#廃止されても全然大丈夫だった���ござる
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「A,B,C,D,Eをやってください」 と、わりと急がない感じで提示された場合に、 「承知いたしました。優先順位をつけていただくと、重要なものから始められますので、もし可能なら優先順位をつけていただけますか?」 「わかりました」 下っ端同士お互い納得ずくで、時間引き延ばして(上司の鶴声で)事態が改善するまでやってるふりをきちんとやり続けるパターン
#時間稼ぎ#交渉#あほ���しい#がんばる#問題の起きない仕事を増やす#お役所仕事#やってるふり#交渉ならいいが、日常業務の��に大量にある#アリバイ#存在意義演出#無駄仕事#しんでほしい#リストラ#廃止されても全然大丈夫だったでござる#恥ずかしい#日常業務を交渉にするなよ金食い虫め#仕事のために人を雇うじゃなくて人のために仕事をつくるケース#専業主婦#アクション大き目#エアワーク#交際費#付き合いゴルフ#仲良し業#ムードメーカー#コネ維持
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実は間違い!やってはいけない「おばあちゃんの知恵袋」時代の変化と根拠のない過去の常識 - ライブドアニュース
以下引用
民間療法は過去の常識を疑おう
「昔は今のように便利なものがすぐに手に入ったり、情報にアクセスできなかったので、身近なもので編み出した“苦肉の策”的なアイデアも多いんです。ただ、医師の立場から言えば、実際に効果があったというエビ��ンスのないものは、おすすめしません」 と話すのは、公衆衛生学が専門の医師、柳澤綾子先生。
「民間療法はあくまで補助的に行うべきもの。例えば、切り傷の治りが悪いぐらいならまだいいですが、菌が入って化膿(かのう)させてしまうような危険なケースもあります」(柳澤先生、以下同)
逆効果で害に!正しい治療法を知ろう
「昔はアロエがすぐに手に入ったため、『切り傷にはアロエを塗る』といった民間療法は日本だけでなく、海外でもよく知られている方法です。アロエの成分には収れん作用があるので、小さな傷であれば有効である可能性があります。 ただ、土や雑菌がアロエに付着していれば、それが傷口に入り、化膿する危険性も。その結果、傷痕が残る可能性がないとはいえません」 さらに、今も一般家庭で行われている、市販の殺菌消毒薬を使う傷治療も、医学の世界では“時代遅れ”。 「正常な細胞まで破壊してしまう危険性のほうが高いので、泥などを水で洗い流すだけというのが、現在の傷治療の常識。昔の常識が間違っているというより、研究が進んで新常識に塗り替わっているのに、広まっていないということなのでしょうね」 最近の研究では、植物や食材を皮膚に塗ると刺激になってかぶれたり、口にするとじんましんが出る「食物アレルギー」発症のリスクが上がることがわかってきた。 「例えばキュウリパックなどで食物アレルギーになった場合、その発症をきっかけとして同じウリ科のメロンなども食べられなくなってしまうことも。“おばあちゃんの知恵”的な『自然のものだから安全』という思い込みは捨てたほうがいいです」 ほかにもヨーグルトやレモン、米のとぎ汁などでも発症する可能性があるので、皮膚につけるのは避けたほうがベター。乾燥しやすかったり皮膚が弱い人は特に要注意だ。 この時期、風邪のひきはじめや体調が悪いときの言い伝えを試す人もいるのでは? 「『風邪をひいたときにネギを首に巻く』のも効果はないですね。ウイルスが引き起こす風邪に特効薬はありませんし、ましてや特定の食べ物を食べて治ることはないです」 このような民間療法は、誰かひとりに何か良い結果が出たことが、噂として広まっただけかもしれない……と柳澤先生は語る。 「実害がなければ、個人の判断で行うのは構わないでしょう。『心地がいい』『気持��いい』というのも、私たち人間には大事な要素。ただし、イメージで妄信せず、その民間療法が安全かどうかを事前に確認すべきです」
おばあちゃんの知恵【風邪対策編】
×:ネギを首に巻く 首に巻くとネギの成分「アリシン」が鼻から入ってきて良い……というのが、この対策を“本当のように”思わせてしまう理由。 「アリシン自体は免疫活性化に役立つといわれていますが、風邪を直接、治すものではありません。そもそも、首の皮膚から経皮吸収できませんし、分子が大きいので吸い込んでも吸収されません」(柳澤先生、以下同) 免疫を高めるためには「寝ることに勝るものはありません!」 △:風邪のひきはじめには卵酒 酒に卵と砂糖を混ぜ、温めたのが「卵酒」。卵であれば常備している家庭も多く、液体なら体調が悪くてもとりやすい。 「身体に異物が入ってくると、細胞性免疫や白血球が抗体を使って戦うのですが、この抗体を作る原料がタンパク質。 卵の主成分であるタンパク質(アミノ酸)をとると免疫の原料が増えるという意味では、卵に限らず、良質なタンパク質をとるのは良いことです。ただ、お酒はいらないのでは。 私たちはお酒を消化する際、免疫に必要な栄養素を消費してしまうので、免疫力低下につながります」 △:風邪をひいたらチキンスープ 風邪のとき、欧米ではポピュラーな“おばあちゃんの知恵”が「チキンスープ」。鶏肉や玉ねぎ、セロリなどの野菜を煮込んで作る。 「諸説あるものの、米国胸部疾患学会(ACCP)の報告書では、しっかりしたエビデンスはみつかりませんでした。卵酒と同様、鶏肉はタンパク質が豊富とはいえると思いますが……」 療養食としては適しているが“治る”のは期待しないほうがいい。 △:喉のイガイガにははちみつ大根 咳が止まるといわれている「はちみつ大根」。皮をむいてカットした大根をはちみつに漬け、半日程度冷蔵庫に置いてからその大根やシロップをとるというものだ。 「はちみつには咳を止める効果があるという論文がありますが、大根には今のところ裏付けはないはず。はちみつは上気道炎で咳が出ている小児での調査でも、咳止めの薬と同程度の効果が見込まれました。 抗酸化作用や抗菌作用のある成分が多いからとされていますので、喉が痛いときには、はちみつのみを少しとってみては」 ただし1歳未満の小児に与えるのはNGだ。
昔ながらの生活の知恵
×:ひじきで貧血予防 鉄欠乏症などの貧血を防ぐ食品として日本では知られるひじき。しかし、1950年から発表されている『日本食品標準成分表』では、ひじき100gあたり55mgあった鉄分は、2020年版では6.2mg、つまり9分の1に減っていた。 「そもそも、この鉄分は食材に含まれていたものではなく、鉄釜で調理していたから。今はステンレス鍋などを使うので含まれる鉄分が減ったのだとか。これは切り干し大根も同様」 動物性と植物性の鉄は作用が異なるので、レバーや肉、魚の赤い部分、豆類や小松菜などをバランスよく食べよう。 △:こりや痛みに「こんにゃく湿布」 昔はこんにゃくを温めて、こりや痛みのある患部に当てていたそうで、今もナチュラリストの間では実践する人も。 「現代では温めたいなら、こんにゃくである必要性はありません。湯たんぽやカイロなどで良いはず。ただ急性の炎症の場合は冷却が基本だったり、慢性期は温めるのが基本であったり、症状によって違います。 炎症の種類によって変える必要があるので、自己判断で決めず受診したほうがよいでしょうね」 △:お酒を飲む前に牛乳 お酒好きの人は飲酒前に何かをとって二日酔い予防をしたいという人も多いだろう。そのひとつが、「お酒を飲む前に牛乳を飲むと胃に膜ができてアルコールの吸収を遅らせ、酔いにくくなる」という説。しかし、効果は期待できないという。 「タンパク質は分解酵素の原料としては役には立ちますが、即効性はありません。乳脂肪は胃の動きを抑制してアルコールの吸収を遅らせるという作用はありますが、微々たるもの。酔いがまわるのがほんの少し遅くなるというだけです」 ×:塩で歯磨き 塩で歯磨きをすると浸透圧で歯茎の中の老廃物を排出しやすくなるといわれているが、「浸透圧で分子の小さな水分は外に出てきますが、老廃物は外には出てきません」と、柳澤先生は一刀両断。 「塩の結晶が大きいので、歯や歯茎を傷つける可能性しかないです。塩で歯茎のマッサージなんてもってのほか。刺激は強いので爽快感はあるのかもしれませんが……」 ���汚れを落とす効果もなく、塩分過多で血圧や腎臓への影響も心配だ。 △:りんごが病気を遠ざける 「1日1個のりんごで医者いらず」ということわざが有名。加えて「りんごポリフェノールが豊富なので皮ごと食べるとよい」、「抗酸化物質の塊」ともいわれ、まるで“万能薬”のようにうたわれるりんご。 「ポリフェノールという意味ならぶどうや緑茶にも入っています。ポリフェノールには脳卒中や高血圧、多くの心疾患リスク要因を減らすという効果が期待できても、その作用を起こすほどの量を食べることは現実的ではありません」 さらに果糖もたっぷりあるので食べすぎると、血糖値の上昇や血中の中性脂肪の増加を招く危険性も。 ×:魚の骨が喉に刺さったらご飯を飲み込む 「ご飯の粘度で魚の骨が取れる人もいるそうですが、ますます深く刺さることもあります。たまたま取れた人がいたとしても、ほかの人も成功するとは限らず、おすすめできません」 食道は縦に裂けやすくなっているため、硬い骨を無理して取ると神経などが通る部分に炎症を起こすことがある。 「人の身体には異物を排除する機能があるので、ある程度は自分の身体に任せておいて大丈夫」 どうしても気になるときは、耳鼻咽喉科で取ってもらおう。 △:やけど・傷はアロエで治る 日本だけでなく世界中で、ケガをしたときによく使われている多肉植物のアロエ。この成分を使ったゲルを塗ることで、にきびの回復、やけどの回復が早まる可能性が研究で報告されている。 「やけどの初期対応としてアロエの葉を使う場合、冷却作用は期待できますが、今はそれより冷蔵庫の保冷剤を取り出すほうが、葉っぱを取りに行くより早いのでは?水道水で良いのでとにかく早く冷やしてください」 また、土にはさまざまな雑菌が含まれているので、アロエの葉とともに雑菌が傷に入れば感染症を起こす可能性が。人によっては皮膚がかぶれたりすることもあるので要注意。 ×:蚊に刺されたらアルカリ性の石けんで洗う 蚊の唾液が酸性なので、アルカリ性の石けんで洗うとかゆみがなくなるといわれている。 「まったく効果はありません。そもそも蚊の唾液が酸性であるという証拠がないのです。それに、皮膚の上に石けん水を塗ったからといって、皮膚内に入った蚊の有害成分に届くことはないですよ」 異物が体内に侵入するのを防ぐ役割を果たしているのが皮膚なので、特殊な医療技術を使わない限り奥まで浸透することはない。 ×:わかめで髪が黒くなる&増える 見た目が“緑の黒髪”という言葉を連想させるためか、伝説のように語り継がれているわかめの効果。 「白髪の予防になるという科学的なエビデンスはまったくなく、増毛作用の根拠もありません」 だが、海藻にはビタミンやミネラル、食物繊維といった、毛髪にも良い成分が豊富に含まれているのは事実だ。 ×:美白のためにキュウリのパック キュウリに含まれるビタミンCには美白効果、βカロテンには美肌効果などの効用は認められているものの、キュウリに含まれる量は少ない。さらにいえば肌に直接のせてパックをしても、ほとんど肌に浸透することはないという。 「キュウリをパックするというのは、そのメリットがまったくわかりません。冷たくて気持ちいい程度の意味しかないと思います。それに刺激物だと身体が認識して、かぶれてしまう心配もあり、こちらのほうが心配です」
今は効果なし!おばあちゃんの節約術
健康法だけでなく、おばあちゃんの節約術にもハイテクになった現代には使えなくなったワザが。節約に詳しい丸山晴美さんは、次の3つにダメ出しした。 ×:水道水はチョロチョロ少しずつ出す 昔は水道メーターの精度が悪かったため、少量ならカウントされず水道代が安くなるといわれており、洗濯機や風呂の水をためるときに実践している家もあった。しかし、今はメーターの精度が高いので、この方法では意味がない。 ×:冷蔵庫内にビニールカーテン 冷蔵庫の開閉時に冷気が逃げないようカーテンをつける人が続出。しかし、電気代の節約効果はいまいち不明……。それよりは食材を詰め込みすぎないこと、無駄な開閉はしないことを心がけてみては。 ×:コンセントはこまめに抜く 何でもかんでも電源プラグからコンセントを抜いていたが、家電の進歩により今は待機電力がほぼかからない。10年以上前の保温式の電気ポット、旧式のガス給湯器についてはプラグを抜くか、主電源を切って。
教えてくれたのは……柳澤綾子先生●医師、医学博士。東京大学医学系研究科公衆衛生学客員研究員、国立国際医療研究センター元特任研究員。集中治療・麻酔科専門医指導医。年間500本以上の論文を読破し、著作本『身体を壊す健康法』(Gakken)では、世界中から集めた情報をわかりやすく解説。
(取材・文/オフィス三銃士)
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���ール横町様Xアカウントで販売制限R18シールにセンシティブフィルタついてなかった件
自分のnoteのコピペです。
Xは常時シャドウバンでシール横町様の弊サークルのシール告知記事にリプをつけましたが、おそらく表示されない方が多数なのでこちらに記載します。
ビックリマンのソシャゲきっかけで子供の頃ビックリマン好きだったなと二次創作絵を描いておりました。その関係で自作シール作家さん数名とmixi2で交流の機会に恵まれ、自作シールをいただけることになりました。
シールは貰う一方で申し訳無いと言った時に、二次創作絵シールにしたらいいのにと言われ、オマージュ、リスペクト系のオリジナルだけでなく、二次創作シールもあるのかと。
ビックリマンシールが好きだからこそ、ビックリマンのようなバシッと正方形にロゴもキャラも収めるディフォルメが上手く描けない自分には敷居が高くてつくるのは無理だと思っていましたが、同人グッズでポストカードを作るぐらいの気軽さでもいいのかなと。数名との交換なので、最低部数でもかなり余ってしまうが交換用につくることにしました。
その時、配るだけじゃなくてシール横町さんで委託したら良いのに。夜紫蛇の二次創作なら大丈夫じゃない?と数名の作家さんにアドバイスをいただきました。好きで描いてるとはいえビックリマンは二次創作への反応も薄かった事から新たなチャレンジをしてみたいと委託を試してみることにしました。
それぞれ委託前にキャプションや絵柄からこれは委託可能なのか相談した上で委託をしていました。以前一度新刊同人誌でお世話になったきりでしたが古書やサブカルレトログッズ系が多いとはいえ、R18二次創作同人誌もとりあつかっているまんだらけならばさすがに委託可能だろうと。
大量発注真に受けて、返本の山だった以外、委託登録時や委託中、新刊同人誌ではまんだらけさんに悪い印象はなかったです。
無料配布をぼったくり値段で転売され売れ残ったりしてるのは、かなりモヤッとしてましたが。こればかりは中古も扱うショップはしかたない。
R18シール2種委託したので、センシティブフィルタがついているのは当然として。「Xによりラベル付け」されているって。まさかセンシティブなメディアとして投稿していないのか……?
R18同人系はセンシティブにならないようにセンシティブな要素をがっつり伏せた���年齢向け修正サンプルか、若しくはセンシティブフィルタはつけるものだったので、正直サブカル系はそうなの?と戸惑っておりました。
3/8 二度目の委託で悪い予感は的中しました。R18で申請したシールにセンシティブフィルタがついていなかったのです。 ttps://x.com/sanchimatsuri/status/1898340532432318486
肌色系なら自動でセンシティブフィルタはつきますが、判別しづらいホログラムレインボーでは自動でフィルタはつかない。
さすがにこれはマズいのでは?と思いました。R18を取り扱う同人書店だったら今のご時世、胸部モロだしでSNSで紹介はまずありえない。
数日静観しておりましたが、R18画像そのまま掲載はありえないは、それはシール界隈も同じだったようです。

R18を全年齢と偽って申請しそれが通っていたらもっともな苦情です。
『弊サークル濃縮還元帝国!は、成人向け二次創作シールをシール横町様に委託の際、「販売規制18禁」で申請しており、私のXアカウントで成人向け画像投稿の際はセンシティブフィルタはつけております。 その手の苦言は私に言われてもどうすることもできません。悪しからずご了承下さい』
2025/3/11 X@nouskjp
なお状況は変わらず批判は殺到していました。 R18販売規制がありながらセンシティブフィルタをつけないシール横町にではなく、私を含めたR18カテゴリあろうがR18で申請するエロ作家排除の方向でした。
後から気付きましたが、シール横町関連でR18系の苦情を検索していた際、R18カテゴリで申請してたらありえない叩き方をされていました。



私の横町への作品からの引用に繋がるR18作品への苦情の流れはこうです。
(1)R18作品を扱うシール横町は子供に見せられない。 (2)(上品な)色気と下品(なエロ)の線引きができていない作品は自作シールとして委託するべきではない。それを取り扱うシール横町は無法地帯だ。 (3)下品(エロ)なエロと自分の作品を並べたくない。 (4)リスペクトのないパクリと並び美意識のない下品なエロはシール界の二大害虫
(1)については私がR18でシール横町に申請したと知らなければお怒りごもっともです。Xもまんだらけも18禁についてはセンシティブな設定があるのですからゾーニングすべきです。 (2)〜(4)については、18禁作品はゾーニングすべきだという苦言やいかりだけでなく、性表現の中でも上品なアートなら存在を許すが下品なエロは嫌悪だけでなく排除したいエロへの見下しや排除、好みによっての検閲に繋がる思想も混ざっています。
私は性表現がメインです。ゾーニングはすべきだし、規約やガイドラインは守るべきだが、好き嫌いで性表現を検閲する価値観にはありません。多くのエロ描きはそうではないでしょうか。文化が違うシール界隈はそうなのだろうと。
下品なエロは排除する。界隈の害虫だとまで嫌悪する方々とわかり合えるとはおもいませんし、例え誤解があろうとこういう叩き方はしないでしょう。価値観違うし好きな表現ではないが最低限創作者どうしの敬意を払おうという態度でなく一方的な罵倒やレッテル貼りです。
本件私に対する謝罪や撤回は受け入れません。個人情報を伏せても広められて困るのならば、単に該当のつぶやきを消せばいいだけと思います。正しいと思うならつぶやきをこれからも残せば良いです。それぐらいないなという言動でした。
私が語るまでもなく今では美術品として価値の高い「春画」は当時は現代でいうと���ろの、エロ本やエロ漫画、エロパロでした。私は性表現をアートとするか低俗なポ〇ノとするかは鑑賞する側がそれぞれで決めることだとおもってます。
違法なものは擁護できませんが、美術的価値のあるモノも、淘汰された現在に残ってない低俗で意味のない多くの人にとって価値の薄いエロもあって当然なのです。性的なことは必ずしも罪や軽蔑されることではなかった。そこに経緯や愛がある表現も多い。愛や敬意の形は表現者によってそれぞれです。必ずしも万人に伝わらないが、あっていい。排除はされにくい。日本の性表現の大らかさ、寛容さが私は好きです。
見る側、買う側、その価値を高めたい仲介業者や界隈がアートだのポル〇だの高尚低俗ジャッジしたがるのはいつの時代も変わらないでしょう。描く側までそれをいうのはなんなのかという考えですし、私の周りの創作者さんは自分では性表現をしなくてもそういう方にかこまれていたのでシール横町界隈の反応はショックでした。
これはR18作品が少ないゆえに、ゾーニングをしない作品への怒りか、苦手な性表現を排除したいという嫌悪感なのかきっとつぶやいた側も切り分けができていないのだろうと思いました。
私は金や数字が欲しくてエロを描いている類いのエロ描きではありません。 好きなキャラのR18創作をせずにはいられないキャラ萌え拗らせ系です。 キャラ萌え拗らせ・ガチ恋好きによべばいいのですが、惚れたキャラの性表現を描かずにおれない衝動があるのは、私がフィクトセクシャルの傾向が極めて強い自分向けのエロを追求したいレズビアンだからという側面もあります。金や数字にならないけど、それは生理的欲求に近い。描かずにおれない衝動を絵や漫画という形にするのが私にとっては創作活動です。オリジナルも描きますが、二次創作も描かずにおれないのです。
エロパロは確かにグレーゾーンです。全年齢のオリジナル作品の様にどこでも委託や販売できるわけではありません。ですからR18二次創作を委託できる同人に理解のあるショップに当然ゾーニングしたうえで委託しているつもりでした。過去成人向け二次創作同人を委託した「まんだらけ」なら問題無いと思ったのです。
愛や敬意があれば許されるとは私は思ってません。愛もあったし敬意もあったその作品が大好きだからこそ、節度を持って創作していたつもりだったジャンルである日やらかした奴の登場により成人向け二次創作が禁止になったことがあります。某お色気格ゲーです。界隈の意識が高くてもあれは災害のようなもの防ぎきれません。グレーゾーンで描いている以上、どんなに愛と敬意があろうとある日突然終了になることもある。それは分かった上で二次創作をしています。それがいやならオリジナルだけ描いていれば良い。惚れたキャラのエロ描かずにおれないのだからこればかりはしかたがないことです。グレーゾーンとわかっていながら公式にエロ同人描いて良いですか!と聞く人ぐらい、グレーゾーンとわかりきっているのにお墨付きをほしがりすぎるSNSの風潮はないなあと個人的に思ってます。
また、二次創作と関係なく刑法175条絡みで、以前お世話になっていた方が逮捕された経験があります。そこで折れないアーティストは格好いいですが、生活がかかっているから折れてしまった恩人を私は嗤えませんでした。正当な手続きで撤廃されるまでいかに現代にそぐわぬ悪法と思っていても、私はアダルト系の規約違反は遵守し創作活動をしています。
そういう価値観で25年以上エロ創作をしてきた者として、いくら無名サークルとは言え、R18設定もできないような迷惑行為をしていると風評ばら撒かれるのは大変遺憾でした。

弊サークルのシール「ノアカアサンA01」は委託申請の際、「販売規制:18禁」で申請しておりますが、Xでご紹介の際「センシティブなメディア」と設定されてないため、こちらの引用にもありますとおり、18禁作品が苦手な方から苦情が見受けられます。 (苦情の具体例を含むため中略) 弊サークルが「18禁」で申請したシールをまるで全年齢で申請したような非常識なサークルと広められますと、シールは新参で、Xはあまり活用できていないのですが、20年以上成人向け二次創作を扱ってるサークルであり、成人向け作品のゾーニングを意識してきたサークルですので、大変遺憾です。 沢山センシティブな画像を投稿すると、アカウントが「シャドウバン」になる恐れがあるという噂があるため強制はできないのですが、X運営の米国基準で性的な画像は性器の露出がなくてもセンシティブなメディアとして設定するガイドラインもございます。 可能でしたら、弊サークルが「販売規制:18禁」で申請したシールご紹介につきましては「センシティブなメディア」としてご投稿いただけないでしょうか。 センシティブなメディアを含む個々のツイートをマークする方法はXヘルプセンターにも案内がございます。 https://help.x.com/ja/rules-and-policies/media-settings
3/13 7:14 送付したメールフォーム控え

「センシティブなメディア」としての投稿仕様があること存じていなかったのですが、お調べしまして、今後は気をつけたいと思います。 また濃縮還元帝国!様が「販売規制」で申請されていたこと、 改めてフォローのポストをさせて頂きます。
3/13 12:12 シール横町からの回答抜粋
偶然かもしれませんが、横町様からのご回答、異例の速さでした。 R18作品を取り扱ってる同人ショップ的に誠意あるご回答だなと思いました。Xのセンシティブ設定をご存じ無い方は多いのでこれが嘘や言い逃れとは思いませんでした。
3/15日の更新で R18作品は「センシティブなメディア」設定をし、弊サークル「濃縮還元帝国!」が「R18販売規制」で申請していた事へのフォローは有ると 思っていました。
3/15のシール横町様弊サークル告知ポストです ttps://x.com/sanchimatsuri/status/1900881358186311707
フォローが、ない。他サークル様だけど、センシティブ系の方にセンシティブなメディア設定も、ない。
これはさすがに予想してなかった……。
R18作品を見たい人だけ見る、シール横町告知が今週からはじまるかとおもってました。大変遺憾です。
長年エロ創作してきましたが、R18扱うショップ側がここまでエロにいい加減は初めてでした。新刊同人ではそう感じなかったんですけどね。部門の問題なんだろうか。
あと1作、既に納品しているシールがあります。そちらは全年齢向けです。昔初めて同人グッズを作った鉄拳3のケンカシマイです。
そちらの作成を持って、シール横町に委託するシールの作成は休止します。
XのR18作品の告知にセンシティブ画像設定をするようになればまた委託するかもしれませんが、本日のやりとりを見て、横町側も利��者もそのつもりはないということがわかりました。
エロは棲み分け共存するのではなく、R18作品にR18設定する手間すら惜しむ、下品なエロは許さない風潮を作りエロを排除する声の方が大きい。
性表現に理解があったりエロ創作者が多いところではこういう雑なエロの扱いはしません。委託先への怒りはR18カテゴリあるならセンシティブ設定ぐらいしろ!R18で申請したエロ描き舐めてんのか!という怒り。アダルト系の法律違反に抵触しない性表現を自分の好き嫌いだけで排除するな!という怒り。そういう怒り方をしている人を目にすることは少なくてもXを見た限りでは、ありませんでした。
作家も委託先も買い手も性表現を舐め過ぎてる。そういう界隈とは私は交流する気はありません。こういう方々のサンドバッグになるために、私は長年エロ創作をつづけてきたのではありません。 本件とは別の事情で自家通販や個別対応、boothをシールの委託に使うつもりもありません。
ただシール横町さんに委託して良い事もありました。私の描いた二次創作絵が好き、シールを買ってでもほしいと思って下さった方ありがとうございます。感想下さったかたもありがとうございます。シールを作らなければその反応、殆どありませんでした。
名刺シールや同人グッズの交換でまた無配をつくることもあるかもしれませんが新規に交換する方を増やす予定はありません。3/15までに名刺シール交換を申し出て下さった方にはお送り致します。以後休止します。
短い間でしたが、ありがとうございました。
*本件コメント等いただきましても返��はしません。
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CoC「礼讃」KPC ロアンナ・ハーパー
「ほとんど……皆さん夫の仕事の関係者ですわ。夫は天涯孤独ですし、私もこれといって身寄りがいないもので……」 「…………いえ、私は……大丈夫です……。ミアは……」 「あの子はきっと、父親が死んだなんて……わかっていないでしょうけど」 「夫がいなくなって、一人で…………ミアのためにお金を稼いだりすることは、辛くてもきっと耐えられます」 「でも呪いや魔術なんて、そんなものとどう戦えばいいの?」 「主よ、私たちの祈りを聞いてください。私たちにどうか忍耐と知恵を与えてください。困難の中にあっても勇気と希望を持ち、あなたの恵みが私たちを高めてくださるよう祈ります。アーメン」
◆ロアンナ身上調査書
姓名:ロアンナ・ハーパー 年齢:34歳(礼讃時点で32歳) 性別:女 血液型:A型 誕生日:7月22日 星座:蟹座 身長:170cm 体重:52kg 髪色:色の薄いブロンド 瞳の色:グレー 視力:左右0.8 きき腕:右 声の質:優しく囁くような張りのない声 手術経験や虫歯、病気:風邪を引きやすいがこれといった病気はしたことがない 身体の傷、アザ、刺青:なし その他の身体的特徴(鼻や目の形、姿勢、乳房、足、ホクロなど):肌が青白く血色があまり良くない。手首が折れそうなほど細身。 セックス体験、恋愛、結婚観:若い頃に夫とすぐ結婚したため恋愛経験がほとんどない。男性経験は夫とマーティのみ��� 尊敬する人:特になし 恨んでる人:特になし 出身:アイダホ州ボイシ 職業:仕立て屋、刺繍職人見習い 将来の夢:仕事で認められること 恐怖:他人に支配されること 癖:目線を逸らす 酒癖:あまり強くない 眠気がくる
一人称:私 二人称:あなた 呼び方:名字+さん、親しい人は名前呼び捨て
*概要
ハドソンバレーに住む子持ちの未亡人。夫のエイドリアン・ハーパーが亡くなり、マーティ・ロックとはその葬式で出会った。得体の知れないものに巻き込まれながらも生還し、今は娘と暮らす生計を立てるため就職した仕立て屋でまだまだ下働きの身。
*CoC「礼讃」あらすじ
このところ夫の様子がおかしく、毎月犬を連れて行っていたハンティングにも出かけないで家に籠るようになった。「蛇を殺した」「二人で遠くでやり直そう」などと口走る夫に不穏なものを感じ、ロアンナは手を触れるのを禁止されていた書斎の資料を調べることにした。しかし調べ物が得意でない彼女の調査は難航する。 その矢先に夫が奇妙な急性腎不全で亡くなり、混乱しているロアンナの元に怪しい男たちが現れる。蛇のような肌を持った異様な姿の彼らはイグという蛇神の信徒を名乗り、「エイドリアンもイグの信者であったが神を裏切り、神の蛇を殺したために殺された」「このままでは残された家族も仲間であった我々も呪われて殺される」と迫り、ロアンナに儀式に参加するよう脅してくる。 ロアンナはその話に違和感を覚える。しかし今まで調べていた内容と符合する部分もあり、さらに娘もイグに狙われると脅され、男たちに目の前で得体の知れない魔術を見せられたロアンナは精神的に追い詰められていった。
そして迎えた葬儀当日、夫の仕事仲間だというマーティ・ロック・スミスが参列する。彼は会場に紛れ込んだ爬虫類じみた人物がハーパー邸に侵入したことに気付き、単身家の中へと入っていく。その中でロアンナが一人調べたことや、故エイドリアンの残した暗号や書籍を解読し、ハーパー邸に隠された冒涜的な真実を紐解いていくこととなる。 彼が翻訳したページの内容を読み、ロアンナはようやく理解した。夫は邪神を信仰し、誤って蛇を殺してしまったが故に呪いを恐れ、別の神に鞍替えしようとしていた。そして自分たちの娘ミアをツァトゥグアという新たな神に捧げることでイグの怒りから身を守ろうとしていたことを。 首を突っ込んだせいでそのまま蛇人間たちの魔術的儀式に巻き込まれててしまったマーティ・ロックに、ロアンナは夫の計画を使い、自分たちがツァトゥグアを召喚しこの男たちを捧げて退けるという悍ましい計画を持ちかける。だがロアンナからの話を聞いて蛇人間たちの正体を怪しみ、なにより神への信仰を裏切るのは気が進まないとマーティはロアンナを説得し、自ら彼らに立ち向かうことに決めたのだった。
イグの信徒を名乗る男たちは、その実イグに呪われ見放されたモグリの魔術師たちだった。すでにボロボロの体で魔術を行使しようとするも、ほとんどは失敗し、自滅するような形で戦いは幕を閉じる。 ロアンナは邪な神を信仰し裏切った末路を見て青ざめ、巻き込まれたにも関わらず、取り返しのつかないことになる前に助けてくれたマーティに心から感謝するのだった。
*性格
気弱そうな見た目どおり、流されやすく自己主張が苦手な性格。あまり感情を表に出すタイプではない。本来そうだったわけではなく、支配的な夫との長い結婚生活の中で培われた癖のようなものである。物静かで思慮深く繊細な感性の持ち主。他人の感情の機微にも敏感で、細やかな気遣いのできる女性。 自分の考えや能力に自信がなく、人に提示された道に従おうとするが、愛する娘のこととなると話は別で断固として娘の利益になるものを選ぼうとする。正直な働き者で新しいことを学ぶのが好き。慣れた相手ならおしゃべり好き。極端に依存心が強い面もあるが、自分の意思でそれをなるべく律している。ときに冷静で現実的な判断を下すことができる。
*人間関係
夫が亡くなるまで行動を制限されていたためかなり閉じた人間関係の中で暮らしており、友達や知り合いもほとんどいなかった。その閉塞した環境のなかで冷たい夫への恐れは強くなり、可愛い娘への依存心が高まっていた。 礼讃以降は仕事をするようになり徐々にではあるが交友関係が広まってきている。話の中心になるようなことはないが、持ち前の優しさと思いやりでうまくやっていけているようだ。 マーティ・ロックとはただの友人とは言い難い関係だが、前の結婚が大きな失敗だったこともあり、男性に精神的・経済的に依存することを恐れてなかなか前に進めないでいる。自分に気持ちがあるのと、娘のミアと飼い犬のニュールがマーティにとても懐いているのもあり、遠ざけたりもできない様子。
*家族関係、幼少期体験
アイダホ州ボイシのさらに郊外で自然豊かなロッジのような家で育つ。幼少期は貧しいながらに穏やかに過ごしたが、17歳の頃に両親が詐欺の被害に遭い廃業、苦しい借金を抱えることとなる。そこにエイドリアン・ハーパーが現れ、ロアンナと結婚させてくれるなら借金を肩代わりする��両親に持ちかけ、半ば売られるような形で20歳も年上のエイドリアンと結婚し、ハドソンバレーにやってきた。 両親は金を持ってすぐに消息がわからなくなり、孤独な娘時代を過ごす。その中でエイドリアンに対する恐怖と依存心を高めていった。
エイドリアン・ハーパーは芸術家だが知識を求める魔術師でもあり、生まれながらのハンターでもある。欲しいものがあればどんな汚い手でも使う男が目をつけたのが田舎町の若い娘だった。みずから苦労して手に入れたもののみに執着し、副産物的に生まれた娘には愛着がなかったのだろう。
*能力
若い頃に結婚し、大学にも行かず外出も制限されていたため、基礎的な学力が低い。文字を読むのも苦手である。代わりに手先は器用で、料理や針仕事など家でできることはほとんど完璧にこなすことができる。とりわけ針と糸の扱いには非常に長けており、唯一の特技と言ってよいのが刺繍。気の遠くなるような細かい図案でも時間をかけて完成させることができる集中力と忍耐力を有している。 色彩感覚とコーディネートセンスにも優れており、それらを活かして仕立て屋の下働きとして雇われ日々修練を積んでいる。まだまだ給料も低いが、仕事が丁寧なので評判は悪くない。
*好きなもの 食べ物:サーモン、じゃがいも 得意料理:サーモンのタルタルケーキ、じゃがいものパイ、彩りの良いサラダ、鶏のグリル 飲み物:カフェオレ、ルイボスティー 季節:春 色:白、黒、ネイビー→ライラック、サーモンピンクなど明るくて柔らかい色 香り:優しいダウニーの香り 書籍:あまり読まない 動物:犬 ファッション:保守的で飾り気のない服→柔らかい素材のワンピースやスカート 場所:新しい家、窓のある仕事場 愛用:手編みのロザリオブレスレット 趣味:裁縫、子供服のデザイン、手芸、犬の散歩
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TEDにて
リチャード・シアーズ:「脱石油」について語る!
