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Jルチ 清書してない下書き状態です。
プロットとも言う。
公式の求愛マッスルダンスでもうだめだった。
あとチェチカな やっぱそこなんすね?
なるほど????2大巨頭ってやつか。
ちなみにチカさんは出ていません。(?????)
───────
エルガドの解体が決まった。深淵の悪魔を斃し、城塞高地の生態バランスも人が介在すべき期間は終わったと傀異研究所から正式な報告書が王家に上げられたためである。今後エルガドは当初の予定通り、現大陸の東にある各地との流通の要所として置かれることになる。突貫で置かれたクエストカウンターや受付嬢であるチッチェの仕事はハンターズギルドに引き継がれ、チッチェ姫の後任として別の受付嬢を迎えることになる。茶屋は数人の店員の顔ぶれに変化は見られるものの営業を続けることになったし、マーケットは運営場所を少し広げてエルガドで生活する者たちの台所として経営を続けることになった。
ガレアスやアルローをはじめとした王国騎士たちもそれぞれの任地に赴くことになるため、騎士たちも全員それぞれに準備に指示にと飛び回っている。その中にあって、赤毛の王国騎士の青年がどんよりと背中に暗雲を背負って茶屋のテーブルについていた。若輩者とは言っても彼──ジェイとて王国騎士である。下についている部下はいないから指示を出す立場ではないが、上から飛んできた指示を右へ左へと捌かなくてはならない。時には己の筋肉量を頼りにした依頼も飛んでくるから、トレーニングだって欠かせない。だというのに、ここ数日間ずっとこの調子だ。いつもエルガド中に響き渡る声でなにかやることはありませんか! と元気よく声をかけてくるジェイが朝から晩までどんよりと茶屋で座り込んでしまっている。流しのハンターたちもエルガドを出て次の狩場へと向かってしまったため、いつも定位置でジェイの相手をしていた(というかジェイに相手をしてもらっていた)ヘルブラザーズの姿も今はなく、とにかくその背中が寂しそうである。かといって、ガレアスの右腕として激務に追われているフィオレーネもジェイに声をかける余裕がない。こんな状況でもいつもと変わらずに飄々と研究所前で突っ立っているバハリに声をかければ、「え~? そういうのって本人たちの問題でしょ。俺やだよ、人様の恋愛沙汰に絡むの苦手だし」と返されてしまった。今日も今日とてどんよりとしたジェイの後姿を見て、フィオレーネは額に手を当てる。
───さて、どうするか。
とりあえず声をかけて、様子を見ようか。
「ジェイ、大丈夫か」
「あ……フィオレーネさん……お疲れ様です……」
干からびたヤオザミよりもなお���い顔色だ。ますます気の毒になる。
「食事は摂ったのか?」
「はい、一応……悔しいですよね。こんな時なのに腹は減っちゃうんですよ……ルーチカさんは我慢してたっていうのに……」
「まあ、それは……ルーチカもああ見えて恥ずかしがり屋なところがあるから……」
あれは三週間ほどの前のことになるか。
ジェイとルーチカがめでたくお付き合いを初めて少し経った頃、ルーチカが拠点内で倒れた。ルーチカも初めはただの体調不良だと言い張っていたが、運ばれた医務室にジェイが山盛りの食料品を慌てて持ち込んできたのが呼び水となり、ルーチカの不興を買った。ルーチカが隠れてうさ団子を食べていたり、部屋に戻ってからさらに食事を摂っていることなど拠点内の誰もが知っていたし、さりとて指摘するほどのことではあるまいと流し続けていた結果、ルーチカはルーチカでこの秘密は誰にも知られてはいないと思い込んでしまっていたらしい。分からないでもない。自分だって可愛いものが大好きで部屋には可愛いものばかり飾っていることを誰にも知られていないと心から信じていたのに、実は誰の目からもそれが明らかで、しかも彼らのまばゆいばかりの善意によって可愛いものを山ほど贈られた時にはどうしていいか分からなくなったものだ。
「せめて、誰もいない場所で差し入れていたなら話は違っただろうが……」
「そうですよね、俺が浅はかなんですよね。だからルーチカさんもあんなに怒ったんだぁ……あーーーーーーーーーーーーーどうしよう。なんて言ったら許してくれるんだろう。もう三週間も会ってくれないし……」
うじうじ。全身から漂う湿っぽい空気にわずかに顔をしかめつつ、フィオレーネはため息を押し殺した。彼の上司としてなんとかしてやりたいが、そうは言ってもルーチカが徹底してジェイを避けている以上、ルーチカの意思も尊重しなくてはなるまい。なんとか二人で話し合えるきっかけがあればいいのだが。
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タイムスタンプ見たらサ終告知後の日付になっててわろた。
案の定完結してません、いつものやつ。あと推敲もしてません、心眼でお読みください(不親切設計)
最終的に公式フラグとしての彼を出したところで反応にひよって筆を折りました(正直)
公式でしかそこは書けねえんだよなァ~~~??今となっては幻のような設定ですが当初の設定が生きてたらどうなったのかな。公式4コマみたいにリトアナやソフィがピックアップされる時もあったのかもしれないなぁ🤔
───────
「わーい、でーきた!」
いぇーい! と歓声を上げたリトアナとリモネが両手を高く打ち合わせる。冬の冷たく乾いた空気が、二人の掌から発した音をビレッジ中に高く響かせた。それを見てため息をつきそうになるのを、ソフィはぐっと堪えて唇を噛んだ。
弟子に��してあれこれ物を申したくなるのは師匠としてはある意味当然のことではある。しかし、余計な手出しをするのも指導者として正しいとは言えまい。それは分かっているのだが、今日は朝からずっと不安と疑問が頭の中を渦巻いている。火薬の量は間違っていないか。位置は合っているか。風向きは考えているか。ひどい怖がりのくせに大胆で危ないことが好きなリトアナのことだから、マッチを擦った瞬間に連続して花火が暴発というパターンも考えられる。倫理的に絶対にしてはならないと頭では理解していても、衝動を抑えられるかどうか。
頭の上に靄を浮かび上がらせそうなほどにぐるぐると思考を回すソフィの肩を、ディミエルが肩でこつんと押した。
「なぁに、まだ心配してるの? はいコレ、ジョゼットから」
「なんだ?」
「グリューワイン。大人だけの特権だって」
「ああ、ありがとう……そうは言うがな。花火を作ったのはリトアナだぞ?」
透明のプラカップの中には赤ワインと色とりどりのフルーツ、それからシナモン。スリーブもしっかり巻かれていて、素手で持っても火傷しないように配慮されていた。ごく内輪の集まりに過ぎないのにコストはどうなっているんだろうか――とスリーブを回すと、「本日の占い」という印字が目に入る。今日のあなたの運勢は、まで読んでくるりとカップごと裏返した。
「あ。読んでよ。せっかく用意したんだから」
「今この瞬間の運を天に任せる気になれない。というかこれを用意したのはおまえか」
「占いつきのスリーブはね。せっかくの集まりなんだし、こういうものもあると楽しいでしょ?」
「悩みがない間はな」
喉を落ちていく温かいワインの香気にほっと息をつく。冷え切った体が芯から温まって、固くなっていた背中や肩が少しだけ緩んだ。友人の気遣いに感謝するくらいの余裕はまだあるが、根差した不安が溶けてなくなることはない。
「心配しすぎよ。みんなのために花火を上げたいって気持ちは汲んであげなさいな」
「分かってはいる……分かってはいるんだ。あの子なりに皆を励まそうとしているというのは……」
