#スーパーとかりまんじゅうと改札は一生笑える
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dearsun16 · 2 years ago
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待ちに待ったお泊まり!こじけんが俺ん家に泊まりに来た日の話。夜こじけんを駅まで迎えに行って、コンビニで食べたいもん買って俺ん家へ。いつものごとく全部分けっこして食べました。食後のデザートにこじけんが持ってきてくれたバウムクーヘンを食べたんやけどこれがめちゃくちゃ美味しかった!表面がブリュレされてるスイーツってなんであんなに美味いんやろな。でっかいの買ってきてくれてほんまにありがとう。1人で食うにはデカめのホールケーキくらいあって笑ってもうたけどな。シャワーしたり俺のコレクションを見せたりしてたらあっという間に真夜中。すぐ寝ればええのにキャラクター縛りのしりとりしながら寝ました。めちゃくちゃ眠くてあんま覚えてへんけど、'か'で'かりまんじゅう'って即答したらな��か大ウケしてくれたのだけ覚えてるわ。ほんで翌日は俺が近所の喫茶店のモーニング絶対連れて行きたい!って思ってたから8時起き。さすがに寝起きは眠かったけど、目覚めてきてからはめっちゃ元気やった。あそこのフォカッチャサンドをどうしても食べさせたかったから、美味しい!って言うてくれて大満足。ジャムトーストやコーヒーもめっちゃ美味かったなぁ。その後スーパーでお惣菜色々買って、一旦家帰って昼飯。どのおかずもハズレなくて最高やったな。ほんで散歩しよーって外出て、コンビニでコーヒーと話題のメロンパン買ってからずっと一緒に行きたかった近所の川沿いでメロンパン分けっこ。話題なだけあってめっちゃ美味かったけど、2日連続でメロンパン食うてるのおもろいよな。川の水冷たい!ってはしゃいだり、葉っぱ浮かせて早い方が勝ちってバトったり、石投げてみたり、とにかく平和で楽しかった。そろそろ地上あがろーって適当に上がったらホームセンターあったからなんとなく入ってんけど、そこにあった古いゲームにこじけんがチャレンジしてん。成功したらガムが2つ出てくるってやつで、見事に成功して2つゲットした!やから仲良く1つずつ食べました。帰り道にスーパーでピザ買って一旦帰宅。俺がこじけんに食べさせたかったパンのおやつ作ってチャイラテ飲みながら一緒に食うて、ちょっとグダグダしてたけどピザ食うには早いなーってなって結局また外へ。ぶらっと歩いた先でこじけんの買い物にちょっと付き合ってんけどさ、付き合ってくれたお礼っていうて俺が美味しそう!って言うてたやつをこっそり買ってくれててん。ほんまこういうとこずるいよなぁ、こじけんは。めーっちゃ嬉しかった!外出たらすっかり暗かったから、そろそろ帰ろかーって家向かいよる途中でおもろい自販機が色々あるとこがあって、そこで焼き鳥5本入りみたいなやつ買ってくれてん。それ一緒に食べながら帰ってんけど、焼き鳥が冷たくても美味しく戴けることを初めて知った!ほんで家帰ってピザ焼いて晩飯。帰り道くらいからもう終わるやんー早いてーってずっと嘆いてたんやけど、ピザ食べてる時もしゅん…ってしてたら'いや早いって、せめて食べ終わってからにしてや'って言われて笑った。だってほぼ丸1日一緒におってもあっという間やねんもん。つらい。ちょっとゆっくりしてから、そろそろ帰さなあかんなーって駅までお見送り。最後の最後におもろい出来事が1つあってんけど、こじけんが改札通ってじゃあなーって手振って姿見えんくなったから帰ろうとしたら、改札から結構激しめに切符をお取りくださいって何回も聞こえてきてさ。振り向いたらこじけんが慌てて戻って来てて、いやお前かい!ってなりました。それがおもろくて寂しい気持ちも紛れ��わ。いうてまた来週も来てくれるしな!最高やん。次は何するー?
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cvhafepenguin · 6 years ago
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ミコとマチ
 リビングで目が醒めた瞬間あわてて手元のスマホで時間を見た。5時31分、やばい、40分には家を出ないとバイトに遅刻する。渾身のスピードで歯を磨いて顔を洗い自室に駆け込みばたばたとスウェットを脱ぎ床に脱ぎっぱなしの縒れたデニムを穿きYシャツを全力で着て一張羅の苔色のカーディガンを羽織ってほとんど空っぽのリュックを背負う。化粧は諦めて大きめの風邪マスクでごまかすことにした。幸い原稿を作成してるうちに座椅子に座ったまま寝落ちしていたので髪は乱れていなかった。平日ならマチが起こしてくれるのに、今日は土曜日だから私の部屋の向かいの彼女の部屋で、マチは一週間分の疲れを取るべく昼までおねんねだ。私は「いってきます」とぼそっと呟いて全力でドアから飛び出しオレンジのチャリに跨がり立ち漕ぎで駆けた。早朝の澄んだ空気を抜ける冷たい風が私の全開のおでこに当たる。���月の霞がかった曖昧な風景を私は右、左、右、とぐっとペダルを踏んで追い越して行く。それにつれ眼がだんだんと冴えて来た。息を切らしぐんぐんと駅までの道を走りながら私は書きかけの原稿の続きのことを考え出していた。どきどきと小さな心臓が高鳴り血が巡り、私の身体に熱が漲ってくるのを感じる。まだ人がまばらな駅前のロータリーを抜け、高架を潜り、なんとか出勤時間ぎりぎりに店に着いた。ドアを開くとコーヒーの温かくて甘い香りがふわっと鼻を突く。これを嗅ぐと私の頭はたちまちだらしがなくてうだつの上がらないワナビー女から「「鯤」のウエイトレスモード」にかちっと切り替わる。「おはようございますっ」私は店に入るなり弾丸のように一直線にバックヤードに突っ込みエプロンを着る。「おー、毎度のことながら作家さんは朝に弱いねえ」店長の蓮さんが茶化す。「朝まだなんだろ?これ食っちまえ」蓮さんは厨房からカウンター越しに私にロールパンを投げ渡した。「いただきます」私は風邪マスクをぐいとずらし、拳大のそれを口に詰め込んだ。それから蓮さんに渡された水をぐっと飲み干す。「鯤」は駅前の喫茶店なので、平日は開店するなりモーニングをしにくるサラリーマンなんかがぞくぞくと来て大童なのだが、今日みたいな休日は最初の30分なんかはかなり暇だ。コーヒーにつけて出すゆで卵もいつもならあらかじめいくつか小皿に分けて置くのだけど、今日はカウンターのバスケットにまだこんもりと盛ってある。その光景はまるで平和の象徴のような安心感を私に与える。しばらく待っても客が1人も来ないので、私はトイレで簡単な化粧を済ませ、カウンターにかけて蓮さんが淹れてくれたアメリカンをゆっくりと飲んだ。「原稿はどんな感じ?」「うん、方向性はだいぶ定まってきたからあとはそれを形にしていくだけかな」「なるほど、ついに俺の息子がミコが手がけたゲームをやる日がくるんだなあ、あっ今のうちサイン貰っとこうかな、店に飾るわ」「蓮さんってば気が早すぎ」蓮さんはことあるごとに茶化すけど、芯のところでは私のことをそのつど気にかけてくれているのが私にはありありとわかった。嬉しいことだ。
 そうしていると、程なくして客がちらほらと入り出した。休日の朝は老人ばっかりだ。常連のみんなはお話し好きで、四方山話や身の上話を滔々と聞かせてくださる。いつものように私は給仕や食器洗いをこなしながらそれにふんふんと頷いた。��も頭の中は原稿の続きのことでいっぱいだった。先週、駆け出しライターの私に初めてクライアントからSNSのダ��レクトメッセージで、ソシャゲのシナリオの執筆依頼��来たのだ。それは聞いたことないような小さな会社で、その依頼されたゲームも予算的にみてメインストリームに敵うポテンシャルがあるとはとうてい思えなかったが、なにせ執筆の依頼が来ることなんて初めてだったので、私は半端ない緊張ととめどなく沸いてくる意気込みでここ一週間ギンギンだった。原稿のことを考えると下腹のあたりがヒュンとする。これは誰もが知っているRPGのシナリオを手がけるという私の夢への第一歩だし、なにより、就職せずに創作活動に専心することにした私の決意が報われた心持ちだった。それはどう考えてもぜんぜん早計なのだけれど。とにかく、私は今とても浮かれていた。
 正午前あたりから客足が徐々に増しなかなか忙しなり、あっという間に15時になった。退勤まであと1時間だ。
「いらっしゃい。おっ荘くん」だしぬけに蓮さんの朗らかな声が厨房から客席に向け広がる。荘くんが来ると、蓮さんは私を茶化す意味でわざと私に呼びかけるような声音で叫ぶのだった。これもいつものことだ。
 私はお気に入りの窓際の2人がけのテーブルにギターケースをすとん立てかけて座る荘くんのところへ注文をとりにいった。心臓の音が高鳴るのが荘くんにばれている気がした。
「いらっしゃい、今日はスタジオ?いよいよ来週だね。」
「そうだな、あっ、チケット忘れんうちに今渡しとく」
荘くんにひょいと渡された黄色いチケットにでかでかと、
「jurar 初ワンマン!」と書いてあった。その楠んだチケットのデザインは全体的に少し古くさい気がした。
「ついにだね」
「うん、絶対に成功させるよ、やっとここまでこれたんだ。そろそろ俺たちもプロへの切符を勝ち取りたいな」
「うん、私応援してるから」荘くんの襟足から煙草とシャンプーの混じったえも言われぬ匂いがかすかに漂う。それは、ほんとうのほんとうに良い匂いだ。
「サンキュな、ミコちゃんも頑張ってるもんな、俺も負けてらんないよ。あっ、そうそう、そういえば…明後日柴さんにアクアマターのライブ来ないかって誘われたんだけど、ミコちゃんあのバンド好きだったよね、もし暇だったら一緒に来る?蕗川ビンテージだよ。柴さんももう一人くらいだったらチケット用意できるから連れて来ていいって」
「いいの?行きたい!」
「よっしゃ、じゃあまたラインするわ」
「まじか…」私は心中でひとりごちた。まさかのまさか、こんな地味な女が荘くんにデートに誘われたのだ。注文伝��をレジに持って行き蓮さんのほうをちらと見てみた。すると蓮さんははにかみながらしゅっと素早く腰のところでガッツポーズを出した。私は心中でもう一度、「ま、じ、か…」と丁寧にひとりごちてみた。
 荘くんはブレンドを急いで飲み干して会計をし、「じゃあ」と去って行った。そうこうしているうちにやがて退勤時間となり、出勤してきた蓮さんの奥さんに引き継ぎをして、私はタイムカードを切った。「お疲れさまです」挨拶をして表口から店を出ると、スプリングコートのポケットに両手を突っ込んで含み笑いしているマチが立っていた。目が合った私たちはそのまま見つめ合った。一瞬、時間が止まったようだった。ピィ、ピィ、とけたたましい鳥の声が、狭い路地裏にこだました。
「オハヨ」マチは宣誓のように右手をしゅっと突き出してそう言った。
 マチの手は真っ白で、春のひかりをぼんやりと帯びていた。ぼんやりとその手を見ていると、なんだか眠くなった。
「マチ、何してたの?」
「さんぽ」
「起きたばっかり?」
「寝すぎちった」
 私は自転車を押してマチととぼとぼと散歩した。外は朝は肌寒かったけれど、今は歩いていると少し汗ばむほどの気温まで上がっていた。電線と雑居ビルたちに乱雑に切り取られた街の高い空を、鳴き交わしつつひっきりなしに飛び交う春の鳥たち、私たちはゆっくりと歩きながらそんな風景を見るともなく見ていた。
 私たちはそれぞれあたたかい缶コーヒーを自販機で買い、駅から少し離れたところにあるたこ(多幸)公園へたどり着いた。私とマチは予定のない天気のいい日にはよくここで何となく過ごす。
「そういえばさ」
「ん?」
「さっき店に荘くんが来てね」
「なになに?」ブランコに座っているマチは両足をばたばたとせわしなく蹴っている。
「「明後日アクアマターのライブに誘われたんだけど一緒にこないか」って」
「デートか!」
「そういうこと」
「やったー!」マチはブランコからたんっと飛び降りて両腕を上にぐんと伸ばして叫んだ。
「いや、誘われたの私だし」
「わがことのようにうれしいっ」
「よーし今日はなべだー」マチは私に背を向けて起き上がった猫のように盛大なのびをした。
「なべ、若干季節外れじゃない?」
「めでたい日は鍋パって相場がきまってるのよっ。ミコの恋愛成就を祝って今日は私のおごりで鍋だー」
「マチってば気が早すぎ」
私たちはスーパーでたくさん鍋の具材と酒とつまみを買って、大きなレジ袋を2人で片側ずつ持って帰った。2人でわいわい作った鍋は多すぎて全然食べきれなかった。飲みまくって酔いつぶれた私たちはリビングでそのまま気を失い、翌朝私は風邪を引いていた。私がなにも纏わず床で寝ていたのに対して、マチが抜け目無く毛布を被ってソファーを独占していたのが恨めしかった。
 荘くんは待ち合わせの駅前のマクドナルドへ15分遅刻してきた。10分でも20分でもなく15分遅れるというのがなんだか荘くんらしいなと私は妙に感心した。「蕗川ビンテージ」は私の家の隣町の、駅のロータリーから伸びる商店街の丁度真ん中のあたりにある。私はこの街に来たことがなかったのでライブハウスまで荘くんが先導してくれた。風は強く、空は重く曇っている。商店街や幾本かの路線でごちゃごちゃしたこの街は、私とマチが住んでいるところに比べてなんだか窮屈な感じだった。前を歩くやや猫背の荘くんに付いて駅からしばらく歩くとやがて「蕗川ビンテージ」に辿り着いた。荘くんが「あそこ」と指を指してくれなかったら私はそれがそうだと気付かなかっただろう。「蕗川ビンテージ」はどう見てもただの寂れた雑居ビルだった。よく見ると、ぽっかりと空いたビルの地下へと続く入り口の前に「アクアマター」のワンマンの掲示があった。その入り口の前に、いかにもバンドマンといった出で立ちの5人の男女が談笑していた。若いのか、それとも私たちよりずっと歳上なのか、いまいち判然としない風貌の人たちだった。その5人はやって来た荘くんを認めると手を振り、荘くんはそれに応えて私をほったらかしてポケットに手を突っ込んだまま5人に駆け寄った。荘くんが1人の男の横腹を肘で小突く、するとその男は笑いながら荘くんにヘッドロックを決め、ほかの人たちもげらげらと盛り上がった。どうやら荘くんととても親しい人たちらしい。少し話すと荘くんは突っ立っている私のほうに戻って来た。それから私の手を引いて、地下への階段を降りて行く。荘くんが近い、かつてないほどに近い荘くんのうなじから、シャンプーと煙草が良い塩梅に混じった私の好きな匂いが漂ってくる。匂いはたしかに近いけれど、暗すぎて当の荘くんの姿がよく見えない。なにかがずれている気がした。私たちは、どこか歪な気がした。私たちが、というか私だけが明らかに場違いだった。「マチは今どうしているだろう、そろそろ帰ってる頃かな、晩ご飯は私がいないから今日は外食なんだろうな」好きな男に手を引かれているというのに私の頭に浮かんで来るのはマチのことだった。やれやれ。
 2人分のチケットを荘くんが受付の初老の男に手渡す、そして荘くんはまたその男としばらく談笑し始めた。「ちょっとお手洗い行ってくるね」と私はその間に用を足した。戻ってくると受付の前に荘くんを中心に人だかりが出来ていた。荘くんの周りにおそらく10人以上はいたが、その中の誰1人として私の知っている顔はなかったし、荘くんを含め、そこに誰1人として私のことを気にする人はいなかった。私はまるで透明人間にでもなったかのような心持ちだった。あそこで人の輪に囲まれ楽しそうに話しているあの人はいったい誰なんだろう。いつも「鯤」に来て親しく話してくれるあの人。私がいつか「アクアマター」が好きだとこぼしたことを覚えてくれていて、デートに誘ってくれた��の人。でも冷静に考えると当たり前のことだったのだ。界隈で突出した人気を誇る若手バンドのフロントマンの荘くんと、街の隅でこそこそと暮らしている私みたいな誰も知らない地味な女なんて、そもそもステージが違うのだ。私は知らないライブハウスの柔らかくて厚い防音材の壁にもたれながら、誰にも知られず夜空でひっそりと翳りゆく月のように、緩やかに卑屈になっていった。誰かここから連れ出してくれないかな、これがまさしく「壁の花」ってやつね。卑屈の次にやってくる自嘲。思えば幾度も覚えたことのある感覚だ。いままでに縁のあった男はみんな、折々こんな風に私のことをないがしろにした。
 ほどなくしてライブが始まった。ライブは、よかった。横にいた荘くんは頻繁に何処かへ消えた。たぶん、知り合いの誰かと話しに行っているのだろう。そう、ここでは私以外のみんなが知り合いなのだ。ライブの終盤、ストロボが瞬くクライマックスの轟音の中荘くんは強く私の手を握ってきた。私はそれを知らんぷりした。スモークの甘ったるい匂いがやけに鼻についた。ライブ自体は、本当によかった。
 外に出ると小雨が降っていた。荘くんはライブの終わりからずっと私の手を握ったままで、駅の方へ私を引いて歩いていく。私はなにも考えずにそれに従う。疲れて、頭がぼーっとしていた。商店街の出入り口のアーチの辺りで、荘くんは「じゃあいまからウチで飲もっか」と切り出した。私はまっぴらごめんだと思い「えーと今日はもう帰ろうかな、明日も朝早いし…」と丁重にお断りした。
「別にいいじゃん、ご近所さんなんだしバイトは朝、俺の部屋から出勤すれば」荘くんはしつこかった。
「いやーやっぱ何だか悪いしルームメイトもいるんで今日は家に帰ります。今日はほんとにありがとう」
 私は返答に窮して言い訳にならない言い訳を口走っていた。そのとき私ははっと息をのんだ。荘くんは怒っていた。彼の表情こそ変わらないが、私なんかにプライドを傷つけられたこの男が激怒しているのがわかった。
 それから突如荘くんは声を荒げ
「んだよ、俺とヤりたいんじゃなかったのか?」
 と今まで私が聞いたことのない荒荒しい声音で言い放った。そのとき私は頭が真っ白になった。私はこの人が何を言ってるのかわからなかった。信じられなかった。この人も自分が何を言っているのかきっとわからないに違いない。そうであってほしい、と私は願った。
 私はいつの間にか私の肘を強く掴んでいた彼の手をばっと振り切り、夢中で駅まで走った。後ろであの人がこっちに向かってなにか喚いている気がした。私はそれから逃げるために全力で走る。とつぜん視界がぐにゃあと歪んだ。音のない雨は、いつのまにか本降りになっていた。頬を伝って落ちる生温いものが春の雨なのかそれとも涙なのか、わからなかった。
 マチは私に何も訊ねなかった。あの夜ずぶ濡れ��帰ったきた私の
様子を見て何となく察したのだろう。お風呂から上がってきた私に何も言わずに中華粥を作ってくれた。荘くんはあの日以来鯤に来ることはなくなった。蓮さんは
「まあ今回は縁がなかったってだけさ。月並みな言葉だが男なんて星の数ほどいるんだぜ」と慰めてくれた。
 でもそれを言うならば女だってそうだ。それこそ私は荘くんにとって星の数ほどいる「都合のいい女候補A」にすぎなかったんだ。私はまた卑屈になっていた。このことをマチに話すと「処置無しね」の表情をされた。マチの「処置なしね」の表情。白いつるつるの眉間に少し皺が走りいたましげに私の顎辺りに視線を落とすこの仕草が私は密かに好きだ。ソシャゲの依頼はなんとか納期に間に合ったが、私は次の賞に挑む気力が沸かなかった。スランプに陥ってしまったのだ。なんだかどうしても力が入らなくて、私は湯葉のようにふやけてしまっていた。このままなんの意思も目的も持たず、たゆたうクラゲのように何処かへ攫われてしま��たかった。あの失恋で、まるで私とこの世界とを繋いで私を立たせているピンと張った一本の糸が、ぷつりと切れてしまったようだ。私は休みの日のほとんどを寝て過ごすようになった。
 私が一ヶ月以上もそんな状態だったので、放任主義のマチもさすがに見かねたらしく、「ミコ、餃子をやろう」と私に切り出した。パジャマの私はソファでクッションを抱いて寝転びながら「うぇえい」と曖昧に返事した、ミコが「マチはかわいいなあ」と言って後ろから抱きつこうとしてきたが私はそれをひょいと躱し、勢い余ったマチはフローリングでおでこを打ち「ぎゃっ」と叫んだ。そのとき私に被さったミコの身体はとてもひんやりとしていた。
 餃子の買い出しから仕度まで殆どミコがやってくれた。私はソファに寝転んで夕方のニュースを見ながらミコが手際よく餃子を包んで行くのを背中で感じていた。辛い時は甘えられるだけ相手に甘えるのが私たちの生活の掟なのだ。私とマチは、いまままでずっとそうやってきた。
「いざ!」待ちくたびれて私がうつらうつらし出した時にマチは意気込んで餃子を焼き出した。しゅわあと蒸気が立つ音とともに、むわっとした空気がリビングに立ち込めた。私は薄目でせかせかと餃子を焼くマチの背中を見ていた。「このまま帰りたくないな」そんな素朴な気持ちが不意に、去来する。私たちには他にいるべき場所があって、いつまでもこの生活が続くわけないのはお互い、何処かで理解していた。けれど私たちはそれに気付かないフリをしている。
 マチの背中って小さいんだなあ。そんなことを考えると何だか目頭が熱くなってきたので、私は寝返りをうち、狸寝入りを決め込んだ。クッションに顔を埋めてきゅっと眼を瞑っていると、まるで幽霊になって、空中を漂いながらミコのことを見守っているような、ふわふわと暖かくて���しい気持ちになった。
「ほらほら引きこもりさん、餃子が仕上がって来たわよ。テーブルにお皿とビール出しといて」
「あいさー」
テーブルの皿に綺麗に連なって円になっているマチの餃子はつやつやでぱつぱつだった。マチは餃子の達人だ。マチよりおいしい餃子を作る女を私は知らない。
