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44 posts
都内を中心に活動中の3ピースバンド We are three-piece rock band in Tokyo,Japan.
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yukue3-blog · 6 years ago
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# さよなら、2018年
こんにちは。
yukueは無事2018年を終えました。
今年は遠距離バンドになって、ライブの本数も減るなど、なかなかうまくいかないこともありましたが、それでも新幹線や夜行バスに乗って、遠くまでライブを観に来てくれる人がいたり、遠方から通販で音源を買ってくれる人がいたり、思い出した頃にSNSなどで僕らのことを知ってくれる人がいたりなど…… (僕の自己評価的には)決して少なくはない人たちに支えられていることを実感できた年でもありました。 本当にありがとう。 感謝しています。
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(以下、個人的な話)
思い返してみると失ったものの多い年だった。 安寧というのは、いつの間にか手をすり抜けるようにすっと去っていくのだ。そして、悪いことはバランスも何も関係なく続くときがある。 抗う気持ちも奪い取るように。
色んなことをやろうと思って、うまくいったり、いかなかったり、一周回って元の場所に戻ってきた、なんてこともあった。 失うことを恐れ、多くを望むまいと思っていても。 気づけば望んでいる自分がいるし、それで何が悪いというのだろう?
A BOUT DE SOUFFLE
勝手にしやがれだ。
結局、何事もを統べ、うまい方向に回していけるような、都合のいいやり方なんてものはないのだろう。
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それでも思い出せることがある。
一月、素敵な人の隣で雪を見たこと。 四月、首都高のフロントガラス越しに見た夜明けの青。 八月、北の密かな森の中を彷徨ったこと。 十月、明け方延々と流れていたデイビスのSo What 十一月、あの人に少しだけ恩返しできたこと
悩んでいる時、「やめないでください」と言ってもらえたこと。 楽しみだと、好きだと言ってもらえたこと。
そして、いつだって眩しいスポットライトと鉄のようなギターの音の向こうには、ビールの空き瓶と小さな木漏れ日のような三人の場所が。
ここが自由になれる場所なんだ。 ここが好きなんだと。 少し遠ざかった今、心から思える。
そして、そんなエトセトラをふと瞼の裏に映した時、2018年という膨大な時間の中にも自分が確かにいたことを実感する。
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⭐︎
2018年は言葉を探す一年だった。 自分がいくつもの言葉に支えられていることがわかった。 いくつかの言葉を羨望し、いくつかの言葉を��水のように使い、いくつかの言葉を側溝に捨てていることも。
はじめて自分の書いたものを人に渡した。 それは飾りのない、荒削りなものだった。
自分にどんな言葉を扱えるのかを考えた。 彼に彼女にどんな言葉をかけられるのかを、自分がその言葉にふさわしい器なのかを考えた。
不器用なままで人と向き合いたいと思った。 傷つくことも増えた。 気付くこともたくさんあった。 完璧なコードを完璧なタイミングで鳴らすことはとても難しいのだ。
それでもいくつかの言葉を手に入れた。 与えてもらうことができた。 それらはしっかりと額にいれて胸の奥に飾っている。 そして、寒い夜にそれを少しだけ眺める。 酸化しないように気をつけながらそっと蓋を開ける。 膨大な時間という暗闇の中でそれは花火のように輝く。 いつだって、同じ熱で躍動してくれる。 それに触れた時、錆びた心臓にビートが還ってくる。 細胞があの時の状態に生まれ変わる。
これが幸せなのだろうか? 快感なのだろうか? 何かホルモンみたいなものが出ているのだろうか? わからない。
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⭐︎
目の前で何かが変わっていくのがわかった時、何もできない自分をようやく認めた。 収支が合わないなあと思うことも多い。
健やかに平熱で生きたい。 危うさなんていらない。 それが幸せってやつだろう? そう言われたら、きっと「ウンウンそうだな」と頷くだろう。
それでもきっと、 また何かをやりたくなるんだろうなあ。 今ある宝石でも十分なのに、懲りずにまた新しい光を探してしまうのだろうなあ。 そして、いくたびも焦燥を味わい、自分に憤怒するのだろう。
魔法は使えない。 自分の照らせる範囲というのも身に染みて分かるようになってきている。 大体がして、A BOUT DE SOUFFLE。勝手にしているのだから当たり前だ。
それでも欲を持ってしまう。 僕に言葉をくれた素晴らしいあの人のように、時間をくれたカッコいいあの人たちのように、居場所をくれた優しいアイツのように、僕も僕のままで、花火とは言わない、せめて、蛍の灯火のように、豆電球のように、消えかけた線香のように、一瞬でも誰かの胸のうちを照らせたら。 と。
やれてない��と、やり残したこと、至らないこと、たくさんある。
でも、 「悪くない年だったよね」 ひとまず自分に言葉をかけてあげよう。
あなたはどうだった?
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良いお年を。
来年もまた。
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yukue3-blog · 7 years ago
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ブックストアーの恋人
# 歳下の恋人
仕事あがりの火曜日、 池袋の居酒屋で待ち合わせた。
コートを脱ぐと、彼は手を伸ばし、それをハンガーにかけてくれた。 あかりさんの匂いがするね、と彼は笑った。 その無邪気な笑顔が彼の好きなところだった。
お通しが来て、 ジントニックとレモンサワーで乾杯。 彼も私もマニアックな音楽が好きだった。
イントロのアルペジオが、二番のBメロのコーラスワークが…… いくつかの合言葉が自ずと手を繋いでくれる感覚。 それが私たちを今日も引き合わせる。
ジントニックとレモンサワーで自転する私たち。 そこに群がるいくつかの惑星。 遠くに散りばめられた無数の星屑たち。
お酒が進むと、彼は熱を込めて語った。 自分がどんな価値観を持っているか、いかに他の人たちと違うか、どんな未来を築こうとしているか…… ときに繊細に、ときに乱暴に、彼は語った。
私はそれを聞く。 危うい彼の自転を見守るように。 不安定な重力に引きつけられたり、反発したりしながら、それを聞く。 諭したり、傷つけたりしないように気を付けて、それを聞く。
ラストオーダーはあっという間だった。 お財布からカードを取り出す。 仕事大変なのに今日はありがとう、彼は相変わらず無邪気に笑う。
人で溢れるサンシャイン通り。 右の肩口から少しだけ紅潮した彼の横顔を覗き込む。 その瞳には今日も海が映っていた。
彼は海にいるのだ。 まだ港からそう遠くない海に。
今日伝えようと思っていた大切な何かを口に出そうとして、やめた。 いつだって彼を傷つけられること。 それを私はコートのポケットの中の右手に握りしめる。
明日もお仕事頑張って。うん、かずくんもね。 改札を入ったところで私たちは別れた。 彼は五番線、私は四番線のホームに向かう。
対岸の彼がイヤホンを耳にして、音楽を聴いている。 少し疲れた人並みの中で彼を見つけるのは容易い。 そして、それぞれのホームにそれぞれの電車がやってくる。
私はコートのポケットから石を取り出す。 石は尖った光を放つ。 無垢で脆い魅惑的な光を。
その光を両手で包み込む。 電車は郊外へと駆けていく。 私は夜空に散りばめられた星屑の一つになる。
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yukue3-blog · 7 years ago
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いずれ春永に
# 綴られなかった恋
☆ 明け方の海に君はいた。 砂浜には描かれた絵が何枚も何枚も散らばっている。
「探したよ」 「まだ書いていたのね」 「その絵は?」 「手紙にして送るの。遠くの外国にね」 「そう、なんだ」 「やっぱり、わたしはこの場所で生きていくって決めたから」 ザラついた粒子が丸く柔らかい光を纏う。 空も波も砂浜も朝の色に変わっていく。
「あぁ。こうやって、ずっと笑っていられたらな。丘の上で芝生に寝転がって欠伸をしながら」 彼女は大きく伸びをして言った。
砂浜の絵たちは光を受けて、いくつもの輝きを放っている。 いつだったか確かにこの世界の片隅にあったこと。 断片的な光景がそこに閉じ込められている。 笑ったり、泣いたり、一枚一枚に違った手ざわりがある。 それは打ち上げられた誰かの思い出のようだった。
「春の海って大好き。人が少ないでしょう。みんな、夏になったら海に行こう、夏になれば海に行けるはず、だから夏までもう少し待とうって思ってるのよ。いずれ夏が来ることを知っているから。でもね、わたしは春の海に来るの。みんなが街で夏を待っている間の、この春の海が好きなの」 遥か遠くにサーフィンをする男たちが見える。 砂浜には彼女と僕だけしかいなかった。
「だけど、ここにいると季節をとても長く感じる。海は放っておかれたままだし。絵��描くのは楽しいけど、あなたと歩いている時の方がもっと楽しかった」 彼女はそう言って笑った。
「ありがとね」 それは古い映画のヘップバーンのような笑顔だった。
“Please understand……” “I’m not……”
「夏になったらまた来ようよ。長い夏休みがあるんだ」 「……ねえ、わたしに夏は来ないのよ」 「え?」 「わたしは春にだけ生きているの。夏になるとみんな忘れてしまう」 「君は……?」 「ねえ、思い出して。あなたは今、思い出しているの、言葉にしようとしているのよ」
その時、海の向こうから強い風が吹きつけて、砂浜の絵がいっせいに宙に舞った。思い出が花弁のように咲き乱れ、そして散っていく。 それは千切ってバラバラにしたはずの僕の春だった。
