#伏見万灯流し
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fool-owl · 7 years ago
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8/5 京都 伏見万灯流し
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mirrorka · 7 years ago
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伏見万灯流しは毎年8月上旬土曜に行われる夏の風物詩。 鳥羽伏見の戦い151年目の祈りは大黒寺によるご祈祷です。 2018/8/4撮影 🔥 愛宕神社 千日詣 🔥 「火迺要慎」(ひのようじん)のお札と 「お伊勢へ七度 熊野へ三度 愛宕さんへは月参り」で有名な愛宕神社。 毎年7/31から8/1にかけて千日分の火伏・防火の御利益がある千日詣(せんにちまいり)(正式名:千日通夜祭(せんにちつうやさい))が行われます。 8/1 2:00 朝御饌祭(あさみけさい)「人長の舞」奉奏、(護摩木の組み木による)鎮火神事を撮影📸 http://earth-traveler.com/archives/10628 #京都 #Kyoto #伏見万灯流し #伏見 #寺田屋 #大黒寺 #灯籠流し #灯篭 #灯籠 #月桂冠大倉記念館 #鳥羽伏見の戦い #宇治川派流 #京都散歩の旅 #festival #ポートレート #portrait #そうだ京都行こう #日本に京都があってよかった #神社仏閣巡り #art_of_japan_ #beautifulkyoto #kyoto_style #kyototravel #loves_united_kyoto #retrip_kyoto #kyotopi #キョウトピ #japan_nighttime_view #神社フォトコンわたしと神社 @kyoto_style Location:京都/Kyoto CANON EOS 5D MarkⅣ 2018/8/4撮影 (Kyoto Prefecture)
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cestlavie-sevenstar · 4 years ago
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01/21 ヤクザと家族 The Family 試写会に参加しました
*ネタバレどころか全編通しての感想なので一定期間が経過したら本記事は非公開に移行いたします🙆‍♀️
*記事全体でお名前や役名などを敬称略にて記載させていただいている部分が多数あります。ご不快に感じられる方がいらっしゃいましたらブラウザバックしていただけますと幸いです。
2021年1月21日(木)、映画「ヤクザと家族 The Family」試写会に参加させていただきました。年末年始は「1月29日を迎える」ことを目標に繁忙期を生き抜いたため、当選通知のメールを見た瞬間私の2021年は終わったような気持ちでした。(誇張表現)
今回も初見時の気持ちをフレッシュに残しておくべく、鑑賞しつつこんな感じでメモっていました。 黒い文字が上映中のメモ、緑の文字は帰宅後に補足で書き足したメモです。
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これまでは人に見せることを前提とせず目と耳に入ったことや感想を自由にメモっていたのですが、今回を機にメモを見返しつつ(時に載せつつ)感想ブログなどもしたため始めてみようと思い、画像と文字を投稿しやすそうなTumblrを開設してみました。普段芸術と程遠い業務にいそしむ会社員の感想を眺めて「わかる〜」「いやわからね〜」みたいな楽しみ方をしていただけたら幸いです。
今回はB6ノートに見開き10ページ分ひたすら悶絶しているメモとなりました。
映画開始から終了までの時系列順で書いています。ちょこちょこ下記のようにスクショで掲載します。
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水中から始まる…… フレッシュなダイイングメッセージみたいな文字で書き始めているのですが映画冒頭、あぶくに包まれながら沈んでいく推定・綾野剛さんの映像がとても綺麗でした。今思い出すと「ああ〜Familia……」という感じです…… 一緒に見に行った方が観賞後、「この映画は山本賢治の走馬灯なんじゃないか」という話をされていて打ちのめされました。
そう言われてみると最後の沈むシーンでは刺された血液か返り血かで体の周りにもやのような赤が浮いていますが、冒頭の沈む映像ではそれがなかった気がするので山本さんの自己認識的な映像なのかな〜とも考えていました。 確か右手を伸ばすようなカットがあり、写っている手がなんだか小さく見えたので「19歳の前に胎児からスタートなのかな?」と斜め上なことを考えていたのですが、上方に伸ばした手を自分で見上げているので確かに小さい感じに見えるんだな〜とも考えていました。
1999年
小さい原チャリの���本賢治くん(19)が着席するまでの一連、白い上着で葬儀場に入って行く俯き気味の後頭部が愛しかったです……読み間違いかもなのですが喪主が山本賢治に読めて、あ〜頼れる親族いなかったんだ……とすでに泣きそうになっていました。
少し後のシーンで山本宅が映る時、お父さんの名前で賞状も雑多に積まれていたのが何だったのかな〜と思いながら観賞後にサイトを読んだら証券マンだったとのことで、優秀な社員さんだったのかな……と思いつつ母親も離婚などではなく亡くなっているという記載からかつての山本家に思いを馳せて切なくなっていました。
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いちはらはやとかわいい 市原隼人さんをドラマ版『ROOKIES』で知り、『猿ロック』『ボックス!』くらいしか見たことがないながらにくしゃっと笑う顔が好き^〜〜〜と思っていた高校生時代を思い出しました。原チャに足乗せて数珠をいじってるの大変かわいかったです。数珠は手作りなのでしょうか🤔2019年で大原の墓前にも赤マルと一緒にお供えされてるのを見ると三人でお揃いで作ったのかしら……と深読みして涙する私でした。
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おかねにはしゃぐのかわいい 夜の堤防で強奪してきたクラッチバッグを開けるシーン。大原を演じる二ノ宮隆太郎さん、お顔は存じていたのですがお名前が出てこず、さらに事前にあまり情報を入れないようにして映画に没入しに行ったので「大原」「細野」の名前が最後までわからず迷走したメモになっています(言い��) バッグの中から20万円くらいが出てきて堤防でめっちゃはしゃぐ大原が大変かわいかった……1999年でも2005年でも大原が笑ったり喜んだりすると見ているこっちもニコ……☺️と笑顔になるのが不思議でした。
このシーンで月におシャブさんをかざして「きれェ」って言う細野もやばいけど投げ捨てちゃう賢治くんの衝動性も心配な感じでした。この衝動性が2005年の川山を瓶でゴン事件に繋がるんだろうな〜と思いつつ……
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あかちゃんあやすいちはらはやときゃわ オモニ食堂で赤ちゃんの翼くんをせっせとあやす細野の笑顔がほんと〜〜に好きで…… 山本・細野・大原の三人でいっぱい食べてるのめちゃめちゃかわいい空間でした。
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くみちょうかっこいい 帰宅してから追記したメモもだいぶ頓珍漢なのですが「激シブ」と書きたかったんだと思います。
この食堂乱闘事件の最後、大原が出口手前の机に綺麗にぶつかって気持ちよくひっくり返して走って出て行くのも爽快でした。(どんな感想?)
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ドアちゃんとしめるけんじくん 寿司パに呼ばれた賢治くんがビルの入り口ドアを後ろ手ながらちゃんと閉めるのが偉いな〜と思って見ていました。(今思うと金文字の「柴咲組」を見せるためかな〜とも思いつつ) この後商店街を走る時も「どけどけ!」だったのが「どいてどいて!」になって、後に続く言葉の方が優しい感じになる辺りに人柄を感じてグッときました……
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はねられたあとはしるけんじくん 雑誌の『キネマ旬報』だったかで綾野さんがスタント無しで挑んだというのは読んでおり、事前公開された映像も見たので心の準備はできているつもりだったのですが劇場で見ると迫力が凄まじかったです……は、はねられている……あと確か長回しがはねられた後も続いていてハラハラしていました。
そしてこのあと盃交わす場面までほとんどメモ取ってませんでした。SNSの完成披露会を見られなかったので一緒に行った方に教えていただいたのですが、あのシーン本当に蹴られているということで……よくぞご無事で……😭 香港までの密輸(入国)船のサイズが意外と小さくて、時々ニュースで見る国境近辺の船ってそういえばこんな感じだったな〜と思い出していました。 あと加藤こと豊原功補さん、『のだめカンタービレ』の江藤しか知らなかったので「なんか見たことあるような…」とは思いつつ一瞬気づきませんでした……!江藤塾の��導が「ヤクザのとりたてみたいな指導しやがって!」と千秋に言われるのですが江藤と加藤全然違う人間ですごかったです……
ところでこの臓器くん三人が密輸されかけるくだりの辺り、賢治くんが柴咲組との関係を否定したのに中村の兄貴が迎えに来てくれて三人とも助かってる描写の理由が1回目だとわからなかったので今後わかるまで見に行きます(ムビチケを追加で積んだ顔)
盃交わすシーンで縦書きのクレジット入るのめちゃめちゃテンション上がりました。かっこいい……ここのシーンの背景や人の配置とお顔など、後で出てくる方いらっしゃるのかな〜と思いながら見ていて白文字を読んでいなかったので結局エンドロールまで気づかなかったのですが今回岩代太郎さんが音楽だったそうで、初めて映画のサントラ買ったのが『武士の献立』だったのでエンドロールでもテンション上がる事態になっていました。
2005年
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おしりまで入ってるの 銭湯で山本さんが湯船に向かう後ろ姿のシーンで刺青が背中通り越しておしりと太ももにまで入っていた衝撃のメモ。 そういえば私も小学生くらいの頃、近所の銭湯にどうしても行ってみたかったのですが連れて行ってもらえなかったことを思い出しました。(誰彼構わず話しかけては走り回って物を壊す子供だったのでいろいろな意味で人生変わるところでした)
大原と細野の背中にも線彫りでごっついでかい刺青が一面に入っているのですが、山本賢治さん(25)の気合の入り様がエグいかっこよかった……何年かけて彫ったのか…… 米国にいた時スナック感覚で一緒に刺青入れよ〜と誘われた際、断りつつ色々調べて知ったのですが、線ではなく面の刺青は痛さも尋常じゃない上にグラデーションは彫り師さんの技術も問われるところとのことでお尻やふとももとか脇の肋骨のあたりみたいな皮膚の薄そうなところにまで見事に入っているのを見て山本さんの六年間に思いを馳せたりしていました。あと全然関係ないですがお風呂めっちゃ気持ちよさそうで私も帰宅してお風呂沸かしました。
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中村「てれるな」かわいい 安易に「かわいい」という形容詞を使いがちなのですが魅力を感じた時にさくっとメモする時やっぱり「かわいい」とか「かわ」って書くのがラクという。 若頭襲名?就任?のお祝いをされてぽつっと一言中村の兄貴が「照れるな」と言うのがかわいかったです。立ってるだけでめちゃめちゃ怖いし1999年の方でも怖かった中村さんが口を開くと思ったよりフランクで端々にポップさが垣間見えて「あっ好き」と引き込まれた瞬間のひとつでもありました。ドラマ『アンナチュラル』の宍戸だ!!と思って警戒しながら見ていたのですがここで警戒を解いて仲間だ〜🌼と思いながら見ていたので2019年の方で落ち込みました……(鑑賞中に落ち込む視聴者とは)
このシーンで細野が「これ山本の兄貴からです」のような文言で中村さんにプレゼント(とは言わないのかしら……)を渡す時、言い方や間の取り方があまりにも自然なモブっぽくて一瞬細野だと思いませんでした。山本さんから中村さんにお祝いの品を渡すだけの舎弟の役割を果たしている細野aka市原隼人にグッときていました……
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せんえんくれる オモニ食堂で小学生の翼くんに千円札をくれる山本さんのシーン。一万円とかではなく、でも小学生には大金の千円札をお小遣いにくれる山本さんのバランス感覚がとても好きでした。愛子さんが止めるでもなく受け取っときなと言う様子になぜか嬉しくなってました。そして翼くんがンマ〜〜��かわいい……その翼くんと会話してる時の山本さんと細野がこれまたンマ〜〜〜かわいい……あの笑顔は無形文化遺産認定の日も近いです。
「子供と会話すると笑顔になるよな〜」と思いつつ見ていたのですが今思うと大原くんと亡くなった翼くんのお父さんが似ていたというところから、自然と人を笑顔にさせる特性みたいなものを翼くんもお父さんから受け継いでたのかなぁとか、いろんな人の居場所になってたオモニ食堂を切り盛りしてるお母さんから学んだりしてたのかなぁとか色々考えていました。
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ジッポのチーンかわいい この「かわいい」も魅力的だったな〜の「かわいい」です。2005年の山本さん喫煙シーンで印象的なジッポライターの開閉音、薄い金属音がおしゃれで好きでした……小中学生の時分、ジッポに憧れて百均やらドンキやらで安いのを買ってはガチッとかバチッみたいな音を立てて開閉させていた勢なので「かっこいい……」と痺れていました。あと山本さんの手が綺麗で二倍痺れました……
2019年、山本さんの出所後に「柴咲組一同、盛大に」のシーンで煙草に火をつける時は百円ライター的なジッという音になっていて泣きそうになりました。対比がエグい……
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くうきのかわりかた 2秒前まで翼くんと近所のお兄ちゃんみたいな会話をしていた細野が山本の電話の様子を見て一瞬で空気を切り替えるのがビリッと来ました。オモニ食堂の壁際に飾られた七五三か端午の節句かの人形を挟んで会話していたのも何故か記憶に残っています。
この画面大原があまり映ってなくて若干寂しかったりしました。三人でご飯食べにくるの可愛かった……ビールの乾杯の時にグラス合わせる位置が特に山本さんが上という感じもなく三人でかんぱ〜いってなってたのが本当に好きでした。(見間違いだったらどうしよう…)山本さんの貴重な笑顔……
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あめちゃんなげるのかわいい この「かわいい」は「かっこいい」と「かわいい」が半々くらいのかわいいです。去り際に細野が翼くんに2つか3つか何か投げるので「小銭?にしては雑…?」と思っていたらキャラメルなのかラムネなのかアメなのかオレンジ色の細長いのを翼くんが両手で受け取ってて可愛くて死にました。 お菓子を持ち歩く細野……
続くクラブ C'est la vie で敵対勢力が煽りに煽るシーン、細野が身を乗り出してゴリゴリに睨んでる中、山本さんが微動だにせず立ってるのがめ〜ちゃ怖かったです……まじで身じろぎひとつせず川山のことをじっと見ている様子が、あまりにも静かなのに絶対静かな訳がない嵐の前の大気そのものでひたすらぞわぞわしました……
川山が立ち去った後でママが気を取り直して女の子たちに声をかけるのがまた好きでした。ママの肝の据わり方よ……
そしてここで登場するみゆきちゃんこと工藤由香。青いドレスが似合ってて素敵でした。今思い出すと冒頭や最後の海を思い出すような深い青なのですが、由香ちゃんの明るい人柄と真逆な色かつ尾野真千子さんの雰囲気にぴったりの綺麗な深さだったな〜と思いました。(小並感)
自己紹介もなく隣に座り山本さんの親指の付け根部分にガラス片が入っているのをそっと取ってくれる由香ちゃんを見つめる山本さんの目元がサングラスと前髪でわかりづらかったのもエモでした。わかりづらいけれど、川山と話していた時とは完全に異質の静けさ……
さっきまで流血沙汰の事件起こしてた男が、自分で気にもしていない(蔑ろにしている)傷に気づいて手当てをする由香ちゃん、彼女の来歴が映画の中ではほとんど見えないのも「山本の走馬灯」と考えると納得でした。
ついでにこの後ホテルに呼び出される由香ちゃんのシーンがめちゃめちゃ可愛くてニコニコしながら見ていました…… 由香ちゃんの到着で、画面には映らないジッポの音が「山本さん���張してるのかな…」という感じでかわいかったです。そして由香ちゃんの私服(チェックのシャツワンピースとフードつきダウン)が青いドレスとこれまた180°正反対とは言わずとも90°くらいの位置にある感じでとてもかわいかったです。◯まむらかパ◯オスか……
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ぺちぺちたたかれてる かわいい 抵抗する由香ちゃんのぺちぺちパンチが大変かわいかったというメモでした。
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そういえば山本さんの背中におわしますは修羅でしたね
抵抗している由香ちゃんに動揺しまくる山本さん、さっきまで貫禄凄かったのに急に中学生男子になってニコニコしちゃいました。川山とか加藤にこんな態度を取ったら親族もいない由香ちゃんは臓器ちゃんコースでもおかしくないのに、運転しておうちまで送ってくれる…… ここで携帯渡して「入れろ」だけ言われて、一回でちゃんと正しい情報を打ち込んで渡してくれる由香ちゃんの律儀さもかわいかったです。ラブコメ映画ならここで一回ギャグ挟んでから山本さんが「あいつ…!」って思ってるときに携帯に由香ちゃんから連絡入るパターン……🤔💭と思考が逸れるくらいかわいいシーンでした。
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セーターのおじちゃんかわいいね… この「かわいい」も「かっこいい」と「魅力的」の混ざった感情でした。川山の件で加藤との会談に中村の兄貴を連れて行く柴崎さんにスルッと流されてしまって立ち尽くす山本さんに肩ポンしながら「たまには兄貴に花持たせたれや」のようなことを言うおじちゃんがその場面で一人だけスーツではなくセーター着用だったのがかわいいな〜と思った感想。
ビリビリに張り詰めた空気の中で元凶とも言える山本さんに声をかけようにもかけられない(かける勇気が出なさそうな)雰囲気の中、かる〜い感じで声をかけてくれるおじちゃんが大変好きでした。何かあったときに気持ち的にラクにしてくれる方が職場とかに一人いてくださると心理的安全ダンチだなぁなどと今打ちながらしみじみ考えます。みんな頼ってひっそり相談に行く感じ……
あとこの「たまには」という一言、最初はおじちゃんが気を遣ってくれてる感じかと思っていたのですが、2019年の方で中村の兄貴と乱闘になる場面で出所したての山本さんに兄貴が「いつもいいとこどりしやがって」みたいなことを言っていたのを考えると、1999年〜2005年の6年で相当派手に活躍していたんでしょうね山本さん……
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出待ちしてるのかわいい これは紛れもなく「かわいい」でした。クラブの前で車で由香ちゃんを待ってる山本さんのシーン。この直前の事務所でソファで仰向けで煙草吸いながら起き上��って天井見上げてまた吸って……というシーンの山本さんは手首や体の動かし方から漢と色気の混ざり合った匂いを画面越しに感じるほどかっこいいのに、由香ちゃん呼び出して「無理なんで……」とわりと年単位で寝込みそうな断り方をされて無言クラクションパーーーーーで強制的に呼び止めるあたりの流れまじでラブコメでかわいかったです。
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みゆきちゃんにオラつけてないのかわいい まさしく。別に山本さんが「オラついている」訳ではなく「ペースを乱されまくっている」と書きたかったのですが勢いでメモっていたのでこんな書き方になってしまいました。語彙力……
このシーンではまだ「ゆか」という名前が出てこなかったので鑑賞中のメモが「みゆきちゃん」記載。
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ドライブ(きょうせい)かわいい 由香ちゃん青いドレスのまま上着だけ持ってきてドライブしてたような気がします。白い上着に青が映えるな〜と思いながら見ていた気がするのですが見間違いかな……次見る時確認します。
そして今気づきましたが「(強制)」と言うと常田大希さんが年末にSNSで公開していた綾野剛さんとのメッセージを思い出します。どんなおせちだったんだろう……ちょろぎ入ってたのかな……🤤
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顔が良いあやのごう 夜明けの海岸で由香ちゃんに「どうやって儲けてんの」「なんでヤクザやってんの」のような質問攻めにされるシーン。今回のメモぶっちゃけ6割くらい綾野剛の顔が良い(または諸々が「かわいい」)で埋まっていたのですが、この辺りから各俳優さんの様々な「美しさ」に魂が震える映像になっていった気がしてメモ内容が圧倒的に表情のことや空気感についての言及になっていたので我ながら記述が曖昧で頭抱えました。咄嗟の語彙力 増強 方法 検索👆ポチ
夜通しドライブした二人が由香ちゃんの気軽な質問からほんの一瞬だけお互いの深いところに触れる描写が夜明け前の一瞬の空を思わせてエモでした。
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まじすか!? かわいい ここからしんどかった…釣りに出かけた柴咲さん・山本さん・運転手の大原くんの三人が車内で会話しているシーン。 電話で呼び出された時山本さんが着てたセーターかわいかったな〜というのも記憶に残っています。そういえば山本さんが住んでるところって柴咲組の寮的なところなのかしら🤔最初に由香ちゃんが呼び出された時、ドアに避難経路が貼ってあったのでホテルかと思ったのですがそういえばこの場面でも同じベッドな気がするのでホテルじゃなくて家なのかな……?
運転手の大原くんが嬉しそうに相槌を打つのが可愛��ぎて劇場でニマニマしてました。「こいついっつもお前の話するんだよ」みたいなことを柴咲さんに言われて山本さんが呆れてるのに「すみません!」ってお返事しながらニコニコしてるの本当にかわいかったです。
気を張ったり気が立ったりがデフォルトの中で大原くんみたいな人がそばにいるとホッとして笑顔になったり少し安心したりするんだろうなぁ、愛されてるんだなぁと思って(由香ちゃんとのラブコメからのエモの流れで完全に油断していたこともあり)完全にリラックスしてたところで二人乗りバイク………………………………
ずるい……………………… 大原くんの魅力にフォーカスした直後のこれはずるい……………………
今思い返すとこのシーンも多分長回しでした。どこからどこまでだったんだろう……完全に頭から世界観に浸って「釣りか〜何が釣れる時期かな〜」とか考えてたのでめちゃめちゃ衝撃でした…… そしてここで山本さんが車を振り返って呆然とする流れが辛いのにめちゃめちゃ綺麗でした。昼前の太陽の明るさ……
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ないてるいちはらはやと 翼くんを撫でて笑おうとする細野がぼろぼろ泣いてしまうシーン。シンプルにつらすぎて胸にきました。トレーラー映像で主題歌が入る前あたりに映る煙、煙草かなぁと思ったらこの大原の葬儀のシーンだったんですね……ずるい……
この時の翼くん6〜7歳でしょうか。物心ついてから初めて参加したお葬式だったのかな、と思うと普段と様子の違う知ってる人たちの中で細野ならいつもみたいに笑ってくれる!と思ってたりしたのかなぁみたいなことも考えて辛み増してました。ちょっと戸惑うような様子が辛かった…… 細野の翼くんと接する時のあの笑顔が印象的に描かれていたからこそ辛さが倍増(どころの問題じゃない)でした。
そういえばこの後から細野の笑顔がちょっと変わったような。🥲 2005年ではもう笑うシーンがなく、2019年の方でも相当苦労したんだろうなぁという感じで笑顔の雰囲気が変わっていて辛かったです……パパしてる時ももう翼くんに笑��かけたみたいな笑顔じゃなくて……無形文化遺産儚い メタい感想だと「笑顔」ってそんなに種類分けられるものなの……?と市原隼人さんの表現ぢからにタコ殴りにされていました。安仁屋……
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けいさつとヤクザの髪型 ちがうのすごい 柴咲さんと大迫が会話するシーン。画面右側に柴咲さんと中村の兄貴、左側に大迫と若い警官?が映るのですが、中村の兄貴も警官も「髪が短く襟足は刈り上げに近い感じ」「スーツ」「姿勢良く立ってる」とほぼ同じ条件のはずなのに、どう見ても右側がヤクザで左側が警官だったのがすごかったです。さらに場面的に逆光でほぼシルエットだったにも関わらず明らかな差異があったので痺れました。
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ケン坊なのかわいいな…… 入院している山本さんのお見舞い兼報告?で柴咲さんと細野が病室を訪れるシーン。もうすでに嫌な予感はしていたので感想がかわいいポイントだけフォーカスして書いてありました。柴咲さんが「ケン坊」って呼ぶの本当に愛が深くてなんでか泣きそうになります…… 花籠を置きながらずっと泣きそうな顔をしている細野の私が代わりに泣き��した。(なんで?)
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えっ えっ顔が良い あやのごう…… だいぶ動揺しています。ベッドで横になった山本さんの思考をな��るように俯瞰でゆっくり回る画面のシーン。天井視点というべきか何と言うか…… 1999年に侠葉会から逃げる賢治くんのシーンでも画面がぎゅん!と回って大混乱なところがあってすごく好きでした。
あの静かな表情が怖いのか美しいのか、ぞっとするのか狂おしいほど愛しいのか、全部詰まっていて文字通り息が止まりました。二重幅の目元がずっと脳裏に残っています。
そしてこの後クラブの中で山本さんに紙袋を手渡す細野、サイトのキャスト紹介の写真もしかしてこの場面では……?と気づいて地に倒れ伏しました。苦しい……
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な…中村さん…… 1999年でおシャブさんを扱わない柴咲組に「じゃあ何をやってるんだよ」みたいなことを聞いた賢治くん19歳に、凛と張りのある声で答えていた中村さんを思い出しました。山本さんとはまた別の理由で耐えきれなかったのかな中村さん…… 屋上でゴルフしてる柴咲さんと山本さんを見てる時の中村さんの目線がなんとなく不穏だった気がしたのですが、中村さんは任侠の人でした……😭
刺殺する時は刃物を縦ではなく肋骨に沿うように横にして差し込むと致命傷になるみたいな話を思い出して現実逃避しながら見ていたのですが銃を選んだ山本さんと刃物を選んだ中村さんの違いみたいなところにも思いを馳せていました。 (そういえばサイト読むとドス的なものではなく包丁だったんですね)
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そぼくなゆかちゃんハウスかわいい 質素倹約大学生の一人暮らしアパートとてもかわいかったです。調べたら2005年といえばファーが流行したりエスニック柄が流行した時期らしいのですがそんなものの影もない本棚やキッチンの生活用品のカゴに生活を感じてグッときました。そこに転がり込んでくる血まみれの山本賢治……
震えてる山本さんに動揺しながらも少しずつ落ち着いて癒してくれる由香ちゃんと、最初触れるだけのキスをするのがすごくグッときました。
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みあげるとき 19さいだ… 翌朝、事務所に帰ってきた山本さんがソファに座ったままぼんやり柴咲さんを見上げて立ち上がるシーン。1999年、加藤の元から助け出された後を思い出しました。ESSE のインタビューで綾野剛さんが語られていた内容もふと思い出し、朝陽の入る光景に胸が痛くなりました。 その後���柴咲さんが山本さんが怪我をしている左肩を大切にして首元を引き寄せて、自分の白い上着を気にするそぶりも見せずにガッと抱き寄せるのがまた辛かったです……(あまりにも当たり前のように深く抱き寄せてたのでしばらく柴咲さんの上着が白いことにも気づきませんでした) 大迫が入ってきて手錠をかけているあたりのシーンで柴咲さんの上着に血がついててウグ……となっていました。
よりにもよって連行される時のニュースを翼くんがガッツリ見ているというのも辛かった……来なくなった大原、逮捕された山本さん、細野は一人でオモニ食堂にご飯食べに行ったりしたんでしょうか……2019年の方だと細野と翼くんのコンタクトが一切なかった気がしてまた辛いです……
怪我が治ってないのに歩かされて収監されてる山本さんが辛すぎると同時に、真っ暗な中から明るいところに出る流れの表情に鳥肌バキバキでした。
2019年
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2019年の方が青いの…?(色)がめんの 早朝出所する場面から始まることもあってか映像が青くて「あれ…?」と思うなどしていました。初めて見る丸メガネの若い子と中村の兄貴が迎えにきてくれて、「細野くん来ないんだ…」とざわざわしていました。
そして事務所に到着すると剥がされている金の「柴咲組」。剥がされた後のスプレー跡が残ってるのが傷跡みたいでまた辛い…(この後ほぼ「つらい」「しんどい」しか形容詞が出てこない)
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19才の鼻のキズのこっちゃうんだなぁ 出所後にすっかり様変わりした街並みを見上げながら事務所に戻り、多分14年ぶりに柴咲さんにも会うシーン。和装の柴咲さんに嬉しそうにしてる山本さんの鼻に傷跡が残ってるのがなんとなく印象的でした。
20年経ってるんだなぁと思いつつ、2005年の加藤との会談での「俺のたまでも取ってみるか」はもちろん何気ない会話の一言でも声の厚みがめちゃめちゃかっこよかった柴咲さんの声が弱くなっててめちゃめちゃ不安になりました。
あとこの事務所が映る時に「がらんどうだ………」と思った覚えがあります。置いてある小物の数が著しく減ったとかではなかったと思うのですが、何が違ったんだろう……2005年の時から人が減ったのに様子が変わらないから寂しく見えたのかしら……次見に行った時確認します……
そういえば美術の部谷京子さんが『容疑者Xの献身』の方と後で調べて知って唸り倒しました。寂寥感とあたたかさが混在する空間大好きです……
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SEKISUI HOUSE 山本さんの新居のアパートの壁にSEKISUI HOUSEのロゴがありましたという。なぜこれメモったんだろう。しんどさが限界点突破して何か関係ないものメモりたかったのかな……
このシーンの前でたぶん大原くんのお墓参りをしているんですが、そこで赤マルお供えしてるのと、あと多分ほどけてる数珠がお供えしてあったのも印象的でした。お揃いで作ってたのか、それとも細野が趣味で作ってたのを置いてったのか、ちょっと次見る時に三人が1999年と2005年でおそろっちしてるか確認します……
丸メガネの子がしょんぼり辛そうに条例の話をシンプルにしてくれるのを聞いてから山本さんがまず由香ちゃんに連絡取ろうとしてるのがかわいかったです……しかし繋がらない…… ここのスマホ使い慣れてなさそうなところがまた紛れもないかわいさでかわいかったです。通信機器って差し入れできないんですね……
そしてこの後の出所祝いが😭ひ、ひたすら辛かった……… 「柴咲組一同、盛大に」という文言はきっと昔から��われてきたもので、山本さんも何度も聞いたことのあるような乾杯の掛け声なんだろうなと思いつつ、どうしてもかつての賑やかさを思い出してしまって辛かったです……煙草に火をつける音が百円ライター……ビールは瓶のプレモル……(これも現実逃避メモ)
追い討ちをかけるようにシラスの密漁シーンが入り、大変な寒さに違いないだろうに「これで食わせてもらってんだよなぁ」的なことを言いながらはしゃぐようにしてるオジキたちがしんどかったです……
そして現存していたオモニ食堂😭よかった……!あった……!変わらず待っててくれる愛子さん、久しぶりの細野……!でもやっぱり笑い方が変わってるというか、なんかあんまり山本さんの方を見てなかったような……この辺りメモがくちゃくちゃ(文字が重なってて)になってて己の動揺を見ました🥲
配偶者を「ヨメ」って呼ぶ細野かわいいな〜と思いつつ、丸めた千円札をぎゅっと押し付けて出て行くまでの流れが辛すぎました。慰めるでもなく何か言うわけでもなく一緒に時間を共有してくれる愛子さんの存在に私も救われていた沈黙のシーンからの翼くん帰宅。上着こそ赤ですがまんま1999年の山本賢治(19)でかわいい〜!となるやら翼くん〜😭となるやら、感情のジェットコースターでした…… あとで加藤と会話してる時にも思ったのですが、翼くんの敬語の使い方が大変最近の若者感で好きでした。何が違うんだろう…🤔何が最近の若者感なんだろう……
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ふうとうにフッてするんだね… 親父の入院費を中村さんが徴収するシーン。細かい仕草なのですが気になりました。確かに新しい封筒を開いて紙の端を指で支えて、こう、中の空間を広げて……みたいなのをモタモタやるより一発でガッと開くので効率的ですね。完全に現実逃避の着眼点的メモです。
ここで出所祝金を封筒ごと出して全額出す山本さんもしんどみでした😭お守りみたいに持って���…… (この部分、あとで由香ちゃんが14年間300万円に手をつけなかった部分と重なるなぁと思っていました)
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な…中村さん… おシャブ………………でもいろんな作品見てても「覚醒剤や大麻って儲かるのか〜」と思うので組を守るために背に腹だったのか……と思いつつ、本当に困窮するまで手を出さなかったであろう中村さんの葛藤を思って泣きそうでした🥲
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ひかりのかげんすごいすき 車のライトの前で取っ組み合いする中村さんと山本さんのシーン。足が長い二人がこういう画面で喧嘩すると足しか映らないんだな〜と辛さから逃げる思考をしつつ、画面の中央に車を置かない、全部見えない、どっちがどっちかわからなくなりながら怒鳴って掴んで引っ張って引きずり倒して、という二人の感情の発露を息を呑んで見入っていました。この時どこかのタイミングで月も映ってたと思うのですが、1999年に細野がシャブをすかしてた半月と同���だったりしたのかな……早くもう一回見に行きたい……
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中村さんよかった…やってない… 「そこまで落ちてねぇよ」的なことを言いながら自分のハンチング帽?で山本さんをぺしってする中村さんの仕草に「照れるな」の時と同じホッとする気持ちで気が緩んで泣きそうでした。ちょっと嬉しそうな山本さんの表情に私も嬉しくて…😭
(そういえばFitbitの記録見たら多分大原くんの死から2019年中盤あたりにかけてめちゃめちゃ落ちててすごい落ち込みながら見てたんだなぁと思いました)
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出待ちしがち山本けんじ 韻を踏んでいる😄煙崎市の市役所職員入り口前で由香ちゃんを出待ちしているシーン。最後自宅前でも出待ちしてましたね。 私個人「来るかわからない」「いるかわからない」「会えたところでめちゃくちゃ嫌な顔をされるかもしれない」状態で待つのが辛すぎて無理の民なので、山本さんの忍耐力や相手を想う気持ちの強さに泣きそうになった場面でした。(よくわからないところで泣く系)
月の出ている夕方の海、かつて隣で見た明け方とは異なりこれから暗くなる空の下で会話して、送ってもらってからあの時の血のついたままのお金を持ってくる由香ちゃんのいろいろな気持ちを思うと辛すぎてダメでした………
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キムチチャーハン(うまそう) 現実逃避メモ。お夕飯作ってる娘・あやちゃんが可愛くて可愛くて……😭😭そしてたぶんこれはキムチチャーハンではなくてケチャップライスでした。笑
昨年の『ドクター・デスの遺産 THE BLACK FILE』でも父だった綾野剛さん、今回は「父」としてあやちゃんに接する場面がありませんでしたが、先日公開された主題歌FamiliaのMVでおずおず近づいて抱きしめてくれるあやちゃんに腕を回して抱き返す姿になぜだか救われた気持ちがしました。(歌詞と学生服のあやちゃんが映った瞬間から涙が止まらなくて1日あけてからもう一回見ました)
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オヤジからぬけろって言われるの… 入院した柴咲さんを見舞った山本さんに優しく柴咲さんが「お前はまだやり直せる」と言うシーン。辛かった…
ドラマ『アンナチュラル』5話で鈴木さんがミコトに「何が間に合うの」「果歩はもう死んだ」と返して刃物を握りなおすシーンを思い出しました。 山本さんにとっては何も間違えていなかった、やり直すことはなかったんじゃないかな、と思う反面、妻と自分の子供と静かに暮らすためには「やり直す」必要があったのか……と思うといろいろな感情で諸々ぐるぐるしました🌀
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な…中村さん…… 除籍後、密漁するオジキたちのカットの後で車中で細い注射器で………………おシャブを打つ中村さんのシーン………………………だったと思います……
ハンドルに寄りかかって乱れた髪を手でさらにくしゃっと握りながらメガネがズレるのも構わない様子にめちゃくちゃ……落ち込みました……中村さん……
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謎に上から(笑) 加藤宅でお話ししてるシーンで翼くんがタメ語になる瞬間。この場面でも翼くんはずっと敬語でお話ししていて無用な軋轢を産まないというか禍根を残さないと言うか、処世術的にというか極端に悪い言い方をするなら日和見寄りな部分で現代っ子っぽいな〜という印象でした。あっ最近の若者感ってこれかしら…?
