#鯉のぼり風名古屋帯
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各地句会報
花鳥誌 令和6年7月号

坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
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令和6年4月4日 うづら三日の月花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
受験の子送りてしばし黙す父母 喜代子 うつうつも待つこと楽し花便り さとみ 初桜幾歳月や句座の道 都 野遊びのノスタルジーを胸に秘め 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和6年4月6日 零の会 坊城俊樹選 特選句
野遊の一人は高きハイヒール はるか 春愁の長き耳垂れ犬来たる 光子 譲ること大嫌ひなの半仙戯 同 ボール蹴る子に一瞬の花吹雪 美紀 ぶらんこを替つてくれず漕ぐばかり 瑠璃 花いつもさびしきところより散りぬ 緋路 大使笑ふ南麻布の花の昼 佑天 花冷のベンチに花冷のお尻 緋路 群青の絵の具は春の水に溶け 同 教会の桜は透けるほど白く 小鳥
岡田順子選 特選句
花に息ととのへてゐる太極拳 光子 鞦韆の蹴り寄せてゐる桜色 三郎 純白の肌着吊られて花曇 同 皆遠き目をしてをれば桜かな 和子 花いつもさびしきところより散りぬ 緋路 子の声は残響となり連翹黄 同 花は散るべしと笛吹く裸体像 俊樹 春の野の児らしか知らぬものがたり 軽象 花すみれ遠くの空に戦闘機 美紀 春光の鳩はみどりの首見せに きみよ
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和6年4月6日 色鳥句会 坊城俊樹選 特選句
夕日落つ別離の駅の古巣かな 朝子 冴返る齢八十骨の音 成子 仔犬抱き遅日の船を見送りぬ かおり 菜の花や千の棺より生るる 睦子 枝枝に声転がせて鳥交る たかし いつせいに揺るゝ吊革鳥帰る かおり 煙草屋は古巣残して店仕舞ひ 久美子 陽炎の消えて居座る陰陽師 美穂 地に古巣天に野鳥の窓があり 修二 我先に舫ひ綱解き鰆東風 たかし 朧月十二単衣に逢へさうな 同 しつけ糸解くおぼろ夜の京友禅 美穂 待つといふうれしさ人も桜にも 孝子 永遠の未完でありぬ桜かな たかし
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和6年4月8日 なかみち句会
春の海ばかりの駅に途中下車 秋尚 つれづれに雨音聞いて日永かな 廸子 鎌倉や角曲がるたび春の海 三無 石楠花や参道狭し奥の宮 史空 お別れの日に石楠花の紅の濃く 貴薫 また元の話に戻る母日永 美貴 小刻みにきらめく春の海まどか のりこ 寺領にも石楠花紅く小糠雨 ます江 ………………………………………………………………
令和6年4月8日 武生花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
娘良し妻さらに良し春日傘 三四郎 母の忌を迎へし朝の春の雪 ただし 風光る千年超えし物語 みす枝 春浅し耳朶柔らかなイヤリング 世詩明 天空へ光を返す白木蓮 三四郎 愛猫に愚痴こぼしをり四月馬鹿 みす枝 初蝶の二つ行先定まらず 英美子 貝の紐噛んでひとりの春炬燵 昭子 ほろ酔ひを名妓支へて大石忌 同 校庭の鉄棒に触れ卒業す 時江 薔薇一本くれる夫ではなけれども 昭子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和6年4月9日 萩花鳥会
春一番濁りし川の鯉めざめ 祐子 春愁の情緒一新晴衣着る 健雄 春の宵椿徳利の矢の根寿司 俊文 四月空総出で迎える娘の帰国 ゆかり 遊覧の舟に続くや花筏 明子 教科書に漢字で名前進級す 美恵子 ………………………………………………………………
令和6年4月12日 鳥取花鳥会 岡田順子選 特選句
山笑ふ札所巡りにの急き 宇太郎 一歩づつ眼下となつてゆく桜 美智子 渡船場に飯蛸釣りて島土産 宇太郎 桃咲いて捨て犬たちの誕生日 都 杖を曳き混じりて遊ぶ花筵 悦子 囀を総て抱へてゐる大樹 史子 初燕無音の青を切り分けて 宇太郎
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和6年4月13日 枡形句会 栗林圭魚選 特選句
としあつ忌修す爛漫卓の上 百合子 信濃路は薄紅に花杏 和代 里は今杏の花に溺れたる 白陶 想ひ出のとしあつ談義飛花落花 亜栄子 竹秋の風を聞かむと句碑に佇ち 三無 白寿なる母満開の花と散る 多美女 句碑古りて若さ溢るる花楓 文英 雨上り杏の花の山家かな 幸風 ふんはりと包みたる香の花通草 秋尚 白き卓都忘れの彩映えて 恭子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和6年4月13日 さくら花鳥会 岡田順子選 特選句
対岸に人の流れてゆく花見 あけみ 軽貨物春の泥付け走る町 紀子 犬ふぐり自転車の子は風のやう 裕子 烏ども引き連れてゐる田打ちかな 紀子 障子開け全て我が世の花見なり みえこ
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和6年4月13日 花鳥さざれ会 坊城俊樹選 特選句
余生をば貪る朝寝でありにけり かづを 一穢なき姿のままの落椿 同 落ちてなほ華やぎ続けゐる椿 同 春風に仰ぎて凜と左内像 同 板木打つ仕草秘かに春そこに 和子 朝寝して咎める人も無き自在 泰俊 春愁や錆びし火の見の鉄梯子 同 蛇穴を出づと云ふ世の一大事 雪
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和6年4月16日 伊藤柏翠記念館句会 坊城俊樹選 特選句
咲き満ちし花に静けきある古刹 かづを 芽柳に縁なる風棲み初めし 同 沈丁の闇をつないでゆく香り 同 九頭竜に吐息とも見る春の雲 同 此の花に幾春秋を共にせし 雪 花を見に一人で行ける所まで 同 春休み児ら自転車で飛び廻る 富子 鴬のしきりに啼く日啼かざる日 英美子 川幅を歪めて流る花筏 真喜栄 夜��くらやいつも打つ寡婦暮し 世詩明 筍や十二単の皮を剥ぐ 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和6年4月17日 福井花鳥会 坊城俊樹選 特選句
哀愁の容姿あらはに紫木蓮 数幸 徐に白を極めて花水木 千加江 流されて留まり忘る花筏 同 春場所やふるさと力士���け多し 令子 唐門の昔を語る桜かな 啓子 紫の夜空の中に桜散る 同 二人で見いつしか一人花の道 希子 仮の世にしては見事な花吹雪 泰俊 無住寺は無住寺のまま桜咲く 同 愛子忌やせめて初蝶見たること 雪 落椿踏まるるをもて瞑すべし 同 和尚来たかと散る花に酌まるるや 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和6年4月19日 さきたま花鳥句会
たまゆらの時を浮遊し石鹸玉 月惑 春愁や己を鼓舞し逝く句友 八草 花篝名残りの片のうらおもて 裕章 脱ぎ捨てし靴下にある花疲 紀花 掛茶屋へたどりつきたる花疲 孝江 花吹雪渋沢像の頭に肩に ふゆ子 腰痛の愚痴ふき飛ばす芝桜 としゑ 楤の芽の口にひろごる大地の香 康子 春炬燵夫の座椅子のたばこ臭 恵美子 藤棚の真中を風の通り抜け みのり 待ちかねた早朝よりの花見客 彩香 十字架の隣に読経山笑ふ 良江
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令和6年4月21日 風月句会 坊城俊樹選 特選句
メタセコイアむんずと掴む春の雲 三無 今日も来て舞ひを見せたる春の蝶 ます江 佐保姫を見送る空の雲白く 軽象 蒲公英の真白き絮は飛ばず揺れ ます江 一山をより高くみせ桐の花 斉 僧一人花韮咲かす露地に消ゆ 久子 牡丹の重たく崩れかけてをり 秋尚 桜蘂降つて大地に横たはる 斉 春草の足裏くすぐる田圃道 経彦 観音の御手のやさしく著莪の花 芙佐子 ゆつくりと翅を広げて蝶生まる 斉
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和6年4月22日 鯖江花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
昨夜爪を切りたる指に草を引く 雪 十一面千手千眼像朧 同 瞑すべし柏翠踏みし落椿 同 この椿もんどり打つて落ちたるか 同 初蝶や昨日は森田愛子の忌 同 不器用を誰憚からず針供養 同 春愁や文箱に封じたる手紙 同 春愁や此の髪に手を置きし人 同 昭和人昔語らず花の下 昭子 本気度を探るお見合亀鳴けり 同 久々に手に取る修司五月来る 同 しなやかにそしてしたたか単帯 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
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その名の通り松ばかりやたらと植えてある松見公園というゆるやかに傾斜する扇形をした芝生の広場とその底に位置する大きな池(パンくずを投げ入れるとたちまち無数の鯉が食いついてまるで水面が沸騰したかのように波打ち泡立ち飛沫をあげてたゆたう)とその池の真ん中のあたりに屹立するコンクリート打ちっぱなしの栓抜きの形によく似ているから栓抜きタワーと呼ばれている塔がある公園はその北東の一画が大学病院の敷地になっていて、だから松見公園には足先を丸っこく厚ぼったいギブスで固められたうえに包帯でぐるぐる巻きにされて両腕で松葉杖をつきながら一方の足を浮かせもう一方の足で跳ねるように歩いている男やおそらくはなにか頭部の手術をしたあとなのであろう髪の毛を剃りあげられて半球状に包帯を巻きつけられその上に伸縮性のある素材で出来たやわらかい真っ白いネットをかぶせられて看護師に車椅子を押されている少女が散歩しているのをながめられるのだけれど、大学一年生のとき映画サークルに入った友達に連れ出されて松見公園でなにかの撮影につきあっていたらどういうなりゆきからかはもう忘れてしまったが入院中の子どもたち(たぶん六歳から十歳までの間くらいだったと思う)と遊ぶことになって一緒にぶらんこを漕いだり鬼ごっこをしたりしたことがあったのだが今から思えば不審者と間違われて通報されてもおかしくなかったわけでよくあんなことをしたものだと思う、松見公園のすぐ南は盛んに自動車が行き交って街路樹もまばらにしか生えていない殺風景な生活道路そのものといった感じの北大通りという道路になっていて、ペデストリアンデッキのゆるやかそうに見えて意外ときつい傾斜にしたがって陸橋を越えると北大通りのむこう側の小さな大学のキャンパス(欅や��、楠、樫があおあおと茂る雑木林になっていて十月か十一月頃に通ると黄や赤に染め直された落葉枯れ葉が風に舞って夢のようにうつくしい)になっているのだが、そのキャンパスは校舎と図書館と体育館とグラウンドの間から住宅街のほうに抜けることができるからわたしはよく抜け道として使わせてもらっていた、赤茶色と焦茶色と黄土色の煉瓦をモザイク模様のように敷きつめた雨や雪が降るとやたらとつるつると滑っていつも転びそうになる真っ直ぐな小さな道を通るとそのむこうは住宅街になっていて、緑いろの安っぽいビニール製のひさしを大きく伸べた拉麺屋がある角のひとつ先の角を曲がりなだらかに続く坂をゆっくりと下っていくとその先にわたしがよく通っていた有朋堂という一階建ての古い書店があって、くり返し刈り込まれたせいで横に広がることができず縦にばかり伸びて箒のような形になっているイロハモミジが並び立つ通りに白くペンキで塗ってあるが劣化し剥げて擦り切れて赤茶色の錆を露わにしている細長い高い支柱の頂点にアンバランスなほど小さな正方形のパネルに「本」とだけ書いてある真っ赤なネオンサインが掲げられた看板が立っているのが目印だった、有朋堂には二階がなくてつまり一階建てで平面図にすると正方形かそれに近い長方形をしていてその横の辺に対して平行に何列も本棚が並んでいる他に壁際も隙間なく本棚になっていて、その南東にある通りに面した角だけは斜めに小さく切り取られて自動ドアを嵌め込まれた出入口になっていた、学生街に昔からある書店ということもあってか今どきめずらしい硬派な品揃いをしていて文庫や新書はもちろんとして学術書や人文書も豊富なので非常に重宝し頻繁に通っていたから、わたしが大学三、四年生の頃にちかぢか閉店することになったと聞かされたときは本当に残念でならずせめてその前になにか一冊本を買って形見の品にしようとAと話し合って自転車を漕ぎ漕ぎ慌てて駆けつけて一、二時間も本を物色したあげく買ったのがル・クレジオの『物質的恍惚』でなぜあえてその本を買ったのかは自分でもよくわからないけれどその本も幾度か引っ越しをくり返すうちに今はもうなくしてしまった、その後有朋堂は一度は閉店したのだがしばらく経って規模を縮小し再び開店することになったと人づてに聞いたから今もあの「本」とだけ書いてある赤いネオンサインが掲げられた看板は立ち続けてい��はずでそのことはたしかめようと思えばすぐにたしかめられるがわたしはたしかめない。
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2021年8月の夢
- 2021年8月31日 火曜日 7:05 夢 中学の同級生wが出てくる
- 2021年8月30日 月曜日 7:02 夢 新しい職場にいる(という設定) 電源の付け方にコツがあ���、即印刷キャンセルなど押さねばならない。 PC室みたいな感じ。 ふっくらした大柄の女性、小柄の女性。 席は決まっておらず��どこに座ってもいいがなるべく並ばないようにと言われ、「こんな時ですしね」と言う。 カラオケの廃盤になった家庭用機器。
- 2021年8月29日 日曜日 7:34 夢 地図上で子供のための歯医者を探す。井の頭公園のような公園のそば。池の近く。
- 2021年8月28日 土曜日 2:27 夢1 保育園生の子供を預けているらしい。ひとりは幼稚園で吟行へ行ったとのこと。 宝石画の立体物の前へよじのぼる。
夢2 タイポの人の修正ファイルを見る
- 2021年8月25日 水曜日 7:18 夢 緑の魔女というコーヒー屋へ行く ナポリタンと何か食事メニューを提供している 本当は統制が敷かれていて出しちゃいけないらしい、店の人の好意で出している
- 2021年8月24日 火曜日 3:48 夢 飛んでいきそうな段ボール性の家の中に、3人くらいでいる。配色はキティちゃん。夜に風が来て水路の方に行ったら終わり。 店内に古い物が売ってある。衣類など。手仕事系のユーズドが多いがエリアによって雰囲気が違う。ゴシックぽい服が沢山あるのを二人で見る。衣類の古い匂い。少し怖くなる。走る。フランケンシュタインのような人物がいるのが見え、妹が怖がり、波紋を流す。 一時閉店中だが好意で開けているパン屋のような店の名前を教えてもらう。老婆が2、3種類のケーキみたいなものを用意している店。その日のものが箱に入って部屋に置いてある。タルトのようなもの。皿に取ろうとしていると、取りにくく、試行錯誤しているうちにバラバラになる。気づけばタルトはリンゴのフリーズドライみたいなものがたくさん周りに付いている何かに変わっている。
夢2 余った納豆などを振り分ける。 上履きにハチミツ垂らし最上川
- 2021年8月23日 月曜日 6:53 夢 ボリビア 唐辛子を売っている露天商、周りを海に囲まれている様子が見える 飛行機が飛んでいる トランプみたいなカードタイプの麻雀をする 手の中でバラバラして並べにくくストレスが溜まる
- 2021年8月22日 日曜日 7:26 夢 手形みたいなもの ギャッペ 壁掛け 子供がいるお宅。薬屋さんみたいにごちゃごちゃした飾り物であふれた部屋。大谷翔平が撮ったインタビュー写真、雑貨屋の店長、水からホールのコーヒー豆を煮出している
- 2021年8月21日 土曜日 7:03 夢 逃亡犯と逃げている。逃亡犯は星野源と知り合いで、星野源の車に乗ることになる。クルマは茶色で鼻先の長いピックアップトラックで、ドアを開けて待ってくれている。乗り込むとすごくいい匂いがする。Aesopの香水みたいな植物っぽい匂い。星野源はガーミンを着けていて、手足を折り曲げて座っている感じが見える。
Tさんに焼肉をさせてもらう。豚ロースを焼く。たぶんスーパーの店内。妹がいる雰囲気がある。お礼として箱に入ったぶどうを一房渡すことにする。
コンクリート打ちっぱなしの地下の詰所。何人もでそこにいる。警備員の詰所らしい。本当に何もなく、非常ベルとか待機電力の明かりだけついている。が、住んでいる人もいる雰囲気。ヤバTの推しのいる生活が流れる。エレベーターに向かって走る。
- 2021年8月20日 金曜日 7:17 夢 上戸彩に似た女性がいる、年配の俳優の家にいる、第三者目線で見ている。都心なのに広い感じ。 誰かが訪ねてくる。女性は来客を驚かせるために一瞬のうちにまぶたや歯茎をポスカで青く塗る。サービス精神があり、無邪気で可愛い。 変わった果物。ものすごく緑色でずんぐりした国産のスターフルーツ。すべすべで産毛が生えたような洋梨みたいな形の果物。ねずみ色に斑点がある。
- 2021年8月19日 木曜日 7:06 夢 バス旅行。最後の一人を待っている。ものすごくうるさい子供。太っている。不吉な予感。 LUSH。なおくん。渋いお菓子。ネイルオイル。 そうめんと赤だし味のあめ。 何か食べてから行くほうがいいのか。
- 2021年8月18日 水曜日 3:47 夢 Nくんとユキちゃんとラーメンを食べている。 どちらかのおすすめの店であるらしく、あそこで食べよう!と駆け降りていく 魚が吊るしてある。見ると口の中に干魚のみっしりした全体的な味がする。 小雨が降っている テーブルはシンプルでコップだけ水を汲んで置かれる、他はなんにもなし ビデオデッキ サミュエルビープスの日記 何か撮れているか確認してほしいと言われる
夢2 Kがいる。 駐車場みたいなところで食事している。 青い車で仕事に戻っていく。 募金をする。 青いカキ氷にアイスとか白玉を乗せたものを食べたくなる。が、募金したせいで少し足りない。 あんこと白玉のカキ氷が店の一押しらしい。 しかたなく諦め、歩いて帰ろうとする。 知っている地元の道のようだが、錦鯉とか金魚をびっしり並べて売っている店のとなりを通ることになる。やや不気味だが気になる。もっとよく見てみたいが、店主と目が合いそうで警戒する。 古いものを売っている日用品店がある。 デッドストック品に興味を惹かれ、購入したくなるが、現金がない。 赤いじょうろの入った子供向けのセットみたいなもの、店内にいろんな布。
- 2021年8月17日 火曜日 3:06 夢 なんか見たけど忘れてしまった 暑くて起きた オリオリオリオ〜 ヤリヤリヤリヤ〜の曲を道でやっている 全員が曲の盛り上がりに合わせて立ったり座ったりしている スケボーみたいなものに乗っている女性
- 2021年8月16日 月曜日 5:09 夢 助手席に置いてもらったはずのカバンが無くなっており、おい……と思う。 プールが流れる室内。
- 2021年8月15日 日曜日 8:06 夢 川で濁流に呑まれる。韓国のよう。油っぽい屋台。
- 2021年8月14日 土曜日 7:48 夢 すごく狭い台所の隅みたいなところにはまり込んでいる。 大きめの紙魚みたいな虫が動いていて、紙魚ならまだしもゴキブリが出て足に当たるのではないかと気が気でない。 だんだん明るくなってきて、羽虫が増えてくる。 外に出る。 バスの周囲。 あまり合わない親戚たちがいる雰囲気。 服をもらう。ものすごくダサいアルファベットがびっしり書いてある服。着ないでお茶を濁そうとするが着ざるを得ない雰囲気。 もう一着、アメコミ柄のものをよこされる。
- 2021年8月13日 金曜日 9:02 夢 若い男を解体している。足首や手首の骨の解体具合を聞く。実家の台所にやや似ている。スープのダシを取るらしい スーパーの衣料品コーナーみたいなところが売り場縮小していて、前と勝手が違う サラダはもう作ったのかと聞かれる フォロワーの雰囲気 誰かが自分の娘がポップコーンのたれを盗み食いしようとしているのを咎めている
- 2021年8月12日 木曜日 7:52 夢 なんかうまく立ち止まれない。浮いてるようなブレーキが効かないような感じ。 病院のリネン室がある。 医療関係のパンフレットを投げ込む。 部屋の角を利用してザ・ワールドの絵を立体的に見えるように撮った写真。 図書館の本。
- 2021年8月10日 火曜日 4:52 夢 雀荘 細い通路 カウンター 菊ちゃん シェルダー
- 2021年8月9日 月曜日 10:12 夢 見たけど覚えていない。寝起きにいきなりスマホいじってしまうと簡単に忘れてしまう。寝る前に映画見ると如実に眠りが浅くなる・でも寝る前以外に見るときなくない?
- 2021年8月8日 日曜日 6:35 夢 李下に冠を正さずの別パターンの言い方をされ、なんかかしこぶってるよねと指摘する。 アートクレイシルバーで指輪を焼いた 自分の知らない水着が出てきた
- 2021年8月7日 土曜日 6:22 夢 冨樫義博がギーガーに影響を受けて描いた宇宙船がある 船腹から髪の房が生えていて、そこが特にグロテスクで良い 興味本位で中に入ったら仙水と樹みたいなキャラクターらがおり、死闘を繰り広げている。場違いなところへ来てしまったと後悔した
- 2021年8月5日 木曜日 7:01 夢 古い折りたたみ携帯の色が変わる。カメレオンみたいにぬるぬる色が変化し、不気味に思う。 裕福な家庭の様子。ネック���スの長さとかにまでレクチャーが入る。 猫がいる廃屋。指導要綱。
- 2021年8月4日 水曜日 8:34 夢 プールの流れる通路を泳いでいる。 飛び込みの台がある。落ちざるを得ない。 オムライスのおにぎりを持ってきて注意されている子供がいる。
- 2021年8月3日 火曜日 6:22 夢 みなみがいる。 目地が気になる
- 2021年8月2日 月曜日 6:55 夢 段ボールに入ったこち亀が届き、読む。 おばあさんを抱く話。
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【小説】JOKER 第一部
プロローグ
〈1〉
深夜零時。
ロレックスに目を落とした緒方進(おがたすすむ)はブリーフケースを手に、生ぬるい海風を受けながら水銀灯の明かりで照らされた新庄市郊外の公園に立っている。
海に面した絶好のデートスポットなのだが、残念な事に交通の便が悪い上に駐車場すらなく、昼間でも子供でさえロクに遊びに来る事が無い。
緒方の両隣りに二人、公園の入り口と四メートル道路に停めたベンツに運転手代わりが一人貼りついている。
全員原色のスーツに金ネックレスならプロ野球選手の夜遊びと言えない事も無いだろうが、広域指定暴力団矢沢組の組員は落ち着いたビジネススーツが常だ。
そしてブリーフケースには二百万円分のメタンフェタミン――覚醒剤が入っている。
取り引き相手は調子に乗っている街の半グレ。
昔で言うストリートギャングだ。
半グレと言っても若者ではない。若い頃にやんちゃをしたがいいが足抜けに失敗し、ヤクザになる器量も無いチンピラだ。
麻薬が若者に蔓延している、というのは半分正解で半分間違いだ。
昨今の若造は非正規労働などで麻薬に金を渋るどころか、タバコにさえ金を落とさない。
麻薬を使っているのは女を薬で縛って風俗で働かせるか、末端の構成員を薬で縛り付けるかのどちらかだ。
スポーツ選手や芸能人は大金を落とすが、それは表沙汰にしない為の口止め料としての意味合いが強く、普通に流通している薬はそこまで高くない。
そんな価格設定をしたら麻薬依存症患者は年収五千万円以上に限られてしまうだろう。
そしてスポーツ選手や芸能人などの成り上がりはともかく、そんな高所得者は基本的に麻薬など嗜む事は無い。
麻薬というのは貧乏人を貧乏人に縛り付け、思うがままに操る道具なのだ。
緒方がそれでも月収に相当する額のブリーフケースの重みを感じていると、年甲斐もなくスウェットを来た男が軽のワゴンで公園に乗りつけた。
逆向きにかぶった野球���はヤンキースなのに、スウェットはボストン大学という統一性の無い男の後ろに三人の若造が続く。
間違いなくアメリカのストリートギャングを意識しているが、残念ながらエミネムにもJAY-Zにも見えない。
オーバーサイズの服をだらしなく来た日本人だ。
「緒方さん、金持って来ました」
ヤンキース帽がポケットから雑に札���を出して見せる。
それでクールだと思っているのだからタチが悪い。
「ブツはある」
緒方が顎をしゃくると若い衆がヤンキース帽の札束を確認する。
帯どめしてある訳でもなく、おおよそでしか金額は分からない。
しかし、金額が違っていれば差額を血肉で支払う事になる事はヤンキース帽も理解しているだろう。
若い衆がざっと金を数えた所で、水銀灯の下にトレンチコートの男が忽然と姿を現した。
紫色のどぎついトレンチコートに西洋風のピエロのマスク。
「ハッピー、ハロウィーン」
おどけたような合成音声が響いた時、緒方は背筋から嫌な汗が滲むのを感じた。
遭遇するのは初めてだが、ヤクザや半グレをターゲットにしたハッピートリガーの噂は緒方も聞いた事がある。
トレンチコートに突っ込んだ手が引き抜かれた瞬間、銃声と共に足下と背後の遊具で火花が爆ぜる。
「緒方さん!」
若い衆の一人が銃を抜いてピエロ――ジョーカーに応戦しようとする。
ジョーカーのトレンチコートが開いて、内側から映画でしか見た事の無いショットガンより大振りな銃器――グレネードランチャーが姿を現す。
「ハロウィーン? 失敬、まだ五月だ」
ジョーカーのグレネードが火を噴くと同時に地面が爆発して公園に身体が投げ出される。
半グレがへっぴり腰で公園の外に出ようとした瞬間、ジョーカーのもう一方の手に自動小銃が握られていた。
「屋根よぉーり高い、鯉のーぼーりー」
自動小銃が瞬き、公園の出口付近に無数の弾丸がばら撒かれる。
隙を突いて緒方は裏手に停めたベンツに向かって走る。
初対面とはいえ、こんな火器を狂ったように撃ちまくる狂人を相手になどしていられない。
自動小銃が向きを変え、ベンツの防弾ガラスに傷が穿たれる。
それでも緒方がベンツに戻る間に、半グレの連中は軽のワゴンに向けて疾走している。
ジョーカーのグレネードがベンツに向けられる。
助手席に転がり込んだ緒方は叫んだ。
「出せ!」
猛スピードで走り出すベンツをジョーカーは追って来なかった。
緒方はあの猛烈な砲火の中、生き延びた事を奇跡のように感じていた。
〈2〉
午後八時。
没個性的なダークスーツに身を包んだ三浦清史郎(みうらきよしろう)は新庄市駅前にある新庄商店街の場末のバー『サイレントヴォイス』を訪れている。
新庄市は首都圏のベッドタウンとして栄えている太平洋に面した、人口八十万の町だ。
駅前の商店街では二百を超える店舗が活況を呈しており、湾岸という事もあり工場地帯も存在する。
耳に心地よいJAZZが流れる中、清史郎がショットを二杯開けた所でパリッとしたスーツを粋に着こなした慶���盛弁護士事務所の慶田盛敦(けだもりあつし)が現れた。
互いに若手と呼ばれる頃に知り合い、今では二十年の付き合いになる。
「待たせたようだな。今幾つか案件を抱えていてね」
慶田盛弁護士事務所は警察の冤罪事件を扱う事で、その道では知られている弁護士事務所だ。
日本では警察が立件した裁判では99%の確率で検察が勝利している。
その検察がでっち上げたものを、証拠を積み上げ無罪に、更には真犯人を警察に突き出して解決する。
それが慶田盛弁護士事務所の仕事であり、清史郎の三浦探偵事務所は裁判の為の情報である事件の調査依頼を受けている。
売れ筋である浮気調査などはしていない為、懐には常に隙間風が吹いている。
「最近はこっちも忙しくてね」
清四郎はスコッチを注文した慶田盛とグラスを合わせる。
『サイレントヴォイス』のマスターは、以前ヤクザに恐喝されていた所をジョーカーに扮して助けたという経緯がある。
もっとも通い続けて十五年だから隠す事もありはしない。
気のおけない古い友人のようなものだ。
「吉祥寺の死体遺棄事件の件は進展はあったのか?」
吉祥寺の死体遺棄事件とは、富山純也二十五才宅で、川上千尋二十二才が自傷行為で死んでいたというものだ。
死後二日後に近所の人間に通報された事から、警察は富山を死体遺棄事件の容疑者として逮捕。書類送検した。
富山は無罪を主張し、慶田盛弁護士事務所に泣きつき、慶田盛が三浦探偵事務所に調査を依頼したのだ。
「川上は富山と同棲していた。富山の証言では自傷行為など考えられない」
同棲していた富山が被害者の死亡時に出張で家を空けていた事はアリバイとして記録に残っている。
「それは本人から直接聞いている」
慶田盛の言葉に清史郎は頷く。
「川上は都内の建築会社で事務をしていたが、実は裏で足つぼマッサージをしていた。これは歩合給で明細書も無い手渡しだ。小遣い稼ぎには丁度良かったんだろう」
清史郎は店舗の写真を慶田盛に見せる。
富山も都内の広告代理店に勤務していたが収入はお世辞にも良いとは言えず、川上としては将来を考えても副収入が欲しかったという所だろう。
その辺りの事情はマッサージ店の同僚から聴取住みだ。
「富山は言っていなかった。どうやって調べたんだ」
慶田盛が驚いた様子で写真を手に取る。
「足で稼いだんだよ。で、マッサージ店には川上に執着している、大野正則という客がいた。この男は二十歳でコンビニでアルバイトをしていたが、その給料のほとんどをマッサージ店の指名につぎ込んでいる」
清史郎は大野と、彼がコンビニで働いている写真を見せる。
大野という男が川上に執着し、横恋慕していた事は他の店員から���話が聞けている。
「じゃあ、そいつがストーカー化して川上を殺したのか?」
やりきれないといった様子で慶田盛がスコッチに口をつける。
「このコンビニには別に野原椎名という二十五才のアルバイト店員がいる。この女は大野と交際していると公言しており、ストーカーの気質もあるようだ。大野は全面的に否定しているけどな」
清史郎は野原と、野原が大野を尾行している写真をカウンターに乗せる。
追っている者は追われている事は忘れがちなものだが、大野が川上を付け回し、その大野を野原が追い回していたという訳だ。
そして道ならぬ恋に破れた野原は凶行に出た。
「じゃあ、野原が大野と川上の関係を勘違いして……」
話を整理するようにして慶田盛が言う。
「川上の切創は手首と腕に集中している。これは自傷行為というより防御創だ。更に他に傷跡も無い事から自傷行為の常習という事も考えられない。仮に大野が殺したとするなら、体格差から刺殺になった事だろう。つまり傷跡から考えても同程度の体格の相手から切り付けられたと考えないと成立しないんだ」
警察から入手した傷跡の写真には古い傷跡は一つも無い。自傷行為が常習性を持つという事を考えれば自殺の線は消えたと考えていい。
「川上は外に助けを求めに出ようとは思わなかったのか?」
「手のひらも切られていたんだ。普通の神経ではドアノブを握る事もためられただろうし、本人も富山が帰ってくれば助かると思ったんだろう」
富山は残業や出張が多く、帰宅時間は一定していなかった。
富山が出張を被害者に伝えていなかった事も証言から明らかになっている。
清史郎は資料の束を慶田盛に渡す。
「毎度仕事が早くて助かるよ。これで検察の容疑を晴らして真犯人を起訴できる」
慶田盛が満足そうに言う。探偵業をしていて良かったと思える一瞬だ。
「で、娘の学費の件なんだが……」
清史郎は慶田盛に話を切り出す。
大学を卒業してすぐに結婚し、娘ができて半年と経たずに妻が離婚を申し出た。
不倫である事は分かっていたが、彼女の名誉の為に黙って養育費を受け入れた。
とはいえ、慶田盛弁護士事務所の依頼者の多くは金銭的に厳しい者が多く、その仕事を更に下請けする三浦探偵事務所の実入りはとても良いとは言えない。
一年で五十件の冤罪事件を解決した年もあったが、その年の収入でさえ四百万を少し上回る程度だったのだ。
テナント料と養育費を払ってしまえば食費もロクに残らない。
半ば商店街の好意で事務所を置かせてもらっていると言っても過言ではない。
そしてようやく養育費を払い終わったと思ったら、元嫁が娘の学費を請求して来たのだ。
慶田盛いわく法的には支払いの義務は無いとの事だが、娘を大学に進学させてやりたいという思いはある。
「示談にするのが一番じゃないか? 向こうも本気で学費を巻き上げられるなんて思ってない」
「敏腕弁護士が中途��端な事を言うじゃないか」
「君の元奥さんは金が欲しいだけで最初から娘を大学に行かそうなんて思っていない」
慶田盛の言葉に清史郎は石を飲んだような気分になる。
「私が支払うと言えば嫌でも大学に行かせなくてはならなくなるだろう」
元嫁に対する愛情など欠片も無いが、娘に対する愛情は残っている。
「そんな金が君のどこにあるって言うんだ。夕食を場末のバーボンで済ませる男の食生活がこれ以上荒むのは見るに堪えない」
慶田盛の言葉に清史郎はため息をつく。
確かに慶田盛の言う事に間違いは無い。
――あの女のせいで自分も娘も……――
ジョーカーとして稼いだ金を出せば解決可能だが、帳簿に乗らない金を出したなら国税局に乗り込まれる事になる。
結局私生活は何一つ変わっていないのだ。
「しばらくしたら仕事の量を増やすさ」
ジョーカーを演じ始めたのは与党と矢沢組が推し進める新庄市再開発計画を阻止する為だ。
その行方を占う知事選挙が四か月後に控えている。
「もう歳なんだ。いい加減町を騒がすハッピートリガーなんてやってられないだろう」
「これはそこいらの冤罪なんてモンとは次元が違う。新庄市に生きる人々の生活がかかっているんだ」
清史郎が言うと慶田盛が苦笑する。
「相変わらず正義感だけは人一倍だな」
「皮肉を言うならお前も大手の弁護士事務所に転職したらどうだ?」
清史郎の言葉に慶田盛が笑みを浮かべる。
「それこそ真っ平だ」
清史郎は笑みを交し合うとグラスの底に残ったバーボンを飲み干した。
慶田盛も自分も世間で言う所の真っ当な大人にはなりきれていないのだ。
〈3〉
今年で二十七才になる円山健司はマンションの部屋のボタンを適当に押していた。
『はい、どちら様ですか』
「amazon様からの御届け物です」
本物のamazonの箱を抱え、配達員の服装をしているのだから疑う者も無いだろう。
――注文客以外は――
マンションのオートロックをパスしようと思ったら、住人について行くのが一番手っ取り早い。
しかし、そ���以上に手堅いのが郵便物の配達員になりすますという方法だ。
amazonであればほとんどと言って良い人間が利用しており、世帯主では無くてもファミリー向けマンションなら家族が注文している可能性もある。
そしてオートロックをパスしてしまえば、実際にその部屋にものを届ける必要など無いのだ。
健司はオートロックをパスすると非常階段で配達員の服装を箱に収め、ビジネススーツに身を包んだ。
どこに居ても違和感を感じさせないという点で、ビジネススーツはほぼ最強のアイテムと言える。
健司は時刻が二十二時になるのを待って、十四階の廊下にクリスマス用のランプを天井から垂れ下がるように飾り付けた。
全て両面テープで一瞬で剥がせるようにしてある。
更に待つ事一時間、程よく酔ったスーツ姿の男がエ��ベーターから出て来る。
健司は息を飲んで男の背後につけ、クリスマスの飾りつけを一斉に点灯させる。
男の胡乱な目と意識が飾り付けに向いた瞬間、健司は男の両足を抱えるようにして廊下から外に向かって放り出していた。
悲鳴を上げる間も無く、鈍い音が階下から響く。
八階以下なら死亡の確認も行うが、十四階で生きている事はまず無い。
飾り付けの一方を引っ張って仕掛けを回収し、箱に収めてエレベーターで悠々とマンションを後にする。
明日には会社員自殺の報が流れるかも知れないし、流れないかも知れない。
いずれにせよ、目的を果たした健司は『殺し屋』へと足を向けた。
『殺し屋』は歌舞伎町の風俗ビルの一室にある。
夜更かししてまで仕事をする気は無い為、殺し屋と書かれた看板の電源を入れ、のれんをかけるのは明日の朝九時になってからだ。
ボックス席が二つにカウンターが六脚。
お品書きには殺し方のメニューが書かれている。
客はその中から死因や死体の放置の有無などを選択し、健司は見積もりを出してターゲットを殺す。
ごくごくシンプルなビジネスだ。
今日のターゲットはヤクザに貸し渋りをした銀行の支店長で、死因は自殺で死体は放置で良いという事なので仕事としては楽なものだった。
とはいえ、調査に四日かけて二百万の報酬。
ヤクザが稼ぐ額に比べれば雀の涙だが、踏み倒される事を考えれば前払いでささやかに仕事をする方が余程いい。
殺し屋も楽な仕事ではないのだ。
〈4〉
渋谷のクラブ『クイーンメイブ』で、三浦清史郎は所在無げに立っていた。
本日のDJはKENこと前田健だ。
アップテンポのR&Bと若い男女の支配する空間で、中年の疲れたサラリーマンといった体の清史郎は明らかに浮いている。
健がボックスのVIP席を用意してくれているが、一人でそんな所に座っていても落ち着かないだけだ。
健のパフォーマンスが一段落した所で、清史郎は二十歳過ぎのTシャツにデニムのショートパンツといった服装の女性に声をかけられた。
「ジョーカー、何疲れてんの?」
「仕事とここの空気のダブルパンチだ」
声をかけて来たのは長い髪を茶色に染めた飯島加奈というコンビニの店員だ。
快活な女性で、見ている限り店長より仕事をテキパキとこなしているように見える。
仕事さえ違えば有能なのかも知れないが、このご時世では仕事があるだけでも儲けものだ。
「ノれば楽しいって」
加奈がしなやかな身体を動かしてダンスらしきものを踊って見せるが、清史郎には真似をする事もできそうにない。
「俺の頃、ダンスは学校の授業に無かったからな」
清史郎はカウンターでアーリータイムズを注文する。
酒屋ではボトルで買っても千円程度なのに、クラブではショットで四百円取られるのだから暴利もいい所だ。
「私の頃だって無かったってば」
加奈がカシスオレンジを注文しているとパフォーマンスを終えた健が近づいて来た。
「どォよ、俺のパフォーマンスはよ」
「毎度疲れるよ」
清史郎は肩を竦めて答える。
「釣れねぇ態度、クイーンはどうだった?」
健が加奈――クイーンに話題を振る。
「いいんじゃない? ここではナンバーワンなんでしょ?」
楽しんではいたが加奈もDJの良し悪しは良く分かっていないようだ。
「だろ? 俺、最高にクールだったよな?」
言って健がスクリュードライバーを注文する。
健だけは店舗でDJをしている為にドリンクが無料だ。
