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先月から、子は月の三分の一も保育園に行っていない。ほとんど高崎で両親に預けている。けーたくんが4月末の展示準備でいつも以上にアクロバティックに移動していることと、わたしの展示撤去〜返却、次の展示の集荷出張、それに加えて、これまで行けていなかった地方の展示や演劇に行ったりするためだ。けーたに余裕がある時であれば子を同伴して３人で旅をしたただろうが、今の彼には消耗するエネルギーがない。ということで、わたしはまた10日間ほど子と離れることになる。寂しい。

子はわたしといる少ない時間は、とても嬉しそうに甘えてくるし、さらにけーたと３人揃う��、けーたと、なぎと、あんみ、と確認するように点呼している。いちいち少し、胸が痛む。

彼女は楽しそうにしゃべっている。グラマーが発達してきていて、「〜だから」「〜だけど」という接続詞を使いたがり、末尾は「〜って言ってたんだよね」で締めることが多い。ほとんど語感で適当に言葉をつなげているだけだけれど、徐々に因果関係への理解が生まれ、「なぜ」に答えられるようになってきているのも事実だ。

もう少し状況が理解できるようになったら、「なぜあなたはわたしを置いてきぼりにするのか」などと言葉で責めるに違いない。幼いわたしが母に対してそうしたように。その時が来るのが恐ろしい。わたしがけーたや子を寂しくしている本人でありながら、自分の寂しさを家族以外の何かに埋めてもらおうとしているということが明らかになって、2人の心がバラバラになってしまうことが恐ろしい。育休中はあんなに1人の時間がほしかったのに、いざ1人になると時間をもてあましてしまい、寂しくて、家族といる時には振り払えるはずの手を振り払えない。

昔付き合っていた人から、あなたは根本的な不安をどうにかしない限り幸せになれない、というようなことを別れ際に言われたことがある。去り際にそれを言うなんてどういうつもりなのか、余計なお世話だ、とその時は思ったが、ささくれのように時々訪れる痛みとしてその言葉を思い出す。不安は、家族ができたらなくなるものだと思っていた。実際は、忙しくしていたり人と関わると、その時は忘れることができるだけで、不安はわたしに常についてまわっていて、1人になると侵食してくる。いつまでだろう。

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ここ数ヶ月で、立て続けに若い知人が亡くなった。40代前半の書評家、同世代のキュレーター、昨日は、30歳程度の友人の友人。どの人も、私とは近いコミュニティにいて、SNSではつながっているが直接話をするような間柄ではない。けーたくんは3人ともわたしよりも親しかった。

みな病気が原因だったが、状況の伝わり方とその後の対応は少しずつ異なっていた。

キュレーターは、入院して2週間後という急死とも言える亡くなり方だったらしい。以前彼が所属した美術館に連絡が行き、代表者が翌日の「昇天式」に参集された。メールで行われた参集の知らせと、彼が代表をつとめる会社のfacebookアカウントでの情報公開は、彼の死から1週間経った後だった。全国の学芸員たちは、みなほぼ同時に同じ情報を得た。

他の2人は、近しい人だけは死にゆくことを知っていて、それ以外の人は亡くなる直前か直後に、唐突に状況を知った。

書評家の死は、Xの、彼の死後に作られた特別なアカウント(「〇〇(名前が入る)について」というアカウント名)で公開された。そこには、パートナーからのコメント、彼が直近書いていた記事、出演したYouTube、知人たちによる追悼文、コメントのリツイート、家族と友人たちによって企画された「囲む会」の告知などが発信されている。これから書店イベントや書籍の発行も予定されているとのことだ。「彼について」は、死後、彼の書いたものや読んだものを中心とするコンテンツによって、多角的に、徐々に、深められていく。

昨日亡くなった若い友人の友人は、約一年前から闘病中、というか、自宅で終末期を過ごしていたらしいが、数日前からグループライン上で彼女の送別に向けた準備が行われたことで、けーたくんが状況を把握した。目が開けられなくなった彼女のために、友人たちが音声ファイルをグループラインに次々に送ったり、写真を集めたりしたようだ。同世代の友人たちが奈良の自宅に集まって過ごした「送別会」の様子は、Instagramのストーリーズで流れた。火を囲み、お酒を飲み、踊っている様子は、まるでキャンプのように見えた。彼女は人々が集うためのキャンプファイヤーになった。もしかしたら来年から同じ日にキャンプファイヤーが行われるかもしれない。

亡くなった彼らと同様、若く活動的な友人たちからは、自分たちなりのやり方で送別したいという意欲のようなものを強く感じる。コミュニティの中の個人の死をどう捉え、どう消化するかを、コミュニティとして解決しようとしている。コンテンツか、キャンプファイヤーか。

キュレーターに関しては、知人友人の動きとしては一番抑制的に思えるが、クリスチャンというコミュニティがそれを引き受けたのかもしれない。SNSではそれは見えない。宗教コミュニティは、家族や友人といった個人的なものをこえたつながりと、葬送への責任のようなものを持っている。よっちゃんの葬儀の時にもそれを感じた。わたしが宗教について一番憧れているところだ。

