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プリンは頂いた
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神戸市で活動中のめたとろんです。 思いつきを思いのままに描いて���す。 御用のある方はこちらまでお願いします。 [email protected]
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ayamegodo · 14 days ago
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トマス・アクィナス秘話
 こんばんは、真夜中過ぎの二十四時五十分になったようです。  今回は昔、わたしが友人から聞かされた話を披露したいと思います。あの時もこんな真夜中過ぎでした。長引いた設営作業にめどが付き、休憩を取ることになりました。そんなひと時の話です。
 しかし、彼の話をする前にまず、トマス・アクィナスについて語らなければならないでしょう。トマスは「神学大全」を著したスコラ学の神学者であり哲学者でもあります。カトリック教会では聖人とされています。
 彼は千二百二十五年頃、南イタリアの貴族の家に生まれました。父親であったランドルフ伯の居城で生まれたとされています。伯父が修道院の院長をしていたため、トマスも修道院へ入り院長として伯父の後を継ぐことを期待されていました。
 五歳で修道院に預けられたトマスはそこで学び、ナポリ大学を出ると両親の思いに反しドミニコ会に入会しました。家族はトマスのドミニコ会入りを喜びはしませんでした。強制的に彼をサン・ジョバンニ城の家族の元に連れ帰り、一年以上そこで軟禁され翻意を促されました。家族は若い女性を連れて来てトマスを誘惑させましたが、彼の決意は変わりませんでした。
 やがて、家族も折れて無事ドミニコ会へ入会しケルン、パリ大学へと赴き、紆余曲折を経てパリ大学神学部教授となり教授会に迎えられ教鞭をとることになりました。記録によれば、トマスは非常に太った大柄な人物で色黒で頭は禿げ気味だったようです。ですが、その所作の端々に育ちの良さが現れ、非常に親しみやすい人であったされ、論争者もその人柄にほれ込むほどでした。
「冗談のようなんだけど、そんなトマス・アクィナスが好きだったのが、このナスなんだ」
 友人はそこまで話すと手元にある「ナスときのこのペペロンチーノ」をフォークで示しました。
 わたしの目の前にあったのは「三色おにぎり詰め合わせ」でわたしにはそのパスタが格段に魅力的に見えました。
 もちろん、トマスは「ナスときのこのペペロンチーノ」など食べてはいません。食べたのはナスと地野菜のオリーブオイル炒めです。インド原産のナスですが中国を経由して十二世紀には地中海地方に入っていたようです。友人はそれをトマスが口にしたのだろうと言いました。
 後にナポリを訪れることになったわたしですが、そこにはトマスが食べたナスと地野菜のオリーブオイル炒めなど無く、彼とナスの関連はただのダジャレでしかないことを知りました。今では彼を真夜中の一時前に国際電話で叩き起こしたはいい思い出です。
 では、おやすみなさい。
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ayamegodo · 14 days ago
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戦士の憂鬱
 この店のでのお気に入りはハニーバンズという名の菓子パンだ。その時の気分で適当な飲み物を添える。今日は紅茶にした。このパンを食べると人生が甘くなると言われているそうだ。数年食べ続け、確かに十分な名声を得て、国外の要人とも繋がりができた。けれども、人生が甘くなったとは思えない、むしろ厳しくなったような気がする。
 特に用がない時はいつもここで読書をして過ごしている。この街にやってきて、この店の奥で初めての仕事を受けた。それだけの時間が経っているのだ。もう扱いは常連となって、いつもの椅子に座ればとりあえずハニーバンズが二個、目の前に置かれる。
 今読んでいるのは「異世界転生」の物語だ。異世界か、つまり今と別の生活をするとしたらどこがよいか。それなら以前考えたことがある。海賊などはどうかと考えた。中規模の海賊なら話題になることなく、わたしの素性を知らない者も多いだろう。海に出て危機となれば守ってやればよい。
