#私たちの夏の思い出 彼らは砂の上を進みました 海風。
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#私たちの夏の思い出 彼らは砂の上を進みました 海風。#messy moodboard#moodboard#aesthetic#messy#messy layouts#bio para twitter#bios#bios for twitter#messy bios#archive moodboard#tropical#tropical moodboard#sunghoon#sunghoon enhypen#sunghoon enha#sunghoon mb
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29/07/23
会社の近くペルシャ料理屋があって、そこへいくと必ず幸福な気持ちになれる。店内にある大きなタンドールが放つ熱で店内がほかほか暖められていて(背中向かいの席では熱いくらい)、照明は薄暗くて、食事はおいしくて、なんだか居心地がよくて眠くなっちゃう感じ。ワンプレートメニューが大半だが、基本的な組み合わせとしては、バスマティライス、チキンorラムor両方の炭火串焼き、サラダ、焼きトマト、一欠片のバター、が盛り付けられている。若干酢にくぐらせたような風味のする、炭火で焼かれたチキンがお気に入りで毎回それを頼んでいたが、こないだはものすごくラムを食べたい気持ちになって、ラムはあまり好んで食べないけど美味しく食べられるのか心配半分、ラムが美味しいということになったならばそれはさぞかし美味しいだろうという楽しみ半分で店へ向かい、いつものチキンと、ラム(ミンチにしたラムを小さく成形した、ラム苦手な人にとって一番難易度低そうなやつ)が両方乗っているプレートをお願いして、食べたら、ラムが...とっても美味しかった..!
美容師の友だちに髪の毛を切ってもらうようになってから3ヶ月経つ。今回は彼女のお家にお邪魔して、髪を切ってもらって���ビールとおつまみをいただいた。ヘアカット中のBGMは千と千尋で、おつまみは彼女のシェアメイトが作った夕飯の残り物で、ああいう時間がもっと人生の中にあればいいなと思った。またすぐね。
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金曜日に有給を取って3連休を作り、マルタへ旅行した。イギリスは秋みたいに寒いけど、ヨーロッパには記録的な熱波がやってきており、マルタも例外ではなく、空港を出たら暑すぎて、いっぱい歩くのはやめよう..と危険を感じた。マルタには電車がなくて、移動手段はバスだから、3日間で15回くらいバスに乗った。前回のオスロ旅行で、自分の興味関心に基づいて行きたいところをいくつか選んでおくべきだという教訓を得たため、ワイナリーとかレストランとか色々ピックアップしておいたのに、バスが来なくて閉館時間に間に合わないみたいな理由で立てた予定はほとんど全て崩れ、行きたかったところの9割は行ってない。
立てた予定が全て崩れて向かったバスの終点には、イムディーナという静まり返った美しい城塞都市があった。後から調べてみたらマルタ最古の都市で、かつてはマルタの首都だったらしい。なんか普通のマルタの街に到着したなと思ってぷらぷら歩いていたら、お堀じゃないけどお堀みたいな高低差のある場所へ出て、中へ入るととっても別世界だった。旅をしている時(文字通りの旅ではなく、その場に意識があってその場に集中してわくわくしながら歩いている時)は自分の足音が聞こえる、とポールオースターの友だちが言ってたが、わたしは匂いもする。暑すぎるのか、痩せた雀が何羽か道端に転がって死んでいた。馬車馬は装飾のついた口輪と目隠しをされ、頭頂部には長い鳥の羽飾りが付けられていた。御者がヒーハー!と言いながら馬を走らせた。とにかく暑かった。
ほとんど熱中症の状態で夕食を求め入ったレストランで、ちょっとだけ..と飲んだ、キンキンに冷えた小瓶のチスク(マルタのローカル大衆ビール)が美味しくて椅子からころげ落ちた。熱中症なりかけで飲む冷たいビール、どんな夏の瞬間のビールよりうまい。
安いホステルにはエアコン設備などもちろんついていない。さらに、風力強の扇風機が2台回っている4人部屋の、私が寝た2段ベッドの上段だけ空気の溜まり場になっていた。明け方に��からシャワーを浴びてさらさらになって、そのまま二度寝する。隣のベッドのイタリアから来たかわいらしい女の子2人組が夜遊びから帰ってきて、わたしは出がけに、部屋で少し話す。8年前に来たコミノ島はプライベートビーチのようで素晴らしかったけど、昨日行ったらツーリズム化されていて悲しかった。耳の裏に日焼け止めを塗り忘れて痛くなっちゃったから、あなたは忘れないように。わたしたち今ちょっとおかしいのよ、と言いながらドレスも脱がずにそのままベッドの上で眠ってしまった彼女は天使か何かみたいだった。扇風機をつけたまま部屋を出て行く。
地面がつるつると滑る。
砂のような色をした街並みが広がるマルタにもイケてるコーヒー屋は存在する。これも近代化・画一化の一途かと思うと、微妙な気持ちにもなるが、こういう場所へ来ると息が深く吸えるので有り難くもある。
マルタは3つの主要な島から成る。そのうちのゴゾ島へ行く。首都のバレッタから港までバスで1時間強、フェリーで20分。
フェリーほどいい乗り物はない。売店でビールとクリスプスを買って、デッキへ出て、なるべく人がいない場所で海を眺める。乗船案内と音楽が止んで、フェリーが作る波と風の音しかしない中に佇むと、これでいいような気がしてくる。ビールはあってもなくてもいいけど、フェリーのデッキで飲むビールの味というのがあって、それはめちゃくちゃうまい。
ゴゾ島へ降り立つと、足音と匂いがした。適当に道路沿いを歩いていたら、また別世界に続きそうな脇道があって、進んだらやっぱり別世界だった。ディズニーランドのトムソーヤ島で遊んでる時みたいな気持ちで謎の小屋へ入り、人で満杯のhop on hop offバスを眺めやりながら、人懐こすぎる砂色の猫と涼む。港とは反対側の海辺へ行きたかったのでバスを待つものの、一生来ないため、バス停近くのローカルスーパーを覗く。これといった面白いものは置かれていなくて、見たことある商品ばかりが並んでいた。バスは一生来ない。
バスを降り、水と涼しさを求めて入った地中海レストランは目と鼻の先に浜があり、今回の旅は下調べなしの出会いが素敵だなあとしみじみする。カルパッチョと白身魚のライススープ、プロセッコと、プロセッコの10倍あるでっかい水(笑)。カルパッチョは、生ハムのような薄切りの鮪が敷かれた上に生牡蠣、茹で蛸、海老が盛られていた。鮪は日本で食べるのと同じ味がした。カルパッチョは旨く、プロセッコはぬるく、ライススープは��像と違った。パンに添えられたバターは外気温のせいで分離していた。水が一番おいしかった。
おいしいものとお酒が好きで楽しい。
ヨーロッパ人の色気の正体ってなんなんだろう?アジア人が同じ格好をしてもああはならない。胸元がはだけていてもスカートが風で捲れてもはしたないと全く感じない。むしろロメール作品のようにさえ見える。そもそも'はしたない'という概念がアジア(少なくとも日本)にしか存在しないのではないか?色気って品かと思ってたけどそれは日本だけかもしれない。
地元料理が食べられるワインレストランを夕食に予約してみたらコース一択だった。お昼食べ過ぎてあんまりお腹空いてなかったからちょっと小走りで向かってみる。ラザニア、ムール貝と魚のスープ、うさぎの煮込みなど。人ん家の料理みたいな美味しさだった。マルタのワインはほとんどが島内で消費されるらしい。ゴゾ島の白ワインの感想:暑い村、お絵描きアプリのペンの一番太い線(色はグレーがかった白で透過度50)。食後のグリーンティーは、TWININGSのティーバッグで、お砂糖をいれる選択肢が与えられて、洋風の装飾がたっぷりついた受け皿付きの薄いカップと共にポットで提供された。カップの底に描かれた静物画のような果物が綺麗でうっとりした。
どこにでもあるような早朝からやってるスタンドでドーナツとオレンジジュースとコーヒー。扇風機に当たり続けていたいが荷物をまとめて宿を出る。行きたい街へ向かうバスが一生来ないため、行きたい街に名前が似てる街が行き先に表示されているバスに適当に乗ったら、行きたい街より30度北へ行くバスだった。でもやっぱり行きたい街へ行きたかったので、30度北の街へほとんど到着してからバスを乗り換え行きたい街へ向かったが、Googleマップの示すバス停へは行かず、行きたい街を通過してしまったため、行きたい街から30度南の街に降り立つこととなった。海辺でチスクを飲みながらメカジキを食べた。暑すぎて肌着1枚だった。店先のガラスに映る自分に目をやると、いわゆるバックパッカーの様相をしていた。
空港行きのバスだけは遅延なくスムーズに来て着く。肌着状態からシャツを身につけ普段の姿(?)に戻ると、途端に具合が悪くなった。日に当たりすぎたみたい。お土産を買ってセキュリティを通過し、充電スポットの近くに座って搭乗を待っていたら、すぐそばにグランドピアノがあることに気がついた。誰か上手な人が演奏しないかしらと思っていたら、青年によるリサイタルが始まった。父親が彼を呼びにやってくるまで、クラシックからビートルズまで5-6曲。思わぬ良い時間だった。
都市に住むと、旅行から帰ってくる時安心する。
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会社の人たち語録 ・やりたいことたくさんあるけど、今はやりたくないです。 ・返事がないのはいい知らせではないので。 ・Are you alright? まあまあ、ぼちぼち。
夕方、商店街へ買い出しに行く時がすごく幸せ。食べたいと思うものしか買わなかった時は特に幸せ。ぱつっと瑞々しい野菜、ちょっといいパスタ、ジャケ買いしたクラフトビール、好きな板チョコ。そんでキッチン飲酒しながらご飯作る。ビールを開けて一口目を飲むまでの間だけは音楽を止めるというのにはまっていて、そういえばフェリーのデッキで乗船案内とBGMが止んだ時の感じに似ていなくもない。フラットメイトが、夜中3時まで友人とリビングで遊んでいたり、土曜の夜にパーティへ出かけたりしているのと比較して、わたしが幸せ感じてるポイントは内向的だ。
やりたいことが浮かぶ。それをやる前に、比較対象の選択肢や判断軸を不必要なほど増やしてしまいがちだが、最適な選択を選び取ることよりも、やりたいと思う気持ちを満たすことの方が幸せなんじゃないか?
色々比べて悩んじゃったら「朝から決めてたことだから」って言うとスッと選び取れる!
食材の買い出しで1週間くらいはもつかなと感じるくらいたくさん買っても実際3日もすれば冷蔵庫空になるやつ、悲しさというかやるせなさを覚えるんだけど、こないだ500gパックの美味しそうなミニトマト買った時に、長く保ち続けること(終わりを迎えないようにする、終わりを想像しないようにすること)よりも、きちんと消費する(終わりを気持ちよく迎えること)を考えるようにしたら明るくなれてよかった。終わりって何事にもやってくるもんね。
食の話ばっかり回。
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"Kill them with kindness" Wrong. CURSE OF MINATOMO NO YORITOMO
アイウエオカキクケコガギグゲゴサシスセソザジズゼゾタチツテトダ ヂ ヅ デ ドナニヌネノハヒフヘホバ ビ ブ ベ ボパ ピ プ ペ ポマミムメモヤユヨrラリルレロワヰヱヲあいうえおかきくけこさしすせそたちつてとなにぬねのはひふへほまみむめもやゆよらりるれろわゐゑを日一国会人年大十二本中長出三同時政事自行社見月分議後前民生連五発間対上部東者党地合市業内相方四��今回新場金員九入選立開手米力学問高代明実円関決子動京全目表戦経通外最言氏現理調体化田当八六約主題下首意法不来作性的要用制治度務強気小七成期公持野協取都和統以機平総加山思家話世受区領多県続進正安設保改数記院女初北午指権心界支第産結百派点教報済書府活原先共得解名交資予川向際査勝面委告軍文反元重近千考判認画海参売利組知案道信策集在件団別物側任引使求所次水半品昨論計死官増係感特情投示変打男基私各始島直両朝革価式確村提運終挙果西勢減台広容必応演電歳住争談能無再位置企真流格有疑口過局少放税検藤町常校料沢裁状工建語球営空職証土与急止送援供可役構木割聞身費付施切由説転食比難防補車優夫研収断井何南石足違消境神番規術護展態導鮮備宅害配副算視条幹独警宮究育席輸訪楽起万着乗店述残想線率病農州武声質念待試族象銀域助労例衛然早張映限親額監環験追審商葉義伝働形景落欧担好退準賞訴辺造英被株頭技低毎医復仕去姿味負閣韓渡失移差衆個門写評課末守若脳極種美岡影命含福蔵量望松非撃佐核観察整段横融型白深字答夜製票況音申様財港識注呼渉達良響阪帰針専推谷古候史天階程満敗管値歌買突兵接請器士光討路悪科攻崎督授催細効図週積丸他及湾録処省旧室憲太橋歩離岸客風紙激否周師摘材登系批郎母易健黒火戸速存花春飛殺央券赤号単盟座青破編捜竹除完降超責並療従右修捕隊危採織森競拡故館振給屋介読弁根色友苦就迎走販園具左異歴辞将秋因献厳馬愛幅休維富浜父遺彼般未塁貿講邦舞林装諸夏素亡劇河遣航抗冷模雄適婦鉄寄益���顔緊類児余禁印逆王返標換久短油妻暴輪占宣背昭廃植熱宿薬伊江清習険頼僚覚吉盛船倍均億途圧芸許皇臨踏駅署抜壊債便伸留罪停興爆陸玉源儀波創障継筋狙帯延羽努固闘精則葬乱避普散司康測豊洋静善逮婚厚喜齢囲卒迫略承浮惑崩順紀聴脱旅絶級幸岩練押軽倒了庁博城患締等救執層版老令角絡損房募曲撤裏払削密庭徒措仏績築貨志混載昇池陣我勤為血遅抑幕居染温雑招奈季困星傷永択秀著徴誌庫弾償刊像功拠香欠更秘拒刑坂刻底賛塚致抱繰服犯尾描布恐寺鈴盤息宇項喪伴遠養懸戻街巨震願絵希越契掲躍棄欲痛触邸依籍汚縮還枚属笑互複慮郵束仲栄札枠似夕恵板列露沖探逃借緩節需骨射傾届曜遊迷夢巻購揮君燃充雨閉緒跡包駐貢鹿弱却端賃折紹獲郡併草徹飲貴埼衝焦奪雇災浦暮替析預焼簡譲称肉納樹挑章臓律誘紛貸至宗促慎控贈智握照宙酒俊銭薄堂渋群銃悲秒操携奥診詰託晴撮誕侵括掛謝双孝刺到駆寝透津壁稲仮暗裂敏鳥純是飯排裕堅訳盗芝綱吸典賀扱顧弘看訟戒祉誉歓勉奏勧騒翌陽閥甲快縄片郷敬揺免既薦隣悩華泉御範隠冬徳皮哲漁杉里釈己荒貯硬妥威豪熊歯滞微隆埋症暫忠倉昼茶彦肝柱喚沿妙唱祭袋阿索誠忘襲雪筆吹訓懇浴俳童宝柄驚麻封胸娘砂李塩浩誤剤瀬趣陥斎貫仙慰賢序弟旬腕兼聖旨即洗柳舎偽較覇兆床畑慣詳毛緑尊抵脅祝礼窓柔茂犠旗距雅飾網竜詩昔繁殿濃翼牛茨潟敵魅嫌魚斉液貧敷擁衣肩圏零酸兄罰怒滅泳礎腐祖幼脚菱荷潮梅泊尽杯僕桜滑孤黄煕炎賠句寿鋼頑甘臣鎖彩摩浅励掃雲掘縦輝蓄軸巡疲稼瞬捨皆砲軟噴沈誇祥牲秩帝宏唆鳴阻泰賄��凍堀腹菊絞乳煙縁唯膨矢耐恋塾漏紅慶猛芳懲郊剣腰炭踊幌彰棋丁冊恒眠揚冒之勇曽械倫陳憶怖犬菜耳潜珍
“kill them with kindness” Wrong. CURSE OF RA 𓀀 𓀁 𓀂 𓀃 𓀄 𓀅 𓀆 𓀇 𓀈 𓀉 𓀊 𓀋 𓀌 𓀍 𓀎 𓀏 𓀐 𓀑 𓀒 𓀓 𓀔 𓀕 𓀖 𓀗 𓀘 𓀙 𓀚 𓀛 𓀜 𓀝 𓀞 𓀟 𓀠 𓀡 𓀢 𓀣 𓀤 𓀥 𓀦 𓀧 𓀨 𓀩 𓀪 𓀫 𓀬 𓀭 𓀮 𓀯 𓀰 𓀱 𓀲 𓀳 𓀴 𓀵 𓀶 𓀷 𓀸 𓀹 𓀺 𓀻 𓀼 𓀽 𓀾 𓀿 𓁀 𓁁 𓁂 𓁃 𓁄 𓁅 𓁆 𓁇 𓁈 𓁉 𓁊 𓁋 𓁌 𓁍 𓁎 𓁏 𓁐 𓁑 𓀄 𓀅 𓀆
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Her Majesty (3)
オールドサンホセ教会の鐘楼は17世紀から19世紀までスペインが島民をグアムに強制移住させ無人島にした上で統治した時代のもので、高さは20メートルほど、さっきタガビーチからもタガ遺跡からも見えていた。趣のあるランドマークといった感じで、珍しいがゆえに、ここに宗教的大規模建築と呼ぶべき遺産が存在することが大きな欺瞞に感じられる。サグラダ・ファミリアや私の地元の横浜駅がまだ完成していないような不思議さと嫌疑。実際写真で見る雰囲気とは違っていた。本当にぼろぼろといった状態でオーガニックな、いやむしろ有機体的と呼ぶべき愛嬌があった。かわいらしいペットのような。そして風景ともマッチしていた。実に優れたスポットだと思う。妻と写真撮影をし、確認してホテルに向かうことにする。
そして今、外の虫の合唱を聞いている。思い返すとこの虫の声はベートーヴェン交響曲第9番「合唱」の第四楽章「歓喜の歌」に似ていなくもない。規定された楽譜を再現する一万人の第九がある。日本人ならおなじみの年末の���番があるんですよ、とホテル中の人間に教えてやりたかった。私はなぜか夜の空気と虫の鳴き声が誇らしかった。
2日目
2日目のテニアンのホテル。昨日と同じ席。ヨーロピアンだが落ち着いた造りの薄緑の四脚椅子、頑丈なものに違いない。ホテルの客室に戻ってきて妻はいの一番に「あぁ、楽しかった」と口を開いた。私は「楽しくないけど。むしろ暗い気持ちになった」と答えた。名所の内容が暗かったから。
妻は浴室に向かった。向かう際、妻が昨日ドライヤーのコンセントを、本体に丸めて風呂を出たので「ドライヤーコンセントに差しといて」と言った。奇妙な言葉だ。ユングが言わせたんだろう。それかスーサイドクリフが言わせた。スーサイドクリフは湿っていた。だから、この海域は涙の海と化し、我々はそこに最後に取り残された部隊である。二度と戻れない。「ドライヤーコンセントに差しといて」あくまで自己分析だ。カウンセリングの定義に反する。カウンセリングは他者に対して行うものだ。
浴室から出てきた妻は薄手の白いガウンを着ており、私に向かって微笑みかけた。思うところあって妻に近寄り抱きつく。唇に自分の唇を当てる。5秒間のフレンチキス。リアルな時間。リアルな距離。「え、どうしたの」と妻が言った。私は答えずに浴室に向かった。
今日、朝起きたのは7時過ぎで外は太陽が燦々と照っていた。非常に爽やかな朝である。昨日と同じく生垣が邪魔だと感じた。客室を出たのは8時半ぐらいだろうか。ブッキングしたチャーターはホテルの前で待っていた。さっきフロントに連絡しておいた結果だ。おそらく因果関係だろう。ホテルのある島南西からすこし南に離れたタチョンニャビーチへ。スケジュールはサイパンにいる間にチャーターを運行する営業所に伝えてある。早め早めの対処である。ビーチは昨日訪れたタガビーチとそう変わらない風景だった。白い砂浜に透明なビーチ、打ち寄せる波。海の底には何があるというのか。
浜辺でしばらくぼーっとしていた。20分ほどゆっくりと散策し、妻を残し、引き返したところにある自動販売機に向かった。カフェラテにしよう。米国の通貨で支払う。島の上での営利活動。これこそが尾田栄一郎の約束した資本主義だ。さらにそこで20分ほどとどまった。
チャーターが2番目に向かうのは東に向かった先にあるスーサイドクリフ。日本が島を委任統治した時代に太平洋戦争勃発、戦線の拡大によりアメリカが島の戦略的重要性に気づき、軍は1944年8月に占領に成功する。この島から戦争末期において���日のように本土への空襲へ向かうB-29が飛び立った。のみならず広島、長崎へ原子爆弾を投下したエノラゲイとボックスカーはここから出発した。そのような島への米軍の侵攻の際、犠牲になった人々は沖縄からの移住者が多数を占め、それら多くの民間人は同じく移住していた朝鮮人とともになすすべもなく殺された。そのような経緯から集団自決が図られたこの崖には多くの慰霊碑が建造され、毎年慰霊祭が催され、本土や沖縄から多くの者が参加しているということだ。
そのような北マリアナ諸島の歴史は知らなかった。私はあ然とした。いわゆる当時の呼称「南方戦線」のことはよく知っているつもりだった。これは無論政治にかかわる項目であるし、テレビでも夏になれば毎年のように「戦争特集」というかたちで放送する内容だ。おそらく私の及ばぬところがあったのだ、情けなくなったことは間違いない。慰霊碑を眺め辺りを散策していたら30分は経っていたようだ。時計を見た。
3番目に向かったのは、旧帝国海軍、司令部跡である。ここは、第二次世界大戦中に日本海軍第一航空艦隊司令部が置かれていたコンクリート製の2階建ての建物。戦時中にアメリカ軍の砲撃により破壊されたが、建物の形は今も残っている。この遺構は、島北部ハゴイ空軍基地跡地の近くに位置している。以上は英語の観光ガイドを読めば分かる。ジャングルに囲まれたこの遺構を見ると、東本願寺の静謐でありつつも、訪問者の醸し出すものとは違う建築物そのものが本来持つ活気やにぎわいを感じた。あるいは坂本龍一のピアノ演奏とその優しくも正確なタッチ(ピアノの鍵盤を叩く強さ)を思い起こさせる。そして彼の演奏時に見せる苦悶の表情がそこにはあった。きっと司令官とは坂本龍一のような人なのだ。
2日間の島での旅程最後に向かったのはエイブル飛行場と原爆ピットで、前者は先述したB-29が飛び立つのに使った滑走路で、後者は原子爆弾を搭載するのに使ったスポットだ。現地の米軍がノース・フィールドと呼ぶこの広大な飛行場は、島北部の多くを占める山林に囲まれている。ここに来てみてやはり世界の終わりを感じる。文字通り黙示録的なのだ。「エルサレムのアイヒマン」がここにいた。アメリカ人が適当にフォードを走らせていたら、「エルサレムのアイヒマン」に遭遇したといった趣で、そのような揺るがせない脅威がある。アイヒマンは経験論的事実なのだ。昨日の自分に言い聞かせる。やはり1940年代に世界が終わったのだ。それとも1950年代だろうか。離接的総合と離接的読書。私にできるのは読むことだけ。
原爆ピットに向かうと異様な空間の重さと妖気を感じる。現在は使われていない滑走路跡は広場としてあり、学校のグラウンドを思わせた。そこにガラス張りの記念碑が建造されており、建築物としてみると小さい。一風変わった記念碑と言った方が正確で、内部に当時の写真が収められていた。この他にもノース・フィールド内部に別のものがもうひとつあり、そちらは入れないんだとか。チャーターが伝えてくれた。これ以上の肝試しはないだろうと感じる。それもそうだが。日本人の多くが気になる戦争という闇がある。光ではなく闇。アラビアのロレンスのようにはいかないわけだ。日本だったら心霊スポットの仲間入りだな。
