Tumgik
mishzn · 7 months
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2019年4月27日に書いていたしんどい時の自分のケア方法。またしんどいことがあったら役に立つといいなと思って書いたことをなんとなく覚えていて、見返してみた。すんごく真っ当なことが書かれていて、びっくり。誰かにも役に立つといいな。
考えことは、夜にはしない。昼間太陽とともに。
同じ思考を繰り返している場合は、きちんと思考を中断する。
感情はコントロールし、きちんと表にだしていく。怒ることは悪いことではない。
コントロールできない感情に対しては、無防備に直面しない。直面する際には、時間と人を間に入れ、ポジティブなフィードバックを受ける環境で、向き合っていく。
感情を落ち着ける逃げ道を用意するが、感情から逃げ続けるための予定に、追い込まれない。人と話すことによって、できごとの再体験をしすぎない。
食事がとれないときは、水分をきちんととる。突然に身体の負担になるものは食べない。食事に逃げない。食べる時は和食。
苦しいことに慣れない。抜け出すべき道であるということを自覚する。
これからの在りたい姿を自分の中に、確立する。
気分転換の買い物は本にする。本屋を巡り、たくさんの世界をみると落ち着く。本はいくら買っても、無駄遣いにならない。
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mishzn · 9 months
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あける
あける
ほかん と
くちをあける
まぶしいあさやけに
ほかん と
くちをあける
うつくしいしらべに
ほかん と
くちをあける
めのまえのごはんに
ほかん と
くちをあける
しずかなねむりに
ほかん と
(くちをあける
ほかにどうすることもできず
ただひとりの人間として)
あけていたい
ほかん と
きたるあたらしきなにかのために
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mishzn · 3 years
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まばたき
まばたき
してるまに
せかいがまだ終わらないように
あやふやなものを
しんじて ?
そう
しんじて
(しんじるよ)
わたしが見なかった
せかいがたしかに
ある
うまれるまえ
ねむっていたとき
しんだあと
うしろにあったもの
とおくにあるもの
まばたきのいっしゅんのまに
わたしがけっして見なかったせかいが
ある
そう
しんじるよ
(しんじて)
いっせーの で
まばたき
してるまに
せかいがまだ終わらないように
いのろう
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mishzn · 3 years
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手を振る
朝、水やりをして
ささやかな虹を探り当てたときみたいに
帰り道、曲がり角を曲がったら
大きな月が浮かんでいたときみたいに
待っていてくれたんだね
そこで待っていてくれた
野に分け入って
しじみちょうをつかまえた
靴紐がほどけてしまったから
しゃがんで結びなおした
そのあいだ
待っていてくれたんだね
きっと
ずっと昔の曲をくちずさみ
たまに散歩もしたろう
そして、待っていてくれた
やっと会えたね
ひらいたくちびるからこぼれる歌声に
宙に浮いたくるぶしに
鱗粉のついた指で
またほどけかかっている靴紐で
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mishzn · 3 years
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泣いてくれた
ここで風の匂いを吸っていよう
秋の金色の風を
肺は傷ついている
あたらしく死んでいる
ここで陽の光を浴びていよう
秋の金色の陽を
肌は傷ついている
あたらしく死んでいる
なんてうれしい
ここで君がたしかに 傷ついている
ここに生きているだけで
君は傷ついているのだ
なんてうれしいんだろう
やわらかい肺
やわらかい肌
やわらかくてぬくい いきものなのだ
秋の金色の風に吹かれて
秋の金色の陽を浴びて
君はここでしたたかに立ち、髪と瞳を光らせてさえいるのに
君はここでたしかに傷ついている
なんてうれしい
なんてうれしいんだろう
傷つきゆっくりと死んでゆく君が
いまこの瞬間にもあたらしく生まれている
なんて美しいんだろう
もし君の手を握れば
