#出窓のある暮らし
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星に帰す
黄昏時の二階の図書室は、西陽が窓に当たると壁にその影が映る。
その窓の影が扉になっているのは茉矢だけの秘密だった。
茉矢はセーラー服を翻すと、軽やかに影の扉を開けた。
中はやはり図書室だった。けれど学校のそれとは違った。
並べてある本の文字は異言語で、茉矢の暮らす星のものではなかった。
茉矢は少しずつ、こちら側の文字を読めるようになっていた。
ある時みつけた本に茉矢は夢中になっていた。
どうやら地球について書かれたものらしい。
茉矢が生まれるずっと前のことから、茉矢が死んだずっと後の未来のことまで詳細に書かれてあった。
人間が滅んだところまで読み進めたとき、図書室に誰かが入って来る気配がした。
茉矢は急いで影の扉から元の世界に戻った。
放課後、未来の経緯をおおよそ理解した茉矢は、部活を終えた鷹於と下校した。
付き合ってひと月足らず、二人は手を繋いだこともなかった。
茉矢はそっと鷹於の手に触れた。
指先から鷹於の緊張が伝わってくる。
鷹於は先のことを知らない。
まだまだずっと先のことだけれど、この星が無くなる前に、自分と鷹於が在ったことを確かなことにしたかった。
茉矢は立ち止まって鷹於を見上げた。
空には金星が光っている。
二人の影が重なった時、白い月が鈍く輝き出した。
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250228
今日は早く起きない、と決めていたから早く起きなかった。 のんびりしすぎて、米を炊くことも忘れてしまって、ざっと研いで、早炊き。 ほかほかを弁当につめて、ばたばたと家を出る。 昨日、友人と電話をしていた影響で、ついそのテンションで職場の研究室の人と話をしてしまう。そう、やたらと気やすく。 東京から、研究をするためだけに帯広に来た彼をとても応援したいと思ったから、とても応援している気持ちです、と伝えた。博士課程はあと3年あるらしい。
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250301
今日は最高気温が10℃をこえた。 マフラーなしでも、手袋なしでも、気持ちよく歩けた。 嬉しくて、嬉しくて、仕方がない。 アルバイトの休憩時間、外のベンチでコロネを食べる。 空が水色。雲がない。いい天気。 このまま春になってほしい。 また、雪が降るらしい。
今週は仕事が夜までだった彼と、ひさしぶりに会う。 見事なすれ違い生活を送っていた。 スーパーに行くのも、ドラッグストアに行くのも、たのしい。 頭が興奮状態でおしゃべりが止まらない。 ガチャガチャを回す。 これ以外だったらいいな、と思ったそれが出た。 犬のぬいぐるみのキーホルダー。あまり可愛くないのにずっと見ていると可愛くみえてきた。 晩ごはんは半額シールの貼られたお弁当。 途中で食べることに飽きてしまって、残りは彼に食べてもらった。
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250302
朝、少し寝坊して、顔を洗って、ぼんやり布団のへりに座る。 陽ざしがあかるい。 洗濯物がサーキュレーターの風で揺れている。 やっぱりこの土地で暮らし続けるのは私には無理だ、と思う。 閉じていたみたいな冬だった。 ここ数年、私をわたし、と書いていたけれど、最近は私になっている。
白髪が増えた。 見つけ次第抜いていたけれど、これから禿げてしまう可能性も考えると、白髪も一本の髪の毛だよな、と思い、今日は抜かなかった。 白髪のおばあちゃんになりたい。
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250303
朝、アルバイトへ向かう道は空が朝を迎える方向で、バッグミラーに映る空はまだ夜。 アルバイトをして、仕事をして、帰宅。 昨日の晩ごはんの残りの豚肉となすと玉ねぎの炒め物と、サニーレタスと少しの米を丼ぶりに盛ったら、たっぷりになって嬉しかった。 食べ終わると、そのまま横になってしまう。 疲れている。 すぐに身体がねてしまう。
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250304
朝、もう朝だな、と起きる。 ねる前に読めなかった本のページをめくる。
ふかいところで疲れていて、思考が負に回転する。 存在しているのか、していないのか、わからない、と思いながら仕事。 UVランプを交換しようとしたらうまくできず、人に助けてもらう。 余計なことばかりしている。
夜、知人とご飯を食べる。 ニョッキ。お皿いっぱいにもちもちとしていた。 いっぱいすぎて満腹になり、少しねむくなる。 知人は北海道で暮らし始めて、3年。 やっと今の暮らしの大切さを味わえるようになったと言っていた。 私はまだ落ち着けない。3年。ここで3年暮らしていたら、私も心の底からおだやかになれるのだろうか。
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250305
朝、ぼんやりとしている。 布団の上で正座のまま停止。 今日は休みで、何をしよう、と頭が考え始めたから立ち上がる。 美術館へ行く。 けっこう雪が降っていて、少し歩くだけで、雪にまみれる。 いろんな人の作品をみて、私は今、絵を描いていない、と思った。 絵に向き合う時間が少なすぎる。 もっと絵を描こう。
この間スーパーで大葉を買ったから、ささみに大葉と梅をつめて、焼いた。 薄味になってしまったけれど、おいしかった。
夜、このままだと私たち、離婚しちゃうのかな。 お互いがうなずいてしまうくらい、一緒に暮らしていることが苦しい。
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250306
朝、少し早起き。 くちびるの皮を剥いてしまう。 今日も雪が降っている。 雪のかかった町は日常から離れたしずけさで、深呼吸だ、と思う。 木が凍っている。樹氷というらしい。
夜、明日がたのしみなような気持ちでねた。
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250307
朝、日記を書こうと思って、朝、とだけ書いたところで、窓の外をみたら車が雪をかぶっていて、慌てて雪を降ろしに行く。 アルバイトに遅刻してしまうところだった。 ポテトサラダのためのじゃがいもの皮を剥き、今度は大学での仕事。 午前中に会ったときには髪の長かった人が、午後には坊主になっていた。 衝撃的過ぎて、ひさしぶりによく笑った。 いろんな人にからかわれたらしいけれど、案外似合っていた。
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羽音のカーチェイス劇場
1. 開幕早々事故
夕暮れの街、羽音(はのん)は心臓が破裂しそうなほどドキドキしながら、車のハンドルを握っていた。助手席には親友の風子(ふうこ)が座り、彼女の肩を心配そうに見つめている。
「羽音、大丈夫? 顔、真っ赤だよ。」
「だ、だって……ジェルヴァジオが、また追いかけてくるんだもん……!」
バックミラーには、あの有名な歌手ジェルヴァジオの笑顔が映る。彼は羽音のことが気になって仕方がないらしく、今日もにこやかに手を振りながら、真っ黒なスポーツカーで追いかけてくる。
「はーのーんー!/// 待ってぇーッ!///」 ジェルヴァジオの声が、窓越しに聞こえてきた。
「む、無理! 無理無理無理! 恥ずかしい!」 羽音はアクセルを踏み込む。風子は苦笑しつつも、羽音の肩をポンと叩いた。
「大丈夫、私がついてるから。ほら、次の角で曲がろう!」
2.好き避け理由
羽音は、ジェルヴァジオの歌が大好きだった。けれど、本人を前にするとどうしても素直になれない。 照れくささと恥ずかしさが入り混じって、つい逃げてしまうのだ。
「羽音、どうしてそんなに逃げるの?」 風子が優しく問いかける。
「だって……好きってバレたら、恥ずかしすぎて死んじゃう……」
「ふふ、ジェルヴァジオも、羽音のことが気になってるみたいだよ?」
羽音は小さく首を振る。 「無理だよ、あんなキラキラした人……私なんか……」
3.終わり
やがて、羽音の車は小さな公園の前で止まった。 ジェルヴァジオもすぐに車を降りて、照れ照れの満面の笑みで駆け寄ってくる。
「やっと追いついたぜ!/// なぁ、どうして逃げるんだい?///」
羽音は顔を真っ赤にして、うつむいたまま答えられない。 風子がそっと背中を押す。
「羽音、言いたいことがあるんじゃない?」
しばしの沈黙のあと、羽音は小さな声でつぶやいた。
「……す、好きだから……恥ずかしいの……」
ジェルヴァジオは目を輝かせて、すぐに優しく微笑んだ。
「俺も、お前のことが気になってた/// …逃げないでくれ/// …お願いだから、もっと話そうか?///」
羽音は、風子の手をぎゅっと握りながら、少しだけ顔を上げた。
4.おまけ
夕焼けが車の窓をオレンジ色に染めていた。 羽音は運転席でまだ頬を赤らめたまま、ハンドルを握っていた。 ジェルヴァジオは後部座席に、風子は助手席に座っている。
沈黙が少し流れる。 ジェルヴァジオが、後ろからやわらかい声で話しかけた。
「羽音、さっきはありがとな/// 俺、お前ともっと色々な話がしたい///」
羽音はバックミラー越しにジェルヴァジオの優しい笑顔を見て、少しだけ勇気を出す。 「……わ、私も……。でも、まだちょっとだけ、ドキドキしてる」
風子が助手席からそっと羽音の手を握る。 「大丈夫。私がいるから、安心して」
ジェルヴァジオも、窓の外の景色を眺めながら微笑む。 「このまま、3人でドライブしないか?/// どこか景色のいいところに行こう///」
羽音は小さくうなずき、エンジンをかける。 車はゆっくりと公園を離れ、静かな道を走り出す。
窓の外には、やさしい風と夕焼け。 車内には、少しずつ近づく三人の心。
羽音の心臓はまだドキドキしていたけれど、 もう逃げる理由はなかった。
風子は助手席からにっこりと羽音を見つめ、 ジェルヴァジオは後ろから優しく歌を口ずさむ。
新しい一歩は、車の中から始まった。
#novel#AI novel#perplexity#short novel#visual novel#graphic novel#novel writing#romance novels#fantasy novel
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2025-5月号
アンビグラム作家の皆様に同じテーマでアンビグラムを作っていただく「月刊アンビグラム」、主宰のigatoxin(アンビグラム研究室 室長)です。
『アンビグラム』とは「複数の異なる見方を一つの図形にしたもの」であり、逆さにしたり裏返したりしても読めてしまう楽しいカラクリ文字です。詳しくはコチラをご参照ください⇒アンビグラムの作り方/Frog96
◆今月のお題は「対語」です◆
今月は参加者の皆様に「対語」のお題でアンビグラムを制作していただいております。メジャーな対義語は掘りつくされているのではと思われる中、作家の皆さんがどのような作品を作り上げてきたのか、楽しみにご覧ください。
皆様のコメントがいただけますと幸いです。

「損失/収益」 回転共存型:すざく氏
利益を失うこと/利益を得ること。 「損」の左の点のハネと「益」の左払いの重なり処理の切り替わりがうまいです。よい書体とデザインですね。

「アオムケ/ウツブセ」回転共存型:ヨウヘイ氏
顔や物の表面が上を向いていること/下を向いていること。 ドット表現が生きていますね。線が途切れたりという、1ドットの増減があっても割とこの解像度でも読めてしまいます。

「質素/華美」 図地反転共存型: いとうさとし氏
飾り気がなくシンプルの様子/華やかで美しく派手な様子。 「質」の上部にはみ出しがありますがそれを補ってあまりある全体的な完成度の高さです。文字のバランスも良く、すばらしいですね。

「闘(⿵门𭔰)争/逃走」 回転共存型:繋氏
「トウソウ」の同音異義語。 ステキな書体のデザインです。セリフやヒゲ部分もうまく生かされていますね。

「支配/服従」 回転共存型:KSK ONE 氏
相手を束縛すること/されること。 中央の「彳」相当部分のリガチャが気持ちよいです。筆致がかっこいいですね。

「過激/穏健」 回転共存型:douse氏
度を越して激しいこと/おだやかで行き過ぎていないこと。 太めの書体にすることで字画の衝突を自然に見せつつ、方向を切り替えるのに生かしています。「過」は大陸式のグリフですが気にならないものです。

「空虚/充実」 振動型:.38氏
なかみが何もないこと/満ち満ちて豊かなこと。 字画の絶妙な波うちと太さの変化で振動を実現させています。先割れ字画の具合もよいですね。中央の字画はハネとハライが切り替わります。
「陸/��」 敷き詰め図地反転型:アンビグラム研究室
「陸」と「海」の敷き詰め図地反転アンビグラム。陸海の図地反転の作例は複数存在します(一番早い作例はこちら→2010-05-06)。 本作はoyadge01氏と意瞑字査印氏が対応解釈、作字をkawahar氏がそれぞれ担当して制作されました。

「愚痴/感謝」 図地反転共存型: いとうさとし氏
言ってもしかたのないことを言って嘆くこと/ありがたく思って礼をいうこと。 非常に読みやすく驚くばかりです。「心/心」の図地対応は応用が利きそうですね。
「昨日/明日」 振動型:lszk氏
今日の一つ前の日/一つ後の日。 重ね合わせ処理をうまく利用した傑作です。矢印による示唆があるため、すぐに読めますね。

