった。 それを紙一重とは言えいなしたと言う事は、それだけこちらの実力も上がっている証拠だ。 「おい。――腕の位置はよく見ておけよ」 言葉と共に、ニヤリと意地悪い笑みを浮かべる。視点に使われた腕は、引き込まれて下手に突き出す形に固められている。
そして、もう片方の腕は―― 既に、天を掴むように五指を伸ばして、天へ翳されていた。 片手を天に、片手を地に向けた不動の構え。 一度でもその構えを見たモノは、直後の出来事をすぐに察するだろう。
「――覇闘、三段」
短く告げられた言葉の直後、一瞬三連の震脚が砂地を派手に巻き上げた。 余りの威力に、砂が波濤の如く辺りに舞い散っていく。 一の震脚。 フリーだった右が残像と共に振り下ろされ、肩口に音速の手刀を叩き込む。
二の震脚。 固められた左手を引きつつ、引いた右の背中から鉄山靠を胸郭にブチ込む。
三の震脚。 衝撃で飛んだフーガの五体に、絶招歩法で追い付いて更に正拳を突き込む。 一瞬遅れて、黒い影が砂埃から突き抜けた。 放った左正拳を緩めながらも、腰を落とした残心で構えた鉄拳君主の姿が合った。 「――手応え、ありだ」
【奥義・覇闘の構え】17 [3D6] 6,5,6
夜ねこ@のたのた暖気運転 @itonaka_24m @GCserizawa 見事にかわされた。さすがに奇襲には強い相手だ、そうでなくちゃ面白くない。 そう思いながら、切り替えかけたその瞬間。 ぶわ、と全身の毛が逆立った。 声がするよりも早く、なにかが来るのがわかる。受ければどうなるかを、この身が何よりわかっていた。 紛れもなく。間違いようもなく。この身で受けた、相手の秘奥。 そんな代物を初手から打ってくるのは奇策鬼謀からというよりは――あの日から。どこまでも先に前に歩み続けた故にだろう。 恐怖ではなく、戦慄でもなく。ただ胸の底が、言葉にならない衝動に震えていた。 対処、対応――限られた中で、反射的に体が動く。 その流れを知るが故に。その威力を知るが故に。
手刀――勘だけで打ち込まれる位置を読み、機を合わせて微かに膝を曲げる。 容赦なく衝撃が体を打ち据えて膝から落ちそうになるのを耐えた。 鉄山靠――腕を取られて膝も落ちてる。体勢は最悪。成す術もなくぶっ飛ばされる。肺の呼気がまるごともってかれる。
まだ。まだだ。次が。最後が、来る。 手刀の打ち込みの苛烈さのせいで痺れている左腕は使えない。なら、右手、を。 ぶっ飛びながらも右手を真芯に打ち込んでくるだろう、その前にかざして――
――指先を弾いて、代名詞たる鉄拳が体の真芯を打ちのめして、軽々木っ端のように宙を飛ばされた。
【HP】100→83
けれど。あの時みたいに。前に受けた時みたいに。ただ成す術もなくすっ飛ばされたわけじゃない。 かす��でも、わずかでも。抗ってみせることはできた。 先に弾かれた指先から化勁したおかげで、ほんの僅かに拳が体を打つ角度を変え、何より覚悟を決める時間もあった。 結果として――無様に壁に叩きつけられる事なく。 四足でざりざり地を擦りながらも意識を保って着地する事まで可能にした。
とはいえ、叩きつけられるダメージがなかっただけで、左腕の痺れは重い。せり上がった鉄錆は塊になって口から溢れた。全身が異常を訴える。
「――それが」
口元をぬぐった。
「どうした」
口の端は歓喜に歪んでいる。
とんでもないと、心の底から言える相手とこうして相対できているのだ。 この一瞬一秒を、一瞬きたりと無駄にするな。 もてる全てを賭して届かせろ。ただそれだけで、十分だ。 一歩踏み入れば其は道と。 奔る。先の比ではない。飛べ。地に足をつけたまま、空のように、速く。疾く。迅く。駆け抜けろ。 爆音を轟かせる疾走で、残像も残さない速さで。ただ人の足で馳せ飛んだ。 ダメージなんて頭の中からすら追い出した、風の全速、吹き抜ける。 堅牢堅固の城塞じみた纏手の応酬は、両腕ならともかく片手で通じる相手じゃない。 右腕一本ではすぐに捕まる。なら。 右手を開く。五指を揃える。あらゆる防御を突き抜ける、貫手の構えで最後の一歩を踏み蹴る。応じるように動く両腕の動きを――
――全て無視して、脇をすり抜けた。
貫手はフェイク。 本当の狙いは、速さで撹乱し、相手の思考を狭め、片腕しか動かないことさえ利用した戦場戦闘の理。 欲しかったのはこの状況。 相手のがら空きの背中、ただそれだけだ。
急静止、跳ねる。膝の真裏を踏み通し 体勢を崩させ、なお上へ跳ね上がっての 「――っらぁ!!」 側頭部から後頭部狙いの、全力の回し蹴り。 何の迷いも惑いもなく、ただ通す意志を込めて蹴り足を振りぬいた。
【回し蹴り】 4 [3D6] 2,1,1 (00:36:36)
マサキ・セリザワ@同盟君主 @GCserizawa @itonaka_24m 『それが、どうした』 こちらの奥義を真正面から喰らいながら、なお啖呵を切って突っ込んでくるその姿を見て、驚愕どころかこちらも笑みを深くする。
そうだ。そうでなくては。 『奥義で倒せなかった』のではない。 ――『奥義ごときで怯まれては困る』のだ。 初っ端に切り札一枚切った程度で折れられては興醒めだ。 こんなモノは必要経費、ここから始まる楽しい時間への『前座』でしかない。 義弟もそれは良く解っているらしい。目つきが変わり、笑顔の質が明らかに変わった。 「そうだ――俺は、これと闘りたかったッ!!」 こちらの叫びに応じるように、義弟は最高速でこちらへと踏み込んで来る。
――疾い。『踏み込み』と呼ぶ事すら烏滸がましい、正に鎌風の如き疾駆。目で追おうとすれば、瞬きの間に己の首が飛んでいる死神の凶刃だ。 思考の稲妻を遥かに超える速度で、貫手が唸る。 思考を超える速度域での勝負では、先読みと直感、そして己の身体に叩き込んだ反射が要となる。目で見て認識している時点で、既に相手の攻撃はこちらに届いているのだ。となれば、初動とタイミングを見切って予め動いておくか、後は肉体の反応を信じて任せるしか無い。 来るのは突撃力最重視の貫手。 殺気を感じ、『初動』に反応した両腕が己の思考よりも先に動く。 五指を開き、右の腕が指先に合わせ、
――空を切った。
僅かな違和感。本来なら手応えの『空気』があるが、それすら無い。 何かが噛み合わぬ微妙な齟齬が残り―― その違和感を増大させるかのように、背筋が粟立った。すぐ背後に怖気が走る。
「ッ――!」
ほぼ同時に、膝裏に槍の一閃の如き蹴りが突き抜けた。 関節の裏を見事に叩いた精確無比の一撃。膝が折れ、体勢を崩された。
天を仰ぎ見るように、身体が倒れていく。 こちらの対応の裏を突いて、フェイントで一杯喰わせに来た―― 否。この程度の小技でこいつが終わるものか。奥義の意趣返しがただの下段蹴り一発では余りに安すぎる。
一瞬の駆け引き。 義弟ならばどうする。俺ならばどうする。 ――俺と闘う義弟なら、どうする。 己の思考を読むように、義弟の『基本思考』を読む。 読んだ。 ――だが、読むまでもなかった。
既に分かり切っている事だ。 幾度も拳を交えた、俺達の間ならば――!
後頭部。完全な死角から、脳天狙いの回し蹴りが飛ぶ。 だが、同時に黒衣が更に身を沈めた。 膝を崩されたのを逆利用し、自ら膝を折って限界まで姿勢を下げる。背筋は仰向けたまま更にスレスレまで倒し、後頭部を地面にぶつけに行くような形で回避行動へ。
――蹴りが目前に迫る。際どい。 両手を地面について、ブリッジ姿勢で己の身体を支えに行く。 加えて片足を上げ、身を縮めるように膝を己に引き付ける。
――直後、鈍い衝撃と、激しい打撃音。 フーガの豪速の回し蹴りと、己の膝が真っ向から激突した音だった。
【無茶な姿勢で受ければいてぇっつーの】
迎撃の手応え。――凌いだり。 文字通り膝が砕けそうな衝撃を受けるが、歯を食いしばって耐える。既に気分が高揚し過ぎて痛覚が麻痺し掛かっている、この程度の痛みならば何ら支障はない。
――こんな激痛《モノ》で、 楽しい一時を終わらせてたまるものか。 回し蹴りの衝撃を膝から身体、地を掴む己の両手に伝え――逃がした上で反動として用い、己の力とする。 受け流し、技術の要。反動込みのハンドスプリングで一気に宙に身を躍らせ、更には高速の宙返りを加えて回転を始めた。
――黒衣の風車が、宙に舞う。 「蹴りとは」 回し蹴りの威力。己の膂力。遠心力。更には重力と自重。 全てを一点に集中させ、左脚を振り上げ――
「――こうするものだッ!!!」 漆黒のギロチンが、脳天目掛け振り下ろされた。
【超高速回転空中踵落とし】15 [3D6] 5,6,4
夜ねこ@のたのた暖気運転 @itonaka_24m @GCserizawa 読まれた、というよりは『応じられた』とでも言ったほうが正しいだろうか。 速さではこちらに分がある。だから、おそらくは自分の『これまで』から推測された。 それなりの付き合いになった相手だ。こんな風にもできるだろう。 いつ見たってこの人は。とんでもない。 撃ち込みきらなかったら迎撃がくる。そも自分の無手の技術は八割方目の前の君主から来ているのだ、半端で済ませれば倍返しが返ってくるのは当然。 それでも、何をどう見せてくれるのか楽しみになってしまうのは。 自分の中のどうしようもない性分みたいなものだろう。 目の前で黒が跳ねて躍る。 大柄なものが跳ねるのは脅威でしかないが、撃ち落とすなんて無粋はもってのほか。 自分の力も抱え込んだこれだけの技量と力の粋に、無粋を持ち込む野暮じゃない。 真正面、真っ向から。両掌を交差させ、断頭の刃の前へ。
――かくして黒の裁決は落ち。 風は地へと叩き伏せられる。
【HP】83→68
叩き落されて、地面の反発で跳ねて、転がって。 ああ、と。胸に去来するのはただ一言。 『とんでもない』。 何度言ったかわからないし、何度思ったか数えるのも馬鹿らしい。 きっと、これから先何度だって。この人にはその思いを抱くんだろう。隣を歩み続ける限り。 だから。 「……こんな、とこじゃ」 拳を握り、地に叩きつける。 体が軋みを上げる。さっきから本気の痛撃をもらってばかりだが、根を上げそうなものはどこにもない。 根なんて上げてる場合じゃない。 隣を歩くと誓ったのだ。その道を拓くと言ったのだ。 ならば。
「終われないよ、なぁ……っ!」
吼えろ。 地の果てまでも。世の果てまでも。 駆けて馳せて、その脚で。拓いて届けて、その腕で。 立ち上がり、己の身で、心で。三千世界(みえるすべて)に轟かせろ。
「――いくぜ」
銘を。 夢を。 魂を。 刻め。
地が爆ぜる。 今出せる全速力で、真正面。 攻勢防御をまどろいとばかり、最低限弾きながらなお前へ。 重い拳打を、鋭い貫手を、いくつも身に受けながら、トップスピードを落とさぬままに懐へ一直線。 『これまで』が読まれきるなら。 出す答えは単純明快。
「破ァ!」 歩法と共に、水月狙いの崩拳でガードに真っ向から打ち込みにかかる。 終わらせない。
次いで肘打ち、裏拳。ここまでくれば次に何がくるかこの相手なら察するだろう。 締めは無拍子一打。かつて見せた自分なりの精一杯。三打必殺。 終わらせない。
右腕の猛攻で意識が逸れたところを、左手五指を揃えて穿ち、さらにヒットからこじ開けるように捻りこむ。 終わらせない。
腰の捻りをそのまま回転運動に。ぐるりまわって膝蹴り、更にそこから機転に頭狙いの回し蹴り。 終わらせない。
下半身の捻りを上半身にも伝え、鞭のように全身をしならせて打つ側拳で頭頂部の急所をえぐりに行く。 終わらせない。
着地。位置エネルギー遠心力震脚込められる力のすべてをこめて注ぎ込み余すことなくぶちまける鉄山靠。 ――まだ。ぶっとんでも、終わらせない。
追い風一陣。一つの疾風となって追いすがる。 両掌を腰だめに。ただこの身のすべてを通す。 全力で。全身で。全霊で。今あるものすべてを、打ち抜く為に。 「これが」 追いつき、追い越さんばかりの加速度を乗せて。溜めに溜めた両掌を、完全同時の震脚と共に撃発。 「今のありったけだ」 届け。届け。届け。 この先のことなんてどうでもいい。 ただ今は、これを打ち抜く事だけできればそれでいい。 みどりが爛ともえてかがやく。 一滴たりとも残さずに。 「受け取ってくれよ」 ブチ込んだ。
【絶招・七剣星】 16 [5D6] 4,2,1,4,5 (21:33:28)
マサキ・セリザワ@同盟君主 @GCserizawa @itonaka_24m ――風の牙が唸る。吠える。猛る。 かつて大陸の戦争でがむしゃらに敵を屠っていたあの頃とは違う、見違えた光をその眼に湛えて。 血にまみれながら、ただただ肉と骨を引き裂いていた風の牙は、今や磨き抜かれて覇者の佩刀と呼ぶに相応しき鋭さと輝きを得るに至った。 命を燃やし尽くし、ただ己の生きた証を爪痕として残そうとした少年は―― 覇者と共に世界を駆ける夢を抱いた。掛け続ける夢を抱く事が出来た。
「――あぁ。お前の『全て』を、ぶつけに来いッ!!」
あれから幾つもの時を経た。幾つもの戦場と、日常を過ごした。 力。技。知識。理論。経験。日常。名前。家族。そして――夢。 俺が分けられるモノは片っ端から分けていった。共有していった。 共に夢を抱く仲間として。共に日常を過ごす家族として。兄弟として。
そしてお前はどんな漢に育ったのか――この義兄に、見せてくれ。 出端の覇闘三段に、カウンターからの踵落とし。相変わらず避けも逃げもせず馬鹿正直に真っ向から受け止めて、ズタボロだというのに―― 何という加速。衝撃で地が揺れた錯覚を覚えつつ、蒼の流星が飛翔するのを見た。 最早ダメージでは、コイツは止まりはしない。 例え覇闘を五回叩き込んだとしても、自分の全力を、望む全てをこちらに届かせるまでは倒れはしないだろう。こちらを見据える瞳は、意志の輝きに満ちている。 死に場所を求めていたような男が、よくぞ―― よくぞここまで成長した。よくぞここまで足掻くようになった。 「――それでこそ、セリザワの名を持つ男だ!!」 その姿に感極まり、こちらも顔の笑みを隠しきれずに咆哮した。
最早この先は言葉は要らない。 駆け引きも要らない。 勝ち負けすらも、考える必要はない。 己の全てと全てをぶつけた、全力の仕合に望むのみ。
――初手、水月狙いの崩拳。両脚をしっかりと根を張るように腰を落とし、両の腕でド正面から受け止める。衝撃を流しつつも、『返し』を意識しない完全な防御だ。
――二手、三手。肘打ちと裏拳。場所を変えつつ勢いを殺さない、愚直に見えて技巧を籠めた高度な技。 あの時と同じ、されどあの時から遥かに高みに達した技を、こちらもより高みに達した捌きで受けきる。肘打ちを同じ側の肘で弾き、裏拳を逆側の掌底で応じて受ける。 密着状態、クロスレンジでの無手の応酬。速度と重さの乗った猛連撃の衝突は、大気を幾度も揺るがせた。 次は――こちらの予想を完全に上回り、読みを放棄させた『無拍子』。 とんでもない一手を隠し持っていたな、と後になって驚嘆したものだ。あんなモノをブッツケ本番で叩き込まれてはたまらない。『喰らわされたのが俺で良かった』と言うのが割と冗談で無いのが笑える。 だが、『あの時』と同じように防御を捨てたカウンターでは進歩がない。 種は割れている。時も過ぎている。互いに技術も高め合っている。だからこそ――
見切りで動きをトレス。『無拍子』に鏡合わせの『無拍子』を合わせ、 無拍子の無拍子たる強みを相殺しに行く。 全く同質の無拍子の一撃がぶつかり――衝撃で、大気がまた弾ける。
三打必殺、凌いだり。だが、当然『この先』を期待していいんだろう? 互いに無拍子を相殺し合ったところで、向き合う二人がどちらからともなく笑う。
――そう。こんなところで、終わらせない。 次の一打、義弟の左がこちらへ伸びる。零距離からの貫手、しかもこちらのガードを強引にこじ開けるような一撃だ。腕の締めだけでは押さえきれず、とうとうこちらの防御をかいくぐった一撃を胸郭に叩き込まれた。 苦いモノが喉奥からこみ上げるが、それすら味わい深い。 ガードをかいくぐられたところに間髪入れず叩き込まれる膝蹴りと回し蹴り。両腕を解いて手刀で弾きに行くが、ダメージを受けた事で呼吸が若干遅れた。膝蹴りの勢いに逆に腕が弾かれ、続く回し蹴りが脇腹にクリーンヒットする。 とうとう、防御を抜けて直撃を許したか。 走る鈍痛。脇腹が逝ったか――真っ向勝負、それも速度ではなく連撃でこじ開けられるのは初めてだ。こいつは俺の想像を超えて強くなっている。戦士としても、男としても。それを容易に感じられる、熱い一撃だった。
蹴りの熱量を愛おしく感じつつも、意識は消さない。 身体を跳ね上げつつ、今度は空から撃ち下ろす拳。弾かれた両腕はガードに回せない。僅かに身体を逸らしつつ、右の蹴り上げを拳に叩き込んで相殺する。 みしり。こちらの合気を超えて衝撃が骨に伝わる。連撃で押し込まれている分、勢いを殺しきれなくなっているらしい。 そして義弟は両の足を着地――その構えは、己が『最初に教えた』あの技。 そうか、連撃に加えるほどに熟練したか。この状態で喰らうとまずいか、どう返すべきか。 絶体絶命の状況でありながら、顔は笑っているし自分のダメージなど完全に他人事の有様。 それはそうだろう。 俺の受けたダメージは、コイツが今まで培ってきた『全て』であり―― こいつにとっての『勲章』なのだから。 己の教えた技も、叩き込んだ技も、知らぬ場所で覚えた技も、何もかもをこの身で受け止められるのだ。 これほど幸せな事は、無い。 防御を捨て、全身を踏ん張る。胸郭ど真ん中に痩躯からの鉄山靠が突き刺さる。
馬鹿かお前、ほんっと馬鹿だな。 この技、一体どれだけ練習してモノにしたんだ。こんなに大事にしやがって。ここまで昇華させやがって。嬉しいじゃないか。
――黒衣が、吹き飛んだ。
吹き飛んだはずの己の身に、風の剣が更なる加速で追いすがる。弾き飛ばされた己に追い付いて、最後の一撃が来る。
「……申し分、無し」 吹き飛びながら、こちらに飛翔する義弟に向かって言葉を投げる。 「届くどころか、完全に突き崩されたな」 追いすがり、追い付き、更には追いこさんとするほどの圧倒的な速度。 この男は速い。成長も速い。ともすれば、もはや追い抜かれかねない。
故に。 今までの『禁』を破る事こそが、義弟への褒美になると、そう感じた。
――今この瞬間でこそ、意味があるのだと。
「――それがお前の『全て』なら」
吹き飛ばされながらも、左の拳を握り、引く。 視線は義弟から一瞬たりとも外さず。
「これが、俺の『全て』だ」
――青白い光輝が拳に灯る。淡い光が、左腕全体を包んでいく。
「……『鉄拳君主』が、全霊の一撃」 「――お前に、捧げる」
とん、と音が鳴り――着地した足から、霧のように気配が消失する。 だが、消えたのは一瞬にも満たない時間。 姿を消して死角を取るわけでもなく。 場所を移動させていたわけでもなく。
ただ一つ違うのは、全力で左拳を引いた構えの姿。 放たれるのは、ただただ全力の左正拳。 されど拳に灯った光が、『拳打』と呼ばれる次元を超越した現象を再現する。
霧を纏い、水蒸気爆発を巻き起こす。 音を超え、ソニックブームが纏った水蒸気を吹き飛ばす。 最後には、摩擦で赤熱し、左の拳が自然発火する。
――魔法の力ではなく、聖印によって増幅された肉体のみによる摩擦の自然発火。
義弟に見せるのは初めてになる。 音速の数倍に達した鉄拳君主の『魔拳』の一撃。 これを使ってやる事が、アイツにとっての、最高の褒美だろうさ……! 「――おおおおおッ!!!」 絶招歩法、聖印強化、そして全力の震脚による渾身の一打。 迎え撃つのは、同じく震脚による全身全霊の、両掌の一撃。
文字通りの『鉄拳君主』の最高の拳と、覇者の剣の最高の一撃が――
激突した。
【絶招・焦熱鉄拳】22 [5D6] 6,4,5,3,4
夜ねこ@のたのた暖気運転 @itonaka_24m @GCserizawa ありったけ。何も残さないつもりの両掌。 対する君主は、静かだった。目の前で利き腕が光輝に包まれるのを見た。 頭の片隅が訝しむ。 無駄なことなどしない相手だ。何か意図があるはずだ。 が、主が使う力はおおよその場合混沌祓いか戦況変動のための戦術的用法。こちらは今邪紋を使っていないし、後者は一対一の戦闘において有意に働くものではない。 だから。何が来るのか。激突の瞬間まで、わからなかった。
──激突の瞬間広がったのは、焔。
(──ぁ) 心が、空白に呑まれた。 視界すべてが赤に染めあげられ、容赦なく熱が体を覆う。 「──っ」 其は原初。 あらゆる記憶のはじまり。
『 』が終わって、『フーガ』が産まれた地獄。
風が、凪いだ。 焔が、渦巻く。 拳に、押し込まれる。 目の前で輝く聖印は邪紋の干渉を退け続けながら、焔纏う拳を押し込んでくる。 風が勢いをふつ、と失ったことで地上の業火は一層に強く盛り、体を、心を、地獄へと引きずり落とそうとしてくる。 「──っ、」 自分がのどを焼きながら何を叫んでいるのか、わからない。 もともとのダメージもあったろう。 意識がまだ保っているのが不思議なほどの強打をいくつも受けて、それでなお立っているのが目を瞠るような事態だ。 この上、体と心に刻まれた拭い去れない恐慌を、全力の拳でもって撃ち込まれてどうして、まだ──
「──ま、だ、だっ、っっ、──!」
──掌はまだ拳とぶつかり合い、のどを焼きながら血を吐くように叫び、膝を付かずに立ち向かい続けられているのか。 答えは、魂が知っていた。 だって。まだ。 お前は届けきっていないじゃないか。 ならば倒れるの��認められない。ならば折れるのは認められない。 まだ届く。まだ打てる。この身の最後の一滴まで、撃ちこみぬけるまでは──例え相手がなんであれ、そんなものの為に歩みを止めていいはずがないだろう──!
「うああああああぁぁぁぁぁあああっ!」
全霊の咆哮。 ありったけを注ぎ尽くす為の、絞りきるような声で、あらゆる枷を引きちぎる。 毛細血管に負荷がかかりすぎたか、意図せず眼から鼻から指先から、咲くように赤い筋がこぼれる。 それでも。 それでも。 混沌や聖印の力で維持しているわけではない焔を、両掌はおさえきって。 唐突に焔がきえた瞬間、掌は弾かれ、拳が鳩尾を突き抜けた。
【HP】68→46
衝撃に、もう体は動く素振りすら見せない。 拳で支えられている状態で、ぼんやりと呟く。 「とどか、なか、った、なぁ」 口元が、苦笑いに歪む。未熟にも、ほどがある。 けれど。
「やっぱ、ごしゅくんは、つよい、わ」
とんでもない相手と相対できた歓びを。 口元に佩いて。
「つぎは、もっと、もっと……」
笑って、意識を手放した。
マサキ・セリザワ@同盟君主 @GCserizawa @itonaka_24m 「――――」 突き出した左拳に、意識を失って尚退かぬ義弟の身体を支えながら。 全てを絞り出し尽くし、ぶつけ合った感慨に暫し浸る。
「届かなかった、ものか」 「――届いていない、ものか」
意識を失っている義弟の耳には、届かないかも知れないが。 何度もぶつけ合い、凌ぎ合い。受け、捌き、放ち、そして食らい付く。 これほどの技を一度にぶつけた相手が居たものか。 これほどの応酬を繰り返して尚、倒れなかった者が居たものか。
――そして。
拳を引き、こちらへ倒れるフーガの身体をゆるりと受け止める。 血まみれ煤まみれの身体を黒衣で包むように抱き上げ、
次の瞬間、みしり――と、凄まじい音を立てて左の拳が紅い炸裂を起こした。 激痛が己の身体を伝い、脳髄を激しくかき混ぜる。折れんばかりに歯を食いしばり、口の端から血を滲ませながら耐え、それでも笑った。 「う、ぐッ――……」 意識を根こそぎ吹き飛ばしかねないほどの、電流が走るような���痛。 それでも、痛みを堪えて笑い飛ばせるのには理由があった。
「……とどいて、いない、ものか」
――そして。 『鉄拳君主』の左拳を砕いた者など、居たものか――。
結果で言えば、自滅かも知れない。人体の限界を遥かに超える速度の拳に、己の身体が耐えられなかっただけかも知れない。
だが、奴の両の手は傷つきはしても砕けてはおらず。 全力と全力をぶつけ合った果てに、こちらの左腕が先に砕けた。
――届いていたさ。 届くどころか。こいつは、一瞬でも俺を超えて先を行ったんだ。
これが、笑わずに居られるか――。
*** マサキ・セリザワ@同盟君主 @GCserizawa 夜ねこさんのギアの上がりっぷりをみてにやつくなど。 かー、いいねぇカタルシス。 しいろさんちょっと羨ましいじゃねーかよそう言えば最近マサキで模擬戦やってないなぁとか思ったり。
夜ねこ@のたのた暖気運転 @itonaka_24m @GCserizawa おー、なんだやっか(しゅっしゅっ)
マサキ・セリザワ@同盟君主 @GCserizawa @itonaka_24m やったんぞーおらぁ
マサキ・セリザワ@同盟君主 @GCserizawa はえぇよ馬鹿!?
マサキ・セリザワ@同盟君主 @GCserizawa ちょ おま
マサキ・セリザワ@同盟君主 @GCserizawa リプが溜まってるので覗いてみたらなんか殺人コンボ飛んできてた。
夜ねこ@のたのた暖気運転 @itonaka_24m いくらなんでも暴言だったからちょいオブラートに包む 僕は僕に見える範囲でその人が受けてくれるって思える範囲のものしか人には渡しませんのだ いっつあ信頼の証
マサキ・セリザワ@同盟君主 @GCserizawa BGM叩き込んでテンション上げるかー。エネルギーも補給したしガッツリやるぞ
マサキ・セリザワ@同盟君主 @GCserizawa ちょっとテンション上げすぎじゃねーですかお前
夜ねこ@のたのた暖気運転 @itonaka_24m おう来いよ!
夜ねこ@のたのた暖気運転 @itonaka_24m めちゃくちゃなうごきするひとだなーもー
マサキ・セリザワ@同盟君主 @GCserizawa 久しぶりに結構良い感じの攻撃描写が出来た。 受けてから返すまで13ツイートとか超重量級ってレベルじゃねーぞ。
#流石に相手は選びます
夜ねこ@のたのた暖気運転 @itonaka_24m 平均! ありがとう平均値!!!(※平均より下です)
夜ねこ@のたのた暖気運転 @itonaka_24m 構成してるだけでくっそ長いこの
がんばろ おっし構成終わり、わんわんいくぞ!
マサキ・セリザワ@同盟君主 @GCserizawa 出目が下がらねえwwwwwwww
夜ねこ@のたのた暖気運転 @itonaka_24m ぶっころされるなこれwww
夜ねこ@のたのた暖気運転 @itonaka_24m 馬鹿君主にほんっと馬鹿って言われてすげー喜ぶ大馬鹿がいる(いつものこと)
マサキ・セリザワ@同盟君主 @GCserizawa 実はハナっから焦熱鉄拳使うのは決めてた。 マサキらしい技なのにまだ一度もフーガに入れてなかったもんね。
聖印使うのずるいから封印してたけど、『全部』と言ったら。 これしかないもの。
マサキ・セリザワ@同盟君主 @GCserizawa #謎の解説 何故マサキの拳が砕けたのか、説明しよう。 本来「焦熱鉄拳」は、聖印に膂力の倍加・混沌払いに加え、反動を防ぐ為の防御強化の効果が施されている。 ソニックブームから熱の壁を超えているので、拳速はマッハ3以上は確定。こんなもん普通に打てば確実に人体の方が炸裂するわな。 聖印の機能が完全であればこそ使用出来る奥義なのだけれど、フーガとの激突で邪紋によって聖印の機能が削られ、そこに反動以上の衝撃を喰らった事で限界を迎えた模様。拳は刺さりはしたが、完全に血管と骨と筋肉が衝撃でズタズタになってます。 流石にここまで左拳にダメージを受けた事はありません。
夜ねこ@のたのた暖気運転 @itonaka_24m あとアレだよ、描写忘れてたけどワン公の双掌打は浸透勁込みだよ。馬鹿だよ。
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グロリアスデイズ(模擬戦:タン戦)
>STAGE:GRASSLAND >PLAYER NAME TAN vs FUGA >BATTLE START
***
"同盟領の小さな町" "陸も海も大荒れだった戦も落ち着いて、町も人もゆったりと日常に戻りゆく最中。 青い髪の少年は、乗っていた幌馬車から降りるとひとつ伸びをした" "先の大戦で雇い主を変えることにした少年は、契約完了の手続きをする為大戦時の雇い主のところへ出向くことになった。 更にその前の職場とは異なり、手続きは実にスムーズに終わった。 当の雇い主は割合快く退職を許してくれたし、その契約魔法師に至っては退職金まで持たせてくれたのである" (ま、あれはあれでいい職場ではあったんだが) "残念なことに、というべきか。 自分で自分がが仕える主を見つけてしまったのだから仕様がない。傭兵と雇い主の契約なんて、もとより期間が終われば更新するか手切れになるかの二択である" "無事にやることを終えた為、文字通り主君達の待つ国まで飛んで帰ることも考えたが、さすがに同盟領の東の端から北の端まで飛んでいくのは疲れる。 どうせなら元気な姿で。また、何か土産の一つも持って参じるのが臣として正しいとかなんとか軍師に言われた。 土産といっても何が喜ばれるかなんて想像もつかない。土産話くらいしか持ち帰ることはできなさそうだが、こうしてちゃんと町で過ごすのも重要な事だ。 大きな戦の後には、何かしら影響が出る。物流しかり、人員しかり、取引しかり。何かがなくなり、その代わりに何かがつく。大きな動きを掴むだけでも、情報は力を持つ。 さて、この町では何があるか、ときょろきょろ視線を巡らせて。 ――邪紋使い(おなかま)の気配を感じ取った"
"風の知らせに従って、そちらへ向かう。 見つけたのは二人組。別段おどかしたいわけでもないし、無警戒にそちらに向かって、手を上げる"
「なあ、そこのお二人さん」
"二人の邪紋使いが纏うのは荒事の空気。 忌まれる邪紋を隠して生きていこうとする隠棲の感はない。そもそも回りくどいのは向いてないので、直截に"
「今ヒマあるか? この町来たばっかりでさ、長旅で体強張ってるもんだから動かしたいんだ。ちょっと付き合ってもらえないかと思ったんだが」
"碧の瞳にはめいっぱいに好戦的な色を乗せて
「どうかな」
たずねる"
「……」
”急に現れた少年から放たれた言葉の意味を噛み砕くことしばし。 見上げてくる少年が、あまりに剣呑なことを穏やかに求めてくるものだから理解に時間がかかった。 遅まきながら言葉の意味を察した丸い頭が、はっとしたように連れの年を重ねた顔へ振り向く。 判断を仰ぐ為向けた視線の先。年経た男の表情に浮かんでいるのは、とっておきの悪戯を思いついた子供のような、悪びれのない笑みだった”
「楽しめそうな誘いじゃあねえか。乗った」 「船長~?!」
”船長と非難じみた声で呼ばれた大柄な男は、相方の背へ笑ったまま軽い肘鉄を食らわせた。 年若い――少年と言っていい年頃の少年は荒っぽい返事にたたらを踏む"
「うわ?!」 「なぁに情けねえ声出してやがるタン。おめぇもあの戦をくぐり抜けきったんだ、もうちょいしゃきっとしやがれ!」
"涙目で背中をさする恨みがましい視線を無視して、『船長』が誘いをかけてきた少年に向けて相棒に代わり応えた"
「乗ったとは言ったが、二対一じゃあ不公平だよな。だからまずこいつと戦ってみねえか」
"物足りなきゃ俺も後から相手するぜ、と笑う『船長』を見上げる視線は、一層非難の色を濃くしている。 しかしいつものように意に介すことなく少年――タンの首をむんずと掴んで突き出すと、話し相手にもう一度向き直る"
「どっちにしろ街中じゃあさすがに迷惑だ。俺たちもここのモンじゃないから詳しくないんだが、お前さんはどっかいい遊び場所知ってるかい?」
「あそんでくれるのか。ありがとな、助かるよにいさん」
"背を押された少年を見上げ、笑って。くるり背を向け見返って、視線で促す"
「よそ者が迷惑かけるわけにもいかないってのもわかるよ。馬車でここ来る時に街道傍で原っぱ見つけたんだ、そこで問題ないか?」
"自分はどこでだって相応に動けるが、相手はそうとは限らない。立合いに付き合ってくれるのなら、可能な限り相手の力の出せる場所が好ましい"
「おう、全く問題ない、のーぷろぶれむってやつだ」
"タンを掴んでいるのと反対の手でぐ、と『船長』は親指を立ててみせる"
"応えに頷く。おっきいにいさんとあそぶのも楽しみにしてるからなー、と続けてから、そういえばと気づいた"
「──名乗り遅れた。オレはフーガ。戦の中じゃ『風の牙』って呼ばれることが多かったかな。よろしく頼む」
"己から名乗った相手に対し、おおと手を打った"
「そういえば俺らもちゃんと名乗ってなかったな。 俺はガル、今から相手するこっちのひょろいのはタンだ。死なない程度によろしく頼むぜ」
"軽口にひょろくない、と小さな抗議が飛んでくるも船長――ガルは聞き流す。 ことここに至って腹をくくったのか、抵抗らしい抵抗はない。 歴戦の男でさえ認める荒海の上にいたのだ、度胸も実力もついたこの少年に少しばかり自信をつけさせる良い機会だろう。 見たところ相手もまっすぐすぎるくらいまっすぐなきらいのある手合いだ。万一妙なことになれば自分が手を出せばそれで済む話。 ともあれ。即席の闘技場へと、フーガと名乗った少年の後を追ってガルとタンは街の外へと歩みを進めるのだった"
***
"町を出て、草原を歩むこと数分。もう近くに人の姿は見当たらない。もしもこれで誰か来たとしても、巻き込まない為にガルが止めるだろう。 ここで良いかと問われ草原を見渡したタンの感想は、反発のある船の床より踏み込みが弱くなりそうだが、波に脚を取られる事はなさそうだという至極シンプルな状況確認であった。 "海上とは異なり天候の変化の予兆はなく、周囲の混沌濃度も知覚できる限りは大き���変化はなさそうと判断。 相手と向き合い、ガルが十分に離れるのを確認。愉快げな表情に色々思わなくも無いが、今は集中。 目の前の青い髪の少年になんと声をかけるべきか少しだけ迷いつつ。結局はぺこりと頭を下げて
「ええっと、よろしくおねがいします」
そのまま、突っ込んだ" "手のひらに生まれ握りこむのはやや小振りな突剣。手応えを確かめるために握りなおし、相手の肩口へめがけて真っすぐに突き出した。 一目散に相手へと向かう中、眉が一瞬跳ねあがる。 草原にあって甲板にはない、長く伸びた草の根。普段想定もしない障害がタンのつま先を小さく引っ掛けたのだ。 予想の外の違和感は土で甘くなった踏み込みとあいまって、不意を突くタイミングを生む為に声までかけての一撃は当初の想定の勢いが大きく削がれたものとなり果てた" "感覚が慣れていない場所で不意の一撃など狙うものじゃないな、と眉根が寄る。 それでも最善を尽くすため。慣れぬ地面を力強く踏み抜き突貫した"
"礼儀正しい挨拶からの、機と気を逸らしての不意打ち" (面白いあんちゃんだ) "合理に心理に邪道左道。全部を理として利用する動き。ここしばらく離れていたいくさばの空気を感じとる。 視線、加速、構え。どれをとっても戦馴れしている相手とわかるのが、心地いい。 突っ込んでくる手を取ろうとするのを肩で弾かれ、体重をかけて押し込まれる。 体格差を利用して完全に押さえ込まれては抵抗が難しい。 とっさに身を沈めて、自分から後ろに倒れ込んだ。狙いを逸れ、肩を裂いていく刃。そのまま自分の体の上に覆い被さってくる邪紋使いと視線が絡む" "強い。それも気持ちのいい強さだ。思わず口元が緩むくらいに。 強い相手にはこちらだって少しくらいはできるところを見せないと。 そうでなければ意味が無い。付き合ってもらっているのなら、相手を見せて貰う代わりに、自分のありったけを見せないと"
「……いくぜ、タンのあんちゃん」
"緩みをそのまま、獰猛な笑みを佩く。 両手は衝撃吸収のため地についたまま。ならば使えるのは脚の方。 落ちてくる相手の腹に靴底を押し当て、
「せーのっ!」
足の力と腰のバネで、不完全ながら相手の体を蹴り投げる"
「う、わ」
"リーチなりウェイトなり、有利なものをありったけ活用するのが戦って勝つ為の鉄則だ。 自分より小さな相手。初撃が外れてもそのままマウントを取れれば有利は揺るがない。 その考えのもと完全に押さえ込んだつもりだったが、自分から後ろに引かれてタイミングをズラされては斬撃よりも突きに特化させた突剣では威力が載りきらない。 その上なるほど胴はがら空きだった。腹に蹴り足が潜り込み圧し蹴られる。 相手も不完全な体勢からの攻撃ゆえに、威力が響く程ではないけれど、不意を突いたつもりが突き返されたような。少し歯がゆい" "蹴りつける足を腕で弾いて逃れ、地面に左手をつく。見下ろす先の少年のこちらの挙動を見逃すまいとする碧の目の真剣さに、愉快な気分を煽られる。 船の上での殺し合いならこのまま右手に持った剣を相手の首筋へ振り抜いている。また、それを為してもきっと相手は対応してくるだろう。 けれどこれは遊び。そうはせずに、突いた左手と左脚を軸に右の膝を相手の胸へ、彼の肺を圧し潰さんとするように振り下ろす"
"じわりにじみ出る愉快げな空気。楽しんでもらえてるらしい" (よかった) "もちろんこっちも楽しい。もっともっと、見たい。見せてもらいたい。 足をすかされた。さあどう来る。何を打ってくる。見せてくれ。アンタを" 掌。違う、こちらじゃない。ぴくり動いた右手の刃。違う、これでもない。 反動をつける動き。なるほどなるほど、面白い。背を地に着けては回避は不可能。防ごうにも状況が悪すぎた。ならば覚悟を決めるだけ" "目を逸らすことなく、その一撃を受け止める。 圧し潰される衝撃でみしぎし、と肉と骨とが軋む音を立てて胸のど真ん中に蹴りが叩き込まれた" "歯を食いしばる。衝撃が地面に反響して逃げ場がない。体中駆け巡っていく鈍痛と衝撃。 それでも。最初から覚悟が決まっているのなら、その先へ進める。 食いしばったまま、口の端からあふれた鉄錆を引いて。にぃ、と愉しく笑みが浮かんだ"
「こっちも、いくぜ」
"蹴り足を叩き込んで次の動きができない相手の首後ろへと手を伸ばし、服に指をかけ握りしめる。応じる間なんて与えない" "速さ勝負。重さもリーチも勝てなくても、これならまだ勝負になる自信がある。 相手が対応するより速く。下へ引き寄せ至近距離。狙い通りにノックバックまで決めて、額に額をかちあわせる"
「だっ」
"痛い、という言葉の後半がかみ殺しきれず、不格好な悲鳴が漏れた。 首から抱え込まれ、腕力をフル活用して互いの頭をかち割らんとするばかりの、頭突き。まともにくらった。くらくらする" "頭の中身が揺さぶられて、平衡感覚、視力、聴力、その他諸々を一時的に扱えなくなった脳みそに、唯一変わらずに伝わる感覚は触覚。 まだ至近距離にあるのは、触れている実感から、伝わる体温から、筋肉の動きから、確実に――そこにいるとわかる。 力が普段の半分も入ってる気がしない手で振り下ろしたままの脚の近くにある相手の肩を掴み、思いっきり相手の体を地面に荷物を転がすように乱雑にひっくり返す。 視界の保持か、急所の守備か。どちらにしろ一瞬無防備になるだろう脇腹辺りを、勘だけで思い切り蹴りつけた。 足に伝わる重さ。当たったと確信。少しでも時間を稼げる、と。ここまでを半ば反射でしてから気づく。この相手に距離を与えるのは――寧ろ不利だったのではないかと"
"覚悟してたとしても痛いものは痛い。くわんと揺れ、骨が軋んで薄い皮が破けて視界まで悪くなる中、しかし口元には笑み。 流れるように次の手がやってくる。行動に躊躇いがない。こういう相手はとても好ましい" "頭突きに平衡感覚を失っている様子ながらも相手の腕が動く。 頭への一撃が効いているのか先より力強くこそないが、自分より大柄で力のあるアームズだ。十分に脅威足りえる。 抵抗して押し返すより相手の狙いを読んで流しきる方がダメージが少ないと判断、体を放られながら視線と集中する意思を揺らぐ風から読み取る――狙いは腹。 即断即決。腕を交差、蹴りの直撃を防ぐが、ガードの上から届く威力に木の葉のごとく吹き飛んで石畳を転がる" "中身にこそダメージはいってないが腕がしびれた。さすがにアームズだ。���一つで戦う技術において、エーテルでは遠く及ぶまい。感服する" (あぁ、面白い) "こらえきれなくなって。痛みなんか吹っ飛んで。あそびの最中だっていうのに、は、と息を漏らす"
「楽しいな、あんちゃん」
"相手ただ一人だけを見据え、立ち上がる。あんなにすごいものを見せてもらったのなら。自分もまた、今の手で届く限りを届けなければ" "呼気を無理矢理飲み込んで深く、深く、息をつき。右手を前へ。呼びかける。 ざわりさわり、流れ集いて生れるは風の球。数は六つ。指先一つ、目の前の相手へ、不可視の球が雪崩れこむ" "――そんなものでどうにかなる相手ではないと知っている。だから、大事なのはこの先だ。 相手の対応を見逃さず。生じる隙を余すことなく。全力で駆け抜け距離を生め間合いを踏み抜き右の肘を隙にねじりこむ――!"