加藤の「時代遅れ」な助言の裏にしっかり見えてる支配欲に笑っちゃいそうな雰囲気が、絶えず続けられる撮影にも現れてるような気がしつつ、意外なところで動揺している様子が意外なようなちょっと安心するような気持ちで見ていました。お父さんのことが気になっていた翼くん……
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く…くまさんカップ……! 工藤宅で朝ごはんを一緒に囲む山本さんがくまさんカップでスープなのかココアなのかをいただくシーン。この穏やかな朝ご飯の空気と山本さんの柔らかい表情をトレーラーで死ぬほど見てはいたので、これ多分後で崩れ去るんだろうな〜のような予想をしつつ色々気持ちの準備とか覚悟とかしていたのですが、まさかくまさんカップとは思っておらず「かわいい」という気持ちで脳がパンクするかと思いました。と言うよりもパンクしまして準備していた覚悟的なものも全部粉砕したのでこの後のシーンのしんどさ全部真正面から浴びてしまって「もうやめて…やめて…」と泣いてました……(好き)
山本さんにくまさんカップを使わせるに至るまでのあやちゃんと由香ちゃんと山本さんのやりとりも考え始めると辛すぎました。かわいい。辛い。かわいい…………ゆるして…もうやめて………(好き)
空色の車で市役所と学校に二人を送るシーン、学校までのちょっとの時間をあやちゃんと二人で過ごす山本さんが愛しくて泣いてました。この辺りずっと泣いてる…… 「最近ママ楽しそうだよ」って言うあやちゃんに穏やかに笑ってる山本さんがもう無理でした。愛しい空気のままここで見終わりたい……と大号泣している自分と、ここからの展開に期待全開で姿勢を正してアドレナリン分泌の大号令を出す自分が同時に存在したので多分このシーンで私の副腎は副腎皮質も副腎髄質も絶賛大稼働していました。
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ありがとうほそのくん… 社長に無理を言って産廃処理工場に勤めさせてくれる細野くん。本当にありがとう……「初めてこいつに感謝したよ」みたいなことを山本さんが笑いながら言うのですがそんなところまで含めてかわいいシーン……………と思っていたら、二人の正面に座る若いの(かみやくん?)が口を開い��瞬間から不安でたまりませんでした。翼くんともまた違う若者口調……
そして場面が変わって翼くんがけつもち?しているお店に大迫が来るシーン。しかし一枚上手の翼くん💪いやここで頼もしい写真の証拠と、さっきのシーンでの記念写真の対比がエグい……
翼くんに一枚取られたのが悔しかったのか、八つ当たりみたいに産廃工場に来る大迫さん。シーンが繋がってたせいか余計そう見えてしまいました。大迫さんへいい感じに負の感情が向いた鑑賞中でした。
そういえば大迫さんもざっくり20年以上刑事を務めているんですよね。ドラマ『MIU404』のガマさんに一瞬思いを馳せていました。ふと思い出すと米ドラマ『The Mentalist』や『NCIS』だと現場に出てくる定年後の刑事ってあんまり出てこない印象があるなぁとも考えていました。『The Mentalist』に至っては『MIU404』の陣馬さんポジションのレギュラーいなかったような🤔ミネリはマメジかな……
「全部終わりだよ」とくずおれる細野、にやつく大迫と山本さんのやりとり、続く由香ちゃんとのシーンはただ呆然と見ていました。目も合わせてもらえないまま「お願いです、出ていってください」と泣かれて土下座されて、敷居を挟んで立ち尽くす山本さん……
ここで気づいたのですが、どのあたりからか山本さんのセリフがどんどん少なくなってってる気がしました。元々しゃべる立ち回りはしない山本さんでしたがますます口を開かなくなって……いたような……
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まばたきもしないでないてるの… 病院にかけつけた山本さんが危篤状態の柴咲さんに「まだ親父って呼んでくれるんだなぁ」と言われてまばたきもせずぽろぽろ涙をこぼすシーン。微笑んで「俺の父親は親父だけです」のように返す声で心臓がぎゅっとしました…
このシーン、不謹慎ですが見入ってしまいました。綺麗だった……
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6組「彩」ってしんどさよ… 転校?の挨拶をするあやちゃんの左奥、教室の壁に大きく貼られたクラスの標語が皮肉すぎました。名前の漢字、あやちゃん「彩」じゃなかったっけ……
このシーン山本さんが事務所から由香ちゃんの携帯に留守電を残すモノローグが入っていて嫌な予感しかしなくてずっと心臓ばくばくしていました。 そして帰宅すると家がからっぽの細野………土砂降り……
そして半グレの仲間達と金属バット持参で傘もささず父の仇のもとへ向かう翼くんと、その時にはもう着手している山本さん。返り血を浴びた表情がまさに背中の修羅そのものでした……担架で運び出されていた大迫はまだ息があったのか否か……
血まみれのまま朝方の堤防でぽやっと煙草を吸って2、3回軽く咳き込む山本さん、バイクの音が3人分聞こえてたような…… そして泣いてる細野……
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このカットがチラシなの!? 心の底から思いました。「ただ、愛した」という短いコピーと薄い空の色にどんな場面なんだろうと思っていたので、ここかぁと胸が熱くなりました。
刺されながら抱きしめて「ごめんな」と返事をする山本さんの体からどんどん力が抜けて、それでも溢れるほどの愛情がそこにあったような気がして息を呑みました。 細野の右頬にべったりと血が残っているのが脳裏に焼き付いています。
そして冒頭の沈む山本さん。海水の中で目を開けて、海面に手を伸ばそうとするような動作をしていたと思うのですが正直泣いててあんまり見えてませんでした。早く次見に行きたい……
後日、大きな白い花束を持って堤防に来てくれる翼くん。山本が吸っていたセッターを一口吸ってから箱ごと供えて立ち去ろうとするとあやちゃんが入れ違いでやってくるシーンがまた最高に好きでした。
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お母さんゆずりのグイグイ…… 翼くんに「あんたヤクザ?」とどストレートな質問を投げかけ、「お父さんってどんな人だったの」と質問を重ねるあやちゃんに、夜明けの海岸で山本さんにグイグイ質問していた由香ちゃんを垣間見て涙腺にきました。その後の翼くんの表情の変遷がまためちゃめちゃ好きでした……
血を分けた家族、血や肉の繋がりを超えた家族、いろいろな家族が描かれる中で、ただ愛した人たちと一緒にいたかった山本さんの人生を時系列で見せてもらえてしばらく放心していました。 幸せは人によって異なり、一緒にいたい人と築く家族の形も世帯の数だけ存在すると改めて思いつつ、山本さんが幸せだった時間も一緒に見せてもらえたことが私にとって幸せでした。
感想何かちょっといい感じの感想で〆たかったのですが全然なにもまとまっていないので月間シナリオ2月号で掲載されているという台本を読みつつ1月29日を待ちます。あと円盤にインタビューやオーコメや未公開映像があったらいいな〜と思いつつ円盤も待ちます。あと今後藤井監督や綾野剛さん・舘ひろしさんをはじめとしたみなさんが今後いろんな媒体でまた『ヤクザと家族 The Family』について言及される機会があるだろうと願いつつ各種媒体おっかけながら生き延びます。生きます。
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skf14 · 5 years ago
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11180143
愛読者が、死んだ。
いや、本当に死んだのかどうかは分からない。が、死んだ、と思うしか、ないのだろう。
そもそも私が小説で脚光を浴びたきっかけは、ある男のルポルタージュを書いたからだった。数多の取材を全て断っていた彼は、なぜか私にだけは心を開いて、全てを話してくれた。だからこそ書けた、そして注目された。
彼は、モラルの欠落した人間だった。善と悪を、その概念から全て捨て去ってしまっていた。人が良いと思うことも、不快に思うことも、彼は理解が出来ず、ただ彼の中のルールを元に生きている、パーソナリティ障害の一種だろうと私は初めて彼に会った時に直感した。
彼は、胸に大きな穴を抱えて、生きていた。無論、それは本当に穴が空いていたわけではないが、彼にとっては本当に穴が空いていて、穴の向こうから人が行き交う景色が見え、空虚、虚無を抱いて生きていた。不思議だ。幻覚、にしては突拍子が無さすぎる。幼い頃にスコンと空いたその穴は成長するごとに広がっていき、穴を埋める為、彼は試行し、画策した。
私が初めて彼に会ったのは、まだ裁判が始まる前のことだった。弁護士すらも遠ざけている、という彼に、私はただ、簡単な挨拶と自己紹介と、そして、「理解しない人間に理解させるため、言葉を紡ぎませんか。」と書き添えて、名刺と共に送付した。
その頃の私は書き殴った小説未満をコンテストに送り付けては、音沙汰のない携帯を握り締め、虚無感溢れる日々をなんとか食い繋いでいた。いわゆる底辺、だ。夢もなく、希望もなく、ただ、人並みの能がこれしかない、と、藁よりも脆い小説に、私は縋っていた。
そんな追い込まれた状況で手を伸ばした先が、極刑は免れないだろう男だったのは、今考えてもなぜなのか、よくわからない。ただ、他の囚人に興味があったわけでもなく、ルポルタージュが書きたかったわけでもなく、ただ、話したい。そう思った。
夏の暑い日のことだった。私の家に届いた茶封筒の中には白無地の紙が一枚入っており、筆圧の無い薄い鉛筆の字で「8月24日に、お待ちしています。」と、ただ一文だけが書き記されていた。
こちらから申し込むのに囚人側から日付を指定してくるなんて、風変わりな男だ。と、私は概要程度しか知らない彼の事件について、一通り知っておこうとパソコンを開いた。
『事件の被疑者、高山一途の家は貧しく、母親は風俗で日銭を���ぎ、父親は勤めていた会社でトラブルを起こしクビになってからずっと、家で酒を飲んでは暴れる日々だった。怒鳴り声、金切声、過去に高山一家の近所に住んでいた住人は、幾度となく喧嘩の声を聞いていたという。高山は友人のない青春時代を送り、高校を卒業し就職した会社でも活躍することは出来ず、社会から孤立しその精神を捻じ曲げていった。高山は己の不出来を己以外の全てのせいだと責任転嫁し、世間を憎み、全てを恨み、そして凶行に至った。
被害者Aは20xx年8月24日午後11時過ぎ、高山の自宅において後頭部をバールで殴打され殺害。その後、高山により身体をバラバラに解体された後ミンチ状に叩き潰された。発見された段階では、人間だったものとは到底思えず修復不可能なほどだったという。
きっかけは近隣住民からの異臭がするという通報だった。高山は殺害から2週間後、Aさんだった腐肉と室内で戯れている所を発見、逮捕に至る。現場はひどい有り様で、近隣住民の中には体調を崩し救急搬送される者もいた。身体に、腐肉とそこから滲み出る汁を塗りたくっていた高山は抵抗することもなく素直に同行し、Aさん殺害及び死体損壊等の罪を認めた。初公判は※月※日予定。』
いくつも情報を拾っていく中で、私は唐突に、彼の名前の意味について気が付き、二の腕にぞわりと鳥肌が立った。
一途。イット。それ。
あぁ、彼は、ずっと忌み嫌われ、居場所もなくただ産み落とされたという理由で必死に生きてきたんだと、何も知らない私ですら胸が締め付けられる思いがした。私は頭に入れた情報から憶測を全て消し、残った彼の人生のカケラを持って、刑務所へと赴いた。
「こんにちは。」
「こんにちは。」
「失礼します。」
「どうぞ。」
手錠と腰縄を付けて出てきた青年は、私と大して歳の変わらない、人畜無害、悪く言えば何の印象にも残らない、黒髪と、黒曜石のような真っ黒な瞳の持ち主だった。奥深い、どこまでも底のない瞳をつい値踏みするように見てしまって、慌てて促されるままパイプ椅子へと腰掛けた。彼は開口一番、私の書いている小説のことを聞いた。
「何か一つ、話してくれませんか。」
「え、あ、はい、どんな話がお好きですか。」
「貴方が一番好きな話を。」
「分かりました。では、...世界から言葉が消えたなら。」
私の一番気に入っている話、それは、10万字話すと��んでしまう奇病にかかった、愛し合う二人の話。彼は朗読などしたこともない、世に出てすらいない私の拙い小説を、目を細めて静かに聞いていた。最後まで一度も口を挟むことなく聞いているから、読み上げる私も自然と力が入ってしまう。読み終え、余韻と共に顔を上げると、彼はほろほろ、と、目から雫を溢していた。人が泣く姿を、こんなにまじまじと見たのは初めてだった。
「だ、大丈夫ですか、」
「えぇ。ありがとうございます。」
「あの、すみません、どうして私と、会っていただけることになったんでしょうか。」
ふるふる、と犬のように首を振った彼はにこり、と機械的にはにかんで、机に手を置き私を見つめた。かしゃり、と決して軽くない鉄の音が、無機質な部屋に響く。
「僕に大してアクションを起こしてくる人達は皆、同情や好奇心、粗探しと金儲けの匂いがしました。送られてくる手紙は全て下手に出ているようで、僕を品定めするように舐め回してくる文章ばかり。」
「...それは、お察しします。」
「でも、貴方の手紙には、「理解しない人間に理解させるため、言葉を紡ぎませんか。」と書かれていた。面白いな、って思いませんか。」
「何故?」
「だって、貴方、「理解させる」って、僕と同じ目線に立って、物を言ってるでしょう。」
「.........意識、していませんでした。私はただ、憶測が嫌いで、貴方のことを理解したいと、そう思っただけです。」
「また、来てくれますか。」
「勿論。貴方のことを、少しずつでいいので、教えてくれますか。」
「一つ、条件があります。」
「何でしょう。」
「もし本にするなら、僕の言葉じゃなく、貴方の言葉で書いて欲しい。」
そして私は、彼の元へ通うことになった。話を聞けば聞くほど、彼の気持ちが痛いほど分かって、いや、分かっていたのかどうかは分からない。共鳴していただけかもしれない、同情心もあったかもしれない、でも私はただただあくる日も、そのあくる日も、私の言葉で彼を表し続けた。私の記した言葉を聞いて、楽しそうに微笑む彼は、私の言葉を最後まで一度も訂正しなかった。
「貴方はどう思う?僕の、したことについて。」
「...私なら、諦めてしまって、きっと得物を手に取って終わってしまうと思います。最後の最後まで、私が満たされることよりも、世間を気にしてしまう。不幸だと己を憐れんで、見えている答えからは目を背けて、後悔し続けて死ぬことは、きっと貴方の目から見れば不思議に映る、と思います。」
「理性的だけど、道徳的な答えではないね。普通はきっと、「己を満たす為に人を殺すのは躊躇う」って、そう答えるんじゃないかな。」
「でも、乾き続ける己のままで生きることは耐え難い苦痛だった時、己を満たす選択をしたことを、誰が責められるんでしょうか。」
「...貴方に、もう少し早く、出逢いたかった。」
ぽつり、零された言葉と、アクリル板越しに翳された掌。温度が重なることはない。触れ合って、痛みを分かち合うこともない。来園者の真似をする猿のように、彼の手に私の手を合わせて、ただ、じっとその目を見つめた。相変わらず何の感情もない目は、いつもより少しだけ暖かいような、そんな気がした。
彼も、私も、孤独だったのだと、その時初めて気が付いた。世間から隔離され、もしくは自ら距離を置き、人間が信じられず、理解不能な数億もの生き物に囲まれて秩序を保ちながら日々歩かされることに抗えず、翻弄され。きっと彼の胸に空いていた穴は、彼が被害者を殺害し、埋めようと必死に肉塊を塗りたくっていた穴は、彼以外の人間が、もしくは彼が、無意識のうちに彼から抉り取っていった、彼そのものだったのだろう。理解した瞬間止まらなくなった涙を、彼は拭えない。そうだった、最初に私の話で涙した彼の頬を撫でることだって、私には出来なかった。私と彼は、分かり合えたはずなのに、分かり合えない。私の言葉で作り上げた彼は、世間が言う狂人でも可哀想な子でもない、ただ一人の、人間だった。
その数日後、彼が獄中で首を吊ったという報道が流れた時、何となく、そうなるような気がしていて、それでも私は、彼が味わったような、胸に穴が開くような喪失感を抱いた。彼はただ、理解されたかっただけだ。理解のない人間の言葉が、行動が、彼の歩く道を少しずつ曲げていった。
私は書き溜めていた彼の全てを、一冊の本にした。本のタイトルは、「今日も、皮肉なほど空は青い。」。逮捕された彼が手錠をかけられた時、部屋のカーテンの隙間から空が見えた、と言っていた。ぴっちり閉じていたはずなのに、その時だけひらりと翻った暗赤色のカーテンの間から顔を覗かせた青は、目に刺さって痛いほど、青かった、と。
出版社は皆、猟奇的殺人犯のノンフィクションを出版したい、と食い付いた。帯に著名人の寒気がする言葉も書かれた。私の名前も大々的に張り出され、重版が決定し、至る所で賛否両論が巻き起こった。被害者の遺族は怒りを露わにし、会見で私と、彼に対しての呪詛をぶちまけた。
インタビュー、取材、関わってくる人間の全てを私は拒否して、来る日も来る日も、読者から届く手紙、メール、SNS上に散乱する、本の感想を読み漁り続けた。
そこに、私の望むものは何もなかった。
『あなたは犯罪者に対して同情を誘いたいんですか?』
私がいつ、どこに、彼を可哀想だと記したのだろう。
『犯罪者を擁護したいのですか?理解出来ません。彼は人を殺したんですよ。』
彼は許されるべきだとも、悪くない、とも私は書いていない。彼は素直に逮捕され、正式な処罰ではないが、命をもって罪へ対応した。これ以上、何をしろ、と言うのだろう。彼が跪き頭を地面に擦り付け、涙ながらに謝罪する所を見たかったのだろうか。
『とても面白かったです。狂人の世界が何となく理解出来ました。』
何をどう理解したら、この感想が浮かぶのだろう。そもそもこの人は、私の本を読んだのだろうか。
『作者はもしかしたら接していくうちに、高山を愛してしまったのではないか?贔屓目の文章は公平ではなく気持ちが悪い。』
『全てを人のせいにして自分が悪くないと喚く子供に殺された方が哀れでならない。』
『結局人殺しの自己正当化本。それに手を貸した筆者も同罪。裁かれろ。』
『ただただ不快。皆寂しかったり、一人になる瞬間はある。自分だけが苦しい、と言わんばかりの態度に腹が立つ。』
『いくら貰えるんだろうなぁ筆者。羨ましいぜ、人殺しのキチガイの本書いて金貰えるなんて。』
私は、とても愚かだったのだと気付かされた。
皆に理解させよう、などと宣って、彼を、私の言葉で形作ったこと。裏を返せば、その行為は、言葉を尽くせば理解される、と、人間に期待をしていたに他ならない。
私は、彼によって得たわずかな幸福よりも、その後に押し寄せてくる大きな悲しみ、不幸がどうしようもなく耐え難く、心底、己が哀れだった。
胸に穴が空いている、と言う幻覚を見続けた彼は、穴が塞がりそうになるたび、そしてまた無機質な空虚に戻るたび、こんな痛みを感じていたのだろうか。
私は毎日、感想を読み続けた。貰った手紙は、読んだものから燃やしていった。他者に理解される、ということが、どれほど難しいのかを、思い知った。言葉を紡ぐことが怖くなり、彼を理解した私ですら、疑わしく、かといって己と論争するほどの気力はなく、ただ、この世に私以外の、彼の理解者は現れず、唯一の彼の理解者はここにいても、もう彼の話に相槌を打つことは叶わず、陰鬱とする思考の暗闇の中を、堂々巡りしていた。
思考を持つ植物になりたい、と、ずっと思っていた。人間は考える葦である、という言葉が皮肉に聞こえるほど、私はただ、一人で、誰の脳にも引っ掛からず、狭間を生きていた。
孤独、などという言葉で表すのは烏滸がましいほど、私、彼が抱えるソレは哀しく、決して治らない不治の病のようなものだった。私は彼であり、彼は私だった。同じ境遇、というわけではない。赤の他人。彼には守るべき己の秩序があり、私にはそんな誇り高いものすらなく、能動的、怠惰に流されて生きていた。
彼は、目の前にいた人間の頭にバールを振り下ろす瞬間も、身体をミンチにする工程も、全て正気だった。ただ心の中に一つだけ、それをしなければ、生きているのが恐ろしい、今しなければずっと後悔し続ける、胸を掻きむしり大声を上げて暴れたくなるような焦燥感、漠然とした不安感、それらをごちゃ混ぜにした感情、抗えない欲求のようなものが湧き上がってきた、と話していた。上手く呼吸が出来なくなる感覚、と言われて、思わず己の胸を抑えた記憶が懐かしい。
出版から3ヶ月、私は感想を読むのをやめた。人間がもっと憎らしく、恐ろしく、嫌いになった。彼が褒めてくれた、利己的な幸せの話を追い求めよう。そう決めた。私の秩序は、小説を書き続けること。嗚呼と叫ぶ声を、流れた血を、光のない部屋を、全てを飲み込む黒を文字に乗せて、上手く呼吸すること。
出版社は、どこも私の名前を見た瞬間、原稿を送り返し、もしくは廃棄した。『君も人殺したんでしょ?なんだか噂で聞いたよ。』『よくうちで本出せると思ったね、君、自分がしたこと忘れたの?』『無理ですね。会社潰したくないので。』『女ならまだ赤裸々なセックスエッセイでも書かせてやれるけど、男じゃ使えないよ、いらない。』数多の断り文句は見事に各社で違うもので、私は感嘆すると共に、人間がまた嫌いになった。彼が乗せてくれたから、私の言葉が輝いていたのだと痛感した。きっとあの本は、ノンフィクション、ルポルタージュじゃなくても、きっと人の心に突き刺さったはずだと、そう思わずにはいられなかった。
以前に働いていた会社は、ルポの出版の直前に辞表を出した。私がいなくても、普段通り世界は回る。著者の実物を狂ったように探し回っていた人間も、見つからないと分かるや否や他の叩く対象を見つけ、そちらで楽しんでいるようだった。私の書いた彼の本は、悪趣味な三流ルポ、と呼ばれた。貯金は底を尽きた。手当たり次第応募して見つけた仕事で、小銭を稼いだ。家賃と、食事に使えばもう残りは硬貨しか残らない、そんな生活になった。元より、彼の本によって得た利益は、全て燃やしてしまっていた。それが、正しい末路だと思ったからだったが、何故と言われれば説明は出来ない。ただ燃えて、真っ赤になった札が灰白色に色褪せ、風に脆く崩れていく姿を見て、幸せそうだと、そう思った。
名前を伏せ、webサイトで小説を投稿し始めた。アクセス数も、いいね!も、どうでも良かった。私はただ秩序を保つために書き、顎を上げて、夜店の金魚のように、浅い水槽の中で居場所なく肩を縮めながら、ただ、遥か遠くにある空を眺めては、届くはずもない鰭を伸ばした。
ある日、web上のダイレクトメールに一件のメッセージが入った。非難か、批評か、スパムか。開いた画面には文字がつらつらと記されていた。
『貴方の本を、販売当時に読みました。明記はされていませんが、某殺人事件のルポを書かれていた方ですか?文体が、似ていたのでもし勘違いであれば、すみません。』
断言するように言い当てられたのは初めてだったが、画面をスクロールする指はもう今更震えない。
『最新作、読みました。とても...哀しい話でした。ゾンビ、なんてコミカルなテーマなのに、貴方はコメをトラにしてしまう才能があるんでしょうね。悲劇。ただ、二人が次の世界で、二人の望む幸せを得られることを祈りたくなる、そんな話でした。過去作も、全て読みました。目を覆いたくなるリアルな描写も、抽象的なのに五感のどこかに優しく触れるような比喩も、とても素敵です。これからも、書いてください��』
コメとトラ。私が太宰の「人間失格」を好きな事は当然知らないだろうに、不思議と親近感が湧いた。単純だ。と少し笑ってから、私はその奇特な人間に一言、返信した。
『私のルポルタージュを読んで、どう思われましたか。』
無名の人間、それも、ファンタジーやラブコメがランキング上位を占めるwebにおいて、埋もれに埋もれていた私を見つけた人。だからこそ聞きたかった。例えどんな答えが返ってきても構わなかった。もう、罵詈雑言には慣れていた。
数日後、通知音に誘われて開いたDMには、前回よりも短い感想が送られてきていた。
『人を殺めた事実を別にすれば、私は少しだけ、彼の気持ちを理解出来る気がしました。。彼の抱いていた底なしの虚無感が見せた胸の穴も、それを埋めようと無意識のうちに焦がれていたものがやっと現れた時の衝動。共感は微塵も出来ないが、全く理解が出来ない化け物でも狂人でもない、赤色を見て赤色だと思う一人の人間だと思いました。』
何度も読み返していると、もう1通、メッセージが来た。惜しみながらも画面をスクロールする。
『もう一度読み直して、感想を考えました。外野からどうこう言えるほど、彼を軽んじることが出来ませんでした。良い悪いは、彼の起こした行動に対してであれば悪で、それを彼は自死という形で償った。彼の思考について善悪を語れるのは、本人だけ。』
私は、画面の向こうに現れた人間に、頭を下げた。見えるはずもない。自己満足だ。そう知りながらも、下げずにはいられなかった。彼を、私を、理解してくれてありがとう。それが、私が愛読者と出会った瞬間だった。
愛読者は、どうやら私の作風をいたく気に入ったらしかった。あれやこれや、私の言葉で色んな世界を見てみたい、と強請った。その様子はどこか彼にも似ている気がして、私は愛読者の望むまま、数多の世界を創造した。いっそう創作は捗った。愛読者以外の人間は、ろくに寄り付かずたまに冷やかす輩が現れる程度で、私の言葉は、世間には刺さらない。
まるで神にでもなった気分だった。初めて小説を書いた時、私の指先一つで、人が自由に動き、話し、歩き、生きて、死ぬ。理想の愛を作り上げることも、到底現実世界では幸せになれない人を幸せにすることも、なんでも出来た。幸福のシロップが私の脳のタンパク質にじゅわじゅわと染みていって、甘ったるいスポンジになって、溢れ出すのは快楽物質。
そう、私は神になった。上から下界を見下ろし、手に持った無数の糸を引いて切って繋いでダンス。鼻歌まじりに踊るはワルツ。喜悲劇とも呼べるその一人芝居を、私はただ、演じた。
世の偉いベストセラー作家も、私の敬愛する文豪も、ポエムを垂れ流す病んだSNSの住人も、暗闇の中で自慰じみた創作をして死んでいく私も、きっと書く理由なんて、ただ楽しくて気持ちいいから。それに尽きるような気がする。
愛読者は私の思考をよく理解し、ただモラルのない行為にはノーを突きつけ、感想を欠かさずくれた。楽しかった。アクリルの向こうで私の話を聞いていた彼は、感想を口にすることはなかった。核心を突き、時に厳しい指摘をし、それでも全ての登場人物に対して寄り添い、「理解」してくれた。行動の理由を、言動の意味を、目線の行く先を、彼らの見る世界を。
一人で歩いていた暗い世界に、ぽつり、ぽつりと街灯が灯っていく、そんな感覚。じわりじわり暖かくなる肌触りのいい空気が私を包んで、私は初めて、人と共有することの幸せを味わった。不変を自分以外に見出し、脳内を共鳴させることの価値を知った。
幸せは麻薬だ、とかの人が説く。0の状態から1の幸せを得た人間は、気付いた頃にはその1を見失う。10の幸せがないと、幸せを感じなくなる。人間は1の幸せを持っていても、0の時よりも、不幸に感じる。幸福感という魔物に侵され支配されてしまった哀れな脳が見せる、もっと大きな、訪れるはずと信じて疑わない幻影の幸せ。
私はさしずめ、来るはずのプレゼントを玄関先でそわそわと待つ少女のように無垢で、そして、馬鹿だった。無知ゆえの、無垢の信頼ゆえの、馬鹿。救えない。
愛読者は姿を消した。ある日話を更新した私のDMは、いつまで経っても鳴らなかった。震える手で押した愛読者のアカウントは消えていた。私はその時初めて、愛読者の名前も顔も性別も、何もかもを知らないことに気が付いた。遅すぎた、否、知っていたところで何が出来たのだろう。私はただ、愛読者から感想という自己顕示欲を満たせる砂糖を注がれ続けて、その甘さに耽溺していた白痴の蟻だったのに。並ぶ言葉がざらざらと、砂時計の砂の如く崩れて床に散らばっていく幻覚が見えて、私は端末を放り投げ、野良猫を落ち着かせるように布団を被り、何がいけなかったのかをひとしきり考え、そして、やめた。