僕の手のなかでまたあたらしく君が傷つき、すこしだけ死に、また生まれてくるだろう
あるいは
手を握らなくてもそうだろう
なんてうれしい
なんて美しい
傷つきうるいきものだなんて
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mishzn · 3 years
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ひかりのはら
きらきらしたところで生きたい
雨上がりの野原みたいな
いい匂いのするところ
露が光をあつめて
ちいさな花の色をあつめて
かがやきだすところ
世界を含みこんだひとしずくが
しずかに、ゆっくりと
世界に帰ってゆくところ
こまかい光のつぶつぶになって
世界に還ってゆくところ
消えてしまっても
見えなくなってしまっても
無くなった訳ではないと
すべてはここにあると
信じられるところ
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mishzn · 3 years
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ささやかな虹
 五月のこころよい風のなかを、時折スキップを交えて散歩するわたしは、その日、二十一歳になったばかりだった。この街に住んで十数年になるが、駅や用事のある施設までの往復の道だけ覚えてしまって、ここで生まれ育ったというのに、この街そのものにはあまり詳しくなかった。五月の陽気に誘われて、わたしはふと散歩したくなったのだ。あてもなく、迷ってもいいなんてことは、子どもの頃の冒険以来だった。立ち並ぶ家々、自分のリズムで身体が揺れる感覚、風の匂い、陽のひかり、そういうものが全部わたしをお祝いしてくれているみたいで、うれしかった。好きな歌を口ずさみながら歩いていると、左側に、まっすぐ続く路がある。行き止まりだと思っているから、その路にわたしは入ったことがなかった。(用もないのにわざわざ行き止まりに向かって進む人があるだろうか?)でも今日は散歩だ。意味のない路こそ、進む意味がある。通ったことのないその路に、まったく自然に足が向いた。  はじめての路を入ると、左右に素敵な家がずっと並んでいた。玄関先に咲く花々や、すこやかな庭木、お洒落な表札、きれいな屋根の色、凝った細工の面格子。あちらこちらに視線を遣りながら、顔をほろこばせるわたしがいる。ふと気がつくと、右手のほうは、可愛らしい白い柵と、その奥の緑とが、先までずっと続くようになっていた。たくさんの木と、たくさんの花が、しあわせそうにめいっぱい生きている。不思議な魅力と生命力にあふれた植物たちが、その柵のなかにはいたのだ。誰かに世話され、コントロールされ、支配されるのではなく、みずからが生きたくて生きている。そういう声が聞こえるような気がした。それらを一歩ごとに、次々に眺めていっては、心のなかで挨拶し、声をかけるのは、いかにも愉しいことだった。そうして歩調をゆるめて進んでいると、突然視界は開けた。ぽっかりと緑が途切れた空間は、朝日のような薄桃色の薔薇のアーチに囲まれている。そこには一人の老婦人が低い脚立に腰掛けていた。  一瞬でわたしの瞳は老婦人のそれに引き寄せられ、そのまま微笑みを返していた。湖面にたゆたうような柔らかい光を湛え、どこかでこの人を知っていた、と思うほどに、安らかなものを感じさせる瞳だった。  「こんにちは」とわたしの唇はこぼした。指のあいだから砂がこぼれてゆくような、自然の摂理に沿っている、あたりまえの声色だった。先程まで植物たちにしていた挨拶の続きみたいに、わたしはこの老婦人に挨拶をした。この世界の大きな流れのなかに、老婦人は存在していた。それをわたしは受け入れるだけだ、そんな感じがした。老婦人は、「よかったらどうぞ」とわたしを庭に招き入れてくれた。おどろくことでもないように。ずっと前から、そうなることが決まっていたように。そしてそれをこの人は知っていて、この時をずっと待っていたかのように。ごく自然に、導かれるように、わたしはこの老婦人の招待を受けていた。  「好きに見ていってくださいね」と微笑まれて頷く。その言葉をかけられる前から、わたしはもうすでに、この庭に夢中になっていた。五月という季節を、とりわけ今日のわたしの誕生日を祝福するように、よろこばしく咲く花たち、歌う木々たち、踊るそよ風、集う小鳥たち。その庭の豊かさに、わたしは胸がぎゅーっとなって、それでいて心臓はきゅんきゅん飛び跳ねて、頭がくらくらした。振り返ると、老婦人の後姿は脚立に腰掛けて、薔薇のアーチの剪定を再開していた。わたしは心置きなく広い庭を歩き、眺めることにした。この広い庭は、なんだか大きな秘密を隠している、あるいは、大きな秘密で充ち満ちている、そんな予感がした。朝日の方角から、いい香りの風が吹いてきた。わたしはその風に抱きしめられているような気がした。