「じゃあ、餃子にかんぱーい」
「かんぱーい」
最初の一皿を私たちはあっという間に平らげた。
「じゃあ第2波いきまーす」
「いえーい」
マチは餃子をじゃんじゃん焼いた。私がもう食べられないよと喘いでも取り合わず焼きまくった。マチは何かに取り憑かれたようにワインを呷りつつ、一心不乱に餃子を焼き続けた。「餃子の鬼や…」私がそう呟くとマチはこっちを振り向いてにいっ、と歯を出して笑った。
 餃子パーティも無事に終わり、私たちはソファで映画を見ながらワインをちびちびと飲んでいた。
「ミコ、この映画つまらないね」
 マチがずっと見たいと言っていたから私がバイト終わりに借りてきてあげた映画だった。
「たしかに、脚本は悪くないけど演出が単調だね」
 マチは冷蔵庫から新しい缶チューハイを持って来てぐびと勢い良く飲んだ。それから酒の勢いを借りたようにこう言った。
「ミコ、屋上に行こうか」
 私は缶ビール、マチは缶チューハイを片手に最上階の廊下のフェンスを跨いだ。マチは私の手を引いて真っ暗で何も見えない中、屋上へと続く鉄骨階段を上がっていく。あれだけ餃子を焼いたにも関わらずマチの手は冷たかった。たん、たん、と微妙にずれたふたつのゆっくり階段を踏む冷たい音が闇の中密やかに響く。酒気を帯びたマチのにおいがする。なんだか懐かしいにおいだ。毎日のように嗅いでいるはずなのに。私はマチをぎゅっと抱きしめたかった。
屋上は無風だった。しんとしていて、まるで世界が止まったみたいだった。私たちの住むマンションは台地のてっぺんに建っているので、屋上からは街が良く見渡せる。酒の缶を持った私たちは並んで囲いの柵に凭れて、街の灯をぼんやりと眺めていた。不意にささやかな音で聞き覚えのあるイントロが流れ出した。最初はか細い月明かりのような調子のその曲は、やがて雲の隙間から抜け出して鮮烈な満月となる。
「Tomorrow never knows」
 私はこの曲を聴いた時にいつもこんな印象を受ける。いつかマチはこの曲のことを夜の森の奥で誰にも知られずに燃える焚き火みたいと言っていた。思えば、性格がまるで違う私たちを繋ぐきっかけとなったのはこの曲だった。
 
 あれは私がまだ大学一年生のときの冬だった。私はサークルの先輩に合コンに来てくれと頼まれて不承不承承知した。相手は同じ大学の違うサークルの連中だった。明らかに人数合わせで参加した合コンだ、面白いはずもなく、私はうんざりした。いつ「じゃあ私はこの��で…」と切り出そうかずっと迷っていたが、二次会のカラオケにも流れで行くことになってしまった。そしてそのカラオケに遅れてやって来たのがマチだった。先輩の説明によると、マチは男側の知り合いだそうだ、それで先輩とも面識があったので呼ぶ運びとなったのらしい。部屋に入って来たマチを見て私は「きれいな女の子だなー」とうっとりとした。マチは空いていた私の横にすとんと座った。思わず頬が緩むようないいにおいがした。スキニーを穿いた華奢な脚のラインが綺麗で、横に座っていると、私の若干むくんだそれと比べずにはいられなかった。マチは終止にこにこしていた。男たちは明らかにみんなこの場で一番綺麗なマチを狙っていた。私は半ばいやいや参加したとはいえ、やはりみじめな気持ちだった。下を向いて鬱々としていると私にマイクが回って来た。あまり歌は得意ではないのだが…と思いつつ私は渡されたマイクを掴み、ええいままよとミスチルの「Tomorrow never knows」を歌った。歌っている時にマチがじっとこっちを見ていたのを不審に感じたが私は気付かないふりをして歌いきった。合コンはつつがなく終わった。解散してターミナル駅のコンコースを歩く私たちの集団は1人ずつ空中分解していき、やがて私とこの初対面で良く知らないマチという女の子だけが残った。私たちは無言で微妙な距離を保ちながら並んでしばらく歩いた。
「私って合コンとか苦手なんだ~」やにはにマチが間延びした調子で呟いた。それからふわあと大きなあくびをした。私はその様子を見てなんて美しいひとなんだろうとうっとりした。合コンのさなか、表面上は取繕っていたが、明らかに退屈そうにしていたのも見て取れたので、私はマチに好感を抱き始めていた。
「なんか私同世代の男の子って苦手だな、何話したら良いかよくわからないし」
「私もああいう場は少し、苦手」
「ねえ、お腹空かない?」
「ちょっぴり」
「ラーメンでも食べにいこっか」
「うん、いいよ。この辺?」
「うん、北口からちょっと歩いたところにおいしいラーメン屋があるんだ。塩ラーメンなんだけど、大丈夫?」
「大丈夫、塩ラーメン好きだから」
「それではお嬢さま、エスコートいたします。」
 とマチは腰を落として片足を後ろに引く紳士の挨拶のポーズをした。
「で、では、よろしく」
 私もコートの腰のところを両手でつまんで膝を曲げ淑女の挨拶でぎこちなく応じる。
 私たちは改札の前で踵を返し、ラーメン屋へと向かった。
「ミスチル、好きなんだね」
「うん、親の影響なんだけど」
「私も好きなんだ。だから、君がさっき歌ってたとき嬉しかった。周りに音楽の趣味が合う人がいなくってさ、ミスチルとか今の若い人もうあんまり聴かないもんね」
「うん、カラオケとか行くとみんな今時の曲ばっかり歌うもんね。特に合コンなんかだと顕著」
「男も女もなんだかんだ言っても最終的に画一性を自分に強いたほうが楽なのだということなのかも知れんね。ところで君、名前は?」
「私はフジサワミコ。あなたは?」
「私も名前二文字なんだ。湊マチ」
「みなとまち」
「マチでいいよ」
「わかった、私のこともミコって呼んでよ」
「そうだ、ハタチになったら一緒に飲みにいこうよ。ライン交換しよ」
 
 それがきっかけで私たちはことあるごとに2人でつるむようになった。私がこっぴどく振られた時も、マチの就活が難航を極めていたときも、いつも酒なんかを飲みながら互いに慰め合った。ルームシェアをしようと言い出したのはマチのほうからだった。それは私が就職を諦め夢を追うことにするとマチに打ち明けた次の日だった。
「私はミコがどんなでもそばにいてあげるよ」
 マチはことあるごとにこんなことを言うのだった。
「どんなのでもって、もし私がアメーバみたいな真核生物でも?」
「アメーバでも好きだよ」
「私も、マチがアメーバでも好き」
 赤ら顔の私たちは屋上で「Tomorrow never knows」を歌った。
「はーてしなーいやみのむーこうへーおっおー てをのばそー」
呂律の回らない舌で私たちは叫びながら柵の向こうへ両手をぴんと伸ばした。伸ばした指の先に、滲んでぼやけた街の灯りたちが、きらきらと輝いていた。
 
 私はそのプロポーズを受けることにした。相手は麗さんという人で、マチの紹介で知り合った10歳上の高校の生物の教師だった。マチはあの失恋以来落胆している私を励ますために、荘くんとは真逆のタイプの男を紹介してくれたのだった。交際は、以前の私ではとても考えられないくらいにうまくいった。私は素敵な男をあてがってくれたマチに心の底から感謝した。彼はとても良く尽くしてくれたし、私も彼のことがとても好きだった。彼と付き合い出してから、彼の家に泊まって部屋に帰らないこともしばしばあった。そして私と対照的にマチはその頃からだんだんと不安定になっていった。なにかといらいらしてたまに私にあたるようになったのだ。私は何故そうなったかマチに聞くこともなかった、何となく察しがつくだけに余計聞く気がしなかった。喧嘩も私が帰らなくなった日のぶんだけ増えていった。
 ある日3日間麗さんの家に泊まってから帰ると、私の部屋のものが全部廊下に放り出されていた。
「なにこれ」私はこっちを振り向きもしないリビングでソファにかけてテレビを見ているマチに問いかけた。
「もう出て行くのかと思って部屋を片付けといてあげたよ」
「ばかじゃないの?ほんとガキだね」
 なんてみっともないんだ。私にいつまでもこだわって、ばかばかしい。
 ずかずかと歩いてリビングに入ると不意にマチが振り向いてこっちをきっと睨みつけたので私は立ち竦んでしまった。
「ミコ、ミコの夢は、努力は何だったの?なんで…そんなに簡単に諦めるの?」
 マチの声は掠れていた
「前にも言ったけど私には才能がないんだしもう筆を折ったんだよ」
「なんでも手に入れることのできるマチには私のことはわからないよ。知ったような口を聞かないで」
 私はいつしか心の何処かで自分の夢と、マチから解放されたいと思い始めていた。
「そう��えば言ってなかったんだけど私あの人にプロポーズされたんだ」
マチはまたテレビの方を向いて石像のように固まって何も言わなかった。
「おめでとうとか、ないの?」
マチは依然としてだんまりだった。
 そのとき、私の頭のなかでぐわん、という音がした。誰かに後頭部を殴られたような衝撃だった。それから涙が、とめどなく溢れてきた。私は泣きながら廊下に放り出された荷物を出来る限りまとめた。それから麗さんに電話をしてワゴンを出してもらい部屋の私の家具や持ち物を全て、3往復して麗さんの家に運んだ。それっきり、あの部屋には二度と戻らなかった。それはあまりにもあっけない幕切れだった。麗さんは「人のつながりなんて、そんなもんさ」とやけに達観した口ぶりで私を慰めてくれた。3ヶ月後に披露宴の招待をマチにラインしてみたが既読すら付かなかった。
 
 「もう、終わりにしよう」
 別れを切り出したのは英治のほうからだった。英治はセックスが終わってしばらくして呟くようにそう言った。実のところ私は、英治のほうからそう言ってくれるのをずっと待っていた。いかにも安ラブホテルの調度品といった感じのチープなガラスのテーブルの上の、パフェ皿の底に残って溶けたソフトクリームがピンクの照明を反射しててらてら光るのを、私は裸でシーツも被らずに茫然と眺めている。英治がシャワーを浴びる音が聞こえる。英治が上がったら私もシャワーしなくちゃ。…どうしてこうなっちゃったんだろう…どうして。やにわにテーブルに起きっぱなしのスマホが震え出した。ガラスの上でがちゃがちゃ騒ぎ立てるそれに私はいらっとして。ぱっと手に取った。その画面には「麗さん」と表示があった。
「来月の裕太の体育祭どうする」
 メッセージの内容はこれだけだった。私はスマホの画面を暗転させて枕元にぽんと投げ捨てベッドに潜り込んだ。麗さんと英太にはもう一年以上会っていなかった。毎日仕事漬けで夫と子供を捨てて出て行き、愛人と日中に安ラブホにしけこんでいる私のような女が今更どの面下げて元伴侶と息子に会いに行けばいいんだ。いやだ、このままなにもしていたくない。この地の底のような穴ぐらで、誰にも干渉されずにずっと踞っていたい。
「ミコ、ミコ、ミーティングに遅れちゃうよ。起きて」
そうだ、私は次の作品の企画ミーティングに行かなければならない。何せビッグタイトルのナンバリングだ。集中しなければ。
ミーティングはかなり難航したもののなんとかまとまった。私も英治も、いつものようにメンバーに振る舞った。私たちの関係に気付いている人は、どうやら1人もいないようだった。帰りがけに私と英治は小さな居酒屋に寄った。ここは私たちが関係を持ちだしたころ英治が教えてくれた店だ。
「今度のプロジェクト、うまく行くといいな」英治は燗を呷って少し上機嫌になっていた。昼間のラブホテル��の言葉を取繕うためなのかもしれない。
「なんたってミコには実績があるもんな。大丈夫、ミコならこの先一人でもうまくやっていけるさ」
「聞きたくない…」
「え?」
「「聞きたくない、そんな言葉」」
 私は思わずそんなことを口走りそうになったが、かろうじてそれを飲み込んだ。
「英治はどうなの」
「どうって?」
「この前も辞めたがってたじゃん。この仕事、自分に向いてると思う?」
 そうだ、私が英治の仕事や家庭の愚痴を聞いてあげるようになったのがこの関係の始まりだった。
「うーん…向いていようが向いてまいが、俺にはやるしかないな。やっぱり何度も言ってるけど、自分の夢のために邁進してきたミコと俺はスタンスが違うよね、それに俺…」
「俺?」促しても英治は先を言うのを躊躇うので私はいらいらした。握りしめた水割りを私はぐいっと飲んだ。
「俺…2人目ができたんだ…」
「ふうん、おめでとう、ね」
「そうなんだ、だから、この関係もそろそろ潮時なのかなって。」
 私はカウンターに万札を叩き付けて店をあとにした。なにも英治に腹が立った訳ではない。私は全てがいやになってしまったのだ。夢も、仕事も、家族も。
「違う…私は…私は…」
 私は無意識にそう呟きながら明後日の方向へ駆け出していた。後ろで英治が私を呼びかけながら付いてきていたが私はその声がしなくなるまで走り続けた。走って走って、私は知らないバーに駆け込んだ。それからジャックダニエルのロックを注文した。なにも考えたくなかった。ぼうとそれをちびちびなめていると、やにはにスマホがポケットのなかで震えた。英治がなにか取繕うためのメッセージを送ってきたのかと思い私はうんざりしながら画面を見た。しかしそこに表示されていた名前は「英治」ではなく「マチ」だった。
私は反射的にスマホをカウンターに伏せて置いた。そしてウイスキーを飲み干しておそるおそる画面をタップして内容を確認すると。
「久しぶり、突然ですみません。今度会えませんか。」とあった。
私は胸がざわざわした、けれどもう何も考えないことにした。すぐにマチに「いいですよ」と返信した。
 待ち合わせは2人が分かりやすい場所が良いとのことで「鯤」にした。私は待ち合わせの時間より少し早くに鯤に来た。
「いらっしゃい。おお、ミコ」
 蓮さんは最近白髪が増えたものの相変わらず元気だった。私は鯤には昔のなじみで今でもたまに来るのだ。
「ごぶさたじゃないか。仕事忙しいのか。なんか、顔が疲れてるぞ」
「うん、ちょっと最近いろいろあって、でも大丈夫だよ、ありがとう」
 蓮さんはいつでもぶれずに蓮さんなので話していると私は安心する。蓮さんって私にとってオアシスのような人だ。
「今日ね、マチと会うんだ。ここで待ち合わせしてるの」
「マジで!すごいな、何年振りだ?」
「10年振り…」
「そうか、あれから10年も経つのか…なんかあっというまだな」
「うん、いろいろあったね」
本当にいろいろあった。でも、私とマチの時間はあの時のまま止まっている。私が部屋を飛び出したあの日のま��…マチはいったいどうしていたのだろう。
 私は緊張してテーブルにかけて俯いていた、しばらくしてドアに取り付けたベルがからん、と鳴った。顔を上げると、入り口にスプリングコートを着たマチが立っていた。そのシルエットは背後から射す春の陽射しに象られていた。
「おおお、マチちゃん!久しぶりー!」
「マスター、お久しぶりです。」
「相変わらずべっぴんさんだね。ここに2人がいるとなんだかあの頃に戻ったようだな。ゆっくりしていってな」
「マスターも相変わらずみたいで。ありがとうございます」
マチははにかんだように微笑みながら、私の向かいに掛けた。私は気恥ずかしかった。何を話したらいいのか全くわからない。マチもそうなのだろう。ずっとそわそわして後ろを振り向いたりしていた。私はマチが少しだけふくよかになっていることに気が付いた。
しばらくしてマチが話し始めた。
「最近いろいろあって考えたの…私どうしてもあのときのこと謝っておきたくて…寂しくてミコを傷つけることしかできなかった。ミコがいないとだめなのは自分のほうなのに、そして、そう思えば思うほど心細かった。こんな風にミコを呼び出して謝るのも独りよがりだけど。どうしてもそれだけは伝えたくて、ほんとにごめんね、ミコ」
そう言ったマチの眼から涙がひとすじ流れ落ちた。
 そうか、みんな寂しかったんだ。私とマチだけじゃない。麗も、英治も、それから荘くんだって。ミコの涙を見て私のなかで何かがはらりと落ちていった。それはたぶん、いつの間にか私の心に巣食っていた「あきらめ」のようなものだった。
「いいんだよ、マチ、もういい」
「あ、あり、ありがとう、ミコ、うわーん」
 マチはぐしょぐしょに泣いてバッグから出したハンカチで顔を抑えていた。ほかの客もびっくりして、カウンターに掛けているおばあちゃんも「あれあれ」と茶化してきた。私もつられて泣きそうになったがこらえてマチの手をとって店の外へ出た。
 私は泣き止んできたマチの手を引いてしばらく歩いた。
「見てマチ、ここのスーパーでよく買い物したよね」
「あっこの公園覚えてる?よくブランコ漕ぎながら酒飲んだよね」
 マチは鼻をすすりながら「うん、うん」と相槌をうつ。
春の気持ちのいい暖かい風が、懐かしい気持ちを呼び起こす。マチの手は、あの頃と同じで冷たい。
 私はマチの手を引きながらマチとの部屋を後にしてからのことを吶吶と話した。結婚して間もなく、昔穫ったグランプリの作品を目にしたディレクターに大手ゲーム会社のシナリオライターとして抜擢されたこと…麗さんとの子供が産まれたこと…仕事が多忙なのが原因で離婚したこと…仕事が忙しすぎて疲れていること…同僚の不倫相手との関係が終わったこと…
 マチは私のところどころくすりと笑いながらただ聞いてくれていた。
「ぜんぶミコだね」
「え?」
「恋愛でポカするのも、仕事や夢に疲れて参っちゃうのもぜんぶあの頃と同じミコだ。ミコは私が知らない間もミコをやってたんだね」
「たしかに、全部わたしだ。わたしらしい…わたし」
 そしてマチもずっとマチだ。あの頃と同じ、強い肯定も否定もせず��だ私に寄り添ってくれる。そんなマチを見ていると今日の朝までずっと私を苛んでいた罪の意識や漠然とした憎悪が緩やかに解れていった。
「ねえマチ」
「ん?」
「屋上に行かない?」
私たちの住んでいたマンションはまるでタイムスリップしたかのようにあの頃と同じで、どこも全く変わっていなかった。
 いけないことと知りつつ、私はマチの手を引きそうっと忍び足で、屋上への階段を昇る。
 私たちは昔のように並んで囲い柵によりかかり街を見渡した。
「どこもかしこもなーんにも変わっていないね」
「そだね、あ、でも私は少し変わったかも」
「どんなところが?」
「私、結婚するんだ。式は挙げないことにしたんだけど。それでね、今お腹に赤ちゃんがいるの」
「え?」
私は不意をつかれて唖然とした。
「何ヶ月?」
「3ヶ月」
「えーっと…夫さんはどんな人?」
「優しい人だよ、今の職場で知り合ったの」
「おめでとう、マチ」
「ありがとう、ミコ」
私たちは手を繋いだまま顔を見合ってくしゃっと笑った。
「これ、覚えてる?」
 私はスマホのプレーヤーを開いて再生をタップした。
「うわ、懐かしい、私今でも聴いてるよ」
「私も聴いてる」
 あの夜この屋上でマチと一緒に歌った…そしてマチと私を繋ぐきっかけになったこの曲。
「Tomorrow never knows」
 私たちはあの頃を思い出しながら小さな声で一緒に歌った。これまでと、これからの全てが、発酵するパン生地みたいに私のなかでふわり広がって行った。
 心のまま僕は行くのさ、誰も知ることのない明日へ
 そうだ、私とマチは私とマチのままで、あの頃のような万能感はなくともしっかりと歩いて行くんだ。癒えない傷を抱えながら。あらゆる柵に絶えながら。
 私たちの目の前には、霞がかってぼやけたなんでもない街が広がっていた。
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gkeisuke · 6 years ago
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190304 山梨1日目
山梨に旅に来ている。タイトルに1日目とつけているが、1月の徳島も2日目の日記が途中のまま下書きに置かれているので、そういうこともあるかもしれない。
動機などについては、既に何度か書いている気がするが「1年くらい後に車を買いたいので、車種を絞るためにレンタカーを借りていろいろな車を運転したいこと」という動機に対して「ゆるキャン△の舞台を巡りたいこと」という理由が掛かったものである。
8時ごろ起床。正直、そんなにカッチリとは行程を決めていなかったのだけど、朝起きた時点で雨と寒さと寝不足から、全く布団から出たくなくなってしまい「あ、今日は温泉に浸かりまくろう……」と、舞台巡りはほどほどに湯治コースがほぼ確定した。
『ぱらのま』という好きな漫画があって、2巻で、ローカル路線を乗り継いで下部温泉と石和温泉に行く話があるのだけど、石和温泉は前日にフォロワーさんから「漫画に書いてあった通りだった」というニュアンスの情報を頂いたので、下部温泉の方に目標を定めた。
一発目から武蔵野線に乗り遅れ、結果的にいつも会社に行くのと同じ便になってしまう。ただ、雨の影響もあってか、中央線もほどほどに遅れており、立川で特急を待ちながら20分くらい時間を潰す。
今回の旅がいつもと違うのは、糖質を気にしなくてはならないことだ。これまで「旅の食事は(内臓に対して)無礼講」というスタンスを取ってきたが、徳島帰り翌週の健康診断で血糖に悪い数値が出た事実を重く受け止めて、今回は炭水化物と糖分を極力摂らないように立ち回らなくてはならない。
しかし、観光の目玉となるようなご当地料理は、どうしても炭水化物か甘味であることが多い。山梨は特に顕著であり『ほうとう』なんかは麺とかぼちゃのダブルパンチなので、この観点からは最もNGな料理となってしまう。ほうとうが好きなのに……。
ということで、立川では量り売りの海藻サラダと新玉ねぎサラダをそれぞれ100gずつ買い、飲み物は特茶とした。いつもなら、確実にコーヒーショップで、甘ぁいなんちゃらフラペチーノとか、なんとかマキアートを買って浮かれているタイミングである。テンション上がんねーな!おい!
