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渓谷からの手紙 : A Letter from the Unknown Valley, Japan
2019年処暑のある日、ザ・ランナーズ・クロニクル・ニューズルーム宛てに1通の手紙が届いた。差出人は、文化、文芸、芸術、哲学に関する書籍を手がける旧知の編集者・N.Itouだった。ベージュの便箋3枚に、かくも多様な世界の中で、言葉を見つけていく営みとはどういうことなのかということが書かれていた。それは、たくさんの条件が複合的に重なる道を一歩ずつ進み、見たことのない景色を目にするようになるランニングの経験にも近いものと思われた。 ザ・クロニクルはN.Itouのテキストを公開することを希望し、彼女はそれを快く許諾してくれた。読者諸氏に、この手紙を原文ママでお届けする。
The 20th Aug 2019, 12:00, Tokyo. Text by N.Itou, The Unknown Valley, Japan. ©2019 All Rights Reserved by N. Itou. Published on The Runners’ Chronicle Japanese Edition. The Runners’ Chronicle Japanese Edition is a magazine for the serious runners of the world, founded in 1997 by Francois & Jasmine de Libre.

Title : 無題
まず、キノコのことを考えてみましょう。
「イギリスのホークスワース(1991年)によれば推定で約150万種類の菌類が生息している…… 推定種数150万とは言ってもすべてがわかっている訳ではなく、既知種数は75,000種(カークら2001年)ほどで、推定種数の数%にしか過ぎない」(株式会社キノックスHP「きのこの数」より)
私たちは地球上に存在するキノコのうち数パーセントにしか、まだ名前をつけられていない、つまり、言葉の世界よりずっとずっと現実の世界は広いのだということを、キノコのことを考えるとリアルに感じることができます。キノコは架空のものではありませんから、これは本当のことなのです。
翻って、LGBTという言葉によって私たちは人々の性指向を表現しているわけですが、本当のところ4つしかないわけがなく、この4つにヘテロ男女を加えて6種類だとしても、これで全てが表現されているわけがありません。キノコのことを思えば、世界の現実の方が言葉よりもずっとずっと多様だということも予想がつくはずです。
しかし、今のところ言葉が6つしかないということには1つ利点があります。私たちは7つの種類のものまでをそれなりに想像できると考えることができるからです。これは、私の勤め先の社長が好きな話で、何度も聞いたのですっかり覚えてしまいました。
1「私」
2「私たち」
3「あなた」
4「あなたがた」
5「私でもあなたでもない人」
6「私たちでもあなたがたでもない人々」
7「それ以外の人々」
ということを考えるとしっかりとその感覚を掴むことができるでしょう。そして8は八百万(やおよろず)に通じるというわけで、8つとなると詳細わからずとなるわけです。もしも自分がヘテロ男女でもLGBTでもない場合でも、自分以外の6種類のものをしっかりと想像することは十分に可能だと考えられます。自分を含む6種類でよいとすれば、それはもっと容易いことでしょう。
現代の社会において、新しく名前をつけて考えていこうとしているのはLGBTのたったの4つです。なぜその4つの存在に気づいたかというと、これまでもずっと在ったものにずっと法律の世界でだけ名前がなかったことにやっと皆が気づいたからです。
キノコのことを忘れず、本当はもっともっと多様なはずだ、ということを頭におきつつ、6種類の性指向を想像し、考えることは、人間の能力からしてさほど難しいことではなく、日常生活の中でいつもやっていること以上のことではありません。
そして、世界に実際にあるものを否定しようとしても、人間の頭の中だけでうまくいっても、結局世界と矛盾しますから、きっとどこかでおかしいなと気づき、認識を改めるチャンスがやってくることでしょう。言葉が世界と矛盾している、嘘が混じっていると感じると、人間の心は正しい言葉を求めざるを得ません。紀元前から続く哲学の長い長い歴史はまさにそのことを示しており、その心のことを私たちは「良心」と呼んでいます。
言葉より世界の方が圧倒的に広く、多様で、正しいのだということが第一歩です。それでも目の前の世界に相応しいかもしれない言葉を見つけたような気がした瞬間、良心がちょっと満たされた瞬間に、人間は幸せを感じるのかもしれません。そして、人間の「生産性」も、もしあるとすればここにあるのではないでしょうか。言葉を見つけるということは公的なこと。他者と共有できて、未来を一緒に考えるための大きな財産なのですから。

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“Crossing Small Nights”, a letter from a runner to an artist
スタングリッス・グッド・ジュニアからアーティスト・Mr. Uへの手紙:2019年8月1日付、発信・東京
Text&Photo by Stung-Liss Good Jr. Published on the 1st Aug 2019, 12:00, Tokyo : ©2019 All Rights Reserved by The Runners’ Chronicle Japanese Edition. The Runners’ Chronicle Japanese Edition is a magazine for the serious runners of the world, founded in 1997 by Francois & Jasmine de Libre.
