kksyukditn

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元々一緒に居るのは居心地が良かったし、楽しい事は何だって共有していた。いつしか嫌なことがあった時は肩を支えてもらい、悩みは咀嚼しやすいように柔らかくしてもらっていた。そこには何の違和感もなく、当たり前に受け入れてもらってたし、受け入れていた。向こうも多分そうやったと思う。

そうやって時間が経っていくと、気付けば俺の中で特別な何かが芽生え始める。初めはなーんでコイツに、とか天邪鬼な自分。そんな自分とは裏腹にやっと気付いたのね！と爆速で膨れ上がる気持ち。そこからまたウダウダあって、今に至る。

いつもみたいにソファーに並ぶ。恋人は仕事に忙殺されてしまって、全然観れなかった溜めに溜めたドラマを消費するのに必死だ。久々被った丸一日のオフ。色気もクソも無い。今更何を求めるって話やけど。

手元には、1週間くらい前に一緒に食べようとウキウキしながらレジに並びに行って結局タイミングを逃した春限定のポテチと、食べるのを今か今かと待っていたであろうチョコレートアイス。これも限定らしい。限定に弱すぎるやろ、女子か。ほんまにしょっぱいと甘いは永遠やな…、なんて何その顔。プライベートじゃ本当に年上か疑うほどふにゃふにゃで、しっかりしてるように見えて生活スキルは俺の方が上と来た。(掃除だけは変に細かい。)現実なんて見えとるモンが全てとは限らんねんぞ！とテレビの前の声も届かぬ君へ。一生コイツのこのツラを届けるつもりは無いけれど。

「そう言えば淳太って意外と甘いの好きよな。」

何気ない会話の切り口だった。

「俺別に元々苦いの好きちゃうよ。ミルクチョコの方が好きやもん。」

はい？車の中で苦いチョコ食べてたやん。

「あれは目覚ましの為に食べてただけやで。にっがって思いながら。」

は？じゃああの時…！

「あの時…？」

あの時は「袋空いてへんかったから開けたっただけや！欲しいモンないといっつも泣くから！」っていつもみたいに言ってしまった。となるとやっぱりコイツは。

「あー。あったな！バレンタインやろ？あの時はめちゃくちゃ眠たかったから苦いの食べたかったんよな。ご馳走様、しげ。袋開けとってくれたんやろ？」

…はあ！？あの「ふーん。」は何？！意味深に目を合わせたのは何！？肩に手を置いたのは！？全部何やってん！？！？！？

「お菓子ボックスやったけど、バレンタインの日にしげからチョコ貰ったから何となく覚えてんねん。しげもよう覚えてんなあ。」

きょとんとする俺に、もしかしてあの頃からー？とかムカつく事を言ってくる。もっと前じゃボケ。お前が想像するよりも遥か前じゃアホ。

そんな表情が全部出てしまって居たのか、調子に乗ったヤツは言う。

「“あれ”がしげからもらった最後のバレンタインかー。恋人になったら何も無いのかー。釣った魚には餌やらへんタイプなんかなー。」

その顔���半端なく腹が立つのに、いつもの様には言い返せなかった。なんせコイツは付き合ってから毎年俺と一緒に食べると言って長ーい名前のお高いチョコ買ってくるのだから。

「…好きなご飯何でも作ったる、よ。」

どうせぶつくさ言われると思った。お返しにもならんと。けど俺は思ったより愛されていたらしい。

「えっ！！ほんま？しげご飯！？何作ってもらおうかな。まずはハンバーグやろ。それで中華はあれかな…。」

今まで作ったご飯がスラスラと出て来る。何よりそれはとても嬉しそうで、恐らくあまじょっぱいの連鎖に勝ったらしい。そんなに嬉しかったのか。いやいつも作ってるやん。けどやっぱりそれはかなり嬉しいもんで。

やっぱりこの幸せそうな顔は誰にも見せる訳にはいかなそうだ。

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俺この男大好きやねん。その理由を話そうのコーナー。

まさに美、という言葉が当て嵌まる。宝箱の中に入っていても違和感が仕事をしない。寧ろ馴染んでるし、なんなら奥底に眠るアレキサンドライトのよう。

けど、一言喋ると忽ちそれはびっくり箱になる。楽しくて面白くて、何が飛び出してくるやら。人を楽しませようとする事に全振りしてるのかってくらい愉快。少年の様な無邪気さで、こっちこっち！と手招きをしてくる。着いて行った先はワンダーランド。やっぱり楽しいという記憶だけそこに残る。

