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空腹小説
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hungernotes · 1 year ago
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金欠の夜に
蓋を開けてお湯を注いで待つ。これだけの時間がこれほど苦痛だったことがあったか、と陽斗は思った。昨日の朝に一口にも満たないおにぎりを食べて以来、何も食べていなかった。
ふわりと立ち上がる湯気に粉末スープの香りが混ざり、部屋中に広がっていく。
ぐぎゅるるう、ぐぐううううううう。
派手な音で陽斗(はると)の腹が鳴った。今朝から空腹に悲鳴と不平不満の声をあげ続けていた胃袋が、ようやく満たされると一足先にお祭り騒ぎだ。
「はあ、ようやく食える……」
陽斗の口から安堵の声が漏れてから数舜遅れて。
ぎゅぎゅぐぐううううううううううう、ぐっきゅるうきゅききゅううううう。
先ほど鳴った陽斗の腹の音に勝る勢いの轟音が部屋に響く。
「独り占めする気なの……?」
と涙交じりの声がする。陽斗の妹、月穂の声だ。
「さすがにもう限���なんだって。大体、誰のせいでこうなったと思ってるんだよ。お前が調子に乗って変なゲームに課金なんかするから」
「だって、あんな顔がいい壊れ性能のキャラとか、限界までガチャ回すにきまってるでしょ!新時代の人権キャラだよ!?」
陽斗と月穂がここまで空腹なのは、この通り。月穂が生活費を使ってまでゲームに課金をしまくったせいだ。おかげでここ1週間ほど、二人はろくな食事をとれていなかった。同じ大学に通うことになったため、兄弟で同じ部屋に住むことになって2か月、早くも共同生活は暗礁に乗り上げていた。
「その人権のために生活費2月分つぎ込んで生命の危機に陥っちゃ元も子もないだろ!俺の分の生活費まで使い込むとか、何考えてんだよ!」
「お金なら返すって言ってるじゃん!それに私だってお腹ペコペコなの、今日朝に食べたきり何にも食べてないんだよ?」
「月穂は一日おにぎり一個は食ってただろ!こっちは二日に1食だったんだし、これだってゼミの先輩がくれたやつなんだよ!俺が全部食べてもいいだろ、マジで腹減って死にそうなんだって」
「……ハル兄はこんなかわいい妹がお腹をペコペコに空かせててかわいそうだと思わないの?こんなにお腹がぺったんこになってるのに?」
ぺろり、と来ているシャツをたくし上げ、腹部を見せる月穂。1週間の欠食生活で月穂の腹回りの脂肪は見る影もなくなり、うっすらと八の字のあばらのラインが見え、そこから下は「ペラペラ」と言っていいほど小さく薄くなっていた。へその周りにはまだうっすらと脂肪があるが、その下には骨盤の形がはっきりとわかるほど肉がなかった。
ごぎゅるるううううう、ぎゅぐううううううう。
主張に同意するように、月穂の腹が大声で泣き喚く。
「うう、お腹すいたよぉ。ねえ、お腹もこんなに鳴ってるんだからさあ……一口だけでもいいからぁ……」
「知らん、自業自得だよ」
泣き落としを一刀両断する陽斗。
「だいたいなあ、お前こそこれをみてかわいそうだとは思わないのか!?お前のせいでここしばらく何も食ってないようなこの腹をみて!」
月穂と同じように来ている服をめくり、腹を見せた。
あばら骨が浮かび、みぞおちの辺りがえぐれたようだ。腹筋が割れたように見えるほど陽斗の腹部の脂肪がごっそりなくなっていた。あばらと腰骨の間は緩やかにくびれていて、ここだけ見れば女性の腹部と言われても違和感はないほどだ。
ぐおおお、ぐっぐぐううううううう。ぎゅぎゅうぎゅごごおおおおおおおおおおおおおお。
陽斗の腹がこれ以上ないほどの大きさで鳴った。
あまりのひもじさに「あうっ、ぐ」とうめく陽斗。
「……もういい、ハル兄の馬鹿!」
そう言って月穂は布団にもぐってしまった。このままだと朝まで口は利かないだろうな、と思った。
ぐぎゅるううううぐううううう。
布団のほうから腹の音が聞こえてくる。月穂にすこしでも分けてやったほうがよかったか、と思ったが
ごごごぎょろろおおおごおおおおおおおお
と自分の腹がそれを否定する。
はあ、と息をついて陽斗はカップ麺を見た。とっくに待ち時間は過ぎ去り、麺が伸び始めているようだった。
食べれる量が少し増えたようでうれしく思ったことを少しみじめに感じながらも、陽斗は勢いよく麺をすすり始めた。
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hungernotes · 2 years ago
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「ご飯」のために
人差し指の先に針を刺すと、チクリとした痛みとともに、指に血がにじんでくる。
じわりじわり、ゆっくりと大きくなって、ようやく一滴と呼べる大きさになった。 「リズ、どう?受け付けるかな?」
わたしは指をリズの口に近づける。
リズは私の指先を舌で血を少しも残さないように舐めた。 「うん、大丈夫みたい」
「そう、よかった」
リズの返答に、私は少しほっとした。
ぐぎゅるるるるうううぅぅぅ。
大きな音で、リズのお腹が鳴った。
「ごめん…元々限界だったけど、さっきのでスイッチはいっちゃったみたい……ううぅ」
少し苦しそうな表情を浮かべて、リズはお腹をさすった。
「うん、早くご飯にしようか。私もそろそろ限界かも」
私もお腹に手をやる。体の真ん中を何かに蝕まれているような感覚が強くなっている。
早く「ご飯」にしようと歩き始めたら、エリカ、と後ろからリズの声が聞こえた。
「エリカ……本当に、ごめんなさい……」
目に涙を浮かべて���るリズの顔を、私はまともに見ることができなかった。
こうなったのは、そもそもわたしのせいなのに。
リズとわたしは、幼いころからの大親友だった。
二人でいつも一緒にいたし、それだけで十分すぎるほど楽しかった。
子供から少女と呼ばれる年齢になって、ほかの人間関係が変わっても、わたしたちの関係はずっと変わらないままで、これからもきっとそうだと信じていたのに。
いつも穏やかなリズが慌てふためくところを見たい、なんてくだらない理由で、近所の森の洋館を探検しよう、なんて言い出さなければ。
部屋の中にあった怪しげな魔方陣に気づいていれば。
リズをちょっと怖がらせてやろうと、後ろから脅かしたりしなければ。
こんなことには。
いまのリズは、いわゆる「吸血鬼」で、おまけに何がどう作用したのか、飢えた人の血液しか受け付けない。
リズの両親は二人とも海外にいる。ほかの友達は頼ることができない。
他人の食事のために何日も食事をとらないなんて、ほとんどの人には無理な話だ。
リズに「ご飯」をあげることができるのは、いや、あげなければいけないのは、わたしなのだ。
わたしがリズをこんな風にしてしまったのだから。
服を脱いで、二人でお風呂場に入る。リズの「ご飯」の場所は毎回、お風呂場になる。
裸でいるのは少し気恥ずかしいが、服に血が付くのは嫌だった。
「リズ、またやせちゃったね……」
リズのお腹の辺りが目に入り、思わずつぶやいてしまった。
もともとリズはスタイルが良かったが、細かったお腹周りは、吸血鬼になってからはさらに細くなってしまった。あばら骨や腰骨が少し浮き出てきて、少し痛々しい。
前の「ご飯」は10日前だ。今のリズに人の基準が完全に当てはまるわけではないようだが、それでもかなり長い時間空腹であることには変わりない。
「エリカだって。お腹がぺったんこだよ」
そう言って、リズは私のお腹を触ってきた。ちょうどそのタイミングで
ぐぐうううぅうう、と私のお腹が鳴る。
「お腹、空いてるよね。……ねえ。今日は何日食べてないの?」
「んーと……三日かな。そのくらい断食しないと、リズは受け付けないでしょ」
リズは最低でも3日は食事を抜かないと、私の血を受け付けなかった。
「そう…だね、エリカ、本当にごめんね……」
「ううん、気にしないで」
むしろ、このくらいさせて、と続けて言おうとした瞬間、
ぎゅぐうううぐううううう、とリズのお腹が鳴った。
「うう、もう我慢できないかも……お腹すいたぁ……」
お腹を抱えて、うずくまるリズ。
ぎゅぐうううぐうぐう、ごごごごろろおろおおおお。
リズのお腹がさらに悲鳴をあげている。
私はあわてて、リズの口元に腕を差し出す。
「リズ、ほら」
ぐぐううぅぅっ、きゅきゅきゅるううううごごろおおおおお。
「早く召し上がれ。リズが食べないと、私もご飯食べられないから」
リズはゆっくりうなずくと、わたしの腕に思い切りかぶりついた。
リズがわたしの腕から血を吸うのを見てからすぐ、気分が悪くなってきた。
三日も何も食べていない上に、血を吸われているのだ。
体が少しずつ、冷えていくのがわかる。寒い。寒い……。
ぐぐぎゅるうううううう。
お腹が鳴る音。わたしのお腹だろうか。それともリズの……?
