Tumgik
72milky · 5 months
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吉朗が結花を好きじゃないというだかで、その事実ひとつで結花を打ちのめしているのだから、同じだけ自分も吉郎を痛めつけたくなる。
澄ました顔してんと思い知ってよ。
わたしの痛みを、悲しみを、怒りを。
それでわたしを木南くんの特別にして。
こんな凶暴な身勝手さを、果たして愛情と呼べるのだろうか。
砂嵐に星屑 / 一穂ミチ
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72milky · 2 years
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一年かけて何もできんやつは、何年かかっても何もできんばい。
手のひらの楽園
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72milky · 2 years
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郁子がいつも目の前にいると思っている楠は、実は硝子を隔ててそこにいるのだった。
のみならず今では楠が、この硝子の水槽の外側にいるのだった。彼は水槽の中を泳ぎまわる一匹の美しい熱帯魚の孤独な生態を観察していた。
その透明でなよやかな鰭の揺動を、その遊泳の曲折の定めなさを、藻の葉かげに横たわるそのまどろみを、楠は科学者の態度、科学者に特有なあの客観的な情熱の態度で観察した。
このような情熱は、彼にとって快楽であったろうか?
むしろ苦痛に似ていたのではなさろうか?
まるで一方的な拷問のように見えながら、どこかに愛が存在する以上、それはやっぱり「苦しめ合い」だ。
純白の夜 161
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72milky · 2 years
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私は自分のさびしさを認めるのが死んでもいやでした。自分をさびしい女と思うことが、絶対にいやでした。私はもともと、さびしい女なんかになるために生まれてきたのではないのですものね。
私、何で自分がさびしいのか、その理由を探さなくては気がちがいそうだった。
あなた方の結婚が、はっきりその理由を与えてくれたように思い込んでしまった。
でも、私ってバカなのね。さびしさの本当の深い根は自分の中にしかないことに気がつかなかったのか。
鳥のいない鳥籠は、さびしいでしょう。でも、それを鳥籠のせいにするのはばかげているわね。鳥籠をゴミ箱へ捨ててもムダというものね。鳥がいないことには変わりがないんですから。
女は人のいない野原みたいなものを自分の中に持っている。男は、その野原の上を歩いて、悲壮がって、孤独だ孤独だなんて言っているにすぎない、と思うのよ。
夜会服 / 三島由紀夫
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72milky · 3 years
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人格こそは金よりも階級よりも知性よりも美よりもすぐれた持ち物である
続 若草物語 229
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72milky · 3 years
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だから私が気付いているのは、ちゃんと覚醒をしているのは、今しかない。
今しかこの恋の真の価値は分からない。
人は忘れる生き物だと、だからこそ生きていられると知っていても、身体じゅうに刻みこみたい。
一生に一度の恋をして、そして失った時点で自分の稼働を終わりにしてしまいたい。
二度と、他の人を、同じように愛したくなんかない。
ひらいて / 綿矢りさ
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72milky · 3 years
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私は一生のうち、どれくらいの数の人を好きになるのだろう。
たとえを忘れて、また違う好きな人ができて、大人になった私とやらは " あの頃は思いつめてた。でもいまはすっかり吹っ切れて元気 " なんて言って笑うのか。
だとすれば、そのときの私はゼロだ。ゼロだけど、なんとか生き続けるために、千の言い訳を並べているだけ。
でも、と私はこわくなり枕をかき抱く。
そのときが来れば、まさか自分が言い訳を言っているだなんて、きっとまったく気づかない。
むしろ、私は乗り越えた、と誇らしげに新しい生活を送るに違いない。
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72milky · 3 years
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1ミリの勝負だ。たった1ミリ動かすだけで美が生まれ、たった1ミリずれるだけで美が消える。
標準は、だれの瞳にも宿るまっすぐでなにもかも焼切るほどの鉄線。
ぴんと張りつめた極細の線に限りなく近づくためには、死にもの狂いの努力が必要だ。
鉄線にぴたりと重なり合うのが不可能でも、少なくともこれ以上は絶対にぶれたくないし、ぎ��ぎりまね近づかせることが夢。
最終的に鉄線にぴたりと重なり合い、あまりの高温に一瞬で焼け落ちて煙となり、この世から消えることななっても、私は追求し続けたい。
ひらいて / 綿矢りさ
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72milky · 3 years