親愛なるMr. U、
あなたの作品にインスパイアされました。そこで是非わたしたちのTシャツ向けにイラストレーションを制作いただけないかと考えています。わたしたちが何者かについては、次のコラムでその説明に替えたいと思います。
尊敬を込めて
スタングリッス
「スモール・ナイツ」
あるところに、ひたすらビール屋を目指してロードやトレイルを走っていくパックがございます。(パック=レースなどで同じペースになり一緒に走るランナーのこと(用例:何人かがPackになる))
2000年前後にたどたどしくも大人としての人生を歩み始め、人並みの困難を味わい、人並みの喜びを経験をし、そして(年齢とともに代謝が落ちることによって)脂肪を蓄え始めたのをきっかけに長い距離を走り始めたサイエンティストやエディター、コーヒー屋などがそのパックにはおります。
走ったあとに、めいめいが気に入りのクラフトビールを飲み、ああでもない、こうでもない、とよもやま話をし、帰ってゆきます。ある時は、長距離を終えた爽快感とともに、ある時は思うように走れなかった悔しさと共に。またある時は、何かについてのつらさや苦さとともに。そしてある時は、誰かの何かがうまく行ったというような晴れ晴れしたニュースとともに。
ビールを飲み、帰ってゆくのです。
夜が更けた帰り際に、また会おうと云い合い、帰ってゆくのです。
そのように走り、ビールをのみ、小さな夜を越えて参りました。

ある夜、面々は、自分たちが以前よりも少しだけ強くなり、遠くまで走れるようになったことに気がつきました。身体が絞られ脚力がついた面々は、筋肉の使いかたや呼吸のしかたなど走るためのティップスを得たのです。
しかし面々がもっとも驚いたのは、自分たちの内面にも変化が起き始めていることでした。30キロや50キロを自分で走ったきたあと、自分たちの気持ちも鍛えられてタイトになり、それが自分たちの身体のサイズにぴったりと合っていると感じたのです。それがわかった瞬間、面々はビールグラスをそっと置き、目を見開いて、互いを見つめ合いました。誰も言葉を発するものはおりませんでした。皆が、なんと心地のいいことなんだろうと思っていたのでした。
それ以来、くよくよする時も、怒りに震える時も、ふと自分のこころのサイズとみずみずしいタイトさを静かに思い出し、ふたたび強い気持ちでまた一歩を踏み出すようになったのです。そのようにして、面々のランニング���イフが続いてきました。
こんなことが起こると、無理をしなくなり、人にも無理を強いなくなります。人それぞれの心のサイズがあり、それぞれのペースで強くなっていくことを尊重したいと、面々は思うようになったからです。こうやって、面々のこころはパック全体のこころになっていったのでした。
しばらく面々はそのような心持ちでランニングを継続していましたが、暑い日本の夏を迎え、それを乗り切るためという極めて実践的な理由でTシャツが必要になりました。面々は、自分たちのプロダクトを作るなら、こころのありようも含めて具体的になかたちにしたい、そしてそれが何か直接的に良いことに繋がるようにしたいと考えました。
そういう訳で、まず、Tシャツはファニーで、そしてかっこいいものにしたいと考えています。トボトボと走り出した面々が今や長距離に挑んでいる、その信じられないけれど本当に起こっているリアリティーが可笑しみのあるイラストレーションになるといいと思います。そしてこれを見た人たちが、可笑しいけれどなかなかやるじゃないか、と少しでもインスパイアされ、それぞれのやりかたで、こころのありように思いをはせられるようになればいいと思うのです。