「エリカ!エリカ!!しっかり!!」
わたしの名前を呼ぶ声で気が付いた。リズの声だ。
「リズ……?」
「エリカ!?気が付いた?よかった……」
いつの間にか私はベッドで寝かされていた。リズが普段使っているパジャマが着せられている。
泣きそうになっているリズの声に、なぜか私も少し安心した。
「ごめん……わたし、途轍もなくお腹が空いてて、血を吸うのがやめられなかったみたいで…気が付いたらエリカが気を失ってて、ひょっとしたら死んじゃったかもと思って……」
「リズ……気にしないで」
わたしの言葉に、リズは泣き笑いの顔になる。
「ところでリズ、お腹はおちついた?」
「うん、久しぶりにお腹がいっぱい」
そういうとリズはお腹の辺りをさすった。確かに少し膨らんでいるのがわかった。
「そうか、よかった」
わたしがほっと一息ついたその瞬間
ぐうううう、ぎゅるうるごごおおお
と私のお腹が鳴った。
「あうぅ、お腹空いた……」
あまりの空腹感に思わずうめくわたしに、リズが声をかける。
「エリカ、今度は私がエリカのお腹をいっぱいにする番だからね。このために作っておいた料理をとってくるから」
そう言って、エリカはキッチンのほうに向かう。
その姿を見送りながら、待ちきれないといわんばかりにもう一度、大きな音で
ごぎゅるううういいいおおおお、ぎゅぎゅうぐうううううううう
と、わたしのお腹が鳴った。
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hungernotes · 2 years ago
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やせる魔法薬
「お願い!その『やせる魔法薬』を試させて!」
アリアナは幼馴染であり魔法薬の研究者でもあるリザに思い切り頭を下げた。
「うーん、そうはいってもなあ……」
リザはあまり乗り気でない様子だが、アリアナは食い下がる。
「ほんとにお願い!あと三日でこのお腹を絞らないといけないの!」
 アリアナはショーで踊り子をしている。舞の華麗さもさることながら、抜群のスタイルでもお客を魅了し、抜群の人気を博していた。
だが、その忙しさからアリアナは食事に気を使わなくなり、多少お腹が出てきてしまっていた。
さすがにそろそろ何とかしないといけない、と思った矢先に、アリアナが所属する一団で、三日後に踊り子の人気投票が行われることになったのだった。
今のスタイルでは、一番人気をほかの踊り子に譲ってしまうことになる。
そう思ったアリアナは、リザのもとに向かったのだった。
 「確かに���この薬を使ったらきれいに痩せることはできる。だけどその代わり、薬の効果が切れる前に何か食べたらその分余計にお肉がついちゃうんだ。どんな副作用があるかもまだわかっていないし……」
「大丈夫、何日か食べないくらいのことは昔もあったし、平気だって。とにかくこれ、もらっていくね」
「アリアナ!待ってって……」
説明を軽く聞いて、やせることができると思ったアリアナは強引に薬を持っていってしまい、リザが引き留める声を無視していってしまった。
 リザが作った魔法薬には2種類あり、一つはジェル状の塗り薬、もう一つは飲み薬だ。
塗り薬をやせたい個所に塗り、そのあとで飲み薬を飲めば、塗り薬を塗った個所の脂肪が燃焼されやせていく、という仕組みらしい。
 アリアナは早速、ウエスト周りに塗り薬を塗った。かろうじてくびれはあるものの、前と比べると明らかにお腹が出てきている。前はすんなり着られた踊り子の衣装も今ではお腹周りがきつくなり、肉が衣装の上に乗ってしまっていた。
「これで何とか間に合ってくれるといいんだけど……」
一通り薬を塗り終えたあと、アリアナは思い切って飲み薬を飲んだ。
  一時間もすると、効果が出てきたのか、塗り薬を塗ったお腹のあたりがほんのり熱くなったのを感じた。きっと、余分な肉を燃やしている証拠だろう、と思った。
それからまた一時間もすると、今度はやたらと空腹感が強くなってきた。
「うう……お腹空いたなぁ」
ぐぐうううううう。
アリアナのお腹から派手な音が響く。ここまでお腹が鳴ったのは久しぶりだった。
「確か薬の効果が切れるまで食べれないんだっけ。何とか我慢しないと……」
ぐううう。ぎゅるるううううう。ごおっ、ぐうううううぎゅぐうううううう。
お腹があまりの空腹感に悲鳴をあげ始めているが、食べるわけにはいかない。
空腹をおさえられないかと舞の練習をし始めたが、想像以上の空腹感で身が入らない。
少しでも空腹を忘れるため、もう寝てしまおうとベッドに入ったアリアナだったが、鳴り続けるお腹の音と、これまでに感じたことのないくらいのひどい空腹感でなかなか寝付けなかった。
 ぐぎゅぐううううぐううぐううううううううううう!
お腹のあたりがつぶれるような感覚と、雷のようなお腹の音でアリアナは飛び起きた。
「あううぅ……」
思わずうめき声が漏れる。
「お腹空いた……なんか、食べ物……」
食糧庫にあったパンを食べようとして、薬の効果が切れる前に食べたらいけないことを思い出した。
「そうか……食べちゃダメなんだっけ……うう、キツイ……」
ぐうううう、ぐうううう、と鳴り続けるお腹をさすって、アリアナは必死に空腹をこらえる。
「前に断食したときはこんなにお腹空かなかったのに……。やっぱりあの薬のせいかな……」
スタイルの維持のため、時々は断食したことがあるアリアナだったが、ここまでの空腹感にさいなまれたのは初めてだった。
そうなると、リザの薬を使ったことが今のひどい空腹感の原因だろう。
このままではとても耐えられない。でも、この薬を作ったリザなら何とかできるかもしれない。
「リザのとこに……行かなきゃ……」
空腹で軽くめまいを起こしながら、アリアナはリザの研究室に向かおうと外に出た。
 外に出てすぐに、リザのところに行こうとしたことを後悔した。
あちこちの屋台で売られている食事や、果物。果ては食べられないものまでがおいしそうに見えてくる。屋台で売られているパンのにおいを嗅いだ瞬間、気を失いそうになった。
ごごぐういいい、ぎゅぎゅうぐううううううううう。
人間のお腹はここまでの音量で鳴るのか、と驚くぐらいの轟音を響かせながら、アリアナはリザの研究室に向かった。
 「なるほど、そんなに……。異常なレベルの空腹感が副作用として出てきてしまうか。改善しないといけないな」
アリアナの話を聞いたリザは納得した様子でいくつかメモを取った。
「そんなことより、何とかできない?お腹が空きすぎておかしくなりそう……」
アリアナがうめきながら訊く。この世のものとは思えないほどの空腹感に苛まれ、動くことすら満足にできない状態になっていた。
「わるいけど無理、薬の効果が切れるのを待つしかないね」
「そんなぁ……お腹空いてしにそうなのにぃ……」
ぐごごごぐぎゅぎゅろろおおおおおおおおおおおぐううううううううううう!!!
彼女の空腹感がいかに強烈かを示すようにお腹が鳴った。
「一応、効果が切れるのを速める方法があるんだけど、今のアリアナには酷かな」
「!!……お願い、もう限界なの!!なんでもいいからやって!!少しでもいいから早く何か食べたいの!!」
「……わかった、じゃあ、準備するから、しばらくじっとしてて」
 1時間後。
アリアナは椅子に縛られたまま、魔法の立体映像で再現された食事をずっと見せつ��られていた。食べられないこと以外は本物そっくりで、においまでする。
リザによれば、食欲を限界まで高めた状態でいれば、効果が切れるのが早まるらしい。
だがこの方法は、今のアリアナにとって拷問そのものだった。
「お腹……お腹空いたよおおお!お腹があああ……お腹空いたああああ!」
ごごおおおおぐぎゅるるうううう、ぐぐううう、ぎゅぎゅうぎゅぎゅぎゅぎゅうううううううう、ぎゅりりいいいいいいごおおおおおお……。
「ご飯、ご飯……ごはん!!!食べたい、たべたああい、おな……か、お腹……すいたああああ!!」
あまりの空腹に理性を失いかけているアリアナの泣き叫ぶ声と、怪物のうめき声のようなお腹の音がリザの研究室に響きわたる。
そのうち、泣き叫ぶ声はふっと聞こえなくなったが、お腹の音は一日中、ひっきりなしに鳴り続けた。
 アリアナが目を覚ますと、すっかり空腹感は我慢できるレベルになっていた。お腹もすっかりぺったんこになり、理想的なスタイルだといえる。
「ようやく薬の効果が切れたね……」
リザがアリアナの後ろからやれやれといった口調で言った。
「あまりの空腹に気を失ってたんだよ、アリアナ。そのあともお腹はずっとうるさかったし……でも、もう平気かな」
「うん、これで何とか頑張れる……でも、もうやせる魔法薬は使いたくないな」
 その後、アリアナは無事、人気投票でトップの座を勝ち取ったのだった。
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hungernotes · 3 years ago
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上司のとある瞬間
「だからそうじゃないって私ちゃんと言ったよね?」
「……はい、そう指摘されました」
笹野涼は上司である桐野律華から、もう30分も営業の資料について詰められ続けている。
確かに内容の不足など涼が至らなかった点の指摘もあるのだが、それ以外の些細なことについても詰められる。
「じゃあなんでやらなかったの?指摘されたなら直すだけでしょ?」
「すみません」
「すみませんじゃなくて、なんでやらなかったのかを私はきいてるの。わかる?」
「はい……」
本当は修正の指示がなく、なんか違和感がある、というあいまいな指摘があった部分だったのだが、桐野にとってはそれが修正の指示ということだったらしい。
さすがに理不尽ではないか、と思ったが、反論をするとそのことについてさらに叱責が飛んでくることが容易に想像できたので、涼は反論せずに謝る。
はあ、とため息をつくと桐野はPCの画面を涼に見せながら、違和感があるとした部分に手を加えていく。
「ほら、これとあなたの作ったのを比べてみて?」
確かに一目見たときの印象が前よりもよくなっていた。指摘の仕方は理不尽だったが、指摘自体は正しいのが、桐野が涼の上司たる所以だった。
「全体を見ないから違和感に気づけないんだって。こんなことぐらい自分で気づけるでしょ?」
桐野が厳しい表情を向けながらいう。顔立ちは美人なのだが、今この時に限ってはそれがさらに厳しさに拍車をかけていた。
 昼休憩の時間があとわずかというときになっても叱責は続いていた。
「ねえ、ちゃんと反省しているの?」
「はい、しています」
「だったらそんなあいまいな改善案出てこないでしょ?本当に考えているの?」
桐野の指摘になんと答えるか、涼が言葉をつまらせていると
ぐうううぅぅ……
という、かなり間の抜けた音が涼の前から聞こえてきた。
一瞬何が起こったのか涼にはわからず、ひとまず桐野の問いに答える。
「はい、以前よりはそれが良いかと」
「その理由は?」
ぎゅ、ぎゅううう。
また桐野のほうから音が聞こえる。桐野のお腹が鳴っているのに涼は気づいた。
「こちらのレイアウトのほうが、情報が整理されているので」
「その段階で整理した情報を提示しても意味ないでしょ」
ぎゅぐうううう。
「そこよりもこっちでだしたほうが効果的になることくらいわからない?」
ぎゅぎゅううううう。
指摘を続けながらも、桐野のお腹は鳴り続けている。ふと桐野の顔を見ると、赤くなっているのが涼にはわかった。
桐野は一通り指摘を終えたあと、「とにかく、今日中に言われたこと全部直してもう一度出して!」というや否や、すたすたとオフィスを出ていった。
 指摘されたことをメモに残して、涼も昼食を買いに行くためにオフィスを出てエレベーターに向かうと、ちょうど桐野の後ろ姿���見えた。
桐野は「お腹減った……」とつぶやきながらお腹をさすっていた。
ぎゅごおおおおおおおっ、ぐぐうううううううぅぅ。
ひときわ大きな、お腹の鳴る音が聞こえる。
涼がお疲れ様です、と声をかけると、驚愕の表情が浮かんだ顔で桐野が涼のほうを振り向く。
「……もしかして、今の聞こえてた?」
顔を先ほどよりも赤くしながら、桐野は涼に問いかけた。
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hungernotes · 3 years ago
