Text
oublie pas
今はまだ忘れたくないから書いておく。
2019年の学会で、信じられないほどかっこいい人がいた。端正な顔立ちと、遠目からでもわかるスマートな立ち居振る舞い。大学の外のベンチで先輩としゃべっていた私の横で、その男性は華やかに見える女性を2~3人連れていた。ああ、確かにモテるだろうな。いったいどんな研究をしているのかしら、でももう、会うこともないのだろう、アカデミアと言う狭い世界においても、こんなに素敵な人がいるのだなと感心していた。
そして今年の4月、研究室でお昼ご飯を作っていると、仲良くさせてもらっている研究員さんが急に部屋に入って来て「今から映画見るからおいでよ」と言われた。
映画は大好き、だから絶対に見る。でも今、ちょうど今ご飯ができちゃったから、それを食べてからでもいい?
と研究員さんに聞いたら「もちろん。いつでも来な」と言うことだったので、映画を上映する教室を聞いて、そのまま少し遅れて教室に向かった。
映画の舞台は私の調査地と近い国だ、と研究員さんは言っていた。ふぅん、そんな映画があるんだ。確かにあそこは外国人観光客も多いしな、とか思いながら教室の扉を開けた。
真っ暗な教室。降ろされたプロジェクターには、見慣れた強い太陽光の国の景色が映されている。けれど、スピーカーから聞こえる言語は聞きなじんだフランス語や、私の調査地で話される言語ではない。ポルトガル語だ。
プロジェクターの真ん前には3人の人影が見える。恐らく、この映画をした制作した人なのだろう。そして後方の席には、同じ研究科の先生や生徒、研究員さんたちがいた。私もできるだけ音を立てないように椅子を引き、席に座る。
寂しい寂しい、ある男性のお話。そしてそれを撮影する、2019年の学会で見た彼の姿。
ハッとなった。ああ、あなたは今、映画を作っているんですね。そしてあなたの作る映画はこんなにも分かり合えない「私たち」をそのまま描く、せつなくて、残酷で、そしてどうしようもない愛にあふれている。
結局この映画鑑賞会の目的は、彼が作った映画を色んなコンペティションに出す際の倫理的な問題がないかのチェックだった。確かに、実験映画的で、日本の倫理的には見せられない箇所もたくさんあった。でもそこが素晴らしかった。
そして彼が、映画の説明をしていく中で主人公の男性のことを「あぁ、こいつはめっちゃ寂しいやつなんやなぁって。俺と一緒やんて思ったんすわ」と言った。もうそれがすべてだった。通奏低音的にあの映画に響いていた感情はまさに主人公と映画監督である彼の寂しさの共鳴で、それが私にとって優しかった。
私は次に予定があったので、その日はそのまま感想と私の自己紹介だけして解散をした。
そして2019年の時と同じように、もう会えないのだろうなと思っていた。
そしたら、5月の学会の懇親会に急に彼が現れた。もちろん同じ大陸を研究しているから、この学会に来るかもしれないと期待していた。それに私は運営実行委員会だったもんだから、参加者の名前はある程度把握していたけれど、そこにも彼の名前はなかった。先輩も、「あの人は学会に来る人じゃない」と言っていた。
だから全く期待なんてしていなかったのに、ふと会場を見たらあの男性がいる!ということで、私は後輩を連れて遠くから「あの人私のめっちゃタイプで本当に格好いい」と女子高生みたいにキャッキャしていた。
そして実行委員だから、懇親会の後片付けをしていた時にたまたま懇親会に参加していた研究員さんと会話をする流れになって、その時にまた「あの人かっこいいですよね」なんて話をした。するとその研究員さんは私が気になっている男性と仲良しで、彼の元まで走ってくれて、私をまた紹介してくれた。
「この子、アートの研究してるの、仲良くしてあげてよ」
「知ってますよ。前映画見に来てくれた子でしょ?」
私のことを覚えてくれていたことだけでもう嬉しくて、結局その時も大した会話ができなかった。そしたら懇親会の後の二次会にも彼がいた。なのに私はビビりだし、翌日学会発表だったから二次会も最後までいれずに帰宅したのだった。
そして今月の頭になる。学会で彼の元まで走ってくれた研究員さんが、彼と飲むと言う。「だからおいでよ。好きなんでしょ?彼のこと」「え、そんな、無理。顔見るのも恥ずかしいのに」「何言ってんだよ。来るの?」「行きます」
ということで、あれよあれよという間に三度目、彼と会うことになった。その時は研究員さんと彼と、彼の友人と私の四人。それでワインを少し飲んで、別のお店でアペロをしてすぐに解散した。でもその時に、彼が「ゲスト講師として俺の授業に来てくれないか」と言ってくれた。もう、二つ返事で快諾して、そして二週間後のつい先週、授業をしてきた。もう怒涛の数週間だった。あこがれの人との再会から、そのままこうして教壇に立たせてもらい、そして朝まで飲んだ。
