#今年の冬は私もカーディガンを一枚編みたいな
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20220323 今日の編み物部🧶 またまたYサンとHサンの新作にうっとり。 綺麗なブルーで模様編みの入った モヘアのカーディガンも、 ガーター編みのみのシンプルなコットンのカーディガンも どちらも三寒四温のこの時期にぴったり。 いつもありがとうございます! #hibi #news #knim #knitting #手編み #編み物部 #wool #ウールモヘア #横田 #三國万里子 #刺激を受ける編み物部🧶 #今年の冬は私もカーディガンを一枚編みたいな https://www.instagram.com/p/CbbnXYaOWi5/?utm_medium=tumblr
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・ SARAXJIJI 2021 autumn and winter collection 9.17 Friday - 27 Monday Open 12:00 - 19:00 今年の秋冬コレクションも明日9/27までとなりました。じわじわとファンが増えてきてうれしい、数シーズン前からある私も大好きな生地「引き揃え天竺」 まるでニットのようなきれいな網目は、太めの綿糸を引き揃えて緩めに編んでいて、着心地は肌滑りが滑らか。コットンなので軽さと程よい厚みで暖かく、春先や秋、冬場は重ね着しながら長くお使いいただいています。 少しクラシカルな印象のショート丈のカーディガンは、ワンピースに羽織ったり、パンツスタイルにもぴったり。色は優しいアイボリーと、少しカーキがかったダークブラックの2色です。 メンズサイズもあるサイドポケットのあるジャケットは、襟は倒したり立てて付属のピンで止めたりとアレンジしながら楽しめる一枚。 トレーナーのようなプルオーバーもちくちくしない肌触りで男性にもおすすめです。 #saraxjiji #サラジジ #カットソー #熊本 #リスト #出島 #長崎 #長崎出島 #カーディガン (List:) https://www.instagram.com/p/CURPVPdllxK/?utm_medium=tumblr
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【小説】The day I say good-bye (2/4) 【再録】
(1/4) はこちらから→(https://kurihara-yumeko.tumblr.com/post/646094198472409089/)
昼休みの時間は、嫌いだ。
窓の外を見てみると、名前も知らない生徒たちが炎天下の日射しの中、グラウンドでサッカーなどに興じている。その賑やかな声が教室まで聞こえてきていた。
いつの間にか、僕は人の輪から逸脱してしまった。
あーちゃんが死んでからか、それ以前からそうだったのかはもうよく覚えていない。もう少し幼かった頃、小学生だった頃は、クラスメイトたちとドッヂボールをしたり、放課後に誰かの家に集まって漫画を読んだりゲームをしたりしていた。そうしなくなったのは、いつからだったのだろう。
教室にいると周囲のクラスメイトたちがうるさい。グラウンドに出てもすることがない。図書室へ行くと根暗ガリ勉ばかりがいるから気が引ける。今日は日褄先生が学校に来ている日だから相談室へ顔を出してみるのもいいけれど、どうせどこかのクラスの女子たちが雑談しに来ているのだろうから、却下。
どうしてあっちにもこっちにも人がいるんだろう。学校の中だから、当たり前なんだけど。
「――先輩、」
居場所がないので廊下をふらふらと歩いて校舎内を徘徊していたら、声をかけられた。名前を呼ばれたような気がしたけれど、よく聞き取れない。僕のことかな、と思って振り向くと、顔も名前も知らない女子がそこに立っていた。僕を「先輩」と呼んだということは、一年生だろうか。
「あの、私、一年三組の佐渡梓っていいます」
サワタリがハワタリに聞こえて、「刃渡り何センチなの?」なんて一瞬訊きそうになる。ぼーっとしていた証拠だ。
三つ編みの髪に、ピンク色のヘアピンがひとつ留まっている。女子の髪留めは黒か茶色じゃなきゃ駄目だと校則で決められていなかったか。自分に関係のない女子の服装や髪型に関する規則なんて、おぼろげにしか覚えていないけれど。
「あの、これ、読んで頂けませんか」
差し出されたのは、ピンク色の小さな封筒だった。
「今?」
「いえ、その、今じゃなくて、お時間がある時に……」
「そう」
���から考えれば、それは受け取るべきじゃなかった。断るべきだった。なのに受け取ってしまったのは、やっぱり僕がそれだけぼんやりしていたってことなのだろう。
僕が受け取ると、彼女は顔を真っ赤にして��こぺこ頭を下げて、廊下を小走りに走り去って行った。一体、なんだったのだろう。受け取った封筒を改めてよく見てみると、
「あ、」
丸みを帯びた文字で書かれた僕の名前の漢字が間違っている。少し変わった名前なので、珍しいことではない。
差出人の欄に書かれた「佐渡梓」の文字を見ながら、一年三組の者だと彼女が言っていたことを思い出す。部活にも委員会にも所属していない僕に、後輩の知り合いはいない。小学校が同じだった後輩に何人か顔と名前をぼんやり記憶している人はいるけれど、それさえも曖昧だ。一体彼女はどういう経緯で僕のことを知り、この手紙を渡してきたんだろう。
こういう手紙を女子からもらうことは、初めてではなかった。手紙を渡された理由は悪戯だったり本気だったり諸々あったけれど、もらった手紙の内容はどれも似たり寄ったりで、目を通したところでこれといって面白いことは書いてない。
何かの機会に僕のことを知り、「一目惚れ」というやつを体験し、そうして会話をしたこともない僕となんとか近付きたくてこの手紙を書く。
よくわからない。こんなものは、よくわからない。誰かを好きだという、そんなものは、僕にはよくわからない。
受け取るのを断れば良かったな。僕はそう思った。この手紙が読まれないと知ったら、彼女は悲しいだろうか。
僕はひとりで廊下を歩き続け、階段を降り、誰もいない西日の射し込む昇降口のゴミ箱に封も切らずに手紙を捨てた。宛名や差出人を誰かに見られては困るので、ゴミ箱の奥の方へと押し込んだ。
昼休みももうすぐ終わる。掃除の時間になれば、誰かがこのゴミ箱の中身を袋にまとめてゴミ捨て場まで運んでくれるんだろう。誰の目に触れることもなく、誰にも秘めた想いを届けることができないまま、ただのゴミになる。
それでいい。こんなものは、ゴミだ。