人間は、皆、勝手だ。何故か。皆、自分が大事だからだ。誰も守ってくれない己を守るため、生きるため、人は必死に崖を這い上がって、その途中で崖にしがみつく他者の手を足場にしていたとしても、気付く術はない。
愛読者は何も悪くない。これは、人間に期待し、信用という目に見えない清らかな物を崇拝し、焦がれ、浅はかにも己の手の中に得られると勘違いし小躍りした、道化師の喜劇だ。
愛読者は今日も、どこかで息をして、空を見上げているのだろうか。彼が亡くなった時と同じ感覚を抱いていた。彼が最後に見た澄んだ空。私が、諦観し絶望しながらも、明日も見るであろう狭い空。人生には不幸も幸せもなく、ただいっさいがすぎていく、そう言った27歳の太宰の言葉が、彼の年に近付いてからやっと分かるようになった。そう、人が生きる、ということに、最初から大して意味はない。今、人間がヒエラルキーの頂点に君臨し、80億弱もひしめき合って睨み合って生きていることにも、意味はない。ただ、そうあったから。
愛読者が消えた意味も、彼が自ら命を絶った理由も、考えるのをやめよう。と思った。呼吸代わりに、ある種の強迫観念に基づいて狂ったように綴っていた世界も、閉じたところで私は死なないし、私は死ぬ。最早私が今こうして生きているのも、植物状態で眠る私の見ている長い長い夢かもしれない。
私は思考を捨て、人でいることをやめた。
途端に、世界が輝きだした。全てが美しく見える。私が今ここにあることが、何よりも楽しく、笑いが止まらない。鉄線入りの窓ガラスが、かの大聖堂のステンドグラスよりも耽美に見える。
太宰先生、貴方はきっと思考を続けたから、あんな話を書いたのよ。私、今、そこかしこに檸檬を置いて回りたいほど愉快。
これがきっと、幸せ。って呼ぶのね。
愛読者は死んだ。もう戻らない。私の世界と共に死んだ、と思っていたが、元から生きても死んでもいなかった。否、生きていて、死んでいた。シュレディンガーの猫だ。
「嗚呼、私、やっぱり、
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isakicoto2 · 4 years ago
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青と金色
■サイレンス
この部屋のインターフォンも灰色のボタンも、だいぶ見慣れてきた。指で押し込めて戻すと、ピーンポーンと内側に引っ込んだような軽い電子音が鳴る。まだこの地に来た頃はこうやって部屋主を呼び出して待つのが不思議な気分だった。鍵は開かれていたし、裏口だって知っていたから。 「…さむっ」 ひゅうう、と冷たい風が横から吹き込んで、思わずそう呟いて肩を縮めた。今週十二月に入ったばかりなのに、日が落ちると驚くほど冷え込む。今日に限って天気予報を観ていなかったけれど、今夜はいつもと比べても一段と寒いらしい。 近いし、どうせすぐだからと、ろくに防寒のことを考えずに部屋を出てきたのは失敗だった。目についた適当なトレーナーとパンツに着替え、いつものモッズコートを羽織った。おかげで厚みは足りないし、むき出しの両手は指先が赤くなるほど冷えてしまっている。こんなに寒いのならもっとしっかりと重ね着してこれば良かった。口元が埋まるくらいマフラーをぐるぐるに巻いてきたのは正解だったけれど。 いつもどおりインターフォンが繋がる気配はないけれど、その代わりに扉の奥からかすかに足音が近付く。カシャリ、と内側から錠の回る音がして目の前の扉が開かれた。 「おつかれ、ハル」 部屋の主は片手で押すように扉を開いたまま、咎めることも大仰に出迎えることもなく、あたたかい灯りを背にして、ただ静かにそこに佇んでいた。 「やっと来たか」 「はは、レポートなかなか終わらなくって…。遅くなっちゃってごめんね」 マフラー越しに笑いかけると、遙は小さく息をついたみたいだった。一歩進んで内側に入り、重たく閉じかける扉を押さえてゆっくりと閉める。 「あ、ここで渡しちゃうからいいよ」 そのまま部屋の奥に進もうとする遙を呼び止めて、玄関のたたきでリュックサックを開けようと背から下ろした。 遙に借りていたのはスポーツ心理学に関する本とテキストだった。レポート課題を進めるのに内容がちょうど良かったものの自分の大学の図書館では既に貸し出し中で、書店で買うにも版元から取り寄せるのに時間がかかるとのことだった。週明けの午後の講義で遙が使うからそれまでには返す、お互いの都合がつく日曜日の夕方頃に部屋に渡しに行く、と約束していたのだ。行きつけのラーメン屋で並んで麺を啜っていた、週の頭のことだった。 「いいから上がれよ」遙は小さく振り返りながら促した。奥からほわんとあたたかい空気が流れてくる。そこには食べ物やひとの生活の匂いが確かに混じっていて、色に例えるなら、まろやかなクリーム色とか、ちょうど先日食べたラーメンのスープみたいなあたたかい黄金色をしている。それにひとたび触れてしまうと、またすぐに冷えた屋外を出て歩くために膨らませていた気力が、しるしるとしぼんでしまうのだ。 雪のたくさん降る場所に生まれ育ったくせに、寒いのは昔から得意じゃない。遙だってそのことはよく知っている。もちろん、帰ってやるべきことはまだ残っている。けれどここは少しだけ優しさに甘えようと決めた。 「…うん、そうだね。ありがと、ハル」 お邪魔しまーす。そう小さく呟いて、脱いだ靴を揃える。脇には見慣れたスニーカーと、濃い色の革のショートブーツが並んでいた。首に巻いたマフラーを緩めながら短い廊下を歩き進むうちに、程よくあたためられた空気に撫ぜられ、冷えきった指先や頬がぴりぴりと痺れて少しだけ痒くなる。 キッチンの前を通るときに、流しに置かれた洗いかけの食器や小鍋が目に入った。どうやら夕食はもう食べ終えたらしい。家を出てくる前までは課題に夢中だったけれど、意識すると、空っぽの胃袋が悲しげにきゅうと鳴った。昼は簡単な麺類で済ませてしまったから、帰りにがっつり肉の入ったお弁当でも買って帰ろう。しぼんだ胃袋をなぐさめるようにそう心に決めた。 「外、風出てきたから結構寒くってさ。ちょっと歩いてきただけなのに冷えちゃった」 「下旬並だってテレビで言ってた。わざわざ来させて悪かったな」 「ううん、これ貸してもらって助かったよ。レポートもあと少しで終わるから、今日はちゃんと寝られそう……」 遙に続いてリビングに足を踏み入れ、そこまで口にしたところで言葉が詰まってしまった。ぱちり、ぱちりと大きく瞬きをして眼下の光景を捉え直す。 部屋の真ん中に陣取って置かれているのは、彼の実家のものより一回り以上小さいサイズの炬燵だ。遙らしい大人しい色合いの炬燵布団と毛布が二重にして掛けられていて、丸みがかった正方形の天板が上に乗っている。その上にはカバーに入ったティッシュ箱だけがちょんとひとつ置かれていた。前回部屋に訪れたときにはなかったものだ。去年は持っていなくて、今年は買いたいと言っていたことを思い出す。けれど、それはさして驚くようなことでもない。 目を奪われたのは、その場所に半分身を埋めて横になり、座布団を枕にして寝息を立てている人物のことだった。 「…えっ、ええっ? 凛!?」 目の前で眠っているのは、紛れもなく、あの松岡凛だった。普段はオーストラリアにいるはずの、同郷の大切な仲間。凛とはこの夏、日本国内の大会に出ていた時期に会って以来、メールやメディア越しにしか会えていなかった。 「でかい声出すな、凛が起きる」 しいっと遙が小声で咎めてくる。あっ、と慌てたけれど、当の凛は起きるどころか身じろぐこともなく、ぐっすりと深く眠ってしまっているようだった。ほっと胸を撫で下ろす。 「ああ、ご、ごめんね…」 口をついて出たものの、誰に、何に対してのごめんなのか自分でもよく分からない。凛がここにいるとは予想だにしていなかったから、ひどく驚いてしまった。 凛は今までも、自分を含め東京に住んでいる友達の部屋に泊まっていくことがあった。凛は東京に住まいを持たない。合宿や招待されたものならば宿が用意されるらしいけれど、そうでない用事で東京に訪れることもしばしばあるのだそうだ。その際には、自費で安いビジネスホテルを使うことになる。一泊や二泊ならともかく、それ以上連泊になると財布への負担も大きいことは想像に難くない。 東京には少なくとも同級生だけで遙と貴澄と自分が住んでいる。貴澄は一人暮らしでないからきっと勝手も違うのだろうが、遙と自分はその点都合が良い。特に遙は同じ道を歩む選手同士だ。凛自身はよく遠慮もするけれど、彼の夢のために、できるだけの協力はしてやりたい。それはきっと、隣に並ぶ遙も同じ気持ちなのだと思う。 とはいえ、凛が来ているのだと知っていれば、もう少し訪問の日時も考えたのに。休日の夜の、一番くつろげる時間帯。遙ひとりだと思っていたから、あまり気も遣わず来てしまったのに。 「ハル、一言くらい言ってくれればいいのに」 強く非難する気はなかったけれど、つい口をついて本音が出てしまった。あえて黙っていた遙にじとりと視線を向ける。遙はぱちり、ぱちりと目を瞬かせると、きゅっと小さく眉根を寄せ、唇を引き結んだ。 「別に…それが断わる理由にはならないだろ」 そう答えて視線を外す遙の表情には少し苦い色が含まれていて、それでまた一歩、確信に近付いたような気がした。近くで、このごろはちょっと離れて、ずっと見てきたふたりのこと。けれど今はそっと閉じて黙っておく。決してふたりを責めたてたいわけではないのだ。 「…ん、そうだね」 漂う空気を曖昧にぼかして脇にやり、「でも、びっくりしたなぁ」と声のトーンを上げた。遙は少しばつが悪そうにしていたけれど、ちらりと視線を戻してくる。困らせたかな、ごめんね、と心の中で語りかけた。 「凛がこの時期に帰ってくるなんて珍しいよね。前に連絡取り合ったときには言ってなかったのに」 「ああ…俺も、数日前に聞いた。こっちで雑誌だかテレビだかの取材を受けるとかで呼ばれたらしい」 なんでも、その取材自体は週明けに予定されていて、主催側で宿も用意してくれているらしい。凛はその予定の数日前、週の終わり際に東京にやって来て、この週末は遙の部屋に泊まっているのだそうだ。今は確かオフシーズンだけれど、かといってあちこち遊びに行けるほど暇な立場ではないのだろうし、凛自身の性格からしても、基本的に空いた時間は練習に費やそうとするはずだ。メインは公的な用事とはいえ、今回の東京訪問は彼にとってちょっとした息抜きも兼ねているのだろう。 「次に帰ってくるとしたら年末だもんね。早めの休みでハルにも会えて、ちょうど良かったんじゃない」 「それは、そうだろうけど…」 遙は炬燵の傍にしゃがみこんで、凛に視線を向けた。 「ろくに連絡せずに急に押しかけてきて…本当に勝手なやつ」 すうすうと寝息を立てる凛を見やって、遙は小さく溜め息をついた。それでも、見つめるその眼差しはやわらかい。そっと細められた瞳が何もかもを物語っている気がする。凛は、見ている限り相変わらずみたいだけれど。ふたりのそんな姿を見ていると自然と笑みがこぼれた。 ハル、あのね。心の中でこっそり語りかけながら、胸の内側にほこほことあたたかい感情が沸き上がり広がっていくのが分かった。 凛って、どんなに急でもかならず前もって連絡を取って、ちゃんと予定を確認してくるんだよ。押しかけてくるなんて、きっとそんなのハルにだけじゃないかなぁ。 なんて考えながら、それを遙に伝えるのはやめておく。凛の名誉のためだった。 視線に気付いた遙が顔を上げて、お返しとばかりにじとりとした視線を向けた。 「真琴、なんかニヤニヤしてないか」 「そんなことないよ」 つい嬉しくなって口元がほころんでいたらしい。 凛と、遙。そっと順番に視線を移して、少しだけ目を伏せる。 「ふたりとも相変わらずで本当、良かったなぁと思って」 「…なんだそれ」 遙は怪訝そうに言って、また浅く息をついた。
しばらくしておもむろに立ち上がった遙はキッチンに移動して、何か飲むか、と視線を寄こした。 「ついでに夕飯も食っていくか? さっきの余りなら出せる」 夕飯、と聞いて胃が声を上げそうになる。けれど、ここは早めにお暇しなければ。軽く手を振って遠慮のポーズをとった。 「あ、いいよいいよ。まだレポート途中だし、すぐに帰るからさ。飲み物だけもらっていい?」 遙は少し不満そうに唇をへの字に曲げてみせたけれど、「分かった、ちょっと待ってろ」と冷蔵庫を開け始めた。 逆に気を遣わせただろうか。なんだか申し訳ない気持ちを抱きながら、炬燵のほうを見やる。凛はいまだによく眠ったままだった。半分に折り畳んだ座布団を枕にして横向きに背を縮めていて、呼吸に合わせて規則正しく肩が上下している。力の抜けた唇は薄く開いていて、その無防備な寝顔はいつもよりずっと幼く、あどけないとさえ感じられた。いつもあんなにしゃんとしていて、周りを惹きつけて格好いいのに。目の前にいるのはまるで小さな子供みたいで、眺めていると思わず顔がほころんでしまう。 「凛、よく寝てるね」 「一日連れ回したから疲れたんだろ。あんまりじっと見てやるな」 あ、また。遙は何げなく言ったつもりなのだろう。けれど、やっぱり見つけてしまった。「そうだね」と笑って、また触れずに黙っておくけれど。 仕切り直すように、努めて明るく、遙に投げかけた。 「でも、取材を受けに来日するなんて、なんか凛、すっかり芸能人みたいだね」 凄いなぁ。大仰にそう言って視線を送ると、遙は、うん、と喉だけで小さく返事をした。視線は手元に落とされていながら、その瞳はどこか遠くを見つめていた。コンロのツマミを捻り、カチチ、ボッと青い火のつく音がする。静かなその横顔は、きっと凛のことを考えている。岩鳶の家で居間からよく見つめた、少し懐かしい顔だった。 こんなとき、いまここに、目の前にいるのに、とそんな野暮なことはとても言えない。近くにいるのにずっと遠くに沈んでいた頃の遙は、まだ完全には色褪せない。簡単に遠い過去に押しやって忘れることはできなかった。 しばらく黙って待っていると遙はリビングに戻って来て、手に持ったマグカップをひとつ差し出した。淹れたてのコーヒーに牛乳を混ぜたもので、あたたかく優しい色合いをしていた。 「ありがとう」 「あとこれも、良かったら食え」 貰いものだ、と小さく個包装されたバウムクーヘンを二切れ分、炬燵の上に置いた。背の部分にホワイトチョコがコーティングしてあって、コーヒーによく合いそうだった。 「ハルは優しいね」 そう言って微笑むと、遙は「余らせてただけだ」と視線を逸らした。 冷えきった両の手のひらをあたためながらマグカップを傾ける。冷たい牛乳を入れたおかげで飲みやすい温度になっていて、すぐに口をつけることができた。遙は座布団を移動させて、眠っている凛の横に座った。そうして湯気を立てるブラックのコーヒーを少しずつ傾けていた。 「この休みはふたりでどこか行ってきたの?」 遙はこくんと頷いて、手元の黒い水面を見つめながらぽつぽつと語り始めた。 「公園に連れて行って…買い物と、あと、昨日は凛が何か観たいって言うから、映画に」 タイトルを訊いたけれど、遙の記憶が曖昧で何だかよく分からなかったから半券を見せてもらった。CM予告だけ見かけたことのある洋画で、話を聞くに、実在した人物の波乱万丈な人生を追ったサクセスストーリーのようだった。 「終盤ずっと隣で泣かれたから、どうしようかと思った」 遙はそう言って溜め息をついていたけれど、きっとそのときは気が気ではなかったはずだ。声を押し殺して感動の涙を流す凛と、その隣で映画の内容どころではなくハラハラと様子を見守る遙。その光景がありありと眼前に浮かんで思わず吹き出してしまった。 「散々泣いてたくせに、終わった後は強がっているし」 「あはは、凛らしいね」 俺が泣かせたみたいで困った、と呆れた顔をしてコーヒーを口に運ぶ遙に、あらためて笑みを向けた。 「よかったね、ハル」 「…何がだ」 ふいっと背けられた顔は、やっぱり少し赤らんでいた。
そうやってしばらく話しているうちにコーヒーは底をつき、バウムクーヘンもあっという間に胃袋に消えてしまった。空になったマグカップを遙に預け、さて、と膝を立てる。 「おれ、そろそろ帰るね。コーヒーごちそうさま」 「ああ」 遙は玄関まで見送ってくれた。振り返って最後にもう一度奥を見やる。やはり、凛はまだ起きていないようだった。 「凛、ほんとにぐっすりだね。なんか珍しい」 「ああ。でも風呂がまだだから、そろそろ起こさないと」 遙はそう言って小さく息をついたけれど、あんまり困っているふうには見えなかった。 「あ、凛には来てたこと内緒にしておいてね」 念のため、そう言い添えておいた。隠すようなことではないけれど、きっと多分、凛は困るだろうから。遙は小さく首を傾げたけれど、「分かった」と一言だけ答えた。 「真琴、ちょっと待て」 錠を開けようとすると、思い出したみたいに遙はそう言って踵を返し、そうしてすぐに赤いパッケージを手にリビングから戻ってきた。 「貼るカイロ」 大きく書かれた商品名をそのまま口にする。その場で袋を開けて中身を取り出したので、貼っていけ、ということらしい。貼らずにポケットに入れるものよりも少し大きめのサイズだった。 「寒がりなんだから、もっと厚着しろよ」 確かに、今日のことに関しては反論のしようがない。完全に油断だったのだから。 「でも、ハルも結構薄着だし、人のこと言えないだろ」 着ぶくれするのが煩わしいのか、遙は昔からあまり着こまない。大して寒がる様子も見せないけれど、かつては年に一度くらい、盛大に風邪を引いていたのも知っている。 「年末に向けて風邪引かないように気を付けなよ」 「俺は大丈夫だ、こっちでもちゃんと鯖を食べてるから」 「どういう理屈だよ…って、わあっ」 「いいから。何枚着てるんだ」 言い合っているうちに遙が手荒く背中をめくってくる。「ここに貼っとくぞ」とインナーの上から腰の上あたりに、平手でぐっと押すように貼り付けられた。気が置けないといえばそうだし、扱いに変な遠慮がないというか何というか。すぐ傍で、それこそ兄弟みたいに一緒に育ってきたのだから。きっと凛には、こんな風にはしないんだろうなぁ。ふとそんな考えが頭をもたげた。 遙はなんだか満足げな顔をしていた。まぁ、きっとお互い様なんだな。そう考えながら、また少し笑ってしまった。 「じゃあまたね、おやすみ」 「ああ。気を付けて」
急にひとりになると、より強く冷たく風が吹きつける気がする。けれど、次々沸き上がるように笑みが浮かんで、足取りは来る前よりずっと軽かった。 空を仰ぐと、小さく星が見えた。深く吐いた息は霧のように白く広がった。 ほくほく、ほろほろ、それがじわじわと身体中に広がっていくみたいに。先ほど貼ってもらったカイロのせいだろうか。それもあるけれど、胸の内側、全体があたたかい。やわらかくて、ちょっと苦さもあるけれど、うんとあたたかい。ハルが、ハルちゃんが嬉しそうで、良かった。こちらまで笑みがこぼれてしまうくらいに。東京の冬の夜を、そうやってひとり歩き渡っていた。
■ハレーション
キンとどこかで音がするくらいに空気は冷えきっていた。昨日より一段と寒い、冬の早い朝のこと。 日陰になった裏道を通ると、浅く吐く息さえも白いことに気が付く。凛は相変わらず少し先を歩いて、ときどき振り返っては「はやく来いよ」と軽く急かすように先を促した。別に急ぐような用事ではないのに。ためらいのない足取りでぐんぐんと歩き進んで、凛はいつもそう言う。こちらに来いと。心のどこかでは、勝手なやつだと溜め息をついているのに、それでも身体はするすると引き寄せられていく。自然と足が前へと歩を進めていく。 たとえばブラックホールや磁石みたいな���抗いようのないものなのだと思うのは容易いことだった。手繰り寄せられるのを振りほどかない、そもそもほどけないものなのだと。そんな風に考えていたこともあった気がする。けれど、あの頃から見える世界がぐんと広がって、凛とこうやって過ごすうちに、それだけではないのかもしれないと感じ始めた。 あの場所で、凛は行こうと言った。数年も前の夏のことだ。 深い色をした長いコートの裾を揺らして、小さく靴音を鳴らして、凛は眩い光の中を歩いていく。 格好が良いな、と思う。手放しに褒めるのはなんだか恥ずかしいし、悔しいから言わないけれど。それにあまり面と向かって言葉にするのも得意ではない。 それでもどうしても、たとえばこういうとき、波のように胸に押し寄せる。海辺みたいだ。ざっと寄せて引くと濡れた跡が残って、繰り返し繰り返し、どうしようもなくそこにあるものに気付かされる。そうやって確かに、この生きものに惚れているのだと気付かされる。
目的地の公園は、住んでいるアパートから歩いて十分ほどのところにある。出入りのできる開けた場所には等間隔で二本、石造りの太い車止めが植わるように並んでいて、それを凛はするりと避けて入っていった。しなやかな動きはまるで猫のようで、見えない尻尾や耳がそこにあるみたいだった。「なんか面白いもんでもあったか?」「いや、別に」口元がゆるみかけたのをごまかすためにとっさに顔ごと、視線を脇に逸らす。「なんだよ」凛は怪訝そうな、何か言いたげな表情をしたけれど、それ以上追及することはなくふたたび前を向いた。 道を歩き進むと広場に出た。ここは小さな公園やグラウンドのような一面砂色をした地面ではなく、芝生の広場になっている。遊具がない代わりにこの辺りでは一番広い敷地なので、思う存分ボール投げをしたり走り回ったりすることができる。子供たちやペットを連れた人たちが多く訪れる場所だった。 芝生といっても人工芝のように一面青々としたものではなく、薄い色をした芝生と土がまだらになっているつくりだった。見渡すと、地面がところどころ波打ったようにでこぼこしている。区によって管理され定期的に整備されているけれど、ここはずいぶん古くからある場所なのだそうだ。どこもかしこもよく使い込まれていて、人工物でさえも経年のせいでくすんで景観に馴染んでいる。 まだらで色褪せた地面も、長い時間をかけて踏み固められていると考えれば、落ち着いてもの静かな印象を受ける。手つかずの新品のものよりかは、自分にとって居心地が良くて好ましいと思えた。 広場を囲んで手前から奥に向かい、大きく輪になるようにイチョウの木々が連なって並んでいる。凛は傍近くの木の前に足を止め、見上げるなり、すげぇなと感嘆の声を漏らした。 「一面、金色だ」 立ち止まった凛の隣に並び、倣って顔を上げる。そこには確かに、すっかり金に色付いたイチョウの葉が広がっていた。冬の薄い青空の真下に、まだ真南に昇りきらない眩い光をたっぷりと受けてきらきらと、存在を主張している。 きんいろ、と凛の言葉を小さく繰り返した。心の中でもう一度唱えてみる。なんだか自分よりも凛が口にするほうが似つかわしいように思えた。 周囲に視線を巡らせると、少し離れた木々の元で、幼い子供ふたりが高い声を上げて追いかけっこをしていた。まだ幼稚園児くらいの年の頃だろうか、頭一個分くらい身の丈の異なる男の子ふたりだった。少し離れて、その父親と母親と思しき大人が並んでその様子を見守っている。だとすると、あのふたりは兄弟だろうか。大人たちの向ける眼差しはあたたかく優しげで、眩しいものを見るみたいに細められていた。 「な、あっち歩こうぜ」 凛が視線で合図して、広場を囲む遊歩道へと促した。舗装されて整備されているそこは木々に囲まれて日陰になっているところが多い。ここはいつも湿った匂いがして、鳥の鳴き声もすぐ近くから降りそそぐように聞こえてくる。よく晴れた今日はところどころ木漏れ日が差し込み、コンクリートの地面を点々と照らしていた。 休日の朝ということもあって、犬の散歩やジャージ姿でランニングに励む人も少なくなかった。向かいから来てすれ違ったり後ろから追い越されたり。そしてその度に凛に一瞥をくれる人が少なくないことにも気付かされる。 決して目立つ服を着ているわけでもなく、髪型や風貌が特に奇抜なわけでもないのに、凛はよく人目を惹く。それは地元にいたときにも薄っすらと浮かんでいた考えだけれど、一緒に人通りの多い街を歩いたときに確信した。凛はいつだって際立っていて、埋没しない。それは自分以外の誰にとってもきっとそうなのだろう。 いい場所だなぁ。凛は何でもないみたいにそう口にして、ゆったりとした足取りで隣を歩いている。木々の向こう側、走り回る子供たちを遠く見つめていたかと思えば、すぐ脇に設けられている木のベンチに視線を巡らせ、散歩中の犬を見て顔をほころばせては楽しそうに視線で追っている。公園までの道中は「はやく」と振り返って急かしたくせに、今の凛はのんびりとしていて、景色を眺めているうちに気が付けば足を止めている。こっそり振り返りながらも小さく先を歩いていると、ぽつぽつとついてきて、すうと寄せるようにしてまた隣に並ぶ。 その横顔をちらりと伺い見る。まるで何かを確かめるかのように視線をあちらこちらに向けてはいるものの、特にこれといって変わったところもなく、そこにいるのはいつも通りの凛そのものだった。 見られる���いう行為は、意識してしまえば、少なくとも自分にとってはあまり居心地が良いものではない。時にそれは煩わしさが伴う。凛にとってはどうなのだろう。改まって尋ねたことはないけれど、良くも悪くも凛はそれに慣れているような気がする。誰にとっても、誰に対しても。凛はいつだって中心にいるから。そう考えると苦い水を飲み下したような気持ちになって、なんだか少し面白くなかった。
遊歩道の脇につくられた水飲み場は、衛生のためだろう、周りのものよりずっと真新しかった。そこだけ浮き上がったみたいに、綺麗に背を伸ばしてそこに佇んでいた。 凛はそれを一瞥するなり近付いて、側面の蛇口を捻った。ゆるくふき出した水を見て、「お、出た」と呟いたけれど、すぐに絞って口にはしなかった。 「もっと寒くなったら、凍っちまうのかな」 「どうだろうな」 東京も、うんと冷えた朝には水溜まりが凍るし、年によっては積もるほど雪が降ることだってある。水道管だって凍る日もあるかもしれない。さすがに冬ごとに凍って壊れるようなつくりにはしていないと思うけれど。そう答えると凛は、「なるほどなぁ」と頷いて小さく笑った。 それからしばらくの間、言葉を交わすことなく歩いた。凛がまた少し先を歩いて、付かず離れずその後ろを追った。ときどき距離がひらいたことに気付くと、凛はコートの裾を揺らして振り返り、静かにそこに佇んで待っていた。 秋の頃までは天を覆うほど生い茂っていた木々の葉は、しなびた色をしてはらはらと散り始めていた。きっとあの金色のイチョウの葉も、程なくして散り落ちて枝木ばかりになってしまうのだろう。 「だいぶ日が高くなってきたな」 木々の間から大きく陽が差し込んで、少し離れたその横顔を明るく照らしている。 「あっちのほうまできらきらしてる」 中央の広場の方を指し示しながら、凛が楽しげに声を上げた。示す先に、冷えた空気が陽を受け、乱反射して光っている。 「すげぇ、綺麗」 そう言って目を細めた。 綺麗だった。息を呑んで見惚れてしまうほどに。いっぱいに注がれて満ちる光の中で、すらりと伸びる立ち姿が綺麗だった。 時折見せる熱っぽい顔とは縁遠い、冴えた空気の中で照らされた頬が白く光っていた。横顔を見ていると、なめらかで美しい線なのだとあらためて気付かされる。額から眉頭への曲線、薄く開いた唇のかたち。その鼻筋をなぞってみたい。光に溶け込むと輪郭が白くぼやけて曖昧になる。眩しそうに細めた目を瞬かせて、長い睫毛がしぱしぱ、と上下した。粒が散って、これも金色なのだと思った。 そうしているうちに、やがて凛のほうからおもむろに振り返って、近付いた。 「なぁ、ハル」少し咎めるような口調だった。「さっきからなんだよ」 ぴん、と少しだけ背筋が伸びる。身構えながらも努めて平静を装い、「なにって、何だ」と問い返した。心当たりは半分あるけれど、半分ない。 そんな態度に呆れたのか凛は小さく息をついて、言った。じっと瞳の奥を見つめながら、唇で軽く転がすみたいな声色で。 「おれのこと、ずっと見てんじゃん」 どきっと心臓が跳ねた。思わず息を呑んでしまう。目を盗んでこっそり伺い見ていたのに、気付かれていないと思っていたのに、気付かれていた。ずっと、という一言にすべてを暴かれてしまったみたいで、ひどく心を乱される。崩れかけた表情を必死で繕いながら、顔ごと大きく視線を逸らした。 「み、見てない」 「見てる」 「見てない」 「おい逃げんな。見てんだろ」 「見てないって、言ってる」 押し問答に焦れたらしく凛は、「ホントかぁ?」と疑り深く呟いて眉根を寄せてみせる。探るような眼差しが心地悪い。ずい、と覗き込むようにいっそう顔を近付けられて、身体の温度が上がったのを感じた。あからさまに視線を泳がせてしまったのが自分でも分かって、舌打ちしたくなる。 「別に何でもない。普段ここへは一人で来るから、今日は凛がいるって、思って」 ���から気になって、それだけだ。言い訳にもならなかったけれど、無理矢理にそう結んでこれ以上の追及を免れようとした。 ふうん、と唇を尖らせて、凛はじとりとした視線を向け続ける。 しかしやがて諦めたのか、「ま、いいけどさ」と浅くため息をついて身を翻した。 顔が熱い。心臓がはやい。上がってしまった熱を冷まそうと、マフラーを緩めて首筋に冷気を送り込んだ。