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異性としてだけ求められたら失望するのに、異性としての価値も見出してもらえないと不安になる。
星のように離れて雨のように散った / 島本理生
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72milky · 4 years
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「そうね、人の気持ちを理解するのはとても難しいね。
でも、えりこちゃん、ママみたいに何も言わなくても全部分かってくれる女の人なんて、いつもにこにこして自分から動いてくれる女の人なんて、この世界にはどこにも居ないのよ。
それをちゃんと教えてあげればよかったのよね。友達は家族ではないのよ」
友達とは家族以上のものである、とどこかで信じ込んでいた。
考えてみれば、家族ともすれ違っていた自分が、それ以上のものを得られるわけはないのに。
ここに居る母と本当の意味で友達になれない限り、自分には友達など永遠に出来ないのではないか。
そのためには、たぶん距離が必要なのだろう。
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72milky · 4 years
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一番身近な同性である母の心情さえ理解していなかった。自分に女友達がいないのは、両親の育て方に問題があったというやり、えりこが両親の心情を想像してこなかったからではないだろうか。
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72milky · 4 years
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いつの間にか、自分がどう思うかより、他人にどう思われるかの方が重要になっていた。
自分の胸に留めておくべき感情や意見を世界に発信し、点数をつけてもらうことにやっきになって、目の前の夫婦生活や季節の移り変わりをないがしろにしていたのだ。
同性に受け入れられることや本を出すこと、主婦の意識を改革し、ひとかどの人物になることなど、もうどうでもいい。
そもそも、そんなことになんの興味もない。
自分には賢介とのささやかな時間が何よりも大切だ。痛い目に遭って、それがよく分かった。
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72milky · 4 years
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自分は自分にしかなれない。痛くてカッコ悪い今の自分を、理想の自分に近づけることしかできない。
みんなそれをわかってるから、痛くてカッコ悪くたってがんばるんだよ。カッコ悪い姿のままあがくんだよ。
それ以外に、私に残された道なんてないからだよ。
その方法から逃げてしまったらもう、他に選択肢なんてないんだから。
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72milky · 4 years
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生きていくことって、きっと、自分の線路を一緒に見てくれる人数が変わっていくことだと思うの。
今までは一緒に暮らす家族がいて、同じ学校に進む友達がいて、学校には先生がいて。
常に、自分以外に、自分の人生を一緒に考えてくれる人がいた。
学校を卒業するって言っても、家族や先生がその先の進路を一緒に考えてくれた。
いつだって、自分と全く同じ高さ、角度で、この先の人生の線路を見てくれる人がいたよね。
これからは、自分を育ててくれた家族を出て、自分で新しい家族を築いていく。
そうすれば、一生を共にする人ができて、子供ができて、また、自分の線路を一緒に見てくれる人が現れる。
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72milky · 4 years
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私たちはもう、たったひとり、自分だけで、自分の人生を見つめなきゃいけない。
一緒に線路の先を見てくれる人はもう、いなくなったんだよ。
進路を考えてくれる学校の先生だっていないし、私たちはもう、私たちを産んでくれたときの両親に近い年齢になってる。
もう、育ててもらうなんていう考え方ではいられない。
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72milky · 4 years
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十点でも二十点でもいいから、自分の中から出しなよ。自分の中から出さないと、点数さえつかないんだから。
これから目指すことをきれいな言葉でアピールするんじゃなくて、これまでやってきたことをみんなに見てもらいなよ。
自分とは違う場所を見てる誰かの目線の先に、自分の中のものを置かなきゃ。
何度も言うよ。そうでもしないともう、見てもらえないんだよ、私たちは。
百点になるまで何かを煮詰めてそれを表現したって、あなたのことをあなたと同じように見ている人はもういないんだって。
何者
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72milky · 4 years
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ほんの少しの言葉の向こうにいる人間そのものを、想像してあげろよ、もっと。
何者
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