 それか職人などもよいかもしれない。職人なら成り行きで政変に巻き込まれることも、遠方の植民地解放戦線に駆り出されることはないだろう。災厄をもたらす魔物が、人知れず葬られていることも知らずに生活できるだろう。
「クレナイはいるか?」
 本を五ページほど読んだ頃、聞きなれた男の声が耳に入った。
「クレナイならそっちにいるよ」と店主のムヤムクさんの声。
 本を閉じ声の方向に目をやる。そこには砂色の髪の男が立っていた。名はロロンジといい腕の立つ密偵だ。わたしはロロンジに向かって頷き立ち上がった。荷物を纏め、テーブルに立てかけておいた斧を担ぎ上げた。
 解放軍の盟主より勝利の礼にと贈られた古の魔斧だ。ウコンバサラと名付けられた美麗な戦斧で柄や刃背の鉤爪にまで凝った彫刻が施されている。刃は傷だらけでくすんでいる。嫌な曇りは消えることがない。
 英雄と称えられ、自分の背丈と変わらぬ魔斧を贈られた時も、素直に喜ぶことは出来なかった。そこに至るまで失ったものが多かったからだ。
 木こりもいいかもしれない。このウコンバサラが下せるならばそれもいい。しかし、そうなると誰かが代わりに戦場へ赴くことになる。それなら自分が行く方がいくらかマシだ。知らないところで、何が行われているのか知ってしまった以上もう黙ってはいられない。
 クレナイがロロンジと共に店を出て行った後、店主のムヤムクの元に一人の男が走っていった。
「おいおい、クレナイちゃん出て行ったぞ。何があったんだ?」
「わからんよ」
 ムヤムクは様々な仕事を斡旋しているため事情通として知られている。ロロンジが姿を現したとなれば遥か高次の事象が発生したに違いない。
「まぁ、また厄介事なのは確かだろうな」
「そうだよな」
「変な顔すんじゃねぇよ。何があったかはわからんが、クレナイの無事を祈ろう。俺たちにできることはそれだけだ。あいつか帰ってきたら、またたっぷりハニーバンズを食べさせてやろう。半端な物は作れんから上物の小麦粉は頼んだぞ」
「あ、あぁ、任せとけ」
 クレナイがどこで何をしているか、多くの者は知る由もない。だが、それを誰も知らなくても、クレナイが無事帰ってくれば、少しは世の中がよくなっている。それは誰もが知っている。
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ayamegodo · 17 days ago
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あなたに会えたら
 ライブハウスでの熱狂が冷めてくるとたまらなくさみしくなってくる。今回も彼らに会うことはできなかった。わたしにとって彼らは砂漠の果てに見える湖、見つけたと思い近づいたら消えている逃げ水、蜃気楼のような存在。彼らの姿を追い始めて三年まだその姿を見たことはない。
 ライブでかいた汗で身体が冷えてきたので、わたしはいつも通り駅前のドトールへ向かうことにした。いつものようにブレンドコーヒーのMを受け取ってから二人掛けのテーブル席に座った。
 そこまではいつも通りだったが今日は違った。
「ここは空いてますか?」目の前にコーヒーカップが載ったトレーを抱えた男がいた。彼はわたしの答えを待つこともなくトレーを置き、向かい側の席に座った。「あなたの姿をよく見かけるもので一度会って話がしたかったんです、さっきもカール・��インツで姿を見かけたもので追いかけてきました」
 男はにっこりと笑った。笑顔は悪くない。チャラい雰囲気だが口調は丁寧だ。
「さっきまでいっしょだったってこと?」
「もちろん、傍で見ていて���あなたは音楽が好きなのはひしひしと伝わってくる。しかしいつもどこかさみしそうだ。なぜです?」
「いつもって?」
「いつもです。あなたが大小問わず多数のバンドが参加するイベントに出向いているのはよく知っています。心から楽しんでいる様子のあなたに何が悲しみを与えているんです?」
「それは……」なぜか理由を聞いてもらいたくなった。一度話してひどく後悔することになったのに「探している、会いたい人達がいるの。でも、まだ会ったことがないからだと思う」
「それはふと出会った人、それとも昔憧れた人?」