作るTシャツは大量生産ではないので、本当にこのようなこころの広がりが実現するかはわかりません。でも、敬愛する先輩ランナーは、100マイルが小さな1マイルの積み重ねであるように、小さなことを大切にしたいと言いました。パックの面々もそう思っています。自分が着るTシャツがまず心地よくて、ファニーでかっこいいものであることによって、身体もみずみずしいこころも暑い夏に長持ちすること。そして、そういうことが誰かのものになっていく事態が起これば良いと思います。優しいアーティスト・Mr. Uのイラストが描かれるそのTシャツがぴったりと誰かの身体をまとい、その誰かが小さな夜を越える役に立つと良いなと思います。(了)
PS : もし誰かがTシャツが欲しいと言ってくれる人がいたら、Tシャツを買ってもらい、売上はどこかの慈善団体に寄付することにしています。Tシャツはできるだけ環境に配慮のある素材や製造、販売方法を取っているメーカーと協働する予定です。Mr.Uへのギャランティーや納期については別添えの情報に記載してありますので、ご確認ください。

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“Our Time With” Vol.01, A Weekend Special : Good-Natured Running Collectiveの旅のあとさき
日本のランニング集団『#tap2tap』 は走ることを通して、何を語るのか?気鋭の聞き手が世界のランナーと対話するスペシャルインタビューシリーズ第1回。ジャーナリストであり、ボストンマラソンを7度完走したシリアスランナーでもあるPatty Tsaiが訊いた。
Text&Photo by Patty Tsai. Published on the 17th July 2019, 12:00, Tokyo : ©2019 All Rights Reserved by The Runners’ Chronicle Japanese Edition. The Runners’ Chronicle Japanese Edition is a magazine for the serious runners of the world, founded in 1997 by Francois & Jasmine de Libre.
#tap2tapとは?
Patty(P) : はじめまして。お会いするのを楽しみにしていました。
#tap2tap(T) : こんにちは。こちらこそ、お会いできて光栄です。お疲れのところ日本までお越しいただいてありがとうございます。ビールは召し上がりますか?(*註:インタビューは2019年の梅雨の横浜・馬車道タップルームで行われた。)おすすめはTeikoku IPAですね。今年も走られたボストンは、スピードレースでハードモードだったようですね。2018年にYuki Kawauchiが優勝した時は雨の中、彼だけが最初から飛ばしたんですよね。30年以上前にToshihiko Sekoが走った時はどんな天気だったのでしょう。
P : ありがとうございます、良い香りのビールですね(乾杯)。今年のボストンは最初から飛ばすランナーが多くて、後半生き残ったランナーとダメになったランナーがわかりやすく二分されたレースでした。Seko sanは、1981年と1987年の2回優勝されていますね。当時の彼は誰にも負けない自信があったそうです。2018年の高知竜馬マラソンのトークセッションで発言されていましたが、やはり圧倒的な練習量は裏切らないと振り返っていらっしゃいました。ケニアの選手と並んでも、まったく負ける気がしなかったそうです。ちなみに、当時の天気はわからないのであとで調べてみます(笑)。Seko sanは、今は日本陸上連盟で日本のランナーの強化を推進されていますね。Suguru Osako選手が日本記録を出したりして、とても期待が大きいです。 — — — さて、早速ですが — — 今日は#tap2tapについてお伺いしましょう。どういう集まりなのでしょうか?
