ayukawa1006
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ayukawa1006 · 7 years ago
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兇徒、徒花付きにつき
当然の報いなのだと思った。自分で全て壊しておいて、この先ものうのうと幸福を享受できるなんて思うほうが虫が良すぎるのだから。空っぽになって音も熱も色さえなくした、かつての零課だった場所で私は己の存在をただ責めた。 涼ちゃんを初めに。それからあと全員、私が関わった人は全員死んでいってしまった。泉さんも、南さんも。例外なく私のせいで死んでしまったのだ。 死んでしまったのでは間違っているかもしれない。私が殺してしまった。直接的でないにしろ、彼ら全員の死は私が招いたものだ。当たるはずがない。そんな風に思いながら興味本位で引いた引き金が、結果的に全員の脳髄を破壊し尽くしたような。そんな終わりだった。 ロシアンルーレットにすらなり得ない、あまりにも決まり切った結末。残ったのはチョコレートでも砂��菓子でもない、実弾のこもった拳銃の引き金を撃ち続けた私ただ一人だ。 長く伸ばした髪は、あの時自分で勢いに任せて切ってしまった。涼ちゃんや泉さんがそっちの方が似合うと言ってくれたから伸ばした、大切な髪だったのに。私が、自分で。 けじめだとは言え、あの時乱暴に切ってしまったから私はあちら側へ行くことを許されなかったのだろう。全ての縁が切れてしまったから。お釈迦様の垂らした糸だと知らず、私は自分から救われたかもしれない道を絶ったのだ。 自業自得、至極当然。それは自分が一番よくわかっている。私は裁かれるべき人間で、愛されたり認められたりするはずのない人間なのだ。心の底から憎まれて、大勢に望まれながら処刑されるのが似合う大罪人だ。 それをずっと嘘をついて隠していた。上野原さんにもウィリアムさんにも。紫合知恵理という人間は憎まれ、嫌われるべき存在なのだから。私のせいで二人の大切な人は死んでしまった。私がここでのうのうと息をしていること自体、まかり間違ったことだったのに。 早く、逃げてしまえばよかった。そうしたら罪人は罪人らしく、それなりに生きていけたかもしれない。それを選べなかったのは、記憶が朧気だったにしろ自分の心が弱かったからより他にない。 ここにいていいのだと、居場所を作ってくれた。それがあまりに嬉しくて心地よかったから。ついつい甘えてしまった。 甘えた結果が、最悪の結果だ。私がいなければきっと猪狩さんを撃ってしまうこともなかったはずで。零課の大切な人を殺して回って、それで私は。私は死なずに、ただ普通に息をしている。 「……あは、あはは、ははは……! どうして、どうして私……。私、生きてるの……」 言葉にした瞬間、我慢していた全てのものが溢れて足から力が抜けた。半ば転び、倒れ込むようにして床へ転がり、丸まって泣いた。埃っぽい空気が胸に入って咳き込んでしまうほどに辛い。それでも泣くのはやめられなかった。 子供のように泣きじゃくっていれば、誰かが手を伸ばしてくれると思った。それが零課の誰かであって欲しいと思いながら、でもそんなことはもうこの先ないのだと分かっているから苦しくて。苦しくて苦しくて。それでも溢れる号哭は止められなかった。 全てのことが終わったら、処遇を任せると言ったのに。私を罰してくれる人はもういない。結局誰かに断罪を頼むなんてことは許されていなかった。私が私で終わらせなければならなかったのだ。それをようやく、今になって理解した。 どれくらい泣いたのかわからない。やっとおさまってきた涙を拭いながら、ふらつく足で立ち上がって深呼吸を一つ。そのまま零課の扉を開け放って、今出来る一番穏やかな微笑みをなんとか��かべてから一言誰に言うでもなく呟いた。 「私、最低な人間なので。あなたがたの様に強くない、ちっぽけで弱っちい女なんです。許されるはずない私がここに残るのも、ここで死ぬのもおかしな話ですから」 ――ですから、さようなら。 それだけ言い残して。私は足早に警察署を後にした。この先何をするかなんて決まっている。私は生きるにも死ぬにも汚すぎる。それなら美しいものでおおってしまうのが一番だろう。だから、だから。 最後に一つ。私のこの手で徒花を咲かせるのが、いいと思うのだ。
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ayukawa1006 · 7 years ago
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朔日にエンドロールはないています
色あせ、思い出せなくなった記憶というのはどこへ行くのだろうか。脳細胞のどこかに置き去りにされ、陽が当たらないために意識に浮上しないのだろうか。 錦戸はそこまで考えて、ああ違うと頭を横に振った。脳の中は無数の微弱な電流が絶えず走っている。それが脳が活動しているということであり、記憶の正体だったように思う。 ニューロンが感知できなくなり、どこへも行けなくなった電流。それが日々失われていく記憶の末路なのかもしれない。葬りられ、供養されることも無い。ただあるのにないものにされるのと比べれば、形式上ではあるものの半永久的に残る石で墓を作るのは実に機能的であると言える。 やがてなくなるタンパク質とリン酸カルシウムの塊。実体もなければ、生前残したなにかもない。ただ文末に打たれるピリオドのように設けられた墓に果たして消えぬ記憶――いや、記録以外の意味はあるのだろうか。こんなご時世なのだから、意味なんて問う方がおかしいのか。錦戸は妙な方向へと一人歩きしだした己の思考を引き止めながら、少し先で立ち止まる男の背中をぼんやりと眺めた。 まだ朧気ではあるものの、色合いまで思い出した過去の中で常に笑っていた男。友達よりももっと近しかった彼は、数年の間で幼く柔らかな線の細さをすっかり失っていた。 「錦戸くん、これ新商品だって。そういえばCMでやってたよね、誰だっけ。髪が長くて、ドラマとか出てる女優さんの」 「ああ、そういえば発売最近だったっけ。篠山、記憶力あんまりないの昔から変わんないね」 「ええ、そう? でも簡単に人間が変わったら困るよ。錦戸くんも昔から変わってないよ?」 へらり。自動販売機の前で笑った男、篠山は成人男性が浮かべるにはあまりに締まりのない顔をしている。この笑い方は昔と何一つ変わらず、まるであの頃の残滓のように篠山にまとわりついて離れない。 確か、彼のことを知ったのもその表情がきっかけだったような気がする。人の悪意など一切知らぬとでも言うように、無邪気に周囲に笑いかけるその底なしの善性が幼いながらに不気味だった。確か、そんな些細な違和感と居心地の悪さ。それが第一印象だったように思う。 なにせ思い出したとはいえ、昔の記憶は経年劣化でぼろぼろに朽ちつつある。その中でなんとかつまみあげられたのがそれだけだった。 きっと、篠山は覚えちゃいないんだろうな。妙な喪失感めいた感覚がふっと胸に湧いた。忘れていくのは生きている以上健全な行為のはずだ。それを分かっていながら、どうしてだか胸を押さえつけ握り込むような感覚が消えないのだ。 はい、錦戸くん。缶コーヒーを差し出しながら篠山は笑う。昔は缶コーラだったというのに、いつからかコーヒーを口にする頻度の方が高くなってしまった。 ぽっかりと開いた空白の時間が、自分と篠山の距離のように思えて何となく悲しかった。数年前と同じ距離で並んでいるのに、どこか遠い。怪盗と探偵であった時のように。真逆に歩いているような、そんな距離の開きを感じてたまらなかった。 缶コーヒーを受け取りながら、錦戸は篠山の頭から爪先までするりと視線を滑らせた。伸びた身長と、職業のせいか程よくついた筋肉と。全体的に余分な肉が削ぎ落とされた体躯の中で、昔と変わらぬ柔らかな表情だけが異質と言っていいほどに目立った。 大人といるのか、子どもといるのか。曖昧な彼という存在の輪郭についてどう定義付けるかを考えていれば篠山がふと思い立ったように口を開いた。 「��戸くん、人��て二度死ぬって言うよね。肉体が死んだ時と、人に忘れられた時」 「まあ、よく言うけどそれがなに?」 「俺達、お互いのこと忘れてたでしょ? 肉体は生きてて動いてるのに、お互いのことだけぽっかり。それってお互いにお互いを殺した、みたいだよね」 「……篠山、前から思ってたけど突拍子なさすぎじゃない?」 「なんとなく今そう思っただけ。……ねえ錦戸くん」 「なに?」 「俺達が死んでた間の話しよ? そしたらまたあの頃の俺達も息が出来るよ」 「篠山さあ、もう少し言い方考えない? 言いたいことは分かるけど」 「え、ダメだった?」 「……まあいいや。いいよ、でも先に篠山が話して」 「うん、分かった」 また幼児を思わせる緩さで笑った篠山は、かしょっと音を立ててコーヒーを開けてから数年分の出来事を話し始めた。中学生の頃の、話の順序がバラバラで時系列があちこちへ飛ぶのは健在で、話を理解するのにしばし時間を要した。それでも篠山がそれなりに健やかに生きていたことは分かって、それだけで錦戸は安堵を覚えた。 全て話し終えたのか、篠山はコーヒーを一口飲んでからにこりと錦戸へ笑いかけた。今度は錦戸くんが話してよ。軽やかな篠山の声に、錦戸はどこから話せば篠山に分かるかなあなどと言いながら口を開いた。今から語る己の数年間が、少しでも篠山の気持ち的な部分を少しでも埋められたらいい。 そんなことを密かに脳髄の隅で思いながら、錦戸はゆっくりと口を開いた。
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ayukawa1006 · 7 years ago
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プリマドンナの嘆声
