#私は愚かな娘でしょうか、母様?ならばきっと、貴方に似たんでしょう。
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damn, kokonoe winquote got hands.
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書物礼賛④
味噌ノ山/ひざが痛い!/自費出版2024
前回取り上げた『大便革命』の印象的な一節「女はたまる、男はくだる」。くりぃむしちゅーのANNで語られる、彼らの名物マネージャーからやがて独立社長となるババア大橋氏の便秘エピソードは抱腹絶倒。大橋氏への愚痴をはじめ、独身時代のくりぃむ有田氏が女性全般への不満をしばしば語るのに対し、現役のラジオ番組・中川家のラジオショーでは兄の剛氏がしばしば女性賛美を語る。
「女はどんなことでも楽しめる。友達と何時間でもしゃべっていられる。嫌いな人とも会話できる」。そうした美質が最大限発揮された入院体験リポート漫画が本書。著者はクリスマス飾りを撤去しようとして転倒し膝の靭帯を断裂。義母の介護があるためしばらく温存療法で耐えていたが、コロナ禍に突入し義母が特養ホームに入所することなったので入院・手術に踏み切ることに。
手術までのあれこれ、装具や車椅子、リハビリの様子など、確かな観察に基づく丁寧な描写、配慮の行き届いた人物���形、入院マニュアルとしても使えるよう大きな出版社から流通させてほしいと思うような充実した一冊となっている。学生時代漫研だったが創作から長く離れていたとのことで、一般社会にはこうしたポテンシャルのある人が山ほど隠れているのだろうなと。長所と短所は表裏一体になっていることが多く、有田氏の不満も剛氏の賛美も「男と女は違う」という本質論なのではないか。芸人さんのラジオは人気があるほど本質を避けて、何を買ったとかどこへ出かけたとかうわべの消費を語りがち。その人から見た本当のことを語ってほしいし書いてほしい。
藤谷治/新刊小説の滅亡・新刊小説の逆襲/破船房2023
2015年ダ・ヴィンチ誌に掲載された短篇とその続篇。文芸出版協会が新刊小説の出版を止める協定を結び、それによって新刊に占められて存在意義を失っていた既刊書籍が一定の復権を果たすも小説の退潮は止めようもなく、それでもなお良質な新刊小説に夢を託す編集者と無名小説家の悪戦苦闘を、筒井康隆『大いなる助走』の舞台設定や文体まで借りたような形で描く。「同時代を見つめた結果、タイムスリップで歴史上の有名人に会うとか、魔界に選ばれた高校生が悪の根源と闘うような小説ができたってことですか? 同時代を見つめるとか、時代の要請じゃなかったんですよ。右顧左眄ですよ。マーケットリサーチだったんですよ」。
鬼越トマホークのユーチューブ・チャンネルに三四郎の相田氏と小宮氏が一人ずつ連続で呼ばれて半生を語る企画は、金持ち学校(成城)で出会った2人の、微妙に異なる角度から語られる学園生活が陰影に富んでいて良い本を読んだような充実感があった。しかしたとえばそれに類するお笑い芸人さんのラジオ番組も、文字に書き起こして即良い本になるとは思えない。本書が言うまでもなく、小説をはじめ紙メディアにおける日本語の語りというのは終っているのだと思う。皆川博子の小説は完成度が高いが、読後感が胸糞で、2度と手に取る気が起きない。松本清張はどれも似たようで抜きんでた傑作がない。出版社であれテレビであれ東京��集中し、国民を「(支配側と)お気持ちお立場ご一緒に」誘導する官僚制の装置であって、分断と棲み分けを志向するから、メジャーな漫画雑誌やオリンピック開会式のように「意味さえ分らない」惨状を呈したのである。意味や価値観を提示すると、森喜朗のような各界のジジイが怒るからねえ。「八戸さんは自分で校正せず、専門家に出したようだ。外注だからお金がかかっている」。甘いですね、私は本をマーケットに送り込むまで、作品を書くのと印刷製本以外すべて自分でやっていますよ。
売野雅勇/砂の果実 80年代歌謡曲黄金時代疾走の日々/朝日新聞出版2016
チラシを読んでいたら「ちょっとHな美新人っ娘」というキャッチフレーズが目についた。ミルキーというルビがふってある。新人=ルーキーというシャレだと一年以上経つまで気がつかなかった。(中略)原稿用紙に大きな文字で、「少女A(16)」と書いた。新聞の社会面と同じに見えるように、年齢もいれた。(中略)下書き用のノートに残っていた、沢田研二さん用の 「ロリータ」の設定を借りることを、苦しまぎれに思いついたのだ。「ロリータ」が、アッシェンバッハの視点から書かれたものなら、「少女A」では、カメラをタジオの視点にする。しかも、美少年から美少女に変えて。
音楽は救い。しかし私��とって音楽に包まれることは、すなわち自分が非国民であるという自覚にも包まれることになる。日本のポピュラー音楽の全盛は、浜口庫之助らが活躍し、ニューミュージック勢が台頭した1960~70年代。1978年からザ・ベストテンが洋楽を締め出す形で毎週お祭りを提供し、作曲とパフォーマンスの質が世界最悪となっていく没落が始まる。
「セクシャルヴァイオレットNo.1」「もしも明日が…」「おどるポンポコリン」…。あざとい下品な作曲、しかし広告やテレビ番組とタイアップすれば驚くほど売れて儲かる。レコード大賞を受けたウインクの「淋しい熱帯魚」は、洋楽カバーである2つ前のシングル「愛が止まらない」の曲想そのまま少し加工しただけの模造品。恥ずかしくてiTunesに入れられない。日本で一番売れたシングルも盗作だ。歌の下手なボーイズグループなんていうのは他の国では存在しえない。広告・テレビ・芸能の業界人が結託してキャラをでっちあげて素人以下の芸をヒット商品に換える、その音楽上のキーマンが阿久悠、松本隆、そして著���のような作詞家である。
沖田浩之という男性アイドル、私と近い年で、同じ時代にも業界が売り出し方を間違えている印象があった。舟木一夫や橋幸夫のようなズレたイメージ。そこへいくとやはりジャニーズ事務所は巧みだった。サザンや山下達郎が作るようなフェイク洋楽を、下手くそでも衒いなく堂々と歌う。どうせ日本語の歌なんて日本人以外誰も聞かない。低レベルでも細かな消費の記号を散りばめてメディア上で輝ければいいのさ。中森明菜のミルキーっ娘もズレていたが、不良イメージの強さが不満で一度だけレコーディングで歌えばいいからということで出した2曲目「少女A」が大ヒット、スターの階段を駆け上がる。詞・曲は凡庸だと思うが、少しふてくされて、しかし天性が発揮された歌いぶりが素晴らしいのである。
売野氏は1951年生まれ。上智大卒後いくつかの広告代理店、レコード会社宣伝担当を経てフリーランスのコピーライターから作詞家に転身。普段は無口で、自作を売り込む時だけ饒舌になる。売れない雑誌の編集も手がける。業界人としてポジションを得ている、しかしクリエイターとしてはズレていて人脈が財産というような人物から気に入られる才能があったようだ。消費の記号をたくさん知っていて流行の波を仕掛けることができる。歌謡曲やJ-popに愛着ある人なら楽しく読めるのでは。私は薄っぺらい人物だなと思いました。
色川武大/喰いたい放題/集英社文庫1990・原著1984
私の母親のところに米を運んできていたおじさんは、荷をおくと熱い茶を所望して弁当を使ったが、彼の弁当は米飯ではなかった。うどん粉のバンか、芋だった。
そうして彼等の姿も昭和三十年代にはほとんど見られなくなった。
察するに、目白のたまごのお爺さんは、そういう類の生き残りであろうか。──私ははじめそう思った。
ほどなくその考えを変えた。お爺さんがたまごをあつかうときの手つきが撫でさするように丁寧なのである。この仕事を本当に愛してるんだな、と思う。たまごを運んで、売る、そうしていることが好きで好きでしようがないんだ。そうとしかいいようがない。ただの惰性で老人に続けられるわけがない。
とにかく、ありふれた無精卵よリも、お爺さんが難行苦行して運んでくる本物のたまごの方が、ずっと安いのである。
主婦たちは皆、容器を持って並んで、ーキロ、ニキロと買っていく。周辺のおソバ屋さんや小料理屋さんも並んでいる。 せっかく安売りしたって、その人たちが商売に使って結局もうけてしまうわけで、あほ らしいようにも思えるが、お爺さんはついぞそんなことは考えないらしい。本質的に人間が高貴なのである。
(中略)まったくそれは絵になる光景だった。ものを売り買いするということは、こういうことなのだ、と思う。(中略)大切なたまごを、カチッ、と割って喰べてしまう。お爺さんの汗と執着が、つぅッと喉のあたりをすべりおちる。実にあっけなく、またうしろめたいが、ものを喰べるということは、実はこういうことなのだと思う。
長々と引用してしまいました。谷崎潤一郎が『文章讀本』の中で文章は含蓄がすべてである的に述べていたが、メディア上にこれでもかと即物的な情報があふれている今、小説家のそういう特権的な意識は通用しないのではないか。結局は、情理を尽くして分ってもらおうという姿勢、そうさせる人徳を賞味させていただくことが読書なのだと思う。それは時代や流行によってすり減らない。何度でも味わえる。著者は阿佐田哲也名義の『麻雀放浪記』でも知られる、博徒から業界紙編集を経て作家として名を成した異色の人物。30代でところかまわず眠ってしまう難病ナルコレプシーを発症、長年の放蕩のため肝臓・腎臓も弱く、それでもなお食を堪能しようとする生きざまが遺憾なく発揮された好著。60歳没。
山本高穂+大野智/東洋医学はなぜ効くのか/講談社ブルーバックス2024
東洋医学によれば気・血・水の流れこそ生命活動の本質。脳ではない。昨夏に始まった耳鳴りと、それに伴って悪化した肩こりを癒すべく、12月下旬から鍼治療を受け始め、人体の神秘を実感。施術初日は最中にお腹がグゥ~っと鳴る人が多いとのこと。自律神経が刺激され胃腸が活発にはたらく。私の場合はそれに加え、2~3日の間風邪をひいたような症状が表れる。悪寒・鼻水・喉の痛み・関節痛など。交通渋滞を緩和しようと体のあちこちで道路工事を行っている感じがその後も続き、ちょっとしたことで調子を崩す。人手不足で道路工事の費用も高騰、そもそもアトピーだったり猫舌だったりタバコの煙を肺に入れるなんてとんでもないという神経過敏の60歳には刺激が強すぎたようである。腎経・膀胱経と呼ばれる経絡に沿って全身を少しずつ、相対的に後頭部など上半身の刺激を弱めてもらうことで症状緩和。ここに辿りつくまで7ヵ月余…。
緩和といっても、耳鳴りにせよ肩こりにせよ病気未満の生理現象・老化現象でもあり、半減がいいところでしょう。なぜ効くのか、効くと断言する書名にすがる思いで手にした本書、先史時代から積み重ねられ、経験則的に体系化された東洋医学、その効能を実証的に解き明かそうという趣旨。ツボ・鍼灸・漢方薬について「家庭の医学」的な小辞典として常備してもよい一冊。
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06250159
今となっては人が辿り着けない、忘れ去られた森の奥に、古びた洋館は佇んでいた。
夜には人間ではないものたちの舞踏会。
ひとりでに鳴り響くピアノの音に合わせて、魑魅魍魎は舞い踊る。
それを壁に寄りかかって楽しげに眺めていた男が、ふらりと宴に近づきピアノに触れる。その瞬間、ピアノはポロン、と和音を鳴らし、まるで尻尾を振ってじゃれつく犬のようにポロン、ポロンと楽しげな音を奏でた。
「そろそろ調律が必要だね、ピアノくん。」
ある者は体液を、ある者は魂を、そしてある者は全てを忘れられる魔法の粉を撒き散らしながら、魑魅魍魎は宴に酔いしれる。
その時、騒々しい音を立てて洋館の扉が開かれた。音の正体は何かに躓き派手に転んだらしい。驚いた魑魅魍魎たちが逃げ惑い、さっきまで上品な舞踏会を催していた洋館が、まるでお祭り。どんちゃん騒ぎ。
収集のつかない面々に呆れ顔の男。駆け寄り抱きついた騒がしい男が、太陽のような眩しい笑顔と歯を見せて笑う。
「ただいま!おそくなっちゃった!」
「......もう少し静かに入れないのかな、此岸。おかえり。」
「へへ、ごめんごめん、彼岸くん。ゆかがわれてたよ。なおさなきゃ。」
「そろそろ慣れてくれないと、君が来るたびに皆が驚くよ。」
「はは、だよね。ごめんねー、みんな。」
二人が揃ったのを見て、魑魅魍魎たちは散り散りに自らの住処へと帰っていく。ごめんねー、騒がしかったねー、と声をかける此岸を見ながら、場の温度が冷めていく。後に残すのは静寂のみ。呆気ないものだ。いつもこうして全てが終わった後は、酷��寂しい、心に穴が開いたような感覚になる。
どちゃり、と買い物をしたらしい此岸が戦利品を机に置き、遊び盛りの子供のようにソファーに飛び乗って雪崩れ込む。そこはさっきまで首無しの騎士が踊り狂って倒れ込み鮮血を撒き散らしていた場所だったが、どうせ汚れても洗濯するのは僕だ。と開き直って黙っておいた。
「はぁ、つっかれたぁ。まちってほんと、とおすぎだよね。」
「随分遅かったね。今日はどこで遊んでいたんだい?」
「いろんなと���におでかけしてきたよ。ほらみて。おさいふすっからかん!」
「......此岸くん。」
「はい。」
「僕が今朝、街に行って買い物がしたい!と強請る君に渡したお金はいくらだったか覚えているかな?」
「えーーーー...っとぉ......かみがごまい、だから、ごせんえん?」
「...此岸。あれは諭吉だ。英世じゃない。君が持って行ったのは5万円だ。」
「あー。」
「あー。じゃないよ君。...まぁ、仕方がないか。こうなることは概ね予測済みだったから。で、何を買ったのかな。」
気まずそうに彼岸の顔を見ながらも、戦利品を早く見せびらかしたかったらしい此岸が、紙袋やらビニール袋やら机に投げ出していたあれそれを開封し並べていく。その楽しげな顔に毒気を抜かれた彼岸は、ため息を吐いて彼の前へと座り、広げられる品物の数々を手に取っては、釣られて笑った。
「これは?」
「かいだんでころがすにじいろのおもちゃ!」
「これは?」
「かっこいいりょうりどうぐだよ。かなものやさんでかったの。おにくをやくまえにたたくものなんだって!」
「もうあるんだけどなぁ。肉叩きなら。」
「えへへ。とげとげつよそうでしょ?」
「これは?」
「きんぎょ!こっちには、きんぎょばちもあるよ。えさも!これね、くろくてめがでてるのがぼくで、しろくてきれいなのが彼岸くん。」
「いいな。名前は?」
「しーちゃんと、ひーちゃん!」
「覚え易くて良い。採用。」
「あとね、これ。彼岸くんがすきっていってた、はなだよ。」
「...あぁ、アングレカムか。母に似て、好きな花だよ。よく覚えてたね。この子は日向が好きだから、枯らさないよう日に当ててやらないとね。」
「なんだかいいにおいがする、とおもって。ぼくちゃんとおみずやるね!」
ふんすふんす、と鼻息を荒げまるで褒美を待つ犬のような此岸の頭を撫で、彼岸はさて、と場を仕切り直した。それは、冒頭からずっと気になっていたことを、指摘すべきかと考えあぐねているうちに此岸のペースに取り込まれていたからだった。
「で。今日は何を連れ帰ったのかな。」
「なんのこと?」
「...君のせいで、僕は血塗れだよ。お気に入りのシャツが真っ赤だ。」
「あー...あは、だよね。ごめんね。すてきなかぞくをつれてきたんだ。といっても、ひとりはかけちゃったんだけど...」
「おや、お客様だったか。なら、おもてなししなきゃいけないね。支度しようか、此岸。」
「はぁい!」
後頭部に鋭い痛みが走ったところまでは覚えていた。が、目を覚ました場所は見知らぬ洋館らしき古い建物。ここがどこで、何月何日の何時なのかも全く分からない。口には猿轡、手足には指錠が掛けられていて、身悶えすることしか出来ない。が、身悶えした瞬間、足首に激痛が走り一瞬息が出来なくなる。足をやられた、と脳内で舌打ちを漏らし、あたりを見回せば傍らには横たわる妻と、そして娘がいた。もう一人の娘はどこに。襲われる直前まで一緒にいたはずだ。とコンクリートが剥き出しの床に頬を擦り付け周りを見回していると、古い扉がギィ、と軋んで開く。
「ほら、おきゃくさんだよ!」
「縛り上げて口枷まで。あぁ、血が滲んでるよ。全く...手口が雑だな。」
「ごめんって。だってあばれるんだもん。」
「そりゃ暴れるだろう。いきなり街中で拉致されるんだから。」
軽口を叩きながら部屋に入って来たのは、小柄で細身な色白の男と、その男よりも背が高く、健康的な身体に笑顔を浮かべた男。神経質そうな細身の男が我々を見て顔をしかめ、心配そうに私の顔を撫でた。気味が悪く避けるように身体をしならせ避ければ、しゅん、と困った顔をして顔を覗き込まれる。異常だ。まるで意味が分からない。
「とりあえず、おはなししないとね!彼岸くん!」
「そうだね。此岸。さぁ、いらっしゃいませ、お客様。」
彼岸、と呼ばれた男が私の後頭部へ手を回し、猿轡代わりに口に詰め込まれ固定されていたタオルを取った。肺に流れ込む新鮮な空気を目一杯吸い込んですることなど、一つしかない。
「っ 、ゲホ...誰か!誰か!!助けてくれ!!!!!」
「うわぁーうるさい!うるさい〜!」
「紳士、お静かに。ここは山奥の洋館。呼んでも誰も来ませんよ。」
「誰か!いないのか!助けてくれ!!!誰か!!!!」
「うるさいっていってるじゃんか!もう!」
髪をグシャリと掻き回して癇癪を起こす子供のように叫んだ此岸、と呼ばれた男が手に持っていた火かき棒を思い切り私の頭に振りかざした。その瞬間、鋭い熱さと、そして世界が揺れる気持ち悪さで目が眩む。振りかぶって頭の左側面を殴られた。耳が酷く熱い。
「コラ!此岸!」
「うぇぇ、ごめんなさぁい...だって、ぼくのみみ、いたくなっちゃうから...」
「すまない��。耳が切れてしまったみたいだ...。止血するから、大人しくしていてください。」
私の隣に蹲み込んだ彼岸がポケットから出した柔らかなハンカチで私の耳あたりを押さえ、「救急箱持って来てくれるかな、此岸くん。」と指示する。脱兎の如く駆け出した此岸を目で追えば、傷の様子を見ていた彼岸にくすくすと横で笑われた。
「可愛らしいでしょう、彼。子供なんですよ。」
「...どう見てもただの、大人の男じゃないか。なんなんだ、ここは。アンタは誰だ。目的はなんなんだ。」
「此岸が連れ帰って来てしまった、と聞いています。心中お察しします。」
「聞いてるのかお前、おい!」
「全く、ゴルフじゃあるまいし、火かき棒を振りかぶるなんて。」
「彼岸くん!もってきたよ〜!」
「ありがとう。」
さて、と、先ほど投げ捨てたタオルを拾い上げた彼岸が、私の口にそれを突っ込み直す。そして、救急箱の中から恐らく医療用の針と糸を取り出し、そしてにこりと気持ちの悪い笑みを浮かべた。
生きながら麻酔なしで耳を縫われる、その感覚は二度と味わいたくものだと、焼き切れそうな思考の中でどこか冷静な私が懐古していた。強張った手足の感覚はもう既に無い。
永遠とも感じ取れる時間の中、終わったよ、という声がどこか遠いところからモヤがかかったように聞こえる。目を開けば、優しそうな笑みを浮かべた彼岸が私の頭を撫で、よく頑張りましたね。と私を褒めている。
「うまいなぁ、さすが彼岸くん!」
「全く、君は火かき棒の使い方が分かってないな。そもそも人に振るうものじゃないし、何のためにここに板がついてると思う?」
「...あぁ、そういうことか!ぼくりかいした!じっせんしていい?」
「また余計なことを思いついたな。此岸。全く...。」
「よーしじっせん!こうでしょ!彼岸くん!!!」
声を発せない状況のまま、此岸が先ほど私の頭めがけて振りかぶった姿とはまた違う、上からストンと振り落とすような仕草で火かき棒を、妻と、そして娘の頭に下ろした。ぐちゃ、と鈍く聞こえたその音で、目の前が怒りにより真っ赤に染まった。びくん!と身体を震わせた妻と娘が目を覚まし、そして光景を見て、痛みに喉から搾り出された金切り声で絶叫する。
「ねぇ彼岸くん、ぼくじょうずにできた?」
「...そうだね、とても綺麗で鮮やかだった。で、誰が治療すると思ってるのかな?此岸くん?」
「あっ...」
「罰として明日の洗濯係は君だ。」
「ちぇっ...でも、てつだってくれるんでしょ?」
「...君に任せていたら、また蝶々やらバッタやらを追いかけて終わらないからね。」
「へへ、やさしいなぁ。ありがと!」
手慣れた様子で妻と娘の耳を止血し、火かき棒がざっくりと切り落とした耳を此岸へと手渡す彼岸の様子に、血の気がザザ...と失せていく音が聞こえた。私達は、来てはいけないところへ来てしまった。連れて��られてしまった。
「さ、皆様が落ち着いたところで、本題に入ろうか。此岸。」
「そうだね、彼岸くん。」
私達の体を起こさせ、壁に持たれさせるようにして座らされる。猿轡は外されたが、叫ぶのが無駄だと実感した3人は黙ったまま、ゲス野郎達を睨んでいる。目の前に置かれたアンティークの椅子に座った2人が顔を見合わせ、まるでパーティーのメニューを決めるかのように軽やかに話し始めた。
「どうやら、此岸くんから見た君達の家族としての姿に何か誤りがあったらしいんです。そこで、君達に、正しい家族の正解を見つけてもらおうと思います。」
「きげんは、えーと、いまがよるのにじだから、あしたのよる、じゅうにじまで!みつけられたら、ぶじただしいかぞくとして、これからもしあわせにくらしてもらうね。」
「彼岸、とか言ったか、お前。」
「はい。何でしょう。」
「もう1人、娘がいたはずだ。どこへやった。」
「あぁ、あのちっさいこ?べつのへやでねてるよ!さっきまで、ぼくとあそんでたんだぁ。」
「......人質から人質を取るなんて、クズだな。」
「あー、ちょっと、彼岸くんのことわるくいわないでよ。」
「此岸。いい。僕が優しいことは、君がよく知っているだろう?」
いきりたつ此岸を制して椅子から立ち上がり、私の目の前へ腰を下ろし、慈愛の目線をもって私を見つめ「大切なお客様なのだから。」と頬を撫でる彼岸。心底気持ちが悪く、強く噛み締めたせいで口の中に溜まった血と唾液を奴の顔へと吐きかけてやった。固まる表情と、彼岸を見て目を見開く此岸の顔。
「ひっ...彼岸くん!」
「はは、大丈夫。大丈夫だよ。明日までゆっくり待って、彼らに正しく生きてもらおう。此岸。」
「うん。かお、きれいにしてあげる。いこう?」
「ありがと。行く。」
閉じられた扉。絶望の音にも聞こえる。正しい家族?そんなもの、それぞれに正解があって然るべきで、そもそも私達は間違った行いをした覚えはない。社会のルールを守り、家族4人で楽しくお出かけしていただけだ。
「あなた...」
「パパ、こわいよ。」
「大丈夫だ。お前達も、あの子も、必ず助ける。」
「うへぇ、つめたーい。」
「温度は仕方がないよ、此岸。ただ、まだ身体は柔らかいだろう。12時間がピークだ、明日の朝ごろにはもう使えなくなってるだろうから、今のうちに楽しんでおきな。」
「うん、たのしむー!へへ、かわいいなぁ、」
ベッドの上に寝かされ、首が雑巾のように捻れた幼女相手に此岸が覆い被さり、意気揚々と腰を振っていた。まるでダンスでも踊っているかのようなその姿に、性的な欲求が生来まるでない彼岸は、命の強さを感じていつも見入ってしまう。
「はぁぁ、やわらかくて、しっとりしてて、きもちいい〜!なんかいでもできそうなきがするよ、彼岸くん!」
「あぁ、楽しめ。存分にな。」
「んんん���〜ふふ、んふふ、あぁ、あぅ、ぅふふっ」
そっとスマートフォンを取り出し、家族の部屋の監視カメラの映��を覗く。此岸曰く、施錠は勿論彼らのアキレス腱を断っておいたから逃げるのは無理、とのことだった。その言葉通り、彼らは芋虫のように這い回り、そして、時折カメラを睨んでは、顔を突き合わせて何か話し込んでいる。全く、酷いことをする。と、目の前で無邪気に幼女と戯れる此岸を見遣る。壁の時計を見れば、そろそろ眠るべき時間だった。
「僕はそろそろ眠るよ。」
「はぁい!おやすみ、彼岸くん。どうかいいゆめを。」
「叶うことなら醒めない夢を。おやすみ、此岸。」
白濁と血と体液に塗れ、蝋のように強張り白くなった子供を見下ろす。今更何の感情も浮かばないが、唯一、彼岸が嬉しそうにしていたことが嬉しかった、と、此岸は汚れた愚息や身体を拭いながら思い返していた。彼岸は食欲も睡眠欲も、そして性欲も捨てた人間だった。代わりを満たすのが自分であることを、此岸は心から誇りに思っていた。
トン、トン、と家族が監禁された地下の部屋へ向かいながら、此岸は彼岸のことを思っていた。形容することが何もない空っぽの人生を、楽しさと不変で満たしてくれた彼岸に報いたいと思うのは、此岸にとって正しいことであり、それを止められる法もモラルも何もなかった。守るべきは彼岸、そして己の秩序のみ。
キィ、と開いた扉に弾かれたように顔を上げた家族が此岸を睨み付ける。傍らの椅子を引いて座った此岸は、消耗した様子の子供、そしていきり立った両親を見て、チリチリと焼ける胸の音を聞いた。
「幸せな私達がなぜこんな目に、って思ってる?」
「...貴様、さっきの此岸か?別人か?」
「此岸だよ。彼がくれた名前なんだ。覚えてくれてありがとう。」
「気持ち悪い。何なんだ、貴様らは。ホモのお遊びに、私達を巻き込むな!」
「口汚く罵っても、生憎僕らには効かないよ。」
「...目的は何なんだ。」
「彼岸はね、正しいことを正しいと思い続けてきた人なんだ。僕はそれを正しい、と肯定してあげるために、彼の側にいる。」
「何を言ってるのかさっぱり分からんぞ!」
「だろうね。」
「なぁ、逃してくれ、助けてくれ、頼むから。」
「僕にも彼岸にも、逃すメリットがないよ。」
「誰にも言わない、命だけは助けてくれないか、」
「明日答えを見つけたら、助かる。彼岸がそう言ってたでしょ?正しく生きれば必ず報われる。それを証明してあげてよ、彼岸に。」
「さぁ、行こうか。きっと彼らは聡いから、答えを見つけているはずだよ。此岸。」
「うん!彼岸くん、いこー!」
床に垂れ流された排泄物と、微かに血の匂いのするその部屋で3人は転がっていた。バランスを崩して倒れ、起き上がることが出来ないまま期限の12時を迎えたらしい。出したヒントはきっと何も伝わってないんだ���うな、と、此岸は今後の行動を頭の中でシュミレートしていた。彼岸が優しい笑顔を浮かべて、彼らを見下ろす。
「さて、正しい答えは見つかったかな?」
「......私達は、共働きで、娘2人を育て、3人目は男の子がいい、と話していた。忙しい時期でも家族と過ごす時間は必ずとった。お出かけだって散歩だって、いつも横並び、皆で手を繋いで進んできた。貴様らの歪んだ正しさなんて、知らない!私達は私達家族として、これからも、皆で幸せに暮らす!これが答えだ!!!」
「...はぁ...はは、そっか、そっかぁ......」
バッドエンド。選択肢を間違えたプレイヤーはどうなるか。幾度となく繰り返したエンドロールを、一からまた見始める此岸の目に映るのは、昨日買ってきた肉叩きを母親に振るう彼岸の後ろ姿だった。
「だから!間違ってるって言ってんだろうが!何が家族だ、何が幸せだ!!お前らの幸せは!!!誰の不幸の上で!!!成り立ってると思ってるんだ!!!そもそも己が幸せだなんて誇らしげに恥ずかしげもなく言い放つその低能さと自惚れ具合の凄まじさに閉口しちゃうよ俺はさぁ。幸せ?はは、笑っちゃうなぁお前らお出かけで電車に乗ってたらしいが皆が皆スマホを見て会話なんて全く交わしてなかったらしいなぁ!それのどこが幸せな家族だ?おかしいだろ幸せなら和気藹々と仲睦まじく電子機器に囚われてないで語り合えよなぁ!ドラマで見たことあるかよ家族が無言でスマホ見てるだけのシーンをさぁ!間違いに気づかず生きてたからこうなったんだお前らは自分たちが間違ってたことを悔いて悔いて悔いて悔いて死ね!死ね死ね!!はははあーーー楽しいなぁ!」
「彼岸くん、」
「お前、安物買ったろ。折れたぞコレ。いつもの寄越せ。」
「へへ、ごめんね。じゅんびしてあるよ!はい、これ。」
こちらを振り向くこともなく彼岸が投げ捨てた肉叩きの柄の部分。折れた重い頭は、恐らく彼岸の前でずたずたのミンチに成り果てた身体のどこかに沈んでいるんだろう。手に持っていた彼愛用のバールを手渡す。
「彼岸くん、ぼく、ごはんつくってくるね!おなかすいちゃうでしょ!」
「あぁ、出てけ。出来たら呼べよ。」
「...うん、ありがとう。」
彼は愛用の道具を握り締め、目の前のミンチとの遊びを再開させた。こうなってしまった彼岸は見ているのが辛い、と、此岸はいつも終わるまでの間は部屋から出ていた。ぱたり、と閉じられた扉の向こうから、穏やかな彼から出たとは到底思えない狂気じみた彼岸の笑い声と、罵倒と、心を絞られそうな叫びが聞こえて、此岸は耳を塞ぎながらその場を離れた。
暫く経ち、肉のスープが完成した此岸が部屋を訪れると、部屋はさっきとは打って変わって一切の静寂に包まれていた。トントン、とノックをし、扉を開ける。返事がなく、鍵が空いている。終わりの��だった。
「此岸...?」
部屋の真ん中で体育座りする彼岸は、何時にも増して小さく見える。彼岸の後ろには赤をベースに構成されたなんらかの塊が飛び散り、固まり、前衛的な芸術のようにも見える100キロ超の肉が散乱している。震える手に握られたバールはひん曲がり、彼の手に血が滲んでいた。早く手当てをしてやらないと。
「彼岸くん、おかえり。ゆめはどうだった?」
「夢...よく、分からない、けど...悲しくて、嫌な気持ちになる、夢だった。」
「そうだね、まちがったゆめだよ。ぼくらのただしいゆめは、いつみられるんだろうね。」
「分からない、怖いよ、此岸...」
「だいじょうぶ。そうだ、きのうかってきたおはながひとつさいたんだよ!」
アングレカム。繊細な彼の正気を保つためのアイテム。花が咲く姿を見る度、「首を吊った母の姿に似ている。」と笑っていた。
「みにいこう!ぼく、ひさしぶりに、彼岸くんのえがみたいなぁ!!」
「此岸、また笑うだろう。僕は絵が下手なのに、描かせようとするのは何故なんだ。」
「みたままかこうってがんばるきもちがね、すきなの!だからほら、おそとであさごはんたべよ?そのあとふたりで、おへやのおかたづけするの!」
「あぁ...うん、そうしよう。」
朝ごはん。壁の時計はもう朝の7時を指していた。今日の舞踏会はとっくにお開きになっていただろう。
魑魅魍魎が夜な夜な集まるこの洋館。頼りない此岸だけじゃ、管理どころか存在を認知することすら難しいだろう。
今日は此岸と共に、舞踏会で自分達が舞うのもいいかもしれない。と、彼岸は立ち上がり、るんるんと楽しそうな此岸の後に続いて、部屋を出た。
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光の庭
!Fire Emblem Heros fan fiction!
・カミュとプリシラの話。名も無き森の夢語りの続き。
・独自解釈・ネタバレ・異世界交流を含みます。カップリング要素一切皆無。
Image song:光の庭(D)
00.
ある時、美しい真白の城に美しい姫君が居た。美しい姫君は、一人の王子様に恋をしていた。幼い頃に、出会った異国の王子様。だが、王子様は黄金郷を探しに長い長い旅に出てしまった。姫君は戻って来ない王子を慈しみ、会いたいと願った。だが、彼女の前に現れたのは、美しい悪魔だった。悪魔は言った。 「お前の願いを叶えてやろう」と。
01.
たまに愚痴りたい時もある。とかつて、この世界には居ない部下のロベルトが言っていた。王だって、王子だって――たまに不満を漏らしたい時もある。 アスク城にある酒場で、レンスターの王子はミルクを飲んでいた。 「不思議な感覚だな」 目の前に居るレンスターの王子はそう言い、椅子に座りながら此方を見ていた。 「この世界に来てから、驚きの連続だと思った。セリスの父上と母上が一緒に居て、アレスの父上と…伯母上もこの世界に居る。最初は夢だと思っていたけど、頬をつねっても、夢じゃない――本当の世界なんだなって」 「リーフ王子は、どう思いますか?」 「でも…この世界に来ていない父上と母上が来たら――僕は、どんな気持ちでいけばいいんだろうって。それが不安なんだ。フィンやナンナも、僕に気を遣ってくれているけど、僕は王の器に立つのが相応しいのかどうか、悩んでいるんだ」 リーフは王の立場であるが、王の立場に相応しいかどうかは――自分自身でも分からないのだ。幼い頃に国を追われ、若き騎士と、異国の王女と共に各地を帝国軍から逃げるように転々として来た日々。とある村でエーヴェルと言う女性に救われ、村の人達と、家族のように過ごしてきた日々。その平穏な日常が、ずっと続けばいい。その平穏が――帝国軍の襲来と共に終わった時。 自分にも見覚えがある筈だ。幼い双子の王子と王女も、立場が災いし、暗い、孤独のような日々を送ってきた。王族の頂点に立つのも、王族に生まれるのも、碌な事が起きない。それがリーフ自身が理解している事であり――黒騎士カミュの悲しみでもあった。 「貴方は貴方の道を進めばいい」 だから、自分なりの言葉を贈る事が、精一杯の類でもあった。 「王族であっても、貴方は貴方の道を進めばいいのです。誰の言葉に惑わされなくたっていい、自分の、信じる道を突き進めばいい」 それが――自分自身の答えでもあり、嘗て――自分自身が下したつらい決断でもあった。だが、目の前の王子は、 「…何だか、あなたの言葉に、救われ���気がするよ…有難う、カミュ将軍」 ――救われた、か。 自分は、誰かの助けになれたのだろうか。酒場からの帰路についている最中、自分自身はその言葉に悩んでいた。 『…それでも、人は何処へ行くのでしょうか』 トルバドールの女性のプリシラから言われたその言葉は――確かに、彼の胸に響いた。人は、死んだら何処へ行く。 「…カミュ将軍、聞こえていますか?」 リーフの護衛騎士であるフィンから、ハッと我に返った自分は彼の方を見た。 「先程、リーフ様と何かお話しされていましたが…どうしましたか?」 「あ、ああ…少し、彼の悩みについて相談したりしていた」 「…そうですか、有難う御座います」 フィンからいきなり感謝され、こちらも理解がイマイチ分からなかった。何故、感謝されてしまうのだろうか。 「…私でも時、リーフ様のお力に、なれない時があるのですよ。自分自身では耐えきれない、立場故や、ナンナ様の事――そして、キュアン様とエスリン様の悩みを抱えているのですから…ですが、こちらに来てから打ち明けられる人が居て、嬉しかったと思うのですよ。だからこそ――」 「いえ、いい…此方こそ、感謝する」 自分自身でもどうすることも出来ない悩みは――リーフやフィンだけが抱えているのではない、エレブ大陸の杖使いのプリシラも心配していたと言うのなら、自分は結局。一人で悩みを抱えているのだな。と苦笑しながら。
02.
「光と闇、どちらが正しいかなんて私には分からないんですが、どちらも間違っている、どちらも正しいって言うのは、人其々なんだと思います」 モノクルをクイッと片手で正し、闇魔導の使い手である彼――カナスはそう述べた。カナスの自室の書斎は彼にとって、宝庫であろう。ナーガ神についての伝承、ギムレーに関してのレポート、ラーマン経典、正の女神アスタルテの本…探究者である彼は、異国の騎士である自分にそう述べた。 「貴方が出会ったあの闇に堕ちた暗黒皇帝ハーディン…でしたっけ、彼は元々、善良な騎士だったと聞きます。オルレアンの方々から慕われていて、草原の民達からは希望だったと聞きました…例えるなら、闇に堕ちてしまえば、後は奈落の底――私は、堕ちてしまった人達を知っています」 黒い牙の者達の事を、述べたいであろう。剣を振るう『白狼』のロイド、獰猛な凶器を振るい、戦場を大暴れする『狂犬』ライナス――彼らの事を言いたげであった。自分は「何も言わなくていい」と告げ、カナスは「有難う御座います」と申し訳無さそうに言った。 「…闇は、必ずしも負の一面、悪とは限らないと、私は思うのです。歴史に葬り去られた、真実。語られざる、英雄の物語――それは、貴方が経験していると自分自身が物語っているからこそ、歴史が証明している。そう、例えばマルス王子が」 光の英雄なら、貴方は闇の英雄でしょうか。 「…妙な例え方だな、しっ��り来る」 「でしょう?」とカナスは人差し指を振った。彼が椅子に座っており、机には色々書物が積み重なっていた。「バレンシア大陸の歴史」「ギムレー経典」「アステルテ経典」「魔石と魔王」「神竜ナーガとメディウスについて」知識を欲する彼が、異界の書物を欲するのも無理はない。と我ながら思う。するとカナスは、ある一冊の本を本棚から出した。 「英雄王マルスの物語」 知識を欲する彼が、この英雄譚に興味を持つのは珍しい事だ。自分の悩み故の決断力であろうか。 「マルス王子が、皆から慕われている光の英雄ならば、貴方とハーディンは闇の英雄です。ですが、彼と貴方の闇は、断然に差があり――違うのです。暗黒皇帝と化したハーディンは、心の闇に、呑まれた英雄。そして貴方は――例えるのは少し難しいのですが、歴史の闇に葬り去られた、英雄でしょう」 ああ、納得した。あの時の自分は黒騎士ではなく、ただの旅の者であった。カミュではなく、シリウスと名乗っていた。 「史実なき戦い、影に隠れた者――闇に葬り去られた者は、私の世界でも居ます。ですが…光と闇は、バランスが成り立たなければ存在意義を見出す事が出来ない。そして、貴方は――何を見出したのでしょうか。何を――」「カミュしょーぐん!マークス様とミシェイル様が呼んでるの!」 自分とカナスが振り返ると、ピエリとラズワルドが自室のドアを開けて、自分を呼び出しに来たのだろう。ラズワルドが「だ、大事な話をされていたのですね…!」と申し訳無さそうな表情をしたが、自分は「いや、良い」と手を振った。 「では、この話はまた、後程で」 まるで自分らしくない。と言い聞かせながら――自室のドアを、閉めた。 「…行ってしまいましたか」 カナスは、飛び出して行ったカミュを見つめ、ふぅ…と疲れた息を吐き出す。やはり、自分はこの世界でも探求を求めすぎている悪い癖が出てしまったようだ。 「…後で、ピエリさんとラズワルドさんに、お菓子でも贈っておきましょうか」 申し訳ない事をしてしまった表情をしたラズワルドに、お詫びの礼の品を考えておきながら、カナスは一つ、気になる事を呟いた。 「…それに、まるで彼女について話したくない素振りを、していた気がしますね…」
03.
「彼の王は泥から生まれた」 アカネイアの大陸一の弓騎士は、そう答えたという。泥から生まれた――その例えは、何処から来たのだろうか。レベッカはそう思った。 それは前、あの自分でさえも畏怖する力を持つ暗黒皇帝と相対していた時の事だ。ジョルジュやカミュが、苦虫を噛んだ表情をしていたのを忘れられない。それに、プリシラも、カミュやマークスについて余所余所しい態度をつい最近していたのも切っ掛けである。あまり他人の過去に突っ込みたくない(エリウッドや彼の御子息の有り難い御忠告である)のだが、ジョルジュと話をするタイミングが偶然にも弓を射る練習の休憩時に出来てしまったのだから。 「…ハーディンは、元々はオレルアン王の王弟だ。しかし、兄より劣る弟と言うのが災い��のか、少し心に歪があった」 ゼフィールもそうだった。彼は優秀過ぎるが故に、父親から忌み嫌われていた。とエリウッド様の御子息であるロイ様もそう仰っていたわね。とレベッカは納得の表情を浮かべた。それと同時に、遣る瀬無い感情が浮かび上がった。 「だが、アカネイアも元々は、高貴な血で建てられた国じゃない、それと同時に――神に守られし王国でもなかった。三種の神器を竜の神殿から盗み、其れを統治して出来上がった王国だった」 「こっちも、竜と人に歪な亀裂が入っていたのね」 「…人間、そう簡単に上手くいくもんじゃないがな。俺だってアカネイアの傲慢な貴族が嫌いだった。ラング将軍やエイベル将軍も、俺は死ぬほど嫌いだったが、アカネイアの為に、と何処かで逃げていた。現実逃避をしていたのかもしれない」 「こっちも大変なのね。ロイ様から、可愛らしいギネヴィア姫様が美しく成長したって言うから…もし会える機会があったら、見てみたかったなぁ」 「そうか…此方もニーナ様と出会える機会があったら、宜しく頼む」 分かった、約束するわ。とにこやかに微笑んだのだが――ジョルジュは口を開き、重たく、ある事を語る。 「――俺も、何時かはああなるだろう。と何処かで諦めていた」 「いつかは、ああなる…?」 「アカネイアの血を引く民が、他国の者達を蔑み、愚かだと嘲笑い、奴隷階級の者同士を戦わせ、動物の様な目でしか見ない剣闘士達の闘技場を見世物の様に観戦し…俺はそれが嫌いだった。だが、俺では何とかならなかった。ニーナ様は、その現状を変えようと必死に頑張っていた。だから俺は彼女の手伝いをしようと考えていた。だが、俺では役不足だったと…グルニア軍と戦う時に、気付いてしまった」 「あ…ああー…黒騎士の、カミュ将軍の事かしら?」 「だが、彼でしかニーナ様の心を開く事しか出来なかったんだろうな。敵国の騎士と、我々の国の王女、相容れない関係なのに、出会ってしまった。出会わなければ良かったのか、出会ってしまったのは必然だったのだろうか。それは今の俺にとっては分からない事だった」 ジョルジュの疑問に、レベッカはある事を口にしようとしたが――開けなかった。 ――ねえ、それはもう、必然だった方が良かったのじゃないかしら。辛い事や、悲しい事、楽しい事があるけれども、出会わなければ、何かが産まれなかったんじゃないかしら。 ニニアンの事を思いながら、レベッカの拳は固く握りしめた。
04.
ニノは歌を歌っている。古い、エレブに伝わる歌である。まだ幼さが残っている魔導士の少女は、アスク城のバルコニーの冷たい夜風に吹かれながらも、用意されている椅子に座って歌を歌っていた。 それを遠回しに見ていたカミュとミシェイルは、暗夜第一王女カミラの臣下である竜騎士の少女から貰った(彼女曰く、日頃レオンやマークスと接していたからそのお礼らしい)暗夜王国産のワインをグラスに注ぐ。 「何処か、遠い国の歌のように見え���」 とカミュはそう述べた。歌は、竜と人の物語を準えた叙事詩のようであった。竜と契約した者と、美しい少女の物語。エレブ大陸に伝わる、悲しい物語でもあった。 「あの少女は、雪を義理の兄と一緒に見た事があるらしい…俺も、ろくに妹であるマリアに、其れらしい事が出来なかったな」 王の激務に追われ、妹のマリアと一緒に、遊んだり一緒にお出かけする事が出来なかったらしい。その王位が、自らの父を手をかけた代償だったとしても、マリアはミシェイルが大好きだった。大好きな兄を、慕っていたのだ。 「…私も、同じ気持ちだ」 敬愛する王の子であるユミナ様とユベロ様と、一緒に遊んだり笑ったり、泣いたりする事はごく僅かで、彼等に何か残す事が出来たのか――後悔した事もあった。 カミュはそう、述べていたがミシェイルに至っては 「貴様はバレンシアであのリゲルの王子と楽しく接していたのではないか」と答えたが、カミュは首を横に振った。 (貴様は本当に優しすぎるな。それが仇となる時があるのだがな――) ミシェイルはそう思う。マリアから見たら自分は「優しい兄」だと思うのであろう。だが、自分はそう優しい兄ではない。妹のミネルバから見たら「父親殺しの自分勝手な兄」と認識された事もあった。 ニノが歌を歌い終わり、立ち上がる。バルコニーの玄関に優しい兄であるロイドとライナス、大事な人であるジャファルが居て、ニノは駆け寄ってロイドに抱きしめる。 (兄である俺が、何をしてやれたんだろうな) ミシェイルは思い悩む――すると、カミュは笑って誤魔化した。 「だとすれば、貴方も私も同じ悩みを抱えていたのではないか。優しい兄と、王子と王女に仕える騎士が、何をやれたのだろうか」 「お前は悩んでいるのか?」 「ええ、自分は――優しすぎるのではないのか。と思い悩む事があるのです。少し、コンウォル家の令嬢と出かけた時に」 あのトルバドールの少女の事か。とミシェイルはすぐに分かった。彼女は厳格な兄と、彼に使える優しげな、柔らかな声音をした修道士の従者が居る。 「…カミュ」 「…何だ」 「――ドルーアに従った者同士、同じ悩みを抱えているが…貴様も俺も、『どうしようもない大人同士』また、飲む事があったら悩みを打ち明けようか?」 「…それは遠慮しておきます」 やはりこいつは騎士であるが故に優しすぎるな。とミシェイルはそう思いながらも、最後の一杯であるワインを飲み干した。
05.