読まなくてもわかる。僕は誰かが期待するような人間じゃない。きみが思うような僕じゃない。
保健室に行こうかな。僕はそんなことを考える。
保健室登校児の河野ミナモは、今日もひとりでベッドの上、スケッチブックに絵を描いているだろう。僕が顔を出したら、「また邪魔者が来た」という表情をするに違いない。でもそれでもいい。保健室へ行こう。他にもう行く場所もないし、あと少しの時間潰しだ。
それに、僕なんて、どうせこの世界には邪魔なんだから。
夏休みは特に何事もなく時間だけが過ぎ、気だるい二学期が始まった。
���業式の後、下校しようと下駄箱へ向かうと僕の靴の中に小さな紙切れが入れられており、それには佐渡梓からの呼び出しを示す内容が記されていた。
誰もいない体育館裏、日陰のひんやりとしたコンクリートの上に腰を降ろして待っていると、ホームルームが長引いたのだという彼女が慌てたようにやって来た。
「すみません、遅れてしまって……」
「いや」
「あの、夏休み前にお渡しした手紙、読んで下さいましたか?」
「いや」
「……え?」
恥ずかしそうな彼女の笑顔が凍りつく。
「読んで、ない?」
「読んでないよ」
「……あの、先輩、今、お付き合いされている方がいらっしゃるんですか?」
「いない」
「なら、好きな人がいらっしゃる?」
「いないよ」
「じゃ、じゃあ、どうして……」
どうして読んで下さらなかったのですか、とでも言いたかったのだろうか。半開きの彼女の口からはそれ以上何も聞こえてこなかった。
ということはやはり、あの手紙は「そういう」内容だったんだろう。実は手紙を捨てた後、全く見当違いの内容の手紙だったらどうしようと、捨てたことを少しだけ後悔していたのだ。
「悪いけど、好きだとかそういうの、下らないからやめてくれる?」
僕がそう言うと、彼女はきょとんとした顔をした。
きょとんとした顔。表情から恥ずかしそうな笑顔が完全に消える。全部消える。消失する。消滅する。警告。点滅する。僕の頭の中の危険信号が瞬いている。駄目だ。僕は彼女を傷つける。でも止められない。湧き起こる破壊衝動にも似たこの感情は。真っ黒なこの感情は。僕にも止めることができない。
「興味ないんだ、恋愛に」
僕はこういう人間なんだ。
「あときみにも興味がない。この先一生、きみを好きになることなんてないし、友達になる気もない」
僕はきみが好きになるような人間じゃないんだ。
「僕に一体どんな幻想を抱いているのか知らないけど、」
僕は他人が好いてくれるような人間じゃないんだ。
「僕のこと好きだとか、そういうの、耳障りなんだよ。何を勝手なことを言ってるのって感じがして」
僕は。
僕は僕は僕は僕は僕は。
僕は透明人間なんです。
「僕のことだって、何も、」
知らないくせに。
「やめて……」
消え入りそうな小さい声に、僕は我に返った。
「もう、やめて下さい……」
彼女は泣いていた。そりゃそうだ。泣くだろう。一瞬でも、たとえ嘘でも、好きになった相手に、面と向かってこんな風に言われたのだから。
「すみませんでした……」
涙を零したまま深く頭を下げて、彼女は体育館裏から走り去っていった。僕はただその背中を見送る。それから不意に、全身の力が抜けた。
コンクリートの上に背中から倒れ込む。軽く後頭部を打ち付けたが気にしない。
どうしてだろう。どうして僕は……。こんなにも、どうして。どうして。どうして、どうして、どうして、どうして、どうして。
「は、はは……」
自分でも驚くくらい乾いた笑い声が口から漏れた。
どうして、僕は嘘をつかないと、こんなにもひどいことを言ってしまうんだろう。
嫌になる。まるで嘘をつかないと僕が嘘みたいだ。本当の気持ちの方が嘘みたいだ。作り物みたいだ。偽物みたいだ。僕なんかいない方がいい、嘘をつかない僕なんて、死んだ方がいいんだ。
自己嫌悪の沼に落ちかけた時、よく知っている、ココナッツの甘いにおいが漂ってきて、僕は思わず目を見張った。
「よぉ、少年」
こちらを見下ろすように、いつもの黒い煙草を咥えた日褄先生が立っていた。
「……見てたんですか、さっきの」
「隠れて煙草吸おうと思ってたら誰かが来るもんだから、慌てて隠れたのよ。そしたらなんだか見覚えのある少年で」
「学校の敷地内は禁煙ですよ」
「ここの空気は涼しくて美味しいよ」
「先生が咥えてるそれから出ているのはニコチンです」
「せんせーって呼ぶなって何度言わせる気だよ」
先生は僕の隣に腰を降ろした。今日も彼女は黒尽くめだ。
「ちょうど良かった、少年に渡そうと思ってさ」
差し出されたのは、見覚えのあるピンク色の封筒。僕は反射的に起き上がった。
「なんで、それを――」
咄嗟に伸ばした僕の手をひらりとかわして、先生は封筒をひらひらと振る。
「宛名と差出人が一目瞭然なもの、ゴミ箱に捨てるなよなー」
「ゴミ箱に捨てたものを拾ってこないで下さい。ゴミを漁るなんて、いい大人のすることじゃないでしょう」
「もらったラブレターを読まずに捨てるなんて、いい男がすることじゃないよ」
頭を抱えた。信じられない。一ヶ月以上前に捨てたものが、どうして平然と僕の目の前にあるんだ。
「拾ってほしくなかったら、学校内で捨てることは諦めるんだな」
再度差し出されたそれを、今度は受け取る。僕の名前が間違って書かれた宛名。間違いない、あの時彼女が僕に手渡し、読まずに捨てたあの手紙だ。僕が深い溜め息をつくと、先生は煙を吐き出してから言う。
「他人からの好意を、そんな斜に構えることはないだろう。礼のひとつくらい言っておけば、相手も報われるもんだよ」
「……僕にそんなこと期待されても困るんですよ」
「今からでも、読んでやれば?」
先生はそんなことを言って、その後煙草を二本も吸った。
夏が終わると、なんだか安心してしまう。
夏は儚い。そして、醜い。道路に転がる蝉の抜け殻を見る度にそう思う。
その死骸も、ほんの数日経たないうちに、もっと小さい生き物たちの餌食となる。死骸を食べるなんて、と思いかけて、僕が今朝食べたものも皆死骸なんだと気付く。死を食べて僕は生きている。
もしかしたらあーちゃんも、もう何かに食べられてしまったのかもしれない。
あーちゃんの死が、誰かを生かしているのかもしれない。
「……これはなんの絵?」
「エレファントノーズ」
「えれふぁんと? 象のこと?」
僕がそう訊き返すと、河野ミナモは面倒臭そうに言った。
「魚の名前」
「へぇ……。知らなかった」
不細工な顔をした魚だな、と思い、「国語の定男先生に似ているね」と言おうとして、ミナモが一度も教室で彼を見たことがないということを思い出した。言葉を飲み込む。
「この、鼻っぽいのは鼻なの?」
「魚に鼻なんてある訳ないじゃん」
「じゃあ、これ何?」
「知らない」
ミナモはいつも通りぶっきらぼうで無愛想だ。