"抱いた悪い予感が的中する。 少年が立ち上がる傍から、風を操る邪紋の力が蠢くのを感じた。 風の流れは見えないはずのものだというのに、今目の前で異常が起きていることがわかる。 視認できるわけもない塊が形成されていくのを、肌で感じる。 見えないもの、聞こえない予兆。そういったものを見るのはこれがはじめてではない。対処する方法は限られるが、対応できないわけじゃない。 後ろへ足運び、蹴り離すステップ。衝撃の瞬間をズラし、風の球同士を相殺させて威力を逃がす。取るべき行動の為に、迷い無く体が動く。 狙いを視線から、タイミングを音から判断して、疑うことなくそれを信じた。 "風が着弾する直前、相手が何かを呟いたのが見えた。 正直、風でよく聞こえなかったけれど。上がった口角、キラキラ輝く瞳を見れば、言葉が届かずとも相手が心底楽しんでいるのは手に取るように分かる" "こちらの対応そのものは最善で、行動も上々だったと言っていいが、相手の風繰りの技術が上回ったか。いくつかは体を打ち、完璧にはかわしきれずに風圧で煽られた。回避に動かしていた体のバランスが崩れる" "体勢を崩した瞬間を見逃すことなく、倒れまいと姿勢制御に上がった腕の下から、鳩尾を抉るように肘が差し込まれる。 反射的に肘を受け止めるように右に握ったままの刃を体との間に差し込むけれど体勢が悪すぎる。いくらかは削げたものの通った衝撃はまともに肋骨へと響いた。 あばらから腹の内へと突き抜ける衝撃に顔を顰めつつ、相手の表情に、雰囲気に、つられるように唇は薄く弧を描く。 ああ。口でこそなんだかんだ言って抵抗してみせても、体を動かすのを楽しんでしまうのは自分の性か。 たたらを踏みかけた脚をしっかりと地面につけなおす。突っ込んでくる肘打ちと同じ速度、ベクトルで相手の上腕を取って逆に引き寄せる。 自分より小さな相手の脇へ肩を滑りこませ、相手の体を自分の背中へと一瞬乗せ、足を払って上へ向けた回転運動。 くるんと一回転する体を、腕を放さぬままに地面までその体を放り叩きつけた"
"防いだ。さすが。反応反射音速光速。あそこまで崩れておいて崩れきらないのだから凄まじい。 力の流れも体の動かし方も、一人一人違うものの個人に最適化のなされた――人理を極めた邪紋使い。 手足の先が伸びたように、否。それ以上に武器を扱ってみせるのがアームズって連中だ" "防いでも衝撃は通る。ついでにここは無手の間合い、自分に有利なフィールドでもある。さあどうする、この距離で、アンタは何を見せてくれるんだ" "刃を握っていない方の手で、腕を掴まれた。体に乗った勢いを利用するように肩が、背中が押し当てられ。ぐんと体が持ち上げられ、足が払われ、腕を引くまま地面へ落とされる。 見事。惚れ惚れするような背負い投げ。ああ、ああ。たまらない。 近付く地面。足からは降りられない。手を付ける体勢でもない。ならせめて。即時実行。 首、頭、背中だけは守るために、左肩から地に落ちる。自分の勢い、相手の化勁、総てが肩にかかった" "筋。骨。神経。絶え間なく走る痺れと痛みと叫びへアドレナリンで蓋をする。 折れたとまではいかないだろうが、このあそびの最中は左腕は肩から指先まで使い物になりそうにない" "もっとも脳天から落ちて一撃で意識を奪われることを考えればよほどマシ。まだ動けるんだから僥倖だ。 ついでに状況は悪いことばかりでもない。 投げはほとんどの場合体全体を使った攻撃行動、化勁まで加わったとあればすぐさま次の行動に移れる程隙がないわけじゃない。ならば今こそ仕掛ける絶好機" "動く右手を地に突き軸とする。 崩れる体を軸を中心に捻って回して足払い。鋭く刈り取る鎌のごとくに振り回し、姿勢を崩させた上で地面に縫い付けるように足の甲を踏みにじった。 すぱん、と軽い身を利用し今度は縦に跳ね上がる。相手の頭より高くまで跳ねた身をぐるり前宙、空に躍らせ──
「まだまだァ!」
咆声を張り脳天目がけて踵を叩き落とす"
"投げの手応えはあった、と思った。それは間違いでは無い筈だ。 ただ、躊躇いなくダメージを左腕一本に集中させて犠牲を払いながら。 なおかつすぐさま左腕を捨てたそれ以外の体全てを余すことなく使って放つ相手の攻撃が、タンの発想力を越えていただけ" "投げ落としたた後、重心は下がり体勢も十分ではない脚を払われ、そのまま踏みつけられて。 ガクン、と踏まれた脚に引っ張られるように辛うじて倒れこそしないものの上体は隙だらけの前傾姿勢。相手の行動すら死角に入った状況。 本能的に背筋に悪寒が走る。マズい、と体を起こそうとした瞬間、 衝撃。 頸椎をずらさんばかりの踵落としが脳天に穿たれた。
ぶつんと、何かが途切れる音が頭の中で響いた" "断絶したのは一瞬。邪紋が。体が。戦闘中だと意識の方をたたき起こす。 意識が復活した時にはもう足元を覆っているはずの草の葉が、目玉を突かんばかりの距離に迫っていた。 反射的に目を閉じ、まだ脳が揺れているような気さえする頭に自重による追加ダメージを与えるまいとギリギリで肘を地面に突き立てた" そのままの体勢で、一呼吸。荒い息を整え――
―― 一呼吸を、相手に背を向けたまま?
弾かれたように体を翻す。そんなことをしてる場合じゃない。時間じ���ない。状況じゃない。今は。今は、今は――! 視界の端に映った相手の体を、位置も場所見ずに蹴り上げる。効果的な場所とか、急所とか、頭の中からはもうすっ飛んでいる。 まだ終わっていない。終わっちゃいない。まだだ。まだ、勝負を降りちゃいない!" "右手の中で意識の断絶と共に消えかかっていた剣をそのまま投げつける―― ――ように見せかけた" "本命は苦し紛れに投げるように見せかけた動きの反動。 手と脚とで体に反動を付けて一気に立ち上がり、ふらつくままで満足な威力になってはいないだろう膝蹴りを、諦めることなく今度は確実に突き上げた"
"直撃、通った。さすがに効いたか、ぐらり体は傾ぎ、地面へと崩れて。 しかしそれでもなお、地に手を突きすぐさま闘志を宿す姿が。鮮やかで" (すげえ、な) "正直に感嘆の吐息を漏らした。 あれだけまともに食らってなお、弾ける様に体を翻す。そんな相手に真正面から相対できることが、心から誇らしい" ろくに見もせずの蹴り、ガード。しかしそれでは止まるまい。 次いで右手が跳ね上がる。剣を振るうわけじゃないだろう、この距離で振りかぶっても当たらないなんてのはわかってるはずだ。 蹴りと腕の反動で身そのものを起こす相手。相対、対峙。こちらは地に足を着こうかという寸前。向こうにとっての最好機" "――おそらく、これが最後と実感する。満身創痍。これで距離を離されれば次なんてありはしない。 足は着地の直後。左肩から先は力も入らなければろくに動かない。 ならばこそ。なればこそ。 まだ動く場所の残るこの身には、一滴でも力の出せるこの身には。届け切れるものが残っている証左に相違ない――!" "膝が跳ね上がるのが見えた。構わない。腰を捻る。回避なんてぬるさも小賢しさもは頭から叩きだせ。チャンスは一度、この瞬間。 逃れられない蹴りの軌道の前に一歩、自ら踏み込む。地を踏みしめて均すがごとくの震脚を打ち抜き。 膝が腹に突き立つと同時に右掌底をその鳩尾へ押し当てさらにその先はらわたの奥深くへ、纏掌にて振動を叩きこむ――!"
"――静止、一瞬。 青い髪の少年は、はは、と笑って"
「つよ、いなぁ……あんちゃん、は」
"がくり、その場に膝をつき、勝者を見上げると。
「アンタの、勝ちだ」
笑った"
"頭はふらふら、体も感覚すら頼りなく力が乗り切らない。そんな最悪のコンディションで放った膝蹴りは、いなすのは簡単だったろう。 避けることだってできたはずの相手は、けれど楽しげな笑みを楽しげなままにそれを受け止めて、なおかつ反撃に転じた。 蹴りを打ち込みながら喰らった掌底は内側を突き抜ける衝撃でこちらの口から血を滴らすに十分すぎる威力で。 けれど、まだ──! ――そう思った瞬間に、相手の体から力が抜けて、口から言葉が零れ落ちた" 『アンタの勝ちだ』と。 一言こぼして、そのまま少年は倒れた" "ほんの一瞬長く、立ったまま踏みとどまれた。 ただそれだけの差だったろうに、とタンは思いながら、続くように少年の横に大の字になって転がった" "戦ってる最中、何度か少年が口に出しても言い、雰囲気で如実に伝えてくれた言葉を。 今、同じ高さ、同じ目線から、返そう"
「僕も、楽しかった。ありがとう」 「そっか」
"楽しんでもらえたか。だったら"
「よかった」
"至らぬ身なれど。立ち合ってくれる相手に少しでも届くものがあったなら幸いだ"
「また機会があったらあそんでくれれば嬉しい。まだ向こうのにいさんとはあそんでもらってないしな」
"寝転んだまま、同じく転がった相手へと視線を向けて屈託無く笑う"
「こっちこそ。……久々に命の取り合いの関係ない『喧嘩』したら、思ってたよりも楽しかった」
"自分より若く幼いだろう相手に、随分教えられた気がしている。 たは、と緩く笑い返す。はじまりの頃にあった小さな不満はかき消えて、抜けるような空を見上げているような心地" "二人の競り合いが終わったのを見計らい近寄ってきていたガルに向けて手を振れば、合図とみてすぐにやってきてくれる"
「おう、なんだ」 「いつか船長ともやりたいってさ」
"伝言に、船長はにっ、と口角を上げて応える"
「おう。今すぐはそちらさんがぼろぼろだから無理だろうが、そのうち縁があったら今度は俺の相手もしてもらおう。 見てた分じゃ、気ぃ抜いたら若さに押し負けそうだ」
"豪快に笑って、船長は先に少年に手をさしのべた"
「起きられるか?」 「だい、じょぶだ」
"自分の足で立ち上がる。この程度一晩も眠れば元通り。 そういう因果な体をしているが、こうやってたくさんのものを受け止められるのは、嬉しい。 それから見上げて、右手でしっかりと、延べられた手を掴む"
「じゃあ、縁があったらその時はまたよろしく頼む。あんちゃんも、またな」
"次の約束を屈託なく。少年は笑ってそう告げた"
*** >BATTLE ENDED >RESULT TAN:65/100 FUGA:64/100 >WINNER:TAN
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(模擬戦:ゴルディウス戦)
"――花が咲きはじめた" "最近は、自分の住まうディザでも、ほころび開く花を見る事が増えた。春が近いのだと感じる。 特に、桜は好ましい。書物で読んだことがあるのだが、これは遠い遠い国で特に人気のある花で、満開に咲き乱れた樹が並ぶ様子は壮観なのだという。 冬を越えてつぼみ、あたたかくなるにつれてほころび、春の訪れと共に咲いて、時がくれば淡い青空に舞い上がる。それが街道に並ぶ様は、想うだけで心が華やぐ" "薄桃色――白に近い、小さな小さな花弁が、風に乗って雪のようにはらはら舞う。 春の雪。春一番は疾うに吹いたが、自分はそういえば、まだ力強いその風を感じていないなと思う" "桜の国の人々が着ると書物で見た、真白な薄衣。着物と呼ばれる衣服を動きやすく改造して誂えた。この花の下で咲きみだれるのだ、つい纏うものにも気合が入った。 花片舞う広場に一人立つ。人が寄りつかず、誰に踏み荒らされることもなく、己の限りに咲く花を眺めることができる地。 よくセンディスやカムルルを呼んで、食事をしたり茶会を開いたりする秘密の場所。 なによりも。ここでなら、自分も遠慮なく存分に飛んで跳ねて回って舞って、思うままに咲きほこることができる"
「いきなり遊びに誘って悪かったな」
"誰もいない――否、そう見えるだけで確実にいるであろう『そこ』に向け、呼びかける"
「私も、以前はこの身を花としていた者でな……春一番が体に吹きぬけないと、寂しいんだ」
"あの時空災害以降、『彼』はよくセンディスと遊んでいると聞いた。 『彼』が何者であるかは知っている。手紙など用意しなくとも、知らせはこれで十分届くはずだ"
「飼い犬と遊んで、飼い主と遊んでくれないのはずるいと私は思うんだが。どうだ?」
"少しだけ拗ねた調子をおどけるように声色に載せて。 下ろした髪を手櫛で梳きながら、風の中へ向けそう問いかけた"
"ひらり、はらり。春色の雪。 音もなく木よりはなれては、ひらりと宙に流れ地へ降り注ぐ。 時がきたと悟った花は咲き、命として潔く誇るようにおおもとから空へと飛び立っていく。 そんな、儚くも穏やかな風が吹きぬける春の日に
「願ってもない」
――あおい風、ひとつ" "春空を踊る花弁を穏やかに滞空していた風ごと上から巻きこんで、流れを乱しながら吹き抜けて。 風は呼びかけに応え、ひゅうとその地へ降りて立つ"
「よう。こっちも飼い主同士があそんでんの見ててうずうずしてたんだ。 誘われたなら遠慮なく。あそんでもらうぜ、ゴルディウス」
"己から誘うことの多い自分が、誘ってもらえる行幸に巡りあった。これ以上嬉しいことがあるだろうか。 望まれたのならば、全霊で臨まねばならない。 この身が彼の望む春風となれるはわからない。されど請われて吹き抜けなければ風の名が地に落ちよう。"
「――それはそれとして。風を望むなら届くまで届けよう。『風の牙』(オレ)なりの春一番だ、受け取ってくれ」
"屈託なく笑って、青薔薇へと手を伸ばした"
「それでは、尋常に頼む」
"快い返事と共に差し出された手を握り返し、離す。とん、とん、とステップで距離を取った。 実のところ、この服に袖を通したのは今日がはじめてで、着たままどれ程動けるかは試してない。 立っている感覚は足の辺りにまとわりつくものがありやや動きづらく感じる。踏み込みや大立ち回りには、この衣擦れだけでもマイナスに働きそうだ。 魔法師は本来多少動きづらかろうと問題ないのだが、自分はそれでは困る。できることが限られてしまう" "もっとも、これを着ないで今日ここに来るなんて心情的に論外だった"
「魔法戦、か……」
"自分も魔法師。魔法で戦えないわけではない。 つい、と右腕を真横に伸ばす。まずは肩慣らしからといこう。 折角こんな綺麗な舞台に呼んだのだ。歓迎しよう、風の牙。其は我、花の魔法師――ゴルディウス・クラウテットの歓迎を受けるに値する、親友だ"
「Cantate.」
"人差し指を虚空へ。薙ぎ払うように、描くように、命じるように、指を横へ踊らせる。 風がその指の動きに煽られるように吹き熾る。着物の裾が煽られはためき、青の長髪が風の中へ流れて巡る。 指揮棒の如く指を動かす度、桜の花びらを多分に巻き込みながら、風が指先に従うように描かれる虚空を追って吹き荒ぶ。 はらりはらはら巻き込む白は、指先が踊る度、風を編みこむ度、数を増し、渦を成し、ざあざあと、雨よりも尚、密度濃く。次第に嵐は白華に染まる"
「では、一つ。――“Prunus x yedoensis”」
"宣告。編み上げた魔法を解放する。 虚空を躍らせていた指先を、真っ直ぐにフーガに向ける。 此れ成る身は花の魔法師。風の操作はあくまで副次に過ぎない。 本命は極薄で柔らかで本来なら無害のはずの桜の花弁。風に巻き込むごとに切り裂く力を幾重にもかさねて与えた、桜花の渦は白刃の嵐。 こちらの魔法をじっと見つめていた小さな体躯を飲み込まんと、花の嵐が���っ直ぐに突き進む" "『風の牙』。目の前の少年の二つ名だ。それにあやかって、同じものを贈ろう。自己流の風の牙を編み上げて――解き放つ" ――【桜風 -プルヌス・イエドエンシス-】
"ひゅるりひゅるり、目の前で向きを変え、回り巡る風の群れ。 指先に踊らされる流れははらり舞って落ちるだけの白い命の証を巻き上げて、風に舞うだけの白に新たな命を吹き込んだ" (面白いことするよな、魔法師ってのは) "自分だけの世界を織って敷くのが魔法師だ。これは即ち、彼らに見えている世界そのものだ。 これが彼の、彼だけの見ている世界。雨の如くに落ちるだけの薄紅を、巻き上げて更に咲かせる。何度でも。何度でも。 儚さなどなく。幾度でも咲かせてみせる、柔軟な命の靭さ。なんとも――綺麗だ" "風に乗る其れを受け止めて、無数の白刃群にざくざくと身を裂かれていく。 白刃大嵐の中で、ふう、と一息。風の吐息は即ち、動きの先触れだ"
「こっちも、行くか」
"尚も吹き付けてくる花弁の渦へ手を伸ばす。開いた掌が白刃に晒されびしりびしりと赤を咲かせていくが、気にも留めぬ。 刃となっているのは風に乗る花弁。であるならば。同規模同速同勢の風を真逆より吹き興して風を相殺。 ふつり、と。あかく濡れる無数の白が、推進力を失い地へと落ちていく" "くつ、と喉を鳴らす。初手から風使いを見せられたのだ。風をどれほど望んでいるかなんて、あえて聞かずともそれで十分に伝わった" "春の風は気まぐれだ。 吹き抜ける東の風、圧しつける北の風。時折気の早すぎる南風が混じる時もある。 その奔放さゆえにどの風を呼ぼうか迷うくらいに。色んなものを見て聞いて、できることも試したいことも届けたいこともいっぱいある。 さて今日は、どの 風(とも)と一緒にあそぼうか" "考えるよりもまず実行。春の風を望まれたのだ、春風を余すことなく――総て、届けよう" "まずは北風。鋭く尖り、厳しい冬の名残。指先に渦巻く風をとりわけて、五つ縒り"
「――抜けろ」
"北風を青薔薇へ返礼する。凍えさせ絡みつきその冷たさで身を打つように、動きを鈍らせ吹き飛ばせとばかり。 五つ陣が花弁を巻き上げながら吹き返し、白を纏う青へ突き抜ける" ――【notazione personale(ごせんふ)】
"風の吹き返しが、体を打ち据える。 目を見開いた。自分が操ったこの辺りの風ではけしてない。 叩きつけてくるのは、真冬に逆戻りしたと錯覚するほどの体の芯まで凍えるような強い風。 薄い服、元より寒さに弱い体。あっという間に体温を奪われ、吹き飛ばされそうな勢いをもった風に抗い立っているだけでもみるみる体力を削られていく"
「っ……」
"凍えれば集中が切れる。集中力は魔法行使には必須、途切れてしまえば使えなくなる。戦闘中の魔法師にとって、その状況は致命的だ。 すっかり冷え切った体がどんどん言うことを聞かなくなる。彼の操る風に押され、足が数歩後退する。これ以上は下がれないと、もう一度根を張るように足に力を込めた" "彼自身の戦うところを聞く限り、てっきり体を使った打撃や風による斬撃が来ると予想していたのだ。 予想が外れたのも痛い。が、何よりも。痛みは最高に大好きだが、寒さは最高に大嫌いだ。一番嫌な攻め方をされていると言っても過言ではない" "けど。こんなものじゃ終われないから"
「……rosa gladius」
"短く、集中の要らない魔法を口にした。 同時に、髪につけていた薔薇を取り、空中に撒く。赤い花弁が冷たい風に揺られたかと思えば、すぐに剣の形を取ってそのまま右手に収まる。 手に馴染む重さ。しっかりと握り締め、走り出す。これ以上、体力を奪われて動けなくなる前に――攻め入る" "駆け出し、 風を受け、 剣を構え、 相手を見、 横を抜け、 抜け様に、 剣を振る。
―――――抜けた" "北風の猛攻を駆け抜け、背後にフーガの存在を感じ取りながら、刃を下に、剣を眼前に構え、目を閉じたまま、残心。 剣となる意思を失った薔薇の花弁は、魔法の縛りから解けあるべき姿を思い出し、はらはらと散りゆく。 血の紅を吸いなお濃く艶めいた赤華片は、花の儚さのまま、まだ僅かに吹く風に巻き込まれ遠く風の向かう先へと運ばれていった。 彼の左肩から腕を斬り落とすように放ったのは、慣れない居合斬り。極北の風の中の虚心の一撃は、手応えはあったものの果たしてどこまで届いたか" ――【毒花流・居合薔薇剣】
"吹き抜ける北風の中、青からはらり零れ落ちた赤い華が剣と変じる。 相手がただの魔法師だったら虚を突かれ間の抜けたことになるかもしれないが、生憎彼が主君と打ち合うところをこの目で見ていた" "刃を握り、しっかりと。おしよせる北風の中でこちらを射抜く青を見据える。 剣を執ったのだ、必ず打ち込んでくる。初動を見逃さぬように。その業を受け止めるために。 一歩踏み出すのが見えた。ほぼ完全に第六感だけで左腿に手を伸ばす"
――― 閃き ―――
ごうごう吹き荒れる冷たい風の中、滑るように青は馳せ抜けた" "瞬きほどの、間。 余韻を響かせ北風は失せ、代わりに青空をこがねが一欠片きらめいている" "閃いたはがねは違うことなく肩から腕を両断するように真円を描いた。 空に弾き上げられたこがねは、刃金。軌道を逸らす為に真円の前に差し出した少年の相棒は、宙へ弾き飛ばされていた" "しかし。ばたばた、と左腕の付け根から滴る赤。深くはあるが、断たれきってはいない。 居合いの斬閃は、確かにこの手に握っていた相棒によって微かにその真円を歪めさせられていた。 体に響いた斬断の衝撃に圧され、呼吸が浅くなる。防いだなんて口が裂けても言えない。達人の一刀を護身用の短剣術で逸らしただけ。 魔法師としても強力だというのに、鮮やかなまでの剣術の腕だ。まったく、底知れない。底知れなくて、楽しくて、仕方ない。 にぃ、と口の端がもち上がった" "血を零し傷ついてだらり下がる左腕を押さえることもせず、両の目で相手を補足。同時右手で指さした。 背より吹き寄せるは北風の名残を払うかのごとき盛大な南風の群れ。春どころかその先で待つ力強く不安定で勢いに満ちた風たち" "あれだけのものを見せられたのだ、こっちももっと春風を。届くまで、届けられるまで。春の全てを堪能してもらわねば、風の名が泣こう" "風が渦巻く。十六の、勢いに満ちた風の弾丸。どれもこれもが青い大きな体の魔法師に届きたくて仕方ないと猛る。 びゅうびゅう吹き荒れる南風の中、見えるかわからないが狙いに向けて笑いかけ" (いこうぜ。お前らを、見せてやらなくちゃ) "解き放つ。 十六の魔弾が魔法師目がけ、爆音を轟かせながら空を貫いた" ――【staccatissimo-ⅩⅥ(つよくはじける、16のふ)】
"風の魔弾が迫る。当たれば爆ぜて刃と化し、体をぼろくずのように切り裂いていくだろう、射手の演奏の符群。 北風の五線譜に乗る力強い音は、温度や湿度から鑑みて生命に溢れる風の香を感じる。風には少々うるさい自負があった"
「――あぁ」
"ともあれ。想像しうる久方ぶりの痛みだ。ならば来い、すべてこの身体で受け止めてやる。 防ぐものは何もない。春の風を花の苗床たるこの身に受ければ、十重に二十重に花は咲こう。 次々と風が腕を、足を、脇腹を。弾けて咲いて裂いて抉り取っていく。ひとつ爆ぜるその度に血飛沫は花弁の如く、白い着物に赤が咲く。裂いて咲いて綻び開いて零れて舞う。 らしくなってきたじゃないか。花は咲くものだ。花が咲かずして、何をしよう"
「っづ、ぅ、は、ははは、ははははっ!!」
"弾けるだけでなく吹きつける風に体を煽られて、勢いに乗ってクルクルと回る。くるりくるり、狂り狂り。 零れて舞い、乱れ咲く血花の群れの中心で。花は。花の魔法師は――
「rosa petalum!!」
――基本であり原初の魔法を、絶叫するように唱歌する" "地にこびりついた血、未だ尚新しい傷口からこぼれ出る血、空中に飛ぶ血、血、血。 体から咲いて舞った花たちが、黄、赤、白、様々な、それこそ血液という物体には有り得ないような色にまで変わり、花園を染め上げる薔薇の花弁と化す。 輝く血の花弁は赤より三色に、三色から虹色に。やがてゆるりと渦を巻き、七煌を纏う円環のように花弁は集い、自分の周囲を取り巻き煌いていく。七光煌輝の円陣は艶やかに。 空を見上げた。ここは陽の光も十分だ。術者の血、陽光、魔弾、花の香。そして、自分の魔力。十分に貯めこみ、練り上げた。 宣告する”
「フーガ!! よく見ておくといい! 私は花と剣だけではないぞ!」
”リングの形で勢いよく回転する花弁に陽光を集め、更なる光が七色、薔薇色へ。渦巻く光は一巻き毎に勢いと力とを増していく。 フーガに向けて腕を突き出し、バチンと指を鳴らした"
「Ray!!」
"一瞬の間は、咆哮の前の吸い込みのよう。 轟く音、軋む空間。自分の背丈の半分ほどの虹薔薇の光輪から、万色の光が放たれた。 灼熱と貫通力を持った光――いわゆる光線。魔法師であるならば光線砲くらい出せなければ、格好がつかないよな?" ――【Ventus Walpurgis】-ワルプルギスの虹輝を風に載せて-
"魔法師は。花の魔法師は。 風に舞う白を刃とし、身につける赤の剣を執り、己の内の血潮までを咲かせて、こちらに見せてくれるようだった" "七色の輝きを帯び、空は快晴春の日差し。春とは即ち、陽と風の力でいのちの芽吹きをもたらす季節だ。 花の魔法師は、そのうちのひとつを。春を。この地に呼び吹かす。極光の渦はうねりを上げてこちらに向けて雪崩れ込んだ" "ああ、と頷いて――右の掌を、光に向けてではなく上に伸ばす。 この七色は風では防げない。ひかりをかぜは遮らない。ひかりはかぜを貫いてくる。だから掴むべきなのは。ひかりに対峙するならば"
「光を防ぐのは、いつだって光じゃなくちゃあな!」
"青空に跳ね上げられた後くるくると回っていた、手の内にもどるこがねの短剣。 その銘を【シャムリーフ】。己の為に鍛えられた、太陽の加護を持つひかりの剣。 手に馴染む重さを懐かしむ暇などない。眼前に迫る七色の薔薇極光。されどけれど。臆することなく、絶大の信頼と、歓喜とをもって。
ただ一歩。 ただ一刀。
踏み込みこがねを叩きつける" "拙い剣技では、達人の一太刀すら完全には防げない。されど、けれど。 此の一振りも。己の短剣術も。ただ『防ぎ護る為に研ぎ抜かれた』一である――!" "ゆえにこそ。ならばこそ。 その一刀は、防衛護衛のためならば如何な不可能にも敢然と喰らいつく。 光の渦にこがねが突き立つ。引いて割かれて四分五裂。 幾条にも分かたれた光は右腕にとてつもない衝撃をぶちこみながら減衰し、野を、空を、直近の少年の体を、灼光で焼きながら拡散。 突き立て続ける右腕に、先ほど斬られて力らしい力の入らぬ左の掌を添えて。ぎちぎちと体を圧す圧力に踏ん張りを利かせて光の渦をいなしきる" "きらきらと。ちらちらと。 光の舞う、世界の中で。斬られ灼かれた両腕をぶらり垂れ下げながら。はあ、と風は吐息をつき
「いくぜゴルディウス」
笑って
「約束の、春一番だ」
――春一番。東の風を呼びこんだ" "北、南、東。三つの風のうち、最も不安定で、最も無邪気で、最も気まぐれな風は。両の腕へと集いゆき。 一歩。少年が進むと、その歩みが風となる。 それは正しくは春を突き抜け空を奔る一疾風。ごうと音を立て流れに乗って一息でもって距離を詰めきる。互いの目しか見えない位置へ到達。 両腕に集めた風を、かしわ手ひとつで打ち合わせ。途端周囲は一気に渦巻く春の嵐に"
「たのしんでってくれよ」
"春の嵐はすべてを飲み込む。この地を馳せた光も、地面も、花も、空気も。人も、春さえも。 あらゆるものを飲み込んで弾ける、それはまるで――" ――【stella-miniera <programma:primavera>(ほしのうたげ・<えんもく:はる>)】
"敵わないなぁ。やはり、花は風に巻き込まれる宿命なのだろう。 髪を、服を、すさまじい嵐に乱される。魔法の触媒に使った傷口が広がり、目を開けているのも、立っているのも困難だが。 間近にいる親友の緑の目を真っ直ぐ見て、に、と笑った。どうにか持ち上げた手、人差し指で額をつつく"
「最ッッ高の、春一番だな……」
"瞬間、生まれた暴風に足が掬われ、嵐に巻き込まれる。 数秒力強い大嵐の中でもみくちゃに踊らされ、ぶっ飛ばされて、風を受けてなお立つ樹木にダン、と背中から叩きつけられ咳き込んだ。 ぶつかった衝撃で桜の大木から花弁が大量に降り注ぐ。ただでさえ嵐がいくつも吹き抜けたのだ。周囲は始まる前と比べるのも間違いなくらいに真っ白だ。それこそ雪がうずたかく積もった雪山にすら見えるほど。 ずるずると木肌をずりおちて、桜の花弁のベッドの上へとぼふりと落ちる。地に落ちた衝撃は、花弁がすべて受け止めてくれた"
「……やっぱ、風は、いいなぁ」
"失血と魔力の枯渇、酸欠でぼんやりとしながら、穏やかな心持で呟いた。 初めて全身で受け止めた、センディス以外の風。この春一番は、存外に悪くない。 いいものを、届けてもらったものだ。薄い意識の中、そう考えて、笑った"
"嵐が吹きはぜる寸前。こつ、と指が当たる感触。 花に触れる感触は、優しくてあたたかい。いのちの、ねつ。 ごうごう風は吹き抜けて。白も赤も舞い上げて。ふつり途切れた凪の中、倒れゆく大きな体を右腕で支えた"
「楽しんでもらえたら、よかった」
"屈託なく笑う。はらはら降るあか色交じりの白い滝の中、青薔薇は一際色濃く映る"
「届いたのなら、満足だ」
"空色は、淡く。風は春色"
「オレも楽しかった。気が向いたら、またあそんでくれ」
"いつものように、次の誘いを。 少年もまた座り込み、薔薇を抱えてそう告げて。白の絨毯に座り込んだ"
***
BATTLE ENDED >RESULT GOLDIUS:33/100 FUGA:41/100 >WINNER:FUGA