ディミエルは肩を竦めて、「ちょっと行ってくるわ」とスカートの裾を閃かせた。そこから覗く白い足首が寒そうだが、本人は寒さを体感していない。唯一防寒具と言えるのは首に巻いた赤と緑のチェックのマフラーだけ。あれは元々ソフィの持ち物でさほどの思い入れもないものだったが、ディミエルの気に入ったらしく、今ではほとんど彼女の私物同然になった。見るともなしにそれを眺めるソフィの視線の先で、リモネとリトアナに話し掛けながらディミエルは二人に袋を手渡した。代理で受け取ったリモネが歓声を上げて、袋の中のカップをリトアナに渡す。僅かに緊張した面持ちのリトアナと、妙に楽しそうなリモネがあれこれと状況説明を始めたようだ。頷きながら時々顎に指をかけて思案するディミエルの横顔が少しだけきりりと引き締まる。……ここに私がいる必要はないのではないか? 三人の様子から少し目を逸らして、ソフィはワインを傾けた。本来なら、あの場で助言するのはソフィの役目なのだろうが。
和やかに談笑を追えると、ディミエルはひらりと二人に手を振ってこちらに戻ってきた。
「……大丈夫そうか?」
ついつい生来の心配性が顔を出すと、ディミエルは小さく苦笑を浮かべた。
「今のところはね。気になるなら自分で聞いてみたら?」
「本番では口を出さないと約束した」
「もう、頑固なんだから。成分表だってヤークさんとあなたで何度も確認したし、採取に行く時はリモネが同行したし、制作にはあなたとアルト君とでチェックも入れたんだし、���配する必要ないと思うけど?」
「プレッシャーに負けて一人にすると何をしでかすか分からない。だからさっきから目が離せないんだ」
「どっちかと言うと、今のあなたの視線の方がリトアナには重荷だと思うんだけど。��っともあなたを振り返らないわ。珍しいわよね」
冬の寒空の下、ディミエルはマフラーから覗く肩を竦めた。
「リモネもいてくれるんだし、少しはお弟子さんを信用してみてもいいんじゃない?」
「おまえはまだリトアナの恐ろしさを知らないからそんなことを言えるんだ」
肩を竦めて、ディミエルはワインをちびりと舐めて口を湿らせた。
「恐ろしさって、ねえ……まあ、分かるけど? 花火って要するにきれいな爆発物だし。でも、現実はこうやって動いてる。あの子の花火を見にたくさんの人がビレッジに来たわ。今までとは大違いね。ビレッジにも人が増えた」
ビレッジの高台から下を眺め渡せば、もう日付も変わろうかという頃合いにも関わらずあちこちが煌々と照らされて、賑やかな人の気配で満ちている。もはや恒例となったダルスモルスとクルブルクとで行われたハロウィンパーティー、次いでダルスモルスでのクリスマスパーティが開かれ、気づけばあっという間に年末である。年が明ける瞬間に何もしないのも寂しいなあと神の使いが呟いたのをきっかけに、お祭り騒ぎが好きな面々がこぞってビレッジに集まり何とも名称のつけ難い集会を開こうと計画を立て始めたのがそもそもの発端だ。ビレッジの住人であるソフィの元にも、当たり前のようにその計画書は回ってきた。特にそういった催し事に積極的に関わる方ではないのだが、企画書に目を通してすべて理解した。企画書の中にずらりと並ぶイベントとその面子の中に、リトアナの名前を見つけた時の衝撃たるや。なぜ真冬の、しかも日付けが変わるその瞬間に花火を打ち上げようなどという企画が持ち上がるのか。花火を打ち上げることには賛成だ。問題は、その花火を企画して打ち上げるのがリトアナである、ということで。
頭が痛くなるほどその場で悩んで、結局本番まで逐一ソフィがチェックを行うことを条件に参加することを許可した。その時の、リトアナの顔に浮かび上がった輝かんばかりの笑顔は、むしろこちらの懸念を罪悪感に変えてしまいそうなほど輝いていた。それでも心配でたまらない。リトアナの暴走癖と、それから、多分――未だに心の底で澱のように淀む己の過去の失敗を弟子に投影しているせいで。
「今まではみんなを早めに帰して、アタシたちだけで薬を作ってたでしょ? だから、あの子なりに考えるところがあったみたいよ」
「そう、いい子なんだ。そういう優しいところがあって……分かってはいるんだが、胃が捩じ切れそうだ……」
「もう、心配し過ぎて物事の本質を見誤ってるんじゃない?」
「本質……?」
「あの子がどうして花火を打ち上げようと思ったか、よ。リトアナだってこの三年間、なにもせずに危ないことばっかり考えてたわけじゃないでしょ。ちゃんと術師としての腕を磨いてきているはずよ」
「……そうだろうか。……だが、ずっと実験の様子を見てやれていなかったし……」
胃の腑から込み上げるようなストレスを覚えて、ソフィは大きなため息をつく。そんな自分を見て、ディミエルはくすりと笑って肩を抱き寄せてきた。ちらりと目を向ければ、色違いの目が覗き込むようにソフィの目を見た。
「腹を括ることね。錬金術は常に危険と隣り合わせよ。見るのが嫌なら家に帰ったら? 代わりにアタシが見ておくから。なにかあればあなたの代わりに顛末書をきっちり提出しておいてあげるわ。もちろん、タダじゃないけどね?」
「……帰らないよ。第一、あとで高額な請求書が来ても困る」
「そう言うと思った♪」
ディミエルはソフィの肩から手を外し、ワインをこくりと飲み干した。ディミエルの言う通り、リトアナは今日、一度もこちらを振り返らない。こんなに長いこと弟子の背中だけを見ていたことなどない。いつでもちらちらとソフィの様子を伺い見て、危ない実験をしようとしているリトアナしか知らない。あの子に心情の変化があったとしてもそれに気が付かなかった。師匠なのに。だからリトアナの言うことの一つ一つが唐突に思えるし、口を出したくなる――口を出さないと自分で言い出した以上、今は耐えるしかないのだが。ぬるくなったワインが手の中でこぷんと音を立てる。
――もし、自分のように失敗したら?
そう考えることは、純粋にリトアナのことを考えてのことだとは到底言えないだろう。
苦い思いを弟子には味わってほしくない。けれどリトアナが苦難を乗り越えていきたいと願っているのだとしたら、自分の考え方は障害にしかならない。師匠としてできることは、口を出すことではない。ただ成功を信じて見守るのみだ。
……なにもかも、頭では分かっていることなのに。
「いよーう、お二人さん。いい女が二人揃って暗いねえ、どうしたの?」
暗闇に差し込む陽光を思わせる髪がひらりと目の前を掠めた。あらレオンじゃない、こんばんは、とディミエルが応じた。レオンの名はシロネから時折り聞いてはいたが、ソフィは人付き合いはあまり得意な方ではないこともあって、ほとんど面識のない相手だ。シロネの歴代の教え子の中でも一、二を争うほどの天才だとか、そんなことだけは知っている。
「こんないい日に暗い顔してるなんてもったいないねえ、ソフィちゃんはなにか悩み事?」
ソフィちゃん。終ぞ呼ばれたことのない呼称に思考が止まってしまう。黙り込んでしまったソフィの代わりに、ディミエルが口を開いた。
「悩みというか、いつもの心配性ね」
「あ~。リトアナちゃんの花火のことだよね? 優しいんだね、ソフィちゃん」
「優しいわけでは……ただ、大ごとにならないかと心配しているだけだ。それと、そのソフィちゃんというのは……」
「あの子、突っ走るもんねぇ。俺も護衛と採取を頼まれて一緒に素材探しに行ったんだけどさ、リトアナちゃんすげー必死だったぜ? 今すぐにでも爆発させたいのを必死に堪えて、ソフィ先生に花火を見せるんだ、ってさ。素材だってほとんど自分で見つけたようなもんだ」
「……私に? ビレッジの祭りのためではないのか」
「さぁて、どうだろうね。まあ見てやってよ、リトアナちゃんの花火。俺もあの子がいろんな人に頭下げて周ってるところ見てきたからさ」
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とりあえず140字(以内)にまとめるという縛りで書いたぞフィオハン♀︎ネタ!ハンターさんはクリエイト済!!
