物語を詩へ 習作 ハル
先に物語として文章を書き、それを詩へと変換する試み。
実際的で現実的なものからもっと表象的で形而上の何かを表現することを目標としたい。
君と僕は学校帰りの駅のホームでベンチに座って電車を待っていた。
この時間にしては珍しく他に人影はなく、プラットホームの大きな庇を超えて桜の花びらが舞い落ち、夕方の柔らかい光が二人を照らしていた。
そのときの僕らは特に言葉を交わすことはなかったけれど、二人の間に漂う空気にぎこちなさはなく、つまりそれは親密さゆえの沈黙だった。
君がスマホを取り出したりしないことが僕には嬉しかった。
君は差し込む夕日に目を細めながら、暖かい風に舞う花びらを見つめていた。
少し微笑んでいるように見えた。
君の横顔を見ながら、僕はこの時間が永遠に続けばいいと思った。
どこでもない駅の2番線に「 」が参りますご注意ください
桜の花びらが、横溢する色彩の速度で夕日を透過して舞い落ちる中、君と僕で永遠を待っていた
春の温度で漂う無言の交信としての愛は多少の気恥ずかしさを原因として光の粒子に変換されて空白へ還元される
体の温度が上がる感覚は君が海底に沈めた銀の指輪で地球の反対側から僕を照らす星に喩えたみたいだ
あらゆるものが金色に染められて静止したかに見えるここで、君は浮かんでは踊る花びらを静かに感じている
君は地球でたった一人の女王様みたいだ
そして僕は地球でたった一人の君の従僕でありたいと思った
難しい。
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記憶の海
降りそそぐ恒星の光は微粒子となって穹窿を覆うナノマシンを透過することで片端へと変容する夢を見つつ��の星に不時着する。
終末は前世紀に去り、眼下のビル遺跡群を見下ろす鉄塔の高圧架空送電線は自励振動によって上下する。鉄塔は暗灰色に煙る世界で今日も穏やかに動かない。
君たちは非在の罪で存在と記録を科せられた無実の観測者だ。電子的な言語を使って、世界中に遍在している沈黙する廃墟の口を割り、埋もれた星の遺産を発掘する。君たちはすでに死者すら塵となったこの世界で、悠久の夢想に耽りながら彷徨する。
かつてこの星には、電子の海なるものがあったという。
海を知らない君は視界一面に咲き乱れる勿忘草を想像する。君が記録ではなく記憶として認識できるただひとつの情景。(0と1の動く音がする)
捏造された過去の記憶のようにそれぞれが持つ原風景は白昼の走馬灯に近く、彼が教えてくれた彼の記憶の海を君はロードする。(君たちは0と1で思考する)
青。見渡す限りの青い水溜まり。君は彼がくれた青だけでは、上手く海を想像することができないだろう。
なぜなら青という色は君の持つ勿忘草の原風景と分かちがたく結びついており、君の神経回路は容易に混線する。吐き出したエラーは無視された虚妄の秩序であり、深い夜に広がる何千ヘクタールもの花畑は弱く発光しつつ蠕動する花弁に支配されており、背に瘤をつけた猫は醜聞を暴かれ都を追放された王のように跛をひきながら後じさりし、巨大な針が無数に突き刺さるそこは墓場もしくは天国の様相を呈しながらも、上空三千メートルからは笑顔で手を振る初音ミクが逆さまに群れなして落下してくる間に赤ん坊は父に復讐を果たさんとポケットの中の脈打つ弾丸を握りしめたところで料理番の女はギムナジウムで読んだ叙事詩に出てくるピエロの仮面をつけて仲良く踊る二匹の蛹を午後六時のテレビのニュースで見たって言ったってあなたそんなわけないじゃない気でも触れたんじゃないのって姉さんが言うんだだから僕は悲しくて手首を切ったってブログに書いたら厨二病乙ってみんなが馬鹿にするから勇者である僕は悪のインターネットから世界を救うために電源を
インターネット? (0と1の動く音がする)
君はその言葉をどこで知ったのだろうか。エラーは回復している。検索をかけてもヒットすることはない。君はその言葉を、今見た白日夢を、すぐに忘れてしまうだろう。それは君の電気的な迷子のシナプスが偶然見せた仮構のビジョンだったのかもしれない。
だが君は、それがかつてこの星にいた生物の最後の落とし物である可能性を否定することができない。
君は彼らの最後のゴーストの囁きを聞いた可能性を、否定することができない。
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産声
春の夜の水平線に浮かぶのは月の影の輪郭の幻影で、胸の内にわだかまる耐えがたい寂しさはそこから鳥が運んでくるという
海岸と並行して走る道路は先刻の雨で濡れていて、反射する街灯の光が霧に煙る中遠くまで続いている
生暖かい風は焦燥感を掻き立てるには優しすぎてこんなはずではなかった
夜明けを拒絶する身体はそれでも足を止めずに海岸線沿いの国道を歩き続ける
頭上を鳥が横切って飛ぶのを感じる
一定の間隔で彼方から押し寄せる無限の波はその音でこの町のあらゆるものを忘我の底に沈めた
廃墟と化したこの町の住人たちも今は霧となって町を包んでいる
乱反射する月光を吸い込んだ町は自ら発光するかのごとく仄かな光に包まれ冷たく眠る
静けさだけを求めて旅を続けていた僕も今はこの霧の中に住みついた
ここを終点と定めて
(孤独な魚が覗くのは天空に浮遊する万華鏡