「六月だった。長く続いた梅雨の狭間で、窓の外に紫陽花の花が咲いていて、クローゼットにしまっていた長袖のシャツを無理矢理引き出した。そしたら、ボタンが解れてしまってね。それで、それからのことは何も思い出せないんだ」 君はそっと僕を抱きしめた。 炭酸水のような気泡が上がる。 君の思い出に包みこまれる。 記憶の栓が外れ、身体が君に溺れていく。
「恋人がいたんだ。アルバイト先で出会って、何度か話すうちに気が付いたら好きになっていた。二つ隣の駅に住んでいて、夜中によく自転車で彼女の家に遊びにいった。コンビニで缶チューハイとスナック菓子を買って、深夜のテレビを見たり、レンタルした映画を見たりして時間を食べた。酩酊したまま学校をサボっていろんなところに出かけた。お金はなかったから、二人でずっと散歩をしていた。彼女はいろんな事を知っていた。花の名前、風の行方、季節の在処。全部、彼女が教えてくれた。彼女といるとね、この世界の光の入り方が変わるんだ。どこまでも歩いて、街が次第に動いていくのを見ながら、僕は自分が変わっていっていることを感じた。君の言葉が僕の言葉になって、君���世界が僕の世界になっていった。あの頃の僕に本なんて必要なかった。頁はいつだってそこにあったから。全部が初めてだった。手を繋いだのも、キスをしたのも、抱きしめたのも。だから僕にはわからなかったんだ。彼女がいなくなった理由が。いつまでたってもわからなかった。どの頁を捲ればいいのかずっとずっとわからなかった。同じ日に君と歩いた道をもう一度歩いてみた。花も風も季節もそこにあった。でも、あの光だけがなかった。そのせいか、街はすっかり変わってしまっていて、僕だけが同じままに思えた。そのまま歩き続けていると、突然涙が止まらなくなった。自分がいる場所がどこなのかわからなくなった。変わらないといけない、でも進むことも戻ることもできない。街角はもう空っぽだった」
だから僕は本を読んだんだ。 空っぽの心に水を注ぐように、頁を捲っていった。 もっとたくさん言葉を抱えて、いつかもう一度君を描くために。
「でもね、やっぱりできそうにないよ。君はずいぶん遠くへ行ってしまったから」 「うん……」 炭酸の泡がスピードを上げ、淡い音を立てる。 飛沫が上がり、水面を揺らす。
「僕には海は作れなかった。余計なものが増えていったんだ。いや、余計なものを増やしてきたのかもしれない。僕に作れたのはせいぜい小さなプールだった。そこで僕は錯覚に溺れていたんだ。いや、そのフリをしていた。どんな言葉も君にはなれなかった。君の指先、君の声、君の睫毛、どれも言葉にすることはできなかった。僕にはきっと、その勇気がなかったんだ。君を言葉にする。君は特別だったから。何度もノートを開いては閉じてきた。模造品ばかりが生まれて、自分に嫌気がさして、そうしているうちに君がどこかへ行ってしまいそうな気持ちになった。それでもね、ありったけの言葉でようやくここまで来たんだ。ようやく、ここまで来た。でも、やっぱりまだ書けそうにないよ」 「いいの。こうして会いにきてくれたじゃない」 「僕はやはりひとりになるのかな?」 「ひとつだけ教えてあげる」 彼女はほとんど消えてしまいそうな輪郭で言った。
「春の海はね、春の空の色で出来ているのよ」 筆が止まる。 僕は大きく息を吸って吐き出す。 少しでも長く続く次の言葉を探している。
「それもカフカ?」 「わたしが考えた言葉」 もう、と言って君は笑った。
「あなたはこれから空を書くの。自由に。時間はいくらだってあるわ。沈んでいきそうになったら、芝生に寝転がって空を見るの。海は空の色でできている。空を泳ぐのよ。そこにいつだってわたしはいる。だから、書き続けてね。新しいインクで。夏が来ても、秋が来ても、必ず書いて。会えなくなったとしても、どこかであなたが書いたように生きているから」
“Two drifters, off to see the world” “There's such a lot of world to see” 誰かのラジオから音楽が流れている。
「君はその、綺麗だね。とても……」 独り言のように呟いた。 春永の瓶はもう空っぽで、君はもうそこにいない。 空を見る。 わたしは特別なのよ、と笑う声が聞こえた気がした。
(完)
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yukue & you,any  “いずれ春永に"release tour
10/6(土)吉祥寺WARP
10月27日(土)京都GROWLY
チケット予約 https://yukuemusic.wixsite.com/yukue/works-1
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yukue3-blog · 7 years ago
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いずれ春永に
# 綴られなかった恋
☆ 道の両脇に植えられた菩提樹の葉が空を覆い、隙間から落ちた光がまるで水面を泳ぐ魚のように地面を揺らす。木々の騒めきの中でドビュッシーの『アラベスク第一番』が流れている。 記憶が言葉となって、また記憶を作り出していく。
僕は歩いている、君に会うために。 菩提樹のトンネルを抜けると、そこにはレインツリーの丘が見える。
「やあ」 「もう来ないんじゃなかったの?」 「そうだったっけ」 「いい? 頭の悪い人間ほど逃げることを知らないのよ」 「それもカフカ?」 「もう!」 「ねえ、ちょっと外に出てみないかい?」 「ここも外じゃない」 「街に出よう」
僕たちは鎌倉の街を歩いた。 車窓に海を乗せた江ノ電に乗って長谷に行き、通りを歩いた。 大仏を見て、路地裏にある喫茶店でコーヒーとあんみつを頼んで、文学館に続くトンネルを抜けて、庭園で春の雪を探して、六地蔵へと311号を進んでいった。 君は色んな場所で絵を描いた。 葉書大の小さなメモパッドに鉛筆で。 それはまるで小説を書くようで、地図を作るかのようで、コマ撮りの映画を撮るようで。 そして、彼女の絵にはいつだって僕がいた。
『アラベスク第一番』が繰り返し流れている。 南側から駅を越え、小町通りを抜けていく。 いつしか、僕の左手は逸れないようにそっと彼女の右手を握っていた。 自転車のベルの音がする。車の排気ガスの匂いがする。通りは人で溢れている。 人、人、人。 頭の中に余計なことが増えていく。余計な絵が、余計な匂いが、余計な感情が。君の絵だけを見ていたい。余計なものを色や言葉で選別する。左手の確かな温もりだけを考える。どちらも僕にある言葉では足りない。
細い道の先にある洋食屋で夕飯を食べた。 少し早い時間だったせいか、店には僕ら以外誰もいなかった。
「思うの、みんな同じなんじゃないかって」 「余計な人たちのこと?」 「違う」 銀色のプレートに乗ったオムライスの卵を、君は上手に崩していく。
「私たちも。誰でも、例えば新聞片手に大きな欠伸をしてる中年サラリーマンも、一心不乱に携帯ゲームをしている冴えない大学生も、大声で昨日のテレビの話をしている女子中学生も、みんな、みんなこの痛みをどこかで抱えているんじゃないかって」 綺麗なままの色で時間が食べられていく。
「そうすると、自分だけが取り残された気になるの。お前は特別じゃないよって指を差されている気になる」 「少なくともこれは僕らだけの痛みだ」 「あなたもいずれ気付くわ。特別だったのははじめの出来事だけ。そこからはどんどん普通になっていく。特別で居続けることはできないの」 付け合わせの香草だけをプレートに残すと、君は小さな鞄からピルケースを取り出し、噛み砕くように錠剤を飲んだ。
「何の薬?」 「毒を消すための薬……」
紙に落ちた春永の色は少しづつ掠れていった。 帰る時間が近づいている。 江ノ電は夕景を時間を巻き戻す発条のように西へ走った。 余計なものが減っていく。
窓の向こうには相変わらず海があって、長い砂浜が見える。 遠い昔、季節の狭間で彼らや彼女らが駆け抜けた異邦の砂浜。 だが、もうその足跡はない。 波に攫われてしまった。
「ねえ、抱きしめて」 彼女は言った。
「ここから連れ出して」
(続く)
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yukue & you,any  “いずれ春永に"release tour
10/6(土)吉祥寺WARP
10月27日(土)京都GROWLY
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yukue3-blog · 7 years ago
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いずれ春永に
# 綴られなかった恋
☆ ノートに綴る言葉。 その向こうで水槽のグラスに青い絵具が落ちる。 揺らいだ風景。
大きなレインツリーの樹の下で君は絵を描いていた。 青い空、菜の花畑を蝶が舞っている。 その先にある小高い丘で僕は君の横に腰掛ける。
「悪は善のことを知っているが、善は悪のことを知らず」 筆を走らせながら彼女は言う。
「それは誰の言葉?」 「フランツ・カフカ」 芝生の上にビニールシートが広げられ、鉛筆や絵筆が散らばっている。
「あなたは知ってる?」 「わからないな」 「そう。それなら、わからないままの方が良いのかもしれない」 乾いた色の上に、またいくつもの筆致が置かれ、こうしているうちにも景色は塗り重ねられていく。
「でも、知りたいとは思っているんだ。だからこうして……」 彼女は大きな瞳で僕の目を覗き込み、右手の人差し指を唇の前で立てた。そして、伏し目がちにリュックサックから赤い水筒を取り出し、一口飲んだ。
「はじめはね、凄い勢いで世界が拓けていくの。ページを捲るのが楽しくて仕方がなくて、寝る間も惜しんで読み続ける。特急列車に乗っているみたいに自分がどんどん先に進んでいるのがわかる。気持ちがいいわ。どこまでもいける気になる。そして、進んだ分だけいろんなものを手にする。いろんなことが分かってくる。例えば、距離。どれくらい歩けば駅まで行けるか、どの列車に乗れば次の街へ行けるか、どんな言葉が正しくて、どんな言葉で傷つけることができるか、少しづつ分かってくる」 「素晴らしい、じゃないか」 彼女は首を振った。
