#暗いオフィスの窓の昼光
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23.10.19 新宿の考察
先日からオフィスが都庁前になった。バキバキオフィス。
都庁前駅の方が職場は近いけれど、京王線から大江戸線のホームまでの行き方を知らないため、新宿駅��ら歩く。
1人で無数のビルが倒れてくる妄想をしている。小さい頃にTSUTAYAでレンタルして狂ったように見ていたウルトラマンの足元はこんな感じだっただろうか。
先週の土日、法事で実家に帰ったら近所のTSUTAYAは潰れていた。スイミングをサボるためにトイレで水着を濡らした思い出のTSUTAYA。たくさんCDを借りたし漫画も文房具も買った。こうやって少しずつ覚えている映像は消えていつか誰かが思い出せなくなってしまう。
はなしは新宿に戻る。おれは等間隔のみどりを見て目を休ませる。空が遠い感覚。せまい。これ全部のビルに会社があんの?嘘だー。こんなに世の中に仕事って必要か?お値打ちのポップ、フォントの違う文字、カラフルな自販機、地下通路。テレビで見たことある建物。オフィスの窓には向こう側のビルが映る。本当に知らない場所、昼間なのに点滅する光。あまりにも資本主義。おもしろいけどおもしろくない。
帰り道、ヨドバシカメラの前にある白いベンチに腰掛ける人たちは全員スマホを見ている。おれもこの文章はスマホで書いている。全員が同じポーズできもちわるい。猫背は悪化の一途をたどり、眼精疲労、睡眠の質が落ちる。おれはなんかつまんない人間になる。
真っ暗な場所で眠りたい。「いごこち」っていい概念だと思う。決して都会のアンチではない。大概クソだと思うけれど、田舎もクソ。(別にそれでいいと思う。)街は生き物みたいだとも思う。道路や線路は血管で、おれらは血とか細胞。建物は肉とか皮膚とか臓器とか。血湧き肉躍るってそういうことか!あと、血も悲しいし肉も変わる。
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むかしむかし、あるところに情報商材売りの男性がいました。「副業で月収100万円を稼ぐ有料noteはいりませんか?あなたもFIREしたくないですか?」男性はTwitterで声を枯らし、インスタで拾ったホテルや高級腕時計の写真を貼り付けた投稿を繰り返します。でも、4950円の有料noteはちっとも売れません。 男性が悲しそうにスマホをポケットにしまった、その時です。ベントレーが突っ込んできました。「ああっ!」男性は転びました。「馬鹿野郎、ひかれたいのか!」運転席から黒光りした男が怒鳴ります。金銭的な成功こそが人の価値だと信じて疑わぬ人間だけが出せる、己の非を認めぬ傲慢な声。資本の暴���。 資本主義の極北、東京砂漠。定職もなくアフィリエイトで日銭を稼ぎながら情報商材が売れることを夢見ている38才の男性を、道交法は守ってくれません。クラクションを鳴らし去っていくベントレーを、男性は冷たい道路に座って呆然と眺めていました。トボトボと町屋駅徒歩9分の築古アパートに帰ります。 「ただいま」。家に着きましたが、そこに人の気配はありません。家族も、恋人も、家で男性の帰りを待ってくれる人間は誰もいません。虚しくなった男性は、スマホでYouTubeのヒカルの動画を観ながら、業務スーパーで買った298円のチキン南蛮弁当をモソモソと食べます。ご飯が少し固くなっていました。 電気代も灯油も高いので、暖房器具は使えません。ストロングゼロを飲んで毛布に包まりますが、築古アパートのアルミサッシから冷たい風が入り込みます。あまりの寒さでこごえてしまった男性は、売り物の有料noteをそっと開きます。「シュッ」という音と共に、温もりに満ちた光景が目の前に広がります。 そこは渋谷ストリームのオフィスでした。24階の社員食堂で、美味しい料理に舌鼓を打ちながら外国人の同僚と雑談する男。高校の同級生の鈴木君です。一浪して東京理科大に進学し、修士号取得後にNTTに就職した鈴木君。現役で早稲田の社学に進んだ男性は「コスパ悪すぎw」と鈴木君を見下していました。 しかし鈴木君は頑張りました。NTTの研究所で働きながら、社会人大学院で博士号を取得。見事Googleへの転職を決めたのです。高2で数学を捨てて私立文系に逃げ、努力から逃げ、似顔絵アイコンで自称GAFA社員として中身のない情報商材を売る男性。一体、どこで二人の道は別れてしまったというのでしょう。 気がつくと、また寒々しい部屋です。静寂の中、隣の部屋からは何かを叩く音と女の人の泣き声が聞こえます。男性は慌てて次の有料noteを開きました。目の前に現れたのはタイムズスクエア。雑踏の中、スタバのコーヒーカップを片手にスーツの男が颯爽と歩いています。みずほ銀行で同期だった田中君です。 大学時代に遊び呆けていた男性でしたが、当時は運良く就活売り手市場。大量採用しているメガバンに潜り込めました。しかし、待っていたのはノルマとパワハラ、資格試験。FP2級に落ちて支店長に詰められた男性は「今どきJTCとかオワコンww」と言って、すぐにプルデンシャルに転職してしまいました。 同期が次々と脱落していく中、田中君は逃げませんでした。リーマンショックで資金繰りに苦しむ融資先を回り支援計画を練り、震災でATMが止まれば店頭で罵声を浴びながら頭を下げました。カラオケでは率先してマラカスを振り、支店のゴルフコンペは皆勤賞。帰宅後のTOEICの勉強も欠かしませんでした。 上司達は、そんな田中君を可愛がりました。地方支店から本社の法人営業、海外営業と順調にステップアップして、ついにNY駐在を勝ち取ったのです。プルに転職したものの鳴かず飛ばずで、強引な営業で友人からも避けらるようになり、逃げるように転職を繰り返し転落していく男性との差は広がるばかり。 男性が手を伸ばした瞬間、マンハッタン高層ビルの風景はフッと消えてしまいました。もしかしたら、自分が掴めていたかもしれない未来。暗くて寒くて乾いた部屋で一人、全身の震えが止まりません。男性はすがるように、次の有料noteを開きました。すると、今度はエプロン姿の女性が料理をしています。 後ろ髪を束ねた女性のお腹は膨らんでいます。「あ、蹴った」とお腹をさする優しい表情。「理恵!」男性は思わず叫びました。忘れましません、大学時代の元カノ、大妻女子大の理恵です。2男の頃、インカレテニサーに入ってきたばかりの右も左も分からぬ1女の理恵を口説いて付き合った記憶が蘇ります。 人生初の彼女に浮かれていた男性でしたが、釣った魚に餌を与えないどころか雑に扱うという、童貞を捨てたばかりの非モテにありがちなミスを犯します。アフター5でディズニーに行く約束をしてたのに、パチスロ北斗の拳で設定6を引いたからとドタキャンした過去。クリスマスのディナーはサイゼリヤ。 結局、理恵とは一年も持たず破局してしまいました。「別に女なんていくらでもいるし」と強がっていた男性でしたが、その後、ちゃんとした関係を結ぶ女性を見つけることはできませんでした。目の前の相手を尊重することで信頼を積み重ねるという、人として最低限のことすらできない人間の、惨めな結末。 一方、理恵はその後保育士となり、千葉大教育学部卒の中学教師と結婚します。お腹の子供は3人目。流山おおたかの森駅徒歩7分3LDKのマンションは少し手狭なので、戸建への引っ越しを考えています。タワマンもSAPIXも無縁ですが、だからこそ、日々の営みの何気ない幸せを噛みしめながら暮らしています。 暖かさと優しさで満ちた光景が消えると、また孤独が押し寄せてきます。男性は声を上げて泣き始めると、隣の部屋から「うるせーよ!」と壁ドンされました。慌てて次の有料noteを開こうとしましたが、もう、Vプリカの残高がなくて買えません。暗闇の中、スマホの画面だけがぼうっと青白く光っています。 自分の能力を過信し、努力を嫌い、下積みを蔑み、真摯なコミュニケーションを避けてきた人生。38年間を無為に過ごして、一体何が残ったというのでしょうか。京成線の電車がガタガタ部屋を揺らす中、ストゼロのアルコールが全身に回ってきました。男性はもう、全てがどうでも良くなってしまいました。 一年後。男性の姿は茨城にありました。この残酷な世界から逃げるべく死を選んだ男性でしたが、命を絶つという覚悟もなく、結局、財布に残っていた最後の5000円を使ってスーパーひたち号に乗って実家に逃げ帰ったのです。リタイヤ済みの故郷の両親は呆れつつも、それでも暖かく迎え入れてくれました。 男性の顔は日焼けし、頭には白い手拭いが巻き付けられています。親戚の叔父さんの紹介で、地場の建設会社に雇ってもらったのです。ベトナム人技能実習生に混じって太陽の下で身体を動かすことで、汗とともに自分の中にこびりついた澱のようなものが静かに、でも着実に流れ出ていくのを感じます。 東京での20年間は何だったんでしょう。人ではなく画面とばかり向き合い、その向こう側の人たちと優劣を競い、何を得たというのでしょうか。昼休憩が終わって作業に戻ろうとすると、スマホが震えました。「○○さんがあなたの有料noteを購入しました!」男性は苦笑いしながら、アプリを削除しました(完
窓際三等兵@息が詰まるようなこの場所でさんはTwitterを使っています
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暗いオフィスの窓の昼光 by from tokyo to honolulu
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あるいは永遠の未来都市(東雲キャナルコートCODAN生活記)
都市について語るのは難しい。同様に、自宅や仕事場について語るの���難しい。それを語ることができるのは、おそらく、その中にいながら常にはじき出されている人間か、実際にそこから出てしまった人間だけだろう。わたしにはできるだろうか? まず、自宅から徒歩三秒のアトリエに移動しよう。北側のカーテンを開けて、掃き出し窓と鉄格子の向こうに団地とタワーマンション、彼方の青空に聳える東京スカイツリーの姿を認める。次に東側の白い引き戸を一枚、二枚とスライドしていき、団地とタワーマンションの窓が反射した陽光がテラスとアトリエを優しく温めるのをじっくりと待つ。その間、テラスに置かれた黒竹がかすかに揺れているのを眺める。外から共用廊下に向かって、つまり左から右へさらさらと葉が靡く。一枚の枯れた葉が宙に舞う。お前、とわたしは念じる。お前、お隣さんには行くんじゃないぞ。このテラスは、腰よりも低いフェンスによってお隣さんのテラスと接しているのだ。それだけでなく、共用廊下とも接している。エレベーターへと急ぐ人の背中が見える。枯れ葉はテラスと共用廊下との境目に設置されたベンチの上に落ちた。わたしは今日の風の強さを知る。アトリエはまだ温まらない。 徒歩三秒の自宅に戻ろう。リビング・ダイニングのカーテンを開けると、北に向いた壁の一面に「田」の形をしたアルミ製のフレームが現れる。窓はわたしの背より高く、広げた両手より大きかった。真下にはウッドデッキを設えた人工地盤の中庭があって、それを取り囲むように高層の住棟が建ち並び、さらにその外周にタワーマンションが林立している。視界の半分は集合住宅で、残りの半分は青空だった。そのちょうど境目に、まるで空に落書きをしようとする鉛筆のように東京スカイツリーが伸びている。 ここから望む風景の中にわたしは何かしらを発見する。たとえば、斜め向かいの部屋の窓に無数の小さな写真が踊っている。その下の鉄格子つきのベランダに男が出てきて、パジャマ姿のままたばこを吸い始める。最上階の渡り廊下では若い男が三脚を据えて西側の風景を撮影している。今日は富士山とレインボーブリッジが綺麗に見えるに違いない。その二つ下の渡り廊下を右から左に、つまり一二号棟から一一号棟に向かって黒いコートの男が横切り、さらに一つ下の渡り廊下を、今度は左から右に向かって若い母親と黄色い帽子の息子が横切っていく。タワーマンションの間を抜けてきた陽光が数百の窓に当たって輝く。たばこを吸っていた男がいつの間にか部屋に戻ってワイシャツにネクタイ姿になっている。���階部分にある共用のテラスでは赤いダウンジャケットの男が外を眺めながら電話をかけている。地上ではフォーマルな洋服に身を包んだ人々が左から右に向かって流れていて、ウッドデッキの上では老婦が杖をついて……いくらでも観察と発見は可能だ。けれども、それを書き留めることはしない。ただ新しい出来事が無数に生成していることを確認するだけだ。世界は死んでいないし、今日の都市は昨日の都市とは異なる何ものかに変化しつつあると認識する。こうして仕事をする準備が整う。

東雲キャナルコートCODAN一一号棟に越してきたのは今から四年前だった。内陸部より体感温度が二度ほど低いな、というのが東雲に来て初めに思ったことだ。この土地は海と運河と高速道路に囲まれていて、物流倉庫とバスの車庫とオートバックスがひしめく都市のバックヤードだった。東雲キャナルコートと呼ばれるエリアはその名のとおり運河沿いにある。ただし、東雲運河に沿っているのではなく、辰巳運河に沿っているのだった。かつては三菱製鋼の工場だったと聞いたが、今ではその名残はない。東雲キャナルコートが擁するのは、三千戸の賃貸住宅と三千戸の分譲住宅、大型のイオン、児童・高齢者施設、警察庁などが入る合同庁舎、辰巳運河沿いの区立公園で、エリアの中央部分に都市基盤整備公団(現・都市再生機構/UR)が計画した高層板状の集合住宅群が並ぶ。中央部分は六街区に分��られ、それぞれ著名な建築家が設計者として割り当てられた。そのうち、もっとも南側に位置する一街区は山本理顕による設計で、L字型に連なる一一号棟と一二号棟が中庭を囲むようにして建ち、やや小ぶりの一三号棟が島のように浮かんでいる。この一街区は二〇〇三年七月に竣工した。それから一三年後の二〇一六年五月一四日、わたしと妻は二人で一一号棟の一三階に越してきた。四年の歳月が流れてその部屋を出ることになったとき、わたしはあの限りない循環について思い出していた。

アトリエに戻るとそこは既に温まっている。さあ、仕事を始めよう。ものを書くのがわたしの仕事だった。だからまずMacを立ち上げ、テキストエディタかワードを開く。さっきリビング・ダイニングで行った準備運動によって既に意識は覚醒している。ただし、その日の頭とからだのコンディションによってはすぐに書き始められないこともある。そういった場合はアトリエの東側に面したテラスに一時的に避難してもよい。 掃き出し窓を開けてサンダルを履く。黒竹の鉢に水を入れてやる。近くの部屋の原状回復工事に来たと思しき作業服姿の男がこんちは、と挨拶をしてくる。挨拶を返す。お隣さんのテラスにはベビーカーとキックボード、それに傘が四本置かれている。テラスに面した三枚の引き戸はぴったりと閉められている。緑色のボーダー柄があしらわれた、目隠しと防犯を兼ねた白い戸。この戸が開かれることはほとんどなかった。わたしのアトリエや共用廊下から部屋の中が丸見えになってしまうからだ。こちらも条件は同じだが、わたしはアトリエとして使っているので開けているわけだ。とはいえ、お隣さんが戸を開けたときにあまり中を見てしまうと気まずいので、二年前に豊洲のホームセンターで見つけた黒竹を置いた。共用廊下から���側に向かって風が吹いていて、葉が光を食らうように靡いている。この住棟にはところどころに大穴が空いているのでこういうことが起きる。つまり、風向きが反転するのだった。 通風と採光のために設けられた空洞、それがこのテラスだった。ここから東雲キャナルコートCODANのほぼ全体が見渡せる。だが、もう特に集中して観察したりしない。隈研吾が設計した三街区の住棟に陽光が当たっていて、ベランダで父子が日光浴をしていようが、島のような一三号棟の屋上に設置されたソーラーパネルが紺碧に輝いていて、その傍の芝生に二羽の鳩が舞い降りてこようが、伊東豊雄が設計した二街区の住棟で影がゆらめいて、テラスに出てきた老爺が異様にうまいフラフープを披露しようが、気に留めない。アトリエに戻ってどういうふうに書くか、それだけを考える。だから、目の前のすべてはバックグラウンド・スケープと化す。ただし、ここに広がるのは上質なそれだった。たとえば、ここにはさまざまな匂いが漂ってきた。雨が降った次の日には海の匂いがした。東京湾の匂いだが、それはいつも微妙に違っていた。同じ匂いはない。生成される現実に呼応して新しい文字の組み合わせが発生する。アトリエに戻ろう。

わたしはここで、広島の中心部に建つ巨大な公営住宅、横川という街に形成された魅力的な高架下商店街、シンガポールのベイサイドに屹立するリトル・タイランド、ソウルの中心部を一キロメートルにわたって貫く線状の建築物などについて書いてきた。既に世に出たものもあるし、今から出るものもあるし、たぶん永遠にMacの中に封じ込められると思われるものもある。いずれにせよ、考えてきたことのコアはひとつで、なぜ人は集まって生きるのか、ということだった。 人間の���密度な集合体、つまり都市は、なぜ人類にとって必要なのか? そしてこの先、都市と人類はいかなる進化を遂げるのか? あるいは都市は既に死んだ? 人類はかつて都市だった廃墟の上をさまよい続ける? このアトリエはそういうことを考えるのに最適だった。この一街区そのものが新しい都市をつくるように設計されていたからだ。 実際、ここに来てから、思考のプロセスが根本的に変わった。ここに来るまでの朝の日課といえば、とにかく怒りの炎を燃やすことだった。閉じられた小さなワンルームの中で、自分が外側から遮断され、都市の中にいるにもかかわらず隔離状態にあることに怒り、その怒りを炎上させることで思考を開いた。穴蔵から出ようともがくように。息苦しくて、ひとりで部屋の中で暴れたし、壁や床に穴を開けようと試みることもあった。客観的に見るとかなりやばい奴だったに違いない。けれども、こうした循環は一生続くのだと、当時のわたしは信じて疑わなかった。都市はそもそも息苦しい場所なのだと、そう信じていたのだ。だが、ここに来てからは息苦しさを感じることはなくなった。怒りの炎を燃やす朝の日課は、カーテンを開け、その向こうを観察するあの循環へと置き換えられた。では、怒りは消滅したのか?