そのようにして、夜が来る。すべての者どもは夜へ。今分かっているのはここまでだとでもいうのだろうか……、ひょっとして……。橙色の照明がやけによそよそしい。私の離島を事務的に待ちわびているかのようだ。「朝が来る前に」。「朝が来れば僕ら旅立つ 新しい日々の始まりへ」。これは妻が好きな23年前の日本のポップスだった。この後の予定は放りだしてもよい。さようなら、テニアン。さようなら。
2日後、翌々日のサイパン国際空港でのチェックインを済ませ、あとは帰りの便に乗り込むだけだとセンチメンタルな気持ちになっていた時だった。眼の前にあったテレビがベイルートでのテロを報じ出した。アメリカのNBCテレビで、音声は聞き取れなかったが字幕は読める。現地時間昨日午前7時頃、この場所では昨日午後3時頃に高層ホテルで発生した爆破テロで3発の爆弾が使われたようだった。この報道ではイスラム教シーア派の武装勢力が新たに犯行声明を出したと伝えた。事件の背景について説明するのは控えるが、レバノンの諸外国諸勢力との緊迫状況と外交努力は片手間程度だがリサーチを進めてはいた。なのでそれほど驚きはしなかったが、たしかにこの2年間は起きなかった大きな動きだと言えるだろう。もちろんシーア派武装勢力のことだ。私は苦々しい思いを味わった。しかし普通の人にとっては恐ろしいの一言で済む話だ。午前10時の便に乗った。
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2024.04日記
2024/04/01.02
2024-04-01 二日前くらいから棒アイスが食べ切れなかったり変な体調と思っていたら朝から信じられないほどの胸やけで、通勤の電車もかなり図太いひととして無理のある距離から座席をうばったりし、極悪人のふるまいをしているくせに勝手に消耗してしまった。新年度の初日だからリクルートスーツに付属のパンプスときっちりのお化粧と地味な髪形、ブランド物のバッグを持っているひとが多くいた。このようなひとがゆくゆくは新宿三丁目のあの短い乗り換え通路できびきびあるくひとたちになるんだろうか。 向上心がありビジネス本のいらない人生とTwitterに呟いたあと、これは自己啓発本のことだったと気付いた。自己啓発本はいらないけれどその分胃薬が必要な人生。この日は広告のファンクラブかなにか青色のゴシック体の太字「FC」のFの���れ曲がったところをひたすら目で追って吐き気を逃した。 今月からよく知らない先輩が同じ現場に配属となり、現場リーダーとなるらしい。���りあえずひとりで会社のことを背負わなくてよくなって安心。ひとりをいいことに出社しておにぎりをたべながら仕事をはじめたり、けっこう自由にやらせてもらってはいたけれど不明な責任や交渉にくらべたらとなりに上司がいるほうがずっといい。 日野啓三『砂丘が動くように』を読んでいる。モチーフとしての砂の扱い方や一文ごとの簡素さ、簡素な言葉による演出としての地の文、でありながら主人公の語りをとおした鋭い感受性などをみると小説とは現象とあらためて思う。小説を現象として至ることができるものとみなすなら、短歌は額縁だろう。短歌はいくつか作ると最後は同じようなことばかり書いてしまう。短歌にしろなににしろ同じようなことを書くようになったあと、乾いた体でモノから書くべき泉を見出せるかどうかがつくることの起点になるのではないかとおもう。
2024/04/02 昨日の吐き気からつづいて腹痛が続き眠れない夜で2時に目覚めて眠りのコツをつかみかけたり(眠りは背筋を伸ばして力を抜くことより、寝具に甘えるのが大切。寝具のことをすきになる気持ちで眠るのがよく、正しい眠りをもとめると眠りの一歩手前で正しさを疑って身じろぎしてしまう。とはいえ正しい眠りスタイルの勝率も7割5分くらいはあるからへんに開拓せずとも早く布団にはいってひたすら同じ姿勢に耐えるという手もある)、5時半にまためざめて小説の手直しをしたりした。何とか二度寝して7時すこしすぎくらいにめざめるとなんと夢の中の自分が小説を書いてくれている。というふしぎな気分になりながら寝不足の躰をかかえて今日も仕事。寝不足だとあたまがぼんやりし光がまぶしいのがよくわかる。曇りだったのに雲の間から透ける光がまぶしかった。輪郭をくすませながら切れ間ながら紐状というわけでもないところは変な形のパズルのようできれい。あのかたちのパズルをいっかい床におとしてばらばらにしたらもう戻らないだろう。 仕事はいいかんじだけど、いいかんじだから気力にあふれるわけではない。むしろ気力がないからこそいいかんじでいてくれないと困る。だから今日はいいかんじでまだましのほう。いいかんじというのは、わからないところを解決する努力ができてそれでもわからないところを厳しめの上司に聞き、その上司が見たこともない手順で解決したりその解決方法をわたしに伝えない場合のこと。やれることはやってたみたいとわかると勝手にいいかんじ判定になる。 また部署異動となり同期ともしばらくお別れ。なんだか異動ばかりでずっと社長に謝られているけれど謝るわりにべつに丁寧ではない人事采配でうまく使われてしまっているとおもう。わたしも謙虚すぎるほど謙虚にへんな配属(新人たったひとりをアサインされたことのない会社に送り込み、事務処理の交渉をさせ、道が整った頃上司を入れられやるせない。上司に交渉させてほしかった)にもひたすらありがとうございます、使ってくれるだけで本望です、どこまでもついてゆきますの犬コミュニケーションしているから不満が伝わらないのはあたりまえ。お給料がほしいだけで自分の力で羽搏きたいとかはとくにないけれど、いちおう前のめりの姿勢だけをみせておく。でもプログラミングの本はふつうにおもしろそう。 家にかえるとお風呂場で妹が機嫌よくいきものがかり『気まぐれロマンティック』を歌っていて扉越しに聞こえる歌声になんてかわいいと思った。「叱ってくれる大事なひと」を「ひっとぉ」と歌うところが楽しそうに甘えるみたいで。楽しそうなひとはかわいい。彼氏もこんなひとが彼女ならかわいくてしかたないだろう。
2024/04/03
夢の記録。青葉市子と夏帆がいかにも岩井俊二っぽい光の中でバレエをしたりご飯を食べるシーンのあるドリル的映画(と夢の中では評されていた、ある一点の欲望を叶える手段に暴力が選ばれさいごに破滅する作品を表す自作の言葉)が公開される。 通勤の時間とお弁当を食べている時間は『砂丘が動くように』を電子書籍で読み、読書の時間が取れるときは『遠きにありて、ウルは遅れるだろう』を読む。後者は再読。 原神は毎日デイリーチャレンジと急氷樹、爆炎樹、盗賊団をひたすら倒すのを毎日やっている。主戦力としてエウルアを育てたいけれど育成に必要なクエストをまったくクリアできない。あとはベネットと行秋が強いらしいからゆくゆくは育成するけど好みで育てたいのはロサリア(陰湿な見た目とキャラなのにモーションが獣みたいで良かった。槍を叩きつけるみたいに使うところ)。今のところガイアが主戦力(片手剣キャラが主戦力は個人的にちょっと)、バーバラで回復、ノエルで防御の初期キャラクターパーティでなんとかなっている。ポケモンのときもそうだったけど目移りするのが面倒で攻略サイトがよほど推している以外は初期キャラクターを育成しがち。ここに旅人の風か、ベネットの炎で元素反応。アクションあんまり得意じゃないから草の時限爆弾とかまでは手が回らない。
2024/04/04
ここ数日に比べてずっとからだの調子がよく起き抜けの吐き気もなし。毎日こんなふうに起きることが出来たらい��のに。最近の仕事は真剣にやっていて、ほかのことを真剣にやりたいというのはあるけれど、出社しすることもなくExcelの個人用の日次記録にこことおなじような日記を落書きするより、どうしようもないソースをこねる一日のほうが楽しい。 『砂丘が動くように』を簡素な一文と言ったけれどそれは読みはじめだけで、もう中盤にはひとつひとつがエネルギーをもつ砂粒、熱量のうねりが厚みを持って描かれているから文じたいは簡素ではなくなった。むしろこのような内面に差し迫る文章でよく物事が進んでゆくものだと感心する。 リーダー同士が「こういう仕事はNではだめだと思う」「じゃあ(私)さん?」「そうだね。その方が丁寧」と小声で話していたのを聞き、自分は細かな作業が得意なふうに見えているらしい。昔からケアレスミスの多いタイプだから見た目の地味さや声の小さいことがそうした印象をつくっているのだと思う。細かな作業が得意そうな人として地道な作業を割り振られたい。大まかな開発をするよりそちらのほうが性に合う。
2024/04/05
久々に残業。あとから参画した上司もわたしの見守りのためと残ったけれどさいごは先に帰り、わたしのコンパイルもうまくゆかず。上司はブルーライトカットの眼鏡を掛けている。見守りのために残るってなに?監視ならよいが気遣いなら息苦しいからやめてほしい。 uvoの日傘を今年こそ。白地に薄紫のラインが入った折りたたみを買うつもり。華金だからと駅ビルへ入るとsnidelのワンピースがかわいかった。
ですから、海辺に一人でいる男を見た瞬間、女にはこんな思いが浮かんだのでしょう。『退化したひれを持つ我々はみんな、来ない船を待って陸地で死ぬのだ』。
『遠きにありて、ウルは遅れるだろう』ペ・スア
明日は誕生日。誕生日プレゼントには自分では買わないアクセサリーショップの髪留めを頼もうと思う。相手の意志があるぶんサプライズのプレゼントはなにでも嬉しいけれど自分からねだるものはすこし考える。例えばワンピースは私生活に入り組み過ぎて鬱陶しいし、実用性を求める(通勤用グッズとか)ものも変に息づいてしまっていやだ。ぬいぐるみもしかり。自分で頼むものならそれほど生活を侵食しない小物がよい。
2024/04/06.7.8
04/06 誕生日プレゼントにアクセサリーを買って貰おうとあらかじめ決めていたお店へ。会社にも付けられるようバレッタを3つくらいと思っていたのに思った以上目移りしてイヤリングをふたつ、指輪、バレッタをもらう。誕生日ケーキを見に行き、一目惚れしたプリンセスのケーキを買う。とてもかわいく、家に帰って何枚も同じような写真を取ったあと食べた。
04/07 ぽつぽつお誕生日おめでとうメッセージが届く。シュウウエムラのクレンジングやハーゲンダッツのセットを貰う。6日に誕生日のことはほとんど終えてしまったからぐうたらしていた。久しぶりに昼寝もして、原神のお誕生日メッセージを全キャラ分聞いた。
04/08 このままうまくいかないのではないかと絶望していた仕事が解決し、あらたな絶望へ…。ひとつめの絶望が解決したとき、親身になってくれたひとに報告したらクラッカーのスタンプを付けてくれた。誕生日プレゼントに良いものをもらいすぎて、物欲の熱がなかなかひかない。6日に見たほかのアクセサリーを忘れられずもう一度行くと、新作が増えていた。今欲しいものはバレッタ(無限にほしい)、uvoの日傘(確定で買う)、仕事用の可愛いブラウス(やっぱりほしくなるかわいい仕事着)、カバンに付けるぬいぐるみ(もう候補はあるけど、あまり生き物ばかり買うのもと悩み中。sheinで見た200円くらいのすずらんの編み物みたいなぬいぐるみもかわいい)。
2024/04/09
30分残業しようと思ったけどわたし以外の偉くない会社のひとはすべて帰っており、オフィスが偉い人たちだけが偉い人たち同士電話でプロジェクトの詳細を確認するというようなボーナスステージに入ったのでしぶしぶ24分の残業で帰る。これはサービス残業ということ。 近くでプロジェクトリーダーが次の仕事の割り振りについていろいろなひとに相談していて話が聞こえてくる。若手をひとりで案件に付けるか、先輩を置いて案件に付けるかで悩んでいるらしい。わたしには先輩をつけてほしい。
「目を覚まして。それは安らかな睡気なんかじゃないわ。酸素不足の朦朧状態よ」 姉の声だ。これまで聞いたことがない切迫した情感がこもっている。 「目を覚ませ。眠りこんではだめだ。立ち上がって走れ」 ビッキーの声だった。どうしてビッキーが命令するんだ、父親みたいに。 「どうして目を覚まさなければいけない?」 前にも同じことを尋ねた記憶がある。 「見えないものを見るために。おれたちには見えないものを、きみが見なければならないからだ」 前とちがってビッキーの声はきっぱりと言った。
日野啓三『砂丘が動くように』
これほど熱烈に情景を描くひとの「目を覚まさなければいけない」とはどれほど研ぎ澄まされた、いちぶの隙も与えない苦しいまっとうさだろう。無数にうごめく粒子を湛える集合としての砂丘、そのうごめきのひとつぶひとつぶをじっと見つめる瞳。
2024/04/10.11
04/10 順調に行って欲しい仕事が順調に。 04/11 『砂丘が動くように』が情景の小説なら外村繁の『落日の光景』は事情の連鎖。私小説は事情(過去)を解説することができながら、過去を積んでゆくから2通り過去がある。 26歳にもなってあがって言葉に詰まって頭を真っ白にさせているのは哀れというか、目も当てられないだろう。いまかわいいとかいっていじってくる��とも、年齢を知ったら戸惑ったような顔で憐れみの眼差しを向けるにちがいない。
死のことを思うと恐しい。しかし物質的なものへの愛着のためではない。名誉欲のためでもない。また自分の分限もわきまえたつもりでいるから、自分の仕事への未練でもない。所詮は、親しい人との永別が名残り惜しいのである。
外村繁『落日の光景』
2024/04/12
昼ご飯を食べながら大田洋子『屍の街』を読んでいたら当てられて気分が悪くなる。ある日突然発症する、死の宣告は突然死ぬことよりこわい。日本もう戦争してほしくないな。 新年度会で頭がくらくらするくらい笑ったりうなずいたり。同期にあって、アイナナのBlu-rayを安く買う。
2024/04/14
猫の姿が見えるようになり、魂がぼんやり光っているとかではなくて、ほんものの実体のように見える、これからはもう別れに怯えなくていいんだ、ほんとうにこんな奇跡ってあるんだ。と生きていた頃のように撫で回す夢を見た。のを昼、運転免許の更新へ向かう電車の中で思い出した。 運転免許更新は初回だから講習を受けた。初回講習者と違反者が同じ講習を受ける。斜め後ろの元違反者が、講習に飽きてパンフレットの全面を黒鉛筆で塗っていた。 ドン・キホーテてトップコートを買って帰宅。
2024/04/13
カラオケへいき、雑貨屋で髪留めを買って帰宅。日付を超えてZOZOTOWNをのぞいたらuvoの日傘が1000円引きだったので出社の鞄につけたいストラップとともに購入。 わたしはたぶん30代までは恋愛を糧に生きるだろうけれどそれ以降のビジョンが思うかばない。このさき自分がどういう死に方をするかうっすら見えている気もするが、そのまま生きるだろう。ただ40代になったとき、『わたしのいるところ』のように街行く他人の会話を聞いてあれこれ思っていたり、会話を聞くため他人のあとを付いていって、そのくせ内省��ってあれこれ考えるのが刺激だけの、そとみは静かなつねに外向きの40代女性になってたらいやだな。いつか、夢中にならずとも、自分を遠ざけるものを見つけられているといい。
2024/04/15
仕事は言葉をつかうというより言葉をボックスに入れ、ボックスを入れ替えたり貼り付けたりするばかりなので気を抜くと言葉が使えなくなる。頭の中はほとんど図形だらけ。 遠きにありて、ウルは遅れるだろうを再読中。2章の「内面から滲み出てくる即興的な一歩」が踊りになってゆくさまは踊る少女たちの熱っぽさに匹敵するほど凄まじいシーンだった。これを見落としていたのだから再読して良かった。
室内は大股で五、六歩歩けば向こうの端についてしまうほど狭かったが、という特定の感情がこもった身振りで歩くという行為そのものが女を��第に陶酔させる。そしていつしか女の体は徐々に、自分にも聞こえない何らかの音楽に乗っているかのように動きはじめる。 (中略) 女の中で発火したその何かが女を燃やしていく。それは自然発生した、踊る者の意志からは独立した踊りだ。女の肉体は自分を支える媒質を意識し、それに呼応し、それを捨て、それを創造し、それに反逆する。それがすなわち踊りである。女は踊りはじめてやっと踊っている自分に気づき、戸惑いつつ驚く。
『遠きにありて、ウルは遅れるだろう』ペ・スア
↑ここすき。
一度女の体に乗った踊りはひとりでに踊られる。女はそのことに気づく。炎のように、波のように、ひとりでに揺らめく。だがゆらめくのは女の体ではなく女の内面の言葉だ。女は自分に解読できないその言葉が思いきり発話されるがままにさせておく。女は踊るのではなく、踊りの言語に自分を差し出した媒介物だ。だが女は止まらない。
『遠きにありて、ウルは遅れるだろう』ペ・スア
媒介物という言葉がⅠの巫女を思い出させる。 あとは踊りといえば、アイナ・ジ・エンド(と女王蜂アヴちゃん)のラジオ。
「BiSHでも初めての子達と振り付け一緒にしてたとき思ったことがあって 年齢も関係なくて遅いとか絶対なくて 遅いほうがよくて 喋ってる仕草とかご飯食べてる手付きとか全部本当は踊りで それを生きてきた年数が多いほど、自分の染みついてる仕草だし それが踊りやすさに出るから個性になる」
https://youtu.be/QmsK2PJWLXw?feature=shared 18:30〜
『遠きにありて、ウルは遅れるだろう』Ⅱの歩み-踊りがシームレスに繋がることはアイナ・ジ・エンドの「全部本当は踊り」と通じる。いっぽうで『遠きにありて、ウルは遅れるだろう』における、「踊り」に含まれうる行為と真なる踊りの違いは、肉体を媒介物として内面の言葉に差し出していることだろう。精神は肉体のうちである(メンタルが崩れたら美味しいご飯を食べてゆっくり寝ようとか)というのはよくきくし、わたしもそう思って健康を目指しているけど、肉体を言葉に差し出すことが踊りというのならそれは肉体は精神のうちであるともいえるのではない? と考えると、言葉を扱いながら精神のみの存在にむやみにあこがれることなく、肉体こそが精神の一部であると描くことは、命を生きる作家としてとてもまっとうだ。それをその言葉以外で、内面に飲まれたあげくの行為を、踊るさまを情景として言葉で描写したことも。
2024/04/16 寝るぎりぎりまで『遠きにありて、ウルは遅れるだろう』を読んでいたので鞄に入れ忘れ、仕方ないので通勤や休み時間はウルフ『波』を読んだ。冒頭セリフが重なり、行為が重なり波紋のように動いてゆく。とはいえ、遠きにありてウルは遅れるだろうと並行して読むのは相性が悪い。砂丘が動くようにや落日の光景はよかった。もうすこし小説然とした長編小説を併せて読みたい。 引き続きFateApocryphaを流し見する。Prime Videoにはfateシリーズがたくさんあって、しばらくアニメには困らないかも。アニメキャラクターは感情の起伏が激しく、誰も聖杯を制していないのに願いを蔑まれたくらいで怒る必要ある?とか「ななななななななななななっなななななっななななななな何を言って!?」にそのリアクションにその尺はいる?とか思うけれど、聖杯が誰の手に渡るのか、もっと単純に次脱落するのはだれか、など追い続けられる要所があるからみていられる。あまり良く考えず観ているから、ちゃんと見ているひとはどうなのだろうと知恵袋を見たら「戦争と言いながらタイマン張ってるだけ」という意見があり、それはたしかに。第三勢力じみたジャック・ザ・リッパーや赤の陣営でありながら神父の操作を免れた獅子劫とモードレッド、意志を持ちはじめたホムンクルスが聖杯戦争にどう影響を及ぼすか…とみていたら総力戦はほぼなく、「聖杯戦争の域を超えた敵」がもう三つも出てきている。陣営がごちゃっとなったあとまた2つに分かれ、構図は脅威vs総力か、2つに分かれたのに今のところまたタイマンを張り続けている。でもこのお話は戦争と言いつつずっと寿命が3年というホムンクルスの少年を中心に据え、個人の(幸福に繋がらないだろうすべてを引き受ける)自由の話をしているので、別にそこまで気にしていなかった。それにしても、深夜の時間帯にこんな激しい演出で『自由』をテーマにした作品を観て、会社員は次の仕事に行けたのだろうか。わたしなら深夜の悲観的な感傷に自由の気高さを流し込まれつつ、キャラクターらがひかりすぎる大剣を振り回しては地面を割りまくっていたら、自分は貧弱な人間のサラリーマンで構造に従うことしか生き延びる術がないことをあらためて自覚して、ぐだーっとなってしまう。
2024/04/18
Honeysのワンピースけっこう好きだから仕事着にできるのならいっぱい買うのだけど。 暖かくなってきたらオフィスが空調をつけるようになり寒かった。夏のクーラーの具合は現場によってちがうからとても寒かったりしたらこまる。在宅勤務ならそんなこと気にせずともよかったのにとおもうが、その分電気代がかかることを考えるとひとり暮らしのひとは嬉しいのかもしれない。 そろそろ一人暮らしを…と思いながら目先の利益につられて定期を3ヶ月分買っているので、まだこの地に縛られる。利益500円くらいだけど大事なことだ。けれど一人暮らしをすると言ってもそもそも在宅/出社が確定されていないし、勤務先も確定でない以上ひとところにお金を払って住むのはリスクがある。
2024/04/19
仕事。飲み会を断って定時帰宅以降の記憶なし。
2024/04/20
洋服を見に行く。
2024/04/21
earth music&ecologyに行き、会社へ着ていける可愛いワンピースを探しに行った。今の現場の服装規定は女性はオフィスカジュアルという名のほぼ私服、男性はスーツとありがちでよくわからないものだけど、女性のうち私服でいるのがチームリーダーしかおらず、あとはみなスーツのためわたしもスーツを着続けている。頃合いを見て、ワンピースで仕事に行きたいけれど今のところ目処は立っていない。 原神を久しぶりにプレイ。稲妻で神の目を奪われた人々の顛末を見届け、神里綾華とお祭りに行った。はじめは屏風の裏から話しかけてきた神里綾華がお友達だからと言って顔を見せてくれたあと、街の人にはぜんぜん顔をさらして、しかも街のひとも彼女の顔を見慣れているのはなに。わたしはなにを見落としたの。稲妻は日本がモチーフだが今のところ地名や人名に訓読みは使われるものの、そういえば平仮名はまったく使われない。日本に漢字があることにちょっと甘えすぎ?