その庭は、先が見えないほど広く、またたくさんの植物が共生していた。小径と言えなくもないような、足跡の積み重ねを頼りに、わたしは庭をめぐることにした。今は何と言っても薔薇の季節。色々な種類の薔薇が、それぞれの魂の発露として花を咲かせているみたいに、いきいきとした生命力をみなぎらせている。そのあいだには、繊細に編まれたようなレースフラワーが、そよ風に吹かれて肩を揺らしている。無邪気に広がる白い一重の薔薇。小さな小さな一輪をつける可愛らしいピンク色。薄紫の大振りのもの。淡い黄色の薔薇の、恥じらうようなかたち。���い葡萄酒色の、切先のような花びら。喜ばしく高くに咲くペールオレンジ。うっとりさせられる香りを漂わせるもの。きっとそれぞれに、誰かが付けた名があるのだろう。しかしここでこうして咲いている薔薇たちは、人間たちが付けた名前などまるで関係ないかのように咲き誇っている。ここにいられてうれしい、と歌うように。わたしは、とりわけ気に入った淡い緑のかかった白い薔薇に、くちづけを落とした。きっと天使の落とし物だ、と思った。  薔薇の小径の終わりには、大きなおおきな樫の木があった。その枝は邸宅の屋根のほうまで届いていて、ひとつ、木製のブランコが下がっていた。樫の木は遊んでほしそうに、枝と、枝に下がっているブランコを揺すぶった。わたしはその誘いのいじらしさに、樫の木を勇気づけるように微笑んで、ブランコに飛び乗った。風を切って、透明なガラスみたいな空がぐんぐん近づいたり、どんどん遠ざかったりするのは、何度繰り返しても飽きない喜びだった。枝の上の小鳥たちとも、今なら仲良くなれる気がした。そして、そこにいっしょに並んでいる、目に見えない精霊たちとも。みんなの笑い声が空のほうに遠く吸いこまれていった。樫の木は満足げに、つやめく葉の上に、銀色の日光を踊らせていた。それもきらきらと音を立てて笑うみたいだった。  その木を境にして、周りはやさしい木立になった。風と遊び、踊り、ともに口笛を吹くように、どの木も楽しげにそこにいた。木洩れ陽が地面でちらちらと揺れ、わたしの肩や頬にもかかる。樫の木の幹にできている陽だまりに手をふれると、ほんのりあたたかかった。しなやかな梢に留まる小鳥たちと、葉の擦れあう音が、うきうきとおしゃべりに興じている。いつの間にかそのおしゃべりにはせせらぎが混じっていて、わたしは小川を発見した。湿って柔らかく苔生した両岸を縫うように、ささやかに透明な水が流れている。ほんの一足飛びで向こう岸に渡れるくらいの小川が、ところどころできらめきながら続いている。そのへりには、落ち着いた紫、藍、そして白のアイリスが寄り添いながら咲いており、その色は絵の具で溶かしたように揺れながら川面に流れていた。そばには板を渡して架けられた橋があり、老婦人か、もっと小さな動物か、はたまた妖精が通るためかもしれなかった。  小川の横の木立を抜けると、野花の咲く草原があり、その左奥にはなだらかな丘もあった。草原には白いデイジーがうれしげに咲いていて、まるで白昼夢みたいだった。ところどころに、矢車菊の深い、はっと目が醒めるようなラピスラズリ色が見える。思わずわたしは駆け出した。わたしのスカートが風を含み、ふくらんでははためいた。丘のてっぺんまで駆け上り、振り返って、わたしはそこに腰を下ろす。伸びをして空を見上げたいきおいで、後ろにゆっくり倒れこむ。草いきれの青々とした香りが、肺をいっぱいにする。息を吸って、吐く。それだけでわたしの身体の内側がぴかぴかになって、光りだしさえするような気分になった。丘に寝ころぶと、多くの花が咲いているのがよりわかる。小さく、でもしたたかに咲く野花たち。黄色、ピンク、白、紫、青が、濃やかに織られたようにきれいに散りばめられている。ところどころ、水たまりのようにクローバーが群生して、可愛らしい白い花をつけていた。愛おしくなるほど小さな自然が内包する大きな大きなパワーが伝わってくる。やさしい草の色は、生命のはじまりの色だ。みずみずしいエネルギーが、背中からじかにわたしの身体に浸透するみたいだった。  丘を反対側に下ると、低木の茂みに入った。よく見ると、宝石のような実がたくさんなっている。木々の、そして葉の間から射しこんでくる透明な光に照らされると、きらっと一瞬、その実に明かりが灯ったようになる。そのさまが、まさに宝石のようなのだ。そのきらめきが、茂みじゅうの実を渡るように訪れて、星たちが瞬いているようにも見える。赤やオレンジ色の野苺たちがつやつやと光るのを見てたまらず、ひとつ、ふたつと口に入れた。ひんやり冷たくて、甘くて、香りもさわやか。この庭のたいせつなエッセンスが凝縮されているみたい。この野苺の一粒に詰まっている、この庭の想いみたいなものが流れこんできた。これは、この庭からの贈り物なんだ。