(詳しくご覧になりたい場合は上記リンクからどうぞ)
世界が、石油探査の危機的状況に注目している現在、2010年2月初旬に行われたリチャード・シアーズのTalkをお届けしたい。
新エネルギー資源開発の専門家として、石油依存から抜け出すことは不可避かつ必要な行動であることをグラフとデータで語る。では、その後の方向性とその先は?
しばらくの間。エネルギーについて話をしたいと思います。様々なことをお話しすることになりますが、あまり話が逸れないようにしたいと思います。
最初に石油について話すのが良いでしょう。エネルギー!!一般についてお話ししますが、石油の話から始めたいと思います。まず、何と言っても石油は驚嘆すべき物質です!!炭素原子を8個ほどと水素原子を20個ほどを正確に組み合わせることができればこの素晴らしい液体となります。
エネルギー密度が高く。精製も簡単で、数多くの有用な製品や燃料となります。優れた物質なのです。今のところ、世界には、十分な石油があります。
どこに石油があるかを示したポケット・サイズの地図があります。大きな地図をご覧下さい。世界中の石油のありかを示しています。地質学者は、石油の埋蔵場所をかなり正確に把握しています。まだ、世界で、約100兆ガロンの石油が採掘あるいは精製可能な状態で存在しているのです。
ここまでが石油に関するお話しです「石油の時代は終わらない!!十分な量が存在しているのだから」と言って話を終わることもできます。
しかし、話はここでは終わらないのです。話が逸れますが、石油は、遠いところにあるんだなと思われる方、皆さんが座っている場所の千メートル下は世界でも有数の油田なのです。後で、聞いていただければ、詳しいお話しができますよ。
石油についてお話することは他にもたくさんあります。では、石油とは、エネルギー・システムでの位置はどこにあるのでしょうか?
過去150年間の石油についての簡単な歴史です。
石炭から移行しつつも、過去150年間にわたって石油は、エネルギー・システムを石炭に変わり支配してきました。その百年前には、木材のピークもありました。
もうひとつ、ちょっとした秘密をお話ししましょう。
過去25年間。世界のエネルギー・システムにおいて石油の役割は低下を続けてきました。そのピークは、1985年で世界のエネルギー供給の半分を担っていました。現在は、35%に過ぎません。低下を続けてきた石油の割合ですが、今後もこの傾向は続くと思います。
米国内におけるガソリン消費量のピークは2007年です。それから消費量は減少しています。毎年、石油の重要性は下がり続けています。また、25年前に石油がピークを迎えたように、1920年代には、石炭のピークがありました。その百年前には、木材のピークもあったのです。
これはエネルギー・システムの���化に関する重要なグラフです。過去数十年間。石油の穴を埋めてきたのは何だったのでしょうか?それは、実は、天然ガスです。核エネルギーも使用されるようになりました。
それでは未来はどうなるでしょうか?数十年先には、ガスがピークを迎えるのではないかと思います。そして、その後、再生可能エネルギーがピークに達します。
この図の重要な点についてお話ししましょう。私は決して、エネルギーの総使用量が増加しないとしているのはありません。それは別の話です。別の機会に詳しく検討することができると思います。
しかし、ここには重要なメッセージがあります。この200年間にわたって、過去200年の間。我々は、組織的にエネルギー・システムから炭酸ガスを取り除いてきました。世界のエネルギー・システムは、1年前に比べても、10年前に比べても、1世紀前に比べても炭酸ガスの排出量を減らしてきています。
現在、我々が開発している再生可能エネルギーが、今世紀半ばには、主要エネルギーの30%を占めるようになるため、炭酸ガス排出量の減少はさらに続きます。このお話しはここまでにしておきましょう。もちろん、核以外の再生可能エネルギーですべて置き換えることもできます。
しかし、実際には様々な点を考慮しなければならないのです。次のお話しに移りたいと思いますが、ここでは、ずっと先。例えば2100年以降を考えてみましょう。
真に、維持可能な炭酸ガスを排出しないエネルギーはどうなっているでしょうか?ちょっと遠出をしてみましょう。まず、テキサスの中央部へ。これは、石灰岩ですが、テキサスのマーブル・フォールス郊外で採ったものです。約4億年前のものです。ありふれた石灰岩で特に変わった点はありません。チョークがあります。
M.I.Tで拾ったものですが少しばかり新しいものです。石灰岩とは、異なるということはお分かりいただけるでしょう。チョークでは、ビルを建築することはできません。石灰岩で黒板に文字を書いて授業をすることはできません。これが違いです。しかし、同じなのです。この二つは同じ物質なのです。どちらも炭酸カルシウムなのです。
違いは分子の結合の仕方にあります。
この種の話が好きな方には、ここからが興味深い話になるはずです。これはカリフォルニアの海岸で拾ったアワビの貝殻です。毎年、数百万のアワビが、このような貝殻を作ります。もう既にお気づきかもしれませんが、炭酸カルシウムでできています。これと同じ物質であり、こちらとも同じ物質です。
しかし、同じではありません。性質の違いがあるのです。何千倍も。おそらく、三千倍も丈夫なのです。なぜでしょうか?この小さなアワビは、炭酸カルシウムの結晶を何層にも積み重ねることができるからです。
美しく輝く真珠を生み出すことができるのです。それは、アワビが生み出すことができる非常に特殊な素材なのです。何百万というアワビが、毎年、毎日、この素材を作り続けています。信じられないほど美しいものです。
その違いはというと分子の結びつき方にあります。これがエネルギーの話とどう繋がるのでしょうか?
石炭があります。この石炭が、このチョークと同様に興味深いものであることを話しましょう。燃料にせよ。エネルギー担体にせよ。バッテリーや燃料電池の新素材にせよ。自然はこういった完全な素材を作り出してはいません。
なぜなら、その必要��なかったからです。
アワビと違って、自然はこのような素材を作ることに種の存続がかかっているという訳ではなかったからです。おそらく、今まで、これが問題になるまではそうだったのです。エネルギーの未来を考えると想像してください。未来はどのようになるでしょうか?
これの代わりに、分子の並び方を修正するだけでエネルギー的に等価な物質を作ることができます。これがお話ししたかった内容です。石油が枯渇することはありません。大量に存在しているからではありません。風車を大量に建設するからでもありません。
数千年前に、人々は、新しいことを思いつき、アイデア、イノベーション、テクノロジーを得ることが出来たからです。そして、石器時代に終止符が打たれました。決して石が枯渇したからではありません。
今では、統計によると、ガス、核エネルギー、再生可能エネルギーも有望なエネルギー源になることがわかっています。つまり、アイデア、イノベーション、テクノロジーによって石油が枯渇する前に石油の時代に終止符が打たれつつあります。
ありがとうございました。
こういう新産業でイノベーションが起きるとゲーム理論でいうところのプラスサムになるから既存の産業との
戦争に発展しないため共存関係を構築できるメリットがあります。デフレスパイラルも予防できる?人間の限界を超えてることが前提だけど
しかし、独占禁止法を軽視してるわけではありませんので、既存産業の戦争を避けるため新産業だけの限定で限界を超えてください!
(個人的なアイデア)
経済学者で、ケンブリッジ大学名誉教授のパーサ•ダスグプタが、イギリス政府に提出した報告書の中に登場。
経済学を学ぶと、登場する資本や労働などの生産要素の投入量と算出量の関係を示す生産関数があります。
こうした関数は、様々な前提条件に基づきますが、経済学者は、収穫逓減の法則と言うものをよく知っています。
このような人工的な生産関数とは、他に天然由来の生産関数。
つまり、自然から収穫できる生産関数を導き出し、地球全体の生産関数というエコシステムを数値化することでバランスをコントロールできるかもしれないというアイデア。
ここでは、自然資本と呼びます。
自然資本を加味すれば現在の経済成長ペースがどこまで持続可能かを分析することもできます。
人間は、国内総生産GDPを生み出すため、自然から資源を取り出して使い、不要になったものを廃棄物として自然に戻す。
もし、自然が自律回復できなくなるほど、資源が使われて、廃棄されれば、自然資本の蓄積は減少し、それに伴い貴重な生態系サービスの流れも減っていくことになります。
さら���、教授は、経済学者も経済成長には限界があることを認識すべきだと説いています。地球の限りある恵みを効率的に活用しても、それには上限があります。
したがって、持続可能な最高レベルの国内総生産GDPと言う臨界点の水準も存在するということが視野に入るようにもなります。これは、まだ現時点では誰にもわかりませんので解明が必要です。
なお、地球1個分は、ずいぶん昔に超えています。
技術が、すべてのことを解決できると言いますが、我々が、100倍エネルギー効率のいい乗り物を作ることができるとすれば、大枠としてこれは正しい意見です。
しかし、エネルギー効率ではなく、生産性を高めた結果、イギリスは見事に産業が空洞化してしまいました。
参考として・・・
月面は、太陽風によりもたらされたヘリウム3が、鉱物資源として豊富に存在していることが確認されています。原子力発電や核融合に最適です。
<おすすめサイト>
アラン・セイボリー:砂漠を緑地化させ気候変動を逆転させる方法
ロジェカイヨワ戦争論と日本の神仏習合との偶然の一致について2019
(原子力)
スチュワート・ブランドとマーク・Z・ヤコブソンが討論:原子力発電は必要か?
ジョー・ラシター:気候変動の解消に向けた原子力発電の必要性?
「フロート式原子力発電所」について
テイラー•ウィルソン:僕のラジカルな計画 ― 小型核分裂炉で世界を変える!
劣化ウランゼロへのイノベーション:ビル=ゲイツ、エネルギーについて語る
(再生可能エネルギー)
レイ・カーツワイル:今後現れるシンギュラリティ(技術的特異点)を学ぶ大学
Solar Roadways(道路としても敷き詰めて活用できる太陽光発電パネル)
「考えるクルマ」が世界を変える―アーバン・モビリティの革命
Powerwall 2 & Solar Roof Launch - Teala Motors
デイビッド・マッケイ: 再生可能エネルギーの現実
ベティーナ・ウォーバーグ: ブロックチェーンが経済にもたらす劇的な変化
量子コンピューターの基本素子である超電導磁束量子ビットについて2019
<提供>
東京都北区神谷の高橋クリーニングプレゼント
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「虚無への供物」中井英夫 0031
序章
3月の夜の散歩 01
アイちゃん登場ってところですかね。 深い藍色のトッパーコートに、ともいろのスラックス。 要するに、全身、藍色ってところですか。 その頃の風俗はわかりませんが、おしゃれなんでしょうか?
アイちゃんこと氷沼藍司(ひぬまあいじ)の父、菫三郎(きんざぶろう)との比較が書かれています。 同じように小柄で、父はひげを蓄えていたが、氷沼藍司はまだウブだそうです。 しかも、ここで、氷沼藍司が高校三年生と表現されています。 大丈夫なんですかね。 高校三年生でゲイバアに出入りしてて。
で、氷沼藍司の境遇が語られます。 昭和三十年度まで、新制大学下における入学者選抜制度として進学適性検査が行われていたのだが、 これが、廃止されるので、氷沼藍司は札幌にいた頃の友達���東大を受ける準備をしていた。 そこに洞爺丸の事件が起きて、それも叶わなくてなり、 今は東京に住んでいて、バア「アラビク」に出入りしている。
亜利夫はそのアイちゃんの心情を察しています。
洞爺丸の事件で、家族や親戚を探し回った氷沼藍司。結局、すべての家族を見つけることはできなく、 この地上とはまったく別の次元に迷い込んだと表現してます。
実際の心情はわかりませんが、一度に家族を失うとそうなるのかもしれません。
それにしても、しつこいくらい洞爺丸の事件のことが出てきます。 これ、あとあとの伏線なんでしょうか?
その後、どうしてゲイバアに出入りすることになるかが、サラリと書かれます。
アイちゃんがディキシーランド・スタイルの黒靴を履いていて、 それをキミちゃんが、無理やり脱がせると、履き比べをするのは、 キミちゃんの自由奔放さ、そして、アイちゃんのおおらかさなんかを表しているのでしょうか?
ところで、 このディキシーランド・スタイルの黒靴がわかりません。 ディキシーランドジャズってでてきたので、このジャズのスタイルで、演奏者の着ていた服装が流行したのでしょうか?
現在は、別の名前になっているのか、もう全然廃れてしまったのか?
そのやり取りに、バア「アラビク」のママが割って入ります。
“蘭鋳(らんちゅう)”という綽名となってます。 ゲイバアの仕組みはわかりませんが、源氏名ではなく綽名なのは、 ママには、源氏名がないのか、元々、ママには源氏名をつけないのか?
蘭鋳といえば、金魚を思い出しますが、まさにそんな感じなんでしょう。
で、キミちゃんに浅葱裏(あさぎうら)の相手をするように言って、そこから遠ざけようとしますね。
浅葱裏は、辞書によると、気のきかない田舎(いなか)ざむらい。と出てきますから、 これ、そんなお客のことなんでしょう。
キミちゃんは、「シャトルーズ」をおリツするそうです。
シャトルーズ は、薬草系リキュールの銘酒で、「リキュールの女王」とも称され、フランスを代表するリキュールのひとつです。 いろいろな種類があるのでしょうが、現在は、それほど高価ではないようです。 その当時としては、かなりの値段だったのでしょう。
ところで、キミちゃんが言っている“おリツする”とは、どういう意味でしょう。
マスターいわく 「飲み物や食べ物はおリツにする含まれない」 「後でしっかり残るもの、例えば靴とか」 だそうです。
いわゆる歩合のようなことなんでしょうか? おリツは、率=歩合(基本給と別で、頑張り次第でもらえるお金のこと)
なんとなくそんな感じですね。
その後、藍ちゃんと久生と亜利夫の会話ですが、藍ちゃんの元気がありません。 これはきっとなにかあるな!?と、思わせますね。
その後、久生がもじもじと莨(たばこ)をさぐっているのですが、 “たばこをさぐる”という表現がなんかしっくりきません。
さぐっているの意味で一番しっくりくるは、 「 手足の感覚などをたよりにして、目に見えないものをさがし求める。」 でしょうか。 でも、こ��も、しっくりきません。
��い言い回しに 「触さわって確たしかめる。」というのがありました。 これがまあまあですかね。
手持ち無沙汰で、日のついてないタバコを弄んでいるのでしょうが、 たばこをさぐるという表現は面白いですね。
ちなみに、莨(たばこ)という字は、 中国語が由来だそうで、完全に当て字ですね。 しかし、草冠に良でタバコは、あまりしっくりきませんね。
で、藍ちゃんは、曖昧な表現に終始するのですが、 思いついたように満月の話をします。
ここで、この日昭和29年12月10日の月齢を持て見ると、なんと、満月でした。 ネットの力はすごい。 とうか、あまり詳しくないのですが、月齢を知る方法って色々あるのかもしれません。 当然、この昭和初期でも。
話題をそらしたつもりだった、愛ちゃんですが、久生の一言で凍りつきます。
“月は死人たちを探しておりまする”
それで、アイちゃんのするどい目線。 これは、なかありますね。
しかも、またびっくりするような事実がわかります。 久生のフィアンセ、牟礼田俊夫がアイちゃんの遠い親戚にあたるとか。
でも、せっかく登場した牟礼田俊夫も、どうして登場したのかと思うくらいあっさりきりすてられて、 何やら曰くの有りそうな厚司を着たアイヌの人について語りだします。
アイヌの人が着ている独特の服を厚司(あつし)というの初めて知りました。 厚司は、オヒョウの樹皮からとった繊維で織った織物で、袖は平袖 (ひらそで)、丈はすねぐらいだそうです。
ところで、その当時のアイヌは、どういう扱いだったのでしょう。
明治政府が、アイヌ民族の同化政策を推し進めていたが、対戦終了後、民族としての自覚が強まり、北海道アイヌ協会が結成され、アイヌの権利回復を求める運動を展開してきた。
一般に人には、あまり知られていなかったのかもしれないけど、こと、北海道では、アイヌの権利回復を求める運動は相当なものだったのでしょうか? それに恐怖を感じる人も多かったのかもしれません。
本文にはあまり関係ないのかもしれませんが、アイヌをからめるだけで、恐怖心を煽ることもできたかもしれませんね。
つづく。
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カズオ・イシグロさんが「私たちには世界各国の似たような考え方・立場の人と会って楽しむ横の旅行だけでなく、同じ社会・地域の異なる階層の人と会う縦の旅行も必要だ」という趣旨の話をしていて、そうなると私はさしづめエレベーター乗務員でしょうか。週に二日は産業廃棄物の事業で相談事に乗り、週に何度かは大学や政府の人たちと一緒に政策を議論しています。 この辺は会ったことのある人たちの幅というだけでなく、そういう人たちとそれなりに深く接し、自分たちのやりたいことを理解してもらい、納得して動いてもらう、という経験のあるなしで解像度がグッと違ってきます。 そればかりか、15分前に「分かりました」とか「やります」などと勢いよく返事した人が目の前でサボったまま締め切りの時間を過ぎたり、いくら��設内だからって飲酒して重機動かすんじゃないと指導しても赤ら顔でフラフラとユンボを転がしてるジジイもいます。何してんだよ。 先日、テロリスト逃亡犯の桐島聡さんが藤沢市の某工務店(というか人足屋さん)で働いていて、末期がんでひっくり返って担ぎ込まれて中途半端にカミングアウトしてくたばるという事件が発生しました。これは大変なことだと思います。ただ、産廃業界では働く人の身元は労災関係でかなりガッチリ押さえられていて何かあったときに保険が出ないと文字通り下請けが倒産してしまってこちらも補償のため代位弁済しないといけないので会社ごとではなく個人全員点呼や、請負さんの場合は本人契約のスマートフォンを登録してもらうというのが一般的になりました。 それでも、そういうスマホを持ってないジジイというのはゴロゴロいて、特に現場清掃なんかをやってもらう「いつもいるジジイ」は往々にしてこの爺さん誰やねんということがかなり頻繁に起きます。いや、ほんと誰なんだ。他の現場から流れてきたのでそのまま居ついている人もいれば、下請けが潰れてしまったので仕事を引き取ったときについてきた人もいる。でもそういう訳の分からん人がいるとこっちもリスクなので、弁護士にも相談したりして身元を割り出して身寄りがどこにいるのか調べてこいとやったりします。 そして、身元がどうであるかに加えて、深刻に「どうしようもなく駄目な人」ってのがいます。パッと見分かりやすいのは歯がないので上手くしゃべれない人。往々にして、防塵マスクの上からすごい口臭を感じさせてくれます。手指の欠損やおまえ明らかに右目見えてないよなってのもいて、おそらく川口市役所にいって長らく国保の更新忘れてたから保険証を再発行してくれと言いに行くこともできないんです。歯がないのにとんかつを食べようとして噛み切れず食べられない食べられないと泣いているお爺さんを、私はどうしたら良いのでしょうか。 外見であるあるなのは二週間以上風呂に入った形跡がないとか、脂漏性皮膚炎で顔真っ赤になっててヤバイとかいて、同僚からも同じロッカー室を使いたくないと言われます。事務室に入れるとボールペンとかモノが無くなるので、敷地に置いたプレハブ以外屋内は出入りさせないとか考えなければならないことはたくさんあります。 それ以上に、外見はそこまでではないんだけど中身が壊れている人がいます。これは、若い人にも年寄りにもいるんですが、最近は粗暴なのは減ってきて、むしろ話が通じない、作業の指示を理解してくれない、タスクをこなすことができないけどそこにいるという人です。もう10年以上いるおっちゃんは典型ですが、���見普通に「ハイ、分かりました」っていうんだけど、全然やらない。明らかにお前が間違ってラインを止めたのに「俺じゃない」と他人に責任を押し付ける、なんてことが起きます。 結果的に、コンベアに流れてきたペットボトルの川からビンや不純物を抜き出したり、キャップがついたままのペットボトルを取り上げて外すという作業しかさせられないのですが、これはこれで大事な作業なのでいないと困るってポジションがみつけられればそういう「どうしようもなく駄目な人」でも置いておける面はあります。 そういう「どうしようもなく駄目な人」でも、何と引き抜かれることがあります。「あれ、あいつ朝礼にいないな」と思って施設長にどうなったと聞くと、物流倉庫に引っ張られて先週辞めましたとか言われる。抜いてまで、雇うところがあるんだ… そして月給手取りでだいたい33万のところを、先方では週給7万で移籍したことを知り、おまえそれ減俸じゃねえかと愕然とすることさえあります。そして、数カ月後に何食わぬ顔して戻ってきていたりして、こいつら本当にどうしようもなく駄目だなって思い知らされることになるのです。 桐島聡さんはおそらく月額3万5千円から4万円ぐらいの風呂トイレ無しの木造アパートを宛がわれていたようですが、私らもボロアパートには無駄に詳しいので飯場のような仮設住宅に常時作業員が寝泊まりしています。ウチはホワイトな職場で周辺もまあまあホワイトなので、休日はみんなで競艇に行ったりスーパー銭湯に連れ立ったりしているようです。あの不潔なやつがたまにピッカピカのオールバックで月曜元気にやってきているときは、だいたい見かねた周囲に連れられて無理矢理風呂に入れさせられているのだと聞きました。 最近は、北関東で技能実習していた東南アジアからの外国人も増えてきました。あれっ、国内で無断で転職しては駄目なのでは、と思うんですが、技能実習2号から3号になるときに移れるという話があったようで、最初何かの農家で働いていたのがパワハラに耐えかねこちらに移ってきたところ、特にストレスのない職場で働きやすいので定着したという感じです。その辺の制度は良く知りませんが、知らない間に彼から評判を聞きつけた同国民の皆さんが増殖したのできっとうまくいっているのでしょう。 そして何より、私らの業界では前述の通りたくさんの「どうしようもなく駄目な人」の集まりで運営せざるを得なかったものが、外国から来た皆さんは理由があって稼ぎたいうえ、外国に行っても大丈夫なタフさと日本語や仕事を覚える熱心さ、それに耐えられる一定水準以上の知能・知識を備えているため、よく働いてくれます。保証人になってあげるからそのまま日本に帰化して家族をこちらに呼んだらどうかと提案して、そのまま一家8人埼玉に引っ越してきた強兵もいます。赤ちゃん可愛いね。 そうなると、やっぱり面白くなく感じる日本の駄目な人連合が、彼らをイジメないようにすることに腐心はしました。また、慣れない日本で本人はゴミ出し騒音その他慎ましく暮らす術を身に着けていても、奥さんご兄弟お子さんはまだそうではなく騒動は絶えません。それでも3年4年もすると立派な川口市民になるようなのでまあいいかといったところでしょうか。 そして、常時40人、入れ代わり立ち代わりで言えば年で60人ちょっと若者からジジイまで雇っていると、まともな人は「もっといい稼ぎの仕事に移ります」とか「小銭が溜まったので大学に行きたいんですがどっかないですか」などの話になります。ああ、まあどんどんチャレンジしたらええがな。でも、頻度で言えば年に1人か2人ですかね。割合はとても少ないのが現状です。50代になんなんとする幹部さんには背広を送って新橋のちょっとした人事研修に行かせたりもしました。いつまでもこの界隈の仕事だけやって家族養って一生を終えるなんてのはもったいないと思うからです。少しは縦の旅行をしておいでと思うんですが、感想を聞いても「はぁ、いや何だかよく分かりませんでした」やら「そういう世界もあるんだなという感じでした」という雰囲気で、ああそうかって感じなんですよね。 これは私の発案ではなかったんですが、ある職員が音頭を取って、希望者だけ集めて草津に温泉に連れて行ったりしたようです。会社の福利厚生費が貯まっていたとのことなんですが、経営陣がそれを知ったのは事後でした。考えようによってはおまえそれ横領やないかという感じでしたが、まあたいした額ではないし本人たちも笑顔でさっぱりしていたので次からはちゃんと形だけでも稟議取って承認もらってからにしてくれよとくぎを刺してそこで話は終わりました。 まあ、これが社会だし、そういう人生の塊ってのもあるんだってことだと思います。親父の代から比べれば、少しは良くなったかなと思いますが、今度は物流2024年問題が控えていて正直大変だなと感じながら私もたまに営業さんに同行して値上げの相談をしたり、商工中金に行って新しい借り入れを起こしたりしていました。「大変ですね」って銀行の人からは言われるけど、まあもちろん大変な面もあるけど、問題は私の時間的な行動ポイントが足りないことぐらいでやることは分かっているしどうにかなっちゃうんですよね。酔っぱらって地元の外国人同士で殴り合いとかして警察呼ばれるようなことさえなければぼちぼちやれてます。 で、この手の経営者同士の交流かいってのが半年に一度(?)だかあって、呼ばれてたまに顔を出すのですが、名刺交換して、講師の話を小一時間聞いて、ビール飲んで帰ってくるだけで何かいいことがあった記憶がありません。あれってどうなんですかね? 私に野心や性欲が乏しいから声かけても向こうもつまんないのかなと思って、こっちからも無理ににじり寄ったりはしませんが…。 でもまあ世の中ってのはこういうものなんだなってのは、50歳を超えて、少しだけ、分かってきたような気はします。
世間には、あなたの想像もつかない「どうしようもなく駄目な人」もいる | 山本一郎(やまもといちろう) / マイノート by 夜間飛行
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顔のない
私には顔がない。顔がない人は人を愛することができない。顔というのはいわばアイデンティティで、それを欠いていては人に対する自分の感情に絶対の確信を持てない。揺蕩っている。故に私には愛するべき人がわからなかった。
顔がない私をまともに雇ってくれる企業などそうなく、私はただ5体満足であれば使ってくれるような日雇いを斡旋所に紹介してもらい転々と現場を渡り歩いて暮らしていた。肉体労働ばかりできついこともあったが、私が大きなマスクをすっぽり被りっぱなしで働いてもこういう職場の上司や同僚は一切干渉してこなかった。そんなある日、イベント会場のセッティングの現場で斗瀬さんと私は知り合った。
斗瀬さんは顔がない私を面白がった。
「面白いな!顔のない人間なんて、あんたの親もそんななのか?」
「いえ、私の両親も妹も普通の顔を持っています」
私は無愛想に答えた。
「突然変異ってやつか」
私は首をかしげた。かしげて、斗瀬さんにはかしげた様子がわからないことに気づいたけどどうでもよかった。
「食事はできんのか?」
「できます。普通に物を口に入れて噛んで、飲み込めます」
私はない顔の口元を指差した。私の顔は物理的に「ない」のではなくて、どうやら私含め人間には視認できない性質のもののようだ。その証拠に、他人からも触れる上、目も鼻も耳も口もあってしっかり機能しているし、呼吸も摂食も発声も発汗も泣くことも人並みにできる。しかし「ない」顔は、汗や涙よりも透明だ。
「そうか、じゃあ今日現場終わったら斡旋所で待っててくれ。俺がメシ奢ったる」
なにが「そうか」なのかわからなかった私は焦ってとっさに頷いた。しかし私の顔が見えない斗瀬さんは私が頷いたのに気づかなくて私の胸のあたりをじっと見たまま硬直していた。そしてそれに気づいた私は手でオッケーサインを出した。たまに現場で会うから断るのも気まずいし、とりあえず今回は付き合おう。斗瀬さんは「じゃ」と言って手を振りながら向こうへスキップしていった。
「愉快な人だな」と私は思った。
斗瀬さんは私より30分遅く仕事から上がり、18時過ぎに待ち合わせ場所の斡旋所にやってきた。いつの間にか外は雨だった。私は傘を忘れてきたので、斗瀬さんの傘に2人で入って歩く。アスファルトを打つ雨の匂いと、少しがに股で歩く斗瀬さんの着古したジャケットのつんとした匂いが混じってなんだか頭がふわふわする。世界の輪郭が少し、私好みに崩れた気がした。
雨は好きだ、��踏を行き交う人々は傘で顔が隠れ匿名性が普段より増して、顔がない私でも少しだけ気後れせず街を歩くことができる。それから雨の日は人々の感情も静かで心地がいい。
「あ、あそこだよ。定食屋でもいいか?そういえば酒は飲める?」
「大丈夫です」
斗瀬さんに連れてこられたそこは駅前の商店街の「お多福」という老舗の定食屋だった。
私がなんでも食べれますよ、と伝えると、斗瀬さんはビールの大瓶と枝豆とたこわさともつ煮と鯛のかぶと煮をすらすらと注文した。
「とりあえず飲もか、ほれ」
斗瀬さんは私にコップを渡してお酌してくれた。私もお返しに斗瀬さんのコップにビールを注ぎ、乾杯して飲み干す。
「口が見えないからビールが消えたように見えて不思議だな、ああ、こういうのはデリカシーなかったな、すまん」
「いえ、大丈夫です」
私は斗瀬さんに顔がないことについて関心を持たれるのはなぜか嫌じゃなかった。他の人に突っ込まれるとああまたか、めんどくさいなあっていつもうんざりするのだけど。
「そういえば名前はなんて言うの?」
尋ねられて、名前を言ってなかったことに私も今更気がついた。
「佃 岬」
「佃って佃煮の?漢字で書くと苗字と名前のバランスが綺麗だな」
私たちは大瓶2本を空けて、シメに差し掛かっていた。私はにゅうめんで斗瀬さんはきざみうどん。斗瀬さんはあまり酒に強くないらしくて、もう赤ら顔で虚な眼をしている。
「そういえば、顔のない人は岬ちゃん以外にはいないの?」
「さあ…見たことないですね、ネットで調べても出てこないし、ただ、母によるといざってときは行政の支援も受けられるそうです。私は、あまり顔がないことに甘んじたくないのでわざとそういうのは調べないようして、一人でこういう生活をすることにしたんです。つまらない意地かもしれないけど」