「そんなのじゃなくて、一度会ってみたい人達、and more、アンドモア。バンドなのかソロでやっているのか分からないけどチラシやラジオのDJが必ず最後に紹介する名前。どういう人達かはかはわからないけどいるはず、でも実際会場にいってみるといつもいない」
 わたしは自分の言葉でいつもの悲しみ、さみしさがぶり返して来た。やはり言わないほうがよかったか。
「なるほど、あなたは本当にアンドモアについて知りたいのですか?」
「はい!」わたしは考えることなく答えた。
「結論から言うとあなたはすでにアンドモア何度となく会っている。それを知らなかっただけです」
「えっ!?」
「嘘じゃない、本当の話です」彼の目に何か新しい光が宿った。「実はアンドモアに目に見える姿はありません。しかし存在します。チラシや新聞などの紙媒体、もしくはウェブ上に書かれ、ラジオDJなどがその名を高らかに告げることにより召喚される存在。例えるなら音楽の精霊というところでしょう」ここで彼はコーヒーを口にした。「召喚されたアンドモアはその場を盛り上げ気づかれることなく去っていく。しかし、極稀にあなたのようにその存在に気が付く人がいます。そんな時はアンドモアはうれしくてたまらなくなってしまう」
 彼が持つコーヒーカップが揺れ、中身が紙ナプキンの上に落ちた。
「これは失礼、今日はあなたに会えてうれしかった。アンドモアは音楽と共にある。また会いましょう」
 
 突然、軽いめまいに襲われ頭を振った。ふと前を見ると誰もいなくなっていた。
 今のは何だったのか、夢か。座った途端に眠ってしまったのか。夢にしても奇妙だ精霊アンドモアなんて……。
 眠気覚ましにコーヒーをと視線を下げた時目に入ったのは向かい側の席に置かれたベージュ色のトレー。その上には中身の減ったコーヒーカップと汚れた紙ナプキンが載っていた。
 なぜか笑いがこみあげて来た。
「アンドモアは音楽と共にある」
 わたしはそう声に出してからさめたコーヒーを一気に飲んだ。
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ayamegodo · 17 days ago
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流れよ涙
 大雨をもたらした雲は去っていった。しかし、まだ風は明日まで強く吹き荒れるという。防波堤を打つ白波は砕けて水しぶきとなり宙を舞う。シェリーは降り注ぐ波しぶきが、いつまでも流れぬ涙の代わりとなる事を願ったが、それは金色の髪を薄っすらと濡らすだけに留まっている。
 気が付いた時にはすでに遅かった。確認が足らなかったのだ。年末年始の忙しさにかまけ確かめることを怠っていた。時は過ぎ、すべては手遅れとなっていた。あらゆる手を尽くしてみても無駄だった。
 謝罪の言葉より笑い飛ばして欲しかった。こちらに非があるのだから。
 シェリーの隣に立つメイドの綾の元に近所に住む木下さんがやって来た。散歩の途中に二人の姿を見つけようだ。
「何かあったんですか?」
「マルニスーパーのポイントで貰えるお皿を貰い忘れていたんです。年末で終わりだったんですね」
「ネズミのお皿ですか。あれなら、うちは二枚貰いましたから一枚差し上げましょうか?」
「いえ、せっかくのお申し出ですが遠慮しておきます。お気遣いありがとうございます」
 あぁこの世に確実なものなど何もない。シェリーはそっと目を伏せた。
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ayamegodo · 17 days ago
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タピオカ万歳
 タピオカ漁師のレオナルド・バッチさんの朝は早い。
 まだ夜も明けぬうちに船を出し、沖の漁場へと向かう。狙うのは丸々と太ったタピオカだ。その卵はアメリカやヨーロッパなどのホテルなどを相手にした高級品なので口にすることなく売りに出される。しかし、身もうまいのだとレオナルドさんは言う。フライにシチュー、昔からの鉄板メニューだが、最近はソテーしてテリヤキソースを絡めて仕上げるというレシピも出て来た。あの甘く香りがたまらないと彼は言う。
 以前は船が沈みそうになるほどタピオカが獲れ、港は子供の背丈ほどあるタピオカであふれたという。しかし今はうまくいって二、三匹である。これでいい、戻ってくれたのだから、と彼は嬉しそうに笑顔を浮かべた。