心が満たされるという感覚は、きっとこういう感覚を言うのだろう。早乙女はふいにそんなことを思った。 風に弄ばれる髪は長く、透き通るような銀色。熟れた柘榴を彷彿とさせる紅の瞳は物憂げに現実を見据え、時折諦めたかのようにこの世ならざる場所へと向けられている。 スラリと伸びた四肢と、まるで誂えたかのような上等で飾り気のない服。遠目からでも彼だと分かるほどに、それは洗練されており酷く美しかった。 緩やかに走り出す感情の名はなんだったろうか。把握しきれない己の感情に困惑しながら、早乙女は息苦しさを感じるほどに拍動を繰り返す臓器をそっと胸の上から撫でた。白いリン酸カルシウムの檻に閉じ込められたそれは、何度も何度も大きく律動を繰り返し過剰な���の酸素を送り出す。 くらくらと目眩がする。仄かな頭痛すら感じだした体に驚きながらも、早乙女にはその異常が愛おしかった。空っぽだった器に水が満ちていくような。どこか虚ろだった己になにがしかの生の結果が満ちてゆく感覚。指先にまで有り余るほどに巡った熱があまりにも心地よかったのだ。 羨望だろうか、憧憬だろうか。美しい感情をいくつも取り出しては置いてを繰り返しながら。あの横顔に、後ろ姿に、交わらぬ双眸に抱いた高揚感の名前を探した。 だがどれだけ思いつくものをあてがってみても、なぜだか上手くはまることはなくて。思い当たる感情を全て並べ足元に散らばらせてから。ようやく最後に残った感情をつまみ上げ、そして困ったように、そして見ようによっては情けないように笑った。 「……まさか、そんな感情今になって知るなんて思わないでしょ……」 淡く、見落としそうではあるものの。それでも早乙女が抱いたそれは正真正銘恋心だった。恋と言うにはあまりに無垢で、そして繊細で。羨望に少しだけ似たその色は、ひどく柔らかく甘やかだ。幼稚園児が抱くような。見返りを求めぬ、一種の信仰に似た思い。ある意味で彼を神聖視しているのかもしれない。 混じりけのないまっさらなようで、そしてどこか歪んでいるような。言い表せぬ感情を胸に飼いながら、早乙女は少しだけ己の精神活動を恨んだ。 彼へ恋をしているとは言え、名前も何も知らぬただ袖が微かに振り合っただけの脆く細い縁だ。理想の混じった、美化していると言っても間違いではないような像を抱いてしまっているのかもしれない――いや、その可能性の方が高いというのに。どうしてそれを恋だとラベリングしてしまったのだろう。 そしてその上、どれだけ美しかろうと彼は男なのだ。同性愛が昔ほど忌諱されなくなったとは言え、まだその立場は弱い。心ない人間にこの感情がしれれば、それだけで差別の対象になりかねないというのに。どうしていいやら、早乙女には分からなかった。 もし仮に彼と語り合うことが許されるような仲になったとして、彼は好きだと告げて笑ってくれるだろうか。その先を想像しようとして、早乙女は頭を数度横へ振ってその思考を半ば強制的に終わらせた。 受け入れられる確率はほんの僅かだ。彼とどうこうなりたいわけでもないのに、折角手に入れた立ち位置を失うかもしれないシミュレーションはあまりに心臓に痛い。まるで鋭利なガラス片が刺さっているような痛みに、早乙女は恐怖さえも感じた。 体内の一番柔らかいところに刺さったガラスが、更に押し込まれればもう生きていくことすら難しくなる。肉体的にではなく、精神的に。ズタズタに引き裂かれた己をかき集め、平気で笑っていることなどとてもではないが出来そうにない。 誰にも知られず、そしてひっそりと。諦めがつくまで、この気持ちは隠し通さねばならない。いつかそのときが来た時は。誰にも見つからない場所にそっと埋葬して、弔おう。 それまでは、当たり障りのない表情を緩やかに浮かべ隠し続けるより他にない。誰だけ痛く、辛くとも。知られてはいけない。それだけは、避けなければならない。 それはどこか美しく舞うプリマドンナや、足に合わぬパンプスやハイヒールを履きながらもそれを一切出さない女性に似ている。どれだけ高いヒールでも。先が狭まり隣の指が食い込み、肉がえぐれ血が流れていようとも。彼女らは笑い続けなければならない。そうであれと押しつけられた仮面を脱ぎ捨てることなど許されやしないのだから。 ……ああ、もっと許される恋だったなら。社会を、そして己を呪いながら。早乙女は自身の顔をすっぽりと覆い隠す仮面を音もなくかぶった。この感情が死に絶えるまでどうか悟られることがありませんように。そんなささやかな祈りを胸にしまい込みながら。早乙女は音もなく微笑んでから、アトリエの中へと姿を消した。
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ayukawa1006 · 7 years ago
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残夏のくゆりごと
消えたいと思ったとき、いつだって耳に聞こえるのは彼女の言葉だった。色褪せることもなく耳に残る芯のある声と言葉は、戦士を鼓舞するオルレアンの聖女のようであり、そして同時にこの際解けることの無い呪いのようだ。
体にまとわりつくような湿気と暑さは、初夏を通り越してもう夏のもので。いつの間に季節は巡ってしまったのだろうか。
知らぬ間に流れていた時間に気付き、自分の口から口癖のように零れていた言葉が出なくなった理由を、黒銀は知った。
私もいつか。そんな、未練にも似た情けない言葉を、飽きもせず呟いていた時期があった。誰にも気付かれぬようそっと。何度も、望んではならないそれを望み、そして諦めた。
それが半ば日課のようになっていたのに。ああ、もうそんなに時間が経ってしまったのか。途端胸の中に顔を出した喪失感に顔を歪めそうになると、目前で新聞を読んでいた青年がぼそりと一言呟いた。
「死んだらいいのにな」
「……え?」
「ああ、お前へ言ったわけではない。何年か前連続殺人事件あっただろう、裁判が昨日でな。供述があまりに人間と言うにはお粗末すぎる」
「ああ、あの事件か。確かにあの事件は酷かったね」
「だろう。こんな理由で人を何人も殺��ような輩は死ねばいいんだ、その方が世のためになる」
「それは極論すぎると思うがね、私は。……私はてっきり、君が私へ言っているのかと思ったよ」
「そんなわけがあるか。俺は前も言ったはずだか」
――葵の件について、俺はお前を責めるつもりはない。
新聞からすっと目線を黒銀へと移し、青年――國島芹は何気なく言った。素っ気ない言葉に黒銀は苦笑したものの、何も返せやしなくて。
どうしてだか、芹の目が未だに怒りを孕んでいるような気がしてたまらなかった。先程漏れた言葉だって、本当のところは黒銀へ向けて言われたものだったのかもしれない。
死んだらいいのに。そう、言われるだけのことをしているが故に。芹がそんなことを言わないことを分かっていても、そう思ってしまって仕方がなかった。
そんな意識に苛まれているからなのか。己へ消えればいいと何度も繰り返すと、少しだけ楽になる。それが逃げだということも、根本的な解決に繋がらないことも分かっている。それでも、どうしてもやめられなかった。
ああ、私���弱い人間だ。内心、自嘲しながら呟いた言葉を肯定し、嘲笑うかのように事務所の外に住み着いているらしい野良猫がうるさく鳴いた。
心臓に生々しく残った傷跡は、どれだけ月日を重ねようと癒えることはない。むしろ、癒えるどころか己を追い詰め、死へ至らしめようと息の根を止めにかかっているような気さえする。
まるで真綿で首を絞めるように。じわじわと心の余裕と、足元を削ってゆくから。黒銀はいつからか、この世のどこにも自身の居場所がないような錯覚を覚えていた。
どこへ行っても、もしかしたらここにいたかもしれない女性を助けられなかったという、大きく重い後悔がつきまとう。それはどこか重りのようで、自身の行動や呼吸を阻害しているようにさえ思えて。
ああ、こんな時に彼女がそばにいたなら。何度そう思ったか分からない。叶うはずもない、願望とすら呼べない執着めいたそれを彼女が知ったら、きっと呆れて笑うのだろう。馬鹿だな。そんな風に、軽く笑い飛ばすその声があまりに欲しかった。
彼女が聖女でも、救いの手を持つ神でもないことは知っている。それでも芯のあるあの声と目がそこにあれば息ができる。それは紛れもない確信だった。
隣で本を読んでいるだけでも、居眠りをしているだけでもいい。特別なことなど、何一つとしてしなくていいのだ。ただそこで生きて、時間を過ごしているだけで充分で。
それだけで生きていけると思った。時折会話を交わして、笑う。それだけで幾許か楽になれるのに。なんでもない日常の一場面に彼女と自身がいるだけで凝り固まった心が解れるに違いない。
もう今となっては叶いもしないささやかな願いではあるけれど。出来るならもう一度。もう一度だけ、美しい響きを有する彼女の名前を呼びたかった。
葵くん。ただ、それだけをもう一度、呼びかけたかった。
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ayukawa1006 · 8 years ago
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シュガー・キャラメリゼのよる
お菓子作りが趣味のようになったのは果たしていつからだっただろうか。淵源はまだ人の少ない図書館の中で少し記憶を巡らせた。元々料理は一人暮らしをしている以上毎日必須ではあったものの、お菓子作りはそうではない。にもかかわらず、高頻度でお菓子を作るようになったのは間違いなく彼と知り合ってからだった。 真砂弓睦。ひょんな事から知り合った後輩のその青年が甘いものが好きだと知ったから。気が向いたときにお菓子を作ってあげるようになった。確か始まりはそれで合っているはずだ。 すぐに離れるだろうと思っていたにもかかわらず、彼は時間が経てば経つほど近くなってて。驚いたことに淵源もそれを不快だとは思わなかった。むしろ心地よいとさえ思ってしまったのだから、彼女自身でさえも戸惑ってしまった程だ。 人と関わる事をこれでもかと避け続け、社会に出ることも拒否してモラトリアムを謳歌する。そんな間違っても褒められやしない態度でいた彼女に愛想を尽かさなかったのは、真砂ともう一人を除いていやしない。だからこそ淵源は真砂を大切に思っていたし、友人として――否それ以上に好いていた。 だからこそお金も手間も、時間もかかるお菓子作りに趣味と呼べるほどの時間を費やしているのだろうと思った。そうでなければ、こんなことを続けられるはずがなかった。 丸くなったのかもしれない、らしくないなあ。そんなことを思いながら、空調の音がやけに響く中でぼんやりとしていた時だった。彼女の目の前に誰かが座った。半ば淵源の指定席となった机の一角、その目の前の席に座る人間など一人しかいない。 淵源が視線を移すと、そこにいたのは人の良さそうな笑みを浮かべた真砂だった。先輩。いつもと変わらぬ声色で淵源を呼ぶ彼に、つい彼女の頬が緩んだ。 「やあ、弓睦くん。今日は少々早いね?」 「一本早いバスに乗れたんすよ。だからちょっと余裕が出来たんすよ」 「へえ、それは良かったね。