Tumgik
mmmmmmori · 10 months
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ちっちゃい(サイズ)レックスの話
 クラーク・ケントは困っていた。
 ペリー・ホワイト氏の呼ぶ声はいつしか怒声になり、気づいたジミー・オルセンが小さく促してくれたが、それがまるで聞こえないほど困っていた。気のせいだろうか。きっとそうに違いない。だが、今朝からもう3回も確認したのだ。3回。それ以上確認する必要があるだろうか。出勤してロイス・レーンに挨拶し、席に着くまではいつもと変わらぬ1日だった。ただ、そう、デスクから物音は聞こえていたし、それに気付いてもいた。
 クラークケントはスーパーマンだ。この地球上にスーパーマンに傷を負わせるものはほとんどないのだし、多少の異変に動じることはない。だから、デスクの引き出しの中から不自然な音がしていた時も慌てなかった。どれくらい慌てなかったかというと、X-レイビジョンも使わずにいきなり引き出しを開けたほどだ。
 今では後悔している。せめてあの時、中を確認しておけば。
 いや、確認していたところで結果は変わらない。どちらにしろ、引き出しは開けただろうし、その中のものを目の当たりにすることになったのだ。だがしかし、やはり気のせいかもしれない。その可能性は捨てきれない。いくら地球上の、人類の常識を超えた力を持ったスーパーマンとはいえ、不可解なことだけが起こるわけではない。
 と、一縷の望みをかけて、俯いたまま机を透視する。
 そこに小さな骨格が映る。頭蓋骨のカーブは見慣れたものだし、歪みのない背骨もよく知っている。いい整体師でもついているのだろうか。いや、それはどうでもいい。
「……いる」
気のせいではないのだ。肝心なのはそこだ。既に3度確認してこれで4度目だが、初めの2回は引き出しを開けている。骨格だけでなくその姿もきちんと見ている。見慣れたスーツ姿だった。見間違いようがない。
 今、 クラーク・ケントのデスクの引き出しには、親指サイズのレックス・ルーサーがいる。
「クラーク」
上司の声も同僚の声もすり抜けるほどの混乱のさなかにあり、たった今その混乱のもとを確認し直しさらに混迷を深めたクラークの耳は、その声だけには反応した。
「なんだい?」
振り向くと、片手に資料を山とかかえ、片手にコーヒーを持ち、その指先に器用にドーナツの袋を挟んでいるロイス・レーンが、少しばかり呆れた様子で編集長の席を視線で示した。
「クラーク!ケント!!」
ペリー・ホワイト氏の声は、かくしてクラークケントに届いたのだった。
 何が問題なのかが問題だ。
 そもそも、どうしてデイリー・プラネットのクラーク・ケントのデスクの引き出しにレックス・ルーサーが入ることになったのか。縮小くらいはするだろう。レックス・ルーサーの頭の良さはスーパーマンも認めるところではある。だからといって何故クラーク・ケントのデスクに。
 スーパーマンの宿敵レックス・ルーサーとはいえ、スーパーマンの正体は知らないはずだ。
 スーパーマンの宿敵の上、レックスコープを抱えるレックス・ルーサーでもあるから、この新聞社の取材対象になることはよくある。だから、レックス・ルーサーはクラークを新聞記者クラーク・ケントとしては知ってはいるだろうが、何か特別なやりとりがあったことなどない。デイリー・プラネットと関わる時はむしろ、スーパーマンの想い人で、エース記者のロイス・レーンに興味を向けていたはずで、ともかくクラーク・ケントとレックス・ルーサーの繋がりは薄い。
 薄いはずだ。
 ペリー・ホワイト氏からいつかどこかで聞いたことのあるお小言と、新聞の隙間を埋めるための小さな取材をいいつかったクラーク・ケントは、そっと引き出しに手をかけた。
 なんにせよ、相手がどういうつもりなのか聞かねばなるまい。
 覚悟を決めて、引き出しを開ける。
 万年筆、鉛筆、クリップ、幾つかの記憶メディア、消しゴム、ハサミ、カッター、定規、メモ帳、誰かからもらったのだったか使うあてのないジッポライター、のど飴、そこにはデスク右袖一番上の引き出しに相応しい荷物が詰め込まれていた。整理されていたそれらは、今は見る影もなく散らかり、その中心に親指サイズのレックスルーサーがいた。
「おい、腕時計をくれ」
思えば、引き出しをしめてしまえは中は真っ暗だったのじゃないだろうか。息苦しかったかもしれない。流石に悪いことをした。せめて僅かなりとも隙間を作っておくべきだった。
「おい、ぼんくら」
この散らかりようはどうだ。余程怖かったのか、それにしては物の散らかり方に何かしらの目的を感じる。クリップは伸ばされているし、替えのカッターの刃が飛び出して、一枚割り取られている。メモ帳は鋭角に切り取られ、表紙の一部が削り取られ、消しゴムは等間隔で切り取られ、鉛筆の先端部分も削った跡があり、黒鉛の粉が散らばっている。