「いや、つまらなくなんかない、やれるとこまでやってみようってことだよな。気に入った」
私は斗瀬さんがあまり深掘りしてこないところが好きだな、と思った。
「俺も実は産まれっていうか…家庭に反目して飛び出してきたクチでさ、そういうところ身につまされるな、まあ、一緒にすんなって思うかもしれないけど」
「そんな、とんでもない、そうだったんですね」
「少しだけ長いしつまらない身の上話になるけど俺はさ、6っつの時に母が家から出て行ってそんで12の時に父が再婚した継母に育てられてさ、そんでその継母には俺より小さい連れ子が2人いてとにかく彼女に可愛がられなかったんだよ。俺だけめし抜きとかざらだった。しかも親父は見て見ぬ振りさ、でもあのときは俺自身も仕方ないなって思ってた。それどころか、悪いのは自分だと思い込むところまできてしまってた」
独立する前の私に似ている。あの頃の私は私だけが周りと違うという理不尽をいつからか受け入れ、卑しく従って��まっていた。そしてそれは自然なことで、どれだけ歪でも置かれた環境に適応するように生き物やその心はデザインされているのだ。でもだんだんと成長した私は、そんな摂理に抗いたくて、顔がないお前に居場所なんかない、一人で暮らせるわけないとひき止めてくる親に反発して家を飛び出してきたのだ。別にそんなことで自由が得られると信じていたわけでも、特に決定的な出来事があったわけじゃない、ただ、漠然とした不安だとかモヤモヤした気持ち、そんな灰色のものが私の中にごちゃごちゃに蓄積してついに爆発した、そんな感じ。
「親父の実家は酒造をやっていた。そしてもちろん長男の俺に継がせる気でいたんだ。親父の願い通りに高校生になった俺は学校の合間に酒蔵で働き出したよ。俺も親父は好きだったし、このまま地元で骨を埋める気でいた。でもそれは俺が18の時のときだった。継母がずっと浮気をしていたことが継母の妊娠で解ったんだ。そしてあろうことか相手は俺と殆ど歳の違わないうちの酒蔵の若い従業員だった。俺や俺の義弟ともいつも仲良くしてたやつさ。でもそれを知っても親父は何も言わなかった。先妻に捨てられたあげく、再婚した妻にも不貞を働かれたのを村の人たちに知られるとなるとたちまち嘲笑の的だ、そして恥さらしになって、この先商売を続ける上でそれは不利になると判断したからだ。おそらく継母はそこまで計算に入れていた。女っていうのは心底恐ろしいものだね。結局親父は継母も密通の相手も責めずに、家の中だけの問題に収め、なかったことにした。そしてそういったことを目の当たりにして俺の中で何かが壊れたんだ。このままここにいてはおかしくなってしまうっぞって。そのことを実感してはじめてさ、いままで頭の隅にやってた怒りっていうか、言いようのない衝動が湧いて黙って村をおん出てきた。全く情けない話さ。それから30年間ほど日雇とかアルバイトで食い繋いでこのザマってわけ」
はじめてだ、
「私たち、はぐれものどうしですね」
斗瀬さんと私は、
「はは、そうだな」
同じように…
「岬ちゃんは、俺より多分若いだろうし自分さえ大事にできればこの先いろいろ楽しいことがあるよ」
「私今年で24です」
初めて自然に他人に私の年齢を知っ���ほしいと思った。顔がない女の年齢なんて男にとってはほとんど意味がないのに、あぁ、身体はどうだろう、私の身体の成長は18歳くらいでぴたと止まってしまっている。しかしそれは一般的にそういう人もいるのか、それとも顔がない人間特有のものなのかはどちらのもサンプルがないのでわからなかった。
外に出ると雨は止んでいた。私は斗瀬さんにきゅっと腕組みをした。斗瀬さんの身体は見かけよりがっしりしていて、火照っていて暖かい。
そしてそのままどちらから誘うでもなく、ホテルに入った。好きな人の前では顔がなくてよかったなと思う、これは初めて見つけた感情だ。私に顔があったら、照れて初めてデートする男に腕なんて組めなかっただろうから。
それと顔がないから、私に覆い被さって動く斗瀬さんの感じている顔を照れずにはっきりと見られる。
斗瀬さんのこめかみ、脂でつやがかって白髪が混じっている。
皺の多い唇。
豊かなまつ毛。
悩ましい表情。
まばらに生えた胸毛。
胸のしみ。
斗瀬さんの全てが、透明な私のなかへそそがれていく。
斗瀬さんには私の顔はどう映っているの。
やがて斗瀬さんは果て、私を優しく抱きしめる。私は斗瀬さんの汗ばんだ首筋に、キスをする。
「意外だな、失礼だけど、岬ちゃんは初めてだと思ってた」
「男は顔がなくても気にしない人が意外にいるんだなって独立してから気付きました」
「まぁ、そんなもんかもな」
今まで付き合った数人の男たちは、顔がない私とセックスするのに特別な興奮を覚えているだけの変態ばかりだった。私はそれにどうしても気づいてしまうのでいつもすぐ冷めてしまい、身の上話なんて彼らにはほとんどしなかった。けれど斗瀬さんは違う。私は斗瀬さんのことを知りたいし、斗瀬さんにも私のことを知ってほしい。斗瀬さんにこれからの私を見てほしい。
私は今初めて、恋をしている。
それから私たちはたびたびデートするようになった、告白は斗瀬さんからだった。
「岬ちゃん、こんなんでよければ付き合ってくれませんか」
いつもの斡旋所の帰り道、私はオッケーサインで快諾した。
それから5ヶ月が経った。
その日、斗瀬さんはおでん屋でいつものように杯を重ねて赤ら顔になっていた。
そして、やにはにこんな話を切り出した。
「昨日の夜、むこうの俺の義弟から連絡があってさ、おやじが倒れたらしいんだ」
「えっ」
「末期の膵臓がんでね、もう長くないみたいなんだ…」
斗瀬さんの表情はいつものように口角を微かに上げた笑顔だったけれど、その変わらなさが反対に動揺を隠しているように見えた。
「それでこんなこと岬に頼むのも不躾だと思うんだけど、一緒におやじに会いに行ってくれないか」
「はあ…」
唐突なお願いに私はおずおずと返したが、正直なところ嬉しかった。私には顔がないけど斗瀬さんがいる。もう何も、怖くない。
「なんていうかさ…」
斗瀬さんはそう呟きながら首を傾げて右のこめかみをぽりぽりと掻く。私は斗瀬さんが決まりが悪い時にするおやじくさいこのしぐさが可愛くて好きだった。
「ほんっと勝手な話なんだけど正直に言うと、俺にとって岬は欠けていた一部みたいなもので、それを見つけた俺を、岬を死ぬ前に親父に見せたいっていうか…」
「なるほど」
それから私たちは無言になった、そして無言のまま2人で大瓶を一本空けた。それから私はもう一本注文した。
「いいですよ、その代わり条件がある」
「うん?」
聞きながら斗瀬さんは私に酌をする。
「私を婚約者としてお父さんに紹介して」
その言葉を言った瞬間、私の世界の全ての音が遠くなった。せっせと歩き回る���員も、向こうで宴会をしているサラリーマンたちも、みんなスローモーションになり、そして、ぼやけた私の世界に、今向かい合っている斗瀬さんだけが鮮烈に存在していた。斗瀬さんだけが、私を見ていた。
太腿がじんわりと冷たかった。石のように固まった斗瀬さんの持つ瓶から注がれぱなしになっているビールがコップから溢れて、テーブルを伝い私の脚を濡らしている。斗瀬さんは瓶を置き、私の透明な頬を流星のように流れ落ちていく涙をぴんと伸ばした震える人差し指で不器用にそっと拭う。
「岬は泣くと、顔の形が少しわかるね」
斗瀬さんのお父さんは私たちが様子を見に行ってから53日で亡くなってしまった。
実は継母とは15年前から別居かつ絶縁状態で、たまに斗瀬さんの義弟が様子を見にくる以外はほとんどお父さんは一人で過ごしていたらしい。酒造は経営不振からとっくに廃業しており、商売を畳む時に抱えていた負債は、実家とは離れた酒蔵の土地を開業医に売却することによって賄っていた。そんなもろもろを、これまで一切実家に連絡を入れなかった斗瀬さんは30年ぶりにお父さんに会って初めて知ったのだった。
斗瀬さんとお父さんは毎日これまでの時間を取り戻すように睦まじく、たくさん話した。斗瀬さんはお父さんの実家の土地を継ぐこととなった。
そしてしばらくして、斗瀬さんの実家には籍を入れた私と斗瀬さんとで住むことになった。
私は村の郵便局の窓口でアルバイトをした。斗瀬さんは林業に従事した。
村の人たちは、印象とは違い都会の人より顔がない私に偏見を抱かず、むしろフラットに接してくれた。そしてなにより嬉しかったのは、みんな斗瀬さんが帰ってきたのを懐かしんでいるようだったことだ。その暖かさの理由には、家の事情をみんな知っていたので同情によるものもあったのかもしれない。
郵便局の横に住んでいる私の職場の先輩の日野さんの奥さんなんかは、頻繁に家に野菜をダンボールいっぱいに詰めて持ってきてくれた。私は日野さんの奥さんともすぐに打ち解け、仲良くやれた。
「岬ちゃんって寝る前ちゃんとフェイスケアしてる?顔がなくて関係がなくても、女でいるためにそういうのやっておいたほうがいいわよ?」
「女でいるために」
「そう、女でいるためにね」
私は日野さんの奥さんと軽口を叩くのが心地よかった。あっちにいた頃は、同性ともこんなに仲良くなったことはなかった。これは都会がどうとかではなく、斗瀬さんが私を見つけてくれて、2人で私たちの居場所を作ったから得られたものだ。私は村の人たちと関わるたびに、斗瀬さんと出会うことができてほんとによかったなあとしみじみ思う。
斗瀬さんの義弟たちとその家族とも私たちはうまくやれた。むしろ、ある種の蟠りがあったぶん、深い仲になれたふしもある。
斗瀬さんと私は、ゆっくりとした時間をこの村でたくさんの想いを与えたり与えられたりしながら生きた。
「親父は、最後嬉しそうだったよ」
不意に斗瀬さんは夕食の煮っ転がしをつつきながら呟いた。
縁側��ら秋の冷たくて寂しい風が吹き込んでくる。
身体が冷えるから、私は少しだけ開いていたガラス戸をゆっくりと閉めた。
「親父も俺と一緒で、自分の空っぽを埋めようって思いながら足掻いて生きていたのがな、俺と岬がこっちに来た時の親父と同じくらいの、この歳になってわかってなあ。そしてそれに気づかせてくれたのは岬、君なんだ。本当に感謝しているよ」
斗瀬さんの頭はもう真っ白で、頬もこけ、身体の殆どが亡くなる前のお父さんと瓜二つになっていた。
「そんな、私こそ斗瀬さんに見つけてもらえなかったら今ごろどうしてるか想像もできないよ。こちらこそ、ありがとう」
私は想いを噛み締めながら斗瀬さんに伝えた。透明な私の中にある、しっかりとした、色彩豊かな想いを。けれど、それはうまく言葉にできなかった。
私は斗瀬さんを背後からぎゅっと抱きしめた。斗瀬さんの身体は、あの日2人で傘の下で身体を寄せ合った時と違って、薄くて頼りなくてひんやりとしていた。しばらくそうしていると、じんわり目頭が熱くなってきた。
斗瀬さんは私の頭を撫でて、私の涙に応えるようにはかない声でうんうん、と微笑を浮かべて呟くと、寝室へとぼとぼと歩いて行った。この頃斗瀬さんは21時にはもう寝てしまう。斗瀬さんはごはんもお菜も殆ど残していた。私は食べ残しにラップをかけ、冷蔵庫に入れた。私の身体は斗瀬さんに会った時とまるで変わらない、顔がない私は老けないのだ。たぶん、脳も若いままなのだろう。冷蔵庫の前で立ち尽くしてそんなことを考えていると、たくさんの涙が、わたしからあふれてきた。
斗瀬さんが死んだのは3月の晴れた暖かい日だった。病室の窓の外では、山桜が風にふわふわと揺れていた。
葬儀には村のみんなが来てくれた。
これから大変だねえ、なんかあったら家にいつでも相談に来なよ、助けになるから。とみんな優しく私に声をかけてくれた。
とても心強かった。この村に来てよかったと私は心底思った。
私は今年で150歳になる。斗瀬さんも斗瀬さんの義弟もとっくに死んでしまい、今は斗瀬さんの義弟の兄のほうの曽孫のさらに孫夫婦とその娘さん(つまり斗瀬さんの…何になるんだろう……)や村のみんな(もうはじめ来た時とは何世代も変わってしまった)と相変わらず仲良くやっている。やはりどうやら私は顔のある人より寿命が長いらしい、もしかしたら不老不死なのかも知れない。
斗瀬さんがいなくなってから私自身について気付いたことがある。
それは、もしかしたら私のような(ほかにいるのかまだ見たことないけれど私は私と同じような人が何処かにいると信じている。特に根拠はないけれど)顔のない人は顔のある人の想いを保存する役目を負っているのかもしれないということ。私は、斗瀬さんの、斗瀬さんのお父さんの、継母さんの、義弟さんたちの、そしてこれから出会ういろいろな人の想いを、透明のなかにこぼさないように注いで行く。私は斗瀬さんや、斗瀬さんとこの村に来た時に知り合った人たちがくれた想いを今でも鮮明に思い出すことができる。そこにはたしかに戸惑いや、悲しみもあったけれど、どれも宝石のように美しく輝いている。そしてそんな人の想いが在る限り、顔のない私は歩き続けるだろう。
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🎼 00826 「Lonely Sea」。
"緊急事態宣言" がどうのこうので揺れる東京の空の下、今週も "仮面ライダー" のお時間がやって参りました。今回は 「3匹の発電怪人 シードラゴン!! (第76話)」 というお話です。"人間の自由のためにショッカーと戦うのだ!" とナレーションが聞こえる度に 現在の不自由な世の中をどうにかして欲しいなって思いますけれど、そんなことはさておき、道を歩く 少年仮面ライダー隊とガールを ふたりの怪しげな黒服や、雑貨屋のおばちゃんがチロチロと、彼らの様子を伺いながらサインを送り合っています。つい売っていたら買ってしまいさうな 仮面ライダーを模したヘルメットふうキャップを被った 少年ライダー隊らに "待ってました!" とばかりに 看板をガッと取り出した雑貨屋ふうなお店のおばちゃんは彼らを呼び止めます。「アメリカから輸入した怪獣モンスターのカンヅメだよー」 と おばちゃん。どう見ても手作りふうな "キミもそだてよう!" なんて書いてある看板と おもちゃのカンヅメを少し長くしたやうなカンヅメを見せられても 全く靡かない3人に 「安くしとく」 とおばちゃん。アメリカから輸入した割に、ひとつ200円というリーズナブルなお値段で薦めてきますし、3人に合わせたかのやうに カンヅメは ちょうど 3つしかありません。「水に入れると大きくなるよ」 とおばちゃん。何がどう大きくなるのかすらも聞かぬまま、怪しさのカケラも持たずに 何となく買ってしまう3人に 「どうもありがとう」 とおばちゃん。去っていったキッズの後ろで 物凄く悪さうな顔をしています。場面は変わり、深夜、部屋の中で 犬が吠えています。その隣の部屋で すやすやと眠るカンヅメを買ったひとり、少年ナオキ (なぜか両親は登場しません)。金魚鉢ともフラスコとも思えない透明の容器に 1匹のタツノオトシゴが入れられているのですけれど、突然に その容器から 赤や青の煙が ブクブクブワーッと吹き出してきます。夜のヒットスタジオでもはじまるのかと思いきや、そこに現るるは タツノオトシゴとは到底思えない、何だかキモい怪人です。吠える犬。キモ怪人は 右手の鞭の一振りで 犬を爆死させます。中々の迫力です。その音に目覚めたのか 目をこするナオキ。キモ怪人は どうしてかナオキ��命は狙わずに ふっといなくなります。可哀想な犬。つづいて、ナオキと一緒にカンヅメを買った少年の部屋が映ります。こちらも 水槽がぶくぶくと黄色い煙を吹き出したりして お部屋の火災警報器が鳴りさうな雰囲気ですけれど、ナオキと違い 「ハッ!」 と目覚めた少年は 目の前に キモい怪人がフラフラ部屋を彷徨いているのを見て ガバッと毛布を被ります。けれども キモ怪人に気づかれてしまった少年は、水槽があったテーブルを軸に 時計回りで 早送りで襲われ逃げ回ります。部屋にあった消化器のやうな物を噴射させて応戦する少年。後片付けが大変さうですけれど、何とかキモい怪人を撃退します。そんなころ、工事を終えた工事現場の作業員は 何だかんだと言いながら作業を終えて 帰り支度を始めやうとしているのですけれど、そこに現れたキモ怪人に右手の鞭を ビシッと浴びせられます。火柱を上げながら爆死する3人。どうして犠牲になったのかは最後まで分かりませんけれど、それこそが 無差別に殺戮を繰り返すショッカーのおそろしさです。そんなこんなで 夜が明けて、警察が作業員爆死現場の検証をしています。そこにバイクで現るるは アクション2人組。「見ろ、ふつうの燃え方じゃないぜ」 と 跡形もない作業員の亡骸を見つめる アクション大好き滝和也。ふたりは とりあえず おやっさん家に戻ります。と、ちょうどカンヅメがどうのと話していたナオキとおやっさんに その話にガッと割って入り 「ナオキ!その缶詰は 一体どこで買ったんだ?」 と本郷猛。ナオキを連れてバイクで買ったお店へ急行します。「ここだよ!」 とナオキ。「御免ください!」 と和也。お店はシャッターが閉まっています。「よし、裏へ回ろう!」 と猛。和也とふたりで裏へサッと回ります。が 「助けてー!」 と ナオキの叫び声。慌てて戻ったふたりは、いつの間にか高いビルの上で捕らえられているナオキとキモい怪人らを見つけます。「卑怯者め!」 と猛。「わめけ!もっとわめけ本郷猛!」 と そんな猛らをモニターしている地獄大使は 「貴様には 地球征服計画をことごとく邪魔されてきたが、もう手も足も出まい!」 と、地球征服というビッグな計画を立てていたことを つい漏らします。「発電怪人シードラゴンは 触覚がどうのこうので 死人の山が出来るでせう」 なんて首領に言っている最高幹部。どこが触覚なのかよく分かりませんけれど、最高幹部が首領とシードラゴンが ああのこうのと お話をしていた間に 屋上まで上って来たらしい猛は 「ショッカーの化け物め!」 と、ナオキの解放を要求するのですけれど 「この子どもを殺してから 貴様をころす!」 と シードラゴンに予想外なことを言われて驚いたところで お知らせに入ります。お知らせが明けると 「よく見るがいい!」 と、本郷猛に ナオキの首絞めを まざまざと見せつけるシードラゴン。動くに動けぬ猛。と、そんなところへ ちょうど階段を上ってきた滝和也が 戦闘員を叩きながら スッとナオキを救い出します。それにしても、廃ビルのやうな屋上で物凄く危険なアクションをかませながら戦う正義と悪の凄まじさ。「どうした!おじげづいたか本郷猛!」 とシードラゴン。本郷猛で無くてもおじげづくやうな場所です。「この鞭には 12,000ボルトの電流が流れているのだ!」 と右手の鞭を振り回すシードラゴン。これはたまらんと 「ライダー 変身!とぅっ!」 と変身をキメる猛。(しかし このボロンボロンの建物は元々何だったのでせう?)。とっても危険な廃ビルで 撮影ギリギリな死闘が繰り広げられる中、命綱も何もないままに 一歩誤れば命を落とすやうな場所で バック転する戦闘員。めちゃめちゃヒヤヒヤさせられますけれど 「ラァァイダー 貴様の最期だー!」 とシードラゴン。どういうヒラメキなのか 「やつの弱点は足だ!」 と気づいた第1号は 不意にシードラゴンの足を掴み、ビルからブンッと投げます。地面に落ちて燃えるシードラゴン。何故に燃えたのかは分かりません。そんな有様をモニターしていたのか 「地獄大使!仮面ライダーはシードラゴンの弱点をついてきた!」 と首領。弱点は改良したから大丈夫っと最高幹部。そんなころ、帰りがけな猛の目の前で (池のやうな場所で) 溺れている男性を見かけます。「あー 助けてくれ!」 と男性。池に飛び込んで男性を助け出さうとする猛。と 「死ね、本郷猛 もうお前には邪魔させん!」 なんて言いながら 猛を罠に嵌め、池に沈めるシードラゴン二世。そんな光景をまじまじと見ていた 自転車ライダー隊のふたりは 「本部に連絡だ!」 と焦ります。いつものアジトふうな場所に連れて来られた本郷猛は、感電して完全に仮死状態らしいです。あの本郷猛が感電したくらいですから、きっと 池で生息していた生き物は全滅したんじゃないかなって思いますけれど、それはさておき 「待て!」 と最高幹部は 倒れている猛の命をあっさり奪おうとしたシードラゴンの手を止めます。誤った判断をする最高幹部。「あっさりころさぬ」 と誤った判断をする最高幹部。「頭の先から足の爪先まで悪の権化に作り替えてやる!」 と誤った判断をする最高幹部。「頭蓋骨に穴を開け、大脳と小脳を悪の電子頭脳と取り替えるのだ!」 と誤った判断をする最高幹部。「へへへへへへへ 本郷猛、今日からお前は生まれ変わって、最も優秀な悪の手先になるのだ!」 と あまり優秀ではない最高幹部は、手にした ホームセンターで売っているやうなドリルを使って 猛の脳天に穴を空けやうとします。が!「おかしいぞ!」 と最高幹部。急にドリルの回転が止まります。あわあわする最高幹部を睨みながら ドリルのコンセントを抜いた猛がニヤケます。「ハハハハハ!」 と、アジトが知りたくて死んだふりをしていた 悪の秘密結社よりも ずっとずっとワルな猛は、繋がれていた お立ち台から 「ライダー 変身!とぅっ!」 と再度変身をキメます。「シードラゴン二世、お前の威力を見せてやれ!」 とヘマが得意な最高幹部。第1号に襲いかかるシードラゴン。いつの間にか 最高幹部が手放したドリルを手にして、シードラゴンにブスブスと穴を空ける残酷ライダー。シードラゴン二世は何の活躍も見せないまま、空けられた傷口から液体を吹き出させ、苦しみながら絶命します。「おのれライダー!シードラゴン三世、やれっ!」 と最高幹部。「何っ!シードラゴン三世もここにいたのか!」 と第1号。陸に上がったシードラゴン三世を追う第1号。草むらから現れた戦闘員を次から次へと池に投げ落とす非情な第1号。そこへ颯爽と バイクメン滝和也が現れ、助太刀します。「ライダー!貴様を焼きころしてやる!」 と三世。戦闘員らを相手に バック転をキメる和也の格好良さと "Japan Action Club" と赤文字で大きく書かれた Tシャツの着こなしに痺れたわたし同様、余所見をしていたのでせうか 「ライダーめ 何処へ行きやがった!」 と 第1号を見失った三世は 隠れていた お茶目なライダーに ぬわっと襲われ、そして不意に繰り出した 「ライダー パンチ!」 を喰らって池の中に落ちました。「危ない!伏せろ!」 と第1号。池に落ちた三世は、水面を赤く燃やしました。ショッカーが自信を持って送り込んだ シードラゴンは 仮面ライダーのお陰で その行手を阻まれてしまいましたけれど、海水で生活していると思われるタツノオトシゴの改造人間が、海で戦えなかったことが そもそもの敗因かなって思います。
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2021/7/24
朝、目覚ましより先に目を覚ます。相変わらず遠足が楽しみで早起きしてしまう子どもです。すると雨が降りはじめ、なぬ! と思っていると、すぐに雨は止んで、むしろ陽射しが窓から注いでくる。浮きうきで支度をしていると、Nから連絡が来ている。Tが美容室に行くから午後からにしてほしいと。それならカリー食べられるじゃん、となり、予定通りに家を出る。今日も積雲の多い晴れ。上昇する夏のイマージュ。熱気球や光のきらめきを感化しながら、ふたりに会えるのが楽しみで仕方ない。
オープンと同時にOさんのお店に入る。今日は早いですねって驚かれる。この時間はいつもお客さんが少ないらしく、ほんとうにひとりもお客さんがやってこない。久しぶりに音楽談義に華を咲かせる。一昨日ひさしぶりに聴いたAC/DCが凄いかっこよかったってはなしから、Oさんは意外にもAC/DCの大ファンだと知れる。こう言っちゃあれですけど、AC/DCってバカのひとつ憶えっていうか、そんな感じだからバカにされがちだと思うんですけど、あの潔いギターがかっこいいですよねって。すると、Oさんも同じ意見で、そうなんですよ、アンガス・ヤングって腹くくってギター弾いてるんですよね、そういう姿勢に惹かれるんですよ、どの曲も同じような感じなんですけど、ある意味でミニマルミュージックなんですって、かなり良いことを言う。ものすごく共感する。アンガス・ヤングのように腹をくくっているギタリストをもうひとり思い付き、キース・リチャーズもそんな感じですよねって。すると、Oさんも同じ意見で、そうなんですよ、僕のなかではアンガスとキースは同類ですね、キースのギターもミニマルミュージック、ひとつのことをどこまでも突き詰めた職人芸ですよねって。お客さん、ほんとうに一人もやってこず、音楽談義が白熱する。
湘南新宿ラインで待ち合わせ。毎度のこと待ち合わせがめちゃくちゃ下手くそなわれわれ。時間を過ぎても誰とも会うことができず、平行世界(パラレルワールド)のことを考える、じぶんだけがいま待ち合わせの存在していない世界線にいるのではないか、と。偶然会うことは得意なのになぁ。そしたらNから連絡が来ていて、Nの居るらしいプラットホームの場所に向かう。Tにも連絡をする。遠足スタイルのNにようやく会うことができる。TからはOKサインがきている。ところが待てども待てどもTの姿が見えない。乗るつもりだった電車が行ってしまったそのあとすぐにTがひらひらとやってくる。バッド・タイミングすぎて、ある意味でグッド・タイミング。そんなのも関係なくTが久しぶりのNをわぁーーっと抱きすくめる。こんな光景を見られただけで大いに大満足で、わざわざこれから海に行かなくてもいいくらいに今日という一日を達成してしまう。これは勝手な偏見かもしれないけれど、ふたりはいい意味に左右対称というか左右非対称で、たぶん、おたがいに自覚していない長所をそれぞれに強く持ち合っている(コントラの感想もきれいさっぱり真逆だったし)。だから、ふたりが一緒にいると最強(最狂?)という感じがするし、ふたりはほんとうにいい友であると思う。
湘南新宿ラインのボックス席、昨日セブンでNに教えてもらったアンダー・ザ・シーをTも知っているかどうか5月8日のピアノの録音をTにも聴いてもらう。録音の日付を見ながら2カ月以上も気になり続けていたんだなぁと思う。電車で音が聴こえ辛いこともあってか、Tはまったくわからない模様。Nにも聴いてもらうと、すぐに昨日のあれねっとなる。Nとふたりでメロディを口ずさんでTに聴かせる。そんなこんなでディズニーやジブリのはなしになる。すでに何回も観ている映画にコメントを付けたり、ツッコミを入れながら観るやつやりたいなぁと思う。窓の外は積乱雲がものすごい。移動の時間が大好きだなぁとあらためて思う。どこかに行くっていう目的も目的でいいけれど、それに伴う移動の時間は目的に付随する二義的なものではなくて、むしろ、移動の時間のなかにこそ目的の限定的な立場からはみ出してそれを包摂するような自由な豊かさがあるような気がする。究極的には行って帰ってくるだけで充分なのかもしれない。
京急線に乗り換える。新幹線スタイルの座席、しかも、先頭車両の一番前の座席がロマンスカーのような展望座席になっている。生憎、展望座席は埋まっていて、後方の席に三人横並びで座る。トンネルの多い路線、トンネルの影のアーチが見えてきて、列車がトンネルの外に走り出て車内がそぞろ明るくなるたびに『恋恋風塵』の冒頭のショットを思い出す。Nは席を離れて、展望座席の後ろから展望窓の風景を覗いている。Tが今日のNちゃんの後ろ姿って小学生の遠足みたいだよね~って。前々からNが何かに似ていると思い続けてきて、ついにこの謎が解けた、トトロだってことを打ち明ける。展望座席が空いたから、そっちに移動する。窓の外は積乱雲がものすごい。線路の周りは緑にあふれ、山間の町並みは茶畑のように段々に家々が連なっている。遠くのほうに海が見えてきそうで、なかなか見えない。停車駅のひとつで、Tがその町並みを眺めながら、すごーい外国に来たみたいって。それは言い過ぎかってすぐに撤回する。大笑いしながら、まあ、イオンあるからねって。ついに車窓から海の濃いブルーが見えて三人とも大はしゃぎ。
三崎口駅に到着。電車から降りると、線路の途切れる終着地がある。バスで水族館に行く。終着点の水族館の名前のバス停で下車すると、空き地みたいなところにマリモをでかくしたみたいな変な植物たちが疎らに群れをなしている。なにこれかわいいと三人とも大興奮。植物が生えているというより、植物のような動物がジッと立ち止まって群れをなしているというほうがピンとくる。もののけ姫のこだまみたいな感じでジッとこちらの様子を窺っている。基本的には疎らに群れをなしていながら、三体がぴったりくっついて仲良し三人組みたいになっているのもいる。マリモのなかからエノコログサが飛び出ている。Tが夜になったらきっとここには誰もいないよ、みんな森に帰っちゃうんだ、みたいのことを言う。大笑いしながら、ほんとうにそんなふうに思われる。水族館のバス停のはずなのに、水族館はまだ先にあって、しかも、けっこうな距離がある。なんで水族館の前まで行ってくれないのって何度もブーたれる。入園してすぐ、でっかいアシカが眠っている。アシカってこんなにでかいんだってびっくりする。Nはアシカにも似ているような気がする。なんだろう、ヒゲの雰囲気がそう感じさせるのかな。まずは、当水族館の押しであるらしいカワウソの森に行く。想像とだいぶ違っていて、カワウソも一匹しか見られず、ちょっとショックを受ける。自然公園みたいなところに野生のヘビに注意の看板が出ていて、さっそくハンターことTの心が燃え上がっている。ヘビ捕まえていいの?! って言うから、野生のヘビならいいんじゃないって。水族館の屋内に入る。入口のところにサメの口の骨のとげとげしい模型があって、すぐ近くまできて、その大きさにびっくりして思わず仰け反るような姿勢になると、Nになんで~って突っ込まれる、ずっと見えてたのにって。いや、近くまできたら思ったよりでかいのにびっくりしてって弁明する。館内に入るなり、いきなりでっかいチョウザメがいて目が点になる。数体の古代魚が水槽のなかでゆらゆらと身を踊らせている。それから個々の小さな水槽を順番に見てまわる。大勢の魚がスクランブル交差点のように錯綜と泳ぎまわっている水槽で、TかNのどっちだったかが全ての魚たちが誰ひとりとしてぶつかることなく泳ぎまわっていることに感心している。チンアナゴがエイリアンみたいな動きでおもしろい。二階に上る。二階は円形の壁沿いにぐるっと大きな水槽が張り巡らされていて、魚たちが回遊できるようになっている。水槽の上からは太陽の光が注いでいて、フロアのあっちこちに光や虹のきらめきが踊っている。サメが特に目を引く。凶悪そうなギザギザの口に、何よりも眼球がひっくり返ったような冷徹な目。鼻に瘤のようなものを付けているサメがいて、あれは何だろうとしばらく後を追ってみるも、よくわからない。ノコギリザメがいて、ふたりにも声をかける。ノコギリザメはけっこうかわいい感じ。見にいくとノコギリザメは泳ぐのやめて、ジッとこちらの様子を眺めている。その瞳の動きで三人を順番に見渡しているのがわかる。ノコギリザメから離れると、ノコギリザメのほうも泳ぐのを再開させる。一階に戻ると、シマ吉くんの催しが行なわれている。魚も芸を覚えることにびっくり仰天。シマ吉くんかわいい。館内を出て、キムタクみたいなペンギンを見に行く。からだを唐突にブルブルッと震わせたり、羽��暢気にひよひよさせたり、ペンギンの動きには変なメリハリがあって見応えがある。そしたら、一羽だけ気ちがいのようにからだを意味不明にくねらせながら泳いでいるペンギンがいる。意味不明に水飛沫を立てるその一羽に三人とも釘付けになる。Nが私もこんなふうに動いてみたいけど人間だからなぁ、みたいなことを残念そうに口にする。でも、Nはたまにいきなり唐突に、衝動的に常軌を逸したような動きを見せるよなぁと思う。件のことで警察署に行くまえ、小川のところで連絡待ちしているときに、いきなりNがわあああっと手に持っていた葉っぱを小川に投げつけたのはほんとうに美しかった。いったん駅に戻って、三戸浜を目指すことにする。なんでバスは水族館の前まで来てくれないんだって相変わらずブーたれながら歩いていると、車がきて道を開ける。車が過ぎて、遠いバス停に向けて再発進しようとすると、Nがいきなり手に持っていたエノコログサをわああっと振り乱しながら急接近してきて、うわわわっと腰を抜かしそうになる。なんで、なんで、いきなりそんなことするの?! Nは悪い笑みを浮かべ、だってKさん、とここでいったん絶妙な間を置き、素直にそのことを言うべきか言わないべきか迷っているような、あえて間を置くことでそのことを強調するような感じで、ビビりなんだも~ん! って。この野郎、ひとをバカにしやがって、いつかぜったい仕返ししてやるからなって心に強く思いつつ、ほんとうに最高だなって思う。ビビりなんだも~ん! いままでNからもらった言葉でいちばん嬉しいかもしれない。
