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aikider · 8 years ago

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世界が土曜の夜の夢なら　ヤンキーと精神分析斎藤環

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戦争が終わってずいぶん経つのに、なんで日本はこんなに精神論なのだろう。著者はそれを『ヤンキー』というキーワードで読み解く。インテリが話す内容を信用せず、自身の身体感覚と感性を信じる行動主義で、反知性主義とさえ言える。実用性があれば勉強するし資格も取るが、直接使えないものには興味を示さない。そのわりにはやたら夢を語るが、夢の内容は現実的である。暴走族のような暴力的な側面もある一方で、地元と仲間をこよなく愛し、長じては若いヤンキーを諭して更生させるなど、治安維持への貢献もみられる。地方政治に関わる人もあり、政治的には反動保守。

長くオタクについて評論を書いてきた齋藤が、日本人の中でオタクでない人々を見つめ、ヤンキーという類型に注目した。この対比はかつて『ひきこもり系とじぶん探し系』と名付けた若者の『モード分類』と重なるところもある。オタクとヤンキーを合わせれば、人口的には日本人のかなりの部分が掌握できたことになる。日本人そのものを理解する上でもかなり有益である。もう少し埋めていけば『これが日本人だ』というところまで見えてくる気がする。しかし『オタク』『ヤンキー』と来たら次は何だろう。著者が言うとように、ヤンキーのより厳密な分類は必要かもしれない（たとえばギャルと女ヤンキーは大枠で広義のヤンキーにくくられるが、本人たちによれば違う）が、いずれ書いてくれるだろうか。個人的には最近話題の『サブカル系』あたりが未開拓領域のような気がする。

それはさておき、「セカド」の白眉は丸山眞男の指摘した「つぎつぎになりゆくいきほひ」を「気合とアゲアゲのノリさえあれば、まあなんとかなるべ」と”翻訳”し、それこそヤンキーの本質であると指摘したところだ。つまり「気合で乗り切れ」という精神論は古代からある。それが戦後にアメリカ文化への憧憬と結びつく。ただしその過程で、本来アングロサクソンが持っている個人主義（父性的な切断の原理）は換骨奪胎され、関係性の原理（母性的関係性）が骨格を作る。その結果生まれたのが「女性原理のもとで追及される男性性」であり、これは「男性原理のもとで追及される女性性」であるオタクと対照をなす。

こうしたヤンキーの特徴は、日本社会にとって貢献するところもある一方で、反知��主義という問題点も持っている。その弊害の最たるものは、もちろん政治だ。日本は気合で動いている。だが気合では廃炉も外交もできない。

最後に極めてどうでもいい余談だが、自分が中高生の頃に一部で流行った格闘ゲームでキング・オブ・ファイターズというのがあった。主人公はやや古典的なヤンキー風の短ランを着た武術家で、設定資料によれば趣味がポエムだった。当時はヤンキーとポエムという組み合わせはどうみてもウケ狙いだろうと思った（実際にそれをネタにした公式パロディがあったくらい）のだが、齋藤はヤンキーとポエムの親和性について指摘していて、目からウロコが落ちた。KOFは、今にしてみるとヤンキーとポエムの親和性についてかなり早い段階で指摘していたのかもしれず、マジなのかネタなのかさっぱりわからなくなってきた。この困惑は当時ハマっていた人間にしか通じないと思うが。

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