戦場を駆ける漆黒の駿馬、まるで父上の様だと最初は、そんな感想を自分の心に抱いていた。 「…おい、貴様」 プリシラはゲストルームで暗夜王国のあのドジなメイドのフェリシアが淹れた紅茶を飲んでいる最中に、ある人物と出会った。プリシラは唇をハンカチで上手に拭き取り、後ろの方を振り返る。やはり、最近召喚されたばかりの――師子王エルトシャンの息子であり、セリスやリーフと共にユグドラルの解放戦争を戦った仲でもある…。 ――黒騎士アレス。父親譲りの剣裁きをし、戦場にその名を轟かせている聖騎士だった。 「はい、何でしょうか」 自分がそう答えると、アレスは「丁度良かった、貴様に話がある」とソファに腰掛けた。ベルクトとい��、ミシェイルといい、兄と同じ融通が利かない人達と何気に縁があるのだろうか。とそう思っていると、アレスは意外なことを口にする。 「…最近、カミュについて気にしているのだな」 「えっ」プリシラはティーカップを落としそうになったのだが、アレスは「いや、忘れてくれ」とそっけなく答えた。これでは話になっていないのでは。思い切って、プリシラが思い当たる部分を考え、アレスに対してある事実を口にする。 「…貴方のお父様を、思い出しちゃったの?」 無言。どうやら図星のようだ。だが、アレスは「ああ、そうだ」と答えを口にする。プリシラは「やっぱり、そうなんですね」とふふっと笑う。早速だから、彼もお茶に誘ってしまおう。と、隣に居たジョーカーに、紅茶を頼んだ。 「エルトシャン殿下と、カミュ将軍は無茶をし過ぎなんだと思います」 毎回、シグルドとミシェイルが彼等を抱えて私やセーラさんの所に駆けつけて杖の治療を受けてしまうんです。と口にする。 「父上が、シグルド…様と本当に親友だったのか」やはり彼は敵討ちのシグルドに対して敬語をつけるかどうか、まだ迷っているみたいだった。 「で、カミュがミシェイルに抱えられているのは…どんな関係なんだ?歴史書だと、ドルーア側に就いたマケドニアとグルニアの総帥だったと聞いているが」 「…どんな関係、ですか」 確か、その時カミュの事を話していたミシェイルは、友人と言うか、親友とは言い難い…所謂、共犯者?の様な態度をしていた。 「ええっと…一緒に戦った、戦友?」 上手く誤魔化しておく事にした。彼等に首を突っ込むと、余計事態が悪化してしまう。 「そうか」とアレスは納得した表情をした。 「正直、思う。俺はずっと復讐の事を考えていたが…実は、父上の背中を追っていただけだろうな。と今は思ってる」 プリシラは、何も口にしない。アレスの話を、ただ聞いているだけだ。 「…父上は、立派な騎士だったと、母上から聞かされていた。高潔で、誇り高く、優しい騎士だったと聞いていた。俺はそんな父上に憧れていた」 だが、父上が死んだ時は――全てが変わった。とアレスは何処か暗い表情で語る。 「…そうですか、誇り高い黒騎士さんでも、弱音を吐く事はあるんですね」とプリシラは、ちょっと皮肉を込めた言葉を吐き出した。 「騎士である彼等は、誰かを守る為に戦っているんです。貴方のお父様やシグルド殿下、セリス様に、エリウッド公…それに、カミュ将軍や、ミネルバ王女も、前線で戦っている。人はいつか死にます…ですが、その何かを、また次の誰かが受け継いでいるのでしょう」 アレスは「そうか」と口にすると、ソファを棚代わりにして置いているミストルティンを構える。 「…この剣は、父上が俺を見守っている証だったんだな」 プリシラは、そんな彼を見て――ゆっくりと微笑んだ。 「私も貴方も、似たよう���悩みを抱えているんですね。だったら、一緒にお話ししましょうか」
「んで、俺が弓兵に狙われている若を守る為に、颯爽と弓兵を背後から攻撃して、若を助けたんですよ!」 「成程…今度、ミカヤが狙われた時にはその戦法を組み込む事も考えてみるか」 「じゃあ弓兵はあたしに任せるね!マシューは魔導士をお願い!」 「いやいやいや���俺は若様命だからな!じゃあ魔導士はガイア、お前に任せるぜ!レベッカー、期待してるぜー」 「何で俺!?おい、アズ…ラズワルド、笑いを堪えるな!」 ハハハ…と、食堂で弾んでいるマシュー達の姿を見て、ルーテは考える。プリシラがカミュについて気にしている。つまり、プリシラはカミュを見て何かを思い出した可能性は高い。だとしたら、カミュと関わりのある人物を探ってみる事にした。ジョルジュ、リンダ、ミシェイル、ミネルバ、マリア、パオラ、カチュア、エスト、ベルクト、アルム…思い当たる節が見当たらない。だとすれば、まだ可能性がある筈だ。此処はプリシラに尋ねるしか方法は無いだろう。ルーテが心の中でえいえいおー!と誓った途端に、カミュがミシェイルと一緒に、食堂に入って行った。 「いっつも行動しているのは、お友達なのかしら?」とラーチェルが困惑している表情をしていた。何時だったか、覚えていない。ふと、彼等の会話が聞き取れた。 「…で、最近その御令嬢が貴様を気にしていると?」 「ああ、そうだが……恐らくは、あの一件で」「そうか」 (つまり) 「一緒に出掛けた時に、彼女の言葉が…うん…」 (プリシラさんと出掛けた――つまり、彼女の方程式に考えると、ピクニックか何処かに行ってきたのでしょう。そして、彼女の言葉を考えると――やはり、カミュ将軍の過去に何か関係が?) ルーテがその光景を見ていると――後ろからカナスが「何をやっているんですか?」と話しかけてきた。 「いえ、人間観察です」 「人間観察って…ああ、カミュ将軍の事ですか」とカナスは、何か納得した表情で見据えた。 「多分、彼等については、放っておいたほうがいいと思います」 「どうしてですか?私は非常に気になるのです」 するとカナスは――微笑み、こう答えた。 「あれが、彼等なりの答えなのですから」 (彼等なり、ですか) 恐らくは、自分が介入しなくても、無自覚に彼の善人さが――悩みを解決してくれるのだろう。ルーテはそう思い、魔導書を持ち、立ち上がる。 「カナスさん、有難う御座いました」 ルーテが立ち去った後、一人取り残されたカナスは――ちょうど部屋に帰ろうとしていたマシューを呼び出す。 「…マシュー、少し良いですか?」 「えぇ、何だぁ?」 「私の悩みも聞いてくれませんか」「は、はあ…」 恐らく、カミュについては…勝手に誰かが、悩みを解決してくれるのだろうから。
07.
「わぁー!雪だ!」 黒い天馬に乗っている軍師ルフレの娘と名乗る少女は、降り積もる雪を見て感想を述べた。護衛にはパオラが居るが、どうやら雪と聞いて駆け付けたターナと、追っかけてやって来たであろうフロリーナも参加した。ミシェイルは不満げに竜で空を飛んでいるが――そう言えば、雪なんて久々だろう。とこの時思った。 『貴様は、雪を見たと言っていたが――何時頃だ、アンリの道か?』 『アンリの道…確か、氷竜神殿に行く最中に、だ。ミシェイルは雪の中を行くと言うのか?』 『少しあの軍師の娘とやらが雪を見たいと言っていてな…全く、あの黒い牙の少女もそうだが、少しは危機感を…』 『いえ、それは構わないと思った方がいい――こんなに降り積もる雪の中で戦った時は、氷竜神殿で竜達と戦った時以来��ったな。だが、こっちの方が、まだ暖かい』 『…まだ、暖かい?』 『あの時、猛吹雪で――凍えるような息吹を感じたが、ニフルで降り積もる雪は…暖かさを感じる。死を感じられない雪だ』 出発前のカミュとのやり取りを思い出す。自分が彼女らの護衛に立候補に参加したのは、マークが自分の末っ子の妹を思い出す故か、将又他の立候補役が彼女等を任せられない故なのか(ナーシェンやヴァルター)…。だが、ミシェイルはこの雪に、確かな暖かさを感じられたのは事実だった。 「…あの、ミシェイル様?どうなされましたか?」 「いや、少し昔の事を思い出してな」 「…昔の事、ですか?」 「もし、俺と貴様、どっちがマルス王子率いるアカネイア軍を討ち取れるかとしたら――貴様はどっちを選ぶ?」 カミュは自分の忽然とした問いかけに戸惑いを隠せずに居るが、『もし仮にマルス王子を討ち果たし、そしてガーネフを倒せるか』についてを答えるとしたら。まあ、小難しい問いかけに彼は答える事が出来ないだろう――と確信した矢先。 「…ミシェイル、陛下だろう」 驚きを隠せない答えだった。何故自分がマルス王子を倒せるか?とカミュに問いかけた。しかし彼は 「騎士として死ねるのなら、それでいい」と答えるだけだった。丁度その頃は、雪がしんしんと降り続いていた。 結局は、この戦いに何も意味がないと分かっていただろうか、それとも――あの双子の未来が掛かった戦い故の、結論だろうか。 この雪には何もいい思い出がない。が、カミュは気楽に答えた。勝者と敗者の答えなのか、それとも…まあ、いい。これが終わったらカミュにさっさと暖かい酒を寄越せと訴えかけてやろう――降り積もる雪に、舌打ちをしながら。
08.
あいつの顔を見る。高慢な性格のリゲルの王子であるベルクトから見た黒騎士さんについての物語と言うのを誰かはそう言う。俺は彼ではなく、リゲルにいた頃を思い返す。叔父上と話していた時に、今と違う笑い方をしていた。何となくだが、あの時は陰りがない顔をしていた――あのティータという女性と幸せそうに、睦まじく過ごしていた。だが、今の姿は――リゲルの騎士ではなく、グルニアの黒騎士団を率いる騎士の姿だ。何処か、陰りが見えたような気がした。 「貴様からしたら、どうなんだ」「だが、彼が優れた騎士であるのは間違いないだろう」 ノディオンの騎士であるエルトシャンから見たら、自分から見たら優れた騎士である事を直ぐに見抜いた。若くして死んだ者であるが、シグルドの戦友である彼の下す判断は、流石はクロスナイツ騎士団長でありながら、ミストルティンを持つ(どうでもいいが、息子も優れた騎士であるが俺と似た性格をしている)騎士である判断であろう。 「優れた騎士でも、弱点を取られると直ぐに脆くなる」「例えば?」 エルトシャンは口ごもった。きっとあのノディオンの王女や妻の事を言いたいのだろう。自分はそう易々と言及する事は無かった。自分もリネアの事を思い返していたからだ。 「父上は、そう仰っていたのか」 「そうだ」 アレスは自分の問いかけに答え「そうか…」と悩める、思春期の少年らしさをまだ残している表情をしていた。すると会話している自分達の後ろでプリシラが絵本を持って何処かに行こうとしていた。 「おい、い��たい何をしに行くつもりだ?」 「あれ、ベルクトさんに…アレスさん?珍しいですね。二人で何をしていたのですか?」 「ちょっとな…貴様こそ、何をするつもりだ?」 「ノノやミルラが絵本を読みたいって言うから、書斎から絵本を取り出してきたんです。この絵本が一番好きそうかなー…と考えてしまったんです。じゃあ、私は先を急いでますから」 それでは、失礼します。と言い、彼女は先に行ってしまった。 (分からない事だらけだ、結局は――自分は皇帝にはなれないと、何処かで感じてしまったのか。だが、あいつは…王になる器になんて持っていなかった。そう言えば、カミュも何時だったか、ある事を自虐していたな) 『私は騎士の器を持っているとは思えないのですが――王には、猶更向いていなかったのかもしれません』 (…似たもの同士、って事か) 急に用事があると言い、ベルクトが立ち去った後一人取り残されたアレスも自室に帰ろうとした瞬間、後ろから肩をポンポンと叩かれた。後ろを振り返ると――不機嫌な表情をした、従妹のナンナが居た。 嗚呼、これはまた説教のパターンか。と理解したのだが…ナンナは、意外な言葉を口にした。 「ちょっと、話があるの」
09. 「最近、プリシラと言うあのトルバドールの少女とよく話してるわね…私だけじゃ、相手にならないと思っているわけ?」 伯母上譲りの気の強さが得りなナンナの言葉に、アレスは言葉を詰まらせた。別にそう言う訳ではない、ただのお茶会仲間だ。と上手く話せば、ナンナは「…そう」と溜息を吐きながらそう言った。彼女と話をするのは久々だろうか?…いや、ナンナはいつもリーフと話をしていた。そりゃあ彼女はリーフの大事な人だから…幼い頃から一緒にいた仲だろう、仕方がないとは言え、彼女に詰め寄られては困る。「気の強いナンナ様」に言い寄られては、流石の黒騎士アレスもお手上げだろう。 「…そうだな、ナンナ。俺は今、悩んでいるんだ」 「…悩んでいる?どうしたの、らしくないわよ」 らしくない、か。そうだな。と確かに今の発言はまずかっただろうか。ふと考えると、ナンナにある事を尋ねた。 「…ナンナ、一ついいか?」 「どうかしたの?」 「…お前は、フィンの事をどう思ってる?」 えっ。まさかアレスから、フィンの事を尋ねられるとは思っていなかった。これは、答えに迷ってしまう。私はフィンのことを理解している母とは違うのだ…だが、ナンナははっきりと答えた。 「大切な人よ。私やリーフを、立派にエーヴェルと一緒に育ててくれて…エーヴェルが石化した時も、支えてくれた人」 そうか。とアレスは無表情で頷き、天井を見上げた。 …アレスと別れた後、ナンナは彼の行動に不可解を感じた。 (…でも、どうしてあんな事を。いつものアレスだったら――あれ?) そう言えばプリシラと言えば、一つ気になる事がある。プリシラは別の異界で黒騎士と言われているカミュについて詳しく調べている様子が見受けられた。アレスも、プリシラとお茶会をしていたと言う訳ではなさそうだ。じゃあ、一体何の為に?とナンナが考えるとしたら――直接カミュ本人に問い質すしか無さそうだ。 「…でも、どうしてアレスは悩んでいたのかしら…あら?そういえば、カミュ将軍と、叔父上は一緒に出撃していたから…もしかして、そのせい…?」 ナンナは、やっぱりアレスの気持ちも考えた方が良いのかしら。とぼやいた。
10. ざく、ざく、ざく。プリシラはニフルの土地を歩いていた。雪が降り積もるこの国は、雪合戦でも出来そうだ。と考える程だった。そう言えばカミュも、カナスに話をしていたらしく、自分も彼も、似た悩みを持っているのだな――と思いながら、雪がじゃりじゃりとなるこの地を足で踏みしめながら、前に――カミュと一緒に森を歩いていた事を思い出した。死んだら、魂はどこへ行くのだろうか。と問いかけていた。彼は、ニーナ王女の事を語っていた。救国の聖女。と何処かの記述ではそう記され、或いは傾国の魔女。と記されていた。他者を犠牲で成り立っている平和と言うのは、あまりにも残酷だったのだろう――ロイが語っていた『女王ギネヴィア』の物語――ゼフィールの豹変、そしてベルン動乱…竜と人が、分かり合える日は何時かは来るのだろうか。もし、そうだったとしたら…この冬景色を、竜達が見られる日が来るのかもしれない。 ふと、プリシラの足元に、誰かが居た――下を見たら、竜の少女であるファが、雪を見てキラキラと目を輝かせていた。 「ファ、雪を初めて見た!」「ふふふ、そうですね。これが雪なんですよ」 あのね、ニニアンお姉ちゃんからお話しをしてもらったの!イリアの雪はね、綺麗なんだって!と健気に話す姿は、とても楽しかった。 カミュとミシェイル、それに兄とルセアも一緒に連れて来て、ファと一緒に遊ぶのも考えたのだが――雪を見て、思った。 「カミュ将軍に――また、問いかけたい事があります」 この世界にきて、どう思ったのでしょうか。私はそれが、聞きたいです。 「…」 外でニフルの雪を見て、カミュは思う。自分は役目を果たしたからそれでいい。と何処かで思っていた。だが、バレンシアのアルムやベルクト、ティータを見て――一度は考え直した。生きると言うのは、とても残酷な事だ、だが、必死に生きていれば、結果が見えてくる事もある。と言うのも、事実だ。だが、一つだけ心残りがあるとすれば――。 「…この雪を、一度だけニーナに見せてもらいたかったな」 彼女がこの世界に来るのは、まだ遠い。
11.
真白のお姫様に王子様に会える対価というのは、人の心臓でした。人の心臓を悪魔に渡せば、お前の願いは叶えてあげる。そう、1000人の人間の心臓を私に渡せ。と。 お姫様は必死に人間の心臓を食らい続け、悪魔に献上をしました。そして残り一つの心臓を悪魔に上げれば、王子様に会える――しかし、現実は残酷でした。何故なら、残りの心臓は、王子様でしたから。 そう、お姫様は、王子様の国の民や、家族の心臓を喰らい、悪魔に献上したのです。 怒り狂った王子様は、国の民や家族を殺したお姫様にこう言ったのです。 「人殺し」と。 そうして真白のお姫様の心臓は剣で貫かれ、ドレスは真っ��に血に染まったのです。
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映画:バーフバリ見ながら全部メモ 1
見ながら、それぞれのシーンのざっとした情景(あらすじ……よりももう少しこまかい)、ふと思うこととかツッコミとかを書き連ねていくある意味 実況的なネタバレ全開感想&所感(๑•̀ㅂ•́)و✧
【伝説誕生】
《冒頭》
どこか哀調を帯びた歌声と共に始まる物語。 メインの舞台であるマヒシュマティ王国から、川を下るほどに、クンタラ王国や盗賊の砦、そしてクンタラの潜伏地なる地名が映し出される。初見ではなんのこっちゃ分からないが見ていると、やがて地図の南端は滝に変わり、流れ落ちるその滝の一隅、滝の飛沫に濡れ樹木の茂った暗がりの岩壁に、炎の明かりが映る。 そして現れるのは、背に矢傷を受け、赤子を抱いた一人の壮年~初老くらいの女性だ。彼女は傷もあって疲弊しきっているが、それでも懸命に赤子を抱いて進む。手傷を追った彼女は何者かに追われ、必死に逃げているところだ。 賢い女性らしく、血のついた自分の足跡に気づくと、そっとそれを踏みながら後戻りする。 そこへ同じ洞窟から現れるのは、二人の兵士である。彼等は洞窟の出口に落ちている血から、この血を辿ればいいと察する。そうして川の畔にやってくるのだが、足跡は途中で途切れていた。どこへ行ったのか、と見回す兵士の後ろに、先ほどの女性が現れて不意を突き、見事な手際で二人を倒す。 そして再び赤子を抱いたまま逃げようとするのだが、兵士たちを倒したことで精も根も尽き果てたかのように、体はふらついている。歩いて渡るには激しい流れの中で足を滑らせ、彼女は川に流されてしまう。赤ん坊を水につけないようにと気遣いつつも、なんとか掴まれるものを探して足掻くが、ついに観念して空へと叫んだ。 「シヴァ神よ、命がほしいなら私のものを捧げる。けれどこの子は生かせ。帰りを待つ母のもとへ帰るため、そして、マヒシュマティ王国の王となるために!」 そして彼女は、右手にたかだかと赤子を掲げたまま、川面に飲まれ沈んでいく……。
最初からクライマックスだぜぇ! という今となっては懐かしい台詞が、なんの誇張でもなく冒頭5分ばかりでこうして訪れるから凄い。 普通なら、もう少し物語が進んで話に入り込み、キャラに感情移入した頃に来て「ぐおぉぉぉぉっ」となるだろう場面を、開幕3分で見せてくる。 そのくせ、「は? わけ分からん(ㅍ_ㅍ)」とは感じない。それは、高貴な装いのこの女性の力強さ、真剣さ、必死さが伝わってくるからだろう。理由は分からないが、自分の命を投げうってでも「王となるべき赤子」を助ける。自己犠牲の尊さに、素直に打たれることができる。 ここまでのシーンで「上手いな」と思ったのは、地形だ。見せられる地図で、マヒシュマティ王国はこの地方の北、少し小高い場所に位置していると分かる。であればこそ、(滝の大きさ・高さを考えると無茶はあるが)、追われているこの女性が振り返ったとき、はるか彼方に燃えて見える町(王宮) は、「あの高いところにあった国かな」と分かるのだ。
「王の凱旋」まで見ていると、この女性―――国母シヴァガミ(シヴァ神の妃という意味がある名だそうな。名前でなく”国母”みたいな代名詞みたいなもの??)が、いったいどんな思いで赤ん坊マヘンドラ=バーフバリを抱えて逃げているのか、自分の命を捨てようとも救おうとするのか、その必死さも想像できるようになる。 この赤ん坊は自分の孫、というよりも、”最愛の息子の子供”である。奸計にかかったとはいえ、自らの命令で殺めてしまった愛する息子の忘れ形見だ。そして、実母を陥れてでも国を奪おうとする悪逆な王、もう一人の息子に対抗できる唯一の光明、正当な王であり、また、シヴァガミの愚かさゆえに夫を失ってしまった嫁デーヴァセーナにとっての希望でもある。 なにがなんでも救わねばならない、こんな顛末になったのも自分の過ちのせいなのだから、この命などなくなっても構わない。彼女に命を惜しむ様子がまったくないのも道理だ。 その一念で、彼女は川面の上に赤子をさし上げたままで、しばし流れるか、あるいは水中に没したままとどまることになる。(流れているのかどうかまでは見ただけではちょっと分からない)
《滝下の村人たち》
場面が切り替わると、そこに素朴な装いの男たちと、やや小綺麗な衣類を身につけた貫禄のある女性が現れる。 赤ん坊の泣き声を耳にした彼等が見つけたのは、水面に差し上げられた手に支えられ、泣いている赤子だった。 驚いた人々は急いで赤ん坊を助けることにする。一人の男が腰に縄をまいて川に飛び込み、赤ん坊のところに泳ぎ着いて受け取った。すると、もう命はないはずの女性の手がゆっくりと、川上、滝を指差した。ついそれを見やって視線を戻すともうそこに手はなく、ただ水面下に、鮮やかな衣装をまとった死者が流れていくのが見えるだけだった。 男は赤ん坊を抱えて岸に泳ぎ戻り、女性に渡す。高価な装飾品を身につけた女性の手は、最後に滝の上を指差したことを伝えていると、他の人々が近くに兵士の死体と洞窟を見つけた。この赤ん坊はきっと滝の上から、この洞窟の抜け道を通って連れられてきたのだろうと察し、届けようと言い出す男がいるが、赤ん坊を抱いた女性は、「乳飲み子を殺そうと追って来るような場所に戻せるものか。この子は、子供のいない私に川の神が授けてくれたものだ」と言い、洞窟を岩で閉じてしまうよう命じた。
川に沈んでもなお、赤ん坊を支えた手は微動だにしない……ん な 馬 鹿 な wwwwwという光景ではあるけれど、そんなリアリティとは決別しよう。これはそういうリアリティを重んじる物語ではなく、どっちかと言えば神話なのだから。なんとしてでも救わねばならないという国母の一念が、奇跡を起こしたのだ。それとも、王になるべくして生まれた子であるという、運命ゆえか。 川辺に現れる村人たちは、私の目にはどことなくわざとらしく見える。演技として自然ではないというか、個人的には、舞台劇を見ているような大げささ、”型”のようなものを感じる。ごく自然に、本当にそうであるようにとリアリティ重視で現実的に演じるのではなく、むかしむかしあるところに、と語られるような物語として演じる。そんな感じだ。 それにしても、洞窟を閉じろ、この子は私の子にする! と言う女・サンガは、「逆らったら殺す!」である。初見では「どんだけ強いんだこの人wwww」となった。それともインド(の昔話)ではそれくらい女性の権力が強いのが普通なのかな、と。男たち誰も逆らわないし。 ここでサンガがマヘンドラを届けなかったことは、子のない女の身勝手で、誘拐も同然ではあるんだけれど、結果的にこれが赤ん坊の命を救うことになったのは間違いない。届けていたら100%殺されてるだろうから。 川にはまって溺れ死んだ女が支えていた子供と、川べりで死んでる兵士から、「この兵士はこの子を殺そうとしてたんだ」と決めつけるのは短絡的ではあるけれど、事実を言い当ててもいる。サンガがそう決めつけてマヘンドラを我が子にすると決めたことも、ある意味、神話的な運命というものなのかもしれない。
この冒頭を見るだけでも、これが「貴種流離譚」と呼ばれる典型であることは分かる。いわゆる「本当は尊い血筋の王子様とかなのに、赤ん坊の頃にわけあって故国や親元、城を離れ、市井の一般人として育つが、やがて自分の出生を知り、本来つくべき王座を目指していく」とか「世界を救う」とか。 日本人がよく知ってそうな例でいくと、ドラクエ5のメインの主人公もそうだ。パパスは本当は王だった。けれど彼は息子を連れて王座を離れ、息子はそのことを知らず、父もそれを知らせず育てる。そして冒険の末、実はパパスは王だった、自分は王子だったと知り、王の座へと戻る。 キシュリューリタン、なんていう呼び方は知らなくても、多くの人がいつかどこかで味わっている物語パターンである。
《育っていくマヘンドラ=シヴドゥ》
サンガの子となった赤ん坊はすくすくと育ち、少年になっている。彼は滝の傍に座り、滝を見上げ、あの上にはなにがあるのと、迎えに来た母に言う。 本来は滝の上にいた子、そこから来た子なので、サンガはせっかく授かった可愛い息子が、滝の上へ戻って行くことを恐れ、「子供を食べる悪魔がいるのよ」と言う。 しかしそれでも少年シヴドゥの、滝の上への強い関心は少しも薄れることなく、もう少し大きくなると滝を登ろうとしはじめてしまった。それを見つかって母親に叱られるも、それでも彼は諦めず挑戦しつづけ、少しずつ少しずつ、幼い頃よりは登れるようになっていき―――。 ついに"現在"になる。25歳の青年になったシヴドゥは、それでもまだ滝の上を目指していた。 同年代の友達たちは、呆れつつも面白がり、それを眺めている。昔よりはかなり高く登れるようになり、素晴らしい身体能力も見せつけてくれるシヴドゥだが、滝は険しくまた失敗してしまう。どうしても「対岸」に飛び渡らないといけないのだが、幅は広く、届かず落ちてしまう。 そして母サンガは、滝の上を目指し、自分のもとからいなくなってしまいそうな息子シヴドゥに滝登りを諦めさせるため、1016回、川から汲んだ水をご神体に注ぐという、「潅頂(かんじょう)」なる荒行を始めていた。 仲間がそれをシヴドゥに告げに来る。母親がそんな無茶なことをしていると知って、シヴドゥはやめるよう頼むのだが、「私の言うことは聞いてくれないのに?」と母親は取り合わない。母は大切だが、滝の上へ行きたいという切実な思いもどうしても譲れない���だ。 そんなシヴドゥがとった方法とは?
運命なので。 シヴドゥが滝の上に行きたがることに理屈なんかないのである。彼は王国に帰らねばならない。そうしないと映画にもならないし(マテ)。 それにしても、25歳シヴドゥの、顔を出して満面の笑みでバッサアァァァと水をふるい落とすのにはつい笑ってしまったw 少なくともこの瞬間には、演じるプラバースさんもちょっとふくよかなのか、小太りにも見える顔をしている。決して、日本人が一般的に「美男」という顔ではない。その顔でバッサアァァァである。いやまあ顔に関係なく、こんなバッサアァァァやられたら、その俳優が誰でも笑うわ。 で、5分に一回クライマックスがある、なんて言われるこの映画、またしてもむやみに盛り上がるシーンに突入する。 母に無茶な願掛けをやめてほしいが、滝登りをやめると約束もできない以上、さてどうするか。 シヴドゥは、「だったらご神体を水のあるとこへ持っていけばいーじゃん!」と閃いてしまうのだ。 で、シヴドゥはなんとご神体の根本をかち割り、石でできたクッソ重たいそれを担ぎ上げ、運びだすのである。 ここで、リズミカルな歌が入る。ドラムンベース系の、軽くはないが軽快な曲だ。その音楽とともに、シヴドゥは笑顔でご神体を担ぎ、滝の下まで運んでいく。そして常に水が降り注ぐそこにご神体を下ろすと、「これで神にはいつでも水が降り注ぐぞ」、だから母さんが体を酷使して無理な願掛けなんかしなくても、お願いは叶うようになるよ、というわけだ。
個人的に面白いのが、ここの導師である。なんか胡散臭い嘘つき導師みたいな雰囲気も漂っているのだが、サンガ��ら「これをやれば、息子は私の言うことに従いますか?」と問われ、「子は必ず正しき道に導かれる」と言う。サンガの言うとおりになるとは言っていない。そしてこの胡散臭い導師の台詞は、リアルタイム5時間後に真実となるのだ。 また、この胡散臭い導師だけれど、シヴドゥがご神体の根本を壊し、なにかしようとしたとき、男(サンガの夫である村長)が止めようとすると、導師は彼を制止する。突拍子もないが、なにか偉大なことをやろうとしている、と感じればではないだろうか。そのあたりに、胡散臭くはあるけれど、本物の導師っぽさも漂うのである。
またこのシーンでは、実際には血の繋がらない母子が、互いを思い合っていることもちゃんと描かれている。可愛い息子に、「滝の上」という元の居所に戻ってほしくない、ずっと私のシヴドゥでいてほしいと願い、そのために苦行も厭わないサンガ。 シヴドゥは、(サンガを養母と知っているのかどうかはさておき)「それなら母さんの代わりに俺が運ぶよ」、それでは願いが叶わないと言われ、「じゃあ母さんを運ぶから、母さんは水を注いで」てサンガを抱え上げてしまう。母の体を労り、そのためなら自分が苦労するのはちっとも構わない。シヴドゥの人柄が描かれる。
自分が滝の上に行こうとするがゆえの母の願掛けではあるけれど、それでも、願いの成就と引き換えに荒行を強いるシヴァ神、そのご神体を、シヴドゥは強く睨みつける。その後でガツンガツンとつつき始めるのだから、「腹が立って壊そうとしているのか」と一瞬思うが、そうではない。 根本にぐるりとヒビが入ると、シヴドゥはバッサアァァァと威勢よく上着を脱ぎ捨ててセクシーな上半身裸となるw そして曲がかかっていよいよご神体を持ち上げようというとき、シヴドゥはどことなく不敵にも見える、けれど愛嬌のある笑顔でご神体を見る。「神様、じゃあこんなのはどうだ?」とでも言うように、私には見えた。 で、膨張した筋肉で上腕にまいていた木の実を連ねたような飾りはぱっつーんとはじけ飛び、シヴドゥはついに肩の上にご神体を担ぎあげる。 ここで私は、うええぇぇぇぇなんかかっこいいんですけどおぉぉぉ!? となったw ちなみにここで入る歌の歌詞はシヴァ神を描写して讃えるもので、つまりはシヴドゥがあたかもシヴァ神のごとき、あるいは神に選ばれた存在だということを表しているのだろう、たぶん。 で、村人たちはシヴドゥの怪力に驚きつつ、なにやら尊く感じてしまうのか、ほぼ拝んどきモードにw 彼等に見送られ……というよりも、自然と彼等を従えて滝の下まで辿り着いたシヴドゥは、流れ落ちる滝の真下にご神体を据えて、「母さん、これでもう未来永劫ずっと水は降り注ぐよ」、だから無茶な願掛けなんかもうしなくていいのだと、と笑顔で呼びかけるのである。
ところでパパフバリも今フバリも、母・妻にかなり忠実だ。ここで描かれるのは今フバリと養母で、母の願いを叶えるため、シヴドゥは自分が苦労を買って出ている。 そんな親孝行で優しい息子たちだが、それでも譲れないものがあり、そのために今フバリは滝を登って養母のもとを離れ、パパフバリは妻を選ぶのである。
《仮面》
ご神体を滝の下まで運んできて、母も(なし崩しにというか勢いで)納得したそのとき、滝の上からシヴドゥの足元へと流れ落ちてきたものがあった。それは、木製の素朴な仮面だった。 それから数日くらい経過したのか、翌日くらいなのか、ともかくサンガは導師を我が家に招き、食事でもてなしていた。「導師の予言どおり、あれからシヴドゥはもう滝を見上げなくなりました」と。導師はそれも神の御力じゃて、みたいなこと言いつつぱくぱく食べてて、やはり胡散臭いw しかしその代わりシヴドゥは、拾った仮面に夢中になっていた。滝の代わりにその仮面―――美しい女性のようにも見える仮面ばかり眺めているのである。 導師は、「神のご意志は神のみぞ知る」と答える。そして村長が、「ご神体を運んだのは息子だが、では妻と息子、どちらの願いが叶うのか」と尋ねると、「神はご意志を貫かれる」とだけ言って導師は出ていってしまう。 さて、シヴドゥがどれだけ眺めていても仮面は仮面だし、持ち主のことはなにも分からない。やがて彼は砂地の上に仮面を置き、なにげなくその上に手をついて立ち上がった。そして仮面を取り上げると、砂の上には仮面の内側、そのオウトツにそった顔が刻まれていた―――。
サンガは「シヴドゥは私のところにいるのが正しいの」と思い願をかけた。「正しき道」と導師に言われ、きっと、「そうよ、息子は母親のもとにいるべきなのよ、これが正しい道よ」と思えばこそ、導師の予言は当たったのだと感じている。 おそらくシヴドゥは、「滝の上に行きたいなぁ」んて思いながらご神体を運んではいない。じゃあなにを考えていたのかといえば、「今から水の降り注ぐところにつれていくから、それで母さんや皆の願いを叶えてくれよ」とか、あるいは、願掛けとしてはほぼ無心に近い、「これ運んじゃえばいいんだよ、そーさそーさ」くらいだったかもしれない。 どちらにせよ、彼等の思惑は導師の言うとおり、まさに「神のご意志」の前では大して意味はない。シヴドゥはまさしく、「神のご意志」により「正しき道」へと導かれることになる。ともすると、サンガの願いは違った形で叶えられたのかもしれない。「息子は母のもとに戻る」。養母ではなく、実母のもとになるのだが。 どちらにせよ、「神のご意志」である。王たるべき者は王に。そういう単純な、そして絶対の運命のことかもしれない。 シヴドゥが「正しき道」、「母のもと」へと踏み出すそのきっかけが、美女を思わせる仮面、である。
木彫の仮面に美女の面影って無理ないか!? と思ったりしてはいけない。というか、そもそも仮面がその持ち主の顔形に似ているなんて保証はどこにもない、なんて言ってもいけない。 仮面はあくまでもきっかけだ。「なんか綺麗な女の人っぽい仮面だなぁ。つけてた人も美人なのかなぁ。なんかすっごい好みだなぁ。もしこんな人が滝の上にいるなら会いたいなぁ」くらいだと思う。だからシヴドゥは、仮面を手に入れても何日もただ仮面を眺めるだけでいたのではないだろうか。この時点ではいくらシヴドゥでも、「こいつの持ち主は俺好みの美女だぜぇ」なんて思ってはいなかったと思う。持ち主が女の人とは限らないよなぁ、といった常識的な思考もあったんじゃないだろうか。 けれど砂地に転写された顔が、木彫の仮面で見ているよりも美人に見えて、髪とかも砂地に描いてみたら、ますます好みだった。それで、「よし、実際どうなのかは知らないし、いるかどうかも分からないけど、もしいるかもしれないなら、この人に絶対会いたい!!」になったんじゃないだろうか。 そのへんにもきっと、神のご意志と運命は絡んでいると見てもいい。 あるいは、運命ゆえに、理屈なんか一切無視して「これが俺の運命の人だガビーン!!」となった、それでもいいじゃない? なんにせよ、それまでは「わけもなく」とか「なんとなく、だけどどうしても」だった、滝の上の世界に行きたいという”理由のない望み”は、「この人に会いたい!」という一つのはっきりとした理由、目的を見出した。 そしてシヴドゥは、再び滝の上を目指すのである。
《滝登り》
仮面の主に会うために、再び滝に登り始めたシヴドゥ。 冒頭で失敗した「対岸へのジャンプ」のところまで来ると、鮮やかな青い蝶がいた。何匹もの青い蝶をまとって現れたのは、白い衣の美女。 もちろん彼女は実在しない。インド映画独自の、歌と踊りと異世界トリップである。もう少し身と蓋のある言い方をすれば、ここに現れる美女はシヴドゥの心象風景だ。身も蓋もなく言えば、空想、妄想、幻想である。 仮面の主がこんな美女だと決まったわけではなくても、「こんな素敵な人だったりして(´ω`*) で、もしかしたらこれって運命で、彼女も俺を待っててくれてるかもしんないしぃ。だったらがんばらなきゃ!!」みたいな感じ? これで仮面の主がごっついおっさんだったりしたら笑えるのだが、それはさておき。 いくら超人的な身体能力のシヴドゥでも、落ちたら命はないほどの高さにまで登ってきたし、危ない目にも遭う。じりじりと狭い足場を進んでいくようなリアルな場面があったかと思えば、「あくまでもイメージです」みたいなシーンも挟んだりしつつ、「彼は前進と達成のみを知る男だ」という歌に合わせて、ひたすらシヴドゥは登っていく。時折現れ、誘うように、逃げるように先へ先へと、進むべき道を行く美女を追う。 そうして最後。もうどうしても掴まって登れそうもない崖っぷちで、彼はそこにあった竹や蔓から手製の弓を作り、それでてっぺんの木にロープを引っ掛けることに成功し、ついに滝の上の世界に辿り着くのであった。
私の場合インド映画は、多分に漏れず「ムトゥ 踊るマハラジャ」で初めて見て、それ以来特にチェックもしていなかった。それはたぶん、ムトゥが合わなかったから、というのもある。「唐突に始まる歌と踊り」が面白いとか素敵だとかでなくて、退屈だったのだ。映画自体はなかなか面白く見たけれど、もう一度見ようとは思わなかった。 だからバーフバリも、どんなに絶賛されていてもその懸念はあった。 しかし幸いにもバーフバリの歌・ダンスのシーンは、物語の進行を邪魔しない。 最初の「歌」であるシヴドゥがご神体を運ぶシーンは短めだし、彼が運んでいく姿を並行して映し出しているから、「ちょっと大げさな感じの移動に、歌がついている」という感じである。 そして滝登りのシーンでは、シヴドゥ自身は飛んだりはねたり走ったりじわじわしたり、基本的に「滝を登る」という行為を続けるだけだ。歌(と美女の踊り)はやはり、「危険な滝登り」というアクションシーンのBGMである。 ただまあ、いきなりいかにもCGな青い蝶が出てきて、美女が出てきてで、それがあくまでもシヴドゥの妄想でしかないのであるから、途端にアブナい奴になってしまうがw
ところで、インド南部のテルグ語映画というのつは、男がたいていストーカーらしいw もちろんそこには、「思いを寄せる男は、ストーカー的ではあるけど、一途で誠実で、本当に相手を愛している」という前提があるし、「女のほうも満更ではない」という前提もある。これがどっちが崩れてたら、ただの犯罪者である。 ともあれ観客は、シヴドゥのヘヘヘヘ(´ω`*)な妄想を垣間見つつ、一緒に滝の上の世界へと進むのだ。んな馬鹿なwwwwなところもあるが、コミック的だと言えばそれで済む。漫画でなら当たり前にやってるような程度でしかない。 落下したら足にツタが絡まって、とか、普通なら股関節抜けるだろそれ!? みたいなのもあったりするが、漫画とかならありうるシーンだし、実際に描かれて来てもいる。ドラゴンボールとか、そーゆーあれ。普通死ぬ。だが普通じゃないから平気なのである。よし。
どうでもいい話だけれど、私はこのシーンでの美女さんは、特にどうとも思わなかった。もちろん美人だが、女優さんなんだから美人なのは珍しくもなんともない。「うおぉぉすげぇ美人じゃーん!」とは思わなかった。 むしろ、この後にシヴドゥが出会う「仮面の主」、アヴァンティカの女戦士としての凛々しさと美しさのほうが「おっ」と思ったし、ストーカー男に巧みに着替えさせられたときのほうが、「うひょ~びっじーん!!」と思ったのであったw
《アヴァンティカ》
ついに滝の上に来たシヴドゥは、林の中を逃げる女性を見かける。兵士たちに追われている彼女はどうやら、あの仮面の面影によく似た女性である。もちろんシヴドゥは助けなければと思うのだが、逃げて行く先、追い詰められたかに見えた彼女の号令で、一斉に矢が放たれた。 樹上に隠れていた男たちと合流し、彼女は果敢に戦う。男のような身なりで女らしい装いもないが、それでも彼女は美しく、しかも強かった。 助けはいらないらしいと見て取ったシヴドゥがこっそり見守っていると、娘は最後の一人の兵士の身にアミュレットらしきものを見つけ、「これはどうした」と奪いとった。「殺した相手が持っていた」と言われ、兵士を殺し、彼女たちは引き上げていく。 その先には、薄汚れた身なりの者が隠れるように集まっていた。娘は兵士から奪い返したものを長らしき男に差し出し、元の持ち主の死を告げる。つい泣き出す少年を、長は厳しく叱りつけた。「デーヴァセーナ様を助け出すまでは、目には涙ではなく、怒りの炎を灯すのだ」と。 シヴドゥに詳しいことは分からないが、彼女たちはレジスタンスのようである。であればこそ皆、実用性第一の戦闘服であるし、宝飾品も、贅沢なものもなにもない。そして、デーヴフセーナ妃と呼ばれる人物を救い出すことに命を賭けているようだ。 そしてシヴドゥが見つけた仮面は、彼らが顔を隠すために使っているものだったと知る。(つまり全然、美女の顔をかたどってるわけではないw) ともあれ、ここまでついてきて見届けたついでに(?)シヴドゥはそのままストーカーを続行するのであった。
アヴァンティカという、仮面によく似た面差しのその女戦士は、あるとき、湖のほとりで片手を水につけたままうたた寝してしまう。手をついばむ小魚たちのいたずらが心地よかったのかもしれない。 シヴドゥは水中をこっそり近づいて、小魚たちのついばみにまぎれて、彼女の手にあざやかな孔雀の羽のタトゥーを描いた。アヴァンティカはそのことにまったく気付かないまま、やがてアジトである洞窟に帰っていった。 そして長から、デーヴァセーナ救出の大役を任される。その証としてアミュレットを授けてもらうのだが、彼女が出した手には鮮やかなタトゥーがあり、見つけた長は「化粧にうつつをぬかすような奴には任せられん」と怒ってしまう。アヴァンティカ自身には身に覚えのないことである。驚いた彼女は、任せてもらえない悔しさで泣きながら、「この涙は怒りの涙です。見ていただければお分かりになるはず」と長を説得する。 そしてそれから、友人である女性を囮にし、このにっくき悪戯者をこらしめることにした。こんな不覚をとったとしたら あのときだけだと、アヴァンティカは友人に自分の身代わりをさせ、同じように泉のほとりに寝そべらせる。そして自分は、その姿が見える樹上に隠れて、近づいてくる者を弓を狙うことにした。 ところがシヴドゥは一枚上手だった。弓を構える彼女の後ろの枝にねそべって、捕まえてきた小さな蛇を彼女の肩へと這わせる。そして今度は、その蛇の感触でごまかしながら、ちょいちょいとまたタトゥーを描きあげてしまった。
タトゥーと言っても、描いているだけのものでしょう。針でさしてたらさすがに気付かないはずもありません。だとしても、相手の体に勝手にお絵かきとはヤバい奴w このへんはもう、自分がフラれること、相手がそれをマジで嫌がることなんて考えてもいないし、そしてそれが正しいというテルグ的ご都合主義、と言ってもいいかと思います。 気づかないアヴァンティカもアヴァンティカです。二度目の肩に描かれるものは自分では見えにくいので、友人に「それなに?」と言われないと見つられないのも仕方ないでしょう。 しかし一度目のは手ですよ? 手の甲というか、そのへん。なんで気付かんのだ。 それに、うたた寝してたときはともかく、弓を引いて狙ってたときなら、小蛇の感触とそれ以外と、分からないものでしょうか? と、冷静な頭はツッコミますが、いいんです。気づかないんです。そういうオヤクソクなんです。んな馬鹿なwwwwと思っても、白けない。おいおいと思いながら楽しんでしまう魅力があります。
あと、こまかいところはこまかい、それが映画としての面白さを支えてる、というところもあるように思います。 バトルシップとかもそうですけど、大味で大雑把に見えて、設定が地味に活きてるとか、こまかいところがあったり、オイシイ伏線をきっちり拾うとかみたいに、なにもかもが大味なわけではない。 初めて滝の上に来たシヴドゥは、感動の面持ちで雪をかぶった枝を見ていたりします。たぶん雪なんてもの初めて見たのかもしれない。「ついに、ずっと行きたかった滝の上に来た!!」という感動がちらっと描かれる。 そして、追わせれてたか弱い女性のふりのアヴァンティカが、本来の強い女戦士に戻る直前に、一つ深い呼吸の音が入る。力を込めるひとときです。こういうのがちゃんとあったりする。 しかもその間もテンポもいい。嬉しそうに滝の上の世界を見るシヴドゥ、女性の悲鳴、走るシヴドゥがただそれだけなのに何故かスローモーwwwでちゃんと草も生やせる、逃げる女性、それが深呼吸一つを境に、「剣を!」という一言とともに一変する。 だから飽きずに、笑いながら、そしてつい惹きこまれながら、見てしまうのではないかなと思います。
なお、一回目に見たときには、まだ固有名詞も覚えていないのがピンと来ませんが、このシーンの後、冒頭で出てきた地図が現れ、そこが「クンタラの潜伏地」だと分かります。 ほんと、初見では記憶に残らないのですけどw クンタラ王国とかデーヴァセーナ妃とか、固有名詞はこのへんあたりでは完全にスルーです、わたくし。 しかし「王の凱旋」まで見終わって戻ってくると、冒頭の地図で「そうか、ここが彼らのいたところで、だからクンタラの潜伏地なんだな」と分かるし、このシーンの切り替えの場面でも「クンタラノ潜伏地から、さて一方その頃、マヒシュマティ王国の武器工場では」としっかり分かります。
この続きは、いつになるか分かりませんが、また次回! いよいよカッタッパ登場ですよ!!