せめてもの抵抗という意味も込めて、グリーン車で甲府まで行くことにした。特急料金よりもグリーン車料金の方が高いのを見て、ちょっと何やってんだという気持ちが無いでも無かった。
朝の中央線というのは、基本的には郊外から都心に向けて出社する上りの方が混むことになる。社会の流れと逆らって、ガラガラのグリーン車でゆうゆうと下っていくというのは、平日休みの特権という感じがして好きなのだ。性格が悪い。
中央線の終着駅として「大月」という土地を、よく文字情報では認識していたのだけど、この電車で高尾より先に行ったことは無かったように思う。高尾から先の車窓には、どんな風景が広がっているのだろうと思ったけど、山と鉄橋とコンクリートとトンネルが、かわりばんこにグルグルと巡ってくる感じだった。雨模様の空も相まって、全体的に灰色の風景が広がっており、なんとなく気が滅入ってきたので、相模湖駅を通過したあたりからは『ナナメの夕暮れ』の続きを読んでいた。
ちょうど若林さんが父との想い出を振り返りながら、キューバの街を歩く話を読んでいた時、車窓から高速道路が見えた。なんかこの景色、車の車内からは見たことがあるようにも思えた。そういえば山梨には小学校の頃、よく父に連れてこられていたのだ。
うちは父と母が離婚している。苗字は父方のままなのだけど。別に隠していた訳では無いのだが、学生時代にこれを言うと、とても気まずい空気が流れて面倒だったので、いつしか言わなくなっていた。父のエピソードがあまり出てこないのは、純粋にあまり会っていないからである。
1人だけフォロワーに初対面で言及されたことがあるので、何となく気付かれている可能性は高い���
ただ、今乗っている車を貰ったり、そもそも私は父の方についていこうとしたらやんわり断られたので、別に仲が悪いわけでは無い。大人になった今ならわかるが、父は割と私についてこられるのは面倒だったんだろうなという気がする。何故なら、私以上に父は「一人で楽しい人」だからだ。
ここで感傷に浸るなら、父に貰った車で思い出の山梨を巡り、なあ、お父ちゃん。俺、一人で山梨来れるくらい大人になったよ……となるのだけど、甲府に向かう道中で、そういえば連れていてもらってたな……とようやく思い出したし、軽自動車で高速に乗るのは恐いからやだ。そもそも旅の目的が変わってしまう。父生きてるし。
父のエピソードを話すとすれば、私が生まれる前、関東で名が知れている某暴走族グループの副総長だったという話があり、私はクソオタクなので、なんでこうなってしまったんだというコントラストでよく笑いを取っていた。車やバイクが好きであり、キャンプなどにもよく連れていってもらっていた。
山梨には、さくらんぼ狩りに来ていたのだったな。めちゃくちゃ山奥に、父の知り合いか何かのさくらんぼ農園があって、木からとって無限にさくらんぼを食べていた。私は車の中で、ドラクエモンスターズをしたり、道中のブックオフで買った漫画を読んだり、姉と遊んだりしていた。
国立・府中インターからほど近く行けたので、ほったらかし温泉を始め、いろいろ温泉にも連れていってもらった。キャンプに行ったりもしたな。
最近、父はすげー人だったんだなと改めて思う。色々な場所の色々な景色のことや、美味しいご飯のことを知っていて、アウトドアの知識もあり、キャンプにも連れていってもらった。これは今私がやろうとしていることや、やろうとしているけど出来ないことだと思う。
ちゃんと大学まで出させてくれた恩があるので、たまには親父殿ともご飯でも行こうと思いながら、甲府に到着した。
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今年は甲府開府500年のアニバーサリーイヤーらしい。改札を出た時に「こうふ開府500年 開幕から63日」と書かれた電光掲示板が真っ先に目に止まったが、今年が始まって何日が経過したかを大々的にカウントアップしてるだけではと思い、やや困惑した。
甲府の街は想像以上に「武田信玄公一本勝負」という印象を受けた。歴史を感じる落ち着いた通りに、風林火山、信玄の文字が散りばめられる。程よく都会で、程よく歴史を残しており、心地よい場所��のだけれど、深く掘り下げてもこれ以上の情報は出てこないかな……という印象も同時に覚えた。
いや、仕方ないのだ。そもそも東京と劇的に変わることはなく、多摩西部の出身なので、微妙に山梨寄りのスピリットが交ざっている。埼玉ほどではないけど、旅行という名目における、心理的なグラデーションはそんなにないし、そんな感じでひょいっと行ける小旅行というのも、名目としては大事なことだった。
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いちいちお土産が美味しそうなんだよな!(逆ギレ)
見ての通り、オール糖なので、一つも食べることが出来なかった……。涙を流しそうだった。信玄餅好きなんすよ……自分……。
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レンタカーはクラス別に貸し出される車種が分けられていて、指定が無ければ料金が安くなるシステムだった。
私がお願いしたクラスは、マツダのデミオか、日産のノートの2択だった。安いのもあるけど、色んな車種に乗ってみたいのでランダムでお願いしたのだけど、カタログなどをみて、現時点で一番気になっている車種がマツダのデミオだったので、心の中では「デミオこい……デミオこい……」と思っていた。
日産ノートでした……。ただ、色がめちゃくちゃかわいいし、私が緑大好き人間であることを察してくれた、レンタカー会社側の粋な計らいと受け止めた。
徳島のマーチに続き、2度目の日産車ということもあって、割と操縦性はスムーズに慣れることができた。
何より、マーチの時よりさらに設備が新しく、父からお下がりでもらって乗っている今のミラから数えると、型番に20年近い差がある。
バックミラーがカメラに映し出された映像になってる!駐車のアシスト機能がやべえ!エンジンキーないの!?アイドリングストップ!などなど、一つ一つの事象に感動があった。
あと、ミラだと「ヴォォォォォォォォン!!!!!」ってエンジン吹かすレベルでアクセル踏まないと加速しないのに対して、軽く踏んだだけで制限速度に到達するので、制限速度超過の注意を受けて減速するという事象が多発してしまった……。アクセルがめちゃくちゃ軽いおかげで、長距離を運転しても全然疲れなかった。
特に不満らしい不満が無いので、もうノートでいいんじゃないか……。という気持ちになってきたが、日産車の操作感に慣れ過ぎている感じもあり、比較になっていない感じがあるので、��回借りる時は最低でも別の会社の車を引けるように背ってしようと思います。
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糖を抜くために甲州牛のステーキ(白米抜き)で昼食を済ませると、下部温泉郷へ向かう。約40キロの道のりだったが、ほとんど信号で止まることもなく、下道で1時間くらいで到着した。
全く位置関係を把握していなかったのだけど、看板などを見てると「本栖湖」とか「身延」とか、奇しくもゆるキャン△に所縁がある地名が数多く見られた。この辺だったのか……。
この位置関係だったら、本栖湖の1000円札の富士山などを見て行きたかったのだけど、あいにく雨が止みそうにない。富士山のような山は間近に見えているが、上空は雲に包まれて下層部の山肌しか見えていない。ひとまず温泉に集中することにした。
平日で雨ということもあって、下部温泉郷にはホボ人がいなかった。温泉街としても近場に競合相手が多く、結構、アクセス的にも奥まった場所にあるので、まあ仕方が無いのかな……という感じはした。
温泉郷自体も非常にひっそりとしている感じで、一番車が止まっていたのは病院というのが、なんとなく物悲しかった。
温泉会館という場所に入ると、本当に地域の寄合所を兼ねたような施設で、ロビーではだるまストーブが炊かれていた。ロッカーの鍵をもらうと「車のキーでいいんですけど、何か代わりのものを預けて頂けますでしょうか?」と言われて車のキーを渡す。
入浴料金は500円、浴槽は1つだけという非常に武骨な経営だった。秩父とか高尾にある人為的に作られたテーマパークのような温泉施設に慣れてしまっていたが、確かに『下部温泉』という源泉から引っぱっているなら、むしろいくつも浴槽があるのはおかしくて、一本勝負でいいはずなのだ。ここは”ホンモノ”だと感じた。
しかし、私はまだまだ温泉音痴なので”温泉がとても気持ちいい”ということしか分からなかった……。ゆっくり長く浸かれるちょうどよい温度ということもあり、長距離運転の疲れがすっかり癒された。
なんとなく、RPGにおける”エルフの里”みたいだなと思った。さっきCMで見たのだけど、中央道のインターが下部温泉付近に開通するらしい。人里離れた場所にひっそりとある温泉郷というのは魅力的ではあるのだけど、心細いレベルで人がいなかったので、もう少し賑わっているとまた来る際にもうれしい。
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キレイな富士山はみれないけど、近くにあったので、犬山あおいさんのバイト先のモデルである、セルバ身延店に伺った。
本日3月4日は、各務原なでしこさんと、犬山あおいさんの誕生日。「これまで、プリントを回してもらった時だけしか話したことがないけど、声をかけられただけで好きになってしまい、犬山あおいさんの誕生日だと知ってバイト先にやってきてしまったモブクラスメイト」という設定で犬山あおいさんのバイト先に伺ったら、完全に変質者のメンタリティとなってしまった。
郊外の大型スーパーという風情に、分厚いゆるキャン△グッズコーナーが設けられている景色が面白い。売り場の端々にゆるキャン△のポップが上がっていたりもして、なおかつ、スーパーとして品揃えが豊富でお安い。非の打ち所がないお店だ……。と思いながら、普通に旅の買い出しをしてしまった。
犬山あおいさんのお誕生日と言うこともあり、ステッカーだけ買わせて頂いた。私は犬山あおいさんに思いを寄せるモブクラスメイトなので、お誕生日おめでとう……犬山さん……と思いながら、犬山あおいの名前が刻まれたレシートの裏に、犬山あおいさんのスタンプを押して、後生大事に持つという恐ろしいムーブで店を去ることになった。
身延町、特にセルバ近辺は、山と川に囲まれて、畑が広がり、車がないと移動が厳しい感じで、お買い物してる人たちも、一定量をまとめ買いして車で運んでたりした。そんな立地に徒歩で行けるところに犬山あおいさんが住んでいるのか……と想いを馳せ、もしかして犬山あおいさんは漠然とした閉塞感を感じているのではないかと勝手に考えて、ちょっと興奮していた。この男から逃げてくれ。犬山あおいさん。
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ホテルのチェックインには微妙に早く、どこか回るには絶妙に遅いという時間だったが、ギリギリ栄昇堂さんの営業時間に間に合いそうだったので、身延駅近辺に向かう。
栄昇堂さんは『ゆるキャン△』目当てで来た人に慣れているようで、私の滲み出るオタクオーラから、一発でゆるキャン△目的だと��かって頂き、手厚くもてなしてもらった。
振り返るが、この旅行における最大の障害となるのが『糖』だ。糖質制限のないチョコやあんこなんて、ここ2週間はホボ一切食べていない。でも、ここまで我慢したから、おまんじゅう一つくらいは食べてもいいじゃないですか……。あとで運動するから……。と思い一つだけ買おうとした。
だが、お店でとてもよくして頂いたので、1個だけでは示しがつかないという気持ちになり、5個購入してしまった。家族へのお土産にします……。
2週間ぶりのダイレクトな糖は、マジで涙が出そうなくらい美味しかった。ウッウッ甘いものを思いっきり食べたいよぉ……。
こうやって、たまに食べられるタイミングを大切にして、これからは一つ一つの糖に感動していきたい。ありがとうみのぶまんじゅう。
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また1時間ほどかけて甲府に戻る。夕飯は糖を封印するために鍋。山梨と言えば、名古屋名物の赤から鍋だ。もうすぐ3時なので何を言っているのか分からない。
旅先に行くと、その土地に根ざしたものを食べなくてはならない。という強迫観念に近い感情に囚われることがある。でも、例えば徳島にも餃子の王将はあるし、ココイチもあるのだ。別に名物を食べなくてはいけないなんて決まりはない。山梨は東京と地続きな場所にあるが故に、その束縛から解放されて、本当に食べたいものを無理なく選択できる気がする。
店に入ってから「※二人前より承ります」という罠に気付いた。客単価を考えれば当然だし、そもそも鍋の店に一人で来ているのは、お前だけだ……。
仕方がないので2人前を頂く。ここ2週は、お米を食べないと胃のキャパシティは空くのだなと実感しているけど、それでも流石にお腹はいっぱいになった。美味しかったです。
ホテルにチェックインする。疲れていたのか、1時間ほど眠ってしまい、そのままベッドでだらだらともう1時間過ごしてしまった。
23時ごろ、あと1時間で終わる大浴場に急いで向かう。今回は安くて楽天トラベルの評価が高いビジネスホテルにしたのだけど、大浴場が結構しっかりと温泉でテンションが上がった。奇しくも温泉ダブルヘッダーとなり、お湯に浸かりまくるという目標は果たされた。
冷凍室というのがあり、サウナ、冷凍室、熱い源泉をローテーションで回って、副交感神経を動かしてきた。水風呂が苦手なので、冷凍室というじわじわ冷やしてくれる場所があるのはありがたい。
日記を書き始めて、この時間になり、本日は終わり。
明日はとりあえずほったらかし温泉に行こうと思う。
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tearplus · 4 years ago
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------------------------------------------------------ 『秋の音』 ------------------------------------------------------
 近ごろ、あまり食欲がなかった。  病気をしたとか、ダイエット中だとか、気温が極端に高いだの低いだの、特に原因があるわけではない。ただなんとなく食欲が沸かず、だから食事もおっくうになっていた。貰い物の小さなお菓子をつまんだり、インスタントのスープをちびちび飲んだりしてなんとか身体の形を保っているような状態だった。今まで食事に費やしていた時間は、代わりに仕事や睡眠の時間へと充てた。いや、格好つけて言っただけだ。本当は、大半を睡眠の時間へと充てていた。ひたすらぐうぐう寝ていた。  先日、昔から懇意にしてくれている雑誌からインタビューのオファーがあった。前日も、当日になっても食欲はわかず、けれど何かしら腹に入れなくてはと思い、インスタントのカップ麺をちまちまと食べて出かけた。  出版社の受付で編集部の名前を言い、自分の名を告げる。「お話は伺っております」と美しい受付の女性が微笑む。ほっとしつつ、自分の姿を顧みて新たな不安が生まれる。服は一年前に買ったものだし、化粧品もずっと同じものを使っている。今年のトレンドの色と言われても分からない。こんな状態で、のこのこと外出している自分が少し恥ずかしい。  ロビーで待っていると、顔見知りの編集者が現れた。「いつもお綺麗ですね」なんてお世辞を言いながら、会議室風の部屋に通された。会議室にはインタビューを担当するらしい編集者と、カメラマンが居た。しまった、と思う。最近は自分の食欲のことばかり気にして、服も化粧も適当なのだ。こんな姿が、公に写真として残ると思うと絶望してしまう。たじろいでいると、着席を促された。しぶしぶ座ると、さっそくシャッターが切られる。ウッと息が詰まる。私の動揺を知ってか知らずか、インタビューが始まる。 「新作の長編小説のテーマは……」 「次回作の構想は……」 「作家として今の時代をどうとらえているのか……」  聞かれたことを一生懸命答える。物腰の柔らかな、若い女性がインタビュアーである。優しい雰囲気で、私の話す全てが興味深いのです、とでも言うように熱心に耳を傾けてくれるものだから、だんだんと興が乗ってくる。余計なことまで話してしまう。やれやれ、と自分で呆れる。 「インタビューは以上です。ありがとうございました」  女性がぺこりとお辞儀をする。私もお辞儀を返しつつ、苦役から解放された心地でほっとする。しかし、頭を上げた女性が「最後に見出し用のお写真を……」と言い、再び絶望する。ダサい化粧と服で、べらべらと現代のことを話していた引きこも���の女流作家の、決めポーズの写真なんて、誰が喜ぶというのか。笑いものになるだけだ。しかし、仕事なのでやるしかない。  窓辺に立ち、背筋を伸ばし、さりげなく微笑んでの一枚。椅子に座り、背筋を伸ばし、さりげなく真面目な顔をして一枚。ひさびさに活用された背筋が悲鳴をあげている。 「ありがとうございました」  カメラマンの男の子が、キラキラとした顔で言った。彼も、苦役を終えてほっとしているのだろう。 「編集部に戻って、書類を置いてきますね。そうしたら、せっかくですからご一緒にお昼ごはんでも」  編集者に言われて、私はにわかに不安を覚えた。近ごろほとんど食事をしていないのだ。いきなり外食をして、具合が悪くなってはお互いに損だろう。ましてや、酒も飲んでいないのに路上で戻すようなことがあっては笑い話にもならない。 「素敵なお話ですけれど、この後予定がありますから」  なんとか角が立ちませんようにと祈りながら言うと、編集者はあっさりと納得した。 「それでは、私から先生にお渡しするものがありますので、取りに行ってきますね。申し訳ありませんが、こちらで少々お待ちください」  編集者たちが部屋から出て行くと、部屋は静かになった。遠ざかっていく足音すら聞こえるほどだ。私は背もたれに寄りかかり、ぼんやりと天井を見つめた。今日は疲れた、と思った。家に帰り、風呂に入って、パジャマを着たらそのまま寝てしまおうと思った。急ぎの仕事もないし、体力回復を最優先にしよう。 「先生、ちゃんとごはん食べてないでしょ」  唐突に話しかけられた。ぎょっとして彼の方を見る。カメラマンの男の子が、カメラから顔を上げて私の方を見ていた。ああ、そういえば彼も部屋に残っていたのか。 「どうしてそう思うの?」  いきなり図星を突かれたから、どきどきしながら聞いた。 「俺の実家、農家なんです。兄貴に任せて、俺は写真の学校に入るために上京してきたんですけど。こっちの人たち、誰も彼もどんよりしてるんスよね。ああ、ちゃんと食べてないんだなぁって、分かるんス、そういうの」  さらさらと、聞き心地の良いテンポで喋る。裏表無くまっすぐで、爽やかな青年だ。そういう青年に私生活の欠点を見抜かれるほど、恥ずかしいことはない。 「私、顔色悪いかしら」 「顔色っていうか、雰囲気スね。化粧してると、���色なんて分かんないス」  やれやれと吐息する。流行りのお化粧だの、流行色の服だのを気にしている場合ではなかった。醸し出す不健康な雰囲気を、真っ先に気を付けるべきだったとは盲点だった。 「今の季節だと、里芋がおいしいスね。ごぼうなんかも今の時期ス。トマトも本当は今が一番糖度が高くて美味いし……」  すらすらと野菜の名前が出てくる。遊びたい盛りのような風貌の青年から、きちんとした生活そのものという雰囲気の言葉が出てくると、それだけでハッとさせられてしまう。 「ずいぶん楽しそうに野菜の話をするのね」 「家を継がないぶん、気楽に野菜と関われるからスかねぇ」  なんだか、やけに達観した様子だ。 「そうそう。うちの農家が直接卸してるレストランが、この近くにあるんスよ」  青年がニコニコしながら言う。そこでふと気が付いた。 「もしかして、誰も彼もに同じことを言ってるの? そのお店に行かせようとして」 「あはは、鋭いスね」  なんの悪気もなく笑っている。だからこちらも、なんとなく可笑しくなってきてしまう。 「最近ちゃんと食べてなさそうだなって思ったのは、本当スよ」  男の子は言って、優しく微笑む。 「次は、もっと元気な先生を撮らせてくださいね」  不覚にも、きゅんとしてしまった。モテるだろうなぁ、こういう子。と、人間観察の方が先に立つのは作家の悲しい性だ。 「先生、お待たせしました」  編集者が、茶封筒片手に戻って来る。「原稿の見直し、せっかくなので郵送するより手渡しの方がいいと思って」修正作業の大変さを思い、急に現実へ引き戻される。 「本日はご足労いただきありがとうございました」  編集者に見送られて、出版社を後にする。  このまま電車に乗って、地元の駅に着いたら、まっすぐ家に帰らずに、スーパーに寄ってみようか。季節の野菜の知識もついたし、少し買ってみてもいいかもしれない。電車の中で、季節の野菜を使ったレシピを調べてみるのも楽しいだろう。みずみずしい野菜たちを使った料理を漠然と思い描いていたら、なんだか、お腹が空いてきた。カップラーメンひとつぶんしか入っていない胃が、やけに軽く思えてくる。我ながら単純だ。  身軽くうきうきした気分になりながら、改札を通り抜ける。その時、くぅ、と小さくお腹が鳴った。
//
>写真をお借りしています。
suju-fotoによるPixabayからの画像
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sonezaki13 · 5 years ago
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 正義の味方
 いつも通り出勤すると、シャッターの降りた店の前でおっさんが寒そうに首を縮めて立ち尽くしていた。何となくヤバい気がしたので、目が合わないようにしながら足早に通り過ぎようとしたが、案の定、おっさんは話しかけてきた。
「おい、お前ここの奴だろ。もう入れてくれよ」
「大変申し上げにくいのですが、開店前ですので、開店までお待ちください」
「こんな寒い中待ってるの辛いんだよ。俺、年だからさ」
 そっちが勝手に来たんだろ。頭イカレてんのか。
「お客様、開店は九時からなので。まだ一時間あります」
「俺一人くらいどうってことないだろ」
「あなただけを特別扱いすることはできません。それに中で開店作業がありますので」
「先に買ったらとっとと帰るから邪魔はしねぇよ」
 驚いた。入った上に買い物する気でいるらしい。衝撃的だ。開いた口が塞がらない。閉めてるけど。スーパーくらいどこでもあるだろ。気でも狂ってんのか。普段どんな僻地にいるんだ。
「開店作業がまだなので売ることはできません」
「俺このあと仕事あるから急いでんだよ。時間ないんだよ」
「お忙しいところわざわざありがとうございます。お仕事が終わってからのご来店をお待ちしてます」
 みじんも感謝していないのはバレている。一瞬むっとした表情を浮かべたものの、おっさんはすぐに頼み込む姿勢へと戻った。
「仕事終わるの遅いから夜は無理なんだよ。なぁ頼むよ」
「別の日にお願いします」
「今日しかない」
 はい出た。こういう系の奴は「今日しかない」とすぐ言う。こういう系の奴同士で作戦会議でもしてるんじゃないかレベルで同じことを言う。お前ら一体普段どうやって予定たててんだ。今までどうしてたんだ。さては、常に行き当たりばったりなのか。そうか。
「お休みの日にお願いします」
「休みは予定が入ってるから」
 じゃあ予定やめれば。いつまで先の予定まで立ててるんだか。
「では日程調節の上ご来店お願いします」
「ほんとお前らは殿様商売だな。客を見下しやがって。柔軟な対応っていうのができないのか」
 ほら。本性を表した。こちとら目があった瞬間からそういう人だと思ってましたよ。
「そんな風にはみじんも思ってませんが、あなたにそう感じさせてしまったことには申し訳ないと思います」
 何が悲しくてタイムカードを切る前から仕事をしないといけないのだろう。気分は最悪だ。朝の星占いは三位だったのに。まぁ当たったことないけど。昔フられた日の星占いも一位だった。
「黙れ。調子に乗るな」
 それはこっちのセリフだ。勝手に並んでおいて何なのだ。頭がおかしいんじゃないか。
 おっさんが拳を振り上げる。俺が若い女だったら「責任者呼べ! いや、社長だ! 社長を出せ!」などと喚き散らされて終わりだったろう。あーあ。客に手をあげられるなんて滅多にないことだが、たまにある。まぁ、これで通報すれば勝てるので黙って殴られておけば良い。でも決して喜ばしいことではないので本当にうんざりする。面倒くさい。仕事も大して好きじゃないが、働いてる方がマシだ。まぁでももし選べるんだったら働かずに気楽に生きられる人生の方が良かったな。選べないけど。宝くじで二億当たんないかな。
 その瞬間、僕らの間に颯爽と立ちはだかる男が現れた。
「こんな人のためにあなたが苦しめられる必要なんてありません」
 おっさんの腕を片手で止めながら奴は言った。駅で見かけたら十分後には忘れてそうなくらい平凡な顔をしていた。おそらく出勤途中らしくスーツを着ている。
 そして奴は空いた方の腕を大きく振り上げた。堅く握りしめられた拳。痛そうだ。勢いをつけて振り��ろす。途端に吐き気がした。文字通りの意味で。今朝のコーヒーが鼻の奥でつんとしている。喉の奥でコーヒーとゲロの苦みが混ざり合いながらせり上がってくるのを飲み込む。ひりついたような不快感が残る。鳩尾が鈍く痛む。言葉にならない呻き声が口から漏れた。涎も一緒にこんにちは。
 えっ、何で何で。おかしくない?
 何で俺が殴られてるの。わけわからなさすぎ。奴に問いかけようと言葉を発そうとしたが、呻くだけで言葉にならない。奴は本気だ。本気で鳩尾を殴られた。
 腹を抑えて地面にうずくまっていると、さっきのおっさんはうひぃと変な声をあげて一目散に逃げていった。そりゃあ逃げるよな。こんな頭のおかしい奴が割り込んできたら。
 スマホを取り出そうと腹から手を離した瞬間に、上から容赦なく足が降ってきた。ずん、と重みのある感触と音がした、ような、気がした。カラカラと音を立ててスマホが地面を転がっていく。乗せられた革靴から手を引き抜こうとすると、さっと足を退けられ、また倒れ込んでしまった。爪が剥がれた気がして見てみたが、剥がれていなかった。少しヒビが入っただけだ。手の甲全体が赤くなっている。骨が折れているかは分からない。案外人間は頑丈だ。小学生の頃、滑り台のてっぺんから落ちた時も、同じことを思った気がする。じんじんと痺れるように痛むが、とりあえず動かせるので、欠勤しなくて済みそうだ。この人手不足の状態で休んだら他のメンバーに負担を強いてしまう。
「あなた何なんですか」
 腹から声を捻り出して言った。まだかすれている。
「正義の味方だ」
 奴は俺の前髪を掴んで引っ張る。痛い痛い。こんなに短いのにそんなに引っ張ったら頭皮が千切れちゃうって。
「正義の味方なのにそんなことするんですか」
 振り払おうと力の入らない方の手も使って、奴の腕をめちゃくちゃに叩く。しかし、びくりともしない。
「お前が悪い」
 わけがわからない。理不尽だ。何の言い掛かりなんだろう。ぶちぶちと髪の毛が何本か抜けた。あー。ハゲ予備軍と言われてるのに貴重な髪の毛数本が無惨な姿にされてしまった。
 ぱっ、と手を離されて尻餅をつく。手をついたところで、踏まれてない方の手の上にも足が振り下ろされる。この数分のうちに何回「折れたかも」と思っただろう。本当に痛い時は声なんて出ない。悲鳴をあげて助けを求めたいのに痛くて声が出せない。さらに鳩尾に蹴りが入る。ゲロが口内にまで出てきた。喉から口にまでひりつく不快感がある。それをペッと奴に向かって吐きかけた。
 奴はさっと身を引いたが、カッターシャツの裾をほんの少し俺のゲロが汚した。明らかに不愉快そうに眉を潜める。そこで間髪入れずに俺は彼の足に突進した。手に力が入らなくても体当たりくらいはできる。俺が足の上に乗っかった形で奴は倒れ込んだ。���を離そうと手で俺の頭を掴もうとしたので、ゲロ塗れの口で奴の親指に噛みついてやった。前歯だと力が入る気がしなかったので、あえて横を向いて思いっ切り噛み付いた。ゴリゴリッと嫌な音がする。もちろん、ちぎる気で噛んだ。奴が驚いてギャッと悲鳴を上げる。俺には出なかった類の声だ。俺の歯はそこまで強くないだろうが、それくらいの気合いでやればある程度効くだろう。奴は空いた方の手でガンガンと俺の頭を殴る。口の中に血の味が滲む。俺のじゃない。肉に歯���食い込む。気持ち悪くて離しそうになったが、俺はさらに顎に力を込めた。頬を平手打ちされても、頭を拳でごんごん叩かれても俺は離さない。目がチカチカする。実際に揺すられているよりも大きく視界が揺れている気がする。目の前が全体的に白っぽく、幾多もの点が瞬きながら流れていく。これが俗に言う星が舞うというやつだろうか。生温かい鉄臭さが喉の奥にしみていく。浸食されるような嫌悪感。
「犬みてえなマネしやがって。気持ち悪い」
 掠れた声で罵られたので言い返そうとしたが、顎の力が緩みそうになったのでそのまま歯を食いしばった。心の中で「俺犬派なんで、そういう悪口はちょっとやめていただきたいですね」と言い返した。
 もがく奴の蹴りが何発か俺の腹にまた入る。めり込む深さを感じて、男の体も意外と柔らかいんだなぁと思った。鈍痛。またゲロがあいつの指にかかる。噛まれた手を夢中で振り回して店のシャッターに俺は打ち付けられた。ガシャガシャと騒々しくシャッターが音を立てる。俺の頭はなかなか割れない卵みたいだな。ぼやーっと視界の靄が濃くなり、全体的にチカチカしている。青とか赤とかにも点滅している。遠くで別の人たちの声が聞こえてきた気がした。
 体から力が抜けていくような、いや、意識だけが外れるみたいな気がして、ハッと気付いた時には病院のベッドに寝かされていた。
 初めて仕事を休んでしまった。皆勤だったのに。皆勤くらいしか取り柄がないのに。やってしまった。思わず頭を抱える。大慌てで店に連絡して遅刻を謝罪し、向かおうとしたが、既に事情を知っているらしい店長に「災難だったな。今日は休め」と止められてしまった。幸い、大した怪我はしていなかったらしく、一日で退院はできた。
 聞いた話によると、出勤時に俺たちを見かけた後輩が通報したらしい。年下なのにしっかり者だ。
「気を付けて下さいね」
 後になってから話した際に警察官からなぜかそう注意された。
「罰せられるべきは彼でしょう」
「いや、彼は『正義の味方』なので、我々は罰することができません」
 俺の頭の上には疑問符が飛び交っていただろう。
「『正義の味方』は『正義の味方』ですよ。良いから気を付けてください」
 全く意味が分からなかったが、とりあえず空気を読んで俺は曖昧に笑って頷いた。もしかして俺が知らないだけで皆知っているのだろうか。そう思って、Google検索をしたり、SNS内を調べたり、数日間は普段見ないくだらないワイドショーも嫌々見てみたりもしたが、まるでわからなかった。奴は一体何だったんだろう。
「正義の味方って知ってる?」
 仕事中に品出しをしながら後輩に聞いてみた。
「急に何ですか。『正義感の味方』は『正義の味方』ですよ」
 後輩は警察官と同じことを言った。そういえばあの警察官も俺より若そうだった。世代差だろうか。
「それが分からないから訊いてんだよ。ググッても出てこないし」
「そんなの載ってるわけないじゃないですか。『正義の味方』は『正義の味方』ですから。それ以外の何者でもない。どうせまたググって調べようとしたんでしょ。無駄ですよ。そういう物じゃないんで」
 後輩の表情を見る限り嘘をついているわけではなさそうだ。しかしますます訳が分からない。俺は同じ質問を先輩にも店長にもしてみたが、ほぼ同じ答えだった。店長は「考えたって分からないぞ」と付け加えた。狐につままれたようだ。俺を置いて世界が変わってしまったような気がする。いや、世界がおかしく見えるというのなら、それはもう俺がおかしいのだろう。もし世界中の誰もが犬を見て「猫」だと言っていたら、客観的事実として俺の認識が狂っているのは間違いない。
 正義の味方の正体がわからないまま数日が過ぎたある日、突然それはやってきた。休日にGEOで新作ゲームの中古が出てないか見ていると、ゴーンゴーン、と突然鐘が鳴り響いた。しかしそれは俺の頭の中でだけだ。俺以外誰も鐘の音に驚いていないし、鐘なんてどこにもないからだ。
 気が付いたら俺は店を飛び出して猛ダッシュしていた。そして横断歩道もない車道を横断し、斜向かいのケータイショップへ突っ込んでいった。いらっしゃいませの声を無視して奥のカウンターへ突っ込んでいく。そこでは厚化粧のババアが金切り声で「分かるように言わなかったあなたが悪いんでしょ! 私は素人なんだからね!」と叫んでいる。そして無駄にキラキラしたケースに入ったヒビだらけのiPhoneを大きくふりかぶった。
「こんな人のためにあなたが苦しめられる必要はありません」
 iPhoneを持ったその手を掴む。どこかで聞いたような台詞が俺の口から飛び出した。目の前の女の子がほっとした顔で俺を見上げている。あちゃー。違うんですよ。
 俺の拳がカウンターの向こうにいる女の子の頬をビンタする。あーあ。それなりにかわいい女の子だったのに残念だ。こんな形以外で出会ってたら一回くらいヤれてたかもしれない。スニーカーのままカウンターに上り、何が起こっているのか理解できていないその顔面に、引っこ抜いてたキーボードを叩き込む。キートップがいくつか落ちる。多分元々ぐらぐらしてたんだと思う。AとKがころころと床に飛び降りる。あとBがあったらAKBなのに惜しい。
 ババアは面食らって口をパクパクさせながら震えている。
「あなた何なんですか」
 鼻血をぽたぽたと白いテーブルに垂らしながら女の子が俺を睨みつけて言う。おお怖い怖い。接客やってる女は穏和そうにみえても大体怖い。これは単なる俺の経験談だ。
「正義の味方��」
 口が勝手に動いていた。何これ。
 あー、いや、これ知ってるわ。これ。なんかマンガで見たわ。いや映画だったかな。両方かもしれない。ゾンビの血を摂取するとゾンビになるってやつでしょ。その理屈じゃん。正義の味方の血を摂取すると正義の味方になっちゃうんでしょ。俺、あいつの血、めちゃくちゃ飲んだわ。あれじゃん。思いっきりあれじゃん。わかるわかる。これ知ってるやつだわ。進研ゼミでやったところじゃん。進研ゼミだったっけ。Z会かもしれない。ってか最近Z会って聞かないよな。もしかして潰れた? くもんにやられた?