「おい」
ジッポライターには油が垂れたあとがあり、記録メディアは分解され、薄膜コイルが見える。
「おい、聞こえないのか。腕時計だ」
「え?」
小さなレックス・ルーサーは――なんということだろう、ちっとも可愛くない。小さな生き物には愛らしさが備わっているものではなかったのか。微塵も可愛くないのである。クラークは内心で深く感動した。――大儀そうに立ち上がり、手に持っていたクリップの先を振り回した。
「腕時計をよこせ、と言ったんだ。それから、引き出しは開けておけ、明かりは確保できるが、火が使えない」
「ひ?」
「翼の造形には微妙な曲線が必要なんだ」
「あ、ああ…つまり」
「つまり、腕時計をよこせ。そして引き出しは開けておけ。以上」
「……見間違えだったら申し訳ありませんが、貴方はレックス・ルーサーですよね?あのレックスコープの」
「別の人間に見えるならそいつを教えてくれ。興味深い」
「いや、見えません」
「じゃあ何故聞いた」
何故?何故って。
「どうしてこんなところにいるのか、僕にはちょっと見当もつかないので、どういうことなのかご存知でしたら教えていただきたいと思って」
「始めからそう言ったらどうだ」
「はあ」
「ここにいる原因だが」
どうやら話すつもりはあるらしい。レックス・ルーサーらしいといえばらしい。自分の頭の中を開示するのが好きなんだろうな、と感じることがある。だが一方で、意外にも感じていた。誰かの理解や共感を説得で求めようとするタイプではないと感じることも多かったからだ。頭の回転に言葉が追いつかない幼児に少し似ている。
「分かってたら解決している」
違った。説明するつもりはないらしい。
「だが、ここに居ても無意味だということは明らかだ。私は可能な限り速く研究室に戻らねばならない。つまりレックスコープだな。だからその為の道具を作る。腕時計をよこせ」
「はあ、まあ……安物ですが」
「まさか手回しとか言わんだろうな?」
「電池式です」
「よろしい」
不遜だ。感謝の一つもあって然るべきである。
「感謝する」
「……いえ」
かと言っていざ感謝されるとなると居心地が悪い。相手はレックス・ルーサーだ。我儘で自信家、傍若無人で、傲慢でスーパーマンを常に敵視する天才。
「ところで何を作ると言うんです?」
最後の特性が一番厄介なのだ。奇想天外な手段は彼の得意とするところで、それがあらゆる知識に裏打ちされたトリッキーさだということを理解できる程度には、クラーク・ケント――スーパーマンもまた好奇心とは親しく、つまり率直に言って興味深い。知的好奇心というやつは本当に厄介だし、或���はレックスルーサーが盾にしているのはいつでもそれなのかもしれない。
 未知への好奇心。
 だから、何というか、嫌えない。
 いや、大っ嫌いだ。もちろん、嫌いだとも。ただ、つまり、不当な評価ができないのだ。クラークケントの善良さとスーパーマンの余裕がそれを許さないのである。
 レックスルーサーは悪人だ。それでもその手が生み出すものは稚気に富み、最先端のその先を見据えていて、魅力があることは確かだ。今の社会で企業人として成功するやり方も、政治家として成功するやり方も、教えられるまでもなく理解し、実行できて、かつ善良さによるブレーキがない。
 つまり悪人なだけだ。
――それが致命的なんだけど
それとこれとは別問題と割り切れるような冷め方をクラーク・ケントはしていなかったが、この時は好奇心が勝った。腕時計を受け取って、分解しにかかっている小さなレックス・ルーサーの手元は、おそらく電池を目指しているのだが、それ以外の部品も粗雑に扱うわけではない。何かに使うのだろう。残念ながらその全容が予想できない。
「ジェットパックだ」
そっけなく返ってきた答えに、クラークは首をかしげた。
「フライトコンピューターもないのに」
いかにレックス・ルーサーが天才とはいえ、流石にそれは作れまい。
「驚いたな、それなりに物を知ってる」
「?」
「君を見くびっていたようだ、申し訳ない。ジェットパックは作らない。エンジン付きのグライダーのようなものが良かろうと思う」
「エンジン…」
「どうせ使い捨てる。火を吹かなきゃいい。上昇できるようにしたい」
「貴方は自力でレックスコープまで行こうと考えてるんですか」
「おかしなことを聞くな。さっきそう言ったろう?」
「でもそのサイズじゃ、きっと途方もなく遠い」
「地球を一周した人間が何人いると思ってるんだ。月だってもう遠くない」
「それは、そうかもしれませんが」
「やらないのは損だぞ」
言って、小さなレックス・ルーサーは、引き出しの中からクラークケントを見上げる。時計の機械の油が顔を汚していた。緑の目は不可能を知らないように自信に満ちていて、僕が連れて行ってもいい、と言いかけた声をクラークは呑んだ。息をするように人助けをするクラークにしては、ひどく珍しいことだった。