コミュニティから離れて、1人でその人の死と向き合うことを考える。

わたしは突然自分が数ヶ月患っている喉の痛みや、舌に突然できた口内炎のようなものが気になり出した。わたしが今死ぬとしたら、家族や友人はどう対処するだろうか。わたしをコンテンツ化したりキャンプファイヤー化しようとするオーガナイザーが現れるだろうか。否、1人で死と向き合う、というタイプの人しか周りにはいないことに気づく。けーたくんもきっと、1人で長く落ち込んでしまうことだろう。わたしたちの共通の友人は多いけれど分散していて、コミュニティとしてはまとまりがなく、わたしが中心にな��ことが想像できない。想像できるのは家族くらいだ。多くの人はそうなんだろう。けーたくんは関わるコミュニティがたくさんありすぎて、わたしがカバーできる範囲だと限定的すぎる感じがする。葬送の儀式は大変なイベントだ。事前準備ができないし、主役である本人に希望を聞けないので、残された近しいコミュニティが、自分たちなりに送り方を決めなくてはならない。まずけーたくんについては、どのコミュニティにそれを担わせるか、ということを聞いておこうと思う。

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2月の中旬あたり、育休を約一年伸ばすことに決めて、気が楽になったと同時に、あと一年は長いなという気持ちになった。一月までは、復帰なんて到底考えられないくらいに育児モードだったのだが、突然、4月にでも復帰したいと思うくらいまで、私の心身は育児に慣れ回復した。

今金沢に戻るのが得策でないことはわかっている。引っ越し、新しいスタッフばかりの職場、保育園入園、ワンオペ育児、それら全てをこなした上で転職活動なんてハードモードすぎる。ひとまず、実家に留まって育児しながら転職活動をするのは合理的だ。わかっている。しかし唐突に、少し混乱した精神状態に陥った。

1日なにをして過ごせばよいのか分からない。

子は、授乳の負担はかなり減ったものの、ハイハイとつかまり立ちをするようになり、これまで以上に目が離せない。その隙を縫って家事をしたりしていたらあっという間に一日は過ぎる。毎日こうして終わってしまうということ、それがあと一年も続くのだということに対し、自分が置き去りにされるような焦りがつのっていく。

原因と解決法を考えた。おそらく、1日の中で自分でコントロールできる範囲が少なく、達成感が得られない。それが続くことで、自分に対する満足感(肯定感)がなくなっていっている。

解決法は、少しでも達成感のあることを積み重ねることと、セルフケアをすることだろう。

大阪にいた時、5時に職場を出て、ジムへ行き、ご飯を作って食べ、夜8時頃お風呂に入りながら小説を読み、9時頃布団に入って転職のための勉強をし、11時頃就寝、という生活を半年ほどしていた。当時、このような生活がずっと続けば良いと思ったし、今でも私の中で自己充足の理想になっている。

2月まで、読書も運動もやる余裕がなかったのだが、少しずつ読書できるようになり、3月には整体へ行き、外が暖かくなって何回かジョギングもできた。

やはりマシだ。これでいいのかもしれない。でもまだ足りない。

夜たまたまテレビでついていたドキュメンタリー番組をぼーっと見ていた。投資などで効率的に稼いで早期退職した人たちのなかで、結局時間を持て余してしまった人が映っていた。お金はそこそこあるはずなの��、簡素な家のリビングで、1人でテレビを見ながらカップ麺を食べていた。一緒に見ていた家族は、不憫そうな様子で、「外に出れば良いじゃん」とか「文化がないんだね」と言った。わたしは、自分を外から客観的に見られた気がした。彼らとわたしに必要なのは、家族以外のコミュニティなのではないか。

私が今日々コミュニケーションを取る相手は、ほぼ家族のみになっている。地元には何人か友人がいるが、数ヶ月に一度会うくらいだ。

これまでは仕事を通じていくつかのコミュニティに接していた。仕事自体がきつくても、そのつながりでやっていけていた感じがする。

それが実家に戻ることで切断され、そのうち一つは解体があり、金沢にももう同じ姿では残っていない。職場についてもコミュニティたりえず、同僚たちもみな各地へ散ってしまった。たまに東京にいき、知り合いや友人たちと会うと、それぞれみんながんばってるんだなと励まされる。でも、私に必要なのは、常時どこかでつながりを感じる程度のものだ。親密さよりも、定期的であることの方がたぶん大事だ。

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昨日は子が夜間ぐっすり寝てくれたので、わたしもたくさん寝られてすっきりしていた。生理でもPMSでもなく体調がよかった。天気が良くポカポカとしていた(来週からは大寒波とのこと)。そして両親が家にいた。それでついに、一年以上ぶりに、外を走った。想像以上に走れなかった。1kmも走れない。出産で弱った骨盤底筋のせいで走るたびに尿が少しずつ漏れるし、足も脇腹も痛く、とても走れたものではなかった。半分以上歩いてとりあえず3kmで帰った。夜には前太ももが筋肉痛になっていた。そして今日は、夜２回起きた子のおかげで眠く、午後子と2人でいつものようにうとうとしている。