ベッドの脇の机に広げた真っ白なままの画用紙に目を向けることもなく、自分のスケッチブックに不気味な姿をした生き物の姿を描き続けている。
「河野、説明したと思うけど、」
机を挟んだ向かいに座って僕は言う。
「悪いんだけど、夏休みの課題を手伝ってくれないかな」
「いいけど、絵画の課題だけね」
「下書きからやってもらってもいいかな」
「その方が私も楽。誰かさんの描いた汚い絵に色塗るなんて、苦痛」
そう言いながらも彼女は定男先生によく似た魚の絵を描くその手を休めない。と、彼女の三白眼が僕の方を見た。
「で? なんの絵?」
「テーマは、夏休みの思い出」
「どんな思い出?」
「特にない」
前髪の下に隠されたミナモの双眸が鋭く尖ったような気がした。
「なんの絵を描けっていう訳?」
「なんでもいいよ、適当に、僕の過去を捏造して下さい」
「…………」
ミナモはしばらく黙って僕を睨んでいたけれど、僕が前言を撤回しないでいるとやがてスケッチブックを傍らに置き、小さな溜め息をひとつついて白い画用紙と向き合い始めた。
僕はミナモと違って、絵を描くのが苦手だ。夏休み中にやってくるように、と出された絵画の課題は、後回しにしているうちに二学期が始まってしまった。それでもまだやる気が目を覚ますことはなく、にも関わらず教師には早く提出するようにと迫られてたまったものではないので、仕方なくミナモに助けを請うことにした。彼女が快く引き受けてくれたのが嘘みたいだ。
ミナモが画用紙に何やら線を引き始めたので、僕はすることがなくなった。いつもはなんてことのない雑談をするけれど、話しかけることもできない。自分から課題を手伝ってくれと頼んだので、邪魔をする訳にもいかないからだ。
夏休みを明けてもミナモは相変わらずで、日に焼けていなければ髪も伸びていない。痩せた身体と土気色の顔は、食事をろくに摂っていないことが窺える。まだ暑い時期だというのに、夏服の制服の上には灰色のカーディガンを羽織っていた。彼女が人前で素肌を晒すことはほとんどない。長く伸ばされた前髪も、最初は目元を隠すためかと思っていたが、どうやら真相は違うようだ。
「ラブレター」
僕が黙っていると、唐突にミナモはそう言った。
「ラブレター、もらったんでしょ」
「え?」
「後輩の女の子に、ラブレターもらったんでしょ」
「……なんで、知ってるの?」
「日褄先生が言ってた」
あのモク中め、守秘義務という言葉も知らないのか。
「――くんはさ、」
画用紙に目線を落としたまま、こちらを見向きもしないミナモが呼んだ僕の名前は、どういう訳か聞き取れない。
「他人を好きにならないの?」
「好きにならない、訳じゃないけど……」
「そう」
今までは慎重に線を引いていたミナモの鉛筆が、勢いよく紙の上で滑り始める。本���的に下書きに入ってくれたようで僕は安堵する。
「河野はどうなの」
ラブレターのことを知られていた仕返しに、僕は彼女にそう尋ねてみた。
「私? 私は人を好きにはならないよ」
ミナモは迷うことなくそう答えた。
「人間は皆、大嫌い。皆、死んじゃえばいいんだよ」
ぺきん、と軽い音がした。
鉛筆の芯が折れたようだ。ミナモはベッドの枕元を振り返り、筆箱の中から次の鉛筆を取り出した。
「皆、死んじゃえばいい」、か……。彼女は以前も、同じようなことを言っていたような気がする。僕とミナモが初めて出会った、あの生温い雨の日にも。
それにしても、日褄先生も困ったものだ。僕が読まずに捨てたラブレターを拾ってくるだけではなく、ミナモに余計なことまで教えやがって。今度、学校の敷地内で喫煙していることを教師たちにばらしてしまおうか。
「あ、」
新しい鉛筆を手に、ミナモが机に向き直った時、その反動でベッドの上にあったスケッチブックが床へと落ちた。中に挟まっていたらしい紙切れや破られたスケッチがばらばらと床に散らばる。
「いいよ、僕が拾うから」
屈んで拾おうかと腰を浮かしかけたミナモにそう言って、僕は椅子から立ち上がってそれらを拾い始めた。
紙には絵がいくつも描かれていた。春の桜、夏の向日葵、秋の紅葉、冬の雪景色。鳥、魚、空、海。丁寧に描き込まれた風景の数々は、恐らく、全てミナモが描いたものだろう。保健室で一日じゅう白い紙と向き合って、彼女はこんな風景を描いていたのか。彼女がいるベッドからは決して見ることができない世界。不思議なことに、どの絵の中にも人間の姿は描かれていない。
ふと、僕は一枚の絵に目を止めた。紙いっぱいに広がる、灰色の世界。この風景は、見たことがある。他の絵とは異なり、これは想像して描いたものではないことがわかる。
ぱっと横から手が出てきて、僕の手からその絵を奪い去った。見れば、ミナモが慌てた様子でその絵を僕に見せまいと胸に抱いていた。
「これは、ただの落書き」
他の絵とたいして変わらない筆致で描かれたその絵も、やはり丁寧に描き込まれているように見えたけれど。僕はそれには何も言わず、全て拾い集めてからミナモに絵の束を渡した。彼女はそれを半ばひったくるように受け取ると、礼を言うこともなくスケッチブックに挟めて仕舞う。
僕はあの絵を知っている。あの風景を知っている。日褄先生も、あーちゃんも、あの景色を見たことがあるはずだ。
あーちゃんが飛び降りた、うちの中学の屋上から見た風景。
僕とミナモが出会った屋上から見える景色。
灰色に塗り潰されたその絵は、あの日の空と同じ色だった。
河野ミナモは、小学校を卒業する頃、親の虐待から逃れるためにこの街へ引っ越してきた。
今は親戚の元で暮らしながら学校に通っている。彼女にとっては、たとえ教室まで行くことができなくとも、毎日保健室に来ていること自体が大変なことのはずだ。
「――くんは、」
放課後の保健室。
ミナモが描き始めた僕の絵画の課題は、まだ下絵も終わりそうにない。
彼女は僕��言う。
「やっぱり、市野谷さんのことが好きなの?」
「……え?」
本気でミナモに訊き返してしまった。彼女は何も言わず、画用紙に向かっている。
市野谷さん?
市野谷さんって、ひーちゃん?
僕が、ひーちゃんのことを好き?
「……なんで、そう思うの」
「――くんは、市野谷さんのために生きてるんだと思ってたから」
僕の分まで生きて。僕は透明人間なんです。
あーちゃんの遺書の言葉が、脳裏をよぎる。
なんのために生きているのか。自問の繰り返し。答えは見つからないから、自問、自問、自問。この世界で、あーちゃんが死んでひーちゃんが壊れたこの世界で、どうして僕は生きているんだろう。
嘘ばかりついて。嘘に染まって。嘘に汚れて。そのうち自分の存在までもが、嘘のような気がしてしまう。僕なんか嘘だ。
ひーちゃんを助けるつもりの嘘で、余計に苦しめて。
それでも僕が、ひーちゃんのために生きている?
