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資本主義でなければ生きられず、生きられない者が資本主義からは現れる
ユニバース19

彼等を不法投棄工場で働いているのを見たのは、メシアが膨大な映画宇宙を歩いている時だった。
負の力に覆われた場所にいながらも、どこか楽し気で、仲間がいることを誇りに思っている連中を見て、メシアは足を止めたのである。こんなにも強い負のスパイラルにありながら、彼等は笑っていた。
資本主義がなければ人は生きていけない。この宇宙でもそれは変わらない。だが資本主義から零れ落ちた人間たちは、這い上がることができない。一度、落ちたら人生を立て直すのは不可能なのだ。
彼等もまた、資本主義から零れ落ちた人々だった。這い上がろうとしても、紙切れ一枚で人間性まで判断され、仕事を手にすることができない。
最終的には不法なところで働くしかなかった。
メシアは笑い合う彼等の未来をしかし、すぐに見てしまい、顔を曇らせた。
案の定、未来は確定していた。仲間の一人は外国人なのだが、この島国に来るために臓器を売っていた。それが原因で亡くなってしまった。
彼等の運命は出会った時から決まっていたのかもしれない。
彼等はインターネットを使い、社会の不正者を封殺するようにふるまい始めた。
それを止めようとする刑事もまた、不遇の資本主義から零れ落ちそうになりながらも、必死に生き、零れ落ちるのを免れた女性だった。
だから彼女には彼等の気持ちがわかった。
二つの比較できる人生を見たメシアは、どちらの気持ちもわかる。だからこそ辛かった。
踏ん張って生きてきた女性と、踏ん張ることすら許されなかった男たち。
見ていることができず、メシアはこの世界を抜け出してしまった。
資本主義がこの世にある限り、人は生活できるだろう。ただし一歩でも足を踏み外した時、救ってくれはしない。それが資本主義だからだ。
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スポーツという名の代理戦争
ユニバース2

この宇宙の地球には4年に一度のスポーツの大会がある。メシアがいた地球にもオリンピックと共に人気のあった、むしろオリンピックよりも人々を熱狂させる、サッカーワールドカップである。
メシアも自国を応援したことが何度もあり、スポーツバーで少額の賭けをしたこともあった。
それも人間だった時代だから、もういつだったか思い出せないほど遠くの事だ。
この世界のサッカーワールドカップのトロフィーが、抽選者に触る権利が与えられるというニュースをメシアは見ていた。
ワールドカップの優勝杯は、優勝したチーム、関係者、国家元首以外触ることが許されない貴重なものであった。
だがそれを争い、国々がサッカーというスポーツで争い合う。
これほど国家の政治が乗っかったスポーツ大会をメシアは知らない。
彼が人間だった地球でもそうだったが、政治的にこじれている国同士の試合となれば、ヒートアップすることもしばしばだった。
顔���蹴る、ファールをしたかしないかで争い、自国のニュースでは一試合、一試合に注視する。
この時ばかりはサッカーを見ない連中も見る。
これが代理戦争でないというには、あまりに無理がある、メシアはそう感じていた。
いくつもの戦争を見てきたからこそわかる。
球を蹴るという攻撃によって、国家を背負っている。ゴールするということは、その国へ弾丸を撃ちこむのと同じことなのだ。
人の闘争心とは、どこまで行っても、どんな時代になろうと、消えることはないのだろう。
メシアはその中にもしかし希望があると思いたかった。
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救いと金
ユニバース2

メシアはチャリティーイベントというものを、人間の時代から知っている。ボランティアがお金を募金してもらい、そのお金で障害者、恵まれない子供たちなどを支援する取り組みである。
だがメシアは一つの大きな疑問にぶつかっていた。
人は金で動く生き物なのは知っている。この地球、ユニバース2が資本主義として動いているから、どうしても金が必要になってくる。
