#次の戦いには何食わぬ顔��しれっと参加してくる厚顔無恥の代表
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『 こいつがあれば千人力よ!』 みんな大好きピンクのワニ・クロコダインの愛斧、 【帰ってきた真空の斧mark-II】モチーフのリストウォッチリメイクです🐊 お世話になっている大槻町ヘアサロン・カノープス米山氏からのオーダーでした。 いつもありがとうございます😊 これを装備していればいつでもバギ属性の大技が繰��出せそうですね! 『うなれ!真空の斧よ!』 #ドラゴンクエスト #ダイの大冒険 #クロコダイン :元・魔王軍百獣魔団軍団長。 勇者と対峙後、改心し正義軍として勇者パーティに加わる。 #先見の明と言えば聞こえはいいが忠誠心を買われた古巣を真っ先に裏切った反逆の申し子 #身の丈に合わない戦いに次々と身を投じ敵の大技を自ら喰らいに行く異常な性癖を持ち合わせ大袈裟に叫ぶだけ叫び満足した後は戦線を早々に離脱 #次の戦いには何食わぬ顔でしれっと参加してくる厚顔無恥の代表 #百獣魔団の元団長とは名ばかりで亡命先の勇者軍についてきたのはタクシー替わりの鳥のみで人望の欠片もみられなかった #その後は仲間に加わったドブネズミを威嚇したり同じく仲間から煙たがられている老人と傷を舐め合う醜態を晒す #物語の最終局面ではついに戦力外通告同然の扱いを受け見せ場のないまま大団円を迎える #穀潰士団長 #100回死ぬワニ とも #獣王会心撃 #帰ってきた真空の斧markII #ぐわあああーー!! @canopus0203 #郡山canopus #郡山美容室 #大槻町canopus #大槻町 #大槻町美容室 #大槻町カノープス #stemkinleathers #オーダーメイド #田村市 #滝根町 #福島 #田村郡 #小野町 #leathercraft #leatherworks #リストウォッチ (Canopus) https://www.instagram.com/p/CVLQ5BchHX3/?utm_medium=tumblr
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ヴィクトルの演技を、勇利はもう何十回も見直していた。幼いころから、ヴィクトルの踊っているところは夢中で見ていたし、姉に「またなの?」とあきれられるほどくり返し再生したけれど、これは特別だった。だってヴィクトルの復帰試合なのだ。ヴィクトルは長いあいだ、勇利のコーチとして働き、競技のほうは休養していたのである。もちろんそのあいだ、ヴィクトルがまったくすべっていなかったというわけではない。勇利と一緒にいつも氷にのっていた。しかしそれはあくまで勇利のためで、試合に出ることを考えた真剣な練習ではない。ときおり、思い出したように過去のプログラムを演じて見せてくれたけれど、それだけのことだ。たとえば勇利がその程度の稽古で試合に出ろと言われたら、きわめてみじめな結果になるだろう。それなのにヴィクトルは、ロシア選手権で、これまでとはまるでちがう、これまで以上のすばらしい演技をして見せたのだ。その復帰試合の映像を初めて目にしたとき、勇利は、ヴィクトルはこんなにうつくしいんだ、と思い、頬には知らず知らずのうちに涙が流れた。 それからは、寝てもさめてもヴィクトルのことばかり考えた。あんなに神々しい演技、あれほどのことができるヴィクトル、なんてすばらしいんだろう、なんてすてきなんだろう、とそればかりだった。ヴィクトルが自分のコーチだということも勇利は思い出せなかったくらいだ。とにかく氷上のヴィクトルに夢中で、ほかのことは考えられなかった。表彰台のヴィクトルが、気取ったしぐさで金メダルにキスしたとき、勇利は、ああ、この光景がまた見られるんだ、とそのことにも泣いてしまった。どうしようもなくヴィクトルのことが好きで、ヴィクトルのことだけを想い、ヴィクトルしか目に入らなかった。 「ヴィクトル、かっこよか……」 ああ、ヴィクトル。ヴィクトルの試合が見たい。彼の姿を瞳に直接焼き付けたい。これまで以上にうつくしく、華麗で荘厳なヴィクトルの演技。神々しいほどのプログラム。皇帝の名にふさわしいあの威厳。��べてを肌で感じたい。 「ヴィクトルを見たい……」 そうつぶやいた瞬間、勇利はもう立ち上がっていた。彼はバックパックに必要なものをつめこみ、「しばらく帰ってこないから!」と家族に声をかけて家を飛び出した。電車に飛び乗り、移動しながらすべての手配を済ませた。勇利はのんびりしているように見えるかもしれないけれど、やるときは熱中する性質なので、あっという間にチェコはオストラウにたどり着いていた。それはヨーロッパ選手権が開催される地だった。雪がひどかったので、ちゃんと飛行機が着陸できるか心配だったのだが、それほど待つこともなく望み通りオストラウの地を踏みしめることができた。 「さむっ……」 外へ出た勇利は、ニット帽をかぶり直し、下げていたマスクを鼻の上まで引き上げて身をふるわせた。眼鏡がすこし曇った。 「えっと……」 とりあえずホテルへ向かった。荷物を置いたら散策しようと思っていたけれど、それどころではなかった。時差に勇利はまいってしまったのだ。バルセロナに行ったときもそうだったが、差が八時間あると体内時計は狂ってしまう。チェコと日本の時差は、スペインと日本のそれと同じである。 「あー、だめ……」 勇利は早々にベッドにもぐりこみ、深く眠った。目ざめる前に夢を見た。ヴィクトルが出てきた。彼は氷の上で優雅に舞っており、勇利は客席から彼をうっとりとみつめているのだ。ヴィクトル、かっこよか、と感激したところで目がさめた。 「いい夢だった……」 勇利はふわっと笑ってつぶやいた。これは正夢だ。もうすぐヴィクトルを見ることができるのだ。 食事を済ませてから、持ってきた雑誌をひろげた。それはフィギュアスケート雑誌の最新号で、ヴィクトルの記事がたっぷりと掲載されていた。もともと世界的に有名なヴィクトル・ニキフォロフだが、彼は日本の勝生勇利のコーチでもあるので、このところ、日本ではますます知名度が上がっているのだ。勇利は、勝生勇利のおかげでヴィクトルの記事が増える、と感謝した。 「あ、勝生勇利ってぼくだ」 それはともかく、勇利は雑誌を読み耽り、満足してから再び眠りについた。 翌日は、道に迷いながら、雪の中を一生懸命会場へ向かった。今日は男子のショートプログラムがある。しかし、勇利の目当てはそれだけではない。 「ヴィクトルー!」 「クリス!」 「エミル!」 「ユーラチカー!」 黄色い声援が飛び交う中、選手たちが会場入りする。もちろん勇利も大勢のファンに紛れこんでその様子を見学した。ものすごい揉み合いである。ファンとしてこういう場に参加するのは、じつは勇利は初めてではないのだけれど、過去にないほど活気にあふれていた。それだけヴィクトルの復帰をみんなが待ちわびていたということだろう。よくチケット取れたなあ、と勇利は息をついた。開催地がチェコだからよかったのかもしれない。ロシアでは無理だっただろう。確か来年はモスクワで開催だ。次はチケット争奪戦だぞ……と勇利は気を引き締めた。 ヴィクトル、ヴィクトル、と呼ぶ声が多かった。勇利も一緒になって叫んだ。 「ヴィクトル、かっこよかー!」 日本語で言った。ものすごく気持ちよかった。すると、戸口の前でヴィクトルが立ち止まり、振り返ったからどきっとした。でも、もちろん勇利の声が聞こえたわけではないだろう。彼はかけていたサングラスを外すと、にっこり笑い、片目を閉じて愛嬌を振りまいた。悲鳴と歓声が上がる。勇利も両手を握り合わせて、みんなと一緒に「きゃー!」と叫んだ。ヴィクトルのファンでいられるって最高……。 ヴィクトルが笑顔で手を振って中へ入っていく。勇利はいつまでも彼の消えた扉をみつめていた。ヴィクトルだ……。なんだか泣きそうだった。かっこいい。すごくかっこいい。ぼくの神様。王子様。 「あなたもヴィクトルのファンなの?」 隣にいた女の子が話しかけてきた。金髪でそばかすのある、気のよさそうな少女だった。癖のある英語を話す。 「うん、そうだよ」 勇利は興奮気味に答えた。 「男の子でも彼の魅力がわかるのね。当然よね。かっこいいわよね、彼!」 「うん! ぞくぞくきちゃう! 最高!」 「ああ、ヴィクトルにほほえみかけられたいわ。ちょっとでもいいから話したいわ。彼、去年、自分の生徒にリンクでキスしたのよ。見た? すごいわよね。ユーリ・カツキって選手。知ってる?」 「知ってる。うらやましいよね!」 「みんなは、あれはしてない、ぎりぎりだ、とか言ってたけど、私はしてると思うわ。あなたは?」 「ぼくもそう思う!」 会場に入り、客席に腰を下ろした勇利は、もう完全にのぼせ上がってしまっており、あとでいくら思い出そうとしても、ヴィクトルが登場するまでの記憶がなかった。ヴィクトルがもうすぐすべる、それを見られる、ぼくが、ぼくがこの目で、と思うと全身がふるえるほどだった。勇利の頭の中はヴィクトルでいっぱいだったのだ。ヴィクトルの滑走順は最後で、彼がリンクサイドに姿を現したとき、勇利は興奮のあまり泣き出してしまった。 「ちょっと、大丈夫?」 隣にいた女性に心配された。 「だ、大丈夫です……問題ありません……」 「ヴィクトルを見に来たの?」 「はい……」 「わかるわ。そうなるわよね。ロシア選手権の演技もすごかったわよね」 勇利は、ヴィクトルのロシア選手権の演技がどれほどすばらしかったかを演説したかったけれど、ヴィクトルを見るのに夢中でものが言えなかった。 前の選手の演技が終わり、ヴィクトルが氷にのる。地響きのような歓声が上がった。勇利も喉を嗄らして「ヴィクトル!」と叫んだ。ヴィクトルがコーチと何か話している。彼はまったく緊張しているようには見えなかった。微笑さえ浮かべ、くつろいだ様子でうなずいていた。ヤコフが何か言いかけるのを、「わかったわかった」というように愛嬌のあるしぐさで遮ったのでみんなが笑った。 「はあ……ヴィクトル、かっこよか……演技前でもぜんぜん緊張しとら��……さすがヴィクトルばい……」 ヴィクトルの名前が読み上げられ、彼は歓声に応えながらリンクの中央へ向かった。勇利は再び涙ぐんでいた。両手をかたくかたく握り合わせ、ヴィクトルの一挙手一投足を見守る。スタートポジションについたヴィクトルは、目を伏せ、優しいまなざしでみずからの手を見た。何をしているのだろう? 勇利は首をかしげた。ヴィクトルのルーティンにこういうものはなかったはずだけれど。 「指輪を見てる」 隣の女性がつぶやいた。勇利は瞬いたが、その瞬間、ヴィクトルが静止し、わずかな間のあと、音楽が流れ出した。ヴィクトルがなめらかにすべり始める。 それからの約一分半は、勇利にとって目がくらむほどの陶酔の時間だった。勇利は、ぼくはあの一分半のために生まれてきたのではないかとあとになって思った。それほど濃密で、息もできないほどうつくしく、崇高な時だった。勇利は夢見るような瞳でヴィクトルの姿を追い続けた。釘付けだった。 ヴィクトルの演技が終わった瞬間、勇利は勢いよく立ち上がって思い切り手を叩いた。もちろん、まわりの観客もそうしていた。数々の花束がリンクに投げこまれる。そこで勇利はようやく気がついた。花を支度していない。そんなことも思いつけないほど、勇利の頭の中はヴィクトルでいっぱいだったのだ。 ヴィクトルが丁寧な挨拶をし、ぬいぐるみをひとつ拾った。まわりの女性が「かわいい!」と叫んだ。プードルのぬいぐるみだ。マッカチンだ、と勇利はにこにこした。 キスアンドクライで、ヴィクトルはマッカチンのぬいぐるみを膝に置き、マッカチンのティッシュカバーの奥からティッシュペーパーを引き出した。あのカバーはいまぼくのところにあるはずなのに、と勇利は思い、ヴィクトル、マッカチンたくさん持ってるんだなあ、とほわっとした感情をおぼえた。ヴィクトルが手を振ってから鼻をかんだ。さすがヴィクトル、鼻をかむ姿もかっこよか……。 ヴィクトルの得点が出た。二位を大きく引き離して、いちばんだった。勇利は当然だと思いながらも、歓喜の悲鳴をまわりのみんなと一緒に上げた。ヴィクトルは笑みを浮かべ、うんうんとうなずいた。ヤコフが何か言っている。ヴィクトルは怒られているのだろうか? どこがいけなかったのか、勇利には想像もつかなかった。ていうか、ヴィクトル、パーソナルベスト更新してもいいんじゃないの? 採点員はわかってないな! そのあと、どうやってホテルへ戻ったのかよくおぼえていない。とにかく気持ちがふわふわと浮ついて、夢見ごこちだった。興奮で食事が喉を通らなかった。 ああ、ヴィクトル……。 かっこよかった……。 すごかった……。 「……ヴィクトル」 勇利はベッドの上を転げまわり、ヴィクトルのすばらしい演技に思いをめぐらせた。指先の繊細な動き、視線の使い方、思いのこもった表情、身体のしなり、音楽のとらえ方、そしてジャンプの入り方、着氷――何もかもが完璧だった。八ヶ月もやすんでいたとは思えない。ヴィクトル・ニキフォロフは絶対王者だというのが演技から伝わってきた。これが最高ではない。もっともっと、今後、どんどん彼のすばらしさがあますところなく発揮される。そんな予感をおぼえるプログラムだった。 「ああ、ヴィクトル、ヴィクトル、ヴィクトル……」 勇利は幾度も吐息を漏らした。頬は紅潮し、ちょっとしたことで目がうるんでしまう。 「ヴィクトル、好き、好き好き……」 その夜は、ヴィクトルの比類ない姿を思い浮かべながら眠りについた。勇利はしあわせだった。 翌日はシングル男子の試合はなかったので、勇利は一日ホテルにこもって過ごした。雪がひどく、外は寒そうだったけれど、そんなことは頭になかった。勇利は退屈しなかった。彼は両手を組み合わせ、ぼんやりと視線を宙に投げ、うっとりした表情で昨日のヴィクトルの演技を思い出していた。そうしているだけで時間は飛ぶように過ぎた。ときおりは、会場入りするときのヴィクトルを思い浮かべた。スケートをしていないおりでも彼は優雅な身のこなしをしており、すばらしく洗練された物腰でふるまうのだ。振り返り方、そのときの髪の揺れ方、サングラスを取るときの手つき、片目を閉じる上品さ――、どれをとっても文句のつけようがない。勇利は上気させた頬に手を当て、「ヴィクトル……」と幾度もつぶやいた。彼は恋に落ちた乙女のようだった。 夜になると勇利は、明日のフリースケーティングに備え、早めにやすんだ。翌朝はきちんと朝食をとり、心構えをしっかりした。万全の体調でヴィクトルを見るのだと彼は意気込んでいた。ああ、またヴィクトルに会える、彼の姿を目に焼き付けることができる――そう思うと勇利はこれまでにないほど気持ちが高揚した。 もちろん、今日もヴィクトルの会場入りを見守った。勇利はもみくちゃにされながら、大勢のファンに交じって声を張り上げた。 「ヴィクトル、ヴィクトル、かっこいい! ヴィクトル、ショート最高だった。ヴィクトル好き! 大好き!」 ヴィクトルは親切にファンたちを振り返り、にっこり笑って手を振った。勇利は思わず隣にいた少女に話しかけてしまった。 「見た? 見た? いまのヴィクトル見た!? クッソかっこいい!!」 「見た! ほんとかっこいい!」 ほかの者たちも同意した。ファンのこころはひとつだった。 「すごいわよね、ヴィクトルと普通に話せる人もこの世に存在するんだもんね」 「ほんとにね! ヴィクトルを目の前にして落ち着いてられるってどういう人間なんだろう。もう、信じられないよ! ぼくだったら絶対興奮して頭が変になっちゃう!」 勇利はこぶしを握って力説した。 先日もそうだったけれど、勇利は客席で、まわりを見まわす余裕もなかった。ただヴィクトルの出番を待ちわび、彼の姿を望んだ。精神状態がおかしくなっているんじゃ、と自分で疑ったので、とにかく深呼吸をして気持ちを鎮めた。ヴィクトルの演技前に倒れて医務室へ運びこまれる、なんていう事態は絶対に避けなければならない。落ち着け、落ち着け。 ヴィクトルは今日も最終滑走だった。彼がリンクサイドにやってくると、勇利は目をきらきらと輝かせ、じっと見入った。眼鏡を押し上げて、最適な位置にレンズを動かすことも忘れない。眼鏡の度数を変えておけばよかったかな? そんなこと、いま考えても仕方がない。ヴィクトルだ。ああ、ヴィクトルだ! 「ヴィクトルー! ダバーイ!!」 ヴィクトルがスタートポジションへ向かってすべり出すと、勇利は声を限りに叫んだ。うつくしい衣装の裾が��らりと翻る。勇利はヴィクトルのこの衣装が大好きだった。色といい、デザインといい、完璧だ。いかにも気高く、皇帝にふさわしい。昨季から着用しているものなので、勇利はヴィクトルが衣装を変えてしまうのではないかと心配していたのだ。ヴィクトルのことだから、どんなものでもうつくしく着こなすだろうけれど、しかし勇利はこれがよかった。作製の時間がないからか、それともヴィクトル自身も気に入っているのか、彼がロシア選手権でこの衣装をまとって現れたときは、少なからず感激した。これを着こなせるのはヴィクトルしかいない、と思った。 ヴィクトルが静止した。彼はふうっと息をつくと、右手を持ち上げ、そっと薬指にはめた金色の指輪に接吻した。観客がどよめき、勇利も陶酔したようにそのしぐさをみつめた。 