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BURN -vs. Re:wind-(模擬戦:センディス戦 2)
>STAGE:GRASSLAND -early spring- >PLAYER NAME SENDIS vs FUGA >BATTLE START ***
"以前あそびにやって来た時は、真夏の向日葵の盛りの頃。 むせかえるくらいに活き活きと伸びゆく命の季節。活力に満ちた暑く熱い楽しい思い出" "あれより時は流れ、風は変わり、花々も移ろい。かつての草原はまだまどろみの中、荒野の姿となっていた"
「よ、っと」
"しばし風に乗り巡った空から降り立った少年は、風を探って左右に視線を巡らせる。 あの風は、ねぐらを変えていないといいのだが。 探り探りで残り香を感じた方へと、両手を添えて声を張る"
「せーんでぃすー、あーそーぼーう!!」
"……こどもが他所の家のこどもに呼びかけるものと変わりのない、一切我慢のないあそびへの呼びかけだった"
"風に呼ばれて風が来る"
「はー」
"そよ風から、
「あーーーーーーー」
唸りを上げて、
「いいいいいいいいいいいいいい!!!」
落ちるそれはさながらおろし。 一陣の風が吹き抜けた後には背の高い影がひとつ。すっくと荒野に伸びている"
「や! 久しぶり!」
"そう言って、呼びかけに応えた風は片手を挙げた"
「久しぶりだなー」
"応じるように片手を上げて返す"
「元気そうでよかった。あそびに来たぞ、センディスとあそぶの楽しいから」
"告げる声は屈託なく。少年は朗らかに笑う。 誘いに対する相手の返事はすでに聞いた。今やることはひとつだけ。言葉を投げる時すらもったいない。逸る声音を隠しもせず"
「――そんじゃあ、一手あそぼうか。前よりギア上げていくぜ?」
"一度あれだけ楽しくやりあった相手だ。断るわけなどあるはずもない"
「光栄だな、僕も前より派手にいかせてもらうよ」
"最近いろいろ学んだから。前回から増えた見せられるものはこっちもたくさんある。 誘うように、合図をするように、トントンと二回、地につま先を鳴らした"
「オレもだ。色々覚えてきた」
"誘いに乗る。呼ぶ声に乗る。我慢しきれないはちきれそうなくらいの楽しさでもって。 この相手ならどう受けてくれるかを想像しながら、きっと超えてくると確信を持って"
「――楽しもうぜ、センディス」
"一歩。地でなく虚空を踏み風に乗り、空を一息跳んで貫抜く。 この風相手だ、出し惜しみはなし。最初からフルスロットル。加減も余しも残すことなく、最初手からの全力全開。 撃ち出されるように空を跳び抜き、間合いをゼロに。頭上から両の手を組み、上から打ち下ろす―― (――なんてな) 間際。組んだ両手をはらりとほどく。猫だまし" "迎撃に動いた足をすかす形。そのまま天地を逆に落下。更に空を蹴り加速。両手を地につけ体を縮め、全身のバネを一瞬溜める。 『屠り風』。発条の力を操る風――目の前の。同じにおいのする風の得意技だ" "ぐぐぐ、と全身に溜めた力を、
「――っせい!」
一気に解放。両足の底で相手の顎と喉へめがけ、ドロップキックを打ち出した"
"頭上からまっすぐに下ろされた手に、軽く頭を沈めて足を振り上げ、その勢いごとカウンターにし刃を入れてやろうと笑って。 しかし、予測した衝撃は来ない"
「んっ?」
"伸ばした足は高く宙を切り、首を傾げる間もなく下から一撃を食らう。 綺麗に揃えられた両足が見事に顎にはまり、後方へと大きく飛ばされた。そのまま距離を取るように跳ねて体勢を整えるが、顎から頭へ抜けた衝撃で揺れる。舌を出していなかったのがせめてもの救いだ。 圧され溜め込まれた発条は、見様見真似であろうとも力強い。自分の中の大原則をまさか身をもって知らされることになるとは。驚きだ"
「っいぁ……すごい……真似されるのは初めてだな」
"一撃目から楽しませてくれる。 昂ぶる。高まる。腹から力を込めて発声"
「それじゃ、こっちも行かせてもらうよ!」
"言って、駆け出す" "真似されたなら本物も見せなくちゃ。 一度取った距離をまた縮めて肉薄。肩を狙って踵を落とす、ように見せかけて、振り下ろす足の速度を緩め、猫のように軽々とその薄い肩を踏んで、乗り上がる"
「行儀が悪くてごめんねぇ」
"猫だましもやり返す。ニィっと笑って肩を踏み台にするように跳んだ。 ぐぅるりぐるり、二回転の宙返り。空中に手をつき、身体を畳む。滅多にやらない腕の発条の蓄勢。脚力に特化しているとはいえ、既に全身は邪紋の影響下であり、何より腕は核から近い。 肩甲骨の裏側から燃え上がるような熱が腕を走り抜け、ぎりぎりと縮めて一瞬で溜められた力を解放。 小さな青い頭めがけて、刃をまとわぬ足先を落とす" ――【落椿】
"落ちてくる踵は肩狙い。ふわり、蹴り足に違和感を感じ取る" (何か、別に、狙い――?) "相手の纏う空気が、何か、違う色を宿している、ような。ちりり、胸の奥に何かしらを感応。 しかし、それも感覚の話でしかない。体格差を考えればまともに打ちこまれるのは不利だ。打ち返してダメージを減らそうとして
「な、ぁ――」
ずしん。両肩に突如かかる負担" "足を踏みしめて、耐える。大の男の重さが丸々かかっているが耐え、きる。上からの重さだが、普段あの君主の重撃を受けている身だ、そうそう簡単に崩れてやるわけにはいかない。 舌打ち。上を無理やりに見上げる。風の警告はそれとほぼ同時。空爆ぜる発条の音。伸びる足先。 は、と笑みが零れる。さすがに本家本元はわけが違う。万全でなかろうと、これは受け止めるのが筋だろう。 両腕を交差させ、脳天の真上へ。 発条力と体重と回転との威力を巻き上げ放った一撃が、体中を地面に向けて押し込んで。 ――重さにがくりと折れた小さな体が、吹いて飛ぶ" "視界が明滅する。防いだとはいえ脳天直下の邪紋によるチャージを込めた蹴り。掛け値なしに、効いた。 衝撃に吹き飛ばされた体を、無理やりに制動。四足で保たせる。 頭を振って、息を吸い込む。思考もまばら、衝撃は確かに通っている。けれど、その眼だけはらんらんと――目前の相手へ"
「……すげえな、センディス」
"賞賛を込めて。 ここまで見せられて、自分が出せるところを見せないでいられようか。自分を届けずにいられようか。 否。 まだこの身は賭けられる。駆けられる。翔けられる。その全力を。
「――いくぜ」
届けよう" "一歩目からの音速超過。爆音と共に青が地を疾駆する。 迎撃を爆発的な勢いを載せた肘先でもって無理やりにこじ開け、その先の地を踏み抜く" "接触する場所に右の掌を押し付ける。風の渦を、風を押し固めた、塊を載せたままの掌を"
「はぜろ」
"すっ飛んできた勢いと、爆ぜて暴れ狂うる風を、叩き込む" ――【空纏掌:炸】
"尋常ではない衝撃を受けて吹き飛んでもなお、すぐさまこちらへ向き直るそのタフな根性。そういうものが大好きだ。 枯れてもまた風が吹けば咲く花のようで。こちらを見つめてくる二つの目玉の光が絶えるどころかいっそう輝く様に、身体中沸くように滾る"
「さあ、来い」 「来い!」
"春を招くように、誘う言葉が弧を描く唇から溢れる。 音を超え、音を伴い、走りくる青に向けて、こちらも相応の速さで唸りを上げる脚撃を合わせる。 しかしその迎撃すらも踏み超えて、その掌と圧縮された風はがら空きだった左胸に飛び込む"
「っぐ…………ぁ、が!」
"肺と心臓に届く強すぎるインパクトに数拍息が止まった"
「……げほ、っけほ」
"呼吸するたびに痛む胸を押さえつつ、慌てて傾いだ身体を起こす"
「ぅえ……くる、し……っ」
"ままならない呼吸は痛みとはまた別の苦しさがある。誤魔化すようにとんとんと胸を叩いて、決める。 ――苦しいなら、止めよう。 "きゅっと紅の惹かれた唇を引き結び、垂れた唾液を拭って、腹に力を入れ直す。 一拍。 息と引き換えに燃料を継ぎ足していくように、それだけで混沌の核は燃え上がり、身体の隅々まで風がごうごうと伝うようだ。 二拍。身体の中に閉じ込めるように、膝を畳む。疾走の準備を。春一番はまだ、まだ、まだ、吹かない。 三拍。吹き抜ける先、フーガの瞳をしっかりと見据える。��だ。春の萌える緑。今はそばにいない相棒が近頃漂わせている風待草の匂いを思い出しながら (春の風、に、なる) 駆け抜ける" "刃を使うのは今日の気分じゃないからやめておこう。 助走の必要すらなく、一歩で距離を詰め、最大限の力を解放する。 大きく振りかぶる必要もない。なにせ上に蹴り飛ばしては相手の得意領域へ放り出すことになる。それじゃあいけない。 だから ただただ強く野を撫ですさぶ風のように、フーガの腹を真横に蹴りつけた"
「ッ飛んでけ―――――!!」 ――【飛梅】
"来い、と。招いてくれた相手へ叩き込んだ風纏う掌は胸に直撃。 開く距離。着地。視線は相手からひと瞬きほども離れることはない" "こんなものでは終わらない。終わるようなら、そもそもここまであそびにきたりはしない。 この風は、この花の移り香を纏う風は、こんなもので終わるはずがないと知っている。春にはまだはやい、みどりの視線が絡み合う。 背の邪紋がざわつく。目の前でごうごうと熱を吐き回転数を上げて行く邪紋使いがいる。うねりを上げて鋭くひとり立つその様はまさしく風。 同じく風の身として口角が上がらぬはずはない" (さあ次は。お前は、どんな風を見せてくれる――?) "青年の纏ういろが変わる。 戦地の野の風ではない。それはまるで。北風ばかりの世界をただ一陣、その身ひとつ、世界を塗り替える先駆け。 数ある風の中で一際鮮烈で強烈な、東よりの暴れる烈風。 ざわ、と。予感する歓喜に総毛が逆立った" (くる) "先触れすら読むこともできぬそれにできたのは、せいぜい寸前に体を地から蹴り離したことだけで。 そらへ逃れることも許されずに、真横に蹴り飛ばされて体は叩きつけられ地を水切りのように跳ねる" "平衡感覚がとぶ。吐き気に混じった金気のにおい。 春一番を体現する蹴りをほぼノーガードで受けた体はぎしぎし軋みを上げて" "けれど。けれど。 はは、と。愉しそうに少年は笑うと、拳を地面に叩きつけて回転と勢いとを制御。ぐるんと回って地に足をつけ勢いを殺した。 たのしい。楽しい。愉しい。こうやって、全力であそびあう相手がいることが。全力を返してくれることが。相手も、楽しんでくれることが"
「たのしい、なぁ。ほんと」
"はあ、と。夢のような吐息が漏れた" "ぐい、口元をぬぐう。 やっぱり。この相手は、たのしい。愉しくて楽しくて、仕方ない。 なら、こっちも突き抜けるだけ。風には風の在りようで。全力で。吹いて、抜けろ" "もはや言葉は要らない。視線が絡むだけで、合図には足りる。 地を蹴る。風を蹴る。空へおどる。 回し蹴り。相手の蹴り足でガードされた。 飛んでくる蹴り返し。くぐりぬけての前蹴り。ガード。更に踏み込んでの顎狙い。 ノックバックでかわされる、体の動きを利用した掬い上げる蹴撃。いなして回避。 蹴りあいだけで五合、八合、二十を超える。まわり、めぐり、おどり、ぬける、みどりの風二陣、演舞" "その流れが止まったのは、それまで蹴りをかわすかいなすかしてきた少年が青年の蹴りを腕で受け止めた時だった。 基本の化勁。相手の力を受けて自分の力へ変化させる動き。それまでの蹴り合いの勢いを載せて。青がぐるぐると空を転る。 二つの風のかけあいの流れを己の勢いと成して、更に空を蹴る音が、三つ。三段かけて加速を重ね――蹴り穿つ!" ――【旋じ風の舞曲】
"一人の鍛練や、戦場での殺し合いでは味わえないものがある。模擬戦や手合わせという形で誰かとぶつかり合うたびにそう感じていたが、この風に対しては一層その思いが強くなる。 風を知り、風と共に、風である。よく似ていて、しかし違う。 打ち合いながら笑みがこぼれた。相手の攻撃をひとつひとつ捌いては、笑う。 へっちゃらとか、気にしないとか、そういう次元ではもうない。受けることが、返すことが、楽しい。 踊り方なんて習ったこともないけれど、無駄を削ぎ落とし、自分の持つ力を惜しげもなくぶつけ合う姿はきっと、理屈や論のすべてを越えて美しいものだろう" "でも、長くは続かない。真剣勝負だからこそ、それは儚く、一瞬の火花の美しさだ。 先に呼吸を外したのはあちら。受け止めた蹴りの勢いを利用して、青はぐんと高く高く舞い上がる。 下手な口笛を賞賛代わりにひとつ。空を踏むたびに加速するその風に、こちらも頃合いかと右足を浅く後ろに構える" "軸にする左足で地を踏みしめた。こちらを穿とうとする風をぎりぎりまで迎え入れそして
「って――――!!!」
綺麗な半円を描き、人ではなし得ない加速をつけて右足を振り抜く。爪先は決して当たらない。けれど、振り抜いたその無骨なブーツから、鉄のプレートが八つ、まっすぐにフーガへと射出される。 いつも仕込んでいる薄い刃よりもいくらか厚みのある鉄の塊は、切り裂くのでなく撃ち込むためのなりをしている" "風が吹くなら散る花がある。 月に叢雲、花に風。 穿つ風に応えよう" ――【鋼桜】
"視線が絡む。楽しそうで、愉しそうで仕方ない表情。こちらから目を離すことなく、こちらもまた視界の内から片時も離さない。 視界の先で動き。こちらのタイミングを見切った上での迎撃。 なんだ。何が来る。何を見せてくれる。きっと面白いものだ。だって今までもずっと、そうだった。 弧が閃く。けれど、蹴りを当てる為には間合いがまだ遠い。何を――
――視界の先で。はがねのはなが開いて風に乗った" "ああ。ああ。 屠り風の足は特別だ。花と季節とを載せたまま、風と成り馳せる。これだ。これが彼だ。風(かれ)の、在り方だ" (さすが、だ) "目の前で花を空に乗せたその在り様に心がおどる。けれど、けれど。 まだ、こちらも届けなければならないものが残っているから。終われない" "回避できない。けれど躊躇もない。すべきことは決まってる。その為に必要なものも、また。 寸刻の惑いもなく両腕で、頭と心臓とをかばったまま突っ込んだ。 身そのものを撃ちだすこちらよりもあちらの射出が到達が早いのは当然。 彼我の加速度により更に威力を増したはがねのはなが、腹を、胸を、腕を、抉りこむように穿つ。 みしり、ごり、体を走る吐き気と激痛。腕へ食い込んだものが細い方の骨をがりがりと砕く音。必死に歯を食いしばる。まだ、だ。まだ終われない――
頭を守った腕が骨から折れて力が抜けた瞬間、鋼が使いものにならない腕を弾いてこめかみを掠める" "途端、三半規管までがふつりと途切れた。体から力が萎える。 更にいくつもの花弁を受けて、春風に薙がれたまま、凪に、おわり、に、なって
――たまるか"
「――っらァぁぁぁああああああああああああああっ!」
"――吼える。 まだだ。まだ終わらない。この身は、風は、何があろうとただ己の吹き抜ける先を変えることも留まることもしない。 届け切ると決めたのだ。腕が折れた。内臓がかき回された。痛みの感覚が遠い" "それがどうした。 まだ、オレには。張り通す意地も、その為の意思も、突き抜ける足も、���ってる――!" "風を踏みしめる。揺らいだ軌道も、殺された加速も、全部全部、ぶち抜いて――ただ目の前のつよいつよい風へ、突き抜け穿つためだけに――! 爆音を轟かせて、春風への最後の加速。最後の最後を穿ち抜いて。 それが届いた瞬間、全身の力を失った。崩れる体をどうこうする力もなく。地へ、落ちる"
"どこかで信じていた" "風は止まることを知らないのだ。 花の嵐を通り抜け、きっとこの身に届く。だから、放った攻撃がその身体に命中し、失速したように見えても、目は逸らさなかった。 叫びながら再び唸りをあげ風を蹴り更に勢いを増して飛び込んでくるそれは、予想以上の加速で"
「さすがだよ」
"受け切る体勢を取るには間に合わない。 辛うじて防ぐように構えた腕が耐えきれずにでたらめな方向へ曲がる。 吹き抜けた風の足先が腕をへし飛ばして胸に、触れた。 次の瞬間には全身を貫くような衝撃。信じていた通りの力強い意思を乗せた風が吹き抜けていく。
見事な、とどめだった" "そこから突然凪のように静かに力の抜けた彼の身体を、どうにか受け止めたがそこまでが限界"
「あ゛、あ゛――、やっぱり君はすごい風だ……」
自分の身体もまったく力が入らず、ぺたりと膝から崩れ落ちたのだった"
"いくつも飛んできた鋼の花のおかげで腹の中がひどいことになっている。 頭はぐらんぐらんして思考なんて上等なものがまとまらない。 何度もせきこんで、せりあがるものを飲み下して、空をなんとか見上げて、一息。届いた声に、言い返す"
「やっぱりすごいな、センディスは。春風だ。花の香を運ぶ、はるのかぜ」
"風の身に、否。風の身だからこそ。これほどに春の風を味わえたことが、なにより嬉しくて。嬉しくて。 温度も強さも気まぐれで。ただその身だけをもって空を馳せ。はなのいろと春を告げる風。思えば、これほど彼らしい風もないかもしれない"
「今回は、オレの負けだけど。すげえ楽しかった。やっぱり、風らしいあそびはセンディスが一番だ」
"笑って、少年は勝者に告げた"
「また、時間があったらあそんでくれ」
*** >BATTLE ENDED >RESULT SENDIS:38/100 FUGA:28/100 >WINNER:SENDIS
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風に想いを、月に願いを -vs.lightning edge-(模擬戦:白狐戦)
>STAGE:IN THE TWILIGHT >PLAYER NAME BYAKKO vs FUGA >BATTLE START
***
"冬の空は、澄んでいて色が淡い。 のん気に空を見上げながら、そんなことをぼんやりと考えている" "普段は強い北風の吹きぬける土地だが、今日は陽光が一日暖かかった。 冬至も終わって一月経つ。陽が沈んでもまだ空は明るく、沈みきるまでは時間がある" "そんな、夕暮れが過ぎ去った後の夜に沈む直前の刻限。ぽつぽつ星の煌きだした空の下。 真白い髪を冬の風にひゅるりひゅるりとなびかせる、旅人らしき人影の、その纏う風に釘付けになった" "――直感から即行動" "自分の勘は信じられる指標の一つ。なにせ、それがなくては今こうしていない。 ひょいと北風に乗り、その真白の前に四足で降り立つ。碧の瞳が、期待に灼けて。声を発した"
「なあ、そこのアン���」
"淡く浮かぶ白に感じるのは、鞘に収められた刃の如き――
「強いよな」
――いくさの気配"
「もし、時間に余裕があるなら。一つあそんじゃもらえねえか。礼はするからさ」
"これ以上に言葉はいるまいと、ざわざわ騒ぐ風を野放しに。誘いをかけた"
"青がそのほとんどを宵闇の黒に呑まれ、空に星が瞬きはじめている。 宛ても無く宿を抜け出し、輝き始めた星たちを眺めながらふらり歩く。 明日も旅路。常ならば早々に寝入るのだが、何故だか今日はそういう気分になれなかった。 空は青と黒が混じり合い、いつしか紫、逢魔ヶ時へ――
――何かに見られたような気がして、歩を止めた" "同時吹き抜ける北風に――混じる闘争本能に――思わず目を細める。 そのほんの数瞬で、その者は風から溶け出すように現れた"
――なあ、そこのアンタ
"風と共に現れた若き邪紋使い。碧の瞳は、真っ直ぐに儂を見据えて離さない。 そろそろ何処かで酒でも拝借して帰ろうかと思い始めていた阿呆をしまいこむ"
――強いよな
"返答は一つ"
「ああ、強いぞ」
"にやり笑み、躊躇無く邪紋を顕す。 隠す気も抑える心算もない。誘い文句に返す言の葉も決まっている"
「礼は不要。儂も長旅で体が鈍りそうだったものでな。遊んでやろう。風使い」 「ありがたい」
"夕闇に茫と灯って冴える白。応えは打てば響くようで。 ごうごう。風が渦巻いて。背の邪紋が誇るように。星灯りを照らし返すしろがねを見据える" "名乗りを、あげろ"
「『風の牙』フーガ――全霊で御相手仕る」
"目の前の相手に恥じぬよう"
「いざ、尋常に」
"口火を告げた"
"風の牙、フーガ、風牙。 相対するその者のなを反芻する。 名は体を表すもの。途端、辺りの風が牙の供となった。 邪紋鳴動。なればと、邪紋の内に納めていた刀を尾から抜き放ち構え、
「『白狐』。いざ……」
風を断ちに"
「――参る」
"白がねが星に映える。心地よい凄烈さを目の前に、一息"
「参る」
"応え。 速力全速。風が悲鳴をあげる程の加速。小手調べなんていらない。この凄烈で静怜な緊張感を放つ剣士に向けて、考えるなんて行為自体がもったいない。 体の赴くままに、邪紋の疼くままに、食らいつきにいくだけ" "右手に風を。 このくにの風を集めるのに、呼び声すらも必要ない。想うだけで集う輩を、拳一つに押し込める。 冬の空を吹きぬける身を切る冷たく力強い風を、束ね、集め、収斂収束唸りをあげる。 一際力強い踏み込みを最後、右の拳一つを大きく振りかぶり
「――吹き荒れろ」
打ち込み、接触、開放。 ――命の灯火を容赦なく奪っていく、冬の嵐を叩き込む"
"一合目。 音を置き去りにせんばかりの勢いで吼える牙が迫る。風と速さ比べをする気などもとよりないが、これほどとはと感じ入る" "ふと違和感を覚え、混沌を視る。先程まで猛っていた風が、そう在ることがさも当然であったかのようにその右拳に束ねられていた。 舌打ち。 拳だけならなんとでも捌けようが、嵐までは今気づこうと防ぎ切るには手が足りぬ。最早牙は目前に、打ちこまれるのは確定した" (――ただ受けるだけでは終われんのう) "風の塊だというならば、触れると同時に吹き飛ばされることは自明。 なれば。ここで一手、打つとしようか" "――半歩引く。刃は天に、鋒は牙に。喉元に先を突きつけるように、構える"
「其の嵐、貰おうか」
"相討ち上等。先手を取れぬと断じた儂が甘かったのだ。 胸元で、凝集した冬の風が弾ける。生物を死に至らしめんとする冬の嵐が襲いかかってくる。 だが"
「儂の剣もくれて遣る」
"ただでは、かえさぬよ。 冬の嵐が身を竦ませる、その前に。真正面より牙を穿つ渾身の突きを――"
"豪嵐を前に、一歩も引くことなく。獲物を仕留める狩り手の双眸に、ぞくりと背筋があわ立つ" "吐息、一つ。 避ければ、凍る。 退けば、錆びる。 臆せば、死ぬ" "逃げるのもかわすのも勇気ではあるが、今この場には必要ない。何故ならば" (逃げるもなにも。これを、見せてもらいにきたんだろうが) "鞘に収まっている平時の刃を。抜いてもらい、見せ付けてほしいとせがんだのはこちらなのだ。ただそれだけの話。 腹を決めろ。打ちぬけ。自分の全力を。受け止めろ。その身のままで。相手の一撃を" "かくて暴風は解き放たれ弾け飛び。 かくて一刀は嵐の目を突き抜け深く右腕を抉り裂いた" "爆ぜる暴風に距離が開く。着地しながら、血の止まらない右腕を抑えた" (すげえ、な) "殺気と闘気の境のない、純粋な戦意。いくさの空気を纏う刃に、酔いそうなほど。 背が震える。歓喜に。もっと。もっと。見たい。見せてほしい。くは、ともう一度息を吐いて。 浮かべるは笑み。その先を、口にしてみせろ"
「まだまだ、いくぜ」
"ごう、と暴れ狂う風を引き寄せ、風刃を生み出す。都合、十二。 右手を掲げ、振り下ろし。四方八方から刃に襲わせるが、次々と軽々と迎撃されていく。それでいい。構わない。狙いはこれでのダメージではなく。 発走。爆音だけを残して、距離を埋める。 迎撃に移るまでのほんの少しの時間さえ稼げれば、それでいい" "刃圏突入、踏み抜き一足、震脚全速全力全開――ぶちぬけ"
「――せぇっ!」
"渾身の肘打ちを叩き込む――!"
"狙いは過たず、文字通り台風の"目"を穿った" "しかし牙は――
避ける事も無く 退く事も無く 臆する事も無く
――反撃を知った上で『前へ踏み込んで���来た" "吹き飛ばされた我が身を、邪紋の力で強引に立て直して着地。 途方もない風であった。凍傷裂傷諸々含め、服も身体中が傷だらけ。服は良い。行動不能に至るものがなかったのが、せめてもの救いか" "しかし、手応えはあった。 刃の域を踏み抜いた牙の様を視る。刃を受けたのは右腕か。 少しやりすぎたかと、思ったのは一瞬だけ。儂を見据える目は、益々爛々輝いている。"
「物好きめ……!」
"思わず吐息が漏れた。博打のような反撃を為した己もそうである事は、今は忘れておくとしよう。 二手目。 牙が再び混沌を操る。生み出したのは、不可視不可避の風の飛刃。 ひのふのみのやの数えて十二。静かに上げられ振り下された令に従い、儂へ殺到する" (――面白い) "意に応え、腕に纏わりつくように刻まれた邪紋が蠢き輝く。 我が身が混沌に調律されて、共に往く友との同調が上の段階へと引き上げられる。同時に襲う、急激な変化への痛み" "それがどうした。遊んでやると宣したのだ。この程度で音を上げてなるものか!" "正眼、構え。一つ二つを一息に打ち払う。 尚も襲い来る風刃に、再び邪紋励起。三つ四つ目を捌いた後に、鞘出しあるべき形に刀を納め、構え" "刹那―― ――再び疾った白刃が、空を斬って望月を描いた" "残心。 その緩み、その刹那。死地を踏み越え懐飛込む影一つ、知覚" "気付いた時には、地の揺れる音。 気合一声。研ぎ澄まされた痛撃が水月を穿つ。衝撃とともに、肺から空気が押し出される。 不味い、意識が――
――舌を噛んだのは、反射。消散しかけた意識を、別の痛みで繋ぎ留める。広がる血の味に、目が醒めた"
" 【スイッチを入れる】 "
"踏み止まる。 刀はいまだ手の内に。獲物はいまだ懐の内に。 この牙が儂に求めているものは、先の二打で十二分に伝わった。せいぜい応えてやるとしよう"
「のう、牙よ」
"――【抜刀】する"
「そこは、儂の間合いよ」
"刃を振り下ろす儂は、きっと邪気無く微笑んでいたことだろう" "――【唯、断割】"
"通った。 しかしこんなもので倒れてくれはしない。そう思っているし、その通りになった。口元に朱。昏くなりつつある辺りの中で赤く、紅く、朱く。鮮明な命の色がある。 刻まれた表情はひどく愉しそうで。その顔が見られたことが、見せてくれたことが、嬉しかった" "刃の、気配。 されどけれど。 これまで何度も剣士と相対してきて、その技量を前にして、何の対策もしないわけでも、何の準備もしてこなかったわけでもない。 徒手空拳で打ち込み止ったら返す刃で頭を取られる。何度その危機に直面してきたと思っている。いい加減学習くらいする。 一撃で打ち倒すには、まだまだ精度がたりなすぎる。距離を置こうにも剣一つを手に生き延びてきた連中の業の冴えは後退などで逃げ切れない。ついでにいえば、相手の渾身を受けないのは主義に反した" "ならばこそ。この手にも【受け止めてみせる】器が、必要になるのは必定。 【弋を止めるもの】――即ち、武器が" "左の腿に手を伸ばし、一挙動で閃きを引き抜く。 それは、こがねのはがねをもった一振りの鍛造刃。手に馴染む一振りの短剣。 剣たる己を護るための護剣は、夕闇に沈みゆく世界の中で陽光のように輝いた。 手首は柔らかく。断ち割る為の一刀の前へ刃を絡ませるように。流れに逆らうことなく。 例えるなら膨大な川の本流に支流を溶け込ませて勢いに変化をもたらすように。殺すのでなく、削るのですらなく、意図したはずの剛く鋭い疾閃の流れを、無理なく無駄なくゆるりと変えさせる" "手ほどきを受けたのは、もとより護身の為の剣術だ。一命を賭して打ち込み続ける剣士相手に打ちかかってどうにかなる付け焼刃などあるわけがない。ただ護る為に特化した術。 けれど。自分にはもったいないほどの銘刀を賜ったといっても、持ち主の腕がついてこないなんてのはよくあることで。 できたのは、切っ先の角度をずらし軌道をずらし必殺ではなくしただけのこと。致命ではないだけ、深く鋭く刃に潜り込まれ抉り抜かれ、抵抗した短剣すら弾き飛ばされた" "灼熱の線を引かれたような。零度の氷に潜り込まれたような。 その殺意が。その闘志が。肌身に突き立てられていることが。業を、有様を。見せ付けてくれることが。受け止められることが。嬉しくて" "だからこそ。 己の全力をもってその先へ届かせて見せねば。この一刀の対価に見合うだけの、その先へ――!" "右掌を握る。時を追うごとに零れていくいのちの赤に目もくれず。 視界の中にある相手にむけて。ただ己の戦意を叩きつけるように、視線をはずすことなく。拳に風を束ね集め、圧縮して大きく振りかぶる。 距離が距離だ。こんな大振りいくらでも身を捻って避けられる――それを、直接ぶつけるのであれば"
"相対する二人の間、少年が拳を振りかぶり、打ち抜く軌道の先へ――空からこがねがおりてくる"
"先に弾かれた短剣がゆるくまわりながら。 最初からその為に飛ばしたように、拳に柄頭を向けて。笑みひとつ。総身の力を拳に込めて。全力で振りかぶった拳を
「頼むぜ、相棒」
親愛に満ちた声と共に。 柄頭に叩き込み。空圧を解放、全てを推進力にかえて。 斬り合いの距離で、相手の体の真芯に向けて。己の拳を撃鉄に。こがねの刃を弾核と化して、撃発する――!"