「でもだんだんとね、気付きはじめるのよ。自分は変わっていないんだって。言葉も世界も。どれだけ言葉を覚えても、どれだけ色の名前を知っても、それはあなたを特別にはしてくれないわ。寧ろその逆。結局、どこに行っても自分は自分でしかないの。だったらそれでいいのに。みんな余計に光を探すの。もっと知りたくて、分かりたくて本をたくさん読む。読めば読むほどひとりになっていく。そして眠れなくなる」 「でも、それが進歩なんじゃないかな?」 「そうね、そうかもしれない。だけど、どの駅で降りても同じ建物があって、どの建物に入っても同じエレベーターがあって、どのエレベーターに乗っても同じ人がいる。それってとても寂しくない? 」 「うーん」 「これはね忠告よ。そして、わたしの親切心。あなたはここにいない方がいい。そのまま何も考えずに生きていく方がいいわ。あなたを愛してくれる人を愛しなさい。そのままで十分素敵じゃない」 「僕は知りたいんだ。もっと、もっとわかりたいんだ」 「そう」
(続く)
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yukue & you,any  “いずれ春永に"release tour
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yukue3-blog · 7 years ago
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夢で逢えたら
# SEP.06 お昼の放送
「お待たせいたしましたー、Aセットご飯大盛りです。にしても、やばくない? 今年。ほんとっすね。新千歳もまだ全然ダメなんでしょ、今日には復旧させるって言ってたけど。電気止まってるっすからねー。見て見てー。ヤバっ。でしょー、インスタにあげてたやつ。てか、あれらしいよ。かなこのインスタ見た? 彼氏とミャンマー行ってんの。まじで? ミャンマーって、なんで? 彼氏、バックパッカーやってんだって。夏休みとか。で、なんか一週間くらい、ついてったらしいよ。ミャンマーかあー。かがみ君はさ、どう今の仕事? 慣れた? そうですね。自分は残業とかも少ないですし、夏休みも取れたんで。誕生日だったんでしょ? 先週? そうなんですよ。 祝ってくれる人はいるのかな? 今、彼女はいなくて。でも、同期が金曜に祝ってくれました。あと土日に実家行くんで、その時に。なんか、水力の方は大丈夫らしくて、水力で作った電気を火力に持っててるらしいよ。そうなんすか。日本はあれかもね、やっぱ原発とか向かないのかもね。小学校の時の工作で作った発電キットでケータイの充電してるってツイッターで流れてました。今の子らってそういうのやんのね、授業で。なつは彼氏とどうなん? なんかー急に就活頑張りだして、この夏は微妙ぅ。まじかー、四年だとそうかー。なんか、内定あんだけど、まだやりたいんだってさ。うちらも二年後はリクスー着ないとかー。夏、暑そうじゃね? うち、めっちゃ汗っかきだからなぁ。代謝良いんだよー。うちの娘なんかさ、彼氏と海外行っちゃって。俺同じなんだよ誕生日。すごいっすね。絶対忘れないじゃないすか。なのに旅行なんか行っちゃうから。うちのもいっつも手の込んだもの作るんだけど、今回はいつもとあんま変わらんの。奥さんとふたりの誕生���もいいじゃないですか。メシ食って、ケーキ食っておしまいよ。あっ来た来た。でもほんとさ、考えちゃうよな。子供とか。絶対地震くるじゃん。そうっすねー。東北きて、熊本あって、台風来て、あと残ってんの名古屋と東京だけ。〆は南海トラフかよ。それ来たらホント、コンプリートっすね。勘弁してくれよなぁ。あっ、ご飯おかわり。そういえばー、これ見て。何これやばくない? メッチャばえるっしょ。しかも、ここのって以外とカロリーとか低くて、ヘルシーなんだって。へぇー、どこどこ? 池袋。サンシャインの近く。まじか、今度行こうよ。だね。かなこも呼ぶ? だね。てか、あいついつ帰ってくんだろ……? ここのは鶏が美味いんだよ。そうなんすね。うわぁ、南蛮すごいっすね。ここ来るといっつもこれ。メシお代わりできるからいっぱい食えよ。ありがとうございます。昔はキャベツもお代わりできたんだけど、野菜高くなってからなくなっちゃったんだよね。あ、お姉ちゃん、一味ちょうだい。朝、会社どうだった? どうだったっていうと? 盛り上がってた? いや、否ですね。嫌ですって? あ、いやいや、否です。否。盛り上がってなかったっす。あぁ、うちの方さ、しんどうさんっていたろ?喫煙所によくいた。はいはい、無駄に高いジッポ使ってる人。あの人ちょうど北海道行ってて、今朝、帰れないって連絡きたらしいんよ。マジすかー。そんで、とりあえず向こうの営業所で色々手伝ってるらしいんだけど、今週あの人の顧客のアポ入ってて、なんかトラブってるぽいのよ。えー。帰ってこないと、俺対応させられそうでさぁ。ふざけんなよなー。ホント、あの人いつ帰ってくんのかな……? ごちそうさまでした。いいの、いいの。かがみ君も頑張ってくれてるし、また頼むよ。はい。うちのやつの彼氏もさ、かがみ君と同じくらいなんだよ。そうなんですか。娘の三つ歳上らしくて。九四年生まれですか? そうそう。実は自分九五年なんすよ。早生まれで。そうなの? 君みたいにきちんとしてるといいんだけどね。いやいや、自分なんて全然っすよ。なんか色々とやりたいことがあるみたいでさ。娘もそれにくっついていってんのよ。そうなんですねー。あぁ、あいついつ帰ってくんのかな……?」
みんな待っている人のもとへ帰れるように。
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yukue3-blog · 7 years ago
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いずれ春永に
# 綴られなかった恋
花揺れる春。 それは初��だった。 菜の花畑の黄色の向こうに、ベージュのベレー帽を被って君はいた。
☆ 十九の春休み、仕事で外国に行く叔父に頼まれて、ひと月だけ鎌倉にある叔父の家の留守番をした。 七里ヶ浜の海から歩いてすぐの場所だった。 立派なガレージには古いマセラティが停めてあって、週に一度だけエンジンをかけてくれれば、書斎の大きなアナログプレーヤーも、棚に並んだウイスキーも好きにしてくれていいと叔父は言った。 静かな場所だった。 夜になると防砂林の向こうから海の音が聞こえた。
初めのうちは僕も家の方も、慣れない相手にどこか様子を伺いながら生活をしていたが、それも一週間が過ぎると気を許し合うようになった。 早起きして、海岸まで抜ける細い道を散歩した。踏切のない線路をまたぐ。サーフィンの板を持った男たちが海へ出ていく。部活動に向かう高校生を乗せて江ノ電が目の前を通り過ぎて行く。 牛乳と新聞を取って、洗濯機を回し、パンを切ってジャムを塗り、サラダと炒り卵を作る。朝食を片付けると、二階に上がってバルコニーに洗濯物を干し、それから日が暮れるまで庭先に向けられたロッキングチェアに揺られて本を読んだ。書棚には文学全集が所狭しと並べられていて、本は尽きることがなかった。 日が暮れる頃に洗濯物を畳んで夕食の準備を始める。叔父はひとり暮らしだったが、外国製の大きな冷蔵庫には何を作るにも困らないほどたくさんの食材が保存されていた。冷凍保存されていたひき肉を使ってロールキャベツを作ったり、牛フィレ肉を煮込んでビーフシチューを作ったり、食べる物に困ることはなかった。そして、夕食を終えるとシャワーを浴びて、書斎に入り、ウイスキーを開け、古いレコードを楽しんだ。 燻んだ古木の香りと真空管の丸い熱が漂う夜。ジム・ホールのアルペジオのようなスピードで時間は進んでいた。下着を畳んだり、食器を拭いたり、生活は地続きに伸びていた。でもそれは、十九歳の僕には価値を測ることもできなくらい素晴らしいものだったのだろう。
あの日もそんな風に一日を終えようとしていた。 その夜、僕は黒いボトルのグレンモーレンジィを飲みながら、マル・ウォルドロンの『レフト・アローン』を聴いていた。 グレンモーレンジィの濃厚なブラウニーのような後味が頭の中に薄い膜をはり、白夜を過ぎた遠い国の真夜中の街角にいるような浮遊感が部屋を包み込んでいく。 ピアノもサックスも昔のことをそっと語り合うように音を鳴らしていた。何かを確かめ合いながら、でも核心をつくことは避けながら、演奏は流れていく。どちらも口下手なようで、言葉の数より酒で喉を湿らす回数の方が多いように感じた。 二曲目からバンドはトリオ編成になる。サックスが去り、ピアノの独り言にベースとドラムが手を貸す。 独り言は続いていく。 何かを確かめながら、核心をつくことは避けながら。
万年筆とインクを見つけたのは、『ユー・ドント・ノウ・ホワット・ラブ・イズ』のメランコリックな演奏が終わり、B面に針を落とそうと立ち上がった時だった。 机の隅に置かれた「春永」と書かれたインク瓶、随分と年季の入った万年筆。中身を確認し、インクを吸入して、ノートに筆を下ろす。それは釉薬のようなグレーに薄い桜の花びらのピンクを透過させたような色をしていた。
(続く)
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yukue & you,any  "いずれ春永に"release tour 
10/6(土)吉祥寺WARP 
10月27日(土)京都GROWLY
チケット予約 https://yukuemusic.wixsite.com/yukue/works-1 
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yukue3-blog · 7 years ago
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無題
# ep1
中央線のホームに立っていた。 踏切の音が止み、静かな夜。
美味くもない酒を飲んで、 塩っからい揚げ物を食べて、 遠回しに誰かの悪口を言って、 グラスをおかわりをして、 誰かにもきっと同じように言われてると思って、 草臥れていく。
最終列車は人々を吐き出し西へと去った。 テールライトの光輪が長いカーブに吸い込まれて、 もう見えなくなる。
背筋を伸ばそうとして、 ぎこちなくなって、 綺麗な言葉を選ぼうとして、 余計にぎこちなくなって、 本を読んでわかったふりして、 映画を観て何か掴んだ気になって、 結局変わらない週末。
夜風が線路を伸びていく。 日曜の夜が感傷を攫っていく。
何度も言い聞かせてきたはずだった。 もう大人になれよって。 そして、少しづつ慣れてきたはずだった。 衝動が枯れていくことに。 季節が磨り減っていくことに。 気怠さを飲み込んで生きていくことに。
改札を出る人たち。 みんなそれぞれの帰路に着く。 そしてホームにはもう誰もいない。
だけど、まだ戻りたくなかった。
上手に笑えなくても 器用に振る舞えなくても 格好良くなれなくても ホントのことを言えなくても
まだこんなにも足掻いている
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yukue3-blog · 7 years ago