それからしばらく歩いていくうちに遊歩道を一周して、最初の出入り口に戻ってきた。凛は足を止めると振り返り、ゆっくりと、ふたたび口を開いた。 「なぁ、ハル」今度は歩きながら歌を紡ぐみたいな、そんな調子で。 「さっきは良いっつったけどさ、おれ」 そう前置きするなり、凛はくすぐったそうに笑った。小さく喉を鳴らして、凛にしては珍しく、照れてはにかんだみたいに。 「ハルにじっと見つめられると、やっぱちょっと恥ずかしいんだよな」 なんかさ、ドキドキしちまう。 なんだよ、それ。心の中で悪態をつきながらも、瞬間、胸の内側が鷲摑みされたみたいにきゅうとしぼられた。そして少しだけ、ちくちくした。それは時にくるしいとさえ感じられるのに、その笑顔はずっと見ていたかった。目が離せずに、そのひとときだけ、時が止まったみたいだった。この生きものに、どうしようもなく惚れてしまっているのだった。 「あー…えっと、腹減ったなぁ。一旦家帰ろうぜ」 凛はわざとらしく声のトーンを上げ、くるりと背を向けた。 「…ああ」 少し早められた足取り、その後ろ姿に続いて歩いていく。 コンクリートの上でコートの裾が揺れている。陽がかかった部分の髪の色が明るい。視界の端にはイチョウの木々が並んできらめいていた。 「朝飯、やっぱ鯖?」 隣に並ぶなり凛がそっと訊ねてきた。 「ロースハム、ベーコン、粗挽きソーセージ」 冷蔵庫の中身を次々と列挙すると、凛はこぼれるように声を立てて笑ってみせた。整った顔をくしゃりとくずして、とても楽しそうに。つられて口元がほころんだ。 笑うと金色が弾けて眩しい。くすみのない、透明で、綺麗な色。まばたきの度に眼前に散って、瞼の裏にまで届いた。 やっぱり凛によく似ている。きっとそれは、凛そのものに似つかわしいのだった。
(2017/12/30)
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innocent-3 · 5 years ago
Text
「獅子身中の虫鈴木貞一」より
…皇道派の連中は概して陰性な者が多かった。真崎(甚三郎)、柳川(平助)、小畑(敏四郎)、鈴木(率道)、秦(真次)などは蛇の肌に触るようなつめたい感じがした。荒木(貞夫)は秘書官と酒のみ競争するような茶目気があり、比較的陽気なところがあった。青年将校の信望を集めたのも、一つはそのせいであったと思われる。…
 皇道派の変わり種として、いま一人の珍しい人物を紹介しておこう。鈴木貞一である。第二十二期だから鈴木率道と同期だ。支那駐在から任満ちて参謀本部に戻ったが、肝心の支那班で「彼は支那班に置くような者ではない。もっとしかるべきところに」といって収容しない。他の部課でも「ああ、こちらにはいらないよ」とみな敬して遠ざける。頭脳もよし手腕力量ともに凡庸ではないが、どういうものか同期生から好まれない。同期生といえば同胞よりも親しい。血をすすりあった盟友だ。それから排斥されるんだから、よほどの大器に違いない。それを聞いた軍事課長の永田鉄山が「それじゃ、俺のところにもらおう」という。軍事課の者が「ゲテモノ食いもたいがいにしなさい。彼を抱えこんでは課長が食われますよ」と散々忠告したが「まさか」といって採った。
 駑馬も騎手が良ければ駛る。いわんや鈴木は千里の馬だ。騎手は古今の名手と来ているから、正に天馬天をいくごとく見えた。「鈴木はいいだろう」と永田は鼻をうごめかしていた。鈴木も永田の知遇に感じたか、御奉公第一と勤めているうち世の中が変わって来た。荒木が陸相としてその一党を率いて乗り込んで来た。永田と意気投合していた小磯(国昭)は軍務局長から次官に棚上げされた。荒木の髭の塵を払わねば立身出世かなわぬ雲行になった。永田は新軍務局長山岡重厚が素人だから、従来より一倍骨を折ってこれを補佐しているが、山岡は事務などはどうでもよい。永田の言動を厳重監視するのが役目である。
 永田は人からはゲテモノ食いなど冷やかされるが、どんな者でも一芸一能に秀でている者ならばりっぱに使いこなす。鈴木など好例であるが、その他の軍事課員も一癖も二癖もある。腕に覚えのある侍どもだ。大臣がかわろうが局長が動こうが、俺は俺の道をいくという構えでジタバタする者はない。それぐらいの面魂は持っているのである。ところで、某日、筆者が山岡を訪れた。その頃はすっかり仲よしになっていた。
「おい、珍しい物を見せようか」
 山岡は応接室から自室に引き返して持って来たのは汚い鞘に納められた短刀である。
「拝見します」
 と抜いてみるとさびついている。銘はない。むろん筆者にはわからない。「何ですか」ときくと「俺にもよくわからないが、関もので兼房あたりではないかと思う。物は大したものではないが、まあ窓をあけるぐらいの価値はあろう」と卓子の上に載せ、「問題はこれを持って来た者だ。誰と思う」わかりませんと答えると「貞一だよ、鈴木貞一だよ」と言って笑う。「彼が北京とか天津とかの古物屋のガラクタの中にあったのを発見して、掘出物ではなかろうかといって持って来たんだ。彼は平素刀などひねくりまわしているのかい」と愉快そうに笑う。山岡は皮肉屋である。彼には鈴木がどういう意味でこんなものを持参したかを知っているのだ。それを筆者に言わせて拍手しようという魂胆だ。山岡が刀剣以外には何の趣味も道楽もない木強漢であることは部内周知の事実だ。酒を持ちこんでも菓子折を持参しても何の効顕もない。もし、刀剣を持ちこめば相好をくずして喜ぶ。この点はまことに弱い。持ちこむといっても贈物ではない。鑑定だ。贈物となれば少なくとも山岡の所持している以上のものでないと喜ばないだろう。現に長光とか国安とか稀代の国宝級のものを持っている。それに匹敵する物は、まず手に入るものではない。そこで鈴木はこの山岡最大の弱点をついたのである。
 山岡が積極的に悪口を言わなくなれば、皇道派の連中は大抵信用する。面と向かっても罵倒するし、陰での批判など痛烈無比だ。皇道派とは因縁のない板垣征四郎を呼ぶに、まともに言ったことはない。「板(パン)」である。「板」��また支那人にだまされてウンと金をとられた。「彼は板じゃなくて白(パイ)だよ。白痴だよ」という。金をとられたという事件の内容は忘れたが、おおむねこの類だ。彼の口に上らなかったのは武藤、荒木、真崎の三守護神くらいだが、それでも荒木については善意の悪口はのべていた。鈴木はその後も、長いもの短いもの幾口かを持ち込んでいた。山岡は役所でもろくな仕事はしていないんだから、役所に抱えて行って局長室に投げこんでおけばよいのを、わざわざ自宅に持参するところに彼の狙いがあった。かくて、皇道派のメンバーの一人の如く振舞うようになってから、永田に対する態���は次第に冷ややかになった。つめたくなるばかりではすまない。皇道派に永田の悪口を注進する。
 鈴木はしばらく新聞班長をしたことがある。上着の内ポケットがいやに硬直している。「機密費でもしこたま入れてるのかい」というと、「ばかを言え、これだ」と取り出したのは短刀だ。見ると月山貞一の作である。「僕と同名だし、なかなかいいできだろう」と得意である。 月山は帝室技芸員か何かになって、晩年は知られたが、日清戦争頃までは鍛刀の依頼者も少なく、やむなく古刀の擬物を打っていたと伝えられる。擬物でもすぐ発見されるようなものでなかったから、その技術は高い水準にあったらしい。それにしても贋物作りをするような人物は感心できない。それはそれとしても、何のために新聞班長が懐ろに短刀を呑んでいなければならないか。それほど彼の身辺は危険だったのか。真に護身用なら赤の他人に誇示するようなことはないはずである。また、手をのばせば届くところに、日本刀を仕込んだ軍刀を置いている。どこから見ても不必要だ。それを見せるキザな態度に筆者は、しばらく胸の悪くなるのを覚えた。
 斎藤内閣のとき、何かの要件で鈴木は高橋(是清)蔵相を訪れた。大いに気おって蘊蓄を傾けて老蔵相を説き、ことに陸軍予算のみならず、国家予算全体についても話したらしい。高橋は鈴木の階級も何も知らず、おそらくポストも知らなかったろうが、ともかく数字をならべて説くところがなかなか堂に入っている。感心して鈴木が出て行ったあとで、次官か秘書官かに「今来てしゃべって行った兵隊はあれは主計か」と尋ねたそうだ。この話が陸軍に伝わり鈴木の耳にも入った。「君は主計に間違えられたそうだね」というと怒るかと思いのほか、満悦である。大蔵大臣に主計と間違えられるほど、俺は数字にも明るいんだと誇りたいんだ。渋谷美竹町の彼の自邸は、佐官級としては過ぎたりっぱなものであった。応接室も広く、周囲に飾られている物はみな中国のものだ。新聞記者が行くと、なかなかの御馳走を出す。ウィスキーなんか本場物を幾種類か出し、時には上等の中国の酒を振舞う。酒好きの記者はしばしば鈴木邸を夜襲したらしい。そういうことをするのが弘報宣伝だと心得ていたのだ。
 さて、世の中はまた変わった。荒木が引っこみ林(銑十郎)が出て来た。その直後のことである。筆者は毎朝犬の運動のため、渋谷、駒場方面から方角違いの中野、杉並、八王子近くまで自転車で走りまわっていた。その途中に知りあいの家があれば、遠慮なく叩き起こす。仲には「どんなことでもきくから朝起こすのだけは勘弁してくれ」と泣きつく者もいた。家を出るのは薄暗い頃だから、運のわるい者はほんとうに夜半のつもりでいる。渋谷方面では永田も被害者の一人だ。しかし、その頃は旅団長をしていて、夜ふかしは少ないはずだから、帰途に垣根の外から「永田さん」と呼ぶ。美しい夫人が縁側に三つ指つくときは、まだ起きていない証拠だから素通りする。ところで、その朝は筆者の行ったのが少し遅くなってはいたが、珍しく庭に出て楊子をくわえている。そして先方から声をかけた。
「オイ、ニュースがあるぞ、こっちに入れ」
 永田がそんなことをいうのは稀有だ。「何ですか」と犬をつれて庭に入って縁に腰かけるとこういうのだ。
「鈴木貞一が来たんだよ。御近所まで参りましたからといってね」
「鈴木は美竹町ですぐ近所じゃありませんか。今まで訪ねなかったんですか」
「来るものか、そして省内の事情や何かをききもしないのにいろいろしゃべって行ったよ」
「閣下が軍務局長にでもなると見たんですね。ほんとうにそんな気配が感ぜられますか」
「いろいろの情報や脈引きに来る者はあるよ、だが御免だよ、毎朝馬に乗って軍隊のことばかり考えていればよい旅団長は、めったにやめるわけにはいかないよ、ことにこんな御時世ではね」
 林が就任すると間もなく、永田軍務局長説が出た。筆者は渡辺(錠太郎)から、林はつっかえ棒なしでは乗りきれない。永田は迷惑だろうが軍務局長になってもらわねばなるまい。林もその気でいる。しかし、実現するまでは新聞に書いてくれるなよ、書けば彼らが騒ぎ出すからと堅く差し止めされていた。しかし、部内でも永田出馬説がでるし、他の新聞にも書き立てている。そういう際だったので永田の真意を打診したのだが、やはり永田は出ないと言っている。けれども渡辺が強引に林を説得しているから、所詮出なければならなくなるだろう。渡辺のことは伏せておいたが、結局引っぱり出されるだろうことを話した。永田は「困る、困る」を連発して、憂鬱そうだった。
 昭和九年三月の異動で、永田は軍務局長となった。鈴木貞一は永田の下で羽ぶりをきかせたかったらしかったが、こんどは永田もそうはしない。陸大主事に追った。小畑幹事の下だからうまく行くはずだが、林陸相出現以来の鈴木の豹変振りが皇道派を痛く刺戟した。彼は何をするかわからぬという疑惑がある。俊敏な小畑がそれを見損ずることはない。新聞班長時代には千客万来だった鈴木邸にも、雀が門前に巣をかけるようになった。だが、それぐらいのことで尻尾をまくような鈴木ではない。小畑にはつとめて媚態を呈するとともに、新聞班長時代に開拓した政界という新分野に鎌首を突っこんで行った。侯爵井上三郎は砲兵大佐で現役を退き貴族院にいる。現役時代から接近している。西園寺公の秘書原田熊雄は以前から食い込んでいる。原田から近衛、木戸の方につながる。
 五・一五事件のあとではあり、政治家はみな陸軍のことを知りたがっている。それには鈴木は最もよい情報屋である。原田日記にも鈴木の名はところどころに出ているが、林が陸相辞任騒ぎをおこしたときでも、鈴木は原田に荒木、真崎らの動向を伝え、こういう風に西園寺公に報告してくれなど注文している。政友会の方では、五・一五事件が政治家のだらしなさに対する警告だったことなど忘れ、また軍部をのさばらせることが、いかなる結果を招来するかも慮らず、いたずらに政権をとりたい野心から、しきりに軍部の機嫌をとる。森恪などその第一人者だった。鈴木は森恪の存在を重視しないはずはなく、ここを窓口として政友会に近づく。かくて政界で流行児になった。現役軍人としているのもよし、退いて政界にいづるも不可なしと、彼の地盤は漸次強固になる。ここらの手腕は実に鮮やかなものであった。
 永田軍務局長時代であるが、小磯は第五師団長として広島にいた。筆者は満州からの帰途にはいつも小磯を訪問することにしていた。広島は急行列車が不便で、夜半でなければ通過しない。小磯は起きて待っている。大きな玄関を入ると上り口にりっぱな果物籠が置いてある。小磯は出迎えに出た夫人を顧みて「籠はまだ捨ててないじゃないか」となじっている。夫人は困ったという顔つきで笑っている。どうしたのかときいてみると
「その籠にはふれるな、けがらわしいんだ。名刺かなにかはさんであるだろう、それを見ればわかる」
という。電灯の光でのぞいてみると鈴木貞一の名刺だ。
「鈴木が広島を通過したが、次官の関係でお伺いできないから、閣下に宜しく伝えてくれといって、多分駅にいた憲兵にでも頼んだんだろう、俺の留守中に届けられているんだ。胸糞が悪いから捨ててしまえと言って置いたのに、まだそこに置いている」
 なるほどそれでわかった。その頃は小磯が中央部に出て、航空本部長になるかという噂がたっていた。その先物を買ったのだろうが、小磯としては次官、関東軍参謀長時代の鈴木の仕打ちには我慢ならぬものを感じていたのだ。
「捨てるのはもったいない。名刺さえ捨てておけば中身は上等な果物ばかりです。一つ食いましょう」
 と名刺を土間に捨てて、籠を持って応接室に入った。小磯は機嫌がわるい。
「そんなものを食うより、今夜は虎の肉を食おう。山下亀三郎が朝鮮か満州かで仕留めたと言って、虎の肉を送って来ているんだ。この方がさっ��りしとっていいよ」
 とさっそくすき焼きにして食ったが、肉が堅くてだめだった。それよりこの方がいいと、メロンや何かを食った。先物を買ってまた一儲けしようと考えたのだろうが、小磯は中央にもどらず、朝鮮軍司令官になった。果物は贈り損をしたわけだが、彼にもたまには目算違いがあった。…
(高宮太平『昭和の将帥』、1973年、190-197頁)
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moco-day · 6 years ago
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2019.12.12
リヴリーを博士にお返しする日が近づいてきてしまいました。いつか来ることは頭では理解していたのですが、そんな日は来ないかもしれないなとなんだかのんきな気持ちでいました。私が最初にそのお知らせを知ったのは家でカレーを作っていた時で、あまりにびっくりして涙が止まらなくなって泣きながらカレーを作りました。走馬灯のようにいろんな思い出が頭を巡って、泣きながら頭がボワボワしました。このまま頭がボワボワして行って忘れてしまったら勿体無いので、私の8年間と少しの間のリヴリーにまつわる思い出を自分の日記に記録しておこ��と思います。
◆リヴリーを知ってから研究所に入るまで
最初にリヴリーを知ったのは大学の時で、友達がリヴリーをやっていたのがきっかけでした。あまりに可愛くて洗練されたデザインに一瞬で目を奪われて、すぐに大好きになりました。(余談ですがこれ以前にバルビレッジをやっていて、友達と電話しながら『今ここにヒヨコがいるから行ったほうがいいよ!!』とかリアルタイムで白熱したプレイを楽しんでいました。恥ずかしながらまだ同じ方々が作られたゲームだったとは当時は知りませんでした。)
リヴリーを知って以来、Illustratorというソフトで絵を描くことにはまってしまい、別にイラレで描かなくてもいいイラストも一生懸命ベジェで描いたりしていました。イラレは0からの出発だったので、たくさんレイヤーを作ってしまいデータが開かなくなったり、拡大してもしても美しいままのベジェにウットリしたり、はしゃぎつつもてんやわんやでした。就活の時にあんな絵が描けたらいいなと思いリヴリーのサイトを見たのですが募集は見当たらず残念に思った事を覚えています。
そのまま時は流れ、就職して転職して、またのんきに絵を描く仕事をしていたのですが、リヴリーやグリーのハコニワが私の中でとても熱を帯びていて、何かそういうお仕事をしたい気持ちの波が猛烈にやってきました。昔からフリーランスに憧れていたのでフリーになるためにもっと色んな絵のことを勉強したいという思いがあり、当時の職場で学べることは一通り自分の中で吸収できた気がしたので次へ行きたいという思いもありました。
そこで転職活動をしようと思った矢先に、お会いしたことがなく絵もお見せしたことのない方から『リヴリーアイランドのデザイナーに応募してみませんか』という旨のメッセージが届き、『なぜ??』と思いながらも渡りに船だったのでその方に会いに行きました。どういう事なのかざっくりNARUTOで説明すると、木の葉の里の忍が大変優秀な忍ばかりだったので木の葉からの抜け忍が出た際は必ずスカウトして別の里へ紹介しているとのことでした。(私は普通の忍でしたが、確かに先輩方は大変優秀な忍ばかりでした。里の誉れです。)
その後、その方と一緒に研究所へ面接に行きました。皆さんとても優しくてホワホワした気持ちでいたのですが、途中で私の笑いのツボに入る出来事があり面接中なのにひとりで笑いが止まらなくなってしまいそのまま面接が終わりました。こんなにめちゃくちゃ笑ってしまってこの面接は落ちたと思い、帰りの電車で『すみません』と謝ったらその方がニヤリと笑って『僕は受かったと思いますよ』と言われたのが印象に残っています。後日受かったと聞いてビックリしました。
◆リヴリーの研究所に入ってから
リヴリーの研究所に入ってからはもう必死でした。必死すぎて要所要所の記憶しかないのですが、とにかく必死でした。この頃には当然モンスタースープさんを存じており、生み出されたアイテムのデフォルメのセンス、線の美しさ、ユーモア、そしてちょっぴり怪しい様子、絶妙な色彩、全てに震えあがりました。リヴリーたちのために作られた素晴らしい品の数々。改めて見て、そして描こうとすると本当に難しく、除夜の鐘の棒みたいなもので頭をごわんごわん打たれたように衝撃でした。
自分に出来ることはもうとにかく一生懸命練習して勉強して描き続けることしかないと思いました。一に努力、二に努力、三四がなくて五に努力だと心の中の努力マンもロックリーも言いました。というかそれ以外に方法が思いつきませんでした。毎日通勤途中に見るものを一つ一つ、アイテムにするとしたらどこをどう省略してどういうラインのパスを引いてどう塗るか考えながら歩いて、スケッチブックにとにかく描いて、、を繰り返して目をギラギラさせながら歩いていたのを覚えています。うまく行かなくて悔しくて帰り道に駅で泣いた事もありました。(力が足りない自分が不甲斐なくて気がついたら泣いていました。)研究所のスタッフSさんには、優しく根気強くそして丁寧にリヴリーアイランドの世界についてたくさんたくさん大切な事を教えて頂いて、今でも教えて頂いたことの一つ一つを宝物のように思っています。
研究所の方々は本当にお一人お一人が優しくて気持ちをしっかりと持ってお仕事をされていて、色んな事を色んな方から教えていただきました。絵のことだけでなく、仕事を通して本質的に大切なことも勉強させていただく機会が多く、心より感謝しております。
◆リヴリーの研究について
リヴリーの研究にも携わらせて頂いた事は、こうして日記に書き残したり研究のメモを残したりとか、そういう公開の仕方はしないつもりだったのですが、ミュラー博士にとても嬉しい言葉をかけて頂き自分のなかで気持ちが変わりました。僅かばかりですが、ミュラー博士の研究に携わって感じた事を感謝を込めて書かせていただきます。
リヴリーは通心できる、飼い主さんと心をつなげて気持ちを運んで伝えてくれる。そんな優しくて愛おしい存在のリヴリーを研究できることは嬉しさと同時にすごく難しいことでもありました。その子はどんな姿形でどんな気質なのか、生き物としてどんな特徴を持っている子なのか、どんな風に飼い主さんの気持ちを運ぼうとしているのか。一つ一つを解きほぐして紐解いて復活させていくというのは私にとって本当に困難な事���した。研究所の皆さんやミュラー博士の研究に対する熱意とか辛抱強さとか、そういうものをひしひしと感じながら根気強く向き合っていく事をひたすら繰り返す日々でした。
そうやって研究して復活したリヴリーたちは飼い主の皆様のところへ配られてゆきます。普段は飼い主さんとお会いできる機会がなかなかないため、研究発表会はそういう意味でも本当に貴重で嬉しい場でした。飼い主の皆様が集まって嬉しそうだったり楽しそうな様子をそっと拝見できた事は一生の宝物です。私もリヴリーが大好きなんです、あのアイテムいいですよね、って心の中で思ったりたまに少しお話ししたりもしました。
ミュラー博士の研究でリヴリーが復活し、そのリヴリーは飼い主さんと心を繋げる事ができる。リヴリー同士が飼い主さんの言葉を運んで会話ができる。その一連の流れを通して、通心と言う。このコミュニケーションを通じて飼い主さん同士が仲良くなったり世界が広がったりしている。研究発表会でそれを目の当たりにした時に、研究してきた事が報われたような気がしました。あくまでいち研究員として感じただけなのですが、私は人がとても好きなので、その人と人とをとても優しく繋いでくれるリヴリーというちいさな存在の力を感じました。リヴリーは生き物としてあるがままでいるんだと思うのですが、本当に優しい、すごく優しい生き物だなって思います。
そしてリヴリーたちを大切に思っている飼い主の皆様は私にとってすごく大切で大好きな存在で、皆様がこぼしてくださった嬉しい言葉や逆にそうではないご意見、ツイッターでそっと拝見していたのですが、どれもリヴリーの事を思っての言葉でどんな内容も一つ一つが身に染みてとても有り難く、どこでもドアがあるなら一人一人にお礼を言いに行きたい気持ちでいます。もっとたくさんお話ししたりしたかったな。色んな事聞いてみたかったな。きっと他の研究員の方も同じ気持ちなのではないかな?とこっそり思っています。そして飼い主の皆様のリヴリーアイランドへの深い愛情を、今も昔も心より尊敬しております。
◆リヴリーよもやま話
印象深かったのは、ツイッターでリヴリーのぬいぐるみを落としてしまった方がそれを探しているという張り紙がRTで回ってきた時でした。私もピグミーを含めて大切にしているぬいぐるみがいくつかあるので、もしそれを落としてしまったらと思ったら背筋がひゅっと寒くなり、ちょうどその方の落とされたぬいぐるみを持っていたので、もしその子がまだ見つからないならもしよければうちにいる子をお譲りしましょうか?と連絡しました。(いなくなってしまった子の代わりにはならないけれど、放浪している子の帰りをひとりで待つよりは二人の方がいい気がしたからです。)自分がリヴリーに関わっている事は伏せて直接お会いしてお渡ししたのですが、その方の人生の中でリヴリーとの思い出がたくさんある事を聞かせていただけてすごく楽しい時間でした。
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私はエレキコミックというお笑いのコンビがとても好きなのですが、歌舞伎町のロフトでエレキのイベントがあり入場のために並んでいました。入場の際には身分証を見せないといけないのでカバンをごそごそしていたら、近くにいた女の子に『それリヴリーの缶バッジですよね!』と声を掛けられました。当時私は身分証にネオピグミークローンの缶バッジをつけていたのです。(大事なものにつけておいたら無くさないから)歌舞伎町に並ぶエレキコミックファンの中でリヴリーを飼っている人と出会うなんて!とものすごくビックリしました。余談ですがそのイベントで人生で初めてテルミンの演奏を聞きました、片桐仁さんの演奏で。贅沢です
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うちの母は私がリヴリーの研究所でお仕事をするようになってからリヴリーを飼い始めました。母は私の周りではある意味ピカイチ正しくリヴリーを使っており、研究(仕事)中にリヴリーにログインしているとジョワ〜ンと私の島に飛んできて『次、いつ実家帰ってくる?』とか『元気にしてる?』とよく聞いてきました。あと、私の仲良しの研究員の方へ『このイベントが楽しかったって伝えてね』とか、『体に気をつけて』とか、コメントを言付けてきていました。最近では『可愛いリウ‘達に出会えて楽しかったよ。ありがとう。^^』と掲示板に書き込んでくれており、泣けました。
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とある商談会に出展している時に、リヴリーをお好きな方が来て下さって、その方はとても丁寧に商談会のイベントだからとすごく気を遣いながら将来そういうお仕事をしたいとお話してくださいました。自分もそうですがリヴリーをきっかけにデザインやイラストのお仕事をしたいなって思った人ってやっぱりすごくすごく多いのではないかなと思いました。リヴリーに触れる事でいろんな人の人生に素敵な変化が起きているような気がしました。あの時の方も、何かの形であの時の想いがかなっていたらいいなって心の中で応援しています‥!私も同じ気持ちの仲間だよ!って思っています。
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私はコールドブレスさん、モンスタースープさんがリヴリーから離れてしまった後に研究所に入ったので、この人生で皆様にお会いできる機会はもうないものだと思っていました。でもまさかの、モンスターオクトパスさんが歩いていらっしゃるのをお見かけする機会があり、ビックリして追いかけて握手をしていただきました。人生であんなに心から握手で感極まった事はなかったです。コールドブレスさん、モンスタースープさんを本当に尊敬していて、感謝していて、リヴリーアイランドという素敵な世界のおかげで自分がどれだけいろんな喜びや嬉しさを頂いたことか、人生がどれだけ豊かになったことか、イラストレーターとして仕事をして行きたいと強く思っていた気持ちにどれだけ力を添えてくれたことか。挙げだしたらキリがないくらい、途方も無いくらいすごくすごくたくさんの出来事を経験と機会を頂いてきていて、もしもお会いできたら、いつかお会いする機会が万が一あれば、絶対にお礼を言いたいと思っていたので、あの時にお会いできて本当に感謝しています。その後機会があり、他の皆様にもお会いできて、本当に本当に嬉しかったです。感謝しています。
リヴリーたちがまたフラスコで眠りについてしまう事がとても寂しく、思い出す度に色んな気持ちや思い出が蘇ってきていつも涙がぽろぽろになってしまいます。人生の中でこんなに大きな存在になっていたなんて、改めてすごい事だなと感じています。
コールドブレスさん、モンスタースープさん、研究所の方々、飼い主の皆様、全ての方に心より感謝申し上げます。
あと、私の飼っているかわいい子たちにも大きな感謝を!