 ガン、と頭に衝撃を感じた。女の子にiPadで頭を殴られた。形的にたぶんiPad Proだ。ホームボタンないし。ひどい。iPadは人を殴るものじゃありません。超高級鈍器だ。ボロキーボードとは訳が違う。
 しかしそこへさらに鐘が鳴る。ゴーンゴーン。これは俺にしか聞こえていない。なぜなら誰もその音に反応していないからだ。
 俺は弾かれたようにケータイショップを飛び出す。そして歩道を全力で走る。何人かはねたかもしれない。徒歩で人をはねるなんて前代未聞だ。いや、徒歩じゃないな。俺は走っている。しかも普段こんな速度で走ったことがない。オリンピックに出られるんじゃないだろうか。尋常じゃない速度で風景が流れていく。階段を上り、閉まる改札を無理やり突破して走る。後ろで駅員が何か叫んでいる。こんなことならPiTaPaを作っておけば良かった。
 駅構内で泣き叫ぶ幼児がいる。
「黙りなさいって言ってるでしょうが! なんでそんなにママを困らせるの!」
 半泣きの若い女が手を振り上げている。俺は寸前でその手を止める。細い腕だった。
「こんな人のためにあなたが苦しめられる必要はありません」
 俺は女を解放し、両手で幼児を突き飛ばす。軽い体は簡単に吹き飛んで柱へぶつかりかけたが、すんでのところで女が受け止めた。
「何するの」
 女がヒステリックに叫ぶ。ほんとそうですよね。でも俺正義の味方だから仕方ないんです。
「あなた何なんですか」
 母は強し、というやつだな。さっきまで殴ろうとしていた幼児をぎゅっと抱き締めている。俺に対して敵意をむき出しにしている。
「正義の味方だ」
 またもや口が勝手に動いた。おいおい。俺は女から幼児を引き離そうと女の腕を蹴った。
「やめなさい」
 振り返ると複数人の警察官がいた。俺は無視したが押さえ込まれてしまい、ようやく俺は幼児を女から奪おうとするのをやめた。逮捕はできないが、手を出せないわけではないらしい。
「また『正義の味方』か」
 警察官がうんざりした様子で言っていた。好きでなったわけではない。これは感染症のようなものだ。パニック映画なら世界中に「正義の味方」が広がり、感染者と非感染者の攻防戦が始まるのが妥当な展開だろう。そもそも正義の味方は今どれくらいいるのだろう。俺が知らなかっただけで、誰もが当然知っている程度の知名度があるのだろうか。いや、殴られた人は皆驚いていた。それともあれは自分が「正義の味方」に殴られるなんて、という驚きだろうか。「正義の味方」はいつからいるのだろう。どうやって始まったのだろう。俺が産まれた時にはもういたのだろうか。
 先日殴られた時とは違って、iPad Proで殴られた頭は全然痛まなかった。正義の味方を全うしている間��俺は無敵でいられるらしい。走る速度も尋常じゃない。元々あまり腕っ節は強くないが、人を殴る強さだって以前より強い気がする。「正義の味方」を殴り返した時よりも遥かに手応えがあったのに、まるで自分の体は痛まなかった。体罰は、ぶった方も痛いのだからお互い様、という謎理論が昔は流行していたが、自発的に殴っておいてその言い分はどうかしているとしか思えない。自傷行為の道具にされただけじゃないか。
 解放された後、俺はのろのろと線路沿いの道を歩いていく。相変わらず世界は不機嫌だ。道の端でボソボソと喧嘩しているカップルがいる。ドラッグストアで店員にいちゃもんをつけるジジイがいる。信号がタイミング悪く変わって舌打ちをするサラリーマンがいる。補助輪の自転車で母親を追いかける子供が、晩ご飯に対する不平不満を連ねている。外に出れば、こうして、息をするように不機嫌な人々が視界に飛び込んでくる。いつから世界はこんなにも不機嫌になってしまったのだろうか。
 あの流行病があった数年間のせいだ。誰もがそう言う。それが一番都合が良いから。あの前と、あの後で、決定的に何かが変わってしまった。皆何となくそう思っているから諦めている。仕方なかったのだ。太刀打ちできない未曾有の災厄のせいなのだから仕方ない。あの病の世界的流行で何百万人もの死者が出て、流行抑制のために多くの犠牲を払った。あれは身体だけでなく、世の人々の精神すらも根深く蝕んでしまった、とよく言われているし、俺もそう思っている。二千年代にもなってそんなことに人類が右往左往させられるなんてフィクションじみていた。俺はあの頃、社会人になって新人とも言われなくなり、ようやく新しい環境も身になじんできたところだった。そんな所に強制的に環境変化をねじ込まれ、人間関係も大きく変わらざるを得なかった。世界は元には戻らないし戻れない。完全に元通りになんてなりっこないのだ。世界は重度の脳梗塞を起こしてリハビリ中の老人だ。後遺症は一生ついて回る。途中から気付いていた。とぼけていただけだ。誰もが、後に残る世界は素晴らしいものだという前提の夢物語をしていた。絶望しないように。皆我慢してたから。今だってまだ我慢してるから。皆えらいから。頑張ったから。我慢したのに、頑張ったのに、バラ色の未来がやって来ないだなんてあんまりだ。そんなことがある訳がない。まだ今は途中なのだ。然るべき成果が得られるのはまだ先なんだ。もっと我慢したら、もっと頑張ったら、幸福な世界が実現するのだ。でも、皆、ずっとずっとは頑張れないし、我慢できないから、ちょっとくらい当たり散らしてしまうのは、仕方がない。そして、こんなにも皆不機嫌なのに鐘の音はしない。正義の味方の発動条件は何なのだろう。
 今まで働いてきて、何度も訳の分からない客に絡まれたことはある。流行病の時は特にひどかった。毎日のように赤の他人��ら罵られていた。でも、正義の味方が現れたことなんて一度もない。自称「正義」の罵倒をしてくる人はいくらでもいたが。そんな時こそ正義の味方は来るべきだった。でもいなかった。もしかしたら、俺は未来の正義の味方だから爪弾きにされていたのだろうか。なるのが必然だとしてカウントされていたのだろうか。いや、俺だけじゃない。皆、働いていて嫌な思いはしている。先輩が、後輩が理不尽な怒りをぶつけられて��るのを見るのも嫌だった。でも、正義の味方なんかが助けてくれたことはなかった。無闇に叫ぶ客を、俺たちは「雑魚がキャンキャン吠えやがって。こっちがビビって従うとでも思ってんのか」という冷めた目で見ていた。今もそうだ。どんな穏和な従業員でもあの目をすることがある。あれは諦念だ。無になっている。無駄に傷付かないよう、受け身をとっているのだ。怒ったりしたい。そういう点では、こうして世界が不機嫌になり始めた時に、他の人よりも耐性があるのかもしれない。正義の味方は爆発的な怒りに呼び寄せられるのだろうか。だとしたら、少々の不機嫌や苛つきには反応しないのかもしれない。我慢できていては駄目なのか。正義の味方とは一体何なんだろう。俺の知る限りではただの乱暴者でしかない。世間の人々が正義の味方に対してどのような感情を抱いているかは分からない。きっと訊いてもまた「『正義の味方』は『正義の味方』」というよく分からない回答をされるのだろう。まるでそこだけが触れてはいけない世界のバグみたいに皆型にはまった答えしか言わない。それとも俺が知らないだけで言及すると罰せられるような法律があるのだろうか。
 この考えを話せる相手がいたらな。しかし、こんな話ができるほど、自分をさらけ出せる身近な相手はいない。恋人か家族か親友でもいないと無理だろう。生憎誰もいない。親友は数年前の流行病で死んだし、恋人には捨てられた。家族とは疎遠だ。爺ちゃんが死んだ時に実家に戻らなかったからだ。流行病があったから、行くのをやめた。移動を控えなければいけない時なのだといくら説明しても理解してくれなかった。家族には許せなかったらしい。冷血だの人でなしだのと罵られ、それ以降、連絡はとっていない。仕方なかった。俺にはどうにもできなかった。今だって何も出来ない。いや、何もしていないだけだ。出来る気がしないから。また調子に乗ったところを世界からボコボコに殴られて台無しにされるのだ。いくら得ても奪われるのなら最初からなければ何の問題もない。
 と、暗い気持ちになっても仕方ない。全然嬉しくないが、俺は正義の味方だ。嬉しくないついでにヒーロー衣装を揃えることにした。立ち寄ったドン・キホーテのパーティーグッズコーナーで三十分吟味した結果、馬と鹿のマスクを買った。曲がりなりにも接客業をしているのであまり顔を晒したくはない。顔バレNGだ。俺的に。持ち帰った鹿のマスクから角の部分を切り取り、馬のマスクに穴をあけて嵌め込んだ。馬と鹿のキメラみたいな生き物のマスクができた。お手製ヒーローマスクの完成だ。米津玄師かよ。高校生の頃めちゃくちゃ流行ってたなぁ。パクったんじゃないよ。馬と鹿を米津玄師が一人占めするのは良くない。俺にだって使わせろよ。
 あれ以来、幾度となく鐘は鳴った。鐘が鳴る度、俺はヒーローマスクを被り無双モードで町に繰り出し、別段悪いこともしていない人をボコボコに殴りつけて帰ってきた。他人の家に上がり込むこともあった。戸締まりが甘ければ、開けられる出入り口がなぜか瞬時に分かり、そこから乱入したが、どこも空いていなければ窓やドアを破壊して入った。しかし損害賠償を求められることはなかった。正義の味方に法律は無効らしい。警察官や「『正義の味方』だから」と何度か渋い顔をされたことがある。そういうものらしい。ありがたいと言えばありがたい。正義の味方の活動は俺の意思とは関係のないところなのだから。心神喪失扱いにでもなってるんだろうか。
 拳に血が滲み互いの血が混ざってしまうことも、俺のように噛みつかれたこともあったので、「正義の味方」をあちこちにうつしてしまっている可能性もある。しかしうつせば治るものでもないらしく、相変わらず鐘は鳴り、俺は走り出していた。しかし、正義の味方は意外とご都合主義らしく、仕事中に呼び出されることはなかった。その上、正義の味方をしても疲れない。痛みもない。なので日常生活に今のどころ支障はない。俺を殴った奴のように他にも正義の味方がいるはずだが、鉢合わせたこともない。これだけ頻繁に制裁を加えているのに知人を制裁したこともない。とはいえ、正義の味方はどうやら分担されているらしい。思いの外、待遇が良くて驚いている。正義の味方はどこぞのホワイト企業が取りまとめているのだろうか。もっと振り回されると思っていた。フィクションの世界のヒーローというのはそういうものだ。
 正義の味方らしき人が走っているのは何度か見たので、俺以外にも正義の味方は何人もいるのは間違いない。一匹見たら百匹いると思えって言うし。見かけた正義の味方の中には俺が殴って流血戦をした人もいたので、やはり正義の味方が血でうつるのは間違いないらしい。ゾンビじゃん。広がり方が悪役だ。彼ら、彼女らは人らしからぬ走りっぷりをしているので分かりやすい。正義の味方になる前は見たことがなかった。彼らはいなかったのだろうか。それともいるのを俺が認識していなかったのだろうか。
 把握している限り正義の味方によって死んだ人はいない。加減をしているつもりはないが、加減はできているらしい。思い返してみれば、健康的な若者相手なら道具の使用も辞さないが、老人や子供は丸腰で殴っている。正義の味方は正義の味方であり、公平だ。
 そして、正義の味方の制裁を受ける側も、呼んでしまった側も正義の味方を知らない。必ず何者かを問われるので「正義の味方」と名乗る。名乗ることで正義の味方は正義を味方になるのだろうか。それとも一度でも正義の味方と関わることで「『正義の味方』は『正義の味方』だよ」とプログラムされるのだろうか。
 仕事帰りに、弁当屋の丸椅子で唐揚げが揚がるのを待っていると、スマホが震えた。取り出すと、なんとなく追っているコミックスの更新通知が来ていたので、ダウンロードして開く。もうすぐアニメ化されるらしい。確かにそこそこ面白いもんなぁ。
「すみません」
 とびきり懐かしい声がした。小柄な女性が弁当屋のカウンターの前に立っていた。Web注文の画面を見せて、FeliCaにタッチをした。
 恋人だった。
 恋人だった人だった。よく��きた話だ。こんな風に町でばったり会うなんて。ベタなラブソングじゃあるまいし。何て声を掛けようか。名前で呼んだら気持ち悪いだろうか。苗字か? 旧姓か新姓か? 旧姓で呼んで訂正されたら心臓に悪いし、新姓だと馴染みがなさすぎて口にしただけで心臓に悪い。
 もたもたしているうちに彼女の方から声をかけてきた。俺の苗字を呼ぶ。ただ呼ばれただけだし、そもそも付き合う前はそう呼ばれていたのに、なぜだか傷付いてしまう。女々しい。俺はこうして何かにつけてうじうじしている奴だった。元々そうだった。彼女によってますます女々しくなる。彼女といた頃の俺は今よりもっともっと弱かった。支えてくれる人がいると人は弱くなってしまう。奪われる側の人間だった。その頃の俺が呼び起こされてしまう。
「久しぶりじゃん」
 彼女は笑顔を向ける。
「ほんと久しぶりだよね」
 妙にぎこちない口調になってしまう。 
「こんな所でどうしたの」
「今実家にいるから。おつかい」
 彼女はプラスチックの容器に詰められたらコロッケを見せながら言った。そういえば、彼女の実家と俺の家は同じ生活圏内だった。知らないうちに会っているかもしれない。お互い面識はないから会っていたとしても分からないけれど。いずれ挨拶しないとなんて話してたこともあったっけ。
 何で実家にいるんだろう。妊娠して里帰りか? 妊婦には見えない。離婚したのだろうか。
「何かあったの。実家の家族とかに」
 あえて可能性の低そうなところに言及する。
「別に実家にくらい行くでしょ」
 大げさだなぁと笑う。また彼女は俺にがっかりしているのだろうか。いや、もう赤の他人となってしまった今、俺にそもそも期待なんてしないだろう。違う。元々恋人だって、赤の他人だ。何考えてるんだ。イカレたのか。よく考えれば分かることだ。やはり、ただ単に久しぶりに実家に戻ってきているだけなんだろう。そういえば、世の中は三連休らしい。
 唐揚げ弁当お待ちのお客様ー、とマスクを付けた店員に呼ばれ、レシートメールを見せて、カウンターに置かれた弁当を袋ごと手にする。昔は手渡しだったなぁ、と思った。彼女と付き合っていた頃はまだそうだった。あの頃と同じ店員はもういない。流行病があってから、極力接触せずに販売を行う取り組みがどんどん普及した。
「元気にしてる?」
 自分で口にしてみて、元気ってなんだろう、と思った。健康ではあるけど元気ではない気がする。もう随分長いこと元気じゃないかもしれない。元気とは何だろう。何これ。哲学的命題か。
「元気だよ。そっちこそ元気?」
「それなりに」
 それなりに。それが一番しっくりくる気がした。
「あのさ『正義の味方』って知ってる?」
 我ながらいきなりだな。
「もう。何その質問。哲学? それともそういうキャラでもいるとか?」
 彼女が首を傾げる。少し泣きそうになった。俺の知ってる世界だ。懐かしい気持ちで世界が以前の形に戻ったような気すらした。
 平和に付き合っていた頃も、俺はよくぼーっと今考えなくても良いようなことを考えては落ち込んでいた。ある意味平和ボケ。平和すぎて、有り余った脳味噌を無駄な思考に使ってしまう。そうして難しい顔で考え込んでいると、���レビを見ていた彼女が不意に振り返り「あー! またなんかうじうじしてるんでしょ」と首ねっこを掴んでくる。「首はやめて弱いからマジでマジで」なんてソファの上で転げていた。
 もしあの病の流行がなかったら俺たちはまだ付き合っていただろうか。いや、元々駄目だったのを、災厄が暴いただけだ。人間関係がダメになるのは往々にしてそういうものだ。原因は目の前の出来事だけではない。決裂する瞬間、もっともっと前から原因が積み重なっているのを見ようともせず、ただ目の前の出来事に憤慨している。これは一般論だ。俺の話じゃないよ。
「そうだよな。やっぱそうだよな」
 そうして、俺は「正義の味方」にまつわる話をした。俺が正義の味方であることは伏せた。俺にとって正義の味方であるのは情けなく恥ずかしいことだ。まだ俺は彼女になるべく格好をつけたかった。それが何の効果も成さないことを知っていながらも。
「何それ。下手な小説みたい。無名のアマ作家が書いたなんちゃってラノベじゃあるまいし。疲れて夢と現実が混ざっちゃってるんじゃないの。ちゃんと寝なよ」
「だよな」
 笑ってみたものの、残念ながらこれは夢ではない。鞄の中のヒーローマスクがそう言っている。でも俺が狂っているわけではないことが証明された気がした。もし狂っていたとして、俺も彼女も狂っている。それだけで、救われてしまった。俺はまた彼女に救われた。別れても尚。
「そろそろ行かないと」
 彼女は腕時計を見ながら申し訳なさそうに言った。すっかり袋の中のおかずは揚げたてではなくなっている。
「また飯でも」
 あはは、と彼女は笑いながらひらひらと手を振った。馬鹿にされたんだろうか。いや、性格的にそうではないだろう。変わっていなければ。これは、ただ、誤魔化されただけだなのだ。彼女と俺が飯に行くことなんて、もうないのだ。馬鹿にはしていないが、いよいよ頭がおかしくなったくらいは思われたかもしれない。
 家までの道を歩いていく。世界がまだ安穏としていて、俺たちが付き合っていた頃は、この道を彼女と一緒に手を繋いで歩いていた。坂道で突然競走を始めたり馬鹿なことをしていた。昔の話だ。昔の話は昔の話でしかないし、正義の味方は正義の味方でしかない。彼女に確認をとる必要なんてなかったのに、どうして確認なんかしたのだろう。自己満足に他人を巻き込んだだけだ。ああ駄目だ。すっかり、弱い俺が呼び戻されてしまった。後ろから多い被さっている。重い。気付けにコンビニで発泡酒を買い足す。唐揚げ弁当はすっかり冷めていた。
「無理だよ」
 あの日、四角い画面の中で彼女が言った。俺は何も答えずにキーボードの埃をエアーダスターで吹いた。キートップも汚れている。拭き掃除しないといけないな、と思った。画面に目を戻すと彼女の後ろのポスターが剥がれかけているのが気になった。もうずっと気になっているけど言うタイミングを逃してしまった。
「私もあなたも別々の場所で働いてるし、会うためには電車にも乗らないといけない」
 がっかりした、なんて言う子じゃないけど顔には思い切りそう書いていた。ドライすぎる回答だ。俺の「会いたさ」は渇いてパサついた状態でくるくる俺一人の部屋で回っている。
「君は寂しくないの」
 問いかけると、あはは、と画面の中の彼女が笑った。悲しそうだ���た。俺は何でそんな顔をさせてしまったのだろう。
「ねぇ、私の話聞いてた?」
 何を急に言い出すのだろう。面食らってまた黙ってしまった。黙っている俺に彼女は言葉を重ねる。
「君が話し出す前に、私が何の話してたか覚えてる?」
 俺は必死に記憶の糸を辿ったが、まるで思い出せなかった。なんとなく彼女がしゅんとしたり笑ったりしていた顔が浮かんでくる。
「聞いてないもんね。適当に相槌打ってりゃ良いって思ってるよね。私のこと好きだって言うけど、私のことなんて、あなたは何も見えてない。あなたはいつも自分に夢中。嫌い嫌いって言ってるくせに。大嘘だよ。そんなに自分が好き?」
 彼女の後ろのポスターが剥がれかけているのが気になった。彼女の好きなアニメのポスターだ。劇場版の前売り券を買った人だけが先着でもらえるものだ。一緒に買いに行ったし、貼る時は俺も手伝った。上の段を留めたのは俺だ。俺の貼り方が悪かったんだろうか。
 たぶんその時からどんどん、どんどん、俺と彼女はズレていった。噛み合わなくなっていった。いや、もっと前からそうだったのに気付いていなかっただけかもしれない。世界の混乱が収束へ向かい、ようやく出歩けるようになった時も、俺たちは一向に会う約束を取り付けなかった。何となくどこそこへ行こうと話をふっても、以前のように彼女は話を進めてはくれなかった。俺はそれ以上踏み込むことができなかった。もし踏み込んでいたら奇跡の起死回生があったのだろうか。俺が悪いところを全部なおしても彼女はもう俺からどんどん離れていくだけだ。そう思いたい。思いたいだけ。俺はそれをすんなりと受け入れた。見苦しくすがりついても結果は何も変わらないことが分かっていたから。
 その二年後に彼女は俺の知らない男と入籍した。教えてくれるような友達もいなかったのでFacebookで知った。綺麗な花嫁姿だった。知らない男で良かったなぁと思った。何かが少しずつ違っていたら自分がその知らない男になれていただろうか。時々集まって遊ぶような微妙な仲の友達はあの病気のせいですっかり疎遠になってしまい、今だってもうお誘いは来ることもない。ひょっとしたら何人かはあの病気にやられて死んでしまったかもしれない。それ以外の要因でぽっくりいってる可能性もある。LINEくらい送れば、生きてるかどうかくらい分かるかもしれないが、そこまでしようとも思わない。持ってしまうことが怖いから。失うことが怖いから。奪われることが怖いから。怖い。怖いのだ。俺は本当は臆病なのだ。小学生の頃お化けが怖くてトイレに行けずにおねしょしたことがある。怖がりなのだ。テストで百点をとりそうになって、あえて一つ間違えたことがある。怖い。怖かった。百点をとってしまうのが怖かった。好きな子に告白されたのに断ったことがある。怖いのだ。それを受け取ってどんな目に遭わされるか分からない。そんな恐ろしいことができるわけがない。彼女にはフられようと思って告白したら、付き合えてしまった。恐ろしいことをしてしまった。その結果がこれだ。自業自得だ。俺が全部悪い。全部全部悪いそういうことにして欲しい。じゃないとあんまりだ。
 夕闇を背景に電線でカラスが鳴いている。 
 電信柱を拳を打ち付けた。じん、と骨に響く。正義の味方ではない俺は強くもないし、痛みも感じる。電線に止まったカラスは驚きもせずに鳴いている。もう一発叩く。握り拳に力を入れる。さらにもう一発、もう一発、とだんだん打ち付ける速度が速くなる。関節の皮がすりむける。電信柱の黄色と黒の縞模様に血が滲む。黄色に付いた血は目立つ。擦り付けられた血が不規則に線を引く。表面が無駄にぼこぼこしているので、俺の指は下ろし金にかけられた大根みたいだ。何にそんなに怒ってるんだろう。とりつかれたみたいに、そうしないといけない気がした。
 電信柱はびくともしない。そりゃそうだろう。たかがこれしきの衝撃で動いたら電信柱は電信柱としての役割を果たすことができない。もし俺が今正義の味方だったら、電信柱をへし折ることくらいできただろうか。豪邸の重いドアを蹴りで開けたこともあるくらいなので、できたかもしれない。
 骨ばった指にも肉はある。皮がすりむけた中には肉がある。血が巡っている。生きているから。大根おろしでミンチが作れる。何言ってるんだろう。大根も下ろし金もここにはないけど。
