#レタスとトマトを買い忘れた
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2025年6月21日(土)

今日は6月21日、今年の<夏至>となる。まだまだ暑さは厳しくなるが、少しずつ日の出が遅くなることを思うと、暑さも(ほんの少し)愛おしくなる気がする(当社比)。京都では、毎月21日は<弘法市(=こうぼうさん)>が東寺(教王護国寺)で開催され、終日善男善女で賑わう。コロナ以来、久しく訪れてはいないが幸い好天、恐らく外国人観光客も含めて多くの人出があったことだろう。暮れの<終い弘法>には、久しぶりに行ってみるかな?

5時30分起床。
昨日の日誌を書く。
5時50分、彼女の起床を待って洗濯開始。

朝食を頂く。
洗濯物を干す。
珈琲を淹れる。
8時15分、彼女を近鉄東寺駅まで送る。

9時、コレモ七条店で買物、車内で嗜むタブレットがなくなったので、4種類購入する。
iMac のマウスが動かなくなったのでチェック、充電切れだ。普段なら警告メッセージが出るのだが、気づかなかったようだ。充電しながらトラックパッドに切り替えて作業する。
11時、BSでドジャース戦を流す。

息子たちのランチ、残りご飯で炒飯を用意する。
13時30分、彼女を近鉄東寺駅まで迎えに行く。
遅めのランチは伊勢うどん。
録画番組資料、超 文楽入門
大阪育ちの伝統芸能「文楽」。俳優・北村有起哉と、人形遣いの人間国宝・桐竹勘十郎がその魅力をお伝えします。スタジオで、文楽があらわす「情」、感情表現を太夫・三味線・人形それぞれの技で魅せ、北村さんも間近で体験するなど、文楽を「人形」、「竹本義太夫」、「近松門左衛門」、「曾根崎心中」というキーワードでひも解きます。 そして今回は特別編、文楽「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)寺子屋の段」を、珍しい“天地会(てんちかい)”でご覧頂きます。天地会では演者が役割を代えて上演するため、それぞれの役割がいかに高い技術を駆使しているのかがよくわかります。さらに、知ると楽しくご覧頂ける情報を桐竹勘十郎と北村有起哉がご紹介。 他では出会えない文楽の楽しみ方をどうぞ! 【出演】北村有起哉(俳優・大阪局制作のドラマ「ちかえもん」で文楽に目覚める)、桐竹勘十郎(文楽人形遣い・人間国宝)、竹本織太夫(文楽太夫)、鶴澤清志郎(文楽三味線)、ほか 【ご案内】秋鹿真人アナウンサー
いやぁ、“天地会”を見ることが出来たのは最高!
彼女は買物に、私は��く午睡。

夕飯、昆布締めポークソテー・ピーマンと揚げのクタクタ煮・レタスとトマト・ホッケ。
土曜は寅さん

ポンシュウ(関敬六)と五島列島にやってきた寅さんは、クリスチャンのお婆ちゃん(初井言榮)と知り合うが、お婆ちゃんは急逝してしまう。その葬儀に参列した東京で働く孫娘・若菜(樋口可南子)から、寅さんに礼状が届く。若菜をたずねた寅さんは、写植オペレーターの技術を持つ彼女の再就職を、博にたのむ。若菜のアパートには、気の良い管理人のおばさん(杉山とく子)や、司法試験に挑戦している酒田民夫(平田満)が暮らしており、若菜��夢中な民夫は勉強も手につかない。そこで寅さんが恋の指南役を買って出るが… 風光明媚な長崎県五島列島。そこで、懐の���しい寅さんとポンシュウに、一夜の宿を提供してくれた老婆の優しさと、彼女の死。人の出会いの美しさと、そこから始まる新しい運命。今回はこうした“人の縁”がおりなす、温かい物語が微苦笑のなかに展開される。樋口可南子と平田満。二人が演じる若いカップルを取り持つ、恋のベテラン・寅さん。都会で一人暮らしをする女性の孤独や、彼女をとりまく社会を、さりげなくリアルに描いている。後半、秋田県鹿角を舞台に繰り広げられる騒動まで、明るい笑いが、幸福な気分に誘ってくれる。
忘れていることが多く、とても新鮮に楽しめた。
例によって早めに睡魔到来。

久しぶりの痛風発作、完治とは言えないが歩くにはほとんど支障なくなった。
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最近ストーリーズばかりなので、休日くらいは投稿で近況報告。 昨日と今日は勤務先のお休みで、休日を満喫していました。 先週、アマゾンプライムなるモノに入会しまして、映画を観まくり。 邦画は[ちょっと思いだしただけ][男はつらいよお帰り寅さん][明け方の若者たち][アイネクライネナハトムジーク]の4本。 洋画は[ランボー��ストブラッド][バットマンビギンズ][ザ・アベンジャーズ]の3本。 それと[SPY-FAMILY]というアニメを全部12話。 ほとんどは映画も前々から興味あったのですが、会員画面のオススメから観てみてアタリだったのもあったりして、無料期間が過ぎても有料会員料金払ってもいいかなー?なんて思っています。 昨日はとにかく家でじっと過ごして、昼から酒飲みながら映画を観るという贅沢。 本日は、大ファンのモアリズムのナカムラ @morerhythmnakamura さんが営っている、昼間だけのカレー店 #しゃれこうべ で激ウマ #ジンジャーキーマカレー 食べて、いろんお話聞かせてもらい、住まいがかなり近所って知って嬉しくなったりして、そこから、馬喰町に移動して、迎 @takashi_mukai_photography さんの写真展を観て、モノクロ写真の、それを観てそこから色彩の想像を膨らませる面白さを勝手に感じ、興奮して、武蔵小金井まで帰ってきて、バス乗ればいいのに、なんとなくドンキホーテが入っているビルにフラフラ立ち寄り、その6Fに安価設定の美容室が入っている事に気付き「男性歓迎」とポップあるにも関わらず店内のおさまが女性だけでビビりつつも入店して、シャンプーなしの「とにかからカットだけ」を30分ちょっとくらいで980円でやってもらい、帰宅してすぐシャワーしてスパゲッティ茹でてケチャップ混ぜただけの晩御飯を食べながら、近所のスーパーで買った激安ワインを飲み始めて、今から、洋画ダークナイトを観ながら、2連休を締めようと思います。 休日万歳! #グフ #ザクとは違うのだよザクとは #FRANZIA #激安ワイン #スパゲッティ #サラリーマンの休日 #オッサンのひとり飯 #スパゲッティっは茹で汁に多めの塩を入れて後はケチャップぶっかけて混ぜただけ #このインチキスパゲッティが美味しいのは本当 #レタスとトマトを買い忘れた #タバスコ多め #このワイン美味しくないけど節約のために次は3L紙パック買おうかな https://www.instagram.com/p/Cf82Ibip5JJ/?igshid=NGJjMDIxMWI=
#しゃれこう��#ジンジャーキーマカレー#グフ#ザクとは違うのだよザクとは#franzia#激安ワイン#スパゲッティ#サラリーマンの休日#オッサンのひとり飯#スパゲッティっは茹で汁に多めの塩を入れて後はケチャップぶっかけて混ぜただけ#このインチキスパゲッティが美味しいのは本当#レタスとトマトを買い忘れた#タバスコ多め#このワイン美味しくない��ど節約のために次は3l紙パック買おうかな
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・豚の角煮
・里芋と梅のおかか和え
・ストック豚バラときのこの混ぜご飯
・レタスとトマトのサラダ
・キムチ納豆冷奴
定休日、スーパーへ買い物
キャベツ使いたいから今夜はロールキャベツだな!
と思って出掛ける
肉売り場で豚バラかたまり見つける
久しぶりに角煮しよっかな!
と思い立って豚バラ買う
ロールキャベツのことはすっかり忘れてました
気づいたのは角煮を口にしてから
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20221116
行き当たりばったりにハマりすぎている!!!!!!
今日はいい感じの公園に行きました わざわざ 遠いっすよ




いやホンマにいい感じなんかい!!!!
これは力強く伝えたいんですけど、パフェ欲を満たすためにびっくりドンキーは大変良いです 値段見てナメてたけどかなり欲は満たせる 今回頂いたのはガトーショコラパフェ(550円)です ウワモノがホイップクリーム丸出しなのは惜しいが掘り下げて出てくるソフトクリームはしっかり美味しい チョコソースやら麦チョコやらと絡めて食べていると十分にパフェを食べた気分になれます フルーツ系が食べたい場合はほかを当たったほうが無難だと思うけど……
その後偶然見かけたスパ銭に潜入 このあたりが行き当たりばったりの真骨頂 パンツだけそのへんで買っていった 割りと良かったけど、トイレに入ると宿便が云々!なサプリの宣伝があり、風呂の湯はナノ水利用で、上がったところに水素水の機械がある、そんな感じだった
なんかタコライスしてえなあって思ってタコスの素とひき肉買ったんですけどレタスとトマトとチーズ買い忘れました どうすればいいんですか?
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ハムサンド

ハムサンドが好きだ。 キュウリもトマトもいらない。 レタス(これさえいらないかもしれない)とハム、これに辛子マヨネーズだけでいい。 パンは8枚切りが好ましいけれど、別に6枚だっていい。耳もそのままでいい。
これに至ったのには理由があって、好きな本の中に辛子とハムとパンだけのサンドイッチが描写される場面があって、ぜひとも食べてみたいと思ったのがきっかけだったように思う。
レイ・ブラッドベリの「万華鏡」である。
何の変哲もないハムサンドを外で食べると家の中で食べるのとはまるで違う味がするという描写だった気がする。
コンビニもそれほど一般的ではなかった時代。ぼくは自転車のかごに自分で作ったハムサンドを入れた弁当箱(他に入れ物が見つからなかったのだ)と隣の酒屋で買った瓶コーラを入れて、近くの公園に出かけた。 春の穏やかに晴れた休日の午後だったと記憶している。 家族連れやらカップルやらが楽しげに思い思いの時間を過ごしている公園のベンチに座り、小説の描写を実践したのだ。
味がどうだったか。
それは言わないでおこう。 もし興味が湧いたらぜひおやりになるといい。 ぼくにとっては忘れ得ぬ記憶になったのだ。
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グッドモーニング、あるいは一部の不幸も立ち入ることのない幸福
瞼が開く、薄紫色の視界を七色の光があたためて、今日も世界は色を帯びていく。風が歌い、花々がざわめいて、世界に音が広がっていく。けれどまだ、朝は少し寒い。名残を惜しんでいる冬と同じに、私も温かな毛布にくるまれる喜びをかみしめて、寝返りをうった。 そこに、卯月がいる。まだ心は昨日にいながら、卯月は私のシャツの袖をきゅっとつまんでいる。起きれないよ、そう胸の内でささやいて、起こさないよう、起こしてしまわないようそっと離した指は、すぐに私の指を掴まえた。ひとさし指��親指、そのおなかの柔らかさは夢へ誘うようで、またあとでね、と約束するまでに要した時間は私の意識をすっかり目覚めさせた。 瞳を閉じた、卯月の頬に触れてみる。ベビーパウダーをまぶしたみたいにさらさら、心地良い。眠る卯月の体は温かくて、まるで子どもみたいだ。ゆっくりとした鼓動、呼吸に合わせてかすかに揺れるまつげは、どうして、涙を誘うのだろう。 もう出ないと、そう思いながら私は欲張りで、最後だからと卯月の髪に触れる。そっと触って、手ぐしで梳かして、そのうちの一束をつまみ上げて、さらさらこぼれ落ちて、最後に残る一本を指に巻いてみて、そして、卯月に返した。 いつも踊っている毛先さえ、今この瞬間は安らかな寝息をたてている。そんな喜びって、他にあるんだろうか。 今度こそ、本当に卯月を起こさないようにして、ベッドを離れる。黒いパーカーをはおり、ドアをくぐる前に安らかな寝顔を見返して、見返して、もう一度、そこに帰りたくなる前にドアを閉じて、試みはどうにか成功。リビングダイニングで壁掛けの時計を眺めていたら、目覚ましを切り忘れたことに気付いて、また寝室へ。首尾良くスイッチを切って、ふっと訪れた抱きしめたくなる衝動を抑えて、おやすみ、を残した。 薄雲がかった空の色をしたじょうろに水を汲むのは朝の日課。窓辺の花、マーガレット、カランコエ、アリッサムは溢れるほどに花を咲かせていて、吊り鉢にしてもいいかもしれない。ダイニングテーブルには、アネモネの一鉢。今が盛りのようにも見えるし、まだこの先にもっと綺麗な花冠を開かせるかもしれない。 そう、寝室のバンジー、は後で卯月と一緒に手を入れよう。少し、くたびれた花弁があったような。 時間を確かめて、テレビ、はいつも点けないけれど今日は別、画面が光り出す前に音量を絞って、今日の天気を確かめる。空はお出かけ日和で最高気温は18℃。予期せず得られたそのニュースに、キッチンへ進む足は軽くなった。 冷蔵庫から取り出すレタス、新たまねぎ、パプリカ、トマトとベーコン。具材の心もとない昨夜のポトフと水を張った片手鍋に火にかける、その途中でテレビに華やかな色が差して、慌てて水洗いしたリンゴと包丁、まな板を持ってリビングへ。アイボリーのカウチソファの柔らかさに包まれ、ライトブラウンのセンターテーブルに調理器具を置いて、今日の太陽によく似た彼女の声に耳を傾ける。 『……そう、そうなんです! 実はこの間も三人で植物園に行ったんですけど、そこで……』 未央。大丈夫? 茜はうずうずしてるし、藍子はほわほわしてるよ? リンゴをむきながらテレビを眺めて、そういえばとレコーダーの動作を確かめた。起こさなかったことに卯月はむくれるだろうなあ、と考えて、こんなふうにながら包丁をしてたら叱ってくれるだろうなあ、と想像して、その両方が私の指先をあたためる。 どうしたって、卯月は私にぬくもりを与えてくれるんだね。 『それじゃあ、よい休日をー!』 結局、彼女たちの話をあまり聞いていなかった。ごめんねとささやいて、あとで卯月と見るからと切り揃えたリンゴと一緒にキッチンへ。ちょっとだけ塩を溶かした水をボウルに張って、リンゴをそこに放り込んだ。 しっかりと温まったポトフをコンロから外して、代わりにフライパン、12cmで充分、を火にかける。レタスを4枚、手でちぎって、新たまねぎは半玉、薄切りにして、どちらも急いで水洗い、沸騰した片手鍋に投入する。水を足して落ち着かせ、さて、次はフライパンに油をしいて半分に切ったベーコンを一枚一枚、並べていく。快活な音と香りが舞い上がり、さあ、朝が踊り出した。 サラダボウルにまた4枚のちぎったレタスを敷いて、パプリカ、は大きめだから半分を薄切り。トマトを一つ、乱切りにしてその上へ散らす。ベーコンを裏返して、やわくなったレタスと新たまねぎをポトフに加えて、味見、問題なくダイニングテーブルへ。 お揃いの(私が青で、卯月がピンクの)マグカップにミルクを入れて、レンジへ。そうしてから、見事カリカリに焼けたベーコンをサラダに乗せて、シーザー、フレンチ、二瓶のドレッシングと一緒にテーブルへ。つけっぱなしだったテレビを消して、リンゴを皿へ移し、温まったミルク、イチゴのジャム、アプリコットジャム、マーマレード、そういうものを食卓へ重ねていった。 そして最後に、昨日つい買ってしまったバゲット(けっこうお高い)を、フルーツナイフで切り分ける。一枚、また一枚とバスケットに重ねながら、食卓を、ココアブラウンのダイニングテーブルを眺めて、思い出す。 一緒に暮らすこの部屋を決めて、そのまま家具を選びに行った日。ちょうど今日みたいな春の日なかで、卯月のコーラルピンクのワンピースを暖かな風がほのかに揺らしていた。 センターテーブル、ソファ、テレビやラック、壁掛け時計も、順調に家具は揃っていった。けれど選んだのは全部私で、卯月が褒めてくれるから大丈夫、と思いながら舞い落ちる若葉みたいに心配は積もっていって、卯月はさ、と言いかけたその時に、これにしませんか、と微笑みかけたのがそのテーブルだった。 結局はダイニングテーブルとパールホワイトのベッドを卯月が、他はほとんど私が選んで、買い物は終わり。帰り道(卯月の毛先がちょっとしなだれていたのをよく覚えている)、なんでそこだけこだわったのか尋ねてみれば、内緒です、ってはぐらかされたけど。 今、卯月のために、卯月と私が一緒に囲む食卓に、切り分けたバゲットを入れたバスケットを置いてみて、全部がわかった気がするよ。 よし、と一息おいて、リビングから寝室へ。卯月、と声をかけて、ん、とこぼれた声は全身をくるむ毛布の内側から。なんだかおかしくて、愛くるしい。卯月、朝だよ、と呼びかけて、その体を私から隠す毛布を持ち上げて、もう一度。朝だよ、卯月。 「……凛ちゃん」 「卯月、おはよう」 「……今、何時……?」 「まだ八時前だよ」 「……いいにおいが、します」 「朝ご飯、できてるから」 「ありがとうございますー……」 「夜は卯月、だったでしょ」 今日を迎えるための助走、というか準備運動。もぞもぞとした会話を楽しんでいると、毛布の中からゆっくりあらわれた卯月の手が、私を捕まえて、背中までを包み込んで、ベッドへ引きずり込んだ。 「……凛ちゃん、おはよう」 「……おはよう」 「えへへ、あったかいね」 「卯月が、だよ」 「いいにおいがするね」 「それも、卯月だよ」 「もうちょっとだけ、こうしてたいよ」 「……ポトフが、冷めないうちにね」 そう言いながら、私は食卓を忘れた。卯月の体温、におい、呼吸音や鼓動、そういうものに自らを重ねて、一つに溶け合っていくこの瞬間の感覚だけが、心を満たした。こんなに嬉しくて、満ち足りて、いいんだろうか。そんな疑念が浮かぶ余地さえなく、卯月の存在は、私をいっぱいにしてくれる。それが信じられない、そう思っていたこともあって、けれど今、それは確かに信じられる、この世界の手触り。 かちん、と歯車がかみ合う音がして、鳴るはずだった目覚ましが私たちに遠慮しながら八時を知らせた。 「……ほら、起きて」 「はあい」 体を起こして、卯月をベッドから今日の世界へ導き出す。卯月は眠ってる時と同じに私の服のすそを指でつまんで、ぼやける眼をそっとこすって、ぺたぺたと頼りない足取りと、ぼさっと広がった柔らかい髪の毛、桜色のパジャマ、私を呼ぶ、甘い発音。 そういう小さな、たくさんの喜びで、卯月と一緒のこの世界は、花畑に変わっていくんだね。 ドアをくぐって、リビングへ。誇らしく、食卓の感想を待つ私に届いたのは、卯月のくしゃみ。一回、二回、三回目にはそのかわいらしさについ私が吹き出して、もう、って背中をぽすぽす叩かれたんだ。 朝ご飯とか、録画したテレビとか、水やりとか、あとは洗濯して、掃除もして、それから今日の予定も考えて、ああ、考えるだけで胸があったかくなるけど。 でも、その前に。 もう一度振り返って、卯月を抱きしめようかなって、思うよ。
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1/11 あめー
おにぎり。鶏の唐揚げ。ブロッコリーとレタスのマヨサラダ。冷食のつくねとイカフライ。 朝、目が覚めたのでビン缶なんかを出して再び寝る。外は雨。今日は一日雨らしい。 目覚ましで起こされ、計測、トマト、投薬。 それから準備してお出かけ。駐車場どうしようと思ってたら、たまたまだが空いていてラッキー。 それから1時間ほど面談などして出る。カミさんは仕事へ。こっちは飯。 飯を終えて、ナノを家まで送り、そのまま買い物へ。いつもの問屋にはあんまりいいものがなかったので、とりあえず買えるものだけ買ってクルマでそのまま駅前へ。雨だったから。いつもは歩くんだが。 駅前のスーパーの肉は信用できる。思った通りのものがあって、それを掴んで戻る。ちょっと忘れたものを後で買いに出たが、特に大きな問題はなし。 昨日届いていたケーキを解凍し、クリームを泡立てて熱量なしの甘味料で味つけ。買ってきた魚とか使って…
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20210627 +追記