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ランチの前に
真理佳が待ち合わせの場所に到着すると、まだ裕貴は来ていなかった。
ほんの少し安心する。裕貴はそんなことを気にするタイプではないが、後輩である自分のほうが遅く到着したとなると、申し訳なさで存分に楽しめないかもしれない。一息をついてスマートフォンでニュースをチェックしていると、ほどなくして裕貴がこちらに向かってくるのが見えた。
「真理佳ちゃんごめん、待たせちゃった?」
「裕貴さん、お疲れ様です。全然待ってないですよ」
「ああ、よかった。じゃあ早速行こうか」
「はい、楽しみですね!」
2人は目的の場所へと足早に歩き始めた。
 空野裕貴と塚本真理佳の二人は会社の先輩後輩である。
裕貴が真理佳の指導役となって以降、プライベートでも仲良くなり、二か月もしないうちに休日にたびたび一緒に出掛けるようになった。
そして二人が今日来たのは、とあるホテルのお店のランチビュッフェだった。この店はもともとの評判も良く、ランチビュッフェを初めて実施するという情報をたまたま見つけた裕貴が提案したのだった。二人でランチをするのは初めてで、真理佳はお誘いのメッセージを受け取ると即座に「いきます!」と返信を送った。
 「うわ、結構並んでますね……まだ10時過ぎなのに」
並んでいる人の量に真理佳はたじろいだ。かなり長い行列がすでにできている。
「ごめん、やっぱりもうちょっと来る時間を早めにしたほうがよかったかな」
「しかたないですよ、人気のお店ですもん」
二人はそういいながら行列の最後尾に並んだ。
 並び始めて30分ほどたった。真理佳たちの後ろにもかなりの長さの列ができている。ちょうどあと30分でランチがスタートするという頃だ。
その間ずっと真理佳と裕貴は話をしていたが、時間がたつにつれ、裕貴の反応が薄く、口数が少なくなっていっているような気がした。表情もだんだんと硬くなっている。
「裕貴さん、どうかしましたか?なんか、調子が悪そうですけど」真理佳は心配を声に出した。
「あ、ううん、何でもないよ、大丈夫」裕貴がそう答える。だが、明らかに普段と様子が違うのが真理佳には分かった。
やっぱり何か変ですよ、と真理佳が言おうとしたときに
 はっきりとした重低音が、裕貴のほうから聞こえた。
「ああ、ダメ……」
かろうじて聞き取れるほどの弱々しい声で裕貴がつぶやく。その顔は真理佳が見たことがないほど真っ赤になっていた。
「ごめん、ずっと鳴らさないようにこらえてたんだけど、お腹空きすぎてダメだった」
***
 「朝ごはん、食べてこなかったんですか、裕貴さん」真理佳がびっくりして尋ねる。
「うん……昨日の夜も控えめにしたから、今までで一番お腹空いてる」
すでに元気を失った声で裕貴がいう���
(音)
と彼女のお腹がそれを証明するように音を立てる。裕貴の前に並んでいた人が少し驚いたようすでこちらに目を向けたのを真理佳は見た。
「恥ずかしい。やっぱりちゃんと食べてくればよかったなぁ」
裕貴がお腹をさすりながらうめく。今の裕貴の様子を一目見れば、お腹をかなり空かせているのが子供でも分かるだろう。
「ほんとですよ。食べ放題だから朝ごはん抜くなんて」
「だって、どうせならいっぱい食べたいし、それに……」
裕貴が少し言いよどむ。
「それに?」
「真理佳ちゃんに遠慮してほしくないし」
「え、遠慮?わたしがですか?」
予想外の返答に、真理佳は混乱する。
「だって、真理佳ちゃん、先輩の私よりも自分がたくさんとらないようにとか気にするタイプでしょ。そういうの気にしないで欲しかったから……」
真理佳はその答えをきいた瞬間、嬉しさが体を満たすのを感じた。自分のことを少しでも考えてくれたことが嬉しかった。
「……ありがとうございます」
照れもあって、思ったよりも小さい声での返事になってしまったが、ちゃんと聞こえていたようで、裕貴はにっこり笑っていた。
(音)
二人の間の空気を無視して、裕貴のお腹が鳴り響く。
「それにしても、いい音で鳴りますね、裕貴さんのお腹」
話題をそらすように、真理佳はちょっとからかうような調子で言った。
「やめてよ。お腹が空いて鳴る音にいいも悪いもないでしょ!大体、それなら真理佳ちゃんのほうが私よりいい音鳴らしてたよ」
「あ、あの時は本当にお腹空いてましたからね……自分でもびっくりしました、あのお腹の音」
真理佳はお腹の音、というキーワードでふと思い出したことがあって訊いた。
「そういえば、裕貴さん、研修のときにもお腹鳴らしてたんですよね」
真理佳が裕貴の前で、あまりの空腹に盛大にお腹を鳴らしたときに、裕貴がそう言っていたのだ。
「からかわないでよ、あれほんとに恥ずかしかったんだから」
裕貴が半分怒りながら言う。真理佳は自分をフォローするための嘘だと思っていたが、もしかしたら本当のことかもしれない、と思い直した。
「もしかして裕貴さんて、腹ペコキャラなんですか?」
「もう、真理佳ちゃん、今度はいきなり遠慮なさすぎ!」
「ふふ、すみません」真理佳は笑って応じる。この列に並んでいる時間だけで、かなり打ち解けることができた、と真理佳は思った。
レストランの入口はもう目の前だった。
 ***
二人でお腹いっぱいたべた後、裕貴と別れて帰宅する道中、真理佳はずっとある光景が焼き付いて離れなかった。
きれいな先輩が、お腹を鳴らしながら、必死に空腹をこらえている様子���。
それを思い返すと、なぜか真理佳の心は心地よくざわつくのであった。
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hungernotes · 3 years ago
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残業中の空腹
ぐぎゅるるうぐごごおご。 空腹のあまりに、裕貴のお腹からすごい音が響いた。 だが、まだしばらく食べられそうにない。後輩の真理佳と一緒に片づけなければいけない仕事がまだ残っている。 たまたま真理佳が席を外していたから今のお腹の音は聞かれずに済んだが、 空腹感はだんだん強くなっている。どうしようと思っていると真理佳が戻ってきた。 「裕貴さん、ただいま戻りました。資料借りてきたので、これで残りの作業を進められそうです」 「あ……おかえりなさい」 「あれ? どうかしましたか?」 「えっと……ううん、なんでもないよ。資料作成のほうは順調にすすんでるみたいだね?」 「はい、あと少しで終わりそうです」 「よかった。終わったら確認するから呼んでね」 必死にお腹に力を込めながら裕貴は言う。 今にもお腹が凄い音で鳴りそうだが、真理佳にお腹の音を聞かれたくなかった。 ほどなくして、仕事をやり終えた真理佳が裕貴に声をかけた。 さっそくチェックを始める裕貴。だが、空腹のせいで頭が働かず、集中力が続かない。 (だめだ……全然頭に入ってこない) それでもなんとかチェックを続けた裕貴だったが、書類の最後のページにとてもおいしそうな料理の写真がいくつも載っていた。
パッケージツアーの企画の資料だったのだが、その中で食事のプランがいくつか並べられている。どのお店もおいしそうで、思わずじっと見つめてしまう。
「裕貴さん、どうかしましたか?」という真理佳の問いかけが聞こえていたにも関わらず、裕貴は答えることが出来なかった。 お腹が減って減って仕方がなかったのに、写真を見たことで裕貴のお腹はいよいよ空腹の限界に達した。 ぐぎゅきゅるるるるうぐううう。 あまりに大きな音がしたせいで、真理佳が目を丸くして裕貴を見る。 そしてすぐにお腹の音だと気付いたらしく、クスッと笑った。
「ゆ、裕貴さん……お腹が鳴っちゃったんですか?」 「ち、違うの! これは……」 慌てて否定しようとする裕貴だが、もう一度お腹が ぎゅぐうううううう、と鳴った。 あまりの恥ずかしさに、裕貴は自分の顔が熱くなるのを感じた。そんな裕貴を見て、真理佳はさらに笑う。 「ふふっ、やっぱりお腹がすいてるんじゃないですか」 「……うん、お腹すごく空いてる。真理佳ちゃんの資料の写真を見たら、余計にお腹が空いちゃって」そういい終わるやいなや、また裕貴のお腹が盛大な音を立てた。 ぐぎゅるるう、という音を聞いた真理佳は思わず笑い出す。 「なんだか、初めて裕貴さんに指導してもらった時のこと思い出しちゃいました。私がお腹ペコペコですごい音鳴らしちゃったのを」
「もう、あれほどの音で鳴ってないってば。資料はこれでOK���から、早く上がってご飯たべにいこう?」
「賛成です。実はわたしもお腹が空いてて」
真理佳はお腹を軽くさすりながらいうと、ぐうううぅ、と真理佳のお腹から音がした。
二人は声を合わせて笑い、仕事の片づけを始めるのだった。
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hungernotes · 3 years ago
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「ご飯が食べたいの?昨日パン一個食べたでしょ?それで十分よね?」 落ちぶれた貧乏貴族である令嬢は使用人にそう言った。 主人である令嬢の食事さえかなり質素なのだ。 使用人に十分な食事を用意する余裕などなかった。 使用人の彼女に許された答えは一つだった……。
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hungernotes · 3 years ago
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とあるお昼休みの出来事
「優さん、麗実ちゃんはいない?」 「��あ、佐々木くん。ちょっと待ってて」 お昼休みにいつものように一緒にご飯を食べようと、佐々木諒一は飯山麗実の教室を訪れていた。 諒一と麗実の共通の友人の小山優が出迎え、きょろきょろと教室を見渡していたが 「ごめん、いないみたい。さっきまでいたと思うんだけど」 「そっか、ごめん。ありがとう」 「いいっていいって。毎日一緒に手作りのお弁当、うらやましいな」 「麗実ちゃんのためなら、このくらいなんでもないよ」 「そういうことさらっというね、佐々木君は」 やれやれという表情で優が言う。ふと、何か思い出したような表情をして付け加えた。 「そうだ、麗実、午前中ちょっと元気なさそうだったから、もしかしたら保健室言ってるかも」 「わかった、ありがとう。行ってみるよ」
保健室にも麗実はいなかった。ここにいないとなると諒一には思い当たる箇所はない。 もう昼休みにはいってから8分ほど経っている。時間に余裕がないわけではないが、 早くしないと食事の時間が無くなってしまう。何より、麗実の元気がないなら、何かしらの方法で 元気づけてあげないと、と諒一は思っていた。
空き教室や特別教室を大急ぎでくまなく見て回り、ようやく見つけた麗実を見つけたときには昼休みの半分が終わっていた。 麗実は校舎の最上階の橋の、化学実験室に座り込んでいた。
「いた、麗実ちゃん!さがしたよ」 「諒一……。はあ、見つかっちゃった」 「見つけちゃった。よかった、何もないみたいで。元気なかったって優さんから聞いたけど大丈夫?」 「別に普段通りだって。優が心配症すぎるだけ」 「そっか。あ、ほら、お弁当持ってきたよ。お腹空いたでしょ?」 「いらない」 そっけなく返事をすると麗実は立ち上がって、化学実験室を出ていこうとする 「え、どうして」 「もうご飯は食べたから。ごめんね、言わなくって」 「分かったけど、急にどうして」 「別になんだっていいでしょ!とにかく食べたからいらな……」 ぐぎゅるるるるうううううぅ 麗実のお腹の音が、言葉を遮るように教室中に鳴り響いた。
Tumblr media