「センスがいいのは認めるけど、ここのクラブで一番でも他所で一番って事にはならないから」
ぴしゃりとした口調で加奈が言う。
「これだけで食っていけるとは思ってねぇよ」
悄然とした口調で健が肩を落とす。
DJを優先している為、不規則な生活の彼は普段は日雇いのバイトをしている。
全員が飲み物を手にした所でダンスフロアを横切ってボックス席に向かう。
「に、してもよジョーク、昨日のヤクザ連中のビビりっぷりは最高だったな」
楽しそうな口調で健が合皮のソファーに腰を下ろす。
「エースは機械いじってただけでしょ? 仕込みをしたのはあたしとジョーカーなんだから」
加奈が健――エースを叱責するような口調で言う。
「俺は俺で神経使ってんだって。第一お前らだけじゃWi-Fiのクラッキングもままならねぇだろ」
「その危険地帯にジョーカーが踏み込んで機材を仕掛けてるんじゃない」
清史郎はITに関しては門外漢だが、昔ながらの盗聴や盗撮、ピッキングといった技術は職業柄身につけている。
しかし、大手の情報企業と契約していない為、早いという利点は存在しない。
現在一般的な興信所は大手情報企業と契約しており、端末の通信履歴からクレジットの支払い履歴まで二十万円から六十万円でパッケージで購入している。
ETCの履歴まで買えるのだから、全て現金で賄い、更に携帯電話もスマートフォンも持たないので無ければ市民の生活は筒抜けだ。
だが、情報企業に頼るという事は、利害が密接に絡んでいる対象を調査できなくなるという事も意味している。
従って検察を敵に回している清史郎は情報企業を利用できないのだ。
その清史郎がジョーカーという仕事をするに当たって健をスカウトしたのは、単にDJは複雑な機材を器用に使っているという思い込みだけだった。
最初はヤクザに嫌がらせをするただの乱射魔演出という構想だったのだが、健のITスキルが想像以上に高く、健の元同級生で実務能力に長けた加奈が加わり、神出鬼没のハッピートリガー、ジョーカーが誕生する事になったのだ。
「そこはWINWINじゃね? 俺の真似は二人ともできないんだろ?」
勝ち誇った様子で健が笑みを浮かべる。
「現金回収したの私なんだからね」
封筒を手にした加奈が健に向かって言う。
昨夜のヤクザの取り引きでジョーカーが登場した時、どさくさに紛れて半グレの落とした金を拾ったのは加奈なのだ。
「で、幾らになったんだよ」
「がっつかないの。バラけてたので百十一万。ジョーカーが三十一万でいいって言ってるから四十万」
「あざーっす!」
健が笑顔で加奈から封筒を受け取る。
「に、してもボれぇよな。俺なんて一日工事現場で働いても七千円だぜ」
「私だって八時間みっちりシフト入って八千円行かないんだから。あんたは税金の天引きが無いだろうけど、私はガッツリ取られるんだから」
加奈が小さくため息をついて言う。
「私は確定申告で青息吐息だよ」
清史郎は苦笑を浮かべる。
本業の探偵は労力の割に儲かっているとは言い難い。
その中で臨時でも帳簿に乗らない収入があるのはありがたい事だった。
「ジョーク、辛気臭ぇ話は無しにしようぜ! 今日は俺のおごりだ」
健がバーテンにボトルを注文する。
――今日の所は好意に甘えておこう――
清史郎は明日から始まる地道な仕事に思いを馳せた。
第一章 殺し屋VSジョーカー
〈1〉
「まさかお前まで手玉に取られるとはな」
純和風の邸宅の四十畳ほどの上座から、矢沢組組長矢沢栄作の声が響く。
矢沢は東大出身で大手の組の金庫番をしていた経済ヤクザだったが、手腕を見込まれて盃を受けて新庄市を任された男だ。
大型カジノ施設と契約し、建設費用だけで二千億円を超える大規模開発事業に着手。
地域活性を謳ってケツモチをしている与党の知事を、市民公園を作ると言って与党の市長を当選させ、財務局を握って人口八十万程度の町である新庄市の経済活性としてカジノ施設を呼び込む段階まで運び込んだ。
しかし、新庄市には古くからの商店街があり、カジノ施設に一斉に反対。
この動きを野党が連合して支援した事で、矢沢組の工作虚しく市会議員選挙でまさかの野党大勝与党過半数割れとなった。
そこで組として商店街に圧力をかけ、一方で麻薬や売春で治安を悪化させて風紀を乱すという策に出た。
そこに商店街からの刺客のように出現したのがジョーカーだ。
従って、今回の取り引きでたかだか百万程度の損失を出した事は問題ではない。
手足となる半グレが震えあがり、商店街が盛り返してしまう事の方が問題なのだ。
ジョーカーは確実にドラッグか銃のある時にしか出現せず、空取り引きで警察を使って捕えようとしても決して出て来ない。
支配下にある警察でも公安とマル暴がジョーカーを追っているがかすりもしない。
「完全に俺の失態です」
緒方は畳に額をこすりつける。ジョーカーが来るかも知れないと備えていても、圧倒的な火力を見せられて対���できる組員など存在しなかった。
「お前で駄目なら誰が行っても同じだろう。幸いヤクは複数のルートでさばいている。一か所の取り引きが潰れたくらいでプランに変更は無い」
矢沢の言葉に緒方は頭を下げ続ける。
ジョーカーに遭遇すれば十中八九取引どころではなくなるし、組員の士気の低下につながるだろう。
しかも、ジョーカーの正体はまるで分らない。
ヤクザが取引の現場に発砲魔が現れたと被害届を出せば、警察と幾ら緊密な関係にあるとはいえジョーカー逮捕の前に麻薬取引や銃刀法で御用となる。
警察が味方と言っても、捜査させる理屈が見つからないのだ。
従って、科捜研を動かしてジョーカーを特定するという事もできない。
かと言って、ジョーカーらしき人物は大手の情報企業のデータベースにも存在しない。
そもそも個人が特定できていないのだから、企業から情報を購入しようが無い。
「カジノ施設反対派は金で分断しろ。一億二億なら建設の際に財務局の法で水増しできる」
矢沢の言葉を緒方は脳裏で反芻する。
これは緒方の裁量で動かして良いのが二億円程度という話だ。
商店街含め、新庄市でカジノ施設に反対している事業者は七百に上る。
二十万円づつ配ったところで効果は見込めないし、家業と住み慣れた町を捨てさせるには最低でも二千万は必要になり、十人買収したところで七百の事業者から見れば雀の涙だ。
二億という金をどう効果的に使うか。
麻薬の売買で風紀と治安を乱そうとしたところで、商店街が機能して失業者も少ないという環境にあっては大きな効果を見込めない。
警察は見逃してくれても市民に監視されているようなものなのだ。
――いつまでもこの状況を引き延ばす訳には行かない――
半年後の知事選で知事が敗れ、反対派の知事が誕生すればカジノ施設誘致契約が破談となり、二千億を超える金が利益ではなく損失として計上される事になるのだ。
それは矢沢組の滅亡を意味していた。
〈2〉
午前八時半。
『殺し屋』に出勤した健司は店舗の掃除を始める。
明るく綺麗な店舗は客商売の基本中の基本だ。
『殺し屋』を訪れる客は決して多くはないが、だからと言って手を抜いて良い理由にはならない。
風俗ビルの一室というどうにもならない立地上の限界はあるにせよ、一国一城の主として近隣の風俗店や飲食店と比較して店舗が清潔かつ快適であるという自負がある。
カウンターとボックス席を磨き上げ、店の前に出した看板の電源を入れて暖簾をかける。
健司はカウンターの中で客の訪れを待つ。
健司が『殺し屋』を始めたのは大学卒業から四か月が過ぎてからだ。
在籍中に内定を取る事ができず、無職のまま卒業を迎えて露頭に迷う事になった。
住んでいたアパートも追い出され、頼ったのは風俗嬢になった同級生。
働いているという店舗を訪れ、偶然奥のテナントが��いているのに気付いたのだ。
幸運な事に鍵は開いたままで、住む所の無かった健司はそのままそのテナントを利用する事にした。
しかし、いつまでも居座る訳にも行かず、就職する必要があったが卒業した後では求人がほとんど無かった。
そこでテナントを利用して自営業を始めようと考えたのだ。
偶然町で見かけた『冷やし中華はじめました』という張り紙をヒントに、テナントのドアに『殺し屋はじめました』というビラを貼ったのだ。
それまで人間を殺した事は一度もなかったが、どんな仕事にも初めては存在すると割り切った。
最初の客は風俗ビルで働く風俗嬢だった。
ターゲットはストーカー化した客。
苦労はしたものの、一か月で痕跡を残さずに殺す事に成功した。
以後、口コミで話題となり、多くの人が『殺し屋』を訪れるようになった。
依頼を二百もこなす頃にはだいぶ勝手が分かってきて効率的に殺す事ができるようになってきた。
四年が過ぎた今ではオプションサービスも充実させ、店もリフォームした。
今では年収一千万を超えている。
ヤクザに比べればささやかなものだが、悪事を働いているわけではないから商店主としてはこの不景気にあって良い方ではないかとも思っている。
健司がカウンターに立っていると、一人の客が暖簾をくぐった。
「いらっしゃいませ! ご注文がお決まりになりましたらお申しつけください」
言って冷茶を注いだグラスをカウンターに座ったビジネスマン風の男の前に出す。
男がお品書きを見て目を細める。
「殺しの注文というのは相手の氏名が分からないと無理なのか?」
「素行調査であれば興信所を使われるのが一番です。当店では速やかな仕事を心がけておりますので本業以外の仕事は見合わせております」
健司は男の様子を観察する。一見するとビジネスマンに見えるが、作り笑いに慣れていない、否、笑わない職業である事が見て取れる。
能面のような顔の裏に押し殺した暴力的な雰囲気は、警察か暴力団員かそれに近い者だろう。
「前金で二千万」
男がにこりともせずに言う。
「当店は誠実がモットーでございます。確実に殺せないターゲットをお引き受けする事はできません」
「それなら総理大臣でも殺せるのか?」
「名前と住所どころか一日のスケジュールまで手に入りますから、さほど難しく無いターゲットだと考えております。ただし知られている通り警備も厳重ですから時間も必要となり費用も高くなります」
健司が言うと男が低く唸る。
「総理大臣でも不可能ではないと?」
「もちろん、オーダーが首つり自殺などですと難しい案件にはなります」
「首つり自殺は難しいか……面白い事を言う」
男の口元に小さな笑みが浮かぶ。
「二千万はターゲットの調査費用という事でどうだ? 成功報酬は四千万」
健司は小さく息を飲む。
金払いがいい相手である事は確かだが、それだけの力の持ち主でもあるという事だ。
――失敗すれば命は無い――
しかし、ヤクザを敵に回せばテナントから追い出されるだけでは済まないだろう。
「繰り返しになりますが当店は殺し屋でして、興信所ではありません。ターゲットの���足は素人のようなものです。その二千万円でターゲットを補足されましたら確実に殺させていただきますが、二千万円を頂いてもターゲットを補足できるとは限りません」
「二千万を手に高跳びとは考えないのか?」
「飛んだ先で失業すれば同じ事です。地域の皆様に愛される店づくりが当店のモットーです」
健司の言葉に男が破顔する。
「俺は矢沢組の緒方。二千万はここに置いていく。ターゲットはジョーカーと言われている銃の乱射魔だ。俺はお前が気に入った」
言って冷茶を飲み干した緒方が席を立つ。
――これは大変な事になってしまった――
健司はジョーカーという謎の相手を探るために、出したばかりの看板と暖簾を引っ込めた。
〈3〉
午前五時。
健は薄汚れた作業服を着て、年季の入った肉体労働者の列に混じっている。
ホームレスも珍しくないが、ホームレスでもとび職になると一日に二万円以上稼いでホテルに泊まっていたりするから、定住しないのは税金対策といった事情が大きいだろう。
午前六時半、一台のワゴンが健の前に停車する。
「おい、若ぇの、乗れ」
「うぃっす」
筋肉隆々といった古参の肉体労働者に囲まれていると既にやる気が萎えてくる。
労働者ですし詰めのワゴンで移動する事小一時間、朝日が白々と空を照らす中健は自分には一生縁の無さそうな高級マンションの現場にいた。
現場監督のどうでもいいような話に続き、ラジオ体操をさせられる。
眠いだけならまだいい、ラジオ体操が終わってからが地獄だ。
「コンパネ運んで来い! トラック入れねぇじゃねぇか!」
自分に向けられた言葉と気付いた時には、組まされるらしい土工の目が険悪になっている。
男がコンパネと呼ばれる90cm×180cmの板を十枚程抱えて通用口に出ていく。
健の腕力では精一杯頑張った所で三枚だ。
この板を敷いてその上をトラックが走れるようにするのだが並べるだけでも容易ではない。
健はもともと運動神経が良い方ではない。
高校では情報科学部でLinuxを使用してITの全国コンテストで優秀賞を手にした生粋のインドア派だったのだ。
PCの扱いと音楽好きなのとでDJには一定の技術も知識もあったが、一般科目では赤点スレスレで奨学金がもらえるような成績でも無かった。
そんな中、PCを触れて音楽もできるDJという職種を選んだ。
しかし、一晩パフォーマンスをしても六千円程度にしかならないし、他にもDJはいるのだから毎日入る事などできはしない。
従って一人暮らしのワンルームの家賃を払っていく為には、DJの仕事を妨げない、時間にゆとりのある職業に就くしかなかった。
「チンタラ運んでんじゃねぇ! 三枚しか運ばねぇってタマついてやがんのか」
年配の作業員がヤニの混ざった唾を吐き捨て���。
健が運んだコンパネをトラックの通路に並べていると、いら立った様子の作業員が近づいて来る。
「シャベル持って付いて来い」
「シャベルってどこにあるんスか?」
「ふざけてんのか! テメェで見つけろ! 遅れたら承知しねぇからな」
健は屈辱にも似た気分に耐えながら、建設現場をうろついて乗ってきたワゴンでシャベルを見つける。
今日拾われた工務店はどうやらマンションの裏手に穴を掘っているらしい。
「ここに管通すんだからな、掘れたら石詰めだ」
幅は四十センチ程、深さは六十センチは掘らなくてはならない。
総延長は二十メートルにはなるだろう。
小型のユンボを使って欲しいが、既に他の管と入り組んでおり不可能らしい。
配管の順序が逆になるという事は設計ミスの可能性も高いだろう。
健はだるくなる腕を支えるようにして必至でシャベルで穴を掘る。
要領の良し悪しなど分からない。分かるのは掘らなければ怒号と罵声が飛んでくるという事だけだ。
昼過ぎに作業が終わったと思いきや、
「ネコでガラ片付けて来い」
「ネコって何っスか」
反射的に首を竦めながら健は尋ねる。
「手押しの一輪車だ! この使えねぇボンボンが……」
健は奥歯を噛みしめながらネコを探して歩きまわる。
ネコを見つけてもガラ運びという重労働が待っている。
健は暗澹とした気分で工事現場を歩き回る。
――俺だってジョーカーの一員だってのに――
〈4〉
「暑っつ~い! ったく、エースのヤツ今日は土建屋だなんて……」
加奈がマイナスドライバーで水銀灯にへばり付いたガムを剥がしながら言う。
ガムの中には火薬と小さな信管が仕込まれている。
「休みがお前だけだったんだから仕方ないだろう」
清史郎はシャベルで地面に埋まった火薬を穿りながら言う。
乱射魔ジョーカーには秘密がある。
それは実際にはモデルガンしか持っていないということだ。
そこで、予め花火で集めた火薬をセットしておき、ヤクザが商売をしようという所で爆破して妨害する訳だ。
モデルガンには赤外線カメラが搭載されており、Bluetoothで健の端末とつながっている。
清史郎が引き金を引くと同時に健が火薬にセットされた信管を反応させ、銃撃のように見せかけているというだけなのだ。
だからグレネードランチャーの爆発と言っても、実際には大きな花火が地面の下で爆発しているだけで殺傷能力など存在しない。
とはいえ、撃たなかった方向にも埋め込んだ火薬はあり、子供などがうっかり触って怪我をしてしまう可能性もある。
従ってジョーカーとしての仕事の後は必ず後始末が必要になるのだ。
「まぁ、ジョーカー一人に炎天下で作業させるわけにも行かないし。歳だし」
加奈の言葉に清史郎は苦笑する。
加奈と健は二十一歳だが、清史郎は四十五歳だ。
肉体的に無理のきかない歳という事は重々承知の上だ。
炎天下でひたすら火薬を撤去する事四時間。
仕事を終え、加奈と一緒にたこ焼き屋の店先で麦茶を飲む。
近年おおだこが当たり前になっているが、清史郎が行きつけにしている昔ながらのたこ焼きはピンポン玉より少し小さい程度で味も良く、言えば店のおばちゃんが麦茶を出してくれるというサービスがついてくる。
「おばちゃん、最近ヤクザはどうだい?」
清史郎は店主兼店員の初老の女性に声をかける。
「あんたに相談したらそれっきりだよ。派手なドンパチがあったみたいだけどね」
おばちゃんの言葉に清史郎は笑顔を返す。
警察や興信所に相談してもヤクザ絡みの事件は解決しないが、しがらみの無い三浦探偵事務所とジョーカーなら不可能も可能になるのだ。
商店街や商工会の中でも事情は不明だが、清史郎に依頼をすればヤクザが引っ込むという都市伝説めいた話が広がっている。
だが、あまりに知られ過ぎると清史郎がマークされ、ジョーカーを出現させられないという事になる。
従って三浦探偵事務所は慶田盛弁護士事務所とは緊密な関係にあるが、地元の商店街とは付かず離れずの関係を続けているのだ。
加奈と一緒にたこ焼きを食べているとスマートフォンが着信を告げる。
健が清史郎が仕掛けた無線wifiのクラックシステムで、ヤクザの新たな取引を察知したのだ。
――健が稼ぎたがるのも分かるがな――
火薬を調達し、設置し、身体を晒す身としては、ヤクザが本腰を入れない為にもジョーカーの出番は抑えておきたいところだった。
〈5〉
健司は朝のラッシュアワーで意図的に駆け込み乗車に失敗した。
健司に乗車を妨害された形のスーツ姿の男性が、苛立った様子で最前列に立つ。
山手線の次の列車が来るのは四分後だ。
健司はポケットからsimフリーのスマートフォンを取り出す。
simフリーではあるがsimも入れていなければ、個人情報にかかわる情報も一つとしてインストールしていない。
健司はスマートフォンを操作するフリをして考える。
ジョーカーは新庄市から出ていない。
矢沢組から健司の得た情報は散文的なものだった。
ヤクザが取引をしようとする、もしくは刀や銃で武装した状態で市民を脅そうとする。
ヤクザが警察に通報できない時に、狙ったようにジョーカーが出現している。
単純に考えて情報が筒抜けになっているという事だろう。
乱射魔と支離滅裂な口調という仮面が狂人を作り上げているが、警察を巧みに避けている事からもジョーカーが充分過ぎる程に理性的な人物である事が分かる。
相手は狂気の人間ではない。恐ろしい程の知能犯だ。
健司は矢沢組から入手したドライブレコーダーの映像を繰り返し『殺し屋』のカウンター内のPCで再生した。
ヤクザが出ていき、しばらくして銃火がひらめき、慌てふためいたヤクザが逃げてくる。
どの映像も流れは同じだ。ヤクザがドライブレコーダーを使っているというのは不思議なものだが、ヤクザも交通事故では警察の世話になりたくないという事だろう。
ジョーカーの紫のトレンチコートとピエロの仮面にはモデルが存在する。
アメコミ最高の悪役とも言えるバットマンに出てくるジョーカーだ。
相手の頭脳から推し量ってもそれくらいの事は分かって��っているのだろう。
敵を混乱させるという意味ではジョーカーは最高の仕事をしていると言っていい。
では、ジョーカーの行動にロジックは存在しないのだろうか。
その最大の理由は新庄市に活動を絞り、矢沢組と戦っているという点に存在するだろう。
ジョーカーの動機が判明すればその正体を絞り込めるはずだ。
健司の後ろに列ができ、周囲が人垣と言っても良い程になる。
ほとんどの人が急いでいるかスマートフォンを操作している。
毎日このような息苦しい思いをするのが分かっていて、どこの会社も出社時刻を一緒にしているのか謎だが、このような状況が起きる事で仕事を円滑に進められるのも事実だ。
駅のホームは渋谷のスクランブル交差点のように混雑しており、点在する監視カメラからも死角になっている。
列車が見えた所で健司はsimフリーのスマートフォンを線路に放り投げた。
「落ちましたよ」
健司の言葉に周囲の人間の視線が線路に落ちるスマートフォンにくぎ付けになる。
健司が乗車を邪魔した男が慌てた様子で胸ポケットに手を当てる。
健司はスマートフォンを拾おうとするかのように踏み出しながら、素早く男の背を押す。
男が線路に転がり落ちるのと列車が到着するのは同時だった。
ブレーキ音と悲鳴が駅のホームを支配する。
――これで今日もお客様を笑顔にできた――
健司は動揺を装いながら駅員の誘導に従って満足感と共にホームを後にした。
〈6〉
潮風が香る深夜の埠頭の倉庫街。
緒方は三十人の組員を伏せさせ、更に暴走族を張り込ませて取引に臨んだ。
捌くドラッグの金額は一千万。
ジョーカーが金を狙っているならこの好機を逃すはずが無い。
半グレの三団体の代表がベンツで乗り付け、ヘッドライトの光を背に向かってくる。
――どうするジョーカー――
傍から見ればこれ以上のカモは無いだろう。
しかし周囲には銃で武装した構成員と、それに数倍する人数の暴走族がいるのだ。
仮に強襲に成功したとしてもこの包囲網を抜け出る事は不可能だろう。
金をアタッシュケースに入れた男たちが近づいて来る。
ジョーカーは金を見せた時に最も多く出現する。
緒方はドラッグの詰まったスーツケースを手にヘッドライトに身を晒す。
「緒方さん、ご苦労様です」
半グレの代表のスーツ姿の男が言う。
アタッシュケースが開かれ、帯どめされた札束が姿を現す。
緒方もスーツケースを開いてロシア経由の最高級品を見せる。
と、緒方は場違いな程騒々しいエンジン音を聞きつけた。
『奢れるヤクザもコンバンハ』
拡声器の声と共に波を蹴ったボートが一直線に突っ込んでくる。
船首に立ったジョーカーが銃を抜いて問答無用で撃ち始める。
緒方の周囲で火花が散り、半グレが慌てた様子でアタッシュケースを取り落とす。
伏せていた緒方の部下がジョーカーに向かって応射を開始する。
ジョーカーがグレネードランチャーを構えて砲火を閃かせる。
ベンツの車体が火を噴いて浮き上がる。
倉庫街の至る所で爆発が起こり、火の手が上がる。
ただの撃ち合いなら警察も黙っているが、火災が発生したのでは消��が動き追って警察も出動を余儀なくされる。
ボートが埠頭の岸壁を掠め、ジョーカーが猛火の中を歩んでいく。
「今宵のコテツは鉛に飢えて、オイラの引き金も軽くなるゥ~」
相変わらずの意味不明な言葉でジョーカーが戦場となった埠頭を蹂躙する。
雄たけびを上げた半グレの一人が鉄パイプを振り上げてジョーカーに向かっていく。
鉄パイプの一撃を受けたジョーカーの動きが鈍る。
「あの世の旅も道連れ世は情け、痛いの痛いの焼死体」
ジョーカーが鉄パイプを奪い取って半グレを路上に蹴り飛ばす。
ジョーカーが怒り狂ったようにグレネードを乱射する。
緒方は炎で崩れ落ちる倉庫を避けて部下のベンツに向かって走る。
この乱射の中では同士討ちが危ぶまれるどころではない。
まずは消防がやって来る前に現場を離脱しなければならない。
取り残される組員や半グレには悪いが、矢沢組としても幹部が尻を蹴飛ばされたままブタ箱に入る訳には行かないのだ。
〈7〉
「……ッ」
清史郎は左腕を押さえたままボートの床に腰かけている。
夜の海から見えるのは照明で浮かび上がる工場の幻想的とも言える光景。
酔狂なカップルなら観光に来るのかも知れないが、現在の清史郎にその余裕は無い。
ボートが揺れる度に左腕が痛み、肩から背中までもが痛むように感じられる。
――腕を折られたか――
折れたと言っても粉砕骨折では無いだろう。
粉砕骨折なら幾ら警察OBの探偵から護身術を習っているとはいえ、鉄パイプを奪って蹴り飛ばす事などできてはいない。
問題なのは常識的に考えて鉄パイプを持った敵に対してなぜ発砲しなかったかという事だ。
客観的に見ればこれほど奇妙な事は無いだろう。
狂気の道化師、ジョーカーなのだからと見逃してくれる輩ばかりではないだろう。
「ジョーカー、大丈夫?」
気遣う様子で加奈が声をかけてくる。
「今回の作戦はリスクは織り込み済みだったんだ。鉛弾を食らわなかっただけでもいいってモンだ」
清史郎は虚勢を張って言う。
健が入手した情報は矢沢組が最も警戒している取引、もしくはジョーカーをおびき出そうとしている作戦だった。
当然もっと楽なターゲットを探す事も可能。
しかし、健がこの難度の高い作戦にこだわり、清史郎もジョーカーの名を上げる為に乗ったのだ。
「ジョークには悪かったけど今日だけで六百万だぜ? 一人二百万ってすごくね?」
ボートを運転しながら健が言う。
百人以上が動員されている取引を強襲する為に海路を選んだのは正解だった。
通常は予め現場に潜んでいるが、今回はヤクザが張り込む事が分かっていた。
脱出の目途もたたないのに予め潜むという手段は使えない。
と、なれば相手が考えてもいない方向から強襲して、対応されるより早く逃げるという方法だ。
「アタッシュケース拾って来るのも命がけだったんだから。あんたは安全な所でPCたたいてるだけだからいいかもしれないけど」
加奈がボートでPCを操作していた健に向かって言う。
清史郎が派手に暴れている隙に半グレ��落としたアタッシュケースを回収したのは加奈だ。
ヤクザが銃で応戦して来る中で拾ったのだから、生きた心地がしなかったのであろう事は想像に難くない。
「ジョークだって腕を切り落とされたとかじゃねぇんだし、保険証が使えねぇなら金あんだし海外で手術とかもアリじゃね?」
楽観的な口調で健が言う。確かに健の案もいいが致命的な欠陥がある。
「ジョーカーは左腕を殴られている。保険の記録に残らなくても俺が左腕をギプスで吊っていたら正体を宣伝してまわるのと同じことだ」
「あ、そうか」
「あ、そうかじゃないでしょ! だいたいあんたが怪我してるわけじゃないんだから」
加奈が虚を突かれた様子の健に向かって言う。
「腕は町の獣医に頼んで治してもらうよ。問題は探偵事務所の方だな」
町の獣医であれば顔なじみだし、保険の記録に残る事も無い。
「事務所はほとんど客来ねぇからOKじゃね?」
相変わらず楽観的な様子で健が言う。
「エースってば本当に失礼なんだから」
「本当の事だからいいんだけどな。でも選挙が近づいているからカジノ反対派の人たちが現職知事の裏情報を求めてくるかもしれない」
情報が盗まれたものなら裁判では証拠にならないが、盗み出して内部告発の形をとって匿名でばらまくという事は可能だ。
「与党の現職知事って矢沢組がカジノ呼ぶ為に当選させたんだろ?」
健の言葉に清史郎は頷く。
元々災害避難地域指定だった公園の指定を解除し財務省に許可を発行させ、企業が進出できるよ��実際に動いたのは与党だ。
暴力団が本体か与党が本体かというのは、鶏と卵のパラドクスを解くに等しい。
「でも物的証拠が無い。音声データやメールは改ざん可能だから決定打にはなり得ない」
「手書きのサインの入った書類が無いと証拠にならないって訳ね」
加奈が話を要約して言う。
「それって探偵とかの仕事じゃねぇのか?」
健の言葉に清史郎は痛みを感じながらもため息をつく。
「私はその探偵なんだよ。儲かっていないだけで」
「とりあえず一人二百万入ったし、ジョーカーはひとまずお休みするしかないわよね」
加奈は状況を落ち着いて観察できているようだ。
「でもよ、選挙が終わって反対派が勝ったら出番も無いんじゃね?」
「そもそも反対派を勝たせる為に始めたんだよ。目的を忘れないでくれ」
商店街と探偵事務所を守る為のジョーカーなのだから脅威が消えれば戦う必要は無い。
もともと町を守る為の義賊として、健も同意して始めた事なのだ。
「あ~、キャデラックに乗りたかったぁ~」
船の縁に寄りかかって健が空に目を向ける。
「外車ディーラーで試乗でもすればいいでしょ」
「そういう事じゃねぇんだよ。こう、リッチな気分でパーッとやりたかったって言うかさ」
「気持ちは分からなくも無いけどさ、私らもともと何千円で一喜一憂してたんだからね」
「へぇ~い」
加奈に言われた健がため息をつく。
二人のやり取りを聞きながら清史郎は考える。腕を折られたジョーカーが休養すれば、不死身の化け物のようなイメージが揺らぐ事になる。
双方の総力戦��様相を呈した今回の戦いで、相手もジョーカーが手傷を負った事は分かっているはずだ。
――大人しく休養というわけには行かないか――
清史郎は加奈に目を向ける。
IT機器を素早く操作できない以上、空白期間にジョーカーを演じられるのは加奈だけだ。
〈8〉
ジョーカーは手傷を負った。
店内の観葉植物の葉を丁寧に拭いながら、健司は緒方からの情報の意味を考える。
圧倒的な火力を持ちながら、鉄パイプを手に向かって来る敵に対してジョーカーは無策と言っても良い状態だったのだ。
これはこれまで一人も死者を出していないというジョーカーの姿勢と符合する。
その後の乱射により埠頭は混沌と化し有益な情報は集まっていないが、ジョーカーが現金の入ったアタッシュケースだけを手に海に逃れた事は間違いない。
――ジョーカーは人を殺さないという前提で考えたら――
単純にヤクザを驚かせたいという、愉快犯の姿が浮かび上がる。
だが、愉快犯ならリスクの高いヤクザを狙う理由は少ない。
銃器を振り回さなくても、健司のような一般市民相手に全裸になって見せるだけで充分に他人を不快にする事ができる。
ヤクザに警察に通報できないという弱みがあったとしても、それ以上にリスクは大きいはずだ。
ヤクザに恨みがあるのだとしても、それならば落ちた金だけ拾うという点では実質的にダメージはほとんど与えられていない。
収入として考えているなら猶更ジョーカーの行動は不可解過ぎる。
愉快犯でありながらそれは副次的なものでしかなく、目的の為の手段に過ぎない。
だが、愉快犯である事を手段とする目的とは一体何だろうか。
――僕のような常識人では手が届かないと言うのだろうか――
健司は観葉植物の葉に霧吹きで水をかけながら考える。
矢沢組は一体誰に何をし、その結果ジョーカーを生み出したのだろうか。
健司は店内の照明を切り、暖簾と看板を店内にしまう。
店を出て新宿のチェーン店の居酒屋に向かう。
健司が一杯のビールと焼き鳥を二本腹に収めていると、三人の男が連れ立って店内に入ってきた。
健司は三人組がボックス席に入るのを確認してアタッシュケースを手にトイレに向かう。
三人組が毎回このチェーン店を使う事と、最初にビールを注文する事は分かっている。
健司はスーツを脱ぎネクタイを外してケースに収め、代わりにエプロンを身に着ける。
保冷剤で冷やしておいた缶に入ったビールを、同じく冷やしておいた100均で買ったグラスに注ぐ。
そのうち一つにはシアナミドを混入してある。
シアナミドは無色透明の抗酒剤で、副飲する事でアルコールアレルギー反応を引き起こす禁酒用の薬品。
一言で言えば一口飲む事で急性アルコール中毒症状を引き起こすのだ。
健司は三人の席におしぼりが置かれ、店員が去るのを待ってビールジョッキを手に席に向かう。
「お待たせしました」
健司はターゲットにシアナミドを混入したビールを手渡し、両手にビニールの手袋を嵌めてトイレの傍に潜む。
ややあって鍵をかけていないトイレに青ざめ、脂汗を流したターゲットの靴が覗いた。
健司は入れ替わるようにしてすれ違いながら様子���確認する。
シアナミドにより意識は朦朧としているようだ。
「介抱しますよ」
健司は男を抱きかかえるようにしてトイレのドアを後ろ手に閉じる。
男が便器に前のめりになって嘔吐する。
健司は男の頭を掴んで便器に押し込むと首の頸動脈にシャープペンシルを突き刺す。
男の首から血が噴き出すのに合わせてトイレの水を流す。
音消し水とはよく言ったものだ。
窒息と出血の双方で男が瞬く間に衰弱して行く。
相手がプロレスラーだろうとこの状態で健司に抗する事はできはしない。
健司は男の脈を取って死亡を確認するとエプロンとシャープペンシルを放置し、元通りスーツに身を包んで会計を済ませて店を出た。
殺害方法は分かっても誰が殺したのかは目撃されていない限り分からないだろう。
――小さな仕事でも手を抜かない事が顧客満足度につながるんだ――
第二章 二人目のジョーカー
〈1〉
「矢沢組のヤツら慎重になってやがんな。もう大口取引はしねぇらしい」
清史郎の耳には爆音と左程変わらない音が響いている、クイーンメイブのボックス席で健が言う。
清史郎は獣医に頼んでギブスなしで左腕を固定している。
診断は骨にヒビが入っているとの事で、二週間は安静にする必要があるらしい。
「そりゃ百人集めて失敗したなら、もう大口でジョーカーを誘おうなんて思わないでしょ」
言って加奈がカクテルで唇を湿らせる。
「一回の取引でせいぜい百万円。しかも街中でやってやがる」
健がラップトップを開いて矢沢組の予定表を表示させる。
「儲けが少ないからやらないって話にはしない約束でしょ?」
加奈が健に睨みをきかせる。前回の襲撃は加奈は反対だったのだ。
「でもよ、ジョークは骨折してるし、街中でグレネードはさすがにヤベェだろ」
カクテルをチビチビ飲みながら健が言う。
確かに街中では自動小銃がせいぜいといったところだ。
仮にグレネードを使ったとしても、見た目が派手なだけで破壊力が無い事が露呈する。
「自動小銃でも相手を驚かすような事はできるだろう。演出次第だ」
清史郎は頭を巡らせながら言う。
今となっては拳銃を抜いて撃つくらいではヤクザは驚かない。
下手をすれば一人二人射殺されても驚かないかも知れない。
と、なればどうやって驚かせるかが問題になってくる。
「演出って言うけど、ジョーカーは左手が使えないんでしょ?」
「そこだ。連中は俺が腕を怪我するのを見ている。ここで動きを止めればジョーカーというキャラクターの怪物性が損なわれてしまう。そこで今回は加奈にジョーカーを依頼したい」
清史郎の言葉に加奈が驚いたような表情を浮かべる。
「町の人たちがカジノに反対できているのは、ヤクザがジョーカーを恐れているという漠然として安心感があるからだ。ジョーカーが怪我で動けないとなったらヤクザを恐れて寝返る住人が出てくるかもしれない」
清史郎の言葉に加奈が思案顔になる。
「……そういう事なら……でも策はあるの? 私はジョーカーみたいに相手を脅せないよ?」
加奈の言葉に清史郎は頷く。
「喋るのはマイクで私が担当する。元々ボイスチェンジャーを使ってるからスピーカーから音を出してもヤクザには分からないだろう」
清史郎は矢沢組のリストの一つを指さす。
雑居ビルの屋上での取引。
金額は百万だが人が多く割かれている訳ではない。
そしていざとなれば清史郎も右腕一本で戦うのだ。
〈2〉
「ありがとうございました」
客の手に両手を添えるようにしてつり銭を渡す。
我ながら流れるような動作だと加奈は思っている。
品物は働き出してから一週間で覚えたし、二か月で発注も任されるようになった。
オーナーが発注していた頃に比べて売り上げは八%上昇している。
業者のパレットに乗った商品が運び込まれ、そこに緩慢な動作で大塚という中年女性が向かっていく。
大塚はこのコンビニに長く勤めているが、何をするにも動きが遅く、やる事が雑だ。
加奈は母子家庭ではあったが高校時代は生徒会長を務めていた。
生徒会の切り盛りでは過去最高の生徒会長だったという自負もある。
奨学金を借りて大学に入学したいと何度思った事か分からない。
しかし、その度に返済の目途が立たないという現実で踏みとどまった。
加奈が借りる金額では返済する頃には五十代。
キャリアウーマンとしてバリバリ働いて行けるならいいだろうが、男社会の中で目立っても左遷されるのがオチだ。
奨学金を諦め、近所のファミレスとコンビニの双方を天秤にかけた時、ファミレスの厨房は嫌だったし、発注のような頭を使う仕事がしたかった事からコンビニで働く事にした。
しかし、今現在、視線の先では大塚が商品を手前から、しかも違う棚に並べている。
新しい品物を後ろに、古い品物を前にしなければ賞味期限切れで廃棄になる。
それはコストとすら呼べるものではない。
注意した事は一度や二度ではないが、返ってくるのは「今時の若い子は」という恨みがましい言葉だけだ。
仕方なく業務の合間を縫って品物を並べなおす。
そうすると今度はレジに長蛇の列ができる。
大塚はバーコードの読み込みも遅ければ、テンキーの打ち込みもできない。
公共料金などの支払いも一々店長にやらせている。
店長は一体何の弱みがあってこの女を雇っているのか分からない。
それでも、このリスクを織り込んだ発注で収益を上げたのは自分の手腕だ。
「飯島くん、これじゃ困るよ。お客さんを待たせているじゃないか」
抜き打ちでやって来たマネージャーの言葉に加奈はため息をつきたくなる。
自分がレジにいればこのような現象は起きないのだ。
そして、レジにいれば大量の食品を廃棄しなくてはならなくなる。
「分かりました。棚の商品を並べなおしてもらえますか」
チクリと言い返し、立ち仕事で痛む足を引きずって加奈はレジに向かう。
こんな事をこの先何年続けて行けばいいと言うのか。
少なくとも大塚がクビにならない限りは、ただでさえハードなコンビニの仕事すらまともに��なす事ができないのだ。
――ジョーカーとしてならもう少し有能に働けるのに――
〈3〉
深夜、ビルの屋上に銃声が響き火花が散る。
ビルの給水塔の上で清史郎が見ている下で、四人の男たちが手にしたバッグを胸に抱える。
「迷えるヤクザよコンバンハァ!」
二階分高いビルの屋上から、ワイヤーを伝って自動小銃を乱射しながらジョーカーが降下して来る。
ヤクザの一人が屋内に逃れようとした所でジョーカーの自動小銃が火を噴いてドアを蜂の巣にする。
恐慌状態に陥ったヤクザの前に、床の上で一回転したジョーカーが立つ。
この辺りの動きは加奈の方が本家よりいいと言える。
ジョーカーの自動小銃が火を噴き、ヤクザたちの動きが止まる。
清史郎はありあわせの材料で作った分銅でヤクザの手からケースを叩き落す。
「金は天下の猿回しぃ~、回る回るよ目が回るぅ~」
床を滑ったケースがジョーカーの足元で止まる。
ジョーカーがケースを手に屋上のフェンスを乗り越える。
「それでは諸君ごきげんようそろ、面舵一杯腹八分目ぇ~」
ジョーカーがフェンスを乗り越えてビルの外に姿を消す姿をヤクザたちは茫然と眺めている。
加奈はほぼ完ぺきに、運動神経という面では清史郎以上にジョーカーを演じて見せた。
ヤクザたちがスマートフォンを取り出して連絡を取りながら屋内へと消えていく。
加奈は当初隣のビルの屋上に潜んでおり、ヤクザの取引するビルとの間にはワイヤーが取り付けてあった。
清史郎の合図で火薬を爆発させ、加奈は小型の滑車を使ってビルの屋上に降り立った。
予定通り混乱に乗じて清史郎がヤクザの金のアタッシュケースを叩き落し、それを回収した加奈は予め用意されていた脱出用のワイヤーで一目散に逃げ去ったという訳だ。
清史郎がヤクザの去っていった通用口を見ていると、二人のヤクザが姿を現した。
痕跡を確認するか、ジョーカーを追跡しようという考えかもしれない。
「イナイイイナイバウアアァァァァッ!」
万が一に備えてジョーカーに扮していた清史郎は、咄嗟の判断でショットガンを手にヤクザたちの前に飛び降りる。
