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In life it's not necessarily important to be strong but to feel strong
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cellsof · 2 years ago
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ペルセウスの両腕
外へ出ると空気はきりりと冷たかった。さっきまで灯油に侵されていた体に澄んだ空気が浸透してゆく。大きく息を吸って吐いたら、それだけで気分が良い。思い通り、真っ黒な景色に星が煌めいていた。家の灯りが届かない裏の畑へ出ると、ちょうど水平線から顔を出したばかりのオリオン座と天の河が目に飛び込んでくる。オリオン座が好きだ、誰にも見つけられる冬の星座。ベテルギウスは今もきちんとその砂時計の一端に存在していて、ちかちかと明滅していた。その上にアルデバラン。ヒアデス星団や昴もよく見えた。寒くて暗い夜に、ただ庭に立ち星を眺めているだけで、澱んでいた身体が澄んでいった。数年前は空ばかり眺めていたなぁと思う。来る日も来る日も飽きずに氷点下の闇の下に突っ立っていた。きっと、どこにいても、何をしていても、わたしは不満なのだろう。毎日不満なわけではなくて、満足と退屈と不安が入れ替わり立ち替わりやってくるのだ。ここにいたらあっちに行きたくなるし、そっちに来たら今度はまた違う場所へ行きたくなる。満足している良い日だってあるのに。種類は違っても、どこにも満足と不満足がある。完全な満足なんてものはない。つまるところそういうのがこの世界を生きていくということなのだろう。動きたくなったら動けばいい。ただし、そこにも満足と不満足があることをわすれずに。
今夜はやけにペルセウス座が目に入った。この星は勇者をかたどっているらしいが、わたしには両翼を拡げた鳥に見える。昴とカシオペア座の間をすり抜け、どこまでも広がる夜を滑らかに、自由に。星を眺めていると心が凪いでいくのはなぜだろうと思った。濁った水の浮遊物が徐々に沈殿して澄んでいくような、開け放った窓から入る冷たい風が灯油に染まった空気を少しずつ薄めていくような。自分が物質であることを思い出すからかなと思い当たった。満足不満足だとか、そんな微細な感情はただの物理現象でしかないのだと、目の前に突きつけられるのが良いのかもしれない。わたしの身体も感情も、決してわたしのものなどではなく、物理の法則に従って日々化学反応を起こしているに過ぎないのだと。ただそこにある山や川や木と同じ、宇宙のひとかけらの物質である。
薄着で出てきたから、足は小刻みに震えていた。星の見物を終えるにはなにかのきっかけが必要だ。雲がかかって見えなくなるとか、我慢できないくらい手先が冷えて痛くなるとか、トイレに行きたくなるとか、熊に襲われるとか。今夜はやめる理由がなくて、しばらく突っ立っていた。ペルセウス座の鳥はなめらかに夜の空を滑っていくのに、なぜかずっとそこにいてくれた。左手の麦酒がなくなったからうちに戻って熱い湯を浴びた。
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cellsof · 4 years ago
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全く見も知らぬ町に来て4ヶ月
ようやく築いてきた人間関係の中で
久しぶりの酒に酔い
きみに電話をかけた
予想通り続くコール音
もう切ろうかもう切ろうかと思うなか
困った顔で電話を見るきみの顔を想像してはなかなか切れずに
あと一回、あと一回と
やはりきみは出なかった
寝ているのか
拒否しているのか
はたまた困った顔で音の鳴り止むのを待っているのか
見上げた空に星は少なく
北斗七星は輝き
蛙は水田で鳴くけれど
張りつめた冷たい冬の空に輝くオリオン座はそこになく
冴えない夏の星座たちが
ぽつりぽつりと
私を慰めるようだった
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cellsof · 5 years ago
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いったいわたしは何から逃げて逃げて勢いだけで荷物を纏めたのだろう。物に溢れた大都市の隅っこの暮らし、頭を掠める異国への思い残し、脈略もなく夢に立つあの人の影、家族の視線、話の合わなくなった友人、何年経っても拭いきれない自己嫌悪。どれも逃げ出したいほど��しいつもりはなかった。異国の波に揉まれて強くなったつもりでいた。けれど今、ここにいるのもどこかへ行くのもわたしの中身は拒絶している。動きたくない。頭が鈍くなっている。また朝はわたしの心臓を捻り上げる。唸り転がるそんな朝はあとどのくらい続くだろう。釣れない釣りであとどのくらいわたしの機嫌はとれるだろう。戻りたいとは思わないけれどもう戻れないと思うと胸が痛む。Is it hard to make arrangements with yourself? When you're old enough to repay but young enough to sell
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cellsof · 5 years ago