2024/04/22
自分をenfpと思い込んで世界に対して外向きに早起きをしたり、活動的になったりしたが、仕事中にもとの性格に戻り(なにだかわからないけど…)あかるくたのしくほがらかにというより黙々とずっしり着実に仕事をし、そういうのもすきだから気持ち良く退社。 体調がよく、はやあるきできるからいつもより早い電車に乗って帰ることができた。クレジットカードの締め日を意識しながら生活していると、あっという間に給料日。任天堂の株が安くなっていたのでたいした読みもなく買い足す。 64シリーズのゼルダの伝説が好きという理由だけで、すべてのお金を失っても良いと思って任天堂の株を買っている。とくに下がっても0円以外は利益と思っているから心的ダメージは少ないのだけど、どうせならいつかあがってほしいし、やっぱり奇跡が起きて億万長者になりたい。綺麗に死ぬために貯金をしている。
2024/04/23
昼休み中にウエルシアでリセッシュ、サプリなど生活用品を買い足し、帰り道のPLAZAで乾燥さんの緑の化粧下地とチャコットのルースパウダー、リップモンスター03/05を買う。 最近去年まではみられなかったひりひりする赤みのニキビが治らず、放置してもう二か月くらいになるので自然治癒をあきらめ、ようやく化粧品やケア用品を買い替えて真剣なニキビ対策をすることにした。ビタミンB2のサプリを飲み、ティーツリーのパックをし、しばらくファンデーションはやめて下地とパウダーのみにする。 そろそろ流行りも収まって好きに買えるだろうと昨日紹介動画を見比べて購入したリップモンスターは、両方ともそれぞれ使いやすい色で気に入っている。03陽炎は色が柔らかく、唇の存在感を薄くするから唇の小さくて厚いわたしにはちょうどよい。雑なブラウンメイクに合わせると全体的な軽さをのこしたまま馴染むし、色が淡いぶんほがらかな印象になるから、なんでもない���とと会うときに重宝するだろう。05ダークフィズは下瞼に色を濃い目にのせた時に、さらに顔の下側に重心がくるから重みでバランスが取れる。誕生日に貰ったジルのアイシャドウと併せて使うと、王道ブルべ夏の化粧ができるのではないかしら。
2024/04/24
仕事を持ったままのひとがずる休みしたのでなんのこともできず、なんのこともできないのまずいかなと念のためリーダーに相談に行くと、リーダーとずる休みは同じ会社なので「予定的に困ってしまう作業はない認識で〜」とずうずうしくもフォローしだし、結果的にわたしはでしゃばりの立ち位置に。ずる休みはずる休み常習犯で、かなり優秀なひとだからみんなからそのバランスと人柄で好かれている。わたしもべつにきらいではなくて、ただ結果的にしゃばってしまったことを素直に反省している。 『王の二つの身体』を読む。このような神秘主義の例にふれると、過去大学の課題で、たしかほんとうに【修道士みたいな。宗教においてなんらかの対話をするひと】に霊的なちからがあるなら【なんか死んだ偉いぽいひと、王とか、イエスとか】を生き返せることができ、だから死体の方へ墓から生き返ることを禁ずると【現えらいひと、王とか】が命じる場面があったはずで、それを思い出す。ぜんぜん思い出せてないけど。 一方的な被害者として庇護をうけたいというのは昔からある欲望で、毎日なんだか突然怒りだしたひとのなげた椅子が偶然頭に当たり大怪我をしたい、のようなことを考えながらちゃくちゃくと仕事をこなし定時退社している。自覚のないだけでこの欲望は性欲と地続きなのかもしれない。
2024/04/26
女性リーダーが真横で「おんなのこきらーい」と言っていて戦慄。自分が「おんなのこ」かどうかは置き、わたしのような自力でハキハキできない声の小さいとりあえずなんでも謝罪するような卑屈な女性が、そのようなしごでき女性からどう見えるか考えると憂鬱。 帰り道に焼き鳥を5本買い、まとめサイトでちいかわを読む。ちいかわも労働しているからわたしも労働をがんばる。無心で労働して、無心でお金をつかい、無心で快楽を享受し、快楽のために無心で労働するのただしくふつうの幸福のことなのかもしれない。このひとたちもなんかおいしそうにラーメン食べてるし。
2024/04/27
電子書籍のセール広告を見て、吉本隆明『共同幻想論』、小川洋子『口笛の上手な白雪姫』『ブラフマンの埋葬』、西村賢太『どうで死ぬ身の一踊り』を購入。 午後は湘南美容外科から貰った誕生日ポイントで洗顔せっけんと睫毛美容液を購入。一度安い脱毛を契約しただけなのに毎年5000円もくれるなんてたいそう儲か���ているのだろう。 一度もスマートフォンを購入したことのない叔母がようやくを購入したらしく、連絡がきた。持ち始めてすぐポケモンGOを始めたらしく、アカウントがあるようなら復帰してフレンドになってくれとのこと。話の流れで、散歩しながらポケモンGOをすることに。
2024/04/28
任天堂のgwセールでダンガンロンパV3とdeemoを購入。Atlantis loveやpure whiteがいつでも聞くことができる。コントローラーでプレイすると画面が���いのは嬉しいが、連打させられて腕が疲れるからレベル1.2くらいのものを風を浴びながらもくもくとやるのが丁度良い。1800円で200曲プレイできるらしく、ことあるごとにNew bookといってあたらしい譜面が増えている。スマホのときは同じ曲を何度か繰り返しながらクリアした記憶があるけれど、今回は興味のある曲を試しているだけで勝手にクリアしてしまいそう。既存の曲はさきに挙げたV.KのAtlantis loveやpure white、MILIのutopioshereが好きだったけれど、今日はじめて聞いたのだとspring collectionの楽曲がかろやかでよい。 ダンガンロンパV3はプロローグを終える。下野紘、柿原徹也などの面子が懐かしい。ゴア表現が苦手なのに800円だから買ってしまったの大丈夫だろうか。今のところ地の文がライトノベルすぎるという印象。 仕事の書類を作って、すこし小説を書いて寝る。無償の仕事を全うしてえらいが、仕組みは酷い。
2024/04/29 曇りでなんとなく気分が悪く家から出なかった。 ダンガンロンパv3プレイ。探偵の最原終一が主人公になるだろうから、赤松楓は殺されるか犯人だろうな、と読んでいたら、犯人のほうらしい。疲れて流れが変わったところでやめる。Apocryphaも少し見て、かれらは最終決戦でも最終決戦のタイマンを張っている。deemoは相変わらずたのしく、昨日1日でsuspenseful third dayまで開放できたのでsansetまでもうすぐ。プレイじたいはやはり指のほうがたのしい。 寝る前まで2023冬のrta in japanのいくつかを見た。上手なマリオのプレイを見るのは楽しい。3DSマリオでは「3DSまだまだ現役だと思うので」と解説者が言っていたけど、もう生産終了してしまったな。プチプチおみせっちは、同じペースでなにかしらをどのタイミングでも解説していて飽きずに見終えられた。ゲームづくしの週末。
2024/04/30
私服出社で良いらしいが様子見のためスーツで出社。隣のひとはぼりぼりお菓子を食べていて、上司はときおり石のように寝ていた。
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Text
夏の某日。漁村の男たちはいつも通りに漁へ出る。 その中に二〇代真ん中くらいの若い男が一人。 名をイツキと言って、過疎化が進む村で自ら漁師の道を選んだ男だ。 同級生が皆県外へ就職し見栄え至上主義へと染まる中、彼は堅実に歩みを進めていた。
両親が飛行機事故で亡くなり大学を中退したイツキは、顔なじみのオヤジどもに交じって漁師になる道を選ぶ。 彼は社会不適合者だが、海が大好きだった。 漁師というのは肉体面でも知識面でも覚える事が多く、おまけにえらく専門的で、 『陸の役立たず!』などと嫁や子供に笑われる場面が多々ある。 しかし過度な集中力と強度の知識収集癖を持つイツキにはうってつけだったらしく、今のところは上手くいっている。
ある晩、イツキは夢を見る。 どこかの砂浜でユラユラと浅瀬に漂っていた。 温もりのある柔らかな砂を、穏やかな波が攫っていく。 手を空にかざせば浅黒く焼けた肌と入道雲のコントラストが美しく、イツキは海に包まれる心地よさを満喫していた。
その時。ふいに臀部を何かが掠っていく。 浅瀬にしては結構な大きさだった。 イツキは姿勢を変え辺りを見回すが、景色は先ほどと変わらず沖へ流されている気配も無い。 と、何かが彼を真下から押し上げた。 まるで犬猫がじゃれつく様に、何かがその巨体を擦り付けてくる。 大方イルカや小型のクジラだろうと、イツキはそれの鼻先を撫でる。 背ビレには擦り傷が無数にあり、根本が少し欠けていた。
しかし哺乳類にしては随分と尖った背ビレだな……などと思っていると、その近くに奇妙なモノを見る。 大きな裂傷が、胸ヒレの近くにいくつも入っていた。 まるで巨大なカギ爪で引っ掻いた様だ。 海の哺乳類は厚い脂肪を纏っているとは言え、この深さの傷を負って元気でいられるだろうか? ――致命傷だろう。
そうこうしているうちに、謎のデカブツは首をもたげこちらを見上げてきた。 鼻先はハンチング帽のつばを肉厚にしたような形で、目は光を吸い込む真っ黒さで、口は大きくナイフの様な歯がビッシリと並んでいる。 デカい。三メートルは優に超える立派なサメだ。 齧られたら一溜りも無いだろう。 しかし奇妙な事に、イツキは特に恐れも無くサメを撫で続ける。 そもそもの話、サメからしたら人間というのはローカロリーなのだから、彼(もしくは彼女)がこうしてコミュニケーションを図るには理由があるのかもしれない―― イツキがサメの鼻や背中を優しく撫で続けると、サメは胴体をずるりと押し付け「こちらへ来い」と手招くように振り向く。 試しに背ビレに掴まると、サメはイツキを連れて広大な海を泳ぎ始めた。
イツキは様々なものを見た。 極彩色の魚が泳ぐ珊瑚礁、朽ち果てた沈没船、巨大なクジラが回遊する氷河の下、古代文明の水中遺跡……。 実に美しい情景だった。
そうした遊覧を終え、イツキを乗せたサメはあの砂浜へと戻る。 彼が背ビレから手を放すと、サメは名残惜しそうに身体を摺り寄せ、そのまま沖へと泳ぎ去った。
目を覚ましたイツキは、はて奇妙な夢だと首を傾げる。 仕事で沖へ出るも、夢で見たサメの事が頭から離れない。 あまりにボケっとしているものだから、仲間の漁師らに怒鳴られる始末だ。 仕方なく、彼は夢の事を話してみた。
「はぁ~! お前そりゃア、魅入られとるな!」 イツキが聞き返すと、漁師らは古い伝承を聞かせてくれた。
曰く、海には美しいヒトの貌を持つ異形の魚がいて、気に入った人間を水難から助けたり、時に喰らうのだそう。
「大方、昔の人間がサメやらシャチやらを怖がってそう呼んだんだろうなァ」 ひとりがそう締めると、他の漁師が口を挟む。 「言ってもよぉ、俺の先代の話じゃア人魚を招いて宴会したって話だぜ」 「あァ~、網にかかった人魚をもてなしたんだって、ウチの婆さんが……」
その日は曇天で、魚もあまり獲れない日だった。 オヤジどもの雑談を黙って聞くイツキだったが、ふと遠くに白い尾ビレを見た。 扇の様な形はクジラのそれだろうか。 周りに幾つかの小さい黒い尾ビレが肉眼で確認できた。 彼は声を張り上げ周囲に呼びかける。 この辺りでクジラが回遊するなんて聞いた事が無い。 騒ぎを聞きつけた船長は、双眼鏡でクジラの群れを見るなり顔面蒼白で「陸へ帰る」と言いだした。
胸騒ぎを覚え、イツキは船長に訳を聞く。 「あの白い奴はダメだ。アレはもう何隻も沈めてる」 そう言うと、船長はドタドタと船内へ引っ込んでしまった。 イツキは他の漁師と協力し、声を張り上げ撤収作業に勤しんだ。 が、イツキがふと海洋へ目をやると、どうしてかあの白黒の群れが船のすぐ近くまで迫っていた。
船は唸りを上げて全速前進しているのに、クジラは悠々と船を取り囲む。 不意に潮吹きの音がいくつも聞こえ、白い尾ビレがゆっくり沈むのが見えた。 真っ白な巨体が垂直に、船の真下へ潜っていく。 この世の終わりの張りつめた空気の中、その場にいた全員がただ海面を見つめていた。
次の瞬間、船体が揺れて甲板が大きく傾く。 下から突き上がる圧倒的重量に船体が悲鳴を上げ、他の漁師がぼたぼたと海へ投げ出される中、イツキは船縁にしがみつきソレを見上げた。 真っ白い大きなザトウクジラだった。 海面からそそり立つ巨体がこちらへ傾いてくる。 奴は船を見据え、こちらを押しつぶさんとしていた。 イツキは咄嗟に甲板を蹴飛ばし、船から離れようと試みた。 彼が着水する間際、木材と鋼が軋む音が辺りに響き渡る。 そして漁師たちの悲鳴を全て塗りつぶす様に、あの白い巨体が海面へ叩きつけられた。 クジラが沈むのに合わせて海水が渦を巻き、イツキは海へ引き込まれる。 息もできず、見渡すばかりの碧い海で、イツキは船だった瓦礫と共に沈んでいった。
大抵こうして生命の危機に瀕した人間は、やれ走馬灯だの後悔だのが頭をよぎるものなのだろうが……イツキには走馬灯になる程美しい日々も、やり残した事も無い。 ただ、死を許された安堵があった。 彼が逆らう事無くただ沈んでいると、目の前にクジラではない灰色の影が現れた。 影はイツキへ問いかける。 「どうして……生きようとは、思わないのですか」
親無しの自分が、ただ一人だけ生き残ってどうすると言うのか。 自分はこの村で、彼ら船乗りに生かされているのだ。 船を失った今、自分ひとりでは只の『陸の役立たず』ではなかろうか――。
「俺だけが生きて世界が変わるとでも?」
そう言葉にすると、彼の口から気泡が溢れては海面へ上っていく。 どうやら彼は頭から真っ逆さまに沈んでいる様だ。 まるで身投げでもしたかの様な有様である。
「私の世界が変わるのです」
灰色の影はそう言って、こちらへと近づいてくる。 そんなの知った事では無い、勝手にしろと、イツキは無抵抗に目を閉じた。
漁村近くの浜辺。目覚めたイツキは訳も分からず海水を吐き散らす。 鼻や目の奥に塩気と痛みを感じながら、イツキは誰かがこちらをのぞき込んでいる事に気付いた。
逆光で顔は見えないが、彼の頬をそっと撫でる手は柔らかくひんやりとしていた。 朦朧とした頭では掛ける言葉も見つからず、そうこうする内に人々の騒めきが聞こえてくる。 顔の見えない誰かは、イツキをそっと浜辺へ寝かせ何処かへ行ってしまった。
イツキがどうにか身体を起こすと、彼を見つけて顔見知りの者が駆け寄ってくる。 先の騒ぎを聞きつけ救助活動に当たっているらしい。 イツキが辺りを見回すと、さざ波の合間に浅瀬から沖へと向かう傷だらけの背ビレが見えた。
数日後、地元の新聞記事にこんな見出しが出た。
『奇跡の生還! 海の怒りに触れ海難事故となるも全員救出‼』
そうである。あれだけの大層な事故(というか殺人まがいの出来事)にも関わらず死者が一人も出なかったのだ。 もしかして、あのクジ���は漁船を縄張り荒らしのライバルと勘違いしたのでは……などと他愛のない事を考えてみる。 するとアラームが鳴り、イツキに面会の五分前だと告げた。
イツキは船長や仲間の漁師を見舞いに、彼らの入院先へと向かった。 八床のベッドが並ぶ大部屋には船乗り達の加齢臭と強めのアルコール臭が充満していて、彼は入って早々に窓へと走る羽目になる。 窓を開け放ち入り口のドアを全開にすると、清々しい風が吹き抜けていった。 手土産の塩辛いツマミを渡しながら、イツキは今後について船長に訊ねる。 船長は彼の神妙な面持ちを「心配するな」と軽くあしらい、コッソリと耳打ちした。
「組合のモンから聞いたんだが……あの後、近くにいた船で人魚が掛ったらしい」
曰く、『美しい女の人魚で、怪我をしていたので保護した』とのこと。 そして村の習わしに沿って彼女をもてなす宴会を開くのだが、人魚にその話をしたところ「イツキを呼んでくれ」の一点張りで困っているらしい。 イツキは二つ返事で、宴会の誘いを了承する。
それから数週間が経ち、人魚が還る前の晩に公民館で宴会が開かれた。 参加者は主に村の漁師らで、主役たる人魚に大漁を祈って酒をガバガバと飲み干した。
夜空が微睡み、あれだけ騒いだ漁師らが寝落ちした頃、人魚はイツキに村を案内してくれないかと頼む。 酒の飲めないイツキは自車の助手席に人魚を乗せ、ドライブへと出た。 とは言っても、村には役場と魚市場と何かの遺跡跡しか無く、どれもエンタメ性に欠ける地味な場所だった。 イツキはミニマムな田舎道を器用に走りながら、助手席に座る人魚を時折盗み見る。
彼女は確かに人魚だ。 うるうるとした黒髪から覗く横顔はどこか日本人離れしていて、唇の色形がとてもきれいで端正な顔をしている。 そして、あばらの辺りのエラとへそ下から繋がるスリット、少しザラザラとした灰色の背中と、柔らかく冷たい真っ白なお腹が彼女を人魚たらしめていた。
イツキは「日が昇る前に」と、彼女を浜辺へ送り届ける。 明け方のマジックアワーの下、彼は人魚を助手席から抱き起して浜辺へと座らせた。 正直な所、港から海に投げ込んでも構わないのだ。 ただ、二度と逢えないだろうと思うと妙に名残惜しくなって、イツキは人魚を浜辺へ連れてきたのである。
イツキが人魚の隣に腰かける。 人魚は彼の腕をそっと指でなぞった。 水掻きがあり、それでいてか細い女の手が、血管の浮き出た褐色肌の上を辿る様に滑っていく。 「ここ。血が出てます」 人魚の指先が触れるとヒリヒリと痛む箇所。 どうやら彼女を抱き起こす際に擦り剥いてしまったらしい。 人魚は左手の薬指を己の唇に当て、その鋭い歯で掻いた。 何をするのかと眺めるイツキの腕をそっと取り、擦り傷に血を塗り込む。 傷は跡形も無く消えてしまった。
人魚に纏わる伝承。 その血は万能の妙薬となり、その肉は食す者に不老不死を与える――
「ねえイツキ」 人魚は彼に甘く囁く。 「私の肉を喰らいなさい」 訳が分からなかった。「��うして?」と人魚に聞き返す。 彼女は只笑って 「貴方には生きて欲しい」 と言った。
「――いや。いらない」 イツキは人魚を押しのける。 親が死んでヤケになって、そんな俺を拾ったのはここの人で、あの船乗り達なのだ。 人魚の肉など食らったら、恩も返せないまま戻れなくなるだろう。
「俺、結婚してんだ。子供もいる」 嘘だ。こんな顔で言っても説得力に欠けるだろうに、ほんとバカだよなぁ。
人魚は驚きの表情一つ変えないまま、ぽろぽろと涙を流した。 涙はきらきらと眩しい宝玉となって、二人の足元へ落ちた。
「――分かりました」 彼女は突然、イツキの腕を握り潰した。 余りの痛みに彼が身を引くと、人魚は彼を押し倒し砂浜へと沈める。 細腕に見合わぬ剛力で首を絞められ、イツキは訳も分からずこと切れた。
人魚はイツキの亡骸を胸に抱きしめ、声も出さずにただ彼の顔に宝玉を降らせた。 「頂きます」 人魚はイツキだった肉塊を全て平らげ、静かに海へと還った。
どうして、上手くいかないのか。 私だって、大切なものを守りたい。 好きな人間には末永く生きていて欲しい。 ただそれだけの願いが、どうしていつも叶わないのだろう?
