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emmuree - 想(可哀 想) , 朋(munimuni)
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emmuree - 想 , MUNIMUNI - 加納 摩天楼
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emmuree落書き(想,朋)
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Luxor
わたしの実家の家業は、違法賭博のゲーム喫茶だった。ガラス製天板のテーブル筐体の中の、ブラウン管のモニター上で躍る花札たちの人工的な紅がとても鮮やかで、その狭い世界で唯一美しい色であったことを覚えている。
夫婦喧嘩の最後には、父と母、それぞれに私か兄が付き、1度距離を置く。お決まりのパターンがわたし達の家庭にはあった。
兄もわたしも、「今回もお母さんがいいな…」と口にはしないものの、父に付いていくことになると、「この世の終わり」を見せられることがわかっていので、そのたびに二人ともお互いを想い、または己の不遇さにただ泣き喚いた。
父に付いていくわたし。車の中で一度もその顔を見ることはなかった。純喫茶Luxorとは名ばかりの、そこにはカルナック神殿も王家の谷もない、日本の闇の掃き溜めのような地獄である。
喫茶店の中は、一席ごとに衝立があり見通しが悪い。まだ幼かったわたしは、「みまわり」と称して店内をよくうろつき回っていた。
昼間でも薄暗い店内には、煤けた顔のおじさんたちの丸まった背中がひっそりと並んでいた。あちらこちらの席でみな煙を燻らせて、テーブルに積んだ五百円玉タワーの背は低くなっていく。溜息をついて席を立ったかと思うと、戻ってきたときにはまた新しいタワーが建っていた。死人のような顔がモニター越しの蛍光色に照らされて、気味の悪い油絵の絵画のようにぼうっと浮かび上がっていた。「この世の終わり」のようなフロアを一巡、二巡とみまわりして飽きてくると、カウンター席の丸椅子によじ登って地獄を一望する。カウンターの側にある��ックスタンドの扇情的なグラビアが幼い心を刺激したが、月刊誌を手にとってはすぐに父に叱られたものだった。
大好きなゲームも、そこにある花札や麻雀はつまらない大人の遊びでしかなかった。コーヒーも、煙草も、グラビア雑誌も、わたしにはまだ理解できなかった。公園の砂場で泥団子をつくっていたほうが、まだ楽しい人生。
ガラス窓越しに切り取られたコバルトブルーの空を見上げるわたしの心情は、鳥かごに幽閉された小鳥さ��がら。
なぜ、大人はこのつまらない箱のなかで、箱にお金をいれて、能面のような顔でそこに座り続けているのだろう。機械のように、機械を動かす五百円玉を投下する。キカイのようにキカイのボタンを押し、キカイのように席を立ち、キカイのようにタワーを積み上げた。彼らは自分にコーヒーという油を注ぎ、ニコチンでコアを冷やす。
まるで小さな工場だった。生産するのは「つまらない大人」だけだった。
翌日家に帰ると、大好きな母が、大好きなハンバーグを用意していた。なにもなかったように家族みんなで美味しいご飯を食べたあと、兄に地獄の話をして、わたし達は決まって2人で好きなゲームをして遊んだ。昨日見た景色など夢だったかのように、幸せな世界がそこにあった。
ひとしきり疲れて、天国のような寝床についたとき、わたしはいつも地獄を思い出した。
わたし達の幸せがあるのは、あの地獄の工場Luxorで動き続ける、つまらないロボット達のおかげなのだと。
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