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Saltuarius salebrosus
属名のSaltuariusというのはその昔のローマ帝国で森林を管理する役職を呼んだもので、彼らは森林を監視し、侵入してきた蛮族や密猟者の蛮行を防ぎ、現代で言うところのレンジャーのような役目を担っていた。時を下って今の豪州の森で古色蒼然と生きるこの巨大なヤモリの名としては中々相応しいのではないか。

本種は属中最大種で、頭胴長15㎝を超える。数あるオーストラリアのヤモリの中でも最大級でもある。重さではオニタマヤモリなのだろうが、本種の成体はその独特の幅広い尻尾の見た目もあって、かなり巨大感が強い。見た目からしてまるで樹皮そのものが動いている様は、自分は初見時にヤモリというよりかは大きなナナフシを連想した。
体が硬いのも実にそれっぽく、所作の全てにぎくしゃくとした刺々しさと緊張がある。触って写真を撮るときに「これ無茶弄りしたら、躊躇なく尻尾切るタイプだな」というのが手に伝わる感触で知れる。長年ヤモリを飼っているとこういうことが指先の感覚で分かるようになる。そんなことが分かるような人生が繰り広げられてきている。
今まで切ったヤモリの尻尾は両の手の指の数ではとうに足りなくなっている。そのうちに実家の裏に「尻尾塚」でも作ろうと思う。

そしてなによりもまずこの顔の良さだ。もうなんというか整いすぎている。扁平な頭部でありながら吻が長め、縦長の瞳孔が収まる目は大きく、人知の及ばぬ蒼古の知性が宿る。その小種名の元となった喉元の棘状の突起の隆起具合にしても、後頭部の張り出し具合にしても古色と蒼然がある精緻の造形と思う。良くSNS等(巨大な主語)で爬虫類を竜に例える話が流れてくると、あれを聞く度に心の中でやや強めの舌打ちが鳴り響くが、こと本種に限っては超法規的措置で許される。というか私の理想の造形をしているといった方が良い。顔が良い、ああ顔が良い、顔が良い。

3年ほど飼育したが、当初抱いていた繊細で神経質なイメージを覆し、特別難しい点はない。高さがあり、通気があるケージで、人間が汗をかかない程度の温度で飼育すれば夏場も何ということもない。というか近年の夏場のおおよそ生命の生存に適さない気温を経験し、まだエアコンを使い控えるような人種はもう淘汰され、絶滅したであろう。難しく考えず、素直にエアコンを使えば解決するのだ。
ただ、餌のサイズだけは気にした方が良く、この大きな頭部に繋がる頸部が大分細い。なので、フタホシのLが食えるようなサイズであってもイエコを与えたほうが恐らく諸々のリスクが軽減される。と、思う。

本種は属内でも高温への耐性もあるようで、そういう意味でもマダガスカルのヘラオの中でも特別丈夫と目されるテイオウヘラオヤモリ(Uroplatus giganteus)と何かシンパシーを一方���に部外者が感じる。大きさ的にも似たようなものだし、乾燥した森林に生息しているという点でも似通った部分が多い。まぁだから何だという話なんですけども。

何かに擬態する生き物というのは、どこか細く、脆く、神経質なイメージが付きまとうのだが、本種においては大体「体が硬い」という事実に全てが上書きされ、数年飼育できた今となってはほぼ気負いは消え失せた。それでも手に取るときにはいくばくかの緊張が残る。しかし、まぁそれが本種の自分にとっての価値なのだろう。
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Heteronotia binoei
私が本種を話題にするとき、その呼び名は多種に渡る。曰く「オーストラリア生態系の最底辺」「フクロモグラのおやつ」「アンタレシアの離乳食」「砂漠の米」「砂から湧くやつ」「砂利」「全部一緒」

この小さなヤモリを飼育していて面白いことと言えば、やはり単為生殖して殖えてゆくという点である。最初1匹購入して、半年ほどで卵を産みはじめ、初年は2匹しか孵らなかったが、その2匹も1年も経てばやはり卵を産みはじめて次年は合計で1ダースの個体が生まれてきた。この速度で殖え続ければ、あと10年もすればこの世はヘテロノティアで覆われ、飽食の影響でフクロモグラがアフターマン的な進化を遂げてこの星の支配者となり、ついでに何となく星辰はあるべき位置に戻り、悪夢が再びの復権を成し、ヘテロノティアを食べない人類は絶え去るだろう。

当然単為生殖なので、生き物としては全部一緒の個体である。そりゃオーストラリアで一番ありふれたランドゲッコーというわけだ。 iNaturalistでマップ検索すれば、瞬く間にオーストラリアがヘテロノティアの発見場所の赤いドットで覆われ、正直言ってその様が気持ち悪い。なんか病気の湿疹かよ。