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「上がっていいですかー」 「あいよ、おつかれ」 「今日はたくさん売ったなー」 「だな。中台のシフトだけで48本か」 「がんばったなー」 俺に向かって手を差し出してくる中台。 「あいよ」 クレカを渡す。 「私はあったかいカフェラテでー、てんちょーはいつものでいいですか?」 「それで」 中台が事務所から出ていく。 いつのまにかできてしまった悪習慣のひとつである。 バイトとはプライベートでは親しくしない、という社長の方針もあって、この店では飲み会がいっさい存在しない。おごる、おごられるという関係すらない。ここまで徹底していると社風とすらいえる。 その例外が中台だ。 いつのころからか、拡販中の揚げ物をたくさん売った場合はコーヒーのご褒美、という流れになってしまっている。 「おまたせしましたー」 中台が戻ってきた。トレーにコーヒーを二つ載せている。 「さんきゅ」 で、雑談になるのもいつもの流れである。 「今日はてんちょーも21時までなんですよね?」 「そう。んでこれから実家」 「実家って、近いんでしたっけ?」 「スクーターで10分」 「なぜ一人暮らしを……」 妹を襲いそうでやばかったからです。 人間がみな正直になった日、世界はたぶん壊れる。 「そういや、中台を採用したときには、俺もう一人暮らししてたんだよな」 「え、ちょっと待ってください? えーと……あれ? てんちょー、高校卒業してすぐですよね、それ」 「だよ。まあしてみたかったんだよ。一人暮らし。実家はなにかと窮屈で」 それもまあ、嘘ではない。 「えぇ……高校卒業してすぐって……えー、それってさびしくないですか?」 「そこは男と女の違いなんじゃないの?」 「そうかなあ……。じゃあ家事とかも自分でしちゃうんですか?」 「ひととおりは」 「え、行きたいです。てんちょーのうち行きたい。えっちな本とか探したいです」 「あれな。エロ漫画とかでよくあるけど、書籍でそういうの持ってるやつとかいねえよ」 「そうなんですか? じゃあどんなかたちで持ってるんです?」 「そりゃスマホの」 「うんうん」 「そういう話はやめなさい」 「はーい」 ついうっかりしゃべりそうになるから怖い。 接客でもそうなんだけど、中台、人の懐��入るの異様にうまいんだよな……。 「そういう中台はどうなんだよ。家事スキルとか」 「あー、それは……」 あはは、と苦笑いする。 「苦手なのか? いかにもシフォンケーキが得意なんですよー、店のデザートなんて私に言わせればゴミですね、とか言いそうなんだけど」 「コンビニスイーツをばかにしちゃいけませんよ、てんちょー。あと私、そんなキャラじゃないです」 まあ実際、コンビニのスイーツってここ数年でめちゃくちゃ進化してるよな。開発の現場は大変らしいよ。本部の人がそう言ってた。俺は甘いもんあんまり食わないからよくわからないけど。 「なにキャラだよ」 「うーん……八方美人?」 「……それ、自分で言うこと?」 「うーん……なんですかね、自虐風自慢、かな……」 中台とのつきあいは長い。 だから、こういう、ほかの人の前ではまず言わないだろうことも、俺の前では漏らしたりする。 「そういうふうにしかできない、みたいなの、あるんですよね……」 まあ、そうだろうな。 その長いつきあいのなかで、中台が大きく崩れたのを俺は見たことがない。汐里の外面と内面の使い分けとも違う。 だいたい、いつも笑顔だ。ネガティブな感情は見せない。もし見せられないのだとしたら、そしてたぶんそうなのだろうが、それはそれでしんどいのだろう。 「ま、なんだ。たまにはキレてみろ。俺相手ならできるだろ」 「理由がないですよー」 「俺の気に入らないとことかないわけ?」 「あー……靴紐がいつも結びかた変なのは気になってました」 「細けえ……」 「てんちょーは、店長としては申し分ないですよ」 ��彼氏としては?」 「ないですね」 ぺかー。いい笑顔である。 まあいつもどおりの展開だ。これが探り合いみたいなことにならないのが、中台といて居心地がいいあたりである。 「さて、それじゃ帰ります」 「あいよ。おつかれー」 制服を脱いで着替える中台。 「それじゃお先に失礼しまーす」 「あいよ。んじゃ次、火曜日な」 「はーい」 と、事務所を出て行こうとした中台だったが、そこで振り返った。 「そういえば、もうひとつ気になってたことがあるんですけど」 「なんだ?」 「てんちょー、アイスは好きなんですか?」 「どうした、とつぜん」 「いえ、甘いものが苦手なのに、アイスは別なのかなって。よく買って帰るじゃないですかー」 「……」 ほんとこいつ、細かいことよく気がつくよな……。 まさか汐里へのおみやげだとバカ正直に言うわけにもいかず。 「そう。アイスは別だ」 「じゃあ、アイス同好会の仲間入りですねー」 そんなもん、いつ結成されたんだ。 「いまのところ、私と茂代ちゃんが会員です」 「茂代ちゃんだれ」 「よく来るじゃないですか。90歳のおばーちゃん。あの人、新商品のアイスいつも買っていくんですよー」 「へー」 なにそれ初耳。 これだからこいつ、店員として最強なんだよな……。 あ、しまった。これ、俺も新商品のアイスを食わされる流れ? さて、寒い。 スクーターで10分の距離とはいえ、実家に着いたときには手が完全に死んでた。やはりつけるしかないか、ハンドルカバー……。 実家は、山の上にある。 この土地にありがちな、急斜面にびっしりと家が立ち並んでいる区画である。道を知らないとまず抜けられない迷宮みたいな場所。 家に入る前に覚悟を固める。 インターホンを押すと『貴大くん?』という声がしたので、はいと返事をした。 まもなく玄関が開いて、早百合さんが出てきた。 「おひさしぶりー」 熱いハグつきである。 なんかもう、やわらかい。 これなあ……。 アラフォーとはいえ、汐里の母親である。華やかな美人だ。まあぶっちゃけ三十代後半には見えない。さらにいうと、体質も親子でよく似ているらしい。油断すると、すぐ太る。早百合さんも充分にスタイルはいいが、年齢なりの円熟味を増しており、なんかもう、抱き心地特化の感じある。いまはもうある程度は割り切れるようになったけど、高校のころとかな……それなりにきつくてな……。 「お母さん……それやめたほうがいいって。お兄ちゃんもいやがってるでしょ」 気がつくと玄関に汐里がいた。 「ほんと? 貴大くん、私にハグされるのいや?」 「いやではないですが、気まずいです」 「じゃあ我慢して♡」 「お母さん」 汐里の尖った声。 サンダルを履いて玄関に出てきて、早百合さんを俺から引き剥がす。 「娘の嫉妬が痛気持ちいいわ……」 なにゆってんだこの人。 「親父は?」 靴を脱ぎつつ早百合さんに聞く。 「爆睡中」 「あいかわらずだな、あの親父は……」 興が乗ると平然と徹夜したりするので、あの親父は生活パターンが死ぬほど不規則である。 「貴大くん、ごはんは? すぐ用意できるけど」 「あ、食います」 「私も食べる」 「4食目の食事が体にどういう影響を与えるか知らないわけじゃないわよね、私の娘は」 「……宿題やってくる」 すごすごと汐里が退場。 よかった。正直、汐里がいると話しづらかったからな。 本を読みつつ待つこと20分ばかり。 テーブルには早百合さんお手製の料理が並んでいた。 和食中心のメニューだ。 「めちゃくちゃうまい……」 「なら、もっと頻繁に帰ってくればいいのに」 「いつでも帰ってこれるとなると、かえって理由がないとわざわざ行かなくなりますね……」 「それはまあ、わかるけど」 なんなら行きつけのカレー屋のほうが遠い。 「それで?」 早百合さんがお茶を飲んでから言った。 「それで、とは」 「だから理由。帰ってきたっていうことは、なにか用事があるんでしょ?」 「あー、ま、そっすね……」 あいかわらずテンポの速い人である。 現在は専業主婦の早百合さんだが、親父とは職場結婚で、やめるときはずいぶんと引き止められたらしい。そこらへんは親父が愚痴まじりによくぼやいてた。えらい有能な人だったらしい。 まあなんていうか、目から鼻に抜けるってのは、たぶんこういう人のことをいう。 「……汐里のことなんですけど」 「ああ」 早百合さんは頷く。 まあ、前後の状況から、俺の言いたいことは推測してると思う。 親父を含めた家族の食事から汐里が逃げて、俺の家に来て泊まり込んだ。その翌日に俺がしばらく訪れていなかった実家に来る。 「……親父とは、ダメですか、やっぱ」 「こればっかりはねえ……。自分の娘だから、ちゃんとお父さんともなかよくするのよ、とお説教したいところだけれど、利通さんだものねえ……人類には少し早すぎるところがあるから……」 結婚した当人からしてその扱いかよ。納得するしかないのが悲しい。 「えっと、確認なんだけど」 と、早百合さんは言った。 「今日の貴大くんの用件は、汐里が貴大くんの家に入り浸ってるのをどうにかしたい、ということでいい?」 「まあ、そうです」 やっぱ気づくよなあ……。前から言ってたことではあるけど、タイミング的にそれしかないって話もある。にしたって察しがよすぎて怖い。 「理由を聞いてもいい?」 まちがってあなたの娘さんを襲っちゃいそうだからです。 人間は正直になればいいというものではない(本日二度目)。 「ひとつは、単純に世間体ですね」 「言うようになったわね、貴大くんも」 「いちおーまあ、店長として揉まれてはいますんで」 「そういうのは、視野の狭い上司と仕事のできる部下の板挟みになってから言ってね」 「きつそう……」 「就職するまで、人を殺したいと思ったことはなかったわね……」 会社組織、怖すぎる。俺、なんだかんだで店長で、上司に当たるのはバイトのころから気心の知れてる社長だけだしなあ。 「もうひとつは、俺の家が逃げ場になってるんじゃないかってことです」 「なってるでしょうね」 即答である。 こういうとこだよ、この人が怖いとこは。 23歳。まだ若造といっていい年齢の俺だが、その乏しい経験のなかでひとつ学んだことがある。 かなわないと思う人間の前では、素直になれ。 早百合さんは、人好きのする笑みを浮かべて言った。 「まずは前提条件のすり合わせからね」 「はあ」 「これ、話したことあったかしら。私があえて利通さんと結婚するっていう選択をした理由」 「……そういわれると、聞いたことはないですね」 「まあ、シンプルよ。専業主婦やりたかったの」 「え、それは本気で初耳です」 「もちろんひとつじゃないわよ。経済的なこととか、汐里の学費とかね、そういう打算もあり、利通さんとなら一生を過ごしていってもいいと思えたっていう本音の部分とか。あ、貴大くんの印象がよかったからっていうのもあるかな」 「それはどうも……」 反応しづらい。 「でもね、煎じ詰めればエゴだと思うな。結婚したい。いい家庭をつくりたい。お母さんをやってみたい。汐里も貴大くんも、私のエゴに巻き込まれた被害者っていう言いかたもできるわよね」 「とんでもないです! 俺は早百合さんが親父と結婚してくれて、ほんとに、心の底から感謝してます! あの親父のお守りをしてくれるだけで、土下座してもいいくらいに感謝してます!」 「喜んでいいのかどうか微妙なところね……」 すんません。自分でもそう思います。 「でも、それも結果論なのよね。現に汐里にとって隆さんは苦手なタイプなわけだし」 「それは、まあ……」 「でも、私と利通さんは結婚してしまった。貴大くんと汐里も兄妹ということになってしまった。人間関係に正解なんてない以上、あとはどうやって幸福の総量を最大にするか、ハンドリングするだけだと思う」 「幸福の総量……」 「うん。汐里と隆さんはうまく行ってない。けど、汐里にとって貴大くんというお兄ちゃんができたのは、汐里にとってとてもよかったこと。私にとっても貴大くんという息子ができたのは喜ばしいこと」 「俺にとっても、早百合さんの存在はありがたいです」 「ほら。だいたいうまく行ってるのよ。だとしたら、隆さんと汐里は最低限だけ家族っていう体裁を取り繕っていればいい。つまりね」 早百合さんは、いたずらっぽく笑った。 「逃げたって別にいいのよ」 「言い切ったなあ……」 「相性の悪い人間どうしがどうやって関わったらいちばん幸福になれるか。そう考えたら、結論なんて決まってるじゃない」 ほんとすげえなこの人。 このドライさが「家族の幸福」を志向しているうちはいいが、もしこれで利害が絡んだ対立なんてことになったら……あーこわ。敵に回したくない、このタイプ。 「だからね、あとは貴大くんの問題」 「俺の?」 「そう。幸福の総量には、とうぜん貴大くんの幸福も含まれてる。逃げ場にされることで貴大くんが苦しむのなら……」 そう言って、早百合さんは真顔になる。 「それは、もっと別の、うまいやりかたを、みんなで考えなきゃいけない」 「……わかりました」 俺は頷いた。 この賢い人の考えは、よくわかった。 ならば、あとは俺の問題だということになる。 「そうそう。お料理、けっこう作り置きがあるんだけど、持ってく?」 「よろこんで!」 「そう? なら詰めちゃうわね」 ほんとに。 親父と結婚したのがこの人でよかったと思う。 あとはハグさえやめてくれれば文句はない。 けれど。 それなら俺は、今後、どうやって汐里と接していけばいいんだろう。根本的な部分は解決していない。 「それじゃ帰ります」 玄関である。だいぶ遅くなってしまった。親父はついに起きてこなかった。 「汐里の顔、見ていかなくていいの?」 「昨日も見たし、たぶん来週も見ます」 「そうね……」 早百合さんは苦笑する。 「んじゃ、ありがたくいただいていきます」 4つのタッパーが詰まった袋を掲げる。 「休みの日には食べに来てよね」 「今日は休みだと思うと、家から出るのだるくなるんですよね……」 「利通さんと同じじゃない、それ」 最悪だ。親父を反面教師にして今日まで俺は生き抜いてきたというのに。 外に出ると、寒い。 早百合さんは、わざわざ見送りに出てきてくれる。 「……ひとつ、聞いてもいいですか」 「なに?」 「もし、ですけど。あくまで可能性の話で」 「うん、仮説ね」 「汐里が俺の家に来ないほうがいいと思う理由が、もうひとつあります」 「なにかしら?」 「……もし、まちがいが起きたら、ということです」 これを言うのは、正直、勇気がいる。 かろうじて、一般論の範疇だとごまかせないこともない。だから「もし」とか「可能性」とか、俺はくどいまでに修飾する。 それでも、娘をたいせつにしているに違いない人の前で、その娘への害意を表明するのは、きつい。 「そうねえ……直接に答えを言っちゃってもいいような気もするんだけど……」 と、早百合さんは、少し苦笑する。 「ま、私のスタンスの表明だけでいいか」 「……はい」 「私が大事にするのは、汐里の幸福。そして、貴大くんの幸福。二人のあいだになにが起ころうと、それが原則。そのために世間体のほうが邪魔になるなら、それからは親である私が守る。そうなるかしら」 「それって……」 「ま、正直に言っちゃえば、年頃の連れ子どうしで再婚するって時点で、想定内ではあるわよ」 まあ、そうだよな……。 親父はともかく、この人がそこに考えが至らないはずがない。 「親の私が言うのもなんだけど、汐里、美人だし」 頷くことで肯定する。 「あまえんぼだし、裏表激しいし、扱いめんどくさいし、あと意外に毛深いし」 「それ、オープンにしていい情報なんすか……?」 「体質が似てるのよ……苦労してるのよ……」 「聞きたくなかった……」 「最近は脱毛も発達してるから」 「聞きたくないって言ってるんですが!?」 「ひとつだけ、約束してほしいかな」 急にシリアスな声になる。 ここからが本題だ。そう感じて、俺は頷く。 「信義則は守ってほしい」 「信義則?」 「簡単なことよ。貴大くんなら、意識するまでもなくできてること」 そう言って、早百合さんは、お別れのハグをした。 信義則。 帰ってから、調べた。 『社会共同生活における道徳的な規範を法律関係においても尊重しようとする法理。民法は、とくに当事者の信頼を基本とする債権関係においてこの原則を採用し、権利の行使と義務の履行は、この原則にしたがって行なうべきものとしている。』 法律用語だった。そのことを早百合さんが知らないとは思わない。比喩的な用法として、それを使った。要するに、汐里の好意につけこむようなことはするな、兄である立場を利用して汐里を籠絡しようとするな、そんなような意図が込められているように思う。 あれだけ鋭い人でも、やはり計算違いはするものであるらしい。 俺は、意識せずにそれを守れるような人間じゃない。
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(シーズン2あらすじ) 私はファッションモデルの紅一美。 旅番組ロケで訪れた島は怪物だらけ!? 霊能者達の除霊コンペとバッティングしちゃった! 実は私も霊感あるけど、知られたくないなあ…… なんて言っている場合じゃない。 諸悪の根源は恩師の仇、金剛��明団だったんだ! 憤怒の化身ワヤン不動が、今度はリゾートで炸裂する!!
pixiv版 (※内容は一緒です。)
དང་པོ་
ニライカナイから帰還した私達はその後、魔耶さんに呼ばれて食堂へ向かう。食堂内では五寸釘愚連隊と生き残った河童信者が集合していた。更に最奥のテーブルには、全身ボッコボコにされたスーツ姿の男。バリカンか何かで雑に剃り上げられた頭頂部を両手で抑えながら、傍らでふんぞり返る禍耶さんに怯えて震えている。 「えーと……お名前、誰さんでしたっけ」 この人は確か、河童の家をリムジンに案内していたアトム社員だ。特徴的な名前だった気はするんだけど、思い出せない。 「あっ……あっ……」 「名乗れ!」 「はひいぃぃ! アトムツアー営業部の五間擦平雄(ごますり ひらお)と申します!」 禍耶さんに凄まれ、五間擦氏は半泣きで名乗った。少なくともモノホンかチョットの方なんだろう。すると河童信者の中で一番上等そうなバッジを付けた男が席を立ち、机に手をついて私達に深々と頭を下げた。 「紅さん、志多田さん。先程は家のアホ大師が大っっっ変ご迷惑をおかけ致しました! この落とし前は我々河童の家が後日必ず付けさせて頂きます!」 「い、いえそんな……って、その声まさか、昨年のお笑いオリンピックで金メダルを総ナメしたマスク・ド・あんこう鍋さんじゃないですか! お久しぶりですね!?」 さすがお笑い界のトップ組織、河童の家だ。ていうか仕事で何度か会ったことあるのに素顔初めて見た。 「あお久しぶりっす! ただこちらの謝罪の前に、お二人に話さなきゃいけない事があるんです。ほら説明しろボケナスがッ!!」 あんこう鍋さんが五間擦氏の椅子を蹴飛ばす。 「ぎゃひぃ! ごご、ご説明さひぇて頂きますぅぅぅ!!」 五間擦氏は観念して、千里が島とこの除霊コンペに関する驚愕の事実を私達に洗いざらい暴露した。その全貌はこうだ。 千里が島では散減に縁を奪われた人間が死ぬと、『金剛の楽園』と呼ばれる何処かに飛び去ってしまうと言い伝えられている。そうなれば千里が島には人間が生きていくために必要な魂の素が枯渇し、乳幼児の生存率が激減してしまうんだ。そのため島民達は縁切り神社を建て、島外の人々を呼びこみ縁を奪って生き延びてきたのだという。 アトムグループが最初に派遣した建設会社社員も伝説に違わず祟られ、全滅。その後も幾つかの建設会社が犠牲になり、ようやく事態を重く受け止めたアトムが再開発中断を検討し始めた頃。アトムツアー社屋に幽霊が現れるという噂が囁かれ始めた。その霊は『日本で名のある霊能者達の縁を散減に献上すれば千里が島を安全に開発させてやろう』と宣うらしい。そんな奇妙な話に最初は半信半疑だった重役達も、『その霊がグループ重役会議に突如現れアトムツアーの筆頭株主を目の前で肉襦袢に変えた』事で霊の要求を承認。除霊コンペティションを行うと嘘の依頼をして、日本中から霊能者を集めたのだった。 ところが行きの飛行機で、牛久大師は袋の鼠だったにも関わらず中級サイズの散減をあっさり撃墜してしまう。その上業界ではインチキ疑惑すら噂されていた加賀繍へし子の取り巻きに散減をけしかけても、突然謎のレディース暴走族幽霊が現れて返り討ちにされてしまった。度重なる大失態に激怒した幽霊はアトムツアーイケメンライダーズを全員肉襦袢に変えて楽園へ持ち帰ってしまい、メタボ体型のため唯一見逃された五間擦氏はついに牛久大師に命乞いをする。かくして大師は大散減を退治すべく、祠の封印を剥がしたのだった。以上の話が終わると、私は五間擦氏に馬乗りになって彼の残り少ない髪の毛を引っこ抜き始めた。 「それじゃあ、大師は初めから封印を解くつもりじゃなかったんですか?」 「ぎゃあああ! 毛が毛が毛がああぁぁ!!」 あんこう鍋さんは首を横に振る。 「とんでもない。あの人は力がどうとか言うタイプじゃありません。地上波で音波芸やろうとしてNICを追放されたアホですよ? 我々はただの笑いと金が大好きなぼったくりカルトです」 「ほぎゃああぁぁ! 俺の貴重な縁があぁぁ、抜けるウゥゥーーーッ!!」 「そうだったんですね。だから『ただの関係者』って言ってたんだ……」 そういう事だったのか。全ては千里が島、アトムグループ、ひいては金剛有明団までもがグルになって仕掛けた壮大なドッキリ……いや、大量殺人計画だったんだ! 大師も斉二さんもこいつらの手の上で踊らされた挙句逝去したとわかった以上、大散減は尚更許してはおけない。 魔耶さんと禍耶さんは食堂のカウンターに登り、ハンマーを掲げる。 「あなた達。ここまでコケにされて、大散減を許せるの? 許せないわよねぇ?」 「ここにいる全員で謀反を起こしてやるわ。そこの祝女と影法師使いも協力しなさい」 禍耶さんが私達を見る。玲蘭ちゃんは数珠を持ち上げ、神人に変身した。 「全員で魔物(マジムン)退治とか……マジウケる。てか、絶対行くし」 「その肉襦袢野郎とは個人的な因縁もあるんです。是非一緒に滅ぼさせて下さい!」 「私も! さ、さすがに戦うのは無理だけど……でもでも、出来ることはいっぱい手伝うよ!」 佳奈さんもやる気満々のようだ。 「決まりね! そうしたら……」 「その作戦、私達も参加させて頂けませんか?」 食堂入口から突然割り込む声。そこに立っていたのは…… 「斉一さん!」「狸おじさん!」 死の淵から復活した後女津親子だ! 斉一さんは傷だらけで万狸ちゃんに肩を借りながらも、極彩色の細かい糸を纏い力強く微笑んでいる。入口近くの席に座り、経緯を語りだした。 「遅くなって申し訳ない。魂の三分の一が奪われたので、万狸に体を任せて、斉三と共にこの地に住まう魂を幾つか分けて貰っていました」 すると斉一さんの肩に斉三さんも現れる。 「診療所も結界を張り終え、とりあえず負傷者の安全は確保した。それと、島の魂達から一つ興味深い情報を得ました」 「聞かせて、狸ちゃん」 魔耶さんが促す。 「御戌神に関する、正しい歴史についてです」 時は遡り江戸時代。そもそも江戸幕府征服を目論んだ物の怪とは、他ならぬ金剛有明団の事だった。生まれた直後に悪霊を埋め込まれた徳松は、ゆくゆくは金剛の意のままに動く将軍に成長するよう運命付けられていたんだ。しかし将軍の息子であった彼は神職者に早急に保護され、七五三の儀式が行われる。そこから先の歴史は青木さんが説明してくれた通り。けど、この話には続きがあるらしい。 「大散減の祠などに、星型に似たシンボルを見ませんでしたか? あれは大散減の膨大な力の一部を取り込み霊能力を得るための、給電装置みたいな物です。もちろんその力を得た者は縁が失せて怪物になるのですが、当時の愚か者共はそうとは知らず、大散減を『徳川の埋蔵金』と称し挙って島に移住しました」 私達したたびが探していた徳川埋蔵金とはなんと、金剛の膨大な霊力と衆生の縁の塊、大散減の事だったんだ。ただ勿論、霊能者を志し島に近付いた者達はまんまと金剛に魂を奪われた。そこで彼らの遺族は風前の灯火だった御戌神に星型の霊符を貼り、自分達の代わりに島外の人間から縁を狩る猟犬に仕立て上げたんだ。こうして御戌神社ができ、御戌神は地中で飢え続ける大散減の手足となってせっせと人の縁を奪い続けているのだという。 「千里が島の民は元々霊能者やそれを志した者の子孫です。多少なりとも力を持つ者は多く、彼らは代々『御戌神の器』を選出し、『人工転生』を行ってきました」 斉一さんが若干小声で言う。人工転生。まだ魂が未発達の赤子に、ある特定の幽霊やそれに纏わる因子を宛てがって純度の高い『生まれ変わり』を作る事。つまり金剛が徳松に行おうとしたのと同じ所業だ。 「じゃあ、今もこの島のどこかに御戌様の生まれ変わりがいるんですか?」 佳奈さんは飲み込みが早い。 「ええ。そして御戌神は、私達が大散減に歯向かえば再び襲ってきます。だからこの戦いでは、誰かが対御戌神を引き受け……最悪、殺生しなければなりません」 「殺生……」 生きている人間を、殺す。死者を成仏させるのとは訳が違う話だ。魔耶さんは胸の釘を握りしめた。 「そのワンちゃん、なんて可哀想なの……可哀想すぎる。攻撃なんて、とてもできない」 「魔耶、今更甘えた事言ってんじゃないわよ。いくら生きてるからって、中身は三百年前に死んだバケモノよ! いい加減ラクにしてやるべきだわ」 「でもぉ禍耶、あんまりじゃない! 生まれた時から不幸な運命を課せられて、それでも人々のために戦ったのに。結局愚かな連中の道具にされて、利用され続けているのよ!」 (……!) 道具。その言葉を聞いた途端、私は心臓を握り潰されるような恐怖を覚えた。本来は衆生を救うために手に入れた力を、正反対の悪事に利用されてしまう。そして余所者から邪尊(バケモノ)と呼ばれ、恐れられるようになる……。 ―テロリストですよ。ドマル・イダムという邪尊の力を操ってチベットを支配していた、最悪の独裁宗派です― 自分の言った言葉が心に反響する。御戌神が戦いの中で見せた悲しそうな目��、ニライカナイで見たドマルの絶望的な目が日蝕のように重なる。瞳に映ったあの目は……私自身が前世で経験した地獄の、合わせ鏡だったんだ。 「……魔耶さん、禍耶さん。御戌神は、私が相手をします」 「え!?」 「正気なの!? 殺生なんて私達死者に任せておけばいいのよ! でないとあんた、殺人罪に問われるかもしれないのに……」 圧。 「ッ!?」 私は無意識に、前世から受け継がれた眼圧で総長姉妹を萎縮させた。 「……悪魔の心臓は御仏を産み、悪人の遺骨は鎮魂歌を奏でる。悪縁に操られた御戌神も、必ず菩提に転じる事が出来るはずです」 私は御戌神が誰なのか、確証を持っている。本当の『彼』は優しくて、これ以上金剛なんかの為に罪を重ねてはいけない人。たとえ孤独な境遇でも人との縁を大切にする、子犬のようにまっす��な人なんだ。 「……そう。殺さずに解決するつもりなのね、影法師使いさん。いいわ。あなたに任せます」 魔耶さんがスレッジハンマーの先を私に突きつける。 「失敗したら承知しない。私、絶対に承知しないわよ」 私はそこに拳を当て、無言で頷いた。 こうして話し合いの結果、対大散減戦における役割分担が決定した。五寸釘愚連隊と河童の家、玲蘭ちゃんは神社で大散減本体を引きずり出し叩く。私は御戌神を探し、神社に行かれる前に説得か足止めを試みる。そして後女津家は私達が解読した暗号に沿って星型の大結界を巡り、大散減の力を放出して弱体化を図る事になった。 「志多田さん。宜しければ、お手伝いして頂けませんか?」 斉一さんが立ち上がり、佳奈さんを見る。一方佳奈さんは申し訳なさそうに目を伏せた。 「で……でも、私は……」 すると万狸ちゃんが佳奈さんの前に行く。 「……あのね。私のママね、災害で植物状態になったの。大雨で津波の警報が出て、パパが車で一生懸命高台に移動したんだけど、そこで土砂崩れに遭っちゃって」 「え、そんな……!」 「ね、普通は不幸な事故だと思うよね。でもママの両親、私のおじいちゃんとおばあちゃん……パパの事すっごく責めたんだって。『お前のせいで娘は』『お前が代わりに死ねば良かったのに』みたいに。パパの魂がバラバラに引き裂かれるぐらい、いっぱいいっぱい責めたの」 昨晩斉三さんから聞いた事故の話だ。奥さんを守れなかった上にそんな言葉をかけられた斉一さんの気持ちを想うと、自分まで胸が張り裂けそうだ。けど、奥さんのご両親が取り乱す気持ちもまたわかる。だって奥さんのお腹には、万狸ちゃんもいたのだから……。 「三つに裂けたパパ……斉一さんは、生きる屍みたいにママの為に無我夢中で働いた。斉三さんは病院のママに取り憑いたまま、何年も命を留めてた。それから、斉二さんは……一人だけ狸の里(あの世)に行って、水子になっちゃったママの娘を育て続けた」 「!」 「斉二さんはいつも言ってたの。俺は分裂した魂の、『後悔』の側面だ。天災なんて誰も悪くないのに、目を覚まさない妻を恨んでしまった。妻の両親を憎んでしまった。だからこんなダメな狸親父に万狸が似ないよう、お前をこっちで育てる事にしたんだ。って」 万狸ちゃんが背筋をシャンと伸ばし、顔を上げた。それは勇気に満ちた笑顔だった。 「だから私知ってる。佳奈ちゃんは一美ちゃんを助けようとしただけだし、ぜんぜん悪いだなんて思えない。斉二さんの役割は、完璧に成功してたんだよ」 「万狸ちゃん……」 「あっでもでも、今回は天災じゃなくて人災なんだよね? それなら金剛有明団をコッテンパンパンにしないと! 佳奈ちゃんもいっぱい悲しい思いした被害者でしょ?」 万狸ちゃんは右手を佳奈さんに差し出す。佳奈さんも顔を上げ、その手を強く握った。 「うん。金剛ぜったい許せない! 大散減の埋蔵金、一緒にばら撒いちゃお!」 その時、ホテルロビーのからくり時計から音楽が鳴り始めた。曲は民謡『ザトウムシ』。日没と大散減との対決を告げるファンファーレだ。魔耶さんは裁判官が木槌を振り下ろすように、机にハンマーを叩きつけた! 「行ぃぃくぞおおおぉぉお前らああぁぁぁ!!!」 「「「うおおぉぉーーーっ!!」」」 総員出撃! ザトウムシが鳴り響く逢魔が時の千里が島で今、日本最大の除霊戦争が勃発する!
གཉིས་པ་
大散減討伐軍は御戌神社へ、後女津親子と佳奈さんはホテルから最寄りの結界である石見沼へと向かった。さて、私も御戌神の居場所には当てがある。御戌神は日蝕の目を持つ獣。それに因んだ地名は『食虫洞』。つまり、行先は新千里が島トンネル方面だ。 薄暗いトンネル内を歩いていると、電灯に照らされた私の影が勝手に絵を描き始めた。空で輝く太陽に向かって無数の虫が冒涜的に母乳を吐く。太陽は穢れに覆われ、光を失った日蝕状態になる。闇の緞帳(どんちょう)に包まれた空は奇妙な星を孕み、大きな獣となって大地に災いをもたらす。すると地平線から血のように赤い月が昇り、星や虫を焼き殺しながら太陽に到達。太陽と重なり合うやいなや、天上天下を焼き尽くすほどの輝きを放つのだった……。 幻のような影絵劇が終わると、私はトンネルを抜けていた。目の前のコンビニは既に電気が消えている。その店舗全体に、腐ったミルクのような色のペンキで星型に線を一本足した記号が描かれている。更に接近すると、デッキブラシを持った白髪の偉丈夫が記号を消そうと悪戦苦闘しているのが見えた。 「あ、紅さん」 私に気がつき振り返った青木さんは、足下のバケツを倒して水をこぼしてしまった。彼は慌ててバケツを立て直す。 「見て下さい。誰がこんな酷い事を? こいつはコトだ」 青木さんはデッキブラシで星型の記号を擦る。でもそれは掠れすらしない。 「ブラシで擦っても? ケッタイな落書きを……っ!?」 指で直接記号に触れようとした青木さんは、直後謎の力に弾き飛ばされた。 「……」 青木さんは何かを思い出したようだ。 「紅さん。そういえば僕も、ケッタイな体験をした事が」 夕日が沈んでいき、島中の店や防災無線からはザトウムシが鳴り続ける。 「犬に吠えられ、夜中に目を覚まして。永遠に飢え続ける犬は、僕のおつむの中で、ひどく悲しい声で鳴く。それならこれは幻聴か? 犬でないなら幽霊かもだ……」 青木さんは私に背を向け、沈む夕日に引き寄せられるように歩きだした。 「早くなんとかせにゃ。犬を助けてあげなきゃ、僕までどうにかなっちまうかもだ。するとどこからか、目ん玉が潰れた双頭の毛虫がやって来て、口からミルクを吐き出した。僕はたまらず、それにむしゃぶりつく」 デッキブラシから滴った水が地面に線を引き、一緒に夕日を浴びた青木さんの影も伸びていく。 「嫌だ。もう犬にはなりたくない。きっとおっとろしい事が起きるに違いない。満月が男を狼にするみたいに、毛虫の親玉を解き放つなど……」 「青木さん」 私はその影を呼び止めた。 「この落書きは、デッキブラシじゃ落とせません」 「え?」 「これは散減に穢された縁の母乳、普通の人には見えない液体なんです」 カターン。青木さんの手からデッキブラシが落ちた途端、全てのザトウムシが鳴り止んだ。青木さんはゆっくりとこちらへ振り向く。重たい目隠れ前髪が狛犬のたてがみのように逆立ち、子犬のように輝く目は濁った穢れに覆われていく。 「グルルルル……救、済、ヲ……!」 私も胸のペンダントに取り付けたカンリンを吹いた。パゥーーー……空虚な悲鳴のような音が響く。私の体は神経線維で編まれた深紅の僧衣に包まれ、激痛と共に影が天高く燃え上がった。 「青木さん。いや、御戌神よ。私は紅の守護尊、ワヤン不動。しかし出来れば、お前とは戦いたくない」 夕日を浴びて陰る日蝕の戌神と、そこから伸びた赤い神影(ワヤン)が対峙する。 「救済セニャアアァ!」 「そうか。……ならば神影繰り(ワヤン・クリ)の時間だ!」 空の月と太陽が見下ろす今この時、地上で激突する光の神と影の明王! 穢れた色に輝く御戌神が突撃! 「グルアアァァ!」 私はティグクでそれをいなし、黒々と地面に伸びた自らの影を滑りながら後退。駐車場の車止めをバネに跳躍、傍らに描かれた邪悪な星目掛けてキョンジャクを振るった。二〇%浄化! 分解霧散した星の一片から大量の散減が噴出! 「マバアアアァァ!!」「ウバアァァァ!」 すると御戌神の首に巻かれた幾つもの頭蓋骨が共鳴。ケタケタと震えるように笑い、それに伴い御戌神も悶絶する。 「グルアァァ……ガルァァーーーッ!!」 咆哮と共に全骨射出! 頭蓋骨は穢れた光の尾を引き宙を旋回、地を這う散減共とドッキングし牙を剥く! 「がッは!」 毛虫の体を得た頭蓋骨が飛び回り、私の血肉を穿つ。しかし反撃に転じる寸前、彼らの正体を閃いた。 「さては歴代の『器』か」 この頭蓋骨らは御戌神転生の為に生贄となった、どこの誰が産んだかもわからない島民達の残滓だ。なら速やかに解放せねばなるまい! 人頭毛虫の猛攻をティグクの柄やキョンジャクで防ぎながら、ティグクに付随する旗に影炎を着火! 「お前達の悔恨を我が炎の糧とする! どおぉりゃああぁーーーーっ!!」 ティグク猛回転、憤怒の地獄大車輪だ! 飛んで火に入る人頭毛虫らはたちどころに分解霧散、私の影体に無数の苦痛と絶望と飢えを施す! 「クハァ……ッ! そうだ……それでいい。私達は仲間だ、この痛みを以て金剛に汚された因果を必ずや断ち切ってやろう! かはあぁーーーっはーーっはっはっはっはァァーーッ!!!」 苦痛が無上の瑜伽へと昇華しワヤン不動は呵呵大笑! ティグクから神経線維の熱線が伸び大車輪の火力を増強、星型記号を更に焼却する! 記号は大文字焼きの如く燃え上がり穢れ母乳と散減を大放出! 「ガウルル、グルルルル!」 押し寄せる母乳と毛虫の洪水に突っ込み喰らおうと飢えた御戌神が足掻く。だがそうはさせるものか、私の使命は彼を穢れの悪循環から救い出す事だ。 「徳川徳松ゥ!」 「!」 人の縁を奪われ、畜生道に堕ちた哀しき少年の名を呼ぶ。そして丁度目の前に飛んできた散減を灼熱の手で掴むと、轟々と燃え上がるそれを遠くへ放り投げた! 「取ってこい!」 「ガルアァァ!!」 犬の本能が刺激された御戌神は我を忘れ散減を追う! 街路樹よりも高く跳躍し口で見事キャッチ、私目掛けて猪突猛進。だがその時! 彼の本体である衆生が、青木光が意識を取り戻した! (戦いはダメだ……穢れなど!) 日蝕の目が僅かに輝きを増す。御戌神は空中で停止、咥えている散減を噛み砕いて破壊した! 「かぁははは、いい子だ徳松よ! ならば次はこれだあぁぁ!!」 私はフリスビーに見立ててキョンジャクを投擲。御戌神が尻尾を振ってハッハとそれを追いかける。キョンジャクは散減共の間をジグザグと縫い進み、その軌跡を乱暴になぞる御戌神が散減大量蹂躙! 薄汚い死屍累々で染まった軌跡はまさに彼が歩んできた畜生道の具現化だ!! 「衆生ぉぉ……済度ぉおおおぉぉぉーーーーっ!!!」 ゴシャアァン!!! ティグクを振りかぶって地面に叩きつける! 視神経色の亀裂が畜生道へと広がり御戌神の背後に到達。その瞬間ガバッと大地が割れ、那由多度に煮え滾る業火を地獄から吹き上げた! ズゴゴゴゴガガ……マグマが滾ったまま連立する巨大灯篭の如く隆起し散減大量焼却! 振り返った御戌神の目に陰る穢れも、紅の影で焼き溶かされていく。 「……クゥン……」 小さく子犬のような声を発する御戌神。私は憤怒相を収め、その隣に立つ。彼の両眼からは止めどなく饐えた涙が零れ、その度に日蝕が晴れていく。気がつけば空は殆ど薄暗い黄昏時になっていた。闇夜を迎える空、赤く燃える月と青く輝く太陽が並ぶ大地。天と地の光彩が逆転したこの瞬間、私達は互いが互いの前世の声を聞いた。 『不思議だ。あの火柱見てると、ぼくの飢えが消えてく。お不動様はどんな法力を?』 ༼ なに、特別な力ではない。あれは慈悲というものだ ༽ 『じひ』 徳松がドマルの手を握った。ドマルの目の奥に、憎しみや悲しみとは異なる熱が込み上がる。 『救済の事で?』 ༼ ……ま、その類いといえばそうか。童よ、あなたは自分を生贄にした衆生が憎いか? ༽ 徳松は首を横に振る。 『ううん、これっぽっちも。だってぼく、みんなを救済した神様なんだから』 すると今度はドマルが両手で徳松の手を包み、そのまま深々と合掌した。 ༼ なら、あなたはもう大丈夫だ。衆生との縁に飢える事は、今後二度とあるまい ༽
གསུམ་པ་
時刻は……わからないけど、日は完全に沈んだ。私も青木さんも地面に大の字で倒れ、炎上するコンビニや隆起した柱状節理まみれの駐車場を呆然と眺めている。 「……アーーー……」 ふと青木さんが、ずっと咥えっ放しだったキョンジャクを口から取り出した。それを泥まみれの白ニットで拭い、私に返そうとして……止めた。 「……洗ってからせにゃ」 「いいですよ。この後まだいっぱい戦うもん」 「大散減とも? おったまげ」 青木さんにキョンジャクを返してもらった。 「実は、まだ学生の時……友達が僕に、『彼女にしたい芸能人は?』って質問を。けど特に思いつかなくて、その時期『非常勤刑事』やってたので紅一美ちゃんと。そしたら今回、本当にしたたびさんが……これが縁ってやつなら、ちぃと申し訳ないかもだ」 「青木さんもですか」 「え?」 「私も実は、この間雑誌で『好きな男性のタイプは何ですか』って聞かれて、なんか適当に答えたんですけど……『高身長でわんこ顔な方言男子』とかそんなの」 「そりゃ……ふふっ。いやけど、僕とは全然違うイメージだったかもでしょ?」 「そうなんですよ。だから青木さんの素顔初めて見た時、キュンときたっていうより『あ、実在するとこんな感じなの!?』って思っちゃったです。……なんかすいません」 その時、遠くでズーンと地鳴りのような音がした。蜃気楼の向こうに耳をそばだてると、怒号や悲鳴のような声。どうやら敵の大将が地上に現れたようだ。 「行くので?」 「大丈夫。必ず戻ってきます」 私は重い体を立ち上げ、ティグクとキョンジャクに再び炎を纏った。そして山頂の御戌神社へ出発…… 「きゃっ!」 しようとした瞬間、何かに服の裾を掴まれたかのような感覚。転びそうになって咄嗟にティグクの柄をつく。足下を見ると、小さなエネルギー眼がピンのように私の影を地面と縫いつけている。 ༼ そうはならんだろ、小心者娘 ༽ 「ちょ、ドマル!?」 一方青木さんの方も、徳松に体を勝手に動かされ始めた。輝く両目から声がする。 『バカ! あそこまで話しといて告白しねえなど!? このボボ知らず!』 「ぼっ、ぼっ、ボボ知らずでねえ! 嘘こくなぁぁ!」 民謡の『お空で見下ろす出しゃばりな月と太陽』って、ひょっとしたら私達じゃなくてこの前世二人の方を予言してたのかも。それにしてもボボってなんだろ、南地語かな。 ༼ これだよ ༽ ドマルのエネルギー眼が炸裂し、私は何故かまた玲蘭ちゃんの童貞を殺す服に身を包んでいた。すると何故か青木さんが悶絶し始めた。 「あややっ……ちょっと、ダメ! 紅さん! そんなオチチがピチピチな……こいつはコトだ!!」 ああ、成程。ボボ知らずってそういう…… 「ってだから、私の体で検証すなーっ! ていうか、こんな事している間にも上で死闘が繰り広げられているんだ!」 ༼ だからぁ……ああもう! 何故わからないのか! ヤブユムして行けと言っているんだ、その方が生存率上がるしスマートだろ! ༽ 「あ、そういう事?」 ヤブユム。確か、固い絆で結ばれた男女の仏が合体して雌雄一体となる事で色々と超越できる、みたいな意味の仏教用語……だったはず。どうすればできるのかまではサッパリわかんないけど。 「え、えと、えと、紅さん……一美ちゃん!」 「はい……う、うん、光君!」 両前世からプレッシャーを受け、私と光君は赤面しながら唇を近付ける。 『あーもー違う! ヤブユムっていうのは……』 ༼ まーまー待て。ここは現世を生きる衆生の好きにさせてみようじゃないか ༽ そんな事言われても困る……それでも、今私と光君の想いは一つ、大散減討伐だ。うん、多分……なんとかなる! はずだ!