それにしても、外を走るためのコンディションが整うまで一年以上かかったということが驚きだ。私の人生の時間のうち、妊娠、生理、PMS、寝不足、その他体調不良の時間を除き、かつ天気が良く、子の面倒を見てくれる他人がいる時間、そのたった30分間が、一年以上取れなかったのである。

よく���供を持つと自分の時間がなくなると聞くが、正確には、時間のコントロール権がなくなるのだ。睡眠、授乳、食事、お風呂、遊び、子供のリズムに合わせて動かなくてはならなくなり、大人しくなったタイミングが来たらやっと、目の届く範囲で家事などができる。もちろん買い物や旅行などには連れて出るし、1人の予定を立てて人に子守を頼むこともできる。ただそのような時間から漏れるのが、予定を立ててやるほどでもない、外で走るとか、銭湯に行くとか、体調が良くて暇なときに、1人で思い立ってやるようなことで、つまり自分をケアする時間だ。自分のケアだからこそ後回しになっていき、いつのまにか、なぜかすごく疲れているという状況に陥っている。

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出産から半年経ち、１年以上ぶりの重い生理が来ている。PMSもかなりヘビーな症状で、もしかしたら突然自分が飛び降りたりしちゃうんじゃないかと思うほどだった。

生理痛が、久しぶりに子宮の存在を再確認させる。鈍い痛みは、孕っていた頃の感覚と近い。その中身が今は隣で平和そうに寝ている。

けーたくんは、生まれたての頃は子を自分の延長のように感じていたのに、着実に人間らしさを獲得し他者になっていく感じがして寂しいと言っていた。わたしにとって、子は妊娠中から今まで変わらず他者だったのに、産んでいないけーたくんがそんな風に感じていることを不思議に思った。

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前の投稿から5ヶ月ほど経っている。ここに何か書くのは、ここ以外に行き場のない言葉が溜まったときだけで、5ヶ月間それがなかったのだろうかと考えるとそうでもない。色々あったのだろうが、毎日書いているピヨログの中にある程度は消化されていると思う。子に向けて書くことを主眼としたピヨログが日常を綴る行為の中心にあることで、わたしの不満はそれとは別の回路を通って、体の中のどこかで煙のように漂っている。振り返れば5ヶ月間特に予定という予定がない日々を過ごしている。たくさん本を読もうと思って図書館に行き、最初に借りた本すら読めずに、Netflixのドラマシリーズだけはやたらと見ていた。時間が溶けてしまったという感覚。急に焦る。

子はというと、生まれて6ヶ月間順調に成長し、目が合うと即ニコニコする愛想の良い子供になったので、父と母はおもちゃを得たかのように毎日キャーキャーと楽しそうに遊んでいる。例えばわたしが洗い物をしているときに、父が子を抱いて私のところに来て、「お母ちゃんが洗い物してるね」などと話すのだが、それがどうしても受け入れられない。子と話すのは良い。でも子に目線を合わせて(代弁して)わたしのことを「お母ちゃん」と呼ぶのはどういうことなのか。そもそも他人から「お母さん」とか「ママ」とか呼ばれるのは、子にとって望ましい母の役割��期待されている時しかない。わたし個人としてではなく、子の母としての判断が求められている。そのたびに、バシッと木の棒かなにかで肩を叩かれるみたいな衝撃がやってきて、わたしに今求められている母の役割とは何か、と考えて固まってしまう。確かに子に対する保護監督責任はある。法的には、1番にある。でもそんなことは知らない他人から「あなたはお母さんとしてどうしますか」と言われたとたんにずっしりと重い。たかが洗い物をしているだけの、些細な日常生活に他人から重荷をリマインドされたくない。

こんなことでは、子が成長して自ら「お母さん」「お母さん」と細かなことをいちいち質問してきたり、舐めて人権を無視するような扱いをしてきた日には、母であることに耐えられないのではないかとゾッとする。

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突然自信がなくなってしまった。思考が必要以上にネガティブだ。体のいろんな粘膜が腫れたりしているし、自覚がないだけで疲れているのだと思う。子はかわいいし、ケアしたい(しなくてはならない)。でも同時に、自分もケアしなくてはならないのだと思う。けいたくんにも余裕がない。コーピングについてもっと考えておけばよかった。(日記を書くことはコーピングのひとつだ)。

そういえばナミが、「無理しちゃいけないとか、休まなきゃいけないとか、思いすぎちゃってた」と言っていたのがなんとなく分かる。自分含め、ケアすべき対象が多すぎて混乱している。気の向くままに、時には無理をすることもある、と自分に許すのが良いのかもしれない。