「脆弱/強靭」 敷詰回転共存型:douse氏
もろくて弱いこと/しなやかで強いこと。 黒パーツと灰色パーツを入れ替えていると見ることができます。角度の調整や線の出し入れの具合が絶品です。

「文明破滅/創世記譚」 鏡像共存型:ちくわああ氏
世界の終わりとはじまり。 文字単位での対応付けではないのですがバランスよく仕上がっています。かなり難しい対応付けをしている力作です。文字内の✨を自然にする中央の星デザインもよい工夫ですね。

「福良Pです/凶悪Qです」 図地反転共存型:つーさま!氏
QuizKnockのとある企画で発生した対義語。 「です/です」が図地対応できることに驚きです。「P/Q」がよいデザインですね。塗りつぶしが効果的に使われています。
「彼誰時のバス停/黄昏時の駅前」 回転共存型:松茸氏
明け方←→夕暮れ、バス停←→駅前。 適度なデフォルメが気持ちよく、全体的に素直に読める良作です。「亭」部分が袋文字のようになっている部分が上から下まで渡っているので気持ちよいですね。

「竜頭蛇尾/有終完美」 鏡像共存型:とりけとん氏
尻すぼみになること/最後までやり遂げること。 全体の流れで読むデザインではあると思いますが、一文字ずつ見てもかなりうまく調整されています。そのまま掛け軸にもできそうなよい作品です。

「おまえらの二次創作」 重畳型:Jinanbou氏
「オイラーの公式」に対する偽対義語(こちら)。 2ブロック分ずらしながら並べるとうまく配置できます。配置の発見と文字の切り取り方がすごいですね。

「貧乏舌/鼻セレブ」 回転共存型:てるだよ氏
こちらの偽対義語が初出でしょうか。 ポストに対するのコメントでは対応部分の前後関係が逆という指摘も多くありましたが、このデザインによればうまい配置になっています。細かい筆画にも工夫がありますね。


「SYNTAX/SEMANTICS」 回転共存型:兼吉共心堂氏
構文 (syntax) と意味論 (semantics) は、プログラミング言語において、コードの構造と意味を区別する概念。 珍しくラテン文字での作品。文字数の違いをクリアするための圧縮手法が見所です。

「攻守」 旋回型:うら紙氏
主に競技における攻撃と守備。 全体的に三角のペン形状とし、「攻」の最初の部分と「守」の点を自然に見せています。ポイントを押さえたよい作品ですね。

「誕生/死滅」 図地反転回転共存型: いとうさとし氏
生まれること/死に絶えること。 「誕/滅」の自然さに驚きます。「生/死」はシンプルな文字同士の対応付けの分、細かい凹凸の調整が見所ですね。
「是/非」 敷詰振動型(180度回転同一型):kawahar氏
道理にかなうこと/誤っていること。 縦に読めば首を縦に振る肯定の「是」、横に読めば首を横に振る否定の「非」です。ちょっとしたウロコの調整でうまく読めるように仕上げられています。

「光/影」 振動型:ラティエ氏
物事の明るい部分/暗い部分。 主観的輪郭を利用した知覚シフト。作例が非常に少ない手法ですがうまく扱っており、言葉にマッチしていてとても良い作品です。
「平面/立体」 回転共存型:lszk氏
2次元/3次元。 平行四辺形のような部分を平面的に見たり立体的に見たり切り替わるところがぴったりですばらしいです。「面」の窓も斜めに切られているので「立」の時に柱状に見えてきます。

「鷹/鳩」 回転共存型:douse氏
政治的な立場として、強硬派/平和派。 文字の特徴を的確にとらえたすばらしい図案化です。バランスが絶妙なので、まだれが小さくてもしっかり「鷹」ですね。

「祝/呪」 回転共存型: oyadge01氏 × 意瞑字査印氏
「祝」を180°回転させると「呪」と読める王道のアンビグラム。意瞑字査印氏が対応解釈、oyadge01氏が作字を それぞれ担当する合作の制作スタイルです。

「分裂/統合」 敷詰回転共存型×2:オルドビス紀氏
別れること/まとまること。 「分/合」「裂/統」それぞれが敷詰共存の関係です。字画本体と装飾が切り替わる効果が実感できる作品ですね。レタリングとアンビグラムが絶妙に融合しています。
「平坦/起伏」 回転共存型:Σ氏
表面が平らなこと/表面に動きがあること。 「坦/起」は無変換共存の関係ですが、もう一文字と合わせて角度を調整することで一文字目と二文字目の関係を入れ替えています。裏になった「犬」も愛らしいです。
「浪費/節約」 鏡像共存型:螺旋氏
無駄な出費を増やす/減らす。 「浪/約」がとても自然で驚きです。「費/節」の省略の仕方がすばらしいです。最大公約数をとるというだけでもなく、書体の力によるものも大きいですね。
最後に私の作品を。
「眼鏡(めがね)」 回転型:igatoxin
熟字訓にルビをふるときは、対語ルビ(グループルビ)で均等に。逆に、文字ごとにルビをふるのは「対字ルビ(モノルビ)」です。
お題「対語」のアンビグラム祭、いかがでしたでしょうか。御参加いただいた作家の皆様には深く感謝申し上げます。
さて次回のお題は「能力」です。スキル、技術、技量、熟練、パワー、資質、知能、独創性、スタミナ、異能、資格、器量 など 参加者が自由に能力というワードから発想・連想してアンビグラムを作ります。
締切は5/31、発行は6/8の予定です。それでは皆様 来月またお会いしましょう。
——————————–index——————————————
2023年 1月{フリー} 2月{TV} 3月{クイズ} 4月{健康} 5月{回文} 6月{本} 7月{神話} 8月{ジャングル} 9月{日本史} 10月{ヒーロー} 11月{ゲーム} 12月{時事}
2024年 1月{フリー} 2月{レトロ} 3月{うた} 4月{アニメ} 5月{遊園地} 6月{中華} 7月{猫} 8月{夢} 9月{くりかえし} 10月{読書} 11月{運} 12月{時事}
2025年 1月{フリー} 2月{記憶} 3月{春} 4月{キッチン} 5月{対語} 6月{能力}
※これ以前のindexはこちら→《index:2017年~》
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よしもとかよ 「日々是好日」。vol.161 (2025/6/4 + 6/11)
2025 4th + 11th june
M1 糸繰り節 (すずめのティアーズ)
M2 ta nyata (Angelite) M3 木曽甚句 (Tarbagan)
M4 収穫の歌 (Difang and 馬蘭吟唱隊) M5 さくらんぼが熟れる (Szaloki Agi) M6 安里屋ユンタ (おおたか静流) M7 salt (Emma Tricca) M8 les escaliers (Austine)
[好日の素…民謡に親しむこと。]
今日、わたしたちの耳に 聴こえてくる音楽のほとんどは ポップス、ロック、ジャズ、クラシックといった いわゆる西洋音楽なのですが、 それじゃあ日本の音楽ってなんだろう? じぶんが暮らしている土地に伝わる トラッドミュージックとは?ということを ここしばらく考えるようになりました。 そこで思い浮かぶのが、民謡。 この頃では 若い方々や海外の方も 興味を持っていると聞いて、 そういえばわたしが グローバルミュージックを聴くようになった きっかけも 民謡だったな、と思い出したのです。 では、地域に伝わる民謡を どれだけ知っているでしょうか…。 富山ですとまず 思い浮かぶのは「こきりこ節」。 学生時代、音楽の教科書だったか愛唱歌集だったかにも 載っ���いましたし、 わずかながら参加していた合唱団で 合唱曲にアレンジされた作品を歌ったことも。 それから「越中おわら節」、「といちんさ」、 「麦屋節」、「せりこみ蝶六」…。 子どもの頃からなんとなく 触れていたものから 大人と呼ばれる年齢になって知ったものも。 能登について言うと 夏の祭りの夜に踊られる 門前町黒島地区の「八千代栄節」。 家族が亡くなり、ルーツが薄れていくのを 感じていた上に この度の地震もあって、 忘れたくない、失いたくないと思うようになりました。 どの民謡も、 それぞれの地域の風景や そこに暮らす人たちのことが 垣間見られる歌詞になっていることが多く、 さながら 古と今をつなぐ窓のようなものなのかもしれません。 そして、歌うひとがいる限り その歌は 生き永らえることができる、と思っています。 ふるさとの歌を聴かせて、と言われることが この先あるかどうかはわかりませんが、 その際には 一節でも歌えるようでありたい、と思うこの頃です。
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[日々是食べたい!… 塩]

食べたい、というよりは 日々お世話になってます、という調味料ですね。 料理はもちろんのこと、 お菓子や飲み物にも、はたまた 生活のさまざまなシーンで 古くから使われてきたもので、 種類もさまざまあります。 おおきく分けると 精製塩と自然塩、そして 自然塩でも海水塩、岩塩、湖塩などに 分かれるそう。 自然塩はミネラルなどを含むせいか うまみや甘みなどが 産地によって少しずつ異なるようです。 また、ハーブなどを加えた フレーバーソルトもありますね。 目下、手元には海水塩を中心に 数種類の自然塩があって、 目的に応じて使い分けています。 産地は国内だと能登や淡路、海外だと イタリア、タイ、ハワイ、モンゴルなど。 特に最近よくつかっているのが タイの塩田の塩。 お土産でいただいたのですが 粒がおおきいので ひとまずスープにつかってみたら とてもまろやかでおいしい! これはもっといろいろつかいたい、と思って ソルトミルを買ってしまいました! 産地やフレーバーで 個性豊かな塩の世界。 お気に入りを見つけるのも たのしいと思います。
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2024.09.28
10月に地元で会う約束をしているYから、彼女の好きな小説家のサイン本を買ってきてほしいと頼まれた。それで、今日の昼から池袋の本屋を回ったけれど、どの店でもとうに売り切れているようだった。時間を持て余して、大学図書館へ向かう。
大学時代の同級生と数年に一度出している同人誌の次号を、今年の12月に発刊することになった。私はもう短歌をやりたくなく、短歌以外に何を出せばいいのかも分からない。そのまま同人誌用には何も書かないで過ごしていたのだけれど、主宰が面白がったので、数日前に書いた自室の記録を加筆修正して寄稿することにした。卒業生カードで入館し、しばらく文章を直していた。こども園で働くFさんを幼稚園教諭と呼ぶことが正しいか分からず、「あなたの職業って何て書くのが正しい?」とメッセージを送る。正式には保育教諭というのだと教えてくれた後「カリスマ保育教諭とか?」とおどけた台詞を付け足すのがFさんらしかった。
ペンを持つ右手が疲れてからは散歩に出かけた。好きな本屋を経由して、自由学園明日館へ行った。正面入口に着くと「“本日は結婚式で貸し切りのため外観のみの見学”ですって、あらあ、おめでとうございます」と看板を読み上げている人がいた。その声色に少しの落胆も滲んでいないことが良かった。芝生や窓を眺めて、売店でポストカードを1枚買った。




明日館を出てから、Hと落ち合うまでを東京芸術劇場で過ごし��。その場所で長い時間を過ごすのは、大学の入学式以来だった。地下1階から最上階までを目的もなく往復して、何枚か写真を撮った。最近はカメラを持つのが楽しくて、写真を撮っては投稿している。その頻度を自覚すると、自分の饒舌さに嫌気が差してくるので、記録しておきたい写真を一度に残すためにこれを書いている。この投稿は写真まみれです。


芸劇の椅子に座っていると、目の前のエスカレーターで降りてくるHと目が合い、手を振る。外では何かのお祭が開かれていて、その賑やかさから逃げるように東へ向かった。目的地とした喫茶店が閉まっているのを確認し、散歩に切り替える。テーブルと椅子を外に出しているミニストップを見つけ、カフェオレを買ってそこに腰かけた。テーブルを指差しながら「いい店知ってるんだよね」と自慢げに話すと「ダセ~」と笑われた。京都のお土産を渡した。Hと一緒に暮らすWさんの分も含めて、少し量の多いお香にした。



今日は曇り空で、街全体が白く見える日だった。電線や工事現場の壁が落書きのように浮いていた。途中、ワインの空き瓶を入口に並べている店があり、「テイクフリーかな」とふざけると「喧嘩用じゃない?」と返される。酒瓶を持って殴り合うジェスチャーをする。




都電荒川線の駅に行き着き、降りる駅も決めずに乗車する。「電車というよりは線路を移動するバスと呼ぶほうが近いね」と話しながら、googleマップ上で路線をなぞる。飛鳥山公園という場所に城のような山型遊具があることを知り、そこを目的地とした。


飛鳥山公園は、とても良い公園だった。目的としていた城は、遊具と呼ぶには気が引けるほど大きかった。かつて実際に走っていたらしいSLや子供用の船、頭を垂れた幾種もの動物たち、遊びきれないほどの遊具があった。すべり台よりも象が主体になっている遊具を見て、三崎亜記の『象さんすべり台のある街』という短編を思い出した。城の中で遊びたかったけれど、子供やその親たちが楽しそうにしているのを邪魔したくなく、また違う時間帯の様子を見たかったこともあって、「夜にまた来ましょう」と決めて公園を出た。