Twitterは大体怖いから出すかめちゃくちゃ迷ってます。ww
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夢ではないが文脈は夢だな…
mnhn概念の元になってる自ハン♀×自ハン♂の話をぼちぼちと。自コラボってくそ恥ずかしいものですね。まあいいや
相変わらずリハビリが続いております。こーいう話が自分で読みたいなという話。未完です(いつものこった
自キャラと公式キャラが絡むのが苦手な人はどうぞご賢察の上ご自愛くださいますよう。
近頃ミオリの機嫌が悪い。小さい頃はあんなに素直で可愛かったのに。そうぼやくと、ヒノエが首を傾げた。
「ミオリちゃんもついにお年頃だからなのでは?」
「お年頃、ですか」
「そうそう」
ミノトにははとてもそうは思えない。ミオリだけではない、サンゾもそうだ。二人とも昔はあんなに仲が良かったのに、最近はずっとぎすぎすして挨拶を交わすことすらしない。カムラの人々はみんな家族だ。血の繋がりがあってもなくても、五十年前の百竜夜行を乗り越えて一丸となって里をここまで大きくした。ホオリがいなくなってからは、ヒノエとミノトとで二人を育ててきた。血の繋がらない家族だったけれど、とても仲が良くて、毎日が楽しかった。
それなのに、いつからだろう。サンゾはミオリを疎ましがるような態度を取り、ミオリはサンゾに反発する。ハンターになったサンゾはカムラの里に戻らないことが増えた。たたら場に隣接する屋敷にはミオリ一人が残された。ヒノエとミノトは一緒に暮らすことを提案したが、「これ以上二人に迷惑はかけられないし、自立したいから」と断られてしまった。それから何年かして、恐らく母親のホオリと同じように研究者の道を進むだろうという里中の予想を裏切り、ミオリもハンターになる道を選んだ。ミノトだけが里中でミオリの選択を反対したが、「早く自立してカムラを出たい、邪魔をしないでほしい」とキリキリするような声で反発されてしまった。妹か、あるいは娘同然に育ててきたミオリに苛立ちをぶつけられると、さすがに堪えた。どうしてこんなに気持ちが伝わらないのか。どうしてハンターなんて危ない仕事を選んだのか。サンゾに追いつきたいという気持ちだけで選んだのなら、それだけではハンターの仕事は到底務まらない。そう言うと、色の違う両目でミノトを睨むように見つめ、ミオリは聞いたこともないような低い声で答えた。
――ミノトちゃんに分かってもらう必要なんかない。私は決めたの。
あの日のことは今でも昨日のことのように思い出せる。きっと自分の表情は凍り付いたように少しも変わらなかっただろう。だから、ミオリには気づかれていないはずだ。��分はもうミオリに必要ないのかと思って、悲しくなってしまったことなど。
「でも、ミオリちゃんはがんばりましたよね」
「……はい」
「ハンターになりたがった理由は、ついぞ教えてはもらえなかったけれど……。でも、今日はミオリちゃんがハンターになって最初の一日目。元気よく挨拶しましょう。ね?」
屋敷の戸を引いて中に入ると、布団も敷かずにだらしなく畳の上に横たわっているミオリの背中が見える。ああまた。おなかを冷やすと良くないと言ったのに。二人が入ってきたことに気づいて、ガルクがふんふんと鼻を鳴らしながらミオリの顔を舐め始めた。なにごとかをもごもごと言いながらのそりと起き上がるミオリがようやくこちらに目を向ける。竜人族にもあまりいない、色違いの目がきりっと引き締まる。
「勝手に人の家に入らないでって言ったのに」
「いいじゃないですか、家族みたいなものなんですから」
相変わらず反抗的なミオリの態度に、やはり今でも傷つく自分がいる。それでも、今日からミオリはハンターになった。ヒノエとミノトは受付の仕事をしている以上、関わり合いを持たないわけにはいかなかった。
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遺体を埋めるpふぁんgの話(進捗)
ほらよ、とぞんざいにスコップを投げつけられる。
反射的にそれを受け取ってしまってから、ファングは苦虫を噛み潰したような気分になった。こんなもん受け取らないでおきゃ良かった。スコップを投げつけてきた男はニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべてファングを見下ろしている。あいつは根っからの獣人嫌いだから気をつけろ、と黒髪金目の同業に釘を刺されていたから分かっていることではあったが、こんなこと到底飲み込むことなどできない。
「ちゃんと埋めとけよ。血一滴残さず処理しとけ」
腹立ちでグルッと喉が鳴ったが、男は怯えるどころか悠然と構えている。この男にとって、自分とその辺の野犬とに大した違いはない。躾のなっていない獣は殴ってやれば言うことを聞くようになるんだ、これだから森の民ってのは、と聞こえよがしの大声で言っていたこともある。ヒトには精霊王の流れを汲む者と獣の血筋である者の区別はつかないし、たとえ区別がつくとして、彼らの言いようはいつも同じだ。獣の耳なんかくっつけやがって気持ち悪い。人間以下。力だけはあるんだからせいぜい働け──とか、大体その辺。
「返事は」
「……分かった。ちゃんとやっておく」
従順な犬のふりをしていればとりあえずのトラブルは回避できる。
男は満足したように頷いて、わしわしとファングの頭を撫でた。やめろ気持ち悪い。その言葉を飲み込むと同時に、喉がぐるぐると鳴った。
◇
単純なことだ。
傭兵ギルドに入りたての新米のファングを一人前にするための通過儀礼。中堅どころの先達と組んで、依頼をこなす。仕事のほとんどは制作職や採取職の連中からの依頼で、素材を採取している間に護衛をしてほしいという簡単なオーダーばかりだ。初めから半獣人のファングに対しての差別や哀れみを隠そうとしない男と組まされるのは気が滅入ったが、自分がコモレヴィでしでかしてしまったことを考えたらこのくらいは安い代償だと思ったし、護衛の仕事は大抵半日から一日程度で終わる。大型のモンスターを追ったり、群れを作る生態を持つモンスターを追う時は何日か野営することもあるので、そういった仕事の時だけは本当に気が滅入る。
仲の良いパートナー同士が仕事の後にバーやレストランで互いを労うところは何度か見たことがあるが、ファングにはほとんど無関係だ。森の民を嫌う男はファングを労ったりすることはなかったし、ファングもまた自分を嫌う男に好かれたいと思うほどの人恋しさを抱えているわけではない。ファングの功績は全て男のものになる。それ自体は特に不満ではない──それを考えても無意味だ──が、自分を嫌いながらも利益だけ掠められるのは腹が立った。
今回の仕事は、群れを作りながら移動するモンスターの毛皮を剥ぐという仕事だ。狩りそのものであれば狩人の仕事だが、数が多い場合は傭兵に鉢が回ってくることも多い。モンスターを大剣で傷つけぬように戦うのは骨が折れる。それに、獣型のモンスターはファング自身の出自と近い。本当に気の滅入る仕事だ。一匹一匹斬り倒すたびに脳髄に直接言葉をぶつけられているような気がする。言葉としてというよりは感情の塊のようなものが頭の奥に響く。恨み言、悲哀、怒り、失望。少しでも手を抜いて逃がしてやろうとすれば、男はモンスターもまともに狩れないくせに執拗に殴りつけてきた。ちゃんと修行して鍛えておいて良かった。殴られたところで大した傷にはならない。
そうやって殺した同族の体から毛皮を剥いで、毛皮の方を袋に詰める。皮を剥ぐのは本来なら職人がするべきことだが、今回は急ぎ必要で特に品質も問わないというオーダーだ。とにかく枚数を集めないとならないから、その場で毛皮を外して持ってくるように、という仕事。黙々と毛皮を剥がして、丸裸になった同族の体をどうするべきか分からなくなる。男を見れば、毛皮を剥いだ同族を無造作に地面に投げつけていた。
「まったく、毛皮以外は食うところもないんだからな。ちったぁ人間様の役に立ってみろってんだ。なあ?」
ぐる、と喉が鳴った。もし自分に本当の強さがあったら。本当に獣の力があったら──。
◇