 タピオカドリンクがブームとなった時、レオナルドさん達漁師はタピオカを獲りまくったまくった。タピオカの卵は売れに売れた。たっぷりと儲けた彼も大きな家を建てることができた。だが、それも長くは続かなかった乱獲によりタピオカが姿を消し漁が成り立たなくなったのだ。賑わっていた港は元の小さな漁港に戻った。それだけならいいのだが、タピオカ漁のために無理をした者や、身の丈に合わぬ買い物をし破産した者も多くいた。そのため借金をかかえ町を出た者も多く、中には犯罪に走った者や自ら命���絶った者までいる。レオナルドさんも新しくした船の借金に苦しみ、一緒に住んでいた息子家族は生活苦のため町を出て行った。
「あの頃が一番苦しかったね。だがね、俺達がやっちまったんだ。しかたないよ」レオナルドさんは自嘲気味に笑った。
 意外なことに、転機となったのは代用タピオカが発明されてからのことである。原料はキャッサバの根茎から製造されたデンプンだ。本来は菓子の材料や料理のとろみ付けに使用していた。それをを容器に入れ回転させ球状に加工し乾燥させた。それらは「タピオカパール」と呼ばれた。キャッサバから作られる代用タピオカ「タピオカパール」は安価なこと本来の黒の他、白や赤や黄色のカラフルな色に染められることから、あっという間に世界に広まった。
 タピオカが姿を消し、代用タピオカが本物にとってかわり主流となり、誰もタピオカを獲ろうとしなくなって数年、漁を続けていたレオナルドさん達の網にまたタピオカがかかり始めた。喜んだ彼らだったがもう二度と過去にあった過ちを繰り返すまいと漁法と漁獲量をなどを取り決めタピオカ漁を正式に再開した。
 漁期を決め、網ではなく籠を使い十分に育った魚だけを獲る。少なく獲って高額で売る戦略だそうだ。高額であってもアメリカ、中国、ヨーロッパなどからは十分引き合いはあり、魚もタピオカだけではないので暮らしていける。港は立ち直ることはできる。借金の返済はまだ時間がかかるもののレオナルドさんはそう確信している。
 朝日を浴びて波間に浮かぶブイが見えたきた。わたしもそろそろ立ち上がりレオナルドさんの手伝いに向かうとしよう。
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ayamegodo · 20 days ago
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昔々、あるところに
 むかし、むかしあるところにおじいさんがおりました。そのおじいさんがわしだ。そういって彼は皺だらけの顔に更に皺を入れて豪快に笑った。
 彼と出会ったのはこ��山を降りた先にある浜辺だ。彼は浜辺で佇みどこかさみしそうな目で海をみつめていた。
 もし、誰かを偲んでいるのならそっとしておいたほうが賢明だろうと思いはしたが、わたしの悪い癖である、かれが一心に見つめる先にあるものが何か知りたいという興味の方が勝ってしまった。
 彼は嫌な顔もせずわたし答えてくれた。ずいぶん昔の話になるがここで会った者達に今一度会いたいのだと、そのため時折山を降りこの浜までやって来ているそうだ。
 わたしは彼に気に入られたのか、自宅へと誘われた。飯と酒なら出す余裕はあるぞと。
 家は少し先の山の上にあると言われたが、その少しが大変だった。中国の奥地や世界の秘境と呼ばれる場所を旅し、体力には自信のあるわたしでも付いて行くのがやっとだった。彼は岩だらけの山道を崖を駆け上る山羊のごとく軽々と登って行くのだ。痩せた老人の身体であのような力が出せるとは全く驚嘆に値する。
 到着したのは古びてはいるがしっかりとした作りの山小屋だった。室内にあるのは最小限の炊事、調理用具と寝具だけで他は何もない。
「これで十分だ。やっていける」
 こちらの考えが見えたのか彼は笑いながら言った。
 出されたのは肉の入ったみそ汁、肉は山から獲って来たウサギらしい。山に入れば野菜、肉そして果実といろいろと持って帰ることができる。味噌など調味料はさっきのウサギや鳥などと麓の集落に行き交換してもらってくることもできる。魚が欲しくなったら浜辺に行けばよい。
「そういえば。あの時も魚のために山を降りて来たんだ」彼の目が最初会った時のかなしい瞳に変わった。
 彼はその時釣り具を手に浜辺を訪れたらしい。行ってみると浜の衆と妙な服を着た見るからによそ者が喧嘩の最中、いや浜の衆がよそ者を一方的に痛めつけていた。彼はその中に割って入り浜の衆を追い払った。彼は当時腕っ節で一目置かれる存在でそれが可能だったという。