……ああそうだ、君に渡すものがあったんだった」 「俺にっすか?」 「そうだとも。むしろ君以外に渡すもんか」 そう言って、淵源は鞄の中から一つの箱を取りだした。丁寧にリボンのかけられた、プレゼントであると一目で分かるその箱を。彼女は迷うことなく真砂へと差し出した。 ふわりと箱から香る甘い香りは何度か嗅いだことのある、淵源お手製の焼き菓子の香りで。箱の中身を察したらしい真砂が、まるで大型犬の様に表情をぱっと明るくした。 「先輩! これもらってもいいんすか!?」 「勿論だとも。君のために焼いたんだから。弓睦くんは甘いものが好きだろ? だから普段よりも少々甘めに作ってあるのさ」 「嬉しいっすけど、なんで……」 「君モテそうなものだけど、そうでもないのかい? バレンタインだよ、バレンタインのチョコの代わりだと思ってくれたまえ」 淵源が悪戯っ子を彷彿とさせるような得意げな笑みを浮かべると、真砂は目を輝かせながら幸せそうに笑った。まるで温かいココアにマシュマロが溶けてゆくような。そんな甘く、そして柔らかな笑みに淵源は一瞬どうしていいやら困ってしまった。そんな笑顔を今まで一度だって向けられたことがないために、どう言葉を紡いでいいやら全く見当がつかなかった。 淵源が困り果てている中、そんなことを露も知らぬ真砂はケーキの入った箱を自身の前へと置いてから、彼女の手をぎゅうと包み込んだ。痛いとすら感じる程に淵源の手を握りながら。真砂は幸せそうな笑みのまま、彼女へと口を開く。 「俺、今までのどんなバレンタインより今年のバレンタインが一番嬉しいっす!」 「大げさすぎやしないかい、何の変哲もないチョコレートケーキだぞ?」 「中身の問題じゃないんすよ! 先輩にケーキをもらえた事が嬉しいんすよ!」 ――だって俺、先輩のこと大好きっすもん! その言葉に嘘偽りがこれっぽっちも見当たらないものだから。また淵源は返答に困ってしまった。それでも真砂が喜んでくれているのがあまりに嬉しかったのは事実で。だからこそ彼女はただ釣られたようにいつもよりも穏やかな笑みを知らぬ間に浮かべていた。
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ayukawa1006 · 8 years ago
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メランコリック・ショコラーデ
バレンタインデーなんて催し物に、この年になって縁が出来るとは思いもしなかった。複雑な心境で、淵源トワコは自分の手に提げられた紙袋をチラリと見やった。 生まれて二十数年。異性はおろか、他人を好きになった事すらまともになかったのだからバレンタインデーなど一番縁のないイベントだったはずだ。それなのにどうしてこうも突然関係のある日になってしまったのやら。淵源は少しだけむう、と表情を歪ませながら目的地へと急いだ。 最初はこんな関係など、これっぽっちも望んでいなかったというのに。顔も素性も知られず、ただの一読者でいられるだけで良かった。作家と読者の関係なんてものは、それ以外にあり得るはずがないのだから当然と言えば当然だろう。 それなのに、奇妙な邂逅の結果落ち着いたのが今の関係――つまりは、恋人だ。あまりにも飛躍しすぎている気がする。だからといってこの関係が嫌だとか、そういうわけではない。それでも、様々な段階を飛ばして落ち着いた関係であるために、どうして���落ち着かないのだ。 それが淵源だけだということはよく分かっている。それに、淵源が気にしすぎているからだということも。その証拠に彼女の恋人である四十川は常に落ち着いている。これが大人の余裕というものだろうか。そう思うと、淵源は己と彼との間にある数年の差がどうしようもなく憎らしいものに思えてならなかった。 同い年ならば、もっと自然に接することが出来るのだろうか。そんな事ばかりが頭を埋める。こんな背伸びをした子どものままでは、きっといつか愛想を尽かされてしまうに違いない。それを考えるとどうしようもなく恐ろしかった。 変なの、今までは人に離れられる事に安堵していたのに。頬を撫でる北風から隠れるようにマフラーに顔を埋めれば、いつの間にやら目的地であった四十川の自宅前へと到着していた。 四十川から手渡されていた合鍵で鍵を開け、執筆の邪魔をしないように家の中へと入る。もうすっかり慣れてしまった彼の家の中を進みながら防寒具を外し、紅茶でも淹れようとキッチンへ入った時だった。そこにはいつものカップを手にした四十川が立っていた。 「おや、永久子。寒いのによく来たね」 「執筆中じゃ、なかったのかい」 「流石に私も人間だからね。多少の休憩はするよ。でも助かったな、丁度紅茶を淹れようと思っていたところだったから」 「……私に淹れろとでも言うのかい、作家先生は」 「自分で淹れるより、永久子が淹れた紅茶の方が美味しいからね。ダメかい?」 「……はあ。分かった分かった、すぐに淹れるから作家先生は椅子にでもかけて待っていたまえ」 防寒具と荷物を適当な場所へ置いた後、溜息と共に四十川からカップを受け取りいつもの手順で紅茶を淹れる。お湯が沸いていただけ彼を待たせずに済んだのは良かったかもしれない。緩やかに色付いたそれをカップへ注いで。四十川へを差し出せば、嬉しそうに眼を細めてカップを受け取る四十川。その作家としてではなく、一人の男性として顔をほころばせる四十川の顔が淵源は何よりも好きだった。 「うん、やっぱり永久子の淹れる紅茶の方が美味しい」 「そんなに褒めても何も出ないぞ。全く……」 「本当だよ。私はどうもその辺りには疎いからね。永久子が恋人になってくれてから、私は大助かりだよ」 「……君ねえ、私は家政婦になったつもりはこれっぽっちもないんだが?」 「分かっているよ。私の仕事が立て込んでしまってつい甘える形になってしまってすまないと思ってる」 「はあ、そういうところで真面目だな作家先生は。……ほら、丁度いいからお茶請けにでもしたまえよ」 先程置いた荷物の中から紙袋を持ち上げ、そのまま四十川へと差し出す。一瞬彼はきょとんとした様子だったが、そのまま紙袋を受け取り中を覗き込んでから中身を取り出した。 リボンのかかった箱は、一目で既製品と分かってしまうけれど。それでも四十川は驚いた様子で淵源へと視線を移す。その視線が言わんとしていることはもう分かっている。それ故に淵源は視線を逸らし、そして少しすねたような口調と声色でこう返した。 「……私は君の恋人、だから。こういうことをしてみるのも、一興かと思っただけだ」 「まさか永久子からチョコレートがもらえると思わなかった���」 「……君、失礼にも程がないかい? 一応私は君よりも若いし、その辺りの情報は大学にいれば嫌でも耳に入ってくるんだが」 「そういうつもりでいったんじゃあないんだ。……恋人らしいことを出来ていないからね。愛想を尽かされたんじゃないかと思っただけさ」 「馬鹿だな、作家先生は。尽きるほどの愛想なら、最初から向けていないとも」 ――私は青磁さんが好きだから、こうして足繁く通っているというのに。 するりと淵源の口から出た言葉に、四十川は顔を覆った。いつも好意を示さないだけ、ふとした瞬間に向けられる好意は刺激が強すぎるのだ。淵源は事実を述べただけだと思っているのだろう。だからこそ、飾り気のない真っ直ぐで純粋な本音が苦しい。 本当に、困った人を好きになったものだ。ばくばくとうるさい心臓を必死に隠しながら、四十川はチョコレートの箱を開けるのを装いながら淵源の眼から視線を逸らすことしか出来なかった。
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ayukawa1006 · 8 years ago
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真冬の逃げ水
一般的に言えば、今日はバレンタインデーであるらしい。それに気付いたのは、もう日付が変わる数十分前になってからだった。 いつもならばほとんど人通りのない道でカップルが多数手を繋ぎ、腕を組み歩いていたものだから何かと思って日付を確認したところでようやく気が付いた。なるほど、通りで数週間ほど表通りが女性で賑わっていたわけだ。気付くのは遅すぎたが、理由を知れば周囲を歩くカップルの浮かれ具合には納得がいく。 納得がいったところで、生きている人間が好きではないために好感が持てるだとかそういうことは一切ないが。ただ歩いているだけにもかかわらず、四方から突き刺さる熱を帯びたような視線があまりにも気持ちが悪く、男――クレーヴェルは足早にその場を去った。 目的地はいつもと同じ、御影の仕事場である。彼の仕事場なら、人間に溢れているなんて事はまずないだろう。死体に溢れていることはあれど、己と同じく人間を嫌う彼なのだから取引相手以外で家に人間を入れることはまずない。それを考えると、自宅以外では一番気が休まる場所である様な気がした。 廃墟の床、鉄で出来た扉を開けて。掃除の行き届いていない階段を下り、その奥にある扉を開ける。深夜だというのにまだ明かりの灯された室内では、珍しいかな御影がまだ白衣を着て作業に追われていた。 「……あ……」 「おや? こんな時間に珍しいですねェ? この時間なら、君家に戻っているような時間じゃあないですかァ? 危ないですよォ、深夜に廃墟まで来るなんて」 「……」 「ま、理由は分からなくもないですがねェ。さしずめ、外がカップルだらけでその女性側から向けられる視線に耐えられなくなったんじゃ、ないですかァ?」 ――君、生きた人間は例外なく嫌いですもんね? 嫌みも何も込められていない彼の言葉に、クレーヴェルは返す言葉もなくただ黙って視線を彷徨わせるしか出来なかった。この時間なら眠っていると思ってきたのに、当てが外れた。眠っている死体めいた彼を愛でるだけ愛でて、そのまま家に帰ろうと思っていたのに。起きているならそれも叶わない。 起きていれば、御影とて他の人間と何ら変わりやしないのに。それを理解した上でこんなことを言ってくるのだから、御影は性格が悪い。内心で彼をなじりながら。クレーヴェルは扉の前から中へ入れずにいた。 まるで御影が作った精巧な人形の様にそこで突っ立ったままのクレーヴェルを不審に思ったのだろう。御影は特に声をかけるでもなく、ちょいちょいと彼へと手招きをして奥へと引っ込んでしまった。 一瞬手招きに身体を跳ねさせたものの、こうして彼が作りたての人形を見せてくれることは多々ある。今回もきっとそうなのだろう。そう思って手招きに従い、いつも通されるソファへと腰を下ろせばどこからともなく甘い香りが漂ってきた。 彼の仕事場はこんなに甘い香りがしただろうか。確かに死臭の甘いような匂いがすることはあるが、こんなに口の中に纏わり付くような甘い香りはしなかったはず。香りの正体に首をひねっていると、奥から戻ってきた御影がマグカップをクレーヴェルの目の前へと差し出した。 反射的にそれを受け取ると、先程から漂ってきた甘い香りはそこからで。まろやかな黒い水面に映った己の顔をぼんやりと見つめていれば、少々楽しげな御影の声が降ってきた。 「まあちまたではバレンタインデーらしいので、チョコレート、とまではいきませんが似たようなものですしいいでしょう」 「……え?」 「ココアはお嫌いでしたか? でしたら他のものを用意しますが……」 といっても、後はホワイトチョコレートしかありませんけれど。 そう言ってクスクス笑う御影に、クレーヴェルはやはりなにか言葉を返すことは出来なかった。バレンタインデーから逃げ込むためにここへ来たのに、これじゃ意味がない。そんな事を言ってやろうかと思ったが、きっと言ったところで神経の図太い彼には何の意味もなさないだろう。 それを思うと諦めるより他になく。本当に変な人。胸中でそう思いつつ、まだ温かいココアへと口をつけるより他になかった。