T : #tap2tapは、サイエンティストや編集者、バリスタをはじめとして色々な面々がいるのですが、タップルームからタップルームまで月に3回くらい15キロから30キロくらいの距離を真剣に走り、つまりビールのタップがあるところを目指して走って、ビールを飲む集まりです。2019年1月17日に始まって、10日に1度、東京か横浜のどこかを走っています。サイエンティストとトレイルランナーが中心になって始まりました。まとまった休みがあれば、#tap2tap trailsとして世界中の美しいトレイルも走っていますよ。先日はスカイランニング日本選手権で、美ヶ原で開催されたInov8 Cupで80kと45kのレースに出ました。世界中のランニングチームと同じく、みんなシリアスに、楽しく走っています。走る仲間たちの年齢も性別もスタイルも多様で、いいグラデーションになっていると思います。日本のことはなかなか海外に伝わりにくいこともあるかもしれませんが、日本にもいろんな人がいるんです。ちなみに、フルマラソンのワールドメジャーのレースでサブ3を出しているランナーもいますし、信越五岳トレイルランニングレース(Pataginia Cup)やUltra Trail Mount Fuji(UTMF)に出ているロングディスタンス・トレイル・ランナーなんかもいますよ。

#tap2tapのはじまり
P: 日本でもグループランニングはとても増えていますよね。ランニング人口は1000万くらいかもしれませんが、特徴のあるランニングチームがとても増えている印象があります。トレイルランニング人口は約100万人〜150万人、実走人口は30万人〜50万人ほどでしょうか。NYのBlack Rosesのようなシリアスでかっこいいチームも増えてきていますよね。そもそもは、なぜ#tap2tapランニングを始めたのですか?
T : “The Chronicle”の読者の皆さんが思っている通り、ランニングは、誰でも自由にはじめることができるスポーツですよね。足を踏み出していると、こころやからだとの対話がはじまります。限界もありますが、たまに新しい自分に出会えることがあります。そしてある日、自分がいつの間にかすこし強くなっていることに気がつきます。このなんとも言えない素晴らしい素晴らしい瞬間は誰にでも来ます。特にある一定の距離や期間走り続けているとそうなりますよね。それが楽しいので、走っているということだと考えています。
これとは別に、あるランナーが一人で走っていると聞いて寂しそうだから別のランナーが一緒に走るようになってくれるようになって、それ以来ずっと一緒に走っているらしいという、まことしやかな説もあります(笑)。ちなみに、一番初期の頃から一緒に走っているランナーは、膝が痛くなったりお腹が痛くなったり、親指の爪が剥がれたりというトラブルもありましたが、今はトレイルレースにも出たりして、確実に強くなっています。毎年6月に八重山トレイルレースという素晴らしいローカルレースがありますが(註:ハセツネカップの後半のコースと重なり、またNESチャンピオンシップのシリーズレースにもなっており、ローカルレースだがタフなレースとして知られている)、小雨のコンディションでも彼はものすごいスピードでアップヒルを登り切って38kを走りました。もう一人のランナーは、12kのレースで、エイドステーションに脇目もふらず走り続けて、入賞までしましたよ。また別のランナーは、トライアスリートでもありますが、さすがに心肺機能が強くて、いくつかレースに出ても安定したパフォーマンスでした。3ヶ月、半年で心身ともに変わってくると言うことが本当にあるということがよくわかりました。こういう変化がリアルに感じられるのは楽しいです。あとは、ゴールした後によく行くのはベアード・ブリュアリーのタップルームで、中目黒にはしっかりしたピザもありますし、横浜の馬車道は街の雰囲気も良くて好きですね。

ランニングの言語化
P : 1994年に日本の酒税法が変わってから、マイクロブリュアリーが日本でも増えて、美味しいビールが多いですよね。日本のブリュアリーの数は300を超えたとか。タップルームがあればどこにでも走りに行くというコンセプトは面白いですね。ランニング、あるいはランニングとビールを通して、何か目指していることはあるのでしょうか?少し強くなる、ということだけでも大切な変化だと思いますが、どうでしょう?
T : 300種類のビールを全部制覇したいです!世界中のビールとなると相当な数ですよね、楽しみです(笑)。私たちのコンセプトは、タップルームさえあればどこでも走りに行くということで、いつでも準備ができています。いいビールがあったらぜひ教えてもらいたいです。時には���を越えて、ある町から別の町へ#tap2tapランニングをしたり、国境を越えてビー���を目指して走るなんていうこともやってみたいです。
真面目に答えると、ランニングに関しては、距離もスピードも、走る場所や時間も人それぞれのスタイルがあるので、私たちは固定的な何かを目指すことはありません。むしろ、どちらかと言うと、ランニングにおいては自由であることが大切だと思っています。自由に走ったあと、ビールを飲みながら、その人がどう強くなったのか、または失敗したのか、どんな体験をしたのか、どんな新しいパースペクティヴが見えたのかを伝え合うことが多く、それが一番本質的なところだと思っています。
P: もう少し、具体的には?
