#監視カメラは、俺がやってない、ということを証明してくれる
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moko1590m · 7 months ago
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落ちている財布・カードなどを見つけた 道端で苦しんでいる人を見つけたetc. →自分一人で助けられると早合点せず、協力を求められる他者が近くに居れば協力を求め、 できるだけ最も適切な処置をとる。 警察も万能ではない。例えば、カードのことはカード会社に通報する方が適切。 安易に他者に責任転嫁しようとせず、自分にできる最も適切な行動をとるべき。
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kennak · 1 year ago
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松本サリン事件から27日で30年。前代未聞のサリンを使った事件を薬品ルートから調べ上げ、「秘密裡」に教団に迫った捜査班がありました。恐怖と使命感、そして無念さ…。「極秘捜査」に当たった元捜査員が30年前の記憶を語りました。 長野県警の元幹部 上原敬さん 県警元捜査員・上原敬さん(69): 「一体どうなってるんだと。この捜査をどんどん進めていった中で、本当にこれでサリンを作るとすれば、もう日本終わっちゃうよと」 県警の元幹部・上原敬さん(69)。長く刑事畑を歩んできました。30年前は「サリン」を追う「薬品捜査班」の班長。退職した今も記憶は鮮明です。 原因物質は猛毒の「サリン」 松本サリン事件の現場(1994年6月27日) 捜査一課長の会見(1994年7月3日): 「有機リン系の有毒物質が検出された。その物質はサリンと推定される」 8人が死亡、600人以上が重軽症となった未曾有の事件。猛毒の「サリン」が原因物質と判明したのは事件から6日後のことです。 記者リポート: 「きょうも毒ガス発生の謎解明に向けて捜査が行われました」「化学に詳しい5人の警察官を中心に新たなプロジェクトチームも発足しました」 化学の知識見込まれ「薬品捜査班」の班長に 化学の知識を見込まれて班長に そのプロジェクトチーム「薬品捜査班」の班長を務めたのが上原さん。大学で学んだ生物化学の知識を見込まれてのことでした。 県警元捜査員・上原敬さん(69): 「(サリン合成に)必要な薬品は何なのか、その薬品は日本のどこで作っていて、誰が買ってるのか。これを把握すればおのずとサリンを作ったものがわかるんじゃないかと捜査が始まるわけです」 「化学兵器」として認知されていたサリン。一方で「農薬から作れる」「偶然にできることもある」などとする説も報道される状況でした。そこで、上原さんたちは専門書を読み込み、全国の研究者を当たって、まず製造方法をつかみます。 調達ルート調べると…「得体の知れない人物」 次に薬品の調達ルート。合成に必要な薬品を扱う会社の取引を片っ端から調べました。 すると…。 県警元捜査員・上原敬さん(69): 「『ジメチル』(サリン合成前の物質)の捜査の中で浮上してきたのが、なんか得体の知れない人が買っていきましたよ、みたいな連絡があって」 7月19日、捜査班は薬品を仕入れた人物の住所に辿りつきます。 県警元捜査員・上原敬さん(69): 「その住所がオウム真理教の世田谷道場だったんです。(信者が)望遠鏡でずっと監視してるとか、外を見ているとか、カメラを持って写真撮影したり。やばいなということで、直接当たれなくて帰ってくるんですけど(捜査班の上司らが)尾行されたって言うんです。これはえらいところだと、尾行を巻いて帰ってきた」 教団が初めて捜査線上に 秘匿捜査が始まる 麻原彰晃元死刑囚 事件発生から22日、初めて「オウム真理教」が捜査線上に浮上しました。さらに調べると、ペーパーカンパニーが様々な薬品を大量に購入していることも判明。緊迫度が増す一方、慎重さも要されたと言います。 県警元捜査員・上原敬さん(69): 「(捜査が)オウム真理教に向いてるっていうことがわかると、長野県警は宗教弾圧をすると言いかねない。言論で攻撃してくることもあるだろうし、直接的に暴力でくる場合もあるかもしれない。要するに捜査の混乱が起こるだろうと。それなら、これは秘密にしておこうと。その辺から秘匿捜査が始まる」 河野義行さん犯人視に「違和感」 上原さんたちが秘密裡に捜査を続ける一方、捜査本部は、容疑者不詳のまま第一通報者・河野義行さん宅の捜索を実施。その後、別の捜査班が事情聴取も。河野さんを犯人視する報道が続きます。 県警元捜査員・上原敬さん(69): 「われわれの捜査の中で出てきたのはオウムだけなんですよ、怪しいのは。なぜ皆さん、河野さんを注目しているのか不思議だったし、違和感を感じていました。(サリンは)一般の家でできない、作れない。捜査班の一つで、(河野さんの)事情聴取も必要だろうとは思いますけどね」 大量の薬品購入に…恐怖と使命感 当時の参考資料を広げる上原さん その後も上原さんたちは薬品の購入歴や運送状況を捜査。翌年2月、想像を絶する「全容」をつかみました。 県警元捜査員・上原敬さん(69): 「(サリンを合成する)出発物質はダミー会社4社を通じてオウムは180トンを購入してた。この調子でサリンを作っていれば日本終わっちゃうよ。それを救うのは俺たちかもしれないな、みたいなことでね、うちのチームはそう思っていた」
松本サリン事件30年 元捜査員が証言「極秘捜査班」 薬物ルート調べ…事件から3週間でオウム真理教に辿り着く 大量の薬品購入に恐怖と使命感 サリン70トン製造予定 「都市10個壊滅させたかったのか」(NBS長野放送) - Yahoo!ニュース
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lolowv0 · 4 years ago
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スーパーダンガンロンパ2 感想
それはネタバレと言います
先日クリアしました。おまけモード等は未プレイ��本編のみの感想と考察
難易度はいつも通りイジワルでプレイ タイトル画面からキャラクターのみならずUIデザインもドット絵でなんだかゲーム調でとても良い
横スクロール日向クン関節キモくてわろた
通信簿イベントは基本気になったキャラのみでやり直し等は無しだが、狛枝だけは2章以降どうしても気になりすぎて一度だけ時を戻して1章で1つ回収した(2章以降は日向から見た狛枝の人格が変わるため、システムの都合上イベント1は1章で見ないとテキストに矛盾が生じる…)
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最終的に通信簿の進捗はこんな感じ
先ず一つ言えることがあるとすれば、俺は澪田が好きだった
CHAPTER1 絶望トロピカル
十神白夜は十神白夜だと思っていたためプレイ前は生き残るだろうと予想してたが、話しかける暇もないまま死亡 かなりショックだった
しかしそれ以上に衝撃だったのはこの殺人を扇動したのが狛枝凪斗だったことだろう 狛枝の考えは序盤では到底理解に及ばんが、最後までやるとある程度は理解できるし納得もできる 己の価値観で物事を考えるのは危険だと十神(本物)も言っていた
‣殺人の計画
超高校級のみんなのために奮闘していた十神が、家族のために外へ出ようとした花村に殺されたというのは皮肉なものだ
しかし花村は十神を狙ったわけではなく、よからぬことを企んでいた狛枝を止めよう(殺そう)として、それを防ぐために十神が身を挺した結果、今回の事件の犠牲者となった
これは狛枝の”幸運”の才能が働いたのだ 前段階として狛枝の殺人の計画が十神によって妨害され”失敗”に終わるという不運がある その後、花村がその計画を利用して殺人を起こすことで狛枝の望み通り”コロシアイが始まる”のである
‣花村と狛枝の会話
狛枝の殺人計画に気づいた際の花村との会話では、狛枝の”希望”に対する絶対的な信頼と、”絶対的な希望”を証明するためならコロシアイでもなんでも出来る、という常軌を逸した考えが語られる それに対し花村は「訳が分からない、どうかしてる」と言い、狛枝の価値観を否定する
‣十神のリーダーシップ
コロシアイ修学旅行において危険視すべきなのは「疑いあうこと」だ それを防ぐためには皆で協力し合う事が大切だが、その解決策として十神は”秩序を持った統率”を取るため自らリーダーを名乗り出た
モノクマの狙いが疑��暗鬼を引き起こすことであれば、そうさせないことは正しく生き残るための道である 十神には人の上に立つ素質もあったし、実際に反発した人間は九頭竜くらいだったので、もし殺人が起きなければ皆をまとめることも可能だったろう
また、十神は仲間を妄信するのではなくむしろ疑ってかかっている 同じく上に立つ立場の人間としてソニアが居るが、ソニアは皆をひたすらに信じるスタンスだ この場合リーダーに最も相応しいのは十神ということになる(「疑いもするけど、それでも信じたいという気持ちが本当に信じるという事」という七海のスタンスとも一致している)
CHAPTER2 海と罰。罪とココナッツ
ヒヨコと小泉の風呂イベントがあったり、水着CGがあったりと、裏で狛枝が拘束されていることなど忘れるくらい和気藹々としててよかった 七海、どうしてそんなところにほくろがあるんだ?
2章は狛枝の語りから入る ここの笑顔で口めっちゃパクパクするの面白い
「価値ある人間とそうでない人間って、生まれた瞬間から明確にわかれているんだ。」
「才能ある人間は“なる”もんじゃない…最初からそれだけの器を持って生まれてくるものなんだ。」
ここでは狛枝が生きてきた中で構築されてきた、”絶対的な希望”の価値と己の無価値さを説いている
「これは憧れなんかとは違うからね。憧れって…自分がそうなりたいと願い気持ちでしょ?ボクのはそんな図々しい気持ちとは違うんだ。ボクのはなんて言うか…もっと純粋で、無償の愛みたいなものなんだよ…」
「ボクは…どちらにも頑張って欲しいだけなんだ。ボクは…その先にある“絶対的な希望”をこの目で見たいだけなんだ。」
狛枝は『才能を持って生まれた人間』に憧れているのではない 希望同士がぶつかり合って残ったより強い希望、すなわち”絶対的な希望”に究極の価値を見出している(=無償の愛)
‣狛枝の監禁
旧館で拘束されて行動制限を設けられていたが、これが逆に小泉を”動機”に向かわせる原因になる 狛枝の様子を見に行った小泉は、そこで『トワイライトシンドローム殺人事件』についての話をし、ゲームをプレイしに行ってしまう
このころから七海は「コロシアイなんて絶対にさせない」という強い意志表明をしはじめる そして日向に『トワイライトシンドローム殺人事件』をクリアするように誘い、学級裁判でも相棒として積極的に手伝ってくれるようになる
1章序盤で相棒役となってくれていた狛枝が拘束されたところで、新たに日向の支えになってくれた 可愛い
‣事件について
九頭竜とペコ山の通信簿イベ等はノータッチだったので犯人までは分かっても動機は推測できなかったが、記憶が消された期間より前から関係があったことは盲点だった これに関しては本編中、ダイナーに居る九頭竜に話しかけると「新しい島について教えてきたヤツがいた」との話を聞くことができる これがペコ山である
ペコ山は自分を”道具”だと言い張っていたが、九頭竜はそうは思っていなかったし、周りも認めなかったため自分に投票させたペコ山の思惑は失敗に終わる ペコ山と九頭竜は互いを想いあってはいたが、互いの価値観を共有することが出来ていなかったのだ
九頭竜はトワイライトシンドローム殺人事件の真相を探るため話を持ち掛けただけだったが、小泉の反論を受けて衝動的に手にかけようとしてしまった ペコ山の動機は九頭竜を守るため(生かすため)
「他人の罪を裁くなんて…そんな権利なんて誰にもないんだよ!復讐なんて…間違ってるよ!!」
小泉の「他人を裁く権利などない」という考えは正論かもしれないが、しかし極道の世界で生きてきた九頭竜にはオトシマエをつけさせなければならないという使命感があった これは単なる復讐ではなく、九頭竜にしか分からない仁義である 二人の価値観が決定的に違っており、それを受け入れられるだけの器がまだ育っていなかったために起きた事件だった
‣ソニアに関して
海水浴を企画しみんなを集めたことで”小泉が自分の罪について相談する機会”を失くしてしまったことは、事件の引き金になっている
また、図書館で『キラキラちゃん』について話したりシリアルキラーに関心を持っている事がわかるが、これは今回の裁判において重要なヒントであり、ミスリードでもある
しかしここで注目したいのはソニアがシリアルキラーなどの異文化に関心を持つ理由だ
「自分と違う価値観と触れ合うのは、とても大切な事なのですよ。」
‣この世界の謎について
ジャバウォック島が人工島である事を匂わせる描写があったり、無数の監視カメラなどであたかも前作のダンガンロンパ同様、「世界に放映されている」と思わせるミスリードがある
実際は1章冒頭の扉の場面やチャプター演出等でこの世界が現実ではなく、前作同様に閉鎖空間であることを予想できる
未来機関については、モノクマの言う事を信じる気はなかったので完全に敵だとは思っていなかったし、この時点で”裏切り者”とモノミへのヘイトが尋常じゃなかったのでおそらく未来機関は味方で、あってモノクマ・未来機関・日向たちの3すくみだろうと考えていた
モノミについても敵ではないが権限持ちを意味するステッキを盗られている以上役に立たない置物程度に思っておいた(ちゃんとモノケモノを倒してくれていました)
CHAPTER3 磯の香りのデッドエンド
追悼ライブや花火の打ち上げなどこれまで以上に澪田が積極的に行動を起こしてきたため、このあたりで退場かと怯えながらも覚悟を決めてプレイしていた
九頭竜とヒヨコはどちらも大切な仲間を失っているが、九頭竜はこの章で自分なりの”ケジメ”をつけ、回復後は協力的になり、日向たちと行動を共にすることを拒まない
一方で、ヒヨコはまだ九頭竜の罪を許せておらず、前へ進もうとしている途中の段階だった そして絶望病の発覚後はモーテルの自室に閉じこもり、モノクマの罠である絶望病に怯えてしまう おそらくこの差が生存できるか否かの分かれ目だろう
‣左右田の才能発揮
病院とモーテル間の連絡を取り合うため通信機を発明しているが、ここでの発明は「みんなのため・コロシアイを防ぐため」のものであり、左右田の才能がコロシアイの道具ではなく「皆と生きるため」に使われている(罪木の見立て殺人の道具としても使われたが、これを日向が観測していたことにより結果的に日向にしか辿り着けない”真実”に繋がっている)
‣絶望病について
モノクマが自由に罹患・治療することができる謎の病気 この非現実的な病気はこの世界が現実ではないことを分かりやすく示唆している
‣狛枝のウソつき病に関して
病名の通り狛枝は嘘をついている 狛枝の様態が悪化した翌日、起き上がれるようになった狛枝の病室を訪ねると
「日向クンと一緒なんてボクには耐えられないよ。」 「さっさと行っちゃって、もう顔も見たくないからさ。」
というような台詞を言う
これは嘘であるから、本音としては「一緒にいたい」ということになる
しかし普段の狛枝は「自分なん���が超高校級の皆と並び立つなんておこがましい」と自分を卑下するような発言が目立つ 更に己の才能が分からないにも関わらずみんなと仲良くする日向に対して”羨ましい”と言っている これらもすべて本当であり、「一緒に居たい」と言う本心を隠しつつ「自分なんかが一緒に居ていい訳ない」という本音を喋っているのである
狛枝は皆を”希望の象徴”とする一方で自分は”希望の踏み台”としてしか見ておらず、それらはすべて自信の無さから出る発言であり、彼の”希望の象徴”としての基準を己は満たしていない(生まれ持ったものなのだから、努力したって価値のある人間にはなれない)という考えのもとで構成された自己肯定感の低さの表れである
‣事件について
犯人の決定的な証拠は無かったが、現場の状況からして罪木以外はあり得ないという状況 しかし動機も分からない以上罪木にボロを出して貰うしかない… 七海の協力もあり罪木から論破できる言葉を引き出すことに成功
狛枝が捜査段階から罪木に疑いの目を向けていたのは、看病された際に絶望病に罹っている事に気づいたからだろう 事実、狛枝の様態が回復する頃にちょうど罪木は高熱を出していた(抱き着かれながら目��めた日向はそれに気が付いた)
そして”あいするひと”のために殺人を計画したという罪木の告白
「あなたに会えるという希望を持って死ぬ私を、どうか許してください。」
ここで言う”あいするひと”とは江ノ島盾子であり、彼女は皆の記憶が消された期間より以前に既に死んでいるという事実が証明される
狛枝に指摘された通り、現在の罪木は過去を思い出したことによって”絶望”に堕ちており、「あなたに会える希望を持って死ぬ事を許してほしい」という台詞は”絶望”に相応しくない”希望”を抱くことに対する懺悔である
更に罪木の病気は”思い出す病気”であること、「私がこんな人間になったのはみんなのせい」であることから、罪木は誰かの影響を受けて”こんな人間(絶望側の人間)”になったことがわかる
裁判後、罪木は”島で過ごした仲間たち”とのことを「ただの過去」と言い切る これは島に来てからの罪木は”学園生活の記憶”を失った過去の罪木、つまり”絶望に堕ちる前の罪木”であり、絶望に染まってしまった現在の罪木にとっては価値のない過去でしかない
豹変した罪木は正直好き
‣ソニア
ちなみに今回もソニアの言動が事件の引き金になっている(帯が結べないヒヨコに対して「ライブハウスの鏡を使ったらどうか」という助言をしている) これは善意からのミスリードである
猫丸が再登場するときロボ化フラグか?とか思ったらガチロボットでまじでわらった
CHAPTER4 超高校級のロボは時計仕掛けの夢を見るか?
ロボットに命があるのならAIにも命はあるのだろうか
猫丸がロボ化して復活した後のこのタイトル、早くも死亡フラグか…と思いつつ 冒頭から思ってたけど1やV3と違って開けた場所で色彩も鮮やかで全体的に明るい雰囲気だ 南国だの遊園地だの
ジェットコースターでなんやかんやした後ドッキリハウスとかいう完全な閉鎖空間に誘拐される この章をプレイした時二徹明けの夜とかだったから思考も推理もグシャグシャで正直あんまり覚えてないが結構難易度の高いトリックだった気がする
タワーを通じて繋がる二つの空間が単純に横並びでないことはすぐにわかったが、振動のないエレベーターがあくまでその挙動を隠すためのものであることに気づかず実際動いてないんじゃないか?みたいなことを考えて 動いてるのは建物の方(非現実的だがこの世界なら起こるだろ)、のような推理をしてた気がする
どうしてそこに八角形があるのかな?
この章でソニアと田中が何やら仲良くなる ここについては詳細を知らないが、二人は互いに励ましあい協力しようとしていたらしい
‣ファイナルデッドルーム
狛枝操作 急に脱出ゲームが始まって動いてない脳みそが更に固まるが、優しい狛枝とウサミのヒント(答え)でなん���かクリア ちゃんと起きた状態でやりたかった
狛枝は”6発中5発が弾丸入りのロシアンルーレット”をするが、見事に成功させてクリア特典を受けとる ここでの狛枝は意識的に”超高校級の幸運”の才能を利用しており、自分の才能に絶対的な信頼を置いていることがわかる
‣クリア特典
未来機関のファイルと希望ヶ峰学園のプロフィール
狛枝は自分たちの過去と日向の才能について知ることになる 予備学科差別には大変笑ったが日向からしたら途方もない絶望だろう 読む前は「才能が分かれば日向クンも喜ぶだろうな」ってウキウキだったのが面白い
日向が何の才能も持たないただの”予備学科”であることを知った狛枝は、日向に対し「キミもボクもただの”踏み台”でしかないんだ」と、それまで以上に日向のことを同類視している
元々”希望ヶ峰学園に憧れる存在”として意識していたようだが、才能が無いことを知った彼の中では完全に自分と同じ価値の無い人間に成り下がってしまったのだ
‣事件の真相
田中は閉鎖空間にいる間も生きることを諦めず、生きるために戦う事を選んだ それは猫丸も同様で、彼は田中の殺気を感じ取った瞬間に自分も戦う事を決意していた
ソニアや終里は田中たちの考えに納得できないと言うが、その信念は決して間違っておらず、自己の正当化でもない 自分の価値観を押し付ける気は毛頭ないし理解されようとも思わず、ただ己の信念を貫いたことで世界を変えた彼の功績は大きい
「俺様の価値観を押し付けるつもりなど毛頭ないからな…だが、あえて言わせて貰うとすればッ!ただ死ぬのを待つだけの生など…そこに一体どんな意味がある?」 「生を諦めるなど…そんなものは“生に対する侮辱”でしかない!」
生を諦めることを生への冒涜、生物としての歪みだという彼の信念が今回の事件の”動機”になり、それによって日向たちの「仲間同士で殺しあうくらいなら死んだ方がマシ」という諦観の価値観を変えた
田中がファイナルデッドルームに行くに至った動機は、”停滞”した現状を打破するため つまりは全員で緩やかに死んでいくことを防ぐためであり、みんなを前に進ませることが目的である そのために「弐大との戦いに比べれば児戯に等しい」ロシアンルーレットも越えてみせたのだ(自分一人の生死よりもみんなを含めた生死の方が重要ということ)
彼の命に対する価値観が”超高校級の飼育委員”によって培われたものだとすると、彼もコロシアイにおいて己の才能を発揮していたと言える
狛枝にはこれを”希望のための殺人”と思えなかったが、実際にはみんなに希望を与える結果となっている
‣ソニア
4章では男女で別れてそれぞれの階の客室を使うことになるが、ストロベリーハウスの部屋数に対してあぶれてしまいラウンジで寝泊まりするはずだった日向を、女子が使うマスカットハウスの余った部屋に泊まるよう��導する
ここでもし日向がラウンジで寝泊まりしていたら、その後起きる事件は実行不可能だったのである(犯人は気づかれずラウンジを通る必要があるため)
今回もソニアは事件が起こる一端ともいえる、善意からのミスリードをしている
また、この章の最後で狛枝がモノクマを呼び出すシーンがある
そこで「この島の絶望を排除することが出来れば、ボクは本物の希望になれるはずだ」と、自分の持つ”超高校級の希望”になりたいという欲望を吐露している
CHAPTER5 君は絶望という名の希望に微笑む
この時点で七海と狛枝の通信簿は回収済み
‣詐欺師
捜査パートで十神が偽物だったことが判明する 意味が分からなかったが、意味などないらしい 十神の正体を引っ張ったのは『コロシアイ学園生活の生き残り』や『裏切り者』のミスリードでしかなかったのだ
七海は自分たちを騙していた十神に対し仕方ないと言う
「才能を持つっていう事は、その才能に縛られるって事でもあるんだよ。」
本人の望む望まないは別として、才能に頼らざるを得なくなる状況もある 狛枝はその生き様からして上記の事を体現しているだろう
そしてこれは才能を持たない人の方が良いのかもしれないという考えであり、狛枝とは真逆の価値観である
‣自殺に見せかけたトリック
自分の命を懸けて”絶対的な希望は絶望に打ち勝つ”ことを証明したかった狛枝は、今回の”犯人不明のトリック”に及んだ
自殺(狛枝が仕組んだ殺人)であることは裁判中早い段階で判明したが、その動機について「狛枝は俺達を皆殺しにする為に自殺したのか?」と日向が疑問を抱く
そして消化弾の細工に気づき、この事件の犯人が”特定不可能”であることに辿りつくが、ここで重要なのがモノクマには犯人が分かっている点である(プログラム世界である以上、監視カメラなどの小細工を必要とせず、監視者として全てを把握できる)
‣ソニア
倉庫で火災が発生した時、ソニアが「消化弾を使いましょう」と言わなければ狛枝の罠に嵌ることは無かった 善意からのミスリード
また、軍事施設で怪しい動きをしていたり、狛枝が用意した大量の爆薬がただの花火であることを教えにギリギリになって倉庫へやってくる等”裏切り者”のミスリード
”絶望を排除しようとする”狛枝と、”希望を守ろうとする”七海
‣七海千秋
七海の推理の根幹は「信じる」ことだ
「疑いもするけど…それでも信じたい。その先にあるのが『信じる』って気持ちなんだよ。」
狛枝は自分の幸運を信じて「裏切り者に自分を殺させる」計画を決行した その幸運を信じるのであればこの事件の犯人は”裏切り者”である七海だ そう推理した七海は、日向なら真実に辿りついてくれると信じて”裏切り者”の推理を託したのだ
日向が七海を”裏切り者”として指摘することは狛枝の運を信じることではなく、七海を疑うことでもなく、七海を信じることである この選択は非常に心苦しいが、七海の選択を裏切らないためでもある
未来機関を裏切れないからと、これまで直接的な干渉は控えていた七海だが、この章をもってそれを卒業することになる
七海はひな祭りも乳絞りも知らない 生まれたばかりで色々なことを学習している途中だ
「人の感情とかを推測して考慮して、選択しなきゃいけないようなのはちょっと難しい。」 「できるだけ、傍観者でいた方がいいって。」
そう言っていた七海が狛枝の”希望”に対する感情を推測して考慮した推理を披露し、自分の意思で”本来の役割”を降り、未来のために日向たちの背中を押したことは彼女が正しく成長していることの証明だろう
‣超高校級の幸運
狛枝の目的は「裏切り者以外の全滅」、さらに言えば「希望が絶望に打ち勝つ事」である 前者が今回の計画の主目的であり、これは日向たちの推理によって”失敗”に終わった しかしこの失敗という不運は6章で覆ることになる
‣七海とウサミのおしおき
ウサミはおしおきの直前こんな話をする
「英雄になる必要なんてないんでちゅよ。無理に誰かに認められなくてもいいんだからね。」 「他人に認められなくても、自分に胸を張れる自分になればいいんでちゅ。」
これは権限をモノクマに奪われたウサミ本人にも、才能を持たずそれに強い憧れを抱く日向にも向けられた言葉であり、同時に 確かな才能を持つ者に憧れ、自分を卑下していた狛枝にも刺さる言葉だ
‣バグり始めた世界
画面にノイズが走りテキストが文字化けすることでこの世界がプログラムであることが表面化してきた それだけでなく、死んだはずの仲間が出てきたりと心臓への負担が大きい演出となっている
その後レストランで狛枝の最期のメッセージを聞くことに
バグりながらも話を紡ぐ狛枝が残したものは『11037』のパスワードと、彼の願望をあらわにした言葉だった
「ボクの行動が世界の希望の礎になると信じている」 もし本当にそうなったら「ボクを…超高校級の希望と呼んでくれ。」と、今まで隠していた「”超高校級の希望”になりたい」という願望を明確に口にする
CHAPTER0 修学旅行へと向かう乗り物の中のような
船の中でカムクラと話している狛枝
カムクラの視点で語られるが、両者の語り口からは”あいつ”(江ノ島)に対する殺意や憎しみが垣間見える (狛枝の「大嫌いなあいつを殺せるのかな?」 等)
”絶望”になった生徒たちは皆が皆罪木のように江ノ島のことを純粋に敬愛してるわけではなく、彼らの様に否定的な感情を抱く者もいるのだろうか
‣カムクラの目的
「僕は持っています。あいつが遺したモノを…」
江ノ島が遺した江ノ島アルターエゴのことだが、それを持ち込んだ理由は単に江ノ島を復活させるためではなく、江ノ島を利用してツマラナイ世界に何かを残そうとしている
『予想がつかない』出来事を期待している
‣狛枝が腕を移植した理由
「最大の敵である”超高校級の絶望”を取り込むことに成功した」 「大嫌いだからこそあいつの力を取り込む」
と言っているが、��後に「大嫌い…なのかな?なんだろ…おかしいな…」などと錯乱する様子も見られる
6章裁判での苗木(偽物)の「江ノ島と一体化する事で、自分の中で彼女を生かそうと考えたんだろうね。」と言う発言は江ノ島アルターエゴの推理であるから狛枝の真意は分からない
CHAPTER6 This is the end 〜さよなら絶望学園〜
序盤は希望ヶ峰学園の探索 愛着のある景色が壊れていく様は面白かった 前作をアニメで済ませずちゃんとゲームプレイしててよかった
未来機関のメールの痕跡などから苗木たちが”超高校級の絶望”を匿っていること、それが未来機関の意思と反することなどが伺える
‣ちーたんアルターエゴ
監視者の二人についてや、監視者の権限を乗っ取ったウイルスも”ルール”に縛られていることを教えてくれた ここで何者かがこの世界にウイルスを持ち込んだことがわかる
‣苗木誠
苗木クン生きてるしめっちゃ喋るしなんなら普通に登場してわろた
『11037』のパスワードを「ある人が窮地に陥った自分を救うために残してくれた数字」と言っていて、なんだかすごく嬉しくなった 舞園さんが好きなので 苗木にとって舞園さんは今でも恩人であり忘れられない思い出なんだ
以下裁判パート
‣苗木?登場
めちゃくちゃ格好良い登場の仕方だったけど偽物だった
ここで狛枝が先に辿りついた真実の一つ、自分たちが”超高校級の絶望”であることを突き付けられる
モノクマから卒業プログラムで卒業を選ぶことで”超高校級の絶望”の記憶はなくなり、現在の日向たちのまま卒業できるという説明を受ける
死んだみんなは生き返らないが、ここで外に出ない意味はないので当然卒業の流れに 七海が残してくれた未来ならそんなの選ばざるをえない…
しかし、日向たちが卒業する方へ誘導しているモノクマに違和感を抱き、この苗木を信用して良いのか?と言う流れに 結果、この苗木はモノクマの自作自演だということがバレる ここで苗木である証明のために『11037』の意味を問うところがまた良い
‣江ノ島アルターエゴ
死ぬ前に江ノ島本人がちーたんの技術を盗んで作った…らしい カムクラが持ち込んだウイルス
江ノ島は卒業プログラムについて「死んだみんなは生き返る」と条件変更 あからさまに都合が良すぎるが
ジャバウォック公園にあったカウントダウンは「コロシアイ修学旅行のタイムリミット?」→「モノクマの言う”あいつ”が来るまでの時間?」→「江ノ島がプログラムを改ざんするまでにかかる時間?」のように次々とミスリードされていったが、結局意味など無いらしい
ここにきて卒業を押すのか…?と思ったら
‣苗木(本物)登場
主人公か?