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いつものように朝方眠りにつく。４日ぶりに帰ってきたけいたくんは、まだ2階で仕事の電話をしている。私は最近は眠りにつくまでほとんどかからないが、今日は少し手こずり、浅い眠りの中で不快な夢を見た。わたしが1階で育児をしていて2階にいるけいたくんと電話越しにケンカをする夢。ケンカというか私が一方的かつ理不尽に不快になり、一人で子供を育てる、と言って電話を切った。短時間で起きてしまい、すぐに法的に有効な契約書を作るためにどうすれば良いか検索した。6時頃けいたくんが電話を終えて隣に来ても、イライラしてしまい別の部屋に行った。

気づいたのは、今のわたしはPMSに近い状態にあるということだ。不安が強く、イライラしており、眠りが浅い、食事はしょっぱいものが食べたい、男性を遠ざけたい、性欲がゼロ。明らかに妊娠中とは異なるメンタル状態だ。

そして冷静になってもやはり結婚とは別の契約が必要だと思う。こういう心境の変化があることを考えると、結婚というフォーマット化された契約ではなく、むしろ私と子を守るための個別の契約が必要だ。

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15日夜、終日ありとあらゆる痛みとたたかった結果、女児が産まれた。破水から約43時間後だった。早朝の陣痛から夜の出産に至る全ての工程が、これまで経験したことのない痛み(そして疲れ)のオンパレードで、世の多くの女性が、人によっては複数回これを経験しているのかと思うと「本当に？」という気持ちになる。

まず陣痛。数分おきにやってきてエスカレートしていく痛みに対し、呼吸で対応する。うーんと我慢するとよくないので息を吐くのだが、どうしても痛いのでヨガのようにはいかずウーとかアーとかうめき声を出すことになる。下に降りてくる最終段階では、腰とお尻をマッサージしてもらいながら痛みに対して「いきみ」をしないように逃すのだけれど、それはかなりキツくてもはやずっとアーーーー！と叫んでいた。ちなみに陣痛中はずっと医大学生の見学者というかお手伝いがいて、彼らに中心的にお尻を押さえてもらった。こんな現場に突然入れられるのは勉強になることだろう。15時間以上かけて痛みはエスカレートしていくので疲労も蓄積する。数分間痛みが弱まるタイミングでは気を失うように寝、痛みの波がやってきたら起きて呼吸と叫び。助産師さんたちがそれに合わせてマッサージしてくれる。ペットボトルの水にストローを装着しておいて、ベッド脇で飲みながらそれを行う。私個人の身体的な技術的対応でもあるし、集団スポーツのようでもあると思った。

そして分娩。陣痛のあと、最後の最後にこの最大級のイベントを自力でこなせる体力がある人がどれだけいるのだろう。子宮口が全開、頭が見えていると言われ、いよいよ最後のひとふんばりと思いきや、陣痛のたびにイキんでもなかなか進まない。最初の30分くらいは全力でがんばれたが、そのあとは先が見えないことに弱気になり、「これ本当に生まれるまでするんですか…？」と助産師に聞いて脱力させたりした。立ち会った産科の先生は、自分の時は陣痛から３日かかったと。それでは起きているのがやっとくらいだろう。入口まで勝手に降りてきてくれていない限り、産道を導くのは無理だ。 私は分娩室に入って2時間後にはクタクタでもう力があまり入らない状態だったので、赤ちゃんも頑張っているからママもがんばりましょうと言う助産師に疲労を訴え、最終的に産科医を呼んで吸引してもらった。

出産の痛みというと、出口から出る瞬間のそればかりがイメージとしてあるが、それは一瞬で終わるし、大きくて固い便が出る時の延長上でそこまで大きな驚き��なかった。そのあと胎盤を押し出す(勝手には出ない)、会陰切開の縫合(麻酔が部分的にしか効かない)、内診、消毒。満身創痍の私を次々に処置する工程がそれぞれ尋常じゃない痛みを伴う。そこに、通常の病院なんかで体験してきたような「痛かったらいつでも言ってくださいね」みたいな丁寧さはかけらもなく、母体に対して容赦がない。

母が何度も病院に直接電話で進捗を聞いて迷惑をかけたようなので、会陰縫合中に電話した。けいたくんともビデオ通話。助産師さんはその向こうでキャッキャしながら体重やらなにやら測っている。産科は病人を扱う他の科と異なり明るい雰囲気がある。みんな少し興奮気味だが、わたしは声がかすれてちゃんとしゃべれない。

ベッドで陣痛室に運ばれ、そのまま眠る。

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0時

昨日から風邪の症状が出ていたので解熱剤を飲み、けいたくんと離れて龍児の部屋でポリタスTVをつけながらうとうと。

2時

破水。お漏らししたかと思ってトイレに行こうとしたらどんどん水が出てきた。父母けいたみんなそろって慌てて荷造りをしてみんなで車で病院へ。予想以上に早かったね、でもよかったね、などと話す。みんなが興奮気味ななか、私は無口になっていた。病院について車椅子に乗って病室に運ばれる間、手がプルプル震えていた。