銃声と共にドアを吹き飛ばす。
今度こそ恐慌状態に陥ったヤクザたちは階下へと消えていった。
〈4〉
健司は『殺し屋』のカウンターでグラスを磨きながら考える。
ヤクザは取引を分散させるという戦術を取ったが、ジョーカーは確実に一か所一か所を狙い撃ちにしている。
被害総額は大きくないのだろうが、心理的な影響は大きい。
――ここで敵の目的は明らかになったと言っていい――
これは心理戦なのだ。
矢沢組が恐れるに足りない存在だと思わせる為のデモンストレーションなのだ。
実際矢沢組の構成員たちも明日は我が身と必要以上に警戒しており、結果として街中での暴行などで警察に捕縛されるケースも散見し始めている。
警察もヤクザと事を構える事はしたくないだろうが、暴行は立派な犯罪だ。
矢沢組を弱体化、もしくは弱体化して見せている目的。
これは幾つかのケースが考えられる。
例えば同格の田畑組がシマを狙っているケース。
しかし、これでは全面戦争がしたいと言っているようなものであり、そうなれば別の第三の組が弱った二つの組を併合してしまうだろう。
更に言えば『本物』の銃器を使っているのだとしたら、これまでに過失で殺してしまった人間が居てもおかしくはないはずだ。
これまであれだけ派手に銃を乱射していて軽度のやけどくらいしか負傷者がいないというのは、空砲かモデルガンかのどちらかだろう。
そして犯人がヤクザであるなら、モデルガンなどという恥ずかしいものは持ち歩かないだろう。
第二の敵が政治結社だ。
現在矢沢組の推す現職与党の代議士が知事を務めている。
三か月後には知事選が予定されており、野党は連合して対立候補を立てている。
現在新庄市には土地の価値だけで二千億を超える空き地が存在し、そこに巨大カジノカジノを誘致するか、市民公園にするかで市民の世論が割れている。
カジノが実現すれば莫大な金額が動く事になり、矢沢組は軽く数百億は稼ぐ事になるだろう。
一方、野党が勝利してしまえば議会も野党に握られた事から市民公園が確定。
造園業者や、スタンド付きの運動公園を造る建築業者がいくらか儲かるにせよ、利権はほとんど存在しない事になる。
本来矢沢組こそが野党を攻撃しそうなものだが、野党のカルト的な集団ないし、狂信的な人間が矢沢組を狙っている可能性は否定できない。
しかし、カルトや狂信的な人間がここまで綿密な計画を練り、実行に移せるだろうか。
そこが政治結社を敵に想定した場合のボトルネックとなってくる。
第三の相手は想定が難しいがカジノに反対している市民だ。
市民の大半は再開発計画に興味を持っていないが、商店街や商工会は地場産業が脅かされるとして強硬に反対している。
矢沢組はこの商店街の切り崩しを行っていたのだが、その矢先にジョーカーが出現するようになり、商店街を攻略するどころではなくなってしまったのだ。
そう考えると、人のいい商店街の人々こそが実は矢沢組の最大の敵という事になる。
――商店街がジョーカーの可能性――
だが、それなら情報漏洩が少なからずあるはずだ。
――もし商店街の誰かがジョーカーで、他の人間は知らないのだとしたら――
ジョーカーは一方的に守るだけで損をしているように見えるが、最終的には商店街が守られるのだから自分の仕事も守る事になる。
――商店街の何物かが、か――
健司はPCで商店街の店舗の情報を検索する。ほとんどが個人事業主でHPもまともに作れているとは言い難い。
そんな中、健司は気になる存在を発見した。
――人権派弁護士、慶田盛敦――
直接の関与の有無は別にして、慶田盛が商店街や町を守ろうとするのはありそうな事だった。
〈5〉
「急な訪問で恐れ入ります。慶田盛先生の事務所は意外と質素なんですね」
新庄市の雑居ビルの一室を訪れた健司は慶田盛敦に向かって言う。
「君は……殺し屋との事だが……」
当惑した様子で慶田盛が応接用の合皮のソファーに腰かけて言う。
「屋号のようなものです。ただの飲食店ですよ。保健所で営業許可も取っています」
健司は爽やかな笑みを浮かべる。
「で、歌舞伎町の飲食店がここに一体何の相談なんだい?」
敏腕弁護士という割にはお人よしなのだろう、慶田盛が問うて来る。
「店が襲われたんです���
健司の言葉に慶田盛の視線が険しくなる。
「それは警察に訴えるべき案件なんじゃないのかい?」
「歌舞伎町で店が襲われた程度で警察が動くと思いますか?」
健司が言うと慶田盛が思案気な表情を浮かべる。
「相手に目星はついているのかい? 組関係だと厄介だぞ?」
歌舞伎町という事を意識しているのか慶田盛が言う。
「ピエロのマスクに紫のトレンチコート、銃撃で店は蜂の巣です」
慶田盛の表情が一瞬硬直する。
――慶田盛はジョーカーを知っている――
「最近はそういった愉快犯が流行っているようだね」
「慶田盛先生はご存知ないのですか? ジョーカーと呼ばれているようなのですが」
慶田盛の顔がポーカーフェイスに変わるが遅すぎだ。
今更表情を消した所で知っていると言っているようなものだ。
健司はさり気なくソファーの隙間に盗聴器を滑り込ませる。
「噂で聞いている程度だね。でも、弁護士だからといって探偵の真似事ができる訳じゃない」
「慶田盛先生は懇意にしている探偵などはおられないのですか?」
「古い付き合いの探偵はいるけどね。彼を紹介するにはそれなりの理由が必要だよ」
慶田盛が慎重に言葉を選ぶ。
「店が襲撃された以上の理由が、ですか?」
「僕はその破壊された店舗の写真すら見ていないんだよ? 被害実態が明らかではないのに探偵の手を煩わせると思うかい?」
「随分と庇われるんですね。逆に興味が湧いてきましたよ」
健司は切り上げどころと判断してソファーから立ち上がる。
「貴重なお時間を頂きありがとうございました」
健司は慶田盛と握手しながら唇の端が吊り上がりそうになるのを堪える。
――これで慶田盛が探偵に連絡を取ればその相手がジョーカーである可能性は高い――
〈6〉
「いやぁ~俺たちマジ凄くね? もうハリウッドレベルだって」
クイーンメイブのボックス席で健がいつものように能天気な口調で言う。
「たちじゃなくて身体張ってる私たちが凄いの」
「お前PCなんて触れないだろ」
健が加奈に言い返す。
「PCコンビニの使えてるし!」
「ンなの使えてるうちに入らねーよ。な、ジョーク」
健の言葉に清史郎は肩を竦める。加奈と比較すればPCを使える方だろうが、ITというレベルには程遠い。
ヤクザの事務所に仕掛けた盗聴器をBluetoothで飛ばしたり、WIFIでデータを引き抜いたりといった芸当は清史郎には不可能だ。
しかも従来の興信所の盗聴器探知は電波の周波数帯で探っている為、健のカスタムした機材を探知する事ができない。
健は新庄市のヤクザの誰よりも彼らの動きに詳しいと言っても過言ではないのだ。
その中から清史郎が獲物になりそうな案件を選び出し、加奈と下準備を行っているのだ。
「なぁ~んか納得行かない」
加奈が口をとがらせるが、こればかりは健の能力を素直に認めるしかない。
「エースの情報収集能力がなければ火薬を仕掛けにも行けないだろ」
「土建屋の癖に何かムカつく」
「土建屋じゃなくてDJだっつーの」
「DJで食ってる訳じゃないでしょ? なら土建屋じゃない」
「ンだとコラァ!」
声を荒げる健を清史郎は慌てて宥める。
手を挙げるような青年ではないが、つまらない事で耳目を引くのは得策ではない。
「俺は二人��おんぶにだっこだ。二人がいなければジョーカーなんてやってられない。そうだろう?」
「私もジョーカーやったしね。やってないのはエースだけ」
「俺がいなかったら起爆できねぇじゃねぇか」
むっつりとした口調で健が言う。
「裏方の仕事があっての晴れ舞台って事もあるんだ。もっとも、舞台役者が良くなかったらどんなに裏方の仕事が良くても芝居にはならない」
清史郎の言葉に加奈がため息をつく。
「ジョーカー人間できてるわ」
「単に口の上手いオッサンってだけかもな」
健が悪童のよ���な笑みを浮かべる。
「多分エースの言う通りだろう。で、いよいよ選挙まで三か月を切った訳だ。矢沢組だけじゃない、カジノ関連の企業が再開発計画に群がってきている」
清史郎は話を本来の筋道に戻す。
「それは分かるけどさ、ヤクザは脅せても民間企業はどうにもならないんじゃない?」
加奈の言葉に清史郎は頷く。
「そこは商店街と市民の手に委ねる。俺たちが考えなきゃいけないのは、矢沢組をあと三か月どう騙し抜くかって事なんだ」
最終的にカジノ施設を選ぶか、市民公園を選ぶかは市民の手に委ねられるべきだ。
ジョーカーはそこに介入しようとする矢沢組をけん制しているに過ぎない。
「一年以上見破られてねぇんだし、今更どうって事も無いんじゃね?」
健が楽観的な口調で言う。
「一年って言っても綱渡りだったじゃない。ジョーカーも怪我したんだし」
常に現場を見て来た加奈が健に向かって言う。
「人生にはスリルがつきものだろ」
「必要ないのにスリルをつける必要ないでしょ?」
「人生にはロマンが必要だよ。なぁ、ジョーカー」
「私の人生にはロマンらしいロマンは無かったよ」
明らかに会話を楽しんでいる健に清史郎は苦笑する。
「人生堅実が一番なの。あんたみたいのが一番ホームレスに近いんだから」
「お前だってコンビニ店員以外何ができるよ」
「ちょっとジョーカー、何とか言ってやってよ」
怒った様子の加奈が話を振ってくる。
「景気が良くなったら事務所で求人でも出すよ。それより今は仕事をやり抜く時だ」
清史郎の真剣な言葉に二人が頷く。
――後三か月――
この凸凹コンビと一緒に駆け抜けなければならない。
〈6〉
「ここの探偵事務所では人探しをしたりはしないんですか?」
健司は三浦探偵事務所の安普請の椅子に腰かけて、所長兼調査員の三浦清史郎と向かい合っている。
慶田盛は健司が面会した翌日に同じく新庄市に居を構えている三浦に連絡を取った。
探られている事を多少は警戒しているだろうが、昨日の今日で会いに来るとは思っていないだろう。
「今の所請け負ってはいないね。知っているかどうか知らないが、日本の年間行方不明者は二十万人。警察が民事だと言ってサジを投げるレベルだ。うち毎年六千人前後が死体で発見される。これが日本の行方不明の実情だ」
四十五歳、探偵というより疲れたサラリーマンを思わせる風貌だが、どこにでもなじめるという点ではこの風貌は役に立っている事だろう。
「携帯電話の通信記録を探ったりしないんですか?」
「そういう情報は大手の情報企業が握っているんだ。契約していなければ盗み出すしかないだろうし、それをすれば犯罪だ」
「企業が形はどうあれ本人の同意なしに情報を持っている事は犯罪ではないと」
「正当だと思えば契約している、と、答えたら君に私の考えは分かってもらえるかな」
清史郎はかなり真っ当な昔気質の探偵であるらしい。
三浦探偵事務所は商店街の噂では浮気調査などではパッとしないが、事件性のある案件だと警察を出し抜く腕前なのだと言う。
「独り言だと思って聞いてもらえればいいんですが、ジョーカーという男をご存知ではないですか?」
「知っているよ。少なくとも片手には余るほどね」
掴みどころのない口調で清史郎が言う。
――だが、他の商店街の人間はジョーカーと聞けば逆に動揺したものだ――
「ヤクザ相手にモデルガンを振り回す愉快犯。前金で一千万。正体が分かれば更に一千万」
健司はリュックサックから帯留めされた札束の入った紙袋を押し出す。
「これだけ流行らない事務所だ。一千万を受け取って私が雲隠れするとは考えないのかい?」
「見つけられなくても差し上げますよ」
健司は内心で清史郎がジョーカーであるとの確信を強めながら言う。
「そういう事であれば遠慮なく預かろう。所でジョーカーについてもう少し詳しく話を聞けないかな? さすがに名前だけでは調査にならない」
「僕もまた聞きでしか知らないんですが、ヤクザが武装しているか麻薬を所持している時に出現し、モデルガンを利用してあたかも本物のように見せかけて驚かせ、ヤクザが金を落としていけばそれを拾っていく。そういう話です。被害に遭っているのは主に矢沢組で、矢沢組は現職与党知事のケツモチをしている」
「つまり、君の推理が正しければ現職知事と利害関係にある人物が選挙で優位に立つべく矢沢組を攻撃している、攻撃しているように見せかけているという事だね?」
「そう、その人物の特定が難しいんですよ。ヤクザの情報を自分の家のPCのように自在に覗き見て、常に有利な状況でモデルガンによる脅迫を行っている」
そこが健司が最も解せない所だ。
この三浦清史郎という男は探偵としては優れているように察せられるが、ITに強いようには見えない。
情報を買っている訳でも無いのだとしたら、一体どのようにして情報を得ているのか。
更に情報を得たとしてそれを整理し、取捨選択する事も必要になる。
事務員の一人もいないこの事務所のどこに実務を取り仕切る人間がいるというのか。
自分はこの男の何かを見落としているとでも言うのだろうか。
「つまり、ジョーカーという人物にはハッカーとしての側面もあるという事だね?」
「そう考えないと辻褄が合いません」
「では、ハッカーであり、モデルガンでヤクザを脅すジョーカーという愉快犯を特定してほしいという事だね」
「結論としてそういう事になるかと」
「プライバシーに踏み込むつもりはないが、そのジョーカーという人物の特定にどういった動機があるか聞かせてもらえるかな? 参考までにという事で構わないが」
「僕が矢沢組に依頼されたからですよ。でも僕の力だけでは見つけられそうに無い」
健司はチェスを指すかのような心境で言葉を選ぶ。
目の前の男がジョーカーである可能性は限りなく大きいのだ。
「君も探偵なのか?」
清史郎の言葉に健司は肩を竦めて名刺を差し出す。
「歌舞伎町で殺し屋を営んでおります円山健司と言います」
言った瞬間、清史郎の顔に何かグロテスクなものでも見たかのような表情が浮か��。
健司はその表情をこれまで嫌という程見てきたのだった。
第三章 殺し屋
〈1〉
清史郎は拙いとは知りつつ、円山健司を尾行していた。
尾行を知られたとしても、探偵が依頼者の事を知ろうとする事に問題は無い。
そもそもがジョーカーなどという得体の知れない人物を探せという無理難題なのだ。
例え自分がジョーカーであったとしてもだ。
電車を乗り継ぎSUICAのチャージマネーが尽きそうになった時、円山は新宿の歌舞伎町にある『殺し屋』という店舗に入っていった。
信じられない事だが、冗談でないとするなら殺人を生業とする人間が看板を出して店を営業しているのだ。
円山は自ら隠れるという事が無い。
本当に殺人が生業なのだとしたら、その手段に余程自信を持っているという事なのだろう。
清史郎は逡巡しながらも暖簾を潜る。
相手にその気があればビルに入った瞬間から監視カメラで自分を監視していても不思議ではないからだ。
「いらっしゃいませ! ご注文がお決まりになりましたらお気軽にお申しつけ下さい」
円山が人が違ったような口調で声をかけてくる。
「さっき会ったばかりだろう? それよりこのお品書きというのは本当なのか?」
お品書きには殺人方法や死体を残すのか残さないのかなど様々なオプションサービスが書き込まれている。
「はい、迅速丁寧をモットーに確実にターゲットを殺させて頂いております」
「例えば、この絞殺で死体を残すというオプションにした場合、警察に犯人特定されやすいんじゃないのか?」
「企業秘密にはなりますが、TPOに応じて柔軟に対応させていただいております」
「ジョーカーはどうやって殺す事になっているんだ?」
「お客様の情報を開示する訳には行きませんが、強いて言うなら殺し方は問わないとの事です」
円山の言葉が事実なら矢沢組はなりふり構っていないという事だろう。
ジョーカーは確実に矢沢組に打撃を与えているのだ。
「じゃあ俺も注文したいんだが構わないか?」
「どのようなご注文でしょうか?」
爽やかな笑顔で円山が言う。
「ジョーカーをオプションサービスで九月三十一日に殺してほしい」
清史郎の言葉に円山の目が見開かれる。
「前金で一千万。不足なら五百万を追加する」
清史郎は受け取ったばかりの一千万をカウンターに乗せる。
「ジョーカー殺害日時の指定は確かにオプションで追加可能ですが……」
「ジョーカーを殺す日時の指定は矢沢組からは無かったんだろう?」
清史郎が言うと円山が顎に指を当てて思案気な表情を浮かべる。
「依頼が重複した事は初めてで、対応致しかねます」
「いや、重複していない。私が矢沢組の手先で、追加でオプションを申し込んでいるとしたならどうなんだ? 君は依頼主の事をどれだけ調査しているんだ?」
清史郎の言葉に円山の表情が曇る。
「お客様のプライバシーを優先して営業しております。業務上必要な情報は収集致しますが……」
「九月三十一日、ジョーカーは新庄市商店街の外れ、たこ焼き屋千夏の前に現れる」
清史郎の言葉に円山の表情が強張る。
「もしお客様がジョーカーだった場合……」
「自分を殺してくれという依頼はこれまでなかったのか?」
円山が何かを試すような視線を向けてくる。
「もちろん、そういった依頼もございました」
「なら問題は無いだろう?」
「……つまり、あなたは探偵としての任務を全うし、殺し屋に仕事を依頼しに来た。そういう事ですね」
「そういう事になるな」
清史郎が笑みを浮かべると円山の口元に笑みが浮かぶ。
��矢沢組がそれ以前の日時を指定して来たら?」
「それこそ二重契約は無効だと言えばいいだろう?」
「矢沢組がジョーカーの正体を教えろと言ってきたら?」
「ここは興信所ではないのだろう? それに私は九月三十一日にジョーカーが現れるとは言ったが、私がジョーカーだとは一言も言っていないぞ」
円山は殺しという商売にプライドを持っている。
そのプライドに反する行為はできないはずだ。
「了解しました。九月三十一日に現れるジョーカーを殺します。しかし、他に機会がある場合もありますので悪しからず」
円山が一千万の入った紙袋を掴んでカウンターの内側に置く。
これで円山の精神には一つのストッパーがかかった事になる。
後はいかに円山を寄せ付けないように立ち回れるかだ。
〈2〉
してやられた。
健司は先制に成功したつもりが、乗り込まれて悪条件を飲まされた事を今更ながらに実感していた。
三浦の期日を守れば選挙は終わってしまうだろう。
矢沢組は選挙で勝利する為にジョーカーを殺したいのだから、仮に殺せたとしても契約違反と言いかねない。
そもそも条件は問わないという話だったのだから構わないと言えば構わないのだが、ヤクザがそのような道理を飲むとは思えない。
――そもそも乗り気な仕事では無かったのだ――
とはいえ、呑気に構えていてはヤクザに消される事になる。
九月三十一日に殺せたとしても、それは報復の意味しか持たない。
そして九月には三十日までしか存在しない。
十月一日を無理やり九月三十一日と解釈できない事も無いが、完全に手玉に取られたとの感を禁じ得ない。
緒方が猶予として見るのは何週間だろうか。
幸い緒方は健司が三浦と接触した事を知らない。
まだジョーカーを探していると言えば時間稼ぎはできるだろう。
最悪二千万はドブに捨てたのだと言うくらいの器量は緒方にはあるだろう。
しかし、それでは殺し屋の看板に傷がつく。
創業四年、地道に仕事を続けて来た実績に泥がつくのだ。
――三浦清史郎を殺すか――
それを考えて健司は三浦の余裕が気にかかる。
三浦がジョーカー本人だというならそれで構わないだろう。
しかし、ただの連絡役だったり複数犯だったりした場合はどうなるだろうか。
ジョーカーは死んでも蘇る。
その事の方が矢沢組にとって脅威だろう。
ジョーカーのテンプレートが商店街で共有される事にでもなったら、矢沢組は人的物量的に無数のジョーカーに襲われて新庄市を撤退しなくてはならなくなるだろう。
その時、ジョーカーを殺せと依頼されたなら、一体何人を殺せばよいのか分からず、それだけの数を連続で殺せば証拠を残す事になりかねない。
そうなれば警察に捕らえられて全てが水の泡だ。
――そう、殺すのは三浦清史郎ではなくジョーカーである必要がある――
その為にはジョーカーの仕事の実態を掴まなくてはならない。
これまでのジョーカーの襲撃箇所と状況を再確認する。
ジョーカーは神出鬼没のように見えるが、確実な逃走経路のある場合以外は出現していない。
ジョーカーは矢沢組の取引の全てを俯瞰し、最も有利な形を作り出している。
と、なれば健司も事前に情報を収集しなくてはならない。
以前緒方が入店した時、店内のシステムでスマートフォンはクラックしてある。
緒方のスマートフォンを経由して矢沢組組長矢沢栄作の端末に潜入��る。
ホストを掌握して矢沢の端末から矢沢組の取引データを吸い上げる。
半グレたちは無料WIFIに接続している者が多く、セキュリティも糞も無い。
健司は新庄市の地図を広げ三浦の心理を読もうとする。
正面切っての対決の後で、あの食わせ物が仕掛ける事は間違いないのだ。
〈3〉
始発電車で歌舞伎町を訪れた清史郎は街路を歩き回りながら、人通りの少ない場所や人目につかない場所にトランプのジョーカーのカードを置いていく。
『殺し屋』がテナントに入ったビルの前の壁にはスマートフォンと接続したラズベリーパイの監視カメラを設置した。
監視カメラの映像は近場の喫茶店でタブレット端末で見ようと思ったのだが、歌舞伎町には静かに端末を見る事のできるような喫茶店が見当たらなかった。
仕方なく新宿駅前のコーヒーの不味いチェーン店に足を向けた。
電波は良好、通勤前の客も訪れておりタブレット端末を見ていても不審には思われない。
スマートフォンを操作して朝のニュースをチェックするが、特に気になるような情報は無い。
八時二十四分、円山が風俗ビルにスーツ姿でやって来た。
一見地味なスーツ姿に見えるがバーバリーにリーガルのシューズといったいで立ちだ。
見る人間が見れば逆に趣味が良いと答えるだろう。
屋内の監視カメラを警戒して清史郎はビルには監視カメラを仕掛けていない。
九時きっかりにスーツ姿にアタッシュケース姿の円山がビルから出てくる。
清史郎は円山が新宿駅に向かったのを見て小走りに店を出る。
円山を捕捉し、充分に金をチャージしたSUICAで改札を潜る。
円山を尾行する事二十分、新庄駅で円山は列車を降りた。
チャージマネーで改札が通れて良かったと思える一瞬だ。
昔なら駅によっては乗り越し清算をしなくてはならないところだ。
円山は商店街を突っ切り、三浦探偵事務所にほど近い喫茶店に入っていく。
清史郎は更に離れた喫茶店で画像を喫茶店のものに切り替える。
商店街の店にはセキュリティの名目で三浦探偵事務所の監視カメラが取り付けられているのだ。
円山が注文するより早く、店員がコーヒーにトランプのジョーカーを添えて差し出している。
円山の表情が一瞬硬直する。
清史郎は商店街の店に予めジョーカーのカードを配り、前払いで商品を出すよう話をつけておいたのだ。
これで円山は自らが監視対象である事を知る。
コーヒーを飲み干した円山が喫茶店を出て周囲を見回す。
――追われる気分はどうだ、円山――
円山は午後六時になると歌舞伎町のビルに戻り、吉祥寺の自宅であるらしいマンションに帰宅した。
清史郎は吉祥寺界隈の店に金とトランプのジョーカーを配り、路地裏などにカードを仕掛けて帰路についた。
〈4〉
「って事は正体バレちまったのかよ」
相変わらず騒々しいクイーンメイブのボックス席で健が声を上げる。
「殺し屋って名刺出してる殺し屋って狂ってるとしか思えないけど」
「腕に余程の自信があるんだろう。今の日本じゃ老衰や自殺や病死や事故死以外の異常死が毎年十七万件発生しているんだ。死体なんかあった所で警察の手が回る状態じゃない」
「ジョークと話してて思うんだけどさ、警察って何してんだ?」
「総資産一億円以上の人間の事は守ってるだろうさ。後は交通違反の取り締まりだな」
清史郎は答える。実際警察が殺人や行方不明を事件化する基準は分からないのだ。
確かなのは毎年日本では殺人事件は百件前後しか起こってはならず、検挙率は96%を下回ってはならないという暗黙の了解があるという事だ。
「どっちみち最初から警察は味方じゃないでしょ。矢沢組が商店街に嫌がらせをしても見て見ぬふりだったんだし」
「だよな。俺たちジョーカーが正義の味方なんだ。そうだろ」
「多少稼がせてもらってるけどね」
健も加奈もジョーカーという仕事には少なからず誇りは持っている。
士気が高いという点では矢沢組と戦っていく上で大きなアドバンテージになるだろう。
殺し屋円山健司がジョーカーの核心に近づいたとは言っても、健と加奈まで特定している訳ではないのだ。
そして健のITを見て警戒していた為、あの新宿の風俗ビルにはスマートフォンも時計も持ち込んでいない。
顔は間違いなく撮影されているだろうが、顔認証は広範なエリアから自在に情報を引き抜けるようなものではない。
いつ、どのカメラに映っているのか分からなければどのカメラをハッキングすれば良いのか分からない。
本当の所は分からないが、公には警察でも店舗など個人のカメラの映像は捜査協力や令状で記録を閲覧しているのだ。
健のIT技術にした所でカメラを特定し、通信可能な距離で『物理接触』しない事にはデータを閲覧する事などできないのだ。
「円山って野郎の鼻を明かしてやろうぜ。こっちは天下御免のジョーカーなんだ」
「でもさ、ジョーカーを探り当てたって事は相当の切れ者なんじゃない? 殺し方だって一つや二つじゃないからこれまで捕まってないんでしょ?」
加奈が慎重論を述べる。この慎重さがチームの要になっていると言ってもいい。
「じゃあどうするってんだよ。まさか止めるとは言わねぇよな」
「多少趣向を変える必要はあるだろうな」
清史郎はカバンからジョーカーマスクをのぞかせる。
「マスク……一体何枚あんだ? 量産して成功すんのは北朝鮮のモロコシくらいだろ」
「そっか……これをこれまで被害に遭った半グレに匿名で送り付ければ……」
ITには弱くても頭の回転の早い加奈には分かったようだ。
「確実な取引情報を手にした本物の銃を持ったジョーカーが出現するんだ」
清史郎の言葉に健が唖然とした表情を浮かべる。
「さっすがジョーカー。でもよ、俺たちと鉢合わせにはならねぇのか?」
「一応発信機は取り付けてある。合成音声のスイッチを入れれば起動する仕組みだ」
「じゃあ信号がなかったら作戦決行って訳ね」
「それに送り付ける相手はこっちが選べるんだ。事前に動きを掴む事も難しくないだろう」
清史郎はこれまでの取引の状況から矢沢組に逆らいそうな半グレをリストアップしている。
表立って逆らう事はしないだろうが、ジョーカーとしてなら薬をガメるくらいの事はしかねない連中だ。
「でも、それって少ししたら矢沢組に露見するんじゃない?」
「ああ。でも矢沢組は確実に疑心暗鬼に陥るし、本物の銃弾が飛んでけが人でも出ればジョーカーに対して慎重にもなるだろう」
「最高にクールだぜジョーカー! ジョーカーが犯罪者だったら今頃大金持ちだぜ」
健の笑みに清史郎も笑みで答える。
「じゃあ今日の仕事もクールに決めましょ」
加奈の突き出した拳に三人の拳がぶつかる。
本家ジョーカーは最高のチームなのだ。
〈5〉
自宅まで嗅ぎつけられたとは。
午前七時、健司は朝食を食べようと吉祥寺の喫茶店に入った所で、ジョーカーのカードと対面する事となった。
もっとも、ずっと尾行されていたなら自宅が特定されるのは不思議でも何でもない。
一番の問題は探偵に四六時中張り込まれたらジョーカーどころではなく、他の仕事も一切できないという事だ。
動揺を押し隠し、それでも周囲を警戒しながら歌舞伎町の店舗に向かう。
ドアに挟んだ髪の毛が落ちた様子は無く、侵入者はいないようだ。
店内に入り、一通り掃除を終えると鋭利に削ったシャープペンシルをカウンターから取り出す。
殺しの方法はいくらでもある。
相手が尾行しているなら、人通りの少ない所に誘い込んで始末するという方法も取れるのだ。
健司は尾行のプロである三浦を警戒する事を止め、路地裏へと足を踏み入れる。
一定歩いた所で振り向き、シャープペンシルを引き抜く。
が、そこには三浦の影も形も無かった。
四六時中張り込んでいるという訳ではないという事だろうか。
健司が安堵しかけた瞬間、路上に落ちているトランプのカードに気付いた。
――ジョーカー!――
三浦はこちらの考えを見抜いて行動に出ているのだ。
と、言う事は人通りの少ない所は三浦本人に監視されない反面、ヤクザを監視しているような遠隔装置で監視している可能性が高いだろう。
――この僕が身動き一つ取れないと言うのか――
健司は拾い上げたトランプのジョーカーを握りつぶした。
〈6〉
深夜の路地裏、半沢芳樹はジョーカーマスクと紫色のどぎついトレンチコートに身を包んで、汗が出るほどにトカレフを握りしめている。
部下二人が矢沢組とヤクの取引をする事になっており、そこをジョーカーのフリをして襲撃するのだ。
成功すればタダでドラッグが手に入り、失敗してもジョーカーのせいだ。
うだつの上がらない半グレの四十代、ヤクザに昇格できる見込みも無い。
忠義を示せと言う方が無理というものだ。
視線の先には金を手にした部下の姿、ヘッドライトで周囲を照らす矢沢組のベンツがある。
部下が金を出し、組員がスーツケースを開いてドラッグを見せる。
半沢はそのドラッグを見ているだけで身体にアドレナリンが駆け回ったような気分になる。
「動くんじゃねぇ! こっちにヤクを寄越せ」
取引成立の寸前に半沢は銃を手に飛び出す。
矢沢組の構成員がスーツの内側から銃を抜く。
「金もヤクも俺のモンだっつってんだ!」
半沢は先制して引き金を引く。轟音が響き矢沢組の構成員が気圧されたように見える。
立て続けに引き金を引いて距離を詰める。
矢沢組の構成員が引き金を引き、半沢の頬を掠める。
ジョーカーの姿で出ていけば怯むと思っていたのだが、反撃は想定外だ。
それでもここが正念場と半沢は引き金を引く。
一発の弾丸が矢沢組の構成員の鎖骨の辺りを貫く。
凶悪な一瞥をくれて矢沢組の構成員たちが引き上げていく。
半沢は両手でヤクを掴んで高笑いする。
こんなにチョロい商売にこれまでどうして気付かなかったのだろう。
――ジョーカーを続ける限り俺は無敵だ――
〈7〉
事務所に次々に凶報が舞い込む中、矢沢組の緒方は状況の変化を理解していた。
ジョーカーの模倣犯は自然発生的に生まれたものではない。
本当に模倣する脳があるなら金や麻薬を要求する訳が無い。
と、すれば中身は町の半グレや暴走族と察しが��く。
とはいえ、数は厄介であり、ジョーカーの真似をすれば処刑だと言った所で本物のジョーカーもどこかにいるのだろうから半グレは高をくくって矢沢組の命令に従おうとはしないだろう。
そして更に厄介なのはちゃんとジョーカーを模倣できている者もいるという事だ。
ジョーカーを見たら撃てというのは簡単だが、半グレが連合して矢沢組に反旗を翻したら手足を失った矢沢組に抵抗する術は無い。
矢沢組は権力と金と麻薬は持っているが、マンパワーが多いという訳ではないのだ。
ジョーカーはその弱点を的確に突いて来たのだ。
「緒方、考えは無ぇか?」
電話越しの矢沢の言葉に緒方は頭を巡らせる。
「ジョーカーマスクに百万の懸賞金をかけてはいかがでしょう?」
マスクをつけている人間の罪を問わず、マスクを差し出せば百万やると言えばわざわざ危ない橋を渡ろうという連中は少なくなるだろう。
その上でジョーカーの撃滅を図ればいいのだ。
「その手は使えそうだな。問題はマスクがどれだけ出回っているかだが」
「数は多くないと考えます。そもそも同時多発的にジョーカーが出現したという事は、誰かが創意工夫して模倣されたのではなく、何者かが意図的に行ったと考える方が自然です」
言って緒方は組員たちに通達を出し、ついでに警察にも懸賞を知らせておく。
公権力が銃刀法で取り締まりを開始すれば半グレは震えあがってジョーカーの真似などしていられなくなるだろう。
〈8〉
健司は新庄市のホテルの床に落ちた髪の毛を拾いながら、事態の急変と自分の読みが正しかった事を知る。
三浦は健司に捕捉された事で作戦変更を余儀なくされた。
健司も身動きできなくなったが、それはお互い様なのだ。
そこで今回のジョーカー量産化計画を演出したのだろう。
しばらくの間町中にはジョーカーがあふれる事になる。
矢沢組が引き締めを行っているものの、偽ジョーカーの模倣犯も出現し本来の偽ジョーカーより多くのジョーカーが出現しているのが現状だ。
――でもこの狂騒はすぐに終わる――
健司は日が暮れるのを待ってアタッシュケースを手にホテルを出る。
三浦が四六時中張り付いている訳ではない事も分かっている。
いずれにせよ仕事を迅速に済ませれば証拠も残りはしないのだ。
深夜の人気の消えたオフィス街を歩きながら手に手術用のビニール手袋をはめる。
靴のサイズは自分の標準よりワンサイズ大きく、髪型は大きく変えていないが頭にはカツラをかぶっている。
一般で売られているカツラには、インドの仏教徒やヒンズー教徒が出家する時の髪の毛が使われている。
そして、インド人の髪の断面は日本人が楕円であるのに対し正円に近い。
仮に髪が現場に落ち、科捜研が調査したところで出てくるのは謎のインド人という事になるのだ。
健司は予定していた地点にたどり着くと、持ってきたボルトを電柱の穴に差して二・五メートル程の高さにまで登って電柱に寄り添うようにして立つ。
予定通りスポーツバッグを手にしたジョーカーが走ってくる。
中身は半沢という三下の半グレだ。
正面だけに注意を向け、自分の身長より上には注意が向いていないらしい。
健司はボルトに引っ掛けたテグスを引っ張る。
ジョーカーの首にテグスが食い込み、仰向けに倒れかかる。
アイスピックを手にした健司はジョーカーに圧し掛かるようにして飛び降りる。
アイスピックがジョーカーのマスクと頭蓋骨を貫き、脳を攪拌する。
健司はアイスピックをその場に放り捨てて、テグスもそのままに歩き去る。
アイスピックもテグスも殺人犯を特定する決定的な証拠とはなり得ない。
少し歩いた所で歩きやすい靴に履き替え、手袋を脱いでしまえば何一つ痕跡は残らない。
意識していたが三浦に行動を監視されていた様子は無い。
三浦はマスクをばらまいた事でジョーカー業を一定退いたのかも知れない。
それならそれで……
――ジョーカーを名乗れば問答無用の死が訪れる――
それでもジョーカーを続けられる者がいるだろうか。
健司の受けた依頼はジョーカーの殺害であって三浦清史郎の暗殺ではないのだ。
〈7〉
緒方は苦い気分で事務所でTVを見ている。
一週間で九人のジョーカーが殺され、四人のジョーカー、三人の組員が射殺された。
ワイドショーは死体にピエロのマスクをかぶせる愉快犯として報道している。
常識的に考えればそうなのだろう。
だが、現実にはジョーカーの模倣犯が跋扈し、殺し屋円山がジョーカーを殺しまくっているのだ。
この問題の裏が表ざたになれば矢沢組に捜査の手が伸びる。
組長が事情徴収という事にでもなれば、知事選敗北は必至だ。
この銃弾飛び交い殺し屋が闊歩する状況は、客観的に見れば矢沢組の内部抗争なのだ。
――やってくれたなジョーカー――
日用品を用いて鮮やかに殺しを遂行する健司に対する恐怖は広がっており、それなりの数のジョーカーマスクが届いてもいるが、それでも自分だけは大丈夫と考えるのが人間の性であるらしい。
「兄貴、県警本部長が来ています」
部下の言葉に緒方は舌打ちしたくなるのを堪える。
何人か人身御供に出す必要はあるだろうが、それでジョーカー問題が片付く訳でも無い。
今の新庄市はさながらギャングの蔓延る六十年代のニューヨークだ。
このネガティブイメージの中ではカジノ施設の誘致も集客の為だなどという言葉で誤魔化せない。
――だが、商店街も打撃を受けているはずだ――
緒方は次善の手を考えながら県警本部長を待たせてある応接室に向かう。
「緒方です。この度はお騒がせしております」
「いや、そうかしこまらんでくれたまえ。私がこうしておれるのも矢沢組あっての事だ」
県警本部長の茨木義男が本革張りのソファーから腰を上げて言う。
茨木は東大卒のキャリアで矢沢の後輩に当たり、同じゼミを受講していた間柄だ。
「殺人事件は起こせない。それが警察の不文律でしょう?」
「今回のカジノ施設建設は内閣肝いりでもあるんだよ。情報操作で反対派が工作しているように演出する事は可能だろうよ」
転んでもタダで起きないのが政治家やエリートというものであるらしい。
「つまりはカジノ施設反対派が、賛成派の人間を殺してピエロのマスクをつけていると?」
「そういう報道になっているだろう?」
茨木の言葉に緒方は唖然とする。
当事者としての立場で見ていた為に気付かなかったが、一般視聴者の目線で見るとそういう風に見えるのだ。
「で、私の在任中にこれだけの死者を出しているんだ。票は囲い込めているんだろうね」
「固定票は押さえております」
実際の所、矢沢組は内紛に近い状態で票を囲い込めるような状態ではない。
大手のチェーン店などでは本部通達で票の取り込みができているが、個人事業主は依然として反対の姿勢を崩していない。
――やる事成す事裏目に出る――
「死人は出る、カジノ施設はできないでは私の本庁復帰が危うくなるんだよ。その意味は分かっているだろうな」
「はい」
不満げな茨木に緒方は短く答える。
――県警本部長が殺害されれば流れが変わるかもな――
緒方は脳裏にあのとらえ所のない殺し屋の姿を思い描いた。
第四章 トリックスター
〈1〉
「最近俺たちが出てもヤクザもビビらねぇのな」
クイーンメイブのボックス席で健がぼやく。
本物の銃を撃つジョーカーもいれば、ジョーカーを狙い撃ちにする殺人鬼も存在する。
実際に死人も出ているのだから今更驚かす程度ではヤクザも怯みはしないだろう。
「銃で撃たれるって不安。前より遠慮なく撃たれてる感じ」
加奈が沈んだ様子でカクテルに口をつける。
「おいおい、私たちの本来の目的を忘れたんじゃないだろうな。私たちの目的はカジノ施設誘致の妨害だ。今の状況でカジノ施設がオープンしたとして誰がテナントに入るんだ? 暴力がこれだけ蔓延る状況を許した現職知事は窮地に立たされている。住民の安全と地域の活性に誠実に取り組む人物が取って代わらなければ市民が納得しない」
ショットのバーボンを口に運んで清史郎は言う。
「いや、確かにジョーカーの言う事は分かるんだけどさ、昔は良かったっつーか、実入りが少ないのは我慢するとしてもよ」
「私たちの本当の目的に近づいているんだから喜んでいいはずなんだけどね」
「選挙の公示まで三日、世襲できそうな人間がいない以上与党は今更候補者を変更できないし、現職のまま選挙を戦う事になる。野党には追及の材料が掃いて捨てるほどある。これで負けるようなら本当に世の中が腐りきってるってだけだ」
健と加奈の気持ちを察しながらも清史郎は言う。
「もう少しで全部終わっちまうんだよなぁ~。何か微妙だぜ」
「コンビニも忙しいって言えば忙しいんだけど、税金は取られるのに退職金も無いし年金のアテもないし」
健が仕事にやりがいを感じられないのも、加奈がお先真っ暗だと言うのも理解できる。
「そうは言っても九月三十一日にはジョーカーは死ぬんだ」
「してやられましたよ。九月に三十一日なんて無いじゃないですか」
ボックス席に当たり前のように現れた円山が言う。
「誰だテメェ!」
健が身を乗り出す。
