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apisvoice · 5 years
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nmn ちいさな本屋 かすかな光
nmn(ノマノ):野間久美子
インタビュー・文/小鳩ケンタ 写真/大岡由和
2019.12.27
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本は果てしないもの、難解なもの
ーー「本」について最初に聞きたいんですけど、松岡正剛さんって知ってますよね?(松岡正剛:編集者、著述家。並はずれた読書家で知られる。)
野間:はい。
ーーどう思いますか?
野間:(笑)いきなり、、。
ーー無茶振りインタビュー始まりですよ。
野間:松岡正剛さんをはじめて知ったのは、中高一貫の学校で図書館の司書として働いていた時に、司書の先輩に教えてもらって知りました。
ーー松岡正剛さんの本を?
野間:いえ、存在自体を。その時に触れた本で、『17歳のための世界と日本の見方』というのがあって、中高生向きなのに、私には難しいところもあったんですけど、すごく面白かったんですよ。
ーー野間さんて、たまに話を聞くと「私は読書家じゃない」って言いますけど、やっぱり僕から見ると本は読んできた人に見えるんですね。まず「本」ってどういうものと思ってきましたか。
野間:本は、果てしないもの、難解なもの、そういうイメージがあって。時間をかけて作られたものであったり、ずっと残っていくもの。
ーーウェブみたいに、基本的に流されていくという前提で作られていないと。
野間:「確かに在るもの」なんだろうなと。
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本と花を贈り合う日に
ーー移動式であれ何であれ、本屋をやろうと思ったきっかけは何ですか? 世当たりも得意そうじゃないのに(笑)。人と触れ合わなきゃいけないし、自分の苦手なことを含んでる予感が最初からあったはずなんですけど。
野間:ありがたいことに、そういう機会をもらった感じです。
ーー誰からもらいました?
野間:『微花』(かすか)、植物の写真絵本をつくる2人から。
ーー今回(2020年2月に行う展示)のフライヤーのデザインをしてる方ですね。
野間:はい。
ーーちなみに、nmn は創業何年?
野間:nmn(ノマノ)っていう名前をはじめて付けたのは、2017年の4月に、微花のお2人にサンジョルディの日のイベントに「本屋で出しませんか?」って声をかけてもらってから。サンジョルディの日は、本とお花を贈り合う日なので。
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読書家はじまりではない
野間:2017年に、私は大学院に1年間行ってたんです。専攻は図書館情報学で。大学を卒業してすぐ大学院に行ったんですけど、1年でやめちゃって、2017年に行ったときも結局1年でやめたのですが。2度行ってやっと分かるんですけど、結局、大学の時のゼミの先生がすごく好きだったんです。すらっとしてバシッと新しい見解や指摘をくれる女性だったんですけど。その先生と出会わなかったら図書館情報学を学ぶこともなかっただろうし、のちに本の活動をしたいと思わなかったと思うんです。
ーー現在の活動と図書館情報学はかなりつながっていると。
野間:すごくそう思います。
ーー図書館情報学というのがあるんですね、学問として。ざっくり言うとどういうものなんですか?
野間:私、説明がすごい下手なんですけど(ブツブツ)図書館って館種が色々あるんですけど、それぞれ役割が違うんです。例えば学校の図書館だったら子どもの教育との関わりが重要で。読書をする場所でもあるけど、情報を提供する場所としての図書館。いちばん私が関心があったのはそこですね。
ーーふむふむ。
野間:私、大学の時にはじめて文献を検索してまとめることの魅力を感じて、もっと早くに知っていたらよかったなって思ったんです。だから、子ども達にもいろんな情報を集めて整理し、そこから考察していく魅力を伝えていけたらいいなと。そういう図書館ができたらいいなって考えていました。
野間:読書家はじまりではないっていうのは、こういう流れがあったからです。
ーーなるほどね。読書が好きで本屋に至ったんではなくてね、社会資源の提供みたいなのに興味があったということですね。
野間:そうかなと。
ーー野間さんのやってる活動の、清潔感みたいなのを感じるのはそういうところかも知れない。
野間:で、実際現場で働くんですけど、なんか違和感がずっとあったんです。見せ方とかもそうだし。そこを変えられるほど、自分には力が無かったんですけど。
ーーそこの体力は無いよね。
野間:ねへへ(笑)。
野間:合わせて3年くらい働いたのかな、図書館では。
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nmn 企画の展示をする
ーーちなみに、(2月に開催するnmn企画のグループ展の)展示名は決まりました?