推し花屋がなかなか出来ず、スーパーのお花コーナーを利用しています。
たまたま、芍薬の入ったセットが安かったので、選びました。紫がかった強いピンク。上手く咲いてくれるかな。
料理ができない話。
1年半ぶりに、ナスを買うことが出来ました。ナスを買って、しかもちゃんとまな板で切って。火を通すのは、相変わらずオーブントースターです。オーブントースターがなかったら死んでたと思うくらい、オーブントースターを使っています。オーブントースターさまさま。
買ったものが調理できなかったり、食べ物に見えなくなったり、賞味期限前に食べれなかったり、なんてことが続いて、野菜はミョウガくらいしか、自分で買って食べれなくなっていました。
あとは、全部切ってあるやつか、既に完成されているもの(つまり惣���)。これで一年以上、たぶん2年くらいやって来ました。
完璧主義の行き過ぎだと思うんですけどね。潔癖みたいなものとかがぐちゃぐちゃになったような感じです。
基本的に買えたもの
ミョウガ、オクラ、しいたけ
たまに買えたもの
トマト、セロリ、ねぎ、ズッキーニ
買えなくなったもの
ナス、たまねぎ、にんじん、大根、レタス、キャベツその他葉物、果物全般(特にリンゴとかのような皮をむくもの)
フライパンも使えなくなっちゃって。これでも昔はちゃんとご飯作ってたんですよ。
そんな私ですが、ナスを買えたんですよね。しかもちゃんと、切って食べれたんですよ。これはかなり進歩。
オーブントースターでの調理法を紹介します
オクラやナス、ミョウガが適しています。ズッキーニもいけます。
半分に切ります。
※ナスは3分の1くらいにしてから、半分にします。
→斜めに切れ目と、真ん中に縦に切れ目を入れます。
→火を通しやすくします。
ズッキーニは、薄い輪切りがいいかもです。
アルミホイルに平たく並べます。
塩コショウをサッと振ります。
オーブントースターで焼きます。
5分くらい?ナスは7分くらい。
おわったら、アルミホイルを包むようにすると更に火が通るのでオススメです。
そのままつまむか、ソースを作ってディップもいいでしょう。
限界レシピですね。料理に限界が来た時に作ってみては。
土曜の休みが、隔週なんですよね。あまり休めません。会社は雰囲気が良くて、服装もゆるいので、それは助かってるのですが、如何せん、脳が休めない。
なんかそうすると、回復のためにすごくお腹がすいちゃって、おにぎりとか、ハイカロリーなお弁当とか食べてしまうんですよね。ご飯もりもりのやつとか。で、太る感じです。
良くないよね〜困ったなぁ。
最近怠けてたんですが、また、夜だけ糖質オフやろうかなぁ
なかなか走る気持ちになれなくて、こちらも2週間休んでしまった。
しかしメンの先生が、10個のうち9個出来なくても、1個出来たことに注目しましょう、と言っていたので、それを意識したいです。つまり今日は20分走れたということ。
夜に過活動してしまうことも伝え、夜の時間はついつい自分が無敵になんでも出来る時間に思えてしまいますよね。ということでした。誠にその通り。
なりたい名前ってありますか?なになにっていう名前可愛くて(かっこよくて)いーなーとかよく思いますよね。私はよく思います。名前、嫌いではないけど別に特段気に入ってもない。オシャレな付け方してるかなとは思うけど。というかハンネでした。漢字違うけど。
こないだテレビ見てて、学って名前いいなーと思ったんですよね。女の子で学(がく)良くないですか。ガクちゃんって呼ばれたいですね。ガクくんてガックンて呼ばれるじゃないですか。あれも可愛いけど、ガクちゃん、って呼ばれてみたかったな。ガクさんとか。男の子っぽい名前が良かったかもしれないです。
ワイナリー併設の日帰り温泉(つってもオシャ銭湯みたいなものです)に今いたのですが、そろそろ帰ります。運転寝ないようにしなければ。今日は初めての同人誌頒布です。1冊も売れなくても別にいい。オンラインじゃなかったら一生やらなかったかもしれないから、痛みは多いけどこの時代に感謝かもしれません。
ではまた。
---追記
購入頂いたみなさん、ありがとうございました!
本当にあれなのですが、
ご飯食べながら宴しよ〜と思って席に着いた瞬間全てを忘れ、(ちゃんと始まる前に席に着いたのに!)、自分で初めてゆでた枝豆が美味いと楽しみ、ふとTwitterを見たら在庫がないとコメントを見つけ(本当にありがたい限りです)、大慌てで在庫投下致しました。
いやぁお恥ずかしい限りです。ありがとうございます。
書き込みやBoostも!なんと!ありがとうございます。もちろん普通に購入頂いてもめっちゃ嬉しいです。
こういう感じで本当にパッと何かが漏れてしまうので、万全を期して丁寧に送らせてください。宛先違いとか普通にありそうですので…。
あと絶対余るだろと思って封筒を少なめに用意していたので笑 その辺を調達しつつ進めます。
ありがとうございました。
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一年前日記11(2020年3/11~3/17)
3月11日 午前中、洗濯などする。本を読みながら音楽を聞いていたら楽しくなってきて踊っていた。お昼はコープのカレーうどん。ワイドショーも少し冷静な感じになりつつあるように思う。それでもあまり見ないけど。お昼から銀行へ。家賃の引き落とし口座変更のため(2回目)。今度は印鑑が違うとのこと。がーん。郵便局に行って、書き損じはがきをエクスパックに変えてもらうなどもする。カフェに寄り、読書。菅原洋平さんの睡眠の本。少しずつ取り入れてみようと思う。東日本大震災から9年の番組など見て、今日も早くお風呂に入った。晩ご飯は、あさりの炊き込みご飯、大根と大豆の炒��物、重ね煮味噌汁、白菜漬物。漬物がいい感じにすっぱくて美味しい。
3月12日 仕事の日。朝にレタス、大根、水菜を実家に届けてから電車に。今日もマスクを忘れてしまったので、なんとなくマスクをしてない人の隣に座るようにする。なかなか来なかった書類が届いたので、やっと進められる仕事がひとつ。前にどこまでやったのかすっかり忘れてしまった。夜ご飯の準備をしていると夫からLINE。会社の子がホワイトデーを用意してないとかで、急遽一緒に買いに行くことになったとか。ご飯も食べて帰るとのこと。去年もそんなことがあったような気がするな。では今日の分は明日食べてもらうことにして、私は一人で食べて帰ろうかなといろいろプランを考える。晩ご飯は、タラと蓮根のピリ辛炒め、レタスとベーコンの煮浸し、ネギとちくわのナムル。
3月13日 仕事の日。パソコンが思うように動かず難儀した。Windows10がよくわからない。勉強しないといけないな。帰り、古書会館の即売会に寄る。たくさんの人が来ていた。さくっと一冊だけ買って、行ってみたかった居酒屋さんへ。U字カウンターが素敵なお店。5時過ぎに入ったら常連さんと思われる人が2人いて、間に座る。Uの下の方。ほたるいか、すじこん。薄ねぎ焼きとビール。どれも美味しかった。ここでもみんなコロナの話。老いも若きも共通の話題があるのって、よく考えればあまりないことなのかもしれない。お会計をお願いしようとしたら、かなり酔っ払っていた常連さんの1人が奢ってくれるとのとこと。「今日はええから、またきたって」って。「また来ますから次回に」とか何回も言ったが断りきれず。お店の人に「ほな、ビール代だけもらうわ」と言われ、500円払って帰った。あらら。そのことを抜きにしてもお客さんに愛されていることのわかるとてもいいお店だった。本当にまた近々行こう。温まって帰ろうと近くのつかさ湯へ。最寄りの駅でソーダを飲みながら少し読書したのち8時すぎに帰宅した。夫は会社帰りに鍼に寄っていて、私の方が早かった。ホワイトデーということでケーキを買ってきてくれた。小ぶりで可愛らしいお店のものだった。
3月14日 3時ぐらいに目が覚める。起き上がって1時間ぐらい読書。不眠のツボを刺激するなどしたらもう一度眠れた。ホワイトデーは続きがあったようだ。化粧ポーチと口紅。どちらも欲しいものを聞かれてひとりごとのようにつぶやいていたもの。ポーチは、お洒落なビームスの店員さんたちが「マスト!」とか言ってるとんがった金色のポーチだった。つい「すまんのうの人のジャケットみたい。ウケ狙いじゃないよね」とか失言をしてしまった。ひどいな。窓辺に置くとキラキラしている。目が慣れたころに使わせてもらおう。昨日食べすぎたし朝は抜こうかなと思ったけど、夫が食べてるのを見て食べたくなって食べる。コーヒーを飲みながら読書。『ありのままのあるところ』読み終わり。今の気持ちにぴったりの本だった。お昼はラーメン、シューマイ、白菜漬物、大豆と大根の炒めものの残り。昼からは文章を書いたり本を読んだりする。夜ごはん、夫が作る日。鶏胸肉とネギの炒め煮、じゃがいもとベーコンのサラダ、ブロッコリーのスープ。寝るまで2人でいろいろ話をした。仕事大変そう。人を変えようと頑張りすぎなんじゃないかなと思う。でも人は変えられない、自分も我慢できない、じゃあ環境を変えるしかないという思考になっていて苦しそう。もう少し柔軟に落としどころを探れないものだろうかと思うが、私はHくんではないのでわからない。
3月15日 7時過ぎぐらいに目が覚めたが、夫が起きるまで布団で日記を書いたり本を読んだりする。この時間に掃除とか料理とかすればいいのになと思うけど今はそんなにエネルギーがない。朝ごはんは、昨日のブロッコリーのスープに何かのポタージュを足したもの(たぶんカリフラワー)、目玉焼き、パン。お昼は朝のポタージュが残っていたので、にんにくとベーコンを加えて、パスタと和えた。スープのリレーだ。少し休憩してからたくさんある野菜を料理する。サニーレタスだとばかり思っていた葉っぱに黄色い花が咲いていた。検索してもレタスの花ではなさそう。かじってみるとほろ苦く生で食べる感じじゃない。てことはこれは菜の花なのか。夫にお義母さんが何か言ってなかったか聞くと、「春っぽい名前の野菜があった気がする」とのこと。うーん、と思いつつとりあえず茹でてみると、なるほど菜の花っぽくなった。スーパーで売ってるのとは全然違う。菜の花は「菜」の花なのだなと納得してしまった。夕方少し散歩する。目にとまるだけかもしれないが、いろんな家の庭の花が二割増し綺麗。夜ご飯はルーロー飯と豆腐の中華風炒め。
3月16日 仕事の日。パソコンの調子がよくなくて買い替えることになった。お昼ご飯を早めに食べて、午後は銀行。口座を作らないといけなかったのだが、10人以上待っていて、たぶん今日中に終わらなさそうだったので断念。今月は銀行運がないなあ。あまり何もせぬまま今日は終了してしまった。帰り新しくなった駅のショッピングモールをチラリとみる。眉ペンシルを買う。おばあちゃんと孫の組み合わせのような人たちを何人か見た。楽しそう。帰り少し本を読みたくなり、食欲も少しおかしい感じでミスドに寄る。今は欲望のままに動くとダメな時期だなと思いつつ。シナモンをお店で食べて、オールドファッションとチョコココナッツをお持ち帰り。『なぜ仕事が予定通りに終わらないのか』でタスクシュートについて復習。夜は今朝に仕込んだポトフ。大根は下茹でしているし、白菜も塩漬けしているので、手羽元とにんじんとエリンギを加えて出汁パックと塩で朝一度炊いて放置しておいた。
3月17日 美容院に行く。今は髪を伸ばしている。大人になって髪を伸ばしたのは、成人式と自分の結婚式ぐらいだったので三度目か。今は願掛けのようなものかもしれない。あと、今行っている美容院はビダルサスーンさん方式ではない独自のカット技術が売りらしく、髪の多い私のような人でも伸ばしやすいとか。確かにそんな気もする。終わってから少しでも経済を回すぞーと思ってランチに入ったお店は3月末で閉店が決まっているそう。せちがらいなあ。栄町の服屋さんでカットソーを買う。春になるとそれなりにめかしたくなるものだな。いつ行ってもジェームスイハがかかってるナイスな服屋さん。帰り、実家に寄る。母に美容院に行ってきたと言うと「どこ切ったん?」的なことを言われムッとする。よしよしこれが正常な反応だ。今まであきらめすぎていた。近所の人が白髪で腰が曲がっていてそれに比べたら私は元気だと。別に白髪でいいやん。と言うと、苦労して染めてるのにと怒ってしまった。お互いムッとして帰る。私が身の回りのことに無頓着なのは、母がよその人のことをいろいろ言ったりするこういうところが嫌だったから反発しているのかもしれない。老いるって簡単なことではないんだなとしみじみ思う。最後に自分の抑圧していたものが出てくる。それによって周りの人間も自分の抑圧していた感情と向き合うことになる。その時間が与えられていることは有難いことなのだろう。ある日突然亡くなる人もいるわけで。やはり何事もうまくできているのだ。夜ごはんは、ホタルイカと菜の花とトマトの酢味噌和え、ささみチーズフライ(スーパーのお惣菜)、味噌汁。夫は私のポーチの反応がイマイチであることを察し(ていうか言葉にしちゃってた)、無難なのを買い直してくれていた。ほんとごめんと思う。どちらも大切に使わせていただきます。今日からタスクシュートを始めた。まずはログをつけるのに慣れることから。
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やさしい光の中で(柴君)
(1)ある日の朝、午前8時32分
カーテンの隙間から細々とした光だけがチラチラと差し込む。時折その光は強くなって、ちょうど眠っていた俺の目元を直撃する。ああ朝だ。寝不足なのか脳がまだ重たいが、朝日の眩しさに瞼を無理矢理押し上げる。隣にあったはずの温もりは、いつの間にか冷え切った皺くちゃのシーツのみになっていた。ちらりとサイドテーブルに視線を流せば、いつも通り6時半にセットしたはずの目覚まし時計は、あろうことか針が8と9の間を指していた。
「チッ……勝手に止めやがったな」
独り言のつもりで発した声は、寝起きだということもあり少しだけ掠れていた。それにしても今日はいつもに増して喉が渇いている。眠気眼を擦りながら、キッチンのほうから漂ってくる嗅ぎ慣れた深入りのコーヒーの香りに無意識に喉がこくりと鳴った。
おろしたてのスウェットをまくり上げぼりぼりと腹を掻きながら寝室からリビングに繋がる扉を開けると、眼鏡をかけた君下は既に着替えてキッチンへと立っていた。ジューという音と共に、焼けたハムの香ばしい匂いが漂っている。時折フライパンを��すりながら、君下は厚切りにされたそれをトングで掴んでひっくり返す。昨日実家から送ってきた荷物の中に、果たしてそんなハムが入っていたのだろうか。どちらにせよ君下が普段買ってくるスーパーのタイムセール品でないことは一目瞭然だった。
「おう、やっと起きたか」 「おはよう。てか目覚ましちゃんと鳴ってた?」 「ああ、あんな朝っぱらからずっと鳴らしやがって……うるせぇから止めた」
やっぱりか、そう呟いた俺の言葉は、君下が卵を割り入れた音にかき消される。二つ目が投入され一段と香ばしい音がすると、塩と胡椒をハンドミルで少し引いてガラス製の蓋を被せると君下の瞳がこっちを見た。
「もうすぐできる。先に座ってコーヒーでも飲んどけ」 「ん」
顎でくい、とダイニングテーブルのほうを指される。チェリーウッドの正方形のテーブルの上には、今朝の新聞とトーストされた食パンが何枚かと大きめのマグが2つ、ゆらゆらと湯気を立てていた。そのうちのオレンジ色のほうを手に取ると、思ったより熱くて一度テーブルへと置きなおした。丁度今淹れたところなのだろう。厚ぼったい取手を持ち直してゆっくりと口を付けながら、新聞と共に乱雑に置かれていた郵便物をなんとなく手に取った。 封筒の中に混ざって一枚だけ葉書が届いていた。君下敦様、と印刷されたそれは送り主の名前に見覚えがあった。正確には差出人の名前自体にはピンと来なかったが、その横にご丁寧にも但し書きで元聖蹟高校生徒会と書いてあったから、恐らくは君下と同じ特進クラスの人間なのだろうと推測が出来た。
「なんだこれ?同窓、会、のお知らせ……?」
自分宛ての郵便物でもないのに中身を見るのは野暮だと思ったが、久しぶりに見る懐かしい名前に思わず裏を返して文面を読み上げた。続きは声に出さずに視線だけで追っていると、視界の端でコトリ、と白いプレートが置かれる。先程焼いていたハムとサニーサイドアップ、適当に千切られたレタスに半割にされたプチトマトが乗っていた。少しだけ眉間に皺が寄る。
「またプチトマトかよ」 「仕方ねぇだろ。昨日の残りだ。次からは普通のトマトにしてやるよ」
大体トマトもプチトマトも変わんねぇだろうが、そう文句を言いながらエプロンはつけたままで君下は向かいの椅子に腰かけた。服は着替えたものの、長い前髪に寝ぐせがついて少しだけ跳ねあがっている。
「ていうか同じ高校なのになんで俺には葉書来てねぇんだよ」
ドライフラワーの飾られた花瓶の横のカトラリー入れからフォークを取り出し、小さな赤にざくり、と突き立てて口へと放り込む。確かにクラスは違ったかもしれないが、こういう公式の知らせは来るか来ないか呼びたいか呼びたくないかは別として全員に送るのが礼儀であろう。もう一粒口に含み、ぶちぶちとかみ砕けば口の中に広がる甘い汁。プチトマトは皮が固くて中身が少ないから好きではない。やっぱりトマトは大きくてジューシーなほうに限るのだ。
「知らねぇよ……あーあれか。もしかして、実家のほうに来てるんじゃねぇの」 「あ?なんでそっちに行くんだよ」 「まあこんだけ人数いりゃあ、手違いってこともあるだろ」 「ったく……ポンコツじゃねぇかこの幹事」
覚えてもいない元同級生は今頃くしゃみでもしているだろうか。そんなどうでもいいことが頭を過ったが、香ばしく焼き上げられたハムを一口大に切って口に含めばすぐに忘れた。噛むと思ったよりも柔らかく、スモークされているのか口いっぱいに広がる燻製臭はなかなかのものだ。いつも通り卵の焼き加減も完璧だった。
「うまいな、ハム。これ昨日の荷物のか?」 「ああ。中元の残りか知らないけど、すげぇいっぱい送って来てるぞ。明日はソーセージでもいいな」
上等な肉を目の前に、いつもより君下の瞳はキラキラしているような気がした。高校を卒業して10年経ち、あれから俺も君下も随分大人になった。それでも相変わらず口が悪いところや、美味しいものに素直に目を輝かせるところなんて出会った頃と何一つ変わってなどいなかった。俺はそれが微笑ましくもあり、愛おしいとさえ思う。あとで母にお礼のラインでも入れて、ああ、それとついでに同窓会の葉書がそっちに来ていないかも確認しておこう。惜しむように最後の一切れを噛み締めた君下の皿に、俺の残しておいた最後の一切れをくれてやった。
(2)11年前
プロ入りして5年が経とうとしていた。希望のチームからの誘いが来ないまま高校生活を終え、大学を5年で卒業して今のチームへと加入した。 過酷な日々だった。 一世代上の高校の先輩・水樹は、プロ入りした途端にその目覚ましい才能を開花させた。怪物という異名が付き、十傑の一人として注目された高校時代など、まだその伝説のほんの序章の一部に過ぎなかった。同じく十傑の平と共に一年目から名門鹿島で起用されると、実に何年振りかのチームの優勝へと大いに貢献した。日本サッカーの新時代としてマスメディアは大々的にこのニュースを取り上げると、自然と増えた聖蹟高校への偵察や取材の数々。新キャプテンになった俺の精神的負担は増してゆくのが目に見えてわかった。
サッカーを辞めたいと思ったことが1度だけあった。 それは高校最後のインターハイの都大会。前回の選手権の覇者として山の一番上に位置していたはずの俺たちは、都大会決勝で京王河原高校に敗れるという���態を犯した。キャプテンでCFの大柴、司令塔の君下の連携ミスで決定機を何度も逃すと、0-0のままPK戦に突入。不調の君下の代わりに鈴木が蹴るも、向こうのキャプテンである甲斐にゴールを許してゲーム終了、俺たちの最後の夏はあっけなく終わりを迎えた。 試合終了の長いホイッスルがいつまでも耳に残る中、俺はその後どうやって帰宅したのかよく覚えていない。試合を観に来ていた姉の運転で帰ったのは確かだったが、その時他のメンバーたちはどうしたのかだとか、いつから再びボールを蹴ったのかなど、その辺りは曖昧にしか覚えていなかった。ただいつまでも、声を押し殺すようにして啜り泣いている、君下の声が頭から離れなかった。
傷が癒えるのに時間がかかることは、中学選抜で敗北の味を知ったことにより感覚的に理解していた。君下はいつまでも部活に顔を出さなかった。いつもに増してボサボサの頭を掻き乱しながら、監督は渋い声で俺たちにいつものように練習メニューを告げる。君下のいたポジションには、2年の来須が入った。その意味は、直接的に言われなくともその場にいた部員全員が本能的に理解していたであろう。
『失礼します、監督……』
皆が帰ったのを確認して教官室に書き慣れない部誌と共に鍵を返しに向かうと、そこには監督の姿が見えなかった。もう出てしまったのだろうか。一度ドアを閉めて、念のため職員室も覗いて行こうと校舎のほうへと向かう途中、どこからか煙草の香りが鼻を掠める。暗闇の中を見上げれば、ほとんどが消灯している窓の並びに一か所だけ灯りの付いた部屋が見受けられる。半分開けられた窓からは、乱れた黒髪と煙草の細い煙が夜の空へと立ち上っていた。