世界からのプレゼントを受け取る歓びに、身体が震えるみたいだった。おまけにもうひとつだけ、口に放りこんだ。他の木々は、背の高いものも低いものも、これから実をつける準備をしたり、いじらしい花を咲かせたりしている。ここは、うれしい予感に包まれて、空気までが静かに輝いているみたいだ。  茂みを抜けると、邸宅の裏側だった。さっき飛び越えた小川のはじまりが、そこにあった。白樺の木立に囲まれて、エメラルドの表面のように輝く泉だ。その青みがかった緑色は、周囲とよく調和していた。積み石で囲まれたその美しい鏡面は、中央あたりでこんこんと湧きつづけるあたらしい水や、たのしげに戯れるように過ぎてゆく風によって、時折揺らぐ。その水面の揺らぎに、泉へと降りそそぐまっすぐな光が乱反射し、エメラルドグリーンのさざなみとすべてを含みこむ真っ白な光が絡れつつ散り、万華鏡のように踊った。あたりには、すこし離れたところから運ばれてくる鈴蘭の香りが立ちこめている。わたしは泉にそうっと両手を差し伸べ、おどろくほどしんけんに冷たい水を、できるだけ静かにてのひらに掬う。そこに顔を近づける。自分の瞳が映る。揺れる。光る。くちづけてたましいを潤す。祈りのような行為だった。木々と山々、空、海の記憶を、その長い長い時を、この泉の水は確かに引き継いでいる。そしてこの水は、わたしの身体の記憶をどこかに運んでゆき、巡りめぐって世界の生命となるだろう。わたしと世界は、こうしてつながっているのだ。わたしの誕生石の色をした祈りの泉は、これからもきっとこのままに、静謐に輝く。  ひっそりとした雰囲気の邸宅の裏側で、とりわけ静かで、それでいてあたたかい場所を見つけた。天使のえくぼのような窪地に、すみれがいっせいに咲いている。朝靄のような薄いピンク、ヴェールのかかったような薄紫、白すみれ、瑠璃色に近い青紫、夜空の月のような薄い青、今にも蝶になって飛び立ちそうなあざやかな紫、深く濃密な紫、ワインのような紫。八重のフリルがバレエダンサーのチュチュのように広がっている、可愛らしい子もいる。匂いすみれもあるのだろう、ときめく香りが漂っていて、深く息を吸い込みたくなる。涼しくひそやかな雰囲気が、よりいっそうすみれたちのささやきに耳を傾けさせる。わたしが秘密を打ちあけるときは、きっとここに来るだろう。そして、これから先わたしが懺悔するときも。  秘密めいた森を過ぎると、明るく牧歌的に日向ぼっこをしている木々のいる場所に出た。陽差しがあたたかい。りんごの木には、白い花と薄ピンクのつぼみたちがまぶしく咲いている。そばのクラブアップルは、もうすこし小さな、そして明るくみずみずしいピンク色の花をめいっぱいにつけて揺らしている。梨の可憐な花も、けなげに、そしてうれしそうに咲き、風に微笑んでいる。檸檬や蜜柑の花は、星のかたちをして白く輝き、懐かしい甘い香りでわたしの心をくすぐる。わたしの好きな五月の風の匂いの正体が蜜柑の花だと知ったのは、つい最近だった。祖父の故郷の香りでもあるだろうと思うと、ほろ苦い涙が滲んだ。無花果の葉の、雨と土の深い香りが頬を撫ぜていった。桃やプラムは実を結びはじめているようで、青い果実がすこやかに空に届こうとしていた。葡萄もちいさな翡翠をつくりだしているように、きらきらしながら陽にあたっている。さくらんぼはもういっぱいに実をつけており、赤と橙が混ざって透きとおったいたいけなようすで明るく光っている。枇杷の実もすっかり夕陽の色に染まって、やさしい銀色のうぶ毛をさらすままにしている。成熟のやさしい、まどかな気配が漂っていた。ここにいると長閑でのんびりした気持ちになる。陽差しさえも、どこか蜂蜜色をしているように思える。  すこやかな木々の間を踊るように過ぎると、ひらけた場所に出た。青銅色のガーデンテーブルと椅子二脚が、もうずっと前からここにあったようにして置いてある。かかっている白いテーブルクロスにはまあたらしくアイロンがかかって、清潔なのがわかる。テーブルの両脇を挟むように背の低い植物たちの花壇があり、さまざまな草花がよろこびに満ちて生きている。華やかなしゃくなげ、流れ星みたいな苧環、こんもりと華やかにひらく薄紅の芍薬、薄いピンクの大人びたジャスミン、斑入りのアベリア、よい香りのライラック、八重のアザレア、三色の愛らしいストック、そよ風と仲良しのポピーたち、俯きがちなクレマチス、ドレスにあしらいたいようなわすれな草、薄紫のフリルのビオラ、ケーキの飾りになる千日紅。あふれんばかりの他の緑のやわらかさは、次へ進む喜びではちきれそうになっている。そして左手の花壇の手前には、ささやかなハーブガーデンがある。いろいろな種類のラベンダーが咲き、ミントは種類ごとに小さな鉢がいくつも寄せてある。ローズマリーやタイム、ホワイトセージ、レモンバーム、レモングラス、スイートバジル、ディル、フェンネル、コ��アンダーもある。パセリもここで育っている。いっしょにカモミールやマリーゴ