ヴィクトル、かっこよか……。 金メダルにするときもそうだが、ヴィクトルは、キスという動作が本当に似合うのである。 ヴィクトルが優しいまなざしで指輪をみつめ、ゆっくりと手を下ろした。ひと呼吸おいたあと、アリアの叙情的な旋律がささやくように流れ出る。それに乗って、なめらかにヴィクトルがすべり始める――。 勇利はほうっと溜息をついた。なんてうつくしいのだろう。この世のものとは思えない。「離れずにそばにいて」。昨季からのプログラムである。しかし勇利は、それが新鮮さをともなってこころに迫ってくるのを感じた。ちっとも見慣れたという気がしない。ヴィクトルはいつだって新しい感性をくれる。去年までのヴィクトルとぜんぜんちがう。あのときもすてきだったけれど、いまはもっと――もっと――ああ、言葉にできない! ヴィクトルはほほえみさえ浮かべて踊っていた。「とんでもない鬼プロ」とスケート仲間のあいだでささやかれるそれを、甘く魅惑的に。舞いを見ているかのようだ。そうして人々を惹きつけておいて、難しいジャンプを鋭く跳ぶのである。はっとめざめさせられる。 ヴィクトル、貴方はなんて綺麗で威厳があるのでしょう。ぼくはもう、貴方にすべてを捧げたくなる。ううん、でも、そんなふうに考えることさえ畏れ多い――。 勇利はつぶらな瞳を大きくみはり、くちびるをわずかにひらいてヴィクトルに見蕩れていた。ヴィクトルが最後に両手を肩に添え、天を仰いだとき、勇利の瞳からは大粒の涙があふれた。 「ヴィクトル……」 しかしヴィクトルの姿を見逃すわけにはいかない。勇利は急いで眼鏡を上げ、手の甲で目元をこすると、風格のある長身に目をこらした。ヴィクトルは両手を下ろしたあと、右手だけをすっと上げ、最初と同じように指輪にうやうやしくくちづけした。それから笑顔で手を振った。彼は丁寧な挨拶を幾度もした。勇利は立ち上がり、てのひらが痛くなるほど拍手した。ヴィクトルはリンクの出口へ向かう途中、ふと視線をめぐらせ、ひとつのぬいぐるみへ寄っていった。マッカチンかな、と思った勇利は大きく瞬いた。思わずつぶやいた。 「あのぬいぐるみ、なに?」 勇利のちいさな声を聞き取った隣の観客が答えた。 「ユーリ・カツキよ! 手作りみたいね。『エロス』の衣装着てる。かわいい!」 ああ、なるほど。ユーリ・カツキか……。ヴィクトルの生徒のぬいぐるみを誰かが気遣って投げ入れたのだ、と勇利は納得した。ヴィクトルうれしそう。よっぽど自分の生徒が好きなんだね……。 キスアンドクライに座ったヴィクトルは、ぬいぐるみの手を取り、左���に振ってにこにこ笑っていた。勇利は、ヴィクトルが歴代最高得点を塗り替えるのではないかと考えた。胸がどきどきした。勇利は瞳を輝かせながら採点を待った。 会場の大型モニタに、ヴィクトルが足元にあるモニタをみつめる光景が映し出されている。結果を知らせるアナウンスが流れた。歓声が上がった。「Rank1」という文字が映し出される。ヴィクトルが金メダルだ。 予想していたことなのに、勇利はたまらなくうれしくてまた泣いてしまった。歴代最高得点は更新できなかった。しかしヴィクトルならそのうち抜いてくれるだろう。とにかくヴィクトルは最高だった。 表彰式のあいだも、勇利はずっと夢見ごこちだった。さらにその気分は続いた。翌日のエキシビションで、ヴィクトルはなんと勝生勇利のショートプログラム「エロス」を披露したのだ。これには会場じゅうが悲鳴を漏らした。勇利は両手を頬に当て、歓声を上げっぱなしだった。ヴィクトルかっこいい、と瞳は常にうるんでいた。勝生勇利の見せる誘う駆け引きとはちがう、まるで最初から「おまえは俺を愛してるだろう?」と魅了するような「エロス」だった。さあおいで。そんな目をするなら抱いてあげるよ。その代わり、忘れられなくなっても知らないよ。――そうして惹きこまれた。勇利はふるふるとふるえながら、「抱いてください……」とつぶやいてしまった。日本語だったので誰にもわからなかっただろうけれど、もし通じる者がいたとしても問題はなかっただろう。なぜなら、会場じゅうがそんな感情でいっぱいだったからである。勇利は、「ヴィクトル、ぼくを抱いてー!」と今度は叫んだ。 勇利はみちたり、これ以上ない幸福感を抱いてホテルへ戻った。彼は何をするにもヴィクトルのことを考え、ヴィクトルの圧倒的に男っぽい微笑、なまめかしい指先、そして胸がずきずきするほどのつやっぽさと色気を思い起こしては涙を流して時間を過ごした。人間が暮らしをいとなむために必要なこともするにはしたけれど、食事も入浴もすべて上の空だった。勇利は自分が何を食べたか思い出せなかった。 ベッドにもぐりこんだ勇利は、来てよかった、とこころからの満足を感じていた。これで明日からまた生きていける。ヴィクトルがいればこの世界は輝くし、勇利の人生はばら色だ。 翌朝勇利は上機嫌でホテルをチェックアウトし、空港へ向かおうとした。しかし、ものすごい吹雪に遭い、行き倒れそうになった。そのときもまだ勇利はヴィクトルのすべてにこころを奪われていたので、まるで理解していなかったのだけれど、交通機関は麻痺し、道をゆく人はまったくいない状態だった。さすがに生命の危機を感じたとき、ようやく勇利は我に返り、このままではまずい、と青ざめた。これではきっと飛行機は飛ばないだろう。そもそも空港にたどり着けないし、あたたかいところへ避難しなければ大変なことになる。 勇利はホテルへ引き返そうとした。しかし、ずいぶん歩いてきてしまったので、とても帰れそうになかった。どうしよう? そういえば、もう一軒ホテルがあった、と思い出した。そちらのほうが都合がよかったのだけれど、泊まり賃が高くて断念したのである。だが、いまはそんなことは言っていられない。ここからな���たどり着けるはずだ。勇利はふらふらしながら記憶を頼りに道を曲がった。 雪にまみれ、ほとんど雪だるまになって、勇利はようやくホテルにたどり着いた。泊まっていたところより豪華なつくりにいくらか気後れしたけれどどうしようもない。とりあえず部屋が空いてるか訊いて……と中へ入ろうとしたとき、ちょうど出てきた宿泊客にぶつかってしまった。 「あ、ごめんなさい……」 勇利はしりもちをつき、ずれた眼鏡に手をやった。 「こちらこそ。失礼」 長身の男性が言った。勇利は曇った眼鏡越しに相手を見たが、その瞬間、一気にのぼせ上がった。 ヴィクトルだ! 「えっ、あ、あ、えっ、えっ、なっ……」 まともにしゃべれなくなってしまった。こんなところにヴィクトルがいるなんて! 信じられない。ここは選手が泊まるホテルだったのだろうか? 勇利はそこまでは知らなかった。なんという幸運。でもいま自分は、甚だしくみっともない姿をしているのである。勇利は急に気恥ずかしくなった。なんだこの垢抜けない貧しそうな子どもは、と思われたかもしれない。サインが欲しいけれど、そんなことを言っている場合ではない。 「あ、うんと、ヴィ、ヴィクトル、え、えっと、や……」 しどろもどろになった勇利をヴィクトルは助け起こし、それからぱちりと瞬いた。彼は大きく目をみひらき、どうして、というようにつぶやいた。 「勇利……?」 「えっ」 そこでようやく勇利は、自分がヴィクトルの生徒なのだということを思い出した。いや――もちろんそれは事実として頭の片隅にあったのだけれど、勇利はひと月ほどずっとひとりで練習していたし、そのあいだ、ヴィクトルのことを画面越しにしか見ていなかったし、オストラウに来てからはファンとしての感情しかなかったしで、そういう心構えが吹き飛んでしまっていたのだ。 「す、すみませんでした!」 勇利は反射的に逃げ出そうとした。なぜかはわからないけれど、自分の存在をヴィクトルに知られたくない、と思った。たぶん、練習もせずにこんなところにいることとか、そこまでしたかったファン心理とか、それを気持ち悪いやつだと思われるのではないかとか、そんなことが心配だったのだろう。勇利はヴィクトルにくるりと背を向け、重厚な扉を押し開けて外へ飛び出した。 「わっ」 雪に足を取られて勢いよく転んだ。勇利は雪につっぷした。 「勇利!」 ヴィクトルが慌てて出てきて勇利を抱き起こした。 「大丈夫かい? 急に外へ出るから……」 どこも痛くなかった。そんなことよりヴィクトルから逃げ出したかった。勇利はまっかになり、マスクを引き上げ、マフラーに顔をうめるようにしてうつむいた。 「ぼ、ぼくは勝生勇利ではありません」 「え?」 「人違いです。失礼します」 「あ、ちょっと」 「さよなら!」 「勇利!」 勇利は立ち上がり、よろよろと駆け出した。幸い、風はよわまり、雪もさっきほど降っていなかった。これなら前も見えるし歩ける。もとのホテルへ戻れそうだ。勇利は雪の深さに不自由しながら、脇目もふらず歩いた。とにかく安全な場所へ行きたかった。この寒さがなく、ヴィクトルもいないところへ。 「はあ、はあ」 息を弾ませつつ、ようやく目当てのホテルへたどり着く。一時間ほど前に出たばかりの建物なのに、ひどくなつかしく感じた。とにかく疲れた。もう一泊できるか訊かなければ。ロビーには人が多い。勇利のように予定の狂った旅行客だろう。泊まれるだろうか、と不安になった。扉の前で雪を払い落とし、ふらふらしながら受付へ行こうとしたとき――。 「勇利」 やわらかくて艶のある声にはっきりと呼ばれ、勇利は飛び上がった。おそるおそる振り返ると、観葉植物の陰にヴィクトルがいて、腕を組み、にこにこしながら勇利を見ていた。 「やあ。ひどいな。なぜさっきは逃げ出したりしたんだい?」 「あ、あの……」 勇利は青ざめた。どうしてここに? なんで? なぜ勇利の居場所がわかったのかも不思議だし、勇利よりさきにたどり着いているのもおそろしい。 「ぼ、ぼくは勝生勇利ではありません……」 勇利はちいさな声で反論した。ヴィクトルがおおげさに目をみひらく。 「勝生勇利じゃないだって?」 「は、はい……」 「この俺を置いてきぼりにするなんて、そんなこと、この世界で勝生勇利しかしないはずなんだけどね」 ヴィクトルはつかつかと歩み寄ってきた。勇利はうろたえ、ヴィクトルは勇利の手首をしっかりとつかんだ。もう一方の手でマスクとマフラーを下ろし、ニット帽も取ってしまう。 「ああ、やっぱり俺の勇利だ。こんなにかわいい子は俺の生徒しかいないよ。きみは勝生勇利だよ」 「い、いえ、あの……」 「で、俺の最愛の生徒がなんでこんなところにいるんだろうね? 俺のいとしい勇利はいまごろ日本の長谷津にいて、四大陸選手権のために練習をしているはずなんだけど。俺は夢を見ているのかな?」 「えっと……」 「まあいい。話は部屋で聞くよ。こんなところで言いあっていても仕方がない。おいで」 「えっ」 「こっちだ。勇利が逃げたりするから手間がかかるじゃないか。雪が激しくなったら移動できなくなるよ。早く」 「ぼ、ぼくはここに泊まるんです」 「残念ながら部屋は空いてないそうだよ。俺のところへおいで」 「でも……」 「野宿する気かい? 来るんだ」 勇利はヴィクトルに手を取られ、ふらふらしながらついていった。部屋が空いていない? 本当だろうか? しかし、どちらでも同じことだ。ヴィクトルにみつかってしまった以上、もう事態は勇利の思うようにならないのだ。 勇利は再び外へひっぱり出され、ヴィクトルのホテルへ連行された。ヴィクトルは受付でもうひとり泊まることを伝え、そのぶんの金額を支払った。 「ヴィクトル、ぼく、自分で払います」 「そんなことはいいからおいで。寒いだろう。俺のところはダブルだから問題ないよ。もともともう一泊する予定だったんだ。ちょうどよかった。明日にはこの天候もおさまるといいね。ちなみに、俺が勇利のホテルへ行けたのは、ここからいちばん近いホテルを考えて見当をつけたからで、きみより早くたどり着けたのは、俺がきみよりこのあたりの道を知っていたからというだけの理由だよ」 勇利はヴィクトルの部屋へ連れていかれた。勇利としては、引き立てられるという気持ちだった。ヴィクトルの部屋はそれほどひろくはなかったけれど、寝台が大きく、そして、枕元にぬいぐるみが置いてあった。マッカチンと、「エロス」の衣装を着た勝生勇利だった。 「さあ、服を脱いで。濡れただろう。着替えはある?」 「あ、あります」 本当に少ない荷物で来たから、それはすでに着た服だった。しかしほかに乾いているものはないし、どうしようもないので勇利はうなずいた。ヴィクトルはすこし考え、自分のトランクの中から清潔なジャージを取り出し、勇利に手渡した。 「これを着るといい」 「あの、結構です。悪いから……」 「いいから着て。下着は……」 「あっ、下着はいいです。あります」 前夜、入浴したときに手洗いして干しておいたのだ。勇利が慌てて手を振ると、ヴィクトルはふっと笑い、「じゃあ浴室を使って」と扉を示した。 「あの……」 「なんだい?」 「……すみません」 「いいよ。早く入って。試合前に風邪をひいたら大変だ。試合前じゃなくても大変だけどね」 勇利はおずおずと浴室へ行き、そこで熱いシャワーを浴びた。ああどうしよう、と頭の中はそればかりだった。ヴィクトルと会ってしまった。怒ってるかな? でもそんなことより、ヴィクトルはあのヴィクトル・ニキフォロフなのだ。どうしよう。どうしよう。どうしよう……。 ほかほかとあたたまった身体で部屋のほうへ行くと、ヴィクトルが窓際のテーブルで紅茶を飲んでいるところだった。 「おいで」 ヴィクトルがほほえんだ。勇利はぽーっとなった。遠慮がちにそちらへ行き、彼の前にちょこんと腰を下ろした。 「服、ありがとうございます」 ヴィクトルのジャージは勇利にはすこし大きかった。そしてよい匂いがした。ぼく、ヴィクトルのジャージ着てる……と勇利は興奮ぎみだった。 ヴィクトルは勇利のために、優雅な手つきでカップに紅茶をついだ。勇利は低い声で礼を言ってそれを飲んだ。 「さてと……」 ヴィクトルはソファの背もたれにもたれ、脚を高々と組んで勇利を打ち眺めた。勇利は赤くなって目を伏せた。ヴィクトル、かっこよか……試合でもかっこよかったけど、いまも……。 「説明してもらえるかな」 「え?」 「どうして勇利がこんなところにいるんだろう? 俺はびっくりしたんだよ。思いがけず勇利に会えてとてもうれしい。でもかなり混乱している。だから話して欲しい。どうして勇利はここにいるんだ?」 「え、えっと、あの、ぼく……」 何か言わなければ。ヴィクトルが説明を求めている。話さなければ。そう思うのに、勇利の舌はいっこうに動いてくれなかった。目の前にヴィクトルがいるのだ。あのヴィクトル・ニキフォロフが。あれほどのすばらしい、感動的な、たぐいまれな演技をしたヴィクトルが。勇利は喜びと興奮とで気持ちが高揚し、口が利けなかった。その代わり、どんどん頬が紅潮してくる。さっきまで雪にまみれて凍えていたのに、熱い湯を使ったり紅茶を飲んだりしたからではなく、内側から熱があふれてくるようだった。 「勇利? どうしたんだ?」 「…………」 「なんだい? そんなにじっと見て。きみは……」 「ヴィ、ヴィクトル」 勇利の口がようやく動いた。話せるとなると、勇利は一気に語り始めた。とめどなく言葉があふれた。 「あの、あの、ぼく、ヴィクトルの試合見ました。演技、見ました!」 「え?」 「すごかったです。すばらしかったです。気品高いヴィクトルの演技……、最高でした。泣きました。あの、上手く言えないんですけど、本当に感激しました。貴方が氷の上に戻ってきてくれてうれしいです。また貴方のスケートが見られると思うと、ぼくは喜びで胸が苦しくなります」 「……勇利?」 「かっこよかったです。綺麗でした。うつくしかった。すみません、月並みな言葉しか出てこなくて……ちょっといまぼく、とりみだしてて……。あのヴィクトルに会えるなんて思っていなかったし」 「…………」 「会場入りする貴方を待ってました。みんなに笑顔を振りまいてくれてうれしかった。どきどきしました。ヴィクトルはやっぱりファンに優しいなあって、ファン同士で盛り上がりました。みんな、貴方のことを偉大だって言ってました」 「…………」 「エキシビションも見ました。気高くて、崇高で、それから大人っぽくて、すっごくエロスで……ぞくぞくしました。抱いてあげるって言われてるみたいでした。ぼく、ヴィクトル、抱いて! って思いました。ホテルへ戻ってからもずっと、寝てもさめても貴方のことを想っていました」 「…………」 「来てよかったです。ありがとうございます。ヴィクトルが復帰してくれて本当にうれしい。それで、あの、ぼくずうずうしいと思うんですけど、いままでこんなこと言ったことないし、近づくのも無理だったんですけど、もうここまで来てしまったので、恥知らずだけどおねがいしてしまいます。よかったら、あの、あの……」 勇利はバックパックを探り、いつも持ち歩いているおぼえ書き用の大切なノートを取り出した。 「サインください!」 「…………」 ヴィクトルは黙って勇利をみつめていた。彼は静かにノートを受け取ると、新しいページを出し、ペンでさらさらと名前を書いた。 「宛名入れるの?」 「で、できれば……! あの、ぼく勝生勇利っていいます」 ヴィクトルは微笑を浮かべながら、「かわいらしい俺の勇利へ」と宛名を入れ、そのページを勇利のほうへ向けて差し出した。勇利はふるえる手でノートを引き取ると、胸に抱きしめ、泣きそうになりながらつぶやいた。 