喫茶店で一杯ずつ酒を飲み、Hの喫煙のために王子駅まで歩く。Hが「めっちゃ良い公園だったな」と呟くので「過去形にしないで」と返すと、「めっちゃ良い公園であり続けるだろうな」と訂正してくれる。それがツボに入り、しばらく笑っていた。私と同じくHもこの街が気に入ったらしく、「ここは住み良いのかな」と引越しまで検討しているようだった。


日の暮れたころに公園へ戻ると、昼にいた子供たちは姿を消していて、代わりに大学生くらいの年頃の集団が点在していた。うち1つのグループが手持ち花火をしていて、遠くからその火を眺めていた。城の中へも入って、物見へ立ってみたり、すべり台で遊んでみたりした。ずっと楽しかった。もう営業終了していたけれど、小さなモノレールの駅もあった。“飛鳥山山頂駅”と看板の出ているのを見つけて、「下は“麓駅”なのかな」とHが言うのを確かめに行くと、“公園入口駅”と掲げられていた。冬にも来たいね、早朝も良いだろうね、ここで花見をしたら楽しいだろうね、と話をした。どの季節のどの時間にも、自分たちの楽しそうにしている様子が想像できた。


Hと別れて部屋に戻り、撮った写真を眺めていた。動物たちの写真を見て、新しい部屋でここへ来たいと思う。皆それぞれ好きな動物がいて、その動物たちと彼らとが近くにいるのを見たかった。「いつかみんなで行きたいです」とメッセージを書きながら、象は何頭かいたけれど、イルカはいなかったことを思い出す。オットセイはいた。城の写真も併せて送ると、Rさんから「籠城したい」と返信があり、それがRさんらしくて好きだった。