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その夜はすべてを薙ぎ払おうとするかのように風がびゅうびゅう吹いた。テントは全身で風を受けてばたばた鳴り、寝袋の中で身を固めて重石になっていないとまるごと飛ばされてしまいそうだった。何時なのかわからなかった。少ししか寝ていない気がした。無視を決め込んでまた眠りに下りようとしたけれど、風の音はすさまじかった。雨も降ってきた。恐ろしくはなかった。自ら原野に踏み込んだ小さな4人と1匹が、谷底のただの日常に慄き夜を耐え忍んでいるのが何だかおもしろかった。耳元でフライがばたばた鳴っていた。少し尿意も催してきた。暖かく包みこむ寝袋から出るのは億劫だったが、テントから荒ぶる外へと這い出た。雨に濡れながら用を足しテントを固定する紐とカラビナを見て回ったがしっかりとこの強風をこらえていた。イヤホンを付け頭の先まで寝袋にくるまるとまた眠りに落ちた。
朝は暗く静かだった。雲が低く垂れこめ山を隠した。時々雨が降っては止んだ。シェルターで簡単な食事を済ませ出発の支度をしていると、雲がするすると空に巻き上げられるように薄くなり隠れていた山々が姿を見せた。険峻な黒い岩稜が一夜にして真っ白になっていた。昨夜の雨が上では雪になったようだった。雨雪に削られ空を刺すように尖ったTombstone MountainやMt. Monolithは一層厳格さを増した。まだ9月の始め、北緯65度のこの地でも昨日まで雪の気配はなかった。偶然にも季節の変わり目に立ち会ったようだった。景色は一変し、ツンドラの紅葉の絨毯に白が映えた。それはまた、これから来る長く厳しいすべてを閉ざす冬を思わせた。雪を纏った山々は、戦いの前の戦士のようにも見えたし、ただ物理法則に従い受け入れるも抗うもなくそこにある物質のようにも見えた。
雨雲と太陽が交互にやってきて、断続的に雨やあられが降った。ジャケットを脱いだり着たりしながら泥濘む道を進んだ。そこには先に出発した一人と一匹の足跡があった。行きとは違う景色が足どりを軽くした。紅葉の谷に別れを告げ横に入ると、白い絶壁が見えた。谷から谷へ渡るためのGlissade Pass。こちら側は500mで標高差250mを登る。斜度30。数日前下るのを躊躇った崖のようなそのパスが、雪を被りさらに威圧感を増していた。雪は10cm程だったが、トレイルは完全に消されていた。どうやら二人先に登ったらしい足跡を信じ、恐る恐るトラバースしながら登り始めた。細かい砂利と雪が混ざり、一歩足を出しては半歩ずり落ちた。時々滑って片足を持っていかれると、心臓がばくばく鳴った。一度転ぶとどこまで落ちるか分からなかった。咄嗟にもう片方の足で踏ん張るせいで変な筋肉を使い体が重くなってくるのが分かった。上を見上げると絶望が降り掛かってくるから足元だけを見て一歩一歩ひたすらに足を出した。熱くなった体に冷たい風が心地よかった。あと数メートルというところまで来ると、ゴールのケルンが見えた。一番上に乗った青いその石は太陽を浴びて神々しく輝いた。何か見てはいけないものを見てしまったような気がした。一歩ずつ踏みしめて最後を登りきると、凍てつくような一陣の風が谷から吹き上げ、私の顔を撫ぜた。その瞬間は、これまでいくつかの山を歩いてきた中で最高の瞬間だった。やさしく私を包んでいた大きな両手がそっとほどかれ、初めて世界を見たような気分だった。何かがぷつんと静かに切れた。男の人の射精ってこんな感じなのかなと思った。眼下に広がる谷はさらに紅葉が進み、谷の両脇を固める山々は白く輝いていた。数日ですっかり時が進んだようだった。それでも景色はこれまでで一番というわけではなかった。下から見上げたときの絶望感が大きければ大きいほどゴールが気持ちいいという性癖のせいでトんでしまったようだった。日は傾きあと少しで山の向こうに落ちそうだ。谷の行き止りの湖岸にいくつかのテントが見えた。あとはもう駆け下りるだけだった。
The wind blew hard that night as if it tried to clean everything. The tent flapped in the wind. It seemed as if the whole tent would blow away unless I held still in my sleeping bag to be a weight. I was not sure what time it was. I felt like I had slept little. I ignored the wind and tried to fall asleep again, but the sound of the wind was terrible. It started raining. I was not scared. Somehow it was funny that 4 people and a dog willing to enter the wilderness are trembling for usual things at the bottom of the valley and enduring that night. The fly flapped close to my ear. The urge to urinate came. It was bothersome to get out of the sleeping bag wrapping me up warmly, but I crawled out of the tent to the storm. I peed in the rain, and checked the ropes and carabiners which fixed my tent. They kept firmly in the storm.  I tucked my whole body up in the sleeping bag putting my earphones on, and fell asleep again.