ールドの花も植えてあり、太陽に顔を見せるように元気に咲いている。こんなふうにさまざまな種類の草花が、それぞれでありながや調和して、ひとつのうつくしさをつくりあげているのを眺めるのは、すばらしくよい気持ちだった。心の窓をすっとよい風が通って、後にカーテンが陽を透かしながら揺れているような感じがした。
 そうやってうれしく花壇を眺めていると、老婦人が邸宅の扉を脚をストッパーの代わりにして開けたまま、「ねえ、いとさん!」と呼んでいる。わたしはすぐに、彼女のそばに駆け寄った。玄関にたどり着くと、老婦人は両手にケーキの乗ったお皿をひとつずつ持っている。「わあ、おいしそう!」とつい声が出る。老婦人はうれしそうに笑って、「入ってすぐ左の部屋からカトラリーとナプキンを持ってきてくださる?ついでにそこのドアストッパーも」と、犬の顔のついたドアストッパーを視線で指し示した。わたしは大きく返事をして、まずはドアストッパーをドアの隙間に挟み、それからカトラリーとナプキンを取りに、いちばん手前の部屋に入った。そこは素敵なキッチンで、焼いたばかりのケーキのいい匂いが甘く立ちこめていた。果物を描いた小さな絵が二つかかっており、壁紙はあたたかみのあるピンクの花柄だった。焦茶色をした素敵なテーブルの上に、すでにカトラリーとナプキンは用意してあった。シェルの飾りのある銀のフォークと、クリーム色のしっかりした生地に赤い糸でステッチがしてあるナプキンだった。モスグリーンの大きなやかんから湯気がしゅんしゅんと出ていたので火をとめておき、ついでに置いてあったガラスポットも持って、庭へ向かった。  「あの」 わたしは、テーブルの上に摘んだ花を飾りつけている老婦人に、ためらいがちに声をかけた。彼女は顔をあげて、やさしい顔でこちらを見る。「お名前をまだお伺いしていませんでした」 彼女はいたずらっぽい目をして、すこしの間をおいてから、「みちよ」とにっこり答えた。穏やかで満ち足りた微笑みだった。わたしのおばあちゃんと同じ名前だ。でも、おばあちゃんとは違う感じがする。わたしのおばあちゃんは、死んだそのときまで髪は漆黒だったけれど、このひとは惚れぼれするほどきれいな白髪だ。なんとなく見覚えのあるのは、その不思議に満ちた瞳と、花にふれる人差し指にある指環だけだ。虹を閉じこめたような、オパールの指環。それをどこかで見たことがあるような気がして、でもどこで見たのかはまったく思い出せなかった。ちょうど記憶の海のなかに過去に出逢った香りを探すような、不確かな感触だった。漢字を確かめたわけではないが、きっとこの人はおばあちゃんと同じ三千世という名だ、と直観がささやいた。  三千世さんは、テーブルの飾りつけを終えて、いたずらっぽい表情でひとつウインクをしてみせ、「さ、お茶にしましょう」と言った。ガラスポットにはすでにティーリーフが入っていたが、三千世さんはそれを持って花壇のほうに歩み寄る。小さくおいでおいでと手招きをされ、わたしも花壇の前に立つ。「好きなハーブやお花をいれましょう。どれがいいかしら?」わたしの胸はどきどきしてきた。ひとつひとつの植物を選ぶことが、神聖な儀式のような気がした。まずは、スペアミント。やわらかいうぶ毛が銀色に輝いていて、ふれた指先からよい香りがする。次に、ラベンダー。うつくしい紫色の花の部分だけをしごくようにしてガラスポットに入れる。一息つく。そして最後は、ティーローズ。一輪だけ鋏で切り、やわらかな朝陽の色をした花びらを、一枚いちまい入れていく。そのあいだじゅう、草花の祈りの歌声が聞こえてくるようだった。最後の一枚まで入れ終わると、ふう、とひと息つきたくなるような、おごそかな緊張感があった。  わたしがテーブルにティーポットを持っていくと、三千世さんは玄関のほうから、モスグリーンの大きなやかんを持って現れた。そしてにこにこしながら、沸き立つ新鮮な湯を、ガラスのポットに注いだ。もうもうと湯気が上がり、ティーポットのなかには草花たちが舞い踊った。三千世さんはポットにさっと小花柄のティー・コゼーを被せ、席に座ってナプキンを膝に広げた。テーブルの上は、中央が葡萄色に濃くなっている一重の白の蔓薔薇の枝と、パウダーピンクの八重の蔓薔薇の枝とがゆるやかに編まれて、きれいに飾りつけされている。大きな磁器の花瓶には、レースフラワーとデイジー、差し色になる矢車菊の瑠璃色が、野原を思い起こさせるようにたっぷりと入っていた。いよいよティー・コゼーが外された。オパールの指環がちらりと虹色に光った。指環の魔法がかかったみたいに、琥珀色の紅茶に花びらがふわふわとワルツを踊るように浮かんでいる。頃合いになった紅茶が趣味のよいアンティークカップに注がれ、何とも言えないよい香りがふわりと立ちのぼった。焼き立てだったケーキも、時間を置いて食べやすいあたたかさになっている。檸檬のきいたベイクドチーズケーキに、楽しいつま先立ちのように、さくらんぼが散りばめられている。