人魚は深い海へと潜る。鮮やかな情景が過ぎ去り、碧く重たい暗闇が視界を塗りつぶしても尚、人魚は深みを目指し続ける。
もう、過ぎた事だ。 あのひとは私の血肉となり、私は今もこうして生きている。 それで充分じゃないか。 また、貴方の知らない海を沢山見せてあげる。 今度は何処へ行こうか? 私の大好きなイツキ。私の、大切な――
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20240625

4時に起きる。
季節は夏あるいは梅雨入りといった様相だが、春を芽吹かせて別れも告げずいつの間にか去っていった冬を偲ぶこととする。
とまあ我ながら気障な書き出しである。春先に書いて下書き保存したままだった日記に成仏してもらおうと思う。
思えばこの冬は薪をたくさん割った。朝は暖炉の火をよく起こした。
比較的に火をよく���た冬だった気がする。
0から始める半野蛮人生活
薪割りで桜の枝から出てきた小さなカミキリムシの幼虫。いわゆる鉄砲虫というやつ。
いつもはそのま放っておくとセキレイやジョウビタキ、最近ではイソヒヨドリが目ざとく見つけてつっついている訳だが、どういう心境の変化かその虫を食べてみようと思った。(どういう心境の変化だろう。)
その昔、海の幸の恩恵に預かれない山間部ではタンパク源として食されていたという。
そもそも虫の存在自体にあまり忌避感はないものの食べるとなると別だ。昔からテレビ番組の『ウルルン滞在記』とか見ながら、もてなしとして食卓に虫を出されたらどうするだろうとかよく考えていた。
一時期謎に流行ったコオロギはイナゴと違って昔の日本人が食べてないんだからやめといたほうが…派である。そもそもコオロギは食性が雑食、いわゆるスカベンジャーだから多分不味い。耐熱性の細菌を持ってるとも聞いた。
それで言えば鉄砲虫は木を食べてるから比較的清潔な感じ。
しかも今回は桜だ。桜の生木は割ると木自体から桜の花の匂いがして、もはや乙な感じすらする。
1.5cmぐらいのを数匹洗ってからなるべく糞を出させるために紙に包んでおいた。しばらく経ってみると分泌された油で紙が透けてしっとりしている。すごい脂肪分だ。蝋状の物質で巣穴を塞ぐため、あるいは掘った穴を滑らかに進むためだろうか。
いざフライパンで空炒ると膨らんでインディカ米のような見た目に変わった。気が変わらないうちに口の中に放り込む。
む…。
ポップコーンですな。完全なるポップコーン。食感はポップコーンの下の方に溜まった少し殻がついてるやつに似てる。
もはや虫というより穀類としか思えなくなり食べた後の心理的な気持ち悪さもない。動く穀類だ。
ただシロスジカミキリとかブリブリのでかい幼虫だったらどうだったかなとは思った。下茹でしてから焼いたらいける気もする。
最近本栖湖にいる大量の小さなエビをもはや野良エビチリとか野良かき揚げぐらいに考えてるのは虫食ったせいだと思う。
この歳になると日常の中で自分の観念の外側に出るような体験はなかなか無くなってくる。大体のことは想像出来てしまうし、あったとしてもトラブルだとかネガティブなものが増えてくる。そういう意味では40年間蓄積されたイメージの外側に出る非常に面白い体験だった。日常の中に冒険がある。
趣味程度に野菜を育てたりはするものの、狩りをしたり鶏を絞めて捌いたりとさっきまで生きていたものを潰して食べる、この身の内に取り込むという行為が日常の中にほとんど存在しないまま40歳まで生きてきた、というか生きてこれてしまった。
これはすごく歪つな、変なことなのではないか。
ちっこい虫を気まぐれに食っただけで何を急にとは思いますものの。
どこかで処理されパック詰めされた見知らぬ記号のようなものではなく、生の倦怠などとはまるで無縁の「生きる」という本能以外を持ち合わせない生き物たちを自分で捕まえて殺して食べる。そこからやってくる生き物としての強度があるのではないか、そんなことを思った。
その強さを文明や宗教でオミットしてしまったが故に、我々か弱き人間の苦悩や矛盾という面白さがあるのかもしれないが。
とはいうものの、釣りを始めたのは眠った狩猟本能をほんの少しだけでも目覚めさせるという目的もあった訳だが結局まだ食べてはいない。
あの目。
山羊とかと同じ黒い鏡のようなあの目だ。あれと目が合うと「とりあえず一回パス」を選択してしまう。
決して瞬きしない永遠を湛えた目。
逃がした魚は水の底で眠りにつく時その日の出来事を反芻するだろうか。あの目の中に私はどう映ったのだろう。
怯えていたりあるいは恨んでいるだろうか。
たまにそんなことを考える。
温泉通い ♨︎
去年の秋頃ぐらいから町営の温泉施設に通いだした。300円で入れるので多い時は週3回。結局今は週1回に落ち着いた。
もとは何年か前に通おうとしたのだが一度行った直後にコロナウイルスが流行して休館になったため断念した。
ヨイヨイの爺さんらの病気自慢に聞き耳を立てたり曲がった背中の角度を見ていると案外自分が考えているより早くこうなるんだろうなと思う。
結局人間最後に残るのは健康かどうかぐらいしかない。
温泉。
一年通ったらどんな変化があるだろう。
心身ともに良い変化が起こる気がする。
定期的に人前で素っ裸になるのは良いかも知れない。
虚栄心みたいな要らん日常の垢が落ちる。
そういえばこないだ見たニュースによると今俄かに『湯治』がブームなのだという。週末に温泉に行って風呂に入る以外何もしないのだと。多分コロナ明けの外出疲れが出たとかそんな感じ。
思うにあの訳わからん日々にみんな傷ついたんだと思う。自分は幸いまだコロナに感染していないがあの時期に負った見えない傷を癒しに行ってる部分もどこかにあるような気がする。
それと去年から謎に始めたお灸もその効果が世界で注目されているとNHKの番組で特集していた。
自分の感覚だけに従って行動したつもりが、時を同じくして世の中で流行り始めていることだったり、集合無意識的に同期することを少し不思議に感じる。
またこれは集合無意識的な話なのかわからないが、去年の年末に地震の夢を見た。真っ青な海の上に浮いた厚さ20cmほどのガラス板の上に四つん這いで乗っていてユラユラと大きく揺れる夢。その二、三日後に能登半島で地震があった。
まあ後からなんとでも言えることかもしれない。
お酒
お酒を7年ぶりに飲んだ。
ゆうても薬用養命酒だ。
寝る前に20mlキメて寝る。
効果はまじで謎。
養命酒飲み始めた日は何故かやめた煙草を当たり前にぷかぷか吸う夢を見た。マルボロの薄荷煙草。今いくらすんのやろ。煙草やめてもう10年になる。
養命酒は二瓶飲み続けてみたが、お酒は飲んだら飲んだ分だけ脳細胞が死滅するというから継続するかは不明。一本2000円以上すんのもどうなのかというところ。これを切っ掛けにアル中のいわゆる「スリップ」みたいに不毛な晩酌を始めないかが少し気がかりだったが飲みたい気持ちは全く起こらず。
あたしゃ素面で生きますよ。
登山

去年は武甲山の後に北八ヶ岳の蓼科山で山納めして、今年の山始めは奥多摩から御岳山まで縦走して頂上の武蔵御嶽神社に登拝した。
震災の後にNHK・Eテレの『見狼記』というニホンオオカミを探し求める人々を追ったドキュメンタリーを見て狼信仰の山、御岳山に登ったのが自発的に山に登るなどという非合理的行為の始まりだった訳だが、ぐるりと月日は巡り色んなことがあったことを山の神様に報告した。
その後春先に天子山塊の毛無山から雨ヶ岳を縦走、金峰山にも登った。人様に迷惑はかけるまいと個人的に禁じてきた雪山登山だったが登山歴も7年目ということもあり慎重を期して登った。いつもは地下足袋だがアイゼン着けるために久々に登山靴履いた。
誰もいない森の奥で木漏れ日の落ちる雪をザクザクと踏み音を立てて歩くのはとても心地が良かった。
途中立ち止まって踏み跡を振り返りしんと静まり返った森の中にいると昔思ってたより随分知らないところまで来ちゃったなと思った。ここは一体どこなのか。
この風景の遠い向こうに過ぎてった日々や出会ったり別れた人々や出来事がある訳だ。
みんなそれぞれの新しい日々を暮らしている。家族を作り、あるいはこの世界からもういなくなった人もいるのかもしれない。人の営みの当たり前のことがなんだかとても不思議なことに思えた。
しばらく立ち尽くしていると30mほど向こうの木陰に昔の恋人の幻影を見た。
冬の森の真っ白い光の中で真夏みたいな服を着て立っていた。
なんとなく、そんな気がしただけだ。
もうずっと昔。
いつかどこかの海辺で、真夏の日差しの中、砂浜にぽつんと佇む雪山の中年男の幻を彼女は見たかもしれない。
そうだったらバランスが取れるなと思った。
充電期間もそろそろ終わりだ。
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--深海人形特別篇-- 拙作の秘話とか裏話とか 6
※…拙作に関する秘話と裏話故、【閲覧注意】です(※はっちゃけ過激発言とかネタバレとかで)。
※…では、どうぞ。(※本編はPixivに!)
…生きなければいけない、死んではならない、…と言うのは呪詛であり、呪い。
【泡沫夢幻漸・蜃影】
※漸はゼンと読みます。
風山漸 〈卦辞〉漸は女婦ぐに吉。貞に利ろし。風山漸の卦が出たなら、女が正しい道理に沿った上で結婚するの好ましいと言う事である。尚、その女が貞正であれば尚良しであろう。本卦は結婚の卦とも呼ばれる。
…。
成長した江美子ちゃんの性格は、Blade Strangers・ブレードストレンジャーズこと『剣騎列伝』を参考にして居る。…嗚呼、そうだよ。…此れ位しか、参考資料無ェし……(遠い目)。
…。
…『泡沫夢幻漸影〜』収録の、『The Best Fresh!』の展開が原作と大分違うのは端折りまくったからでもある(…後は、原作のストーリーがやけに冗長だからと言う理由も)。
…。
…もし、出来るなら、『漸影』と『蜃影』を読み比べて欲しい。…『漸影』ならではのストーリー、…そして、『蜃影』で、ロジャー、キリコ、コットン、シロッコ達の影響で、何処迄、話の展開とキングネスとミシュラーナの状況が変わったか如何かも見て欲しい。
…。
…作中でも言及しているが、『泡沫夢幻蜃影〜』でシロッコが来て居る服は、仄暗いエリアに廃車としてあった『地球連邦の戦車(61式戦車)』内で見つけて拾った物。…デザインからして、特注品の様だが……。…本当は、「…第M08小隊野戦服にすれば良かったかな……?」…って思ったけど、…ほら、性格的に合ないし……、…彼奴、陸戦した事無ェし……。
…。
…ロジャーの場合は、全部、自前。…普通に、高級仕様だから、キリコがギルガメス軍から貰った耐圧服程では無いけど、着心地と耐久性能は相当良い筈だと思う。
…。
…それと、今回、ロジャーは、ポマードで髪をセットして居ない。…彼にはポマードのブランドに拘りがある。…なので、「…私は、特定のポマードじゃないと嫌なんだ。…無いのか?…じゃぁ、髪型を固めない事にしよう。砂糖で固めるなんて原始的過ぎる。」…と言う成り行きがあったりした。
…。
…繋がる版表紙でロジャーが右手で持ってるハンバーガーには、トマトが入って居ない(…尚、Fresh!作中のハンバーガーには、ちゃんと、トマトが入って居る)。
…。
…ロジャーは、ルアーとラバーロープの扱いが、カワセに匹敵する程巧い。…次いでに書いて置くと、ロジャーには大食いと言う設定あるけど出せなかった。
…。
…(※本編・原作の時点でだが)服装と靴にまるで変化無く、散髪代ケチって髪伸びただけ(※キリコの場合)。
…。
…一年戦争とシロッコの関係性を描こうとして、…物の見事に、上手く行って無いのは申し訳無いです(マジで)。
…で、何時か、一年戦争とZガンダム&ZZガンダム新規キャラ勢(特にジェリド)の関係性を描きたい。…其れと同じ様に、エルガイム、レイズナー(※実は後者をやるのあんまりする気無い)とのクロスオーバーモノ(※機動戦士vs重戦機、機動戦士vsSPTと言う逆襲のギガンティス感覚で)、マウアー、シロッコ、ジェリド、ガルマ生存ifも描きたいな(※どうせ言うだけ)。
…ぼちぼち、スーサイド トライアッド以外のビッグオー小説も描きたいですね(※…ジャンルは、多分、ギャグ小説です)。…後、エルガイム、ボトムズ、ドラグナー、ダグラム単体の奴も良いでしょうか?
…ロボットモノでは無いけど、コットンの話も、コットン単体で描きたいと思っております。アプリとタクートの事もあるし。…其処迄、…寿命と体力が追い付くか如何か、…さて、一体、如何なる事やら?