བཞི་པ་
所変わって御戌神社。姿を現した大散減は地中で回復してきたらしく、幾つか継ぎ目が見えるも八本足の完全体だ。十五メートルの巨体で暴れ回り、周囲一帯を蹂躙している。鳥居は倒壊、御戌塚も跡形もなく粉々に。島民達が保身の為に作り上げた生贄の祭壇は、もはや何の意味も為さない平地と化したんだ。 そんな絶望的状況にも関わらず、大散減討伐軍は果敢に戦い続ける。五寸釘愚連隊がバイクで特攻し、河童信者はカルトで培った統率力で彼女達をサポート。玲蘭ちゃんも一枚隔てた異次元から大散減を構成する無数の霊魂を解析し、虱潰しに破壊していく。ところが、 「あグッ!」 バゴォッ!! 大散減から三メガパスカル級の水圧で射出された穢れ母乳が、河童信者の一人に直撃。信者の左半身を粉砕! 禍耶さんがキュウリの改造バイクで駆けつける。 「河童信者!」 「あ、か……禍耶の姐御……。俺の、魂を……吸収……し……」 「何言ってるの、そんな事できるわけないでしょ!?」 「……大散、ぃに、縁……取られ、嫌、……。か、っぱは……キュウリ……好き……っか……ら…………」 河童信者の瞳孔が開いた。禍耶さんの唇がわなわなと痙攣する。 「河童って馬鹿ね……最後まで馬鹿だった……。貴方の命、必ず無駄にはしないわ!」 ガバッ、キュイイィィ! 息絶えて間もない河童信者の霊魂が分解霧散する前に、キュウリバイクの給油口に吸収される。ところが魔耶さんの悲鳴! 「禍耶、上ぇっ!!」 「!」 見上げると空気を読まず飛びかかってきた大散減! 咄嗟にバイクを発進できず為す術もない禍耶さんが絶望に目を瞑った、その時。 「……え?」 ……何も起こらない。禍耶さんはそっと目を開けようとする。が、直後すぐに顔を覆った。 「眩しっ! この光は……あああっ!」 頭上には朝日のように輝く青白い戌神。そしてその光の中、轟々と燃える紅の不動明王。光と影、男と女が一つになったその究極仏は、大散減を遥か彼方に吹き飛ばし悠然と口を開いた。 「月と太陽が同時に出ている、今この時……」 「瞳に映る醜き影を、憤怒の炎で滅却する」 「「救済の時間だ!!!」」 カッ! 眩い光と底知れぬ深い影が炸裂、落下中の大散減を再びスマッシュ! 「遅くなって本当にすみません。合体に手間取っちゃって……」 御戌神が放つ輝きの中で、燃える影体の私は揺らめく。するとキュウリバイクが言葉を発した。 <問題なし! だぶか登場早すぎっすよ、くたばったのはまだ俺だけです。やっちまいましょう、姐さん!> 「そうね。行くわよ河童!」 ドルルン! 輩悪苦満誕(ハイオクまんたん)のキュウリバイクが発進! 私達も共に駆け出す。 「一美ちゃん、火の準備を!」 「もう出来ているぞぉ、カハァーーーッハハハハハハァーーー!!」 ティグクが炎を噴く! 火の輪をくぐり青白い肉弾が繰り出す! 巨大サンドバッグと化した大散減にバイクの大軍が突撃するゥゥゥ!!! 「「「ボァガギャバアアアアァァアアア!!!」」」 八本足にそれぞれ付いた顔が一斉絶叫! 中空で巻き散らかされた大散減の肉片を無数の散減に変えた! 「灰燼に帰すがいい!」 シャゴン、シャゴン、バゴホオォン!! 御戌神から波状に繰り出される光と光の合間に那由多度の影炎を込め雑魚を一掃! やはりヤブユムは強い。光源がないと力を発揮出来ない私と、偽りの闇に遮られてしまっていた光君。二人が一つになる事で、永久機関にも似た法力を得る事が出来る! 大散減は地に叩きつけられるかと思いきや、まるで地盤沈下のように地中へ潜って行ってしまった。後を追えず停車した五寸釘愚連隊が舌打ちする。 「逃げやがったわ、あの毛グモ野郎」 しかし玲蘭ちゃんは不敵な笑みを浮かべた。 「大丈夫です。大散減は結界に分散した力を補充しに行ったはず。なら、今頃……」 ズドガアアァァァアン!!! 遠くで吹き上がる火柱、そして大散減のシルエット! 「イェーイ!」 呆然と見とれていた私達の後方、数分前まで鳥居があった瓦礫の上に後女津親子と佳奈さんが立っている。 「「ドッキリ大成功ー! ぽーんぽっこぽーん!」」 ぽこぽん、シャララン! 佳奈さんと万狸ちゃんが腹鼓を打ち、斉一さんが弦を爪弾く。瞬間、ドゴーーン!! 今度は彼女らの背後でも火柱が上がった! 「あのねあのね! 地図に書いてあった星の地点をよーく探したら、やっぱり御札の貼ってある祠があったの。それで佳奈ちゃんが凄いこと閃いたんだよ!」 「その名も『ショート回路作戦』! 紙に御札とぴったり同じ絵を写して、それを鏡合わせに貼り付ける。その上に私の霊力京友禅で薄く蓋をして、その上から斉一さんが大散減から力を吸収しようとする。だけど吸い上げられた大散減のエネルギーは二枚の御札の間で行ったり来たりしながら段々滞る。そうとは知らない大散減が内側から急に突進すれば……」 ドォーーン! 万狸ちゃんと佳奈さんの超常理論を実証する火柱! 「さすがです佳奈さん! ちなみに最終学歴は?」 「だからいちご保育園だってば~、この小心者ぉ!」 こんなやり取りも随分と久しぶりな気がする。さて、この後大散減は立て続けに二度爆発した。計五回爆ぜた事になる。地図上で星のシンボルを描く地点は合計六つ、そのうち一つである食虫洞のシンボルは私がコンビニで焼却したアレだろう。 「シンボルが全滅すると、奴は何処へ行くだろうか」 斉三さんが地図を睨む。すると突如地図上に青白く輝く道順が描かれた。御戌神だ。 「でっかい大散減はなるべく広い場所へ逃走を。となると、海岸沿いかもだ。東の『いねとしサンライズビーチ』はサイクリングロードで狭いから、石見沼の下にある『石見海岸』ので」 「成程……って、君はまさか!?」 「青木君!?」 そうか、みんな知らなかったんだっけ。御戌神は遠慮がちに会釈し、かき上がったたてがみの一部を下ろして目隠れ前髪を作ってみせた。光君の面影を認識して皆は納得の表情を浮かべた。 「と……ともかく! ずっと地中でオネンネしてた大散減と違って、地の利はこちらにある。案内するので先回りを!」 御戌神が駆け出す! 私は彼が放つ輝きの中で水上スキーみたいに引っ張られ、五寸釘愚連隊や他の霊能者達も続く。いざ、石見海岸へ!
ལྔ་པ་
御戌神の太陽の両眼は、前髪によるランプシェード効果が付与されて更に広範囲を照らせるようになった。石見沼に到着した時点で海岸の様子がはっきり見える。まずいことに、こんな時に限って海岸に島民が集まっている!? 「おいガキ共、ボートを降りろ! 早く避難所へ!」 「黙れ! こんな島のどこに安全が!? 俺達は内地へおさらばだ!」 会話から察するに、中学生位の子達が島を脱出しようと試みるのを大人達が引き止めているようだ。ところが間髪入れず陸側から迫る地響き! 危ない! 「救済せにゃ!」 石見の崖を御戌神が飛んだ! 私は光の中で身構える。着地すると同時に目の前の砂が隆起、ザボオオォォン!! 大散減出現! 「かははは、一足遅いわ!」 ズカアァァン!!! 出会い頭に強烈なティグクの一撃! 吹き飛んだ大散減は沿岸道路を破壊し民家二棟に叩きつけられた。建造物損壊と追い越し禁止線通過でダブル罪業加点! 間一髪巻き込まれずに済んだ島民達がどよめく。 「御戌様?」 「御戌様が子供達を救済したので!?」 「それより御戌様の影に映ってる火ダルマは一体!?」 その問いに、陸側から聞き覚えのある声が答える。 「ご先祖様さ!」 ブオォォン! 高級バイクに似つかわしくない凶悪なエンジン音を吹かして現れたのは加賀繍さんだ! 何故かアサッテの方向に数珠を投げ、私の正体を堂々と宣言する。 「御戌神がいくら縁切りの神だって、家族の縁は簡単に切れやしないんだ。徳川徳松を一番気にかけてたご先祖様が仏様になって、祟りを鎮めるんだよ!」 「徳松様を気にかけてた、ご先祖様……」 「まさか、将軍様など!?」 「「「徳川綱吉将軍!!」」」 私は暴れん坊な将軍様の幽霊という事になってしまった。だぶか吉宗さんじゃないけど。すると加賀繍さんの紙一重隣で大散減が復帰! 「マバゥウゥゥゥゥウウウ!!!」 神社にいた時よりも甲高い大散減の鳴き声。消耗している証拠だろう。脚も既に残り五本、ラストスパートだ! 「畳み掛けるぞ夜露死苦ッ!」 スクラムを組むように愚連隊が全方位から大散減へ突進、総長姉妹のハンマーで右前脚破壊! 「ぽんぽこぉーーー……ドロップ!!」 身動きの取れなくなった大散減に大かむろが垂直落下、左中央二脚粉砕! 「「「大師の敵ーーーっ!」」」 微弱ながら霊力を持つ河童信者達が集団投石、既に千切れかけていた左後脚切断! 「くすけー、マジムン!」 大散減の内側から玲蘭ちゃんの声。するうち黄色い閃光を放って大散減はメルトダウン! 全ての脚が落ち、最後の本体が不格好な蓮根と化した直後……地面に散らばる脚の一本の顔に、ギョロギョロと蠢く目が現れた。光君の話を思い出す。 ―八本足にそれぞれ顔がついてて、そのうち本物の顔を見つけて潰さないと死なない怪物で!― 「そうか、あっちが真の本体!」 私と光君が同時に動く! また地中に逃げようと飛び上がった大散減本体に光と影は先回りし、メロン格子状の包囲網を組んだ! 絶縁怪虫大散減、今こそお前をこの世からエンガチョしてくれるわあああああああ!! 「そこだーーーッ!! ワヤン不動ーーー!!」 「やっちゃえーーーッ!」「御戌様ーーーッ!」 「「「ワヤン不動オォーーーーーッ!!!」」」 「どおおぉぉるあぁああぁぁぁーーーーーー!!!!」 シャガンッ! 突如大量のハロゲンランプを一斉に焚いたかのように、世界が白一色の静寂に染まる。存在するものは影である私と、光に拒絶された大散減のみ。ティグクを掲げた私の両腕が夕陽を浴びた影の如く伸び、背中で燃える炎に怒れる恩師の馬頭観音相が浮かんだ時……大散減は断罪される! 「世尊妙相具我今重問彼仏子何因縁名為観世音具足妙相尊偈答無盡意汝聴観音行善応諸方所弘誓深如海歴劫不思議侍多千億仏発大清浄願我為汝略説聞名及見身心念不空過能滅諸有苦!」 仏道とは無縁の怪獣よ、己の業に叩き���られながら私の観音行を聞け! 燃える馬頭観音と彼の骨であるティグクを仰げ! その苦痛から解放されたくば、海よりも深き意志で清浄を願う聖人の名を私がお前に文字通り刻みつけてやる! 「仮使興害意推落大火坑念彼観音力火坑変成池或漂流巨海龍魚諸鬼難念彼観音力波浪不能没或在須弥峰為人所推堕念彼観音力如日虚空住或被悪人逐堕落金剛山念彼観音力不能損一毛!!」 たとえ金剛の悪意により火口へ落とされようと、心に観音力を念ずれば火もまた涼し。苦難の海でどんな怪物と対峙しても決して沈むものか! 須弥山から突き落とされようが、金剛を邪道に蹴落とされようが、観音力は不屈だ! 「或値怨賊繞各執刀加害念彼観音力咸即起慈心或遭王難苦臨刑欲寿終念彼観音力刀尋段段壊或囚禁枷鎖手足被杻械念彼観音力釈然得解脱呪詛諸毒薬所欲害身者念彼観音力還著於本人或遇悪羅刹毒龍諸鬼等念彼観音力時悉不敢害!!」 お前達に歪められた衆生の理は全て正してくれる! 金剛有明団がどんなに強大でも、和尚様や私の魂は決して滅びぬ。磔にされていた抜苦与楽の化身は解放され、悪鬼羅刹四苦八苦を燃やす憤怒の化身として生まれ変わったんだ! 「若悪獣囲繞利牙爪可怖念彼観音力疾走無辺方蚖蛇及蝮蝎気毒煙火燃念彼観音力尋声自回去雲雷鼓掣電降雹澍大雨念彼観音力応時得消散衆生被困厄無量苦逼身観音妙智力能救世間苦!!!」 獣よ、この力を畏れろ。毒煙を吐く外道よ霧散しろ! 雷や雹が如く降り注ぐお前達の呪いから全ての衆生を救済してみせよう! 「具足神通力廣修智方便十方諸国土無刹不現身種種諸悪趣地獄鬼畜生生老病死苦以漸悉令滅真観清浄観広大智慧観悲観及慈観常願常瞻仰無垢清浄光慧日破諸闇能伏災風火普明照世間ッ!!!」 どこへ逃げても無駄だ、何度生まれ変わってでも憤怒の化身は蘇るだろう! お前達のいかなる鬼畜的所業も潰えるんだ。瞳に映る慈悲深き菩薩、そして汚れなき聖なる光と共に偽りの闇を葬り去る! 「悲体戒雷震慈意妙大雲澍甘露法雨滅除煩悩燄諍訟経官処怖畏軍陣中念彼観音力衆怨悉退散妙音観世音梵音海潮音勝彼世間音是故須常念念念勿生疑観世音浄聖於苦悩死厄能為作依怙具一切功徳慈眼視衆生福聚海無量是故応頂……」 雷雲の如き慈悲が君臨し、雑音をかき消す潮騒の如き観音力で全てを救うんだ。目の前で粉微塵と化した大散減よ、盲目の哀れな座頭虫よ、私はお前をも苦しみなく逝去させてみせる。 「……礼ィィィーーーーーッ!!!」 ダカアアアアァァアアン!!!! 光が飛散した夜空の下。呪われた気枯地、千里が島を大いなる光と影の化身が無量の炎で叩き割った。その背後で滅んだ醜き怪獣は、業一つない純粋な粒子となって分解霧散。それはこの地に新たな魂が生まれるための糧となり、やがて衆生に縁を育むだろう。 時は亥の刻、石見海岸。ここ千里が島で縁が結ばれた全ての仲間達が勝利に湧き、歓喜と安堵に包まれた。その騒ぎに乗じて私と光君は、今度こそ人目も憚らず唇を重ね合った。
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Last-modified: 2019-11-19 (火) 18:31:12 ロマサガ2界隈で使われる用語を集めたもの。 攻略記事では扱われにくい俗称・ネタなどを主に取り扱う。システム用語等については該当ページを見てください。 当然ながらネタバレを含むので注意。 あ行 アーバロン、アーバロン、うーるーわーしーの〜〜 シーフギルドのモブが歌う歌。この後めちゃくちゃ壁の中にめりこんだ。 市街地でも国歌っぽいものを歌っている人がいるが、歌詞は別物である。曲が違うのか、同じ曲でパートが違うのか。 リメイク版ではアバロンの園でも似たような歌を歌っている人物が登場する。 ロマンシング佐賀でも公式にネタにされた。 浅草 サグザーの事。移動湖にいる古代人であり、ノエルの友人。山手線には含まれない(上野駅からさほど遠くない)。 目の前で何が起きても定型セリフしか発しない様はまごうことなきサガ。 アト王 ヤウダ王国を治めるチョントウ城の主。ハクロ城のワグナスと交戦し、膠着状態であったが、 皇帝の来訪により、ワグナスをそそのかして帝国とワグナスの共倒れを謀るという愚策を発揮。この手腕の愚かさから僅かに「アホ王」と呼ぶプレイヤーも。*1 策の裏をかかれてワグナスに利用されるのは明白であり、セキシュウサイ*2以外の臣下には愛想を尽かされて帝国に降りられ、 民衆には「アト王様のバカさ加減も行く所まで行きましたな」と苦言を吐かれる始末。 その後の運命は皇帝の行動次第で決まり、戦いに赴けば忠臣セキシュウサイと不本意ながら戦う事になり、 勝��を問わずアト王は逃がされ以降は登場しない。*3 放置して年代経過した場合は、臣下の恐れた通り裏をかかれて城を奪われてしまう。殺されてしまったと考えるのが妥当だろう。愚策ばかりが目立つが皇帝と初対面時に「人助けのようなふりをして、あちこち占領している」 と評して皇帝の側面(プレイヤーによっては本質)を見抜いている数少ないキャラでもある。いずれの結末もモデルとなった劉禅より悲惨な結末なのは間違いない。 アバ宮 アバロン宮殿の略称だが、もっぱら同名の情報サイトの略称として通用している。 1998年以前から存在する超老舗サイトであり、長らくロマサガ2の情報中心地として発展してきた。 現在は他のサイトが充実してきた為、往時ほどの盛況ぶりは見られないが、このサイトなくしては発覚しなかったであろう仕様も数多く、他のサイトの管理人もここの出身だったりして、一定の尊崇がなされている。 細かな仕様を調べる「学会」などに残されているログは、現在でも貴重な情報が数多く埋もれている。 アバロンのダニ 「ははっ、ざまあみろ!」 「アバロンのダニが、 一ぴき減ったな。 さて、帰って寝なおそう。」 キャットを見捨てた時のセリフ。大体ジェラールが発言する。優しかったジェラールの変貌か、成長か、本性か。 しかしこの選択肢を選ぶメリットはまるで無いので、実際に見た人、更に続けた人は少数であろう。 「これでアバロンのダニが〜」などと誤植されることが多いが、「これで」は付かない。 ちなみに、この選択肢すら選ばず、キャットを完全放置して去ると、ギルドは完全解体される。 アリだー!! \アリだー!/という表記もよく見かける。アリ部分を改変される事もよくある。 民家に泊まっただけでアリだらけになる、初見には衝撃的なイベント······のはずだが、そのせいでAAなども作られて有名になったせいか、今ではネタにしかされない。 叫び声が微妙に脱力されることおよび、さらにこの後アリ穴を調べて「穴を塞ぐ」という選択肢を選べば何事もなかったかのように元に戻るため、サガらしいシュールさに溢れていて妙に印象に残る人もいるだろう。 なお、このアリは体色を見ても分かる通り、白アリである。たびたび公式でもネタにされるが、終盤のアリイベントでは意外なことにこのセリフは使われていない。 良い薬 オトリ作戦の事。また、オトリ作戦ルートで攻略する事。 大学を建てるメリットのひとつだが、うっかりカンバーランドが未攻略だと使えないし、原則的にチャンスも一度きりである*4。 いいこと 武装商船団問題を側近から聞いたあと、モーベルムに行きそこの海賊の部屋に行こうとすと見張りに呼び止められて「そっちに行くんじゃねえ」と恫喝されるのだが、ワイルド皇帝だとこの見張りを言いくるめることができる。 その際にワイルド男皇帝だと「宿屋近くの酒場で一杯やろうぜ兄弟」と割と無難な言いくるめ方で見張りを始末して情報を聞き出せるのだが、 ワイルド女皇帝だと「見張りなんかやめてあたしとイイコトしない?」などと言って無防備に近づいて来たところを始末してしまうのだ。ちびキャラ、原画共に露出度が低いフリーファイターやノーマッドならいざ知らず、ちびキャラ、原画共に露出度が高いシティシーフだとイイコトとはなんぞやとドキドキする。 いい仕事 「いい仕事があるんだが やらないか?」 マイルズで受けられるいい仕事。また、このルートで攻略する事。腕力がいい男か女でないと受けられない。 誘われるままホイホイついて行くと、ちょっとワルっぽい事をされて素裸にむかれてしまう。 やりなれてるプレイヤーはかまわないで逃げちまって人間牧場にしてとことん食っちまうんだぜ。 ふと様子を見ているとクソミソな状況で地上戦艦にはいってしまうのがわかるが、ボクオーンは意外にあっけなく果ててしまうのでなんでも試してみると、きっといい気持ちだぜ。 なお、付いていかず脱走すると、南口から出ることでワイリンガ湖へ行くことができる。 池袋 ロックブーケの事。ノエルの妹。領地条件だし、テンプテーション見切りが欲しいので、最後に残される事は少ない。 よりによって池袋なので、腐女子扱いされる事がある。大体上野と品川がカップリング的犠牲になる。 サラマットで女王様をやっているが、目的は七英雄的に真っ当であり、古代人の秘密に最も近づいた。 第二形態はピン英雄の中では最強との呼び声も高い。召雷やめて。 さあ、頑張って!! エイルネップ神殿で守護者と戦わせられる時に、入口で発するセリフ。 前門の守護者、後門のロックブーケ。最悪全滅して継承で脱出するしかない。 しかも魅了でこの状態になった場合、男性皇帝ではラストダンジョン以外で戦えなくなる。男性以外にバトンタッチしよう。 スゴイ、スゴ〜イ!! あなたの事、一生忘れませんわ! 守護者撃破済だと聞ける。可愛いと思ったらカモ。 皇帝····ハエのようにウルサイ奴ね。消えなさい! 沈んだ塔での決戦時。一生忘れないとは何だったのか。 魅了された経験がある場合、男性皇帝だと「はい、おおせのままに。」と快諾してしまい、戦えない。 悔しいわ、やっと塔の秘密をつかんだのに。 勝利時。皇帝「秘密とは何だ、答えろ!」で、下へ続く。 ああ、ノエル兄様、秘密は····ここに···· ノエルほど取り沙汰されないが、彼女もブラコン説が濃厚である。 沈んだ塔の秘密は池袋より先に潜る事で少しだけ分かるが、ハッキリとはしない。 ノエルにいさま、ワグナス様···· 今からロックブーケが皇帝と戦います。見守っていてね。行きますわよ! 残した場合のセリフ。やはり先に兄の名が出てくる。ワグナスには好意を抱いているらしい。 ひどい、ひどいわ···· 最後に倒した時のセリフ。 石船皇帝 バグ皇帝の通称。「来来来来来来来来」という名前も有名。 石化してたり無敵だったりNPC限定キャラだったりするバグ皇帝もいる。 技術Lv255(画面上は95)やら没アイテムやら敵専用技やらを覚えている事もあるが、関係ないデータから数値を参照している為、フリーズは日常茶飯事で、イベントフラグが滅茶苦茶になったり、逆に技術Lvが下がったり、地形が書き換わったり、データを吹き飛ばす事もあり、非常に危険な存在。 SFC本体に起因するバグであり、バーチャルコンソールを除く移植版では登場しない。 イトケン SaGa2(GB·DS)〜3(DS)、ロマサガ1〜3、サガフロ1、ミンサガ、サガスカ、インサガ、ロマサガRSの作曲家である伊藤賢治のこと。 この中でほぼイトケン一人なのはロマサガ1〜3とサガフロ1、サガスカ。他の作品には他の人の曲も混じっている。 本作では、イーリスの住処と涙を拭いて以外の曲はすべてイトケンである。 (例外の2曲は初出がSaGa1であり、一種のファンサービスでもある。作曲はFFで有名な植松伸夫氏) 特に戦闘曲の評価が高いが、本人曰く「戦闘曲は苦��」だそうである。 今、そんな気持になった。 詩を愛するトカゲの名セリフ。これを聞く為にトカゲルートを選択する人もいるとか。 「気持ち」ではなく「気持」表記。 インペリアルクロス 「よいかジェラール。 我々はインペリアルクロスという陣形で戦う。 防御力の高いベアが前衛、 両脇をジェイムズとテレーズが固める。 お前は私の後ろに立つ。 お前のポジションが一番安全だ。 安心して戦え。」 という冒頭のセリフが、何故か改変されてネタにされる事が稀によくある。 また、その独特の配置が記憶に残るためか、似た配置のものがあればインペリアルクロスと呼ばれてしまう事もある。ゲーム的には、初期陣形の一つだが、レオンの発言通り役割分担が行いやすく、言うほど悪い陣形でもない。 しかし素早さと攻撃力に欠ける事と、防御ボーナスを活かしにくい事、何より初期陣形で付き合いが長くて飽きる為か、慣れたプレイヤーにはあまり好かれないようだ。 仲間の謀殺には丁度良い。 ヴィクトール ジェラールの兄の名前であり、運河要塞の運河の名前でもある。 順序としては、運河を造ったヴィクトールという偉人がいて、ジェラールの兄はその名前を頂いているという形になっている。 ジェラールの兄の方は兵士からソードプリンスと呼ばれる剣の達人で流し斬りの使い手。 レオンがウォッチマン討伐で不在の間に襲撃してきたクジンシーに流し斬りを完全に入れるもソウルスティールに倒れる。 この事がバレンヌ帝国と七英雄との戦いの始まりとなった。 仲間として使う事はできないが、内部的には能力は最終皇帝以上に強く、腕力が22である事を除き、全ての能力が25というふざけたステータスを持つ。理力もドウマンと並ぶ25。 アプリ版以降は敵として戦闘可能になったが、さすがにステータスは変更になっている。 リヴァイヴァに頼って一刀両断でズンバラリされるのは思わぬ落とし穴。 上野 ノエルの事。ロックブーケの兄。カエルではない。領地条件にはあまり関係しないので、後回しにされがち。 ワグナスとともに同化の法の開発者とされる。それだけに真面目に古代人を捜している。 七英雄の中では紳士的で、話すだけでモンスターを引き上げてくれる。そして制圧できる。通称「話をつける」。 しかし妹が殺されていると、問答無用で激おこで襲ってくる。その為シスコン疑惑が絶えない。 テレルテバではモンスターが「七英雄実力一」と主張し、皇帝が「七英雄一はワグナスだろう」と突っ込むやりとりがあるが、実際に河津神的には「冷静なNo.2(実は最強)」という位置設定らしい。得意技は月影。 しかし様々な理由により、形態が進化するほど逆に弱くなると評されている。 曰く冷静な第1形態は進化前の七英雄としては最強。第2形態げきおこは雑魚。とまで言われる。真の必殺技は赤竜波。 では、私の命でもご所望ですか? 「そのとおーり!!」を選ぶと、下のセリフに繋がる。 ずいぶん乱暴な方ですね。では、身にかかる火の粉は払わねばなりますまい! 冷静ノエルとの戦いになる。 いつでも退却する事ができ、この場合でも話はつき、テレルテバに人間系の敵を残せる事がある。 攻撃を続けると「そろそろやめにしませんか」「引く気はないようですね」と語り、ヒートハンドをかけて本気を出してくる。 妹ロックブーケのカタキです。 殺らせていただきます。 問答無用で戦闘となる。イベントの流れによっては話しかけただけでこうなる。シスコン疑惑の元凶。 行動パターンも激怒状態に変化するが、頭に血が昇っているのか、逆に御しやすいという評価が多い。特に第1形態の行動パターンの変化は決定的な影響がある。 進め方次第では最後の七英雄になっても血の誓いを守らず移動湖にいる事も。怒りのあまり誓いを忘れたのだろうか? その状態で倒すとラストダンジョンにいる七英雄が倒したはずのスービエになる。 ついに来ましたね。皇帝陛下! 我が妹ロックブーケのカタキは取らせてもらいますよ。 最後に残した時のセリフ。 やはりカタキという言葉は外せないようだ。しかし、何故か嬉しそうに聞こえる。 ウサギ ゲットー、ウォッチマン、ロビンハットの事。及びそれらの落とすレア装備。 ゲットーはランク1の敵であるため、SFC版ではアイテムコンプ最初の壁として名高かった(リメイクでは追憶の迷宮で戦闘可能、またSFC版でもバグ皇帝を使って終盤でも簡単に遭遇できるようになった)。 装備品はいずれも高い冷・状属性防御と各種状態異常耐性を持ち、理力が上昇する。 恵比寿 スービエの事。ワグナスのいとこ。領地条件にはあまり関係しないので、後回しにされがち。 いとこというあまりに微妙な肩書きは、彼が七英雄の中で一番最後に設定されたという事もあるのかもしれない。 ギャロン絡みのイベントで名前が出てくる。海の主の娘と合体したがるので変態扱いされる事も稀によくある。 戦闘では最後まで残しても第1形態と戦えてしまうので、雑魚扱いされる事が多い。 しかしメイルシュトロームと触手は危険な技であり、ラスボス戦では警戒対象といえる(厳密にはメイルは本体技だが)。 では冥土の土産に教えてやろう。我々は世界を救った。 だが救われた連中は強くなり過ぎた我々を恐れて別の世界へ追放したのだ! 数千年後苦労して帰って来てみると奴らも違う世界へ行ったようだ。 奴らはどこへ行ったのか 探しているのさ 復讐のために! 沈没船で第2形態と遭遇した時のセリフ。七英雄側の事情が分かる貴重な話であり、シナリオ考察には欠かせない。 しかしこれを聞けるシチュエーションは限られており、普通にプレイしていて目にする事はあまりないだろう。 沈没船攻略前に海の主を倒した場合はラストにでも残さない限り確実に目にすることになる。 第1形態の場合は「お前のような下等動物に、我々の目的を言う必要はない。早々に立ち去れ!」と言うだけで目的を話してくれない。 がはっ、ワグナスがやられるわけだ···· だが、ワグナスが禁じた最後の手を使って···· 最後に残して負けた時の台詞。 最終戦前に見せるものがワグナスによって禁じられた最終手段であることを示唆している。 大久保 もしかして: 新大久保。大久保駅は中央本線であり山手線ではない。 オアイーブ シナリオ上の最重要人物の一人。伝承法をレオン皇帝に伝えた大魔導士であり、ジェラール曰く女狐。謎が多い人物で漫画版、トモミー原画版とも20~30代の女性姿で描かれているが、ワグナスを倒してトーレンスに行けるようになると衝撃の事実が判明する。 か行 解析 データを解析する事。ゲームの場合は大抵、直接ゲームデータを解析する事で得られる情報の事を指す。 データの数値そのものなので間違いがなく、確実な情報として扱われる。 ······が、サガシリーズにおいてはこれだけでは全貌を知るには不十分な事が多い。 ロマサガ2でも後から複雑な計算式が噛まされていたり、乱数に偏りがあったりする事を考慮する必要がある。余談だが、現在ではゲームの細かな仕様を知るにはまず解析から入るという事も多いが、ロマサガ2は古いゲームという事もあり、解析データが明らかになる前から血のにじむような調査によって明らかにされた仕様が多い。 更に解析データが明らかになっても、そこから更に調査を重ねる事で明らかになった事実も多い*5。 ガウガウ 地上戦艦起動後のマイルズにおける流行語。次点に「ごい!」「はたらげー!!」がある。 転じて獣人系シンボルの代名詞として用いられる事もある。 明らかに異常なのに街の人は全く気にも掛けない。そしてプレイヤーも「サガだから」で済ませて気に掛けなくなる。 地味ながら、マイルズのこいつらは脱走中だと襲ってくる。 他の場所よりも若干レベルが高く、人間牧場に隠れがちだが狩りなどにも有効。 河津神 サガシリーズの生みの親、河津秋敏の事。なぜか神と付けられる事がよくあるが、本当に信仰されているとは限らない。 本作ではディレクター、ゲームデザイン、シナリオを担当している。 納期に厳しい事で知られ、サガシリーズの妙な不完全さや不親切さ、変な挙動はそれが原因ではないかとも言われる。 SaGa1はスクウェア初のミリオンヒットであり、FF1や2の開発にも関わり、一時関係が悪化していたスクウェアと任天堂の間を取り持ち、スクエニの取締役になっていた時期があり、開発途中で頓挫しかけたFF12の制作を引き継いだり、と社員としても重鎮である。 大学の頃はTRPGに熱中していたらしく、作風にもそれが表れる事がある。 漢字 サガシリーズには読み方が不明な漢字名称がよくでてくるが、公式にも「好きに読んでください」とされている。 本作だけでも「妖刀龍光」「竜槍」「神槍」「虹の水環」「落月破斬」「無無剣」「水鳥剣」などがある。 他に「アバロンの聖衣」はアバロンクロスと読まれる事が多い。聖闘士である。 汚い手で触らないで! 「そんなに汚いかな····」 アクア湖に触る事すら許さないネレイドのセリフ。何か容器を使えばいいのでは?と誰もが思う。 そんなネレイドも皇帝になると陸上をビチビチビチビチと這い回る走り始める。あくまで大切にしているのは湖なのか。 しかし陸に上がった人魚が変身もせずに素早さ最高級のクラス、というのは解せない。 キョン スタッフの一人、小泉今日治のコトですね〜。小泉今日子と同姓で同い年だからという理由でこの渾名がついたらし〜よ。 ロマサガ2〜3、サガフロ1〜2、アンサガ、ミンサガ等でバトルを担当してますね。他にはFF2とか4とかもあるよ〜。 「自分が楽しみたいから自分にも分からないように複雑にする」という悪癖哲学を持っていて、「ラスボスは勝率6割ぐらいがいいかな」等、サガシリーズの複雑なゲーム性の元凶一因となっていまあす。 本作ではバトルデザイン・バトルデータを担当しており、閃きや陣形もこの人の仕業業績で〜す。 変態おかしな仕様や狂った場違いな強さの敵が出てきたら、大体この人のせい。ひどいなあ。 サガフロ1のナカジマ零式の口調はこの人がモデルで、間延びしてるらし〜よ。FF4開発室にも登場しますね〜。 母親はミンサガのラスボス(通常版)に勝てちゃったよ······。海外版では強化したよ〜*6。 クイックタイム 水の術の一つ。習得レベルはマスターレベル26と覚えられる水術では最後に覚える水の術。 時間の流れを加速し、敵の行動をキャンセルするという効果の術。 効果は非常に有用で発動中に使用すると相手のターンを封じられる。 消費術ポイントは36と高めだが、連発するとラスボス七英雄ですらノーダメージで倒せてしまう。 あまりの凶悪性能から手馴れたプレイヤーからは封印される事も少なくない。 アプリ版以降の追加ボスには、これを使うと「クイックタイム返し」という物を使われ無効化される。発動時は戦闘曲が倍速になる。 情報の少なかったSFC版当時はこれを用いてラスボスを倒したプレイヤーが多かったため、 サウンドトラックを出した際に、倍速した曲を原曲と勘違いして「遅い」と言う人が続出。 これにショックを受けたイトケンが河津神に次回作では倍速をやめて欲しいと直訴したエピソードがある。 クジンシーとの戦い 中ボス戦の曲名。クジンシーにとっては優遇なのか、不遇なのか。しかし、流れる場面は印象に残る戦闘が多い。 + 流れる敵リスト 流れる敵リスト クジンシー(ソーモンにてジェラール帝以降) 記念すべき最初に流れる戦闘。曲名通りクジンシーとの戦い。 門(運河要塞) 強行突破した際の戦闘。際限なく復活する敵に手惑い、初見プレイで突破を諦めた人も少なくないだろう。 パイロレクスヴァイカー戦(運河要塞) 運河要塞のボス。体力の低いキャラを狙うヴァイカーやパイロレクスの火力に面食らうプレイヤーは多い。 宝石鉱山のボス(宝石鉱山) 爬虫類系。普通に進めているとかえるの王子様やリザードマン&レディが出てきやすい。 メッシナ鉱山のボス(メッシナ鉱山) 印象に残りにくい精霊系。雑魚に毛が生えたレベルなので曲に負けている。 しかし、水の精霊などが出ると厄介な事も。 ギャロンの部下(ヌオノ) ギャロンを追う途中戦う人間系。場合によってはギャロンより強い事も。 デューンウォーム(長城) 地裂撃のスタンや再生が鬱陶しい砂漠の蛇。 サイフリート(サイフリートの砦) カンバーランド支配を企む奸臣。サイクロンスクイーズなどの術がうっとうしい。 ノエルの部下(テレルテバの塔) 印象的なやり取りと共に戦闘。お供を連れず一体しか出てこない。 クイーン(白アリの巣) 白アリの女王。スタンが有効。倒さないと詩人イベントが進まない。 守護者(エイルネップ神殿) ロックブーケが倒して欲しい敵。毒霧に耐え、再生に追いつける火力がないと勝てない。 ロックブーケにけしかけられて戦い、後にも退けずなすすべもなくやられた人もいるだろう。 セキシュウサイ(チョントウ城) 王のいかなる命にも背かぬ忠臣。無刀取りを喰らいながら正々堂々と挑むか、術などで攻めるかはプレイヤー次第。 ワグナスの部下1(チョントウ城) ややマイナー。チョントウ城を完全に乗っ取られた展開でボスの悪魔系に挑むと流れる。 展開次第では「お前もアト王みたいにマヌケなヤツだな。あの世でセキシュウサイにわびを入れるんだな!」と どこぞのストレイボウのような台詞を吐いてくる。 ワグナスの部下2(ハクロ城) どう見ても人間系なのに「お前がワグナスか?」と���帝に問いかけられ、 「ワグナス様がお前達の相手なぞなさるか、バカ者。」と皇帝を「バカ者」呼ばわりする人間系。 ミスティックが出ると油断できない。 岩(コムルーン火山) 噴火阻止のために戦う。際限なく湧くヘルハウンドにターン毎のダメージが厄介。岩自体も固く火力が必要。 戦闘開始前から流れるので、選択肢で「ちょっと待て」を選ぶと曲を聴きながら準備ができる。 魔道士(魔道士の砦・浮上島) 火山イベント初期の皇帝のHP256未満で襲ってくる際には流れない。 「術こそ全て」の言葉通り、行動は術で全て構成されており、 落とすアイテムも他の同形モンスターと違いロッド系アイテムを落とさない徹底ぶり。 古代魔術書を巡る会話では共犯ルートで印象的な台詞を吐く。 開幕ストーンシャワーや追加効果系の術が厄介。 古代魔術書を先に取られそうになっている状態で戦うと、冥術中心のラインナップにモデルチェンジする。 クジンシーの前座三連戦(封印の地) 骸骨系→ゾンビ系→亡霊系の連戦。クジンシー戦では流れない。勝利ファンファーレで曲が流れ直すのが残念という声も。 ヘルビーストや獄竜が出てくるとクジンシーより危険。 リアルクイーン(アバロン) 復活した白アリの女王。家臣や町人を白アリに寄生させて秘密裏に皇帝への復讐を謀る。 追憶の迷宮の記憶ボス・ドレッドクイーン第二形態(追憶の迷宮) 七英雄に対する台詞が印象的なボス。同化の法を破る力を持つためか伝承法は効かない。クイックタイムは禁止。 ゲームオーバー 大抵のRPGでは全滅すると即ゲームオーバーとなるが、ロマサガ2では戦闘で皇帝率いるパーティーが全滅しても伝承法によりゲームオーバーにはならずに即皇位継承になる。但し、以下の場合は皇位継承することなくゲームオーバーとなりタイトル画面に戻される。 オリジナル版・リメイク版共通 「ソーモン進行」クリア前の段階で全滅orレオンかジェラールのLPが0になる。 但しレオンがクジンシーのソウルスティールを受けた場合はこれがクリア条件になっているので除く。 最終皇帝の代で全滅する。 最終皇帝の代でマーメイドにて人魚薬を使い3回海中へ行く。 最終ボスとの戦いで全滅or皇帝のLPが0になる。 以下はリメイク版のみ 追憶の迷宮の「◯の記憶」戦で全滅or皇帝のLPが0になる。 追憶の迷宮の「ドレッドクィーン」戦で全滅or皇帝のLPが0になる。 ゲオルグ ネラック城の主であり、ホーリーオーダー男の一代目。 滅亡ルートでは亡霊となっているが、戦闘に入ると皇帝と一騎討ちになる。そして負けるとLP0にされ、仲間に帝位継承が行える。 ······という事で、謀殺に利用する鬼畜プレイヤーが一部に存在する。とても便利。 皇帝になんかならない方がしあわせだぞ。 ソーモンの男の子の「ボクも皇帝になれるかな?」と言う台詞に対する皇帝の返答。 語尾は口調によって変わり、これは普通男口調。 ワイルド男は「しあわせだぜ」、普通女は「しあわせだわ」、ワイルド女は「しあわせだよ」になる。 ならない方が幸せな理由は言わずもがなわかるだろう。 レオンが死ぬ際に言った「自らの人生を捨てて戦う覚悟はあるか?」という言葉の通り、 普通の民衆として生きる道を捨て、命がけの戦いに身を投じる上、 即位前は一介の町人だったりするクラスもいるのでこう言いたくもなるのも頷ける。さすがに皇族として育ったジェラールはこの台詞を吐かない。 と言うより、子供の台詞が「(クジンシーを倒したので)やっと外で遊べる!」という物なので見る事ができない。 五反田 ダンターグの事。領地にはあまり関わってこないし、最後の方まで放置される事も多い。 「暴れ者」と評判であり、実際古代人とかガン無視でひたすら吸収して強くなろうとしているが、結果的にモンスター退治してくれるし子供と子ムーは何世紀も守ってくれるし人畜無害なので実はいい奴なのでは?という疑いがある。 彼の形態変化は内部的にはかなり特殊、かつ興味深い仕様になっており、ナゼール地方の洞窟を遠征して回っている。 レアアイテムのデストロイヤーは第3形態が一番落としやすいため、コレクターは形態を調整する事がある。 戦闘では、物理一辺倒ながら十分な強さを持つ正統派。ぶちかましとグランドスラムが代表技。 ここまで来るとはなかなかの強者だな。よしよし、このダンターグ様がキサマらの力を吸収してやろう! 子供と子ムー以外のダンジョンで遭遇した時の台詞。台詞の割にやられても皇帝の技能を吸収されたりはしない。退却が可能。 なお、子供と子ムーで対面した際は「キサマらのような虫けらでは戦っても成長せんわ!」とこの台詞と正反対の発言をする。 ちょっと待て!オレを無視していくとはどういう了見だ!? 子供と子ムーでダンターグを無視して、素通りしようとすると言われる台詞。 皇帝には「相手をしている暇はない」とあしらわれた後、下記の目的を明かし、 「キサマら虫けらの分際でなぜオレを無視した?弱者は強者にひれ伏すものだぞ!」と皇帝を引き止めてくる。 ふっ、オレの目的は強くなること それだけだ。 ワグナスやらノエルやらは、復讐を考えているようだが、そんなことはオレには関係ない。 何をしているか聞かれての回答。ダンターグの性格を表しつつ、ワグナスやノエルの動機についても触れている。昔からこういう性格だったようであり、吸収の法による悪影響も受けてなければ、復讐にも囚われていないため、メンバーの中でもしかすると一番昔と変わってない人物かも。 なに?今のはオレの聞き違いか?見逃してやろうだと?100年早いわー! 皇帝に「引き篭もりなら大人しくしていれば見逃してやろう」と言われての返し。皇帝の方が悪くないか? 本当に100年後に再戦も可能なロマサガ2では、このセリフは色々と想像が広がる。 子供と子ムー 世紀を超えて何百年もダンジョンの最深部で迷い続ける、永遠の子供たち。突っ込みどころが多すぎて突っ込めない。 同ダンジョンはダンターグの本拠地ともなっており、必ず会える。 ゴブリンの穴 アバロンから最も近いダンジョン。選択肢によっては出ないが、出さないメリットは全く無い。 場所柄、あえて攻略せずに処刑場として残される事がある、隠れた謀殺スポット。悪魔系と手軽に戦えるのも評価できる。 しかし序盤の攻略ポイントで1400も収入が増えるので、放置するデメリットも小さくはない。 ゴミ箱 なぜか倉庫に直通している。よってガンガン捨てられる。 ロマサガ2で非消費アイテムが消滅するのは、店に売った時だけである(例外あり)。 壊れた人形 レアイベントの一つと言えるだろうか。調べると「涙を拭いて」という曲が流れる。 この曲は実はGBの1作目から存在する曲で、サガシリーズの曲としては最も多くの作品で流れる、裏の顔である。 SaGa1〜2では普通にイベントで流れたが、ロマサガ1〜2、ミンサガでは特殊な条件を満たさないと聞けない。 GB1とGB2でメインメロディーの一部が違っており、本作で使われているのはGB1のメロディーのほう。 さ行 サガシリーズ ゲームボーイのSaGa1〜3、スーパーファミコンのロマンシングサガ1〜3、プレイステーションのサガフロンティア1〜2、プレイステーション2のアンリミテッドサガ〜ロマンシングサガ-ミンストレルソング-(略称ミンサガ)、マルチプラットフォームのサガスカーレットグレイス(略称サガスカ等)を中心とした作品群の事。 他にリメイクや派生作品もいくつかある。ミンサガも一応リメイクだが、中身が別物すぎるのであまりそう捉えられない(SaGa3のリメイクも別物ではあるがSaGa2寄りでありリメイクという認識は強い)。 ゲームボーイのSaGa3はスタッフが異なり作風も異なるため、河津制作のシリーズとしては入っていなかった。 また一部では、河津が関わったファイナルファンタジー2やラストレムナントもサガシリーズのようなものと考えられる事もある。難易度の高いガチゲームと評される事も多いが、その実体はマスクデータと未完成にまみれた不安定作品。 バランスブレイク要素も多く、それらを禁止しても仕様を理解すればヌルゲーに変化する事もままある。 それでも熱心なファンが多くつくのは、問題点を踏み潰して存在する強烈な個性ゆえだろうか。 ファンは大体それらの不安定要素も「サガらしさ」と捉え、笑って許している事が多い。アンサガも許してくれよ。 代表的な要素として「LP」「閃き」「連携」があるが、このうちLPと閃きは本作初登場である。 スタッフでは「河津神」「イトケン」「トモミー」「キョン」が有名である。何故か毎回、二度と戻れない場所でセーブできてしまう罠が設置されている*7。本作にももちろんある。 うっかりハマるとやり直し、最悪リスタートを迫られる事もある。 大体は警告のようなものが出るのでちゃんと読んでいれば回避できるが、逆にいえば故意に設置している証拠でもある。 