 俺の気持ちはどこに向ければ良い。こんなに怒っているのに。正義の味方は来ない。誰に怒っているのだ。何に怒っているのだ。自分か。彼女か。友達か。家族か。過去か。未来か。世界か。あの流行病か。正義の味方か。分からない。何がそんなに嫌なんだ。誰も悪くないし、何も悪くない。あの病の時、自業自得だという言葉が流行った。外出したんだから自業自得だ。その仕事を選んだんだから自業自得だ。事情なんて知ったこっちゃない。そのくせ責める。自業自得だ。お前が酷い目に遭うのはお前が悪いからだ。なんでそんな酷いことを言うんだろう。どうして誰も彼もがそんなに荒んでるんだろう。テレビをつけてもSNSを開いてもいつも誰かが誰か責めている。何でそんなことするんだろう。知っている。分かっている。問うまでもない。理不尽に酷い目に遭うのが当たり前だと認めるのが怖いからだ。自業自得じゃなかったら壊れてしまうから。俺はその話を彼女にもした。彼女は俺が話し終わるまでひたすらうんうん、と受け止めて「大丈夫だよ」と言った。こんなに話したら気持ち悪いんじゃないかと俺が変に話を反らそうとすると「言って良いよ。大丈夫だよ」と促した。彼女は全部お見通しだった。彼女の「大丈夫だよ」が聞ければ、大丈夫な気がした。大丈夫じゃないけど、大丈夫な錯覚ができて、彼女にそう言われたら半日くらいは俺は正義の味方じゃなくても無敵だった。でもそんなことはもう無い。一生無いかもしれない。じゃあどうすれば良いんだ。憎む相手をくれ。何も憎めないし、恨めないなんてあんまりじゃないか。しかし俺はやり場のない怒りを電信柱にぶつけている。電信柱も悪くない。分かり切ったことだ。でも電信柱はビクともしないから。平気だから。殴ったって平気だ。俺の家にはサンドバックもパンチングマシーンもないから仕方ないよね。スーパーの床で駄々をこねて転がり回っている子供と同レベル。大の大人になっても。こんなおっさんになるなんて子供の頃は夢にも思ってなかった。彼女と付き合っていた頃だって思っていなかった。やっぱりあの病気が悪いのだ。でも病気は殴れない。じゃあ何を殴れば良いんだ。そうだ電信柱だ。でもどうしてだろう。ちっともすっきりしないのだ。やっぱり駄目だ。早く来てくれ。やはり正義の味方のことは正義の味方は助けないのだろうか。
「来いよ! とっとと来いよ! ほら! 何で来ないんだよ」
 息を切らしながら、電信柱を蹴る。じん、と痛みが股関節にまで上ってくる。痛くない方の足で蹴ろうとしたら、バランスを崩して倒れてしまった。馬鹿だな。馬鹿なんだ俺は。でも、俺馬鹿なんだよ、って誰に言えば良いんだろう。正義の味方じゃなくて良い。通行人でも警察官でも良い。誰か俺を見つけてくれ。
 ゴーンゴーン、と鐘が鳴る。正義の味方の出番だ。やっぱり俺がヒーローになるしかないらしい。俺は血まみれの手でヒーローマスクを被る。
 痛みが消えていく。正義の味方は無敵だ。痛みなんて正義の味方には似合わない。足が勝手に動き出す。猛ダッシュで俺は家から離れていく。唐揚げ弁当は電信柱の下で置き去りになっている。食べられる頃には冷めているだろう。誰かが間違えて捨ててしまわないことを祈る。捨てられさえしなければ現代文明の利器、電子レンジがあるから大丈夫だ。現代に生まれて良かった。俺は恵まれている。電子レンジのない土地や時代だってあるのに、俺は電子レンジのある土地と時代で生きることができている。電子レンジを得ている。俺から電子レンジを奪うことはできない。ざまあみろ。
 見知らぬ民家の塀をよじ登り、一階の屋根から、開け放たれた二階の窓にダイブした。
「こんな人のためにあなたが苦しめられる必要はありません」
 俺は目の前の女が振り下ろそうとした包丁を白羽取りした。包丁を奪って窓の外に投げ捨てる。なんかヒーローっぽくて格好良い。格好付けすぎだろうか。顔が隠れているから余計に芝居じみた言動をしている気がする。ヒーローマスクはダサいけど。
「は? お前何?」
 危うく刺されるところだった男が言った。お前が言うのかよ。危機を救われたことにイマイチピンと来ていない様子だった。
「正義の味方だ」
 俺は男の顔面に擦り剥けた血まみれの指で殴りつけた。痛くはないが傷が塞がるわけではない。うっかり血が口に入ってしまったかもしれない。あちゃー。これでこいつも正義の味方になってしまう。また世界が平和になってしまう。やっちまったな。
 包丁を持っていた女は男を庇おうとしたが、俺はそれを振り払う。男の方を膝で固定し、馬乗りになって顔面を殴る。ジタバタともがいているが俺は今無敵なので効かない。女がめそめそと泣いている。ぺちぺちと叩いてきたが、俺はビクともしない。ひんひんとしゃくり上げている。多分あれはメンヘラだ。メンヘラっぽい鳴き声してるから。ほら、来てるTシャツもそれっぽい。あんなの絶対ヴィレヴァンでしか売ってない。
 男の鼻っ柱を血まみれの拳で何度も打ちつける。鼻から血が出てきた。鼻血だろうか。それとも鼻の外側を怪我したのだろうか。鼻の外側からの出血だとしても鼻血というのだろうか。鼻から出たどこまでの血を鼻血というのだろうか。その謎を解き明かすため俺はアマゾンの奥地へと向かった。アマゾンってどこの国だっけ。
 ところが俺はメンヘラに悲鳴をあげさせられることになった。焦げ臭い嫌な匂いがして、匂いの元を辿ってみると、思わず立ち上がってしまった。
「これ以上殴ったら、燃やすから」
 振り返ると、メンヘラが百円ライターをカチカチしている。明らかに自分の親指も炙っているが気にしていない。狂気の沙汰だ。いや、メンヘラだから自然か。いつの間にか俺のスニーカーの靴ひもがチリチリと焦げていた。それ自体は特にマズいことではない。しかし、俺は痛みが分からない。気が付いたら焼き殺されているかもしれない。それはさすがにヤバい。自分が殺そうとしてた男を守るために見知らぬ男を焼き殺そうとする心理もヤバいけど。
 俺は男を蹴り、メンヘラを蹴り、また窓から外へ出て行った。ポツポツと雨が降ってきた。ボロ屋根で雨粒が踊る。俺の唐揚げ弁当どうなってるんだろう。
 だんだんと正義の味方の力が抜けていく。いつもそうだ。出てくる時は一気に出てくるのに、抜ける時はビーチボールの蓋が緩んでしまったみたいに徐々にふにゃふにゃになっていく。だんだんと走る速度が落ちてきて、最終的に俺は一人で雨に打たれながら歩く寂しいおっさんになった。ヒーローマスクも外して手にぶら下げる。明らかに不審者だ。電信柱を殴った痛みが疼く。足が痛い。擦り剥けた指はヒリヒリとする。男を殴った痛みは残らない。ご都合主義だ。雨足が強まってきてとりあえずヒーローマスクを傘代わりにしたが、大した効果が得られるはずもなく、肩も足も濡れていく。正義の味方になることでハイになっても抜ければ結局なる前と同じメンタルに落ち着く。弱く、奪われるだけの俺。自発的に他人を殴ったことなんてなかったのに。
 気付いてしまった。
 正義の味方を呼ぶのは怒りじゃない。暴力なのだ。それもただの暴力ではない。人間への暴力だ。誰かが誰かに暴力を奮おうとした時、正義の味方は呼び出される。幸か不幸か、俺は自発的に暴力を奮おうとしたことがない。優しく生きていたら損をする。へらへらと良い子ちゃんぶっていても、誰も守ってくれない。暴力を奮おうとするクズだけが救われる。元々我慢できる人は、暴力に頼ろうなんて思ったこともない人はただただ虐げられているだけ。正直者は馬鹿を見る。
 雨に打たれた唐揚げ弁当を手に取る。俺と同じで唐揚げ弁当も誰にも見つけられなかったらしい。いや、見つけたところで片付ける義理もないか。すっかり���揚げが湿気ている。雨水だって中に入ってしまっているかもしれない。受け取った時は美味しそうだったのにこんな姿になってしまった。電子レンジも万能じゃないので、唐揚げ弁当を元の姿に戻すことはできない。
 良い子にしてたって誰も助けてくれない。良い人でいたって何の得もない。そんなこと昔から分かっていたじゃないか。必死に努力して何事もなく無事に終わった物事は無視され、悪事だけが罰せられる。商売にもよくあることだ。クレーマーの主張だけが受け入れられ、何も言わずに満足している人たちの意見は無視され、改悪が繰り返される。行動を起こせ。黙るな。判断しろ。動け。さもなくば、ただ奪われ、ただ殴られ、死ぬだけだ。
 というのは極論だけど、あながち間違っていない気もする。
 正義の味方は人々の暴力を引き受ける。受け止めはしない。ただ引き受け、それを受け流す。そして暴力を客観視させる。正義の味方はやはり正義の味方なのだ。勧善懲悪だ。正義の味方は常に弱者の味方だ。暴力に至るほどの不快を強いられた、暴力に頼らざるを得ない弱者救済のために正義の味方は正義の味方たりえる。正義の味方は正義の味方でい続ける。暴力は悪なのだと見せつけるためだけに、耐えきった者が殴られる。いつかこの世界から暴力がなくなるまで、この連鎖は続く。確かにここのところ、殺人事件や傷害事件のニュースを目にしない。正義の味方の効果だろうか。
「いただきます」
 誰と一緒でも、たとえ一人でも、いただきますと言うところが俺の良いところだと誰かが言っていた。誰だっけ。俺の妄想だろうか。だって一人でもいただきますを言ってるだなんて誰も知りようがない。そんな言葉をかける人がいるわけがない。バスタ���ルを首に巻いたまま、しおしおの唐揚げを割り箸で挟む。発泡酒はまだ冷蔵庫の中だ。
 大気汚染の成分とか入ってるよ、やめなよ、絶対ヤバいって、と頭の中で誰かが言う。その誰かは彼女であり友達であり家族である。俺の知っている「誰か」のキメラだ。
 電子レンジで温められた唐揚げは、思ったより変な味はしなかったが、何となくじゃりじゃりした。誰かが近くを歩いて泥でもかけたんだろうか。
「でも唐揚げは唐揚げじゃん」
 俺は誰かのキメラに答えた。じゃりじゃりする弁当の続きを頬張っていく。食べ終わってから飲もうと思っていた発泡酒が不意に飲みたくなって、冷蔵庫に取りに行く。発泡酒の後ろでタッパーが積まれている。色とりどりの蓋のタッパーの中には母親がこの家で作ってくれたものも、恋人と作ったものも、皆で宅飲みした時の残りもある。ちゃんとある。間違いなくここにある。黒っぽい中身のそれらを指でつついてみる。胸の奥で小さな火が灯った。これがきっと愛しさだ。どれも入れた瞬間のことを覚えている。楽しかった。嬉しかった。ありがたかった。ずっとこうしていたかった。
 発泡酒を手にとって、俺は冷蔵庫を閉めた。
「赤ちゃんじゃないんだから自分の感情くらい自分でコントロールしなよ」
 誰かのキメラが言う。電信柱を殴ったのがそんなにダメですか。俺は正義の味方の世話になったことがないのに。それなら一生赤ちゃんで良いです。生後372ヶ月の赤ちゃんです。ほぎゃー。新生児みたいに快と不快しか感情がなければ良かった。
 ピンポーン
 ハッと目を覚ます。いつの間にか俺はベッドで眠っていた。もう日が高く昇っている。慌ててシフト表と電波時計の隅の日付を交互に見る。良かった、休みだ。
 そして慌てて布団から飛び出し、インターフォンに出る。
「はい」
「宅配便でーす」
 寝癖を手櫛でなおしながら玄関へ向かう。マジか。これ夢オチかよ。つまんないやつじゃん。
 玄関のすぐ横に置いているシャチハタで押印する。実家からだった。開けると一番上に「HAPPY BIRTHDAY」と印字されたカードが入っていた。裏面に懐かしい文字で「たまには帰っておいで」と手書きの文字が書いてある。今日は俺の誕生日だ。また年をとった。また古びていく。老いていく。どんどん死んでいく。両親から、あの時は悪かった、と何度謝罪されただろう。決して許していないわけではない。俺は少しも怒っていない。むしろ家族を大切に思っている。カードを捨てると、その下には保存のきく食べ物と俺の好きな作家の新刊が入っていた。新刊はもう持っているから要らない。古本市場に売りに行かないと。食べ物は役に立つ。
 とりあえずテレビをつける。
「国がしっかり経済が復活するための支援をしないとダメなんですよ。納税ってこういう時のためのものじゃないんですかね」
 嫌いなワイドショーだ。深刻な口調で、被害者代表みたいな面をしてタレントがコメントしている。相変わらずだ。あの流行病があってから、いつ見かけても、こういうテンションの話題を飽きもせずに放送している。偶然見たときに限ってそうなっているだけだろうか。それとも、忘れているだけでずっと前からこの調子だったかもしれない。
 チャンネルを回す。一通り流してみて、きのこの炒め物をしている番組に落ち着けた。
 また誕生日が来た。いくつの時から誕生日が嬉しくなくなっただろうか。最後の楽しかった誕生日は、彼女と過ごしていた気がする。彼女が来て手料理を作ってくれた。たぶん冷蔵庫のタッパーの中にまだその時の残りがある。楽しかったなぁ。「別れよう」と言った時の彼女の驚いた顔が浮かんでくる。分かってたくせに。言わそうとしてたくせに。それともアレか。俺が歩み寄るのを待ってたのか。図々しい。試し行為か。そういうのはうんざりだ。勘弁してくれ。傷付いた顔をするのはやめろ。自業自得じゃないか。
 ゴーンゴーン。鐘が鳴る。俺はソファの上に転がっていたヒーローマスクを被る。
 あーあ。分かっていたけど、やっぱりこれ現実か。つまんないやつじゃん。
 然るべき成果が得られるのはまだ先なんだ。今はまだトンネルの中にいる。止まない雨はない。まだか、まだかと俺は我慢している。頑張っている。
 ダッシュでマンションの階段を駆け下りていく。三階まで降りたところで、隣のビルに飛び移る。まるでヒーローじゃないか。いや、正義の味方なんだからほぼ等しい。体が軽い。こんなに体が軽いのは俺が正義の味方だからだ。風を切って俺は走っていく。俺は奪われない。失わない。だって正義の味方だし。イカしてる。イカレてるの間違いかもしれない。まぁ、ともかく、正義の味方は正義の味方だ。俺は俺だ。平気だ。そう、「大丈夫だよ」。
 口の中で呟いたその言葉は飴玉みたいにいつまでも転がっていた。
 ひょっとしたら、もう誰もが正義の味方なのかもしれない。
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fu-sen-kazu-ra-blog · 6 years ago
Text
裸逅愛無
ネちゃんワールド⸜( ⌓̈ )⸝
──────────────────
「裸逅愛無」
🖤
あたしが一万円にも満たない初任給で買ったのは、どんなに焦がれてもあたしのものになってくれないロールパンナちゃんの夜だった。
上京して1年が経ったばかりの春、下町の鳥貴族で酔ったあたしはロールパンナちゃんの腕のなかで泣きじゃくっていた。
「お金より価値のあるものをあげられなくてごめんなさい、」
ロールパンナちゃんは飄々と、お金もらってるからいいよなんて言ったくせに、イく前にセックスをやめた。金とるくせにプロ失格じゃん。
二人暮らししているラーメン屋の3階、何人の女と寝たのかわかんない狭いベッドの上でこうして抱きしめられたのは何回目だったかなぁ。
ルナルナにだけはぜんぶバレている。
ロールパンナちゃんと出会ったのはあたしが以前働いていたガールズバーだ。東京の下町、平日の深夜2時。12月の寒い日だった。
暇な店で、いつものようにキャッチに出されていたのだが、正直に言うとそのときあたしは散歩と言うにはハイテンションで激しい闊歩をしていた。
誰もいないシャッター街でキャッチなんて馬鹿らしい。
銀杏BOYZは爆音じゃなきゃ。
そうやってひとりでキマっていたら、店で接客をしている先輩の女の子から早く戻ってこいと電話がきてしまった。くそーーいい気分だったのに、ってダッシュで商店街を抜けて汚いビルの階段を4階ぶん駆け上がると、ロールパンナちゃんがいた。ロールパンナちゃんはジントニックを続けて3杯飲んだ。
🖤
死んだらそのときよねって高校を卒業してすぐに上京してきて、でもあたしはどうやらなんとか生きている。
それまでは札幌の、偏差値が71もある公立高校に通っていた。
そこだけ言うと勝ち組エリートのようだが、高校生活のうちの3~4割くらいは引きこもりをしていたから、なんとかお情けで卒業証書は貰ったもののベンキョーのほうの頭はすっからか��だ。先生には卒業するとき、お前すぐ野垂れ死ぬぞって言われた。でもまだ死んでないし死ななそうだから、先生は嘘つきだったみたい。
あたしが高校時代に頭に詰め込んだのは、受験英語や戦争の名前なんかじゃなく、キラキラの文化たちだった。ファッション、文学、音楽、そういう芸術をやる素敵なひとたち、ツイッターにいる全然有名じゃないけどめちゃくちゃおもしろいアカウント、好きなひと。漠然と、自分はぜったいすごいことができるって思い続けることがやめられなくて、そういう芸術たちに並びたくて上京したけど、ロールパンナちゃんに会うまでの1年であたしはただの女の子からなにも変わらなかったようにおもうし、実際なにも成し遂げられていない。
水商売をはじめた理由は単純にお金が欲しかったから。上京するときに借りた審査のゆるい「女性専用シェアハウス」は1年縛りで入居したものの色々あって3ヶ月で退居、それからは男友達の家に居候していた。シングルマザーの母は生活保護のキャバ嬢で連帯保証人になる能力がなく、その上貯金もない未成年のフリーターに安く家を貸してくれる業者などなかった。
でもそのときのあたしは家よりも、ただただモーレツに縷縷夢兎が欲しかったのだ。
体入ドットコムを見て歌舞伎町で面接したら、フェイクのキャバの箱で風俗に勧誘されて逃げてきた。意気地無し。その程度の覚悟のお前に縷縷夢兎を着る資格は無いよ。
歌舞伎町で働けるほど可愛くないから東京の端っこの下町で、ドレスなんか着られないほどデブだからキャバクラじゃなくてガールズバーをやっ��いた。
夜は好きだ。
でも夜の仕事はあまり好きにはなれなかった。周りが馬鹿に見えて仕方なかった。キャストも客もみーんな。愛し愛されることの疑似体験、つまり嘘ばっかりだから。愛のことなんてちゃんと考えたこともないみたいなひとたちばかりだった。オマエガスキダーみたいな低俗なラップやアタマカラッポクラブミュージックをきかされて辟易とする日々だった。
そういう奴らを密かに威嚇するために、LINEのBGMは銀杏BOYZの円光とか、大森靖子ちゃんの裏とかにしていたし、アイコンの自撮りは顔の横で立てた中指をハートのスタンプで隠してきゅるきゅるしていた。
それに気づいたのはロールパンナちゃんがはじめてだった。だからこいつはセンスがある奴だと思った。
こちらが営業電話をしてやるつもりで快諾したモーニングコールを逆に利用して、ロールパンナちゃんはあたしを誘った。
お互いの定休日がたまたま月曜日で、予定の合う月曜日がたまたまクリスマスイブだったから、イブの夜、あたしはロールパンナちゃんの働くラーメン屋の3階でピザを食わされた。
ロールパンナちゃんはあたしの話をききたがった。後から考えてみると、奴の前職は派遣とはいえ営業マンだったし、あれは巧妙に計算された前戯だったのだと思う。
しかしあたしが話したのはあたしの人生のこと、いまのあたし自身のこと、野性爆弾のくっきーが大好きだってこと、縷縷夢兎が着たいけどとりあえずrurumu:を買ったこと、でもそれらを買い占めるほどのお金は稼げなかったこと、等、あまりにもセンスがありすぎた。
あたしがくっきーのインスタを遡りはじめたところで、ロールパンナちゃんにキスされた。
「くっきー見ながらチューされる気分はどう?」
「さいあく。」
ロールパンナちゃんは心底おかしそうに笑っていたが、挙げ句の果てにあたしがロールパンナちゃんの古いiMacで下妻物語を観はじめたので、しびれを切らして一緒に寝たがった。
「遊ばれたくないの?」
「うん」
「えらいねぇ、遊ばれたことあるの?」
「遊ばれたことしかないよ」
あたしには彼氏がいたことがないが、処女ではなかった。つまりそういうことだ。
処女は高校2年生のとき当時好きだったひとに捧げたが、それ以外はあまり真面目に自分を守れなかったせいでボロボロだ。
いいなと思ったひととすぐに寝てしまって結果遊ばれて終わるということもよくあったし、こころが大丈夫なときにはたまーに援交もしていた。
シングルマザーでバツ2で彼氏をとっかえひっかえしている母親の汚くて愛のないセックスの成れの果てが自分だと思っていたから、そんな汚いからだがそれ以上汚れることなんて構いやしなかったし、愛されることには憧れても本当に愛されることなどないと半ば諦めていた。いちばん愛されたかった幼い頃から、あたしはヒスを起こした母に叩かれたり怒鳴られたりゴミ捨て場に捨てられたりして育った。
月並みだが、あたしは愛情不足で育って自己肯定感が足りないこどもで、それに加え心の貧困、目先の甘味にすぐ屈してしまうから、痩せられないし遊ばれる。
それが悪いとか、言い訳だとか、甘えてるとか、可哀想とか、わかるとか、まもりたいとか、そういう感想には飽きたというか、それらの過去はただの事実でしかないからどうしようもない。あなたにどうこうしてほしいとかそういうのじゃなくて、ただの話。
ただその日、あたしはセックスを頑なに拒んで、ただ抱き締められて眠った。
🖤
ロールパンナちゃんとの日々はそれからはじまった。クリスマスの次に会ったのは大晦日だった。
それまで一緒に住んでいた男友達に愛想を尽かされホームレスのネカフェ難民だったあたしは年末のガキ使を見る術がなく、つまりダウンタウンも、くっきーも、脅かされる田中も、なんならそのあとのおもしろ荘も見られないと絶望していたのだが、ロールパンナちゃんはテレビを持っていた。利用させていただく以外の選択肢がねぇ。見た。ロールパンナちゃんはその日も夕方まで仕事だったので途中寝てしまったが、夜中になって起きてきたから少しだけ一緒にテレビを見て、こんどは一緒に寝た。それで昼くらいに起きて、元旦の浅草寺で「パンケーキ食べたい♪蒲田は地獄♪」って歌っていた。ロールパンナちゃんのおみくじは凶だった。
帰りの電車で、きのうからまる1日ありがとうございました、って言って先に降りようとしたら、今から8時間耐久ボンバーマン対決するつもりだったんだけど…って言われて結局またロールパンナちゃんの家に帰ってしまった。
そのままダラダラと、ロールパンナちゃんの正月休みはぜんぶあたしがもらった。
1月2日の朝にはじめてセックスをした。
セックスの途中で、ロールパンナちゃんが
「あ、ハンバーガー食べたい」
とか言いはじめた。肉欲がすごい。
だから事後は駅の近くのモスに行った。
レジ前で並んで、もう順番が来るというときになって、今度は
「そうだ、おいしいハンバーガー食べに行こう」
って言い出した。あたしはもうおっかしくてただ付いていった。行先は新宿だ。
結果を言うと、ハンバーガーにはありつけなかった。原因はグーグルマップの経路案内の、あのトンチンカンなところに連れていかれるアレ。