チャリティーイベントや番組をメシアが見た時、募金で集められたその金額が、本当に当事者へ全額寄付されるのか、どこかで誰かの生活費になるのではないか、チャリティー番組の製作費になるのではないのか。
実際にお金の流れをみていないから、メシアはこれを批判することも肯定することもできない。
人間のやることである、神、救世主は手出しも口出しもしてはならない。
ただそこには疑問だけが大きく残される。
日本という国には毎年、愛は地球を救う、というテーマでチャリティー番組を行っている。
様々な噂がインターネットで行きかい、そこのどこに真実があるのか、メシアはどうでもよかった。
愛は普遍的なものであり、人間の奥には必ず存在するものだと確信はしている。
だがそれで世界は救えるのか、救えたことがあったのだろうか。歴史を振り返り、愛で憎悪になったことは見たが、救えたことがあったのかを考えていた。
答えの出ない問を頭の中に抱えながら、メシアはその番組を見続けていたのだった。
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史上最初の男
ユニバース2

この宇宙の地球標準時間2021年、アメリカ合衆国と日本国を中心にある男が注目を集めていた。その男はアメリカのベースボール史に偉業を残そうとしていた。
大谷翔平。
メシアはスタジアムの観客席に座り、エンジェルスという野球チームのファンたちが熱狂するのを見ていた。
シーズンも終盤、二刀流と呼ばれる野球では、ベーブルースが偶然にも行っていた、ピッチャーとバッターを両方主力とするプレイスタイルをして、しかもホームラン王争いにまで絡んでいた。
子供の頃、野球をやったことのなるメシアにとって、それは少年時代の憧れが実際に目の前で起こっていることで、人間たち、ファンだけではなく、野球というスポーツを知る人ならば、熱狂するのもわかる気がした。
彼は打席に立ち、またしてもホームランを打っていた。
100数年ぶりの二桁勝利、二桁本塁打は達成できないのは知っていた。だが来年にはそれも達成できる。
人間にもこんなにすごい力を持った人間がいる。
人の可能性を、メシアにもう一度、信じさせてくれる男であった。
この旅で幾度も心を傷つけ、立ち続けるのもやっとのこともあった。それでも彼を見ていると、人の未来、生命体の未来が希望に溢れているように思えてくるから不思議である。
何千人、何万人、何億人が立ちたい場所に立ち、やりたくてもできなかったことを彼を成し遂げているのだ。
ユニバース2は特に辛い現実だ。その現実にありながら、彼だけは輝いて見えた。
メシアは彼のような人がいるならば、人もまだ未来があるのかもしれないと思えた。
そう思いながら、客席に座り、彼のプレーに光を見るのだった。
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ゆっくりと激しく
ユニバース18
youtube
男は踊りながら女を見つめていた。女は男を誘うような眼つきでみながらも、けして近づこうとはしない。
音楽の宇宙に入ったメシアは最初にこの男女を見た時から、アストラルソウルが合致するのが分かった。
音楽は常に流れている。
男は女に来てほしい。そして女の耳元でささやき、キスをする。
2人は激しく求め愛、名前が分からなくなるまで抱き合う。
激しいながらもゆっくりとした愛の形を見たメシアは、映画世界で見たあの激しい愛情を思い出していた。
メシアをきっと認識することはないだろう。
2人はゆっくりと、それでいながら激しく愛し合う。
ゆっくりと、の意味を持つスペイン語のデスパシートと名付けられた世界で、メシアは音楽の中で溶け合う2人を見つめていた。
ラテン系の情熱がありながらも、歌詞の通りにゆっくりと愛し合う。
ユニバース2でこの音楽が発表されてから、反響は大きかった。動画サイトYouTubeで70億回の再生をたたき出し、ユニバース2の大半の人間が聴いた計算になる。
この記録は後に塗り替えられるものの、地球標準時間で2022年でも未だに二位に位置している。
人はそれだけ激しくもゆっくりな愛を求めているのかもしれない。
愛とは普遍的なものであり、メシアにも愛はある。
その愛があるからこそ苦しみ、辛く、悩む。