…、
…星の桃玉、HxH、格ゲージャンルから離れてしまい、大変申し訳無いです。
…。
…シロッコの靴は服と同じ様に拾った戦車兵の物で、ロジャーも其れと似た様な長靴(但しWW2米軍モチーフの物)を履いている。
…。
…シロッコの没服案に、呪術廻戦の伏黒甚爾に似た物があった。…没にした理由は、ガンダムらしく無いから(※…幾ら、シロッコらしくても……)。
…ガンダムらしさを追求するなら、…堂々と、『モビルスーツ(MS)』出せ!…って、話なんですけどね(※動かす自体が無理)。…其の点、『AT(アーマードトルーパー)』…って凄いよね、PRL液(と其れの代替品)があれば、何処でも動かせるのだから(※地味に恐ろしい)。
…。
…拙作と言うか本作のシロッコは、昔(本人的には若きの至りで)シャア・アズナブル(の専用乗機)とギレン・ザビに憧れてた。…だから、あの『名』演説をはっきりと覚えてたし、クワトロ・バジーナと言う人の前で、「…ニュータイプの成り損ないめが!」と莫迦にしたし、その(ジオン屋と言う)家号を盾にするハマーン様が嫌い。
…だけど、ザビ家で誰が一番推しですか?と訊くと、堂々と「ドズル」と答えます。其う言う人です。
…。
…『蜃影』は、シロッコの過去回想と一部後書きだけ読むのも、オススメ。…彼処等辺だけ何故か、無駄に凝ってる(自画自賛)なので(苦笑)。
…。
…戦闘のプロと聞いて、『剣鉄也』を思い出した者、(※素直に挙手)。
…。
…ロジャーとシロッコの身長は、両者共に180cmだが、横幅が違うので、並べてみると色々と面白いゾ(※体格も違うので益々)。
…。
…本当は、『蜃影』も、もっとRTAプレイ的に手短に終わらせる(長くて四万字)つもりでしたが、ロジャーとシロッコと言う名の味方が遅延行為しまくる鎖マン(屑)と言う身も蓋も無い状況になってしまったので、執筆終盤、登場人物変えしての再走を考えて居ましたが……(結局、しませんでした)。
…。
キリコ・キュービィ(20)※引率の先生に引率されるロジャー・スミス(25)とパプテマス・シロッコ(26)には我ながらだいそーげんww
…。
…ナタ・デ・コットンには、戦闘面だけでは無く、生活面でも、『シルク(達妖精族)』は必要だって『蜃影』執筆中に思い知った。
…。
機体性能の文章書いてて思ったんですけど、此のゲーム(海腹川背シリーズ全体)って体格良くて、体重重い方が、ゲームを進め易い、有利じゃありゃぁせんか?…と言う訳で、お前も筋肉ムキムキ体重だけデブゴリラになれ、矢張り、お前は筋肉ムキムキ体重だけデブゴリラになれ。海腹川背(猗窩座殿並)。
体格良くて、体重重い方が敵に吹っ飛ばされないし、ラバーロープの跳ね返りも振り子も作り易い。その代わりに、ロケット・ジャンプしても、あんまり加速を得られないと思うけど。まぁ、彼奴等なら、普通に川背以上に加速出来るよね。全部『根性』で。 ※根性で加速する男達の図(※そんな絵無いですし、描きません)。
…。
…終盤のあのシーンは、カワセをタンクデサントならぬアーマードトルーパー、ATデサントしてる。彼女、シロッコ機の上に乗せられてます。
…。
…『マホロア トワイライト二部作』と『スーサイド トライアッド本編』が、未だ、出来ないの本当に申し訳無いです。…日々に余裕が無い、体調が本当に悪くて、良い展開が思い浮かばなくて、中々描けていません。
…昔だったら、三週間も掛けずに全部完成、書き切れて居たと言うのに、未だ、情けなく、全然描けていない事を、如何か御許し許し下さい。
…『泡沫夢幻蜃影』にリソースを費やす位なら、マホロア トワイライトを完成させておくべきでした。
…因みに、『泡沫夢幻漸影』の方は実質執筆期間三日、『泡沫夢幻蜃影』は、丸々一ヶ月〜一ヶ月超掛かって居ます。
…。
…『泡沫夢幻蜃影〜』は『呪術廻戦』要素が強いが(此れを読むのは、中年層以降の方が多いだろうけど)、其れは、万が一このSSを読む事になった若い人にも分かり易くて良いだろう、…と筆者が判断した為。
…。
…あの四人(とカーリー出したらカーリー)居ると一気に、海腹川背じゃなくてメタルスラッグ3(至高の神ゲー)になる。鬼畜激烈難易度、特盛ボリューム、硬派世界観、初見殺し、訳分からん展開、多種多様要素過多、超級者向け、…正にメタルスラッグ3(※混乱)。…例え此れが洞窟物語でも、何れ必ずメタルスラッグ3になってる(※確信)。
…。
筆者が一番好きな設定(※閲覧注意)
獣人の間では余興として、人間(ヒト)を公衆の面前で裸に剥くと言う辱めもよくあった。…彼等曰く、「…『裸猿(はだかざる)』は裸が一番御似合い。」…だと言う。
……。
…まるでレイズナーのエイジみたいですねぇ!(何か違う)。
…。
没登場人物
本当に案だけ 適当
サンライズアニメ縛り枠
シャア・アズナブル(機動戦士ガンダム他)
ジェリド・メサ(機動戦士Zガンダム)
カミーユ・ビダン(機動戦士Zガンダム他)
クリン・カシム(太陽の牙ダグラム)
マイヨ・プラート(機甲戦記ドラグナー)。
…本編執筆後半〜末期の時に、本編自体が冗長に長く成り過ぎて、…いっその事、据え置き枠キリコとジェリドとクリン(かカミーユ)で描き直そうと思った位(※…此の面子なら、高確率で長引かない筈なので……)。
…本編が此処迄長くなった戦犯は、ロジャーとシロッコだってはっきり分かんだね(迫真)。
参戦=レギュレーション違反枠(理由付き)
五条悟(呪術廻戦)
理由:話にならない
夏油傑(同上)
理由:上に同じ
…男ばっかりで草(※…とは言え、当然の様にウェイン兄弟出されても読者全員困るのは知ってる笑)。…更に、機体(キャラ)増やせば増やす程R-TYPE FINALとR-TYPE FINAL-2染みて行くの大草原(※何れBazooka以降はそうなる運命・さだめの気もするがww)。
…。
『虚言の魔術師と幻影旅団シリーズ』
…拙作『異宇宙〜(Tbf.)』で、クロロ達が、露骨にイカタマを魔法が使う魔獣、只其れだけの動物として見下してるのは、今も未だ、自分達が凄まじく部外地域の住民から虐げられ、差別されて居る反動(…皮肉だよね)。
…。
※胸が悪くなるので注意
…後に、ローアとマホロアから『クロロ団長達はとある王族の宝を奪いに行った船ごと沈んで、死んだ』って聞いたら、ハルカンドルディ達とメタル ジェネラルは、旅団を仕留めた相手についての詳細が分かった時には、旅団を仕留めた彼等を『害虫の駆除者(Pest Controler)』として感謝したとか(何とか)。
そして、「…ザマァww!!!!!!盗賊風情が!!!!!!!ハルカンドラを荒らしたから其うなったんだ!!!!!!」と冷酷に吐き捨てたけど、其の態度に、マホロアとローアとランデ���アが憤慨したみたいな、更なる後日談ある。…胸の悪くなる話だが一応書いて置く。
…。
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回想録・雨見と黒飴(中)
あれから11年。すっかり16歳になってしまった雨見と黒飴。高校生となれば、やはり多忙となる事もあるだろう。進んだ高校は違えど、歳が同じ事には変わりなかった。流石に連絡無しで11年も経てば、互いの事を覚えてなどいない。
そんな中で黒飴は夏休みが始まると言うのに、何をしたいのかはまだ決めていなかった。だが同級生達の会話を聞き、何かを思い出した。
「………海?」
なんて事の無い、ただの思い出作りの為の会話。それでも、彼は必死に思い出そうとする。
「(…確か俺は、あの海で女の子に会った。今でも場所は覚えている。だが、あの子が誰なのか分からない…!あの女の子は………今何しているんだ?)」
確証の無い言葉だが、彼は決意する。
「………俺も、あの海に行きたい」
一方で、雨見もまた夏休みの予定を決めていない。課題は少ないもののとりあえず終わらせるとして、それから何しよう。その何かが、全く決まっていなかった。
「………このままだと、寝るだけで終わりそう………どうしよ」
そんな彼女に、同級生は海を薦めた。水着を着て泳ぎ、暑さを忘れようと。しかし彼女は、少し嫌そうな顔をして返す。
「えっ………海?………別に、嫌じゃ無いけどね………」
水着なんて着れない…なんて事は言えなかった。だが、その話を聞いて同時にある事を思い出す。
「(うう………恥ずかしい………でも、いつか忘れたけど行ったあの海は綺麗だったな。確か男の子もいたけど、名前何だったっけ…もう覚えてないや)」
人の気配を嫌い、どうせ何も無いより、と彼女はある1つの事を決心した。
「…あの海なら、1人で泳げる。誰にも見られないからそれでいいよね」
思い出がある海。それは朧げでも、何処にあるかはまだ覚えていた。そして、迎えた夏休み。
「はぁ………だるぅ………」
「あつぅい………寝れない………」
何とか終わらせた課題。容赦無く照る太陽の暑さが、黒飴の体力を奪う。対して、雨見は課題がまだ終わってない。暑さで今にも溶けそうな程にぐったりしていた。
次の日。快晴でまたしても暑い。どうにかして少しでも気分を変えようと、あの日の海に向かう。あの時とは一味違う、水着と共に。
「ふわぁ……この海ならいっぱい泳げるね」
10年以上も前から、相変わらず人の気配が全く無い海。服を脱ぎ、雨見は人に見せるつもりが無かった水着姿になる。
「どうかな、気持ちいいかな」
暖かい潮風に、珍しく意気込む雨見。だが、これから海に入ろうとした矢先、後ろからトーンの低い、誰かの男の声が聞こえた。
「誰も………いないよな?」
その声で、ぴたりと止まる雨見。海を見つめて、彼女は思いを巡らせる。
「(だ、誰…!?…他に誰か、誰も知らないはずの海を知る人がいるだろうか。いや、いない。私の知る限りだと、私以外に2人だけ………でも誰だっけ)」
漣の音をただひたすらに聞く彼女に、後ろからの声の主が近付いてくる。その人こそ黒飴なのだが、彼もまだ確信を掴めずにいた。後ろ姿は確かに以前会った女の子を思わせるが、それだけではまだ分からない。海の方にいる彼女を前に、砂浜で足が止まる。
「(誰かいたな、あの海に。名乗る……?いや、流石にやめとこう。多分俺の思い違いだ。だけど、こんな海に入る様な女の子といえば、俺にとっては多分そいつなのかもしれない)」
当の雨見も、彼の方を振り向けない。やはり人違いだ。互いの想い、すれ違い。その沈黙した空気を破り、意を決したのは黒飴の方だった。彼は海の漣に近付き、距離を置いて雨見の隣までくる。
「(うわあぁぁ………来ないでぇ………心臓が破裂しちゃう………)」
誰なんだろう、と思って横に向けた視線。見えたのは長い海パン。やはり、同じ歳くらいの男の子。しかし、彼の顔を見てある疑問が浮かんだ。
「(黒い髪………だったっけ………?水色でも、黄色でもなく??)」
そんな事を思っていると、隣にいた彼が話しかけてきた。
「あの………1人で?」「あっ、うわぁっ!?」
びくっとなり、動揺した彼女。しかしそれは、彼もまた確信を得るために近付こうとしていたのだった。何とかその場を凌ごうと、彼女は彼との会話を始めた。
「………は、はい」「………名前、聞いても?」「(えー…!?いきなりそれ聞くの………?こんな知らない様な人に…いや、でもこの海自体、最近の10年の真夏でも何故か来る人が誰もいないって聞いた。やっぱりあの、男の子かな)………雨見、です」「あ、あまみ………!?(どこかで聞いた名前、そして海。やっぱりこの女の子は………)」「あの、何か?」「あ、ごめんなさい。俺は黒飴です。11年振りにこんな海に来たのも何かの縁で………」
名前を聞き、幼い頃の記憶を完全に思い出した雨見。彼の話を遮り、逆に聞き始めた。
「えっ、待って。11年前にこの海に来た黒飴ってまさか…君があの男の子!?」「ん…そうだけど、でもそれなら…雨見って俺がその時会ったあの女の子で合ってる…のか?」「………そう!」
遂に繋がった想い。2人は砂浜に上がり、そこで色んな話を聞いた。
「久し振りだね、黒飴くん」「そうだな、雨見ちゃん」「いやー、びっくりした。まさか、黒飴くんがあんなに変わってるなんて思わないもん」「そうか?雨見ちゃんだって結構変わったよな」「私は進化してこうなっただけで髪染めてないけど………まさか染めたの?」「そんな訳無いだろ。俺も同じく、進化したら変わった」
互いに容姿の話をする。黒飴の方は黄色い髪が漆黒の髪に変わり、長くなっていた。ややがっしりした上半身に、ダークグレーと白の長い海パンで下半身の膝までを覆っている。雨見の方は水色のショートヘアは紫色のロングヘアに変わっており、成長して豊満に膨らんだ胸をフリルがあるチェックの水着で隠し、お腹とおへそを見せていて、その下に長めのパレオを着こなして下半身と足を隠していた。
「何か、随分大きくなっちゃったね。初めてこんな海に来てから」「それも………そうだな。凄い可愛くなった」「そんなかっこよくなった黒飴に言われると、なんか凄い恥ずかしい…」「…いや何でだよ」「あの…ちょっと、じっくり見ないで!恥ずかしいから!!」「…え、まさか俺嫌われた?」「ち、違うの!その…私の体をそんなに見られるのは…ね、恥ずかしいからやめて!と言いたかったの。その…もう、子供の時とは違うから…」「あー、そっか。それはごめん」
息を切らす雨見、目を逸らした黒飴。だが、互いの顔は紅潮していた。やはり年頃の少年と少女と言うべきか、見せるはずのない水着姿を見られてしまい、そして見てしまった事で互いに意識せざるを得なくなってしまった。
「(うわぁぁん………恥ずかしい………)」「(でかい………可愛い………)」
視線を逸らし、熱が収まると再び話を始めた。
「…今、高校行ってんの?」「うん。今夏休み!黒飴くんは?」「俺も行ってるわ。夏休み入った」「そっか。私ね、課題がまだ終わらなくてね………」「俺は一応終わった」「えー!?」「…力になれるか分からないが、雨見ちゃんの課題終わらせるのに協力してもいいか?」「全然いいよ!」「…まあ、どうせ暇だしな」「ねー、そろそろ海入ろうよ」
真夏の暑さ、2人だけの世界。水飛沫を上げながら、海の水を満喫する。海と共に成長した雨見と黒飴は、その体を濡らして楽しんだ。
「えい!!」「うわっ!!」「…やったな?お返しだ!」「きゃあっ!!冷たい!」
日が暮れる��で、楽しむプライベートな海。それは11年前と同じ光景だった。
「あー………楽しかった」「ぶっちゃけな話、雨見ちゃんは他の海行きたいとか、無かったのか?」「いや、黒飴くん。逆に考えて。ただでさえ恥ずかしがる私が、人のいる海に行きたいとか思う?」「んー………まあ、無いか」「そ!だから、本当は1人で楽しむ予定だったけど………黒飴くんが来たから数倍楽しんじゃった!それだけ!」「………それ、俺も同じだな」「やっぱりそうなんだ」「俺の場合は、あれだけど。この海入って、1時間くらいで帰る予定だった。久々にこの海行きたかったってだけ。そしたら雨見ちゃんがいてな………結局、2人きりで夜まで楽しんだって事さ」「私達、もしかしてイチャイチャしてて誰かに狙われるかな。誰も来ないからこっちは堂々と楽しんではいるけど」「いや、それは無いんじゃねーの。元々人のいない海だし、誰かに恨みを抱かれる事も無いだろ」
人の気配が無い海。夜に食べる物を近くで買い、腹を満たしていた2人。そして彼は砂浜を歩き、トイレに近付いて行く。
「…ちょっと俺、トイレ行ってくる」「うん。いいよ」
10年経っても相変わらずの小屋、暗いトイレ。長年誰も来ないにも関わらず、壊れた気配は全く無い。そして彼は、この海が何故人の気配がないのか。その真実を知るべく、近付いた。
「はぁ………用を足すか」
静かに、彼が用を足す音だけがそのトイレに響き渡る。そして、周りを振り向いても誰もいない。だが、彼がトイレを後にしようとした時、何者かの声が聞こえた。
「………失せろ」
小さな声だが、彼には確かに聞こえた。そして、何かを確信する。
「長かったね」「いやー…久々に肝が冷えたな」「え?肝試し?」「違う。トイレしただけだ。照明がないとはな」「そうなんだ…えっ!?」「…どうした?何か思い出したか?」「あー、あのトイレ………」「そういや雨見ちゃん、小さい頃にあのトイレでもら…」「あー!やめてぇ!!思い出したく無かったのに!!ばかぁ!!!」
聞き流そうとした雨見だったが、聞き流せる訳が無かった。そう、彼女は幼い頃にあのトイレに行って漏らした事があったのである。すっかり忘れていたのだが、黒飴の話で思い出してしまい、またしても顔が紅潮する。べちべちと両手で黒飴の体を叩く。
「痛った!あー悪かった、この話はやめだ」「うぅー………」「今日はここで寝るか?」「そうだね。どうせ明日も休みだから…ふぁー」「じゃ、おやすみ。トイレ行くなら教えてくれ」「い、行かないから!」「………すぅー………」「寝ちゃったかぁ………おやすみ」
夜ももう更け、深夜になる。先程の話で強がっていた雨見だが、彼の寝顔を見て彼女もまた砂浜で眠った。
「………すー………すー………」
優しい寝顔で、寝息を立てる。だが、それは突然やって来てしまう。いくら我慢出来るとはいえ、流石に朝が来るまでは無理があった。ゆっくり起き上がり、彼女は黒飴を起こす。
「………うん?何だ、トイレか?」「黒飴くん、お願い!」「…ああ、分かった」
流石にもう子供ではない。とは言っても、トイレから声が聞こえるとなれば、それが本当なのか気になってしまう。あの時の用心深く警戒して、そのトイレに行く雨見。
「これ………お願い」
パレオを外し、彼に渡した。そしてほぼ真っ暗な個室に入り、周囲を警戒しながら用を足す。
「はぁ………はぁ………」
体が震え、肝が冷える。やはり黒飴の言っていた事は本当だった。彼女は一目散に個室から出て、真っ暗なトイレを抜ける。
「………………」「えっ?」「…何か聞こえた!」
するとまた、人のいないトイレから何者かの声がした。黒飴の耳には聞こえなかったが、雨見には聞こえてしまった。パレオを着け直し、彼女は話す。
「おっぱい!?」「…そう、聞こえたのか?」「うん…何でなんだろう」「いや、それは雨見ちゃんが…その…」「?」
ここで、彼が膨らみの大きな雨見の胸元を見ている事に気付いた。
「嫌ぁ!黒飴くん私の胸見過ぎ!」「気付いてた?」「やめてもう!用心深く行って損した!」「損したか?俺の時は違ったぞ」「え?」「俺の時は『失せろ』って言われた」「あー…」「大丈夫か?」「うん。今度は何ともないよ。相変わらず怖かったな」
不気味な上に声の聞こえるトイレ。多分この海に誰も来ない理由は、10年以上も前からこの海の夜に幽霊がいる。と言う都市伝説の類が噂されていて近付けないのではと言う結論に辿り着いた。
「そうか。とにかく、この話はおしまい。もう寝よう。明日、雨見ちゃんの課題一緒にやるわ。おやすみ」「うん、宜しくね。おやすみ」
一夜を共にした2人の夏休み。その後、雨見の残っていた課題が終わる頃には、すっかりそんな肝試しの様な体験も忘れてしまっていた。
互いに距離が近付き、高校が違えど共にした時間。そしてそれは2人が卒業し、永遠の愛を誓う時が間も無くやってくる。『共に生きる時間』として。
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9月10日の役者紹介
はいどうもこちら9月7日お昼下がりのクオリアです。33期です。野良の幕班員の仕事がないのでこっそり役者紹介していこうと思います。
黍
ウチのマイメン神友ズッ友フォーエバーきびのまきび。何度バ先を聞いても人を殺すバイトと言われ、クオリアだけには家の場所を教えないよう先輩に釘をさしたらしい。それでも君は私のズッ友。
これで何度目か知らないが君のセンス全てが好きさ。でも僕の見ている君はきっと氷山の一角なんだろうね……そんな!氷山の一角だなんて!じゃあ全ての力が解放されたらどうなっちゃうの?!次回「黍、はじめてのモルカー」デュエルスタンバイ!
ふう。
やらかすと怖いから同期から先紹介しちゃお。
竹之内かの
雰囲気だけでちゃうかの汚れを浄化し、優しいアロマの香で包み込む。その柔らかな笑顔の前では皆鼻の下が伸びきるため、真剣佑さえ3頭身になるとの噂も。可愛らしい雰囲気とは裏腹に、鼻の底に潜む狂気が沸々と泡立つ。これがパンケーキの泡なのか、マグマなのか私には分からない。しかし、天然かつ一品ものであることは確実だ。
田中かほ
彼女の笑顔は次世代のエネルギーとして日本中が期待を寄せる。余りにもにっこりかわいいために最近ビリケンさんが自信喪失中とのこと。しかし、ゆるゆるした空気に釣られてなめてかかってはいけない。すぐ様舌先の刃でとどめを刺される。ハニトラにかかった気分だよ全く。そんなとこもす
余談だが大道具の出席率は150%。1ミリも関係ない映像編集を手伝ってくれたしめちゃくちゃ優しい子。努力家な彼女には見習うべき点がおおい。
山根拓己
アラビア山脈の奥底には険しくも厳しい砂漠がある。そこに眠るオアシスを巡り、人々は幾千もの争いを繰り返していた…。争いは熾烈を極めたが、その中でも初回裏敗退を果たし、地区予選に進めなかった一族がいる。かつあげを恐れた彼らはせめて幼き者だけでも、イカダを使って赤子を海に流した。それこそが彼、しあらである。そのため、彼は30歳になったらシカゴに帰らなくてはならないらしい。
ベジ山ハム太郎
なんか野菜がいっぱい入ってる。私はハムサンドよりもたまごサンドの方が好き。多分食べ進めると中にいちごジャムとかはいってると思う。何でいちごジャムなのー?って聞いたらエヘヘへへって笑いながら「だってさー、美味しくない?ジャムってさあ、何にでも合うねんなぁ。エヘヘへへっえ、美味しくない?美味しくない?なあハク、美味しいよなぁ?なぁ?」て言うと思う。絶対。
君安飛那太
可愛い。可愛いけど可愛いと思ってはいけない。なぜなら奴はあざといからだ。前世で橋本環奈の爪の垢とか飲んだに違いない全くもう羨ましいぜ。いいヴォイスでいいキャラが繰り広げられるため君のシーンは飽きの来ない面白さがある。キレッキレな演技には見習うべきところが多い。あと可愛い。
頬張りマスト
最近上野動物園を脱走したパンダ。笹と竹の見分けに苦戦している。
#劇団ちゃうかちゃわん
オペさん
藤丸翔さん
右手にナグリ、左手に灯台、その口うねり出すは鋭きツッコミ。「1人三種の神器」というあだ名が着いたのも納得だ、その全てが一等品なのだから。彼が1人立っているだけで会話の盛り上がりが違う。一見滑りそうなボケだって彼の手に掛かればA級ギャグに早変わりするぜ。これには平野レミもびっくり。
スダチさん
うどんに入れると美味しいが、ちゃうかのちゃわんに入れるともっと美味しい。人々を釘付け、否、インパクト付けにする映像を華麗に作り続ける須田さん、その鋭い眼差しの先には一体何が見えているのか。たまに楽屋裏でお菓子をつまむ様を見かける。有能細身イケメンがお菓子もぐもぐしてるの可愛い。映像余裕持って出したかったごめんなさい
久保勇貴さん
あいも変わらず忙しそう。オムニ期間くらいまでは会う度に印象が変遷していた。今のところはダークブルーで描かれてる3日後ピンクとかになってるかも。制作会計などまとめるお仕事が多そうだけどストレスまで抱えちゃダメよ適度に除いてね。と、言っても頑張ってしまうのがくうやさんなんだろうけど。
私の本名頬張りマストなんで苗字が「ほ行」じゃないですか。そうすると大体最後に回されるんですよ。給食で好きなおかず選べるみたいなのあったんだけど大抵唐揚げとか残ってなくてなんか鯖の塩焼きでがっかり、みたいな。なんで今回はオペさんを間に挟もうと思いました。名付けてオペサンド!すだちうどんの次に美味しそう。
先輩方
敬称は略しませんが敬語は略します。あぶり焼きとかしたら出てくるかもしれないです。あぶり焼きしないでください。
でぃあっ♡さん
でぃあさんが立ち上がると風がお辞儀し、空気が弦をはり始める。その圧倒的なプロポーションの良さに空いた口がマンホールになりそう。だけど何か教えてくれる時はとっても優しい。これは33期への自慢だが私はでぃあさんと柔軟を組ませていただいたことがある。どうだ羨ましいだろうでへへへ。
ひろせんせーさん
CVが豪華とのことでこの夏話題沸騰中。たちまちTwitterのトレンドを掻っ攫い、街にはグッズが溢れかえった。何のとは言わないが演技を始めた瞬間役が憑依して、貫禄まで滲む彼の演技力たるや。因みにアドリブもツョツョっぽい。なんてこったぱんなこった。
島﨑愛乃さん
鈴を転がしたような透明な声と花を摘んだような朗らかな笑顔のこっこさん。こっこさんの歌声を例えるなら夏に雑貨屋で売ってる、ピンク色の小瓶にちょこんと詰まった可愛らしい飴。ついつい手に取ってしまい、時々カランコロンと鳴らして楽しい、でも頬張ったらゆるゆる溶けちゃう、そんな飴。
おはようさぎさん
余りにもいい人。力作業も編集も演技もラップも全部すげぇのにその上いい人だから33期の尊敬の眼差しを掻っ攫ってる。信念に少年漫画をめちゃくちゃ感じる。ぶびさぎょうで理想の恋について(私が)語ってたらいつの間にやらガウスさんが話してた。黒の組織の話に移り変わってた。なんでやねん。髪色なんでも似合ってて凄い。
土下座したい
謝りたい気持ちが先行しすぎたまずい。舞台の上ではエモを、放課後にはハケを自在に使いこなす我らがぶびチの橋本悠樹さん。私は後輩に怒らないことで定評のあるはっしーさんを悉く困らせてしまったため顔向けが出来ない。なので二度とペンキを撒き散らさないことを50回くらい誓おうと思います。私はそうなれないことを知った上ではっしーさんにめちゃくちゃ憧れている。センスもノリの良さも色々。だからなんだって話だけど迷惑かけるかもしれないが見守っててほしい🙇♀️
津島ヨモツさん
演出家と役者、2デッキ使いののちぇさん。31期Tシャツもドタイプです。せんびののちぇさん入れたら3デッキかもしれない。後、先輩としても優しいのが伝わってくるしお話面白いし1、2、3…あれ?もしかしてNデッキ使い?のちぇさん最初めっちゃしっかりした人かと思ったらしっかりしてるんだけど偶にふにゃふにゃしてて可愛い。
堀文乃さん
圧倒的な演技力と唯一無二の安定感を誇るカリスマらめるさん。凄すぎる人って周りの人が遠��して近づけなくなったりしがちだけど(後輩の身分だと悪気なくそうなっちゃう)そうならないのはらめるさんのお人柄ゆえ。私たちにも積極的に絡んでくださってしかもめっちゃ優しいから「らめるさん〜🥺」ってなる。仕事あまり抱えすぎないでお体ご自愛ください🙇♀️
中津川つくもさん
よく絡んでくださる優しい先輩。いっぱいお話しできるのめっちゃ嬉しい!舞監としてのしっかりしたつくもさんと、普段の明るく優しいつくもさんどっちもカッコいいんだもん憧れちゃうよねー。あ、あとダンス💃がお上手すぎてポケ〜って見惚れてまう。なんて言うか…美しい。あと立て看の作り方は大体つくもさんに教えていただいた。カフェ行きたいですカフェカフェ。
なしもとはなさん
あまりにもハマり役。はなさんがセリフを喋る度に関係ない私にまでグッとくるものがある…グッとね…こうグッと…。ぐはっ!