『お前まだ居たのか……皆は帰ったか?』 『はい、監督探してたらこんな時間に』
部誌を差し出すと悪いな、と一言つけて監督はそれを受け取る。喫煙室の中央に置かれた灰皿は、底が見えないほどの無数の吸い殻が突き刺さり文字通り山となっていた。監督は短くなった煙草を口に咥えると、ゆっくりと吸い込んで零れそうな山の中へと半ば無理やり押し込み火を消した。
『君下は……あいつは辞めたわけじゃねぇだろ』 『お前がそれを俺に聞くのか?』
監督は伏せられた瞳のまま俺に問い返す。パラパラと読んでいるのかわからないほどの速さで部誌をめくり、白紙のページを最後にぱたりと閉じた。俺もその動きを視線で追っていると、クマの濃く残る目をこちらへと向けてきた。お互いに何も言わなかった。 暫くそうしていると、監督は上着のポケットからクタクタになったソフトケースを取り出して、残りの少ないそれを咥えると安物のライター��火をつけた。監督の眼差しで分かったのは、聖蹟は、アイツはまだサッカープレーヤーとして死んではいないということだった。
迎えの車も呼ばずに俺は滅多に行かない最寄り駅までの道のりを歩いていた。券売機で270円の片道切符を購入すると、薄明るいホームで帰路とは反対方向へ向かう電車を待つ列に並ぶ。間もなく電車が滑り込んできて、疲れた顔のサラリーマンの中に紛れ込む。少し混みあっていた車内でつり革を握りしめながら、車内アナウンスが目的の駅名を告げるまで瞼を閉じていた。 あいつに会いに行ってどうするつもりだったのだろう。今になって思えば、あの時は何も考えずに電車に飛び乗ったように思える。ガタンゴトンとレールを走る音を聞きながら、本当はあの場所から逃げ出したかっただけなのかもしれない。疲れた身体を引きずって帰り、あの日から何も変わらない敗北の香りが残る部屋に戻りたくないだけなのかもしれない。一人になりたくないだけなのかもしれない。
『次はー△△、出口は左側です』
目的地を告げるアナウンスで思考が現実へと引き戻された。はっとして、閉まりかけのドアに向かって勢いよく走った。長い脚を伸ばせばガン、と大きな音がしてドアに挟まる。鈍い痛みが走る足を引きずりながら、再び開いたドアの隙間からするりと抜け出した。
久しぶりに通る道のりは、いくつか電灯が消えかけていて薄暗く、不気味なほど人通りが少なかった。古い商店街の一角にあるキミシタスポーツはまだ空いているだろうか。スマホの画面を確認すれば、午後8時55分を指していた。営業時間はあと5分あるが、あの年中暇な店に客は一人もいないであろう。運が悪ければ既にシャッタは降りているかもしれない。
『本日、休業……だあ?』
計算は無意味だった。店のシャッターに張り付けられた、チラシの裏紙には妙に整った字でお詫びの文字が並んでいた。どうやらここ数日間はずっとシャッターが降りたままらしいと、通りすがりの中年の主婦が店の前で息を切らす俺に親切に教えてくれた。ついでにこの先の大型スーパーにもスポーツ用品は売ってるわよ、と要らぬ情報を置いてその主婦は去っていった。こうやって君下の店の売り上げが減っていくという、無駄な情報を仕入れたところで今後使う予定が来るのだろうか。店の二階を見上げるも、君下の部屋に灯りはない。
『ったく、あの野郎は部活サボっといて寝てんのか?』
同じクラスのやつに聞いても、君下のいる特進クラスは夏休み明けから自主登校となっているらしい。大学進学のためのコースは既に3年の1学期には高校3年間の教科書を終えており、あとは各自で予備校に行くなり自習するなりで受験勉強に励んでいるようだ。当然君下以外に強豪運動部に所属している生徒はおらず、クラスでもかなり浮いた存在だというのはなんとなく知っていた。誰もあいつが学校に来なくても、どうせ部活で忙しいぐらいにしか思わないのだ。 仕方ない、引き返すか。そう思い回れ右をしたところで、ある一つの可能性が脳裏に浮かぶ。可能性なんかじゃない。だがなんとなくだが、あいつがそこにいるという確信が、俺の中にあったのだ。
『くそっ……君下のやつ!』
やっと呼吸が整ったところで、重い鞄を背負うと急いで走り出す。こんな時間に何をやっているのだろう、と走りながら我ながら馬鹿らしくなった。去年散々走り込みをしたせいか、練習後の疲れた身体でもまだ走れる。次の角を右へ曲がって、たしかその2つ先を左――頭の中で去年君下と訪れた、あの古びた神社への道のりを思い出す。そこに君下がいる気がした。
『はぁ……はぁっ……っ!』
大きな鳥居が近づくにつれて、どこからか聞こえるボールを蹴る音に俺の勘が間違っていない事を悟った。こんなところでなにサボってんだよ、そう言ってやるつもりだったのに、いざ目の前に君下の姿が見えると言葉を失った。 あいつは、聖蹟のユニフォーム姿のままで、泥だらけになりながら一人でドリブルをしていた。 自分で作った小さいゴールと、所々に置かれた大きな石。何度も躓きながらも起き上がり、懸命にボールを追っては前へ進む。パスを出すわけでもなく、リフティングでもない。その傷だらけの足元にボールが吸い寄せられるように、馴染むように何度も何度も同じことを繰り返していた。
『ハッ……馬鹿じゃねぇの』
お前も俺も。そう呟いた声は己と向き合っている君下に向けられたものではない。 あいつは、君下はもう前を向いて歩きだしていた。沢山の小さな石ころに躓きながら、小さな小さなゴールへと向かってその長い道のりへと一歩を踏み出していた。俺は君下に気付かれることがないように、足音を立てないようにして足早に神社を後にした。 帰りの電車を待つベンチに座って、ぼんやりと思い出すのは泥だらけの君下の背中だった。前を向け喜一、まだやれることはたくさんある。ホームには他に電車を待つ客は誰もいなかった。
(3)夕食、22時半
気付けば完全に日は落ちていて、コートを照らすスタンドライトだけが暗闇にぼんやりと輝いていた。 思いのほか練習に熱中してしまったようで、辺りを見渡せば先輩選手らはとっくに自主練を切り上げて帰路に着いたようだった。何の挨拶もなしに帰宅してしまったチームメイトの残していったボールがコートの隅に落ちているのを見つけては、上がり切った息を整えながらゆったりと歩いて拾って回った。
倉庫の鍵がかかったのを確認して誰もいないロッカールームへ戻ると、ご丁寧に電気は消されていた。先週は鍵がかけられていた。思い出すだけで腹が立つが、もうこんなことも何度目になった今ではチームに内緒で作った合鍵をいつも持ち歩くようにしている。ぱちり、スイッチを押せば一���遅れて青白い灯りが部屋を照らした。
大柴は人に妬まれ易い。その容姿と才能も関係はあるが、自分の才能に胡坐をかいて他者を見下しているところがあった。大口を叩くのはいつものことで、慣れた友人やチームメイトであれば軽く受け流せるものの、それ以外の人間にとってみれば不快極まりない行為であることは間違いない。いつしか友人と呼べる存在は随分と減り、クラスや集団では浮いてしまうことが常であった。 今のチームも例外ではない。加入してすぐの公式戦にレギュラーでの起用、シーズン序盤での怪我による離脱、長期のリハビリ生活、そして残せなかった結果。大柴加入初年度のチームは、最終的に前年度よりも下回った順位でシーズンの幕を閉じることになった。それでも翌年からも大柴はトップに居座り続けた。疑問に思ったチームメイトやサポーターからの非難や、時には心無い中傷を書き込まれることもあった。ゴールを決めれば大喝采だが、それも長くは続かない。家が裕福なことを嗅ぎつけたマスコミにはある事ない事を週刊誌に書き並べられ、誰もいない実家の前に怪しげな車が何台も止ま���ていることもあった。 だがそんなことは、大柴にとって些細なことだった。俺はサッカーの神様に才能を与えられたのだと、未だにカメラの前でこう言い張ることにしている。実はもう一つ、大柴はサッカーの神様から貰った大切なものがあったが、それを口にしたことはないしこれからも公言する日はやって来ないだろう。
「ただいまぁー」 「お帰り、遅かったな」
靴を脱いでつま先で並べると、靴箱の上の小さな木製の皿に車のキーを入れる。ココナッツの木から作られたそれは、卒業旅行に二人でハワイに行ったときに買ったもので、6年間大切に使い続けている。玄関までふわりと香る味噌の匂いに、ああやっとここへ帰ってきたのだと実感する。大股で歩きながらジャケットを脱ぎ、どさり、とスポーツバッグと共に床へ投げ出すと、倒れ込むように革張りのソファへとダイブした。
「おい、飯出来てるから先に食え。手洗ったか?」 「洗ってねぇ」 「ったく、何年も言ってんのにちっとも学習しねぇ奴だな。ほら、こっち来い」
君下は洗い物をしていたのか、泡まみれのスポンジを握ってそれをこちらに見せてくる。この俺の手を食器用洗剤で洗えって言うのか、そう言えばこっちのほうが油が落ちるだとか、訳の分からない理論を並べられた。つまり俺は頑固汚れと同じなのか。
「こんなことで俺が消えてたまるかよ」 「いつもに増して意味わかんねぇな。よし、終わり。味噌汁冷める前にさっさと食え」
お互いの手を絡めるようにして洗い流していると、背後でピーと電子音がして炊飯が終わったことを知らせる。俺が愛車に乗り込む頃に一通連絡を入れておくと、丁度いい時間に米が炊き上がるらしい。渋滞のときはどうするんだよ、と聞けば、こんな時間じゃそうそう混まねぇよ、と普段車に乗らないくせにまるで交通事情を知っているかのような答えが返ってくる。全体練習は8時頃に終わるから、自主練をして遅くても10時半には自宅に着けるように心掛けていた。君下は普通の会社員で、俺とは違い朝が早いのだ。
「いただきます」 「いただきます」
向かい合わせの定位置に腰を下ろし、二人そろって手を合わせる。日中はそれぞれ別に食事を摂るも、夕食のこの時間を二人は何よりも大事にしていた。 熱々の味噌汁は俺の好みに合わせてある。最近は急に冷え込んできたから、もくもくと上る白い湯気は一段と白く濃く見えた。上品な白味噌に、具は駅前の豆腐屋の絹ごし豆腐と、わかめといりこだった。出汁を取ったついでにそのまま入れっぱなしにするのは君下家の味だと昔言っていた。
「喜一、ケータイ光ってる」 「ん」
苦い腸を噛み締めていると、ソファの上に置かれたままのスマホが小さく震えている音がした。途切れ途切れに振動がするので、電話ではないことは確かだった。後ででいい、一度はそう言ったものの、来週の練習試合の日程がまだだったことを思い出して気だるげに重い腰を上げる。最新機種の大きな画面には、見覚えのある一枚の画像と共に母からの短い返信があった。
「あ、やっぱ葉書来てたわ。実家のほうだったか」 「ほらな」 「お前のはここの住所で、なんで俺のだけ実家なんだよ」 「知るかよ。どうせ行くんだろ、直接会った時に聞けばいいじゃねぇか」 「え、行くの?」
スマホを持ったままどかり、と椅子へと座りなおし、飲みかけの味噌汁に手を伸ばす。ズズ、とわざと少し行儀悪くわかめを啜れば、君下の表情が曇るのがわかった。
「お前、この頃にはもうオフだから休みとれるだろ。俺も有休消化しろって上がうるせぇから、ちょうどこのあたりで連休取ろうと思ってる」 「聞いてねぇ……」 「今言ったからな」
金平蓮根に箸を付けた君下は、いくらか摘まんで自分の茶碗へと一度置くと、米と共にぱくり、と頬張った。シャクシャクと音を鳴らしながら、ダークブラウンの瞳がこちらを見る。
「佐藤と鈴木も来るって」 「あいつらに会うだけなら別で集まりゃいいだろうが。それにこの前も4人で飲んだじゃねぇか」 「いつの話してんだよタワケが、2年前だぞあれ」 「えっそんなに前だったか?」 「ああ。それに今年で卒業して10年だとさ。流石に毎年は行かねぇが節目ぐらい行ったって罰は当たんねーよ」
時の流れとは残酷なものだ。俺は高校を卒業してそれぞれ違う道へと進んでも、相変わらず君下と一緒にいた。だからそんな長い年月が経ったことに気付かなかっただけなのかもしれない。高校を卒業する時点で、俺たちがはじめて出会って既に10年が経っていたのだ。 君下はぬるい味噌汁を啜ると、満足そうに「うまい」と一言呟いた。
*
今宵はよく月が陰る。 ソファにごろりと寝転がり、カーテンの隙間から満月より少し欠けた月をぼんやりと眺めていた。月に兎がいると最初に言ったのは誰だろうか。どう見ても、あの不思議な斑模様は兎なんかに、それも都合よく餅つきをしているようには見えなかった。昔の人間は妙なことを考える。星屑を繋げてそれらを星座だと呼び、一晩中夜空を眺めては絶え間なく動く星たちを追いかけていた。よほど暇だったのだろう。こんな一時間に何センチほどしか動かないものを見て、何が面白いというのだろうか。
「さみぃ」
音もなくベランダの窓が開き、身体を縮こませた君下が湯気で温かくなった室内へと戻ってくる。君下は二十歳から煙草を吸っていた。家で吸うときはこうやって、それも洗濯物のない時にだけ、それなりに広いベランダの隅に作った小さな喫煙スペースで煙草を嗜む。別に換気扇さえ回してくれれば部屋で吸ってもらっても構わないと俺は言っているのだが、頑なにそれをしようとしないのは君下のほうだった。現役のスポーツ選手である俺への気遣いなのだろう。こういう些細なところでも、俺は君下に支えられているのだと実感する。
「おい、キスしろ」
隣に腰を下ろした君下に、腹を見せるように上を向いて唇を突き出した。またか、と言いたげな顔をしたが、間もなく長い前髪が近づいてきてちゅ、と小さな音を立てて口づけが落とされた。一度も吸ったことのない煙草の味を、俺は間接的に知っている。少しだけ大人になったような気がするのがたまらなく心地よい。
それから少しの間、手を握ったりしてテレビを見ながらソファで寛いだ。この時間にもなればいつもニュースか深夜のバラエティー番組しかなかったが、今日はお互いに見たい番組があるわけでもなかったので適当にチャンネルを回してテレビを消した。 手元のランプシェードの明かりだけ残して電気を消し、寝室の真ん中に位置するキングサイズのベッドに入ると、君下はおやすみとも言わないまま背を向けて肩まで掛け布団を被ってしまった。向かい合わせでは寝付けないのはいつもの事だが、それにしても今日は随分と素っ気ない。明日は金曜日で、俺はオフだが会社員の君下には仕事がある。お互いにもういい歳をした大人なのだ。明日に仕事を控えた夜は事には及ばないようにはしているが、先ほどのことが胸のどこかで引っかかっていた。
「もう寝た?」 「……」 「なあ」 「……」 「敦」 「……なんだよ」
消え入りそうなほど小さな声で、君下が返事をする。俺は頬杖をついていた腕を崩して布団の中に忍ばせると、背中からその細身の身体を抱き寄せた。抵抗はしなかった。
「こっち向けよ」 「……もう寝る」 「少しだけ」 「明日仕事」 「分かってる」
わかってねぇよ、そう言いながらもこちらに身体を預けてくる、相変わらず素直じゃないところも君下らしい。ランプシェードのオレンジの灯りが、眠そうな君下の顔をぼんやりと照らしている。長い睫毛に落ちる影を見つめながら、俺は薄く開かれた唇に祈るように静かにキスを落とした。
こいつとキスをするようになったのはいつからだっただろうか。 サッカーを諦めかけていた俺に道を示してくれたその時から、た��のチームメイトだった男は信頼できる友へと変化した。それでも物足りないと感じていたのは互いに同じだったようで、俺たちは高校を卒業するとすぐに同じ屋根の下で生活を始めた。が、喧嘩の絶えない日々が続いた。いくら昔に比べて関係が良くなったとはいえ、育ちも違えば本来の性格が随分と違う。事情を知る数少ない人間も、だからやめておけと言っただろう、と皆口を揃えてそう言った。幸いだったのは、二人の通う大学が違ったことだった。君下は官僚になるために法学部で勉学に励み、俺はサッカーの為だけに学生生活を捧げた。互いに必要以上に干渉しない日々が続いて、家で顔を合わせるのは、いつも決まって遅めの夜の食卓だった。 本当は今のままの関係で十分に満足している。今こそ目指す道は違うが、俺たちには同じ時を共有していた、かけがえのない長い長い日々がある。手さぐりでお互いを知ろうとし、時にはぶつかり合って忌み嫌っていた時期もある。こうして積み重ねてきた日々の中で、いつの日か俺たちは自然と寄り添いあって、お互いを抱きしめながら眠りにつくようになった。この感情に名前があるとしても、今はまだわからない。少なくとも今の俺にとって君下がいない生活などもう考えられなくなっていた。
「……ン゛、ぐっ……」
俺に組み敷かれた君下は、弓なりに反った細い腰をぴくり、と跳ねさせた。大判の白いカバーの付いた枕を抱きしめながら、押し殺す声はぐぐもっていてる。決して色気のある行為ではないが、その声にすら俺の下半身は反応してしまう。いつからこうなってしまったのだろう。君下を抱きながらそう考えるのももう何度目の事で、いつも答えの出ないまま、絶頂を迎えそうになり思考はどこかへと吹き飛んでしまう。
「も、俺、でそ、うっ……」 「あ?んな、俺もだ馬鹿っ」 「あっ……喜一」
君下の腰から右手を外し、枕を上から掴んで引き剥がす。果たしてどんな顔をして俺の名を呼ぶのだと、その顔を拝みたくなった。日に焼けない白い頬は、スポーツのような激しいセックスで紅潮し、額にはうっすらと汗が浮かんでいる。相変わらず眉間には皺が寄ってはいたが、いつもの鋭い目つきが嘘のように、限界まで与えられた快楽にその瞳を潤ませていた。視線が合えば、きゅ、と一瞬君下の蕾が収縮した。「あ、出る」とだけ言って腰のピストンを速めながら、君下のイイところを突き上げる。呼吸の詰まる音と、結合部から聞こえる卑猥な音を聞きながら、頭の中が真っ白になって、そして俺はいつの間にか果てた。全て吐き出し、コンドームの中で自身が小さくなるのを感じる。一瞬遅れてどくどくと音がしそうなほどに爆ぜる君下の姿を、射精後のぼんやりとした意識の中でいつまでも眺めていた。
(4)誰も知らない
忙しないいつもの日常が続き、あっという間に年も暮れ新しい年がやってきた。 正月は母方の田舎で過ごすと言った君下は、仕事納めが終われば一度家に戻って荷物をまとめると、そこから一週間ほど家を空けていた。久しぶりに会った君下は、少しばかり頬が丸くなって帰ってきたような気がしたが、本人に言うとそんなことはないと若干キレながら否定された。目に見えて肥えたことを気にしているらしい本人には申し訳ないが、俺はその様子に少しだけ安心感を覚えた。祖父の葬儀以来、もう何年も顔を見せていないという家族に会うのは、きっと俺にすら言い知れぬ緊張や、不安も勿論あっただろう。 だがこうやって随分と可愛がられて帰ってきたようで、俺も正月ぐらい実家に顔を出せばよかったかなと少しだけ羨ましくなった。本人に言えば餅つきを手伝わされこき使われただの、田舎はやることがなく退屈だなど愚痴を垂れそうだが、そのお陰なのか山ほど餅を持たせられたらしく、その日の夜は冷蔵庫にあった鶏肉と大根、にんじんを適当に入れて雑煮にして食べることにした。
「お前、俺がいない間何してた?」
君下が慣れた手つきで具材を切っている間、俺は君下が持ち帰った土産とやらの箱を開けていた。中には土の付いたままの里芋だとか、葉つきの蕪や蓮根などが入っていた。全て君下の田舎で採れたものなのか、形はスーパーでは見かけないような不格好なものばかりだった。
「車ねぇから暇だった」 「どうせ車があったとしても、一日中寝てるか練習かのどっちかだろうが」 「まあ、大体合ってる」
一通り切り終えたのか包丁の音が聞こえなくなり、程なくして今度は出汁の香りが漂ってきた。同時に香ばしい餅の焼ける香りがして、完成が近いことを悟った俺は一度箱を閉めるとダイニングテーブルへと向かい、箸を二膳出して並べると冷蔵庫から缶ビールを取り出してグラスと共に並べた。
「い���だきます」 「いただきます」
大きめの深い器に入った薄茶色の雑煮を目の前に、二人向かい合って座り手を合わせる。実に一週間ぶりの二人で摂る夕食だった。よくある関東風の味付けに、四角く切られ表面を香ばしく焼かれた大きな餅。シンプルだが今年に入って初めて食べる正月らしい食べ物も、今年初めて飲む酒も、すべて君下と共に大事に味わった。
「あ、そうだ。明日だからな、あれ」
3個目の餅に齧りついた俺に、そういえばと思い出したかのように君下が声を発した。少し冷めてきたのか噛み切れなかった餅を咥えたまま、肩眉を上げて何の話かと視線だけで問えば、「ほら、同窓会のやつ」と察したように答えが返ってきた。「ちょっと待て」と掌を君下に見せて、餅を掴んでいた箸に力を入れて無理矢理引きちぎると、ぐにぐにと大雑把に噛んでビールで流し込む。うまく流れなかったようで、喉のあたりを引っかかる感触が気持ち悪い。生理的に込み上げてくる涙を瞳に浮かべていると、席を立った君下は冷蔵庫の扉を開けてもう2本ビールを取り出して戻ってきた。
「ほら飲め」 「おま……水だろそこは」 「いいからとりあえず流し込め」
空になった俺のグラスにビールを注げば、ぶくぶくと泡立つばかりで泡だけで溢れそうになった。だから水にしとけと言ったのだ。チッ、と舌打ちをした君下は、少し申し訳なさそうに残りの缶をそのまま手渡してきた。直接飲むのは好きではないが、今は文句を言ってられない。奪うように取り上げると、ごくごくと大げさに喉を鳴らして一気に飲み干した。