「ありがとうございます。宝物にします……!」 「どういたしまして」 にっこり笑ったヴィクトルはペンを置き、頬杖をついてからかうように言った。 「……で? つまり勇利は、ロシア選手権の俺の演技を見て気持ちが高揚し、いてもたってもいられなくなってヨーロッパ選手権を観戦しに来たということなのかい?」 「えっ……、は、はい、そうです」 「俺の演技を自分の目で見るまでは落ち着いて練習もできないと」 「は、はい」 「見ることさえできれば四大陸選手権に集中できるし、勉強にも、力にもなるからと」 「はい……」 「俺に連絡したら怒られるから、こっそり来たと」 「こっそりというか……そういうこと考えてなくて……」 「なるほど」 ヴィクトルはゆっくりとうなずいた。 「かわいいね……、勇利」 「あ、あの、ヴィクトル」 「なんだい?」 「訊いてもいいですか? ヴィクトルの演技、昨季とぜんぜんちがったんですけど、今回の心構えとか意識とか」 「おやおや。だんだんファン式からいつもの遠慮のない勝生勇利式に変わってきたな」 「あとジャンプ構成が……」 「あのかっこうでファンにまぎれこまれたら、さすがに俺も勇利だとはわからないよ。試合用の姿で来てくれたらよかったのに。でもね、おやっとは思ったんだ。なんとなく勇利の声が聞こえた気がしたんだよ。あまりにもおまえを恋しがっているから幻聴が聞こえるんだと思ったけどね。勇利、きみ、俺の演技前に『ダバーイ』と叫んだね」 「えっ」 「『エロス』はきみへ向けて踊ったプログラムだよ。抱いて欲しくなった? オーケィ。きみの解釈でまちがいない」 「あ、あの、ヴィクトル……?」 ヴィクトルは立ち上がると、勇利の手を取り、うやうやしく、しかし強引にベッドへ案内した。 「何を……」 押し倒され、勇利はとりみだした。ヴィクトル何なの!? 何しようとしてるの!? 「ファ、ファンにこんなこと……」 「まだそんなことを言ってるのか。皇帝ヴィクトル・ニキフォロフの魔法にかかっているようだね。俺がその魔術をといてあげよう」 「ちょ、ちょっとヴィクトル――」 「勇利……、会いたかったよ。あとで金メダルにキスさせてあげる。いまは俺にキスをして」 「あっ……」 「信じられない!」 身体のけだるさからようやくさめた勇利は、頬をふくらませて文句を言った。ヴィクトルは勇利に腕枕をし、のんびりと笑っている。 「��んでえっちなことなんてするの!? ぼくはヴィクトルの演技に本当に感動してたんだよ!」 「演技に感動することとセックスに感激することは相反しない」 「べつに感激なんてしてませんから!」 「いやだった?」 「……いやじゃないけど」 勇利がヴィクトルの胸に顔をうめて甘えると、ヴィクトルは陽気に笑って勇利の髪を撫で、耳元にささやいた。 「魔法がとけたようだね」 「う……」 ヴィクトルの親しみ深い愛撫を受ければ、遠くからあこがれているだけの子どものような精神ではいられない。 「……もうちょっとあのままがよかった」 「勇利は楽しいかもしれないけどね、俺はつまらないよ」 「だって……」 勇利は拗ねた。 「本当によかったんだもん、ヴィクトルの演技……」 「じゃあファンの言葉じゃなく、俺が溺愛する、俺の勇利の言葉で褒めてくれ」 「…………」 勇利はヴィクトルの喉元に接吻し、あえかな息をついた。 「ヴィクトル……」 「うん?」 「……すてきだった……」 「ああ」 「かっこよかった……もうわけがわからないくらいよかった……ロシア選手権も……。よすぎて、思わず家を飛び出しちゃったし、チェコにまで来ちゃったし、完全なファンに戻っちゃったよ……」 「勇利の愛情表現は複雑だ」 ヴィクトルが明るく笑った。彼のてのひらを背中に感じながら、ああ、ヴィクトルだ……と勇利は目を閉じた。 「ぼくのヴィクトルは最高……」 「ふ……」 ヴィクトルは勇利のまなじりにかるく接吻した。勇利はすりすりとすり寄った。ヴィクトルは手を伸べて携帯電話を取り、時刻を確かめた。それからすこし何か操作した。 「……あ」 「なに?」 「勇利、撮られてるよ」 「え?」 「ニュースになってる」 勇利は目をみひらいた。 「うそ!」 「本当。『ヴィクトル・ニキフォロフの秘蔵っ子、勝生勇利、ヨーロッパ選手権を観戦。関係者席にいないことから、ファンとして見に行ったものだと思われる。勝生は会場入りする選手を行儀よく待って、ほかのファンとともにニキフォロフに声援を送り、満足の様子だった。観戦中はニキフォロフの演技に夢中になっており、勝生勇利はヴィクトル・ニキフォロフのファンなのだということを改めて我々に思い出させた』だって」 「見せて!」 勇利はヴィクトルの腕をぐいと引いた。読んでみると、確かにヴィクトルが言ったようなことが書いてあった。眼鏡とマスクという姿の勇利の写真もある。両手を握り合わせて、目をうるませているではないか。勇利はまっかになった。この顔! こんなにとろけきって……。世界じゅうに知れ渡ってしまった。 気恥ずかしさのあまりヴィクトルに抱きつくと、彼は笑いながら携帯電話を戻し、勇利を抱き直した。 「俺のファンとどんな交流したの?」 勇利はすぐに立ち直った。確かにきまりが悪い。けれどよいではないか。ヴィクトルなのだ。誰だってヴィクトルの試合は見たいだろう。勇利は当たり前のことをしただけなのである。何も恥じることはない。 「みんなヴィクトルかっこいいって。ヴィクトルに話しかけられたい、笑いかけられたいって言ってたよ。そうそう、勝生勇利とリンクでキスしたかしてないかっていう話があるんだって」 「勇利はなんて答えたんだ?」 「してたと思う、って。あと、うらやましいよねって」 「おまえはどうかしている」 「そうかな……」 ヴィクトルがくちびるを重ねた。勇利はふるっとふるえた。 「……それから?」 「ヴィクトルの『エロス』見て、みんな『抱いて!』って雰囲気だった」 「俺が抱くのは勇利だけだよ」 「ぼく、ヴィクトルかっこよか! って叫ぶの最高に気持ちよかった。ヴィクトルのファンサービスうれしかった」 「���段、勇利にはもっとサービスしてるだろう?」 「そういうのとはちがうんだよ……」 「わからない子だな……」 「それに……、」 勇利はつぶやいた。 「このところは会ってなかったから、ヴィクトルのぼくへのそういうサービスとも無縁だったし……」 ヴィクトルはもう一度優しく勇利にキスし、ほほえんだ。 「いましてるじゃないか……」 「じゃあ、もっとして」 「何をしてもらいたい?」 勇利はおとがいを上げると、のんびりと笑っているヴィクトルを熱心にみつめた。 「いまになって気がついたんだけどね、ぼく、一ヶ月とすこしあとには、あのヴィクトル・ニキフォロフと戦わなくちゃならないんだよ」 「その通りだね」 「ヴィクトルは強くて、品位が高く、絶対的な威厳にみちていた……」 「勇利は可憐で凛々しく、逆らえないうつくしさにみちているよ」 「ねえヴィクトル」 勇利はヴィクトルに顔を近づけた。 「どうすればヴィクトル・ニキフォロフに勝てると思う?」 「…………」 「ヴィクトルはぼくのコーチでしょ。勝てる方法を考えてよ。そして練習の項目一覧をつくり直してよ」 ヴィクトルはおもしろそうな目で勇利をしばらく眺めていたが、「ファン式の勝生勇利は完全に終わったようだね」とうなずいた。 「そうだよ。ヴィクトルが魔法をといたんじゃない」 「しかし、ベッドの中でする会話じゃないな」 「そんなの知らない。ヴィクトル、ぼくをヴィクトルに勝てるようにして!」 「まさに勝生勇利式だ……」 勇利はベッドから裸で飛び降りると、テーブルにのっていたノートとペンを取り、再びヴィクトルの隣へすべりこんだ。 「ぼくがいま朝からやってる練習をおさらいするね。いい? まず基礎練をして、コンパルソリーをして、パート練習をして、ジャンプをやって、走りに行って……、三日に一度はランスルーをして……」 勇利はそれから一時間ほど、ヴィクトルと稽古についてまじめに話しあった。ヴィクトルに注意されたこと、新しくする練習について、こまかくノートに書いておき、あとで見直して役立てることにする。作戦会議が終わるころには、勇利は大満足のていでにこにこしていた。 「ありがとうコーチ。ぼく勝てそうな気がしてきたよ」 「その前に四大陸選手権があるけどね」 「練習のききめをためすいい機会だね」 勇利は機嫌よくノートをまくらべに置いた。ヴィクトルは勇利の髪にくちびるを寄せ、しばらく黙っていた。 「……勇利」 「なに」 「こっそり俺の試合を観戦するのは楽しかったかい?」 「うん、すごく」 「不公平だな」 「何が?」 「俺は勇利の試合でそうすることができない」 勇利は笑った。 「ヴィクトルはいつもぼくのいちばんそばにいて見ていてくれなきゃいやだよ」 ヴィクトルの長い指が勇利の黒髪をかるく梳いた。 「……前もって言って欲しかった?」 「うん?」 「ぼくが会場にいるってわかってたほうがよかった?」 「…………」 ヴィクトルは目を伏せて優雅に微笑した。 「いや……」 「そう?」 「もちろん、勇利がいると思えばうれしいけどね。ただ……」 ヴィクトルのくちびるが勇利の耳元に寄る。 「いつも、勇利が見ていると思いながら演技をしているよ。だから、同じことさ……」 勇利はその甘美な声にぞくぞくした。ファンの勝生勇利では味わえない、ヴィクトルの特別な愛だった。ヴィクトルは皇帝ヴィクトル・ニキフォロフの魔法はといたかもしれないが、ヴィクトルだけの魔術的な誘惑で、勇利をこうしてとろとろにとろけさせるのである。 勇利は頬を上気させ、とりのぼせたようにヴィクトルを見た。ヴィクトルが笑って、「夕食にするかい?」と起き上がろうとした。勇利はヴ���クトルに抱きついた。 「勇利?」 「ファン式の勝生勇利は終わったの」 「ああ」 「生徒式の勝生勇利も終了だよ」 「うん?」 「ここからは……」 勇利は指先でヴィクトルのくちびるにふれ、世にも稀な清楚にみちたまなざしで彼をみつめた。若ざかりといった感じのしなやかな裸身が、ヴィクトルの身体にすり寄っていく。ヴィクトルが何かを耐えるような顔つきになった。 「勇利……、俺、試合を終えたばかりなんだけどね……」 「だめ……?」 勇利はけなげな表情で瞬き、慎ましやかにくちびるをふるわせた。 「いや……?」 ヴィクトルがまいったというように笑い出した。彼は勇利を抱きしめ、寄り添って楽しそうにささやいた。 「勇利……、本当におまえは俺を驚かせるな。こんなところへ現れたことも、そんなふうに『エロス』とはちがう方法で悩殺することも」 勇利は、四大陸選手権での再会をかたく約束してヴィクトルと別れた。たった二週間なのに永遠の別れのような気がして、勇利は泣いてしまった。ヴィクトルは優しくいつくしむように勇利の頬を撫で、愛情のこもった接吻を念入りにしてくれた。 帰国した勇利はまた時差にまいってしまって寝こみ、翌日、稽古を再開した。早朝、リンクへ行き、誰もいない氷の上に立つと、すがすがしい、さわやかな気持ちでいっぱいになった。しかし、ここにヴィクトルはいないのだ。あんなに一緒に練習したのに。ひとりにようやく慣れたというのに、チェコで彼に再会したことで、また勇利はさびしくなってしまった。 「ヴィクトル、さびしいよ!」 勇利はせつなさでいっぱいになり、リンクの中央で叫んだ。 「なんだって? それはいけない!」 そんな答えが反響し、勇利はこころの底からびっくりした。 なに? いまの……。 ヴィクトルの声……。 信じられない気持ちでおそるおそる振り返った。ヴィクトルが氷の上に立ってにこにこしていた。 「ヴィクトル……」 勇利の全身に、ぞくぞくっとした戦慄が走った。 「本物……?」 「驚かされっぱなしは性に合わないものでね。どう、びっくりしたかい?」 勇利の目に涙があふれた。勇利はものすごい勢いでヴィクトルのもとまで駆けつけ、彼に思い切り抱きついた。 「チェコで勇利に会ったときの俺の気持ちがわかった?」 勇利は泣きながらささやいた。 「いまのヴィクトル、何式?」 「勇利は何式でいてもらいたい? 皇帝式? コーチ式? それとも……」 「リンクではコーチ式でいてもらいたいけど、いまだけは我慢できないよ……!」 「オーケィ」 ヴィクトルはいつでも勇利を驚かせるし、いつだって勇利の望みをかなえてくれる、最高の男なのだ。
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遠近法の次は魚眼レンズ

24 年前に書いた文。じつは、北朝鮮から帰国当初に勢いで書いた文章。いま読むとこっぱずかしいが、記録なのでここに。 ------------------------------------------- 遠近法の次は魚眼レンズ ベルリンの壁も見た。すでにソ連ではゴルバチョフがグラスノスチを進めていたとはいえ、共産体制は崩壊せずそのままに軟着陸するかに思えた。よもや壁が崩壊するどころか、私の目の黒いうちは絶対に崩れまいと思った。ナチスという求心力を失い、豊かさの中に我を見失った西側。我を見失うまいと、強大なイデオロギーの壁の向こう側に自らを封じ込めた東側。壁をめぐらせるだけで、周囲との差異が際立って見える。壁を用いるのは、自我を保つ古典的な手段。ヒステリックに自由を叫ぶ壁の落書きは、だが壁の向こうがわで展開する狂信的な体制礼讃と、奇妙なシンメトリーを成していた。 むしろ、なじみある土地から浮遊させられ、自己を相対化されたおびただしい数の難民こそが、二十世紀の真の主役ではないか。 それは両ドイツを訪れた時に私を圧倒した���大な心象の、小さな結晶のひとつだった。私がそれを見たのは、十代最後のまぶしい夏のことであった。 帰国した日本も、そうとう不自然に歪んでいた。 樹木が巨木に育つには、何百年とかかる。どうやら、自分が植えた樹が大きくなるのを、己の目で見たい、と思ってはいけないものらしい。それは自分の死後、成し遂げられる。同様に、私たちの世代では完了し得ないことでも、5世代後に日の目を見るのかもしれない。未来を事前に知ることがかなわぬ以上、展開も見通しもないまま、じっと耐えるのも必要なキャリアであろう。 だが、日本では誰もが性急に答に、すぐ飛びつこうとしていた。 ワールドニュースが簡単に手に入り、すぐにも世界を知ったつもりになってしまう国。受け売りは受け売りを超えることが出来ないと言うのに、やたらと評論ばかりが多い国。言葉も所詮は道具にすぎないというのに、かっこいい言葉に捕われている国。 「自分の言葉で喋れ」 と言われてみたところで、今度は自分の言葉で喋ると称して、自分になじみある言葉でばかり解釈してしまい、本質を見失う。しかも、言葉さえ知っていれば他を批判するのは簡単だというのに、人は他を批判したがるばかりか、批判の対象も玉虫色の言葉の影に隠れ、自在に趣旨を変化させて逃げ切ろうとする。 それもビジネスの一つの手段だというならよいが、それはビジネスマンの口から聞ける言葉であって、評論家の賢い口から出てきても不毛なだけ。 しかし、地球はまだまだ広い。 就職してから3年ないし4年毎に、精神的危機が訪れるという。それは、それまでの教育制度のおかげで、入学と卒業という、天から与えられる転機のサイクルに慣らされてしまっているからではないか。結局、自分の問題意識すら、自力でつかめない私たち。私たちの行動が、所詮、この国独特の教育体制によって刻印された様式美でしかないなら、個性を尊重した教育なんて存在するわけがない。せいぜい、自分で新しい様式美を構築するぐらいか。 「次の問いに答えなさい」 という質問ばかり与えられているうちに、いつのまにか我々は、宇宙のすべてに答があると思い込むようになり、性急に答に飛びつくようになった。答が不明瞭に思える時は、いらいらするようになった。こうして、全てを形に起こさないと満足しない現代人ばかりが、社会を動かすようになった。 無形の、あいまいなものを嫌がるようにしつけられ、気づかぬうちに己の思考自身が既に様式美となったのが、私たち共通一次世代。選択肢が無ければ答えすら思いつかない。形が無くては満足に思考することすら不可能。形無くして生きて行けないのなら、せめて自分を規定している形がどんなかたち���しているのか把握しておきたい。 何故なら、自分が自分である必然性は、どこにもないから。 無論、自分に生まれてしまった以上、自分を生きるしかないのも事実。だが、その真の意味を解している人間が、どれほどいることだろう。 様式美の中では視界も限られてしまう。曖昧模糊に見える大衆の中、紛れ込んでしまった自己の小ささ。でも消費に励めば、高嶺の自己実現も手に届きそう。流行という多数派閥にうずもれる安心と、複製がたくさん出回るというのに商品化された自己実現による差異化への試み。この二律背反を無批判で享受する私たち。 自己実現にはげむのは、決して悪いことではない。いや、むしろぐうたらな私より数倍も崇高な行動だ。 しかし、曖昧模糊とした大衆の中では、確固たる尺度がないから、己の分を知ることが出来ない。しかも近代科学のおかげで、答えを性急に求めたがるようしつけられ、確固たる尺度もないままでいることに神経が耐えられない。尺度がないと不安に駆り立てられ、尺度がないのを良い事に、ある者は言葉をたくさん仕入れ、検証される心配のない仮想領域ばかり語る評論家になることで、台頭しようとする。