5時

コロナの影響で家族は病棟に入れないので、一人個室で陣痛を待つ。ここ数週間、身体がきつくて早く出てきてほしいとは思いつつ、本当に3週間も早くその時が来てしまったら実感がわかない。助産師さんは、痛くないうちに寝ておくのが良いですと言って部屋を暗くしてくれた。眠いけど、なかなか眠れない���ラジオを聴いてみたけど、情報が多いのがつらくて聴いていられない。子はずっともぞもぞ動いている。羊水が出続けているので心配。

10時

ちょこちょこ寝て、なんだか落ち着いてしまった。いろんな人に入院の連絡。羊水は相変わらずたくさん出ているので用意していた特大パッドが足りなくなるほど��追加で頼んだ荷物が届く。慣れたクッションがあると安心する。

14時

PCR検査陰性の結果が出たので陣痛室へ移動。陣痛はない。くせで持ってきてしまった厚い本も読めてしまいそう。気晴らしに外来のコンビニに行って甘い飲み物を買った。隣のブースからは痛そうな声が聞こえている。お風呂に入りたい。

22時

何度か定期的な痛みがあったので、もしやこれが陣痛なのかな？と思っていたけれど違ったらしい。ということで一日陣痛を待ったが来なかった。明日の朝の診察で、促進するかを判断する模様。破水したら緊急で産まれるものだと思っていたがそうでもなかった。

半日以上叫び続けていた人はついさっき分娩台に移った。まだ叫んでいる。尋常じゃない叫び声を半日聞いていて、私にもこれが訪れるのかと不安になってしまった。ここまで痛みを伴うことを、なぜ麻酔なしでやるのだろうと疑問に思える。不安が大きい状況、自分を安心させることが第一だと思う。慣れたクッション、音楽、また、少し先の約束をしてみる。ステーキを食べること、軽井沢に行くこと。いつもしているように。

どうやら今日は満月。そういえば昨日妙にピカピカした月をけいたくんと一緒に見たのだった。

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臨月に入った。今週末には37週、つまりもう産んで良い時期に入る。先週けいたくんと出産前最後の旅行に出かけた。万が一のことを考えて近場で、と箱根と江ノ島を目的地にした。箱根の山は歩くのが大変だったが、ロマンスカーの展望席に乗り、登山鉄道、ケーブルカー、ロープウェイ、バス、といろいろな乗り物に乗ってなかなか楽しかった。江ノ島では江ノ電に乗り、水族館や鎌倉に行ったりし、やはりたくさん歩いて疲れだが、けいたくんが私のペースに合わせてくれて助かった。箱根江ノ島いずれも料金の関係でゲストハウスになったが、結果的にビジネスホテルよりも広かったし気楽でよかった。特にスケジュールを決めないのんびりした旅になる予定だったが、毎日おいしいものを食べたりベタな観光に行ったりしていたら案外いそがしく、6日間あっという間に過ぎてしまった。

帰ってきてからは梅雨に入ったこともあり、ほとんど家から���いていない。来週からは本格的に遠出ができなくなる。昨日けいたくんに再来週金沢に一緒に行かないかと誘われたが、ネットで色々調べ、破水があった場合面倒なことになりそうなので断った。行きたいのは山々なのだけれどリスクが大きすぎる。変わらず動けるけいたくんがうらやましくなる。

体は新たなフェーズにはいって、横向きでも背中の中央あたりが痛いので、もう水中かうつ伏せしか楽に過ごす体勢がなく、特に眠るのに困ってしまっている。股関節というか恥骨もいたい。夜は２日に一回くらいしか眠れず、毎日夜明け前の青の時間のタイミングでは窓から外を見ている。朝7時頃寝るのを諦めて朝ご飯を食べ、掃除や洗濯をして、そのあと1〜2時間眠ることができる。昼前に起きて昼ご飯を食べ、午後もうとうとしたり、プールに行ったりし、夕方やっと目が覚める。夕飯後は映画を見たりして過ごし、深夜に軽食を取ることもある。何か食べるとわりと眠れる。体重はどんどん増える。

昨日から唇にブツブツができた。ストレスによるものらしい。鏡を見ると顔がまんまるで、妊娠中だけのこととわかってはいても落ち込む。すでにプラス15kくらいになっている。経験者によると、産んでもほとんど減らないらしい。運動できないストレスがかなり溜まっているので、産んだらジョギングと筋トレを早いうちに再開したい。

時間があるのだから、全美の仕事とか、読書とか家事とか、もう少し生産的なことをするべきだししたいと思うのだが、体と気力がついていかないというか、気持ちが少し内向きになっている感じがする。先週の旅行が楽しかっただけに、次に行けるのはいつか、などと考えてしまって暗い気持ちになる。寝不足、体が痛い、歩くのが遅い、あまり遠出できない、という状況で、まわりから置いていかれるような感覚もある。産後はもっと余裕がなくなると聞くと先が思いやられる。産んだ後は、けいたくんと丸っと交代できたら良いのにと思う。