「は~……死ぬかと思った。相変わらずお酌が下手だなお前は」 「うるせぇな。俺はもうされる側だから仕方ねぇだろうが」
そう悪態をつきながら、君下も自分の缶を開ける。プシュ、と間抜けな音がして、グラスを傾けて丁寧にビールを注いでゆく。泡まで綺麗に注げたそれを見て、満足そうに俺に視線を戻す。
「あ、そうだよ、話反らせやがって……まあとにかく、明日は俺は昼ぐらいに会社に少し顔出してくるから、ついでに親父んとこにも寄って、そのまま会場に向かうつもりだ」 「あ?親父さんも一緒に田舎に行ったんじゃねぇの?」 「そうしようとは思ったんだがな、店の事もあるって断られた。ったく誰に似たんだかな」 「それ、お前が言うなよ」
君下の言葉になんだかおかしくなってふふ、と小さく笑えば、うるせぇと小さく舌打ちで返された。綺麗に食べ終えた器をテーブルの上で纏めると、君下はそれらを持って流しへと向かった。ビールのグラスを軽く水で濯いでから、そこに半分ぐらい溜めた水をコクコクと喉を鳴らして飲み込んだ。
「俺もう寝るから、あとよろしくな。久々に運転すると疲れるわ」 「おう、お疲れ。おやすみ」
俺の言葉におやすみ、と小さく呟いた君下は、灯りのついていない寝室へと吸い込まれるようにして消えた。ぱたん、と扉が閉まる音を最後に、乾いた部屋はしんとした静寂に包まれる。手元に残ったのは、ほんの一口分だけ残った温くなったビールの入ったグラスだけだった。 頼まれた洗い物はあとでやるとして、さてこれからどうしようか。君下の読み通り、今日は一日中寝ていたため眠気はしばらくやって来る気配はない。テレビの上の時計を見ると、ちょうど午後九時を回ったところだった。俺はビールの残りも飲まずに立ち上がると、食器棚に並べてあるブランデーの瓶と、隣に飾ってあったバカラのグラスを手にしてソファのほうへとゆっくり歩き出した。
*
肌寒さを感じて目を覚ました。 最後に時計を見たのはいつだっただろうか。微睡む意識の中、薄く開いた瞳で捉えたのは、ガラス張りのローテーブルの端に置かれた見覚えのあるグラスだった。細かくカットされた見事なつくりの表面は、カーテンから零れる朝日を反射してキラキラと眩しい。中の酒は幾分か残っていたようだったが、蒸発してしまったのだろうか、底のほうにだけ琥珀色が貼り付くように残っているだけだった。 何も着ていなかったはずだが、俺の肩には薄手の毛布が掛かっていた。点けっぱなしだった電気もいつの間にか消されていて、薄暗い部屋の中、遮光カーテンから漏れる光だけがぼんやりと座っていたソファのあたりを照らしていた。酷い喉の渇きに、水を一口飲もうと立ち上がると頭痛と共に眩暈がした。ズキズキと痛む頭を押さえながらキッチンへ向かい、食器棚から新しいコップを取り出して水を飲む。シンクに山積みになっていたはずの洗い物は、跡形もなく姿を消している。君下は既に家を出た後のようだった。
それから昼過ぎまでもう一度寝て、起きた頃には朝方よりも随分と温���くなっていた。身体のだるさは取れたが、相変わらず痛む頭痛に舌打ちをしながら、リビングのフローリングの上にマットを敷いてそこで軽めのストレッチをした。大柴はもう若くはない。三十路手前の身体は年々言うことを聞かなくなり、1日休めば取り戻すのに3日はかかる。オフシーズンだからと言って単純に休んでいるわけにはいかなかった。 しばらく柔軟をしたあと、マットを片付け軽く掃除機をかけていると、ジャージの尻ポケットが震えていることに気が付いた。佐藤からの着信だった。久しぶりに見るその名前に、緑のボタンを押してスマホを耳と肩の間に挟んだ。
「おう」 「あーうるせぇよ!掃除機?電話に出る時ぐらい一旦切れって」
叫ぶ佐藤の声が聞こえるが、何と言っているのか聞き取れず、仕方なくスイッチをオフにした。ちらりと壁に視線を流せば、時計針はもうすぐ3時を指そうとしていた。
「わりぃ。それよりどうした?」 「どうしたじゃねぇよ。多分お前まだ寝てるだろうから、起こして同窓会に連れてこいって君下から頼まれてんだ」 「はあ……ったく、どいつもこいつも」 「まあその調子じゃ大丈夫だな。5時にマンションの下まで車出すから、ちゃんと顔洗って待ってろよ」 「へー」 「じゃあ後でな」
何も言わずに通話を切り、ソファ目掛けてスマホを投げた。もう一度掃除機の電源を入れると、リビングから寝室へと移動する。普段は掃除機は君下がかけるし、皿洗い以外の大抵の家事はほとんど君下に任せっきりだった。今朝はそれすらも君下にさせてしまった罪悪感が、こうやって自主的にコードレス掃除機をかけている理由なのかもしれない。 ベッドは綺麗に整えてあり、真ん中に乱雑に畳まれたパジャマだけが取り残されていた。寝る以外に立ち入らない寝室は綺麗なままだったが、一応端から一通りかけると掃除機を寝かせてベッドの下へと滑り込ませる。薄型のそれは狭い隙間も難なく通る。何往復かしていると、急に何か大きな紙のようなものを吸い込んだ音がした。
「げっ……何だ?」
慌てて電源を切り引き抜くと、ヘッドに吸い込まれていたのは長い紐のついた、見慣れない小さな紙袋だった。紺色の袋の表面に、金色の細い英字で書かれた名前には見覚えがあった。俺の覚え違いでなければ、それはジュエリーブランドの名前だった気がする。
「俺のじゃねぇってことは、これ……」
そこまで口に出して、俺の頭の中には一つの仮説が浮かび上がる。これの持ち主は十中八九君下なのだろう。それにしても、どうしてこんなものがベッドの下に、それも奥のほうへと押しやられているのだろうか。絡まった紐を引き抜いて埃を払うと、中を覗き込む。入っていたのは紙袋の底のサイズよりも一回り小さな白い箱だった。中を確認したかったが、綺麗に巻かれたリボンをうまく外し、元に戻せるほど器用ではない。それに、中身など見なくてもおおよその見当はついた。 俺はどうするか迷ったが、それと電源の切れた掃除機を持ってリビングへと戻った。紙袋をわざと見えるところ、チェリーウッドのダイニングテーブルの上に置くと、シャワーを浴びようとバスルームへと向かった。いつも通りに手短に済ませると、タオルドライである程度水気を取り除いた髪にワックスを馴染ませ、久しぶりに鏡の中の自分と向かい合う。ここ2週間はオフだったというのに、ひどく疲れた顔をしていた。適当に整えて、顎と口周りにシェービングクリームを塗ると伸ばしっぱなしだった髭に剃刀を宛がう。元々体毛は濃いほうではない。すぐに済ませて電気を消して、バスルームを後にした。
「お、来た来た。やっぱりお前は青のユニフォームより、そっちのほうが似合っているな」
スーツに着替え午後5時5分前に部屋を出て、マンションのエントランスを潜ると、シルバーの普通車に乗った佐藤が窓を開けてこちらに向かって手を振っていた。助手席には既に鈴木が乗っており、懐かしい顔ぶれに少しだけ安堵した。よう、と短く挨拶をして、後部座席のドアを開けると長い背を折りたたんでシートへと腰かけた。 それからは佐藤の運転に揺られながら、他愛もない話をした。最近のそれぞれの仕事がどうだとか、鈴木に彼女が出来ただとか、この前相庭のいるチームと試合しただとか、離れていた2年間を埋めるように絶え間なく話題は切り替わる。その間も車は東京方面へと向かっていた。
「君下とはどうだ?」 「あー……相変わらずだな。付かず離れずって感じか」 「まあよくやってるよな、お前も君下も。あれだけ仲が悪かったのが、今じゃ同棲だろ?みんな嘘みたいに思うだろうな」 「同棲って言い方やめろよ」 「はーいいなぁ、俺この間の彼女に振られてさ。せがまれて高い指輪まで贈ったのに、あれだけでも返して貰いたいぐらいだな」
指輪という言葉に、俺の顔の筋肉が引きつるのを感じた。グレーのパンツの右ポケットの膨らみを、無意識に指先でなぞる。車は渋滞に引っかかったようで、先ほどからしばらく進んでおらず車内はしん、と静まり返っていた。
「あーやべぇな。受付って何時だっけ」 「たしか6時半……いや、6時になってる」 「げ、あと20分で着くかな」 「だからさっき迂回しろって言ったじゃねぇか」
このあたりはトラックの通行量も多いが、帰宅ラッシュで神奈川方面に抜ける車もたくさん見かける。そういえば実家に寄るからと、今朝も俺の車で出て行った君下はもう会場に着いたのだろうか。誰かに電話をかけているらしい鈴木の声がして、俺は手持ち無沙汰に窓の外へと視線を投げる。冬の日の入りは早く、太陽はちょうど半分ぐらいを地平線の向こうへと隠した頃だった。真っ赤に焼ける雲の少ない空をぼんやりと眺めて、今夜は星がきれいだろうか、と普段気にもしていないことを考えていた。
(5)真冬のエスケープ
車は止まりながらもなんとか会場近くの地下駐車場へと止めることができた。幹事と連絡がついて遅れると伝えていたこともあり、特に急ぐこともなく会場までの道のりを歩いて行った。 程なくして着いたのは某有名ホテルだった。入り口の案内板には聖蹟高校×期同窓会とあり、その横に4階と書かれていた。エレベーターを待つ間、着飾った同じ年ぐらいの集団と鉢合わせた。そのうち男の何人かは見覚えのある顔だったが、男たちと親し気に話している女に至っては、全くと言っていいほど面影が見受けられない。常日頃から思ってはいたが、化粧とは恐ろしいものだ。俺や君下よりも交友関係が広い鈴木と佐藤でさえ苦笑いで顔を見合わせていたから、きっとこいつらにでさえ覚えがないのだろうと踏んで、何も言わずに到着した広いエレベーターへと乗り込んだ。
受付で順番に名前を書いて入り口で泡の入った飲み物を受け取り、広間へと入るとざっと見るだけで100人ほどは来ているようだった。「すげぇな、結構集まったんだな」そう言う佐藤の言葉に振り返りもせずに、俺はあたりをきょろきょろと見渡して君下の姿を探した。
「よう、遅かったな」 「おー君下。途中で渋滞に巻き込まれてな……ちゃんと連れてきたぞ」
ぽん、と背中を佐藤に叩かれる。その右手は決して強くはなかったが、ふいを突かれた俺は少しだけ前にふらついた。手元のグラスの中で黄金色がゆらりと揺れる。いつの間にか頭痛はなくなっていたが、今は酒を口にする気にはなれずにそのグラスを佐藤へと押し付けた。不審そうにその様子を見ていた君下は、何も言わなかった。 6時半きっかりに、壇上に幹事が現れた。眼鏡をかけて、いかにも真面目そうな元生徒会長は簡単にスピーチを述べると、今はもう引退してしまったという、元校長の挨拶へと移り変わる。何度か表彰状を渡されたことがあったが、曲がった背中にはあまり思い出すものもなかった。俺はシャンパンの代わりに貰ったウーロン茶が入ったグラスをちびちびと舐めながら、隣に立つ君下に気付かれないようにポケットの膨らみの形を確認するかのように、何度も繰り返しなぞっていた。
俺たちを受け持っていた先生らの挨拶��一通り済むと、それぞれが自由に飲み物を持って会話を楽しんでいた。今日一日、何も食べていなかった俺は、同じく飯を食い損ねたという君下と共に、真ん中に並ぶビュッフェをつまみながら空きっ腹を満たしていた。ここのホテルの料理は美味しいと評判で、他のホテルに比べてビュッフェは高いがその分確かなクオリティがあると姉が言っていた気がする。確かにそれなりの料理が出てくるし、味も悪くはない。君下はローストビーフがお気に召したようで、何度も列に並んではブロックから切り分けられる様子を目を輝かせて眺めていた。
「あー!大柴くん久しぶり、覚えてるかなぁ」
ウーロン茶のあてにスモークサーモンの乗ったフィンガーフードを摘まんでいると、この会場には珍しく化粧っ気のない、大きな瞳をした女が数人の女子グループと共にこちらへと寄ってきた。
「あ?……あ、お前はあれだ、柄本の」 「もー、橘ですぅー!つくちゃんのことは覚えててくれるのに、同じクラスだった私のこと、全っ然覚えててくれないんだから」
プンスカと頬を膨らませる橘の姿に、高校時代の懐かしい記憶が蘇る。記憶の中よりも随分と短くなった髪は耳の下で切り揃えられていれ、片側にトレードマークだった三つ編みを揺らしている。確かにこいつが言うように、思い返せば偶然にも3年間、同じクラスだったように思えてくる。本当は名前を忘れた訳ではなかったが、わざと覚えていない振りをした。
「テレビでいつも見てるよー!プロってやっぱり���変みたいだけど、大柴くんのことちゃんと見てるファンもいるからね」 「おーありがとな」
俺はその言葉に対して素直に礼を言った。というのも、この橘という女の前ではどうも調子が狂わされる。自分は純粋無垢だという瞳をしておいて、妙に人を観察していることと、核心をついてくるのが昔から巧かった。だが悪気はないのが分かっているだけ質が悪い。俺ができるだけ同窓会を避けてきた理由の一つに、この女の言ったことと、こいつ自身が関係している。これには君下も薄々気付いているのだろう。
「あ、そうだ。君下くんも来てるかな?つくちゃんが会いたいって言ってたよ」 「柄本が?そりゃあ本人に言ってやれよ。君下ならあっちで肉食ってると思うけど」 「そうだよね、ありがとう大統領!」
そう言って大げさに手を振りながら、橘は君下を探しに人の列へと歩き出した。「もーまたさゆり、勝手にどっか行っちゃったよ」と、取り残されたグループの一人がそう言うので、「相変わらずだよね」と笑う他の女たちに混ざって愛想笑いをして、居心地の悪くなったその場を離れようとした。 白いテーブルクロスの上から飲みかけのウーロン茶が入ったグラスを手に取ろとすると、綺麗に塗られたオレンジの爪がついた女にそのグラスを先に掴まれた。思わず視線をウーロン茶からその女へと流すと、女はにこりと綺麗に笑顔を作り、俺のグラスを手渡してきた。
「大柴くん、だよね?今日は飲まないの?」
黒髪のロングヘアーはいかにも君下が好みそうなタイプの女で、耳下まである長い前髪をセンターで分けて綺麗に内巻きに巻いていた。他の女とは違い、あまりヒラヒラとした装飾物のない、膝上までのシンプルな紺色のドレスに身を包んでいる。見覚えのある色に一瞬喉が詰まるも、「今日は車で来てるから」とその場で適当な言い訳をした。
「あーそうなんだ、残念。私も車で来たんだけど、勤めている会社がこの辺にあって、そこの駐車場に停めてあるから飲んじゃおうかなって」 「へぇ……」
わざとらしく綺麗な眉を寄せる姿に、最初はナンパされているのかと思った。だが俺のグラスを受け取ると、オレンジの爪はあっさりと手放してしまう。そして先程まで女が飲んでいた赤ワインらしき飲み物をテーブルの上に置き、一歩近づき俺の胸元に手を添えると、背伸びをして俺の耳元で溜息のように囁いた。
「君下くんと、いつから仲良くなったの?」
酒を帯びた吐息息が耳元にかかり、かっちりと着込んだスーツの下に、ぞわりと鳥肌が立つのを感じた。 こいつは、この女は、もしかしたら君下がこの箱を渡そうとした女なのかもしれない。俺の知らないところで、君下はこの女と親密な関係を持っているのかもしれない。そう考えが纏まると、すとんと俺の中に収まった。そうか。最近感じていた違和感も、何年も寄り付かなかった田舎への急な帰省も、なぜか頑なにこの同窓会に出席したがった理由も、全部辻褄が合う。いつから関係を持っていたのだろうか、知りたくもなかった最悪の状況にたった今、俺は気付いてしまった。 じりじりと距離を詰める女を前に、俺は思考だけでなく身体までもが硬直し、その場を動けないでいた。酒は一滴も口にしていないはずなのに、むかむかと吐き気が込み上げてくる。俺は今、よほど酷い顔をしているのだろう。心配そうに見つめる女の目は笑っているのに、口元の赤が、赤い口紅が視界に焼き付いて離れない。何か言わねば。いつものように、「誰があんなやつと、この俺様が仲良くできるんだよ」と見下すように悪態をつかねば。皆の記憶に生きている、大柴喜一という人間を演じなければ―――…… そう思っているときだった。 俺は誰かに腕を掴まれ、ぐい、と強い力で後ろへと引かれた。呆気にとられたのは俺も女も同じようで、俺が「おい誰だ!スーツが皺になるだろうが」と叫ぶと、「あっ君下くん、」と先程聞いていた声より一オクターブぐらい高い声が女の口から飛び出した。その名前に腕を引かれたほうへと振り返れば、確かにそこには君下が立っていて、スーツごと俺の腕を掴んでいる。俺を見上げる漆黒の瞳は、ここ最近では見ることのなかった苛立ちが滲んで見えるようだった。
「ああ?テメェのスーツなんか知るかボケ。お前が誰とイチャつこうが関係ねぇが、ここがどこか考えてからモノ言いやがれタワケが」 「はあ?誰がこんなブスとイチャつくかバーカ!テメェの女にくれてやる興味なんぞこれっぽっちもねぇ」 「なんだとこの馬鹿が」
実に数年ぶりの君下のキレ具合に、俺も負けじと抱えていたものを吐き出すかのように怒鳴り散らした。殴りかかろうと俺の胸倉を掴んだ君下に、賑やかだった周囲は一瞬にして静まり返る。人の壁の向こう側で、「おいお前ら!まじでやめとけって」と慌てた様子の佐藤の声が聞こえる。先に俺たちを見つけた鈴木が君下の腕を掴むと、俺の胸倉からその手を引き剥がした。
「とりあえず、やるなら外に行け。お前らももう高校生じゃないんだ、ちょっとは周りの事も考えろよ」 「チッ……」 「大柴も、冷静になれよ。二人とも、今日はもう帰れ。俺たちが収集つけとくから」
君下はそれ以上何も言わずに、出口のほうへと振り返えると大股で逃げるようにその場を後にした。俺は「悪いな」とだけ声をかけると、曲がったネクタイを直し、小走りで君下の後を追いかける。背後からカツカツとヒールの走る音がしたが、俺は振り返らずにただ小さくなってゆく背中を見逃さないように、その姿だけを追って走った。暫くすると、耳障りな足音はもう聞こえなくなっていた。
君下がやってきたのは、俺たちが停めたのと同じ地下駐車場だった。ここに着くまでにとっくに追い付いていたものの、俺はこれから冷静に対応する為に、頭を冷やす時間が欲しかった。遠くに見える派手な赤色のスポーツカーは、間違いなく俺が2年前に買い替えたものだった。君下は何杯か酒を飲んでいたので、鍵は持っていなくとも俺が運転をすることになると分かっていた。わざと10メートル後ろをついてゆっくりと近づく。 君下は何も言わずにロックを解除すると、大人しく助手席に腰かけた。ドアは開けたままにネクタイを解き、首元のボタンを一つ外すと、胸ポケットから取り出した煙草を一本口に咥えた。
「俺の前じゃ吸わねぇんじゃなかったのか」 「……気が変わった」
俺も運転席に乗り込むと、キーを挿してエンジンをかけ、サンバイザーを提げるとレバーを引いて屋根を開けてやった。どうせ吸うならこのほうがいいだろう。それに今夜は星がきれいに見えるかもしれないと、行きがけに見た綺麗な夕日を思い出す。安物のライターがジジ、と音を立てて煙草に火をつけたのを確認して、俺はゆっくりとアクセルを踏み込んだ。
(6)形も何もないけれど
煌びやかなネオンが流れてゆく。俺と君下の間に会話はなく、代わりに冬の冷たい夜風だけが二人の間を切るように走り抜ける。煙草の火はとっくに消えて、そのままどこかに吹き飛ばされてしまった。 信号待ちで車が止まると、「さむい」と鼻を啜りながら君下が呟いた。俺は後部座席を振り返り、外したばかりの屋根を元に戻すべく折りたたんだそれを引っ張った。途中で信号が青に変わって、後続車にクラクションを鳴らされる。仕方なく座りなおそうとすると、「おい、貸せ」と君下が言うものだから、最初から自分でやればいいだろうと思いながらも、大人しく手渡してアクセルに足を掛けた。車はまた走り出す。
「ちょっとどこか行こうぜ」
最初にそう切り出したのは君下だった。暖房も入れて温かくなった車内で、窓に貼り付くように外を見る君下の息が白く曇っていた。その問いかけに返事はしなかったが、俺も最初からあのマンションに向かうつもりはなかった。分岐は横浜方面へと向かっている。君下もそれに気が付いているだろう。 海沿いに車を走らせている間も、相変わらず沈黙が続いた。試しにラジオを付けてはみたが、流れるのは今流行りの恋愛ソングばかりで、今の俺たちにはとてもじゃないが似合わなかった。何も言わずにラジオを消して、それ以来ずっと無音のままだ。それでも、不思議と嫌な沈黙ではないことは確かだった。
どこまで行こうというのだろうか。気が付けば街灯の数も少なくなり、車の通行量も一気に減った。窓の外に見える、深い色の海を横目に見ながら車を走らせた。穏やかな波にきらきらと反射する、今夜の月は見事な満月だった。 歩けそうな砂浜が見えて、何も聞かないままそこの近くの駐車場に車を停めた。他に車は数台止まっていたが、どこにも人の気配がしなかった。こんな真冬の夜の海に用があるというほうが可笑しいのだ。俺はエンジンを切って、運転席のドアを開けると外へ出た。つんとした冷たい空気と潮の匂いが鼻をついた。君下もそれに続いて車を降りた。 後部座席に積んでいたブランケットを羽織りながら、君下は小走りで俺に追いつくと、その隣に並んで「やっぱ寒い」と鼻を啜る。数段ほどのコンクリートの階段を降りると、革靴のまま砂を踏んだ。ぐにゃり、と不安定な砂の上は歩きにくかったが、それでも裸足になるわけにはいかずにゆっくりと海へ向かって歩き出す。波打ち際まで来れば、濡れて固まった足場は先程より多少歩きやすくなった。はぁ、と息を吐けば白く曇る。海はどこまでも深い色をしていた。
「悪かったな」 「いや、……あれは俺も悪かった」