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xf-2 · 6 years ago
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建設に反対する過激派の激しいゲリラに多くの犠牲を出しながら、昭和53年に“出直し開港”した成田空港(成田市)。滑走路はA滑走路1本のみだったが、次第に地域活性化のために機能強化を望む声が地元経済界を中心に高まった。61年に当時の中曽根康弘首相は運輸省(現国土交通省)などに2期工事着工を指示。これに対し、過激派は再び活動を活発化させ��。
 過激派は62年1月14日に用水工事の警備に当たっていた県警の警察官15人に鉄パイプで殴りかかっ��り、火炎ビン約100本を投げつけたりし、4人に重軽傷を負わせた。開港前に警察官3人を殺害した東峰十字路事件のように警備体制に混乱を与えることが狙いだったが、空港公団側は着実に造成を進めていく。
収用委員長を襲撃
 開港10年目の63年には、空港公団が2期工事に向け、強制的な土地収用を決める権限がある県収用委員会に、団結小屋の強制収用の審理を要請するとの見方が広がっていた。そうした中で過激派が標的に定めたのは同委員会だった。
 同年9月21日には帰宅途中の小川彰委員長(当時)が、待ち伏せしていた数人の集団から鉄パイプなどで襲撃を受け、瀕死(ひんし)の重傷を負った。
後に過激派の関与が判明。他の収用委員にも脅迫や嫌がらせが相次ぎ、同年10月には委員全員が辞任した。委員らは記者会見で、妻が入院するなど家族への影響が出ていることを明らかにした上で「疲労困憊(こんぱい)その職にたえずの心境だ」などと述べた。
 この事件は、その後の県政発展にも暗い影を落とす。県収用委は過激派の活動が沈静化する平成16年まで機能停止し、公共事業に関する用地買収で地権者との交渉が難航するなどして建設コストが上昇。県内の社会基盤作りに大きな支障が出た。
重たい教訓
 時代の流れとともに過激派のゲリラやテロに対する社会の風当たりは厳しくなる一方、成田空港は「日本の表玄関」として発展を続けた。
 2本目の滑走路の建設では、空港公団の後継組織である成田国際空港会社(NAA)が、地域住民との話し合いによる問題の解決と共生に力を注ぎ、2本目の滑走路はサッカー日韓ワールドカップ直前の14年4月に供用を開始することができた。2本の滑走路の発着回数は、26年度は約22万8千回。利用者数は3500万人を超える。
今年2月には空港建設で昭和46年9月に強制収用されて以来、約43年間補償されないままになっていた故小泉よねさんの宅地などについて、NAAが遺族の補償に応じることで合意し、国や県とともに謝罪した。5月にはB滑走路南側の進入灯に隣接する土地の所有者との間で売買契約が締結された。
 さらに7月31日には、地元経済界などが要望してきた第3滑走路建設について、国土交通省の田村明比古航空局長が「成田国際空港推進議員連盟」の総会で前向きな姿勢を表明。新しい時代に向けて状況はなお動き続けている。
 当初、農民らの反対運動を応援した元社会党県議の小川国彦氏(82)は、国会議員を経て平成7年に成田市長に就任。その後は成田空港を生かした地域発展を目指し、反対派の説得に回った。「膝をつき合わせて話すと『このまま反対し続けていいのか』と悩む住民もいた」と状況の変化があったことを明かした上で、こう指摘する。
 「国や県、空港側はなぜ最初から話し合いで解決を図らなかったのか。反対派への説明が不十分で、強制的に排除しようという行動が結果的に反対派を過激化させた。成田闘争はそれまで強制的に進めることが当たり前だった公共事業のあり方を一変させた」
ゲリラやテロは断じて許せるものではない。ただ、この言葉の通り、十分な説明を行わないまま強制的な手続を進めたことで、事態が混乱したことも事実だ。成田闘争が現代に伝える教訓は重い。(大島悠亮)
【開港後の成田空港と成田闘争の歩み】
 昭和53. 5.20 滑走路1本で“出直し開港”
   58. 3. 8 反対同盟が熱田派と北原派に分裂
   61.11.26 2期工事着工
   62. 9. 4 北原派から小川派が分裂
   63. 9.21 小川彰県収用委員会会長が中核派に襲撃され重傷
 平成 2.11. 1 熱田派農民も加わった「地域振興連絡協議会」発足
    3. 5.28 国側が強制収用放棄を確約
      11.21 「成田空港問題シンポジウム」始まる
    4.12. 6 第2旅客ターミナルビルが開業
    5. 5.24 15回目の同シンポで(1)収用裁決申請取り下げ(2)国が過去の行為を反省し、平行・横風用滑走路建設計画の白紙撤回(3)新しい協議の場設置-の所見を国が受け入れる
       6.16 空港公団がすべての未買収地の収用裁決申請を取り下げ
       9.20 新しい協議の場として「成田空港問題円卓会議」が開始
    7. 1.10 小川派の小川喜平さんが首相と運輸相に謝罪を求める手紙を送る。運輸相から謝罪の返書を受け、小川さんらは後日反対運動終結を表明
   14. 4.18 暫定平行滑走路の供用開始
   16. 4. 1 成田空港会社発足。空港名を「新東京国際空港」から「成田国際空港」に変更
   21.10.22 2500メートルB滑走路供用開始
   23. 8. 6 東京高裁判決に基づく強制執行で天神峰現地闘争本部を撤去
   27. 2. 3 小泉よねさんの宅地、NAAが遺族と補償合意
       4. 8 LCC向け新旅客ビル「第3旅客ターミナル」開業
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fool-owl · 7 years ago
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8/5 京都 伏見万灯流し
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mirrorka · 7 years ago
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伏見万灯流しは毎年8月上旬土曜に行われる夏の風物詩。 鳥羽伏見の戦い151年目の祈りは大黒寺によるご祈祷です。 2018/8/4撮影 🔥 愛宕神社 千日詣 🔥 「火迺要慎」(ひのようじん)のお札と 「お伊勢へ七度 熊野へ三度 愛宕さんへは月参り」で有名な愛宕神社。 毎年7/31から8/1にかけて千日分の火伏・防火の御利益がある千日詣(せんにちまいり)(正式名:千日通夜祭(せんにちつうやさい))が行われます。 8/1 2:00 朝御饌祭(あさみけさい)「人長の舞」奉奏、(護摩木の組み木による)鎮火神事を撮影📸 http://earth-traveler.com/archives/10628 #京都 #Kyoto #伏見万灯流し #伏見 #寺田屋 #大黒寺 #灯籠流し #灯篭 #灯籠 #月桂冠大倉記念館 #鳥羽伏見の戦い #宇治川派流 #京都散歩の旅 #festival #ポートレート #portrait #そうだ京都行こう #日本に京都があってよかった #神社仏閣巡り #art_of_japan_ #beautifulkyoto #kyoto_style #kyototravel #loves_united_kyoto #retrip_kyoto #kyotopi #キョウトピ #japan_nighttime_view #神社フォトコンわたしと神社 @kyoto_style Location:京都/Kyoto CANON EOS 5D MarkⅣ 2018/8/4撮影 (Kyoto, Japan)
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stoopid-o · 3 years ago
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あの日
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前書き
一九一九年四月一三日のふたりを書きました。 警察の描写は想像部分が多く、正確なものではありません。 直接的な描写はありませんが、虐殺についての話であり、作中に登場する虐殺事件は実際に起こった出来事です。 参考文献『インドの歴史』バーバラ・D・メトカーフ、トーマス・R・メトカーフ。創土社、二〇〇六年六月三〇日発行。
Rama side
 ――辺りが、急に騒がしくなった。  気配の変化に敏感なラーマが身を構えようとした矢先、警察庁の建物全体に声が響き渡った。 『建物内にいる者は全員中庭に集合。繰り返す、全員即刻中庭に集合すること』  殺人課、麻薬課、風俗課、放送により全ての扉が一斉に開く。何事かと、皆が口々に囁き合い、中庭を目指していた。ラーマも遅れることなく、足早にまっすぐ人波に従った。余程のことらしい、スピーカーからはまだ同じ内容が繰り返されている。  中庭には既に警視総監が待機していた。勤務中の警察官を全て集めるなど、余程のことが起こったのだとラーマは察した。戦争が終わってまだ一年も経っていない。またあの時のように戦争協力させられるのかとラーマは内心不安だった。イギリスに戦争協力したせいで百万人以上徴兵され、フランスや中東の前線で戦い、死んでいった……。  大戦の最中、インド担当国務大臣エドウィン・モンタギューは、インドに自治制度を徐々に導入すると発表した。なのに、改革ではローラット法を可決させ、テロや破壊活動の容疑者に令状なしの逮捕、裁判なしの投獄を可能にするという裏切りを行ってみせた。  インド人の命など少しも顧みない宗主国の振舞いに限界を感じていたのはラーマだけではない。  警視総監が皆の前に立っているというのに隊列どころではない。急に呼び出された警察官たちは戸惑い、思い思いに自分が並ぶべき場所を探してさまよっている。ラーマは自分の所属する隊に並ぼうと奮闘したが、見つけ出す前に総監が声を張り上げた。 「非常事態だ、儀礼は省略、整列しながら聞くんだ。先ほど、パンジャーブ州のアムリットサルで暴動が起こった」  独立運動の盛り上がりやローラット法の暴挙により、日々、デモは盛んになっていた。制服と同じく顔を真っ赤にさせ警察官たちに伝達する総監を、ラーマは憎しみの目で見る。 「詳細は追って通達されるが、総督命令で戒厳令が下された。デリーに厳戒態勢を敷く。繰り返す、デリーに厳戒態勢を敷く。アムリットサルは軍が対応するため、君たちは総督府の警備を強化し、街のパトロールを増やすんだ。今から自分たちの部署に戻り、それぞれ指示を受けること。以上、解散」  総監の指示により、人々はまた建物の中へ戻る。こんなに雑で急ごしらえな総監の指令など、警察官になってから初めてだった。  ラーマは部署に戻りながら疑念を抱いた。ただの暴動で厳戒態勢を敷くだろうか。しかも、アムリットサルはデリーから三百マイル以上離れている。暴動への警戒は日々高まっており、警察庁だけでなくインド総督の悩みでもある。ガンディーを崇める人々が増加し、サティヤーグラハ運動を始めた頃からはより一層緊張感が増したけれど、あの運動は武力によるものではない。  詰め所に班長である警部が入室する直前にラーマは戻れた。班長たちのブリーフィングに時間がかかりそうであれば、アムリットサルで起こっていることの情報収集がしたかったけれど、まずは指示を受ける必要がある。 「全員揃ったな、うちの班はこの地区の警戒を担当する。出歩く者がいたらすぐに家へ帰るよう警告し、従わなければ逮捕しろ」  班長はデリー市内の地図を貼り出し、色分けされた区画のひとつを指さした。うちの区画は外れだ。ラーマは鉄面皮を保ちながら、心の中だけでで悪態をついた。北部は治安が悪い。南部の高級住宅街の住民と違い、戒厳令を守る人々ばかりではない。  もうすぐ日が沈む。ラーマは今夜を怪我することなく終えられるかわからなかった。 「班をアルファとブラボー、ふたつに分ける。二時間パトロールしたら交代、交代場所はここだ。1700までに全員装備を整え出発��ること。質問はあるか?」  なし。この班での戒厳令は初めてではない。定められた時間まであまり余裕がない、弁えたチームメンバーに対し、班長は満足気に頷いた。  班のメンバーだけでない、警察署の全員が何かを抱えて早足で歩き、どこかでは怒声が響き、武器庫や装備室に向かう人々の表情は硬い。今回の戒厳令はデリー警察の全員が動く。小銃の携帯はイギリス人が優先だ。ラーマは警棒と懐中電灯だけで何とかするしかない。  慌ただしく時間が流れ、定められた時刻となった。街へ出る時間だ。  デリーの中心地は夜でも昼のような賑わいだが、今日ばかりは静まり返っていた。店はどこも閉められ、ちらほらと急いで帰宅する人々を警察官が追い立てている。  ラーマはトラックの荷台から街を眺める。戒厳令により、もはや見慣れたデリーではなくなっていた。北部へ向かう際、総督府の横を通り過ぎたが、数十フィートにひとりの間隔で銃を提げた軍人が立っている。総督のお守よりマシだとラーマは内心でごちた。 「アルファ班は先に、定時報告を忘れず巡回レートは地図で示された通り行け。ブラボー班は通信の開設を始めろ」  面倒な通信の開設を免れたのは助かったが、ラーマのアルファ班にインド人は彼だけ。重い無線機はラーマが持つしかなく、交代も望めなさそうだった。  無線機の通信を確認し、アルファ班の三人は出発する。  北部のスラム街には細い路地が多い。そういった路地では待ち伏せの危険がある。普段は主にスリや強盗の心配をすればいいが、今夜は何が起こるかわからない。ルートは太い道路が主だが、危険性の高い細い路地も含まれている。  四月のデリーは比較的快適な気候で、夜になればかなり涼しく感じるが、ラーマは汗がじっとりと制服に染み込んでいくのを感じた。いつもなら人ごみをうっとおしく思うけれど、人がいない方がずっと不気味だ。先輩格のイギリス人たちもラーマと同じようなことを思っているらしく、緊張が顔ににじみ出ていた。  一巡目では特に何も起こらなかった。つい帰宅が遅くなってしまった人々を警棒で威嚇して帰らせたくらいだった。彼らは高圧的な警察官たちに悪態をつきながらも素直に従ってくれた。  交代だ。肩にずっしりのしかかっていた無線機を人に渡せてラーマは一息つく。軽くなった肩を回す。このまま休憩していたいところだが、別の仕事がある。  無線機から解放されたのに、また無線の番だ。ブラボー班からの定時報告を受け取りながら、ラーマは密かに情報を集めようとしていた。  アムリットサルで起こった暴動くらいで、デリーを厳戒態勢にするだろうかという疑念は解消されていない。そもそも、暴動の詳細がまだ謎に包まれている。  この班の詰め所に選ばれたのは小さな警察署。ラーマの下宿ほどしかなさそうな会議室を、別の班と半分ずつ使用している。頼りない机に何個もの無線機や地図が広げられ、狭い部屋に何人もの男たちが詰めているため蒸し暑くてかなわない。なのに、窓は暴徒対策のため開けることができない。  班長はずっとヘッドホンで無線を聞き、時々手帳にメモしていた。ラーマが担当する無線はパトロール用の無線としか繋がっていないが、班長が陣取っている無線はもっと範囲が広い。デリーで起こっていることはあの無線で聞ける。  最初は班長のメモを盗み見しようとしたが、彼の走り書きは恐ろしいほどの悪筆であり、その酷さは医者のカルテにも勝る。普段の書類はフォントのように完璧な文体で書き上げるためラーマらが困ったことはない。班長がいつも悪筆であれば解読力も養えたはずだが、書類との筆跡が違いすぎて別人が書いたようだった。  それでもある程度は読み取ろうとラーマは努力した。定時報告の合間に紅茶を淹れて差し入れ、班長の机に近づいた。ちらりと盗み見た手帳で解読できたのは三百と千という数字だけ。それだけでは何のことかわからない。  三百と千。その数字に頭を悩ませていると、ブラボー班が戻ってきた。交代の時間だ。  再び、ラーマは無線機を背負う。  今度のパトロールも大きな事件は起こらなかった。戒厳令により静まり返り、真っ暗なデリーは戦時中を思い起こす。今日ばかりは、通りをうろついては喧嘩を繰り返す野犬さえどこかで大人しくしていた。  二時間、きっちり警邏し、また交代。これが朝まで続く。ラーマはうんざりしていた。彼だけではない、小さな警察署に詰め込まれた全員がうんざりしていた。勤務は倍に延長され、慣れない地区を軽装備で歩き回らなければならない。誰もが無事に夜を越すことだけを願っていた。  また二時間後に交代。時間は午前二時になっており、一睡もしていないラーマの眠気は限界だった。  三人一組で警察署を出発する。やはり無線機はラーマが背負う。きっと肩に背負い紐の跡が残っているだろう。数日は肩が痛むに違いない。小銃を構えたふたりは先を歩く。普段なら余裕でついていけるのに、疲れと眠気でラーマの意識は今にも飛びそうだった。  数十分歩くと、細い路地に辿り着いた。イギリス人の同僚ふたりは三度目の警邏で気が緩んでいるようだった。同じ道を三度目だ。前も大丈夫だったからと緊張感が抜け注意力が低下しているように見えた。  ラーマにはすぐそばの建物の中から足音が聞こえた。ほんの小さな音だ、聞き逃してしまってもおかしくない。考える暇なく叫んだ。 「止まってください!」  ラーマが叫ぶ直前、右手側、二階の窓が開いた。 「人殺しに死を!」  前方を歩いていたふたりに目掛け、火炎瓶が投げられた。  瓶が割れる音と共に炎が広がった。ふたりに直撃はしなかったらしい、炎の向こう側から聞こえてくるのは驚きと怒りの声であり悲鳴ではなかった。 「こちらアルファ班、こちらアルファ班、ポイント十二で火炎瓶により火災発生、こちらの怪我人なし! 至急応援を頼む!」  ほとんど怒鳴るようにラーマは報告する。急がなければ。スラム街は燃えやすい素材で造られた掘っ立て小屋のような建物ばかりだ。ぼやぼやしていると大火災になりかねない。 「俺は犯人を追う! 消火を頼む!」  同僚の返事が聞こえる前にラーマは駆け出した。階段を登るバタバタという足音がする。犯人は屋上へ向かい、屋根を伝って逃げる気に違いない。犯人の人相はわからないが、窓から火炎瓶を投げ捨てた後、急いで背を向けて逃げ出すところは見えた。何の特徴もない白いシャツと刈り上げた短い髪以外の情報はない。今捕まえなければ。  階段を登っている最中にようやく気づく。無線機を同僚に託して置いてくればよかったと後悔した。途中で放置すれば十分以内に盗まれるだろう。しっかりと背負い紐とベルトを締めたはずなのに、走ると背中に二十五ポンドの重みがガンガン当たる。  痛みでやけくそ気味になりながら、ラーマはラーティーをしっかりと握りしめて屋上へ出た。  辺りを見回すと、東の方向に走っていく人影が見えた。発見から間髪入れず、ラーマは走る。逃亡者は屋根と屋根の間隔が狭いところを探しながら逃げているようだ。逃げ道を探しながらということは、計画的な犯行ではないのかとラーマ頭の中で考えながら、崩れそうな脆い屋根から次の屋根へと跳ぶ。  足元の瓦が割れたが、構っている場合ではない。屋根を突き破って誰かの部屋の中に落ちなくてよかったと安堵しつつも脚を止めない。  幸いなことに、満月が近いので街の明かりも懐中電灯を預けてしまっていても、犯人を見失うことなく追うことができた。ちらりと下を見ると、ボヤと屋根を走る人に驚いて人が集まり始めていた。戒厳令だとしても騒ぎを確かめたいという気持ちは抑えられないものだ。ラーマの体はひとつしかない。早く追加の警察官と消防が着くようにと願いながら、逃亡犯を追った。  もうすぐ、追いつく。 「逮捕する!」  白いシャツと刈り上げ頭の男は跳び移れそうな場所を失った。周りの建物は離れすぎており、超人的な跳躍力がなければ難しそうだ。  労なく男の腕をねじり上げ、手錠をかける。 「インド人の面汚し! 人殺したちめ!」  犯人は口汚く罵っていたが、ラーマが手に力を込めると罵りは続けているものの声は小さくはなった。人相は特徴がない。まだたったの二十歳程度。髪は短くてヒゲも綺麗に剃っている。だがそれくらいだ。どこにでもいそうな男だったので、人混みに逃げられる前に捕まえられてよかったと安堵した。  さて、どうしよう。ラーマたちが今いる家の雨樋はか細く、明らかに男ふたりの体重を支えることはできそうにない。無線で応援を呼ぶにもボヤがあったのだから時間がかかりそうだ。  屋根の上で男がふたり走り回っていたのだから、と考えてラーマは犯人が逃亡しないよう注意しながら身を乗り出し、窓をノックした。 「あんたら、ドタバタと何をしてたの!」  家の持ち主らしい女性は睡眠を邪魔され機嫌が悪そうだ。顔は真っ赤で、顔には怒りを滾らせていた。午前三時近くに屋根の上を走り回られたら誰だって怒りたくなる。 「朝早くにすみません。凶悪犯を捕らえたのでこの部屋に降ろしてもよろしいでしょうか?」 「嫌だと言ってもやるんでしょうが。あんたら警察はいつもそうだ……」  家主の了解は取れた。無線機を先に下の階へ降ろし、受け取ってもらう。顔を見るに、彼女はまだま��文句はあるのだろうが、一応協力はしてくれている。ラーマはもう一つ持っていた手錠で自分と犯人の手首を繋いだ。 「な、何考えてんだあんた」 「お前を下の階に降ろすだけだ」  ラーマは犯人を屋根の端まで追い詰めた。 「頭おかしいぞ、おい、怪我したらどうするんだよ、おい!」 「お前は既に俺たちを殺しかけただろう」  勢いが大切だ。男を思いっきり押す。ラーマは勢いのまま腹ばいになって腕を振り、犯人が窓から部屋の中に転がり込んだのを確認し、自分も屋根から落ちた。 「殺す気かよ! お前ら本当に人殺しだな!」  落ちるに任せず、窓の桟に指をかけてラーマは落下死を免れた。身を引き上げて部屋の中に入ると、恐怖体験をした犯人はわめき、女性は不機嫌そうに扉の方を指差している。 「ご協力ありがとうございました、マダム」 「協力したんだから、早く帰りな」  取り付く島もないため、ラーマは無線機を背負い、犯人を連行しさっさと去ることにした。 「そうだ、この男に見覚えは?」  手がかりは望めないだろうが、退去する前に一応聞いておくことにした。 「ないね。窓から放り込まれてきたのが初対面で、見たこともない」  噓はついていないとラーマは判断した。彼女は寝ているところを起こされて不機嫌なだけで、噓はついていない。それに、犯人もこの家の屋根にはたまたま辿り着いただけのようだった。  戒厳令で苛立っている住人をこれ以上苛立てないよう、ラーマと犯人は今度こそ部屋を出た。  気がつけば、空は明るくなり始めていた。腕時計を確認すると時刻は間もなく午前四時。本来なら四時にはパトロールを終え交代の時間だ.どっと疲れに襲われたがラーマの勤務はまだ終わっていない。  無線で犯人を確保し、これから署に連行する旨を連絡して歩き出した。  逮捕されてからずっとぶつぶつ悪態をついていた犯人も、窓に放り込まれたショックが大きかったのか、不気味なほど静かに連行されている。  大分早いがデリーの朝にしては静かだ。人のいないとまったく違う街に見える。牛が道端の草を食んでいる光景は戒厳令下でなければ和ましい。誰もいない通りを歩き、ラーマはふと、故郷を思い出した。軍事訓練が始まるよりずっと早い時間に起きて、シータや弟と一緒に森や川で遊んだものだ。  いけない。郷愁に浸っている場合ではない。ラーマは気を引き締め直す。 「お前、名前は?」  せっかく署まで時間があるため、この時間で聞き出せることは聞き出すことにした。  しかし、返事はない。だんまりを決め込むらしい。ラーマはまずは軽めにラーティーで彼を小突く。犯人は簡単に転んだ。取り押さえる際にも容易に手錠をかけることができたので、軍隊経験や武術の心得はないようだ。若く、身なりは悪くないので戦時中は学生だったかもしれない。しかし、まだ確定事項ではないと、ラーマは頭の中に一応メモをした。 「痛い目を見る前に話した方が身のためだ」 「わかった、話す! おれはナーナー・サーヒブ……」 「なぜ警察官を狙って火炎瓶を投げた」  ナーナー・サーヒブと名乗る青年を立たせ、歩かせる。のんびりしている暇はない。 「お前らが人殺しの手下だからだ! 報いを受けさせてやる!」  よく吠えるが要領は得ない。ラーマのヒンドゥー語の能力が問題なのではなく、彼が象徴的なことしか言わないせいだ。  ラーマが所属する課はデリーの活動家を見張る役目を担っていたが、ナーナー・サーヒブという名前は聞いたことがない。彼が偽名を名乗っているのか、それとも前科がまったくないのに警察官の殺害を目論んだということだろうか。  本名かわからない名前以外聞き出せず、ラーマたちは警察署に到着した。 「犯人は留置場に置いておけ。私たちは一時間もしたらここから引き上げなくてはならない。しばらくの間はこちらの署に任せる」  班長は必要なことだけ短くラーマに伝達し、忙しそうに会議室へ戻っていった。苦労して犯人を捕まえたとしても労いの言葉などない。わかっていた。功績をあげたとしても横からかすめ取られる。イギリス人の上司、先輩、同僚はインド人を顧みない。  サーヒブを留置場に入れ、どうせ情報は掴めないだろうが一応話を聞くことにした。 「犯行の動機は?」 「復讐」  ぼそりと一言だけ呟いた。話にならない。  痛めつければ何か吐くとしても、今のラーマは一晩中歩き回り、最後に逃亡犯を捕まえるため屋根伝いに走ったせいでくたくただ。もうすぐ交代の時間がくる。しばらくは狭い留置場でゲロを吐きまくっている二日酔いの男たちと一緒にいればいい。引き取りまでには少しくらいは殊勝な態度になるだろう。 「お前の投げた火炎瓶が建物に引火して火事になったら、死ぬのは地元の人間だ」  ラーマも一言吐き捨て留置場から去った。  今回は現行犯で、未遂とはいえイギリス人警察官をふたりも殺しかけた。このままなら、よくて終身刑だろう。この国の法制度が狂っていることくらい、ラーマも知っている。イギリス人であれば罪人でも丁寧に扱われるけれど、インド人なら軽罪でも重大犯罪者扱い。逃げ道も用意していない、突発的な犯行で結果は殺人と放火未遂。あの身なりなら前科もなさそうだ。  だとしても、大英帝国が死刑を求めれば死刑となる。不均衡だ。  警察に潜りこんだのは人々に武器を届けるため、その目的のための仕事でラーマは様々なものを見た。インド人の娼婦を殺し、証拠もあったのに罪に問うことが出来なかったイギリス人。明らかに殺人だが、捜査されることなく打ち捨てられた不可触民の死体。現実が、ラーマの目の前にあった。  目を覚ましたくて、ラーマは洗面所で顔を洗った。悪いことばかり考えるのは、疲れているからだと自分を納得させようとした。清い水は悪いものを流してくれる。悪いことばかり考えるのは疲れているからだ。  会議室の人々はは片づけにかかっている。もし、火災に発展していたら今頃大忙しだ。基本的にラーマを見下し、同じ階級のはずなのに雑用係のように扱うあのふたりはもちろん嫌いだったが、ちゃんと消火できた点は評価に値する。  班の備品やアンテナ、ワイヤーを回収し、時間通りに班は撤退した。放火と殺人未遂のナ��ナー・サーヒブを置いて。  武器や装備を戻し、班長の指示もそこそこに長い任務は終わりを迎える。誰もが落ちそうになる瞼を必死に押し止め、ヘルメットで潰れた髪をかき上げ無言で解散した。  汗が染み込んだ制服から着換え、ラーマは帰路につく。今まで、疲れ切って気付かなかったが腹が減っている。そういえば夕食を取る暇なくパトロールへ向かわされた。食事といえば、味のしないビスケットを休憩中に紅茶で流し込んだだけ。  戒厳令は解かれたとはいえ、普段のデリーと比べて人通りが格段に少ない。少し歩き、いつも出勤前に寄る軽食や菓子、雑貨を売る屋台が今日も開いているのを発見した。 「チャイとプラタ、それと新聞をくれ」  いつもの無愛想な店主に注文し代金を支払い、湯気が立つチャイのカップを受け取る。忙しい夜を終えて飲むチャイは格別だった。デリーにしては静かな朝。これから仮眠を取ったらまた昼から仕事ということを考えなければいい朝だ。  プラタが焼き上がるまでの暇つぶしに読むため、積んであった新聞を一部取る。  新聞を開くと、思わず、カップを落としてしまった。素焼きの器は軽い音を立てて割れ、こぼれたチャイは靴を汚した。 『アムリットサルで虐殺事件 死者約三百人、負傷者千人以上』  一面の見出しに大きくそう書かれていた。ラーマの頭の中ですべてが組み合わさってゆく。班長が手帳にメモしていた三百と千という数字はアムリットサルでの死者と負傷者の数だった。ナーナー・サーヒブがラーマたちを人殺しとなじり、復讐のためにあの夜火炎瓶を投げた理由がわかった。  昨日、四月一三日の午後、ラーマたちが放送により集められる数時間前、アムリットサルのある広場で住人たちが集まりデモを開いていた。ローラット法によりデモ自体は違法だったが、彼らは民間人で武器は持っていなかった。なのに、イギリス人司令官レジナルド・ダイヤ将軍は彼らを強制的に排除した。住人が集まっていた広場には出入口がひとつしかなく、そこから一斉射撃が行われたという。 「兄さん、焼けたよ兄さん!」  新聞を夢中で読んでいたラーマはしばらくの間、店主の呼び声が聞こえなかった。軽く謝罪し、紙に包まれた温かいプラタを受け取る。  ふらふらと、脚は歩き出したがラーマの頭にあるのは虐殺事件のことだけ。自分は何一つ知らなかった。何も知らされなかった。班長は虐殺のことを知っていたはずなのに、班に、インド人に教える必要はないと判断したということだ。  ラーマは自分を優秀だと自負していた。班では一番の成績でそれは頭脳だけでなく、肉体的にも全てで勝っている。数字は噓をつかない。だが、認めなければ数字は意味をなくす。  十数年前の悪夢が蘇る。アムリットサルでも故郷のような惨状だっただろう。広場に集まっていた住人は一斉射撃により殺された。父だとしても、母だとしても、子どもだとしても、彼らは区別なく暴徒と扱い殺した。夥しい量の血が流れただろう。撃たれた住民は耳をつんざくような悲鳴をあげただろう。ラーマの記憶の中にある光景と同じものが、アムリットサルで起こった。  気がつけば帰宅していた。汚れた服が入っていた袋を落とし、ずるずる��床に座り込む。手の中のプラタはすっかり冷えていた。