「他に必要なものは」
代わりに問いかける。向こう見ずなロイスが全身から放つあのエネルギーに似た何かを感じたのだ。
「コーヒーは?カップがあるかな」
「フライトコンピューター」
「それ以外で」
ジェットパックをと言ったのも、全くの嘘というわけではなかったのだろう。とはいえもちろんこれはジョークだ。
「そうだな、カフェインを。よく洗ってくれよ」
と、レックス・ルーサーはのど飴の包み紙で器用に折った小さなコップを示した。袋から追い出されたのど飴は、引き出しの底に張り付いていたが、このとき、この場ではそれは些末なことに思えた。
 だから天才というやつはたちがたちが悪い。
おわり
(2015-05-16 privatter より 改稿あり)
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mmmmmmori · 1 year
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ある作業員の話
CAWS、バッキーがWSになる頃の話。随所に空想。 スティーブもキャプテンも出てきません。暗い。 1日12時間労働が当たり前だし、飯食う以外の休憩時間なんてまるでないし、有給なんてとんでもないし、やたらと忠誠心を求められるし、やたらと忠誠心を表現せよとも求められるし、この職場はかなり最悪だ。 制服の仕立てはいいし、施設内の食堂の飯もずいぶん美味い、給料の支払いが遅れたこともないし、金がないわけじゃないとは思う。以前勤めていた職場の様にある朝出勤したらビルごと抵当になんてことがなさそうなのはいいところかもしれない。安定ってやつだ。 ここが新型兵器の研究所を兼ねた工場だとしか知らないが、その新兵器とやらは超最先端の化学――科学?どっちかなんてわからないままでもここでやっていくことはできる。――を用いたものらしく、そんなすごいものを開発するのに適した建物ということなのか、施設の造りはちょっとしたSF映画のようなところも気に入っている。 生体認証は当たり前で、通路は入り組み、様々な配管と様々なケーブルが這い、角は薄暗く、ところどころ旧時代のレンガが見えているのも、何もかも近未来的というよりも、説得力が増す。 つまり、自分を楽しませるための空想に耐えうる。 外界との接触はほとんどなく、時折、明らかになにかの能力を持った人間とすれ違う。そいつらは科学者だったり化学者だったり工学者だったり、もしくはちょっとした異能力者だったりもするらしい。 昔からそういうものが好きだった。 そういう、“普通”ではない何か。わくわくする。いつか誰かが現れて、お前は本当は“ただの”人ではないんだよと言ってくれると思っていた。 走るのが遅いのも、勉強がいまいちなのも、友達が少ないのも、努力が嫌いなのも、手先があまり器用じゃないのも、何かに熱中した経験がないのも、本来の力の使い方を知らない所為なんだと言われる日を待っていた。 自らに備わっているはずの秘められた力は秘められたままに、こんな場所で働くようになったんだから、これは何か、見えざる運命の手によって導かれた結果なのかもしれない。 なんて口に出せはしない、それでも、期待の熾火が体の中にまだあって、相変わらず「他人とは違う何か」に心惹かれる。 だから、仕事はきつくても、後悔はしていない。 偉いさんが来るたびに作業の手を止めて両拳を上につきだすあの習慣はどうにかならんかな、とは思っているが。 しがない1作業員の仕事はもっぱら部品の運搬と組立補助だ。施設のどこかで作られているのか、それとも外から運び込まれるのか、木箱に入ってずっしりと重いネジやら歯車を検品して、運ぶ。運んだ先で鉄板を支えるよう命じられたらそうする。椅子を運び上げる様に言われたらそうする、組み上がったモーターを持っていけと言われたらそうする。細かな部品を運搬するからか、施設内をある程度動き回ることが出来た。 だから、そう、多分様子をうかがえた下っ端の人間は、他にはいなかっただろう。 何台もの飛行機がくみ上げられ、いくつものミサイルが立ち並ぶ格納庫の、3階部分のデッキに、その人影を初めて見た。 名前も知らない上司――上官の姿に、作業員全員が手を止めて両手を拳にして突き上げる。上司は、三人、別の人間を連れていた。正確には、二人の兵士に両脇から支えられている、もしくは抑え込まれている、男を一人。 そいつは明らかに“違う”やつだった。 上司も“違う”やつではあるから、上司のお仲間かもしれない。それにしても、色々と“違って”いた。 ドッグを見下ろす視線は淀んで生気がない。そのくせ、全身からは強い緊張を感じる。良く飼いならされて、虐待され、飼いならされ過ぎて、生き物としての本性を失った猟犬のような感じだ。 