赤と黄色のコントラストは、見るだけで胸がうきうきしてしまうような、不思議な魅力を持っているように思えた。このケーキの味なら、草花の豊かなパワーと香りを放つお茶を邪魔せず、心地よいハーモニーを奏でてくれるだろう。確信めいた期待をもって、わたしは銀のフォークでケーキの大きな一口めを頬張った。  途端に、やわらかな酸味と甘味、たまごのやさしい風味が広がって、そこにさくらんぼの香り、そしてあのひそやかな渋味が相まって、ケーキは素晴らしく美味しかった。さくらんぼは、いつだって秘密のような味がするのだ。琥珀色の紅茶は、ミントのさわやかさとラベンダーの癖になるような香りに、ティーローズの優美で上品な香りと微かな酸味が感じられ、熱いアムリタを飲んでいるみたいだった。やっぱり、魔法がかかっているみたいだ。ケーキを食べ進めつつ、わたしはちらりと三千世さんの人差し指を見た。指環のオパールが、さっきとは違う色の光をテーブルクロスに投げかけていた。この瞬間、外界は星よりも速く遠のき、この庭のうちの調和だけがすべてだった。
 わたしは三千世さんに、なにかを話してみたいような気になった。なにかといったら、なんだろう。わたしは紅茶をこくりと飲んで、かちゃりといじらしい音を立てるアンティークカップをテーブルに置いた。 「あなたの名前が、わたしの祖母のものと同じなんです。偶然のようで、偶然ではない気がして」 三千世さんは、茶目っ気たっぷりに驚きの色を瞳にひらめかせて、「あら」と微笑んだ。 「そうだったの。あなたにとって、わたしはおばあさんのような気がするかしら?」 「そうでない気はするんですが、かといってまったく無関係だとも思えないんです」 「じゃあ。今日のこの出逢いは、不思議な偶然として大切に胸のなかに取っておきましょうよ」 「三千世さんにとっても、この出逢いが不思議なんですか?」 「間違いなく、そうね」 不思議ではあるけど、偶然ではないかな。三千世さんの声が、二重に被って聞こえた。かろがろしい指先の動きに合わせて、指環のオパールが、また違う色にきらめく。三千世さんは、鷹揚に頰を緩めた。 「じゃあ、そうしておきます」  わたしは、この庭のアムリタを、あたたかいアムリタを飲み干した。この世界の調和と愛のエネルギーで、胸のあたりがぽかぽかとあたたかかった。
 三千世さんは、水遣りの如雨露を持って、薔薇のアーチまで送ってくれた。もう夕暮れで、花に水をあげるにはよい時間だ。花壇のところで、改めてお礼を言った。 「ほんとうにありがとうございました。今度また来るときは何かお持ちしますね」 「いいの。いとさんが今日来てくれたことが、何よりの贈り物だから」 三千世さんは、ふんわりと、無邪気に笑った。世界のすべてを信じているというように。そして、このわたしを愛しているというように。  如雨露を置いて、三千世さんはわたしを抱きしめた。 「ペチャパイでごめんね。ぎゅ、ぎゅ、ぎゅ!」 おどけた呪文��った。これは、おばあちゃんが、別れ際にいつもしてくれた――。 「じゃあね」 また、いたずらっぽく三千世さんは笑っていた。
 薔薇のアーチをくぐって、一度だけ振り向いた。三千世さんは、如雨露で花に水をあげていた。やわらかくやさしく、霧雨のように降りそそぐ水に、長くなった陽が当たる。そこに、小さな虹が見えた。あたりまえのように、奇跡は用意されていた。わたしは三千世さんの人差し指に光っているオパールの指環に、「ささやかな虹」という名をつけた。
 家に帰ってからわたしは、長い間しまってあったジュエリーボックスを出してきた。おばあちゃんの形見の指環は一つだけだから、ずっと大切にしようと決めて、この箱にしまっておいたのだ。引き出しを開けると、今日見たオパールの指環がそこにあった。わたしは「ささやかな虹」を人差し指に嵌め、頬ずりして眠りについた。
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mishzn · 3 years
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くちなし
花になりたいとは思わない
たとえ愛する人からの一瞥を、頬ずりを、
くちづけさえをも
与えられようとも
くちなしには憧れないのだ
たとえ愛する人をまなざしで、仕草で、
くちづけでも
愛することができるとしても
選び取るだろう ことばを
そして摘んできた花のように
愛する人の玄関に
差出人不明のまま横たえておくのだ
夏の気配の濃くなる六月の夕方に
しっとりとした微風よ
甘やかに愛せよ
あの人の鼻のあたまを
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mishzn · 3 years