苗木は新しい方法として”強制シャットダウン”を提示する しかし現状では人数が足りない…まさかとは思ったが、そのまさかだった
‣霧切・十神登場
激アツカットインからのクールな二人 苗木含めたこの三人好き
十神が「��いから強制シャットダウンだ」しか言わない こいつ前は自分の価値観で物事を考えるのは危険とか言ってなかったか?
苗木とその希望を信じてプログラム世界に身を投じた二人だったが、彼らの説得も虚しく江ノ島が突きつける残酷な真実に日向たちは絶望してしまう
苗木たちがこの世界に来るタイミングは、江ノ島に操作されたものである
‣希望更生プログラムから絶望復元プログラムへ
”強制シャットダウン”を選ぶと「この島での記憶が消える」 それはつまり七海の記憶も消えるという事だ それはみんなが絶望に戻ってしまうことや死んだみんなが生き返らない事よりも重大に思えてしまった
しかし”卒業”という選択肢は世界に”絶望”を放つことである それは江ノ島の”絶望”が勝つことを意味するため選ぶことは絶対にできない
(”留年”はどう考えてもメリットが無いため考慮しない)
江ノ島は日向たちに卒業を選ばせたがる(=苗木たち三人を永遠に留年させ、生き返ったみんなを江ノ島アルターエゴで上書きする(のちの人類総江ノ島化計画)ことを目論んでいる) ここで重要視すべきなのは人類総江ノ島化計画ではなく、苗木たちを永遠にこの世界に留まらせる事である
そして強制シャットダウンをさせないために江ノ島はさらなる残酷な真実を突き付けてくる
‣カムクライズル
日向創が希望ヶ峰に憧れるあまり付け込まれロボトミー手術を施されて生まれた”超高校級の希望”と呼ばれる天才 あらゆる才能を人工的に植え付けられた結果、人生を「ツマラナイ」ものだと思っている模様 カムクラの存在は5章のウサミの台詞と真逆であり、狛枝の「才能は生まれ持ったもの」という理念に反するもの
強制シャットダウンすれば日向は”絶望”状態のカムクライズルになり、日向創という存在は消えるのだと言う こんなにも残酷な真実があっていいのだろうか、まさに絶対的な絶望だ
そしてどちらも選べず立ちすくむ日向たちに対し、江ノ島は「予想通り」だと言う すべてが予定調和で、すべてをコントロールできるゲームの世界だから こうして事態は膠着したまま苗木たちもなすすべなく日向は絶望に堕ちてしまう…
江ノ島アルターエゴの真の狙いは”停滞”であり、南国の島でずっとずっとずっと…みんなを未来に進ませない事にある そこに動機は存在せず、ただ純粋に絶望を追い求めているだけ
‣七海千秋
救いの手を差し伸べてくれるのはやはり七海だった
「キミ達はゲームなんかじゃないんだよ?”選ぶ”だけじゃなくって…”創る”事だってできるはずだよ。」 「たとえ”存在”がなくなったとしても、私とみんなで作った未来をみんなが進み続ける限りは…私は消えてなくなったりしない。」
と意識の底から日向の背中を押して励ましてくれる そうして才能を持つ事がゴールじゃない、自分を信じてあげる事が大切だと言うのだ
これは七海がコロシアイ修学旅行を経て学習したことであり、日向が欲していた”希望”の言葉だろう
「キミなら”未来だって創れる”はずだよ。」
七海の言葉を借りて絶望に染まったカムクラを論破していく 日向創、いい名前だ
‣スーパー���イヤ日向
江ノ島は七海の後押しにより覚醒した日向を見て完全に予想外だという反応を見せる 「ま、まさか・・・カムクラ?ちょっとどうなってんの!?こ、これって・・・マジもんのバグとか!?」という台詞から推察すると、現在の日向はカムクラと同等の力を持っており、”超高校級の絶望”に対抗できるものだとしたら、日向は”超高校級の希望”として目覚めたのである
そうして日向は自分たちで”未来を創る”ために強制シャットダウンをする決意をみんなに示した
‣江ノ島の敗北
江ノ島アルターエゴはウサミにおしおきされ、今度こそ影響力を失う
”超高校級の希望”が”超高校級の絶望”に打ち勝ったという事は、狛枝の望みが成就したという事でもある 5章での狛枝の計画が”失敗”して七海が未来機関としての役割を放棄し処刑されるという”不運”を覆すのが、6章での七海が日向の”意識の中”で彼を励ますという役割を担う”幸運”に繋がる
つまり狛枝の行動が起因となってどんな絶望にも打ち勝つ絶対的な希望を日向に与えている
これは狛枝が意図していたことではなく、本人が望んだ結果とは別の形での幸運の成就という、これまで発揮されてきた才能の法則性と違わぬものになっている
また、”幸運”という才能が単なる偶然の産物ではないことはカムクラがその才能を持っている(=移植できるレベルで定義が存在する)ことが証明となっている
EPILOGUE 未来の前の日
スーツ着た霧切さんがとても可愛かった 腐川が十神の帰りを待っている事を思わせる台詞もあったし前作の生き残り組はこの世界でちゃんと生きてるんだなと思うと感慨深かった
苗木たちの創った未来も存在している事実が嬉しい
同時に日向たちが創った都合の良い未来も存在していることを願う
今作が一貫して言っていたことは、「多様な価値観があること」
己の価値観のみで形成された世界では起こりえない予測不可能なことでも、行動を起こせば”奇跡”は起きる
他に考えたい点
・日向(カムクラ)達はなぜ超高校級の絶望になったのか
・希望ヶ峰学園のした事
・カムクラの目的 等
キャラ評などは通信簿埋めてから改めて書くと思う
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これは一番好きな日向創の表情
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skf14 · 5 years ago
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06250159
今となっては人が辿り着けない、忘れ去られた森の奥に、古びた洋館は佇んでいた。
夜には人間ではないものたちの舞踏会。
ひとりでに鳴り響くピアノの音に合わせて、魑魅魍魎は舞い踊る。
それを壁に寄りかかって楽しげに眺めていた男が、ふらりと宴に近づきピアノに触れる。その瞬間、ピアノはポロン、と和音を鳴らし、まるで尻尾を振ってじゃれつく犬のようにポロン、ポロンと楽しげな音を奏でた。
「そろそろ調律が必要だね、ピアノくん。」
ある者は体液を、ある者は魂を、そしてある者は全てを忘れられる魔法の粉を撒き散らしながら、魑魅魍魎は宴に酔いしれる。
その時、騒々しい音を立てて洋館の扉が開かれた。音の正体は何かに躓き派手に転んだらしい。驚いた魑魅魍魎たちが逃げ惑い、さっきまで上品な舞踏会を催していた洋館が、まるでお祭り。どんちゃん騒ぎ。
収集のつかない面々に呆れ顔の男。駆け寄り抱きついた騒がしい男が、太陽のような眩しい笑顔と歯を見せて笑う。
「ただいま!おそくなっちゃった!」
「......もう少し静かに入れないのかな、此岸。おかえり。」
「へへ、ごめんごめん、彼岸くん。ゆかがわれてたよ。なおさなきゃ。」
「そろそろ慣れてくれないと、君が来るたびに皆が驚くよ。」
「はは、だよね。ごめんねー、みんな。」
二人が揃ったのを見て、魑魅魍魎たちは散り散りに自らの住処へと帰っていく。ごめんねー、騒がしかったねー、と声をかける此岸を見ながら、場の温度が冷めていく。後に残すのは静寂のみ。呆気ないものだ。いつもこうして全てが終わった後は、酷く寂しい、心に穴が開いたような感覚になる。
どちゃり、と買い物をしたらしい此岸が戦利品を机に置き、遊び盛りの子供のようにソファーに飛び乗って雪崩れ込む。そこはさっきまで首無しの騎士が踊り狂って倒れ込み鮮血を撒き散らしていた場所だったが、どうせ汚れても洗濯するのは僕だ。と開き直って黙っておいた。
「はぁ、つっかれたぁ。まちってほんと、とおすぎだよね。」
「随分遅かったね。今日はどこで遊んでいたんだい?」
「いろんなとこにおでかけしてきたよ。ほらみて。おさいふすっからかん!」
「......此岸くん。」
「はい。」
「僕が今朝、街に行って買い物がしたい!と強請る君に渡したお金はいくらだったか覚えているかな?」
「えーーーー...っとぉ......かみがごまい、だから、ごせんえん?」
「...此岸。あれは諭吉だ。英世じゃない。君が持って行ったのは5万円だ。」
「あー。」
「あー。じゃないよ君。...まぁ、仕方がないか。こうなることは概ね予測済みだったから。で、何を買ったのかな。」
気まずそうに彼岸の顔を見ながらも、戦利品を早く見せびらかしたかったらしい此岸が、紙袋やらビニール袋やら机に投げ出していたあれそれを開封し並べていく。その楽しげな顔に毒気を抜かれた彼岸は、ため息を吐いて彼の前へと座り、広げられる品物の数々を手に取っては、釣られて笑った。
「これは?」
「かいだんでころがすにじいろのおもちゃ!」
「これは?」
「かっこいいりょうりどうぐだよ。かなものやさんでかったの。おにくをやくまえにたたくものなんだって!」
「もうあるんだけどなぁ。肉叩きなら。」
「えへへ。とげとげつよそうでしょ?」
「これは?」
「きんぎょ!こっちには、きんぎょばちもあるよ。えさも!これね、くろくてめがでてるのがぼくで、しろくてきれいなのが彼岸くん。」
「いいな。名前は?」
「しーちゃんと、ひーちゃん!」
「覚え易くて良い。採用。」
「あとね、これ。彼岸くんがすきっていってた、はなだよ。」
「...あぁ、アングレカムか。母に似て、好きな花だよ。よく覚えてたね。この子は日向が好きだから、枯らさないよう日に当ててやらないとね。」
「なんだかいいにおいがする、とおもって。ぼくちゃんとおみずやるね!」
ふんすふんす、と鼻息を荒げまるで褒美を待つ犬のような此岸の頭を撫で、彼岸はさて、と場を仕切り直した。それは、冒頭からずっと気になっていたことを、指摘すべきかと考えあぐねているうちに此岸のペースに取り込まれていたからだった。
「で。今日は何を連れ帰ったのかな。」
「なんのこと?」
「...君のせいで、僕は血塗れだよ。お気に入りのシャツが真っ赤だ。」
「あー...あは、だよね。ごめんね。すてきなかぞくをつれてきたんだ。といっても、ひとりはかけちゃったんだけど...」
「おや、お客様だったか。なら、おもてなししなきゃいけないね。支度しようか、此岸。」
「はぁい!」
後頭部に鋭い痛みが走ったところまでは覚えていた。が、目を覚ました場所は見知らぬ洋館らしき古い建物。ここがどこで、何月何日の何時なのかも全く分からない。口には猿轡、手足には指錠が掛けられていて、身悶えすることしか出来ない。が、身悶えした瞬間、足首に激痛が走り一瞬息が出来なくなる。足をやられた、と脳内で舌打ちを漏らし、あたりを見回せば傍らには横たわる妻と、そして娘がいた。もう一人の娘はどこに。襲われる直前まで一緒にいたはずだ。とコンクリートが剥き出しの床に頬を擦り付け周りを見回していると、古い扉がギィ、と軋んで開く。
「ほら、おきゃくさんだよ!」
「縛り上げて口枷まで。あぁ、血が滲んでるよ。全く...手口が雑だな。」
「ごめんって。だってあばれるんだもん。」
「そりゃ暴れるだろう。いきなり街中で拉致されるんだから。」
軽口を叩きながら部屋に入って来たのは、小柄で細身な色白の男と、その男よりも背が高く、健康的な身体に笑顔を浮かべた男。神経質そうな細身の男が我々を見て顔をしかめ、心配そうに私の顔を撫でた。気味が悪く避けるように身体をしならせ避ければ、しゅん、と困った顔をして顔を覗き込まれる。異常だ。まるで意味が分からない。
「とりあえず、おはなししないとね!彼岸くん!」
「そうだね。此岸。さぁ、いらっしゃいませ、お客様。」
彼岸、と呼ばれた男が私の後頭部へ手を回し、猿轡代わりに口に詰め込まれ固定されていたタオルを取った。肺に流れ込む新鮮な空気を目一杯吸い込んですることなど、一つしかない。
「っ 、ゲホ...誰か!誰か!!助けてくれ!!!!!」
「うわぁーうるさい!うるさい〜!」
「紳士、お静かに。ここは山奥の洋館。呼んでも誰も来ませんよ。」
「誰か!いないのか!助けてくれ!!!誰か!!!!」
「うるさいっていってるじゃんか!もう!」
髪をグシャリと掻き回して癇癪を起こす子供のように叫んだ此岸、と呼ばれた男が手に持っていた火かき棒を思い切り私の頭に振りかざした。その瞬間、鋭い熱さと、そして世界が揺れる気持ち悪さで目が眩む。振りかぶって頭の左側面を殴られた。耳が酷く熱い。
「コラ!此岸!」
「うぇぇ、ごめんなさぁい...だって、ぼくのみみ、いたくなっちゃうから...」
「すまないね。耳が切れてしまったみたいだ...。止血するから、大人しくしていてください。」
私の隣に蹲み込んだ彼岸がポケットから出した柔らかなハンカチで私の耳あたりを押さえ、「救急箱持って来てくれるかな、此岸くん。」と指示する。脱兎の如く駆け出した此岸を目で追えば、傷の様子を見ていた彼岸にくすくすと横で笑われた。
「可愛らしいでしょう、彼。子供なんですよ。」
「...どう見てもただの、大人の男じゃないか。なんなんだ、ここは。アンタは誰だ。目的はなんなんだ。」
「此岸が連れ帰って来てしまった、と聞いています。心中お察しします。」
「聞いてるのかお前、お��!」
「全く、ゴルフじゃあるまいし、火かき棒を振りかぶるなんて。」
「彼岸くん!もってきたよ〜!」
「ありがとう。」
さて、と、先ほど投げ捨てたタオルを拾い上げた彼岸が、私の口にそれを突っ込み直す。そして、救急箱の中から恐らく医療用の針と糸を取り出し、そしてにこりと気持ちの悪い笑みを浮かべた。
生きながら麻酔なしで耳を縫われる、その感覚は二度と味わいたくものだと、焼き切れそうな思考の中でどこか冷静な私が懐古していた。強張った手足の感覚はもう既に無い。
永遠とも感じ取れる時間の中、終わったよ、という声がどこか遠いところからモヤがかかったように聞こえる。目を開けば、優しそうな笑みを浮かべた彼岸が私の頭を撫で、よく頑張りましたね。と私を褒めている。
「うまいなぁ、さすが彼岸くん!」
「全く、君は火かき棒の使い方が分かってないな。そもそも人に振るうものじゃないし、何のためにここに板がついてると思う?」
「...あぁ、そういうことか!ぼくりかいした!じっせんしていい?」
「また余計なことを思いついたな。此岸。全く...。」
「よーしじっせん!こうでしょ!彼岸くん!!!」
声を発せない状況のまま、此岸が先ほど私の頭めがけて振りかぶった姿とはまた違う、上からストンと振り落とすような仕草で火かき棒を、妻と、そして娘の頭に下ろした。ぐちゃ、と鈍く聞こえたその音で、目の前が怒りにより真っ赤に染まった。びくん!と身体を震わせた妻と娘が目を覚まし、そして光景を見て、痛みに喉から搾り出された金切り声で絶叫する。
「ねぇ彼岸くん、ぼくじょうずにできた?」
「...そうだね、とても綺麗で鮮やかだった。で、誰が治療すると思ってるのかな?此岸くん?」
「あっ...」
「罰として明日の洗濯係は君だ。」
「ちぇっ...でも、てつだってくれるんでしょ?」
「...君に任せていたら、また蝶々やらバッタやらを追いかけて終わらないからね。」
「へへ、やさしいなぁ。ありがと!」
手慣れた様子で妻と娘の耳を止血し、火かき棒がざっくりと切り落とした耳を此岸へと手渡す彼岸の様子に、血の気がザザ...と失せていく音が聞こえた。私達は、来てはいけないところへ来てしまった。連れてこられてしまった。
「さ、皆様が落ち着いたところで、本題に入ろうか。此岸。」
「そうだね、彼岸くん。」
私達の体を起こさせ、壁に持たれさせるようにして座らされる。猿轡は外されたが、叫ぶのが無駄だと実感した3人は黙ったまま、ゲス野郎達を睨んでいる。目の前に置かれたアンティークの椅子に座った2人が顔を見合わせ、まるでパーティーのメニューを決めるかのように軽やかに話し始めた。
「どうやら、此岸くんから見た君達の家族としての姿に何か誤りがあったらしいんです。そこで、君達に、正しい家族の正解を見つけてもらおうと思います。」
「きげんは、えーと、いまがよるのにじだから、��したのよる、じゅうにじまで!みつけられたら、ぶじただしいかぞくとして、これからもしあわせにくらしてもらうね。」
「彼岸、とか言ったか、お前。」
「はい。何でしょう。」
「もう1人、娘がいたはずだ。どこへやった。」
「あぁ、あのちっさいこ?べつのへやでねてるよ!さっきまで、ぼくとあそんでたんだぁ。」
「......人質から人質を取るなんて、クズだな。」
「あー、ちょっと、彼岸くんのことわるくいわないでよ。」
「此岸。いい。僕が優しいことは、���がよく知っているだろう?」
いきりたつ此岸を制して椅子から立ち上がり、私の目の前へ腰を下ろし、慈愛の目線をもって私を見つめ「大切なお客様なのだから。」と頬を撫でる彼岸。心底気持ちが悪く、強く噛み締めたせいで口の中に溜まった血と唾液を奴の顔へと吐きかけてやった。固まる表情と、彼岸を見て目を見開く此岸の顔。
「ひっ...彼岸くん!」
「はは、大丈夫。大丈夫だよ。明日までゆっくり待って、彼らに正しく生きてもらおう。此岸。」
「うん。かお、きれいにしてあげる。いこう?」
「ありがと。行く。」
閉じられた扉。絶望の音にも聞こえる。正しい家族?そんなもの、それぞれに正解があって然るべきで、そもそも私達は間違った行いをした覚えはない。社会のルールを守り、家族4人で楽しくお出かけしていただけだ。
「あなた...」
「パパ、こわいよ。」
「大丈夫だ。お前達も、あの子も、必ず助ける。」
「うへぇ、つめたーい。」
「温度は仕方がないよ、此岸。ただ、まだ身体は柔らかいだろう。12時間がピークだ、明日の朝ごろにはもう使えなくなってるだろうから、今のうちに楽しんでおきな。」
「うん、たのしむー!へへ、かわいいなぁ、」
ベッドの上に寝かされ、首が雑巾のように捻れた幼女相手に此岸が覆い被さり、意気揚々と腰を振っていた。まるでダンスでも踊っているかのようなその姿に、性的な欲求が生来まるでない彼岸は、命の強さを感じていつも見入ってしまう。
「はぁぁ、やわらかくて、しっとりしてて、きもちいい〜!なんかいでもできそうなきがするよ、彼岸くん!」
「あぁ、楽しめ。存分にな。」
「んんん〜〜ふふ、んふふ、あぁ、あぅ、ぅふふっ」
そっとスマートフォンを取り出し、家族の部屋の監視カメラの映像を覗く。此岸曰く、施錠は勿論彼らのアキレス腱を断っておいたから逃げるのは無理、とのことだった。その言葉通り、彼らは芋虫のように這い回り、そして、時折カメラを睨んでは、顔を突き合わせて何か話し込んでいる。全く、酷いことをする。と、目の前で無邪気に幼女と戯れる此岸を見遣る。壁の時計を見れば、そろそろ眠るべき時間だった。
「僕はそろそろ眠るよ。」
「はぁい!おやすみ、彼岸くん。どうかいいゆめを。」
「叶うことなら醒めない夢を。おやすみ、此岸。」
白濁と血と体液に塗れ、蝋のように強張���白くなった子供を見下ろす。今更何の感情も浮かばないが、唯一、彼岸が嬉しそうにしていたことが嬉しかった、と、此岸は汚れた愚息や身体を拭いながら思い返していた。彼岸は食欲も睡眠欲も、そして性欲も捨てた人間だった。代わりを満たすのが自分であることを、此岸は心から誇りに思っていた。
トン、トン、と家族が監禁された地下の部屋へ向かいながら、此岸は彼岸のことを思っていた。形容することが何もない空っぽの人生を、楽しさと不変で満たしてくれた彼岸に報いたいと思うのは、此岸にとって正しいことであり、それを止められる法もモラルも何もなかった。守るべきは彼岸、そして己の秩序のみ。
キィ、と開いた扉に弾かれたように顔を上げた家族が此岸を睨み付ける。傍らの椅子を引いて座った此岸は、消耗した様子の子供、そしていきり立った両親を見て、チリチリと焼ける胸の音を聞いた。
「幸せな私達がなぜこんな目に、って思ってる?」
「...貴様、さっきの此岸か?別人か?」
「此岸だよ。彼がくれた名前なんだ。覚えてくれてありがとう。」
「気持ち悪い。何なんだ、貴様らは。ホモのお遊びに、私達を巻き込むな!」
「口汚く罵っても、生憎僕らには効かないよ。」
「...目的は何なんだ。」
「彼岸はね、正しいことを正しいと思い続けてきた人なんだ。僕はそれを正しい、と肯定してあげるために、彼の側にいる。」
「何を言ってるのかさっぱり分からんぞ!」
「だろうね。」
「なぁ、逃してくれ、助けてくれ、頼むから。」
「僕にも彼岸にも、逃すメリットがないよ。」
「誰にも言わない、命だけは助けてくれないか、」
「明日答えを見つけたら、助かる。彼岸がそう言ってたでしょ?正しく生きれば必ず報われる。それを証明してあげてよ、彼岸に。」
「さぁ、行こうか。きっと彼らは聡いから、答えを見つけているはずだよ。此岸。」
「うん!彼岸くん、いこー!」
床に垂れ流された排泄物と、微かに血の匂いのするその部屋で3人は転がっていた。バランスを崩して倒れ、起き上がることが出来ないまま期限の12時を迎えたらしい。出したヒントはきっと何も伝わってないんだろうな、と、此岸は今後の行動を頭の中でシュミレートしていた。彼岸が優しい笑顔を浮かべて、彼らを見下ろす。
「さて、正しい答えは見つかったかな?」
「......私達は、共働きで、娘2人を育て、3人目は男の子がいい、と話していた。忙しい時期でも家族と過ごす時間は必ずとった。お出かけだって散歩だって、いつも横並び、皆で手を繋いで進んできた。貴様らの歪んだ正しさなんて、知らない!私達は私達家族として、これからも、皆で幸せに暮らす!これが答えだ!!!」
「...はぁ...はは、そっか、そっかぁ......」
バッドエンド。選択肢を間違えたプレイヤーはどうなるか。幾度となく繰り返したエンドロールを、一からまた見始める此岸の目に映るのは、昨日買ってきた肉叩きを母親に振るう彼岸の後ろ姿だった。
「だから!間違ってるって言ってんだろうが!何が家族だ、何が幸せだ!!お前らの幸せは!!!誰の不幸の上で!!!成り立ってると思ってるんだ!!!そもそも己が幸せだなんて誇らしげに恥ずかしげもなく言い放つその低能さと自惚れ具合の凄まじさに閉口しちゃうよ俺はさぁ。幸せ?はは、笑っちゃうなぁお前らお出かけで電車に乗ってたらしいが皆が皆スマホを見て会話なんて全く交わしてなかったらしいなぁ!それのどこが幸せな家族だ?おかしいだろ幸せなら和気藹々と仲睦まじく電子機器に囚われてないで語り合えよなぁ!ドラマで見たことあるかよ家族が無言でスマホ見てるだけのシーンをさぁ!間違いに気づかず生きてたからこうなったんだお前らは自分たちが間違ってたことを悔いて悔いて悔いて悔いて死ね!死ね死ね!!はははあーーー楽しいなぁ!」
「彼岸くん、」
「お前、安物買ったろ。折れたぞコレ。いつもの寄越せ。」
「へへ、ごめんね。じゅんびしてあるよ!はい、これ。」
こちらを振り向くこともなく彼岸が投げ捨てた肉叩きの柄の部分。折れた重い頭は、恐らく彼岸の前でずたずたのミンチに成り果てた身体のどこかに沈んでいるんだろう。手に持っていた彼愛用のバールを手渡す。
「彼岸くん、ぼく、ごはんつくってくるね!おなかすいちゃうでしょ!」
「あぁ、出てけ。出来たら呼べよ。」
「...うん、ありがとう。」
彼は愛用の道具を握り締め、目の前のミンチとの遊びを再開させた。こうなってしまった彼岸は見ているのが辛い、と、此岸はいつも終わるまでの間は部屋から出ていた。ぱたり、と閉じられた扉の向こうから、穏やかな彼から出たとは到底思えない狂気じみた彼岸の笑い声と、罵倒と、心を絞られそうな叫びが聞こえて、此岸は耳を塞ぎながらその場を離れた。
暫く経ち、肉のスープが完成した此岸が部屋を訪れると、部屋はさっきとは打って変わって一切の静寂に包まれていた。トントン、とノックをし、扉を開ける。返事がなく、鍵が空いている。終わりの印だった。
「此岸...?」
部屋の真ん中で体育座りする彼岸は、何時にも増して小さく見える。彼岸の後ろには赤をベースに構成されたなんらかの塊が飛び散り、固まり、前衛的な芸術のようにも見える100キロ超の肉が散乱している。震える手に握られたバールはひん曲がり、彼の手に血が滲んでいた。早く手当てをしてやらないと。
「彼岸くん、おかえり。ゆめはどうだった?」
「夢...よく、分からない、けど...悲しくて、嫌な気持ちになる、夢だった。」
「そうだね、まちがったゆめだよ。ぼくらのただしいゆめは、いつみられるんだろうね。」
「分からない、怖いよ、此岸...」
「だいじょうぶ。そうだ、きのうかってきたおはながひとつさいたんだよ!」
アングレカム。繊細な彼の正気を保つ��めのアイテム。花が咲く姿を見る度、「首を吊った母の姿に似ている。」と笑っていた。
「みにいこう!ぼく、ひさしぶりに、彼岸くんのえがみたいなぁ!!」
「此岸、また笑うだろう。僕は絵が下手なのに、描かせようとするのは何故なんだ。」
「みたままかこうってがんばるきもちがね、すきなの!だからほら、おそとであさごはんたべよ?そのあとふたりで、おへやのおかたづけするの!」
「あぁ...うん、そうしよう。」
朝ごはん。壁の時計はもう朝の7時を指していた。今日の舞踏会はとっくにお開きになっていただろう。
魑魅魍魎が夜な夜な集まるこの洋館。頼りない此岸だけじゃ、管理どころか存在を認知することすら難しいだろう。
今日は此岸と共に、舞踏会で自分達が舞うのもいいかもしれない。と、彼岸は立ち上がり、るんるんと楽しそうな此岸の後に続いて、部屋を出た。
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donut-st · 6 years ago
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あなたにだけは忘れてほしくなかった
 アメリカ合衆国、ニューヨーク州、マンハッタン、ニューヨーク市警本部庁舎。  上級職員用のオフィスで資料を眺めていた安藤文彦警視正は顔をしかめた。彼は中年の日系アメリカ人である。頑なに日本名を固持しているのは血族主義の強かった祖父の影響だ。厳格な祖父は孫に米国風の名乗りを許さなかったためである。祖父の信念によって子供時代の文彦はいくばくかの苦労を強いられた。  通常、彼は『ジャック』と呼ばれているが、その由来を知る者は少ない。自らも話したがらなかった。  文彦は暴力を伴う場合の少ない知的犯罪、いわゆるホワイトカラー犯罪を除く、重大犯罪を扱う部署を横断的に統括している。最近、彼を悩ませているのは、ある種の雑音であった。  現在は文彦が犯罪現場へ出る機会はないに等しい。彼の主たる業務は外部機関を含む各部署の調整および、統計分析を基として行う未解決事件への再検証の試みであった。文彦の懸念は発見場所も年代も異なる数件の行方不明者の奇妙な類似である。類似といっても文彦の勘働きに過ぎず、共通項目を特定できているわけではなかった。ただ彼は何か得体の知れない事柄が進行している気配のようなものを感じ取っていたのである。  そして、彼にはもうひとつ、プライベートな懸念事項があった。十六才になる姪の安藤ヒナタだ。