ある者は真面目に人生と期待に真っ正面から取り組み、取り組んだものの、自分の達成を測ることが出来ないが故に際限もない自己実現を迫られ、疲れ果ててしまう。 きっと相手は疲れ果てているだろうと察するからこそ、私は黙してしまう。 達成への強迫にまで肥大化してしまった自己実現至上主義。これを打破するには、どうしたらよいのか。自己実現の自己表現への転化も、一つの方法には違いない。オタクどもが、まさにそうだ。 私にあるのは、インプリンティングされた枠組みであり文脈であり、それをどこまで異化して眺めることができるかという分析力であり、自己を相対化してでもその分析をいとわない意志であり、ためらっている場合ではないという状況認識であり、自己を束縛する枠組みと付き合うことを考えることである。 さらに私には理解の種を蒔く努力と、発芽するまで待つ忍耐が加わる。そして時として全てを、めんどうだ、と言って放り投げてしまう。ついつい答を求めてしまうからいけないのだ。 だが世界には答が立派に用意されている国家が、今もなお存在する。 世界には奇跡のような版図が、今もなお、たくさん存在している。 そして私には、イデオロギーが生んだ分断国家を、もうひとつ、見る機会に恵まれた。 15万人が入るというスタジアムに案内された。 東京ドームもはだしで逃げ出すスタジアムの一角には、これまた十メートル四方以上もある巨大な故金日成主席の肖像画が掲げられていた。その真下で、やっと見分けられるくらい小さく見える一人の男性が、一生懸命に両手で旗を振っていた。彼の旗の一振り��合図となり、5万人の学生が繰り広げるマスゲームが、そのパターンが、一斉に変化する。場内には金日成の息子、金正日将軍を高らかにたたえる歌が、巨大なスピーカー群も割れんばかりの大音量となって轟き、響き渡っていた。 初日に見たマスゲームには、子供のように目がくらんだ。15万人のどよめきは、関西大震災の地鳴りと、そっくりだった。それにもまして15万人の完璧な静寂は、身震いが止まらない無気味さだった。まさしく天変地異に等しいスペクタクル。壮大な無形文化財。 だが、三日目ともなると、人間を愚弄した演出の数々に、私達は憤りのあまり言葉もなかった。ただ、軍隊のようにデジタルな割り切りのはっきりした直線的で明解な動きだけでなく、波動を多用したアナログなたおやかな曲線美も演出するあたり、共産主義も90年代に入ったということなのだろうか、などと、かろうじて理性で考えることができた。それほどまでに、マスゲームは衝撃的で異質な演出であった。寒気がするほどすばらしい完成度だったが、一人でできる踊りは、一つもなかった。 演じるの中には幼い小学生の姿もあった。1万人の小学生たちが、一糸乱れぬ国家的シュプレヒコールを展開する。 あなたがいなければ私たちもなく あなたがいなければ古里もない 金・正・日! 金・正・日! 金・正・日! 万歳! 万歳! 万歳! そして死せる前主席、金日成を懐かしむ一万人の小学生たちが右手を挙げて敬礼し、一斉に、無気味なほどそろったタイミングで、一斉に号泣する。その声が、ただ、霞のように、飛蚊の雲の音のように、スタジアムを満たすばかり。しかも、泣きじゃくりながらも、彼らの手足はきっちりそろって行進しているのだ。 むごたらしいまでの完成度の高さ。 虚飾を排したデザイン。しかも巨大な建築ばかり。どれもこれも刑務所のような外観をした、偉大な建築の数々。鮮烈な配色を嫌うのはまだしも、そこ���全てが統制された殺風景。センスもダサい。広告は一切なく、その代わりこうこうと夜も電飾で輝く政治的プロパガンダの数々。半島は一つ。偉大なる指導者・金正日将軍、万歳! 偉大なる首領金日成主席、万歳! 栄光の朝鮮労働党、万歳! 我々は絶世の偉人、金日成主席の革命戦士だ! 我々は金日成主席の人間爆弾になろう! 金日成が死去してまだ一年たらず、その巨大な肖像画は国のあちこちで共和国人民たちを見まもる。 色あせた北朝鮮では、どんなラフな格好をしていても日本人は派手。そして人民たちは、根深いひとみしりによって、絶対に目をあわせようとは、しない。 だが、住んでみたいとは絶対に思わないにしろ、言われているほど、北朝鮮は異国でもなかった。 たとえ黙り込むにしても素朴な人々の反応。裏を読むことを全くしない、すなおな田舎の心理。恐らく最近まで、東京でもこうだったはずだ。私たちが子供のころの東京や京都。今の日本でも、外国人に対して慣れていなくて構えてしまう人々はたくさんいるだろう。意外にも両国は共通項が多い。 かつてタイでみかけたのは、はにかむ上目遣いの視線だった。水気を含んでしっとりとした空気もあいまって、それはとても東洋的なセクシーさをたたえていた。北朝鮮は少し違い、乾き切った大陸の荒野そのままに、表情も荒涼としていた。それは紛れも無く偏狭で過敏な郷土愛に満ちた、ひとみしりの視線。彼らは無口でぶっきらぼうだが、物心つく前に離ればなれになって忘れ去られたままの兄弟に出会った気になったのも事実。それは帰国子女の私が、それだけ、ひとみしりする日本人に肉迫して来たと言う、個人的に感慨深い事実でもあったのだが。 しかし偏狭で繊細な郷土愛は、時に凶暴な警戒心にも転化しうる。監視され尾行され警告まで受けるのは、何度経験しても、みぞおちが堅くしめつけられる。旅を終え帰国してきた直後、我々は自由世界に帰還できたという気のゆるみから、名古屋市内の道端にへたばってしまった。ツアー・バッジを外した時の解放感は、仕事から帰宅してネクタイをはずしスーツから私服に着替えたときの気分にもまさるというのが、自分でも笑えた。 今回は、たまたま無事に帰ってこれた。だが次回、同じことをしたら、果たして帰って来れるかは未知数。最後には帰ってこれても、彼らが我々を交流することなく観光旅行を続けさせてくれるかは、未知数。生命の危険と言うだけでなく、たとえ彼らが言うところの「帝国主義陣営」の抗議により釈放してくれたとしても、そもそも釈放されなければならない事態に陥ること自体、一観光客にとってどれほどシビアな状況か。シンガポールでは、フィリピン人のメイドが故国とは違う法律によって処刑された。北朝鮮刑法でのスパイ罪は、最低7年の強制労働と修正教化である。修正教化! 皇民化教育の再来、いや仕返しか、パロディか。あとで無事帰国できたとしても、あまりに大きな代償。今を思えば朝8時にホテルを出発し、夜10時以降にホテルに帰ると言うハード・スケジュールも、早朝から夜間に至るまで我々を管理しておきたいという意図があってのことではないか。単独行動を起こす時間を、極限まで無くしてしまいたいという狙いではないのか。郷土愛は、時に凶暴な警戒心に転化する。 それにしても彼らがお膳立てしてくれたコースは、往々にして哀しくさせた。古都、開城(ケソン)の遺跡展示がつまらなかったのは、単に展示が貧相であったというだけではない。安らかに眠るはずの遺跡をたたき起こし、今なお血気盛んな共産主義の偉大な歴史背景として演出する意図に満ちているからだ。封建支配に叛旗をひるがえす農民一揆の展示に力を注ぐあたり、どこまで思想は皮肉なものなのか。抗日英雄たちの霊廟も同様、抗日戦争は素直に受け止めるにせよ、それが個人崇拝に至るなら、興ざめである。 忘れた兄弟にめぐりあえた気分にしてくれる、偏狭で繊細な郷土愛のまなざし。だがそれは、時に相手が自分よりすぐれているか劣っているかでしか判断しない。 ただ、帰国したその時、かすかだが確固たる疎外感を感じたのも事実。何を体験したか、そのシビアさは実際に行った人間でないと分からない、というだけではない。 警告するにしても目をそらすにしても、彼らは我々が眼前にいることを、はっきり認めていた。帰国直後、名古屋の道端でへたばっていた我々を見ようともしない日本人の群れの中、我々は背景の景色の一部品でしかなかった。せいぜい、その他大勢。曖昧模糊とした大衆。 私たちは、監視され VIP 待遇まがいの特別警戒を食らうことに、あまりにも慣れてしまって、人から視線を浴びない事には自我を保てなくなってしまったのだろうか。寂しいような、しかしこれが、あるべき姿でもあるという実感なのか。 そして全体主義が海をはさんで隣接しているのも意識せず、眼前に我々が存在している実感も認めさせてくれぬまま、日本はどこへ行こうとしているのか? 尾行される緊張にみなぎった行動と、背後に広がるプロパガンダ。 出発前の私は正直言って興味本位だった。地球最後のワンダーランド。目の前に、現実に展開するスペクタクル。国家権力の壮大なパロディ。北朝鮮が半世紀も続いたのは驚異だが、大日本帝国とて四分の三世紀も続いたことを考えると、それは歴史の隙間としてあり得る数字なのかも知れない。哀しいのは、それがちょうど1世代まるごと飲み込む時間であること、その中で生まれ死する世代がいるということ、他を知らずに。 しかし大日本帝国には、大正デモクラシーというリベラルな一コマもあった。極端な管理社会は極端な自由放任同様、絶対に長続きし得ない。それは判断を放棄した社会であり、そもそも純粋な体制などあり得ない。北朝鮮は国家のパロディとしか思えなかった。 だが、それは北朝鮮を理解する入口でしかなかった。決して悪くない入口ではあったが、いつまでもそこにとどまることは、できなかった。 めくるめく圧政の中、極めてまじめに生きる素朴な人たちがいたからである。 姿勢正しい人々の、礼儀正しく、まっすぐな視線。なにごともけじめを大切にする礼節厚い人々。「一人の一生で終わる生物学的生命より、世代を越えて伝わる政治的生命に自己を捧げる」などと心底ほこらしげに語って聞かせる人々。暖衣飽食の人生よりも、歴史に名を残すことを重んじる気高い人々。曇りなき自己の純粋さを尊ぶ人々。管理することで初めて得られる安心。 恐らくは儒教精神に根ざしているであろう、それら感覚や価値観は、だが日本人にとっても少なからず馴染みあるはずであり、時に基本的なしつけだったりもする。欧米にもマスゲームはあり、軍隊式マーチングバンドが盛んであり、何よりも軍では自己犠牲が叩き込まれる。集合美、組織美は、東洋の特権ではない。そして管理は生活の保障を生む手段であり、それ自体は善し悪しではない。手段の一つに過ぎないはずの管理という言葉が日本では嫌がられるのは、非本質的な管理が多いからだ。 根底の発想はまるで異質に思えても、その上に立脚し構築し見せてくれる演出は、実に念入り。一挙手一投足にいたるまでが、彼らの高い理想と純粋な使命感に裏打ちされている。そして機械に頼らず生身の人間を大量に現場へ投入する人海戦術。この彼らの誇る究極のテクノロジーを駆使することで、むごたらしいまでに高い完成度をめざす。しかし、身の毛もよだつほどむごい向上心と全体主義が、じつは日本の高度成長期の滅私奉公会社人間と比べ、いかほどの違いがあるのだろう。街中をひるがえるイデオロギッシュなプロパガンダと、日本の吊り広告の中で物質文明の享楽に溺れる決まり文句の洪水と、いかほどの違いがあるのだろう。北朝鮮と日本とは、同じものの両極にいるに過ぎない。 マスゲームに参加した学生たちが退場するとき軒並み号泣するのは、演出によるものとはいえ、あながちこの社会で育った者なら、涙腺が金日成に感じるようにできているのかもしれない。 小学生たちは罪ない声で指導者たちを賛美しながら、一生懸命に踊りを踊ってくれる。褒めてあげれば、ほんとうに嬉しそうな顔をする。完全無欠の表情をつくってくれる優等生もいれば、本心から恥ずかしそうに嬉しい顔をする正直な子もいる。この年代なら、誰だって認められたいものだ。ネタがネタだっただけで、大人が嬉しがることを素直に実践する彼らに、罪も曇りもなかった。私たち観光客に授業参観させてくれたばかりか、雨をもろともせずに濡れながら純真に手を振って観光バスを追いかけて見送ってくれた小学校の子供たちの笑顔に、なんの罪も曇りもなかった。 その笑顔がこころを刺して痛かった。思わず泣けてきた。 それは私がなし得た、数少ない共感であった。彼らと私との、ダークだがれっきとした他者理解の成功例であった。北朝鮮と日本は、同じものの両極にいるのだ。 だがそれはダークだった。何も外の世界を知らず一生をまっとうできれば幸せという意見もあったが、それは、自分の価値観と使命感とを一点の曇りもなく疑わず猛烈に働きつづけ過労死するサラリーマンの一生を幸せというのと、同じかもしれない。そもそも、人民はそこまで意識できるよう教育されているのか。純粋な気持ちで子供たちが歌うのは、大政翼賛の歌。降りしきる雨に濡れながら私たちの観光バスを追いかけてくれた子供たちの背後には、校長先生だという太った中年女性が、部下に雨傘をささげさせ、かっぷくある手ぶら姿で微笑んでいた。北朝鮮では、すべてがパロディには違いなかった。しかしそれは、私たちの日常を実感として再検討させてくれる、極めてシリアスで重いパロディでもあった。 その明快さから、とかく遠近法こそが真実に忠実な画法とされがちだが、注意深ければ、視野は自分の眼を中心とする球面上に展開していることが分かるはず。だが、球面上に広がる視野を平坦な紙の上に転写すれば、それは見なれない像を結ぶ。 象徴的なまでに、すべてが単一の消失点へ収束する遠近法の技法、一点投射法。極めて単純明快、かつ熟練すれば複雑で柔らかな像を描くこともできる。だが、どこまで卓越しつづけても、遠近法は魚眼レンズのように発想の転換を迫ることはない。この国の数々の偉大なる建築を可能にせしめた一点投射法、その中心には、つねに金さん親子が燦然と輝いていたのだろう。だが、中米の先住民は世界最大のピラミッドを石で建設したが、ついぞ車輪を思いつかなかった。 人が意外な忘れものをしがちな存在なら、私たちもまた。 理解は、だがそこまでだった。桁外れの人みしりの向こうは熱烈な郷土愛で満ちていて、いったん心が融けると猛烈な勢いでお国自慢が始まる。出生にコンプレックスを持った田舎者が急に自信を持ち出したような、お国自慢。程度の問題かも知れないが、さすがに、かくも自尊心高く排他的な感情の奔流に、私はついていけなかった。吐露させることが理解への遠くて近い道と分かっていても、それは一方的に行われるコミュニケーションにさらされる苦痛であり、さらに偏狭な感覚から解放されたいという欲求との戦い。 アイデンティティーの名の下に、許されてしまっている我がままなヘゲモニー。南朝鮮との違いにヒステリックなまでにこだわる北韓。そんなに声を高くしないでも、北朝鮮は充分にユニークな国。共産主義(彼らは独自性を出そうとし金日成主義と呼ぶが)国家という名の儒教国家なんて、いまどきここにしかない。だのに自他の違いを徹底的に強調した舌の根も乾かぬうちに、今度は同じ民族だ、自主統一に向けて南北は一致団結しようと言い出す矛盾。 自他の差異は、じつはささやかなものでしかなく、ただそのわずかな差異すら人間には満足に乗り越えて相互理解できないばかりか、たとえ相互理解できる状況であっても、わずかな差異がありさえすれば、それは人間にとってこだわりがいのあるある差異なのか。それは、なじみある分析の筈だったか文化相対論を突き詰めたとき、今までに出会ったどの普遍論よりも広大な海原が姿を表わしたという点で、再発見に等しかった。 相対論は小気味良い思考道具であり、普遍論は桁外れに大きい。 彼らに国を憂うことが許されているのだろうか? それを私が憂うことは、主体を重んじる人々にとって、おせっかいな内政干渉になるのか? EU のように誰もが国境を自由に横断できるようになれば、なにもいま統一を急ぐこともないのか? だが、日本人である私が、他国の行く末を口にして良いのだろうか? 派遣に留まらない働きを発揮して下さった現地人ガイドさんには、是非とも訪日いただき、きれいなところもきたないところも、ぜんぶ案内してさしあげたい。何のトラブルもなく行き来できる日が、ほんとうに早く来てほしい。 しかし、ひとみしりは危険な警戒意識をも生み出す。たびたび尾行され、一時はフィルムまで没収された前科者の我々は、果たして再入国させてもらえるのだろうか。あるいは無事帰国させてもらえるのだろうか。その答は風の中。 '95年5月

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MAGAZINE - 2019.10.30
それぞれの全感覚祭 Photo by Katsuhide Morimoto
今年の全感覚祭は様々なドラマを作ったと思います、そこで以下のライターのみなさまに協力いただいきそれぞれの全感覚祭を綴っていただきました。
ご協力いただいたのは以下の方々です、ありがとうございました。
石井恵梨子さん、大石始さん、渡辺裕也さん、田中亮太さん、金子厚武さん
まずはマヒトゥー・ザ・ピーポーのこの文章を読んでみてください。 http://s-scrap.com/3425
前日はひたすら台風の動きを見守っていた。国民の代表者は顔を出すことも何かを語りかけることもなく、ただ「命を守る行動を」とNHKアナの連呼だけが続いた夜。なんとなく共同体に守られている、いざとなったら国が守ってくれる、そんな幻を信じられた時代はとうに消滅していることを思い知る。濁流が溢れ出す光景。無力すぎて泣きたくなる。誰もがこうやって見捨てられ、自己責任のシュプレヒコールの中、無力に死ぬだけなんだろうか。