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夢で逢えたら
# MAY.18 ニュータウン
自転車で駆けていた 大きなカーブ 等間隔にミラーが並び 緩い下り坂は伸びていく
錆びた水色のフェンスの先に 新しい何かを建てるための広い更地が 少し放っておかれたのか 丈の長い草花が 繁る
そこはニュータウンのようで 外見の同じ建物が 続いていた 白い外壁に印字されたナンバー ベランダ、階段、駐輪場
ブレー���を握った そこはレンタルビデオ店だった 店の前のスペースにスタンドを立てた 郊外の小さなレンタルビデオ店 灰皿の横に自転車を停めた
店に入る 自動ドアが開く 隙間のない音で溢れる テレビに映像が流れている 新作のゲームソフトの
黴臭い 棚と棚の間を歩いた 映画を探していた タイトルはわからない ただ、ジャケットの絵はハッキリと覚えていた 手に取れれば 間違うことはない
目を大きく開いて 立ったりしゃがんだりを繰り返して いつしか棚は途切れていた 映画は店になかった いや、どこにもないのかもしれなかった 僕は来た道を戻った
ニュータウンの坂道を 自転車を押して登る おんなじ建物が続く ナンバーが若くなっていく
ベランダに黄色い花が 階段に青い風船が 駐輪場に赤いヘルメットが 錆びた水色のフェンスの先に夕陽が…
それが映画の風景だったのかもしれない
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yukue3-blog · 7 years ago
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いくつかの叙情的な散文
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# 知らない喫茶店
知らない喫茶店にいた
知らない椅子に座って 知らないテーブルの上にある 知らないプレートに乗った 知らないコーヒーと 知らないサンドイッチを前に
知らない天井には 知らない照明が 知らない灯りを 知らない時間帯の 知らない床に向けている
知らない壁には 知らないドアーと 知らない窓があって 知らない風景が 知らない空の下に広がっている
知らないカウンターの向こう 知らないレコードに針が落とされ 知らないスピーカーから 知らない演奏家の 知らない音楽が流れる
知らない時間から 知らない女の子が座っていて 知らない作家の 知らない本を 知らない眼差しで読みふけている
知っている…? 知らない喫茶店のこと
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yukue3-blog · 7 years ago
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サーティーワン
# かまくら
「自転車で周ってみるのも良いよね」とサドルに跨るここは鎌倉
「さぁ行こう」漕ぎ出す君の髪の上 帽子を乗せて準備完了
早朝の波乗り終えたサーファーとすれ違う道 134号
海と山 あおとみどりの鬩ぎ合い その中道を駆ける自転車
長谷寺の紫陽花一目見たいけど 「どうする?」二時間待ちの行列
「ブラックで」「わたしはロイヤルミルクティー」ひと息つこう日はまだ長い
路地裏の小さなお店で一目惚れ “スツール” 車で来ればよかった
「また来よう」稲村ガ崎の生しらす丼を抱えて満面の笑み
疲れたが もう食べれないどうしよう?何処で休もう?七里ヶ浜駅
格好はあんまりつけたくないけれど どうしようもないこのサンセット
未来への不安も今は何処へやら波打ち際で燥ぐ夕暮れ
朝日浴び輝いていた自転車も 車庫に帰りて家族と眠らむ
江ノ電の線路に沿って歩く道 何処まで続く? 黄昏の春
「京都にも奈良にもいつか行きたいね」「いいね」と笑った鎌倉の夜
今程になりて愛しさ増してくる君と写りし若き日の写メ
君失くし 空にも陽にも心にも同じ日ないこと今更気付く
三年の月日をかけて推し量る 君のスピード僕のスピード
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yukue3-blog · 7 years ago
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the new color
# しろ
午前2時55分 携帯電話の真っ白な画面はいつだってその時刻を表示していた。
午前2時55分 ここのところ、毎晩この時間に目が覚める。 不思議な夢に頭をかき混ぜられて、急いで現在の自分を確かめて、その隙間を縫い合わせる微睡みを漂ううちに夜が明けていく。
知らない絵の青い雨 点滅する赤信号 ガーベラの緑の蕾 夢の断片はカラフルで、でもいつも何かが欠けていて…
午前2時55分 決まってこの時間。 行ったり来たりを繰り返す夢。 その終着点はいつもどこか違っている。
わたしは何を手に入れたんだろう? わたしは何を失っているんだろう?
午前2時56分 夜中に降り出した雪は、朝にはきっと積もっているのだろう。しんと静まり返った部屋を冷気が満たしていく。
ベッドの脇に置いた小さな白いテーブル。 雑貨屋で一目惚れした綺麗な白。 あんなに輝いていたその白も、コーヒーカップや雑誌やテレビのリモコンやカレンダーや万年筆や手帳や小さなお財布やお酒の瓶やDVDやラジオや花やカメラや絵筆や…たくさんの物を置いて、たくさんの物を取り除いて、塵が積もって、いつしか色褪せていった。
午前2時57分 「街灯がいっせいに点く時間を知ってる?」
突然。 昔、好きだった人の言葉を思い出した。 何故だかとても鮮明に。
「これから何かが始まっていくような、ようやく何かを終えることができたような、まっさらな白い光なんだ」
午前2時58分 今、わたしのいる夜はどんな夜なのだろう? そんなことを思った。 そして、無性に確かめてみたくなった。 瞼を擦り、ベッドから起き上がる。 こんなことは初めてだった。 捲ったタオルケットの隙間から冷気は容赦なくわたしの体温を奪っていく。 寒さに抗いながら、わたしは窓に近づき、カーテンを開けた。
午前2時59分 外はもう真っ白だった。
“これから何かが始まっていくような、ようやく何かを終えることができたような、まっさらな白い光なんだ…”
「・・・」
「・・・」
「・・・」
午前2時59分 雪は降り続いた。 キャンパスに白い絵の具を足していくのではなく、彩られたキャンパスをもう一度白く塗りつぶしていくように。
雪は降り続いた。
午前3時00分 誰もいない街。 静かにリセットされていく夜。 まだ足跡のない路面を街灯が煌々と照らしていた。
午前3時01分 そこで記憶は途切れる…
-end
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続きはZINEで!
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yukue3-blog · 7 years ago
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# さよなら、2017年
こんばんわ。
今年もお疲れ様でした。
来年も良いお年を〜。
この時期になると毎回、最後の言葉をなんと言って締めようか迷うよね。
2017年みなさんどうでしたか?
yukueは、ミニアルバムをリリースしたり、初めて企画をやったり、念願のマスフェスに出演させていただいたり、いろいろありました。
個人的には悩むことも多い年だったのですが、その分、来年はもっと良い年になりそうです。
その気配がすでにしています。
よろしくお願いしますね。
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さて、いろんなことを振り返るのも年の瀬だからでしょうか?
まぁ、こんな時でないと進んできた足跡なんてまともに見れないよね。
2017年がもうすぐ終わります。
終わるということは始まっていたんですね。
ちょうど一年前くらいに。
当たり前だけど。
そして、もうすぐ2018年が始まりますね。
始まるということはいつか終わりますね。
多分ちょうど一年後くらいに。
日々たくさんのことが始まったり終わったりしています。関係あったり、なかったり、驚いたり、驚かなかったりしながら。
日常は偉大で、なんでもかんでもベルトコンベアに乗せてどっかへ運んで行ってしまいます。
まち針をしっかり刺しておかないと、思い出はもう何処へやら…
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突然ですが、バンドの解散ってなんだか酷くアナログだと思いませんか?
遠くにいてもskypeで顔を見ながら話せるし、世界中のものがamazonで買えるし、見逃したテレビも聞き逃したラジオもインターネットで手にできるこのご時世なのに、解散したバンドのライブってもう見れないですよね。
僕の大好きなバンドの多くはもう終わってしまった。yukueもいつか終わるんでしょうか?
皆さん、チャールズ・リンドバーグのことを知っていますか?
1927年5月20日にスピリットオブセントルイス号に乗って、ニューヨークからパリまでの大西洋単独無着陸飛行に初めて成功したアメリカの飛行家です。
スピリットオブセントルイス号は、多量の燃料を積むために操縦席の前方に燃料タンクを設置したため、座席からは直接前方が見えなかったそうです。
この話を考えると僕はいつも思うんです。
僕らもそんな感じなんじゃないかな?って
理想の姿も、手にしたいものも、いつだってうまく見続けることはできない。
ただ積み込んだ燃料を可能な限り燃やし続ける。
そうやってまだ知らない何処かへ進んでいく。
もっと素晴らしいはずの自分を探して。
彼にとってのパリは、僕ら��とっての“終わり”なのでしょうか?
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ここまで読んでくれてありがとう。
僕らは来年も平常運転を予定しています。
週に一回練習して、シーズンに二回くらいライブして、うまくいけば音源も出して、企画もやりたいな。
相変わらずのらりくらりとマイペースにやっていきます。
個人的にはいろんなことを書いてみたいし、いろんなことを知ってみたい。
yukueの音楽が、僕の文章が少しでも君の時間を彩っていたら、本当に嬉しいし、救われます。
年の瀬にこんなもん読んでる君はなかなか良いセンスをしているよ。
2018年もそんな君の時間が少しでも良いものになるように。
ささやかながら願ってる。
ではまた来年!