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妊娠9ヶ月目。色々な人に体調はどうかと聞かれる。胎児はいたって順調に成長しており、健診は毎回素早く終わる。一方の私は9ヶ月目に入り満身創痍。不眠、腰痛、体全体のかゆみに疲れ果てている。夜は知らないうちに唸りながら体をかきむしって服を脱いでいる。服はしばらく前から縫製が肌に当たらないよう裏表逆にして着ているが、夜はそれでも耐え難い。1時間毎に起きて全裸のままふらふらとトイレに行き、寝る姿勢も苦しいのでそのまま部屋の中で立っていると、自分が進撃の巨人に出てくる醜い巨人になったように感じる。妊娠前から13キロも増え、腹以外にも脂肪がついているが運動もできない。

おそらく多くの妊婦にとって大変な苦痛であるつわりと切迫早産のいずれも被らなかった(つわりは多少あったが)私の妊娠生活は、楽なほうだったのだと思う。だから、体調はどうかと問われた際、「不眠と腰痛くらいであとは問題ありません、胎児も順調に成長しています」と答える。だいたい「それは良かったね」とか、「産まれてからの方が大変だからゆっくり休んで」とか言われる。未来ある胎児が健康なのが一番、という風に。でもここがつらくて、と今の私の不調を話すと「妊娠は病気じゃない」とか「体が重いのは子供が元気に育っている証拠」いう決まり文句がくる。胎児の健康は私のエネルギーを消耗することによって成り立っているというのに、私の体には目を向けられない。きっとこれからどんどんこのように、私は子供の保護者として見られるようになるのだろう。

生物的にも社会的にも大変な変化を経、自分も胎児も死と隣り合わせの状況を10ヶ月続けているのに、それをウォッチする妊婦健診も、出産にまつわる費用も、出産後のケア費用も、基本は保険適用外の自由診療だ。確かに出産は医療というより福祉にまつわる領域なので、住んでいる自治体によって方針が異なり、補助額がまちまち(金沢にいた時より高崎のほうが費用負担が大きい)。ちなみに妊娠中絶も同様だ。この間見た映画「17歳の瞳に映るもの」はその点わかりやすく、中絶手術をする際の保護者の同意をさけるために、主人公はペンシルバニアからニューヨークへと移動することになる。それぞれの地域の持つ宗教的な色により、自治体や病院のサポート体制が異なっているためだ。主人公は公的な保険ではなく、私的なファンドによって手術費用を賄うことになる。また時期的に中絶が難しい場合、里子に出す制度がすっと勧められていた。日本ではそのような救済の選択肢があるだろうか。人の健���や成長は直接的に政治の影響を受けるものだと感じる。

動くのは家事と買い物くらいで、あとはだいたい寝ている。夜眠れない分、昼ずっと眠い。映画は見られるが本はほとんど読めない。たまに、母がプール、けいたくんが散歩に連れて行ってくれる。

プールでは唯一負担なく運動できるので、行くと気持ちが晴れる。連休中など子供たちと行く時は家族連れで混んでいるプールも、平日昼は大人のひとり客ばかりでリハビリ施設の様相。すいていて泳ぎやすい。私の体型を見て、スタッフや知らない世話好きのおばちゃんが声をかけてくることもある。障がい者になったように感じる。そしてそれは正しい。結局バッヂはつけなかったが、電車では迷わず優先席に座るようになった。

妊娠を伝えていなかった知り合いにたまたま会うと、見た目でわかるのだろうが奇妙なほど気遣われる。意外と結婚のことなどは聞かれない。聞かれて「事実婚なんです」と答えると、そこでもまた気遣われる。聞いてはいけないことを聞いてしまった、というふうに黙るか、何かを勝手に解釈して「新しいね」などと感心して言う。ただ苗字を変える手続きをしていないだけだし、特に新しくはない(両親も兄が産まれる頃まで入籍していなかったことをたまたま知った)のだが、みな何も考えずに入籍しているのだろうか。家制度なんてもうとっくにリアリティを失っているだろうに。

けいたくんはいつも以上に忙しくしていて、たまに予定が入っていない日があるとずっと寝ている。そして頻繁に体調を崩す。心身ともに弱っているようで心配。出産前に運転免許を取ると張り切っていたが、教習所は結局まだ2回しか行っていない。リラックスして生活のリズムを整えたい。

今週末、連休をとって、約一年ぶりの旅行にいく。けいたくんにとっては久しぶりのストレス解消の機会で、私にとっては出産前最後の遠出になるだろう。移動時間が長いとなにかと困るので、近場ではあるが海に行けるのでとても楽しみにしている。海に関連した名前をつけた子を迎える前に海を見に行けるのはとても良い。出産に際して自分が死ぬ可能性を考えると、最後の思い出の場所としても申し分ない。この3年ほど、とても幸せだった。子が無事に生まれたら、海の風景とともに記憶されると良い。