理想よりも人命を優先して中止になった全感覚祭19 TOKYO。代わりに急遽決まった13日夜の渋谷サーキット「Human Rebellion」は、大袈裟ではなく、最後の希望のように感じられた。ボンヤリした何かに守られるんじゃない。自分から守りにいかなきゃいけない。本当に自由な音楽の鳴る場所を。
渋谷Duoに着いたのは10:30。まだ客足も少なくIDチェックもスムーズに終了。先にやっていたライヴが撤収したばかりで、まだ何も始まっていない時間帯だ。ぼんやりしていたら目の前に一台のバンが到着し、運転席からはノーベンバーズのマネージャーが。あれ石井さん何やってんの。いや暇だから搬入手伝いますよ。かくして即席スタッフとなる私。エントランスフリーの投げ銭制とは、こんなにも気持ちの滞りをなくすものなのか。演者/スタッフ/ゲスト/一般客という線引きがないから、本当に自分が大事にしたいもの、今やるべきことがスッと見えてくる。普段ライターとしてパスを受け取っている立場に、なぜか少しの羞恥を覚えた。そんなものじゃない、私が欲しいのは音楽だったと改めて気づかされる。そうなれば迷わず財布を開く。いや、先に開いているのは心なんだろう。全感か君もそれなりにかわいく見えてきた。
11時、クアトロ周辺はすでに長蛇の列だ。さながら渋谷に突然現れた巨大ヘビのように、それは秒単位で尻尾を伸ばし続けていた。ラグビー観戦後の酔っぱらいが次々と声をかけてくる。「これ、なんの列?」「今から何があるんですか?」。そんなに知られてないし言ってもわかんない、たぶんあなたたちは全然興味ない世界。だけどDIYで急遽行われることになった奇跡みたいなサーキットだよ。勢い込んでぶちまけたい気持ちをぐっと押さえ、一言「音楽イベントです」と答えておく。そうそうGEZANってバンドの、みたいな補足の声は上がらない。みんな素知らぬ顔のままだ。内緒にしときましょう、という暗号のようでもある。だってこれは彼らの声明をキャッチした人たちだけの祭でしょう? くつくつ笑い出したくなるような黙秘の快感を、渋谷の繁華街の真ん中で、私たちは確かに共有していたと思う。
11:25にクアトロ内へ。大量の客が相変わらず無言のまま5階フロアに吸い込まれていく。そして、突然に開花するみんなの笑顔。フロアでそれぞれがビールを飲み、知り合いを見つけてはしゃぎ、ゆらゆらと身体を揺らしている。なんだよ、みんな騒ぎたくて仕方なかったのか。ずっと我慢して黙秘を続けてたのか。台風直撃のニュースを知ってからほぼ一週間。ようやく全感覚祭が始まる。長かった。いよいよだ。無言のテレパシーみたいに飛び交う気持ちが膨らんでパンパンになった瞬間、爆音のSEとともにメンバーが登場した。そのときの歓声の凄まじさ、神懸ったような爆発力を、私は一生忘れないと思う。
「俺はメディアとかメジャーって枠に期待してないし、それよりは個人の力のほうを信じてる」。
かつてマヒトが語ってくれた言葉だ。狭いオルタナの世界で大きなうねりは生まれにくい。DIYはいいけれど、広めるという点ではどうなのか。そんな問いに対する彼の見解だった。正直、普段関わっている商業誌/音楽メディアを全否定された気分だったけれど、じゃあ自分はGEZANと別の世界で生きていくのかと自問するきっかけにもなった。答えはNOだ。属性は何でもよくて、私は今日、ただの個人としてここに来た(この文章を書くことも当初はまったく予定になかった)。みんなそうだろう。自分の意思で渋谷に集まり、それぞれの判断でカネを払い、それぞれのハコに散らばっている。問われているのは「どこに属すか」ではなく、「その選択をした自分を誇れるかどうか」だ。チケット代という設定すら取り払うことで見えてくるもの。選択することで顕になってくる己の輪郭や思想。湧き上がってくるエネルギーの清々しさに自分でも驚く。やっとわかった。これが彼の信じてきたものだったのか。
ライブの詳細やMC内容を逐一書くつもりはない。ただ、GEZAN一発目の始まりが「DNA」だったことは、この全感覚祭「Human Rebellion」の空気を完璧なまでに象徴していた。そのことだけを記しておこう。クソな真実をかき消すファズの眩しさ。マヒトは人差し指で遠くを指すような仕草を何度も繰り返してみせる。もっと遠くへ、誰より高く、イメージひとつで飛んでいこうと誘うように。それは理想論者の夢ではない、リアルな実感を伴う光景だった。どん詰まりの資本主義の裏側、機能不全な民主主義の果て、革命ごっこも終わったロックシーンの極北で、もう、新しい価値観は動き出している。 石井恵梨子
渋谷の路上に群衆が溢れかえる光景を見て、僕は日本各地で目の当たりにしてきた祭りのそれを連想した。祭りとは五穀豊穣の祈願などさまざまな目的を持つが、担い手の魂を活性化し、生命力をチャージするためのものという一面も持つ。その意味では、全感覚祭とは祭りそのものでもあった。入場料は投げ銭、しかもフリーフード。音楽イヴェントとしては前代未聞だろうが、祭りや神事と考えれば決して珍しいことではない。投げ銭とは祭り���おける花代であって、投げ銭ボックスにガンガン札を入れていた彼や彼女は、イヴェントの観覧者という立場を超えて祭りの担い手だったともいえる。
僕が運良く観ることができたのは、切腹ピストルズ、Tohji、KID FRESINO、BLACKSMOKERS、やっほー、折坂悠太、そしてGEZANの2ステージ(林以樂はタッチの差で見逃した)。ただし、どのステージで何を観たかということは大きな問題ではないだろう。あの夜の渋谷にいたこと、あるいはGEZANとその仲間たちが発信し続けたメッセージを受信したこと。それこそが重要だったはずだ。会場に入ることができなかった方々も、全感覚祭という極めて特殊な「祭り」を体験した当事者である。
ひとつのコミュニティーやネットワークが何かに飲み込まれることなく、独立してそこに存在し、なおかつその存在を主張すること――それは社会に対する異議申し立てにもなりうる。そのことをいささか混乱したかたちで証明したのがこの日の全感覚祭だったはずだ。あの夜を体験してしまったからには、もはや傍観者ではいられない。この時代を生き抜くため、僕らは何をしていけばいいのだろう? 大石始
下水から追われたネズミがセンター街を元気に駆け回っている様子をツイッターで確認し、戦々恐々としながら夜の渋谷に着くと、そこに溢れかえっていたのは、とにかく人、人、人。台風の襲来によって室内待機や避難を余儀なくされ、誰もが不安に苛まれた1日を経て、人々はその鬱憤を晴らすように外へ飛び出してきた。そんないつも以上に騒がしい渋谷で、全感覚祭は開催された。 開催中止から、まさかの緊急開催へ。キッズの落胆は一気に歓喜へと変わり、その興奮は渋谷全感覚祭というイベントに、尋常ではない熱気とカオスを生み出していく。そしてこの状況に触発されたのが、他ならぬ演者たちだった。もしかすると、出演した全バンド/アーティストが過去最高のライヴをこの1日で更新してしまったんじゃないか。それくらいにどの演者も凄まじかった。いま自分はとんでもない瞬間に立ち会っているーーそう思えるようなライヴしかなかった。大げさに聞こえるかもしれないが、本当にそうだったのだ。イベントに対するオーディエンスの期待値の高さと、そこから放たれる熱気によって、アーティストのパフォーマンスはこんなにも変わるのだ。 フード・フリーの会場には行けなかったものの、ラママでカレーをいただくことができたのだが、あれもまた貴重な体験だった。店員さんはこちらにカレーを差し出してくるだけで、投げ銭すら求めてこないのだが、こうした催しで食事をタダで提供されたときの背徳感は想像以上に大きかった(ので支払った)。それにしても、カレー、めちゃくちゃ美味かったです。
最後は絶対に3度目のGEZANで締め括りたかったが、WWW Xはすでに入場規制。あえなくここで俺の全感覚祭は終了…かと思いきや、おなじく入場しそびれた友人数名とたまたま遭遇。まだ遊び足らないよねってことで、そのままコンビニ前で酒盛りがスタート。「今日のミツメ、ちょっと凄くなかった?! XTCみたいだったよね!」「入場規制で結局GEZANいっかいも観れなかったわ…」「あいつ、渋谷に来たけど入れなかったらしいよ。まだそのへんで飲んでるって」「てか、台風ハンパなかったよね」「このまま『ジョーカー』観に行こうかな~」。そんな感じで宴は朝までグダグダとつづき、いよいよ雨が降り出したところでお開き。間違いなく、全感覚祭は渋谷の街すべてを飲み込んでいた。
渡辺裕也
2019年の〈全感覚祭・東京編〉で、僕がもっとも観なければいけないと思っていたのは、THE GUAYSだった。はじめに言っておくと、僕は彼らと特に親しいわけではない(キャプテン以外からは認知もされていないはずだ)。ライヴを観た回数も片手で数えられるくらいだし、バンドについてはファンとさえ言えない程度の知識しか持っていない。
そんな僕が、なぜ今回THE GUAYSだけは観ておくべきだと考えたかというと、どのバンドよりも彼らこそがこの〈全感覚祭〉という大きな渦の中心で、その混沌としたエネルギーと対峙している存在だと思ったからだ。もちろん、看板を掲げているのはマヒトやGEZANだろう。だが、十三月のSNSに投稿された準備風景や、THE GUAYS自身の動きを目にするかぎり、彼らがこの祭りにおいて、紛れもなく中枢でもあり、最大の貢献者であることもひとつ事実なのだと思えた。
にも関わらず、メンバーのヒロシの健康上の理由により、大阪開催の〈全感覚祭〉でTHE GUAYSが出演できなかったことはショックだった。いるべきときにいるべき人がいない。そうした役回りをこのバンドが背負うことに、ヒロイズムを投影��ることは許されなかった。
頑なに悲劇の主人公たることを拒絶する態度は、〈全感覚祭〉も同様だった。台風による中止の決定からありえないスピードでの、渋谷での深夜開催。大阪での出演キャンセルを経て、ようやく復活をはたす今回のTHE GUAYSもまた、十三月チームの〈決して倒されない〉という姿勢の、小さな象徴でもあるように思えた。
THE GUAYS前に出演していたのはLEARNERS。予想通りLa.mamaのキャパでは収まりきらず、会場には入場制限がかかっていた。入場待ちに並ぶと、入り口を挟んだ向かい側には、マークシティのあたりまで、参加受付(=IDチェック)を待つ長い列ができている。24時半頃だっただろうか、新規の受付が終了したことがアナウンスされた。〈え〜!〉と悲鳴があがるなか、パラパラと人が散っていく。そのなかに近付いてくる人がいると思ったら、ライターの金子厚武だった。彼は残念そうな顔をして渋谷の街に消えていった。
さて、LEARNERSが終わると、ぞろぞろと人が退場し、無事にLa.mamaに入ることができた。他会場ではすでになくなっていた、赤色の〈全感覚祭〉ソックスの在庫があったので嬉しい。家族からゲットしてこいと頼まれていたのだった。
小さなライヴハウスのなかには、ほかの小さなライヴハウスでよく見かける顔がやけに多い。〈全感覚祭〉という常軌を逸したとさえ言えそうなハレの場で、わざわざいつもと同じよう場所で、いつもの面々で、いつも観ているバンドを観なくても……とも思ったが、自分と同様に、みんなも、の日のTHE GUAYSを目撃しておきかったのだろう。
そうした、いわばホーム的な空間で、THE GUAYSはほぼ定刻通りに演奏をスタートした。そのライヴは……思っていたよりも普通だった。だけど、それがとても良かった。4人のパンクスがステージに立ち、懸命に楽器を鳴らし、歌を叫ぶ。そして、オーディエンスは手を振り上げたり、笑ったりする。いつものライヴハウスの風景だ。もちろんヒロシやキャプテンのMCは感動的だったが、なんのへんてつもないTHE GUAYSのライヴだったことが、なにより素晴らしかった。カリスマでもない天才でもない僕たちと、いつもの場所。エクストリームさが取り沙汰されることの多い〈全感覚祭〉において、その中心にTHE GUAYSがいることは、すごく重要なことなのかもしれない。そこは、帰れる場所でもあり、何かをはじめる場所でもあるのだ。
田中亮太
〈RAWLIFE〉にしろ〈東京BOREDOM〉にしろ、〈未整理なオルタナティヴが一番面白い〉と思う自分にとって、今年の〈全感覚祭〉は非常に魅力的なラインナップでした。会場と日時が急きょ変更となり、OKAMOTO’SやPeople In The Boxをはじめとした一部のアーティストが出演できなくなったことは残念でしたが、それでも千葉会場の中止決定から迅速にこの日の開催に向けて動いたアーティスト、ライブハウス、スタッフへのリスペクトもあって、〈見たい〉というより〈体感したい〉という想いは余計強��っていました。
ただ一つ問題があって、僕はこの日自分のバンドのライブがあり、IDチェック・入場受付がスタートする22:00はもちろん、トップバッターを飾る23:30のGEZANにも間に合わないであろうことが確実だったのです。ただ、GEZANはこの日複数回出演するから、どれかを見れればよいかと思い、まずは自分も〈全感覚祭〉の出演者の一人であるかのような気分でライブをし、軽く打ち上げをして、一旦家に帰って楽器を置き、〈0:00からのカネコアヤノには間に合うかも?〉くらいの感じで、まずはメイン会場のO-EAST/DUOへと向かったのでした。 渋谷に到着し、そこで待っていた現実はみなさんご存知の通り、O-EAST/DUOの周りをグルッと取り巻く長蛇の列。渋谷に向かう電車の中で、〈ノベンバと原田郁子さん、折坂くんと踊ってばかりの国のどっち見るかで悩む〉なんて呑気をツイートをしてたのですが、他の人のツイートはあんまり見てなかったので、状況が全然把握できてなかったのです。それもあって、この時点ではまだ〈マズイ!〉とも思わずに、むしろ〈すごいことになってる!興奮してきたな〉というサンドウィッチマンのような気持ちになり、〈みんな音楽好きじゃーん!〉という嬉しい気持ちの方が勝っていました。
で、今にして思えば、ここでもうちょっと焦って、〈受付会場の中で一番規模の小さいラママなら、スムーズに受付できるかも〉と機転が利けばよかったのですが、自分のライブの打ち上げですでに軽く酔っ払い、浮かれていた自分がそんな判断をできるわけもなく、なんとなく〈とりあえずクアトロ行ってみるか〉と思うも、やっぱり待っていたのは長蛇の列。〈WWWX行ってみるか〉と思うも、もちろん長蛇の列。ここで初めて〈あ、これやばいんじゃね?〉と思い、やっと〈ラママが一番列短いんじゃね?〉と気づいたのですが、それでもまだまだ鈍感力を発揮し、〈これもう2:20からのDischarming Manが見れればそれでいい!〉とか思いながらラママに向かった自分は幸せなやつでした。
案の定、ラママも受付待ちの人が並んでいましたが、他の3会場に比べれば中蛇の列くらいで、〈よし、ここに並べばとりあえず受付はできそう〉と思ったものの、少し並んでいると周りから、〈他の会場は受付自体終了したっぽい〉との声が。ようやく事の重大さに気づき、〈えー!〉と思ったのですが、冷静に考えれば、キャパが無限なわけあるまいし、受付の時点で入場規制がかかっちゃうことも十分あり得たわけで。〈ガーン〉と思いながらも、ラママの受付枠が残っていることに一縷の望みを託し、さらに待つこと5~10分……結局願いは叶うことなく、〈受付終了です〉との声が聞こえ、ここで僕の〈全感覚祭〉は事実上の終了となりました。
印象的だったのは、〈何だよそれ!もっと早く言えよ!〉みたいなブーイングがほぼなくて、〈だよねー〉みたいな感じだったり、〈もう終電ないからオール確定じゃん!〉と笑いながら話しているような人が多かったこと。もちろん、���にはライブが見れなくてめちゃくちゃ悔しかった人もいたと思うけど、みんな〈全感覚祭〉の心意気に共鳴して、ライブハウスに入り切れないくらい多くの人が集まったことに、むしろパワーをもらってるように感じられたし、もともとそういうパワーを持ってる人たちが引き寄せ合って、この場に集まったってことかもなと思ったりもしました。というわけで、ライブはひとつも見れなかったけど、〈見たい〉というより〈体感したい〉という当初の目標はバッチリ果たしたので、ラーメンを全感覚で味わって帰宅。次はちゃんとライブ見たいけど! 金子厚武
数年に一度、音楽シーンがあるひとつのイベントをきっかけに大きく動くことがある。シーンが動くというよりも新しい流れが認識されるといった方がいいだろうか。その日をきっかけにあるサウンドやシーンが閾値とでもいうべきものを超え、そのジャンルやシーンが広く知られる分岐点、その日を境に一気に広がり始め明確にシーンが浸透していくようなイベントである。1979年の新宿ロフトの東京ロッカーズ、1996年のRAIBOW 2000、1998年のAIR JAM、2004年もしくは2005年のRAWLIFEなどなど、ある程度の年齢の音楽ファンであれば心当たりがあるのではないだろうか?