渡され���スコップには未だに嫌いな男の体温が残っている気がして気持ちが悪いが、他に道具がないのだから仕方がない。大剣で地面を叩き割った方が早いだろうが、自分と同じ生き物を葬るのにそれはあまりにも不誠実だと思う。狩られた方からしたら、何を今さらと思うだろうが。土の匂いと血の匂いが鼻孔にこびりついている。すんと鼻を啜った途端に視界がぐらりと揺らいで、ファングは慌てて目元を拭った。
「あー……クソ……子供みてえに……」
人間に嫌われてもまだいい。違う種族だから仕方がないと思える。
でも同族を一方的に屠って、殺して、埋めるなんて。
せめてちゃんと弔ってやりたい。人の都合で勝手に殺されて、生命の循環の輪からも外されて、どんなにか無念だろう。
目を擦って、スコップを持ち直す。土の上にスコップを深く突き刺すように立てて、足で浮かせる。固い土が削れて靴を汚したが、そんなことはどうでも良かった。黙々と地面を掘り続けるファングの耳に、聞き慣れた足音が届く。右側に少し体重を寄せる歩き方。足音の持ち主が誰かはすぐに分かったが、今は会いたくなかった。なのに尻尾はふるふると左右に揺れて再会を喜んでしまう。本当、なんにも思い通りにいかねえな。気づかないふりを続けて穴を掘り続けるファングの視界に、古びて手入れされた革靴が映り込んだ。
「やあ」
何をしているか見れば分かるだろうに、彼はなにも聞かずにいてくれる。
ただただそれが、救いだった。
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かきかけ。
以前上げた「本と蝶」のリライトです。
本を通じてソフィさんとティアちゃんが交流せんかなというアレ。
支部くらいしか置く場所なさそうな話を書いてしまうと非常に悩ましい。
が、まあこっちはちゃんと書き切りたいな…うん。(つまりぶつ切りで終わっている)
ひんやりとして潤いながらもどこか乾いている空気と甘いインク臭の中で、ソフィは目立たぬように深呼吸をした。
王立クルブルク図書館。この国の知識は全てこの場所にあると言っても過言ではない。
ここのところ討伐活動の続いている神の使いのために錬金術師たちは揃って回復薬を作り続けていて、この数日ビレッジから一歩も出ていなかった。ようやくその仕事がひと段落ついたので、一旦解散することとした。尤もビレッジとは言っても人も職人も揃っているから、それこそ工房で籠って実験に勤しんでいても日常生活にさほど困ることはない。ソフィにとって唯一難題があるとすれば、蔵書の数が少ないということくらいだ。手持ちの蔵書をビレッジの工房に持ち込もうかとも思ったが、闇の勢力と相対する神の使いの集落ともなれば、いつ何時敵襲が訪れるか分からない。大切なものだったら別のところに保管しておいた方がいいかもしれない。神の使いの少年は申し訳なさそうにそう言って、最後にごめん、と頭を下げた。あれは確か、ビレッジに移り住むことになって初日のことだったと思う。謝ることなどなにもないと答えたけれど、彼が自分の言葉をどう受け取ったかは今一つ実感が湧かなかった。
確かに、錬金術や魔法学の本は大抵が貴重な初版本であったり��在入手不可能な禁書であったりするので、失われれば全体の損失に繋がってしまう。だからと言って、神の使いが謝罪する必要はない。彼は彼の与えられた使命とライフを駆使してファンタジールのために働いている。召喚者たちもそれぞれに思いはあるだろうが、神の使いとなにも変わりはしない。各々自分のできる事で神の使いを助けている。――それを、あまり重く考えていないといいのだが。
首に手をやって軽く回し、気を取り直して書架の間を静かに踏みしめていく。
重厚ながら本の取り出しやすさや保存状態に拘って作られた本棚は、かつての名工と呼ばれた大工によるものだろう。
歴史、古語、魔法、料理のノウハウ、物の書かれた読み物――最近は少しマンガも入れるようになったらしい――旅行ガイド、家具のデザイン、服飾の歴史、それから錬金術、医術。一つ一つの棚を丁寧に、確かめるように眺めるのがソフィは好きだった。一見自分に無関係そうに思える本でも、気になれば手に取って眺めてみる。思いもかけないところに錬金術のヒントが隠されていたりするものだ。それに錬金術の本というものは、入門書以外は暗号で書かれているものが圧倒的に多い。暗号と解くのに疲れてしまった時に読むための本、というものが必要だったりするのだ。
ここのところの忙しさも考えて、今日はものの本でも借りてみるかと踵を返す。
そう言えば、ここに来る前にせっつかれるようにディミエルにお勧め本だとリストを渡された。軽めの小説だと言っていたし、ちょうどいい。コートのポケットにしまったままのメモを取り出してタイトルを見た。
君に出会うまで。秋冬のソナタ。世界のすみっこで愛を叫ぼうと思ったら美少女が降ってきたのでそのままおつきあいすることになりました。他。
「……あいつ……」
出会ったばかりの頃ならまだしも、今これを渡されればこの書籍がどんな内容かは容易に想像がつく。見なかったことにしよう。丁寧にメモを折り畳みポケットに戻した。なんだか借りる気が失せてしまった。小さくため息をついて、ビレッジに戻ったら文句を言おうと決意する。確かに、軽めの読み物としては最適なのだろう。特に最後のタイトル――気負わずに読める本として、彼女なりに気を遣ったチョイスではあるのだろう。近頃の軽い読み物の傾向としてタイトルが長いものが流行っていると聞かされたばかりだ。それがディミエルにとっては易しい本でも、ソフィにとって愛だ恋だで世界を変革する物語は難解な錬金術の本よりもよっぽど難しかった。頭を使う使わない以前の問題だ。知らないし、分からない。関心を持つためにはどうしたらいいのかと問えば、自分を投影してみろと言われる。恋が全ての価値を凌駕してしまう世界のどこに自分の居場所があるのか。一度だけそういう本を読んでみたが、ソフィには一向に盛り上がりが分からずじまいだった。自分の背中に全てが乗っかっている状態で誰かを恋しく思えるというのは、これ以上はないほどの強靭な資質だと思う。
浮き足立って、プレッシャーに圧し負けて、一度目の昇格試験に落ちた苦い思い出は以前ほどではないにせよ、今でもソフィの一部を蝕んでいる。自己投影してみろと言われても、「私がその立場なら世界を滅ぼしかねないな」という感想しか出てこなかった。
かと言って、せっかく進めてくれた相手に対してそうはっきり言うのもなんだと思って、「よく分からなかった」と答えてしまったのだ。分からないのなら何度でもトライアンドエラーを繰り返せばいいのよ、と彼女なら思うだろう。ソフィの本音を知っていたら、このリストは違うタイトルを並べたかもしれない。そのくらいの気遣いはしてくれるやつだ。
ちゃんと説明しておくべきだったな……リストにある本を1冊も借りてこないのでは感じが悪いだろう。今日はもうこのまま帰ろうか。結局図書館には寄らなかったことにして、リストもどこかへ失くしてしまったと言ってしまおうか――ここに来ただけで何度目になるか分からないため息をついたソフィの目の前を、黒い羽がひらりと舞った。驚いて顔を上げるが蝶どころか虫の羽音も聞こえないほど図書館はしんと静まり返っている。考えすぎて幻覚を見たか? ……やはりビレッジに戻って休息を取るべきか? 忙しなくいろんなことを考えてしまうのも疲れているからだろうし。無意識にコートのポケットに手を入れると、しまったばかりのメモがかさりと音を立てた。
ため息をつきそうになったソフィの背中から、「ちょっと」と声がして振り返る。
黒い蝶――ではなく、銀糸の髪を二つ結びにした少女がわずかばかり目に怒りを籠めてソフィを見上げていた。
「そこ」
「え?」
「どいてちょうだい。いつまで立ってるの。そこの本が見たいのよ」
「っああ、済まない……考え事をしていた」
そこの、と言われて、書架を見る。驚いたことに錬金術に関する書物が並んでいる。錬金術師ライフを希望しているのだろうか。後退して本棚の前を開けると、ありがとう、と言われる。そのことにも少し驚いた。
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ハートの形は心臓の形を模したもの、と言う。誰が最初にやったことか、失われた技術か。詳しいことは何も分からない。人の体を開いて中がどうなっているか確かめるなど、どう考えても人の所業とは思えない。
