Tumgik
runa-neta-note · 6 years
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ありつつも君をば待たんうち靡く
鳴狐の失踪とその帰りを待つ小狐丸。
……夕刻、本丸。
遠征部隊からの連絡が途絶えて数時間……負傷した遠征部隊が、本丸へと帰還した。 いつものように鳴狐を迎えに出た小狐丸だったが、帰還した部隊に、鳴狐の姿はなかった。
見つからない鳴狐を探していると、主人と蜂須賀が何者かを囲んで難しい顔をしている様子が視界に入る。 その中心には、泣きながらお供を抱く五虎退の姿があった。
「ぬし様」 「ああ、小狐丸……」 「これは、一体……?」 「敵部隊から強襲を受けた。本来ならば造作もない遠征だったもんだから、皆身軽で出陣して……そうしたらこのザマだ。驚いた、なんてもんじゃない」
肩をすくめて自嘲した鶴丸も、純白の装束が血と泥で汚れてしまっている。
「俺達は逃げることで精一杯だった。そして、俺達を逃がすため……」 「鳴狐を殿にしたと?」
鶴丸の言葉にかぶせるように、小狐丸が問う。 その視線と声音は刺すに冷たく、鶴丸の背中に冷や汗が流れた。 「お、俺達は来いと言ったんだが……」 「お供を……お供を連れて、はやく行け……って……」 泣きながら告げられた五虎退の言葉に、苦々しい表情で頷く鶴丸。 腕の中のお供は、体を丸め、物も言わず、悲しそうに鼻を鳴らすだけだ。 「ごめ、なさ……僕……」 普段、小狐丸がどんなに鳴狐を想っているかを知っている五虎退は、震えながら謝り続ける。
「案ずるな、ワッパ。鳴狐を置いて逃げたからといって、取って食うたりはせん。戦になれば、斯様なことはそう珍しくもない。鳴狐が身を挺して護ったお前たちが、無事に帰ってきたならば、まずはそれで良い」 
先程までの冷たさはなりを潜め、ふと緩やかに微笑んだ小狐丸が五虎退の頭を撫でた。
「お前のことだから、全員手打ちじゃーとか言い出すかと思った」 「ぬし様、私とてそこまで血迷うてはおりませぬ。それより、鳴狐を早う探してくれませ」 「お前に言われずとも手配済みだ」 「流石はぬし様」 「お前も捜索のメンツに入れといてやったぞ、早く待機所へ行け」 「仰せのとおりに」 ゆるりと告げて頭を下げると、小狐丸は五虎退を見る。 「ゆくぞ」 短く告げ、手を差し出すと、五虎退の腕を抜けたお供が、小狐丸の肩に乗った。
「同じ狐同士の方が、何かと都合が良いでしょう。鳴狐が見つかるまで、此れの面倒は、私がみることに致します」
そう一方的に告げた小狐丸は主人に頭を下げると、お供を連れ、待機所へと向かった。
……それから数ヶ月。 鳴狐の消息はつかめぬまま、時だけが過ぎていた。
破壊されずにいることだけはわかっているものの、その行方がどうにもつかめずにいる。 時間が経つにつれ、消息を気にしてはいるものの、鳴狐はもう帰ってはこないんじゃないか……と諦めている素振りの刀剣もちらほらと出始め、主人である審神者ですら、小狐丸を見ると複雑な表情を見せることがあった。
その当の小狐丸は……何故、鳴狐が見つからないのか……と、喚き散らすかと思えば……至って普通、取り乱すこともなく、淡々と暮らしていた。
「もっと、取り乱すものかと思っていた……」 小狐丸の向かいに座る、三日月が複雑な表情で告げる。 「何じゃ、そうして欲しいのか?」 「ん、いや……普段のお前からすると、馬鹿に冷静だと思って……」 「泣いて喚いて帰ってくるのなら、幾らでもそうするがな。だが、今回はそうもいかんじゃろ」 「……そうか」 すました顔で言葉を返してくる小狐丸に、困惑する三日月。 更に言葉を続けたかったようだが、結局、何を言えばよいのかが見つからなかったようで、気まずそうな表情を浮かべた。 「……早く、見つかるといいな」 そう、愛想笑いで告げてきた三日月は、居心地が悪かったのか早々と部屋を出ていってしまう。 その後姿を見送り、建具が閉まると同時に、小狐丸は溜息を落とした。  「……どいつもこいつも……」 「三日月殿も、心配なさっておられるのでしょう。ご兄弟ですから」 「まぁ……」