人は愛で苦しみながらも、愛を求める。この音楽のように激しく求め、ゆっくりと愛し合いたいのである。
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受け継がれる想いは正しいのか
ユニバース17
この宇宙に来た時、複数のマルチバースだとメシアにはすぐにわかった。モビルスーツという人型兵器が主力兵器として戦争、紛争を起こす世界がいくつも重なり合っていた。
メシアが最初に引かれたアストラルソウルは、肉体の名をアムロ・レイという青年だった。彼はマルチバースの特に大きな宇宙の中心にいる青年だった。
最初は機械いじりが好きな、大人のいうことを聞くのが嫌な少年だった。それでも戦争は待ってくれない。
どの宇宙でも凄まじい光を放つガンダムというモビルスーツに乗ったアムロは、次第に戦争で大人になっていく。
このマルチバースにはさらにもう一つ、巨大な赤い光が見えていた。赤いアストラルソウルは肉体の名をシャア・アズナブルという。アムロとシャアの2人が様々な世界で宇宙を作り、中心として物語は構築されていた。
アムロとシャアを見ていたメシアは、アモンを思い出していた。元はデヴィルだったあの人間は、今、何をしているだろうか。エクスカリバーに選ばれた人間として最後に会った時は生きていた。
デヴィルだった頃のあの闇はなくなり、光が軽く見えていた。
しかしここにいるアムロとシャアは分かり合うことはなかった。アストラルソウルは分かり合っていたのに、肉体が分かり合えずに最後には光となって、昇華した。
その他にも肉体でモビルスーツを倒すことのできるドモン・カッシュ、運命の少女と出会ってガンラムに乗ることになるコソ泥の少年、ガロード。暗殺と殺し合いに悲しみを背負った男、ヒーロ。
そのほかにも多くの人間たちがこのマルチバースで戦争と紛争を繰り返し、その都度、人は後悔するのに、またガンダムは現れる。
このモビルスーツというのは、人の欲望の体現なのかもしれない。
そしてここにもまた1人、アムロとシャアの意思を受け継ぐ男、ハサウェイがガンダムに乗った。
その意思が本当に正しいのか、メシアは見るつもりはなかった。ただ彼の行く先がどんな道であろうと、きっと彼は後悔することはないのだろう。
ユニバース2でガンダムが生まれて、何十年もの時代が過ぎていた。それでもガンダムは生まれ続けている。
富野由悠季というこの男を見た時、メシアは凄まじいエネルギーを感じた。感じながらも、自分を追い込み、ガンダムというこの戦争物語を作り続けることになった後悔もまた彼のアストラルソウルにはしみ込んでいる気がした。
いずれにせよ、彼がアストラルソウルに戻っても尚、ガンダムは作り続けられるのだろう。
人が戦争をする限り、それを受け止める人間がいる限り。
メシアは白いガンダムの前に立ち、どこへ向かうのか尋ねた。だがその瞳はなにも語ってはくれない。ガンダムはただ光を浴びて、人の様々な想いをコックピットに、このマルチバースのように納めているだけだった。
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初めて人として知ったこと
ユニバース16

そこは「ヤマト」のような組織が諜報戦を繰り広げる、戦乱の時代だった。
島国、日本で起こった戦国時代という、戦乱の時代。大名と呼ばれる国の長が、戦をし、時には身内を使って外交も行う、なんでもありの恐ろしい時代である。
天下統一を目指す織田信長という人間。
メシアはそれが多次元世界の王の一人であることを知っていた。が、この世界では多次元世界へ転生することもなく、天下統一という島国の統一を目指し、戦争に明け暮れていた。
伊賀の国に彼はいた。伊賀というのは日本という国では特別な意味を表す言葉である。ヤマトにも伊賀という名前は伝えられ、ヤマトの代表は伊賀の忍者だったという噂まであるのを、メシアも知っていた。
それだけ忍者の中では特別な場所であった。
彼はそこの中でも凄腕の忍者として、金のために働いていた。それは彼女と夫婦になるため。金さえあれば夫婦になってくれるという女性のために彼は戦っていた。
だがメシアはこの2人の行く末を知っている。
金ですべてが動くこの伊賀で、人間であり続けようとした者は出ていった。