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yukue3-blog · 8 years ago
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the new color
# march of deerと僕ら
こんばんは、今日は奈良での企画を共催する「march of deer」のことを少し。
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「march of deer」は奈良140万人の音楽ファンの期待を一手に引き受けるイベンター・きんたくんによるライブイベントです。
「鹿の行進」 まさに奈良ですね!
下のコンセプトを見ても分かる通り、 彼はこれまでもドープで強めなバンドをたくさん奈良に呼んでいる曲者です。
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過去の出演バンドの動画も是非! https://www.youtube.com/channel/UC1xGe9yn0jc_xbmpJYkjLEg
すごいでしょ!
正直、初対面の時はどんなイケメンパーティーピーポーが出てくるのかとドキドキしていたのですが、 、 、 、 、 、
当の本人���、いや、実に野暮ったい 本当に。
そんな彼はyukueを初めて関西に呼んでくれた仕掛人でもあり、「モテない版the cabs」という糸井重里ばりのキャッチコピーをyukueにつけた張本人でもあり、会う時は必ずロストエイジグッズを身に付けている本当に良い奴なんです。
そんな彼と僕らの出会いは、 2015年10月17日に開催された「sensou」というイベントでした。
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懐かしい! すごいメンツじゃないですか!?
この時は「針と糸」のせりちゃんとの共催で声をかけてもらったんですが、 いやー、yukue史に残る嬉しい出来事でした。
当時の僕らといえば、今以上に全然知られてなくて、 「yukue、はぁ、何それ?」 みたいな感じだったんですが、
そんな僕らがシコシコとアップしていた音源をいち早く発掘して、声をかけてくれたのが、せりちゃんであり、きんたくんだったんです。
その時のハッピーな気持ちを知ってもらうために、当時の彼らのブログを少し。
https://note.mu/sensou/n/n9ab488b3ceea?creator\_urlname=sensou
これ! 本当に嬉しかったなぁ。。 年の瀬に舞い上がってて申し訳ないですが、よかったら共感してください。
その後、これや
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これなど
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いずれも強力なイベントに声をかけていただき、 きんたくんとはなんだかんだ毎年会ってるyukueです。
そして、ついに今回共催という形で企画を組ませてもらえました! (拍手)
正直、関西での初企画はなかなかに不安だったんですが、 見事なまでの二つ返事で答えてくれ、感謝してもしきれないです。
彼はとても泥臭くて、でもこんな野暮ったい男がエモ・インディー界を支えているだなぁと思える、バンドへの愛に溢れている男です。 僕たちみたいに売れないで悩んでいるバンドマンは彼に話をしてみればきっと相談に乗ってくれると思います。 僕たちyukueももっと力をつけて、いつか彼の力になれたら嬉しい。
そんな彼に会いに是非奈良へ遊びにきてください。 今日は良い話のまま終わります。
それでは奈良で!
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さぁ!
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yukue3-blog · 8 years ago
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the new color
# もし、僕が奈良に行ったら
平成30年、1月20日に奈良でレコ発企画をやります。 タイトルは、“the  new color” (拍手!) バンドを始めて間もない頃から一緒にやって来た「March of Deer」との共催です。
2014年秋に活動を始めたyukue。 少しづつ僕らの音楽を一緒に楽しんでくれる人が増えて来た。 そんな人たちが本当に好きです。 そして、これから始まる新しい時間を、音楽を、言葉を 古都・奈良で2018年の幕開けとともに是非皆さんに体感してほしい。
さぁ一緒に奈良へ! (拍手!)
1.古都を彷徨う
奈良は、日本国の発祥とされる歴史的地名である。 『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』より抜粋 ※写真は『奈良県観光公式サイト』より
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奈良は古都とも呼ばれ、とても歴史のあるまちです。
世界遺産に指定されている数々の神社・仏閣はもちろん、静かに語りかけてくるような古い街並み、ひっそりと伝統を守り続けるお店、癒しのお茶屋さん、お菓子屋さん…など、喧騒を離れ、新たな年の始まりに自分と向き合うのにぴったりな場所です。 朝、いつもより早起きをして、少し厚着をして、お気に入りのマフラーを巻いて、ひとりで(もちろん二人でも)街の中を彷徨ってみませんか?
2.いざ、奈良へ
東京から奈良へのアクセスは大きく2つ。
⑴新幹線 新幹線の場合、東京駅から京都駅まで約2時間30分、京都駅から奈良市街まで約30分ほどの移動になります。 2017年に時間がなくて読めなかった本、2018年に読みたいと思った本をバッグに入れ、乗り込みましょう。お弁当を買うのを忘れずに。
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⑵夜行バス 夜行バスだと直通便があるみたいです。 新宿のバスタから奈良市街まで約7時間。 最近の長距離バスは快適なシートもあるみたいですね、トイレも完備されている車両が多くて安心。 夜に乗り込んで、目が覚めたら奈良。 朝から満喫できます���
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3.奈良に着いたら
さて、奈良に着いたらどうするか?? いくつかアイデアを!
⑴朝から満喫
夜行バスだと到着は朝7時ごろ。 こんな時間にどうしたらいいの? いや、こんな時間にしか見れないものを見に行ったらいいじゃない! ということで、暖かい珈琲を片手に早朝の奈良を感じながら「飛火野」へ。 ※重い荷物は駅のコインロッカーに預けましょう
【飛火野】 総面積約660ヘクタールという広大な公園。奈良市街の東方を占め、興福寺・東大寺・春日大社・国立博物館と一体となり、さらに若草山から春日山原始林まで取り込んで古都にふされしい広大な公園となっています。 『公益社団法人 奈良市観光協会』より
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早朝の草原と鹿。
こんな光景はここでしか見れないでしょう。 意味はないけど、記憶に残りそうな旅の幕開けです。 さぁ、静かな気持ちのまま、参道を春日大社へ。
【春日大社】 768年に創設された奈良県奈良市にある神社。全国に約1000社ある春日神社の総本社である。武甕槌命が白鹿に乗ってきたとされることから、鹿を神使とする。ユネスコの世界遺産に「古都奈良の文化財」の1つとして登録されている。 『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』より抜粋
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春日大社は6時30分からオープンしています(本殿拝観は8時30分から) ここまでゆっくり楽しめた人は8時30分まで待って参拝を。 お腹が空いた人は朝ごはんを食べに行きましょう。
【竃】 食堂 竈 Kamado の一番のご馳走は、炊き立てのごはんです。 伝統的なかまどに薪をくべて、いつも炊き立てのごはんをご用意しています。 薪の香りが漂うなかで、奈良産のお米をお腹いっぱい、お召し上がりください。 『竃ホームページ』より抜粋
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http://www.kuruminoki.co.jp/shikanofune/kamado/
かつてこんなに美味しそうな朝食があったでしょうか? 春日大社から少し歩きますが、是非奈良の朝を楽しんで!
他にも興福寺や大仏で有名な東大寺など奈良公園周辺には魅力的なスポットがたくさん。 志賀直哉旧邸といったマニアックな場所まであります。 時間と体力に余裕がある人は是非!
最後に映画監督・河瀬直美さんの奈良プロモーション動画を。 飛火野や春日大社の静謐な雰囲気が覗けます。 http://www.kasugataisha.or.jp/nara\_promotion/index.html
⑵市街地観光 寺社以外にも奈良の楽しいところはたくさん。 そのうちのいくつかを紹介します。
【ならまち】 奈良県奈良市の中心市街地南東部に位置する、歴史的町並みを有する地域。狭い街路に、江戸時代以降の町屋が数多く建ち並ぶ。 『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』より抜粋 ※写真は『ことりっぷホームページ』より
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http://www.naramachiinfo.jp/
過去にタイムスリップしたような街並みに、名所あり、お食事あり、お土産ありの一角。
【中西与三郎】 大正2年創業の老舗和菓子店。 奈良の手仕事で作られた伝統の和菓子が楽しめます。 ※写真は『中西与三郎ホームページ』より
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https://www.naramachi.jp/
【今西清兵衛商店】 日本酒発祥の地でもある奈良の老舗酒店。 春日大社の「春」と神の遣いである「鹿」から名付けらた「春鹿」は必飲の一杯! 店舗ではきき酒も出来るみたいです。 ※写真は『春鹿ホームページ』より
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http://www.harushika.com/
【THROAT RECORDS】 ジャパニーズエモ界の大スター「LOSTAGE」の五味岳久さんがやっているお店。 “ポケットの中で”のUnofficial Videoにも登場していましたね。 もはや説明不要! ここは行くっしょ!!
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http://throatrecords.tumblr.com/
LOSTAGE / ポケットの中で (Unofficial Video) https://www.youtube.com/watch?v=sR7U-MJmUpw
同じくLOSTAGEのギタリストでお兄さんの拓人さんがやっている、ダイニングバーの「korekara」も気になります! https://korekara-nara.tumblr.com/
【奈良ホテル】 1909年創業。「西の迎賓館」とも呼ばれる伝統のホテル。 アインシュタインやマーロン・ブランド、オードリー・ヘップバーンなども滞在した場所です。
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http://www.narahotel.co.jp/
1月20日は土曜日。 日曜日もゆっくりしたいという方は是非。 この機会に奈良を満喫してみては?
4.“the  new color”へ
ここまで駆け足で紹介してきましたが、 気力と体力は “the  new color”に残しておいてくださいね。 当日は新しい時代を彩るバンドが勢揃い。 楽しんでいただけるはずです。 会場は奈良Neverland。 近鉄奈良駅から一駅先の新大宮駅より徒歩5分。
2018年のスタートをみなさんと過ごせたら嬉しいです。
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奈良で会おう!