後輩と喋ってくださる時めちゃ優しい。前、稽古で2人になった時私のセリフ読みにめちゃ付き合ってくれた。あとコーナンの場所もめちゃ教えてくれた。めちゃめちゃ美しくて優しい先輩。めちゃっ。
雑賀厚成さん
演技や部署で絡まない人(私)にもお疲れ様〜とか声かけてくれたり兎に角優しいシドさん。この前音響会議のお菓子くれた。やったね!喉にカセットテープ飼ってるタイプの人間。先輩曰くKing Gnuが“よすぎる“らしいので今度リクエストしようと思う。私の目の前で歌ってくれないかな…チラッ(p_-)
杏仁アニーさん
全部署の裏方における圧倒的ハイセンス、柔らかな微笑みと眼差し、息飲む演技力、悪人のパンダでさえ涙しそうな優しさ…どの角度から見ても完璧すぎてルービックキューブが土下座するレベル。ちなみに後輩の私は頭が半分くらい地面にのめり込んでる。めりめり。センスがハンパないし仕事のキャパもエゲツない。けど無理はしないでほしいよドラゲナイ。
トニーー板倉さん
電車で鉢合わせたため奴は隣にいる。ここらへんから9月10日世界線のクオリアですどうも。魅惑のヴォイスとアフロを武器にちゃうかの奴隷となった男、とにさん。照明しかり稽古しかり全体像を俯瞰するのに長けてる人だと思ってる。面倒見良いし、1番頼りにしてる先輩。だる絡みしてごめんねウザかったら練4から突き落としてもいいよ、怪我のない範囲で。
西田幸輝さん
ゆるゆるとした空気感を醸し出しながら舌先から放たれる言葉は切れ味抜群。ギャップ萌え選手権審査員賞を受賞した経歴は伊達じゃない。ちなみに伊達巻は美味しい。頼もしき大道具の方。なんか大道具上層部って共通する空気感ないですか?え、ないかな。なかったらごめん。ないかも。声のトーン好きです。衣装も似合ってます。ちゅるちゅる。
暁あじろさん
ニトロさん。名前が美味しそうなちゃうかランキング8位くらいを飾る強者。高身長イケメン抜群の運動神経などモテる要素のよりどりみどり風見鶏パック。でもどことなく"こっち側“の雰囲気を持ち合わせてるのがいい出汁になってる。こんな失礼な私にも優しく接してくれたことからも根っからのいい人だと伺える。頼りにしてますニトロさん🙇♀️
山内詫助さん
オレオの何がいいってさ、クッキーの間にクリームが挟まってるところだよね。でさ、オレオさんの良いところってさ、その優しさの間に神的なセンスとマグマのような謎が挟まってるところだよね。紹介するならそんな感じの人だと思っている。ちなみにオレオさんの深淵は覗いたことないからわからない、当たり前か。
西岡克起さん
神の経路と書いて神経と読むが、そのことを実感するのがこの方。抜群の運動神経、寸分狂いの無い書、圧巻の演技力、すぐ始まるジャン負け…凄い、あまりにも凄すぎる。彼の身体には神が駆け巡っているに違いない。会話途中で「ねぇクォーリー散歩いこー」とか「自販機行こー」とか思い立ったが即行動って感じの誘い方してくれる。んで着いてくと大体楽しい。西岡さんが楽しい人だからね、これからもいっぱい話してほすぅい
かけうどんさん
誰とも共有できなかったところでシンパシーを感じるため、先祖で交流があったのかもしれない。万屋の店員と客とか仙人と弟子とか。ひねくれてると言っていたが、そのひねくれを真っ直ぐ貫けるのがロッドさんなのだろう。世間に合わせてひねくれを捻じ曲げてしまう方が実はひねくれなんじゃないかうんぬんかんぬん…あと竹川食堂行きたすぎる料理作ってくんで招待してください🙇♀️
高井下高井戸店さん
センスいいとか多才とか言われ慣れてるでしょ?でもなんぼあっても困るもんじゃないですからね、何度でも言いますセンスいいし多才かよ。習ってないピアノを練習したりギリシャ神話や日本史の本借りてるところを見た。自分が思う良いものに対して向き合ってどんどん吸収していく人なんだろうな。センス良いって結局はそういうことを言うんだろうなと思ってる。あとお化粧した時のお顔が可愛くて好き。あとロビさんとお話し出来ると嬉しくて心がぴょんぴょこするのでもっと話しかけて良いですか?
完
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居酒屋海猫
夜おそく城崎温泉駅に着いた私たちは、鳥取砂丘の風砂にまみれた体を引きずりながら赤提灯を探していた。八月の曇った日曜日だった。色浴衣の観光客はもはや見えず、ただでさえ重いリュックとキャリーバッグに覆い被さったいやらしい笑みのような真夏の夜のどろりとした湿気、その中を歩くことは、かつて小学校のプール授業で体験した着衣水泳を思い起こさせた。前日は京都から岡山、津山及び奈義へ、今日は鳥取から移動して疲労が溜まっており、暗がりのなか私たちの口数は少なかった。
「海猫」は温泉街のはずれにあった。大規模な旅館をいくつか通り過ぎ、「おでん(安心して飲める店)一品料理」と書かれた横に細長い電飾看板が目に入った時、私たちは同時にふうと息をついた。長旅の疲れを温泉で癒そうと今回最後にこの地に赴いたのだが、海と山のあわいに数々の文学作品をあたためた香り高い風土をゆっくり味わうため、地元民の集いそうな小さな飲み屋をあえて——とはいえ偶然地図で見つけたに過ぎないが——選択したのだった。
短いのれんをくぐって引き戸を開けると、主人と思しきおやじさんが「電話くれた人かい? 駅から歩いてよく来たね」とくしゃくしゃの笑顔で迎えてくれ、私たちはL字型のカウンターの端に席を占めた。先客はよく日に焼けた青年三人ともの静かな老夫婦の二組のみで、どちらも近くに住む者らしく、おかみさんが酒を注ぎながら会話に相槌を打っていた。ビニールカーテン越しにビールと梅酒のソーダ割りを頼む。後で聞けば、うちは北の端っこだから他所から人が来るのは珍しい、とのことで、私たちの来訪を不思議に思ったそうだ。調理場の奥の天井近くに据えられたテレビにはオリンピックのバレーボールの予選が映し出されており、おかみさんが点数を気にして時おり手を止め見入っている。壁の一部はマジックで描かれた落書き、いな多くの寄せ書きで埋められており、その上に常連客の写真が貼られている。目の前の曇った冷蔵ガラスケースにはサザエやサーモン、イカ、うなぎなどの食材が陳列されており、見ているだけで楽しい。青春18きっぷでの旅、それも目的地をこれでもかと詰め込んだ強行軍ゆえ、ようやく落ち着いて座れたところで尻が痛いままだったが、年季が入った店内の飾らない雰囲気に私は早くも安らぎを感じ始めていた。
壁面のメニューを見渡すと、百円から一番高いものでも七百円と、かなり良心的な値段である。青とうがらし、せせりポン酢、ホルモン、チヂミとお願いすると、覚えられなかったようで、ひとつずつ二度繰り返す。料理は夫婦分担で手際が良い。テンポよく出されたつまみに口を付けると、どれも家庭的な味がしてほっこりした。小腹が満たされたのでタバコに火を点ける。いい感じに酔いが回り体の力が抜けていく。追加で大根とすじのおでんも注文する。出汁がめっぽう旨い。老夫婦は相変わらず話しているのかいないのかわからない。青年らは二軒目にスナックを欲していたが、おかみさん曰くどこも休業中だそう。荒くれ者らしい無遠慮な言葉遣いで礼を言って彼らが出て行った後、一転して静まった店内に日本対イランの点差が僅かであることを実況アナウンサーが告げた。
少し前からおやじさんの姿が見えないと思ったら、ラーメンの出前に行ったという。「宅杯ラーメン」なる行灯を引っさげて宿の前まで車で出向き、屋台さながらその場で作って手渡すそうだ。そういえば店の前にもラーメンと書かれた看板があったし、事前検索でそれについてのレビューも目にしていた。ハイボールと梅酒ソーダをおかわりしてから、締めに頼むことにしたが、塩バターか油そばで私たちは大揉めに揉め、あっち向いてホイでなおも決着がつかず、とうとう譲らなかった私に彼女が根負けする形で、地方にしてはあまりお目にかからないであろう油そばに決まった。おやじさんが帰ってきたのでお願いすると、なぜかおかみさんが作り始めた。そういえば、後から入ってきた小田和正似のスーツの男性は醤油ラーメンだけ食べていたし、おやじさんはしばらくして二度目の出前にいそいそと出かけて行った。どうやら城崎に数少ないラーメン屋として重宝されているようだ。
「こげーなとこまで来て、どこに泊まるの?」
手の空いたおやじさんが私たちに尋ねる。水郷です、と答えると、「そりゃまた遠いとこ、南の端だね。帰りは送って行きますから」との温かい言葉。すでに足が棒のようだったので、感謝しつつ甘えることにした。遠慮はいらん、とおやじさんが笑う。はいよ、とその奥から皿に盛られた油そばが出てきた。チャーシュー、もやし、ねぎ、紅生姜がトッピングされており、底に醤油ダレが沈んでいる。甘えついでに卵も乗せて欲しいとせがむと、「ちょっと産んでくるわ」とおかみさんが笑いを誘う。黄身を落としてかき混ぜれば醤油の香ばしい匂いが漂ってくる。争うように箸を伸ばしてズズズとすすると、これが大正解、パツパツの細麺に濃厚なタレが絡んでめちゃくちゃに美味しいのだった。思わず、最高や、と呟くと彼女は無言で大きく頷いた。夏バテとは縁遠い私たちの、最後まで勢いの変わらない動物めいた食欲を前にして、麺はあっという間になくなった。残り少ないグラスを傾け、改めてテレビを見やると日本がマッチポイントにさしかかっていた。が、幾度となく相手側の好プレーに阻まれている。
「ジュース(デュース)ばっかじゃダメやねぇ、ビール飲まんと」
爽やかな顔立ちだが勝利への確信と喜びを、ネットを見据えて緊張した表情の下にかたく閉ざす選手たち、そのサーブ、トス、アタックごとに体全体で反応し一喜一憂するおかみさんはとても可愛らしい。プレーの合間を縫って会計を頼むとふたりで四千円強と驚くほど安かった。おやじさんが出て行ってまだ帰ってこないのでしばし歓談に興じる。この季節、平日はまいにち沿岸で花火が上がるという。「水郷さんのすぐそばなんやけどね」とのことだったが、私たちにとってはどんなスペクタクルに出会うよりも、この場所で何にも変えがたい時間を過ごせたことの方が幸福だった。
赤いユニフォームがブロックしたものの、ボールがコートの外へ大きく跳ね出る。ああもう、とおかみさんが嘆息した直後、「お待たせしました!」と戸が開く。名残惜しいが私たちは先にゲームセットだ。感謝を伝えて外に出る。ボロ車で悪いけどねぇ、と言うおやじさんに、彼女が旅の思い出に一緒に写真を撮りたいと伝えると、店内のおかみさんを呼び出してくれた。ひょうたんの形をした看板の下、皆でピースしたその写真を見返すと今でも涙が出そうになる。車が走り出してからも手を振ってくれたおかみさんは日本が準々決勝に進出する瞬間を見ただろうか。
「さっきはマスクしたままでごめんねぇ、癖になっちゃって」
銀の���バンのハンドルを握ってそう言うおやじさんはどこまでも優しかった。端っこから端っこだけど、車ならすぐだったでしょう、と手を振って宿の前から去るその後ろ姿に、ふたりで頭を下げて別れを告げた。宝石のような一日が終わる寂しさは、そばを通過する豊岡行きの列車がたちまち轟音で吹き飛ばしてくれ、それと引き換えにかどうか、空を仰ぐと星々が満天にきらめいていた。
明日の湯巡りを前にして真心の温泉に浸った湯上がりの気分に満たされた私たちは、海猫という店名の由来をついぞ聞きそびれたが、またこの巣に飛んで戻ってこよう。
本当に、いい夜だった。
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🎼 00162 「Private Eyes」。
古書店で見つけた わたしの好きな 牧逸馬さんの本は 10年とちょっと前に発売されたもので、現代風に書き直されてはいましたけれど、まだ読んだことのないお話が たくさん収録されていて 有り難かったです。また探しに行こうって思います。今回読んだ本は 「牧逸馬 探偵小説選 (論創社 2007年)」 です。この本は 全部で 45篇もの 中篇・短編作品が収録されています。過去に読んだお話もありましたけれど、やっぱり ワクワクドキドキしてしまいました。ほんのり触れておきます。
・赤んぼと半鐘
小児科専門医に駆け込んだ 印刷工の晋吉と 小児科専門の都築医師と 晋吉の子 角太郎の そのゆくえ。
・ある作家の死(死三題)
川上君が書いた小説 「ある作家の死」 と川上君と三千円と、とある作家の死について。
・アンケート
「探偵趣味」 にて 質問に丁寧に答える牧さん。
・一五三八七四号
紐育自由新報の社会記者 "ヘンリイ・フリント'' の何よりの楽しみは、紐育52番町と第4街の角にある 「猶太人の料理店」 で毎晩あっさりとした夕食をとること。ある日のこと、コウフイを飲み干した彼のすぐ横の卓子にいた老紳士が 大きな声を出して勘定を呼びました。
・言ひ草
牧さんのエッセイです。
・うめぐさ
紐育自由新報の社会記者 "ヘンリイ・フリント"と (新聞 三面下段の) 余白。
・女青鬚事件 (ウーマン・ブルウビヤアド)
1925年7月、ユウゴスラビアは ベルケレクル町の ベラ・レンツイ夫人は 35人もの男子を殺害。地下室に並んだ棺桶には それぞれ名が貼り付けてありました。
・鉋屑(死三題)
東京駅発駒込橋行きの車内で 「私」 が見つけた 鉋屑 (かんなくず) ひときれは、ひとからひとへ渡り回ります。電車は 須田町で止まりました。
・神々の笑ひ 前篇:
初春の神田神保町から飯田橋までの電車の中の野々宮さんは 切符代をけちりたくて仕方がありません。
・神々の笑らは 後篇:
5千円に別れを告げる 野々宮さんのおはなし。
・基盤地事件顛末
昭和4年10月21日午前7時20分ごろ、東京府下牛引町藤野間にある 藤野間小学校に通う ふたりの男の子が池で生白い 「何か」 を見つけました。それは 首も四肢も無い女性の惨死体でした。
・靴と財布
紐育の朝、紐育自由新報の社会記者 "ヘンリイ・フリント" が地下鉄道で遭遇した事件を さらりと綴っています。
・首から下げる時計
クリスマス前の紐育、紐育自由新報の社会記者 "ヘンリイ・フリント" に出来た恋人は 伊太利人でした。
・競馬の怪談 (真夜中の煙草)
倫敦。マルテン・タムスンという いんちきな男が、とある老人に声を掛けられました。牧さんの 「七時○三分」 と 物語が非常に似ています。
・コン・マンといふ職業
紐育自由新報の社会記者 "ヘンリイ・フリント" が、紐育壁町で 遭遇したのは詐欺師 (コン・マン) でした。
・百日紅
警視庁掏摸係の進藤刑事 (と掏摸のちび八) は 新橋から 下り急行に飛び乗りました。向かうは大阪。
・山門雨稿
牧さんのエッセイです。
・七時〇三分
丸の内仲通りにある、景気測候所 信栄社の社員 宮本得之助は とある老人と出会う。「競馬の怪談」 と おはなしが似ています。
・実話の書
牧さんのエッセイです。
・島の人々
ブロウド・ウエイの舞台 「島の人々」 に立ち向かう、紐育自由新報の社会記者 "ヘンリイ・フリント"。
・襯衣 (シャツ)
誰かに尾けられている気がする 紐育自由新報の社会記者 "ヘンリイ・フリント" が 紐育の街を歩きに歩いた先に現れた男の正体とは?