"振り下した刃は、確かに過たず牙を切り裂いた。慣れ親しんだ”人を斬る”感覚が、得物を通じ伝わってくる"
「く、はは」
"何もなければ、纏う風ごと断ち割る勢いで振り下した。それをその身に確かに受けて尚立つ牙を見据えた"
「御見事」
"閃きの流れを、幽かとはいえ変えられた。真二つに断つ斬閃を、逸らして受けて、立って見せた。 痛みを堪え、賛辞を絞り出す。 致命を逸らしたその技を。未だその眼から消えぬ闘志を。 今この時、他の何もかもを忘れ、ただ、一人の剣士としてそう告げた" "致命は逸らしたとはいえ、なおも動く。まこと、まこと。 数瞬に組み上げられた反撃の一手を、牙の命を受け集い束ねられる風を観測する。 身体は正直に数歩の間をとる。それだけあれば、如何様にも捌くことができると判断した故に。 これで、彼我の間には決定的な間合いが生まれる。拳も剣もそのままでは届かず、踏み込む牙の動きを待ち受ける間が。相手の動きを見て、即応するだけの間が稼がれ ――そこにこがねが舞い降りた" "あれなるは、先に弾いた牙の短剣。 つい数瞬前に主を救った護身��刃にして、今まさに主の意を汲み舞い戻った戦士の相棒。事ここに至り、事態を掌握する" (儂はまたもや見誤ったか!) "牙の突き出した拳が、短剣の柄頭を捉える。同時、練り上げられた風が、向かう先を与えられて解き放たれた。 "総てを一身に受けたこがねは、流星のように駆けながら一直線に儂の元へ。そして――
――こがねは白銀を貫いた"
"目を開く" "左腕が熱い、痛い、愉しい、熱い。 見れば、深々と突き立つこがねがそこにあった。 目の当たりにした途端、力が抜ける。右手の刀を杖代わりに、倒れることだけは何とか堪えた" (……よく貫通しなかったものよな) "改めて牙を見る――良い顔を、しておる。釣られ、微笑った"
「く、はは。今のは肝が冷えたわ。死んだらどうしてくれる」
"軽い調子で言葉を投げ掛けながら、刀を肩に担ぐように構えて牙の元へ、一足"
「もう夜が来る」
"ぽつり、気が付いた事を口にする。 この立ち合いを始めたのはいつ頃だったか。最早それすら遠く彼方へ忘れ果てていた"
「なれば、この一太刀で終いとさせてもらおうか」
"名残惜しさも幾らかあれど。 動かぬ左手はだらりと下げたまま、正眼に構え時を待つ。 観察し、同調する。先ずは呼吸を、次に動きを、瞬きを、心の響きを、間の取り方を" "そして――その【時】を掴む" "もしかすれば、牙から見れば儂は突然消えたように見えたかもしれない。 それは間違い。ほんの一瞬、緊張の糸が緩んだ時に動き、全てを終わらせていただけ" "邪紋励起。構えていた得物を身体の内へ、左手の短剣を引き抜いて眉間に突きつけた。事実上の王手。これより先は、立合ではなくなる、明確な終焉の手。 ……けれど"
「……ちぇっくめいと、では納得せまいな」
"にやり意地の悪い笑みを浮かべて。くるり手元で短剣を回し刃の方を握りしめる。 当然、牙に突きつけられるのは、鋭い刃ではなく、本来握りしめるための柄になる訳で"
「お、か、え、し、じゃ」
"大上段に振りかぶった。 風の足は早い。逃がさぬように足を踏みつけ、邪紋でそこから刀を生やす。 地に縫いとめた風の牙。我が手で狙うは小柄な牙の青い脳天"
「一つ教えておこう。儂は確かに戦人であり武芸者よ。 ――だがそれ以前に。一匹の悪戯が好きなただの古狐だと見知りおけ」
"何の躊躇いもなく。 何の慈悲もなく。 それだけ言って、青色へ。振り上げた鈍器を叩き付けた"
"一太刀で仕舞と。しろがねは、確かにそう告げた。 体に残る力をかき集めて、その一刀を逃さず焼き付けようと見つめる。 先の一刀の凄絶さは、潔さは、まるでそのいのちをたましいを体現したような見事な閃きだった。 ��れの後に出すのがどんなものか。残さず余さず、この身で受けさせてもらうために" "しばしの視線の交わりあい。どうでる。どう来る。 対処に動くだけの力はもう残り少ないが、最後まで――
――ふつり――
目の前に、しろがねが現れた" "反射的に腕を動かすが、遅いと頭が計算を弾きだす。 理屈も理由もわかっている。何せ似たような手妻の業を使うヤツが身内にいる。 それでもここまで完全に虚を突かれたのは久しぶりで。眉間に刃が向けられ、戦場ならばこれで終わり、稽古であればこれで一本。 正しく仕舞の一手だった" "知っていてなお抗えなかった己のふがいなさに、ぎちり、歯をかみ締めた時。 意地の悪い笑みと、愉快気な笑い顔。短刀をくるり、逆手から順手に持ち替えた。 まるで槌を打つように柄頭を向け。最後まで、自分へと打ち込むと、宣言して" "は、と。笑みが零れた。 最後の最後まで「あそび」だと、理解した上で。手抜かりなく。まったく――いい相手と、めぐり合った" "ならばこちらも最後の最後まで、これ以上不甲斐ないところは見せられない。 脚を貫き止める刃。風の機動力も奪われ、相棒はまだ相手の左腕に突き立っている。残るのは己が身ひとつだけ――充分だ" "己が身ひとつあれば。相手の全力を受け止めるだけの力さえ残っていれば。最後の最後まで『あそび抜く』ことはできる――!" "脳天狙いの全力の一打に向けて、視線を合わせる。 受ける場所を、額へズラす。急所に当たるよりはマシだろう。タイミングを見計らい、インパクトの瞬間を、自分の意思で叩きつけにいって、ズラし
ぶつん。 衝撃で、断線した" "――ぱち、と視界が戻ってくる。 風の流れと、相手の位置と。ほとんど変わっていないところから、おそらく気を失っていたのは数瞬だろう。 立っていられるのは意地とかそんなもんじゃない。ただ魂が体を倒れぬように縛り付けているだけ。頭に響き続ける鈍痛と衝撃と。血の流しすぎのせいで、うまく舌がまわらない。 それでも、それでも。なんとか。立ったまま"
「……たの、しかっ、た」 「ありがと、な」 「――アンタ、の、かち、だ」
"自分の口で直接風を揺らして、それだけを伝えきった"
「ああ」
"風が、言葉を届けた" "『楽しかった』と。 『ありがとう』と。 『儂の勝ちだ』と" "限界を超えているだろう牙は、それでもなお立ち続けている" "――情けなや。逆に儂はここまで。持った刃を取り落とし、二三歩離れて腰を下ろす"
「儂も、楽しかった。風の牙。 流れ者には過分な程に、な……!」
"腕に刺さるこがねを引き抜きながら、答え。 刀身を濡らす血を、ボロ布と化した袖で拭い取り、ほれと主へと放り投げる"
「ではな、風の子。 再び相見える縁があれば、此度の勝利と酒でも賭けて、あそぼうぞ」
"すっくと立ち上がり、袖を千切りとって止血をしながらくるり、踵を返した。 星空を見上げる。いつになく、瞬きは賑やかで。一人ごちる。 ――今宵は、良い酒が飲めそうじゃ"
"また、の約束を聞いて。 相棒を受け取り、今度こそ全身から力が抜け、前のめりに崩れ落ちる" "ごろり、なんとか仰向けに転がりなおせば、空はもう夜の色。 細い銀の月は、西の空。瞬きだす星の数に、大きく空へ息をつく" "心地よさに、このまま眠りたい。 とろり、睡魔に身を任せ。邪紋が命を護るために動き出し。戻った相棒を、しっかと握ったまま。あぁ、と幾分か真っ当に動くようになった声を風に流す"
「次は」
"冬の大気は、星と月とを冴え冴えと。夜気は濡れるように穏やかで"
「もっと、たのしく、あそぼう」
"無邪気に、風のこどもは笑った"
*** >BATTLE ENDED >RESULT BYAKKO:48/100 FUGA:33/100 >WINNER:BYAKKO
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(模擬戦:アマールラ戦)
「そう言ってくれると助かる」
"無理な頼みに快く返事を返してくれた相手に、恩に着ると心中で呟いた"
"強者と見れば手合せを願い出たくなるのは自分の性で、こればかりは止め処ない性質のようなもの。 普段なら我慢もしきれるというのに今回その歯止めがきかないのは、あまりに情けない話だが――いつか確実にぶつかるだろうとわかっている相手だった" "軍事強国スペルビアの、一番槍の蜥蜴" "自身相対して、いずれこの相手とはもっと大きないくさの中で争うことになるだろうと直感した。 けれどそれは今ではない。そうも、理解できた" "されど、しかし――いずれのその時ではなく。今この時、自分がどれほどに相手に通ずるか、知りたくなった"
"気息を新たに。 戦意の高揚に応じるように、風がざわめく。碧の双眸が闘志にぎらついた"
「――『風の牙』フーガ。御相手仕る」
"目の前で変わる空気に笑みを刻む。 ああ、ああ、これはいい。戦の気配、戦いの香り。目の前で変化する全てが心を駆り立てていく。 ただのあどけない子供から、戦の真ん中で血を浴びて笑う 獣(どうるい)の相へと移っていく。 古風ではあるが。名乗られたからには応じるものだろう"
「スペルビアの蜥蜴だ。まあ適当に、楽しもうや、チビ助?」
"からかうようにそう告げて。 名乗りが終われば御託はもう存在しない。 拳につけた手甲へ雷を流し、軽く音を立て放電させた。いつでも来いと誘うように、パチパチと細雷が爆ぜる"
「おう。楽しもう」
"名乗れども、刻んでもらうにはまだはやい。 まずは自分から、相手のうちに刻んでもらえるだけのものを見せにいこう。全力で全霊で挑むことこそ、受けてくれた相手への礼となると信じて" "ひゅるり、ひゅるら。 風を呼び寄せ、束ね、集め。圧。掌へ。縮。握りこむ。 馳せた。地を低くひゅるりひゅると舞う燕のように。低く、鋭く、その元へ。 駆け抜け迎撃の拳を空圧の左掌で受け無理やりに隙間にもぐりこみ、 (まずは、ひとつ) 右掌に溜めた嵐を、大地すれすれから空を目指す燕の如くに掌底ごと顎めがけて叩きつける"
"相手と自身との歴然とした体格の差故に、こちらは懐へ潜り込まれれば不利。 それを理解しきって躊躇いなく踏み込み風を叩き込んでくるセンスに、零れる笑みが収まらない" "突き上げてくる掌底を、多少無理やりでも体ごと避ける。 ぐらりと体の軸がぶれたのを、地を蹴ることで勢いに変える。体勢の不安定さすらもを利用して反撃へ。反攻へ" (この位置なら……) "見やる。狙いは相手の側頭。 体格差があると知って踏み入ってきた以上、リスクは相応に承知だろう。 風の牙の牙鳴り。耳元でひゅうと鳴く風に耳のすぐ近くを切り裂かれながら、風を握る手も腕ごと圧し折る勢いで膝蹴りを放つ"
"こともなく避けられた。 くは、と愉しさに笑みが零れ落ちる。ああ、たのしい。こうでなくては。立ち合いは。あそびは。こうでなくちゃいけない。 風の声を聞き、相手の動きを視る。膝。狙いは側頭。容赦がない。加減がない。愉しくてたのしくて仕方ない"
「――言ってなかったっけか」
"立ち向かうは掌ひとつ"
「オレの体術の師匠の話」
"体格差、筋力差から考えれば鉄砲水に木の葉一枚で立ち向かうような行為"
「性悪で、奇策屋の大魔王」
"しかしそれを、恐れもなく、怯えもなく、ただすっ��、差し出した"
「我が主君がオレの師だ」
"膝蹴りを掌で受け止め――ず。勢いのままに流されながら、風を足場にして回転運動に転化。 にい、と笑って加わった勢いを加速に変え、縦にぐるりと一回転"
「――あの性悪が、真っ当な体術教えると思うか?」
"脳天狙いの踵落とし。断頭台じみた一撃を叩き込む"
"体勢の崩れたところに強力な一発。自らの能力も的確に使い奇策もお手の物とは。 若いが腕の良い戦闘屋だ。だが――"
「大人をなめてもらっちゃあ、困るねえ」
"真正面。落ちてくる踵落としを見上げながら、かわすでも避けるでもなく微動だにせずタイミングを計る。 雷を自らの体に帯びさせ、加圧、加流、蓄溜。 接触。瞬間、放出された雷は双方の体を巻き込みながら破裂する。 放出量を瞬間的に最大解放すればお互いを跳ね飛ばす程の炸裂と代わり、荒れ狂った。 そして、雷と風とは親しいもの。その全てを呑むことはできないだろうが、風そのものである相手に触れれれば雷撃の暴威は向こうへと伝播し、一斉に雪崩れ込む――!"
"盛大な炸裂音。爆心地でモロにくらった。 空気は絶縁体にも関わらず、それを帯電させなおかつ爆発に至らせるだけの高圧電流の炸裂を直撃させられた。 弾けるように放り出され、地面に叩きつけられなお転がって。焦げのにおいのする煙が辺りに立ち込める。 背に負う邪紋が生命維持のためにあわく輝き出す。宿主の命が危機に陥っている証拠。勝手に死なせないように働きはじめる、それに"
"がり、と。 爪を立てた"
「……っけんな、よ」
"声に乗るのは、真火の炉の中の如き熱量の、純度の高い怒り"
「だれ、が」
"ふざけるな"
「だれを」
"あなどるな"
「──ナメてる、って……?」
"見くびるな"
「���ンタには、オレがそんな器用に見えるのか」
"もえるように、碧がぎらついた。 己にとっての立ち合いは、相手のすべてを見せてもらう行為に等しい。自分のすべてを対価にし、相手のすべてを刻み込むに等しい。 そこに侮蔑も嫌悪もない。それを疑われるのは、立ち合いにそんなものを持ち込んでいると思われるのは、何よりも我慢ならない。 だから立つ。戦えないと核が判断していようと。もう無理だと体が屈しかけていたとしても。 この魂だけは。疑う余地もないとわかるまで、相手に打ちこまなければ気が済まないと叫んでいる。 何度でも。 ──何処までも。穿ち抜く" "一陣の、風と共に発走。 全力、この魂のすべてを賭けるに値する相手に向けて。現状の全速で疾走。距離を詰めきる。 指先を揃える右の手刀形。左腕を犠牲に防御を弾き、手刀を肋の真下に向けてえぐりこみ。肘先で連れてきた風を炸裂。更に加圧"
「もうひとつおまけだ──っ!」
"駄目押し。その場で震脚。 この先のことなど何一つ頭から消し飛ばして全身の力を振り絞り、内臓へ浸透勁をブチこんだ"
"疾く、そして荒々しい一撃。がむしゃらで、愚直で、ひたすらにひたむきな一撃。 なるほど、風の「牙」という名はまさにこの子供を表すに相応しい。 相手は無理矢理に放出した雷から立ち直った直後。こちらはこちらでダメージは薄くとも体勢はろくなもんじゃない。 考えるより早く体は動きたがっている。躊躇いなく反射に身を任せた" "意識から本能へ切り替え、体の動くまま防御へ移行。 手甲を防御の盾として並べ、直撃を防ぐ。纏う手甲へ雷を纏わせ、反発力で少しでも勢いを削ぐ。相手の攻撃のタイミングに合わせ、後ろへと強く地を蹴る。 それでも、ほんの数分の一瞬だけ間に合いきらない。綻びは生まれ、接触に繋がる"
"――炸裂"
「がっ……!!!」
"身体中から絞り出されるように息が、血が吐き出され、威力を殺しきれなかった体が吹っ飛ばされる。 受身も取れずに地面を転がったのは10m近くにも及ぶだろうか。 そのまま人形のように地を転がり続け、ようやく静止して、数秒" "ずるりと、腕が動く。手が地を掴み、身を起こした"
「がはっ、げほっ」
"咳込みと同時に吐血。けれど足にも力を込め、ゆっくりと、しかししっかりとした動きを意識しながら立ち上がる"
「はぁっ……啖呵切ったんだし、死ねねえよなあ…?」
"自分に言い聞かせるような、相手に見せつけるような、そんな声音で呟き、ワラう"
"体の中も外もボロボロだ――だからどうした" "立っているのだけで精一杯だった――意識はある。立っている。まだ戦える" "今攻撃されれば死ぬしかない――……、"
「それが、戦場ってもんだろう?」
"わらう。 笑ってみせる。歓喜も感心も悔しさも様々な感情を全て載せて、わらう"
「すげえなあ、チビ。久々だ、こんな怪我、したのは」
"口に出すのは、素直な賞賛の言葉。衒いもなにもあったもんじゃない。まったく、感嘆に値する"
"残心のままで立っていた体が、ぐらり芯から揺れた。くず折れそうな膝を、意地だけで保たせる。 視界は靄がかかったように頼りなく。けれど、ただ一人の姿だけは鮮やかなまでに映っていた。 まだだ。まだ。 仮令、指一本自分で動かせる気がしなくても"
「そ、っか」
"届いた安堵で、心まで満足して全て投げ出しそうであっても"
"届けないといけないものが残っているなら。勝手に終わった気になるな"
「悪い、これ以上は、オレが限界だ。 つよいなあ、アンタ。すげえ楽しかった」
"屈託なく、笑う"
「あそんでくれて、ありがとな。また時間があったら、あそんでくれると嬉しい」
"これはあくまで立ち合いで。相手の全部を見て刻んで、代わりに自分を届けるもの。 戦場とは違う、という。明確な線引きは自分だけのものだ。もしここで相手がその気になるなら、それはそれで悪くない終わり方だろう。 けれどもしも。相手がそれを認めてくれて、なおかついくさばでまみえるのなら"
「……もし、この先戦場で。アンタがスペルビアの蜥蜴で、オレがセリザワの狗として会うんなら――
――アンタの首は、オレが取る。今決めた」
"これだけ強い相手を。これだけすごい相手を。他の誰に、取らせるものか。 目だけはまっすぐに。総身の力をそこに集中するように、『いつか』の話をそう告げた"
"にぃ、と口の端を吊り上げる。 ああ、ああ! がむしゃらな、未来のある若者の眩しさよ!" "それは何よりも祝福されるべき、賞賛されるべきものだと、本人達は知っているのかいないのか、 ただがむしゃらな若者達に中てられて、好戦的な自分が満たされる"
「獲りに来い。だが、俺と首をかけてる奴は、まだいるからなあ。早くしねえと、獲られるぜ」
"体の中身はボロボロで、ほとんど気力だけで立ってるような状態だ。 けれど、先を生きる者として、戦場で生きる者として、カッコつけよう。つけきろう"
「俺の首が欲しいなら、精進しろよ、風の牙。戦場で会えば、次は本気で、死合おうぜ」
"笑って、背を向ける。陣地に帰れば必要な処置は受けられるだろう。 だからそこまでは、無理矢理にでも体を動かして、無様にでも生き抜いてやろう。先の楽しみが、またできたのだから。こんなところではくたばってやれないだろう"
「もちろんだ。せいぜいアンタに満足してもらえる程度には磨いておくさ」
"吐息一つ。その場に崩れるようにしゃがんで、仰向けに倒れる。冬の冷気が心地いい。 空は遠く。雲が強い風に流されていく" "纏う空気から、相手が背負っているものは視えた。 強い。こころも、ちからも。 掛け値なしに楽しかった。届いたことが、嬉しかった" "今度こそ、邪紋が淡く輝き生命を維持するために傷を塞いでいく。すう、と睡魔に身を任せる。眠りに落ちる、その間際"
「――今度はもっと、楽しく『あそぼう』、蜥蜴の」
"またな、と。届くはずもない声を風に流した"
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模擬戦もろもろ:キョウ戦
20160622-25
たぬたぬねこねこ @itonaka_24m @Reizia_GC
まだ戦の終わりの見えない趨勢の中。 戦場のど真ん中で見た、そのみどり色が気になった。 知り合いに似ている。風貌だけでなく、纏う空気も使う業も。 ――さて、どうしたものだろう。 陣営が違うなら間違いなく敵。裏切ったのなら心置きなく首を取りにいけるものの、同じ人物とも思いがたい。 さて、本当にどうしたものだろう。
……とはいえ、そもそも頭で考えるような柄じゃない。直接会って、直接答えを持ち帰ればそれで済む話だ。 まずは問いを。その次には見せてもらって、そこから先はそこから先だ。そのくらいの方が自分らしい。
軍師に色々と手を回してもらい、連合野営地の中に潜り込む。もとより潜入工作の方が得意な身だ。情報を元にその先へ。月下の人気のない小道で、声をかける。 「――よう」 風が吹く。一陣、ざわり肌にまとわりつく、不吉の風。 問いは一言、簡潔に。
「アンタ、何者だ?」
『キョウ』・レイジア@七廻同邪(真 @Reizia_GC @itonaka_24m 背後に、人の気配。声の質から、人物特定。 本来の時間軸での戦友であり、後に業を競い合った仲。 フーガ・A・セリザワ。 私は首だけで後ろへ視線を移し、問いに答える 「やあ、『風の牙』殿。連合くんだりまで御足労痛み入る、と言えばよいのかな?」 だが、今の『私』は、中身は未来、肉体は過去のもの。彼の知っている『私』とはかけ離れている。まあ、別に素性がばれるのは構わないのだが。 「だが残念。私は、君の知り合いである女性とは似て非なる者だ」 あえて『私』は、今の『私』と同じように喋った。 「私のことは、『キョウ』と呼べばいい」 だが、いい機会だ。現状の『私』の戦力を図る、いい機会だ。 「さて、貴君の用事は…」 結晶錬成。多数の小型のナイフが、私の周りに停滞。
「『これ』、かね?」
天から光を注ぐ月に似た、黄色の眼光が、彼を射つ。
たぬたぬねこねこ @itonaka_24m @Reizia_GC 同じ風。同じ空気。でも違う、と相手は告げる。 とりあえず、なりすますというつもりではないらしい。さて。 「そう、だな」 ざわり、風がざわめく。向こうからの誘いだ。乗ってしまえと騒ぐ思いを、少しだけ押さえつけて。 「――勝手に押しかけといてなんだが、河岸変えさせてくれると助かる」 今回は自分の独断だ。話が早いのは助かるが、『そういうこと』になるのは困る。仕えるべき主が見つかったばかり。この戦を生き抜くと決めたばかり。 ならば。 「まだ捨てられねえ命でね」 頼む。
『キョウ』・レイジア@七廻同邪(真 @Reizia_GC @itonaka_24m そういえばここは同盟ではなかった。彼にとっては不都合のある領域。それでは全力で戦えないだろう。 「わかった。ならば、同盟の領地まで移動しよう」 ナイフをいったん消し、着いてくるように彼を一瞥し、移動を開始。 それなりの距離を歩き、情報収集以外では二廻ぶりの同盟へ、久しぶりに踏み入る。
さらに歩き、ある喫茶店が見える広めの空き地に向かう。
『あの子』はこの時空ではどういう感じなのだろうか、などと頭の片隅で考えつつ、彼に���き直る。
「ここなら、キミの意思に反することはないな?」
たぬたぬねこねこ @itonaka_24m @Reizia_GC なんともまあ豪胆な魔法師どのだ。まさかこっちの勝手な言い分を聞いて同盟のド真ん中まで足を運んでくれるとは。 「――感謝する。オレも全部終わったらアンタを無事に送り届けるとここに誓う」 面白い。 「魔法師どのはオレのこと知ってるみたいだが、一応名乗るよ」 ひゅお、と風が渦を巻く。 この面白い相手と、一線交えるのなら。届くところまで届かせたい、そう思うから。
「同盟ファルドリア傭兵、『風の牙』フーガ――一手、お相手仕る」
尋常に。
『キョウ』・レイジア@七廻同邪(真 @Reizia_GC @itonaka_24m 改めてナイフを練成し直し、戦闘態勢に入る。 そういえば、戦う前の口上を考えたことはなかったな。 この際だ、私も適当に名乗ってみるとしよう。
「ならこちらも。『逆光緑女』キョウ。さあ…、果たし合おう」
勝負。
たぬたぬねこねこ @itonaka_24m @Reizia_GC ナイフ。刃物。魔法師なのに、随分と近い距離で闘うのか、それとも。 (まあいいか) こんな機会、めったとない。惜しむものなんて投げ捨てろ。自分の全力を、自分の全速で。 ごうごう、風を集わせて。右手を高く掲げて挙げる、その先へ。 収束収斂、練りあげる。 夜気を裂き、月へ衝く。 掲げる牙を高らかに。長く高くへ織り上げて。 紡ぎてあげるは、5mを越す風の大刃。
「いくぜ」
大上段。真っ向から振り下ろす。
【大斬撃】7 [3D6] 1,1,5 (23:46:19)
『キョウ』・レイジア@七廻同邪(真 @Reizia_GC @itonaka_24m 嵐の如く烈風の刃。規格外の大きさのそれで、私を叩き潰さんと振るう彼。 「相変わらず、手加減というものを知らない奴だ…!」 だが、それでこそ彼だ。全力全開のじゃれ合い。彼の魅力はそこにある。 だからこそ。こちらも本気で相手が出来る。それがいい。 全力で防御。結晶の壁を地から出現させ、風刃を受ける。
まるで、金属製の武器と防具が共に砕け散るような重低音が響く。
晶壁は砕け。風の剣は、咄嗟に庇った左肩に傷口を付けた。 (HP100→93) 「流石だな、なら、次はこちらの番だ」 数多の短剣を纏いながら突撃。 そのうちの一本を手に取り、それらを連結合成。
多関節で不恰好に繋がった、刃を。 意思があるが如く、変則的な軌道で。 巻きつくように、噛みつくように。 一閃。
「襲え、蛇が如く」
【蛇腹晶噛剣】15 [3D6] 5,6,4
たぬたぬねこねこ @itonaka_24m @Reizia_GC (やっぱり──知られてる、のか) 言いようがどうもこちらのことを知っている風で。 けれど、こんな豪胆で大胆な魔法師に覚えはない。考えても詮無いことではあるが、ちくりと何かが刺さる。 感傷を振り捨てる。今はただ、このあり得ないはずの一戦を貫くだけでいい。 刃は浅い。纏うナイフを煌めかせて突っ込んでくる魔法師に対峙。なんでもすぐに応じられるよう、四肢に力をこめ、風に呼びかけて 鎌首をもたげた蛇の如くに、短剣が繋がり合い絡み合って空を疾駆する。早い。応じ、きれない。 胴に腕に足に、刃が絡んで食いついていく。 のど首狙いの切っ先を拘束された右腕で弾く。 機動力を殺がれるのは、マズい。ここは無理してでも距離をおかねば。 その場から地を蹴り離し、風の刃でいくつかの継ぎ目を切り離して。あちこちざくざく刻まれながらも、脱出する道を選んだ。 【HP】100→85
腕を、足を、腹を、胸を。無理矢理に刃を引きはがしたせいで、いくつも赤を滴らせて。 くは。笑う。 嘘だろう。冗談だろう。こんなすごい奴を忘れてただなんて、それだけでもったいない。 ならせめて。これでしっかり、自分のうちで刻み直そう。彼女を。 ──そして新たに刻んで貰おう。彼女の記憶しているだろうそれよりも、もっと高みに進んだ、自分を。
武器戦闘の間合い。これなら。 風集い手の中に生み出すは身の丈の三倍はありそうな風の大槍。それを── 「いっけえーっ!」 ──真芯に向けて、投擲し 彼女が対応に動いた瞬間、指を弾く。 大槍は八つの爪牙と化し、標的へ向けて咲いて奔る──!
【風蓮八穿】10 [2D6] 6,4 (00:52:35)
『キョウ』・レイジア@七廻同邪(真 @Reizia_GC @itonaka_24m 蛇腹剣に噛みつかれながらも、鮮血を散らしながらも、武器を壊して突破してくる。さながら狂犬。 「それでこそ!」 歓喜。これしきで止まらないのが、君の強さ。 だからこそ。全力を持って。倒したくなる。 刃の呪縛から放たれた風の子は、風を集めて大槍を形作る。 冷静に後ろに飛び、様子と見ようとするが。 投擲。 鋭き風圧が、私めがけて疾駆する。
飛び退き態勢ではこれ以上の回避行動は不可。ならば盾だ。 真正面に装甲を張り、衝撃に備える 瞬間。
分裂。
衝撃。
…装甲は完全に躱され。
「…『前回』、同じような技を食らってなかったら、全弾まともに貰ってたな…」 左肩に、風で穴が穿たれた。(HP93→83)
切り裂かれ、穿たれ、損傷の激しい右腕を扱うのは難しいだろうか。 「まあ、そんな弱音を吐いている暇はないな…!」
先ほど壊された柄を握り、再錬成、合成。 柄が、伸び、延び、その先端には槍の様な、斧の様な刃。
錬成完了。大斧槍、ハルバード 両手で柄を握りしめ、突撃。 愚直なまでに最上段から、彼に向かって全力で振り下ろす。 …が、それを当てずに、刃を彼の眼前の地面にめり込ませ。
突撃の勢いのまま駆け抜け離脱。
派手な外見の武器で叩き斬ると見せかけ… 「本命はこれだ」 指を鳴らす。 地をえぐり放置されたそれは、月光を集め、増幅し…。
…轟音と共に、光と、熱と、破片をまき散らす。
【斧槍爆破】4 [2D6] 2,2
たぬたぬねこねこ @itonaka_24m @Reizia_GC 穿った風は、確かに相手に食らいついた。 意表をきちんと突くところまではできたらしい。上出来だ。 だからといって、諦めた目などしはしない。こがねの煌きはなお煌々と。ざわつく。ひりつく。渇望に近い感情は、この先を望むが故に。 みどりがざわり、揺れる。月光が、凝る。まるで月灯りを星と変えて躍らせ束ねて踊る、夜光の精のように。 柄を握り締めた腕に力がこもる。傷ついた腕でなお、柄を握って刃を構える。ああ。ああ。 (きれい、だな) ぺろり、舌なめずりするほどに。 その一撃を求めるように、拳を握る。 踊れ奔れ夜光精。さあ、何を見せてくれる――? 大上段から振り下ろされる大斧槍。さっきの意趣返しだろうか、やっぱり面白い。どう捌いてどう返すか ――そう考える眼前を、刃は通って過ぎた。 あまりの予想外に瞬間生じる隙。 それをこそ狙っていたように。 目の前で、光が爆ぜた。
【HP】85→81
「……っ」 ダメージこそ倒れるほどでないものの、完全に視界を防がれた。 風を探って場所を掴もうにも、相手の使うものは炸裂の魔法だ。先の一発で周囲の風がざわつきすぎて、まともに場所が探れない。 躊躇えば次が飛んでくるまでに完全に無防備をさらすことになる。 相手の位置がわからない。相手の動きがわからない。ならば。 (……これっきゃねえか) 完全に相手に上回られた。それを認めながら、なお――『次』のために。
「――巻け」
掌に触れる風に。自分の声の届く範囲にある風全てに。 周囲にあるもの全てを巻き込み飲み込み叩きつけ、自分の 認識(かぜよみ)の中にもっていくために。そう一言。 同時。 少年を中心に、局地的な巨大な竜巻が発生した。
【大渦よ、夜光を呑め】2 [2D6] 1,1 (00:43:51)
『キョウ』・レイジア@七廻同邪(真 @Reizia_GC @itonaka_24m 大仰な武器を囮にした爆破攻撃。だが、大型武器を爆破させるだけの勘が戻っていないせいか、火力はそれほど高くない感触を受けた。 「なら、追撃だ」 煙にまみれた彼に一撃加えようと再度接近し…
肌で感じる、空気が変わった。 そよ風の様な、動きを感じた。 それは徐々に。 ざわめき、風吹き、轟き。
彼がいるであろう煙の中心から、急速な勢いで竜を巻いていく。
「うおっ!?」 足を掬う様な暴風、そのまま体ごと巻き込まれ。 はるか上空まで、錐もみ上昇。(HP83→81)
舞い上がりながら、状況分析。 渦を巻く風で上に飛ばされたこの状況で、このまま落ちれば、その地点は彼の居る座標で違いない。
そこへ到達する瞬間を、彼は狙っているのだろうか。
上昇が止まり、私の体は、一瞬空に制止する。 なら、この状況を逆手に取り、全力で叩きのめせばいい。
右足が輝き、結晶を構成。太ももまでを完全に覆うように脚甲を展開。 重力が機能し始め、地に落ち始める。
錐もみ回転を利用し、重力加速で落下し、脚甲に光を貯め、 「これで決着だ!」 落下地点へ、全滅全壊の蹴りの楔を打ち込んだ。
【晶脚甲・乱転輝蹴撃】4 [2D6] 2,2
たぬたぬねこねこ @itonaka_24m @Reizia_GC 渦巻く風を肌身に。 まだ視覚は戻っていないが、風さえ手の内に握ってしまえば聴覚視覚に頼る必要はない。 巻き上げた渦の上の上。空へ還る風ではなく、重さに伴い渦の目を滑り降りてくる風が一筋。 ざわり、背の邪紋がざわめく。何がくる。何をしてくる。 遠近どちらも戦える魔法師。むしろこっち側に近い気がしなくもない。 目をつぶってなお、強く輝く夜光は、夜闇を貫く満月よりも、なお強く、なお輝く。 一拍。笑った。
右の手のひらを握りしめる。 ただそれだけで、そそり立っていた暴風が一点拳に集いきった。 落ちてくる月を拳一つで押しとどめる。そんな無謀にこそ風は集い、風は奔る。 自由に、奔放に、無謀に、無尽に。突き抜けることこそ風の本義。 であるなら。ならばこそ。 「――ああ、そうだな」 この落月に、応えよう。
「これで終いだ――っ!」
光が炸け、風が轟き。 夜を蠢くものたちが身を隠す程の激突が、あった。 【HP】81→77
やがて静かになる空き地。 明確になった、勝者と敗者の姿。寝転がった少年は満足そうに、一息ついて。
「オレの負け。強いなあ、魔法師どのは」
何ら身構えることなく、それだけ口にした。
『キョウ』・レイジア@七廻同邪(真 @Reizia_GC @itonaka_24m 風の拳。光の蹴り。激突し、競り合い、拮抗し。 意地を押し通したのは、私だった。 「…はは、『今回は私が制した』だけだ。次はどうなるかわからない」 地を彼ごと粉砕するぐらいの勢いで。 能力が制限されている現状での、全てをかけた最大の一撃。 「だからこそ、だ」 右足の装甲は微塵に弾け、脚自体も傷だらけの腫れだらけ。 それでも、地を踏みしめ、仁王立ち。 「次は『私に勝って見せろ』。未来の私を、未来のお前が倒してみろ」
「次の勝者は、お前がなれ!」 勝者は、最後に立ってふてぶてしく笑う者だ。
たぬたぬねこねこ @itonaka_24m @Reizia_GC 「次、の約定はありがたいけどな」 まったく、豪胆な魔法師だ。四肢に力をこめて立ち上がり。 「オレの知らないトコで勝手にくたばってくれるなよ、魔法師どの。敵陣になんて守りに行っちゃやれねえからな」 正面から相対して。 「──再戦、約束だ」 獰猛に、わらう。
『キョウ』・レイ��ア@七廻同邪(真 @Reizia_GC @itonaka_24m 「ああ、もちろんだ」視線を受け取り、笑い返す。
…『廻り』が終わり次第、元の時間軸に帰るはずの『私』には、『彼』との再戦は望むべくもない。 だが、戻ったら、彼に『彼女』の話をしてみるのも悪くない。 その時が。 『未来の私と未来のキミ』の、再戦の時間だ。
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模擬戦もろもろ:タン戦
20160610-17
『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @siegismund149 同盟領の小さな町。 陸も海も大荒れだった戦も落ち着いて、日々がもとにもどりゆく中で。 青い髪の少年は、乗っていた幌馬車から降りるとひとつ伸びをした。 元の雇い主は割合快く退職を許してくれたし、その契約魔法師に至っては退職金までくれたものである。 (まあ、あれはあれでいい職場ではあったんだが) 自分が仕えるべき主を見つけてしまったのだから仕様がない。傭兵と雇い主の契約なんてそんなものだ。 文字通り飛んで帰ることも考えたが、さすがに同盟領の東の端から北の端まで動くのは疲れる。 どうせなら元気なまま、何か土産の一つも持って参じるのが臣として正しいとかなんとか軍師に言われた。 土産といっても土産話くらいしか持ち帰ることはできなさそうだが、こうしてちゃんと町で過ごすのも大事なことではある。 さて、この町では何があるか、ときょろきょろ視線をめぐらせて。
――邪紋使い(おなかま)の気配を感じ取った。
風の知らせに従って、そちらへ向かう。 見つけたのは二人組。無警戒にそちらに向かって、手を上げる。 「なあ、そこのお二人さん」 纏う荒事の空気。邪紋を隠して生きていこうとする隠棲の感はない。 「今ヒマあるか? この町来たばっかりでさ、長旅で体強張ってるもんだから動かしたいんだ。ちょっと付き合ってもらえないかと思ったんだが」 碧の瞳には好戦的な色。 「どうかな」 たずねる。
しいろ@銭湯つるかめinアントン領 @siegismund149 @itonaka_24m 大都市という程でもなく、かと言って閑散としている訳でもない、言うなれば程々に賑わった街を、ふらふらと歩く男二人。ガタイの良い方には消しきれぬ潮の香り。まだ年若い方には町に慣れぬ新参者の香りが色濃く。 かと言って、二人が町から浮いているわけでは無いはずだ。この町は色んな人間が集まる場所で、二人のように久々に陸に上がってきたような者など他にいくらでも居る。 ならば、その碧の瞳を捉えたのは、きっと、二人が最早空気の様に纏う、血を浴びてきた傭兵らしさ。→ 声をかけてきた小さな体に、先に目を向けたのは壮年の男の方だった。 「おめぇさん、体動かすってのぁ、これか?」拳を握って、虚空を殴って見せる。 そんな男の仕草を見ていない少年は、幼気な身長の少年に親近感を覚えたのか、呑気にへらりと笑いかけて見せる。
『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @siegismund149 「おう」 に、と笑みを濃くして応える。 「最近体動かしてなかったからさ、しっかり動かしておきたいんだ。ナマクラになるのは、よくない」 この身は剣となり盾となるを誓った者。そう名乗って日は浅いが、主の元に戻る前に錆び付いていたら話にならない。 「それになにより、アンタたちは面白そうだ。 もし嫌でなかったなら、一手あそんでもらえないか。アンタたちを見てみたいんだ、オレもありったけを届けるから」 見上げたまま、首を傾げる。 「どうかな」
しいろ@銭湯つるかめinアントン領 @siegismund149 @itonaka_24m 「……」自分より小さな少年が何を求めているのかを遅まきながらに察した丸い頭がはっとしたように年を重ねた顔を振り向く。その視線の先にある顔に浮かんだのは、とっておきを思いついた子供のような笑顔。 「いいぜ、楽しそうじゃあねえか」 「船長~?!」→ 船長と呼ばれた方は無言で相方の背を笑顔のままど突く。 「うわ?!」 「なぁに情けねえ声出してやがるタン、おめぇもあの戦戦いきったんだ、もうちょいしゃきっとしやがれ!」 涙目で背中をさする恨みがましい瞳を無視して、”船長”が少年に言う。→ 「……とは言え、二体一じゃあ不公平だよな。だからまずこいつと戦ってみねえか」 物足りなきゃ俺も後から相手するぜ、と笑う船長を見上げる視線は一層非難の色を濃くしているが意に介せずに、船長はタンの首をむんずと掴んだ。 「あんた、どっかいい場所知ってるか?」
『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @siegismund149 「あそんでくれるのか。ありがとな、助かるよにいさん」 背を押された少年を見上げ、笑って。くるり背を向け、見返り促す。 「町中に迷惑かけるわけにも行かないからな。馬車でここ来る時に街道傍で原っぱ見つけたんだ。そこで問題ないか?」 おっきいにいさんとあそぶのも楽しみにしてるからなー、と続けてから、そういえばと気づく。 「──名乗り遅れた。オレはフーガ。戦の中じゃ『風の牙』って呼ばれることが多かったかな。よろしく頼む」
しいろ@銭湯つるかめinアントン領 @siegismund149 @itonaka_24m 「おう、全く問題ない、のーぷろぶれむってやつだ」 タンを掴んでいるのと反対の手でぐ、と親指を立てて見せる船長。 「ああ、俺もちゃんと名乗ってなかったな。俺はガル、このひょろいのはタンだ。死なない程度によろしく頼むぜ」 ひょろくない、と小さな抗議は聞き流し、即席の闘技場へと、フーガという少年の後をガルとタンはついて行く。
町を出て、草原を歩くこと数分。もう近くに人の姿は見当たらない。もしもこれで誰か来たとしたら、ガルが止めるだろう。 草原を見渡したタンの感想は、船の時より踏み込みが弱くなりそうだが脚を取られる事はなさそうだという、至極シンプルな状況確認であった。 「ええっと、よろしくおねがいします」 二人が向き合い、ガルが十分に離れてから、目の前の青い髪の少年にぺこりと頭を下げて、 そのまま、突っ込んだ。 手に生まれたのは、やや小振りな突剣。それを、相手の肩口へめがけて真っすぐに、突き出した――が。 少年の眉が一瞬跳ねる。 草原にあって甲板にはない、長く伸びた草の根。それが、タンのつま先を小さく引っ掛け、土で甘くなった踏み込みと共に、不意を突くようなタイミングだったはずの一撃は裏腹に弱々しいものとなっていた。 不意の一撃など狙うものじゃないな、と眉根が中央へ寄り、シワを刻んだ。
5 [2D6] 1,4 (21:41:51)
『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @siegismund149 礼儀正しい挨拶からの、不意打ち。 (面白いあんちゃんだ) ここしばらく離れていたいくさばの空気。 視線、加速、構え。どれをとっても戦馴れしているとわかるのが、心地いい。 肩口へ突っ込む手を取ろうとするのを肩で弾かれ、体重をかけて押し込まれる。 体格差を利用して完全に押さえ込まれては抵抗が難しい。 とっさに身を沈めて、自分から後ろに倒れ込んだ。狙いを逸れ、肩を裂いていく刃。 躊躇なく、鋭い。強い。楽しい。わき上がる歓喜。 【HP】100→95
自分の体の上に覆い被さってくる邪紋使いと眼が合う。 強い相手には。こちらだって少しくらいはできるところを見せないと。 そうでなければ意味が無い。付き合ってもらっているのなら、相手を見せて貰う代わりに、自分のありったけを見せないと。 「……いくぜ、タンのあんちゃん」 獰猛な笑みを佩く。両手は衝撃吸収のため地についたまま。 ならば使えるのは。落ちてくる相手の腹に靴底を押し当て。 「せーのっ!」 足の力と腰のバネで、不完全ながら相手の体を蹴り投げる。
2 [2D6] 1,1 (21:49:49)
しいろ@銭湯つるかめinアントン領 @siegismund149 @itonaka_24m 「う、わ」 押さえ込んだつもりだったが、この動きかたでは後ろに引かれてはさして威力も出ないし、なるほど胴はがら空きだった。相手も不完全な体勢からの攻撃故に、威力が響く程ではないけれど、不意を突いたつもりが突き返されたような。 【HP】100→98
蹴りつける足から逃れて、地面に手を突く相手の横の地面へ、少年とは逆に腹を下にして左手を突いて。こちらの挙動を見逃すまいとする碧の目の真剣さに、ふと楽しさを煽られる。 船の上での殺し合いならこのまま右手に持った剣を相手の首筋へ振り抜いて居ただろう。そうはせずに、突いた左手と左脚を軸に右脚脹ら脛を相手の胸へ、彼の肺を押し潰さんとするように振り下ろす。
10 [2D6] 5,5 (18:14:59)
『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @siegismund149 じわりにじみ出る愉快げな空気。楽しんでもらえてるらしい。 (よかった) もちろんこっちも楽しい。もっともっと、見たい。見せてもらいたい。 足をすかされた。さあどう来る。何を打ってくる。見せてくれ。アンタを。 掌。違う、こちらじゃない。ぴくり動いた右手の刃。違う、これでもない。 反動をつける動き。なるほどなるほど、面白い。 背を地に着けては回避は不可能。防ごうにも状況が悪すぎた。ならば覚悟を決めるだけ。 目を逸らすことなく、その一撃を受け止める。 踏み抜かれる衝撃でみしぎし、と肉と骨とが軋む音を立てて胸のど真ん中に蹴りが叩き込まれた。 【HP】95→85
歯を食いしばる。衝撃が地面に反響して逃げ場がない。体中駆け巡っていく鈍痛と衝撃。 それでも。最初から、覚悟が決まっているのなら。 食いしばったまま、口の端から鉄錆を引いて。にぃ、と愉しく笑みが浮かぶ。
「こっちも、いくぜ」
蹴り足を叩き込んで次の動きができない相手の首後ろへと手を伸ばし、服に指をかけ握りしめ。 速さ勝負。これならまだ、自信がある。 相手が対応するより速く。下へ引き寄せ至近距離。狙い通りにノックバックまで決めて、額に額をかちあわせる。
【頭突き】10 [2D6] 5,5 (21:22:23)
しいろ@銭湯つるかめinアントン領 @siegismund149 @itonaka_24m 「だっ」 痛い、という言葉の後半が漏れ、些か不格好に悲鳴が上がる。首から抱え込まれ、腕力をフル活用して互いの頭をかち割らんとするばかりの、頭突き。くらくらする。 【HP】98→88
平衡感覚、視力、聴力、その他諸々を一時的に扱えなくなった脳みそに、唯一変わらずに伝わる感覚は、触覚。振り下ろしたままの位置の脚の近くにある相手の肩を掴んで、思いっきり相手の体をひっくり返す。一瞬無防備になるだろう脇腹辺りを、思い切り蹴りつける。 ここまでを半ば反射でしてから気づく。この相手に距離を与えるのは寧ろ不利だったかもしれないと。 5 [2D6] 3,2 (07:42:51)
風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @siegismund149 覚悟してたとしても、痛いものは痛い。くわんと揺れる頭の中、しかし口元には笑み。流れるように次の手がやってくる。行動に躊躇いがない。こういう相手は好ましい。 頭突きに平衡感覚を失いながらも相手の腕が動く。 頭への一撃が効いているのか先より力強くはないが、自分より大柄で力のあるアームズだ。十分すぎるほど脅威足りえる。 押し返すよりは相手の意図を読んで抵抗する方がいいと判断、視線と集中する意思を揺らぐ風から読み取る――狙いは腹。即断即決。 腕を交差、蹴りを防ぎながらも、威力に吹き飛んで石畳を転がる。
【HP】85→80
腕がしびれた。さすがにアームズだ。身一つで戦う技術において、エーテルでは遠く及ぶまい。感服する。 (あぁ、面白い) は、と息を漏らす。 「楽しいな、あんちゃん」 相手だけを見据え、立ち上がる。あんなにすごいものを見せてもらったのなら。 自分もまた、今もつ届く限りを届けなければ。 深く、深く、息をつき。右手を前へ。呼びかける。 ざわりさわり、流れ集いて生れるは風の球。数は六つ。指先一つ、目の前の相手へ、不可視の球が雪崩れこみ。 ――そんなものでどうにかなる相手ではあるまい。 相手の対応を見逃さず。生じる隙を余すことなく。 全力で駆け抜け距離を生め間合いを踏み抜き右の肘を隙にねじりこむ――!