ひーちゃんのため? 「ため」って、なんだよ。
僕がひーちゃんに何をしてあげられたって言うんだ。
僕がひーちゃんに何をしてあげられるって言うんだ。
嘘をつくしかできなかった僕が、どうしたらひーちゃんを救えるって言うんだ。
僕じゃない。僕じゃ駄目だ。必要なのは僕じゃない。それはいつだって、あーちゃんだった。ひーちゃんの全部はあーちゃんが持っている。僕じゃないんだ。
あーちゃんは、透明人間なんかじゃない。本当に透明人間なのは、ひーちゃんにとって必要じゃないのは、僕の方だ。
僕は。
僕は僕は僕は僕は僕は。
僕は必要になんかされていない。
「河野、」
「なに」
「あの時、僕は、」
「うん」
「河野にいてほしくなかったよ」
「そう」
「河野に、屋上に来てほしくなかった」
「でしょうね」
ああ、また僕は、上手に嘘がつけない。
そんな僕をまるで見透かしているかのように、ミナモは言う。
「だってあなたは、死のうとしていたんだものね」
死にたがり屋と死に損ない。
去年の春、あの雨の日。
ミナモが描いていたのとそっくり同じ、灰色の景色。
いつもの自傷癖で左手首に深い傷を作ったミナモが保健室を抜け出し辿り着いた屋上で出会ったのは、誰かと同じようにそこから飛び降りようとしていたひとりの男子生徒。
それが、僕。
雨が髪を濡らし、頬を伝い、襟から染み込んでいった。僕らをかばってくれるものなんてなかった。
僕らはただ黙ってお互いと向かい合っていた。お互い何をしようとしているのか、目を見ただけでわかった。
「死ぬの?」
先に口を開いたのは、ミナモだった。長い前髪も雨に濡れて顔に貼り付いていて、その隙間から三白眼が僕を睨んでいた。
「落ちたら、死ぬよ」
言葉ではそう言いながらも、どこか投げやりなその口調を今も覚えている。僕の生死なんて微塵も気にかけていない声音だった。
「きみこそ、それ、痛くないの」
彼女の手首を一瞥してからそう返した僕の声は震えていた。ミナモが呆れたように言った。
「あなただって、その手首の傷、痛くないの?」
そう、僕もその時、ちょうどミナモと同じところから血を流していたのだ。
「それよりも、そこから落ちた方が痛いと思うけど」
彼女にそう言われて、そうか、と僕は思う。きっとあーちゃんも痛かっただろうと思いを巡らせる。
「それは、止めてるの?」
「止める? どうして? あなたが死んで私に何かあるの?」
ミナモはその日も無愛想だった。
「死んだ方がいい人間だって、いるもの」
交わした言葉はそれだけだった。それきり、���ナモは僕に何も言わなかった。ただそこに立っていただけだ。彼女にしてみれば、僕がそこから飛び降りようが降りまいが、どうでも良かったに違いない。実際彼女は、僕には心底興味もなさそうに屋上から見える景色に目を凝らしていた。
飛ぼうと思えばいつだって飛べたはずなのに、その日、僕は自殺することを諦めた。
そしてそれ以来、屋上のフェンスの外側へは一度も立っていない。
ミナモのスケッチブックに挟まっていたあの絵は、あの日彼女が見た風景だった。そうして、今、ミナモが画用紙に描いているのも、やっぱり――。
「なに泣いてるの。馬鹿みたい」
涙でぐちゃぐちゃに歪んだ視界の中、���い画用紙に描かれていたのは、やはりあの屋上の風景だった。空を横切る線は、飛行機雲だろうか。
僕はあーちゃんと飛ばした紙飛行機のことを思い出して、込み上げてきた涙を堪え切れずに零してしまう。
ミナモは心底呆れたように、「泣き虫」と僕を罵った。
「えーっと……」
僕が提出した画用紙を前に、担任は不思議そうな顔をしていた。
「これは、なんの絵なんだ?」
ミナモが描いてくれた僕の夏休みの課題の絵は、提出期限を二週間も過ぎてから完成した。ミナモが下書きしてくれた時点では素晴らしい絵画だったのだけれど、僕が絵具で着色したら、これが新しい芸術なのだと言わんばかりの常識はずれな絵になってしまった。もはや、ミナモの下書きの影もない。
「まぁいいか。二学期は美術の授業を頑張った方が良さそうだな」
担任はそう言い残して職員室へと去って行く。
これで、僕の夏休みの課題は全て提出されたことになる。少なからずほっとした。
夏休みが明けても、教室の中は相変わらずだ。ミナモも、ひーちゃんも、教室に来ていない。二人の席は今日も空席で、いつものように違う誰かが周辺の席の生徒とお喋りする時の雑談場所にされている。そんなクラスメイトたちを見やり、やっぱり僕は、あいつらと友達になれそうにない、と思う。
僕は教室を出て、体育館の裏へと向かった。
今朝、僕の下駄箱に紙が入れてあった。
「今日の昼休み、体育館裏に来てくれませんか」という文字が記してある。差出人の名前はない。書き忘れたのだろうか、それとも伏せたのだろうか。しかし、名前がなくても字でわかる。見たことのある字だ。
そう、僕は読んだのだ。一度は捨てたあの手紙を。どうってことのない内容だった。手紙を書いて、それでも僕にまだ、話したいことがあるんだろうか。
ざくざくと砂利を踏みながら向かうと、既に彼女は僕を待っていた。やっぱり佐渡梓だった。こんなところに僕を呼び出す人なんて、学校じゅうで彼女しかいない。
「……どうも」
なんて声をかけるか悩んで、僕は結局そう言った。「こんにちは」とどこか強張った表情で彼女が返事をする。
「何か僕に用事?」
「あの……」
彼女は今日もピンク色のピンを髪に挿している。
「先輩は、保健室の河野先輩とお付き合いされているのですか?」
「……は?」
「あ、いえ、その……一緒にいらっしゃるところをよく見かけると、友人が言っていたので、気になってしまって……」
僕の表情を見て、彼女は慌てたように両手を顔の前で振った。
僕がミナモと付き合っている、だって?
僕が? ミナモと?
――やっぱり、市野谷さんのことが好きなの?