彼もいずれ出ていくことになる。
こんなにも笑顔で戦をするというのに。
こんなにも楽し気に笑って生きているのに。
彼に待つ定めをメシアは知っていた。神として、救世主として何とかしてやりたかった。
だが輪廻の輪、因果律の中で肉体からアストラルソウルへ上昇していくのを、とどめることはできない。
例え今、メシアが旅の途中であったとしても、ヘヴンバースから離れていたとしても、それだけはしてはいけないと、分かっていた。
だから2人に別離がくる前に、メシアは旅に出た。
見たくなかったから。彼が人間となるのを、本当の死を知るところを見たくなかった。
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二度と戻らない日々
ユニバース15

メシア・クライストは懐かしい光景に出会った。まだ、自分が救世主と呼ばれる前、マリア・プリーストがコアと呼ばれる前、十代だった頃のことを、二人を見てメシアを思い出していた。
映画世界にたどり着いたメシアの前に、高校時代ずっと片思いだった、お金持ちの同級生と、クローゼットで初めてのキスをした瞬間を見て、マリアと初めてキスをした時のことを思い出していた。
あれからもう随分と遠くへ着てしまった。あの頃にはもう戻れない。わかっている。
それでも初恋が実っていく、きっとこの二人の未来がどんな結末になろうとも、この初恋は良いものになる。
メシアは見ていればわかった。
醜い敵と戦い、辛い経験ばかりしてきたメシアにとって、二人の危なっかしく、今にも壊れそうながら、彼女の父親に反対されても、二人で作り上げていく愛の形。
それを見た時、もう自分は戻れない。戻ってはいけないことを自覚した。
きっとユニバース2で作った人間たちも、この時代があったと思う。初恋が実らなくても、それはいつか思い出になり、心の奥底にしまわれていく。
誰もが経験する、メシアも経験した初恋が、ここにはたしかにあった。
メシアはそれを見つめていた。
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燃え上がった愛の行きつく先
ユニバース14

この2人の愛は激しかった。
メシアが初めてこの2人を見つけた時、愛は一方的なものだった。
マフィアを父の代わりに率いる男は、女に一目ぼれした。その燃え上がる気持ちは彼女を誘拐し、軟禁するにまで至った。
365日の間に自分を好きになれ、と男は告げるのだった。
拒否していた女もだが、次第に男の情熱に惹かれ、女の中に隠れていた情熱も燃え上がり、2人は惹かれ合うように結ばれた。
2人の愛情表現は肉体であらわされ、メシアは眼を伏せるほど2人が愛し合う姿を見てきた。
ユニバース2でもこの世界の2人は様々な人々を魅了し、小説世界、映画世界は受け入れられた。
だが女は別の男に惹かれてしまう。
燃え上がる愛は、燃えすぎたのか、ぶつかり合いが起こったことから、優しく受け入れてくれる別の男に女は恋をした。
夢の中で何度も抱かれ、抱かれることを望むようになり、メシアはその苦悩を横で見ていた。
メシアにも最愛の人はいる。だがもう彼女とは対等な人間同士として向き合うこともぶつかり合うこともできない。
メシアには彼女や彼が羨ましかった。ぶつかり合い、愛し合い、愛憎に変わっていく姿が。
彼女の選んだ選択は、ユニバース2の人々に託された。
どんな答えを出すのか、メシアはユニバース2の人間たちに聞きたかったが、それもせずただ、失ったマリアとの日々を思い、旅路に戻るのだった。
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写真がつなぐ親子
ユニバース13

この宇宙には心地の良いジャズが聞こえてくる世界だった。ユニバース2の製作者がこの世界をジャズで描いたのだろう。
メシアは彼女の母親が写ったモノクロの写真を、美しく見えていた。
彼女は亡くなった母がどんな人生を送ってきたのが、自分のことを話さなかったことで疎遠になっていた。
死を迎え、アストラルソウルになったことで初めて、彼女は遺品の中で写真を見ることで、母の過去を垣間見たのだ。