野間:迷ってるんですけど、、。これで本当にいいのかなという迷いです。
ーーフライヤーのデザイナーさんには相談した?
野間:言ってない(笑)。
ーー(笑)今日、12月27日ですよ。相変わらず予定が押している安定の野間さん。
ーータイトルは?
野間:タイトル、、「point」っていうんですけど。
ーーお、意外。
野間:意外ですか? 最初にね、nmnのインスタグラムのアカウントを作った時に、紹介文みたいなのを書いたんです。その中に「点」ていうテーマがあってね。私がよくやっていることに、本の中から一文を抜き出して提示するのがあるんですけど。
ーーうん。
野間:その抜粋って、本の中の点じゃないですか。
ーーイメージ上の点ね。
野間:その点がつながっていって、その人のなかでエッセンスになるみたいな。私が本屋としてやっているのって、そういうことかなと。
野間:日常で生きてても、本だけに限らず、なにか出来事が起こることがポツポツと自分の中であって、そこで自分の考えがつながっていくみたいな。そういう意味合いの点となる場所として、nmnがあるかなあと。
ーー点となる場所ね。
野間:誰かにとっての点を作って、つながっていったらいいなと。
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長野まで会いにいくということ
ーー1週間前に、展示でお茶を提供してくれる方(普遍と静謐:長野県須坂市 茶葉販売店)に会うため長野に行かれたじゃないですか。割と遠いし、時間も使うし、お金も使う。会いに行くって大変なことだと思うんです。行く作業を省いて展示をやることも出来たはずなんですけど。社会モラル的に行ったんじゃなくて、野間さんの中から自然に出てきた選択に思うんですね。
野間:そうですね。本当にそうです。
ーーその原動力になっているものは何ですか?そんなに元気じゃないはずなのに、むしろ寝込んでいるタイプなのに(笑)。
野間:それが出来る時はまだ生きてられるって思うんですけど(笑)。長野行きも微花からはじまる出会いもそうですけど、私のエネルギーになることって、すごい何かが好きやなあってまず思うんです。行かなきゃいけないと思ったんですよね。
ーー自分がそれをしてる限りは元気だという「点」と、興味があった図書館という「点」が、野間さんの中で星座のように並んでnmnを形成してるような感じですか。
野間:その点同士を結びつける活動がnmnなんです。
ーーなるほど、分かりやすい。
野間:だから本屋というのは違う気がしていて、でも別の言い方はまだ見つけられてはいない。
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その3冊、野間さんっぽい
ーー本のジャンルの中で、いちばん読んでるものは何ですか?
野間:創作のものが多いと思います。
ーーへー。
野間:図書館で使われてる分類の話になっちゃうんですけど、日本十進分類法(NDC)っていうのがあるんです。書かれたものの中身で分けられている。で、9類が文学なんですね。図書館にある本は9類の割合が多いんです。世の中にある本は、創作が多いってことだと思うんです。
ーーどういう本を読んできたか、3冊くらいあげれます?
野間:すごい残ってる3冊は、三浦綾子の『塩狩峠』と、遠藤周作の『灯のうるむ頃』と
ーー来た、キリスト教、2回続けて。そういう清潔なオシャレ感をねえ、時々出す(笑)。
野間:わざとじゃないですよ(笑)、キリスト教の学校通っていたので、、
ーーで、あと一冊は。
野間:『ノルウェイの森』(村上春樹)
ーー面白いねえ、その3冊。野間さんっぽい!