「皆、鳴狐はもう帰らないと思っているのです」
「だから、小狐丸様を気にかけておいでなのです」 「……わかっておる」 「小狐丸様は……鳴狐が戻ると、信じておられるのですか?」
お供からの問いかけに、小狐丸はじっとお供を見つめる。 こういう場面では、大抵尾を丸めて顔を隠してしまうお供も、今はじっと小狐丸を見つめ返してきていた。  「お前は、帰って来ぬと思っているのか?供のお前が現し世に残っているのだから……鳴狐もきっとこの世の何処かにいるに違いない。何を諦めることがあるものか」 しばらく無言で見つめあっていた二人だったが、やや言葉を探し気味に、小狐丸がお供に告げる。 「私がこちらへ残っているからと言って、鳴狐が生きているという確証はありません」 珍しく、意地の悪いことを告げてくるお供に、小狐丸は眉根を寄せ、ほんの少しだけ牙を剥いた。
「何を言うか、あれは私が選んだ男じゃ。そんな一等良い男が、私を置いて逝くわけがなかろう」
やや苛立ち気味に、そして淀みなく告げた小狐丸の言葉に、一転お供は唖然とする。 「……なんじゃその目は?」 「いえ……なんと言いますか、強い御方だと……」 鼻を鳴らしてそっぽを向いた小狐丸に、お供は言葉を続けた。 「鳴狐のこと、正直わたくしは単なる戯れだと思っておりました」 「フン、相も変わらず失礼な奴じゃのう」 「小狐丸様……」 「何じゃ」
「どうぞ、鳴狐を見つけてくださいませ」
そう言って、頭を下げるお供。 「貴様に言われんでも、そのつもりじゃ」 下げたお供の頭を撫で、小狐丸は静かに告げると、お供はそれに答えるように、くるると喉を鳴らした。
……またしばらく、とある遠征の時。
「お前のそのスタイルも、だいぶ見慣れてきたな」 横に並んだ鶴丸が、小狐丸に告げる。 「近頃、異様に肩が凝って仕方がない。早う返したいものじゃ」 ふう…と溜息をついて告げる小狐丸に、鶴丸は苦笑した。 「お前は、まだ……その……」 「……?」
鳴狐が帰ると思っているのか?
……と問おうとした鶴丸だったが、やはり問うていいものかと口ごもる。 煮え切らない鶴丸の様子を首を傾げて小狐丸が見てると、不意に肩のお供が体をこわばらせ、尻尾を垂直に立てた。
「……何かいるぞ」 毛を逆立てて威嚇するお供の様子に、鶴丸も前方を見据える。 「すぐに偵察部隊を送る」と言った鶴丸だったが……間者を放つ間もなく、前方影から敵が襲い掛かってきた。 敵に組まれ、小狐丸は共々地面を転がる。 「小狐丸!」 「来るぞ!」 小狐丸を助けに向かおうとした隊員達だったが、それを合図に、一気に敵が襲い掛かってきたため、各々そのまま戦闘へ突入せざるを得なかった。
「打刀の分際で、生意気な…」 唸るようにつぶやくと、刀を抜いて相手を睨む。 小狐丸の殺気を感じ、敵も無表情のまま刀を構えた。
……その構えに、小狐丸はふと妙な感覚を覚える。
はて、どこかで……?と考えている隙に、敵が斬りかかってきた。 鋭い鋼の音が鳴り、火花が散る。 ガチガチと音を立て合わせる刃の間から、小狐丸は相手の目を見据えた。
そして気付いてしまう。 裂けた笠の隙間から覗く、覚えのある金色の瞳に。
瞬間、力が抜け、小狐丸は体勢を崩してしまった。 その隙を逃すまいと、敵は一気に押して出、小狐丸を斬りつける。 それを間一髪で避けた小狐丸だったが、薄く斬られた胸元には血が滲んでいた。 小狐丸の様子を見た刀剣が、加勢をと駆け寄ってきたが、 「構うな!」 と珍しく声を荒げて加勢を拒んだ。