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きみはだいぶ前に勝手に死んだので知らないと思うけど、わたしは今、恋人と一緒に暮らしているよ。 きれいな人だよ。 わたし、その人にずっと、恋をしているの。 きみにしていなかったやつを。 きみはガラスの靴はいてるみたく危うかったから、最初から対象にならなかった、わたしの自由な精神の発露をね、のびのびと、やっているの。 わたしより背の高いのにわたしより靴のサイズが小さかった、その足の裏をひっくりかえしたら、指の裏のぜんぶがぜんぶ無垢なピンクだった、わたしはそれを丁寧に扱ってあげたよね、その足の裏を、いちどだって汚い地面につけずに死んだ、そんなきみには、しなかったことを、今、してる。 わたしの、ここ数年の恋人は、きみよりかわいくて、きみより長いまつげして、首筋に鼻をつけるときみよりもっといいにおいするし(いいにおいするのはわたしが試しに寝る相手の最低限の条件だよね、きみ知ってるでしょ)、きみより背が高くて足首なんかきみより華奢で、きみより切れ長の目尻を流してわたしを口説いて、胸だってきみの薄ぺっらいのよりずっといい枕になるし、脚もきみより長いんだ。 そんなやつ想像できないって? はは、いるんだな、わたしの、わたしたちの家に。 何年もずっと。 きみが死んで半年からあと、数年間でできあがった話ですよ。 そんなのわたしの勝手だろ。 いい女かいい男かそのどちらでもないか、わたしと、それからきみより年上か年下か、そんなことを教えてやる気は、ないよ。きみとしたことよりずっとずっといろんなことを、その人としているよ。とても気持ちいいよ、いつも楽しいよ、 どうだ、 いいだろう、 未練があるだろう。 そんなら死ななきゃよかったじゃん。 わたしねえ、その人に恋をして、その人がわたしとずっと一緒にいたいって言うから、一緒にマンション買ったの。 黒髪の毛先のくるりと巻いた、くちびるの端がナイフの先みたく切れ上がった、わたしと毎晩枕ならべておしゃべりする、とってもきれいな人と、一緒に買ったの。わたしも半額なら買ってもいいかなって思ったからさ。 くやしいでしょ。 きっとくやしいでしょう。あなたってそういう、俗なところがあるからね。自分がやってないことを、別にする気もないくせに、わたしがしたから、くやしいんだ。 わたしのために生きようとしなかったくせに。 わたしはね、あなたのために生き死にする気はいっこもないですが、あなたはわたしにとって今も昔も重要な人間ではないですが、でもあなたは、わたしのために、死なないべきだった。 きみはわたしの家に来たらよかったん��。 死ぬくらいなら、逃げてきたらよかったんだ。 わたしが、あのとき、あなたが電話をかけてきたとき、出張で、うん、いつもの、あのころの、いつもの出張で、仙台にいたからさあ。 終電よりすこし前だったから、走って新幹線に乗って、帰ってやればよかったって、今でも思うよ。 あの短い通話の直後にあなたが自分の育った子ども部屋でみじめに首吊って死ぬって、わたし、きっと知ってたんだ。 でも帰らなかった。 そんなことは起きないって自分に言い聞かせてた。わたし、疲れてて眠りたかった。 あのとき、出張ほったらかしにして、あの阿佐ヶ谷の、あなたが育った子ども部屋に押しかけることを、思いつかなかった。あなたはわたしの、その程度の人だった。ぜんぶを押しのけて押しかけて死ぬなって言って窓の外にロープを捨てるほど、あなたのことを、大事じゃなかった。 あなただってそうでしょう? 間違えちゃったんだよね。あなたの電話、めんどくさいから切ったよ。 その罪悪感を、誰も回収してくれない。 末期に電話する相手は他にいたでしょ、ぜったいに。 あなたは間違えたんだ。 だから死んだんだろうな。 切迫した精神のときにさえ、適切な相手に電話をかけられないから。 そんなタイミングで、二分で電話を切ってすやすや眠る人間になんか、電話するから、だから、あなたは、生きていないんだろうな。 迷惑したよ。だいぶね。 最後に電話したからって、あなたの善良なご両親はわたしをあなたの恋人だと思い込んでいて、あなたの葬式にわたしを呼んで、ほんと、つまんねーな。なんでセックスしてたら恋人だと思うわけ? わたし当時もあなたじゃない恋人いましたけど? なんでご両親に「好きな人はこの人(わたしじゃない人)です」って書いてから死なないわけ? あなたはわたしの、友だちだった。 それなのに勝手に死んで、悲しかったよ。 あなたが間違って最後にわたしに電話をかけたから、わたしは今でも困っているんだ。
きみは勝手に死んだので - 傘をひらいて、空を
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ときどき
思い出す光景があります
わたしが小学生、2、3年生のころの夜のこと
たぶん、初夏、満月かそれに近い丸い月が空の高いところにあって、明るい夜でした
心地よい風が入ってきたので、いもうととふたり、引き寄せられるように窓辺へ。
すると、裏隣の一人暮らしのおばあさんの家の花が、月の光と同じくらい白く輝いていました
少し前から聴こえていた琴の音とその白い花の香り
どれくらいの時間だったのかはわからないけれど、いつもおしゃべりないもうととわたしが、ただお月さまを見上げていました
美しく、満ち足りた、完璧な夜
だった、と、言っても
よろしいか?
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出会った頃から掴めない人だった。もう8年の付き合いになると気づいた時、お互いに笑ってしまった。初めて会った日を全く覚えていないし、恐らく相手も覚えてないだろう。学生の頃は良く遊んでいたけれど、社会人になってから予定がすれ違い、久しぶりに会うと随分と髪が伸びて、金髪になっていた。新宿駅の待ち合わせでかなり探してしまった。お互い最後にいつ会ったかも覚えていなかったけど、たまに交わす連絡で大まかな近況は知っていた。4年付き合った彼女と別れた、私は仕事を辞めた、など。暑い夏の日だった。
そこから1年半後、最悪の状態で終電を無くした私はダメ元で「家に泊めてくれないか」と連絡していた。1人暮らしで夜中に起きている人はかなり限られている。3人に連絡して、1番最初に連絡が返ってきた。同棲していた彼女と別れて1人暮らしに戻っていた家に、こんな形で来ることになるとは。笑ってしまった。タクシーで向かうと、1年半前よりももっと髪が伸びて、後ろにひとつに結んでいた。毛先だけ金髪で、また誰なのか分からなかった。学生の頃は私が喫煙者、相手は非喫煙者。嫌煙していたのに、今では喫煙可能の喫茶店を探すほどに。ワンルームなのに煙草の匂いが全然しなかった。「生活感がない」という言葉を体現したかのような人間なので、部屋も本当に物がなかった。同棲する前の、学生の頃に住んでいた家は何回も行ったことはあったけど、その時よりも何もなかった。柑橘の、何か甘いような匂いがした。夜中に押しかけた上に、1年半ぶりの再会がこれなので、申し訳なさすぎてベッドの横に座布団を敷いて、座ってずっと映画を見ていた。仕事終わりだったらしく、すぐベッドに入って眠っている。時間が過ぎるのを待てれば良いので、息をひそめていた。寝返りを打つたびに、手が触れるのを感じていたけど、もう良い大人なので、気付かないふりをした。床が冷たすぎて、何も考えずに済んだ。
お互い何も言わないけれど、学生の頃に、何度もキスをしたことがあった。その先の、線は越えていない。不思議な関係だったことを、そういえばずっと忘れていた。それが去年の、寒い日だった。
年が明けた。ダラダラとラインをしていると「めちゃくちゃ酔っ払った」と来た。どうやら新年会で飲みすぎてしまったらしい。水を���め、など面白がっていると「暇なら来てほしいレベル」との連絡。この前世話になったしな〜と、支度を始める。まだ三が日が過ぎたばかりで、私が家に押しかけた日から1ヶ月も経っていなかった。ウケるな〜と思いながら、タクシーに乗って向かった。夜中の0時前に着くと、ベッドに転がっていた。めちゃくちゃ酔ってるけど、頑張ってお風呂には入ったらしい。危険な行為すぎて呆れてしまった。しばらく酔った人で遊ぶ。おでこにペットボトルを乗せたり、水を飲ませたり。何要員で呼ばれたん?と聞くと、心の支え・おしゃべり要員、と言われた。そう言った割にすぐに寝息が聞こえた。まだ着いて1時間も経っていなかった。床が冷たすぎる。暖房がついてるはずなのに、顔にだけ温風が直撃して死にそうなので、寝ているのを起こしてベッドに入って良いか確認、滑り込んだ。背を向けて横になって寝ているので、私は壁に背をつけて、下半身だけベッドに入った状態で映画を見た。腰が痛くなって、私も横になる。お互いに背を向けた状態で寝っ転がって、ぼんやり映画を見ていると、後ろから抱きしめられた。もう私は彼氏と別れていたし、なんとなく予感と期待があったので放っておいた。暖かい。映画を見始めたばかりなのに、全然集中できないし、眠気も来ない。私は人と一緒に眠ることができない。暖かさだけを感じて、映画を見切った。もう諦めて、お互い向かい合って抱き合った。間接照明も消して、窓から明るさだけが頼りの部屋で。線を越えたことはないし、多分これからもない。性的な雰囲気が一切ない男だ。不思議と、それが私を安心させた。背中に回った腕で、背骨と肩甲骨の形を何度もなぞる。痩せていて、大きな背中だ。向き合っているので、何度も目が合う。唇ばかりに目が合ってしまう。暑い。手が何度も頬に触れて、焦げる。同じことをきっと考えているけど、何も話さなかった。キスをした。唇の形を確認し合うような、軽いキス。何も話さず、キスをしては抱きしめ合って、背骨の数を何回も数えた。1、2、3...と数えても、途中で分からなくなった。カーテンの隙間から、朝日が差し込んできた。何故か遮光カーテンだけで過ごしている。カーテンレールに、毛布を掛けて、朝日が眩しくないようにしていた。またベッドに戻ると、少しだけキスをした。
二日酔いどう?と聞くと、まだ頭が痛い、とうんざりした顔をしていた。ベッドから出ると、何も起きて無かったかのように、数時間前のように、2人で換気扇の下で煙草を吸った。仕事が残っているのはいつものことで、15時頃に一緒に家を出た。タクシー代をきっちり回収して、電車で帰った。コートとマフラーから、あの、柑橘の甘い匂いがして、顔を埋めた。体温を反芻しては、どんな性行為をするんだろう、と想像してしまい、死にたくなった。
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川崎市の住宅から一部白骨化した遺体が見つかった事件で、亡くなったのは若い女性とみられ、遺体には燃やされたような痕があることが捜査関係者への取材で分かりました。 この家の住人と交際していた女性が相手からのストーカー被害を訴えたあと行方不明になっていて、警察は関連を含め詳しいいきさつを調べています。 30日、川崎市内の住宅をストーカー規制法違反の疑いで警察が捜索したところ、床下部分でバッグが発見され、中から一部が白骨化した状態の遺体が見つかりました。 捜査関係者によりますと遺体を詳しく調べた結果、亡くなったのは、若い女性とみられ、死後1か月以上たっていて遺体には燃やされたような痕があったということです。 一方、死因は分からなかったということで、警察は身元の確認を進めています。 遺体が見つかった住宅は去年12月から行方不明になっている川崎市内に住む岡崎彩咲陽さん(20)の元交際相手の自宅で、家族によりますと岡崎さんは行方不明になる前からこの元交際相手からのストーカー被害を周囲に相談していたということです。 元交際相手は4月上旬に出国して現在、海外にいるという情報があるということで、警察は何らかの事情を知っているとみて所在を調べるとともに、遺体が遺棄された疑いで詳しいいきさつを捜査しています。 行方が分からなくなるまでの経緯 捜査関係者や親族などへの取材で、岡崎さんが去年12月に行方が分からなくなるまでの経緯が明らかになってきました。 親族などによりますと岡崎さんは川崎市内のバーで働いていて、元交際相手が客として訪れていたということです。 去年の春ごろに交際 去年の春ごろに交際が始まったとみられ、まもなくDV=ドメスティックバイオレンスの被害を受けるようになったということです。 捜査関係者によりますと去年9月には元交際相手から暴力を振るわれたなどとして、警察に被害届を出しましたが、その後、この届は取り下げられました。 理由について父親は「被害届を取り下げるように元交際相手から脅されたためだ」と話しています。 別れたあとストーカー行為 2人が別れたあと、元交際相手は岡崎さんの自宅や職場の周辺をうろつくなどストーカー行為を行っていたということです。 父親は「行方不明になる直前には、娘は仕事の同僚などにも『殺されるかもしれない』とメッセージも送っていた」と話していました。 12月は警察署に9回電話 また、親族などは岡崎さんが去年の12月9日から行方が分からなくなった12月20日までの間に、9回にわたって警察署に電話をかけていたことが発信履歴から分かったとしています。 行方が分からなくなった当日は、祖母の家に身を寄せていたということですが、家の窓ガラスの一部が割られていたほか、岡崎さんの姿が見当たらなくなっていて、その後、家族が警察に行方不明届を出しました。 父親 “警察に毎日のように相談 怒りしかない” 行方不明になっている岡崎さんの父親の岡崎鉄也さんは2日、NHKの取材に改めて応じました。 鉄也さんによりますと去年6月ごろ、彩咲陽さんの顔が腫れていたことをきっかけに元交際相手を交えて話し合いをしたということです。 その際、元交際相手は殴ったことを最終的に認め「今後、近づかない」という約束を交わしましたが、その後もストーカー行為は続いたといいます。 去年9月には、元交際相手から暴力を振るわれたなどとして警察に被害届を提出しましたが、元交際相手から「被害届を取り下げなかったら殺すぞ」と脅され、結局、取り下げることになったということです。 さらに、彩咲陽さんが行方不明になってからおよそ3か月後のことし3月21日、鉄也さんが元交際相手を見つけて居場所を尋ねたところ「彼女とは会っていない」と繰り返し言ったということです。 彩咲陽さんはこれまでスマートフォンから頻繁にSNSの投稿をしていましたが、行方不明になってからは投稿が途絶え、電話もつながらなくなり、鉄也さんは事件に巻き込まれたと考え、警察に毎日のように相談していたということです。 鉄也さんは「娘は怖がりで泣き虫で1人でいなくなることはありえない。警察には状況を聞いても『言えない』の一点張りだった。元交際相手の住宅から遺体が見つかり、まだ決まったわけではないが娘の可能性が高い。結果として自分たちが言ったとおりになり、警察には怒りしかない」と話していました。 祖母 “警察は『事件性ない』と動いてくれなかった” 岡崎さんは祖母の岡崎須江子さんの自宅に身を寄せて一緒に暮らしていました。 須江子さんによりますと岡崎さんは去年12月20日の午前7時ごろ、2階の部屋で見かけたのを最後に行方がわからなくなったということです。 さらに2日後、別の部屋の窓ガラスの一部が何者かに割られていることに気づいたということです。 岡崎さんが以前から元交際相手によるストーカー被害に悩んでいたこともあり、何か事件に巻き込まれたのではないかとすぐに警察に相談しましたが、十分な対応をしてくれなかったといいます。 須江子さんは「警察は家に来ても写真も撮らず『事件性はない』と説明した。こちらが『防犯カメラを見てほしい』と何回言っても動いてくれなかった」と話しています。 SNSで情報提供を呼びかけ 行方不明になっている岡崎さんをめぐっては友人や家族によって情報提供を呼びかけるインスタグラムのアカウントが立ち上げられています。 そこには岡崎さんの顔写真や12月20日ごろから連絡がつかなくなっていることのほか、警察に電話した記録とされる画像などが投稿されています。 また、ストーカー被害の瞬間だとする動画も投稿されています。 アルバイト先の店長 “体の傷 何度か見たことある” 岡崎さんがアルバイトとして働いていた川崎市内のバーの店長は「明るい子で、常連客やみんなにかわいがられていました。お姉ちゃんと妹みたいな関係性だったので寂しいです」と話していました。 また、岡崎さんの親族から元交際相手に暴力を振るわれていると聞いていたということで、顔や肩にあざがあるのを見たことがあると言います。 店長は「何度か体の傷を見たことあります。『大丈夫なの?』と聞いても『大丈夫』と笑顔で返してくれるんですけど。内心、大丈夫ではじゃなさそうでした。ぶつかったにしては、ひどいよねみたいな感じのあざとかもありました」と話していました。 元警察官の飛松五男さん “警察の対応遅かった” 岡崎さんをめぐる警察の対応について父親は元警察官の飛松五男さんに相談していました。 飛松さんによりますと相談は4月、寄せられ「元交際相手からストーカーやDVの被害を受けていた娘が、去年の暮れから行方不明で、警察が捜査をしてくれない」という内容だったということです。 そのため、父親と一緒に担当する川崎臨港署に行き「事件性がうかがわれるので、今からでも遅くないから捜査してほしい」などと訴えたということです。 飛松さんは「基本的な捜査を進めたら1か月で解決する話なのに警察は捜してくれないし『事件性はない』と言う。最悪の結果になり悲しい」と話し、警察の対応が遅かったとして批判していました。 警察の対応は 岡崎さんは、家族によりますと行方不明になる前から「元交際相手からストーカー被害を受けている」などと周囲に相談していたということです。 捜査関係者によりますとこうした相談を受けて、警察は去年、元交際相手に対して複数回、口頭で注意していたとしています。 また、岡崎さんが去年12月に行方不明になったことを受けて警察としても事件性を疑い、元交際相手に任意で事情聴取を行ったほか、自宅を確認するなどしていたということです。 また、その後も防犯カメラの映像を確認するなど岡崎さんの行方を捜していたということです。 そうしたなか、4月上旬に元交際相手が海外に出国したという情報があったことなどから警察はストーカー規制法違反の疑いで捜索令状を取り、自宅を調べたとしています。
川崎 一部白骨化遺体は若い女性か 燃やされたような痕も 住人と交際女性は神奈川県警にストーカー被害相談 | NHK | 事件
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されど遠き窓
1年同棲した恋人のリリコに去られたヒロセ。
かつての遊び仲間たちとの再会を機に、自分を見つめなおしていく。
※性的描写があります。
鼓膜をつんざくようなけたたましい音で三分経過したことが告げられた。iPhoneに入っているタイマー音はどれも、うるさすぎたり間が抜けていたりで、どうもいい塩梅にいかない。かといって好きな曲を設定するというのも、気取っていてなんだか嫌だし、なんて考えている間に、麺がどんどんのびてしまう。ここ一週間食べ続けているカップラーメンの新しい味をコンビニで見かけたのでついまた買ってしまったのだった。さすがに体に悪いか、と思わなくもないけれど、仕事が繁忙期だし、怒る人ももういないし、緩やかな自傷行為はだんだんと依存性を帯びてきた。アルミの蓋をぺりぺりと開け、頼りない麺を割り箸でずるずるとすする。想像通り、うまくもまずくもない。こういうのは結局一番最初に出たプレーンな味がいちばん飽きが来ないものだ。香辛料のききすぎたスープを飲み干す気にはなれず、流しに残りを捨てた。麺の欠片や掬いきれなかった具がステンレスに散らばり、排水溝の掃除をする必要があることを思い出して煩わしくなった。ゴミの日に合わせて、明日の夜やることにしよう。ベッドでは三毛猫のミナが僕の就寝を待っているが、寝る前に一杯やりたい。食器棚からグラスを取り出そうとすると、しばらく使っていない器達が無言の圧力をかけてきたので、結局今日もまた缶ビールを開けてじかに呷ることになった。チーズを囓りながら、さっきの残像で食器を数える。ペアグラスかける幾つだ、プレートもお椀もだいたいはお揃いまたは柄違いで二の倍数分あり、だけど今僕はそれらがなくても生活できてしまっている。
一体、この大量の置き土産を、どうしたらいいのか。リリコがいなくなってから、もう三ヶ月が経とうとしている。一ヶ月めは現実と向き合うのに精一杯で気付かず、二ヶ月めは思い出に浸るために必要で、寂しいのが普通になった今やっと、やはりこのままではまずかろうと、彼女が残していったものを、たびたび眺めてみてはいる。一年も一緒に暮らしていたので、すぐには整理しきれない。リリコは料理好きで、腕をふるった品々を毎食SNSにアップしていたほどなので、食器類は特に数が多いが、それだけではない、いま僕が踏んづけている不思議な模様のラグも、天井からぶら下がっている星のかたちをしたライトもすべて、彼女のセンスで買いそろえたものだ。ぜんぶ置いてけぼりなんて、と何度目かの小さな憤りを感じた勢いで重い腰を上げかけては明日もまた仕事だと言い訳して、ずっと後回しにしてきたのだ。まる二ヶ月。やらなきゃいけない、と思うほど頭と体がぼんやりしてきて、やがて逃げるように眠りについてしまう。この部屋の中のすべてが、彼女のかわりに呼吸しているーーそんな妄想は少々ロマンチック過ぎるにしても、たぶんいつかは断ち切らないといけないものだし、断ち切りたいと僕自身も願っている。ああ、だけど今夜も、五パーセントぶんの酩酊を言い訳にして、ミナの待つ寝床に向かう。
やっぱ、フリマアプリじゃないっすかねえ。心底どうでもよさそうな風情で煙とともにそう吐き出したのは、新入社員で唯一の喫煙者、塩崎くんだ。僕の若いころに輪をかけてぼーっとしていて、鬱陶しがられているかもしれないけれど、ついつい話しかけたくなってしまう。
「ていうか、広瀬さんも女にふられること、あるんすね」
「そりゃあるよ、ふったことのが少ないよ」
「女になんか全然不自由しなさそうに見えるのに」
「……不自由するかどうかはまた別の話かもね」
しまった、失言だった。話を聞く限り、塩崎くんには女性経験がないのだ。背も高いし、肌もきれいだし、顔立ちも悪くはないのに、たぶん、ぼーっとしすぎているのだ。どうフォローしようか気を揉む僕をよそに、塩崎くんは、プロの女の子、必要になったら言ってくださいね、とにやついて仕事場に戻っていった。
取引先からそのまま帰宅すると、宅配ボックスに母から荷物が届いていた。うちは農家でもなんでもないのに、定期的に野菜やら米やらが送られてくるのだ。お礼の電話をかけると、気忙しい母の声のうしろで、子供がはしゃいでいるのが聞こえた。
「まひろ、来てるの?」
「そうそう、今日は誠二が夜勤だから、うちで夕飯でもどうー、って」
誠二というのは僕の弟だ。僕が秀一、弟が誠二。彼は五年前、二十四で十年近く付き合っていたひとみさんと結婚して、三年前、まひろが生まれた。高卒で消防士になり、地元で気の利く嫁をもらい、実家の近くに住み、可愛い孫の顔まで見せた彼の方に、秀の字がついていたらよかったと思う。
「あんたはどうなの、うちに連れてくるかもって言ってた子は」
「ああ、別れた……」
「あらっ、そうなの」
数秒のあいだ沈黙があり、母のため息がきこえた気がした。
「まあねえ、おかあさん都会のことはわかんないし、元気でやってればいいのよ」
優しく慰められ、情けなくなる。両親のことを喜ばせようなどと殊勝なことを思っているわけではないが、のんべんだらりと三十路を過ぎてしまって、なんとなく申し訳ないような気持ちはある。しかし去ってしまったリリコのことはもう、どうすることもできない。たしかに母の言うとおり、都会の三十代はまだまだ若い。正月には帰るから、みんなによろしくと言って電話を切った。ミナが足元に擦り寄ってきた。そういえばミナは、まひろとほぼ同い年だ。僕が会社に行こうとしたら、マンションの植え込みで震えていたのだ。体調不良で、と当時勤めていた会社に嘘をつき、病院に連れていった。三毛猫のミケでは安直すぎるので、ミナにした。漢字で書いたら、三奈だ。まひろは、ひらがなでまひろだ。どちらがペットかわからない。猫はものすごく好きというわけではなかったが、一緒に暮らしてみるとこれほどいい同居相手はいないように思えた。普段はお互い負担にならない距離を保ちつつ、自分がそうしたいときには思いっきり甘えてきて、逆に僕が疲れていれば癒やしを提供してくれる。リリコとミナは最後まであまり馴染まなかったように見えた。彼女は実家でダックスフンドを飼っていると言っていたが、猫にそこまでの思い入れはないようだった。
ミナがキャットフードを食べている間、自分の夕飯を用意した。母と話したあとで不摂生をするのもなんだか悪い気がしたから、送られてきた野菜を適当に切って、冷蔵庫の隅にあったベーコンと炒めた。だけどそれでは足りなくて、結局買い置きしてあったカップ焼きそばを食べてしまった。ミナと戯れつつ食休みをし、風呂を沸かした。本当はシャワーだけでもいいのだが、リリコが置いていった高そうな入浴剤を入れてみたら案外よく、それから週末の夜はゆっくり湯船に浸かるようにしている。バスミルクやらソルトやらオイルやら、ひと揃い使い切ったら終わる習慣だろうけど。
風呂から出ると、LINEが五件届いていた。三件は公式アカウントからで、一件は塩崎くんがフリマアプリのまとめ記事を送ってくれたものだった。金曜の夜なのに、暇な男だ。ざっと目を通し、とりあえず一番利用者数の多いアプリをダウンロードした。もう一件は月子さんからだった。明日、新宿で映画を観る用事があるのでそのあとお茶でもどうかという誘いだった。看護師をやっている月子さんが土日に会おうと言ってくるのは珍しかった。確かシフト制で、平日休みのときに声がかかることが多かった。いくつか年上のこの人と、どこで知り合ったかもいまいち思い出せないが、つかず離れずで長年やってきている。リリコと別れて初めての会合だった。
伊勢丹近くの喫茶店で落ち合うことにした。雑居ビルの地下にあって、コーヒーが一杯千円もするかわり都内いち美味い。価格設定のおかげで店内が落ち着いているのもかなり気に入っているので、約束の時間よりも一時間早めに店に入った。今はナラ・レオンがかかっていて、いい具合に眠くなる。おかげで持ってきた本が全然進まなかった。あとから来た隣の席の男女がタロット占いに興じているのも、僕の気を散らした。壁側に座った髭もじゃの男が占い師らしく、ピンク色の髪をした女の子がぼそぼそと何か相談していた。髭もじゃがカードを切りはじめたころ、月子さんが現れた。とびきり短いショートカットに、真っ黒のワンピースという出で立ちだった。前に会ったときは、日本人形のように長い髪をしていた。
「髪、切ったんだね」
「そう!似合うでしょ」
「うん、すごく」
脚本はいいのに女優の演技がひどくて興ざめだった、というのが今日の映画の感想だった。月子さんは映画や舞台がとても好きだが、誘われたことは一度もない。2人ですることといえば、セックスくらいだ。十年前からそんなふうにしてきて、でも僕がリリコと付き合っている間は指一本も触れずに関係は続いていたので、結局気が合うということなんだろう。月子さんが頼んだキリマンジャロが運ばれてきたところで、恋人が置いていったものを誰かに買ってもらうってどう、と相談してみると、悪趣味、と笑われた。