バスで駅に戻り、三戸浜を目指す。収穫が済んで畑にきれいに整列しつつも朽ち果てている植物たちの残骸をTが戦時中の死体のようだと形容する。あるいは向日葵の蛍光色の質感、夜になったら光り出しそう。子猫の亡骸。急に夏の終わりが顕在化する。いまが夏でよかったと思う、すぐに骨に還ってしまうから。Nが持ち歩いていたエノコログサを子猫に捧げる。持ち歩いていて、よかったなぁと心の底から思う。ねこじゃらしはそこらへんにも普通に生えていて、すぐにでも摘んでこられるけども、これは人間側のエゴかもしれないけれど、大事に持っていたそれを捧げるというのはせめてもの救いになる。意気消沈しながらも海への歩みは止まらない。海への入口の畦道を通り抜けると、大きな海が広がっている。夕陽を受けた波のまにまが橙色の光のすじを浮かべている。三人とも大はしゃぎで海のほうに駆けてゆく。サンダルのNが早速パンツの裾をたくし上げて海のなかに入っていく。勢いのある波を受けたNがこっちへ振り返って驚きと喜びの入り混じったようなとってもいい笑顔をみせる。さらにずいずい海のほうに身を入れてゆく。Nのからだが踊っている。このあいだと同じくらいの時間なのに波の寄せ方がぜんぜん違っている、浜のかなり深いところまで波が来ていて、くつで歩ける場所がほとんどない。そればかりではなく、このあいだは空の高いところにずっと見えていた月がどこにも見当たらない、昨日の感じからして今日はおそらく満月だろうと思われるけれど。じぶんもスニーカーと靴下を脱いで波打ち際を歩く。波はけっこうな勢いで、裸足だからと油断していると下半身がびしょ濡れになってしまう。びしょ濡れになって色々諦めたらしいTがサンダルを脱いで裸足になる。Nも裸足のほうが気持ち良さそうとサンダルを脱ぐ。まずは廃墟を目指す。でっかい丸太が波打ち際に落ちている。海のほうに蹴ってみるものの、重すぎてぜんぜん動いてくれない。それだというのに、ひとたび波が丸太に届くと、波はいとも簡単に丸太をさらって、さらに次の波が丸太を波打ち際に叩きつける。あっぶな! と三人で丸太をよける。Tが海の殺意を感じるよーとはしゃいでいる。波打ち際をずいずい歩いていると、後ろのふたりから何これすごーい! 魔法使いみたいって歓喜の声があがる。何かと思えば、じぶんの足が濡れた砂浜に触れるたびに、フワッと空気の膨らみのようなのがあたりに拡がっている。まさに魔法使いが歩いているかのよう、もののけ姫のシシ神様の歩き方みたいってはなしにもなる。波の勢いにかなり苦戦しながらも廃墟が近づいてくる。廃墟の辺りを境に砂浜が岩場に変わっていて、岩にぶつかった波が壮絶な潮砕けとなって舞い上がっている、絶句して、ゴクンと唾を飲み込む。廃墟に到達。Tからもらったウエットティッシュで足の砂を落として靴下とスニーカーを履き直す。いざ、廃墟に潜入! 底の抜けた階段の脇をロッククライミングのように慎重によじ登る。続いてTも。続くNが半ばの空中で動けなくなってしまい、あわわ、あわわ、この次どこに足をもっていったらいいのー?! って。どうにかこうにか登りきる。廃墟にもかかわらず落書きなんかがいっさいない、純然たる野生の廃墟。下から見る限り、底が抜けそうな感じがしたけれど、踏んでみるかぎり最初のフロアは問題なさそう。ところが、その先に伸びている廊下は底抜けしそうというより、すでに床の木肌がひび割れて底が見えている。あっぶな! と咄嗟に引き下がって、そばに来ていたTにも注意を促す。ここで行きにも少し話題になった(そんなことはすっかり忘れていた)Nの「ばけたん」なるお化け探知機がついに初お目見えになる。「ばけたん」が赤く光れば悪霊がいる、青く光れば天使がいる、緑に光れば平常でとくに何もない。どう考えても赤く光りそうなシチュエーションでありながら、どういうわけか青く光る。底抜けの大丈夫そうな場所をひと通り探索して外にもどる。出るときもNは半ばの空中で動けなくなってしまい、あわわ、あわわ、どうにかこうにか地面に帰ってくることができる。続いて洞窟。入り口の岩場にはでっかいフナムシが無数に蠢いている。ふたりから虫がだめなのに、なんでフナムシは平気なのって不思議がられる。セミが夏の天使なように、フナムシは海の天使だからって思っていることを素直に応えながら、でも、だとしても何で平気なんだろうって不思議に思う。ひとりでは怖すぎて一歩しか中に入れなかった洞窟も三人いれば心強い。スマホのライトで先を照らしながら、ちょっとずつ、ちょっとずつ、中のほうに入ってゆく。洞窟の側面にも天井にも隙間なく無数のフナムシが蠢いている。Nがここでも「ばけたん」を発動させてみる、結果は緑の光。洞窟は大広間の先に細い小路が続いている。その入口まで行って引き返そうとすると、Tがこの先まで行ってみようよって。もう無理、もう無理、これ以上は無理って断ると、さすが度胸のあるTはひとりで小路に入ってゆく。小路の突き当たりまで行ってもどってくる。小路の突き当たりはさらに左右に枝分かれしているらしい。
夕陽は海上の雲にのまれ、空は暗くなりつつある。岩場をさらに進んでゆくと、一人キャンパーが三組だったか四組、おたがいに微妙に距離を取りながら座っている。焚火のいい匂いがする。岩場にはフナムシなかにカニもたくさんいる。そんな岩場の一角にどんなカニとも比べものにならないでっかいカニをTが発見、すぐさまハンターの心が燃え上がり、捕獲に向かう。カニの捕まえ方なんて知らないよ~(だったらヘビの捕まえ方は知っていたのか……)と弱音を吐きながらも果敢にカニに立ち向かってゆく。数分の格闘のすえ、見事にカニを捕獲、持っていたビニール袋に入れる。Nはその場に腰掛け、じぶんは岩場の先端のほうまで行き、Tはその中間くらいから三者三様に暮れてゆく空と海を眺める。岩にぶつかる波の潮砕けがもの凄い。しばらく経って、Nのいる地点まで戻ろうとすると、Nが大きく手を振る、大きく手を振り返す。ふたたび三人が集まると、Nが家が恋しくなっちゃうって泣きそうな声で言う。たしかにそうなのだ。こんな最果ての辺境で、しかも、もうすぐ夜が来ようとしている。どうして、じぶんはいつもこんなところにわざわざひとりで赴いているのかってことをこのとき初めて考える。それからNがいい写真撮れたよって、ふたりがそれぞれに海を眺めている写真を見せてくれる。そろそろ帰ろうか、来た道を引き返すことにする。廃墟の辺りで海を離れて、上の道路を歩くことにする。Nだけ足の砂を落としていなくてどこかで洗いたい、いちどは海に下りていこうとするけれど、あいだには砂浜があるから海で洗ってもまた砂だらけになってしまう。きっと、そこらへんに水道があるでしょってことになり、そのまま上の道路を歩いてゆく。しばらくすると、マリンスポーツの拠点みたいな施設がある。水道はありそうでなくて、人間はじぶんたちを除いて人っ子ひとりいない。そんな施設のさなかに芝生のお庭がある。芝生のお庭になら水道あるでしょって探すけど、水道はどこにもない代わりに芝生の隣に敷居に囲われたプールがある。その敷居は簡単に跨いでいける感じで、だあれもいないし、あのプールで洗っちゃえば。Tが敷居を跨ぐまでもなく普通に入口を発見して、勝手に入口の鍵みたいのを開けて中に入っている。足を洗ったNがプールの水すごいきれいだったって戻ってくる。ふふ。とうに日は暮れて、暗い夜の山道を駅に向かって引き返す。Nが暗いよぉ、怖いよぉと頻りに泣きそうな声で連呼する。そんなつもりじゃなかったけども、仕返しを無事に達成。Nのスマホのライトでできるでっかい影。とりわけ樹々の左右から覆い被さる真っ暗な坂道、ここで「ばけたん」をやってみようになるけれど、Nのかばんから「ばけたん」が消失してしまう。どこかに落としてきちゃったかなぁ。自動車のヘッドライトからほとばしる影に驚いたりしながら、街���のある明るいところに移動して「ばけたん」の捜索。かばんを隈なくひっくり返しても見つからず、「ばけたん」の性能には半信半疑ながら三千えんのお買い物がたったの二日で消失してしまうのにはさすがに気の毒な感じがして、色んな可能性を示唆していると、かばんのポケットのひとつから「ばけたん」が発見される。よかったぁ。その場で「ばけたん」を発動させると緑色に光る。山道を経て、畑道のところまで来ると、びっくりするぐらい赤い光線を発する怪しい満月が空のかなり低いところにのぼっている。Tがどこかのタイミングで(たぶん廃墟だったかな)口走った『夕闇通り探検隊』の一言が胸に突き刺さる。月のなかを鉄塔の陰翳が横切る。
帰りの電車でも頻りに「ばけたん」のはなしになる。乗換駅でも発動させてみる。緑色。廃墟でいちどだけ出た青以外はぜんぶが平常の緑色を示す。Nから、こんな胡散臭い商品なのに何故か高評価のアマゾンのレビューを見せてもらう。それでもまだ胡散臭さは拭えなくて、いっぽうで廃墟のときだけ色が変わったことがどうも引っかかっている。帰り際になってNがぽろっと口にした「乱数の偏り」という言葉にアンテナがビビッと反応して、これはきっと何があるぞと思う。帰ったらじっくり調べてみようと心に決める。
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11180143
愛読者が、死んだ。
いや、本当に死んだのかどうかは分からない。が、死んだ、と思うしか、ないのだろう。
そもそも私が小説で脚光を浴びたきっかけは、ある男のルポルタージュを書いたからだった。数多の取材を全て断っていた彼は、なぜか私にだけは心を開いて、全てを話してくれた。だからこそ書けた、そして注目された。
彼は、モラルの欠落した人間だった。善と悪を、その概念から全て捨て去ってしまっていた。人が良いと思うことも、不快に思うことも、彼は理解が出来ず、ただ彼の中のルールを元に生きている、パーソナリティ障害の一種だろうと私は初めて彼に会った時に直感した。
彼は、胸に大きな穴を抱えて、生きていた。無論、それは本当に穴が空いていたわけではないが、彼にとっては本当に穴が空いていて、穴の向こうから人が行き交う景色が見え、空虚、虚無を抱いて生きていた。不思議だ。幻覚、にしては突拍子が無さすぎる。幼い頃にスコンと空いたその穴は成長するごとに広がっていき、穴を埋める為、彼は試行し、画策した。
私が初めて彼に会ったのは、まだ裁判が始まる前のことだった。弁護士すらも遠ざけている、という彼に、私はただ、簡単な挨拶と自己紹介と、そして、「理解しない人間に理解させるため、言葉を紡ぎませんか。」と書き添えて、名刺と共に送付した。
その頃の私は書き殴った小説未満をコンテストに送り付けては、音沙汰のない携帯を握り締め、虚無感溢れる日々をなんとか食い繋いでいた。いわゆる底辺、だ。夢もなく、希望もなく、ただ、人並みの能がこれしかない、と、藁よりも脆い小説に、私は縋っていた。
そんな追い込まれた状況で手を伸ばした先が、極刑は免れないだろう男だったのは、今考えてもなぜなのか、よくわからない。ただ、他の囚人に興味があったわけでもなく、ルポルタージュが書きたかったわけでもなく、ただ、話したい。そう思った。
夏の暑い日のことだった。私の家に届いた茶封筒の中には白無地の紙が一枚入っており、筆圧の無い薄い鉛筆の字で「8月24日に、お待ちしています。」と、ただ一文だけが書き記されていた。
こちらから申し込むのに囚人側から日付を指定してくるなんて、風変わりな男だ。と、私は概要程度しか知らない彼の事件について、一通り知っておこうとパソコンを開いた。
『事件の被疑者、高山一途の家は貧しく、母親は風俗で日銭を稼ぎ、父親は勤めていた会社でトラブルを起こしクビになってからずっと、家で酒を飲んでは暴れる日々だった。怒鳴り声、金切声、過去に高山一家の近所に住んでいた住人は、幾度となく喧嘩の声を聞いていたという。高山は友人のない青春時代を送り、高校を卒業し就職した会社でも活躍することは出来ず、社会から孤立しその精神を捻じ曲げていった。高山は己の不出来を己以外の全てのせいだと責任転嫁し、世間を憎み、全てを恨み、そして凶行に至った。
被害者Aは20xx年8月24日午後11時過ぎ、高山の自宅において後頭部をバールで殴打され殺害。その後、高山により身体をバラバラに解体された後ミンチ状に叩き潰された。発見された段階では、人間だったものとは到底思えず修復不可能なほどだったという。
きっかけは近隣住民からの異臭がするという通報だった。高山は殺害から2週間後、Aさんだった腐肉と室内で戯れている所を発見、逮捕に至る。現場はひどい有り様で、近隣住民の中には体調を崩し救急搬送される者もいた。身体に、腐肉とそこから滲み出る汁を塗りたくっていた高山は抵抗することもなく素直に同行し、Aさん殺害及び死体損壊等の罪を認めた。初公判は※月※日予定。』
いくつも情報を拾っていく中で、私は唐突に、彼の名前の意味について気が付き、二の腕にぞわりと鳥肌が立った。
一途。イット。それ。
あぁ、彼は、ずっと忌み嫌われ、居場所もなくただ産み落とされたという理由で必死に生きてきたんだと、何も知らない私ですら胸が締め付けられる思いがした。私は頭に入れた情報から憶測を全て消し、残った彼の人生のカケラを持って、刑務所へと赴いた。
「こんにちは。」
「こんにちは。」
「失礼します。」
「どうぞ。」
手錠と腰縄を付けて出てきた青年は、私と大して歳の変わらない、人畜無害、悪く言えば何の印象にも残らない、黒髪と、黒曜石のような真っ黒な瞳の持ち主だった。奥深い、どこまでも底のない瞳をつい値踏みするように見てしまって、慌てて促されるままパイプ椅子へと腰掛けた。彼は開口一番、私の書いている小説のことを聞いた。
「何か一つ、話してくれませんか。」
「え、あ、はい、どんな話がお好きですか。」
「貴方が一番好きな話を。」
「分かりました。では、...世界から言葉が消えたなら。」
私の一番気に入っている話、それは、10万字話すと死んでしまう奇病にかかった、愛し合う二人の話。彼は朗読などしたこともない、世に出てすらいない私の拙い小説を、目を細めて静かに聞いていた。最後まで一度も口を挟むことなく聞いているから、読み上げる私も自然と力が入ってしまう。読み終え、余韻と共に顔を上げると、彼はほろほろ、と、目から雫を溢していた。人が泣く姿を、こんなにまじまじと見たのは初めてだった。
「だ、大丈夫ですか、」
「えぇ。ありがとうございます。」
「あの、すみません、どうして私と、会っていただけることになったんでしょうか。」
ふるふる、と犬のように首を振った彼はにこり、と機械的にはにかんで、机に手を置き私を見つめた。かしゃり、と決して軽くない鉄の音が、無機質な部屋に響く。
「僕に大してアクションを起こしてくる人達は皆、同情や好奇心、粗探しと金儲けの匂いがしました。送られてくる手紙は全て下手に出ているようで、僕を品定めするように舐め回してくる文章ばかり。」
「...それは、お察しします。」
「でも、貴方の手紙には、「理解しない人間に理解させるため、言葉を紡ぎませんか。」と書かれていた。面白いな、って思いませんか。」
「何故?」
「だって、貴方、「理解させる」って、僕と同じ目線に立って、物を言ってるでしょう。」
「.........意識、していませんでした。私はただ、憶測が嫌いで、貴方のことを理解したいと、そう思っただけです。」
「また、来てくれますか。」
「勿論。貴方のことを、少しずつでいいので、教えてくれますか。」
「一つ、条件があります。」
「何でしょう。」
「もし本にするなら、僕の言葉じゃなく、貴方の言葉で書いて欲しい。」
そして私は、彼の元へ通うことになった。話を聞けば聞くほど、彼の気持ちが痛いほど分かって、いや、分かっていたのかどうかは分からない。共鳴していただけかもしれない、同情心もあったかもしれない、でも私はただただあくる日も、そのあくる日も、私の言葉で彼を表し続けた。私の記した言葉を聞いて、楽しそうに微笑む彼は、私の言葉を最後まで一度も訂正しなかった。
「貴方はどう思う?僕の、したことについて。」
「...私なら、諦めてしまって、きっと得物を手に取って終わってしまうと思います。最後の最後まで、私が満たされることよりも、世間を気にしてしまう。不幸だと己を憐れんで、見えている答えからは目を背けて、後悔し続けて死ぬことは、きっと貴方の目から見れば不思議に映る、と思います。」
「理性的だけど、道徳的な答えではないね。普通はきっと、「己を満たす為に人を殺すのは躊躇う」って、そう答えるんじゃないかな。」
「でも、乾き続ける己のままで生きることは耐え難い苦痛だった時、己を満たす選択をしたことを、誰が責められるんでしょうか。」
「...貴方に、もう少し早く、出逢いたかった。」
ぽつり、零された言葉と、アクリル板越しに翳された掌。温度が重なることはない。触れ合って、痛みを分かち合うこともない。来園者の真似をする猿のように、彼の手に私の手を合わせて、ただ、じっとその目を見つめた。相変わらず何の感情もない目は、いつもより少しだけ暖かいような、そんな気がした。
彼も、私も、孤独だったのだと、その時初めて気が付いた。世間から隔離され、もしくは自ら距離を置き、人間が信じられず、理解不能な数億もの生き物に囲まれて秩序を保ちながら日々歩かされることに抗えず、翻弄され。きっと彼の胸に空いていた穴は、彼が被害者を殺害し、埋めようと必死に肉塊を塗りたくっていた穴は、彼以外の人間が、もしくは彼が、無意識のうちに彼から抉り取っていった、彼そのものだったのだろう。理解した瞬間止まらなくなった涙を、彼は拭えない。そうだった、最初に私の話で涙した彼の頬を撫でることだって、私には出来なかった。私と彼は、分かり合えたはずなのに、分かり合えない。私の言葉で作り上げた彼は、世間が言う狂人でも可哀想な子でもない、ただ一人の、人間だった。
その数日後、彼が獄中で首を吊ったという報道が流れた時、何となく、そうなるような気がしていて、それでも私は、彼が味わったような、胸に穴が開くような喪失感を抱いた。彼はただ、理解されたかっただけだ。理解のない人間の言葉が、行動が、彼の歩く道を少しずつ曲げていった。
私は書き溜めていた彼の全てを、一冊の本にした。本のタイトルは、「今日も、皮肉なほど空は青い。」。逮捕された彼が手錠をかけられた時、部屋のカーテンの隙間から空が見えた、と言っていた。ぴっちり閉じていたはずなのに、その時だけひらりと翻った暗赤色のカーテンの間から顔を覗かせた青は、目に刺さって痛いほど、青かった、と。
出版社は皆、猟奇的殺人犯のノンフィクションを出版したい、と食い付いた。帯に著名人の寒気がする言葉も書かれた。私の名前も大々的に張り出され、重版が決定し、至る所で賛否両論が巻き起こった。被害者の遺族は怒りを露わにし、会見で私と、彼に対しての呪詛をぶちまけた。
インタビュー、取材、関わってくる人間の全てを私は拒否して、来る日も来る日も、読者から届く手紙、メール、SNS上に散乱する、本の感想を読み漁り続けた。
そこに、私の望むものは何もなかった。
『あなたは犯罪者に対して同情を誘いたいんですか?』
私がいつ、どこに、彼を可哀想だと記したのだろう。
『犯罪者を擁護したいのですか?理解出来ません。彼は人を殺したんですよ。』
彼は許されるべきだとも、悪くない、とも私は書いていない。彼は素直に逮捕され、正式な処罰ではないが、命をもって罪へ対応した。これ以上、何をしろ、と言うのだろう。彼が跪き頭を地面に擦り付け、涙ながらに謝罪する所を見たかったのだろうか。
『とても面白かったです。狂人の世界が何となく理解出来ました。』
何をどう理解したら、この感想が浮かぶのだろう。そもそもこの人は、私の本を読んだのだろうか。
『作者はもしかしたら接していくうちに、高山を愛してしまったのではないか?贔屓目の文章は公平ではなく気持ちが悪い。』
『全てを人のせいにして自分が悪くないと喚く子供に殺された方が哀れでならない。』
『結局人殺しの自己正当化本。それに手を貸した筆者も同罪。裁かれろ。』
『ただただ不快。皆寂しかったり、一人になる瞬間はある。自分だけが苦しい、と言わんばかりの態度に腹が立つ。』
『いくら貰えるんだろうなぁ筆者。羨ましいぜ、人殺しのキチガイの本書いて金貰えるなんて。』
私は、とても愚かだったのだと気付かされた。
皆に理解させよう、などと宣って、彼を、私の言葉で形作ったこと。裏を返せば、その行為は、言葉を尽くせば理解される、と、人間に期待をしていたに他ならない。
私は、彼によって得たわずかな幸福よりも、その後に押し寄せてくる大きな悲しみ、不幸がどうしようもなく耐え難く、心底、己が哀れだった。
胸に穴が空いている、と言う幻覚を見続けた彼は、穴が塞がりそうになるたび、そしてまた無機質な空虚に戻るたび、こんな痛みを感じていたのだろうか。
私は毎日、感想を読み続けた。貰った手紙は、読んだものから燃やしていった。他者に理解される、ということが、どれほど難しいのかを、思い知った。言葉を紡ぐことが怖くなり、彼を理解した私ですら、疑わしく、かといって己と論争するほどの気力はなく、ただ、この世に私以外の、彼の理解者は現れず、唯一の彼の理解者はここにいても、もう彼の話に相槌を打つことは叶わず、陰鬱とする思考の暗闇の中を、堂々巡りしていた。
思考を持つ植物になりたい、と、ずっと思っていた。人間は考える葦である、という言葉が皮肉に聞こえるほど、私はただ、一人で、誰の脳にも引っ掛からず、狭間を生きていた。
孤独、などという言葉で表すのは烏滸がましいほど、私、彼が抱えるソレは哀しく、決して治らない不治の病のようなものだった。私は彼であり、彼は私だった。同じ境遇、というわけではない。赤の他人。彼には守るべき己の秩序があり、私にはそんな誇り高いものすらなく、能動的、怠惰に流されて生きていた。
彼は、目の前にいた人間の頭にバールを振り下ろす瞬間も、身体をミンチにする工程も、全て正気だった。ただ心の中に一つだけ、それをしなければ、生きているのが恐ろしい、今しなければずっと後悔し続ける、胸を掻きむしり大声を上げて暴れたくなるような焦燥感、漠然とした不安感、それらをごちゃ混ぜにした感情、抗えない欲求のようなものが湧き上がってきた、と話していた。上手く呼吸が出来なくなる感覚、と言われて、思わず己の胸を抑えた記憶が懐かしい。
出版から3ヶ月、私は感想を読むのをやめた。人間がもっと憎らしく、恐ろしく、嫌いになった。彼が褒めてくれた、利己的な幸せの話を追い求めよう。そう決めた。私の秩序は、小説を書き続けること。嗚���と叫ぶ声を、流れた血を、光のない部屋を、全てを飲み込む黒を文字に乗せて、上手く呼吸すること。
出版社は、どこも私の名前を見た瞬間、原稿を送り返し、もしくは廃棄した。『君も人殺したんでしょ?なんだか噂で聞いたよ。』『よくうちで本出せると思ったね、君、自分がしたこと��れたの?』『無理ですね。会社潰したくないので。』『女ならまだ赤裸々なセックスエッセイでも書かせてやれるけど、男じゃ使えないよ、いらない。』数多の断り文句は見事に各社で違うもので、私は感嘆すると共に、人間がまた嫌いになった。彼が乗せてくれたから、私の言葉が輝いていたのだと痛感した。きっとあの本は、ノンフィクション、ルポルタージュじゃなくても、きっと人の心に突き刺さったはずだと、そう思わずにはいられなかった。
以前に働いていた会社は、ルポの出版の直前に辞表を出した。私がいなくても、普段通り世界は回る。著者の実物を狂ったように探し回っていた人間も、見つからないと分かるや否や他の叩く対象を見つけ、そちらで楽しんでいるようだった。私の書いた彼の本は、悪趣味な三流ルポ、と呼ばれた。貯金は底を尽きた。手当たり次第応募して見つけた仕事で、小銭を稼いだ。家賃と、食事に使えばもう残りは硬貨しか残らない、そんな生活になった。元より、彼の本によって得た利益は、全て燃やしてしまっていた。それが、正しい末路だと思ったからだったが、何故と言われれば説明は出来ない。ただ燃えて、真っ赤になった札が灰白色に色褪せ、風に脆く崩れていく姿を見て、幸せそうだと、そう思った。
名前を伏せ、webサイトで小説を投稿し始めた。アクセス数も、いいね!も、どうでも良かった。私はただ秩序を保つために書き、顎を上げて、夜店の金魚のように、浅い水槽の中で居場所なく肩を縮めながら、ただ、遥か遠くにある空を眺めては、届くはずもない鰭を伸ばした。
ある日、web上のダイレクトメールに一件のメッセージが入った。非難か、批評か、スパムか。開いた画面には文字がつらつらと記されていた。
『貴方の本を、販売当時に読みました。明記はされていませんが、某殺人事件のルポを書かれていた方ですか?文体が、似ていたのでもし勘違いであれば、すみません。』
断言するように言い当てられたのは初めてだったが、画面をスクロールする指はもう今更震えない。
『最新作、読みました。とても...哀しい話でした。ゾンビ、なんてコミカルなテーマなのに、貴方はコメをトラにしてしまう才能があるんでしょうね。悲劇。ただ、二人が次の世界で、二人の望む幸せを得られることを祈りたくなる、そんな話でした。過去作も、全て読みました。目を覆いたくなるリアルな描写も、抽象的なのに五感のどこかに優しく触れるような比喩も、とても素敵です。これからも、書いてください。』
コメとトラ。私が太宰の「人間失格」を好きな事は当然知らないだろうに、不思議と親近感が湧いた。単純だ。と少し笑ってから、私はその奇特な人間に一言、返信した。
『私のルポルタージュを読んで、どう思われましたか。』
無名の人間、それも、ファンタジーやラブコメがランキング上位を占めるwebにおいて、埋もれに埋もれていた私を見つけた人。だからこそ聞きたかった。例えどんな答えが返ってきても構わなかった。もう、罵詈雑言には慣れていた。
数日後、通知音に誘われて開いたDMには、前回よりも短い感想が送られてきていた。
『人を殺めた事実を別にすれば、私は少しだけ、彼の気持ちを理解出来る気がしました。。彼の抱いていた底なしの虚無感が見せた胸の穴も、それを埋めようと無意識のうちに焦がれていたものがやっと現れた時の衝動。共感は微塵も出来ないが、全く理解が出来ない化け物でも狂人でもない、赤色を見て赤色だと思う一人の人間だと思いました。』
何度も読み返していると、もう1通、メッセージが来た。惜しみながらも画面をスクロールする。
『もう一度読み直して、感想を考えました。外野からどうこう言えるほど、彼を軽んじることが出来ませんでした。良い悪いは、彼の起こした行動に対してであれば悪で、それを彼は自死という形で償った。彼の思考について善悪を語れるのは、本人だけ。』
私は、画面の向こうに現れた人間に、頭を下げた。見えるはずもない。自己満足だ。そう知りながらも、下げずにはいられなかった。彼を、私を、理解してくれてありがとう。それが、私が愛読者と出会った瞬間だった。
愛読者は、どうやら私の作風をいたく気に入ったらしかった。あれやこれや、私の言葉で色んな世界を見てみたい、と強請った。その様子はどこか彼にも似ている気がして、私は愛読者の望むまま、数多の世界を創造した。いっそう創作は捗った。愛読者以外の人間は、ろくに寄り付かずたまに冷やかす輩が現れる程度で、私の言葉は、世間には刺さらない。
まるで神にでもなった気分だった。初めて小説を書いた時、私の指先一つで、人が自由に動き、話し、歩き、生きて、死ぬ。理想の愛を作り上げることも、到底現実世界では幸せになれない人を幸せにすることも、なんでも出来た。幸福のシロップが私の脳のタンパク質にじゅわじゅわと染みていって、甘ったるいスポンジになって、溢れ出すのは快楽物質。
そう、私は神になった。上から下界を見下ろし、手に持った無数の糸を引いて切って繋いでダンス。鼻歌まじりに踊るはワルツ。喜悲劇とも呼べるその一人芝居を、私はただ、演じた。
世の偉いベストセラー作家も、私の敬愛する文豪も、ポエムを垂れ流す病んだSNSの住人も、暗闇の中で自慰じみた創作をして死んでいく私も、きっと書く理由なんて、ただ楽しくて気持ちいいから。それに尽きるような気がする。
愛読者は私の思考をよく理解し、ただモラルのない行為にはノーを突きつけ、感想を欠かさずくれた。楽しかった。アクリルの向こうで私の話を聞いていた彼は、感想を口にすることはなかった。核心を突き、時に厳しい指摘をし、それでも全ての登場人物に対して寄り添い、「理解」してくれた。行動の理由を、言動の意味を、目線の行く先を、彼らの見る世界を。
一人で歩いていた暗い世界に、ぽつり、ぽつりと街灯が灯っていく、そんな感覚。じわりじわり暖かくなる肌触りのいい空気が私を包んで、私は初めて、人と共有することの幸せを味わった。不変を自分以外に見出し、脳内を共鳴させることの価値を知った。
幸せは麻薬だ、とかの人が説く。0の状態から1の幸せを得た人間は、気付いた頃にはその1を見失う。10の幸せがないと、幸せを感じなくなる。人間は1の幸せを持っていても、0の時よりも、不幸に感じる。幸福感という魔物に侵され支配されてしまった哀れな脳が見せる、もっと大きな、訪れるはずと信じて疑わない幻影の幸せ。