It was dark and quiet in the morning. The clouds hung low and hid mountains.  It sometimes rained and stopped. When we were preparing to leave after having a simple meal in the shelter, a wind raised the clouds and the hidden mountains appeared. The black ridges of the precipitous changed to white overnight. Apparently it had snowed above instead of raining. Tombstone mountain and Mt. Monolith, which had been eroded by snow and rain and were sharp as if thrusting into the sky, looked more severe. It was still the beginning of September, so there was no sign of snow until yesterday. Unexpectedly we seemed to attend a change of seasons. The landscapes changed completely and white stood out in autumn colors of tundra plants. It made me think of the coming winter, which would be long and severe, and close everything. The mountains covered with snow looked like the soldiers before a war, and also looked like matter which just followed physical laws and neither accepted nor resisted the coming winter.
Rain clouds and the sun came in turns, and it rained or hailed intermittently. I walked on the muddy trail putting my jacket on and off. There were footprints of a person and a dog who left earlier. The landscapes different from the outward journey made my feet lighter. The trail bid farewell to the red valley and made a turn to the right. A white cliff appeared. It was Glissade Pass, necessary to cross to get to the other valley. The pass is 500m with a 250m elevation gain on this side. It's 30 degrees. The pass like a cliff, which I hesitated to go down a few days ago, looked more severe with snow. The snow depth was about 10cm, but the trail was completely hidden. I believed the footprints of two people who seemed to climb earlier, and started to traverse with fear. Gravel and snow were mixed on the trail. I took a step up, then a half of a step slid down. When I slipped and lost control of either foot, my heart was pounding. I was not sure how long I would slip down if I fell. I felt my body heavier due to using unusual muscles when bracing the other foot. I concentrated on watching my step and going forward step by step, because looking up the pass drove me to despair. The cold breeze felt nice to my hot body. When I was almost done, I saw the cairn of the goal. The blue stone on the top of it shined in the sun divinely. It felt like I saw something I shouldn't have seen. I finished walking firmly for the last few meters. A freezing blast rose from the valley and touched my cheek. That moment was the best since I started walking in the mountains. It felt like the big arms covering me softly were untied gently