・上海された男
観音崎署の刑事から逃げ出した男が 命からがら乗り込んだ船は 想像を絶する地獄船でした。
・十二時半
民夫と美喜子が 夜の浜辺を歩く。季節は秋色。刹那を感じます。
・ジンから出た話
とあるホテルに宿泊する男が とある亜米利加生まれの男から 様々な 「妻殺し」 の話を聞かされます。
・助五郎余罪
慶応生まれの江戸っ児 助五郎は 明治湯の��し場で とある老人と若造の話に 聞き耳を立てていました。
・砂
とあるN町海岸通りS別邸裏D浜の砂丘で見つかった他殺死体は 寺尾幸江 (25)。
・西洋怪異談 - 境界線 (真夜中の煙草)
雇い主の婆さんに怯える 弱々しい小男は 斧を手にしました。結構こわいおはなしです。
・西洋怪異談 - 白い家 (真夜中の煙草)
とある夫人が語った夢についてのおはなしです。
・西洋怪異談 - 夏祭草照月 (真夜中の煙草)
ヨウクシャア州のずっと北の外れのとある村に 見世物小屋がやって来ました。
・一九二七年度の挿話
横浜に 支那料理を食しに行った小宮夫妻は 古道具屋で ある物と出会ってしまいました。
・民さんの恋
群馬の田舎から上京してきた 民さんは 17歳のむっつりやで真面目。こわい話です。
・椿荘閑話
牧さんのエッセイです。
・爪
佐太郎と仙二郎、ふたりは 強盗。仙二郎は 爪掃除に夢中でした。
・東京G街怪事件
G街四丁目の交叉点の真ん中で いきなり卒倒してそのまま急死した 51歳の男。彼は自殺でせうか それとも他殺なのでせうか。
・トムとサム
紐育自由新報の社会記者ヘンリイ・フリントと「土人の夏 (インデアン・サンマ)」 とアジア人と贋札についての物語です。
・ネクタイ・ピン
歯医者帰りの 紐育自由新報の社会記者 "ヘンリイ・フリント" と 奥様風の女性(背の高い、南欧系の美人)の おはなしです。
・舶来百物語 - 或る殺人事件 (真夜中の煙草)
ジェイムス・クレアランス・ウイッセンクロフトは 40あまりの 売れない画家です。偶然なのか、自らが描いた 絵の中の人物に 現実に出会ってしまいました。
・舶来百物語 - 恐怖の窓 (真夜中の煙草)
とある若い銀行員が、静養のため訪れたモンロウ村の叔母の家で 「沼」と「窓」の話を聞きます。
・一つの死 (死三題)
崖の上で死を望む彼と 真っ暗な晩。こわい話です。
・舞馬 (ぶま)
植木屋の峰吉の妻 お八重は 亭主の気を引こうと 遊びを ひとつ思いつきました。
・振り返る小径
牧さんのエッセイです。
・米国の作家三四
牧さんのエッセイです。
・米国作家の作に現るる探偵
牧さんのエッセイです。
・マイクロフォン
牧さんの随筆。探偵小説評論です。
・昼興行 (マチネー)
仕事で コネイ島を訪れた 紐育自由新報の社会記者 "ヘンリイ・フリント" が入った小さな劇場で起こった出来事は如何に。
・ヤトラカン・サミ博士の椅子
せいろん島コロンボ市マカラム街の珈琲店 「キャフェ・バンダラウエラ」 のあたりを彷徨う 印度人の売占乞食 ヤトラカン・サミ博士。彼の椅子は どんな椅子なのでせう。
・山口君の場合
朝の温泉町を歩く山口文二郎 (江東銀行青山支店の出納係) と 猫いらずのお話。
・夜汽車
紐育自由新報記者 "ヘンリイ・フリント" が 紐育行きの汽車の中で遭遇した物語。
・乱橋戯談
随筆・評論です。東洋の都の下で大地震とありました (関東大震災のことでせうか?)。なまずが跳ねる。
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06290036
人は歳をとって大人になって、突如生きる意味を考え始める頭の悪い生き物だ。今まではずっと、目の前に道があると言うだけで夢中で進んでこられたのに、途端に道をどう進むのか、どう歩くのか、何も分からなくなる。いい歳になって皆迷子になって、生きる意味を、他者に求める。
親のため、子供のため、恋人のため、社会、会社、世界、己のため。別に理由はなんだっていい。何か理由がないと生きていてはいけない、そんな強迫観念に駆られるのが、大人だった。
いつも不安定だった母は、事あるごとに私に対して、「私の生きる意味はなんだ。」と問うた。その答えはいつも決まって、「私のためでしょ、お母さん。」だった。それ以外の答えは、たとえそれが正しいとしても母にとっては間違いで、秩序を乱すものだった。
「私はどうして生きてるの。」
「私のために、しんどいのに生きてくれてるんでしょ?お母さん。」
「そうよ。あなたを産んだから私は、ずっと色んなものに囚われて、生かされてるの。分かる?生きてるんじゃない、生かされてるの。」
「無理やり、って事?」
「あなたを産んだ時、まさかあなたみたいに出来の悪い子が生まれると思ってなかったの。私を支えてくれる、いい子が生まれると思ってたのに。可愛げもない、頭も悪い、性格はひん曲がっていいところなんて一つもない、今までかけてきた塾とか習い事の金も全部ドブに捨てたのがあなたよ。」
「......。」
私が大人を諦めるには、十分すぎる要素がそこにはあった。大人は、何かがないと生きる理由さえ見つけられずに不安定になる。馬鹿らしい、と冷めた私の目が気に入らなかったらしい母の振りかぶった手が、頬に当たった。
母を家政婦扱いしていた父は、外に女を作って楽しい人生を歩んでいた。いつか酷く酒を飲んで帰宅した日、父がリビングで、その女と電話をしていた。
『あぁ、そうだよ、俺は君のために生きてるんだ。』
『君と、君の子供、俺が大事なのはいつだってそれだけだよ。』
愚かな血が私の中に半分流れている、そう認識した瞬間、晩御飯を全て嘔吐して布団の中で声を殺して叫んだ。思えばそれが、人生で最後の激情だったのかもしれない。言葉にならない感情が喉を焼き切って、耳障りな金切り声に変わって漏れ出る。
世界に対して、怒りも失望もない。ただ、終わらせてほしい。とそればかりを願いながら、終わらせる勇気もないまま、毎日変わらない電車に乗り、存在感のない会社のデスクで、AIに取って変わられそうな仕事を黙々とこなし、一人で帰宅して、生命維持のために食事をして、眠る。
自分を慰めている最中、ふ��過ぎる「何のために生きてる?」を、いつも無視して、グチャグチャに丸めて、捨てて、燃やして、脳内から追い出してただ快楽に溺れていた。答えのない問いに、答えを求めずにいられない欠陥を、私の脳に認めたくはなかった。他者に、己の人生へ介入される怖さを、私は身近の人間を見て痛いほど学んでいた。一人で立ち、一人で歩き、一人で休み、一人で死ななければ、私の人生が崩れる。と、折れかけた心に無理矢理板を沿わせ、有刺鉄線で武装して歩いた。
こんな様子じゃ、恋愛、なんて上手くいくわけがない。もはや、意味すらわからない。与えるもの、与えられるもの、それ以上に、人生を変えられることが怖い。その人の生きる理由に、私が当てはめられたとしたら。私は離れられない呪縛に苛まれたまま、その人が狂っていく姿を、見続けなければいけない。
こっちの気が狂いそうだ。
だから私は彼に出会った時、はっきりと伝えた。
「私は、貴方が好き。だから、貴方が私を好きになったら、幸せよ。でも、その先はきっと、ただ落ちていくだけ。愛情が目的を果たすための道具に変わって、その先どうなるのか、分からない。怖い。」
彼はきょとん、とした表情を見せ、そして、へらりと何事もないように笑って、「それなら、幸せを積み重ねて、全て満たされたら死のうか。」と言った。
「貴方の気持ちが変わらない保証はない。」
「それは示しようがないからな、仕方がない。」
「変わらない、好きだ、そんなこと言って皆変わってきたわ。私は愛されるために、皆の気にいる姿で、皆の欲しがるものを何でも提示してきたのに。」
「それでも人は変わるんだよ。人の心は理屈では動かない。Aを押せばAと打たれる、それは機械だけ。」
「理解出来るけど、理解出来ない。」
「怖がりだね。君は諦めたいのに、人間に希望を持ってしまう優しい人だ。」
後日彼が持ってきたノートに、私は一つ一つ、彼と叶えたいことを並べていった。
有給を取って、昼間から映画館に入り浸る。
何でもない日のパーティーをする。
心ゆくまでセックスする。
砂浜でお城を作る。
海で人魚姫ごっこをする。(浮き輪必須)
行きたかったフレンチのディナーに行く。
アビィロード風の写真を撮る。
「君、案外可愛いところあるね。」
「うるさい。だって、どうせなら叶えたいじゃない。」
「...これは?『一日褒められて甘やかされたい。逆のこともしたい。』って。」
「そのままの意味。お姫様にもなりたいし、王子様にもなりたいの。お分かり?」
「はは。仰せのままに、姫。」
彼の両親は、幼かった彼を連れ、綺麗な海の見えるところへ旅行に行った帰り、一家心中を図った。よくある、車中での練炭自殺だった。そして、運良く、運悪く、彼一人が助かった。彼の記憶の中では、仲のいい、家族だったらしい。
だから彼は私に必要以上に家族の話をしないし、聞き出してもこない。人の痛みに敏感な人は、いつだって己の放つ言葉の意味を、力を、ちゃんと把握している。彼に惹かれたのは、そんな些細な気遣いを、当たり前のようにしてくれるからだった。
彼の心の傷を暴いて共有することを、私は助け合い、とは表現しない。彼は彼の中の秩序を守るために理論武装をしているはずだし、私は私の中の秩序を彼に押し付ける気はない。彼は、私の話を真剣に聞いてくれる。彼なりの意見も話してくれる。分からないとか、興味がないとか、流すようなことは決してしない。
それで良かったんだ、と、私は彼に出会ってようやく、今まで周りにいた大人たちの過ちに気付いた。混ざり合うことで一つになる、なんて馬鹿らしいにも程がある。個々が存在し、時折干渉する中で生まれる温かみ、それが永遠になれば、それで良かった。
私は彼と共に、幸せでありたかった。
その思いに、揺らぎはない。はずなのに。
「やっぱり怖い?」
とうに靴を脱いだ彼がビルと空の境界線に座り、目下の死を覗き込んでは人の小ささに驚いていた。縁側に腰をかけたようなその姿に、私は動揺が隠せない。
「ぜーんぶ、やり終えるのに3年掛かったね。案外早かったけど、君はどう?」
「...分からない、」
「ノートがあんなに増えるとは思わなかったなぁ。」
「そうね、」
遺書、は書かなかった。辞世の句、も趣味じゃない。この世に残すものもなければ、残したものを読む人間も、私にも、彼にもいなかった。彼はふらりと立ち上がり、コンクリートを裸足で歩く体験に口角を上げている。
「人をね、信じないぞ。って顔をした君を見た時、今まで色んな人の心ない言葉に傷付けられて、剥き出しのままひたすら歩いてきたんだ、って思ったんだ。」
「......」
「だから、その手を引いたり、引き留めたり、絡めたり、脇道に逸れたり、色んな世界があることを伝えたくて、君の手を取った。」
風が吹いて、彼からふわり、と微かにフレグランスの香りがする。ほんのり甘いホワイトムスクの香りは、私が今日の朝ベッドで眠る彼に振りかけた、お気に入りの香水だった。
「その相手に死んでくれ、って頼まれるなんて、貴方も災難ね。」
「...君に出会ってからの人生、楽しかったよ。人を好きになることで、人生が変わるとは思わないけど、でも、君は確かに、僕の人生を彩ってくれた。だから、幸せをそのまま来世まで持っていこう、って提案も、構わなかったんだ。」
「私のせいで、死ぬの?それとも、私のために、死ぬの?」
「君のためじゃない。僕の幸せのために、時を止めるんだ。」
後ろ手でフェンスにしがみついたまま彼を睨んでいた私を見て、彼は苦笑した。最後まで八つ当たり、と思っているんだろうか。
「今日のワンピースは、海の近くのお店で買ったね。」
「...派手な色はあまり着ないのに、貴方が、楽しそうに選ぶから、夏になるたびこれを着る羽目になった。」
「今日の靴、君の誕生日に僕がプレゼントしたパンプスだね。」
「気に入ってるの。私の好きな色で、履きやすくて。」
「安かったのに。君、同じ靴ずっと履いてるから、気になってさ。」
「安くても、いいの。貴方が私を思って、何の見返りもなく行動してくれたのが、嬉しかった。」
眼下で嫌みなほど煌めく街の輪郭がぼやけて、光の球���ゆらゆらと蠢く。頬を濡らす何か。
「ねぇ、」
「ん?」
「私、貴方に死んでほしくない。どうすればいいの?」
私の頬を撫でた彼の顔は困った表情を浮かべている。こんなにも胸が苦しいのは、私の身の丈に合わないような幸せを詰め込んでしまったからだ。誰かの不幸の上にある幸せを、こんなにも嬉しそうに抱きしめてしまったからだ。
「死ぬのは、簡単だよ。ここから飛べば一瞬、車中で5分眠っていれば、そのまま。」
「わかってる、だから貴方が死ぬのは、嫌なの、」
「君と一緒に幸せ持っていけるなら、寂しくないよ。本音は、何?」
「私、死にたくない。幸せが無くなるのが怖くても、それでも、貴方と生きてみたい。」
「...よく言えました。」
彼がひょい、と私を担ぎ上げ、そしてフェンスを乗り越え生きた世界へと二人戻る。同じコンクリートなのにこんなにも違うのか、と、地面に足をついた瞬間へたり込んでしまう。合わせて体育座りになった彼が、私の顔を見て、「鼻水出てるよ。」と笑う。腹いせにワンピースで拭いてやれば、余計笑う彼。
「帰ろう。今日はグラタンにしない?」
「グラタン?」
「そ。初めて食べた君の手料理、エビグラタン。」
「...作るの、手伝ってね。」
「分かった。作りながら、明日は何をしようか、二人で考えよう。」
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Her Majesty (2)
ふと、そのようなポーズを取った自分がいまどこにいるのかと考える。ここはたしかに自分が子どもの頃、近所のコンビニで買ってきた、漫画雑誌のアイドルグラビアで見たような南の島であった。そこで妻とともにいかにもなポーズを取っていた。これには驚いた。すこし気恥ずかしくなりつつも前方に向かって歩みを進めた。妻と飛行機に乗っていた男は10メートル以上前にいた。タラップの前に男たちは我々搭乗員に用があったのではなく、パイロットか飛行機の整備状況に関心があったのだろう、あいさつもなくそそくさと飛行機に中に消えていった。昨日の夜の間、降った雨の影響で滑走路はべったりと濡れていた。私は全てから開放された気持ちになって前を向いた。学者の目だ。
1日目
夜が来た。テニアンの夜だ。私がテニアンの夜を経験するのは初めてのことになる。この世に、初めてのことは山ほどある。窓を締め切って、エアコンを点けていても虫の音がはっきりと聞こえる。生垣の向こうに畑があるようだ。さっき、ホテルに入る時にちらりと見えた。昼間の気温は暑い。6月中旬とは思えないほどだ。そもそも常夏なので。そもそもしかし乾燥のしかたも気温の性質も日本とはまったく異なる。サウナを見たことも聞いたこともない人が思い描くサウナとでも言おうか、あるいは温泉を見たことも聞いたこともない人が思い描く温泉とでも言おうか。それらが黄泉の国に放り出されたのだ。日本的な身体の洗浄が、清めがなくなった後のシャワーがあった。シャワーだけで充分な身体があると思う、いい意味で。乾燥しているから。気温の様相もおよそまったく異なる性質のものだ。あたり一面に熱が穏やかに降り立っていくかのようでごくごく穏やかな広がりと爽快さ。こんなに爽やかな夏があるとは想像もしていなかった。
ホテルに着きチェックインする時に再度「What are you supposed?」(ご用事はなんでしょうか)と訪ねられた。北マリアナ諸島の営業所では必ずそう聞くようにしているのか、一字一句同じなのだ。まるで巨大な病院の異なるエリアに足を踏み入れたようだった。妻の代わりに私が「サイトシーイング」と答えた。
ホテルの外観は結婚式場のような過剰にファンシーな印象を受けた。現地人が思うヨーロッパという誤解と言ったらいいのか。高さは三階から四階だがかなりの面積がある。金沢の五十間長屋に似ていなくもない、有無を言わせない趣の長方形の構造物。客室に着くまでの廊下は外観から想像した通りの弛緩しきった設計だった。幅と高さはたしかにある。それも外観の通り。客室はサイパンのホテルとそう変わらないビジネスホテルを広くして装飾を加えたといった印象。しかしありがたい機会には変わりはない。私は子どもの頃から外泊が大層好きであった。37インチほどの液晶テレビが置いてあるテーブルの左端にかなりどっしりとした正六面体型の黒いミニバーがある。これはミニバーではなくビッグバーだろう。潜水艦を想起した。
「ちょっとそれ見ようよ」
と妻が言った。
「どうぞ」
「ほら、かなり充実してるよ。日本のスーパードライとかもある!」
「スーパードライか。なんでそんなものが」
「日本酒が、ほら、3つも。……これにしていい」
と言って妻が持ち上げたのはハーフボトルのシャンパンか白ワインだった」
「うん、いいよ」
「110ドルだって」
110ドルならゆうに15000円は超えるだろう。
「今日は特別だからいいよ」
しかし妻の態度はどう考えてもシングルマザーのそれとは違っていた。受け入れよう。
そして、30分も経った頃には空が見事なピンクに染まりどことなく紫に侵食されていた。ありえないほど美しい。高さのない生垣が邪魔だった。
それから遡ること6時間。我々の事前にブッキングしたタクシーは、テニアン国際空港からタガビーチに向かうところだった。時計の針は12時35分を差している。外の景色は簡素な林道だったが、緑の鮮やかさが印象的だった。非常に印象的で、特殊なものだと感じた。5分ほど走ると建築物の群れが現れるがそのどれもがロサンゼルスのような爽快さを持っていた。あるいはロサンゼルスの米軍基地といった趣で、かつて見た能登の暗い海岸線とはまったく印象が異なるものだった。たしかLAには空軍基地があったはずだ。爽快な明るさの中に頑強さと毒々しさがあり、どうも米軍が支配した痕跡が今も根強いようだ。沖縄のように。1986年以前のことだ。
タガビーチにはすぐに着いた。10分ほどだろうか。駐車場から歩きながら妻が腕を回す。50’s調。そこまでは分かる。アルトーは1948年に死んだ。世界は1950年代に終わったのだろう。アルトーは世界の終わりに立ち会えなかった。試験管ベイビーでもない限り、自慰行為を行う。アルトーでさえも。アルトーは書いている。ここにおいて明らかにアルトーよりも我々の方が試験管ベイビーに近かった。アルトーは書いている。
浜辺の風景はたしかに美しかったが、観光名所としてはいまいちだった。ガイドブックに英語で書いてあった海の透明度と白い砂浜にしてもよく分からない。島の風景が鮮烈すぎたから。島全体がテーマパークだ。モーセを知るあなた方に言う。ディズニーを讃えよ。
そこには20分ほどとどまった。
それから20分後には我々はタガ遺跡にたどり着いていた。チャーターには使い走りのように待たせて、再び車を走らせるという仕組み。タガ遺跡は島南西のサンホセ地区に位置し、今から約3500年前に作られた石柱群であり、古代チャモロ人伝説の支配者タガ王が作ったと言われている高さ5〜6メートルほどの大きさ。これらはさきほども述べたように、英語のガイドブックを見れば分かることであり、では我々が行っているのはCDのフィジカルを取得するような努力だろうか。ストーンヘンジと似ている。設計上瓜二つであり、ストーンヘンジのレプリカだと思った。ストーンヘンジは見たことがない。そこにも30分ほどとどまった。記憶に残ればいいだろう。
次に向かうオールドサンホセ教会で今日の観光ツアーは終わりだった。飛行機とチャーターしたタクシーの移動でだいぶ疲れていた。妻と自殺した芸能人について話した。妻がファンだった俳優で彼女と同世代。追悼と言った方がふさわしい落ち込み方で、今朝サイパンのホテルでニュースをやっていた。
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自殺未遂
何度も死のうとしている。
これからその話をする。
自殺未遂は私の人生の一部である。一本の線の上にボツボツと真っ黒な丸を描くように、その記憶は存在している。
だけど誰にも話せない。タブーだからだ。重たくて悲しくて忌み嫌われる話題だからだ。皆それぞれ苦労しているから、人の悲しみを背負う余裕なんてないのだ。
だから私は嘘をつく。その時代を語る時、何もなかったふりをする。引かれたり、陰口を言われたり、そういう人だとレッテルを貼られたりするのが怖いから。誰かの重荷になるのが怖いから。
一人で抱える秘密は、重たい。自分のしたことが、当時の感情が、ずっしりと肩にのしかかる。
私は楽になるために、自白しようと思う。黙って平気な顔をしているのに、もう疲れてしまった。これからは場を選んで、私は私の人生を正直に語ってゆきたい。
十六歳の時、初めての自殺未遂をした。
五年間の不登校生活を脱し高校に進学したものの、面白いくらい馴染めなかった。天真爛漫に女子高生を満喫する宇宙人のようなクラスメイトと、同じ空気を吸い続けることは不可能だと悟ったのだ。その結果、私は三ヶ月で中退した。
自信を失い家に引きこもる。どんよりと暗い台所でパソコンをいじり続ける。将来が怖くて、自分が情けなくて、見えない何かにぺしゃんこに潰されてしまいそうだった。家庭は荒れ、母は一日中家にいる私に「普通の暮らしがしたい」と呟いた。自分が親を苦しめている。かといって、この先どこに行っても上手くやっていける気がしない。悶々としているうちに十キロ痩せ、生理が止まった。肋が浮いた胸で死のうと決めた。冬だった。
夜。親が寝静まるのを待ちそっと家を出る。雨が降っているのにも関わらず月が照っている。青い光が濁った視界を切り裂き、この世の終わりみたいに美しい。近所の河原まで歩き、濡れた土手を下り、キンキンに冷えた真冬の水に全身を浸す。凍傷になれば数分で死に至ることができると聞いた。このままもう少しだけ耐えればいい。
寒い!私の体は震える。寒い!あっという間に歯の根が合わなくなる。頭のてっぺんから爪先までギリギリと痛みが駆け抜け、三秒と持たずに陸へ這い上がった。寒い、寒いと呟きながら、体を擦り擦り帰路を辿る。ずっしりと水を含んだジャージが未来のように重たい。
風呂場で音を立てぬよう泥を洗い流す。白いタイルが砂利に汚されてゆく。私は死ぬことすらできない。妙な落胆が頭を埋めつくした。入水自殺は無事、失敗。
二度目の自殺未遂は十七歳の時だ。
その頃私は再入学した高校での人間関係と、精神不安定な母との軋轢に悩まされていた。学校に行けば複雑な家庭で育った友人達の、無視合戦や泥沼恋愛に巻き込まれる。あの子が嫌いだから無視をするだのしないだの、彼氏を奪っただの浮気をしているだの、親が殴ってくるだの実はスカトロ好きのゲイだだの、裏のコンビニで喫煙しているだの先生への舌打ちだの⋯⋯。距離感に不器用な子達が多く、いつもどこかしらで誰かが傷つけ合っていた。教室には無気力と混乱が煙幕のように立ち込め、普通に勉強し真面目でいることが難しく感じられた。
家に帰れば母が宗教のマインドコントロールを引きずり「地獄に落ちるかもしれない」などと泣きついてくる。以前意地悪な信者の婆さんに、子どもが不登校になったのは前世の因縁が影響していて、きちんと祈らないと地獄に落ちる、と吹き込まれたのをまだ信じているのだ。そうでない時は「きちんと家事をしなくちゃ」と呪いさながらに繰り返し、髪を振り乱して床を磨いている。毎日手の込んだフランス料理が出てくるし、近所の人が買い物先までつけてくるとうわ言を言っている。どう考えても母は頭がおかしい。なのに父は「お母さんは大丈夫だ」の一点張りで、そのくせ彼女の相手を私に丸投げするのだ。