居心地の悪そうに謝罪の言葉がぽつり、と零れた。それは何に対して謝ったのか、自分でもよく分からない。君下に女が居た事なのか、指輪を見つけてしまった事なのか、それともそれを秘密にしていた事なのか。あるいは、そのすべてに対して―――俺がお前をあのマンションに縛り付けた10年間を指しているのか、それははっきりとは分からなかった。俺は立ち止まった。俺を追い越した、君下も立ち止まり、振り返る。大きな波が押し寄せて、スーツの裾が濡れる感覚がした。水温よりも冷たく冷え切った心には、今はそんな些細なことは、どうでもよかった。
「全部話してくれるか」 「ああ……もうそろそろ気づかれるかもしれねぇとは腹括ってたからな」
そう言い終える前に、君下の視線が俺のズボンのポケットに向いていることに気が付いた。何度も触っていたそれの形は、嫌と言うほど覚えている。俺はふん、と鼻で笑ってから、右手を突っ込み白い小さな箱を丁寧に取り出した。君下の目の前に差し出すと、なぜだか手が震えていた。寒さからなのか、それともその箱の重みを知ってしまったからなのか、風邪が吹いて揺れるなか、吹き飛ばされないように握っているのが精一杯だった。
「これ……今朝偶然見つけた。ベッドの下、本当に偶然掃除機に引っかけちまって……でも本当に俺、今までずっと気付かなくて、それで―――それで、あんな女がお前に居たなんて、もっと早く言ってくれりゃ、」 「ちょっと待て、喜一……お前何言ってんだ」 「あ……?何って、今言ったことそのまんまだろうが」
思い切り眉間に皺を寄せ困惑したような君下の顔に、俺もつられて眉根を寄せる。ここまで来てしらを切るつもりなのかと思うと、怒りを通り越して呆れもした。どう���こうなってしまった以上、俺たちは何事もなく別れられるわけがなかった。昔のように犬猿の仲に戻るのは目に見えていたし、そうなってくれれば救われた方だと俺は思っていた。 苛立っていたいたのは君下もそうだったようで、風で乱れた頭をガシガシと掻くと、煙草を咥えて火を点けようとした。ヂ、ヂヂ、と音がするのに、風のせいでうまく点かない。俺は箱を持っていないもう片方の手を伸ばして、風上から添えると炎はゆらりと立ち上がる。すう、と一息吸って吐き出した紫煙が、漆黒の空へと消えていった。
「そのまんまも何も、あの女、お前狙いで寄ってきたんだろうが」 「お前の女が?」 「誰だよそれ、名前も知らねぇのにか?」
つまらなさそうに、君下はもう一度煙を吸うと上を向いて吐き出した。どうやら本当にあのオレンジ爪の女の名前すら知らないらしい。だとしたら、俺が持っているこの箱は一体誰からのものなのだ。答え合わせのつもりで話をしていたが、謎は余計に深まる一方だ。
「あ、でもあいつ、俺に何て言ったと思う?君下くんといつから仲良くなったの、って」 「お前の追っかけファンじゃねぇの」 「だとしてもスゲェ怖いわ。明らかにお前の好みそうなタイプの恰好してたじゃん」 「そうか?むしろ俺は、お前好みの女だなと思ったけどな」
そこまで言って、俺も君下も噴き出してしまった。ククク、と腹の底から込み上げる笑いが止まらない。口にして初めて気が付いたが、俺たちはお互いに女の好みなんてこれっぽっちも知らなかったのだ。二人でいる時の共通の話題と言えば、サッカーの事か明日の朝飯のことぐらいで、食卓に女の名前が出てきたことなんて今の一度もない事に気付いてしまった。どうりでこの10年間、どちらも結婚だとか彼女だとか言い出さないわけだ。俺たちはどこまでも似た者同士だったのだ。
「それ、お前にやろうと思って用意したんだ」
すっかり苛立ちのなくなった瞳に涙を浮かべながら、君下は軽々しくそう言って笑った。 俺は言葉が出なかった。 こんな小洒落たものを君下が買っている姿なんて想像もできなかったし、こんなリボンのついた箱は俺が受け取っても似合わない。「中は?」と聞くと、「開けてみれば」とだけ返されて、煙が流れないように君下は後ろを向いてしまった。少し迷ったが、その場で紐をほどいて箱を開けて、俺は目を見開いた。紙袋と同じ、夜空のようなプリントの内装に、星のように輝くゴールドの指輪がふたつ、中央に行儀よく並んでいた。思わず君下の後姿に視線を戻す。ちらり、とこちらを振り返る君下の口元は、笑っているように見えた。胸の内から込み上げてくる感情を抑えきれずに、俺は箱を大事に畳むと勢いよくその背中を抱きしめた。
「う゛っ苦しい……喜一、死ぬ……」 「そのまま死んじまえ」 「俺が死んだら困るだろうが」 「自惚れんな。お前こそ俺がいないと寂しいだろう」 「勝手に言ってろタワケが」
腕の中で君下の頭が振り返る。至近距離で視線が絡み、君下の瞳に星空を見た。俺は吸い込まれるようにして、冷たくなった君下の唇にゆっくりとキスを落とす。二人の間で吐息だけが温かい。乾いた唇は音もなく離れ、もう一度角度を変えて近づけば、今度はちゅ、と音がして君下の唇が薄く開かれた。お互いに舌を出して煙草で苦くなった唾液を分け合った。息があがり苦しくなって、それでもまた酸素を奪うかのように互いの唇を気が済むまで食らい合った。右手の箱は握りしめたままで、中で指輪がふたつカタカタと小さく音を立てて揺れていた。
「もう、帰ろうか」 「ああ……解っちゃいたが、冬の海は寒すぎるな。帰ったら風呂炊くか」 「お、いいな。俺が先だ」 「タワケが。俺が張るんだから俺が先だ」
いつの間にか膝下まで濡れたスーツを捲り上げ、二人は手を繋いで来た道を歩き出した。青白い砂浜に、二人分の足跡が残る道を辿って歩いた。平常心を取り戻した俺は急に寒さを感じて、君下が羽織っているブランケットの中に潜り込もうとした。君下はそれを「やめろ馬鹿」と言って俺の頭を押さえつける。俺も負けじとグリグリと頭を押し付けてやった。自然と笑いが零れる。 これでよかったのだ。俺たちには言葉こそないが、それを埋めるだけの共に過ごした長い時間がある。たとえ二人が結ばれたとしても、形に残るものなんて何もない。それでも俺はいいと思っている。こうして隣に立ってくれているだけでいい。嬉しい時も寂しい時も「お前は馬鹿だな」と一緒に笑ってくれるやつが一人だけいれば、それでいいのだ。
「あ、星。喜一、星がすげぇ見える」 「おー綺麗だな」
ふと気づいたように、君下が空を見上げて興奮気味に声を上げた。 ようやくブランケットに潜り込んで、君下の隣から顔を出せば、そこにはバケツをひっくり返したかのように無数に散らばる星たちが瞬いていた。肩にかかる黒髪から嗅ぎ慣れない潮の香りがして、俺たちがいま海にいるのだと思い知らされる。上を向いて開いた口から、白く曇った息が漏れる。何も言わずにしばらくそれを眺めて、俺たちはすっかり冷えてしまった車内へと腰を下ろした。温度計は摂氏5度を示していた。
7:やさしい光の中で
星が良く見えた翌朝は決まって快晴になる。君下に言えば、そんな原始的な観測が正しければ、天気予報なんていらねぇよ、と文句を言われそうだが、俺はあながち間違いではないと思っている。現に今日は雲一つない晴れで、あれだけ低かった気温が今日は16度まで上がっていた。乾燥した空気に洗濯物も午前中のうちに乾いてしまった。君下がベランダに料理を運んでいる最中、俺は慣れない手つきで洗濯物をできるだけ綺麗に折りたたんでいた。
「おい、終わったぞ。お前のは全部チェストでいいのか?」 「下着と靴下だけ二番目の引き出しに入れといてくれ。あとはどこでもいい」 「へい」
あれから真っすぐマンションへと向かった車は、時速50キロ程度を保ちながらおよそ2時間かけて都内にたどり着いた。疲れ切っていたのか、君下は何度かこくり、こくりと首を落とし、ついにはそのまま眠りに落ちてしまった。俺は片手だけでハンドルを握りながら、できるだけ眠りを妨げないように、信号待ちで止まることのないようにゆっくりとしたスピードで車を走らせた。車内には、聞き慣れない名のミュージシャンが話すラジオの音だけが延々と聞こえていた。 眠った君下を抱えたままエントランスをくぐり、すぐに開いたエレベーターに乗って部屋のドアを開けるまで、他の住人の誰にも出会うことはなかった。鍵を開けて玄関で靴を脱がせ、濡れたパンツと上着だけを剥ぎ取ってベッドに横たわらせる。俺もこのまま寝てしまおうか。ハンガーに上着を掛けると一度はベッドに腰かけたものの、どうも眠れる気がしない。少しだけ君下の寝顔を眺めた後、俺はバスルームの電気を点けた。
「飲み物はワインでいいか?」 「おう。白がいい」 「言われなくとも白しか用意してねぇよ」
そう言って君下は冷蔵庫から冷えた白ワインのボトルとグラスを2つ持ってやって来た。日当たりのいいテラスからは、東京の高いビル群が遠くに見えた。東向きの物件にこだわって良かったと、当時日当たりなんてどうでもいいと言った君下の隣に腰かけて密かに思う。今日は風も少なく、テラスで日光浴をするのには丁度いい気候だった。
「乾杯」 「ん」
かちん、と一方的にグラスを傾けて君下のグラスに当てて音を鳴らした。黄金色の液体を揺らしながら、口元に寄せればリンゴのような甘い香りがほのかい漂う。僅かにとろみのある液体を口に含めば、心地よいほのかな酸味と上品な舌触りに思わず眉が上がるのが分かった。
「これ、どこの」 「フランスだったかな。会社の先輩からの貰い物だけど、かなりのワイン好きの人で現地で箱買いしてきたらしいぞ」 「へぇ、美味いな」
流れるような書体でコンドリューと書かれたそのボトルを手に取り、裏面を見ればインポーターのラベルもなかった。聞いたことのある名前に、確か希少価値の高い品種だったように思う。読めない文字をざっと流し読みし、ボトルをテーブルに戻す��もう一口口に含む。安物の白ワインだったら炭酸で割って飲もうかと思っていたが、これはこのまま飲んだ方が良さそうだ。詰め物をされたオリーブのピンチョスを摘まみながら、雲一つない空へと視線を投げた。
「そう言えば、鈴木からメール来てたぞ……昨日の同窓会の話」
紫煙を吐き出した君下は、思い出したかのように鈴木の名を口にした。小一時間前に風呂に入ったばかりの髪はまだ濡れているようで、時折風が吹いてはぴたり、と額に貼り付いた。それを手で避けながら、テーブルの上のスマホを操作して件のメールを探しているようだ。俺は残り物の鱈と君下の田舎から貰ってきたジャガイモで作ったブランダードを、薄切りのバゲットに塗り付けて齧ると、「何だって」と先程の言葉の続きを促した。
「あの後女が泣いてるのを佐藤が慰めて、そのまま付き合うことになったらしい、ってさ」 「はあ?それって俺たちと全然関係なくねぇ?というか、一体何だったんだよあの女は……」
昨夜のことを思い出すだけで鳥肌が立つ。あの真っ赤なリップが脳裏に焼き付いて離れない。それに、俺たちが聞きたかったのはそんな話ではない。喧嘩を起こしそうになったあの場がどうなったとか、そんなことよりもどうでもいい話を先に報告してきた鈴木にも悪意を感じる。多分、いや確実に、このハプニングを鈴木は面白がっているのだろう。
「あいつ、お前と同じクラスだった冴木って女だそうだ。佐藤が聞いた話だと、やっぱりお前のファンだったらしいぞ」 「……全っ然覚えてねぇ」 「だろうな。見ろよこの写真、これじゃあ詐欺も同然だな」
そう言って見せられた一枚の写真を見て、俺は食べかけのグリッシーニに巻き付けた、パルマの生ハムを落としそうになった。写真は卒アルを撮ったもののようで、少しピントがずれていたがなんとなく顔は確認できた。冴木綾乃……字面を見てもピンと来なかったが、そこに映っているふっくらとした丸顔に腫れぼったい一重瞼の女には見覚えがあった。
「うわ……そういやいた気がするな」 「それで?これのどこが俺の女だって言うんだよ」 「し、失礼しました……」 「そりゃあ今の彼氏の佐藤に失礼だろうが。それに別にブスではないしな」
いや、どこからどう見てもこれはない。俺としてはそう思ったが、確かに昨日会った女は素直に抱けると思った。人は歳を重ねると変わるらしい。俺も君下も何か変わったのだろか。ふとそう思ったが、まだ青い高校生だった俺に言わせれば、俺たちが同じ屋根の下で10年も暮らしているということがほとんど奇跡に近いだろう。人の事はそう簡単に悪く言えないと、自分の体験を以って痛いほど知った。 君下は短くなった煙草を灰皿に押し付けると火を消して、何も巻かないままのグリッシーニをポリポリと齧り始める。俺は空になったグラスを置くと、コルクを抜いて黄金色を注いだ。
「あー、そうだ。この間田舎に帰っただろう、正月に。その時にばあちゃんに、お前の話をした」 「……なんか言ってたか」
聞き捨てならない言葉に、だらしなく木製の折りたたみチェアに座っていた俺の背筋が少しだけ伸びる。 その事は俺にも違和感があった。急に田舎に顔出してくるから、と俺の車を借りて出て行った君下は、戻ってきても1週間の日々を「退屈だった」としか言わなかったのだ。なぜこのタイミングなのだろうか。嫌な切り出し方に少しだけ緊張感が走る。君下がグリッシーニを食べ終えるのを待っているほんの少しの時間が、俺には気が遠くなるほど長い時間が経ったような気さえした。
「別に。敦は結婚はしないのかって聞かれたから答えただけだ。ただ同じ家に住んでいて、これからも一緒にいることになるだろうから、申し訳ないけど嫁は貰わないかもしれないって言っといた」 「……それで、おばあさんは何て」 「良く分からねぇこと言ってたぜ。まあ俺がそれで幸せなら、それでいいんじゃないかとは言ってくれたけど……やっぱ少し寂しそうではあったかな」
そう言って遠くの空を見つめるように、君下は視線を空へ投げた。真冬とは言え太陽の光は眩しくて、自然と目元は細まった。テーブルの上に投げ出された右手には、光を反射してきらきらと輝く金色が嵌められている。昨夜君下が眠った後、停車中の誰も見ていない車内で俺が勝手に付けたのだ。細い指にシンプルなデザインはよく映えた。俺が見ていることに気が付いたのか、君下はそっとテーブルから手を離すと、新しいソフトケースから煙草を一本取りだした。
「まあこれで良かったのかもな。親父にも会ってきたし、俺はもう縛られるものがなくなった」 「えっ、まさか……昨日実家寄ったのってその為なのか」 「まあな……本当は早いうちに言っておくべきだったんだが、どうも切り出せなくてな。親父もばあちゃんも、母さんを亡くして寂しい思いをしたのは痛いほど分かってたし、まあ俺もそうだったしな……それで俺が結婚しないって言うのは、なんだか家族を裏切ってしまうような気がして。もう随分前にこうなることは分かってたのにな。気づいたら年だけ重ねてて、それで……」
君下は、ゆっくりと言葉を紡ぐと一筋だけ涙を流した。俺はそれを、君下の左手を握りしめて、黙って聞いてやることしかできなかった。昼間から飲む飲みなれないワインにアルコールが回っていたのだろうか。それでもこれは君下の本音だった。 暫くそうして無言で手を握っていると、ジャンボジェット機が俺たちの上空をゆっくりと通過した。耳を塞ぎたくなるようなごうごうと風を切り裂く大きな音に隠れるように、俺は聞こえるか聞こえないかの声量で「愛してる」、と一言呟く。君下は口元だけを読んだのか、「俺も」、と聞こえない声で囁いた。飛行機の陰になって和らいだ光の中で、俺たちは最初で最後の言葉を口にした。影が過ぎ去ると、陽射しは先程よりも一層強く感じられた。水が入ったグラスの中で、溶けた氷がカラン、と立てたか細い音だけが耳に残った。
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令和とヤンキー
2019/04/05 午前2時記す
昨日は途中で前髪が気になりすぎて書くのをやめてしまった。情けない。どんな髪型にしたいのかがまだ決まっていない段階で美容室に行くべきではない。だいたい今の美容室をそんなに気に入っていないのに、三年ほど通っている。惰性だ。いい加減、別の美容室を探すべきである。元号が変わるぐらいに行こうと思う。
新たな元号に対してどのような態度をとるべきか。気にしない、のは無理である。気にしないふりをすることほどダサいことはない。元号をネタにするのも嫌だ。率直な感想を述べるのがやはり一番いいと思う。奇抜なことを言おうと無理をしなくてもいいのだ。ついそうなりがちだ。あらゆることに対して。それはだいたいバレている。無理をするところを見極めるというのは本当に難しい。そのマニュアルというかフローチャートがあればいいのに。そんなものは存在しない。失敗を重ねながら体で覚えていくしかない。
ヤンキー感があるなと思った。僕はラ行の名前に対してヤンキーを想起する。思いつく限りラ行の知人の名前を挙げてみよう。レイヤ、リョウガ、レイ、リョウ、リョウタ、レイナ、リナ、リコ、リカコ、レナ。10人中8人がヤンキーかギャルである。名前と性格、もとい属性は関係ないとは言い切れないように思う。アト6の中で宇垣さんがビジュアル系バンド感があると言っていた。ヤンキーとビジュアル系、何か近しいものがある。友人のKの話ではオタク界隈にもウケはいいらしい。ヤンキーとオタクは切り離せない。相反するようで実は同じなのだ、ということは斎藤環出会ったり菊地成孔が言っていたような気がする。一度調べてみよう。
Creepy Nutsの『どっち』もヤンキーとオタクの歌だ。ドンキとヴィレバンという対立を見つけ出したR指定はさすがだ。もっとこの曲は評価されていいはずだ。ヤンキーとオタクの二項対立を見事に描き出している名曲だ。ヤンキーとオタクのどちらをも見てきた、そしてどちらにも所属できないR指定だからこそのリリックだ。HIPHOPにもヤンキーとオタクが存在しているし、その液状化が起こっているのがHIPHOPだと言えるだろう。PUNPEEなんかはその象徴だ。SIMON JAPがハハノシキュウとのバトルで「俺の方がHIPHOPに対してオタクなんだよ」のような発言をしていたのも何かを象徴している気がする。オタクという言葉の浸透。語源なんかはもはやとっくのとうに忘れられているのだろう。果たしてそれはいいのだろうか。
オタクが相手の名前を「お宅は…」と呼んだことが起因らしい。もはやそんなオタクは存在しない。名前を呼ぶ際に家を用うちいている点で言えば、「ウチ」と同じだ。「ウチ」という一人称を使うのはだいたいギャルだろう。ここにもオタクとヤンキーの共通点が見出せる。これでQ.E.D.とはならないだろう。なぜオタクは二人称で、ギャルは二人称なのか。大した意味がないのかもしれないけれど。更に言えば、「ウチ」は昔の方が使用されている率は高かったような印象だ。印象があるというからには後日調べなければいけない。オタクが「お宅は…」を使っていた時代と「ウチ」の使用率が高かった時代が一致などしていないだろうか。もしそうだったら面白い。
元号の話からヤンキー、オタク論になってしまった。そろそろ日記に移ろう。16時ぐらいに起床した。故障していたバイクを取りに3キロほど離れたバイク屋へ歩いて行った。割と遠いと思ってしまった。体力の低下。やはり走るべきだ。店に着くと手の空いている店員がおらず、電話をしている店員に変なアイコンタクトを送ってしまった。「要件があるんですけど、電話は続けてください」というアイコンタクトを送ったつもりだったけれど伝わっただろうか。変な客だと思われた気がする。もっとこう余裕を持って陳列されたバイクを見ていればよかった。そして用件を伝えるのも下手すぎる。まずは結論を述べなければ。
やはり鍵穴に悪戯されていたらしい。これを理由に引っ越したいと思っている自分がいる。メゾネットタイプの部屋に引っ越したい。DJ松永もハライチの岩井も、Licaxxxもメゾネットタイプだ。ミーハーな僕は簡単に影響される。そしてメゾネットタイプの部屋に住めば何かがうまくいくと思っている。フロイトでいうところの同一視であり投射だ。菊地成孔はフロイドという。どちらが正しいのだろう。
バイクに乗って帰宅し、ショッピングモールのフードコートへケバブを食べにいく。店員と少し会話をした。どの店員も優しくしてくれる。トルコ人の店長も優しい。フードコートにある店は固有名性をお互いに消してくれる嫌いがあるように思う。チェーン店というのはそういうものだ。でもその店はそうではない気がする。だから好きだ。週に二回以上は通っている。ケバブ丼にレタスとトマトが乗るようになった。いつもは頼まないソースをかけてみた。もっと味わって食べるべきだった。普段との違いをうまく記述できない。コーラをセットで頼んだ。これが非常に美味しい。ジャンクフードはコーラとともに食すべきである。Mサイズが思いの外小さかったので、合間に水を挟んだ。飲みすぎである。いつもそうだ。少し注意しなければ。
今日の食事はそれだけである。お腹がすいてきた。二食はしっかりと食べたい。スーパーでベーコンとひきわり納豆を買った。キッシュを作りたかったが卵は売り切れていた。野菜は何を買おうか迷ってやめた。食材を使い切ったことがない。一人暮らしの難点だ。今年度はスーパーに行く回数を減らしたい。まとめ買いできるように、そしてうまくその食材の中でやりくりできるようになりたい。そう考えるとこれまで2年間どうしていたのだろう。コンビニと外食を減らすのが今年度の目標だ。
結局今日は筋トレをしなかった。明日こそは。洗濯物は干した。キッチンの少々の片付けも。
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2018/07/10(火)