マップが示した到着地点は住宅街の中のファミマだった。
「俺はここの肉まんが食べたかったんだ」
「あ、そうなんだ」
冗談ばかり言うひとだからとても楽しかった。
散々歩いた挙句に小田急の西新宿駅から新宿駅に戻って、さっき肉まん食べたばっかりなのにお好み焼きを食べた。そのお好み焼き屋にいた家族連れの席の女の子が、
「わたしとママの絆でUFOキャッチャーのぬいぐるみが取れたんだよね!!!」
って騒いでいたから、食べ終わったあとはゲーセンに入ってしょーもない当たらないコインゲームをして、歌舞伎町のTOHOシネマズで映画のラインナップを見て、ブルプルでタピオカを飲んだ。
ロールパンナちゃんの最終学歴は製菓の専門学校だ。だから派遣の営業マンの前はパン屋さんだった。駅やルミネや通りすがりにある店のポスターの『新発売!』やら『新食感!』の文字を見るたびに、ロールパンナちゃんは立ち止まって数秒眺めて、興味なんかないみたいに歩き去るのだった。
ブルプルに寄ったのは、ロールパンナちゃんがチーズドッグを食べたいと言ったからだ。あたしはウーロンミルクティーを飲んだ。
西野カナとか三代目とか、そういうのをクソ真面目に聴けちゃう層を小馬鹿にして生きるあたしたちの、それでも馬鹿にしきれない「普通」へのささやかな憧れが共鳴したような気がした。チーズドッグとウーロンミルクティー。歌舞伎町。セックスよりもグッときたんだけどな。
🖤
あたしのゆめは、世界平和。
表向きには、映画監督。
それなのに、あたしの仕事は、嘘っぱちの愛だった。
隙をふりまいて、春をころして、あなたに都合の良い憂いを演じて、お金をもらう仕事。
あたしがまつげを震わせて、ひとりひとりのあなたのことを大切にできないと思い悩んでいることなんて、だーれも知らないのでしょうね。
ほんとうは、世界平和にポップに貢献するキャッチーでキラキラで奥深い映画を撮りたいし、そもそも自分自身だって映画なんだからまず自分自身がキャッチーでキラキラで奥深いアイドルになりたい。
大好きなものにもっと近づきたいというより、どうしても負けたくない。受け取るだけじゃなくて、切磋琢磨したい、接触して、反応して、もっともっと光りだすように苛烈に生きていたい。
毎日毎日怠惰な生活をしてしまってはいるが、たまに映画を見たり新しいMVが公開されたりするとやはり、どうしようもなく負けていられない気持ちになる。
21世紀の女の子��いう映画が公開された。
2月20日、縷縷夢兎のエキシビションをじっくり味わったあとに、映画を観て、佳苗さんのトークショーを聴いて、花束を渡して、サインをもらって、お話をした。
随分と自虐的な話題だったと思う。
それでもあたしはもう、それはもう、キラキラで胸が満たされてしまって、ロールパンナちゃんのことなんて考えられないくらいだということを、ロールパンナちゃんに伝えたくて堪らなくなって仕事を休んで、ロールパンナちゃんの家に帰った。
映画を撮ること、あたし自身を煌めかせて売り出すことを本気でやろうと思って、デリへルをやろうと覚悟を決めた。アトリエが、機材が、つまり金が要る。時間も要る。
性消費されるブレない奴というのは、手っ取り早く目を惹くコンテンツだ。丁度よく狂っている。全てを武器にしてやろうと思った。
ロールパンナちゃんとは付き合っているわけでもないし。大好きだけど、すごく大好きだけど、きっとロールパンナちゃんは、ロールパンナちゃんのことを大好きすぎて人生を台無しにしちゃうあたしよりも、ロールパンナちゃんのことなんか見えなくなるくらい突っ走って人生台無しにしちゃうあたしのほうが好きだから。
ロールパンナちゃんと出会ってから2か月以上経っていた。
セックスをしてしまったのにこんなに長くそばに置いてもらえるとは思っていなかったし、こんなに長居するつもりもなかった。ロールパンナちゃんは強がりのあまのじゃくだからこんなことを言ったら怒るかもしれないけど、ロールパンナちゃんはあたしと似ていたし、あたしたちはお互いのそういうところを恐らく気に入っていた。好きだった。
変な人になりたいあたしたちはお互いの変なところに一目置きあっていたはずなのだ。
ロールパンナちゃんはあたしの夢や哲学をだれより正しく捉えて、肯定したり批判してくれる人だったから好きだった。あたしのせいで曲がってはくれない人だった。
だからあたしが夢のことを話したとき、健気でかわいいねとか、俺の家で借りた映画を観てもいいとか言ってくれた。
デリへルのことは、決めてすぐには話せなかった。
もう慣れっこになってしまった狭いベッドに寝そべってパンフレットを読み漁るあたしに、ロールパンナちゃんが縋るように抱きついてきたから。
🖤
朝になるとロールパンナちゃんは仕事をはじめなければならない。だからあたしは眠い顔のままネカフェに帰っていく。
あたしも仕事をしなければならなかった。生きるためには、衣食住が必要だった。
キャリーケースに服を詰め込んで、コインランドリーとネカフェとガールズバーと松屋を行き来する生活だった。
しかしロールパンナちゃんと会うには、仕事を休まないといけない。
ロールパンナちゃんは週6日、ずーっとラーメンをつくっていたから、会えるのは夜だけだ。だから毎朝、しょーもないモーニングコールをしていた。なんならロールパンナちゃんの昼休憩のときにまで電話をすることもあった。あたしたちが日本語を楽しめる人間たちでほんとうによかった。
21世紀の女の子を観た2日後のモーニングコールで、あたしはロールパンナちゃんにデリへルの話をした。
「いいんじゃない、俺の女の子の友達もパン屋やりながら夜デリへルしてる子いるし、夢とか目的があってやるなら」
やっぱり普通に囚われないひとはいい、頭ごなしにやめろって言わない、そういうところが好きだよって思いながらあたしはその時ちょっとだけ悲しかった。
🖤
ロールパンナちゃんの働くラーメン屋さんは店舗が2つあって、それぞれの往復に電車を乗り継いで4時間くらいかかる。
その日はロールパンナちゃんが自分の店舗に出勤する前に、もうひとつの店舗までおつかいをしにいく日だった。
そういう日、あたしはよく一緒に通勤ラッシュに揉まれた。ロールパンナちゃんは目的地の改札の内側で、愛おしそうにあたしの髪を指で梳くから。
デリへルの話をした後にロールパンナちゃんに会ったのはその日がはじめてで、ロールパンナちゃんは会った瞬間に「きょうもかわいいね」って言ってくれた。
楽しい話をたくさんして、いつもよりなんだかハイに笑って、あたしはいつの間にか挑戦的な態度を取っていた。
「あたしはお金を払えば好きなときに会える女の子だよ」
「そうなの?」
「そうだよ、これからもっとそうなるんだよ」
ロールパンナちゃんは黙ってしまった。通勤ラッシュで押しつぶされて、立ったまま、ロールパンナちゃんは目にいっぱい涙を溜めて口をつぐんでいた。
何度も好きにならないよって言われたし、だから付き合いもしないって言ったくせに、ロールパンナちゃんはあたしを想って泣いていた。
帰りの電車で、ラーメン屋で一緒に働かないかと誘われた。家も昼間の健全な仕事も、貯めるのにじゅうぶんなお金もあけるから、と。
愛とはつまりこういうものではないかと、あたしははじめて理解して、びっくりするほどすんなりと、頷いてしまった。
いい返事をきいて喜んだあいつは店に着いてから、あたしをママチャリの後ろに乗せて一駅先のスーパーに買いものに行った。奴は真昼間なのに、下手くそな歌を大声で歌いながら笑っていた。交番の前を通るのだってもう怖くなかった。このあたしが、好きなひとと一緒に明るい場所で生きられるということが、ほんとうにほんとうに嬉しかった。
🖤
ロールパンナちゃんの住むラーメン屋の3階で、期限付きの二人暮らしをすることになった。
働いていたガールズバーはキッパリ辞めた。
ロールパンナちゃんはほんとうに文字通りあたしを振り回すし、あたしだって自分の意思でロールパンナちゃんに振り回されている。
ロールパンナちゃんは、所謂「社会の中の変な人」だ。しかも、自らそうなりたいと思って変な自分やそれが許される環境を作りあげているから、突拍子もないことをしてもなんだかんだ上手くやれている。
後々いまの会社の社長に聞いたことなのだが、ロールパンナちゃんはあたしの入社を掛け合う際に正直に、
「俺の部屋に通っている女の子が〜」
と話したらしいから驚きだ。
でもその話をしたときのあたしだって社長とサシでタピオカを飲んでいたし、高校時代の恋バナをしたし、そういう環境なのだ。
あたしの初任給が一万円にもならなかったのだって、ロールパンナちゃんが3月から勤務開始予定のあたしを半ば強制的に2月28日に出勤させたからだ。
末締めだもんね。そりゃそうよ。
🖤
ロールパンナちゃんは意外にも、とても真面目に仕事をしていた。
「これからは上司だからプライベートでも敬語で話して」
幸せの甘いところだけを掴みきれない日々がはじまった。
あたしの負けず嫌いな性格やガールズバーで染みついたオンナの立ち振る舞いは、すぐにロールパンナちゃんをイラつかせた。
ラーメン屋になって。ラーメン屋になって。ラーメン屋になって。ラーメン屋になって。
映画やファッションとは違う土俵で、経験値やタッパの差もあり、あたしは完全に負けだった。
負けたくない、嫌われたくない、動けない、遅い、からい、暑い、痛い、
あたしから出たのは血や汗だった。
それから完璧なラーメン。
余裕が無い。ロールパンナちゃんの前で余裕が無い。
苦手な早起き、無駄な口ごたえ、コンプレックスの隠せない薄化粧、似合わないポニーテール、制服は膨張色の白、毎日同じ長ズボン、汚いタオル、可愛さとか自我が許されない機械的な接客。
あれれーって思っているうちに、同じ毎日の中で、あたしとロールパンナちゃんは冷えていって、遂に、
ロールパンナちゃんはキャバ嬢にハマった。
🖤
こうしてそばに置いてもらい続けていること自体が幸せなのだと、わかってはいる。
ただ当たり前だが、甘くはなかった。
好きなだけでは生きていけない次元に飛び込んでしまった。その代わり、好きじゃなくても共存していられる権利を手に入れた。
歪んでいるね、あたしは自分のなかの歪みやクシャクシャな想いをまっすぐに伸ばして正しく読んでブレずにいられるように、毎日ラブレターを書くようになった。LINEのタイムラインに、ただただアップするだけのラブレター。
ロールパンナちゃんは頼んでもいないのに毎回律儀に読んでくれて、反応したりしなかったりした。
3人で回している店だから定休日の前日はいつも3人で飲みに行くのだが、たまたまひとり都合が合わない日があって、ロールパンナちゃんと2人で飲みに行った日が冒頭のあの日だ。
飲み比べは引き分けだったがどちらもお互いに負けないくらいフラフラだった。
帰って、酔った勢いで、お金を払ってセックス。
売春は、あたしとロールパンナちゃんにとっての興味深いテーマだった。
お金をもらってサービスを提供するということを、あたしはそれまで仕事にしていたから、それを金額に対するサービスだと割り切ることを知っているし、お金を払う側の感情の機微もいろんなものを見てきた。
あたしにとってあなたにはお金以上の価値があったから、ここまでついてきたよ。
あなたにとってあたしは、お金をもらわないと割に合わないほど、つまらないものだったのだろうか?
「お金より価値のあるものをあげられなくてごめんなさい、」
あたしは痛客だった。
🖤
愛のことなんかちっともわからない。
俗に言う高まった恋愛感情のことだとは全く思わないし、どうせ別れる彼女に愛してるなんてほざいている同級生はバカにしか見えないが、じゃあなんなのってきかれたところであたしだってちっともわからない。
キャバ嬢にハマったロールパンナちゃんは、最後にあたしのことを「嫌いではないよ」と曖昧に慰めて、家を出ていった。
正しくは、兼ねてからあった新店舗を任される話がきちんと動き出し、喜ばしい仕事の成功としてあたしの元を予定どおりに去っていっただけだ。
間違いなく時間は経っている。
残り時間はあとどのくらい?
あたしにも諦められない夢がある。いつかは、あたしのほうから去らなければいけない。
あたしがひとり残された店舗からロールパンナちゃんの新しい店舗まで、こちらも電車で片道2時間ほどかかるが、あたしは懲りずに通っている。自分でもびっくりするが、こんなに時間や体力に余裕がないのにも関わらず週に一度は必ず通っている。溜まった家事や仕事の関係の雑用のために。交通費だってバカにならない。
でもロールパンナちゃんもキツそうだった。
ロールパンナちゃんの赤いこころはいまあたしには見えない。余裕が無くなって青くならざるを得ないつらさが、あたしにはとても哀しく見えた。でも赤も青もどちらも、ロールパンナちゃんなのだ。あたしはその赤いところに惹かれて一緒にいることを選んで、青いところまでどうしようもなく愛おしく感じるようになってしまったよ。
これがただの執着だったらどうしよう。
ロールパンナちゃんの青につられてあたしまで青くなってしまうことがありませんように。あなたの青さを、���えるような赤さで見守って、あなたが赤に還ってこられた日には、一緒にいっとうの真っ赤をさらけだして、青さまで全て赤にしてしまいたいね。あなただけでなく、世界のすべてをいろんな赤にしたいんだ、あたしのゆめはそういうことだよ。ずっと赤でいるから、あなたも赤に戻ってきてね。
いつかは。
♥️
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chiyok0 · 7 years ago
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薔薇色の人生
その年の夏は猛暑で、地球が滅亡する前触れみたいに、街のあちこちでかげろうがゆらめいていたのだった。
その日も朝から晴れていて、エアコンを効かせて奇妙につめたい部屋から見上げる空は抜けるように青く、アスファルトは白っぽくすすけて見えた。わたしは6時半のアラームをきちんと一度で止めて、ベッドからのっそりと抜け出ると、まずトイレにいき、手を洗い、それから歯を磨いて顔を洗った。時間がなく、また食欲もわかないので、朝食は食べない日が続いていた。化粧をして髪の毛を結い上げ服を着替えると、携帯電話とパスケースをひろってわたしは玄関に向かう。ドアを開けるとむっとした外気が流れ込んできて、屋根や建物に切り取られて細長い空は絵の具を乱暴にぶちまけたみたいに青いままだ。
仕事に向かう途中だった。駅のホームで汗をぬぐいながら電車を待っていると、ときおり通過する快速電車にぶつかって弾けた風がひたいを撫でた。いつもの時間の電車に乗り込み、ひんやりとした銀色の手すりにしがみついて満員電車をやりすごしていると、電車が地下に潜る直前でわたしは吐き気に襲われる。
次の駅に停車すると、わたしはひとでぎゅうぎゅうになった車内からところてんみたいにぽこっと飛び出てホームに倒れこんだ。密室から出られてほっとして、両膝と両手をホームの地面にぺったりとつけると、うす汚れた点字ブロックが視界いっぱいを覆った。脂汗が滝のようにひたいから頬、あごを伝ってぽたぽたと落ちてゆくのを荒い呼吸を繰り返しながら見ていると、小柄で肉付きのいい女性駅員が駆け寄ってきて、大丈夫ですか、歩けますか、とわたしの肩をさする。呼吸するのにせいいっぱいで、あるけません、とたった6文字の言葉すらいうことができず、わたしは囁くように、あるけない、と口にした。その間もずっと汗はぽたぽた、ぽたぽたとホームに落ちていた。
簡易的な車椅子がどこからともなく現れて、わたしはそこに人形のように投げ置かれる。ふたたび吐き気に襲われて、吐きそうです、とはやはり言えず、はきそう、とまた掠れる声で告げると、女性駅員は少し慌てたようにしたけれどポケットからすぐに黒い不透明のビニル袋を出して渡してくれる。すこしえづくと吐き気がましになったので、わたしは男性の駅員2人に車椅子ごとかつがれるようにして階段の上へ運ばれる。
駅員室に通され長椅子に横になるように言われる。駅員室では朝礼のようなものが行われていて、みなほとんどわたしには注意を払わなかった。よく冷えた駅員室で静かに横になっているといくぶん落ち着いてきたので、わたしは携帯電話から職場にメールをいれる。文字を入力しよ���として、指がふるえることに気がついた。始業時間まではあと30分ほどあり、このまま向かえないこともなかったが、四肢に力が入らないし、それに大量に脂汗をかいたのでにおいなども少し気になっていた。
それから30分ほど駅員室で休ませてもらっている間にも2人、ひとが運ばれてきては回復して出ていった。わたしはがらがらの下り電車に乗って家に帰る。窓から見える街並みは美しく日差しを反射していた。
パスケースを改札機にかざすとエラーが出たので駅員に通勤中気分が悪くなったので引き返してきたとつげ、通してもらう。あいも変わらず空は青く、世界中太陽のひかりできらきら鮮やかに輝いている。駅前通りの病院にそのままより、栄養剤と胃腸薬をもらう。スーパーでカロリーメイトとポカリスエット、お茶漬けの素を買い込んで部屋についた頃にはふらふらで、これからお風呂に入ってからだを洗わなければならないことを考えると、わたしはその場にしゃがみこんで泣き出したくなってしまった。
倒れそうなからだでなんとか風呂を済ませ髪を乾かすと、わたしはもらった薬をポカリスエットで流し込んですぐに布団にくるまる。エアコンをきかせると部屋がまた奇妙につめたい空気でいっぱいになる。仕事を休んだのは初めてだった。布団のなかで主任からの返信を読む。淡々とした事務的な文章で、ゆっくり休んでくださいとあった。
それから昼過ぎまで眠った。目が覚めてカロリーメイトを何本か食べてすこしぼっとする。外はまだ暑そうなのに部屋の中は冷えている。熱中症だったのかもしれない。今年の夏は殺人的な暑さだと連日テレビが騒ぎ立てていた。殺人的な暑さ。そのフレーズを頭の中で繰り返しながらまたポカリスエットを飲めるだけ飲んで、わたしは眠る。
目をさますと男の子がパソコンに向かっている背中が見えた。わたしはそれが誰かすぐにわかる。ベッドの中で動くとシーツのこすれる音がして、その男の子が振り返る。起きたの、と言う。おきたあ、と間抜けに答えると、彼は何か飲むかと聞くので、うん、と答える。コップに冷たい水がそそがれて手渡され、わたしはそれをひとくち飲んだ。
体調大丈夫?と彼が聞いてくれるので、わたしはずいぶん良くなったよと答えることができる。男の子はよかったと言って笑い、わたしに抱きついてくる。汗かいてるから、と慌ててわたしが剥がれようとすると、汗かいてもいいにおいといって男の子が腕に力を込める。もう少し眠ったら、と彼がいってわたしに布団をかけ、まぶたを閉じる。わたしは幼稚園児のような気持ちですなおにうん、とうなずく。
夜の10時くらいにふたたび目を覚ますと、わたしはもう一度お風呂に入り、髪を乾かし、今度はお茶漬けを作って食べる。夜の分の薬をポカリスエットで飲むともう2リットルのペットボトルが空になる。明日の服装を考えながらまた横になるとすぐに朝がきてしまう。
翌日は始発で仕事へ向かった。満員電車を避けるためだ。朝早くから空いている喫茶店で朝食を食べてから職場に向かい、ご迷惑おかけしました、と頭を下げると、それですべてなかったみたいになる。
殺人的な暑さのなか、暴力的なまでにうつくしい青空を見上げていると、たちまち心細くなる。どんどん生きるのに適切ではなくなっていくようだった。世界が。
それからは不思議と体調を崩すことがなかった。また夏になり、冬がきて、そしてまた夏になっても、わたしは倒れたりせずに仕事をし続けた。稼いだお金で生活をした。たまに旅行へ行き、高価な服飾品を買った。地球はなかなか滅亡しなかったし、殺人的な暑さの夏も何度かまたあったけど、ずっとそのままということはなかった。
わたしは定年で仕事をやめ、大半の時間を眠って過ごす。家をきれいに保つ��けにしては時間があまりにも多かったが、その時のわたしにはもうほとんど力が残っていなかったので、清潔な部屋でたまに本を読む以外はほとんど眠りつづけた。
目を覚ました時にあのかわいい男の子の背中をダイニングやソファやデスクに見つけることがあって、彼はあの時と変わらずわたしに優しくしてくれる。お腹すいてない?怖い夢を見たの?そろそろお風呂はいる?もう起きたの?そう尋ねられるたびにわたしはあの恐ろしかった夏の青空を忘れ、白々とした蛍光灯の下で幼稚園のこどもにもどる。甘ったれた声でなんでも欲しがり、なんでもねだると、その男の子はすべてを与えてくれる。そして決まってまたわたしを寝かしつけてくれるのだ。もう少し眠ったら。そう言ってわたしのまぶたを閉じる。
そうしてそれから、二度とわたしは目覚めることがないのであった。
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oivgbqiqfz358 · 5 years ago
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--深海人形-- 苦情は彼方迄(※Web拍手かお題箱に)。
※…今回も刺激が強めです。罦傑竜化ネタとかあります(※如何か、御了承を)。
※…Twitterの自アカウントより引用(※…一部、修正、若しくは、改変)。
[[MORE]]
…真性のサイコパスで、マルクと知り合いだし、煽て方も褒め方も、まさに詐欺師だし、ハルカンドラの事情を知らないカービィ達を上手く騙してランディア倒させたり、彼奴って本当凄い。邪悪(語彙力)。
…こうじょうけんがく大好き(※大嫌い)。
…マホやん「…ボクとカービィはズッ友ダヨ……(本気)」悪魔のピンク玉「…うへぇ(ギブアップ)」
…此の人、莫迦(超弩直球)。…如何見ても、明らかに、⚪︎知恵 ×金 …フライパンとコンロがあれば米は炊けるし、洗濯機が無くても、洗濯板で手洗いすれば良いし、賃貸契約出来無くても、居候するかシェアハウスにすれば良い。此の場合、金より知恵が無いのが問題と言えよう(←※射殺しろ)>https://twitter.com/MAEZIMAS/status/1300224570226425857
…『智慧と生活が直結して無い奴』に、名作は描けない(※…多くの文豪が、人生そのものが文学の如き、大生活者であった事を鑑みても)。
…尾方畜生?(※難聴)。
…虎杖ごとスクナニンさんを取り込む!…ってのは出来ない物ですかね?(※ラスボス並丸呑み吸収とかで)。
…嶺厳辺りはガチで、『元祖ドノツラフレンズ(※究極の自己中で可愛いし)』。
…数多もの、星の海を越えて、何処迄も、何時迄も……(※…最終的にはR)。
…『こいつ様を敵に回してはいけない(しめいかん)。感は、北斗クラ塾クラ以外の間でも勝手にあるっぽい(…其うだな、塾生にこうじょうけんがくをさせ、体内面に閉じ込める女だしな〜〜)。