and I saw the world for the first time. Something broke quietly. I thought it might be like ejaculation for men. The valley below turned brown, and the mountains beside the valley were shining white. Time seemed to go by for a few days. But that landscape was not the best ever. It seemed that the deeper my despair was when I looked up, the better I felt at the goal. The sun was sinking and almost set over the mountains. I saw some tents at the lakefront at the end of the valley. All I needed was to run down.
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cellsof · 5 years ago
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OUT OF CONTROL
自分の心で体なのに、私は私の考えていることがわからない。めまぐるしく変わる環境にぐるぐる回されて元々弱い三半規管はお手上げ、上下も前後も過去も未来も分からなくなって混濁した意識で今日も回っている。うちのアパートの乾燥機は45分、私は2ヶ月。考えることを放棄して、あらゆる面倒と判断を先延ばしにする。時間をいかに低燃費で消費できるかをいつも考えている。意味のある事をやらなきゃという私はとうに灰になった。起きているとつらいからできるだけ寝ていたいのに、意に介さず日はどんどん伸びていく。最近は完全な夜も来ない。 濁った頭を整理して道筋を見つけなきゃと思うのだけど、全ての問題は結局ひとつに辿り着く。そのひとつが他の問題の答えを握っている。そして、そのひとつは私がどうこうできるものじゃない。一人ではどうにもできない。他人の思考や気持ちはどうやったってアウトオブコントロールだ。私の手中にない。一人で生きていける強さがほしいとずっと思っていたけれど、それは同時に弱さでもあるのかもしれない。アウトオブコントロールな誰かと向き合いぶつかり折衝することが苦痛で、自分の手の届く範囲内で生きていたいのだろう。彼はそういう人なのだろう。私が強くあろうとしても苦しいときつい誰かに寄っかかってしまうように、彼は誰かと共に生きていこうとしてもぶつかり食い違うとき離れることを選んでしまうのだろう。私はとんでもない的違いだった。また他の心を分からず正論で大切な人を傷つけてしまったのかもしれない。悪意のない正論のつらさは知っているはずなのに。話したくないのももっともだ。本当にごめんなさい。それでも一緒にいたいと思ってしまう私は、行き止まりの壁の前で茫然と暮れ行く空を眺めている。
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cellsof · 5 years ago
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Yukon River flows surely to Arctic Ocean
北の地にも春が来た。アパートから外へ出たときのきゅっと体が締まる感覚はなくなって、外と内の境目がなくなったみたいだ。ユーコン河の厚い氷は瓦解し、断面は青く輝いている。長きに亘り動きを封じられ孤独に凍える冬の終わるのを待つしかなかった水たちは、温かな太陽光に祝福され元気よく走っている。このままどれくらい走れば海へ辿り着くのだろう。山の中を蛇行し、北へ、北へ、白い砂岩の崖を削り、オーロラの饗宴に酔いしれ、サーモンを咥える熊に目配せする。国境を越えアラスカに入って、今度は西へ、西へ、幾度となく後ろから太陽が上り、夕日に向かって駆け、時にはその美しさに涙するだろう、その涙もまた流れに加わり、3000キロを駆け抜けたとき、目にする海はどんな色をしているだろうか。そこに溶けていく感覚はどんな快楽をも超えていくに違いない。
水や草木や動物たちが動き出すこの春に、私たちはスタックしている。人生が止まったみたいだ。人よりたくさん無職をして生きてきたけれど、海外まで来て無職になるとは思っていなかった。もはや時間を垂れ流すことに恐怖も感じない。ただ止まっている。体も心もどこかに置いてきてしまったみたいだ。仕事もビザも大切な人も失って、どうやってそれに気付かないふりをするかばかり考えている。雪の溶けた山に登り、夜中に車を走らせる。それでも朝方床につくと、その日見なかった分だけ現実が瞼を覆い尽くす。それは無くしたはずの体が焼け切れるようだった。
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cellsof · 5 years ago
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その夜はツいていた。ツアーの間中ずっと強いオーロラが出ていた。それはカーテンのように揺らめいたり全体に薄く延びたり形を変えながらもずっとそこにいた。強くなってくると私たちはAurora is coming back! と声を張り上げて小屋の中で暖を取っている人たちを外へ呼び出し必殺カメラマンと化した。弱くなってくるとみんなは小屋へ引き上げていったが、私たちは−30℃の中ずっと外で空を見ていた。ガイドだって寒い。はるきちゃんは謎のハッピーソングを歌いながら舞い、Raphaelはインディアンダンスを踊り、Gustavoは雪の上を走り回って身体を温めた。手足の感覚は薄れてきていたけれどみんな笑っていた。不調の日々に不機嫌に散々当てられてきた私たちには、このハッピーな空気はドラッグのように効いた。