【くらまし頂肘】 7 [3D6] 3,1,3 (10:36:26)
しいろ@銭湯つるかめinアントン領 @siegismund149 @itonaka_24m 悪い予感が的中する。立ち上がった側から、風を操る邪紋のの力が、視認できない弾を生むのを、肌で感じる。後方へ踏み込み、威力を逃がすも流石に殺しきれずに風圧で煽られる。体のバランスが崩れる。 【HP】88→81 風の弾が着弾する直前、相手が何かを呟いたのが見えた。正直、風で良く聞こえなかったけれど。上がった口角、キラキラ輝く瞳を見れば、言葉など聞こえずとも相手が楽しんでいるのは分かる。 体勢を崩した瞬間を見逃さず、バランスを取るために上がった腕の下から、鳩尾を抉るように肘が差し込まれて来る。肘を受け止めるように右に握ったままの刃を体との間に差し込むけれど、衝撃はまともに肋骨へと響く。 走る衝撃に顔を顰めつつ、相手に釣られるように口は下向きに弧を描く。ああ、なんだかんだと言っても体を動かすのを楽しんでしまうのは自分の性か。たたらを踏みかけた脚で、突っ込んでくる肘打ちと同じ程度の速度を自身に付けて、相手の上腕を取って逆に引き寄せる。 自分より小さな相手の脇へ肩を滑りこませ、相手の体を自分の背中へと一瞬乗せるような回転運動。 そのまま、地面へとその体を放り投げた。 9 [3D6] 2,4,3 (20:16:04)
『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @siegismund149 防いだ。さすが。反応反射音速光速。あそこまで崩れておいて崩れきらないのだから凄まじい。 力の流れも体の動かし方も、一人一人違うものの最適化のなされた、人理を極めた邪紋使い。 手足の先が伸びたように、否それ以上に武器を扱ってみせるのがアームズだ。 防いでも衝撃は通る。ついでにここは無手の間合いだ、自分にも戦える場所はある。さあどうする、この距離で、アンタは何を見せてくれるんだ。 刃を握っていない方の手で、腕を掴まれた。体に乗った勢いを利用するように肩が、背中が押し当てられ。 ぐんと体が持ち上げられ、腕を引くまま地面へ放り出される。 足からは降りられない。手を付ける体勢でもない。ならせめて。 首、頭、背中だけは守るために、左肩から地に落ちる。自分の勢い、相手の化勁、総てが肩にかかった。 【HP】80→71
筋。骨。神経。絶え間なく走る痺れと痛みをアドレナリンで蓋をする。 折れたとまではいかないだろうが、このあそびの最中は使い物になりそうにない。 もっとも、一撃で意識を奪われることを考えればよほどマシ。まだ動けるんだから僥倖だ。 ついでに、状況は悪いことばかりでもない。投げはほとんどの場合体全体を使った攻撃行動、化勁まで加わったとあればすぐさま次の行動に移れる程隙がないわけじゃない。ならば今こそ絶好機。 右手を地に突き軸とする。 崩れる体を軸を中心に捻って回して足払い。 鋭く刈り取る鎌のごとくに振り回し、姿勢を崩させ足を踏み。 すぱん、と軽い身を利用し今度は縦に跳ね上がる。相手の頭より高くまで跳ねた身をぐるり前宙、空に躍らせ── 「まだまだァ!」 脳天目がけて踵を叩き落とす。
【連弾:薙空牙】9 [2D6] 3,6 (20:50:28)
しいろ@銭湯つるかめinアントン領 @siegismund149 @itonaka_24m 放った手応えはあった、と思った。恐らく間違いでは無い筈だ。ただ、左手を使わずにその他全てを余すことなく使った相手の攻撃が、タンの発想力を越えていただけ。 投げた後、全体重のかかった脚を払われて、そのまま踏みつけられて。 ガクン、と踏まれた脚に引っ張られるように辛うじて倒れこそしないものの上体は隙だらけの前傾姿勢。マズい、と体を起こそうとした瞬間、 衝撃。 頸椎をずらさんばかりの踵落としが脳天に。 【HP】81→72
一瞬断絶した意識が復活した時にはもう足元の草の葉が目を突かんばかりの距離に迫っていた。慌てて目を閉じ、まだ脳が揺れているような気さえする頭に自重による追加ダメージを与えるまいとギリギリで肘を地面に突き立てた。そのままの体勢で、一呼吸、荒い息を整え。
一呼吸、相手に背を向けたまま?
弾かれたように体を翻す。そのまま相手の体の位置も見ずに蹴上げて、右手の中で意識の断絶と共に消えかかっていた剣を投げるような動作をして。 剣は投げない。 その手と脚とで体に反動を付けて一気に立ち上がり、そのままふらつくままでは満足な威力になってはいないだろう膝蹴りを、今度は位置を確認して放りにいった。 7 [2D6] 1,6 (15:35:16)
『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @siegismund149 直撃、通った。さすがに効いたか、ぐらり傾ぐ体。しかしそれでもなお、手を突き体を跳ね上げる姿が。鮮やかで。 (すげえ、な) 正直に感嘆の吐息を漏らした。 あれだけまともに食らってなお、弾ける様に体を翻す。 ろくに見もせずの蹴り、ガード。しかしそれでは止まるまい。 次いで右手が跳ね上がる。剣を振るうわけじゃないだろう、この距離で振りかぶっても当たらないなんてのはわかってるはずだ。 蹴りと腕の反動で身そのものを起こす相手。 相対、対峙。こちらは地に足を着こうかという寸前。向こうにとっての最好機。 ――おそらく、これが最後と実感する。満身創痍。これで距離を離されれば次なんてありはしない。 足は着地の直後。左肩から先は力も入らなければろくに動かない。 ならばこそ。なればこそ。 まだこの身には、届け切れるものが残っている証左に相違ない――!
膝が跳ね上がるのが見えた。構わない。腰を捻る。回避なんてぬるさも小賢しさもは頭から叩きだせ。チャンスは一度、この瞬間。 逃れられない蹴りの軌道の前に一歩、自ら踏み込む。地を踏みしめて均すがごとくの震脚を打ち抜き。 膝が腹に突き立つと同時に右掌底をその鳩尾へ押し当てさらにその先はらわたの中へ、纏掌にて振動を叩きこむ――!
【HP】71→64
【カウンター浸透勁】7 [2D6] 3,4 (17:02:10)
――静止、一瞬。 青い髪の少年は、はは、と笑って。
「つよ、いなぁ……あんちゃん、は」
がくり、その場に膝をつき、勝者を見上げると。 「アンタの、勝ちだ」 笑った。
しいろ@銭湯つるかめinアントン領 @siegismund149 @itonaka_24m ふらふらの頭で放った膝蹴は、当然のように隙だらけだったろう。それを避けようと思えば避けることもできたはずの相手は、けれど楽しげな笑みを楽しげなままに、それを受け止めて、反撃をくれた。喰らった掌底はその衝撃でこちらの口から血を滴らすに十分で。 けれど、まだ──そう思った瞬間に、相手が、言う。 自分の勝ちだと。そしてそのまま少年は倒れて。 ほんの一瞬長く、立ったまま踏みとどまれたかどうかの差だったろうに、とタンは思いながら、続くように少年の横に大の字になって転がった。 【HP】72→65
戦ってる最中、何度か、少年が口に出しても言い、雰囲気で如実に伝えてくれた言葉を、今、同じ高さ同じ目線から、返そう。 「僕も、楽しかった。ありがとう」
『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @siegismund149 「そっか」 楽しんでもらえたか。 「よかった」 至らぬ身なれど。立ち合ってくれる相手に少しでも届くものがあったなら幸いだ。 「また機会があったらあそんでくれれば幸いだ。まだそっちのにいさんとはあそんでもらってないしな」 寝転んだまま視線を向ける。
しいろ@銭湯つるかめinアントン領 @siegismund149 @itonaka_24m 「こっちこそ。……久々に命の取り合いの関係ない『喧嘩』したら楽しかった」 自分より若く幼いだろう相手に、随分教えられた気がしている。 たは、と緩く笑って。 二人の競り合いが終わったのを見て近寄ってきていた船長に手を振る。 「おう、なんだ」 「いつか船長ともやりたいってさ」 船長がにっ、と応える。 「おう。今すぐはそちらさんがぼろぼろだから無理だろうが、そのうち縁があったら今度は俺の相手もしてもらおう。若さに押し負けそうだな」 豪快に笑って、船長は少年に手を延べる。 「起きるか?」
『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @siegismund149 「だい、じょぶだ」 自分の足で立ち上がる。この程度一晩も眠れば元通り。そういう因果な体をしているが、こうやってたくさんのものを受け止められるのは、嬉しい。 それから見上げて、右手でしっかり延べられた手を掴む。 「おう、その時はまたよろしく頼む。あんちゃんも、またな」 次の約束を屈託なく。少年は笑ってそう告げた。
*** 『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @siegismund149 だ、だいじょうぶですし! ワン公など小物中の小物、そこらへんの野良犬の方が生存競争してますし!
しいろ@銭湯つるかめinアントン領 @siegismund149 @itonaka_24m (疑惑の目線) 一手の攻撃に何ツイート位……?
『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @siegismund149 一回の攻撃だと多くて2ツイートくらいですよー。
しいろ@銭湯つるかめinアントン領 @siegismund149 @itonaka_24m あ、良かった私もそれくらいならやったことありました(謎の安堵 同盟の皆さんのほんと熱量密度が凄いなぁってフォローし始めた当時からずっと思ってたので
『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @siegismund149 ですよねー。ワン公はだいぶ薄いやつなので、よかったらあそんでやってくだされですよー。
しいろ@銭湯つるかめinアントン領 @siegismund149 @itonaka_24m なるほどーー……ところでワン公ってどのお方ですじゃろかヴェントちゃんじゃないですよな多分??(一番模擬戦向きかなと思うガルタンを脳内に呼び出しつつ
『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @siegismund149 あ、はい。 フーガといいまして、風のエーテル、邪紋使いをやっておりまする。 恨みっこなしであそんでくれる方ならどの陣営・クラスの方でも遊んでいただけますですよー。 アカウントは今はこっちが大戦用みたいなところがありますんでこちらですかね。
しいろ@銭湯つるかめinアントン領 @siegismund149 @itonaka_24m フーガくん。そういえば名前お見かけしたことがある気がしてきました!恨みっこなしならますます向いてるのはガルタンですなぁー。 ホントにやります?もし置きリプでよかったらやってみたいです、久しぶりの模擬戦…!
『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @siegismund149 ほいほい、じゃあそんな感じで参りましょうか-。 ガルタンさんはどっちであそばれます? むしろふたりがかりです?
しいろ@銭湯つるかめinアントン領 @siegismund149 @itonaka_24m ありがとうございます……!(拝む そうですねー��楽しく遊ぶスタイルの戦いの範囲ならタンが頑張るのをガルが横で干物でも齧りながら眺めてる方が似合うかなーって思いますねぇ。フーガくんの戦闘力が遊び程度の範囲で終わるのかが些か不安ではありますが(
『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @siegismund149 ただのワン公のじゃれつきですから! ちなみにタンどのはあそぶスタイルどんな感じでしたっけ。
しいろ@銭湯つるかめinアントン領 @siegismund149 @itonaka_24m ならだいじょうぶだといいなぁ!w タンは邪紋で剣作るアームズなのです!サブスタイルはないですん。
『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @siegismund149 はーい! そんでは150未満のちびすけがあそびにあがりまーす。
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模擬戦もろもろ:ブリード戦
20160610-13
『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @goldius_m 大いくさも最終盤。趨勢もまだ見えぬまま、今日も戦は続いているし、明日も続いていくだろう。 安全地帯もなくなって久しい。体力温存は大事だと、雇っている軍師などは言うのだろうが。 「……体動かさないと鈍るんだよなあ、まったく」 戦場らしい戦場に出られなかった日は、その分だけ体が錆び付いた気がする。 こんな日には誰かにあそんでもらいでもすれば安心できるのだが。 同盟領内の陣幕そばの町の中。どこかにあそびを受けてくれそうな者はいないものか、と視線を巡らせて。 ――視界に、鮮やかな青が揺れた。 直感。確信。てってと走ってそちらに向かい、そばに控える青年すらスルーして見上げ、声をかける。 「なあなあ、君主どの」 頭二つほど背の高い女君主。同盟君主の凄みは肌身に感じて知っている。 きっとこの人も、面白いものを見せてくれるだろう。 「今ヒマあるか?」 首を傾げて尋ねる。
ブリード@七廻同盟君主 @goldius_m @itonaka_24m 「俺様ちゃんかぁ? おぉ、ナンパか?」 買い物に出てみれば、急に小さな彼に声をかけられた。隣のプルガトリウムがムッと眉を寄せて咄嗟に噛みつく。 「女王はお忙しいので」 「まあまあ、んなこと言ってやるな、プルガトリウム」 ひょいとしゃがんで彼に目線を合わせた。 「暇だし、買い物の手伝いぐらいはできるぜ? 何してぇんだ?」 そういう目的ではないのなら、プルガトリウムがブチ切れそうだな、とも思う。
『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @goldius_m 「難破?」 くりん、首を傾げた。船に乗ったことはないのだが。何か違う意味でもあるんだろうか。生憎符丁には詳しくない。 「んー……? まあいいや、君主どのにひとつ頼みがあってきたんだ」 まっすぐ、眼を見据える。 「アンタ、強いよな」 滲む空気。纏う風。はじめて見る青い風は、何よりも雄弁にそのつよさを語っている。 「アンタの纏う風が一際鮮やかだった。是非とも一手、あそんでもらいたい」 もちろん無理にとは言わないけど、と言い添えて。 「どうかな」 期待と昂揚の混じる声音で問うた。
ブリード@七廻同盟君主 @goldius_m @itonaka_24m 「そういうことか。もち。俺様ちゃん強い。超強いよ。俺様ちゃんは許可しよう」 うんうん、と頷いて、プルガトリウムの背中をバシンと叩いた。 「だがこいつが許すかな?」 「あまり女王が傷つくのは容認できないですけど……」 ちら、と彼を見る。 「そもそも貴方は……? 女王を殺しに来たとかじゃないんですか?」 「やめなされやめなされ。嫉妬は見苦しいぞ。たぶん純粋に遊びに来てくれたんだと思う。なぁ?」
『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @goldius_m 「──挨拶が遅れた。この身は同盟領東方ファルドリアの傭兵、フーガ。礼儀作法の類いは仕込まれてないから、不調法不作法は目を瞑ってもらえると助かる、君主どの」 一礼。慣れてないのは見ればわかるだろうが、こちらの願いを聞いてもらいに来た以上筋は通すべきだ。 護衛らしい邪紋使いに向き直り、率直に心の内を告げる。 「悪い。アンタの主を見てから、どうしてもこの人の全部を見せてほしくてたまらなくなった。そのくらい鮮やかな人だ。あんちゃんの主、すげえな」
ブリード@七廻同盟君主 @goldius_m @itonaka_24m 「……当たり前です。私の女王は、強くて、優しくて、その上、男性からも女性からも好か��るし……完璧な方です。そう褒められると……許可を出すほかないでしょう」 「イエーーーイ!!」 ジャンプ。フーガの手を掴みぶんぶんと上下に振る。 「俺様ちゃんはフランチェスカ所属ブリード・フランチェスカ!! よろしく頼んますぜフーガ君っ!!」
『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @goldius_m 「ほんとか」 うまくできない下手な笑みを浮かべて。 「よろしく頼む、ブリード姐(あね)さん」 緑の眼を好戦的に歪め。 「アンタの全部をみせてくれ」 オレの全部を届けるから。心中でそう誓った。 人払いされたような石畳の路地で、距離を置いて対峙。 風に揺れる青色が綺麗だ、と思う。空色でなく、まだ見たことのない果ての海を想起させる青。 一拍。 さて、それじゃあ── 「はじめようか」 発走。一歩ごとに加速し、距離を埋める。リーチは当然相手が上。 届けにいくためには防御をかわすか虚を抜くか。 何はなくともひとつめだ。自分にできる最良を。 間合いに踏みいるその寸前、すぱんと跳ねる。迎撃に動く体と、纏う風を読みこんで。 ぐるり体を捻りひねって、蹴り下ろし──をすかして勢いに転化。 遠心力を乗せに乗せ、組んだ両手を頭目がけて撃ち落とす──!
【旋霆】13 [3D6] 6,1,6 (02:02:27)
ブリード@七廻同盟君主 @goldius_m @itonaka_24m 直撃すれば気絶は免れない。人間の急所は脳天だ。咄嗟に頭の上で腕をクロスさせ、初撃を受けた。勿論、性別も違うのならば、力も桁違い。彼が邪紋使いであるならなおさらの事。 腕が痺れ、舌打ちした。指先まで痺れが来ていて、これでは弓を持てない。ならば、と、彼が地に降り立つ瞬間に、反撃。身長差はこちらの方が上。 「喰らいなァッ!!」 男ならば関係ない。顔面に横合いから回し蹴りを放つ。 【HP】100→87 【容赦不要の顔面アタック】8 [3D6] 2,3,3
『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @goldius_m ガード。いい判断だ。おまけに動きも早いときた。 (楽しみだ) 着地の寸前、足が跳ね上がるのが見えた。この距離で足ぶん回してくるか、白兵戦が得意ってわけでもないだろうけれど、この君主もまた面白いヤツだ。 狙いは頭。蹴りぬきやすいからか意趣返しか。 回避には体勢が悪い。受けようにも先に同じ。 となればあとは覚悟を決めるしかない。左腕を盾に、受け止める。軋み。重さ。細い体からは考えづらい威力。折れこそしなかったが、筋がイカれたか。痛みをかみ殺す。 早い。鋭い。強い――面白い。 【HP】100→92
とんでもない威力の蹴りの勢いを、利用しない手はない。 横に弾かれようとする体を足捌きでぐるり捻り、回転運動に転化。 蹴りは足払いくらいしか届くまいし、見下ろす形の相手の虚をつくことはかなうまい。 ならば。蹴りで生まれる死角にもぐりこみ、背を押し込んで、動かない左腕ごと肩を肋の位置に押しあて。 踏み込み、地を踏みぬく。 ぶつける時の踏み込みではなく、いっそ優しいほどに体をはりつけてからの震脚。
「っせぃっ!」
故に、その名は――
【貼山靠】11 [5D6] 2,2,2,2,3
ブリード@七廻同盟君主 @goldius_m @itonaka_24m 「いっ……でぇっ!」 小柄な体から発されたとは思えない威力にぶっ飛ぶ。地にみっともなく転がってから、やはり衣装は見直すべきだなと考えた。見えるわこれ。俺様ちゃんとしては別にいいんだけど今回ばかりは相手の教育に悪いわ。 げほげほと咳き込み、ちょうど相手と離れた距離になった事に気づき、にやりと笑う。 「俺様ちゃんの風がどうとか言ってたな」 弓『のみ』を取り出す。何も番えていないそれを引き絞り、右足を前に踏み込んで、放った。 げほげほと咳き込み、ちょうど相手と離れた距離になった事に気づき、にやりと笑う。 「俺様ちゃんの風がどうとか言ってたな」 弓『のみ』を取り出す。何も番えていないそれを引き絞り、右足を前に踏み込んで、放った。
『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m 6月12日 @goldius_m 距離が離れた。弓を取り出すところを見て、追撃に走る足を止める。 あんなとんでもない蹴りを放っておいて、この君主はどうやら弓使いであるらしい。 (おかしくないか。距離を取るなら足は鍛えないとだもんな) そんなことを考えながら挙動を見据える。 万全に動けるように、重心を低く。どんな技を見せてくれるのか。 番える矢はなく、弓弦を引いて絞る手。何が来るかと目を輝かせていると。
――ざわり、風がざわめいた。
(――?) どういう理屈かは知らない。どういう君主かも、どういう人生を歩んできたのかも知らない。 けれどされど。風が青に集い行くのが見えて。青の声に応えているのが視えて。 あぁ、と一つ吐息を漏らす。 なるほどそうかこの君主は。風を従えるもの、風の女帝。 集いゆくのは、女王の下に馳せ参じる迅る風。 「――面白ぇ」 ぱぁん。 弓弦のはじける音。視えて感じる女王に熱狂する風たち。
その前に、右手をかざす。 『あそぼう』。呼びかければ集う躍る風。女王の軍勢に対し集うのは、野良の呼びかけに応じる自由な風だ。 束ね渦巻き紡ぎあげるは投槍の如き風の渦。に、と口元に笑み。大きく振りかぶり――
「――らぁっ!」
鏃に向けて矛先を穿つ。 鋭い風の先端同士は削りあい砕けあい混ざりあっては荒れ狂い。 ごう、と吹き抜ける風が一陣。 はじけた細かな風の刃で、幾重にも赤を滴らせて。 ぺろり、唇の血をぬぐい上げ。 「……まだだろ?」
心底愉快げに。心底獰猛に。 碧のまなこがふたつ。ぎらりとぬれる。 「もっとすごいの、できるんだろ?」 見たくなった。もっともっと、見たくなった。 この風の女帝が使う風を。声に集う風を。情熱に満ちた力強く重厚な風の群れを。
只一陣の、いくさの風として。 どうしても、青風の女帝の風を見たくなって
「見せてくれよ、アンタのその――熱を」
希った。
【旋槍・相殺】11 [3D6] 1,6,4 (13:59:53) 【HP】92-(14-11)→89
ブリード@七廻同盟君主 @goldius_m @itonaka_24m 相殺される風の矢。殊勝に笑う、風の子供。 「――――はっ」 この子はなんて面白いんだろう。この子はなんて強いんだろう。恐らくどこかの領の所属だ。彼には主君もいる。きっと、決定した運命。けれど。
あたしのものにしたくなった。
この風が戯れる子を、あたしの友達にする。弟子なんていらないし、従者はプルガトリウム1人で十分。そもそも彼氏とかは興味ない。だったら残された席はただ一つ、あたしの友人だ。 「いいぜェ! ぶち込んでやるよ、とっておきのモンをなぁ! 覚悟しやがれ!」 バックステップ。木の幹を蹴り、跳躍、隣の幹を蹴り、跳躍、蹴り、跳躍。背中の聖印を発動させ、爆発的な火力を伴った脚力で宙に飛ぶ。ボウガンを3発撃ち、矢は3から6、6から12、12から24。とんで96。指を銃の形にして、フーガに向け、撃つ真似と同時に合図。 「すっげェもん身体に叩きこんでやるよ! ぶっ倒れなァ!!」 一斉に矢が向かう。避けるルート、蹴散らすルートを算出し、今度は矢すら持たない、ポーズのみで矢を構える。 ――こっちが本命だよ! 「我が名はブリード・フランチェスカ! 風従えし、『四矢の魔女』だ!」 手を開く。速度と威力、さきほどとは段違いの矢を真っ直ぐフーガに放った。それで聖印の力を一時的に使い果たし、自分も背中から落ちる結果となるのだったが。
【四矢の魔女≪ガーンデーヴァ・プリーステス≫】21 [5D6] 3,6,3,6,3
『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @goldius_m ねがいに、応え。気持ちのいい君主どのだ。 (うれしい、な) さあ���が来る。何をしてくる。余すことなく、見せてくれ。
青が弾けて、空に踊る。エーテルでなくとも。空征く乗騎を持たずとも。ひとは、そらを、とぶのだと。 まったく、君主ってのはどいつもこいつもめちゃくちゃだ。 枝分かれし、一つ一つの鏃をこちらに向ける女帝麾下の風の 軍勢(むれ)。その数は数える気すら起きない。楽しい。愉しい。熱が、鼓動が、律動が。群を通して伝わってくる。 号声。軍勢は滝の如く。
──しかし、その総てを。みどりの眼は捉えきる。
風は輩、風は朋。誰よりも、何よりも。その目は音を風をこそ、見据えるための空悟の瞳。 故に。 「いいぜ」 この舞台でこそ、おどろうか。 頭の上に振り切る鏃を跳ねてひねってすり抜ける。 のどくびを裂かんとする渦の壁に風纏う掌で触れて身をそらす。 手足に食いつかんと刃の先駆けの風に身を任せ、木の葉のように流される。 腹を貫かんとうねり猛る穂先の先へ先んじ一歩。その場で側宙、脚の間を通す。 踊るなんて高尚な真似は向かないが。風のひとすじとして、この身を躍らせることくらいはできる。 見たいとせがんだせっかくのとっておきなのだ。せめてこの程度でも。対価として支払えるのなら。 さあ。さあ。何が来る。何を見せてくれる。 空の女帝が笑みを濃くする。 堂々たる女帝の名乗り。 ごうごう、風が渦巻く。そうではないと理解できるのに、彼女の放つ矢が空の風の総てを従えたように錯覚してしまうのは──己もまた、一陣の風として。女帝の号に魅力を感じているからだろう。 解き放たれる一矢の会を、心の底から待ち望んで。
背中に光翼の如く煌めいていた聖印の輝きが、失せるのを見た。
「ぁ」 あってはならない。 あれほどに。熱を込めて光を放つ、正しく風を従える者が。 『空から墜ちる』なんてことを。
ただ一陣の風として、認めていいはずがない──!