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妊娠後期に入り、いよいよ腹が大きく膨らんで完全に不眠。23時頃布団に入ってから夜明けまで、30分から1時間毎に起きる。胸や背中の辺りがむずむずしてうーうーとうなり、叫んで起きることもしばしばある。日が昇る頃にやっと連続した眠りに入れて、9時頃起きる(しかしこのタイミングで家族が起きるので入眠できないこともある)。昼に突然エネルギーが切れて眠くなり休憩したりする。

おとといようやく引っ越しが終わり群馬に来て、荷物の整理や諸々の手続き、受診などをしている。そうこうしているうちにゴールデンウィークがやってきて、それが終わってやっと生活が落ち着くのだろう。

昨日市の母子健康課に妊婦健診受診票の手続きをしにいった際、入籍していないが生計は一緒なのかと聞かれ、今は完全に折半していると言ったら、今後子供のお金がかかるようになったら大変になるから考えてみてください、と言われた。具体的にどう大変になるのだろう、と母に聞いたが、入籍と生計を一にしているかどうかは関係ないという話になり(「生計を一にする」ということの意味がいまだにわからない)ついでに両親も兄が小学校に上がるまで入籍していなかったことを知った。未入籍の状態において、子が遺棄されていると民生委員に主張することにより、ひとり親家庭の補助を受けていたとのこと。私と発想が同じじゃないか、と思う。ひとり親であることの証明として、今は民生委員が出る幕なく、医師や警察署で発行される証明書が必要になるようだが、戸籍謄本で十分かもしれない。

夫婦別姓の裁判、上告は棄却されたが、判決文で裁判官が憲法違反であることについて長い文章を出しているのを読んだ。そこには別姓が選択できないことで事実婚にならざるをえないカップルが、法律婚による税制の優遇を受けられないのは不当だという主張も含まれていた。

たしかに扶養控除はないが、かわりに寡婦やひとり親家庭として認定されたら税の控除や医療費補助があるので、税制的にそこまで不利益を被っているのかはわからない。あと具体的な不利益として考えられるのは、病院での「家族限定」の面会や告知的なものだけれど、そのへんも別に戸籍を見られるわけでもないのだからどうにでもなりそうだ。それよりも、離婚ではなく未婚で出産し子育てするという状況が社会的にほとんど想定されていないことに伴う支障の方を感じる。産休を報告すると、え、結婚してたの？と聞かれ、していないんですと答えると、触れてはいけないことのように気まずい反応をされるか、良いように解釈され賛成されたり、稀に怒られたりする。いずれにせよ聞いた人がその人なりの未婚理由を想像して反応しているわけなので、そのあと言い訳めいて理由を説明してみる(深い理由はないんですと言うくらいだが)が正解がわからない。

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今日も11時頃布団に入ったものの2時前に起きてしまった。それからネット記事を読んでウトウトして目を閉じ、20分後くらいに起きるを繰り返して5時を過ぎた。本格的に不眠。生活の変化といえばカフェインレスコーヒーをがぶ飲みするようになったことくらいだが、それが原因とも思えない。腹は動いている。トンカツと餃子を思い浮かべている。朝になったら消えている謎の食欲。

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京都に来た。夜寝づらくなってきたがまだ650gなので、あと5倍も重くなると考えると体が耐えられる気がしない。動けるのも今のうちだと思い、日帰りで内覧会に来た。サイズが大きくて着ていなかった黄緑色のワンピース、綺麗な色なので処分できずにいたが、はからずも腹が出てきた今ちょうど良い。春の陽気がここち良く、おしゃれをする気持ちになる。群馬の春を思い出す。

時間が余ったのでドラッグストアをぶらつく。マスクが必須になり、口紅は耐久性に鎬を削っている。普段は隠されており、飲み物を飲んだりご飯を食べる時だけちらっと見える部位に色をつけるという行為に不思議を感じる。飲み物を飲んだりご飯を食べる時口元は汚れるので、ナプキンなどで拭われて色は消えてしまうのだ。だから今口紅の役割は、隠された色がそこにあることを付ける人が自覚している状況にあり、まるで勝負下着のようだと思う。わたしは日に何度人前でマスクを外して口元をあらわにするのだろう。

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最近、動物が家に入ってきて仕方なく保護する夢を見る。ぞろぞろと家族で入ってきたり、なかには怪我をしていたり、死んだりするものもある。夢判断で調べたら、ペットを飼う夢は育児の象徴と出る。わたしがみた夢はペットを飼うというのとは印象が違うが、わたしにとって育児は確かに動物保護と感覚が近いのかもしれない。勝手にわたしの中に入ってきて、出て、自由に動き回り、弱く、保護を求める者。求められるとわたしはそれを断れないし、近づかれるとうれしい気にもなる。

思い返せばわたしの周りの様々な人間関係がそのようであったとも思える。一人暮らしをはじめて15年も経つが、だいたいの期間招いてもない居候が家にいた。ほとんどの場合彼らは強引に入ってくるのだが、わたしは拒絶したり追い出したりすることはなく、どちらかというといて欲しいと思った(だから彼らもいた)。期間が短いときはあまり問題なかったが、長期になるほど、家が狭く、距離が近すぎて苦しいと感じた。どちらかが外に出る時間が増え、共同生活は終わった。