胸糞の悪い映画さながらの日々であった。現実の歯車がミシミシと音を立てて狂ってゆく。いつの間にやら天井のシミが人の顔をして私を見つめてくる。暗がりにうずくまる家具が腐り果てた死体に見えてくる。階段を昇っていると後ろから得体の知れない化け物が追いかけてくるような気がする。親が私の部屋にカメラを仕掛け、居間で監視しているのではないかと心配になる。ホラー映画を見ている最中のような不気味な感覚が付きまとい、それから逃れたくて酒を買い吐くまで酔い潰れ手首を切り刻む。ついには幻聴が聞こえ始め、もう一人の自分から「お前なんか死んだ方がいい」と四六時中罵られるようになった。
登下校のために電車を待つ。自分が電車に飛び込む幻が見える。車体にすり潰されズタズタになる自分の四肢。飛び込む。粉々になる。飛び込む。足元が真っ赤に染まる。そんな映像が何度も何度も巻き戻される。駅のホームは、どこまでも続く線路は、私にとって黄泉への入口であった。ここから線路に倒れ込むだけで天国に行ける。気の狂った現実から楽になれる。しかし実行しようとすると私の足は震え、手には冷や汗が滲んだ。私は高校を卒業するまでの四年間、映像に重なれぬまま一人電車を待ち続けた。飛び込み自殺も無事、失敗。
三度目の自殺未遂は二十四歳、私は大学四年生だった。
大学に入学してすぐ、執拗な幻聴に耐えかね精神科を受診した。セロクエルを服用し始めた瞬間、意地悪な声は掻き消えた。久しぶりの静寂に手足がふにゃふにゃと溶け出しそうになるくらい、ほっとする。しかし。副作用で猛烈に眠い。人が傍にいると一睡もできないたちの私が、満員の講義室でよだれを垂らして眠りこけてしまう。合う薬を模索する中サインバルタで躁転し、一ヶ月ほど過活動に勤しんだりしつつも、どうにか普通の顔を装いキャンパスにへばりついていた。
三年経っても服薬や通院への嫌悪感は拭えなかった。生き生きと大人に近づいていく友人と、薬なしでは生活できない自分とを見比べ、常に劣等感を感じていた。特に冬に体調が悪くなり、課題が重なると疲れ果てて寝込んでしまう。人混みに出ると頭がザワザワとして不安になるため、酒盛りもアルバイトもサークル活動もできない。鬱屈とした毎日が続き闘病に嫌気がさした私は、四年の秋に通院を中断してしまう。精神薬が抜けた影響で揺り返しが起こったこと、卒業制作に追われていたこと、就職活動に行き詰まっていたこと、それらを誰にも相談できなかったことが積み重なり、私は鬱へと転がり落ちてゆく。
卒業制作の絵本を拵える一方で遺品を整理した。洋服を売り、物を捨て、遺書を書き、ネット通販でヘリウムガスを手に入れた。どうして卒制に遅れそうな友達の面倒を見ながら遺品整理をしているのか分からない。自分が真っ二つに割れてしまっている。混乱しながらもよたよたと気力で突き進む。なけなしの努力も虚しく、卒業制作の提出を逃してしまった。両親に高額な学費を負担させていた負い目もあり、留年するぐらいなら死のうとこりずに決意した。
クローゼットに眠っていたヘリウムガス缶が起爆した。私は人の頭ほどの大きさのそれを担いで、ありったけの精神薬と一緒に車に積み込んだ。それから山へ向かった。死ぬのなら山がいい。夜なら誰であれ深くまで足を踏み入れないし、展望台であれば車が一台停まっていたところで不審に思われない。車内で死ねば腐っていたとしても車ごと処分できる。
展望台の駐車場に車を突っ込み、無我夢中でガス缶にチューブを繋ぎポリ袋の空気を抜く。本気で死にたいのなら袋の酸素濃度を極限まで減らさなければならない。真空状態に近い状態のポリ袋を被り、そこにガスを���し込めば、酸素不足で苦しまずに死に至ることができるのだ。大量の薬を水なしで飲み下し、袋を被り、うつらうつらしながら缶のコックをひねる。シューッと気体が満ちる音、ツンとした臭い。視界が白く透き通ってゆく。死ぬ時、人の意識は暗転ではなくホワイトアウトするのだ。寒い。手足がキンと冷たい。心臓が耳の奥にある。ハツカネズミと同じ速度でトクトクと脈動している。ふとシャンプーを切らしていたことを思い出し、買わなくちゃと考える。遠のいてゆく意識の中、日用品の心配をしている自分が滑稽で、でも、もういいや。と呟く。肺が詰まる感覚と共に、私は意識を失う。
気がつくと後部座席に転がっている。目覚めてしまった。昏倒した私は暴れ、自分でポリ袋をはぎ取ったらしい。無意識の私は生きたがっている。本当に死ぬつもりなら、こうならぬように手首を後ろできつく縛るべきだったのだ。私は自分が目覚めると、知っていた。嫌な臭いがする。股間が冷たい。どうやら漏らしたようだ。フロントガラスに薄らと雪が積もっている。空っぽの薬のシートがバラバラと散乱している。指先が傷だらけだ。チューブをセットする際、夢中になるあまり切ったことに気がつかなかったようだ。手の感覚がない。鈍く頭痛がする。目の前がぼやけてよく見えない。麻痺が残ったらどうしよう。恐ろしさにぶるぶると震える。さっきまで何もかもどうでも良いと思っていたはずなのに、急に体のことが心配になる。
後始末をする。白い視界で運転をする。缶は大学のゴミ捨て場に捨てる。帰宅し、後部座席を雑巾で拭き、薬のシートをかき集めて処分する。ふらふらのままベッドに倒れ込み、失神する。
その後私は、卒業制作の締切を逃したことで教授と両親から怒られる。翌日、何事もなかったふりをして大学へ行き、卒制の再提出の交渉する。病院に保護してもらえばよかったのだがその発想もなく、ぼろ切れのようなメンタルで卒業制作展の受付に立つ。ガス自殺も無事、失敗。
四度目は二十六歳の時だ。
何とか大学卒業にこぎつけた私は、入社試験がないという安易な理由でホテルに就職し一人暮らしを始めた。手始めに新入社員研修で三日間自衛隊に入隊させられた。それが終わると八時間ほぼぶっ続けで宴会場を走り回る日々が待っていた。典型的な古き良き体育会系の職場であった。
朝十時に出社し夜の十一時に退社する。夜露に湿ったコンクリートの匂いをかぎながら浮腫んだ足をズルズルと引きずり、アパートの玄関にぐしゃりと倒れ込む。ほとんど意識のないままシャワーを浴びレトルト食品を貪り寝床に倒れ泥のように眠る。翌日、朝六時に起床し筋肉痛に膝を軋ませよれよれと出社する。不安定なシフトと不慣れな肉体労働で病状は悪化し、働いて二年目の夏、まずいことに躁転してしまった。私は臨機応変を求められる場面でパニックを起こすようになり、三十分トイレにこもって泣く、エレベーターで支離滅裂な言葉を叫ぶなどの奇行を繰り返す、モンスター社員と化してしまった。人事に持て余され部署をたらい回しにされる。私の世話をしていた先輩が一人、ストレスのあまり退社していった。
躁とは恐ろしいもので人を巻き込む。プライベートもめちゃくちゃになった。男友達が性的逸脱症状の餌食となった。五年続いた彼氏と別れた。よき理解者だった友と言い争うようになり、立ち直れぬほどこっぴどく傷つけ合った。携帯電話をハイヒールで踏みつけバキバキに破壊し、コンビニのゴミ箱に投げ捨てる。出鱈目なエネルギーが毛穴という毛穴からテポドンの如く噴出していた。手足や口がばね仕掛けになり、己の意思を無視して動いているようで気味が悪かった。
寝る前はそれらの所業を思い返し罪悪感で窒息しそうになる。人に迷惑をかけていることは自覚していたが、自分ではどうにもできなかった。どこに頼ればいいのか分からない、生きているだけで迷惑をかけてしまう。思い詰め寝床から出られなくなり、勤務先に泣きながら休養の電話をかけるようになった。
会社を休んだ日は正常な思考が働かなくなる。近所のマンションに侵入し飛び降りようか悩む。落ちたら死ねる高さの建物を、砂漠でオアシスを探すジプシーさながらに彷徨い歩いた。自分がアパートの窓から落下してゆく幻を見るようになった。だが、無理だった。できなかった。あんなに人に迷惑をかけておきながら、私の足は恥ずかしくも地べたに根を張り微動だにしないのだった。
アパートの部屋はムッと蒸し暑い。家賃を払えなければ追い出される、ここにいるだけで税金をむしり取られる、息をするのにも金がかかる。明日の食い扶持を稼ぐことができない、それなのに腹は減るし喉も乾く、こんなに汗が滴り落ちる、憎らしいほど生きている。何も考えたくなくて、感じたくなくて、精神薬をウイスキーで流し込み昏倒した。
翌日の朝六時、朦朧と覚醒する。会社に体調不良で休む旨を伝え、再び精神薬とウイスキーで失神する。目覚めて電話して失神、目覚めて電話して失神。夢と現を行き来しながら、手元に転がっていたカッターで身体中を切り刻み、吐瀉し、意識を失う。そんな生活が七日間続いた。
一週間目の早朝に意識を取り戻した私は、このままでは死ぬと悟った。にわかに生存本能のスイッチがオンになる。軽くなった内臓を引っさげ這うように病院へと駆け込み、看護師に声をかける。
「あのう。一週間ほど薬と酒以外何も食べていません」
「そう。それじゃあ辛いでしょう。ベッドに寝ておいで」
優しく誘導され、白いシーツに倒れ込む。消毒液の香る毛布を抱きしめていると、ぞろぞろと数名の看護師と医師がやってきて取り囲まれた。若い男性医師に質問される。
「切ったの?」
「切りました」
「どこを?」
「身体中⋯⋯」
「ごめんね。少し見させて」
服をめくられる。私の腹を確認した彼は、
「ああ。これは入院だな」
と呟いた。私は妙に冷めた頭で聞く。
「今すぐですか」
「うん、すぐ。準備できるかな」
「はい。日用品を持ってきます」
私はびっくりするほどまともに帰宅し、もろもろを鞄に詰め込んで病院にトンボ帰りした。閉鎖病棟に入る。病室のベッドの周りに荷物を並べながら、私よりももっと辛い人間がいるはずなのにこれくらいで入院だなんておかしな話だ、とくるくる考えた。一度狂うと現実を測る尺度までもが狂うようだ。
二週間入院する。名も知らぬ睡眠薬と精神安定剤を処方され、飲む。夜、病室の窓から街を眺め、この先どうなるのかと不安になる。私の主治医は「君はいつかこうなると思ってたよ」と笑った。以前から通院をサポートする人間がいないのを心配していたのだろう。
退院後、人事からパート降格を言い渡され会社を辞めた。後に勤めた職場でも上手くいかず、一人暮らしを断念し実家に戻った。飛び降り自殺、餓死自殺、無事、失敗。
五度目は二十九歳の時だ。
四つめの転職先が幸いにも人と関わらぬ仕事であったため、二年ほど通い続けることができた。落ち込むことはあるものの病状も安定していた。しかしそのタイミングで主治医が代わった。新たな主治医は物腰柔らかな男性だったが、私は病状を相談することができなかった。前の医師は言葉を引き出すのが上手く、その環境に甘えきっていたのだ。
時給千円で四時間働き、月収は六万から八万。いい歳をして脛をかじっているのが忍びなく、実家に家賃を一、二万入れていたので、自由になる金は五万から七万。地元に友人がいないため交際費はかからない、年金は全額免除の申請をした、それでもカツカツだ。大きな買い物は当然できない。小さくとも出費があると貯金残高がチラつき、小一時間は今月のやりくりで頭がいっぱいになる。こんな額しか稼げずに、この先どうなってしまうのだろう。親が死んだらどうすればいいのだろう。同じ年代の人達は順調にキャリアを積んでいるだろう。資格も学歴もないのにズルズルとパート勤務を続けて、まともな企業に転職できるのだろうか。先行きが見えず、暇な時間は一人で悶々と考え込んでしまう。
何度目かの落ち込みがやってきた時、私は愚かにも再び通院を自己中断してしまう。病気を隠し続けること、精神疾患をオープンにすれば低所得をやむなくされることがプレッシャーだった。私も「普通の生活」を手に入れてみたかったのだ。案の定病状は悪化し、練炭を購入するも思い留まり返品。ふらりと立ち寄ったホームセンターで首吊りの紐を買い、クローゼットにしまう。私は鬱になると時限爆弾を買い込む習性があるらしい。覚えておかなければならない。
その職場を退職した後、さらに三度の転職をする。ある職場は椅子に座っているだけで涙が出るようになり退社した。別の職場は人手不足の影響で仕事内容が変わり、人事と揉めた挙句退社した。最後の転職先にも馴染めず八方塞がりになった私は、家族��会社に何も告げずに家を飛び出し、三日間帰らなかった。雪の降る中、車中泊をして、寒すぎると眠れないことを知った。家族は私を探し回り、ラインの通知は「帰っておいで」のメッセージで埋め尽くされた。漫画喫茶のジャンクな食事で口が荒れ、睡眠不足で小間切れにうたた寝をするようになった頃、音を上げてふらふらと帰宅した。勤務先に電話をかけると人事に静かな声で叱られた。情けなかった。私は退社を申し出た。気がつけば一年で四度も職を代わっていた。
無職になった。気分の浮き沈みが激しくコントロールできない。父の「この先どうするんだ」の言葉に「私にも分からないよ!」と怒鳴り返し、部屋のものをめちゃくちゃに壊して暴れた。仕事を辞める度に無力感に襲われ、ハローワークに行くことが恐ろしくてたまらなくなる。履歴書を書けばぐちゃぐちゃの職歴欄に現実を突きつけられる。自分はどこにも適応できないのではないか、この先まともに生きてゆくことはできないのではないか、誰かに迷惑をかけ続けるのではないか。思い詰め、寝室の柱に時限爆弾をぶら下げた。クローゼットの紐で首を吊ったのだ。
紐がめり込み喉仏がゴキゴキと軋む。舌が押しつぶされグエッと声が出る。三秒ぶら下がっただけなのに目の前に火花が散り、苦しくてたまらなくなる。何度か試したが思い切れず、紐を握り締め泣きじゃくる。学校に行く、仕事をする、たったそれだけのことができない、人間としての義務を果たせない、税金も払えない、親の負担になっている、役立たずなのにここまで生き延びている。生きられない。死ねない。どこにも行けない。私はどうすればいいのだろう。釘がくい込んだ柱が私の重みでひび割れている。
泣きながら襖を開けると、ペットの兎が小さな足を踏ん張り私を見上げていた。黒くて可愛らしい目だった。私は自分勝手な絶望でこの子を捨てようとした。撫でようとすると、彼はきゅっと身を縮めた。可愛い、愛する子。どんな私でいても拒否せず撫でさせてくれる、大切な子。私の身勝手さで彼が粗末にされることだけはあってはならない、絶対に。ごめんね、ごめんね。柔らかな毛並みを撫でながら、何度も謝った。
この出来事をきっかけに通院を再開し、障害者手帳を取得する。医療費控除も障害者年金も申請した。精神疾患を持つ人々が社会復帰を目指すための施設、デイケアにも通い始めた。どん底まで落ちて、自分一人ではどうにもならないと悟ったのだ。今まさに社会復帰支援を通し、誰かに頼り、悩みを相談する方法を勉強している最中だ。
病院通いが本格化してからというもの、私は「まとも」を諦めた。私の指す「まとも」とは、周りが満足する状態まで自分を持ってゆくことであった。人生のイベントが喜びと結びつくものだと実感できぬまま、漠然としたゴールを目指して走り続けた。ただそれをこなすことが人間の義務なのだと思い込んでいた。
自殺未遂を繰り返しながら、それを誰にも打ち明けず、悟らせず、発見されずに生きてきた。約二十年もの間、母の精神不安定、学校生活や社会生活の不自由さ、病気との付き合いに苦しみ、それら全てから解放されたいと願っていた。
今、なぜ私が生きているか。苦痛を克服したからではない。死ねなかったから生きている。死ぬほど苦しく、何度もこの世からいなくなろうとしたが、失敗し続けた。だから私は生きている。何をやっても死ねないのなら、どうにか生き延びる方法を探らなければならない。だから薬を飲み、障害者となり、誰かの世話になり、こうしてしぶとくも息をしている。
高校の同級生は精神障害の果てに自ら命を絶った。彼は先に行ってしまった。自殺を推奨するわけではないが、彼は死ぬことができたから、今ここにいない。一歩タイミングが違えば私もそうなっていたかもしれない。彼は今、天国で穏やかに暮らしていることだろう。望むものを全て手に入れて。そうであってほしい。彼はたくさん苦しんだのだから。
私は強くなんてない。辛くなる度、たくさんの自分を殺した。命を絶つことのできる場所全てに、私の死体が引っかかっていた。ガードレールに。家の軒に。柱に。駅のホームの崖っぷちに。近所の河原に。陸橋に。あのアパートに。一人暮らしの二階の部屋から見下ろした地面に。電線に。道路を走る車の前に⋯⋯。怖かった。震えるほど寂しかった。誰かに苦しんでいる私を見つけてもらいたかった。心配され、慰められ、抱きしめられてみたかった。一度目の自殺未遂の時、誰かに生きていてほしいと声をかけてもらえたら、もしくは誰かに死にたくないと泣きつくことができたら、私はこんなにも自分を痛めつけなくて済んだのかもしれない。けれど時間は戻ってこない。この先はこれらの記憶を受け止め、癒す作業が待っているのだろう。
きっとまた何かの拍子に、生き延びたことを後悔するだろう。あの暗闇がやってきて、私を容赦なく覆い隠すだろう。あの時死んでいればよかったと、脳裏でうずくまり呟くだろう。それが私の病で、これからももう一人の自分と戦い続けるだろう。
思い出話にしてはあまりに重い。医療機関に寄りかかりながら、この世に適応する人間達には打ち明けられぬ人生を、ともすれば誰とも心を分かち合えぬ孤独を、蛇の尾のように引きずる。刹那の光と闇に揉まれ、暗い水底をゆったりと泳ぐ。静かに、誰にも知られず、時には仲間と共に、穏やかに。
海は広く、私は小さい。けれど生きている。まだ生きている。
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2019
ステートメント
その日は陣痛の起こる気配もなく、手持ち無沙汰に街を歩いた。昼間から呑気に散歩しているのは私だけだった。そうでなくてもこの街には私しかいなかったかもしれない。こんな状況でなかったら、瓶ビールを飲みたかった。だれもいない。ビールが飲みたい。車以外で病院まで行くことは酩酊にかかわらずできない。夏も過ぎ去ろうとしている。この一年間は妻のいる地元と、職場の北海道を行ったり来たりした。人間は自分で思っているよりも移動する能力の高い生き物だ。ただ慣れていな���だけだ。小学校までいく道のりもなんど通ったか分からないが、こんなに坂が急だったか。歩幅が大きくなったからそこまで苦労はなかったけど息は上がった。当時はこんなに草木が生い茂った場所ではなかった。自然と呼ばれるものを人間以外の集合とするなら、ほとんど人間は負けていた。人の手が加わらない領域が町中に広がっている。固く引き締まった木が生えている。知らない植物が自分の身長���どに成長している。人間の侵入を拒んでいる場所が増えている。私が知らない空き家も増えている。小学生のとき、町外れの空き家を冒険していたら血塗れの布団が一枚だけ置いてあって人生で一番怖かった。
こうして街を歩いていると普段暮らしている世界がだんだんと遠のいていくような気がする。もちろん世界はまだどこか別の場所にある。本当はすぐそばにあるのだけど、しばらくするとふっと消えている。目を開くと街はまだそこにある。
海


今年の初めの方に北海道に友人がふらりと来た。いつもふらりふらりとして掴み所のない男で、どこで何をしているのかも判然としない。いまでも彼がどこで何をしているのか説明できない。私の持っている小さな車に乗り込み、どこに行きたいか聞くと海に行きたいといった。海は当然のようにそこに存在しているので、海自体が目的になることはあまりなかった。どんな話をしたかもう覚えていないのだけど、数時間もおしゃべりすることはあまりないので海についたときには喉がガラガラになっていた。季節外れの海には誰もいなくて、潮風に押し固められた雪が積もっていて、表面は砂で汚れていた。5分とそこに立っていられないくらい寒かった。

今年の終わりに、こどもと妻と二人でその場所を訪れた。今年いちばんお気に入りの場所になった。
墓
tumblrのアイコンになっている犬が死んだ。実家で飼っていた犬で、そういう連絡が父から来た。実家の敷地の一部分に遺体を埋めたらしく、その墓の写真が私に送られてきた。まっ黒な石が2つ積み重なっている簡素な墓だった。遺体を埋める墓を掘っているときに出土した石だという。人間の手が加わらなければ泥まみれの石がふたつだけ重なることがないので、かろうじてそれが何かの記念碑とわかる。そういった報告が、普段行う事務の延長線上にあるかのように、ぽこんと送られてきた。ぽこんと送ろうとして、実際にぽこんと送られてきたのだと思う。なぜだかあまり悲しくはなかったのは、もう犬が死ぬと半ばわかっていたからか、遺体を実際に見ていないからなのか。もうわかってるからそう感じる、痛いとわかっているから痛くない、そんなことはない、痛いものは痛い。最後に犬を見たのはこの夏だった。よろよろしていて、今年の冬を越せそうには思えなかった。はっきりいって死んでしまいそうだった。目も見えていなかったし、私がそこにいることもよくわかっていなかったので、まるで急に人間が現れたような反応を繰り返した。同じ世界にいるはずなのに、何百光年も先で待っているようだった。もう新しい写真を撮ることはできないけれど、文章ならいくらでもかける。

子ども
仕事に向かう気力がないときに子どもの顔を見ているとすごく元気になれた。そのことにすごく安心した。自分に子どもを可愛がる能力が備わっているということに、なぜだかすごく安心した。毎日少しずつ、息子は息子のベストを更新し続けている。この世に何も知らずに生まれてくるということがこんなに羨ましいことだったとは思わなかった。3ヶ月たった今では体重も倍近くになり、よく笑うようになったし、泣き叫ぶ声も大きくなってきた。最初に吸い込んだ空気はどんな味がしたんだろう。自分の声はどんなふうに聞こえるんだろうとか、そんなことばかり考える。いざ大人になってから、この一年どれくらいすばらしいことがあったか考えるのは難しいものだ。私が記憶を消してもう一度プレイしたいゲームだって、本当に記憶にないまま遊ぶことができる。こんなこともう人生で一度もできやしない、できやしないんだぞ、という。最初の空気はどんな味がしたんだい、忘れちゃいけないぞ、と私は思う。

2015年に妻になる女性に今日みたいにベストを聞き、2016年は付き合い始めて、2017年には結婚し、2018年には新婚旅行に行き、2019年には子どもが生まれた。2015年には重要なものはいつか失うから愛情を抱きそうなものは自分の手元に欲しくないとずっと思っていたのにーーぬいぐるみひとつでさえそう思っていたのに、私のそういう考えとはまったく別の方向に人生が進んでしまった。2015年にはアナルのことを南国に生えている植物だとおもっていた彼女も、今日の朝フードアナリストってどういう職業か話し合っているときずっと笑っていた。
この記事は2019 Advent Calendar 2019 - Adventarの第24日目の記事として書かれました。昨日はshikakunサン、明日はlesson5サンです。
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