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ayukawa1006 · 8 years ago
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幸福論者の逝く末
因果というのは、心底捻じ曲がっていてタチの悪いものだと思う。黒銀は探偵事務所の応接室で、優雅にティーカップに口をつけている男性の顔を見ながらつくづくそう思った。 緑がかった黒髪と、夜空に浮かぶ月を思わせる若干くすんだ金の目。出会った時��ら変わらぬ仏頂面は、折角整った顔をしているというのにそれを台無しにしている。 本当に、何度も訪れて飽きもしないものだと感心してしまうほどに、その男は彼の元へと気が向いたかのように訪れていた。 國島芹。とあるSNS運営会社の会長をしているらしい。そういえば数年前にワイドショーか何かで名前を聞いたことがあったような気がする。若くして人生の勝ち組になった彼が仕事の関係者でもないのにここにいるのは、ただの縁と因果の結果でしかなかった。 今はもう、この世のどこにもいない高潔な人。男っぽい振る舞いのまま、炎に焼かれてしまった傲慢な聖女。見殺しにしたと言っても過言でないようなその最期を遂げた一人の女性。國島葵と名乗ったその女の兄が、芹であったのだ。 どこまでも許されやしないのかと、処刑台へと送られる死刑囚のような心境で黒銀が芹と対峙しているのを、きっと彼はこれっぽっちも理解してやいないのだろう。その残酷さは、彼女とひどく似ていた。 「芹くん、今日はなんの用だい。君の妹――葵くんの最期はもう話しただろう。君に問われて答えられることなんて、もう何一つないんだが」 「妹を気軽に下の名前で呼ぶな。……今日は時間が空いたんで顔を出しただけだ」 「……君ねえ……。探偵事務所はいつから君のための気軽な喫茶店になったんだい」 「さあな。……なあ、一つ下らない質問をしてもいいか」 「なんだい。答えられることなら答えよう」 「もしも。もしも仮に、葵がそっくりそのままこの世に生きていたら、お前はどうする」 何気ない質問のつもりだったのかもしれない。顔色一つ変えずに問われたその言葉に、黒銀はティーカップを取り落としそうになった。 許してもらえるなどと、思ってはいない。口にこそだしやしないが、きっと彼はもう死んで��まった彼女のことを愛していたに違いないのだから。愛すべき家族であった彼女のことを見殺しにした己の罪を正確に突きつけてくるのは、きっと心の奥底では憎しみや怒りがあるからなのだろう。 ならば、どう答えるのが正しいのだろうか。芹の求める模範解答とは一体何なのか。それさえ、よく分からなかった。 知り合ってから時間が経っていないからではない。ただ、恐ろしかったから。大切なものを奪った男を目の前にして、それでも責めずに普段の態度であろう仏頂面のままでいる彼がどうにも理解出来なかったのだ。 どうすれば、彼を怒らせないような回答を返せるのか。それとも酷い答えを返して、断罪してもらおうか。ぐるぐると黒銀の頭の中で思考がうずまき、満足に言葉を選ぶことすら出来なくなってきた。 だからなのかもしれない。黒銀はまとまらない思考と言葉のまま、こんなことを口にしていた。 「私は、恐らくまた殺すだろうね」 「そうか」 「彼女はあの時死んだんだ、記憶もあって生きているなんてそれは彼女ではない。出来損ないの合成獣のようなものだろう? 私はそれを彼女として認められない。……君はまた家族として接するのかい」 「いや。俺もお前と同じだ、殺すだろう 」 「……なに?」 「葵はお前達を思って、死んだ。その選択は確かに馬鹿��選択な上に、一番選ぶべきものではなかったがそれでも葵自身が良かれと思って選んだものだ。ならそれを覆すようなものがあってはならない」 ――それが例え、葵自身だったとしても。 何の感情もこもらない声で淡々と述べられた、己と同じ回答に黒銀は泣きそうになった。妹をこの上なく愛しているのに。否、愛しているからそんな回答をするのだろう。何のためらいもなく告げられた、殺すというその選択は軽々しいように思えてあまりにも重かった。 嗚呼、手酷いことを言えばまたあの日のように怒鳴るだろうと思っていたのに。どうして許さないと言ってくれやしないのだろう。 黒銀は軋み、膿んだように痛む胸に目を向けないようにしながら、ただそうかと芹へ返すしかできなかった。その笑みがあまりに醜悪な継ぎ接ぎであることなど、これっぽっちも気付きやせずに。
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ayukawa1006 · 8 years ago
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烏羽玉に見ゆエステレラ
水底から名を呼ばれるような。そんな、不確かでおぼろげな声が名前を呼んでいる。聞き慣れたその声に引っ張られるようにして、睡眠へ潜っていた意識が浮上する。青磁さん、起きたまえよ。声に加え、軽く身体を揺すられたものだから。覚醒しきった意識のまま眼を覚ませば、すぐ眼前に隣で眠っていたはずの女性がいた。 いつも眠る時に着ているだぼついた部屋着ではなく、温かそうなダウンコートを着込み首元にはマフラーを巻いて。部屋の中だというのに防寒に徹している彼女はいささか奇妙なもののように思えた。 「やっと起きたかい、先生。朝早くに連れて行きたいところがあるから起きてって昨日頼んだのに」 「まさかこんなに早いと思わなかったんだよ、永久子は早いね……」 「当然だとも。先生を目的地まで連れて行くのは私なんだぞ、準備する事だってあるんだから」 「準備? そんなに遠いところなのかい」 「そう遠くはないよ、ただ道中寒いのはわかりきっているからね。防寒対策のためにいろいろあるのさ。とにかく先生は早く出かける準備をしてくれたまえ。夜が明ける前に到着しないといけないからね。私は玄関で待っているから」 目的地も告げず、女性は部屋を後にした。まだ寝起きでぼんやりとする頭のまま、身体を起こした男性――四十川はさてどうしたものかと少々思考を巡らせた。 本音としては、寒いのが分かっている以上こんな早朝から外に出たくはない。日も差さぬ、まだ夜と言ってもいい空の下で。冷え切った空気に包まれるというのは想像しただけで身体の芯まで冷え切ってしまう様な錯覚を覚える。 出来るのならもう数時間ほど布団にくるまっていたいが、彼女が準備を整えている手前そんな事が出来るはず���なく。ここでベッドに身体を沈めれば、当分の間不機嫌なまままともに口をきいてくれなくなるだろう事は予想に難くない。 寒さに震えるよりも、そちらの方が手を打てないだけたちが悪い。四十川は仕方ないといった様子で溜息を一つ漏らした後、ベッドから立ち上がった。そのまま着替えを済ませコートを着込み、防寒具を身につけてから玄関へと向かう。 玄関では彼女――淵源が壁にもたれかかりながら、四十川を待っていた。お待たせと声をかけると、つまらなさそうにつま先を見ていた彼女の顔が上げられ少しだけ綻んだ。電気をつけていない、真っ暗な中でもその表情の変化はしっかりと見て取れて。四十川の表情もそれにつられるように少しだけ緩んだ。 四十川が靴を履いたのを確認すると、淵源は鍵を開けて扉を開ける。家の中とは比べものにならないくらいに冷たい空気が、開け放たれた扉からなだれ込む。思っていたよりも冷えた空気に、反射で身体が縮こまる。 こんなに寒いんだからまたにしないかい。そう声をかけようと口を開きかけた時、それを遮るように淵源が良かったと一言漏らした。心底安心したような、そして同時に嬉しそうな声。そんな声を聞いてしまうと、切り出すに切り出せず。軽やかに歩き出した淵源の背を追って歩くしか出来なかった。 「ねえ先生、つかぬ事を聞くけれど。自転車の二人乗りってしたことあるかい?」 「え? まあ、学生時代に何度かはしたことはあるけど、それがどうかしたのかい」 「良かった、経験があるなら安心だ。いやね、これから二人乗りをするからどうかなと思っただけなんだよ」 「……永久子、何を言っているのか意味がよく分からないんだけど」 「だから、先生と私で二人乗りするんだよ。歩くには少々距離があるから。安心したまえよ先生、運動はそう得意ではないけれど自転車は私でもちゃんと乗れるとも。二人乗りもしたことがあるしね」 「まさか君が漕ぐ側なのかい? 普通逆じゃあないかい?」 「先生は場所を知らないだろ。それに重いって言われるの嫌だし」 そう言った後、淵源は駐めてあった自転車のスタンドを外し、サドルにまたがる。いつの間に荷物を入れていたのか、前籠にはそう大きくない鞄が一つだけ入れてあった。四十川が後ろに乗るのを渋っていると、淵源はむっとした顔をしながら何度も早くと急かす。 一度言い出したら聞かない淵源の事だ、四十川が後ろに乗るまでこうして何度も急かしてくるのだろう。こうなってはもう折れるしかない。くれぐれも無理はしないように。そう伝えるだけ伝えて自転車の後ろ、荷台へと腰を下ろす。 四十川が自転車に腰掛けたのを確認して、淵源はゆっくりと自転車をこぎ出した。