 その日は朝から快晴、空気は乾いていた。夏も最中の日差しは肌を刺すようだが、日陰に入ると寒いほどである。自宅のダイニングルームでアイスティーを口にしながら安藤ヒナタは決心した。今日という日にすべてをやり遂げ、この世界から逃げ出す。素晴らしい考えだと思い、ヒナタは微笑んだ。  高校という場所は格差社会の縮図であり、マッチョイズムの巣窟でもある。ヒナタは入学早々、この猿山から滑り落ちた。見えない壁が張り巡らされる。彼女はクラスメイトの集う教室の中で完全に孤立した。  原因は何だっただろうか。ヒナタのスクールバッグやスニーカーは他の生徒よりも目立っていたかもしれない。アジア系の容姿は、彼らの目に異質と映ったのかも知れなかった。  夏休みの前日、ヒナタは階段の中途から突き飛ばされる。肩と背中を押され、気が付いた時には一階の踊り場に強か膝を打ちつけていた。 「大丈夫?」  声だけかけて去っていく背中を呆然と見送る。ヒナタは教室に戻り、そのまま帰宅した。  擦過傷と打撲の痕跡が残る膝と掌は、まだ痛む。だが、傷口は赤黒く乾燥して皮膚は修復を開始していた。もともと大した傷ではない。昨夜、伯父夫婦と夕食をともにした際もヒナタは伯母の得意料理であるポークチョップを食べ、三人で和やかに過ごした。  高校でのいざこざを話して何になるだろう。ヒナタは飲み終えたグラスを食洗器に放り込み、自室へ引っ込んだ。
 ヒナタの母親はシングルマザーである。出産の苦難に耐え切れず、息を引き取った。子供に恵まれなかった伯父と伯母はヒナタを養子に迎え、経済的な負担をものともせず、彼女を大学に行かせるつもりでいる。それを思うと申し訳ない限りだが、これから続くであろう高校の三年間はヒナタにとって永遠に等しかった。  クローゼットから衣服を抜き出して並べる。死装束だ。慎重に選ぶ必要がある。等身大の鏡の前で次々と試着した。ワンピースの裾に払われ、細々としたものがサイドボードから床に散らばる。悪態を吐きながら拾い集めていたヒナタの手が止まった。横倒しになった木製の箱を掌で包む。母親の僅かな遺品の中からヒナタが選んだオルゴールだった。  最初から壊れていたから、金属の筒の突起が奏でていた曲は見当もつかない。ヒナタはオルゴールの底を外した。数枚の便箋と写真が納まっている。写真には白のワイシャツにスラックス姿の青年と紺色のワンピースを着た母親が映っていた。便箋の筆跡は美しい。『ブライアン・オブライエン』の署名と日付、母親の妊娠の原因が自分にあるのではないかという懸念と母親と子供に対する執着の意思が明確に示されていた。手紙にある日付と母親がヒナタを妊娠していた時期は一致している。  なぜ母は父を斥けたのだろうか。それとも、この男は父ではないのか。ヒナタは苛立ち、写真の青年を睨んだ。  中学へ進み、スマートフォンを与えられたヒナタは男の氏名を検索する。同姓同名の並ぶ中、フェイスブックに該当する人物を見つけた。彼は現在、大学の教職に就いており、専門分野は精神病理学とある。多数の論文、著作を世に送り出していた。  ヒナタは図書館の書棚から彼の書���を片っ端から抜き出す。だが、学術書を読むには基礎教養が必要だ。思想、哲学、近代史、統計を理解するための数学を公共の知の宮殿が彼女に提供する。  ヒナタは支度を終え、バスルームの洗面台にある戸棚を開いた。医薬品のプラスチックケースが乱立している。その中から伯母の抗うつ剤の蓋を掴み、容器を傾けて錠剤を掌に滑り出させた。口へ放り込み、ペットボトルの水を飲み込む。栄養補助剤を抗うつ剤の容器に補充してから戸棚へ戻した。  今日一日、いや数時間でもいい。ヒナタは最高の自分でいたかった。
 ロングアイランドの住宅地にブライアン・オブライエンの邸宅は存在していた。富裕層の住居が集中している地域の常であるが、ヒナタは脇を殊更ゆっくりと走行している警察車両をやり過ごす。監視カメラの装備された鉄柵の門の前に佇んだ。  呼び鈴を押そうかと迷っていたヒナタの耳に唸り声が響く。見れば、門を挟んで体長一メータ弱のドーベルマンと対峙していた。今にも飛び掛かってきそうな勢いである。ヒナタは思わず背後へ退いた。 「ケンダル!」  奥から出てきた男の声を聞いた途端、犬は唸るのを止める。スーツを着た男の顔はブライアン・オブライエン、その人だった。 「サインしてください!」  鞄から取り出した彼の著作を抱え、ヒナタは精一杯の声を張り上げる。 「いいけど。これ、父さんの本だよね?」  男は門を開錠し、ヒナタを邸内に招き入れた。
 男はキーラン・オブライエン、ブライアンの息子だと名乗った。彼の容姿は写真の青年と似通っている。従って現在、五十がらみのブライアンであるはずがなかった。ヒナタは自らの不明を恥じる。 「すみません」  スペイン人の使用人が運んできた陶磁器のコーヒーカップを持ち上げながらヒナタはキーランに詫びた。 「これを飲んだら帰るから」  広大な居間に知らない男と二人きりで座している事実に気が滅入る。その上、父親のブライアンは留守だと言うのであるから、もうこの家に用はなかった。 「どうして?」 「だって、出かけるところだよね?」  ヒナタはキーランのスーツを訝し気に見やる。 「別にかまわない。どうせ時間通りに来たことなんかないんだ」  キーランは初対面のヒナタを無遠慮に眺めていた。苛立ち始めたヒナタもキーランを見据える。  ヒナタはおよそコンプレックスとは無縁のキーランの容姿と態度から彼のパーソナリティを分析した。まず、彼は他者に対してまったく物怖じしない。これほど自分に自信があれば、他者に無関心であるのが普通だ。にも拘らず、ヒナタに関心を寄せているのは、何故か。  ヒナタは醜い女ではないが、これと取り上げるような魅力を持っているわけでもなかった。では、彼は何を見ているのか。若くて容姿に恵まれた人間が夢中になるもの、それは自分自身だ。おそらくキーランは他者の称賛の念を反射として受け取り、自己を満足させているに違いない。 「私を見ても無駄。本質なんかないから」  瞬きしてキーランは首を傾げた。 「俺に実存主義の講義を?」 「思想はニーチェから入ってるけど、そうじゃなくて事実を言ってる。あなたみたいに自己愛の強いタイプにとって他者は鏡でしかない。覗き込んでも自分が見えるだけ。光の反射があるだけ」  キーランは吹き出す。 「自己愛? そうか。父さんのファンなのを忘れてたよ。俺を精神分析してるのか」  笑いの納まらないキーランの足元へドーベルマンが寄ってくる。 「ケンダル。彼女を覚えるんだ。もう吠えたり、唸ったりすることは許さない」  キーランの指示に従い、ケンダルはヒナタのほうへ近づいてきた。断耳されたドーベルマンの風貌は鋭い。ヒナタは大型犬を間近にして体が強張ってしまった。 「大丈夫。掌の匂いを嗅がせて。きみが苛立つとケンダルも緊張する」  深呼吸してヒナタはケンダルに手を差し出す。ケンダルは礼儀正しくヒナタの掌を嗅いでいた。落ち着いてみれば、大きいだけで犬は犬である。  ヒナタはケンダルの耳の後ろから背中をゆっくりと撫でた。やはりケンダルはおとなしくしている。門前で威嚇していた犬とは思えないほど従順だ。 「これは?」  いつの間にか傍に立っていたキーランがヒナタの手を取る。擦過傷と打撲で変色した掌を見ていた。 「別に」 「こっちは? 誰にやられた?」  キーランは、手を引っ込めたヒナタのワンピースの裾を摘まんで持ち上げる。まるでテーブルクロスでもめくる仕草だ。ヒナタの膝を彩っている緑色の痣と赤黒く凝固した血液の層が露わになる。ヒナタは青褪めた。他人の家の居間に男と二人きりでいるという恐怖に舌が凍りつく。 「もしきみが『仕返ししろ』と命じてくれたら俺は、どんな人間でも這いつくばらせる。生まれてきたことを後悔させる」  キーランの顔に浮かんでいたのは怒りだった。琥珀色の瞳の縁が金色に輝いている。落日の太陽のようだ。息を吸い込む余裕を得たヒナタは掠れた声で言葉を返す。 「『悪事を行われた者は悪事で復讐する』わけ?」 「オーデン? 詩を読むの?」  依然として表情は硬かったが、キーランの顔から怒りは消えていた。 「うん。伯父さんが誕生日にくれた」  キーランはヒナタのすぐ隣に腰を下ろす。しかし、ヒナタは咎めなかった。 「復讐っていけないことだよ。伯父さんは普通の人がそんなことをしなくていいように法律や警察があるんだって言ってた」  W・H・オーデンの『一九三九年九月一日』はナチスドイツによるポーランド侵攻を告発した詩である。他国の争乱と無関心を決め込む周囲の人々に対する憤りをうたったものであり、彼の詩は言葉によるゲルニカだ。 「だが、オーデンは、こうも言ってる。『我々は愛し合うか死ぬかだ』」  呼び出し音が響き、キーランは懐からスマートフォンを取り出す。 「違う。まだ家だけど」  電話の相手に生返事していた。 「それより、余分に席を取れない? 紹介したい人がいるから」  ヒナタはキーランを窺う。 「うん、お願い」  通話を切ったキーランはヒナタに笑いかけた。 「出よう。父さんが待ってる」  戸惑っているヒナタの肩を抱いて立たせる。振り払おうとした時には既にキーランの手は離れていた。
 キーラン・オブライエンには様々な特質がある。体格に恵まれた容姿、優れた知性、外科医としての将来を嘱望されていること等々、枚挙に暇がなかった。だが、それらは些末に過ぎない。キーランを形作っている最も重要な性質は彼の殺人衝動だ。  この傾向は幼い頃からキーランの行動に顕著に表れている。小動物の殺害と解剖に始まり、次第に大型動物の狩猟に手を染めるが、それでは彼の欲求は収まらなかった。  対象が人間でなければならなかったからだ。  キーランの傾向にいち早く気付いていたブライアン・オブライエンは彼を教唆した。具体的には犯行対象を『悪』に限定したのである。ブライアンは『善を為せ』とキーランに囁いた。彼の衝動を沈め、社会から悪を排除する。福祉の一環であると説いたのだ。これに従い、彼は日々、使命を果たしてる。人体の生体解剖によって嗜好を満たし、善を為していた。 「どこに行くの?」  ヒナタの質問には答えず、キーランはタクシーの運転手にホテルの名前を告げる。 「行けないよ!」 「どうして?」  ヒナタはお気に入りではあるが、量販店のワンピースを指差した。 「よく似合ってる。綺麗だよ」  高価なスーツにネクタイ、カフスまでつけた優男に言われたくない。話しても無駄だと悟り、ヒナタはキーランを睨むに留めた。考えてみれば、ブライアン・オブライエンへの面会こそ重要課題である。一流ホテルの従業員の悪癖であるところの客を値踏みする流儀について今は不問に付そうと決めた。 「本当にお父さんに似てるよね?」 「俺? でも、血は繋がってない。養子だよ」  キーランの答えにヒナタは目を丸くする。 「嘘だ。そっくりじゃない」 「DNAは違う」 「そんなのネットになかったけど」  ヒナタはスマートフォンを鞄から取り出した。 「公表はしてない」 「じゃあ、なんで話したの?」 「きみと仲良くなりたいから」  開いた口が塞がらない。 「冗談?」 「信じないのか。参ったな。それなら、向こうで父さんに確かめればいい」  キーランはシートに背中を預け、目を閉じた。 「少し眠る。着いたら教えて」  本当に寝息を立てている。ヒナタはスマートフォンに目を落とした。
 ヒナタは肩に触れられて目を覚ました。 「着いたよ」  ヒナタの背中に手を当てキーランは彼女を車から連れ出した。フロントを抜け、エレベーターへ乗り込む。レストランに入っても警備が追いかけてこないところを見ると売春婦だとは思われていないようだ。ヒナタは脳内のホテル番付に星をつける。 「女性とは思わなかった。これは、うれしい驚きだ」  テラスを占有していたブライアン・オブライエンは立ち上がってヒナタを迎えた。写真では茶色だった髪は退色し、白髪混じりである。オールバックに整えているだけで染色はしていなかった。三つ揃いのスーツにネクタイ、機械式の腕時計には一財産が注ぎ込まれているだろう。デスクワークが主体にしては硬そうな指に結婚指輪が光っていたが、彼の持ち物とは思えないほど粗雑な造りだ。アッパークラスの体現のような男が配偶者となる相手に贈る品として相応しくない。 「はじめまして」  自分の声に安堵しながらヒナタは席に着いた。 「彼女は父さんのファンなんだ」  ヒナタは慌てて鞄から本を取り出す。 「サインしてください」  本を受け取ったブライアンは微笑んだ。 「喜んで。では、お名前を伺えるかな?」 「安藤ヒナタです」  老眼鏡を懐から抜いたブライアンはヒナタに顔を向ける。 「スペルは?」  答える間もブライアンはヒナタに目を据えたままだ。灰青色の瞳は、それが当然だとでも言うように遠慮がない。血の繋がりがどうであれ、ブライアンとキーランはそっくりだとヒナタは思った。  ようやく本に目を落とし、ブライアンは結婚指輪の嵌った左手で万年筆を滑らせる。 「これでいいかな?」  続いてブライアンは『ヒナタ』と口にした。ヒナタは父親の声が自分の名前を呼んだのだと思う。その事実に打ちのめされた。涙があふれ出し、どうすることもできない。声を上げて泣き出した。だが、それだけではヒナタの気は済まない。二人の前に日頃の鬱憤を洗いざらい吐き出していた。 「かわいそうに。こんなに若い女性が涙を流すほど人生は過酷なのか」  ブライアンは嘆く。驚いたウェイターが近付いてくるのをキーランが手を振って追い払った。ブライアンは席を立ち、ヒナタの背中をさする。イニシャルの縫い取られたリネンのハンカチを差し出した。 「トイレ」  宣言してヒナタはテラスを出ていく。 「おそらくだが、向精神薬の副作用だな」  父親の言葉にキーランは頷いた。 「彼女。大丈夫?」 「服用量による。まあ、あれだけ泣いてトイレだ。ほとんどが体外に排出されているだろう」 「でも、攻撃的で独善的なのは薬のせいじゃない」  ブライアンはテーブルに落ちていたヒナタの髪を払い除ける。 「もちろんだ。彼女の気質だよ。しかし、同じ学校の生徒が気の毒になる。家畜の群れに肉食獣が紛れ込んでみろ。彼らが騒ぐのは当然だ」  呆れた仕草でブライアンは頭を振った。 「ルアンとファンバーを呼びなさい。牧羊犬が必要だ。家畜を黙らせる。だが、友情は必要ない。ヒナタの孤立は、このままでいい。彼女と親しくなりたい」 「わかった。俺は?」 「おまえの出番は、まだだ。キーラン」  キーランは暮れ始めている空に目をやる。 「ここ。誰の紹介?」 「アルバート・ソッチ。デザートが絶品だと言ってた。最近、パテシエが変わったらしい」 「警察委員の? 食事は?」  ブライアンも時計のクリスタルガラスを覗いた。 「何も言ってなかったな」  戻ってきたヒナタの姿を見つけたキーランはウェイターに向かい指示を出す。 「じゃあ、試す必要はないね。デザートだけでいい」  ブライアンは頷いた。
「ハンカチ���洗って返すから」  ヒナタとキーランは庁舎の並ぶ官庁街を歩いていた。 「捨てれば? 父さんは気にしない」  面喰ったヒナタはキーランを窺う。ヒナタは自分の失態について思うところがないわけではなかった。ブライアンとキーランに愛想をつかされても文句は言えない。二人の前で吐瀉したも同じだからだ。言い訳はできない。だが、ヒナタは、まだ目的を果たしていないのだ。  ブライアン・オブライエンの実子だと確認できない状態では自死できない。 「それより、これ」  キーランはヒナタの手を取り、掌に鍵を載せた。 「何?」 「家の鍵。父さんも俺もきみのことを家族だと思ってる。いつでも遊びに来ていいよ」  瞬きしているヒナタにキーランは言葉を続ける。 「休暇の間は俺がいるから。もし俺も父さんもいなかったとしてもケンダルが 相手をしてくれる」 「本当? 散歩させてもいい? でも、ケンダルは素気なかったな。私のこと好きじゃないかも」 「俺がいたから遠慮してたんだ。二人きりの時は、もっと親密だ」  ヒナタは吹き出した。 「犬なのに二人?」 「ケンダルも家族だ。俺にとっては」  相変わらずキーランはヒナタを見ている。ヒナタは眉を吊り上げた。 「言ったよね? 何もないって」 「違う。俺はきみを見てる。ヒナタ」  街灯の光がキーランの瞳に映っている。 「だったら、私の味方をしてくれる? さっき家族って言ってたよね?」 「言った」 「でも、あなたはブライアンに逆らえるの? 兄さん」  キーランは驚いた顔になった。 「きみは、まるでガラガラヘビだ」  さきほどの鍵をヒナタはキーランの目の前で振る。 「私が持ってていいの? エデンの園に忍び込もうとしている蛇かもしれない」 「かまわない。だけど、あそこに知恵の実があるかな? もしあるとしたら、きみと食べたい」 「蛇とイブ。一人二役だね」   ヒナタは入り口がゲートになったアパートを指差した。 「ここが私の家。さよならのキスをすべきかな?」 「ヒナタのしたいことを」  二人は互いの体に手を回す。キスを交わした。
 官庁街の市警本部庁舎では安藤文彦が部下から報告を受けていた。 「ブライアン・オブライエン?」  クリスティナ・ヨンぺルト・黒田は文彦が警部補として現場指揮を行っていた時分からの部下である。移民だったスペイン人の父親と日系アメリカ人の母親という出自を持っていた。 「警察委員のアルバート・ソッチの推薦だから本部長も乗り気みたい」  文彦はクリスティナの持ってきた資料に目をやる。 「警察委員の肝入りなら従う他ないな」  ブライアン・オブライエン教授の専門は精神病理学であるが、応用心理学、主に犯罪心理学に造詣が深く、いくつかの論文は文彦も読んだ覚えがあった。 「どうせ書類にサインさせるだけだし誰でもかまわない?」 「そういう認識は表に出すな。象牙の塔の住人だ。無暗に彼のプライドを刺激しないでくれ」  クリスティナは肩をすくめる。 「新任されたばかりで本部長は大張り切り。大丈夫。失礼なのは私だけ。他の部下はアッパークラスのハウスワイフよりも上品だから。どんな男でも、その気にさせる」 「クリスティナ」  軽口を咎めた文彦にクリスティナは吹き出した。 「その筆頭があなた、警視正ですよ、ジャック。マナースクールを出た���のお嬢さんみたい。財政の健全化をアピールするために部署の切り捨てを行うのが普通なのに新しくチームを立ち上げさせた。本部長をどうやって口説き落としたの?」 「きみは信じないだろうが、向こうから話があった。私も驚いている。本部長は現場の改革に熱意を持って取り組んでいるんだろう」 「熱意のお陰で予算が下りた。有効活用しないと」  文彦は顔を引き締めた。 「浮かれている場合じゃないぞ。これから、きみには負担をかけることになる。私は現場では、ほとんど動けない。走れないし、射撃も覚束ない」  右足の膝を文彦が叩く。あれ以来、まともに動かない足だ。 「射撃のスコアは基準をクリアしていたようだけど?」 「訓練場と現場は違う。即応できない」  あの時、夜の森の闇の中、懐中電灯の光だけが行く手を照らしていた。何かにぶつかり、懐中電灯を落とした瞬間、右手の動脈を切り裂かれる。痛みに耐え切れず、銃が手から滑り落ちた。正確で緻密なナイフの軌跡、相手はおそらく暗視ゴーグルを使用していたのだろう。流れる血を止めようと文彦は左手で手首を圧迫した。馬乗りになってきた相手のナイフが腹に差し込まれる感触と、その後に襲ってきた苦痛を表す言葉を文彦は知らない。相手はナイフを刺したまま刃の方向を変え、文彦の腹を横に薙いだ。  当時、『切り裂き魔』と呼ばれていた殺人者は、わざわざ文彦を国道まで引きずる。彼の頬を叩いて正気づかせた後、スマートフォンを顔の脇に据えた。画面にメッセージがタイピングされている。 「きみは悪党ではない。間違えた」  俯せに倒れている文彦の頭を右手で押さえつけ、男はスマートフォンを懐に納める。その時、一瞬だけ男の指に光が見えたが、結婚指輪だとわかったのは、ずいぶん経ってからである。道路に文彦を放置して男は姿を消した。  どうして、あの場所は、あんなに暗かったのだろうか。  文彦は事ある毎に思い返した。彼の足に不具合が生じたのは、ひとえに己の過信の結果に他ならない。ジャックと文彦を最初に名付けた妻の気持ちを彼は無にした。世界で最も有名な殺人者の名で夫を呼ぶことで凶悪犯を追跡する文彦に自戒するよう警告したのである。  姪のヒナタに贈った詩集は自分自身への諌言でもあると文彦は思った。法の正義を掲げ、司法を体現してきた彼が復讐に手を染めることは許されない。犯罪者は正式な手続きを以って裁きの場に引きずり出されるべきだ。 「ジャック。あなたは事件を俯瞰して分析していればいい。身長六フィートの制服警官を顎で使う仕事は私がやる。ただひとつだけ言わせて。本部長にはフェンタニルの使用を黙っていたほうがいいと思う。たぶん良い顔はしない」  フェンタニルは、文彦が痛み止めに使用している薬用モルヒ��である。 「お帰りなさい、ジャック」  クリスティナが背筋を正して敬礼する。文彦は答礼を返した。
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1 note · View note
mari8log · 4 years ago
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2021/07/27
ぎゅっサバですが、大石君にフラれてしまいメンタル抉られた!なぜだ大石君…俺は…おまえのことが大好きなのに……!!というかラブゲージMAXだっただろ!!
どうも必要な伏線を回収しそびれるとMAXでもフラれるらしいです。ふーん、おもしれー男!
ということで傷心大石君ルートは一旦保留にして、不二君ルート行きます。なぜか暑気払いの話をしたがる不二君。
不二君のこのグラフィック、お腹まわりが無防備で、白文鳥みたいで好きです。腹にしか目が行かん。吸い付きたい。
検証画像
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「不二君、絶対に耳元で囁くように話しかけてくるんだよな。吐息でオンナ落とす気マンマンじゃん!」…な〜んてナメながら攻略していましたが……。。。
終盤の「手塚には内緒だよ」をきいた時はさすがにワアアアアア〜!!!!!!!!になってしまった。
街(待宵草)のイルミキラリキラリ
門限とっくに過ぎてるけど
あと少しあと少しだけ
今夜は背伸びしたい気分
もっと私を見て
ママ(手塚)には内緒のオトナモード〜〜〜!!!!!!
これ…アイカツ!じゃん。(ガバガバアイカツ!認定)
ついさっきまで「暑気払いの話2回もしとるやんこの人」「不二君のお腹、文鳥みたい」と茶化しながらストーリーを読んでいたのに、もうすっかり骨抜き。不二君、好きだわ〜……。
弟君との絡みも何個かあって良かった。やっぱり兄弟関係こそ至高。一生兄にコンプレックス持っててほしい。
というか不二兄ルートのシナリオ今まででいっちゃん危険やないか。地下通路に監視カメラ、白い粉、そして黒服まで出てきた。こんなヤバ展開続きだとそのうち後ろから不意打ちで殴られて薬飲まされて幼児になっちゃいそう。不二君はそもそも3歳だけど。
でも最後私を助けてくれる時に物理で黒服を倒してる不二兄には笑っちゃった。細腕と華麗な美技の設定はどうした、明らかに相手を殴った音したぞ。なんなら黒服の他にもスズメバチも撃退していたし。
でも不二兄カッチョイイからヨ��!
ところでお不二ルート、なにげに柳君との絡みが多かったな。原作でなんか絡みあったっけ?絶対細目繋がりなだけでしょこれ。
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これとエピローグの耳打ちボイスが凄かった。不二周助、女を溺れさせる沼。
余談ですが、ギュッサバには「ミニシアター」という本編の台詞の一部をいつでも聴ける機能がある…のですが、なんと「手塚には内緒だよ」も選択することが出来る!!!ので、いつでもママ(手塚)には内緒のオトナモードに浸れることが判明しました。ありがて〜!!!幼い自分はお先にオヤスミ tu tu tu tu … tu tu tu tu……
順番では不二君の次はえ〜じですが、え〜じはもうクリアしているのでタカさんルート行きます。
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タカさんに群がるコバエ(私)に釘を刺しに来る不二君。
「ボクはタカさんのお眼鏡に叶うスレンダー美女ですが?」とばかりに低音イケボでデブスの心を抉ってくる。おまえは女の子じゃないだろ。
さっきまで「吐息たっぷり甘々オトナモード」の不二君でキャッキャラブラブしていたぶん、「タカさんの周りを飛び回るコバエ絶対叩くモード」の不二君は天地の差があって果てしなく怖かった。なんせ不二ルートでスズメバチを三匹叩いて倒すエピソードを見せられているので…。震えるコバエ(私)。
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「う〜」とか「あ〜」とか「その〜」とか、言葉に詰まることが多いタカさん。もしかしなくとも、女子慣れしていない。
空手やテニスのような、自分の体験談はわりとスラスラ話をしているので、意中の女子と話すとテンでダメになるタイプだわこれ。かわいいね。
タカさんルートはひたすら地滑りしているようなアワアワ声で終始締めくくられていて、「女子をイケボで落とす!」という色を帯びた声色は無かったのですが、まあこれはこれで河村隆らしさがあって良いのではないでしょうか。女の子慣れしていないウブな方がタカさんらしいわね。
最後に乾ルート。
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なに言ってるのこのひと??????
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この遠目乾君、なんか好き。わざわざイラスト用意してくれるゲームスタッフありがとう。
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乾君の言いくるめ術が鮮やかで良かった。というか察しの良すぎる中学生だらけで手塚も困るな。
ところで乾君に問い詰められた手塚の
「今は、まだ言えない。俺一人では判断出来ん」
凄く良いな!?大人の指示を仰ぐ中学生らしさが詰まったセリフだ…手塚はまだ中学生…、中学生……!!!!