一度思い出した時に感じた"特別"がある。なかなか忘れられへん人って誰しもおると思うし、それは色んな意味合いがあると思う。この人の場合はふとした瞬間に思い出す青春の一コマに浸る、あのノスタルジックな感情。これは共通認識やけど、同じ高校生活を過ごしてた記憶がそこらへんに落ちていて、それも違和感が無い。空き時間のベコベコボールでのサッカー、購買の焼きそばDXパンの争奪戦、放課後の汗だくパピコ交換会、修学旅行で夜中抜け出して反省文5枚…とか。ね、あるやろ。無い？お亮も多分今これ笑って見てると思う。あるわ！って。

ね、やから俺素直に嬉しかったの。あとは気づけへん自分を悔やんだ。その時に咎めたり、質問したりする必要性はなかった。何故なら、この男は基本人の為を思って動いてるから。その人が起こした行動ならば、何か意味があると思っていたから。とにかく優しいねん。それが人柄にむっちゃ現れてる。向いてないんだよなあと呟いたあの言葉は俺が代わりに飲み込んでおくから、無理せず好きに生きてくれよ。幸せになって欲しい男ランキング上位。その笑顔を近くで見せて欲しいランキング殿堂入り。

俺は貴方が思うより貴方を見てるよ。とだけ添えて。

サンキュー、青春の相棒！！！！

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真ん中に出来たニキビって潰さん方が良えで。奇跡の撫で肩に言う。分かってるけど気になんねんもーん！と季節外れのルドルフばりに鼻を赤くしたうまづ…濵田が伸びをする。甘い物が好きな男にとってなあ！バレンタインデーは最高なんや！パラダイスや！とニキビの根源をまた口に運ぶ。こうやって喜んで食べてくれるから、渡す方も嬉しなるやろなと他人事の様に思う。

そもそも付き合ってから渡すバレンタインデーって恥ずかしいやん。っていうか、この場合どっちが渡したら良えのかも分からんし。いつも貰ってた側やし。どっちでも良えのか、ようは気持ちやし。っていうかはまちゃんやったら渡してくれるんちゃうか、サプライズ好きやし。別に俺が渡さんでも。それに周りの人もくれるやろうし。とかなんとか勝手に悩んだり妄想したり照れたり迷ったり優柔不断な自分が顔を出し、バレンタインデーはあっという間に過ぎてしまった。お互いがお互い同じ事を思っていたのか何なのかも分からず。それすらも顔に出さない辺り、ただやはり結局俺達は似た物同士なのだと思った。

丁寧に包装されたチョコレートをまじまじと見つめながら、宝石みたいやなあ。キラッキラしてるで、しげちゃん見てや。と詰め寄って来る恋人。口に出して言う事は1000000%無いが、こういう人懐こいところは可愛いと思う。そして、その可愛さは俺が出したものではないと気付くと、優柔不断な自分を紙に包んで捨ててしまいたくなった。包装紙を取っても尚、綺麗な色してんな���模様まで素敵！とヤケにご機嫌である。

「そんなん見してくるって事はオススメしてるって事？食べるで、はまちゃんの指ごと。」

ってね。いや俺もほんまに食べるつもりは無かったんよね。避けへんから、一瞬迷ったけどええかなって思ったんよね。そう考えている間にもこのプラリネは、口の中に広がるの滑らかな甘さ、仄かに香るラズベリー、舌触りの良いペーストが味蕾を悦ばせている。相当良えもんもろてますやん、濵田さん。へえ。

「…これむっちゃ！めっちゃ！very！so！楽しみにしてたのに！！！」

あー！うわー！と嘆きながら肩を揺さぶって来る。ごめん、ごめんなと流石に出すにも出せず。いや出したくはない、美味しいから。といっても申し訳なくなる。しかしこの美味さを味わった顔を見なくて良かったとも思う。性格の悪さが滲み出てしまう。珍しくぷりぷりと怒り、肩がちょっとらしくなってきた時はもう謝っても許してはくれない。

少し経った後、横を気にしながらご馳走様、と言った時には他のチョコレートを口にしながら「ほひひかったやほ…。」(美味しかったやろ。)ともぐもぐしていた。ああ、もうご機嫌取りみたいやけどさ。遅れてもうたけどさ。やっぱ何かしてあげたいって思うよね。結局許してくれる優しさにしがみついて、甘えて、居座ってしまうところが悪いよな。そう考えながら寝室へ向かう。俺は今めちゃくちゃ俳優の顔をしている。そうでもしないと、きっと全て顔に出てしまうから。棚に隠した君の愛する場所のチケット。チョコレートの償いとして、我が儘全て聞いてあげよう。「遅くなってごめんな。もうバレンタインシーズン過ぎてもうたけど、次の休みに僕とどうですか。」