飼育という点では何も難しいことは無い。フラットすぎて今更述べるのも億劫である。オーストラリアのランドゲッコーのバニラみたいな存在で元から頑強だし、乾燥にも温度変化にも強い。手が掛からない、という点では退屈に感じる人もいるだろう。だってまぁ、見た目が地味だし小さいし、更にやることも無いともなれば飼っているうちに存在が希薄になってゆくこと請け合いである。豪州産で単為生殖であり、適当な値段で流通する。というおおよそセールスポイントの過積載であるが、あまり国内で長く飼われているという話を聞かないのは、この丈夫さ故の存在の希薄さだと思う。やる事のなさに飽きてしまう。そして結果落としてもその退屈さに飽いてやり直さない。

しかし、このヤモリの繁殖、産卵は苛烈である。最初に飼った個体は2年目で7クラッチ14個の卵を産み落とした。この小さなヤモリがおおよそ体積にして自身の頭2個分の卵を20日おきに生み出すのである。自身の体重の3/1程度の流失が20日おきにある。命を削るどころの話ではない。体内で錬金術か何かをやっているか、別次元に繋がっているか、小人が巨大な石臼を意味も無く鞭打たれて挽いている等の疑いが濃厚である。しかも、単為生殖なので始まりも終わりも無い。彼女らの繁殖にはこちらが関与できるファクターが無い。時が来れば自動的に身ごもり、自身の体内のリソースで産めるだけ産み、それが尽きるまで産卵が続く。
場合によっては死ぬまで。

なので、飼育下での産卵期の本種に対しては産み始めたら兎に角失った分を迅速に補給し続けるような給餌が求められる。カルシウムかビタミンか、もっと直��的にたんぱく質か。いいや全部だ。私は適当にやってたら実際一尾くる病にしてしまった。幸いにしてその個体は復活してまた卵を産み始めて安堵したのだが(同時に正直引いた)しかし、そこにある種の面白さを見出してしまう。物凄く性質の悪い面白さだが、本種を飼育していての行動生態の面白さではない、如何にしてこの小さな虫みたいなやつを殺さず(くる病にせず)卵を産み続けられる様なコンディションに保ちそれを存続させられるか、みたいな生体のリソースを管理する面白さだ。

足りないものを補う。しかし相手は小さく、もちろん一度に詰め込める量は有限だ。給餌の度に吸収できる栄養素は限られている。なので目指すは効率なんだが、まぁこれが上手くいかない。サプリメントにしても一度の給餌で添加できる量がまずあり、そして摂取したとしても体内で吸収できる量は決まっている。そのうえで20日おきに来る産卵に備えて餌を詰めていかなければならない。例えば大きい餌をやるより、それより小さい餌を複数を与えた方が表面積が増えて、より多量のサプリを摂取させることができる、みたいなことを考えるのだが、前述の通り、一度に吸収できる量は一定なのだろう。産卵期の本種の健常な卵と健康な生体の両立はリソースの削り合いと言う他ない。そう焦っている間にも次の産卵が迫っている。彼女らは待ってくれないし妥協しない。

それと本種の孵化日数というのが微妙に長く、素直に2か月程度で出てこないのが微妙なストレスだ。こんな小さい生き物なんぞ1週間ぐらいで出てきてもよさそうなものだが、うちでは26度前後で80日程度で出てくる。最初に殖やしたときは出てくるまでせいぜい2か月と踏んでいたので、そこからの20日間はなかなかに落ち着かない日々であったし、何より自分がこんな小さなヤモリの孵化にストレスを感じているのが結構な驚きで、この醜い自分探しの後もやっぱり出てこないのが二重に腹が立った。そこは空気を飲んで出てくるべきだと思う。

されどこの数グラムの生き物の命運を私の給餌が握っているというのはやはり手に汗握るものである。そしてそのうちに汗は引き、ルーティンとなって流れてゆく。今や1ダースの母親になったヤモリは産み続け、卵のケースはいっぱいになって区別されず、出てきたやつから順に取り出され、また新たな卵が入る。機械的にヤモリが殖えてゆく。すべて同じ個体から生まれたクローン。

これまでそこそこの数が輸入されているはずの本種であるけど、国内CB化において性質強健、単為生殖というほぼ無敵のカードを揃えていても、あまり維持繁殖の話を聞かない訳が今回の飼育から繁殖にかけての経験で分かった。要は飼っても殖やしてもやがてその全てが作業となって飽きてゆくのだろう。そりゃそうである。産んでも育てても母親のクローンですからね。せめて孵化日数が2か月程度ならエサヤモリの道もあったろうが、80日という中途半端に長い日数ではそれも望めない。唯一のセールスポイントの単為生殖が孵化日数で埋もれてゆくのは気の毒である。でも仕方ない。それがこのヘテロノティアというヤモリなのだから。
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Saltuarius salebrosus
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Homopholis mulleri
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Philodryas baroni
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Gonyosoma boulengeri
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Saltuarius salebrosus
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Rhacodactylus trachyrhynchus
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Gonyosoma boulengeri
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インド産ユーブレ三種盛り合わせ.
#Eublepharis satpuraensis#Eublepharis#Eublepharis Hardwickii#Eublepharis fuscus#Leopardgecko#Gecko#reptile#lizard
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Cyrtodactylus jeyporensis
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Philodryas baroni
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Eublepharis satpuraensis
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Lepidophyma smithii
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Geckoella jeyporensis
虫のように殖える
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Correlophus sarasinorum
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