「歌舞伎町で殺し屋を経営している円山健司と言います。ここが三浦さんの本当の事務所だったんですね」
「まさか一週間で九人も殺したのって……」
「やだなぁ~僕はもっと殺してますよ。警察だって報道内容には気を遣うんです」
涼しい表情でグラスを手にした円山がボックス席に座る。
「人殺しだってバラすぞ、テメェ」
健が円山に向かって噛みつきそうな声と表情を向ける。
「ご自由にどうぞ。何か一つでも証拠が存在するならね」
「で、その殺し屋さんがここに何の用?」
「いや、本家のジョーカーはどうしているのかと思ってね。偽物でもこれだけ殺せば本家も仮面を捨てるんじゃないかって思って」
「��たくの言う通りだ。こんな凄腕の殺し屋がいるならジョーカーなんてやるだけ損だ」
「本当にそう思っていますか? 本家はまだ何か隠し玉を持っているんじゃないかって思うんですけど」
「随分と余裕かましてんじゃねぇか。ジョークを殺ったらテメェを殺す」
「殺しはしたくないけどジョーカーを殺させる事は絶対にしない」
「人望があるんですね。いっそ事務所でこの二人を雇ったらどうです? 今より金回りはよくなるんじゃないですか?」
「殺し屋より儲かるとは思えないね」
「それはリスクを負っていますから」
「テメェは嫌味を言いに来たのか。悪いが俺たちはテメェになんざ負けねぇ」
頭に血の上った健が言う。
「そうそう、一つプレゼントがあるんです」
「あんたがくれるものなんてロクなものじゃないと思うんだけど」
「野党連合の候補を殺すように県警本部長から依頼を受けたんです」
笑顔で言った円山がグラスを空ける。
突然の事に健と加奈が硬直する。
選挙期間中に候補が殺されてしまったら票が分散して現職が有利となる。
どれだけ黒い噂があったとしてもだ。
「それは俺たちに守って見せろと言っているのか?」
「さぁ、気まぐれですよ。僕はこれでもあなたの事が嫌いではないんですよ」
言った円山が席を立って去っていく。
加奈と健が茫然とその背を見送る。
「私たちと候補者をまとめて葬るつもりか……」
清史郎は思案する。候補者を守る為に張り付けば二人まとめて殺される可能性がある。
しかし、候補者を放置しておけば間違いなく殺されるだろう。
具体的な殺人予告という訳ではなく、あったとしても警察はアテにはならない。
市民は自衛するしか無いのだ。
――どうする……――
「なぁ、ジョーク、どうすんだ?」
「あんたも少しは考えなさいよ」
「考えてるって。頭の中じゃあの野郎を三十回は殺してる」
非生産的な事を考えている健が言う。
「ジョーカー、私、どうしていいか……」
加奈は追い詰められた様子だ。
「こうなったらお望み通りにしてやろう。ジョーカーの最期を見せてやるんだ」
清史郎は一抹の寂しさを感じながら笑みを浮かべて見せた。
円山を前にして取れる手は一つしか無いと言っていい。
――あの男はこの結果を望んでいたのだろうか――
〈2〉
『……皆さん、この町の惨状は突然起きたのでしょうか? その根幹には市の中央にある広大な県の土地があります。この土地は江戸時代に火災の延焼を避ける為に作られた防災の為の土地でした。しかし新庄市が栄えるに従い、土地の価格が上がり莫大な利益が生まれる事が分かってきました。ヤクザやギャング、財界の人間はその利権に群がっているんです。もし、彼らの思い通りにさせるなら彼らの存在を容認する事になります。二百年前の先人の知恵に従い、ここを防災を兼ねた市民公園にする事こそが行政の成すべき事です……』
夕暮れの新庄市の駅前で野党候補の峰山春香が声を上げる。
聴衆はさほど多くはないが商店街や青年団が集まって盛り上げようと四苦八苦している。
清史郎はオープンカーのハンドルを握りながらタイミングを計っている。
『ジョーカー、スタンバイOKよ』
イヤホンから加奈の声が聞こえてくる。
『警察は野党の候補に人は割いちゃいねぇ、殺るなら今だ』
健の声を受けて清史郎は紫のどぎついトレンチコートを羽織り、ピエロのマスクをかぶる。
「そこのお前……」
演説を警備していた警官が警棒を手に近づいて来る。
「制服ギャングも久しからず」
清史郎は銃を引き抜く。
警官の足元で火花が爆ぜる。
聴衆だけでなく、夕暮れの帰宅ラッシュの人々の足が止まる。
「綺麗ごとでマニィをロンダリィ! 俺はハッピーにトリガー、堅実な人生が諸行無常!」
清史郎は自動小銃を抜いて選挙カーに銃弾を浴びせかける。
銃声が響き至る所で火花が散る。
ガードマンに守られて逃れようとする峰山の背に向けて引き金を引く。
血を噴出させた野党候補が倒れる。
「こんな時には正露丸! キャベジンがあれば国士無双ゥ! ユンケル飲んだら夜金棒!」
峰山が選挙カーに運び込まれ、現場から離脱しようとする。
『ジョーク、サツが動いた。射殺してもいいって言ってやがる』
健の言葉に清史郎は生唾を飲む。想定してはいたが、想像以上に警察もなりふり構っていないらしい。
清史郎はオープンカーで選挙カーを追い、グレネードランチャーで後ろ半分を吹き飛ばす。
煙を上げた選挙カーが路肩で停止する。
清史郎は高笑いしながら選挙カーの脇をすり抜け、オープンカーで町を駆け抜ける。
無数のパトカーが清史郎のオープンカーを追う。
『ジョーク、法定速度は無視してくれ、俺がナビゲートしてんだし、今更ネズミ捕りが怖いって訳でもねぇだろ』
健のナビゲーションでパトカーを避けて清史郎は埠頭へと向かう。
銃声が響き、音速より早く飛んだ弾丸がオープンカーに襲い掛かる。
警察が矢沢組の懸賞を狙っている事は健のハッキングで知っている。
制止する警官の声と銃撃を受けながら、フルスロットルのまま岸壁から海上へと車体を躍らせる。
肩と背中に銃弾を受けた清史郎は冷たくなり始めた海の中へと沈んでいく。
清史郎が意識を失いかけた時、淀んだ海の中にウェットスーツに身を包んだ加奈が姿を現した。
〈3〉
警察が捜査した結果、海で手に入れる事ができたのは一台の盗難車とピエロの仮面と紫色のトレンチコートだけだった。
知事候補が襲撃された事もあり、今後清史郎がジョーカーの扮装をすれば正体が露見する可能性は極めて高くなるだろう。
――本家ジョーカーは死亡した――
健司は病院の廊下を歩きながらポケットの中のビニール手袋の感触を確かめる。
野党候補は銃創を負って病院に入院している。
実際には銃創など負っていないのだろうが、ジョーカーと候補が一芝居打つのだとしても病院は避けて通れない。
――悪いけど僕は殺しの依頼は完遂する――
健司は候補の部屋の前のボディガードの様子を観察する。
「すみません。新庄市後援会の青年団の円山と言います。先生はご無事でしょうか?」
「先生はご無事だ」
鉄面皮のボディガードが返答する。
「それを聞いて安心しました。一言無事をお祝い申し上げたいのですが構いませんか?」
「十分だ」
ボディガードの言葉に笑みを返して健司は一人部屋に足を踏み入れる。
両手にビニール手袋をはめ、小銭袋を握りこむ。
「やぁ、先生、ご無事なようで何よりです」
「無事なものか。ポリの弾丸を四発も食らったんだ」
そこで見た光景に健司は言葉を失った。
「お陰で選挙が終わるまで退院できそうにない」
三浦が笑みを向けてくる。
「バカな……あなたは……」
身を隠さなくてはならないはずだ。
治療する為にも……。
――治療する為に候補に成りすましたと言うのか――
入院している間は世間の目は避けられる。
それでは候補はどこに消えたと言うのか。
「お前は野党候補を殺せというオーダーを受けたはずだ。今彼女は立候補しているが、生死不明で野党の統一候補ではない。今は慶田盛弁護士事務所で事務の手伝いはしているが選挙活動はしていない。それでもお前は殺すのか?」
健司は清史郎の言葉に笑いがこみあげてくるのを感じた。
「詭弁にも程がありますよ。ほとんど屁理屈じゃないですか」
「屁理屈でも君は依頼に忠実なんだろう? あと面会は手短に頼むよ。これでも歳でね、銃創って言うのは堪えるんだ」
銃創が堪えているのは本当らしい。
「それでも最後には候補は復活しなきゃならない」
「死んでいなければね」
カーテンの影から姿を現した女性がグレネードランチャーを構える。
「まさか……」
「ジョーカーは死んだ、ヒットマンは来た。これで充分だ。なぁ、ジョーク」
ラップトップコンピューターを小脇に抱えた青年が言う。
「ゲームオーバーだ」
清史郎が不敵な笑みを向けてくる。
健司は小銭袋を窓に投げつける。
砕けたガラスの破片を拾い上げて身構えながら退路を探る。
ガラスの破片で候補の命を絶つつもりだったが今三浦を殺した所で意味が無い。
今は割れた窓の外に逃れる隙さえあればいい。
女性の指がグレネードランチャーの引き金にかかる。
猛烈な爆音と閃光が室内に満ちる。
健司は窓の外に身体を躍らせた。
――これで知事候補が殺された事になるのか――
健司は地面を転がり、人目を避けながらバッグから出した白衣を羽織る。
――僕は最期までジョーカーに踊らされたって訳か――
敗北感より、どこか清々しさを感じながら健司は病院を後にした。
〈3〉
「慶田盛弁護士事務所では峰山候補を歓迎しますよ」
新庄市にある、冤罪に強いと噂の弁護士事務所で峰山春香は未だに自分の身に起きた事が信じられないでいる。
峰山が候補に決まったのは公示二日前、そこから慌ただしく野党の党首などと会談を交わし、選挙戦の流れになったのだが、その直後に慶田盛敦という弁護士が現れたのだ。
慶田盛の噂は峰山も聞いており、信頼できる人物であるとは感じていたが、話の内容は想像のはるか斜め上を行くものだった。
新庄市の乱射魔ジョーカーの本家は、���罪事件の解決を主に行っている三浦探偵事務所の所長三浦清史郎だったのだ。
三浦は知事選を前に町に大量のジョーカーマスクをバラまいて一時的に身を引いた。
しかし、ジョーカーと野党知事候補は確実にターゲットを仕留める円山という男に命を狙われているのだ。
更には矢沢組がジョーカーに懸賞首をかけており、警察も生死を問わないという条件でジョーカーを狙っているという。
そこで三浦が出して来た案がジョーカーに候補者が襲われて入院、ジョーカーは警察に追われて死亡、更に候補者の運び込まれた市民病院に現れる円山を三浦が撃退するというものだったのだ。
三浦は警察に追われて手傷を負う事は間違いなく、それならば知事候補と入れ替わって入院しても���っくりと治療ができる。
一方春香は慶田盛弁護士事務所で投票日三日前まで、事務職として短期採用される。
円山のターゲットは知事候補であり、事務員殺害ではなく、その一線を越えてこないのも円山という男なのだという事だった。
「何もかもが信じられないわ。生死不明で選挙戦を戦うなんて……」
「野党の党首が連日新庄入りするって話になったじゃないですか」
春香は慶田盛弁護士事務所の安普請の椅子に腰かける。
「それはいいとしても、いいえ、大きな借りを作る事になりますし……」
「市民に対して不誠実だと?」
春香の心中を察した慶田盛が言う。
「その通りよ。三日前に復活なんて話が良すぎるし」
「でも、実際問題あなたを救う手立ては他に無かった」
事務所の電話が鳴り、慶田盛が受話器を手に取る。
ボタンを押してスピーカーに切り替える。
「私だ。円山が知事候補殺害に現れたよ。こっちで見かけだけは派手な爆薬を爆発させて追い出した。これで知事はテロリストにまで襲われた事になるわけだ。しばらく身を隠さなきゃならない理由が増えたんじゃないか?」
「三浦さんですね? あなたが身体に銃創を負ったという話は聞いています。あなたはどうしてここまでやったんですか?」
「若い連中と付き合いがあると、柄にもない正義感なんてものも持つものなのさ」
三浦の言葉に春香はため息をつく。
実際の傷はどうあれ、体面上知事候補は集中治療室にかくまわれるだろう。
「市民病院が告発したらどうするつもり?」
「それは無いさ。与党の市長になってから予算を削減されて、市民病院では上から下まで味方しようなんてヤツはいないんだから」
慶田盛が肩を竦めて見せる。
「あと、仕事柄マスコミの相手をするのは苦手じゃないんだ」
「ああ、こいつは口先だけは有能だからな」
二人の言葉を聞いていた春香は苦笑する。
悪だくらみのような作戦だが、この二人にとってはこれは健全な正義のスポーツのようなものなのだ。
〈4〉
野党候補の入院先で爆破テロが起こった事で、与党候補に対する疑惑は大きなものとなった。
野党候補は生死の境を彷徨っていると報道されている。
清史郎は病院で何不自由なく治療生活を送っている。
のだが……。
「なぁ、ジョーク、ここで寝てるってのは何かの冗談だろ?」
「怪我してるのは事実なんだから無茶言わないの」
健と加奈は連日競うようにして病室を訪れている。
「お前ら、もうジョーカーの出番は無いんだぞ? 知事選も候補が無事を表明すれば一発で決まる。もうやる事は無いんだ」
清史郎が言うと健が叱られた犬のような表情を浮かべる。
「いやさジョーク、俺、土建屋辞めたんだ」
「私も……その、コンビニ辞めたんだ」
清史郎は二人の言葉に唖然とする。
このご時世に仕事を自ら捨ててどうしようと言うのか。
「ジョーク、儲からないっつってるけどよ、俺が手伝ったら何とかなんじゃね?」
「先に言わないでよ。採用するなら私の方が得なんだから。多分」
清史郎は額に手を当ててこみ上げてくる笑い声を抑える。
傷に響くが笑いたくなるのだから仕方がない。
「お前ら、馬鹿じゃないのか? こんなオッサンと組んだって心中するようなモンだろ」
「それでもいいくらい楽しかったんだよ」
「またスリル、くれるんでしょ?」
清史郎は笑い声をあげて身体を起こす。
傷が引きつるが痛みなど気にならない。
「資本金はお前らと合わせて裏金三千万円。社員は三人。一人はオッサン。ジョーカー探偵事務所とでもするか」
「何かダセェ。中年は変に英語にするから逆にカッコ悪いんだよ。三浦探偵事務所でいいだろ」
「中年のセンスが悪いのは今に始まった事じゃない」
清史郎は憮然として健に言い返す。
「じゃあ新しい門出に」
加奈がバッグからワインのボトルを取り出す。
若い二人は自分に老ける暇を与えてくれないらしい。
清史郎はコップに注がれたワインを掲げる。
「乾杯」
紙コップが音もなく打ち合わされ、新しい何かが動き始めた。
エピローグ
清史郎は健と加奈を引き連れて病院の廊下を歩いている。
向かいからスーツ姿の峰山春香が歩いてくる。
握手しようと峰山が手を差し出してくるのを無視して清史郎は右手を軽く上げる。
峰山が応じて右手を挙げてハイタッチすると、清史郎と峰山は入れ替わるように方向を変える。
清史郎の背後でフラッシュが瞬き、峰山が光とシャッター音に包まれる。
生死不明から無傷での生還。
これほどの宣伝も無いだろう。
ジョーカーはカジノ施設を阻止するというその使命を果たしたのだ。
選挙戦は野党党首が連日交代で訪れるという形で、野党が攻勢を強めていた。
そして投票日三日前に野党候補が無傷で出現。
暗殺者に狙われていた事を告げ、改めて支持を訴えた。
緒方は事務所で出来の悪すぎる茶番劇を見せられたような気分を味わっている。
ジョーカーという乱射魔が出現、殺し屋に依頼をしたらジョーカーの模倣犯が大量に出現。野党候補を狙ったら本家ジョーカーに命を狙われ、生死不明から一転蘇った。
市民の心理を考えるまでもなくこの選挙は完敗だ。
何処で何を間違えたのかなど分からない。
否、最初からこの町には矢沢組を受け入れない何かが存在していたのだ。
近々上層の組から矢沢更迭が告げられるだろう。
だが、緒方は矢沢にとって代わろうなどとは思わない。
――この町にはジョーカーという化け物が存在するのだから――
十月一日、健司はいつものように殺し屋のカウンターの内側にアルコールを吹きかけている。
もしも、九月に三十一日が存在しているならジョーカーが殺されてやると言っていた日。
新庄市では市民の支持を得た新知事の誕生でお祭り騒ぎらしい。
と、殺し屋の戸口に宅急便の配達員が現れた。
「殺し屋様ですか? Amazon様からのお届けものです」
記憶には無いが健司は笑顔で箱を受け取り、伝票にサインする。
ナイフで慎重に箱の封を開けるとそこにはピエロのマスクが収まっていた。
健司は口元に笑みが浮かぶのを感じた。
――確かにジョーカーは死んだ――
健司はその自然な笑みを機械的な笑みの後ろに隠し、カウンターを磨き始めた。
今日も新たな客がやって来るに違いないのだ。
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短編集その1 商店街
果てのない、長く長く続く一直線の道のり。 商店街、という言葉を聞いたことがあるか。 それは、この世界で一番ありふれたどこにでもあるもの、という意味で、だいたい空気と同じようなものだ。あって当たり前。人々の周りを無言で取り囲んでいる。 きみがいる建物の一歩外へ出て、左右を見てみろ。地平線を越えてどこまでも遠く、この商店街は続いている。顔を上げて、上の様子を確認してみろ。頭上をどこまでも覆う、やさしいクリーム色のアーケード。雨も雷も台風も、このアーケードの向こうで鳴っている音、という意味だ。 全てを覆い尽くす商店街。まるで、その外側を秘密で隠しているような。
彼女らを乗せた車は、今日もかたいアーケードの下を軽快に走った。鮮やかな赤色の車体に白抜きの文字で『10番街糸電話修理店』と書かれており、ラジオからはノイズだらけの愉快な音楽が流れている。 「もうちょっとちゃんと合わせてくんないかな」 篠田が言った。 それはハンドルを握っている方のことで、むやみやたらと踏み込むアクセルに全霊を捧げている女のことだ。 「無理だって」高野が返す。助手席で地図を片手にレモネードを飲み、顔面へ惜しみなく風を当てている。「揺れるもん」
地図、という言葉は聞いたことがあるだろう。およそ一番何の役にも立たないもののことだ。アイボリの背景の上に、グレィのインクで道路が印刷されている。所詮どこまで行っても商店街なのだから、地図も縦に一本の線が入っただけの代物だ。 「それ、見るのやめたら」篠田が口をへの字に曲げた。「どうせ知ってるでしょここ」 二人を乗せた車は、音楽を響かせながら商店街を走り続けた。開いている店はまばらだ。人影はちらほらと見えるが、ずっと遠くまで対向車の姿はない。 途切れることもなく続く、所狭しと店のひしめき合う、果てのない直線。 それがここにある、商店街というものの全てだ。 どこまで商店街があるのか、いつからこうなっているのか、実のところは誰も知らない。本当はどっかで輪になって繋がってんじゃないの、と篠田は考えている。 ちょうど彼らの生業である「糸電話」がそうなのと同じように、だ�� 二人が車まで引っ張りだして出掛けたのには、理由がある。ひとつは、遅い昼食をとること。もうひとつは、その糸電話が関わる仕事のためだ。 車のセンターコンソールに置かれたラジオは、簡単な無線も兼ねている。見かけは古いが、職場からの指示を受け取るのに便利なスグレモノだ。 ところどころ錆が隠し切れなくなってきたこの機械は、ただでさえうるさいノイズを一層ひどくした後、つめたい氷飴にカフェオレを混ぜたような声を受信した。 「篠田さん、スミレ、聞こえてるかな」 「スミレ出て、私運転してるから手が」篠田が目配せをする。 「はいよ」 高野は飲みかけのレモネードをボトルホルダに置き、ラジオから無線の送受信ができるモードに切り替えた。がさついていたノイズが一気に収まる。 「聞こえてるよ。ただいまお食事のため北上中」 「はいはい。セキグチです。今朝の修理の依頼なんだけど」 「おっ、あれ結局住所分かった?」 「ついさっき連絡付いて、やっと。ナビに送るから行ったげて」 「おっけーい。準備してから向かいまーす」
準備と称して車が停まったのは、薄暗い内装をした寂れた店の前だ。 看板にはよく分からない変体仮名のようなものが掲げられているが、読めたものは誰一人としていない。誰もよく分かっていないので、たった一文字のその看板からとって「一文字屋」と呼ばれている。 高野は残り少なくなったレモネードを取って車から降り、一文字屋の奥へ入っていった。 一文字屋には、所狭しとシックな木製の棚が並べられている。そこに収まっているのは巨大な金魚鉢だ。透明なものから色つき硝子のもの、砂利の敷いてあるものそうでないもの。どれにも数匹の金魚がひらひらとヒレを遊ばせている。 店の一番突き当りには青白い蛍光灯が灯っていて、その下には、カウンタに置かれた年代物のレジスタがある。カウンタには一人、皺くちゃの婆さんが座っていた。 蛍光灯のためなのか、その一帯だけが妙に明るい。それとも、婆さん自身が発光しているのかもしれない。 「ばあちゃん、こんちは」 「おやぁ。久し振りだね」 婆さんは俯き加減だった顔を上げた。膝に載せた焼き物の鯉を撫でている。 「ばあちゃんまたヘンなもの手に入れて」 「かわいいだろう。この前、鯉が一匹逃げちゃってね。その代わりさ」 「ばあちゃん鯉なんか飼ってたっけ」金魚ばっかりだと思ってたな、と高野はカウンタに肘をついた。「あのさ、私ね、仕事で5番街まで行くんだ」 「そうかい。あすこはこの前新しい横丁ができてたよ」婆さんは撫でる手を止め、そう言った。 「そう。私も初めてだから地図を買いに来たの」 「あるよ。待っといで」 婆さんは焼き物の鯉を高野に押し付け、ふらっと立ち上がって棚の陰に消える。しばらくがさごそと何かを掻き回すような音が聞こえたあと、腕に大判の印刷物を抱えて戻った。 「いっつも助かるよ。ばあちゃんとこ何でもあるね」だめもとのつもりで来たのに、と高野がはにかむと、老婆は満足そうににっかりと笑った。 「いいんだよぉ。ついでにこれも持ってきなさい」 皺くちゃ婆さんは金魚鉢を手渡した。中には瑞々しい美味しそうな煮物が詰められている。「サービスだから」 高野はうんと目を輝かせ、婆さんに勝るとも劣らぬくらいに発光した。 「ありがとうばあちゃん。いつも悪いね」 高野は一文字屋を辞すると、皺くちゃの婆さんから受け取った地図と金魚鉢を両手に抱えて車へと戻った。 持ちきれなくなったレモネードのグラスは、婆さんへのプレゼントにしてきた。きっとあれにもそのうち金魚が入るだろう。 車の傍では、篠田が口をへの字に結んで高野を待っていた。 「カーナビもあるし、絶対要らんってそんなの」 「持ってても損にはならないでしょう」 高野は構わず後部座席に荷物を放り込んだ。勢い余って煮物がぼとぼとと零れたが、彼女は構わず助手席に戻る。すぐに篠田も運転席にどかりと座った。 「だってお金の無駄じゃん」 「健全な消費活動だよ。なにがだめなの?」 「呆れた」キーが回され、ぶぅんと大きな音が発生した。エンジンの音なのか、篠田の唸り声なのかは判然としない。「全部ツケにしとるくせに」 篠田が思う存分に唸り散らしてタイヤを回している間、高野はじっと購入したばかりの新しい地図を眺めていた。そして時おり、思い出したように窓から顔を出して外を見上げる。 アーケードはいつもどこまでも、変わりのない黄色さで人々を覆い尽くしている。ときたま隅のほうがくすんだように汚れていることはあるが、その程度はコーヒーの底に溜まった砂糖のようなものだ。 「ここんとこ、天気変わらんねぇ」 高野が考えていることを察した篠田は、まっすぐ前を向いたまま言った。 「天気っていうか、そもそも、時刻がね」 アーケードの下からは、その向こうがどうなっているのかを知る手立てはない。ぼんやりと明るい光が差し込み始めれば朝、暗くなり始めれば夜だ。 過ぎ行く時間を区切るための基準はおよそこれだけしか存在しないので、商店街での時間の流れ方は非常に曖昧だ。 そしていつの間にか、その頼みの綱まで動かなくなったのだ。 「いつからだっけ」 「さあ……十日ぐらい昼間のまんまな気がするけど、私」 「気まぐれもいい加減にしてほしいよな」 篠田は後部座席に向けて片手をへにゃへにゃと動かした。高野がすみやかに金魚鉢を取って寄越すと、篠田は皺くちゃ婆さん産の煮物をひょいとつまんで食べ始める。 単純だが奥の深い味わいで、婆さんの人生の長さがそのまま煮詰められたかのような滋味だ。 一部では、婆さんが物心ついてよりこのかた一度も水を替えたことのない金魚鉢の水で煮ているからだ、とまことしやかに囁かれている。 「お蔭で午前だけのはずだった仕事が大幅に伸びちゃったじゃん。そのせいで事務所の食堂は閉まっちゃうし、わざわざ外食しに出る羽目になるし」 午前というのは、朝起きてから、何となく区切りがついたような気になるまでの時間帯のことだ。したがって、人によって午前がいつまでかは変わる。 しかし、なけなしの昼夜の差すら消え失せた今となっては、一体いつからいつまでが午前かという合意の形成には困難を極めた。 「何にせよ、私がばあちゃんの店で買った煮物がこうして昼食となり、お腹をふくらしているんだもの。健全かつ正当な消費活動だったと言えるでしょ」 「買ってはないと思うけど、まあ、そんで良いよ」 篠田は高野の消費活動を褒めたつもりはこれっぽっちもなかったが、良いと言われたその部分だけを切り取って理解した高野は、フンフンと鼻を鳴らした。 面白くないので話をそらすことにする。 「いつまで眺めてんの。それ」 「へ?」 篠田は顎で高野の地図を示した。よくもまあ延々と代わり映えもしない紙切れなんて見ていられるな! と付け加えてしまいそうになったが、それは飲み込むことに成功した。 代わりに全部表情に出た。 「うるさいな、いいじゃん。面白いんだよ、お店の名前とか、全部載ってるし」 「寄ってあげないからね」 篠田は顔を顰める。高野の寄り道に付き合っていては、いつ目的地に辿り着けるか分からない。 「ちょっとそこで停めてもらっていい?」 「今の話聞いてたか?」 「吐きそう」
カーナビの表示には『8番街』と出ていた。ここから先は、普段の仕事でもあまり訪れない場所だ。 辺りは薄暗く、ひんやりとした涼気に包まれている。天気が変わったからではない。8番街のアーケードはツタ植物に覆われ、左右の建物もほとんど呑み込まれつつあったからだ。 人の姿も碌にない。 おおか��この区画は、油断しているうちに何やら生えだしてしまい、伐採が面倒くさすぎて放棄されたのだろう。 枯れた頃に戻って来ようと様子見しているのか、人が離れたことでますます爆発植物楽園と化してしまったか、どちらかだ。 車を路肩に停め、ハザードランプを点ける。助手席の馬鹿が車内で吐いたら大災害だ。ハザードの名には相応しかろう、と篠田は高野を車外へ蹴り出した。 高野は「すまんね」とでも言いたげに手をひらひらと動かし、側溝へと向かっていった。 しゃがんで溝の中を覗き込む。水は予想外に美しく澄んでいた。 これ、側溝かな、と高野は首を傾げた。随分と水深があるようだ。木漏れ日が水中できらめいて、青や緑や黄色に複雑に光っている。そのもっと下は真っ暗だ。どこが底か分からない。 こんなとこに吐くのは申し訳ないなあ、と高野は思う。思ったがそれとこれとは別なもので、迫り来る嘔吐感は否応なしに胃の中身を逆流させた。 すると、不意に水の中を赤色に照らすものがある。なんじゃろな、と訝しんで見つめていると、それは水底の淀みから躍り出た真っ赤な鯉だった。 軽やかに上層まで泳ぎ、ついさっき高野が水面に浮かべた不躾な流動食をぱくぱくと吸い込んでいる。これは運命かな、と確信した高野はむんずと鯉を鷲掴みにした。
「なにあんた、それなに」 「鯉だよ」 車の傍へ戻った高野は、自慢げに捕まえたばかりの鯉を見せびらかした。 「どうしたそれ!」 「いかにも獲ってほしそうな顔でノンビリ浮上してきたから」 「なにそれ。溝にいたってこと?」 「そうそう、そうだよ。どうしよっか。折角の煮物吐いちゃったし、こいつ捌いて食べる?」 「厭だなぁ、あんたのゲロ食った魚でしょそれ」篠田は今世紀最大に顔を顰めた。 「なんで分かった」 「とりあえず。金魚鉢にでも入れときなよ」 車は再び発進する。鯉は大人しく水を湛えた金魚鉢に浮かべられ、ちゃぷちゃぷと左右に揺られた。 かつて煮物が入っていた鉢だが、まだ吐瀉物で汚染されていないと思われる側溝の水を掬って持ってきたのだ。 10分ほど走ると、篠田は好奇心に負けたのか、片手をステアリングから離して鯉をつつきだした。 「こいつ、なんで溝なんかにいたのかなぁ。あ痛っ!」 篠田は急に走った刺戟に手を引っ込めた。まるで、非常に強力な静電気を喰らったように痺れる。 「なんだ今の」 「おお、すごい。こいつ、デンキウナギならぬデンキゴイなのかな」 「そんなやつ、いてたまるか」涙目でヒリヒリする手を振りながら篠田は抗議した。「あんたがまずやられろよ!」 「だから言ったでしょう、運命だと思ったって。こいつにも分かってたんだよ」 相手にしていられない、と篠田は無視してアクセルを踏み込んだ。苛立ち紛れにかっ飛ばしたのが半分。腹が立ったのがもう半分だ。 やがて鬱蒼としたツタの森を抜けた。代わりにアーケードを支える鉄骨からはパステル色の塗装が剥げ、てらてらとぬるい光を反射している。 カーナビの表示は『6番街』と表記を変え、進むべき道を指示する矢印は向きを変えた。ふと見ると、確かに唐突に横道が伸びている。 これが新しくできたっていう横道か、と篠田は納得した。ちらりと高野を盗み見ると、デンキゴイに地図を読ませていた。馬鹿はあてにならない。 「ここで左折」 篠田は一応馬鹿に話しかけた。 「どうぞしてくださーい」 高野は相変わらず鯉と戯れたまま返事をする。篠田はため息をついて一度バックに入れ、車を切り返し、横道に突っこもうとした。が、その直前でブレーキが踏まれる。 「だめだ」 篠田はもう一度溜め息をついた。 「なんで?」 「ちょっとは前見ろよ。この幅、車入らんわ!」 高野がパワーウィンドウを降ろして確認すると、なるほど前進すればバンパはへこんでタイヤが詰まって動けなくなっていただろう。新しくできたという横道は狭かった。 「あとちょっとなのに」 篠田は脱力してシートにもたれた。 「うーん、これはしょうがないよ。要るものだけ持って歩いて行こう」 「そうだね……そうしようか」 車から降りた二人は、カバンや工具箱、必要になると思われるものをトランクから引っ張り出した。それらを片っ端から抱えて歩き始める。 「気が遠くなるなあ」 篠田は両肩に工具入れを掛け、ぼそりと呟いた。 「歩いても一時間ぐらいでしょ」巨大なラージサックを背負い、腕には金魚鉢を抱えた高野が笑う。「楽勝だって」 「カーナビが持っていけないからなぁ」 「だからさ、ほら。買っといて良かったでしょう、地図」 「うーん、認めたくないけど、あとはあんたが頼りだなあ」 「よしきた」 横道を抜けると、別の商店街に出た。 商店街の横にはまた商店街があるという事実は、六十年ほど前から指摘されていて、それは時たまこうして新たな横道が誕生するから明らかになったことだった。ご丁寧にも横道には横道用の小さなアーケードが覆い被さり、商店街同士を繋いでいる。 別の商店街に出ると、アーケードの色はクリームから薄いピンクに変わり、頭上には『5番街』と大書された吊り物が下げられていた。 こうした吊り物自体は、住民が邪魔と感じて取り外さない限り、珍しいものではない。 「これを右に曲がって……途中で通行止めの区画があるから、そこだけ二階の臨時通路に登って迂回する、みたい」 高野が地図を片手にぼそぼそと呟いた。 「ばあちゃん、よくこんな所の地図持って��な」 高野の言う通り、一時間少し歩いたところで、目印と伝えられていた看板が見えた。『青山理髪店』と書かれたそれは、チリチリと小さな音を立てながら光っていた。 静かに扉を押し開け、中に入ってみる。店内は清潔に整っているが、人気はない。入り口すぐのカウンタには、呼び鈴が置かれていたので、試しに鳴らしてみた。 すると、カウンタの背後にある上り階段からどすどすと足音が聞こえてきて、眠たい牧羊犬みたいな顔の男が姿を現した。 「やあやあ、こんちは、修理屋の人ですよね」 「どうもー、10番街糸電話修理店です」高野が答えた。「えっと、お電話の、佐山さん?」 「そうです。僕が佐山」 そう言って彼は二人と握手をした。 「青山じゃないんだ」 篠田は思わず言ってしまった。 「こっちは借家なんですよ。本当の僕の家はこの隣」 佐山は二人を手で招いて、階段を昇っていった。二階はごくふつうの居室になっていて、現代感あふれる一階とは打って変わったオールド・タイプの木造様式が印象的だった。 そして、廊下の突き当りの壁が唐突に破壊されて巨大な穴になっているもの印象的だ。 「僕の家と行き来できるように、壁を抜いたんです。生家の一階は古いから、どうも建付けが悪くて、玄関が開かなくなっちゃったんですよ」 「そうなんですね」 高野は家と家の隙間を乗り越えて言った。腕の中の金魚鉢がちゃぷん、と音を立てる。 「直してほしい糸電話は、この下です」 佐山に案内された先は、彼の生家だという建物の一階だった。 もう営業している様子はないが、こちらはどうやら扇屋だったらしい。薄い硝子のはまった箪笥に、色褪せた扇が何枚も飾られていた。 店の一画に、床面が一段落ちたスペースがあり、そこの壁だけ腰板が外されている。普段は腰板に隠されているだろう位置には、横長の銀色をした蓋があり、『西81番』と書かれていた。 「これですね」篠田は壁に近づき、傷めないようにゆっくりと蓋を開けた。「拝見します」 蓋の中には、十数本の糸が張り巡らされていた。色はどれも同じ白だが、材質や太さがそれぞれ違う。これが彼女らの修理している糸電話の正体だった。 蓋は、糸電話のごくごく一部を覗き込める開口部でしかない。糸はそのずっと先まで、どこまでも長く続ぎ、大きな大きな円を描いてひとつなぎの輪になっている。ちょうど、商店街を髣髴とさせるように。 もう何百年も前から、この糸電話と形容される物体を利用して情報を保存する技術が活用されてきた。糸は一つの大きな輪になっているので、一旦どこかから音を吹きこめば、振動は輪を伝って永遠に流れ続ける。 やがて時が流れ、技術の進歩とともに、音として保存されてきた情報は、振動を0と1に見立てた二進数の情報に変わっていった。今でも、そのやり方で糸電話に大切な情報を保存する習慣は引き継がれている。 「確かに、糸がいくらか絡まったりしているようですけど」高野が中身を覗き込んで言った。「何が保存してありました?」 「声です。祖父の声。データ自体はバイナリで格納したみたいなんですけど」 「あれ。お詳しいんですね。バイナリなんて」 佐山は後ろから興味津々に作業を眺めている。篠田が肩にかけていた工具箱を開き、様々な器具を取り出していく。 「遺言だったんですけど。つい先日ですね。昔、家の7番糸に残したデータがあるから読んでくれって」 「それはそれは……」 高野は篠田からピンセットのような器具――止振子を受け取った。一時的に糸の振動を止めるためのものだ。問題の7番糸がもつれている部分を左右から挟むように数本留める。 「お悔やみを申し上げます」 「ありがとう。まぁ、ですから、糸のデータが知りたくて」 「すぐですよ」 篠田と高野は、二人がかりで手際良く糸のもつれを取り除いた。すぐに止振子を外し、糸の振動を再開させる。情報の喪失を引き起こさないため、職人の腕の見せ所となる作業だ。 次いで復元器と呼ばれる機械を糸につなぐ。こちらは、もつれた糸同士で混線してしまった振動を正しく選り分け、元に戻す機械だ。 「これで作業自体は終了ですね」篠田が腰に両手を当てる。「ですけど、おじいさまが昔に保存されたなら、今とはエンコード形式が違う可能性があります。そうなると、普通の機械では再生できないので、今、私たちが形式を確かめることもできますが……」 「ああ、じゃあ、お願いします。ぜひ」 「分かりました」 二人はカバンからコードを引き出し、端子を糸に接続した。反対側の端子を四角い機械に接続し、更にその機械から伸ばした配線をノートパソコンにつなぐ。これで糸の振動を読み取り、四角い機械、すなわちデコーダに送ることで、圧縮された情報を解凍することができる。そうして初めてパソコンで表示することが可能になるのだ。 ところが、 「あれ?」 篠田は頓狂な声を上げた。 「デコードエラーだ」高野が横からパソコンの表示を見る。「他のデコーダは?」 二人は次々にパソコンと糸の間の仲介をするデコーダを取り換え、いずれかの機種で解凍ができないかを確認した。だが、相変わらず画面にはエラーが吐き出されたままだ。 「おかしいな。形式が古いってだけじゃなさそうだ」 「どういうことですか?」 佐山が顔を曇らせた。 「未知のエンコード方式で保存されていますね、これ」 彼女らは腕を組んだ。独自の方法で圧縮されていた場合、解析するのには途方もない時間を要する。一朝一夕に解決する問題ではなくなってしまうのだ。 考え込む二人の傍で、金魚鉢の鯉がちゃぽんと水音を立てた。 「糸……、端子、電気信号……。電気、あっ。デンキゴイだ」 高野が思いつきに口を滑らせると、すぐさま篠田が反応した。 「お前、いきなり何言ってんの?」 「鯉だよ。この子は電気をピリピリできるでしょ。きっとよく分かんないバイナリも変換してくれるよ」 「あのなあ」 「この子は地図も読める賢い子だって」 怒りを顕わにする篠田と呆気にとられる佐山を尻目に、高野はデコーダを押しのけて金魚鉢をセットした。水の中へ端子を放り投げる。 すると、しばらくの間を置いてから、パソコンの画面に文字列が表示された。 「んな、馬鹿な」 篠田は目を剥き、阿呆極まりない形相となった。佐山が二人の隙間から画面を読もうとする。 「『絡繰時計の発条を巻いてやれ』……ですか?」 「絡繰時計? この文章、正しいですか? 何か心当たりが?」 「ええ、あります。二階の部屋です」 佐山は慌てて走り出し、階段を上り始めた。反射的に篠田も立ち上がり、後に続く。 「ええっ、ついてくの?」高野は金魚鉢を置き去りにした。 佐山が引き戸を押し開いたのは、二階でも一番奥まったところにある部屋だった。 六畳か、八畳ほどはありそうな板間で、部屋の殆どを大きな機械が占めていた。大部分は木でできているように見え、歯車や梃子や滑車がたくさん付いている。中央には円形の文字盤があった。 「止まってる」 彼は小さく息を吐いた。どうやら、時計は気付かないうちに止まっていたものらしい。篠田と高野も時計に近寄り、精緻な技工の妙を眺めた。 「なんじゃこりゃ」 佐山は時計の側面に回り、膝をついた。きりきりと何かを回す音が聞こえる。どうやらそちらに発条があるようだ。 ふと、篠田は高野の肩をつついた。ぱくぱくと口を動かし、酸欠の鯉のような表情をしている。 指は時計の文字盤を指していた。 「なんだよ。どうしたの」 高野もつられて文字盤を見る。文字が書かれていた。時刻の表示とは別だ。中央あたりに、たった一文字だけ、何かが刻印されている。何と書いてあるか分からない、変体仮名のような文字が。 「これ、一文字屋の」 高野がこぼすと、篠田は頷いた。 そこへ、突如として盛大な作動音が部屋に響きわたり始めた。佐山が発条を巻き終えたらしい。時計は動き出し、針も回り、佐山は二人の傍へ歩いてきた。 「ありがとうございます。遺言、やっぱりこれだったみたいですね。祖父はこの絡繰時計に、随分執心でしたから」彼はそろって酸欠の鯉と化した二人を見て、首を傾げた。「どうかなさいました?」 「あのう、差支えがなければで、いいんですけど。この文字は」 「ああ、これですか? これは、祖父のサインです。花押気取りなんですね。祖父がこの時計を作ったから」