拳を握る。風が渦巻く。彼女が放った三桁に届こうかという地を埋め尽くす風の鏃の群れ総てをその手に束ねた。 おまえらは皆、かの女帝の 号(こえ)に集ったものだろう。できないなんて言わせない。関係ないと言わせない。なら今この時、本義を投げ捨てオレに手を貸せ。 ごうごう渦巻く爆風を右の拳に集中収束収斂固定待機。 そのまま風を蹴り空へ己の身を打ち出す。空を蹴り、風を跳ね、加速。加速。加速。 狙うは一つ。女帝が生み出した空を束ねた一矢へ。人相手ならまず当たらないノックバックと射出の勢いすらも拳一つに乗せきって。 「じゃ」 更に、一歩。空を踏み抜く。 「ま」 ぐぐ、半拍。溜を作り。 「だ」 撃発。
「失せろぉぉぉぉぉ─────ッ!!!」
爆音が空を叩く。 穿ち貫く天空の矢。圧して打ち抜く風の牙。真っ向からの激突は、二瞬きほどの拮抗の後に砕けて爆ぜた。 途端生まれる暴力的な乱気流。 辺り一帯総てを打ちのめす暴風の中、激突の爆心地にいたせいで疲労に失血、衝撃に打ちのめされた少年はしかし、碧のまなこに強いちからを宿したまま。聖印もなしに墜ちていく君主に風を蹴って追いつき、頭を守るように抱き寄せ、風を呼ぶ。 暴圧の中、風を掴んでなんとか軟着陸。自分は背中から落ちたが、この矮躯だ。衝撃が通っているかもしれない。 「大事ない、か。ブリード姐さん」 情けない声で、腕の中の青に無事を問う。 【HP】89→68
ブリード@七廻同盟君主 @goldius_m @itonaka_24m 落ちる中、風をまとめる少年が見えた。あの子は本当にすごいな。あれだけの風を、自分のものにすることができる。抱き留められて、地に直接叩きつけられる衝撃は免れる。慌てて身を起こした。 「大事ねえか、はこっちのセリフだぜ! 大丈夫か!?」 幸い、こちら大きな負傷がない。フーガに比べれば、かすり傷程度。彼は失血もひどい。よいしょ、と彼から退いて抱き上げる。 「いやぁ、俺様ちゃんとしたことがつい熱くなり過ぎちまった……」 「楽しかったぜ、フーガ。また遊ぼう。今は次遊ぶために手当てしねえとなぁ」 にひひ、と満面の笑みを浮かべて見せた。
『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @goldius_m ひょい、と持ち上げられて、無事を確認する。安堵の息。 「いや、いいもの見せてもらった。すげえなあ、ブリード姐さんは」 翼なくとも空を飛び、風を情熱で傅かせる君主。 そんなとんでもない奴を、またひとり。忘れぬように、欠けぬように。魂に、自分の内に刻んだ。 「楽しかった。気が向いたらまたあそんでくれ」 自分の足で立ち上がる。 「こんなの寝とけば治る。あんまり汚すと、ずっとアンタのこと心配そうに見てた護衛役どのに怒られそうだ」 視線を向けひらひら手を振った。 「なんかあったら声かけてくれ。手、貸しに行くよ」 「オレでいいなら、呼んでくれれば。風の限りに届くから。掴むから」 「どこへだって、参じるよ」
*** ブリード@七廻同盟君主 @goldius_m キレイダナー
ブリード@七廻同盟君主 @goldius_m 僕はまちがえて最後のロール消したマン 写真記憶EXがあってよかったぜ(ががががが)
ブリード@七廻同盟君主 @goldius_m @itonaka_24m あそこで終わっておくのが、綺麗かな、って思いました……!!
『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @goldius_m あはははは。僕もそんな気がします。 もし気が向いたら、ループ抜けた後もかまってやってくれると嬉しいです。
お付き合いありがとうございました!
ブリード@七廻同盟君主 @goldius_m @itonaka_24m すんっげー悩んでました……(笑)はい!いきてかえります!! こちらこそありがとうございました!
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模擬戦もろもろ:ヒヤエナ戦
20160527-0530
『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @aimasyou 戦火もついに色濃く、死に急ぐ戦場の末期になりつつある。 後方に待機させられる事はなくなった。余裕がなくなったせいか、あるいは安全圏そのものがなくなったのか。 どちらにせよ己の日常が変わることは無い。ただ戦場に出て、強い敵を殺し、名をあげる。それだけだ。 とはいえど。実際には、手当てをしてくれる先ができたわけで。食事にも回復にもありつける、ありがたい状況が現状なのだった。 自分が心から何かに仕えたいなんて気持ちになるとは、始まった頃には頭の片隅にすらなかったので、不思議なこともあるものだと思う。 「ま、あんまり甘えてばっかもいられねえよな」 ありがたくはあるが、この戦場で一つでも多くの敵を屠り、一つでも名を積み上げる。やることは変わりはしない。 今日は大した戦場にはいっていないので、体を動かしたくもあって。ぐるり、視線を見渡した。 聖印、邪紋、魔杖。戦場近いこともあって戦意に満ちた者も多い。さて、誰に声をかけようか―― 「……ん?」 ふと、違う空気を感じ取った。 闘気や戦意とは違い、悲壮感や倦厭の空気とも違う。この末期の戦場において、未来を見据え『違うもの』を得ようとする風がある。 違和感の正体こそわからないが、他と違うというのはそれだけで魅力的だ。自分にないものを確実に見せてくれる確信がある。 ダメでもともと。風に混じる気配を追い、その眼前に出る。見たこともない鎧を纏う君主の姿。きっと、特殊な闘い方ゆえのものだろう。面白そうだ。 「なあ、君主どの」 期待をこめて、声をかける。 「この宿場にいるってことは同盟領の君主どのだろう。実は今日の戦場が物足りなくて持て余しててさ」 笑って、誘う。 「よければ、一手あそんじゃもらえないか」
合間生/ヒヤエナ七廻GC @aimasyou @itonaka_24m 。 不意の声に警戒心がよぎる。 「この頃」の自分は、君主間での評判が芳しくない。 自己保身と自領の利益のため、不正に賄賂に寝技と何でもしていたから、当然ではあるが。 面倒を避けて同盟の陣幕から離れていたが、刺客でも送られて来たか。 が。振り向いた先の青年に、剣呑さや悪意は感じられない。 奇妙な誘い、状況を考えれば断るべきだろうが- 「…わたし如きを倒しても、誇れる功にもなりませんよ… お伺いしますが、何故わたしを?」 同盟君主と知って挑んで来る相手。 当然、連合か条約だろう。 この街は同盟の勢力下にあるが、当然、民間人も多い。 力を持て余しているという相手を無碍に扱えば、好ましくない結果を招くやも知れぬ。 何より。 現在密かに起こっている混沌災害。 その仕掛人からの刺客、という可能性もある。 相手が何者かは、知っておかねば。
『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @aimasyou 纏う空気が剣呑に変わる。 ……そういえば、誘うにしても名乗りもしていなかった、さすがに失態すぎる。 「──失礼した。 お初にお目にかかる、ロードどの。この身は同盟領ファルドリアに身を置く一介の傭兵。名をフーガという」 深く、礼。 「何分碌な教えを受けて育ってない。無礼は容赦願えれば幸いだ」 それから相手の顔を見上げた。 「──立ち合いはこの身にとっては重要な事だ。功が欲しいのは確かだが、同勢力の君主どのを襲う理由はこの身にはない。 望む理由は唯一つ。君主どのが面白そうだからだ」 「知己の同盟君主はバケモノじみた奴ばっかりだ。アンタからも面白そうな風を感じてる。だから、あそんでもらいたい。それだけだよ」 固い物言いは長く続かない。苦笑いで続けた。 「無論無理にとは言わないがもしアンタが少しでも気乗りしたなら、付き合ってくれると嬉しい」
合間生/ヒヤエナ七廻GC @aimasyou @itonaka_24m 同盟の国の名に、眼鏡がずれる。 親しい付き合いは無いが、険悪の要素も無い。 飄々とした物言いに、嘘や謀略の響きは無い。 どうも神経質になっていたか- 「フーガさん、ですか。 綺羅星の如き同盟諸侯と比較されては、気後れしてしまいますが…」 「同盟領クロクター領主、ヒヤエナと申します。 わたしで宜しければ、お相手させて頂きますよ?」 此処で本格的な戦闘に加わって、未だ日が浅い。 鎧は体に馴染み、戦術も自分に合っているが、完成とは言えない。 命の危険を考えずに戦える機会は、貴重と言える。 背嚢を宿に預け、びきにあぁまぁの留め具を締め直す。 「南門を出た所に、軍がキャンプを張れるほどの平原があります。 門の内側の通りも、今は露天市も終わっていますから、人は殆ど居ないでしょう。 どちらに行きますか?」
『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @aimasyou 「ありがたい」 申し出に、礼を返す。 戦場の提案をされてしばし悩み。どちらも自分に不利なフィールドではない。ならば。 「そうだな、君主どのが全力出せる場所がいい、けど。どっちが好みだ?」
合間生/ヒヤエナ七廻GC@aimasyou @itonaka_24m 好み、と言われると。 本来の自分は兵を動かし、己以外の力も総合的に使うルーラー。 しかし今は。 「…では、予測の付かぬ乱戦により近い、門の内側で如何でしょう」 事実、停戦直前の戦場は、三軍相打つ泥沼のようだった。 お互い、この後も戦場に向かうのだ。 味方の屍を潜り、矢の雨の中を走る事になる。 障害物や、予測不能な通行人を気にしつつ闘う方が、得られるものも有るだろう。 黄昏時、露天は殆ど片付けられ、人の姿もまばら。 夕日の残照が、街を暗い赤に染めていた。 「宜しくお願いしますね、フーガさん」
『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @aimasyou 「よろしく頼む、君主どの」 街中であそぶのは、実はこれがはじめてだ。邪紋使いといえば白い目で見られるもの、長く街中に留まること自体少ないが、君主がいるならおおめに見てもらえるだろう。 しかし市井を巻き込んであそぶ提案とは、実に面白い君主だ。 「楽しくあそぼうぜ」 これからの展開に思いを馳せる心に感応するように、風が弾んだ。 黄昏時。家路を急ぐものもあれば宿へ向かう足取りもある中。 応じてくれた君主と共に、影と昏がりの街中で向き合った。 酒場のある通りなどは盛況なのだろうが、ここいらはそうではないらしい。商店は店じまいした後。 こんな時間に通りの上に立っていることがないので、はじめて見る街の顔に物珍しく視線をめぐらせる。
人の通りは多くは無い。影と光の位置関係を確認。立ち位置を調整する。 「そんじゃ、君主どの」 獰猛に笑って、一歩、左へ。 建物の隙間。沈む寸前の強い赤光を焚く太陽を背に。 逆光で眉をしかめた瞬間を狙い、発走。二歩目でトップスピード、風の如くに吹き抜けて、その真横をすり抜ける。 せっかくの街中だ、やったことのないことをしてみよう。 正面に迫った壁を蹴って真上に駆け上がり、屋根の継ぎ目を蹴って体をひねり、急降下。 「はじめようか!」 遠心力に落下の勢いを載せて、後頭部狙いで回し蹴り。叩きつける。
【三角飛び捻り回し蹴り】13 [3D6] 3,4,6 (15:34:11)
合間生/ヒヤエナ七廻GC @aimasyou @itonaka_24m 呼びかけの言葉に聴覚が、赤い光に視覚が、僅かに奪われる。 巧みに位置を調整し、仕掛ける時を計っていたか。 プロだ、この人。 その上、疾い。 「…!」 防御も聖印も間に合わない。 咄嗟に声の方向に身を捻り、強烈な蹴りを額で受ける。 【ダメージ0→13】
目から火が出た。 鼻血も出たか。鉄臭い。 しかし、辛うじて意識をつなぎ止める事は出来た。 無意味な防御を捨て、蹴られた額を力点に、後方に倒れ込む。 石畳に後頭部が叩き付けられるのを、両手を着いて防ぎ-逆立ちの姿勢で、大きく脚を開いて回転。 速度と重力を乗せた彼の蹴りは効いたが、跳び蹴りを放てば、攻撃直後の動作も制限される。 頭への衝撃を逃がす意味もあるため威力は充分ではないが、逆立ち蹴りの回転半径に捉える事は出来た。 …仮に彼がレイヤードラゴンなら、蹴られた上に飛んで下がられるのか。 馬鹿な事を考えるのは、意識を十全に取り戻すため。 受け流し、くらい流しの問題点は、細い首の骨で支えられる頭。 人体で最も不安定で、最も衝撃を受けやすい。 「…他の方々のように、圧倒的武力も優雅さも無くて申し訳ありませんが…続けましょうか」 …善し。 言葉がちゃんと出る。 鼻血を拭い、構え直す。 【逆立ち旋風脚】 7 [2D6] 3,4 (02:12:56)
『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @aimasyou 声に反応。そこからまさかの額で受け。 面白い。面白い。奇麗な顔して、覚悟と合理とに満ちた実利主義。こういう相手からは片時も目を離したくない。 受けの勢いを利用して倒れ込み、地に手を突いて足を跳ね上げる。即座の対応。胸が沸き立つ。 全力には、全力で。 前に重心を傾がせぐるんと身を回す。天地逆転、蹴り脚の真正面に相対。両腕を交差させて受ける。 ぎしりみしり、腕が軋む。こちらの蹴りの勢いも十分乗っている。ただの苦し紛れの蹴りじゃない。 受けて、弾き飛ばされる。胸を中心にぐるり回って脚から着地、勢いを殺す。 腕が痺れるほどの蹴り。口元が緩む。獰猛に。 面白い。面白い。もっともっと、見せてほしい。オレの全力を、見せるから。 吐息ひとつ。
【HP】50→43
陽も落ちた。薄暮の刻限。空は白と藍のグラデーション。 腕はまだ痺れてる。さて、どう攻めるか。 (──らしくいこうか) 身を沈め、発走。一歩ごとに加速。目前。蹴り──を目前ですかして防御をすり抜け地に抉りこむように突き立て軸足に。 真正面の真っ向勝負。 牙の如くに喉狙い、跳ね上げ遠心力と速度を載せたつま先で蹴り穿つ。
【蹴穿牙】7 [2D6] 6,1 (11:11:33)
合間生/ヒヤエナ七廻GC @aimasyou @itonaka_24m 正面から来ると分かっているのに、影を追うのがやっとだ。 カウンターを放つより速く、懐に入られる。 躍りかかる狼のような、加速のついた爪先。
目を閉じるな。 自分の力量で、自分に出来る最善を。
地を蹴り、跳ねる。 鋼の首宛に、爪先が激突する。 防具が無かったら、気管を潰され戦闘不能に陥っていたろう。 二段階に打ち上げられたボールのように宙へ―家の間に張られた、洗濯物を干すロープを掴んで���動を取り戻し、軽く咳き込む。
HP:37→30
太股のホルダーからナイフを取り出し、ロープを切断。 ロープの残骸と、残っていた洗濯物が地上へと降り注ぐ。 黄昏の陽光に加えて、視界を塞ぐ。 「そう言えば。 わたしが周辺の領主から何と呼ばれているか、お教えしましょう」 シーツや下着と共に地上へ落下。 この状況。 誰もが目眩ましに紛れての、頭上からの一撃を警戒する。 だから。 素直に狙ってあげない。 「外道目狐。 ハイエナ君主って」 小狡くセコく、意地悪く。 着地の瞬間、身を沈め、腹を目がけて掌底一閃。 11 [2D6] 6,5 (23:52:35)
『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @aimasyou こちらの蹴りへの対応は、防ぐでもかわすでもなく防具を最大限活用したパリィ。 その思い切りのよさは、華麗美麗でこそないが。肌身にあう戦場で戦い抜き生き残るための術に相違ない。こういう奴が君主となると、よほど面白い国だろうと思える。 まったくもって、面白い。 君主だというのにどちらかといえば「こちら側」に近い人間なのだ。面白くもなる。 接触の寸前自分から飛ばされにきたのは感じていた。なら飛ばされたことにも意味はあるはず。まさか市街戦で空中乗騎を呼ぶとも思えないが、ならばさて何をしてくるか。 刃が白く閃く。 ぶつり音を立て落ちる洗濯物の雨。日が落ちたのに取り込まないとは呑気ものの町らしい。視界が塞がれる。なるほど、目眩まし、常套だ。 声が聞こえる。目を閉じる。 この身はそもそも風のエーテル。かの戦う相手に纏う空気を探るのに、視覚情報は必要ない。 風を、頼る。 声。頭上。直上。仕掛けてくるか。 (何か──) 違うと感じるも、違和感の正体まではわからない。近くのシーツを掴んで、ひゅるり捻りあげ即席の槍と化しての衝き上げ。布槍術は見様見真似で完成度も低いが、当たれば痛いし直撃でなくとも絡めて動きを制限できる。 しかし迷いをもったままの見様見真似など、仕掛ける側にとっては児戯にも等しい。 ばさり短剣で布槍はただの布として切り裂かれ。 (こっちが狙いか) がら空きの腹に、掌底打。功撃でないだけマシ、というのはクリーンヒットには通用しない。 派手に吹き飛び、そのまま近くの物置の中に突っ込んだ。 【HP】43→32
せり上がるもののを飲み下して。こらえきれない愉しさを口元に浮かべて。 声を出す。名乗りには名乗りを。 「……この戦からこっち、『風の牙』なんて大層な名前で呼んでもらってるけどさ」 戦友に貰った名だ。誇らしいと思うし、それに恥じない自分でありたい。 けど。 「昔は凶犬って呼ばれてたんだよ、オレ。凶眼の犬、目つきの悪い犬っころってな」 倉庫の中だからか、存外に響く。風を使わなくても。言葉は届く。 「だから、いいんじゃねえの。他の誰が何と呼ぼうが、オレにとっちゃアンタは戦場で生き抜く術と覚悟をもった君主どのだ」 そう。だから。 「こんなんじゃ終わらないんだろ。全部見せてくれ、アンタを。 オレもこれから、届けに──」 立ち上がり、見据える。相対してくれる相手唯一人。夜のエメラルドとも呼ばれる橄欖石の如くにぎらり、宵闇に緑の双眸が照る。 「──行くからさ」 発走。 爆発的な加速をもって、至近戦距離へ踏み込む。 迎撃の為にぴくり動く肩、その機先を制して掌に握ったままの、シーツの切れた半分を投げつける。 目の前に急に広がった白い大布で眩まし、足払い。体勢を崩したところを肩から鎧に密着。貼山靠の要領で弾き飛ばし。 「おかえし、だ!」 壁を背にした君主の腹目掛け。 鎧の真上から双掌で同時に浸透勁を叩き込む。
【双掌浸透勁】11 [2D6] 6,5 (00:29:47)
合間生/ヒヤエナ七廻GC @aimasyou @itonaka_24m 愉しそうだ。 声の響きが、過去を懐かしむようで、誇らしげで。 尋常でない瞳の輝きが、黄昏の陽光を反射して近付く。 受ける-思考の瞬間、目の前に広がる白。 浸食されるように、脳内も塗り潰され、信号が停止する。 衝撃と浮遊感。 天地の感覚が狂う。 受け身を-取るより速く、背中がレンガの壁に叩き付けられる。 宙に浮いた状態で、距離感も誤ったか。 前方に跳ね返った体が、更にもう一度。 内蔵まで達する暴風と共に後方へ弾き飛ばされ、地を転がった。 HP:30→19
「うれしい、言葉ですね…」 生きるため、勝つため…そして守るため、鬼にも悪魔にもなる。 そんな生き方を、ずっと続けてきた。 そうしなければ、押し潰されるから。 そうしなければ、喪ったものと釣り合わないから。 「まぁ…”今”の評価は…人に任せます」 思考する。 負傷度合い、出血、骨折、臓器の損傷。 思考する。 脚に血を。上体を倒し推進力を。 己の五体を掌握し、意思の力で疾らせる。 あるいは、わたしは半ば気絶しているのか。 風が心地良い。 駆ける、駆ける、駆ける。 上中下段、何処にも隙は無し。 どんな技も捌かれるなら。 技など出さない。 「フッ!」 最後まで小細工はするけど。 口内の血を鼻先に吹き付け。 -止まる事無く正面衝突。 額当てを彼の額に叩き付け、諸共に縁台に激突した。 迅雷の頭突き 9 [3D6] 5,3,1 (19:30:03)
『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @aimasyou 目が変わった。纏う空気もまた同時に。 より強靭に。より野生的に。深慮奇策で世間を渡り歩こうとする領主でなく。独り、戦野と乱世に駆ける君主の風。 独立不羈。己を己の王と定めるもの。揺らぐことなく己の道を、自らでもって定め歩む者。 ああそうだ。それこそが。 「――アンタだ、君主どの」 オレの一番見たかったものだ。 馳せる。駆ける。あれだけ思う様打ち込んだのに一歩も譲る気などなく。最後の一撃を打ち込みにくる。さあ何が来る。どうぶつけてくる。さぁ。さぁ。 至近到達。何が来るかと構えて待ちわびる目の前に、赤い霧。 視界を眩まされるが、この距離では小細工らしい小細工も行えないはずだ。何を―― がつ、と。額に硬度と加速度。 頭がまるごと揺さぶられて、平衡感覚を失ったまま縁台にもつれ合って転がり込む。背中を強かに打ち、肺の中の空気を叩き出され、天も地もなく転がりながら。 目を見開く。まだ動ける。手足に力を叩き込む。鎧に手をかけ、しっかと掴み。 腕と体で相手を縁台の床に押さえつけ、動きを押さえつけ乗り上げて顔の真正面でぴたり掌底を止める。
「――オレの勝ち、でいいかな。君主どの」
挑んだのは立ち合いだ。そもこれ以上は戦に障る。 こっちもあっちも明日は別の戦場。なら、これ以上の楽しみは、戦の後に回してもいいだろう。
【HP】32→23
合間生/ヒヤエナ七廻GC @aimasyou @itonaka_24m ふっと力を抜き、溜息一つ。 「ええ、あなたの勝ちです。 まだ負けてないなんて駄々っ子みたいな事は言いませんから、ご安心を」 突き付けられた掌の向こう、暮れゆく空を眺める。 足りない、足りない、まだ足りないか。 掴んだものと及ばぬ力、どちらが多い。 「善い時間でした。 感謝致します、フーガさん。 終戦の暁には、是非ウチの領地に遊びに来て下さい。 歓迎致します」 癒しの光で彼を包み。 飛んできた衛兵に身分を示し、特別演習だと説き伏せる。 諸々の修繕費を割り増しで払うと、それ以上面倒は無くなった。 もう一度頭を下げ、笑顔を向ける。 「ありがとうございました」
最終HP 23:19 フーガさんの勝利です!
『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @aimasyou 「クロクタ-、だったよな。ちゃんと覚えてるよ君主どの。 今回はそっち持ちにしちまった。義理は果たすよ、次は土産持って参じる」 だから。 「また気が向いたらあそんでくれ」 戦もまだ終わりが見えぬというのに。笑って『次』を口にした。
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模擬戦もろもろ:イチタ戦・3
のま@みっちり @nowmas @GCtg_TL 「暇というものは、劇薬である」 そんなことを言ったのは、さて誰であったろうか。言い出した相手は記憶にはないが、著名な言葉ではあるようだ。 「暇であるとろくなことを考えない」 同じような言葉でも、そうと言ったのは幼少に世話になった飯屋の老婆であったのだが。 暇である。とても、暇であった。 退屈というものは病に似ていると言ったのはかつての師と仰いだ老人であった。 その時は、何を妙なことをと首を傾げたものであったが。 (あかんなあ) どうにも、近くに居すぎたらしい。 罹患(うつ)ったようだ。退屈の、虫が。 そうと思わねば、やっていられないほど、血が騒ぐ。
理由は知っている。 (……少ぅし【食い】過ぎとるなァ) この身は鞘である。旅先で魔を凝らせた刀の欠片を身に集め、刃の形にして取り出すのが、役目のひとつ。 先に訪れた場で集めた刃は、おおよそ分量にして三振り。 しかし、そのどれもが顕現するにはあとわずかに、足りぬ。 ――いやがらせ、よな 身の内、背後で急速に形を取り出した気配が、ひそやかに溜息を吐く。声は出さずとも気遣うような気配。 ひとつでもそこそこに骨身を削るそれが、一度にみっつ。流石にそろそろ、 (しんどい、な) 無理矢理にでも吐き出すのは簡単だが、それでは刀が欠ける。 何より、今のこの状態では集中も出来ぬ。 ――いちど、ねつをさますが よかろう 囁く声に、頷く。 冷ますといっても、倒れていれば冷める訳ではない。逆だ。 みっつ混ざっているから、ここまで面倒なことになる。 揺さ振って、在り様を取り戻させるのが、おそらく最良手。 付き合って貰えそうな相手は、というと――
「…馬に蹴られそやな、わし」
いつも通りの軽装で、夜闇を往く。 溜息は深かったが、足は弛みなくそちらに向いていた。
『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @GCtg_TL @nowmas ――風が騒いでいる。 風の噂とはよく言ったもので、予兆前触れの先駆けとして風はよく形容される。 その理由は単純で、風は伝うものであるからだ。 音を伝え、光を透し、存在感をも隠すことなく伝播する。
風のこどもは、ぴょんと寝室を飛び出した。 体を解して窓を乗り越え屋根の上へと腕の力だけで跳ね上がり、騒ぐ風のもとを探る。 覚えのあるざわめきだ、忘れられない相手の一人。 今纏うそれはなにやら軽い空気じゃない。かといって重たい重さではなく、まるで夏の熱を体に溜め込みすぎた時のような。 「ま。会えばわかるだろ」 獰猛に笑う。今宵は月ももう沈んだか、星灯りも遠く弱い。 静かな夜だ、屋敷の中まで上がってもらうわけにもいかないだろう。 ざわ。風に語りかけるようにして、自分の戦意を溶け込ませる。今からそちらに向かうと伝えるように。 屋敷の屋根を蹴り、家々の壁や屋根や煙突雨どいを伝って、夜を走る。 こんな時間に、この熱気だ。望みは大抵知れるけれど。 「楽しみだ、な」 小さく呟き、ひゅるりと跳んで。
「――よう、久しぶり。どっかあそびに行くのか、イチタどの」
その目前に着地。 「アンタの夜あそび、楽しそうだからさ。オレもつきあわせてくれよ」 みどりのやいばを握る剣士へと、そう告げた。
のま@みっちり @nowmas @itonaka_24m …望んだ気配が近付いてきたのは、風の奔りで知れた。 元より何度も顔を合わせた、馴染みの深い相手だ。 呼び掛けられ、薄く笑う。 「足労すまんな、坊」 愉しげな表情に邪魔をした訳ではないと知り、少しだけ安堵する。同時に外の気配を察して膨れる熱に眉根を寄せた。 ……いつの間にか、抜き身となって刃は在る。腰の重さは変わらぬ故、鞘は未だ持っているようだが。 そこに、みどりの輝きが乗りつつある。ただし常ならぬ、目を射る輝きが。 ――いそげ こぞう 身の内の囁きは、逸るというよりは焦るそれである。 (合意(あい)) 「――申し訳ないのやけどな、坊」 息を吐く。熱を逃がしながら、荒れる身の内を統御する。 そうして真っ直ぐに見て、願う。
「助けると思うて、一合、死合うてくれんか」
説明は、無用だろう。 遊びに付き合うと子供は言う。なれば、望みを言うのが先だ。 勝ち負けを競えぬのは、いささか問題という気もするが、この場合はもう、仕方がない。 「ちいと、先でしくじってな。――加減が利かん」 故に。どうなるかも判らない。ただまあ、 「坊やったら、死なへんやろ」 頼む、と頭を下げた。
『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @nowmas 事情を深く知るわけではない。理解しているわけでもない。 それでも相手の中にある力の流れと、内で渦巻くこえの流れが視えて聴けるこの身には。 ──まるで。赤熱する溶岩を押さえ込む釜の蓋の様に見えた。 世話になった相手だ。願いを無碍にできるはずもない。 「無論」 こくり、肯く。 「そのためだけにたずねてくれたのに、追い返したんじゃ名が廃る」 笑う。迷いなく、むしろ来訪を喜ぶように。 「大丈夫だ、そんなやわくできてない。だから、全力で、アンタの熱を、滾りを、暴れそうなそのちからを」 手を、伸ばす。 「遠慮なくぶつけてくれ」
のま@みっちり @nowmas @itonaka_24m ――身の内の熱はじわじわと上がる。 返されたことばは、おおよそ半分ほども聞こえていない。だが、承諾の意味を込めて頷かれたことだけは、わかった。 目の端に捉えたそれに、感謝の意を込めて、目を伏せる。 息を、吐く。 握った刃は既に三尺を越えつつあった。 帯びる光は、みどり。 だが、常のそれと異なるのは見た目にも明らかであろう。 いろが、混じっている。その上で歪に光を灯す。 本来の力だけを凝らせた清冽なそれでなく、斑であるのは、本来あるべきでないものが混ざり込んだが故だ。 だが、重(つよ)い。 「【『構えられよ』】」 混ざり合ったそれが、口を突く。 『〈【「勝負は一合。」全力で参られい】加減無用なれば』全力で〉 己の言葉かどうかも判らぬそれが、放たれて。
それを遠く聞きながら、構えた。
…覚えているのは、風が凪いだということである。 閃くような危機感を無視したまま、身体は走っている。低く唸る雄叫びは獣そのもの。 その感覚も、遠い。 夜を裂いて疾駆する、その風だけが頬に冷たく感じられた。 夢を渡るように草を踏み、習い覚えたものとは違う型を身体がなぞる。誰の、何というものであるかすらも、判らぬ技。 この地の誰もが知らぬであろう剣技は、見事なものではあったが、 ――あかん 内側で、天を仰ぐ。 ――とどかへん 踏み込みと共に放たれた、一撃。 ――本来であれば、人どころか獣魔の類をも切り捨てるであろう逆袈裟は、派手に小柄な体を吹き飛ばしたが、それだけだった。 理由を言えば、単純明快な話だ。 その技は、ものを斬る。常世に在るものを砕く。 故にひととけものを斬ることは叶っても、風を斬るには至らぬ。 手ごたえはあった。 だが、
「――足りん――」
『壱乃刀 奥義・虎斬(偽)』【58】
『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @nowmas 引き抜かれたみどりいろは、けれど前に見たもえたつような色とは違う。 歪に混ざり、揺らぎや斑が目立つが暴れるようなそれは――ほのおにも似ている。 危機感に忌避感が混ざる、魂の底から畏れを喚び起こすような、みどり。 吐息、ひとつ。
(――退くな) 自分を求めてきてくれたものから、退る理由などありはしない。 畏れていい。慄いていい。湧き起る過去の疵も、今目の前にたつみどりも、その上で――己の心で踏み越えろ。
(退けば錆びる。逃げれば折れる。そうだろう) 今は、自分も。一人じゃない。
「おう」
応じる声が届いたか。獣のような雄叫び。夜を叩きのめし、風を圧し潰す如き疾走。 みどりが、奔る。 前とは違う力の巡り。いったい幾つの業をその身に修めているというのか。 目に焼きつくみどりは、叫び声で焚きつけるように暴力的に勢いを増していく。 ごうごう、ぼうぼう、夜と地とを焦がすごとくに迸ったみどりが、跳ねて伸びる。
暴力的な圧を前に、目は逸らさない。呼びかける。 「――いこうぜ、相棒」 しゃりん。こがねがこたえた。
【HP】100→48
一息に引き抜いたこがねの刃。吐き出される爆圧の逆袈裟に、鍔元からかち合わせる。 激突。宙へ跳ね上げられる。衝撃に全身が軋みをあげるが、防いだ。 防ぎ、きれた。 技量が上回ったわけではけしてない。身につけた技は、費やした時間は、相手の方が圧倒的に上だ。 単に、相性と運がこちらに向いただけのこと。そんなことはわかっている。 打ち込まれた衝撃は軽くはないが、しかし歯を食いしばる。ここが勝負どころだ。 まともに距離を詰めにいっても、踏み入ることなどできはしまい。一合を勝負と定めたなら、最短でもって機を狙え。 求められたなら全力を。 届けてもらったなら、自分もまた届けねば。 ぐるん、天地逆転。空を足場として踏み勢いを殺す。空を踏みしめる。手をつき勢いを殺す。吹き飛んで落ちた先ではなく、空から吹き抜け突き抜けろ。 目算――二歩で、届く。 まだ相手は振りぬいたまま。迎撃は一度だけと見て据える。
(進め) 空を弾くように蹴り飛ばす。一足。反射じみた動きでみどりが動いた。もう一度、相棒の握りを確かめる。 跳ね上がる迎撃に、もう一度相棒を叩きつけ――即座に順手に握りなおし、身そのものを軌道から逸らす。 二歩。迎撃から身をかわしきり、すり抜け着地。身を沈めて地を踏みぬく。震える大地。
ここからだ。 前へ。
こちらの圏内。
左肘、打ち抜く。
最高のその先まで。
左手柄頭、穿ち抜く。
届けて、みせろ――!