(principe_viola)

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今日は生憎の雨だった。「やっぱりさ、バレンタインデーって何か特別な感じするよね。」パーソナルスペースの密接距離と言われる50センチ離れるか離れへんかの距離に座る君。そらそうやろ、男の一大イベントやからな。と覗き込む顔に相槌を打つ。その一大イベント真っ只中、ここに居るのは男2人。「…まあ義理チョコ7個やけどー！君に出会えたから良えか！」と帰り道に駅前のガチャガチャで見つけた幼児菓子の動物キャラクターの小さな置物を人差し指で撫で回して言う。やっと出会えた運命らしい。

「俺は10個ー！イエーイ！」

「はいはい、貰いたい雰囲気作ってたもんな。はいはい。」

「貰ったら勝ちやねん。結局な！」

普段部活の時に使っているエナメルから、担任の目を掻い潜って渡してくれた(黙認しているが)戦利品達を取り出す。普段は思春期の肌に気を使って余り手に取らないが、今日は特別だろう。本格的な女子力が垣間見える歪なトリュフ、チョコを溶かして固めて上にスプレーを散らばせた大量生産型ザ・義理チョコ、几帳面な性格が艶に表れているチョコレートタルト、等見ているだけでも博物館にいる様でとても楽しい。みんな頑張って作ってくれてんなーと机の上に並べる。そこに一つ、隠し切れず漏れる特別感を放ったチョコレートがあった。というのも"重岡くんへ"と書かれた手紙が添えられているから一目瞭然。ラッピングも100均よりLO⚪︎Tとか東⚪︎ハンズで売ってそうなちょっと良さそうなやつで。手渡しされた時に感じたあの緊張感、「ありがとう。」と絶妙な返事。浮かべる涙と遠ざかる上履きの音。チョコを貰うのは良いが、人の気持ちが覆い被さるストレスはどうしても拭えない。物好きもおるもんやなー、なんて。シゲにチョコの数負けたー！とライオンの形をしたマスコットを置いて嘆く君。その距離約30センチ。

真面目で運動も出来て(球技は苦手だが)、優しくて、兄妹にご飯作ったりなど面倒見が良く、それでいて笑顔は可愛い。対して俺は万年2番目のクラスのお調子者。神ちゃんに渡らんかった本命合わせたら俺よりあるんちゃう、の言葉は悔しいから溶かしてスプレーと共に麦茶で流し込んでやった。実は……な一面を知ったらなんて考えていたら、遠くから女子の黄色い悲鳴が聞こえた様な気がした。そんなバレンタインデーのこんな時でも2人揃ってカレーにはライス、夜には月、目は2つ、くらいのナチュラルさで俺の部屋、こじんまりとしたソファーでひたすらゆっくりと過ごしている。そして女子の魂を貪り現代版ストリートファイターズをしながら、部活無くてサンキューー！と雨に感謝をするアオハル。

それさあ、と画面から目を離さず呟く金髪、揺れるピアス。付き合いの深さと長さ。異彩と良い香りを放つ手紙を指しているのだと悟る。すかさず、神ちゃんが帰ったら読むよ。と告げる。画面の中に居るソニックが動くのをやめ、戦いの場から姿を消し遠くに飛ばされる。ゲームセット。戦線離脱、をした。コントローラーを机に投げ、「嫌。」と呟く可愛い俺のもの。誰が予想するのだろう、あの爽やかで優しく、母親の様な愛情を持つこの子が黒に塗れた欲望を持っている事を。赤を被って顔を濡らしながら包まれる事を。この部屋が無いと壊れてしまう程に、ブレザーをしわくちゃにした夕暮れを。顔を杏に染め、高く響く鼻腔の奥、決死の闘いを挑んだあの子の希望をいとも簡単に破る。俺も読む気は無かったけど。敢えて見える所に置いてその反応が見たい、なんて余りにも趣味が悪い悦びを感じる。こうなったのもいつからだろうね。ソファーの下に転がったライオンは俺たちを見ている。撫で回されたその頭、むしゃくしゃするなあ。その距離わずか数センチ。

(star71lily)

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余りにも隙が無い。それは抜けていないという訳では無いし、むっつりの変態ではないという訳でも無い。後者に至っては寧ろド級のむっつりである。それ故にこの男が口にする「モテる。」という常套句はほんまに意味を成さない。それなのに彼には隙が無かった。