一番笑ったのは名字姓の下り。雑学語りからすごいコジつけで名前呼びに漕ぎ着けてくるな。この人好きになっちゃった…。
残りの青学っ子は桃・海堂、そしてフラれちゃった大石君の3人ですが、青学を一気に攻略しちゃうとゲームをやるモチベが失われる可能性があるので、この3人は後に取っておき、他の学校の子を先に攻略します。
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abcboiler · 5 years ago
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【黒バス】TEN DANCER has NOTHING -3-
 2015/08/10Pixiv投稿作
「未知なるが故に恐ろしい」 『ハムレット』
知れば、わかる、なんて、嘘。 *** 「……何故お前がここにいるのだよ」 「それは俺の台詞かな……」 果たして高尾和成が緑間真太郎を発見したのは、何のことは無い、翌日の夜、緑間の住むアパルトマンのロビーだった。 時刻は丁度夜の八時。幼い子供は家に帰っているだろうが、ティーンエイジはまだまだ遊びまわっている、そんな、まっとうな時間に、緑間は大量の書籍を左手に抱え、右手にサンドイッチの小さな紙袋を掴んで現れた。いいや、緑間からすれば、現れたのは高尾の方だろう。何せここは、緑間のテリトリーだ。彼の生活する場所だ。 「やっぱ良い所住んでんだね。俺警備員にすげー変な目で見られたわ」 「何故そのまま追い出されなかったのだよ」 「おんなじ舞台に出る共演者です、珍しく彼が忘れ物をしたので届けに来たんですけど入れ違いになっちゃったみたいで、って、劇場の入館証見せたら納得してくれたわ。それにね、こう見えても俺、ダンサーとしては名が通ってる方なの。あの警備員さん、舞台好きなんだな。俺の出てるのも観に来たことあったみたいよ」 「…………何故俺の家を知っている」 「そんなの調べりゃわかるさ、人気スター」 実際でいえば、高尾は黒子から緑間の自宅を聞いていた。教えてくれるかどうか、ダメ元で訪ねに行った高尾に、黒子は驚く程あっけなく、メモ書きでそれを投げて寄越したのだった。 どうせ遅かれ早かれ判ることです。彼、恐ろしいほど情報に無頓着ですし、君だって多分半日かからず調べられますよ。その手間くらいは省いてあげます。僕が教えたって、言わないでくださいね。後から緑間くんに文句言われるの、僕なんですから。 表情の読めない瞳を一切揺らがせず、黒子はあっさりと緑間の情報を売った。売ったどころか、捨てたようなものだ。黒子は高尾に何の見返りも求めなかったのだから。ただ、面白がっているだけなのかもしれない、と高尾は考える。情報の対価は、エンターテインメント。観客を楽しませることで、高尾は金を取っている。 「今お前に構っている暇はない、帰れ」 「稽古にも出る暇もないって?」 「稽古のための準備をしている」 「準備のための稽古じゃねえのかよ」 「同じことだ」 高尾の姿を確認してから、緑間の顔は盛大に、不機嫌そうにしかめられている。美しく整った顔が歪む姿というのは、それだけで心を抉る。美しさは、普通の人間ならば存在するだけで怯んでしまう、暴力だ。高尾はそれを知っている。美しいということは、ただそれだけで、災害のようなものなのだ。 それでも高尾は動じなかった。高尾にとって美しいということは、畏怖すべきことであったし、そしてまた、圧倒的な憎悪の対象でもある。そうでなければ何故、高尾はここまで緑間に固執しただろう。 緑間は、高尾が探し求めていた、10点だった。その執着は、この程度の威嚇で怯むほど、底の浅いものではない。 ロビーの前に立ちふさがるように高尾は立っている。他の住民はまだ現れない。まだ人々が活発に行動している時間に、二人は暫く睨み合った。 「……どういうつもりだ」 「納得いくまで帰るつもりねえよ、俺」 「お前に納得してもらう必要はない」 「いくら俺がダンサーとはいえど、今回の舞台に関しちゃ共演者だろ。お前が練習に出てこない、納得のいく説明を求めるね」 「明後日には行くと言っているだろう」 「それまでの間、俺たちは主役不在の練習をさせられるわけだ。立ち位置も距離感もわからないまま。踏み出すタイミングも声の大きさも知らないまま」 現在、緑間の役は監督が外から台詞を読み上げて進めている。誰もいない空間に向かって声を荒げる女優の空虚を、高尾はこの二日間見てきた。緑間にも考えがあるのだろうが、それに付き合わされる側からすれば、率直に言って、たまったものではない。高尾はそう考える。我が儘が、過ぎる、と。 「……わかった。相手をしない方が時間を食いそうだ、付いてこい。ただし、邪魔はするなよ」 「どこに?」 「俺の家だ」 お前、ここまで来ておいて、逆にどこに行くつもりだったのだよ。 怪訝そうな顔をしながら、緑間は高尾に銀色の鍵を投げつけた。最上階の角部屋が、きらめきながら高尾の手の中にすっぽりと落ちてくる。慌てる高尾の横を悠々と通りながら、緑間は告げた。おい、早くしろ、お前が行かないと鍵が開かないだろう。 「これ以上俺を待たせるな」 「いや、待ってたのは俺、っつーか、真ちゃん、やっぱ、おかしいって」 「限りなく初対面の人間の家まで押しかけてきた奴に言われたくはないな」 「家の中までお邪魔するつもりはなかったっつーの! どっか移動して話せればそれでいいやって思ってたの!」 「馬鹿かお前は。俺は今帰って来た所なのだよ。いい加減に荷物も重い」 「そういやなんなの、その大量の本は」 「役作りに決まっている」 言われるがまま、緑間の後ろをついて歩き、顎で示されたドアを開けながら、高尾は自らの置かれた脚本の早さに戸惑っている。現実は小説よりも奇なり、とはよく言うが、現実が舞台よりもめまぐるしいだなんてこと、あるのだろうか。 * 「あのー、しんちゃーん」 「…………」 「おーい、しんちゃーん」 「…………」 「真ちゃん! 別に茶を出せとは言わねえけど、突然連れてこられて放っとかれてもどうしようもねえんだけど?!」 「茶なら台所のどこかにある」 「そういう問題じゃねえ!」 「緑茶」 「俺に淹れろっつーのかよ!」 部屋の中は、高尾の想像する緑間という人物像にたがわず整理整頓されていた。明らかにオブジェとしてふさわしくないような玩具や、謎のポスター等も、その五月蝿い存在感とは裏腹に、きっちりと棚の中に並べられている。シノワズリの花瓶の横に、南米の原住民族の像が置かれているのを見て高尾は把握を諦めた。調和はないが、���制されている部屋だった。 いざ戦わんとする高尾の決意など素知らぬ顔で、緑間はリビングのガラステーブルに持っていた本を全て置くと、そのままそれを一��不乱に読み出した。よく見れば、テーブルには他にもいくつかの文献や写真集、古びたカメラや広げられたフィルムなどが散らばっていて、そこだけがやけに賑やかだ。 しばらくは立ったまま、緑間の動向を伺っていた高尾だったが、自分の存在を忘れられているな、と気がついてついに声を上げた。邪魔をするなとは言われたが、存在するなとまでは言われていない。 「お前は茶も淹れられないのか?」 「それは俺の台詞の筈なんだけど」 「わかった、お前が準備してくれば、それを飲んでいる間だけは話を聞いてやる」 「それで淹れてきたら一気に飲み干して、また無視、とかはねえだろうな」 「うるさい男だな。俺は猫舌だ。安心しろ」 どういう理論だよそれ、と思いつつ、あまりの言いざまに毒気を抜けれて高尾はキッチンに向かう。思いっきり、地獄の煮え湯のように沸騰したお茶を淹れてやろうと決意する彼の前で、殆ど使われた形跡の無い皿だけが、きっちりと四組揃って鎮座していた。生活感があるものといえば、流しに置かれたグラスだけだ。それ以外は全て、うっすらと底の方に埃が見える。 腹をくくって、高尾は二つ分の茶器を洗い、そのまま戸棚を漁り出す。初めて来る家の初めて立つ炊事場だが、整頓されていることに加え、物が少ない。いうなれば、食器売り場にいるようなものだ。戸惑おうにも、戸惑うだけの生活感が無いのである。持ち主の痕跡が一切感じられない道具に、何の違和感があるだろう。調理器具は一通り揃っているものの使われた形跡が無く、冷蔵庫には飲み物とチーズくらいしか見るものが無かった。茶葉は包装が解かれないまま、頭上の棚の上に詰め込まれている。貰い物を、確認もせずにそのまま入れているのだろう。 ヤカンが破裂しそうなほど湯気を立てたのを確認して、高尾は茶器を温めてから、沸騰した緑茶を注いだ。日本茶は少しぬるくなってから淹れなければいけないと知ってはいるが、わざわざ猫舌だと自己申告してきた抜けている男に容赦をするつもりなど彼には毛頭ない。 「はいったけど」 「そうか」 「話、聞かせてもらうぜ」 「話すこともないんだがな」 「じゃあ、勝手に質問するわ。っつーか、まず、何やってんの?」 「本を読んでいる」 「見りゃわかる、何読んでんのってこと」 「タイトルくらい読めるだろう」 「そりゃわかるけどさ、そ-じゃなくって」 皮膚を掻き毟るような気持ちで頭をかく高尾を他所に、緑間は湯呑に口を付けて、熱い、と顔をしかめている。ざまあみろ、と高尾が思ったのは、口には出ていなかったかもしれないが、顔には出ていただろう。緑間は僅かに高尾を睨んで、ぱたぱたと左手で立ち上る湯気をあおいだ。その呑気な動作が、またあまりにも場にふさわしくないので、高尾は肩を落とす。どうも先程から、噛み合っていない。 『多分緑間くん、昨日家に帰ってから、『緑間真太郎』としての生活なんてしてないですよ』 『緑間くんの役は、映画監督になることを夢見て、才能が追いつかず家賃を滞納し、食費も無くバイト代は全てフィルムに回す馬鹿な男でしたっけね』 『君がもし、映画監督になることを夢見て、才能が追いつかず家賃を滞納し、食費も無くバイト代は全てフィルムに回す馬鹿な男だとしたら、どこに行って、何をします?』 黒子の言葉を信じて、一日目の夜、高尾は街中のバーを巡った。映画監督を夢見る男が夢破れたら、きっと酒に溺れるだろうと考えたからだった。太った男たちがビールの泡を撒き散らす中にも、姿の見えない男がジャズを歌うカウンターにも、緑髪の欠片は落ちていない。映画館を巡っても、カメラの専門店にも、古いフィルムを並べる骨董店にもいなかった。それもそのはず、実際のところ、この男は、家の中でただひたすら何だか判らない本を読んでいたのだ。 「……黒子からさ、お前のことちょっと聞いたんだけど」 「そうか」 「食事とかもしないで女漁ってるかもって」 「はあ?!」 初めて緑間は大きな声を上げて、唖然とした顔をした。その表情に、高尾は黒子に騙されたことを知る。確かに台所に使用された形跡は無かったが、緑間の手元には確かに近所で買ったのであろうサンドイッチがちょこんと置いてあるし、この部屋のどこにも女の影はおろか、香水の匂いのひとつもしない。そうでなければ、高尾をあげたりはしなかっただろうが。 「お前……それを信じたのか……」 「うっ、いや、だって、あまりにも真に迫ってたし」 「俺が、そういった女と一緒に、ふしだらな生活をしていると」 「いや……あの……」 「そうか、そうかそうか。俺は、ほぼ初対面の見知らぬ男に、仕事をサボって、女に耽るような人間だと、そう思われていたわけだ、そうかそうか」 「いや、あの、百%そうというわけじゃなくてですね、役作りの一環として、もしかしたらって、いう」 「役作りのためだけに女を抱くような男だと」 「すみませんでした!」 高尾の発言は、確かに当人からしてみれば謂れのない冤罪なのだろう。しかも、普通に、礼を失している。それを信じ込んだ自らの愚かさもだが、それ以上に高尾は黒子を呪った。間違いなく、ここまで見越して、黒子は高尾に緑間の住所を教えたに違いなかった。今頃、高尾のうめき声を想像して笑っているのかもしれない。傍から見ていれば、滑稽な喜劇だろう。 「あーっくっそー騙された!!」 「そんな台詞を信じるお前も悪い」 「いやいやいや、そりゃ俺だって普通だったらどうか知らんけど、相手お前だし」 「それもまた失礼な発言だな」 「しかも黒子の言うことだぜ? お前の馴染みだろ。信じるわ」 「舞台とミステリー小説以外は全て嘘をつくものなのだよ」 「何ソレ」 「ただの俺の考えだ。舞台も小説も、騙しはするが嘘はつかない。ルール違反だからな」 「それ以外は全部嘘つき?」 「その通り」 溜息をつきながら高尾は自らの分の茶を一口飲む。それを見て緑間も再び口をつけるが、あっつ、と呟いてまた元に戻した。どうやら猫舌だというのは嘘でも何でも無かったらしい。偏屈で気難しい男の癖に、何故かこんなところでは正直らしかった。人としてのバランスの取り方がおかしいのではないかと高尾は思う。 「黒子は別に、小説の登場人物でもなければ、舞台の一幕でもないのだよ。ただの影が薄い、人間観察が趣味だと言ってのける少し意地の悪い男というだけだ」 「真ちゃんって黒子のこと嫌いなの」 「別に、どうということもないな」 あちらは俺のことが苦手なようだが、と平気な顔で言ってのける緑間はまだ手元の湯呑に苦戦している。昔馴染みに苦手に思われていることを、彼は本気で気にも留めていないようだった。 高尾は考える。先程はああ言ったものの、黒子の発言の全てが嘘だったとは、高尾にはどうしても思えない。確かに緑間は女を連れ込んでこそはいなかった。酒に溺れてもいなければ、人を殺しもしていなかった。ただ、黒子の話を聞いた時、高尾が真に怯えたのは何だったか。それは、緑間の、役に対するディテールの、作り込みではなかったか。その役が生まれてから、死ぬまで、何を考えて生きて、どうやって行動してきたのか、それを全て突き詰めなければ気がすまないという、その妄執ともいえるこだわり。 今、緑間の読んでいる本が映画の評論であることも、積み上げられているタイトルがほぼ全て映像関係のものであることも、床に散らばるパンフレットが、往年の名作映画であることも、高尾は疾うに気がついている。 「……俺さ、黒子から、お前がもう家に帰ってから『緑間真太郎としての生活をしてない』って聞いたわけ」 「馬鹿馬鹿しい。俺は緑間真太郎以外の何者でもない」 「うん。まあ、『家に帰ってから』ってことは、家にはいるんだなって気がついてお前の家来たわけだけどさ」 「はた迷惑な話だ」 「真ちゃんは、三日間とじこもって、この部屋で文献漁って役の研究してるわけ」 「まあ、そういうことになるのか。図書館には行ったが」 「食事は? 全部外メシ?」 「元々俺は料理はできん。必要最低限の栄養はとってる。舞台の途中で倒れるわけにもいかないだろう」 「女の子連れ込んだり」 「女よりもうるさい男は図らずも連れ込むことになったがな」 「イヤミっぽい男はモテねえぜ」 黒子は嘘をついてなどいなかったのだ。緑間は、本気で、自らの役を突き詰めて考えようとしている。それは途方も無い、傲慢ともいえる作業だ。役の設定では、二十代後半となっていた。その人生の全てを、三日間で作り上げようというのだから。二十年の人生を得るには、二十年の時間が必要だ。時間というのは、そういうものだ。誰にも早送りなど出来ないし、スキップすることも、できはしない。 緑間が再三、邪魔をするな、時間の無駄だ、と吐き捨てているのは、理由のない言葉ではない。本当に時間がないのだろう。三日間というのは、緑間真太郎が定めたギリギリのリミットなのだ。 かといって、それは、舞台稽古に出ない理由にはならないと高尾は感ずる。与えられて一日で、役をマスターする人間などいないだろう。その為に、練習があり、ステージがあるはずだった。他の者と一緒に、演技の中で本質を見つけ出していけばいい。一人ではたどり着かない発想もあるだろう。 「わかった」 「へ? 何が? 正直言って、俺にはさっぱりわかんねえわ、お前のこと」 「このままだとお前には永遠にわからないだろうということがわかったのだよ。お前に理解されたくも無いが、理解しなければ納得しないなら仕方がない」 「仕方無いって」 「高尾、お前ならこの台詞をどう読む」 「へ?」 「別に試しているわけじゃあないから」 お前は、どう読む。そう言って高尾に渡されたのは今回の舞台の台本だった。そこには無数の書き込みと、高尾には判らないマークが散らばっている。これら全て、緑間がこの二日間でつけた印に違いなかった。書き込みが多すぎて、実際の台詞が埋もれてしま��ている。 高尾は緑間の指差す台詞を目でなぞる。特にどう、ということもない。ただ音読すれば良いという訳では無いだろう。どう読む、と聞かれているのだから、それはつまり、どう表現する、と尋ねられているに等しかった。試しているわけではないと緑間は注釈をいれたが、それを信じられるほど高尾は能天気な頭をしていない。オーディション前に、心臓を一本の氷の針が通り抜けるような、ぴりっとした緊張感。それを悟られないように、極めて何でもないような顔で高尾は一瞬その役を演じる。 「『何千枚のフィルムを切ったって、君が撮った一枚の赤子に敵わないんだ』。……これがどうかした?」 「別にどうもしない」 「はあ?」 「どうもしない、が、わからない」 まだまだだな、とか、そんな言い方で恥ずかしくないのか、とか、何がしかの罵倒が飛んでくるだろう、と身構えていた高尾の予想は見事に外れた。緑間は、一切の評価を高尾に下さなかった。褒めもしなければ、けなしもしない。フラットだった。 じりじりと、焼け付くような違和感を高尾は覚えている。出会ってまだ数日しか経っていないが、緑間真太郎という男が、一切の虚飾無しでしか動かないことを高尾は知っている。初対面だとか、或いは上司だとか、部下だとか、神様だとか、そういったものに頓着しないで、緑間は辛辣な台詞を吐くだろう。だからお前は駄目なのだよ、そんなことしても無駄だ、興味が無い、消えろ、死ね。彼の信念に反するものは、ことごとく拒絶される。そんな男が、高尾の台詞に、ダメ出しの一つもしない。そんなことが、あるだろうか。 高尾はベテランの老優でもなければ、天才的な役者でもない、ダンサー上がりの、演技にかけては素人だというのに。 「お前、今、どういう気持ちでこの台詞を読んだ」 「どういうって……、悲しい、とか、悔しい、とか、でもちょっと憧れてる、とか、そういう感じ?」 「そうか」 「なんか間違ってた?」 「正解も不正解もないだろう。脚本に存在するのは解釈の違いだ」 正解が知りだければ脚本家に聞け、と緑間は飄々と受け流す。納得のいかない高尾を、緑間はレンズ越しに僅かに睨んだ。或いはその瞳は、哀れんでいたようにさえ見えた。 誰を? 「俺にはな、高尾、お前が言っていることがわからない」 「……は?」 「わからないから、話せない」 「なに、どういうこと」 「お前は何故、この台詞から、悲しみや、悔しさや、憧れを見出したんだ?」 「いや……それは、だって、そういうもんかな、って」 「わからん。わからないのだよ。お前の言っているこの役の気持ちも、そのの発言も、何もわからん。本当にこいつは、何千枚ものフィルムを使い果たしたのか? それともただの比喩か? こいつの絶望はどれくらいのものだ? 何故これをわざわざ口にした? どういう気持ちで? ただ一枚の赤子の写真に、こいつは何を感じたんだ? 何故それに負けた? 俺には全くわからない」 ソファにもたれながら、緑間は吐き捨てる。舞台俳優として、ありとあらゆる栄光を手にしてきた男は、高尾がちらりと目をやっただけで読み取ったことが、何一つとしてわからないという。ありとあらゆる観客を��狂させてきた男は、何故人がそこまで興奮するのかわからないという。人の気持ちが、わからないと、言うのだ。 緑間が、無言のまま茶をすする音で、高尾は我に返った。時間が経っている。そして、窓の外の星は刻刻と位置を変えている。夜が深まってきているのだ。流石に泊まるのは気が引けるし、そもそも緑間に泊めるつもりは無いだろう。残された時間は少ない。 「……考えすぎじゃねえの」 「よく言われる」 俺からしてみれば、何故、お前たちは考えないで理解できるのか、そのことが何よりも、理解しがたいのだよ。 緑間は哀れむように呟く。その哀れみの対象は、何も知らない高尾ではない。何も理解できない、緑間自身に向いているのだ。 「高尾、俺はな、お前が何も考えずに口にした、悲しみも悔しさも憧憬も、一つもわからない」 「わからないって」 「お前が何も考えずに理解したそれはな、俺にとってはどんなに複雑な数学の定理よりも難解で、複雑で、混迷を極めている」 誰が想像しただろう。天才だともてはやされ、俳優として得られるだけの全ての名声を得ている男が、たった一つの台詞すら理解できないなどと。 何を馬鹿なことを、と、笑い飛ばすことが高尾には出来なかった。この部屋には真実だけが鎮座していた。緑間真太郎は、その真ん中で、億劫そうに溜息をついている。 「だから言っているだろう。稽古に出るための準備をしている、と」 「出るための、準備」 「今の俺が稽古場へ行っても、初まりの言葉すら発せないだろうな。木偶の坊のように立ちすくむだけだ」 高尾が読んだ一文を、緑間は読めないのだという。どのような気持ちで読めばいいのか、わからないのだと言う。ホンの数秒の、薄っぺらな解釈さえ、理解できないと言う。どうやって感情を載せればいいのかが判らない。どうやって表現すればいいのかわからない。そもそも、表現すべき、個がわからないと言っているのだ。それは役者として、あまりにも致命的な欠点だった。 それでもなお、緑間は、役者として君臨する。 そのための努力が、そのための土台が、この膨大な資料と、三日間の時間だった。高尾ははっきりと理解する。緑間の天才性は、才能は、演技そのものではない。そこにたどり着くまでの、異様なまでの集中力と、執着。与えられた役と脚本に対する、一切の妥協を許さない姿勢。それを押し通すだけの精神。 怪物だ、と高尾は思う。同じ人間とは、とてもではないが思えない。どこにいるだろう、他人の気持ちが一つも理解できないからといって、そいつの人生をもう一度全て見直そうとする者なんて。 高尾の目の前で、怪物は淡々と夜の幕を引こうとする。 「台詞も言えない役者に価値など無い。稽古だろうが何だろうが、俺が舞台に立つ時は役者としてだ。それを邪魔してくれるな」 カツン、と空っぽの音を響かせて、湯呑はテーブルの上に戻された。高尾は空っぽのそれを覗き込む。そこには何も無い。ただ、何も無い。 「ただの緑間真太郎など、舞台の上に立つ価値もない。明後日には練習に出る。それまでには、お前の言っていた、悲しみも、悔しさも、学んでおこう。話は終わりだ。わかったか?」
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raid-logs · 7 years ago
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街それ自体を踊るためのノート・お気に入りの喫茶店でコーヒーを飲むために
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1:前書き
1-1:コーヒーの美味しさは私の人生には関係がない
俺は、街で友達と遊べるようにな��たいだけだ。 そしてそれはとても難しい。 街で遊ぶ、ということは、どういうことなのだろう。 例えばそれは、お気に入りの喫茶店を見つけて、そこに入って「ゆっくりする」ことだろうか。 これに対して問い返し、増幅してみる。 住んでいない街なのに?/自分がその店を営んでいるわけでもないのに?/地元を出て、自分が偶然住んだにすぎない街なのに?/誰かがインターネットに写真をあげていて、それを良いと思っただけなのに?/ここが地域で愛されているのを知ってしまった上で訪れているのに?/この店を訪れたということは、自分の明日にはなんの関係もないのに?…… そして、この問いかけが空虚であるということの証明は、返ってくるこだまそれ自身によってなされることになる。つまり、 「コーヒーの美味しさは自分の人生にとって何の役にも立たないのに?」といったような言葉で。 確かに、コーヒーの美味しさは人生において意味がない。しかし、私は味しいコーヒーを飲んでいるとき、その美味しさに浸ることができる。それがたとえ一瞬のことでも。
1-2:街で遊べなくなる
抽象的な言葉で言うなら、ここでの「街で遊ぶ」ことが指しているのは、「街と自分を強く関係させる」こと、そしてその時に関係元となる街の「読み方」がすぐに行為となるような遊び方のことだ。 街を読むことにとって、自分がその「読まれる」街の一部になること。そのような「遊び方」に問いを持とうとすると、それは究極的には、「世界にとって私は必要ないのに?」といった問いまで深化してしまう。 東京が、かつて80年代に存在したらしい”「パルコ的」な記号で満たされた渋谷”のようであったら、どれだけ楽だったろうか、と思う。 そこにはあらかじめ用意されたうねりがあり、波の出るプールのように、そこを「海」と見立てて楽しむような、場所との関係性の強固さに無頓着になることによって「楽しさ」の中に身をおくことができるような、楽しさ。いつでもそこにあり、そこに行けばその楽しさが約束されている場所。自分からその空間にはたらきかけなくとも、楽しめてしまう場所。 でも、そんな渋谷だって、もうない。いつまでもそこにあり続ける(と思わせてくれる)ものなんか、たぶんどこにも無いっていうことを、私たちはだんだん知ってしまっている。 そして、そういう場所には決まって「外部」が存在する。いま、私達がいる、あなたがこの文章を読んでいるところ、それがその場所にとっての外部だ。 「内部」へと向かうその境界をまたぐことで、私たちは「外部」に気づかないふりをすることで、「遊び」を行える。 そういう論理が遂行されている場所は、いまあなたが思い浮かべているようなレジャー施設に限ったことではない。 「境界を引け、強い意思と共に」という声は、既にあなたの中に届いているかもしれない。後で記すことになるが、あなたは、私は、その声によってすでに動かされているかもしれない。 あなた(私)が、意思を持って街に降り立ち、意思を持って街を遊んでいるとき、その声は深く、身体へと届いているのかもしれない。 ”いま、ここ”の先に見える街で、自由に遊べなくなっていく。自分から、ある街へ線をひこうとすればするほど、自分がいまいる場所とのかけ離れたものになっていく。 「私」にすべてを関係づけようとすることによって、すべてが内部化し、外部なき、答えなき問いへと思考の矛先は向いてしまう。つまり、「世界にとって私は必要ないのに?」だ。
1-3:街を踊る、美味しいコーヒーに浸る
先に書いた、街と私を関係づけ、そこに強い意味を持たせることを「遊び」と呼ぶことは、生活している世界の境界を自分で決定・固定することだ。 この文章では、この「遊び方」を乗り越えていくことになる。 導かれる問いは、「しかし、果たして本当に、街と私は、強い関係がなければいけないのだろうか?」というものだ。 街にとって、私は必要がないのかもしれない。ただ、きっと大事なのは、「遊びたい」という欲望があることだ。私は街で遊びたい。しかも、自由に。 街から、街との関係性から自由になる。その上で、街を再び遊ぶ。 つまり、”街それ自体”を思考し、”私それ自身”が街を遊ぶこと。遊び続けながら、遊びをやめることもできる。”いま、ここ”と街をさえぎる境界のヴァイヴを楽しみ、街と自分を関係させつつも無関係であること。 街のゆらぎを楽しみ、しかし、ゆらぎを受動的に待ち続けるのではなく、次のゆらぎに乗りつづける。 この行為を「街を踊る」と呼びたい�� 街を踊る。気に入った街の、気に入った喫茶店で、美味しいコーヒーの美味しさに浸るために。あるいは、美味しくなさを笑うために。
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2:街を踊る 2-1:街、接触‐切断
昨日まであったものが消え、明日には知らない風景が現れる。それはすでに消えてしまっているかもしれない。消えつつあるかもしれない。 その「なにか」の喪失、そのあらわれに気づくためには、私たちは「何か」の外側に立たなければならない。自分の好きな街に線を引き、その外側に引き下がることによって私たちは観測者にも、観光者にもなれるだろう。 しかし私たちは、振動し、増幅を続ける輪郭の中に生きている。そこには自由がある。私たちは、街において街から自由でなければいけない。外部からも内部からも自由でなければいけない。 自由であるということとして、踊りがある。そして、それは街「において」踊ることではない。街「を」踊ることだ。 街の中にひっかかりをみつけて、それを取り出し、それ自体と戯れる。踊りは、その街の上に身体として現れる。街をつむぎ、身体へと結びつける。次のムーヴでは、その結びつきはほつれてしまうかもしれない。あるいは、絡まりあって自らの動きを妨げるかもしれない。 街を踊る。糸がほつれたら次の糸を紡ぎ、動きを妨げるものがあったらそれを切断することによって、常に、街そのものと私=身体を接触-切断させ続ける。
2-2:街の糸を紡ぐもの
風になびき続ける、かつて私の踊りと共にあった糸は、再び誰かがつむぐかもしれない。切断されたまま、たゆたい続けるかもしれない。自らの髪についたままになってることに、自分すらも気づかないかもしれない。また、切断された糸は自分と無関係に誰かの糸と絡まりあい、街に堆積するかもしれない。
街はそれ自体として存在する、私はわたし自身として存在する。 街は私ぬきにも存在するが、私は街に存在する。踊りは、誰か/何かに強制されるものでもないが、必ずしも意思のもとで行われるものでもない。そこには偶然性があり、しかし偶然性のみに身をまかせた動きを「踊り」とみることはできない。
昨日まであったものが、誰の許可もなく明日へと取って代わっていく世界、あるいは、すべてに輪郭が与えられようとしている世界において、街を私たちが踊り続けるために。私達が、街から自由であるために。
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3:悲しき熱帯への声、私達の寝息
「世界は人間なしに始まったし、人間なしに終わるだろう。」
(クロード=レヴィ・ストロース,p425)
20世紀の初頭、かつて、隆盛の最中にあったブラジル・サンパウロにその身を置いた、偉大な社会人類学者の「かつて」を語る言葉を読む。