2019年の全感覚祭は4月の開催決定の報とともに、フードフリーのステイトメントがでた瞬間から特別なものになる予感が漂っていた。去年大阪堺にて2日間開催された全感覚祭2018の異様な熱気や、この企画の中心にいるGEZANのアルバムのリリースからドキュメンタリー映画の公開、Fuji Rock 2019のホワイト・ステージのライブの流れはすべて全感覚祭に向けて進んでいるように思えていたからだ。9月に堺で開催された全感覚祭は本当にいい雰囲気だった。このイベントはもちろん音楽が中心にあるのだけど、今年のフードフリーの効果は絶大だったと思う。ラインナップを見てもらえばわかると思うが、かなりエッジのたったアクトが一日中演奏している。去年もこのイベント独特のラインナップで時折フロアのテンションが上がり、全体にちょっとした緊張感��広がる瞬間があった。しかし今年はあちこちで振舞われる食べ物の掛け声が転換中に響き、みんなが食べ物を手にとって食べ始めると不思議に和んだ空気が流れていて、これまでに感じたことのないやわらかな雰囲気だった。
今年の全感覚祭はひとつの分岐点だったと思う。しかしそれは冒頭に挙げたような音楽的な新しさを打ち出すという意味ではなく、今の時代に対して力強くプロテストの声をあげるのとも違い、自分たちのアイデアに素直に従った結果だったと思う。いまの政治に対して意見を言うことではなく、見に来てくれた人たちに食事を振る舞うことが、なによりも参加した人たちに現実を考えさせたのではないだろうか。フードフリーに協力してくれる生産者や調理してくれる人たちとのやりとりを細かくSNSにアップすることで、これまでアクセスすることのなかった音楽と農業がリアルに近づいて、それぞれの存在をお互いが知ってゆく。その流れを見て、現場で食事をした音楽ファンはどんなアジテーションよりも何かを考えはじめたと思う。
そしていよいよ東京!と、僕らキリキリヴィラ・チームも芋煮のための準備をしていたところ、10月12日の東京は台風の直撃で中止となってしまった。それでもただでは転ばないのが十三月のチーム。13日の深夜、渋谷のライブ会場を複数押さえオールナイトで全感覚祭『Human Rebelion』としての開催となった。どの会場も入場規制ということもあり僕自身も4つのライブしか見れず多くは語れないのだが、これまで一緒に全感覚祭を支えてきたHave a Nice Day!や踊ってばかりの国の出演は全感覚祭のストーリーとして最高だった。なによりも、この夜の渋谷が十三月の夏の風物詩『セミファイナル・ジャンキー』の拡大版だったのはさすがと言うほかない。
与田太郎
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安倍の虚言は今年もアクセル全開! 2018年、安倍首相がついた真っ赤な嘘とインチキを総まくり
litera (前編) https://lite-ra.com/2018/12/post-4455.html litera (後編) https://lite-ra.com/2018/12/post-4456.html 今年も、リテラ年末恒例・安倍首相による「大嘘」振り返り企画をお届けする季節がやってきた。毎年毎年カウントしきれないほどの嘘をつきつづける総理だが、2018年も虚言のアクセルは全開。今年も数々の疑惑をめぐる嘘はもちろん、あらゆる失政や失態について、あったことをなかったことに、なかったことをあったことに。誰の目にも明らかな嘘を平然と、まさに息をするように嘘をつきまくった安倍首相。 そのため、今年は昨年よりも5本多い、よりぬきの15の嘘を振り返りたい。胃もたれ必至の嘘つき発言、まずは前編の8本をお届けしよう! ◎大嘘その1 「決して日本が蚊帳の外に置かれていることはありません」 4月29日付、産経新聞独占インタビュー 北朝鮮の脅威を「国難」と呼び、Jアラートを鳴らしまくって国民に恐怖を植え付け、文在寅大統領と金正恩委員長の南北首脳会談実現が決定しても「圧力を最大限に高める」と吠えつづけた安倍首相。だが、「最大限の圧力」を国会で叫んだ数日後には“親愛なる”トランプ大統領も金委員長と首脳会談を開く意向を表明、平和的解決への流れが決定的に。つまり、日本だけがこの動きを知らず圧力をがなり立てていたという「蚊帳の外」だったことが判明して飛んだ赤っ恥をかいたのだが、安倍首相は御用メディアの産経で「蚊帳の外じゃない!」「日本が国際社会をリードしてきた成果」と主張。しかし、この「蚊帳の外」状態は、いまだに日朝首脳会談の道筋さえつけられていないことからもあきらか。にもかかわらず、ついには次のようなことまで言い出したのだ。 ◎大嘘その2 「あの、拉致問題を解決��きるのは安倍政権だけだと私が言ったことは、ございません」 9月14日、日本記者クラブでの総裁選討論会 思わず耳を疑った。総裁選討論会で御用メディアである読売新聞の橋本五郎特別編集委員に「安倍晋三政権は一貫して拉致問題を解決できるのは安倍政権だけだと言われていた」「現状はどうなっているのか、見通しはあるのか」と問われた際の、安倍首相の返答だ。 安倍首相といえば、これまで一時帰国した拉致被害者5人を“帰さなかったのは自分だ”という嘘を筆頭に、対拉致問題で数々のニセの武勇伝や逸話をでっち上げ、「拉致被害者を取り戻せるのは、これまで北朝鮮と渡り合ってきた安倍首相しかいない!」という空気をつくり出してきた張本人。今年4月に出席した「政府に今年中の全被害者救出を再度求める 国民大集会」でも、「すべての拉致被害者の即時帰国」について「安倍内閣においてこの問題を解決するという強い決意を持って、臨んでまいりたい」と高らかに宣言していた。 ところがどっこい、拉致問題に進展が見られないことを突っ込まれると、「拉致問題を解決できるのは安倍政権だけだと私が言ったことはない」と言い出し、その上、「ご家族のみなさんがですね、そういう発言をされた方がおられることは承知をしておりますが」などと責任を逃れしたのである。 さんざん拉致問題を政治利用した挙げ句、都合が悪くなると「自分は言ってないもん」。これで信用しろというほうがどうかしているだろう。 ◎大嘘その3 「私は、明治時代に逆戻りしようと言ったことはまったくない」 1月29日、衆院予算委員会 え? 今年の年頭所感で初っ端から〈本年は、明治維新から150年の節目の年です〉と“明治150年推し”を全開させ、明治時代の日本を手放しで称賛して明治の精神をこれからのモデルにしようと国民に提示したのは、誰でしたっけ? しかも、安倍首相は自民党総裁選への出馬を表明した際も、わざわざ鹿児島県で表明をおこない、その背景には鹿児島を象徴する桜島がドーン。この表明の直前には、会合で「ちょうど今晩のNHK大河ドラマ『西郷どん』(のテーマ)は『薩長同盟』だ。しっかり薩長で力を合わせ、新たな時代を切り開いていきたい」(産経ニュースより)と講演していたほどだ。 『西郷どん』人気に便乗し、「明治=大日本帝国を取り戻す」という戦前回帰志向を“改革に邁進するリーダー”に置き換えて印象づけたい──。この姑息な目論見には反吐が出るが、しかも安倍首相は「逆戻りしようと言ったことはない」と抗弁した際には、「いまのスタンダードで150年前のことを『上から目線で』で断罪することもいかがなものか」と発言。「歴史から反省を学ぶ」ことを放棄した人物を総理に据えているとは、恐怖以外の何ものでもない。 ◎大嘘その4 「こういう(圧力の)話はよくある」→「(圧力は)いや、ほとんどないんです(笑)」 9月17日、『報道ステーション』出演時 自民党総裁選では、対抗馬の石破茂氏が掲げた「正直、公正」というキャッチフレーズにさえ「安倍首相への個人攻撃だ」と噛み付くという狂犬ぶりを見せた安倍陣営。なかでも象徴的だったのは、現役閣僚だった石破派の斎藤健農水相(当時)が安倍首相を支持する国会議員から恫喝されたと暴露した一件だ。 そして、各局の報道番組を石破氏とそろってハシゴして出演した際も圧力・恫喝問題についての質問がいくつか飛んだのだが、安倍首相はこの話題になると終始、落ち着かない様子で目をキョロキョロと泳がせた上、なんと圧力を正当化。橋本龍太郎と小泉純一郎が争った1995年総裁選のエピソードをもち出し、「私も小泉応援団だったんですが、そんときわれわれもですね、一度、けっこう圧力をかけられてねってことを結構、みんな言ったんですが」として「こういう(圧力の)話はよくある」と正当化したのだ。 ところが、MCの富川悠太キャスターから「実際にそのときは(圧力が)あったんですね?」と訊かれると、安倍首相は「いや、ほとんどないんです(笑)。ないけど、我々もそう言ったほうが、いわば陣営かわいそうだなっていうことにもなりますし。ただ、実際にあったかもしれませんし、私にはまったくなかったな」などと発言。自分には圧力がなかったにもかかわらず「圧力を受けた」とウソを言いふらしていたと自ら暴露したのである。 この宰相が“類い稀な嘘つき”であることは公然の事実だが、ひどいのは“自分たちも圧力をかけられたとウソをついて同情を誘ったことがある。だから斎藤もウソをついてるんじゃないか”と誘導していること。いやはや、まことに大した人間性である。 ◎大嘘その5 「今後、ICANの事務局長からあらためて面会要請があった場合には、そのときの日程などを踏まえて検討したい」 1月30日、衆院予算委員会 今年1月、ノーベル平和賞を受賞した国際NGO・核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長が来日した際、「日程の都合上できない」と面会を拒否した安倍首相。この対応にはネット上で「芸能人とは会食する時間はあるくせに」と批判が起こり、フィン事務局長の会見では「失望」という言葉も出た。 だが、安倍首相の「今度は検討する」というのがその場しのぎの嘘であることは明白。実際、ICANのノーベル平和賞受賞が発表された後も、サーロー節子さんが被爆者としてはじめて授賞式でスピーチをおこなった後も、安倍首相は公式に祝福コメントを一切発しないまま。さらに、今年11月に来日したサーロー節子さんが面会を求めたにもかかわらず、安倍首相はまたも「日程の都合」(菅義偉官房長官の弁)で面会を拒否したのである。 サーローさんは会見で「推測だがよほど忙しいか、意図的に私を避けたいかだ。違った意見を持った人にも会って語り続けるのが本当のリーダーシップではないか」と批判したが、まさにそのとおり。「唯一の戦争被爆国として核兵器のない世界の実現に向けて努力を重ねていく」と言いながら、核兵器禁止条約の批准を求める国連総会決議案に反対するという安倍首相の異常さ、二枚舌に、国民はもっと怒るべきだろう。 ◎大嘘その6 「『非正規』という言葉を、この国から一掃してまいります」 1月22日、施政方針演説 この言葉、じつは安倍首相は2016年6月の記者会見をはじめ、事ある毎に述べてきたが、一見すると格差是正に向けた大胆な改革というようにも映る。しかし、騙されてはいけないのは、安倍首相はけっして「非正規雇用���なくす」あるいは「正規と非正規の格差をなくす」と言っているわけではない、ということ。たんに「非正規」という言葉を使わない、というだけの話なのである。 実際、安倍首相が今年の通常国会で成立させた「働き方改革関連法案」の「同一労働同一賃金の導入」では、正社員と非正規のあいだに不合理な待遇差を設けることを違法としているが、ガイドラインでは正社員と非正規の基本給などついて「実態に違いがなければ同一の、違いがあれば違いに応じた支給を求める」とするなど、正社員と非正規の賃金格差を容認するものとなっている。 だいたい、「非正規という言葉をこの国から一掃する」という掛け声とは裏腹に、第二次安倍政権がはじまった2012年から16年までの4年間で非正規雇用者は207万人も増加。一方、この間の正規雇用者は22万人増加でしかなく、雇用者数の9割が非正規というのが実態だ。 低賃金の非正規を増やしつづける一方、低所得者に打撃を与える消費税増税を決めた安倍首相。このままではさらに貧困は広がっていくだろう。 ◎大嘘その7 「裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均的な方で比べればですね、一般労働者よりも短いというデータもある」 1月29日、衆院予算委員会 「働き方改革関連法案」の目玉のひとつだった「裁量労働制の対象拡大」をめぐって、自信満々に言い放ったこの答弁。しかし、答弁から間もなくこのデータが恣意的に捏造されたものだったことが判明。それでも安倍首相は「(答弁前にデータが)正しいかどうか確認しろなんてことは、あり得ないんですよ」などと開き直るという醜態を晒したが、その後は加藤勝信厚労相が「なくなった」と説明していたデータの基となった調査票が厚労省本庁舎の地下倉庫から発見されるわ、さらにデータを精査すると異常な数値が相次いで見つかるわ、問題が雪だるま状態に。結局、法案から「裁量労働制の対象拡大」は削除される結果となった。 だが、安倍首相は「裁量労働制の対象拡大」を諦めたわけではない。すでに厚労省の有識者会議が新たな調査票をまとめたが、これがまたも実態を把握できない設計になっているとして修正を求める声があがっている。問題を起こしても忖度をやめない姿勢には反吐が出るが、ともかくいまは安倍首相の嘘を未然の防ぐための監視が必要であることは間違いない。 ◎大嘘その8 「明日の時代を切り拓くための全員野球内閣だ」 10月2日、内閣改造後の記者会見で 失���必至のネーミングもさることながら、発足1カ月も経たないうちにその実態が「(ほぼ)全員“不適格”内閣」であることが判明した第4次安倍改造内閣。なかでも、国税への100万円口利き疑惑のほか疑惑が湧き水のように吹き出した片山さつき地方創生担当相や、「質問通告なかった」「PC打たない」発言で一躍“無能大臣”として名を馳せた桜田義孝五輪・サイバーセキュリティー担当相に注目が集まったが、このほかにも閣僚の問題が続出。 入閣後すぐに「教育勅語は普遍性をもっている部分がある」という発言が問題となった柴山昌彦文科相にもち上がったバスツアー利益供与・公選法違反疑惑に、茂木敏充経済再生相の日本リラクゼーション業協会との癒着疑惑、吉川貴盛農水相の太陽光発電所の新設をめぐる口利き疑惑、渡辺博道復興相の補助金受給企業からの寄付問題、平井卓也IT担当相の談合企業からの献金問題と、宮腰光寛沖縄北方担当相にいたっては談合企業からの献金問題にくわえ、酒に酔って議員宿舎内のほかの議員の部屋を“全裸でピンポンダッシュ”したという過去の醜態まであきらかになった。 しかも、この内閣、差別主義者と歴史修正主義者だらけの「(ほぼ)全員ネトウヨ内閣」でもある(詳しくは過去記事参照→https://lite-ra.com/2018/10/post-4291.html)。稲田朋美元防衛相や杉田水脈議員のようなトンデモ極右・差別発言がいつ飛び出してもおかしくはなく、来年も先が思いやられるのである。 リテラ年末恒例・安倍首相による「大嘘」振り返り企画。前編ではまず8つの嘘をお届けしたが、後編ではさらなる嘘・インチキを紹介したい。昨年の森友・加計問題に続き、今年もすごかったのが疑惑に関する嘘。公文書改ざんに「首相案件」問題、無能外交、そして「ケチって火炎瓶」など問題や疑惑が噴出し、そのたびにデタラメやインチキを重ね、嘘八百を並べ立てた。嘘に嘘を重ねる“嘘のミルフィーユ”状態の安倍首相の大嘘2018後編7本をご一読あれ! ◎大嘘その9 「国有地の払い下げか認可について、私や私の妻や事務所が関われば、責任をとると言うことを申し上げたわけでございます」 2月26日、衆院予算委員会 昨年、安倍首相が国会で宣言した「私や妻が関係していたということになれば、私は総理大臣首相も国会議員も辞めるということは、はっきりと申し上げておきたい」という発言を忘れた人はいないだろう。ご存じの通り、昭恵氏付きの秘書だった谷査恵子氏は財務省に“口利きFAX”を送信、その後これらはすべて叶えられるという満額回答を引き出していた。つまり昭恵氏は「関係していた」のは明々白々で、さっさと総理も国会議員も辞めていただかなくてはならないのだが、それを安倍首相は「国有地の払い下げか認可に関わっていたらの話」だと主張しはじめたのである。 しかも、だ。5月28日の参院予算委員会ではさらにこう答弁した。 「贈収賄ではまったくないってことは申し上げておきたい。そしてそういう、私は文脈のなかにおいて(自分や妻が)一切関わってないということを申し上げているわけでございます」 「関係していたら辞める」と言っていたのが、いつのまにか「金品の授受という意味で関わっていない」と後出しジャンケンで発言を修正してくるとは……。だが、この苦し紛れの姑息な答弁修正は、昭恵夫人のかかわりを安倍首相が認めていることの何よりの証明だろう。 ◎大嘘その10 「(改ざん前文書が存在することは)11日に報告を受けた」 3月14日、参院予算委員会 森友の決裁文書が改ざんされていた──今年3月2日に朝日新聞のスクープによって発覚した公文書改ざん問題。これは間違いなく戦後日本の歴史のなかでも類を見ない深刻かつ重大な国家犯罪であり、民主主義の根幹を揺るがす大問題だが、当初、安倍首相は「捜査に影響する」などと言い逃れ、麻生太郎財務相も「6日に調査結果を出す」と言いながら直前になって「捜査が終わらないと個別な調査がなかなかしにくい」と文書の開示を拒否する予防線を張る動きを見せていた。しかし、週末金曜日の9日になって近畿財務局で直接改ざんを命じられた職員の自殺が伝えられると、財務省は「書き換え」を認める方針を打ち出し、週明け月曜の12日に改ざん前文書の公表へといたった。 そんななか、安倍首相は改ざん前文書が存在することを公表の前日である「11日に報告を受けた」と答弁したのだが、これが大嘘であることがすぐさまバレた。菅義偉官房長官が6日には安倍首相も「承知」していたと認めたのだ。 そもそも、改ざんの事実を安倍首相が今年3月6日に知ったなどということもあり得ず、むしろ安倍官邸が改ざんを主導したとしか考えられないのだが、この「11日に知った」という答弁が嘘だと判明してからも、安倍首相は開き直って「事実関係を確認できるのは財務省だけ」「私たちがそれを乗り越えて確認できない」と強調したのである。 普段は「強いリーダーシップを発揮する。これがトップである私の責任だ」などと言うくせに、不都合な問題では「事実の確認」さえできない。それが安倍総理の実態なのだ。 ◎大嘘その11 「前川前次官ですらですね、京産大はすでに出していたんですが、そのことはまだ準備がまだ十分じゃないという認識の上に、熟度は十分ではないという認識の上に、加計学園しかなかったとおっしゃっていたわけであります」 5月14日、衆院予算委員会 平気で嘘をつくだけではなく、自分が貶めてきた相手を都合よくもち出して正当化の材料に使うとは……。もちろん、前川喜平・元文科事務次官が京都産業大学よりも加計学園のほうが獣医学部新設計画の熟度が上だったと認めたことなど一度もなく、安倍首相のこの答弁のあとに前川氏が発表したコメントでも〈2016年10月17日の京産大の提案内容を知らされていない私が、加計学園の提案と京産大の提案とを比較考量することは不可能〉と反論。同時に、安倍首相が「前川前次官も含め、誰一人として私から国家戦略特区における獣医学部新設について何らの指示も受けていないことがすでに明らかになっている」と強弁しつづけていることに対しても〈私は加計学園の獣医学部の平成30年度新設が安倍首相自身の強い意向だという認識を持っていました〉とし、〈安倍首相が加計学園の獣医学部新設に自分が関与していないと主張するための材料として、私の名前に言及することは極めて心外であり、私の名前をこのように使わないでいただきたいと思います〉と釘を刺したのだった。 