ばら撒かれ打ちつけられた混沌すら風に変えて。集めた右掌を――
「いっけええええええ――っ!」
全力で叩き込む。
【絶招・三打必殺】/65
のま@みっちり @nowmas @itonaka_24m 視界の端に、跳ねる影が見えた。 斬り飛ばしたと感じたか、身体は構えこそ残すが動きは鈍い。 ――あほう かつて、身の内からそう叱咤されたことを、今更のように思い起こす。 おそらくは、同じように見て取っていたに違いない。なにしろ、ただの使い手ではない。 あれは風を纏うもの。空を往くもの。人の外の理を行く者。 ひとの技では、足りぬ。 おそらく「それ」の習い覚えたそれでは、距離を取って再度来るところを迎えるが定石か。だが、それよりも ――はや、い 戸惑いが奔った。混じり合う意識が乱れる。 だが、哀しいかな。 混じり合って���お、それらは武人であった。故に、躱すなど思いもよらぬ。躱せないというのであれば、 「【うけるまで】」 そう。そこまでは皆同じ。 刀身、みどりのいろが凝る。わずかに色を変え、濃さを増す。そのまま刀身を下へ。 …受けたその後に、弾くか、流すか。 そこまでは思考の内にはない。ただ父祖より習い覚えたまま、刃を引き、受けるだけの、反射的でごく真正直な動き。 だからこそ「次」を――その先に彼我がいかに動くかを頭の内には入れていない。 受ける。刃と刃の狭間で火花が散る。 重さと速度の載った一撃を、やはり覚えのない技で捌いた。しかし距離を取るには足りぬ。刀身の余りを押し付けようにも、風はするりとそれを抜けた。 接触距離。 ぬるり、と。戦意が香る。 瞳は見えない。 さわり、と頬を撫でる風。 産毛が立った。 間近で響く叫びを浴びて、現と夢を隔てていた膜がようやく剥がれる気配。 だが。
――おそい
身の内で、呆れたような呟きがひとつ。 衝撃が突き抜けたのは半瞬の後。
傷みは感じぬが魂が震えた。 それで、ようやく。
(目ェ、覚めたわ)
【HP】100→35
『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @nowmas 今更こみ上げてきた鉄の味を押し戻し、一際大きく息をついて。 二度も達人の一刀に耐えてくれた相棒を腿に戻す。左の手首に違和感。この程度ですんだなら御の字だ。 しゃがんで、問いかける。 「イチタどの。動けるか?」 できるなら、自分もこのまま転がりたいところだが。
のま@みっちり @nowmas @itonaka_24m 動けるか、と問われ、手を挙げる。 無事を示すつもりでひらりと手を一度振り、押し留めるように掌を向けた。口は開かない。 あれで、先の一撃、なかなかに効いている。だが、それ以上に、 (――固まりよったわ) どうやら、賭けに勝ったらしい。 目を閉じる。 呑んだそれが、己が内にて凝ったのを意識しつつ、掌を合わせた。合わせたまま、掌だけを合わせたまま手首を捻じる。 ゆるりと合わせれば、その内から、みどりがこぼれた。 現れた束を手に引き抜けば、現れたのはおおよそ打刀ほどの長さのものが一振り。 次いで、同じく打ち刀、最後に脇差ほどの長さがもう一振り。 引き抜いて落としたそれは、水音に似た響きを放って己の影に埋まり、そのまま見えなくなった。 三振りが消えれば、光も消える。 「…すまんな。置いとくと、また融けよるさかい」 ため息交じりに返し、…そこで言葉が途切れた。 さて、どう説明をしたものだろう。特に偽った訳ではないが。 そこまで考えて、思い出す。その前に、だ。 「――付き合うて貰うて、ありがとうなあ」 本来であれば、畏まって礼を取るべきであるのだろうが。おそらくはこちらの方が良い気がしたのだ。 「今度ばかりは死ぬか思たけど、おかげさんで、助かったわ」 おおきに。 言い添えて、目礼ひとつ。 まずは、これを言わねば始まるまい。 「…こうして、助(す)けて貰うたのやし、坊には礼のひとつもせなあかんのやけど」
「何ぞできること、あるか?」
『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @nowmas 言葉に、ぱちぱち瞬き。 助けたつもりもなければ、何かした覚えすらない。ただ、いつもみたいにあそんでもらっただけで。何か、と言われても、困る。 腕を組んで、しばし悩み。 「んー……いっつも、きてもらってあそんでもらってばっかりだからさ」 「今度は、そっちにあそびにいっても、いいか?」 屈託無く、そう尋ねた。
のま@みっちり @nowmas @itonaka_24m 屈託のない返答に、小さく息を吐く。 いやはや、まったく。…構えていたこちらの方が阿呆のようである。 「――そんなん、聞くまでもないやろ。好きな時に来たらええがな」 もちろん、領主殿の許可は要るのだろうが。それを考慮しないとは思えない。 「言うても先に一筆貰うたら、馳走の支度ができるさかいな。それは忘れんときや」 …もちろん、実際に支度をするのは己ではないのだが。段取りというものの大事さは日々の小言を受けて、それなりに理解しているのである。 故に、そう言い添えておいた。
『風の牙』とかfioとか。 @itonaka_24m @nowmas 困った。 「オレ、おいしいものとかあんまりよくわかんないから。たぶん無礼千万だぞ」 頭をかいて。それでも。 「うん。こんどは、オレの方からあそびに行くな」 手を伸ばして。 「ありがとな、イチタどの。楽しかった」 笑う。 「また、楽しくあそぼう」
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夢よ、浅き夢よ 私はここにいます -vs.eclipse exclamation-(模擬戦:カルネ戦 2)
>STAGE:WILDERNESS >PLAYER NAME CARNE vs FUGA >BATTLE START
***
『親愛なる風の子へ』 "そう題した手紙が届いたのは、夕陽が早々に落ち星光が勢いを増す秋の中頃のこと。 差出人は、同盟ディザ領、正に今が黄金咲き誇る地の魔法師。カルネ・エヴァンス。 長く病に臥せっていたという噂だったが、この度、身体の勘を取り戻したいからと、奔放な風を尋ねることにしたそうだ。 巡りあう地はセリザワ領とディザの中間地。もしかすると、以前も風が吹いたかもしれない、広漠とした荒野である"
"夜の荒野にざり、と砂を踏む音"
「ふむ、この辺りでしょうか」
"長い金髪を後ろに結わえ、見慣れたドレスではなくワークベストの出で立ちで、カルネは現れた"
「夜にお誘いするには些か目印がなさ過ぎますね…」
"篝火でも用意して待ちましょうか、と呟き、周囲に松明を刺しながら、彼女は自ら指定したその時を待つ"
"――今日はまだ、月が出ない" "星の光が夜空を埋める空の下、少年は秋風に乗り空を行く。 かつて夜空の下であそんだのは、ひどく大きな満月の日だったと記憶している。あの召喚師には、月光がよく似合っていた"
「さて」
"病で臥せっているだとか、強大な投影体と戦っただとか、風の噂では色々と聞きはするが、じかに会った方が話は早い。 それに。月には満ち欠けがつきものだ。人が生きる以上変化があるのと同じくして" "呼ばれたからには参じるのが流儀だが、果たして、彼女はどう変わっているか。 今の自分は、今の彼女にはどう映るのか"
「……せめて前よりは」
"進んでいられたなら。前とは違うものを見せられたなら。もっとマシになったと、胸を張って言えるようでありたい。 荒野に篝火を見つけたのは、そう呟いた時だった。 ゆるり、荒れ野に降り立って。強い夜風の吹き抜ける篝火の灯火の中で"
「――久しぶりだな、カルネ姐さん。お誘い、感謝するぜ」
"少年は、口にするのも懐かしい響きを声に乗せて。あの夜と同じように、魔法師の名を呼んだ"
「お久しぶりです、フーガ君」
"ふわり、柔らかに降り立つ彼を見て。にこり、嬉しそうに礼を執る"
「今日は来てくれてありがとうございます。お変わりないです、か……」
"そう問う程には久方ぶりだった。 大戦が終わり、戦後の混沌災害を乗り越え、更に災厄すら通り過ぎた。その間、彼とこうして話すことはあっただろうか。 篝火を背負う出で立ちを見遣る。……さて、ふむ" (変わりない、か)
「……いえ、違いますね」
"かぶりを振って、かける言葉を改めた"
「今日は、良い夜です」
"篝火に照らされた顔色はそう悪くは見えないだろう。 しゅるり、と、大気の混沌がうねり出す。集積する先は魔法師の四肢"
「そう思いませんか、『風使い殿』?」
"余計なものはいらない。何のために相手を呼んだのかわかっているのなら、余分は挟む理由がない。 余分を脱ぎさったそこには、悪戯好きの獣が笑っている"
"魔法師の纏う風には、あの時と同じ色がある。 混沌が蠢くのを、背に負う邪紋が感じ取りじりじりと焦れて熱がこもる。 臨戦態勢。それが意味するところなんてただ一つ。そりゃあそうだ、ただ会って話をするのに夜を指定する必要なんてあるものか。 くく、と喉を鳴らした"
「そうだな。アンタとは『こっちの方が語れそう』だ」
"あの時と同じように告げる。握った拳を突き出して、ふうと一息。 そもそも、語り合うなんて真似は望んでいないだろう。話し合いなんて真っ当な人間のやることだ。 『風使い』と呼ばれた以上、望まれているのはそれ以外。 ここまで来て自分も応じた以上、費やす言葉も時間ももったいない"
「――それじゃあ、はじめようか」
"大仰な挨拶なんて必要ない。 我慢する時間なんて無用だ。 宣言するのははじまりだけ"
「いくぜ、『魔法師どの』」
"闇夜の星灯と篝火の燈色。その中でゆらり、みどりいろを煌かせ。 向き合った相手へ、熱のこもる視線を流し少年はそう告げた" "とん、と。宣告と同時に地を蹴る。 普段魔法師相手には距離をとってあそんでもらっているが、彼女の場合は少しばかり状況が異なる。 以前は召喚獣を身に『纏って』の攻撃法。現在はまた、混沌のにおいの濃い四肢が更に蠢いている。手足に纏う混沌を使って仕掛けてくるはずだ" (なら、こっちもそれに応じる何かでなくちゃならない) "あの日。月光の下。彼女の貫き通し肌で感じた綺麗さに恥じないものを" "一歩。加速。 二歩。加速。 三歩。加速。 四歩目。距離を埋めきり目前へ。間合いに入る寸前上へ跳ねた" "眼下に星灯に輝く艶やかなつきのひかり。 ぐるりまわる。くるりひねる。天地は逆さま風は自由。 は、と吐息ひとつ。空を蹴り離し、更に加速。矢弾の如く跳ねて弾んで迅く鋭く。 高々と片足を振り上げて。笑みを深く"
「――らぁっ!」
"踵を落ちる雷鳴の如くに、勢いよく打落す"
(来る) "地を踏む一歩が見えた。二歩目は空を蹴っていた。三歩目からは目で追えない" "コンマ数秒で肉薄する風の牙、 迎撃の構えを取った腕はしかし、動かない" "――瞬間、思いを馳せる。 初めてやり合った、あの丘に。 自在の風。上空からの強襲。大斬撃" (ええ、覚えていますとも)
"真っ向から来るなら君は、渾身��一撃でしょう?"
"風の尾は空へ落ちていると、知らず緩んだ頬で感じる" (で、あればっ)
「《集え!》」
"短い叫び。腕を交差し振り上げた。瞬間、のしかかる超重の弾丸。 生身の腕なら即座に切り落とされていただろう。断頭台めいた一撃は身体を軋ませるが、しかし"
「……どうしました?」
"重圧が呼び覚ます、懐かしい感覚。高揚感"
「随分遠慮なさっては、いませんか」
"振りほどき挑発するように歯を見せれば、先ほどまで混沌の纏わりついていた四肢には、今、夜闇よりも真に黒い籠手と長足具"
「前にお見せしたものとは別物ですが」
"最早昂ぶりを隠す必要もない。声色は愉快げに。自慢のおもちゃを取り出すような純粋さで、言の葉を紡ぐ"
「十分、やれるでしょう?」
"にっと笑って嬉しそうに。 相手が彼でなければ毒気を抜かれそうな笑顔。 だが案ずるな。牙は。爪は。その内に健在である――!" "篝火が揺れる。同時、お返しですと、風を裂いて飛び上がり、獣を模した夜の籠手を叩きつける。 避けるなかれ。躱すなかれ。突きつけたいのはこの先だ。 私は声を届けたい。 獣が遠吠えるが如く唸る、この音を" "さあ開戦の鐘を鳴らせ。 触れた箇所から超高周波で反響せよ。 周囲全てが『彼』であるなら、その全てに知らしめろ!" 《 私 は こ こ に い る ぞ ! 》 "脳髄を揺らす魔声を君に。月が、吼える"
"いともたやすく受けきられた、加速に加速を重ねての一撃。 出し惜しんでいるつもりなど毛頭ない。相手がそれだけ強く、剛いだけ。凄烈なほどに。感服するほどに" "無論、このままで終わらせるつもりなど毛頭ない。 真剣なあそびに手加減なんて持ち込む大人しい奴に見えるのか。そんな器用な生き物に見えるのか。 大人しさも賢さも、もともと持ち合わせがないのだ。そういう生き物だと 見(ナメ)られたくはない" "そう吼える前に、相手が飛び込んでくる。 山犬にも似た白が鋭く飛び掛り、黒い獣の小手を叩きつけてくる。 あの蹴りを受け止めるだけの剛性だ。混沌がどれほどに凝っているかは見ればわかる。 回避――なんて、もったいないことが選べるわけもない。 両腕を前へ。飛び込む白を受け入れるように見えたかもしれない。 掴んで威力を殺そうと触れたその瞬間" "全霊をもって。全精をもって。 己の存在を叩きつける 魔声(こえ)が、聞こえる風に見える風に感じる風に自分自身に。 あらゆる五感をぶち抜いた" "つよいつよいこえに。たましいをまくこういに。そんざいをほえるちからに。 『じぶん』がかきまぜられる。 異物が混じる。視界も。聴覚も。 いっぺんに異物の反応にぐるぐる混ぜ上げられて何がどうなっているのか知覚まで回るようにぐらぐらぐるぐる――
自分が 何 なのか わから なく
――右手に。 ――背中に。 二つの熱"
「――ぁ」
"吼えろ"
「――あ」
"叫べ"
「あああああああああッ!」
"星へ牙を突き立てるように、己の胸を穿つように。 吼えたてる。猛りを、いのちを、すべてを。突き立てて、踏みとどまる。 己が何者であるかなんて。 体は忘れても、頭は忘れても、心は忘れても
――魂が、覚えている" "掴み取る。体が萎えているせいで、打ち込みの勢いを圧しとどめられない。 逸らしはしたが、左の肩に直撃する重さ。みしりぎしり、不覚悟な自分の体が悲鳴をあげ倒れそうになる" (まだだ) "踏みとどまれ" (まだまだ、何も) "意地を通せ" (見せきっちゃいねえ!) "萎えた足に喝、地を踏みしめ、力を叩きこむ。 腕を掴む手に力をこめて、悲鳴をあげる肩をさらに利用して。 こつん、と。着地寸前の足を払いのける"
「――軽いな」
"純粋な感想と共に、背負い飛ばし。更に"
「おまけだ!」
"回避行動を取るより前に、小手に向けて力を取り戻して間もない体に鞭打ち、全力の震脚込みの肘を打ち抜いた"
"小さな左肩に自分の牙が食い込むのを見届けた" (よし) "入った。 体勢を崩せば連撃、そうでなくとも懐に入り込める二択を生む一撃。 次、次はしっかり地に足を付けて。一撃を。そう思っていた。もっと深くもっと重い一撃を狙えると、思った" "それが自惚れであると突きつけられるまで、時間はそれ程かからない。 肉弾戦の経験。相手に比して自分にはそれが決定的に欠けていることをすっかり見落としていた。 投影装備を身に纏えば、混沌を制御すれば、自分はもう大丈夫だろうと。十分に浅ましくも、そう考えていたことに気が付かなかった。 流れるような体技に目を奪われた結果が、
「――――ッ、が、ああああっ!」
彼の連弾をまともに受けての清々しい飛びっぷりである" "流れる夜風を追い越して荒野に叩きつけられ、地面を無様に転がった。 土の味。体中打ち身だらけ。こらえて、空気を吸い込む"
「……げほ、ああ、重くなくて何よりです」
"悪意のない感想に軽口で答えた。口を切ったか、血の味が濃い。受けた腕も痺れている。 地を踏みしめた一撃は、これほど重いのか。速く、鋭く、靭いのか"
「……嫌になりますね。 知ったつもりになっていたようです。色々なことを」
"口端を拭いながら呟く。相手に聞こえているかどうかは、分からない。独白は零れ落ちる砂のように"
「私は、まだ何も知らなかった」
"埃にまみれた地上と対象的に、夜雲は遠く高くを流れていく。 今夜は寝待ち月だろうか。月はまだ空に昇らない。見渡す限り、届くのは星の頼りない灯火だけ"
「……でも」
"折れた膝。もう一度。想いを握り締めた拳を支えに立ちあがる"
「今の私には、これしかできない」
"月のない夜。かつては自在に魔を紡げたのかもしれない、獣の魔法師は。今"
「だから、受け止めて下さい」
"土埃に汚れた顔で、真っ直ぐに。呼吸を整えて、地を蹴り、駆ける。 過去、無謀を繰り返した果てにある今。魔に寄り添えば蝕まれる代償を宿しながら、手負いの獣は、しかし瞳に星よりも尚もえたつ光を宿し、夜の荒れ野を馳せる"
"派手に転がったせいで傷だらけ。土埃を被り汚れてなお、熱をもって立ちあがる姿が見えた。 受け止めてほしい、と願う意思が、向かってくる意気が、風に載って伝う"
「――無論」
"論(ことば)なんて挟む理由はない。 もとより自分にとって立合いはそういうものだ。自分全部を出し切って、相手の全部を見せてもらう。ただそれだけ。 膝を屈しながら。それでも立ち上がる想いを。暗い夜闇の中で輝こうとする、その 光(たましい)を" "きれいだ、と" "あの日も、呟いたことは、輝きは、変わることなく褪せることなく。今もこうして目の前にあってくれる。それが何よりも嬉しい"
「いいぜ。ここだ、ここにいる」
"不安も、怯えも、歯を食いしばって抱え込んで立ち上がる獣の爪。 風に漂う揺らぎごと。胸からあふれ出すおそれごと。すべて残さず余さず逃さずに"
"両腕を広げて、その身で受け止めた"
"四肢を構成するほどの濃度の混沌をガードなしで受け止めた。 硬質なものが砕ける音がした。次々に断線する筋の音がした。体の中で何か潰れる音がした。 鉄錆の味が口まであがって。それでもぎり、と歯を食いしばった。 まだ、だ。 まだ意識はある、まだ、受け止められる。まだ――
届けたいものを。届けなければならないものを、届けられる" "ならば泣き言なんて口にするな。目の前にいる相手の全てを逃すな。 自分の前にこうして相対してくれる相手から目を離すな" "直撃を受けた左肩はもう痛覚すら停止している。 ――右はまだ動く。充分。 至近距離。足はまだ踏ん張りきれている。前に出ようにも押さえられたまま。このままではリーチの差で拳ひとつほど届かない距離。なら"
「……こい」
"一言。 同時。月の獣の背が、突如吹いた風で突き飛ばされたように圧された" "右手を伸ばす。追い風で縮まった距離。 指先が首元を掴んだ。腕の力と体重とで思い切り引き寄せる。 口にした言葉のせいで、口の中に溜まった鉄錆を盛大に地面に向けて吐き出して。 もう一度、近づく相手の目を見据えた。乱暴に。力任せに。距離を縮める。 吐息がかかりそうな距離。白皙の顔が間近にある" "背を押した風がその道に祝福を、と謳って解けてゆく。心の内で応と返す" "獣のように。衝動のままに。かみつくように。 首のノックバックを加えて、全力で額に額をかちこんだ"
"これまで、これほどに手脚が重く感じたことはなかった。 投影した籠手や具足の重量もあるのだろう。重みが枷のように纏わりつき、締め上げて力を奪っていくように感じていた" "……実際は、そんなことはないのだろう。これは、きっと" (私に、迷いがあるからだ) "混沌に身を呑まれかけた。その淵で、引きずり上げてくれた手があった。 だからもう死んではいけないのだと。命を危険に晒してはいけないのだと。そう、自分を律していた。 ……果たして、本当にそれでよかったのだろうか。 重い手脚。吹き飛ばされ全身を強かにうち、まだ焦点の合わない視界。それでもなお、まだそこにいる相手に向かって駆けるのは。この腕を振るうのは" (裏切りたく、ない) "背くことはしたくない。そんな自分では在りたくない。その一念があったからだ。 荒野を踏み抜く。向かい風を浴びて、尚走る"
「……ぁ、ぁあ あ、あ、あああああああああああ!!!!」
"斯くして振るった爪は、正面から彼の身体を切り裂いた。 なぜ、等という疑問は湧いた端から捨てていく。虹彩を認識できる距離で睨み合い、感情のままに爪を立てる" (届け) "何処にか。自分でも分からない。 けれど何処か何かに届けばいい、そう願った時" "一陣の風が背を叩いた" "目を背けないまま、彼の瞳に映る私を見る。 視界は綺麗な瞳で一杯だったから、喉元に伸びる手なんて見えなかった。 体温が食い込む。目眩にも似た感触が襲うが目は閉じない。ああ、喰われるのだろうな。そう思った" "思考は、そこで一瞬色を失う" "思考、脳髄、頭蓋。そういったものがまとめて揺さぶられた。 一瞬、額には熱さ。それも鼓動一つが過ぎれば割れんばかりの真っ白な痛みに変わり、思わず涙がこみ上げる。 鼻筋を伝うのは透明か、赤か。それすら今は分からない" (まだ) "踏みとどまる。眼の奥が重たいのに、痛くてたまらないのに、身体が倒れることを許さない" (まだ、終われないでしょう……!)
「……いつだって、貴方は」
"身体を折り、それでもなお、倒れず。唸るような声を風に流していく"
「私の世界を掻き回していく」
"私だって"
「予定通りに進んだことなんて、一度もない」
"こんな、彼に"
「全く、」
"何も返してあげられてないッ!"
「怒られたら、責任取ってもらいますからね……!」
"叫べ"
「《啼けッ!モロスッ!!》」
"応じ、夜がかたちとなっていく。 一瞬浮かんだシルエットは巨犬。しかしそれも風を巻き込んで鎧となり、私の身体を包んでいく" "……揺り籠にも似た心地よさに、心を、身体を、全てを預けそうになるけれど。 今は。 どうか彼に。 私の、命の証を――刻みこめ"
"頭がぐらり、揺れる。覚悟してても当然痛い。 右手が衝撃で離れた。至近の叫び声。 くる。きてくれる。そうだ。まだ。まだ、受け止められる。まだこの血潮は、この肉体は、終わっていないと叫んでいる"
「ま、だ。終わっちゃいねえぞ」
"口角を吊り上げる"
「まだだ」
"右の拳を握り締める。堅く。堅く。握り締める。 まだ終わってもいないのに、終わった後のことを心配するような奴に。勝った気になってる奴に"
「そうそう、手なんて抜いてやらねえぞ――!」
"吼えた。 咆声に呼び合うようにごう、風が渦巻く。 首狙い。手刀の一撃。最後の最後まで吼��てみせろ。終わりの終わりまで抗ってみせろ。 そうでなければならない。それこそが。 この銘(せりざわのけん)を負うに相応しい在り様だ――!" "空圧を込めて打ち出した拳で、獣の手刀に打ち向かう。 ぎしり。みしり。軋む体。叫んでいるのか、風の音かもわからない。 それでも最後の最後の、一滴まで絞りつくして打ち付けて" "ふつり。 体の力が、意思でもたせられる限界を超えて勝手に抜けた。 軽々と。木っ端のように吹き飛ばされ、地に落ちて勢いのままに転がされながら。 うつぶせに倒れた先で、相手を見上げた。背後の山の端には、昇りだした月。 自ら吼えて月に照らされる獣は、やっぱりあの時と同じ���らいに綺麗で。
「アンタの勝ち、だ」
"笑って"
「これでイーブンな」
"告げる"
「次はもっと、楽しくやろうか」
"ああ、やっぱり。 このひとには、月が、にあう――"
***
>BATTLE ENDED >RESULT CARNE:40/100 FUGA:36/100 >WINNER:CARNE
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Fight For Liberty(模擬戦:レオノール戦)
>STAGE:WILDERNESS >PLAYER NAME LEONOR vs FUGA >BATTLE START
***
"木々の目覚め。草花の萌芽。人の世の戦に我関せずと、徐々に春めいていく季節。 連日のあそびでは足りぬらしく、今日も今日とて少年はあそび相手を探していた。 やっぱりあそぶのなら知り合いの方が気が楽だ。何度か同じ戦場に居合わせた相手であればより気楽に声がかけられる。 そんなことを考えながらあちこちに顔を出しつつ町を歩いていると、見覚えのある顔を発見。近くまで駆け寄り話しかけた"
「久しぶりあんちゃん。今ヒマあるかー?」
"聞き覚えのある声にそちらを向いて視線を下げれば、確かに見覚えのある少年の姿。 随分と唐突な出現だが、自分も少年と似たような世界に身を置いている。そこではこんな出方をする相手は少なくない" (……確か、フーガ、だったか) "正式に名乗りあったかも定かではない相手の名前を思い出しながら、青年――レオノール・ヴァンフォーレは返す"
「今は待機中だ。時間ならあるが……どうかしたのか?」
"青年も確か自分と同じく傭兵の身だ。待機中ということは今のところすぐに戦場に出る予定はないということ。 こっちにとっては好都合だ。ここはストレートにいこう"
「最近戦に出れてなくてな。放っておいたらあっとういう間に錆びついて鈍らになる。 あんちゃんに時間があるなら、試しに一戦付き合ってもらえないかと思ったんだが」
"声の調子は快活に。下手な笑顔で、問いかける"
「どうだい、頼めるか一戦」
"誘いに、青年もまたどこかいびつな、下手な笑みを浮かべた。 連れあいができてから下手だと指摘されはしたものの、こういう稼業の人間には、ままあることなのだろうと思う" "傭兵というのは己の身一つで生き抜く生き方だ。それが雇い主や外野の判断で戦場を離れれば自分の能力が落ちないか不安になるのは青年自身覚えがある。 使わねば錆びる。研がねば鈍る。戦場に立つ生き様は、刃のそれに似ている"
「……了解した。だが、加減はしない。たとえ同じ陣営であったとしても、手を抜くのは失礼にあたるから、な」
"礼儀なんて規則儀礼に則った騎士による格好をつけるためのものほどではないが、戦場には戦場の、傭兵には傭兵の礼がある。 手抜きなんて笑止千万。相手が仲間であろうとも、年が離れていようとも、性別が異なろうとも、手抜き加減は侮辱に他ならない。 改めてそんなことを確認する必要があるかと言われればなさそうな相手だが、しっかりと前置くのは性分なのだから仕様がない"
「よっしゃ成立、と」
"軽い調子で青年の言葉に答えた。 この相手はいつも難しそうなことを考えていそうだが、傭兵の流儀や習慣をしっかり弁えている。説明すればわかってくれると思っていた。 こういう間柄は気楽でいい。何より、何を見せてくれるかこれからが本当に楽しみだ。 少年はわき立つ心のまま、獰猛に口を歪めて青年を促した"
「――場所変えようぜ。向こうに誰もいない原っぱがあるんだよ」
"ここじゃお互い本気が出せないだろ、と返事も待たずに町の外へと歩いていく"
***
"街の外。道からも外れた人通りのない平原へ抜ける。 先導する影がこちらに向き直って立ち止まった。ここでやろう、と目が語る。 応じるように柄に手をかける。宣言どおり、加減はしない。できることはそう多くは無いが――" (……全速で) "神速。速さはレオノール・ヴァンフォーレの強さの一つ。 どれほど強大な力を振るおうとも、当たらなければ意味がなく、当てる前に倒れれば価値がない。 重心を一瞬傾け、ゆらりと揺れ――発走。 踏み出しのタイミング、傾斜の角度、溜めた力、全て絶好。紛れも無く、間違いなくの最高速。 無造作に剣を構えると少年との距離を一息で詰めきり、両手で剣を降り下ろした"
"速い。一目見てそう思う。 感じる限りじゃせいぜい、風切り音を聞いて対応するのが限界か。 体を縛ろうとする殺気の苛烈さからして、かわそうにも少し間違えれば首が飛びかねない。加減なしにもほどがある。 ――無論、その方が楽しいのだが" "音でタイミングを合わせ、生み出した風の刃で迎え撃つ。しかし体格に加速が加わった一撃の前に易々と押し返され、弾かれ押しとばされた。 弾き飛ばされながら、相手を見据える。残心の姿勢で刃を振り向いたままの青年の瞳がこちらとかちあう。 この程度で終わるなと語られているようで高揚する。当然。 足から着地。勢いをそこで殺しきって反発するように走り出す。 風で自分を打ち出すイメージで跳ね、構える剣のその下へ"
「いくぜ、にいさん!」
"馳せ抜け、対応に動く刃の先へ。握り固めた拳の前へ障壁展開。障壁ごと全力で、拳を剣の刃へと叩きつける"
"直進する少年を迎撃する。 拳を握りしめ駆け込み潜り込もうとしてくるのに合わせ、剣で体ごと弾くのを選択。 相手の間合いには入らせない。軌道は見えていた。弾ける。確信し、手首を返す、瞬間。 少年の拳がそこから加速。風の守りでもかけているのか、あろうことか拳が刃に叩きつけられた" "手首と腕に重い衝撃。剣の腹に片手を添えて勢いを殺しながらも、拳に吹き飛ばされた。 思い切りの良さ、判断、威力。強いな。青年は素直にそう思う" (だが、負けたわけではない) "意思を新たに。もう一度剣を構えると少年との距離を詰め直す。 先よりも速く。先よりも鋭く。踏み込み、剣を振るう。胴を払い切るつもりでの一刀"
"先よりも更に踏み込みが速い。まったくどこが底なのかと感嘆するほど。 青年の持ち味は速さと鋭さ。距離を詰める速度が上がれば振りぬきも更に早くなるはずだ。風音を聞くだけでは今度は間に合うまい。 挙動の起こりを視認と同時に動く。肩の動きから軌道を読み、寸前で地を踏み風を蹴り体をひねる。 タイミングも方向も掴んだというのに読み損ねた。 上へ跳ねてかわしたつもりが、相手の手は更に迅い。足を浅く掠める刃" "しかし飛び込んだ空中はこちらのもの。空の中は風の領域。 その中で思うことはひとつ。剣士相手に剣勝負、どこまで通じるか試してみたい。 自分の未熟は百も承知だ。どこまで自分が届くのか、どこまで自分がたどり着けるのか。見てみたい。 迷うことなく両腕を風に変えた。風を刃に。鋭く大きく。ぐるり体ごとまわって勢いと遠心力とを重ね。 3mの刃渡りの大斬撃、青年の脳天めがけて振り下ろす――!"