「そんなの、捨てたらよくない?ぱーって」
「結構高いものが多くて、惜しい」
「じゃあそのまま使ったら」
「いろいろ思い出されて、つらい」
どんなのがあるの、と聞くので、iPhoneを手渡した。塩崎くんの指南のもと、出品用に写真を撮ってみたのだ。あとはアップロードをするだけなのだが、説明文を考えるのが面倒くさくてやめてしまった。月子さんが真剣な顔つきでフォルダを隅々まで眺めているあいだ、僕はタロット占いの結果が気になってしょうがなかった。タロットは漠然とした悩みというより、誰かとの相性を知りたいようなとき役に立つのだと、昔どこかの飲み屋のママに聞いた。
すべて見終わった月子さんは、彼女、センスのいい人だったんだね、と感心した。さらに精査したあと、寝室に置いてあるスタンドライトの写真を指差して、これ生で見たい、と言った。じゃあ見にきてよ、と店を出た。新宿三丁目から、都営地下鉄に乗る。
「ヒロセの家、久しぶり」
「そうだね」
「呼んでくれなくなっちゃったもんね」
「そりゃ、呼べないよね」
リリコとの同棲は、僕のマンションに彼女がやってくる形で始まった。子供のいない裕福な叔父から譲り受けた、4LDKの部屋だ。付き合って二ヶ月ほどで、リリコの側から、将来のことを考えるためにまずは一緒に暮らしたい、という申し出があったのだった。そう、僕はお試し期間をクリアできず、持ち家というアドバンテージをもってしても捨てられてしまったのだった。
三十分ほど電車に揺られて、最寄り駅に到着した。月子さんは懐かしい、と言いながら駅からの道をゆっくり歩き、玄関に入るなり、ああ、と感嘆の声を漏らした。
「これは、女がいる家」
「でもいないんだ」
「かわいそうにねえ」
月子さんは上がり框に座り込んで、金具がいっぱいついた靴を脱いだ。ぴったりとしたスカートがあまりに短く、黒いストッキングに下着が透けそうでどきまぎした。ねぼけまなこのミナが僕を出迎えにやってきたが、月子さんの姿を認めると固まり、必死に記憶の糸を手繰りよせていた。月子さんがミナちゃん久しぶり、やっぱり美人さんだね~、と話しかけると、声で思いだしたのか、上機嫌でしっぽを震わせてこちらに寄ってきたばかりか、久しぶりの客人に背中を撫でさせた。
お茶でも出そうかと思ったが、さっきまで飲んでたしいいと断られたので、さっそくお目当ての品のもとへ案内した。このライトはアンティークで、びっくりするほど重いので部屋の外に運ぶのが億劫だったのだ。
「ああ、やっぱり欲しいこれ」
ダブルベッドの傍らに置いてあるそれは、傘のところがステンドグラスでできていて、他のところの作りもいちいち凝っていて高級感があって、実際かなりの値段がしたらしいので、捨てるのが惜しいものの筆頭だった。役所に粗大ごみとして引き取りにきてもらう連絡をするのもこの上なく面倒くさかった。
「もらってくれるなら嬉しいよ」
「本当にタダでいいの?さすがに悪い気がする」
「じゃあ、五百円くらいで」
なかなか食い下がらないので、気が済むようにして、などと言っていたら、月子さんはてきぱきと僕のうしろのドアを閉め、カーテンを下ろし、かわりにステンドグラスのライトをつけた。長い爪を赤く塗った指先がスイッチの紐を引っ張ったのが、妙になまめかしかった。色とりどりのガラスの下に、赤みがかった光が灯る。
「すっごい、ムーディ」
「そう、寝室にしか置けないんだ」
「いつもこうして、してたの?彼女と」
「まあそういうこともあったような」
「久々にしよっか」
マック行こっか、くらいの軽さで月子さんはそう呟いた。体で払う、ってことか。僕としてももちろん吝かではなく、僕達はまぐわった。薄ぼんやりとした明かりの中で、かつて散々貪ったはずの月子さんの体は天女みたいに神々しく見え、リリコに操を立てる前の数々の奔放な日々を思い出し��。会えば挨拶みたいに体を重ねた。おっきい、と途切れる声で言う月子さんのヴァギナと僕のペニスの相性は相変わらずとてもよく、リリコとの性生活で少しずつ積み重なった消化不良に気付かされた。月子さんの細くしなやかな腰を掴み、後ろから責め立てているとき、なめらかで美しいリリコのうなじを思った。月子さんのうなじには、短く整えられた襟足の延長のように細かい産毛がびっしりと生えていて、だけどそれが生命力の強さの、淫蕩さの証に見えて、僕をますます昂らせるのだった。月子さんは僕を煽るのも上手くて、まだ足りないというように自分の性器を弄ったり、卑猥な言葉で強請ったり、この時間を最大限愉しむための努力を、決して惜しまないでいてくれる。リリコが寝転がって僕が前から入る、コンドーム越しの、正しさのかたまりみたいなセックスしか、僕たちはしなかった。リリコがそれを望んでいたから。だけど月子さんは、獣のように喘ぐ。僕も、獣のように求める。本能に駆り立てられるような行為は本当にしばらくぶりで、吐精しながらも力がみなぎってくるのを感じた。
アキラさんのところに行こう。少し眠ったあと、月子さんが唐突に言い出した。性欲をすっかり発散させてしまったあとの変わり身の早さも、僕が月子さんを好ましく思うところのひとつだった。アキラさん。懐かしい名だった。僕たちが夜遊びばかりしていた頃知り合ったその人は、ある日突然、東京から去っていったのだった。たぶん二年くらい前のこと。僕とリリコが出会う前のこと。きれいで優しい男だった。久々に、声を聞きたい。 「いつ?」 「いまから」 「急に行って、迷惑じゃないの」 「あたしはどのみち今日、行く約束してたの」 一瞬で食べ尽くされてしまうことはわかりながら、ミナの夕飯のために置き餌をしてやり、車を出してくれると言う月子さんのマンションへ向かった。地下鉄で二駅だったので歩くことにした。こんなに近くに住んでたんだね、といまさら笑い合った。月子さんの家でしたことも、数えきれないほどあるのに。空は薄紫色で、呼気は白く曇り、冷たい空気が情事と昼寝のあとの惚けた頭をちょうど良く刺激した。日が落ちる前でも、だいぶ気温が低くなってきた。リリコが出ていったのは、夏の終わりだった。残暑が長かったから、暦の上では秋の始め、と言ってもいいかもしれないけれど。
初めて見る月子さんの愛車は、真っ赤な外車だった。シャコタン、というのか、車体がものすごく地面に近く、こんなに華奢な女の人がオーナーだとは思えなかった。あたし運転がヘタな男大嫌いなんだよね、と言うからこわくなって、任せることにした。といっても、そもそもこれはマニュアル車らしいから僕には運転できなかった。
「看護師ってね、だいたい働きだしてすぐ高い車買うのよ」
「どうして」 「しんどい仕事やめないぞ、っていう、誓いみたいなもん」
「ローンで自分を律してるってこと?」
「そう」
「払い終わったらどうなるの?」
月子さんはそれには答えず、ため息のような笑いを漏らした。下道でもそんな遠くなさそうだけど、もう遅いから高速で行こうね、と手慣れた様子でカーナビを操作する月子さんに、アキラさんはどこに住んでるんだっけ、と訊ねると、千葉の、山と海がある町らしい、という答えが返ってきた。地元と東京以外の地理に、僕はあまり明るくない。
初台から首都高に乗った。到着予定時刻は十九時四十五分。なんとなく流していたラジオがあまり面白くなくて、月子さんがspotifyで音楽をかけだした。九十年代ポップスをとりあえずのBGMに、仕事の話の続きが始まった。
「ヒロセは今もまだ、自販機売ってるんだっけ」
「それは前の前で、今は太陽光発電の会社にいる」
「バナナ売ってたのはいつだっけ?」
「青果卸ね、自販機の後だよ」
ふうん、と興味なさげに月子さんは言い、なんだかもう話すこともあまりなくなった。もともとそんなに話が弾むふたりでもないのだ。丁寧な運転のせいでだんだん睡魔の波が押し寄せてきたので、一眠りしようと目を閉じた。途切れ途切れ、薄い夢を見たが、途中で月子さんが呟いたのは、多分夢ではなかった。
なんでこう急にいろんなことがどん詰まっちゃうんだろうな。
聞いてはいけないような気がしてじっとしていたらまた深く眠ってしまって、次に目が覚めると、車は千葉県の国道を走っていた。何度も塗り替えた跡が見えるスーパーの看板が現れ、ああ、田舎の都会だ、と思った。僕の故郷も、こういう街だった。沿道にはチェーンの飲食店やディスカウントストアがまばらにあった。古ぼけたラブホテルもちらほら営業していて、カタカナやアルファベットをかたどったネオンが粗野に光った。シルクロードって名前のラブホテルは、全国にいくつあるんだろう。食事はどうするのかたずねようとした頃に、急に流していた音楽が途切れて、ちゃらちゃらと電話の着信音が流れた。
「え、なに」
Bluetoothだよ、さっきまで音楽飛ばしてたでしょ、と月子さんは僕を笑い、僕に通話ボタンをタップさせた。スピーカーにして、というのでその通りにした。相手はアキラさんだった。懐かしい、懐かしい声だった。低く、優しいトーンで、ゆったりと話す。
「広瀬くんも、いるの」
「あ、います」
「久々に会えるね」
たった一言アキラさんと言葉を交わしたら、こんなに便利な道具があるのに一度も連絡を取っていなかったことが急に薄情に思えた。だけどそれを咎めるような気色が全くなかったことにほっとした。そういうところが、アキラさんらしいのだ。
あと五分で着くよ、と月子さんは電話を終え、次の信号で細い道に折れた。国道から離れるにつれ、民家が増え、車は住宅地に入った。「あれかな」
月子さんが指さした先には団地が数棟立ち並んでいた。隣には打ちっ放しのゴルフ場の緑のネットが見え、まだ煌々と営業中のライトが光っていた。建物が近づいてきたのでスピードを落として進んでいると、駐車場の入り口とおぼしき辺りに背の高い男の姿があった。少し猫背で、足が長い。
僕たちに手を振るアキラさんは、東京で最後に会った時より少し、線が細くなったように見えた。 ここ空いてるから、今日だけなら大丈夫、という言葉を信じ、白い線で区切られた駐車場の一角に車を駐めた。アキラさんはリノベーションされたこの団地の一室を買ったのだそうだ。最近は古い団地の再利用が流行っているそうで、確かに共用部分も新築のようにきれいになっていた。おれ一人ならほんとこのくらいの広さで十分、という十畳ほどのリビングには必要最低限の家具しかなく、よく整頓されていた。荻窪に住んでいた頃の部屋もいつもすっきりとしていたのを、思い出した。
夕食には宅配のピザを取っていてくれて、酒も一通り用意されていた。パーティーじゃん、と月子さんは大喜びした。アキラさんは紙皿と紙コップを配りながら、洗うのめんどくさいからごめん、と笑っていたが、身軽な暮らしに憧れ、自分の部屋で待っている大量の食器のことを考え、うんざりした。
酒もあまり回らないうちから、月子さんはけっこう荒れていた。仕事を辞めた、という薄々気付いていた話と、不倫をしていた、という完全に初耳の話とを、かなりの序盤で打ち明けられた。初耳ではあったが、そこまで意外ではなかった。月子さんには、動物みたいなところがあるから。僕の同棲解消については、冒頭で少し話題に上がったもののどこかに消え、まあそれはいいとしてもアキラさんの近況は聞いておきたかった。僕が彼の方を見ると目が合ってしまって、逸らせず、やけに緊張した。彼は面白がるように僕を見ていた。とりあえず月子さんに吠えたいだけ吠えさせようと、頷き合った。
「何回かやっただけの上司の奥さんが職場に乗り込んできたの」
それで居づらくなって、もう十年勤めたし、疲れてしまったし、依願退職した、と話す月子さんは珍しく泣いていた。
「その医者のことそんなに好きだったの?」
「ううん別に、出来心みたいなもん」
「割に合わないね」
「それが腹立たしいのほんと!!」
そしてわっと大泣きしてはまた愚痴り、というのを間欠泉のように繰り返し、それをアキラさんが宥めていた。いつの間にか煙草を吸っていた。前もよく吸っていた銘柄だった。月子さんの支離滅裂な話から、医者のセックスがよかったということだけはわかったので、せめてもの救いだね、と慰めたつもりだったが、ものすごい目で睨まれた。月子さんが僕一人には甘えてくれないことを、当たり前だと思うとともに、少し情けなく感じた。僕はちびちびウイスキーを飲みながら、相槌を打った。
泣き疲れて、酔い潰れて、月子さんはテーブルに突っ伏して眠ってしまった。実質アキラさんと二人、という状態になって、ようやくゆっくり話せそうだった。
「……アキラさん、いまはなにやってるの」
「昔のツテでデザインの仕事もらったり、FXやったり、あとはまあ、切り詰めて」
田舎だからそんなにお金はかからない、家族も今後できることないし。淡々と話すアキラさんは十代の頃、年上の男の恋人に連れられて上京した。地元は宮城で、親は厳しくて、勘当寸前で、学校とか通ってこっちで仕事には就けたけど、その時の男とはすぐ別れちゃって、そんなことを寝物語に聞いたような気がする。
「おれもう、期待したくなくてこっち引っ越したんだ」
「期待?」
「東京、夢あるけど、夢見るのも疲れるからねえ」
僕はアキラさんともセックスまがいのことをしていた時期があった。好奇心なんかでは全くなかった。常連の店でいつも穏やかに店員と談笑していたこの男を、気づけば目で追ってしまっていた。仕立てのいいスーツに包まれた身体から滲み出る、どうしようもない諦めの空気が、僕を惹きつけて、不安にさせて、夢中にさせた。月子さんと3人で何度か会ったあと、僕の方から2人で会いたいと言った。やがて恋人同士のような関係になった。自分より体の大きな男に慈しまれると、言いしれぬ安心感と興奮を覚えた。僕たちは、同じ体で愛し合った。だけど男女でするようにはっきりと繋がったことはなかった。それはアキラさんの予防線だったと、今ならわかる。不誠実な僕は、そうしている一方で月子さんをはじめとする女の体を抱くこともあったから。月子さんは僕とアキラさんのことに気付いていたように思うが、だからといって関係が変わることはなかった。なにか言われたことも、詮索されたこともない。僕はあの頃から、自分のことがよくわからなくなっていた。恋ではない、とわかりながらも他人と肌を重ねることで、なにかがすり減っているような気もしていた。アキラさんもそうだったかもしれない。でも、その気持ちを分かち合ってどうにかするような2人にはなれなかったのだ。
「広瀬くんは彼女と別れたって聞いたけど」
アキラさんがなんでもないことのように言うので、僕もなんでもないことのように話し始めた。こういうとき、リリコとの破局で実はさして傷ついてはいない自分に気づいて、辟易する。
「三十過ぎて、なんか焦って、婚活とかしてみたりしてさ」
しっかりしなきゃ、と漠然と考えていた当初、運良く出会ったのがリリコだった。僕史上、いちばん礼儀正しく、理性的な交際のはじまりだった。いわゆる普通のおつきあいをうまくやれていると思っていて、自分もようやくそういう流れに乗れるのだと感慨すら抱きながら、給料三ヶ月ぶんには少し届かない指輪を買ってプロポーズもしたが、あなたと家庭を作ることは考えられない、という残酷な答えが返ってきた。数ヶ月の猶予ののちに同棲は解消され、僕たちは正式に別れた。彼女が持ち物を置いていったのは意外だったけれど、すぐに謎は解けて、そのあとわりとすぐ大企業のサラリーマンと婚約したと風の便りで聞いた。
「そういうのがいいならなんで僕と付き合ったのか不思議で」
「ふらふらしてる人の色気ってあるからねえ」
俺もちょっとやられてたかも、とアキラさんは僕の方を悪戯っぽく見た。アキラさんのほうこそ、ちょっと痩せた肩とか、煙草を弄る長い指とか、相変わらずどうしてなかなか、と思ったけれど言わなかった。今のアキラさんに僕が触れることは失礼な気がした。
「念のため聞くけど、おれと寝てたせいじゃないよね」
「え?」
「別れたって」
「いや全然関係ないよ、知りもしないと思うし、そもそもかぶってないし」
でも、見透かされてたんだと思う。アキラさんとっていうか、月子さんみたいな女の人たちとつるんでいたこととか、それどころか、やりまくってたこととか、職が続かないこととか、それらをそんなに駄目だと思っていないこととか、ただ自分が安心したいだけで、ほんとうはちっともリリコ自身のことなんか見ていなかったこととか。いつの間にか起きていた月子さんが、ヒロセ、いい人きっと見つかるよ、とまた泣きながら絡んできた。煙草を燻らせながらアキラさんは、人生相談室だな、きょうは、と可笑しそうに呟いた。ちょっと酔いが冷めてから順番でシャワーを借りた。月子さんは客間で、僕はソファで寝かせてもらった。アキラさんは自分の寝室に引き上げていった。
夜中に肌寒くて目が覚め、体を起こすとベランダで一服するアキラさんのシルエットが見えた。窓を開けて、隣に立った。アルミの手すりと床板がひんやりと冷たかった。
「ねえ、煙草吸いすぎじゃない?」
「前と変わんないよ」
「前も減らしなよって言ってたじゃん」
「唯一の楽しみなんだって」
「……早死にしちゃうよ」
いいんだよ、べつに。そう呟くアキラさんの横顔は東京にいた頃のままだった。あなたはいったい、あそこに何を捨てて来たの。
あたりは真っ暗で、ぽつぽつと窓の明かりが見えた。こんな夜更けに活動している人間がいるのだ。風向きが変わるのか、時折、国道から車の走行音がきこえる。僕たちは黙ったまま、並んで立っている。離れていた数年をどうにかして埋めたい衝動がせり上がってきて、でもどうしたってできないから、アキラさんの左肩に、そっと凭れた。アキラさんが、囁くように僕の下の名前を呼んで、呼び終わらないうちに、やめてしまった。ためらいが、愛おしかった。
「アキラさんのこと、すごく好きだったよ」
「……わかってるよ」
煙草を持っていない方の手が、僕の頬を撫でた。掌はすべすべしていて、冷たくて、泣けてきた。アキラさんが少しだけ身体を屈めてきて、煙たい匂いが鼻を掠めたかと思うと、かさついた唇が一瞬だけ触れた。目の前には、あの諦めたような優しい笑顔があった。
翌朝は三人とも九時前にきちんと起きて、目が覚めちゃうなんてなんか年取った感じするな、と言いながらファミレスでモーニングセットを食べた。僕は食器のカチャカチャいう音を聞きながら、肝心のことを相談し忘れていたことを思い出した。
「恋人の置いてったものって、どうしたらいいと思う?」
月子さんは、あたしは一個もらってあげるの、と恩着せがましくアキラさんに報告した。アキラさんは少し考えたあと、おれなら、と前置きして、こう続けた。
全部捨てる。一回全部きれいにしてあげないと、なかなか成仏してくれないとと思うから、残留思念みたいなもんが。
帰りもまた、月子さんが運転することになった。昨日よくわかんなかったけど、車イケてるね、とアキラさんが褒めた。乗る前にすればいいのに、乗り込んだ後で窓を開けて別れを惜しんだ。出発した後、僕たちが曲がるまでずっと手を振ってくれていたアキラさんを見て、月子さんがまた来ようね、と言った。僕は頷いた。僕だけに向けられているんじゃないとわかっていながらも、またいつでもおいで、という帰り際の彼の言葉に、甘えてしまいそうだと思った。
日曜日の高速道路はそこそこ混んでいて、痺れを切らした月子さんの判断により途中で降りて下道を走った。
「そういえばライト、持って帰る?」
「……やっぱいいや、知らない女のザンリューシネン要らないし」
「だよねえ……あれって粗大ゴミかな」
「そりゃそうでしょ、でかいもん」
めんどいなあ、とぼやく僕に、月子さんは、めんどいけど、向き合わなきゃだめってことでしょ、と自分にも言い聞かせるように口にした。それはたしかに人生を前に進めるために必要なステップなんだろうけど、いまの僕にとってはリリコとの二年間より、この二日間のあらゆる場面の方がつよく胸に迫ってくるのだった。
十五時前に家に着いた。一日空けた部屋は静まりかえって、知らない匂いがした。ミナはソファのクッションの上で丸くなって寝ており、僕がただいまを言うと片方の目だけ開けてまた眠ってしまった。飼い主が一晩いないくらい、どうってことないらしい。冷蔵庫の横に貼ってあるゴミの日カレンダーを見た。年始にもらったっきり、ほとんど使っていなかった。燃えないゴミ、火金。危険ゴミ、隔週水曜。粗大ゴミ、市役所に連絡。ため息。とりあえず窓を開け、空気を入れ換える。コーヒーでも飲みたくなって、お湯を湧かす。待っている間に、アキラさんからお裾分けに持たせてくれた蜜柑をざくざく剥く。皮を受け皿に、白い筋がたくさんついたままふた房頬張った。リリコは夕食後、必ず果物を出してくれた。重たいガラスのボウルに、冷たくてきれいな水で洗って一粒ずつしっかり拭いた葡萄、その正しさは誇らしくて面白かったけれど、僕はそんなこと、ちっとも望んじゃいなかったと思う。
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250207
朝、自分が小さくなったみたいだ、と思う。 どうして毎日こんなにもささくれだっているのだろう。 仕事。 あまりにもストレスなく働くことができて、これが合っているということなのかもしれない。自分のペースで作業をし、考えることができる。分子生物学的な実験業務。 これから先もずっとこの仕事をしたい。 仕事をするのなら。
一度帰宅して、イオンへ行く。 もうすぐバレンタイン。 一角にチョコレートが並んでいる。人気のものはすでに売り切れ。 彼がカービィの缶に入ったチョコレートがほしいと言うのでプレゼントしたら、思いのほか喜んでいた。 わたしがひとりで選んでいたら、選ばなかったと思う。 明日は休み。 何をしよう、と思いをめぐらせて、ねた。
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250208
朝、眼鏡がみつからない。 いつも枕元に置いてねるのに。 仕方なく予備の眼鏡をかける。 クリアな世界が目に映って、いつもの眼鏡は茶色のカラーレンズであることを思い出す。
窓の外が白く光っている。 溶けないままの雪が積もっているから。 友人への贈り物を買いたくて、歩く。往復1時間くらい。 とても疲れた。どこをみても光るような白。 雪のうえを歩くこと、注意深く気を付けて歩くから、へとへと。 でも、素敵なチョコレートとキャンドルを買えて、満足。
夜、鶏の肩小肉と赤玉ねぎでバターサワー煮を作る。 玉ねぎの鮮やかな色がすっかり抜けてしまったけれど、おいしかった。 ひさしぶりにちゃんと自炊をした気がする。 自炊ができて、嬉しい。
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250209 これからタイで暮らし始めるという人に会う。 その人は札幌で出会った人であるけれど、たまたま十勝に暮らしている人で、たまたま弟の小学生の頃の友人だった。 小学生の頃、神奈川から北海道へ引っ越したとのこと。 洋服にリズムのある刺繍をする人。 いろんな人に会って、話して、不思議な1日だった。 初めましての人に詩集を渡した。 知り合いのいない十勝にきて、孤独だったと話をすると、詩人には孤独なときも必要、と言う。詩人。わたしは詩人。 その人が以前に住んでいたのも神奈川で、わたしの中高の最寄り駅が最寄り駅だったという。ひさしぶりに懐かしい響きを耳にする。南林間。
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250210
朝、頭が痛いような。 人に会って、話をすると、たくさん思考が巡って、小さな犬が走り回る。 お米を炊き忘れたからフルグラを食べる。 昨日、一昨日と少し活動しすぎたのだろう。微熱。 いつものことだから、いつものように風邪薬を飲んでおく。 仕事。 助教の方と大雪の大変さをひとしきり話す。 この研究室は大体の人が道外出身だから、みんなそれぞれ雪に慣れていない苦労がある。 とにかく車の運転気をつけましょうね、と言い合う。 春が待ち遠しい。 北海道の桜は花と葉が同時に存在するらしい。 たぶん、わたしの知っている儚さのあつまる桜とは、ちがう。
夜、ひとり。 今週、彼は夕勤だから夜遅くに帰ってくる。 ひとりで家にいると、ひとり分の音しか出ないんだな、と食器を片付けながら思った。
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喫煙男性の会釈 近隣の痴話喧嘩
家の窓から見えるところでいつもにタバコを吸いに外に出てくるパーマの男の人がいるのだが、わたしが窓をあけて外を眺めていると目が合い、会釈されたので返すと、咥えていたタバコを取り、3階のわたしに話しかけてくる。つい先日、横のマンションで同棲しているのだろう男女が喧嘩しており、男の人がマンションから締め出されていて、しかも熱暑日。男は「入れろよ!暑いから!!」と猛っていたのだが、全くドアを開ける気配がなく、次第に男が弱り、言葉尻は弱々しくしかしとてもでかい声で「もう入れてくれよ、、いい加減にして!!」 と叫び続けており、しかし横のマンションの中で起こっていること。その状況は明確には把握できないがなんともシリアス〜な感じであった。しばらくするとそこのマンションに帰ってきた別の4,50代の女性の方が、男が猛っているのを聞き、怖くて入れず建物の前で途方に暮れていたので、わたしは夜飯の焼きそばを手に持ったまま、階下におりて女性に「事件性がないといいですがね。」と話しかけると、女性はうんざりした感じではやく家に入りたいんだけどねと言っており、しかし依然その猛りが止むことはなく、こんな暑いなか関係のない女性まで割を食うのも良くないな〜と思い、「落ち着くまでわたしのマンションの玄関で冷たい飲み物でも飲みますか?」と聞いてみたが、もう少ししたら旦那が帰ってくるから大丈夫とのこと。「なにかあったら通報してくださいね〜」と言ってわたしは焼きそばを啜りながら自分のマンションに戻るということがあった。どうやらこの下で喫煙をしていた男性がその女性の旦那さんらしく、あの説はありがとう、妻がとても感謝しておりました。とのことであった。して、あの同棲男女はちゃんと和解したのだろうか。近所とは声の掛け合い。話まではしなくとも会釈をするだけでも助かることは多々ある。ただ生活していてもいろいろあるのだから。
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よしもとかよ 「日々是好日」。vol.159 (2025/5/7 + 5/14)
2025 7th + 14th may
M1 les jours s'allongent (Austine)
M2 HOME (おおたか静流) M3 I'll be back (Shawn Colvin)
M4 ツバメ (山崎まさよし) M5 greenwaves (Secret Garden feat. Karen Matheson) M6 green (Edie Brickell) M7 vegetable car (Joshua Radin) M8 Willie Stewart / Molly Rankin (Eddi Reader)
[好日の素…被災した家の片付けをすること、再び。]