最初はよたよたと、頼りない蛇行運転をしていたもののすぐに真っ直ぐ走り出した自転車は、冬空の下をただひたすらに突き進む。 まだ眠りのさなかにいる、静かで冷え切った街の中というのはなかなかに新鮮で。ぽつぽつとともる街灯を通り過ぎ、いくつかの角を曲がって、自転車が止まったのは、町外れにある小さな公園だった。 遊具もほとんどなく子供さえ寄りつかないそこは、時間帯が時間帯だからなのか酷く寂れているように思えて。ここが目的地なのは何かの間違いなのではないかと疑った程だ。それでも淵源は到着した旨を四十川に伝え、自転車を降りようとする。 本当に、何がしたいのか。全く分からないままに淵源に従い、公園の中に設置してあるベンチへと腰を下ろす。ひやりとしたベンチに顔をしかめていれば、クスクスというかみ殺したような笑い声と共に魔法瓶の蓋に注がれた、温かい紅茶が差し出された。それを受け取れば、淵源は緩やかに笑いながら口を開く。 「心配をかけると思って言ってなかったのだけれどね、よくこれくらいの時間に散歩に行くことがあるんだ。特に冬の早朝は、目が覚めれば絶対に散歩に行く。この時間だと、朝なのにまだ夜みたいで星が見られるだろう? 私はそれが好きでね」 「たまに隣にいないと思ったら、そんな事をしていたのかい」 「まあね。……今までは一人で星を眺めるだけで十分だったんだ、気が済むまで眺めて帰れば満足していたんだけどね」 ――青磁さんと、星を見たくてたまらなくなったんだ。我儘を通した私を、怒るかい? 悪戯がばれた幼子の様に。四十川の顔色をうかがう彼女に彼は怒るに怒れず、困ったように首を傾げただけだった。淵源は彼の仕草の意味を分かっているのか、不安そうだった表情から力が抜け穏やかに微笑んでいて。 今度からはちゃんと星を見に行こうって、言うんだよ。四十川の言葉へ素直に頷き、そしてそっと彼の手を握って。淵源は朝が滲み、鮮やかな薄藍へと変わりゆく空で輝く星を眺めていた。
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ayukawa1006 · 8 years ago
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閉鎖輪廻のアクアリウム
目の前をゆったりと泳ぐ何種類もの魚は、果たして自然な生態系の中でもこうして泳いでいるのだろうか。分厚い���ラスに隔てられた向こう側、人工的に作られた擬似的な海の中で優雅に泳ぐそれらを見ながら。真砂はそんな事をぼんやりと思った。 いつもなら大学で、面白くもない教養科目を受けている時間であるのに。今はどうしてだか先輩に当たる女性、淵源に連れられて水族館で魚を眺めている。勿論都合良く休講だったわけもなく。俗に授業をサボったといわれる形でここにいるのは何故だったか。隣で少女のようにはしゃぐ淵源に微笑みかけながら、記憶を巡らせた。 確か、授業前に彼女の元を訪れたのが原因だったような気がする。図書館から滅多に出ない淵源だから。半ば特等席になっている席を、つい癖で訪れたときに淵源は真砂の姿を確認するなりにっこりと笑ったのだ。普段より数倍、美しく無邪気に。その笑顔に引きずられてきてしまったといっても、間違いではない。 平日の午前だからなのだろう、そう��の多くない中で彼女は水槽を見るごとにはしゃぎ、そして笑う。その様子が、常の彼女よりも幼い様に見えたものだから。真砂はつい淵源の手を握った。どうしてだか、一瞬目を離した間にどこかへ行ってしまいそうな気がしてたまらなかったのだ。 周囲が薄暗いからなのだろうか。それとも水族館という場所である以上、淵源ではなく水槽の中を眺めてしまうからなのだろうか。明確な理由はこれっぽっちも分からない。それでも淵源がいなくなってしまうかもしれないという、ぼんやりとした不安があまりにも怖かった。 「先輩、なんでいきなり水族館に来たのか理由聞いてませんよ」 「あれ、言わなかったっけ? それは悪いことをしたね」 「先輩と出かけられるのは嬉しいし、別にそれはいいんすけど……」 「いや、でも授業は休ませてしまったから。私の我儘に付き合わせてしまって、ごめんね」 ――理由はね、ただ無料券を先生にもらったからなんだ。君と行っておいでって。 少しだけ困ったように、そして申し訳なさそうに表情を崩した淵源に、真砂は更に首を傾げた。淵源に先生と呼ばれた人物が真砂の思い描いている人で間違いないのなら、わざわざ自分を指定する理由などどこにもないのだ。先生こと四十川は淵源の恋人なのだから、彼が淵源と水族館に来ればいいのに。水族館はデートスポットとして定番ではなかっただろうか。 理由を知って更にうんうんと唸る真砂に、淵源は声を殺して笑ってから続ける。 「ふふ、先生に深い意図があったわけじゃあないよ。彼、今締め切りに追われててね。無料券の有効期限内にどうやっても水族館には行けそうにないって言うものだから。君とでも行っておいでって、もらっただけなんだ」 「ああ、それで……。びっくりしたっすよ、てっきり先生何か考えてるのかと……」 「まさか。作家先生は多分君と私に関してはまどろっこしい真似も何もしないと思うよ。……でも、良かった。先生とじゃなくて、君と水族館に来られて」 「え? どういうことなんすか?」 「笑わないでくれ給えよ? 私はね、水族館を美しいものと認識できないんだ。ただ大きいだけの、生簀にしか見えなくて」 無理矢理笑い飛ばすように言ってから。淵源は真砂から視線を外し、水槽の方へと顔を向けてしまった。水槽から降り注ぐ光に照らされた彼女の顔は、どこか泣いているようにも見えて。そんな事はないと分かっているのにたまらなくなって、真砂も淵源に習って水槽の方へ向き直った。 大きいだけの生簀。淵源の言葉に一瞬驚きはしたものの、なんとなく彼女の言っている意味は分かるような気がした。 本来あるはずの生態系から取り上げられ、人間の都合で作られた有限の海に放たれる。自然災害もなく、天敵もいない。十分な食事が保証されたそこは居心地のいい場所なのかもしれないけれど。それでもそこはただ人間の都合で作られた閉鎖的な檻でしかないのだ。 目的は違えど、こうして閉じきった場所で飼い慣らされているのは水族館の魚も生簀の魚も変わらない。ただ近いのか遠いのかが違うだけの絶対的な死を待ち続けるより他にないのだから。 「水族館に来ると、自分を見ているようで酷く惨めで悲しいような気分になる。きっと、今私は情けない顔をしているだろうから。そんな顔は先生には見せたくなくて」 「……俺になら、いいんすか?」 「うん。弓睦くんはね、こんな私を知ってもきっと接し方を変えないだろうと思うから。先生だと変に気を遣わせてしまうかなって、思ってね」 視線を動かすこともなく、独り言をポツポツと交わしあるように会話をする淵源。声色が淡々としているからこそ、彼女の抱えるもの悲しさが浮き彫りになっているように感じた。だからこそそれが余計に辛くて。真砂は何も言葉を返せなかった。 そんな先輩を見て、何も感じないほど俺も鈍感じゃないっすよ。間違っても言えぬ言葉をぐっと飲み込んで。真砂はただ繋いだ彼女の手をぎゅう、とキツイほどに握るしか出来なかった。
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ayukawa1006 · 8 years ago
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ベレッツァ・メサイアの慈悲
目の前でこんこんと眠る人物は、どこからどう見ても男性で。きっと日本人の平均よりも高いだろう身長と、それに見合わない細い身体。不摂生を可視化した顔色と、目の下に染みついた黒っぽい青の隈。 眠っている場所が場所なだけに、とうとうくたばったのかと思ってしまった。防腐剤の匂いと、それに混じる死臭の中で。倒れ込むようにして眠っていた彼は、周囲にある人形と何ら変わらないように見える。常に死臭をまとっている、死に焦がれ近い人間だからそんな風に見えてしまうのだろうか。なんて、答えのない問いをぼんやりと思った。 過去、生きていた人間だったもののなれの果てに囲まれながら。彼――御影はすうすうと規則的に寝息を立てている。恐らく、隣の部屋で寝ようとしてあまりの眠さで部屋を間違えたのだろう。でなければ、冷房の効いたこの部屋で眠るとは思えない。 本当に、自分が執着している事以外にはとんと興味がないんだから。呆れながら冷え切った身体を持ち上げる。ぐったりと力の抜けている身体は、いくら彼が痩せ型であるとは言っても、ずしりと重い。運ぶ身にもなってほしいなあ、なんて。ぽつりと呟きを零しながらも彼はなんとか隣の部屋まで御影を運び、部屋に溢れるぬいぐるみの中へと寝かせる。 成人男性の部屋とは思えぬ程に、ぬいぐるみばかりで埋められた部屋で眠る御影はただの幼子の様に見える。見慣れた人を煽る表情が抜け落ちただけだというのに。御影の寝顔は、あまりにも無防備で無垢だ。この世の汚い部分など何一つ知らないとでも言うような、純真無垢なその横顔はあまりにも普段の彼から乖離しすぎている。 世界の汚い部分を見てきた側の人間であるに違いないのに。どうしてこんなにも無垢な寝顔をしているのだろう。まるで、存在を認められなかった少年が、今になって息を吹き返しているような。蘇った少年が、彼の眠っている間だけ顔を覗かせているような。そんな錯覚��襲われる。 もしも。もしもそれがあどけない寝顔の正体ならば。心底目の前の男が哀れに思えて仕方がなかった。過去に何があったのか、全てを聞いた訳ではない。それでも実の妹……否、自身の片割れへの並々ならぬ執着と、過度に様々なものを怖がる様子を見ていればなんとなく彼の身に何かが起こったのだと言うことは簡単に察せる。 人のことを言えた義理ではないけれど。それでも、子供時代を子供らしく生きてこれなかったというには、あまりにも哀れで仕方がなかった。嗚呼、なんて可哀想な人。憐憫、とは少し違う、同情へ近い感情を胸に抱きながら。彼――トリフォリウムは眠る御影の頬へそっと手を伸ばした。 「小さな子ならぁ……可愛がってあげないと、可哀想だよねぇ」 「……ん……」 「ふふ……、赤ちゃんみたいだねぇ。いつもの御影君じゃぁ、ないみたい」 「……あれ、トリフォリウムさん、なんでここに……」 「起きたぁ? おはよう~? 御影君、隣の部屋で寝てたんだよぉ。身体冷え切ってたからぁ……ここまで運んで来たんだよねぇ」 「え、それはご迷惑をおかけしましたねェ。いやはや、久々に人形の仕事が入っていたものでェ」 そう言って身体を起こそうとする御影だったが、トリフォリウムがそれを制止した。そして何を思ったのか彼の隣へと腰を下ろし、心なしかゆるりと笑みを浮かべながら御影をぬいぐるみの中へと埋めてゆく。まるで布団を掛けるようにいくつものぬいぐるみを乗せる彼に、御影はただただ困惑するだけで。 そんな御影などお構いなしに、トリフォリウムは気が済むまでぬいぐるみを乗せ続けた。すっかり全身をぬいぐるみに埋められた御影に、トリフォリウムは緩やかに口を開く。 「さっき運んで来たばっかだからぁ……、もう少し、身体を温めた方が良いと思うよぉ? そのままだとぉ……風邪、引いちゃうかもよぉ?」 「ですが、仕事もありますし……」 「クライエントなんてぇ、少々待たせる位がいいんだよぉ? とにかくぅ、寝るまで離れないからねぇ」 間延びした声はいつもと変わらない。それでもトリフォリウムが本気で動く気がないことを悟ったのだろう。御影は諦めたように溜息を一つついてから、分かりましたよ、と返してから瞳を閉じた。 血のように赤いその目が閉じきったのを確認して、トリフォリウムはまた微かに笑った。表情に大きな変化はないものの、それでも確かに。彼は表情を綻ばせた。 大人から子供へ。邪気が抜けゆくその瞬間を見届けるのは案外悪くないな、なんて。少しだけ優越感を抱きながら、先程と変わらぬ手つきで彼の頬をそっと撫でた。