「麗実��ゃん、やっぱりお腹空いてるでしょ?ちょっとでもいいから」 「やだ」 「でも」 「太るから、ヤダ!」 拒否された理由に、諒一は戸惑った。 「太る?そんな変わってないでしょ」 「変わったの!あなたとお弁当食べるようになってから、4キロも太ったの!」 「そんなこと、僕にはたいしたことじゃない!」 諒一の大声に、今度は麗実が戸惑う番だった 「自分の彼女がお腹空かせてるなんて嫌だし、ほっとけるわけない。麗実ちゃんもそれはわかってるでしょ?」 「……」 「ごめんね、喜んでもらいたくて、麗実ちゃんが好きなものだけ作ってたから。今度から気を付けるよ」 ぐぎゅるるるるう。 また麗実のお腹が鳴る。麗実は顔を真っ赤にしながら、両手でお腹を抱えた。 「ね、お腹も限界みたいだし、お昼休みも終わっちゃうからさ。食べよう、お弁当」 「……うん、ごめん、諒一」 そういうと、麗実はお弁当を手に取って、普段よりも勢いよく食べ始めた。 普段よりもいい食べっぷりに諒一が少し驚いていると 「実は朝ご飯も減らしてて。……お腹、ぺっこぺこだったの」 そういって、麗実は恥ずかしそうに笑った。 その笑顔だけで、諒一は自分の心が満たされていくのを感じた。
ふと、諒一もぐぎゅるる、と空腹でお腹が鳴るのを感じた。 麗実のことを考えていたせいで昼食をとるのをすっかり忘れていたのだ。 明日は何を作ってあげようか、と考えながら、持ってきたお弁当を開けて、食べ始めた。
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hungernotes · 3 years ago
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あんまりな一日
朝比奈美紀が会社のオフィスに戻ると、誰もいなかった。
すでに日は落ちかけている。時計をみると、もう少しで午後7時になろうとしていた。
今日はみんな順調に仕事を終え、残業もほとんどないまま帰ったのだろう。
できれば今日だけは自分もその立場にいたかったなと思い、「はあ、もう」と大きなため息を一つついて、美紀は自分の席に向かった。
 美紀が出社してすぐに、指導を担当している上野雄平の仕事に重大なミスが発覚した。本来ならば二人で客先に謝罪に向かうのだが、上野は休暇で海外旅行に行っており、美紀が一人で謝罪のために奔走することになった。お客がまだどこも本格的に動き出す前にミスが発覚したので大事には至らなかったことだけは幸いだった。
だがその日、美紀には後輩と久しぶりに食事会をする予定があった。おまけに、良さそうな人を紹介しますよ、という話まででていた。素敵な出会いになれば、と内心楽しみにしていたのだが、ご破算となってしまった。客先を回っている最中にトラブルで行けなくなったことを後輩に伝えると、残念そうな返事が返ってきていた。
 「うう、さすがに勘弁してほしいな、これは……」
社会人になって9年目、入社してから期待に応え、努力を重ね、そこそこ責任ある立場になった美紀だが、今日ばかりはさすがに参っていた。出勤してすぐに謝罪に向かったため、今日やるべき仕事はまだ残っている。おまけに部下たちの報告書にも目を通さなければならない。
ふと机の上の鏡をみる。三十路を過ぎたいまでも、若々しくあるクールビューティー、などと言われる整った顔立ちをした美紀だが、さすがに疲れが顔に出ていた。
ほどほどに手を抜いて済ませてしまおう、と進めていると。
ぐううぎゅううるるぅぅうう
と美紀のお腹が鳴る。
「そういえば今日何にも食べてなかったな……はあ���
朝食は普段から抜きがちで、昼食をとっている時間の余裕はなかった。
何かをお腹に入れたい欲求が強くなってきたが、仕事を終わらせるほうが先決だ。
無視を決めこもうとPCの画面に向きなおるが、それに抗議するかのように
ぐぐぐううう、ぎゅごおおおおおおぉぉぉ
とまた大きな音が鳴る。
「もう、うるっさい……!黙ってて!」
握った左手を胃袋のあたりに押し当てながら、報告書を読み進めていく。これといった問題はなさそうで、美紀は少しほっとした。
そのあとも時折ぐうぐうと音を立てるお腹をなだめながら、美紀は淡々と仕事を進めていった。
 「よし、あとはこれで終わり!」
どうにかこうにか仕事を片付けると、時計は午後9時を回っていた。だいぶ遅いが、家に帰って少しゆっくりすることはできそうだ。
あとは売上データをシステムに入れて、分析が無事に終われば帰れる。少し時間がかかるが、仕事はほとんど終わったも同然だ。
美紀が息をついて、大きく伸びをすると
ぎょおおおごごごおおぐおおおおおおおおぉぉぉおお……
と、ひときわ大きな音でお腹が鳴った。胃袋を絞られるような強い空腹感に襲われ、美紀は思わず顔をしかめた。
「ああ、お腹減ったぁ……」
あまりにもシンプルな自分の欲求に、美紀は思わず笑いそうになった。
思えば、こんな風に空腹を訴えたのはいつ以来か、思い出せなかった。仕事に精を出し、なめられないようにと気を張ってきたせいか、職場でこんなに弱弱しく空腹を訴えたことはなかったような気がする。もう少し、気を抜いて生きてもいいのだろうか?それとも空腹のせいでこんなことを考えるのか?
 「あれ、朝比奈さん?まだ残ってたの?」
突然、背後から声をかけられ、美紀の意識は現実に帰った。驚きながら振り向くと、そこには美紀の上司である田山が立っていた。美紀と年も同じくらいでありながら、社内でも重要なポストに就く実力者だ。端正な顔立ちで女性社員からの人気も高い。
「すみません、色々トラブルがありまして。分析が終わったら今日は帰りますから」
「ああ、上野君の件でしょ?聞いたよ。朝比奈さんが動いてくれた��かげで大変なことにならずに済んだって、お客さんから連絡があった。」
「え。そんなことが?」
「ああ。部下の仕事の管理はもっとしっかりしてほしいけど、リカバリーをしてくれてありがとう。直接の原因は上野君だしね。休暇からかえってきたら、彼には厳しくいっておかないとだな」
「そう、ですね。気を付けます」
受け答えをしながら、美紀は心が晴れていくような思いだった。自分の頑張りは間違っていなかった、と安堵する気持ちが沸き上がってきた。それと同時に、意識の外に行っていた空腹感がよみがえってきた。
ぎゅるるるうううごごごごおおおろぐりゅりゅうううう!
朝比奈のお腹がこれ以上ないほどの轟音を立てた。
とっさに両手でお腹を押さえ、顔を真っ赤にしながら、朝比奈は「すみません」と答える。
田山は驚いた顔をした後に、ふっと笑った。
「すごい音だったな。君でもそんな風に腹を鳴らすことがあるんだな」
「しょうがないじゃないですか。今日は朝もお昼も食べられなかったんですよ!?さすがにお腹も鳴りますよ!」
反論した直後に、またお腹がきゅぐぐるうううう、と鳴る。
「ああもう、やだ……」
「そんなに腹を鳴らせるくらい元気なら、全然心配なさそうだな。俺も腹が減ったよ。……もしよければ、この後、食事にいかないか?」
「え、ご一緒してもよろしいんですか?」
「もちろん。あとどのくらいで終わりそうなんだ?」
そういわれて美紀は画面を見る。PCには無事にデータ分析が終わったこと示す表示が出ていた。
「もう、終わっています。行きましょう、田山さん」
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hungernotes · 3 years ago
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口にできない
「以上で発表を終わります。ご清聴ありがとうございました」
真理佳が頭をさげると、その場にいる全員が拍手をする。
PCを操作してプレゼンテーションの資料を閉じると、真理佳は自分の席へと戻った。
 真理佳が入社した会社では、新人研修の仕上げとして、与えられたテーマに沿ったオリジナルの企画を同期や先輩の前でプレゼンすることになっていた。
全員が今日のために同期や先輩の力を借りながら準備を続けていたが、真理佳は特に気合を入れていた。もともと第一志望の会社だったのと、とある憧れの人に期待をもってもらえるように意気込んでいた。そして今、緊張しながらも滞りなく発表と質疑応答を終えることができ、真理佳は少しほっとしていた。
 「新人のみなさん、お疲れ様でした」
プレゼンの発表会は無事終わり、司会を務める先輩社員が締めのあいさつに入る。
「それでは今から、皆さんのプレゼンに対して担当の先輩社員がフィードバックをします。名前を呼びますので、呼ばれた方は担当してくださる先輩について行ってください」
アナウンスが合った通り、新人の名前が次々と呼ばれてい��。
「塚本真理佳さん。担当は空野裕貴さんです。空野さん、よろしくお願いします。」
自分の担当となる先輩社員がわかった瞬間に、真理佳は嬉しさでガッツポーズしそうになったのを慌てて抑えた。
 「空野裕貴です。研修の時に何度か見かけたことがあると思うけど塚本さん、改めてよろしくお願いします」
「塚本です。空野さん、よろしくお願いします」真理佳は素直に挨拶を返す。
その様子をみて、裕貴は屈託なさそうにほほ笑んだ。
新人研修中にも何度か指導をしてもらったことがあるが、その指導の仕方はとても分かりやすく、優秀な人であることを感じさせた。そして同時にとても可愛い人だな、と真理佳は思っていた。そう思っていたのは真理佳だけではなく、同期の女子の間でも評判だったし、研修でPCの使用方法を教えてもらうときに、裕貴に教えてもらっていた同期の男の子はみんな普段より数段、真剣な様子になっていたことを思い出した。
この才色兼備の先輩社員に指導を受けたときから、憧憬に似た思いを真理佳は抱いていた。この人に期待されるよう、期待に応えうる人でいようとおもい、真理佳は研修に打ち込んでいたのだった。
 「ブースコーナー」という表示がしてあるドアを裕貴に続いて通ると、個室のブースがずらりと並んでいた。いくつかは「使用中」と表示されている。先に呼ばれていった同期たちが先輩と話しているのだろう。
裕貴は個室の番号を確認すると、ドアを開けて中に入っていった。真理佳もそれに続いて、部屋に入った。
 持ってきたノートPCでいくつか操作をしたあと、画面が2人に見える向きに置きなおして、裕貴は話し始めた。PC画面には先ほど自分がやっていたプレゼンが始まるところが映し出されている。
「改めて、発表お疲れ様でした。新人とは思えないくらい、しっかりしたプレゼンでびっくりしたよ」
「ありがとうございます。頑張った甲斐がありました」真理佳はぺこりと頭を下げる。
内心では憧れの人に褒められて、小躍りしたくなるほどうれしかった。
「うん、かなり頑張ったなってわかる。私からはあまりいうことはなさそうだけど、もう一度さっきのプレゼンを見ながら意見を言っていくね」
「はい、よろしくお願いします」
少しむず痒い思いをしながらも、真理佳はもう一度自分のプレゼンを見ながら裕貴と話した。
裕貴の指摘は、数は少ないながらも真理佳にはない視点からのもので、真理佳は感心しながら聞いていた。
 振り返りを始めてから10分ほどたったころ、真理佳はみぞおちのあたりに不快感を覚えた。なんだろう、と思った次の瞬間にそれはもっと強烈なものになり、それが空腹によるものだと気づいた。
プレゼンの前の日から緊張で食欲がなく、おにぎり一口や野菜ジュース、お茶を食事代わりにしていたため、真理佳は二日近く、まともな食事をとっていないのだった。
発表が終わって緊張が解けたせいで、今まで追いやられていた空腹感がよみがえってきたのだろう。
 このまま続けるのはお腹が持たない、と真理佳は思ったが、同時に裕貴になんといえばいいのだろう?とも思った。
お腹が空いてたまらないので何か食べてもいいですか?と自分が訊いている姿が真理佳の脳裏に浮かび、即座にその想像を打ち消した。あまりにも恥ずかしすぎる。それに今の真理佳の手元には何も食べるものがない。裕貴が何か持っていたとしても、憧れの先輩の食べ物をねだるなんて、さすがに恥知らずにも程があるだろう。
何とかお昼休みまでこらえるしかない。そう思い真理佳は裕貴の話とプレゼンの映像に意識を集中させる。
だが、どうしても意識がぼやけていく。耳に入ってくる言葉の意味は間違いなく理解できているはずなのに、頭の中に入ってこない。全身の感覚がうすくもやがかかったようになっているのに、痛いほどの空腹感と少しの寒気だけがやけにはっきりしていた。
 「塚本さん?大丈夫?」
「え、はい……」裕貴の声に、どこかに行きかけていた意識が現実に戻る。何とか返事を返したが、自分でも悲しくなるほど、その声は頼りなかった。
「本当?なんかさっきと比べてだいぶ顔色が良くないよ?どこか具合悪い?」
「だ、大丈……」
真理佳が何とか答えようとしたのと同時に、
ごごぎゅぎゅぎゅぐぐうううぐごおおろろろろおおおおぉぉ!