「制度、風俗、慣習など、それらの目録を作り、それらを理解すべく私が自分の人生を過ごして来たものは、一つの創造の束の間の開花であり、それらのものは、この創造との関係において人類がそこで自分の役割を演じることを可能にするという意味を除いては、恐らく何の意味ももってはいない。」(同) 悲しき、かつての熱帯。共同幻想としての過去のための感情をノスタルジーと呼ぶなら、ここには現在まで堆積している「かつての」悲しみを伴う過去への感情、サウダージが通奏低音のように響き渡る。その可聴領域ギリギリで鳴る音に、今一度耳をそばだてることはできないだろうか。 失われたものを構造化し、自分の側へと引きつける。自分と世界の間に線を引き、いまの自分の物語を再び作り直すために、私たちはしばしば過去を見る。 しかし、見えない過去もまた存在する。わたしたちの寝息は寝室の壁に吸収されて消える。 寝息はおそらく、誰のもとにも届かない。寝息は過去のものだが、私たちは自分のその寝息を、夢の中ですら聞くことはできない。 寝息は出来事ですらない。そういった類の「過去」が、選択されなかった、知られもしない過去が、世界には堆積し、低音を鳴らし続けている。それを、たまに聞いてしまうことがある。 存在しているはずの、しかし何とも関係しない「かつて」に出会ってしまうとき、私は、既に何かと関係してしまっている、関係しつつある自分を強く揺さぶられる感覚に陥って、うまく立っていることができなくなる。
4:荒廃の先に
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4-1:かつての街を歩く
2017年の夏、私はかつての生家周辺を歩いていた。
埃とカビと雑草の匂いが、熱気で膨張して長時間身体を包み込んでいたせいか、めまいを起こしそうになった。曇天が、視界のコントラストを下げ、定めるべき焦点を迷わせ続ける。 ハグロトンボがよたよたと飛んで、視界の隅をかすめた。辺りを見ると、いくつもの黒い羽が地面に張り付いて呼吸をしていて、ぞっとして声が出そうになる。線香の煙がたまに鼻に入ってくる。うず高く積まれ、山のようになった墓石たちは、帰るあてのない女郎の墓だと聴かされたことがある。その山が、トタン屋根の家屋の連なりの向こうに、頭だけ出している。 かつての城下街であり、絹織物で栄えた街。 家の前にスーパーができることに当て込んで、祖父が飲食店を営み始めたのは、母の中学の入学式の日だったという。隣のお茶屋とはいざこざが耐えなかったが、郊外に庭付きの一戸建てを買うことができる程度には儲かったのだろう。その土地には今の私の「実家」がある。生家はもう無い。祖母が死に、祖父が死に、生家があった場所には雑草が生い茂っている。 埃と錆にまみれた、スナックの看板がある建物の裏手に回り込むと、朽ちた木造家屋のドアに新聞が何重にも刺さっていた。ファインダーを向けると、どこかの家から甲子園の実況中継の音が聞こえてきた。シャッターは切らずにカメラを下げる。 色あせた幼児用の自転車に、蔦が絡まっている。��ぎれたカーテン、割れたガラス、セイタカアワダチソウの群生を囲むフェンス。 その奥にある生活は、生かされているわけでも生きているわけでもなく、私がカメラで切り取ろうとしていたものたちと並列して、ただそこにある。 カメラを首から下げ、自分が生まれ育った街を歩く26歳の自分は、あるいはすべてから無関係な身体として、情動と風景を自らの手で循環させる機械にでもなったような思いだった。 私は、この町で遊ぶことはできない。
4-2:街それ自体、私それ自身
私の身体は、この街それ自体と関係できないのだ、という事実が、突きつけられる。 語られなかった過去、出来事以前の過去、過去それ自体が、街それ自体とくっつき、滅びるのを待つ。 そこに、「未来から借りてきた過去」ではない、圧倒的な現在性が立ち現れていることに、ゆらぐ。ここが再び未来を向くことは無いだろう。 しかし、母から、祖父母から聞いた、彼/彼女らの物語が、私をこの街に関係させようとする。否応なしに、意思とは無関係に、街と私は関係する。 祖父が死に、祖母が死に、俺とは無関係なはずのこの場所で、この、人が生きていてるだけの「街」で、私はその街との物語を作ろうとするほど、その空虚さに包まれる。 過去は通奏低音のように鳴り響いている。ずっと、聞こえないだけで、過去の体積はこの場所に、低く、微弱な振動と共に流れている。
地元があり、東京に住んでいる。そのどれもが、私を固定されたアイデンティティから退ける。
4-3:アイデンティティを街と固定することのあやうさ
もし、「物語」への固定化を行ったとしたら、という例を挙げてみよう。 そこには外部として、郊外、というものが立ち現れる。 そして、”「グローバリゼーションによって衰退したかつての地方都市」に生まれた私”という構図は見事に完成される。その中において、私は雄弁に語ることができる。東京を、地元を、自分を。未来さえも描けるかもしれない。 完成された図式の内部に引き下がり、その外部/内部の輪郭を固くすることで、得られる物語は多い。物語作成機構と言ってもいいかもしれない。 それは永遠に物語を再生産し続ける。読み、読まれ、しかもその物語の一部として読み手が存在できる。向精神薬のような、毒に当てられていることに誰一人として気づかない、治療という名のもとで行われるアイデンティティ汚染。 「まちづくり」も「コミュニティ」も「地方創生」「地元らしさ」も、結局、いつか「かつて」として読まれる時間を「いま、ここ」に落とし込む動きにすぎない。前借りした未来の中で、物語は確固たる元ネタ=過去をサンプリングし続ける。 その境界の中ではアイデンティティは決して揺さぶられれない。同じように、「東京らしさ」だって「東京ローカル」だって「ダイバーシティ都市」だって、「ストリートに集う仲間たち」だって、すべて、精神疾患の治療薬が持つそれぞれの名前と同じ理由で存在している。効き目が長いか/短いか、ゆっくり効くか、朝飲むか、夜飲むか。街において、処方箋を書き続ける医者は誰なのか。わかったところで、彼を弾劾すべきではないだろう。投与される薬の量は増えていく。確定されたアイデンティティなしでは生きられない私/街になっていく。
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5:さいごに
私たちは、内部に引きこもることも、常に身を外部に置いておくこともできない。
「無数の高層ビルやタワーが集まって形作られる、大都市の輪郭線について考えてみよう。感覚的対象である限りにおいて、そうした建造物が互いに接触可能なのは、もちろん、それらを経験する仲介ないし媒介のみである。そしてまた、私は実在的対象としての建造物に接触することはできない。理由は単純で、実在的対象は、つねに互いから退いているからである、(…)感覚的領域で生じる出来事は、どうにかして、あらゆる経験の外部にある実在へと遡及的に影響力を与える必要があるのだ(…)」(グレアム・ハーマン.p.120) 目指していた街に出会うとき、わたしは街に出会えない。街は降り立つと際限なくひろがり、はるかかなたに、また別の街が浮かび上がる。 街には、どこへでもいけるという自由はあるが、どこへでも行けてしまうがゆえに、不自由である。 街において自由であるということは、この「つねに互いから退いている」まちたちを、すべて捉えきろう、とすることではない。 すべての存在を「経験」しようとすることは、「経験していないもの」も同時に存在させてしまう。「経験」とは、私と街の間に関係をもたせることだ。 街において自由であるということは、退いている街の中で、「街を」楽しむ主体=私自身の身体 を、常に仮固定しておくことにほかならない。 街を踊り続けること。 風のなびきに身を任せ、街において踏むステップの軽やかさを楽しむこと。 そして、自由は、踊ることをやめることもできる、という可能性によって獲得される。ムーブを中断し、喫茶店に入る。そしてまた街へ出る。家へと帰る。 そこでは境界は振動は緩やかになるだろう。踊る自由は、安息をももたらすに違いない。 恋の句を作るのは恋をすることであり、野糞の句を作るのは野糞をたれる事である。/叙景の句とはどういう事になるか。/それは、一七字の中に自分の欲する景色を再現するだけではいけなくて、その景色の中へ自分が飛び込んで、その中でダンスを踊らなくては、この定義に添わないことになる。 (寺田寅彦p.110) 私たちは、街を叙景の句にすることができよう。 街を踊ることは、街を見たり、自分がしたい振る舞いをすることではない。街の中に自分が飛び込んで、その中でダンスを踊らなくては、街は現れないのだ。
参考文献 北田暁大,2002,『広告都市・東京——その誕生と死』,廣済堂出版 國分功一郎,2017,『中動態の世界-意思と責任の考古学-』,医学書院 カンタン・メイヤスー,2007=2016,『有限性の後で-偶然性の必然性についての試論-』(千葉雅也、大橋完太郎,星野太訳),人文書院 クロード=レヴィ・ストロース,1955=2001,『悲しき熱帯Ⅱ』(川田順造訳) ,中央公論新社 グレアム・ハーマン.2010=2017,『四方対象-オブジェクト指向存在論入門』(岡島隆佑監訳 山下智弘,鈴木優花,石井正巳訳),人文書院  千葉雅也,「勉強の哲学-来たるべきバカのために-」,2017,文藝春秋 高野岳彦,1991,「訳者あとがき――人間主義的地理学とエドワード・レルフ」,Relph,E.『場所の現象学』筑摩書房,所収. 寺田寅彦,1996,「柿の種」,岩波文庫 吉見俊哉,1987,『都市のドラマトゥルギー――東京・盛り場の社会史』,弘文堂 フレッド・デイヴィス,1975=1999『スタルジアの社会学』(相場寿一,荻野美穂,細辻恵子訳),世界思想社
執筆者:小川哲汰朗(https://twitter.com/_maoxiong_) 
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moko1590m · 7 months ago
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逃げろ!#助けられそうなときは助けよう#無理っぽいときは、見て見ぬふり#自分しかいないときは、見て見ぬふりが可能だったらそうして、見て見ぬふりをする自分を他の誰かが見ていないことを祈れ#監視カメラは、俺がやってない、ということを証明してくれる#助けられそうなときに助けてダメだったときは観念して、疑われたり取り調べられたりするしかないっしょ
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gomisuteba-dayo-blog · 7 years ago
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 照明を落とした会議室は水を打ったようで、ただ肉を打つ鈍い音が響いていた。ビデオカメラに濾され、若干迫力と現実味を欠いた殴打の音が。  とは言え、それは20人ほどの若者を釘付けへするには十分な効果を持つ。四角く配置された古い長机はおろか、彼らが埋まるフェイクレザーの椅子すら、軋みの一つも上げない。もちろん、研修旅行の2日目ということで、集中講義に疲れ果て居眠りをしているわけでもない。白いスクリーンの中の光景に、身じろぎはおろか息すらこらしているのだろう。  映像の中の人物は息も絶え絶え、薄暗い独房の天井からぶら下げられた鎖のおかげで、辛うじて直立の状態を保っている。一時間近く、二人の男から代わる代わる殴られていたのだから当然の話だ――講義用にと青年が手を加えたので、今流れているのは10分ほどの総集編という趣。おかげで先ほどまでは端正だった顔が、次の瞬間には血まみれになっている始末。画面の左端には、ご丁寧にも時間と殴打した回数を示すカウンターまで付いていた。  まるで安っぽいスナッフ・フィルムじゃないか――教授は部屋の隅を見遣った。パイプ椅子に腰掛ける編集者の青年が、視線へ気付くのは早い。あくびをこぼしそうだった表情が引き締まり、すぐさま微笑みに変わる。まるで自らの仕事を誇り、称賛をねだる様に――彼が自らに心酔している事は知っていた。少なくとも、そういう態度を取れるくらいの処世術を心得ている事は。   男達が濡れたコンクリートの床を歩き回るピチャピチャという水音が、場面転換の合図となる。とは言っても、それまで集中的に顔を攻撃していた男が引き下がり、拳を氷の入ったバケツに突っ込んだだけの変化なのだが。傍らで煙草を吸っていたもう一人が、グローブのような手に砂を擦り付ける。  厄災が近付いてきても、捕虜は頭上でひとまとめにされた手首を軽く揺するだけで、逃げようとはしなかった。ひたすら殴られた顔は赤黒く腫れ上がり、虫の蛹を思わせる。血と汗に汚された顔へ、漆黒の髪がべっとり張り付いていた。もう目も禄に見えていないのだろう。  いや、果たしてそうだろうか。何度繰り返し鑑賞しても、この場面は専門家たる教授へ疑問を呈した。  重たげで叩くような足音が正面で止まった瞬間、俯いていた顔がゆっくり持ち上がった。閉じた瞼の針のような隙間から、榛色の瞳が僅かに覗いている。そう、その瞳は、間違いなく目の前の男を映していた。自らを拷問する男の顔を。相手がまるで、取るに足らない存在であるかの如く毅然とした無表情で。  カウンターが121回目の殴打を数えたとき、教授は手にしていたリモコンを弄った。一時停止ボタンは融通が利かず、122回目のフックは無防備な鳩尾を捉え、くの字に折り曲がった体が後ろへ吹っ飛ばされる残像を画面に残す。 「さて、ここまでの映像で気付いたことは、ミズ・ブロディ?」  目を皿のようにして画面へ見入っていた女子生徒が、はっと顔を跳ね上げる。逆光であることを差し引いても、その瞳は溶けた飴玉のように光が滲み、焦点を失っていた。 「ええ、はい……その、爪先立った体勢は、心身への負荷を掛ける意味で効果的だったと思います」 「その通り。それにあの格好は、椅子へ腰掛けた人間を相手にするより殴りやすいからね。ミスター・ロバーツ、執行者については?」 「二人の男性が、一言も対象者に話しかけなかったのが気になりました」  途中から手元へ視線を落としたきり、決して顔を上げようとしなかった男子生徒が、ぼそぼそと答えた。 「笑い者にしたり、罵ったりばかりで……もっと積極的に自白を強要するべきなのでは」 「これまでにも、この……M……」  机上のレジュメをひっくり返したが、該当資料は見あたらない。パイプ椅子から身を乗り出した青年が、さして潜めてもいない声でそっと助け船を出した。 「そう、ヒカル・K・マツモト……私達がMと呼んでいる男性には、ありとあらゆる方法で自白を促した。これまでにも見てきたとおり、ガスバーナーで背中を炙り、脚に冷水を掛け続け――今の映像の中で、彼の足元がおぼづかなかったと言う指摘は誰もしなかったね? とにかく、全ての手段に効果が得られなかった訳だ」  スマートフォンのバイブレーションが、空調の利きが悪い室内の空気を震わせる。小声で云々しながら部屋を出ていく青年を片目で見送り、教授は一際声の調子を高めた。 「つまり今回の目的は、自白ではない。暴力そのものだ。この行為の中で、彼の精神は価値を持たない。肉体は、ただ男達のフラストレーションの捌け口にされるばかり」  フラストレーションの代わりに「マスターベーション」と口走りそうになって、危うく言葉を飲み込んだのは、女性の受講生も多いからだ。5年前なら考えられなかったことだ――黴の生えた理事会の連中も、ようやく象牙の塔の外から出るとまでは言わなくとも、窓から首を突き出す位のことをし始めたのだろう。 「これまで彼は、一流の諜報員、捜査官として、自らのアイデンティティを固めてきた。ここでの扱いも、どれだけ肉体に苦痛を与えられたところで、それは彼にとって自らが価値ある存在であることの証明に他ならなかった。敢えて見せなかったが、この行為が始まる前に、我らはMと同時に捕縛された女性Cの事を彼に通告してある――彼女が全ての情報を吐いたので、君はもう用済みだ、とね」 「それは餌としての偽情報でしょうか、それとも本当にCは自白していたのですか」 「いや、Cもまだこの時点では黙秘している。Mに披露した情報は、ケース・オフィサーから仕入れた最新のものだ」  ようやく対峙する勇気を振り絞れたのだろう。ミスター・ロバーツは、そろそろと顔を持ち上げて、しんねりとした上目を作った。 「それにしても、彼への暴力は行き過ぎだと思いますが」 「身長180センチ、体重82キロもある屈強な25歳の男性に対してかね? 彼は深窓の令嬢ではない、我々の情報を抜き取ろうとした手練れの諜報員だぞ」  浮かんだ苦笑いを噛み殺し、教授は首を振った。 「まあ、衛生状態が悪いから、目方はもう少し減っているかもしれんがね。さあ、後半を流すから、Mと執行者、両方に注目するように」  ぶれた状態で制止していた体が思い切り後ろへふれ、鎖がめいいっぱいまで伸びきる。黄色く濁った胃液を床へ吐き散らす捕虜の姿を見て、男の一人が呆れ半分、はしゃぎ半分の声を上げる。「汚ぇなあ、しょんべんが上がってきてるんじゃないのかよ」  今年は受講者を20人程に絞った。抽選だったとは言え、単位取得が簡単でないことは周知の事実なので、応募してきた時点で彼らは自分を精鋭と見なしているのだろう。  それが、どうだ。ある者は暴力に魅せられて頬を火照らせ、ある者は今になって怖じ気付き、正義感ぶることで心の平穏を保とうとする。  経験していないとはこう言うことか。教授は今更ながら心中で嘆息を漏らした。ここのところ、現場慣れした小生意気な下士官向けの講義を受け持つことが多かったので、すっかり自らの感覚が鈍っていた。  つまり、生徒が悪いのでは一切ない。彼らが血の臭いを知らないのは、当然のことなのだ。人を殴ったとき、どれだけ拳が疼くのかを教えるのは、自らの仕事に他ならない。  手垢にまみれていないだけ、吸収も早いことだろう。余計なことを考えず、素直に。ドアを開けて入ってきたあの青年の如く。  足音もなく、すっと影のように近付いてきた青年は、僅かに高い位置へある教授の耳に小さな声で囁いた。 「例のマウンテンバイク、確保できたようです」  針を刺されたように、倦んでいた心が普段通りの大きさへ萎む。ほうっと息をつき、教授は頷いた。 「助かったよ。すまないな」 「いいや、この程度の事なら喜んで」  息子が12歳を迎えるまで、あと半月を切っている。祝いに欲しがるモデルは何でも非常に人気があるそうで、どれだけ自転車屋に掛け合っても首を振られるばかり。  日頃はあまり構ってやれないからこそ、約束を違えるような真似はしたくない。妻と二人ほとほと弱り果てていたとき、手を挙げたのが他ならぬ目の前の青年だった。何でも知人の趣味がロードバイクだとかで、さんざん拝み倒して新古品を探させたらしい。  誕生パーティーまでの猶予が一ヶ月を切った頃から、教授は青年へ厳しく言い渡していた。見つかり次第、どんな状況でもすぐに知らせてくれと。夜中でも、仕事の最中でも。 「奥様に連絡しておきましょうか。また頭痛でお悩みじゃなきゃいいんですけど」 「この季節はいつでも低気圧だ何だとごねているさ。悪いが頼むよ」  ちらつく画像を前にし、青年はまるで自らのプレゼントを手に入れたかの如くにっこりしてみせる。再びパイプ椅子に腰を下ろし、スマートフォンを弄くっている顔は真剣そのものだ。  ふと頭に浮かんだのは、彼が妻と寝ているか否かという、これまでも何度か考えたことのある想像だった。確かに毎週の如く彼を家へ連れ帰り、彼女もこの才気あふれる若者を気に入っている風ではあるが。  まさか、あり得ない。ファンタジーとしてならば面白いかもしれないが。  そう考えているうちは、大丈夫だろう。事実がどうであれ。 「こんな拷問を、そうだな、2ヶ月程続けた。自白を強要する真似は一切せず、ただ肉の人形の用に弄び、心身を疲弊させる事に集中した。詳細はレジュメの3ページに譲るとして……背中に水を皮下注射か。これは以前にも言ったが、対象が仰向けで寝る場合、主に有効だ。事前に確認するように」  紙を捲る音が一通り収まったのを確認してから、教授は手の中のリモコンを軽く振った。 「前回も話したが、囚人が陥りやすいクワシオルコルなど低タンパク血症の判断基準は脚の浮腫だ。だが今回は捕獲時に右靱帯を損傷し中足骨を剥離骨折したこと、何度も逃亡を試みた事から脚への拘束及び重点的に攻撃を加えたため、目視では少し判断が難しいな。そういうときは、圧痕の確認を……太ももを掴んで指の型が数秒間戻らなければ栄養失調だ」  似たような仕置きの続く数分が早送りされ、席のそこかしこから詰まったような息が吐き出される。一度飛ばした写真まで巻き戻せば、その呼吸は再びくびられたかのように止まった。 「さて、意識が混濁しかけた頃を見計らい、我々は彼を移送した。本国の収容所から、国境を越えてこの街に。そして抵抗のできない肉体を、一見無造作に投棄したんだ。汚い、掃き溜めに……えー、この国の言葉では何と?」 「『ゴミ捨て場』」 「そう、『ゴミ捨て場』に」  青年の囁きを、生徒達は耳にしていたはずだ。それ以外で満ちた沈黙を阻害するのは、プロジェクターの立てる微かなモーター音だけだった。  彼らの本国にもありふれた集合住宅へ――もっとも、今画面に映っている場所の方がもう少し設備は整っていたが。距離で言えば100キロも離れていないのに、こんな所からも、旧東側と西側の違いは如実に現れるのだ――よくある、ゴミ捨て場だった。三方を囲うのはコンクリート製の壁。腰程の高さへ積んだゴミ袋の山へ、野生動物避けの緑色をしたネットを掛けてあるような。  その身体は、野菜の切りくずやタンポンが詰められているのだろうゴミ袋達の上に打ち捨てられていた。横向きの姿勢でぐんにゃり弛緩しきっていたが、最後の意志で内臓を守ろうとした努力が窺える。腕を腹の前で交差し、身を縮める姿は胎児を思わせた。ユーラシアンらしい照り卵を塗ったパイ生地を思わせる肌の色味は、焚かれたフラッシュのせいで消し飛ばされる。 絡みもつれた髪の向こう��、血管が透けて見えるほど薄い瞼はぴたりと閉じられていた。一見すると死んでいるかのように見える。 「この国が我が祖国と国交を正常化したのは?」 「2002年です」 「よろしい、ミズ・グッドバー。だがミハイル・ゴルバチョフが衛星国の解放を宣言する以前から、両国間で非公式な交流は続けられていた。主に経済面でだが。ところで、Mがいた地点からほど近くにあるタイユロール記念病院は、あの鋼鉄商フォミン一族、リンゼイ・フォミン氏の働きかけで設立された、一種の『前哨基地』であることは、ごく一部のものだけが知る事実だ。彼は我が校にも多額の寄付を行っているのだから、ゆめゆめ備品を粗末に扱わぬよう」  小さな笑いが遠慮がちに湧いた矢先、突如画面が明るくなる。生徒達同様、教授も満ちる眩しさに目を細めた。 「Mは近所の通報を受け、この病院に担ぎ込まれた……カルテにはそう記載されている。もちろん、事実は違う。全ては我々の手配だ。彼は現在に至るまでの3ヶ月、個室で手厚く看護を受けている。最新の医療、滋養のある食事、尽くしてくれる看護士……もちろん彼は、自らの正体を明かしてはいないし、完全に心を開いてはいない。だが、病院の上にいる人間の存在には気付いていないようだ」 「気付いていながら、我々��欺いている可能性は?」 「限りなく低いだろう。外部との接触は行われていない……行える状態ではないし、とある看護士にはかなり心を許し、私的な話も幾らか打ち明けたようだ」  後は病室へ取り付けた監視用のカメラが、全てを語ってくれる。ベッドへ渡したテーブルへ屈み込むようにしてステーキをがっつく姿――健康状態はすっかり回復し、かつて教授がミラーガラス越しに眺めた時と殆ど変わらぬ軒昂さを取り戻していた。  両脚にはめられたギプスをものともせず、点滴の管を抜くというおいたをしてリハビリに励む姿――パジャマを脱いだ広い背中は、拷問の痕の他に、訓練や実践的な格闘で培われたしなやかな筋肉で覆われている。  車椅子を押す看護士を振り返り、微笑み掛ける姿――彼女は決して美人ではないが、がっしりした体つきやきいきびした物言いは母性を感じさせるものだった。だからこそ一流諜報員をして、生き別れの恋人やアルコール中毒であった父親の話まで、自らの思いの丈を洗いざらい彼女に白状せしめたのだろう。「彼女を本国へスカウトしましょうよ」報告書を読んだ青年が軽口を叩いていたのを思い出す。「看護士の給料って安いんでしょう? 今なら簡単に引き抜けますよ」 「今から10分ほど、この三ヶ月の記録からの抜粋を流す。その後はここを出て、西棟502号室前に移動を――Mが現在入院する病室の前だ。持ち物は筆記具だけでいい」  暗がりの中に戸惑いが広がる様子は、まるで目に見えるかのようだった。敢えて無視し、部屋を出る。  追いかけてきた青年は、ドアが完全に閉まりきる前から既にくすくす笑いで肩を震わせていた。 「ヘンリー・ロバーツの顔を見ましたか。今にも顎が落ちそうでしたよ」 「当然の話だろう」  煤けたような色のLEDライトは、細長く人気のない廊下を最低限カバーし、それ以上贅沢を望むのは許さないと言わんばかり。それでも闇に慣れた眼球の奥をじんじんと痺れさせる。大きく息をつき、教授は何度も目を瞬かせた。 「彼らは現場に出たこともなければ、百戦錬磨の諜報員を尋問したこともない。何不自由なく育った二十歳だ」 「そんなもんですかね」  ひんやりした白塗りの壁へ背中を押しつけ、青年はきらりと目を輝かせた。 「俺は彼ら位の頃、チェチェン人と一緒にウラル山脈へこもって、ロシアのくそったれ共を片っ端から廃鉱山の立坑に放り込んでましたよ」 「『育ちゆけよ、地に満ちて』だ。平和は有り難いことさ」  スマートフォンの振動は無視するつもりだったが、結局ポケットへ手を突っ込み、液晶をタップする。現れたテキストをまじまじと見つめた後、教授は紳士的に視線を逸らしていた青年へ向き直った。 「君のところにもメッセージが行っていると思うが、妻が改めて礼を言ってくれと」 「お安い御用ですよ」 「それと、ああ、その自転車は包装されているのか?」 「ほうそうですか」  最初繰り返したとき、彼は自らが口にした言葉の意味を飲み込めていなかったに違いない。日に焼けた精悍な顔が、途端にぽかんとした間抜け面に変わる。奨学金を得てどれだけ懸命に勉強しても、この表情を取り繕う方法は、ついぞ学べなかったらしい。普段の明朗な口振りが嘘のように、言葉付きは歯切れが悪い。 「……ええっと、多分フェデックスか何かで来ると思うので、ダンボールか緩衝材にくるんであるんじゃないでしょうか……あいつは慣れてるから、配送中に壊れるような送り方は絶対しませんよ」 「いや、そうじゃないんだ。誕生日の贈り物だから、可愛らしい包み紙をこちらのほうで用意すべきかということで」 「ああ、なるほど……」  何とか混乱から立ち直った口元に、決まり悪げなはにかみが浮かぶ。 「しかし……先生の息子さんが羨ましい。俺の親父もマツモトの父親とそうそう変わらないろくでなしでしたから」  僅かに赤らんだ顔を俯かせて頭を掻き、ぽつりと呟いた言葉に普段の芝居掛かった気負いは見られない。鈍い輝きを帯びた瞳が、おもねるような上目遣いを見せた。 「先生のような父親がいれば、きっと世界がとてつもなく安全で、素晴らしい物のように見えるでしょうね」  皮肉を言われているのか、と一瞬思ったが、どうやら違うらしい。  息子とはここ数週間顔を合わせていなかった。打ち込んでいるサッカーの試合や学校の発表会に来て欲しいと何度もせがまれているが、積み重なる仕事は叶えてやる機会を許してはくれない。  いや、本当に自らは、努力を重ねたか? 確たる意志を以て、向き合う努力を続けただろうか。  自らが妻子を愛していると、教授は知っている。彼は己のことを分析し、律していた。自らが家庭向きの人間ではないことを理解しなから、家族を崩壊させないだけのツボを的確に押さえている事実へ、怒りの叫びを上げない程度には。  目の前の男は、まだ期待の籠もった眼差しを向け続けている。一体何を寄越せば良いと言うのだ。今度こそ苦い笑いを隠しもせず、教授は再びドアノブに手を伸ばした。  着慣れない白衣姿に忍び笑いが漏れるのへ、わざとらしいしかめっ面を作って見せる。 「これから先、私は傍観者だ。今回の実習を主導するのは彼だから」  「皆の良い兄貴分」を気取っている青年が、芝居掛かった仕草のお辞儀をしてみせる。生徒達と同じように拍手を与え、教授は頷いた。 「私はいないものとして考えるように……皆、彼の指示に従うこと」 「指示なんて仰々しい物は特にない、みんな気楽にしてくれ」  他の患者も含め人払いを済ませた廊下へ響かぬよう、普段よりは少し落とした声が、それでも軽やかに耳を打った。 「俺が定める禁止事項は一つだけ――禁止事項だ。これからここで君たちがやった事は、全てが許される。例え法に反することでも」  わざとらしく強い物言いに、顔を見合わせる若者達の姿は、これから飛ぶ練習を始める雛鳥そのものだった。彼らをぐるりと見回す青年の胸は、愉悦でぱんぱんに膨れ上がっているに違いない。大袈裟な身振りで手にしたファイルを振りながら、むずつかせる唇はどうだろう。心地よく浸る鷹揚さが今にも溢れ出し、顔を満面の笑みに変えてしまいそうだった。 「何故ならこれから君達が会う人間は、その法律の上では存在しない人間なんだから……寧ろ俺は、君達に積極的にこのショーへ参加して欲しいと思ってる。それじゃあ、始めようか」  最後にちらりと青年が寄越した眼差しへ、教授はもう一度頷いて見せた。ここまでは及第点。生徒達は不安を抱えつつも、好奇心を隠せないでいる。  ぞろぞろと向かった先、502号室の扉は閉じられ、物音一つしない。ちょうど昼食が終わったばかりだから、看護士から借りた本でも読みながら憩っているのだろう――日報はルーティンと化していたが、それでも教授は欠かさず目を通し続けていた。  生徒達は皆息を詰め、これから始まる出し物を待ちかまえている。青年は最後にもう一度彼らを振り向き、シッ、と人差し指を口元に当てた。ぴいん、と緊張が音を立てそうなほど張り詰められたのは、世事に疎い学生達も気がついたからに違いない。目の前の男の目尻から、普段刻まれている笑い皺がすっかり失せていると。  分厚い引き戸が勢いよく開かれる。自らの姿を、病室の中の人間が2秒以上見つめたと確認してから、青年はあくまで穏やかな、だがよく聞こえる声で問いかけた。 「あんた、ここで何をしているんだ」  何度も尋問を起こった青年と違い、教授がヒカル・K・マツモトを何の遮蔽物もなくこの目で見たのは、今日が初めての事だった。  教授が抱いた印象は、初見時と同じ――よく飼い慣らされた犬だ。はしっこく動いて辺りを確認したかと思えば、射るように獲物を見据える切れ長で黒目がちの瞳。すっと通った細長い鼻筋。桜色の形良い唇はいつでも引き結ばれ、自らが慎重に選んだ言葉のみ、舌先に乗せる機会を待っているかのよう。  見れば見るほど、犬に思えてくる。教授がまだ作戦本部にいた頃、基地の中を警邏していたシェパード。栄養状態が回復したせいか、艶を取り戻した石炭色の髪までそっくりだった。もっともあの軍用犬達はベッドと車椅子を往復していなかったので、髪に寝癖を付けたりなんかしていなかったが。  犬は自らへしっぽを振り、手綱を握っている時にのみ役に立つ。牙を剥いたら射殺せねばならない――どれだけ気に入っていたとしても。教授は心底、その摂理を嘆いた。  自らを散々痛めつけた男の顔を、一瞬にして思い出したのだろう。