お弁当。牛肉とピーマンのオイスターソース炒め丼、サラダ、桃。
とうとうおかず1品に…。笑 ハードコア弁当!
今日も午後から支店へ。いつもより時間がかかった。
帰りに会社の買い物も兼ねて支店近くのスーパーへ。初めて行ったんですが、団地に併設されていてビックリ。ほかにもお店があるのである程度ここだけで街が成り立つのかも…。隣の市なのにここまで違うものなのか…。
しかし品揃えはそう変わりなく、いろいろ探索させてもらいました。
【ひとりぐらしにはぜいたく品】のコーナー。

桷志田 黒酢ドレッシング[キャロット] 755円
黒酢で有名な鹿児島の福山にある福山黒酢さんの商品です。
フルーツ酢もおいしいし、併設されているレストランもオススメです。こちらはそのレストランでも使われているドレッシング。
今までは遠くてなかなか行けず買えなかったのが、会社近くのスーパーのこだわり商品のコーナーに売っているのを見つけたことと、ここのところ買ったドレッシングがうーん…という感じだったので、間違いのないこちらを買いました。

晩ご飯。サラダ、ミニ鶏オイマヨ丼、桃の切れ端。
サラダの具は、レタス、トマト、にんじん、アボカド、モッツァレラチーズ、じゃ��いも、ゆで卵、クルトン、フライドオニオン、ベーコンビッツ。
せっかくドレッシングを買ったのに具の内容的に使えないので(笑)、結局キューピーのシーザードレッシングにしました。ご飯が少なかったのでこのサラダにしたのですが、サラダだけでお腹いっぱいになりました。そしてきゅうりを入れ忘れるという…。