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ayukawa1006 · 8 years ago
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探索者鯖化
御影紗織〔 オルタ〕(殺) バトル開始 「兄さん……兄さん……あはは、今すぐ向かうから……」 「肉塊ごときが邪魔をするな……」 スキル 「兄さん……、褒めて?」 「���い痛い痛い痛い……! あははははは!」 コマンドカード 「指図しないで」 「殺すわよ」 「死にたいの?」 宝具カード 「殺す殺す殺す殺す……」 「邪魔だから、殺すわ」 「兄さんのために……兄さんのために……」 アタック 「邪魔よ」 「何様のつもり?」 「気持ち悪い……」 「時間の無駄ね」 「嗚呼……赤い……」 エクストラアタック 「分解(バラ)されてくれる?」 「兄さんのために死ね!」 宝具 「我が手に兄への敬愛あり。我が刃は兄への信仰。前に立ちはだかるのなら、容赦はしない。殺す殺す殺す殺す殺す殺す……!! 『我が麗しき罪障の紅血(ブラッディクリミ・ジーザスフリーク)』! ……兄さん、私を褒めて……兄さん……」 ダメージ 「……許さない……」 「ああああ……痛い痛い痛い痛い……!」 戦闘不能 「兄さん……兄さん……」 「違う! こんなの、違う! あ、ああ、ああああ……っ!」 勝利 「これだけあれば、喜んでくれるはず……」 「兄さんのために頑張ったのよ、褒めて? ふふ、ふふふ……」 レベルアップ 「悪くないわ」 霊基再臨 1「何、そう凝視しないで。あなたの目、好きじゃないのよ」 2「ふうん、霊基が強化されたようね。ま、及第点ね」 3「……そう、これが着たかったのよ。兄さんが唯一くれた服。今なら相応しいもの? あなたに見せるのは癪だけれど、まあいいわ。なんたって気分がいいから」 4「邪魔よ、私の前に立つのがすこぶる好きなようね? ……まあいいわ、多少は骨があるようだし付き合ってあげる。勘違いはしないで、あなたも所詮兄さん以外のどうでもいい人間でしかないんだから」 絆レベル 1「……は? なに、鬱陶しいわよ」 2「触らないで、気持ち悪い……」 3「構わないでちょうだい……ってああもう! 勝手に部屋のものに触らないで!」 4「よっぽど暇人なのね、呆れたわ。気が向いたら相手をしてあげる、気が向いたらよ」 5「ねえ、あなたここで殺してもいいかしら? ……兄さんに渡せば、ずっと綺麗な人形のままでいられる。その方がいいでしょう、だって人類最後のマスターなんだから。美しいまま、残る方が嬉しいでしょう?」 会話 「素材を拾いに行くわ。あなたも来るのよ、何寝ぼけたこと言ってるのまったく……」 「主従関係? なに馬鹿な事言ってるの、あなたはただそこにいるだけの楔。それ以上でもそれ以下でもないわ、勘違いしないで」 「人形って、好きなの。完成された形でしょう? ……ここの人達、全部人形ならいいのに……。……冗談よ」 「兄さん! 兄さんがいる! ……兄さん、私兄さんのためなら殺されてもいい、人形にしてくれるんでしょう? 目も内蔵も脳みそも、全部全部あげる!パーツが欲しいならとってくるから、その時は褒めてね兄さん、ねえ、兄さん……?」(御影芳人所持時) 「殺意を向ける兄さんも素敵。いいのよ兄さん、兄さんになら私殺されてもいいもの。ね、ほら早くその刃で首をはねて? 内蔵をえぐり出して? 心臓を突き崩して? ねえ、ねえ兄さん……」(御影芳人〔 オルタ〕所持時) 「あれ、殺していいかしら。兄さんに無礼すぎるわ。……なに? 自身なんだからダメ? 馬鹿ね、自分以上に許せない存在なんてあるわけないでしょう」(御影紗織所持時) 「ああ、彼いたの。あの髪、私好きなのよね。それ以外? 別に、特には。ああ、でも強いて言うならあの執着は評価するわ。まるで私みたいで愛おしいから……」(ローランさん所持時) 「へえ、反転してたの。突き抜けたわね、私はそっちの方が好ましいわ。見ていて胸がすくもの。でもきっと分かり合えないわね、それは確かにわかるわ」(ローランさん〔 オルタ〕所持時) 好きなこと 「兄さん以外にあるとでも? 兄さんが楽しそうにしてるならなんでもいいわ、たとえそれがどれだけ冒涜的なものだとしても……」 嫌いなこと 「兄さんを害するもの全ては嫌いよ、忌むべき存在ね。目に止まったものから全部殺して壊し尽くさなきゃ気が済まないわ。だっていらないでしょう?」 聖杯について 「兄さんにあげるわ。兄さんの願いが叶うことが私の願い、たとえ私の存在を消すことであってもそれは変わらないし、兄さんらしいもの」 イベント開催中 「良いパーツが手に入りそうね……。なにぼさっとしてるの、行くわよ」 誕生日 「興味ないわ。期待する相手を間違えてるんじゃないのかしら」 召喚 「なんなのここ、勝手に連れてこないでちょうだい。……はあ、まあいいわ。アサシン、御影紗織よ。ああ、世間一般にはオルタ、らしいわね。そんなことより、兄さんはいるんでしょうね」
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ayukawa1006 · 8 years ago
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探索者鯖化
國島葵(秤) ※性転換(男体化)注意 バトル開始 「さて、俺だけでなんとかなればいいんだけどな……」 「行こう、俺が導く! 君達の力を精一杯振るってくれ!」 スキル 「逃げはしない」 「俺はここにいるぞ!」 コマンドカード 「よし」 「はいよ」 「ゆくぞ!」 宝具カード 「さあ、行こう!」 「光はここに」 「この身だけだと思うな!」 アタック 「悪いな」 「大人しくしてくれ」 「痛くしたくないんだ」 「頼むから」 「静かに」 エクストラアタック 「お前は悪かねえ、ごめんな」 「安らかに眠ってくれ、悪い」 宝具 「呪われたこの血へ告ぐ。我が身の破滅へと請おう。この手は民のために。この身は神のために。己の全てを投げ打ち、そしてその罪を購おう!『贖罪の聖戦呪夢』! ……彼らの業も、全てこの身へ」 ダメージ 「いい殺意だ」 「流石に効いたな」 戦闘不能 「お前ら、無事か……? なら、良かった……」 「この身、一つで、誰かが助かるのなら……」 勝利 「怪我人はいないな? ならよし、上出来だ」 「……俺だけで終わるなら、それに越したことはねえんだけどな……」 レベルアップ 「戻りつつあるか、今ならなんでもできそうだ」 霊基再臨 1「いや、別に俺の趣味じゃないんだぜ? これは貰い物さ、使わねえと悪いだろ?」 2「そうまじまじ見るなよ、俺だって照れる。ま、褒められて悪い気はしねえけどさ」 3「はあ……、俺ってこう見えてんのか……? そりゃひどい乖離だな。……いや、別に責めてるわけじゃねえんだぞ? ただ俺と酷く離れすぎてるだけでよ……」 4「王子様ァ!? っははは、そりゃ買い被りすぎだぜマスター。俺はそこいらにいるただの男だ。……まあなんだ? そんな目で見られると否定もできなくなるんだけどよ……」 絆レベル 1「ん? どうしたマスター?」 2「はは、くすぐってえよ」 3「お呼びとあらばすぐ行くぜ、どこ行くんだ?」 4「引っ張んなって、ちゃんとそばにいるよ。何不安? なんでまた」 5「俺との付き合いも長くなったもんだな。俺はお前を守る盾であり、お前の覚悟を振るう剣だ。今後も好きに使ってくれよ、マスター」 会話 「外はいい天気だぜ? ちょっくら外出してもいいんじゃねえか?」 「俺はお前の……いや、誰かの一部としてここにいる。だから主従、ではないかもな」 「いやあ、ここはいいな。たくさんの人がいる。人間の数だけ輝きがあるんだ、眩しいくらいにここは光に満ちてる」 「ん? ああ、あの人か。また無茶なもん抱えてねえといいけど。様子見てくるかな、無理してたら休ませてやんねえと」(黒銀さん所持時) 「こりゃいいな、あっちにはない真っ直ぐさがあって。何否定? んなことするかよ、正しい形なんてのはねえんだから。それはよく分かってんだろ?」(黒銀さん〔 オルタ〕所持時) 「まーた蹴り技出したな? そういうのは俺に任せろって言ってんだろ? ……あのな、そういうんじゃなくて、俺はそういう役回りなんだって。分かってくれよ、ほんとさあ……」(黒銀さん(アルターエゴ)所持時) 「はっはは、可愛いな? 俺の知ってるアイツとは若干違うがそれはそれだ。よっし、ちょっくら抱き上げてみようか、頭ぶつけんなよ?」(ルフィナちゃん所持時) 「おーおー、反転のアイツか。でもそう変わったようには見えね……って悪い悪い、身長の話じゃなくてあり方の話さ。気分悪くしたなら謝るよ」(ルフィナちゃん〔 オルタ〕所持時) 「よっ、変わらずいい身体してんなあ。ちょっと俺に稽古つけてくんね? ……あ、嫌ならいいんだ、無理にとは言わねえし。ただ、俺も確固たる力が欲しいだけでさ、守れる力が欲しいんだ」(歩武くん所持時) 「あー、俺もいんのか。マスター、お前俺と縁がありすぎなんじゃねえの? ……ま、どっちも俺だし大切にしてやってくれよ、女なんだしさあっちは」(國島葵/國島葵〔 オルタ〕所持時) 好きなこと 「そりゃ幸せそうな様子を見ることさ。人が穏やかに笑ってることほど、良いことはないぜ? そこに俺がいなくともいいんだ、幸せの形は色々あって然るべきだしな。ただ俺はそれを見たいだけさ」 嫌いなこと 「あー、誰かが悲しんだり傷ついたりすんのは嫌だな。肩代わりできることなら俺が肩代わりしてえよ、それで救われるなら俺は喜んで代わりになるさ」 聖杯について 「願望はねえんだがなあ……。強いて言うなら人間という存在が幸せならいいし、それはもう叶ってるだろ?」 イベント開催中 「楽しそうなことやってるぜ? マスターは行かなくていいのか? 付き合うつもりでいたんだが」 誕生日 「おう、めでたいな! 誕生日おめでとさん。食べたいものはねえのか? 特別に腕を振るってやるよ」 召喚 「よっ、俺の力が必要らしいな? 俺は國島葵、なぜだかルーラーだ。ま、多少は力になれるだろうからよろしく頼むよ。……女じゃないのか? え? 俺は正真正銘男だぞ……?」