メシアは母が彼女にあてた手紙を読んでいるのを見て、その姿もまた母と重なり合ったように見えて、美しく見えた。
彼女は母の過去を探ることで、ジャーナリストの彼と出会っ��。出会った2人は、明らかにアストラルソウルが合致するのは、メシアにも見えていた。
案の定、キスから始まる二人の世界。
こんなにも美しく、こんなにも愛が溢れている二人を見ていると、生命体にまだ希望があるように感じた。
ジャズが流れる中、一人で生きることを決めた母の決意。そしてそんな母に育てられた彼女。彼女を見守る彼。
この世界を去る時、メシアは少し希望が胸にもらった気がしたのだった。
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人という矛盾
ユニバース12

メシアは映画宇宙の中にきらめく地球の日本に来ていた。
熊本県水俣市。美しいこの風景はしかし一つの企業によって破壊されていた。
アメリカの写真家はこの現実を写真に収めていた。メシアもこの現実を目の当たりにしていた。水銀を含む水が15年以上垂れ流され、人々は水銀で育った魚を食べ、脳性麻痺を起こす。
水俣にはこうした脳性麻痺の子供たちがいる。それを生んだのもまた人間なのだ。
これはユニバース2であったことを基にした世界であるが、人間の標準時間では2022年よりも前の歴史となっている。
ユニバース12を公開しようとしたとき、すでに過去の現実であったこともあり、ユニバース2のミナマタの人たちは反対したという。
今の現実を生きている人にとって、振り返りたくない過去なのかもしれない。
だがユニバース2では地球標準時間で2022年でも解決できていない問題なのだが、生活を守りたい人達は昔の事件を掘り返してほしくないのであろう。
メシアは人間の矛盾に突き当たっていた。
なぜ人は自らを傷つけ、それを忘れようとするのか。今を犠牲にできないのは分かっているが、メシアはこの現実にあった映画世界の物語もまた、置いてきぼりにはできなかった。
人間の矛盾、生命の矛盾を抱えたまま、また彼は旅に出る。
矛盾を解決できないままに。
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人は別人になった時、初めて自分が見える
ユニバース11

太陽神ククルカンもまた、メシアを探していた。マヤであがめられる太陽神である彼は、映画世界で陰惨な出来事で出くわしていた。思わず目をそむけたくなる事件。
凄腕の弁護士がタバコを買いに小さい商店へ入った時だ。強盗が彼に拳銃を向け一発を胸に、もう一発を額に撃ちこんだのだ。
運ばれて治療を受けた結果、命は助かったものの、運動麻痺と記憶喪失になってしまった。
ククルカンは今すぐにでも彼に救いの手を差し伸べてやりたかった。だが神々は人間へ、世界へ干渉してはならない。
ヘヴンバースの掟に従い、彼は傍観するだけだった。
リハビリの男は陽気で彼の救いになった。彼は人間にしては懸命に、それこそ弁護士時代では想像もできないほど真面目にリハビリを行い、家へ帰ることができた。
だが記憶の戻らない彼にとって、そこは知らない場所、妻と娘は知らない人なのだ。
文字すら読めない、書けない彼の前の記憶を知るククルカンは、知らない方がよいと思った。
悪徳な病院の医療ミスを金のために勝訴へ持ち込む弁護士、それが彼のアストラルソウルの色である。
今はもう一度、チャンスを手に入れたようなもの。
次第に彼は記憶を取り戻し、純粋な自分と以前の自分との間で葛藤しているのが、ククルカンにもわかった。
だがこればかりは、自分で何とかするしかない。自分の心を、自分で居場所を見つけるしかないのだ。
最後まで見届けたかったが、ククルカン、この神にもやらなければならないことがあった。
メシアを探すこと。
ユニバース2へ出向いたククルカンは医療ミス、冤罪、差別、そういったものが横行している世界を見た。
映画宇宙よりもさらにドロドロとした人間の世界を。
マヤの神は本能と自然と生きる人間を知っている。自然に敬意を払い、争いごとを好まない人間を知っている。
知恵のついた人間のおぞましさ、愚かさを目の当たりにし、ククルカンはメシアがこんな世界にいるはずがない、そう思いすぐにユニバース2を後にするのだった。
救世主を神々を探索していた。