有難い事に毎年お世話になっているスタッフさんからチョコレートを頂くのが習慣になっている。大人になっても続くこの習慣は年々抱く意味合いが変化して来ている。学生の頃は喜色満面、高揚感と少しばかりの下心が全身を巡っていた。そんな青春も今では大変やな、と労りの感情が顔を出す様になった。ソワソワするのはおっさんになっても変わらへんねやろなとは思うけど。やっぱ男のロマンとして血が騒ぐし。それは彼奴も同じやろうし、何ならまだ現役でソワソワしているだろう。ホワイトデーのお返しも全員彼女かってくらい"マジ"なのだ。本気と書いてマジと読む！と長ランにクソダサい夜露死苦！の鉢巻を想像して欲しい。なんと容易い想像。そしてマスクの下に隠れた鼻は伸び切っている。俺はその顔をイライラしながら横目に見ていた。その個人的に貰ったそれは義理やし、そのお返しがちゃんとし過ぎているからお前はモテへんねんぞ。っていうかそのスタッフさん此間彼氏出来たぞ。その対応は恋愛体質の女の子からやったら好かれてたやろうな！残念やったな、ワハハ！…いや早よその手を退けてくれ！と脳内で繰り広げられる目も当てられぬ独り身の独り言。俺の中でバレンタインデーにこんな憂鬱が侵食してきたのは2年前。鼻の下を伸ばす彼奴への気持ちに気付いたのがちょうどこのバレンタインデーだった。何でこのタイミングで、しかも此奴で、しかもメンバーで、しかも男で、しかもこの唇で、しかも運動出来ひんし、しかもモテへん奴に、と溢れる疑問は雪崩れるがその答えは手元に一つしかなかった。

「淳太疲れてんちゃん。糖分取れ！糖分！ほれ、チョコ。」

俺が今日此奴にチョコレートを渡す事なんて出来ない。��ちゃんやったらバレンタインやから作ってきた！とか言われても何一つ違和感が無い。そもそもそんなキャラちゃうし、不思議がられるだろう。体調悪い？とか照史辺りの声が再生される。そこで思い付いたのはいつもマネージャーの車に置いてあるお菓子BOX。ここからチョコを渡せば、自然に仮物のバレンタインになるのではないか。そう思った。そう、思いたかった。本を読みながら眉間に皺を寄せる淳太にカカオ76%のチョコレートを投げる。いつもみたくふざけた口調で渡してみたものの、心臓は血流過多でいつしか星形になるんちゃうかと思うほど飛び跳ねていた。そんな目細めてたら老眼進むぞとか、顰めっ面してたらハゲるでとか、緊張からくる饒舌は視線も相まって余りにも不自然だった。

「ほんまよう喋るな、バレンタインやから浮かれてんのか。…っていうかしげ、このチョコ、今日入ってたっけ。」

やっぱりこいつには隙が無い。この勘の良さはどうしても好きにはなれへんのに、誰も気付かんような所を見透かす此れが期待を孕ませる。特別な感情を抱いている相手に渡すのは少しでも拘りたい性分。勿論自分の気持ちを押し付ける様なチョコレートは忍ばせられない。となると入ってそうで実は入ってない、でも淳太が疲れた時に偶に食べているこのチョコレートがベストだった。のに此奴は。奥の方に残ってたんちゃう、穿ったら出てきたし。後ろに神経の全てを集中させ、流れる景色を隔てるガラスを一点に見つめる。ふーんと気の抜けた返事の後、封を切る音がした。こんなもん。ただの日常やのにな。そこには特別な意味を持たないのに。「やっぱこれが一番やなー。」嘯いた様にそんな。悔しくもこの唇が放った一言が背中から全身を凄烈に、それでも細れに広がる。車から降りる時ありがとう、しげ。と肩に手が置かれた。目が合った時何かが萌したような熱さがあった。もういっその事、そこに入り込んで潰れた方がこじ開けられるのかも知れない。

(opallo21)