「小狐丸様……」
今まで口をつぐんでいたお供に、タイミングをはかったように名を呼ばれる。 その声音は酷く落ち着き払っていて、いつものひょうきんな調子からは程遠い。 それはまるで、お供の本来の主人のもののようだと小狐丸は思った。 「わかっておる」 「刀剣より穢れを断ち斬れば、再び此方へ戻ると、主殿は仰っていました」 「ならば、あやつは私が斬らねばなるまい」
静かに告げた小狐丸は、刀を構え直し、間合いをはかる。 しばらく睨み合っていたが、どちらからともなく踏み出すと、両者共に刀を振るった。
数秒の静寂後……敵はぐらりと崩れ、地面へと倒れ込む。 瞼を伏せ、軽く溜息をはきながら納刀をすると、小狐丸は敵が崩れた元へと歩み寄っていった。 そうして、その場に転がる、傷付き汚れた刀を拾い上げる。
「ようやく戻られましたな、御前様」
穏やかな笑みを浮かべて呟いた小狐丸は、刀を手に部隊員の元へと戻っていった。
……それから数週間後。 小狐丸が自室でお供の毛並みを整えていると、何かの気配に反応するように、頭を上げて建具をじっと見つめはじめる。 それにつられ、小狐丸も建具を注視していると……静かに開いた建具の隙間から、鳴狐が姿を見せた。
「ただいま」
まるで近所への使いから戻ってきたかのような気軽さで、小狐丸に告げる鳴狐。 「よう帰られました」 小狐丸からの言葉に短く頷くと、鳴狐は建具を閉めて腰をおろし���。 「……お供、有難う」 小狐丸の膝で丸くなっているお供を見、頭を下げてくる。 「御前様の大切なものは、私にとっても大切なもので御座います」 「うん……」 そうして口をつぐんでしまった鳴狐と、次の言葉を待っているのか、何も言わずお供の手入れを再開した小狐丸。
「……よく、俺だってわかったね」
ぽつりと呟かれた鳴狐の言葉に、小狐丸はふ……と息をもらした。 そして、くすくすと笑うと「笑ってしまって申し訳ない」と緩んだ口元を引き締める。 「他の誰を見間違がおうとも、御前様だけは、決してそのようなことはありませぬ」 「俺にはあの時、記憶がなかったのに……」 「記憶が無くとも、御前様は御前様で御座います」 「……………」 立ち姿や、構え、太刀さばきに至るまで、覚えある鳴狐そのものだったと、小狐丸は続けた。 「それに……」 「……それに?」
「私を見つめるその瞳、間違えようも御座いません」
そう言って微笑んだ小狐丸に、きょとんとした表情をみせる鳴狐。 相手の答えにピンとこないのか、「……目……」と呟き、首を傾げて考え込んでしまった。 その様子を見、小狐丸が再び笑いはじめると、その膝の上でお供が大きくのびる。 そうして、そのままするりと鳴狐の肩に乗ると、
「鳴狐、ここに長居はしていられませんよ。主殿に、お話と謝罪をしにいかねばなりません」
…と、普段の小煩い調子でお供は告げた。 「そういえば、そうだった」 「何と、ぬし様に挨拶もせずに此処へ?」 鳴狐の言葉に、今度は小狐丸が驚く。
「小狐様に、一番に会いたかった」
小狐丸の問いに、さも当たり前だと言わんばかりの調子で返した鳴狐。 普段ならば嬉しいこの答えも、今は呆れるばかりの答えだ。 「早う行かれませ。ぬし様は怒らずとも、あの近侍は口やかましい事でしょう…」 苦笑をしつつ告げられた小狐丸の言葉に、鳴狐は黙って頷くと、お供とともに部屋を出ていった。
鳴狐の気配がなくなるまで、その方向を見つめていた小狐丸。
「……覗きとは良い趣味じゃ」