5月に入り、大型連休も過ぎました…。 みなさんはどんなお休みを 過ごされたでしょうか。 テレビのニュースなど拝見していますと、 被災地のボランティアに出向いた方も いらっしゃるようですね。 (おつかれさまです+ありがとうございます!) わたしの方は 連休に入る少し前に、 今年に入ってはじめて 能登の祖父母宅を訪れました。 雪や風で建物がどうなっているか 心配もあって出かけたのですが、 中に入ってみると 台所の窓が割れていたり 勝手口の扉に 穴が開いていたり… 割れた窓から 猫たちが侵入した形跡も(苦笑。 そんなことがありながらも、 ひとまず建物そのものは なんとか無事建っており、安堵。 同行してくれた友人と共に 物置の中の片付けや 持ち帰って手入れする品々の選別、 割れた窓の養生などをしました。 わたしにとっては 祖父母の家なので ボランティアではないのですが 同行してくれる友人たちは ボランティア。 処分品の運び出しなど、 ひとりでするにはちょっと大変なところを 手伝ってもらえるのは 本当にありがたいです。 また、町に現在も暮らしているみなさんも 普段からあちこちを確認して下さっていたり、 今後のことについて「何か聞いとるけ?」と 声をかけて下さったり。 これも本当に頭が下がります。 現地にいられない間も 町の方々と ボランティアで 現地に入っておられるみなさんとが一緒に さまざまな取り組みをされて、 かつての町に戻そうと 奮闘していらっしゃる姿を SNSなどで拝見していて、 わたしもいつか 加われるといいな、と思っています。 ともあれ、まだまだ復興の道半ば。 少しずつ出かけられる場所も 増えてきていますし、これからも 引き続きさまざまなかたちでの 応援を続けたい、そして 続けていただきたいと願っています。
* * * * * * * * * * *
[日々是食べたい!… コールスローサラダ]