Bheem side
「今日はよく釣れたぞ!」  ビームは籠に入れた釣果を村人たちに見せる。まだ生きている魚たちはぴちぴちと跳ねた。まるまる肥えた川魚は焼くか煮込むか迷う。 「ビーム! そろそろ戻ると思ってマスタードシードを炒め始めたの、魚を捌いてくれる?」 「もちろん」  ロキの呼びかけで、ビームは魚を捌いた。血を抜き、内臓を取り出し、頭を落とし、皮を剥ぐ。そうして、食べるための肉にしてゆく。  魚の肝を投げるとサリイは上手く口で捕まえた。サリイは村の番犬だ。みんな忘れてしまったほど前、いつの間にかサリイは当たり前かのように村に住み着いた。番犬とはいえ年寄りのため、今はもっぱらマッリの遊び相手だ。  スパイスと野菜を炒めていた鍋にビームが捌いた魚が加わる。村中に香ばしい香りが広がる。 「ねえ、兄さん、ラッチュとジャングはどこ?」  サリイと遊んでいたマッリはナイフを洗っていたビームに質問した。 「婚礼に必要なものを買いに街へ行ってるんだ。二日後には戻るよ」  森で暮らすゴーンド族も時には街へゆく。基本は森からの恵みで生活は完結するが、時に必要なものがあれば少し離れた街へ買い物に行く。ものを買うついでに街で工芸品などを売って金銭を用意していた。  一週間後に村で結婚式が行われる。めでたいことなので、新婦の兄であるラッチュと付き添いのジャングが出かけていった。 「そっか、ラッチュと結婚式用の絵の練習台になるって約束したのに」 「そうだったのか、なら、おれを練習台にすればいい」 「いいの? 兄さん?」 「もちろん。マッリは絵がうまいからな、いくらでも練習台になる」  ビームの言葉にマッリの顔がパッと明るくなった。まだ子どもだが、マッリの絵の才能には目を見張るものがある。結婚式のため張り切る子の練習台になるくらい、ビームは喜んで受け入れる。 「マッリ! ご飯ができたよ!」  ロキの声が響く。夕食の時間だ。  二日後。  ラッチュとジャングは無事に結婚式用の荷物を村に持ち帰った。美しい装飾品に伸郎、荷車から荷物を降ろすビームに言う。 「アムリットサル……それはどこだ?」 「なんでも、パンジャーブ州にある村らしい」 「ずいぶん遠いところの話なのにここまで届いたか。よっぽどのことだな」 「よっぽどのことなんだ! おれとジャングが街に行ったらな、すごい雰囲気だったんだ。みんな苛立っていて、抗議運動とかしててな、おっかない感じだ」  話の雰囲気が不穏な方向に進んだため、ビームはラッチュを連れて村はずれまで向かった。 「それで、何が起こってたんだ?」  ビームが聞くと、ラッチュは気が動転しているらしく、長い髪をぐしゃぐしゃとかき回しながら話す。 「あ、ああ、馴染みの工芸品店に商品を卸すついでに店主に聞いたんだが、アムリットサルで虐殺事件が起こったらしい」 「虐殺?」 「虐殺だ。村人たちが抗議集会を開いてたところに、ダイヤとかいう将軍が射撃命令を出して、殺したらしい……」 「――むごいな」  川の流れに手指を浸し、ビームはうめいた。  イギリス人たちの暴虐は僻地の村にも時々届く。羊飼いのため、必要がない限り村からはあまり出ないビームにとって、アムリットサルもイギリスも想像できないほど遠い土地だ。それでも、彼は一方的に殺される人々を悼む。殺しを憎み、被害者たちの痛みを感じることができる人間だった。 「なあ、兄貴、おれたちはどうしたらいいだろうか。街は怒りで満ちている。おれたちも加わるべきだろうか?」  ラッチュもラッチュで悩んでいた。イギリス人の暴虐を怒り、抗議する人々を警察官はラーティーで殴り、片っ端から逮捕していた。  彼の中で、人が一方的に殺されることは悪であり、それに抗議するのはいいことのはずだった。なのに、警察官たちは抗議者たちを悪人扱いした。正義がなされない世に、ラッチュは混乱していた。 「待て、ラッチュ」  怒りに震えるラッチュの肩にビームは手を置く。静かだが、威厳のある低い声で制止した。 「今は殺された人々の安寧を祈ろう。彼らの苦しみに寄り添おう。怒りに、呑まれるな」  兄貴分の言葉でラッチュは冷静さを取り戻した。 「今夜、村のみんなで殺された人々のために祈るんだ。生きていた人々のために」  低い声で言葉を重ねるビームにも怒りがないわけではなかった。暴虐は許されざることだ。今の世はダルマ(規範、真理、善などを含む概念)が失われている。しかし、ビームは羊飼いの責務が一番の優先事項だ。村人を守り、村を守護するべき存在だった。理由がなければ村を離れることもできない。 「そうだな、兄貴。その通りだ」  諭されたラッチュの表情はすっきりとしていた。 「婚礼用の花を少しわけてもらおう。亡くなった人々のため、川へ流そう……」  
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neige-biblio0413 · 3 years ago
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星月夜の子守唄を君に(後)
失踪した御真祖様を探しに行くヘルシングおじさんのお話。 150パーセント捏造でお送りします。ヘル+真くらいぼやぼや。  前編はこちら。
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「星月夜の子守唄を君に(後)」  アムステルダム中央駅からロッテルダムまで出て、港から船便でイギリスに入ったわたしが初めにしたことは、アイツの屋敷を訪ねることだった。 
 リバプールから更に陸路でピカデリーの方へと向かい、グリーンパーク付近で降りると、妙な懐かしさを感じた。  吸血鬼のいる屋敷と聞けば、石の壁で囲まれた暗くて、埃っぽくて、じめじめした場所を想像するだろうが、実際はそうではない。流行りのヴィクトリアン様式で建てられた���普通の屋敷だ。ガーデニングが好きだったらしく、玄関前の植え込みが非常に丁寧に��入れされていた。  廊下を抜けてキッチンに併設されたサンルームから中庭に出ると、美しい緑が目に飛び込んでくる。月の綺麗な夜は、そこで2人して大酒をかっ食らったものだ。  今回は合鍵を持ち合わせていないが、さて──  ドアノブに手をかけると、簡単に屋敷の扉は開いた。不用心だな。それとも、わたしの来訪を見越してか。  わたしは一通り部屋を見回って屋敷を出ると、セントジェームズパークでアヒルにエサをやりながら、夜になるのを待った。  手紙には消印も住所もなかったが、あの手紙はただの便箋ではなかった。よく見ると薄い透かしが入っているもので、試しに陽にかざしてみると、ある模様が浮かび上がった。それがイギリス王室の紋章だったのだ。おそらく土産として路上で売られているものだろう。そんなものが手に入りやすいのは、女王陛下がおわすお膝元──すなわちロンドンだと踏んだ。  そこまでたどり着いたのはいいが、詳細な場所までは把握できてはいない。ここを選んだのは、正直に言うと賭けの面が強かった。  それでも、自分の中にあった何らかの自信が確実なものになったのは、視界の端に、同じようにアヒルにエサをやる背の高い紳士をとらえた時だった。  「おい」  そう声をかけると、背の高い紳士はすっとこちらを向いた。  「何か用ですかな?」変わった訛りの英語で男はそう答えた。  トップハットをかぶり、全身を黒で固めた若い紳士だった。目元が見えないようにサングラスをかけている。髪は赤毛だった。  一見すれば、アイツとはかけ離れてるように見えるが──  「お前、影がないぞ」  夕陽に照らされた男の足元には、影一つ落ちていなかった。  「あれ。ミスっちゃった」  すっとぼけたような、聞きなれた声がしたかと思うと、瞬きの間に男の髪は赤から艶やかな黒へ、若者から口ひげをたくわえた男性へと姿を変えた。  「……どうしてわかったの?」  手紙の主である”D”──アイツは、後ろめたいような顔をして言った。  「手紙だ。こんなものが売ってるのは、バッキンガム周辺だろう」  予感が確信へと変わり始めたのは、屋敷を訪れた時だ。キッチンの棚には相変わらずいい酒が揃えてあったし、植え込みも中庭も、綺麗に手入れされていた。机の上の万年筆のインクは乾ききっていなかった。それは、長い間放っておいていて維持できる状態ではない。  「さがさないでって言ったのに」  「さがしてくれって言われたんだよ」  お前の息子に。そう言うと、アイツはそう……とだけ言って、再びアヒルに餌を投げた。  「なんでいなくなった?」  「家出」  「随分と長い家出だな」  目を合わせようとしない。そういう時は決まって何か隠している時だった。  「1度も会いに来なかったな」  「そうだね」  「お前がいなかったせいで、本が返せなかった。1年も」  「そうだね」  「……」  返事はない。  並んでアヒルに餌を投げる。黒いアヒルだけが、やけにわたしの餌に食いついた。  ちらりと横を見て、少しも変わらないアイツの表情にふうとため息をつく。  「俺のことをどう思おうが構いはしないが、家に帰れ。お前の家族が困ってる」  そう言うと、今まで黙りこくっていたアイツが急に口を開いた。  「きみに会うのが、こわくって」  ──うん?  突然飛び出した言葉は、思わず同じ言葉を口に出してしまう程の衝撃だった。  「うん?」  なんだって?  わたしが素っ頓狂な声を上げても、アイツはこちらを見なかった。  代わりにポツリ、ポツリと、言葉が紡がれる。  内容はこうだった。「いつか来るきみとの別れが怖くなった」と。  吸血鬼と人間の間には、どんなに努力しても、足掻いても、ひっくり返せないものがある。それが寿命というものだ。  それが辛くなった、と。  「きみと友人になって、毎日がどんどん色鮮やかに、眩く煌めいていく度に──同じだけわたしは、自分自身の運命を思い知るようになった」  長い間忘れていたものだった。初めて得たものだった。そう言ってアイツは目を細めた。  「ただ、寂しくて」  「……それで、姿をくらませたのか?」  わたしが尋ねると、うん、と言ってこっくりと頷いた。  「そうすれば、いずれ来る運命の酷さも、少しは和らぐだろうと」   なんだそれ……  「……俺はてっきり……俺のことは、もうどうでもよくなったのかと」  「わたしがそこまで酷い男に見える?」  「さあな」  お前たちのことは、よくわからん。そう返すと、少しだけアイツの口角が上がったような気がした。  ちょっと安心してる自分が悔しかった。  「でもきみは、吸血鬼にはならないでしょ」  「だろうな」  「昼の子は、みんなわたしを置いていく」  最後の餌を投げてポツリとつぶやく。ゆらゆらと動く水鏡に、その姿は映らない。  「だが──それが人間ってやつだ」  一人きりで水鏡に映る自分の姿を見ながら、わたしはつぶやいた。  「俺たちは死ぬ。それは避けられない」  教鞭をとってる身として、それは誰よりもよくわかっているつもりだ。  そうして次の世代へと渡していくことで我々は時代を紡いでいく。忙しなく動いて、止まることは出来ない。それが人間だ。少なくともわたしはそう思っている。  「できない」  「知ってる」  あきらめたような、素っ気ない返事だった。  陽が傾き始め、ぽつぽつと、セントジェームズパークの街灯に暖かい光が灯り始めた。  何か気の利いた言葉をかけてやるべきなんだろうが、いまのわたしには、うまく言葉にできる自信がなかった。  「俺は」  急にむずがゆくなった頭をガリガリとかく。  「大変不本意なことだが──お前のことを、友人だと思ってる」  ぱっとアイツの顔が明るくなったのがわかった。しかし、その意味を悟ってか、すぐに元の表情に戻ってしまう。仕方がないな、まったく。  「だからお前とは、吸血鬼だとかそういうことじゃなくて──1人の人間として付き合いたいんだ」  お前が俺を退治人という言葉でくくらなかったように。  そうだろ、とアイツの顔を見ると、視線が合った。それもほんの少しの間で、そっとアイツは視線をそらせた。  本心だった。いずれ遺していく側の者として、何を言えるわけでもないが。  「…………」  何も言わずにいたアイツは、やがて観念したように肩を落とすと、「きみって、ずるいよね」とそっと呟いた。  「なんとでも言え」  わたしはフンと鼻を鳴らした。こっちはわざわざアムステルダムから、大学に嘘までついてお前を探しに来たんだ。この間にもどんどん仕事が貯まってきていると考えると、正直げんなりする。  「それに──それですべてが終わるというわけじゃないだろ」  死んだからといって、いなくなったからといって、世界から消えてしまうわけではない。  誰かの記憶として、誰かの思い出としてずっと遺る。わたしは、東洋や熱砂の国に伝わるような、"廻る"思想について思い出していた。  「お前は俺よりもずっと長く生きる。でも、そうすればいつか……」  別の形なのか、それとも直接会えるのかはわからないが──いずれにせよ。それでも、こんなにも不思議と神秘が根付く世界なのだから。  「また会えるかもしれない」  「……」  「少し、夢を見すぎているのかもしれないが」  妙な沈黙が続いたので、慌てて誤魔化す。ガラにもないことを言ってしまったかもしれない。しかし、それもまた本心だった。大変不本意ではあるが。  「それでいいのか、我が友──ヘルシング」  しばしの沈黙の後、夜の香りを纏う真摯な声が、わたしに問いかける。  水面には宝石のような光が浮かび始めていた。それは手を伸ばせば、掬えるかもしれないほどで。  わたしの答えは決まっていた。  「俺は、それでいい。D」  「……そう」  そっと目を伏せて、アイツはそれ以上何も言わなかった。  わたしは、それで良いのだと思った。明日には元の調子に戻っているだろう──そんな予感がわたしには確かにあった。 ***  陽はとうの昔に傾き、あたりはすでに宵闇に包まれていた。アイツの"お得意"の時間だ。  「見ろよ、ほら」  2人で見上げると、我々の頭上でたくさんの星が美しく輝いていた。ロンドンは煙で燻ってる場所だと思っていたが、こんなにも美しい星が見られるとは。そして、何よりも。  「なんて綺麗な月なんだ」  あわい光を降らしながら、ロンドンを見下ろす月。いつかの時に見た、そう──あの月と同じように綺麗な月が、夜の海に浮かんでいる。  「月に行ってみる?」弾んだ声でアイツが言った。「連れてくよ」  「バカ言うなよ。そんなこと、ヴェルヌの頭の中でしか出来やしないさ」  「そう?でも、月なら──」  月なら。アイツは何か言おうとしたが、そうだねと小さな声でつぶやいただけで、結局その先は言わなかった。  月世界旅行なんて、まさに夢のような話だ。あと何世紀も巡らなければ、とても人類では到達できそうにもない。  「だが……うん。そうだな、もし本当に連れて行ってくれるって言うのなら──」  わたしは少し考えてから、「お前と月旅行っていうのもいいかもしれん」と言って笑った。それも悪くはないだろう。本当にそんなことができれば、だが。  「……うん」  慈しむように瞳を細めて、夜を統べる竜がうなずく。  「本当に──きれいだね」  そんなことを口にして、ようやくアイツは笑った。   ***  「せっかくの美しい夜だ。満喫しないのはもったいない。お前のとこで飲み直そう」  セントジェームズパークを後にしてピカデリーのほうに向かう道すがら、わたしはアイツの背中を叩きながら酒のことばかり考えていた。  「きみ、もう私のワイ��開けてるでしょ」  「なんだ、やっぱりいたんじゃないか、お前」  実は3日ほど、あの屋敷に厄介になった。ここで張っていれば帰ってくるのではと踏んだからであって、決して酒がうまかったからとか、ホテルの予約を忘れたからとか、そういうことではない。  一度も帰ってこなかったので空振りに終わったと思っていたが──アイツの神出鬼没な性質は、今に始まったことではないか。  「うまい飯も食いたい!」と言うと、じゃあ、何か作ろうか、とアイツは笑った。  結局のところ──やっぱり何をどう取り繕っても、わたしはアイツの友人であることが、楽しいのだろう。  いずれ訪れる未来の自分を救うために、いますぐ大学に戻ることもできたが、カバンにつめてきた本は返しにいかねばならない。借りたものは返さねば。そう、仕方なく返しに行かねばならないのだ。なにより、せっかくもぎとった休暇なのだから……  「次はコナンドイルが読みたいんだが」  「全部あるよ」  「そりゃ、ありがたい」  しばらくは、ご褒美だと思って騒がしい休暇を楽しもう。その真実を知っているのは、この美しい夜だけなのだから。
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amebreak-bootleg-archive · 3 years ago
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2013/06/22 RAPSTREAM CO-SIGN VOL.8 feat. 三島 a.k.a. 潮フェッショナル
「俺の動きが凄すぎてさ 3Pしてると思ったらしい/俺の裸の���見てさ 3本足だと思ったらしい/うつ伏せでエロ本見てたらさ 勃起して体浮いてたらしい」(“すぐいる?”)
   ……クラブで知り合い、それ以前からフライヤーなどで度々その名を目にしていたMC:三島 a.k.a. 潮フェッショナルを、筆者がライヴで初めて観たときに、彼が演っていたのがこの曲だった……。そのときの正直な感想は、良くも悪くも「ああ、やっぱり……(笑)」という感じだったのだが、7月にリリースされる1stアルバム「ナリモノイリ」を聴いて、下ネタだけではない、彼の奥深さを思い知らされた。そんな彼のこれまでの道程を少し掘り下げてみよう。     「小学校の頃はサッカー少年でしたね。サッカー・ボールと女のケツばっか追いかけてました。“Dr. PUSSY”って曲で『4歳でエロ本万引きしてる』って歌ってるんですけど、アレはリアルで、近所の本屋で万引きして見つかって、親と謝りに行ましたね。田舎の本屋で街に一個しかなかったから、親も本屋さんと知り合いで、幼稚園の先生も苦笑い、みたいな。多分俺、日本でエロ本万引きしたヤツの最年少なんじゃないかなー」    ……やっぱりエロじゃねえか!といった感じの幼少期を過ごした三島は、昭和55年生まれ。皮肉にも、今や福島県で最も有名な街のひとつとなってしまった南相馬市出身だ。 「(地元は)何もないところでしたね。娯楽もなくて、カラオケもなければバーもなくて。田舎モンでも都会でサヴァイヴしていこう、っていう何クソ根性みたいのは南相馬に住んでて育まれたかもしれないです。でも、この街にいても何も出来ないんだろうなあ、っていうのは思ってて、東京に出て来て。まあ、最初東京に来た理由は、当時付き合ってた彼女が東京に住み始めたからそこにゴロニャンしただけなんですけど」    そんな三島とHIP HOPとの出会いは中学生の頃だったという。  「俺らの世代はみんなそうだと思うんですけど、スチャダラパーから入って。田舎だったからタイムラグはありましたけど、高校に入ってギドラとかBUDDHA BRANDとかを聴いてヤラれちゃって、自分でラップをやろうとまでは思ってなかったけど、そこからずっとヘッズですね。特にヤラれたのはブッダかな。『大怪我!』とか、そんな他愛もない言葉でこんなカッコ良い言い方できるんだ!って思って。この人たちはどんな下らないこと言ってもカッコ良いんだろうなあ、って、そこが自分の性に合ってた」    そして、彼がラッパーを志すようになったのは、上京した後の19歳の頃だ。 「東京に来てから、18歳ぐらいの頃にDJ始めようと思って。モテるかな、と思って。当時は『家にターンテーブルあるよ』って言ったら女の子が食い付く、みたいのがあったんですよ。それでターンテーブル買ってみたんだけど、レコード買うのにカネがかかるじゃないですか。DJも上手くなんないし、俺、大丈夫かな?とか思ってたとき、とあるカウントダウン・ライヴでZeebraさんを観に行く機会があって。俺、中卒なんですけど、ジブさんも中卒じゃないですか。そんな人がこんな大人数を沸かせることが出来て、良い歳こいても落ち着かないでいることが出来るなんて、この職業いいな!って思ってラッパーになろうと思いました」    ラップ歴10数年で1stアルバムをリリースということは、かなり遅咲きなルーキーだが、三島は都内のクラブを中心に地道に活動を続けてきた。当初は“三島”という名字だけのMCネームだったようだが、ふとしたきっかけでこのインパクト大なa.k.a.が生まれる。 「“三島”って名前だけでネットでエゴサーチしても全然出て来ないわけですよ。俺、ソロだからグループ名も無いし、自分で造語でも作らない限り(検索しても)俺に辿り着かないな、って思って。自分の身の丈に合った別名を考えたとき、コレしかなかった(笑)。……俺、本当に得意なんですよ、潮を吹かせるのが。それで、自分の頭の中で“潮フェッショナル”ってつぶやいてみたら、『あ、なんかしっくりくるな!』って思って(笑)。この別名にこだわりがあるってわけじゃないんですけど、まあ、印象付けるためですね」 「とにかくエロにまつわることが好きなんですよね。ヤるのも自分でするのも、文化も含めて。頭から離れることがないし、エロを絡めて上手いことを言いたい、って常に思ってて脳味噌が起動してますね。今日は『AV女優も真っ青な竿』ってフレーズを思いつきました(笑)。思ったんですけど、エロな話を曲の一部で歌うとかパンチラインとかは結構あっても、一曲丸々エロのことについて歌ってる曲って、実は意外と少ないな、って思うんですよね」     やはり、三島というMCを語る上で“エロ”は欠かすことのできない要素なようだが、その道を極めた者だけが描くことが出来る表現というのもあるわけで、そういう意味で彼の1stアルバム「ナリモノイリ」はその片鱗を感じることのできる、充実した内容となっている。    単純に「自分がしっくり来るトラックがずっとなかった」ために、リリースがこのタイミングになったという「ナリモノイリ」は、前述の“すぐいる?”も収録されているが、目立って下ネタを強調した曲はこの曲ぐらいだ。“すぐいる?”から、ONE-LAWの「MISTY」にオリジナル・ヴァージョンが収録されていて、同作中最もエモーショナルな曲だった“提灯”(「ナリモノイリ」にはリミックス・ヴァージョンが収録)まで、下らない曲からシリアスな曲まで、ヴァラエティ豊かなトピックが並ぶ「ナリモノイリ」は、筆者の当初の予想以上に聴き応えのあるアルバムに仕上がっていた。そして、そんなアルバムの制作における彼のヴィジョンの確かさは、以下の発言にもよく表われ ている。 「俺は俺なりに王道なHIP HOPだと思ってるんですよ。USだとLUDACRISとか、スゲェとんでもないバカな曲も歌えば“RUNAWAY LOVE”みたいにマジな曲もあって、それぐらい振り幅があるのが好きなんです。日本って『エロ=色モノ』って思われすぎちゃってるのかな、って。でも、USだとメインストリームの連中もみんなそんなことばっか言ってるし」 「北野武がテレビで“振り子理論”の話をしてて、『すごいバカなことを出来るヤツはマジメなことも出来る』って言ってて、それに対して『こうあるべきだ』って思ったというよりは『コレ、俺の考えと一緒だな』って思ったんですよね。“すぐいる?”とか“Dr.PUSSY”とか、内容はバカじゃないですか。でも、そこまで行った後に聴く“提灯”とか“銀舎利”を聴けば、そのギャップでもっと入り込みやすくなるかな、って思うんですよね。今後、2nd~3rdとか出すことになっても常にその振り幅は大事にしたいですね」    だが、南相馬出身である三島の「ナリモノイリ」は、「震災/原発以降」の視点が反映された曲がほとんどなく、その点は少々意外にさえ感じたのだが、それに対する彼の回答は以下だ。 「実家は原発から20キロ圏内だから、今は住めないですね。正直、(震災に関する)曲は書いたんですよ。でも、フックが思いつかなくてずっと悩んでて日が経っていくと、どんどん地元の状況が変わってきたから言いたいことも変わってきて。自分は、当事者と言えば当事者じゃないですか。だからこそ分からなくなってきたところがあって。何が正しくてどうすべきなのかとか、どう歌って地元の人に伝えるべきなのか、混乱してしまって書けなくなっちゃったんですよね。でも、故郷に対する想いは昔より出て来たかもしれないです。盆暮れ正月に帰ってたぐらいで、地元を捨ててきたぐらいの気持ちで東京に出て来たから、地元に戻りたいって一回も思ったことなかったんですけど、いざ20キロ圏内になって立入禁止になって、ダメって言われたら逆に恋しくなってきて」    福島出身のMCで、故郷を歌った曲と言えば鬼の“小名浜”が思い浮かぶが、三島も今後の作品でそういった曲が聴けるかもしれないし、個人的には期待したい。三島自身も、今作を皮切りに更に制作を加速しようと企んでいるようなので、今後の動きが楽しみだが、まずは7月26日に発売される「ナリモノイリ」と、『RAPSTREAM』でのライヴをチェックして彼の真価を確かめてみてほしい。 「来年頭にEPぐらいは出したいですね。今作はフィーチャリング曲が少なかったんで、今までやりたくて出来なかったフィーチャリング曲多めで出してみたいですね。あと、DIAMOND LISTとかKING104と一緒に何かやろうって話はしてますね。(将来的には)ラッパーとしてだけじゃない部分でもっと世の中に出たいですね。Vシネ俳優とか。AV男優は流石に母ちゃん泣いちゃうからキツイかなー(笑)」 文:伊藤雄介(Amebreak)
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hummingintherain · 4 years ago
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『とあるねじれたせかいのものがたり』
 一
 歪んでる、それが正しい、あの子の世界。