T : こういった、”伝え合う”ということは、いたって普通に人間の生活の中にあるこではあるのですが、声高ではないけれどとても実感のこもった、独自のトーンを湛えた言葉で何かが語られるということが大事だと思うんです。500メートルの急登に初めてトライしたランナーが、それ以前とそれ以降で、アップヒル・ランニングを語る言葉は断然違うものになります。そこには、具体的な身体活動から導かれた、ある力を帯びた言葉になると思うのです。また、例えば、これは私たちがとても尊敬する先輩ランナーの表現ですが、相当な斜度があるトレイルのことを、彼は”キスできるくらい傾斜がきつい登り”という表現をしたんです。彼はそれを登り切ったのでその言葉には当然強さを感じますが、加えて、ちょっとファニーさも感じられます。坂道にキスできるくらいの傾斜って(笑)。それでみんながニヤッとして面白がるというメンタリティーがとてもいいんです。ちなみにそこから転じて、さらにきついアップヒルのことを私たちは、坂に抱かれている、と表現します(笑)。ともあれ、ありえないことを笑いながら、実際にそれに取り組んでしまうという可笑しさというんでしょうか。トレーニング方法でも食事方法でも、あらゆることがこのように語られ始めると、ビールが進みますね(笑)。あるランナーは、腸腰筋の話がお気に入りですが、彼は本当にアップヒルのパフォーマンスがすごいですよ。
最初はひとりで何かを目指して自由に走っていたはずが、いつのまにか少し自分が強くなったことに気がつき、今度は誰かに何かを独特の言葉で共有しようとしている状態に自然に変化していくこと、それによって具体的にランニングライフが何か良い方向に行ったり、新しい友達ができたりするということが重要だと思っています。
“Good-Natured”であること
P : 面白い言葉づかいですね。世の中にはセンセーショナルに聞こえる一方で安易に使ってしまう、使い古された言葉溢れていますが、そういったものとは別の言葉が見つけられていくんですね。
T : そうです、薄っぺらいのはイヤです。昨日よりも一歩前に進めるようになると、少し見えるものが変わります。そうやって、たった一人が経験したことや見えたことが、それを超えて自然なかたちで誰かとの経験になって、ランニングは言葉を通していつのまにか自分を超えたところへ広がっていくのが楽しくて、それが起こるには、ある言葉の強度が必要です。そして何よりも、その言葉の力は、何か見えないものが見えるようになったとか、1秒速くなったとか、1メートル余計に登れるようになったとか、それによって自信を持てたとか、健康になったとか、Good-Naturedなものなんだと思います。そういうことがひとつひとつコミュニティーの経験になって行くと、わたしたちとそれを取り巻く世界 — — それは一方では人知を超えていて畏れ多いものだとも思いますが — — は、もうちょっと良くなるのではないでしょうか。そのために小さいけれど持ちえた体験や言葉をどう世界と結びつけて行くか、ということを最近考えることが多いです。こういった感覚を持っているランナー(またはビール呑み)が集まっているのが #tap2tap だと思っています。
P : いいCollective(集まり)ですね。ビールでほろ酔いですが、本気でそう思います(笑)。
T : ほろ酔い、大事です(笑)。素面でもほろ酔いでも同じことを言えるのが大事ですから!
3つのキーワード
P : #tap2tapをいくつかのキーワードで表すと?