彼の旅路はどこまで続いているのだろう。
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生活のため
ユニバース11

デヴィルの神々ダークコアは神々のように生命を誕生させることができる。
この映画世界にもその忌むべき存在は生息していた。
ヴァンパイア。奴らは人間のふりをして暮らし、人間の血を吸い生き続けている。
ラファエルはそんな世界、カリフォルニアに降り立っていた。もちろん目的はメシアを探すためである。救世主の繊細さに気付きながらも、エンジェルたる我々は救世主に頼りすぎていた。ラファエルは反省しながらも、旅に出ているメシアの心境が変わり、エデンバースに戻っていることを期待しながらも、この宇宙にいた。
この宇宙の中心であるバドは妻子に嘘をついて、ヴァンパイアハンターを続けていた。しかし組合の規則を破ったせいで、組合からは追い出されている孤独の身。
それでも仲間の力で復帰したバドは、事務員と一緒にヴァンパイアを討伐している。この世界ではヴァンパイアの牙は金になるらしい。
ヴァンパイアは絶滅すべき存在だとラファエルは考えていた。それでも人間の金に対する執着にも、うんざりしていた。
結果、金のためにヴァンパイアをハントするこの男は正義となり、金が正義を生む世界となっている。
ヴァンパイアを生み出す古きヴァンパイアを倒した彼は、家族に真実を打ち明け、またハントを続けるのだろう。
ラファエルはユニバース2に今度は足を向けた。
物語を生み出す、この世界にも自らをヴァンパイアだという人間がいる。日の光を極端に拒み、血液を求める存在。
だがラファエルにとってそれは人間の思い込みであり、本当のヴァンパイアを知る者としては、汚れたアストラルソウルと魂でない限りは、人間なのである。
もしくはそういう病気なのかもしれない。
人間はそうした病や思い込み、神話を合わせてヴァンパイアを作り出す。恐怖の象徴だったヴァンパイアはやがてヒーローとなり、人の心寄せるキャラクターとして生まれてくる。ラファエルはそれが不思議でならなかった。
血液を吸い、人を殺戮する者をヒーローとする人間の心理が理解できなかったのである。
だがだからこそ、ラファエルは自分たち天使がメシアを孤独にさせてしまったのではないかとも考えた。
また天使は別の世界を目指す。
救世主を探しに出ていくのだ。
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愛を求める者
ユニバース10
メタトロンは業務に忙しい中、エデンユニバースを出なければならなくなった。
それもすべてはメシア、救世主のためである。
旅に出て、どれほどの月日が流れただろう、メタトロンは神の代行者として多忙な日々を送っていたが、デヴィルとの戦況は悪化するばかりである。
神々とデヴィルたちとの均衡は崩れ、メシアだけが頼りなのだ。
そんなメシアが旅に出た時、メタトロンは止めなかった。これほどまでに救世主の席を空席にするとは思わなかったからである。
だから彼も探しに向かった。物語宇宙へと。
彼がついた映画宇宙は、ある男女を中心に世界が構築されていた。
最初の出会いをメタトロンは酒場の客として見ていた。2人はいがみ合い分かれている。だがアストラルソウルは惹かれ合っているのがメタトロンには見えていた。
男は兵士であり女は歌手を目指していた。2人は会うたびに喧嘩するのだが、金のために夫婦を演じることを選択した。
メタトロンは金とは無縁の存在であるため、金の重要性、資本主義をまったく考えていなかった。
従って2人がなぜ金のために結婚したのか、分からなかったのだ。
男は兵士としてイラクへ派兵され、女は歌手として成功を掴み始めていた。だが男は戦場でケガをして帰還する。
人は争いを好む。それはメタトロンにも理解できた。だから戦争は続いてい、神々も人も。
病院で会った2人を医師の姿で観察していたら、またしても喧嘩をしている。どうやた男は父とうまくやれていないらしく、父を呼んだことを怒っているらしい。
それでも偽装結婚は続き、2人は彼女の家で暮らすことにしたらしい。
メタトロンは他人には見えないが、肉体的につながりを求めているのは明らかだった。