だが、こうした反論を受けていながら、その後も安倍首相は何食わぬ顔で前川氏の名前を出して「私から指示を受けたり依頼を受けた人は一人もいない」と言いつづけている。ゲッベルスが言ったとされる、「たとえ嘘であっても100回聴かされれば真実と思い込むようになる」という言葉を地でゆく首相……恐ろしさしかない。 ◎大嘘その12 「かつてですね、私がNHKに圧力をかけたという、まったくこれは捏造の報道をされたことがあります。そして朝日新聞は検証したんですが、私が圧力をかけたという事実を掴めることができなかったという検証だった。でも、彼らが間違ったとは一度も書かない。で、私に一度も謝らない」 2月13日、衆院予算委員会 総理大臣がメディアを名指しして猛批判を繰り広げる下劣さに慣らされつつあるが、今年も安倍首相は国会で朝日新聞バッシングを展開。とくに聞き捨てならなかったのは、この発言だ。 安倍首相がここでもち出したのは、いまから13年前の2005年に朝日が報じたNHK番組改変問題のこと。日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷を取り上げたETV特集『問われる戦時性暴力』の放送直前に内閣官房副長官だった安倍氏らが放送直前に政治的な圧力をかけ、その結果、番組が改変されたと2005年1月に朝日が報じた問題だ。当時、安倍氏は各局の番組に出演しては圧力をかけたという事実の否定と朝日批判を繰り返し、自民党は朝日への選挙広告の出稿もストップ。当初は強気な姿勢だった朝日も、同年9月に取材が不十分だったとする記者会見を開くにいたった。 しかし、朝日が弱腰になっただけで、安倍氏が番組に圧力をかけたことは事実だ。現に、同番組の取材を受けた市民団体が NHKを訴えた裁判の控訴審判決では、裁判長が「制作に携わる者の方針を離れて、国会議員などの発言を必要以上に重く受け止め、その意図を忖度し、当たり障りのないよう番組を改変した」と指摘。さらに判決理由の要旨では「安倍氏は、いわゆる従軍慰安婦問題について持論を展開した後、NHKが求められている公正中立の立場で報道すべきではないかと指摘した」とされている。 しかも、朝日は安倍氏らが圧力をかけたことを裏付ける証言を番組放送時のNHK放送総局長から得ていた。その中身を公表したジャーナリストの魚住昭氏のレポートによれば、放送総局長は安倍氏らとの面談について「脅しとは思った」「圧力とは感じる」と述べた上、安倍氏との面会時の様子を、こう証言している。 「先生はなかなか頭がいい。抽象的な言い方で人を攻めてきて、いやな奴だなあと思った要素があった。ストレートに言わない要素が一方であった。「勘ぐれ、お前」みたいな言い方をした部分もある」 「勘ぐれ」──。安倍首相が恫喝のために吐いたこの一言は、いわば「忖度しろ」と言っているのと同じだ。加計学園問題における「総理のご意向」という言葉が思い返されるようだが、安倍首相はこうやって昔から、直接的な指示ではなく「勘ぐれ」というような直接的ではない脅し文句によって、圧力をかけたり忖度を引き出してきたのではないのか。 NHK番組改変問題は安倍首相が言うような「捏造の報道」などではけっしてなく、安倍首相が番組に介入し圧力をかけたことは紛れもない事実だ。「私に一度も謝らない」と言う前に、自分がついた数々の嘘について、まずは国民に謝るべきだろう。 ◎大嘘その13 「これはむしろ私が関わりがあるということではまったくなくてですね、私は一切の関わりを断ってきたなかにおいて発生した事件であるわけであります」 7月17日、参院内閣委員会 今年、ネット上で大きな話題となった“安倍ネタ”といえば、やはり「#ケチって火炎瓶」問題を忘れるわけにはいかない。 ごく簡単に説明すると、1999年におこなわれた下関市長選をめぐり、安倍事務所が暴力団とも関係が深い前科8犯のブローカー・小山佐市氏に選挙妨害を依頼。その後、安倍事務所は男と交わした“見返り”の約束を破ったため、翌2000年に男は暴力団員を使って安倍邸を放火。その後、2003年に小山氏が逮捕された。 それが今年、ジャーナリスト・山岡俊介氏が2月に出所したばかりの小山氏との接触に成功。安倍首相が選挙妨害に関与していた“決定的物証”を手に入れたため、ネット上では大きな話題となったのだ(詳しくは過去記事を参照→https://lite-ra.com/2018/07/post-4108.html、https://lite-ra.com/2018/07/post-4111.html)。 そして、この問題を、“みなさまの鉄砲玉”こと山本太郎議員が国会で安倍首相に追及。すると、安倍首相は“恐喝されても屈しなかったから火炎瓶襲撃の被害に遭った。むしろ自分は被害者だ”と主張したのである。 言い訳が「自分は被害者だ」とは、まるで森友問題で籠池泰典氏に対してとった態度を彷彿とさせるが、その主張の嘘まやかしもまったく同じだ。そもそも、小山氏は安倍事務所への恐喝については起訴猶予で釈放されている。また、仮にそれが恐喝まがいの要求だったとしても、問題なのはそれ自体ではなく、小山氏にそういう要求をさせた原因ではないか。小山氏が放火未遂に及んだのは、安倍事務所から依頼された選挙妨害を実行したのに、見返りの約束が果たされなかったからなのである。 実際、これは裁判でも認められている“事実”だ。2007年に出た判決公判で福岡地裁小倉支部の野島秀夫裁判長(当時)は、「(小山被告は)事件の1年前に行われた下関市長選挙に関して安倍総理大臣側に協力したのに金銭の要求を拒絶された。この恨みを晴らすとともに、暴力に訴えて多額の金銭を得ようとつきあいがあった組長に犯行を依頼した」と述べているのだ。 しかも、山岡氏の取材に応じた小山氏は、選挙妨害の詳細から見返りの約束の内容まで事細かに証言。見返りが実行されないことに業を煮やした小山氏サイドと安倍本人が直接面会して“秘密会談”をおこなったこと、さらには交渉内容を確認して署名捺印した記録文書を提示。そこには〈安倍晋三 秘書 竹田力〉というサインと捺印が入っている。──つまり、安倍事務所が依頼した違法な選挙妨害を口封じするために、安倍首相自身が小山の突きつけた要求に応じる約束をおこなっていたのだ。 「ケチって火炎瓶」とは言い得て妙だが、それにしても、反社会的勢力に通じた人間に選挙妨害を依頼する、そのダーティさにぞっとせずにはいられない。 ◎大嘘その14 「今後とも県民のみなさまの気持ちに寄り添う」 10月12日、玉城デニー沖縄県知事との会談で こう言ってから、わずか約2カ月後の12月14日、政府は辺野古の海に土砂を投入した。対話を拒否しまくった翁長雄志・前知事時代とは違い、安倍首相は表向き「対話路線」を強調したものの、たんに「対話には応じた」という既成事実をつくっただけ。県知事選で「辺野古新基地建設反対」を掲げて与党推薦候補に約8万票もの差をつけて玉城氏が圧勝した選挙結果を一顧だにせず、「気持ちに寄り添う」どころか気持ちを踏みにじり、牙を剥いてみせたのだ。 そもそも、安倍首相に「気持ちに寄り添う」つもりなどさらさらなかった。現に、今年1月5日に出演した櫻井よしこ率いるネトウヨ番組『櫻LIVE 新春スペシャル「安倍首相に華やかさくら組が迫る!」』出演時には、「(在沖米軍の)訓練はときとして迷惑になることもありますが、それを受け入れてくれる人がいて初めて、いざというときに対応できる」と発言。米軍の訓練が住民の生活に支障を与えているだけでなく命の危険さえ生じさせている事実が歴然と沖縄にはあるというのに、“いざというときのために我慢して受け入れろ”と安倍首相は投げつけているのだ。これは、本土決戦の時間稼ぎのために沖縄を捨て石にした、戦時中の発想そのものではないか。 安倍首相はミエミエの嘘をつかず、はっきり国会でも「沖縄は我慢しろ」と言えばいい。そうすれば、いかに安倍首相が国民の命を軽視しているか、その正体が多くの人に伝わるだろう。 ◎大嘘その15 「(森友と加計問題については昨年の総選挙で)国民のみなさまの審判を仰いだところ」 9月14日、日本記者クラブでの総裁選討論会で 今年も山のように嘘を吐きつづけた安倍首相だが、もっとも仰け反ったのはコレだろう。昨年の解散発表時、安倍首相は森友・加計問題について「国民のみなさまに対してご説明もしながら選挙をおこなう」と明言したが、蓋を開けてみれば、選挙中は「街頭演説で説明するより国会で説明したい」と言い出し、選挙後は「国会において丁寧な説明を積み重ねて参りました」と開き直った。国民の審判など、ただの一度も仰いでないのだ。 だいたい、森友学園の公文書改ざんが発覚したのも、加計学園問題で愛媛県から「首相案件」と記した文書が見つかったのも、今年に入ってからの話。なのに、全部ひっくるめて「昨年の総選挙で国民の審判を仰いで圧勝しましたけど何か?」と言わんばかりにふんぞり返ったのである。 いま、永田町では、安倍首相が来年、衆参同時選挙に打って出るのではないかという噂が流れている。選挙で改憲のカの字も出さなくても、この男は「国民の負託に応える」などと言って一気に改憲へと突き進むだろう。選挙で止めなくては、嘘とデタラメでどこまでも暴走する。そのことをけっして忘れてはいけないだろう。 ---------------------------------------------------------------- 今年、安倍首相がついた嘘はこれだけにかぎらないのだが、いかがだったろうか。 だが、安倍首相は「稀代の嘘つき」であるだけでなく「知性や品性のなさ」、はっきり言うとバカ丸出しかつ人間性を疑わざるを得ない無神経さという問題がある。そして、今年もそうした発言が大量にあった。次の記事では、そうした「バカ丸出し&人格破綻」発言集をお送りしたいと思うので、ご期待いただきたい。 litera (前編) https://lite-ra.com/2018/12/post-4455.html litera (後編) https://lite-ra.com/2018/12/post-4456.html
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Please Please Kiss Me
最初は、四大陸選手権だった。そのとき勇利は二ヶ月ぶりに会うヴィクトルがまぶしく、いとおしかった。ヴィクトルは相変わらずかっこうよく、うつくしく、優しく、愛情深くて、それだけで勇利は舞い上がっていたのだけれど、ロシア選手権、ヨーロッパ選手権を経たことで、彼がなんとなく遠いひとのように思われ──そう、まだすこしも親しくなかったころの彼のように思われ、せつなかった。勇利の態度はぎこちなくなり、ヴィクトルは不思議そうに「どうしたんだい?」とたびたび訊いた。 「なんでもないんだ」 勇利はごまかしたが、自分が以前のように自然にヴィクトルに接することができていないことはわかっていた。どうにかしなければ、と思えば思うほどそぶりは不慣れになった。すると今度は、そんな自分をヴィクトルはどう考えるだろう、愛想を尽かされてしまうのではないか、あきれてしまうのではないかと心配になった。勇利はショートプログラムのとき、ヴィクトルを引き止めたいあまり──、そして彼へのつのった想いが苦しいあまり、いちばん最初に人前で演じたときのような「エロス」を踊ってしまった。いや、あれよりももっと情熱的で、一生懸命で、不器用で、ひとりよがりな──とにかく「行かないで!」という気持ちのこもった演技だった。勇利は自分の出来があまりよくないと感じていたけれど、ヴィクトルへの熱情と興奮はさめず、出番が終わってからも神経が高ぶり続けていた。 「大丈夫かい?」 ヴィクトルは、まっかになって思いつめた顔をしている勇利を気遣った。勇利はものを言わなかった。 「着替えたほうがいい。さっさとホテルへ戻ってやすもう。疲れてるようだよ」 勇利はヴィクトルが耳元でささやくので我慢ができなくなった。ほとんど無意識だった。彼はヴィクトルの手を握ると、つんのめるような勢いで誰もいないトレーニングルームまでひっぱって行き、しっかりと鍵をかけた。ヴィクトルが瞬くのが相当にゆっくりに見えた。勇利はヴィクトルの首筋に腕をまわし、熱い息を吐いてねだった。 「キスして」 ヴィクトルは何も言わなかった。訊きもしなかった。ただ勇利のしたたるように輝く黒い瞳をのぞきこむと、強引にくちびるを奪い、抱きしめて壁に押しつけた。勇利のほうから頼んだのに、まるでヴィクトルが無理やりしているみたいだった。勇利はぞくぞくし、ぶるっとふるえてヴィクトルにすがりついた。 勇利がキスをしたのは中国大会のリンクが最初で、これが二度目だった。どちらも相手はヴィクトルで、そのことがなおさら勇利の感情をかきみだした。ヴィクトルはあんな「驚かせるキス」ではなく、大人の、情熱的な、我を忘れるキスをしてくれた。粘膜をこすりつけあうようなくちづけは初めてで、どうすればいいかわからなかったけれど、荒々しく取り扱われるだけで勇利はたまらない気持ちになった。もっと、と舌を差し出せば、望んだ以上の熱意でヴィクトルが勇利を翻弄した。唾液が口の端から伝い、脚がふるえて立っていられないくらいだった。呼吸をみだし、むさぼるようにくちびるを押しつけあうなんてこれまでにない経験だったが、なんてすてきなものなのだろうと勇利は頭のひとすみで考えた。しかしすぐに何もわからなくなって、ヴィクトルの匂いに包まれ、ヴィクトルのすべてに思考を奪われた。 どれくらいそうしていたのかわからない。やがてヴィクトルはくちびるを離し、代わりに勇利のまぶたに接吻した。それまでの激しい熱情のこもったものとはちがう、このうえなく甘美で優しいやり方だった。 「戻ろう」 「……うん」 勇利はこっくりとうなずいた。ヴィクトルが鍵を外し、身体をねじると、支えを失って勇利は倒れそうになった。 「俺に寄りかかって」 「うん」 「大丈夫だよ。ゆっくり行こう。つかまって……」 ヴィクトルは勇利の髪を撫でた。勇利はヴィクトルを見上げた。ヴィクトルの青い瞳は冴えて麗しく、底に愛情をたたえていた。 それが、勇利が求めた、初めてのキスだった。 ヴィクトルはホテルへ戻っても何も言わず、いつも通りだった。勇利も安心した。もう勇利は遠慮がちな態度はとらず、自然にふるまうことができた。 ヴィクトルのくちづけのききめが出たのか、翌々日のフリースケーティングは落ち着いてのぞめた。勇利はこれまでにない集中力を発揮し、演技に打ちこんだ。グランプリファイナルでも相当によい出来だったけれど、あのときは自分の引退、ヴィクトルとの別れが常に頭にあり、その限度いっぱい、ヴィクトルに捧げるという感情がよいほうへ働いたのだ。いまはヴィクトルがいるという安堵、愛情のある喜び、何もこわくないという安定感がある。勇利の表現力は豊かで、永遠に続くと思われる愛は繊細な演技をいろどった。 勇利の「Yuri on ICE」は完璧だった。 勇利はみずからの持つ歴代最高得点を更新した。信じられず、涙があふれた。手がふるえ、立てないほどだった。息が苦しい。あふれ出るヴィクトルへの情愛、興奮を持てあまし、勇利はそのあともヴィクトルとキスをした。 二度目のくちづけは、前よりも熱いくらいだった。勇利は隙間なくヴィクトルに身体を寄せ、子どもみたいに甘えた。ヴィクトルがどうあっても離すまいとするかのようにきつくきつく抱きしめるから、ゆるされているのだと感じてさらに彼のくちびるを求めた。うわずった声が漏れ、あえいでしまった。呼吸もできないほどのくちづけを続け、その苦しささえも勇利には快感だった。 ヴィクトルは濡れたくちびるを優しく親指でぬぐってほほえんだ。 「戻ろうか……」 「もっと」 「…………」 「だめ……?」 「……いいよ」 ふたりは長く抱きあった。 し��し、そんなことがあったからといって、ふたりの間柄に亀裂が入ったとか、反対に関係が濃厚になったとか、そういうことはなかった。普段のヴィクトルはごく普通だったし、勇利も無理なく彼と一緒にいられた。冗談を言いあったり、厳しい注意をされたり、つまらない会話でわざと怒って見せたりと、彼らの仲はたいへん親しく、適度にへだたりがあり、このうえなく良好だった。 三度目は、世界選手権でのことだった。ショートプログラムで勇利は最高の演技をし、自己最高の得点を更新した。しかし、ヴィクトルに負けた。ヴィクトルは最終滑走で、彼の名前が自分の上に来たとき、勇利は悔しくて泣いてしまった。 「勇利、いい演技だったよ。泣かなくていい」 「ほっといて! ぼくよりいい演技したひとに言われたくない!」 勇利が腹を立てていたのは自分自身についてだった。もっとああすればよかったとか、こうすればよかったとか、そんなことばかりが頭の中を占めた。ジャンプのとき跳び急いでしまったとか、踏み切りが明確でなかったとか、高さが足りなかったとか、着氷のとき稚拙だったとか、自分のいけないところが気になって仕方なかった。だからヴィクトルにこんな物言いをするのは完全な八つ当たりで、話したそばから後悔したけれど、悔しさがどんどん増してきて涙もあとからあとからあふれた。自分がとんでもなく幼稚に感じられ、技術も表現力もないノービスの子どもみたいに思えた。 「あんなにすてきだったのに」 ヴィクトルが褒めてくれれば褒めてくれるほどみじめで、「ひとりにして!」と拒絶してしまった。ヴィクトルはほほえんで勇利の手を取り、甲を撫でた。それで勇利はまた泣いてしまった。ヴィクトルのすばらしい演技と自分のみっともない演技が交互に浮かんできた。ふたりの得点にそれほど差はなく、それは勇利の悔しい気持ちが見せる、うその体裁の悪さなのだけれど、勇利にはそんなことはどうでもよかった。 「いままででいちばんよかった。最高のエロスだったよ」 勇利はかっとなった。ヴィクトルが本心から言っていることは疑いの余地がないのに、うそ、となじりたくなった。 「そんなにエロスだったなら誘惑されてるはずだよね」 勇利はヴィクトルを更衣室へ引きこみ、くちびるを押しつけた。ヴィクトルは黙って勇利を抱きしめ、脚のあいだに膝を割りこませて、すみのほうへ追い詰めた。 「は……っ」 「動くな」 むさぼられ、熱狂的に口の中をなぶられてぞくぞくした。勇利はヴィクトルにとりすがりながら、めちゃくちゃな気持ちでキスをした。涙は止まらず、ヴィクトルはそれをぬぐいつつ、「綺麗だよ」「うつくしい」「俺はおまえのとりこなんだ」とささやき続けた。 「うそ、うそ」 「うそじゃない。こんなに俺をもてあそんで、いけない子だ。俺の勇利……」 そのあと、相変わらずホテルではいつも通りのふるまいをしたけれど、さすがに勇利は気恥ずかしくなった。当たり散らしたあげく、情熱的なせりふを無理やり言わせてしまった。ヴィクトルは勇利をなだめるためにいろいろと手を尽くしたのだろう。勇利は自己嫌悪でしょんぼりし、ヴィクトルに謝りたかったが、キスについては普段ひとこともお互いふれないし、ヴィクトルはにこにこして日常の彼だったので、言い出すほうがおかしい気がして、結局詫びることができなかった。フリーではあんなみっともない演技も態度もすまい、と勇利はこころぎめをした。 しかし、そんな決心をする必要はなかったのだ。勇利はフリースケーティングでも負けた。けれど、そのときわき起こったのは、悔しいという身悶えるような感情ではなく、うれしいという天にも昇るここちだった。ヴィクトルは優雅でうつくしく、高貴で、彼の演技はたまらなく崇高だった。勇利は自分のことなど頭から消え去ってしまい、ただひたすらヴィクトルのすべてを崇拝した。勝ったとか負けたとかいうことより、ヴィクトルの何もかもに陶酔し、我を忘れたのだ。勇利がこのとき泣いたのは負けたからではない。ヴィクトル・ニキフォロフという神のような男の持つ魅力に耐えきれなかったからである。 勇利は終始夢見ごこちで、ただヴィクトルのことを考えていた。ヴィクトルが戻ってくるまで、勇利にとってヴィクトルは手をふれられぬ、貴いひとでしかなかった。