詩人 世界中を旅しながら楽器を落としていった、謎の人物。アバロン以降の足跡は知れない。 オープニング等に登場する詩人はアバロンにいる訳で、もしかしたら関連性があるかもしれないが、寿命の問題がある。 しかし、一人でホルンとフルートとファゴットを吹きながらコンガとギターを鳴らしていたのか?詩人なら更に歌も······。なお、シリーズ名でもある「サガ」の語源として、「アイスランド等の北欧で史実や伝説を題材にした叙事詩」と誤解され、詩人との関連性を考察される事例もあるが、実際はアメコミの効果音などを元にして特に具体的な根拠なく決められたものであり、詩人との関連性はない*8。 品川 ワグナスの事。七英雄のリーダー。領地条件になっているが、攻略が面倒なのでRTAの類ではスルーされる。 ノエルと共に同化法の開発者であり、七英雄の行動指針を決めているのも彼であろう。半分ぐらい聞いてないが。 けしからん体つきをしているが男である。妖精系などを吸収したのだろうが、それもそれでけしからん。 第2形態の翼はよく見るとギリシャ文字のΑ(アルファ)とΩ(オメガ)が描かれており、彼の真の野望の一端が垣間見える。 七英雄のリーダーにして最強という肩書で、サイコバインドが得意技。ただ、最も危険なのは第2形態のファイアストーム。 しかし攻撃の種類が偏っているお陰で、対策すると意外と強くない。特に熱に対して無敵のトカゲは天敵とさえ言える。 行動の強弱も偏っているため、勝てない時は理不尽さすら感じる反面、運次第で拍子抜けするほど簡単に倒せる事もある。 わが浮遊城へようこそ! ここまでは楽しんでいただけたかな? 「十分楽しんだ」「ぜんぜん楽しくない」「もう帰る」 それは良かった。短い命の最後の想い出にするがよい。さらばだ、皇帝 十分楽しんだ場合。何が良かったのか。 それは失礼した。だが、もう楽しませる時間がない。君の短い人生もこれでタイムアップなのだ。さらばだ、皇帝 ぜんぜん楽しくない場合。おそらくワグナスではこのセリフが最も有名。 それは残念、しかし帰る者を無理に引き止めるのも気が引ける。 では地上までお送りしよう! もう帰る場合。 本当にユウヤンに帰れる。プレイヤーとしては助かるが、皇帝もワグナスも何を考えているのか。 ノエルまでやられるとは···· お前の方が強いのか? いいや、七英雄は最強 その中でもワグナスが最強なのだ、行くぞ! 最後に残した時のセリフ。ノエルとの信頼関係が窺える。そして自他ともに認める最強と言う自負。 ぐはっ····七英雄は最強、最強なのだ···· 最後に負けた時のセリフ。最強にこだわりがあるようだ。 縛りプレイ ゲーム全般で使われる用語。ゲーム内での行動を制限=縛ってプレイする事。そのまま制限プレイともいう。 その目的は様々で、バランスブレイク要素を排除してゲーム性を楽しんだり、高い難易度に挑戦したりする。 共通しているのは「そのゲームを遊び尽くしたい」という想いだろうか。ロマサガ2の場合、最もメジャーなのは「クイックタイム禁止」。SFC版では「ワンダーバングル禁止」も加わる。 バランスブレイク要素の排除が目的で、感覚としては縛りというより通常プレイに近く、初見プレイでも行われやすい。 バグ技や乱数調整の自粛なども付加されやすい。特にSFC版では「資金増殖禁止」の有無は大きな影響がある。 類似した縛りとして「道場行為禁止」「謀殺禁止」等がある。純粋な縛りプレイとしては、「リセット禁止縛り」はロマサガ2ならではの楽しみ方ができる。再編成が面倒だが。 最終皇帝まで行くとほとんど意味をなさなくなるが、それまではゲームオーバーしないが故の緊張感がある。 「普通にプレイ」と称する縛りプレイもある。名前がややこしいが元々ネタ縛りだったのでしょうがない。 これはリセット禁止に加えて、装備・技・術・陣形の変更を禁止する。再編成の面倒さを縛りによって解消したとも言える。 初期装備・初期技・初期術・フリーファイトでの戦闘を強要される。単純な縛りだがそれなりに奥深く、一部で流行した。 これの影響で他のサガシリーズ等でも「普通にプレイ」や「楽しくプレイ」といった紛らわしい類似縛りプレイが考案された。 他には「術のみ縛り」「武器限定縛り(小剣のみ等)」「使用キャラ縛り」「陣形縛り」等々、様々な縛りが存在する。 中でも術のみ縛りは、通常プレイと難易度が大差ないという事で逆に有名。ただし、最序盤だけはかなり苦労する。 終帝 最終皇帝の事。とにかく強い。強すぎて混乱すると、仲間がワンパンで沈む光景を目にする事となる。 いきなり引っ張り出されて七英雄全員を倒すハメになったり、逆に出番なしのまま終了されたりと、玩具にされる事がある。 術威力 「魔力+MAX(魔力−理力,0)×2」の俗称。キャラクターの能力値であり、術の威力の事ではない。 火水地風天のほとんどの攻撃術や、青水晶の槍固有技のサンダーボルトは、この値を基準にして威力が決定される。 「魔力が同じはずなのに何故か術の威力が違う······おかしい」という事で調査した結果発覚した数値であり、実は理力より先に発見された値である。 この後、研究が進むにつれてどうやら隠し能力値が存在するという事が判明し、それが冥力と名付けられ、解析によって裏付けがなされ、時を経てアプリ版で理力という公式名称が与えられた。術の破壊力に個人差がうまれやすい直接の原因でもある。腕力や器用さが10〜25であるのに対して、これは10〜55と差が極めて大きい。 笑止! トップは常に裁かれることはないくせに。 「どのみち、帝国の裁きを受けるつもりもないがな。」 「どおしても 裁きは受けないと?」 「受けなければ?」 浮上島での魔道士との会話。この直後、戦闘に入る。冥術入手最後の関門。 先に冥術を彼に取らせておくと難易度が若干下がる。 噴火阻止ルートとは対照的に泥くさいやりとりだが、これもまた別の意味で印象に残る。 少々とうがたっておりますが ハロルド王がソフィアを評して曰く飛び出した発言。選択肢限定、かつ男皇帝の場合のみ聞ける。 この後独身なので良い相手が欲しい、とさりげにアピールしてくる。······政略結婚させたいのか?と邪推せざるを得ない。 肝心のソフィアの年齢は、冒険ガイドブック曰く25歳。だがそれがいい、という人も。 和平の使者を買って出ると挙兵したゲオルグと皇帝が直接交渉して大丈夫かという危惧からソフィアに会いに行くと仲介役としてネラッグ城に同行してくれる。 女性 各キャラクター・モンスターが持つ種族属性。スクリュードライバ特効・テンプテーション無効、香水有効・ハーブ無効。 種族属性とは別に、単に皇帝の性別がイベント進行にも影響を与える事がある。また、口調も違う。 見た目と一致しないキャラクターが結構いる。ワグナスは男性だし、サラマンダーは不明表記だがデータ上は女性属性。 クィーン・リアルクィーンが女性ではない事はよくネタにされる。信じないぞ。なお、タームバトラーは女性である。 マルガリータも女性ではないが、マンドレーク・アルラウネは女性である。女性とは一体······。 新大久保 ボクオーンの事。間違えられやすいが大久保ではない。(山手線を参照)。領地条件にも関係するため、残される事はあまりない。 ステップで麻薬を作って私腹を肥やしている印象が強いが、運河要塞やカンバーランド動乱にも陰ながら関係しているため、ず��賢いという評判通り?裏から手を広げているようだ。 マリオネットで撹乱してくるが、ラピッドストリームやクイックタイムでほぼ無効化できてしまう。 第2形態はそれを見越して水鳥剣を使って来るが、ソードバリアがあればそれも防げてしまう。 レイスフォームでも完封可能。ストーンシャワーならマリオネットで同士討ちしても関係ない。 す、すまん。私はボクオーンでも何でもないんだ。七英雄と名乗ってみたかっただけなんだ。 麻薬作りもやめる、この戦艦も破壊する。だから頼む、許してくれ! ボクオーン、迫真の演技。「それなら許す」を選ぶと皇帝が「二度目は許さんぞ」と言い、下に続く。 バカめ、甘いわ!! 不意打ちされて戦闘に入る。最初のターンに一方的に攻撃される唯一の戦闘。 しかし二度目だった場合、「二度目は許さないと言ったはずだ!」と返し、逆に不意打ちできる。 このボクオーンを最後に残したのは作戦ですかな? それとも地上戦艦に恐れをなしたから? どちらにしろ大きな間違いを犯したようだな。たがいに傷つけあって死ね! 最後に残した時の戦闘開始セリフ。 新宿 クジンシーの事。残す残さないはともかく、アイテム回収にダンジョン攻略は欠かせない。 こいつがアバロンにちょっかいをかけたせいでレオンが伝承法を使う決意をし、結果的に七英雄が滅びる原因となった。 その目的はというと、世界征服。更に別ゲームの解説によると、七英雄(特にロックブーケ)の支配をも目論んでいる。 また、同作ではクジンシーが七英雄に加入する際のやり取りも語られている。 + 内容(文章そのまま) 内容(文章そのまま) 「俺を置いていかないでくれ!」クジンシーは叫んだ。 「はっ、虫けらが」ダンターグは軽蔑して唾を吐いた。 「お前は戦力にならん」ボクオーンは相手にしなかった。 「やめてよ、寄らないでよ」ロックブーケは気味悪がった。 「お前は来なくていい」スービエは厳しく言った。 「君は十分働いた」ワグナスの優しい声には拒絶があった。 「頼むよ。俺にも力をくれよ」クジンシーはノエルにすがりついた。 ······これによって、社会の嫌われ者とかそういう意味ではなく、七英雄内でも嫌われ者だったというオチがつく事となった*9。 しかし必殺技のソウルスティールは、確かに見切りさえなければ最強であろうとも言われる。 ほー、なかなかやるな だが、まだ若い 無慈悲なソウルスティール。ある意味、全ての始まり。 むむっ、これはたまらん 本気を出さねばなるまい 無慈悲なソウルスティール2回目。覚悟の上である。 ちっ、また来たのか。私の技は見切ることは不可能。なぜなら、受けた者は必ず死ぬのだからな。 ソウルスティールの強さを簡潔に表したセリフ。まさに一芸特化。皇帝がジェラールだと、セリフの最後に「親父と兄貴のあとを追え!」が追加される。 ····腕を上げたものだ だが、この技はかわせまい くらえ! ソウルスティール3回目。ボーナス行動。 こ、こんなはずでは···· この後復讐を誓われるが、古代人への復讐は二の次なんだろうか。 やっと来たか、長かったぞ。待つのはあきた、さっさと始めるぞ! 復活し、封印の地で再会した時のセリフ。 「待つのはあきた」云々と言っておきながら前座に雑魚を三回も出し向けてくる小物っぷり。 ま、また〜〜 なんでオレだけが2回も〜〜 封印の地で倒した時のセリフ。2回とも自業自得なんですが。 このオレの挑戦を無視したな!後悔させてやるぞ! 最後に残した時のセリフ。こだわるポイントが一味違う。 ひ ひげー ま、またやられるとは こうなったら最後の手段だ。誓いなど守っていられるか···· 最後にやられた時のセリフ。ひ ひげー 今度は以前の ようにはいかんぞ。覚悟しろ! 最終皇帝登場前に七英雄を全て倒すとラストダンジョンではこちらのセリフを言う。条件的にレアな台詞だが、通常のセリフより面白みがない。因みに撃破後のセリフは変わらず。 陣形を乱された! ダッシュ中に敵に接触したり(「サバンナ」等一部フィールド除く)、敵に背後から接触された際、戦闘画面に切り替わった直後に出るメッセージ。そうなった場合、強制的に陣形がフリーファイトになり、行動順が大幅に遅くなる。なので殆どの戦闘で不利な状況になってしまう。 スクウェア 本作を開発した会社。■とも書く。2003年にエニックスと合併し、スクウェアエニックス(略称スクエニ)となった。 ファイナルファンタジー(略称FF)をキラータイトルとして持つ大手ゲーム会社であり、ドラゴンクエスト(略称ドラクエ、DQ)を持つエニックスとはライバルのような関係であった······はずだが、その二社が合併したというニュースは当時大きな衝撃を与えた。 もっともそれは本作発売から約10年後の話である。 素振り 技を閃く為の攻撃をする事。特に通常攻撃はこう呼ばれる。 道場で先生を相手に素振りで技を閃く、これが本作以降のサガで基本的な修行のひとつとなった。 強敵相手に退却できることや、そうでなくても技道場に登録されることから、本作では特にこの手の技修得が有効。 スマタ ゼラチナスマターの事。ブヨブヨした奴である。決して他意は無い。 英語で書くとGelatinous matter。ゼラチン質の物体という意味である、が······ ゼラチナ・マスターと誤読する人が続出した。そしてよく見たらスマターなのでスマタと呼ばれるようになった。 本来ならばゼラチナス・マターが正解。サガフロ1のゼラチナスプランターと併せて正しい読み方に気づいた人もいるのでは。 身近にゼラチンがあるお陰でゼラチナで区切ってしまう日本人の習性ゆえに生まれた通称であろう。という事にしておく。 実用性の高いレアアイテム、キャンディリングを落とす唯一の敵なので狙われる事も多い。 先生 道場に使われる敵の事。師匠、師範などとも。詳しくは道場の項目で 先帝の無念を晴らす! 任期半ばで命を落とした皇帝の後を継いだ者のセリフ。この後の行き先は大体決まっている。 条件的にリセットや謀殺を縛ってでもいない限り、謀殺を繰り返す最中に見る事が多い。 た行 地下を通れば逃げられると思いましたか? 「帝大の教授を甘く見てもらっては困ります。 学生の考えることなどお見通しですよ。 さあ、戻って学問に精を出してください」 帝国大学入学試験入試中に地下へ行くと遭遇する教授のセリフ。存在自体が衝撃的。 帝国 多くの人々の命を吸い、失われた冥術を復活させ、世界征服を企み、世代を超えて意識を保ち続ける皇帝が君臨する大国。 その皇帝と、かつて世界を救った伝承の七人の英雄が世界中で繰り広げる戦いを描いたのが、本作である。正式名称はリメイク版でのインペリアルクロスの説明文にある通り「バレンヌ帝国」なのだが、リメイク版がリリースされるまでの間長きに亘って情報が錯綜していた。 というのも、ゲーム中では終始「帝国」としか呼ばれないし、関連書籍では「バレンヌ帝国」「アバロン帝国」「バレンヌ王国」といった記述が見られて統一されていない。 また、全盛期の領地というのも、ゲーム中では南北バレンヌまでだったような記述があるが、関連書籍ではもっと広範囲を治めていた時代があると記されている事がある。 電源地裂撃 棍棒技「地裂撃」の仕様を利用したテクニック。「ヘル棍棒」と呼ばれる事も。アプリ/スマホ/PSVita版でも健在。 有用な技なのでRTAでも使われる事がある。 地裂撃は直前に行われた攻撃のレベルを参照するというバグらしき計算式を持っているのだが、 電源投入後に使うと実機に応じた参照値を参照する。SFC版では多くの実機で参照値が非常に高く、桁違いのダメージを叩き出す事も多い。 先手さえ取れれば序盤に登場するナイトヘッド(SFC版限定)や守護者などといった強敵を弱くても倒す事ができる。 ただし、参照値が低い物もあり、電源投入後の地裂撃の威力が極端に落ちる実機も存在する。 SFC版で参照値が低い場合、マリオのスーパーピクロスを起動して即電源を切り、 ロマサガ2に素早く差し替えて起動する事でピクロスの参照値「255」(カンスト値)を持ってくる抜け道がある。スマホ/PSVita版では似たテクがあり、高速ナブラが直前に行われた攻撃の腕力を参照するという物がある。 龍脈を重ねがけにして参照腕力99にすれば脅威的なダメージを叩き出す事ができる。 道場 本来は技を覚える道場の事だが、こちらは略さず技道場と呼ばれる事が多い。ドォォリャァァーー!! この技道場が由来、なのかどうかは定かではないが、サガシリーズで道場と言うと技が閃きやすく戦いやすい相手、及びそうした敵を相手に技を閃くまでダラダラ戦う事を意味する。 ロマサガ2ではディープワン先生、守護者先生、アルビオン先生が有名。 前者二名は倒してしまうと閉鎖してしまうが、退却すれば気が済むまで稽古を付けてもらえる。 通ーせよ。 長城を強引に通る際の、強要感あふれる選択肢。 図書館 大学の教授らしき人物が欲しがっていた没施設。アプリ版以降はアバロンの園に差し替えられた上、 セリフが変更されて言わなくなっている。 SFC版ではアバロン南西には何もなかったが、マップチェンジバグを利用してむりやり進むと図書館らしき建物があり、中に入ると受付の奥に本棚が立ち並び、地下水路に降りる階段まで備えたマップが存在していた。 トモミー イラストレーターの小林智美のこと。ロマサガ1〜3、サガフロ1〜2、サガスカの原画を描いた人。アンサガ・ミンサガなども手がけている(25周年記念にSaGa1〜3のイラストも描いている)。 洋ロック好きである。腐���子である。 トリプルヒット 幻の棍棒技*10。特に必要ではないけど技コンプに欲しがった人は多い。 SFC版のNTT出版の攻略本には技の一覧表があり、使用者の欄は「味」「敵」「味敵」に分けられていた。 トリプルヒットには「味敵」と書かれていたため、このたった一文字の味の為に一部のプレイヤーが振り回された。 デマも数多くとび、敵のトリプルヒットが斬属性である事から剣技という噂も飛んだ。 実際には完全に敵専用で、味方が閃けるような仕組みはない。 性能的にも、削岩撃の属性違い(ただし消費2倍で低命中)と、残念技の部類である。 スマホ版でバイナリを用いた検証がされているが、使用時にキャラが武器を振るモーションを取らず、 攻撃エフェクトが出るだけと、明確に敵専用だとわかる。 とんらん こんらんの事。SFC版ではフォントの都合で「こ」が「と」に見えたことから。赤とんらんは全滅信号。 リマスター版ではフォントの変更により、こう誤解されることはまずない。 な行 流し斬りが完全にはいったのに···· 「····父上····」 「流し斬りが 完全にはいったのに ····」 慕っていた兄が死に、七英雄がはじめて牙をむく衝撃的なシーンのはずだが、妙に負け惜しみっぽく聞こえるからか具体的な技名が出てくるシュールさからか流し斬りの微妙な立場からか、ネタにされる事の多いセリフ。 この時点での流し斬りは非常に上位の技であり、まずプレイヤーは使えないはずなので、間違いなく優秀ではある。 流し斬りには確率で腕力−5にする効果があり、これが入った事を「流し斬りが完全に入った」と称する事があるので、それを考えると兄の真意は「流し斬りが完全に入って有利をとれたのに負けてしまった」という意味かもしれない。 もっとも実戦においては、槍技の活殺獣神衝は同じ確率で素早さも−5にできる為、これを覚えると立場はなくなる。 そしていずれにせよ、腕力や素早さを下げたところでソウルスティールの性能に変化はない。 ····逃がさん···· ····お前だけは···· 最後の七英雄を倒した後、引き返そうとすると現れるメッセージ。本当に帰れない。 どうしても勝てなければ前のセーブデータに戻ろう。それもなければ······始めからやり直すしかない。ドラクエで「ぼうけんのしょは消えるから毎回コピーしておく」知恵を付けた層に「セーブは分けるもの」という新しい価値観を強制的に植え付けた、罪深きトラップ。かもしれない。 事前に警告はされていたのに。 ここから先は引き返せないぞの警告から最後の七英雄を倒すまでは実はセーフであるので紛らわしいことこの上ない。 ··· 人魚 マーメイドに現れる人魚の事だが、アクア湖のネレイドを指す事もある。稀にレアモンスターの事も指す。 人魚イベントは人魚薬を作ってもらう為にもう一種類の人魚に会う人魚だらけのイベントである。 人魚の下半身はイルカ型であり、おそらく哺乳類だが、ネレイドの下半身は魚型であり、おそらく魚類である。 人魚は海に住んでいるので塩水に適合しているが、ネレイドは湖に住んでいるので淡水魚である。 人魚が地上に出る時は人間の姿に化けるが、ネレイドが地上に出る時は魚身をくねらせて高速で這い回る走り回る。 人魚は人間に見られる事を忌避しているが、ネレイドはアクア湖が汚れる事を拒絶している。 人魚には対応した?男版の魚人がいるが、ネレイドに対応した男版は未発見である。 他に水棲生物系ランク4〜5にニクサー・ニクシーがいる。低ランクなのにSFC版ではラストダンジョンでしか遭遇できないレアモンスターだが、外見は人魚の方に準じている。注目すべきは男人魚のニクシーの存在であろうか。リメイク版では追憶の迷宮で遭遇できるようになった。 全ての共通点は、髪が長く、恵まれた体格を持ち、全裸である事。服飾文化はないようだ。 人間牧場 フルネームは「マイルズ人間牧場」。特定の手順を踏む事で、マイルズ地下に中身人間の獣人シンボルを残す事。 人間系はイベント終了後にいなくなる場所が多く、好きな時に戦う事が難しい。 そこでこの人間牧場を開設する事で、いつでも好きな時に好きなだけ、しかもバックアタックで戦う事ができるようになる。 ここの人間系は通常よりランクが高い事も併せて、稼ぎ場としても優秀である。人道性は微塵もない。 ただし、この牧場はマイルズの南出口からマップに出ると解散してしまうので、注意が必要である*11。 この出口はマップ画面を出すには便利な場所なので、維持は微妙に面倒で、慣れないうちはよく間違ってしまう。 ネタ切れ 「おしまいじゃ··」 魔女から15回薬を買うとこのセリフが出て、何も買えなくなる状態の事。なおす方法はない。 人魚薬も注文できなくなり、ネレイドも仲間にできなくなる。ただし先に注文しておけば問題ない。 買う時に「ネタが少ないからの、本当に必要なものにせーよ。」と言われる事に由来している。 これに準じて、ノーマッドの爺さんからもらえる「薬草」も有限なので、貰いきった状態をネタ切れと呼ぶ事がある。 は行 はい、はい 「ちがう!! もっと真剣になるのだ!」 死の床を前にしてのジェラールの選択肢。 なぜあの場でこのような選択肢があるのか不思議だが、これもサガのサガか。 伝承法には意思が要る。 スマホ/PSVita版では初期の頃はこちらを選ぶとトロフィー「父の後を継いで」が取れなかった。 これもサガのサガかという声もあったがなんと不具合だったようで現在はアップデートにより修正されている。 パジャマ 白服ジェラールの事。かっこ悪い。エンディングで再登場する。金ピカになる前に代を終える事も可能である。 ビチグソ 「うりうり、ビチグソだぞー!」 「やめてよー やめてよー」 ティファールで無邪気に遊んでいる子供が発する衝撃的なセリフ。河津神は何を考えているのか。 よりによって綺麗なアクア湖の話をしているお婆さんの傍らで発してるのが泣ける。 リマスター版の言語設定で英語を選択すると、追い回されている女の子の名前はHelen(ヘレン)であると判明する。 おそらくリマスター版で最もどうでもいい追加要素であろう。 ふー ふー くつろぎの一声。もしくは事後。 陛下、一人にしないで! カンバーランドの後継者問題におけるトーマの台詞。皇帝は非情である。 ハロルド王との後継者決めの翌日、王が亡くなるのだが、王とのやり取りで矛盾がなかった場合、トーマが王位に据えられる。*12 これに対し、気性が激しい長男ゲオルグは「(勝手に王を名乗り)全くけしからん奴だ!」と挙兵。 トーマ側もサイフリートが討伐のお触れを出し、皇帝にも帝国兵の派遣を求めてくる。兄と戦う事に気乗りがしないトーマは皇帝に助けを求めるが、 その際に「兵を集めにアバロンへ帰る」、「関係ない、さようなら」と答えるとこの台詞に繋がり、カンバーランドが滅亡する。 悲痛な台詞であり、エンディングにトーマが登場しないデメリットがあるが、 制圧失敗のリスクがなくなり、亡霊ゲオルグによる皇帝解体場が利用できるメリットもあり、意図的に滅亡させるプレイヤーもいる。 謀殺 意図的にキャラクターを殺害する事。仲間を外すにはこれをやるしかない。 最もよく被害に遭うのは、年代ジャンプ直後の皇帝。陣形を増やすには仕方なかったんだ。 大体ルドン高原かゴブリンの穴かネラック城が舞台に選ばれる。 他に被害に遭いやすい皇帝は高いHPと防具を持っている帝国重装歩兵や格闘家。 皇帝のレベルを上げる為に、武器レベルがバランス良く育っている帝国軽装歩兵も被害に遭いやすい。『ロマンシング サ・ガ大全集』にも、 「全てのスキルを効率よく上げるには、皇帝を早く交代させる事だ」 「仲間は何度死んでも次のキャラが名乗りを上げるので、限界は無い。 悪く言うと使い捨てが可能だ。いらない仲間は遠慮なくLPを0にしよう」 と物騒な文章ではあるが、推奨テクとして紹介されている。 ほ ほぎー アリにやられた人が発する断末魔。やはり衝撃的場面だが、ネタにされている。 「うっ うぐ」「ぴ ぴぎゃー」「あ あくー」なども同様。 (特に初見だと)シャレにならない大混乱が発生するので、古代人が恐れたモンスター=アリ説も体で理解できる。 没データ 通常プレイでは確認できないがゲーム内部に存在しているデータの事。 大抵の場合、「開発用データ」か「未使用データ」に分かれているがロマサガ2は後者が多い。 消されない理由は迂闊に消すと新たなバグにつながる恐れがあるため。 産みの親の河津神が納期に厳しい事もあり、ロマサガ2に限らずサガシリーズは没データが多い。 しかし、シリーズ全体で見るとロマサガ2は比較的少ない部類に入る。SFC版での有名な物は、セキシュウサイやトーマなどの没の仲間データ、図書館などが有名。 没アイテムには古い槍、さびた剣などの劣化したアイテムが多く、年代経過でアイテムが劣化する構想予定だったのかもしれない。 没データの一部は石船皇帝やマップチェンジバグで発掘する事が可能。アプリ版以降では没陣形であったゴブリンアタックが解禁。図書館はアバロンの園に変更。 没アイテムのシャープグレイブ、ヘビースーツ、水鳥の帽子を入手可能。一部枠を追加アイテムに流用。 と一部を採用、枠を追加アイテムに流用といった形で没データは相対的に少なくなった。 しかし、没データがないわけではなく、スマホ版では「急急如律令」「機知縦横」という没陣形がバグで確認されている。 追加クラスの陰陽師、忍者が考案する陣形という説が濃厚だが真偽は不明。 ��行 ····まさか こ う て い? テレルテバの塔のボスのセリフ。前振り含めてお約束すぎて笑うしかない。 ノエル様が新しい身体をくれる、と自慢しているが、この時に着ぐるみを被ったとしか思えない外見と無駄に陰惨な設定を持つ河馬人間が出ると更にネタ度が上がる。 しかし場合によっては、普通に強い相手が出てくる事もあり、負けたりすると泣くに泣けない。 お供は連れておらず、必ず一体だけで登場する。モンスターレベルは若干通常より高く、早くにキマイラと出会うというケースもある。 冥力 理力の事。SFC版では完全なるマスクデータで、一切ゲーム画面に表示される事はない。 今となっては解析によりデータが導き出されているが、それ以前から地道な調査により存在が発覚していた。 女ギツネ オアイーブに対するジェラール評。 ······「アバロンのダニ」発言は彼の本性ではないか、という説を補強する言語センスである。 や行 山手線 七英雄の名前はすべて山手線の駅名を逆から読んだものとなっている。 そして元ネタの駅名がそのまま各七英雄の通称ともなっている。 番外として浅草もいるが、これは山手線ではない。 またボクオーンを逆から読んだら大久保になるため勘違いされやすいが、大久保は中央本線であり山手線にあるのは新大久保駅でありこちらが元ネタである。 やめろー、卵をよこせー!! モンスターと同じだが、卵は必要なんだからしょうがない。 この後卵のからを何度も調べるプレイヤーが後を絶たない。ゴミ箱まで活用するケースも。 逆に調べずに何度も卵強奪を試みる(という名目でパイロヒドラと戦い続ける)輩もいる。 やるぞ! 年代ジャンプ後、継承した皇帝が最初に放つセリフ。 前の代で仲間を増やしていた場合、大抵ルドン高原へ行く事になる。 よく来た。 ノーマッド♂の挨拶。のようなもの。仲間になる前は必ず言う。状況によっては遠くまで来た感を演出してくれるだろう。 地上戦艦から一人だけ先に逃げ出した後でもこう言ってのけるのは、彼のキャラクター性を表していると言える。 よく解んないし、関係ないな ハロルド王の相談に対する回答のひとつ。身も蓋もない。 他国に跡継ぎの相談をし、即死で内乱を招くので無能扱いされやすい王様だが、この相談の真意は帝国の後ろ盾を求めていたと考えると政治的理由も解せなくはない。そしてそれを嫌ってこの回答で返す、というのも面白い。 選んだ際の皇帝の受け答えは口調を問わず 「それはご自分でお決めになる事です。帝国がカンバーランドの世継ぎ問題に口をはさむことはできません。」という物。 常識的に考えれば内政干渉に当たるので、この回答が一番まともであろう。 攻略上は「トーマが選ばれる選択と皇帝の選択が矛盾したかどうか」がポイント。 予定どおりじゃ。 ミラマーで畑をみている爺のセリフ。橋破壊時に聞くと意味深。 ら行 ライフスティール 幻の小剣技。LPを吸い取れる技性能から誰もが味方に欲しがった。 SFC版のNTT出版の攻略本には技の一覧表があり、使用者の欄は「味」「敵」「味敵」に分けられていた。 ライフスティールには「味敵」と書かれていたため、このたった一文字の味の為に多くのプレイヤーが振り回された。 デマも数多くとび、実際に閃いた(ただし証拠はない)という報告も幾度かなされた。 実際には確かに閃き設定は存在するが、難易度が80*13あり、見合った敵がいないとかそういう問題以前に処理中に数値がオーバーフローするので絶対に閃く事はできない、とされている。 SFC版でも閃きは無理であり、石船皇帝を使う事で無理矢理習得済にできることが確認されているが 武器庫の武器が全て消えたり、マスターレベルが変化したりとリスクが大きい。 閃かない事は有名であり、おそらく製作陣も周知しているはずなのだが、 リメイクする機会があるのに、頑に修正されず、閃いたという報告はアプリ版、スマホ/PSVita版でもない。 完全に公式の見解は閃かないのが仕様と見なしていると見ていいだろう。 乱数 数学用語。ランダムな数値の事。分かりやすく言えば目がものすごく多いサイコロ。 コンピュータゲームでは、ダメージの振れ幅や確率的な行動の結果等はすべてこのサイコロによって決定している。 計算機であるコンピュータでは完全にランダムな数値を出す事は難しいため、擬似乱数とも呼ばれる。サガシリーズの場合、いくら擬似乱数だからって偏りすぎだろ!という事がよくある。絶対キョンのせいだろ これは実確率と体感のずれ······ではなく実際に偏っている事も多く、単純なものは「再現」と呼ばれる。 さらに発展して複雑な手順や計算を行い、思い通りの乱数を出す技術まで開発される事がある。 ロマサガ2も例外ではなく、集気法の回復量から乱数テーブルを割り出してレアアイテムを出す手法な��が開発された。 しかしこれは、誰も損する人はいないが、悪い言い方をすればイカサマであるため、嫌う人も一定数いるようだ。 リマスターではこの乱数の仕様が変わり、「再現」が起こるほどの偏りはなくなり、乱数操作も今のところ不可能になった。 しかし「数学的に良い乱数と人間が自然と感じる乱数は異なる」という論文もあるぐらいで、偏りに振り回されるのは相変わらずである。 竜槍 竜槍ゲイボルグの事。また、以降のシリーズ作品に登場する似たポジションの槍全体に対する総称。 本作では、4種類の「竜」が低確率で落とす可能性がある。「龍」は落とさない。 攻撃力は黒曜石の槍より一回り低いが、固有技の下り飛竜は黒曜石の無双三段に匹敵する威力を叩きだす。見切りのそろえが重要になる本作では、技欄を1つ多く使えることはそれだけでも重要。ロマサガ3では「竜槍スマウグ」がある。各地にいるボス敵、ドラゴンルーラーが落とす可能性がある。作品中最強クラスの攻撃力を持ち、非常に強い分身技に属する固有技を持つため、最強武器の一角をなす。 サガフロ2では「邪龍ウロボロス」がある。ボス敵のメガリスドラゴン、炎の将魔が落とす可能性がある。槍の中では最強の攻撃力を持ち、水のアニマを持つ。 ミンサガでは衝槍の「竜槍マリストリク」と打槍の「竜槍ケレンドロウズ」があり、改造で冥槍に名称変化する。マリストリクは衝槍最強の攻撃力で、火の術具でもある。レッドドラゴンが低確率で落とすほか、財宝発掘でも手に入る。ケレンドロウズは打槍2位の攻撃力で、風の術具でもある。シルバードラゴンが低確率で落とすほか、財宝発掘でも手に入る。 サガ2GOD・サガ3Solでは「竜槍ロンギヌス」がある。前者は新ボスの竜神がドロップしたり、魂の暗域での景品になっている。後者は竜が落とすことは無いが、ステスロスで材料を合成して入手できるため、ドロップの苦労は一切しない。 サガスカーレットグレイスでは「傷んだ竜槍」「ゲイボルグ」「竜槍ゲイボルグ」がある。ドラゴンルーラーから傷んだ竜槍を入手し、それを強化していくとゲイボルグ、そして竜槍ゲイボルグになっていく。原則的にはいずれも竜が落とし、入手難易度が非常に高く、槍の中ではほぼ最強という点で共通する。 そのため一種のブランドとして成立しており、レアアイテムハンター垂涎の的となっている。 しかし大抵は、これを入手するために掛ける時間でクリアができてしまう位の苦労をする事になるだろう。 本作のゲイボルグはこの中では確率が高く、落とす竜もいくらでも倒す事ができてリセットしなくてもいいので、そこまで時間を掛ける必要はない。難易度的には簡単な部類だが、それでも相応の苦労はする。 ルドン高原 「ルドン行き」=処刑と同義。謀殺の代名詞。 序盤から領土にする事ができ、入口付近で戦闘ができる事から、とにかく一戦でもしたい時には便利。 武具開発の戦闘数調整などにもよく使われる。 狩り場としてはだだっ広く敵密度が低いので、選択肢の少ない序盤以外はあまり使わないプレイヤーもいる。 漫画版でもこの地名が謀殺の名所として出てくるあたり、浸透度は高い。 レアアイテム 希少品の事。本作においては大抵、モンスターのドロップ品の事を指す。中でも特に低確率ドロップ品を指す事もある。 本作の敵は戦闘回数に応じて変化していくので、SFC版では低〜中ランクの敵にはいずれ会えなくなる。 そのため「後から入手」や「鍛えながら入手」がしづらく、アイテムコンプリートはリセット前提の苦行となる。 しかしレアアイテムには強い個性と微妙な実用性を兼ね備えた物が多く、その面白さに魅せられた人は進んで苦行に挑む。 アプリ版以降は、ザコ敵なら追憶の迷宮でランク関係なく戦えるし、強くてニューゲームもあるし、ドロップリングなる神アイテムも追加されたので異次元レベルで楽になったが、それでも集中的に狩りたいなら適正な戦闘回数で特定のシンボルを狙うのが効率的である。 ロマンシング ロマンシングな事。意味はよく分からないが何かあると使われる。良い意味でも悪い意味でも使われる。 良い意味では「閃きで逆転勝利した!なんてロマンシング」とか「効率プレイばかりではロマンシングが足りない」とか。 悪い意味では「4桁ダメージとか本当にロマンシングだわ」とか「いくらロマンシングだからってこれは無いだろ」とか。 前者は普通にロマンと言い換えても良いが、後者はサガ独自の仕様とか癖と言い換えられそうな事が多い。 もっとも、フィーリングで使われる言葉なので細かい意味はどうでもいい。ロマンシングを感じればそれがロマンシング。 わ行 ワグナス!! ウオン ウオン ウオン··· 「ワグナス!! 評議会は我らの術を異端術法と決定したぞ!」 「···ダンターグめ!あんな巨大怪物と同化してみせるなど!」 「···奴を責めることはできまい あの術法を試すように持ちかけたのは俺たちだ」 「わかっていただろうにのう ワグナス」 「ボクオーン」 「あの気の弱い連中が人間と怪物が同化する術など認められるものか」 「では 我々に何の手だてもないまま 彼らを守って戦い、死ねと言うのか!」 「そうじゃ それが評議会��言う『正しい人間』の一生だ」 「自らは剣もとらずに 我らに戦わせておいてか——」 「ノエルお兄様!北の都がタームに襲われているわ!!」 「よし!」(チャキ) 「行くのか?」 「···死ぬなよ」 「タームなど何万倒したか知れないよ」 ······という、漫画版ロマサガ2にあった1シーン(見開き左右1ページずつ)が、なぜか虹裏でコラされまくって定番ネタと化している。またの名を「七英雄コラ」。 大体AVがどうとかエロゲがどうとか梅酒作りとか懐かしアニメとかの妙にマニアックな無駄話しかしていない。 虹裏で定着した理由は改変のしやすさと起承転結による話の分かり易さや、この内容がアブノーマルな趣味や性癖ネタで時折異端扱いされる虹裏と方向性が似ているからだとか。 有名すぎて「このコラは知っているがロマサガは知らない」という層さえも存在するほどで、(このコラではクジンシーとスービエが姿を見せず話にも触れられていないことから)七英雄なのに5人しかいないなどという風評被害も起こっている。 英数字 MCバグ 「マップチェンジバグ」の通称。その名の通り、特定の地域間でマップ切り替えを繰り返すことで怪現象を引き起こす。 当時のスクウェアゲームではよくあるFFシリーズの階層バグや前作のレイディバグに原理が近い。 有名技としてはセキシュウサイを仲間にできたり、デバッグルームに侵入する技が有名。 複雑な手順を踏む事でレオン、ヴィクトール(見た目だけ一緒の石船皇帝ではなく本物)を歴史に載せる事ができたり、 普通プレイで領土に出来ないトーレンス、アウストラス、ナゼール海峡南の領土化なども可能。 調査は未だ不完全で可能性を秘めている。 石船皇帝共々有名であり、SFC版限定のバグ。バーチャルコンソール版を除く移植版では当然修正されている。 RTA Real Time Attackの略称。ロマサガ2に限らずゲーム全般で使われる用語。海外でも通じる、というより海外発。*14 ニューゲームからクリアまでにかかった「実時間」を計測し、短いタイムを出す事に挑戦する遊び、もしくは競技。 当然ながらタイトルによって必要時間や必要とされる知識・テクニックは違い、ゲームの数だけ攻略法がある。ロマサガ2においても一定の挑戦がなされており、ある程度の攻略法も確立されている。 ガチでタイムを狙う場合は乱数までコントロールする事が求められる。SFC版のRTAでは2018年代にサブフレームリセットという技術が様々なゲームで確立されてからは、 メモリ情報やセーブデータのチェックサムの整合性を取る必要性が求められるなど 解析面での知識が求められるという一般的に見れば狂人の域となった。 しかし、いくらか先駆者のルートが構築され動画サイトに上げられているので、じっくり見て練習すれば誰でも出来る領域。 まずは気軽に挑戦してみると良いだろう。要は慣れ。案ずるより産むが易しである。関連用語としてTA(IGT)、TASがある。 TAはTime Attackの略称。RTAと区別する場合は、大抵ゲーム内時間(In Game Time=IGT)を最短にする事を意味する。実時間ではなくゲーム内時間であることから、RTAとは違った戦略が求められる。 例えば「強敵の前でセーブし、突破できるまでリセット&ロードを繰り返す」という戦略は、実時間を測定するRTAでは挑んだ回数だけ時間がかかるが、ゲーム内時間とを測定するTAの場合は何回挑んでもロスは一切ない、など。 ロマサガ2の場合、1分以内にセーブすればタイムがカウントされない仕様があるので、ヌルいが大変である。 TASは当該項目を参照。 SFC スーパーファミコンの事。本作に限って言えば、オリジナル版の事。 ロマンシング サ・ガ2、定価9,900円。 TAS Tool-Assisted SpeedrunもしくはTool-Assisted Superplayの略称。ゲームのエミュレーターを用いて、「理論上可能な」最速プレイもしくはスーパープレイの記録を作る事を意味する。 フレーム(大体1/60秒か1/30秒)ごとに異なる入力をしたり、上下同時入力したり、完璧な乱数調整であらゆる事象を有利に操作したりと、人間には到底できない操作をしてはいるが、あくまでゲーム仕様内でできる事を極限まで磨いたプレイとして制作される(つまり改造などではない)。 ロマサガ2においても存在するが、色々と面倒な長編RPGゆえに盛んに作られているとは言えない。 ∇ 数学のベクトル解析で用いられる演算子で、ナブラと読む。 つまり高速ナブラの事。本作初登場の技だが、後のシリーズでも定番となっている。ロマサガ2においては、閃きやすい(序盤でも守護者道場で閃ける)・閃ける人が結構多い(剣豪タイプでも閃ける)・攻撃力は最強クラス・斧の開発が安くて早くて強い、という事でRTAなどで非常に重宝されている。 後のシリーズでも、アンサガでは「ナブってさえいればクリアできる」とまで言われる技。 サガでは斧が強い、と言われる由縁の一つであろう。 250年後 最大年数ジャンプ。4000年プレイではこれを12回も見る事になる。 「○○年後」という表示は何かとインパクトがあるので、時折ネタにされる。 コメント 最新の10件を表示しています。 コメントページを参照
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第28話 『ある術者の1日 (4) - “新しい夜明け”』 One day of a necromer chapter 4 - “New Dawn”
白々と太陽が夜の淵を染め、新しい朝がやってこようとする頃、屍体の兵士は美しい女性を抱きかかえて小屋に戻って来た。
「ダレン!」
待ち受けていたマルクが、ドアを開けてダレンを受け入れる。
魔法陣の向こう、椅子にもたれ目を伏せる自分が真っ先に目に入った。
意識のない自分の体を前にすると奇妙な心地になった。魂が繋がっているのが見えるが、そこで眠る自分とエミリアのには大きな隔たりがある。
���レンはこのあとすぐに目覚めるが、エミリアは一生目覚めない。
「すまないが、マルク。エミリアに何か掛ける物を持ってきてやってくれ。俺はこの屍体を埋めてくる」
「分かった……気をつけて」
マルクが奥に引っ込んだことを確認してから、ダレンはゆっくりとエミリアを横たえさせ、外に出た。
屍体を隠すことももう慣れた手順のはずだ。地中に身体を埋め、隠すことなど、心が揺れるはずもない。
だが、今日は妙に疲れた。骨の折れる作業に思え、永遠にこの穴を掘り続けるのではないかと、絶望的な感情が湧いた。
接続を解いてダレンが自らの体に戻る。
「ダレン……」
傍に座り込んでいたらしいマルクが力なく名前を呼んだ。
振り向いたマルクは憔悴しきった表情をしていた。
ほんの数時間前、『これで生き延びられる』と瞳を妖しいほどに輝かせていた同一人物とは思えない。
この一晩でめっきり老け込んでしまった。
恐らく、それはダレンも同じだ。
「――……夜が明けきったら、ヘルマンを弔いに行こう」
ダレンの提案に、マルクは一瞬怯えたように目を丸めたが、やがて頷いた。
死は見慣れたと思っていた。
墓を暴き、死を冒涜し、それに慣れたつもりだった。
それがどうだ?