突然、先程までとは違い、呆れを全面に出した声音でそう溜息と共に小狐丸が呟く。 すると、静かに建具が開いて、気まずそうな表情をした三日月が顔をのぞかせた。 「鳴狐が帰ってきたと聞いて……」 そう言いながら、部屋へと入ってきた三日月に、小狐丸は鼻を鳴らして答える。 「しかし、俺は驚いたぞ」 「……?」
「普段ならば、破顔しながら泣きわめいて鳴狐を迎えるお前が、あんなに冷静な様子で、受け答えをしていたことに!」
……三日月は至極真面目なのだろう。 本来の柔和な表情を強ばらせて、小狐丸に訴えてきた。 「貴様、喧嘩を売っているのか?」 「まさか!感心しているんだぞ、俺は」 眉根を寄せて、真剣な表情を見せる相手に、どうやらからかわれているのではないと悟る小狐丸。 ならば……
「フッ……私とて、何処でもどんな時でも錯乱するわけではないし、普段のあれとて、本気で錯乱しているわけでもない。ヌシのようにな」
……と、鼻で笑いながら三日月に告げる。 「お、俺だって!わざとわがままを言っているんだ!わざと!」 小狐丸に嘲笑われ、顔を真っ赤にして否定する三日月。 「どうだか」 「お前だって、普段のあれはどう見たって本気だろう!?さては、馬鹿に冷静に振る舞っているお前は、本物の小狐丸じゃないな!?」 とうとうムキになった三日月が、ビシッと指を突きつけながら小狐丸に叫んだ。 さらに当の小狐丸はカチンときたのか、「今すぐ出ていけ!」と叫びながら三日月を部屋から叩き出そうとする。 「出ていくものか!本物の小狐丸を出せ!」 「私が本物だ!馬鹿者!!」
そうして、いつものように喧嘩を始めた二人。 いつものように同田貫と鳴狐に引き剥がされて、いつものように石切丸からお小言をもらう、いつもの本丸での生活に戻っていくのであった。
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runa-neta-note · 6 years
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きつねのまど
そういうお遊びがあるそうです。
眷属の関係はまあまあ進んで、夫婦のようなそうでないような関係になってます。 そういう話は後々上げるつもりです。
「……小狐様、何をしているの?」
縁側で指を絡ませ、出来た間を覗いている小狐丸に、鳴狐が話しかける。 「ふむ、“狐の窓”じゃ」 「きつねのまど?」 「こう……指を順番に組んでいって、呪文を唱える。そうして指の隙間を覗くと、狐狸妖怪が見えるそうだ」 「へえ…小狐様は、なんでも知ってるね」 「ふふん、そうじゃろう?しかしまあ、これは若い奴に教わったものでな、私が知っていたわけではない」
そう言って、小狐丸はからからと笑う。
「そうなんだ」 「そういえば、供の狐はどうした?」 「お供は……蝶を追いかけて、どこかに行った……」 「……良いのか、それで?」 「まあ、今日は非番だし……そういう時は、あんまり他人と交流しないから」 「そうか……では、私と狐の窓で遊ぶか?」 「ん」
そうして、小狐丸から狐の窓のやり方を教わる鳴狐。
「どうだ、簡単じゃろう?」 「ん」 「では、実際にやってみるかのう」 間違いのないよう、小狐丸を手本にゆっくり指を組んでいく。 「ん、そうじゃ。そして先ほど教えた呪文を、三度唱える」 「ん」
「けしやうのものか、ましやうのものか、正体をあらわせ」
呪文を三度唱えると、二人は同時に指の隙間を覗く。 「……………なにも、見えない……」 「ふうむ……なるほど……」 「小狐様は、何か見えた?」 「うむ、お前は今日も一等良い男じゃ」 「……そういうものじゃ、ないんじゃ……」 「そういうものじゃ!」 「うーん……」
困った表情で首をかしげる鳴狐のもとへ、お供が走って帰って来る。