当のミナモには最近、そう尋ねられたばかりだというのに。全く、笑ってしまいそうになる。それにしても、「保健室の河野先輩」なんて、ひどい呼び方だ。
「付き合って、ないけど」
意地悪するつもりはなかった。不必要に人を傷つける趣味がある訳じゃない。でもその時、僕が尖った言い方をしようと決めたのは、そう言った時に彼女がどこか嬉しそうな顔をしたからだった。
「付き合ってなかったら、なんなの」
そう口にした途端、彼女の表情が暗くなる。それでも僕はやめなかった。
「先に言っておく。きみとは付き合わないから。それと、こういうことでいちいち呼び出されるのは迷惑。やめてくれないかな」
傷ついた顔。責めたいなら、責めればいいだろ。罵ればいいだろ。嫌いになればいいだろ。けれど彼女は、何も言わなかった。泣きはしなかったものの、「すみませんでした」と頭を下げ、うつむいたまま足早に去っていった。
本当に、これだけのことのために、僕を呼び出したのだろうか。
彼女は一体、なんなのだろう。僕のことが好きなのだろうか。好きだなんて、笑わせる。僕の何がわかるっていうんだ。僕の何を見て好きだっていうんだ。何も知らないくせに。僕がどんな人間なのかも知らないくせに。僕が今、一体どんな気持ちできみと向き合っているのか、そんなことさえ、わからないくせに。
「あーあ、かわいそー」
ぎょっとした。
頭上、ずいぶん高いところから声が降ってきた。
思わず見上げると、体育館の二階の窓からひとり、こちらへ顔を出している男子がいる。見覚えのない顔だった。僕はクラスメイトの顔さえ覚えていないけれど、そいつの顔は本当に見た記憶がない。視線を絡ませたまま、どうしようかと思っていると、そいつがにやりと笑った。
「ひでぇ振り方」
ピンで留められた茶色っぽい前髪、だらしなく第二ボタンまで開けられたワイシャツ。そいつは見た目同様に、軽そうな笑い声をけらけらと上げている。
「あんな言い方はねぇんじゃねーの、あれじゃ立ち直れないじゃん」
彼女を気遣うような言葉だったが、その声音に同情の色は全く滲んでいなかった。口にしてはいるものの、興味も関心もなさそうだ。
「……盗み見なんて、趣味が悪いんじゃない?」
僕が二階からこちらを見ているそいつの耳にも聞こえるように、少し声を張り上げてそう言うと、そいつはぱっちりとした目をさらにまん丸くして僕を見た。
「あー、わりぃ。ここで涼んでたら、お前らが来たもんだから」
悪気があるようには見えない言い訳をされた。なんだこいつ。
僕が立ち去ろうと歩き出すと、そいつはまた声をかけてきた。
「なーなー、あんた、――くんだろ?」
僕の名前を呼んだような気がしたが、遠いからか聞き取れない。
「ちょっとそこで待っててよ、今そっち行くからさ。うちの、ミナモの話もしたいし」
「…………え?」
今、一体何を。
再び顔を上げると、そいつはもう体育館の中へと頭を引っ込めていて、もう見えなかった。
うちの、ミナモ?
ミナモって、あの、河野ミナモ?
あいつ、もしかして……。
「河野の、身内なのか……?」
体育館裏の砂利の上、僕は立ち尽くしていた。
ついさっき、二階の窓から顔を覗かせていた男子は「うちの、ミナモ」と確かに言った。あいつは河野ミナモと何か関係があるんだろう。
やつは僕の名前を知っていた。だが僕はやつの名前を知らない。知らないはずだ。記憶を探る。あんなやつ、うちのクラスにはいなかった。廊下や校庭ですれ違っていたとしても、口を利いたのは初めてのはずだ。
「おー、わりーな、呼び止めて」
やつは体育館の正面玄関から出てきたのか、体育館用のシューズのまま砂利の上を小走りで駆けてきた。
何か運動でもしていたのだろうか、制服の白いシャツはボタンが留められておらず、裾はズボンから飛び出している。白と黒の派手なTシャツが覗いていた。昼休みに運動部が練習をする場合は体操着に着替えることが決められているから、恐らく運動部ではないか、もしくは部活中という訳ではなかったようだ。腰までずり下げられたズボンは、鋲の付いた派手な赤色のベルトでかろうじて身体に巻きつけられている。生徒指導部に見つかったら厳重注意にされそうな恰好だ。僕はこういう人間が、正直あまり好きではない。
「あんた、二組の――くんだろ?」
「そうだけど……」
「俺は二年四組の河野帆高。よろしくな、――くん」
二年四組。やはり、こいつは僕のクラスメイトではなかった。同じ学年だが、その名前も知らない。いや、知らないけれど、どこかで聞いたことがあるような気もする。一体いつ耳にした名前なのかはすぐには思い出せそうにない。
それよりも、河野。ミナモと同じ姓だ。
「河野ミナモと、親戚?」
「そ。ミナモは俺のはとこ。今は一緒に俺の家で暮らしてる」
やつはあっさりとそう明かす。
ミナモのはとこ。
彼女が今、親戚の家で暮らしていることは知っていた。だがミナモの口から、身を寄せた親戚宅で一緒に暮らしているはとこが同じ学年にいることは聞いたことがなかった。
「……本当なんだよな?」
僕がそう疑うと、やつは笑みを浮かべた。それは苦い笑みだった。
「やっぱり、話してないんだな。俺たち家族のことは」
「……河野はあまり、自分のことは話さないよ」
保健室のベッドで一日じゅう、絵を描いて過ごしているミナモ。こちらがいくら声をかけても、返す言葉はいつも少ない。僕は何度も保健室を訪れ、言葉を交わしているからまだ会話をしてもらえるというだけだ。彼女に口を利いてもらえる人は、学校の中でも少数だろう。
そうだ、日褄先生。彼女も先生とは、多少言葉を交わしていたような気がする。
「――くんにすら話してないってことは、他の誰にも話してないんだろうな。そりゃ、俺との関係が知られてなくて当然か」
「……僕以外の人には話しているかもしれないけどね」
僕はミナモの人間関係まで把握はしていない。僕が知らないところで誰か親しくしている人がいたっておかしくはないはずだ。だけどやつは首を横に振った。
「そんなことはないと思うな。あんたが一番、ミナモと仲良さそうだもん」
――先輩は、保健室の河野先輩とお付き合いされているのですか?
佐渡梓の言葉が耳の中で蘇る。そう疑われるほど、僕とミナモは親しげに見えるのだろうか。
僕が黙っていると、やつは続けて言う。
「あいつ全然喋らないんだよ。俺が話しかけても無視されるばっかりでさ。もう一年も一緒に暮らしてるのに、一言も口利いたことないよ、俺」
ミナモは家でも口を利かないのだろうか。
彼女の口数が少なく無愛想なのは、決して彼女が性悪だからではない。ミナモは人と関わるのが怖いのだ。対��恐怖症、とまではいかないが、なかなか他人と打ち解けることができない。なんだかんだ一年の付き合いになる僕とでさえ、彼女は目を合わせて会話することを嫌っている。
「なぁ、俺と友達になってよ」
「……は?」
唐突な言葉に、思わずそう訊き返してしまった。さっきまで苦笑いしていたはずのやつは、いつの間にかにやにやとした顔で僕を見ていた。
「ミナモと話せるあんたに興味があってさ」
「……僕はあんたに、興味ないけど」
「ははは、さっきもあんたが女の子振るとこ見てたけど、やっぱり手厳しいねー」
軽薄な笑い声。こいつの笑い方はあんまり好きになれそうにない。
「まぁそう言わずにさー、俺と仲良くしてくんねーかなー? どうやったらミナモと打ち解けられるのかとか、知りたいし」
なんだか厄介なやつに捕まってしまったかもしれない。いつもならこんな軽そうなやつは適当にあしらっているのだけれど、今回ばかりはそうもいかない。ミナモが関係しているとなると、僕もそう簡単に無下に扱うことはできないのだ。
「……まぁ、いいけど」
僕が渋々そう頷くと、やつはその顔ににっこりとした笑みを浮かべる。裏があるのではないか、と疑ってしまうような、あまりにも軽々と浮かべられた笑顔だった。
「あ、今、もしかしてミナモが関わってるから、仕方なくオッケーしてくれた感じ?」
にっこりした笑顔のまま、やつは鋭いことを言った。鈍いやつではないらしい。見た目は軽薄そうなやつだけれど、頭が悪い訳ではないようだ。
「言っておくけど俺、ミナモのこと抜きにしても、――くんに興味あるよ」
やつはさっきから何度も僕の名前を呼んでいるようだけれど、何故だか僕の耳にはそれが上手く聞き取れない。
「僕に、興味がある?」
「そ。あんたさ、知ってるんだろ? 一年前にこの学校で自殺したやつのこと」
どくん、と。
僕の胸の奥で嫌な予感がした。
一年前にこの学校で自殺したやつとは、あーちゃんのことだ。
今まで、あーちゃんの死のことをここまであからさまに誰かに言われたことはなかった。
僕らがこの中学に入学する一ヶ月前に亡くなったあーちゃんについて、学校側も僕らに対しては詳しい説明をしていない。
いや、たとえどこかであーちゃんの死についてきちんとした説明がされていたとしても、どうしてこいつは僕のことを知っている?��どうして僕とあーちゃんのことを知っているんだ?