全身黒づくめで、体格は妙にいい。 口は半開きで、どうやらせわしなく呼吸を繰り返している。 上司が何かを言い、そいつは頷くでもなく、両手を突き出すでもない。そもそも左側に腕がない。肩からぶら下がった袖は、肩口で縛られていて、縛り切れなかった袖口が中途半端な高さでふらふら揺れている。 上司がまた何事かを話しかけ、袖に覆われた、腕のない方の肩を掴む。 上司が顔を近づけ、男にまた何事かを言うと、彼が強く床を蹴った。 その音は格納庫に随分大きく響き渡り、3階のデッキ全体が揺れた様にも見えた。 上に突き出したままでいる両腕も、それに合わせてふらふら揺れる。その揺れを見とがめられた誰かが、殴られる音がする。あーあ、と思いながら腕に力を入れなおす。 何を思ったのか上司は一つ笑うと、何事もなかったかのように踵を返す。視線が外れて、デッキの下でもやっと腕を降ろすことが出来た。 あと5秒、揺れないように踏ん張れたら、殴られなかっただろう同僚が、これから腫れ上がるだろう、下痢もするだろう、腹を軽くかばうようにしながら、文句も言わず今までの作業に戻る。もちろん、皆そうする。腕を上げ続けるのは結構な重労働なのに、その愚痴を言う相手も見つけられず、こそこそとその場を去る。だれもがまだやらなくてはならないノルマが残っているのだ。   そのノルマ達成のために指定場所に向かうと、厳重に梱包され傾き厳禁の札の貼られた難物を、慎重な様子で手渡しされる。 傾けずに運べなんて無茶もいいところだと思うが、作っているのが兵器となると傾けたがために運び手が死ぬことも考えられるから、もちろん慎重に運ぶ。よほど衝撃に弱い物質なのかもしれない。 となると、揺らすのも避けたかった。台車を使うのは諦め、両手で抱える。これ一つではノルマを終えられはしないが、幸い重さも大きさも自分でも抱えられる程度なので、まだ今日を終えられないこと、手がふさがって走りにくいこと、つまりこれ一つ届けるのにやたらと時間がかかるだろうこと、つまり、今日の終わりはますます遠のくことを除けば、困難はない。 で、こういうやっかいな荷物の常で、行く先は格納庫でも工場でもなく、研究所内だった。内と言っても該当部署の扉の前までで、秘書だか事務員だか研究助手だかの下っ端と伝票をやりとりするのが精々だが、中は中だ。 すこし、わくわくする。 これはきっと“特別”な荷物だろう。 荷物を抱えて入り組んだ廊下を行く。 この道を覚えるのに半年かかった。覚えた先から通路が増やされたり減らされたりするのにも、今となっては慣れた。 すれ違う同僚は皆無口で、忙しそうだ。皆真面目で結構なことだ。 指紋認証と、声紋認証とを通り抜け、セクションの区切りで門番よろしく立っている兵士に荷物と身分証を見せる。制服着てるんだからそのまま通してくれりゃいいのにと思いはすれど、とても言えない。奴ら、必要以上に無表情だし、話しかけるなんてとんでもない。 そうやって、ある扉の前に辿り着いた時だった。 通路の先、奥まった部屋の前に兵士がいる。どうしてこんなところに、と思ったと同時に、さっきの猟犬のような男が引き摺られてやってきた。この短い間に何があったのか、口の周りが真っ赤で、どうやら鼻血と、口の中も切っている様で、赤い滴は涎とも混じり合い、顎を伝い降りていた。黒い服はところどこ��焦げ、足首は奇妙な方向に捻じ曲がっていた。それをまるで荷物でも運ぶかのように引き摺って、引き摺られるそいつの目は開いていたが、焦点があってなかった。 ――……死…んでんじゃ… ぞわっと気色悪い感触に襲われる。 明らかに拷問の後だ。血の匂いと、タンパク質の加熱された匂い。尿の匂い。この短時間でいったい何をどうしたらあれだけ痛めつけることが出来るのか、俺には分からない。 拷問で施設内で人を死なせるなんて、褒められた話じゃない。そうだろ? しかも相手は片腕がないんだ。 だからと言って声をあげることもできなかった。黙々と仕事に打ち込む同僚の顔が過り、声を上げたところで無意味だと思った。声を上げれば罰されると思った。腕を揺らして殴られた同僚のように。 ここがそもそもひどく気色の悪い施設なのだと、唐突に気づいて、だからと言って出来そうだと思えるものなど何もなかった。 やりたいとおもえることもなにもなかった。 いつのまにか傾いていた荷物を、抱えなおして、それから届けねばならなかった。 ぐびりと唾を呑みこんで、目の前の扉を叩く。 扉は奥に開き、白衣を着た男が出てくる。 俺は無言で荷物と伝票を差し出す。 男も無言でサインをして、荷物を受け取る。 バチッっと激しくショートする音が奥の部屋から響き、追って、内臓を全部抉り出されたみたいな、苦痛と悲痛が絡み合い、憎悪と怒りに縁どられ、それでいてどうしようもなく空虚な、聞くに堪えない悲鳴が響く。 やっと自由になった両手で、とっさに耳を塞いだ。 白衣の男は、奥の部屋に視線を投げ、それから、こちらを咎める視線で見る。 同僚が殴られた音がよみがえり、一瞬、体が激しく震える。耳を塞いだ手の平越しにも、悲鳴はまだ続いていて、それでも、その手を無理やりはがして、悲鳴に飲み込まれながらその場から逃げ出した。 それから、どれくらい経ったのか。 左側に儀腕を付けた黒ずくめの男を施設内で見かけた。 その場で蹲って泣いていた。 おわり (2014-06-18P privatter より 改稿あり)