そう言うと、ディミエルは「そうねぇ」と言いながらクッキーを──心臓の形をしたそれを──摘みあげた。
「どんな事象にも理由がある。そして、どんな場所にも探求者はいる。人の体の中身を開いてみたくなる人も、どこかにはいるかもしれないじゃない?」
■□▪▫■□
こんな感じの不穏そうな(不穏なだけの)会話話を書きたい。
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推しとかみつか
その人は本心を決して見せない。
ここに来た時から、今の今まで、ずっと、ただの一度も。
1年目の夏にいつの間にか召喚者のみんなで話し合ってプレゼントをくれた時も、彼女だけがどこか気乗りしないような顔で冗談のようなことばかりをつらつらと喋っていた。
――アタシを好きになってもいいのよ? ふふ、驚かせちゃったかしら――とか、そんな感じ。いつも通りの軽薄さで僕の本音を捻じ曲げる。本意でないことくらい、すぐに分かった。ずしりと手に重たかった木箱の重さはそのまま僕の気の重さと同じで。彼女はここにいることをちっとも喜んではいない。僕と同じくらい、召喚者として呼ばれたことで気を重くしているのだろう。
そんなことを彼女の昔馴染だというルージュに相談したら、さらりと「だろうね」と返された。いやそうだろうけれども。少しくらい「そんなことないよ」という慰めが欲しかったのに――根拠なんてどうでもいいから。事情があるからそういう態度に出ているだけなんだ、と思えたら、少しは気が楽なのに。エゴイズム丸出しの感情で自分でも嫌になる。
「というか、あいつはどこにも自分の居場所を見出してないよ。どこに行ってもそれなりに誰とでもうまくやれるし、どこに行っても商売を回せるヤツだから生きるに困ることはないけどね。あいつが一番嫌いなのは、自分の底の浅さを見抜くヤツさ」
「底の浅さ」
「そう。底の浅さ。ちょっと偽物っぽいなとか、本音を言ってないなとか。あんたのことだから気づいちまったんだろ?」
「そん――」
そんなことは。
と、言いたかったが。
確かに、ルージュの言う通りだ。ディミエルの言葉も行動も、どこか道化じみている。わざわざ自分から下に出て、小ばかにされるのを待ってるみたいに見える。そのくせ面倒見は良くて、どんな相談にも的確に返してくれる。恋愛相談は――まあ、僕にはあまり関係ないことだけど。人の話を公平に聞くというのは、できそうでできないことだ。誰だって自分のものの考え方や感情に偏って、そこからしか相手の言葉を受け取れない。でも、ディミエルはそうじゃない。どんな相談事であっても最適解を導き出す。それは錬金術師としては当然のことなのだろうけど、どんな相談事にすら自分の目線が入らない――というのは、逆から言えば「誰にも共感しない」ということじゃないのだろうか。
別に、それで困るわけじゃない。
実際、僕たちはうまくやっていると思う。表面上の、大人の付き合いとしては。
――
ここまで書いて飽きちゃったよね~(大の字)
ゲーム上のピノは推しに対して「家賃払え!」と追いかけ回してますが創作上の推しはこんな感じの子です、という。夢だな、夢。
公式展開の方がかみつかをほっとかないんだから仕方がない。公式に従う僕は壁にはなれません。
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いやごめん これ今読んでる別ジャンルの薄い本に影響されまくってるわ。ほんまごめん ただの燃え散らかしのゴミの軍閥パロ。
小説が上手い人は小説がうまいな!!!
あと普通に教養があって敵わねぇ~~~!と思いました。まる。
あと珍しく百合じゃないです。自分でびっくりした。
家名などなど捏造もりもりです、気をつけて!
■■■■■■
開かれた門扉を潜る。両脇に植えられた曼珠沙華がひらひらと花弁を風に揺らした。
きっちりと着込んだ群青の制服は少しぶかぶかしていて格好がつかない。それにスカート丈も長すぎる。これでは有事の際に素早く動くことができない。いざとなったら脱ぎ捨てるしかないかも。でもそうするとレイプされる危険性があるか。
はあ、と溜息をつき、豪奢な屋敷の横にある別館へと足を向けた。かつては鍛冶師の名門として名を馳せたフェリウス家は、今では自動車製造や造船に携わり、世間には家電メーカーとして広くその名を知られている。今から行く別館は、フェリウス家がまだ小さな鍛治工房だった頃に鍛冶場であった建物を改修した館である。長らく放置されて荒れ放題だったそこは、現当主のクロフォードによって書庫へと生まれ変わった。ありとあらゆる知と娯楽がそこにはあった。ここに来たばかりの頃、公用語もまともに話せなかった自分にクロフォードが根気強く読み書きを教えてくれた場所でもある。今自分が着ている制服──軍学校の制服は、自分がこの小さな書庫を卒業し、新しい世界へと1歩踏み出したことの証左だ。クロフォードはきっと喜んでくれるだろう。
であるにも関わらず、ディミエルの気分はどんよりと曇っていた。軍学校に入学するということは、つまりこの家を出て生活するということに他ならない。週末には自由時間があるし、長期の休みもあるが、基本的には寮内での生活だけが全てになるだろう。
──人としての作法を学べ。
【オデオン】と呼ばれている黒衣の男はそう言った。それが国を守ることに繋がる、と。生まれた時から奪い、利用し、殺し、騙すことが当たり前の暮らし。父や母が誰かは知らなかった。気づけば自分と似たような境遇の子供たちと生活を共にしていて、食べるものも着るものも潤沢に与えられていたが、教育だけは著しく偏ったものであった、と、今なら分かる。人の形は取っていても獣のような暮らし。毎日はただ過ぎ去るだけで、例えて言うならボロ紙で括られた束を1日1日繰るだけの簡単な業務でしかなく。
ある時そこに【オデオン】が現れて、まるでそこにあったからと言わんばかりの適当さでディミエルを拾い上げた。
──それから、また味気のない毎日が続く。
そうしてまた誰かがディミエルを拾い上げた。今度は、家族として。
残念なことに、それがどういう意味合いを持っているかが分からないほど幼かった時代はとっくに過ぎ去っていて、瞬時にディミエルは己の進む道を理解したものだ。彼らはディミエルの、躊躇いなく人を殺せる技術を欲したのだし、同時に自分は金持ちや貴族がよくやるボランティアというポーズに付き合うことになるのだ、と。
だから引き取られたその日、作られたような歓喜の表情で自分を迎え入れた夫妻を見てもさほどに気持ちが動くことはなかった。
唯一、笑顔も浮かべずにこちらを見ていた少年だけが、今もディミエルの心を震わせている。
──感傷が過ぎる。
圧倒的なまでに押し寄せてきた回想と、それに引き摺られる感情に直情的な眉を顰めて、ディミエルは短く刈り上げた桜色の髪に手を突っ込んだ。
苛立たしく溜息をつき、感情に蓋をした。こんな顔じゃクロフォードの前に立てない。彼は何も知らないのだから、余計な心配をかけるべきじゃない。
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リハビリで書いたやつだけど今読んだら好きなやつだったわ。著者はスレスレR15だと主張を繰り返しており。
ブォン(っ'-')╮=͟͟͞͞📱




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勢い任せに書いたけど書き切りたい、がちょい様子が分からなくなってきたので進捗がてらポイ。ピクグラにあげたやつと若干繋がってるようで抜けてますが、まぁ雰囲気でどうぞ()
書き終わったらピクグラにあげますん
(:3_ヽ)_
■■■■■
月が、と。
隣を歩くディミエルの声に空を振り仰げば、煌々と輝く双月がある。
ハロウィンパーティーも終わり、今頃は各々両手に持ちきれないほどのお菓子を抱えて家路に向かっている頃だろう。久しぶりに故郷に戻ったのだから羽を伸ばしてくればいい、そう言うとディミエルはきょんと首を傾げた。
どうして?帰ったらいけない?