「鳴狐ぇーっ!」 「……お供、遅かった」 「蝶を追いかけていたら、知らない場所へ迷いこんでしまいました」 「我を忘れて虫を追いかけていく癖、よくない」 「……面目無い……」 きゅーんと鼻を鳴らして、耳と尾を垂らすお供。 「足が真っ黒……洗わなきゃ」
呆れ声の鳴狐に抱えられてしょぼくれたお供を、小狐丸は何とは無しに狐の窓で見てみる。 ……途端、窓から見えた光景に、びくっと体を震わせかたまってしまった。
「どうしたの?」 「小狐丸様、顔色が優れませぬな?お加減が悪いのでしょうか?」 「……へっ?あっ、そ、そんなことは無い、いえ、ありませぬ!私はいたって、健康で御座います!」 「こ、小狐丸様……?」 「は、はい!なんで御座いましょう?」
突然、お供に対してまるで主人にでも接するように話す小狐丸に、きょとんとする鳴狐とお供。
「小狐様、大丈夫?」 「だ、だだ大丈夫じゃ!それよりほれ、早う足を洗ってやらぬか!」  「え、う、うん……」
首をかしげながらも、風呂場へ向かう鳴狐とお供。 二人の姿が見えなくなり、その場に残った小狐丸は、ふう…と、安堵の溜息を漏らした。 「……あの小さいなりは、世をしのぶ仮の姿……というやつかのう……」 そう言って、眉間に皺を寄せて腕を組む。
「はぁ……あんな恐ろしい連れがいるのなら、これからは迂闊に手出しが出来んわ……まさか、尾が九つも生えているとは……」
ぼやいた小狐丸の脳裏には、さきほど狐の窓から見た、立派な図体と9本の尾を持ったお供の姿が浮かぶ。
「しかし、なによりも恐ろしいのは……それを知ってか知らずか肩に乗せ、通訳をさせているあのワッパじゃ」 そうぼやいて溜息をつく。 「実に恐ろしいのう……まったく、難儀な者と出会ってしもうた……」
……まあそれでも、離れるつもりは毛頭ないけれど。
自分が想像している以上にのめり込んでしまったものだと、苦笑交じりの溜息をこぼす小狐丸なのだった。
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runa-neta-note · 7 years
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腕立て伏せと、数珠丸恒次という男
再び弟達登場。 無自覚カップルに振り回される山姥。
昼……本丸、道場。
その片隅にて、腕立てに勤しむ山伏。 背中には、姿勢正しく腰を降ろす数珠丸を乗せている。 「重くありませんか?」 「なぁに、寧ろ軽いくらいよ!」 豪快に笑いつつ腕立てを続ける山伏を、見つめる影が二つあった。 木刀を片手に流れる汗を拭う山姥と、これまた木刀を片手に息を整える堀川。 国広兄弟が、絶賛稽古中の道場である。 「心配したけど、結構仲良さそうだね」 「相手の心が広いんだろう」 「はは、否定できないところがなんとも……」 二人の心配をよそに結構しっくりきている二人に、やや呆れ気味の山姥と、苦笑いの堀川。 「でもさ、数珠丸さんのおかげで、僕らが山伏兄さんの重石にならなくてもよくなったし」 「まあな。鍛錬を中断させられずにすむからな」 堀川の言葉に、山姥は深く頷いた。 重量の関係で、毎回重石にされ鍛錬もままならなかった山姥は、表に見せないまでも、大いに数珠丸に感謝していたのだ。 「兄さん、もう一戦いきます?」 「ああ」 小休止をとった二人が、道場の真ん中へ立ち互いに構えた時だった。 「あ……」 堀川が声をあげ、木刀を下ろす。 堀川の行動に山姥が振り向くと、数珠丸が二人の元へ歩み寄ってきていた。 「どうかしました?」 「稽古中のところ大変申し訳ありませんが、次男殿をお借りしたく……」 「山姥兄さんを?」 「はい」 数珠丸の言葉に、なんだか嫌な予感のする山姥。 「すまんが無理だ。