友人の死を目の当たりに――しかも凄惨な死を――した途端、心が怯んだ。
もう感じないと思っていた痛みや苦しみが込み上げて、深い悔恨がもたげる。
――人の命を弄ぶことに、何も感じないのか!?
ヘルマンの叫びが今では身に染みる。
感じなかったのは、その屍体が『他人』だったからだ。それだけ死の記憶を見ても、その個人の記憶を見ても、それは書物を読むような芝居を見るような感覚に過ぎなかった。
けれど、どうだ。
実際に目の前でヘルマンの死を見ても、同じことを言えるのか。
項垂れていたマルクはゆっくりと顔を上げた。
「……エミリアの屍体も、使うか?」
「……マルク……」
名前を呼ばうことしか出来なかった。
考えることを頭が拒否している。
「使える屍体も残り少ない……このままじゃ朽ち果てるか、掘り返されて喰われるか」
マルクの口調も流石に力がない。
「誰か知らない奴らに、エミリアを使われるだけだと思う。それに……」
その先は畳んだ。
だが、ダレンだって分かる。
微かに首を振ることしか出来なかった。
「――一晩だけでいい。一晩、考えさせてくれ」
「分かった」
マルクが去った後も、ダレンは屍体に”なった”時の座った姿勢のまま、ただただ動けずにいた。
目を背けずに見れば、エミリアは既に生前通りではないことは分かる。
美しいエミリアが、徐々に永遠に時のない眠りに蝕まれていくのは仕方のないことだった。
輝くほどに白かった肌はくすみ、ハリを失っている。
抱き上げた身体も軽かった。それはBuriedbornesで、屍体の力を上げた影響だけではないはずだ。
やがて、ダレンはぎこちなく立ち上がった。
エミリアの伏せた睫毛を見下ろす。
この面影もいずれ消え失せてしまうのか、それとも、自分達の終わりが先か……。
マルクが言い淀んだ先の言葉を、ダレンだって理解している。
「エミリア……、このままでは俺達もみんな死んでしまう」
お願いだから、目を開けて微笑んではくれないだろうか。
「そっちはどうだい? いいところか? ヘルマンとは会えたかい?」
じっと見下ろしたまま語り続ける。自分自身の手でエミリアに触れることが恐ろしかった。
エミリアの死を本当に受け入れなければならなくなる。
彼女は永遠に変わらない、という思い込みを捨てなければならない。
それならば、
「……せめて、僕が死ぬ前に、君の想いを見せてくれ」
僕は、ずっと君を見ていた。君を愛していた。君を守りたかった。
ダレンは言えなかった熱烈な言葉を、その亡骸を前にしてさえ、やはり口に出来なかった。
ここまで来ても告げられない自分が愚かしく思えるが、エミリアに似合う言葉を探せないのだ。
自分達を救い、光をくれた彼女に陳腐な言葉は似合わない。
ダレンは振り向いた。Buriedbornesのためにマルクが描いたその魔法陣を。
魔法陣の前、先ほどまで埋もれるように座っていた椅子に戻る。
「エミリア……」
このまま死ぬならば、僕は、君のことを、君の想いを、見てから死にたい。
「欲しいものは、何でも買ってもらえるの。だって、私のおうちはお金があるから」
私が覚えているのは、お姉様が新しいお人形を買ってもらった時に、私にそう嘯いたことだった。
お姉様はその半年後、風邪をこじらせてあっけなく亡くなり、お人形は私の物になった。「お金があっても買えないものがあるのね」ってお姉様に話しかけた。棺の中のお姉様は綺麗な白いドレスを着せてもらっていたわ。
あのドレスを着たいと言って、お母さまを困らせたっけ。
そういう意味で、私はとても恵まれた環境に育ったのだと思う。
お父様は商人をしていて、お母様はいつも窓辺でレース編みをしていらしたわ。何人ものお女中がいて、私は乳母に育てられた。
ヘルマンと出会ったのは5歳のころだった。新しいドレスをこしらえてもらって、遊びに行ったお家の子がヘルマンだったの。
ヘルマンのおうちは将軍様の家系で、立派な騎士の末裔なんだって、お庭にある馬に乗った騎士様の銅像を見ながらヘルマンは教えてくれた。
私達は子供らしい無邪気さで、1日ですっかり仲良くなったの。
今なら分かるわ、私の家は家柄が、ヘルマンの家は経済力が必要だった。そこにお誂え向きの年の近い息子と娘。願ったりかなったり。
でも、そんな思惑なんて関係なかった。
私もヘルマンも、一目でお互いを気に入ったの。お父様とお母様のように暖炉のある暖かな部屋で子供に絵本を読む、年を取ったヘルマンと私が自然と思い浮かんだわ。
だから、帰り際にヘルマンが「おとなになったらお嫁さんにしてあげる」と言ってくれた菫のお花を、押し花にしてずっと大事にしているの。
乳母も家庭教師も厳しかったけれど、お父様とお母様は『愛しいエミリア』って一人娘の私を可愛がってくださった。
お母様は教会の活動にも熱心で、レース編みのベッドカバーや刺繍入りのハンカチーフを差し入れていたわ。
そういう時は厨房でたくさんのお菓子を作るから、こっそりいただいていたの。
「可哀相な人には優しくするのよ」
大きな帽子を被ったお母様は完璧な貴婦人で、私もそうなりたいとドキドキしたものよ。
そんな中だった。
あの可哀相な子に出会ったのは。
「エミリア、何を見てるんだ」
ヘルマンがそう私に尋ねた声は、少し怖かった。
だってまるで命令するみたいだったから。
「……あの子、いつもああね」
「ああ、ダレンか」
大きな木陰に座っている男の子の名前を、何度聞いても私は忘れてしまう。
「親が殺されたんだって。孤児院に来たばかりで、全然馴染もうとしない」
「まぁ、可哀相じゃない」
可哀相だわ。
今まで風景の一部に溶け込むようにいたあの子が、急に立体的になる。
「何か読んでるのね。私、行ってくるわ」
「おい、エミリア!」
声変りを終えたばかりのみょうちくりんな声でヘルマンが咎めるけれど、私はダレンに駆け寄った。
「ねえ、何を読んでるの?」
――あら、あなた、案外綺麗な目をしてるのね。
私はそう内心で想いながら、ダレンの手元を覗き込んだ。
ダレンと一緒に遊ぶのは図書館が多かった。
ダレンは本が大好きで、孤児院の人達にもたくさんの本を与えられていたの。
そこに年下のマルクが加わって、自然と4人で遊ぶようになったわ。
図書館はいいところ。人目を忍べて、静かで、年若い恋人達にはぴったりの逢引の場所だった。
ヘルマンは時折、いきなり私を後ろから抱き寄せて、驚かせた。くすくす笑いながら抱きしめ合うことが本当に幸せだったわ。
慎み深い関係を続けていたけれど、人目を忍んで抱きしめ合うくらいは許されてもいいと思ったの。たくさんの書架は森みたいで、とてもロマンチックだった。
それに、私達は熱中していることがほかにもあった。
『医療魔術』について。
ダレンが1人で読んでいた本だったけれど、気が付けば私たち全員が夢中になった。
ヘルマンとダレンなんかはいつも話し合って、「ああでもない、こうでもない」って頭を抱えていたわ。
私が黙って見ていると、マルクが猫みたいにいなくなるの。
「……マルク?」
本の森に入り込んだマルクに声をかける。
マルクはいくつかの本を取り出して、パラパラと中を改めているところだった。
「エミリア……」
「その本、どうしたの?」
「ヘルマン達が話し合ってることの本。もう答えがここに書いてある」
私は驚いて瞬きをした。
そういえば、マルクはお医者様の息子だったことを思い出す。
「知ってたの? 教えてあげたらよかったのに」
「あの2人が話し合ってもいい案なんて出っこない。僕が新しい本を持って行かないと何も進まないんだ」
マルクは涼しい顔をして本を選び終えた。
「ヘルマンは図体はデカいし、力もある。ダレンは大人びてる��ね。でも、2人ともそれだけだ」
「まぁ、マルク。そんなこと言っちゃだめよ」
私は驚いた。
いつもは2人について回っているくせに、内心では、そんな事を思っていたの?
「ふん。でも本当のことだ。僕がいないと、何も進まない、見ててごらんよ」
マルクの宣言の通りだった。
――確かに、2人だけじゃ、結論は出ないのだ。

私とヘルマンの関係はうまく進んではいかなかった。
私達は仲良くいたままだったけれど、家同士の折り合いが中々つかなかったようだ。
おかげで、私はお母様のウェディングドレスを受け継いだもののそれを眺める日々を過ごしていた。
けれど、そんな中ようやくその日は訪れた。
とてもよく晴れた日、ヘルマンの家に、一家で招かれたのだ。
母は私にとっておきのドレスを着るように言った。もう既にくるぶしの出る子供用のドレスは卒業していた私は、一生懸命ドレスを選び、侍女と浮かれながら髪を結わいた。
そっと、ドレスの胸元に子供のころもらった菫の押し花を忍ばせる。
ようやく。ようやくヘルマンと結ばれる。
夢見た幸せな生活が待っているのだと思うと、自然と微笑みが漏れた。
なのに。
「……ヘル……、マン……?」
何が起きてるの?
ねえ、ヘルマン、あなた、どうして私をそんな目で見ているの?
庭園でのお茶会。その時外から悲鳴が聞こえ、逃げるようにと従僕達が駆けつけた。
必死で逃げたの、お父様もお母様も見失って、それでもヘルマンの手を握って必死で走ったわ。
街は、見たことのないほど荒れていた。
そこかしこを歩くおぞましい屍者達の群れ、襲われた人達のなれの果て。
一体何が起きたというの?
この世の終わりが、来てしまったの?
必死で逃げたけど、限界が来て、私は転んでしまった。
あれだけしっかりと繋いでいた手が、呆気なく解ける。
「エミリア!」
あなたはそう叫んでくれたわね。
でも、すぐに立ち竦んだ。
はじめ、熱いって思ったわ。全身を貫くような熱さのあとに、壮絶な痛みが走った。
見たら、お腹から剣の先が飛び出している。
悲鳴を上げようとした口からは、かわりにたくさんの血を吐いた。
「何やってんだ!」
知らない男の人の声がして、するりと剣が背中へ抜けていった。
中年の男性が、スコップを振り回して屍者を追い払った。
胸にぽっかりと空いた穴から、湧き水みたいに血がどくどくと外へ流れていく。
「ヘルマン……助けて……」
足が動かない。必死で手を伸ばすが、動こうとするほど、もっと血がいっぱい出て、体が動かなくなっていく。
背後で、助けてくれた男性の悲鳴がした。
ヘルマンの足に私が縋りつこうとしたその時、ヘルマンは駆け出した。
駆け出し、た?
私を蹴るように振り払い、何も言うことなく、逃げ出した。
嘘。
嘘よ……ヘルマン、嘘でしょう?
私を、愛していたのではないの? ねえ、ヘルマン。痛いの、体が動かないわ。今なら許してあげる。怖かったのよね、あなたも。
だって、訳も分からない化け物が襲ってきて、驚いたのよね?
私は必死で這った。
あの木、ダレンが座って本を読んでいた木の根元、大きな根にもたれるように体を預ける。
もう動けない。寒い。
ああ、どうして誰もいないの。ヘルマン、ダレン、マルク、私はここに来たのよ。
友情のはじまりはここじゃない? だからここにきたの。
助けてもらえると思って。
ねえ、どうしていないの。
あんたちは、逃げたっていうの?
私を置いて?
ねえ?
生きてる? この街の中のどこかにいるの? 私を守りに来ないで、あんた達は逃げてるの?
ねえ。
なんで私なの。
なんで私が死ななきゃいけないの。正しく生きてきたのに。
なんで……あいつらじゃ、ないの。
優しくして、やったのに……――
マルクが浅い眠りから覚めたのは、物音のせいだった。
「……ダレン?」
すさまじくだるい。
だるい原因を思い返そうとすると吐き気がするので、慌てて頭を振って押しやった。
ただ、人影が小さい。
「……誰……?」
ふらり、と影が動き、緩慢に長い髪が揺れた。
「ダレン… …まさか、エミリ――」
マルクは最後まで口にすることが出来なかった。
影は抱き着くようにマルクの飛び込んできた。
そして、影が体を起こす――エミリアは無感動な目でじっとマルクを見つめていた。
その手には解剖用の短刀が握られ、深々とマルクの腹部に突き立てられている。
エミリアはずるりと、床に座り込んだ。
一瞬の間ののちに、糸の切れた操り人形のように、その場に倒れ込み、動かなくなった。
ダレンが研究室から、マルクの自室に移動した時、ベッドの上でマルクは痙攣していた。
それに目をやることなく、エミリアを見下ろした。
エミリアの目を通してみた過去は、ダレンの知るどの記憶とも形が違うものだった。
美しいはずのエミリアの最期は、ダレンの思っていた形とは違う残酷さを持ち、エミリアのダレンへ向けた優しさはただの自己満足だった。
「俺は何のために戦ってきたんだ」
エミリアは何と思うか、生き残ったからには恥じないように生きなければとずっと己に問うてきた。
Buriedbornesの術も、魔の契約も、『パーツ』の改造も、3人揃って生き延びるためだった。
「くふっ…… ふふ……」
ベッドに上体を横たえたマルクの体を片足で軽く小突くと、床にゴロリと転がり落ち、動かなくなる。
「何のためにィッ!」
マルクの脇腹を強く蹴り上げたが、ビクリともしない。
マルクも、ヘルマンも、エミリアさえも、僕の事を、軽蔑していたんだ、心の底で。
それが現実。
全ては幻だったのか?。
守るべき美しい記憶は、どこにもなかったのか?
守るだけの価値が、あったのか?
答えは、知ってしまった。
知らなければよかった。
でも、もう戻れない。
「ふ、ふふ、ははは」
再び乾いた笑いが、ダレンの口から零れ落ちた。
生き残ったのは自分ひとり。
この世にどれほどの価値があるだろうか?
夢も愛も信頼も、全て幻想だった。
どれもこれも、自分の都合に合わせて使うだけの詭弁だ。
人間も、地底の軍勢と何も変わらない。
誰も彼も、自分の事しか考えていやしない。
ならば、俺も、俺のために生きてやる。ここにある屍体を使って、全てを破壊し尽くしてやる。
それが生者であろうが、屍者であろうが。
もう弄ばれる側にはならないと決めたではないか。
今度は、自分が弄ぶ側なのだ。
「……なんだ、よく見たら大して美しくもないな…」
目を伏せたエミリアの目蓋はくぼみはじめ、色あせた肌は土色だ。
ダレンはエミリアを小脇に抱えるようにして、研究室に向かった。
幸い、マルクの行った処置のお陰で、死んでからかなりの時間が経ったにしては『新鮮な』屍体だ。
「俺は、生きる……」
手術台に横たえたエミリアの前に、鋸を手にして佇む。
その姿は、まるで亡霊のようだった。
空が白む。
また、ある術者の1日が、始まる。
奪い、殺し、壊すための、1日が。
~おわり~
原作: ohNussy
著作: 森きいこ
※今回のショー���ストーリーはohNussyが作成したプロットを元に代筆していただく形を取っております。ご了承ください。
「ショートストーリー」は、Buriedbornesの本編で語られる事のない物語を補完するためのゲーム外コンテンツです。「ショートストーリー」で、よりBuriedbornesの世界を楽しんでいただけましたら幸いです。
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--深海人形-- カインドネス・イン・ザ・ダーク
※…『Kindness in The Dark』、某今にもシリーズが続く、名作レトロアクションゲーム曲名のパロディです(ヒント→アイレムの血筋)。
※Twitterの自アカウントより引用(※…書き下ろしあり。一部修正、大幅加筆、若しくは、改変)。
[[MORE]]
…なるべく、人生を甘いものだと見る努力は、いずれ貴方を裏切る(※莫迦だから分かんないのか)。
…拙作ウェイン兄弟の性格は、マルス王子やらの、『FEシリーズのロード達(特に昔の)』を参考にして居るのは、割と有名な話(←※何処が?)。
…ウェイン兄弟と皆大好きブルーノちゃんは、どんなに似て居るように見えても、実際は『似て非なる(性格)』だからな?(←此処重要)
…遊戯王SEVENS?…見たくも無い。…あんなのは、どうせ、ZEXAL以降と同じシリーズの面汚しだろう?(※早く皆これから疫病やら戦争やらで死んでしまえ)
…ワイは、ただでさえ、触れた、関わった、知ってるジャンル多いからね?(※実は自分でも把握し切れて居ないw ※メインジャンルがほぼユギオ、ポケだけなんて本当に哀れだと思う ※我が生涯りあり、知や涯り無し感覚で世界も次元も広いし限り無く沢山あるのに ※ロクな友達居ないコミュ症みたい ※酷い言い様)。
…某氏は、結局、ユギオに固執するしかしない哀れな女(ひと)だよ(※…偶に気休め気分でなのかは知らないけれどポケクラしてますが …他にも、道は数え切れ無い程あるのにね!(※花札屋関連で配管工とかFEとかカービィとかスマブラ系とか ※…そして、洋ゲーとか格ゲーとか東方とかシューティングとか提督業とか)。
…まぁ、『ガレ・バトラ等シューティング中心で他ジャンル多種多様で大量(※聞こえの良いやうに言えば層が厚い)』なワイが、一番鬼殺隊並に異常(※特異な構成)だってのは分かるけどな(※…真似出来るなら、積極的にすれば良い ※ちゃんと体系化するんだぞ ※アドバイス)。
主宮慈愛さんは艦これ引退するなよ、艦これ界がつまらなくなるじゃないか
#艦これ引退チャレンジ #shindanmaker
https://shindanmaker.com/694241
ありがとう
…私が愛しているのは、神の霊だ。嫁推しも、それ以外も、全て、冥土に逝く迄暇潰しする為の玩具か、目的を達成する道具にしか過ぎ無い。いずれは、全てが主なる霊、神の前に平伏す。
…不出来は不出来なりに生きて死んだよ、褒めて(※…その時、敵の攻撃で斬首された生首が転がる)。
…親は、私じゃなくて、私の周りに集まる金を愛してるから。…結局、居ない方が良いのよ。そんな不出来な娘なんて。親に愛され無い子供なんて要らないよ。金さえあれば良いんだから。人間にとって、自分以外の命なんて金より軽いんだ。…嫌と言う程、リアルで思い知らされた。いつか必ず他人は裏切る。
…莫迦だねぇ、他人を信じる奴は莫迦だよ。神を信じた方が、遥かに、マシだよ。…それが分からないから、莫迦なんだよ。…嗚呼、莫迦に言っても無駄か。莫迦は、頭脳的にも、家畜レベルだね(※インフィニティ一郎並)。
…時代的に、現代以降の文明水準を持つ世界に生まれ、生きて居た天人天女は、戦後の駆逐艦(※フリゲート含む)と潜水艦(※勤務将校)の様な立場。昔なんかよりずっと待遇が良いだけ(※昔は露骨に消耗品扱いだったから ※天人天女パロ)。
…戦争は、未来ある若い奴程軽く使い捨てのように扱われ、そして、死んで行く。全く自然の摂理に反して居る(※同じ事を描いた台詞は銀英でもあった)。
…不審者とか其の妹とか蟹とかタイツマンとか、どんなに決闘者(※デュエリスト)でも、決闘(※デュエル)じゃなくて、囲碁将棋チェストランプの相手をさせられる(※時代の新しい物を初見の時点で見下す、古い時代を生きた天が圧倒的に多いから仕方が無い)。
…鬼殺隊は、矢張り、軍隊と同じで、若い奴から大量に死ぬ所なんだよなぁ……(※日本軍では無く米軍を参考にしろ)。
…御偉いさん程、戦争の前線に出ない。其の割に平気で、将来性有望な無垢な若者を、バンバン戦場に送り出す。…だけど、「首相からまず先に戦場に出ろ(※迫真)」…と言うのは品が無さ過ぎる(※まず政治家・富豪と言うのは、大概恵まれに恵まれた頭でっかち&非戦闘員だしな ※逆に邪魔だ)。
…呪術高専でも同じかな?若い奴から死ぬの(※…五条先生の言うように、平時で此の様とは腐ってやがる)。
…イスラエルの軍事は、何処か、戦前日本的な所がある(※日猶同祖論抜きで)。
…鬼滅本編で鳴女とは同種な感じで、『男の単眼鬼』居ても……良いじゃん……(※多眼女鬼も同じく)。
…対空性能が良いのは雷、風、蟲、音の呼吸による攻撃である。其の次に良いのが、蛇と恋の呼吸であり、花と水は、更に其の次。火と岩は向かない(※…まぁ、本編では関係無いか…)。
…ドイツもオランダも、ユダヤ人がカトリック社会で住めなくなったから、大挙して其処に逃げて来たんだよね(※…一説には、両者の果てしないケチの起源とも)。
…オメガバは、御前等の、大概は恵まれた立場の攻めは一応其処ら辺に置いといて、受けの推しを、其処でホロコーストを行う為のゲットーと強制収容所に叩き込み、其処でただただ地獄を見せるパロディである。…しかも『センポ・スギワラ』なんて出て来れない世界(…Ωの立場はユダヤ人の立場に似ている)。
…ゲットーとか強制収容所じゃなくて、…せめて、イスラエルに入れ��やれよ(パレスチナポジ側は幾ら殺しても可 …オメガバを書くような人々にとっては、イスラエルも地獄だろうけど)。
…同じ事させても、同じ出来事に会っても、対応と行動と台詞が、嫁推しで、それぞれ違うから��白いのになぁ……(※此処を分かって無い腐は意外と多い)。
…国民性ジョーク的なネタが(…とそれめいたコピペネタすら)、腐達の間で全然見られない理由がそれだ(…彼奴等は、自分達で言うのに反して、嫁推しのガワだけしか、大事にしてない)。
…ケチは処世術であり、金銭社会における大いなる強みである(ケチ並言い分)。
…何で、無惨様は、火攻めに適して無い上弦を里襲撃に行かせたんや……(※…むしろ、水攻めに適した水攻め要員ならば、そっちを遂行させれば良かったのに…… …何方にしろ、楽して里を一瞬で壊滅さす気が無いんやろうな…)。
日本軍「…米西海岸に細菌兵器をバラ撒こうでは無いか。(※PX作戦)」陸軍将校「…非人道的過ぎる(…後、パナマ運河爆破もそうだが、賠償金が…)」頭無惨様「…刀鍛冶の里を焼き討ちしようではないか(※まともな提案)」儂他大勢「…それは、非人道的過ぎます(←君等鬼では無いのか?)」
…鬼滅にしろ、呪術にしろ、基本、火攻め、放火って発想が無くて震える(※…他の同誌で連載されたされてるバトル漫画では、少なくとも、多少はあるのに)。
…セキュ霊は、『救光音響手榴弾(スタング霊ネード)』、『御線香発煙手榴弾(スモークグ霊ネード)』とかが、『セキュ霊ティ武装(何れも非殺傷系)』として『実戦(?)』で使われて居ると信じたい(某八九式めいたグ霊ネード・ランチャーも欲しい所)。
…文ストは、意外にもミリタリー方面に強いから、色々参考にしてる(※…銃器何処か空母やらガレボスもどきすら作中に出て来た事あるくらい)。
…『クロスオーバーと言う名の連携』を構築するには、言う迄も無く、作者とメインとなる登場人物には、『交渉力と統率力と理解力(…後は、情が無い冷徹さ)』が必要なのだが、多くの同人作家には、それが全くと言って良い程無い(…そう言う方面でも、プロは矢張り凄い)。
…此処に、人間性の底が浅い人間が居るとする。そして、其の人間を観察して居る聡い者が居るとする。後者は、前者の底を、全てを見通して居る。
…同じ様に、ただ単に、頭が季節関係無く春で、幼稚な人は分かりやすい。こう言う人間は、『知性的世間知らず(経験はあっても、頭脳が愚鈍だから感覚的にもそれ)』なのも相まって、身内の裏切りと騙し討ちに引っ掛かり易い(押し入り強盗か身内に殺されるタイプの人間)。
…配管工勢とポケ勢とスマブラ勢(…と言うか、ほぼ層が格ゲーマーと同じ)の大半は、同じ花札屋繋がりでも、ピンク玉勢、ゼル勢、FE勢より底の浅い人間が多い(偏見)。
…『底が浅い人間(大抵頭幼稚)』と言うのは、良い教材である。…取るに足らない人間の限界とは?…人間の器が小さいとはどう言う事か?…を、『何処迄も情け無い、こうなっては行けない反面教師』として、他者に教えてくれるのだから(三国志で言うなら袁術)。
…セキュ霊ティ武装(※対霊武装 ※非受肉系呪霊にも特効)。
…ウェイン兄弟を好いてくれる奴なんて、他の嫁推しでも滅多に居ないゾ(※…基本的に好かれるより嫌われる確率が高い兄弟)。
…嫁推しの数だけ不幸が増えたぜ(※…地獄で会おうぜ並)。
…嫁推しを増やした分、現実の国家間みたいに、嫁推し間で宗教戦争めいた派閥争いと利権争いが苛烈化して、互いに互いで殺し合いをはじめるようになった様を、キテー先輩が見たら悲しむだろうな(※これが世界の現実だ ※軍事力と金だけが平和をもたらす)。
…豊かな者が貧しい者を搾取する。当たり前だ(※…しかも、豊かな者は貧しい者を好きに殺す事が出来る ※これも当たり前だ)。
…目の前に、『金と権力の成る木』があったら、何が何でも手に入れたいし、『ころしてでもうばいとる』でしょ?(歴史)。
…私はモノを持たない(親により自分達以上にモノを持てない持たせない場合に寄っては親の都合により徴用される)暮らしをして居る。何時死んでも良い様に(足りぬ足りぬは工夫が足りぬ)。
…(※拙作でも原作でも)嫁推しは、派手に死んだ方が見栄えが良いのですが、娯楽作品なら兎も角、歴史上の偉人は、劇的な最期を迎える人は少なく、大半は呆気無く、静かに死んでおります。拙作は後者の方を採用して居ります。…何よりも、地に足がついて居る方が好ましいので(※拙作の形)。
…かつて、バトルガレッガの小説を必死に描いていた。そして、そんな拙作の、見るに耐えない駄文のかたまり共を『ウェイン兄弟モノ』と呼び慣わしていた。 …それくらい、『ウェイン兄弟』と言う存在を全面的一大プッシュしていた(今は其れ程して無い)。
…遊戯王は印象深いきょうだいキャラが多いから、彼等の生き様、活躍振りを見る度に、此の、ウェイン兄弟の事を思い出さずには居られない(※完全に病気である…)。
…ちゃんと勉強してたら、浅はか過ぎるハッシュタグ企画に乗っかったりしないよなぁ……(学習大事)。
…ごめん、北斗の拳も男塾もワイ凄く嫌いになってん(※…両者とも、ファンに基地外と癲狂者が多過ぎやから、嫌なイメージがついてしもうてん……)。
…北斗男塾でミリタリー要素、Rの機体直結ネタ入れたら非難来るの分からん(※描く気失せたわ)。…おどれの子宮が腐って爛れた(※Xマルチプライラスボスステージ並)ような腐万さん多過ぎ(※流石にワイ呆れたわ)。大人しくパチやってたらええんやないの?(※スロの方でも可)。
…五式戦闘機 『朱鷺(とき ※ワイオリジナルの名称 ※実は北斗関係無い)』って自分で気に入ってんのにな(←※自惚れも良い加減にしろ)?
…リバイブのβテストに、ワイは、『五式戦闘機 朱鷺』の名で、一テスターとして、奉公しておりました(※例の抽選には当たって居た)。…もし御会いした事がある方は、「…あの阿保うだったのか!(※納得)」…とでも御思いください(※リバイブ総評:艦アケの方がよっぽど出来が良かったです)。
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眠りの歌
書庫の奥にある私室の小さな窓から冬の柔らかな光が注ぎ込み、猫達は静かに伸びをする。特に異変もなくつつがなく一日は過ぎ昼を超え、あいもかわらず私こと「黒斑指」サラムの地上での憑代たる天才イーリーンは不機嫌なまま。今回の不機嫌の種は色々あるが片方はいつもの通り自分が来ると水を打ったように静かになる同年代の神官達のこととその怒りに対して「まあまあかわいい神官達は緊張してしまったのね」的ななだめ方をしてくる内なる女神の鷹揚な態度であった。怒りをぶつけるかのように書庫の整頓をして数時間、流石に体の節々が痛くなって休憩に入れば、耳の奥から思わずうっとりして眠気を誘うような歌声が鳴り響く。
これが私の現在の不機嫌の種のもう片方であった。朝起きて食事をとって、それから何時の間にやら耳に憑りついていた得体のしれぬ歌声。例えば喉に引っかかった魚の小骨、例えば歯と歯の間に挟まった太い肉の筋。着込んだ衣装の下で止まらない痒み、そういった物であり、原因は全く分から対処法はといわれると全く思いつかない、といった辺りがさらにむず痒い。
「黒斑指」の神殿では様々な書物を扱う。書き記して残すことに関してはこの「都市」で右に出る神殿はいない。そりゃあそうだ。私の所のありがたい女神様は記録やこれから書かれる書物に対しての絶大なる影響力を持つのだから。ともあれ、そんな女神の神殿であるがために、ここには様々な種類の書物が奉納される。各地の貴重な書物を集めた妹神の「螺旋の書庫を預かる者」サラーシュの大図書館とは違い、こちらに収められているのは「これから自分たちが書く本が長く伝えられますように神様この本を奉納しますのでなにとぞよろしくお願いします」的な思考の産物であり、悪い言い方をすれば神に対するわいろの山なのである。なので集まっている本の種類も雑然としていて取り留めもない。あちらに楽譜があると思えば、こちらには春画、その隣には哲学書。とはいえ何か役に立つかもしれぬ、どこかにこのえもいえぬ耳鳴りの対処法が書かれていないかと調べたがそんな都合の良いことはあるはずがなく、私は書庫にある長椅子の上で不機嫌に体を横にしているのだった。
歌声は止まらない。
歌声の内容は分からない。全ての言語を理解する「黒斑指」の祈祷を使っても、そして神々の文字を読みとき身に着けた私の天才を持ってしても理解できない歌声だった。もしくは意味等元からないのかもしれない。歌声はどこからともなく眠気を誘い、このまま鼠避けのために飼われている猫達に囲まれて丸くなってしまいたい、そんな気持ちを誘ってくる。それでいて不快だ。私は側にあったペンで手の甲を刺す。私に対して羨望なり嫉妬なりをないまぜにしながら半神とみなしている奴らの前でそんな姿は見せてたまるか。聖女面しているのは嫌であったしあわよくばこの役職が終わればいいなとも思っていたが、ちゃんとしていないことで何かを言われるのはまた嫌だった。それでいて各神殿の神官長達、特に手のかかる姪をあやすような伯父めいた大書記のニクヴァ師には被った猫を投げ捨てるような態度ばかり取っているのだから我がことながら度し難いと思う。
「イーリーン様……書庫頭様?」
名前も覚えていない神官の一人が心配そうにこちらを覗いてくる。聖句の縫い込まれた長衣はそこそこの地位があることを示しているが、書庫に出入りする神官の中では並みといった程度。都市の民におなじみの波打つ黒髪を結い上げており、平凡な顔立ちでありこれを覚えるのは難しいな、といった所。そんな没個性な神官の一名に心配そうな顔をされる理由は恐らく眠気が漏れ出しているのが見られたのだろう。腹の底は不機嫌になる。聖女ぶるのはまっぴらごめんだが、私のいない場所での神官達のざわざわとした会話の中で「イーリーン様は「黒斑指」の寵篤いからと言ってお高く止まってらっしゃる」だの「所詮女神の後ろ盾がなければただの娘っ子」だのそういったことを回りくどく言われるかもしれないかと思うと業腹な���で、いかにも心広く頭脳明晰この世の憂いなど全く知らないような微笑みを浮かべて、
「いえ、別に。そちらこそ休んだらどう? こっちはこっちで上手くやるから」
などと心にもないことを言って見せるのである。本心としてはこっちに気を取られていないでせっせと働け奉仕の心で動け、どうせ私をさぼる口実に使う所なのだろうという所なのだが。
「ならよいのですが、イーリーン様。どうかお休みになってくださいませ。見れば午後の猫よりも眠そうな様子。先ほどもうつらうつらと舟をこいでらっしゃいました。私の方から他の方には告げておきますので……夕の祈祷までどうかお休みを」
この神官、そんなに位が高かったのか。正直あまり神官達の顔を覚えていない私は迂闊なことをしたなと思いながらなおも笑みを作り、返す。何せ神々の文字を覚えてしまうまでは沢山いる普通の神官の一人であり、ある程度の年が経ったら俗世に戻り、本屋か何かを開こうか、ついでに良い相手を見つけて恋に落ちようかとでも思っていたくらいなのだった。書庫に出入りする程位の高い神官達の顔など知るわけない。いらいらする私の心を馬鹿にするかのように歌声は柔らかく耳の奥で踊り、私を眠気に誘っていく。このままこの神官の前で起きたままでいるのは難しい。今にもあくびが出そうなのを堪え、彼女を下がらせることにした。
「気持ちのみ受け取っておくわ。だけど人が眠いかどうか頭を動かすより大事なことがあるでしょう。勤めに戻りなさい。ええと」
「イーリーン様のお口を汚すほどの必要性のある者ではありません」
私は内心でうへっとなる。名前を聞いたんであってお前のへりくだりを聞きにきたんじゃない。
心に呼応するかのように歌声は強まり、眠気は酷くなっていく。
「じゃあいいわ、名無しの神官さん。仕事を言いつけるから。今すぐ熱いお茶を、なんでもいいから、入れてき」
入れてきて、と言ったはずだった。だが最後の言葉の代わりに自分の体がぐらりと揺れた。自由が効かない。目の前の神官は少しこちらを見ていたが早足でどこかに去って行った。誰かを呼びに行ったのか。面倒から逃げ出そうとしたのか?