 彼はよそ者を助け起こし事情を聞いてみた。よそ者によるとここに危険が迫っていること、更にすぐにでも非難しないといけないとこを彼らに説明に来たのだが、その際に諍いになってしまった。
「どういう危険か聞きましたか」
「わからない。聞いたはずだが、その辺がはっきりしないんだ。促され連中の元に避難しそれから戻って来た時には、聞かされていた通り誰もいなくなり、浜辺は荒れ放題だった。どうにも避難していたその間の記憶がはっきりしない。わしは知りたいんだ。わしがいない間に浜やその周りで一体何が起こったのか?なぜ誰もいなくなったのか?それからわしはどうなってるのか?連中にもう一度会ってそれが聞きたいんだ」
「それで浜辺に?」
「そうだ」
 それから今までの成り行き��どををかいつまんで聞いたが、実に奇妙な話だった。しかし彼の目は真剣そのものだった。
 彼は今の風貌までは普通に年を取り老人となったが、腕っ節はそのままで死ぬことはもとより病気さえなく今に至っているという。
 言い忘れていたが浦島太郎と名乗っていた。もしそれが本当ならば彼は今現在何歳なのだろうか?
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ayamegodo · 20 days ago
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聞けない言葉
 三時間の及ぶ乗用車のを終え、雅(みやび)は鳥取県網代港と到着した。車内からここが指定された場所であることを再度確認した後、所定の駐車場に車を慎重に収めた。  雅が車から降りた時、そこに居合わせた者達の反応は彼女にとってはおなじみのものだった。好奇と少しの嫌悪、それは無理のないことと彼女は思っている。高級外車であるアウディーA8の運転席から黒いドレスを着た小柄な女性が出てくれば目を引くのは当然のことだろうと。これらについては全て雇用主からの借り物である。黒塗りの車もゴシック趣味の服や鞄、財布、化粧品に至るまであらかた支給品である。いわばこれらは彼女の制服のようなものである。少し癖の強い雇用主ではあるが彼女としては特に不満の持ったことはない。  平日とあっても昼時ということもあるのだろう駐車場には何台もの観光バスが止められている。前方に見える店舗へと向かう通路は店に向かう者と多くの荷物を抱えバスへと引き上げる者達で少し混雑している。  雅は彼らの間を縫って多数ののぼりに飾られた入口へと向かう。魚の匂いに混じり若干の酒の吐息が漂う中を歩いていると、スマートフォンから入電を告げるアラームが聞こえて来た。つかの間そちらに気を取られた雅は前方から歩いてきた紫色の髪の老女と衝突しそうになった。軽く彼女に詫びを入れた後、すばやく雅は近くに止めてあった三菱のRV車の脇に駆け込んだ。  鞄から取り出したスマートフォンを通話状態にし、耳を傾ける。 「はい、雅です」  先方は名乗ることなくスピーカーの向こう側からは紙がこすれるようなカサカサという音が聞こえるだけである。  ややあって中年女性の声がただ一言聞こえて来た。 「ちからがほしいか」  また紙がこすれる音。雅は息をのみ次の言葉を待った。 「主税(ちから)が干しイ��、スルメの一夜干しね。誠二さんはノドグロの干物、できるだけ大きなものを、それからいいエビがあれば買ってきてちょうだい。あなたも何か食べたいものを見つけたらお買いなさい。帰りも気をつけてね」 「はい、わかりました。奥様」  雇用主である広瀬奈津美からの買い物の追加を告げる連絡だった。たわいのない連絡だが、なかなか聞くことができないあの有名なセリフ聞くことができた雅は少し嬉しくなった。荷物はトランクいっぱいになりそうだ。  RV車の影から出た雅は鮮魚店へとまっすぐ歩いて行った。
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ayamegodo · 20 days ago
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とどのつまりは
 重苦しい静寂がこの部屋に訪れて一時間ほどになる。最初こそざわつきもあったが、今は誰も声を出すことなく、身動きもしない。