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mmmmmmori · 1 year
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存在の在り方
スーパーマンと現代日本クロスオーバー2
「空だ!空!彼だよ!」 ああ、そうスーパーマンだっけ?名前くらいは知ってるけどね。  誰に話しているのか、道端で携帯電話に興奮気味に語る声は大きく、嫌でも耳に入って来た。  ふと気づくと目の前の人も、その隣の人もぽかんと空を見上げている。道で立ち止まって空を凝視するなんて、ちょっと異常な行動だ。道は目的地に向かう為に使うもので空を眺める為には作られていない。  ただ、そう、周りの人間がみんな空を見上げる場として道を使っているなら、それに従うのはやぶさかではないし、私は結局右へ倣えが好きなのだ。  だからつられるように空を見た。  ごりっと首が鳴り、そして落胆した。  当たり前といえば当たり前だ、スーパーマンは恐ろしく速いのだ。だからもちろんそこにあったのは夕暮れの空だけだった。  残像が軌跡として残っているようなこともない。飛行機雲の一つでも作っていってくれればいいのにと思いかけ、飛行機雲は飛行機雲でしかないかと思い直す。  誰もが見たがることは分かりきっているのだからちょっとスピードを落としてくれたっていいのに。  西に傾く太陽と薄く広がる雲。  そういえば空を見上げるなんていつ以来だろう。  ここしばらく見上げる角度になったことのなかった首と肩が、微かな痛みを訴えている。  でも、だからどうってこともない。  空を見上げたところで何が変わるわけでもない。  正社員の口を探さなければと思いながらバイトに通い、たまの休日も職安になんて行こうとさえ思わず、先への不安は大きいくせに何かをはじめる面倒臭さに何もはじめないまま、不安ばかりを募らせ漫然と日々を送る。明日も明後日も。そして恐ろしいことに1年後も。  3年後にはバイトをクビになってるかもしれない。  ぞっとする。  でも週5日は拘束され、休日にも研修を押し付けられ、有給を使うのは肩身が狭く、たとえ週休であっても休むためには休む日の仕事の割り振りをせねばならず、1時間で済む急用でも半休を取らねばならず、結婚後も仕事していいよと理解ある俺の顔をする恋人に我慢できなくなって別れることになるような働き方はもう嫌だ。  いや、別れられたのはよかったけれど。  バイトは気楽だ。ノルマもないし、査定もない。真面目でさえいればそこそこ有り難がられる。  年金と健康保険を払うと半分も残らない給料であっても、バイトの方がまだましだ、と思う自分がいる。 この心許ない収入なら住民税も所得税も免除になるからありがたい。ただ家賃が必要な生活だったらこうはいかなかっただろうから、実家の一部屋を私に使わせてくれている両親にも有難いと思っている。  有難いと思うけれど、両親の、仕事は?彼氏は?結婚は?の声はなんの感慨も呼ばない。とはいえ、仕事もしくは結婚は?なんていうものの見方をする親じゃなくてよかったと心から思う。それは交換可能なものじゃない。全然別の話だ。それを知らない人が世の中には意外な程多いということは、会社勤めのときに嫌という程知った。  なんにせよ、この生活は不安定なまま変化はしないだろう。少なくともあと1年。できれば3年。可能ならば一生。  家に帰って自室に引っ込み、コートを脱いでパソコンの電源をいれて窓の外を見る。  もう日は落ちて、ほとんど夜になりかけている。  スーパーマンは夜も活動するのだろうか。太陽をエネルギー源にしているとどこかで聞いたような気がするけど。  どこからともなく現れてどこへともなく去っていくスーパーマンが、日暮れとともに動けなくなったらちょっと面白い。ソーラーカーみたいだ。面白いのに聞いたことはないから、きっと夜でも動けるのだろう。 「電池切れそうになったら宇宙に出ちゃえばいいのか?」 夜なんて呼ぶから絶対的なもののようだけれど、あれは所詮影なのだし。  特に目的もなくパソコンの前に座り、特に目的もなくTwitterとニュースサイトを開いて、携帯電話をコートのポケットに入れてから家に着くまでのほんの15分で世の中に変化がなかったことを確認する。  