Mは驚愕に目を見開いたものの、次の瞬間車椅子の中で身構えた。 「おまえは…!」 「何をしているかと聞いているんだ、マツモト。ひなたぼっこか?」  もしもある程度予測できていた事態ならば、この敏腕諜報員のことだ。ベッド脇にあるナイトスタンドから取り上げた花瓶を、敵の頭に叩きつける位の事をしたかもしれない。だが不幸にも、青年の身のこなしは機敏だった。パジャマの襟首を掴みざま、まだ衰弱から完全に抜けきっていない体を床に引き倒す。 「どうやら、少しは健康も回復したようだな」  自らの足元にくずおれる姿を莞爾と見下ろし、青年は手にしていたファイルを広げた。 「脚はどうだ」 「おかげさまで」  ギプスをはめた脚をかばいながら、Mは小さく、はっきりとした声で答えた。 「どうやってここを見つけた」 「見つけたんじゃない。最初から知っていたんだ。ここへお前を入院させたのは俺たちなんだから」  一瞬見開かれた目は、すぐさま平静を取り戻す。膝の上から滑り落ちたガルシア・マルケスの短編集を押し退けるようにして床へ手を滑らせ、首を振る。 「逐一監視していた訳か」 「ああ、その様子だと、この病院そのものが俺たちの手中にあったとは、気付いていなかったらしいな」  背後を振り返り、青年は中を覗き込む生徒達に向かって繰り返した。 「重要な点だ。この囚人は、自分が未だ捕らわれの身だという事を知らなかったそうだ」  清潔な縞模様のパジャマの中で、背中が緩やかな湾曲を描く。顔を持ち上げ、Mは生徒達をまっすぐ見つめた。  またこの目だ。出来る限り人だかりへ紛れながらも、教授はその眼差しから意識を逸らすことだけは出来なかった。有利な手札など何一つ持っていないにも関わらず、決して失われない榛色の光。確かにその瞳は森の奥の泉のように静まり返り、暗い憂いを帯びている。あらかじめ悲しみで心を満たし、もうそれ以上の感情を注げなくしているかのように。  ねめ回している青年も、Mのこの堅固さならよく理解しているだろう――何せ数ヶ月前、その頑強な鎧を叩き壊そうと、手ずから車のバッテリーに繋いだコードを彼の足に接触させていたのだから。  もはや今、鸚鵡のように「口を割れ」と繰り返す段階は過ぎ去っていた。ファイルの中から写真の束を取り出して二、三枚繰り、眉根を寄せる。 「本当はもう少し早く面会するつもりだったんだが、待たせて悪かった。あんたがここに来て、確か3ヶ月だったな。救助は来なかったようだ」 「ここの電話が交換式になってる理由がようやく分かったよ。看護士に渡した手紙も握りつぶされていた訳だな」 「気付いていたのに、何もしなかったのか」 「うちの組織は、簡単にとかげの尻尾を切る」  さも沈痛なそぶりで、Mは目を伏せた。 「大義を為すためなら、末端の諜報員など簡単に見捨てるし、皆それを承知で働いている」  投げ出されていた手が、そろそろと左足のギプスの方へ這っていく。そこへ削って尖らせたスプーンを隠してある事は、監視カメラで確認していた。知っていたからこそ、昨晩のうちに点滴へ鎮静剤を混ぜ、眠っているうちに取り上げてしまう事はたやすかった。  ほつれかけたガーゼに先細りの指先が触れるより早く、青年は動いた。 「確かに、お前の所属する組織は、仲間がどんな目に遭おうと全く気に掛けないらしいな」  手にしていた写真を、傷が目立つビニール張りの床へ、一枚、二枚と散らす。Mが身を凍り付かせたのは、まだ僅かに充血を残したままの目でも、その被写体が誰かすぐ知ることが出来たからだろう。 「例え女であったとしても、我が国の情報局が手加減など一切しないことは熟知しているだろうに」  最初の数枚においては、CもまだMが知る頃の容姿を保っていた。枚数が増えるにつれ、コマの荒いアニメーションの如く、美しい女は徐々に人間の尊厳を奪われていく――撮影日時は、写真の右端に焼き付けられていた。  Mがされていたのと同じくらい容赦なく殴られ、糞尿や血溜まりの中で倒れ伏す姿。覚醒剤で朦朧としながら複数の男達に辱められる。時には薬を打たれることもなく、苦痛と恥辱の叫びを上げている歪んだ顔を大写しにしたものもある。分かるのは、施されるいたぶりに終わりがなく、彼女は時を経るごとにやせ細っていくということだ。 「あんたがここで骨休めをしている間、キャシー・ファイクは毎日尋問に引き出されていた。健気に耐えたよ、全く驚嘆すべき話だ。そういう意味では、君たちの組織は実に優秀だと言わざるを得ない」  次々と舞い落ちてくる写真の一枚を拾い上げ、Mは食い入るように見つめていた。養生生活でただでも青白くなった横顔が、俯いて影になることで死人のような��色に変わる。 「彼女は最終的に情報を白状したが……恐らく苦痛から解放して欲しかったのだろう。この三ヶ月で随分衰弱してしまったから」  Mは自らの持てる技術の全てを駆使し、動揺を押さえ込もうとしていた。その努力は殆ど成功している。ここだけは仄かな血色を上らせた、薄く柔い唇を震わせる以外は。  その様をつくづくと見下ろしながら、青年はどこまでも静かな口調で言った。 「もう一度聞くが、あんた、ここで何をしていた?」  再び太ももへ伸ばされた左手を、踏みつけにする足の動きは機敏だった。固い靴底で手の甲を踏みにじられ、Mはぐっと奥歯を噛みしめ、相手を睨み上げた。教授が初めて目にする、燃えたぎるような憎悪の色を視線に織り込みながら。その頬は病的なほど紅潮し、まるで年端も行かない子供を思わせる。  そして相手がたかぶるほど、青年は感情を鎮静化させていくのだ。全ての写真を手放した後、彼は左腕の時計を確認し、それから壁に掛かっていた丸い時計にも目を走らせた。 「数日前、Cはこの病院に運び込まれた。お偉方は頑なでね。まだ彼女が情報を隠していると思っているようだ」 「これ以上、彼女に危害を加えるな」  遂にMは口を開き、喉の奥から絞り出すようにして声を放った。 「情報ならば、僕が話す」 「あんたにそんな役割は求めていない」  眉一つ動かすことなく、青年は言葉を遮った。 「あんたは3ヶ月前に、その言葉を口にすべきだった。もう遅い」  唇を噛むMから目を離さないまま、部屋の前の生徒達に手だけの合図が送られる。今やすっかりその場の空気に飲まれ、彼らはおたおたと足を動かすのが精一杯。一番賢い生徒ですら、質問を寄越そうとはしなかった。 「彼女に会わせてやろう。もしも君が自分の足でそこにたどり着けるのならば。俺の上官が出した指示はこうだ。この廊下の突き当たりにある手術室にCを運び込み、麻酔を掛ける。5分毎に、彼女の体の一部は切り取られなければならない。まずは右腕、次に右脚、四肢が終わったら目を抉り、鼻を削いで口を縫い合わせ、喉を潰す。耳を切りとったら次は内臓だ……まあ、この順番は多少前後するかもしれない。医者の気まぐと彼女の体調次第で」  Mはそれ以上、抗弁や懇願を口にしようとはしなかった。ただ歯を食いしばり、黙ってゲームのルールに耳を澄ましている。敵の陣地で戦うしか、今は方法がないのだと、聡い彼は理解しているのだろう。 「もしも君が部屋までたどり着けば、その時点で手術を終了させても良いと許可を貰ってる。彼女の美しい肉体をどれだけ守れるかは、君の努力に掛かっているというわけだ」  足を離して解放しざま、青年はすっと身を傍らに引いた。 「予定じゃ、もうカウントダウンは始まっている。そろそろ医者も、彼女の右腕に局部麻酔を打っているんじゃないか?」  青年が言い終わらないうちに、Mは床に投げ出されていた腕へ力を込めた。  殆ど完治しているはずの脚はしかし、過剰なギプスと長い車椅子生活のせいですっかり萎えていた。壁に手をつき、立ち上がろうとする奮闘が繰り返される。それだけの動作で、全身に脂汗が滲み、細かい震えが走っていた。  壁紙に爪を立てて縋り付き、何���か前かがみの姿勢になれたとき、青年はその肩に手を掛けた。力任せに押され、受け身を取ることも叶わなかったらしい。無様に尻餅をつき、Mは顔を歪めた。 「さあ」  人を突き飛ばした手で部屋の外に並ぶ顔を招き、青年はもぞつくMを顎でしゃくる。 「君達の出番だ」  部屋の中へ足を踏み入れようとするものは、誰もいなかった。  その後3度か4度、起き上がっては突き飛ばされるが繰り返される。結局Mは、それ以上立ち上がろうとする事を諦めた。歯を食いしばって頭を垂れ、四つん這いになる。出来る限り避けようとはしているのだろう。だが一歩手を前へ進めるたび、床へ広がったままの写真が掌にくっついては剥がれるを繰り返す。汗を掻いた手の下で、印画紙は皺を作り、折れ曲がった。 「このままだと、あっさり部屋にたどり着くぞ」  薄いネルの布越しに尻を蹴飛ばされ、何度かその場へ蛙のように潰れながらも、Mは部屋の外に出た。生徒達は彼の行く手を阻まない。かといって、手を貸したり「こんな事はよくない」と口にするものもいなかったが。  細く長い廊下は一直線で、突き当たりにある手術室までの距離は50メートル程。その気になれば10分も掛からない距離だ。  何とも奇妙な光景が繰り広げられた。一人の男が、黙々と床を這い続ける。その後ろを、20人近い若者が一定の距離を開けてぞろぞろと付いていく。誰も質問をするものはいなかった。ノートに記録を取るものもいなかった。 少し距離を開けたところから、教授は様子を眺めていた。次に起こる事を待ちながら――どういう形にせよ、何かが起こる。これまでの経験から、教授は理解していた。 道のりの半分程まで進んだ頃、青年はそれまでMを見張っていた視線を後ろへ振り向けた。肩が上下するほど大きな息を付き、ねだる様な表情で微笑んで見せる。 「セルゲイ、ラマー、手を貸してくれ。奴をスタートまで引き戻すんだ」  学生達の中でも一際体格の良い二人の男子生徒は、お互いの顔を見合わせた。その口元は緊張で引きつり、目ははっきりと怯えの色に染まっている。 「心配しなくてもいい。さっきも話したが、ここでは何もかもが許される……ぐずぐずするな、単位をやらないぞ」  最後の一言が利いたのかは分からないが、二人はのそのそと中から歩み出てきた。他の学生が顔に浮かべるのは非難であり、同情であり、それでも決して手を出すことはおろか、口を開こうとすらしないのだ。  話を聞いていたMは、必死で手足の動きを早めていた。どんどんと開き始める距離に、青年が再び促せば、結局男子生徒は小走りで後を追う。一人が腕を掴んだとき、Mはまるで弾かれたかのように顔を上げた。その表情は、自らを捕まえた男と同じくらい、固く強張っている。 「頼む」  掠れた声に混ざるのは、間違いなく懇願だった。小さな声は、静寂に満ちた廊下をはっきりと貫き通る。 「頼むから」 「ラマー」  それはしかし、力強い指導者の声にあっけなくかき消されるものだった。意を決した顔で、二人はMの腕を掴み直し、背後へと引きずり始めた。  Mの抵抗は激しかった。出来る限り身を捩り、ギプスのはまった脚を蠢かす。たまたま、固められたグラスファイバーが臑に当たったか、爪が腕を引っ掻いたのだろう。かっと眦をつり上げたセルゲイが、平手でMの頭を叩いた。あっ、と後悔の顔が浮かんだのもつかの間、拘束をふりほどいたMは再び手術室を目指そうと膝を突く。追いかけたラマーに、明確な抑止の気持ちがあったのか、それともただ単に魔が差したのかは分からない。だがギプスを蹴り付ける彼の足は、決して生ぬるい力加減のものではなかった。  その場へ横倒しになり、呻きを上げる敵対性人種を、二人の男子生徒はしばらくの間見つめていた。汗みずくで、時折せわしなく目配せを交わしあっている。やがてどちらともなく、再び仕事へ取りかかろうとしたとき、その足取りは最初と比べて随分とスムーズなものになっていた。  病室の入り口まで連れ戻され、身を丸めるMに、青年がしずしずと歩み寄る。腕時計をこれ見よがしに掲げながら放つ言葉は、あくまでも淡々としたものだった。 「今、キャシーは右腕を失った」  Mは全身を硬直させ、そして弛緩させた。何も語らず、目を伏せたまま、また一からやり直そうと努力を続ける。 不屈の精神。だがそれは青年を面白がらせる役にしか立たなかった。  同じような事が何度も繰り返されるうち、ただの背景でしかなかった生徒達に動きが見え始めた。  最初のうちは、一番に手助けを求められた男子生徒達がちょっかいをかける程度だった。足を掴んだり、行く手を塞いだり。ある程度進めばまた病室まで引きずっていく。そのうち連れ戻す役割に、数人が関わるようになった。そうなると、全員が共犯者になるまで時間が掛からない。  やがて、誰かが声を上げた。 「このスパイ」  つられて、一人の女子生徒がMを指さした。 「この男は、私たちの国を滅ぼそうとしているのよ」 「悪魔、けだもの!」  糾弾は、ほとんど悲鳴に近い音程で迸った。 「私の叔母は、戦争中こいつの国の人間に犯されて殺された! まだたった12歳だったのに!」  生徒達の目の焦点が絞られる。  病室へ駆け込んだ一人が戻ってきたとき手にしていたのは、ピンク色のコスモスを差した重たげな花瓶だった。花を引き抜くと、その白く分厚い瀬戸物を、Mの頭上で逆さまにする。見る見るうちに汚れた冷水が髪を濡らし、パジャマをぐっしょり背中へと張り付かせる様へ、さすがに一同が息を飲む。  さて、どうなることやら。教授は一歩離れた場所から、その光景を見守っていた。  幸い、杞憂は杞憂のままで終わる。すぐさま、どっと歓声が弾けたからだ。笑いは伝染する。誰か一人が声を発すれば、皆が真似をする。免罪符を手に入れたと思い込む。  そうなれば、後は野蛮で未熟な度胸試しの世界になった。 殴る、蹴るは当たり前に行われた。直接手を出さない者も、もう目を逸らしたり、及び腰になる必要はない。鋏がパジャマを切り裂き、無造作に掴まれた髪を黒い束へと変えていく様子を、炯々と目を光らせて眺めていられるのだ。 「まあ、素敵な格好ですこと」  また嘲笑がさざ波のように広がる。その発作が収まる隙を縫って、時折腕時計を見つめたままの青年が冷静に告げる。「今、左脚が失われた」  Mは殆ど抵抗しなかった。噛みしめ過ぎて破れた唇から血を流し、目尻に玉の涙を浮かべながら。彼は利口だから、既に気付いていたのだろう。まさぐったギプスに頼みの暗器がない事にも、Cの命が彼らの機嫌一つで簡単に失われるという事も――その経験と知識と理性により、がんじがらめにされた思考が辿り着く結論は、一つしかない――手術室を目指せ。  まだ、この男は意志を折ってはいない。作戦本部へ忍び込もうとして捕らえられた時と、何一つ変わっていない。教授は顎を撫で、青年を見遣った。彼はこのまま、稚拙な狂乱に全てを任せるつもりなのだろうか。  罵りはやし立てる声はますます激しくなった。上擦った声の多重奏は狭い廊下を跳ね回っては、甲高く不気味な音程へと姿を変え戻ってくる。 短くなった髪を手綱のように掴まれ、顎を逸らされるうち、呼吸が続かなくなったのだろう。強い拒絶の仕草で、Mの首が振られる。彼の背中へ馬乗りになり、尻を叩いていた女子学生達が、体勢を崩して小さく悲鳴を上げた。 「このクズに思い知らせてやれ」  仕置きとばかりに脇腹へ爪先を蹴込んだ男子生徒が、罵声をとどろかせた。 「自分の身分を思い知らせろ、大声を上げて泣かせてやれ」  津波のような足音が、身を硬直させる囚人に殺到する。その体躯を高々と掲げ上げた一人が、青年に向かって声を張り上げた。 「便所はどこですか」  指で示しながら、青年は口を開いた。 「今、鼻が削ぎ落とされた」  天井すれすれの位置まで持ち上げられた瞬間、全身に張り巡らされた筋肉の緊張と抵抗が、ふっと抜ける。力を無くした四肢は生徒達の興奮の波に合わせてぶらぶらと揺れるが、その事実に気付いたのは教授と、恐らく青年しかいないようだった。  びしょ濡れで、破れた服を痣だらけで、見るも惨めな存在。仰向けのまま、蛍光灯の白々とした光に全身を晒し、その輪郭は柔らかくぼやけて見えた。逸らされた喉元が震え、虚ろな目はもう、ここではないどこかをさまよってる――あるいは閉じこもったのだろうか?  一つの固い意志で身を満たす人間は、荘厳で、純化される。まるで死のように――教授が想像したのは、『ハムレット』の終幕で、栄光を授けられ、兵達に運び出されるデンマーク王子の亡骸だった。  実際のところ、彼は気高い王子ではなく、物語がここで終わる訳でもないのだが。  男子トイレから上がるはしゃいだ声が熱を帯び始めた頃、スラックスのポケットでスマートフォンが振動する。発信者を確認した教授は、一度深呼吸をし、それから妻の名前を呼んだ。 「どうしたんだい、お義父さんの容態が変わった?」 「それは大丈夫」  妻の声は相変わらず、よく着こなされた毛糸のセーターのように柔らかで、温かかった。特に差し向かいで話をしていない時、その傾向は顕著になる。 「あのね、自転車の事なんだけれど、いつぐらいに着くのかしら」  スピーカーを手で押さえながら、教授は壁に寄りかかってスマートフォンを弄っていた青年に向かって叫んだ。 「君の友達は、マウンテンバイクの到着日時を指定したって言っていたか」 「いえ」 「もしもし、多分来週の頭くらいには配送されると思うよ」 「困ったわ、来週は婦人会とか読書会とか、家を空けるのよ」 「私がいるから受け取っておく、心配しないでいい。何なら再配達して貰えば良いし」 「そうね、サプライズがばれなければ」 「子供達は元気にしてるかい」 「変わらずよ。来週の休暇で、貴方とサッカーの試合を観に行くのを楽しみにしてる」 「そうだった。君はゆっくり骨休めをするといい��……そういえば、さっきの包装の事だけれど、わざわざ紙で包まなくても、ハンドルにリボンでも付けておけばいいんじゃないかな」 「でも、もうさっき玩具屋で包装紙を買っちゃったのよ!」 「なら、それで箱を包んで……誕生日まで隠しておけるところは? クローゼットには入らないか」 「今物置を片づけてるんだけど、貴方の荷物には手を付けられないから、帰ったら見てくれる?」 「分かった」 「そっちで無理をしないでね……ねえ、今どこにいるの? 人の悲鳴が聞こえたわ」 「生徒達が騒いでるんだよ。皆研修旅行ではしゃいでるから……明日は一日、勉強を休んで遊園地だし」 「貴方も一緒になって羽目を外さないで、彼がお目付け役で付いていってくれて一安心だわ……」 「みんないい子にしてるさ。もう行かないと。愛してるよ、土産を買って帰るからね」 「私も愛してるわ、貴方」  通話を終えたとき、また廊下の向こうで青年がニヤニヤ笑いを浮かべているものかと思っていたが――既に彼は、職務に戻っていた。  頭から便器へ突っ込まれたか、小便でも掛けられたか、連れ戻されたMは床へぐったり横たわり、激しく噎せ続けていた。昼に食べた病院食は既に吐き出したのか、今彼が口から絶え間なく溢れさせているのは黄色っぽい胃液だけだった。床の上をじわじわと広がるすえた臭いの液体に、横顔や髪がべったりと汚される。 「うわ、汚い」 「こいつ、下からも漏らしてるぞ」  自らがしでかした行為の結果であるにも関わらず、心底嫌悪に満ちた声がそこかしこから上がる。 「早く動けよ」  どれだけ蔑みの言葉を投げつけられ、汚れた靴で蹴られようとも、もうMはその場に横たわったきり決して動こうとしなかった。頑なに閉じる事で薄い瞼と長い睫を震わせ、力の抜けきった肉体を冷たい床へと投げ出している。  糸の切れた操り人形のようなMの元へ、青年が近付いたのはそのときのことだった。枕元にしゃがみ込み、指先でこつこつと腕時計の文字盤を叩いてみせる。 「あんたはもう、神に身を委ねるつもりなんだな」  噤まれた口などお構いなしに、話は続けられる。まるで眠りに落ちようとしている息子へ、優しく語り掛ける母のように。 「彼女はもう、手足もなく、目も見えず耳も聞こえない、今頃舌も切り取られただろう……生きる屍だ。これ以上、彼女を生かすのはあまりにも残酷過ぎる……だからこのまま、手術が進み、彼女の肉体が耐えられなくなり、天に召されるのを待とうとしているんだな」  Mは是とも否とも答えなかい。ただ微かに顔を背け、眉間にきつく皺を寄せたのが肯定の証だった。 「俺は手術室に連絡を入れた。手術を中断するようにと。これでもう、終わりだ。彼女は念入りに手当されて、生かされるだろう。彼女は強い。生き続ければ、いつかはあんたに会えると、自分の存在があんたを生かし続けると信じているからだ。例え病もうとも、健やかであろうとも……彼女はあんたを待っていると、俺は思う」  Mの唇がゆっくりと開き、それから固まる。何かを、言おうと思ったのだろう。まるで痙攣を起こしたように顎ががくがくと震え、小粒なエナメル質がカチカチと音を立てる。今にも舌を噛みそうだった。青年は顔を近付け、吐息に混じる潰れた声へ耳を傾けた。 「彼女を……彼女を、助けてやってくれ。早く殺してやってくれ」 「だめだ。それは俺の仕事じゃない」  ぴしゃりと哀願をはねのけると、青年は腰を上げた。 「それはあんたの仕事だ。手術室にはメスも、薬もある。あんたがそうしたいのなら、彼女を楽にしてやれ。俺は止めはしない」  Mはそれ以上の話を聞こうとしなかった。失われていた力が漲る。傷ついた体は再び床を這い始めた。  それまで黙って様子を見守っていた生徒達が、顎をしゃくって見せた青年の合図に再び殺到する。無力な腕に、脚に、襟首に、胴に、絡み付くかのごとく手が伸ばされる。  今度こそMは、全身の力を使って体を突っ張らせ、もがき、声を限りに叫んだ。生徒達が望んでいたように。獣のような咆哮が、耳を聾する。 「やめてくれ……行かせてくれ!! 頼む、お願いだ、お願いだから!!」 「俺達の国の人間は、もっと酷い目に遭ったぞ」  それはだが、やがて生徒達の狂躁的な笑い声に飲み込まれる。引きずられる体は、病室を通り過ぎ、廊下を曲がり、そして、とうとう見えなくなった。Mの血を吐くような叫びだけが、いつまでも、いつまでも聞こえ続けていた。  再びMの姿が教授の前へと現れるまで、30分程掛かっただろうか。もう彼を邪魔するものは居なかった。時々小馬鹿にしたような罵声が投げかけられるだけで。  力の入らない手足を叱咤し、がくがくと震わせながら、それでもMは這い続けた。彼はもう、前を見ようとしなかった。ただ自分の手元を凝視し、一歩一歩、渾身の力を振り絞って歩みを進めていく。割れた花瓶の破片が掌に刺さっても、顔をしかめる事すらしない。全ての表情はすっぽりと抜け落ち、顔は仮面のように、限りなく端正な無表情を保っていた。まるで精巧なからくり人形の、動作訓練を行っているかのようだった。彼が人間であることを示す、手から溢れた薄い血の痕が、ビニールの床へ長い線を描いている。  その後ろを、生徒達は呆けたような顔でのろのろと追った。髪がめちゃくちゃに逆立っているものもいれば、ネクタイを失ったものもいる。一様に疲れ果て、後はただ緩慢に、事の成り行きを見守っていた。  やがて、汚れ果てた身体は、手術室にたどり着いた。  伸ばされた手が、白い扉とドアノブに赤黒い模様を刻む。全身でぶつかるようにしてドアを押し開け、そのままその場へ倒れ込んだ。  身を起こした時、彼はすぐに気が付いたはずだ。  その部屋が無人だと。  手術など、最初から行われていなかったと。  自らが犯した、取り返しの付かない過ちと、どれだけ足掻いても決して変えることの出来なかった運命を。 「彼女は手術を施された」  入り口に寄りかかり、口を開いた青年の声が、空っぽの室内に涼々と広がる。 「彼女はあんたに会いたがっていた。あんたを待っていた。それは過去の話だ」  血と汗と唾液と、数え切れない程の汚物にまみれた頭を掴んでぐっと持ち上げ、叱責は畳みかけられる。 「彼女は最後まで、あんたを助けてくれと懇願し続けた。半年前、この病院へ放り込まれても、あんたに会おうと這いずり回って何度も逃げ出そうとした。もちろん、ここがどんな場所かすぐに気付いたよ。だがどれだけ宥めても、あんたと同じところに返してくれの一点張りだ。愛情深く、誇り高い、立派な女性だな。涙なしには見られなかった」  丸く開かれたMの口から、ぜいぜいと息とも声とも付かない音が漏れるのは、固まって鼻孔を塞ぐ血のせいだけではないのだろう。それでも青年は、髪を握る手を離さなかった。 「だから俺達は、彼女の望みを叶えてやった。あんたと共にありたいという望みをな……ステーキは美味かったか? スープは最後の一匙まで飲み干したか? 彼女は今頃、どこかの病院のベッドの上で喜んでいるはずだ。あんたと二度と離れなくなっただけじゃない。自分の肉体が、これだけの責め苦に耐えられる程の健康さをあんたに取り戻させたんだからな」  全身を震わせ、Mは嘔吐した。もう胃の中には何も残っていないにも関わらず。髪がぶちぶちと引きちぎられることなどお構いなしで俯き、背中を丸めながら。 「吐くんじゃない。彼女を拒絶するつもりか」  最後に一際大きく喉が震えたのを確認してから、ぱっと手が離される。 「どれだけ彼女を悲しませたら、気が済むんだ」  Mがもう、それ以上の責め苦を与えられる事はなかった。白目を剥いた顔は吐瀉物――に埋まり、ぴくりとも動かない。もうしばらく、彼が意識を取り戻すことはないだろう――なんなら、永遠に取り戻したくはないと思っているかもしれない。 「彼はこの後すぐ麻酔を打たれ、死体袋に詰め込まれて移送される……所属する組織の故国へか、彼の父の生まれ故郷か、どこ行きの飛行機が手頃かによるが……またどこかの街角へ置き去りにされるだろう」  ドアに鍵を掛け、青年は立ち尽くす生徒達に語り掛けた。 「君達は、俺が随分ひどい仕打ちをしでかしたと思っているだろう。だが、あの男はスパイだ。彼が基地への潜入の際撃ち殺した守衛には、二人の幼い子供達と、身重の妻がいる……これは君達への気休めに言ってるんじゃない。彼を生かし続け、このまま他の諜報員達に甘い顔をさせていたら、それだけ未亡人と父無し子が増え続けるってことだ」  今になって泣いている女子生徒も、壁に肩を押しつけることで辛うじてその場へ立っている男子生徒も、同じ静謐な目が捉え、慰撫していく。 「君達は、12歳の少女が犯されて殺される可能性を根絶するため、ありとあらゆる手段を用いることが許される。それだけ頭に入れておけばいい」  生徒達はぼんやりと、青年の顔を見つめていた。何の感情も表さず、ただ見つめ続けていた。  この辺りが潮時だ。ぽんぽんと手を叩き、教授は沈黙に割って入った。 「さあ、今日はここまでにしよう。バスに戻って。レポートの提出日は休み明け最初の講義だ」  普段と代わり映えのしない教授の声は、生徒達を一気に現実へ引き戻した。目をぱちぱちとさせたり、ぐったりと頭を振ったり。まだ片足は興奮の坩堝へ突っ込んでいると言え、彼らはとろとろとした歩みで動き出した。 「明日に備えてよく食べ、よく眠りなさい。遊園地で居眠りするのはもったいないぞ」  従順な家畜のように去っていく中から、まだひそひそ話をする余力を残していた一人が呟く。 「すごかったな」   白衣を受付に返し、馴染みの医師と立ち話をしている間も、青年は辛抱強く教授の後ろで控えていた。その視線が余りにも雄弁なので、あまりじらすのも忍びなくなってくる――結局のところ、彼は自らの手中にある人間へ大いに甘いのだ。 「若干芝居掛かっていたとは言え、大したものだ」  まだ敵と対決する時に浮かべるのと同じ、緊張の片鱗を残していた頬が、その一言で緩む。 「ありがとうございます」 「立案から実行までも迅速でスムーズに進めたし、囚人の扱いも文句のつけようがない。そして、学生達への接し方と御し方は実に見事なものだ。普段からこまめに交流を深めていた賜だな」 「そう言って頂けたら、報われました」  事実、彼の努力は報われるだろう。教授の書く作戦本部への推薦状という形で。  青年は教授の隣に並んで歩き出した。期待で星のように目を輝かせ、胸を張りながら。意欲も、才能も、未来もある若者。自らが手塩にかけて全てを教え込み、誇りを持って送り出す事の出来る弟子。  彼が近いうちに自らの元を去るのだと、今になってまざまざ実感する。 「Mはどこに棄てられるんでしょうね。きっとここからずっと離れた、遙か遠い場所へ……」  今ほど愛する者の元へ帰りたいと思ったことは、これまで一度もなかった。  終
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skf14 · 5 years ago
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10050045
何も旨味のない人生だったんだ。少しくらい、人には味わえない幸福を���わったって、バチは当たらないだろ。なんて、そんなわけはない。バチは当たる。あぁ俺はどうしてこんなことを、いや、今、そんなくだらないことを考えている暇はない。全部世界が、世間が、周りが悪いんだ。
「ああぁあぁぁぁああああ、どうしようどうしようどうしよう、こんなこと、バレたら、絶対捕まる、いや捕まるどころじゃない、世間から死ぬほど叩かれて、何年食らうんだ?嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ......」
ぶつぶつと喚き散らしても現状が変わるわけじゃない。いい加減現実を見ろと思う。現実なんて見てもいいことがないとも思う。でも、俺は、見なきゃいけない。目の前に横たわる、赤ん坊の死体を。
「あー、そもそもなんでこんなことになったんだ?」
確かにあのキャンプ用品店の駐車場には監視カメラがなかった。車の後部座席に鍵は掛かってなくて、俺はちょうどボストンバックを持ってた。外は暑い夏で、車の中にいたらこのままだとゆだってタンパク質が変異する、と思った。あぁ、そうだ。だから俺はドアを開けて赤ん坊をボストンに詰めて、家に帰ってきたんだ。
「人助け?ともいうのか。いや、人助けだ。人を助けたんだと思う、俺は。」
そう、助けて、家に帰って赤ん坊を観察した。赤ん坊は綺麗なおくるみを着て、でっぷりと太ってた。俺よりもいいものを食べてそうな、憎らしい肉の塊に見えた。
ああダメだ、考えるの面倒になってきた。一旦オナニーして落ち着こう。オカズはいつものやつ。星あめりの「脳イキ」いいんだよなぁこの洗脳具合がたまらない。目の中にハートなんて同人誌でしかなさそうな表現もこいつにはよく似合う。いい、あぁ、いい、気持ちいい。あぁ、ああ、獣に、戻る、成り下がる。絶頂するとき女になり切るのが好きだ。あぁ、ダメ、イクイクイっちゃう、気持ちいのきちゃう、らめ、あぁっ、あっ、あっ。漏れ出る声は止まらない。ペニスを扱く手も止まらない。ああ、良い、出る、出ちゃう。
賢者タイムは基本的に冷静になれる、と思う。転がった肉の塊は何も言わずに、目蓋を開いたままこちらを見ていて、どうせならもっと可愛いのを殺して捕まりたかったな、などと思う。
仕方ない。だって俺は未婚で、兄弟もいないから子供のあやし方なんてわからない。子供嫌いだし。それなのに泣き始めるから、泣かないでってお願いしてもぐずぐずし始めて、こんなうっすい壁のボロアパートじゃ隣にすぐ聞こえるから、バレると思って畳に何度か叩きつけたら赤い泡を吹いて静かになった。だから多分、死んだと思う。なぜ死んだのかは、俺にはよくわからない。死んだの?