みんなが帰った後、ひとりオーロラセンターに残り小屋の片付けをしていた。先程までの賑やかさはアラスカハイウェイの彼方へ去り、暗闇の中薪の爆ぜる音だけが時折ぱちんと響いた。荷物を積み込むため車を小屋の前に付けて運転席から降りたとき、北西の空がうねり始めた。慌ててエンジンを切り仕舞ったカメラをまた取り出した。うねりは徐々に強い光を放ちながら緑とピンクの帯となり、あっというまに私の頭上を越えた。カーテンが風で揺れるように不規則に揺らめき明滅していた。磁力線の隙間がとか、外側の電子殻に飛ばされた電子が戻るときのエネルギーがとか、学んだことが頭を過ったのは一瞬で、大きく広くなっていく不思議な光に全天を包まれたとき、私はその奇妙な美しさと恐ろしさに立ち竦むしかなかった。新田次郎はアラスカ物語の冒頭でオーロラを恐怖の対象として描いている。その規則性の無さが恐ろしいと。揺らめき、光の明滅、色と色の境目、すべては天の意の儘に、次に何が起るか分からない。読んだときはそんなもんかねと思っていたけれど、静寂な夜に一人で向かい合うオーロラは確かに恐ろしかった。全ての現象は物理法則の下にある。物理法則に従って世界ができたのか、誰かが世界を作ったときに物理法則を���ログラミングしたのかは分からないけれど、とにかく宇宙を貫く物理法則に従ってすべての物事は必然に起こっている。慣性の法則によって地球は回り続けているし、重力によって核融合反応が起こって星は輝くし、一見化学とはかけ離れたこの意識も感情もニューロンとニューロンを繋ぐシナプス間の電流の流れだ。オーロラの発生する仕組みも大体解明されている。それでも予測不能なあの光彩の���滅には、なにか私たちの手の届かないもの、天の意志のようなものを感じざるを得ない。それが背筋を冷たくするのだ。光の帯は15分程天をうねり、やがて薄まって消えた。
オフィスに戻り早朝便のお客さんを送って空港へ二往復し帰路に着いた。朝6時近かった。街灯の眩しい空にもうオーロラは見えなかったが、背筋はまだぞくぞくしていた。赤信号で止まったとき、息が切れているのに気付いた。無意識にほとんど走るように歩いていたようだった。車の通らない4th Avenueで何を待っているのかわからないまま赤信号を見ながら、有害物質から地球を守る磁場の隙間を縫って侵入してきたプリズムが引き起こすオーロラは、創造主がいるとするなら、果たしてプログラ厶上のミスだろうか、それとも遊び心だろうかと考えていた。家について熱いシャワーを浴びても落ちつかず、もう寝るだけなのにずっと何か気持ちが急いていた。ベッドに横たわると腕や肩や背中が筋肉痛のように痛かった。寒さのせいなのか恐怖によるものかそれともただ疲れているのか分からなかった。目が覚めたらもう夕方だった。身体の痛みはなくなっていた。
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cellsof · 5 years ago
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Why is there something rather than nothing
マリファナを吸った。カナダでは合法なので町中でも時々葉っぱのにおいがする。ホワイトホースは寂しい町だ。日が差すのは5時間くらいであとはずっと暗い。マイナス20度の冷たい風が剥き出しの頬を打ち、乾いた雪が足元できしきし鳴る。救急車のサイレンがほぼ毎日響く。この間はドラッグでキマった男が知人を撃ち殺した。オフィスのすぐ裏のアパートだった。こんなに寒くて暗い日に死ぬのはどんな気分だろうと思いながらいつも通りツアーの片付けをして家に帰り熱いシャワーを浴びた。マリファナを吸うと全ての感覚が敏感になり頭はスローになると言う。私にはよくわからなかった。肺への落し方が良くないんじゃないと言っている彼の目はとろんとしていた。みんな何かが苦しいのだろう。何かを抱えてこの町の長い夜を徘徊するのだろう。焦点の定まっていない目でにやついているおじさんも、すれ違いざまにFuckin bitchと罵ってくる先住民も、ドラッグを買わないかと声をかけてくる身なりの貧しい小男も、シェルターに屯する人々も、みんな生きることも死ぬこともできずにただ時の過ぎるのを待っている。私も彼らと何ら変わり無い。誰かに助けてほしいのに、喉には煙がこびりついて純度の高いことばはそこを通ることができないようだった。
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cellsof · 6 years ago
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OSAKA MY TOWN
オオサカに帰りたいな 好きやねんオオサカ 汚いしうるせえし自然もくそもないけど 好きやねんで 好きな人がいっぱいおんねん 小汚い立ち飲み屋で 50円の串で勘定数えながら スーパードライ飲む 安い焼き鳥はそんなおいしないねんけど 好きな人らと好きなもんの話しながらやったら こんなええもんはないねん 不愛想なおばちゃんがどんどんビールのおかわり持ってきて 気付いたら何時間も経ってて腰痛いねん しんどいわ座りたいわーゆうて出るねんけど 帰るん名残り惜しくて 駅前のコンビニでチューハイ買って 結局立って飲むんかいみたいな こいつら何回来んねん思われてんねやろなとか言いながら 順番でトイレ行ったりして ほんで締めでアイス買って さっぶゆうてな ほなまたなーて電車乗って 新今宮で席確保して うとうとしてたら車掌さんが終点ですーいうて起こしてくれる 日根野はいっつも田舎のにおいする 山のにおいやったり玉ねぎのにおいやったりする これからおふろ入るんだるいなーとか思いながら家まで歩く これがよっぱらいにはひんやりした夜風が気持ちいいねん うちえらいから ちゃんとおふろ入って水のんで ふとんにばーんや
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cellsof · 6 years ago