 そんな中一人の男が口を開いた。名前はマイケル・オーレント、刑事である。正確には巡査部長。
「お前はトドのつまりはゾウアザラシという言葉を知っているか?」
 彼は少し離れた椅子に座っている男に落ちついた口調で語りかけた。
「何の話だ?」男は訝しげに顔を歪めた。
 男の向かい側に並ぶ男女たちもお互いに顔を見合す。誰もそのような言葉は知らず、なぜこのような状況で、オーレントがそのような話を始めるのか困惑している様子だった。
「少し悲しい昔話さ」
 
 オーレント自身もこのような話をする予定など全くなかった。ここは郊外にある公民館で、彼は相棒のスミスと共に先日起きた事務所荒らしの件で職員に事情を聞きに来ただけのことだった。一通りの仕事を終え引き上げようとした時、なにやら騒ぎの気配を感じた。十人ほどの男女が血相を変えて出口へと向かって走っていく。その中の男一人を半ば強引に捕まえ事情を聞いた。
 男によると二階の一室が爆弾らしき物を持った男が押し入って来たとのこと。自分を含めた何人かは逃げ出すことはできたが、まだ多数の人々が囚われているかもしれないと話した。
 二人は応援要請を済ませた後に男に教えられた二階の部屋に駆け付けた。残念ながら男の話は正しく、そこには爆弾と称する物を携えた男がその居合わせた不運な男女と共にいた。
 爆弾は男の手作りでヘアアイロンを起爆装置として回路に組み込んでおり、派手なトングのような見た目のそれを片手で握り締めれば即起爆する仕様となっている���つまり、男はいつでも爆弾を爆発させることができ、何かのはずみで暴発もありうるということだ。男の折り畳み式テーブルにはヘアアイロンに繋がれた爆弾本体が置かれている。本体は粉コーヒーの缶程の大きさでこの部屋を吹き飛ばすほどではないにしても、男は当然ながら彼の前に並ばされている人質達を殺傷するには十分な力を持っていると思われる。
「一九六四年のことだ」オーレントは静かに話し始めた。「サンディエゴの水族館でトドを展示することになり、施設が整備された。しかし、やってきたのはどういうわけかミナミゾウアザラシだった。なぜそうなったはかわからない。容姿は似てないでもないが、大きさがまるで違う。ミナミゾウアザラシはトドより遥かに大きく、トドが住んでいる場所も北太平洋とベーリング海など対しミナミゾウアザラシは亜南極圏の島とあってまるで生活圏は重ならない。なぜこんなことが起きたのか。水族館の混乱しきっていた。そこへ誰かが言った。いっそのこと体格が大きなトドとして飼ってはどうかと、アシカ科の特徴である耳介に見える物を頭部に貼りければなんとかなるのではないかと。
 言った本人がどこまで本気だったかはわからないが、その馬鹿な試みは実行されることとなった。結末は悲惨な事となった。ミナミゾウアザラシの頭部に耳介を模した装具を貼り付けようとした飼育員は気分を害したゾウアザラシの攻撃を受けることとなった。彼は命は取り留めたが酷い怪我を負った。
 この言葉はこの顛末を戒める言葉だ。彼らがやるべきことは、やって来たのがトドではなくミナミゾウアザラシであることを認め、世話をしてやることだったんだ。彼らのやることは無理やり進むことではなく退くことだったんだ。今のお前のようにな」
 次の瞬間、爆弾魔はすぐ傍にオーレントの相棒が立っていることに気が付いた。オーレントの話に聞き入り注意が散漫になっていたのだ。人質達も同様だったようで声一つ上げる者はいなかった。
 スミスは彼が手にするヘアアイロンの鋏の間にボールペンを押し込み、右手ごとテーブル上で拘束した。そして空いた手で爆弾魔の顎を殴りつけた後、テーブルの盤面に叩きつけた。男は昏倒しそれっきり動かなくなった。
 
 ほどなくオーレントの連絡により外で待機していた警官隊が室内になだれ込み、人質達は速やかに解放された。
「事件が解決したのはいいが、結局ゾウアザラシはどうなったんだ?気になって仕方がない」
「どうにもなってないさ」
「どういうことだ?」
「俺も話を聞いた時は気になってしかたなかったんだが、ゾウアザラシは親父の頭の中で作られた生き物だったんだ」
「つまり……嘘か」
「そういうことだ。まぁ、いまになってそれが役に立つとは思いもしなかったがな」
 オーレントは大声で笑った。
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ayamegodo · 20 days ago