夜に響く声は色彩を伴って光を放ち、子供の幽霊たちは水平線を目指して舟を出す
切り離された感情のいくつかは壁の向こうで未だ彼らを探している
黒板に計算式を書いた子供は彼方を見つめて罅割れた魂の欠片を波に返して櫂を漕ぐ
彗星を見上げる子はその望郷に恐れることなく傘を閉じ、その横顔を盗み見る子は小指に付きまとう約束から逃れるために裸で弦に振り下ろした右手をとうとう重力から解放した
安寧は対極にある
波に揺れる船が星の五線譜に落ちるとき此岸の理解は解れるように霧消するだろう
子供たちはただその一点を目指して舟を進める
あらゆる感情を海の青に溶かし、それでも寂しさだけを残して
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virt
加速する夏の中に佇むあなたを僕は9月1日から眺めている
眩暈と妄執で溢れそうになっている夏のプールサイドで目を閉じたのは
掌の代わりに飛ばした紙飛行機を空に浸して青に返す循環がとてもきれいだったから
水面の煌めきは偽の乱反射で僕にはちっとも眩しくない
のを知らずにあなたは僕に微笑みかけるから僕も目を細めた
架空のあなたに動かされた僕の感情はどのように堆積していくのだろう
ガラスで隔てられたコンクリートはあなたに熱を感じさせているのだろうか
どこにも影のないそこで汗ひとつかかないあなたの翻るスカートが僕に感じさせる虚無を感じるあなたを僕は感じている
昨日には消えているかもしれない気持ちをあなたのラムネ瓶の中で溶かしてくれたら明日も
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lost in
万象の流転 青い風景 誰もいない無価値な都市 人類の消失 流転 るてん? なにも許してはいない
立ち並ぶ巨大ビル群に挟まれた大通り
目隠しをされた何千もの偽人間が
空を仰ぎながら手にした如雨露で水を撒いている
消失した意味はどこにも行かない
君の感情はこの街で堰き止められる
ここが終点
加速する夏の中に佇むあなたを僕は9月1日から眺めている
眩暈と妄執で溢れそうになっている夏のプールサイドで目を閉じたのは
掌の代わりに飛ばした紙飛行機を空に浸して青に返す循環がとてもきれいだったから
水面の煌めきは偽の乱反射で僕にはちっとも眩しくない
のを知らずにあなたは僕に微笑みかけるから僕も目を細めた
架空のあなたに動かされた僕の感情はどのように堆積していくのだろう
ガラスで隔てられたコンクリートはあなたに熱を感じさせているのだろうか
どこにも影のないそこで汗ひとつかかないあなたの翻るスカートが僕に感じさせる虚無を感じるあなたを僕は感じている
昨日には消えているかもしれない気持ちをあなたのラムネ瓶の中で溶かしてくれたら明日も
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lovesliescrushing / bloweyelashwish
立ち並ぶビル群を逆さまに映し出す都会の水溜まりよ
俯く私をどう思いますか
陽光跳ね返し私の眼を射る無言の接触
早朝の光は私の眼を焼き視界の四隅に黒くノイズが混じる
風で揺れる水面は彼岸から伸ばされた安息の曙光だ
光は天使となって私を包み、私という存在を数センチだけ浮遊させる
世界から私という概念だけが遊離し、波打つ鏡の世界は私を容易に分裂させる
境界を超える私から時間が剥がれ落ち
過去に僕だった私と未来で再び僕となる私が現在の私と邂逅する
昨日となった今日は細雨が降りそそぎ、同時に今日の曙光が雨を貫いて乱反射する天上の光景
天空から屹立する建造物は重力に逆らうように地へと背伸びし、地上では天に足を向けた人々が足早に過ぎ去っていく
逆さまとなった私は空に立ち、地から昇ってくる光る雨に身を任せながら深呼吸する
私だけの静かな鏡の世界
輪郭だけとなった私に触れるのは遠い水平線から放たれた蝶だ
8歳の僕がそれを捕まえようと伸ばした手に触れるのは一人の少女の手で
微笑む彼女から手渡されるのは小さな王冠で
それを頭にのせた僕はこの国の王様でした
光り輝く雨の中、少女と僕は走り出す
重さをなくした二人の体が透明な街へと消えてゆくのを
雑踏の中、水溜まりの前でイヤホンをつけた私は静かに見送る
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void
空間を編み込む雨粒
もっと柔らかくなれ
吐いては捨てればいいさ所詮は届かないものだから
どこにも属せない君だから
少しだけ浮いて生きていく
蛇行して飛ぶ羽虫を羨んで
未来への希望を初めから棄却する路傍の石
星屑の世界はすぐそこにあって
君の気高さは誰にも理解されなくて
日常に馴染めず何度も行き来して
無機物だけが理解してくれる気がする
朽ちた天井から滴る純水に打たれるとき
蠕動する細胞から無窮の世界は広がりを見せ
世界から遠く隔たったところで瞬間の永遠が展開される
叶わない願いを持つ君だけが行くことの出来る星辰の世界
意味の伴わないものだけを連れて行け
どこに帰りたいのかわからずとも
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