 その女の子は、一面が銀色に輝く雪原のはじっこに住んでいる。剛毛の赤毛に、とろりと溶けるような垂れた黒色の目に短く切り揃えられたような睫毛。同年代の子供で背の順に並べば一番前を陣取るようなこじんまりとした背丈。決して美人とは言えないその女の子は、毎日大きな書庫の隅に置かれた机で本を読んでいた。書庫は壁全体に張り付いているような巨大な本棚をいくつも揃えている。無論壁だけでなく部屋全体に美しく並べられ、その一つ一つが様々な書物でびっしりと埋まっている。思わず前のめりになってしまう胸が躍る冒険譚も、大人でも読むのに苦労するだろう分厚い辞書のような物語も、どこかに住む見たことのない生物が全頁に描かれている図鑑も、幼子も心をときめかせるカラフルな絵本も、彼女の望む全ての本が揃っていた。そこで年がら年中四六時中読書に耽っていた。  女の子はたった一人でその家に住んでいた。丸太で頑丈に造られたその家は、人間だって簡単に吹き飛ばされてしまいそうな猛烈な吹雪にあてられてもびくともしない。数か所に設けられた窓も三重構造になっているから、寒さにも風にも強い。ただ、換気をしようとするときに不便なだけ。  お腹が空いたら彼女は台所へ向かう。冷蔵庫の中身は誰かがこっそり補充しているかのように常に満杯だった。それを女の子は不思議に思ったことはない。今日もまっしろで雪玉みたいな卵を二つ。慣れた手つきで殻を割って、ボウルに落とされるは二つの黄色いまる。いくつかの調味料を目分量で加えてかき混ぜる。これで準備は万端。長方形のフライパンにフライ返しと取り皿を乗せて右手に、ボウルを左手に。小さな両手でたくさんの荷物を引きつれて、煌々と燃える居間の暖炉へと。煉瓦で囲まれた大きな暖炉にフライパンを翳して温めたら、卵を流す。じゅう、と耳に心地良い音。静寂を掻き分けるようなこの音が女の子は好きだった。火力が強いために加減が難しいが、上手く溶き卵をひっくり返していく。慣れた手つきで、あっという間にふっくらふんわり卵焼きのできあがり。まだ熱い間にいただきます。暖炉の前のテーブルに卵焼きと箸を並べて、彼女は手を合わせる。それから箸で卵焼きを裂く。その隙間から、冬に吐きだす白い息のような湯気がもくもくもくと溢れだしてきて、女の子はにんまり笑みを浮かべ��。美しい断面図、黄色の層。一口サイズにして口の中に放り込む。控えめな味付けだけど、甘い卵の味がしっかりと口の中いっぱいに染み渡っていった。はふはふと熱さに口の中で卵焼きを転がしながら、それでも我慢できなくて噛んでいく。そのたびに味が広がっていく。卵焼きは彼女が大好きで大得意な料理だった。  満たされたらまた書庫へと戻る。書庫は居間よりも何倍も大きくて、まるで家に図書館が併設されているかのようだった。部屋には真っ赤な絨毯が敷かれ、女の子の平凡な容姿とは裏腹の、どこか高級な気風を兼ね備えている。木製の本棚に並べられた本は乱雑で、高さもまったく揃っていない。それを彼女は気にしなかった。むしろそのざわめいているような雰囲気が彼女にとっては心地良かった。まるで、一人きりじゃないみたいだったから。一冊一冊無造作に読み進めている感覚がたまらなく愛おしかったから。  食事をとる前に読了して机に置きっぱなしにしていた本を手に取り、適当な隙間に押し込める。こうしてまた仲間の元に戻っていく。溢れんばかりの物語の渦に引き込まれて、一つになる。おかえり、ただいま。そんな言葉が聞こえてきそうだった。さよなら、またね。女の子は愛しげに細い指で背表紙をなぞる。心を動かす物語を、ありがとう。  次に読む本を決めていないのが女の子の特徴だ。棚いっぱいに広がっている背表紙の森を眺めて、呼ばれるように一冊の本に指をかける。今日もそうして一つの本棚の前に立ち、黒い瞳で無数の題名を受け止めていく。と、視線の動きが止まる。すぐに書庫の大きな扉の傍まで戻ると、自分の何倍もの背丈のハシゴを手に取った。幼い身体に対してあまりに長く、運びづらい。本棚に這わせるようにゆっくりゆっくり連れて行くと、目的の場所に立てかけた。ハシゴは天井まで突き刺さりそうな高さだった。実際、本棚は丁度天井まで届いているため、そのくらいの高さが無いと意味が無い。女の子はハシゴが安定していることを何度も確認すると、意を決して登っていく。一段一段、丁寧に手をかけ、足をかけていく。いくつもの本を横目にひたすら上へと向かっていき、一番上の段までやってくる。おはよう、よろしくね。手を伸ばして、蜂蜜色のハードカバーの一冊を取り出す。いってきます、いってらっしゃい。そうして森の中で一輪の花を摘む。脇に挟み込むと、行きよりも慎重に降りていく。幸運なことに未だ落ちたことは一度も無いが、足を滑らせれば、ハシゴがバランスを崩せば、小さな命の灯など一瞬で吹き飛ばされてしまうのだろう。それが女の子はどうしようもなく怖かった。油断すると足を掬われる。本が教えてくれたことだ。石橋を叩いて渡るように緊張を保っていくと、気付いたら床に足がついていた。やれやれ、今日も無事に乗り越えられたようだ。女の子は本を両腕で包み込みながら安堵の息をついた。  ハシゴを定位置に戻し、すぐに机へと向かう。窓の向こう側から差し込んでくる白い光を明かりにして、本を前にする。『麦』という余計なものを全て削ぎ取ったような端的な題名。本を開くと、古びた一ページ目が顔を出す。あなたはどんなものをわたしに与えてくれるの、楽しみにしているね。  文字の一つ一つを撫でるように読み進めていく。紙を捲る乾いた音が、大聖堂で楽器を鳴らすように書庫に響く。外界の音は厳重なガラス戸が一寸の漏れなく遮断しているため、その音だけが唯一この家に残された光のようだった。他には何も無い、無音の世界。女の子はそれに寂しさを覚えない。別の世界に心を委ねているから、気にも留めない。  小さな窓の外からの明かりは何時の間にかおとなしくなっていき、文字が読めないほどに暗くなってきた頃に息を吹き返したかのように顔を上げた。架空の世界から現実の世界へと戻ってきた彼女は、余韻に脳が痺れたまま徐に立ち上がる。『麦』に薄い木片の栞を挟み込んで閉じると、机の上に残して彼女は書庫を後にする。  書庫と居間は短く真っ直ぐとした廊下で繋がれている。この家にある部屋は、ベッドが置かれただけの寝室と、台所を取り込んだ居間と、書庫のたった三つだけだった。それだけで彼女には十分だった。  居間の暖炉の前の椅子に腰かけると、女の子は一日を戦いきった後のように長い溜息をついた。息を吐くと同時に、空腹感も増幅してくる。また卵焼きでも作ろうか、それとも別のものを作るかと思案する。妙な倦怠感が全身に覆いかぶさって、なされるがままに彼女はテーブルに伏せる。なんだか、とても疲れていた。『麦』は一人の女の子の生き様を描いている物語なのだが、まるで筆者が直接書いた自伝のような生々しさがあった。他の本とは何か違う。うまく言葉で形容できないのが彼女は非常にもどかしかったのだが、とにかく違う、そんな引力のある書物だった。だからか、いつもよりも余計に力を吸い取られていた。  疲労の海に抵抗なく浸かっていると、彼女はいつの間にか目を閉じ、夢の世界へと旅立ってしまっていた。
 二
 女の子は、聞き覚えの無い音に目を覚ました。こんこん、と何かを叩いている音だ。硬いその音は小さなものだったが、沈黙を当然とする家を揺らすように響いている。眠気まなこを擦りつつ、女の子は震源を探ろうと周りを見渡す。が、いつも通り暖炉で火が燃えているだけ。部屋の中に特に異変は無い。不思議に思いながら椅子から立ち上がって、耳からの情報を分析して少しでも音が大きく感じる方向へと歩いていく。そうすると彼女は一度として開けたことのない形ばかりの外への扉の前に辿り着いていた。明らかにここから――正しく言えばこのすぐ外から音は発信されている。彼女は木の重い扉の取っ手をとり、力いっぱい引く。びゅおう、と猛烈な風が部屋に吹き込んできて、まだ夢の中にいるような浮遊感が走り去っていった。細めた視界に入ったのは、扉の向こうにいたのは、彼女が初めて見る、彼女によく似た形をした生物だった。 「え……」  一体いつ以来、彼女は声帯をこれだけ震わせたのだろう。小さな感嘆符が零れ落ちて、目の前にいる人物に穴を開けんとしているかのように見上げていた。自分よりずっと大きな体つき。がっしりと肩が広く、闇夜から生まれたかのような真っ黒に染まった服を身に纏っている。男のひとだ、と彼女ははっきりと断言した。何度か見たことがある――それは本が由来だった。本の挿絵で見たような男性像が目の前にリアルな姿として存在している。  男性は女の子より一回り歳を取ったような、しかしまだ活力が十分に身に余っているそんな若者だった。扉が開けられたことに驚いたのか目を見開きながら、雪崩れ込むように女の子の横を擦り抜け、居間へと突入していった。というよりも、倒れ込んでいった。女の子は息を呑む。本を落とすよりもずっと重量感のある音が床を揺らす。女の子は顔を硬直させながら、恐る恐る目の前にいる若者の目を閉じた顔に指先で触れた。まるで雪のような冷たさに指が痙攣する。と、若者の眉間がぐっと歪む。些細な変化にも驚いて女の子は仰け反るが、若者には身体を動かす力も殆ど残されていないらしい。  とりあえず、扉を締めなければ家の中にまで雪が積もってきてしまいそうだった。女の子は若者の足を無理矢理引き摺って家の中に押し込めると、扉を閉める。ずっと使われておらず形式上のものであった外と中の境界線は、錆び付いたように重い。  若者は今にも凍え死んでしまいそうなことは、幼い女の子でもすぐに理解できた。すぐに暖炉の前に連れていて、温めてあげなければ。女の子は小さな身体で若者の体を引こうとするが、びくともしない。彼女が考えていたより人間の身体というのは重い。それでも、何もしないわけにはいかない。彼女はまず吹雪に晒されてしまい彼にかかった雪を叩き落とし、近くにあったタオルで濡れた部分をゆっくりと拭いていく。死人のように青白い顔をしているが、まだ息はしている。彼女は何度も何度も彼の顔を優しく拭いた。目を覚ますのを、じっと待っていた。  その甲斐あってか、しばらくしてから彼の目が薄らと姿を現す。女の子は息を呑み、身を乗り出した。自分と同じ黒い瞳をしている。改めて見ると、逞しいというよりは、優しくおっとりとした印象を持たせる。けれど鼻がぴんと美しいラインを描いており、整っている顔つきだった。若者は現状を理解できず、相変わらず生気が抜けた表情で固まっていた。  女の子は一度その場を離れ、台所へと向かう。慣れた手つきでティーポットとティーカップ、それからハーブを一枚用意する。小鍋に水を注ぐと、暖炉の前へと移動しその火を利用して沸騰を待つ。その間積極的に後ろを振り返り、若者の様子を伺っていた。若者は一応は目を覚ましたものの、凍り付いたような体を動かすことができないでいた。珍しいものを見る目で眺めているうちに、手元のお湯は沸騰する。慌てて台所へと戻ると、ポットの中にハーブを落とし、湯を注ぐ。ハーブの香りが彼女の鼻腔を刺激し、充満していく。心が穏やかになる爽やかな香りだ。ハーブの成分が浸透するのを待つ間に、女の子は若者の傍に戻る。 「……ごめん……ありがとう……」  若者は女の子を視界にいれるや否や、そう彼女に声をかけた。女の子は肩を跳ねさせ、直立する。相手は人間なのだ、喋るのは当然だ。そうと解っていても、胸がどきどきとして、一気に緊張してくる。  凍ったような体を無理に動かそうとする若者を見て我に返った女の子は、急いでその傍に寄る。彼女のか弱い体で若者を支えられようもないが、その健気さに若者は微笑みを取り戻した。力が湧いてきたように、体を引き摺るようにして暖炉のもとへと向かう。ゆっくりゆっくり、時間をかけて、歯をがちがちと鳴らしながら息を切らしながら体の痛みに耐え、炎の前に辿り着いた。そこでようやく、若者は安堵の息をついた。同時に女の子も胸を撫で下ろす。  ふと、ハーブティーのことを思い出し、一目散に女の子は台所に入る。ティーポットからハーブを取り出すと、ティーカップと共に暖炉の前へ戻る。まさか、二つのティーカップを同時に使うときがやってこようとは夢にも思わなかった。床にカップを並べると、ゆっくりとハーブティーを注いでいく。白銀の湯気が空気に溶けていき、同時に昇ってくるハーブの香りに若者の固まった頬は綻んだ。手をついてそこに体重をかけながら上半身を起き上がらせ、彼女からカップが渡されるのを待つ。  女の子は恐る恐るハーブティーを彼に差し出す。 「ありがとう」  先程よりもはっきりとした口調で律儀に若者は対応し、震える両手でティーカップを包み込���。掌から感じられる温もりは癒しそのもの。水面に映る若者の顔は揺れている。端に唇をつけ、少しずつ喉に流し込んでいく。冷えた歯に熱々の紅茶は痛みを呼び起こしたが、すぐにそれは打ち消される。さっぱりとした味わいだった。濃さもちょうどよく、飲みやすい。芯まで冷え込んだ身体に心地良く熱が浸透していくのを感じる。ふと視線を女の子にやると、彼女は黒い目を大きく開けて若者を凝視していた。何故そんなに見てくるのか不思議だったが、やがて気付いたように若者は口を開く。 「……とても、美味しい。とっても」  女の子はぱっと表情を明るくさせた。年相応の愛くるしい笑顔に、若者の心も和らぐ。  それから女の子は思いついたように立ち上がり、台所に戻る。不思議そうに取り残された若者は、きょろきょろと居間の様子を見回す。木造のあたたかい色合いの壁に床。部屋の中心に赤い絨毯が敷かれ、その上にはテーブルに椅子が置かれている。そして、彼の目の前にある暖炉。それだけしかそこには無かった。随分と広いのに、場所を持て余しているようだった。やがて、女の子が戻ってきたのに気が付く。彼女は卵焼きを作る体勢でいた。若者には調理用具の意味が分からず、不審気に眉を顰める。しかし次の瞬間、目の前で繰り広げられる料理に驚嘆せざるを得なかった。自分よりも一回りも小さい女の子が、いとも簡単に美しい卵焼きを作り上げていく。あっという間だった。黄金の輝きと出来たての湯気を放つそれは、若者の萎えていた食欲を刺激した。女の子は箸で一口分に切ると、彼の口の前に持っていった。それは予想だにしていなかった若者だったが、生憎彼の手は箸を器用に扱えるほど回復していない。幼い子供に「あーん」をされるなんて恥ずかしい以外の何物でもなかったが、相手の輝く瞳を見ていては断ることもできない。仕方なく口を開けると、卵焼きが放り込まれる。紅茶のおかげで温もっている口内に、とろりと染み出る素材の甘さ。調味の加減も控えめながら、卵本来の味を引き立てているようだった。たかが卵焼き、されど卵焼き。特に体が弱った彼にとってはどんな高級料理よりも絶品だと断言できた。 「美味しい!」  我慢できず、嬉しそうな声が彼から飛び出していた。一気に元気が湧いてきたかのようだった。  女の子は喜び、次々と彼の口の大きさに合うよう卵焼きを切っていく。 「君は、小さいのにしっかりしているね……お母さんはいないの?」  ようやく思考がはっきりとしてきたのだろう、若者はそう尋ねる。  対する女の子はぽかんと目を丸くする。お母さん、という言葉を噛み砕き、本で読んでき���母親像を思い出す。子供を産み、育てる女性。気付いた頃には――最初から一人だった女の子には関係の無い存在だった。結果、彼女は首を横に振る。 「お父さんは?」  彼女の行動は変わらない。 「一人でこんなところに住んでいるの?」  そこでようやく彼女は大きく頷いた。すごいなあ、と感嘆の声をあげる。女の子にとっては当然のことであったから、何をそんなに驚かれるのかよくわからない。 「……俺は柊っていうんだ。外の吹雪に巻き込まれちゃってね……本当に助かったよ、君が出てくれて」  ひいらぎ。女の子は心の中で繰り返した。文字はきっと、柊。木へんに、冬。ひいらぎ。女の子はこの言葉を何度か本で見てきたが、微風が流れるような穏やかな音の響きが快くて、好きな言葉の一つだった。  同時に、優しい声だな、と女の子は思った。低くてしっかりとしているのだけど、鼓膜を撫でるような綿みたいに優しい声だ。きっと、ずっと聴いていても飽きないのだろう。子守唄でも歌われたら、どんなに目が覚めていてもすぐに眠ることができそうだ。それか、聴いていようと夢中になって無理矢理起きているかの、どっちか。 「君の名前は?」  不意に問われて、女の子は思考を停止させる。彼女には名前というものが存在しない。一人で生活し他人とまったく出会うことのない彼女には、必要無いものである。けれど、名乗ったら、名乗り返す。物語ではよくあるパターンだ。このタイミングで言わないのもおかしいだろう。あまり、変な子だと思われたくない。どうしようと考え始めて、最初に出てきた単語をいつのまにか口に出していた。 「……む、ぎ」 「麦?」  拙い声を彼は聞き取ってくれたらしい。女の子は――麦は、大きく縦に頷いた。  麦かあ、麦。いいね、麦かあ。何が嬉しいのか、柊は頬を綻ばせた。本当は先程まで読んでいた本のタイトルから引用しただけの偽りの名前だが、そうやって何度も繰り返されると何故かとても唇のあたりがむず痒くなる。  そこで沈黙が訪れる。柊はハーブティーを口にし、麦は彼の口が落ち着いた頃に卵焼きを差し出した。僅かずつではあるが、彼の胃は満たされていく。幸せを具現化したようなその味に、逐一柊は美味しいと感想を述べた。そのたびに麦は嬉しくなって、他にも御馳走してあげたい気持ちに駆られる。けれどそれ以上に、麦は今、この瞬間を柊と過ごしていたいと思うのだった。初めて出会った人間。心優しい大人。読書からは感じたことのない楽しさに胸が躍っていた。  麦はうまく喋れない子だと柊はすぐに理解した。だから会話といっても基本的に彼から喋り、麦はそれに身振り手振りで返すといった風である。言葉を発するのは不得意だけど、しかし麦は読書で培ってきたおかげなのか頭がいい。柊の言葉をほとんど理解することができたため、不器用なようで、しかし円滑にコミュニケーションがとることができたのである。 「卵焼き、好きなの?」  こくりと頷く。 「俺もまあ、好きだけど、普通って感じかな。でもさ、麦の卵焼きは特別だなあ。俺の母さんが作るものよりずっと美味しいよ」  唇を噛んで、恥ずかしげに顔を俯かせる。 「というか、こんなところに住んでるのによく食材なんて調達できるね。外、かなり雪が積もってるけど」  ふるふると横に振る。 「ん? 雪、得意なの?」  ふるふる。 「んーと……そっか。まあ、どうにかしてるんだよね」  こくり。柊は苦笑を浮かべた。初対面であるおかげでもあるだろうが、無闇に踏み込んでこないのも麦には丁度良かった。  先程の柊の言葉にどう答えたらいいのか、麦には分からない。冷蔵庫に詰め込まれた食材は常に補充されていて、困ることが無い。それが普通だと思っていた。でも、そういえば本の中でも食材を買いに出かけている描写はいくつも見てきた。そういうものなのかもしれない。自分の方が、不思議なのかもしれない。けれど、それを柊に説明しようもない。それに柊はあまり気にしない風にいてくれるから、まあいいや、と流すことができる。 「吹雪、やまないね」  柊は三重に守られた窓の外を見ながら、ぼんやりと呟く。 「今夜中はずっとああなんだろうな」  こくり。 「ごめんね。急に入ってきちゃって」  ふるふる。 「麦は優しい子だな」  ふるふる。  自分よりも、こうして構ってくれる柊の方がずっと優しい。美味しい美味しいと言ってくれる柊の方がずっとずっと優しい。そう言いたかった。 「そこにつけこむようでなんだか悪いんだけど、今夜はここに泊まっていってもいいか?」  こくりこくり、こくり。  勿論です。  力強く何度も頷いた麦に、柊は思わず噴き出した。 「ありがとう。なに、なんか嬉しそうだね」  見透かされたみたいで、麦は隠れるように自分に淹れたハーブティーを口にした。不思議。いつもと同じハーブでいつもと同じくらいの時間だけ浸けたのに、なんだかいつもよりずっと、おいしい。卵焼きはいつの間にか無くなってしまっていた。全部柊がたいらげてくれた。自分の作った料理を誰かが幸せそうにたいらげてくれるのは、こんなにも快いものなんだと麦は知る。  それからもいくつか会話は続いていく。いつもならとっくに夕食を済ませて書庫に戻って読書に耽っている頃だが、麦の頭に読書のことはまるで蝋燭の火が消えてしまったように無くなっていた。夢中になっているといつのまにか時間が過ぎていってしまうのは、読書と同じだった。本が好きなことも、柊に告げた。どんなことが好きか、という問いに対し、ほん、という単語は言いやすいのか、すらりと言うことが出来た。その年で読書家かあ、と柊は笑った。誇らしげな顔で何度も頷く。本当に好きなんだね。その言葉に、強い肯定を示した。どこか誇らしげな顔をしていたのが、柊の瞳に焼き付いた。  本に関する柊からの質問攻めが終わった後、ふと、思い出すように柊は声をあげた。 「そういえば、今日って十月三十一日だっけ」  じゅうがつさんじゅういちにち。何の暗号かと思考を巡らせる。と、思い至る。日付だ。今日という日を定める記号。本の中では時間の動きを明確にするために記しているものもある。麦には日付感覚というものが存在しない。日々同じ時間を同じようにを繰り返すだけなのだ。けれど麦はきっとそうなんだ、今日は十月三十一日なんだと思い込み、彼の言葉を肯定する。そうだよね、うんうん、ああ、でも。柊は顔を顰めた。些細な表情変化にすら、何か悪いことをしただろうかと麦は怯えてしまう。返答が良くなかっただろうか。肯定してはいけなかっただろうか。 柊には麦の動揺が伝わったらしい。 「いやさ、折角のハロウィンだっていうのに、俺お菓子もなんにも持ってないなーって思って、なんか申し訳ないや」  ハロウィン?  麦は光の速さで頭の中の辞書を捲っていく。が、その単語は彼女の聞き知らぬものであった。本でもそんなものを題材にしたものがあっただろうか? 忘れただけだろうか。いくら卓越した読書量を誇る麦でも、読んできた本以上に読んでいない本がまだ途方も無いくらい多いのだから、知らないものがあってもおかしくはない。そう自分に言い聞かせながらも、やはり気になる。 「というか、今回の場合俺が家に訪問してるし、なんか何もかもかっこつかないなあ。うーん情けない大人だ」  柊が何を言っているか、さっぱり解らない。必死に理解しようと脳をフル回転するものの、結果は良くない。白旗だ。お手上げだ。  そんな麦の様子を敏感に察した柊は、首を傾げた。 「ハロウィン。……Trick or treat」  流暢な英語が彼の口から滑るが、彼女は顔をぽかんとさせたままである。今までなんらかの返答をしてきた麦が、初めて見せた「わからない」だった。 「トリックオアトリート。知らないのか?」 「とり……」 「トリック、オア、トリート。お菓子をくれなきゃいたずらするぞ、っていう意味」  麦の表情は相変わらずである。  本当に分かってないんだなあ、と柊は微笑を浮かべる。 「子供は今日、十月三十一日――ハロウィンの夜、一軒一軒家を回って大人にそう言ってお菓子をねだるんだ。愉しいお祭りだよ。子供の持てる小さな鞄いっぱいに美味しいお菓子を詰めるから、その後毎日お菓子を食べられる。やっぱりお菓子って、子供にとっちゃ宝みたいなものでしょ」  麦は頬を紅潮させて、やや興奮気味に頷く。なんだかよく分からないけど、しかしとても魅力的な話だった。あまーいお菓子を貰いに、人々に出会っていく。そしてきっと、後で毎日大切に大切に消費していくのだ。お祭りというその言葉の響きだけでもわくわくさせられる。 「とり、あー……」  麦は頑張って発音しようとするが、理解してもいない単語を放出するのは、彼女にはあまりにも難しい。 「トリック、オア、トリート」 「とり、おあ」 「トリック、オア」 「とりっく、おあ」 「そうそう。トリック、オア、トリート」 「とりっく、おあ、とりーと」 「おおっいけたね! でもごめん俺、お菓子が無いんだよ。いたずら確定だ」  けらけらと笑う柊だったが、麦は慌てて否定する。いたずらなんて、できっこない。根気強く自分のペースに合わせてくれるこの人に、危害なんて与えられるわけがない。麦の必死な様子を見ていると、柊は穢れなき穏やかな気持ちでいられた。 「……もう俺はそんなのをする歳じゃないけど、麦なら余裕だなあ」  しみじみと、水が布に浸透していくような静かな言い方。  淋しそうな表情だな、と麦は思った。きっとこの人は、大人になってしまい、戻れない子供だった時代に恋い焦がれるような思いに晒されているのだ。懐古の思いにとらわれて苦しむ人の物語を、麦はいくつか目にしてきた。この人もきっと、同じなんだ。 「……麦は外にはいかないのか?」  その問いに麦は首を横に振って応える。そっか、と柊は目を俯かせた。 「そっか。それならハロウィンを知らないのも納得かな……でもさ、それって、淋しくはないか?」  少し間を置いて、再び麦は首を横に振った。淋しくはない。いつも彼女の傍には身に余る本がある。本が友達のようなものだったから、飽きることも淋しくなることもない。そういった感情をまったく持ち合わせたことが無かった。 「でもやっぱり、勿体ないよ。こんなとこにたった一人で住んでるなんて、可哀そうだ」  可哀そう? 何が可哀そうだというのだろう。彼女はここでの生活を受け入れ、満足していた。その気持ちは真実そのものである。それなのに柊はなんだか憐れむような目で麦を見つめてくるのだ。ハロウィンを知らない彼女を、他人という存在に疎い彼女を、本に囲まれ幸せである彼女を、可哀そうだと。 「俺さ、今の吹雪が止んだらここを出ていくから、試しでさ、一緒に外に出てみないか?」  誘い。  一瞬だけ、ほんの少しだけ、彼女の心が揺らいだ。彼は、いずれこの家を発つ身。ここに留まってほしいなんて、彼女は言えない。幸せな時間は終わってしまう。それはきっとそう遠くない。でも、行ってほしくない。なら、彼についていくという案はひどく魅力的なように思えた。  その瞬間、脳を突き刺す痛みに顔を歪めた。だめ、と強く叩かれたかのようだった。だめ、ダメ、駄目。そんな声が聞こえてきそうだった。麦はまた首を横に振る。否定。拒絶。行かない。行っちゃいけない。理由は解らないけど、自分はここに居なくちゃいけないから。誰にも教えられていないけど、それは使命であり運命であるかのように麦の中に元来根付いていた。 「……麦?」  優しい声。麦を癒してくれる音。 「大丈夫か、なんだか顔色が急に悪くなったけど」  平気だと返事しようとしたが、秒を追うごとに痛みが酷くなっていくようで、麦は頭を抱え込んだ。頭のはじっこが、熱い。ずきんずきんと痛んで、苦しい。耐えられなくなって、遂に前のめりに倒れ込んだところを、柊の温かくなった身体が難なく受け止めた。なんて力強く頑丈な胸板だろうか。ひ弱で幼い自分の体とはまるで別物だった。麦は彼の大きな腕の中から、恐る恐る彼の顔を覗き込んだ。さっきよりずっと近いところで、柊は変わらぬ笑顔を浮かべていた。 「疲れたんだね。ごめん、変なこと言って。今日はもう休んだ方がいい。寝室はどこ?」  嫌だ、もう少し、話していたい。麦の本音はそうだったが、その欲がはっきりと彼女の心に浮かびあったとたんに、打ち消すように大きな響きが頭を支配する。痛い。やめて。益々苦痛に歪んでいる様子は、柊を戸惑わせる。その顔が、決定打だった。もう終わりだ。困っているのに、我儘は言えない。  麦は項垂れ、暖炉の左奥にある扉を指差した。寝室のある部屋なのだと理解し、柊はぐったりとしている麦をおぶると、彼女の寝室だという部屋へ入る。扉を開くと出窓に置かれた蝋燭が部屋を照らしている。一見あまりにも儚く不十分な光のようだが、この部屋はとても狭く、ベッドしか置かれていない。読書灯としての役割を果たせていれば十分なのだろう。柊は皺無く整えられた布団を捲りあげ、頭痛に苦しむ麦をあまり揺らさないようにゆっくりとベッドに座らせる。頭に手を当てたまま人形のように動かない麦を見て、柊は仕方なさそうに腕を伸ばす。麦はとても、軽い。いとも簡単に持ち上げることができる。背中と足を包み込むように持ち上���て、麦の身体を布団の下へと滑らせる。ようやく横になった麦にふかふかの布団をそうっとかけると、彼女の臆病な顔だけがよく見えた。愛玩動物を扱うのと同じような要領で柔らかい赤毛を骨ばった大きな手で撫でると、麦の表情は不意に綻んだ。 「……ひい、らぎ」  あまりにも拙い声だ。言葉を口にするというその行為自体に慣れていないことがあまりにも分かりやすい。 「ひいらぎ」  彼の名前を呼ぶ。 「ひいらぎ、ひいらぎ」  何度も呼ぶ。 「ひいらぎ、ひいらぎ、……柊」  何度も、何度も呼ぶ。  どうして名前を連呼するのか、それになんの意味があるのか読み取れず、ただ単純に恥ずかしくなって柊は目を逸らす。それは、先程自己紹介をして、柊が何度も彼女の名前を呼んだ時と同じような光景だった。 「ほら、頭痛いんだろ。ゆっくり休んで、明日も本を読むんだろ」  柊は身を乗り出し、出窓にある蝋燭を吹き消す。居間から零れてくる光だけが寝室を照らしているが、麦の視界では一気に柊の顔は逆光で闇に塗りつぶされてしまった。それでもなんとなく感じ取れるのだ。暗闇の中で、彼が穏やかな笑みを浮かべている。彼女の目には鮮明に柊の表情が映っていた。 「おやすみ」  軽くそう声をかけると、柊は麦に背を向ける。居間に足を踏み入れると、音を立てないようにそうっと慎重に扉を閉めていく。光の線がどんどん狭まっていく。完全に消えて無くなってしまうその瞬間まで惜しむように、麦は瞬きもせずに目を凝らし続けていた。
 三