白く光沢のあるアトリエの床タイルに青空が輝いている。ここにはこの街の上半分がリアルタイムで描き出される。床の隅にはプロジェクトごとに振り分けられた資料の箱が積まれていて、剥き出しの灰色の柱に沿って山積みの本と額に入ったいくつかの写真や絵が並んでいる。デスクは東向きの掃き出し窓の傍に置かれていて、ここからテラスの半分と共用廊下、それに斜向かいの部屋の玄関が見える。このアトリエは空中につくられた庭と道に面しているのだった。斜向かいの玄関ドアには透明のガラスが使用されていて、中の様子が透けて見える。靴を履く住人の姿がガラス越しに浮かんでいる。視線をアトリエ内に戻そう。このアトリエは専用の玄関を有していた。玄関ドアは斜向かいの部屋のそれと異なり、全面が白く塗装された鉄扉だった。玄関の脇にある木製のドアを開けると、そこは既に徒歩三秒の自宅だ。まずキッチンがあって、奥にリビング・ダイニングがあり、その先に自宅用の玄関ドアがあった。だから、このアトリエは自宅と繋がってもいるが、独立してもいた。 午後になると仕事仲間や友人がこのアトリエを訪ねてくることがある。アトリエの玄関から入ってもらってもいいし、共用廊下からテラス経由でアトリエに招き入れてもよい。いずれにせよ、共用廊下からすぐに仕事場に入ることができるので効率的だ。打ち合わせをする場合にはテーブルと椅子をセッティングする。ここでの打ち合わせはいつも妙に捗った。自宅と都市の両方に隣接し、同時に独立してもいるこのアトリエの雰囲気は、最小のものと最大のものとを同時に掴み取るための刺激に満ちている。いくつかの重要なアイデアがここで産み落とされた。議論が白熱し、日が暮れると、徒歩三秒の自宅で妻が用意してくれた料理を囲んだり、東雲の鉄鋼団地に出かけて闇の中にぼうっと浮かぶ屋台で打ち上げを敢行したりした。 こうしてあの循環は完成したかに見えた。わたしはこうして都市への怒りを反転させ都市とともに歩み始めた、と結論づけられそうだった。お前はついに穴蔵から出たのだ、と。本当にそうだろうか? 都市の穴蔵とはそんなに浅いものだったのか?

いやぁ、 未来都市ですね、
ある編集者がこのアトリエでそう言ったことを思い出す。それは決して消えない残響のようにアトリエの中にこだまする。ある濃密な打ち合わせが一段落したあと、おそらくはほとんど無意識に発された言葉だった。 未来都市? だってこんなの、見たことないですよ。 ああ、そうかもね、とわたしが返して、その会話は流れた。だが、わたしはどこか引っかかっていた。若く鋭い編集者が発した言葉だったから、余計に。未来都市? ここは現��なのに? ちょうどそのころ、続けて示唆的な出来事があった。地上に降り、一三号棟の脇の通路を歩いていたときのことだ。団地内の案内図を兼ねたスツールの上に、ピーテル・ブリューゲルの画集が広げられていたのだった。なぜブリューゲルとわかったかといえば、開かれていたページが「バベルの塔」だったからだ。ウィーンの美術史美術館所蔵のものではなく、ロッテルダムのボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン美術館所蔵の作品で、天に昇る茶褐色の塔がアクリル製のスツールの上で異様なオーラを放っていた。その画集はしばらくそこにあって、ある日ふいになくなったかと思うと、数日後にまた同じように置かれていた。まるで「もっとよく見ろ」と言わんばかりに。
おい、お前。このあいだは軽くスルーしただろう。もっとよく見ろ。
わたしは近寄ってその絵を見た。新しい地面を積み重ねるようにして伸びていく塔。その上には無数の人々の蠢きがあった。塔の建設に従事する労働者たちだった。既に雲の高さに届いた塔はさらに先へと工事が進んでいて、先端部分は焼きたての新しい煉瓦で真っ赤に染まっている。未来都市だな、これは、と思う。それは天地が創造され、原初の人類が文明を築きつつある時代のことだった。その地では人々はひとつの民で、同じ言葉を話していた。だが、人々が天に届くほどの塔をつくろうとしていたそのとき、神は全地の言葉を乱し、人を全地に散らされたのだった。ただし、塔は破壊されたわけではなかった。少なくとも『創世記』にはそのような記述はない。だから、バベルの塔は今なお未来都市であり続けている。決して完成することがないから未来都市なのだ。世界は変わったが、バベルは永遠の未来都市として存在し続ける。

ようやく気づいたか。 ああ。 それで? おれは永遠の未来都市をさまよう亡霊だと? ��うかな、 本当は都市なんか存在しないのか? どうかな、 すべては幻想だった? そうだな、 どっちなんだ。 まあ結論を急ぐなよ。 おれはさっさと結論を出して原稿を書かなきゃならないんだよ。 知ってる、だから急ぐなと言ったんだ。 あんたは誰なんだ。 まあ息抜きに歩いてこいよ。 息抜き? いつもやっているだろう。あの循環だよ。 ああ、わかった……。いや、ちょっと待ってくれ。先に腹ごしらえだ。
もう昼を過ぎて久しいんだな、と鉄格子越しの風景を一瞥して気づく。陽光は人工地盤上の芝生と一本木を通過して一三号棟の廊下を照らし始めていた。タワーマンションをかすめて赤色のヘリコプターが東へと飛んでいき、青空に白線を引きながら飛行機が西へと進む。もちろん、時間を忘れて書くのは悪いことではない。だが、無理をしすぎるとあとになって深刻な不調に見舞われることになる。だから徒歩三秒の自宅に移動しよう。 キッチンの明かりをつける。ここには陽光が入ってこない。窓側に風呂場とトイレがあるからだ。キッチンの背後に洗面所へと続くドアがある。それを開けると陽光が降り注ぐ。風呂場に入った光が透明なドアを通過して洗面所へと至るのだった。洗面台で手を洗い、鏡に目を向けると、風呂場と窓のサッシと鉄格子と団地とスカイツリーが万華鏡のように複雑な模様を見せる。手を拭いたら、キッチンに戻って冷蔵庫を開け、中を眺める。食材は豊富だった。そのうちの九五パーセントはここから徒歩五分のイオンで仕入れた。で、遅めの昼食はどうする? 豚バラとキャベツで回鍋肉にしてもいいが、飯を炊くのに時間がかかる。そうだな……、カルボナーラでいこう。鍋に湯を沸かして塩を入れ、パスタを茹でる。ベーコンと玉葱、にんにくを刻んでオリーブオイルで炒める。それをボウルに入れ、パ��メザンチーズと生卵も加え、茹で上がったパスタを投入する。オリーブオイルとたっぷりの黒胡椒とともにすべてを混ぜ合わせれば、カルボナーラは完成する。もっとも手順の少ない料理のひとつだった。文字の世界に没頭しているときは簡単な料理のほうがいい。逆に、どうにも集中できない日は、複雑な料理に取り組んで思考回路を開くとよい。まあ、何をやっても駄目な日もあるのだが。 リビング・ダイニングの窓際に置かれたテーブルでカルボナーラを食べながら、散歩の計画を練る。籠もって原稿を書く日はできるだけ歩く時間を取るようにしていた。あまり動かないと頭も指先も鈍るからだ。走ってもいいのだが、そこそこ気合いを入れなければならないし、何よりも風景がよく見えない。だから、平均して一時間、長いときで二時間程度の散歩をするのが午後の日課になっていた。たとえば、辰巳運河沿いを南下しながら首都高の高架と森と物流倉庫群を眺めてもいいし、辰巳運河を越えて辰巳団地の中を通り、辰巳の森海浜公園まで行ってもよい。あるいは有明から東雲運河を越えて豊洲市場あたりに出てもいいし、そこからさらに晴海運河を越えて晴海第一公園まで足を伸ばし、日本住宅公団が手がけた最初の高層アパートの跡地に巡礼する手もある。だが、わたしにとってもっとも重要なのは、この東雲キャナルコートCODAN一街区をめぐるルートだった。つまり、空中に張りめぐらされた道を歩いて、東京湾岸のタブラ・ラサに立ち��がった新都市を内側から体感するのだ。 と、このように書くと、何か劇的な旅が想像されるかもしれない。アトリエや事務所、さらにはギャラリーのようなものが住棟内に点在していて、まさに都市を立体化したような人々の躍動が見られると思うかもしれない。生活と仕事が混在した活動が積み重なり、文化と言えるようなものすら発生しつつあるかもしれないと、期待を抱くかもしれない。少なくともわたしはそうだった。実際にここに来るまでは。さて、靴を履いてアトリエの玄関ドアを開けよう。

それは二つの世界をめぐる旅だ。一方にここに埋め込まれたはずの思想があり、他方には生成する現実があった。二つの世界は常に並行して存在する。だが、実際に見えているのは現実のほうだけだし、歴史は二つの世界の存在を許さない。とはいえ、わたしが最初に遭遇したのは見えない世界のほうだった。その世界では、実際に都市がひとつの建築として立ち上がっていた。ただ家が集積されただけでなく、その中に住みながら働いたり、ショールームやギャラリーを開設したりすることができて、さまざまな形で人と人とが接続されていた。全体の半数近くを占める透明な玄関ドアの向こうに談笑する人の姿が見え、共用廊下に向かって開かれたテラスで人々は語り合っていた。テラスに向かって設けられた大きな掃き出し窓には、子どもたちが遊ぶ姿や、趣味のコレクション、打ち合わせをする人と人、アトリエと作品群など��浮かんでいた。それはもはや集合住宅ではなかった。都市で発生する多様で複雑な活動をそのまま受け入れる文化保全地区だった。ゾーニングによって分断された都市の攪拌装置であり、過剰な接続の果てに衰退期を迎えた人類の新・進化論でもあった。 なあ、そうだろう? 応答はない。静かな空中の散歩道だけがある。わたしのアトリエに隣接するテラスとお隣さんのテラスを通り過ぎると、やや薄暗い内廊下のゾーンに入る。日が暮れるまでは照明が半分しか点灯しないので光がいくらか不足するのだった。透明な玄関ドアがあり、その傍の壁に廣村正彰によってデザインされたボーダー柄と部屋番号の表示がある。ボーダー柄は階ごとに色が異なっていて、この一三階は緑だった。少し歩くと右側にエレベーターホールが現れる。外との境界線上にはめ込まれたパンチングメタルから風が吹き込んできて、ぴゅうぴゅうと騒ぐ。普段はここでエレベーターに乗り込むのだが、今日は通り過ぎよう。廊下の両側に玄関と緑色のボーダー柄が点々と続いている。左右に四つの透明な玄関ドアが連なったあと、二つの白く塗装された鉄扉がある。透明な玄関ドアの向こうは見えない。カーテンやブラインドや黒いフィルムによって塞がれているからだ。でも陰鬱な気分になる必要はない。間もなく左右に光が満ちてくる。 コモンテラスと名づけられた空洞のひとつに出た。二階分の大穴が南側と北側に空いていて、共用廊下とテラスとを仕切るフェンスはなく、住民に開放されていた。コモンテラスは住棟内にいくつか存在するが、ここはその中でも最大だ。一四階の高さが通常の一・五倍ほどあるので、一三階と合わせて計二・五階分の空洞になっているのだ。それはさながら、天空の劇場だった。南側には巨大な長方形によって縁取られた東京湾の風景がある。左右と真ん中に計三棟のタワーマンションが陣取り、そのあいだで辰巳運河の水が東京湾に注ぎ、東京ゲートブリッジの橋脚と出会って、「海の森」と名づけられた人工島の縁でしぶきを上げる様が見える。天気のいい日には対岸に広がる千葉の工業地帯とその先の山々まで望むことができた。海から来た風がこのコモンテラスを通過し、東京の内側へと抜けていく。北側にその風景が広がる。視界の半分は集合住宅で、残りの半分は青空だった。タワーマンションの陰に隠れて東京スカイツリーは確認できないが、豊洲のビル群が団地の上から頭を覗かせている。眼下にはこの団地を南北に貫くS字アベニューが伸び、一街区と二街区の人工地盤を繋ぐブリッジが横切っていて、長谷川浩己率いるオンサイト計画設計事務所によるランドスケープ・デザインの骨格が見て取れる。 さあ、公演が始まる。コモンテラスの中心に灰色の巨大な柱が伸びている。一三階の共用廊下の上に一四階の共用廊下が浮かんでいる。ガラス製のパネルには「CODAN Shinonome」の文字が刻まれている。この空間の両側に、六つの���屋が立体的に配置されている。半分は一三階に属し、残りの半分は一四階に属しているのだった。したがって、壁にあしらわれたボーダー柄は緑から青へと遷移する。その色は、掃き出し窓の向こうに設えられた目隠しと防犯を兼ねた引き戸にも連続している。そう、六つの部屋はこのコモンテラスに向かって大きく開くことができた。少なくとも設計上は。引き戸を全開にすれば、六つの部屋の中身がすべて露わになる。それらの部屋の住人たちは観客なのではない。この劇場で物語を紡ぎ出す主役たちなのだった。両サイドに見える美しい風景もここではただの背景にすぎない。近田玲子によって計画された照明がこの空間そのものを照らすように上向きに取り付けられている。ただし、今はまだ点灯していない。わたしはたったひとりで幕が上がるのを待っている。だが、動きはない。戸は厳重に閉じられるか、採光のために数センチだけ開いているかだ。ひとつだけ開かれている戸があるが、レースカーテンで視界が完全に遮られ、窓際にはいくつかの段ボールと紙袋が無造作に積まれていた。風がこのコモンテラスを素通りしていく。

ほら、 幕は上がらないだろう、 お前はわかっていたはずだ、ここでは人と出会うことがないと。横浜のことを思い出してみろ。お前はかつて横浜の湾岸に住んでいた。住宅と事務所と店舗が街の中に混在し、近所の雑居ビルやカフェスペースで毎日のように文化的なイベントが催されていて、お前はよくそういうところにふらっと行っていた。で、いくつかの重要な出会いを経験した。つけ加えるなら、そのあたりは山本理顕設計工場の所在地でもあった。だから、東雲に移るとき、お前はそういうものが垂直に立ち上がる様を思い描いていただろう。だが、どうだ? あのアトリエと自宅は東京の空中にぽつんと浮かんでいるのではないか? それも悪くない、とお前は言うかもしれない。物書きには都市の孤独な拠点が必要だったのだ、と。多くの人に会って濃密な取材をこなしたあと、ふと自分自身に戻ることができるアトリエを欲していたのだ、と。所詮自分は穴蔵の住人だし、たまに訪ねてくる仕事仲間や友人もいなくはない、と。実際、お前はここではマイノリティだった。ここの住民の大半は幼い子どもを連れた核家族だったし、大人たちのほとんどはこの住棟の外に職場があった。もちろん、二階のウッドデッキ沿いを中心にいくつかの仕事場は存在した。不動産屋、建築家や写真家のアトリエ、ネットショップのオフィス、アメリカのコンサルティング会社の連絡事務所、いくつかの謎の会社、秘かに行われている英会話教室や料理教室、かつては違法民泊らしきものもあった。だが、それもかすかな蠢きにすぎなかった。ほとんどの住民の仕事はどこか別の場所で行われていて、この一街区には活動が積み重ねられず、したがって文化は育たなかったのだ。周囲の住人は頻繁に入れ替わって、コミュニケーションも生まれなかった。お前のアトリエと自宅のまわりにある五軒のうち四軒の住人が、この四年間で入れ替わったのだった。隣人が去ったことにしばらく気づかないことすらあった。何週間か経って新しい住人が入り、透明な玄関ドアが黒い布で塞がれ、テラスに向いた戸が閉じられていくのを、お前は満足して見ていたか? 胸を抉られるような気持ちだったはずだ。 そうした状況にもかかわらず、お前はこの一街区を愛した。家というものにこれほどの帰属意識を持ったことはこれまでになかったはずだ。遠くの街から戻り、暗闇に浮かぶ格子状の光を見たとき、心底ほっとしたし、帰ってきたんだな、と感じただろう。なぜお前はこの一街区を愛したのか? もちろん、第一には妻との生活が充実したものだったことが挙げられる。そもそも、ここに住むことを提案したのは妻のほうだった。四年前の春だ。「家で仕事をするんだったらここがいいんじゃない?」