ーーその中で、少し喋れそうなのってあります?例えば、遠藤周作。
野間:遠藤周作の本は、母親に勧められたんですよ。ほかの本は、例えば『沈黙』とか重いじゃないですか。でもその本は読みやすく身近。遠藤周作のエッセイとか軽めじゃないですか。
ーー狐狸庵先生とかね。
野間:そうそう。で、その小説は、父親と息子の話だったんですけど何故か残っている。母親に勧められたからかなあ。
ーー3冊とも、お話ですね。
野間:そうですね。10代に読んだ本なので、いちばん強く残っていますね。全部自分で買った本ではなくて、『塩狩峠』は課題図書だったし、遠藤周作も『ノルウェイの森』も家にあったんですよ。
ーー家にある本って、読みますよね。ひょっとして自分が大人になっていくのに必要な情報って家にある本から得ることが多いのかもしれない。まあ、音楽の歌詞とかはありますけど。
野間:そういえば音楽の歌詞を抜き出して、書いてましたね(笑)。
ーーなんかの文を抜き出すのが好きなんですね。
野間:教科書とかに書いてました、めちゃ恥ずかしいんですけど。
ーー「抜き出し芸」なんですね(笑)。その欲求はどこから来るんですかね。
野間:分かりません。あ、でも(と部屋の中にあった若松英輔の本をめくり出す)この本に良い説明が書いてあった。
ーー読んで。
野間:「誰かの言葉であっても書き写すことによってそれらは、自らのコトバへと変じてゆくというのである。」(引用元:若松英輔『悲しみの秘儀』ナナロク社、p.146)
ーーなるほど。そういえば、野間さんが抜き出した一文を読むと、野間さんの言葉に感じるもんね。
野間:でも、元を作った人がいるのに、とんでもないことをしてるんじゃないか?と思うこともあるんですよ。
ーー作者は不本意でしょうね(笑)。
野間:だから文を抜き出す本は、なるべく読み継がれてる本から選ぼうとは思っています。抜き出すことによって、本が違う目線で見えていったら面白いのかなと。
ーー野間さんが、その本をちゃんと触りましたっていうマーキングに見えるんですよね。そのタッチの圧が、とてもいい気がしてるんですよ。強すぎないタッチ。
ーーで、歌詞の話に戻ると、例えば誰の歌詞を抜き出しました?
野間:浜崎あゆみとか(笑)。中学生とかなので、当時のJポップですね。
ーーどういう子供でした?グレてました?
野間:グレてないですよ。
ーー今がいちばんグレている。
野間:うん(笑)。
野間:この間、展示の打ち合わせの時もですけど、大学入った時ぐらいからなのかな、自分があんなにイジられるとは思ってなかったんですよ。
ーーすごいイジられっぷりですよね今。大人になるにつれ、どんどんイジられるようになったと。
野間:10代の頃は、出来る子だと思ってました。
ーー僕もそうだもん(笑)。一応優等生でさ、進学校で来たから。
野間:(笑)
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出来なくなりました
ーーお父さんを亡くしておられますよね。
野間:はい。
ーー野間さんが何歳の時ですか?
野間:私が成人式の次の日かな、亡くなったのは。
ーーそこから割と、環境も変わり?
野間:いえ、その前に環境は変わっていて、その半年前ぐらいの夏に両親は離婚しているので父とは同居していなかったんですよ。で、私は父親と全然話してなかったんです。数年間。
ーーうんうん。
野間:いずれ私が社会人とかになったら、きっちり話が出来るのかなって思ってたんですよね。父は会社を経営してたので、働くということになったら話も出来るようになるのかなって。
ーー出来なかったわけですよね。
野間:出来なくなりましたね。
ーー出来なかったっていうことに対して、今思うことはありますか?