歌声に絡めとられるようにして崩れ落ちる。
意識が遠のく。
そして私は眠りに落ちる。
歌声は止まらない。
*
俺のねぐらはまじない師集まるまじない路地にあり、店名は銀の黒猫亭。矛盾している名前は最初に使役していた黒猫の魂を銀の像に封じ込めたから。店主である俺は自他ともに認める出不精で、この寒い冬の間は二度と外に出るものかと決めていた。ある事件でこっそりと神殿に呼び出され、冬のよくすべる下水道を歩かされ、その上で神々の戦いを見た後としてはもう一生分の冬を過ごしたという気持ちだ。顔が覚えられる範囲ではあるがそれでも沢山いる猫達にミルクをやり、猫の王との間に子供をこさえたばかりの黒長毛とその子供らに精の付きそうな塩気の薄いチーズを一欠けずつ渡す。他の猫達が羨ましそうに鳴くのをこちらの声で黙らせ、さて気分もいいから店を開けようかと俺は立ち上がる。
その瞬間、一匹の猫が警戒するように毛を逆立てる。伝染した様に他の猫達もふしゅうふしゅうと剣呑な音を立てる。何事かと思って辺りの気配を探れば、扉の方から音がした。
「シモドール、だったか」
「シモドールは他にいないがね。あんた誰だ。店はまだ開けてないぞ」
扉を開ければ恰幅のいい人影が一つ。飾り気のない質素なフードつきの外套を着込んでいた。外套の下に見える衣服も質素でとらえどころがなく、この客かどうかも分からない相手にどう対処していいか分からず、俺はいつでも猫達を襲わせることができるよう意識を集中させる。
相手は俺の気配を察したのか、説明も面倒だという風にフードを降ろした。
「あんたは……ああ、書物の女神さんとこの。何でわざわざお忍びで」
男は「鼠神」スリヴに関するごたごたの時に会った神官長達の内の一人であり、イーリーン……天才を自称していた女神の憑代、猫の子を一匹貰ってくれた娘と共にいた男であった。名前はニクヴァであったか。この前見た時には穏やかな物を感じさせていたふくよかな顔は焦燥を堪えているのか苦い物となっていた。
「あんたほどのお偉方がこの路地まで出てくるとは、どんな風の吹き回しだか……また鼠でも出ましたかね。それともイーリーンの子猫がいたずらをし過ぎるから返しに来たとかですかね……まさか俺を捕まえようとかそんな訳じゃないだろうな」
警戒のポーズのままでいる猫達に喉を鳴らして落ち着けと命じつつ、俺は���クヴァの目の奥を覗く。読みとれたのはただひたすらの焦り。それだけ。
「イーリーンが目覚めない」
しばらくの沈黙ののち、意を決したかのようにニクヴァはひっそりと口にする。
「あのお嬢さんが? そりゃあ大ごとだ。病か? 疲労か? いや」
神官長たるニクヴァ殿がわざわざ俺のねぐらまで来るとしたら理由は一つしかない。まじないが入用なのだ。俺はこの界隈に住む奴らの御多分に漏れずまじない師だ。自慢ではないが猫遣いのシモドールといえば「陽の落ちる西方」の夜影の中で色々と剣呑な術を使って隠された品を盗み出し、人を呪い殺しその他様々なことをやってきた男で名が通っている。危ない橋を渡りすぎて「西方」に居られなくなり、顔知る者無く悪名だけがかすかに届いている「あまたの神住まう都市」でほとぼりが冷めるまで過ごそうとしてうっかり居心地がよく住み着いてしまい今は酒場の主人などやっている、という話はさておいて。俺は半引退の身であっても腕と直感を鈍らせたつもりはないし、「西方」でここにいる連中を束ねたよりもさらに剣呑なまじない師どもや杖持つ本物の魔術師達(この地には訳あって神から力を盗み取り神秘を行う魔術師という生き物はいない)と何度も術を比べあって生き残ってきた自負もある。そんな俺にわざわざ声がかかると言えば、それはまじないが入用だという以外にない。
「まあ、入れやニクヴァ殿。あんたまで風邪を引いたらことだ。こんな時に酒は無理だな。温かいミルクで茶を入れるから、それでも飲んで気を休めてくれ」
ニクヴァはかたじけない、と小声で言い、自分の姿が見られていないだろうなと心配するように転がるように店へと入って行った。彼が長椅子に腰かければそこで横になっていた猫が逃げていったが、やがて戻ってきてニクヴァの柔らかそうな膝の上も良いかもしれないと飛び乗り丸くなった。
「で、だ。呪われたんだろう、イーリーンの嬢ちゃんは」
「説明する手間が省けたがどうしてわかった」
「まさかまじない師の所にパンの焼き方を聞きに来るわけはないだろうからさ」
イーリーンと関わったのは一度だけだが、細っこい体に重いものを背負い、ついでにそれに対して不満を心の中に抱いている奴だった。立場からして敵も多いだろう。俺は神様同士の戦いはあまり知らないが、人同士の戦いはよく知っている。表だって蹴落とすことのできない相手を呪うというのは昔の時代からある常套手段であるし、俺もそういう奴らのお蔭で飯にありついてこれたのだった。
「だが、神殿の方で解呪できそうなもんだろう」
「いや……そちらの対策をしっかりしていたようだ」
ニクヴァは膝に猫を乗せたまま神妙な面持ちで茶を飲み、説明を始めた。その様子を見て他の猫もこの男は温かそうだと思ったのか、そろそろと近づいてきた。しばらく後にニクヴァの周辺は猫だまりになっていた。
俺は話をゆっくり聞くために椅子を持ってきてそこに座った。
ニクヴァの話ではこうだ。イーリーンが倒れているのを発見したのは、用があって彼女の元に向かった若い神官であった。部屋ではイーリーンが倒れており、安らかとは言い難い寝息を立てていた。彼女を起こそうとしたが押しても引いても目覚める様子はなく、これは大事だとニクヴァの所に神官は慌てて駆けて来たという。最初は病かと思ったがニクヴァと癒し手達の見立てでは全くもって思い当たる節は無く、文字通りの神頼みで占いを行ったならば、
「筆先からは見えない手で捕らえられた女の物語とお前の名前が出て来たということだ、シモドール」
「……やったのは俺じゃないぞ!」
思わず立ち上がる。
「大丈夫だ、お前がやったわけではないと出てはいたから。そうじゃなければ今頃店の回りを神殿剣士達が囲んでいた」
冗談を言っている暇があるかという風に焦燥の混じった笑みをこちらに向けられた。
「若い神官も疑われたが、占いの結果すぐに彼ではないことが分かって解放された。イーリーンが倒れたことが公になると大事だ。しばらくは風邪で思うように体が動かないということにして人払いをしたが……」
「さて、そこで俺が必要というわけだな、ニクヴァ殿」
「そうだ、シモドール。占いにいわせてみればまじないの糸を無理やり祈りで切り落としては、何が起こるか分からないということ……」
ニクヴァは猫の形に彫刻をほどこした大きな水晶を取り出した。細工は精密で、今にも飛びかかってきそうな具合。相手は俺の趣味をよく知っている。何せ俺は猫には目がないのだ。
「まず、これを前金として我らの依頼を受けてはもらえんか。イーリーンを目覚めさせてほしい」
おれは一回限りだと思ったあの不機嫌な娘さんと妙な縁が出来てしまったなと思いながら目の前の水晶の価値を計っていた。
*
ニクヴァに連れられてきたは神殿の奥、彼女の私室で眠るはイーリーン。月のように白い肌に、長く真っ直ぐな黒髪。若さが溢れ、前見た時は不機嫌で一杯だった顔は今は苦悶の色に歪んでいた。頬は異様に青白く、呼吸は浅い。
「ずっとこのままで……我々にできることは弱った肉体に悪しき物が近づかぬよう魔祓いの祈りを続けて唱えることのみで」
「いや、それでいい。下手に手を出さないでいてくれて助かった」
癒し手の代表である中年の男が俺に対して一礼をする。集まっていた者達はニクヴァの信篤い者達らしく話が先に通っていたようで、珍しいものを見るようなそぶりこそあれこの不審者を追い出せ的な気配はなかった。有難いことだ。
寝台の上のイーリーンへと近づく。彼女の衣を緩め、力の流れを指で測る。額。腕。手首。心臓。柔らかな乳房が手に当たり、何故か済まない気持ちになる。どこかに何かが囚われているような気配がして、これはことだぞ、と舌打ちをする。ふと、彼女の息が何事かを告げているかのような奇妙な拍子を帯びていることに気付く。それは音階にしては奇妙な、それでいて寝息にしては一定の調子を帯びた物。
おれはぎょっとなる。「西方」で見たことのある術の一つであった。一般的で、それでいて危険なもの。暗殺にぴったりのまじない。
「ニクヴァ。イーリーンが今日食べたり飲んだりしたものを洗ってくれ!」
「何が……」
「このお姫さん、毒を盛られている! とても強烈な奴、あんたらに言ってもわからないだろうが「歌いの網毒」だ」
毒の内容に驚いたのか、それとも毒を盛られたことに驚いたのか場がざわつく。俺も焦った。「網毒」は飲んだ者を眠りに引きずり込む強力な毒であり、それだけでも命取りだが、ある種のまじないと併用すると生きたまま命をからめとっていく危険な術へと変わる。頭に回れば終わらない歌に憑りつかれ、例え目を覚ましたとしてもやがては声に蝕まれて廃人になっていく。そうでなくても目覚める体力を失ってそのまま衰弱して死ぬという極めて趣味の宜しい術だ。特徴的なのは被害者が皆同じ歌を口ずさみながら死んでいくということで、これは最初に術を編み出したまじない師のサインのようなものだった。まじない師は妙な所で自己顕示欲が高い。今回はお蔭で助かったわけだが。
「イーリーンが倒れてまだ一日は経っていないよな。ならばまだ助かる目はある。皿を七つ持ってきてくれ! それをお姫様の回りにぐるりと並べてこいつを焚くんだ」
俺は鞄から香草を出し癒し手へと投げる。うさんくさい物ではないし合法的に手に入る香草達ばかりだが、乙女の手のみで摘まれたり、月の夜ばかりに摘まれたり、三度雪解け水で洗われたりと特殊な状況を経験している。効能は簡単、目覚ましだ。どんな呪いであれ役に立つと思って持ってきたが正解だったようだ。
「焚くと一体――」
「煙が出るが臭いはそんなにひどくない。安心しろ。後、これから猫が出るが邪魔するんじゃないぞ」
急いでインク皿が七つ持ってこられイーリーンの回りに置かれ、素早く火が付けられる。
涼やかな匂いが部屋中に広がり、イーリーンの歌が少し止まり、彼女は咳き込んだ。
ここまでは順調であった。俺は猫達を影から呼び出し、感覚をまじない師ものへと変える。この世ならざるものを見るための瞳を起こす。案の定イーリーンの首やら腕やら頭やらに歌う糸が絡みつき、網となり、彼女の肉体へと食い込んでいた。いや、もう内部にまで浸透している……急がなければならない……。
俺は喉を鳴らす。影から猫達が波のように現れる。現実世界の方では息を呑むような音が聞こえたがそれを気にせず自分の意識を猫達に少しずつ明け渡す。猫の優れた感覚で見れば、強固な糸の弱っている所が良く見えること。完全なまじないなど存在しない。人の技には完全は存在しない。
「やってしまえ」
猫達が一斉に寝台の上のイーリーンへと飛びかかり、彼女に絡まる見えない糸を遊ぶように次々と切り裂いていった。糸の抵抗もあったが、猫達の大合唱でかき消され、やがてされるがままに解けていった。
猫達から意識を戻せば、イーリーンは半分目覚めたような顔で辺りを見ていた。
俺は本当に大丈夫か、成功したか、と言いたげに彼女を支える。そして止めに
「誰か、盥を持って来い」
すぐさま癒し手の一人が空の盥を持ってくる。準備がいいことで何よりだ。
何をするんだとこちらを見るニクヴァを無視してイーリーンの口へと指を突っ込んだ。
毒の混じっていたであろう食べ物が、水の残骸が、彼女の口から一斉に吐き出される。イーリーンは咳き込む。��にがなんだかわからないと言いたげな顔は相変わらずの不機嫌で、俺は安心する。
「お嬢さん。猫遣いの王子が助けに来ましたよ」
冗談を言った刹那。イーリーンは体を震わせ、奇妙な視線をこちらに向けた。
「……誰か」
零れる口調はやけに冷たく、寝起きの物にしてはしっかりしていた。
「イーリーンを害した者は誰か」
イーリーンの姿が揺らめき光を放つ。優美な貴婦人の姿が陽炎のようにイーリーンに覆いかぶさる。イーリーンの声に二重写しになった声は文字通り神々しく、イーリーンのようで彼女の物ではない顔は静かな怒りと憂いをたたえていた。
*
「落ち着け、イーリーンだか中の神だか知らんが! こいつの体は目覚めたばかりだし毒も盛られていたんだ、静かにしてないと流石のあんたと言えども倒れるぞ!」
「人の子よ、これは我がいとし子に対する攻撃であり、しいては私への背信行為。速やかに罰を与えねばなりません」
イーリーンであった者の瞳からは光が漏れ出、声は完璧な音となって身体に直接響いてくる。これが「黒斑指」サラム。名の通り、光り輝く右の指先は黒く染まり、それからインクのように黒い斑が手に飛び散っていた。一度「鼠神」と争っているのを遠巻きに見たが、もう一度見る羽目になるとは思わなかったし、まさか喋る羽目になるとは思わなかった。
横を見ればニクヴァや取り巻きの神官達は平伏し、助けは得られないようだった。
「まじない師。共に来なさい。不届き者を見つけだし、その者に報いを与えねばなりません」
俺は思う。女神であれ肉体はイーリーンの物だ。このまま立ち上がって動かれては何が起こるか分かったものではない。第一女神が気絶したら威厳も何もあったものではないだろう。それだけで済むならいいが、全てが終わった後にイーリーンがこときれていたら大変だ……報酬が逃げていくし、それ以前に人間として大事なものを駄目にしてしまう。
俺は僅かに考えてから歌いはじめた。女神はどうかしたのかこの男はと言いたげにこちらを見る。俺は歌を続ける。イーリーンの中で渦巻いていた魔の歌ではなく、古くからのまじないの一つ。俺が師匠から教わった物の一つ。猫達の知っている歌の一つ。女神の降りているイーリーンに効くかはわからなかったが。柔らかな発音を何度も重ねて言葉でない歌を歌う。にゃごにゃごとしか聞こえないだろうそれは猫達の言葉で眠りの中へと誘う声であり、世の中の柔らかいもの、心地よいもの、はまりがいのある隙間等で作られていた。
「何をするのです、まじない師」
はたして、女神の肉体の方には効いたようだ。彼女は数度ふらつき、訝しむような目でこちらを見る。
「いや、何。あんたはまだイーリーンだ。あの時みたいに完全に乗り移ってはいない……それだけの権限が今はないんだろう。完全な想像だが。だから、イーリーンごと眠らせる」
歌う声を止め、それからまた音を連ねる。陽だまり、明け方の布団の中。暖炉の横。夏場は樹の影に。光は弱まり、イーリーンの万事反抗的で愚痴っぽい瞳が一瞬こちらを見たような気がした。
「眠れ、イーリーン。戻れサラム。お願いだから俺を恨まんでくれよ。あんたの毒が取れるまでしっかり世話をするし、不届き者はこっちでちゃんと捕まえておくから。女神様」
イーリーンのようでイーリーンでない顔は眠たげにこちらを見た。俺は弱まってもなお神々しいその輝きから目をそらさずに、一人と一柱をじっと見た。神気を受けて震える足に力を入れる。
「本当に?」
そう聞く声の中からは怒りが薄れており、少し面白がるような様子さえ感じられた。
「本当です、貴婦人様」
サラムはしばし考えるように小首を傾げ、それから。
「では、いとし子の身と不敬者の始末、確かに頼みましたよ……悔しいですが、あなたの声は心地よい。あの歌とは大違い」
優雅な笑みを浮かべ、サラムの光は消える。そして、イーリーンはぐらりと倒れる。慌てて抱きとめたその体は軽く、先ほどの眠りとは全く違う穏やかなものが表情に浮かんでいた。
*
「で、何なのですかこの花束は。弱った女と見て告白ですか。やめてください気持ち悪い」
「安心しろ。快気祝、いやこの場合は解呪祝だな。お嬢さんが今日もお嬢さんでいることへのお祝いでもある」
「まあ、サラムを穏便に戻して下さったことには感謝しますが。残念ながら私は人の入れたお茶と人の作った食事が一番好きなのであって飲めないし食べられない花にはあまり興味はありません」
寝台で横になっているイーリーンに様々な香草を連ねて作った花束を渡せば、彼女のこの仕打ちである。元気なようで何よりだ。もっともこの花束はただの飾りではない。毒を払い、魔を寄せ付けないための呪術的防壁の要にもなる貴重な道具なのだった。本当だったら金を取るが、女神にイーリーンの世話をするといった手前、無料で大奉仕である。それでもまじない師の身でありながら神殿の中枢部に恩を売って関わりを持つことが出来たという大きなおまけがついたため、俺としては丸儲けだった。いつかこの縁も役に立つかもしれない。面倒事の種になるかもしれないがその時はその時だ。俺はイーリーンの所に養子に出した子猫をじゃらしながら未来のことについて考えていた。子猫は子猫特有の成長速度で大きくなり、母親に似た黒い毛皮がもこもこと体を覆っていた。
「……さて、あんたの方はもう大丈夫だな。後はあんたに毒を仕込んで呪いをかけた奴だが」
「ああ、それ知ってます」
「嘘だろう」
「天才ですので……というのは冗談ですけど」
もしかしたら彼女が俺に対して冗談を言ったのはこれが初めてかもしれないと思いながらまじまじと見つめた。
「多分、私を嫌う一派です。前もありましたので。それに私が倒れているのを見つけた神官は見覚えのない神官と全然別の人でしたので。普通目の前で女神もどきが倒れたら驚いて人を呼ぶでしょう」
イーリーンはこともなげに言った。
「女神は心が広大すぎて、自分の信徒の間の「小さな」いざこざは見えないんです。考えているのは記すことへの愛と信徒への母親のような感情のみ。まさか利益だけで自分の憑代を傷つける奴がいるなんて思いつかないのです。女神の限界ですね。視点が広すぎて小さなものは全く見えない」
「前にもあったって」
「虐められたって言ったでしょう。書物に毒を塗られました。寝台に偶然毒虫がいました。暗殺者に寝込みを襲われました。あるはずのない禁書が出てきました。その他色々陥れられそうになりました」
「そりゃあ、」
俺は口をつぐんだ。子猫はじゃれる手が止まったのを見て飽きたように素早くイーリーンの寝台へとよじ登る。イーリーンは面倒そうだがまんざらでもない顔で小猫を撫でた。
「生憎私は天才ですが基本的に廊下での陰口や陰湿な物隠し、酷いあだ名等しか知らない小娘ですので」
「あんたなあ」
どうもこの短い付き合いでわかったことは基本的にイーリーン嬢は人に必要最低限以上の感謝を言わないひねくれた性根の持ち主である上に万事が万事すねているか不機嫌でいるかどちらかという娘だということだ。そんな所が災厄を呼びこんでいるのか、それとも呼び込まれた災厄のせいでそんな性格になってしまったのか分からないのだが。
「なんというか、難儀な人生だな」
「同情ですか」
「いや、まあ、上手く言えないが。面倒な時は本当に面倒だって誰かを頼っていいんだぞ」
「頼るに値する誰かはいません」
俺とイーリーンは睨み合う。猫がその間をちょろちょろと動き回る。
「じゃあ俺にこぼせ。女神に世話をするといった手前だ。ニクヴァから金も貰っている。あんたの嫌いな同情じゃなくて金での信頼関係だ。これなら安心だろう」
この不機嫌が板についた小娘に付き合っているのはひねくれ者の猫をあやしているようで正直暇がつぶれるし、それでいて金が入ってくるならば大歓迎だ。
「でも……あなたはまじない師で」
「今じゃまじない師が神殿に顔を出してはいけない法はないだろう」
「法はないけれど慣例として!」
俺は笑う。
「イーリーン、あんたは慣例とかは嫌いそうな性質だとおもったがな」
「そうですけど! そうなんですけど!」
俺はしばらくイーリーンを悩ませておくことに決めた。
また様子を見に来るぞ、と言って去った後も、イーリーンは悩んでいるのではないかという気がした。
残された暗殺者の探索とイーリーンの保護の為に、影から猫達を放ち、俺は帰路に付く。
*
お題:「歌」
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ひとみに映る影シーズン2 第六話「どこまでも白い海で」
☆プロトタイプ版☆ こちらは無料公開のプロトタイプ版となります。 最低限の確認作業しかしていないため、 誤字脱字誤植誤用等々あしからずご了承下さい。 尚、正式書籍版はシーズン2終了時にリリース予定です。
(シーズン2あらすじ) 私はファッションモデルの紅一美。 旅番組ロケで訪れた島は怪物だらけ!? 霊能者達の除霊コンペとバッティングしちゃった! 実は私も霊感あるけど、知られたくないなあ…… なんて言っている場合じゃない。 諸悪の根源は恩師の仇、金剛有明団だったんだ! 憤怒の化身ワヤン不動が、今度はリゾートで炸裂する!!
pixiv版 (※内容は一緒です。) ☆キャラソン企画第六弾 金城玲蘭「ニライカナイ」はこちら!☆
དང་པོ་
アブが、飛んでいる。天井のペンダントライトに誘われたアブが、蛍光灯を囲う四角い木枠に囚われ足掻くように飛んでいる。一度電気を消してあげれば、外光に気がついて窓へ逃げていくだろう。そう思ったのに、動こうとすると手足が上がらない。なら蛍光灯を影で覆えば、と思うと、念力も込もらない。 「一美ちゃん」 呼ばれた方向を見ると、私の手を握って座っている佳奈さん。私はホテルの宴会場まで運ばれて、布団で眠っていたようだ。 「起きた?」 障子を隔てた男性側から万狸ちゃんの声。 「うん、起きたよ」 「佳奈ちゃん、一美ちゃん、ごめん。パパがまだ目を覚まさなくて……また後でね」 「うん」 佳奈さんは万狸ちゃんとしっかり会話出来ている。愛輪珠に霊感を植え付けられたためだ。 「……タナカDはまだ帰って来ないから、私が一美ちゃんのご両親に電話した。私達が千里が島に連れてきたせいでこんな事になったのに、全然怒られなかった。それどころか、『いつか娘が戦わなければいけない時が来るのは覚悟していた。それより貴女やカメラマンさんは無事なのか』だって……」 ああ。その冷静な受け答えは、きっとお母さんだ。お父さんやお爺ちゃんお婆ちゃんだったらきっと、『今すぐ千里が島に行って俺が敵を返り討ちにしてやる』とかなんとか言うに決まってるもん。 「お母さんから全部聞いたよ。一美ちゃんは赤ちゃんの時、金剛有明団っていう悪霊の集団に呪いをかけられた。呪われた子は死んじゃうか、乗り越えられれば強い霊能者に成長する。でも生き残っても、いつか死んだら金剛にさらわれて、結局悪い奴に霊力を利用されちゃう」 佳奈さんは正座していた足を崩した。 「だけど一美ちゃんに呪いをかけた奴の仲間に、金剛が悪い集団だって知らなくて騙されてたお坊さんがいた。その人は一美ちゃんの呪いを解くために、身代わりになって自殺した。その後も仏様になって、一美ちゃんや金城さんに修行をつけてあげた」 和尚様……。 「一美ちゃんはそうして特訓した力で、今まで金剛や悪霊と戦い続けてた。私達と普通にロケしてた時も、この千里が島でもずっと。霊感がない私やタナカDには何も言わないで……たった一人で……」 佳奈さんは私から手を離し、膝の上でぎゅっと握った。 「ねえ。そんなに私達って信用できない? そりゃさ。私達は所詮、友達じゃないただの同僚かもしれないよ。けど、それでも仲間じゃん。幽霊見えないし、いっぱい迷惑かけてたのかもしれないけど」 ……そんな風に思った事はない、と答えたいのに、体が動かなくて声も出せない。 「いいよ。それは本当の事だし。てかだぶか、迷惑しかかけてこなかったよね。いつもドッキリで騙して、企画も行先も告げずに連れ回して」 そこは否定しません。 「だって、また一美ちゃんと旅に出たいんだもん。行った事のない場所に三人で殴り込んで、無茶して、笑い合って、喧嘩して、それでも懲りずにまた旅に出るの。もう何度も勝手に電源が落ちるボロボロのワイヤレス付けて、そのへんの電器屋さんで買えそうなカメラ回してね。そうやって互いが互いにいっぱい迷惑かけながら、旅をしたいんだよ」 …… 「なのに……どうして一人で抱えこむの? 一美ちゃんだって私達に迷惑かければいいじゃん! そうすれば面白半分でこんな所には来なかったし、誰も傷つかずに済んだのに!」 「っ……」 どの口が言うんですか。私が危ないって言ったって、あなた達だぶか面白半分で首を突っ込もうとする癖に。 「私達だって本当にヤバい事とネタの分別ぐらいつくもん! それとも何? 『カラキシ』なんて足手まといでしかないからってワケ!?」 「っ……うっ……」 そんな事思ってないってば!! ああ、反論したいのに口が動かない! 「それともいざという時は一人でどうにかできると思ってたワケ? それで結局あの変態煙野郎に惨敗して、そんなボロボロになったんだ。この……ダメ人間!」 「くっ……ぅぅうううう……」 うるさい、うるさい! ダメ人間はどっちだ! 逃げろって言ったのにどうして戻ってきたんだ! そのせいで佳奈さんが……それに…… 「何その目!? 仲間が悪霊と取り残されてて、そこがもう遠目でわかるぐらいドッカンドッカンしてたら心配して当然でしょ!? あーそうですよ。私があの時余計な事しなければ、ラスタな狸さんが殺されて狸おじさんが危篤になる事もなかったよ! 何もかも私のせいですよーっ!!」 「ううう、あああああ! わああぁぁ!」 だからそんな事思ってないってば!! ていうか、中途半端に私の気持ち読み取らないでよ! 私の苦労なんて何も知らなかったクセに!! 「そーだよ! 私何もわかってなかったもん! 一美ちゃんがひた隠しにするから当たり前でしょぉ!?」 「うわあああぁぁぁ!! うっぢゃぁしいいいぃぃ、ごの極悪ロリーダァァァ!!」 「なん……なんだどおぉ、グスッ……この小心者のっ……ダメ人間!」 「ダメ人間!」 「ダメ人間!!」 「「ダメ人間ーーーっ!!!」」 いつの間にか手足も口も動くようになっていた。私と佳奈さんは互いの胸ぐらを掴み合い、今まで番組でもした事がない程本気で罵り合う。佳奈さんは涙で曇った伊達眼鏡を投げ捨て、私の腰を持ち上げて無理やり立たせた。 「わああぁぁーーっ!」 一旦一歩引き、寄り切りを仕掛けてくる。甘いわ! 懐に入ってきた佳奈さんの右肩を引き体勢を浮かせ、 「やああぁぁぁーーっ!!」 思いっきり仏壇返し! しかし宙を回転して倒れた佳奈さんは小柄な体型を活かし即時復帰、助走をつけて私の頬骨にドロップキックを叩きこんだ!! 「ぎゃふッ……あヤバいボキっていった! いっだあぁぁ!!」 「やば、ゴメン! 大丈夫?」 「だ……だいじょばないです……」 と弱った振りをしつつ天井で飛んでいるアブを捕獲! 「んにゃろぉアブ食らえアブ!」 「ぎゃああああぁぁ!!!」 <あんた達、何やってんの?> 「「あ」」 突然のテレパシー。我に返った私達が出入口を見ると、口に血まみれのタオルを当てて全身傷だらけの玲蘭ちゃんが立っていた。
གཉིས་པ་
アブを外に逃がしてやり、私は玲蘭ちゃんを手当てした。無惨にも前歯がほぼ全部抜け落ちてしまっている。でも診療所は怪我人多数で混雑率二〇〇%越えだという。佳奈さんに色んな応急手当についてネットで調べてもらい、初心者ながらにできる処置は全て行った。 「その傷、やっぱり散減と戦ったの?」 <うん。口欠湿地で。本当に口が欠けるとかウケる> 「いや洒落になんないでしょ」 <てか私そもそも武闘派じゃないのに、あんなデカブツ相手だなんて聞いてないし> 「大体何メートル級だった?」 <五メートル弱? 足は八本あった> なるほど。なら牛久大師と同じ、大散減の足から顕現したものだろう。つまり地中に潜む大散減は、残りあと六本足。 <てか一美、志多田さんいるのに普通に返事してていいの?> 「あ……私、もうソレ聞こえてます」 <は?> 私もこちらに何があったかを説明する。牛久大師が大散減に取り込まれた。後女津親子がそれを倒すと、御戌神が現れた。私は御戌神が本当は戦いたくない事に気付き、キョンジャクで気を正した。けど次の瞬間金剛愛輪珠如来��現れて、御戌神と私をケチョンケチョンに叩き潰した。奴は私を助けに来た佳奈さんにも呪いをかけようとして、それを防いだ斉二さんがやられた。以降斉一さんは目を覚まさず、タナカDと青木さんもまだ戻ってきていないみたいだ、と。そこまで説明すると、玲蘭ちゃんは頭を抱えて深々とため息をついた。 <最ッ悪……金剛マターとか、マジ聞いてないんだけど……。てか、一美もたいがい化け物だよね。金剛の如来級悪霊と戦って生きて帰れるとか> 「本当、なんで助かったんだろ……。あの時は全身砕かれて内臓ぜんぶ引きずり出されたはずなんだけど」 <ワヤン化してたからでしょ> 「あーそっか……」 砕けたのは影の体だけだったようだ。 「けど和尚様から貰ったプルパを愛輪珠に取られちゃって、今じゃ私何にもできない。だってあいつが、和尚様の事……実は邪尊教の信者だとか言い出すから……」 <は!? 観音和尚が!? いや、そんなのただの侮辱に決まってるし……> 「…………」 <……なに、一美? まさか心当たりあるの!?> 「あの」 佳奈さんが挙手する。 「あの。何なんですか? そのジャソン教とかいうのって」 <ああ、チベットのカルト宗教です。悪魔崇拝の仏教版と言いましょうか> 「じゃあ、河童の家みたいな物?」 とんでもない。 「テロリストですよ。ドマル・イダムという邪尊の力を操ってチベットを支配していた、最悪の独裁宗派です」 「そ、そうなの!?」 ドマル・イダム。その昔、とある心優しい僧侶が瀕死の悪魔を助け、その情け深さに心打たれた悪魔から不滅の心臓を授かった。そうして彼は衆生の苦しみを安らぎに変える抜苦与楽(ばっくよらく)の仏、『ドマル・イダム(紅の守護尊)』となった。しかしドマルは強欲な霊能者や権力者達に囚われて、巨岩に磔にされてしまう。ドマルには権力者に虐げられた貧民の苦しみや怒りを日夜強制的に注ぎ込まれ、やがてチベットはごく少数の貴族と無抵抗で穏やかな奴隷の極端な格差社会になってしまった。 「この事態を重く見た当時のダライ・ラマはドマル信仰を固く禁じて、邪尊教と呼ぶようにしたんです」 「う、うわぁ……悪代官だしなんか罰当たりだし、邪尊教まじで最悪じゃん……」 <罰当たり、そうですね。チベットでは邪尊教を戒めるために、ドマルの仏画が痛々しい姿で描かれてます。まるで心臓と神経線維だけ燃えずに残ったような赤黒い体、絶望的な目つき、何百年も磔にされているせいで常人の倍近く伸びた長い両腕……みたいな> 「やだやだやだ、そんな可哀想な仏画とか怖くて絶対見れない!」 そう、普通の人はこういう反応だ。だからチベット出身の仏教徒にむやみに邪尊教徒だと言いがかりをつけるのは、最大の侮辱なんだ。だけど、和尚様は……いや、それ以上考えたくない。幼い頃、和尚様と修行した一年間。大人になって再会できた時のこと。そして、彼に授かった力……幸せだったはずの記憶を思い起こす度に、色んな伏線が頭を過ぎってしまう。 <……でも、一美さぁ> 玲蘭ちゃんは口に当てていた氷を下ろし、私を真正面から見据えた。 <和尚にどんな秘密があったのか知らないけど、落ちこむのは後にしてくれる? このまま大散減が完全復活したら、明日の便に乗る前に全員死ぬの。今まともな戦力になるの、五寸釘愚連隊とあんたしかいないんだけど> 「私……無理だよ。プルパを奪われて、影も動かせなくなって」 <それなら新しい武器と法力を探しに行くよ> 「!」 <志多田さんも、来て> 「え? ……ふええぇっ���?」 玲蘭ちゃんは首にかけていた長い数珠を静かに持ち上げる。するとどこからか潮騒に似た音が聞こえ、私達の視界が次第に白く薄れていく。これは、まさか……!
གསུམ་པ་
気がつくと私達は、白一色の世界にいた。足元にはお風呂のように温かい乳白色の海が無限に広がり、空はどこまでも冷たげな霧で覆われている。その境界線は曖昧だ。大気に磯臭はなく、微かに酒粕や米ぬかのような香りがする。 「綺麗……」 佳奈さんが呆然と呟いた。なんとなく、この白い世界に私は来たことがある気がする。確か初めてワヤン不動に変身した直後だったような。すると霧の向こうから、白装束に身を包む天女が現れた。いや、あれは…… 「めんそーれ、ニライカナイへ」 「玲蘭ちゃん!?」「金城さん!?」 初めてちゃんと見たその天女の姿は、半人半魚に変身した玲蘭ちゃん。肌は黄色とパールホワイトのツートーンで、本来耳があった辺りにガラスのように透き通ったヒレが生えている。元々茶髪ボブだった頭も金髪……というより寧ろ、琉球紅型を彷彿とさせる鮮やかな黄色になっていた。燕尾のマーメイドドレス型白装束も裏地は黄色。首から下げたホタル玉の数珠と、裾に近づくにつれてグラデーションしている紅型模様が美しく映える。 「ニライカナイ、母なる乳海。全ての縁と繋がり『必要な物』だけを抜粋して見る事ができる仮想空間。で、この姿は、いわゆる神人(かみんちゅ)ってやつ。わかった?」 「さっぱりわかりません!」 私も佳奈さんに同じく。 「よーするにここは全ての魂と繋がる母乳の海で、どんな相手にもアクセスできるんです。私が何か招き入れないと、ひたすら真っ白なだけだけど」 母乳の海。これこそまさに、金剛が欲しがってやまない『縁の母乳』だ。足元に広がる海水は、散減が吐く穢れた物とはまるで違い、暖かくて淀みない。 「今からこの海で、『マブイグミ』って儀式をする。一美の前世を呼んでパワーを分けて貰うってわけ。でもまず、折角だし……志多田さんもやってみますか?」 「え、私の前世も探してくれるんですか!? えーどうしよ、緊張するー!」 「アー……多分、思ってる感じと違いますよ」 玲蘭ちゃんは尾ビレで海水を打ち上げ、飛沫から瞬く間にススキの葉を錬成した。そして佳奈さんの背中をその葉でペンペンと叩きながら、 「まぶやー、まぶやー、うーてぃくよー」 とユルい調子で呪文を唱えた。すると佳奈さんから幾つもの物体がシュッと飛び出す。それらは人や動物、虫、お守りに家具など様々で、佳奈さんと半透明の線で繋がったまま宙に浮いている。 「なにこれ! もしかして、これって全部私の前世!? ええっ私って昔は桐箪笥だったのぉ!?」 「正確には箪笥に付着していた魂の欠片、いわゆる付喪神です。人間は物心つくまでに周囲の霊的物質を吸収して、七歳ぐらいで魂が完成すると言われています。私が呼び戻したのは、あなたを構成する物質の記憶。強い記憶ほど鮮明に復元できているのがわかりますか?」 そう言われてみると、幾つかの前世は形が朽ちかけている。人間の霊は割と形がはっきりしているけど、箪笥や虫などは朽ちた物が多い。 「たしかに……このおじさん、実家のお仏壇部屋にある写真で見たことあるかも。写真ではもっとおじいさんだったけど」 「亡くなった方が必ずしも亡くなったご年齢で現れるとは限らないんですよ」 私が補足した。そう、有名なスターとか軍人さんとかは、自分にとって全盛期の姿で現れがちなんだ。佳奈さんが言うおじさんも軍服を着ているから、戦時中の御姿なんだろう。 すると玲蘭ちゃんは手ビレ振り、佳奈さんの前世達を等間隔に整列させた。 「志多田さん。この中で一番、あなたにとって『しっくりくる』者を選んで下さい。その者が一つだけ、あなたに力を授けてくれます」 「しっくりくるもの?」 佳奈さんは海中でザブザブと足を引きずり、きちんと並んだ前世達を一つずつ見回っていく。 「うーん……。やっぱり、見たことある人はこのおじさんだけかな。家に写真があったなら、私と血が繋がったご先祖様だと思うし……あれ?」 ふと佳奈さんが立ち止まる。そこにあったのは、殆ど朽ちかけた日本人形。 「この子……!」 どうやら、佳奈さんは『しっくりくる前世』を見つけたようだ。 「私覚えてる。この子は昔、おじいちゃん家の反物屋にいたお人形さんなの。けど隣の中華食堂が火事になった時、うちも半焼しちゃって、多分だからこんなにボロボロなんだと思う」 佳奈さんは屈んで日本人形を手に取る。そして今にも壊れそうなそれに、火傷で火照った肌を癒すように優しく海水をかけた。 「まだ幼稚園ぐらいの時だからうろ覚えだけど。家族で京都のおじいちゃん家に遊びに行ったら、お店にこの子が着てる着物と同じ生地が売ってて。それでおそろいのドレスを作ってほしいっておじいちゃんにお願いしたんだ。それで東京帰った直後だよね、火事。誰も死ななかったけど約束の生地は燃えちゃって、お人形さんが私達を守ってくれたんだろうって話になったんだよ」 佳奈さんが水をかける度に、他の魂達は満足そうな様子で佳奈さんと人形に集約していく。すると玲蘭ちゃんはまた手ビレを振る。二人を淡い光が包みこみ……次の瞬間、人形は紺色の京友禅に身を包む麗しい等身大舞妓に変身した! 「あなたは……!?」 「あら、思い出してくれはったんやないの? お久しぶりどすえ、佳奈ちゃん」 それは見事な『タルパ』だった。魂の素となるエクトプラズム粒子を集め、人工的に作られた霊魂だ。そういえば玲蘭ちゃんが和尚様から習っていたのはこのタルパを作る術だった。なるほど、こういう風に使うために修行していたんだね。 佳奈さんは顕現した���の舞妓さんに問う。 「あ、あのね! 外でザトウムシの化け物が暴れてるの! できれば私もみんなと一緒に戦いたいんだけど、あなたの力を貸してくれないかな?」 ところが舞妓さんは困ったような顔で口元を隠した。 「あらあら、随分無茶を言いはりますなぁ。うちはただの人形やさかい、他の方法を考えはった方がええんと違います?」 「そっかぁ……。うーん、どうしよう」 「佳奈さん、だぶか霊能力とは別の事を聞いてみればいいんじゃないですか? せっかく再会できたんだから勿体ないですよ」 「そう? じゃあー……」 佳奈さんはわざとらしいポーズでしばらく考える。そして何かを閃くと、わざとらしく手のひらに拳をポンと乗せた。 「ねえ。童貞を殺す服を着た女を殺す服って、結局どんな服だと思う? 人生最大の謎なんだけど!」 「はいぃ???」 舞妓さんがわかっていないだろうからと、玲蘭ちゃんがタルパで『童貞を殺す服』を顕現してみせた。 「所謂、こーいうのです。女に耐性のない男はこれが好きらしいですよ」 玲蘭ちゃんが再現した童貞を殺す服は完璧だ。フリル付きの長袖ブラウスにリボンタイ、コルセット付きジャンパースカート、ニーハイソックス、童話の『赤い靴』みたいなラウンドトゥパンプス。一見露出が少なく清楚なようで、着ると実は物凄く体型が強調される。まんま佳奈さんの歌詞通りのコーデだ。 「って、だからってどうして私に着せるの!」 「ふっ、ウケる」 キツキツのコルセットに締め付けられた私を、舞妓さんが物珍しそうにシゲシゲと眺める。なんだか気恥ずかしくなってきた。舞妓さんはヒラヒラしたブラウスの襟を持ち上げて苦笑する。 「まあまあ……外国のお人形さんみたいやね。それにしても今時の初心な殿方は、機械で織った今時の生地がお好きなんやなあ。うちみたいな反物屋育ちの古い人形には、こんなはいからなお洋服着こなせんどす」 おお。これこそ噂の京都式皮肉、京ことば! 要するに生地がペラッペラで安っぽいと言っているようだ。 「でも佳奈ちゃんは、『おたさーの姫』はん程度にならもう勝っとるんやないの?」 「え?」 舞妓さんは摘んでいたブラウスを離す。すると彼女が触れていた部分の生地感が、心なしかぱりっとした気がする。 「ぶっちゃけた話ね。どんなに可愛らしい服でも、着る人に品がなければ『こすぷれ』と変わらへん。その点、佳奈ちゃんは立派な『あいどる』やないの。お歌も踊りもぎょうさん練習しはったんやろ? 昔はよちよち歩きやったけど、歩き方や立ち方がえろう綺麗になってはるさかい」 話しながらも舞妓さんは、童貞を殺す服を摘んだり撫でたりしている。その度に童貞を殺す服は少しずつ上等になっていく。形や色は変わらなくても、シワが消え縫製が丁寧になり、まるでオーダーメイドのように着心地が良くなった。そうか、生地だ。生地の素材が格段にグレードアップしているんだ! 「うちらは物の怪には勝てへんかもしれんけど、童貞を殺す服を着た女に負けるほど弱い女やありまへん。反物屋の娘の誇りを忘れたらあかんよ、佳奈ちゃん」 舞妓さんは童貞を殺す服タルパを私から剥がすと、佳奈さんに当てがった。すると佳奈さんが今着ているサマーワンピースは輝きながら消滅。代わりにアイドルステージ上で彼女のトレードマークである、紺色のメイド服姿へと変身した。けどただの衣装じゃない、その生地は仙姿玉質な京友禅だ! 「いつものメイド服が……あ、これってもしかして、おそろいのドレス!?」 舞妓さんはにっこりと微笑み、輝くオーラになって佳奈さんと一体化する。京友禅メイド服とオーラを纏った佳奈さんは、見違えるほど上品な風格を帯びた。童貞やオタサーの姫どころか、全老若男女に好感を持たれる国宝級生人形(スーパーアイドル)の誕生だ!
བཞི་པ་
「まぶやー、まぶやー、ゆくみそーれー」 またしても玲蘭ちゃんがゆるい呪文を唱えると、佳奈さんの周囲に残っていた僅かな前世残滓も全て佳奈さんに吸収された。これでマブイグミは終了だ。 「金城さんごめんなさい。やっぱり私、バトルには参加できなさそうです……」 「お気になさらないで下さい。その霊的衣装は強いので、多少の魔物(マジムン)を避けるお守り効果もあります。私達が戦っている間、ある程度護身してて頂けるだけでも十分助かります」 「りょーかいです! じゃあ、次は一美ちゃんの番だね!」 いよいよ、私の前世が明らかになる。家は代々影法師使いの家系だから、力を取り戻してくれる先代がいると信じたい。 「まぶやー、まぶやー、うーてぃくよー」 玲蘭ちゃんが私の背中を叩く。全身の毛穴が水を吹くような感覚の後、さっき見たものと同じ半透明の線が飛び出した。ところが…… 「あれ? 一美ちゃんの前世、それだけ??」 佳奈さんに言われて自分から生えた前世達を見渡す。……確かに、佳奈さんと比べて圧倒的に少ない。それに形も、指先ほど小さなシジミ蝶とか、書道で使ってた筆とか、小物ばっかり。玲蘭ちゃんも首を傾げる。 「有り得ないんだけど。こんな量でまともに生きていけるの、大きくてもフェレットぐらいだよ」 「うぅ……一美ちゃん、可哀想に。心だけじゃなくて魂も小さいんだ……」 「悪かったですね、小心者で」 一番考えられる可能性としては、ワヤン不動に変身するためのプルパを愛輪珠に奪われたからだろう。念力を使う時、魂の殆どが影に集中する影法師の性質が仇となったんだ。それでも今、こうして肉体を維持できているのはどういう事か。 「小さくても強いもの、魔除けとか石とか……も、うーん。ないし……」 「じゃあ、斉一さんのドッペルゲンガーみたいに別の場所にも魂があるってパターンは?」 「そういうタイプなら、一本だけ遠くまで伸びてる線があるからすぐわかる」 「そっか……」 すると、その会話を聞いていた佳奈さんが私の足元の海中を覗きこんだ。 「ねえこれ、下にもう一本生えてない?」 「え?」 まじまじと見ると、確かにうっすらと線が見えなくもない。すると玲蘭ちゃんが尾ビレを振って、私の周囲だけ海水を退けてくれた。 「あ、本当だ!」 それは水が掃け、足元に残った影溜まりの中。まるで風前の灯火のように薄目を開けた『ファティマの目』が、一筋の赤黒い線で私と繋がっている。そうか。行きの飛行機内で万狸ちゃんを遠隔視するのに使ったファティマの目は、本来邪悪な物から身を守る結界術だ。私の魂は無意識に、これで愛輪珠から身を守っていたらしい。 「そこにあったんだ。やっぱり影法師使いだね」 玲蘭ちゃんがファティマの目を屈んで掬い取ろうとする。ところが、それは意志を持っているように影の奥深くに沈んでしまった。 「ガード固っ……一美、これどうにかして取れない?」 参ったな。念力が使えれば影を動かせるんだけど……とりあえず、影法師の真言を唱えてみる。 (ナウマク・サマンダ・バザラダン・カン・オム・チャーヤー・ソワカ) だめだ、ビクともしない。じゃあ次は、和尚様の観世音菩薩の真言。 (オム・マニ・パドメ・フム) ……ん? 足の指先が若干ピリッときたような。なら和尚様タイプⅡ、プルパを発動する時にも使う馬頭観音真言ならどうか。 (オム・アムリトドバヴァ・フム・パット!) ピクッ。 「あ、今ちょっと動いた? おーい、一美ちゃんの前世さーん!」 佳奈さんがちょんちょんと私の影をつつく。他の真言やお経も試してみるべき���? けど総当りしている時間はないし…… —シムジャナンコ、リンポチェ……— 「!」 —和尚様?— —あなたの中で眠る仏様へ、お休みなさい、と申したのです。私は彼の『ムナル』ですから……— 脳裏に突然蘇った、和尚様と幼い私の会話。シムジャナンコ(お休みなさい)……チベット語……? 「タシデレ、リンポチェ」 ヴァンッ! ビンゴだ。薄目だった瞳がギョロリと見開いて肥大化し、私の影から飛び出した! だけどそれは、私が知っているファティマの目とまるで違う。眼球ではなく、まるで視神経のように真っ赤なエネルギーの線維が球体型にドクドクと脈動している。上下左右に睫毛じみた線維が突き出し、瞳孔に当たる部分はダマになった神経線維の塊だ。その眼差しは邪悪な物から身を守るどころか、この世の全てを拒絶しているような絶望感を帯びている。玲蘭ちゃんと佳奈さんも堪らず視線を逸らした。 「ぜ、前世さん、怒ってる?」 「……ウケる」 チベット語に反応した謎のエネルギー眼。それが私の大部分を占める前世なら、間違いなく和尚様にまつわる者だろう。正直、今私は和尚様に対してどういう感情を抱いたらいいのかわからなくなっている。でも、たとえ邪尊教徒であろうとなかろうと、彼が私の恩師である事に変わりはない。 「玲蘭ちゃん、佳奈さん。すいません。五分だけ、ちょっと瞑想させて下さい」 どうやら私にも、自分の『縁』と向き合うべき時が来たようだ。
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……釈迦如来、文殊菩薩、普賢菩薩……。座して目を閉じ、自分の影が十三仏を象る様を心に思い描く。本来影法師の修行で行う瞑想では、ティンシャやシンギング・ボウルといった密教法具を使う。けど千里が島には持ってきていないし、今の私にそれらを使いこなせる力もない。それでも、私は自らの影に佇むエネルギー眼と接続を試み続ける。繋がれ、動け。私は影。私はお前だ。前世よ、そこにいるのなら応えて下さい。目を覚まして下さい…… 「……ッ……!」 心が観世音菩薩のシルエットを想った瞬間、それは充血するように赤く滲んだ。するうち私の心臓がドクンと弾け、業火で煮えくり返ったような血が全身を巡る。私はその熱量と激痛に思わず座禅を崩してしまうが、次の瞬間には何事もなかったかのように体が楽になった。そしてそっと目を開けてみると、ニライカナイだったはずの世界は見覚えのある場所に変わっていた。 「石筵観音寺……!?」 玲蘭ちゃんが代わりに呟く。そう。ここは彼女も昔よく通っていた、私達の和尚様のお寺だ。けどよく見ると、記憶と色々違う箇所がある。 「玲蘭ちゃん、このお御堂、こんなに広かったっけ……?」 「そんなわけない。だってあの観音寺って、和尚が廃墟のガレージに張って作ったタルパ結界でしょ」 「そうだよ。それにあの外の山も、安達太良山じゃないよね? なんかかき氷みたいに細長いけど」 「あれ須弥山(しゅみせん)じゃん。仏教界の中心にある山。だぶか和尚はこの風景を基に石筵観音寺を作ったんじゃない? てーか、何よりさ……」 「うん。……いなくなってるよね、和尚様」 このお御堂には、重大な物が欠けている。御本尊である仏像だ。石筵観音寺では和尚様の宿る金剛観世音菩薩像がいらした須弥壇には、何も置かれていない。ここは、一体……。 「ねーえ! 一美ちゃんの和尚さんってチベットのお坊さんなんだよね? ここにいるよ!」 「「え?」」 振り返ると、佳奈さんがお御堂の奥にある扉を開けて中を指さしている。勿論観音寺にはなかった扉だ。私と玲蘭ちゃんが中を覗くと、部屋は赤い壁のシンプルな寝室だった。中心に火葬場の収骨で使うようなやたらと背の高いベッドが一つだけ設置されている。入室すると、そのベッドで誰かが眠っていた。枕元にはチベット密教徒特有の赤い袈裟が畳まれている。佳奈さんがいて顔がよく見えないけど、どうやら坊主頭……僧侶のようだ。不思議な事に、その僧侶の周りには殆ど影がない。 「もしもーし、和尚さん起きて下さい! 一美ちゃんが大ピンチなんですーっ!」 佳奈さんは大胆にも、僧侶をバシバシと叩き起こそうと試みる。ただ問題がある。彼は和尚様より明らかに背が低いんだ。 「ちょ、佳奈さんまずいですって! この人は和尚様じゃないです!」 「え、そうなの? ごめんごめん、てへっ!」 「てへっじゃないですよ………………!!?!?!??」 佳奈さんが退き僧侶の顔が見えた瞬間、私は全身から冷や汗を噴出した。この……この男は……!!! 「あれ? でも和尚さんじゃないなら、この人が一美ちゃんの前世なんじゃない? おーい、前世さムググム~??」 ヤバいヤバいヤバい!! 佳奈さんが再び僧侶をぶっ叩こうとするのを必死で制止した。 「一美?」 玲蘭ちゃんが訝しんだ。面識はない。初めて見る人だ。だけどこの男が起きたら絶対人類がなんかヤバくなると直感で理解してしまったんだ! ところが…… ༼ ……ン…… ༽ 嘘でしょ。 「あ、一美ちゃん! 前世さん起きたよ! わーやば、このお坊さん三つ目じゃん! きっとなんか凄い悟り開いてる人だよ!」 あぁ、終わった……。したたび綺麗な地名の闇シリーズ第六弾、千里が島宝探し編終了。お疲れ様でした。 「ねー前世さん聞いて! 一美ちゃんが大ピンチなの! あ、一美ちゃんっていうのはこの子、あなたの生まれ変わりでー」 ༼ えっ、え?? ガレ……? ジャルペン……?? ༽ 僧侶はキョトンとしている。そりゃそうだ、寝起きに京友禅ロリータが何やらまくし立てていれば、誰だって困惑する。 「じゃる……ん? ひょっとして、この人日本語通じない!?」 「一美、通訳できる?」 「むむ、無理無理無理! 習ってたわけじゃないし、和尚様からちょこちょこ聞いてただけだもん!」 「嘘だぁ。一美ちゃんさっきいっぱいなんかモゴモゴ言ってたじゃん。ツンデレとかなんとか」 「あ、あれは真言です! てか最後なんて『おはようございます猊下(げいか)』って言っただけだし」 私だけ腰を抜かしている一方で、佳奈さんと玲蘭ちゃんは変わらずマイペースに会話している。僧侶もまだキョトン顔だ。 「他に知らないの? チベット語」 「えぇー……。あ、挨拶は『タシデレ』で、お休みなさいが『シムジャナンコ』、あと印象に残ってるのは『鏡』が『レモン』って言うとか……後は何だろう。ああ、『眠り』が『ムナル』です」 ༼ ! ༽ 私が『ムナル』と発音した瞬間、寝ぼけ眼だった僧侶が急に血相を変えて布団から飛び出した。 ༼ ムナルを知っているのか!? ༽ 「ふわあぁ!?」 僧侶は怖気づいている私の両腕をがっしと掴み、心臓を握り潰すような響きで問う。まるで視神経が溢れ出したような紅茶色の長い睫毛、所々ほつれたように神経線維が露出した肌、そして今までの人生で見てきた誰よりも深い悲壮感を湛える眼差し……やっぱり、間違いない。この僧侶こそが…… 「え? な、なーんだ! お坊さん、日本語喋れるんじゃん……」 「佳奈さん、ちょっと静かにしてて下さい」 「え?」 残酷にも、この僧侶はムナルという言葉に強い反応を示した。これで私の杞憂が事実だったと証明されてしまったんだ。だけど、どんな過去があったのかはともかく、私はやっぱり和尚様を信じたい。そして、自分の魂が内包していたこの男の事も。私は一度深呼吸して、彼の問いに答えた。 「最低限の経緯だけ説明します。私は一美。ムナル様の弟子で、恐らくあなたの来世……いえ、多分、ムナル様によって創られたあなたの神影(ワヤン)です。金剛の大散減という怪物と戦っていたんですが、ムナル様が私の肋骨で作られた法具プルパを金剛愛輪珠如来に奪われました。それでそこの神人にマブイグミして貰って、今ここにいる次第です」 ༼ …… ༽ 僧侶は瞬き一つせず私の話を聞く。同時に彼の脳内で凄まじい速度で情報が整理されていくのが、表情でなんとなくわかる。 ༼ 概ね理解した。ムナルは、そこか ༽ 僧侶は何故か佳奈さんを見る。すると京友禅ロリータドレスのスカートポケットに、僧侶と同じ目の形をしたエネルギー眼がバツッと音を立てて生じた。 「きゃあ!」 一方僧侶の掌は拭き掃除をしたティッシュのようにグズグズに綻び、真っ二つに砕けたキョンジャクが乗っていた。 「あ、それ……神社で見つけたんだけど、後で返そうと思って。でも壊れてて……あれ?」 キョンジャクは佳奈さんが話している間に元の形に戻っていた。というより、僧侶がエネルギー眼で金属を溶かし再鋳造したようだ。綻んでいた掌もじわじわと回復していく。 「ど、どういう事? 一美。ムナルって確か、観音和尚の俗名か何かだったよね……そのペンダント、なんなの?」 僧侶の異様な力に気圧されながら、玲蘭ちゃんが問う。 「キョンジャク(羂索)、法具だよ。和尚様の遺骨をメモリアルダイヤにして、友達から貰ったお守りのペンダントに埋め込んでおいたんだ」 ༼ この遺骨ダイヤ、更に形を変えても構わんか? ༽ 「え? はい」 僧侶は私にキョンジャクを返却し、お御堂へ向かった。見ると、和尚様のダイヤが埋まっていた箇所は跡一つなくなっている。私達も続いてお御堂に戻ると、彼はティグクという斧型の法具を持ち、装飾部分に和尚様のダイヤを埋め込んでいた。……ところが次の瞬間、それを露台から須弥山目掛けて思い切り投げた! 「何やってるんですか!?」 ティグクはヒュンヒュンと回転しながら須弥山へ到達する。すると、ヴァダダダダガァン!!! 須弥山の山肌が爆ぜ、さっきの何百倍もの強烈なエネルギー眼が炸裂! 地面が激しく揺れて、僧侶以外それぞれ付近の物や壁に掴まる。 ༼ 拙僧が介入するとなれば、悪戯に事が大きくなる…… ༽ 爆風と閃光が鎮まった後の須弥山はグズグズに綻び、血のように赤い断面で神経線維が揺らめいた。そしてエネルギー眼を直撃したはずのティグクは、フリスビーのように回転しながら帰還。僧侶が器用にキャッチすると、次の瞬間それはダイヤの埋め込まれた小さなホイッスルのような形状に変化していた。 ༼ だからあなたは、あくまでムナルから力を授かった事にしなさい。これを吹けばティグクが顕現する ༽ 「この笛は……『カンリン』ですか!?」 ༼ 本来のカンリンは大腿骨でできたもっと大きな物だけどな。元がダイヤにされてたから、復元はこれが限界だ ༽ カンリン、人骨笛。古来よりチベットでは、悪い人の骨にはその人の使っていない良心が残留していて、死んだ悪人の遺骨でできた笛を吹くと霊を鎮められるという言い伝えがあるんだ。 ༼ 悪人の骨は癒しの音色を奏で、悪魔の心臓は煩悩を菩提に変換する。それなら逆に……あの心優しかった男の遺骨は、どんな恐ろしい業火を吹くのだろうな? ༽ 顔を上げ、再び僧侶と目が合う。やっぱり彼は、和尚様の事を話している時は少し表情が穏やかになっているように見える。 ༼ ま、ムナルの弟子なら使いこなせるだろ。ところで、『鏡』はレモンじゃなくて『メロン』な? ༽ 「あっ、そうでしたね」 未だどこか悲しげな表情のままだけど、多少フランクになった気がする。恐らく、彼を見た最初は心臓バクバクだった私もまた同様だろう。 「じゃあ、一美……そろそろ、お帰ししてもいい……?」 だぶか打って変わって、玲蘭ちゃんはすっかり及び腰だ。まあそれは仕方ない。僧侶もこの気まずい状況を理解して、あえて彼女と目を合わさないように気遣っている。 「うん。……リンポチェ(猊下)、ありがとうございました」 「一美ちゃんの前世のお坊さん、ありがとー!」 ༼ 報恩謝徳、礼には及ばぬ。こちらこそ、良き未来を見せて貰った ༽ 「え?」 ༼ かつて拙僧を救った愛弟子が巣立ち、弟子を得て帰ってきた。そして今度は、拙僧があなたに報いる運びとなった ༽ 玲蘭ちゃんが帰還呪文を唱えるより前に、僧侶は自らこの寺院空間を畳み始めた。神経線維状のエネルギーが竜巻のように這い回りながら、景色を急速に無へ還していく。中心で残像に巻かれて消えていく僧侶は、最後、僅かに笑っていた。 ༼ 衆生と斯様にもエモい縁を結んだのは久しぶりだ。また会おう、ムナルそっくりに育った来世よ ༽
ལྔ་པ་
竜巻が明けた時、私達はニライカナイをすっ飛ばして宴会場に戻っていた。佳奈さんは泥だらけのサマードレスに戻っているけどオーラを帯びていて、玲蘭ちゃんの口の怪我は何故か完治している。そして私の手には新品のように状態の良くなったキョンジャクと、僅かな視神経の残滓をほつれ糸のように纏う小さなカンリンがあった。 「あー、楽しかった! 金城さん、お人形さんと再会させてくれてありがとうございました! 一美ちゃんも、あのお坊さんめっちゃ良い人で良かったね! 最後エモいとか言ってたし、実はパリピなのかな!? ……あれ、金城さん?」 佳奈さんが振り返ると同時に、玲蘭ちゃんは焦燥しきった様子で私の首根っこを掴んだ。今日は色んな人に掴みかかられる日だ。 「なんなの、あの前世は」 その問いに答える代わりに、私は和尚様の遺骨(カンリン)を吹いてみた。パゥーーーー……決して癒しの音色とは言い難い、小動物の断末魔みたいな音が鳴った。すると私の心臓に焼けるような激痛が走り、全身に煮えたぎった血が迸る! それが足元の影に到達点すると、カセットコンロが点火するように私の全身は業火に包まれた。この一連のプロセスは、実に〇.五秒にも満たなかった。 「そんなっ……その姿……!!」 変身した私を、玲蘭ちゃんは核ミサイルでも見るような驚愕の目で仰いだ。そうか。彼女がワヤン不動の全身をちゃんと見るのは初めてだったっけ。 「一美ちゃん! また変身できるようになったね! あ、前世さんの影響でまつ毛伸びた? いいなー!」 玲蘭ちゃんは慌ててスマホで何かを検索し、悠長に笑っている佳奈さんにそれを見せた。 「ん、ドマル・イダム? ああ、これがさっき話してた邪尊さん……え?」 二人はスマホ画面と私を交互に三度見し、ドッと冷や汗を吹き出した。憤怒相に、背中に背負った業火。私は最初、この姿は不動明王様を模したものだと思っていた。けど私の『衆生の苦しみを業火に変え成仏を促す』力、変身中の痛みや恐怖に対する異常なまでの耐久性、一睨みで他者を黙らせる眼圧、そしてさっき牛久大師に指摘されるまで意識していなかった、伸びた腕。これらは明らかに、抜苦与楽の化身ドマル・イダムと合致している! 「……恐らく、あの前世こそがドマルだ。和尚様は幼い頃の私を金剛から助けるために、文字通り彼を私の守護尊にしたんだと思う。でもドマルは和尚様に『救われた』と言っていた。邪尊教に囚われる前の人間の姿で、私達が来るまで安らかに眠っていたのが何よりの証拠だ。観世音菩薩が時として憤怒の馬頭観音になるように、眠れる抜苦与楽の化身に代わり邪道を討つ憤怒の化身。それが私……」 「ワヤン不動だったってわけ……ウケる」 ウケる、と言いつつも、玲蘭ちゃんはまるで笑っていなかった。私は変身を解き、キョンジャクのネックレスチェーンにカンリンを通した。結局ドマルと和尚様がどういう関係だったのか、未だにはっきりしていない。それでも、この不可思議な縁がなければ今の私は存在しないんだ。この新たな法具カンリンで皆を、そして御戌神や千里が島の人々も守るんだ。 私は紅一美。金剛観世音菩薩に寵愛を賜りし紅の守護尊、ワヤン不動だ。瞳に映る縁無き影を、業火で焼いて救済する!