私はさしずめ、来るはずのプレゼントを玄関先でそわそわと待つ少女のように無垢で、そして、馬鹿だった。無知ゆえの、無垢の信頼ゆえの、馬鹿。救えない。
愛読者は姿を消した。ある日話を更新した私のDMは、いつまで経っても鳴らなかった。震える手で押した愛読者のアカウントは消えていた。私はその時初めて、愛読者の名前も顔も性別も、何もかもを知らないことに気が付いた。遅すぎた、否、知っていたところで何が出来たのだろう。私はただ、愛読者から感想という自己顕示欲を満たせる砂糖を注がれ続けて、その甘さに耽溺していた白痴の蟻だったのに。並ぶ言葉がざらざらと、砂時計の砂の如く崩れて床に散らばっていく幻覚が見えて、私は端末を放り投げ、野良猫を落ち着かせるように布団を被り、何がいけなかったのかをひとしきり考え、そして、やめた。
人間は、皆、勝手だ。何故か。皆、自分が大事だからだ。誰も守ってくれない己を守るため、生きるため、人は必死に崖を這い上がって、その途中で崖にしがみつく他者の手を足場にしていたとしても、気付く術はない。
愛読者は何も悪くない。これは、人間に期待し、信用という目に見えない清らかな物を崇拝し、焦がれ、浅はかにも己の手の中に得られると勘違いし小躍りした、道化師の喜劇だ。
愛読者は今日も、どこかで息をして、空を見上げているのだろうか。彼が亡くなった時と同じ感覚を抱いていた。彼が最後に見た澄んだ空。私が、諦観し絶望しながらも、明日も見るであろう狭い空。人生には不幸も幸せもなく、ただいっさいがすぎていく、そう言った27歳の太宰の言葉が、彼の年に近付いてからやっと分かるようになった。そう、人が生きる、ということに、最初から大して意味はない。今、人間がヒエラルキーの頂点に君臨し、80億弱もひしめき合って睨み合って生きていることにも、意味はない。ただ、そうあったから。
愛読者が消えた意味も、彼が自ら命を絶った理由も、考えるのをやめよう。と思った。呼吸代わりに、ある種の強迫観念に基づいて狂ったように綴っていた世界も、閉じたところで私は死なないし、私は死ぬ。最早私が今こうして生きているのも、植物状態で眠る私の見ている長い長い夢かもしれない。
私は思考を捨て、人でいることをやめた。
途端に、世界が輝きだした。全てが美しく見える。私が今ここにあることが、何よりも楽しく、笑いが止まらない。鉄線入りの窓ガラスが、かの大聖堂のステンドグラスよりも耽美に見える。
太宰先生、貴方はきっと思考を続けたから��あんな話を書いたのよ。私、今、そこかしこに檸檬を置いて回りたいほど愉快。
これがきっと、幸せ。って呼ぶのね。
愛読者は死んだ。もう戻らない。私の世界と共に死んだ、と思っていたが、元から生きても死んでもいなかった。否、生きていて、死んでいた。シュレディンガーの猫だ。
「嗚呼、私、やっぱり、
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※サークル内企画「自分の過去作品をリメイクしよう!」で書いた作品です。
高2の時の作品「しとしと降る雨のリズム」のリメイクです。オリジナル版は下にあります。
中途半端なモブキャラF③
※
昼休み、エミはそそくさと別棟のトイレで弁当を食べ、図書室で過ごす。図書室は先生が駐在しているのでチサトたちも迂闊なことができない。
私はエミの様子を本棟の空き教室から見ている。トイレや図書室の中までは見えないが、移動している様子は見えるのでおおよそ見当がつく。エミがいなければつるむ相手もいないので、休み時間、誰からも声をかけられない。便利だ。エミの後を離れたところからこっそり追ってみたりもした。まるでストーカーだ。何がしたいんだろう。自分が一人でいるのが嫌だからエミにすがりつこうとしているのだろうか。でも、話しているところをチサトたちに見られたらどうなるか分からない。モブキャラごときがエミと話すのはおかしい。わきまえろ。関係ないんだから大人しくしてろ。
その日の昼休みも話しかけることもなく、終わった。と、思うということは、私はエミと話すことを試みているらしい。モブのくせに一体何の権限があってエミと話す気なんだろう。そもそも、何を話すつもりだ。話したいことなんてあったっけ。話したいこともないのに話そうだなんておこがましい。私とエミは用もないのに話せるような仲じゃない。モブのくせに図々しい。
放課後、一人で帰っていると雨がぱらぱらと降りだした。群れて帰っている子たちや走り込みをしている運動部員が口々に騒いでいる。天気予報になかったらしい。天気予報なんて元々見てないから知らないけど。いつも折り畳み傘持ってるし。
制鞄に手を入れて折り畳み傘を取り出そうとしたが、見つからない。まさかチサトたちの嫌がらせか、と思ったが、そういえば家に干したままだった気がする。私は大抵人のせいにする。嫌な奴だ。別に今始まったことでもないので気にしていない。仕方ない。そういう人間なのだ。モブだし。
少し考えて例の廃工場が近くにあることに思い至った。また女子が犯されていたら嫌だな、と思いながら前回使った抜け道から侵入する。面倒臭いことに巻き込まないで欲しい。元はと言えばあんな所で犯されていたチサトが悪いのだ。薄いトタン屋根が雨音を鳴らす。パタパタと子どもが楽しそうに踊っているみたいだ。これは私の言葉じゃない。エミが昔言っていた。
「ユイちゃん」
回想ついでの幻聴かと思ったが、確かに懐かしい声がした。間違えるはずもない。声の方を見ると、エミがいた。まだ大して雨が降ってもいないのに一足先にずぶ濡れになっていたし、顔が赤くなっていた。チサトたちのせいだろう。埃っぽいコンクリートの地面の上で膝を抱えている。
私はしばらく、あー、だとか、うー、だとか言っていた気がする。話すことがない。話すべきことがない。でも話したい。話したい? アホか。何を話せば良い。話すべきことを話そう。ふさわしい言葉。なんだそれは。かける言葉がない。調子はどう? 今日は何されたの? 痛くない? チサトってひどいと思わない? どれを言っても不正解で不躾で無神経だ。優しくない私がいくら優しいふりをしようとしたって急に出来るはずもない。モブは所詮どれだけ足掻いてもモブだ。価値のあることなんか言えるわけがない。
「大丈夫?」
絞り出すようにして出てきた言葉がよりにもよってそれだった。無神経すぎやしないか。馬鹿なんだろうか。馬鹿なんだ。
「大丈夫だよ」
赤くなった顔で、くしゃみをして鼻を啜りながらエミは微笑んだ。
言わせている。そんなのそう答えるしかないじゃん。何やってんだよ。ほんと駄目だな。モブだから仕方ないか。特に優しいエミならそう答えるに決まっている。違う。こんなことを言わせたいんじゃない。私はただ、私はただ、エミに、エミを、エミが。上手く言葉を組み立てることができない。言葉が空回りする。こんなにバカだったのか私は。
「私はエミに何をしたら良いのか分からない。何もできないでいる。私はいつもエミに頼りきりなのに」
俯いて、ボロボロのエミから目を背けてボロボロこぼすみたいに言った。こんなのダメだ。ただのゲロだ。言葉のゲロ。
「ユイちゃんにどうにかしてもらおうと思ってないよ」
胸の奥がぎゅっとなった。モブのくせに。
私は言葉の裏側で「そんなことないよ」と言ってもらえることを期待していた。この期に及んで私はエミに助けてもらおうとしていた。なので、エミの言葉には面食らってしまったと同時に痛くなった。痛いとか、笑える。何が痛いだよ。そんなの感じなくて済むようにしてたくせにアホか。死ねば良いのに。死ぬ気もないくせに。こんなことで。こんなことで何悲しんでんだよ。関係ない、で済ませてたくせに。役立たずのモブのくせに。いくらエミが酷い目に遭っていても、ちくりともしなかったくせに。私は嫌な奴だ。
「何かして欲しくて、ユイちゃんと仲良くしてるんじゃないから」
落として上げるのか。ずるい。いや、やはりエミは優しいのだ。勝手に勘違いしただけのくせに。
思わず顔を上げると、相変わらずエミはあまり表情のない顔をしていた。汚れた鞄には、お揃いで買ったクマのマスコットがぶら下がっている。クマも以前踏まれた時よりさらに黒ずんでいるようにも見えた。そんなことを言われてしまったら、私はどうすれば良いのか分からなくなる。エミのせいだ。期待されてないのか私は。ただ甘えていれば良いのか。餌を待つ雛鳥みたいに口開けて鳴いとけば良いのか。いや、元々分からなかったくせにエミのせいにしようとしている。エミの優しさに甘えてしまおうとしている。
「ありがとう。でも、我慢しないで」
何言ってんだ。私は。
エミはぎこちなく微笑んだ。久しぶりに笑った顔を見たような気がした。こんな顔をさせたかったじゃない。こんな顔をさせたくて、言葉をかけたんじゃない。胸くそが悪い。吐き気がする。何の権利があって、どの口がこんなことを言っているのだろうか。我慢しないで? 馬鹿なのか。何となく聞こえの良い言葉を並べて励ましの優しい言葉をかけられたとでも思っているのか。自己満足にも程がある。本当に、鬱陶しくて、疎ましい。消えろ。死ね。私は嫌な奴だ。嫌な奴だと嫌悪するくせに何もしない自分が嫌だ。そこまで分かっているくせに、それでも何もできない自分が嫌だ。モブのくせにモブにすらなりきれない。だから嫌な奴なんだ。私は何者にもなれない。どこにも行けない。
※
「ユイは弱虫だ。泣いてたら強くなれないよ」
友達が囃し立てる。昔はエミも他の子ども達と一緒に遊んでいた。私はすぐ泣いていた。転べば怪我をしていなくても泣いていたし、そんなだからすぐ物を取り上げられたり、からかわれたりして泣かされていた。泣くまいとはいつも思うのだが、涙は止まらないのだ。止めようとすればするほどますます涙は出てきて、とうとうしゃくりあげてしまう。
「嫌がってることはやめて」
エミが私たちの間に割って入った。からかわれている私を助けるのはエミの役目で、私があんまりからかわれるものだから、エミまで皆と疎遠になってしまった。
「嫌がってることはしちゃ駄目なんだよ。『やめて』って言ってたでしょ」
私はせいぜい一度小さな声で「やめて」と言えたくらいで、抵抗らしい抵抗もできずただ泣いているばかりだった。公園で遊んでいる学校の子たちの輪に入りたそうに眺めている時も、エミが「入れて」と言ってくれた。エミは私の声にいつも耳を傾けたくれたし、私の様子を見ていてくれた。エミが代わりに怒ってくれるし、抵抗してくれるので、私はただ守られていれば良かった。
「あなたたちだって嫌なことされたら嫌でしょ。やめて欲しいってなるでしょ」
エミは説教臭くてウザがられる子どもだった。しかし状況によっては周囲に助けを求めたりするような賢さもあったので、エミに反撃してくるような子はいなかった。いつも、格好付けて攻撃されるくらいなら、守りに入っていたのに、チサトの時は失敗してしまったのだろう。エミはチサトに同情しすぎていた。この頃のように私のことだけを守っていればあんなことにはならなかったのに。チサトをそんなに気にかけたいならかければ良い。勝手にすれば良い。私はいつだって傲慢で自分のことしか考えていない。だから眺めているだけでいる。誰かが何とかしてくれるのを待っている。何もしなければ傷付かないし失敗しない。しかし、何もしないなんてことは結局できない。私は「ただ見ている」ということを選んでいる。なので傷付くし失敗する。それなのに自分のせいではないかのようなふりをしている。
「弱虫だから鍛えてあげてるだけなのに。良い子ちゃんぶってつまんないの」
私から取り上げたぬいぐるみを、その子は高く放り投げた。耳の長いうさぎのぬいぐるみだ。ぬいぐるみは木の枝に引っかかってぶら下がっている。私たちのような小さな子どもには届かない。
「エミとユイはほっといて遊ぼ」
私たちを置いて、皆タコのすべり台へと駆けだした。エミは木に登ろうとしたが、足や手をかけられる場所が少なく、よじ登ることができない。何度も挑戦していたが、結局はずり落ちてしまって駄目だった。その時の私も眺めているだけだった。ついには帰る時間になってしまったので、エミは自分のお母さんを呼んできた。私はただ眺めているだけだった。お母さんは「あらあら」と少し困ってから、箒を持ってきて、ぬいぐるみをとってくれた。たぶんお礼は言ったと思う。何もしない私でも、それくらいはできたと思う。いや、できただろうか。私は全然ちゃんとしていないので、定かではない。もっとちゃんとしないといけないのに。
「ごめんね。私もっと強くなるからね」
帰り際、エミはそう言った。違う。私が弱いのが悪い。いじめっ子が言っていた通りだ。
帰りが遅いので心配して父が迎えに来てくれた。もう夕飯が出来ていると言っていた。確か父はちゃんとエミとエミのお母さんにお礼を言っていた。その時は父と母はそこまで仲が悪くなかった。両親にお誕生日プレゼントは何が良いか訊かれた時も、私はただ欲しい物をじっと眺めているだけだった。
何でこうなってしまったのだろう。
私はいつもただ眺めているだけだった。自分のことなのに、自分に関係のあることなのに、まるで遠い世界の出来事かのように素知らぬ顔をして、何となく欲求を匂わせている。傲慢で我が儘だ。恥をさらして生きている。恥をさらして生きているから胸を張れないのか。それとも胸を張らないから恥をさらしているのか。生まれつき狡くて卑怯な人間はいる。私が弱いのは親のせいでも、いじめっ子のせいでも、エミのせいでもなくて、私自身のせいだ。
※
「やっばー。すごいの見つけた」
チサトの手下みたいな女子が濁ったジュースのペットボトルを掲げている。なんだかよく分からない固形���が浮いている。パッケージを見る限りイチゴミルクだった何からしい。
「これ絶対めちゃくちゃ前のやつじゃん」
くすくすと笑い合っている。さっきの移動教室で棚の隙間でごそごそやっているかと思ったらこんなくだらないものを見つけてきたらしい。チサトはその様子を楽しそうに眺めていたが、そのペットボトルをさっと子分Aの手から奪った。周囲の目が好奇心で輝く。期待している。薄汚い好奇心がそのペットボトルに向けられている。どんな風にしてエミに嫌がらせをするのか誰もが気にかけている。モブは皆気になって仕方ないのだ。
チサトは何も言わずにそのペットボトルの中身をエミがいる机の上にぶちまけた。びちゃ、と重い水分が出てきた。悪臭が教室中に立ちこめる。おぇっとむせる声があちこちから上がる。窓の近くの生徒が大慌てで窓を開ける。
黒ずんだイチゴミルクなのか何なのかわからない液体がエミの机を伝って、スカートを、床を汚す。
「臭い」
チサトがエミを見下ろしながら言った。いや、お前のせいだろ。えっ、何。コントか。ツッコミ待ちか。思わず内心で突っ込んでしまった。
「臭くなったじゃん」
珍しく無表情ではなく顔をしかめている。匂いのせいだろうか。眉を顰め、忌々しそうに唇を噛みしめている。そして、エミの頭を掴むと、汚れた机の上に押しつけてごしごしと押しつけて擦った。エミを雑巾だとでも思っているのだろうか。
「とれない」
チサトがポツリと独り言のように呟いた。エミが濁った咳をした。音からしてもしかしたら吐いたのかもしれない。エミの机の上はゲロとお茶だった何かで悲惨なことになっているだろう。その前から落書きでボロボロだったけど。
「とれない。とれない」
頭でもおかしくなったんだろうか。いや、元からか。イカれてるよなぁ。チサトは頭おかしい。きっと虐待されて頭がおかしくなったんだ。可哀想だな。死んでた方が良かった。
「とれないよ。これ。とれない。どうすんの」
上げようとするエミの頭をぐりぐりと机に押しつける。それでもエミはじたばたともがいている。手と足を使って立ち上がろうとするエミの体を、取り巻きたちが鼻をつまみながら押さえつけた。
「あんたのせいだ」
チサトは怒っていた。不可解だ。どうしてここでチサトが怒るのだ。意味が分からない。全部自分がやったくせに。チサトが悪いくせに何を言っているのだろう。そんなことモブも皆分かり切っているはずなのに、誰一人チサトたちを止めない。関係ないから。にやにや笑っている子たちすらいる。モブに徹している。モブレベルが高いんだろう。すごいな。私はモブすら上手くできない。
「全部あんたのせいだよ」
たぶん、皆これをパフォーマンスだと思っているのだろう。中世ヨーロッパでは処刑が娯楽だったというし、暇を持て余して中学生にとってはいじめが娯楽なのだ。だから誰も止めない。告発した子だって、止めようとしたふりをしただけだ。結局は役立たずのモブ。
「全部全部あんたが悪いんだよ」
またどうせ自分に言っているくせに。一人で勝手に死んでくれ。他人を巻き込むな。誰にも迷惑かけないようにして一人ぼっちで孤独に死ね。
「死ね」
お前がな。エミをぐりぐりと頭で机を擦る力が強くなる。机でエミの顔を押しつぶす気なのだろうか。
「死ね」
チサトの語気が強まる。何勝手に熱くなってるんだろう。バカでしょ。自分の言葉に自分で興奮してんのかこいつ。変態かよ。
「死ね」
チサトの顔が赤い。怒っている。怒りに震えるほどに怒っている。何にそんなに怒っているのだろうか。下らない。それをエミに押しつけているだけだ。お前なんて、エミに関係ないくせに。勝手に関係してくるな。マジで死ねよ。
「死ね」
チサトが言葉を重ねるのに合わせて、取り巻きは冗談ぽく手拍子を始めた。重い空気を積極的に茶化していくいつものパターン。何人かがふざけて、チサトの「死ね」に「死ね」を重ねていく。本当にあるんだな。死ねの大合唱。都市伝説じゃなかったらしい。こういうの本当にあるのか。そわそわしていたクラスメイトたちまで何人か合唱に加わっている。野次馬根性か何かだろうか。しーね、しーね、とリズミカルにクラスの半分くらいが一致団結したような気がした。この団結力があれば今年の体育祭はうちのクラスが優勝だ。おめでたい。楽しみだ。合唱コンクールも優勝できるかもしれない。協力って大事だな。勝手にすれば良い。知らないけど。モブ共は本当に勝手だ。ちょっと勝手すぎるんじゃないか。私も勝手だけど。
「いや、お前が死ねよ」
何て言おうかとか、どうやって動こうかとか、特に考えてもいなかったが、考えるより先に口と手が出ていた。
チサトが呆気にとられている。いや、チサトだけではない。教室中が呆気にとられていた。
一呼吸置いて悲鳴があがる。黄色い悲鳴を上げるのはいつもモブだ。チサトも私も黙っている。チサトの顔面から血の気が引いていく。自分の手の甲からだらだらと流れる血を黙って見つめている。少し黒っぽいのは静脈の血だからだろうか。手や指となるともっと勢いよく血が出るかと思った。うっかりエミの髪の毛まで一緒に切らなくて良かった。結構腕前は良い方みたいだ。プロになれるかも。カッターナイフの。
「ごめんなさいは?」
��ンボールを切る用のデカいカッターナイフをチキチキさせながら私は言った。血が付いたら刃が錆びそうだ。チキチキ。何枚か折ったらまた文化祭に使えるだろうか。何だかチキチキ言わせるのにハマってしまって私は刃をわざと何度もチキチキ出し入れしているチキチキ。小学校の卒業証書を入れる筒をポンポン鳴らしてたのを思い出す。ポンポンよりチキチキの方がイケてる気はする。こういうのを中二病と言うのだろうか。チキチキ。知らないけど。
「悪いことしたらごめんなさいだよね」
私は、私とエミ以外はチキチキどうでも良い。やばいじゃん、頭おかしい、等のざわめきが聞こえる。聞こえてますよ。チキチキ。何人かいない気がするから先生呼びにチキチキ行っちゃったかな。すごいな。モブのくせに役に立つんだな。あまり時間がない。でもまぁ残ったのは全員クソみたいな役立たずのモブだチキチキ。そもそももっと前に頭おかしいシチュエーションがあっただろうに、チキチキお前らは頭がおかしいんだろうか。モブだから考えないのか。関係ないもんな。仕方ないよな。ツッコミが遅すぎる。チキチキ。私は誰かのモブかもしれないが、私にとってはエミと私以外全員学芸会の木の役くらいの存在価値だ。チキチキ。チサトが可哀想なことは分かるチキチキが勝手に不幸になれば良い。犯されて殺されようが、チキチキ自殺しようが関係ない。死ねば良い。勝手にチキチキ死ね。でもエミが死ぬのはチキチキダメだ。エミを失うのはダメだ。それは私に関係がある。チキチキ。
「嫌がってることは、しちゃ駄目なんだよ」
勝てないと思ってたけど、案外いけるじゃん。やったね。カッターナイフ全国大会優勝するかも。まぁチサトなんて屈強な男じゃあるまいし、たかが同い年の女子だ。でもチサトは背も高いし、丸腰だったら勝てなかったろう。私は装備が強いから助かった。カッターナイフの腕前が光る。カッターナイフで人を切るのは初めてなので才能があると思う。持ってて良かったカッターナイフ。
「ごめんなさい」
チサトは顔にカッターナイフを突きつけられながら、手の甲を止血しようと必死に押さえている。目にはうっすら涙が浮かんでいる。すごい。あっさり。チサトってこんなに弱っちいんだな。カッターナイフよりも弱いとは思わなかった。もっと早くこうしていれば良かった。勝ち気な女もととりあえずカッターナイフを突きつければ言うことをきく。これってトリビアになりませんか。
「許してあげるから死んで」
カッターナイフの刃がチサトの頬に触れた。チサトの体に力が入るのが分かった。換気のために開け放たれた窓へとチサトを押しやる。
「このまま飛び降りて自殺ね」
頬にカッターナイフを押し当てたままチサトを窓の外に向かってぐいぐい押す。ぱらぱらと雨が降っている。外が明るいから気付かなかった。狐の嫁入りだ。こんなに明るいのに雨が降ったら虹が出るんじゃないだろうか。出たら綺麗だろうな。
クラスのざわめきが大きくなる。でも誰も止めない。どうせその程度だということは分かっている。モブは鳴いてるだけ。そういうBGM。所詮背景。
チサトの髪が雨で湿っていく。しとしとと優しい雨だ。どんな顔をしているのだろう。不服そうにしているのだろうか、恐怖に震えてるだろうか、諦めているだろうか。窓の下へ押し出しているので見えない。
「やめて」
エミの声がした。
やっぱりさすがだな。すごいよ。やっぱりここで来るのはエミなんだ。すごいな。ドラマチックだな。モブとは違う。特別なんだ。やはりエミは強くて優しいエミなんだ。
「チサトは悪くないよ」
やっぱりそう言うんだな。まただ。二回目だよそれ。何も変わってない。エミは変わらない。私も変わらない。いや、変わったのかな。きっとエミは私のことも悪くないと言うのだろう。誰も悪くないなどと綺麗事を抜かすのだろう。エミは強いから分からないんでしょ。
「エミ、ごめんね」
多分私はこれが言いたかったんだろうな。だってなんかいきなり自然と口から出てきたから。ヨダレみたいなもんだ。言葉のヨダレ。何を謝ってるんだろう。どこからどこまでが駄目だったんだろう。むしろ悪くなかったところが見つけられない。悪いのは何だろう。私の存在だろうか。そんな状態で謝ったって、許されるはずもない。罪が何かも分からないのに償えるわけがない。言いたい気持ちは確かにあった。でも、これは私がすっきりしたいのと一緒だ。ヨダレ以下じゃん。ゲロでありウンコだ。悪臭を放つ、何の役にも立たない言葉だ。
チサトからパッと手を離して窓の外へと身を乗り出した。ぐらりと視界が揺れる。教室内のくすんだ空気と違って外の空気は澄んでいる。悲鳴が上がる。校舎中に響きわたってそうだ。
「ユイちゃんは悪くない」
エミが私の腕にすがりついた。柔らかくて温かい。生き物。でも、ほらね。やっぱりエミはそんなことを言うんだ。じゃあ誰が悪いんだよ。誰も責めることができないなんてあんまりじゃないか。エミは誰にだってこうするんでしょ。チサトがもし自ら身を投げようとしていたって止めていたに決まっている。知らないおっさんでも止めている。言わせている。させている。私はモブのうちの一人だ。いくら暴れてみても結局はモブなのだ。役に立たない。関係ない。いや、関係できないのだ。絶対ここは死ぬところだったじゃん。人死にがでないなんてつまらない話だ。この辺りで一人くらい死んでおいた方が盛り上がる。私は誰にも助けられないし、誰も助けることができない。この状況は良くならないし、何も解決しない。何も終わらない。今までも、これから先も地獄だ。マシな地獄かもっと酷い地獄か分からないけど、地獄であることには間違いない。でもそれも結局は単なる私の期待であって、地獄すらも来ず、どこへも行けない方がリアルかもしれない。何かそんな気もする。全部めちゃくちゃになれば良かったのに。中途半端だ。結局は中途半端。
バタバタと足音がしてクラスメイトたちが教師何名かを連れてやってきた。何か叫んでいる。私はすがりつくエミを振り放した。エミが尻餅をつく。関係ない。チサトとも関係ないし、当然エミとも関係ない。だってモブだし。思い出したようにカッターナイフをチキチキやる。もうさっきほどチキチキを好きにはなれなかった。何かな。どうなるんだろ。少年院とかかな。ほらね、やっぱり私ただの嫌な奴じゃん。それでも生きなきゃいけないんでしょ。それでもこの人生終わんないんでしょ。面倒くさい。あーあ。
青空を背景にしとしとと雨が降っている。こんな弱い雨では何一つ切り刻めやしない。相変わらず虹は出ない。
【書いてみた感想】
・僕っ娘はあまりにもパンチが強すぎて内容を持って行かれるのでカットした。必然性がない。
・いじめの理不尽さはオリジナルの方が上。負けてる。
・どうしても「しとしと降る雨のリズム」のままそれらしい内容にすることができなかった。どう考えてもこの話は「しとしと降る雨のリズム」じゃない。でもあまり良いタイトルも思い付かなかった。今も当時も語感は気に入ってるのでよそで使いたい。
・腐った給食を用意させるために頑張ることを諦めた。
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エンリケ後悔王子
※本テキストはPCでご覧頂いた場合雑誌風の縦書き表示となります。
先が見えない。行き詰まりのどん詰まりで我々は今抗ったり、受け容れたり、或いは諦めたりしている。想像した未来はもっと華やかで便利で、そうじゃないとしてもマトモだったはずなのに。
効率化を突き詰めればその先には『死』しかない。バンドは非効率の極みだ。その非効率を更に極め、自ら修羅の道を行く痴れ者たちことエミリーライクステニス。今回メンバー全員にインタヴューを敢行することにより、その哲学がヴェールを脱いだように思う。まずは唯一のオリジナルメンバーであるエンリケ後悔王子だ。
(聞き手:早瀬雅之)
友達もいないけど、いじめられるでもない。何もない。毎週ブックオフに行ってた
●まず生い立ちを訊こうかなと。
「出身は群馬の前橋っていう県庁所在地なんですけど」
●結構中心地というか栄えてる?
「いや、死んでますね(笑)。オリオン通り商店街っていうのが近所にあったんですけど、ブラックビスケッツが一体五万円の木彫りのブラビ像を売っていて、どうしても売れなかった最後の一体を買い取ったのがその商店街で。商店街の人が『この通りの名前もブラビ通り商店街にしましょう!』って言ってた(笑)。そんな街です」
●ええ…。今もその名前なの?
「多分…。僕が大学生くらいの時にその近くにモールが出来ちゃって、商店街は蹂躙されちゃったんですけど、そこに新星堂があってD☆SELDOMっていう安いオムニバスと、フリーペーパーを毎月取りに行ってた記憶が」
●ああ、出してたね。それが情報源みたいな。
「そうそう、音楽雑誌かそれ。タワレコは高崎に行かないとなかった。県庁は前橋なんですけど高崎の方が栄えているんですよね」
●何か栄えているイメージがあるよね。
「自分の思春期で結構(高崎に)持ってかれたかな。ヤマダ電機の本店とか」
●ライブハウスもclub FLEEZが高崎に移って。
「そうそう、G-freak factoryの根城でお馴染みの」
●家族構成はどんな感じだった?
「祖父母と両親と姉と兄と…」
●三人兄弟?
「姉貴が九個上で兄貴が二つ上ですね。だから僕が小学生のうちに大学進学で家を出ていきました」
●何か姉弟仲が良いイメージがある。
「今でも年数回会うし、兄貴も姉貴もうみのてのライブ観に行ったことがあったはず(笑)」
●その節はどうも(笑)。
「洋楽を最初に教えてくれたのが姉貴で、後は兄貴とオルタナを掘ってたかな」
●なるほど。やっぱり上に兄弟いると強いというか影響受けるし、早熟になるというか。
「そうですね。一番最初は小学生の時に、姉貴がミスチルのファンクラブに入ってたので、当時出たDISCOVERYかな。あと深海をずっとカセットで聴いてた記憶が」
●いい入りなんじゃない?
「入門編としては(その二枚は)間違っているような(笑)。あとは兄貴がビーズが好きだったから聴いてましたね」
●じゃあ結構音楽には入っていきやすい環境だったんだね。
「両親は大学の合唱団か何かで知り合ったんだっけな。あとはクラシックが好きで。音楽番組を観てると「最近のは全然わかんねーな」って機嫌が悪くなるような感じの人でした」
●タチが悪いやつだ。
「かと言ってクラシックを強要するでもなかったですけどね」
●学校ではどんな感じだったの?
「小学校入るまではものすごく引っ込み思案で。それが小学校入ってからすごい、何か陽キャみたいになって」
●え?そうなの?
「文集のランキングに入ってる『面白い人』とか『将来有名になりそうな人』とかあらかた名を連ねてるんですよ。今じゃ考えられないんですけど(笑)」
●何でこうなってしまったんだ、みたいな(笑)。
「いわゆるクラスの中心人物だったんですよね。アクティブな。でも小五くらいからかな、今思うと些細なことですけど、自分の家庭が新しいガジェットに対してものすごい嫌悪感を出すというか。プレステとかアドバンス買ってくれないみたいな。それで段々みんなの話題についていけなくなって、翳りが見えてきた(笑)」
●(笑)。
「結局小学生の「面白い」「つまらない」の尺度って如何に話題を共有できるかがほとんどじゃないですか」
●そうだね。特にゲームとか。
「あと漫画、昨日のテレビ、流行りの音楽くらいか…。段々それについていけずに、スクールカーストが下がっていく(笑)」
●でも野球やってたし、運動なんかは出来る方だったの?
「小学生までは自分が主人公だったから(笑)。少年野球で打率六割くらいあったし。『ヒット打つの簡単じゃないですか?』とか言って調子に乗ってた」
●ムカつくなぁ(笑)。
「シングルヒットしか打てなかったんですけど。早熟だったのかな。当時は背も小さくて痩せてて。段々みんな身体が大きくなって。中学くらいだともう置いてかれちゃったみたいな」
●今の感じに段々近づいてきたね(笑)。
「中学くらいで陰と陽が逆転して陰の者に(笑)。タウン&カントリーの黒い方になっちゃった」
●陰陽のマークね(笑)。部活はずっと野球?