豪雨災害で届くのが遅れていた本が今日届きました。
朝日文庫 南海キャンディーズ山里亮太さんの「天才はあきらめた」です。
かなり前、M-1で2人が注目されてしばらく経ったときだと思うんですが(曖昧)、何かの番組でたまたま南海キャンディーズの漫才を見たとき、山ちゃんの立ち振る舞いがわたしにはまさに「騎士(ナイト)」に見えました。しずちゃんをフォローしつつ、漫才を進めていく…。それ以来、山里さんのファンです。
読みたい本が毎日コロコロ変わるので大変です。でも本だけがどんどん溜まっていってるので読まねば!
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日曜日
「よっ」
呼び鈴に玄関を開けると、ベルナールが立っていた。
「邪魔するぞ」
「何の用だ?」
「何ってお前、飯でも一緒にどうかと思って来てやったんだぞ」
そう言ってベルナールは俺を脇によけてすたすたと上がり込む。見れば酒瓶を何本かぶら下げていた。
「それは手土産か?」
「そう、礼儀正しいこの俺が手ぶらで来るわきゃねーだろ」
そんなことを言っていつも俺の戸棚の酒も飲むくせに。まあいい。
「あー、べるだ」
声を聞きつけたアナが部屋の奥から出てくる。
「どうしたの?」
「飯作りに来てやったの」
「えー」
「んなこと言っていつもよく食うくせに」
その通り。ベルナールの作る飯はうまい。 そんなに凝った料理を出すわけじゃない。炒め物にしたって味付けを尋ねると塩だけだとか、トマトソースで煮ただけだとか単純なものばかりなのだがなぜか妙にうまいのだ。大抵大皿にどかっと盛られて出されるそれはいつもいつも綺麗に平らげられる。
「アナちゃんも手伝う?じゃサラダ用のレタスちぎって。トマト切って。トマトは煮込みにも使うからこっちにもちょうだい」
「うん」
ダイニングテーブルを片付けて食器を並べていると、キッチンからベルナールとアナが言い合いながら料理をする声が聞こえてきた。
ベルナールがここマルカルスに来たばかりの頃はアナにちょっかいを出されるのが気に入らなかった。こいつのことだからアナに手を出して俺を煽る気だろうと思っていたものだが。 今でも全くその不安がないかと言われれば嘘になる。ベルナールの奴は本心では何を考えてるのかわからない。今みたく気軽に接してくるその後で、同じ笑顔でダメージを与えてくるような奴だ。とは言え、ああやって遊びに来るのを無下に断るのはこちらもいい気はしない。…アナもそれなりに楽しんでるようだし良しとしよう、というところに落ち着いている。
そんなことを考えつつグラスを並べているところにアナが大きな木のボウルに入ったサラダを運んできた。 ざっくりと千切られたレタスに、ところどころローリエや厚めに切られたパプリカが覗く。トマトが添えられた上には既にオリーブオイルと塩がまぶされていた。
「アナちゃんグリルの肉ひっくり返して塩こしょう振って」
鍋をかき混ぜながら言うベルナールの声に、ダイニングテーブルに食器を並べていたアナはまたぱたぱたとキッチンに戻っていく。 これだけ見ていればまめな奴なのにどうして女を違う名前で呼んだりそもそも名前を忘れたりして引っ叩かれたりするのかわからん。
そんなことをぼんやり考えながら酒の用意をしているとどうやら料理が出来上がったらしい。 先程のサラダと大皿に盛られた野菜と鶏肉のトマト煮込み、その隣のグリルされた大判の牛肉は皿の上でもまだじゅうじゅうと音を立てて香ばしい匂いを放っていた。その横にはホワイトアスパラのソテーが数本添えてある。 アナが温めなおしたパンの入ったカゴを置き、できたよ、と声を弾ませる。
樽の中で氷を作って冷やしておいたベルナール持参のエールをカップに注ぎ、軽く乾杯をしてから傾けるとよく冷えた苦味が喉を滑り落ちていく。 季節は夏、北端の地スカイリムといってもここマルカルスは西の端にありそこまでの寒さではない。 ベランダに続く大窓を開けていると高原地帯から降りてくる風が心地良い。 いただきまーす、とアナは早速煮込みを小皿に取る。よく見ると中にじゃがいものニョッキのようなものも混ぜてあるようで、自分も皿に取り口に運んでみるとやはりうまい。ベルナールは飯がうまいのだ。
「べるのこれおいしいよね」
アナがパンにトマトソースをつけながら言う。
「そうだろそうだろ」
「確かにうまいな…ハディントンも呼べば良かった」
「なんだって?」
眉間に皺を寄せてベルナールが顔を上げた。その態度が面白くていい酒の肴になる。
「だからハディントンだよ。呼べば良かった」
「なんで?」
「お前が喜ぶだろ」
「なんだって?」
食ってかかろうとする奴のカップにエールを注ぎ足してやりながら続ける。
「彼女もここの勤務になるといいな。まああの仕事ぶりでは大使が手放さないか…」
「俺はそんなこと言ってねえだろ」
「定例の晩餐会に毎回顔を見せろよ。彼女に会えるぞ」
「やなこった。お偉方の顔を見ながらの酒はまずい」
「残念だな。ハディントンはお前にもっと会いたいと言っていたぞ」
「何?」
皮肉に満ちたいつもの顔が一瞬緩む。分かりやすい奴だ。
「この間会った時に弟さんは?と聞かれてな。今日は来ないと伝えたら残念です、だと」
「…」
「だから来いと言ったんだ」
アナはレタスで挟んだグリルをむいむいと頬張りながら俺たちの話をじっと聞いている、と思っていたら
「べるは、はどさんのことすきだもんね」
「うるせえぞ」
「あなもすき、はどさん」
ほんの少し蜂蜜酒を混ぜた炭酸水の入ったグラスをくるくるとかき混ぜつつベルナールをからかう。
「じゃあきらいなの?」
「そうは言ってねえだろ」
そんなやり取りをしているうちにテーブルの上の料理はほぼ空になってしまった。
「ベランダで飲むか」
「おおいいね。じゃあの棚のワインをくれ」
「まったく」
悪態をつきながらもキッチン脇の棚からアルトワインをひと瓶取り出す。以前ソリチュードのサルモール本部に顔を出した時の土産でこんな夏にぴったりの味だ。
「あなはちょっとかたづけてるから、ふたりはおさきにどうぞ」
「悪いな、頼むよ」
つい癖で俺��胸の高さほどまでしかない頭に手を置くと、アナはうふふと得意げな顔をした。
魔法でこしらえた氷で即冷されたワインは、きんと喉を刺すように通り抜ける。
「うーんうまい」
「定例会議に顔を出せば買えるぞ」
「はいはい、気が向いたら行くよ」
「それでハディントンのことだが」
「またその話?」
「またその話だ。いい加減認めたらどうだ、彼女と話してるとあんなに嬉しそうにするくせに」
「うるせえなあ」
ベランダのデッキチェアにだらだらと寝転び、指先から出した炎で煙草を燻らせながらベルナールが悪態をつく。
「彼女のことが好きだろ?なら何人いるかは知らんが今いる女とは全員手を切るんだな。兄としても彼女の友人としてもこれだけは言わせてもらうぞ」
「わかってるっつうの」
ベルナールの吹き出した煙がふわふわと夕闇迫る空に消えていった。紫と橙の混じったような空にはぽつぽつと星が瞬き始めている。
「じゃあ来月の晩餐会にはお前も出席すると彼女に言っておこう。喜ぶぞ」
「どうだかね」
「ガキみたくはぐらかさずに決めるなら決めろ」
「わかってるっつうーの。うるせえなあお兄様は」
「おまたせ!なんのはなししてるの?」
ドライフルーツの盛り合わせの乗ったガラス皿を手にやってきたアナが、あんずをかじりつつ俺の膝に乗ってくる。 時刻は夜8時間際、そろそろ街に灯りがともり出す頃だ。この季節、外にテーブルを出した店もある町の広場の方角からは賑やかな声が聞こえて来る。 ここスカイリムに来たばかりの頃は、こんな時間が出来るとは思いもしなかった。こんな穏やかな時間を過ごすことが出来るとは。
こういう時を、いわゆる「幸福」と呼ぶのだろう。
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. 【8/7週の野菜状況】 . 花火や祭りの音で賑やかな時期ですね。 あまり冷たいものばかり飲んでは身体を冷やし過ぎてしまうなーと思う時は、きゅうりやスイカやトマトで凌いでいます。 今週の神楽坂店は、うえぐもさん展示会のため、トレイラー(TRAILER)@trailer_tenjincho さん敷地内での出店となります。 また、来週(14〜17日)はお休みさせて頂きますので、お買い忘れのないようにご利用下さい。 今週もご来店をお待ちしていまーす! . ズッキーニとトマトとバジルのサラダ シシトウとマッシュルーム炒め おかわかめとじゃがいもの味噌汁 . . 8/7(月)&8/10(木) 東長崎店:豊島区南長崎5-22-8/14:30~19:00 西永福店:杉並区永福3-35-9/13:00~20:31 . 8/9(水) 神楽坂店:うえぐもさん展示会のため、トレイラーTRAILERさん(東京都新宿区天神町1-2)敷地内にて販売致します。/14:00~18:31 . 【新着】 ・みょうが ・ニラ ・ルッコラ ・りんご(つがる) ・おかわかめ 【葉物・果菜など】 ・トウモロコシ ・すいか ・なす(千両、長なす、ビオレッタ、賀茂なすなど) ・水なす ・米なす ・パプリカ(ガブリエルなど) ・ピーマン(ちぐさ、バナナ、プスタゴールドなど) ・シシトウ ・万願寺唐がらし ・福耳とうがらし ・伏見甘長とうがらし ・かぐらなんばん ・いんげん ・三色いんげん ・霜降りささげ ・枝豆 ・オクラ ・赤オクラ ・大玉トマト ・ぜいたくトマト ・ミニトマト(あまっこ、ラブリーさくら) ・ミニトマトミックス ・きゅうり(半白、地這い、四川など) ・かぼちゃのつる ・小松菜 ・山東菜 ・モロヘイヤ ・つる菜 ・空芯菜 ・ほうれん草 ・セロリ ・玉レタス ・長ネギ ・バジル ・えごまの葉 ・大葉(青じそ) ・タイバジル ・ホーリーバジル ・ルバーブ ・坊ちゃんかぼちゃ ・金糸瓜(そうめんかぼちゃ) 【根菜】 ・ビーツ ・ごぼう ・にんにく ・生姜 ・長芋 ・にんじん ・じゃがいも(キタアカリ、男爵、十勝こがね、レッドムーン、ノーザンルビー、アンデスレッド、とうや) ・赤玉ねぎ ・玉ねぎ ・ペコロス 【きのこ】 ・しめじ ・えのき ・なめこ ・エリンギ ・しいたけ ・まいたけ ・生キクラゲ ・ブラウンマッシュルーム ・ポットベラ(巨大マッシュルーム) 【果物】 ・バナナ ・桃 ・プラム ・ブルーベリー 【加工品、他】 ・お米(コシヒカリ、ササニシキ) ・大豆(さといらず、赤大豆) ・雑穀ミックス ・平飼い有精卵 ・スリーブラウンさんのチーズ ・馬馬さんのキムチ、チヂミ ・豆忠さんの豆腐、あぶら揚げ、湯葉など #野菜状況
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2025年5月7日(水)