…腹いせに、宿主殺して心中する寄生虫は居て良いと思う(…生物として、異常過ぎるが)。
…2は、ルーイメモ(…以外もと言うか、ゲーム自体が全部)が凄まじかったけど、続編に出たコッパイ星人が、『極度の偏食で果物しか食べない(※フルータリアン)』って……、…嗚呼、成る程ね……(※クレーム回避多分)。
…男塾って、…結局、御耽美系イケメン多いじゃん(…特に、矢張り、魁!! …暁から、其う言うのを率先的に減らしたのは、マジ正解だと思いました いや本当に …ああ言うのを有難がるのは、女だけなんで? ←※此処大事)。
…花札屋クラスタの実力者は、純度の高い花札屋の薫陶受けまくって居るから、滅茶苦茶良いセンスしてる(※…幼稚な奴も多いけどね ※笑)。
…前々から書いてたけど、船ほど幼稚な人が挫折し易いゲームも割と無いと思う(…そして、我儘な駄目人間で幼稚な人程ハマるのが、東方二次創作アバズレーンツイステ文詐欺盗権グラブルFGOだと熟思う そりゃ世間の支持が凄いわな 呆れ)。
…アイナナとか数多あるマイナージャンルとかうちの子厨とかも同じかな……?( >我儘な駄目人間で幼稚な人程ハマる 情けない)。
…某ピンク玉がSNSしてたら、インスタ映えなぞ気にせず、ただひたすら自分の食べたものを写真付きで記録してるだろうな(…しかも、異変があろうと無かろうと …でも、普通に、フォロー&フォロワーが天文学的数字なんだよね 星のだけに 上手く無い罦傑並に寒い)。
…アリティア王は、基本、安部ちゃんのアカウントみたいな事しか呟かない(※王侯と言う名の政治家)。
…コロコロコーディー(殺戮三昧的な方面で)#カービィの所をコーディーに変えると地獄
…スーパーコーディーハンターズ(結局モンハン)#カービィの所をコーディーに変えると地獄
…星のコーディー夢の泉DX(普通にありそう こなみかん) #カービィの所をコーディーに変えると地獄
…私が死んだ時には、あんな、如何しようも無いロクでなしも、一緒に道連れで死んでますわよ☆(…実に有難いですね☆)。
…自殺幇助シミュレーションRPG(※育成型)。#こんなゲームを作りたい
…うちの親は、「…御前の金で生活費払え!(さもなくば氏ね!)」…って平気で言って来るタイプだわ(今も)。
…此の人の母親は、(自分の子がまともというか普通に生まれて欲しかったが故に)此の池沼の子供(姉弟)が嫌で、自分の子とはいえ、見捨てたんだなぁ……(…健常な子供だったら、見捨てる所か溺愛してる奴案件…) >母に捨てられた
…性質(タチ)悪いね。自分の子供が気に食わ無い上に、利用出来る所も無いので捨てたと言う。…打算で生きる最低の母親、其の見事な見本だ(…障害者年金とか社会保障とかを、露骨に貪れたら、此の姉弟の事を、もっと愛してくれたかもね? …愚かな親は、利権を運んで来る子を愛する 本当莫迦だねぇ)。
…再婚してたら、如何やろうな。…又、疎外されて終わりかな?(…最悪、利用に利用されて、絞りカスになって終わりだろうね …此の場合、利権も特権もあまり武器にならない 人類社会は残酷ね 結局相手を食い殺した者勝ち)。
…兎に角、『人が良いだけの莫迦(家畜)』は、…すぐ、食い殺されるだろうね(…むしろ、食い殺される為に生まれて来たきらいがあるくらいだから)。…屑に散々利用されて、食い殺されるのが運命とか、…最早、其の人の人生とか、何の為にあるんだ?(…矢張り、殺られる前に殺るしか無いと言う事だろう)。
…テレサ王「…そんな事を言うのは、本性が雑魚のイキリだけだぞ!(王の貫禄)。」 >某花札屋同人絵師の意見、…「遊びは終わりだ!」的な台詞が作中に欲しい
…此の人の働いてる会社、もしかしなくても、ヤッさんシノギ・不透明化用の会社(或いはマネロンとか臓器売買斡旋等辺)とかじゃ無いだろうな?!(…流石に無いです)。
…此の人、傭兵の才能あるわ(※確信)。 >某花札屋同人の絵師
…おしゃれさん所か、反社に片足突っ込ん(多分堅気じゃ無い)でた(…実は、凄い刺青が体の隅々に迄あったりしてな?)?……
…『花札屋』は、…割と、『仁侠(※…或いはマフィア)モノ(※“花札屋“だけに)』…と、相性良いから、如何しても此う言う方向性に成る(※…後、ワイの一族自体が、ヤクザ気質なのでw)
…単眼猫先生か鰐先生あたりは、中年になる前か初老ぐらいに、糖尿病か腎臓癌とかで、此の世を去って(るかも 呪詛で 膵臓癌って線もあるな 故ジョブズみたいに)。
…だけど、サッカーとか体術をしてたら、転ばなくなる奴(…ATM並に聡明DA☆ZE >某花札屋同人絵師のアイディア→足の使い方がなって無い系テレサ族擬人化
…足の使い方がぎこちない……他のテレサ族擬人化でも通用する萌えじゃん(※…何たって、テレサ族には歴史があるモンな! ※…余計な事書くけど、ニコ百で個別記事があるのは、アトミ、レサ御嬢様、テレサ王だけだけどな ※白い目)。
…『キングとボスの(※テレサ)』が既に居るって事は、…何れは、キラーテレサとかアルティッメットシングテレサとか神父テレサとかプレジデントテレサも(ry 荒木荘状態)。
…レサ御嬢様は、よく、『マリオ界のゆゅゆゆ様(※…昔はよくあった)』扱いされるけど、実力は圧倒的に(ry ※ゆゅゆゆ様が強過ぎる)
…ゲーム&ウォッチ、配管工の先輩やぞ。…しかも花札屋の経営を救ったくらいの偉人(※…スマブラに採用される程偉大)。
…ゲーム&ウォッチが無かったら、ファミコンすら無い程(※史実)。
…何れ程、公式がゲーム&ウォッチを重要視して、大事にしても、当のメインユーザー層な年齢的にも青二才ゲーマー、キッズ達が、其の大事さと尊さを分かって居ないと言う()
…ネガティブの半分も狂気!(※人生の半分は狂気!)>https://twitter.com/omoti194/status/1301388190662574080
…配管工兄弟が、特に其うだけど、如何して、ワイ版は、皆して、『好戦的な戦闘民族(※スーパー薩摩人)』になるんだろう?(※玉砕万歳 ※畳の上で死ね無いの上等)
…サークライですら組長を畏れてたり、心の中で必死に反発してたあたり、矢張り、花札屋はヤッさんだなと思いました(※任豚並の感想)。
…ヤクザは、『玉砕戦法(※鉄砲玉以外も)』が好き(※我等一族も好き)。
…今思ったけど、…千鶴も含めて、此の人達の先祖は、絶対大和政権外の古代民族やろ(※歴オタ特有の思い付き)。>https://twitter.com/hitochiwa/status/1302123237287976960
…時の中央政権から、『野蛮で原始的な異民族と見做された古代人種(…丁度、ローマ民族に対するケルト民族)』の子孫が、『祓魔の権能と神器の継承を担ってる(※…本来は、中央政権の人間がするべき立場)』とか……(…むしろ、ケルト民族かな?)。
…此れって、昔の中国と倭国の関係でもあるんだな(※…中央政権が、外部存在である筈の異民族に、余りある権限を与えると言う構図)。
…有名御当地アカウントに、某フォロワー様が居られるけど、あのアカウントの中の人(達)は、中央政権とか英国政府に対してだろうが、勇ましく喧嘩売る薩摩の末裔で、『現代のスーパー薩摩人(※殆どお豊)』だと思うと、最高に楽しい(※狂人)。
…某暗闇の巫女は、魔竜になると、確かに、デカいけど、身体付き自体は華奢なんだよなぁ、罦傑も竜化したら(多少はもっとゴツくなるだろうけど 、ああなるのかも(※…飛竜を使役出来る代わりに、戦闘竜作れ無くなる分も補う)。
…竜化罦傑とか、塾クラは其方に食い付く(…哀しい!)。…何でや?!…竜化より、生体部品になるべきやねん!(※頭TRTのバイド)。
…何でだよ!?…マムクートの如く竜になるより、…体に部品とか機械仕込みまくった方が、格好も良いし、神になれるよ!(※なれません)。
…如何も、忍者です(※冗談)。>鍵垢で良いね・RT爆を行うの曲者へ的に
…飛燕「…罦傑が竜になったら、きっと美しい竜になるのでしょうね……(※…其うであって欲しい)。」伊達「…いや、其れは無いな(※断言)。」※…無くは無いです(※願望)。
…美しい姿?…無い無い。むしろバイドだよ、人類だから(※虫に似てる)。
…こいつ様の事を、『ミラクル・マター(※星カビ64より)』と呼ぶ皆〜!(…戦艦レ級に例えるのは、聞いた事がある 後、R-99 ラストダンサー? 此れは無いか)
…ジャンルと嫁推しが、余りにも多岐に渡り過ぎて居ると、付き合ってくれる人も自然と減るんだゾイ(…オタクは一芸と一ジャンルに特化した方が、確実に同志を得られるぞ 当たたり前〜)。
…絵も文も描いて、莫迦みたいに掛け持ちしまくって、ジャンルと嫁推しが増え過ぎると、自分でも分からなくなって来る(←莫迦です)。
…花札屋だったら、徹底的にトコトン花札屋、C社だったら、同じ様にC社、コンマイとかでも同じ。…更に、ジャンプだったら、其れ以外を全て排除してジャンプ、其う言う付き合い方が一番、きっと、オタクとして、ユーザーとして望ましいのだろう(※ワイの様に節操無さ過ぎる奴は論外)。
…京サマいおりん千鶴、三種の神器一族は、本当の所は、お豊(…と徳島・阿波の古代民族 先祖が同じかもしれないじゃん!(※歴オタにしか分からない感覚)>https://twitter.com/hitochiwa/status/1302209093382279169
…リアリティが無い。…随分、文豪を莫迦にした設定だな。描き直せ。(※モンクレ) > 作家なのにクズじゃ無いし、締切を守る
…『締め切り守らない作家の上にクズだけどヒーロー(※何処はかとなく無頼派)』でええやん(※…まともに文学嗜んでたら、有り得ない設定だと思う)。
…それなら、普通に、『漫画家(※月刊・隔月刊連載 』でも良い筈なんだけどなぁ?(※…何故、小説家縛りなんだろなぁ)。
…結局、今回のライダーは、『普通じゃないホモサピエンス(※ワイら見たいなの)』には、向いて無いって事か?(…哀しいですね)。
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sandacsakurai · 8 years ago
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「トリプルブッキング」本編
リレー小説「トリプル・ブッキング」
1=サクライ
「日曜なのに早いねえ」 寝ぼすけのふたりが起きてきた。 この家では母も妹も極端に朝に弱いから、朝食を作るのも朝のコーヒーを入れるのもぼくの仕事だ。 「兄ちゃん、卵焼きはもっと甘くしてっていつも言ってるのに」 「まろん、まがまま言わないの。お兄ちゃんが、お昼ご飯には美味しい卵焼きを出してくれるから」 「いや、わるいけど今日は出かけるんだ」 「えー、うっそ極度のインドアのあんた/お兄ちゃんがぁあ?」 ふたり揃って、こいつらは…。 今日は中学からの女友達の杏南(あんな)の相談を聞く約束になっている。どうも恋バナらしい。 あの杏南がなぁ…。
2=オッセルヴァンツァ 本当は行きたくないのだが。杏南に逆らうと後が怖いので、仕方なく集合場所である駅の改札口で杏南を待っていた。 「あ、いたいた~」 「おはよう、遅かったね」 「北口で待ち合わせって言ったのに、何で南口にいるのよ!」 「あっ…ゴメン!忘れてた」 「相変わらず間が抜けてるわね、昔っから変わってない」 「これでも気をつけている方なんだけどな…」 この彼女がぼくの幼馴染の杏南、小学生の頃からの付き合いである。 腐れ縁ってやつだ。 「もう、気をつけてよね。ほらもう、じゃあ行くよ」 杏南に手を引かれて、ぼくはその場から離れて行った。
3=ウニ太郎 杏南の白い指先が赤いストローを弄る。その先端が勝ち気に喋る小さな唇に吸い込まれ、ちゅる、と鳴らされてから離される。 やけに光るリップグロスに気づき、目のやり場に困ったぼくは喫茶店の窓の外を行き交う人々を見遣った。
「それでじゅりちゃんに誘われて赤高の男とカラオケ行ったの」 「はーん」 赤高、通称赤坂高校。ぼくたちの通う青嵐(せいらん)高校より数段偏差値の高い高校だ。 「ちょっと! ちゃんと聞いてよ」 「おっと。悪いわるい」 「あ、そうだ。じゅりちゃんも今日来るって」 「え? そうなのか?」
バタバタと店のドアが開く音。嫌な予感がする。 「ユウト~!!!!」 俺の名前を呼ぶ声に振り替えるとそこには美貌の巨乳・褐色・ピンク髪・スーパー転校生。 「呼ばれて飛び出てジュリアちゃんだぁヨ♡ ユウト!!アンナ!  こにゃにゃちわネ♡」 「神山!!」 「じゅりちゃんおはよ~」
神山ジュリア。先月来日した、俺の宿敵だ。
4=サクライ 「便所」 それだけ言って席を立つ。ジュリアはまたどこの言語かわからないことを言っている。多分意味は「いってらっしゃい」だ。 じゅり語を解読するに、カラオケで赤校の3年生(俺たちは2年生だ)と二時間程歌ったあと一番背の高い男と杏南はエスケープしたそうで、じゅり曰く「お似合い」だったそうだ。 「悠斗」 杏南に呼び止められビクっとなる。 「驚きすぎよ」杏南が笑う。 「大丈夫、悠斗?じゅりちゃんってほら、…じゅりちゃんだから」 「大丈夫だけど、ってかおまえがつれてきたんだろ?」 「まぁね」 けたけたと笑う杏南が、ふっと真顔になって続けた。 「今日の3時から付き合って���れる?」 「え?まあ夕方まで付き合うつもりできたけど」 「そうじゃなくて」 きょとん、としていると杏南がクスッと笑った。 「ふたりっきりで」 「ああ、わかった」 「ありがと」と残して杏南はまた店からエスケープする。実をいうとわかってなかった。 「ちょっとまて、それまで神山の相手をさせとくつもか~!?」 杏南を追って駆け出したら、女の子にぶつかった。 「あっすみません」 おとしたハンカチを拾い手渡してから気付いた。知り合いだった。 彼女はー…
5=オッセルヴァンツァ うちの学校で知らない人は居ない、長身で綺麗な顔立ちをした彼女は2年の「桜 舞」、生徒会副会長を務めている。 別に生徒会役員だから有名になった訳ではない。百戦錬磨の兵士の様な彼女のあの眼がそうさせたのである。 そして付いた異名は『「ブライニクル」死の氷柱』だ。 「………」 「…あの、大丈夫ですか?」 「ああ…大丈夫だ」 そう言うと副会長さんは逃げる様に奥の席に進んで行った。 後で夜道歩いてたら後ろから刺さしてきたりしないよね?ね? 狼狽えていると後ろから神山が声をかけてきた。 「そんなに震えてどうしたノ?視◯プレイでイったのカ?」 「なんでそう繋がるんだよ。絶頂なんかしていないし、ぼくにそんな性癖は無い!」 全く、周りの目とか気にしろよ、只でさえ目立つ見た目なんだし。大体なんでぼくが一々ツッコむ羽目になっー 「あー!マイちゃんだーこにゃにゃちわー♡」 …忙しい奴であった。 「あぁジュリアか、奇遇だな」 「マイちゃんもティータイム?ジュリアもネー」 どうやら2人は仲が良いらしい。神山が転入してきてまだ1ヶ月も経たないのにあの副会長と友達になるとは、神山ジュリア恐ろしい娘…! そんな事を思っているうちに、どうやら2人はぼくの存在を忘れ、会話に夢中になっているようだ。 杏南との約束があるし、面倒ごとに巻き込まれたくない。それにトイレにもまだ行っていないからぼくの膀胱は限界に近い。ぼくは気付かれないようにコッソリ抜け出そうとすると。 「あっ マイちゃんにユウトを紹介しておくネ!」 逃すものかと話題の矛先をぼくに向けてきた。ジュリアめ、こんな時に限って…
6=ウニ太郎 「桜さん……ですよね?」 着席し、生唾をゴクリと嚥下したぼくは先陣を切った。アイスコーヒーのグラスの結露とぼくの冷や汗がシンクロしている。 「ああ。私を知っているのか」 「モチロンロンだぁネ! ユウト、女のチチとケツ目で追うイズ大変なご趣味ヨ♪」 「は? 貴様、この私を常日頃から視姦していると言うのか?」 ギロリと睨まれた眼差しはまさに死の氷柱。 「神山やめてくれ! 誤解ですよ!!」 「ぱっくりゴカイチョウ〜!? 破廉恥ネ♡」 「本当にそんなことないですって……桜さん、コイツの言うこと信じないでよ!? ぼくは本当に桜さんのこと、普通に尊敬してただけだから!!!」 「ふむ……」 (あっ、ノリでタメ口を聞いてしまった!) 元気に騒ぐ騒ぐジュリアの淡いピンク色の巻き毛を指で弄びながら、副会長が緩やかに目を伏せた。これはまずい。 「すみません!!!!! 乗せられて粗野な言葉遣いを」 「いや、良いのだ」 慌てたぼくの言葉を副会長が遮る。 「えっ?」 「お前、なかなか見込みがあるな。友人関係にある訳でもないこの私に親しげに話しかける奴はめったに居ないぞ」 「はあ……」 「オー! ユウトラッキーね! マイちゃんの見込みバチコン外れないヨ。マイ、ジュリアと同じ事思うネ♡ウィアフレェンド♡♡♡」 ジュリアのノリでどうにか切り抜けられそうだ。桜に抱きつきながらジュリアがこちらにウィンクをする。いかんせん圧が強い。 「なあ悠人、お前、私と共に生徒会に入らないか?」 思わずぶっとコーヒーを吹いた。 「な、なんですと!?」 「お前の瞳には他の誰にもない何かがあるようだ。ぜひ私と青嵐高校の明日を作り上げようじゃないか」 「急に困りますよ! ぼく、なんの取り柄もない帰宅部ですよ? 桜さんにそこまで言ってもらう価値なんてありません」 「私の言うこと、聞けるだろう? 」 突如半身を乗り出した桜さんがぼくの顎を手でなぞり、頬に鋭い爪を食い込ませる。呆気に取られたぼくは思わず学園の誰も彼もに恐れられるその瞳を間近に見据えてしまった。 「な? お願いだ」 「桜さん……」その瞳の奥に一瞬、春の陽射しが煌めく。
「ひゅ〜〜〜〜〜〜!♡!♡!♡!♡!♡!♡!♡ ソームーディ♡♡♡見せつけてくれんじゃねェカ!!!」 「あっ! すみません!!」 ジュリアの一言で我に帰る。あれ? 今日のぼく、ジュリアに救われてないか? 「いいんだよ悠斗。じゃあ今日から生徒会役員としてよろしく頼む」 「困りますよ! とりあえず保留にさせてください」 「そうか……」 どことなくシュンとしたような桜さんには申し訳ないが、こちらは頭が爆発しそうだ。一旦間を置く必要がある。杏南との約束もあるのだ。 「とにかく、とりあえず今日は失礼します! ジュリアもまたな!」 「オッケ〜♡アンナに��ろよろ♡♡」
千円札を卓に置いて店を出る。待ち合わせに遅れそうだ。急がねばならない。 そういえば、ジュリアはどうして杏南との約束を知っていたのだろうか。とにかくまあ後で考えよう。ぼくはスマホを取り出し、杏南に電話をかけた。
「マイ、ユウトとすっかり仲良しね♪」 「ふふ」 「どしたネ?」 「私の言うことに従わなかった人間は久しぶりだ。まったく本当に、面白い男だよ……」 桜舞はジュリアに毛先を三つ編みにされながら、ひとりごちるように呟いたのであった。
7=サクライ 「ごめん待たせちゃって」 駆け足で駆け寄ると、杏南が無言で腕時計を指差すジェスチャーをする。 「まだ三十分前」 「えっ、そんなはずは…」 腕時計が一時間ズレてる。ぼくが真顔になった瞬間杏南がゲラゲラ笑い始める。 どうにも遊ばれてる気がする。昔からそうだ。だから苦手なのだ。 「まさか、おまえが隙をみて時計進めたとか…」 「なに?被害妄想?悲しいなー、独り者はー」 とは言うが杏南のことだ。分かったものじゃない。 …ところで、それなら杏南は30分前からなにを 「ほら、待ちぼうけで足が棒なんだからどっか入ろう!」 杏南に引っ張られ思考が遮られた。
そう赤校の先輩のことを聞かないといけないんだ。ぼくとしても長い付き合いの杏南が浮いた話を持ち出して気が気じゃない。ぼくの周りにそういう話は聞かないだけに、詳しく聞いておかないと。 しかし結論からいってその件は流れた。「ブライニクル(死の氷柱)」の再登場によって。 「桜さん!?なんでここに・・。てかなんで三つ編み?」 「うむ。君が財布を忘れていたからな。届けにきた」 「え!?うそっ!?すみませんわざわざッ!」 「うそだ。君にもう少し説得の余地がないかと思ってな。・・気配を消してつけてきた」 「そこはウソをつき通してくださいよ!マジで怖いんですからッ。夜道歩けなくなるじゃないですか!!」 ふと杏南が、らしくもなく張りつめているのに気付いた。 「桜…マイ」 「ジュリアが『アンナによろよろ』とか言ってたからまさかとは思ったが…本当に史歩杏南とはな」 「なに?あんたまだ根に持ってるわけ?」 「あたりまえだ。おまえのせいで父がどうなったか」 なにやらふたりには因縁があるらしい。杏南…一体何したんだ…。 「政治アナリストとかいってるから少し意見と質問しただけじゃないの」 「だまれ。あの日父はショックで寝込んでしまったんだ。人前で女子中学生に論破されてあんな恥をかかされたのは初めてだったのだ」 …はい? 「は、メンタル弱すぎるんじゃないの?そんなんで恨まれちゃ敵わないんだけど?」 「あの父の姿…。あんな父は見たことがなかった。あれから連日下痢で一週間で5㌔も痩せてしまった…!」 お父さん弱すぎませんか!? 「父を励まそうと当日に私が振る舞った手作りのシーフードカレーも全て流れてしまったと思うと私は悔しくてたまらない…!!」 それ貴方の手料理で腹壊しただけじゃねえか!!! 「とにかく私は、史歩杏南!貴様を許さないからなッ!!」 「ふん、いつでも相手してあげるから下痢のお父様でも便秘のお母様でもつれてきなさい!」 なんだこの馬鹿馬鹿しい戦争は…。 瞬間、鳴り響く着信音。 「もしもし、…神山!?なんでぼくの番号を…」 「それどころじゃないョユウウト!アンナとマイは超・・仲悪いンだってヨ!!タイヘンだヨ!二人は天敵だヨ!ライバルだヨ!ゴルゴ13だヨ!スペースコブラなんだヨ!!」 遅いよ神山。もう呆然真っ最中だよ。どっちがゴルゴでどっちがコブラなのか、今は聞かないでおくよ。ジュリア、きっと君はルパン三世だ。 「とにかく今からダッシユで行くから二人が会わないようヨロシク頼ムよ!」 「ちょ、ちょっとまて行くったって!」 「新宿二丁目のホテル街で待るヨロシな!」 「なんでそんな待ち合わせ場所なんだァ!!!」
まったくなんて日だ。ここまで女達に振り回されてばかりだ。 電話を切るとメールが来ていた。…桜舞…? いつのまにか桜舞がいなくなっている。 「あれ、桜さんは?」杏南に気いてみる。 「電話してる間に帰ったよ」 杏南はまだ少しふくれている。
あの人、会ってから数時間で何回再会しにくるんだ…。 メールを確認して戦慄した。そこには、 脅迫文。いますぐ所定の場所に来ないとSNSに拡散すると…。…僕の知られたくない唯一の秘密、な…なんで桜舞がこのことを…!!というかメルアドどうやって知ったんだ!ぼくの個人情報は回覧板にでも挟まって回ってるのか!!?