「中学は野球で、高校も途中まで軟式をやってたけど「勝つぞお前ら!」みたいな顧問に代わって…。高校の軟式野球ってすごいヒエラルキーが低いんですよ」
●そうなの?
「甲子園もないし。甲子園決勝の一週間後に明石の球場で偽甲子園みたいなのをやってるけど、誰も気にしてないというか」
●硬式と軟式ってまったく別物?
「全然違う。硬式はボールがまず痛い」
●(笑)。
「練習が好きだったんですよ。でも試合は緊張するから嫌いで。それと硬式は甲子園を目指してレギュラー争いもそうだし、負けたらお終いみたいな…。野球は好きだけど、競争とかバトルしたくない、みたいな精神性でしたね」
●ああ、そうなんだ。
「こっちは楽しく野球やりたいのに、強要するなよ。って。その顧問は初心者をすごくないがしろにしていたし。それで辞めちゃった」
●勝ちたいよりも楽しみたかったんだね。高校のカーストは?
「中学で底辺で…。紅白戦でわざとデッドボール当てられたりするんですけど」
●イジメじゃん(笑)。
「『先輩、塁に出られてよかったッスね』みたいな。だからとにかく、輩とかしょうもないいじめっ子がいない進学校に行くしかないっていう強迫観念だけで勉強してました」
●その頃は頭はよかったんだ
「うん。学年で十番以内だった」
●おお、すごい。
「それで前橋高校っていう男子校の進学校に行って。そこはね、スクールカーストがなかったんですよ、何もない。いい大学行けるように自由にやれ。みたいな」
●グループがないの?
「いや、グループはあるしもちろんイケイケな奴もいましたけど、男子校なのでカーストを思い知らされる現場に遭遇しない。『あ、あいつ俺の好きな子と一緒に帰ってる…!!』みたいなシーンを見ないで済むというか。たぶん九割以上童貞だったはずですよ」
●男子校だとそういう劣等感は生まれにくいのかもね。
「そう、友達もいないけど、いじめられるでもなく。何もない。部活が終わったら自転車圏内にある三つのブックオフを毎週ローテーションするだけ。三週間後に行くと微妙にラインナップが変わってて。あとはツタヤで安い日に下北系を借りまくる日々」
●なるほど。
●話が戻るというか変わるけど、兄弟の影響とかありつつも、高校くらいは自分の意思で音楽を聴いてたの?
「そうですね。中学終わりくらいまで洋楽を聴いてなくて。兄貴がツェッペリンとかハードロックが好きで聴かせてきたんですけど、ハードロック伝説みたいなエピソードあるじゃないですか」
●はいはい。ありますね。
「オジーオズボーンがコウモリ食べたとか、ホテルでグルーピーと…とか。それがすごくカッコ悪く感じて」
●ああ、ロッククラシック的なエピソードが。
「『俺たち、ロックだぜ』みたいなのが嫌だったんですよ。でも中三の時に姉貴がWEEZERを『これ聴きやすいよ』って貸してくれて。それですごく衝撃を受けた。こんな冴えない人がバンドやってるんだ!みたいな」
●大味なロックバンドよりもうちょっとパーソナルなのが好みだった?等身大の。
「そうそう、等身大の。中学の野球部引退した後から邦楽のギターロックにハマりだしたんですよね。くるりから始まりモーサムとかシロップとか。ちょうどその頃全盛期だったんですよ。アジカン、アシッドマン、レミオロメンの御三家を筆頭に…」
●一番アツい時期だね。後に続けとたくさんのバンドが。
「あとアートスクールとバーガーナッズかな」
●UKプロジェクトとかQuipマガジン的な。下北が盛り上がってた頃だ。
「で、洋楽はWEEZERからオルタナとかシューゲイザーにハマっていった」
●今でもその辺りは好きだと思うんだけど。その時期に聴いていたものがバンドのルーツになってる?
「そうですねぇ、初めてやったバンドはNIRVANAのデモみたいな音質の、汚くて演奏が酷い感じだったような(笑)」
●ライブ初体験は?
「一番最初は���三の時に行ったゴーイングアンダーグラウンドかな」
●おお、意外。
「受験期にハートビートが出て、ずっと聴いてたんですよ。後は高校のとき、FLEEZにアートスクールとか観に行ってた。早瀬さんも行っていたとされる…」
●パラダイスロストのツアーだっけな。モーサムと。
「あと結成当初の秀吉が出ていた」
●意外と群馬はバンド大国だよね。
「当時はメロコアと青春パンクが強かったですね。で、陽キャがそういうのを聴いてるから逆張りで���省的なギターロックが好きだったのかも知れない。バンドに一切罪はなくても、銀杏とかが聴けなかった」
●ああ、自分が入っていく余地がないみたいな?
「そうですね」
●そこから大学に行くタイミングで上京?
「はい。東京じゃなくて横浜だったけど」
橋本君に『こんなくだらないとこ、さっさと抜け出そうぜ』って言って軽音部を辞めた
●そういえば楽器っていつ始めたの?
「中学の選択授業で体育選んだのに手違いで音楽になっていて、ピアノも辞めちゃったしどうしよう。ってなって」
●ピアノやってたんだ。
「小一から小六までやったのに何も身につかなかったけど。ト音記号の場所しかわからない。コンクール用の曲をひたすら半年前から練習してやり過ごしてたと思う。で、その授業でどうしようかなと思っていたら、いとこで駅でギター弾いている子がいて、その人がギターを貸してくれて。ゆずの楽譜とともに(笑)」
●まったく(ゆずを通った)イメージない(笑)。
「それでその曲は簡単だから何となく発表も乗り切れて。でもある日家に帰ったら兄貴がギター弾いてて、既にFとか抑えられるんですよ。『俺が借りたのに!』って。すごくムカついて(笑)」
●ああ、利用されたみたいな。
「そう。それでロクに弾いてなかったけど、高校受験の直前にギターロック聴きだしたからエレキが欲しいってなって。親に受験終わったらいいよって言われたんです。そしたら兄貴が『絶対ベースを買うべき。エレキは俺の弾けばいいから。ベース弾ければ高校でバンド組むとき重宝されるぞ』って言うんですよね」
●そうかな…。
「そしたら受験真っただ中で最初に話したオリオン通りにある新星堂が潰れることになって、弾くのは受験終わってからって約束で閉店セールでベースを買ったんです。で、勉強しててこっちは弾けないのに兄貴が弾いてるんですよ(笑)」
●ズルい奴だな(笑)。
「結局自分が弾きたいから弟に買わせると」
●それで「ベースを買った方がいい」って力説してたんだ。
「そうなんですよ。で、兄貴が僕が高二のときに大学進学でエレキ持ってっちゃって。家にアコギとエレキベースだけがある状態(笑)」
●厳しいね。
「しょうがないからアートスクールのベースをずっと耳コピしてて。部屋を暗くしてコンポ爆音でヘッドフォンつないで、小さいアンプからベースを弾いてる。親からしたら心配ですよね。子供部屋から重低音だけが鳴っている」
●うちの息子は大丈夫かって(笑)。
「受験の時もそうだしいろいろと心配をかけましたね」
●大学はどうやって選んだの?
「結果論というか、もともと大学デビューしたくて関西の方の大学を目指してたんですけど、高校の先輩が行ってた大阪大学ってところを志望校にして。センター試験って会場が適当な高校に割り振られて受けるんですけど、なんと会場が自分の高校の自分のクラスだったんですよね」
●えーすごい偶然だね。
「そのホームグラウンドで何故か受験科目を間違えて(笑)」
●何で(笑)。
「一日目にロッカー開けて確認したら『あ、阪大受けられないじゃん』って。それでやる気がなくなって高校も行かずに、もうA判定のとこならどこでもいいやって思ったら国公立の前期も落ちて、たまたま後期で引っかかって、気づいたらビーズの稲葉の後輩になっていたと。進路が決まったのが三月の二十日過ぎだったと思う」
●めちゃくちゃギリギリだな。
「ロックコミューン(立命館の音楽サークル)に入りたかったですね。くるりを輩出したでお馴染みの」
●あとヨーグルトプゥね。
「そうそう(笑)」
●そこでエミリー結成したの?
「満を持して『バンドをやるぞ!』って軽音サークル入ったんですけど。上下関係が厳しくて。しかもみんなメタルのコピバンをやっている。学園祭になるとOBたちが集結してジューダスプリーストとかやってるみたいな(笑)」
●すごいサークルの良くない感じが出てるね。
「新入生はすぐバンドを組んで五月にお披露目ライブで一曲やらなきゃいけないんですけど、僕は何故かたまたま同じ大学に進学した高校の同級生三人とバンドを組んだんですね(笑)」
●意味ないじゃん(笑)。
「陰の者同士で(笑)。それで何かコピーしようとしたけど全員下手過ぎてコピー出来なかったんです。ドラムはドラムマニア上がりでベースとギターはほぼ初心者で。だからオリジナル曲をやることにしたんです。で、同時期に橋本君ていうサークルの同期のミクシィが炎上しちゃった子がいて。『軽音部は内輪ノリでクソ寒いカスの集まりだな』みたいなのが先輩に見つかって」
●うわ怖いなー。
「その子もお披露目ライブで頭脳警察みたいなオリジナル曲やって。すごいカッコいいんですけど、めちゃくちゃ物を投げられるんですよね。ライブ中に。その後何故か僕のバンドも物を投げられまして(笑)」
●すごい荒廃してるな(笑)。
「終わった後橋本君に『こんなくだらないとこ、さっさと抜け出そうぜ』って言って辞めましたね。で、他の音楽サークルにロバートジョンソン研究会っていうのがあったんですけど」
●なんだそりゃ(笑)。
「あんまり研究してる感じはなかったかな(笑)。まぁ、ブルースとかハードロックのコピーをする割と穏健派のサークルだったんですけど。新歓行ったら最後に名のあるOBみたいなのが袖からわらわら現れて、十人ぐらいで「いとしのレイラ」を弾いてるんですよ(笑)」
●それは、ダメだね(笑)。
「ここもダメだって(笑)。で、ある日ロック研究会っていうサークルが大学の路上でライブをやってて。JR ewingっていうノルウェーのハードコアバンドのカバー…その時はカバーって知らなかったんですけど。それを演奏してて、ドえらいカッコよかったんです。赦先輩の同級生たちだったんですけど。で、そこに入ろうと思ったら、『ここはサークルというか半年5000円でスタジオ利用権をバンド単位で買う人たちの集まりだから、まぁ好きにしなよ』みたいな」
●へー。
「当時赦先輩はすごい怖い先輩とスリーピースやってて、赦先輩も怖かったんですよね」
●ちょっとイメージと合わないね(笑)。
「そうですね。『後のバンドメンバーである』って漫画だったらナレーションがつく」
●『この時はまだ知る由もない』みたいな。
「(笑)」
今日大学ですごい面白いことあったのに、ライブで今歌ってるの、めちゃくちゃ暗い歌詞だなぁコレ
●なかなかエミリー結成しないね…
「いや、その同級生とのバンドが大学一年の終わりくらいに解散しちゃって、遅いハードコアをやってたんですけど」
●遅いハードコア(笑)。
「で『よし、今度はシューゲイザーをやろう』ってエミリーライクステニスが結成された」
●シュー…ゲイザー?
「当初はギタボが自分で、ベースが女の子で、ドラムは残留して、あとギター兼フルートがいた」
●編成だけ聞くとそれっぽいね(笑)。
「そうなんですよ。で、新歓ライブをやったらフルートが『カッコ悪いことしたくないわ』って抜けちゃって」
●曲はオリジナル?
「全部自分が作ってましたね。で、スリーピースになっちゃって、ギター二本ないとキツいわって思って。当時僕とドラムがポストパンクにハマってたんで、じゃあそういうのをやろうってなって。それが2008年の夏くらいかなぁ」
●なるほど。バンド名はずっとエミリー?
「そう。でもその後ドラムがギャンブルにハマっちゃって」
●ああ、良くない方向に。
「どうしたんだよ、って家に行ったらスロットの筐体が置いてあって」
●もうダメだ。
「それで脱退して途方に暮れてたらバイト先にクロアチア人が入ってきて。『ドラム出来ます』って言うからあ、ちょうどいいじゃん!って。デヤンさんっていうんですけど」
●加入したの?
「うん。クロアチアン・パンク時代ですね」
●そんなのあるの?
「いや、わかんないです(笑)。で、その人がライブの前日に『もうすぐ子ども生まれるからライブ無理かも』ってメールがきて、マジかと思ってたら翌日普通にリハ来てるんですよ(笑)」
●(笑)。
「『赤ちゃん大丈夫?』って訊いたら『昨日生まれて今ガラスん中入ってるから大丈夫』って」
●ガラスん中(笑)。
「それがきっかけかわからないけど、家族の圧により2009年の春くらいに脱退して。その後ベースも辞めるってなって」
●とうとう一人に。
「そう、で、どうしようと思ったんだけど、サークルの一学年後輩に泉君っていう毎日JOJO広重のブログを読んでる子がいて」
●だいぶオルタナティブだな(笑)。
「その子にベースをやってもらって、あと二つ下の武井君って子がドラムに加入した」
●だいぶ変わったね。
「でもその頃の音楽性はポストパンクとニューウェーブみたいな感じのままですね。で、どこでライブやっていいかわからないから、横浜…中華街の近くのライブハウスに毎週出てた」
●あーあそこね。
「そう、あれは本当に時間の無駄だった」
●(笑)。
「ブッカーにすごいナメられてたんですよね。暇な大学生の穴埋めバンドって」
●学生のバンドっていうのはねぇ…。
「酷い時は『来週の水曜日出れる?』みたいな。で、『面白いイベントになりそうなんだ』って言うから出てみたらアコースティック・ナイトってイベントで(笑)」
●酷いな(笑)。ありがちですね。いや、ありがちじゃよくないんだけど。じゃあ横浜が多かったんだ?
「あと下北のいろんなところに、殊勝にもデモを送ってたんですよ。モザイクとか251とか、今思うとちょっと違うんだけど(笑)」
●カラーが違うね(笑)。でもちょっとずつ広げようとする気持ちが。
「あと当時MySpace全盛期で」
●流行ってたね。
「そこでモーションとグッドマンと…葉蔵さん(中学生棺桶、例のKのボーカル)が働いてた頃のバベルかな。誘ってもらって。『あ、あっちから誘ってもらえることあるんだ!?』みたいな」
●『音源を聴いて連絡しました』みたいなのね。
「そうそう。まぁ、いわゆる平日の条件で今思えばアレですけど、それでも嬉しかったですよね。だからその人たちの悪口は言えない」
●(笑)。見出してくれたから。
「別にそこから鳴かず飛ばず��すけど(笑)」
●(笑)。でもそこで知り合ってまだ付き合いがあるバンドがいる。
「そうそう。だから初めてモーション出たときのブッキングは今でも覚えてて、クウチュウ戦(現Koochewsen)、ギター大学、プラハデパートっていう」
●すごいメンツだな(笑)。
「すごいですよね。で、クウチュウ戦なんて年下じゃないですか。なのに上手過ぎて。『え!?東京ってこんなにレベル高いの??』。もう、幽遊白書の魔界統一トーナメントみたいなモンですよ」
●こんなすごい奴らが何の野心も��たずに…っていうやつね(笑)。
「そう、雷禅の喧嘩仲間のくだりね。で、初めてバンド友達が出来たというか。otoriとかもかな」
●音楽性的にも共鳴出来て。
「同世代だし。そんな感じでやってたんですけど、ライブやった後めちゃくちゃテンション下がるんですよね。当時の音楽性が」
●自分たちの音楽性のせいで?
「そう、お葬式みたいな気持ちになるというか。早瀬さんは四人になってからしか観てないと思うんですけど。当時は歌詞も暗いし」
●今とは全然違うね。
「うん。リフとか再利用してるのはありますけどね。普段部室で泉君とムーの話とか未解決事件の話をいつもしてて、そういう瞬間はテンション高かったり楽しかったりするのに、ずっと暗いことを歌ってなきゃいけないのはしんどいなって」
●最初の部活の話と少し繋がってくるかもね。
「うん。あと暗いバンドをやっていると暗くなきゃいけないと思っていて。打ち上げはしちゃいけない。みたいな思い込みもあり(笑)」
●イメージに縛られ過ぎてる(笑)。
「でも『死にてぇ』とか歌ってた人が打ち上げで乾杯してたら違和感あるじゃないですか。そういう強迫観念で自家中毒になってしまったというか。『今日大学ですごい面白いことあったのに、ライブで今歌ってるの、めちゃくちゃ暗い歌詞だなぁコレ』って」
●過敏だったんだね。
「センシティブだったんですよ。グッドマン出ても(ブッキングの)鹿島さんにすごいディスられてたし」
●ダメ出しが。
「で、MCだけすごい褒められる(笑)。当時三曲くらいやると僕が小噺をして(笑)」
●面白エピソードみたいなのを。
「『この間バイト先で…』みたいな。今思うとああ、平日のモーションだなぁって思うんですけど(笑)」
●そうだね(笑)。
「でも『この後もカッコいいバンドばっかり出るんで最後まで楽しんでいってください』とかは言ったことないですよ」
●『名前だけでも覚えて帰ってください』みたいな奴ね。
「(笑)。そう、それも言ったことないです。で、だんだんしんどくなってきたんで、どうしようかなと。当時の曲作りが僕がリフを持っていって、泉君がめちゃくちゃにするみたいな感じでやっていて。ドラムの武井君はすごいいい奴なんですけど、当時から曲の展開が多くて、たまに展開を忘れて、止まっちゃうんですよドラムが(笑)。ドラムの音がなくなったその瞬間僕と泉君がキレて楽器を投げつけてしまう。そういうことをしてたら『正直もうしんどいッス』って言われて、本当に申し訳なかったなと思いますけど」
●行き詰ってるね…。
「当時二学年下に獣-ビースト-とT-DRAGONがいたんですよ。僕が四年生、泉君が三年生の時です。みんなロック研究会にいたからそれなりに話してたんですけど、T-DRAGONは当時ノイカシのシグマとよくわからないバンドをやってて、あんまりパっとしなくて。獣-ビースト-はもっと謎で、時折八時間くらいスタジオ抑えてるんですけど、一人で入ってて何やってるかよくわからないんですよ」
●怖いな(笑)。
「本人曰くテクノっぽいのを作ってたらしいんですけど、結局一度も日の目を見ることなく。で、見た目がセドリック(At the Drive-Inのボーカル)っぽいじゃないですか。当時今よりもセドリックっぽかった。それでT-DRAGONに武井君の代わりに叩いてってお願いしたら、ライブとか観に来てくれてたのもあり割と快諾してくれて。で、獣-ビースト-に『At the Drive-Inみたいなバンドをやることになったから。ボーカルやって。この日スタジオいるから』ってメール送って。返事がなかったんですけどちゃんとその日スタジオに来てくれて、漸く今の編成の原型が出来たんですよ」
●やっと今の形に!
「いやー長いですね。この時点で大学卒業する直前ですね」
仕事に好きとか興味とか求めない方がいいな。土日休みならバンド出来るから
●就職とかはどうしたの?
「大学三年の秋くらいに『どうしよっかなぁ』って出版社とか何となく受けていて。で、僕はマルチタスク機能がものすごく低いんですよ。いろんな会社を同時に受けるみたいなのが出来なくて、一社受けてそこそこのところまで行って、落ちて、また別のところにエントリーして、みたいな」
●落ちるとゼロになっちゃう。
「そう。変に真面目なところがあるんですよ。面接で絶対「弊社が第一志望ですか?」って訊かれるんだからそこ以外受けちゃダメだよな。みたいに思っていた。あと某音楽雑誌の会社も受けたんですけど圧迫面接だったんで逆ギレして帰った」
●えー圧迫面接なんだ。
「エントリーシートに物凄い熱量をぶつけたんですよね。そしたら面接官に鼻で笑われたというか。『随分音楽が好きなんですね。ハハッ』みたいな。ライターの坂本真里子が好きだったんで受けたんですけど。まぁ入る価値のない会社ですね!って」
●すごいな。
「そういう感じで疲弊してきたからとりあえずモラトリアムを伸ばそうと、大学院行こうかなぁって思ったんですよね。そしたら親もそうだけど姉がすごい説教をして。うちの姉はすごい傾き者なんですよね(以下、傾き者エピソード)。で、大学院も行かない方がいいか、と。それでもう仕事に好きとか興味とか求めない方がいいな。土日休みならバンド出来るから。って今の会社に入ったんですよ」
●就職してからバンドとの両立はどうだった?
「難しいというか、当時僕が一番年上で唯一社会人だったからノルマとかスタジオ代全部負担してたんですよね。それがキツかったかな(笑)。たぶん2014年初頭くらいまで」
●結構最近までじゃん(笑)。
「獣-ビースト-とかT-DRAGONが就職するまでは基本的にあまり負担させないようにしようと。赦先輩も当時サポートだったし。でもグッドマンとモーションは本当に良くしてもらったから。あと両立と言うか…。僕大学を卒業する時に大学の近くに引っ越したんですよ」
●卒業するときに?
「意味がわからないんですけど。入った会社が家賃補助がないということに気づいて、極限まで安いところに住まなきゃって。本当にヤバい、タックルしたら崩れるような家。後にT-DRAGONもそこに住むんですけど」
●安いってどれくらいなの?
「えっとね、18000円」
●安すぎでしょ!!
「七畳+キッチン+風呂トイレ別でそれですからね。本当は20000円だったけど入るときに『大学院生です』って言ったら安くしてくれた(笑)」
●いいなぁ。
「いや全然良くない。ボロいなんてもんじゃないですよ。木造の長屋を三分割して三部屋になってるんですけど。築は…五十年くらいかな。で、風呂が外にあるんですよ」
●共用?
「いや、共用じゃなくて、もう一つのプレハブ長屋みたいなのがあって、それが三分割されてるんですよ」
●なるほど。
「で、その外風呂が、外からしか鍵がかからない(笑)」
●閉じ込めることしか出来ない(笑)。
「そう。で、大学が近いので土日のスタジオは大学でやってたんですよね。ライブは基本土日で。平日のライブの時は誰か後輩に楽器を託して…。無理やりやってましたね」
●その頃はもう割と東京のオルタナシーンに食い込んでる感じの。
「確かうみのてと対バンしたのが2012年初頭で」
●一月だった気がする。
「グッドマンでね。あれが転機っていうと大げさですけど」
●いわゆるライブハウスに良く来る人たちに知られた感じかもね。
「その頃はやたらトリプルファイヤーと対バンしてた気がする。2012年から今でも親交がある人と一緒にやり始めた」
●まだ2012年だ。
「長いですね。とりあえず赦先輩が入るまでの話をすればいいかなって…」
●いつだろ
「2013年の春くらいかな。で、2012年の春に泉君が大学院に進学するんですけど、関西に行っちゃったんですよね。もう続けられないねって。で、サークルのかなり下に内海君ていうスキンヘッドの子がいて、見た目がいいから誘った。それが失敗だった(笑)」
●まぁいろいろ、あったね(笑)。
「うん、いろいろあった(笑)。それでバンド辞めてもらって。赦先輩はしばらく連絡もとってなかったんですけど、サポートやってもらえませんか?ってお願いして。で、なし崩し的に正規メンバーになってもらった。現在に至る」
●赦さんが入ってだいぶ音楽性に幅が。
「内海君の頃までほとんど僕が考えてたんですけど、赦先輩が入って初めてスタジオで曲を練り上げる、みたいな。バンドっぽくなってきた」
●他のメンバーのエッセンスが入ってきて
「こういうフレーズはどうかな、とかイメージを膨らませたり」
●やっとバンドらしいエピソードに(笑)。
「そこまで辿り着くのに五年くらい要してる(笑)」
●そこからは今に至る。
「メンバーは変わらないけど、音楽性はだいぶ変わったかな。ハードコアが薄れて…何というかメタ的な曲が増えた」
●そうだね、ハードコアでもプログレでもない、何とも言えない。
「何とも言えない(笑)。演劇の要素だったり、曲の中にもう一曲あったりとか」
●はいはい。
「構ダンカンバカヤロー!を観て『あ、こういうのでもやっていいんだ』とかボーダーを再確認させてもらってますね」
●アウトとセーフの線引きを。
●バンドの成り立ちはこれくらいにして、曲のアイデアとかどういう時に考える?
「基本のリフは今でも僕が考えるんですけど、スタジオで試して、カッコいいだけだとボツになるんですよ(笑)」
●(笑)。
「後はコンセプトをみんなで固めて。リフのパーツを無数に作っておいて、当てはめる感じ。シチュエーションとか」
●コンセプトありきでそこから曲と歌詞?
「それがないと今は逆に作りづらいですね」
●歌詞は誰が?
「今はほとんど獣-ビースト-です。Brand-new suicides(エミリーの楽曲の中に登場する架空のバンド)の曲だけ僕ですね」
●そうなんだ(笑)。ライブの時の意識は変わってきてる?
「昔はカッコよく思われたいみたいなのが多少あったと思うんですけど、今はもうとにかく面白いかどうか、みたいな。『さぁ、消費し���!』って。最悪『何も思い出せないけどとにかく楽しかった』でいいや。って。『よくわかんなかったけど面白かった』でいい」
●それはすごくいいことだと思う。
「『よくわかんないけど凄い』という方向だと絶対勝てないじゃないですか。グランカとかルロウズとか。最高峰に。そっちは無理だから、変化球で攻めるしかない」
●ライブ中ってどういうことを考えてる?
「なるべく仕事のことを考えないようにしている(笑)」
●(笑)。
「ハンターハンターのシャルナークのオートモードみたいな。あれに近い感じになると割といいライブが出来ますね。今何を弾いてるとか一切考えずに弾けるときがあって。逆に『このフレーズ難しいんだよな』とかふと思い出すと弾けなくなっちゃう」
●邪念が入ってくるとね。
「だからなるべくオートモードで弾くようにしたい」
●展開がすごく複雑だから身体が覚えるまですごく時間がかかりそうな印象があるけど。
「でも正直、曇ヶ原(エンリケ後悔王子が過去在籍していたプログレバンド)より全然覚えやすいですよ」
●マジか(笑)。
「曇ヶ原はA→B→フォントが違うA→フォントが違うBみたいな感じで繰り返しが多いけど微妙に違ってて。でもエミリーはとにかくAからZまで覚えるだけなので(笑)」
●なるほどね。
●平日はどういう生活をしてる?
「仕事に行って、帰って、疲れて寝る。みたいな(笑)。『無』でしかない」
●仕事終わった後に何かするって難しいよね。
「平日何も出来ない病なんですよ。かれこれ十年」
●音楽は聴いてる?
「精神的にキツいと音楽も聴かなくなるというか、耳馴染みがいいやつしか聴けない時がある」
●新しい物を受け入れる体力もない時はあるよね。
「昔のJ―POPとか、中高のとき聴いてたのとか」
●最近はどんなのを?
「ジャンル的にはユーロビートですかね」
●ええ!?
「あれって速いんですけど、リフ的にオイシイというか。ファミレスで言うとミックスグリル定食みたいな曲ばっかなんですよ。キラーリフてんこ盛りみたいな」
●詰め込んである感じで。
「これは意外とヒントがあるなと」
●なるほど。バンド的に取り入れるぞ!って意識で聴いてるの?
「サウンドは取り入れようがないので、和音のリフとかフレーズを参考にしている感じ。あとは昔J―POPとして聴いてた、例えばglobeとかSPEEDとか、それをCDで聴き返すとめちゃくちゃ発見がある。『この曲のバンドサウンドすごいな』とか『あ、あの曲のパロディーなんだ』みたいな」
●メロディーしか覚えてなかったけど、聴き返すとアレンジがすごい、みたいなのはあるよね。
「そうそう。小さい頃はマイラバの声は『すごい声だな』って。オーバーダビングの概念がないから(笑)。みんなホーミーみたいにああいう声を出せるんだと。ミスチルとかめちゃくちゃハモれてすごいなって(笑)」
●すごい技術だ(笑)。
記録媒体として一番長持ちするのは石か壁画なんですよ。レガシーをね、遺したい
●バンドをやってもう結構な歴があるけど、やってなかったらどうなってた?
「うーん。土日関係ない仕事をしてたかなぁ。あの…中学の時の夢が『オリックスの球団職員になること』だったんですよ」
●球団職員なんだ(笑)。
「プレイヤーとしての限界は悟ってたので(笑)」
●裏方でもいいから野球に携わるという。
「もっと前は小説家とか、マンガ家とか。いわゆるキッズが憧れるクリエイティブ職になりたかったけど。バンドやってなかったら…。ちょっと想像つかないですね」
●例えば今の生活からバンドが何らかの理由でなくなったとして、今の仕事だけ続けてくのは気持ち的にしんどい?
「しんどいですね。実際今それに近い状況になっているけど…。表裏一体というか、それでバランスとってたんだなぁって。普段はバンドと野球とハリエンタルラジオだけで生活出来たらいいなって思ってたのに(笑)」
●なるほどね。
「仕事以外のコミュニケーションが欠乏してて、ストレスが溜まっていく。バンドメンバーって十年近く、今まで少なくとも二週間に一回は会ってたのに。その人たちに一ヵ月以上会わないのは違和感がすごくて」
●フラストレーションが溜まってる感じ?
「この間スカイプでバンド会議みたいなのをして『いやぁ、楽しいなぁ』って(笑)。普段赦先輩がスタジオ遅刻するとすごく嫌な対応をみんなでしてたのに(笑)」
●失って初めてわかる大切さみたいな。
「前よりも優しくなれるかも知れない(笑)」
●今はこういう状況ですけど、また落ち着いた頃にこうしていきたいとかバンドである?
「昔の自分みたいな、基本的に陰の者に『楽しいなぁ。バンドやってみたい』とか思われたいですよね。以前モーションで話しかけてきた男の子が、二十歳くらいなんですけど。『僕もバンド組みたいです!』って言ってて、あ、嬉しいなって思って。その後コンパクトクラブで群馬に行ったときにその子がまたいて『僕、バンド組みました!』って嬉しそうに報告してくれたんですよ」
●普通にいい話だ(笑)。エミリーは水とかうちわとかいろんな形態でリリースしてるけど、今後こういうのを出したいとかある?
「そうですね。僕が考えていたのがダウンロードコード付土地なんですけど]
●(笑)。
「10万円くらいの離島の土地を買って、そこに看板とQRコードを貼って、辿り着きさえすればフリーでダウンロード出来るみたいな(笑)」
●なるほど。
「アドベンチャー型音源」
●面白いな(笑)
「石碑でもいいけど。記録媒体として一番長持ちするのは石か壁画なんですよね。だから最終的にはそれでリリースしたいんですよね。将来オーパーツみたいになるかも」
●遺跡として遺っていくかもね。
「レガシーをね、遺したい」
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黒沢清監督の映画『アカルイミライ』考察
主人公 仁村雄二(オダギリジョー)
主人公の先輩 有田守(浅野忠信)
工場社長 藤原耕太(笹野高史)
先輩の親 有田真一郎(藤竜也)
���山田サユリ:美穂
アカクラゲは若者を象徴している 何を考えているのか分からなくてふらふら漂い、触れると猛毒
昔から俺は寝るとよく夢を見る。 それはいつも決まって未来の夢だった。 夢の中で未来は明るかった。 希望とそれから平和に満ち溢れていた。 だから俺は眠るのが楽しかった。 ついこの間までのことだ。
クリーニング工場 目覚める だいぶうなされてたぞ そうなの 夢見てたんだろ 何見てたんだ 忘れた
・コート 唐揚げ弁当 唐揚げが小さい 唐揚げが小さいです 次の方 唐揚げが小さいです!