椅子に引っ掛けたコートを引っ張って、携帯電話を取り出し、ラインのメッセージもメールも着信もInstagramのDMも、もちろんないことを確認する。  たかだか15分ではなにも起こらない。  ただちょっとバスの事故のニュースがあったり、誰かが死んだり、誰かが結婚したり、物騒なことが海外で起こってたりするだけだ。いつものことだ。  新しい事件なんて私は求めていないし、いつも通り良くもなく、かといって私に害を及ぼすほどではない世界をぼんやりと眺める。  それでも惰性でページの更新をする。 「あ」 素人の写真だろう、『スーパーマン現れる』の簡単な見出しの下のぶれて画質も悪いサムネに、赤と青の人形のものが写っている。  ふうん、と思う。  よく撮れたなという感心と、でもきっと偶然カメラを構えてたら的なことなんだろうなという勘ぐりと、気になっていたものが見れたという嬉しさと、こんなの見たからどうだっていうんだという呆れ。  呆れたことで、何かを期待していた自分に気づかされた驚き。  ちゃんとした姿形は、検索さえすればいくらでも見れるのは分かっている。インタヴュー動画だってあったはずだ。それとも会見だったか。ともかく喋って動いている姿を見ることは簡単にできる。  だから、今回の写真がそうかどうかわからないようなものだったことを嘆く必要なんて、何もないはずだ。  スーパーマンは概念だ。実在する形而上。色は古びることなく、存在は老いることなく、いつでもどこにでも在って、いつになってもどこにもない。  昔の映像だって今の彼(と呼んでいいのか、それ、と呼ぶ科学者がいたはずだ)の姿と寸分違わない。彼が現れたいと願うと現れるのか、それともこちらの世界の出来事になにかトリガーがあるのかはしらないけれど。 「……事故があったならそこに直接現れたらいいんじゃないの?」 ふと思って、ニュースの見出しをクリックした。  スーパーマンが現れるに値する事件や事故についてなにか情報があって、飛行していた理由がわかるのではないかと思ったのだ。  が、そんなことはまるでなかった。  今日の何時頃どの辺りでどの方向に飛んでいくスーパーマンが目撃された、という見出しままの一文があるだけだ。  なんだ、と思ってそのときはそれ以上考えるとこをやめた。  考えたことをやめたつもりでも、ずっと気持ちに引っかかったままになってしまうことがある。  時折はなんとなく気持ち悪いままそのまま忘れていき、時折はきっかけを得てまた考えが進んだりする。  スーパーマンがどうしてあのときあんなところを飛んでいたのか、について、考えるのをやめたつもりで、ずっと気持ちに残っていた。  その理由をどうにかして知れたら嬉しいと、ぼんやりと思っていた。  だから、それから一週間、大きな事件や事故のニュースがあるたびなんとなく気になって、スーパーマンは来なかったんだなと何度も思った。  何度も何度も、ああ、来なかったんだな、そうか来なかったんだな、と思い続けた。  大きな事故や事件は数えきれないほど起こった。世界のあちこちで沢山人が死んだ。でもスーパーマンが現れたというニュースはあの日以来聞かなかった。  あの日だっていったい何年ぶりだったのか、十何年ぶりだったかもしれない。  こんなに毎日事故がありこんなに毎日事件があるのに、また来ない、いつだって現れない、スーパーマンの癖に、と苛立ちさえ覚え始めたその日、歩いていた私を追い抜こうとした自転車にぶつかりかけて、ひやりとしてから、やっと気付いた。  スーパーマンが来てくれていたら事故は起こっていないのだ。  あわやというぎりぎりまで放置されない限りニュースにならない。  例えばスーパーマンが飛行機を支えたり、例えばスーパーマンが転覆しそうなタンカーを運んでくれたりして、時折事故を防ぐ様子を派手に見せてくれるのは、他にどうしようもないからだ。  凍結で前輪が出ないなら出るように溶かしてしまえばいい、転覆しそうに積荷がずれて��まっているなら、バランスを取り直してあげればいい。  彼ほどの力があれば、ひっそりとだってできる。  事故になりそうだったことなんていくらだってあるだろう。ただ、それはニュースにならない。結果的に事故にはならず、なんの被害も生まれなかったからだ。  ニュースにならないところにこそ、彼の活躍は潜んでいる。  じゃあ、あのとき空を飛んでいたのは。 バイトに向かう寝ぼけた頭で、空を見上げる。空はすっきり晴れ、太陽はビルの影にある。私は影の中にいる。  そんなセンチメンタルなことがあるものか、と照れる自分が抵抗する。  そんなことを考えついてしまった自分にむずむずする。  でももしかして、ああやって姿を見せるだけで、姿を見るだけで、あるいは現れたというニュースを聞くだけで救われる人間が、あのとき沢山いたんじゃないだろうか。  