ブース中に轟音が響き、真理佳の不調の原因をこれでもかと語った。
 突然、雷のような音がしたことに裕貴は目を丸くしたが、音の発生源が目の前の新人であること、その新人がお腹のあたりを強く抑えてうつむいているのをみて、その音が何を意味するものかをすぐに理解したのだろう。真理佳に優しい声で訊いた。
「えっと、お腹空いてるの?ひょっとして、朝ごはん食べ��なかった?」
「いえ……昨日からずっと緊張してて、ご飯……ちゃんと食べてなくて……」
強烈な空腹感と、すさまじい轟音でお腹を鳴らしてしまった羞恥心で真理佳は質問に答えるのがやっとだった。空腹で体が限界なのか、とてつもなく恥ずかしいのに顔が熱くなる感じがしなかった。
「昨日から!?ほんとに!?それじゃ具合悪くなって当然だよ!」そう言いながら裕貴は急いで持っていたポーチからチョコレートバーをポーチから出して、真理佳の前に置いた。
「はい、これ食べて。お腹の足しになるかわかんないけど」
「え、いいんですか……?」
「いいの。むしろ食べないと怒るよ?」
「は、はい。いただきます」
真理佳はチョコレートバーを口にした。固形物を口にするのは一日ぶりだ。チョコレートの甘さが体全体に染み渡るようだ。あんなにも悪かった気分がうそのように治っていった。
「おいしいです」
「よかった。顔色も少し戻ったみたいだし。プレゼンの緊張が解けて、一気にお腹が空いてきちゃったんでしょ?」
「はい、本当にさっきまで平気だったのに、いきなりお腹が空いてたまらなくなって」
真理佳はお腹を押さえるしぐさをしながら言う。空腹感は大分ましなものになっていた。
これならお昼休みまではなんとか持ちそうだ。
「実はわたしもよく、緊張でご飯が食べられなくなっちゃうの。でも、仕事に支障が出るほどご飯を食べないのはだめ、って先輩に言われてね。それからはちゃんとご飯食べるようにしてる」
「どうしても食べられないってときでもですか?」
「うーん、わたしの場合なんだけど、一食抜いたら体はそれなりに栄養を求めるみたいで、食べられないなあ、って思っても食べ始めたら意外と食べられたりするの。だから、塚本さんもちょっと食べてみれば、案外食べられるかもしれないよ?」
「はい。……ご心配かけて、すみません」
「いいの。それだけ熱心にやった証拠でしょ?まあ、研修のプレゼンの時はわたしも同じような感じだったし、人のこと言えないんだけど」
裕貴はにっこりとしながら言った。
 「それにしても、あんなかわいくない音でお腹が鳴って……本当に恥ずかしいです」
裕貴に聞かれてしまって恥ずかしい、という本心を真理佳は口にできなかった。それをいうほうがお腹の音を聞かれるよりも何倍も恥ずかしい気がする。
「恥ずかしいよね。お腹が減ったら、誰だってお腹は鳴るものだけどさ」
裕貴は優し気な口調で言う。
「でも、真理佳ちゃんはまだいいほうだと思うよ。私なんか研修の発表で、マイクをお腹のあたりで持ってるときに、お腹が鳴って。お腹が鳴った音、その場にいた全員に大音量で聞かれちゃったんだよ。ほんと恥ずかしかった……」
突然披露された、裕貴の見た目からは思いもよらない失敗談に真理佳は思わず笑ってしまったが、多分自分を慰めるための嘘だろう、と思い直した。
「やっぱりちゃんと食べないとですね。気を付けます」
「うん。それでよし!さて、プレゼンの指摘事項は私からはもうないし、お昼までの時間は少しお話しようか」
「は、はい」
そうして、二人は昼休憩に入るまでいろいろなことを話した。昼休憩まであと少しというところで、「今日はランチに何を食べたいか?」という話題になった。
このあたりでおすすめなのは、と裕貴がお店の話をしていると、
ぎゅぐぐうううぐうううううぐるるぅぅぅううう
と、さっきにも引けを取らないほど大きな音で真理佳のお腹が鳴った。
「ご、ごめんなさい。またお腹が空いてきちゃって」
「やっぱりあれだけじゃ足りないよね。料理の話はペコペコお腹に効果てきめんだね」
裕貴がからかうように言う。その直後に休憩時間を知らせるチャイムがなり、それに重なるように、
ぎゅぐぐううるるうううううぅぅぅぅぅ……
という真理佳のお腹の音が部屋に響いた。
「もうやだ……」顔を真っ赤にしながら真理佳はうつむく。
「さすがにちゃんとご飯食べないとだね。じゃあ、一緒にさっき言ってたお店に行こうか」
裕貴の誘いに、真理佳は赤い顔のまま、はい、と答えた。
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hungernotes · 3 years ago
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とある言い伝え
とある土地にこんな言い伝えが残っている。
「実りの神様への感謝を忘れるな。忘れれば汝を苦しめて、その恩寵を知らしめるであろう」
 *****
 「こんなのやってられないって」そう言いながら春乃は案内の用紙を丸めて投げ捨てた。
明日、近所の神社に集まって神様に感謝を捧げる儀式があり、特に2年以上参加していない人は絶対に参加するようにとのことだった。 春乃は去年もおととしもこれには参加していない。
土地に伝わる言い伝えか何か知らないがこんな迷信に付き合っているより、友達と遊ぶほうが重要だ。そう思って放課後、友達と遊ぶ約束をするほうを優先した。
 翌日の放課後、行きつけのファミレスにいくと、いつものメンバーが来ていた。凛夏、美冬、秋奈と 他愛もないことをずっと喋る。これが春乃にとっては最も楽しい時間だった。
中学時代からの友達四人組で、高校二年になった今でも仲良しだ。おまけに全員がかわいい、美人との評判を得ていて、春乃はこの4人でいるのが誇らしかった。
春乃以外の3人にとってもこの言い伝えはどうでも良いらしく、 もうずっと参加していないとのことだった。
ゴーン、と鐘のような音が鳴る。 いつもの夕方の5時を伝える鐘かと春乃は思ったが、こんな音だったろうか、と思った。どこか違和感があったのだ。
次の瞬間に、春乃は視界がぐらりと回るの感じた。
 気がつくと春乃は神社と思われる建物の中にいた。 凛夏、美冬、秋奈の3人も一緒だった。
「なにこれ、ここどこ?」
「全然わかんない。神社の中みたいだけど。なんかくらいし」
「うちら、ファミレスにいたはずなのに、なんでこんなところにいるんだろ」
「とにかく、外に出ない?」
四人が外に出ると信じられない光景が広がっていた。
神社の建物そのものが異空間のようなところの中に浮かんでいるのだ。
もし足を滑らせてこっちでもしたらとんでもないことになる。四人は慌てて中に戻り扉を閉めた。
「なんなのこれ、全然意味わかんない」凛夏が少し震えた声でつぶやく。
「夢か何かなのかな」春乃は願望をこめて独語すると、
「でも、4人全員で同じ夢を見てるの?」ありえない、と美冬が言う。
「ありえないでしょ、……ほっぺつねっても、覚めなかったし」秋奈が痛む頬をなでながらそれに同調する。
4人はふと、部屋の右奥に机のようなものがあることに気が付いた。その上にはろうそくが4本と、昔の本のようなものが開いてある。そこにはこう書かれていた。
 「実りのありがたみを知るが良い。汝ら全てがそれを骨身にしみて思い知ったとその身をもって証したとき、 現世に戻さん」
 *****
 「実りのありがたみを骨身にしみて知るって、どういうことだろうね」
「ぜんぜんどうしたらいいかわかんない」凛夏の問いに、秋奈は答えになっていない答えを即答した。
 4人がいた神社の広間には神様の本体がおさめられている社があるが、柵が設けられており、そこには近づけない。そのほかには先ほどの机と、大量の水が入った水瓶があるだけだ。正面の扉から見て左側の奥のほうに扉が一つあり、開けるとそれはトイレと思わしきところだった。
この異様な状況では会話も弾むわけもない。
4人がファミレスにいたときに持っていたバッグもそのままで、なくなっているものは特になかった。
春乃はスマホを取り出していつもの癖でSNSを起動したが、すぐにやめた。スマートフォンは圏外で連絡も取れないし、ネットにもつながらないが、なぜか電池が減ることはなかった。画面に表示されている時刻をみるとすでに19時を過ぎている。数秒のずれはあるが、ほかの3人のスマホの時刻も同じようだ。
 「あー、お腹空いたなぁ」凛夏がぽつりとつぶやく。
「こんなときに?」
「凛夏、ファミレスでポテトめっちゃ食べてたじゃん」
「あれ美冬だよ、私2、3本くらいしか食べてないし」
そんなことを話していると、凛夏のお腹がぐぎゅるるうぅ、と鳴った。