金の問題は互いに解決したというのに、2人は分かれなかった。
偽りが愛へと変わったのである。
神は愛を信じろと説くが、愛憎劇を繰り広げるのが神である。
ユニバース2を見てもそうだ。この映画宇宙を作った人間たちもまた、争いを好む。戦争をし、飢餓が生まれ、隣人を愛さない。
イラクという国でいったい何人のアメリカ人兵士、それを含む人間たちが命を落としてきただろう。
メタトロンは悲しくなった。
人はなぜ争うのか、映画宇宙では愛を謳いながら、現実では愛は実に儚いものである。
メタトロンは次の宇宙へ向かった。ここにメシアがいないことを悟って。
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揺れる国を表す
ユニバース9

ベリアルは嘲笑のまなざしでこの光景を見ていた。
富裕層が貧困層を選別し、差別し、武器を与え子豚を見せてから射殺する。
「ザ・ハント」と呼ばれる映画世界にやってきたベリアルは、これらのおぞましい光景を、すがすがしい気持ちで見ていた。
デヴィルにとってこれほど、面白いショーはなかったのだ。
その中にひときは強力な暴力を持つ者がいた。
その女は金持ちを次々と殺害し、まるで自らの境遇に対する不満を爆発させるように、暴力を振るっていく。
最後にはこれが人違い、インターネットが生み出した大きな人違いだと気付くも、彼女は殺戮をやめようとはしない。
殺戮の後、ドレスをまとった彼女は変革したのだ。自らの境遇を暴力で。
ユニバース2ではこれを物議としてとらえていた。ベリアルはそこに立ち、面白そうに見ていた。
アメリカ合衆国のトランプ大統領が、保守派の意見に賛同し、リベラル派を虐殺する映画として、映画世界「ザ・ハント」を批判しているではないか。
一国の大統領がここまで過激に一つの映画を批判する。映画世界の住人たちはしらないだろう。別の宇宙の合衆国の大統領が自分たちを話題に、批判の声をあげていることを。
ベリアルはそれを楽しく見つめていた。
デヴィルにとって、暴力も批判も好物に過ぎないのである。楽しい、楽しい見世物。
ベリアルはしばらく世界を行き来した。暴力と批判の世界を行き来して、遊園地を楽しむ子供の用に、笑っていた。
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神の御業
ユニバース8
���ブリエルは自らメシアを探しに出かけた。エデンユニバースを出るのは、メシアがまだ未熟だったころ以来である。
彼がたどり着いた宇宙の地球には、不思議な力を持つ男がいた。聖痕が右手に現れていたのである。思わずガブリエルはその手にキスをしてしまうほど、驚いた。もちろんその男にはガブリエルの姿は見えていなかった。
男は幼少期に父を亡くし、神に願ったが父は死んでしまい、それから神を憎んでいた。
それなのに神は聖痕をお与えになった。この世界の神は、あえて自らを憎むものに力をお与えになったのだ。
彼はエクソシストの神父と共に悪と戦った。
どこの宇宙にも悪を信奉するものはいると見え、それをガブリエルならば腕の一振りで撃滅できた。
だがそれではこの物語世界の聖痕の意味、神のご意思が分からない。
男は言った。
「そうやって黙って見ているつもりなのか」と。
神々は人に人の運命を任せている。人は自ら立ち上がり、輪廻の中で肉体とは違う何かを得ることができると、信じている。ガブリエルもそれは変わらない。
だからあえて手を出さなかった。
ユニバース2でも現に聖痕が現れる者がいる。ガブリエルは幾度とそういう人間を見てきた。
だが物語世界の聖痕とはまた異なる。悪を滅する力は持ってはおらず、科学的に思い込みが聖痕を発症させる、と科学者は口にする。
神々は聖痕を授けるにはなにか理由があるのではないかとガブリエルは考えている。しかし神のお考えは天使であるガブリエルにもわかりかねる。
メシアがいないことを知ると、ガブリエルはまた別の宇宙へと旅に出た。
メシアは一体どこまで行ったのだろうか?
旅に出ることを予見できなかった自らを恥じながら、複数の翼を広げ、次元を超えていく。救世主を求めて。
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