遠いし見送りは不要ですよ、と断ったのだが、佐山は結局二人が車に乗るまで歩いて着いてきた。5番街は来た時よりも少し薄暗くなり、夕暮れ時の静けさを孕んでいた。 二人は改めて別れの挨拶をし、車に乗り込む。Uターンをし、滑り出すように静かに走り出させると、車内のミラーに手を振る佐山が写っていた。 アーケードを透ける光は、どんどん赤みを増し、それと同時に弱く細っていく。商店街は、ごく久しぶりの夜の到来を告げたようだ。 パワーウィンドウを開け、顔に風を浴びる高野が最初に切り出した。 「時間、動き出したね」 「うん」 篠田はヘッドライトを灯した。 「これは、ただの私の想像なんだけど」 「うん」 「時間は勝手に動き出して、私たちも勝手に時計を動かした? それとも、あの時計が動いたから時間も動いた?」 「何を馬鹿なことを。でも」 篠田はわずかに後部座席を一瞥した。一仕事終えて、ぐっすりと眠りこけるデンキゴイが金魚鉢にたゆたっている。 「私もいろいろ思うよ。ばあちゃんはなんであんな新しいとこの詳しい地図を持ってたんだろ。ばあちゃんの屋号はなんで佐山さんのと同じなんだろ。これって、偶然?」 「さあね」 高野は首をひねった。 「この鯉と私も運命だし。鯉と佐山さんの糸電話も運命かも。じゃあ、いっぺんこの鯉をばあちゃんに見せてみて、もしもばあちゃんが逃がしちゃった鯉だったら、この鯉とばあちゃんと佐山さんは運命だったってことかな」 篠田は、ヘッドレストに頭を預け、肩から少し力を抜いた。 「私、いつもスミレの言ってる事よう分からんし、今もだいたい分からんけど、気持ちだけは分かるような気がするよ」 二人を乗せた車は、静かに来た道をひた走った。 早く本店に戻って、セキグチに修理完了の報告をしなければならない。 一文字屋の、皺くちゃの婆さんに鯉を見せるのも。 頭上をどこまでも覆う、クリーム色のアーケード。雨も雷も台風も、今晩は音を立てて騒ぎまわることもないだろう。なぜだか、そんな気がした。 全てを覆い尽くす商店街。その内側で起こるいろいろなことを、やさしく秘密で隠しているような。
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同居男児に暴行ペルー人の女起訴|NHK 三重県のニュース
感染者
【24日19時現在】県内の感染者 累計45人
44人目:伊勢市に住む60代の保育園��理師の女性
45人目:松阪市に住む40代の消防職員の男性
県の緊急事態措置
▼生活の維持に必要な場合を除く県内外への移動の自粛
▼特に大型連休期間中における移動の自粛▼海外渡航の自粛
▼接待を伴う飲食店や遊興施設などへの外出自粛
▼県外から三重県への移動自粛の呼びかけ
▼3密(密閉・密集・密接)回避と人と人との一定の距離の確保
▼咳エチケットや石けんによる手洗いなど基本的な感染予防の徹底
休業要請
期間:5月6日まで 対象地域:三重県全域
協力事業者には「協力金」として1事業者あたり一律50万円支給
休業要請 対象
【遊興施設】▼ナイトクラブ▼キャバレー▼ダンスホール▼バー
▼風俗店▼ネットカフェ▼漫画喫茶▼カラオケボックス
▼ライブハウス▼競艇などの場外発売所▼ゲームセンター
【運動遊技施設】▼体育館▼水泳場▼ボウリング場
▼スポーツクラブなどの運動施設▼マージャン店▼パチンコ店
【劇場・集会展示施設】▼劇場▼映画館▼集会場▼公会堂▼展示場
【文教施設など】▼大学や専門学校などの教育施設▼自動車教習場
▼学習塾(床面積100㎡以下・感染予防対策をした場合を除く)
【博物館など】▼博物館▼美術館▼図書館
【商業施設】▼生活必需品以外の小売り関係の店舗やサービス業
(床面積100㎡以下・感染予防対策をした場合を除く)
休業要請相談窓口
℡)059-224-2335・23日以降 9時~17時(土日祝日含む)
要請 対象外
【社会福祉施設等】▼保育所▼学童クラブなど▼介護福祉サービス
【生活必需物資販売施設】▼食料品売場▼コンビニエンスストア
▼百貨店・ホームセンター・スーパーなどの生活必需品売場
【食事提供施設】▼居酒屋を含む飲食店▼喫茶店
営業時間は朝5時~夜8時までの間の短縮営業を要請
酒類の提供は夜7時まで(宅配・テイクアウトサービスは除く)
【宿泊施設・交通機関】▼ホテル▼バス▼タクシー▼レンタカー
▼鉄道▼船舶▼航空機▼宅配などの物流サービス▼工場▼作業場
【金融機関・官公署】▼銀行▼証券会社▼保険代理店▼官公署
【そのほか】▼メディア▼葬儀場▼銭湯▼質屋▼獣医▼理美容
▼ランドリー▼ごみ処理関係
宿泊施設への対応
「宿泊予約延期協力金」 観光地を抱える三重県独自の協力金
大型連休の期間中に県外から多くの予約あり 感染拡大のおそれ
大型連休中に予約の延期やキャンセルを行った事業者対象
1人あたり6000円・1施設あたり最大12万円を支給
鈴木知事は「大型連休中の県境を越える移動自粛をお願いしたい」
知事のメッセージ
▼3つの密の徹底的な回避▼感染拡大が続く地域への移動の自粛
▼人との接触機会の低減など 「できる限りの感染拡大阻止を」
“ご自身と大切な人の命を守るため”県民に改めて協力を要請
県対策本部会議
16日に初めて感染者が死亡 感染拡大の進行が深刻という認識
感染症指定医療機関含む一般病棟でも100床の受け入れ可能に
医療調整本部
感染者が入院可能な病床数を把握 医療機関との連絡や調整を担う
軽症者への対応:県の宿泊施設を活用する方向で調整中
相談窓口
▼どこに相談したらよいかわからない方はこちらへ
・三重県薬務感染症対策課 059-224-2339(専用回線)9時~21時
▼新型コロナウイルス感染症に関する相談はこちらへ
・桑名保健所 0594-24-3625 9時~21時(土日・祝日も対応)
・四日市市保健所059-352-0594 9時~21時(土日・祝日も対応)
・鈴鹿保健所 059-382-8672 9時~21時(土日・祝日も対応)
・津保健所 059-223-5184 9時~21時(土日・祝日も対応)
・松阪保健所 0598-50-0531 9時~21時(土日・祝日も対応)
・伊勢保健所 0596-27-5137 9時~21時(土日・祝日も対応)
・伊賀保健所 0595-24-8070 9時~21時(土日・祝日も対応)
・尾鷲保健所 0597-23-3428 9時~21時(土日・祝日も対応)
・熊野保健所 0597-89-6115 9時~21時(土日・祝日も対応)
【外国人相談会】感染拡大による休業や解雇 生活支援など
【外国人相談会】英語・ポルトガル語など11の言語で受付 無料
【外国人相談会】5月3日 5月17日 6月7日 6月21日
【外国人相談会】5日前までに予約 080-3300-8077
三重県労働相談室
新型コロナウイルス感染症に関連する労働相談の窓口
期間:4月11日~6月27日(毎週土曜日)時間:13時~17時
電話:059-213-8290 または 059-224-3110
内定取り消し相談
【三重労働局】新入社員の内定取り消しなどの相談窓口
感染拡大で内定取り消しや入社時期の繰り下げが相次いでいるため
【三重労働局】相談窓口▼059-229-9591
法務局 人権相談
個人への偏見や人権侵害・誹謗中傷・DV・児童虐待などへの相談
▼みんなの人権100番 0570-003-110
▼子どもの人権100番 0120-007-110
▼女性の人権ホットライン 0570-070-810
運転免許証
▼運転免許 更新業務 22日から当面休止
▼高齢者講習(70歳以上)と認知機能検査(75歳以上)当面休止
▼有効期間3か月延長が可能 対象を7月31日まで拡大
延長申請:運転免許センターや警察署の窓口で受け付け
延長申請:感染拡大を防ぐためできるだけ郵送による手続きを
延長申請:詳しい手続きは県警察本部のホームページで
▼免許更新の問い合わせ:運転免許センター ℡・059-229-1212
臨時休校
【5月6日まで】県立高校と特別支援学校
【5月6日まで】▼桑名市▼いなべ市▼四日市市▼伊賀市▼津市
【5月6日まで】▼松阪市▼伊勢市▼鳥羽市▼志摩市▼尾鷲市
【5月6日まで】▼熊野市▼鈴鹿市▼亀山市▼名張市
【5月6日まで】▼木曽岬町▼東員町▼朝日町▼川越町▼菰野町
【5月6日まで】▼明和町▼玉城町▼度会町▼南伊勢町▼大紀町
【5月6日まで】▼多気町▼大台町▼紀北町▼御浜町▼紀宝町
学童保育
【津市】一部閉所 開所施設では自粛要請の上で最低限の受け入れ
【桑名市】全施設 自粛要請の上で最低限の受け入れ
【木曽岬町】全施設で受け入れ 【いなべ市】全施設で受け入れ
【東員町】全施設 自粛要請の上で最低限の受け入れ
【四日市市】一部で閉所検討 他は自粛要請の上で最低限の受入れ
【鈴鹿市】全施設で受け入れ
【菰野町】一部閉所 開所施設では自粛要請の上で最低限の受入れ
【川越町】全施設 自粛要請の上で最低限の受け入れ
【亀山市】全施設 自粛要請の上で最低限の受け入れ
【熊野市】全施設 自粛要請の上で最低限の受け入れ
【御浜町】全施設で受け入れ
【松阪市】一部閉所 開所施設では自粛要請の上で最低限の受入れ
【多気町】全施設 自粛要請の上で受け入れ
【明和町】全施設 自粛要請の上で最低限の受け入れ
【大台町】1施設のみ受け入れ
【伊賀市】全施設 自粛要請の上で最低限の受け入れ
【名張市】全施設で受け入れ 時間は施設によって異なる
【尾鷲市】全施設で受け入れ 【紀北町】全施設で受け入れ
【伊勢市】全施設 自粛要請の上で最低限の受け入れ
【鳥羽市】全施設で受け入れ 【志摩市】全施設で受け入れ
【玉城町】全施設休所中 希望があれば受け入れ実施
【南伊勢町】全施設で受け入れ
【大紀町】全施設 自粛要請の上で最低限の受け入れ
児童館
【津市】5月6日まで利用停止
【桑名市】5月6日まで 自粛要請の上で最低限の受け入れ
【四日市市】5月6日まで利用停止
【鈴鹿市】5月6日まで利用停止 【川越町】5月6日まで利用停止
【亀山市】5月6日まで利用停止 【熊野市】休館中 再開未定
【松阪市】5月6日まで利用停止 【明和町】5月6日まで利用停止
【伊賀市】5月6日まで利用停止 【名張市】5月6日まで利用停止
【伊勢市】5月6日まで利用停止 【玉城町】5月6日まで利用停止
【大紀町】5月6日まで 自粛要請の上で最低限の受け入れ
伊勢市の対応
鈴木市長:大型連休中の伊勢市への訪問を自粛するよう呼びかけ
【閉鎖】伊勢神宮近くの市管理の駐車場6か所:4月25日~5月6日
時間短縮
【伊勢神宮】参拝時間:4月25日から6時~15時 当面の間
【伊勢神宮】一般や団体向けの祈とうも当面の間停止
県営公園
【閉鎖】熊野灘臨海公園 25日から 三浦・道瀬地区
【閉鎖】熊野灘臨海公園 25日から 城ノ浜地区 大白地区
【閉鎖】熊野灘臨海公園 29日から 片上池地区
遊具使用禁止▼四日市市の北勢中央公園▼鈴鹿市の鈴鹿青少年の森
遊具使用禁止▼亀山市の亀山サンシャインパーク
遊具使用禁止▼明和町の大仏山公園 いずれも4月25日から
5月6日まで休館
▼いなべ市大安図書館▼藤原図書館▼北勢図書館(返却ポスト可)
▼ふるさと多度文学館▼桑名市立中央図書館▼長島輪中図書館
▼木曽岬町立図書館 ▼川越町あいあいセンター図書館
▼四日市市立図書館 ▼四日市市立あさけプラザ図書館
▼四日市市立楠交流会館図書室 ▼津図書館 ▼津市美杉図書室
▼河芸図書館 ▼芸濃図書館 ▼美里図書館
▼津市久居ふるさと文学館・ふれあい図書館
▼津市安濃図書館▼きらめき図書館▼一志図書館▼うぐいす図書館
▼鈴鹿市立図書館▼鈴鹿市立図書館江島分館▼伊勢市立伊勢図書館
▼伊勢市立小俣図書館 ▼鳥羽市立図書館 ▼志摩市立図書館
▼志摩���書館 ▼磯部図書館 ▼大王図書館 ▼浜島図書館
▼度会町中央公民館図書室 ▼度会町地域交流センター図書室
▼多気町立図書館(返却ポスト利用可)
▼多気町立勢和図書館(返却ポスト利用可 予約本は連絡の上貸出
▼みなみいせ図書館(返却ポスト利用可 予約本は連絡の上貸出)
▼なんとうふれあい図書館(返却ポスト利用可)
▼名張市立図書館(返却ポスト利用可)
▼尾鷲市立図書館(返却ポスト利用可)
▼紀宝町立鵜殿図書館(返却ポスト利用可)
▼熊野市立図書館(市内の人は貸出可・要問合せ)
5/10まで休館
▼伊賀市島ケ原図書室
5/11まで休館
▼三重県立図書館(電話予約による貸出サービス・23日から中止)
▼伊賀市上野図書館 ▼いがまち図書室 ▼阿山図書室
▼伊賀市大山田図書室 ▼青山図書室 ▼明和町立図書館
6月1日まで休館
▼菰野町図書館 ▼あさひライブラリー
当面の間休館
▼員弁図書館(返却ポスト利用可)
▼東員町立図書館(返却ポスト利用可 予約本は連絡の上で貸出)
▼紀北町紀伊長島図書館(返却ポスト利用可)
▼紀北町海山図書館▼紀北町児童図書館(返却ポスト利用可)
学習室と行事休止
▼亀山市立図書館
図書館行事休止
▼亀山市関図書室▼松阪図書館▼嬉野図書館
公共図書館
▼玉城町図書館 当面の間 休館(返却ポスト利用可)
▼大台町立図書館 4月28日~5月6日休館(それまで貸出返却のみ)
鉄道
【計画通り運行】▼JR東海▼近鉄▼三岐鉄道▼養老鉄道
【計画通り運行】▼伊賀鉄道▼伊勢鉄道▼四日市あすなろう鉄道
バス
▼三重交通 29日から22時台以降に出発する路線バス 全便運休
▼三重交通 高速バス・特急バス 当面の間 一部運休や減便
船舶 運休
▼「津エアポートライン」5月6日まで
船舶 減便
▼「伊勢湾フェリー」4月25日から通常の半分の1日8便に減便
イベント中止
▼三重県高校総体(5月) ▼七里御浜鯉のぼり(5月)
▼高柳の夜店(6月) ▼丸山千枚田の虫おくり(6月)
▼伊勢神宮奉納全国花火大会(7月)
▼オープンウォータースイミング三重オープン(7月)
▼熊野大花火大会(8月)▼大四日市まつり(8月)
▼四日市花火大会(9月)
臨時休業・休館
【5月20日まで】▼ミキモト真珠島
【5月13日まで】▼志摩スペイン村
【5月13日まで】▼志摩マリンランド
【5月11日まで】▼県総合博物館▼県立美術館▼県立図書館
【5月11日まで】▼石水博物館(津市)
【5月11日まで】▼斎宮歴史博物館(明和町)
【5月11日まで】▼三重県立熊野古道センター(尾鷲市)
【5月11日まで】▼鈴鹿サーキット モートピア
【5月10日まで】▼伊賀流忍者博物館など伊賀市の観光
【5月10日まで】尾鷲市観光釣協会に加盟の渡船店
【5月10日まで】尾鷲・輪内渡船組合に加盟の渡船店
【5月7日まで】▼四日市公害と環境未来館▼県立みえこどもの城
【5月6日まで】▼御在所ロープウエイ・観光リフト
【5月6日まで】▼三重交通グループ「スポーツの杜伊勢」
【5月6日まで】▼松阪球場▼ライフル射撃場(津市)
【5月6日まで】▼県営サンアリーナ(伊勢市)▼三重テラス
【5月6日まで】▼大黒屋光太夫記念館など鈴鹿市内の10の文化施設
【5月6日まで】▼鳥羽水族館▼伊勢シーパラダイス
【5月6日まで】▼おやつタウン▼「おかげ横丁」50店舗
【5月6日まで】▼鳥羽市立海の博物館
【5月6日まで】▼道の駅 紀宝町ウミガメ公園
【5月6日まで】▼三重画廊(4月24日から)展覧会は8月に延期
【5月6日まで】▼「かんぽの宿鳥羽」日帰りの利用は5月10日まで
【再開未定】▼伊勢忍者キングダム
【再開未定】▼六華苑(桑名市)▼テーマパーク「なばなの里」
【再開未定】▼ナガシマスパーランド▼長島温泉 湯あみの島
【再開未定】▼アウトレットモール「ジャズドリーム長島」
【再開未定】▼和菓子の老舗「赤福」すべての店舗
▼四日市ドームなど四日市市内の28の運動施設 5月6日まで
▼AGF体育館など鈴鹿市内の3つの運動施設 5月6日まで
公共スポーツ施設
【津市】全施設5月6日まで利用中止 サオリーナ5月10日まで休館
【桑名市】全施設 5月6日まで利用中止
【木曽岬町】全施設 5月6日まで利用中止
【いなべ市】全施設 5月6日まで利用中止
【東員町】全施設 当面の間利用中止
【四日市市】全施設 5月6日まで利用中止
【鈴鹿市】全施設 5月6日まで利用中止
【菰野町】全施設 5月31日まで利用中止
【川越町】全施設 5月7日まで利用中止
【亀山市】全施設 5月6日まで利用中止
【熊野市】屋内施設5月6日まで利用中止 屋外施設市民のみ利用可
【御浜町】全施設 5月6日まで利用中止
【松阪市】屋内施設 5月6日まで利用中止 屋外は検討中
【多気町】全施設 5月6日まで利用中止
【明和町】全施設 5月10日まで利用中止
【大台町】全施設 5月6日まで利用中止
【伊賀市】全施設5月10日まで新規予約受付中止 予約済み自粛要請
【名張市】全施設 5月6日まで利用中止
【尾鷲市】全施設 5月6日まで利用中止
【紀北町】全施設 当面の間利用中止
【伊勢市】全施設 5月6日まで利用中止
【鳥羽市】全施設 5月6日まで利用中止
【志摩市】原則 5月6日まで利用中止
【玉城町】全施設 当面の間利用中止
【南伊勢町】全施設 5月6日まで利用中止
【大紀町】全施設 5月6日まで利用中止
【5月6日まで利用中止】スポーツの杜鈴鹿・スポーツの杜伊勢
【5月6日まで利用中止】県営松阪球場・県営ライフル射撃場
パチンコ店 休業
4月25日~5月6日 県内にある118店舗すべて
駐車場 閉鎖
【津市】御殿場海岸近くの2か所の駐車場 5月6日まで
【川越町】高松海岸近くの3か所の駐車場 4月25日~5月6日まで
大型連休中に潮干狩り客が集まるのを防ぐため
御殿場海岸などでは9軒ある海の家も4月27日以降すべて休業予定
映画館
【休館】▼イオンシネマ県内全館 ▼109シネマズ県内全館
【休館】▼進富座(伊勢市)
百貨店・スーパー
【売り場縮小】近鉄百貨店四日市店 食品売り場のみ営業 10~18時
【売り場縮小】松菱 食品売り場のみ営業 10時~18時(5月6日まで)
【営業時間短縮】ぎゅーとら 20時まで(~5月6日)
【営業時間短縮】オークワ 22時まで 県内20店舗
【営業時間短縮】アピタ・ピアゴ 20時まで(~5月6日)
【通常営業】▼スーパーサンシ▼ベリー▼一号館
【通常営業】▼イオン・マックスバリュ▼マルヤス
外食
▼コメダホールディングス 一部の店舗で休業
▼壱番屋 営業時間を短縮 ▼吉野家 通常通り営業
▼松屋 通常通り営業 ▼すき家・なか卯 通常通り営業
同じ情報の掲載先
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緊急事態宣言
▼期間は5月6日まで ▼不要不急の外出や移動の自粛を求める
東海3県休業要請
〈遊興施設〉▼ナイトクラブ ▼バー ▼風俗店 ▼個室ビデオ店
▼ネットカフェ ▼漫画喫茶 ▼カラオケボックス ▼ライブハウス
▼競馬・競輪・競艇などの場外発売所
〈運動施設・遊技施設〉▼体育館 ▼水泳場 ▼ボウリング場
▼スポーツクラブ▼マージャン店▼パチンコ店▼ゲームセンター等
〈劇場・集会展示施設など〉▼劇場 ▼観覧場 ▼映画館 ▼演芸場
▼集会場 ▼公会堂 ▼展示場
〈大学など〉▼大学や専門学校などの教育施設
▼自動車教習所▼学習塾(床面積100㎡以下を除く)
〈博物館など〉▼博物館 ▼美術館 ▼図書館
〈商業施設〉▼生活必需以外の小売関係の店舗
東海3県・対象外
〈社会福祉施設など〉▼保育所 ▼学童クラブなど
▼介護福祉サービス
〈医療施設など〉▼病院 ▼薬局
〈生活必需物資販売施設〉▼食料品売場 ▼コンビニエンスストア
▼百貨店・ホームセンター・スーパーマーケットなどの
生活必需品売場
〈食事提供施設〉▼居酒屋を含む飲食店・料理店・喫茶店
営業時間は 朝5時~夜8時までの短縮営業を要請
酒類の提供は 夜7時までとすることを要請
〈宿泊施設・交通機関など〉▼ホテル ▼バス ▼タクシー
▼レンタカー ▼鉄道 ▼船舶 ▼航空機 ▼宅配などの物流サービス
〈工場など〉▼工場 ▼作業場
〈金融機関・官公署など〉▼銀行 ▼官公署など
〈そのほか〉▼メディア ▼葬儀場 ▼銭湯 ▼質屋 ▼獣医
▼理美容 ▼ランドリー ▼ごみ処理関係
愛知県
▼愛知県独自に東京などと同様の休業要請
休業要請の期間は5月6日まで 対象地域は愛知県全域
▼要請に応じた地元の中小事業者に「協力金」一律50万円支給
▼申請の受け付けは 5月中旬から開始
▼理容室 5月6日まで休業で「休業協力金」最大20万円支給
▼美容室 5月6日まで休業で「休業協力金」最大20万円支給
休業相談窓口
▼休業要請の実施にあわせて 相談窓口を開設
開設の時間は 土日や祝日も含めた毎日の午前9時~午後5時
電話番号 052-954-7453
メールでも受け付け
sodan-corona@pref.aichi.lg.jp
労働相談窓口
▼愛知労働局 事業主や労働者からの相談を受け付け
電話番号 052-972-0266
平日の午前9時半~午後5時まで
自治体独自の支援
<愛知>▼小牧市 保育園や児童クラブの利用自粛に協力している
保護者に「自粛協力金」を支給
保育園児1人あたり1万円 児童クラブ利用1人あたり5000円
支給要件や申請方法は今後検討
▼小牧市 飲食店の経営支援のため上限15万円の補助金を支給
すべての家庭の水道の基本料金を半年間免除
▼小牧市 18歳までの子どもに5000円分の図書カード配布
75歳以上の人に1人1万円ずつ支給
▼小牧市 市民グループがマスクを手作りし福祉施設などに
寄付する活動に対して 5万円から20万円の助成金を交付
▼一宮市 休業に協力し 県の「協力金」の対象外の
昼間営業の喫茶店や理美容などの事業者に10万円の協力金
▼一宮市 家庭学習のための通信費や教材費などとして
子どものいる家庭を対象に 小中学生1人あたり5000円を支給
▼一宮市 学校給食費が免除されている世帯に対し
昼食費として子ども1人あたり9600円を支給
▼刈谷市 水道の基本料金と下水道の基本使用料を
5月の請求分から4か月分免除
▼犬山市 休業に協力し 県の「協力金」の対象外の
中小企業や個人事業主に15万円を支給
▼豊山町 町立保育園の保育料などを5月末まで無償化
町が運営する「放課後児童クラブ」の利用料を5月末まで無償に
▼東海市 県の要請より遅れて休業した事業者に25万円の協力金
▼蒲郡市 県の要請より遅れて休業した事業者に25万円の協力金
▼豊橋市 県の要請より遅れて休業した事業者に25万円の協力金
県の要請より遅れて休業した理美容の事業者に5万円の協力金
▼新城市 県の要請より遅れて休業した事業者に25万円の協力金
県の要請より遅れて休業した理美容の事業者に10万円の協力金
▼田原市 県の要請より遅れて休業した事業者に25万円の協力金
▼武豊町 県の要請より遅れて休業した事業者に20万円の協力金
▼岩倉市 県の要請より遅れて休業した事業者に10万円の協力金
▼豊川市 県の要請より遅れて休業した事業者に25万円の協力金
▼豊川市 感染拡大の影響で内定取り消しや解雇された人を
臨時職員として5人程度採用することに
雇用期間は6月~来年3月末 応募締め切りは5月15日
▼西尾市 水道の基本料金を6月の請求分から半年間無料
▼西尾市 県の協力金を受けていない宿泊施設
1施設あたり25万円の補助金を支給
▼岡崎市 水道の基本料金を7月の請求分から半年間80%減額
▼岡崎市 市立小中学校の給食費 給食再開後から9月まで無償
▼岡崎市 保育園・幼稚園・こども園などの3歳~5歳の給食費
宣言解除後9月まで無償
▼岡崎市 県の要請より遅れて休業した事業者に25万円の協力金
▼東浦町 児童扶養手当を受給している児童に1万円を給付
岐阜県
▼岐阜県全域を対象に 休業要請 5月6日まで
▼要請に協力した事業者には 「協力金」一律50万円支給
▼羽島市 感染拡大の影響で仕事を失った人などを
来年3月末までの非常勤職員として募集(5月8日まで)
▼瑞穂市 テイクアウトなど始める飲食店に経費補助の制度
使い捨て容器や箸など 7万円を限度に補助
▼関市 子育て世帯に地域で使える商品券を支給
対象は中学3年生以下の子どもがいる世帯
子ども1人あたり2万円分
ひとり親で児童扶養手当受給世帯 1世帯あたり最大3万円分
三重県
▼三重県全域を対象に 休業要請 5月6日まで
▼要請に協力した事業者には 「協力金」一律50万円支給
▼旅館やホテルは対象外だが 営業休止や営業規模の縮小を理由に
大型連休中の予約を延期・キャンセルした事業者を対象に
「宿泊予約延期協力金」
1人当たり6000円 1施設当たり最大12万円支給
▼休業要請相談窓口 電話番号059-224-2335
土日祝日を含む午前9時~午後5時まで
愛知・休校休園
〈県立高校〉5月末まで休校期間延長
〈県内市町村の小中学校〉5月末まで休校期間延長を要請
▼〈5月31日まで休校〉名古屋市 碧南市 刈谷市 知立市 高浜市
▼〈5月31日まで休校〉一宮市 岡崎市 豊田市 安城市 西尾市
▼〈5月31日まで休校〉みよし市 尾張旭市 長久手市 豊明市
▼〈5月31日まで休校〉日進市 大府市 瀬戸市 春日井市 小牧市
▼〈5月31日まで休校〉豊橋市 稲沢市 弥富市 愛西市 岩倉市
▼〈5月31日まで休校〉北名古屋市 清須市 江南市 津島市
▼〈5月31日まで休校〉半田市 常滑市 知多市 新城市 田原市
▼〈5月31日まで休校〉東浦町 東栄町 武豊町 幸田町 美浜町
▼〈5月31日まで休校〉扶桑町 蟹江町 豊山町 設楽町 阿久比町
▼〈5月31日まで休校〉南知多町 大口町 大治町 豊根村 飛島村
▼〈5月29日まで休校〉あま市
〈特別支援学校〉5月末まで休校期間延長
〈市立幼稚園〉5月末まで休園
〈保育園〉一律に休園などは求めない
しかし 家庭保育が可能な場合 保護者に登園の自粛を呼びかける
保育希望の家庭には 希望日時などを文書で提出してもらう方針
休校休園の助成金
▼子どもの世話のために休んだ保護者の賃金を補償する制度始まる
申請先は「学校等休業助成金・支援金受付センター」
0120-60-3999 午前9時~午後9時 土日祝日可
DV相談
全国共通のDV相談窓口 「DV相談+」が設置
電話での相談 全国共通0120-279-889
当面午前9時~午後9時まで 4月29日から24時間受け付け
メールやSNSでも相談を受け付け
https://soudanplus.jp/
<愛知県>「愛知県女性相談センター」で電話相談を受け付け
番号052-962-2527 平日は午前9時~午後9時まで
土日は午前9時~午後4時まで
<名古屋市>「名古屋市配偶者暴力相談支援センター」で受け付け
番号052-351-5388 平日午前10時~午後5時まで
児童虐待相談
<NPO>児童虐待防止に取り組む「CAPNA」で受け付け
番号052-232-0624 月曜~土曜 午前11時~午後2時
がいこくじんむけ
Consultation services for
foreigners
▼ 名古屋国際センター
Nagoya International Center
TEL 052ー581-0100
https://www.nic-nagoya.or.jp/
▼あいち多文化共生センター
Aichi Multicultural Center
TEL 052-961-7902
▼愛知労働局
Aichi Labour Bureau
TEL 052-972-0253
▼ 名古屋外国人雇用サービスセンター
Nagoya Employment Service
Center for Foreigners
TEL 052-855-3770
▼豊橋市国際交流協会
Toyohashi International
Association
ポルトガル語 TEL 080-3635-0783
英語・タガログ語 TEL 090-1860-0783
公共料金
▼電気料金・ガス料金
大手電力会社と大手ガス会社 料金の支払い期限を1か月延長対応
詳しくは契約している電力会社やガス会社に確認
▼電話料金 NTT・KDDI・ソフトバンクの通信大手3社
2月末以降の支払いとなっている携帯電話や固定電話の料金
5月末まで支払期限を延長
愛知・運転免許
▼運転免許 更新業務 当面休止
▼有効期間の3か月延長が可能
対象は有効期間が今年7月31日までの人
▼免許証再発行 記載事項の変更 失効手続きは通常通り
鉄道
▼JR東海 東海道新幹線 「のぞみ」の臨時列車を運休
東海道新幹線 運行本数を1日あたり2割程度減らす方針
JR東海 在来線は計画通り運行
▼近鉄・名鉄 平常通り運行予定
名鉄の特急列車「ミュースカイ」の土日・祝日のダイヤ
5月2日から当面 1日11本運休
▼名古屋市営地下鉄 当面の間 深夜の運行を一部縮小
▼特別な要請を受けた場合 運行計画が変わる可能性も
バス
▼<愛知> 名鉄バスの路線バス
岡崎・知立・津島・一宮・春日井・蒲郡の営業所管内
4月27日~5月10日まで全線で休日ダイヤで運行
高速バスは現在 一部を運休 さらに減便する可能性も
▼ジェイアール東海バス 高速バスを一部運休
▼名古屋市営バス 当面 深夜バスなど一部を運休
観光地をまわるルートバス「メーグル」は当面 運休
▼豊鉄バス 5月6日まで 一般の路線バスすべて土日祝日ダイヤに
タクシー
▼つばめタクシーグループ 通常の半分ほどの台数で運行
▼名鉄グループのタクシー各社
名古屋市内で運行する会社は 夜の時間帯 通常の半分の台数で運行
西三河地域を中心に運行する会社は 通常の半分の台数で運行
名鉄岡崎タクシー 豊鉄タクシー 台数を減らして運行
▼尾張地方中心の運行会社 通常の半分以下の台数で運行
▼知多半島中心の運行会社は夜の時間帯 台数を減らして運行
▼名古屋近鉄タクシー 台数を減らして運行
航空
フジドリームエアラインズ 28日~5月17日まで 全路線運休
フェリー
▼伊勢湾フェリー 当面の間 伊良湖発と鳥羽発の便
それぞれ1日4便ずつに減便
金融機関
▼原則 全店舗で平常通り営業
▼ATM 原則 平常通り稼働(休業する商業施設に設置除く)
▼十六銀行 愛知・岐阜の個人の資産運用相談などに特化した店舗
土日・祝日の営業取りやめ
▼名古屋銀行 一部店舗で窓口対応を短縮
午前9時~午前11時半 午後0時半~午後3時に短縮
▼中京銀行 全店舗で窓口対応を短縮
午前9時~午前11時半 午後0時半~午後3時に短縮
▼愛知銀行 全店舗で窓口対応を短縮
午前9時~午前11時半 午後0時半~午後3時に短縮
▼大垣共立銀行 一部店舗で営業時間を短縮
▼東海3県・多くの金融機関 資金繰りなどの相談に応じる
5月2日~6日 一部店舗の窓口開設
区役所
▼<愛知> 名古屋市内に22ある区役所や支所
窓口業務を通常通り行う予定
住民票の写しや戸籍に関する証明書などの請求は 郵送も可能
名古屋国税局
▼<東海3県> 納付の猶予制度やその申請方法について電話相談
電話番号 052-968-5118
平日 午前9時から午後5時まで受け付け
デパート
▼<愛知>松坂屋 食料品売り場を除き当面 臨時休業
名古屋店・豊田店食料品売り場は
平日は午前10時~午後6時まで営業
4月の土・日は食料品売り場も休業
▼タカシマヤゲートタワーモール 当面 臨時休業
ジェイアール名古屋タカシマヤ 食料品売り場を除き当面 臨時休業
食料品売り場は午前10時~午後6時まで営業
▼三越 栄店・星ヶ丘店 食料品売り場を除き5月6日まで臨時休業
食料品売り場は午前11時~午後7時まで営業
栄店 4月26日 5月2日・3日についてはすべて休業
▼名鉄百貨店 食料品売り場を除き当面 臨時休業
本店の食料品売り場 平日は午前11時~午後7時まで営業
4月26日 5月2日・3日は休業
一宮店の食料品売り場 平日は午前11時~午後7時まで営業
4月26日 5月2日・3日は午前11時~午後6時まで
レストランフロア 本店は休業
レストランフロア 一宮店は午前11時~午後3時まで営業
▼西武岡崎店 当面 臨時休業
食料品売り場は午前10時~午後6時まで営業
▼<岐阜> 岐阜高島屋 食料品売り場を除き当面 休業
食料品売り場は 午後5時まで営業
▼<三重> 近鉄百貨店 四日市店は臨時休業
食料品売り場は 午前10時~午後6時まで営業
▼松菱 5月6日まで 1階と地下食品売り場のみ営業
午前10時~午後6時まで
スーパー
▼アピタ・ピアゴ 東海3県の全店舗 5月6日まで午後8時閉店
▼ユニーとドン・キホーテ共同店舗
愛知・岐阜の一店舗を除き全ての店舗で 閉店時間を早める
▼イオン 東海3県の一部の店舗で
食品以���の売り場の閉店を1時間短縮
▼マックスバリュ 原則 全店舗で通常通り営業
▼イオンモール 食料品などを扱うスーパーは原則 通常通り営業
専門店エリアは臨時休業
▼スーパー・ドラッグストア・ホームセンターを展開するバロー
一部店舗で閉店時刻を1時間程度早める
▼ヤマナカ・フランテ 全店舗で午後8時もしくは午後9時で閉店
5月6日まで
▼オークワ 岐阜県内の全店舗で営業時間を短縮
愛知・三重の一部店舗で営業時間を短縮
▼フィール 愛知県内の全店舗で通常通り営業
▼アオキスーパー 全店舗で通常営業(商業施設内の一部店舗除く)
▼ヨシヅヤ 全店舗で通常通り営業
▼コープあいち 5月6日まで営業時間を午後7時まで短縮
(一部店舗を除く)
▼コープぎふ 5月6日まで全店舗で営業時間を午後7時まで短縮
宅配は通常通り実施
ドラッグストア
▼スギ薬局 一部店舗で 営業時間を短縮
コンビニ
▼セブン‐イレブン・ファミリーマート・ローソン
<愛知>原則として通常通り営業
各店舗の状況に応じ休業や営業時間短縮する場合も
商業施設
▼<愛知> 名古屋パルコ 当面 臨時休業
▼大名古屋ビルヂング 商業ゾーン一部店舗を除き臨時休業
クリニックは営業
▼日進市 プライムツリー赤池
専門店などが入る商業ゾーンは 一部店舗を除き臨時休業
食品スーパーは 営業時間を午後8時までに短縮
▼ミッドランドスクエア 当面 臨時休業
▼ららぽーと名古屋みなとアクルス
食品スーパーなどを除いて 臨時休業
▼サカエチカ 一部店舗で営業時間短縮・臨時休業
▼セントラルパーク 当面 一部店舗を除き休業
▼栄森の地下街 5月6日まで一部店舗を除き休業
▼エスカ 5月6日まで一部店舗を除き休業
▼ユニモール 5月6日まで一部店舗を除き休業
▼メイチカ 5月6日まで一部店舗を除き休業
▼<岐阜> モレラ岐阜 5月6日まで休業
ドラッグストアや食品を扱う一部店舗は 時間を短縮して営業
▼マーサ21 5月6日まで休業
主に食料品を取り扱う店舗は時間短縮して営業 イオンは通常営業
▼カラフルタウン岐阜 5月6日まで 原則として全館を休館
施設内のイトーヨーカドーやクリニックなどは営業
▼イオンモール各務原 主に食料品を取り扱う店舗は
当面 午前10時~午後8時まで営業 施設内のイオンは通常営業
▼マーゴ 映画館など一部店舗で5月6日まで休業
食品や医療品を取り扱う店舗 閉店時間を早めて午後7時まで営業
本館とスポーツ館の専門店 5月6日まで 臨時休業
一部の店舗は営業 イオンは通常営業
▼アクアウォーク大垣 5月6日まで 時間を短縮して営業
一部 臨時休業する店舗も
▼土岐プレミアム・アウトレット 当面 休業
▼大垣市の 「アル・プラザ鶴見」 食料品売り場は通常通り営業
一部店舗では臨時休業または営業時間を短縮
ファストフード
▼マクドナルド <愛知・岐阜>店内での飲食 取りやめ
持ち帰りやドライブスルーは通常の閉店時間まで
<三重>店舗の状況に応じて 休業や営業時間の短縮や
店内飲食の取りやめなどを検討
▼ケンタッキーフライドチキン
<愛知>全店舗で原則 夜8時までに営業時間を短縮
入居する商業施設の状況によって 休業する店舗も
コーヒーチェーン
▼スターバックスコーヒー <愛知・岐阜>原則全店舗で休業
<三重>午後7時まで テイクアウトのみの対応
▼ドトールコーヒー <愛知>直営店舗を休業
フランチャイズ店は店舗ごとに 営業時間を短縮などの対応を協議
ファミレス
▼ガスト・ジョナサンなど展開のすかいらーくホールディングス
<東海3県> 原則 午後8時までに閉店
▼サイゼリヤ <東海3県>一部の店舗で臨時休業
その他の店舗は原則 午後8時まで営業
▼ロイヤルホストや天丼てんやなどのロイヤルホールディングス
<東海3県>ロイヤルホスト 午後8時まで営業
29日~5月6日まで 店内での飲食提供を休止 持ち帰りのみ
外食
▼サガミホールディングス
<愛知> 県内の店舗 営業時間を午後8時までに短縮
▼木曽路グループ <東海3県> 木曽路 一部店舗を臨時休業
休業しない店舗についても 営業時間を短縮
居酒屋の素材屋 ランチ営業のみ 夜の営業は当面とりやめ
グループのほかの飲食店も営業時間の短縮を検討
▼スガキコシステムズ <東海3県> 一部店舗を臨時休業
休業しない店舗についても 営業時間を短縮
▼コメダホールディングス 愛知県や三重県の一部店舗で休業
▼壱番屋〈東海3県〉午後8時までに閉店
一部店舗では 持ち帰りと宅配のみ 午後8時以降も取り扱う
牛丼チェーン
▼吉野家 <東海3県> 店内飲食は 朝5時~夜8時まで
それ以外の時間は 持ち帰りや宅配 酒の提供は午後7時まで
▼すき家・なか卯 <東海3県> 店内は朝5時~夜8時まで
それ以外の時間は 持ち帰りや宅配 酒の提供は取りやめ
▼松屋 <東海3県> 店内飲食は 朝5時~夜8時まで
それ以外の時間は 持ち帰りや宅配 酒の提供は午後7時まで
公共施設など
▼<愛知> 名古屋港水族館 5月11日まで休館
▼竹島水族館 5月6日まで休館
▼名古屋市科学館・名古屋市博物館
5月11日以降も 当面 臨時休館
▼名古屋市の鶴舞中央図書館と各区の図書館
5月11日以降も当面 臨時休館
▼愛知県図書館 6月1日まで休館
▼犬山城 5月31日まで閉城
▼愛知県体育館 5月31日まで休館
▼愛知県武道館 6月1日まで休館
▼愛知県美術館 5月7日まで休館
▼瀬戸市の愛知県陶磁美術館 6月1日まで休館
▼常滑市のAichiSkyExpo 5月6日まで休館
▼長久手市の愛・地球博記念公園の主な施設 6月1日まで休館
▼豊橋市総合動植物公園 「のんほいパーク」 全面休園
▼<三重>伊勢神宮 当面 参拝時間短縮 午前6時~午後3時まで
テーマパーク
▼<愛知> レゴランド・ジャパン 当面 臨時休園
再開時期については 今後の国や県の対応を踏まえ慎重に判断
▼リニア・鉄道館 臨時休館をさらに延長 再開時期は未定
▼豊山町の あいち航空ミュージアム 5月31日まで休館
▼安城市のデンパーク 5月7日まで臨時休園
▼西尾市の愛知こどもの国 6月1日まで休園
▼弥富市の海南こどもの国 6月1日まで休園
▼美浜町の南知多ビーチランドと南知多おもちゃ王国
5月6日まで臨時休園
出入国管理局
▼名古屋出入国在留管理局 通常通り開庁予定 面会は停止
Nagoya Immigration Services Bureau will be open
as usual except for a part.