もうずいぶんと前になるかと思いますが このコーナーで サラダ特集をやったことがありまして。 そういえばもう初夏ですし さっぱりとサラダが食べたいかも…と サラダ特集第2弾をやることにしました! (とはいえ月に2回程度の更新なので 特集と言えるかどうかわかりませんが・笑) で、今回ピックアップしたのは コールスローサラダ。 細かく刻んだキャベツに あまじょっぱ酸っぱいドレッシングがなじんで おいしいこのサラダ、聞けば 古代ローマの時代から食べられていたそうです。 初めて食べたのは 学生時代。 確かファストフード店のサイドメニューだったと 思います。 じぶんでつくるようになってから しばらくは、 市販のドレッシングをつかっていたんですが、 イベントでドレッシングも手作りの コールスローサラダをいただいてからは ドレッシングも手前でつくるようになりました。 合宿レコーディング中に キャベツに含まれるビタミンUの話で 笑ったことも思い出します。 一時期はとても高価になっていて 手が出ませんでしたが、 ようやく少し価格も落ち着いてきたでしょうか。 キャベツをたっぷり食べられる さわやかなおいしさの一品です。
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uihy
自室の記録

5年前からルームシェアをしているSと一緒に引越しをしてから、3年が経った。寝室をSが、リビングを私が自室としている。私の部屋の正面には大きな窓があり、左右にもそれぞれ小窓がある。

小窓1
装身具類の置き場所。ピアスを置いている鳥のレモン絞り器は、Fさんから貰ったもの。Fさんはよく動物のものをくれる。犬の形をした栓抜きや、野営をするくまの置物も彼からのプレゼントだった。
カートリッジインクの空き容器には、ヘアピンやネックレスを入れている。私の父は吸引式の万年筆を好んでいて、父から贈られたペンもインク瓶とセットのものが多かった。実家を出て外にいる時間が増えてからは、インクを切らすことが怖く、自然と替えのインクを持ち運べるカートリッジ式の万年筆を使うようになった。それからしばらく経ち、1年前にプログラマを辞めたことを手紙で報告すると、その数日後に「励まし」とボールペンが送られてきた。以降ずっとそのペンを使っているから、手持ちの万年筆はどれもインクを抜いてある。
よく付けるピアスは窓の縁に置いていて、どこかの喫茶店で使われていたらしい伝票入れには、硝子のオーナメントやトライアングルのビーターを差している。

Hのくれたトライアングル本体は、腕時計とブレスレットを失くさないための場所として機能している。良くない使い方だと罪悪感を覚えてはクロスで磨いている。

小窓2
『陶の家』を見かけたらひとつ買うというのを続けていて、現時点で3軒が建っている。少しずつ街になっていく。家の奥には、ミナペルホネンの好きなQさんにプレゼントしたものと色違いのタイルを置いている。

小窓3
すぐぼろぼろにしてしまう指先のケア用品を置いている。H先輩に貰ったネイルオイルの磨硝子が好きだった。Fさんが動物をくれるように、この人は硝子をよくプレゼントしてくれる。硝子のオーナメントも、ステンドグラスのくまもH先輩から貰っている。

窓を開閉するハンドル(オペレーターハンドルというらしい)に紐をかけて、ケーブルや電源類をまとめている。先日Eから貰った白いカールコードのシールドもここに下げている。黒い服ばかり着ているのに、Eには乳白色のイメージがある。“誤って人間として産まれてしまった天使”だと感じさせる人と知り合うことが何度かあり、Eもその中のひとりだった。

向かって左には仕事用のシャツ、右には外套を何着か掛けている。秋冬用の服ばかりある。

机
ここに越すことが決まってから最初に選んだ家具。プログラマになったばかりの頃、メモリの重要さを机の広さに喩えて教えられた。それで机は広いほど良いものだと認識したのか、気付けば横幅のある机ばかり探していた。天板の色を緑に決めて、部屋の軸に据えた。

職場で割ってしまったマグカップに無線イヤホンや保湿クリームを入れている。シャツを濡らしたまま破片を持つ私を見て、笑ってくれる会社の人たち。これ以上は無いとよく思う。
ヘアクリップ入れにしている、ままごと用のような小さな花瓶も気に入っている。渋谷の蚤の市で友人へのプレゼントを選んでから、度々その人の店でものを買うようになった。銀色のトレイやハート型の赤い缶もその人から買った。
銀色の電源タップは前の部屋から持ってきたもの。あらゆる電子機器の電力をここから供給している。

ギターをくれた友人たちが別の年の誕生日に合同出資してくれたオーディオインターフェースがモニターの下にある。未だに1-2と3-4の入力を同時にする方法が分からず、2つずつ付け替えながら使っている。これを貰ってからAudacityで曲を作り始めて、今もそのやり方をしている。会社の先輩には「システムを0と1だけで作ろうとしているみたいなものだよ」と言われたけれど、その頓馬さを含めて自分に馴染むので、Audacityをずっと使っている。キーボードがちょうど上に乗る。

モニターの横にはmicroKORGを置いている。普段は誕生日に贈り物をしないと取り決めているSだけれど、数年前に何かで手を貸した際「この恩は倍にして返します」と言い、その年の誕生日にmicroKORGをプレゼントしてくれた。このシンセサイザが部屋に来てから、自分の生活が向かうことのできる方角が増えたように感じている。大切な楽器。

microKORGには、新しい部屋で出した『野良の花壇』のマグネットを付けている。本来は冷蔵庫のために作られたマグネットだけれど、皆とスタジオにいる時にあって欲しく、ここに付けている。プリクラで来られなかった友達の似顔絵を描くような感覚。私の黒い冷蔵庫には、ピーター・ドイグの青鬼の絵と油絵の花のマグネットだけがある。

机の下に、PC・トランクケース・スーツケースを置いている。PCはSのお下がりで、MacBookしか使ったことのなかった当時の私は、こんなに大きな箱がPCだなんて、と思っていた。PCの上に付けたアンテナは狐の顔のような形をしている。
トランクケースは大学2年のころ大枚をはたいて手に入れたもの。どこか遠出をする時はこれに荷物を詰めている。畳み終えた洗濯物をSの部屋へ運ぶ時のかごや、ギターを弾く時の足置きとしても使用。頑丈さに安心する。
スーツケースはついこの間、京都に長く滞在するために買った。銀色の次に、灰がかった青が好きだと思う。