スーパーマンが現れたから、結果的に助かった命が数え切れないほどあるんじゃないか。死ぬのを踏みとどまったり、追い込まれていた気持ちが緩んだり。  それなら、この国の寒くなっていくばかりの時期の、あの帰宅ラッシュの時間に現れた理由にしてもいいんじゃないか。  違うかもしれない。  もっと分かりやすい理由があるのかもしれない。未然に防がれたもっと具体的な大事故があるのかもしれない。  でも、そうかもしれない。  疲れていたみんなの気持ちを少しだけ明るくする為に、あのとき空を横切っていってくれたのかも。  一歩動けばビル陰から抜け出て、太陽も見れると気付かせてくれるために。  日の光の中は暖かいと教えてくれるために。 おわり
( 2015-01-01 privetterより 改稿あり)
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mmmmmmori · 1 year
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憧れの形
Twitterでみかけた「概念になったスープスが時折人の形に戻って人助けをする」話。スーパーマンと現代日本クロスオーバー ---------------------------------- 「お疲れ様です」 「お疲れ様」 そそくさと帰っていく後輩の背中を給湯室から見送り、空になった栄養ドリンクの瓶を捨てる。  彼女はよくやってくれている。  ここのところ残業続きで疲れているだろう、いつもの愛想のいい笑顔は消えていたけれどこうして私にまで挨拶をしてくれる。  残業代もまともに払わないこんな会社辞めてやりたいと思ったりもするだろうに。 辞められる自由さが、彼女にはまだ残されているだろうに。  ああ、だめだ。やっぱり少し疲れているのだ。迷った挙句安い栄養ドリンクにしたせいか、大して効きもしない。 窓のない給湯室の煤けた壁を睨んで、ため息を飲み込んで、緩んでいた蛇口を占め、携帯電話をとりだしたら、黒い画面に映り込んだ自分に目つき悪く睨まれた。  少し笑えた。  目指す先はあるのだ。具体的にこうだと言葉で示すことはできなくても、あのとき会ったあの人のようなことが、たった一度でもできたら。いつだってそうできる自分でありたいと思ってはいる。誰に話しても信じてはもらえないけれど、諦めずにそうあろうとすることをやめられないくらいには、それへの憧れやそこにある希望は強い。  その人に会ったのは、9才のときだった。
 私は小学生だった。  学校の裏の駐車場には砂利が敷き詰められていて、端に小さなウサギ小屋があった。  学校が随分しんとしていたのは、休日だったからか、授業中だったのか、その辺の記憶は定かではない。ともかく私は一人でウサギを眺めていた。ウサギはピクリともしなかった。気を引ける餌もなく、私は焦れて金網を揺らした。今となっては褒められたことではないと分かるが、当時は目的の正しい達成の仕方を吟味する力はなかったのだ。  結果的に、ウサギは少しだけ顔をあげ、私は手のひらに傷を負った。おそらく金網が歪むか外れるか錆びるかしていたのだろう。その辺りの記憶も不確かだ。或いは、原因を究明しようなんて思いもしなかったのかもしれない。  手のひらの痛みに、ウサギから興味がそれ、滲んだ血に眉をひそめた。  痛いというより不快だった。  傷ついていない方の手の指を唾液で湿らせ、滲んだ血を擦る。  唾液が沁みて痛い。血は拭き取れなかった。  駐車場の端に水道があるのは知っていて、手を洗おうと思ったときに思いついたのはその水道だった。  血の滲んだ手のひらを気にしながら、砂利の上を走った。細かい砂利は走る私の足をとろうと絡みつき、ざりざりと大袈裟な音を立てた。  ほんの少しの距離なのに、水道にたどり着くころには息が上がっていた。それでも、ともかくたどり着きはしたのだから、と気を取り直して蛇口に手を伸ばし、はっと気づいた。  台がない。  私は小柄で家でも学校でも水道を使うときは小さな台を使っていたのだ。私の他にもそういう児童はまだいたし、特段珍しいこととも不便だとも思ったことはなかった。  駐車場の端にあったその水道は、いつも学校で使うものと同様、蛇口を上向きにもでき、水を受ける槽は子どもの腰の高さにあわせてあって、水が跳ねを防ぐように槽は深い児童向けのものではあったけれど、私には大き過ぎた。  そして台がなかった。  ただやはり当時の私には目的の正しい達成の仕方を吟味する力はなかったのだ。台の代わりを探すこともしないで、むやみに背伸びして手を伸ばした。届く気配すらなかったけれど、他の方法を考えられなかった。今となっては馬鹿だなあと笑えるけれど、必死だった。  手を洗いたかった。