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わたしは星空の海をゆく
 わたしは星空の海を行く。葦で作られた大きな帆船で数多の神を従えて、星空の海を行く。柔らかな風を受け葦の船は進んでゆく。行き着いた先でわたしは新たな生を受けるという。
 空に浮かぶ星から船内へと目を移す。目に入るのは動物ばかり猫に狼、ハヤブサにカワウソ、サギなのか首の長い鳥もいる。羊にワニ、うさぎと果てにはカバまで乗っている。さながらノアの箱舟か、移動動物園なのか。シーツを頭から被っている者もいるが、あれは何者なのか。隠しキャラなのか。何とも不思議な集団だが彼らはれっきとした神なのだ。
 のんびりとした航海は続かない。水面が盛り上がり巨大な蛇が姿を現した。剣を片手にわたしは船の舳先に立つ。逃げる気は毛頭なく、戦う気満々だ。舳先から飛び出し蛇に向かって突進していく。なぜか体は水に沈まない。
 水煙を飛ばして駆けてゆくわたしに蛇の牙が迫る。牙をかわしつつ、わたしは胴体へと迫り斬りつける、しかし鱗が硬く刃が立たない。万事休すかと思われた時、共に航海する神々からの力を感じた。力がみなぎり、剣が神々しい輝きを帯びる。
 わたしは空高く飛び上がり、蛇の頭部に渾身の一撃を加え、その頭骨を打ち砕いた。蛇は力なく海へと沈んだ。わたしは水面にしばらく佇んでいた。水平線から朝日が昇る。新しい生をもたらす朝がやって来る。
 待って、まだだめ。朝になっては困る。
 わたしは飛び起きた。息を整え周囲を見回す。ここは葦の船の中ではなく、少し散らかったマンションの小部屋で時間は真夜中の二十四時五十分だ。窓の外は真っ暗で夜明けまでまだ時間はある。ついたままのテレビではファラオの一生についてのドキュメンタリー番組をやっている。仕事にキリがついていないのに、うっかり机の上で眠り込んでしまったらしい。本当に夜が明けていたら生どころか死がもたらされていたところだった。 神々と勝利を分かち合いたかったが、仕方ない仕事を再開することにしよう。
 目覚ましのための夜食を用意する。何にしようか。そうだカップラーメンがいい。乾いた食材を煮えたぎる湯を持って食事として復活させる。カップラーメンはそんな復活思想の体現のため開発されたと聞いたことがある。ラーとアメンとその他の神々に捧げるカップラーメン。今の気分に相応しい。
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ayamegodo · 20 days ago
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 皆さんの中にもサンドウィッチ伯爵の名を耳にした方は多数おられるだろう。サンドウィッチ伯爵はイギリスの伯爵位。イングランド・スコットランド合同前に叙位されたイングランド貴族であり、その名は領地とするケント州サンドウィッチに由来する。1660年にサー・エドワード・モンタギューが受爵されたことに始まる。
 コンビニエンスストアなどでよく見かける商品のサンドイッチは4代伯の名にちなんだものとされている。彼は著名な政治家で海軍卿や北部担当国務大臣を務めた。また、ジェームズ・クックの探検航海を支援したことでも知られ、ハワイ諸島の旧名「サンドウィッチ諸島」や南太平洋のサウスサンドウィッチ諸島は彼を記念して名付けられたものである。
 それに対してハンバーガー侯爵という人物はご存じだろうか。もちろんそのような侯爵位があるわけではない。それは後世の人々が付けたニックネームのようなものである。正式にはナルボンヌ侯爵ロナル・ド・メクドナルド。フランス海軍の提督である。彼の好物が固めて焼かれたひき肉と付け合わせの野菜を挟んだサンドイッチであり、のちにハンバーガーと呼ばれるものである。
 フランス海軍は1776年にアメリカ独立戦争がイギリスとの間で始まると、アメリカ側を応援することになった。1船隊の指揮官となっていたド・メクドナルドは第一次ウェサン島海戦、1780年ドミニカ、セントルシア及び1781年のトバゴ島海戦などにも参加した。1781年9月チェサピーク湾での海戦でアメリカ合衆国は独立となったが彼は不幸にも捕虜となってしまう。数ヵ月後帰国を許されたド・メクドナルドだったが軍法会議にかけられることとなった。彼はそこへの出廷を拒み、家族と数人の使用人とともにドイツへと逃亡する。海軍から追われる立場��なった一行は旅芸人に扮しフランス国境を越える。