後ろの人を押し倒す
・迷彩コート 誰と喧嘩したんだ? 知らない しょうがねえなあ ねえクラゲ餌やっていい? 気をつけろよ 食べないね おい何やってんだ危ない危ない 危ないよ 駄目だよ クラゲの毒侮ってるだろ 危ないぞホントに でも守さんだって触ったこと無いでしょ? だって死にたくないからね 気をつけてよホントに
じゃあ俺そろそろ帰るわ ああ
仁村お前あんま無茶すんなよ うん 普通にしとけよ わかってるよ いや今はそれが一番いいかなと思って わかってるって
おい有田くん仁村くんもあのさあ 外にあのうちの娘の勉強机があるんだけど ちょっとさあ運んでくれないかなぁ?自宅まで 腰痛めちゃって 椅子蹴る
有田:分かりました
・蛇の目コート ああ、あ、そこ手すりあるから気をつけてね これ三段階に調節できる 窓際のほうがよくなぁい? いまいちじゃないか? やっぱり窓際のほうがよくない? そう? うん・・
有田くんって趣味は? いや特に無いです そうなんだ 仁村くんは? 音楽鑑賞 どんなの聞いてるの? なんでも なんでも・・どんな? いろいろです いろいろか わかる?この焼き豚自家製なの 香辛料がちょっと違うでしょ売ってる奴とは 今度貸してくんないかな? CDお気に入りのやつ あ、はいいいすよ また遊びに来て 今日は楽しかったよ 君たちのことも少しは把握できたし ごちそうさまでした 仁村:把握されちゃった
・コート ガラス越しに有田食卓みる。 娘が階段を上がる 何? 嵐が来るかもな え? いや直感だよ
・コート? 9:00 冒頭場面 ゲーセンのガン ボーリングストライク
工場 今度臨時ボーナス出すことにしたから え?俺にですか? うん君と有田くんに とりあえず月収のー・・三ヶ月分 ありがとうございます それから今度君たちを正社員として雇いたいと思ってんだ はあ 考えといて はい あ、それとCD! ほらこないだ言ってた ああー・・ 今なんか持ってないの? 持ってますけど 雑に擦って取る これ雇用契約書 目を通しといて これはんこ ねえ守さんどうすんの? 決めてないよ 給料が上がんのか・・どうしよっかな お前が決めろよ 社員になったからって別に何も変わらないよね? うーん・・そうだといいよなぁ サインするかなぁ お前最近夢どんなの見る? え?何も そっちを信じたほうがいいぞ だから何も見ないんだよ まあでもそういうのがいいんじゃないの
・コート 服屋 こっちのもいいんじゃないか 11:20不明 美穂:あ、おそい あ、どうも! 兄ちゃん何よこの格好! ちゃんとした格好してきてって言ったじゃない うっせえな あ、お兄ちゃんじゃ行きましょうか けんちゃんそのお兄ちゃんっていうのやめにしない? 同い年なんだし、ゆうじでいいよ! いやでも・・ねえ? いいっすよ何でも
いらっしゃいませお客様三名様で ケン:はい ここVISAカード使えますよね? はい大丈夫でございます どうぞ御案内いたします お兄ちゃん。ちゃんと野菜食べないと駄目なんだからね うっせえ 美穂:どっかでコーヒーでも飲もうか ケン:ああ。そうだね。この先あったけなぁ? あの、それよりゲーセン行きません? えーやだよそんなとこー 結構面白いっすよ ゲームセンターですか? 今度は俺が奢りますよ 行きましょう えー ほら行くぞ! ケン:勝っちゃった 仁村:もう一回やりましょうよ ・あれ?服ボロ?12:59 ケン:すいません。僕結構こういうの強いんです お兄ちゃん何ムキになってんのばっか見たい。 いこ? ケン:うん ボーリングガーター
・迷彩コート 水槽に手を入れる やめろ。マジで死ぬぞ 仁村こうしよう。 こうやったら待てで こうやったら行け な? なにそれ? いやサインだ おまえさ、すごい分け分からなくなるじゃん それでちょっと自分がどこにいるのか見当つかなくなるでしょ だから俺がサイン出す いいよ・・ やめてよ・・
いやしばらくそうしろよ これが待てこれが行け。いいじゃん (俺はこの案が?)いいと思うけどね ほっといてよ
ブー どうもこんにちは 社長:ちょうど良かったふたりとも居たんだ 寿司食わないかと思って サンキュー あのさあ聞いて? あたしーたまたま今55歳なんだけど 君らいくつ? (ごん?)が25で仁村が24 んー わっかいよねー でもそれもたまたまってことでしょ? ほんとは会わしたかったなー君らに 25、25歳の私に これはなかなかのもんだったんだよ? 70年代初頭だったからねぇ あの頃は肝座ってたなぁ あの頃みんなそう! 目的って言うの?・・うん 何かこうはっきり見えてたんだよね。 いやまああとで考えてみたら馬鹿みたいな事なんだろうけどもね 有田:いや・・ 俺はさあ・・・・ はー!・・・忘れたなぁ! 有田:ふふっ なんだったんだろうあれ なん・・か・・・チッ まぁどうせろくな事じゃないんだろうけどさあ 忘れたなぁ綺麗さっぱり それが若いってことじゃないの? あら? ちょっとすんません うん どうした 今これだかんな? 大丈夫? ええ大丈夫です お!もうこんな時間か ここって衛星テレビはいるよね? 入ります どれどれ・・ おおこれこれ おーし バチパチ おっしゃパチ 有田くん一緒に応援して ちゃちゃちゃ 結構盛り上がんだこれ ちゃちゃちゃ おっしゃ ファイト ちゃちゃちゃ 盛り上がんだこれ おもうこんな時間か お、何あれ熱帯魚? クラゲですよアカクラゲ へー刺さないよね? 仁村:あ、それあぶ ぷぷぷ ぷぷぷ
もしもし?仁村?ちょっと考えたんだけどさ お前クラゲ飼わない?そそそ。いや俺?俺はもう卒業かなと思って
・蛇の目コート それ水につけたまんま中に出して 水につけたまんま? これ水温計な うん んでこっからさコップ一杯水取ってま水入れて欲しいんだ それだけは必ずやって欲しいんだ。コイツ特別製だからさ 頼むぞ? うん いけ
コイツ全然反応しないね まあそういうやつだよ お前そいつと気が合うと思うよ
有田工場から去る 渡された服投げる 調べたら猛毒のクラゲだった それなのにあの男は何も言わなかった 私を見殺しにしようとしたわけだ そのことを問いただすと辞めるって言い出した なぁに考えてるのか・・さっぱりわからん きみも同類か 社長室来い。この前言ったボーナス払ってやる。現金でな
有田不在
・ボロ服 封筒
・コート ボーリング場は閉鎖しました
・ボロ服 ん? (うそだろ?) くそ・・あいつだ 取り返しに行かなきゃ
・ボロ服 鉄パイプ素振り
死んでた
先輩電話出ない
女の人。娘? パトカー
先生いかがでした? ええ・・先ほど守さん本人と接見してきましたが どうも自白の信ぴょう性は疑いようはないと言わざるを得ません したがって冤罪の線は厳しいということです お分かりですね? ・・はい もちろん出来るだけのことはやっています。ですが・・ある種の覚悟が必要かもしれません はい コーヒーカップガクブル 大丈夫ですか すいません すいません いえ 先生その・・ある種の覚悟ですがその・・一体どう言った種類の覚悟なのか (すごいおとしちゃった?動揺しちゃった?) ええ・・ とにかく法的なことは私に任せて下さい 有田さんの役目は一にも二にも情報収集です ええ 息子さん私には言い難いことも、有田さんとなら喋ってくれるかもしれないわけですから あ・・はい 奥様と連絡は取れますか? ええ一応は じゃあそれはお願いします はい でーーいつ会われます? はい? 息子さんにですよ 面会の日取りはいつがよろしいですか? ああ・・はい 今日はもう無理ですが、明日の午後からなら何とかなりますが? はい。それじゃあ 安心して下さい。私は同席しませんから。 はい? 最初は事件のことに触れないほうがいいでしょうね 困ったな・・ え? 何話していいのか・・ ごく普通でいいんですよ いやいや先生 先生 はい 実は私息子と五年会ってないんです ですからその・・私はいいんです ですが向こうが・・私に会いたいと思っているかそこらがちょっとその 有田さん。何を言っているんですか? なんか・・私何かおかしなこと言ってますか? おかしいですよ 父親ですよ。会ってあげてくださいな。息子さんに これは義務ですよ はい・・ 明日でなくてもいいですから。なるべく早いうちに。ね。 はい どん!(机ドン) すいません すいません マスゴミ 有田さん! 有田さん! 有田さん! お願いします!
あのもう居ません���ど タオルどける 携帯ありますよ? ええ有田です。先程はどうも はいあのですね明日 明日ですねやっぱり会うことにしました はい。ええ 手続きの方はいよろしくお願いしますはい
・コート びっくりした? そりゃびっくりするよな いやついやっちゃったんだよ そしたらこれだ やっぱ警察って怖いよな 俺が家でだらだらしてたらすぐ来たよ警察が まあ誰かが通報したんだろうな ・・まさかお前じゃないだろうな? ・・・冗談だよ まあそこで逃げ回ってぼろぼろになるよりはさ あっさり捕まれば気楽といえば気楽だよな 大丈夫? 仁村:大丈夫なわけ無いだろ そりゃそうだよな 何で何も言ってくれなかったんだよ わりい 俺もさ行ったんだよすぐ後に CD取り返しに ついでに殺しときゃよかった 黙ってろ! お前俺が待てと行ったら待てなんだよ 忘れたのか?じゃ待てだよ すいません ああそういえばクラゲ元気? え? ・・さあ さあじゃ困るだろさあじゃ あいつまだ子どもだからお前が手抜いたらすぐ弱っちまうからな きちんと面倒みてくれよ? ・・・うん 信じるからな? ・・分かった (いちだ?)のこうちゃん覚えてる? 結婚するんだって うん・・相手は普通のOLらしいんだけどさ あれだなよく見つかったもんだよな・・うん ああ・・そうだほれ・・岩手のおばさん (はがけ?)売ってテナントビル建てるらしいよ まあんな田舎じゃ大したビルじゃないんだろうけども・・へっ・・ やっていけるのかね? それからほれ いいよ無理しなくて そっか・・ まあ後五年か十年かここにいると思うからさ またちょこちょこ訪ねてみてよ ん・・おう。おう。 いや今日は有難うね 顔見れただけでも良かったよ ああ 赤い目玉のサソリ 宮沢賢治 五年や十年ということは決してありません。少なくとも無期 下手をすると・・死刑です。 息子さんもこのことはよく分かっていると思うのですが 有田さん ある種の覚悟が必要と言ったのはこのことなんですけどね。
・赤い服の男 あのー俺辞めようかと思ってるんですけど え? これはっきり言って将来性のある仕事じゃないし すいません
・息子かよ加瀬亮:有田冬樹 よ うん やっぱりおふくろ来ないって。電話あった いらっしゃいませ 冬樹ビール行くか うんコーヒーください 悪かったな突然呼び出して どう仕事は?忙しい? いや・・ 読んだよ新聞で兄さんのこと テレビ局とか来たか 一回だけね 厄介だよあれは厄介だ でなに? あああれだ 一度みんなで集まるのもいいと思ってさ ふーん 家族会議ってのもあれだけどね ま、今後の事とか色いろあるだろうし あのさあ・・今後って言ってもさ 父さんの今後と俺の今後はだいぶ違うんだよ? いやそりゃわかってるさ それにもう俺有田じゃないし そう・・か 有田じゃない・・ 弁護士の費用が足りないとかそういうこと? いやいや! そんな・・弁護士の費用くらい何とかするよ へ〜金持ちなんだ今 へへっそんなわけないだろ いいね・・うらやましいな っ・・困ってるのか。金。 困ってるよ欲しいものはいっぱいあるし金はないし おまたせしました 冬樹さあ・・今さら俺がこんなこと言えた義理ではないんだけども そういうこといつでも相談してくれよ。ね。何でも良いよ 父さん出来るだけのことは何でもするつもりだ じゃあ貸してくれる?一千万 一千? マンション買うんだよ。頭金にするの へへっ一千万・・そりゃちょっと時間かかるぜ・・ いや今欲しいんだよ いやそりゃちょっと無理さ ま、何とかする・・ふふ 何とかなるの? いや分からんけども じゃあいいわ。いらないわ 正直言ってな・・金のことはきついよ なんでも相談にのるとかそんなこと言わなけりゃいいじゃん それだけ?はなしってそれだけ? じゃ俺行く! ああいいよ ほんと? へーケーキも食っときゃよかった ちょと戻りますからすぐ 何? 冬樹さあ 守るっていうのはどんな人間だったのかな? 知らないよ。本人に聞けば? まあ・・そりゃそうなんだけどな 少しはさあ・・自分で考えなよ
・コート お前ブラインシュリンプばっかりあげてるんじゃないか? え?・・・うん それじゃダメだって言っただろ あれ三回に一回は魚細か��切ったやつとかシラスとかあげてくれよ ああそれでブラインシュリンプなあれ(孵化?)させてから12時間以内が限度だから早めにあげてくれああそれとアミエビな ペットショップ行ったらアミエビって餌売ってるからそれも余裕があったらあげてくれよ アミエビ? そんで後四五日したら塩分濃度1.015まで下げてみるか
・蛇の目服 お前ホントに生きてんのかよ 死んでんじゃねーの?!
・コート そうか塩分濃度が1.01まで下がったか いいぞ水温も15度位まで下げてみようか 3日4日くらい掛けてゆっくりやってくれ そっかあ クラゲも真水に慣れてきたんだな お前だけが頼りだからよ きちんと面倒みてくれよ 頼むぞ うん・・ どうした 嫌になったのか ううん じゃあ何でよ 俺さやっぱ待ってるよ 10年でも20年でも守さんのこと それからさ二人でやろうよいろんなこと 遅くないでしょそれからでも 未来のことはお前がよく知っているじゃないか 俺の夢の話?関係ないよ! 俺もう決めたから! 20年待ってる 誰がなんと言おうと俺決めたから じゃあもう終わりだな 好きにしていいよ もうここにも来なくていいし お前がここに来てもここで会わないわ 絶交だよ 見損なったわ お前の好きにすればいい 俺もう知らないよ ちょちょ待ってよねえちょっと待ってよ! ちょ守さん!待ってよ! ちょっと待ってよ!ちょっと 待ってよー!待ってよー! わけ分かんないよ
・ボロ服 弁当 お前のせいだぞ クラゲ落とす ああ・・あ ああ
よう 今日は取り立てて言うべきことはないんだ へへっ顔が見たかったって所だな 元気そうだな。安心した しかしあれだろ毎日こんな所いると毎日退屈するんじゃないか? 何やってんだ?毎日? 考えてる どんなこと? 決まってるだろ なんだよ 死刑のことだよ ・・・すまん やるならさっさとやれって嘆願書でも出しといてよ あんたが聞くからさ 何考えてるって 俺はただ自分の考えてること言っただけだよ
・服 荒れている家
針金行けアーマー じゃあな
・ボロ服 床下浸水 すげえ うわー よっしゃ すげ
・ボロコート登場 街に出る
・ボロコート すれちがう 有田喪服? 本当は俺の方が捕まってたかもしれないんです それを防ぐために守さん先回りして手を打った 俺はそう思ってます でも何でそんなことしたのか結局何も言ってくれませんでした そう でもーあれだね あいつ謎を残して行っちまったけどさ なんかさあっちの世界で我々がこうやって途方に暮れているのを見て楽しんでるのかもしれないへへっ うしじゃあ仁村くんまた何処かでな失敬 仁村くん一つ聞きたいんだけどね これってどういう意味だろうか? 守が死ぬ時こういうカッコだったらしいんだよ 謎か・・ははっ そういうやつだった
・ボロコート えーとですね まず製品をここで分解します 必要なら外で洗浄すると それをまた中で組み立てます しかしまあ工場というほど大げさなものじゃないけど これが元来私の仕事なんだ
・ボロ服? どう?写ってる? ちょっとチャンネル変えてみて どう? いや全然 仁村くんちょっと。ちょっとこっち来て。ここ抑えてて こことここおさえて はい 手で触れるなよバーンと来るぞ 写ってますか? 駄目だね
仁村くん明日また来てくれるの? ええ。いいですよ
・ボロコート 廃品回収 仁村くん次のポイントまで押さえてくれるかい?
・ボロコート 何? クラゲが居るんです クラゲ? はいどっかに クラゲってあのクラゲ?
・ボロ服 冷蔵庫洗い 仁村くん昼間のクラゲのことなんだけどさ あれはどういうことなの? ああ守さんが飼ってたのを俺が譲り受けたんですよ それが逃げ出しちゃって いま東京のどっかに居るはずなんですけどね クラゲってあれは海のもんだよね? それをだんだん真水に慣らしていったんですよ 東京でも生きてけるように へーー
・ボロコート? 車 信用してないですね俺の話 ああ、別に信用してないわけじゃないさ ただどうやって興味を持てばいいのか分からないんだ それは有田さんが・・クラゲを見たことがないからです ああないね まあ僕は昔はそういうものに興味がなかったしね 家の中にもそれらしいものは無かったし 俺はそれ以上のことは分からん 着いたよ それじゃあ。どうも
・ボロ服 床下穴 ぬーん
・ボロコート おはよ おはようございます なにこれ ブラインシュリンプ へ? クラゲの餌ですよ これ、借ります コケコッコー ねえ君ほんとに守るはずっとこういうことやってたの? ええ ポリタンク・・ あすいません!危ないですよ
・ボロコート あそっちもお願いします 仁村くん しかしこれはあれだな なんすか 妙に悪いことをしている気分だなへへへっ 何を言ってるんですか!
・ボロコート よし
・ボロコート 行こうか 行こうかそろそろ
・レインコート 避難しようか。飯にしよう 動かすよ うひゃー 上がってきたね なにしてるの? います この中に 行きましょう からーん 雨止んでますよ
・ボロコート みてる 水の音 先輩棒引きぬいてショート けむりちら 悪い夢でも見たの? どうしたの? 俺時々夢で未来が見えるんです 小さい時からそうでした どうしてだかわからないけど でもここんとこは何も見えませんでした 見ても真っ暗だったり でも今日ははっきり見えました どこだろう どこだかわかんないけど どこかの森だか砂漠だか歩いてるんです ものすごい風か吹いてて 道は続いてるんですけど前は全然見えません 俺ひとりなんだけど周りの人はどこかへ行ってしまったみたいです とにかくすご風が吹いてて 目が開けられなくて こうやって屈みながら進むんですけど どこに向かってるんだろう コーヒーでも入れようか?ね 頭すっきりするぞ あ あ ああ 壊れてる うん? シュリンクもダメだ あホントだ ちょっと何��やったんじゃないですか? え?わたし? やるわけ無いじゃないか。なにー? やり直さなきゃ 金貸してください おいおい仁村くん お金がいるんですよ分かるでしょそのくらい 20万とにかく10万でいいです 落ち着いて考えてみよう?ね どうやって開けるんだよこれ! やめなさいいい加減にしろ! 仁村くん 人にはね許されることと許されないことがあるんだよ?ね? 何でも自分の思い道理になると思ったら大間違いだ クラゲ見たよ確かに。ね綺麗だった でもそれでどうなる? 何か現実が変わるの? 少しでも自分の思い通りに、なるの? しらないよ ほっといたら君はどうなるんだよ ほっとけよ! ほっとけないんだよ!もう・・ じれったくてしょうがないんだ ね・・君はねどうして目の前のことを見ようとしないの?え? どうしてこの現実をさ、見ようとしないんだよ 薄汚くて、不潔だからか?え? それ君失礼だぞおい この現実はな!私の現実でもあるんだよ! 君がないがしろにする権利なんて!無いんだ馬鹿者! 逃げるのか?よし!逃げろ! 逃げろ逃げろ! どこに逃げるんだそれで え?仁村くん どこに逃げる! 君が逃げ込める先はな 2つしか無いんだ 1つは夢の中 2つは刑務所の中だ!いいか! もうそろそろ分かっていい頃じゃないか・・ね・・・ 言い過ぎたちゃったよ・・ 口が滑っちゃったよ・・ ねえ仁村くん!ちょっとまってくれよぉ!おーい 仁村くん 仁村くん 仁村くん 仁村くーん 仁村くーん 仁村くーん 仁村くーん 仁村くん 仁村くーん・・ はぁ・・はぁ・・ 幻だったか・・・ はぁ・・はぁ・・はぁ・・
・ボロ服 姉さん襲来 ちょっとお兄ちゃん 何よこれ? いつ電話しても出ないし うーん もう!
・コート 色的に何種類くらいあるの? 色は一応六種類 絶対やだからね変なことしたら じゃー・・すいません本当によろしくお願いします あはい じゃあお兄さん この書類二部ずつコピーお願いできますか こっちです 一回ここを開けて それで二部って言ったんで2を押してからスタートです やり方わかりますよね?
これ随分昔の型だよね はい いくらくらい? 5000円くらいですかね そんなやすいの はい へー十分使えるじゃん 新品みたいだし 味があるよねーどれも古いのは 感激だなー有田さん これいい仕事だわこれ 将来有望だと思ってますよこの分野 新しいものなんてろくなもん無いからね 日本経済に貢献してますよ 社会的意義も大きいしね くだらないですよこんな仕事は! 社長ね古いものなんてね・・ゴミです
・ボロコート マリオっぽい音楽 うぉーい いいんじゃないの あーおちねえ がんばれー おおーい誰だよこれ ここ俺達の場所なの!何勝手もこんなとこいんの どけよ!ほい! 何だこいつ? わかんねえ なにそれ インカム仲間だけで会話できんの マジで?貸して あなた何者? わかんない わかんないですかーここ、おかしいんじゃないっですかぁ? そう そう!頭おかしーの? ギャハハハハ 俺達といっしょじゃん? 俺達と一緒だ ハハハ
・ボロコート お兄さん今日もそれくらいで結構です はい 鍵盗む
おさーん橋 クラゲ川 両手で行けのポーズ 金庫破り成功 パトカー 警報 そっちいっちゃダメだって そっちいっちゃダメだって!
・ボロコート 夜車 赤い目玉のサソリ 宮沢賢治 ここにいていいよね 行くとこないの? 本当にここでいいの? それじゃあいつまでもここにいろ 許して 私は許す 私は君を許す 私は君たち全部を許す
・ボロコート 廃品
・青服 ライト修理 コンセント抜いて 垂直に立てるんだよ山が(不明)だからね
・青服 弁当しまう 仁村くんもう上がったら あ、もうちょっとで終わるんで先に寝といてください うん。おやすみ おやすみなさい
・ボロコート 院選挙の日程が正式に発表されたことを受けて流通業界からは上半期の売上に影響が出なければいいがとさらなる業績の悪化を懸念する声も上がっています これは選挙の法人向けに・・・発注を遅らせる企業 仁村くん手空いたら頼むよちょっと出かけてくる 東京でクラゲの被害が相次いでいます16日午後五時頃台東区に住む田村ふみおさんの長女で小学校二年生のアキちゃんが隅田川付近の運河で水遊びをしていた所体に衝撃を感じて意識不明となりました。 病院に運び込まれたあきちゃんは一時危篤状態に陥ったものの現在では意識を取り戻し命に別条はないとのことですが東京海洋研究所の調べで原因は猛毒を持つアカクラゲの一種に刺されたものと判明しました。 アカクラゲはもともと海水性の生物で東京の運河に生息していることは通常有り得ないとのことですが、今月に入ってから似たような被害が相次いで報告されており、東京都保健局では東京都全域にわたって一斉駆除を開始しました。 すいませんあの 養子縁組のことでちょっとお伺いしたいのですが 養子縁組ですねそれでしたらここに条件と手続きの説明書書類一式が入っていますのでまずはこれをお読みになってください。
・ボロコート すいません後で直しときますから ああ、びっくりした。へっ 何してたの?あんなとこで 見てたんですよ遠くを 遠くを 遠くの何? 有田さんあそこに上がったこと有ります? いや そうですか あそこからじゃ何も見えませんね。そのことがわかりました 仁村くん いや、なんでもない 俺今まで何やってたんでしょう行けのサインはとっくに出てたのに あ、僕コーヒー さていくか
・青服 まただ最近ちょっとここが 今頃どうしてるかねえ え? クラゲ ああ・・ どっかで元気にやってるのかね。東京のどっかで そうですね もう増えてるぜずいぶん あれからだいぶたつもん ええ・・ 会いたいなあ(もう)一回
・青服 どうしたの? いえ なんだよ 何でもないです行きましょう クラゲだろぉ! あははやったやったー! あははやったやったやった あはははは 仁村くん 守の夢はこれで叶ったね。すごいね すごい ははは お前らすごいぞ凄いぞ君たちは 有田さんほっときましょう どうして? 彼らは海に向かってます 海?どうして? 逃げ出すんですよ東京を 東京を逃げ出すっておい君たち 待ってくれよおい君たち待て! 行っちゃいましたね 私達は・・見捨てられたんだ いいえ あいつらいつかきっと戻ってきますよ俺はそう思います いつかって・・いつだ 分かりません 10年先か20年先か? ・・・・ そんな待てるか 私の人生そんなに長くないんだよ 危ない!触っちゃダメですよ! 仁村くん
コケコッコー
ずっとここにいていいよ
嵌めた!
楽しいこと無いのかね? 楽しいこと ねえよ 探せよ そういえばこないだのなんだっけ 夢で未来が見えるっていう そうそうそう あいつ何やってんだろうね わかんねえ すげえ変なやつだった えらい���にあったよな けど俺は楽しかったけどな案外 俺も面白かった なにげに盛り上がったよな ああ? なんだよ ちがうか 一瞬あいつかと思ったけど 違った アカルイミライ
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第46話 『覇王降臨(2) - 機運』 Advent of the Overlord chapter 2 - “Momentum”
多くの奴隷の子がそうであるように、その”少年”…テオと呼ばれていた…は奴隷の子として産まれた。
彼に家族はいない。
父親は不明で、母親は出産時に死んでいる。
奇妙な事に、彼の母はおよそ25ヶ月に渡って彼を孕んでいたと言う。
産まれた直後、彼は産湯から自ら這い出したらしい。
天涯孤独となった彼を、不気味がった周囲は誰一人引き取ろうとしなかった。
しかし、奴隷達の所有者である商家の主は、奴隷達に彼を育てるように命じた。
せっかくの奴隷が出産で一人死んでしまい、その子まで失えば彼は損をする事になる。
商家は損を嫌った。
その子供が育ち、働き手となれば、やがて元が取れる。
商家の思惑とは別に、奴隷達はテオを煙たがった。
テオは1歳の頃には言葉を理解し、自分の足で歩き回っていた。
3歳の頃には、帳簿の計算を理解し、立ち寄った商家の帳面を覗き見て間違えを指摘し、驚かれた。
さらに不思議な事に、テオは鉱山の外側の知識を得ていた。
彼のその異常な知識量から、奴隷達が許可なく外部とやり取りをしていると疑われて、一度は独房に入れられた。
しかし、独房の最中で彼は隣村の街道事故を予言し、それは後に的中した。
彼は外部との接触がないままに外部の知識を得ている事を証明して見せたのだ。
商家の主は彼の扱いに窮した。
奴隷にしておく器ではないのかもしれない。
何か特別なものを持っている事に疑いはない。
しかし同時に、不気味でもあった。
得体が知れない何か。
神童と言えば聞こえは良いが、前時代的な商家や奴隷達にとって、彼はほとんど恐怖の対象でしかなかった。
産まれてすぐ、親を食らう蜘蛛がいると聞く。
彼はまさに、そのような理解し難い怪物じみた存在であった。
しかし同時に、うまく使う事ができれば、少年は利益をもたらす存在になるかもしれない。
商家の面々がそのように考えるようになった頃、テオはまるでそれに応えるかのように、奇行が目立ち始めた。
誰もいない方向を向いて一人で何かを喋っていたり、あらぬ方角を眺めては目を細めて何かを探っていた。
他者に口を開けば、星がどうの、光がどうの、外側がどうのと掴みどころのない事を繰り返し、周囲を困惑させた。
有益な情報を引き出そうとしても、テオは抽象的な表現ではぐらかすか、わからないと答えるばかりであった。
金の卵を産む鶏は、難産だった。
商家の思惑通りにはいかなかった。
とはいえ、テオは年齢以上の体躯で、年齢以上の仕事をこなしたため、何かをしでかそうという様子もなかったので、追い出す理由もなかった。
やがて主は、彼の事を諦めた。
拷問など、方法はいくらでもあったかもしれない。
しかし迷信深い主は、呪術的な報復を受けることを恐れて、踏み切る事ができなかった。
そもそも奴隷として一方的な服従を求めている事に対して受ける報復の可能性については考慮しなかった事は嘲笑に値するほどの無思慮と思えるかもしれないが、それこそが、当時の一般的な商家達が奴隷をどのように捉えているかを説明しているともいえる。

魔術院に着いてからは、テオの生活は一変した。
読みきれないほどの書物に、思慮深い仲間の術士達、苦労のない生活。
”予言者”エルピダは、テオが新しい生活に年頃らしく喜ぶと予想していたが、その微笑ましい期待は見事に裏切られた。
テオは、一言だけ予言者に感謝を述べるだけで、まるで何年もそこが我が家であったかのように当然のような面持ちで魔術院で暮らし始めた。
1週間も経たぬうちに、彼は魔術院の立派な研究員の一人になりきっていた。
背格好こそまだ子供ではあるが、熱心に読書し、研究に向かい、仲間と議論する様は、もはや大人の研究員そのものを見るかのようであった。
彼は、テオを恐れた鉱山の人々の気持ちを十二分に理解した。
しかし一方で、嬉しくもあった。
魔術院において、テオだけが神童にあらず。
彼以外にも若い年頃から魔術院に身を置く者は少なくなかったし、エルピダも魔術員に来た頃にはまだ16だった。
そして何より、テオはエルピダと同じ「見えざるものを見る力」を有している。
ある種の親近感さえ覚え、エルピダは少年の来訪を心から歓迎した。
テオが来て、エルピダの”力”にまつわる研究は、大きく前進した。
何故「見えざるものを見る力」が存在するのか、その理由については未だに見当がつかない状態ではあったが、少なくとも、いくつかの事は事実としてわかった。
まず、テオは、エルピダと同じよ��なものを見える事がわかった。
その見え方については、また個人差があるともわかった。
テオだけが見えるもの、エルピダだけが見えるもの、二人共に見えるものがそれぞれあるとわかった。
ただ、どうも見えるものはテオの方が多いように思われた。
見えるものは、様々な形をしていたが、それらは一様に、光の形を取っていた。
光は様々に色や角度を変えて、目に映る。
そして、そこからどのような意味を読み取るか、その点で言えばテオはエルピダよりまだ劣っていた。
テオは、光の中から意味を読み取るよりは、その見えざる光達が一体何であるか、その正体と成り立ちにこそ興味があるようだった。
エルピダは、その光が何であれ、そこには何かの意味があり、光が伝えようとする意図を解釈する事にこそ研究意義を見出していた。
二人は度々意見で対立したが、それは互いを尊重した議論であった。
二人共、互いが追い求めているものとその価値、情熱を理解し合っていた。
だから、二人が対立する理由は主に「魔術院の限られたリソースをどのように活かすか」の問題であった。

数年を経て、テオは見る間に成長し、背丈は魔術員の誰よりも高くなっていた。
恵まれた体躯には靭やかな筋肉が宿り、まだ幼さは残りながらも端正な顔立ち、肩甲骨まで伸びて緩く結われた艷やかな黒髪、真一文字に閉じられ思慮深さを湛える唇は一度開けばたちどころに聞く者の蒙を啓いた。
魔術院は城内の一角に置かれていたが、城内でも彼の事を知らぬ者は一人もいなかった。女性達は用もなく魔術院の近くに立ち寄っては彼に微笑みかけたが、彼は無言で頷くばかりで、取り付く島もなかった。
テオもエルピダも、相変わらず力の理解に邁進していた。
光は、この世界を構成する、あるいはそれに類する”何か”が形となって二人の目に映り込み現象である。
そうした仮説は、二人の間で共有されるまでに至っていた。
しかし、国の情勢はそれを手放しには許さなかった。
年頃となった女王陛下は、その奔放さを城内に留めおけなくなっていた。
城下を巡っては横暴さを露呈し、ほとんど私欲のために増税を強いていた。
摂政ロー氏はこうした国民にまつわる問題をなおざりにし、自身の孫を女王陛下に番う事だけに執心していた。
政治は腐敗し、生活は困窮し、市民はもはや、爆発寸前だった。
治安は日を追うごとに悪化し、暴動は絶えなかったが、鎮圧する兵士の人員も物資も士気も不足していた。
次々と死者が出て、暴動は反乱へと姿を変えつつ合った。
魔術院は国を治める側の立場にあり、当然こうした現場の対応を補助する事になっていた。
テオやエルピダも例外ではなく、二人は全く望まない戦いに身を投じていた。
あるとき、テオは城下の廃工場に立て籠もる反乱軍の鎮圧支援のため、現地へ招集された。
現地にたどり着いたときに初めて、テオはそこが魔石を加工し軍事用の呪具を生産する工場の跡である事に気がついた。
その光景は、どこか彼の原風景を彷彿とさせた。
そして、それと同時に、強い光が彼の視界を過ぎった。
一瞬の逡巡が、彼を硬直させた。
直立した彼の頭部めがけて、矢が飛来した。
矢は彼のこめかみ辺りを掠め、テオはその場に尻餅をついて倒れた。
「大丈夫ですか!?」
側にいた兵士が駆け寄り、テオを助け起こした。
テオは呆然としたままこめかみを掌で抑え、ぶつぶつと独り言を繰り返していた。
「俺の姿が… 帝国の…」
しばらくして正気を取り戻したテオは、廃工場内の気温を上昇させる事で反乱軍の鎮圧に成功したが、城内に帰還するまで、テオはずっと、何かを呟き続けていた。
次の日の夜、テオはエルピダと共に、城内の兵舎にいた。
ベッドや壁や床のあちこちに負傷兵達が横たわったりもたれたりしている。
その間を縫うように、二人は兵舎の奥へ奥へと進んでいく。
「怪我人は増える一方だな…」
エルピダは周囲を見回しながら呟くが、テオは返事もせずに先へと急ぐ。
「一体何なんだ?私に用事って…」
エルピダはテオの後頭部を見つめて怪訝そうに尋ねる。
テオはまた問いには答えず、代わりに「とにかくついてこい」と促す。
やがて、テオは兵舎の奥の狭い会議室の前に止まった。
周囲は夜にも関わらず喧騒に包まれていた。
介抱に奔走する救護者、呻き声を上げる負傷者、新たな暴動の情報を運び込む伝令、出動可能な者を招集する部隊長。
限界だ。
エルピダはそう感じた。
この国を支える事は、もうできない。
そうなったら、魔術院も存続は不可能だろう。
光を追う研究は、ここで頓挫するのか。
悔しさがこみ上げ、うつむき、拳を握り込む。
そして、テオの後頭部に再び目を移す。
自身よりも若きこの黒髪の青年は、この事態に何を思うのか。
ここ数日、物思いに耽る彼に対して、かける言葉が見つからなかった。
テオは、扉に手をかけ、開け放った。
会議室には、数名の高名な武官が顔を連ねていた。
一同の視線が、テオに集まる。
エルピダは困惑した。
その面々は、帝国の武力の中枢を担う重役達である。
二人は、魔術院の末端に属する構成員でしかない。
場違いである。
何を考えているのか。
困惑するエルピダを余所に、テオは言い放つ。
「今この場に居合わせたすべての者に、覚悟を問おう」
天賦の威容。
会議室の全員が、声をなくし、テオの瞳に釘付けになっていた。
一体何が起きているのか。
テオは何を考えて、唐突にこんな場所にやってきたのだ?