野間:これは本屋とは関係なくなってくるんですけど、、何をやっても最終的に出来なかったっていう結末になるように、自分でしてしまうところはあるかも知れない。
ーーおお、重いこと言ってるね(笑)。
野間:(笑)
ーー精神医学的に言うと、問題を繰り返してしまう反復強迫という状態なのかな。
野間:何かで成功したということは、すごく少ないかも知れない。
ーー途中でプチっと切られることに慣れている人生に感じている。
野間:今んところ。
ーーそれをかき分けて、nmnは続いている。
野間:nmnは、仕事的なことでもないし。
ーー祝祭ですよね、自分の、生きる。
野間:なのかなあ、nmnっていうものに対しての、終わりみたいな所は見えない。
ーーほかのことはすぐ終わりを見ちゃいたくなるのにね。
野間:うん。
ーー終わりを設定してないと、落ち着かないというか。終わりが来ると、落ち着くというか。
野間:うん。
ーーさっきから、めちゃくちゃ悪口になってますね(笑)。
野間:悪口というか、、症状(笑)。
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書いてる時はその言葉の中に行けるんですよ
ーー野間さんはね、ドラマの「カルテット」とかのセリフを、昔ラインで送ってくれてたじゃない。
野間:抜き出しましたね。映画を見ても抜き出しますし。
ーー抜き出し、集めたものは、コラージュみたいなものなんでしょうか。自分を生きやすくする為の、自分の周りに張る幕のコラージュみたいなものなんでしょうか。
野間:歌詞を抜き出してた頃の感覚なんですけど、書いてる時はその言葉の中に行けるんですよ。そういうことなのかな。
ーー言葉の中に行ける。そういうことでしょうね。言葉なんですね、まずは。
野間:言葉ですね。
ーー絵じゃないんだよ。
野間:あああ、そうですね。
ーー言葉の中に「行く」というのがとても大事なんだよ、きっと。
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何か、どこかの引っかかりに
ーー展示についてね、予定が押しに押してますけど、野間さんは本を選んだ時点でほぼ作業の手は離れるんだね。
野間:そうかもしれない。
ーーあとは下々の者がそれをテーマにして作品を創作すると(笑)。
野間:(笑)
ーーで、最後に出てきて、「どうもありがとう! nmn、ノマノ展でした!」って終わる。
野間:そう!私何してんのかなって、ほんまに。
ーー野間さんのキャラクターだから成立するんでしょうね。助けざるを得ない。
野間:こんなことやっていいんかな、ってすごい思いました。
ーーいいんじゃないですか、みんな楽しくやってますし。
ーー野間さんが本屋を続けることは、お客さんにとってどういう意味があると思いますか?
野間:私の手で渡した本がその人の何か、どこかの引っかかりになればいいなと。本は待ってくれるものだと思うんですよ、腐らないじゃないですか。
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かすかな光
ーー明日死ぬとしたら、何か本を読みますか?
野間:えー、、人に会うと思います。
ーーああ、人に会う。
野間:読むかなあ、、。会わないかなあ、、。今、明日死ぬって言われたら、人と会わないかも知れない(笑)。本読むかも知れない。
ーー何の本読むか、思い浮かびます?
野間:あ、でも何もしないかも知れない。寝とくかも。
ーーそうかなあ?!
野間:うーん。何か残すかなあ。何か残すかも知れないですね、書いて。
ーー何書くだろうかねえ。
野間:心境。
ーー愛する人に何かを伝えるため?
野間:そうかなあ、、でも誰かって特定の人に書くかは分かんないです。
ーー「私は」から始まる文ですか?
野間:かも知れない。今から言うことは重たいのかも知れないんですけど。
ーー何でもいい、来て。
野間:書こうと思った日があったんですよ、この2、3日の間に(笑)。
ーー出た(笑)。重たいね。遺書というやつですか?
野間:考えたんですよ、もしこのままいなくなったら、私が何を思っていたか誰にも分からないままいなくなってしまうと。それは、生きてきて関わってくれた人がいるのに、何か失礼なのかなって。まあ、失礼って思う時点でね、死なないですよ。
ーー紙に書こうとした内容を言ってみて。
野間:お葬式はきっと、行われますよね。誰が来るかとか、どうやってみんな知るんかなと考えた時に。
ーー嫌だよー、snsで知るのとか(笑)。
野間:最後に会いたい人は本当は最後に会いたくない人なのかなとか。だんだん分からんくなってきたんですけど。
ーー紙の上に残そうとしたものを聞いてインタビューを終わるから言ってみ、書かないから。
野間:その時の心境かな、正直な気持ち。
ーー人名が入ったら伏字でいいから言ってみな。
野間:特定の人だけに向けてじゃない気もするんですよ。
ーーいいよ、待つから。
野間:うーん、私は今まで何をしようと生きてきたんでしょうね。(長時間の沈黙)
ーー(長時間の沈黙)
ーー長時間の沈黙で記事を終わるのもいいじゃん、暗黒の穴を開けて終わる。nmnっぽい。
野間:これ、記事を親に見せられへんなっていう(笑)。遺書書くとか言っちゃって。
ーーそこは大丈夫じゃん、死のうとしたんじゃなくて、消える可能性を一度考慮したというだけだから。
野間:(笑)そうですね。
ーーだって、僕だってあるよ、そんなのは。でもね、親に見せられないインタビューこそ大事なんだよね。
ーー琴線に触れるって、人の傷に触れることだから。
ーー紙の上に残す言葉、ひとことでも言ってくれると、このインタビュー終わるんだけどな。
野間:あ、そうか。えー、そこ、正直に言うと、無かった。
ーーええ?!