とお前の妻はあの奇妙な間取りが載った図面を示した。だから、お前が恵まれた環境にいたことは指摘されなければならない。だが、第二に挙げるべきはお前の本性だ。つまり、お前は現実のみに生きているのではない。お前の頭の中には常に想像の世界がある。そのレイヤーを現実に重ねることでようやく生きている。だから、お前はあのアトリエから見える現実に落胆しながら、この都市のような構造体の可能性を想像し続けた。簡単に言えば、この一街区はお前の想像力を搔き立てたのだ。 では、お前は想像の世界に満足したか? そうではなかった。想像すればするほ���に現実との溝は大きく深くなっていった。しばらく想像の世界にいたお前は、どこまでが現実だったのか見失いつつあるだろう。それはとても危険なことだ。だから確認しよう。お前が住む東雲キャナルコートCODAN一街区には四二〇戸の住宅があるが、それはかつて日本住宅公団であり、住宅・都市整備公団であり、都市基盤整備公団であって、今の独立行政法人都市再生機構、つまりURが供給してきた一五〇万戸以上の住宅の中でも特異なものだった。お前が言うようにそれは都市を構築することが目指された。ところが、そこには公団の亡霊とし��言い表しようのない矛盾が内包されていた。たとえば、当時の都市基盤整備公団は四二〇戸のうちの三七八戸を一般の住宅にしようとした。だが、設計者の山本理顕は表面上はそれに応じながら、実際には大半の住戸にアトリエや事務所やギャラリーを実装できる仕掛けを忍ばせたのだ。玄関や壁は透明で、仕事場にできる開放的なスペースが用意された。間取りはありとあらゆる活動を受け入れるべく多種多様で、メゾネットやアネックスつきの部屋も存在した。で、実際にそれは東雲の地に建った。それは現実のものとなったのだった。だが、実はここで世界が分岐した。公団およびのちのURは、例の三七八戸を結局、一般の住宅として貸し出した。したがって大半の住戸では、アトリエはまだしも、事務所やギャラリーは現実的に不可だった。ほかに「在宅ワーク型住宅」と呼ばれる部屋が三二戸あるが、不特定多数が出入りしたり、従業員を雇って行ったりする業務は不可とされたし、そもそも、家で仕事をしない人が普通に借りることもできた。残るは「SOHO住宅」だ。これは確かに事務所やギャラリーとして使うことができる部屋だが、ウッドデッキ沿いの一〇戸にすぎなかった。 結果、この一街区は集合住宅へと回帰した。これがお前の立っている現実だ。都市として運営されていないのだから、都市にならないのは当然の帰結だ。もちろん、ゲリラ的に別の使い方をすることは可能だろう。ここにはそういう人間たちも確かにいる。お前も含めて。だが、お前はもうすぐここから去るのだろう? こうしてまたひとり、都市を望む者が消えていく。二つの世界はさらに乖離する。まあ、ここではよくあることだ。ブリューゲルの「バベルの塔」、あの絵の中にお前の姿を認めることはできなくなる。 とはいえ、心配は無用だ。誰もそのことに気づかないから。おれだけがそれを知っている。おれは別の場所からそれを見ている。ここでは、永遠の未来都市は循環を脱して都市へと移行した。いずれにせよ、お前が立つ現実とは別世界の話だがな。

実際、人には出会わなかった。一四階から二階へ、階段を使ってすべてのフロアを歩いたが、誰とも顔を合わせることはなかった。その間、���っとあの声が頭の中に響いていた。うるさいな、せっかくひとりで静かに散歩しているのに、と文句を言おうかとも考えたが、やめた。あの声の正体はわからない。どのようにして聞こえているのかもはっきりしない。ただ、ふと何かを諦めようとしたとき、周波数が突然合うような感じで、周囲の雑音が消え、かわりにあの声が聞こえてくる。こちらが応答すれば会話ができるが、黙っていると勝手に喋って、勝手に切り上げてしまう。あまり考えたくなかったことを矢継ぎ早に投げかけてくるので、面倒なときもあるが、重要なヒントをくれもするのだ。 あの声が聞こえていることを除くと、いつもの散歩道だった。まず一三階のコモンテラスの脇にある階段で一四階に上り、一一号棟の共用廊下を東から西へ一直線に歩き、右折して一〇メートルほどの渡り廊下を辿り、一二号棟に到達する。南から北へ一二号棟を踏破すると、エレベーターホールの脇にある階段で一三階に下り、あらためて一三階の共用廊下を歩く。以下同様に、二階まで辿っていく。その間、各階の壁にあしらわれたボーダー柄は青、緑、黄緑、黄、橙、赤、紫、青、緑、黄緑、黄、橙、赤と遷移する。二階に到達したら、人工地盤上のウッドデッキをめぐりながら島のように浮かぶ一三号棟へと移動する。その際、人工地盤に空いた長方形の穴から、地上レベルの駐車場や学童クラブ、子ども写真館の様子が目に入る。一三号棟は一〇階建てで共用廊下も短いので踏破するのにそれほど時間はかからない。二階には集会所があり、住宅は三階から始まる。橙、黄、黄緑、緑、青、紫、赤、橙。 この旅では風景がさまざまに変化する。フロアごとにあしらわれた色については既に述べた。ほかにも、二〇〇もの透明な玄関ドアが住人の個性を露わにする。たとえば、入ってすぐのところに大きなテーブルが置かれた部屋。子どもがつくったと思しき切り絵と人気ユーチューバーのステッカーが浮かぶ部屋。玄関に置かれた飾り棚に仏像や陶器が並べられた部屋。家の一部が透けて見える。とはいえ、透明な玄関ドアの四割近くは完全に閉じられている。ただし、そのやり方にも個性は現れる。たとえば、白い紙で雑に塞がれた玄関ドア。一面が英字新聞で覆われた玄関ドア。鏡面シートが一分の隙もなく貼りつけられた玄関ドア。そうした玄関ドアが共用廊下の両側に現れては消えていく。ときどき、外に向かって開かれた空洞に出会う。この一街区には東西南北に合わせて三六の空洞がある。そのうち、隣接する住戸が占有する空洞はプライベートテラスと呼ばれる。わたしのアトリエに面したテラスがそれだ。部屋からテラスに向かって戸を開くことができるが、ほとんどの戸は閉じられたうえ、テラスは物置になっている。たとえば、山のような箱。不要になった椅子やテーブル。何かを覆う青いビニールシート。その先に広がるこの団地の風景はどこか殺伐としている。一方、共用廊下の両側に広がる空洞、つまりコモンテラスには物が置かれることはな��が、テラスに面したほとんどの戸はやはり、閉じられている。ただし、閉じられたボーダー柄の戸とガラスとの間に、その部屋の個性を示すものが置かれることがある。たとえば、黄緑色のボーダー柄を背景としたいくつかの油絵。黄色のボーダー柄の海を漂う古代の船の模型。橙色のボーダー柄と調和する黄色いサーフボードと高波を警告する看板のレプリカ。何かが始まりそうな予感はある。今にも幕が上がりそうな。だが、コモンテラスはいつも無言だった。ある柱の側面にこう書かれている。「コモンテラスで騒ぐこと禁止」と。なるほど、無言でいなければならないわけか。都市として運営されていない、とあの声は言った。 長いあいだ、わたしはこの一街区をさまよっていた。街区の外には出なかった。そろそろアトリエに戻らないとな、と思いながら歩き続けた。その距離と時間は日課の域をとうに超えていて、あの循環を逸脱しつつあった。アトリエに戻ったら、わたしはこのことについて書くだろう。今や、すべての風景は書き留められる。見過ごされてきたものの言語化が行われる。そうしたものが、気の遠くなるほど長いあいだ、連綿と積み重ねられなければ、文化は発生しない。ほら、見えるだろう? 一一号棟と一二号棟とを繋ぐ渡り廊下の上から、東京都心の風景が確認できる。東雲運河の向こうに豊洲市場とレインボーブリッジがあり、遥か遠くに真っ赤に染まった富士山があって、そのあいだの土地に超高層ビルがびっしりと生えている。都市は、瀕死だった。炎は上がっていないが、息も絶え絶えだった。密集すればするほど人々は分断されるのだ。

まあいい。そろそろ帰ろう。陽光は地平線の彼方へと姿を消し、かわりに闇が、濃紺から黒へと変化を遂げながらこの街に降りた。もうじき妻が都心の職場から戻るだろう。今日は有楽町のもつ鍋屋で持ち帰りのセットを買ってきてくれるはずだ。有楽町線の有楽町駅から辰巳駅まで地下鉄で移動し、辰巳桜橋を渡ってここまでたどり着く。それまでに締めに投入する飯を炊いておきたい。 わたしは一二号棟一二階のコモンテラスにいる。ここから右斜め先に一一号棟の北側の面が見える。コンクリートで縁取られた四���形が規則正しく並び、ところどころに色とりどりの空洞が光を放っている。緑と青に光る空洞がわたしのアトリエの左隣にあり、黄と黄緑に光る空洞がわたしの自宅のリビング・ダイニングおよびベッドルームの真下にある。家々の窓がひとつ、ひとつと、琥珀色に輝き始めた。そのときだ。わたしのアトリエの明かりが点灯した。妻ではなかった。まだ妻が戻る時間ではないし、そもそも妻は自宅用の玄関ドアから戻る。闇の中に、机とそこに座る人の姿が浮かんでいる。鉄格子とガラス越しだからはっきりしないが、たぶん……男だ。男は机に向かって何かを書いているらしい。テラスから身を乗り出してそれを見る。それは、わたしだった。いつものアトリエで文章を書くわたしだ。だが、何かが違っている。男の手元にはMacがなかった。机の上にあるのは原稿用紙だった。男はそこに万年筆で文字を書き入れ、原稿の束が次々と積み��げられていく。それでわたしは悟った。
あんたは、もうひとつの世界にいるんだな。 どうかな、 で、さまざまに見逃されてきたものを書き連ねてきたんだろう? そうだな。
もうひとりのわたしは立ち上がって、掃き出し窓の近くに寄り、コモンテラスの縁にいるこのわたしに向かって右手を振ってみせた。こっちへ来いよ、と言っているのか、もう行けよ、と言っているのか、どちらとも取れるような、妙に間の抜けた仕草で。

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2021年9月の夢
- 2021年9月30日 木曜日 4:17 夢 カエルという名前は「めしべをたべる」みたいな言葉が縮まってカエルになったらしい。 そらまめみたいなとかげを触る。 部族の人が円になって踊っている。 父がそれらを研究しているらしい。
白いツルツルした竪穴に入る。中は90度に曲がっている。女子に追われている。同級生と中へ入る。 安全なところを探す。例えば畦道の納屋など。体を隠すためにはまずそこが体の入る大きさかどうか見なければ……とエロ本隠し選手権で得た知識が役立っている。 誰かを祝うために土手でクラッカーを鳴らす。ほとんどが鳴らない。最後の二つだけが鳴り、細いテープが放物線を描いて高く飛ぶのが見える。 水川かたまりがいる。 良くも悪くもない夢。
- 2021年9月29日 水曜日 6:50 夢 先生助けてクラス、通常せんたすというものがある。
船に乗ると台風なのか大荒れ。今にも沈みそう。 怖い。降りる。船着場の屋台。煮魚を見ていたら買うと思われて店員の高校生みたいな子に手配される。
電ガマに黄色いビーフンみたいな麺がヒタヒタに入っている。引き上げてボウルにうつす。 ハラ���チ。岩井にめちゃ髭。話しながら顔を近づけていって頬をくっつけるギャグみたいなやつがある。 よつばとっぽいキャラクターを紙粘土で作ったもの。腕が折れる。 10人くらい女性がいる。一人一つアイシャドウを割り当てられており、ペアになりたい女性とアイコンタクトで組む。春っぽい色の女性と組む。爪に海の絵を描く。
中国のスーパーにいる。 母がねじねじの赤い棒と青い棒を買い、当たりが出て10本追加で渡される。折れた部分は店員さんが口に入れてたりしてすごい雑でこっちらしいと思う。 日本でいうところのイオンなのか。男性用の紐パン屋やタトゥー屋もある。写真を撮る。
- 2021年9月28日 火曜日 6:33 夢 実家。正月の雰囲気。食卓の窓側の席におじいちゃんがいる。モスグリーンのセーターの下に赤い襟付シャツを着ていて、すごくしっかりした顔をしている。ハグして元気か聞くと、施設で過ごすのは気が休まらないみたいなことを言う。そうかあ。少し現実とのギャップの違和感があるが、環境が変わったから刺激が良いのかな?と思う。餅を焼く雰囲気がある。しばらく手をつないでいるが、やがておじいちゃんは席を立つ。
布団シーツの中に青緑色に光るタマムシみたいなゴキブリがおり、スプレーを噴射する。浮き上がりながら逃げていくがやがて死ぬ。マクドナルドの紙袋の中にも一匹いる。ノズルが入る隙間だけ開けて、あとはガムテで密閉しようかなと思い、そうする。
飛行機に乗りすぎて飛行機に乗るのは足を洗うためだという人。べつに飛行機は足が洗いやすいというわけでもないのにと思う。だがコックピット側のトイレは段差がそうなっているらしい。 パソコン室。ノートにしていた野帳が先生?のノートに挟まれている。2冊。キミドリ色の野鳥もある。ゴミ箱。けんごが来る。
- 2021年9月27日 月曜日 8:40 夢 文鳥を二羽飼っていて、一羽が死ぬ。ポトリと横になる感じ。 銀行のようなところ。朝礼。人たくさん、バタバタしている。前の列の丸椅子にゴミが置いてあり、黒い液体が滴っている。拭くものを探す。三枚の資料の上に座っている人。Tさんに絵を描いたふせんを渡す。このガヤガヤの中で画板で原稿やってる人がいる。 Tさんと外に出る。パスタ屋、洋食? ケーキ屋などどれに行きたいか話す。 目的の場所に歩いて五分ほどで着く。雨上がりっぽい雰囲気のオフィス街、アーケードの入り口。以前に焼き菓子を売っていると思った店の雰囲気が変わっていた。入ると女子高生みたいな数人がいる。店内がコの字型に進行方向を決められていて、カウンター内は多めに店員がいる。すごく小粒のパステルカラーのチョコレート菓子みたいなものがガラスケース内にある。ツヤツヤの落雁のようでもある。そう高いものではなく、1つ80円くらいか? それを別途平たい専用のギフト箱を購入して、詰めて送るという趣旨。食べることがメインではないかわいさ重視のものもある。出る。
- 2021年9月26日 日曜日 6:07 夢 パトレイバーみたいな3人の女が登場する漫画?アニメ?を見ている。女の描き方がすごく良い、テンプレート的じゃなくて。 親戚の子供が家に寄っていく。机から落ちた時に背中を擦りむいていて、インフルエンザにかかるおそれがあるので病院で軟膏を塗ってもらっていた。 私の母に連れられて戻ってきて、声がでかい、とにかく元気。 知らない人の部屋。スキップフロアで漫画がたくさん置いてある。人がいなければ読める。 持ってるものを見せろと言ってくる。薬袋に文庫の漫画を入れていたが、裸体のシーンがあったことを思い出して子供には見せなくないなという感じがある。 Dさん。忘れ物を回収に行く。引き取り表みたいなレシートがあり、見ると期限切れ。 ごみごみした店内。
- 2021年9月25日 土曜日 7:13 夢 高橋一生の横顔のイラスト、角膜が異常にデカく描かれている。吸血鬼に関するフィクション。
- 2021年9月24日 金曜日 6:47 夢 部屋の中。前の住人が置きっぱなしの細いデスク。2、3台。入子構造。ピーナッツが洗い場にある。 社会人向けの勉強本。を書棚に平積みしているHさん。ポケモンの有名な人。香山哲さん作画。氷ステージの話。 バラバラになったトカゲやワニのおもちゃが転がっている。とりいさん。アカウントを見つけた気がするが気のせい。
- 2021年9月23日 木曜日 7:16 夢 スラムダンクの人。オレンジ色のタートルネックを着て向かいに座っている。高校の入学式だがどこの高校かわかっていない。千葉なんとか高校。 私の友人の同人誌を勝手に回し読みしている。そんな読み方をするものではないと憤慨し取り上げる。ボブヘアの女性が去ろうとし、黄色い本を置いていくように言うと、それは彼女が自費で購入したものだと分かる。置いていきましょうかと聞かれ、私にそうする権利はない、また読んであげてください(?)と言う。
