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四十雀落ちんとするや持ち直し青空に終わらない水切り
移り住む人を数えて町報は届きおり島の形の函に
さざなみのように時間が押し寄せる潮時表置くレジの向こうゆ
生垣に寄せて止まれる原付のサイドミラーの奥のさみどり
視野に入れながら近づく山茶花のあなたの顔はすでに寂しい
朝露に砥石のごとき明るさをもて鶺鴒の尾羽は立てり
何かしら思うところのあるらしく壮年のまるが一日を随き来
日盛りの街歩む時靡きつつ流れ行かざり堀割の藻は
朴の花散る気配せり山ひとつふたつ越えても変わらぬ闇に
いつか来るだろうあなたを待っている事ができない、それはあなたも
言う事と言わない事の火を喉に閉じ込めて行き過ぎる朝顔
衣嚢を裏返しては天国へ近づくために通過する門
いつからか吹いている風明け方の羽重たげに飛ぶ黒揚羽
軒先へ翼ひるがえし現実を葬り続くる燕鉄紺
見るものの方へ明かりを向けながら常遠ざかる精霊流
絡ませてやるたび空へ反りゆける朝顔よ魂の咎人
渡された風の歯車ゆっくりとゆっくと回り始めるまでを
忘れずにいることたどり着けないほど遠い湖まで行くということ
アパートの廊下の奥の暗がりに濡れつつ光射し添う傘は
樹果揺れて誰も僕とは話さないさびしいなあこんな綺麗な夏に
薄明に蝉鳴き居りてしばし鳴き止みぬ久遠の少年のごと
噴水の青天に折れいるあたり結語短く寄り添いくるる
野の道に夏白菊の高低を見て行きぬ野は風に揺らぐも
ありとある道知方せよ天頂の向こう見放けば天頂はすぐ
春の日の瀝青に敷く花弁の狂おしきもの隔たりて見つ
さるすべり卓に置きけり何にしもあらぬ日白を静かにたもつ
この梅雨を橋の裏に咲く変種とぞキバナノセッコクランの曙
羨しめば人は遠のく道向こう花橘の夏木立見ゆ
静かにも光降る昼夏蝶が葉の上に産み落とすモノリス
したい事、できる事ただ眇として凌霄花の開く真昼間
天の段吾には上るとも見えて友の友なる手を引く手あれ
外の道を行き出でたくもなりながら桜見ており河田病院
一人来て歩む夜広し木々に浮く花と花との間の闇も
また何も言いたくなくて凌霄花の咲く真昼間も目を閉じている
正しさが通り過ぎゆくバス停の列に見上げる街路樹の花
梅雨空の中程にまた人立ちて落とせるメタセコイアの枝葉よ
午前九時前で止まれる分針の瑞々しかる朝の道よ
「KLEID NOTE」KLEIDの意味知らざれど金色に文字押されてありぬ
留金ゆ切り外したるメモ帳に静かに記す電話番号
四キロを下りて町の方へ行く商店の置く自販機までを
巻き込まれたのがなにかも分からない 多分、戦争 百日紅揺れ
木槿咲くを言わずにおれぬ本来の外向型の性格のゆえ
室内の灯よりしばらく目を離すヒメヒオウギズイセン群れて暮れかかる家
平等を行うはきっと易けれど万作の花咲きつつ寂し
AIの根絶を一人願いつつ居れば姫沙羅の老樹が戦ぐ
面白いことがあるかなこの先の時代に 山が濃き影を引く
ビオレUV買いしアパート 選手権サッカー見つつ遠く思うも
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