 すると、次の瞬間に、机の上のろうそくのうち、一本が風もないのに揺らめいたのに春乃は気づいた。気のせいだろうか。
「やばい、めっちゃお腹鳴った」凛夏がお腹をさすりながら照れている。
「というか、今まで心配してなかったけど、食べ物どうしたらいいんだろ」
「それっぽいの何もなかったしね」
「もしかして、このまま何も食べられないままでお腹空いて死ぬのかな」
美冬が恐ろしい想像を口にする。
するとまた、ぐぐうううう、という音がはっきりと鳴った。凛夏が両手でお腹を押さえている。
「もう、美冬がそんなこというからますますお腹が空いたじゃん」
 その時、またさっきと同じろうそくの火が弱くなったのに春乃は気づいた。おまけに、先ほどよりもはっきりと弱くなったのがわかった。
「凛夏のお腹が鳴って、ろうそくが消えかかった・・・・・・」春乃はそうつぶやくと、本に書いてあった言葉を思い出して、はっとした。
「みんな、もしかしたらなんだけど、『骨身にしみて思い知ったとその身をもって証』するってさ」春乃がみんなに聞こえるように言う。
「お腹をすごい音で鳴らせってことなのかな」
*****
「確かに、そうすればあの言葉の意味も分かるね。お腹を空かせてグーグー鳴らして、食べ物のありがたみを思い知りました、って体を使って証明するってことか」春乃の��明を聞き、美冬は納得したようだった。
「でもお腹の音なんて…恥ずかしい」秋奈がつぶやく。
「この人がお腹が空いているってはっきりわかるの、お腹が鳴った時くらいしかないでしょ。いいんじゃない?あたしたちにしか聞かれないんだし」凛夏が秋奈のつぶやきに応える。
 やがて全員のお腹がぐうぐうと音を立て始めた。
春乃の予想通り、誰かのお腹が鳴るたびにろうそくの火が弱くなっていた。火が弱くなる割合も、お腹の音の大きさに応じていることが分かった。音が大きければ大きいほど、火が小さくなるのだ。
だが、進歩があったのはここまでだった。お腹が鳴るたびに火が弱くはなるが、消えないのだ。
一番火が小さくなったのは、美冬のお腹が
ごごぐおおおおおおおおおおっ、ぎゅるうううう
と、いままで聞いたことのないような音で鳴った時だったが、それでも火が消えなかった。
「あれだけの音が鳴るとさすがに恥ずかしい……。しかも結局意味ないなんて」
美冬は顔を真っ赤にしてつぶやいた。
かなりの音でお腹を鳴らさないと、この空間から抜けるのは不可能のようだった。
 結局、その日は何の進展もないまま、4人は眠りについた。
寝ている間にお腹が盛大に鳴って、火が消えてくれれば、と全員が思っていた。
 春乃は重低音で目を覚ました。
ほかの三人はまだ寝ている。さっきの音は聞こえてきた方向的に、美冬のお腹の音だろうな、と思った。
机の上のろうそくをみると、4つとも火がついている。寝る前にも何度か盛大なお腹の音を聞いたが、ダメだったらしい。春乃はため息をついた。
水瓶から水を汲んで飲む。この水でろうそくの火を消したらでられるかな、と思ったがやめておいた。こういうものを無理やり消すとよくないという認識はさすがに春乃にもあった。
ぐぐぐるるるるううぅぅぅぅ……
と春乃のお腹が鳴る。夕食を食べないで朝を迎えた経験は春乃にはなかったが、こんなにお腹が空くのか、と思った。
「実りのありがたみ……。食べ物のありがたみに感謝しなかった罰、かぁ」
空腹にしくしくと痛むお腹をさすりながら、春乃は迷信を馬鹿にしたことを反省した。
 やがて4人全員が起きると、何とかしてお腹を鳴らすべく、美冬がこんな提案をした。
「スマホにダンスとヨガの動画があるからさ、これに合わせて体を動かさない?運動すればその分、お腹が空くし」
「美冬がいうとちょっと説得力あるね、よくお腹空かせてるし」秋奈がからかうように言う。
美冬はダンス部でよく運動するせいなのか、4人の中で一番燃費が悪かった。
幸いにも全員のバッグの中に体操着が入っていたので、着替えてダンスとヨガをすることにした。着替えるときにお腹を見やると、昨日より明らかに細くなっているのが春乃には分かった。
 ダンスを30分ほど続けていたところで、全員の動きから元気がなくなっているのが春乃には分かった。テーブルのろうそくを見ると、すべてのろうそくの火が弱くなっては元に戻ってを繰り返している。(音)、(音)という音がダンスの音に混ざって聞こえてくる。春乃も自分のお腹が鳴るのも何度も感じた。
 1時間ほどダンスを続けたところで、言い出しっぺの美冬が座り込んだ。
慌ててほかの3人が駆け寄ると大丈夫、と答えつつも
「お腹すきすぎて……動けないかも……」と弱々しくつぶやいた。
次の瞬間、
ぐぎゅるるうるうううぎゅるっりゅりゅりゅるるるううううううううううう
と、今までで一番大きくて長いお腹の音が鳴り、机の上のろうそくのうちの一つの火が消えた。
 この調子で頑張れば、ここから抜け出せるかもしれない、と美冬以外の三人は必死になってダンスとヨガに取り組んだ。
胃腸の働きをよくするといわれるいくつかのポーズをしているとき、春乃はこれ以上ないほどに空腹を感じていた。成長期に夕食と朝食を抜かれ、さらに運動もしてエネルギーを消費しつくしつつある春乃の身体が、胃袋を通して貪欲に食事を要求した。
ぐぎゅぐぐぐうぐりゅうりゅうううぐぐうううううぅぅぅぅうるるうるぅぅうぎゅるううう
また一つ、ろうそくの火が消えるのと同時に、春乃は倒れこんでしまい、しばらく立てなかった。
 凛夏と秋奈のお腹は時折大きな音で鳴るが、それでもだめなのか、ろうそくの火は消えなかった。ため息をついている二人に、美冬が提案をした。
「持ってた雑誌にグルメ特集があったから、この写真で視覚から空腹を刺激するのはどう?」と、バッグに入っていたであろう雑誌のページを開いて見せた。
「話題のB級グルメ特集!!」と銘打たれた記事の内容には特に目新しいものはなかったが、そこに掲載されている写真と食欲をそそるべく書かれた文言は、十数時間の絶食を強いられている4人にとって、空腹を刺激するのには十分だった。
特に凛夏は大好物のお好み焼きのお店が紹介されているページを見た瞬間、「ああ、美味しそう……」と空腹のあまりにうつろになった目でつぶやいていた。秋奈も「これ食べたい……」と弱々しい声でつぶやいている。春乃と美冬もページを穴が開くほど見つめた。美冬に至ってはまたしても
ごぎゅるるるうぐぐぐぐうううぐるううううう
と轟音でお腹を鳴らし、
それに続くように凛夏のお腹が
ぐぐぐぐうううぐぐぐうぐりゅうりゅううう、ごごぎゅろろろおおおぐぐううるううううう
と悲鳴をあげた。机の上のろうそくでついているのはあと一本、秋奈の分のろうそくだけになった。
*****
 「ごめん、全然鳴らない……。お腹はすごく空いてるのに」
凛夏がお腹を鳴らしてから2時間ほどたったが、秋奈のお腹は時折鳴るものの轟音というほどではない。もともと小食で、4人の中で一番スレンダーな秋奈のお腹は鳴りにくいのかもしれないな、と春乃は思った。
すでにお腹がすごい音で鳴って、ろうそくが消えた3人は無理に動くのをやめているが、それでもお腹が空かなくなるわけではない。一度、秋奈がダンスをしている最中に美冬のお腹が先ほどと同じくらいの轟音で鳴り響いたとき、美冬は「私が鳴らしても意味ないのに……」と恥ずかしそうにつぶやきながら、お腹をさすっていた。
 秋奈がお腹を空かせているのは明らかだった。繰り返しダンスをして体があたたまったのか、体操着の裾を結んでへそ出しのスタイルにしていたが、そこからのぞくお腹は何か食べさせてあげたくなるほどぺったんこだ。もっとも、それはここにいる全員がそうだったが。
こうなったら最後の手段を使うしかないかもしれない。春乃はそう思って自分のバッグからあるものを取り出した。
 「こ、これ、購買のスペシャルサンド……?」
「ほらほら、美味しそうでしょ、秋奈?いいにおいするでしょ?」
 春乃がカバンから出したのは、春乃たちが通っている高校の勾配で売っているスペシャルサンドだった。牛肉、鶏肉、卵、野菜、カツなど、豪勢な具を挟んだサンドでかなりのボリュームで、出来立てでなくてもかなり旨いと大人気のメニューなのだ。それを秋奈の前で存分に見せびらかす。
いくら小食とは言え、すでに丸一日近く何も食べておらず、長時間の激しいダンスとヨガ、さらにここにきて視覚情報に加えて匂いも加わった本物の食べ物を前に、秋奈のお腹はいよいよ限界を迎えた。
ぐぐうぐりゅうりゅうううごごぎゅろろろおおおぐおおおおおおぎゅるるううんぎゅるるううごごごぐううおおおおおお!!