source https://uyscuti.biz/2020/04/26/31811/
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復讐、それは秘密の茶菓会で/07/2011
ぎりりぎりりと縄が絞まり、ひゅうと喉が鳴る。 いくら口を大きく開けてぱくぱくとしてみても、少しも喉に胸に空気が入らない。 縄はゆっくり、ゆっくりと首を絞めつける。
容子はほわりと頭の芯が熱くそして軽くなるような心地がした。 一定の苦しさが過ぎ去ってみると、驚くような快感が脳を占めることに気づく。
それなのに、しばらくすると再び首の縄は弛められた。 ぜはぜはと肺が胸が上下して、息を吸い込む。 苦しい。あまりに苦しすぎる。 いっそのこと、あの感覚のまま殺してくれと懇願したかった。
容子の首を縄で絞めては弛め、また絞めては弛める。 それがもう、ずうっと続いている。 どれほど時間が経ったのか分からなくなるほどなので、この空間だけはまるで時間が歪んでしまったかのようだと思った。
助けて、と声を出して抗っていたのは最初だけで今はもうとっくに諦めている。 この場所は、容子たちのお気に入りの空き家だった。 他に声が漏れないし、人通りもないのでよく何かをするときはこの空き家に集まったのだった。 それを容子たちは”秘密の茶菓会”と称していた。
容子の命の綱を握る男は、まるで般若のような顔をしていた。 悲しみと怒りをその面にひそめたような、底冷えするほどに美しい顔。 容子はこの男の普段の顔を知っていた。 だからこそ、恐ろしい。 まるで別人のような顔に気迫だった。 いや、別人だったのは容子に見せていた方の面だったのだろう。
「君は――約束を守れと。――そう言ったのだね」
そう言うと男は容子の指をそっと触った。 うんともすんとも返事が出来ない、それを見て男はゆっくりと容子の指に重みをかける。
「う――あ――」
ぱきりと小気味のよ��音をたてて指が折れた。 ひい、と容子は喉の奥で唸り、自然と涙があふれる。
「痛い?」
その柔らかな微笑みに、容子は底知れぬ恐ろしさを感じながらもこくこくと頷いた。
「どうして、君は、教わるまで分からないのかなあ」
まるでひとりごとのようにそう言うと、再び縄に手をかける。 容子はただただ咽び泣きながら、早く楽になりたい、とただそれだけを待ち望んだ。
真っ暗な闇は安寧な死。
容子は死を持ち詫びていた。
出版社で働き始めて、半年。 インキを敷く作業から卒業した百合子は、麻袋いっぱいに入った野菜のクズを抱えていた。 どれもこれも、少しいたみすぎているようで、ぷうんと酸っぱい匂いが鼻をつく。
「はいはい、餌のお時間よ」
そう言うと金網を押し開けた。 とたんに、くるぽくるぽとけたたましい鳩の鳴き声が降り注ぐ。 下手を打つと鳩たちの糞が降り注ぐので、百合子は最近はもう慣れきっってしまったように麻袋を鳥小屋の隅に放り投げた。 すると一斉に、ばさばさと音をたてて鳩たちが餌をむさぼる。 その隙に、箒で鳩小屋の中を掃き清めた。
「お前たち、美味しいのそれ?」
悪くなった野菜のクズを嬉しそうに食べる鳩たちにあえて問う。 当然答えはなく、一匹がこちらを見て赤い瞳をキョロキョロさせながら首を捻っただけだった。
百合子は、編集者の見習いをしつつ一日の大半を鳩の世話と伝書鳩による伝言の書き留めをしていた。 編集者の見習い、と言ってもまだ原稿には触れさせてもらえず、預かった原稿の枚数を数えたり、汚い字を直して読みやすくするといった程度だった。
(この鳩たちの仕事の方がまだ編集や記者の仕事に近いわ……)
百合子は一回だけ、一人の作家の屋敷に原稿を取りに行った。 しかし、案の定というか編集長も承知の上だったのだろうが、居留守を使われている。 上司らに聞くと、なかなかの偏屈者で書くものは一級だが書く人も一級の変人だそうだ。
洋装の袖の部分をくんくんと臭ってみる。 かなり鼻が慣れてしまったが、どうやら糞の匂いが染み付いているようだ。 はあ、とため息をつきながら空っぽになった麻袋を担いで鳥小屋を出た。
最後の一件の伝書を書き上げ、鳩たちを小屋にすべて戻す。 暗幕をかけて、飲み水が十分にあるのを確認をすると百合子は会社を後にした。
暗くなった東京の街を歩きながら、路面電車に飛び乗った。 比較的空いている時間帯だったのが幸いして、木造の長椅子にふうと腰掛ける。 人が降車しない停留所では甲高くチンチンと鐘がなる。
ぼうっと東京の街並みをながめる。 ビルディングが立ち並ぶ一角で、香水の広告塔が目に入った。 そしてはっとする、周りには数えるほどしか乗客がいないが、鳩の匂いがしているかもしれない。 どぎまぎと緊張するも、路面電車の中は様々な匂いが漂っていた。 機械工の作業着からは油のような匂いや、背広に染み付いた安い煙草の匂い。 革靴の苦いような独特の匂いに、老人のお線香のような渋い香り、若い女性は新しい香水の甘やかな柔らかい香りを漂わせていた。
その様々な生活の匂いに囲まれながらふうと息を付く。 とんとんとゆるやかな振動で、百合子はうとうとと眠ってしまいそうになる。 チン、と停止の音がしてはっと気がつくと家の近くの停留所だった。 慌てて立ち上がり、料金を支払ってから路面電車を飛び降りる。 電車が行き、2、3自動車が通り過ぎるのを大人しく待って小走りで道路を横断した。
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「君、台所は僕の領分なんだ。下手に手出しをしてもらいたくないのだよ。 もういいから、君はさっさと帰るか、それともすぐさま帰るかしておくれ」
瑞人は切れ味の悪い包丁を片手に、ざくざくと馬鈴薯の皮を剥く。 緑の芽が出たところは念入りに刃元で芽をくり抜いた。 袖が水にかからぬように、長い細帯でするりと袂をまとめている姿はなかなかの見物だった。 一方の斯波はいつも着つけているスーツの上着を脱ぎ、白いシャツを袖まくりして瑞人の手元をはらはらと見守る。
「いやはや、殿様の手元が危うすぎて……ああ、――ああ、もう見てられん。 ちょっと貸してくれ、俺がやる」
そういうとついには、瑞人の隙をついて横から包丁と馬鈴薯をとりあげた。 皮を剥いたばかりの馬鈴薯を嬉しそうに水洗いしていた瑞人は興が覚めたと言う風に眉間に皺を寄せる。
「……あのねえ斯波君」
口の端を歪めて嫌そうな顔を露骨にしているのにも関わらず、斯波は得意げにするすると馬鈴薯の皮を剥く。
「ほらどうです?なあに、上手いもんだろ。 ま、俺は成り上がりですからね馬鈴薯の皮むきのひとつやふたつ軽いもんだ」 「僕の話を聞いているかい? どうしてこう暇があるごとに家に来てはご飯を食べて帰るんだ」 「殿様の馬鈴薯……ほとんど身がないじゃあないか。 これでは、もったいないと思うんですがねえ」
斯波の馬鈴薯と瑞人のそれを比べてみると火を見るよりも明らかだった。 しかも斯波の方は、とっとっとと手際よくまるでダンスを踊るように巧みに馬鈴薯を剥いていく。 瑞人は悔し紛れに、竈の火をつついた。
「――。ふん、竈の火には絶対に触らせやしないよ」
その様子を家の外から観察した百合子はまたかと思いつつ、がらりと引き戸を開けて土間に入る。 出来るだけ鳥の糞の匂いに気がつかれないように早足で台所を通り過ぎる。
「ただいま帰りました……」 「やあ、お姫さん!お帰り!」 「ああ百合子、疲れただろう?食事にするかい?」
二人ともせわしなく手を動かしながら、上半身だけこちらに向けて微笑む。 さささと荷物を部屋に置き、桶と手ぬぐいを用意するとにこりと笑って誤魔化した。
「いえ、今日は汗をかいてしまったので先に銭湯に行きます」 「そうか……そうだな。ああ、そうだ。だったら俺も――」
剥きかけの馬鈴薯を放り投げ、台所用の手ぬぐいでごしごしと手を拭く斯波の背中に瑞人が冷たく言い放つ。
「君は、馬鈴薯が、まだ残っているだろう。君がやると言い出したのに途中で諦めるのかい? ――それにこれから人参と玉葱もある」
侮蔑の色を浮かべた瞳に斯波はぐぐぐと唸ると大人しく馬鈴薯の皮むきの作業に戻る。 瑞人の言葉からメニューを推測した百合子は嬉しげな声をあげた。
「まあ、お兄様のライスカレーですか?」 「そうだよ。とびきりに美味しいやつを作っているからね」 「嬉しいわ、では私行って参りますわね」 「うん、ゆっくりしておいでよ」
桶と手ぬぐいをもって銭湯へでかける、最初はそれなりの冒険だったが今はすっかり慣れてしまった。 むしろ大きなお風呂に入れる銭湯の方が百合子は好きだった。 昔の邸では簡単に身体を拭うか、もしくは専用の大きな盥で入る事が多かった。 もちろん、普通の風呂もあったが銭湯ほどに大きくはなかった。
あと角を曲がれば銭湯というところで、一人の男が百合子に声をかける。
「やあ、百合子さん。銭湯ですか?」 「ええ、高遠さんも?」 「はい、なかなかいいお湯でしたよ」 「そうですか、嬉しいわ」
声をかけたのは百合子たちの住んでいる家の斜向かいに住んでいる変人と有名な男だった。 その噂のとおり、今日も瓶底の眼鏡に今日は風呂上りと一目でわかる畳んだ手ぬぐいを頭の天辺にのせている。 くんくんと不躾に鼻をひくひくさせて、百合子に近づく。
「うん?鳥の匂いがしますね」 「あら本当に?嫌だわやはり匂います?」
慌てて服を臭ってみる。 独特の鳥の匂いが染み付いているようだ。 はあと百合子はため息をついていると、男は面白そうに眼鏡の奥の瞳が光る。
「面白い人だなあ、この前まではインキのような匂いがしていたのに」 「ふふ、ずっとインキを敷く仕事をしていたのですわ」
早朝、よく井戸端で会っていた時期を思いだす。 編集の使い走りと、鳩の世話になってからは早起きをする必要もなくなったのだ。
「ああ、新聞者のお仕事ですか――じゃあもう分かった。この匂いは鳩ですね」 「そうです、今は鳩のお世話をしているの」 「聞いてみるとよくよく変わった人だ、あなた方が越してきてから近所中噂になったんですよ。 何やら僕の家にも興味深そうな奥様方が話にきたりしてね」 「あら、そうでしたの?」
百合子は慣れたように答える。 引っ越してきた当初は遠巻きに見られている事に気づいていたが、 仕事が忙しくそれどころでは全くなかった。 そして近所と徐々に打ち解けてきたのは、瑞人がお裾分けをもらったりし始めた頃だった。
「僕も世俗にはまったく興味がないんだけど、そういう噂があると少し興味がありますね」 「そんな大したものではないですわ、申し訳ないけど。 ただ単に借財が増えて爵位を返上した没落貴族の成れの果てです」 「あはは、立派な経歴をお持ちだなあ」 「そういう、高遠さんの方こそ。 町内で変わった人だと噂になっていますよ」 「あ、そうなんですか?あなたもそう思います?」 「いいえ」 「へえ、な��?」
男は面白そうに百合子に聞いた。
「だって作家さんって変な方が多いんですもの。 私、編集の仕事をしていますので職業柄慣れていますわ」
その言葉に男は驚く。 飄々とした態度が一変し、慌てて言葉を紡ぐ。
「ど、どうして――僕が作家だと分かったんですか?!」
男の様子に、百合子は少し笑ってしまう。 奇人変人と呼ばれる男でも、動揺してまごついたりするのだなあと思った。
「あら、本当に作家さんでいらっしゃるの? うふふ、少しかまをかけたのだけど当たってしまったわ」 「ぜひ聞き��いな、どうして僕が作家だと分かったのですか?」
桶を持ち直し、うんと考える。 どうしてと改めて聞かれると――答えにくかった。
「そうですわね、作家の方ってね。すごく個性が強いんです。 統計的に作家の方は大半は身なりに気を使わなくて眼鏡の方が多いの。 あまり人の話を聞かないし、いつもぼうっとして、そうかと思えば急にあくせくしたりして――」
編集室で見かけた作家、原稿を取りに通った作家たちを思い浮かべながら百合子は続けた。
「それに、毎朝井戸場で合うときに煙草の匂いとインキの匂いが混ざっていたのに気がついて、 そうですわ、最初それで作家の方かなあと思いましたの。高遠さん夜はずっと起きているみたいだし」 「それだけ、……ですか?」 「いいえ、あとよく高遠さんの右腕とその着物の袖にインキがついていましたし、 それに今私がインキを敷く作業と鳥にかかわる仕事をしていると言ったらすぐに新聞社だと当てたでしょう?」
男はうんうんと考えながら頷く。
「だから、業界をよくご存知の方かしら……って。 あ、それに――その右手の指のペンだこもね」 「ああ、これは――なるほど……」
そう言ったきり、男は急にその場で考えるように顎に手をあててぶつぶつと何か呟き始めた。 この突拍子の無さも作家やもしくは芸術家に多い型だわ、百合子はくすりと笑った。 聞いているかわからないが、一応に声をかけてみる。
「では私はこれで失礼しますわ、湯冷めなさらないでくださいね」
そういうと桶を抱えて小走りで銭湯の暖簾をくぐった。 ぐうとお腹がなる、瑞人はライスカレーだけは失敗しないのだと自慢気に言うくらいライスカレーが得意だった。
湯気のたつ大きな浴槽に肩まで浸かって一息つくと、凝り固まった疲労がゆるゆると溶け出してどこかへ流れ去っていくような感覚を覚えた。 ほう、と吐いた息が湯殿にふわんと反響した。
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自動車の往来を見計らって、道路を渡る。 ある休日に、百合子は鏡子婦人に呼び出された。 場所はいつものホテルのラウンジ、副業である探偵稼業の依頼だった。 人目で鏡子婦人と分かる派手な着物が眼に入る、すると向こうも百合子に気がついたようで明るく手を振った。
「ああ、お姫さんこっちよ、こっち!」 「きょ、鏡子様……」
いまだに百合子のことをお姫さんと呼ぶ鏡子に百合子は困った顔をして頭をさげる。 真っ赤な紅の唇に、白粉をはたいた白い肌。 鏡子婦人は大輪の薔薇のような笑みを浮かべて、百合子を迎えた。
「早かったわね、今日は編集はお休み?」 「はい」 「そう、きりきりと働いているのね。偉いわ」 「そんな、まだまだです!」
百合子は一瞬ちらりと鳩たちの事を思い浮かべた。
「ところで、ご依頼というのは……?」
それがねえ、と鏡子は苦虫を噛み潰したような顔で切り出す。 厄介な内容なのだろうか――。 ここ最近は不倫調査や素行調査、失せ物探しなどの依頼が多かった。 普段の依頼の時とは違う表情に、百合子は少し不安になる。
「ご依頼は、警察官の方――なのよ」 「警察ですか?」 「そうなの、しかもね――なにやらあなたと面識があるらしいの」 「……あ、ひょっとして……」
ぱっと一人の警察官を思い浮かべた。 以前、令嬢誘拐事件の折に知り合った警官だった。それ以外には知り合いの警官は一人もいないはずだ。 しかし、また、どうして彼が百合子に依頼などするのだろう? 不思議に思いながら鏡子婦人の話の続きを聞く。
「ほら、ずうっと未解決の誘拐事件があるでしょう?」 「ええ、三人のご令嬢が行方不明になって犯人が捕まらなかった事件ですわね」 「そうなの。最近はもうめっきりと記事にもならなくなってしまったけど……」
確かに今では別の事件や記事が新聞の紙面を割いており、以前ほどの報道の過熱ぶりは薄れてきているように思う。
「なにせ、身代金の受け渡しに現れないものだから犯人の検挙が難しいらしくてねえ」 「そうですわね」
事件を思い返してみる。 三件とも身代金の受け渡しに失敗していた。 通常、検挙しやすい場面が身代金の受け渡しの瞬間だと言われている。
「それで、その事件をもう一度洗いなおして欲しいということなのよ」 「そういうことなら――分かりましたわ」 「お姫さん一人で大丈夫かしら?ああ、心配だわ――」 「そうですね……大丈夫ですわ。頼もしい助手もいますもの」
百合子はにっこりと微笑むとティーカップの珈琲を飲み干した。
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<<事件概要>>
令嬢誘拐事件
発生日 4月17日 被害者 田中千鶴子 年齢 十五歳 発見時 4月19日 場所 山林 死因 絞殺(首をつった状態で発見) 追記 両親は卸問屋を営む。六人兄妹の次女。 要求 17日夕方に身代金要求の手紙。三千七百円の身代金。 受け取りに失敗。以後連絡なし。 特記 最後の目撃情報から女学校の帰宅途中に誘拐されたと思われる。
発生日 4月19日 被害者 山本容子 年齢 十五歳 発見時 4月20日 場所 公園近くの雑木林 死因 殴打されたような痕あり、死因は頸部圧迫による絞殺 追記 両親は酒屋を営む。二人姉妹の長女。 要求 19日夕方に身代金要求の手紙。身代金は三千七百円。 封筒には本人のものと思われる指が入っていた。 受け取り場所に犯人が現れず受け取りに失敗。 特記 最後に目撃されたのは稽古事の舞踊へ通う姿。 教室へ現れなかったため、途中に誘拐されたと思われる。
発生日 4月20日 被害者 新田香代子 年齢 十六歳 発見時 4月21日 場所 川べり 死因 拷問のような痕ああるも直接の死因は絞殺。後に首を切り落とされる。 追記 両親は高利貸しを営む。一人娘。 要求 身代金要求の手紙がくる。三千七百円用意するも以降に連絡なし。 特記 活動写真を見に行くとでかけそのまま帰らず。
<<事件概要おわり>>
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「なあ、お姫さん。警察がお手上げの事件を一体どうやって洗いなおすつもりだ?」 「……そうですわね。新鮮な目で違う角度から見れば何か分かるかもしれませんわ」
斯波の自動車に揺られながら、百合子は考えをまとめていた。 以前、とある事件のきっかけでこの令嬢誘拐事件のことはよく知っている。 百合子が様々な探偵の心得をまとめた手帳をとりだすと、面白そうに斯波がそれを覗き込んだ。
「それは、一体何を書いてるんだ?」 「もう、見てはだめよ」 「なんだ、意地が悪いな。 別に少し見たって減るもんじゃないだろう?」 「嫌なものは嫌よ。ケチでも意地悪でも何とでも仰って」
百合子の言葉に斯波がむくれたように眉をぴくりと動かす。 その子どもっぽい仕草をみてくすくすと笑っていると、斯波はふいに微笑んだ。 あまりに唐突だったので、不思議に思って斯波に問う。
「どうかして?」 「いや、――まあ、こういう関係も悪くはないな、とね」 「探偵とその助手?」 「ああ」
考えてみれば斯波も相当忙しいだろうに、何故か百合子の探偵業の助手を勤めている。 本人に言わせると、百合子は一人だと何をしでかすかわからないから不安だという事なのだが、 貿易商というのはそんなに暇がある仕事だとは思えない。 金持ちの道楽でもないようだ。
「斯波さんも随分と酔狂でいらっしゃるのね」 「それを言うなら百合子さん、あなたもだろう?」 「あらどうして?」 「編集者の傍ら探偵稼業なんて、奇特な人のやることだ」 「そうかもしれないわね。でも、私が探偵をやる理由はね――」 「理由は?」 「……」 「どうした?」 「言えないわ、ごめんなさい」 「そこまで言っておいて狡いな」 「大切なことなの、言葉に出してしまったら――何かが欠ける気がするの」
言わないのではなくて、言えない。 その事は百合子の胸に隠しておかなければならないような気がした。 また気を悪くしているのではないかと斯波を見上げると、複雑そうに口元を歪めている。
「……まあ、そういう想いは誰しも持っているんだろうな」 「え?」 「なに、俺の話だ」
斯波はひとりごとのようにそう言うと、目を自動車の外に向ける。 苦みばしった横顔が自動車の窓に映った。 百合子は急に居心地が悪くなり、居住まいを正した。 先ほどまでは気にならなかった斯波の煙草とコロンの香りを急に意識し始めてどぎまぎとしてしまう。
(この人――時々急に真剣な瞳をするのだから……)
百合子は自分が戸惑っている理由を斯波に押し付けて、言い訳をした。
しばらくして自動車が停まったのは最初に誘拐された田中千鶴子という少女の家だった。 古くから卸問屋を営んでおり、屋敷は卸問屋街の近くにあった。 江戸から続く日本風の武家屋敷の流れを汲んでおり、黒い甍に白い壁、そして木造の大きな門があった。 当然、自動車を入れるような広さはなく門を一歩入れば美しい緑をした松に大小様々な岩が囲う大きな池のある庭があった。 門の手前で自動車を降りた二人は、警察からの紹介状を下男に手渡す。
「ほう、これはまた随分と古風なものですな」
下男に案内され広い庭を見渡しながら斯波がつぶやく。 池には錦鯉がいくつも泳��でおり、暗い水面を華やかに彩っている。 しばらくすると、当主ではなくその使いが現れた。
「旦那様は店に出ておりますので、全て私が一任しております」 「分かりました。私は、野宮百合子と申します」
モダンな洋装と短い髪の毛に使いの男は驚いたのだろうが、全く顔には出さずに頷いた。
「では、野宮様。客間へ案内いたします」
内玄関から入り、廊下を渡る。 すすと音もなく障子を開けると広い客間があった。 年月に磨かれた座卓はひのきを一本切り出したような大きなもので、黒くびかびかと光っていた。 女中が飲み物を運び終え、障子を閉めると使いの男が切り出す。
「それで、今日はどういったご用件で」 「今回、私がお聞きしたいのはお嬢様のこと――なんです」 「千鶴子様のこと……でございますか?」 「ええ。どのようなお嬢様だったのですか?」
思いも掛けない質問だとばかりに使いの男は言葉につまる。 今まで散々警察を取次ぎしてきたが、その内容の多くは”商売敵はいないか”とか”当主は誰かに恨まれてはいないか”というような内容が主だったからだ。 誘拐され殺された令嬢は単なる不運な犠牲者だと誰もが思っていた。 男は少しつまったが、やがてゆっくりと思い出すように答えた。
「そうでございますね、とても大人しく慎ましいお嬢様でございました」 「そうですか。このお屋敷を見ても思ったのですが、当主様は古風なお方のようですね」 「はい、伝統を重んじるお方で現在の風潮をあまり良くは思っていないようです」 「千鶴子さんも、控えめな女性として教育されていたと――」 「そうですね」
明治の文明開化の音すら響かない静寂の屋敷、きっと当主は断髪するのも嫌っただろう。 時が止まっているかのような印象をうけるのはそのためか。 不意に百合子は真剣な顔つきになって、使いの男に言う。
「今回の誘拐事件は、身代金が目的ではないと思いますの」 「つまり、旦那様を恨んだ何者かによる犯行だと?」
百合子はその言葉にも首を振った。
「まだ、分かりません。 けれど、私――どうして、千鶴子さんが誘拐されたのかしら、と思って」 「それは、女性で力が弱いからだろう?」
斯波が横から口を挟む。
「いえ、たしか千鶴子さんには妹さんが居られましたよね?」 「はい。3つ年下の美代子様が」 「ということは12歳。千鶴子さんよりも美代子さんの方が誘拐しやすいと思うのです。 これは、他のお嬢様方にも言えることなのですが、容子さんもたしか妹さんが居られた」
ぱらぱらと手帳をめくる。
「三人のお嬢様方の共通点を申し上げますわね。 まず、年齢、誘拐された状況、死因、身代金――」
そこまで言ってふと考え込む。
「確か身代金は三千七百円――でしたわよね?」 「はい」 「そうですわね、だいたい東京で家が一軒立つくら���のお値段かしら? 危険を犯してお嬢様を誘拐したにしては少しばかり安くはありませんか?」
指折り数えて計算してみる。 金銭感覚に疎い百合子はいまだに物の値段がよく分からなかった。 それに比べ、斯波は慣れたようなもので、百合子の意見に頷いた。
「そうだな。――だが、まあ三人の誘拐が成功したら一万二千円くらいにはなる」 「でも、失敗しているわ。それに、このキリの悪い数字も気になるの」
一件目の受け渡しに失敗したのなら、次の誘拐ではそれの更に倍は要求しないと意味が無いのではないかと百合子は思った。
「金目的じゃなくて、怨恨の線は俺も同意だ――だが、だとしたらご当主に関する事か商売上のものであって、やはりご令嬢は関係ないんじゃあないか? 確かに、十五のお嬢さんの方を誘拐するのはなかなか骨がいるだろうが、やってやれないこともない。 たまたま、妹さんよりもそちらに目がいったとか、誘拐しやすい隙があった――とか」
斯波の言う事を何度か反芻して考えてみる。 たまたま偶然に誘拐したのか――。 一人目の令嬢が誘拐され、山中で首吊り死体で発見された時のことを百合子は思い出していた。 輪転機がぐるぐると目が回るほど新聞を刷り、事件概要をどこの新聞社も競うように掲載していた。
「三人ともそれはひどく暴行されていたそうなの。 いくら、身代金の受け渡しに失敗したからと言ってそこまで暴力を振るう必要があるかしら?」 「いや、ならず者や暴漢といった類の者たちは得てしてそういう輩ですからね」
ならず者、暴漢。 それは新聞の記事を追えばどこにでも載っている言葉だった。 犯人は数名の組で動いている、とか、いかにもあやしい出で立ちをした男を多数目撃した、とか。 どの新聞も躍起になって、鬼畜のごとき誘拐犯をとりあげていた。 犯人はボロを着たみすぼらしい男とある記事が書けば、いや犯人は黒っぽい洋装を着た怪しげな男のようだ、と。
「私、この誘拐犯は何となく――そういう者たちではないと思っていますの」 「なぜ?」 「だって、斯波さん。あなたがもしもか弱い女学生だと想像してみて?」 「俺が女学生、か。何だか奇妙な気分だが――」
斯波の言葉に、百合子は想像して少し笑う。 彼はか弱い女学生の対極にいるような男だからだ。 ごまかすように、咳払いをひとつする。
「良い?最初のお嬢さんの時はともかく、それ以降は新聞やうわさ話で誘拐事件が持ち切りになっているのよ? もしも、あなたの目の前にそんな怪しげな男達がうろついてごらんなさい?」 「――ああ、成程。あきらかにみすぼらしい身なりの男や、真っ黒の洋装などという如何わしい人間には近づこうとも思わないな。 そう、俺ならむしろ、警戒して敬遠する」
百合子は頷く。そして更に問いかけた。
「犯人は、お嬢さん方を昼日中に拐かしている。 三人とも学校の帰りやお稽古へ行く途中など往来の多いところで――よ。 あなたならどんな人間についていくかしら?」
ふむ、と少し考える。 もしも、自分がか弱い女学生でしかも最近物騒な誘拐事件が起きていると。 それでも、着いて行くとすれば――。
「そう、だな。安心できる相手なら着いて行くだろうな。 例えば、知り合いとか――」 「知り合い、もしくは信頼できるような容姿をした人、制服なんか着ている職業なんかは信用してしまうわね。例えば警察、学生――。 私が思うに、その犯人はきっと普通以上の見た目をしていると思うの。 目撃情報が殆ど無いことからも、お嬢さんたちは抵抗することなく安心してその犯人について行ったのではないかしら」 「令嬢ならば、幼い頃から危機意識は高いはず。そして巷を賑わせている誘拐事件、それでも着いて行くとしたらそれなりの人物――か」
斯波と会話を繰り返すうちに、どんどんと思考が固まってくる。 そう、女だ子供だと言われてもその芯はしっかりしているのが、最近の女学生たちだ。 うかうかと人攫いについていくほど愚かではない。 しかも、千鶴子は使いの男が言うように「大人しく慎ましい女性」だったそうだ。
百合子はその言葉を少しも信じてはいない。 使いの男が嘘をついているのではない、女性は色々な自分を使い分けるのがとても上手いのだ。 例えば、父親の前では大人しく粛々とした女性を、女学校の友達の前では明るい友人として――。
「お聞きしますけど、千鶴子さんは他のお二人と面識は?」 「そうですね、仕事柄お名前は存じていましたが、お嬢様と面識があるかは分かりません」 「女学校は同じでしたかしら?」 「いえ、確かお二人とも違ったと思います」
百合子は徐々に事件の概要が掴めてきた。 やはりこれは、金銭が目的の誘拐ではない。 そして、狙われたのは間違いなく”三人の令嬢自身”だ。 大人しく慎ましい、と称される令嬢がなぜ標的になったのか。
この三人の共通点が分かれば、何かを重要なことが見えそうな気がする。
百合子と斯波は使いの男に案内され、千鶴子の部屋に入る。 和風の調度品で飾られた部屋は、今頃の女学生のものとは思えないほど奥ゆかしい。 町娘と武家娘の身なりをした市松人形に、小さな和箪笥。 舞踊のための大小様々な扇が開いて飾られ、机には文箱や折り紙が並べられていた。 扇を手にとって扇いでみると、甘やかな良い香りが漂う。
「失礼ですけど、日記などは?」 「ありましたが、奥様がお持ちです」 「見せていただくわけには――なりませんよね」
百合子がおずおずと聞くが、使いの男は困ったように首をかしげた。 その時、障子の向こう側から使いの男を呼ぶか細い声が聞こえた。
「失礼とは思いましたが、お話を全て聞いていました。 ――日記はここにあります、私も読んでみたけれど何も……」 「奥様……ありがとうございます、拝見させていただきますわ」 「ええ……あの子を苦しめた輩を――見つけてくださるのなら私は……」
婦人は青い顔でそう告げた。 百合子は受け取った日記をぱらぱらとめくる。 婦人の言うとおり、特に目ぼしいものはない。 稽古に行ったとか、女学校へ通ったとか、お友達とお茶をしたとか、簡素な文だった。 百合子は日記を文箱の横に置く。 千鶴子はいつもこの机で、文箱の筆を使ってこの日記を書いていたのだ。 そう思うと胸が痛まずにはいられない。 どうして、誘拐されて暴行されそして殺されなければならなかったのか。
本当にならず者や暴漢に偶然目をつけられただけなのか――。
百合子と斯波は屋敷を出て、自動車が停まる往来まで歩いた。 斯波はおもむろに問いかけた。
「どうだい、お姫さん。何か分かったか?」 「そうね……。あの三人に共通点があれば……何か分かるかもしれないのだけど」 「共通点ねえ……。ああ、そうだ三人目の被害者の新田の高利貸し屋がたしかこの往来の近くにあったようだが」 「あらそうなの?でしたら、先にそちらに向かいましょう」
問屋街を抜けて少しあるくと、広い往来に出る。 向かいは銀行やオフィスなどモダンなビルディングが固まって建っていた。 自動車が行き交い、警察が手信号で交通整理をしている。 同じ東京、同じ街でも少し場所が違えばまるで過去と未来を行き来しているかのように、 建物も人間も雑音さえも違ってくる。
新しく建てられたビルディングの一角、銀行の体裁をとった高利貸しだった。 他にも証券や株なども取り扱っているようで、随分と羽振りが良いのか店の構えは一級だった。
「おや、斯波さん。これはこれは――今日はどういったご用件で?」 「いや、今日は仕事ではないんです。ちょっとお聴きしたいことがありましてね」
そう言うと百合子を背で控えさせるように影にすると、慣れたように店主と話を取り交わす。
「それよりも、お嬢さんのことは残念でしたなあ」 「……ああ、そうですな……。 まあこればかりはどうにもならんが、ようやくブン屋どもが散ってこちらとしても助かりましたな」
はははと豪快に笑う。 百合子が憤慨しかけているのを腕でつついて黙らせながら更に問う。
「そう、それで俺の知り合いのお嬢さんも誘拐されてしまってね。 ほら、一人目の田中千鶴子さんという方だ。 少し煮え切らないので個人的に調べているんだが、そちらのお嬢さんと面識があったかな」
口八丁とは彼のことを言うのだろうか。 するすると、嘘に真実をまぜて相手も信用するような巧みな話を創り上げる。 抑揚のついた喋り方や、間の取り方が抜群で、思わず百合子もびっくりしてしまう。 これが一代で貿易商となった男の仕事のやり方なのだ。
(詐欺師にだってなれそうね……)
相手の男はその話を疑うこともなく、聞き入っていた。
「ああ、そう、ええと。何でしたかな、田中? 申し訳ないが、娘のことは家内に全てまかせていましてね。 交友関係などは何一つ把握してはいないんですよ」
がっかりしたというように肩を落とす。 半ば大仰すぎるその仕草に、百合子はやりすぎではないかとはらはらせざるをえない。
「そうなんですか、それでは仕方ないな」 「斯波さんが仕事よりも優先しているとは、よほど大事なことなんでしょう。 よろしかったら家内に電話を入れておきますが?」 「ああ、ぜひそうしていただけるとありがたい」 「なに、いつもお世話になっていますからね。どうぞ、これからもひとつご贔屓に」
はははと斯波は笑って答えるとビルから出た。 しばらく歩いてから、食えない狸爺めと斯波が吐き捨てる。 百合子は少し怒った風に頬をふくらませた。
「あの方――ご自分のお嬢様がお亡くなりになったのに……」
事務的に娘の話をする男に百合子は憤慨した。 しかも、娘のことを商売の取引にすら使ったのだ。 わらわらと腹の底から熱くなった。
「あれは俺と同じ成り上がりですよ。 まあ、あこぎな手を色々使っているという噂だがね。 今の婦人とは政略結婚のようなものなので、外に女を囲っているっていう話だ」
斯波は冷静に言うが百合子はその言葉にも噛み付いた。 豪奢だが品のない店、嫌味らしくもったいぶった喋り方、にやにやと笑う口元。
「あなたと同じではないわ。 それよりも、斯波さん。あの方最後あなたに交換条件で便宜を図れと言ったのでしょう?」 「情報の見返りだ、そう珍しいことじゃない。 あなたが気にすることでもない、それよりも事件を解決することの方が先決だろ?」
百合子は感情に流されてしまった自分に気づき、はっとした。 女は感情的、男は理論的、とはよく言ったものだ。 斯波は基本的には冷静で理論的な男だった。 しゅんと肩を落とす。
「……ああ、もう、またあなたに借りが出来てしまったわ」 「俺は気にするなと言っている。 なぜなら、俺は好きでお姫さんの助手をやっているんだからな」 「気にするに決まっているでしょう?借りはきちんと返します」 「そうか?――ああ、そうだ。 それならとても簡単な返し方があるんだがね」
斯波はにやりと笑って自動車の車内で、足を組み直す。 百合子はその顔をみて、ぎくりとしてじりじりと斯波から離れた。
「ああ、嫌だわ――嫌。本当に嫌な予感。 あなたがそうやって意地悪そうな眉をして、口の端をあげているのって――」 「よく分かっているな、お姫さん。さすがは探偵さんだ。 そう、さっきの借りは接吻ひとつで軽く返せますよ」 「ほうら、そう言うと思いましたわ」
つんと横を向く。 百合子は父親の頬以外に接吻などしたことがないのだ。 初めて接吻をこんなところで使ってたまるものか。
「私、初めての接吻は大切にとってますの。 国家予算くらいお積みにならないと差し上げられませんわ」 「ふうん、なんだ国家予算でいいのか?」 「……斯波さん?」
百合子が呆れたように見上げると、斯波は、はははと笑った。
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新田の邸に行く前に、先に山元酒造へと向かう。 山本酒造は古くから続く酒蔵をもつ酒屋で、 江戸時代の末期には有名な武家御用達の酒屋としても知られていた。
二人は屋敷につくも、当主は留守婦人は園遊会へ出かけているとのことだった。 事前に警察から連絡もあったようで、紹介状を見せると容子の部屋へ案内される。
洋風の机に竜胆の形をした洋燈、読書家のようで本棚には様々な本が配置していた。 開いた棚には色付けされた肖像写真、そして扇。 百合子はそれ��見て、はっと気が付き手に取る。 閉じてある扇をぱらと開く。柔らかく甘やかな香りが広がる。
「そう、たしか――千鶴子さんのお部屋にも扇があったわ……」
そして、その扇からも同じ匂いがした。
「何の香りかしら……白檀?――いいえ、違うわ。 けれど、私――どこかでこの香りを……」
容子は稽古事へ通う途中にさらわれたのではなかったか――。 三人の共通点が徐々に浮かび上がる。
「斯波さん、この香り――何か覚えはない?」 「どれ……」
そう言ってはたはたと扇を扇ぐ。 すると、すぐに斯波が閃いた。
「これは、――そうだ。いつぞの夜会で嗅いだことがある。 ああ、思い出した。新しく発売した香水だ」 「香水……」
百合子はその匂いをもう一度深く吸って思い出す。
「ああ、そう、そうだわ……」
かちかちと音をたててパズルのピースがはまっていく。 頭の中を様々な言葉がぐるぐると回り、回る。
「今、電話を借りて確認した。 新田のお嬢さんも日舞の稽古に通っていたそうだ」
十五、六歳の女学生。 大人しく慎ましい令嬢。 絞殺。 広すぎる邸に、疎遠な家族、抑圧された少女たち。 扇には、白檀ではなく流行りの香水。 少女たちの秘密。
「彼女たち――恐らく知り合いだったのだわ。 いいえ、たぶん友人だった――」
二人は自動車に乗り、令嬢たちが通っていた日舞の教室へ向かった。
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(結婚など……嫌よ!絶対に嫌!!)
少女は瞳に涙を浮かべながら、ヒステリックに机の上のものを投げ飛ばした。 がしゃんがんと音をたてて床におちて弾ける。 そうやって不満を発散させてみても、湧き上がる怒りや哀しみは消えなかった。
少女の名前は新道光子、年齢は十五。 結婚するにはやや若いが、光子は華族の令嬢であり物心ついた時にはすでに婚約者がいた。 相手はでっぷりと太って脂ぎった身体に、ぺったりと黒い髪の毛をはりつけた四十路前の男。 会社は紡績をやっており、随分と儲かっているようだった。 桁の違う金遣いに、光子の父と母の方が婚約話に食いついたのだった。 二人が嫁げといえば、光子はそうせざるをえない。 下卑た笑いを口元に浮かべ、目の下のくまは黒ずんでいる。 肌は黄色く染みがぼつぼつと浮かび、口からはすえたような匂いがした。
気味が悪い。 光子は男の話にはいはいとただ大人しく頷くだけなのに、今にも胃の中の全てを戻してしまいたくなるほどに腹がむかむかし、胃がぎりぎりといたんだ。 おまけに、人からの話を聞いたところによると、その男は他に何人も愛妾を抱えているのだそうだ。
その事を母に告げるも、それが当たり前だ、とばかりに叱られた。 誰も彼も、光子の心を理解してはくれなかった。
深爪の汚らしく太い指が、光子の手に触れる。 白い手ですなあ、と撫で回すのを光子は恐怖に震えながら耐えた。
光子はその時のことを思い出してぞっと寒気がする。 本棚に入れていた小説やら雑誌やらも全て床にぶちまけて踏みつける。 それらは、全て偽りしか書いていなかった。
ただ、稽古用の扇。 それだけは、唯一清廉で高潔なもののように思える。 光子は扇を持つ白い手を思い出した。 稽古で通っている舞踊の師で、東山のながれを汲む男。 涼やかな目元に、通った鼻筋――美しい所作に目を伏せて喉で笑う声。
たった一度、扇の持ち方を指摘された時にわずかに指が触れた。 ほんの僅かな瞬き程の時間なのに、光子はそれを繰り返し何度も思い返す。
(あの男なんかとは――何もかも違う)
繊細な白い指、桃色の美しい形をした爪。 誰もが彼のことを懸想していた、もちろん光子も――。
舞の振りを覚えるようごまかして、光子はただただその男を見つめていた。 だから、他の女たちの視線もよく分かった。
稽古にいそしむ令嬢たち。 時々話す内容は持っている扇の柄だとか、髪留めだとか――。 光子は三人の少女たちと仲良くなっていった。 そして光子たちは茶菓会と称しては、家では絶対に許されないような雑誌やお菓子、 化粧道具やら舶来物の酒やらを持ち込んで秘密の集会を開いていた。
親に家に抑圧された少女たちは、何か一つの秘密を共有したかったのだ。 自分が自分でいられる場所をつくり、ただただ今その瞬間を楽しむための場所が。
茶菓会の同志である容子が使っていない洋館の鍵をくすねた。 洋館の家具を綺麗に磨き、茶器や雑誌や本などをそれぞれで持ち寄っては稽古の帰りに寄っていた。 午後の陽気に包まれた洋館は埃っぽく、微睡むほど暖かい。
「ねえ、ごらんになって。この間の園遊会の時の写真よ」 「まあ、あなた吉岡先生と一緒にお写真を?」 「そうよ。自然にお誘いするのすごく難しかったのだから。 妹も一緒に写っているけれどね」 「もう、卑怯者!抜け駆けは禁止と言ってるでしょう?」 「うふふ、私これを一生の宝ものにするわ」 「ああ羨ましいわ……」
少女たちは代わる代わる写真を覗く。 色を付けていない白黒の写真に、千鶴子とその妹の美代子そして吉岡が写っている。 容子はうらやましそうにその写真を眺めながら、ふと光子が暗い表情をしているのに気がついた。
「光子さん、どうかしたの?」 「……ううん、少し――考え事」
そう言って自分の手をぎゅっと握った。 千鶴子は手鏡を見ながら髪をおろし、束髪くずしを挑戦している。 家が厳しく、束髪以外の髪型は出来ないがここでだけは違った。
「ねえ、ホットカーラというのでこう髪をウェーヴするのも素敵ね」 「ほんと、そうしたら、この表紙のみたいに……」
そう言って香代子は雑誌を楽しそうにぱらぱらとめくった。 美しい花柄のスカーフやハンカチ、夜会用のレースの手袋……。 そう言えば、と香代子は切り出した。
「教室にね、下女がいるでしょう?」 「下女?」 「ええ、ほら。何だか冴えない感じの――いつも舞の後にお掃除をしている子よ」 「……ああ、分かるわ。口がきけないのよね」 「あら、そうなの?」 「口はきけるわよ、たぶんね。いつか返事しているところを見たから」 「それで、その下女がなんだというの」 「あら、いけない。そうそう、あの下女がね。 吉岡先生のハンカチを持っていたのよ。 私、稽古が終わってから先生がハンカチで汗をお拭きになるのをみていたから 同じ物だと思うわ。見間違いではないと思うのだけど……」 「ふうん、下げ渡したのではないの?」 「……盗んだんじゃないかしら?その下女が」
気怠そうにカウチにもたれかかり、持っていた本をぱたりと閉じて。 不意に光子が口を挟んだ。三人は驚いて光子を見る。
「その下女、私も知っているわ。いつも教室の影から先生を見ているでしょう?」 「そうなの?」
光子の言葉に少女たちはくすくすと笑う。
「ああ、おかしい。それが本当だとしても先生に懸想するなど下女のくせに身の程を知らないのね」 「じゃあ、先生の見えないところでこっそりそのハンカチを盗んだのね」 「まあ、それでは泥棒だわ。ああ、いやだいやだ」 「ねえこれだから、下々の者は」 「ほんと嫌になるわ、よりにもよって先生のハンカチを盗むなんて……。 そんな下女が私たちの荷物を預かったり、床を磨いたりしていると思うとぞっとするわ」 「ねえ、いいことを思いついたわ。それを取り返して先生にお返ししてさしあげましょうよ」 「そうよね、先生もきっとお困りだわ」
少女たちは名案だとばかりに手を打った。 そして、次の稽古の後その下女を呼び寄せた。
「な、何か私――失敗をしたんでしょうか」
その怯えて声が震える様子に四人の少女はくつくつと笑う。 下女は赤い頬に黒い髪を後ろで括り、粗末な着物を着ていた。 香代子はその言葉の調子にわずかに違和感を感じて問う。
「あら、お前変な喋り方をするのね。お国はどちらなの?」 「は、はい――岡山です……」 「まあ、そんな田舎から東京まで奉公に来ているのね」 「ふふ、変な訛りね。ねえ」
そう言うと下女はかっと顔を更に赤くした。 すみませんと頭を下げ、今にも泣き出しそうに涙を浮かべている。 少女たちはその様子にさらに嗜虐心が揺さぶられる。
「ねえ、あなた先生のハンカチを持っているでしょう?」 「え?」 「岡山ではどうかは知らないけどね、東京ではね人の物を盗んではだめなのよ?」 「ち、違います!――盗んだなんてとんでもない!!」
その言葉に少女たちはいらいらと足を踏み鳴らした。 下女ごときが自分たちに反対意見を言うなどと、さっさと額を床にこすりつけて謝ればいいのだ。
「では、何だというの?落ちていて拾ったの?」 「いえ、あの、せ、先生がくだすったんです――」
蚊の鳴くような声でそう言うと、少女たちは再び声をあげて笑った。 面白くもない冗談だ。 嘘をつくにしても、もっとマシな嘘をつけばいいのに。 千鶴子はその嘘にのってやるように、意地悪そうに瞳を輝かせた。
「嘘おっしゃい、どうして先生があなたに?」 「きっと、同情したのね。その赤土にまみれたお顔を拭いなさいと」
あははと少女たちが口元を手で隠して笑う。 意地悪そうに容子がそう言うと下女は堪忍してくださいとばかりに着物の袖で顔を拭った。 光子はどんと下女の肩を押して言い放つ。
「どちらにせよ、あのハンカチはねお前のような人間が持っていいものじゃないの。 私から先生にお返しするから、早く出しなさい」 「……で、も。でも――」 「物分りの悪い人ね、さっさとだしなさいよこの愚図!」 「――あ、か、返して――くださ……」 「下女の分際で何を勘違いしているのかしら?」
下女と舞踊の師が釣り合うはずがない。 そんなのは夢物語か、流行りの恋愛小説ぐらいなものだ。 令嬢たちですら、その淡い恋ごろろを胸の奥底に秘めているだけだというのに。
「お、お願いします。何でもしますから……どうか、どうか……」 「へえ、何でも?」 「はい……」
その言葉に光子はううんと唸った。 こぢんまりと身を竦める様子に、暗く笑う。
「ねえ、ちょうど茶菓会の女中がほしいと思っていたのよね」 「そうねえ、あの洋館ちょっと埃っぽいし、紅茶を入れるのも大変だしね」 「ちょっと、私は反対よ。こんな下女をあそこに招くのなんて」 「招くのではないわ、ちょっと雑用をさせるだけよ」 「あ、そ、掃除なら……得意です!」 「お前紅茶は淹れれる?」 「はい!」 「なら、それをやれたら、このハンカチを返してやってもいいわ」
光子たちは柔らかく微笑む。 けれど、もちろん光子はそのハンカチを返してやるつもりはなかった。 愚鈍な下女。 それは、化粧道具やお菓子の少女たちの暇つぶしの道具のひとつだ。
四人でいるうちに、誰がというわけではないが次第に要求は増えていった。 誰が主犯というわけではない、誰が命令したというわけでも――。 ただ、古ぼけた洋館の閉塞的な少女たちの秘密の茶菓会はある事件をきっかけにお開きになった。
「おまえ新しい香水買ってきた?」 「はい……」 「わあ素敵。――邸では絶対に買ってくれないわ」