野間:中身、無かった。中身は、そこの時点では浮かんでなくって、お葬式の方を考えてました。
ーー分かった(笑)。これで、インタビューを終わります。
大岡(カメラマン):あのー、野間さんのその感じすごく分かります。自分も今日そんな感じ(笑)。
野間、小鳩:(笑)
nmn website 
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インタビュー後記:取材を終えて思ったのは、最初に教えてくれた、「本は難解なもの、果てしないもの」というイメージは、野間さんの人生のイメージでもあるのかなということです。難解で果てしないからこそ、野間さんの点を打つ活動はnmnとしてつながれていく、その本はまだ描かれ続けていくのではないかと。
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apisvoice · 6 years
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岩瀬ゆかが語る、ふたつのシリーズ『Through』と『Long Field』の間で揺れるもの
インタビュー・文/小鳩ケンタ
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ーーまずは、描かれてきた絵の変化について聞きたいです。
岩瀬:2010年の展覧会で〝Through〟というタイトルを初めて使ったんです。そこから(出産と育児で)5年休んでる。それまでは人物とか物を突っ込んで描くみたいなことをやってたんですけど「本当のことを描くんだ」みたいに、なるべく写実的にね。それでも出てしまう私とかを期待して描くみたいな感じで。
ーー自分の出汁(だし)を入れるみたいな感じですか?
岩瀬:そう、その漏れ出てしまう感じは今もあるんですけど。そういう描き方をしてたんですが、同時に風景もいっぱい写真に撮っていて、描きたいものも貯まってきてたからちょっと人物はやめたんです。人物画は似顔絵を描くような気持ちになってきてしまって、それ面白いんかなあ?と。デフォルメの仕方とか固まっちゃって。
ーー顔大きめ、体小さめでしたね。
岩瀬:うん、表情とか目の焦点の合わせ方とか漫画を描いているような感じになってきて。それが好きやったらいいんですけど、自分はちょっと違うなあと思って。それで風景をいくつか描いたんですけど〝Through〟っていう作品が一個出来て。
ーー抽象画ですか?
岩瀬:神社の参道を写実的に描いたつもりやったんですけど、具象でも抽象でもない感じに偶然うまくいって。見せましょうか?(と携帯から画像を探して見せてくれた)
ーーあ、覚えてます。
岩瀬:そうそう、iTohen galleryのソファー席のところで話をしました。この絵が出来たときにすごい気持ちよくて、しかも うわーッ!と描けたんですよね何も考えずに。それこそ、通り過ぎるときみたいにThrough、ぱーっと描けて。大きなB1サイズなんですけど、今までと違ってすぐ出来た。
ーーThroughっていうのは自分を通り過ぎる感じ?
岩瀬:いえ、道を通り過ぎるときのあの感じ。ただ通り過ぎるだけじゃなくていろいろ感じるでしょ?光とか風とか、それを描いた。
ーー最近はそこから8年たって、作風に大きな変化はないにしろ何か変わってきていますよね。
岩瀬:うんうん。
ーー作品シリーズのタイトルは今いくつあるんでしたっけ?Throughと?
岩瀬:Long Fieldです。
ーーLong FieldよりThroughのほうが今は全作品数は多いのかな?
岩瀬:そうですね。
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(壁の左がThrough、右がLong Field)
ーーLong Fieldはどういう意味なんですか?