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Caster mild 0.3
また風邪を引いた。心が少しずつ死んでいく。正六角形が敷きつめられた美しいハニカム構造の私の細胞たちが端から順に黒くなってぽろぽろ剥がれ落ちていく。海外に住もうなんて思うやつらはタフな心の持ち主か何事も深く考えないタイプだ。ワーホリから戻った人は、その経験を生かして日本で活躍するか、ただ歳だけ食って途方に暮れるかのどちらかだと言う。日本を発つとき、後者にはなるまい、何か後に生きる経験をとガイドの仕事を選んでカナダへ来た。今もそれにしがみついてガイドをしている。ただ最近なんとなくわかってきたのは、前者と後者そのどちらになるかはここでの生活の内容ではなく、結局生まれ持った性格なのではないかということだ。私みたいに平凡で心の弱い人たちは、一念発起して海を渡っても、底のない不安や安定への羨望が結局眼前をちらついてしまう。それらを払いのけて故郷から何千キロも彼方へ来たはずなのに、そいつらは実はバックパックの中に潜んでいたのだ。身の丈を知る一年、というのもわるくないかもしれない。日本から出なければ、私はこんなもんじゃないとそれを認めることを拒み続けていただろう。私はそんな私を受け入れ始めてもいる。高校生のとき、毎朝目が覚める度に気怠さと学校のくだらなさに起きる気になれず、おかんがパートから戻るお昼時まで寝ていた。おかんが帰ってくる時間にようやく家を出て、学校近くのミスドで数時間ねばり、授業が終わるころようやく学校へ行って部活だけ参加した。出席日数が足りず危うく留年するところだった。進学校だったからそんなやつは他にいなかった。友達はみんなよく勉強していい大学へ行きいい仕事に就いた。私はあたりまえのことができず自己嫌悪に陥る毎日だった。就職してもそれは変わらなかった。理想と現実の恐ろしいほどの差に喧々諤々としていた。自分のことが嫌いで嫌いで仕方がなかった。20代も終わりに差し掛かって、ようやくそんな自分を許容できるようになり少し楽になった。自分を肯定してあげられるのは自分しかいない。せやんなー、しんどいよな、わかるでー、まぁ今日くらいさぼってもいいんちゃん、人に迷惑かけんし、って思えるようになった。理想からは遠く離れた自分像だったけれど、別に逃げだとは思っていない。
寒いのは苦手なのに、気付いたら地球の中でもかなり寒い地に来ていた。シャワーを浴びてベランダへ出たらマイナス10度の空気が火照った体を冷やした。日本から持ち出したキャスターマイルドはもうあと半分しか残っていない。冷気が裸足を捉える。空に立ち上る白い筋は煙草の煙なのか吐き出す息なのかもう見分けがつかない。キャスターの甘い香りはなぜだかいつも白保海岸を思い起こさせる。初めて一人でバックパックを担ぎ行った石垣島の最後の場所だったからだろうか。石垣とは程遠い冷たい空気に足先の感覚は��々に失われていった。白保の灰皿は貝殻だった。白くきらきら光るその貝殻に黒い吸い殻を押し付けるのは少し抵抗があった。
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cellsof · 6 years ago
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夜空の交換をしよう
時速1700キロで回る地球の暗い半分のある一点、バスはアラスカ・ハイウェイを走る。車内の灯りは消されハイウェイのオレンジ色の光だけが乗客の目や耳や冷たい頬を流れていく。視線を落とすと下半身が黒に溶けている。時空間と私の境界線はなくなって時折ゆらりと揺れるようだった。悲しみや諦めや自分や誰かへの呪いが決壊した腹部からとろとろと流れ出す。夜はその暗い情念を咎めない。途方も無く巨大な暗闇に混ざって溶けてしまうからだ。海に一滴落ちた涙のように、揺れて薄れて瞬きしたらもうどこにあったのかもわからない。内から外への流れは次第に外殻をも巻き込んで頭の先まで輪郭は失われた。私は夜と一体となった。温かくとろりとした液体に浮かんでいるようで心地よい。赤ん坊のように快というシンプルな感情に身を委ねる。夜は優しい。暗い感情を往なせず明るい場所で生きづらい人たちを否定せずただ取り込んでいく。昼が表で夜が裏のように扱われているけれど本当は逆だ。昼が異常事態だ。たまたま眩い太陽がそこにあったから地球が半周する間明るいだけで、私たちの住む宇宙は本来夜だ。暗黒物質に満ち光は吸いこまれ、138億光年先まで続く大きな夜なのだ。夜が心地よいのは本来の宇宙にいるからだろうか。ダークマターが暗い情念も全部持っていってしまうのかもしれない。ハイウェイの硬質な光ももう届かなくなった。私がそのバスに未だ存在しているのかもよく分からない。意識だけが私を知覚する。宇宙に溶けていくのはとても心地よくてトんでしまいそうだった。
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cellsof · 6 years ago
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I'll stay with you tonight
使い古されたことばだけれど、冬の匂いの漂い始めた冷えこむ夜、異国の田舎町に一人ぽつねんと立っていると、妙にするりと胸に入り込んでちくちくする
今夜だけでいいから
https://youtu.be/NucJk8TxyRg
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cellsof · 6 years ago