彼の生い立ちやロマンスの話を聞く。あの映画ができた背景が少しずつ見えてくる。孤独でストイックな人。そして少し難しそうだと思った。彼に対して一方的な尊敬がある。いつ恋心に発展してもおかしくない。もうなっているかもしれない。でも、そうはしない。あの人の心の闇は、今の私では掬いきれないし掬いたいともおもわない。ただ、彼の美貌はもう誰が見ても明らかなので、それだけ拝みつつもうしばらく、つまり私が研究者として独り立ちできるまでは、このまま先輩後輩の関係を維持しておこうと思う。その前に彼が安定した恋愛関係を誰かと結ぶかもしれない。それは仕方ない。彼と付き合いたいとも、付き合えるとも思えない。ただ、まじでお顔が…お顔が本当にきれいだから、また来月、そして再来月とお酒を飲ませていただけると嬉しい。正直、彼の今の男女関係はそこに入り込みたいと思えないし、なんかいろいろメンヘラの匂いがするから、彼が本当にそこから脱却して、その時に私がもう少しましな研究者になっていたら私も彼に挑戦するかもしれない。でもなんか、普通に、対等に、戦友として酒を飲むと言う関係性もそれはそれで格好いいなと思う。彼の隣に立てる女になりたいな。それは恋人とかでなくてもいいから。
とはいえ、また飲んだ暁にはここに書くと思います。もっと裸になってほしい。あの時、私があえて聞かなかった質問の答えを彼の方から話してくれることを待っている。話したいと思ってもらえる女(研究者)になる。
2025年6月23日
0 notes
Photo

I am the night! I am Pep-pep! https://www.instagram.com/p/Bv1Ui1ol-3K/?utm_source=ig_tumblr_share&igshid=fi6kqsg47490
408 notes
·
View notes
Text
“『オレは勝つために自分から苦しまなくちゃならないと思い込んでいたんだ』『でも、それは苦しんだ代償として勝たせてほ��いという甘えた考えだ』”
— マンガの中の名言『帯をギュッとね!』【斉藤浩司の言葉】 | じょにぺでぃあ
619 notes
·
View notes
Text
“仏陀の言葉にすら依存しない 君が川を渡るためにイカダを作って、川を渡った後でこう考えたとしてみよう 「このイカダはとても役に立ったから捨てずに背負って歩いてゆこう」と そんなお荷物を抱え込んでてしまっては、重くてまともに歩けはしなくなる それが君の業績・学歴・職歴であれ、このイカダと同じ事 私の言葉も教えも真理すらもまた、このイカダのようなものにすぎないのだから 君が私の教えを使い終わったのなら、惜しむ事無く捨て去るように”
— 仏陀の言葉 自由になる② (重要:breaking news)|火の鳥 sayhellotoeverybody.tumblr.com (via sayhellotoeverybody)
5K notes
·
View notes
Text
“脳は「できる」と確信する(仮説を立てる)と、その「確信」の論理的な後ろ盾を与えるべく認知情報処理系がフル活動をする。そのため「できる」と確信したことは必ずできるようになる。逆に「できない」と確信してしまうと、脳は「できない」ことの論理的理由を明らかにするように働き、できる可能性をどんどん縮小する方向に働く。”
—
【読書メモ】松本 元「愛は脳を活性化する」 | ひらっちのWEB (via trss)
そう。脳みそなんてバカなもんで、『自信がない』とか『自分はブサイク』とか『お金がない』とか言ったり思ってたり認めてたりしてると、思考が変わり、発言が変わり、言動が変わり、付き合う人間が変わり、生活が変わり、人生も変わるわけですよ。
うまいこと自分と付き合ってください。俺。
(via vampirejohnnysun1018)
5K notes
·
View notes
Text



During Bogo Ja, a festival that celebrates the traditional painting of mud homes, led by the women of the Mandé village in Siby, Mali
Photographed by Kourtney Wessels
900 notes
·
View notes
Text
彼氏と喧嘩ばっかで辛い。でもこれは私の理解不足でもあるんだろうな。はぁ〜。別れたくないけどそれは、自分が不用意に傷つきたくないだけ…。はぁ。
0 notes
Photo
Parisian building, 1960s. Photographed by Édouard Boubat.
6K notes
·
View notes
Photo
Léon Bonnat (1833-1922) “Le Barbier nègre à Suez” (“The Negro Barber in Suez”) (1876)
Suez is a seaport city in north-eastern Egypt.
5K notes
·
View notes