岩瀬:Long Fieldは、直訳で長い野原なんですけど描いたイメージはかたまりなんですよ。野原をぱっと見た時に地面とか木とか、一瞬はかたまって見えるんやけど、よーく見ると風に騒いでたりとか。それをずーっと見ていくとThroughになる訳です。例えば、山を一個遠くから見たとして、最初かたまりじゃないですか。でもよーく見てると木とかが揺れてたりして、さらに見てると目とか耳とかが良くなってもっと見えてくるような。ともかくLong Fieldは、遠くのかたまりなんです。
岩瀬:Throughのほうは自分のまわり3メートル四方のキューブ状ぐらいの距離なんですよね、静かなスペースが急に出来る、それを描きたい。細かく動いているけどめっちゃ静かというのを画面上で現したいんですよ。Throughという作品集を作ったときにデザイナーや編集者に話したのが、山道を歩いててちょっと休憩スポットに出たときにパッて急に静かになる。自分の息の音も聞こえなくなるぐらい静かで、風が通り抜けて木がさわさわしてる、その感じを読後感として残したいって言ったんですよ。
ーーその静けさは子どものときから感じていた感覚ですか?
岩瀬:それは描き始めてから気づいてきたんです。「そうか私はあれを描きたかったんやなあ」って。人からはよく、木漏れ陽を描いてるんですよねって言われるけど、木漏れ陽自体をきれいに描きたいっていうよりは、静かなことを出したいんです。
ーー静かの質について聞きたいんですけど、私が認識してる静かとは違うように見えるんです。例えば私だったら無に近い静かだったり、緊迫感のある静かなんですけど、岩瀬さんは包み込むような静かというか。安心感のある静か、危険ではない感じがします。
岩瀬:何かちょっと一人です。世界の中で一人、ということは安心ですかね。何かを願ったりしてるんじゃないんです。急に現れた休憩場所に一人でいるみたいな。
ーー分かりやすい説明ですね。山のぼりで急に現れた休憩場所に一人。
岩瀬:そういうときに感じるんですよ。
ーー岩瀬さんは、一つのシリーズにじっくり長い間取り組まれますよね、例えば急にお面のモチーフを描いたりするみたいなことはないじゃないですか。一つのテーマに向き合う集中力の持続を感じるというか。そのテーマでの気づきを出しておきたい、みたいなことですか?
岩瀬:気づいた以上のことが描くことで出てくるんですよね。Throughは描きながら編集するというよりも即興的に気づきを紡いで描いていて、ある時にもう終わりそうというのを絵が教えてくれるみたいな感じです。もう俺に触れるな��みたいな。(笑)
ーー絵が終わりを教えてくれると言われる作家さんは多いですよね。
岩瀬:絵から「ごめん、もうさよならです~」みたいな感じになって「さよならか~」と思うみたいな。
ーー毎回その地点までやり切るのってつらくはないですか?
岩瀬:つらくない、ないないー。うまくいかないこともあるんですけど、また描けるから。
ーー創作はつらくないと。
岩瀬:執着がない。使命感とかあんまりないんですよ「芸術とは!」とか。もともとがイラストレーションに憧れて絵を描き出してるんで、文芸誌の表紙のお仕事とか、頑張って届きたいですねえ。あ、KinFolkJAPANとか載りたい。(笑)
ーー(笑)なるほど。美術館に収まりたいとかはないんですか?
岩瀬:何というか、絵が美術館に収まる感じと、個人の家に収まる感じは私の中でそんなに離れていない。
ーーほお。
岩瀬:分かりますよ、冷静に見たら分かるんですけど。でも平たくしたら一緒じゃない、と思っちゃうんですよ。きっと美術館に入るとはどういうことかっていうのを知らないんですよ。美術の歴史の一点になるっていうのを、未熟だからやと思いますが考えたことはないです。
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ーー岩瀬さんの歩かれている場所というのは広々としていますね。
岩瀬:楽なところを歩いてるだけやと思います。
ーーでも部屋を見つけて出ないというのは出来るかも知れないけど、楽な道をみつけて歩くというのは難しい。
岩瀬:お、うまいこと言いますね。(笑)
ーー評価されたいという思いはありますか?
岩瀬:あるんやと思いますよそれは。
ーー制作のなかではその雑音みたいなのは入ってこないということですよね、大量に入ってきたら自分の中がいっぱいになってそれこそThrough出来ない。
岩瀬:評価されないということにションボリするんですけど、描いてるときはもう関係なくて。
ーー絵が守ってくれるみたいな?