やつは変わらず笑みを浮かべている。
体育館裏に吹く風は涼しい。まだ暑さの残るこの時期に、日陰で受ける風の心地よさはなおさらだ。だけれど僕はその風を浴び、思わず歯を食い縛った。
厄介なやつに関わってしまったと、確信しなくてはいけなかった。
図書館へ行って、去年の新聞が綴じられているファイルを手に取った。
空いていた席に腰掛け、テーブルの上に分厚いそのファイルを広げる。
あーちゃんの命日の新聞を探し、そこから注意深く記事に目をやりながら紙をめくっていく。
新聞なんて普段読まないから、どこをどう見ればいいのかわからない。見出しだけを拾うようにして読んでばさばさとめくる。どうせ、載っているとしたら地域のニュースの欄だ。そう当たりをつけて探す。
そして見つけた。
『またも自殺 十二歳女子 先日の自殺の影響か』
そんな見出しで始まるその記事は、あーちゃんの命日から八日経った新聞に載っていた。
その記事は、僕の通った小学校の隣の学区で、一週間前にその小学校を卒業した十二歳の女子児童が飛び降り自殺をした、という内容だった。生きていれば、僕と同じ中学に進学していたはずの児童だ。もしかしたら、同じクラスだったかもしれない。
女子児童は卒業後、教室に忘れ物をしているのを担任に発見され、春休み中に取りに来るように言われていた。その日はそれを取りに来たという名目で小学校を訪れ、屋上に忍び込み、学校裏の駐車場めがけて身を投げた。屋上の鍵は以前から壊れており、児童は立ち入り禁止とされていた。
彼女は飛び降りる前、自分が六年生の時の教室にも足を運んでいた。教卓の上には担任宛て、後ろのロッカーの上には両親宛て、そして机ひとつひとつにその席に座っていたクラスメイトひとりひとりに宛てた、遺書を残していた。
そうして、黒板には、
『私も透明人間です』
という文字が残されていた。
女子児童の担任がクラス内からいじめの報告を受けたことはなく、彼女は真面目で大人しい児童だった、と記事には書かれているが、そんなものはあてにならないので僕は信じない。僕だって、死んだら「真面目で大人しい生徒」と書かれるに決まっている。
記事はその後、女子児童が自殺する一週間前、近隣の中学校で男子生徒がひとり自殺していることを挙げ、つまりは、あーちゃんの自殺が影響しているのではないかとしていた。自分が春から在籍することになる中学校で起きた自殺の話だ、この女子児童だってあーちゃんの死を耳にしていたはずだ。
僕は透明人間なんです。
あーちゃんの言葉を思い出す。「私も透明人間です」と書き残した、女子児童のことを思う。「私も」ということは、やっぱりあーちゃんの言葉に呼応した行動なんだろう。
あーちゃんの自殺のニュースを聞いて、同じような言葉を残し、自殺した女の子。
もしかしたら、と僕は思う。
もしかしたら、ひーちゃんの記事が、ここに載っていたかもしれない。
いや、ひーちゃんだけじゃない。この新聞には、僕の記事が載るかもしれなかった。
僕が、死んだという記事が。
たまたま、この子だった。この女子児童の記事だった。死んだのはひーちゃんでも僕でもなく、この子だった。
そんなものだ。僕たちの存在なんて。たまたま、僕がここにいるだけなんだ。代わりなんて、いくらでもいる。
新聞のファイルを元通り棚に戻し、僕は図書館を出た。
出たところで、ぎょっとした。
図書館の前には、黒尽くめの大人が立っていた。黒尽くめの恰好をよくしているのは日褄先生だ。けれど、日褄先生ではない。その人は男性だった。
オールバックの長髪に、吊り上がった細い眉。鷲鼻、薄い唇、銀縁眼鏡。袖がまくられて剥き出しになった左腕には、葵の御紋の刺青。そうしてその左手には、薬指がない。途中からぽっきり折れてしまったかのように、欠けている。
そんな彼と目が合った。切れ長の双眸に見つめられても、咄嗟に名前が出て来ない。この男性を僕は知っている。日褄先生とよく一緒にいる、名前は確か……。
「葵、さん?」
日褄先生が彼を呼んでいた名前を思い出してそう呼ぶと、彼は目を丸くした。どうやら、僕は彼のことを認識しているが、彼は僕のことがわからないらしい。「どうしてこの子供は俺の名前を知っているんだろうか」と言��たげな表情を、ほんの一瞬した。
「えっと、僕は、日褄先生にお世話になっている……」
「あれ? 少年じゃん」
僕が自分の身分を説明しようとした時、後ろからそう声をかけられて振り向いたら、そこには日褄先生が数冊の本を抱えて立っていた。やはり今日も、黒尽くめだ。
「図書館で会うの初めてじゃん。何してるの? 勉強?」
「いえ、ちょっと調べたいことがあって……」
僕の脳裏を過る、新聞記事の見出し。
日褄先生は、知っているんだろうか。
あーちゃんの死を受けて、同じように自殺した女の子がいたことを。
尋ねてみようと思ったが、やめた。どうしてやめたのかは、自分でもわからない。
「へー、調べものか。お前アナログだなー、イマドキの中学生は皆ネットで調べるだろうにさ」
「先生は、本を借りたんですか」
「せんせーって呼ぶなってば。市野谷んち行ってきた帰りでさ、近くまで来たからこの図書館にも来てみたんだけど、結構蔵書が充実してんのね」
「ひーちゃんの家に、行ってきたんですか」
「そ。まぁ、いつも通り、本人には会わせてもらえなかったけどね」
日褄先生は葵さんと僕とを見比べた。
「葵と何しゃべってたの?」
「いや、しゃべってたっていうか……」
たった今会ったばかりで、と言うと、日褄先生は抱えていた本を葵さんに押し付けながら、
「葵はあんま喋らないし、顔が怖いから、あたしの受け持ってる生徒にはよく怖がられるんだよねー。根はいいやつなんだけどさ」
嫌そうな顔で本を受け取っている葵さんは、さっきから一言も発していない。僕は彼の声を聞いたことがなかった。
薬指が一本欠けた、強面の彼が一体何者なのか、僕は知らない。けれど、ない薬指の隣、中指にある黒い指輪は、日褄先生が左手の中指にいつもしている指輪と同じデザインだ。
この二人は、強い絆で結ばれている関係なのだろう。
お互いを必要としている関係。
僕はほんの少し、先生が羨ましい。
「少年は、もう帰るの? 今日は葵の運転で来てるから、家まで送ってあげようか?」
僕はそれを丁重にお断りさせて頂いて、日褄先生と葵さんと別れた。