「どうしたの?」 首を傾げる杏南に平謝りしながら桜舞を追う。 杏南はさっき以上にふくれている。でも今は桜舞が優先だ。ジュリアが二丁目に着くのは彼女の足なら30分はかかるだろう。そして杏南はきっと何分もここで待っていて40分の時点でぷつんといく。あとが怖い。マジで怖い。とにかくまずは桜舞。そして神山ジュリア、最後に史歩杏南だ。本当に何という日だ。日に一回あれば厄日だっていう事件に三つも巻き込まれる。これじゃまるで……トリp…、 ぼくは余計な思考を投げ捨てて、目の前で子どもに愛想を売るササカマボコのゆるキャラを助走をつけ一気に飛び越えると、桜舞の元へ急いだ。
(第一部完…的な)
P.S.長くなっちゃいましたがキャラも出そろって一端まとめるという意味でも少し広く書いてしまいました。おおさめください。 それと現在劇中で登場した設定、状況をキャラ設定にまとめたので確認ください。サクライ
8=オッセルヴァンツァ
走って5分程で桜舞の元へたどり着いた。曲がり角で待っていてくれればいいのにと思う気持ちを抑えて、息を切らしながらも、ぼくは早速本題に入った。
「何が望みなんです?生徒会に入るのはまだ保留ですよ」「その話もいいが、今は違う。」「じゃあ、杏南の事ですか?」「見込み通り感はいいようだ。そうだ、ソイツの弱味…弱点を知りたい」「そんなのコッチが知りたいですよ」「何も知らないか、じゃあ君にはもう用は無い。消えてもらおうか…」「わっわかりました!探ってきますよ!わかったら直ぐ教えますから!!」「フフ、期待しているぞ」そう言って舞さんは小悪魔風にウィンクをして立ち去って行った。そのウィンク小悪魔どころか魔王クラスですよと言いかけてしまった、危ない危ない。魔王と契約してしまったが、弱味を握っても杏南にバレれたりしたらどうなることか、想像もしたくも無い。もう逃げ道は無いのである、不安やトラブルに悩まされない、そんな生活がぼくの社会に対する姿勢であり目標だったのにぃぃぃぃッ!!ぼくの平穏な日々よ…Arrivederci!!次はジュリアだ、携帯の時間を見ると意外と時間を消費していて、待ち合わせまで5分を切っていた。「クソ!なんて日だッ!」ぼくは例のホテル街に全力で走っていった。
9=ウニ太郎
「ハーイ♡」
ラブホテルの石段に腰掛けたジュリアがパッと顔を上げる。時間からすれば十分の遅刻だ。ぼくは息を切らし膝に手をついた。 「ごめん遅れた……」はたから見ればなかなかに無様だろう。 「いいのヨ〜」 「なんでラブホ街……?」 「ん〜……レッツメイクラヴ?」 「はは、冗談きついな」 「ヒドイヨ〜!!!!!」 ラブホテル前でシナを作る彼女は官能的なのだろう。初めて見たときは黒人ギャル的見た目に慄くばかりだったが、彼女はどちらかというとニャンニャンとすり寄ってくるタイプだった。それが童貞には厳しいところではあるけれど、ここ数ヶ月でぼくは彼女の扱いが上手くなったような気がする。 「あ、マイちゃんとアンナ! セーフか?」 「ああっ!!」 全然セーフではない。来なれないラブホ街の空気に飲まれている場合ではないのだ。 「聞いてくれよ! 大変なんだ」 「あっちゃっちゃネ」
「という訳なんだよ」 ぼくは一息に状況を説明した。ジュリアは真剣にうなづいている。 「アンナの弱味……ランジェリーがソーシンプル?」 「それを伝えてどうするって言うんだ���! というか男のぼくにそれをバラすなよ」 「オー、女のコの秘密口滑りやらかしたネ! 切腹あるヨ!」 「ああうん……」 「そうネ〜、ユウトはどうしたいの」 ジュリアの碧眼がぐっと焦点を合わせにくる。ぼくはたじろいでしまう。 「ぼくは……杏南とも舞さんとももめたくない……………」 「オー…………ジャパニーズ男のコ……」 「ごめん……」 流石に自分のことなかれ主義が恥ずかしい。しかし他にどうすればいいというんだ。 「ま、ジュリアにおまかせヨ!」 「待ってました!!」 ジュリアに頼ることにもう既に抵抗はない。ありがとうジュリア。女性は素晴らしい。
その後ジュリアはぼくに怒涛のアドバイスをくれた。要約すると、とりあえず桜舞には嘘ではない程度の小さな杏南の秘密を教えること。例えばギザ10集めてる事とか。杏南には桜舞との間に何が起きたかをそれとなく聞き、2人と仲良くすること。 それで大きく何かを変えられる訳では無いが、とりあえずの時間稼ぎにはなりそうだった。その先みんな仲良くなればいいネ〜と言って、ジュリアは微笑んだ。
「ジュリア、感謝してるよ。本当にありがとう」 「ウン!」 「じゃあ行かなきゃ」 「どこ行く?」 「杏南に会うんだ」 「………」 「どうした?」 黒いキメの細かい手がぼくの服の裾を掴んだ。 「アンナ、マイちゃん、イイナ………」 「え?」 「ユウト、ジュリアのことは興味ナイ? アリガト〜でオシマイ?」 「え?」 「ジュリア、もっと仲よくなりたいヨ」 「うんうん! とりあえず急ぐから、またな!」ぼくは時計に気を取られ、焦っていた。 バチン!!! 頬に衝撃が走る。なんだ? 「……ごめんネ」 ジュリアが呟く。ぼくは彼女にビンタを張られたのだ。 「ん…? うん……?」 「ゴメン」 そう言って彼女は走り出した。ぼくはポツンとラブホ街に取り残された。周囲の通行人が眉をひそめる。あ、これはやらかしたか? 初めてそう気づくも、ジュリアはもう去った後だ。とにかく杏南に、杏南に会いに行かねば。 気づいてはいたが、なにか大変なことになってきている。軽くパニックを起こしている自分に気づくが、とりあえずは待ち合わせに向け、ぼくも走り出した。神様、助けてくれ。
10=サクライ
「私が神だ」
「あんた誰」
「助けを求めただろう」
突然ホームレスのジーさんに話しかけられた。
「いや結構です」
「そうか。気が変わったらココに連絡をしろ」
LINEのIDを渡された。
とにかく杏南の所へ急がなくては。時間はギリギリ。全力疾走で元の場所に急ぐ。
しかし約束の場所に杏南はいない。そんな馬鹿な。あの杏南がたとえ口約束でも約束を破るはずない。長い付き合いだ。それは確信している。ただならぬ事態を察して、近くでタップダンスしているやくざに話かけた。
「ここにいたダサいTシャツの女の子、知りませんか?」
「おお、悠斗か。おめえのオヤジさん…市ノ瀬の叔父貴は元気かい?あと何年でシャバに出られるんじゃあ?」
「もう脱獄しちゃいましたよ。大きな声では言えないけど今度連絡先教えますね。・それで女の子は」
「おう頼むわ!…でもそれがなぁ。さっきそこの角にシャベルカーが突っ込む事故があってな。女の子が一人、救急車で運ばれたんじゃぁ…」
「!!」
ー杏南ッ!
…思えば杏南との出会いはお笑いだった。高学年にもなって特撮ヒーローが大好きだと隠していたぼくは、ヒーローショーのチケットを鞄からこぼしオタクバレしてしまった。おわった、と青ざめたぼくを救ったのが杏南だった。「それ中々手に入らない奴じゃん!」彼女もオタクだった。杏南は夢中になってそのヒーロー『抜刀戦士カタナ』の素晴らしさを皆に説きはじめた。その日、杏南によってぼくの人生のルートが変更された。必死で自分の趣味を隠していたぼくは、それらをオープンに皆に晒して、更に皆の流行にも興味を絶やさないその姿に憧れた。ぼくはいつしかコンプレックスから苦手意識を持っていたが…、ぼくは杏南のように生きたかった・・・・・・
手術室の前にうずくまり、ぼくは震えた。震えながら祈った。そして後悔した。
なぜ今日、ちゃんと杏南の話を聞いてやらなかったんだろう・・・・・・
今にも壊れそうなぼくの前に、あの女が現れた。
カツ、カツと音をたて廊下の真ん中をゆっくり近づいてくる。
戦士のようなその冷たい眼光。
その冷たい眼より、さらに冷えきってしまったぼくの眼を彼女に向ける。
死の氷柱・・・
ブライニクル・・・
・・・桜舞がぼくを見下ろしていた。
11=オッセルヴァンツァ
「腕の良いと噂のフリーランスの女医に切らせた。まだ油断ならない状態だが、アイツなら大丈夫だろう。」 「何で名医じゃなくて、フリーの医者なんですか?」 「私は人の本質や性格を見抜くのが得意でな。それに、杏南に死なれては困るからな」 「舞さん、やったぱり杏南のこと …」 「奴には精神的に屈辱を与えて屈服させてやる、その為にもココで死なれては困る。」 杏南を助けようとしてくれたが、やっぱり2人の仲は悪い様だ。 どうしたものかな…。 「ところで。杏南の弱点、見つけたか?」 「こんな時にそれですか?まあ…確か昔あったような…」 「ん?幼少期によくある男女の無邪気なちちくりあいで、杏南の性感帯を見つけたとか?」 「確か小学一年の時に、プロレスごっこしてる時に乳首を押したら…て何言わせるんですか!?」 「成る程、乳首が性感帯か。情報提供感謝する」 まずい、杏南に知られたらまずい! 「ぜっ、絶対にバラさないでくださいよ!?」 そう言うと舞は何処からかローションボトルを取り出し、口に塗りはじめた。口を滑らす気満々だ。 ボクは突っ込む気力が無くなってしまった。
《その時、不幸が起きた》
病院の床が地響きを始めたのである。 地震だ… それもかなり大きい。 とっさにボクは舞さんを庇う様に覆い被さった。 それと同時に建物の照明が消えた。 杏南に繋がっている生命維持装置が止まる、まずい。 大抵の病院は予備電源があるが、揺れが収まってもなかなか復旧しない。 「今日は病院の予備発電機の点検日だ、まさか日が重なるとは…」 彼女の言葉に絶望した、直ぐにでも復旧しないと杏南の命が危ない。 その時不意にあのホームレスのLINE IDを思い出した。 これを読んでる君は理解してもらえないだろうが、藁にもすがる思いでメッセージを送った。要するに大人の都合だ。
12=ウニ太郎
スマホの画面を睨みながら老人とのやりとりが始まった。と思った。いつの間にかぼくの目の前に彼は立っていた。
「若き青き君よ、今何を思うのかね?」 「わっ!! いつの間に!」 「動ずるでない」 「んなこと言ったって」 「心の目で見、心の耳で聴くのじゃ」 老人は口ひげを弄びながらにんまりとする。 「えぇ……」 「はい深呼吸深呼吸」パン! しみと血管の目立つ手のひらがぼくの眼前で打ち付けられた。 「鼻から吸って〜」 その瞬間、気が遠のく。 「口から限界まで吐くのじゃ。繰り返すぞい。はい吸って〜!」 老人の指示に逆らえない。小刻みに脳が震える。しかし、逆らいたいとも思わないのだ。どこかでもう1人の自分が何やってんだ! と突っ込みを入れるがいまのぼくは急激なトランスの快感に震えながら目の前の声に従っている。
深呼吸を重ね、何分、何時間、いや一瞬。どれほどの時が経ったのだろうか。
「もうええかね」 遠く、近く、深いところから優しい声が聞こえる。 いつのまにかぼくは柔らかな椅子に深く座っている。そこは安全で、心地よい。 「見回してみんしゃい。心の瞳を開けるはずだぞい」 すっと目をあげれば、周りにはあまたの星。暗闇の中、白や黄色、赤いチカチカとした光の粒が縦横無尽に飛び回っていた。 「宇宙………」 ぼくは随分ぼーっとしている。 「そうじゃ。ここはお前の心の宇宙。どうしようもなくなったら、たまには戻ってみんしゃい」 「ぼくは、杏南を……助けて、舞さんと、そう、仲直りさせる…………」 「焦るな焦るな。ここでの一切の時は現実世界に鑑賞しない」 「ジュリアの話、も、聞くんだ…ちゃんと」 「それがおぬしの望みか」 ぼくはゆっくり首を縦に振った。 「ほな!」老人が今度は指を鳴らした。杏南、舞、ジュリア。宇宙の中に、憎らしくも愛しい3人の女の子が浮かびあがる。全員どう考えても自立できない体制でストップモーションを貫いている。 「この真面目そうな女が杏南じゃな」 驚いた表情で固まる杏奈のスカートを老人がピラリとめくる。 「水色や」 「ほへ…………」水色か、としか感じない。これが悟り(?)の境地か。 「これは事故に遭う直前の杏南や。この次の瞬間には彼女の意識は消失する」 「…じゃあ杏南は痛くなかった?」 「多分な。次は桜舞か。神経質な感じがするのぉ」 桜舞は腕を組み、しかめっ面でよそを睨んでいる。肘に打ち付けていたであろう左手の人差し指が宙を指している。 「なんや、ライバル言うても心配しておったんじゃな。『焦り』を感じるぞい。次はなんじゃ、ケトウか」 「ジュリア……」 「発育ええのお。走っておるじゃろ。おおよそ事故の知らせを聞いて病院に向かっている所だな」 「というか……ここはどこ?」 酷い離人感に負けずに言葉を紡ぎ出す。 「言ったじゃろ。ここはお前の宇宙じゃ。望んで、そうじゃな、瞑想やら薬やらキメればいつだってここに来れるぞい」 「でも…杏南は事故にあって、舞さんは拗れてるし、ジュリアも怒らせちゃった」 「そうだな。事実は変わらない。しかしワイは伝説のホームレス。電子端末がなくても脳内にLINEできるぞい。もしも望むなら、ちょっとは時間を戻せるぞい」 「ほんとぉ?」 「半日や。それが限度じゃ」 12時間前といえば、朝、家を出た頃合いだ。 「ありがとうございます………」 ぼくは何故か涙をこぼしている。 「ただ、それには条件がある。この術は力を使う。3人のうち、2人の恋心をワイが貰うぞい」 「恋?」 「アホかお前、全員押せばヤレる状態じゃぞ。これだから童貞は」 「恋……」 「なにもワイに惚れさせようってんじゃない。パワーに変換して時間をちょっと戻すだけじゃ。余ったパワーでまた、世界を救うとでもするかね。恋心は無限大の力を秘めておるからの」 ぼくはぼんやりして、でも現実世界はいろいろヤバくて、しかも得体の知れない老人に大変な女どもの恋心までリークされてぐちゃぐちゃだった。それでも何故か安心感と、また現実でうまくやろうという希望が漲ってきているのを感じた。 「ええか?」 「はい! 」 「ほな行くで��。一人だけ、女を念じて目を閉じるんじゃ。しっかり『選択』するんやぞ」 「本当に、ありがとうございます」 「人生は自由自在じゃ。また別ルートを選びたくなったら口説き落とせばええんじゃ。ほな、少年よ、また会おう!!」 「アイアイ・サー!」 ぼくの心から、無限の希望が湧きだすのが感じられた。ぼくはちょっと考えて、愛しい彼女のことを思い浮かべた。瞳を閉じると彼女の優しい笑顔が脳裏に浮かんだ。身体が回転する。気持ちいい。 「追伸じゃ! みんなええ子や。女の子らとも、巡り会う全ての人とも仲良くするんやで〜〜!!!!」 遠い上の方から老人の優しい声とカラカラした笑い声が聞こえた。 ぼくはもう迷わない。全ての選択は今に繋がるのだ。ぼくは今、今に辿り着く。
「起きろクソ兄貴!!!!!」 「おはまろん」 なんで爽やかな目覚め。さあ、今、1番会いたいあの子に会いに行こう。
《あなたは誰を選びますか?》
13=サクライ
意識は戻ったがまだ朦朧としていた。 どうも二日酔いのような感覚だ。飲んだことないけど。 「ほら食え兄貴。激辛の卵焼きだ」 「はい」と言って箸をつける。おかしいな。なにかおかしい。 「お兄ちゃんは今日、杏南ちゃんとデートなのよ」 「杏南さんってあの幼稚園のころから兄貴とイチャついてる娘でしょ」 やっぱり、なにかおかしい。
「あらめずらしい。ちゃんと南口にいる。あんたのことだから北口を先に見てきたのに」 杏南は相変わらず辛辣だ。いややっぱりちょっとおかしいか。 「じゃあ行くよ!」 「まって。行きたい所があるんだけど、ぼくの方に付き合ってくれない?」 杏南はまったく予想外という風に、きょとんとする。 でもすぐに「いいよ!」と笑顔になった。そして小声で「じゅりちゃんに謝っとかないと」と加えた。でもぼくは聞き流した。もっと気になることがあった。
「それで赤校のやつとはどうなったんだ?」 「なんでそれ知ってるの?」 電車の中で突��切り出した。色々と段階を踏むべきとは思ったが、そのままぶつけることにした。そうしたかった。思うままに感情をぶつけても、彼女は受け取ってくれるという確信がぼくにはあった。 「まあさ、それを今日聞いてもらおうと思ったんだけどさ」 「どんな奴だったんだ」 「まあ、いい人だったよ。背高いし、歳上だけあって悠斗よりオトナだし、赤高だし」でた辛辣。 「でもさ。あんまグイグイ来るから白けちゃって。会ったその日に二人っきりのデートってのもちょっと趣味じゃないのにどんどん人気のない所行くし。だから失礼のない程度につっぱねて帰ってきちゃった」 「じゃあ特になにもなかったんだ」 ぼくは無意識に安堵の顔を見せる。 「まあね。でも色々考えちゃってさ。あたし、もう17よ?色々知っときたい気持ちだって少しはあるし。いつまでも振り返らない朴念仁をいつまでも待ってる気もないんだから」 「…?どういう意味かわからないな。…それが相談したかったことか?」 「まあね!でももういいわ。なんか迷いは消えた気がする」 杏南はぼくの目の前で、男の名前の連絡先を削除した。きっと赤高の男だろう。 「思えばあたし、待ってたことなんてなかった。朴念仁は手強いけど途中で投げ出すなんてあたしらしくないもの。あたしのやり方で最後までやり切ってみせるわ。別の相手追いかけるのはそれからでいい」 「よくわからないけど、解決したみたいだね。いつもの杏南の顔になった。応援してるよ。頑張って」 「あんたも頑張んのよ」 「えぇ…」相変わらず怖い幼なじみだ。 と、車窓に鎌倉の海が見えた。 「もうすぐ極楽寺駅だ」 「どうしてここに来たかったの?」 「なんとなく。父がいたころの思い出があるから」 「ふうん、思い出の場所か」 「ごめんね、急に付き合わせちゃって」 「ううん、悪くない」 「なにが?」 「ほら、海きれいだよ」 本当だ。彼女と一緒に見られてよかった。本当に。
「久しぶりだな!餓鬼!」 極楽寺で待ってたのは髭面で黒尽くめの男。 「あ、杏南のお父さん!?」 「そうだ!そしてお前の父親に無実の罪を着せた極悪極道、宅彩度組(ダークサイド組)組長にして暗黒面に堕ちた極道、史歩穴筋だ!」 「な、なんだって!衝撃の真実を2行で説明しやがって!なんのつもりだ!」 「衝撃の真実?甘いな!本当の衝撃はここからさ!おまえは俺が捨てた倅を市ノ瀬…つまりおまえの親父が育てた子…。俺はお前の父親だ!!!!つまりお前達は実の兄弟!市ノ瀬悠斗と史歩杏南は双子なんだ!!!!」 「なんですってー!」 「なんでそんな複雑な設定を最終回で持ち出すんだ!」 「最終回?甘いな!本当の前途多難はここからさ!本当の戦いはここから始めるのだ!まだ100話は続けるぞ!」 「ふざけんな!俺はもう嫌だ!!」 「トラベルデートなんかせずにトリプルブッキングしとけばよかったな!じゃあな息子よ!杏南は頂いていくぞ!諸々の問題と向き合ってから追ってこい!!」 「いやだぁぁぁあああ!!!!!」 最低の日曜日はまだ終わってくれそうにない。いや終わってくれよ。               完  つづく
13=オッセルヴァンツァ
-ボクは時間を遡った-
あの神様の力によって…
-ボクは時間を遡った-
みんなと隔たりなく友達になるために
-ボクは時間を遡った-
…………………。 ………。 …。
ボクは朝食を作りながら考えた。 どうすれば皆無事に過ごし、杏南と舞さんの関係を修復し、ボクとジュリアとの壁を取り払うか。 後者の場合はボクの苦手意識を克服し、接し方を変えればいいだろう。
問題は前者だ。
くだらないと言えばくだらない原因で関係が悪くなっている、これをどうやって和解させるかが重要だ。 杏南はプライドが高く意地っ張りだ、そして舞さんは目的の為ならば手段は選ばない。
厄介にも程がある
お互い絶対に引く事は無いだろう、どうするか。 「お兄ちゃん!卵焼き焦げてる!」 「あっ、しまった」 「お兄ちゃんどうしたの、焦がすなんて珍しい」 「ははは、ちょっと考え事をな」 「なになに?お悩み相談ならこのマロンちゃんにお任せあれ!」 「いや、いいよ」 「ガーン!冷たい」 「はいはい、作り直すから席に着きなさい」 時間は巻き戻っただけだ、どこかの選択を少し変えれば未来は変わるのだ。 この世の全ては連鎖反応によって成り立っている。 そうと決まれば、ボクは急いで朝食を済ませ、駆け足で杏南との待ち合わせ場所に向かった。
「…遅い」 「ごめん」 息を切らしながらボクは杏南に言った。
杏南に連れられ、ボクは近くの喫茶店に入った。 あの時死んでしまった杏南がこうして生きているのは不思議な気持ちだ。 それよりもここからが問題だ、杏南と舞さんの仲を良くし、ジュリアとの隔たりを無くす。チャンスは一度きり。おそらくこれが最後である。 「悠斗、何考え込んでいるの。話聞いてる?」 「あ、ごめん。聞いていなかった」 「ムカッ」 ムカッて口に出して言う人初めて見た、そしてあざとい。 「悠斗はどうなの、恋人とか作らないの?」 内心ドキッとした。 「うーん、恋人か…あまり考えた事ないなぁ、楽しそうだけど」 「ふーん、彼女作る気はあるんだ」 「作る気って、まぁできるならそうしたいけど。」 「じゃあさ、私と付き合ってみる?」 「は?今何て?」 「だからさ、私と付き合ってみないかって言ってるの。」 お前は何を言っているんだ、また杏南はボクをからかう気なんだな。昔からそうだった。 「またそんな事言って、ボクをからかっているんだろ」 「ためしてみる?」 いたずらに微笑む杏南。 やめてくれ、うっかり惚れそうになる。 「ちょっとトイレ」 このままでは杏南にいいようにされるので戦略的撤退を決めた。 トイレに入ろうとすると長身の女性とぶつかった。 「あっ、すいません…て、舞さん!」 「初対面でその反応は感心しないな。君、青嵐の生徒か。」 「はい、そうです。」 「…ん〜…」 彼女は唸りながら考え込んだ。 舞さんは人の性格などの内面を見抜ける特殊能力とも言える特技があるのだ。 噂では生徒会役員の大半が舞さんが選抜しているらしい、軍隊でも作るのだろうか。 「フフフ…」 「な、何ですか?」 「いや、興味深いと思ってな。」 何やら企んでるような顔をしている。 そうこうしているとあの転校生が現れた。 「マイちゃ〜ん!おまたネ〜」 「げ、ジュリア」 「ユウト酷〜い、でも何でユウトとマイちゃんが一緒に居るネ。モシカシテ付き合ってるのカナ〜?」 「おいジュリア、舞さんに失礼だろ」 「そうか?私は付き合ってみるのも面白そうだが」 「え、舞さん?」 この人も何を言っているんだ? 「ヒュ〜、マイちゃん大胆〜」 あーめんどくさい事になってきたぞ そしてさらに面倒な事になった。 「悠斗、いつまでトイレに居るつもり…桜舞…」 「…杏南」 すっかり忘れてた、まずい空気になった。 「なんであんたが居るのよ」 「お前はこのフルール・ド・ラパンのオーナーでもないのに偉そうだな杏南、私がどこにいようと勝手だろう」 「マイちゃんアンナストップ、ストーップ!ジュリア2人が喧嘩するところ見たくないネ!」 「……。」 「………。」 しばらくの沈黙が訪れたが、みんな気づいて。他のお客さんがこっち観てるよ〜。 「あのー、お客様。他のお客様のご迷惑になるので…」 ほら、店員さんが来ちゃったよ。 出禁になったらどうするのさ。 「もういい、私帰るわ。悠斗、会計よろしくね」 え?ボク持ちなの?杏南さん結構注文しましたよね?手持ち足りるかな。 なんて思ってるうちに杏南は姿を消していた。 「はぁ、全くくだらないことで喧嘩なんて子供ですか」 「くだらないとはなんだ貴様、あいつは私の父を侮辱したのだぞ。それに貴様には関係ないことだろう?何故首を���っ込む」 「関係ありますよ、ボクには」 「ほう…では聞こうか、どんな関係があるのかを」 「それは…」 「2人ともー、ジュリアの事を忘れてないー?」 ジュリアが不機嫌そうに頬を膨らませている、リスかよ可愛いな。 「そんな事はないぞジュリア」 「マイちゃん…///」 ジュリアをそっと抱きしめる舞さん。 えっ?なに?2人はそんな関係なの?聞いてませんよ? 「どうだジュリア、久々に今夜は一緒に…」 「お取り込み中すいませんが、ボクの話を聞いてくれますか?」 これ以上はまずいので話を戻す事にした。 「ああ、すまない。ジュリア、先に私の家に行っててくれ、続きはその時に…///」 「うん先に待ってるネ♡」 うわぁ…この2人マジだ…まあいいや 「待たせたな、では話を戻そう。貴様に私とジュリアにどんな関係があるのかを」 「舞さんと杏南でしょうに、ジュリアは舞さんと杏南が喧嘩しているのが嫌なんですよ。それはボクも同じ気持ちです。みんなで仲良く平穏に過ごしたいんですよボクは。」 「それは知っている。杏南がキチンとした謝罪をしたら私は許すつもりでいる。だがアイツはその素ぶりを見せるどころか敵意を剥き出しにしている。それが気に入らない」 「確かに、杏南は意地を貼ることがありますからね」 「もっと謙虚で気遣いができれば、良き人間になれるのに勿体ない女だ」 杏南をいくら説得しても絶対に謝罪に応じないだろう、だったら他の手を考えなくては、だったら… 「舞さん、ボクを生徒会役員に入れようと思ってますよね?」 「!?何故わかった、一言もそのような発言はしていないのに…ふふ、やはり君は興味深いな」 「生徒会に入る代わりに1つ条件があります」 「何だ?言ってみろ、話しぐらいなら聞くぞ」 「杏南を許してやって下さい」 「ほう、その条件は高くつくぞ?」 「わかっています、それでもお願いします」 「君のその執念、気に入った。いいだろう、条件を受け入れよう」 「本当ですか!?ありがとうございます!!」 「では今から君は私の専属執事だ」 「へ?」 「高くつくと言っただろ?今からお前は私のモノだ、文句は無いよな?」 新しい玩具を見つけたかのようなサディスティックに笑う舞さん。何だろうこの気持ち、嫌いじゃない 「沈黙は了承と受け取る、では今から私の家に来い」 「え?確かジュリアも居るんですよね?さ…3Pだなんていきなりすぎますし、第1未経験ですし…」 「ゲーム機は複数台用意すれば良いし、オンラインプレイだから人数はあまり関係無い。操作方法と立ち回りは私とジュリアが教えるから心配するな」 「え?ゲーム?」 「ん?ゲームだぞ?何だと思ったんだ?」 「い…いや、あの、その…」 「もしかして、やましいことを想像していたのか?」 慌てるボクの顔をゲス顔で覗き込む舞さん、く…/// 「まあいい早く向かうぞ、時間は有限だ。あ、先ずは会計を済ませなければな」
実に奇妙で長い一日になったが、何はともあれ以前よりはいい結果にはなった。 しかし2人がプレイしているゲームがアーマード・コアって… でもゲームのおかげでジュリアとも仲良くなれた。 舞さんが杏南と喧嘩する事もなくなったが、今度は舞さんがボクを誑かしているとか言いがかりをつけ始めたが、約束通りに舞さんは穏便に話を済ませてくれたし、多少は関係が良くなっている。 それと、生徒会での仕事はいろんな意味で疲れるたが、それはまた別のお話。
-END-
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