言われて返事に窮したのは、図星だったからではない。むしろ逆だ。帰ってきて欲しいのは山々だ。が、常日頃から想いを傾ける相手と四六時中一緒に過ごしていたらそれはそれで気が休まらないだろう──いや、決して余裕があるからこんなことを言っている訳では無い。むしろ焦っている。ダルスモルスに帰れば当然想い人にも会うのだろうし。
また1人で泣くのかもしれない。今度は偶然を装ってそばに居ることもできまい。……否。もしかしたら、ハロウィンの熱気が恋を成就させる可能性だって考えられる。一切根拠のない予想だが、人の心は何時だって無から有を作り出す。有り得ないなんて言い切れないのだ、恋というものは。
とてもじゃないが、その瞬間を見届けられるほど自分は強くない。できればその瞬間は見たくない。友人とは言いきれず、当然ながら恋人でもなく。ただ、神の使いに召喚された者同士。なのに自分が抱えた気持ちは、そのどれにも値しない。
「一緒に帰ろうと思ってたんだけど、なにか都合があった?それならアタシは明日帰るけど」
そう言われて、一も二もなく「用がないならいいんだ、一緒に帰ろう」と食いついてしまった自分を、ディミエルはどう思ったのだろう。
……いや、どうとも思わないか。気を使って空回りしたので焦っただけだろう、というくらいに解釈してくれたらいい。
飛行船の中ではリーゼにプレゼントした香水の話と、それをあげた時にどれほど愛らしかったかという話をずっと聞いていた。例によっていつもの踏襲だ。話し上手のディミエルがひたすら話をして、自分は相槌を打ったり時々質問を返したり。内心、途中でクロフォードのことを思い出して泣くのではとヒヤヒヤして、ポケットに入れてあるハンカチのことを思い出して服の上から在処を探ったりもした。まさか自分の手拭き用以外に、予備と称してディミエル用のハンカチを用意していたなどとはとても言えない。泣いて欲しくはないし、泣かずに済むならそのほうがいい。だが、泣かないという可能性もゼロではない。それだけだ。泣いて欲しくはない、これは本当にそう思っている。
話している様子も落ち着いていたし、途中で窓の向こうに目をやることもなかった。クルブルクに着いたらさすがに我慢がきかなくなって大号泣──ということもなく。
クルブルクで軽く夕食を済ませ、最後に一杯だけ軽めのロゼワインで乾杯した。
それから店を出て、東郊外を抜けてビレッジまでの道のりをのんびりと歩いて戻った。辻馬車を拾っても良かったが、なんとなく2人揃って歩きたい気分だったから。
──ここで、冒頭に戻る。
「月が、」
なにかを言いかけて言い淀むディミエルの横顔と、空にかかる双月と。
「……月が、なんだ?」
続きを促すと、ディミエルは「あぁ」と初めてこちらに気づいたような顔をして、小さく笑った。
「……月が、きれいですね」
「ん?」
「……っていう、言葉というか……暗号みたいなのがあって」
「うん」
「それを思い出していたの。今夜の月は、何十年かぶりに地表に近づいているそうよ。だから月の光もいつもより明るいんだ……って」
なにとはなしに、2人で足を止めて空に目を向ける。月はソフィにとって、慶兆というより不安と恐れの象徴だった。月の輝く晩にはいつも自分が自分でなくなっていたから。あれが恐ろしくなくなったのは、召喚者としてナモナに呼ばれた頃からだ。もう1人のソフィ──"彼女"としか呼ばれず、また呼ばせもしなかったもう1人の自分。もしかしたら本来"ソフィ"と名乗るべきだったのは彼女だったかもしれない。進化が進む度に、"彼女"が表に出てくることは明らかに少なくなっている。
「……もしかして、"彼女"に会ったか?」
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公式に寄っていく形でハロウィンイベントのアレをあ���これ拾い、
その挙句に「いろいろとこうだったら萌えるな」という俺設定をぶち込んだ話を書きたかったんですがもー絶対10月に書き終わらないやオワタという絶望と共に供養(チーン)終わってません。途中です。深く考えないでください。こういうのが好きなんですよ。ねーわ。ねーわ、だけど同人ならどんな妄想を形にしたってええんやで。なんでもいいし私が好きな人向け(ニッチな要望)
久々の推し供給をありがとうございました。ぎゃんかわでした。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
王宮に突然訪れてきた錬金術師は、その手に魔法を持っていた。
少なくとも、オデオンの目にはそう見えた。
「あっ、ディミエルだ! 久し振りだねぇ!」
腕から、リーゼがするりと抜け出していく。一抹の寂しさを味わいつつも、小さな背中にまで喜びを溢れさせているのを確かめればオデオンには異論の唱えようもない。リーゼの方から「オデオン抱っこして! 遊びに行けなくてつまんない!」などと言われて従ったのは自分が先なのにとか、そんなことは思っていない。……思ってなどいない。本当に。
「はあい、お姫様。久し振り。何ヶ月ぶりかしら」
リーゼの弾丸のような勢いを同じ目線になって受け止めながら、錬金術師が口を開く。髪が乱れるのも構わずに縋りついてくるリーゼを愛おし気に抱きしめた錬金術師――ディミエルがこちらに目を向けた。彼女は魔王軍の紋様を身に着けることを許されながらも、魔王軍専属の術師ではない。複雑な事情を抱えた彼女が自ら王宮に来ることはほとんどなかったし、神の使いの召喚者として国元を出た今となっては猶更のことだ。尤も、彼女が王宮を訪れたところでなんの咎もないのだが。
彼女に言わせれば、「宮廷に行かないのはちょっと空気を読んでるだけ」ということにしかならない。それは問題の矮小化ではなかろうかと思うが、オデオンの立場から物申せるようなことではなかった。
「ほんとだよ! 香水見せてくれるって言ってたから、あたしずっと待ってたんだよ。どうして来てくれなかったの?」
「ごめんなさいね。ナモナでいろいろとあったものだからこちらに戻るタイミングがなかったの。ね、でも約束はちゃんと覚えてるわ。それで許してくれる?」
いいよお、とリーゼがにんまり笑うと、ディミエルも同じようににんまりと笑ってそっと耳打ちをした。オデオンの見守る中で、彼女たちはきゃっきゃと楽しそうに戯れている。
砂漠でディミエルという錬金術師に会った、とリーゼが報告してきた時にはその場が一瞬凍り付いたものだ。特段恐れなくてはならないような理由はない。彼女は王家に仇為す者ではない。が、見方を変えれば、王家は彼女に仇為す側であったのかもしれない――という思いが、あの時はその場を支配していたように思う。彼女が魔王であるルーザよりも先に神の使いの召喚者としてナモナに呼ばれたのは、なにかしら意味があることだったのかもしれない。そう言っても、きっとディミエルは「そういうこともあるかもね」と笑うだけだろうが。
「えーっ! ホント? ホントにホント?」
「ええ、本当に本当。その内にクルブルクから正式な申し入れがあると思うから、それまでいい子にしてましょうね? 問題を起こしてお部屋に閉じ込められたら楽しみが減っちゃうわ」
「うん、分かった! いい子にしてる! オデオンの鎧の内側にいたずらがきしたりなんて絶対にしないよ!」
身じろいだオデオンの鎧の端々から金属音が響いて、ディミエルは笑いを堪えるように唇をぐっと噛み締めた。
「そうね。いたずらするよりはお菓子を貰った方が楽しいと思うわよ? それとね、これはこの前約束した香水」
「くれるの?」
「気に入るといいんだけど」
「つけてつけて!」
拭きかけられた香水のミストの中で歓声を上げながらくるくる回るリーゼを、オデオンもディミエルもこの上なく大切な宝物を見るような目で慈しむ。それに気づいて、そっと目配せを送り合った。――尤も仮面の下からの眼差しを形容することは、さすがにできないだろうが。否、彼女ならばそれすら見通してしまうのかもしれない。
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・冷感接触の話が100%理解できなかった
・ソ→お天使ちゃん←デ もいいな?と思っていた時期がありまして
・むしろランクの低さで術師を語るな
以上ご理解いただけますと幸いです。
◆◆◆
テーブルの上で、水差しがからりと音を立てた。
氷を水差し一杯に入れて、輪切りにしたレモンと水を加えたものが入っている水差し。
さっきからしきりにからからと音が鳴り続けているところを見ると、氷はどんどん溶けてしまっているのだろう。今年の夏も暑い。
「暑いわね……」
「暑いですね」
「今年は特に暑いな」
「シーツの話をしてるのよ?」
床の上に敷いたマットの上に青いシーツを敷き、その上に3人でだらだらと寝転んでひたすらに季節に文句を言い続けて、どれほど経っただろうか。考えるのも嫌だし時計も見たくない。見事なまでに3人同じ考えのようで、誰一人マットから起き上がろうとしなかった。
「これ、冷たいのは最初だけね」
「裁縫と鍛冶と錬金の技術の粋を凝らして仕上げた自信作だったのだがな」
「でも最初は冷たくて気持ち良かったー。あ、触ってないところはまだ冷たい」
「うむそうか、そこはリモネが使いなさい」
「そうね、アタシたちはできるだけ動かないから」
「えぇ……なんかの修行じゃあるまいし、二人とも冷たいとこ探せばいいのに」
リモネは起き上がってのそのそとテーブルに近づき、3人分のコップに水を注ぐ。二人の方に目を転じたが、二人は微動だにしない。こちらへの気遣いというより、もしかして単純に動くのがだるいだけなんじゃ……?