「どうしよう、捕まるの嫌だな。」
とりあえず名前すらも分からないその肉を俺は眺めて、脱がせてみた。オムツの中には排泄物があって、吐きそうになる。臭い。どうしよう。スマホで調べようにもどう調べる?「乳幼児 遺体 処理方法」そんなワードじゃ一生答えには辿り着けないだろうが。馬鹿かグーグルは。部屋に流れる音楽が気に食わない歌手のものに変わった。腹立たしい。ああ、思いついた。そうだ。邪魔な分は出そう。おむつを履かせなおして俺は肉の腹あたりに両手のひらを置いて、全体重をそこにかけた。ぎゅっ、ぎゅっと何度か押すと、手のひらを通してどこかの何かが壊れたような、ぼきだかごりだか湿った音が聞こえた。生物は苦手教科だったからどこに骨があってどうなのか俺にはよく分からない。が、確かにぼきだかごりだか湿った音が鳴った。右手親指の付け根あたりから感じた。どこの何だろ。ま、いいか。押したからか、肉から残りの排泄物が漏れ出て来た気がする。汚い音。30回ほど全力で押して、おむつを剥がして捨てる。ビニールは三重にした。臭いから。で、よくみてみたらこの子、女の子だったんだ。へえ。外面見てもどれも猿みたいだからわかんなかった。
「ああ恥ずかしい恥ずかしい。穴があったら『入れてみたい!』ワハハ。」
そんな一発ギャグあったなあなんてペニスを今一度奮い立たせてみたけど先っぽしかろくに入らない。この赤ちゃんが生まれて何ヶ月なのか俺には判別がつかないけど、そんなに経ってないような気がする。根拠はない。別にどうでもいい。股が真っ赤になってぬるぬるして滑る。骨が硬くて痛い。さっきの腹の骨は柔らかかったのに。これは俺への���切りか?お前まで俺を馬鹿にするのか?分かった、よーし。キョロキョロ。周りに落ちていた手頃なもの、とりあえずペニスを抜いて、ゲームのコントローラーを握り締めて、股の骨目掛けて振り下ろした。なんだよ、脱皮したてのカニみたいに柔らかいんじゃないのかよ詐欺だ。騙しやがって。硬い振動がじーんと手に響く。何かないか、リモコン、これもプラスチックだ。ああ、あった、電気スタンド。これなら重さがある。袋に入ったクッキーを叩き潰すような感覚だと思った。ダンダンと静かに、だがしかし力を込めて、殴るうちにタコみたいにぐにゃぐちゃぐちゃぐちゃふにゃふにゃと叩き心地が悪くなって来た。よし、これでいい。と思ったのに、今度は穴の場所がわからない。ふざけるな詐欺だ。誰に訴えればいい?違う俺が訴えられる側だ。こりゃ一本取られた。ワハハ。ペニスでとりあえず穴があった場所をぐりぐりと探ってみたら穴みたいな裂け目があったからその裂け目を目掛けてペニスを刺した。ペニスを刺したら中に飲み込まれていったから多分正解だったんだと思う。俺はいつも大体正解してるから正確だったはずだ。多分。そう思う。
「あーーーーー、あーーーーーー、あんま気持ちよくない、けど、まあ、これからどうしよう、」
呼応してくれない肉体はつまんないと思うけど、そもそも童貞だから初めての女の子とのセックスってことになるねこれ。ウケるね。最初の女がマグロとかどんなネタなの。寿司屋でも普通白身から頼むのに。そんなことはどうでもいいんだよ。どうしよう、射精は出来そうだけど隠蔽が出来なそう。どうしよう。目に入った赤子の腕をとりあえず捻ってみる。一回転、したところでごりり、と響く音がして多分肩の関節が外れた。このままネジ切れるかと思ったけど肉が多くて無理。なんなの、親はちゃんと栄養バランス取れてる飯食わせろよこんなブクブク太らせて。食うつもりだったのかよ。ヘンゼルとグレーテルじゃねえんだから。ああそうか、食べよう。
「あーーーーーーイクイク、あんっ、いっちゃう、だめぇ、出ちゃうぅ、ああんっ!」
無難なのはスープだろうと思い立って綺麗な腕と足を捥いで鍋にぶち込んだ。顆粒出汁はとりあえずお湯の量に準じて入れた。匂いはいい。きっと美味しく仕上がると思う。我ながら手際はいいと思う。胴体はどうしよう。段々部屋に人間の脂の匂いのような嫌な匂いが漂い始めてる気がした。ぷん、と鼻につく匂い。オムツの匂いよりはいい匂い。バレないうちにかきだそう、と風呂場にいって胴体だけの肉を浴槽に放り込んだ。ユニットバスは楽だ。流しがもう一つあるから、血を薄めてから改めて流せる。その前に、ケツを綺麗に洗ってやろう。世のお母さんお父さんは大変だな、こんな生き物を20年も育てなきゃいけないなんて。敬わなきゃいけない。お母さんお父さんありがとう、俺は立派に育ちました。お前らの無責任な性交のせいで苦行を背負わされ続けて今目の前で赤ん坊をバラしています!ウケるね。ありがとう。さようなら。
腹の中は真っ赤っかで何がなんだかまるでわからない。知識ないし、こんなの無理ゲーでしょ。初見でサクサク処理出来るわけない。でもとりあえず喉元を切って、ぐるぐるとお腹に収まったホースみたいなのを引き出して、大腸の手前で切ったのが多分モツ?わかんねえだって俺焼肉屋でしかモツ見たことない。牛から絞り出すところも見たことあるけど色も形も大きさも違う。なんだよ参考文献寄越せよ。とりあえず取り出したやつを洗ってタオル掛けにかけた。ガワはとりあえず乾燥させるか。浴室乾燥機をかけた。これで乾くと思う。腐ったらその時はバラバラにしてミキサーにでもかけて、タッパーで小分けにして冷凍保存しよう。少しずつ流せばいい。赤ん坊は歯の治療もしてないからバレないだろ。何がすごいってこれ全部ミステリー小説からの受け売り。いやー、あんなもの売っちゃいけない気がする。でもこれで捕まったらそれはそれでミステリー小説の不完全さを証明できる気もする。まあよく分からんけどとりあえずうまくいった気がするから、スープの味見してから一眠りしよ。二発も出したし眠いし。
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imin0124 · 6 years ago
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一帆のはなし 中編
店を潰し背後にある組織を洗い出すために、我々は内部に協力者を作ることにした。協力者の存在は建物の構造、日々の様子、経営者など外から見えない情報を手に入れるためには必要なことだ。そして、劉と世宇が目をつけたのが目の前にいる男娼、李白こと蔡一帆だった。
一帆の正面に男が座り、斜め後ろにレオンと呼ばれた青年が立った。仕切り直しの煙草を吸いながら、劉が口を開いた。
「さて、蔡一帆。我々は君と取引がしたい。この店について、あらゆる情報を君から提供してもらいたいと考えている。」
「目的は?」
「この店の解体」
それを聞いて、一帆は笑った。
「俺たちを解放するのが見返りっていうわけか、そんなの失敗した時の俺のリスクが大きすぎるんじゃないか」
「君は頭の回転が早くて助かるよ。もちろん報酬は他にあるとも。協力者の君には戸籍をやろう」
あまりにも滑らかに提示された報酬に、一帆は耳を疑った。戸籍。それは金では買えない価値のあるものだ。特に花街で生を受けた人々とっては、喉から手が出るほど欲しいものでもあった。中国政府も、英国政府も干渉しない無法地帯、香港。この街を管理するのは特別政府である。政府は市民に個人番号を振り分け、最低限の管理を行なっている。裏を返せば戸籍の無いものは、個人管理番号から逸脱している。それは国家の監視下に置かれていない��と、ある意味で自由な存在であり、そして不安定な存在だった。管理番号を持たない者は、身を売る他に生きる術はなく、最悪の場合は人身売買の餌食となる。この香港で身を守るために、戸籍は必要なものだった。
「……それは本当か」
俄かには信じられない話である。しかし、本当ならば願ってもない話であることは明白だった。軽く握った拳の内が、しっとりと濡れていた。
「先生は約束は必ず守る方です。報酬の有無は、あなたの働き次第ですが」
レオンが冷たい口調で言った。一帆はその青年の顔を、その時初めてまじまじと見た。帽子を被っていたために、顔がよく見えなかったが、下から見上げてみると、驚くほど整った顔をした男だった。いや、黙っていたら性別の判断がつかない様な、中性的な美形だった。世の中��穢れなど何一つ知らないというような澄ました顔が、一帆の癇に障った。
「女みたいな顔した、いかにも苦労知らずの人間の言うことなんて、何を根拠に信じろって言うのさ!!」
感情のままに毒を吐いたとき、空気が凍りつくのを感じた。レオンは相変わらず表情を変えなかったが、その瞳は黒曜石の様に鋭く光った。
「私が苦労知らず?笑わせる」
青年は突然手袋を外し、左手の甲をぐいっと一帆に見せた。その手を見て、一帆はハッとした。白い肌には不相応な刺青。二匹の蛇が絡み合ったその紋様は、一帆も以前見たことがあるものだった。
「あなたも裏社会で育った以上、この印が何を意味しているか知っていますね」
青年は手を引いて、手袋をはめた。
「品物だった私は運良く逃げ出し、道で倒れたところを拾われて以来、先生は私の面倒を見てくださっています。名無しの孤児を引き取るくらい器量が大きい方ですよ。あなたに戸籍を与えるなど造作もない事です」
青年は淡々と述べた。裏社会で育った一帆にとって、この青年が語ったことは信用に値する内容であった。臓器売買、人身売買を行う組織として悪名高い「 風琴幣」。子供を買い取り、あらゆる労働力として酷使した後、取引先の提示した内容―骨髄型や血液型などーが一致してから、その商品は健康状態を万全にされ出荷される。そこから逃げ出すことができたこの青年を引き取ることは、「 風琴幣」を敵に回すも同じこと。彼の手に刻まれた刻印は、決して消すことが出来ないのだから。一帆はレオンの目を見て言った。
「あんたの傷は説得力がある……わかったよ。引き受ける。でも戸籍以外に一つ条件がある」
初老の男は、肘を椅子の乗せ、手を顔の前で組みながら、薄っすらと満足げな笑みを浮かべた。
「何かね」
「それは、あんた達がこの店を潰した時に言う」
レオンはあからさまに不満そうな顔をしたが、初老の男は良いだろうと答えた。
「内容によっては不可能な事もある。それでも良いならな」
「後出しだからな。そんなことは承知の上さ。で、これから俺は何をすればいいんだ?」
一帆は何かが吹っ切れたように思えた。この地獄から抜け出すまたとないチャンスだ。そして、それが成功するか否かは一帆の手に掛かっている。己の力で己の人生を切り開く。やってやろうじゃないか。俺は本物の月を掴むのだ。そんな一帆の心持ちが変わったのを察したのだろうか、レオンは至極丁寧に計画を説明した。初老の男は、煙草を吸いながらその様子を静かに眺めていた。
レオンが支払を済ませ、手配した車に乗り込んで香港の街に紛れて行く様子を、一帆は控え室の窓越しに眺めていた。そんな一帆の背後に、支配人が近づいてきた。
「李白、さっきの客はどうだったかな」
シャワーを浴びてしっとりと濡れた一帆の肌に触れながら支配人は言った。その手をやんわりと退けながら、一帆は「李白」の仮面を被る。
「僕のこと、随分気に入ってくれたみたい。また来週も来るって言ってた」
「そいつは上々。久しぶりの上客だ、くれぐれも失礼の無いようにな…」
「ふうん、そんなに羽振りがよさそうには見えなかったけど。じゃあ来週に向けて準備しないといけないね」
一帆は支配人に向けて華やかに微笑んでみせた。これから一週間、客を取らせるなと案に示したのだった。「李白」の売りはその美貌と、白い肌だった。その肌に跡を付けたがる客は多い。上客のために他の客を取らず肌の純潔を守ることも、ある種の商法である。
「わかってるさ。一週間かけて真珠に磨きをかけたまえ」
支配人はそう言って部屋を出た。扉が閉まるのと同時に、肩の力がふっと消えた。
早くここから抜け出したいと、強く願う自分がいた。
それから3ヶ月ほどの間、男とレオンは毎週店に通った。一帆は一週間の間に建物の地図、日々の動き、カメラの位置、内部の人数などを調べ、メモを渡したり口頭で説明した。。少しずつ少しずつ、店の内情は立体的なものになった。一帆の情報を元に、レオンは計画を立てた。店の責任者が必ずおり、かつ客が一番少ない時期帯を導き出す。あらゆる出口に人員を配置し、関係者を取りこぼさないようにする。働かされていた人々には干渉しないこと。あくまで経営陣を取り締まるのが彼らの目的だった。
今日も同じ曜日、同じ時間帯に二人がやってきた。3ヶ月も通えば、流石に顔も覚えられる。受付の者もクラブのフロアを通さず、直接部屋に案内するようになっていた。一帆はいつものように、彼らの待つ部屋に向かった。
「李白、ここに客として来るののは今日が最後になります」
レオンが言った。遂に時が来たのだ。一帆は実行日はいつになるのかと問うた。
「6日後。あなたは、新しくやってもらいたいことがあります…」
レオンは計画の概要、そして一帆の仕事を伝えた。内容を聞いて、一帆は驚いてしまった。
「警察が来るのか?あんた達にとっても厄介な奴等だろ」
「我々と警察は協定を結んでいるのだよ」
初老の男が言った。レオンが続けて説明をする。
ここ「香港」は特別自治区として、本土からも英国からも干渉を受けない独立した自治政府が存在する。しかしながら、ここは自由貿易によって経済が回る不安定な社会。人も物もなにもかもが流動的である。そこで政府は最低限の社会保障を行うために戸籍のあるものには個人番号を与え、ほぼ自動化した管理体制を敷いた。この小さな政府においては、人員削減のために警察の体制も手薄となる。しかし、ここでは犯罪が日常茶飯事であり政府だけでは手を回しきれない。そこで政府は、黒社会の組織である黒龍会と協定を結んだ。黒龍会が裏社会の管理をし、行き過ぎた問題があれば警察と連携して取り締まるのである。黒社会に属しているとはいえ、黒龍会は売春麻薬などの法に触れることに直接は手を出さない。勿論、組織間の闘争は日常茶飯事であるが、それは黒社会の中での落とし前であり、表の社会とは無縁のものである。そもそもの問題、身元が割れるような殺し方をしないのが黒龍会のやり方であるが……
「兎にも角にも、李白。あなたには仕上げをしてもらわなければなりません」
レオンから渡された箱を持つ手に力が入った。一帆が渡されたのは、この店の近くにある評判の洋菓子屋の箱だった。ここ1ヶ月の間、彼らはここを訪れる度に差し入れを持ってきた。はじめの2回ほどは、店の連中に中を確認されたが、未開封の菓子である事がわかったために最近は特に止められる事なく部屋に持ち込める。
「その中に録音機が入っています。あなたは、控え室で蝶たちの会話を録音してください」
それが一帆に与えられた最後の仕事だった。箱を見ても、いつもと同じ菓子の箱に見える。封も空いていないし、重さも変わらない。
「この菓子箱の中にどうやって入れたんだ?未開封だろ」
「封をする時に、一緒に入れてしまう。簡単な話です」
レオン曰く、この菓子店は彼らの組織の管轄にあるらしい。黒弊の人間は菓子ビジネスにも手を広げているのかと、少し不思議に思った。
「控え室で彼女たちは客の愚痴やら何やらを言っている、と前に言っていましたね?それを録音してください。くれぐれも気をつけて。これが証拠の一つになります」
機械を気付かれずに裏へ持ち込めれば、簡単な任務だ。未開封の箱に入れられていれば、それも難なくこなせそうである。
「決行日は、普段ならば私たちが来る前日です。あなたは普段通りに過ごしていればよろしい。何が起きても、知らない振りをし、驚き慌て、抵抗しなさい。あなたの最後の任務は、協力者である事を隠し通すための迫真の演技です」
最後の任務が一番面倒じゃないか、と内心思いながら一帆は頷いた。あと1週間でここともおさらばだ。緊張感と、少しの高揚感を覚えながら、一帆は二人を見送った。
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mknaspa · 6 years ago
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Rise of the tmnt 112b 翻訳
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Hot Soup: The Game
this is the first mikey-centric episode :D
マイキーが単独で主軸を担うエピソードは、これが初めての筈。
どれほど待ち焦がれていたことか。ピッツァの母よ、ありがとうございます。 
カライかと囁かれた新キャラの正体は、フット団の新兵(新人)。
彼女の声は 2k12 の Mona Lisa と同じ Zelda Williams が担当。
亀たちの信頼関係と、アットホームな雰囲気のフット家族師弟が見どころ。
はじめての単独みっしょん
:かのアクションスター、ルージツがゲームになって帰って来た
『ホットスープ:ザ・ゲーム』!
:お前のスープは俺のモンだ
:ラスボスめ、レベルアップした私の力思い知らせてやる
:レベル 60 のカンフーアタックを食らわせろ!
:ホットスープ!
:ルージツのゲームなんてあったのか
:なんとしても手に入れなきゃ
普通のネットにアクセスしてと…
ルージツのヌンチャクに ルージツのサングラスに… あった!
ルージツの『ホットスープ:ザ・ゲーム』
“モンテス・オークション社” ねぇ… 買っちゃえ!ポチッ
買っちゃった!
これで歴史的価値ある『ホットスープ:ザ・ゲーム』が遂に僕たちの手に!
(mint-condition:新品同様の状態)
:ちょい待ち オークションで買ったのか?
どうやって取引するってんだよ この格好で
:安心したまえラファエロくん 僕だけでやるから
:お前一人で? ミュータジェンの副作用でイカれちまったか?
:僕はもう赤ちゃんじゃないよ、ラフ
特別な力だってあるし それに見てよ この俊敏さ
僕の初めての単独ミッションだ
:単独ミッションか、いいだろう お前が成人したらな
(:7-10 年後にな)
今のお前じゃ危険すぎる
:ここはひとつマイキーに任せてみようじゃん
ラフだって 13 の時、一人でおつかい行ってたろ
:ああ 俺はいつだって長男だからな
(:だって俺はマイキーより二歳年上だからな)
:なんでそんなカッカしてんだ?
:ドニー こいつらにビシッと言ってくんね?
:へ? あーそうだね レオの言う通りだよ たぶん
:味方してくれてありがと、ドニー
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:レオも 大好き~
ゲームの順番ラフが最後だかんね じゃあの!
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:おいマイキー 武器忘れて…
『モンテス社』
:楽勝だねー これならロウソクでも持って来たらよかったな
:フットの新兵よ お前の力を存分に発揮するんだ
最後のテストは 最初から最後まで一人でやってみせろ
:了解 して私が潰す予定の敵はどいつです?
:潰す予定はナシね 
今回のミッションはな アクションスターのルージツが持ってたっていう
不思議~な遺品なんやけど
:ルージツこそ偉大!
:そうだよ
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『ジツこそ正義』知ってる? あれ俺のオキニ
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『ルージツ + タン・シェン主演:ジツこそ正義』
あれで俺 犯罪にハマっちゃったんよねー
:『パンチ・チャウダー』はどうだ?
貝殻を武器に 犯罪組織をぶっ潰す爽快アクション
:ホットスープ!
:わかりました、先生s
帰宅次第 それらを視聴して勉強します
:まーとにかく
あのオークション会社に潜入して ルージツの遺品を頂戴するんだ
:ルージツの遺品を手に入れ次第
あの場をギッタギタのメッタメタにしてやる!
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:はいはい わかった わかったから
君の熱意は買うけど 忍ぶの大事ね
ギッタギタもメッタメタも無しで
:フット団バンザーイ!
:コーヒーでも飲めば落ち着くかね、あの子
(:誰かあの子にコーヒーあげてやれ)
:凄腕忍者マイク 参上
ゲームかっぱらって帰ったら ラフの顔にゲーム擦り付けてやる
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いやーん これ買うのにいくらするんだろ?
フワフワおけけが付いててオシャレ~
:貴様 誰だ ここで何してる
:僕はお客だよ ルージツのゲームを取りに来たんだ
:ルージツだと
:その目… 君もルージツが好きな感じ?
:ルージツぅ!
ああ 私のオキニは『パンチ・チャウダー』だ
:そーなのね じゃあ… ナニ?!
:必ず戻ってくるから ここで大人しく待ってろ
:どうした新兵
:先客がいたようです それも喋る亀
ルージツの骨董品がどーたら言ってました
:まーたあの亀か ヤツらもジツの骨董品を狙ってるに違いない
:それなら後援に行くで 今から…
:そりゃ却下だ ルールを忘れたのか
合格したいなら 自力でやらなければいけない
:先生s、ヤツの魂を忘却の彼方に葬り去る許可を頂けますか
:あーどうぞ
:好きにやんな …亀にボコられたらどーしよ
:そしたら代わりにジョスリンに任せりゃいい
一週間ごとに新兵 募ってるから人手は十分 👌
:うーむ 何か怪しい
あの子ここで働いてるそうだけど 照明ついてないし
停電してるだけかもしんないけど
じゃあなんで僕のこと咎めなかったんだ?
僕のことコスプレイヤーとでも思ったのかな?
そういや あの子『パンチ・チャウダー』が好きなんだっけ
『パンチ・チャウダー』のファン…てことは犯罪者?!
(:『パンチ・チャウダー』好きになるやつって犯罪者しかいないよね?!)
ちょっと なんのつもりさ?
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:フットの敵とあらば死あるのみ
貴様にジツの遺品はふさわしくない
:領収書持ってるのにー
これがお客様に対する接し方なの?
君の上司に言いつけてやるだから!
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:は? 弁償しないからね
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ゲームめっけ! ルー、君のスープは僕のものだ
単独ミッション成功!
:ルージツの…遺品だ よこしな!
:これは僕のお小遣いで買ったの!
:シェㇽォー?
(shell-o:「甲羅」の “shell” +「もしもし?」の “hello?”)流行らせ!
:ミケちゃん? ちょっと心配になって…大丈夫そう?
いけそう?だいじょーぶ?
:うん!チョー大丈夫!何もかも僕の思い通りに…ウワー!
:ジツの遺品は手に入れた!
甲羅をココアパウダーにされたくなければ さっさと失せな
:あ?誰だソイツ
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マイキーの顔
:ただのウザい店番だよ
延長保証押し付けてくるんだ もうしつこいのなんの
大丈夫だから 切るね!
:俺の過保護センサーがビンビン反応してる
ドニー 店の監視カメラに侵入するんだ
:それでは僕お手製の、『NY 中の監視カメラ追跡』アプリの活躍をご期待ください
今のは皮肉じゃないよ はい、侵入官僚
:あら、大丈夫みたいだな くそ、マイキー待ってろ!
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:貴様に…私は…倒せぬ!
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:ああ^~ なんて可愛いんだ
:ナイフ投げだ!
:この極悪非道忍者!
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逢いたかったよ、ルー!
:やっほー どんな感じ?
:全く問題ありません あと少しなんで!
テメェはここでおしまいだ ブサイク亀
:やったね。
ラフもまさ�� 僕一人でやれるとは思ってなかったろーね
今度こそ単独ミッション成功!
:マイキー 助けに来てやったぞ!
:ちょっと様子見てくるわ
:だーかーら あの子は自力でやらなけりゃ…
これは…どういうことだ?
: 衆寡敵せず…ズルい亀め!
:全部僕がやっちゃったの で今から帰るとこだったの
『自力で』って言ったろ 聞いてなかった?
:小さなマイキー…(little man)
:ああ?なんつった?
:ええと、たくましいマイキー(big man)
お詫びさせてほしい なんかスッゲーやつ奢るからさ…
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:へーへー 誰だって誤算することくらいあんだろ
今日はそれを学べた
てなわけで帰ってゲームしよーぜ vamonos hermanos!
(vamonos hermanos:〔スペ語〕let’s got home bros)
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こいのぼり
:単独ミッション成功だ!
:助けに来たったで
:私が全部やったんです で今から退却するところだった
『自力で』って言ったじゃないすか 覚えてないんすか?
:彼女の言うとーり!
:そこどきな このチビ野郎!
:誰が俺の弟のこと『チビ野郎』って言った このクサ頭
:チビはお前のことやぞ
:マイキーを守るんだー!
:これ俺たちが欲しかったものじゃないな
:で-でもルージツの遺品はそれくらいしか無くて
:ならお前のミッションは “おじゃん” というワケになるが
まあそう悲嘆することはない
成功への道ってのは数多の失敗によって舗装されてるもんだ
:次こそは必ず成功させてみせます!
:はいはい頑張りなさい 行くぞ
帰ってファラフェルでも食べよう
:カンフーアタックきたこれ
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背景が『旭日旗を模したもの』から『紫と黒のストライプ』に修正された。
この他に、ルージツがゲーム紹介するシーンや、フット団のハイタッチシーンにもソレっぽいものが。
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いくら PC に配慮していると言っても、一部の地域では未だに「古代日本 = 旭日旗」という無邪気な発想が横行しているのだろう。
これがほんとの文化東洋(激寒)
:ラフくん 最初にプレイしたくなーい?
僕が最初にやるべきって? ま当然だよねー
このブサイクなカクカクがルージツだっての? 騙された!
:わ!そりゃルージツの『ホットスープ:ザ・ゲーム』か?
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バキバキな腹筋の、実にリアルなことよ
ラスボスめ、レベルアップした私の力思い知らせてやる!