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yukue3-blog · 8 years ago
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the new color
# “ニュー・カラーとは”
 1960年代後半から1970年代初めにかけて、アメリカの新しい世代の写真家たちが、カラー写真で作品を発表しはじめた。  彼らの作品は「ニュー・カラー」と総称される。  当時カラー写真が芸術として認められていなかった背景には、色の再現性や保存の問題といったその技術的な限界だけではなく、モノクロ写真が芸術的でカラー写真はそうではないという根深い固定観念があった。しかし1976年にMoMA(ニューヨーク近代美術館)でエグルストンの写真展が開催され、同展はニュー・カラーをめぐる議論の礎となった。
 もちろん、それまでカラー写真が存在していなかったわけではない。カラー写真は20世紀初頭から存在していた。1907年にリュミエール兄弟が開発したオートクローム(初めて工業化されたカラー写真法。ジャガイモのデンプンをガラス版に塗布して使用)は、20世紀初頭に絵画主義(ピクトリアリズム)写真家たちの人気を博した。1935年にはコダクロームが、その数か月後にはアグフアカラー(世界初の多層発色内式反転フィルム)が発売された。だが、実際にカラー写真を用いる芸術家として初めて広く認められた写真家はエリオット・ポーターEliot Porter(1901―90)で、1946年イーストマン・コダック社によって導入されたダイ・トランスファー法(転染法。プリント上へ染料を転写する)を習得した。この技法は煩雑ではあるが、写真家が自在に色調や彩度をコントロールし、高品質な独自の色をつくり出せるという点で画期的なものだった。1950年代にはアマプロ問わず多くの写真家がカラー写真に取り組んだが、そのなかでも特筆すべき写真家にエルンスト・ハースErnst Haas(1921―86)がいる。ハースは1950年代初頭にカラー写真の制作を始め、反射やブレなどを用いた抽象的なイメージを作り出した。
 だが「ニュー・カラー」の写真家たちは、必ずしも従来のカラー写真に影響を受けて登場したのではなかった。彼らはむしろ、アンリ・カルチエ・ブレッソン、ウォーカー・エバンズ、ロバート・フランク、リー・フリードランダーといった、モノクロ写真によって自己表現としての写真を追求する先達に刺激を受けて登場したのであり、その点においてこそ彼らは新しいカラー写真(ニュー・カラー)を築いたといえる。  つまり、ニュー・カラーの写真家たちは、カラー写真という呪縛から初めて解放されたカラー世代の写真家なのである。したがって彼らの作品を、ただ単にカラーという側面から見るだけでは不十分である。むしろ前述の写真家たちや同時代のニュー・トポグラフィックスなどとの幅広い関係のなかで見ていくことが重要である。
『コトバンク』より抜粋
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意外と遠くないはず、奈良!
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yukue3-blog · 8 years ago
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検品作業(マティーニとギブソン)
こんばんわは。
今日は検品作業と銘打って、自分の書いたものに対して、ちょっとした批評をやってみます。
もちろん、どんな作品であれ、作り手の手から放たれたものをどう解釈し、どういった感想を持つかというのは完全に読み手の権利です。 第三者の感想や解釈なんか知らんわ、という方も多いはず。 僕もそうでした。
ただ、批評によって、よりその物語が好きになることもある。 それは例えば、美術館での音声ガイドのような役割でしょうか? その絵の作られた意味だったり、時代背景、作者のおかれていた状況などは、作品を知るに当たってとても大切な要素だと思います。 そして作者が何気なく使っている言葉や色、そのひとつひとつに意味があった時、僕は感動するとともに、自分の教養の無さを悔やみます。
一方で、良いものは無条件に良い。 そこにどんな理由も必要ない、むしろ余計な知識は感動の鮮度を落としてしまいかねない。 録画して楽しみにしてたサッカーの試合結果だって、意図せず画面に出てしまうような現代、情報が行き交う中、余計なものを排除して自分の感性をひたすら信じるスタイルは素敵ですし、僕も好きです。頭でなく心で惹かれるというのは、とてもプラトニックで尊いことかもしれません。
前者はこの先のページへ、後者はもう一度自分の中へ。 どちらのスタイルも素晴らしい。 いずれにせよ、僕には失うものが全くないので、手前味噌なところもありますが、まぁ適当に楽しんでやります。
それでは。
1.構図
物語は全部で7つの小さな章に分かれています。
1章:現在行われている作家へのインタビュー 2章:作家と美瑛が出会ったパーティー会場の描写 3章:新宿での美瑛との再会、そこで抱いた小さな違和感 4章:作品への拘りについて作家の独り言 5章:美瑛から秘密を打ち明けられる 6章:美瑛の生い立ちについて告白 7章:ふたりのその後から現在へ
2.時代設定
時代は特に指定されていませんが、いくつか時代を示唆する言葉が出てきます。
_ 未来という純白なキャンパスを前に、彼女の目は淀みなく、静かな野心で燃えていました。_ _ものを書くこと以外ろくに頭にない私はその姿を見て感心しました。_ _その頃は、まだ若い女性が多くの夢を語れる時代ではなかったのです。_
1970年ごろから1985年に「男女雇用機会均等法」が制定されるまでにかけて雇用における男女差別はゆるく回復してい���たようです。おそらく二人が出会ったのもそのくらいの時代でしょう。 出会った時、大学生だった美瑛は22歳、駆け出しの作家は20代で、おそらく美瑛より少し歳上だと思われます。
_ そして、彼女もたくさんのことを話してくれました。_ _自分は二十二歳で都内の大学に通う女学生だということ。_ _品川のホテルでは給仕係のアルバイトをしていること。_
_ 美瑛と出会ったのは出版業界の関係者が集まるとあるパーティーの場でした。その頃、私はまだ二十代で、ようやく自分の書いたものが文芸誌の片隅に載り始めた頃でした。_
3.マジョリティとマイノリティ
作家は現在でこそ、書く喜びや物語を生み出すに当たっての自分との向き合い方について整理をつけているようですが、過去のシーンには度々、作品づくりに苦悩する作家の描写が見られます。
_ 当時、無名の作家でお金も地位もない私でしたが、若さ故、野心と反骨心だけは旺盛に持っていました。そこにいる文士たちの本もひと通り読んではいましたが、彼らの書く浮世の世界の薄く張り巡らされた膜のようなセンチメンタリズムにはどうにも浸れませんでした。_ _彼らはたしかに素晴らしい美文を書きます。_ _でも、そこには人の温度がない。_ _彼らの書くものはすっと胸に入って来て、次へ、次へと頁を捲らせます。_ _でも、それは培養された感情で、胸に刺さる楔のような余韻を残すことはありませんでした。_ _私は日頃から、“私の方がずっと本当のことが書ける”と、胸の内でひどく対抗心を燃やしていたのです。_
パーティーでは文士に囲まれ、胸の内では対抗心を燃やしているものの、実世界ではその雰囲気と高級な酒に飲まれ、作家は酩酊してしまいます。
_年が明け、春が終わる頃、示し合わせたかのようにいくつかの連載の話が舞い込んできました。
私は胸にいつまでも残る余韻のような感情をなんとか作品にできないかと、文章を書いては推敲し、自分の表現を模索していました。_ _ 当時、私の書くものへの評価は大きく二分されていました。
自由な文体に漂う叙情的な感情の流れを新しいものだと評価してくれる人たちと、非構成的で散漫な文章からは何も見出せないと厳しく批評する人たち。
簡単に説明するとそのような感じです。
そして、文壇で力を握っていたのは圧倒的に後者の人たちでした。
彼らは私の文章をどうにかして自分たちの作った既存の枠に押し込もうとします。
彼らの手にかかると、言葉はひとつひとつ分解され、検品され、気がつくと皮を剥かれた玉ねぎのようにすっからかんにされてしまいました。
それはある範囲では正しさであったのかもしれませんが、私のような若者にとっては吐き気がするくらい悍ましく、不自由なものでした。
そのため、この世界での私への評価はあまり良いものではありませんでした。_
自分の書く文章についての不安とそれを評価する人たちへの不満、息苦しさを漏らしています。
_ そして、気付かないうちに時代は変わっていきました。_ _忙しない日々が続き、私はいつしか文壇のメインストリームと言われるようになっていました。_ _かつてあれほど私のことを批判した者たちも手のひらを返したように私の時代を迎合し、ある時期には、私の文章を模倣したような作品がいくつも生まれました。_ _中には著名な賞を獲ったり、世間の話題を攫う作品もありましたが、そういったもののほとんどが、私には感情の濃度を薄めただけの肉も骨もないようなものに思えました。私はそういった作品を忌み嫌い、自分の次元はもっと高いのだと証明するかのように作品を書き続けました。_ _そしていつしか、貪るようにストーリーを作り、とってつけたような悲しみを添えた、ハリボテのような作品が増えていったのです。_ _私は、もう書くことなどなくなってしまったのだと胸の内では途方に暮れていました。_
自分の文章で栄光を掴みながらも、そのスタイルが踏襲され一般化していくことに憤りを感じる作家。そこから抜け出そうとする一方で、もがけばもがく程自分の作ったスタイルに溺れていく姿が描かれています。
物語全体に、メインストリーム(文壇)とそれに抗うマイノリティ(小さな作家)という対立構図ができています。 特定の要素や時代背景が出てくるわけではありませんが、 例えば、ルネサンス期であったり、ビートニクのように、芸術が型にはめられたり、一部の人の手によって価値観が固定されていると、そういったものに息苦しさを感じ、抗う人たちが現れます。 世間に評価され認められているものが本物なのか、自分が心の深いところで感じているものが本物なのか、という葛藤はものを作る人なら誰でも抱いたことがあるのでは?