気を切り替えて寝ころんだままの二人の上から声をかける。
「二人とも、起きて水飲んでくださいね! 脱水症状が一番怖いんだから」
「本当に気が利くな……すこし休んでいてもいいんだぞ?」
ソフィは寝転がったまま腕を伸ばしてリモネの髪を一掴み摘まんで指先で弄り始めた。
少し前なら泡を食うところだが、もう慣れてしまって特にコメントが出てこない。
「ソフィさん、薬の雨を降らせても脱水は治らないですよ?」
「む……それもそうか。おいディミエル、おまえも起きろ」
すんなりと髪から手を離して起き上がり、ソフィはディミエルの額を軽く小突いた。ご不満たらたらといったていのディミエルは人前では絶対に見せないような渋面を作ってぶつぶつと文句を言い始めた。
「ちょっと。抵抗できない状態の人間にそういうことしないで。アタシは一回横になったらしばらくは起きたくないのよお」
「精力的なやつが珍しいことを言うものだ。精力剤でも作ってやろうか?」
「ありがとう、でも成分が怖いから遠慮しておくわ」
口を開けば険悪な空気を撒き散らす二人だ。リモネは空気を換えようとぱんっと音を立てて手を叩いた。なんだか子供のしつけをしているみたいな気持ちになってくる。
「もう! 二人ともケンカしない! さっさと起きて水飲んで! はい!」
不機嫌そうな顔で起き上りしな、ディミエルはじっとりとソフィを横目で見ながら口を開く。
「ほらぁ。あなたが嫌味を言うからリモネが気を遣うじゃないの」
「言われてすぐ動けないぐうたらな人間が悪い」
ケンカなんだか、じゃれ合いなんだか。子供というより、ものすごく相性の悪い猫を同居させたらこんな感じかもしれない。
「なかなか難しいわね……」
「そうだな……布の織り方が悪いのか、鉱石を細かく砕く技術が今ひとつなのか」
「全部あり得る話だから困るわ」
「……申し訳ないが、他のライフに話を通す役目はおまえに頼む」
「分かってるわよ~。自分は口下手だからうまく説明できないって言うんでしょ。……そんなことないと思うけどね、まあいいわ。アタシも寝苦しい夜は嫌だし、実験には協力します。わたしはあなたほど上手に制作できないし、その辺は任せてちょうだい」
「……なんか、二人とも仲良くなりました?」
きょとんと首を傾げるリモネに、二人は「それはない」と全力で否定した。
以前と比べて、二人の間に流れる空気が随分と柔らかくなった気がする。前はもっとお互いにつっけんどんでケンカ腰だった。今でもやや剣呑な雰囲気になることもあるが、依然と違ってお互いに歩み寄ろうとする意思が見られる。
なんだか多少ぎくしゃくしてもいるようだけど。
いろいろと複雑なわけの分からない関係性ではあるが、二人がそれなりに歩み寄っているなら安心だ。これでもう余計なことに巻き込まれずに済む……とか言ったら悪いか。
コップの水を飲み干したソフィがリモネに目を向け、「君は大丈夫なのか?」と心配そうに眼を眇めた。
「え?何がですか?」
「毎晩こう寝苦しくてはよく眠れないだろう」
「あ、そういうことね。確かにちょっと暑い時もありますけど、誰かと一緒に川の字で寝ることなんてずっとなかったから嬉しいです」
ソフィの提案で「いっそ3人横になれるベッドを特注しよう」ということになり、そのベッドがつい先日納品されたばかりだ。ついこの間まで3人で並んで眠ると体温が気持ちいいくらいの気候だったのに、気づけば世間は猛暑の真っ盛り。
誰だトリプルベッドで寝ようなんて言い出したのは。「あなたでしょうよ」とディミエルにすげなく返されたソフィが考案したのは、接触冷感生地。良く分からないが、熱の伝導性を利用して接触した部分を冷たく感じさせる布……だそうだ。この説明で合っているかどうかリモネには自信がない。
錬金術師には裁縫能力はないので、裁縫師に協力を仰ぐことになる。また、熱伝導率を上げる鉱石をある程度砕いてもらう作業も鍛冶師に依頼しなくてはならない。さらにそれは細かく砕いて目に見えないほど細かくしなくてはならないのだが、粉となればソフィの出番である。それを特殊な液体に溶かして生地に塗布すれば、冷感シーツの出来上がり。
とは言っても、思っていたような効果はソフィには感じられなかったらしい。
「やはりシーツではだめか。眠っている間はほとんど動きがないからエネルギーも伝達しない……ずっとそこに触っているから熱が溜まって生温く感じるようになる」
「もういっそパジャマでも作ったらどお? 寝間着だったら、寝返りも打ったりするしずっと接触してるわけじゃないわよね」
「裁縫の手間が増えてコストが増える。デザイン性を加えればその料金も上乗せされる。現実的じゃないな」
「まあ確かにクラウス先生はデザインにこだわってそうよね……というか。あなたがコストなんて言葉使うの珍しいわね」
「誰かさんがいつもそればかり言うものでな。それはともかく、私の目標は“いつまで触っていてもひんやり冷たいシーツ”だ。接触している一瞬だけ冷たいのでは余計に寝苦しさが増すばかり……さて、どうするか」
「鉱石の粉に水属性の魔法でもかけてもらうとか? 魔法の力がどれだけ維持できるかだけど」
「シロネの元弟子に水魔法が得意な者がいると聞いてはいるがな……鉱石に魔法の力を浸透させるには――」
もう何を言っているのやら、まったくついて行けない。
水差しからお代わりのレモン水を注いで、ぼんやりと二人の話を聞くともなしに聞く。ソフィもディミエルも、なんだかんだと言いながらやはりマスタークラスの術師だ。次々と案を出して実現不可能と悟ると、すぐに棄却し次の案を出してくる。よくそんなにアイデアが浮かぶなあ、やっぱり知識がたくさんあるからなんだろうな。なんでこんなにすごい二人が私と一緒にいるんだろう? 私なんてただこの世の不思議が好きで、アクセサリーが好きなだけで、こんなにたくさんのアイデアなんて浮かんでこない。基本的に自分のランクのことなどあまり気にせずのほほんと実験ばかりしてきたが、目の前で高難易度な会話が続くとさすがに落ち込んでくる。
――全然二人に相応しくないのに、なんで二人とも私のこと好きっていうんだろう。
「あ、ごめんなさい。置いてきぼりにしちゃった?」
「むっ、済まないリモネ。仲間外れにしたわけではないんだぞ?」
ほら、また甘やかしてくる。
テーブルの上に顎を乗せたリモネの頭を二人そろってかい繰りながら機嫌を伺ってくる。ちょっとだけ嬉しいけど、錬金術師としてはよろしくない気がする。
「こういう時に怒られないのは嬉しいですけど、二人とも私に言いたいことってないの?」
「言いたいこととは?」
「もっとしっかり錬金術を極めろとか、この話についてこれないようではだめだ、とか」
「なに言ってるの? ランクが術師の価値を決めるわけじゃないわ」
ディミエルは言いながら指先でリモネの前髪を梳いた。
「あなたはあなたのやりたいことをやればいいのよ。自分で言ってたじゃない、真理を追い求めるばかりが錬金術師じゃないって」
「そうなんだけど、二人と一緒にいると本当にそれでいいのかなって思うんですよね……というか、今の話だって私がちゃんと理解出来たらもっと面白く聞けたのになー。最近、二人ともホントに仲良しですよね。私、全然中に入れないしー」
にこやかな二人の表情が少しだけ変わる。
あっこれ。もしかして私、なんか踏んだ?