4人が鳴らしたお腹の音の中で一番大きく、一番長いお腹の音が、秋奈のぺったんこのお腹がら響き渡った。
その音が鳴り終わったとたん、机の上の火のついたろうそくの最後の一本が消え、4人全員の視界がぐるりとまわった。
 ******
気が付くと4人はいつもの行きつけのファミレスに戻っていた。
「あれ、戻ってる……?」
「戻ってこれたの……?」
「なんだったんだろ、あれ」
「え、夢だったのかな?」
4人はそれぞれ、自分たちがいつもの日常に戻ってきたことを確認するようにつぶやく。
恰好は体操着だったはずなのに制服に戻っている。スマートフォンで時刻を確認すると、もともとの日付と時間に戻っていた。
本当に夢だったのだろうか、と4人が思った瞬間に、全員をあの感覚が襲う。
「あう…」と春乃がたまらず声をあげる。
「ああ…」と言って凛夏がお腹を押さえる。
「うう…」と美冬が苦しそうにうめく。
「うあ…」と言って秋奈が細いお腹を抱える。
 「「「「お腹空いたああぁぁ……!」」」」
全員が声をそろえて空腹に喘いだ次の瞬間に、彼女たちのお腹も
「「「「ぎゅぐうううううううごっぎぎぎぎゅるるるぐうううううううううぐぐりゅりゅりゅりゅりゅうううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅ」」」」
と、神社で鳴らした音よりも一段とすさまじい音で、一斉に鳴り響いた。ファミレスに来ていた周りの人々や店員の視線が4人に注がれる。全員が顔を真っ赤にした。
 幸い、注文していた料理はテーブルに残っている。
あの体験が夢かどうかはどうでもいい、とにかく今はこのペコペコのお腹を満たすことだ。
4人はものすごい勢いで、テーブルの上の料理を食べ始めた。
 翌年、近所の神社で儀式が開かれたとき、春乃、凛夏、美冬、秋奈の4人の姿がそこにあった。
食べ物のありがたみに感謝しないとね、と全員が口をそろえて言っていたという。
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hungernotes · 3 years ago
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XXXXXX
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とあるクラブのある一日。へそ出しミニスカートのメイド姿の子が接客を担当していた。 お腹を見せる衣装のために前々から食事を控えめにし、当日には何も食べていなかった彼女のお腹はぺったんこだ。 グウウウウ。 グギュウウウ。 お腹が大きな音で鳴る。 あまりにも酷い空腹感に、彼女は思わず表情をゆがめてしまう。 それでも懸命に、表情を作りなおしながら、彼女は接客に戻っていくのだった。
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hungernotes · 3 years ago
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ファーストフード店についた瞬間、玲奈は胃がきゅうと収縮するのを感じた。
家で朝食を食べるのが玲奈の日課だが、今日は家に食材がほとんどなかったため、会社の最寄り駅の店で食べることにしたのだ。
普段より少し遅い時間の朝食、ファーストフード特有の食欲を沸き立たせる香り、おまけに昨夜の玲奈の夕食は、一昨日焼肉を食べた分とバランスをとるため、食事といえるかわからないほど具が少なめの野菜スープのみだ。空腹でお腹が大きな音を鳴らさないのが不思議なくらいだった。
注文の列に並んでいるのは3人。そこまで待たないで朝食にありつけるだろう。
そう思いながら、玲奈は順番が来るのを待った。
 玲奈の番まであと一人になり、食欲を抑えるのがいよいよつらくなってきたとき、スマートフォンが震えた。
玲奈が表示を確認すると、「機材搬入・集合時間15分前」と表示されている。
なんだっけ、と思った次の瞬間、玲奈は今日の始業時間が30分早まっていたのを思い出した。
会社までは最寄り駅から歩いてちょうど15分ほどかかる。
玲奈は慌てて列から抜けると、急いで会社に向かって走り出した。
 重い機材を運び終え玲奈は一息ついた。
思ったように体に力が入らず、玲奈は苦戦していた。きっと食べていないせいだ、と玲奈は思った。
「おいおい、もう疲れたの?」
軽い調子の声が聞こえ、玲奈は振り向いた。同期の中原 勇人が笑いながら見ていた。
 彼は同期入社した女子の間ではルックスや性格もふくめて人気だった。玲奈も悪い人物ではないと思っているが、なれなれしい感じと、同期の間で「イケメンと美女でお似合い」と言われたこともあり、少し苦手意識があった。入社してから2年ほどたった今でも、それは変わっていない。
何の縁か同じところに配属になり、おまけに部屋を借りたマンションが偶然にも隣同士という状態になってしまい、玲奈は彼とどう付き合えばいいかよくわからなかった。
 「別に、平気だよ」
「そうか、結構きつそうにしてなかったか?」
「別に大丈夫だよ」
玲奈はそう言って、次に運ぶ機材を受け取りに行こうとした。
次の瞬間、ぎゅうううん、と玲奈のお腹が鳴った。
反射的に玲奈はお腹を押さえる。
「なんだ、腹減ってるの?」
「ちょっと。朝少なめだったから」
食べそこなった、というのはなんとなく気が引け、玲奈は嘘をついた。
「大丈夫?なんか買ってくるか?」
「ううん、平気だよ。ありがとう」
「ならいいけど」
心配そうな中原をおいて、玲奈は荷物を受け取りに行った。彼の厚意にあまえるのはなんとなく癪だった。
 機材搬入が終わったころには、13時半を過ぎていた。普段ならもう午後の仕事にとりかかっている時間だ。
ぎゅるるるるぅぅ、と玲奈のお腹が鳴る。
「お腹空いたぁ…」
小さな声でつぶやく。
昨日の昼からまともに食べず、運搬作業までした玲奈はこれまでにないほど空腹を感じていた。切なく鳴き声を上げ続けるお腹をさすりながら、玲奈はふらふらと自分の席に戻った。
 「玲奈さん、お疲れ様です」
玲奈より少し遅れて、後輩のゆりかが席に戻ってきた。
「ゆりかちゃん、お疲れ様」
「機材搬入ってあんなに時間かかるんですね。もうすっかりお腹空いちゃいました」
ゆりかがお腹のあたりに手をやりながらいう。
「あたしも。今日朝食べ損ねたからもうお腹空いてたまんない。搬入の間ずっとお腹鳴ってた」
「朝食べてないんですか?それじゃお腹も鳴りますよ」
ゆりかがそういった次の瞬間、
ぐぐうううぅぅう
と玲奈のお腹が鳴った。
「やだ恥ずかしい、早くご飯買いに行こう」
「そうですね、わたしもお腹鳴りそうです」
 ゆりかと二人で弁当を買い、空腹にしくしくと泣いている胃袋を何とかなだめながら自分の席に戻る。
玲奈は普段は食べない、少し高めのハンバーグ弁当を買った。ちゃんとした食事は昨日の昼依頼何も食べていないし、このくらい食べても平気だろうと奮発した。
実に一日ぶりのまともな食事に、玲奈と玲奈のお腹はテンションを上げた。
 自分の席にもどってさっそく弁当を食べようとした瞬間、「ごめん、中尾玲奈さん、いますか?」と声をかけられた。人事部の、採用を担当している人だ。
なぜよりによっていま、と思う気持ちを抑えて「はい、なんでしょう」と返事をする。
 「今から就活生に向けての会社説明があるんだけど、出る予定だった中原君が急に仕事はいっちゃったみたいで、代わりに出てもらっていい?」
「それは別にいいですけど」
お昼を食べてからでもいいですか、玲奈がと聞こうとした瞬間、
「よかった、じゃあ今すぐ会議室に来てくれる?説明会はリモートでやることになってて…」
と有無を言わさず説明をし始めた。
 説明会は玲奈の会社の本社で行われていた。玲奈の会社は全国に5つ拠点があり、各拠点の若手社員がリモートで参加する形になっていた。
玲奈がいる拠点から参加しているのは玲奈一人で、会議室に置かれたノートパソコンに向かい合っていた。
 ぐぎゅるるううううう…
ぐりゅりゅりゅりゅりゅるる…
 お腹の音が会議室に響く。
昼食まで食べ損ね、いよいよ玲奈は空腹でおかしくなりそうだった。
 説明会の進行は本社の人間がやっており、玲奈が話す機会は最初の自己紹介のタイミングだけだった。
説明を邪魔しないためにミュートにしていてしばらくたつが、特に発言の機会はなかった。
 ただいるだけなら今すぐ席に戻ってお弁当を食べたい。
お腹が空いてたまらない。
食べたい。
お腹が空いた。
玲奈の思考は、説明会の間ずっとそれに支配されていた。
 説明会は2時間ほど続き、最後に学生からの質疑応答の時間になっていた。
玲奈のお腹は2時間の間に限界を超えたのか、すっかり空腹を感じなくなっていた。
このまま早く終わってほしい、と思いながら玲奈が質疑応答を聞いていると、
「社内の施設についてもう少し詳しく教えてほしい」という質問が学生から上がった。
そうですね、本社には先ほど言った通り社員食堂がありまして、と進行役の声が聞こえる。
そういえば本社にはあったな、と玲奈は聞き流していたが、ちょっと待ってくださいと進行役の方が答えた少し後、画面に社員食堂のメニューが表示された。
 いきなり表示された料理の画像がきっかけになったのか痛みを覚えるほど強い空腹感が玲奈のお腹を襲う。
思わず前かがみになってお腹を押さえる。顔をしかめそうになったのはカメラに写っていることを思い出して何とかこらえたが、空腹感だけはどうしようもない。
 ぐぎゅううううぐごおおおおおお…
玲奈のお腹が今日一番の音量で鳴った。
 説明会が終わった時には、もう5時を回っていた。定時まではあと30分ほどだ。
予想外の飯テロにくらくらしながらも、説明会が終わったことを人事担当に報告すると、「今日は朝も早めだったし、もう上がっていいよ」と言われ、玲奈は少しほっとした。これ以上の仕事をする気力も体力も今の玲奈にはなかった。
 早く弁当を食べようと玲奈は自分の席に戻ると、予想外の光景があった。
弁当が消えていたのだ。
 全く予想し��いなかった事態に玲奈が混乱しかけた。何があったのか聞きたいがゆりかやほかの同僚の姿はない。もう帰ったようだ。
ふと、小さな付箋があるのに玲奈は気づいた。そこには、勢いのある字で「腹減ってたまらなかったからお弁当もらった。今度おごる! 中原」と��いてあった。
 玲奈は気が付くと、自宅の最寄り駅にいた。付箋を見た後何をしたのかはわからないが、怒る気力もないまま茫然自失でここまで来たのだろう、と思った。
 お腹が空いた。
 そう思いながら自宅への道を歩いていると、ラーメン屋の看板が目に留まった。
いつか食べに行きたいな、とは思っていたが、なんとなく行かないままになっていたお店だ。
 ぐぎゅるるるうるるる…
お腹がラーメンを入れろとせかした。いい機会だし、今日はここで食べよう。そう思って玲奈は食券の券売機の前に立った。
財布を出そうしてバッグを開いたが、財布が見当たらない。
どうして、思ったが、会社の机の上に置きっぱなしにして帰ってきた記憶がよみがえった。
定期の電子マネーが使えないかと残高を確認したが、3円しか残っていなかった。
あんまりだ、と思いながら玲奈はすごすごとラーメン屋を後にした。
きゅぎゅぎゅぎゅごごごおおおおおおおお…
玲奈のお腹が大声で泣き叫んだ。
 自分の部屋に戻ると玲奈はへなへなと座り込んだ。
あまりの空腹感に、泣きそうになりながらつぶやく。
「お腹空いたよぉ…」
部屋に食料はなく、お金もない。少なくとも明日まで何も食べられない、という事実がより空腹感をひどくした。
はあ、とため息をついた後、玲奈は今日はもう寝て、空腹を忘れるのが一番だと思い、風呂にはいることにした。
スーツのスカートに手をやると、ウエスト周りがゆるゆるだった。
風呂に入る前に鏡を見ると、お腹はすっかりぺったんこで、あばら骨のラインが少し見えていた。
 ぎゅごごおおおおおおおるるるうう
お腹が何度目かわからない悲鳴をあげる。
このぺったんこのお腹から話し声と同じくらいの音量の音が鳴ることが、玲奈はどこかおかしかった。