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ayukawa1006 · 8 years ago
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探索者鯖化
御影紗織(剣)
 バトル開始
「手早く済ませます、よろしいですね?」
「私の腕で、どこまで通用するか……。とにかく、やってみましょう」
 スキル<
「……抜刀。お覚悟を」
「逃がしはしません」
 コマンドカード
「はい」
「あれですね」
「視認しました」
  宝具カード
「現世は燃えるのが常です」
「ではここで償っていただきましょう」
「私の目の前で悪事を働いて逃げられるとでも?」
  アタック
「目標確認」
「メーデー、応答願います」
「発砲許可を」
「強行突破します」
「完全包囲」
  エクストラアタック
「制圧完了
「無駄な抵抗はよしてください」
  宝具
「沈む月へと請おう、この狂気は我が正しき憎悪。この身が堕つるその刹那まで、命を焦がす炉となりたまえ! この刃は禁忌を斬り捨てん!『狂宴へと至れ我が憎悪の刃』……裁かれる罪に、救いが訪れんことを」
  ダメージ
「っぁ……!」
「やって、くれましたね……」
  戦闘不能
「いた、い、いたい、いたいいたい……」
「どうして……痛いのは、いや……私、は……っ」
 勝利
「当然です、褒められることではありません」
「……いませんか、まあ当然ですね。一体どこへ行ったのか……」
  レベルアップ
「強くなるのは、安心しますね」
  霊基再臨
1「このコート、体に馴染みますね。長年着ているので非常にありがたいです」
2「停滞期も必要ですよ、マスター。……個人的には少しもどかしいですが」
3「嗚呼……この姿にもなってしまうんですね……。……いえ、戦えはするのですが、あまり気に入っていないというか……」
4「こんな私に付き合うなんて、マスターは物好きですね。こんななりになってしまいましたが、マスター、私の手をまだ私の手をとってくれますか?」
 絆レベル
1「はい、何か起こりましたか?」
2「事件でしょうか? 詳細をどうぞ」
3「分かりました、すぐに行きましょう。あまりそこを動かないように」
4「全く……。ついていないにもほどがあります。まあいいでしょう、私に任せてください」
5「マスター、私は貴方を善良な人間だと信じています。ですから、あなたの身に何かあると悲しい。私が貴方を守りましょう、頼りないのは目をつぶってください。これでもまだ、新人に近いんですから」
 会話
「事件が怖いから外へ出ない? 全く、なんのための私だと思っているのですか。行きますよ、貴方は私が必ず守ります」
「強いて言うなら、上司と部下でしょうか。貴方が上司で、私が部下です。何も間違っていないでしょう?」
「ここは賑やかでいいですね、人の営みというものは非常に好ましいです。暖かくて尊くて。それを守れるのは光栄ですよ、マスター」
「……あンのクソ兄貴、こんな所まで……! ……はっ、お見苦しいところを……。……そうです、私は彼の妹に当たります。ですがこの世で一番と言ってもいいほど憎み嫌っていますので、間違っても同じパーティーにはしないでください。万が一そんなことがあったら私は……」(御影芳人所持時)
「驚きました、あんな純粋な殺意を向けられたのは初めてだったので……。ですが、その方が気が楽ですね。性欲の捌け口に殺されるよりは、ただ殺意と憎しみで殺される方がまだマシです」(御影芳人〔 オルタ〕所持時)
「……こんな所で顔を合わせるとは思いませんでした。また仕事ですか? 勘弁してください、私にはもう付き合う義理はないんですから……ってああもう……」(ローランさん所持時)
「随分印象が変わったというか……。本人がそれでいいならいいとは思いますが、なんというかこう、落ち着きませんね。……あの、そういう顔をするのやめて頂けますか。別に彼に特別何かを思っているわけではないんですが」(ローランさんオルタ所持時)
 好きなこと
「そう、ですね……。平和なことでしょうか。私の仕事はなくなりますが、理不尽に奪われることなないというのは、何よりも大切なことですから」
 嫌いなこと
「理不尽なこと、それに限ります。そこに人命が関わると最悪ですね、それは憎むべきものです。正義の者としてではなく、私個人としてこれらは嫌っています」
 聖杯について
「もし、非現実なことまで何もかも叶うのだとしたら。私はとある一点へ戻りたいのです。そこからすべてが始まっているので。……何をするか? それは、秘密です
 イベント開催中
「祭りというのは犯罪が起きやすくなります。マスター、警備へ出かけましょう。重犯罪が起きないよう、パトロールですよ」
 誕生日
「お誕生日おめでとうございます、貴方の一年が健やかでありますよう。来年もこうして、祝わせてくださいねマスター」
 召喚
「貴方が私を喚んだのですね、善き人。私は御影紗織、セイバークラスとして貴方の剣、貴方の善き意思として隣にいることを誓いましょう。どうかこれからよろしくお願いします」
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ayukawa1006 · 8 years ago
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オフィーリアの心中画策
人は、死を焦がれる生き物だ。擬似的な死を何度も繰り返し体験し、いつか訪れる絶対的な終わりを恋い焦がれる。いつくるかも分からない、未知の瞬間。それを何度も美化し、夢に見ながら人間は生きている。 人より何度もその絶対的な終わりを空想しながら。淵源は定位置になった彼の足元で自身の身体を抱きしめながらそっと目を閉じた。 きっと彼の書く文章を好きになったのも、そういう理由なのだろうとは思う。ホラーというジャンルであるが故、多かれ少なかれ人の死というものは僅かに滲む。それを仕事とはいえずっと紡いできた作家に惹かれない訳がなかったのだ。 少しでもその人間性に触れたくて何度もファンレターを送り、新刊を待つ。そんな生活で満足していたのに、何の因果かこうして出会ってしまった。活字を通してではなく、己の手で触れられる人。憧れ、そして焦がれたその人が眼前にいる。 そのうえ、人間として欠陥ばかりの己の恋人、だなんて。夢のようだと、思った。いつか必ず醒める、一瞬の夢。そう思っているからこそどうしてもその幸せを素直に享受できずにいた。 いつか醒める夢なら身を委ねない方がいい。失う時の痛みを知るくらいなら、最初から手に入れない方がいい。そうやって今まで生きてきたのだから、そうすればいいだけの話。 だからこそ、こうして出来る限り触れぬようにしているというのに。どうも相手はそう簡単に淵源を逃すわけがなく。 衣擦れの後、そっと彼女の頭を撫でた。突然のことに驚いて顔をあげれば、穏やかにえんだ彼――四十川の顔があって。 「な、なんだい作家先生。驚いたじゃあないか」 「いや、少し休憩しようかと思ってね」 「作家先生、何も私の問と繋がっていないんだが」 「そうかい? 原稿を書いている時は君に構えないからね。私が少し構いたくなった」 「……最近そういうことばかり言うな、作家先生は」 「その自覚はなかったんだけどね。ただ君が恋人になったのが思った以上に嬉しくてつい口から出るんだ」 それが嘘偽りのない、彼の本心であることを淵源は知っている。四十川が嘘をつけるほど器用な人間でないことも、自分や後輩にあたる青年に嘘をつこうとする人間出ないことも。知っているからこそ、あまりに彼が紡ぐ作家ではない四十川本人の言葉が苦しくてたまらない。 今まで自分に向けた、言葉に慈しみなんてものはなかったから。成人して、こうして自分のためだけに好意を向けられるとどうして良いやら分からなくなるのだ。好意の受け取り方も、返し方も知らない。だからこうして模範解答を返せず毎回うろたえているのに。四十川はそれでもふとした瞬間に繰り返し好意を形にする。それはあまりにも呪いめいているように思えて仕方がなかった。 一人でいると決めたにも関わらず、こうして誰かの隣にいることを望んでしまった。しかもそれが叶ってしまっただけ、それだけでも恐れることだったのに。それが終わる気配さえ見せない。いつ終わるのか分からない幸せな夢に恐怖しながら、それでもその夢から離れられない。呪い以外になんと言えるだろう。 いつかの終わりに恐怖するなら。間違っても焦がれることのない、この生活の死が来るのなら。それなら、この瞬間にでも死んでしまいたい。幸せな中で、ただ穏やかに。一人の寂しさも、寒さも。世界から切り離され、取り残されたような痛みすらないこの瞬間にどうか。そんな事を思って、馬鹿らしくなって笑ってしまった。夢に見たって、そんな事は出来やしないというのに。それは淵源自身が一番知っていた。 「作家先生、休憩ならお茶がいるね。少し待っていたまえよ、私が持ってこよう」 「悪いね、お願い���ようか」 「ふふ、いつも当然の様に受け取っているのに、どういう風の吹き回しだい?」 「なんとなくさ。トワコの淹れる紅茶を楽しみに原稿をしている節もあるんだよ、最近は」 「またそういうことを言うんだから。私をおだてても何も出ないぞ、全く……」 半ば呆れながら部屋を出て。キッチンでお湯を沸かしながら、淵源はふう、と溜息をついた。死ぬに死ねないのは、彼に迷惑をかけてしまうからだ。猫でさえ、自分の死期を悟ったときにどこか遠くへ行方をくらませてしまうというのに。それさえ出来ぬ己が今この瞬間、死ねるはずがなかった。 迷惑がかからなければ、幸せな中で死ねるのに。自分の浅はかな願望を嗤いながら、淵源はそっと茶葉の入ったポットへとお湯を注ぎ込んだ。 一緒に死ねたら、幸せなのにな。言えもしない言葉が、舞う茶葉の中にじわりと溶け、馴染んでいった。