俺も鍛錬がしたいからな」 ボソボソとだが、きっぱりと山姥が告げると、数珠丸は見るからに困ったような表情を見せた。 「まだ、何も言ってはいませんが……」 「どうせ、俺に重石になれとアイツが言っているんだろう?」 「流石はご兄弟」 感心をこめて呟く数珠丸に、長い溜息をつく山姥と本日何度目か、再び苦笑をする堀川。 「私では軽すぎると仰るもので……申し訳ありませんが、お願い致します」 そう言って、天下五剣に頭を下げられ、山姥は嫌とは言えない状況に追い込まれた。 「兄さん、どうするの?」 「……この状況で、断れると思うか?」 「……無理だよね」
そんなわけで、数珠丸に連れられ、山姥と堀川は山伏のもとへとおもむく。
「お連れしました」 「来たか兄弟!数珠丸殿、御苦労かけ申した。感謝致す」 「いえ、そんな……」 山伏に頭を下げられ、数珠丸はほんのり照れながら首を振った。 「では、数珠丸殿」 「はい」 山伏に促され、数珠丸はちょこんと背中に腰をおろす。 「……俺じゃないのか?」 ぽかんとしながら、その場に突っ立ったままの山姥と堀川。 「いえ、次男殿もこちらへ」
そう言って、自分の隣に空いている隙間を数珠丸は指し示した。
「二人もいらんだろう……?」 「数珠丸殿だけでは、軽すぎるのだ」 「ならば、今までどおり俺一人で充分だろう?」 「それでは、鍛錬に協力してくれるという数珠丸殿に、申し訳がない!」 「私のことならばお気になさらず、どうぞ隣へ」 「気になりますって、普通……」 本人に聞こえないようぼそりと突っ込む堀川に、苦い表情をする山姥。 「山姥兄さん……兄さんが乗らないと、二人は納得しないよ、多分……」 「……わかってる……俺も、そんな気はしている……だが……」 山姥がちらりと視線を送ると、それに気付いた数珠丸が微笑みかけてくる。
「……………非常に気まずい……」
げんなりとした表情で呟き、顔にかかる布をさらに目深にかぶった。 「わかるよ、山姥兄さんの気持ちもさ……出来ることなら変わってあげたいけど……」 「……気にするな」 どうやら決心を固めたらしい山姥。 「座るぞ」と声をかけ、数珠丸の隣に腰をおろした。 かくして、仲良く並んで、山伏の上下運動に付き合わされる、無表情の山姥とぼんやりとした表情の数珠丸。
その後、しばらくして数珠丸を探しに来た蜂須賀に、この異様な光景を目撃され、軽く引かれたとかなかったとか……。
後日……本丸、縁側。
「時に三日月殿、貴方にお聞きしたいことがあるのです」 「ん、なにかな?」
「どうすれば、肉をつけることが出来ましょうか?」
真剣な表情の数珠丸に問われ、三日月は笑顔で固まる。 「……数珠丸殿」 「はい」 「それは嫌味か?」 「え?」 三日月に、ゆったりとほんのり怒気のこもった声音で告げられ、数珠丸は首を傾げた。 「そんな、嫌味など……私は、あの方のために肉をつけたいのです」
そう、真剣な表情で告げてくる数珠丸に、からかわれているわけではないと、三日月は悟る。
「太らずとも、数珠丸殿は十二分に魅力的ではないか」 朗らかに笑いながら三日月が返すと、数珠丸は照れながら「そんな」と小さく首を振った。 「見目の話ではなく……重くなくては、あの方のお役には立てないのです」 「どういうことだ?」
「あの方が仰ったのです。三日月殿は、鍛錬をするのに重石に丁度良いのだと……」
数珠丸の発言で、再び笑顔で固まる三日月。 「あ、あの方も、人づてに聞いたと申しておりましたが……」 「たぬきだな……?」 「申し訳ありませんが、名はお聞きしておりません」 「俺を乗せて鍛錬する人間など、たぬきしかいないから、たぬきだろうな」 そう言って、三日月は一瞬だけ目つきを鋭くした。 「山伏が、太れと言ったのか?」 「いえ……あの方は、私に何も求めません。ただ、私は……少しでもお役に立ちたいと……」 「ほう……」 「あの方には、色々と教えて頂いているので……その、礼にと……」 徐々に頬の赤が濃くなっていく数珠丸を、にやにやしながら見る三日月。