4.美瑛はなぜ作家に心を開いたのか?
パーティーで酩酊している作家を助けたところから、美瑛と作家の物語は始まります。 美瑛は文士たちの世界に旧態依然とした日本の息苦しさを、そして居心地の悪さにそこで酔い潰れる作家に自分を重ねたのかもしれません。 また、作家も美瑛に不思議な魅力を感じています。
_彼女はモデルのような煌びやかな容姿をしているわけではないのですが、どこか他人とは違う、一度見たら忘れない、人を惹きつける不思議な雰囲気を纏っていたのです。_ _それは、とても静かで、どこか神秘的で、勢いのままに触れたら壊れてしまいそうな繊細なものでした。_
いくつもの言葉を話せるのに、いつも一人でお酒を飲んでいる美瑛。 彼女はお酒を飲みながら、自分と同じ匂いのする誰かをずっと探していたのかもしれません。 そこに偶然現れたのが作家でした。 そんな美瑛に対して、作家は小さな違和感を抱きます。
_小さな違和感。
それは決してネガティブなものではなく、かといって良いものでもなく、どちらかというと何かを正しく捉えそこねているような悪い予感でした。_ _ うまく言葉にできないのですが、彼女からは他の若い女性(或いは男性も)が持つ、ある一つの世代に共通する匂いや手触りが一切感じられなかったのです。
それは偏に容姿が良いとか悪いとか、性格が活発であるとか控えめであるといったことではなく、なんといいますか、例えば、彼女が他の誰かと過ごしている姿が(それは、友人だったり、恋人だったり…)全く想像できなかったのです。
彼女が友人とランチをしている姿、母親と電話をしている姿、恋人と手を繋いで歩く姿、下着を脱ぎ、ベッドで抱き合う姿…
そのどれもに手触りがなく、掴もうとすると、するりと指の間を抜けていくようでした。_ _ ただ、正直なところ私もそれをうまく計れずにいたのです。
私も人生経験の未熟な若者でしたし、なにせ出会って間もない女性のことです。
多少の神秘性はあってもおかしくはない。
むしろそれが彼女の魅力なのかもしれなかった。_ _いずれにせよ、私にとってそれは初めての感覚でした。_
話が合い、とてもシンパシーを感じるのに自分とは決定的に違うものがある美瑛。 この時点で作家は違和感の正体に気付いていませんが、それはつまり国籍です。 先ほどの「世間に評価され認められているものが本物なのか、自分が感じているものが本物なのか」という問いとともに物語で問われているのが、国籍や肩書きなど外面的なものは価値を判断する基準になり得るか?ということです。 作家は、彼女が語った夢や、話している時の目を信じ、違和感について「むしろそれが彼女の魅力なのかもしれなかった」と言っています。 これは文体やストーリーのような表の要素より、感情を信じて書くという作家の作品への向き合い方にも通じているのでしょう。
_文体やストーリーは、その隠れ蓑でしかありません。自由に配色され、時に焦点をぼかしながら、然るべき場所へと進んでいきます。それは装飾であり、ひとつの個性であり、意思の有無に関わらず、花が咲き、やがて枯れていってしまうものです。_ _しかし、感情は違います。_ _感情は、物語の通奏低音としていつまでも流れ続けます。_ _それは個性というよりも血であり、生臭い匂いであり、拭うことのできないものなのです。_ _作家はそれを捕まえなくてはいけない。_
5.作家が掴んだものと掴めなかったもの
思い描くスタイルと世間からの評価の間で揺れ、なかなか納得のいく作品が書けないでいた作家。 彼は美瑛の告白を受けて、ようやく本物の感情の尻尾を掴みます。
_悲しみを飲み込むように消えていくその背中。
それはどんな言葉や物語よりも本当のものでした。_ _ 私たちと彼女を隔てて、明滅する青信号。
そこに散らばったいくつかの風景。
水の入ったグラス、赤提灯、絵に描いたような笑み、知らない国の香り、夢を語る姿、小さな違和感、文壇、電話の声、ネオン、ステップ、溢れる涙、消えていく背中…
それらはどれも失くしたことすら忘れてしまうようなとりとめのないものでした。
でもそれは確かにそこにあったんです。
そして、今ここでひとつの物語が終わろうとしている。
終わる。
終わらせてしまう…_ _ 気がつくと、私は急いで交差点を渡り、彼女のもとへ駆け寄って、その手を掴んでいました。
春の夜の東京の空気より少しだけ冷たい手のひら。
それが初めて触れた、彼女の確かな温度でした。_
息苦しい日本で必死に生きる美瑛の物語は、コントロールされた悲劇ではなく、現実の悲しい喜劇であり、作家が作品を通して伝えたい本物の感情を纏っていたのです。
一方で作家には決定的に欠落しているものがありました。 それは自身の挫折の経験です。 具体的に語られてはいませんが、若い日の彼はあまりにも純粋で無力です。 自分に特別な才能があると信じ、文壇にも反骨心を燃やすものの、美瑛の告白を聞いても何もできない、気の利いた言葉の一つも言えない、彼は自分の無力さに打ちひしがれます。
_ 彼女は目を閉じ、何かを確かめるように空を見て、ゆっくりと煙草を吸い、またひとつ煙を吐き出しました。_ _そして、無理矢理ににっこりと笑いました。_ _それはとても、とても悲しい笑顔でした。_ _たまらなくなって、私はその煙草を取り上げ、火を消すと、そのまま彼女を抱き寄せ、そっと口づけをしました。_ _私にできることはそれくらいしかなかったのです。_ _震える彼女の髪の向こう、次第に色をつけていく東京の朝を厨芥車が駆けて行くのが見えました。_ _涙の生温い舌ざわりと彼女の煙草の残り香が、いつまでも、いつまでも口元に残っていました。_
作り手が本物の感情を扱うにはそれに耐えうる器の大きさが必要です。 喜びを描くにはより大きな喜びを、悲しみを描くにはより深い悲しみを、胸に捉えていないと感情を表現することはできません。 作家は、初めて触れた本物の感情の大きさに飲み込まれてしまったのです。 美瑛の告白は、作家にとっての大きな挫折となり、彼の前に立ち塞がります。
_ 彼女の物語の残した余韻は、作家である私を試すかのようにずっと宙を漂っていました。_ _ ですが、その後、彼女と会うことはありませんでした。
私は何度か中野のアパートへ行こうと思いましたが、その度に何か理由をつけては足を遠ざけました。
安易な言葉や簡単な優しさを与えるのが怖かったのです。
或いは私には彼女の悲しみを背負っていく覚悟がなかったのかもしれません。
彼女からも電話はありませんでした。_
その後、作家は自らの信念から逃げるように、自分のコントロールしたもの(それは本物の感情ではない)を書き続け、外面的な価値で評価される世界に身を委ねます。 そこで彼は称賛を受け、自身の余韻に浸りますが、一方、胸の内では自分の作品に疑問を持ち、途方に暮れてしまいます。
_ そして、気付かないうちに時代は変わっていきました。_ _忙しない日々が続き、私はいつしか文壇のメインストリームと言われるようになっていました。_ _かつてあれほど私のことを批判した者たちも手のひらを返したように私の時代を迎合し、ある時期には、私の文章を模倣したような作品がいくつも生まれ��した。_ _中には著名な賞を獲ったり、世間の話題を攫う作品もありましたが、そういったもののほとんどが、私には感情の濃度を薄めただけの肉も骨もないようなものに思えました。私はそういった作品を忌み嫌い、自分の次元はもっと高いのだと証明するかのように作品を書き続けました。_ _そしていつしか、貪るようにストーリーを作り、とってつけたような悲しみを添えた、ハリボテのような作品が増えていったのです。_ _私は、もう書くことなどなくなってしまったのだと胸の内では途方に暮れていました。_
そんな彼のもとに届いたのが美瑛の手紙でした。
6.作家と美瑛
作家にとって美瑛は初めて触れた本当の物語であり、自分の描きたい文章の欠片であり、また一方で、弱くて脆い、彷徨う彼の文章の生き写しのような存在でした。
では、美瑛にとっての作家とはどのような存在だったのでしょう? 美瑛が恐れていたことは外面的な評価、つまり国籍で自分を判断されることでした。 新宿の酒場で打ち解けた作家に対して、美瑛はこのことを打ち明けようとします。 しかし、彼女はこの関係があっけなく終わってしまうこと、現実に失望することを恐れてここでは告白しませんでした。 そのせいか、秘密を打ち明けられずにいる彼女にはまだ本物の感情が感じられないため、その笑顔はいつもとってつけたように素敵だと描写されています。
_ 本が好きで怜悧な彼女との話を尽きることなく、あっという間に夜は更けていきました。_ _そして、日付が変わる前にようやく私たちは新宿駅で別れました。_ _別れ際、改札前で何かを言おうとして逡巡する彼女に、私は「また会えるかな?」と尋ねました。_ _彼女は言葉を飲み込んだ後、笑顔で「あなたが良ければ」と言いました。_ _その笑顔はとても愛らしく、私の心を暖めました。_
そんな美瑛もいよいよ秘密を打ち明けます。 無国籍な新宿の喧騒やビル街が終わり、人の生活の匂いが始まる山手通りで彼女は作家に自身の国籍を告げます。 それを聞いた作家は、ここで大きな選択を迫られるのです。 美瑛に対して、外面的な評価を下すのか?内面的な評価、つまり彼女への感情を選ぶのか? 外面的な要素と内面的な要素、それ俺を含んだ光景がチカチカと明滅する中で、作家は感情を取り、美瑛との物語はさらに進んでいきます。 帰るべき場所のない彼女にとって、これは大きなきっかけになったのではないでしょうか? 東京にも外面的な評価をしない人間がいること、どんな場所でも彼女が彼女らしく生きていける可能性。これは、故郷をなくし、どこに行っても窮屈に過ごしてきた彼女に大きな希望を与えます。
美瑛にとって作家は、その希望の欠片だったのです。
_ 私たちと彼女を隔てて、明滅する青信号。
そこに散らばったいくつかの風景。
水の入ったグラス、赤提灯、絵に描いたような笑み、知らない国の香り、夢を語る姿、小さな違和感、文壇、電話の声、ネオン、ステップ、溢れる涙、消えていく背中…