- 2021年9月22日 水曜日 7:56 夢 実家。唐揚げがあり、妹がつまみ食いしている。私も食べる。 手羽元と大きい四角い唐揚げがある。 軟骨のところをくれるなら四角い唐揚げを譲ると持ちかけられ、妹は本当に優しいなと思う。 祖父が出かけていく。
- 2021年9月20日 月曜日 8:04 夢 Mが経費でフィリップスの体温計などを購入しており、引っ掛��りを感じる。私物では。 Mの家族が二人、病気で亡くなったと連絡が入る。
ショッピングセンターの吹き抜け空間から大急ぎで地階へ降り、走って遠ざかる。外は暗く、人通りがない。追われているというか、鉢合わせしないように急いでいる。道を進むと門扉があり、女性二人がタクシーを拾おうとしている。私はマフラーがひっかかる。 間に合えば乗せてもらえたのに。
- 2021年9月18日 土曜日 8:38 夢 学校。自動車。 モンゴルナイフさん。記事のオチ。障子の枠に動画をはめ込んでいるが、無料版のロゴがちらほらある。 明日、共産主義について作品の概要を絡めた発表をしなければならない。 オッドタクシーのヤノに関する情報。
- 2021年9月17日 金曜日 8:06 夢 ご近所のH家の整骨院。 紙コップの中に値札。 高いところから降りる。 妹、降りると見せかけてお茶を飲んだりおにぎりを食べたりしている。笑いが起こる。 おもちゃ屋。記憶を思い出す感じとワールド生成が同じ。
- 2021年9月16日 木曜日 8:58 夢 実家の自室(という設定)を片付けている。 左のひきだしを開けると記憶にないパンやミスドやクロワッサンがたくさん出てくる。砂糖が層になって固まっている。恐ろしい、と同時にまだ食えるかなとも思う。あまりに原型を保っているので。 服も出てくる。今の雰囲気のものが多い。 アンパンマンの形のキャラメル色の飴が3つあり、1つ食べる。味はなし。 外箱を捨てた動物型の石鹸。 運動するためにゴムバンドを貸してもらう。以前に譲ったもの。 別の人とその話をするが、イヤな感じが出ないように気を使う。
- 2021年9月15日 水曜日 7:43 夢 どこかで働いている。薄暗いバーのようなところで中華飯を食べてから帰宅する。私含め3名。
- 2021年9月14日 火曜日 8:25 夢 釣りに行く 車の中にものを残さないようにと連れに言う ロッドを伸ばし組み立てるのだがやり方がよく���からない 隣に鈴木もぐらがいて聞こうとする 水に浸かる 数人は早く引き上げても良いとのことで決を採るが、Iさん(会社の人)のグループだった。
- 2021年9月13日 月曜日 8:19 夢 高所に横一列で座っている。 いつも昼食にパンを食べる人 という人が隣に座っている。見た目はシルバニアファミリーのよう。 すごくギリギリで落っこちそうなくらい。 その人はぐるぐるの渦巻パン。 自分はクロワッサンのフレンチトーストのようなもの、そして袋に入ったコオロギ? カナブンのようなもの 虫は食べられるが、暗いから大丈夫だっただけで明るいところで食べるのは怖い。 ドラゴンボールのUFOキャッチャーの表示を読む。
- 2021年9月12日 日曜日 7:15 夢 ビーフシチューの試食の鍋が置いてある。 感染予防を気にしている かをりさんがいる 手帳の線を定規で引いている点を誉める 霜降り明星がいる すごく面白いものを見る シンプルでかわいい蓋つきの茶器でお茶を飲むことにする 山崎に話しかけられる 6人掛けテーブルの座れるところに座る グミの実(とされているもの)を食べる 中央に細長い種が入っているのを警戒して食べているが、ナスのような種だった。それよりも外皮が硬くて口に障るらしい。 小さなグレープフルーツのような実がありえないくらいたわわに実っており不吉。
- 2021年9月10日 金曜日 6:48 夢 潰れたATM機器がおいてある施設の中に入る。診療所の一角だったらしい。
- 2021年9月9日 木曜日 6:54 夢 換気扇からでかいコザクラインコが入ってこようとしている。
- 2021年9月8日 水曜日 7:00 夢 幽霊の出る部屋。 妹が賃貸している。ベッドで眠っており、寝付けない日にパタパタ手を叩いていると、壁から合いの手が聞こえたとのこと。 収納がとにかくでかい。入り組んでいる。祖母の古い家みたい。 さっきとドアのサイズが違うんじゃないかと指摘され、アッと思うが、閉じると合ってるので視覚的にそう見えただけだった。 チーズケーキでも焼こうかなとする。 眠る。妹が手に腕を絡めてくる。怖いのだろう。 何度もあり、中にはピアノ、グランドピアノじゃなくてもっとちゃちな小さいピアノが収納されている。
トランブルーのクロワッサン5つ。3000円くらい。 とんこつラーメン屋の近くに来たということはパン屋が近いということだと言い合う。 この場で食べない選択をした人達用に、小皿にコロッケを乗せて卵を割り、何か副菜を添えたものを持ってきた のりべーがいる。人と連絡を全く取り合っていないそうで、空っぽのタブレット端末を見せてくれる。ゲームのアプリが一つ入っている。ピッコロ・前衛隊員・みたいな画面が出る。 ご飯を食べている。唐揚げが盛られた皿がある。 目の前にKがおり、何か意地を張って唐揚げには手をつけないという態度を取っている。 店員さんなのか若い中国人みたいな女性がさらに追加の唐揚げを持ってきて置く。Kも取って食べ、今日は途中でお菓子を食べなくても済みそうだという旨のことを言った。
学校の風景。半ズボンの女子制服。
- 2021年9月7日 火曜日 6:46 夢 Tさんの事務所?にいる。昼寝をすると言っている。 父に何か映画を見た話をする。一本しか観れていないことに気づく。 寒い屋外。犬猫が柵の中で遊んでいる。細い路地。 母がいる。母を追いかける。指一本で手を繋いでいると、生後間もない弟がしぎ死んだことを思い出すのでやめろと言う。 狭い店舗。CD屋。オザケンみたいなアーティストがライブか何かをしている様子。隣の雑貨屋。砂場とかで型抜きするためのカタ。
- 2021年9月6日 月曜日 6:46 夢
- 2021年9月5日 日曜日 6:56 夢 インド、乗合バス。屋根から��り落ちそうになる。順に座っていく。親しい人がおらず、ほとんど喋ってない人と話す。改名していた。静ではなく静香(しずかお)。 ローションをこぼす。 顎下まで水がきている部屋。 順平の友達。 文法の暗記。授業。
- 2021年9月4日 土曜日 7:09 夢
- 2021年9月4日 土曜日 7:09 昨日の夢
- 2021年9月2日 木曜日 6:53 夢 ビーチを歩いている。コの字型に曲がったビーチで、道案内をしてもらうのだが分かりにくい。BBQをする。風が強く難儀する。
- 2021年9月1日 水曜日 7:33 夢 ウリマトスさんの誕生日らしい 古家二つを購入して若者で大騒ぎしながら住んでいる
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16.12.9 ヒーローはギャンブルで語る
感覚のなくなりかけた心に降り注ぐ四十三度のシャワー。 あいつの顔がまだ傍にいる気がする。
「ソニックのバカー!」 声帯が切れてしまうかと思った。声帯がどんな形をしているのかはっきり知らないが、帯というのだから、痛いほど震わせすぎたら繊維みたいに引き裂かれてしまうのだとエミーは考えている。反対に唇を引き結ぶソニックは、きっと何か言いたいだろうにじっと我慢しているのが窺がえた。相手の年齢こそちょっとお兄さんだが、まるで同級生の素直じゃない男子と向かい合っている気分だ。 エミーはまだ、ぜえぜえと息を切らしている。もう一度「ばか」と小さく悪態をついたのが彼にも聞こえただろうか。思いのほか透明な声が出た。声帯は無事だった。だが堪忍袋は無事じゃない。 今度こそデートしてくれるって約束したのに。いつもいつもいつもいつも、これがいつもっておかしいでしょ! 「もう、絶対、今度こそ、ほんとに、許さない!」 鼻水を汚らしくすすりながら喚き散らす姿、乙女じゃない。でも何だっていいのよ! アタシが怒ってるってことがソニックに伝わりさえすれば! 無表情のような、そうじゃないような顔をしたソニックが朧になる。水彩画みたいな幻想はすぐにグズグズに変形し、もうほとんど何も見えなくなり、エミーは涙を拭って駆け出した。涙が取っ払われた一瞬見えた、ソニックの唇のかすかな戦慄きは見なかったことにして。
あれからしばらく経った頃だった。 ソニックが、今まで親しかった仲間たちに寄り付かずやたら一人で過ごすようになったのは。 でも、みんなその理由を言わないようにしている。今日も街は平和で、 退屈。 本当はみんなそう言いたくて仕方ないのだ。エミーは退屈が嫌いだから、何回でも言うけれど。
「エミーさん、お出かけデスか? 白いコートとっても可愛いデス!」 「ええ、そう~?」 「それからお花のついたカチューシャも」 「チャオー」 「ありがと、クリーム、チーズ。今日は決戦なの。決戦の金曜日」 「わあ……エミーさん、いつもと気合の入り方が違いマス。背後で炎が燃えてマス」 そう、今日は「いつも」と違う。あのソニックがめずらしくデートの誘いを受けたのだ。 あんまりにお前がしつこいからついに折れたんじゃねーの、とここへ来る前に果物屋で会ったナックルズにからかわれたが、それで構わない。重要なのは今日一日ソニックの隣で歩けること。それだけでエミーは十分幸せだった。普段好き勝手しているソニックにも、たまには人に合わせることを学んでほしい。 昨晩もらったビデオ電話で「静かなカフェテリアの一席を予約しといてやるからさ」と彼は言った。テイルスに作ってもらった通信機での会話だけれど、エミーは嬉しくて嬉しくてつい通信機ごと抱きしめてしまった。慌てて離れると画面の向こうでソニックは視線をふらつかせた。きっと照れていたのだ。 しかし今日は生憎の雨だった。せっかく買ったコートも濡れてしまいそうで、まだ昼時なのにまるで夕方のように暗い街を警戒しながら歩いた。ブーツが水溜りに入りそうになるたび不安になる。 デートに長靴なんて履いていけるもんですか。せめて可愛いデザインのものを持っていれば……。 道路を走る車のヘッドライトがしとしと降る雨粒の連なりを照らし出す。タイヤからクジラの潮吹きのような飛沫が上がり、大袈裟に飛び退いてしまう。「Hey!」と呼ばれたのはそのときだ。 ソニックは歩道の脇のベンチに、傘をさして座っていた。白いマフラーを巻いて、足を組んで、缶ボトルのコーヒーに口をつけて、ぼんやりとエミーを眺めていた。「Watch your step.」「へ?」駆け寄ろうとしたら視界がくんっ、と前に半回転した。 ふわりと白いのが頬に当たったと思ったらマフラーだった。ソニックは何事もなかったかのようにエミーに体勢を立て直させて、また目にも止まらぬスピードでベンチに戻る。「滑りやすいから」そして濡れてアスファルトに貼り付く黄色い葉を指差した。 「ソニックぅ……」ああ、うっとり。 「雨の日に真っ白なもの着てくるなよ。汚れるだろ?」 言い方が優しい。咎めているのではなくからかっているのだと、ちゃんとわかるくらいに。 この角を曲がった大通りにイチョウ並木があり、木枯らしが吹く頃になると黄色い渦が絶えない。さらに冬が深くなると、ギンナンがすごく臭い。 今度はちゃんと歩いて近寄る。もう一つわかったことがある。彼の用意した「静かなカフェテリアの一席」の正体というのは……。 「チョコレートケーキのおいしいお洒落なカフェを期待してたのに、これじゃカフェテリアじゃなくて、もはや野外じゃない!」と拗ねておいた。これくらい言ったって大丈夫だろう。「しかも車ガンガン通ってるから、静かじゃないし」 ソニックはまた一口飲んで、「店内のジャズを掻き消すくらい、人がぺちゃくちゃ話してるだけの密室空間、オレが好き好んで予約なんて取るわけないだろ?」 「それもそうだけど」確かに、この状況は半分予想通りだったりする。13時を回り、オフィスの昼休みも終わって、金曜日の雨の街に人はまばらであった。 畳んだタオルを隣に敷いてくれたのは彼なりの気遣いだろう。エミーは傘をたたんで、ソニックの隣でちょこんと座った。彼のさす傘はモミの木を髣髴とさせる深い緑色で、こんなパラソルのあるカフェテリアどこかで座ったことがある。跳ね返る雨もさして大粒ではない。時々、車や人が通って、景色は忙しないけれど、二人きりのベンチに収まってしまうと存外周囲の音は煩わしくなくなった。おばさんたちが職場や嫁の愚痴で盛り上がるカフェより落ち着くのは、言えてる。 何より、普段より無口なソニックは却ってどっしり構えている気がして、隣にいると安心する。 ただ、寒い。 「ねーえ、ソニック」 「くっつくなって」 「だってえ、寒いんだもん」 今日の彼は、すばしっこさがないというか、全体的に動きが鈍い。寒いからだろうか。好都合だけれど。 「ところでアタシの飲み物は? もしかしてソニックが飲んでるそれを二人でシェアするカンジでいいの? やっだ、それって関節キ」 「向かいに自販機あるから買ってこいよ」 「もうっ空気読めないわね。ムード考えてよ、ここは二人でひとつでしょ!」 イチョウの葉で濡れた道路脇のベンチでムードも何もあるか、という風にソニックは溜息をつく。いじわる。 「これからどこ行く? まさかずーっとここで寄り添い合ってるつもりじゃないんでしょ? アタシはそれでもいいけどお」 「ジョーダ��よせよ。明日風邪でノックダウンだぜ」 そういえばソニックの横顔を、こんな近くで見つめたのは久しぶりだ。困ったような顔だからか、少し雨粒で濡れているからか、結構、キリッとして見える。素敵。 「あ、10分で終わる音速ジェットコースター風景巡りは、なしだからね」 「手厳しいな」 「当たり前! 今日はデ・エ・トの約束でしょ!」凄むと、ソニックはお手上げと言わんばかりに両手を挙げた。それから、オーケー、と溜息混じりに言う。 「エミーのしたいことに付き合うつもりで来たんだ、今日は。ショッピングでもスイーツでもカラオケでも、何でもいいぜ。ただし長時間同じ場所に滞在したくないな」 「いいわよ、ソニックがずっとおんなじ場所にいられないのよく知ってるもの。え、ていうか、本当に? アタシの行きたいところどこでも付き合ってくれるの?」 「今日は特別だぜ?」 彼の機嫌が特別よさそうには見えなかったが、ウィンクのひとつもなかったが、そう言われたら遠慮はしない。早速彼の手を引いて駅前のショッピングモールへ飛び込んだ。 なんだか変なソニック。 「エミー、これ、エッグマンが作ったポンコツロボットに似てるよな」 店内の壁紙や棚まで木でできたこじんまりした雑貨屋でモコモコスリッパを見ていたら、急に横から喋りかけられたので目を転じると、彼は木彫りの小さな置物を差し出してきた。丸いタマゴ頭に丸い胴体、丸い手足、丸い目、の下にジグザグのヒゲ……なるほど、彼らのよく知る悪の天才科学者によく似ている。思わずエミーも噴き出してしまった。 「なにこれ! エッグマンそっくりー!」 「これにデコのゴーグル描いたら、まんまだぜ」 ソニックというハリネズミは意外にも、大きな絵画から小さな貝殻まで、何でも興味を持つ。かと思��ば興味のまったく湧かないものは見向きもしない。彼の好奇心は微妙な感覚らしく、エミーやテイルスでもたまにわからない。 店内をうきうきと巡るエミーの後をついていっている間、ソニックはエッグマン似の木彫りの置物をくるくる回して、離さなかった。会計のときになって「それ買うの?」と聞かれると少し黙ったが、結局、300リングと引き換えに最後までそいつを離さなかった。 「ソニックでもそうゆーの気になっちゃうんだ」 「別にいーだろ」 「責めてないわよ。