「数珠丸殿よ、ほの字か?」
そう言って、三日月にしては珍しく、いたずらっぽい表情を数珠丸に見せた。 「ほのじ?」 ……けれど、数珠丸にはその言葉の意味がわからなかったらしく、きょとんとした表情で小首を傾げている。 その数珠丸のリアクションに、三日月は何だか複雑な表情になっていった。 「……………ん、まあ……よく食って、よく働けば、そのうち肉もつくだろう」 「そうでしょうか?」 「大きく育った者は、みなそう言っている」 「そういうものなのですね……精進致します」
そう言って、合掌しながら頭をさげる数珠丸と、微妙な表情をみせる三日月なのであった。
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runa-neta-note · 7 years
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所謂、雲中の白鶴なり
カメのスピードで進む恋というものも、たまには。
タイトルの「雲中白鶴」について。 http://4ji.za-yu.com/2013/09/post_222.html
「所謂、雲中の白鶴なり。燕雀の網の能く、網する所に非ざるなり」
某日、本丸……。
「旦那!だーんなっ!」 蜻蛉切が陽気な声で呼ばれ振り返ると、そこには初見の人物を伴った次郎太刀がいた。 「ご兄弟ですか?」 「あらっ、わかる?」 「どことなく似ております」 「この人、あたしの兄の太郎太刀。大きいでしょう?」 「どうも……」 次郎太刀に“大きい”と言われ、太郎太刀と紹介された人物は、無意識に半歩後ろへ下がる。 それをたまたま見かけてしまい、蜻蛉切は少し不思議に首を傾げた。 「あたしたち大太刀の中でも、兄貴は特に大きくてねぇ……この人、なんだかそれを気にしてるのよね」 そう言って笑う次郎太刀とは反対、太郎太刀は居住まい悪そうにしている。 次郎太刀の言葉に、その大きさを比較されぬよう、自分達から距離をとったのかと蜻蛉切は察した。
「太郎太刀殿は、神に御仕えしているとお聞きしました。そうであれば、立派な躯体も当たり前のこと。その方が、威厳が出ますからな」
そう言って朗らかに笑う蜻蛉切に、少しきょとんとした表情をする大太刀の兄弟。 「あらまぁ……兄貴のこと、そんな風に言った人、はじめてよ。ほら、この人この大きさで、こうやっていつもむすっとしてるから……みんな怖いって言うのよねぇ」 「ふむ……確かに、大きいと威圧感がありますから……私も、小さな者達と馴れ合うには苦労をしました」 和気藹々とやり取りをする二人の少し後ろで、太郎太刀は、蜻蛉切を観察するようにじっと見つめていた。 他の者とは捉え方の違うこの男に、太郎太刀は、不思議と興味をそそられたのだ。
「太郎殿」
不意に名を呼ばれ、太郎太刀は我に返る。 「これから先、同じ部隊でともに戦う機会も出てきましょう。その時は、宜しくお願い致します」 そう言って律儀に頭を下げ、別れの挨拶も手短に、蜻蛉切はその場から去っていった。 その後ろ姿を、太郎太刀はじっと目で追う。
「旦那が気になるのぉ?」
耳元で、突如した声に、太郎太刀は体と心臓を跳ねさせた。 「き、急に話しかけるんじゃない。心臓が止まるかと思いました……」 「それほど夢中になって見つめてたの?兄貴ったら、現世に降りて一番最初にすることが恋だなんて、なかなか……痛っ!」 「黙りなさい」 頬を朱に染め、怒り気味の太郎太刀が、からかい調子の次郎太刀を軽く小突く。 「くだらないことを言っていないで、早く本丸を案内なさい」 「はぁ〜い……」 思った以上に過敏に反応した太郎太刀に一喝され、納得いかないながらも、それ以上兄をからかう空気ではないと察した次郎太刀は、不貞腐れた調子で返事を返した。