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山の中を二日歩いて、どこまでも続く氷の大地を見た。仕事でいつも氷原の話をしているが、実際に目にするのは初めてだった。圧倒された。天からひっくり返された大量の水が山にぶつかり、重力によって低い方へ低い方へと流れていく様を猛烈なスローモーションで見ているようだった。途方も無い時間を感じた。リーフ氷原の動く速度はわからないがひと月に1m進むとすると、私が死ぬときこの氷の地はまだ1kmも進んでいない。小さな私たちは二日で40km歩いてここまで来た。私の一生は大きな彼らのたった1kmだ。瞬きみたいなものだ。大地が、山々が、氷河が、瞬きするその間に私はこの世界に現れて消える。私が消えたあとも世界は変わらず続く。山はそこにあるし、氷河は大地を削りながら私の人生の何万回分かの距離を進む。そして数億年後にはアメイジア超大陸ができてまた氷の時代がやってくる。汗に濡れた背中が冷えた。恐ろしかった。けれど共に地球に生きる生物たちが愛おしくもなった。最後は無に帰すとわかっていて、笑って泣いて悩んで怒って、重いザック背負ってとても敵わない自然の中を延々と歩いたりする。それは瞬きの間、一瞬のことで、消えたあとには何も残らない。善人も悪人も同じように灰になる。なのに、みんな必死に良い人生を生きようとする。愛おしいほど、憐れなほど、自分の生に執着する。その小さなひたむきさとそれを気にも止めず押し流す自然の巨大さに私の脳はびりびり痺れていた。これを見ているかわからないけれど、そのとき私がこの瞬きの間一緒にいたいと思ったのはあなたでした。できるならまた山の中で天の川銀河に抱かれて��を繋いで眠りたい
I saw the boundless ground of ice after walking for 2 days in the wild. It was my first time seeing it actually though I always talked about icefields at work. It overwhelmed me. I felt like I was seeing a great volume of water fall from the sky and break against mountains, and then flow down by gravity in extreme slow motion. An enormous amount of time existed there. I don't know how fast Reef icefield moves. If it goes 1 m forward a month, it would not reach even 1 km ahead yet when I die. We walked 40 km in 2 days and got here. My life is only 1 km for them. Just like a blink. I appear and disappear on the earth while ground, mountains and glaciers blink. The world continues as it is after I vanish. Mountains stand there as ever and glaciers go a distance millions times as long as they do during my life while eroding ground. After hundreds of million years Amasia supercontinent would be built and then ice age should come again. My back wet with sweat was cold, I was terrified. But also I felt love for all living things on the earth. They know all will come to nothing, but laugh, cry, worry, get angry and even walk on with heavy backpacks in the wilderness that they're no match for. Those end during a blink. There's nothing left after they disappear. Both good and bad people burn to ashes. Even then everyone struggles to live better. Everyone clings to their own life pathetically. My brain was numb with those small devotion and immerse nature that sweeps them away paying no attention. It was you that I wanted to stay with during a blink though I'm not sure you see this. I hope to sleep holding hands in a mountain in the cosmic arm again.
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cellsof · 6 years ago
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短い夜
体調を崩して一日中寝ていたせいで眠れないまま空が白んできた。目を瞑って心臓の音を聞いていた。あと何回この心臓は打てるだろう。どのくらいの時間が私に残されているだろう。気持ちはまだ大学を卒業した頃にスタックされている。年齢を聞かれて機械的に26と答えた後、いつも愕然とする。まじかよ、もう30手前かよ。どこかで違う選択をしていたら別の人生があっただろうか。規格外の生き方をする友人たちを羨みながら、通勤電車に乗り、それなりに仕事をこなし、そこそこの給料をもらって、結婚し子供の寝顔を眺めていたりしたのだろうか。自分はそういう人間だと思っていた。親も平凡だし、私も平凡だ。ちょっと勉強ができて運動が苦手で、人の目ばかり気にしている遅刻魔だった。元から潜在的に持っていたのか、ライブハウスの人達の影響か、ザック背負って一人で歩き回るうちに培われたのかは不明だが、ビビリのくせにむやみやたらに度胸と行動力がついて、気づいたら外国にまで来ていた。先が見えない生活に恐れ慄きながら、いつもその道を選んでしまった。私ははるばる8000キロ彼方までやってきて何をしているんだろう。もう2ヶ月も無職だ。在宅仕事のルームメイトは私が一日中家にいることに苛立っている。いつから働くんだとやたらに聞かれたって、私だって好きで無職してる訳じゃないんだぜ。