岩瀬:(笑)そう。幸せなんですよね。
ーー何かあれですね、すっごい関係のいい恋人みたいですね。
岩瀬:あああ(笑)でもね、その蜜月は短くて。
ーーフラれるんですか?
岩瀬:さよならってなるわけじゃないですか、絵が出来ちゃうから。
ーーうんうん。
岩瀬:前にツイッターで書いたんですけど、絵を描いてるときは現場で筆を動かす私がいて、遠くで見てる私がいるわけですよね、編集する私が。編集者が作業内容をうしろからピーッと送ってて、描く側としてはそれをやるんやけど、だんだん違うことを描き始めたりとか、編集者の声が聞こえなくなっていく。それが始まると作品が立ち上がってくるんですけど、その最終段階で編集の人が絵とその下の台ごとふさわしい場所に5センチくらいスッとズラす。「こっちやで」みたいな感じで。描く側が思ってた完成とちょっと違う場所に、スッと動かしてくれることがある。その時の編集者はすごい優しいんですよ、手前の描き手が悩んでるのを、導くみたいにズラしてくれる。「ああ、これはいよいよ出来上がるんだ」って分かってさみしいんですけど、優しいから。それで切ない気持ちになる。めっちゃ意味分からんこと言ってますね。(笑)
ーー(笑)分かりますよ。作品が終わる時の表現で、そんな気持ちいいのを聞いたのは初めてです。
岩瀬:それは小鳩さんだからかも知れませんよ。(笑)
ーーでね、岩瀬さんはデザイナーもされてるじゃないですか。自分の絵とデザインとの関係みたいなのを教えてください。
岩瀬:ライブペインティングをやって、もしかしたら自分もパッションというか、うわーッ!と描けることがあるかな?と思ったんですけど、案外現場ではすごい編集しながらの制作になって。
ーー見させて頂いた時も、決して乱れ倒すことはなかったですよね。とても知的なライブペインティングで。(笑)
岩瀬:ひょっとして、壊れながら描くんだろうかと思ってもみたんですけどね。
ーー編集をめちゃくちゃするというのは強みでもあり弱みでもありと思っていますか?
岩瀬:結局、暴れ倒すとか汚い混沌をあまりいいと思ってないんですよね。勢いがめちゃあるものの、出来た後この作品どうなんねん、みたいなライブペインティングを。
ーーということは、どこかに着地するライブペインティングなんですね。
岩瀬:どうなんでしょうね。自己満足することにすごく警戒していて、嫌なんですよ。編集なくしたほうが面白いかも知れないというのは分かっていつつ、自分は今そうではないと思っていて。
ーー質問の表現としてどうかと思いますけど、いい表現は最高の自慰行為をすることみたいな話もあるじゃないですか。
岩瀬:結果的にそうなるんかもとは思いますが、自慰行為を見せたいわけではないんですよ。制限された中での編集なんですよね、それが面白いかどうか、今のところ自分が面白ければいい、、、もあるんですよね。
ーー急にこそこそ喋ってるのはうしろめたいから?(笑)
岩瀬:ライブペインティングはほとんど自分のためにやっているから。ああ、でも憧れはあるんですよ、例えば一心に描いていくライブペインティングにも憧れはある。ギャー!って感じで描いてるように見えるし、多分そうだと思うんですよ。パッションもちゃんと画面に現れてて、嘘もなくて。そんな風にはできないなあって。
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ーーまたThroughとLong Fieldの話に戻りたいんですけど。
岩瀬:Long Fieldは、自分以外の他の物事を編集して出すみたいな感じです。
ーーなるほど、Throughのパーソナルな感じを出すのとは違いますね。
岩瀬:あまり言うべきではないかもしれないけど、Throughは自己救済みたいな側面もある。さっき言ったみたいに、最後そっと手を放してくれる。「大丈夫やで」みたいに声をかけてくれる。
ーーその制作態度をずっと沢山の活動量で続けられてるのは、生き物としての健康さを野太く感じます。(笑)
岩瀬:根アカなんですよ。あ、でもね〝いいこと〟を描きたい〝いいこと〟を残したい。〝いい〟も色々あるけど、ネガティブなよいということに自分はあまり共感してなくて、きれいとか気持ちいいとか、もうそれだけでいいから。だからあんまり感情とか入れてない。もうそれだけでめっちゃ良くない?っていう。