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「今日も寒いー…。」昼下がりにベッドから顔と手をひょっこり出して、ピーマン食べたんかってくらい渋い顔。遅い、という不貞腐れた感情をぶつけたい気持ちは寝顔を見てゆるゆるに解けてしまっている。インドアぐうたらタスマニアデビル系の恋人と同じ朝を迎えてもう半年が過ぎる。付き合う前からゆったりのんびりしている君を知ってはいたけど、最近拍車が掛かったのではないかと思う。2人でやれば続くやろ！と意気込んで始めた一昨日のストレッチで早くも筋肉痛を迎える寝起き。あの渋い顔はそれやったか。「鈍り過ぎちゃうか、もっとしごいたるわ。」そう言うと激しめのアレ、そう「なんでなん！」ぷりぷり怒る恋人を尻目にそうそう、それが聞きたかったんよ俺。と御満悦。少し経てば俺の性格を熟知してか眉毛を下げながら「今日の夜はちょっとは優しくしてね。」という何とも言えへんセリフに、ごくと喉が鳴るくらいに唾を飲み込んだ。男心is余りにも擽り上手。それ他の人の前で辞めてね。

「そう言えば今日は何の日でしょうか。」

暫く経ってさむさむ、とボソボソ呟きながらパタパタとスリッパを鳴らし同じブランケットに入る恋人に問う。何気ない日々を過ごしているから、もしかしたら分からへんのんちゃうかなという期待は大外れ。速攻「バレンタインデー！！！！！」勢いが凄くて思わず笑ってしまう。その言い方ほんまに辞めて欲しい、多分棺桶入るまで俺は君のそれに笑ってられると思う。まあチョコレート好きやからそら忘れへんか。ひょいとソファーから出て、食器棚の奥につま先で立ちしながら自分の身長と食器棚の奥行きと格闘したのち、綺麗にラッピングされた箱を鬼退治後かってくらい清々しい笑顔で持って来た。結構長い時間このマンションで時間を共にしているはずやのにいつ作ったんやろうか。GODIVAなんか比じゃないくらい高級やろ、このチョコレート。ありがとう、と紐を解き箱を開ける。中にはココアとプレーンのアイスボックスクッキーとメレンゲクッキー、チョコレートが掛かったフロランタン、スノーボールが入っていた。

「今年は直接渡せるから手作り！しげはな、冷蔵庫よう開けるから、ガトーショコラとか生チョコとか作れへんかったんよ。やから常温で保存出来るクッキーとフロランタン！作ってへんと思ったやろー。サプライズしたかったから隠すの大変やったんよね。変なところ置くん嫌やからめっちゃ緊張した！食器棚の上ってしげ絶対覗かんやん？やからそこに隠してました！」

めちゃくちゃ喋る。堰を切るように口が回る回る。もう言いたくてしゃあない気持ちがビシバシ伝わってくる。これだからこの子は可愛い。完璧主義の君だからめちゃくちゃ拘ったのだろう。サンプル品のような綺麗な四角と丸、そして均一に掛けられたチョコレート。どれだけの時間を割いて作ったのだろう。ここ最近ちょっと肌が荒れていたのは作ったのを食べてたからか、と納得する。そして感心したのは俺の行動と導線をよく見ているところだ。「しげマスター！」と得意気に笑う君の声が過ぎる。

「なあ神ちゃん。俺もあんのよ。バレンタインデーのプレゼント。」

えっ、どこどこ！どこにあるんやろ。えー、気付かんかった。何やろ、GODIVAかなー、ピエールマルコリーニかなー、いやしげの事やから色々調べてジャン＝ポール・エヴァン…？と推理をする逆コナンくん。そのサインコサインタンジェントみたいな字面のチョコレートはご用意しておりません。残念、名探偵。夜ご飯でーす。ディナーや、ディナー。レストラン寄る前に見て行きたいイルミネーションスポットあんねん。まだ13時半やからちょっとゆっくりして部屋の掃除したら行こうか。そう伝えると口をぽっかり開けて「でぃなー…？」と一言。直ぐにハッ！として準備を始めるために隣を離れようとするタスマニアデビル。もうちょっとゆっくりしようやと腕を掴み引き寄せる。

「あかん！！！準備時間掛かるねん！なんか、ほら…な！！掃除はするからしげはそれ食べてて！！」

そこそこの至近距離、そこそこの勢いで、そこそこの力を使って俺を剥がしてクイックルワイパーを掴み始める。いつもなら眉下げて「もう、しゃあないな。」と甘やかしてくれるのに。(後に甘えて来る。)今日の彼はいつにも増して本気だ。「何着よう…！そんな良え服無いー…。どうしよう。あっ、あれ。んー…。」下の階の人とこんにちはするくらい、床を擦り続ける君を眺めながら「いただきます。」と呟く。しゅわ、と溶けるスノーボールの舌触りに参ってしまった。残りは明日に取っておこう。甘く蕩ける君が居る事やしね。

(fiemk7)