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木のように
木は過去の全てを受け止める
ただ来た道をそのままに先へと進む
光のほうへ
生きてきた道すじが幹の姿になっている
いまさら変わらないものを変えようとは思わない
まっすぐに、あるいはねじ曲がって生きてきたことを
過去に戻ってやり直すこともない
上書きすることもない
ただそのように生きてきたことを否定せず
これから光のほうへ進むだけだ
木は過去の全てを受け入れる
純粋さを幼さに仮託しないために
真摯に重ねてきた経験が年輪である
純粋であろうとし続ける営みに触れることができる
それらは融けて一つになることはない
揺らぎながら確立するおのれの姿
更新されそれでも失われることはなく
むしろ強くなってゆく
昔も今も自分なのだと
あのときの自分も間違いではないのだと
たしかにやすらぐ円環の群れ
そうして
木は未来の全てを内包する
そうして生きること自体がすでに完成しているのだということを知っている
見えない速度でうつりかわり成長してゆこうとする
その姿自体が完成形なのだ
常に未来への可能性を包み込み
静かに
ただ呼吸を繰り返すように
ただ愛を与える
生きていくことが必要なのだ
その先に死んでゆくことすらも
木になりたいのではない
木のように生きたいのだ
間違わず
躊躇わず
止まるように進みたいのだ
光のほうへ
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mishzn · 3 years
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地球の祈り
雨のようだったらいい
奇跡のもたらす祝福が
草木を翡翠の色に輝かせ
小川をぱらぱらと踊らせ
鳥のつがいを休ませる
雨のようだったらいい
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mishzn · 3 years
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生きることは震えつづけることで
なんという光
生きることは揺れつづけることで
星くず
波のしらべ
一握りのひかり
わすれなぐさ
あたたかい毛並み
葡萄酒いろの海
ほころぶ雲
挿し木のコップ
裸足の輪郭
焚火に透ける指
世界を映しとる雫
なんという、光
この先永久に奴等が否定するものを守るだろう、守り続ける
生きることは震えるからだを抱きしめること
生きることは揺れるこころを抱きとめること
なんという光、ひかりよ
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mishzn · 3 years
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nostalgia
別の呼び名だらう、音樂なぞは
別の呼び名だらう、慈悲なぞは
別の呼び名だらう、光なぞは
別の呼び名だらう、愛なんぞは
この世界の其處此處に充ちてゐる
眞の理の別の呼び名だらうよ
ずつとずつと昔に觀た活動寫眞に
男が一人、步いてゐた
蠟燭の燈火を兩の掌の中に
決して消えぬやうにと
守り乍ら步いてゐた
微風が其れを嘲笑ひ
今迄の全てが無かつたかのやうに
その燈火を消し去らうとも
男は燐寸を擦り
蠟燭に小さな焔を燈し
再び步き出した
蝋燭が禿びて短くなり
指先の灼けるやうに熱くとも
男は其れを離さず
蠟燭に小さな焔を燈し
未だ步き續けた
別の呼び名だらう、魂なぞは
一人の男が何物に代えても
消え去らぬようにと守つた
小さな、か細い焔の
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mishzn · 3 years
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星々のひそひそ
瑞々しく産まれきた星あかりの
真綿に包まれぼうっとひかり、
まっすぐに愛されている
まっすぐに愛している
世界に赦されて
その歌声に誘われてくちびるがひらく、かすかに
世界にふれられて、いる
抱きしめ返せば胸が満ちて
また震える、魂が、響いて、聴こえる
見つめ合う
笑いかける
映った瞳を何の宝石に喩えよう
小鳥のさえずるように、どこまでも飛んでゆく
かろがろしく
何を守るためなのか、と問うその声は
したたかに
夜毎打ち寄せる波のその何度でも繰り返すこと
夜毎打ち寄せる波のその一つとして同じものはないこと
燃える火の粉のまぶしい踊りを眺めて
このつま先もいつの間にか
靴のリボンを編み上げて結ぶ指の、照らされて
透けるように赤い
生命
まなざしの形
おお、どるちす、びるご
救いたまえ、その御手で
耳を塞ぐことはできず、苦悩に苦悩しようとも