はちみつ色の液体がゆれる豪奢な香水瓶を手にとって、蓋をあける。 ふわと甘やかな柔らかい香りに、香代子はうっとりとした。 いくら家が金持ちだと言っても、少女たちが自由に使える小遣いなどたかが知れいている。 新しい香水はそれこそ、普通の人の給金の半年分ほどかかった。
「ああ、この練習用の扇に少し垂らしてみましょうよ」 「いいわね。私白檀よりもこちらのほうが素敵だと思うわ」
秘密を共有するように、扇に香水を垂らす。 そして、はたりと扇ぐと芳しい香りがふうわりと優しい風になる。
「素敵よ、ああ、素敵だわ……」 「私のにも落としてくださいませ」
少女たちは笑いあいながら扇をはためかせる。 下女は遠慮がちに、口を開いた。
「あのう……」 「ああ、お前はもう帰っていいわよ。 紅茶は入れておいてね」 「あの、あの……」 「なあに?」 「あの、ハンカチを――」
光子は下女のとろくさい喋り方にいらいらとした。 ハンカチは光子が持っていたし、もちろん下女に返すつもりもない。
「ああ、先生にお返ししておい���わ。 盗まれてしまって困っていたと仰って、ありがとうと言って下さったわよ」 「うそ……嘘です!」
光子はかっとした。
「本当よ!!」 「だって、あのハンカチは誠司さんがあたしにくれるって言うたんです!!」 「誠司――さん?」
吉岡の名前だった。 不愉快気に眉を吊り上げて、ぱちりと扇をしまう。 すたすたと下女に近寄り、真っ赤な頬に扇をぺちりとあてた。
「お前、何様のつもりなの?先生のことを名前で呼ぶなんて」 「……すみません……」
下女は光子に謝ったがその瞳はどこか怒りと憎しみを湛えていた。 光子の心のなかに一抹の不安がよぎる。 思春期独特の危うい勘の良さ、けれど光子はその思いを否定するしかなかった。 その不安を認めてしまったら光子の全て何もかもが瓦解してしまう気がしたのだ。 そして認めないためには、徹底的に相手を詰ることしか出来なかった。
「本当に悪いと思うなら、きちんと謝罪しなさいよ。 おまえね、いつもびくびくおどおどしていて、そのくせそんな目をして。 私、とっても不愉快だわ」 「――申し訳、ございません」 「ねえ、お前が先生に懸想しているのは知っているわ。 でもね、お前のような者はそういう気持ちを抱くことも許されないのよ?」 「……」 「ねえ、なあにその目付き。私何か間違ったことを言っている?」 「……吉岡様は……人を身分で分けたりなさいません……」
普段はおどおどと怯えるように喋っている下女が妙にきっぱりと言い放つ。 その言葉に少女たちはわずかにたじろいだ。
「先生の事を言っているのではないのよ。 おまえに”わきまえなさい”と言っているの」 「気持ちを……抱くことも許されないのですか?」
光子は腹が立ってしようがなかった。 華族の令嬢である自分でさえ、吉岡のような理想の男性と恋仲になることはできない。 そして、家のため金のために嫁ぎたくもない老人に嫁いでその子供を生まなくてはならないのだ。 下女の言葉や行動の端々から、二人は恋仲なのかもしれないということは伺いしれた。 おそらく、他の少女たちは気がついてはいないだろうが。 どうして、この下女が吉岡と想いあうことが出来、自分には出来ないのか。 吉岡の一時の気の迷いか遊びではないのか、いやそうであってほしい。 自分が恋焦がれる青年が、下女などと恋仲になるはずがない。 そう思って、自分を支えては慰める。――だというのに、この下女はあからさまに吉岡を庇うように正論を吐き捨てる。 それが光子��気に入らなかった――下女が彼を深く理解しているように思えて。
「あのハンカチは……私が吉岡先生からいただいたものです。 返してください――どうかお願いします」 「だから、”ない”と言っているでしょう。先生にお返ししたもの」
光子は嘘をつき続けながら、ハンカチをしまっている胸元が不思議に痛んだ。 それを見抜くかのように、下女が光子にせまる。 光子はしめたとばかりに、広げた扇で下女を押し返した。
びっ。 紙の破れる音がして、こつんと扇が落ちる。 下女はあわてて下がったが、その足は扇を踏んでいた。
「何するのよ!大丈夫?光子さん!」 「す、すみません!」 「おまえ――謝ってすむと思っているの?! 逆上して襲いかかろうとするだなんて……!」 「光子さん、大丈夫?お怪我はない?」 「ええ、でも――お祖母様の扇が――」
そう言って光子は顔を手で覆う。 肩を震わせ、よろよろとその場にしゃがみこんだ。 下女は真っ青になってその扇を拾おうとするがそれを香代子が諌める。
「触らないで頂戴!」 「お前、大変なことをしたわね……。 光子様のお祖母様ご存知でしょう?東山の傍流の名舞手であらせられたのよ? その扇を――破ったばかりか足蹴にするなんて……」 「本当にすみません!!私、弁償します!!」 「おまえね、おまえの卑しい金などですむと思っているの? これは、お前の一生分の働きでだって、お前の命でだって補えないほどの扇なの!」 「……だから、私はおまえにわきまえろと言ったでしょう? こうなっては私一人の問題ではないわ。お父様やお母様にご相談しなくては」
光子は神妙にそう言うと、下女は顔面蒼白だった。 その様子に光子はようやく満足した。 下女がこの先どうなろうが、もう光子には関係ない。
「そんな……そんな……私一体どうしたら……」 「私もそれほど鬼ではないわ。 お父様やお母様には内証にしていてあげる」 「本当ですか?」 「ええ。――こっそり修繕してもらえば誰も気がつかないわ。 だから、その修繕費をおまえが負担しなさい」 「でも、私――」
そういうと、香代子がにっこりと笑った。
「あら、大丈夫よ。お金なら家のお父様が貸してくれるわ。 私の知り合いだからと言うときっと勉強してくださるわよ」
容子の申し出に下女は深く腰を折って礼を言う。 光子は笑い出しそうになるのを止めることが出来なかった。 この下女は香代子の父が高利貸しの仕事をしていて、どんな金利でそれを貸しているのか全くしらないのだ。
「それから、これからもう二度と先生に近づかないとお約束なさい」 「……はい」
光子の父も母も娘である光子がいつも稽古で何をしているのか、どんな舞を舞っているのかさらさらに興味がない。 祖母の大切な扇というのは本当だが、蔵で埃を被っていたものを光子が見つけて勝手に持ち出しただけだった。 これで安寧な気分に戻れ、また面白い暇つぶしが出来た――と光子は胸がすく思いで微笑んだ。
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「こんなの逆恨みよ……逆恨みだわ……!!」
光子は自身の部屋に閉じこもり、何かを恐れるかのようにぶつぶつと言い訳する。 その後、伝え聞いた話では高利貸しで借りた金の金利を払うことができなくなり下女は女郎屋に売られ、その後自殺したのだという。 話を聞いたときも光子は何も感じなかった。 むしろ、せいせいしたとすら思った。 あの下女が、見も知らぬ男たち相手に身体を売っているのかと思うと、光子自身の境遇もそれほど不幸ではないと思えたからだ。
しかし、それから半年が過ぎる頃に異変が起き始めた。 友人の一人であった千鶴子が誘拐されて殺されたのだ。 その事件があっても稽古には通った、そして教室を見渡して容子が欠席している事に気づく。 そしてやはり誘拐して殺された。 光子はこっそりと新聞に目を通す。 すると驚くような記述があったのだ――。 二人は三七〇〇円の身代金を要求され、そして首を絞められて殺されていたのだ。
光子はこれは何かの因縁のような――怨念のようなものを感じた。 その事をこっそりと香代子に伝えるも、彼女は偶然だろうと話を聞かなかった。 身代金は金利の額、そして絞殺は首吊り自殺、両方ともあの下女を想起させた。 いよいよに、香代子まで誘拐されてしまうと光子は一歩たりとも外出をしなくなった。
女中たちが気味悪がるほど痩せて憔悴していった。 まるで、呪われているようだ。光子は震えながら泣く。 ふと窓をみると、その端に白目を剥く下女の顔が見える。 鏡に、真っ黒な髪をした下女がふっと映る。 「お前が殺した」「次はお前だ」――と幻聴が聞こえてきた。
気が狂って死んでしまいそうだった。 光子は慌てて香を焚く。 その香りを嗅いでいると、不思議と心が休まった。 翡翠で出来た美しい香炉。 その綺麗な青緑の造形をみていると、舞の師を思い出す。
光子はあの後すぐにハンカチを吉岡に手渡した。 落ちていた、と嘘をついて――すると、やはりなくして困っていたと微笑んだ。 光子はそれだけで心が満たされたのだった。 やはり、あの下女と吉岡が恋仲などであるはずがなかった。 そしてつい一ヶ月ほど前に、その時のお礼ですとこの香炉をくれたのだった。 その時の光子の喜びは、言い表せないほどだった。
燻らせる煙は、甘い甘い香りがした。
うっとりと、その香りに包まれながら目を閉じてうとうととしていると廊下が騒がしい。 どんどんと扉が叩かれて、光子は気だるげに身を起こす。
「なに?」 「光子さん、失礼しますよ!」
そう言って怒鳴るように扉を開けたのは背の高い赤っぽい髪をした男だった。 まったく見知らぬ男性に、光子はわずかに動揺する。
「あなた――誰?」 「……何だ……この甘い匂いは……」 「斯波さん!あれ……」
男の影に隠れていた女が、翡翠の香炉を指さした。 部屋に光がさして見ると、もうもうと煙が充満しているのが分かる。
「阿片だ!お姫さん吸うなよ!」
男はそういうと翡翠の香炉を持ち上げて中身を床に捨てて革靴の底で踏みにじった。 光子は慌ててそれを止めようと男を押しのける。
「な、なにするの――?!」 「これは阿片だぞ!分かってて吸っているのか?!」 「あへん……?」
少し聞いたことがある、確か常習性のある毒ではなかったか。 どうして――そんなものを吉岡は――。 いや、この男は何か思い違いをしているのだ――きっとそうだ。
「窓を開けるわね!」
閉めきっていたカーテンをざっと引かれ、窓が開け放たれる。 暗闇に慣れきっていた瞳を陽光が刺した。 とっさに扉のほうに目を向けると、そこには黒髪に白い肌切れ長の目をした男が立っている。 舞の扇を持たずとも、ただ凛と立っているだけなのに華やかで香り立つような美しい容姿。
「吉岡先生?」 「光子さん、お久しぶりだね。具合はよくなっている?」 「ええ、ええ。先生のくださった――」
そこまで言うと吉岡は目を細めて、光子の唇に指をあてた。 ひやりと冷たい白い指先。 光子はどきりとしてうっとりとその美しい所作に魅入った。
「それで――名探偵さん。 私があの三人を殺したという証拠があるのですか?」 「いいえ、悔しいけれど何一つ証拠はありませんわ」 「ああ、でもな。このお嬢さんが証言してくれる筈だ。 あの洋館であったこと、そしてこの阿片の香炉についてな――」
光子は斯波という男の言葉に再び痙攣するほどに不安が蘇る。 吉岡はその震えを察して、ぎゅっと手を握った。 はっとして吉岡を見上げると、その能面のように美しい顔が近い。
「あくまで想像ですが、あなたと美帆子さんは――恋仲だった。 けれど美帆子さんはなぜか高利貸しから莫大なお金を借りてそしてその金利が返せずに、 舞の見習いを止めて女郎屋に身を売った。……そして首を吊って自殺した」 「あなたは岡山の後楽園での舞い踊りで美帆子さんと出会った。 そして、彼女の中に類稀な舞の素質を見出した――そう聞いています」 「そう、彼女は稀代の舞手になれる子でしたよ……けれど、恋仲ではない。 私がね、恋焦がれていたのはこの――光子さんなのだから」
吉岡はその美しい微笑みを光子に注いだ。 まだ夢を見ているのだろうか――幻覚を見ているのだろうか? 光子は、あまりにも現実離れした展開に、心が付いていかなかった。
「光子さん!騙されてはいけません! 三人を殺したのは――この吉岡先生です!」
女が必死に言えば言うほど、それは空々しく聞こえた。 吉岡が、あの三人を殺した? そんなわけあるはずがない――吉岡の手は驚くほど白く高潔だ。 一点の染みもない。光子はその手が好きだった。
「先生……」 「光子さん、心配しないで。 彼らは私を犯人に仕立てあげたいだけなのでしょう」 「そうよ、……そうだわ。 先生が人を殺すなんて……ありえない。 あの三人は――亡霊に殺されたのよ……」 「では、この阿片の香炉はどう説明する?」 「――私があげたものじゃあないよ、ねえ光子さん?」 「ええ、そうですわ。これは何かの間違いです」
そう言うとまるで上手く振りが舞えたときのように、吉岡は優しく微笑んだ。 光子はそれだけで幸せだった。
「では、証拠がないのなら私は無罪放免ですね」 「……」 「お姫さん……」 「そうね、光子さんの証言がなければあなたを捕らえることは出来ないでしょう――絶対に」 「では、お帰り頂けるかな。私は光子さんに大事なお話がありますからね」 「……まさか、光子さんを――」 「何を想像しているのやら、無粋な人ですね。 ただ、私の思いを正式に告げるだけですよ」
ぱあと光子は顔を輝かせた。 やはり先程の言葉は夢ではなかったのだ。
「光子さん、お気をしっかりしてくださいませ!」
女の言葉はもう耳に届かなかった。 女中を呼び寄せてさっさと��帰りいただくと、吉岡はふわりと壊れ物を抱くように光子を抱いた。 考えられなかった、まるで本の中の物語のようだ。
「やれやれ、すっかり順番を間違えてしまったな。 光子さん、私の伴侶になっていただけますか――?」 「はい……はい!」 「よかった……とても緊張しました。 今は――時期が悪いから一ヶ月ほどしたら公表しましょう」 「一ヶ月も?」 「ええ、それまでは私と光子さんとの秘密です」 「――ええ、先生分かっています」 「ほら、その先生はお止めなさい」 「誠司――さん」 「そう、よく出来ましたね。 それから、こうやってカーテンを閉めて窓を閉じっぱなしはいけませんよ。 東山は風の様に舞い、が信念でしょう?」 「ええ、ええ。心得ておりますわ」 「いつもこうやって、窓を開けて風のそよぐ中に身をおいて――」
吉岡は光子を抱きしめたままその唇に接吻を落とした。
(幸せだわ……)
光子は愚かではない。そして思春期の少女特有の勘の良さを持つ。 だからきっと彼女は全てどこかで理解していた。それでも、それを認めようとはしなかった。
時に”幸せ”とは――そうしたものだろうから。
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「お姫さん!今日の新聞見たか!?」 「新聞……?」
斯波は建付の悪く滑りにくい引き戸を強引に開けると、靴を脱ぎ捨ててどすどすと居間へあがった。 部屋はすっきりと片付いており、荷物はもう全て運びだした後だった。 結局、犯人を検挙することが出来ず――それでもそれまでの報酬を受取り、ようやく仮住まいから鏡子婦人の用意してくれた家へと引っ越すところだったのだ。 荷物と言ってもそれほど多くはなく、生活用具や着物、あとは少しの家具だった。 百合子はようやく荷物をまとめ終えて、一息着こうとしたところだったのだ。 その居間の卓上に、ばさりと新聞を置く。 三面記事の端に、見覚えのある名前があった。
「これ……」 「飛び降り自殺――だそうだ」
見出しは『気ノ狂ッタ華族令嬢、投身自殺!』の文字があった。 名前は新道光子――ああ、と百合子は手を握りしめる。
「私――助けられたのに――もっと注意を促しておけばよかった」 「一応、両親や邸の人間には注意をしていたんだ。 これ以上、どうしようもなかっただろう……」 「いいえ、いいえ。どうして、光子さんには直接手をくだせないと分かっていた―― だとしたら、方法はこれしかなかったというのに――」
光子は極度の阿片中毒だった。 その副作用は幻覚、幻聴――。
「急に阿片を断っては、その幻覚作用が出ると――少し考えれば分かったのに……」 「その事は家の人間も気をつけていたさ」
記事によると、光子は亡霊に殺されると騒ぎ立て、そのまま逃げるように窓から外へ飛び降りたのだという。 家の女中が窓を閉めても、光子は自ら窓を開けていたと書かれていた。
「それにな、皮肉なのは次の記事なんだが」
そう言うと斯波はぺらりと新聞をめくる。 大きな写真で舞を踊る男が映っていた。
「稀代の舞手覚醒、吉岡誠司――鬼気迫るその舞、か」
写真からも彼の気迫が届くようだった。 扇を持つ手は白く、そしてその顔は般若のように美しく恐ろしかった。
「それじゃあ、これで荷物は最後だな」 「ええ、もう私だけ」 「では……出発しよう、お姫さん。さあ、自動車に――」 「あ、ちょっと待ってください」
斯波が自動車の扉を開けるのを止めて百合子はかけ出した。 ぽっくりぽっくりと下駄を鳴らしながらこちらに来る男を見つけたからだ。
「高遠さん、すみません。ご挨拶も出来ずに……」 「ううん、ほんとは居たんですけどね……居留守を使っていました。 今でないと書けないと思ったから――」
そういうとへろへろにくたびれた茶封筒を百合子に手渡した。
「引っ越し祝い――です。まあちょっとした餞別にと思って」 「あら、何かしら……」
百合子はずっしりと重たい茶封筒を開封して一枚目の白紙をめくり、目を見開く。
「これ――」
そこには、何百枚という原稿用紙が入っていた。 そして、題名と作者の名前がミミズののたうちまわったような字で書いてある。 悪筆を修正する仕事をこなしていた百合子には、そのみみず文字が何と書いているのかすんなりと理解できた。
「高遠さんが流星先生だったのですね――」 「そうです。あちらの屋敷にいると編集者がうるさくて時々こちらの長屋に逃げているんです」 「まあ、どおりで一度も捕まらないはずですわ」 「編集長には、くれぐれもこれからもよろしくとお伝えください」 「はい……!ありがとうございます、何よりの餞別です!」
百合子は、初めて受け取った作家の原稿を抱きしめて微笑んだ。
そして、翌日。 戦争のような編集部にいる鬼の編集長を百合子が呼び止める。 編集長はどうして鳩小屋の掃除婦がここにいるのかというような顔で百合子を一瞥するが――。
「あの、これ――流星先生の原稿をお預かりしてきました!」
という言葉で、騒然としていた編集部内が急に水を打ったように静まり返った。 わずかにげほんげほんと誰かが煙草をむせてしまった音だけが響く。
「流星先生の――?!」 「はい!編集長に、くれぐれもこれからもよろしくとのことです……」 「……お前、その意味が分かっているのか?」 「はい?」
社交辞令ではないのか?と百合子は首を傾げる。
「流星先生が――うちの出版社と専属契約してくれる、と言う事だ!」
そう言うと、どんと百合子の肩を叩く。 いや、よくやったという意味だったのだろうがあまりにも強すぎて一瞬だけ息が止まる。 編集部内が一斉にどよめきたち、びびびと安いガラスの窓枠が振動する。
(高遠さん……これのどこがちょっとした餞別なのよ……)
雑多として煙草の煙がもくもくと充満する編集室、そしてその隅っこに机が置かれる。 野宮百合子、編集者としての第一歩を踏み出したばかりだった。
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各地句会報
花鳥誌 令和5年10月号

坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
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令和5年7月1日 零の会 坊城俊樹選 特選句
あぢさいや錆ゆくときもずぶ濡れて 光子 雨に白く汚されてゐる木下闇 緋路 サイレンも街騒もまだ梅雨の底 久 鉄骨が叩く鉄骨濃紫陽花 緋路 見覚えのビルはもう無くサルビアに いづみ 夏草のつぶやくやうな雨であり 和子 鉄条網梅雨の蝶さへ寄せつけず 同 支へ切れぬ天へ石柱梅雨深し 昌文 飛石をぬらと光らせ五月雨 久 その人は梅雨に沈みながら来る 順子 五月闇不穏な波の来るといふ はるか
岡田順子選 特選句
列車音遠ざかるとき浜万年青 はるか 庭石は梅雨のものとて黄泉のもの 俊樹 サイレンも街騒もまだ梅雨の底 久 鉄骨が叩く鉄骨濃紫陽花 緋路 雨の日の桔のうしろすがたかな 美紀 萱草のそびらに恩賜なりし闇 光子 潮入りのみづは昔や通し鴨 いづみ 支へ切れぬ天へ石柱梅雨深し 昌文 瞬ける雨粒蜘蛛の囲の銀河 緋路 雨に白く汚されてゐる木下闇 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年7月1日 色鳥句会 坊城俊樹選 特選句
鹿の子啼く隠れの島に入日濃く 修二 たはむれの莨にむせし桜桃忌 久美子 寂しさを下から崩すかき氷 朝子 茉莉花の別れ際こそ濃く匂ふ 美穂 不如帰久女の夢と虚子の夢 修二 首の無きマネキン五体暑き日に 愛 蟬生る瓦礫の闇の深きより かおり ひまはりの花と育ちて銃を手に 朝子 バレエ団の窓へブーゲンビリア満つ 愛 蔓薔薇をアーチに育て隠居せる 光子 うつし世のものみな歪み金魚玉 かおり バス停のバスまで覆ふ夏木かな 勝利 梅雨空にジャングルジムがひつそりと 修二 襖絵の孔雀の吐息寺炎暑 勝利 君嫁して香を失へり花蜜柑 たかし
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年7月6日 うづら三日の月花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
らつぱ隊香り奏でる百合の花 さとみ 風鈴が相づちを打つ独り言 都 香水に縁の無き身や琥珀色 同 身ほとりの置き所無き土用の入り 同 滴りの奥にまします石仏 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年7月7日 鳥取花鳥会 岡田順子選 特選句
黒塀や蔵してをりし八重葎 宇太郎 ふりかへる砂丘の海の線は夏 同 葛切や玻璃にスプンの当る音 同 夏草の中の林道下りけり 同 ソーダ水斜めに建ちし喫茶店 同 向ひ風麦藁帽を光背に 同 白服を吊りたる明日の再会に 悦子 浜昼顔一船置きし沖を恋ふ 同 白南風旅の鞄をコロコロと 美智子 足跡や巡礼のごと砂灼けて 栄子 紫陽花やうた詠むくらし悔もなく すみ子 玫瑰の咲くや砂丘の果の路 益恵 躊躇なく風紋踏んで白い靴 都
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年7月8日 枡形句会 栗林圭魚選 特選句
早苗饗や手足を伸ばす露天の湯 幸風 はらからや薄れゆく過去心太 百合子 一品を後からたのむ心太 秋尚 青楓雄々しく抱ける年尾句碑 三無 天草の歯ごたへ確と心太 文英 朝顔に護符つけ市の始まりぬ 幸子 朝顔のつぼみ数へて市を待つ 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年7月10日 武生花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
西日射す鏡に海女の手櫛かな 昭子 兜山古墳を包む大夕焼 ただし 良き事の有りや無しやの今朝の蜘蛛 信子 信州に梅雨のかけらの雨が降る 三四郎 石も又涼しきものの一つかな 昭子 香水や周囲の心独り占め みす枝 梅雨寒や口を預けて歯科の椅子 信子 うなだれて少年の行く片かげり 昭子 僧逝きて久しき寺の夏椿 英美子 猛暑日や万物すべて眩しめり みす枝 天近き牧牛の背や雲の峰 時江 コップ酒あふる屋台の日焼顔 英美子 サングラス外し母乳を呑ませをり みす枝 かぶと虫好きな力士の名をつけて 昭子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年7月10日 なかみち句会 栗林圭魚選 特選句
芋焼酎醸す香りの満つる街 三無 団扇さし出かける孫の下駄の音 ことこ それぞれが里の焼酎持ち寄りて あき子 老媼の団扇頷きつつ動く 和魚 児に送る団扇の風のやはらかく ます江 店先で配る団扇の風かすか ことこ 泡盛の味覚えたりこの良き日 同 団扇手に風のざわめき聞く夕べ 廸子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年7月11日 さくら花鳥会 岡田順子選 特選句
沖縄の鳳梨乾いた喉癒す 裕子 青空や収穫の日の夏野菜 光子 夕暮れは車窓全開青田風 紀子 貝釦一つ無くした夏の暮 登美子 まだ聴けるカセットテープ夏深し 同 雲の峰送電線は遥かなり 令子 夕焼に路面電車が揺れてゐる 裕子 鐘を撞く寺は山上雲の峰 令子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年7月11日 萩花鳥会
透き通る海は自慢よ海開き 祐子 救助士の臀筋たくまし海開き 健雄 夏草や一対すべて青の海 俊文 生ビール久方ぶりや子とディナー ゆかり 引く波に砂山崩る海開き 恒雄 天の川点滅飛機の渡りゆく 美惠子
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令和5年7月16日 伊藤柏翠記念館句会 坊城俊樹選 特選句
羅を纏ひしものの身の一つ 世詩明 天国も地獄も自在孟蘭盆会 同 風の盆男踊りの笠深く 幹子 盆の供華華やいでゐる村の墓地 同 ギヤマンの風鈴揺れる蔵の街 嘉和 古団扇思ひ出の新しき 雪 縁側に男冥利の裸かな みす枝 ナツメロを口ずさみつつ草を引く 富子 蓮開く様自力とも他力とも やす香 神主の大きな墓を洗ひけり ただし 在りし日のままに夏帽吊し置く 英美子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年7月16日 風月句会 坊城俊樹選 特選句
田舎家の土間のだんまり朝曇 要 炎帝の遣はす鴉黒く群れ 千種 会釈する日傘に顔をなほ深く 同 夫恋ひの歌碑を見てより秋近し 炳子 飴色に枯れ空蟬の垂れ下がる 久子 古民家の故郷の匂ひ壁に黴 経彦 三猿の酔ふ草いきれ庚申塔 眞理子 古民家の茅屋根匂ふ炎天下 三無
栗林圭魚選 特選句
蓮花の水面の余白空の青 亜栄子 カラフル��浮輪乗り合ふ市民バス 久 じやぶじやぶと揃ひのティーシャツ水遊び 三無 咲き足せる泰山木の真白かな 秋尚 森少し膨らませをり蟬しぐれ 慶月 水音に誘はれつつ灼くる道 眞理子 惜しげなく涼しさ放つ水車小屋 要 ひとときの静謐滝に対峙して 久子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年7月19日 福井花鳥会 坊城俊樹選 特選句
マッカーサーパイプ咥へてアロハシャツ 千加江 遠雷や織部の茶碗非対称 泰俊 二業地に一の糸鳴る夜涼かな 同 悠久の光り湛へて滴れり 同 青田風満目にして夕仕度 清女 脱ぎ様のまことしやかに蛇の衣 雪 退屈をもて余しゐる古団扇 同 洗ひ髪訪ふ人も無く待つ人も 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年7月21日 さきたま花鳥句会
沢蟹の渡る瀬石に日の名残り 月惑 空蟬や辞書に挟まる紙兜 八草 家眠る厨にひとりバナナ剥く 裕章 山の水集め男滝の帯となる 紀花 どら猫にまさる濁声夏の風邪 孝江 炎天に心字の池面雲動く ふゆ子 打水や土の匂ひの風生まる 康子 行くほどに街路華やぐ百日紅 恵美子 睡蓮の葉を震はせて鯉の道 みのり 八の字を書きて茅の輪を潜りけり 彩香 誘蛾灯今は無人の故郷駅 静子 枇杷熟るる眷属訃報また一人 良江
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令和5年7月22日 鯖江花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
半夏生何処が嫌ひと云はれても 雪 蛇にまで嫌はれさうな蛇苺 同 何処をどう突いてみても蟇 同 お隣りは今はの際と虎が雨 一涓 師の友は文教場址合歓の花 同 守宮まづ招き入れくれ舎入門 同 忘れじの人今も尚蛍の夜 同 入道雲天下制する勢あり みす枝 藍浴衣片方だけにピアスして 昭子 サングラス外して妻は母となる 世詩明
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年7月23日 月例会 坊城俊樹選 特選句
空蟬や地中の記憶あるらしく 要 靖国の坂みんみんの急くに急く 昌文 炎天に零戦仰角三十度 佑天 鳥居へとまぬがれがたき炎天を はるか その日近付き靖国の灼けてをり 慶月 みんみんの高鳴く魂の声として はるか
岡田順子選 特選句
熱き骨ぽきぽきたたみ日からかさ 眞理子 真白な祢宜の出て来し木下闇 政江 笛の音の遠くに生まれ夏の果 光子 零戦を撮る少年の夏休み 慶月 下乗せし老女紅濃く夏詣 同 英霊に七日の魂の蟬時雨 政江
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
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各地句会報
花鳥誌 令和5年8月号

坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
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令和5年5月1日 花鳥さざれ会 坊城俊樹選 特選句
葉桜に声まで染まるかと思ふ 雪 葉桜の懐深く観世音 同 葉桜を大天蓋に観世音 同 ふと思ふ椿に匂ひ有りとせば 同 葉桜の濃きに始まる暮色かな 泰俊 葉桜の蔭をゆらして風の音 同 老鶯を聞きつつ巡りゐる故山 かづを 四脚門潜ればそこは花浄土 和子 緑陰を句帳手にして一佳人 清女 卯波寄すランプの宿にかもめ飛ぶ 啓子 蝶二つもつれもつれて若葉風 笑 雪解川見え隠れして沈下橋 天
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月6日 零の会 坊城俊樹選 特選句
五月闇喫茶「乱歩」は準備中 要 だんだんに行こか戻ろか日傘 和子 錻力屋のゆがむ硝子戸白日傘 昌文 空になる途中の空の鯉幟 和子 ラムネ玉胸にこもれる昭和の音 悠紀子 だんだんは夏へ昭和へ下る坂 慶月 だんだん坂麦藁帽子買ひ迷ふ 瑠璃 白シャツのブリキ光らせ道具売る 小鳥 蟻も入れず築地塀の木戸なれば 順子 夕焼はあのアコーディオンで歌ふのか きみよ 谷中銀座の夕焼を待ちて老ゆ 同
岡田順子選 特選句
築地塀崩れながらに若葉光 光子 日傘まづは畳んで谷中路地 和子 ざわめく葉夏の赤子の泣き声を 瑠璃 築地塀さざ波のごと夏めきて 風頭 カフェーの窓私の日傘動くかな 和子 二階より声かけらるる薄暑かな 光子 下闇に下男無言の飯を食ふ 和子 覚えある街角閑かなる立夏 秋尚 谷中銀座の夕焼を待ちて老ゆ きみよ 誰がために頰を染めしや蛇苺 昌文 青嵐売らるる鸚鵡叫びたり きみよ
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月6日 色鳥句会 坊城俊樹選 特選句
カルデラに世帯一万春ともし たかし 大いなる大地を画布に聖五月 朝子 渚恋ひ騒ぐ厨の浅蜊かな たかし しやぼん玉母の笑顔を包みけり 朝子 乙姫の使者の亀ならきつと鳴く たかし 風に鳴るふらここ風の嗚咽とも 睦子 桜貝拾ひ乙女となりし人 久美子 風船の子の手離れて父の空 朝子 夕牡丹ゆつくりと息ととのふる 美穂 はつなつへ父の書棚を開きけり かおり 鷹鳩と化して能古行き渡航路 修二 風光るクレーンは未来建設中 睦子 人去りて月が客なる花筏 孝子 束ね髪茅花流しの端につづく 愛 悔恨深し鞦韆を漕ぎ出せず 睦子 ひとすぢの道に薔薇の香あることも 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月8日 武生花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
戦争は遠くて近しチューリップ 信子 霾や廃屋多き街となり 三四郎 長長と系図ひろげて柏餅 昭子 鞦韆を揺らし母待つ子等の夕 三四郎 代掻くや越の富士山崩しつつ みす枝 氷菓子あれが青春かもしれぬ 昭子 モナリザの如く微妙に山笑ふ 信子 風なくば立ちて眠るや鯉幟 三四郎 観音の瓔珞めいて若葉雨 時江 春といふ名をもつ妻の春日傘 三四郎 もつれては蝶の行く先定まらず 英美子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月9日 さくら花鳥会 岡田順子選 特選句
金環の眼や神々し鯉幟 実加 テンガロンハットの老夫麦の秋 登美子 筍を運ぶ人夫の太き腕 あけみ 緩やかに青芝を踏み引退馬 登美子 赤き薔薇今咲き誇り絵画展 紀子 自らの影追ひ歩く初夏の昼 裕子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月9日 萩花鳥会
マンションの窓辺で泳ぐ鯉幟 祐子 兜より多産な鯉を子供の日 健雄 山頂に吹き上がるかな春の息 俊文 新緑やバッキンガムの戴冠式 ゆかり 仰向けのベッドに届く風五月 陽子 この日から五類に移行コロナあけ 恒雄 武者人形剣振り回すミニ剣士 美惠子
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令和5年5月10日 立待俳句会 坊城俊樹選 特選句
囀や高鳴く木々の夜明けかな 世詩明 すがりたき女心や花薔薇 同 仏舞面の内側春の闇 ただし 菖蒲湯に老の身沈め合ひにけり 同 うららかや親子三代仏舞 同 花筏寄りつ放れつ沈みけり 輝一 花冷や母手造りのちやんちやんこ 同 機音を聞きつ筍育つなり 洋子 客を呼ぶ鹿みな仏風薫る 同 渓若葉上へ上へと釣師かな 誠 子供の日硬貨握りて駄菓子屋へ 同 白無垢はそよ風薫る境内へ 幸只 春雨は水琴窟に託す朝 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月11日 うづら三日の月花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
里山を大きく見せる若葉かな 喜代子 父母座す永代寺も夏に入る 由季子 三国町祭提灯掛かる頃 同 難解やピカソ、ゲルニカ五月闇 都
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月12日 鳥取花鳥会 岡田順子選 特選句
ホーエンヤ口上述べて祭舟 史子 暮の春どちの館の椅子机 すみ子 声潜めメーデーの歌通り過ぎ 益恵 手擦れ繰る季寄卯の花腐しかな 美智子 鳥帰る曇天を突き斜張橋 宇太郎 海光も包まん枇杷の袋掛 栄子 葉桜や仏の夫の笑みくれし 悦子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月13日 枡形句会 栗林圭魚選 特選句
菖蒲湯の香を纏ひつつ床に就く 多美女 風低く吹きたる社の陰祭 ゆう子 やはらかき色にほぐるる萩若葉 秋尚 すと立てし漢の小指祭笛 三無 深みゆく葉桜の下人憩ふ 和代 朴若葉明るき影を高く積み 秋尚 メモになき穴子丼提げ夫帰る 美枝子 祭笛天を招いて始まれり 幸子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月14日 なかみち句会 栗林圭魚選 特選句
植物園脇に馴染みの姫女苑 聰 近づきて見失ひたる山法師 秋尚 母の日の記憶を遠く置き去りに 同 崩れかけたる芍薬の雨細き 同 若葉して柔らかくなる樹々の声 三無 葉桜となりし川辺へ風連れて 秋尚 白映えて幼稚園児の更衣 迪子 くれよんを初めて持つた子供の日 聰
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月17日 福井花鳥会 坊城俊樹選 特選句
一人逝き村軽くなる麦の秋 世詩明 水琴窟蔵す町屋の軒菖蒲 千代子 三国沖藍深めつつ卯波来る 笑子 母の日や母の草履の小さくて 同 カーネーション戦火の子らに百万本 同 遠ざかる思ひ出ばかり花は葉に 啓子 麦秋の響き合ふごと揺れてをり 千加江 あの世へもカーネーションを届けたし 同 紫陽花やコンペイトウと言ふ可憐 同 人ひとり見えぬ麦秋熟れにうれ 昭子 永き日の噂に尾鰭背鰭つき 清女 更衣命の先があるものと 希子 春愁や逢ひたくなしと云ふは嘘 雪 風知草風の心を風に聞く 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月17日 さきたま花鳥句会
鯉幟あえかな風も見逃さず 月惑 土間で輪に岩魚の骨酒郷の友 八草 背に茜萌黄の茶摘む白き指 裕章 薫風や鐘楼の梵字踊りたる 紀花 潦消えたるあとや夏の蝶 孝江 初夏の日差しじわじわ背中這ふ ふゆ子 水音のして河骨の沼明り ふじ穂 なづな咲く太古の塚の低きこと 康子 竹の子の十二単衣を脱ぎ始め みのり 薔薇園に入ればたちまち香立つ 彩香
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月21日 風月句会 坊城俊樹選 特選句
野阜に薫風そよぐ母の塔 幸風 突つ伏せる蝶昂然と翅を立て 圭魚 夏めきて観音膝をゆるく曲げ 三無 谷戸深き路傍の石の苔の花 久子 捩花の気まま右巻き左巻き 炳子 人の世を鎮めて森を滴れる 幸子 水音は水を濁さず蜻蛉生る 千種 夏蝶のたはむれ城主墓に罅 慶月 薫風やボールを投げてほしき犬 久
栗林圭魚選 特選句
要害の渓やえご散るばかりなり 千種 恙少し残り見上ぐる桐の花 炳子 十薬の八重に迷へる蟻小さき 秋尚 野いばらの花伸ぶ先に年尾句碑 慶月 忍冬の花の香りの岐れ道 炳子 水音は水を濁さず蜻蛉生る 千種 谷戸闇し帽子にとまる夏の蝶 久子 日曜の子は父を呼び草いきれ 久 ぽとぽとと音立てて落つ柿の花 秋尚 黒南風や甲冑光る団子虫 千種
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月28日 月例会 坊城俊樹選 特選句
二度廻る梓渕さんかも黒揚羽 秋尚 夏めきぬ膝に一筋擦過傷 炳子 茶席へと鳥獣戯画の帯涼し 要 万緑を黒靴下の鎮魂す 順子 美しき黴を持ちたる石畳 みもざ 霊もまた老ゆるものかな桜の実 光子 薄き汗白き項の思案中 昌文 黒服の女日傘を弄ぶ 緋路
岡田順子選 特選句
夏草や禁裏を抜ける風の色 月惑 白きもの真つ白にして夏来る 緋路 女こぐ音のきしみや貸しボート 眞理子 蛇もまた神慮なる青まとひけり 光子 風見鶏椎の花の香強すぎる 要 霊もまた老ゆるものかな桜の実 光子 白扇を開き茶室を出る女 佑天 緑陰に点るテーブルクロスかな 緋路 黒服の女日傘を弄ぶ 同 二度廻る梓渕さんかも黒揚羽 秋尚
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
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各地句会報
花鳥誌 令和5年6月号

坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
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令和5年2月2日 うづら三日の月花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
厨女も慣れたる手付き雪掻す 由季子 闇夜中裏声しきり猫の恋 喜代子 節分や内なる鬼にひそむ角 さとみ 如月の雨に煙りし寺の塔 都 風花やこの晴天の何処より 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月2日 うづら三日の月花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
山焼きの煙り静かに天昇る 喜代子 盛り上がる土ものの芽の兆しあり 由季子 古雛や女三代つゝましく 都 青き踏む館の跡や武者の影 同 日輪の底まで光り水温む 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月4日 零の会 坊城俊樹選 特選句
桃の日のSt.Luke’s Hospital 光子 パイプオルガン天上の春連れませり 順子 指を向け宙に阿弥陀の春の夢 いづみ 春の川大東京を揺蕩ひぬ 美紀 聖路加の窓ごとにある春愁 眞理子 ��菊もナースキャップも真白くて 順子 聖ルカを標としたる鳥帰る 三郎 印度へと屋根とんがりて鳥雲に 佑天 鳥雲に雛僧の足す小さき灯 千種 学僧は余寒の隅に立つてをり きみよ
岡田順子選 特選句
春陽に沈められたる石の寺 美紀 春空に放られしごと十字架も 同 春潮の嫋やかな水脈聖ルカへ 三郎 鳥雲に雛僧の足す小さき灯 千種 涅槃西風吹きだまりては魚市場 いづみ 聖路加の鐘鳴る東風の天使へと 俊樹 皆春日眩しみ堂を出で来たり 千種 桃の日のSt.Luke’s Hospital 光子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月4日 色鳥句会 坊城俊樹選 特選句
春愁の揺れてをるなりだらり帯 愛 立子忌や飯とおさいにネモフィラ猪口 勝利 春眠し指に転がす砂時計 かおり ゆらめいて見えぬ心と蜃気楼 孝子 春潮のかをり朱碗の貝ひらく 朝子 ファシズムの国とも知らず鳥帰る たかし 立子忌の卓に煙草と眼鏡かな 睦子 毛糸玉ころがりゆけば妣の影 同 わが名にもひとつTあり立子忌よ たかし 波の綺羅とほく眺めて立子の忌 かおり 灯を消してふと命惜し雛の闇 朝子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月6日 花鳥さざれ会 坊城俊樹選 特選句
この空のどの方向も春日燦 和子 思ひ出はいろいろ雛の女どち 同 うららかや卒寿に恋の話など 清女 鳥帽子の小紐手をやく京雛 希 耳よりの話聞きゐる春の猫 啓子 地虫出づ空の青さに誘はれて 雪 意地を張ることもなくなり涅槃西風 泰俊
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月10日 さくら花鳥会 岡田順子選 特選句
裏路地の古屋に見ゆる雛祭 実加 子等笑ふお国訛りの雛の客 登美子 彼岸会の約束交はし帰る僧 あけみ 筆に乗り春の子が画く富士の山 登美子 うららかな帰り道なり合唱歌 裕子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月10日 鳥取花鳥会 岡田順子選 特選句
春夕焼浜の民宿染めてをり すみ子 青粲粲空と湖面と犬ふぐり 都 水車朽ちながらも春の水音して 和子 朝東風や徒人の笛は海渡る 益恵 枝垂梅御幣の揺れの連鎖して 宇太郎 春の婚オルガン春の風踏んで 都
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月11日 枡形句会 栗林圭魚選 特選句
啓蟄やボール蹴る子は声がはり 恭子 海近き山の椿の傾きて 和代 啓蟄の光を帯びし雲流る ゆう子 鳥鳴いて辛夷の甘き香降る 白陶 一人言増えたる夕べ落椿 恭子 小気味よき剪定の音小半日 多美女 一端の鋏響かせ剪定す 百合子 ふる里の椿巡りや島日和 多美女 剪定や句碑古りて景甦る 文英 剪定や高枝仰ぐ褪せデニム ゆう子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月13日 武生花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
雪吊の縄の解かれて睡り覚む 世詩明 家康公腰掛け松や地虫出づ ただし 捨鉢な女草矢を放ちけり 昭子 屋号の名一字継ぎし子入学す みす枝 花冷や耳のうしろといふ白さ 昭子 坐りゐて炬燵の膝のつつましく 世詩明 対座したき時もあるらん内裏雛 みす枝
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月13日 なかみち句会 栗林圭魚選 特選句
摘草のさそひ届きぬ山の友 ことこ 蒼天に光の礫初燕 三無 陽炎のけんけんぱあの子をつつむ あき子 朝戸風見上げる軒に初つばめ 同 摘み草や孫を忘れるひとしきり 和魚 かぎろへる海原円く足湯かな 聰 陽炎や古里に建つ祖母の家 ことこ 我家選り叉来てくれし初つばめ あき子 陽炎ひて後続ランナー足乱る のりこ 新聞を足してつみ草ひろげたり あき子 つみ草や遠くの鉄橋渡る音 史空
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月14日 萩花鳥会
熔岩の島生き長らへし藪椿 祐子 寝静まり雛の酒盛り夢の間に 健雄 田楽や子らの顔にも味噌のあと 恒雄 雑草も私も元気春日向 俊文 猫抱いてぬくぬく温し春炬燵 ゆかり 子自慢の如く語るや苗売よ 明子 雲梯を進む子揺らす春の風 美惠子
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令和5年3月15日 福井花鳥会 坊城俊樹選 特選句
雪吊りのほどけて古木悠然と 笑子 落椿きのふの雨を零しけり 希子 夜半の軒忍び歩きの猫の恋 同 立雛の袴の折り目正しくて 昭子 桃の花雛たちにそと添はせたく 同 口笛を吹いて北窓開きけり 泰俊 手のひらを少し溢るる雛あられ 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月16日 伊藤柏翠記念館句会 坊城俊樹選 特選句
雪吊の縄のゆるみに遊ぶ風 雪 奥津城の踏まねば行けぬ落椿 同 まんさくに一乗川の瀬音かな 同 よき言葉探し続ける蜷の道 すみ枝 春眠の赤児そのまま掌から手へ 同 足裏に土のぬくもり鍬を打つ 真喜栄 強東風の結界石や光照寺 ただし 裸木に降りかかる雨黒かりし 世詩明
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月17日 さきたま花鳥句会