 ハンブルグに落ち着いた一行はド・メクドナルドの好物の肉のサンドイッチを売る店を出す。それはハンブルグの労働者の間で人気料理となりヨーロッパで独自の発展を遂げていく。 
 18世紀より米国に移住したドイツ人がもたらしたハンバーガーは薄く切ったバウエルンブロートを使用したものだったが、1904年米国セントルイスで開催されたセントルイス万国博覧会では丸いパンを使用したサンドイッチが発売され、今日のハンバーガーの原型がアメリカで誕生した。
 現在大手ハンバーガーチェーンの一つが道化師をイメージキャラクターとして使用しているのは侯爵がドイツへの逃亡時道化師に扮していたことに由来する。
            民明書房刊「ハンバーガーの歴史」より
 
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ayamegodo · 20 days ago
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タンゴの発祥
 タンゴが生まれた経緯は不明とされているが、その原型とされるダンスは18世紀の後半にはイベリア半島で盛んに踊られていた。その後スペイン植民地帝国政策の一環としてラプラタ河口の人々にダンスパターンが伝わり、1900年以降にバンドネオン、フルートなどが混合されたアンサンブルを伴ったダンススポットが強烈に流行した。しかし、これに当時の日本人移民たちが関わっていることはあまり知られていない。  アルゼンチンに足を踏み入れた日本人で、もっとも古く記録されているのは1597年に奴隷であることを不服とてし訴訟を起こして、解放を勝ち取ったフランシスコ・ハポンである。その後本格的な日本人の移民が始まったころ、1886年に牧野金蔵が最初にアルゼンチンに移住し最初の日系アルゼンチン人となった。その後伊藤清三が8000haの富士牧場を経営する。その後第2次世界大戦までに少なくない日本人がアルゼンチンに移住した。日本人はブレノスアイレスやその近郊で工場労働者や港湾作業員として働いたほか、花卉栽培や洗濯業に従事し、地方で農業に従事する者もいた。移民の多くは沖縄や鹿児島の出身であったが、丹後地方の出身者も多くいた。  彼らは仕事が終わった夜に集まり踊りに興じることが多かった。日本で使われていた笛や太鼓の代わりにバンドネオンやフルートが使用された。焚き火に照らされ踊り狂う彼らの姿に現地の人々は��了され、それは彼らの出身地にちなんでタンゴと呼ばれるようになった。やがてタンゴはラプラタ河のダンスと融合し現在の形となった。しかし残念なことに、実際にはほとんど記録は残っていないため、ただしいことはわかってはいない。ただ、リズムに関しては日本伝来の祭囃子の他、キューバのハバネラ、ヨーロッパ伝来のワルツ、アメリカ伝来のフォックストロットなどが初期のタンゴに影響を与えたと伝えられている。
 民明書房刊「タンゴとは」より
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ayamegodo · 3 years ago
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ayamegodo · 4 years ago
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アイコン4種
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ayamegodo · 6 years ago
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ayamegodo · 6 years ago
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ayamegodo · 6 years ago
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ayamegodo · 6 years ago
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