頭の中では声が幾重にもこだましていた。聞いたはずはないのに、それはあーちゃんの声だった。
「僕は透明人間なんです」
「私も透明人間です」
「あー、そうだよ、そいつそいつ」
河野帆高は軽い口調でそう肯定した。
「屋上から飛び降りて、教室にクラス全員分の遺書残したやつ。ありゃ、正直やり過ぎだと思ったねー」
初めて会ったのと同じ、昼休みの体育館裏。
やつは昼休みに友人とバスケットボールをするのが日課らしい。僕がやつの姿を探して体育館を訪れると、やつの方が僕に気付いて抜け出してきた。
――あんたさ、知ってるんだろ? 一年前にこの学校で自殺したやつのこと。
僕と初めて会った時、やつは僕にそう言った。
そして続けて言ったのだ。
「俺の友達も死んだんだよね。自殺でさ。あんたの友達の死に方を真似したんだよ」
だから僕は図書館で調べた。
あーちゃんの自殺の後に死んだ、女子児童のことを。
両親と担任、そしてクラスメイト全員に宛ててそれぞれ遺書を残し、卒業したばかりの小学校の屋上から飛び降りた彼女のことを。
「その子と、本当に仲良かったの?」
僕が思わずやつにそう尋ねたのは、彼女の死を語るその口調があ��りにも軽薄に聞こえたからだ。やつは少しばかり、難しそうな顔をした。
「仲良かったっていうか、一方的に俺が話しかけてただけなんだけど」
「一方的に、話しかけてた?」
「そいつ、その自殺したやつ、梅本っていうんだけどさ、なーんか暗いやつで。クラスでひとりだけ浮いてたんだよね」
クラスで浮いている女の子にしつこく話しかけるこいつの姿が、あっさりと思い浮かんだ。人を勝手に哀れんで、「友達になってやろう」と善人顔で手を差し伸べる。僕が嫌いなタイプの人間だ。
「まぁ俺も、クラスで浮いてた方なんだけどね」
やつは、ははは、と軽い笑い声を立ててそう言った。そうだろうな、と思ったので僕は返事をしなかった。
「梅本も最初は俺のことフルシカトだったけど、だんだん少しは喋ってくれるようになったり、俺といると笑うようになったりしてさ。表情も少しずつ明るくなってったんだよ。だから、良かったなぁって思ってたんだけど」
だが彼女は死んだ。
「私も透明人間です」と書き残して。
「梅本は俺のこと、ずっと嫌いだったみたいでさ。あいつが俺に宛てた遺書、たった一言だけ『あんたなんて大嫌い、死んじゃえ』って書いてあってさ」
あんたなんて大嫌い、死んじゃえ。
「それ見た時は、まじでどうしようかと思ったよ」
やつは笑う。軽々しく笑う。
「なんつーの? 心の中にぽっかり空洞ができちゃった感じ? しばらく飯も食えなかったし夜も眠れねーし、俺も死のうかなーとか思ったりした訳よ」
まるで他人事のように、やつは笑う。
「ちょうどミナモがうちに来た頃で、親はミナモの対応にあたふたしてたし、俺のことまで心配されたくないしさ。近所のデパートの屋上に行ってはぼーっと一日じゅう、空ばっかり眺めてた。梅本はどんな気持ちだったのかなーって。俺を恨んだまま死んだのかなーって。俺にはなんにもわかんねーなーって」
僕は透明人間なんです。
そう書き残して死んだあーちゃんは、一体どんな気持ちだったのだろう。
「中学入学してさ、俺もまぁそこそこ元気にはなったけど、なーんか変な感じなんだよなー。人がひとり死んだのにさ、なーんにも変わんねーのな。梅本なんてやつ、最初からいなかったんじゃねぇのくらいの感じでさ。特にあいつは友達が少なかったみたいだから、俺と同じ小学校からうちの中学きたやつらもたいして気にしてねーって感じだったし。『あいつって自殺とかしそうな感じだったよな』とか言ってさー」
私も透明人間です。
そう書き残して死んだ彼女は、あーちゃんの気持ちが少しは理解できたのだろうか。
「おれもそのうち、『梅本? あー、そんなやついたなー』ぐらいに思うようになんのかなーって思ってさ。逆に、『もし俺が死んでも、そんな風になるんじゃねー?』とかさー」
世界は止まらない。
常に動き続けている。
誰がいようと、誰がいまいと。あーちゃんが欠けようと、ひーちゃんが歪んでいようと。ひとりの女子児童が自殺しようと。それを誰かが忘れようと。それを誰かが覚えていようと。
「でもそう考えたらさ、あの『大嫌い、死んじゃえ』って言葉にも、もしかしたらなんか意味があるんじゃねーかとか思ってさ。自分のこと忘れてほしくなくて、わざとあんなひでーこと書いたのかなとか。まぁ、俺の勘違いっつーか、そう思いたいだけなんだけど。そもそも遺書なんて、一通あれば十分じゃね? それをわざわざクラスメイト全員に書くってさ、どう考えてもやり過ぎだろ。しかもほとんど喋ったこともな��相手ばっかりなのにさ。それってやっぱ、『私のことを忘れないでほしい』っていうメッセージなのかなーって思ってみたりしてさ」
僕は透明人間なんです。
私も透明人間です。
私のこと、忘れないでね。
「そう考えたらさ、いや、俺の思い込みかもしんないけど、そう考えたら、ちゃんと覚えててやりてぇなーって思ってさ。あいつがそこまでして、残したかった物ってなんだろうなーって」
「……どうしてそんな話を、僕にするんだ?」
「あんたなら、この気持ちわかってくれんじゃねーかなっていう期待、かなー」
「知らないよ、お前の気持ちなんて」
僕がそう言うと、やつは少し驚いた顔をして、僕を見た。
他人の気持ちなんて、僕にはわからない。自分の気持ちすらわからないのに、そんな余裕はない。
だいたい、こいつは人の気持ちを自分で決めつけているだけじゃないか。梅本って女子児童が、こいつに気にかけてもらって嬉しかったのかもわからないし、どんな気持ちで遺書に「あんたなんて大嫌い、死んじゃえ」と書いたのかもわからない。
こんな話をされて、僕が同情的な言葉をかけるとでも思っているのだろうか。そんなことを期待されても困る。
でも。
でも、こいつは。
「あーちゃんの自殺のこと、どこまで知ってる?」
僕がそう尋ねると、やつは小さく首を横に振った。
「一年前、この学校の二年生が屋上から飛び降り自殺をした、遺書には『僕は透明人間です』って書いてあった。それくらいかな」
「遺書には、その前にこう書いてあったんだ。『僕の分まで生きて』」
やつは、しばらくの間、黙っていた。何も言わずに座っていたコンクリートから立ち上がり、肩の力を抜いたような様子で、空を見上げていた。