二十四節気はすでに<立夏>、我が家の玄関前アナーキー空間も着実に季節が進んでいる。例年動きの遅いツツジもしっかり開き、ツレアイ丹精の花々もきれいに咲いている。以前なら花調べアプリのお世話になっていたが、近頃は Apple Intelligence のおかげで詳細な情報をすぐにゲットすることができる。左下の白い花は<ノースポール>というそうだ。もっとも、すぐに忘れてしまうのは以前と少しも変わっていないのだが・・・。

5時30分起床。
洗濯開始。

朝食には、久しぶりに煮麺をいただく。
洗濯物干す。
珈琲淹れる。
空き瓶缶、20L*1&45L*1。
8時30分、二男が出勤する。

連休中に作成した<MQJ News No.112>、pdfファイルでメール配信する。こちらは、GoogleGroupのお世話になっている。ウェブサイトを更新し、FacebookPageにポストして一件落着。

ライフ西七条店で買物、彼女に頼まれたリンゴとキウイとミニトマト、それにアスパラガスとはも皮。

玄関前の花がきれいに咲いているので、<ヴィジュアルインテリジェンス>で情報収集、Google検索も cahtGPT もとても親切、ちとお節介が過ぎるが。

ランチ、三男にはサッポロ一番塩ラーメン、我々はキャベツ焼き。
12時40分、彼女を職場まで送る。
ドジャース、今日は延長で負けたとのこと、それでも大谷君は10号ホームラン。
軽く午睡。
部屋の片付け、結局連休中には何も進まなかった。もう少し、頑張らなければ。
夕飯用に解凍していた手羽中がまだ固いまま、慌ててリビングのテーブル上に拡げる。

夕飯は、手羽中の唐揚げ・小松菜と揚げの炊いたん・ヒジキの炊いたん・レタスとトマト+缶ビール。
録画番組視聴、BSフジの落語番組。

二晩連続で放送されたもの、私のミスで昨晩先に後篇を見てしまったので、今夜は前篇。わん丈・兼好・二葉・喬太郎。
睡魔に抗しきれず、喬太郎が終わるとすぐに布団の中へ。

エクササイズが届いていなかった、残念。
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2025年5月1日(木)

今日から5月、朝起きて一番にリビングのカレンダーをめくり、iPhoneの壁紙を変更する。もちろん、どちらも<SOU・SOU>のものだ。退職して一ヶ月、<主夫>としての生活リズムは確立したが、何しろ未だに片付けが終わらず、<物書き>としての生活はスタート出来ずにいる。とりあえずゴールデンウィークは仕方ないとして、週明けからはもう一度リズムを建て直さなくては。

5時30分起床。
洗濯開始。

朝食を頂く。
洗濯物を干す。
珈琲を淹れる。
彼女の弁当を用意する。
プラゴミ、30L*1。
回覧板を回す。
彼女を職場まで終わる。
今日は5月1日、三井住友カードからau PAYに5万円チャージ、100万円修行の一環である。

ライフ西七条店で買物、彼女からの指定品目はレタス・トマト・鶏ムネ肉、忘れ物は無いはず、多分。
3月にまとめて入手したクレジットカードあれこれ、先月までに大分解約したが、残っているもののうち<P-one Wiz>を解約、Webでは出来ないので電話で申し込む。
どん兵衛で早めのランチ、今日も喜楽館へむかう。

神戸新開地・喜楽館、今週は露の新治主任ウィーク、火曜日は師匠が休演故私も休んだが今日で三日目、開演前に師匠とあれこれ話す。
何しろ、オオタスセリさんのファンになってしまった、芯の通った凄い人だ。トリのネタは<面割狂言>、講釈ネタだが一度も聴いたことがなかったので嬉しい。
終演後、電車に飛び乗り、車内で<Instagram>に速報記事を書く。
桂駅から33系統に乗って帰宅、彼女も程なく帰ってきた。

豚ロースのスパイス焼き・コンニャクさっと煮・骨付きハムの山葵醤油和え・レタスとトマト。

録画番組視聴、落語研究会の続きから、馬石・柳橋。
久しぶりに散髪をしてもらう。
湯上がりの体重は150g増。
パジャマに着替え、スコッチ舐めながら日誌書く。
ご飯2合セットする。

明日は喜楽館千穐楽、彼女も一緒だ。
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