ギター・くま・本棚

ギターは高校時代の友人たちが誕生日にくれたもの。19歳になったばかりの頃、当時の交際相手と出掛けた帰り、気が付いたら楽器屋にいた。ギターを2本持ったその人に「どっちがいい」と訊かれ、指差した方を買ってくれた。私にギターを与え、弾き方を教えてくれたことにずっと感謝している。その人と別れてしばらく経ち、誕生祝いに何が欲しいかを訊かれ、ギターを頼んだのだった。友人たちは「あえて白にしてみた」と笑っていた。今思えば、このギターを貰ってから白を自分のものにすることへの抵抗が弱くなった。ギターの届いた日、触っているのが楽しくて大学を休んだのを覚えている。
YAMAHAのアンプは義兄が使っているのを見て購入した。私が真似をしていると知って嬉しそうだった、と姉から教えてもらった。

左端のくまは、元は白だったのだけれど、深い青のシーツで眠るのに付き合わせたせいで黝くなってしまった。Kの小説に「ヤニや涎で汚れてしまったのかしら」と書かれてからは、布で包んでいる。いつかぬいぐるみ病院に連れて行きたい。隣は一度も会ったことのない人が贈ってくれた黒いくまと、高校時代の交際相手が留学先のお土産として連れてきてくれた焦げ茶のくま。誰かとビデオ通話をする時にはよくパペットのくまに代理出席してもらっている。右は、地元や旅先の雑貨屋で見つけて連れてきてしまった(“しまった”という意識がずっとある)小麦と白のくま。グレーのワゴンに小さなギャッペを敷いて、くまたちの場所としている。

低い本棚の上
蓋のない宝箱。小物たちというより、質量のある記憶群という方が実感に近い。
西荻窪にあった喫茶店の閉業を知って沈んでいると、H先輩が「お店で使っていた品物を販売しているみたいです」と教えてくれた。黒い花瓶のあるおかげで、ずっとその店を忘れずにいられる。今はEのくれた竹とんぼや、Aさんのくれた花を入れている。ポストカードをしまっておける箱のついた額縁には、Aの写真を入れている。過去、「__の写真を写真展に出してもいいですか?」と、もう搬入の終わった状態で確認の連絡が来たことがあった。Aがごく稀に見せる、こういった強引さが大好きだった。展示を了承する代わりに譲ってもらったその時の写真たちは、勾配天井の部屋に暮らしていた時に飾っていた。上京してから借りたどの部屋にもAの写真を飾っている。そのほか、江の島で拾った石や、Tさんがライブ終わりに嵌めてくれた指環、Uさんと行った犬吠埼のイルカの置物、書ききれないほどの誰かと紐付いた宝物がある。

声の依頼を受けた際、お礼にといただいた絵。額装までしてくれていた。元々この人の絵が好きだったので大喜びした。一度この絵を裏返さなければいけない時期があったので、また飾ることができて嬉しかった。

高い本棚の上
小さなギターは、Kさんと一緒にRさんの部屋でパーティをした日、中古のおもちゃ屋で買ったもの。Rさんの部屋に戻った後もご機嫌に鳴らしていて、そのあと火事が起きた。カセットコンロの火がテーブルクロスに引火して、火が早送りのように広がっていくのを見た。三人で死ぬ映像がちらついた、次の瞬間には火が消えていて、振り向くと花瓶を持って息を切らしたRさんが立っていた。チューリップを活けていた水での消火。このおもちゃが生き延びた証明になっている。このあいだのアルバムに入れたフィールドレコーディング曲にはその日の日付が付けられていて、火のはじける音やこのおもちゃギターの音が入っていた。volca keysは初めて触ったシンセサイザ。自分ひとりである程度のことができるようになりたくて、リズムマシンとマルチエフェクターを買った。
銀色のバットはひとつ前に住んでいた部屋の近くにあった台所道具の店で買ったもので、前日と翌日のあいだの時間に携帯品を置いておく場所として使っている。

Artekのスツール60を、椅子やベッドサイドテーブルとして使っている。パーティめいたことをする時には、3脚くっつけて大きなテーブルとして使う。雑貨屋でまとめて購入したので、その日で店のポイントカードが1枚分溜まった。そのカードをイッタラのキャンドルホルダーと交換してもらった。
銀色のトレイは、先述の蚤の市で知った店で買ったもの。部屋のポケットとして使っている。
“拯”の字は、精神がどうしようもなく落ちていた今年の始めに、Uさんが「書初めをしよう」と言って筆を持たせてくれたもの。翌月にまた京都を訪れた際に、国際会館のカフェスペースで焼き上がったものを渡してくれた。頭でばかり考えてはすぐに身体と疎通できなくなる私に、四肢のあることを思い出させてくれる友人。
本の上には気休めの紙魚対策として除湿剤と防虫剤を置いている。

小窓4
Fさんからの犬の栓抜きと、Hに貰ったコンクリートの置物、H先輩が分けてくれた犬の箸置き。母の好きなミニチュアを贈る際、色違いのチューリップを自分にもひとつ購入して、端に置いている。自分のために生きた花を買えない反動か、花のモチーフのものを見かけると嬉しくて���い手が伸びる。

キッチン
私の洗面台を兼ねている。私もSも、料理と呼べるような自炊は殆どしないので、調味料や調理器具が少なく、キッチンの収納部にはそれぞれの私物が仕舞われている。

Mさんが引越し祝いに買ってくれたカセットコンロ。パンを焼く時やカフェオレを淹れる時に使う。組み立てる際の動作がロボットアニメのワンシーンを思い出させるので、人前で使う時には「変身!」と言うようにしている。
隣の空き瓶は元々ジンの入っていたもので、誰かに花をいただいた時には一旦ここに活けている。

この部屋に越した時にIがプレゼントしてくれたローズマリーの石鹸の匂いが好きで、貰った分を使い切ってからも自分で買い直している。歯磨き粉はGUM以外だと落ち着かないので旅行先にも持っていく。歯ブラシはKENTのもので、最初に使ったあとの歯の滑らかさに感動して、誰かに共感してほしいあまりSに押し売りをした。それからSも同じものを使っているので、それぞれのストックも合わせると10本近くこの歯ブラシがある。右端はリングホルダー。左手の薬指に環を嵌めるようになってから、指環が好きになった。今は5本の指環を付けている。

食器棚
H先輩のくれたくまを吊るしている。緑の石鹸はMさんのスペイン土産。ここに写っている鉄鍋も鉄フライパンも、写っていない3本の包丁も2枚のお盆も貰いもの。




ソファ
机の天板に合わせて布を選んだ、三人掛けのソファ。毎日ここで眠っている。Sの部屋にある質の良いベッドよりも、薄いマットレスを敷いたソファの方がよく眠れる。枕に近い小窓のハンドルにエジソンランプを括りつけて、普段はその光で睡眠薬が効くまでを過ごしている。

部屋のすぐ向かいには線路があり、3面の窓から電車の通る音や光が流れる。最終電車の後は、スケートボードの走る音や、酔った誰かの歌が聞こえる。この部屋で生活をしている。
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ヤナホド習作:終の羽音、昇る煙
魔女の里で烏で生きる事を選んだ者とヤーナ様の別れの話。
いつもどおり雰囲気小話全開です。 本編後、ちゃっかり二人は一緒に夜を明かす関係です。 ヤーナ様とニーナちゃんの親密会話で、カラスに変身した里の人が出てくるんですが、動物に変身して生きる里の人を看取るヤーナ様の話が降ってきたので、書きたい!となり練り練りしていたもの。
動物に変身しても人間の寿命なのかな?本来その動物の命の尺度に体のつくりなど理由は有るので、やっぱり変身したらその動物の寿命になるのかしら…とか色々考えてましたが、ふんわり書かせて頂いております。
葬儀関係は、信仰に関わるのでどうしたもんか、土葬っぽいんだけど、ニコバーの中って全員教会信仰してる訳でもなさそうだし、宗教によっては火葬は避けられてるんだけど、どうなんかねぇ~と思いながら、空に還す選択を取りました。
BGM:Last Smile / LOVE PSYCHEDELICO
↓以下 小話本編です
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どんっ
明け方、まだ陽も地平線に覗くかどうかの時間。ヤーナの部屋の窓に何かがぶつかる音がした。一緒に寝ていたホドリックがばっと起き上がると、同じく起き上がったヤーナを庇う様に腕で制する。 二人が息をひそめてしばらく様子を伺っていると、コツ…コツ…と小さく窓を叩く音がし、音の主である小さな黒い影が窓枠越しにベッドからも確認できた。 「ん?……嗚呼、大丈夫。あたしの友人が訪ねてきたようだ」 「友人…ですか?」 ヤーナが寝間着のまま仄暗い部屋の中をコツコツと音の鳴り続ける窓へ向かうので、ホドリックも慌てて後に続く。窓の外には羽の乱れた烏が一羽、二人を見上げていた。 「烏…の様ですが…」 「そう、烏。そしてあたしの付き合いの長い友人でもある」 戸惑うホドリックをそのままに、ヤーナが窓を開けると烏に手を伸ばし羽や体をさする。まだ陽の昇っていないひんやりした風が部屋に入り込んだ。 「怪我はしてないね、よかった。坊や、そこにある布を持ってきておくれ」 言われるがままにホドリックが指示された通り布をヤーナに手渡すと、ヤーナはその布で烏を優しく包むと胸に抱え、窓を閉める。 「約束してたからね。勿論忘れてなんかいないさ。居場所、ちゃんと伝えておいて良かったよ」 ヤーナはそのまま床に座り込むと、布に包まれた烏を優しく床に下ろす。 「ヤーナ様、その烏は…」 ランプに火を灯して、肌寒いだろうと自分のシャツを持って近くに跪いたホドリックにヤーナが笑いかける。 「さっき言った通り友人さ。少し前に話したかね、人で生きる事を辞めた里の者がいるって。こいつはね、烏として生きる事を選んだ…あたしの大事な友人なんだよ」 ホドリックにシャツを肩にかけてもらいながら隣にいる烏を優しく撫でるヤーナの眼差しは柔らかいが、友人の訪問だというのにどこか悲しげだった。 「あの…」 「ごめんね、少しふたりで話したいから、坊やはベッドで待っててくれるかい?まだ支度を始めるには早い時間だろう?」 「そうですが…」 ホドリックがヤーナの近くにランプを置き、窓に視線をやる。まだ窓の外は薄ら明るくなってきたところだ。いつもならばまだ眠っている時間である。 「……そうだよ、この子がいつも話してるホドリック坊やさ。ふふ…、うん、そうだろう?いい男なのさ」 小さく烏が鳴いたのにヤーナが笑って答えるのを見てホドリックがぎょっとする。 「ごめんごめん、驚かせたね。……長くはならないから、ふたりにしておくれ」
うん、そうだね そうかい、大変だったねぇ こんなに頑張ったんだ、誇っても良いだろうさ ん、そう…
ベッドへ戻り、仰向けに横になったホドリックは視界の端で様子を伺っていた。窓の近く、隣にいる布に包まれた烏を時折撫でながら穏やかに話すヤーナの声は悲しげで、先程の眼差しの事も有り気になるものの今は待つしかない。 ランプの灯りに照らされるふたりを眺めながらほのかな睡魔に身を任せ瞼を閉じる。 しばらくするとヤーナの声が聞こえなくなり、瞼を上げ様子を伺う。しばし様子を見ていてもヤーナが身動き一つしないので、流石に心配になったホドリックがベッドから起き上がり声を掛ける。 「ヤーナ様、その方は」 「今、旅立ったよ。…里で送ってあげないと」 震える声に、ホドリックがベッドから立ち上がるとヤーナへ歩み寄り隣に座った。ヤーナが膝の上に抱きあげた布の中では烏が横たわっており、その体は動かない。その羽をヤーナが優しく撫でる。 「看取りをね、お願いされてたんだ。いくら人として生きる事を辞めて鳥として生きることを選んだとしても、自然の中でひとりで死ぬのは怖かったみたいでね。もう長くないと、少し前からお願いされていたんだ。必ず行くから、里長の所で看取って欲しいって。こんな寸前にさ、よく間に合ったもんだよ。立派に生ききったもんだ」 「(どんな間柄なのかを聞くのは野暮だな…)」 愛おしそうに目を細めるヤーナに、口から出てしまいそうになる言葉をホドリックが飲み込む。 「里で葬儀を行うのですか?」 「うん。準備して里へ行ってくるよ。数日空けるからアレインに声を掛けてからだね。特に急ぎの仕事も無かったはずだし、許可はもらえるはずだけれど…」 「私も同行してよろしいでしょうか?」 「⁉…近衛の仕事はいいのかい?」 「勿論陛下にお話しして許可を頂けたらですが…。もし許しを得られたとして同行はお邪魔でしょうか?」 烏を抱くヤーナの手にホドリックが自分の手を重ねる。 「……邪魔なんかにはならないよ。こいつには修行仲間以外、家族もいなかったし…。喜ぶと思う」 ヤーナが顔を伏せ震える声で言うとホドリックへもたれかかる。 「ホドリック」 「はい」 「ありがとう」 ホドリックが見下ろすヤーナの膝の上、烏の羽に雫が落ちるのを見て、ホドリックはヤーナの背中に腕を回しぐっと抱き寄せた。
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