「なるほど……今のはフラグに疎い私でも分かった」
「今のは分かりやすかったわね」
「すまなかった。今度はリモネにも分かるように説明するからな」
「いや、私にはこの流れが全然分かんないんですけど。なにが分かったの?」
「いろいろよ」
「いろいろって何?」
両側から挟まれてあちこちかいぐられるのも慣れた。リモネにはなにがなんだかよく分からないが、この形で二人はそれなりに納得しているらしい。本当にこれでいいのかと疑問に思わないわけではないけれど。
「……とにかく! 二人とも、早く“いつまで触っていてもひんやり冷たいシーツ”作ってくださいね」
両側から妙に嬉しそうな返事が返ってくる。
このまま3人一緒で川の字で寝続けていて大丈夫なのかしら。
頭を抱えて、リモネはテーブルの上に突っ伏した。
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日が陰ってきた頃、どたばたと走ってくる足音が工房に近づいてきた。
他愛のない会話を続けていたディミエルがあら、と面白がるように扉に目を向ける。
「帰ってきたみたいね」
ん、と工房のドアに目を開けると、けたたましい音を立ててドアが開けられた。全力疾走してきましたと言わんばかりの神の使い――ニコがそこに立っていた。
――ごめん。
開口一番にそう言うと、彼は静かにドアを閉めてソフィに顔を向けた。
ごめん。ドア、乱暴にして。
神の使いの言葉はどこの国のものなのか、まったく聞き取ることができない。にも関わらず、召喚された者たちは押し並べて彼の言葉を理解して聞くことができた。初めこそ吃驚したものだが、人は慣れる生き物だ。こちらがきちんと言語を操れば意図は通じる。耳に聞こえる言語として意味をなさないだけで神の使いはこちらの言葉をしっかりと汲んでくれるので、意思の疎通は問題なくできていた。
「構わん。そんなに急がなくても良かったんだぞ」
「何か飲む?」
ディミエルが問いかけると、ニコは首を振って、もくもくと本に目を通しているティアに顔を向けた。
結局、ティアはこの時間になるまで飲み食いを一切していない。喉が渇いていないかと聞けば大丈夫だと言い、おなかが空いていないかと言えば空いていないと答える。自分に心配性のきらいがあるのは認めるが、昼頃から夕方まで一切合切飲み食いしないというのはやはりどこかが悪いからではないのだろうか。何度も――正確に言えば三度問いかけた――問いかければ、うるさそうに顔を顰め、訥々と「ねえ、見てわかるでしょう。今は本を読んでいるの。それに私に普通の人間と同じ食事は不要なの、やめてくれる」と言う。
――ティア。
ニコに呼びかけられて、思いのほか素直にティアは顔を上げた。
おなかすいてない?
「空いてないわよ」
どうせまた何も食べてないんだろう?
「食べなくてもいいからよ。さっきからなんなの? 人の読書を邪魔しないで頂戴」
心底嫌そうに顔を顰め続けるティアの持っている本。そのページが先ほどからあまり進んでいない。どうしてもアドバイスがしたくてたまらなかったが、きっかけにと思って食事に誘えば怒られるし、健康状態を心配すれば嫌がられるし、「その本は……」などと話しかけようものなら憤怒を目に浮かべる。どうにも気になって仕方がない。――何より、その箇所は。
「ねえ」
ディミエルが間延びした声で、実に絶妙に間に入った。
彼女のこういうところは素直にすごいと思う。
「さっきから見てたんだけど、そのページからあまり先に進んでないみたいね?」
「……ここ、難しいのよ」
そうなのよねえ、とディミエルはゆっくりと頷いた。
「その本、錬金術師を目指す人なら誰でも最初に読む本なの。アタシもそこでつまづいたわ。その部分だけ、別の本の記述と合わせて読む仕様になってて……平たく言うと暗号になってるのよ。つまり読者はその本に試されてるってわけね」
試されているという言葉に、ティアは一瞬目を見開く。
「試されているってどういうこと?」
「そうねえ。無理難題に当たった時に、どうやって物事を解決するか――まずそのページが暗号文だと気づかない時点で選考から落第。文脈がおかしいと気づいたら及第点。錬金術師になる人なら誰でも最初に取り組まないといけない問題よ。でもあなたは錬金術師じゃないし、周りの人に助けを求めるのも手だと思うけど」
「……助けを? 冗談でしょう」
「あら、現実味のある提案をしているつもりなんだけど。例えばこの人ね、クルブルクの天才錬金術師よ?」
「!」
いきなり自分に鉢を回すな、とディミエルを見ると、くすっと笑ってからこちらを見る。
「ね? アタシと違ってお弟子さんも取ってるし、教えるのは得意よね?」
なぜかよく分からないが――ものすごい圧を感じる。
んむ、と口の中で返事をするとディミエルは満足げに頷いた。
「教えてあげたら?」
ああこれは。
ばれていたか、とソフィは小さくため息をつく。
元々人を観察するのに長けている人だから、ごまかせてはいないだろうと思ってはいたけれど。
食事を取っている間も、談笑している間も、ティアの手が何度も同じぺージを繰るのを見ていた。僅かに丸まった小さな背中が、どこか自分と重なって見えた。世界のありようから目を背けて、自分の世界に没頭する。そんな自分にでも、本は新しい世界を開いてくれた。あの時と同じ気持ちを、もしかしたらこの少女も持っているのかもしれない。そう思うと何か声をかけたくなるのだが、突っぱねられるとどう取っ掛かりを得たらいいのか分からなくなる。
弟子とか、知人とか。そういうのであれば多少は声をかけられるのだが。
ディミエルには感謝をすべきなのだろうが、どちらかと言うと畏怖をすら感じる。するりと間に入ってきて架け橋をかけたかと思うと、またするりといなくなる。手助けはしたわよ、と言われた気がして、ソフィはもう一度ため息をつき、立ち上がって書棚に足を向けた。
同じ本を、同じ年頃の時に、擦り切れるまで何度も読んだ。暗号を一つ一つ解いていくとそのページに書いてあることが少しずつ分かってくる。解き方に慣れてくると、その暗号を書いた人となりも少しづつ分かってくる。この著作者なら恐らくこのヒントで解ける。あの著作物ならこちらの著作物の引用で。それらを日が暮れるまで、無我夢中になって解いたものだ。
「そのページなら、この本の第3章に載っている一文で解ける」
「覚えてるの?」
「初歩だと言っただろう? これは錬金術師が持つ最初の教科書なんだ。血肉になるまで読んだよ」
ここにある本は、子供の頃に自分が読んだ本とは別の本だ。それでも同じ本を手にして開けば、あの頃に戻る気がする。世界の不思議に目を奪われていた頃。決していい思い出ばかりではないが、淡く幸せな想いがあったことも同時に思い出せる。
「この本が、私の原点だ。だから、分からないことがあれば何でも聞いてくれていい」
「なんでも?」
「そうだ。何であっても答えてやろう」
「ずいぶんと自信があるのね」
そう言って笑う少女の目は、幾分か和らいで見えた。
――うん、なかよくできそうだね。
次に間に入ってきたのはニコである。彼が喋ると、ティアは見る見るうちに渋面になった。
「なんなの。話しかけないで」
いや、邪魔してごめん。でもさ……。
ニコは慌てたように首を振って腕を振り回す。そうしてこちらを振り返り、相変わらず不思議な言語でソフィに話しかけた。
――シロネさん、なんて言ってた?
「ティアを頼む、とは言われたが?」
うんうん、とニコは何度も頷いた。良かった、最低限そこは伝えてくれたんだね。
それを聞いてディミエルは笑いを堪えたような声で呟いた――「先生の信頼度……」と。
さすがにそこはフォローができないので、ソフィもだんまりを決め込むことにする。まあ確かにそうだ。頼むとは言われたが、今夜どこに連れていったらいいのかとか、世話はどうしたらいいのかと言うことを一切聞いていない。こちらもこちらでイレギュラーに対して動揺していたところもあって、ぼんやりと受け流してしまった。
「きちんと確認しなかった私のミスだ。……その他に、私に��きることがあるなら協力するが」
そう言うと、ニコは何度も頷きながら言った。
そう言ってもらえると助かるな。多分、ティアは暮らしってものが良く分からないと思うから、ソフィが一緒に暮らしてあげてくれないかな?
「……は?」
晴天の霹靂とは、このことか。
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