それらはどれも失くしたことすら忘れてしまうようなとりとめのないものでした。
でもそれは確かにそこにあったんです。
そして、今ここでひとつの物語が終わろうとしている。
終わる。
終わらせてしまう…_ _ 気がつくと、私は急いで交差点を渡り、彼女のもとへ駆け寄って、その手を掴んでいました。
春の夜の東京の空気より少しだけ冷たい手のひら。
それが初めて触れた、彼女の確かな温度でした。_
一方、作家にとっての誤算は美瑛の本物の感情の強さでした。 手を取り、彼女を抱きしめ、そこでハッピーエンドではなかったのです。 彼女は翌朝さらに強い感情を告白します。
7.美瑛の手紙が与えたもの
外面的な価値で評価される世界に籍を置き、消費されるだけの作品を生み出していた作家の心は、次第に美瑛の物語から離れていました。そのことは深い後悔となって作家の胸に留まり続けていたのです。
そんな時に届いたのが美瑛の手紙でした。 この手紙によって作家は救われ、感情を書くことへの情熱を取り戻します。
_ その時です、なぜか頬を濡らすものがありました。
それはとどまる事を知らず、いつしかその文字を滲ませていました。
そして気が付くと私は声を出して泣いていました。
私は、私の中のどこかでずっと彼女が生きていたことを思い出したのです。
彼女があの日からどうやって生きて、どれだけ涙を堪え、無理矢理に笑ってきたのか。
異邦の地で踊りながら、どれだけ煙草を吸って、眠れない夜を越えてきたのか。
私は偉そうに筆をとっていながら、そんな大切なことも考えることができなかった。
(中略)_ _
 それは皆、私を作り上げる大切な欠片でした。
しかし、そうやって胸の奥からすくい上げて、決して離さないようにしようと決めた想いも、忙しなくすぎる日常という波に攫われ、いつしか沈んでしまっていたのです。
それでも時折姿を見せるそれを、なんとか形にしようと私は筆を取りました。
でも、それはいつだって少し違う形をしていた。
そして無理矢理に捻じ曲げコントロールしようとすればするほど、あっけなく手から離れていき、後味の悪い喪失感だけが残りました。そして、いつしか自尊心に駆られ、自分自身の余韻に酔いながら書いていた私は、かつて憎んでいたものになってしまっていた。
私は自分の傲慢さ心の弱さを恥じました。
そして気付いたのです。
私には書きたい感情がまだたくさんあると。
それは決して特別なものではない。
華美に装飾されたものでも、ドラマティックなものでもない。
吹いたら消えてしまいそうな小さな記憶の断片たち。
その断片たちが薪となって、私の作品に灯をともしてくれます。
私は特別でない私のことをもっと考えたい。
もう戻れない場所もたくさんあるかもしれない、でも今だから行ける場所もきっとたくさんあると思います。
私は今書くことがとても楽しいんです。_
何よりもまず作家を救ったのは、美瑛が幸せになったということでした。 美瑛は美瑛のままで小さな幸せを掴みました。 救えなかった本物の感情が、外面的な評価をされない世界でしっかりと生きていたことに彼は救われたのです。
また、美瑛が帰る場所を見つけたことも大きな救いでした。 当時、何よりも美瑛の心を締め付けていたのは「帰る場所がないこと」でした。 このことは自分が何者であるのか、どこで何者として生きていくのか?という彼女の生き方の軸を揺さぶり続けていました。拠り所のない彼女は自分をうまく定義できずにいたのです。 その一方で、彼女の胸の奥に深く根を張る、故郷を裏切ったことへの罪悪感とそんな中での母の死。これが彼女が帰る場所を求めることへの大きなトラウマになります。 つまり、美瑛自身が誰よりも自分の「帰る場所」を作ることを恐れていたのです。父のもとへ行くこともできた、中国や韓国に行くこともできた。しかし、彼女は東京に来て、自分を不幸にすることを免罪符に生きていきます。 そんな彼女が自分を許し、幸せになってもよい、帰る場所を作ってもよいと思うきっかけになったのが、作家との時間でした。 誰よりも「帰る場所」を作ることを恐れていた彼女は、誰よりも「帰る場所」を欲していたのです。
美瑛と帰る場所の関係はそのまま、作家と感情の物語に置き換えることができます。 外面的な評価をされない強い感情を書いていこうとする作家。しかし、そこに立ちはだかるのは美瑛の強い物語でした。誰よりも強い感情を描きたい作家は、誰よりもそれと向き合うことを恐れたのです。そして、そんな自分を憎み、描くことを恐れ、作家は納得のいかない物語を量産し、それを免罪符に生きていきます。
そんな中、届いた手紙。 彷徨っていた作家にとって、これは大きなきっかけになったのではないでしょうか? 作家にとっても美瑛は、希望の欠片だったのです。
手紙によってもたらされた本物の感情の断片たち。 作家はそれをコントロールするのではなく、呆れるほど考えることで受け入れ、一体化することによって扱うというスタイルを見つけます。 作家はインタビューで、「夜」は過ぎ去った過去、「朝」は訪れる未来、「昼」は現実だと語っています。
作家と美瑛、それぞれに訪れた夜明けは、ふたりに福音をもたらしたのでしょうか?
_気がつくとグラスは空になっていた。
作家はグラスに残されたオリーブを口にし、その余韻に暫し目を閉じると、バーテンダーにそっと告げた。_ _「次はギブソンを貰おうか、思い切りドライなやつを」_ _ カタカタとシェーカーの揺れる東京の街は、ゆっくりと夜が明けていく時間だった。_
_ 明け方、目を覚ますと隣に彼女はいませんでした。_ _少しだけカーテンが開いていて、そこから夜明け前の薄く伸ばした光が入り込んでいます。_ _アパートの二階、彼女の残り香がするクリーム色のタオルケット。薄明かりに晒された部屋は六畳くらいの大きさで、壁がところどころ剥がれていて、彼女の持つ雰囲気とはかけ離れた質素なものでした。_ _(中略)_ _震える彼女の髪の向こう、次第に色をつけていく東京の朝を厨芥車が駆けて行くのが見えました。_ _涙の生温い舌ざわりと彼女の煙草の残り香が、いつまでも、いつまでも口元に残っていました。_
8.単語集
【マティーニ】 ジンベースの著名なカクテル。通称カクテルの王様。 『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』より抜粋
【ギブソン】 ジンベースのカクテル。マティーニとほぼ同じレシピだが、マティーニがオリーブを添えるのに対して、ギブソンはカクテルオニオンを用いる。また、マティーニは通常ステアであるのに対して、こちらは通常シェイクである。
【カート・ヴォネガット】 アメリカの小説家、エッセイスト、劇作家。人類に対する絶望と皮肉と愛情を、シニカルかつユーモラスな筆致で描き人気を博した。現代アメリカ文学を代表する作家の一人とみなされている。 『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』より抜粋
【ハムレット】 シェイクスピア作の悲劇。5幕から成り、1600年から1602年頃に書かれたと推定される。4000行を超え、シェイクスピアの戯曲の中で最も長い。 『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』より抜粋
【ユリシーズ】 アイルランドの作家ジェイムズ・ジョイスの小説。20世紀前半のモダニズム文学におけるもっとも重要な作品の一つであり、プルーストの『失われた時を求めて』とともに20世紀を代表する小説とみなされている。意識の流れの技法、入念な作品構成、夥しい数の駄洒落・パロディ・引用などを含む実験的な文章、豊富な人物造形と幅広いユーモアなどによって、『ユリシーズ』はエズラ・パウンド、T・S・エリオットといったモダニストたちから大きな賞賛を受ける一方、初期の猥褻裁判をはじめとする数多くの反発と詮索とをも呼び起こした。 『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』より抜粋
【自治州】 中華人民共和国の行政単位のひとつで、省クラスと県クラスの行政レベルの中間で、少数民族に自治権が付与された地区クラスの行政体である。中国大陸には現在30の自治州がある。 『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』より抜粋
【美瑛町】 北海道上川郡にある町。なだらかな丘陵と豊かな自然環境と景観が特徴になっている。町全域を「景観計画区域」の対象にしており、「美しい日本のむら景観百選」、「美しい日本の歩きたくなるみち500選」(美瑛リフレッシュライン)に選定されているほか、美瑛町を含む1市6町村で「富良野・美瑛観光圏」を形成している。 『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』より抜粋
【ルネサンス】 従来の一般的な見方は次のようなものである。およそ1000年の間の純粋キリスト教支配のもと、西ヨーロッパ圏では古代ローマ・ギリシア文化の破壊が行われ、多様性を失うことにより、世界に貢献するような文化的展開をすることはできなかった。こうした見方はルネサンス以前の中世を停滞した時代、暗黒時代とみなすものである。 『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』より抜粋
【ビートニク】 1950年代のアメリカに起こったビート運動になんらかのかかわりをもった世代(ビートニクbeatnik)の総称。ビート��動は,抑圧的で非人間的な機能をもつ社会体制と,そこに安住しようとするスクエアsquareすなわち保守的で中産階級的な価値観とに反逆し,人間性の無条件な解放のために積極的に貧困に甘んじ,原始的なコミューン生活を行おうとする一種の生活運動である。 『コトバンク』より抜粋
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