T :#tap2tapのランナーは、①シリアスに走ります。スピードや距離をレベルアップして、新しいレベルで見られる風景が好きなんだと思います。それから、②いい人で、人のことを考えられる、ということは大切なことだと思います。自由にランニングをしていますが、それはお互いのスタイルを尊敬することにもなりますし、自分のスタイルに責任を持つことにもなります。ストイックで自由にランニングした結果強くなっていくと、そのささやかな力を何かや誰かのために使いたくなります。その時に、いい人であればあるほど、力の使いどころがより良いことに向くと思います。あとは、何と言っても③かっこよさは大事です。スタイリッシュでかっこいい存在であるということは誰かが憧れてくれたり誰かの目標にもなり得ることだと思います。親から見てもあいつ元気で安心するな、と思ってくれると良いですし、自分より若い世代や子供達がみてああいう風になりたいと思ってくれるといいですよね。私たちも先輩や仲間からインスパイアされてきたので。かっこよさは間違えるとおこがましい話になってしまうのですが、そうではなくて、他者の手前、謙虚になったり、大切なことだけにフォーカスするようになったりして、どんどんシンプルになっていくということだと思います。60歳でUTMB®の100マイルを優勝したイタリアのマルコ・オルモなんて全然喋らない寡黙な人だそうですが、眼差しだけでかっこいいですし。別のスポーツですと、私たちはサッカーも大好きなのですが(元サッカー部が多い)、三浦カズ、と聞いた時に、彼がペラペラ話していたり例えばパーティーに出席している姿よりも、フィールドで黙々とボールを追いかける姿が浮かぶでしょう?つまりはそういうことだと思います。
P: ストイックでかっこいい人はたくさんいますね。自然とあるスタイルになっていく。皆さんは、今後の具体的な活動とか、やって見たいこと、考えていることはありますか?
”小さな言葉”
T : やってみたいことはたくさんあるのですが、それを包括するような話をまずはさせてください。東京大学医学研究科に熊谷先生という方がいらして、著作を拝読してとても尊敬しているのですが、彼があるカンファレンスで、スポーツの競技的な部分は手段であって、スポーツの本質はレクリエーションにあるんじゃないかというようなことをお話しされたそうなんです。記録を目安に強くなるという競技的なことに加えて、その強さ — — あるいは弱さかもしれません — -をどう周りの人と連携し、共有していくのか、それがいかにその人やみんなにとって良い経験になるのかという競技を超えたところにある何か、ということがスポーツだと思っていて、そういう文脈でやりたいことがいくつかあります。一つはもちろんたくさんのレースに出て新たな風景を見てみたい、それによって色んな人をそういう感覚を分かち合いたい、ということもありますが、もう少し具体的なことで言えば、例えばそのときに着ているものや、補給するものについても、それが私たちにとってGood-Naturedなものなのかというのはとても大きな要素になると思います。
例えば、大自然の中を走って、精神的にはとても良い経験をして、フィジカルもレベルアップしたとしても、着ているTシャツが環境への負荷も高い製品だったらどうでしょう。シーズンごとにどんどん変わって行くものを着ていたとして、それは経済力があれば入手することはできますが、そのアイテムが手に入るまでのサイクルが、輸送コストや排気ガスなどなどを含めてとても本来なら不要なコストがかかっているものだとして、それが快適な素材だったからレースでいい記録が出たとしてもそれはHolistic(全体的)でGood-Naturedな意味で、本当にいいランニング経験と言えるのかというと、どう言っていいのかわからなくなります。何か別の方法で大切に作られ、運ばれて、長く着られていくほうがいいですよね — — 実現するには困難があることも承知の上で、でも、こういう小さなこだわりは大切だと思っています。これも、尊敬する先輩ランナーの言葉から教わったことですが、100マイルは1マイルの積み重ね、というコンセプトがあります。つまりどんな小さなことでも大切にして、それが積み重なって行くとより大きなことになるという考えかたがあります。私たち #tap2tap も何かの役に立てるといいと思っていますが、派手で、時にノイジーにすら聞こえるような大きなマスになりたいわけではないのです。心技体のあらゆる面で、仲間や環境にとって良いことを一つずつやっていくという小さなCollectiveとしてのこだわりが必要だと思っています。
だから、なんのために走っていて、”小さなこと”をどんな風に”小さな言葉で”語り、どうやってそんなことを重ねて行くのか、ということにより意識的であるべきだと思うのです。そういった意味で、走ることは長い道のりを通じてソサエティーや環境に繋がっていく総合的な営みだと思っています。ファニーでジョークがあって、ニヤっとできるようなトーンでやりますけどね(笑)。
P : なるほど(笑)。”小さなこと”の計画をぜひこれから(*註:連載第2回でカバーされる)聞かせてください。その前に、今度は違うビールをいただいても良いですか?
T : もちろんです — — — — —

<続く>
*連載第2回予定:”小さなプロダクト”計画”、#tap2tap のレース予定、その他
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Article Created by Kiyoyo@tap2tap, Trail Runner & Gooner in Tokyo/Yokohama/Kyoto
Contact : [email protected]
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