いいじゃない」 エミーはソニックがそれをつい買ってしまった理由を想像しかけて、やめた。 ショッピングモールでしばらくソニックを連れ回していたが、彼が早々に疲れてきたようなので、一旦出た。相変わらずの雨と極寒だった。ソニックは木彫りエッグマンをやっぱりくるくる回しながらマフラーひとつで悠然と歩く。足取りのしっかりした彼と対照的に、何故だかエミーは、心に少しずつ不安が搔き曇っていくのを感じていた。地球でもっとも寒いホロスカを、ハダカに手袋という変態のような姿で駆け走ったソニックの耐性に違和感があるのではない。かといって彼が急にエッグマン似の人形を買ったことを気味悪く思ったわけでもなかった。 もっと、それこそ微妙な感覚で作用するべきものが、デートで浮かれたい気分を邪魔してくる。これはとてもウザい。でも、ソニックの気持ちを置いて一人で楽しめるほど、自己中じゃないつもりだ。 どこかでお茶したかった。互いの目を見つめてゆったりと話せたら何か変わるんじゃないか。ソニックと二人で楽しく過ごしたいからこそ。 「ね、さっきのベンチに戻って休まない?」 イチョウ並木の近くの? とソニックは目を丸くした。「多分びしょ濡れだぜ」 「またタオルで拭けばいいでしょ? せっかくソニックが選んでくれたカフェの席だし、あそこが何だかんだ、あんたは一番落ち着くくせに」 ソニックはハリを掻きながら苦笑した。星型にも近いコバルトブルーが大きく揺れる。 多分、ソニックは、本当はデートなんてしたくないのだ。でも、走りたい気分でもないから困っていたのだろう。雨続きだし、最近何も考えず地球を走りに走っていたはいいがいい加減飽きたし、それで、今この街をふらふらしているのだ。この、事件も事故もない、平和な街を。 「せっかくの白いコートがトラックの水飛沫で濡れる覚悟は?」 「うそ、あそこって飛んでくることあるの!?」 「道路と結構近いし、最初オレが来たときにちょうど水かぶってたぜ。サーフィンできそうなくらいの凄まじい水飛沫がな」 「それもう飛沫ってレベルじゃないじゃん。ていうかそれわかっててアタシをあそこに座らせたの!? 信じらんない!」 「Oh-oh….悪かったって」 「前言撤回、やっぱあったかいカフェでのんびりココアでも飲みましょ。はい決定。今日はアタシのプランに付き合ってくれるって言ったわよね!」 「オレは外の方が好きなんだけどなあ」 悪い科学者が襲来するのを彼は待っている。 悪役がいなければ彼はヒーローにもなれない。退屈だろう。 イチョウ並木を足早に引き返しながらエミーはひっそりと、ソニックの心を想った。拗ねるなよ、とソニックの拗ねたような声が届いた。後ろ姿と歩調は本当に気持ちが出てしまうんだとエミーは思い知ることになった。 イチョウの葉は人々の足跡でどろどろだった。からっとした晴れの日はすぐ風に舞い、濡れればぺったり貼り付いて足が滑りやすい。まるでテンションの落差が激しいおてんば娘みたい。自分にそっくり。 さみしそうな背中をアタシはしてるのかしら。アタシわがままなのかしら。 「ねえ、早く目が覚めてくれるといいわね」 さみしいのは。 「エッグマン」
乱暴に引き寄せられた。 白く霞む雨道では、風が吹いても、べったりと地面に張り付いたイチョウの葉は渦を巻くことはない。だから、周辺を歩いていた誰も、二人のハリネズミが突然消えたことに気づかなかっただろう。 誰の目にも止まらぬ速さで、細い路地に連れ込まれたエミーの前に広がったのは、ただただ細いだけの、路地の光景だった。雨でカビ臭い。左右の壁は多分民家だ、建物の窓をぴったり閉めてある。一本向こうの通りを歩く人が見える。思いのほかはっきり見える。道幅は、ハリネズミが二人並べないほどとても狭い。 彼の名を呼びたいのに声が出ない。 エミーは背後から締め付けられていた。 左右の白い壁が今にもこの身体を潰そうと迫ってくるような恐怖を背負った、ソニックの体温にぴったりと口を塞がれて、身体の線が、攣っていた。まるでこれから誘拐されるかのようだった。ソニックの力は優しい。もがけば簡単に振り解けるだろう。 「……どう、したの」 傘はイチョウ並木に落としたままだ。肩がどんどん冷たくなっていく。離された口元がまだ熱い。 「ビビって、どうしたのよ」 今日一緒にいたソニックは、まるでソニックじゃないような気がしていた。 「エッグマンが――誰かに襲撃されて、大爆発から逃げ切れなくて今も昏睡状態になってても、あいつはちょっとやそっとじゃ終わらないって、どうせ知らない間に回復してまた悪さをし出すんだって、いつもそう言い続けてたのはソニックじゃない」 もう半年経つ。遅すぎる、とは思う。 きっとソニックは何かを知っている。だから苦しんでいる。 「アタシたちはいつも通り平和な街を用意してればいいのよ。いつでもぶち壊せるように、そしてソニックがアタシたちをすぐ助けてくれるように」 どうしていつも大事なことを喋ってくれないの。 誘拐犯のように、悪の天才科学者のように。このまま街をひっくり返す事件が何も起こらなければ、ソニック自身が何かしでかすのではないかと思った。エミーと同じだった。彼も退屈を嫌う。自分に障害物がないことに退屈を感じる。だから追いかけてくる自分の存在だって、本当は、ちょっと可愛がられているのだと信じている。 ここでアタシがまた邪魔しないと、こいつ、ヒール役になっちゃうかも。 そんなはずがない。ソニックはソニックのままだ。でも、何故だかそんな悪い予感が加速する血流と共に全身を駆ける。雨が冷たく、皮膚だけが凍えていく。必死に吐いた息は真っ白だ。 何なのよこの悪寒��。 エミーは小さな破裂を繰り返すかのように身体をゆさぶって叫んだ。 「だからヘンなこと考えないでよ! アタシの隣にいて、ソニック!」 「大丈夫だ」 振り返ると雨音が目の前に迫った。 ソニックの眉間には雨粒が乗っていて、ぽつん、と鼻に落ち、はじけた。雨脚が地面を叩く音で割れたエミーの叫びはどこにも木霊せず、ただソニックにぶつかり、ソニックの中に吸収されたのだろう。でも、今の「大丈夫だ」は、エミーの訴えに対する何の返答にもなっていなかったことを、このときエミーは、気づけなかった。 「大丈夫さ、エミー」 ソニックの凛々しい微笑みが。 唇を熱くする。キスなんてされてないけど、されたあとのように。 血の加速が緩んで、甘い言いつけに乙女は、ほんと? と不安な気持ちをそのまま声にこめる。ソニックはけらけらと笑う。 「Of course. あの間抜けなヒゲオヤジがそう簡単にくたばるわけないだろ。ちょいと罠にハマって爆発に巻き込まれただけなんだ。どうせ自前のロボットか何かで地中にもぐって脱出でもしてるさ。ナックルズみたいに」 「誰がエッグマンを襲撃したのかわかってるの?」 「あー、エッグマンネガ。ほらあの、エッグマンの子孫とかいうヒゲタマゴ」 ブレイズやシルバーが忌々しげに彼の話をしているのを聞いたことがあるが、祖先であるエッグマンに嫌がらせをしに時々こちらの時代へ飛んでくる、という情報しかエミーは知らず、本人を目撃したことはない。木彫りエッグマンよりも顔は似ているのだろうか。 あ、と息を衝いた。 ソニックの表情は和らいでいた。憑き物が取れたみたいだった。自分がめちゃくちゃな思いのまま訴えたことが効を奏したのだとエミーの胸は晴れやかだった。 「……今あいつの心配をしたって、しょうがないわよ。ね、気を取り直してデートの続き、しましょ」 「なあリタイアって選択肢はなしか?」 「ソニックあんた何度も同じこと言わせないで。今日はアタシに一日付き合うって。今日は特別だって。忘れたとは言わせないからね」 「参ったな」 腕を組んで、うむむ、と唸った末に。 今日は特別。それを最後まで撤回しなかった。本当にソニックはエミーの荷物を抱えながら一緒にショッピングして、服を見て、おいしいパスタを食べて、特にラブラブなイベントも起きないまま夕方、普通に別れた。それでもエミーにとっては喜びで胸いっぱいになれた一日だった。 イチョウ並木での別れ際、ソニックは小さな巾着袋を放り投げてきた。 「何これ」 「お守り」 これも雑貨屋で買ったのか。何のお守りか訊ねる前に「See you,Amy! 気をつけて帰れよ」と雨粒できらきら光るクリスマスツリーのようだった傘を手早く畳み、今日初めて彼は走った。木枯らしよりも寒い風が立った。かろやかな足音が遠ざかるたび傘の水滴が光って落ちた。 プレゼント? うそ、ソニックから? 夢見たい! 耳が霜焼けで痛いのなんてどうでもいいくらい気分が高まって、お守りを握り締めたまま走って帰った。走らずにいられなかった! 雨はいつのまにか止んで、まだ空はどんよりしていたけれど、ああもう二度とこんな日は訪れないんじゃないかと思うくらい楽しくて、ソニックと取りとめのないことをもっともっと喋っていたかったという余韻に帰ったあともずっと浸っていた。本当に、特別な日だったな。ソニックそんなにエッグマンと会えないのが寂しいのかしら。素直じゃないんだから。アタシの前でももっと素直になってくれたらいいのに。 特別。その言葉を何度も咀嚼する。甘いひとときは噛むたびに味を失っていく。ガムのように。 もっと早く違和感を抱くべきだったのだろうか。
焼け野原でエミーは泣きそうになっていた。 空はあんこを引き延ばしたような黒、足元はベリージャムに飴細工、それが人体の変わり果てた姿と、その中身だと気づき、恐怖が閃光となって全身を撃ち、逃げ惑う。戦車も、ビルも、ひっくり返っていて、ここがどこかはわからない。何かに躓いて転がった。何よ、と叫びながら振り返るとたくさん枝の分かれた大木が横たわっていた。丸坊主だ。しかしイチョウの木だと、何故かわかった。むせ返るほどのギンナンの臭いがエミーの胃をこじ開けようとする。やめて、と口を押さえる。 助けてソニック。 もうアタシ一人なんだと思った。涙が止まらなくて息が苦しくなった。テイルスもナックルズもクリームも、それこそエッグマンも、みんないない、真っ暗で何も残されていないのだと思った。さっきまで空が見えていたはずなのに、足元の、自分の赤いブーツしかぼんやりと照らされない。どんどん視界が狭く……。 このまま闇に押しつぶされたらアタシも消える。ここから逃げなきゃ。意を決して顔を上げた。その先で――。 ソニック。 ソニック? 何かの残骸の小山に彼は立っていた。今すぐ駆け寄りたいのに、抱きしめて、ソニックと名を呼びたいのに、金縛りに遭ったかのように爪先一つも動かせない。それどころかまばたきさえできているのは謎だ。 ソニックの目元は夕霧のような影を帯びて、その奥に眉間のシワがはっきりとした黒い線で引かれていて、瞼が重いのか、まなじりが上がっているのか下がっているのかよくわからない目をして、やっぱり口は閉じていた。今まで見てきたあらゆる表情の中で、一番無表情に近かった。彼の浮かべる顔はいつも、何かしらはっきりした着色がされていたのだと気づいた。 みんなの前で「ソニック」を演じているのではない。それはちゃんとわかる。どんなソニックもソニックに決まってる。ただ、彼には、一人のときしか見せない顔もあるという、それだけの話だ。 エミーは、何だって喋りたい。喋っていい内容、喋っていい雰囲気はもちろん選ぶけれど、そのときの感情は我慢しない。たまに爆発させすぎて後悔をすることはある。じゃあ、ソニックに後悔はないのか。なんにも言わないから、風の体現者としてヒーローとして必要以上のことをみんなに晒さないから。 傷つくこともないって? 「それはあんたがまだこどもだからなの?」 やっと、声が絞り出せた。掠れ切ったかっこ悪い声だった。 視線が向く。ソニックの口元は上向きに弧を描く。初めて出会った��きから変わらない笑顔だ。きっと誰にでも同じ顔を向けている、彼の表情に特別はない。ただいつも何か楽しそうにしている、人懐こくて飾らない表情。オレは誰よりも自由だと象徴する、縛られるものがない者にしか浮かべられない表情――。 「教えてくれなければ、誰にも、なんにも、伝わらないのよ。それがわかんないほど、こどもでもないくせに」 この地獄をあなたが作ったの、それとも助けにきてくれたの。あるいは、これはどこかの未来の世界で……あなたはもしかしたら未来からやって来たソニックで……。 どれも違う。あなたは。 「つれてって。ヒールでも誘拐犯でもなっちゃえばいいのよ。だってアタシは、あなたが何を選択したって、世界とソニックなら、ソニックを選ぶもの。あなたと一緒なら怖くない。姿を消すならアタシを攫ってからにしてよ!」 言ってよ。あなたが企んでいること。アタシだって力になりたいわよ。 彼は退屈すぎておかしくなったのだ。そんな状態で一人で戦いに行かせたくなかった。シャドウほどじゃないにしても、彼は目的のためなら手段を選ばない、それも自分一人の目的のためならきっと簡単に命を賭けてしまう。まるでカジノに所持金を全部投げつけるみたいに。だから彼は他人をシビれさせる。正真正銘のクールな男だ。 みんな言う。だからソニックには何言ったってしょうがないんだって。彼もとやかく詮索されるのは嫌なはずだ。でも。 「アタシ、いつも、なんにも知らないまま待ってるだけなの、いやだ」 心のやわらかいところが、ついに裂けた音がする。 「でも、それでも、あなたがって言うなら。アタシいつまでも待ってるから。帰ってきて。お土産話も忘れちゃだめよ」 ソニックが少しだけ目を見開いたのは気のせいかもしれない。でも笑い方は……少し変わった。
もっと現実のにおいがする闇の中で、エミーは枕元の巾着を握っていた。魘されながら無意識に求めていたみたいだ。ソニックの風を少しでも残すものを。 そうだ……忘れていた。互いの腹を割って話したかったはずなのに、ソニックの「大丈夫さ」に安心した途端、本当に大丈夫だって思ってしまった自分が憎たらしい。ばかだアタシ、と呟く。天井にも届かない声は、エミーの中に染み渡り、ひりりと痛んだ。 巾着袋は麻紐できゅっと口を縛られている。そっと紐を解いた。途端、暗闇に湖が浮かび上がった。その正体は巾着から溢れ出した強い光。中に宝石を粉々に砕いたものがたくさん入っている。かなり細かい破片だが、大きさや形の統一感のなさから、市販の商品ではない。 これはカオスエメラルドだ。 ……これを渡すために、会ってくれたんだ。 寝汗でびっしょりの身体を引きずってエミーはシャワールームの扉を開けた。四十三度のシャワーは痛かった。元々熱めの湯は好きじゃない。夢の中では蹲って咽び泣いていたにも関わらず、目が覚めても、エミーの眼球には湿った膜の一つも張っていなかった。恐ろしく乾いていた。だから。 シャワー���浴びて洗面所の鏡に映る自分に少しだけ水滴が伝っていて、それは口に入るとしょっぱくて、びっくりした。びっくりしてもっと涙が溢れた。
「今までにありないくらいの寝坊だよ。ボスは早起きが結構得意だったのに」 「タフとはいえ、もう老体です。予想以上にダメージがあったんでしょう。ボスはロボットじゃないですから……」
185cmの128kg、IQ300で自称「悪の天才科学者」、そんなふざけた男が繰り広げる悪巧みを一つ残らず蹴散らしてきたソニックにとって、Dr.エッグマンと瓜二つの男から玩具にされるのは屈辱といっても過言ではない。彼はエッグマンの戦闘ロボットの大半を自分のCPUに改造し、未来世界へ持ち帰って、世界滅亡を目論んでいた。そこへ殴りこみにいたソニックは血のにおいをまといながら磔台で晒し者にされていた。 エッグマンネガはマフィアのようなサングラスをして、ヒゲを撫でる。「クーククク。こんな時代遅れのハリネズミ相手に苦戦するとは奴もヌルい。我がエッグマンネガ軍団の威力のお味はどうでした」 「スパイスが圧倒的に足りないね。これじゃエッグマンのヌルいパレードと同じじゃないか」 隕石が頭に落ちたと思った。エッグゴーレムの拳が磔台を傾けた。ソニックの目の前は星と共に無数のフラッシュバック。オーボットに渡された小型の機械。おびただしい管に抱かれたヒゲオヤジ。静まり返った基地。駆け寄ってくるエミーの朗らかな笑顔。雑貨屋で手に取った木彫りの置物。 「こら、落ちちゃいますよ」と宥めるエッグマンネガの口の中には溶けたガムでも貼り付いてるのかと思うほど、耳障りな響きでこいつは喋る。 「ならば台詞を変えましょうか。自分が沈めてきたロボットたちに甚振られる気分はどうです? ソニック・ザ・ヘッジホッグ」