すべてがすべてとともにあることを喜び
分たれつつもそれぞれがあることを喜び
調和と美と愛を浴び
そうして金色の光を帯び
それ以外は必要ない
愛、本質、真理
それ以外は必要ない
あなたからのことづて
泉の、いつもあたらしい詩
すぐに飛んでゆくから
待っていてよ
世界の裏側に居たって
宇宙の果てに至って
それでもまだ追い続ける、涯までも
今ここに立っているからこその使命を
例えば、小川の笑い声を聞く
例えば、木立のおしゃべりに交じる
例えば、この道を確かに歩む
この水面に何が映るか、揺れながら
浮かんで、消えて、また浮かんで、もう消えないで
あなただけの光を見つけるの、とささやく
水面を揺らすそよ風は何処へ
悲しみは溶けあって、海になって、だからしょっぱくて、でもうれしいの
いつか分かち合えたら、と毎晩祈っていたから
月明かりの匂い
肌の温度
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mishzn · 3 years
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故郷の風
風が吹いています
和歌山のあの
初夏の匂いです
蜜柑の白い花の甘い
あの匂いです
風が吹いています
和歌山のあの
海の匂いです
縁側が汗で濡れる
あの匂いです
風が吹いています
和歌山のあの
家の匂いです
台所で茶粥を煮る
あの匂いです
風が吹いています
和歌山は今
夏ですか
こちらはもうすぐです
聞こえますか
もしもし
もう行かれません
和歌山には
ですから風が吹いていきます
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mishzn · 3 years
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おばあちゃんのはんかち
おじいちゃんにもらった、
おばあちゃんのはんかち。
しんだおばあちゃんのはんかち。
むかしのものなのにまだ、
しろくて、白くて。
みどりとあおではながかいてある。
たくさん。
十二ねんまえにしんだおばあちゃん。
まだちっちゃなわたしを、
かえるまえにかならずだきしめて、
おまじないみたいに、いった。
「ぎゅっ、ぎゅっ、ぎゅっ。
ペチャパイでごめんねえ!」
おばあちゃん、げんきだった。
わらっていた。
つよいうでがくるしくて。
いつも、おもしろかった。
あのときの、
おばあちゃんのにおいがする。
きっとそばにいて。
わたしがないているのを見てる。
なんにもできなくて、
おばあちゃんもないてる。
でもだいじょうぶだから。
おばあちゃんのはんかち、
いつもぽっけの中にあるから。
ないても、泣いても。
だいじょうぶだから。
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mishzn · 3 years
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五月雨
透きとおるガラスの、
まだ若い桃の、
隣の、閉じた、瞼の。
睫毛の先に降る、
(祈り)(あなたが……)
まなざしがなぞっては。
そっと。
羽のように、白く、やわく。
熱く。
知らないことばを、
ぽろぽろと溢して、
みて、既に、覚束ない。
五月雨のはじまりと、
(祈り)(あなたが……)
ゆびさきがさわっては。
そっと。
機械のように、骨、軋む。
耳に。
あの日の珈琲を、
淹れる音が未だに、
素足を濡ら、し、ていた。
もう戻らなくて、
(祈り)(あなたが……)
白いカーテンの、
やさしくふれる、
降れ、ふれ、触れ、
ていてもいいですか。問いかけ、
(祈り)(わたしが……)
聞こえない、だって。
また雨。
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mishzn · 3 years
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燃えている星
星は今も燃えているだろう
ぐるぐる廻って
そうとは知らず進んで
足取り軽く
スキップなんかしたりして
星は愛を知っているだろう
ステップを踏みながら
優雅に踊り
抱きしめあって
最後にはくちづけをした
星はいつか死んでいくだろう
きっと愛のために
すべての色のひかりとともに
ちいさなかけらに
そして粒子に
星はまた産まれているだろう
宇宙のこどもとして
息をして
声をあげて
たまに歌っていたりする
星は今も生きているだろう
星は今も燃えているだろう
あなたのなかに
瞳のなかに
それが見える
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