 柊の足はこの家において一番の面積を占める書庫へと向かっていた。他人の家を詮索するのはよくないと分かっていながらも、明日にでも発つ身だ。その前に、麦の生活の全てだという読書の間を一目見てみたかった。居間から続く廊下を歩くとすぐに突き当りに辿り着く。そこに佇んでいる重い扉を開くと、柊は思わず息を止めた。  点けたままにして放置されていたのか、待ち受けていたように淡い黄金の電灯が照らしている中で、二階分に相当するだろう天井の高さまで伸びた本棚が数十と並べられ、それを余すことなく本が埋め尽くしている。書物が生み出す独特の渇いた匂いで部屋が満ち満ちており、明らかに居間や寝室とは別格のものであると確信した。扉を閉めると、柊は一人穴に突き落とされたような気分にさせられた。圧倒されているのだ。シックな色合いの真っ赤な絨毯は柔らかく、足音はいとも簡単に吸収される。どこか高級感を思わせる厳格な色合いの部屋だが、柊は同時に不気味さも抱える。これだけ大量の書物がどうして周りに何も無い雪原にあるのだろう。いくら一日の大半を読書に費やしているといっても、一生かかっても全てを読破するのは無理ではないだろうか。  柊は棚に並べられた本の群を眺める。高さがまったく揃っていない様子は、整理整頓に関しては麦が無頓着であることをそのまま示している。殆ど物が置かれていない居間や皺のまったく無かったベッドの置いてある寝室を思い返すと、どこかが僅かにずれた不協和音のようだった。何か知っている本でもないものかと探してみるが、彼の知らないタイトルばかりだった。読むのが億劫になりそうな固い雰囲気のものもあり、自分よりずっと小さな麦がこのような本と日々向き合っているのかと思うとただ圧巻されるばかりである。言葉を知らない幼子のように見えていたが、実は途方もない量の知識を溜め込んでいるのではないだろうか。むしろ何故ハロウィンを知らなかったのかが益々疑問である。  ぼんやりとした調子でいると、やがて窓に面した古い机に辿り着いた。机の上には、小さなランプといくつかの辞書、そして栞を挟んでいるところから読みかけであると思われる蜂蜜色のハードカバーの本が一冊、椅子の前に置かれていた。薄らいだ表紙の文字に目をやると、『麦』と書かれていた。彼女と同じ名前の題名だとまず思った。だから彼女は手に取ったのかもしれない。自分の名前と同じ作家はそれだけで何故か親近感が湧いたり、気になったりするのと同じことだ。なかなか可愛らしい人間味のある麦の一面をこっそり垣間見て、まるで夜の学校にでも忍び込んでいるような不思議な緊張と高揚で満たされる。  しかし、そこで柊は気が付いた。この本には著者名が明記されていないのだ。表紙にも、背表紙にも、そして表紙を捲った一ページ目にも無い。当然のように『麦』というその一文字だけが印刷されているだけ。不審に思った柊は、『麦』を手に取ったまま、周囲の本棚にしまってある本を確認する。さすがにハシゴを使って上��で確認しようという勇気は湧いてこなかったが、歩き回ったところ、殆どは著者がはっきりと書いてある。殆どは、だ。片手で数えられるほどだが、『麦』と同じように著者名が載っていない本も存在していた。そしてそれらは決まって蜂蜜色のハードカバーの本であった。そういうシリーズなんだろうかと考えるものの、なんとなく納得がいかない。何故だろう、気味が悪い。得体の知れない空気がこの図書館のような書庫全体に漂っていた。誤魔化そうとしていても拭い切れず鼻につく臭いのよう。  そうして『麦』に視線を落としている時。  唐突に、書庫を照らしていた光が、全て消え去る。  柊はハッと視線を上げた。しかし一点の光も無く真っ黒に塗りつぶされた視界では何も捉えることはできないし理解することもできない。急に奈落の底に連れて行かれたかのようだが、手を伸ばすと傍に本棚があり、場所は変わっていないことを確認する。  が。  ふわり、と、薄いシルクの布のようなものが、本棚についたその彼の左手に覆いかぶさる。  ぞわりと柊の全身に猛烈な寒気が迸り、反射的に腕を引いた。今のは一体なんだった? 一体自分の身に何が降りかかった? 真っ暗闇の視界では皆目見当がつかず、恐怖が一気に増幅されていった。本棚に触れてはいけないとそれだけは把握し、柊は逃げるようにその場を離れる。方向感覚はまったく正常でないが、立ち止まっていられるほど悠長で鈍感な精神を持ち合わせてはいない。もがくように動き回っていなければ誤魔化せない。とにかくまずは明かりを点けなければ。入ってきた扉は、どこだ。本棚と本棚の間を走り抜けていくと、彼は出入り口ではなく麦の机の前に辿り着いていた。夜中だが、窓から零れてくるのは雪の光か、ほんの僅かだが青白い光が注がれていた。時を経て暗順応が機能してきたこともあり、闇の中でも視界が安定してくる。彼は焦燥に肩を激しく上下したまま、ゆっくりとその場で振り向いた。  身体が固まる。  塗りつぶされた暗闇の中で、更に濃い影が、黒い本棚から染み出るように蠢いている。ふわりふわり、海月のように、微風に揺れるカーテンのように、生きているように、湧き出ている。異形が、異様な風景を作り上げ、彼を闇の底へと誘う。それが一体なんなのか、柊にはまったく理解することができない。動揺に眼が眩んでいるが、彼の頭に響く危険信号が戻ってはいけないと叫んでいる。単純な生理的拒絶。あれは、触れてはいけない。そう確信した瞬間、足が竦み、いよいよ彼は身動きがとれなくなってしまった。  と、さわ、と何かが鼓膜を擦る。耳元で吐息を吹きかけられたようなこそばゆさに、神経が極限まで逆立っていた柊の体は反射的に仰け反った。あの影がすぐ近くまで音も立てずに忍び寄ったのかと危惧したが、少なくとも自分の手の届く範囲には見当たらない。なら、なんだったのか。柊は耳を守るように手を翳して、震える息で耳をすました。戸の隙間からそっと暗室を窺うように、心の準備をしながら感覚をとぎらせてみる。さわ、さわ。さわ、ざわ。鼓膜が揺らぐ。全身に鳥肌が立っていくようだった。囁くように鳴いているような何かは、誰かの声。  にん、げんだ。ふふ。さわざわ。に、んげん。ふふ、ひい、ぎ、ら、ひい、らぎ、うふふ。まよ、って、あは。ひいらぎ。  靄のような雑音が混ざったたどたどしい言葉。何かに引っかかっているような、壊れたレコードのような音。柊は無意識に、あまりにも不器用でたどたどしい麦の声を連想した。違う。彼は即座に否定する。これは麦の声じゃない。彼女はもっとあたたかい色を帯びている。浅はかな自らの想像力に感じるのは、麦に対する後ろめたさ。  ――ニンゲン。  霧雨のようなざわめきに圧し掛かるようにあまりにも唐突に、どこからか、ぐんと低く鉛のように重い脅すような声が響く。  耳を包み震えていた柊の手が、萎縮のあまり硬直する。  ――人間……人の魂。  ――僅かな綻びから穢れた足で踏み入った、愚かな人の魂。  何かがこそこそと発している囁きと違い、この低い声は投げかけてきているのか明確に聞きとることができた。しかし、その声が何を暗示しているのか、やはり柊にはすぐに理解できなかった。少なくとも分かるのは、脳内に直接語りかけてくるその声は、はっきりと聞き取れる代わりに頭を痺れさせるような残響を以て抉ってくるということだ。  ゆらりゆらり本棚を揺蕩う影。段々と成長しているかのように伸びている。まるで深海で揺れる海藻のようだった。  ――此処は唯一であり、何とも交わらぬ世界。貴様のような者の踏み入れて良い領域ではない。故に排除する。  突如として突き出された宣告を柊は瞬時に反芻し、大きく目を見開いた。 「!? 排除って……どういう……!」  動揺と畏怖が混ざり合った震えた声で、柊はどこから発しているかも分からない声に向かって戸惑いをぶつける。 「なんなんだ、さっきからわけがわからないことばかり……ここは麦の家だろう。俺は吹雪で迷い込んできただけで……!」  ――ならば貴様に問う。貴様、何故ここに入った。 「何故って」  すぐに言い返すために柊は自分という存在を顧みようとした。しかし彼の脳内に浮かんできたのは、いつしかの思い出でもここに至る映像でもなく、新品のノートのように美しくまっさらでまっしろな記憶だけだった。  あれ。  そういえば、俺はどこから来たんだ。  俺は、どうして吹雪の中にいたんだ。  卵焼きを作ってくれた、母さんってどんな顔だったんだ。  ハロウィンの記憶は、一体どこで誰と紡いだ記憶なんだ。  何も覚えていない。  まっさらでまっしろで、なにもない。  俺は一体、なんだ。  ――貴様は迷い彷徨い続け、最早藻屑に等しい魂。それ故にこの世界に繋がる僅かな隙間を抜けてきたのだろう。自分でも気が付いていないとは、なんと滑稽で愚劣なことか。  呆れたような声が収束するや否やくすくす、と嗤う声が大きくなった。子供や、女や、男、或いは全く別の生き物の、様々な声が折り重なって、柊に降り注いでくる。全身の毛を逆立てる、声の群集。耳元から聞こえてくるようにも、遠くから聞こえてくるようにも思われる。  明らかに自分の感覚がおかしくなってきている。柊は塞ごうとしても使い物にならない手を胸に当て、振動する深呼吸をした。とりっく、おあ、とりーと。極限状態で、麦の言葉が蘇る。まったく、これはいたずらどころの話ではない。なんてハロウィンだ。  ここは、危ない。逃げなくてはならない。しかし、どうしたらいい。外は夜、加えて荒れ狂う猛吹雪。窓を開けて外に出たところで、逃げることはできるかもしれないが別の危険が牙を向けて立ちはだかっている。そもそも、厳重な三重の窓を悠長に一つ一つ開けていられるような余裕などない。ならば、この道をまっすぐ走り抜けるか。出入り口に向かって影に捕まらず逃げ切ることができるか。彼は速まる鼓動を胸に、なるべく冷静になれと自分に言い聞かせる。パニックになってはいけない。先程まで自分の歩いていた書庫の道を本棚の配置を頭の中に描け。最初来てから、この机に至るまでの道順、方向。思い出せ。組み立てるんだ。  ――塵如きが神体に触れるなど、余計な知識を与えるなど、決して許されぬ。  神体? なんの話だろうか。  惑わせられてはならない、耳を傾けてはならないと思いつつも自然と柊の思考は傾いていく。だが、塵という単語が自分を指しているのは流れで汲み取れたが、そうなれば自分が触れたという神体というのは、人間とは相容れぬ存在であろう存在というのは、まさか。  ――身を以てその愚行を恥ずべし。 「待て! 麦が……麦が神様って、どういうことだ!?」  思い当たった答えはほぼ確信。しかし麦という幼い少女と神の称号はあまりにも彼には不釣り合いなように思われ、当たって砕けろとも言わんばかりに叫んでいた。同時に、自分を殺そうとする相手を引き留める、時間稼ぎでもあった。なんでもいい、生き延びるために、崖に手で掴まっているようなぎりぎりの状態を少しでも延ばすしかない。 「麦……麦は……」  狼狽えた声で、場を繋ごうとする。その最中、彼の中で渦巻いていたものがゆっくりと顔を出す。短時間にして、麦と、麦の家に対する抱いた謎、疑念。これは、この声は、恐らくこの家の鍵となる何か。麦を取り巻く異変の理由を知る何か。いや、もしかしたら、真実そのもの。そう考えたら、止まらなくなる。  自身の記憶には無くとも、彼は、元来好奇心に魅せられると、夢中になって身を捧げる性をもっていた。純粋な、真実への拘り。それが柊という魂の性であり、本質であった。��分で気付かぬほど既に柊自身がひどく歪んでいても、揺らぐことなく彼の中に在り続けていた。  それが彼を、突き動かしていく。 「というか、麦はどうしてこんな人里離れた雪原に住んでいるんだ。たった一人で、あんなに小さい子供がどうして生活できている」 「外に出たことがないというのに、どうして切らすことなく食べ物が用意されているんだ」 「汚い話だけど、便所も無かった。風呂も無い。居間と、寝室と、この書庫。この家自体、広い割に生活するには決定的に欠けている」 「どこから電気が通っている。どうして暖炉の炎は消えない」 「一生かかっても読み切れないだろう大量の本は、一体誰が、どうやってここに押し込めたんだ」 「麦はこの家からどうして外に出たことがないんだ」 「一体ここはなんなんだ。麦は一体――なんなんだ」  柊の口からは、短時間にして溢れ出てきた疑問――この空間、麦の世界の歪みを問う言葉が自然と溢れ出ていた。おかしい。何もかもが、おかしい。得体の知れない、理由が見えない歪に柊は気付かぬはずが無かった。ただそれを、麦に直接言及することが躊躇われただけで。  歯を食い��り、影の返答を持つ。その沈黙が、切迫した環境下にある彼には異様に長く感じられた。  ――神は、此処に存在している、其れこそが力。其れこそが世界。  ――外界に触れること、あってはならない。他に意志を向けてはならない。  静寂。  まともな返答にもなっていない。ただぼやかしているだけ。 『麦』が彼の手から滑り落ちる。挿まれていた栞は衝撃のままに飛び出し絨毯の上に転がり、乱雑に開かれたまま本は静止する。未だ止まらない嗤い声と誰とも知らぬ低い声を遮る音は、絨毯でも吸収しきれない。  柊の拳は震えていた。恐怖とは異質の、胸の奥から競り上がってくるどろどろと混濁した感情だった。麦の淹れてくれた心も体も温まるハーブティーの味が、ふんわりと甘い卵焼きの味が、まだ口の中に残っている。ハロウィンの話を身を前のめりにして耳を傾けている映像はまだ新しい。外に出ようと試しに誘ってみたものの、拒絶と共に苦しげに歪めた表情は切実で、痛みが直に伝わってくるようだった。あまりにも軽い身体を持ち上げた時の感覚は忘れない。自分の名前を何度も何度も呼ぶ、嬉しそうに呼ぶ、その声が、耳に残っている。最後に見せた精一杯の微笑みが、目に焼き付いて離れない。麦は良い子だった。可愛らしく愛らしい、不器用な女の子だった。吹雪で荒んだ自分の体と心を一瞬で溶かしてしまう、そんな力があった。  彼女は何か理不尽なものに捕われているのではないのだろうか。ここに閉じ込められ、それに本人すら気が付かぬまま、時を過ごしている。この家で彼女を見張る、この得体の知れない影が、彼女を縛っているのではないだろうか。  だとしたら、なんて歪みだろう。 「そんなの、間違っている」  正しさを望む柊は断言した。影を真っ向から否定した。 「外を知ってはいけない? そんなの、ただの監禁じゃないか。あんな小さな女の子を閉じ込めて、一体どうしようっていうんだ」  ――つい先程迷い込んできた歪み如きが、解ったような口をきくか。貴様は何も理解していない。実に愚かしい。 「何が理解だ。そっちの都合なんて最初から解ってやるつもりもない」  ――余程魅せられ心を奪われたか……仮にも魔除けの力を持つ名を持っているというのに。貴様のような者の身勝手な甘言が神体を壊すことに繋がるとも知らないで、平和なことよ。 「壊す……? 麦を苦しめているのは、あの子の世界を歪めているのは、お前達だろう!?」  ――嗚呼、実に憐れ。強情は若さ故か。貴様の言うかの苦しみは貴様等のような者が生み出すのだと、解らぬとは。  影の声が明らかに増幅し、苛立ちを部屋中に吹雪の如く降り注いだ。  本棚から溢れる影の成長速度が突如加速する。恐怖が一抹も無いというわけではない。だが、柊の中にある柊の正義が、勇気が、怒りが、拘りが、彼を奮い立たせる。怖がってはいけない。麦を連れて今すぐにでもここから出ていこう。外の世界に連れ出そう。一刻も早く、彼女を呪縛から解き放たないと。こんな危険で歪な場所に彼女一人を置いていけるはずがない。  柊は遂に走り出した。頭に描き抜いた地図を信じ、唯一の光源である背後の窓から離れ、真っ赤な絨毯を勢いよく蹴り、真っ直ぐ本棚と本棚の間の道を抜けていく。瞬間、見逃すはずもなく影が彼を掴みとろうと一気に手を伸ばす。彼は自分の中から湧き出てくる力に驚きすら感じていた。今なら全てを弾き飛ばせそうだった。肌に一瞬で鳥肌を立たせるような気味の悪い影が触れようとしても、まるで何かが柊を守っているかのように弾き返す。擦り抜けていく。行ける。逃げ切る。逃げ切って、麦のあの細い手をとる。この家を飛び出て、彼女を解放する。きっとそのために自分はここに迷い込んできたのだ。  途中で道を左に曲がる。そして真っ直ぐいけば出入り口が待っている。鍵がかけられるような仕組みにはなっていなかったはず。このまま突入するのみ。この書庫から出ることさえできれば、恐らく勝ち。  しかしその直後のことだ。彼のその数歩先で、とてつもない雪崩れが転がり込んできたかのような壮絶な音が響いた。柊は目を見開き、急ブレーキをかけた。暗闇の中でも分かる。あまりに背の高い本棚に詰め込まれた大小色とりどりの本が濁流の如く彼の前で転がり落ちたのだ。いっちゃだめ、いっちゃだめ。そう言っているかのように。茫然とその様子を柊の瞳は捉える。彼は大量の本が無造作に積み重なっていく様子を見守る他無かった。彼女の拠り所である本ですら敵と化すのか。文字通り本の山に行く手を一瞬で阻まれた柊に残されるのは、勇気でも、怒りでも、恐怖でもなく、何も無くなり、絶望が顔を出す。  動揺は停止を呼んだ。柊の思考は鈍り、その隙に彼の身体を掬うように影が纏わりついてきた。我に返りそれを解こうと身を振るった柊だったが、次々に容赦なく襲い掛かってくる影の布は、最早小さな彼ひとりで対処できるレベルを超えていた。柊を守っていた何かは、もう息を引き取ったかのように機能しない。隙間無く柊を蝕もうとするように影は巻き付いていく。豪速で体中の隙間から柊の体内に侵入して、息の音を止めていく。筋肉は痙攣して、ぴくりとも動けなくなる。形すら残すまいとするように、外から内から喰われていく。黒に蝕まれていく。暗闇に取り込まれていく。影に成り果てていく。  圧倒的な力を前に、成す術もない。  声は聞こえない。  在るのは、沈黙のみ。
 四
 朝。麦は平凡な一日の始まりに、すぐに異変を察知した。  彼が居ない。昨夜ここに訪れた、柊が居ない。本来なら柊の方が異変であったはずなのに、麦にとっては今のこの状況の方が非日常であるかのようだった。  いつもと変わらないはずの居間はやけに静かだった。やはり柊の姿は見当たらない。まるで昨夜のことが全て物語のように架空の世界で、自分の妄想が創り出した嘘の産物のように思えたが、それにしてはあまりにも実感として強く彼女の中に残っている。彼の声も彼の力強い腕も、麦自身がよく覚えている。麦は真ん中のテーブルに目を留め、唾を呑んだ。二つのティーカップと小皿。嘘なんかじゃない。確かに柊はここに居た。ここでハーブティーを飲み、卵焼きを食べたんだ。美味しいって何度も笑ってくれたんだ。  柊の姿を求めて、彼女はこの家のもう一つの部屋である書庫へと向かった。黄金の光に照らされた本の森は、いつものように高さの揃っていないまま佇んでいる。日常そのものの形を保っている。歩いて見回ってみたものの、柊の姿は塵も見当たらない。読書の定位置である机の近くまでいくと、ふと外の吹雪が止んでいることに気が付いた。吹雪がやんだら出ていくと言っていた。もしかしたら、直接別れを告げるのが気恥ずかしくて、麦に何も言わずに勝手に出ていったのかもしれない。今まで読んできた文章の中で、あのくらいの年頃の男性がそうやって一人で旅に出ていこうとする描写があった。所詮、数時間だけの付き合いだ。そのくらい呆気ないものでも仕方が無いかもしれない。けれど麦は淋しかった。……そう、とても、淋しかった。彼女は自分で自分に驚愕する。そうか、これが淋しいという感覚なんだ。理解し、痛む胸を手で押さえる。柊は、ひどい。私を置いて、さっさとどこかに行ってしまった。もっと沢山お話をしたかったのに。もっと一緒に居たかったのに。  と、麦は足元に『麦』が落ちていることに気が付いた。栞が飛び出して、どこまで読んだか分からなくなってしまっている。そっと拾い上げてぱらぱらとページを捲るものの、まるで情報が頭に入ってこない。こんな感覚は抱いたことがなかった。こんな風に文字をぞんざいに扱ったことは、一度も無かった。麦は『麦』を閉じる。栞を机の上に置き去りにして、出入り口へと向かった。『麦』を取ったときと同じように本を脇に挟んで、ハシゴを移動させる。頭痛からは解放されていたが、身体がやたらと怠い。のろのろととある本棚に立てかける。それは『麦』の入っていた棚だった。読み切っていないが、とても今は続きを読もうと思う気分じゃなかった。どんなに難易度の高い本でも辞書を駆使して何日もかけて読破するのが信条であったのに、それを覆す行為である。この二日で、彼女にはあまりにも「初めて」が多すぎた。きっと麦は自分の心を制御できないでいるのだろう。  ハシゴを一段ずつ登っていく。自分の体重に震えるハシゴを伝い、確実に上へと向かっていく。麦の瞳はぼんやりとしていて、何かをきっかけに落ちてしまいそうな足取りだった。やがて『麦』があったところまできて、彼女は蜂蜜色のその本を適当に戻した。ごめんね。彼女は謝るしかなかった。ごめんね、ごめんね。なんだか涙が出てきそうだった。経験したことのない感情、途中で投げ出してしまった後ろめたさ、柊の声。いろんなものが彼女の中で渦巻いて、いつもなら耳に届いてくる本の声もそっぽを向いたかのように聞こえなくて、まったく訳が分からなくなる。  彼女はまた少しずつ降りていく。  荷物が無い分、帰りの方が楽だ。  それで視界が広がっていたのだろうか、彼女の目に、とある蜂蜜色のハードカバーが映る。  テンポ良く動かしていた足を彼女はふと止めた。  その本から目を離せなくなった。心が奪われてしまった。  題名を――『柊』。  著者名は、無し。  麦は無意識に手を伸ばしていた。そうすれば、届く距離だった。  指先に本が触れる。古くなった『麦』と違って、まだ真新しい触感だった。それを引き抜こうと、体重を寄せる。  バランスが崩れる。  身体が空中に投げ出される。  油断をすれば、足を掬われる。  本と共に、『柊』と共に、落ちていく。
 赤毛が更に紅く染まっている。色鮮やかな赤ずきんを被っているように頭は真っ赤。頭だけじゃない、全身が強く打ちつけられ、止めどなく血が彼女の体から抜けていく。  真っ赤な絨毯とまったく同じ色。  柔らかな毛は麦の鮮血を吸っていく。色は上塗りされていく。
 書庫に潜むそれは思った。  ――嗚呼、これで、幾度目だろうか。  と。
『柊』から影が伸びる。  優しく、柔らかく、彼女を抱きしめた。
 五
 朝。女の子は目を覚ました。  彼女は毎日読書をしていた。居間に並列している図書館のような書庫は、天井まで突き抜けんとする本棚がいくつも並んでいて、その一つ一つに本が所狭しと並んでいる。無数にある物語に身を委ねるのが好きだった。彼女はそれだけで満足できた。他には何も望んでいないし、望もうともしていない。ただ、目の前にある、この大量の書物を読み進めていくことこそ、生き甲斐そのものだった。  ずっと読み続けてもきっと永遠に読み切ることができないその本の森が、彼女を縛り続ける。彼女をここに留まらせ続ける。
 ここに存在することこそが力。ここに留まることで、世界を保つことができる神様。外へ出ていけば、世界は消えてしまう。同時に神様も消えてしまう。神様が世界であり、世界は神様そのもの。だから、彼女はここに生きる。害をなす可能性は全て淘汰された世界で、自分でも理解せぬままにページをめくる。たとえ死んでも、また生まれる、神様の入った仮初めの身体で。  そうして世界は永遠に保たれるのだ。
 歪んでる、それが正しい、あの子の世界。
 歪んでも、それに気付かぬ、あの子の世界。
 彼女は今日もその世界で、本を読む。
 了
お題:本の高さが揃ってない本棚、ハーブティー、卵焼き、ハシゴ、ハロウィン、赤ずきん
作成:2014年10月
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kachoushi · 2 years ago
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各地句会報
花鳥誌 令和5年8月号
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坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
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令和5年5月1日 花鳥さざれ会 坊城俊樹選 特選句
葉桜に声まで染まるかと思ふ 雪 葉桜の懐深く観世音 同 葉桜を大天蓋に観世音 同 ふと思ふ椿に匂ひ有りとせば 同 葉桜の濃きに始まる暮色かな 泰俊 葉桜の蔭をゆらして風の音 同 老鶯を聞きつつ巡りゐる故山 かづを 四脚門潜ればそこは花浄土 和子 緑陰を句帳手にして一佳人 清女 卯波寄すランプの宿にかもめ飛ぶ 啓子 蝶二つもつれもつれて若葉風 笑 雪解川見え隠れして沈下橋 天
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月6日 零の会 坊城俊樹選 特選句
五月闇喫茶「乱歩」は準備中 要 だんだんに行こか戻ろか日傘 和子 錻力屋のゆがむ硝子戸白日傘 昌文 空になる途中の空の鯉幟 和子 ラムネ玉胸にこもれる昭和の音 悠紀子 だんだんは夏へ昭和へ下る坂 慶月 だんだん坂麦藁帽子買ひ迷ふ 瑠璃 白シャツのブリキ光らせ道具売る 小鳥 蟻も入れず築地塀の木戸なれば 順子 夕焼はあのアコーディオンで歌ふのか きみよ 谷中銀座の夕焼を待ちて老ゆ 同
岡田順子選 特選句
築地塀崩れながらに若葉光 光子 日傘まづは畳んで谷中路地 和子 ざわめく葉夏の赤子の泣き声を 瑠璃 築地塀さざ波のごと夏めきて 風頭 カフェーの窓私の日傘動くかな 和子 二階より声かけらるる薄暑かな 光子 下闇に下男無言の飯を食ふ 和子 覚えある街角閑かなる立夏 秋尚 谷中銀座の夕焼を待ちて老ゆ きみよ 誰がために頰を染めしや蛇苺 昌文 青嵐売らるる鸚鵡叫びたり きみよ
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月6日 色鳥句会 坊城俊樹選 特選句
カルデラに世帯一万春ともし たかし 大いなる大地を画布に聖五月 朝子 渚恋ひ騒ぐ厨の浅蜊かな たかし しやぼん玉母の笑顔を包みけり 朝子 乙姫の使者の亀ならきつと鳴く たかし 風に鳴るふらここ風の嗚咽とも 睦子 桜貝拾ひ乙女となりし人 久美子 風船の子の手離れて父の空 朝子 夕牡丹ゆつくりと息ととのふる 美穂 はつなつへ父の書棚を開きけり かおり 鷹鳩と化して能古行き渡航路 修二 風光るクレーンは未来建設中 睦子 人去りて月が客なる花筏 孝子 束ね髪茅花流しの端につづく 愛 悔恨深し鞦韆を漕ぎ出せず 睦子 ひとすぢの道に薔薇の香あることも 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月8日 武生花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
戦争は遠くて近しチューリップ 信子 霾や廃屋多き街となり 三四郎 長長と系図ひろげて柏餅 昭子 鞦韆を揺らし母待つ子等の夕 三四郎 代掻くや越の富士山崩しつつ みす枝 氷菓子あれが青春かもしれぬ 昭子 モナリザの如く微妙に山笑ふ 信子 風なくば立ちて眠るや鯉幟 三四郎 観音の瓔珞めいて若葉雨 時江 春といふ名をもつ妻の春日傘 三四郎 もつれては蝶の行く先定まらず 英美子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月9日 さくら花鳥会 岡田順子選 特選句
金環の眼や神々し鯉幟 実加 テンガロンハットの老夫麦の秋 登美子 筍を運ぶ人夫の太き腕 あけみ 緩やかに青芝を踏み引退馬 登美子 赤き薔薇今咲き誇り絵画展 紀子 自らの影追ひ歩く初夏の昼 裕子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月9日 萩花鳥会
マンションの窓辺で泳ぐ鯉幟 祐子 兜より多産な鯉を子供の日 健雄 山頂に吹き上がるかな春の息 俊文 新緑やバッキンガムの戴冠式 ゆかり 仰向けのベッドに届く風五月 陽子 この日から五類に移行コロナあけ ���雄 武者人形剣振り回すミニ剣士 美惠子
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令和5年5月10日 立待俳句会 坊城俊樹選 特選句
囀や高鳴く木々の夜明けかな 世詩明 すがりたき女心や花薔薇 同 仏舞面の内側春の闇 ただし 菖蒲湯に老の身沈め合ひにけり 同 うららかや親子三代仏舞 同 花筏寄りつ放れつ沈みけり 輝一 花冷や母手造りのちやんちやんこ 同 機音を聞きつ筍育つなり 洋子 客を呼ぶ鹿みな仏風薫る 同 渓若葉上へ上へと釣師かな 誠 子供の日硬貨握りて駄菓子屋へ 同 白無垢はそよ風薫る境内へ 幸只 春雨は水琴窟に託す朝 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月11日 うづら三日の月花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
里山を大きく見せる若葉かな 喜代子 父母座す永代寺も夏に入る 由季子 三国町祭提灯掛かる頃 同 難解やピカソ、ゲルニカ五月闇 都
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月12日 鳥取花鳥会 岡田順子選 特選句
ホーエンヤ口上述べて祭舟 史子 暮の春どちの館の椅子机 すみ子 声潜めメーデーの歌通り過ぎ 益恵 手擦れ繰る季寄卯の花腐しかな 美智子 鳥帰る曇天を突き斜張橋 宇太郎 海光も包まん枇杷の袋掛 栄子 葉桜や仏の夫の笑みくれし 悦子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月13日 枡形句会 栗林圭魚選 特選句
菖蒲湯の香を纏ひつつ床に就く 多美女 風低く吹きたる社の陰祭 ゆう子 やはらかき色にほぐるる萩若葉 秋尚 すと立てし漢の小指祭笛 三無 深みゆく葉桜の下人憩ふ 和代 朴若葉明るき影を高く積み 秋尚 メモになき穴子丼提げ夫帰る 美枝子 祭笛天を招いて始まれり 幸子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月14日 なかみち句会 栗林圭魚選 特選句
植物園脇に馴染みの姫女苑 聰 近づきて見失ひたる山法師 秋尚 母の日の記憶を遠く置き去りに 同 崩れかけたる芍薬の雨細き 同 若葉して柔らかくなる樹々の声 三無 葉桜となりし川辺へ風連れて 秋尚 白映えて幼稚園児の更衣 迪子 くれよんを初めて持つた子供の日 聰
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月17日 福井花鳥会 坊城俊樹選 特選句
一人逝き村軽くなる麦の秋 世詩明 水琴窟蔵す町屋の軒菖蒲 千代子 三国沖藍深めつつ卯波来る 笑子 母の日や母の草履の小さくて 同 カーネーション戦火の子らに百万本 同 遠ざかる思ひ出ばかり花は葉に 啓子 麦秋の響き合ふごと揺れてをり 千加江 あの世へもカーネーションを届けたし 同 紫陽花やコンペイトウと言ふ可憐 同 人ひとり見えぬ麦秋熟れにうれ 昭子 永き日の噂に尾鰭背鰭つき 清女 更衣命の先があるものと 希子 春愁や逢ひたくなしと云ふは嘘 雪 風知草風の心を風に聞く 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月17日 さきたま花鳥句会
鯉幟あえかな風も見逃さず 月惑 土間で輪に岩魚の骨酒郷の友 八草 背に茜萌黄の茶摘む白き指 裕章 薫風や鐘楼の梵字踊りたる 紀花 潦消えたるあとや夏の蝶 孝江 初夏の日差しじわじわ背中這ふ ふゆ子 水音のして河骨の沼明り ふじ穂 なづな咲く太古の塚の低きこと 康子 竹の子の十二単衣を脱ぎ始め みのり 薔薇園に入ればたちまち香立つ 彩香
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月21日 風月句会 坊城俊樹選 特選句
野阜に薫風そよぐ母の塔 幸風 突つ伏せる蝶昂然と翅を立て 圭魚 夏めきて観音膝をゆるく曲げ 三無 谷戸深き路傍の石の苔の花 久子 捩花の気まま右巻き左巻き 炳子 人の世を鎮めて森を滴れる 幸子 水音は水を濁さず蜻蛉生る 千種 夏蝶のたはむれ城主墓に罅 慶月 薫風やボールを投げてほしき犬 久
栗林圭魚選 特選句
要害の渓やえご散るばかりなり 千種 恙少し残り見上ぐる桐の花 炳子 十薬の八重に迷へる蟻小さき 秋尚 野いばらの花伸ぶ先に年尾句碑 慶月 忍冬の花の香りの岐れ道 炳子 水音は水を濁さず蜻蛉生る 千種 谷戸闇し帽子にとまる夏の蝶 久子 日曜の子は父を呼び草いきれ 久 ぽとぽとと音立てて落つ柿の花 秋尚 黒南風や甲冑光る団子虫 千種
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令和5年5月28日 月例会 坊城俊樹選 特選句
二度廻る梓渕さんかも黒揚羽 秋尚 夏めきぬ膝に一筋擦過傷 炳子 茶席へと鳥獣戯画の帯涼し 要 万緑を黒靴下の鎮魂す 順子 美しき黴を持ちたる石畳 みもざ 霊もまた老ゆるものかな桜の実 光子 薄き汗白き項の思案中 昌文 黒服の女日傘を弄ぶ 緋路
岡田順子選 特選句
夏草や禁裏を抜ける風の色 月惑 白きもの真つ白にして夏来る 緋路 女こぐ音のきしみや貸しボート 眞理子 蛇もまた神慮なる青まとひけり 光子 風見鶏椎の花の香強すぎる 要 霊もまた老ゆるものかな桜の実 光子 白扇を開き茶室を出る女 佑天 緑陰に点るテーブルクロスかな 緋路 黒服の女日傘を弄ぶ 同 二度廻る梓渕さんかも黒揚羽 秋尚
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
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