「これがボスの作った『秘密兵器』です。エッグマンネガが襲来する数日前に、急に我々に渡されたんです。どんな威力かは教えてくれませんでしたが、カオスエメラルドを使えば威力は増幅するそうです。これなら一発でソニックの奴など木っ端微塵、って」 「お前たちにも渡しておくってボス言ってたけど、ボスも同じの持ってたのかな~……。何でボクたちにだけくれたんだろ」
エッグマンがこの事態を想定していた可能性はありえる。だからオーボットとキューボットにあれを託したのだ。本人としては自分たちのロボットに仇を討たせたかったかもしれないが、残念。面白そうな予感に嗅ぎつけられて、出番はソニックが奪ってしまった。 オレのために用意してくれたギャンブルだ。賭けないでどうする。 豆粒ほどのグレーの四角形のそれの中に、きっと精密なシステムがびっちり詰まっているはずだ。それと、粉々に砕いたカオスエメラルドの破片を一つ、ソニックはごくんと飲み込んで、エッグマンネガに立ち向かった。しかし案外やってくれた。できれば吐きたくはなかったが、先ほど腹に数発食らった。そろそろ意識も朦朧とし始めている。舌を噛んで無理やり気絶を食い止める。鼻血が口に入る。飲み込むと腫れた喉に滲みた。 ただのパクリ、というより、CPUを改造しただけでまんま同じロボットを使って、恥ずかしくないのか。ないのだろうな。そういう感覚がなさそうだから。 ソニックの耳がぴくんとした。
「ボス、聞こえてます? ソニックが舌出してあんたのこと馬鹿にしてますよ。早く起きないと今度はカンチョー辺りされちゃいますよ」
「クク、何を笑っているのです」 いーや、ととぼけた。びくびく震え始めた胃の片隅で強い反応を感じる。 ずいぶんと遅かった。破片の一部分だから秘密兵器に作用するのにかなり時間がかかると、エッグマンも教えてくれればよかったのに。……水臭いじゃないか。いや、昏睡どころか半分植物状態になっちまったお前の代わりに、オレがぶっ飛ばしにいくなんて、お前にとっては黒歴史かな? ざまあみろ。 何が起こるかなんて誰もわからない。とびきりシビれるサプライズを期待したい。 エミーのことを、思い出した。 「……大丈夫さ」 お前たちが笑ってくれるならオレは何度だって。 エッグマンネガのサングラスの奥が鈍く光った。そんな薄汚い光を食らう、巨大な輝き。ソニックは自由を奪われた手足をもがき、かつてない苦しさに呻いた。けれど信じているから。奴がこのギャンブルに勝たせてくれるって。そうだ言葉を駆使しなくたってあの我侭な悪の天才科学者の考えてることくらい、わかっちゃうんだ。ていうか、わかりやすいから。
でも、エミーには、本当は声に出して伝えたいことがあった。
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混乱する夫18
それでも仕事は山積しており、今日片付ける事は無くとも予定の立案は始末しておかなければならなかった。 ディスプレイに視線を向けて集中している内に、脳裏のざわめきは引いてゆき気がつくと終業の時間となっていた。 昨晩も遅かったので、身体自体はさほど疲労していなかったが帰宅する事にした。 部下にも今日は早めに切り上げる事を伝えると、雨にぬかるんだ駐車場に向かい車に乗り込んだ。 車内の独特の香りは神経をリラックスさせ、座席で大きく伸びをするとエンジンを始動した。 幸いラジオでも渋滞はさほどない情報を伝えており、帰宅はスムーズと言って良いものだった。 自宅に戻ると早い時間もあって空腹感はさほどなかった。 夕食を整える必要も感じず、pcの前に座ると犯人の指定したサイトに接続した。いつになく情報の流入を示す画面下部のスライダーバーをもどかしげに見つめていると犯人からのメッセージの到着を告げる表示が現れた。 遂に犯人が自分が細工したファイルを送ってくるかと思うと、心拍数の高鳴りを感じた。が、自宅で妻が帰宅する事を思えばここでそれをダウンロードする事は得策とは思えなかった。 帰宅してからの再度の外出は億劫なものである筈だったが、ノートpcの入った鞄を持ち上げるとそそくさと自宅を後にした。 特に目的地は決めていなかったが、幹線道路を真っ直ぐに走るうちに閑散とした倉庫街を通り掛かるとハンドルを切り進路をその中にある仕事で取引のある業者の付近に向けた。 自分の位置情報が捕捉されるなら可能な限り自然にみえた方が良いとの判断だったが、姑息な事をしている感覚は拭えなかった。 辺りは暗くなり、人通りも無く物音といえば時折幹線道路から響く騒音のみだった。 車を降り、孤独に照明を灯す自動販売機で飲物を購入するとそそくさと車に戻り犯人の送ったファイルのダウンロードを始めた。 おおよそ1時間は掛かる見込みだったので、再び犯人からのメッセージに目を通すのだった。 ご主人へ 奥様を開発中の映像をお送りします やや手の込んだ方法ですが、奥様の魅惑的な姿を写しています 是非ご覧下さい 恐らくご主人は私の事を憎んでいると思います しかし、私に手が届くことはありえず、当局に訴えでるような危険を冒す事は無いでしょう そこで考えていただきたい事があります 私がこれまでお送りした映像でより多くを見たいと思った事があるでしょう 私は奥様を壊すつもりはありません むしろ、ご主人の要望を叶えて差し上��ていると言えます 今の奥様にご主人からこのような映像を見たいと言っても叶う事はありません あと10年先にここで映像が終わりとなっても後悔する事はないでしょうか 美しく乱れる奥様を映像の形で残す機会はこれを於いてないでしょう 一方的であることは承知していますが、ご主人の賛同があればより良いものをお届けします もし、それが不服な承諾であったとしても構いませんし、こちらから従わざるを得ないリスクを提供しそれでご納得いただけるなら、それでも結構です 今後、幾つかご主人にはお願いすることもあるかもしれませんが上記を良くご検討くださるようにお願いします 幾度読んでみても以前の様に怒りに血流を増すことがなかった事は驚きだった。 犯人のメッセージに自分の心情を読み取られているようで不快ではあったが、全くない事と言下に否定できない事も事実だった。 誰しも年齢を重ねれば老いを迎え、果たしてその年齢を迎えた時に犯人からの申し出を否定した場合に後悔が残らないかと言えば迷いを感じない訳にいかなかった。 最愛の妻を凌辱しつつ高慢この上ない文面は、もし目の前に犯人がいるなら誓って息の根を止めるところだったが、できない事を言い訳に最上の、誰にも知られる事のない妻の痴態を見る欲望は消えなかった。 犯人からのメッセージがなければそのような妄想は浮かぶはずもなかったが、窮地にある立場としては犯人に委ねるしか選択肢はないのかもしれないと考える頭は疎ましかった。 考えを振り払おうと、画面を下らない情報サイトに移したが文面に集中する事はできなかった。 ダウンロードが完了するまでは確定しなかったが、それに犯人につながる情報が含まれていると思えば、まだ解決の余地は残されていた。 そうとすれば決断する必要さえもなく、ただ待つだけで良いとも思えた。 ダウンロードが完了するまで30分程となったので、今一つ集中できないサイトを離れ、若者が撮影した女子社員の机の下の映像を開くのだった。 再び見るそれでも、おそらく妻と思われる画像に食い入るように見入った。 幾つかの写真をみても、やはり制服のスカートは自分の知る長さだった。余程脚を開かない限り股間まで光が届く事のない覆いを見たが、昼間に見た妻の下半身との一致は見出せなかった。 ため息をつくと、他の女子社員のものに視線を向け��がその長さは今日の妻との一致を見た。 よく考えれば妻のスカート丈はようやく他の女性と同じになった程度の事で心配する程の事はないと自分に言い聞かせるのだったが、犯人の束縛がないであろう社内で何故そのような変化を見せたのかは説明したくなかった。 妻の着衣で肌を露出する面積を増すことは単に自分を良く見せたいという女性らしい心情を満たすのみであれば良いのだが、それは必ず男性からの視線を意識することになるのだった。 妻を賛美する視線には性的なものも含まれると思えば愉快ではいられなかった。 画面をみているうちに急にやりきれない気持ちに襲われ映像を閉じると妻の携帯の位置情報サービスの画面を開いた。 夏祭りの打ち合わせがあるとのことだったが、夏祭りの準備をしている自分にも妻が夏祭りで何かをするような話は聞いていなかった。 妻の行動に疑念を持つことは誤った考えと知りつつ画面を操作し得られた情報を見ると、その位置は会社からさほど離れていない町内の体育施設だった。 公の施設でもあり、疑念を持つような場所では無かった事に安心すると考えを巡らせたが、夏祭りの打ち合わせならば社内ですれば良いところに社外に出ることが分からなかった。 夏祭りの準備で当日の進行は大体頭に入っているのだったが、特に妻が参加する予定はなかった。職場が事務部門なので何かの手伝いに駆り出されることはあるかもしれなかったが特段打ち合わせが必要なものは思い浮かばなかった。 ふと出し物以外に頭を向けると、ステージの演目に考えが及んだ。 夏祭りではグランドの中央に盆踊りの櫓を仮設業者に依頼して作るのだったが、同時に中央近くにステージも建てそこで近隣の学校や団体の発表を行うのだった。 子供の太鼓や空手教室の演武などは微笑ましいものだったが、時代なのか一昨年あたりからチアガールの発表に大きなカメラを持ち込む輩も増え会場の整理に気を使わねばならないなど苦労が増えているのだった。 昨年は社内の女子社員がダンスを披露し、団体名のみ記憶していたところで社内の女性集団だったので驚いたのだったが、出場枠は抽選となっているので公平性の点を危惧した事もあった。 実際には事後の反省会の席で年配者のフラダンスなどよりよほど華があって良いとの事で安心し、年配者からはそこまで気を使わなくても会場を提供する会社に感謝こそあれこの点を問題とするような事はあり得ないとの言葉を貰い胸を撫で下ろしたのだった。 その余波として社内で非公認のサークルができているという話は妻から聞いていた。 昨年は仮設業者を変更した事で予算が余り、それを見透かした業者が特別価格で照明と音響設備を提供するとの話に乗った事で舞台が派手になり評判も良かった。 今年は出場団体が事前に照明効果の打ち合わせを業者に依頼する仲立ちが必要になったと同僚から嫌味を言われた事を思い出すと心中穏やかでは無かったが、近隣地域の同種の祭りとの差を気にする地域柄今年は無しにする選択は無かった。 業者の思惑にまんまと嵌ったような気がしないでも無かったが、町内会の会長の面々は表立って言わなくても近隣の祭りとの差に満足しており、それが祭り終盤の花火大会の協賛金増額に表れていた。 余計な事まで考えが及んだが、おそらく妻は夏祭りのステージでの演目に関係していると想像することで一先ず安心できたのだった。 画面のダウンロード状況に目を移すと、気づかぬ間に終了していた。 いつものように圧縮されたファイルを解凍すると、そこには映像ファイルがあった。 そのファイルにはおそらく犯人による妻を凌辱した映像が収められている筈だったが、いままでの物と異なる点はそれが事前に自分が細工した可能性がある事だった。 ふと気が付くとその映像に目を通していなかった事に驚いた。妻が送ろうとしたファイルを自分で細工したものと入れ替えした記憶は鮮明にあったが、いままでその映像ファイルに目を通す事がなかったのだった。 そう思うとファイルにポインタを当てダブルクリックするだけであるのだったが、理性は優先順位を叫んでおり指の動きを押しとどめた。 あらかじめノートpcに設定したあったアプリケーションを開くと、その画面はシンプルにファイルを選択するボタンのみだった。 いま解凍したファイルを選択すると、アプリケーションは暫く処理中である表示を見せたかと思うとすぐにその表示は処理終了に変わり、画面下部の表示領域にそのファイルの設定値の集まりを映し出した。 妻の痴態映像を見る時のように心拍数が急増するかと思っていたが、自分の身体に変化はなかった。 それはただ散文的に退屈な事務処理をこなす時のように画面に映る処理をこなす時と同じだった。 事務的なpc画面をみれば体調に変化の無い自分が奇妙ではあったが、画面に映る文字列の解読にはいった。 上から順にファイルの作成日、作成者と普通の設定があり、その後に映像のフレームレートなど詳細な設定があったが、その末尾周辺に目指すものがあった。 自分が求めたものは、そのファイルを扱ったpcに設定されているインターネットへとつながるゲートウェイアドレスと、接続したルーターのMACアドレスだった。 どちらとしても、ゲートウェイアドレスが会社など識別できるものか、ルーターが公衆に繋がるものかである可能性に賭けたのだった。 先ずゲートウェイアドレスに望みがない事が判別できた。それはプライベートなネットワーク内で用いられるもので個人の特定に用いるには用を成さないものだった。 やや苦い思いをしながら、次のルーターアドレスを見ると希望が蘇りその文字列をコピーした。 ブラウザーを開くとブックマークしてあった公衆MACアドレスの検索サイトを開き、それを貼り付けして応答を待った。 画面の更新がない事に焦りを感じる間も無く、画面には緯度経度が表示された。 もともとはGPS衛星の情報によらず、あらかじめ公衆MACアドレスの位置を示したデータベースからPCの自己位置を調べる為のものだったが、然るべき方法をとれば逆引きすることもできるのだった。 別に開いた地図サービスから指定した緯度経度の場所をみれば、首都圏のベッドタウンといって良い住宅地の中にあった。 可能性としては会社など団体のもので個人の特定は難しいのではないかと考えていたが、画面に表示された戸建が並ぶ住宅地にあっては特定が容易なものと思われた。 いままで雲を掴むような犯人の捜索に大きな手掛かりを得たことは大きな収穫だった。 どのような理由にせよ犯人の行為は社会的にも個人的にも許されるものではない事は確かで、適切な手段で犯人を捕らえる必要があった。 犯人からの脅迫にあるように、適切な手段で行わねば必ず妻の将来が閉ざされると思えば安易な行動は慎まなければならないのだったが、いまからも地図の位置に赴きたいと思う思いは冷めなかった。 今は行動を起こすよりも、計画を立てるべきと自分に言い聞かせるように地図の位置をインターネット上で検索するとめぼしい建物は2つに限られた。 航空写真でみれば一つには車が2台、ワンボックスのワゴンと軽自動車のようだった。もうひとつの家には黒いセダンがあることを考えれば、前者は否定できるように思われた。 目を皿のようにして仔細に観察すれば、前者に庭には子供の遊具らしいものが写す影があり、犯人の人物について詳細は分からなくても、家族を持っている印象はなかった。 安易に結論に飛びつく事はできなかったが、差し当たり近日中にこの2件の登記簿をみれば姿を現さない犯人を明らかにする事ができるものと思われた。 身体が震える程の喜びを感じたが、果たしてここ最近の出来事からその感情が適切なのか、あるいは陰湿なものではないかと自問するのだった。 そのまま満足感を得たまま帰宅する選択もあったが、ハンドルに手を掛ける前にダウンロードしたファイルを開いてしまうのだった。 画面は日中の揺れ動く街中の映像で始まった。映像の場所は自分の記憶には無かったが、立ち並ぶビルに飲食店などが見えるところを見ればどこにでもあるオフィス街のようだった。 