「嫌な言葉だなー。自分は死んでおいてなんて言い草だ」
そう言って、やつは笑った。こいつは笑うのだ。軽々と笑う。
人の命を笑う。自分の命も笑う。この世界を笑っている。
だから僕はこいつを許そうと思った。こいつはたぶんわかっているのだ。人間は皆、透明人間なんだって。
あーちゃんも、ひーちゃんも、お母さんもお父さんも兄弟も姉妹も友達もクラスメイトも教師もお隣さんもお向かいさんも、僕も、皆みんな、透明人間なんだ。あーちゃんだけじゃない。だからあーちゃんは、死ななくても良かったのに。
「あんたの気持ち、わかるよ」
僕がそう言った時、河野帆高はそれが本来のものであるとでも言うような、自然な笑みを初めて見せた。
※(3/4) へ続く→(https://kurihara-yumeko.tumblr.com/post/648720756262502400/)
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冬のきりりとした空気愛好家
近年稀に見る暖冬のせいで、我々はしなびたシナモンロールのように腰をまるめて床に寝転がる日々を送っていた。気温、生活、おでん並びに肉まん、何もかもが生温かった。コンビニのホットスナックは、空気が冷たいからこそその熱々さが際立つのに、こうも空気が暖かいと魅力が半減してしまう。クリスマスの日さえも暖かく晴れ、大晦日も穏やかな気候となった。天気予報士は、暖かいので大掃除に向いた歳末となるでしょう、と手袋もマフラーもせずジャケット一枚羽織っただけの格好でテレビの前の皆さんを湧かせたが、我々はこの生温い空気に気持ちまで掬われてしまい、大掃除どころではないのだった。 ああ、あのロイヤルブルーのセーターを着たい。あれは手持ちのセーターの中でとびきり寒さに強いセーターだった。秋に着ようものなら、帰りにはまず間違いなく小脇に抱えることになる代物である。厚く柔らかな編地は体温であたためられた空気を逃さず、がっしりホールドしてくれるのだ。極寒の中、あの綺麗な群青色に半身を包むと、漏れなく最強になれる。最強になった我々は、せっせと大掃除をする。そして大掃除を終えたあと、冷たい手指をあたためるためにホットミルクにほうじ茶のパックと砂糖を入れてほうじ茶ラテにして飲むのだ。ああ今年も無事に終わったな、今年の汚れも全部置いてこれたな、新年万歳、二〇二一年万歳、などと思いながら、勝利と清々しさをもラテに溶かしてぐいっと気持ちよく飲み干すのだ。 なんて思いながらブランケットに包まっていると、予報が大きく外れ、大晦日には強烈な寒波がやってきた。三十日の夜には轟々と風が吹いており、賑やかな夜だなあと暢気に思っていたのだが、どうやらそれらが暖かい空気を何処かに連れ去って行ってしまったらしい、翌朝起きてみるとそこは極寒の地と化していたのだった。こんなことになるなんて聞いてないが、これは我々にとって最大の好機であった。やっと、我々が輝く時代がやってきたのだ! しかし、ベッドから一歩踏み出してみると、床の冷たさにぞっとした。次いで、無防備な身体一面に冷気が纏わり付き、一瞬のうちに頭の天辺から足の先まで鳥肌が立った。すかさず家じゅうすべての暖房器具を起動し、厚手の靴下とカーディガンを羽織って難を凌ごうとした。心ばかり強くなれたところで、寒さに怯えたちょこちょこ歩きで寝室を後にした。 冬のきりりとした空気愛好家としては、起きた直後に窓を全開にして空に向かってお早う素敵な朝だねと叫ぶのが粋な姿なのだろう。しかし、なんていうのか、すみませんが言い訳をさせてください。今日は、きりりとした空気から少し逸脱している気がするのだ。きりりというか、びりりというか。横殴りの寒気が激しくぶつかってくるような、とくかく我々の愛する空気とは違った。愛好家の中には、情けない! これが冬の空気というものなのに! と我慢強く耐え忍ぶ過激派も居そうであるが、私は御免被りたいし、幸いにも我が家の愛好家たちも、まあちょっとぐらい寒い方が身が引き締まるよね、程度のゆるゆる派であった。私の最強の武器であるロイヤルブルーのセーターも着用してはみたものの、芯まで冷えた体にはさして効果はなくなんとも心許なかった。あんなに頼りにしていたのに。憎いのが、寒色系だから目にも寒いというおまけつきなところだ。 我々が幾ら嘆こうとも、この一日はすでに始まってしまったのだ。切らしていた掃除用具やちょっとした食材を買いに街へ繰り出す。やっと寒くなったね、とうきうきしていた我が家の小さな愛好家も、外に出て五分後には、ねえ���まだ、と繰り返す壊れたメッセージカードのようになってしまった。大人の方はもっと早く、二分経った頃には顔が死んでいた。買い物ついでに散歩でもしようか、と出掛ける前に言っていたが、買い物が終わるころにはそんな約束はなかったことになっていた。 そんな瀕死間際の愛好家たちであったが、大掃除はそれなりのかたちで行われた。たとえ、普段の掃除に毛が一本生えてきただけの掃除であっても、日頃拭かないようなところを一拭きしたならば、それは立派な大掃除である。だいたい、掃除なんてものは日頃からやっておくべきである。夏休みの宿題みたいに最後に一気にやるのはあまりやりくり上手とはいえない。それでも我々は年末にあえて掃除をする。それは、掃除が目的なのではなく、すっきりしたい、心から何かを手放したい、というのが目的だからなのではないだろうか。であるならば、別に無理して完璧な掃除をすることはないのである。 綺麗になったところもあれば、そうでもないところもある。でもまあがんばったし、休みはまだあるし、明日でも明後日でもやったらいいよね、と、そこそこに体を動かしすっきりした愛好家たちは笑った。いつの間にか、空気はちょうど好く感じられた。自分たちが暖まったからか、昼になって気温が上がったからか、もしくは両方だろう。きりっとした空気に背筋を伸ばして、すうっと勢いよく息を吸い込んだ。そして、吐いた。心の中のもやもやまでをも吐き出すようにして、終わりゆく今年にさよならをして。
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