春雨に黙し古刹の花頭窓 月惑 震災の地に鎮魂の東風よ吹け 一馬 春昼や女房のうつす生あくび 八草 ととのへし畝に足跡朝雲雀 裕章 路地裏の暗きにありて花ミモザ ふゆ子 薄氷や経過観察てふ不安 とし江 拾ひよむ碑文のかすれ桜東風 ふじ穂 水温む雑魚の水輪の目まぐるし 孝江 薄氷の息づき一縷の水流る 康子 二月尽パンダ見送る人の波 恵美子 ほろ苦き野草の多き春の膳 みのり 梅園に苔むし読めぬ虚子の句碑 彩香 強東風老いてペダルの重くなり 静子 鉛筆はBがほどよき春半ば 良江
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令和5年3月19日 風月句会 坊城俊樹選 特選句
一族の閼伽桶さげて彼岸寺 芙佐子 隠沼に蝌蚪のかたまり蠢きぬ 幸風 セスナ機の音高くして地虫出づ 月惑 この山の確と菫の一処 炳子 石仏に散華あまねく藪椿 要 年尾とはやはらかき音すみれ草 圭魚 茎立の一隅暗き室の墓 千種 春塵の襞嫋やかに観世音 三無
栗林圭魚選 特選句
ビル影の遠く退く桜東風 秋尚 古巣かけメタセコイアの歪みなし 千種 寄せ墓の天明亨保花あけび 同 色を詰め葉の艶重ね紅椿 秋尚 ひとつづつよぢれ戻して芽吹きけり 同 信号の変り目走る木の芽風 眞理子 助六の弁当買うて花人に 千種
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月21日 鯖江花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
元三大師夢のお告げの二日灸 雪 新しき雪夜の恋に雪女 同 恋てふも一夜限りを雪女 同 懐手もつともらしく頷けり 昭子 石庭に音立て椿落ちにけり 同 雛簞笥何を隠すや鍵かけて 同 貸杖の竹の軽さや涅槃西風 ただし 石どれも仏に見えて草陽炎 同 泰澄の霊山楚々と入彼岸 一涓 制服も夢も大なり入学児 すみ枝 露天湯に女三人木の葉髪 世詩明 歩きつつ散る現世の花吹雪 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月26日 月例会 坊城俊樹選 特選句
門出祝ぐ花の雨とてももいろに はるか 花色の着物纏ひて卒業す 慶月 街の雨花の愁ひの透き通り 千種 蹄の音木霊となりて散る桜 政江 フランス語のやうにうなじへ花の雨 緋路 大屋根をすべりて花の雨となる 要 花��へまた一片の加はりぬ 緋路 永き日のながき雨垂れ見て眠し 光子 宮裏は桜の老いてゆくところ 要
岡田順子選 特選句
金色の錠花冷えのライオン舎 緋路 漆黒の幹より出づる花白し 俊樹 白々と老桜濡るる車寄せ 要 花揺らし雨のつらぬく九段坂 はるか 漆黒の合羽のなかに桜守 光子 花の夜へ琴並べある神楽殿 はるか 春雨や無色無音の神の池 月惑
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月 九州花鳥会 坊城俊樹選 特選句
今昔の小川にしのぶ蜆かな 成子 薔薇の芽の赤きは女王の予兆 ひとみ 潮こぼしながら蜆の量らるる 朝子 餌もらふ鯉をやつかみ亀の鳴く 勝利 突きあげし拳の中も春の土 かおり 持つ傘をささぬ少年花菜雨 ひとみ 涅槃西風母も真砂女も西方へ 孝子 亀の鳴く湖畔のふたり不貞だと 勝利 口紅は使はれぬまま蝶の昼 喜和 長靴の子はまつすぐに春泥へ ひとみ パグ犬と内緒のはなし菫草 愛 息詰めて桜吹雪を抜けにけり 孝子 ふと涙こぼれてきたる桜かな 光子 健やかな地球の匂ひ春の草 朝子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
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各地句会報
花鳥誌 令和4年9月号

坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
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令和4年6月2日 うづら三日の月句会 坊城俊樹選 特選句
愛猫の裏声しきり猫の恋 喜代子 吾が枕かすかに匂ふ梅雨の夜 都 忘られぬ都忘れの名も色も 同 君待ちていつもの位置に置く円座 同 夏至の日の夕日急がず海に落つ 同 雨上る藍より青き四葩かな 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年6月4日 零の会 坊城俊樹選 特選句
老頭児の浜灼けさらし雲の峰 順子 サンドレスのボタン外して眠りをり 和子 又ひとつ汽笛と薔薇の香を混ぜて 三郎 海風に揺れて売らるるあつぱつぱ 光子 夏暖炉婦人の長き留守を待つ 慶月 又違ふ汐風と薔薇の香りと 三郎 もう薔薇は厭きたと銀髪の女 千種 開港の跡ことごとく薔薇として 同 ロザリオを石のクルスに掛くる夏 炳子
岡田順子選 特選句
枇杷のなるフランス軍の駐屯地 きみよ 又ひとつ汽笛と薔薇の香を混ぜて 三郎 丸窓を過ぎるマダムの夏帽子 眞理子 乳母車より乗り出してあぢさゐへ 光子 十字架と昼を沈めて夏の蝶 和子 麦秋の港から来る貨物船 いづみ 海風を拾ひ歩きの夏帽子 はるか 開港の跡ことごとく薔薇として 千種 潮の香も薔薇の香もある司祭館 炳子 客死せりそよぐバナナの葉の下に いづみ
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年6月10日 鳥取花鳥会 岡田順子選 特選句
鯉幟降ろされ空は日常に 佐代子 久々に人の気配や四葩咲く 益恵 漁期終り蜑六月の浜に立つ すみ子 青嵐一往復に果つ鉄路 益恵 若きらは羽化登仙に夏の町 悦子 骨酒となりて香の立つ岩魚かな 宇太郎 沼に立つ青鷺衛士の貌をして 都
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年6月11日 枡形句会 栗林圭魚選 特選句
梅雨蝶の低くころがるやうに飛び 秋尚 十薬の花の展ごり年尾句碑 美枝子 天辺から影の崩るる栗の花 秋尚 紫陽花や湿りを帯びし杖の音 三無 やとの風静かに流る菖蒲園 瑞枝 梅雨曇陽子の墓所に赤き供花 亜栄子 河鹿鳴く信濃の里の蒼き夜 美枝子 錆色に形とどめて朴の花 亜栄子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年6月13日 武生花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
太陽の金色に燃え麦の秋 中山昭子 夏潮の深き浅きに海女の息 世詩明 麦秋や金の波打つ十町歩 英美子 耳すませ月下美人のひらく音 同 夏燕影を落とさぬ速さかな みす枝 神楽笛青田の波を操りて 時江 ひとところ湧くがごとくに蛍舞ふ 信子 気が付けば妻は近くに蛍の夜 三四郎 田植済み一村深き寝息かな みす枝 句友逝き麦秋の野の遺さるる 中山昭子 刻刻と力漲る植田かな みす枝 水現れて二つに割れて女滝かな さよ子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年6月14日 さくら花鳥会 岡田順子選 特選句
路地裏に古書店短夜のデジャヴ 登美子 十薬の花を巡りて隣家かな 紀子 赤い服着て子らの行く夏の森 あけみ 通院の道すがらとは薔薇に眼を 令子 薔薇園のアーチを出れば此岸なり 登美子 薔薇の園老い就く母を飲み込むる 同 薔薇園へ行きしアーチを潜りきし 令子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年6月15日 福井花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
夜には夜の風の匂ひや遠蛙 雪 はつきりと蛙となりし声に啼く 同 庭下駄に僅かな湿り梅雨の宿 千代子 時鳥雄島の森を鳴き交し 同 十字架の見えつづく道薔薇咲ける 令子 ジューンブライドも年かさね老いてゆく 同 藍深き防具の少年青嵐 笑子 寺の蟻行き着く先は経机 泰俊 放課後の曲は窓より万緑へ 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年6月16日 伊藤柏翠記念館句会 坊城俊樹選 特選句
涼しさを木々が集めてゐる故山 かづを 日本海梅雨てふ黙のありにけり 同 靴脱ぎに僧の下駄ある走り梅雨 たいし 能面の深さ秘めたる梅雨の宿 同 涼しさは江戸の名残りの箱階段 千代子 観音は金色にして梅雨の中 和髙畑子 剣持ちと神の使ひの伊勢神楽 やす香 白きものばかり干されて夏に入る 世詩明
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年6月17日 さきたま花鳥句会
片削ぎの武甲の嶺や夏霞 月惑 菖蒲田や八ッ橋傘を除け合ひて 一馬 五月雨や氷川の杜を浄めける 八草 ほむら立つ大地哀しき麦の秋 裕章 白絣母の遺品の鯨尺 とし江 白蓮と言へどほのかに紅を乗せ ふじ穂 水匂ふ闇をひきずり蛍狩 康子 水に映ゆ早苗見下ろす浅間山 恵美子 赤き薔薇ノスタルジーと名のありき ミトミ
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令和4年6月19日 風月句会 坊城俊樹選 特選句
青蔦に窓を狭めて駐在所 斉 頂上に遺跡眠らせ夏木立 慶月 あどけなく谷戸の早苗のそよぎをり 幸風 悠然と闇ゆるがせて黒揚羽 軽象 古の山気を纏ひ黒揚羽 炳子 蟻行くや弥生時代と同じ道 佑天 釣鐘を五つぶら下げ茎傾ぐ 白陶 木下闇鎮もり眠る木霊達 眞理子 くるぶしを立ち上りくる草いきれ 千種 乗り換へし草のさ揺れやかたつむり 同
栗林圭魚選 特選句
蜘蛛の囲や無防備なりし腹見せて 亜栄子 十薬や森の間を埋め尽し 同 雨後の朝でで虫のそり弛むかな 同 しやぼん玉子等の高さに風集め 同 塗り残したるが気掛り半夏生 秋尚 緑陰に尺八びやうと流れをり 佑天 朝方の雨も上りて破れ傘 秋尚
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年6月20日 萩花鳥句会
ホトトギス啼きし裏山雨後の夜 祐子 夢うつつ公金一獲明易し 健雄 夜通しの仕事となりし辣韮漬け 恒雄 梅雨寒や足元摩るひと夜かな ゆかり 坂道を蹴上がり来るや青嵐 陽子 地下足袋で踏んばる竿に鮎跳ねる 美恵子
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令和4年6月25日 なかみち句会 栗林圭魚選 特選句
大緑蔭佇む人も青みたり 三無 公園の何処を歩すも涼風に 怜 雛鳥の如く口開けかき氷 史空 半夏生あふれて白き風光り ます江 見送りは紫陽花揺れる線路傍 エイ子 日に向かひ一途に咲くや苔の花 貴薫 緑陰や木々のざわめき鳥語落つ エイ子 紫陽花に圧倒されてしやがみても 和魚 一歩ごと紫陽花の色変りゆく ことこ 梅雨晴れや台地の風の心地良き エイ子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年6月26日 月例会 坊城俊樹選 特選句
神池は母なる海へ蜻蛉生る 慶��� 炎天へ神の鳩にはなれずして 順子 雅楽笛浮遊してゐる風死せり いづみ ぬつと黒く太く鳥居が茂より 和子 灼くる杜かの海鳴りのはるかより はるか 籐寝椅子かつては海の見えし部屋 要 短夜の狛犬の見た海の夢 いづみ 玉砕はこんな日かとも油照 慶月
岡田順子選 特選句
濠ひとつ蓮の樹海となりしかな 俊樹 弟も妹も亡く合歓の風 梓渕 ぬつと黒く太く鳥居が茂より 和子 枇杷落ちて錆びゐるままの男子校 要 短夜の狛犬の見た海の夢 いづみ 海千山千の漢汗ぬぐふ 政江 神池は母なる海へ蜻蛉生る 慶月
栗林圭魚選 特選句
アッパッパ気怠い午後の瞼なる 政江 灼くる杜かの海鳴りのはるかより はるか 白鯨のやうな雲ゆく日の盛り 順子 黒揚羽気怠き昼の残りけり 炳子 迷ひ出し土偶めきたるサングラス 順子 神池の石灼け鳩の足赤く 要 海千山千の漢汗ぬぐふ 政江 鮮らけく小雨に浮ぶ濃紫陽花 幸風
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年6月31日 鯖江花鳥俳句會 坊城俊樹選 特選句
文机に古き艶書や多佳子の忌 一涓 江戸見遣る梅雨入も漂と佐内像 同 還俗の一人となりてサングラス 同 笠深く垂れて編笠百合となる 雪 芍薬の花の何処かにいつも蟻 同 昔から好きに生きてる単帯 昭上嶋子 蛍の灯恋の暗号送りをり みす枝 口閉ぢしままの狛犬苔の花 たゞし
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年6月 九州花鳥会 坊城俊樹選 特選句
暁に鳴るは鉄砲百合の花 成子 花楝仏心遠くけぶらせて 久美子 紙飛行機飛んで戻らぬ夏の海 ひとみ 少女らの腿でわけ入る青山河 佐和 海酸漿鳴らす少女の私へと ひとみ 白玉や雨の過ぎたる城下町 喜和 指鳴らす彼は嫌ひで空梅雨で 由紀子 乾坤の弾みさながら雨蛙 朝子 あめんぼの踏むは魔法の水ならん 睦古賀子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年6月 花鳥さゞれ会 坊城俊樹選 特選句
団子虫ころりころりと梅雨に入る 雪 此の辺りかつて洗ひ場初蛍 同 九頭竜の瀬に囮鮎てふ哀れ 清女 草や木も梅雨の暗雲塗りこめし 希 葭切の物申すかに急かしをり 笑
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
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零の会
2022年2月5日

坊城俊樹選 岡田順子選
メール投句:投句数全239句
坊城俊樹出句
坊城俊樹出句
凍蝶の美し彼の世から戻り来て 薄氷を纏へば鯉の黄金たり オリオンの夜を経て錦鯉となる イエス指さす天舞はず蝶凍てて 国旗いま日の丸の赤冷たくて 失へるとは君子蘭枯れし朝 マフラーにラメを鏤め恋人へ 罅の手で国旗をかかげ敬礼す 黄泉よりも寒き靖國なりしかな 冬帝を指す教会の避雷針
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坊城俊樹選 特選句
坊城俊樹選 特選句
薄氷の昇華してゐる街の朝 いづみ やはらかな波うすらひの端を濡らす 光子 春待つやソファに躯体折り沈み 光子 平凡な水に戻りしうすごほり 千種 東風荒し湖上に女神棲む祠 光子 象の目に黄なる涙や春寒し 眞理子 薄氷を突く杖の先爺の恋 ゆう子 寒夕焼神に激しき恋の日も きみよ 薄氷の毀れて山を響かせて 順子 薄氷の隠し切れざる水の闇 梓渕
特選句及び特選句評
薄氷の昇華してゐる街の朝 いづみ 新しい措辞。昇華という自然の変容をうまく使った。溶解ということなのだろうが、ここに天へ昇るという意味が加わって行く。
やはらかな波うすらひの端を濡らす 光子 仮名の効用。薄氷という季題には似合う。端という微妙な場所の選択も効いている。美意識というものだろう、こういう句に対するものは。
春待つやソファに躯体折り沈み 光子 躯体という措辞は面白い。春を待つ動物たちのことすら感じる。冬眠から早く醒めたいということ。「み」がいいかどうかはある。
平凡な水に戻りしうすごほり 千種 なるほど平凡としたか。この感覚はおもしろい。ちょっとありそうだ無い措辞。これもバケツの凍りなのだろうか。
東風荒し湖上に女神棲む祠 光子 東風というものの本質。この祠に祭られた女神の吹かせる風。それは荒々しいが時に彩りを持つ。そこの機微がある。
象の目に黄なる涙や春寒し 眞理子 なんとなくわかる。黄色はせつない。加齢なのか弱っているか哀しいか。
薄氷を突く杖の先爺の恋 ゆう子 まあ爺いにもある色気というかおしゃれな遊び。恋もまた爺のおしゃれな恋。なかなか洒落ている。
寒夕焼神に激しき恋の日も きみよ ううん難しい。寒の夕焼けのものすごい赤が神の恋を象徴するのだろうが、もの凄いすっ飛び方がある。今回は恋が多い。
薄氷の毀れて山を響かせて 順子 大袈裟。しかし的を得ている。ただ少し類想の匂いはある。
薄氷の隠し切れざる水の闇 梓渕 なんとなく私の句みたい。いやそれより良い。何かこういう型というものがあるのだろう。しかし水の闇というものはよく言った。
坊城俊樹選▲問題句
芽柳や草間彌生を売る画廊 佑天 恋猫のギャング映画の街と化し きみよ
芽柳や草間彌生を売る画廊 佑天 面白いのだがかつて零の会に草間の句が氾濫していたことを知っている者も少なくなった。
恋猫のギャング映画の街と化し きみよ 猫がギャングになる映画があるのか。それを現存の街に洩ってきたのか。
坊城俊樹選 入選句
花菫摘んで抱かれて海を渡る 順子 赤い実を又啄みに春の鳥 美智子 直ぐばれる嘘つく女薄ごほり 眞理子 春光を回す土耳古のオルゴール 要 立春の何処かでぴしと真木柱 炳子 ぼんやりと黄色く枇杷の咲く屋敷 美智子 寝そべつてゐて春を待つ羅漢さま 要 何もせぬ人摘んで来し蕗の薹 慶月 黄金の皿の彫金冴え返る 和子 水仙の一輪部屋を正しうす 和子 欲深き人の心に浅き春��荘吉 早春や鸚鵡は嘘をもう一度 ゆう子 草噛んでをりし薄氷離れけり 要 薄氷や月光まとひみじろがず 悠紀子 薄氷真一文字に割れにけり 佑天 空つぽのバケツの底の薄氷 伊豫 湖のうすらひを割る銀の斧 いづみ 三日月は溶けてみづうみうすらひに いづみ 寒菊の拘りのある黄色かな 三郎 製図室そこに薄氷あるやうな 荘吉 虚子句碑の翳やはらかく春を待つ 三郎 寒夕焼富士の木花咲耶へと 慶月 ナルシスが化身水仙真中に黄 慶月 カシミアに母をくるむや寒波来る いづみ 鳥帰り瓢湖静かに眠る朝 佑天 冬帝の子にもなれずや散骨す 順子 うすごほり水にほだされやすきかな 千種 地球からもつとも遠い冬の月 いづみ 新聞の折り目ずれなく冱返る ゆう子 春の虹黄色に神の実在す 美智子 薄氷の模様半分まで沈め 秋尚 薄氷の端濡れてゐるひかりかな 光子 鳥の羽すべらせてゐる薄氷 順子 薄氷の割れて一つの命かな 伊豫 春の日のことに好みし黄金色 悠紀子 九春の欠片となりぬ黄色かな 小鳥 下萌や夜来の雨に色かさね 悠紀子 レース被ぎ絵踏の裔の女達 佑天 梅が枝の影を跨ぎて紅梅へ 秋尚 薄氷を浸しゆく水解く水 眞理子 浮寝鳥工業地帯たそがるる きみよ 寒紅をたつぷり塗つて生き延びる 光子 薄氷のすき間に雲を遊ばせて きみよ 街の音ぽろぽろ春をこぼしつつ 小鳥 観音の御掌に芽吹きの匂ひ触れ 瑠璃 立春の空へ蹄の谺して はるか 目眩まし放ち薄氷失せにけり 千種 薄氷のこはれるままに昼の風 いづみ 黄信号ものともせずに黒ショール 三郎 三粒の黄のカプセルや春浅し 伊豫 黄身ぷるるん一呑みにして大試験 佑天 寒三日月校塔の窓灯りけり 炳子 瞬きを顕して消ゆる黄蝶かな 伊豫 闇の氷柱は黄昏の色秘むる きみよ 別れ雪海の緞帳なりしかな 順子 凍解くる湖に白蛇の神話かな 光子 黄水仙蔭やはらかく膨らみぬ 三郎
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岡田順子出句
岡田順子出句
薄氷の毀れて山を響かせて 鳥の羽すべらせてゐる薄氷 冬帝の子にもなれずや散骨す 別れ雪海の緞帳なりしかな 鳥雲へ外房線の湾曲す 花菫摘んで抱かれて海を渡る アトリエへ連翹の黄の通せん坊 木戸塗るや黄花節分草の咲く ステッキに追ひ払はれし猫の恋 なけなしの賽を放つて午祭
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岡田順子選 特選句
岡田順子選 特選句
春光のやがて黄となる大手門 伊豫 何もせぬ人摘んで来し蕗の薹 慶月 薄氷のことりと池に戻りたる 小鳥 象の目に黄なる涙や春寒し 眞理子 カシミアに母をくるむや寒波来る いづみ 下萌や正五位てふ土饅頭 要 春の虹黄色に神の実在す 美智子
春光のやがて黄となる大手門 伊豫 春の訪れは黄を感じさせる。色のない冬から転じる春への希求は黄色の明るさが似合う。人の行き交う大手門と、そういう大きな天空の変化も詠み込んだ句だと思う。
何もせぬ人摘んで来し蕗の薹 慶月 日々が暇であり、取り留めなさは周りも本人も承知しているが、罪はない。その人物が今日は「蕗の薹を摘んできた」と見せる。この愛すべき光景が温かい。
薄氷のことりと池に戻りたる 小鳥 薄氷というものはこういうもの。日が昇り、気温が上がってくるといつの間にか何もなかったように池の水に戻っている。音のない「ことり」なのだ。
象の目に黄なる涙や春寒し 眞理子 象の目からこぼれる涙というものは、なかなか想像しづらい。痛みとかいうものではなくて、人間と同じような涙の意味合いなのだろう。だから春寒い黄色なのだろう。
カシミアに母をくるむや寒波来る いづみ 母は老いているか病を得ているのだろうか。どうであれ愛おしく、守らねばならない人である。「カシミア」という品の良い懐かしさが優しさを滲ませる。
下萌や正五位てふ土饅頭 要 青山墓地あたり、このようなお墓を見掛ける。この正五位の御方の土中の魂を庇い守り継ぐように春になると草が萌ゆるのだと思う。これも輪廻のかたちかもしれない。
春の虹黄色に神の実在す 美智子 ほんとうにそうかしら・・・などと云わないで、「そうね」と云ってあげたい。虹の黄色の部分の明るさには、冬帝から入れ替わった春の女神が麗しく在わしている。
岡田順子選 特選句
失へるとは君子蘭枯れし朝 俊樹 春来ると云ふ悲しみの口で云ふ 光子 クロッカス咲く咲く道をまつ直ぐに 久 レース被ぎ絵踏の裔の女達 佑天 浮寝鳥工業地帯たそがるる きみよ 黄泉よりも寒き靖國なりしかな 俊樹 薄氷を空に浮かべる私とも 伊豫
失へるとは君子蘭枯れし朝 俊樹
この君子蘭は枯れた。冬の間の手入れを怠ったり霜に合わせてしまうと、こうなる。「失う」という大袈裟な表現が作者の落胆を伝え、花に似合って納得させられた。
春来ると云ふ悲しみの口で云ふ 光子 何か悲しいことを話しながら、でももうすぐ春が来るから、と心に収める。それは他者か作者自身なのかは分からない。でも、古今東西、春到来に寄せる気持ちは普遍。
クロッカス咲く咲く道をまつ直ぐに 久 その通り、この花は。咲き姿の丈も短くなんとなく愚直さがあって周りに媚びたりしない。そういう咲き方しか知らないのか、と思いながら作者もその道をまっ直ぐ歩く。
レース被ぎ絵踏の裔の女達 佑天 このレースはミサなどの時に用いる物を指しているのだろう。熱心なカソリックの信者たちの祈りの姿に、過ぎた絵踏みの世を顧みている。「裔」という言葉が重い。
浮寝鳥工業地帯たそがるる きみよ 工業地帯という無機質なものと、安穏と浮き寝している水鳥たちの景との対比がありながら、共に夕暮れに包まれつつある刻であろう。互いを知り尽くした空間だ。
黄泉よりも寒き靖國なりしかな 俊樹 毎月の月例会で訪れる靖国神社ながら、いつもそこは特異なものを感じさせる。それは戦であり人の死に纏わるもの。黄泉よりももしかしたら「寒き」人為の果だろうか。
薄氷を空に浮かべる私とも 伊豫 この薄氷は現実に見ているのではなくて、思索する心のなかで春の訪れを描き、その先に見える淡い水色の空に薄氷を思い浮かべているのだろう。「私」の詩である。
岡田順子選▲問題句
直ぐばれる嘘つく女薄ごほり 眞理子 肉を食はねば枯野の夕日見た後は きみよ
直ぐばれる嘘つく女薄ごほり 眞理子 こんなところに「女」を使って下さいますな。直ぐばれるのに・・というのが、「薄ごほり」の他愛無さに重なるとしても。
肉を食はねば枯野の夕日見た後は きみよ 日本人は狩猟民族ではなく農耕民族と云われていたが・・・。それは別としても、俳句には少し如実過ぎる気もした。
岡田順子選 入選句
新春の風鈴さわぐ浅草寺 和子 香煙を寄せあらたまの髪飾 光子 参道の人に破魔矢の鈴かすか 和子 豆菓子の白や桃やら初句会 光子 冬薔薇ショーウィンドーはまだ空つぽ 炳子 初売の六区に並ぶ金の靴 はるか 悴みて刺繍ジャンパーロック座へ 眞理子 あたばうとべらばう出合ひ御慶哉 荘吉 新年の欲を密かにお札受く 久 空耳かふと祖母の声寒念仏 炳子 浅草寺主宰の行く手恵方とも 三郎 負け馬券舞ふ浅草の底冷に はるか 猿曳の人垣あふる参道に 和子 おとつひの雪の骸を蹴り上ぐる 久 外套の乱歩めきたる好々爺 俊樹 初春の役者を捜す瓦版 はるか 木馬亭楽屋裏口寒雀 きみよ 初詣すませもんじや焼の列へ 久 今半の香り留めて鳥総松 三郎 喰積に飽きて六区の立飲みに はるか 買初の電気ブランを家苞に 眞理子 枯蓮の骨うつくしく眠りたり 俊樹 御慶述ぶ丸き眼鏡を曇らせて 光子 家無くば冷たき鞄を枕とし 光子 底冷えや終点までの路線バス 眞理子 餅花や浅草の灯にまぎれゆく はるか
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3月の各地句会報
平成31年3月の特選句

坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
平成31年3月2日 零の会
坊城俊樹選 特選句
生涯の友は利根なり春田打つ 節子 づかづかと御魂踏みつけ野に遊ぶ 淸流 大利根の風に雪解の匂ひあり 節子 春天に昇る香煙奇北墓所 孝子 寄せ墓の天辺にある暖かさ 久 鯱の渾身の反り春疾風 水翁 水攻の春泥なるか囲ひある 千種 犬吠の春潮遠き大河かな 伊豫 春昼や時刻表なき利根渡船 節子 光背は坂東太郎春仏 順子 筑波嶺の遥か古草踏む川辺 要 住職のダンスの手指春を呼ぶ 三郎 鳥の恋色めく空の下の句碑 順子 香しき艹や句碑うらら 萌 人の来て触れれば春の土となり あおい 利根堤ゆくは奇北か草青む 孝子 円墳の春の野としてふくらめる 伊豫 大利根に名乗り出でたる葦の角 もと 春光を集めて句碑の立ち上がる 水翁
伸悦選
円墳を丸刈りにして東風怒濤 俊樹 陽炎や平野切り裂き大河ゆく 眞理子
(順不同 特選句のみ掲載)
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平成31年3月6日 立待花鳥俳句会
坊城俊樹選 特選句
鳶の輪の下啓蟄の大地あり 越堂 春愁の眉よせ給ひ半跏仏 越堂 背山出で滴たるばかり春の月 越堂 春泥に身の温もりの靴を脱ぐ 世詩明 毛糸編む女前髪より老いし 世詩明 早春の闇で眩しき人に逢ふ 輝一 春寒や散骨の舟動き出す 誠
(順不同 特選句のみ掲載)
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平成31年3月7日 うづら三日の月句会
坊城俊樹選 特選句
雛に貸す座敷念入り塵拾ふ 由季子 紙雛に若き日思ひ独り言 由季子 晴天に老の耕し少しづつ 由季子 土雛に幾世の手垢あたゝかし 都 菜を刻む手元に春の香りあり 都 水温み羅漢うつとり足浸す 都
(順不同 特選句のみ掲載)
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平成31年3月7日 花鳥さゞれ会
百官のつかまつるごと雛飾り 匠 藩侯の米研ぐ水の温みけり 匠 鳶鳴いて足羽三山笑ふなり 匠 漁りて耕し耕しもして五湖に住む 越堂 雛飾るどこへも行けぬ母の笑む 松陰 春やブキウギ猫踏んじやつて怒髪かな 数幸 風の意に触れ合ひ遊ぶ吊し雛 希子 下萌や慈母觀音の裳裾より 千代子 山笑ふ水琴窟の音にまで 千代子
(順不同 特選句のみ掲載)
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平成31年3月9日 枡形句会
栗林圭魚選 特選句
啓蟄や揺るるこの世に息を吐く ゆう子 春服をデビューさせたき日和かな 教子 島々のまどろむやうな春の海 美枝子 鮊子や母の余生のひと日づつ 百合子 思ひ切り剪られし木々も芽吹きたる 三無 春の泥小さき足と跳ね踊り 三無 いかなごや夕餉の皿に海の音 美枝子 鮊子煮エプロンの白母の味 多美女
(順不同 特選句のみ掲載)
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平成31年3月11日 なかみち句会
栗林圭魚選 特選句
潮の香の日をたつぷりと白子干 秋尚 暮れのこるちりめんじやこの縮れかな 有有 摘草や話途中のまま離れ 秋尚 摘草や土の呟き聞きながら 三無 白子干銀色に目の光りたる 貴薫 鉄匂ふ工事現場の陽炎へる 美貴 白子干眼のぎつしりと売られけり 三無
(順不同 特選句のみ掲載)
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平成31年3月11日 鳥取花鳥会
岡田順子選 特選句
藪椿石灯籠に紅映えて 俊子 春雷の間合に小さく息を吐く 都 春塵をなだめて雨の屋台引く 幸子 春近し野鳥図鑑を窓に置く 佐代子 松露掻く砂丘の風を手元まで 幹也 早春の息吹は杜の瀬音より 和子 風光る草食む山羊の乳房張り 栄子 雛飾りある窓口で買ふ切手 悦子 茎立や曲る方向それぞれに 史子 犬箱は吾の手づくりや雛祭る 益恵 大根を分厚く炊いて接待す 立子 水菜漬パリパリ音す一人膳 すみ子 ビー玉も回すよ春の洗濯機 美智子
(順不同 特選句のみ掲載)
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平成31年3月12日
萩花鳥句会
芽柳の雨粒光りつもつれつつ 祐子 海は凪ぎ山は笑うてゐたるなり 孝士 ロープウェイ満員御礼山笑ふ 美恵子 長崎に柳芽吹きてランタン祭 健雄 ときめきの種をまいてる老いの春 圭三 芽柳の影ゆらめきし藍場川 克弘
(順不同 特選句のみ掲載)
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平成31年3月15日 芦原花鳥句会
坊城俊樹選 特選句
父母の期待は重し大試験 孝子 小白鳥引きて水田の残りけり よみ子 鵜の瀬へと松明流る水送り 孝子
(順不同 特選句のみ掲載)
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平成31年3月17日 伊藤柏翠記念館
坊城俊樹選 特選句
口癖のかうして居れぬ春炬燵 雪 トランプの一人占ふ春炬燵 たゞし 春の雪傘に花吹く如くなり 富子 指広げ手より落ちたる雛あられ 富子 浦の子の海苔掻きと言ふ授業あり 英美子 雪女袂泣くため隠すため 世詩明
(順不同 特選句のみ掲載)
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平成31年3月17日 風月句会 坊城俊樹選 特選句
薄紅梅散るうすら日のせせらぎに 久子 少しだけ駈けてみたしや水温む 貴薫 武蔵野のてつぺんとりし花辛夷 千種 古ひひな管楽の音��とうに絶え ゆ���子 防人の越えし横山鳥雲に 秋尚 山茱萸の花蒼天へ黃を弾き 芙佐子 豪農の名残り丈余の椿垣 圭魚 水温むあぎとふ鯉のかんばせに 淸流
栗林圭魚選 特選句
名草の芽白き片鱗見せ始む 千種 武蔵野のてつぺんとりし花辛夷 千種 春蘭や土の湿りを諾へる ゆう子 風癖のまま雪柳咲きこぼれ 三無 春蘭や武蔵野の空淡々と 芙佐子 初桜心のつかへ解けゆく 久子 かたかごの花影淡く俯ける 芙佐子 満天星の芽立ちすつくと紅さして 淸流
(順不同 特選句のみ掲載)
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平成31年3月20日 福井花鳥句会
坊城俊樹選 特選句
縄跳びに飽いてふらここ揺らしては 和子 声継ぎ風をつなぎて鳥帰る 嘉子 鳥帰る眼下に街の花時計 嘉子 受験子の肩一つ押し送り出す よしのり 耕耘機田より上りて泥ちらす 美代 川一縷春光底にまで届く 美代 春愁の十一面の御ン面輪 雪
(順不同 特選句のみ掲載)
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平成31年3月22日 鯖江花鳥俳句会
坊城俊樹選 特選句
堂朧伏目に在す観世音 雪 不老てふ四百年の梅の香に 雪 腹巻きに涅槃団子を拾ひけり たゞし 涅槃図の大きな顔の寝釈迦かな たゞし 供へ物下げし寝釈迦の薄明り たゞし 春泥を千鳥に飛んで子ら遊ぶ みす枝 鳶の輪の下に啓蟄動くもの みす枝 敷石につまづき梅の香を乱す 信子 空重き越の峰々鳥帰る 信子 セーターと身の上話置き帰る 世詩明
(順不同 特選句のみ掲載)
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平成31年3月24日 花鳥月例会
坊城俊樹選 特選句
花の下唐変木がうづくまる 千種 眩暈して垂れ桜の中にゐる 光子 虫柱立ちて陽炎近くする 千種 空あをく古木の桜満ちたれば 和子 寂しいか寂しくないか花下を行く 千種 御柱に踏青されよとも祷る ゆう子 城門の開きて花を迎へたる 佑天 なによりも木霊へ献じたる桜 順子
岡田順子選 特選句
戦友を呼び合ふ花の木霊かな 小鳥 異国人持つピザまんの陽炎へる 小鳥 花巡り夢見し室の零戦機 小鳥 初桜橋懸りへの灯のごとし ゆう子 夜もすがら桜咲きをり引退す 公世 城門の開きて花を迎へたる 佑天 むすび食む黒の袴の卒業子 小鳥
栗林圭魚選 特選句
初花の木訥にあり饒舌に 俊樹 眩暈して垂れ桜の中にゐる 光子 水に触れさう初蝶の橋くぐり 炳子 花冷の手水に背筋正しけり はるか 八方へ光を溶いて雪柳 秋尚 白木蓮何も無かつたやうに咲き 七湖 娘の婚のきのふを語り花影に 順子 初花や首のスカーフ掻き合はす ゆう子
(順不同 特選句のみ掲載)
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平成31年3月28日 九州花鳥会
坊城俊樹選 特選句
古雛西に流るる潮に乗す 佐和 蛇穴を出づ西遊記読みをれば 睦子 亀を見て亀に見られて山笑ふ ちぐさ 涅槃図に見入る園児の足裏かな 志津子 雁風呂を焚くわが胸の人は去り 勝利 春はあけぼの解かるるための帯を締め 寿美香 西方は黄金夕焼里は花 勝利 春の海果てて西方浄土かな 桂 灯台の日の斑ゆらゆら水の春 佐和 妣の星光りて暮るる涅槃の日 阿佐美 西へ西へ星座傾け猫の恋 佐和 燎原の火は薄紅の桜かな 桂 老が老を待ちゐる港春の月 佐和 一島をたつぷり抱く春霞 寿美香 春泥のそのまま乾く耕耘機 初子 朧夜の片目で眠る深海魚 伸子 壱岐島は白虎の方位涅槃西風 ちぐさ
(順不同 特選句のみ掲載)
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さくら花鳥会
岡田順子選 特選句
啓蟄や育児日記を読み返す 実加 隅に置くリードオルガン木の芽吹く 登美子 単調に鍬に絡まる春の土 あけみ 畑打つや母の背中と押車 あけみ 水温む観音堂の手水舎も みえこ 卒業子手伝ふ母の掌 栄江 水温む胎児はぐると回るらし 登美子
(順不同 特選句のみ掲載)
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平成31年1月7日 武生花鳥俳句会
坊城俊樹選 特選句
美容師を独り占めして初鏡 ミチ子 初句会句仇ばかり集ひけり 世詩明 神仏を身近にしたる三ケ日 越堂 映るものすべて過去とす初鏡 信子 真剣な手が宙を切るカルタ取り みす枝 しこしこと海鼠噛みゐる四日かな 昭女 雑煮喰ぶ大黒柱見上げつつ 時江 一と掬ひ掬ひに祈り紙漉女 みす枝 手毬唄今にも聞えさうな毬 雪 冬の日の納戸に喪服ととのへり 昭女 臘梅の香を確かめてゐる淑女 越堂 胼の手に受けし卵を落しけり ただし 助六にじつと見られし飾り凧 昭子
(順不同 特選句のみ掲載)
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平成31年2月11日 武生花鳥俳句会
城俊樹選 特選句
人となり自らなる懐手 雪 二十年前の話の初芝居 雪 坂昇る雪の白山見ゆるまで 昭女 春寒や問ひに応へぬ返書かな ミチ子 息白く猫にもありし謀 雪 手毬唄一ツ覚えの母の声 雪 節分と云ふ金剛の戸を開く 越堂 春霰たばしる九頭竜橋渡る 越堂 春一番さらはれさうなベレー帽 昭子 猫の目の青きバレンタインの日 ただし こぼるると云ふ色のあり竜の玉 雪 紅梅ややはらかき嬰よく笑ふ みす枝
(順不同 特選句のみ掲載)
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1月の各地句会報
平成31年1月の特選句

坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
平成31年1月5日 零の会 坊城俊樹選 特選句
撫で牛の肌やはらかく東風を待つ 三郎 表札のひとつ源氏名寒椿 和子 隅田川五日の空の太くあり 梓渕 春襲ゆくや雪吊傾けて 千種 神鏡は淑気半分だけ映す 小鳥 花街をちよと曲りぬ恵方みち 瑠璃 見番で小腰屈める御慶かな 佑天 都鳥水かげろふを羽ごろもに 順子 吾妻橋おきやんに渡り春隣 あおい 墨堤や昼の芸妓のちやんちやんこ はるか 墨堤に寒声聞こえさうなれど 荘吉
(順不同 特選句のみ掲載)
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平成31年1月7日 鳥取花鳥会 岡田順子選 特選句
老並び炬燵に入り昔話 俊子 太箸や煮豆ぷつくり光りゐる 都 電飾のアーチをくぐる聖夜の子 佐代子 元旦や乳呑む嬰に添寝して 幹也 寛ぎて蠟梅の香に読む俳誌 和子 寒雀押し合ひ並びひとつ枝 栄子 雪ちらちら卜占の灯は路地の奥 悦子 弓始静かに揃ふ中学生 史子 初詣三拝までは拍手せず 益恵 冬蝶やちりぢり風の音のして 立子 新元号掲げるを待ち春を待つ すみ子 花束のやうに抱かるゝ春著の子 美智子
(順不同 特選句のみ掲載)
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平成31年1月8日 萩花鳥句会
両の掌に包んでみたし寒雀 牛子 カレンダー一枚残す寒さかな 小勇 光耀す水仙絨毯咲き乱る 祐子 初糶やマグロがなんと三億円 孝士 紅をさし句帳新たに初句会 美恵子 冬ざるる娑婆のふた文字なぜ女 健雄 円相の軸へ見入りて初茶会 圭三 寒雀ひだまりに又一羽きて 克弘
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平成31年1月8日 さくら花鳥初句会 坊城俊樹選 特選句
鉛筆を削り過ぎたり初句会 あけみ 霙降り夜はしけるらしとつぶやく 政江 初明り読経の母を包みけり 登美子 手袋の中に包んでゐる一句 晁史 白き雲破魔矢求めん古希迎へ みえこ
(順不同 特選句のみ掲載)
岡田順子選 特選句
大粒を絞り三国の時雨かな 晁史 初明り読経の母を包みけり 登美子 孫ひこに雑煮申告させる婆 令子
(順不同 特選句のみ掲載)
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平成31年1月10日 うづら三日の月句会 坊城俊樹選 特選句
一月の二十四日で白寿なる 柏葉 九頭竜の波もやさしく初明り 英子 青天の続く日和や福寿草 由季子 雲水の衿足白し寒修行 都
(順不同 特選句のみ掲載)
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平成31年1月12日 枡形句会 栗林圭魚選 特選句
七種のそろはぬ粥で出勤す 多美女 初句会何時もの顔ぶれ何よりも 教子 初雪や黒衣の濡るる女坂 三無 平成を閉ぢる参賀や列長し 和代 風花やはるか山稜望む町 ゆう子 除夜零時風の匂ひの新たなり 美枝子 硝子戸の落書うかび日脚伸ぶ 多美女 風花や落つることなく所在なく 多美女 日脚伸ぶ五時のメロディ聞く畑 三無 初日の出重なる屋根の間より 恭子
(順不同 特選句のみ掲載)
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平成31年1月17日 伊藤柏翠俳句記念館初句会 坊城俊樹選 特選句
凍蝶の哀れに羽の美しき 雪 名前まだ決らぬ子にもお年玉 雪 地鴉も寒に入るれば寒鴉 英美子 この人の手と足となり福寿草 英美子 冬帝の久しく見えず越の国 和子 初風呂や男子二人の逞しき ただし 背負籠にも両手にも野水仙 富子 山茶花の散るに占ふ来る来ない 世詩明
(順不同 特選句のみ掲載)
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平成31年1月19日 鯖江花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
鳩たたす虚子の一軸床の春 みす枝 凍星のかむさつてゐる杣の宿 みす枝 法の剣ふり十人の寒行僧 昭子 寒垢離の十人の僧阿修羅めき 昭子 地に触れず風花光となり消ゆる 越堂 吉書掲げ千年杉を越えゆけり 越堂 美しく重ねし齢吉書にも 一涓 住職も胡坐で過す三日かな 一涓 山の神田の神きませ大どんど 信子 寒鯉やのたりのたりと水遊び 直子 出初式三国湊に三国鳶 雪 冬薔薇活けられてより息づかひ 世詩明
(順不同 特選句のみ掲載)
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平成31年1月20日 風月句会 坊城俊樹選 特選句
枯れるだけ枯れし枯野の大欅 三無 光りつつ溢れつつ噴き水の春 炳子 寒林に指輪がひとつ落ちてゐた 野衣 猿を見て猿に見られてゐる寒さ 淸流
(順不同 特選句のみ掲載)
栗林圭魚選 特選句
大寒のゆるびし池の杭の影 久子 大枯野生きる力の水の音 三無 梅早し水音高き弁財天 千種 紅白梅風の結び目解きたる 三無 金縷梅の残る葉陰に咲き初むる 秋尚 白鳥の忽と野太き声放つ 炳子 遠き枝の蔭まつらはせ冬の幹 野衣 何処となく色滲み初む枯柳 秋尚
(順不同 特選句のみ掲載)
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平成31年1月21日 なかみち句会 栗林圭魚選 特選句
急患の途切れぬままに初明り 美貴 書初や生れし曾孫の名太く濃く あき子 的を射る音清清し弓始 せつこ 鍋底の焦げあきらめて初湯かな 美貴 一人とて少しおしやれをして三日 怜 氏神へ自転車並べ初詣 秋尚 産土神おまはりさんも初詣 あき子 小鉤かけやうやう終はる初鏡 有有
(順不同 特選句のみ掲載)
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平成31年1月24日 九州花鳥会 坊城俊樹選 特選句
初明り秘仏めざむる厨子の内 千代 初鏡余生の紅を仄と刷く 郁子 沖へゆく水脈は七色初明り かおり 凍雲や老ゆる団地の重機音 同 風呂敷のほどな日だまり寒雀 豊子 下脹れの母似でありし初鏡 志津子 詩碑に打つ地酒匂へる初明り 阿佐美 牡丹焚く花神の火色美しく 孝子 マフラーに埋るる坊主頭かな 睦子(吉田) 初明り一際千木の反りにけり さえこ 冬の雨入口狭き映画館 ひとみ 切株に樹齢の余力冬日濃し 朝子 ハモニカの葬送曲やしぐれ虹 志津子 マネキンの薄き唇久女の忌 寿美香 初夢や君に寄り添ひ飛行船 ちぐさ 唱ふごと寒九の水を飲み干せり 志津子 埋火や叶はぬ夢は美しき 睦子(古賀)
(順不同 特選句のみ掲載)
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平成31年1月27日 花鳥月例会 坊城俊樹選 特選句
冬日見下ろせる睫毛へ水陽炎 野衣 百年を喋らぬ寒の大鳥居 梓渕 石垣の押しつ押されつ春を待つ 梓渕 寒の手をほどかず衛士の仁王立ち 晁史 冬晴れやあつぱれな日の丸立ちぬ 和子 俯いて臘梅の香を濡らしけり 斉 寒鯉の塊水面ゆらめきて 政江 冬麗あれは先生かしらねえ 公世
(順不同 特選句のみ掲載)
栗林圭魚選 特選句
寒禽の高音千鳥ヶ淵の黙 政江 寒鯉を沈め石組み乾く池 要 枯蘆の池に白々沈む影 炳子 大寒や太くひびある能舞台 和子 水鳥に水面の光ついて来る 光子 老木の風に委ねし冬芽かな ゆう子 冬帝のまさをに空の涯白し 俊樹
(順不同 特選句のみ掲載)
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平成31年1月28日 さゞれ会 坊城俊樹選 特選句
神の火をどんどに移し焰たつ 希 朝まだき遺影在す部屋初明り 希 ほうほうと訪ひゆく黒衣寒修行 笑 帯少し高目と思ふ初鏡 雪子 もらひたる毛糸帽子や地蔵尊 松陰 寒紅や男のやうな土性骨 千代子 ウィッグをつける稽古や初鏡 清女
(順不同 特選句のみ掲載)
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平成30年12月10日 武生花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
短日の裏手より見る武家かな 昭女 北風やミルクココアの吹きこぼれ 昭女 共白髪つつくは二人おでんかな 世詩明 まつすぐに降る初雪の重さかな ミチ子 晩鐘の陰にこもりて時雨寺 越堂 背中の子寝落ちて重し一茶の忌 昭女 秋深し永久に思惟の観世音 雪 牡丹苑千の冬芽の膨らめる 越堂 霙降る石に一瞬白きもの 錦子 身に入みぬ雷火に失せし一古塔 雪 おでん酒女を酔はすつもりらし 世詩明 還らざるもの秋の風のみならず 雪 前を行く人の背にある師走かな 信子
(順不同 特選句のみ掲載)
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