カメラは犯人の鞄に納められてるのか、しきりに揺れ動く画面は自分が犯人のうちにとらえられているようで不快感を催すのだったが、犯人の歩みは信号のある横断歩道をわたった先にあるビルに進んでいった。 そのビルは1階に不動産屋が入っているらしいこと以外は特に特徴もなく、明るい外からビルの中に入った事で一瞬画面が暗転した事には戸惑ったが、徐々にカメラの昨日が働きだし、内部の様子を明らかにしていった。 さほど新しい建物ではないようで、一昔前の建物のようにエントランスは狭く、エレベーターの奥にビルに入居している店舗の一覧が金属製のプレートに示されていた。 犯人はこの建物を知っているように迷いなくエントランスの奥にあるドアを開けて階段を登ると3階と表示のあるドアでフロアに出た。 そこはビルの外観に比して小綺麗にカーペットが引かれ、壁も染みひとつなく単色の場所だった。 意外に感じたが、一瞬写った看板には、司法書士か弁護士の事務所らしい表示があればそれも納得出来ることだった。 犯人は迷いなく男性トイレのドアを開けると、一番奥にある個室のドアに歩み寄った。 そこに妻が写し出される可能性が頭に浮かぶと一気に鼓動の高鳴りを感じたが、内開きのドアの中は無機質な便器がその清潔な白さを持って不浄な自分の心中を見つめているのだった。 ひとまずそこに妻の姿がないことには安堵したが、犯人の意図が読めないことには混乱が増すのだった。 画像はやや高い位置にある小窓に向かうと犯人の手はそれを開けた。 その時画像が乱れ、自分の視野は犯人によって���度も振られると唐突に画面は白くなった。 画像は突然外に向けられた事に抗議するように白く曇ったが、建物に入った時のようにやがて鮮明にトイレの窓から写された外の様子を写した。 犯人の意図は即座に理解できた。 視線の先には道路を挟んで向かいにあるビルの3階にある喫茶店を写していた。 そのビルの窓越しに通りに向かって座る女性は妻であることに疑いは無かった。 カウンターテーブルの上では白いブラウスを着た妻は携帯電話に目を遣りやや俯き加減で写し出されていた。 そこまでは何ら問題にする点は無かったが、カウンターテーブルを挟んでその下部は自分の心臓を締め付けるに十分な光景だった。 妻はやや短めというには過ぎたグレーのショートスカートを履いていた。普段膝より上を見せるスカートを履くことは珍しい妻だった。 向かいから見れば座っていることで太股まで見えてしまう危機感のある衣服を見に纏っていることはその伴侶とすれば自分意外の者に性的アピールをしているようで不愉快だった。 ショートブーツから優美な脚線は黒いタイツにおおわれていたが、その末端に視線を写すと、それはスカートに隠れ切っていなかった。 それを確実と言い切れるほどには鮮明ではなかったが、その時犯人が映像を妻の下半身一杯にズームし��ことでそれは確実になった。 正直、妻は出会う誰にでも美しいと言われる訳では無かったが、少なくとも男性であればその胸の膨らみと脚線美には惹かれるものがあるのではないかと思われた。 妻が自分意外に誘惑される可能性が相当に高くは無いと思える事は安心と同時にその全てを知る自分の満足ともなっていたが、公衆の面前でここまで大胆な服装では自分の知る妻の中を晒けだす事はそれを削り取るに等しい振る舞いだった。 映像からも滑らかさを感じる妻の膝から太股に黒色の脚線をなぞった線は突然白い柔肌に続いていた。 それは良識ある女性ならする筈もない角度で股は下品に開かれており、両足の合わさる場所にはそれが確かに分かるショーツが白い光沢を上に被さるスカートの影にあってさえ見せているのだった。 公衆の面前で妻がそのような姿を見せている事は信じられない光景であったが、全く普段と変わりないカウンターテーブルの上との差異が日常と非日常を分けていた。 呆然とする前に慌てて視野の橋をなぞったが、ビルの3階ともあれば地上からそれが見える可能性は無視していいのかもしれなかった。 よく見れば妻の座る席の位置はガラスより幾分交代しており、それは建築者の当然の配慮だと思われた。 何度見ても携帯を散文的に眺める妻の上半身と対照的な非常識さを写す下半身はそれが意図して行っているようだった。 座れば太股を露出するような姿をしてまで股間をだらしなく開く事は考えられず、以前スーツ姿を纏って電車の車中でもきれいに膝を揃えている事を尋ねた記憶が甦った。 隣り合った妻のそれを眺めて、自分も試みたところ妻は突然吹き出し品を作ったオカマのようだとくすくすと笑うのだった。 妻は女性は自然とスカートを履けば膝を開かない事を意識せずとも出来る事を話すと急に小声になり、そこを見せるのは自分だけと恥じらいながら言ったのだった。 妻がかつて言った、そこは今や意識して開かれているとしか思えず、その鈍い白さに目が奪われた。 自分のいる対面のビルからはそこが見えると思えば焦燥感に駆られたが、この映像が既に過去の事であればもがく余地のないことは自明だった。 映像は数分の事だったと思うが、妻が羞恥に耐えられないのかその太股を微妙に閉じようとする度に微妙な陰影がさらに陰猥な影を作った。 妻が少しでもスカートを伸ばそうと手をその端に掛けて軽く座り直した時など、座る角度が浅くなってしまったのか、ショーツが秘部を隠している場所を示すクロッチが見えてしまったのだった。 犯人は期を逃さず、妻の股間を画面一杯に広げ、強制的とはいえ妻との性交でそこに舌を這わす時と同じような妻自身の香りが鼻腔に広がった感覚を覚えた。 すぐに妻は姿勢を直してしまったが、その性的魅力に溢れた映像を逃した事で先程とは別種の焦燥感を覚えた事に自分の複雑な感情にいまさらながら気付くと同時に男性としての恥じらいを覚えるのだった。 いつまで妻を嬲るつもりなのかと自分の無力さを感じていると、画像は自分の希望を叶えたように妻の太腿に力が入ると立ち上がる姿を写した。 カメラが急に引いても視線はスカートに隠された妻の股間ばかりに向いていた。 妻は立ち上がると奥へと歩いてゆく姿を僅かに写すと視界から消えた。 これで映像が終わるのかと、あっけなさを覚えた自分を即座に戒めているうちに店の奥側にあるボックス席に数人の若者が座っていった。 それは盗撮というよりただの日常を描いているようで、自分が学生の時分に煙たがられながら喫茶店で友人と過ごした事を思い出した。 他愛もない事を思い浮かべて若者の集団を眺めていると、その脇を女性が通りかかる姿が目に止まった。 それが妻とはすぐに分からなかったのは普段は留める事のない髪を後ろで結い頭全体が一回り小さく見えた事、そして先ほどまで纏っていたブラウスを小脇に抱えていたからだった。 さほど暑い季節でもなかったがブラウスを脱ぐほどでもないかと考えると頭に疑問符が浮かんだ。 妻は先ほどまで腰掛けていた椅子に元通り座るのだったが、先程と同じように見えない違和感があった。 漫然と眺めてもすぐには判らなかったが、その理由はすぐに判明した。 本能的に妻の見事な曲線を描く脹脛に視線を向け、それを徐々に上方へ移してゆくと妻はそれに反応したように躊躇いなく柔らかな肉体で閉じられていた谷間を開いた。 その時には妻は俯いており視線をカウンターに向けていたが、時折左右を確認するように顔を振る仕草で妻の表情は赤面している事が分かった。 飽きる事なく再び犯人によって視線は妻の股間に集中していった。 それから顔を背ける事はできず拡大してゆく映像を見つめていると、スカートの影に隠れてさえ白さを見せたショーツは確認できなかった。 急に高まった鼓動を抑える事なく抽象画のように妻の股間だけを画像は遂に妻の秘所が直接外気に触れていることを示した。 下品に開かれた妻の太腿は白さを翳らせながら股間に伸び、その中央では柔らかな薄い陰毛が申し訳ていどに生えていた。 そのすぐ下からグレーのスカートが座席に触れていた箇所に僅かに妻の性器の始まりであるやや色を濃くした部分を確かに捉えていた。 それがある種の性的な戯れである事程度は知識にあったが、それが現実に妻に起こり得ていることは衝撃だったが、直接犯人が妻と性交渉した場面に比べれば幾分救われるものではあった。 が、しかし映像はその程度で終わるつもりは無いのだった。 カウンターテーブルを挟んで下半分は恥じらいの影もない下品なものだったが、まだ上半身は妻の表情を除けば日常のものだった。 妻はビルの下から視線が通らない事を確認するように二三回下方を見やると、緊張しているかのように無表情なり、おもむろにスカートにたくし込まえたキャミソールに手を掛けた。 まさかと思ったが、妻の腹に白い肌を目にしてこれから見せられる屈辱を想像した。 おずおずと妻は片手でキャミソールを持ち上げていたが、やや余裕を持った布地は胸に向けてぴったりと張り付いており、股を開き腹を晒した状態で妻は止まってしまった。 妻は躊躇いがちに顔を下に向けると、腕を胸につけたまま徐々に二つの性的秘所を晒していった。 乳房の下あたりがようやく見えようとした時、そこに本来あるべきブラジャーの姿は無かった。 妻は豊かな胸でもそれは張りがあり、立ってさえその頂点はやや上方を向き裸体の妻と触れ合う時は、妻が恥じらいを浮かべていても二つの乳首は自分に挑戦するかの如くこちらを向いているのだった。 そんな事を考えていると、妻の動きの遅さに苛立ち、場違いな感情にさらに苛立っている自分が情けなかった。 遂に妻の胸を覆う布は乳首まで晒すと、それを通過する瞬間それが僅かに跳ねる動きを見せた。 それは残酷な事実だった。 自分が妻の乳房を見る時は大抵性行為の際だったが、稀に数回の交わりで妻が疲労にそのまま寝てしまった時など、朝に目にする妻の乳首は自分が吸い付いていた時より明らかに勃起していなかった。 その場合は目覚めに妻の胸に頭を埋め幸せに浸るのだったが、画像の妻のそれは性行為時と同じように屹立していた。 羞恥心のある女性であれば有り得ない姿を晒しては止むを得ない事だったが、妻が性的興奮にあると理解出来ることは限りなく不愉快だった。 片方に乳房は乳首寸前で止まっていたが、もう片方は僅かに正円を外れた事でさらに魅力的なフォルムの白い乳房全体を曝け出していた。 アダルトビデオの様に動きがある訳でもなく、ただ妻は片方の乳房と股間の性器を正面から見せているだけだったが、それは自分自身の視点で見る妻よりセックスアピールに満ちていた。 ふと、頭に犯人の言葉が浮かんだ。 あと10年先にここで映像が終わりとなっても後悔する事はないでしょうか 美しく乱れる奥様を映像の形で残す機会はこれを於いてないでしょう このまま犯人によって撮影された映像を見ることが絶えても構わないと心の底から言える自信はあった。 が、画像の妻がしきりに頭を左右に向ける事で柔らかを示すように揺れ、そのたびに乳首が僅かに方向を変える事に視線が集中している自分には僅かな動きと同じようにその自信に揺らぎを感じるのだった。 どれくらいの時間たったか、短いといえば短く、長いといえば長い、苦しみと陰猥さが混じった画面の下をみると、まだ映像が始まってから15分程度の出来事だった。 漸く妻は股をピッタリと閉じると、腕の動きが不自然にならないようゆっくりと胸を隠していった。 薄いキャミソールは妻の胸に張り付き、今までの乳房を隠す事がさらにその形を知っている事で興奮を増すようだった。 それに目を留めている間に妻はブラウスで胸を隠してしまった。 いまや過剰に乳房の形を示しているキャミソールを除けば他は普段と変わらぬ姿になった妻は、半分飲みかけのグラスを手に取ると、その場を去っていった。 ボックス席の若者の頭が一斉に動いたところを見れば、妻の胸に一枚しか纏わぬ姿は彼らの視線を浴びせるには充分に性的魅力に富んでいる妻の姿を思い描いた。 映像の余韻も残さず画像は一瞬暗転するとすぐに次の場面を映し出した。 何の変哲もない駅前の雑踏のようだった。 どこの駅かと探したが、おそらく駅ビル付属の入り口は画面の隅にあり鮮明にそれを読み取る事は出来なかった。 いずれ妻を写すのだろうと思っていたが、映像は一向に妻の姿を見せなかった。 人の動きよりその風景に注目していると、まるでそこは無人の駅前のように錯覚に陥り我に返った。 と、犯人の意図が読み取れた。 その姿がさほど大きく無いので確実とは言えなかったが、状況からそれが妻であることは間違いないものと思われた。 駅前の広場の傍らにあるベンチに妻は腰掛けていた。 普段掛ける事のないサングラスを掛けている姿は確信までは言えなかったが、その身体とグレーのスカート、ショートブーツは先程の妻の姿だった。 が、その上半身には薄い布一枚が覆っているだけだった。 それは先程までキャミソールかと思っていたが、肩にかかる部分がストラップでないため、黒のタンクトップだったと分かった。 が、幾分暖かとなったとは言え、周囲の行き交う人々から比べるとやや珍奇な服装であることは確だった。 妻を写す映像は幾分角度がついていたので、胸の膨らみが魅惑的な曲線から頂点からピッタリと張り付いたタンクトップに抑えられていた。 喫茶店の映像から考えれば、薄いタンクトップの下には妻の素肌しか無いものと思われた。 サングラスを掛けてそのような姿をしていると、穏やかで優しい妻のする服装とも思えなかったが、肌に張り付いたタンクトップにショートスカートからのびる黒いタイツの優美な曲線はモノクロの色彩でありながら扇情的に見えた。 これでは、既婚とも思えない露出の激しい風情の印象の異なる妻に戸惑っていたが、それは妻の異なる美しさに目が向けられていない自分を責める材料となった。 混乱したまま、映像に目が慣れてくると、通行する男性の視線が妻に刺さっている事に気がついた。 盗撮そのものなので当然だったが、露骨に視線を向けたまま名残惜しいように一瞥をくれて駅に歩み去る年配の男性や、性的興味そのものといった視線を妻に向けながら不躾に妻を舐め回すように歩く大学生らしい集団が煩わしかった。 自分の妻をまるで娼婦のようにその内面も知らず、肉体それだけを好色な視線で見る男性は許しがたいものだった。 妻を失うのではとの危機感が背筋を登ったが、なぜか衆目に晒されている妻は限りなく淫らに映るのだった。 通行人を怒り混じりの感情で眺めていると、ふと妻の傍らに一人のスーツを着たサラリーマンらしい若い男が立っていた。 その男は携帯を眺めており、特段不審な点は無かったが、注目しているうちに、時折妻を見る視線に気が付いた。 よもや公衆の門前で妻が犯罪に巻き込まれるとは思っていなかったが、その男は携帯を目線から外すと地面に垂直に向けた。 最初はその意味が判らなかったが、男がそうするたびに携帯を熱心に眺めている様で行為の意味が理解できた。 男は妻を盗撮していた。 赤子を撮影するためと銘打って撮影時の音を無音とするアプリがあることは知っていた。 とするなら、そのような姿をしながら背筋を伸ばし豊かな胸をさらに強調するような姿勢でいる妻を側面からの映像で自身のものとしているのは確実だった。 その妻の全ては夫である自分のもの、男には見えない覆われた胸も、股間の秘部も自らの瞳孔に写したものと思えば、男に対して優等感が込み上げたが、この場で行為を止められない無力感がそれを曇らせた。 妻は人を待っているように何気ない様子で携帯を見つめていたが、逆にその姿勢に固執している姿は妻が感じている恥じらいを示しているのだった。 無防備に身体の線を外に晒したまま妻はその肉体を気づかないまま性的欲求の被写体としていた。 そうしている内に、同じ事をしている一人二人と男性は増え、一人は妻のやや前で鞄を取り落としたところを見れば徐々に遠慮の無い輩が増えつつあるのだった。 危機感を増す映像のなか、優等感より屈辱感が増しても、今の怒りは犯人より妻を視姦している男たちに向けられているのだった。 