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ひとみに映る影シーズン2 第五話「大妖怪合戦」
☆プロトタイプ版☆ こちらは無料公開のプロトタイプ版となります。 最低限の確認作業しかしていないため、 誤字脱字誤植誤用等々あしからずご了承下さい。 尚、正式書籍版はシーズン2終了時にリリース予定です。
(シーズン2あらすじ) 私はファッションモデルの紅一美。 旅番組ロケで訪れた島は怪物だらけ!? 霊能者達の除霊コンペとバッティングしちゃった! 実は私も霊感あるけど、知られたくないなあ…… なんて言っている場合じゃない。 諸悪の根源は恩師の仇、金剛有明団だったんだ! 憤怒の化身ワヤン不動が、今度はリゾートで炸裂する!!
pixiv版 (※内容は一緒です。) ☆キャラソン企画第五弾 後女津親子「KAZUSA」はこちら!☆
དང་པོ་
河童信者に手を引かれ、私達は表に出る。小学校は休み時間にも関わらず、校庭に子供達が一人もいない。代わりに何故か、島の屈強そうな男達が待ち構えていた。 「いたぞ! 救済を!」「救済を!」 「え、何……わあぁっ何を!?」 島民達は異様な目つきで青木さんを襲撃! 青木さんは咄嗟に振り払い逃走。しかし校外からどんどん島民が押し寄せる。人一倍大柄な彼も、多勢に組み付かれれば為す術もないだろう! 「助けて! とと、止まってください!!」 「「救済を……救済を……!」」 ゾンビのようにうわ言を呟きながら青木さんを追う島民達。見た限り明確な悪霊はいないようだけど、昨晩の一件然り。彼らが何らかの理由で正気を失っている可能性は高い! このままでは捕まってしまう……その時タナカDが佳奈さんにカメラを預け、荒れ狂う島民達と青木さんの間に入った! 「志多田さん、紅さん、先に行って下さい! ここは僕が食い止めゴハアァ!!」 タナカDに漁師風島民のチョークタックルが炸裂! 「タナカDーっ!」 「と……ともかく行け! 音はカメラマイクでいいから、ばっちり心霊収めてきて下さいよッ……!」 「い、行きましょう! ともかく大師が大変なんです!!」 河童信者に急かされ、私と佳奈さんは月蔵小学校を離れた。傾斜が急な亡目坂を息絶えだえに駆け上がると、案内された先は再び御戌神社。嫌な予感が募る。牛久大師は……いた。大散減を封印していた祠にだらりと寄りかかり、足を投げ出して座っている。しかも、祠の護符が剥がされている! 「んあー……まぁま、まぁまぁ……」 牛久大師は赤子のように指を咥え、私を見るなりママと呼び始めた。 「う……牛久大師?」 「この通りなのです。大師は除霊のために祠の御札を剥がして、そうしたら……き、急に赤ちゃんに……」 河童信者は指先が震えている。大師は四つん這いで私ににじり寄った。 「え、あの……」 「エヘヘ、まんまー! ぱいぱい! ぱいぱいチュッチュ!!」 大師が口をすぼめて更ににじり寄る。息が臭い。大師のひん剥いた唇の裏側にはビッシリと毛穴ような細孔が空いていて、その一粒一粒にキャビアみたいな黒い汚れが詰まっている。その余りにも気色悪い裏唇が大師の顔の皮を裏返すように広がっていき……って、これはまさか! 「ヒィィィッ! 寄るな、化け物!!」 私は咄嗟に牛久大師を蹴り飛ばしてしまった。今のは御戌神社や倶利伽羅と同じ、金剛の者に見える穢れた幻視!? という事は、大師は既に…… 「……ふっふっふっふ。かーっぱっぱっぱっぱっぱ!!」 突然大師は赤子の振りを止め、すくっと立ち上がった。その顔は既に平常時に戻っている。 「ドッキリ大成功ー! 河童の家でーす!」 「かーっぱっぱ!」「かっぱっぱっぱ!」 先程まで俯いていた河童信者も、堰を切ったように笑い出す。 「いやぁパッパッパ。一度でいいから、紅一美君を騙してみたかったのだ! 本気で心配してくれたかね?」 「かっぱっぱ!!」「かっぱっぱっぱぁーっ!!」 私が絶句していると、河童の家は殊更大きく笑い声を上げた。けどよく見���と、目が怯えている? 更には何故か地面に倒れたまま動かない信者や、声がかすれて笑う事すらままならない信者もいるようだ。すると大師はピタリと笑顔を止め、その笑っていない信者を睨んだ。 「……おん? なんだお前、どうした。面白くないか?」 大師と目が合った信者はビクリと後ずさり、泣きそうな声で笑おうと努力する。 「かかッ……かっぱ……かぱぱ……」 「面、白、く、ないのか???」 大師は更に高圧的に声を荒らげた。 「お前は普段きちんと勤行してるのか? 笑顔に勝る力無し。教祖の俺が面白い事を言ったら笑う。教義以前に人として当たり前のマナーだろ、エエッ!?」 「ひゃいぁ!! そそ、そ、その通りです! メッチャおもろかったです!!」 「面白かったんなら笑えよ!! はぁ、空気悪くしやがって」 すると大師は信者を指さし、「バーン」と銃を撃つ真似をする。 「ひいっ……え?」 「『ひいっ……え?』じゃねえだろ? 人が『バーン』っつったら傷口を抑えて『なんじゃカパあぁぁ!?』。常識だろ!?」 「あっあっ、すいません、すいません……」 「わかったか」 「はい」 「本当にわかったか? もっかい撃つぞ!」 「はい!」 「ほら【バーン】!」 「なんじゃッ……エッ……え……!?」 信者は大師が期待するリアクションを取らず、口から一筋の血を垂らして倒れた。数秒後、彼の腹部から血溜まりが静かに広がっていく。他の信者達は顔面蒼白、一方佳奈さんは何が起きたか理解できず唖然としている。彼は……牛久大師の脳力、声による衝撃波で実際に『銃殺』されたんだ。 「ああもう、下手糞」 「……うわああぁぁ!」「助けてくれーーっ!!」 信者達は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。すると大師は深くため息をつき、 「はあぁぁぁ……そこは笑う所だろうが……【カーッパッパァ】!!!」 再び特殊な声を発した。すると祠から大量の散減がワサワサと吹き出し、信者達を襲撃する! 「ボゴゴボーーッ!」「やめ、やめて大師、やめアバーーッ!」 信者達は散減に体を食い荒らされ、口に汚染母乳を注ぎこまれ、まさに虫に寄生された動物のようにもんどり打つ! 「どうだ、これが笑顔の力よ。かっぱっぱ!」 「牛久舎登大師! 封印を解いて、どうなるかわかってるんですか!?」 私は大師を睨みつける。すると大師は首をぐるりと傾け、私に醜悪な笑みを浮かべた。 「ん? 除霊を依頼された俺が札を剥がすのに何の問題がある? 最も、俺は最初(ハナ)からそうするつもりで千里が島に来たのだ」 「何ですって!?」 「コンペに参加する前から、千里が島には大散減という怪物がいると聞いていた……もし俺がそいつを除霊できれば、河童の家は全国、いや世界規模に拡大する! そう思っていたのだがな。封印を解いてみたら、少しだけ気が変わったよ……」 大師は祠を愛おしそうに撫で回す。 「大散減は俺を攻撃するどころか、法力を授けてくれた。この俺の特殊脳力『ホーミー』の音圧は更に強力になり、もはや信者の助けなどなくとも声で他人を殺せるほどにだ!」 信者達は絶望的な顔で大師を見ている。この男、どうやら大散減に縁を食われたようだ。怪物の悪縁に操られているとも気付かず、与えられた力に陶酔してしまったのだろう。 「もう除霊なんかやめだ、やめ。俺は大散減を河童総本山に連れて帰り、生き神として君臨してやる! だがその前に、お前と一戦交えてみたかったのだ……ワヤン不動よ!」 「!」 彼は再び私を『ワヤン不動』と呼んだ。しかもよりによって、佳奈さんの目の前で。 「え、一美ちゃん……牛久大師と知り合いなの……?」 「いいえ……い、一体、何の話ですか?」 「とぼけるな、紅一美君! 知っているぞ、お前の正体はワヤン不動。背中に影でできた漆黒の炎を纏い、脚まで届く長い腕で燃え盛る龍の剣を振るう半人半仏の影人間(シャドーパーソン)だ! 当然そこいらの霊能者とは比べ物にならない猛者だろう。しかも大いなる神仏に楯突く悪霊の眷属だと聞くが」 「和尚様を愚弄するな!」 あっ、しまった! 「一美ちゃん……?」 もう、全てを明かすしかないのか……私はついに、プルパに手をかけた。しかしその時、佳奈さんが私の腕を掴む。 「わかった、一美ちゃん逃げよう。今この人に関わっちゃダメ! 河童信者も苦しそうだし、きっと祠のせいで錯乱してるんだよ!」 「佳奈さん……」 佳奈さんは私を連れて鳥居に走った。けど鳥居周辺には何匹もの散減が待ち構えている! 「かぁーっぱっぱ、何も知らぬカラキシ小娘め! その女の本性を見よ!」 このままでは散減に襲われるか正体がばれるかの二択。それなら私の取るべき行動は、決まりきっている! 「佳奈さん、止まって!」 私は佳奈さんを抱き止め、足元から二人分の影を持ち上げた! 念力で光の屈折を強め、影表面の明暗コントラストを極限まで高めてから……一気に放出する! 「マバーッ!」「ンマウゥーッ!」 今は昨晩とは打って変わって快晴。強烈な光と影の熱エネルギーを浴びた散減はたちまち集団炎上! けど、これでついに…… 「かーっぱぱぱ!! ワヤン不動、正体暴いたり! さあ、これで心置き無く戦え「どうやら間に合ったようですね」 その時、鳥居の外から牛久大師の言葉を遮る声。そして、ぽん、ぽこぽん、と小気味よい小太鼓のような音。 「誰だ!?」 ぽんぽこ、ぽんぽこ、ぽん……それは化け狸の腹鼓。鳥居をくぐり現れた後女津親子は、私達と牛久大師の間に立ちはだかった! 「『ラスタな狸』が知らせてくれたんですよ。牛久舎登大師が大散減に取り憑かれて錯乱し、したたびさんに難癖をつけているとね。だが、この方々には指一本触れさせない」 「約束通り、手柄は奪わせてもらったよ。ぽんぽこぽーん!」 万狸ちゃんが私にウインクし、斉二さんはお腹をぽんと叩いてみせる。 「ええい、退け雑魚め! お前などに興味は【なあぁいッ】!!」 大師の声が響くと、祠がズルリと傾き倒れた。そこから今までで最大級のおぞましい瘴気が上がり、大師を飲み込んでいく! 「クアァーーッパッパッパァ! 力が……力がみなぎってくるくるクルクルグゥルゥゥゥアアアアア!!!!」 バキン、ボキン! 大師の胸部から肋骨が一本ずつ飛び出し、毛の生えた大脚に成長していく! 「な……なっ……!?」 それは霊感のない者にも見える物理的光景だ。佳奈さんは初めて目の当たりにした心霊現象に、ただただ腰を抜かす。しかし後女津親子は怯まない! 「逃げて下さい、と言いたいところですが……この島に、私の背中よりも安全な場所はなさそうだ」
གཉིས་པ་
斉一さんはトレードマークである狸マントの裾から、琵琶に似た弦楽器を取り出した。同時に彼の臀部には超自然の尻尾が生え、万狸ちゃんと斉二さんも臨戦態勢に入る。病院で加賀繍さんのおばさまを守っている斉三さんは不在だ。一方ついさっきまで牛久大師だった怪獣は、毛むくじゃらの細長い八本足に八つの顔。頂上にそびえる胴体は河童の名残の禿頭。巨大ザトウムシ、大散減だ! 【【退け、雑魚が! 化け狸なんぞに興味はない! クァーッパッパァアア!!!】】 縦横五メートル級の巨体から放たれる衝撃音! 同時に斉一さんもシャラランと弦楽器を鳴らす。すると弦の音色は爆音に呑み込まれる事無く神秘的に響き、私達の周囲のみ衝撃を打ち消した! 【何ィ!?】 「その言葉、そのままお返し致します。河童なんぞに負けたら妖怪の沽券に関わるのでね」 【貴様アァァ!!】 チャン、チャン、チャン、チャン……爪弾かれる根色で気枯地が浄化されていくように、彼の周囲の景色が色鮮やかになっていく。よく見るとその不思議な弦は、斉一さんの尻尾から伸びる極彩色の糸が張られていた。レゲエめいたリズムに合わせて万狸ちゃんがぽんぽこと腹鼓を打ち、斉二さんは尻尾から糸を周囲の木々や屋根に伝わせる。 【ウヌゥゥゥーッ!】 大散減は斉一さんに足払いを仕掛けた。砂利が撒き上がり、すわ斉一さんのマントがフワリと浮く……と思いきや、ドロン! 次の瞬間、私達の目の前では狸妖怪と化した斉一さんが、涼しい顔のまま弦をかき鳴らし続けている。幽体離脱で物理攻撃無効! 「どこ見てんだ、ノロマ!」 大散減の遥か後方、後女津斉一の肉体を回しているのは斉二さんだ! 木々に伝わせた糸を掴み、ターザンの如くサッサと飛び移っていく。そのスピードとテクニックは斉一さんや斉三さんには無い、彼だけの力のようだ。大散減は癇癪を起こしたように突進、しかし追いつけない! すると一方、腹鼓を打っていた万狸ちゃんが大散減に牙を剥く! 「準備オッケー。ぽーん、ぽっこ……どぉーーーん!!」 ドコドコドコドコドコドォン!!!! 張り巡らされた糸の上で器用に身を翻した万狸ちゃんは、無数の茶釜に妖怪変化し大散減に降り注ぐ! 恐竜も泣いて絶滅する大破壊隕石群、ブンブクメテオバーストだ!! 【ドワーーーッ!!!】 大散減はギャグ漫画的なリアクションと共に吹っ飛んだ! 樹齢百年はあろう立派な椎木に叩きつけられ、足が一本メコリとへし折れる。その傷口から穢れた縁母乳が噴出すると、大散減はグルグルと身を回転し飛沫を撒き散らした! 椎木枯死! 「ッうおぁ!」 飛び石が当たって墜落した斉二さんの後頭部に穢れ母乳が���かる。付着部位はまるで硫酸のように焼け、鼻につく激臭を放つ。 「斉二さん!」 「イテテ、マントがなかったら禿げるところだった」 【なんだとッ!? 貴様ァ! 河童ヘアを愚弄するなアアァ!】 再び起き上がる大散減。また何か音波攻撃を仕掛けようとしている!? 「おい斉一、まだか!」 「まだ……いや、行っちまうか」 ジャカジャランッ!! 弦楽器が一際強いストロークで奏でられると、御戌神社が極彩色に包まれた! 草花は季節感を無視して咲き乱れ、虫や動物が飛び出し、あらゆる動物霊やエクトプラズムが宙を舞う。斉一さんは側転しながら本体に戻り、万狸ちゃんも次の妖怪変化に先駆けて腹鼓を強打する! 「縁亡き哀れな怪物よ、とくと見ろ。この気枯地で生ける命の縁を!」 ジャカン!! ザワワワワ、ピィーッギャァギャァーッ! 弦の一弾きで森羅万象が後女津親子に味方し、花鳥風月が大散減を襲う! 千里が島の全ての命を踊らせる狸囃子、これが地相鑑定士の戦い方だ! 【【しゃらくせェェェェェエエエ!!】】 キイィィーーーーィィン! 耳をつんざく超音波! 満ち満ちていた動植物はパタパタと倒れ、霊魂達は分解霧散! 再び気枯た世界で、大散減の一足がニタリと笑い顔を上げると……目の前には依然として生い茂る竹藪の群青、そして大鎌に化けた万狸ちゃん! 「竹の生命力なめんなあああぁぁ!!!」 大鎌万狸ちゃんは竹藪をスパンスパンとぶった斬り、妖力で大散減に投げつける。竹伐狸(たけきりだぬき)の竹槍千本ノックだ! 【ドヘェーーー!!】 針山にされた大散減は昭和のコメディ番組のようにひっくり返る! シャンパン栓が抜かれるように足が三本吹き飛び、穢れ母乳の噴水が宙に螺旋を描いた! 「一美ちゃん、一瞬パパ頼んでいい?」 万狸ちゃんに声をかけられると、斉一さんが再び私達の前に戻ってきた。目で合図し合い、私は影を伸ばして斉一さんの肉体に重ねる。念力を送りこんで彼に半憑依すると同時に、斉一さんは化け狸になって飛び出した。 【【何が縁だクソが! 雑魚はさっさと死んで分解霧散して強者の養分になればいい、最後に笑うのは俺だけでいいんだよ! 弱肉強食、それ以外の余計な縁はいらねぇだろうがああァーーッ!!!】】 大散減は残った四本足で立ち上がろうとするが、何故かその場から動けない。よく見ると、大散減の足元に河童信者達がしがみついている! 「大師、もうやめてくれ!」 「私達の好きだった貴方は、こんなつまらない怪物じゃなかった!」 「やってくれ、狸さん。みんなの笑顔の為にやってくれーーーッ!!」 【やめろ、お前ら……死に損ないが!!】 大散減はかつての仲間達を振り飛ばした。この怪物にもはや人間との縁は微塵も残っていないんだ! 「大散減、許さない!」 ドォンッ! 心臓に響くような強い腹鼓を合図に、万狸ちゃんに斉一さんと斉二さんが合体する。すると全ての霊魂や動植物を取り込むような竜巻が起こり、やがて巨大な生命力の塊を形成した。あれは日本最大級の狸妖怪変化、大(おっ)かむろだ! 「どおおぉぉぉおおん!!!」 大かむろが大散減目掛けて垂直落下! 衝撃で地が揺れ、草花が舞い、カラフルな光の糸が空を染める!! 【【やめろーーっ! 俺の身体が……力がァァァーーーッ!!!】】 質量とエーテル体の塊にのしかかられた大散減はブチブチと音を立て全身崩壊! 残った足が一本、二本と次々に潰れていく。 【【【ズコオオォォォォーーーーー!!!!】】】 極彩色の嵐が炸裂し、私は爆風から佳奈さんを庇うように抱きしめる。轟音と光が収まって顔を上げると、そこには元通りに分かれた後女津親子、血や汚れにまみれた河童信者、そして幾つもの命が佇んでいた。
གསུམ་པ་
「一美ちゃーーん!」 戦いを終えた万狸ちゃんが私に飛びついた。支えきれず、尻餅をつく。 「きゃっ!」 「ねえねえ、見た? 私の妖術凄かったでしょ!?」 「こら、万狸! 紅さんに今そんな事したら……」 斉一さんがちらっと佳奈さんに視線を向けた。万狸ちゃんは慌てて私から離れ、「はわわぁ! 危ない危ない~」と可愛く腹鼓を叩いた。私も横を見ると、幸い佳奈さんは目を閉じて何か考えているようだった。 「佳奈さん?」 「……そうだよ、怪物は『五十尺』……気をつけて、大散減まだ死んでないかも!」 「え!?」 その時、ズガガガガガ! 地面が激しく揺れだす。後女津親子は三人背中合わせになり周囲を警戒。佳奈さんがバランスを崩して転倒しそうになる。抱きとめて辺りを見渡すと、祠と反対側の手洗い場に煙突のように巨大な柱が天高く突き上がった! 柱は元牛久大師だったご遺体をかっさらって飲み込む。咀嚼しながらぐにゃりと曲がり、その先端には目のない顔。まさか、これは…… 「大散減の……足!」 「ちょっと待って下さい。志多田さん……『大散減は五十尺』と仰いましたか!?」 斉一さんが血相を変えて聞く。言われてみれば、青木さんもそんな事を言っていた気がする。 「あの、こんな時にすいません。五十尺ってどれくらいなんですか?」 「「十五メートルだよ!!」」 「どえええぇぇ!?」 恥ずかしい事に知らないのは私とタナカDだけだったようだ。にわかには信じ難いけど、体長十五メートルの怪物大散減は、地中にずっと潜んでいたんだ! その寸法によると、牛久大師が取り込んでいた力は大散減の足一本程度にも満たない事になる。ところが、大師を飲み込んだ大散減の足はそのまま動かなくなった。 「あ……あれ?」 万狸ちゃんは恐る恐る足に近付き観察する。 「……消化不良かな。封印するなら今がチャンスみたい」 斉一さんと斉二さんは尻尾の糸の残量を確認する。ところがさっきの戦闘で殆ど使い果たしてしまっていたようた。 「参ったな……これじゃ仮止めの結界すら張れないぞ」 「斉三さんを呼んでくるよ、パパ。ちょっと待ってて!」 万狸ちゃんが亡目坂へ向かう。すると突然斉一さんが呼び止めた。 「止まれ、万狸!」 「え?」 ボタッ。振り向いた万狸ちゃんの背後で何かが落下した。見るとそれは……まだ赤い血に濡れた人骨。それも肋骨だ! 「ンマアアアァァゥゥゥ!!!」 「ち、散減!?」 肋骨は金切り声を上げ散減に変化! 万狸ちゃんが慌てて飛び退くも、散減は彼女を一瞥もせず大散減のもとへ向かう。そしてまだ穢れていない母乳を口角から零しながら、自ら大散減の口の中へ飛びこんでいった。 「一美ちゃん、狸おじさん、あれ!」 佳奈さんが上空を指す。見上げるとそこには、宙に浮かぶ謎の獣。チベタンマスティフを彷彿とさせる超大型犬で、毛並みはガス火のように青白く輝いている。ライオンに似たたてがみがあり、額には星型の中央に一本線を引いたような記号の霊符。首には首輪めいて注連縄が巻かれていて、そこに幾つか人間の頭蓋骨があしらわれている。目は白目がなく、代わりにまるで皆既日蝕のような光輪が黒い眼孔内で燦然と輝く。その獣が鮮血滴る肋骨を幾つも溢れるほど口に咥え、グルグルと唸っているんだ。私と佳奈さんの脳裏に、同じ歌が思い浮かぶ。 「誰かが絵筆を落としたら……」 「お空で見下ろす二つの目……月と太陽……」 今ようやく、あの民謡の全ての意味が明らかになった。一本線を足した星型の記号、そして大散減に危害を加えると現れる、日蝕の目を持つ獣。そうだ。千里が島にいる怪物は散減だけじゃない。江戸時代に縁を失い邪神となった哀れな少年、徳川徳松……御戌神! 「ガォォォ!!」 御戌神が吠え、肋骨をガラガラと落とした。肋骨が散減になると同時に御戌神も垂直降下し万狸ちゃんを狙う! 「万狸!」 すかさず斉二さんが残り僅かな糸を伸ばし、近くの椎木の幹に空中ブランコをかけ万狸ちゃんを救出。但しこれで、後女津親子の妖力残量が尽きてしまった。一方御戌神は、今度は斉一さんを狙い走りだす! 一目散に逃走しても、巨犬に人間が追いつけるわけもなし。斉一さんは呆気なく押し倒されてしまった�� 「うわあぁ!」 「パパ!!」 斉一さんを羽交い締めにした御戌神は大口を開く! 今まさに肋骨を食いちぎろうとした、その時……御戌神の視界を突如闇が覆う! 「グァ!?」 御戌神は両目を抑えてよろめく。その隙に斉一さんは脱出。佳奈さんが驚愕した顔で私を見る……。 「斉一さん、斉二さん、万狸ちゃん。今までお気遣い頂いたのに、すみません……でももう、緊急事態だから」 私の影は右手部分でスッパリと切れている。御戌神に目くらましをするために、切り取って投げたんだ。 「じゃ、じゃあ一美ちゃんって、本当に……」 「グルアァァ!!」 佳奈さんが言いかけた途中、私は影を介して静電気のような痛みを受ける。御戌神は自力で目の影を剥がしたようだ。それが出来るという事は、彼も私と同じような力を持っているのか? 「……大師の言ったことは、三分の一ぐらい本当です」 御戌神が私に牙を剥く! 私はさっき大師の前でやった時と同じように、影表面の光の屈折率を上げる。表面は銀色の光沢を帯び、瞬く間に鏡のようになる。 「ガルル……!」 この『影鏡』で御戌神を取り囲み撹乱しつつ、ひとまず佳奈さん達から離れる。けど御戌神はすぐに追ってくるだろう。 「ワヤンの力は影の炎。魂を燃やして、悪霊を焼くんです」 逃げながら木や物の影を私の姿に整形、『タルパ』という法力で最低限動き回れるだけの自立した魂を与える。 「けど、その力は本当に許してはいけない、滅ぼさなきゃいけない相手にしか使いません。だぶか私には、そう��もしなきゃいけない敵がいるって事です」 ヴァンッと電流のような音がして、御戌神が影鏡を突破した。私は既に自分にも影を纏い、傍目には影分身と見分けがつかなくなっている。けど御戌神は一切迷いなく、私目掛けて走ってきた。 「霊感がある事、黙っていてすみませんでした。けど私に僅かでも力がある事が公になったら、きっと余計な災いを招いてしまう」 それは想定内だ。走ってくる御戌神の前に影分身達が立ちはだかり、全員同時自爆! 無論それは神様にとって微々たるダメージ。でも隙を作るには十分な火力だ。御戌神の背後を取り、『影踏み』で完全に身動きを封じる! 「佳奈さんは特に、巻き込みたくなかったんです……きゃっ!?」 突然御戌神が激しく発光し、影踏みの術をかき消した。影と心身を繋いでいた私も後方に吹き飛ばされる。ドラマや舞台出演で鍛えたアクションで何とか受身を取るも、顔を上げると既に御戌神は目の前! 「……え?」 私はこの時初めてちゃんと目が合った御戌神に、一瞬だけ子犬のように切なげな表情を見た。この戌……いや、この人は、まさか…… 「ガルルル!」 「くっ」 牙を剥かれて慌てて影を持ち上げ、気休めにもならないバリアを張る。ところが御戌神は意外にも、そんな脆弱なバリアにぶち当たって停止してしまった。私の方には殆ど負荷がかかっていない。よく見ると御戌神とバリアの間にもう一層、光の壁のようなものがあるのが見える。やっぱり彼は私と同じ……いや、逆。光にまつわる力を持っているようだ。 「あなた、ひょっとして……本当は戦いたくないんですか?」 「!」 一瞬私の話に気を取られた御戌神は、光の壁に押し戻されて後ずさった。日蝕の瞳をよく見ると、月部分に覆われた裏側で太陽の瞳孔が物言いたげに燻っている。 「やっぱり、大散減の悪縁に操られているだけなんですね」 私も彼と戦いたくない。だからまだプルパは鞄の中だ。代わりに首にかけていたお守り、キョンジャクのペンダントを取った。御戌神は自らの光に苦しむように、唸りながら地面を転がり回る。 「グルル……ゥウウウ、ガオォォ!!」 光を振り払い、御戌神は再び私に突進! 私も御戌神目掛けてキョンジャクを投げる。ペンダントヘッドからエクトプラズム環が膨張し、投げ縄のように御戌神を捕らえた! 「ギャウッ!」 御戌神はキョンジャクに縛られ転倒、ジタバタともがく。しかし数秒のうちに、憑き物が取れたように大人しくなった。これは気が乱れてしまった魂を正常に戻す、私にキョンジャクをくれた友達の霊能力によるものだ。隣にしゃがんで背中を撫でると、御戌神の目は日蝕が終わるように輝きを増していく。そこからゆっくりと、煤色に濁った涙が一筋流れた。 「ごめんなさい、苦しいですよね。ちょっと大散減を封印してくるので、このまま少し我慢できますか?」 御戌神は「クゥン」と弱々しく鳴き、微かに頷いた。私は御戌神の傍を離れ、地面から突き出た大散減の足に向かう。 「ひ、一美ちゃん!」 突然佳奈さんが叫ぶ。次の瞬間、背後でパシュン! と破裂音が鳴った。何事かと思い振り向くと、御戌神を拘束していたキョンジャクが割れている。御戌神は黒い煙に纏わりつかれ、息苦しそうに体をよじりながら宙に浮き始めた。 「カッ……ガァ……!」 御戌神の顔色がみるみる紅潮し、足をバタつかせて苦悶する。救出に戻ろうと踵を返すと、御戌神を包む黒煙がみるみる人型に固まっていき…… 「躾が足りなかったか? 生贄は生贄の所業を全うしなければならんぞ」 そこには黒い煙の本体が、人間の皮膚から顔と局部だけくり抜いた肉襦袢を着て立っていた。それを見た瞬間、血中にタールが循環するような不快感が私の全身を巡った。 「え、ひょっとしてまた何か出てきたの!?」 「……佳奈さん、斉一さんと一緒に逃げて下さい。噂をすれば、何とやらです」 佳奈さんに見えないのも無理はない。厳密にはその肉襦袢は、死体そのものじゃなくて故人から奪い取った霊力でできている。亡布録(なぶろく)、金剛有明団の冒涜的エーテル法具。 「噂をすればってまさか、一美ちゃんが『絶対に滅ぼさなきゃいけない相手』がそこに……っ!?」 圧。悪いが佳奈さんは視線で黙らせた。これからこの神社は、灼熱地獄と化すのだから。 「い、行こう、志多田さん!」 斉一さん達は佳奈さんや数人の生き残った河童信者を率いて神社から退散した。これで境内に残ったのは、私と御戌神と黒煙のみ。しかし…… 「……どうして黒人なんだ?」 私は黒煙に問いかけた。 「ん?」 「どうして肉襦袢の人種が変わったのかと聞いているんだ。二十二年前、お前はアジア人だっただろう。前の死体はどうした」 「……随分と昔の話をするな、裏切り者の巫女よ。貴様はファッションモデルになったと聞くが、二十年以上一度もコーディネートを変えた事がないのかね?」 煙はさも当然といった反応を返す。この調子なら、こいつは服を買い換える感覚で何人もの肉体や魂を利用していたに違いない。私の、和尚様も。この男が……悪霊の分際で自らを『如来』と名乗り、これまで数え切れない悪行を犯してきた外道野郎が! 「金剛愛輪珠如来(こんごうあいわずにょらい)ィィィーーーッ!!!!」 オム・アムリトドバヴァ・フム・パット! 駆け出しながら心中に真言が響き渡り、私はついに鞄からプルパを取り出す! 憤怒相を湛える馬頭観音が熱を持ち、ヴァンと電磁波を発し炎上! 暗黒の影炎が倶利伽羅龍王を貫く刃渡り四十センチのグルカナイフに変化。完成、倶利伽羅龍王剣! 「私は神影不動明王。憤怒の炎で全てを影に還す……ワヤン不動だ!」 今度こそ、本気の神影繰り(ワヤン・クリ)が始まる。
བཞི་པ་
殺意煮えくり返る憤怒の化身は周囲の散減を手当り次第龍王剣で焼却! 引火に引火が重なり肥大化した影の炎を愛輪珠に叩き込む! 「一生日の当たらない体にしてやる!!」 「愚かな」 愛輪珠は業火を片手で易々と受け止め、くり抜かれた顔面から黒煙を吐出。たちまち周囲の空気が穢れに包まれ、炎が弱まって……いく前に愛輪珠周辺の一帯を焼き尽くす! 「ぐわあぁぁ、やめろ、ギャアアァアガーーーッ!!!」 猛り狂う業火に晒され龍王剣が激痛に叫んだ! しかし宿敵を前にした暴走特急は草の根一本残さない! 「かぁーーっはっはっはァ! ここで会ったがお前の運の尽きよ。滅べ、ほおぉろべえええぇーーーっ!!!」 殺意、憎悪、義憤ンンンンッ! しかし燃え盛る炎の中、 「まるで癇癪を起こした子供だ」 愛輪珠は平然と棒立ちしている。 「どの口が言うか、外道よ! お前が犯してきた罪の数々を鑑みれば癇癪すら生ぬるい。切り刻んだ上で煙も出ないほど焼却してくれようぞおぉぉ!!」 炎をたなびかせ、愛輪珠を何度も叩き斬る! しかし愛輪珠は身動ぎ一つせず、私の攻撃を硬化した煙で防いでしまう。だから何だ、一回で斬れないなら千回斬ればいい! 人生最大の宿敵を何度も斬撃できるなんて、こんなに愉快な事が他にあるだろうか!? 「かぁーはははは! もっと防げ、もっとその煙を浪費するがいい! かぁーはっはっはァ!!」 「やれやれ、そんなにこの私と戯れたいか」 ゴォッ! 顔の無い亡布録から煙が吹き出す。漆黒に燃えていた視界が一瞬にして濁った灰色で染まった。私はたちまち息が出来なくなる。 「ぐ、ァッ……」 酸欠か。これで炎が弱まるかと思ったか? 私の炎は影、酸素など不要だ! 「造作なし!」 意地の再炎上! だぶか島もろとも焼き尽くしてやる…… 「ん?」 シュゴオォォン、ドカカカカァン!! 炎が突然黄土色に変わり、化学反応のように爆ぜた! 「な……カハッ……」 「そのような稚拙な戦い方しか知らずに、よく金剛の楽園に楯突こうと思ったな。哀れな裏切り者の眷族よ」 「だ、黙れ……くあううぅっ!」 炎とはまるで異なる、染みるような激痛が私の体内外を撫で上げる。地面に叩きつけられ、影がビリビリと痙攣した。かくなる上は、更なる火力で黄土色の炎を上書きしないと…… 「っ!? ……がああぁぁーーっ!!」 迂闊だった。新たな炎も汚染されている! 「ようやく大人しくなったか」 愛輪珠が歩み寄り、瀕死の私の頭に恋人のようにぽんぽんと触れる。 「やめろ……やめろおぉ……!」 全身で行き場のない憤怒が渦巻く。 「巫女よ。お前は我々金剛を邪道だとのたまうが、我々金剛の民が自らの手で殺生を犯した事はないぞ」 「ほざけ……自分の手を汚さなければ殺生ではないだと……? だからお前達は邪道なんだ……!」 煮えくり返った血液が、この身に炎を蘇らせる。 「何の罪もない衆生に試練と称して呪いをかけ、頼んでもいないのに霊能力を与え……そうしてお前達が造り出した怪物は、娑婆で幾つもの命を奪う。幾つもの人生を狂わせる! これを邪道と言わずして何と言えようか、卑怯者!」 「それは誤解だ。我々は衆生の為に、来たる金剛の楽園を築き上げ……」 「それが邪道だと言っているんだ!」 心から溢れた憤怒はタールのような影になって噴出する! 汚染によって動かなくなった体が再び立ち上がる! 「そこで倒れている河童信者達を見ろ。彼らは牛久大師を敬愛していた。大師が大散減に魅了されたのは、確かに自己責任だったかもしれない。だがそもそも、お前達があんな怪獣を生み出していなければこんな事にはならなかった。徳川家の少年が祟り神になる事だってなかった!!」 思い返せば思い返すほど、影はグラグラと湧き出る! 「かつてお前に法具を植え付けられた少年は大量殺人鬼になり、村を一つ壊滅させた。お前に試練を課せられた少女は、生まれた時から何度も命の危機に晒され続けた。それに……それに、私の和尚様は……」 「和尚? ……ああ。あの……」 再点火完了! 影は歪に穢れを孕んだまま、火柱となり愛輪珠を封印する! たとえ我が身が消し炭になろうと、こいつだけは滅ぼさなければならないんだ! くたばれ! くたばれえええぇぇぇえええ!!! 「……あの邪尊(じゃそん)教徒の若造か」 「え?」 一瞬何を言われたか理解できないまま、気がつくと私は黄土色の爆風に吹き飛ばされていた。影と内臓が煙になって体から離脱する感覚。無限に溢れる悔恨で心が塗り固められる感覚。それはどこか懐かしく、まるで何百年も前から続く業のように思えた。 「ぐあっ!!」 私は壊れかけの御戌塚に叩きつけられる。耳の中に全身が砕ける音が響いた。 「ほら見ろ、殺生に『手を汚さなかった』だろう? それにしてもその顔は、奴から何も聞かされていないようだな」 「かっ……ぁ……」 黙れ。これ以上和尚様を愚弄するな。そう言いたかったのに、もはや声は出ない。それでも冷めやらぬ怒りで、さっきまで自分の体だった抜け殻がモソモソと蠢くのみ。 「あの男は……金剛観世音菩薩はな……」 言うな。やめろ。そんなはずはないんだ。だから…… 「……チベットの邪神、ドマル・イダムを崇拝する邪教の信者だ」 嘘だ。……うそだ。 「あっ……」 「これは金剛の法具だ。返して貰うぞ」 愛輪珠に龍王剣を奪われた。次第に薄れていく僅かな影と意識の中、愛輪珠が気絶した御戌神を掴んで去っていく姿を懸命に目で追う。すると視野角外から……誰かが…… 「一美ちゃん、一美ちゃーん!」 「ダメだ志多田さん、危険すぎる!」 佳奈さん……斉二……さん…… 「ん? 無知なる衆生が何故ここに……? どれ、一つ金剛の法力を施してやろうか」 逃……げ…… 「ヒッ……いぎっ……うぷ……」 「成人がこれを飲み込むのは痛かろう。だが衆生よ、これでそなたも金剛の巫女になれるのだ」 や…………ろ………… 「その子を離せ、悪霊……ぐッ!? がああぁぁああああッ!!!!」 「げほ、オエッ……え……? ラスタな、狸さん……?」 ……………… 「畜生霊による邪魔が入ったか。衆生の法力が中途半端になってしまった、これではこの娘に金剛の有明は訪れん」 「嘘でしょ……私を、かばってくれたの……!?」 「それにしてもこの狸、いい毛皮だな。ここで着替えていこう」 「な、何するの!? やめてよ! やめてえぇーーーっ!!」 ………………もう、ダメだ……。
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