 風呂から上がって部屋着に着替え、玲奈が早くベッドに入ろうとしたところで、部屋のインターホンが鳴った。
こんな時間に誰だろうと思いながら応じると、中原の顔が映し出された。
「中原君?こんな時間に何の用?」
思わずとげとげしい口調になってしまった。彼のおかげで玲奈はしたくもない断食をする羽目になったのだ。できれば今は彼の顔だけは見たくなかった。
「いや、遅くに悪い、財布わすれてたみたいだから届けようと思って」
そう言って彼はカバンから何かを取り出す。間違いなく玲奈の財布だった。
「え、あ、ありがとう」
「入れてもらえるか?」
「うん」
 玲奈がドアを開けると「お疲れ様」と言いながら中原は財布を玲奈に渡した。
「わざわざありがとう、中原君。助かった」
「いやいや、これくらい。説明会の代打もしてくれたしな。あ、弁当食べちゃって悪かった」
中原は心底申し訳なさそうに言った。
「忙しくて昨日の昼からろくに食ってなくてさ、さすがに限界だった。ほんとにごめん。」
「…そういうことなら仕方ないよ」
お腹を空かせたままでいるつらさは玲奈が今日一日、今も味わっていることだ。それならば仕方ないと玲奈は思った。
「中尾、大丈夫か?」
「え?何が?」
「いや、俺がハンバーグ弁当食べちゃったし財布も忘れてったみたいだから、ご飯食べられてないんじゃないかと思って、それで財布届けに来たんだけど」
中原がそういい終わった瞬間、「ハンバーグ弁当」という単語に玲奈の脳裏には昼に食べそこなったお弁当のおいしそうな姿が思い浮かぶ。忘れていた空腹を呼び起こすには十分だった。
ぎゅぐぎゅぐうううぐうぐぎゅぎゅううううぐごおごごごおおおお…
玲奈のお腹がこれまでにないほど盛大に空腹音を鳴らし、中原の想像通りだったことを見事に証明した。
「…出前頼むか、俺の驕りで」
中原の申し出に、玲奈は顔を真っ赤にしながらうなずいた。
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hungernotes · 4 years ago
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「お、お嬢様…」 料理に舌鼓を打っていると、メイドがこちらを切なげな眼で見つめている。 腹部や胸元が露わになった、メイド服にしてはかなり煽情的な服だ。 最もわたしが罰のために着せているのだから、何の問題も感じない。
ぐぎゅるるる、とメイドのお腹から音が鳴る。うう、と辛そうに彼女はうめいた。 「お嬢様、ど、どうか、食事を許していただけないでしょうか。もう二日、食事をいただいておりません」 彼女は苦悶の表情を浮かべながら、露わになったお腹を押さえている。 確かに、二日前に比べて幾分か痩せたようだ。
彼女はわたしの命令でこの二日、水以外を口に入れることを許していない。 そして、食事のたびに同席することになっている。 空腹な彼女にとっては、拷問に近いだろう。
「ダメに決まっているでしょ」 わたしがぴしゃりとそういうと、彼女の顔に絶望の色が浮かんだ。
ことは三日前。 メイドのドレスの仕立て方がろくでもなかったせいで、舞踏会の日に家族の前で私は下着同然の恰好になった。 おかげで時間が無くなって食事もとれなくて、その日は舞踏会の間ずっとお腹が鳴って、恥ずかしくて仕方なかった。 それにも関わらす、彼女は言いつけられていた屋敷の仕事をろくにせずに遊んでいたのだ。 ちょっときつめのことして、自分が何をしたのかをわからせないといけない。
「申し訳ありません、お嬢様。今はこの通り、反省しています。ですから、どうか」 「今のあなたはお腹が空いているからそんなことが言えるの」 わたしは彼女の言い訳を遮っていう。 「まだ自分がしたことがわかっていないみたいね。もう二日は食事抜き」 「そ、そんな」 「死ぬほどお腹を空かせて、反省することね」 そう言って私は食事を終える。
ぐぐぐぐううううううううう… メイドのお腹がわたしの仕打ちに盛大に悲鳴を上げた。
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hungernotes · 4 years ago
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夜中のせめぎあい
ぐおおおお、と何かが唸るような音で佐野 光は目が覚めた。 なんだろう、と思ってすぐに、原因が分かった。空腹でお腹が鳴ったのだ。みぞおちのあたりにどうしようもなく空虚な感覚がある。
はあ、と光はため息をつく。変なタイミングで目が覚めてしまったせいか、体のあちこちに疲労がだいぶ残っている。
ぐぎゅううううう、とまたお腹が鳴った。
光は着ているシャツをめくり、自身のお腹を上から見つめた。さほど太っていない、人によっては細いといわれる光だが、腹部についた余分なものはやはり気になる。
ダイエットのために、今日は夜に少しの鶏肉しか食べていない。食べた直後からお腹は心もとなかったけど、もうこんなにお腹が空くのは予想外だ。少しは代謝が上がった、ということなんだろうか。
くあ、と欠伸がでる。日中にやったランニングと筋トレでたまった疲れが寝る前より強くなっている気がする。
……どうしよう。
変に目がさえてきたのに、何もする気が起きない。このまま何もしないで、また寝てしまうのが一番いいか。
そう思ってまた布団をかぶり、目を閉じた次の瞬間。
ぎゅごおおおごろごろおおお…
光のお腹が聞いたこともないほど激しい音を鳴らした。
何かを食べるまでは寝ることを許さない、と言わんばかりだ。
キュウキュウと胃袋が締め付けられる感覚がだんだんひどくなってくる。
いや、このまま無視して寝てしまおう、とまた目をつぶった。
 ぐぎゅるうるるるるうう、
ごぎゅうううううう。
 部屋の暗がりに、胃袋が空腹にもだえる音が響く。
疲れに耐えかねて眠ろうとしても、空腹が容赦なくまどろんだ意識を覚醒させる。
 そのうちに、空腹感が一層ひどくなってきた。
たまらずにお腹のあたりに手をやる。空腹でお腹がへこんでいるせいか、あばら骨の感触があった。
ぐぎゅうううう、ごろごろごろごろおおおおおお
タイミングよくお腹が悲鳴をあげる。振動が手のひら全体に伝わってきた。
「やっぱ、これじゃ寝れない……」
光はそう呟いて、キッチンに向かった。
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hungernotes · 4 years ago
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「はい、三日間断食でウエストはどれだけ細くなるのか検証! というわけで、響花ちゃんには三日間断食してきてもらいました。 見てください、このお腹!細くてぺったんこ! ……そしてものすごい音でお腹が鳴ってますね。 彼女、ガチで三日何も食べてないです」
「ねえ、早く測って、ほんとにお腹ペコペコで限界......」
「はい、これ以上はほんとに無理そうなので、さっそくウエストを測っていきましょう!」
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hungernotes · 4 years ago
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羊の女の子、シーメ、オオカミの女の子、ルルウ。
二人は食べる、食べられる関係ながらも中を深めていった。 当然だが、周囲に理解するものはおらず、 軋轢を生まぬよう、二人はそろって新天地を目指すことにした。 シーメが食料の心配をあまりしなくてもよかったが、肉食のルルウはそうもいかない。 手持ちの食料はいくらかあったが、それだけではルルウのお腹は満たされず、空腹を抱えながらの旅となった。 旅の途中で季節は冬になり、吹雪に見舞われた二人は近くの洞窟に逃げこんだ。 吹雪はなかなかやまず、いよいよ三日目になった。 ********************************* ぐぐうううううう。
きゅるるるううう。
二人のお腹の音が洞窟に響く。 「お腹空いたねぇ、ルルウ」 「うん…でも、私はまだ平気だよ。シーメは?平気?」 「食料の節約のために食べる分減らしてるから、結構お腹ペコペコで参ってきちゃった。雪が早く収まるといいんだけど」 「そうだね。収まったら山を下りて、草をお腹いっぱい食べるといいよ」 ぐううう。 「ああ、草をいっぱい食べるのを想像したらもっとお腹が空いちゃったな。 えへへ」 「もうちょっとの辛抱だよ、きっと」 シーメと会話しながら、ルルウは必死に空腹をこらえていた。 もともと持ってきた食料が足りていなかったのに加え、それを食べてしまってからは小鳥を一匹ほどしかお腹に入れていない。洞窟に入ってからは水以外に何も口にしていなかった。 「……ねえルルウ、大丈夫?」 「え、えっと、何が?」 「お腹。ルルウ、ずっとご飯食べてないでしょ?本当に平気なの?」 「大丈夫だよ。数日食べないことなんて、よくあることだし」 「……うん、でも、どうしても我慢できなくなったら」 シーメの言葉が耳に入った瞬間、ルルウは遮るように言った。 その先の言葉は、絶対にシーメには言わせたくない。 「大丈夫、シーメは心配しないでいいよ。無駄にくよくよするとその分余計にお腹が空いちゃうだろうからさ」 「……うん、ありがとう、ルルウ」 シーメが笑顔で答える。それをみてルルウは胸の当たりが温かくなった。 それと同時に、どうしようもなくよだれが溢れ、お腹が鳴りそうになった。 雪はやむことなく、さらに2日が過ぎた。 ルルウはいよいよ空腹に耐えられなくなってきていた。 シーメのにおいをかぐだけで、食欲のあまり気を失いそうになるほどだ。 「ルルウ」 シーメからの呼びかけにルルウは「どうしたの?」と、顔を向けずに声だけで答えた。シーメを見てしまったら、食欲を隠し通せる自信がない。 「ルルウ、ちゃんとこっちを見て」 そう言ってシーメはルルウに思いっきり顔を近づけた。 「シーメ、やめて」 「やだ」 ルルウは数日ぶりにシーメの姿を真正面に、間近に見た。 シーメの顔が、体が、においが、ルルウが必死���抑えてきた本能をたやすく解き放った。 ぐぐぐぎゅるるううううううううう ごごごおうるるうううう
思いっきり鳴ったお腹を押さえ、ルルウはシーメから目をそらす。 それを見たシーメは、覚悟の決まった目で言った。 「……私のこと、食べて」
「何を言ってるの、そんなことするわけないじゃない!」 「ねえ、ルルウ、聞いて。この雪は冬の間はずっとやまないって、仲間が言っていたのを思い出したの。だから、このままじゃわたしもルルウもお腹を空かせて死んじゃう。だから」 「嫌だ!雪がやまなかったとしても!シーメを食べたくなんかない!」
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ぐぎゅるるうううごおうるるう 否定しながらも、ルルウのお腹は食欲に悲鳴をあげている。 「ああもう!鳴るな!お腹鳴るな!鳴るなあ!!」 ルルウの必死の願いもむなしく、空腹で凹んだお腹からは轟音が鳴り続けてる。 必死にお腹をなだめようとするルルウに、シーメは優しく言う。 「いいの、わたし、お腹が空いてるよりも、食べられるよりも、ルルウが辛そうだったり、私のことをちゃんと見てくれないほうがつらい」 ぐぎゅるるぐううううう。
「だから、全部は嫌だけど、お腹いっぱいにならないかもしれないけど、ルルウのお腹が少しでも満たされるんなら、食べられてもいい」 「シーメ、そんなの」 ぐぎゅぎゅぎゅるるううううううううう。
「いいよ、食べて」 *******************************************
春。 二人がいた洞窟には、何も残されていなかった。
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