時刻も午後に入ったのか、木々の影が伸びているところを推察するとおそらく午後3時あたりではないかと検討をつけると、妻の帰宅まで考えれば映像の終了が期待できた。 妻の肢体を嬲る視線は不愉快極まり無かったが、妻が腕時計を一瞥すると立ち上がった事で、周囲の男性は一斉にわざとらしいほど何気ない様子に移る姿は滑稽なものだった。 妻が周囲に表情を向けた時、妻はいまさらながら晒しものになっていた事に気が付いたのかと思ったのだが、サングラスを掛けていても、その表情はやや離れた映像でも朱に染まった様子が見えた。 妻は性的魅力を発散していた事を知りつつ行っていたのかと疑念が湧いた。 それを振り払おうとしても、歩み去る妻を物欲げに見つめる数個の視線を見れば繰り返しその疑念は冷静さを願う自分の頭を流し去るのだった。 妻が画面から消えると画像は次の場面に移るかと思われたが、急に画面が揺れたかと思うと、次第に安定してゆくそれには駅への歩む視界が映し出された。 映像が途切れない事を疑問に思ったが犯人によって固定された視線からはその意図が判るはずも無かった。 駅へと近づくにつれて駅名の看板からその場所が分かった。 首都圏に住んでいた頃には、数度所用で訪れた事がある場所だったが、数年前の事でもあり、今更映し出された事で記憶が甦っても、それはただ苦い感覚しか呼び起こさなかった。 駅ビルに入ると軽い足取りで階段を登る映像からは、存外犯人は若いのかもしれないと思われたが、駅ビルであればエスカレータでもあるところ、わざわざ階段で登る犯人の意図は判りかねた。 やがて数階を登り、フロアにでると薄暗くそこがどこか戸惑ったが、装飾からすると見知った映画館だった。 そこが目的地とは思わなかったが、犯人は迷いなく事前発券機の前に立つと自分の視線はその無機質な単色に埋められたが、数秒で犯人は手続きを終えると館内の入り口へと進んだ。 カメラを回したまま薄暗い通路を進む犯人と意図が映画の盗撮にあると考えるには先程までの映像には無理があった。 重そうな扉が開くと、映画の上映前の宣伝が流れており、重低音がスピーカーから流れ出る度、軽いノイズが響くことは不快だったが、映像が明るくなったことは有難かった。 視線を隈なく座席に座る観客に向けたが、既に流行りを終えた映画なのか、午後のこの時間では席に座る人影は両の手で容易に数える事ができた。 その中に女性もあったが、妻の姿は無いのだった。 犯人は最後列の席に腰掛けると視界は座席の背しかなく、その映像が続く事が不安を煽った。 自身が焦れていることを見透かすように照明が落ち、画像も黒い画面を写すだけになると変化が訪れた。 朧気ながらスクリーンに映し出された映像に反射した光が犯人が移動している事を知らせた。 幾つかの座席を渡り歩く先には女性の頭があった。 それが妻であるかどうかは判らなくても、犯人の腕が伸び女性のなめらかな曲線を描く肩に触れた事で妻であろう事は明らかだった。 妻は反射的に頭をこちらにもたげたが、それは犯人の指先が妻の顎に触れた事で止まった。 顔は見えなくてもうなじから伸びる曲線、髪型そしてなによりシャツで隠していてもその隙間から見えるタンクトップがピッタリと張り付いている事で判る胸の膨らみの大きさは妻である事を確実とした。 数人でも観客のいる席で淫らな行為に至るリスクは、慎重をおす犯人らしく無いと危機感を募らせたが、それを宥めるように犯人は紙袋を妻の隣の席に置いたのだった。 それから犯人の動きは無かったが、妻は視線を前に向けながら無造作に取り上げた。 妻は物音を立てないように慎重にそれを開いたが、いずれにしても音響によりそれが他に気づかれる事は無いと思われた。 妻がそろそろと手を袋に入れると、一枚の紙片を取り出した。 それには何か記入されているように見えたが、それを自分が読解する前に妻はそれを丁寧に折りたたむと、紙袋に戻した。 それきり動きが無い妻の行動から、文面を推察もできないまま混乱に陥っていると、画面は座席の上から戻り、座席と座席の間に向かった。 それは柔らかな素材と知りつつも、視界をその閉塞された空間に押し込まれる事に軽い恐怖を覚えたが、数秒で視界は座席の間から抜け出した。 最初に映し出された抽象画のような映像には戸惑ったが、犯人は座席から操作しているのか、すぐにピントがあった。 画像は座席に掛けた妻をやや角度をつけて上方から覗き込んでいた。 良からぬ行為をすることは分かっていたが、どのように展開するか判じかねていたが、妻が姿勢良く掛けていた腰を前方にずらすと、その腕は大胆にスカートに差し込まれた。 この場で下着を脱ぐ行為に緊張が高まるとともに、喫茶店以降下着を着用していた事実に安堵する間もなく、両手で張り詰めた白いショーツがスカートから出てくると、膝上でそれを止めた。 公共の場で有り得ない行為に及んでいる妻が信じられなかったが、次の行為はその不信を打ち砕いて余りあるものだった。 だらしない若者が腰掛ける時のように腰を座席の縁まで進めると、自身がそこに注目している間に取り出した醜悪なデザインのディルドを股間に侵入させた。 その時スクリーンが明るくなったことで、局部はスカートに覆われていても、あと数センチで妻の性器に侵入しようとする性具が映し出された。 それは明るさの中にあってもあくまで黒く妻の胎内を舐る暗黒面を示していたが、同時にそれを受け入れようとする妻の腕にそれが余っている様子は太さ長さとも自分の男性器と比較せずには居られなかった。 妻がわずかに仰け反るような動きをしたことで、性具の先端が妻の秘部に触れたらしい事が察せられた。 行為を止める事が叶わない映像では成すすべは無かったが、その後ゆるゆると妻の腕の誘いにより胎内に侵入する性具に疑問が湧いた。 知る限り妻との性交時は前戯で受け入れ安いようにそこを解すのだったが、当然そこが最初から潤っている事はなかった。 あるとすれば、自宅で鑑賞した映画で濃密なベッドシーンを見てから、たまらずにソファに押し倒した時、それにストリップと称して自分の誕生日に卑猥な下着を身に着け、自分にその肢体を見せつけて戯れた時くらいしか記憶に無かった。 が、さほどの抵抗なく妻の表情も変わらず挿入されてゆく性具、見ている間にスカートに全てが隠れてもなお妻が自身を穿つ事を止めない姿は、先程の駅前の露出と呼んで差し支え無い行為を想像させた。 映像が途切れないと言う事は、妻が幾多の性的視線を浴びてからさほどの時間が経過していない事を示している。 妻とて股間を拭う事程度はしているかもしれないが、清楚と呼ばれる妻でも男性の欲望に満ちた視線は股間から清楚を流し去る液体の分泌を促すのかもしれなかった。 ただ、それが自分の視線でなく晒し者にされた挙句に出現した妻の身体的性癖とすれば、ただ不愉快だけと言えない感情に股間が緊張した自身に戸惑うのだった。 性具は最後まで妻に埋まったのか、妻は痴呆者のようにだらしなく口を開くと何かを呟く様にそれから数度息を吐くと膝に留まったショーツを再びあるべき場所に戻そうとした。 我に返ったのか、挿入時の緩慢な動作から比べると素早い動作に見えたが、腕をスカートの中にたくし込む動作が瞬時に止まった。 それがショーツを履くことで自身の胎内を穿つ異物をより深く挿入してしまう事に思いが至らない程慌てていたのか、あるいは股間から脳に送られる女性と仕手の声に意識が濁っていたのかは判らなかったが、その両方であろうと思えた。 先日の直接妻が犯される光景と比較するなら、まだマシとも言えたが言いようの無い感情が頭を支配していた。 急に妻は所在なげに周囲を見渡して警戒すると映像に目を向けた。 それがどのような映画なのかは角度の関係で判明しなかったが、時折チラチラと明るくなる画像からは、やはり盛りを過ぎたアクションものかと思われた。 別段犯人の指示は無かったが、妻はだらしなく腰掛けた姿勢が気になるのか、腰をそろそろと引いていった。 それが更なる陰猥な欲望のためとは思いたくなかったが、元通りに近い姿勢に戻ると妻は特段不審な点など無いように振る舞っているように見えた。 が、妻は鞄からハンカチを取り出すとそれを再び腕で股間に伸ばしていった。 座席を汚すほどの愛液が股間から溢れているのかと、妻の股間の節操の無さに苛立ったが、女性がこの状況でどれだけ耐えれるかには想像は及ばなかった。 目的の場所にハンカチを敷く事が出来たものと見え、腕はすぐに出てきたがその後から妻の奇妙な行動が始まった。 シャツが胸を隠しているか確認するようにボタンを優美な指で弄っていたかと思うと、次には座った姿勢ではスカートに隠れきっていない大腿を隠すように膝上まで落ちたタイツを引くのだったがその所作の全てに不自然さを纏っていた。 ぎこちない動作は全て股間に杭を打たれている事によるものと分かっていても、身じろぎする度でも僅かに姿勢を移す妻の感情は判らなかった。 数度目にタイツを弄っているところその時は来た。 突然音響が地鳴りのような音を立てると、画面に注目していなかった妻は急に背を伸ばすと驚いた時に良くするように片手を広げて口に当てた。 映画の音響如きで妻は痺れた様にそこに静止していた。 先程の醜悪な黒い物体と、それを埋め込まれた妻の下腹部のサイズを想像すると、おそらく実物以上に強調されたその頭部は自分が未だ到達していない子宮口まで届いているかもしれなかった。 頭に妻の下腹部の透視図を思い浮かべると、外周のクリトリスや膣口が犯人の手により嬲られるより一層その奥底を犯される図が眼底に映し出された。 妻は驚きにより咄嗟にとった姿勢によりそれを深く奥底まで咥え込んでしまったのだった。 横顔でも妻は無表情を保っていたが、それが下半身の状況を示していない事は不自然とも思えたが、それを抜き取るためかそろそろと腰を前に動かすと再び妻は片手を口にあてると、その先に顰めた表情が目に入った。 意に沿わず公衆のなかで醜態を晒している妻は最大限の自制心をもって性的被虐を耐えているようだった。 しかし、男性の視線を浴びて興奮状態に導かれた妻の身体は股間のそれを抜き去る事を不可としていた。 やや額に皺を寄せながら妻の視線はスクリーンに向けられていても、横顔に映るその瞳は虚ろだったり、何かを求めるような熱情的な視線と移り変わっていた。 その心を推し量るまでもなく、表情は腰の僅かな動きと連なっていた。 妻の性器は全てを満たされ、男性器で感じられる全ての暖かで微妙に感触を変える膣から子宮口にいたる肉壁はディルドに密接していた。 激しい抽送でなくとも性的快楽を妻の脳髄に伝える濡れた内腹部は、わずかな動きでもその摩擦を快楽に変換し妻を単一の感情に陥れるのだった。 身体の芯に杭を打ち込まれ、それに抗う事はさらに妻を痺れさせてゆくように呆然と視線をタンクトップとスカートに覆われた妻の痴態に置いていた。 痺れが遂に妻の理性を決壊寸前まで追い込んだとしか思えなかった。 妻は両手を腰骨のあたりに当てると、そうする事でより多くの快楽を引き出す事ができるようにゆらゆらと押し当ててる迄に自身の理性を一枚ずつ捲り剥がしていた。 妻の視線にスクリーンの映像が写っているとは思えず、それは形の良い唇が僅かに開いている事でも知れた。 映画の上映時間は判らなかったが、この陵辱がその時間続くかと思うと、時間とともに剥がされる妻の理性はそれが旧に復することがあるか、一度身体に覚え込まされた快楽は忘れる事があるか危惧するのだった。 それはまとめれば妻の身体が開発されていると言うことだった。 肯定的に用いられるその単語の意味するところに反して、この場合の用法は限りなく闇に包まれていたが、妻と同様に抑えがたい自身の勃起は同じく暗い悦びを叫んでいた。 やや男性の興味を引く服装ながら映画でも見ていれば問題ない姿の妻が自ら腰をスライドさせ、得られる快楽を試しているかのような姿は自分には無残だった。 やがて腰に当てられた片方の腕をおずおずと下腹部に手の平を触れさせると、それは妻の股間を貫いた醜悪な物体がどこまで自身を荒らしているか確かめるようにそこを撫でた。 それは将来生まれくる赤子を撫でるような優しい動きであれば、精を放つ機能を持たず、ただ内壁を埋めつつ快楽を絶え間なく送り続けるそれを愛撫するような淫らさのある印象を生んだ。 自分以外の性器を迎えるような仕草は込み上げる怒りを生じさせたが、手の終着点はそこではなかった。 しなやかな手を男性が性交時にするように乳房まで滑らせると、膨らみの下半分を親指と人差し指を伸ばし覆うように当てた。 周囲の視線を伺うように軽く左右に首を振ると、堪えきれないようにシャツの合わせ目から手を侵入させると、手の甲でそこを覆うように手を止めた。 タンクトップの中までは及んでいないようだったが、手の延長線に目を遣ると、そこには乳房の頂点があるものと思われた。 妻の張りのある乳房は裸で正面から見据えるとこちらに両の乳首をやや上に向けて対面することから、想像するまでもなく妻の指は自身の白い乳房から柔らかな桃色に色を変える乳首を弄っているに違いなかった。 自分が吸い付く事で小さな突起をやや固く勃起させるそれは、妻自身が性的目的で触れるものとは考えつかなかったが、画面はただ現実を示してい���。 衣服に覆われ実態の見えないそこに視線を集中していたのか、瞳が痛みを覚える頃に我に返った。 改めて画面を凝視すれば、先程まで腰にあった片方の腕は股間を覆うスカートの下に差し込まれつつあった。 その手にはハンカチらしき布があった。 直ぐに妻の股間に消えたそれはディルドを経て性器から滴る性的興奮で分泌される液体で座席を汚さない為の配慮かと思われた。 妻は乳首を指で弄ぶような状況にあってさえ、社会的に一定の配慮を示していた。 それは妻が完全に堕落の虜となっておらず正気を保っている証でもあったが、反面正気で自ら股間から溢れる程の快楽を貪っている事も伝えるのだった。 改めて画面下に表示される時間を見ると、映画の始まりから十数分の事かと思えば、この時間で正気を朧気とする妻の身体が開発されている事を慨嘆するのだったが同時に妻が離れるような感覚も覚えた。 映像は公衆の中で公然と悦楽に耽る妻を写していたが、漸くそれは暗転した画面とともに消えた。 そこでようやく自分を傷つける映像は終わった。 少なくとも妻は犯人の男性器を受け入れる事は無かったが、喫茶店の秘密の露出から駅前での視線に嬲られる光景を経て映画館での妻自身による自らの陵辱まではそれに等しい感情を植えつけた。 犯人が妻をレイプするのでなく、意に沿わない行動でも妻自身が肢体から快感を生み出す過程は自分には惨めな開発風景だった。 どれだけ時間が過ぎたのか考えるまでもなく、映像に見入っていた時間分が経過しており車の中で苦しみと悲しみに暮れようとしても、怒張が醒めない股間はスーツをテントのように不自然に歪ませていた。 混乱した頭では犯人を追跡することは考えられず、エンジンに火を入れるとそこが妻の陵辱現場であるように不必要な加速でその場を後にした。 今はただ、自身の男性器を妻に備わる快楽器に埋めたかった。 この時間は帰宅の車が横を通り過ぎていたが、構わず路肩に車を停めると携帯電話で妻を呼び出した。 数回の呼び出し音で妻が応答しない事に苛立つと、圧力で切断する訳でもない硬質のあくまで冷たい樹脂を押さえつけた。 呼び出し画面から、電話番号リストに変化した画面を見つめている��、衝動のままに行動する愚かさが背筋を伝うと冷静さを取り戻した。 今自分は犯人への経路を手に入れ、誰にも知られる事無く問題を処理する事ができる機会を大事にすべきだった。 一時の激情に身を任せては犯人に捕らわれる一方ではあるのだった。 一呼吸置いた途端に携帯電話は細やかな振動で妻からの着信を知らせた。 努めて冷静に妻に応じると、妻は今から帰途につくとの事だった。 仕事が長引いた事を言い訳がましくならないように伝えると妻を拾って帰る事で話がまとまった。
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