"空に逃れた少年を視界に納め、次の挙動を予測し――刹那。ぞくりと背筋に悪寒がはしった。 直感の導きに従い弾むように一歩退る、その目前――巨大な風の剣が振り下ろされる。 その場から動かなければ、一撃で戦えなくなるだけの膨大な力の渦。 相手が生み出したものは大きすぎた。とっさのバックステップだけでは避けきれず青年の体に風刃がもぐりこむ。 痛みをこらえ状況判断。まだ動けるがかなりの深手だ、できるだけ早く治療したいと分類する" "認識を改める。目の前にいるのはただの少年ではない。じゃれにきているただの子供ではない。 油断すれば死を招く、紛れもなく戦場に立つひとりの邪紋使いであり傭兵だ。 だが。今のは少年の力の「底」だろう。速さ、勢い、不意まで打っての大斬撃は、しかし剣士の鋭さ技量には遠く及ばない。 不完全ながら、それは見切れた。ならば。負けるとは限らない。 目の前に着地の隙をさらす頭に向け、大きく振りかぶり力をため。青年は、最速の片手平突きを突きぬいた"
"多少の手応えを残しての着地。まさか、受けるでなく回避を選ぶとは思わなかった。 否、相手の動きの速さからすればダメージ覚悟で無理に受けるよりは損害がないという判断だったのかもしれない。 最大限のダメージを狙った振り下ろしだ。かわされれば相手の目の前に無防備な様をさらす。 着地の隙を狙った神速の突きが飛んでくる。ダメージからか風の音で何とか捉えられる速さ。視界の外、風を頼りに、腕で剣の腹を叩く。 角度がずれていたか刃が肌の上を滑りぬけていくが、構わない。 見えない刺突にあわせられただけでも御の字だろう" "剣は払ったとはいえ、危地は変わらない。 この間合いは相手のものであり、更に踏み込むなら剣士殺しの領域だ。易々と入れてはもらえない。 しかし距離を離せば攻めるに足りないのだ、多少無茶でも打ち込みにいくしか道はない。 突きで止まった刃の腹に無理やりに薙ぎ払われながら、それでも無茶な体勢から体をひねって蹴りにいく"
"さっきの一撃と比べればかなり遅く、完全に見切れる苦し紛れの蹴り。しかし油断はせず、冷静に弾く。 斬撃で受けた傷のせいで鈍ったか完璧には弾ききれなかったが、それでも威力を殺しきり相手を内には入れさせない。 内にいれれば相手の独壇場��。こちらの土俵でさえこれだけの傷をつけてくる相手を有利にさせるつもりはない。 この距離なら敵の風の刃より、自分の剣が届くほうが速い。速さは力だ。届かない必殺に意味はない" "切り札はまだ撃たない。「底」を見せて決めきれなければ、敗北に繋がる。 距離がかすかに開く。着地の寸前、相手がまだ体勢を���えきらない状態。 思い切り踏み込んで体ごとの勢いを乗せ、両手で真横に薙ぎ払い――風を凪がせる勢いで振りぬいた"
"飛ばされて、着地前に殺気。防ぐ打ち返すには間に合わない。ダメージ覚悟で少しでも身をかわすしか、戦い続けるための道はなかった。 腹を薙ぐ斬撃を空気を蹴ってかわそうとするも、足に深々と刃がもぐりこむ。 不覚に歯を食いしばる。片足に力が入らなくなるのは、速度と跳躍力で戦う身としては致命的に近い" "それにしても速い。判断に余分がない。強い。鋭い。まるで彼自身が剣のようにさえ思えるほど。 上等。ここは風の本分に戻るべきと判断。 片腕一つ風に変え。未だ残す殺手を放とうと冷たい光を宿す相手に向けて、思い切り振りかぶる"
「これなら、どうする?」
"相手が剣であるのなら、こちらは風の在り様を見せ付けるまで。片腕全てを風と変えた、猛る嵐を叩きつける"
"敵の手元から生れる嵐を見据える。 範囲、鋭さ、勢い。避けるのは困難と判断。 自分の全速をもってしてもかわせない。防ぎきれるものでもない。ならば――真っ向勝負、この一刀をもって嵐を切り裂くのみ。 剣を両手で正道の中段に構え、切っ先を嵐の正面に。切り裂くように突き出しながら、駆ける。 傷つくのは気にしない。例えここを切り抜けたとしてもこちらも限界が近い。 これ以上の攻撃は一度以上もたない。 であるならば。これまで隠しもっていた切り札を見せるのが、この敵への礼儀だろう" "剣を構える。今までとは全く違う構えは、肩に担ぐようにした上段の打ち下ろしの溜め。 これが切り札。あらゆる防御を捨てて踏み込み叩き下ろす全身全霊の斬り下ろし。 数々の敵を打ち破ってきた――捨て身の一撃" (これで、終わらせる) "寡黙な青年には珍しい、獣のような雄叫びで。全身全力を、この一刀に――稲妻じみた迅さで振り下ろした"
"嵐の中を防ぎすらせぬままその足で突き進む相手に対し。この殺手は避けられないと、直感的に理解する。 肩に担いだ一刀が迸り抜ける。空を断つ一撃が打ち込まれる。 とっさに体を傾けて真っ向から叩き切られるのだけは避けたが、あまりの鋭さに意識を手放しかける" (まだ、だ――っ!) "歯を食いしばる。相手の斬撃の勢いを利用。 どんな時でも、最後の一滴まで搾り出さねば、最後の一瞬まで足掻きぬかねば、こんな勝負を受けてくれた相手に申し訳が立たない。 体を捻る。赤がしぶく。構うものか、動け。打ち抜け。まだ、届けられるものがあるだろう――! 足を振り上げ、斬られる勢いを利用して。蹴りを相手の顎めがけて打ち抜いた"
"この一撃で決める。そう決めた。 決めきれなければ、負ける。そう定めた。 だというのに、まだ動く。自分の必殺をもってしてさえ、動きを止めない。表になりかかる焦燥を、両手に握った刃を更に押し込むことでおしこめる。 不死身ではない。無敵ではない。あとはどちらが最後に立っていられるかが勝敗を決める。 無理やりに身を敵の一撃が青年の顎を真芯でとらえた。 頭が揺さぶられる。人体急所のひとつだ、力が勝手に抜ける。倒れこみそうになるのを、足に力を込め、地を踏みしめて。剣を手にしたまま何とか体勢をととのえる。 もう戦えない。限界は越えている。 けれど、されど。それでも――倒れることなく、その場に立ち続けた"
"無茶な体勢での蹴りを打ち抜いたはいいが、落下する体のフォローまではできない。 背中から地面に落ち、咳き込んで。 すでに戦う力など残っていない。あー、負けた負けた、と未練なく呟きながら空を見上げる"
「いいな、やっぱ強いやつと遊ぶのは」
"下手な笑いでそう言って。視線を動かすことなく、付き合ってくれた相手に声を向ける"
「そう思うだろ、アンタも」 「……そうだな」
"問われた青年は。答えに少しだけ躊躇った。 彼にとって、戦いは生きるための手段でしかなかった。地獄のような毎日を、自分の手で生き抜くために必要な力で、手段。 自慢することも、誇ることもできない――ただ殺す為の、術。 だから。自分は少年のように素直に戦いを楽しむことはできない。 嘆くでも、怒るでもなく。楽しそうに戦う相手を、少しだけ羨ましく思ったのだ"
"少しだけ、翳る風。 ああ、なるほど。この青年は――『そういう』ヤツなのか。 そういうヤツがいないとは限らない。自分だって、もとは戦う力は生きる術でしかなかった。 だというのに、付き合ってくれたことに。ちゃんと礼をしなければ"
「あんがとな。こっちは楽しかったよ、また気が向いたら遊んでくれ」
"こっちは、という言葉。 どうも気取らせてしまったらしい、思ったよりも機微に鋭いのか、あるいは己が下手なのか。 どちらでもいい。傷の手当もしてしまいたい。またいずれ、戦場で会うこともあるだろう"
「そうだな」
"倒れたままの少年を一瞥。次を口にする相手に、少しだけの沈黙の後"
「――次は、倒してみせろ」
"そう呟いて。青年はその場から立ち去った"
***
>BATTLE ENDED >RESULT LEONOR:66/100 FUGA:60/100 >WINNER:LEONOR
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旅立ちの鐘が鳴る -vs.korshun zrachok geroy-(模擬戦:コールシゥン戦)
>STAGE:WILDERNESS >PLAYER NAME KORSHUN vs FUGA >BATTLE START
***
"ふらり、青い頭が揺れて、一人街を歩く。 見たこともない建物。見たこともない人の流れ。見たこともない街並。 快い空色を見て高く対流に乗りに来たら思ったより流れが強かった。少し遠くまで来すぎてしまったらしい。 来てしまったものは仕方ないとあたりを見て回り、人と話しているうちに噂話を小耳に挟んだ。 ――曰く、近隣の突発的な混沌災害を収めた者が宿を取って滞在している。 興味を覚え、見たこともない人影を探すこと数刻ほど。 やがて見つけ出した相手のそばまで近寄り、声をかけた"
「アンタが、この辺の混沌災害を片付けたって奴だよな」
"好奇心と興奮を抑えもしない弾んだ声色で"
「――なあ、今暇あるか?」
"育った場所の流儀で、屈託なく笑って誘いをかけた"
"ひょっこり現れた青い頭。迷うことなく男のところまでやってくると、そう尋ねた。 出会い頭。挨拶も何もなし。色々すっ飛ばした随分と唐突な誘いだ。 声をかけられた側、ゆったりと腰を落ち着けていた壮年の男は視線を下ろして碧の瞳をちらりと見やり"
「暇か、ねえ。ちょうど時間はあるが、何か用かい?」
"何やら面白そうなことになっている、と判断。口角をゆるりと上げる"
"男からゆらりにじむ存在感が、風を通して視える。落ち着いた中にかすかに戦の空気が混じっている。心地いい。 ふ、と気息を落ち着け、碧の双眸でしっかりと相手の目を見据え、応える"
「手練って聞いた。だから、一手立ち合ってもらいたい。 すごい奴がいたらその力を見たくなる。どうしようもないオレの性分だ」
"だから"
「アンタが時間も暇もあって、ちょっとでも気が向いてくれるなら。 飯とか酒とかくらいしか、礼はできないけど。 ――是非に、あそんでもらいたい」
"見据えて、正直に。まっすぐに。身についてない礼だけは失さぬようにそう続けた"
「性分か。なるほど」
"こちらを見据える碧の目。 痛いほど真摯なそれを向けられた男は、目をすっと細める"
「いいねえ」
"眩しい。放たれる真っ直ぐさが。隠しもしない期待と熱が"
「俺がお前さんの期待に答えられるほどの大層な者かは知らんが、その誘い、受けよう」
"巫山戯混じりで話しかけてくる者は、今まで何人もいたが……。 出向いた先で、こんな風に真摯に熱烈な目をした青年に出会うとは思わなかった。自身の内で戦意が沸きたっていく感覚。 混じり気のない純粋な熱。いいものだ"
「存分にあそぼうじゃあないの」
"鳶の双眸が真っ直ぐ、誘いにきた青年を見つめ返した"
「ありがとな」
"快い返答に、笑って返す。 とはいえ街中で暴れるわけにもいくまい。 見て回った中で、はずれの方にはに暴れても大丈夫そうな場所はあったはずだ。河岸を変えよう、と先導し、くるり振り返って見上げる"
「そういえば、名乗りがまだだった」
"名乗るべき己の名は、今は"
「――フーガだ。楽しくあそんで、刻んでもらえるようにするから。よろしくな」
"確かに人様に迷惑をかけるわけにもいかない。今にも跳ねてどこかに飛び出しそうな背中を追う。 くるり振り返って告げたのは名前。 フーガ。 反芻し、まず、名を刻む。痛いほどの眼差しと共に、胸の奥へと。 そうして自分もまた、名乗る。目の前に晒される曇りの無さに隠す気すら起きない。どうも青年は毒気を抜くのに長けているらしい"
「俺はコールシゥンだ。よろしく」
***
"さて。 小柄な青年の後をついて歩き、着いた先は遮るもののない開けた場所。 ここならば少しくらい派手に能力を使っても、それこそ邪紋使いが二人暴れたところでそう大きな問題は起きないだろう"
「さて」
"槍を手の中でくるりと回し、構える。 両者の間を風がひぅと通り抜ける。 先手。巨躯が一足に距離を詰める。獲物を引き裂く獣の爪。重さと迅さの両立。 力強く踏み込み、矮躯へ向けて。 銀の烈光。頭に、肩に、腕に、胴に、足に。上から打ち下ろし、下から跳ね上げ、横薙ぎ払いに、突き上げ穿ち。 長物の先の刃を、縦横無尽に振るいながら"
「お前さんは、どんな目で俺を視る」
"鳶目の男は、爪の乱舞に身を晒す青年に目を凝らした"
"名乗りを刻み、巨躯の男の手には大槍。 軽々と振り回す膂力と、手足の先のように十全と操ってみせる技量。見せ付けられて昂ぶらぬわけもない" "ひゅるり、風が間を駆け抜けた" "大柄な体から想像のつかぬ機敏さで一息に間を詰め、得物の間合いへと取り込みにきた。 塵の迷いもない発走。遠慮も加減もない、戦うためだけの行為。 目を見開き、同時に獰猛に笑う。直感は間違ってない。この男は紛れもない強者だ。まったくの偶然の出会いに、相対できたことを感謝する" "真正面。相対する。 銀の閃き。烈の華。問いかけと共に振るわれる光へ、滾りの限りに立ち向かう。 首狙いの払い、刃下をくぐり。急静止からの振り下し、前へ跳ねて回避。引き戻して胸へ抜ける突き、紙一重でかわし――損ねる。 速さと載る気の凄烈さに目算を誤ったらしい。未熟の自嘲と、相手の強さへの敬意" (速い。鋭い。烈しい。鮮やか。全部揃って――強い) "吐息一つ。こんな相手と、相対できる、それが何よりに幸い。 だからこそ。自分は自分で――見せられるものを。届けよう。 前へ。 相手の間合いの内へ。担い手の必倒の圏内へ。踏み入れ、踏み抜く。轟音を残し跳ねあがる。兎のように狼のように。 流れるように槍の石突が跳ね上がるのを風の流れで知覚。迎撃がくる。 下から天を穿つような打突。その前に、左の掌を広げ、受けて――とめない。 我こそは風の申し子。風を『踏む』ことなど呼吸と変わらぬほどに自然の理。 空を足場として打突の勢いを回転運動に転化。相手の勢いを利用しての――"
「返すぜ!」
"――後ろ回し蹴りで、側頭狙い。思う様振り抜いた"
"躱しきれなかった一撃が身を削るもなお、前へ前へ進む。連撃の隙間を掻い潜り、進撃せんとする碧。 まず小手調べとは思ったが、手加減など微塵もしてはいない。本気だ。 それをこの青年は、真っ向から受けて立ち乗り越えてみせる。この光景を目の当たりにして気分が高揚しないわけがない" 前へ前へと踏み込み、踏み入った小柄な体が跳ねる。高く、高く、疾い。 急速な動きの変化に、即座に対応した ――つもりになっていた" "石突で動きを止めるつもりで打ち抜いた相手が、まったく想像もしない動きで返してくる。 見えぬ足場を使い、力の流れを変転する。そこから放たれるのは、こちらの打突の勢いを利用した蹴り。 体は反射的に動く、が。これは――。 身を咄嗟に傾けて、緩和したがそれでもぐらりと揺らぐ視界"
「やるねえ……」
"思ったよりも、がむしゃらなだけではないらしい。 確かに身についた技術は、勢いで動く獣にはない理がある。認識を改める必要があった"
"蹴りが通った、が浅い。なら追撃だ。 一度離されると今度は簡単に入れてはもらえまい。機は逃しちゃならない。 着地。両腕を引き絞り、さらに距離を詰め、迎撃より疾く踏み入った。 地面を踏み抜く。力強く意思を込めて深く深く――震脚" "びしびし、地面の悲鳴を聞き捨てて。威力に転化して両腕を突き出す。捻りを加えての掌底打。 風は波。波は音。その掌は空を渡る振動を操るもの。掌から、触れた体内へ振動を直接打ちこむために掌に溜め"
「――まだまだ、あるんだぜ?」
"両肘の先に空弾を用意。炸裂させ、爆発的な加速を得て"
「全部見てってくれよ」
"加速した振動を纏わせた両掌を、相手の腹に向けて打ち込んだ"
"碧の侵攻を許したのは失敗だ。蹴りといい、戦い方が近距離を得手とする相手だ、踏み込ませてはならなかった。 踏み込みの力の入れよう、不可解な風の圧を背としたこと。突きこむそれがただの打撃でないことは明白だった。 臓腑を掻き乱す衝撃。 不快な味が喉元までせり上がり、がふと空気が溢れ出る。だというのに"
「…ッハッハ!そいつは楽しみだ」
"それ以上に、愉快さが体の芯から湧いて出る。 見たいときて、見てくれか。 宙空を捉え、地を打ち据える。小柄な体格を補って余りある技、その練度。見飽きることはないだろう。 ならば、こちらも相応のものを見せなければ割に合わない。 意思に、望みに応じて、男に刻まれた邪紋が蠢く。額ではなく、背。 服を纏ったその下の混沌が、腹へ、胸へ、喉へ。足先から頭まで隈なく広がる。 全身に伸びた邪紋が望むままに力を示す" "僅かに後ろに傾げた体が跳ね戻った。 流れるように短く穂先側へと槍を握りなおし、青年に突き下ろす。 反射反応の速度を考えればまず回避を選ぶはず。躱されることを予測しての、もう一足踏み込んだ、突き飛ばす柄の一撃。撃ち抜く"
"双掌。通った。 振動を直接体内にぶちこんだというのに、巨躯は小揺るぎもしない。あまつさえあれだけの威力を真正面から受けて笑っている。 楽しい。愉しい。この相手は、自分の全力をぶつけてなお揺らぐこともない――!" "男の蓄えた邪紋が蠢く。邪紋使いにとって蓄積した邪紋は己の力そのものに等しい。そのちからを、今度は見せてくれる。 ならばこちらもそれを真っ向から受け止めねば。 槍の穂先がひらりと巡り、寸分の揺らぎもなくぴたりと獲物を定める。 狙いは明確。頭を打ち貫かんと、その力強い闘志を叩きつけてきた。 反射的に後ろに跳ぶ。低くバックステップで突き落ちる穂をかわそうとし、 槍の柄が唸りを上げて踊り、跳ねて硬直した体を狙って打ち込みにきた。 あまりに狙いを見せ付けたのはこのためか。歯を食いしばって両掌を重ねて受け、衝撃でそのまま宙へと飛ばされた" "咳き込む。全身を打ち据えた衝撃はけして軽くない。だからこそ。だからこそ" (うれしい、な) "これだけの業を見せていい相手と、見られたことが。何よりも。 だから自分ももっと。できるところを見せたい。この男に――届けたい" "風は己が輩。空は己の領域。ぐん、と胸を中心に回り、両足で空に着地。相手はすでに準備を整えている。だからこそ" (オレの全力で――その鉄壁を突き崩す!) "全力で空を蹴り離す。轟音。稲妻にも似た青が、空を引き――槍の柄の、両の手の中間へ向けて蹴り穿つ――!"
"天高く、轟音とともに吹き下ろす突風。突き飛ばされつつも、自ら宙に逃れたのだ。 見えぬ足場を蹴り重ね、力を溜めた空のヒトカケが、真っ逆さまに落ちてくる。こんなもの、躱せるものではない" "穿つ力は雷のそれ。 受けた槍が悲鳴を上げてへし折れ、蹴りはそのまま胸元に深く沈み込んだ。 先とは逆に、今度はこちらの体が吹き飛ばされる"
「ッガ……!!」
"地面を転がり、したたかに叩きつけられること数度。 ようやく勢いが収まってきたところで片手を地に突きやり立て直す。 鮮烈。鮮明。次から次へとよくもまあ出てくるものだ、まったく驚かされる。 吐血混じりに咳込んで、荒く息を吐き出した。 鍛錬に鍛錬を重ねた、それでいて未だ若い力。まだ、まだ。先がある。それがどれほど眩しく、尊いことか。 こんなものを前にしてはまだ止まれない。足に力を込めて、駆け出す" "全身に邪紋を這わせてまでの仕合は、大戦前まで遡る。 しかし彼の青年を前にして、積み上げた今までを曝け出す行為に勿体をつけようとはしない。 全力を見せつけてくる相手には出し惜しみこそ不快であり、不義だ" "待ち構える烈風の申し子に肉薄。 邪紋と体の軋む音を意にも介さず、数手の牽制から隙をねじ込み、小柄な体を思い切り蹴り上げる"
「空はお前さんの領域だろうが、俺もそこそこは飛べるだろうよ」
"それでは終わらせない。貼りつくように、自身も高く跳んだ。呟きが届いたか、目の前で表情が変わる。 体を捻り回転をつけて、拳撃、蹴撃、墜撃。空中で獲物を削り刈り取っていく猛禽の如く。 さらには折れた槍の柄を。相手の腹を目掛けて、突き落とした"
"全力の蹴穿に、受け止めた槍がへし折れた。その先に、届く。 男は蹴りを受け吹き飛び地を転がりながらも、けして終わりではないとその目が如実に語っている。 さあ次は。次は何を見せてくれるのか。わく心のままに、迎えうつ。 折れた槍を棒として握り、払い、突き、打ち。リーチが短くなった分で肘や膝も飛んでくる。 体格で圧倒的に劣る以上、ガードよりも纏手による払いや流し、避けを選択するのは必然。しかし槍の間合いと戦い方から急に戦い方が変わったことで、隙はどうしても生まれる。 その隙を突き、捌ききれなかった蹴りが腹に振り抜かれる。舌打ち一つ、左腕でガード――それごと、吹き飛ばされた" "腹に打ち込まれた衝撃はけして軽くない。ガードの上からでさえの全身に響く衝撃に、歯を食いしばる。 体勢を整えるべく、風を掴もうと掌を伸ばし――風の声で危機を感知。とっさに腕で頭をかばえば、その上から拳打が叩きつけられた" (追って、きた、のか――っ) "理解よりも相手の行動の方が早い。突き上げるような蹴りを受けて浮き、肺から空気を叩き出され。 絶好の位置に来たとばかりに。目に映るのは高く高く、振り上げられた槍の柄。 穿ち落とされたその前に、間に合ったのは左の掌一枚。 空から引きずり下ろされ、轟音と共に地に叩き落された。咳き込み、口から赤いものを吐き出して。瓦礫から、這い出る。 まさか、風としての機動を練度でもって超えられるとは思っていなかった。ああ、まったくもって――"
「――おも、しれえ」
"碧は、地に引きずり落とされてなお、煌々ともえたつ。 まだまだ、終わらせやしない。見せるものも見るべきものも、まだまだ残っているんだから――"
"死角をつき虚をついた一撃一撃に、大した反応だ。危ない一撃にこそ鋭く反応する。勘がいい。 加えて、得意なフィールドから叩き落されてなお消えることのない闘志。 風はなお轟々と、青年の意志をもえたたせている。まったく"
「いいねえ」
"その目は好きだ。意志の固さも、強さも、全てがその目だけで語られている。 瓦礫から這い出た碧を捕捉。追撃する。 自在に動き回る風を、宙空から引きずり落とした機を逃さない。 鳶は真っ直ぐ獲物を睨みつけ、四肢を捻りぐぐと力を溜める" "腰を軸に脚を振るい、回転運動と勢いとを加え、重力に引かれるまま更に加速。 景色が飛ぶように流れていく。 地に立ち上がる碧空が目前に迫る。 息すら許さず瞬きも追い越し。速く鋭く、深く重く、獲物を抉る猛禽の爪を叩きつけた"
"鳶色が空から降ってくる。まっすぐに、こちらを捉えんと。 楽しそうな風を纏っている。どこまでも真剣に、こちらに向かい合ってくれているのが、わかる。 有難い話だ。こんなにも強い相手が、こうして手ぬかることなく向き合ってくれている。その心意気に、感謝と敬意を" "衝撃から立ち直りきれていない四肢に力を込めて、真正面から受けて立つ。 猛禽の爪は刃に似ている。引き裂けぬものなき空を往く者全ての脅威。 その鋭さに、立ち向かう。掌に風を纏う。厚く、鋭く、刃の如くに。頭上から降り来る空の刃に、風の爪をかち合わせた。 衝撃と音を撒き散らし、粉微塵と砕ける風の爪。猛禽の刃は逸れこそしたが、空から降り来た重さにぎしりと体が軋む" "しかしこの距離この動き。好機とばかりに地を踏みしめる。鳶を碧の瞳が射抜く。 降下の勢いをこちらに打ち込む為に、全ての重心をこちらに動員しているならば。 ――引くことは、容易い" "くるり。肘から先が肢を絡め上げた。そのまま引いて、肩に担ぎ、外れぬようにぎしりと肉を締め上げて"
「お返しだ」
"自重に落下速度、ついでにオレ自身の勢いを載せ"
「そっから堕ちろ!」
"巨大な鳶を、砕けた地面に叩きつける"
"風の爪が、猛禽の刃を逸らしきった。 力を削がれた鳶は、肢を絡め取られ、地に堕とされる。 この状態では大した受け身も取れず。打ち据えられた体に、尖った瓦礫が突き刺さる。邪紋の守りと繕いに綻びが生まれる" "鳥は碧を見上げた。 元よりこちらが少し押され気味だったが、完全に流れを逸してしまったらしい。 傷がじわりと口を開き、赤色を滴らせる。ここからどう形勢を立て直すか、難しいものだ。 だが。それを面白いと感じるのは、気が触れているだろうか? ここからが面白いのだと、そう思うのは壊れているだろうか? 答えは自分の中にあればいい。口元の緩みをかみ締めた" "いつまでも転がっている訳にはいかない。仕合はまだ、終わってはいないのだから。 二本の腕で体を跳ね上げ、二本の足で地を蹴る。 僅かに後方に跳ぶ。目の前の風と視線が絡まる。 翼の邪紋を励起させ、力を失いかけている四肢に力を意志を伝達する。 恐らくこれが最後の交し合い。重心を低く保ち、瓦礫を踏み割り発走、接近"
「俺はレイヤーだが、派手な変身は好みじゃあなくてねえ…」
"ガッカリさせてしまわないか。そう思わなくはないが。 後ろに引いた諸手に混沌が収束する。地を抉るように踏み入り、踏み切り。 踏み抜いた間合いでもって両の手を突き出した。碧の眼前で夜色が爆ぜる。混沌を上乗せした胸元への一撃"
「この身であること、なすことが、俺の全てだ」
"ならばこれを。俺を。最後に見せつけよう"
"思い切り地面に叩き落してやったというのに、傷だらけのはずなのに。 鳶の目はなおもたのしそうで。焦がれるほどに、衝動のままに。まだ終わらない。己も沸き立つ。 距離が離れる。視線が絡まる。熱と熱がうねり混ざり合いせめぎあう" "ざわり、相手の中の混沌が蠢いた。両の手に収束する混沌は、夜の闇よりなお昏い。 派手じゃない? 冗談言うな。あんな混沌の塊を収束させるヤツが、真っ当なわけがあるはずない。 くは、と笑みがもれて。突きこまれる夜色に向けて。右の掌を、思い切り握りこんだ"
「同感だ」
"その通り。この身であること、この身の成すこと、それがオレたちだ。そういうものが――こんな場所で笑っている馬鹿共の、生きる証に他ならない。 握りこんだ右拳に、風を溜め。押し込め、収束させて"
「――そうでなくちゃあ、な!」
"胸へ突き進む混沌を殴りつける。夜色が、風纏う拳と衝突して吹き荒れる。 混沌と風が混ざり合い、さながら混沌の嵐と化した巷の中を。 吼える。叫ぶ。一滴まで使い尽くせ。最後の最後まで突き進め。それが。そういうものが。 どんなところへも、どこまででも。己の意思のままに突き抜け吹き抜け突き進む、『風』の有様というものだろう――!" "見せ付けろ。届かせろ。ここまで変幻自在の混沌を操ってみせた相手に。 自分(かぜ)を、刻んでもらえるように。 空圧を総身に纏い。暴圧の中を、構わず突き進む。引き裂かれて打ちのめされながら、その脚で突破し切る。 肩を押し付け、背を押し当て。更なる震脚大地を砕き。 打ち抜き放つは、渾身の――
「――いっけええっ!」
空圧込みの鉄山靠を、全身全霊ぶっ放す――!"
"昏い嵐の中を貫いて、吼え猛る碧の獣。 襲いかかる障害に引き裂かれようと、打ちのめされようと。強い意志ただ一つを、胸に宿して。迎撃も防御も跳ね飛ばし、こちらの内に入り込む。 その牙が懐中に届いた" "文字通りの全身全霊。力の限りをぶつけられ、綻びから身体が崩れ落ちる。 傷口が裂け、身が血色に染まり。二種のいたみが全身を駆け巡った。体を襲う激しい波に、意識を飛ばしそうになる。 それを、歯を折らんばかりに食いしばり、堪えた。堪え切った。 最後の時を、無様に気を失うことは避けたい。気が遠くなるのを繋ぎとめきり、一拍おいて漏れる感嘆のため息"
「…強い、ねえ」
"この青年の心技体すべて。互いに真っ向向き合い、死力を尽くして、それでもまだ終わりの見えぬ強さ。 邪紋の繕いを失ったボロボロの体を、気力を振り絞って立たせる"
「大したもんだ」
"揺らがぬ碧い強者を、鳶目の男は礼賛した"
"残心を、戦意の緩和を見て解いた。 耐え切られた。自分の持つ中で一番練度の高い業を。教えられてから磨き続けた必殺のひとつを。底知れないと一人ごち、精度が足りないと自戒して。深く息をつく"
「アンタこそ。オレ、空から叩き落されたのはじめてだぜ」
"自分の得手の距離、場所から軽々と引きずり落として見せた。 そんなものを見せてくれた相手には、その強さを見せてくれた相手には、自分の至らなさを示してくれた相手には"
「すげえ強かった。楽しかった、ありがとな」
"ちゃんと、出来る限りの言葉でもって"
「また時間があったらあそんでほしい。 その時はまた、よろしくな。コールシゥンの兄さん」
"笑って、右手を差し出した"
「ハッハッ、兄さんって歳じゃあないでしょうよ」
"拙い言葉を聞いて笑い飛ばしながら、振り返る。 後一撃でも喰らえば、間違いなく死に体だった。衰えたものだろう。男は苦笑する"
「ここまでいろいろ出し尽くして闘ったのは久しぶりでねえ。俺も楽しかったよ」
"ありがとさん。 差し出された右手を、節くれ立った手で握り返した"
***
>BATTLE ENDED >RESULT KORSHUN:41/100 FUGA:57/100 >WINNER:FUGA
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まわりまわって さぁ今 -vs.kaleidoscope magus-(模擬戦:イオリ戦)
>STAGE:BATTLE FIELD >PLAYER NAME IORI vs FUGA >BATTLE START
***
"――快晴の秋の空の下" "気温はやや低めにはなったものの、まだまだ陽射しは力強い。 こんな日に魔法師とエーテルが室内で手合わせ、なんて笑い話にもならないわけで"
「誘いに乗ってくれてありがとうな、旦那」
"ぽっかりとおる青空の下。 みどりの眼差しで見やる先には藍色の魔法師。細い目と穏やかな物腰からは想像もつかないほど、あの大いくさの中で大勢の仲間をを指揮し立ち回り生還させてきた強者だ。 思慮深く機転の効く彼に何度も助けられた身としては、やはりその実力を見せてくれるのが嬉しくて"
「本気であそんでくれると嬉しい。よろしく頼む」
"に、と口元を歪めて。こんな機会でもなければあそんでもらえないだろう相手に向けてそう告げた"
(――さて、初めて会ってからもうどれくらいになるのだろう) "そう思うほどには、初対面から目の前の少年は変わっていて"
「本気、ですか」
"ひょうと肩をすくめる。 はじめて会った頃はただ奔るだけだった風。あの少年が、こんな風に笑う日が来るなんて"
「――本当に良かった」
"今では護剣とまで呼ばれるようになった相手を前にして、魔法師はすうと目を細めた" (――さあ、確かめましょうか) "何が変わったのか。 何が変わっていないのか。 変わってはならないものが変わりは、していないか"
「はじめましょうか」
"笑う。手合せではあるけれど――"
「全力にて、お相手します」
"声を引き金にするように。地を揺らし、宙を波打たせ、黒白一対の鯉が姿を現し��"
"突如現れた黒白の鯉は、優雅に宙を泳いでいる。 ただの鯉でないのは一目で解る。耳にし目にしたことはある、彼の戦い方の新しい形。 あの戦以来、文官として契約魔法師として駆け回る彼と背をあわせることなどなく。 イオリ自身の気質や自分の間の悪さもあるのだろうが、実際に戦うところを見ていたこともなかった。 見たこともないものを見せてくれる。なら、自分だって"
「ありがとう」
"その心に応えねば。真正面から見据える"
「こっちも、全力で。あそんでもらうつもりだ」
"彼の見たことのないものを、自分のうちにある何かを届けられるように、見せられるように――構えた" "幕を上げるように両腕を開く。ただそれだけで流れ、奔り、躍り、渦を巻く風たち。 この地は我が同胞の棲む場所。 呼ぶまでもなく、喚ぶまでもなく、ただ想うだけで望むままに吹き上げ吹き抜け巡り舞う、同じ名を持つ 風(なかま)の集う地。 想うままに望むままに。想うだけで集ったものたち。束ね連ねて形を成す。 ひゅるり。ごうごう。渦巻いて。ひゅらり。ざあざあ。音を引く" "紡ぎあがるは風の球体。数は八。手を上に掲げ、目標へ向けて振り下ろせば、風弾は意思を持つようになだれ込み―― ――藍色を八つが囲んで、一定距離でぴたりと静止"
「――旦那は『変える』のが得意だろう? オレも、やってみたいなって思ってたんだ」
"混じり気なしの憧憬の言葉。ぱちり、指を弾けば 突如。 八つの球体が弾けて、無数の刃と化した風を花弁の如くに周囲に撒き散らした"
"唸りを上げて迫る風に触れた。五感で彼という風を感じた。 風そのものの勢い、温度や湿り気は言うまでもなく。 奔る気迫が、轟く怒号が、 弾けんばかりの歓喜さえ、その風の中にあった" (――本当に、風に愛されていますね)
「――変転、雲糸――玉繭」
"舞う鯉が起こす砂埃は、転じて辺りを覆う雲の糸へ。 雲糸の束で風の刃を流しながらも、一束斬れ二束千切れ。己の衣を割いてようやく暴れる風をやり過ごす。 吹き抜ける風に、いくらか血の匂いが混ざった" (さて、お返しです) "わずか混ざった紅の一粒一粒を通して、先ほど触れた風を変質させていく。 風の性質に合わぬ重さを、強さを、硬さを加え、より粘つくように。 一滴を呼び水に、千切れた雲の糸を、異物を、彼の風の中にそっと混ぜ込んで変質させていく"
「こういう風は、御存じでしょうか?」
"狙うはその四肢。担う役はひと時の枷。 少年の手元から離れ魔法師の手で変わり果てた風の鎖が、来た道を戻り始点へと腕を脚を舐めるように這い動きを戒める"
"目の前で繰り広げられる技巧に目を瞠る。 制御を奪うのでなく、逆方向に相殺するのでもなく。風にじわりと自分の世界を混ぜて溶かして別のものにするような。 掌握していたはずの風が変質する。触れたこともなく、感じたことのない感覚" (そうか、これが) "彼の技。彼の磨き続けている、彼だけの 世界(まほう)。 どくり。 彼のものとなった風らしからぬ風に動きを封じられていくというのに。胸の奥の熱が高鳴る" "目の当たりにし、感じている。見たこともないものに。見えなかったものに。相対できている。 混ぜ、流れを変え、質を換える。夜明け色の魔法師の魔法は、可能性を孕み満ちた夜明け前の相に相応しい" "夢中になって見続けるうち拘束されきって、仰向けに寝転ぶ。 視界に広がる秋の空は高い。 それこそ――どこまでも、どこまでも届きそうな"
「はは」
"見せてもらったもののすごさにいっそ。自分も見たことのないほどの先に、手を伸ばしてみたくなった。 見たこともないものを見せてくれた相手への礼儀として。自分も 自分の限界を、超えよう"
(これは……) "風の鎖は狙った通りに絡み付いた。彼が空を仰ぐまでは想定内、万事問題なくことは進んだ。 動きは封じた、一瞬のこととはいえ風も奪った。風の緩み、地の撓り、共に現在異常なし。だが" (どうして、すぐに振りほどかない?) "そこで動きを止めてしまったことが不可解だ。一手、一手、浮かぶ可能性を塗りつぶしていくほどに不安は募る。 まだ他に手があるはず。この程度で止まる彼ではないだろう。 だってあの眼は。いつだって、どんな時だって、諦めなど語りはしなかったのだから" (いや、違う) "――止まって欲しくはないのだろう、正しくは。背を預けたこともある、あの突き進み続ける疾風に"
「――解」
"不安要素の考察を停廃し、鎖の制御を解いた。同時に宙を優雅に踊る双魚を地に還す。 目の前の少年が、手合せの最中にただ止まるなんてことはありえない。 どこから何をどうしてくるのかまではわからなくても、彼の出すものはいつだって現状の最高値。 相手が今もてる最強の一手が来るのならば、こちらも相応の一手を返そう" "戦場ではなく、ここだからこそできる選択。競い合う相手が彼だからこそ、選べる一手。 自分の編み上げる法則で。認識する世界の先へ――声で震わせ、呼びかける"
「おいで」
"――ゆらり。地が震えた"
"遠く遠く。翠の瞳が空を見据える。先へ。先へ。意識が、知覚が、風を触媒にして高く高く昇っていく。 風の吹き荒れる対流を超え、雲浮かぶ宙を越え、人が『天』と認識できる、さらにその先へ" "【視】たことはある、虚の先、空の先、宙の先。 けれど、『風』の指先ですらまで触れたことなどない領域
――成層圏と呼ばれる、その不可触の場所へと。到る"
「――そうなんだな」
"そこにも、風はあった。そこにある風は、息づいている。 雲下の対流の中よりも冷たく凍えるような静けさに満ちた、動かざる大気。はじめて触れる、風(ともがら)" "触れたことのない風を知覚して、触れて、感応する。とけあってまぜあって、通じあう。 遠く触れ合うことのなかった同輩へ。地に転がっている少年は、四肢を動かさぬままに呟き、手を繋いだ先へと招く"
「きてくれ。ここへ。オレのところへ」
"応、と聞こえたは風を朋とする彼だけか" "マイナス70℃。 成層圏と対流圏の境界をさすらうだけの極天の風が、地上へと唸りを上げて迸る。 轟音渦撒く極零の暴風が一斉に地を目指した。大地に爪痕を残すように。穿ち抜く勢いで。叩きつける滝のごとくに降り注ぐ――!"
【極天大瀑布】
"――透明な鯉は、ただ一匹潜る" "火術が苦手だった。制御のできぬそれを怖いとすら思った。 変成を学んだ。御したはずのそれは、違う形で仇を成した。
だから。 こいつは、とっておきだ"
「変成――、変生」
"地の熱を炎を取り込み、地中深く沈み潜っていった鯉がその姿を変える。 飲み込み取り込み体そのものと変えていくものは、星の恵みにして地の禍。強大で悠久の命の鼓動" (外で、正解でした)
「おいで」
"火を閉じ込めた晶の棘。緋を塗り込めた晶の鱗。燈を溜め込めた晶の牙。陽を封じ込めた晶の瞳。 地の殻を喰い破り、星の熱を飲む赫龍はその身を現した" (――まだ、火が残っていたようで) "感傷に、吐息を一つ。 生れ昇る竜は地など一顧だにせず溢れる熱をその身に押し込み、地を破る勢いそのまま天空へと登る。 迫る風の凄烈さは、今さら述べるまでもない。 けれど。自分に残っていた火の熱は。竜と成った今ならば。 人の手の届かぬ彼方からのそれに、せめて吼えるくらいはできるだろうか"
【火竜変成】
"天の瀑布を、赤い竜が駆け登っていく。 大地よりくみ上げられた熱の力を以て、鯉はその姿を変え、空に昇り天の龍へと変ずる。 『鯉は激しい滝を登り龍に成る』 そんな話を聞いたのは、誰からだっただろうか。
とおいとおい、ものがたり 鱗の一枚一枚まで赤熱し輝く、熱の塊。大地の息吹。地中深く深くに脈打ち息づくもの ――ほしのいのちのひとかけら
大地より発した星の命が、今。空へ舞い上がる。 彼の 世界(まほう)で描き出された、可能性(ものがたり)の発露"
"極天の滝を登り、龍は。蒼く高い天を、心地よさそうに泳いでいった"
"はあ、と。ひとつため息"
「――すげえなぁ」
"好かった。佳かった。良かった。 感慨だけを込めて吐き出した吐息は、満足しきったもので。 限界を超えたところまで意識を飛ばして引きずり寄せたせいで、もうどうせ力なんて入りやしないけれど"
「まいった」
"明確に、感服を口にする。 あんなすごい光景を見せてもらってはどうしようもない。心が満足しきったなら、これ以上動く理由もない。 届け切った上で、あんなものをみせられては、まいった以外に言葉が見つからない"
「旦那は、すげえなぁ」
"もう一度。心からの賞賛と共に"
「今度は、オレももっとすごいもの見せられるように頑張るから。また遊んでくれるか」
"もっと高くを、この人なら見せてくれるだろうと確信して。 目標を新たに。次を、口にした"
「まったく、すごいのは、貴方の、方です」
"イオリは肩で息をしながらその場に座り込んだ。衣服は風で裂けた上に、ところどころ焦げてしまっていた。髪紐は消え、藍の髪が乱れている。 体にのしかかる疲労と倦怠感。しばらく混沌は編めそうにない。 最後のあれでさえ、間に合うかどうか微妙なところだったわけで。返す言葉に苦笑いが混じった。 ふと、龍が消えていった空の先へ目をやる。自分には見えない、彼の見た世界に思いを巡らす"
「あの、フーガ殿。 “貴公は、空の先に何を見ますか”?」
“少年は確かに変わった。刃が剣になったのなら、その柄を握る心があるのなら。それは今、何を求めるのか。 届くはずもないあいまいな問いを投げ、魔法師はほうと息を吐いた"
"投げかけられた問いに、自分もまた空へと視線を投げる。 空の先。天の先。問いの意図は分からないが、ぽつぽつとこぼれる言葉があった"
「……『視』える、限りじゃオレはいられない世界なんだよなぁ」
"空の先。遠く。遠く。 今回はまだ、風のある場所だった。 けれど高くなればなるほど、風の声は薄らいで。風の流れは留まって。 ――おそらくある一点を超えれば。風は、死ぬ。 風では、届かない。風では、居られない場所が。空の先には純然と存在すると、漠然と理解はしていた" "いつか、人は、月に届く。 いつか、人は、星に届く。 ひょっとしたら、太陽にだって届くようになるかもしれない。 その手が届いた時、人は地を吹き抜ける風を感じることはなくなるのだろう。そう、識っていた" "だから"
「風のままなら、大地と共に在るけれど」
"だから"
「――人になれたら、星の海まで」
"いつか、太陽にとどくそのときまで"
「そこまで届く歌になれたら、申し分ないだろうなって」 「今はそう思ってる、けど」
"そこまで言ってから頬をかいて"
「……なんか、質問と答えズレてる気がするな。悪い、頭悪くて」
"苦笑いで返した"
「――そうですか」
"三つ目の答えに、目を閉じた" "一度目に問うた友は塩の海で別れてしまったけれど。 二度目に問うた君主は守り抜いた日々を、 三度目に問うた仲間は未だ見ぬ世界を、 きっと、見せてくれるのだろう" "一節を唱えて、雲の紐を編む。乱れた髪を軽く結んで、振り仰ぐ空はかくも美しい"
「さて、そろそろ、帰りましょうか?」
"いつものようにニコリと笑って、魔法師は手を振った"
"拘束はすでに解けていた。深呼吸。体のばねだけでひょい、と飛び起きる"
「そうだな。帰らないとな」
"とたた、と音を立ててその横へ" "帰る場所は同じところ。 さあ、いっしょに。 自分達のいえへ。 帰ろう"
***
>BATTLE ENDED >RESULT IORI:92/100 FUGA:91/100 >WINNER:IORI
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