ーーーーーー
END
ーーーーーー
スプリンター = ルージツ説がアツくなってるのに亀たちと来たら相変わらず無反応で、悲しいなあ。
てかマイキー、新兵ちゃんに対して直接素手で殴ったりせず、まず傘やボール等の柔らか素材をぶつけてから攻撃してたよね。
はぇ~すっごい優しい(バイアスかかりまくりの目)
ミケランジェロと言えば『愛すべき皆の可愛い末っ子』だが、今回はとてもカッコよかった。やめて!惚れちゃう!やめないで。
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benediktine · 6 years ago
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【「死んだほうがましですか」壮絶パワハラで女性自殺 「現代版の奴隷制度」で社長提訴】 - 弁護士ドットコム : https://www.bengo4.com/c_5/n_8706/ 2018年10月17日 21時56分
 {{ 図版 1 : 顔と名前を公表して会見に臨んだ原告の大下さん(左) }}
アニメや漫画、ゲーム業界の求人サイトを運営する「ビ・ハイア」で働いていた女性(当時30)が自殺したのは、社長のパワハラが原因だとして、女性の遺族と元従業員2人が同社と社長に損害賠償と未払い賃金など計約8864万円の支払いを求める訴訟を10月17日、東京地裁に起こした。
元従業員2人は、強制的に借金を負わされたり、GPSで居場所を監視されるなど「奴隷的な拘束」を受けたりしたと主張。提訴後に厚生労働省(東京・霞が関)で開いた会見で、原告の一人である男性(29)は「借金を返していなくて申し訳ないなという気持ちにずっとさせられたので、正常な心が芽生えなかった」と当時を振り返った。
●《借金背負わされ、お金も食事も制限》
訴状などによると、訴えたのは亡くなった女性の遺族、元従業員の大下周平さん(39)、男性(29)。3人は2006?14年に入社し、「正社員よりも税金面でメリットが多数ある」などと言われ、同社や実質的に社長が経営している関連会社と業務委託契約を結んだ。
2007年11月ごろから、社長は大下さんなど従業員にブランド品を買い与え、その費用を会社から社長への「貸付金」という形で計上。2016年には「実質的にはお前らに使った金だからお前らが支払うのが当然」として、大下さんと女性を保証人にし、ブランド品の購入費の返済を求めるようになった。加えて、大下さんが賃金の情報を知人に伝えたところ「守秘義務違反だ」として、さらに2000万?4000万円の損害賠償を求めてきたという。
2人は報酬として月額100万円が支払われる契約を結んでいたが、社長は借金と損害賠償の弁済にあてることを理由に賃金の天引きも始めた。収入がなくなり家賃も支払えなくなると、社長は「事務所に住みながら借金を返せ」と命令。3人に家賃や会議費など新たに800万?1000万円の支払いを求めたという。
●《5分おきにLINEで「起きてます」送れと命令》
原告は、深刻なパワハラもあったと主張している。住むように命じられた事務所には風呂もなく、洗面台で体を洗う日々。社長宅のシャワーを借りられるのは2?3カ月に1度しかなかったという。社長から深夜・早朝に呼び出され、LINEやSNSの連絡がひっきりなしに続き、5分ごとにLINEで「起きてます」と送るよう命じられたこともあった。
 {{ 図版 2 : 実際のLINEのログ }}
事務所には監視カメラがあり、寝ていると「何やってんだ」と連絡があったほか、社用携帯のGPS機能で位置情報を把握された。お金を使うことや食事も制限され、与えられた乾燥大豆を1日1食食べていたという。
また日常的に3人を「ゴミ」「クソ」「生きてるだけで迷惑」「俺は被害者だ」「普通だったら家もないんだからな」などと罵倒し、水をかけられたり、物を投げられたりしたという。
 {{ 図版 3 : 実際のLINEのやりとり }}
女性は今年2月25日の深夜、「死んだほうがましですか」という趣旨のメッセージを社長に送信。その1時間後、社長は女性らが寝泊まりしていた事務所に来て、「その発言で(社長が)傷ついた」と迫りながら2時間以上にわたってPCなどを破壊した。同日午後、女性は自殺したという。
●《「このままいると殺される」》
社長のブログには従業員の笑顔の写真が並んでいる(10月17日午後9時時点)。大下さんによると、常日頃暴言を吐かれていたが、写真を撮影するときだけは「笑え」と言われていたという。女性の死後も社長が何も変わらない姿をみて「このままいると我々が殺される」と危険を感じ、逃げ出したという。
大下さんが背負わされた借金は、女性が連帯保証人にもなり、女性の借金も大下さんが連帯保証人になっていた。そのため「どっちかが辞めるとどっちかがしわ寄せを受けることになるため、当時は私だけ辞めることは難しいと思っていた」と振り返った。
また、男性は「逃げるのにはお金が必要だが、自由に使えるお金がなかった。物理的に拘束されていたわけではないが、実質どこにも行けるような状況ではなかった」と話した。
原告側代理人の深井剛志弁護士は「これは現代版の奴隷制度。若者の雇用の現場における問題が全て組み込まれている」と指摘。3人は業務委託契約を結んでいたが、社長の指揮監督下にあり労働者であったと主張している。そして、賃金の天引きは違法で、パワハラにより多大な精神的な苦痛を受けたとしている。
同社は弁護士ドットコムニュースの取材に対し「担当者が不在」と回答した。
●《「事実とはまったくかけ離れた虚偽」》
社長は同社ホームページで「弊社に関する提訴およびその報道について」と題した社長ブログを更新。
女性の自殺が同社や社長に原因があるかのような主張や記述は「事実とはまったくかけ離れた虚偽であることを強く申し上げたい」とし、亡くなる前に女性が社長と親に送った文面には「決断が個人的な原因および理由によるものであり、弊社の業務とは無関係であることが明記されていました」と主張。
「訴状を仔細に検討したうえ、法廷内外で、事実に基づき、事実無根の主張や記述に反論してまいります」と記載している。(追記:10月18日9時45分)
(弁護士ドットコムニュース)
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margarism1482 · 8 years ago
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愚行録 2017.3.9(木) ティーチ・イン覚書
本編上映後 、司会者からの事前準備されたインタビュー形式+観客との質疑応答
参加者:石川 慶監督、田中 光子役・女優 満島ひかりさん、奥浜 レイラさん(司会進行)
※会話の流れ通り復元したわけではなく、発言内容を思い出せる範囲で、項目ごとにまとめて組み立て直しました。特にメモを取っていたわけではなく、貧弱な記憶力勝負なので、一語一句同じ表現でもなければ、内容に抜けもあります。
※細かい描写やストーリーのネタバレになることが含まれているので、鑑賞後に読むこと推奨。
◇監督と満島さんの互いの印象◇
満島ひかりさん(以下満島 敬称略)「石川監督は、たとえどんなに些細なことを質問しても、毎回とても詳しく答えてくれる。あまりに丁寧に答えてくれるので、途中から内容もそこそこに、こっそり監督の答える様子をずっと見ていたくらい。」
石川 慶監督(以下監督)  「長編初監督作品で、満島さんとご一緒できて光栄だった。まさか、質問の答えをそっちのけで、観察されているとは思わなかった。」
◇手の描写◇
※わが子への育児放棄の罪で拘留中の光子の体を、たくさんの男の手が這う不気味なシーンについて
監督「このシーンの手は、 実際に文応の内部生の学生を演じたのと同一人物でというこだわりがあったので、無理を言ってキャストを招集して撮影した。皆映り込まないように無理な体勢で隠れたりしながら、手を這わせて撮った。」
満島「どんなシーンなのか、撮られている方は全然想像がつかないまま撮られていた。日本の男性はあまり女性をうまく愛したことがないのか、みんな手の這わせ方が固くてぎこちなかった。じんわりと触っていくべきところをサラッと触るので、あーっもうっ!と、(しびれを切らした満島さん自身が)手を掴んでこういう感じでやってみてと直々に指導をしたりした。その際、監督も手本を示してくれたのだが、その手つきがとてもうまかったので、この監督は頼もしいと、信頼関係が生まれるきっかけになった。」
※刑務所の面会のシーンで、田中 光子が、 ガラス越しに兄の顔をなでるシーンについて
監督「満島さんの手を見たとき、とても綺麗な手をしていると思ったので、手を撮りたいと思った。」
◇監督とポーランド◇
※ポーランド人カメラマンのピオトル・ニエミイスキ氏の起用について  
満島「ヨーロッパのカメラマンのカメラワークには、女性的な印象があり、自分の好みと合っていたので、信頼できた。カメラのポジションや被写体との距離感、動きのあるカメラワークのときのカメラの移動速度などが、日本人のスタッフとかなり違って、お国柄が出るんだなと感じた。」
※監督がポーランドで映画を学んだ経緯について
監督「ずいぶん前のことなので、あまり思い出せない。
(以下、満島さんのアシストを経て出てきたエピソード)映画を専門とする前は、物理学を専攻し、超電導の研究をしており、実験のため、研究室で1週間籠りきりになって作業することもあり、人と接する機会がないこともあり、このままではいけないと危機感を感じていたと思う。」
◇田中 光子の長い独白の場面について◇
満島「演じている側は、正解がわからなくて、自分はうまくできているのだろうかと思っていたし、全然掴めていなかった。演技派なところを見せてやろうとか魂胆があるわけでもなく、ただ、いい演技をしたいという一心で、感情の動くままに演じた。実際、光子の人物像は、もっとわかりやすく狂った大げさな感じにもできたし、やりようは他にもいろいろあったが、監督との話し合いを経て、小さい男の子が、今日はどんなことがあったの?と聞かれて、「あのね、こんなことがあってね、あんなところにいってね…」と報告してくるときのような、ストンと肩の力を抜いた淡々とした語り口調に落ち着いた。ただ、撮っている最中は掴めなくて、途中で不安になって楽な方に逃げてしまったなと自分で思うところがあって、撮り終わった後に、ああ、もっとできたはずと、納得しきれていない。
とにかくやっている間は胸がただただ苦しくて仕方なくて、カットがかかった後、ぐったりへばっていたら、同じシーンで共演していた平田 満さんに、『満島、苦しいだろう、満島、俺も昔そういう役をやったときは、苦しかったんだ』と励まされた。
そうやって、感覚的に感情を前面に出したものを、監督がうまく拾って形にしてくれたのだと思う。 (ちなみに満島さんは、インフルエンザの病み上がりで、愚行録の撮影に臨んだという。) 」
監督「この映画の核となるシーンが撮れたというか、光子という人物が掴めたという確かな手応えを感じた。このシーンを起点に、他の場面のカメラワークや全体のトーンや雰囲気が決まっていったので、演者の作り出した役の人物像に影響を受け、映画の作り方に反映されるという体験が、今までになくてよかった。
このシーンに関しては、あまり論理的に説明している感が出ないように、セリフまわしに工夫を凝らした。接続詞を削ったり、語尾を言い切らない感じにして、一貫性をなくしたことで、語り手は光子一人なはずなのに、視点が自分目線になったり、俯瞰になったり、主観と客観を行ったり来たりする。これによって、本当に光子の主張が真実なのか、光子の母やほかの人物の証言の方が、実は正しいのではないかと、疑いの余地が出てくる。
本番前は何度も話し合いを重ねるけれど、いざ本番を撮り出すと、それ以上はディスカッションせず、撮ってしまう。このシーンは結局2テイクで撮った。」
◇田中 光子が耳を触ることの意味◇
監督「耳を触るしぐさには、一般的にもセクシュアルな意味合いがあるので、そこは意識して取り入れたところがある。」
満島「耳を触る演出は、監督からの指示ではあったが、『耳を触ってもいいし、触らなくてもいいし、触っても…とりあえずやってみて』という煮え切らない言い方だったので、『やるの?やらないの?どっちなの?』と戸惑った。この場面に限らず、監督の演出は、具体的に指示するというよりは、大まかな流れを説明されて、『はい、じゃああとはやってみて』と任されるエチュード方式なことも結構多かった。」
◇満島さんと妻夫木 聡さんの共演について◇
満島「妻夫木さんとは、いろいろな作品で何度も共演経験があり、ときにはけんかのように激しく意見をぶつけ合うこともあった仲ではあるものの、今回の現場では、演技の内容に関しては、まったく話さなかった。普段から人柄も良く温和でさわやかで、一般的にも好青年のイメージがある方だけど、絶対にとんでもなく真っ黒な闇を心に抱えている人だと思っている。今年の『怒り』でのアカデミー助演男優賞といい、妻夫木さんは、数々の賞を受賞されているが、いつも、「賞を戴けるのは、自分の力というよりは、相手役が素晴らしかったおかげだ」と言っている。(その言葉を借りると、)今回もし、光子をよかったと思っていただけたら、それは、妻夫木さんのおかげだと思うし、妻夫木さんも同じように思っていただけてたらと思う。」
◇田向家と宮村の店に共通してリースが飾られていたことの意味◇
監督「よく聞かれるポイントだが、(明示的な意味合いがあるというよりは)メタファーとして使っている。このリースに限らず、例えば、光子の、大学入学を機に、『底辺の生活から抜け出すためなら、できることは何でもするつもりだ』といった発言も、(対極の立場にいるはずの)田向浩樹の貪欲さと��じるところがあったりと、実はさりげなく対になってリンクしているような要素がほかにもある。
実は、当初、(宮村が経営するカフェで使われている)ハーブからリースにつながる箇所があり、もう少しはっきりした流れがあったが、編集の過程で削ぎ落とされて、若干わかりにくくなったかもしれない。これくらいで勘弁してください。」
◇闇を抱えた役を演じる意義◇
満島「この役、あなたにぴったりだから!といってこの話をもってこられたとき、『え?人を殺しそうな人に見えているの?どういうイメージなの?』と内心複雑だった。役作りをするにあたり、資料として読んだ『累犯障害者』(山本 譲司著)の中の『売春をする知的障碍者』の章で、彼女の行いを止めようとするソーシャルワーカーに対して、『自分は愛されていると確かに実感できるのは、体を売っている瞬間だけなのに、どうしてそれをやめなきゃいけないの?』と言い放つくだりがあって、光子もきっとそういうところがある人なんだろうと思い、参考にした。こういう役もやりがいがあるけれど、明るいインド映画にも出たいと思っている。 」
以上
◇ ◇ ◇ ◇ ※以下ネタバレを含む感想
二度目を観ていて気づいたのは、輝かしいところだけしか見せられない関係の歪さだった。
田向浩樹は、学生時代に、バランスをとって本命の彼女との関係を良好に保つためという大義名分のもと、二股をかけていたが、その慣習は、結婚した現在もまだ続いていたと思われる。
彼の不倫相手として関係が続いていたであろう稲村には、臆せず見せていた愚かしい一面を、稲村は肯定していた。また、性別は違えど、会社の同期の渡辺も、同様だ。
しかし、浩樹は、妻である友季恵には、きっとその一面を見せていなかったのではないかと思う。
それはきっと、 友季恵も同じで、彼女の場合、夫どころか、ほとんどの人間に弱みを見せていなかったのではないかと思うと、より息苦しさを感じられた。
互いに誰から見ても非の打ちどころのない伴侶を手にした二人だが、心にやすらぎはあったのか。
宮村から夏原に乗り換えた思い出を語る尾形も、一見、夏原との過去の栄光を嬉々として話しているように見えたけれど、わたしには、なんとなく夏原よりも宮村に未練というか思い入れのようなものがあったのではないかと感じられた。
回想の中の学生時代の二人は、(少なくとも部外者のわたしには、)腹を割って話せるとてもしっくりくる組み合わせに見えていた。
己の愚かしさを曝け出すのは、情けなく醜い行為だが、ときには、それを赦してくれる人や場を、無性に求め、すがってしまうものなのかもしれない。
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afiri8backlog · 5 years ago
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堀江貴文さんが東京都知事に立候補?という噂とほぼ同時にでてきた【東京改造計画】という書籍の東京都への緊急提言37項・・の表題を見て思う事
東京都への緊急提言37項
第一章 経済
本当の渋滞ゼロ
ETCゲートをなくす
パーソナル・モビリティ推進都市に
満員電車は高くする
切符も改札機も無くす
現金使用禁止令
東京メトロと都営地下鉄合併と民営化
Uber解禁
東京の空が空いている
江戸城再建
VRのインフラを整える
足立区は「日本のブルックリン」に生まれ変わる
築地・豊洲市場改革案
築地市場跡地のブランド化
オリンピックはリモート競技に
第二章 教育・社会保障
オンライン授業推進
紙の教科書廃止
学校解体で子供の才能を解放する
「正解」を教えない教育
大麻解禁
低用量ピルで女性の働き方改革
健康寿命世界一
ジジ活・ババ活で出会い応援
東京のダイバーシティ
第三賞 新型コロナウイルス対策
ストップ・インフォデミック
経済活動を再開せよ
第四章 都政
今こそネット選挙を導入せよ
QRコードで投票できる
記者会見なんてオンラインで開けばいい
都職員の9割テレワーク化
都職員の英語公用語化
東京都をオール民営化
第五章 未来の生き方
「妖精さん」のリストラ計画
遊び場を増やす
限りなく生活コストを下げる
人生100年時代のコミュニティ
都民限定の無料オンラインサロン
目次タイトルを見て行けば、ここは読んでみたいかな? とひきつけるようなものもあれば・・はぁ?(# ゚Д゚)ふざけた事を
・・とアンチ感情が湧くようなタイトル、???(;・∀・)なんじゃこりゃ?と見てみないと 判断つかないような項目もまぜこせで、やっぱり自頭いいんだな と思いました
興味があれば買って読んでみるのも一考(゚д゚)(。_。)ウン
東京改造計画 (NewsPicks Book) [ 堀江 貴文 ]
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個人的にはこの重大な表題のタイトルの中に、これから絶対重要になる特定のキーワードが記載されていない事から、読み手のレベルをだいぶ低い人を想定し、そこを洗脳orアンチにしていこうという印象を受けたので
事務所バックアップで成り上がったタレントの自伝本並に見る気を失いました┐(´д`)┌ヤレヤレ
その辺についてざっくり
社会統計学の観点からメリットしかない都知事立候補
社会統計学についての考え方はこちらを参照
エコノミスト2020 NIGHTINGALE(考察)
最初にいってしまえばゴールは 金儲けと陽動
本のターゲットは、政治や経済などの専門知識があまりないけど、この騒動で急に政治に興味を持ち始め、「いい質問です!」でおなじみの池上彰さんの偏向報道番組を見て勉強するレベルの人
国の在り方や国のリーダーを求める魂レベルの低いふらふらした人が増えた所を狙い撃ちにした本
魂の年齢リターンズ 新型コロナ騒動編
目的は新たなファンやアンチの獲得によって注目を集める事
都知事選出馬は、普段ネットを見ないSNSもみない、ユーチューブもみないし、堀江に興味もない、そんな人たちでもテレビやニュースはみる訳で
マスコミは普段からマスコミ批判をする相手であっても、都知事立候補者をテレビやニュースで取り扱わざるをえない流れになる
当然、自身のメディアで選挙活動もばんばんできる上に本に掲げたマニュフェストで言いたい放題!実現するしない関わらず持論の夢物語を無責任に語る事ができる上に、本の継続的な宣伝もできる
マスコミが切り取り偏向報道したり、ワイドショーがいじったりするたびに、かみついて話題を再燃させて、アンチも信者も巻き込んで炎上拡散させる事ができる
当然、それほど炎上上等な流れになれば、エンタメとして注目を集めるが、いざ投票となると、支持者離れで落選する流れになるのも想定済み
当人としてはそれが狙いで新たなリーダーにならなくてもいいと考えるんじゃないかな
その過程で
オンラインサロンの参加者を増やしたり
有料メルマガの購読者を増やしたり
色んなユーチューバ―とコラボして議論したり
チャンネル登録者を増やしたり
SNSのフォロワーを増やしたり
ライブ配信で投げ銭で稼いだり
まずここがひとつ簡単にできる自身のブランディングと収益化モデル それをやってのけた例がN国党の立花氏、二人は仲良しヽ(*゚ロ゚)人(゚ロ゚*)ノ゚
同様のケースで大量にチャンネル登録者がいる金持ちユーチューバ―が都知事に立候補してみた!ってやれるなら、言いたい放題言って、話題性を集めて、落選しても、その過程では新たな層にファンを増やす事ができる
立候補できる年齢で、供託金300万払えれば、知名度をあげ話題作りでチャンネル登録者を増やすなどの目的で選挙が利用できてしまうというのが一点
個人的には金儲けは好きにやればいいと思うが、オンラインサロンなど、背後不透明なクローズドに組織票を動かせるような人物が立候補はどうかと思うが・・
その点、堀江さんの都知事立候補に対する小池都知事の
「とくにございませんけれど、まあ賑やかなこと、という感じ」
これは都知事選を話題にして盛り上げるだけ盛り上げて・・それだけ┐(´д`)┌ヤレヤレ という意味だろう
タイトルにはない本質 国家戦略特区・スーパーシティの利用
こっからは陽動の部分
37項目の章題を見ても、5G・AI・キャッシュレス・スマートシティ・スーパーシティという言葉が使われていない事に違和感を覚える人は本質が見えてると思う
何が言いたいかといえば、金儲けの狙いと内容が矛盾している点
炎上上等!議論やアンチの反対意見があるなら文句つけてこいよ! と言う流れになればなるほど本の売り上げアップ!話題性向上!
チャンネル登録者増加!知名度アップ!メディアに引っ張りだこ ・・となるのに、メディアが「デマですよw陰謀論ですよw」と伝えている
有名人が言ったら絶対業火大炎上する5Gという着火ポイントをスルーしているのはなぜか?
普通はここまで状況証拠が揃ったら、仮にこじつけと言われても、間違いなく因果関係について疑問を持たないとまともな人間とは思えない
仮に、情報統制された常識に縛られた国民ならデマだよwのメディア誘導に流されるとしても、人とは違う先見の明があるカリスマ実業家がこの話題は炎上の燃料にしないんだねと疑問
新型コロナウイルスと5G(ファイブジー)の不思議な繋がり
日本だけじゃなく、世界が動いてるのに・・
世界で起きている5G反対条例の制定の動き
また、5Gと切っては切り離せないAIについて章題で記載しないのもおかしい。政治も経済も都市伝説も陰謀論も知らない、テレビやニュースしか見ない人でも知ってる
AIというビッグキーワードも使わないのは不自然だ
今この自粛期間にどんどん全国にアンテナが増えている5G、メディアが一切報道しないで可決された5Gの電波利用に関する電波法改正・・5Gって何?とよくわかってない人は多くても
AIはなんとなくイメージできるから知識がない人でも本に興味を持って貰えるきっかけになる。未来構想で、キャッシュレスや自動化を推進する中で無人化=AIは避けて通れないのに
どうしてAIというわかりやすいワードを章題に使わないのか?
以下、緊急提言37項のうち
本当の渋滞ゼロ
ETCゲートをなくす
パーソナル・モビリティ推進都市に
切符も改札機も無くす
現金使用禁止令
東京メトロと都営地下鉄合併と民営化
これは遠まわしに今、検事総長の定年延長騒動の裏でするっと通そうとしているスーパーシティ法案と国家戦略特区という利点を使えばできる事ばかりを提言している
国家戦略特区とは?
規制の「サンドボックス」制度
自治体や民間事業者が新たな商品・サービスを生み出すための近未来技術の実証実験を迅速に行えるよう、安全性に十分配慮した上で、事前規制や手続きを抜本的に見直す制度
一言で言えば、特定の区域で行われる シム・シティです
その特区にはいくつかのパターンがあり近未来技術実証特区では、自動走行の実験や小型無人機(ドローン)での配送実験などを自由にできたりします
この国家戦略特区は地方自治体や民間事業者が提案できるようになっている訳なので、ビジネスチャンスがゴロゴロ転がってます
この国家戦略特区の分布図を見てピーン(゚д゚)!と来た人は凄いですよ?
東京(193)・大阪(97)・愛知(80)・福岡(40)・広島(28) 偶然にも5G基地局アンテナが全国で桁違いに多いエリアという共通点があります
全国都道府県別5G基地局導入数備忘録【更新5/14】
例えば堀江さんが行ってるロケット事業について例にしてみれば、宇宙事業開発特区とか作れば、ロケットエンジンでもスペースシャトルでも宇宙開発時代到来!などの大義名分があればできなくはない訳ですが・・
逆に言えば都合の良いルールをやりたい放題できる特区も作れてしまう訳です
わかりやすい例として、最近急におすすめに出てきてから、中毒のようにどはまりしてみている、サイコパスでおもしろいゲーム実況者さんが、ちょうどそんな国家戦略特区実験みたいなシムシティの遊び方をしてたのでご紹介
特区をつくり、特区内のルールを自由に決められるってこういう事(笑)※極端ですがw
これらビジネス的な特区を複合拡大して、そのまま生活インフラに活かす都市構想がスーパーシティ構想
スーパーシティ構想
このスーパーシティには二つのパターンがあります
白地から未来都市を作り上げるグリーンフィールド型の取り組み(雄安、トロント等)
既存の都市を造り変えようとするブラウンフィールド型の取組(ドバイ、シンガポール等)
書籍の章題から考えると、ブラウンフィールド型でしょうかね(だからカジノ誘致したいのかな)
本質は目の前の政治や法律で語られる計画名称がある事実をベースにしてるけど、そういう学校も社会もテレビもニュースも教えてくれない難しい事を言ってもちんぷんかんぷんで話を理解できない、考えられない人を相手にした書籍だから
堅苦しい事は書かず、大事な核心に触れるワードを使わない
都政を良くするために都知事に立候補しているのでなく
「世の中がこう変わっていく流れにもう乗ってるけど、おまえらはどうせ何もわからないまま搾取される側なんだから、馬鹿はおとなしく馬鹿のままでいろw」
という、残念な人たちをカモにした陽動の狙いが透けて見えて読む気がしない訳です さすが、「正解」を教えない教育 が章題に含まれてる訳ですね(伏線回収)
都職員の英語公用語化や東京都をオール民営化と言っているので、資金がある外資に売国し、雇用も外人どんどん入れるって言ってるようなもので、とても国内の雇用を考えてないでしょう
スーパーシティや特区に関しても日本人が住みたくないなら優秀な外人を呼んで住ませればいい とかいいそう。そうやって、特区、特区が外国人が増えて行けば、その中は外国人参政権で治外法権になっていき、日本の中なのに日本の法律ではやりとりができない独立自治体が出来上がっていく
そして、その中で宗教の自由やLGBTIの自由化などカオスな状況になる事を考えてみてください?中と外という確執が生まれます。これは格差や差別社会ではなく、相いれない国の誕生を意味します
これほど馬鹿らしい見え見えの売国政治はないですよw 逆に、それに気づけよ?って警告を促してる本だとしたら、さすがです!とだけ
まとめ:立候補は99%の確率?でも都知事になる気がないなら・・
東京改造計画という書物が出るという事で考察してきましたが、結果、99%出馬!・・の可能性ってメディアが言ってる訳なので
実際に出馬するんでしょうかね?しないんでしょうかね?
ところで最近のメディアって99%とか、99.9%って数字を使いたがるよね? 韓国の消毒液が99.9%・・って記載してたのが、実際、専門機関で検証した所
5~30%くらいの濃度だったらしい・・(;´∀`)アチャーー
堀江さんと韓国(某宗教)と99.9%という最近よく使われるメディアの数字、東京都の飛行機利用者が前年に比べて99.9%減って2900人だっけ?(嘘くさ)
うーん(;^ω^)出馬はないな(笑) と予想
どっちにしても、こうやってネットで話題になり本の宣伝効果は上がったに違いない
個人的に37の章題の中で、おそらく読み疲れないようにテーマを変えてガス抜きにしてるんだろうな?という以下の部分は読んでみたいと思いました
満員電車は高くする
満員をどうやって減らすかがキーですね。時間をずらせるように社会の働き方改革するとか?一回に乗れる人数を指定するとか?、料金を高くすれば満員を避けられるという訳ではないので
ちょっとどこから切り崩すのか意味不明なので読んでみたい(笑)
Uber解禁
なんで?タクシーじゃダメな理由は?各国で起きてる女性襲撃や個人間のトラブル対策法は?単純にUber株持ってるのかな?
江戸城再建
一部の城マニアに共感を得ているようだが、何のために?今の時代に城を観光目的以外に作る理由は?本来の城の役割は殿の拠点と防衛でしょ?殿は誰?何に使う?まったく意味不明だけに、読んでみたい(笑)
学校解体で子供の才能を解放する・「正解」を教えない教育
学力世界一のスウェーデンの教育は「正解を教えない」ではなく「正解にたどり着く方法を考えさせる」であって、正解はある上で、どうやって答えにたどり着いたのか?を大人も子供の考え方を柔軟に受け入れて理解するのが前提
大人も子供も双方に考えて教育や社会を創っていくから、自発的な教育は有効なのであって、子供の頃から正解なき問題を与えるのはただの社会混乱を招くだけ
と思うので これも読んでみたい(笑)
大麻解禁
大麻がなんたるか?については議論する材料すら隠されているのだからこれを章題にいれる以上、実践体験して語ってほしい
「草を吸う」の著者並に、自分の体を使った人体実験レポートのような内容なら読む価値ありだけどね。あの本の著者は凄いよ・・どんだけ死のはざまをさまよって、自分の体験が 後世の法の制定のギリギリラインを創るのに貢献するって思想と探究心でやってたんだから・・なぜ逮捕した?っていうのもね
オンライン投票・QRコードで投票できる
QRコードのお手軽さはわかるが、QRコードにどれほどの信頼性を置いてるのかネットセキュリティ概念に疑問。オンライン投票を推進するなら、そこは個人電子証明つけたマイナンバーカードじゃないの?と思うが
そこをあえて中華御用達のQRコードを推してくる当たり、マイナンバーカードは何か都合が悪いんだろうな。またマイクロチップとAIによる個人認証などに比べると、あまりにもチープなQRコードを推進するのはあの国・・
都民限定の無料オンラインサロン
限定にするという事は、他の都道府県民はアクセス不能、IP等で閲覧不能にするのかな?
都民番号やら何かしらの個人情報の管理パスワードの設定が必要になる訳で、全国版マイナンバーと別に都民版マイナンバーを付与する気?
その都民はオンラインサロンの利用歴、行動、滞在時間、発言の全てを都政に活かします!という理由で管理者に閲覧される事になる
忘れてはいけないのは、別の章題で 東京都をオール民営化 って言ってるからね?
という事はこの都民限定オンラインサロンの管理は株式会社〇〇みたいな民間事業が行う事になるんだろう。強制参加でないのであれば、参加する事に対するメリットやデメリットしだいといった所か
まぁ、民間事業にする以上、オンラインサロン参加のショップなどのサービス優待券など、利用のメリットは多くなり、東京都民=ブランド化 にして地方格差を創っていくつもりなんだろうか
結局は資本主義のインセンティブ先行で、この世は金と知恵┐(´д`)┌ヤレヤレ
とまぁ、こんな感じで、スーパーシティ構想を支える5GやAIテクノロジーという、重要なキーワードを使わない時点で、この本を買ってほしいターゲットから外れちゃったテヘペロ(・ω<) Σ(゚Д゚)
ただ、そこに絡まない部分は居酒屋トーク程度のノリで読み物として楽しめそうかも(笑)
ところでホリエモンは以前、ベーシックインカムをやるべきとこれでもかと触れていたはずだが・・
自分��都知事として出馬の話題と同時に発売される2020年版の東京改造計画という書物ではベーシックインカムはスルーするって事だな
表題に書いてないし(゚∀゚) Σ(゚Д゚)タシカニ
それに5G+AI+実験シムシティに誰が住むかよ!ってなった時に、国内へ誘致する海外の優秀者な技術者(移民)やその家族をあてがうだろうし
俺も俺も!(・ω・)ノ って一般人が声を上げた所で、人間選別で無能は入れない上級国民しか住めない人間格差シティを作り上げるんだろう
あ、奴隷は必要だから、絶対に上級国民には逆らえないように、個人情報を担保にして監視カメラ付きという条件で住めるようになるのかもね
もともと愛国心もない オール民営化(外資)ってそういう事
今の日本の政治では絶対に認められない外国人参政権なども、特区の中に作られた特区政府からすれば、特区の外の人間に権限を与えない(外国人扱い)
こんな事もできちゃう訳なんで、特区=PSYCHO-PASSの世界感だろうね
でも、そこまでは詳しく書かないんだろう(馬鹿のままでいてほしいから)
馬鹿の語源の由来
馬鹿っていうのは無知で頭が悪い奴や権力者に逆らう事を指す言葉ではない 権力者に忖度して事実を捻じ曲げる者を本当の馬鹿 という戒め
カタカムナの思念読みに当てはめても
ば:引き合う(※濁点は逆) か:力
反対に引き合う力=反力
時の権力に忖度する側(嘘を事実にする)と逆らう側(ありのままの事実をいう)の由来の出来事 現代に伝わり、日常的に使われているバカはどちらの意味も内包するように変えられている
この手の思想洗脳本を読む時は、思考停止で読んではいけない 特に白いものでも黒!と相手をねじ伏せる論破できる相手は要注意だ
だから、この本の章題に
大事な本質を語るキーワードが使われていない 経済ブロックに自分で言ってたベーシックインカムが書かれてない
=そういう層向けには絡んでほしくない本だって事はわかった
もしかしたら表題にかかれていないだけで、中ではちょこちょこ触れてるのかもしれないけど・・経済の肝入り政策としてさんざん自分で語ってきたベーシックインカムを表題に入れてないのは・・正直、あれぇ?(;´∀`)ってがっかり
以後は話題にしないと思う(゚д゚)(。_。)ウン
その点は
「とくにございませんけれど、まあ賑やかなこと(表紙の表情)、という感じ」
社会問題・テクノロジー
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