診断メーカー『いつか死ぬなら今が良いけどこの人の迷惑になりたくないからまだダメだと思っている』トワコ
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ayukawa1006 · 8 years ago
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聖女になれぬ童女の遺漏の揺籃
とある女の話をしよう。他人のために、惜しげも無く命を投げ出し、そして挙句の果てに嘘さえついたこの上ない自己犠牲を咄嗟のうちにやってのけた愚かな女の話。そしてその女にすくわれてしまった、男の話。
女として生きることを抑圧され、男に成るしか正常に馴染めなかったその女の、切り取られ棄てられたむせ返るような小女性の塊。それが、オルタと呼ばれるチグハグなその存在が。揺蕩うようにカルデア内を闊歩する彼女だった。
最優とうたわれるセイバークラスではなく、狂化を付与されたバーサーカーとして。元の彼女の原型など一切残していないその醜くもあり、同時にすべてから解き放たれどうしようもなく自由なそのあり方が。男――黒銀実鷹はどうしても苦手だった。
反転した己とよくいたからなのかもしれない。ある種の理想であるが故に拒絶しきれない存在と、対等に関係を築いていたから。どうしても、心の底で受け入れられずにいたのだ。
「白い方の所長さん、こんにちは。今日も壊れてしまいそうな顔してるね?」
「やあ。そんなに酷い顔をしているかな私は」
「うん。死んでしまいそう」
――まだ理想にしがみついてるの? 無理だよ、そんな壊れた理想。
残酷に紡がれる言葉が柔らかな臓器へと突き刺さる。出血しているのではないかと疑うほどの痛みが、拍動するたびにずくずくと広がって息が詰まりそうになった。
受け入れられないのは、この刃にさえ思える素直な物言いのせいもあったのかもしれない。巧妙に隠し、人に触れられぬよう多いまでかけたところに容赦なく触れ、あろう事か刃物を突き立てる。幼児特有の悪意のない残酷さが、黒銀にはあまりにも恐ろしかったのだ。
秘匿した弱い己を突きつけられる恐ろしさを、目の前の少女はこれっぽっちも知りやしない。身ぐるみを剥がされ、猛獣の前へ放り出されるような。海底で酸素マスクを剥ぎ取られるような。命綱なしでバンジージャンプを強いられるような。そんな身に迫る恐怖。己の生さえをも否定されたような体の血が一瞬にして冷え、世界から分離される感覚。そればかりを突きつけてくるのだから、受け入れられないのは当然なのかもしれない。
無邪気であどけない、それでいてこの上なく残虐な笑顔の中にポッカリと浮かぶ光を宿さぬ瞳。狂気という混沌の中を永遠に泳ぎ続けているような錯覚を植え付けてくるその瞳は、寸分違わずものの本質を見抜き全てを丸裸にしてしまう。
幼児が本能的に宿すそれをさらに鋭利にしたそれを向けられるのはこの上ない拷問だった。
「はは、壊れた理想とは言ってくれる。そんなに破綻しているように見えるかな?」
「うん。どうしようもないくらいに壊れてるよ? まるで正しいアタシを見てるみたい」
「何? 正しい彼女? セイバーの彼女を、か?」
「そうだよ? 白い方の所長と同じようなことしてる。誰かのためだって言いながら、結局自分のためなの。エゴでしかないの」
「……はは、何を言い出すかと思えば……」
「エゴじゃないって、いいきれる? その証拠、ある? 証明出来なきゃ、信じられない」
嘘は誰だって簡単に言えるの。大人はそこに説得力を持たせないといけないの。
敵意のない、穏やかな笑み。きっと愛らしいと言われるであろうその微笑みが。黒銀はあまりに恐ろしいもののように見えた。死神に鎌を突きつけられているような、直接的な死の恐怖さえ感じるのだからたまったものではない。
どうして年端も行かぬであろう少女にここまで追い詰められているのだろう。言いくるめることが難しいような存在ではないはずなのに。なぜ毎回の如く逃げ道を塞がれては口渇の中で必死に弁解の言葉を探しているのだろうか。
大人だからという、都合のいい免罪符さえも通じないのだから参ってしまう。彼女の前では大人だからなどと間違って口に出そうものならば、むしろ自分の首を絞めることになる。大人ならば万能でしょうとばかりに、矛盾点ばかりついてくるのだからタチが悪いのだ。
まるで幼少期に親や先生に抱いた不信感を、そのまま返されているような。大人が困り果て、挙句理不尽に怒鳴り散らす気持ちが今になってようやくわかった。
「ははは、君の満足するような答えなど持ち合わせていないものでね。それはまたの機会にしようじゃあないか」
「そうやってにげるの? 逃げるのがかしこい時はたしかにあるけど、いつも逃げてばっかじゃそれはただ弱虫なだけだよ」
「……君に何がわかるというんだ、逃げざるを得ない私の何が!」
「わかるわけないでしょ。何も言われてないのにりかいなんてできない。むずかしいことはきいても分からないけれど、きいてもいないことを分かれなんてそれ以上にむずかしいよ」
ああ言えばこう言う。それを体現したような彼女の態度で沸騰しかけていた頭が一瞬で冷えた。いっそ売り言葉に買い言葉で怒鳴り散らしてくれた方がいくらか楽だったのに。いつでもこうして彼女は淡々と言葉を返しては少し低いところからじっと逸らすこともなく目を見つめてくる。
これでは大人の威厳などあったものでは無い。これ以上メッキが剥がれる前にどうにかしてこの場を離れねば作り上げてきた虚構が崩れてしまう。それだけはどうしても避けたかった。
さてどうするべきか。逃げ道を完全に塞がれた中、遠くでマスターの呼ぶ声がした。これ幸いとばかりに彼女へその旨を伝え、駆け出せばただ一言いくじなしと追い打ちのような言葉が背中へ投げつけられた。
自覚しているとも。しているからこそ、君と対峙するのがあまりに苦しいというのに。
そんな吐けもしない言葉を胸中で呟きながら。黒銀は一度も振り返ること無くただ、己を待っているであろうマスターの元へと急ぐしかできなかった。
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ayukawa1006 · 8 years ago
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探索者鯖化
御影芳人〔オルタ〕(讐) バトル開始 「生き物がこんなに……ああ、吐き気がする」 「私以外がいることが不愉快極まりない、早く片付けましょう」 スキル 「醜悪すぎる……」 「おぞましいにも程がある」 コマンドカード 「ええ」 「殲滅ですね」 「生かしておくとでも?」 宝具カード 「生への終止符を」 「浄化の炎ですら生ぬるい」 「血の一滴まで殺し尽くしましょう」 アタック 「はっ!」 「気持ちが悪い」 「動かないでくださいね」 「慈悲をどうぞ」 「死んでください」 エクストラアタック 「脆い命など、いらないでしょう」 「引導を渡して差し上げます」 宝具 「全ての命あるもの、その生を等しく我が手が刈り取ろう。生には死を、変化には終焉を。栄華はそこまで、あとは手酷く朽ちるのみ。受けよ『矛盾螺旋の黒死終焉』! ……骸を晒して絶命してくださいね」 ダメージ 「小癪な……っ」 「全てが気持ち悪くてたまらない……」 戦闘不能 「な、ぜ、なぜ私、が……っ」 「栄華が、なぜ……」 勝利 「生ぬるい血が気持ち悪い、早く帰りますよ」 「まだ生が溢れている……おぞましい……」 レベルアップ 「成長など、気持ちが悪い」 霊基再臨 1「忌み嫌う変化がついてまわるとは……どんな皮肉でしょうね」 2「何をしようと私のあり方は変わりませんよ、無駄なあがきはやめた方がいい」 3「呆れた根性ですね、まさか日本語が分からないんですか?」 4「はあ……。脳が腐��落ちているんですか? 殺すに値しない程の頭ですね、逆に驚きました」 絆レベル 1「殺されたいんですか?」 2「そんなに死にたいのなら、首吊りでもいかがですか。縄なら差し上げますよ」 3「ここは生に満ちていて気持ちが悪いです。マスターあなたのせいですよ」 4「触らないでください、火傷しそうなほどあつくて気持ちが悪いんです。……だから触るなと!」 5「ここまで殺そうと思って先延ばしにした人もはじめてです。私に何を望むんですか、ある程度は付き合いましょう。どうせ最後は貴方も殺すんですから」 会話 「外出は生物にとって必須の営みですよ。さあ早く出ていくといいです」 「主従関係? どうでもいいですね、私は誰かと一緒に生きることすらありませんので」 「私物はありませんよ、邪魔なだけですから。寂しさ? あるわけないでしょう、���鹿なんですか?」 「ああ、彼女がいるんですか。至極どうでもいいですね。ただ許されるのなら一番早く殺したいですよ、私は彼女をこの上ないほど恨み許すことはないので」(御影紗織所持) 「あの私は頭がおかしいんじゃないですか? よくもまああんな不気味で気持ちが悪いものにすがれるものですね。側面として最高に気持ちが悪いです、殺してしまいたいほどに」(御影芳人所持時) 好きなこと 「人を殺すこと。それ以上でも以下でもありません。生き物がすべて嫌いなので」 嫌いなこと 「生に迫られること、それに限ります。私自身の生すら嫌悪しているんです、己以外の生など気持ちが悪くてたまったもんじゃありません」 聖杯について 「魔術的なリソース以外に使い道はないでしょう、くだらない。願望など、自分で叶えるからこそ意味があるのです。人に叶えられた虚像の願望に興味はありません」 イベント開催中 「ああ、あそこに生き物が群れているわけですね。ならば行きましょう、すべて残らず殲滅するために」 誕生日 「生まれ落ちた日を祝うなど……狂気の沙汰としか思えませんね。私を巻き込まないでください」 召喚 「アヴェンジャー、御影芳人〔オルタ〕。何の因果か知りませんが、仕方ありません手を貸しましょう。それで? 私は何を殺せばいいんでしょう」
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