水道はそこにあって、みえているそのカランをちょっとひねるだけで目的は達成できるのだ。簡単なことだと思っていた。簡単なこともできない事実を受け入れられなかったのかもしれない。もしくは、ウサギ小屋の金網を揺らしたことへの罪悪感がどこかにあって、誰かに助けを求めるのを恐れていたのかもしれない。  どれくらい手を伸ばしていただろう、ほんの数十秒だった気もするし、五分は経っていたような気もする。  きゅっと甲高い音がして、蛇口から水が流れ出した。  手をできるだけ伸ばそうと顔を逸らしていた私は、驚いて水道を見た。  そこに落ちる影を追いかけてもう一息顔をあげた。  するとそこにその人はいたのだ。  水道の上の縁のあたりに赤いブーツの先が見えた。それは縁には触れていなかった。つまり、浮いていた。  青い衣装に、赤いマント、胸のマーク。  後になって思う。あの砂利敷きの駐車場で足音をたてずに近づけるのは飛べる人だけだ。飛んで上からそっと手を差し伸べられる人だけだ。私がどうしても届かなかったそれを掴んで回している時、その人は逆さに浮いていたのか、それとも屈んだのか、膝は曲げていたのか伸ばしていたのか、腕は伸びていたのか曲がっていたのか、俯く視線は何処を見ていたのか、ちらりとも見なかったことを悔やむようになったのはさらに後になってからのことだ。  そのときはあっけにとられて見上げることしかできなかった。  すっと指さされて、血の滲んだ手のひらを思い出す。  その指をすうっと持ち上げて左側を指し示し、その人は少しだけ目を細めた。 「むこうに、雨ざらしの椅子がある。壊れてはいないから、台につかうといい」 頷けた自信はない。けれど言ってくれたことは理解できた。  軽く頷くような仕草を見せてから、その顔をふっと空に向け、そのまますうっと昇っていった。赤いブーツのつま先はすんなり空に溶けていった。  しばらく見上げていたような気もするし、見えなくなったその瞬間に首を戻したような気もする。ともかく、改めて水道に向き合った私は、動揺を押し隠して手を洗った。  細く出された水は傷口を刺激することなく、そっと血だけを洗い流してくれた。  父親に胸のマークを描いて示した。 「スーパーマンか、懐かしいなあ。今の子たちも知ってるんだね」
母親に水を出してもらったのだとこっそり伝えた。
「スーパーマンは大変な目にあっている人を助けてくれるの」 私のささいな怪我を助けるために現れる筈はないと、直接言わなかったのは親の優しさだったのだろう。 「みんな一度は会いたいと思ったことがあるんじゃない?」
「父さんも会ってみたいなあ」
「でも生きるか死ぬかの瀬戸際でないと、きっと。そんなことはないほうがいいと思うな」 信じてはもらえないが、ちょっとした話題提供にはなると気づいてしまったのはいつ頃だろう。  それから何度も私は声にした。ちいさいころ、怪我をして、でも水道に手が届かなくて困っていたら、スーパーマンが水を出してくれた、という事実を。  酒の肴に消費されることもあったし、その人への憧れのただの呼び水になることもあった。今の夫にも何度も話して聞かせているが信じてはいないだろう。それでも不思議とそのエピソードは磨耗せず汚れず私の中にあり続けた。  山さえも動かす力のある人が、ちょっと蛇口をひねる為だけに現れたという事実が、私をすこしいいものにしてくれた。  私が見る世界を少し綺麗なものにしてくれた。  あの姿にいまでも憧れる。そうありたいと願う。そうあるために何をすればいいのか未だよくわからないけれど、他人の怠惰を羨むよりも他人の努力に気づくようにありたい。  携帯電話の画面に映り込んだ自分はもう子どもではないけれど、疲れから目つきだってよくはないけれど、だからこそその憧れは強くなる。できないことはないのだ。できないことじゃない、自分にとっては些細なことだって誰かには重大事かもしれないと分かっているだけでいい。  と、手の中で電話が震える。向こうからかけてくるなんて珍しいと思いながら通話ボタンを押す。 『窓!』 「え?」 突然叫ばれて、つい電話を耳から離した。 『窓の外!見えるか!?』 それでも声が聞こえてくる。どうやら随分興奮しているらしい。 「外?」 『空だ!空!彼だよ!』 「彼?」 何を言っているのだろう、夫と私の共通の知人は多くはないし、その中に空から現れそうな人物なんていない。  彼と言うからには男性だろうか。 『空に、スーパーマンが』 ああ。  その言葉は驚くほどすんなりと私に馴染んだ。  空に、スーパーマンが。  見なくても思い描ける、赤と青の軌跡。  私が話して聞かせたあの日の穏やかな奇跡を、夫は信じていたのだろうか。 おわり
( 2014-12-09 privatter より 改稿あり)
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