ーー生き物として健康ですね。悪いことでかっこいいのは簡単ですからね。
岩瀬:暗いことに対して生きてきた中であまりハマることがなかった。人を描いてた頃は、女の人の持つ複雑な面を描こうとしてたんやけど、結局それも人ってこうだよねという、例えば一冊小説を読めば出てくるような人物像をなぞっていただけなんですよ、たぶん。それを取ると、スカッとした良いところだけ、私が大事にしたい部分だけが残った。
ーーなるほどその移り変わり。人物があって、Throughがあって、次にLong Fieldになってきたということは、Throughの視点でもう一度世の中を見直したというか、嘘を排除してきた型をつかって、もう一度自分以外に目を向けるというのが面白いと思います、Long Fieldは。
岩瀬:この間、サム・フランシスとモネの展示が同時にある部屋に行ったんですね。サム・フランシスはウォーって感じなんですけど、余白が多いってことは編集をめちゃされてることだと思ったんです。偶然をその都度リアルに編集していく状態。で、モネもおそらく即興を塗り込んでいるというか、印象派の絵って即興感がありますよね。
ーーうんうん。
岩瀬:二人の絵、全然イメージは違うけど、一緒やなと思って。モネの絵は一見静かなんですけど実はすごく即興的な荒い表現を、サム・フランシスは派手な激しい表現をしてるけど、実は静かな感じがあると。同じ二人やなと。それを勝手に自分のThroughとLong Fieldに置き換えて。(笑)
ーー(笑)
岩瀬:Throughは一見静かだけど実は激しい。Long Fieldはパッと見が荒いけど実は静かやと。反対、いわば鏡みたいな状態。
ーーLong FieldのなかでThroughが起こり出すと、すごく気持ちいいんだろうなと思います。
岩瀬:何かね、ド・スタールがやっているような静物とかを荒く描いてみたい、次やってみたいのはそういうことです。ThroughとLong Fieldの振り幅をどんどん広げたいという気持ちがあって、大きくなればその間で何かをつかめる場所も広がるなあと。Throughは突き詰めかたが分かってきているんですけど、Long Fieldはどうすれば良くなるかがまだ分かんなくて、見て描くことを探っています。
ーーここからまたお子さんも大きくなって変化していくと思うんですけど、何かつかまれる気がしていて、大器晩成ですかね。(笑)
岩瀬:晩成せんでもええ感じもあります。(笑)でも、まだ見えないですけど何かをつかむのは信じてるから続けてる、美術館に作品を入れるというよりは、まだ見ぬ何かをつかみたいというのはあります。現れるはずだ!っていうのを思ってるから、その為にやっている。
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ーーLong Fieldが遠くにある〝いいこと〟の象徴で、Throughが自分の中にある〝いいこと〟の象徴だとしたら、それが合わさることで世界と自分が幸せに報われる。
岩瀬:(笑)宗教的な。
ーー宗教じゃないですよ、ぜんぜん違うじゃん。(笑)合わさればエモーショナルな感じだなあと。
岩瀬:最近聞いたんですけど、映画の感想をエモーショナルだったと言っている人がいて、いい感想だなって思ったんですよ。そうだ、Through側でエモーショナルを出したいんですよね、Long Fieldの荒いパワーがThroughの栄養になる!みたいな。
ーーそのためにはたぶん、Long Fieldにも力が必要なんですよ。
岩瀬:そうなんですよ。(笑)
ーーフォースの質が違うんですよ、フォースが二種類あって今、あなたには���
岩瀬:今度ね、仙台では���楽家さんも即興で二人とも着地点がないんですよ。それでまた何か見つかったらいいなと、ライブペインティングは次の表現の為にもやっている。自分の表現の追求でやっている。
ーー現場の学びが一番大きいですものね、お客さんがいるのはすごい。というかこのピザトースト美味しいですね。
岩瀬:美味しいでしょう!MOTO COFFEEは私の作品も沢山飾って頂いてるので、皆さん来てくださいね。ふふふ
  
岩瀬ゆかwebsite /取材協力:MOTO COFFEE 
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