けーたくんもあまり変わらないのだが、彼はもっぱら共同生活しかしてこなかっためその継続の術に長けていて、わたしがうんざりするタイミングできちんと関係修復に努めている。そもそも継続に対するモチベーションが飛び抜けて高い。そうして維持する人的ネットワークによってサバイブしているのだから切実だと思うが、飽きやすいため定期的に切断している様子も見える。わたしとの間にも会って3年くらいで明らかな切断があった。2年前、自分で作った会社とうまくいかず、憔悴したほぼ無職の彼が突然金沢にきた。たぶん当時の彼にとって、わたしの家は普段のネットワークの外の飛び地のような位置にあったため、シェルターとして機能したのだろう。わたしは野良猫を保護したように感じていた。自分の家やお金や時間は、友人の回復のために使うべきだと思った。

数ヶ月かけて、保護ではなくフェアな共同生活の形をとるようになり、2年が経った今2人で別の生物を家に迎えようとしているのだから成長したと思う。彼は教育に高すぎるくらいの関心を持っていて、保護が基本のわたしとはかなりスタンスが違うと思う。今のわたしは子供のことより自分の健康が大事だ。

料理以外の家事をもう少しできるようになると良い。

[kanglewangle]

けーたくんが1週間ほど東京にいる。2人で生活するようになって2年がたつが、最近の彼は2割金沢8割東京だから一緒にいる時間の方がはるかに短い。 1人でいるときは退屈だが、1人でいるな、と思うだけで、けーたくんのことは遠い他人のように忘れがちになる。コミュニティが違うからかもしれない。共通の知人はいるが、重なりきらない。

突然、明日共通の知人と金沢でスキーに行くと聞いた。男女4人で旅行のようで羨ましいと思う。行きたかった、と言ったら、行く？と言われるが、突然休みになんてできないし彼のコミュニティの人たちと行っても居心地が悪いだろう。わたしは体的に行けないからなのか、あるいは半分仕事ととして考えているから言わなかったのかもしれないが、直前に聞かされ、そもそもいつ金沢に帰ってくるかすら知らないことを寂しいと思う。だからもう知らなかったことにして、わたしはわたしの仕事をしなくてはならない。その上産院を調べたりもしなくてはならないし、病院にも行かなくてはならない。個人の用事も家族の用事もわたし1人でしている気持ちになる。

FBで出産した知り合いのポストを見る。CTOであるその人の夫が育休を取ったことがネット記事になっているとのこと。妊娠と出産と授乳は避けがたく女性が担わなくてはならないから、改姓やその他育児の負担は夫の方が多く担うのがフェアだというようなことを書いていた。最近同じような主張はよく見る。たしかに負担である。大きな痛みと物理的に傷を伴うし、仕事は休むことになるし、時間も金も体力精神力も大きく費やすから、ここにアンフェアがあると不満がたまることだろう。しかしそこまでフェアさを求めるなら、妊娠中のアンフェアまで意識してほしい。妊娠は女性が避けがたく担うという時の妊娠の負担とは、単に物理的な痛みだけではない。定期検診や、日々の体の変化への対応、これからくる出産育児に向けさまざまな準備をするとき、未経験の痛みを伴うイベントに向かいあうストレスがある。これが孤独であるとストレスが倍増する。たとえば産院や分娩、その前後にある手続のことを調べ準備する時間と手間は2人で担えるはずではないのか。昔のように男は外で稼いでいるから家のことは妻が担うのだというわかりやすい分担があるわけでもない今、男性はなにを担うのか。わたしはやはり出産というイベントをわたし個人の身に起こるものと考え、1人で負担する心持ちでいるべきなのか。

最近ツィッターがアルゴリズムによりわたしに向け積極的に「マタ垢/育児垢」と呼ばれるものを表示するようになった。妊娠出産育児中の女性が主にその不満や不安をぶつける場所だ。アカウント名に共通して子供の月齢と性別の絵文字が入っている。はじめはその人のアイデンティティが妊娠や育児に占領されているようで怖いと思ったが、日常的に見るうちに、これは一時的に必要なコミュニティなのだと思うようになる。妊娠中に知ったのは、妊娠も出産も個人の内的な経験として起こるために、世代やその人が今どの段階にいるのかということで、経験する内容や必要な情報が全く異なることだ。あるアカウントがマタ垢を学校に例えていて納得が行った。妊娠初期、中期、後期と進んでいく中で歩みを同じくする人たちがいて、段階に応じて各自の経験を共有することで、知見を得るとともに孤独な戦いを乗り切るための力としている。そしてたぶん妊娠から3年くらい経つと自然に必要がなくなる。卒業するのだ。家族や地域コミュニティのサポートが受けづらい環境、コロナによって物理的なあつまりがしづらくなっている状況、それでもつながるために必要なものとしてマタ垢はある。