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cellsof · 6 years ago
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Ougimachi People
ゆらゆらした感情についていけない。妙に前向きで新しいことへの興味に掻き立てられるときもあれば、この快適な暮らしと寝心地のいい布団とお別れするのがつらくてたまらないときもある。それがだめだと言われるのだけど、行動に意味や目的を求めてしまうSEIRONがちな私は、今回、知識や経験のある人よりも自分が魅力的だと思う人の声を聞こうと学べただけで、カナダでへ行く意味があったと思う。たとえ手ぶらで泣き帰ってきたとしても、それだけでいい。だから気楽にやろうぜ。ロッキーはきっと息を飲むほどきれいだ
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cellsof · 6 years ago
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しばらく海外に身を置こうと決めて約半年、実務的なことや気持ちが移り変わる各段階で苦悩はあったが、どうにか一人でやってきた。それが、ひと月前、おおよその目途が付いたとき、ある一言で気持ちが崩れ、いよいよ身動きが取れなくなってしまった。心からやりたいと思えることを仕事にしたくて新卒で入った会社を辞めてから、どんどん新しいことに飛び込んできた。農業、旅館、学校司書、どれも楽しかったけれど、一年以上は続かなかった。理由はいろいろあるが、結局、その仕事で一生食っていく覚悟ができなかった。仕事が好きでも、先のないそれを続けることは私にとって契約違反だった。カナダもそうではないのか。また意味なく終わってしまうのではないか。潮流に逆らう人たちのうち数人は泳ぎきって成功を収めるが、大多数は志半ばに体も心も疲れ果て、流されるか、そこに沈むという。気力もお金も時間も使って、また同じことの繰り返しではないのか。もっと先の見えることをすべきではないのか。
殻に籠って悶々と考え込んだ。けれど、考えるほどに見えてくるのは、いくら頭を回してもタイムマシンがない以上この不安に出口はないこと、良くないかもしれなくてもこれ以外の道はないことだった。そう納得して前向きに準備を進めてみるが、数日したらまた同じ問いに捕らわれている。その繰り返しに心は擦り減って、頭は重く、もう限界に来ていた。
他人の意見を聞きたくて、広い見識と人脈のある知人を頼り茨城へ行った。日中はその人の関わっている畑を手伝った。久しぶりに土と植物の匂いを嗅ぎ、泥だらけになって体を動かすのは気持ちよかった。自然の中にいるときだけは、付き纏う不安から逃れられた。夜は自家焙煎のビールをいただきながらいろんな人と話をした。分かったのは、私は明確なゴールのないことに力を尽くすやり方がわからないのだということだった。時間と気力を消費することに底抜けの不安を感じている。でもどうすればいいのかは見えないままだった。いろんなことを言われたけれど、みんな的を外れている気がした。朝一で東京を出て、鈍行列車で大阪へ向かった。数日間頭のいい人たちに囲まれて、ビジネスや教育や食糧問題についての議論がすごいスピードで交わされ、頭がじんじんしていた。車窓を眺めてうとうとしていたら天満に着いた。
そのまま大好きな人たちに会いに行った。門出の日だった。カルテットが解散してから二年弱、そんなになるかとびっくりした。けれどきっとその間それぞれに思うことがたくさんあって、長い時間だったのだろう。みんな感極まっているように見えた。ニーユになってからの音楽はこれまでにない雰囲気の曲で、新しいことを始めようという意志がすごく伝わってきた。でもどれも、違うことやろうとしてます、幅を広げようとしてます、みたいな圧はなくて、すごく自然でみんなの良さが生きていた。 新たな地で、カルテットの曲もまた息吹を吹き込まれて光っていた。 これまでのカルテットとこれからのニーユ、全部が生きて調和していた。 でっぱりやへこみがあるメタモンみたいな形じゃなくて、カルテットという円が全体に広がったような、重力から解放された水の球みたいな心象を生じさせた。私は声で笑顔にならなかったことがない。あの四つ打ちが響いたらもうにやけている。ギターが気持ちよく乗っかって、ベースがくっと一度締めて、それからダムを開け放ったみたいに音楽が溢れてくる。たかぎしさんの声が強くしなやかにのびる。私はいつも口をいっぱいに開けていっしょに歌ってしまう。これまで積み重ねてきたこと、これからのこと。はるばる茨城まで行っても解決できなかったことに、優しくて温かい答えをもらえた気がして、���し泣きそうになった。どんなに研究された理論も精錬された方法論も、好きな人たちががんばっている姿には敵わなかった。私の人生本当にとっちらかっているけど、積み重ねたことはきっとひとつも死なない。こんな近いところに答えがあったなんて。きっとこれから、また不安になったら、私は8000キロ離れた北の地でこの歌を聞くだろう。そして笑って歌うだろう。
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cellsof · 6 years ago
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宇宙までとどけ中指
すべてのものにファックと言い回りたい夜に
ファック
ユー!!!
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