そもそも、何故この部屋に、これだけの数の帝国の武官達が隠れて集っていた事を知っているのか?
エルピダは、その異常な様を扉の外から見守る事しかできない。
「人が、民が、国が、すべての者があるべき姿に戻らねばならない。生きるべき者が生き、死すべき者が死す。もはや、一刻の猶予もない。今こそ、先の帝位継承より続く歪みを正すべき時だ!」
テオが拳を突き上げた。
「今こそ、かつてヴァーニス帝がそうしたように、力で覇を唱えようではないか。これは天命である。統べるべき者が統べ、報いられるべき者が報いられる帝国を、ヴァーニス帝が興した帝国を取り戻すのだ!」
エルピダは、武官達の瞳に炎が宿るのを見た。
誰一人、この異質な闖入者に対して、異論を唱えなかった。
その日は、後の世に、革命決起の日として歴史に刻まれる日となった。
~つづく~
第47話 覇王降臨(3) 転機
「ショートストーリー」は、Buriedbornesの本編で語られる事のない物語を補完するためのゲーム外コンテンツです。「ショートストーリー」で、よりBuriedbornesの世界を楽しんでいただけましたら幸いです。
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最初の特攻を命じたことによって、「特攻の産み親」と呼ばれることになった大西瀧治郎中将は、天皇が玉音放送を通じて国民に戦争終結を告げたのを見届けて、翌16日未明、渋谷南平台の官舎で割腹して果てた。
特攻作戦を採用した責任者といえる将官たち、前線で「おまえたちだけを死なせはしない」と言いながら特攻を命じた指揮官たちの中で、このような責任のとり方をした者は他に一人もいない。
そして、ひとり残された妻・淑恵さんも、戦後、病を得て息を引き取るまで33年間、清廉かつ壮絶な後半生を送っていた。
最初の慰霊法要に駆け込み、土下座した貴婦人
終戦の翌年、昭和21(1946)年3月のある日、全国の有力新聞に、
〈十三期飛行専修予備学生出身者は連絡されたし。連絡先東京都世田谷区・大山日出男〉 との広告が掲載された。
空襲で、東京、大阪、名古屋はもちろん、全国の主要都市は灰燼に帰し、見わたす限りの廃墟が広がっている。
連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)は昭和21年1月、「公職追放令」を出し、旧陸海軍の正規将校がいっさいの公職に就くことを禁止した。日本の元軍人が集会を開くことさえ禁じられ、戦犯の詮議も続いている。広告を見て、「戦犯さがし」かと疑う者も少なからずいたが、呼びかけ人の大山のもとへは全国から続々と連絡が寄せられた。
戦争が終わってこの方、掌を返したような世の中の変化で、生き残った航空隊員には「特攻くずれ」などという侮蔑的な言葉が投げかけられ、戦没者を犬死に呼ばわりする風潮さえもはびこっている。そんななか、大勢の戦友を亡くして生き残った者たちは、戦没者に対し、
「生き残ってすまない」
という贖罪の気持ちをみんなが抱いている。それは、はじめから陸海軍を志した、いわばプロの軍人も、戦争後期に学窓から身を投じた予備士官も、なんら変わるところがない率直な感情だった。
「十三期飛行専修予備学生」は、大学、高等学校高等科、専門学校(旧制)を卒業、または卒業見込の者のうち、10万名を超える志願者のなかから選抜された5199名が、昭和18(1943)年10月、土浦、三重の両海軍航空隊に分かれて入隊、特攻戦死者448名をふくむ1616名が戦没している。呼びかけに応じて集まった予備学生十三期出身者たちの意思は、
「多くの戦没者同期生の慰霊こそ、生き残った者の務めである」
ということで一致した。そして、同期生たちが奔走し、GHQ、警察、復員局の了承をとりつけて、ふたたび10月30日の新聞に、
〈十一月九日、第十三期飛行専修予備学生戦没者慰霊法要を東京築地本願寺にて行ふ〉
と広告を出し、さらにNHKに勤務していた同期生の計らいで、ラジオでも案内放送が流れた。
昭和21年11月9日、国電(現JR)有楽町駅から築地まで、焼跡の晴海通りを、くたびれた将校マントや飛行靴姿の青年たち、粗末ななりに身をやつした遺族たちが三々五々、集まってきた。築地本願寺の周囲も焼け野原で、モダンな廟堂の壁も焦げている。寺の周囲には、機関銃を構えたMPを乗せたジープが停まって、監視の目を光らせている。焼跡のなかでその一角だけが、ものものしい雰囲気に包まれていた。
広い本堂は、遺族、同期生で埋め尽くされた。悲しみに打ち沈む遺族の姿に、同期生たちの「申し訳ない」思いがさらにつのる。読経が終わると、一同、溢れる涙にむせびながら、腹の底から絞り出すように声を張り上げ、「同期の桜」を歌った。
歌が終わる頃、一人の小柄な婦人が本堂に駆け込んできた。「特攻の父」とも称される大西瀧治郎中将の妻・淑惠である。
大西中将は昭和19(1944)年10月、第一航空艦隊司令長官として着任したフィリピンで最初の特攻出撃を命じ、昭和20(1945)年5月、軍令部次長に転じたのちは最後まで徹底抗戦を呼号、戦争終結を告げる天皇の玉音放送が流れた翌8月16日未明、渋谷南平台の官舎で割腹して果てた。特攻で死なせた部下たちのことを思い、なるべく長く苦しんで死ぬようにと介錯を断っての最期だった。遺書には、特攻隊を指揮し、戦争継続を主張していた人物とは思えない冷静な筆致で、軽挙を戒め、若い世代に後事を託し、世界平和を願う言葉が書かれていた。
昭和19年10月20日、特攻隊編成の日。マバラカット基地のそば、バンバン川の河原にて、敷島隊、大和隊の別杯。手前の後ろ姿が大西中将。向かって左から、門司副官、二〇一空副長・玉井中佐(いずれも後ろ姿)、関大尉、中野一飛曹、山下一飛曹、谷一飛曹、塩田一飛曹
昭和19年10月25日、マバラカット東飛行場で、敷島隊の最後の発進
淑惠は、司会者に、少し時間をいただきたいと断って、参列者の前に進み出ると、
「主人がご遺族のご子息ならびに皆さんを戦争に導いたのであります。お詫びの言葉もございません。誠に申し訳ありません」
土下座して謝罪した。淑惠の目には涙が溢れ、それが頬をつたってしたたり落ちていた。
突然のことに、一瞬、誰も声を発する者はいなかった。
われに返った十三期生の誰かが、
「大西中将個人の責任ではありません。国を救わんがための特攻隊であったと存じます」
と声を上げた。
「そうだそうだ!」
同調する声があちこちに上がった。十三期生に体を支えられ、淑惠はようやく立ち上がると、ふかぶかと一礼して、本堂をあとにした。これが、大西淑惠の、生涯にわたる慰霊行脚の第一歩だった。
生活のために行商を。路上で行き倒れたことも
同じ年の10月25日。港区芝公園内の安蓮社という寺には、かつて第一航空艦隊(一航艦)、第二航空艦隊(二航艦)司令部に勤務していた者たち10数名が、GHQの目をぬすんでひっそりと集まっていた。
関行男大尉を指揮官とする敷島隊をはじめとする特攻隊が、レイテ沖の敵艦船への突入に最初に成功したのが、2年前の昭和19年10月25日。三回忌のこの日に合わせて、一航艦、二航艦、合計2525名の戦没特攻隊員たちの慰霊法要をやろうと言い出したのは、元一航艦先任参謀・猪口力平大佐だった。安蓮社は、増上寺の歴代���僧正の墓を守る浄土宗の由緒ある寺で、住職が猪口と旧知の間柄であったという。
神風特攻隊敷島隊指揮官・関行男大尉。昭和19年10月25日、突入、戦死。最初に編成された特攻隊4隊(敷島隊、大和隊、朝日隊、山桜隊)全体の指揮官でもあった。当時23歳
昭和19年10月25日、特攻機が命中し、爆炎を上げる米護衛空母「セント・ロー」
寺は空襲で焼け、バラックの一般家屋のような仮本堂であったが、住職は猪口の頼みに快く応じ、特攻隊戦没者の供養を末永く続けることを約束した。この慰霊法要は「神風忌」と名づけられ、以後、毎年この日に営まれることになる。
遺された「神風忌参会者名簿」(全六冊)を見ると、大西淑惠はもとより、及川古志郎大将、戸塚道太郎中将、福留繁中将、寺岡謹平中将、山本栄大佐、猪口力平大佐、中島正中佐……といった、特攻を「命じた側」の主要人物の名前が、それぞれの寿命が尽きる直前まで並んでいる。
生き残った者たちの多くは、それぞれに戦没者への心の負い目を感じつつ、慰霊の気持ちを忘れないことが自分たちの責務であると思い、体力や生命の続く限り、こういった集いに参加し続けたのだ(ただし、軍令部で特攻作戦を裁可した事実上の責任者である中澤佑中将、黒島亀人少将は、一度も列席の形跡がない)。
東京・芝の寺で戦後60年間、営まれた、特攻戦没者を供養する「神風忌」慰霊法要の参会者名簿。当時の将官、参謀クラスの関係者が名を連ねるなか、淑惠は、亡くなる前年の昭和51年まで欠かさず列席していた
十三期予備学生の戦没者慰霊法要で土下座をした大西淑惠は、その後も慰霊の旅を続けた。特攻隊員への贖罪に、夫の後を追い、一度は短刀で胸を突いて死のうとしたが、死ねなかった。ずっとのち、淑惠は、かつて特攻作戦渦中の第一航空艦隊で大西中将の副官を勤めた門司親徳(主計少佐。戦後、丸三証券社長)に、
「死ぬのが怖いんじゃないのよ。それなのに腕がふにゃふにゃになっちゃうの。それで、やっぱり死んじゃいけないってことかと思って、死ぬのをやめたの」
と語っている。
大西瀧治郎中将(右)と、副官・門司親徳主計大尉(当時)。昭和20年5月13日、大西の軍令部次長への転出を控えて撮影された1枚
暮らしは楽ではない。夫・大西瀧治郎はおよそ金銭に執着しない人で、入るにしたがって散じた。門司は、フィリピン、台湾での副官時代、大西の預金通帳を預かり、俸給を管理していたから、大西が金に無頓着なのはよく知っている。淑惠もまた、金銭には無頓着なほうで、もとより蓄えなどない。
家も家財も空襲で焼失し、GHQの命令で軍人恩給は停止され、遺族に与えられる扶助料も打ち切られた。
昭和3年2月、華燭の典を挙げた大西瀧治郎(当時少佐)と淑惠夫人
自宅でくつろぐ大西瀧治郎、淑惠夫妻。大西が中将に進級後の昭和18年5月以降の撮影と思われる
焼け残った千葉県市川の実家に戻って、淑惠は生きるために商売を始めた。最初に手がけたのは薬瓶の販売である。伝手を求めて会社を訪ね、それを問屋につなぐ。次に、飴の行商。元海軍中将夫人としては、全く慣れない別世界の生活だった。
昭和22(1947)年8月上旬のある日、薬瓶問屋を訪ねる途中、国電日暮里駅東口前の路上で行き倒れたこともある。このとき、たまたま日暮里駅前派出所で立ち番をしていた荒川警察署の日下部淳巡査は、知らせを受けてただちに淑惠を派出所内に運び、近くの深井戸の冷水で応急手当をした。
「質素な身なりだったが、その態度から、終戦まで相当な身分の人と思った」
と、日下部巡査はのちに語っている。柔道六段の偉丈夫だった日下部は、元海軍整備兵曹で、小笠原諸島にあった父島海軍航空隊から復員してきた。後日、淑惠が署長宛に出した礼状がもとで、日下部は警視総監から表彰を受けた。だが、その婦人が誰であるか知らないまま8年が過ぎた。
昭和30(1955)年、日下部は、元零戦搭乗員・坂井三郎が著した『坂井三郎空戦記録』(日本出版協同)を読んで坂井の勤務先を知り、両国駅前の株式会社香文社という謄写版印刷の会社を訪ねた。日下部は、昭和19(1944)年6月、敵機動部隊が硫黄島に来襲したとき、父島から硫黄島に派遣され、そこで横須賀海軍航空隊の一員として戦っていた坂井と知り合ったのだ。
香文社を訪ねた日下部は、そこに、あの行き倒れの婦人がいるのに驚いた。そして、この婦人が、大西中将夫人であることをはじめて知った。日下部は淑惠に心服し、こののちずっと、淑惠が生涯を閉じるまで、その身辺に気を配ることになる。
淑惠が、坂井三郎の会社にいたのにはわけがある。
淑惠の姉・松見久栄は、海軍の造船大佐・笹井賢二に嫁ぎ、女子2人、男子1人の子をもうけた。その男の子、つまり大西夫妻の甥にあたる笹井醇一が、海軍兵学校に六十七期生として入校し、のちに戦闘機搭乗員となった。
笹井醇一中尉は昭和17(1942)年8月26日、ガダルカナル島上空の空戦で戦死するが、戦死するまでの数ヵ月の活躍にはめざましいものがあった。ラバウルにいたことのある海軍士官で、笹井中尉の名を知らぬ者はまずいない。
その笹井中尉が分隊長を務めた台南海軍航空隊の、下士官兵搭乗員の総元締である先任搭乗員が坂井三郎だった。笹井の部下だった搭乗員はそのほとんどが戦死し、笹井の活躍については、坂井がいわば唯一の語り部となっている。
坂井は、海軍航空の草分けで、育ての親ともいえる大西瀧治郎を信奉していたし、
「敬愛する笹井中尉の叔母ということもあり、淑惠さんを支援することは自分の義務だと思った」
と、筆者に語っている。
坂井は淑惠に、両国で戦後間もなく始めた謄写版印刷店の経営に参加してくれるよう頼み、淑惠は、実家の了解を得て、夫の位牌を持ち、坂井の印刷店のバラックの片隅にある三畳の部屋に移った。日暮里で行き倒れた数年後のことである。
だが、坂井には、別の思惑もある。淑惠が経営に関わることで、有力な支援者を得ることができると考えたのだ。坂井の謄写版印刷の店は、福留繁、寺岡謹平という、大西中将の2人の同期生(ともに海軍中将)ほかが発起人となり、笹川良一(元衆議院議員、国粋大衆党総裁。A級戦犯容疑で収監されたが不起訴。のち日本船舶振興会会長)が発起人代表となって株式会社に発展した。
出資金は全額、坂井が出し、名目上の代表取締役社長を淑惠が務めることになった。会社が軌道に乗るまでは、笹川良一や大西に縁のある旧海軍軍人たちが、積極的に注文を出してくれた。淑惠は、香文社の格好の広告塔になったと言ってよい。
「裏社会のフィクサー」の大西に対する敬意
淑惠には、ささやかな願いがあった。大西の墓を東京近郊に建て、その墓と並べて、特攻隊戦没者を供養する観音像を建立するというものである。
苦しい生活のなかから細々と貯金し、昭和26(1951)年の七回忌に間に合わせようとしたが、それは到底叶わぬことだった。だが、この頃から慰霊祭に集う人たちの間で、淑惠の願いに協力を申し出る者が現れるようになった。
大西中将は、まぎれもなく特攻を命じた指揮官だが、不思議なほど命じられた部下から恨みを買っていない。フィリピンで、大西中将の一航艦に続いて、福留繁中将率いる二航艦からも特攻を出すことになり、大西、福留両中将が一緒に特攻隊員を見送ったことがあった。このときの特攻隊の一員で生還した角田和男(当時少尉)は、
「大西中将と福留中将では、握手のときの手の握り方が全然違った。大西中将はじっと目を見て、頼んだぞ、と。福留中将は、握手しても隊員と目も合わさないんですから」
と述懐する。大西は、自身も死ぬ気で命じていることが部下に伝わってきたし、終戦時、特攻隊員の後を追って自刃したことで、単なる命令者ではなく、ともに死ぬことを決意した戦友、いわば「特攻戦死者代表」のような立場になっている。淑惠についても、かつての特攻隊員たちは、「特攻隊の遺族代表」として遇した。
「大西長官は特攻隊員の一人であり、奥さんは特攻隊員の遺族の一人ですよ」
というのが、彼らの多くに共通した認識だった。
そんな旧部下たちからの協力も得て、昭和27(1952)年9月の彼岸、横浜市鶴見区の曹洞宗大本山總持寺に、小さいながらも大西の墓と「海鷲観音」と名づけられた観音像が完成し、法要と開眼供養が営まれた。
昭和27年9月、鶴見の總持寺に、最初に淑惠が建てた大西瀧治郎の墓。左は特攻戦没者を供養する「海鷲観音」
その後、昭和38(1963)年には寺岡謹平中将の筆になる「大西瀧治郎君の碑」が墓の左側に親友一同の名で建てられ、これを機に墓石を一回り大きく再建、観音像の台座を高いものにつくり直した。
墓石の正面には、〈従三位勲二等功三級 海軍中将大西瀧治郎之墓〉と刻まれ、側面に小さな字で、〈宏徳院殿信鑑義徹大居士〉と、戒名が彫ってある。再建を機に、その隣に、〈淑徳院殿信鑑妙徹大姉〉と、淑惠の戒名も朱字で入れられた。
この再建にあたって、資金を援助したのが、戦時中、海軍嘱託として中国・上海を拠点に、航空機に必要な物資を調達する「児玉機関」を率いた児玉誉士夫である。児玉は、海軍航空本部総務部長、軍需省航空兵器総局総務局長を歴任した大西と親交が深く、私欲を微塵も感じさせない大西の人柄に心服していた。大西が割腹したとき、最初に官舎に駆けつけたのが児玉である。
昭和20年2月、台湾・台南神社で。左から門司副官、児玉誉士夫、大西中将
児玉は、昭和20(1945)年12月、A級戦犯容疑で巣鴨プリズンに拘置され、「児玉機関」の上海での行状を3年間にわたり詮議されたが、無罪の判定を受けて昭和23(1948)年末、出所していた。
巣鴨を出所したのちも、淑惠に対し必要以上の支援はせず、一歩下がって見守る立場をとっていた。「自分の手で夫の墓を建てる」という、淑惠の願いを尊重したのだ。だから最初に墓を建てたときは、協力者の一人にすぎない立場をとった。
だが、再建の墓は、大西の墓であると同時に淑惠の墓でもある。児玉は、大西夫妻の墓は自分の手で建てたいと、かねがね思っていた。ここで初めて、児玉は表に出て、淑惠に、大西の墓を夫婦の墓として建て直したいが、自分に任せてくれないかと申し出た。
「児玉さんの、大西中将に対する敬意と追慕の念は本物で、見返りを何も求めない、心からの援助でした。これは、『裏社会のフィクサー』と囁かれたり、のちにロッキード事件で政財界を揺るがせた動きとは無縁のものだったと思っています」
と、門司親徳は言う。
鶴見の總持寺、大西瀧治郎墓所の現在。墓石に向かって左側に海鷲観音と墓誌、右側には遺書の碑が建っている
大西瀧治郎の墓石右横に建てられた遺書の碑
墓が再建されて法要が営まれたとき、淑惠が参会者に述べた挨拶を、日下部巡査が録音している。淑惠は謙虚に礼を述べたのち、
「特攻隊のご遺族の気持ちを察し、自分はどう生きるべきかと心を砕いてまいりましたが、結局、散っていった方々の御魂のご冥福を陰ながら祈り続けることしかできませんでした」
と、涙ながらに話した。
「わたし、とくしちゃった」
淑惠は、昭和30年代半ば頃、香文社の経営から身を引き、抽選で当った東中野の公団アパートに住むようになった。3階建ての3階、六畳と四畳半の部屋で、家賃は毎月8000円。当時の淑惠にとっては大きな出費となるので、児玉誉士夫と坂井三郎が共同で部屋を買い取った。ここには長男・多田圭太中尉を特攻隊で失った大西の親友・多田武雄中将夫人のよし子や、ミッドウェー海戦で戦死した山口多聞少将(戦死後中将)夫人のたかなど、海軍兵学校のクラスメートの夫人たちがおしゃべりによく集まった。門司親徳や日下部淳、それに角田和男ら元特攻隊員の誰彼も身の周りの世話によく訪ねてきて、狭いながらも海軍の気軽な社交場の趣があった。
「特攻隊員の遺族の一人」である淑惠には、多くの戦友会や慰霊祭の案内が届���。淑惠は、それらにも体調が許す限り参加し続けた。どれほど心を込めて慰霊し、供養しても、戦没者が還ることはなく、遺族にとって大切な人の命は取り返しがつかない。この一点だけは忘れてはいけない、というのが、淑惠の思いだった。
大西中将は生前、勲二等に叙せられていたが、昭和49(1974)年になって、政府から勲一等旭日大綬章を追叙された。この勲章を受けたとき、淑惠は、
「この勲章は、大西の功績ではなく、大空に散った英霊たちの功績です」
と言い、それを予科練出身者で組織する財団法人「海原会」に寄贈した。大西の勲一等の勲章は、茨城県阿見町の陸上自衛隊武器学校(旧土浦海軍航空隊跡地)内にある「雄翔館」(予科練記念館)におさめられている。
昭和49年、大西瀧治郎を主人公にした映画「あゝ決戦航空隊」が東映で映画化され、淑惠は京都の撮影所に招かれた。大西中将役の鶴田浩二、淑惠役の中村珠緒とともに撮られた1枚
淑惠は、毎年、この地で開催されている予科練戦没者慰霊祭にも、欠かさず参列した。
「こういう会合の席でも、奥さんはいつも自然体で、ことさら変わったことを言うわけではない。しかし短い挨拶には真情がこもっていて、その飾らない人柄が参会者に好感をもたれました。大西中将は『特攻の父』と言われますが、奥さんはいつしか慰霊祭に欠かせない『特攻の母』のようになっていました」
と、門司親徳は振り返る。
昭和50(1975)年8月、淑惠は最初に特攻隊を出した第二〇一海軍航空隊の慰霊の旅に同行し、はじめてフィリピンへ渡った。
小学生が手製の日の丸の小旗を振り、出迎えの地元女性たちが慰霊団一人一人の首にフィリピンの国花・サンパギータ(ジャスミンの一種)の花輪をかける。特攻基地のあったマバラカットの大学に設けられた歓迎会場では、学長自らが指揮をとり、女子学生が歌と踊りを披露する。警察署長が、慰霊団の世話を焼く。
予想以上に手厚いもてなしに一行が戸惑っていたとき、突然、淑惠が壇上に上った。
「マバラカットの皆さま、戦争中はたいへんご迷惑をおかけしました。日本人の一人として、心からお詫びします。――それなのに、今日は、こんなに温かいもてなしを受けて……」
涙ぐみ、途切れながら謝辞を述べると、会場に大きな拍手が起こった。
淑惠は、翌昭和51(1976)年にも慰霊団に加わったが、昭和52(1977)年6月、肝硬変をわずらって九段坂病院に入院した。この年の4月、二〇一空の元特攻隊員たちが靖国神社の夜桜見物に淑惠を誘い、砂利敷きの地面にござを敷いて夜遅くまで痛飲している。
「こんなお花見、生まれて初めて……」
77歳の淑惠は、花冷えのなかで嬉しそうに目を細め、しみじみつぶやいた。
九段坂病院5階の奥にある淑惠の病室には、門司親徳や、かつての特攻隊員たちも見舞いに駆けつけ、人の絶えることがなかった。児玉誉士夫は、自身も病身のため、息子の博隆夫妻に見舞いに行かせた。香文社時代の同僚、遠縁の娘など身近な人たちが、献身的に淑惠の世話をした。日下部淳は、警察の仕事が非番の日には必ず病院を訪れ、ロビーの長椅子に姿勢よく座って、何か起きたらすぐにでも役に立とうという構えだった。
昭和53(1978)年2月6日、門司親徳が午前中、病室に顔を出すと、淑惠は目をつぶって寝ていた。淑惠が目を開けたとき、門司が、
「苦しくないですか?」
とたずねると、小さく首をふった。そして、しばらくたって、淑惠は上を向いたまま、
「わたし、とくしちゃった……」
と、小さくつぶやいた。子供のようなこの一言が、淑惠の最期の言葉となった。淑惠が息を引き取ったのは、門司が仕事のために病室を辞去して数時間後、午後2時24分のことであった。
「『とくしちゃった』という言葉は、夫があらゆる責任をとって自決した、そのため、自分はみんなから赦され、かえって大事にされた。そして何より、生き残りの隊員たちに母親のようになつかれた。子宝に恵まれなかった奥さんにとって、これは何より嬉しかったんじゃないか。これらすべての人に『ありがとう』という代わりに、神田っ子の奥さんらしい言葉で、『とくしちゃった』と言ったに違いないと思います」
――門司の回想である。
淑惠の葬儀は、2月18日、總持寺で執り行われた。先任参謀だった詫間(猪口)力平が、葬儀委員長を務め、数十名の海軍関係者が集まった。納骨のとき、ボロボロと大粒の涙を流すかつての特攻隊員が何人もいたことが、門司の心に焼きついた。
こうして、大西淑惠は生涯を閉じ、その慰霊行脚も終わった。残された旧部下や特攻隊員たちは、淑惠の遺志を継いで、それぞれの寿命が尽きるまで、特攻戦没者の慰霊を続けた。戦後すぐ、芝の寺で一航艦、二航艦の司令部職員を中心に始まった10月25日の「神風忌」の慰霊法要は、元特攻隊員にまで参会者を広げ、平成17(2005)年まで、60年にわたって続けられた。60回で終わったのは、代のかわった寺の住職が、先代の約束を反故にして、永代供養に難色を示したからである。
大西中将の元副官・門司親徳は、「神風忌」の最後を見届け、自身が携わった戦友会の始末をつけて、平成20(2008)年8月16日、老衰のため90歳で亡くなった。昭和と平成、元号は違えど、大西瀧治郎と同じ「20年8月16日」に息を引き取ったのは、情念が寿命をコントロールしたかのような、不思議な符合だった。
大西夫妻の人物像について、門司は生前、次のように述べている。
「大西中将は、血も涙もある、きわめてふつうの人だったと思う。ふつうの人間として、身を震わせながら部下に特攻を命じ、部下に『死』を命じた司令長官として当り前の責任のとり方をした。ずばぬけた勇将だったとも、神様みたいに偉い人だったとも、私は思わない。だけど、ほかの長官と比べるとちょっと違う。人間、そのちょっとのところがなかなか真似できないんですね。ふつうのことを、当り前にできる人というのは案外少ないと思うんです。軍人として長官として、当り前のことが、戦後、生き残ったほかの長官たちにはできなかったんじゃないでしょうか
奥さんの淑惠さんも、無邪気な少女がそのまま大人になったような率直な人柄で、けっして威厳のあるしっかり者といった感じではなかった。でも、人懐っこく庶民的で、人の心をやわらかく掴む、誠実な女性でした。長官は、そんな淑惠さんを信じて後事を託し、淑惠さんは、つましい生活を送りながら、夫の部下たちやご遺族に寄り添って天寿を全うした。
正反対のタイプでしたが、理想的な夫婦だったんじゃないでしょうか。いまの価値観で見ればどう受け止められるかわかりませんが……」
そう、現代の価値観では計り知れないことであろう。責任ある一人の指揮官と、身を捨てて飛び立った若者たち。そして、自決した夫の遺志に殉ずるかのように、最期まで慰霊に尽くし続けた妻――。
「戦争」や「特攻」を現代の目で否定するのは簡単だ。二度と繰り返してはならないことも自明である。しかし、人は自分が生まれる時や場所を選べない。自らの生きた時代を懸命に生きた人たちがいた、ということは、事実として記憶にとどめておきたい。
旧軍人や遺族の多くが世を去り、生存隊員の全員が90歳を超えたいまもなお、全国で慰霊の集いが持たれ、忘れ得ぬ戦友や家族の面影を胸に、命がけで参列する当事者も少なくない。彼らの思いを封じることは誰にもできないはずだから。
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