遠くから見ているだけで満足だった。彼が自分にとって身近なひとだとは思わなかった。廊下で会ったときも、その気品に圧倒された。ものも言えず、身を避けてヴィクトルの通り道を空けようとした勇利は、しかし、そこでヴィクトルに親しみ深く、愛情いっぱいに話しかけられた。 「勇利!」 その瞬間、勇利はヴィクトルが自分の大切なひとだということを痛いほどに感じ���。もうヴィクトルは神様ではなかった。勇利のコーチで、愛しているひとで、同じ魂をわかちあった、失えない相手だった。 「ヴィクトル……」 勇利はヴィクトルにふれられたくなった。ヴィクトルの甘美な声やはかりしれない愛を秘めた瞳、すぐれて優しい意地の悪さ、魔術的な誘惑の言葉、そして何より、苦しいほどの情熱を感じたくなった。 勇利は意味をこめてヴィクトルをみつめた。勇利の目は熱っぽく揺れていた。気がついたときにはふたりは誰もいない更衣室にこもり、小暗い部屋のひとすみで抱きあってキスしていた。くちびるを与えあっているだけなのに、身体とこころの奥がうずいて我慢できず、勇利は大胆にあえいだ。ヴィクトルの助けがなければまともに立っていられなくて、彼にすがりついた。ヴィクトルの熱い吐息と強引な抱擁に身をゆだね、くちびるを差し出し、我を忘れた。めくるめく時間だった。ヴィクトルの力強い腕が、勝手にふるえておののく勇利の痩身を、言うことを聞かせるように拘束する。そんなふうにされるのが勇利はうれしかった。勇利はすすり泣くような声を漏らしながら、ヴィクトルとのくちづけに熱中し、ヴィクトルに夢中になった。 シーズンが終わり、勇利はロシアへと拠点を移した。彼はヴィクトルと生活をともにし、ふたりで仲睦まじく暮らした。長谷津で一緒に住んでいたので、ヴィクトルのことはたいていわかっていると思っていたけれど、お互いしかいない状況というのはこれまでとはまるでちがった。勇利はヴィクトルが家庭的な仕事で勤勉に働くことを知り、なのに思った以上に幼いところを見せて、怠ける癖があることを理解した。つまらないなりゆきで喧嘩になることもあった。その内容はこんな感じだ。 「なんで勇利はさきに帰っちゃうんだよ! 一緒に帰ろうと思ってたのに!」 「べつにいいでしょ! ヴィクトルがヤコフコーチと話してるから長くなりそうだって思ったんだよ!」 「俺楽しみにしてたのに!」 「楽しみってなに!? 毎日一緒に帰ってるじゃん! たまに一回くらいいいだろ!」 「その一回が俺には貴重だっていうことなんだよ! 勇利は俺のことなんてどうでもいいのかもしれないけどね!」 「は!? どうでもいいなんて誰が言ったの!? 言ったことないじゃん! 言いがかりやめてよ!」 「勇利べつにそんなに俺のこと好きじゃないだろ! 俺は知ってるんだぞ!」 「ぼくのほうがヴィクトルのことずっと想ってるしずっとあこがれてたんだからね! ヴィクトルがぼくの名前も知らなかったころからね!」 「あこがれと愛情はちがうからね! ショートとフリーくらいちがうからね!」 「微妙なたとえやめてよ! たとえ方へたくそか!」 「わかるだろ! 伝わるだろ!」 「もういいじゃん! さきに帰ってもごはんつくってたんだから! 食べるでしょ!」 「今日は俺がつくってあげようと思ってたんだよ! 勇利の好きな、前に言ってたあれ!」 「どれだよわかんないよ!」 「優しい味だから好きだよって言ったやつだよ!」 「ああ、あれ……、それは……ごめん。ありがとう……。よかったら明日つくって欲しい……」 「い、いや……俺こそむきになってごめん……」 「……ごはん食べる?」 「食べる……。つくってくれてありがとう」 「……食べよ」 「……勇利?」 「なに?」 「ごめんね」 「ううん……ぼくもごめんね」 こういうくだらない喧嘩をふたりはたびたびし、そのあとは寄り添って手をつなぎ、いつも以上に親しく過ごした。ふたりは照れくさそうに視線を合わせ、にっこり笑いあって額をくっつけた。 夜はほとんど同じベッドで眠り、人がいるところでなんて寝られないと思っていた勇利は、いまや、ヴィクトルがいないと落ち着かなくて眠れないというくらいヴィクトルの体温になじんでしまった。ヴィクトルが何かの用事で遅くまで起きているときなどは、なかなか寝つけず、遠慮がちに彼の部屋へ行き、「あの、……寝ないの?」と尋ねたりした。ヴィクトルはたまらないというように笑って、「もう寝るよ。寝室で待ってて」と勇利を抱きしめた。ふたりの仲はしごく親密で深く、順調で、生涯離れることがないようだった。 しかし彼らは、キスだけは絶対にしなかった。もちろんそれ以上のこともいっさいなかった。勇利は、ただヴィクトルと過ごすことが自然で仲よくしているに過ぎず、過剰な愛を求めてはいなかった。戒めてくちづけしないのではなく、するという発想がまったくなかったのだ。ヴィクトルのほうも、そういうそぶりはちらとも見せなかった。それでふたりはかなり上手くいっていた。 シーズンが始まり、勇利の初戦はグランプリシリーズのカナダ大会だった。ヴィクトルとはファイナルまで同じ試合に出ることはないので、勇利は安心しきっていた。ヴィクトルは自分の調整をしつつ、それでも勇利のコーチとしての仕事はあきらめず、平然とした顔で試合に帯同した。勇利はうれしかった。ヴィクトルがそばにいる喜びはとても言いあらわせない。世界じゅうの誰にもわからない幸福だった。勇利はヴィクトルのたったひとりの生徒だ。 選手として活動するヴィクトルが、それでも勇利のコーチとして完璧な態度を示してくれる。そのことに勇利はどれほど感激したか知れなかった。ヴィクトルの期待に応えたい、彼をがっかりさせたくないと思い、なおさら一生懸命になった。よかったよ、と言われたかった。いい子だね、と褒められたかった。最高の生徒だ、と抱きしめて欲しかった。 勇利はショートプログラムで一位になった。すばらしい気分だ。ヴィクトルは大喜びだった。勇利は取材陣に向かい、「明日もがんばります」と笑顔で言った。それで終わるはずだった。何も問題はなかった。 しかし、気がつくと彼はヴィクトルと暗がりで抱きあっており、くちづけを夢中で交わしていた。昨季までと同じようにふるまっていた。自然にそうなっていた。ヴィクトルとキスをしていると、試合で高ぶった感情が正常に戻る気がした。どこにも向けられない熱をヴィクトルに受け止めてもらっている。そんな感じだった。みだれ、緊張と興奮でおかしくなりつつある精神は、ヴィクトルがいるから癒されるのだ。 以降は、もうそれが当たり前になった。いや、もうずっと前から当たり前だったのだろうか? だからこのときもしてしまったのだろうか。演技後、ヴィクトルと情熱的にくちづけを交わすことが、勇利にとっては大切な儀式になった。試合にのぞむルーティンがあるように、そのあとにも規則ができたのだ。勇利は次の試合でも、その次も、演技後にヴィクトルとキスした。相変わらず、普段にそれについて話すことはなかった。 全日本選手権とロシア選手権は、今季は日程がちがっていた。 「来てくれる……?」 勇利はおずおずと尋ねた。ヴィクトルは笑顔で答えた。 「当たり前だろ? 俺は勇利のコーチなんだから。生徒の試合についていかないコーチがどこにいる?」 ニュースは「勝生が余裕の連覇」としか言わなかった。予想もそうだったし、結果も同様だった。だが、気持ちにゆとりがあるとか、競技参加者の中では勇利が飛び抜けて実績があるとか、そういうことは関係がなかった。勇利にはヴィクトルのくちづけがひどく重要だった。たとえば、いままた地方のちいさな大会に出るとしても、そのときもやはりキスを欲しがるだろう。勇利にとってヴィクトルとそうすることは、もう試合の一部だった。 世界選手権で、ショートプログラムが終わったとき、勇利は頬を上気させていた。自分でたいへん満足のできる内容だった。勇利が氷に立つ最後の選手で、もうあとには誰もいなかった。キスアンドクライでヴィクトルは勇利の手を握りしめ、にっこり笑った。勇利はきらきらと星のように輝く目でヴィクトルをみつめた。 すぐにヴィクトルとキスしたかったけれど、取材陣への対応がある。勇利はインタビュースペースへ行き、テレビカメラと取材者の前に立った。明るい表情で、丁寧にひとつひとつ問いかけに答えたが、早くヴィクトルに会いたくてたまらなかった。もう終わるかと思うのに、質問者は次々とこまかいところを問いただして、勇利は返事をするのが大変だった。さらに、それが終わっても、各国の報道陣が待っていた。勇利はきまじめに応じた。時間がかかった。ようやく解放されたときには気持ちが焦り、いますぐヴィクトルに抱きしめてもらわなければならないくらい苦しくなっていた。 ヴィクトルはどこだ……? 勇利は不安をおぼえながらきょろきょろ��た。あちこちを見てまわったけれど姿がない。途中知り合いに会ったので、「ヴィクトル知らない?」と尋ねてみたけれど、みんなかぶりを振った。ヴィクトルだって忙しい。彼に話を聞きたい取材者も多くいるだろうし、その対応に疲れてやすみたくもなるだろう。仲のよい選手に会えば話も弾むはずだ。着替える時間だって必要である。勇利ひとりにかかわりあっているわけにはいかない。ヴィクトルにはヴィクトルの事情があるのだ。 そのことはよくよく承知しており、頭の中では仕方ないと理解しているのだが、感情のほうはそうはいかなかった。勇利はどんどん焦燥をおぼえた。ヴィクトルはどこ? どこにいるの? なんでぼくのそばにいてくれないの? どうして? ぼくがいまこんなにヴィクトルを必要としているのに。彼に会いたいのに、抱きしめてもらいたいのに、キスしてもらいたいのに! 涙があふれそうになった。手足がふるえ、耐えられなくなった。 「……勇利?」 ヴィクトルが勇利を探しに来たとき、勇利は真っ暗な更衣室のすみで膝を抱え、ちいさくなっていた。 「勇利……いるのかい?」 ヴィクトルが入ってきた。彼はロッカーの陰でおびえたようにうずくまっている勇利に気がつくと、急いでそばへやってきた。 「ごめん。連盟の人間に引き止められていた。どうしたんだい? 気分が悪いの?」 かがみこんだヴィクトルが勇利の肩にふれた。ヴィクトルは息をのんだ。勇利の身体は小刻みにふるえていた。 「勇利……」 「ヴィクトル」 勇利はほとんど泣きながら両腕を伸ばし、ヴィクトルにすがりついた。 「遅いよ……!」 「ごめん」 ヴィクトルがすぐにきつく抱擁し、耳元にささやいた。 「ごめんごめんごめんごめん。ごめんね」 「なんでぼくをひとりにするの」 「悪かった」 「ぼく、おかしくなっちゃうかと思った……」 くちびるを押しつけると、ヴィクトルは勇利をかき抱いてそれに応えた。勇利は安堵が胸にひろがってゆくのを感じた。愛されている、と思った。ヴィクトルはちゃんとぼくのそばにいる……。 ひとりでいるあいだ、ひどく不安だった。試合後の熱をなんとかしたいということより、ただヴィクトルに抱きしめてもらいたかった。ヴィクトルがいなければだめだった。どうしてそれほどとりみだすのか、自分でもわからなかった。ただ、こわかった。ヴィクトルにそばにいてもらいたかった。彼がいなければ……。 勇利は洟をすすって目を伏せた。ヴィクトルがまぶたに接吻し、「ごめんね」とまた謝った。勇利はすっかり落ち着いて、彼の胸に頬を寄せた。 「ううん……ぼくこそごめん。ヴィクトルがいないくらいで大騒ぎしたりして……」 「大丈夫かい?」 「平気……」 「ホテルへ戻ろう」 「うん……」 ヴィクトルは勇利を着替えさせ、肩を抱いて廊下へ出た。彼はこめかみや髪に幾度も真心のこもったくちづけをしてくれた。 「本当にごめんね」 「大丈夫。もうなんともないから」 勇利はちらとヴィクトルを見た。ヴィクトルの愛情深い端正な顔がそこにあった。勇利はすこし背伸びをし、くちびるをそっと押し当てた。 「勇利……」 ヴィクトルのぬくもりが伝わってくる。勇利はしあわせだった。 フリースケーティングのあとは、ショートプログラム当日の失敗をわきまえているからか、ヴィクトルは取材後、すぐに勇利のところへ来た。勇利はうれしくなり、ほとんどはしゃぎながらヴィクトルを誰もいないトレーニングルームへ導いた。明かりをつけず、ぴたりと戸を閉め、部屋の片隅へヴィクトルをひっぱっていった。 「キスして」 勇利は明るく言った。しかし、ヴィクトルは動かなかった。いつもならすぐに抱きしめてくちびるを合わせてくれるのに、彼は厳しい顔つきだった。 「ヴィクトル?」 勇利はきょとんとした。ぼくからしたほうがいいのかな、と気がついた。これまでは自分からすることが多かったかもしれない。 勇利はヴィクトルの腕に手をかけ、つまさきだってくちづけようとした。ヴィクトルがそれを押しとどめた。 「勇利」 彼はこわいほど真剣だった。 「こんなことはもうやめないか」 「え……」 勇利は何を言われたのかわからなかった。ぽかんとしてヴィクトルをみつめる。 「こんなことはもうやめにしよう」 ヴィクトルがもう一度きっぱりと言った。勇利はしばらくぱちぱちと瞬き、ヴィクトルの言い分を理解するにつれ、ちいさくふるえ出した。 「な、なん……なんで……」 「俺も悪かった。最初、約束もなく応じてしまったから」 ヴィクトルが息をついた。 「勇利の望みならなんでもかなえてやりたかったんだ。でもそれはまちがいだったみたいだ」 「ヴィ、ヴィクトル……」 「いい加減、限界なんだ。勇利を一昨日みたいな状態にもしておけないし……」 勇利は自分を守るように抱きしめた。瞳があっという間にうるおいを帯びた。そうか、そうだよな、と思った。演技が終わったらキスをして、なんて普通じゃない。そんなことをしている師弟なんて見たことがない。勇利だって、ヴィクトル以外にそういうことをねだった経験はなかった。ヴィクトルは優しいから応えてくれていたけれど、本当はいやだったのだろう。当たり前だ。くちづけとは愛しあった者同士がする行為である。試合のあと興奮してるから相手をして、なんて不健全だ。 「そ、そうだよね」 勇利は目にいっぱい涙を溜めて無理に笑った。 「こんなのおかしいよね。ぼく、なに考えてたんだろう……」 「勇利、ひとつ誤解しないで欲しいのは、俺はいままでこれをいやいややっていたわけじゃないってことだ」 「ごめんね、ヴィクトル。ぼくわがままで……」 「わがままなんかじゃない」 ヴィクトルは優しく言った。 「勇利は悪くないんだ。俺がいけない」 勇利は黙ってかぶりを振った。 「でももう、これ以上は耐えられそうにない。こんなままじゃ……」 「うん」 勇利はくちびるをふるわせた。最後にもう一度だけキスして欲しかったけれど、そんなことはさすがに頼めなかった。じゃあ、一昨日したのが最後だったんだ、と思った。気持ちはこめたけれど、もっとちゃんと、終わりだ、とこころをきめて、覚悟をしてしたかった。こんなふうに突然終わってしまうなんて……。 「ごめんね。いままでありがとう」 勇利の目から涙がひとつぶ、ふたつぶとこぼれた。こらえられなかった。 「勇利、俺はこれからは」 「うん」 もうしなくていいよ。ずっと身勝手なことを言ってごめん。勇利はまた涙をふりこぼした。 「これからは、コーチとしてはキスできない」 ヴィクトルがはっきりと言った。 「それ以上の気持ちを持ってする」 「……え?」 勇利はよくわからず、ゆっくりと瞬いた。ヴィクトルはなんて? なんて言ったの? するって言ったの? まだしてくれるって? 「おまえのことを愛してる」 「……うん」 「愛してるんだ」 ヴィクトルは真剣に打ち明けた。勇利はぽかんとした。 「そんなこと知ってるよ」 「勇利が思っている以上の気持ちでだ」 「え?」 「愛してる……」 ヴィクトルが勇利を引き寄せた。くちびるが覆われ、勇利は目をみひらいた。ヴィクトルのとろけるような、あたたかいくちづけだった。ついばみ、ふれ、また合わせる、底に物静かな甘美な旋律が流れているような──まるで静かなピアノ曲でヴィクトルが愛を踊っているかのような、優しく甘いくちづけだった。 「……ヴィクトル」 勇利は瞳をまるくした。 「こういう意味で愛してるんだ」 「…………」 「もう、熱にあてられて求められるだけのキスはできないよ。普段もしたい。勇利と過ごす時間のすべて。いつだって当たり前にくちづけしたい。勇利の気持ちをみだしてしまってはいけないと我慢してきたけど、これ以上は耐えられないよ。勇利が純粋な想いから俺のキスを欲しがってくれていたことはわかるけど、それだけじゃ俺は満足できないんだ」 ヴィクトルが勇利の頬にふれた。彼は親指でそっと涙をぬぐい、「泣いてるの?」と優しく尋ねた。 「ヴィクトル……」 「勇利……、勇利が欲しいのは、本当にキスだけ? 試合のあとの?」 「ねえ……」 勇利はおっとりした口ぶりで話しかけた。いま彼は試合用の姿をしており、洗練された様子だけれど、物言いは普段通りの、素朴でかわいらしいものだった。 「それってつまり、ヴィクトルはぼくを愛してるっていうことなの?」 ヴィクトルは笑い出し、勇利を腕いっぱいに抱きしめた。 「だからそう言ってるじゃないか!」 勇利はぱちぱちと瞬いた。リンクで初めてキスされたときよりも驚いた。 「え……えー……」 「なんだい、その反応は」 「えー……、ヴィクトル、ぼくのこと好きなの?」 「好きだよ」 ヴィクトルが勇利の目をのぞきこんだ。 「いけないかい?」 「いけなくはないけど……、えー……えー……」 勇利は頬に手を当てた。耳が熱い。まっかになっていることがわかった。ヴィクトルがぼくを好き? 好きなの? 「……本当?」 勇利は上目遣いでヴィクトルを見た。 「本当だ」 「本気?」 「本気だよ」 「普段も……キスするの?」 「したい」 「普段って……家にいるときとかでしょ?」 「そうだよ」 「どこでするの?」 「どこでもだよ」 「玄関で?」 「帰ったときはしたいね」 「台所で?」 「勇利が美味しそうなものをつくってるときにね」 「居間で?」 「勇利、テレビを見てるとき、ものすごくかわいい顔をしてるんだよ」 「レッスン室でも?」 「練習が終わったあとならいいだろ?」 「…………」 勇利はもじつきながらささやいた。 「……寝室でも?」 「…………」 ヴィクトルはほほえんだ。 「ああ。したいね」 「…………」 「いい?」 勇利は混乱していた。どうして? なんで? ヴィクトルはなぜそんなことを言うの? ぼくが好きって? 好きってなに? 何なの? だが、とりみだしてはいるけれど、胸にひろがるのはうれしいという感情ばかりだった。勇利はこれまでにないほどこころが安定し、落ち着くのを感じた。キスをしたいと望まれるのは、なんてすてきなことなのだろう。ヴィクトルにそんなふうに求められるのは……。そう、ほかの誰でもいけない。ヴィクトルでなければ……。 勇利はヴィクトルに抱きついた。 「キスして」 声がふるえた。いつもヴィクトルにはわがままを言ってきたけれど、こんなに鼻にかかった声音、舌足らずな口ぶりでねだるのは初めてだ。勇利は気恥ずかしくて自分の声を聞いていられなかった。ヴィクトルがどう思うか心配だった。なんだ、この甘ったれた媚びた声は、みっともない、とあきれられたらどうしよう? しかしヴィクトルは、すばやく勇利を抱きしめると、甘くてむせ返ってしまうような、優しく濃厚なくちづけをくれた。 「勇利、おまえを愛してる……」 「あ……」 「俺のものになりなよ」 糖蜜のしたたるようなそれを、勇利はふんだんに受け取り、夢のような時を過ごした。 約束通り、家の玄関でも、台所でも、居間でも、レッスン室でも、ヴィクトルはキスするようになった。勇利はそうされるたびどきどきし、我慢できないくらい動揺し、うずく胸のときめかしさに吐息を漏らした。普段にするくちづけは、無慈悲なほど勇利をとろけさせた。 「勇利、おいで」 「う、うん……」 「緊張しないで。何もこわいことはない。おまえがいやなことはひとつもしない。勇利のことを大切にするよ」 「……うん!」 そして今夜、勇利は、初めて寝室でヴィクトルとキスをする。
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