それからというもの、太郎太刀と蜻蛉切は、何くれとなくペアを組まされることとなる。 来た頃合いも同じようなものであったし、刀種の関係から戦闘の際にも組ませやすかったからだと審神者は言った。 ただ、太郎太刀はどんな部隊で出陣をしても、他の刀剣からは一歩引いた態度を取り、あまり皆の輪の中へ入ろうとはしなかった。 そして、そんな太郎太刀を気にしてか、蜻蛉切は、自然と太郎太刀といる時間を増やすようにしていた。
それからしばらく、某戦場……。
「なかなか順調には進みませんな」 「そうですね」 「しかし、相手が強ければ強いほど、私は……」 「あの……」
笑顔で会話をする蜻蛉切に、眉根を寄せ、困惑した表情で太郎太刀が話を遮る。
「私ならば、大丈夫ですから」 「……?」 「私は一人でも大丈夫です。気を使って下さらなくても、結構ですから」 そう告げて目をそらす太郎太刀に、一瞬首を傾げた蜻蛉切。 けれど、すぐに相手がなにを言わんとしているかを察し、表情に申し訳なさをにじませた。 「ご迷惑でしたか?でしたら、申し訳ないことを致しました」 蜻蛉切が頭を下げながら謝ると、慌てた太郎太刀がしどろもどろと否定する。 「あ、いえ、迷惑では……ですが、私といても、貴方が退屈ではないかと……」 そう言って、目を伏せた太郎太刀。
「なにせ私は、長いこと現世から離れておりましたから……色々なことに疎いので……」
おずおずと告げられた太郎太刀の言葉を聞いた蜻蛉切は、きょとんとした表情のあと、笑い出す。 そうして突然笑い出した蜻蛉切に、今度は太郎太刀の方がきょとんとした表情をみせた。 「……いや、申し訳ない。確かに、はじめはそうでしたが……今は違います。貴方に気を遣って、こうしているわけではありません」 「では、どうして?」
「下世話でお恥ずかしい話……貴方に興味があるからです」
少し赤くなりながら、やや浮ついた声音で、蜻蛉切は告げてくる。 それに対して、太郎太刀はやや考え、そして少し表情を曇らせた。 「やはり……私の存在は、物珍しいのでしょうか?」 「え?……はっ、いえ、違います!」 太郎太刀の意図を読み、蜻蛉切は慌てて否定する。 「そうではありません。決して物珍しさではなく、なんと言いましょうか……神に選ばれる刀とは、どんな方なのかと思いまして……」 「……」 「……すみません。やはり、物珍しさですな……貴方には、不愉快な思いをさせてしまいました」 太郎太刀が黙り込んでいることを、不愉快に思っていると捉えた蜻蛉切は、太郎太刀に頭を下げる。 「頭を上げてください。私は、貴方の気持ちを、不快になど思ってはいませんから……」 自分に対して頭を下げた蜻蛉切に、やや慌てた調子で頭を上げさせようと言葉をかけた太郎太刀。 「ただ……どのように貴方に答えて良いものか、わからなくて……」 太郎太刀にしては珍しく、言い淀み、言葉を探している。 「……私は、本当に……その、退屈な人間でしょうが……それでも、貴方さえよければ……」 しばらく考えた後、ゆっくりと蚊の鳴くような声で、太郎太刀は言葉を返した。
それからというもの、二人の間には、事務的以外の会話が格段に増えた。 それだけではなく、やや遠巻きだった他の刀剣たちとの交流も、徐々にではあるが増えていく。 そして……頃合い同じくして、太郎太刀は、ふとした瞬間に、ぼんやりと蜻蛉切のことを考えている自分自身に気付いたのだ。
そんな頃から数日のこと……。
「君が私を訪ねてくるなんて、珍しいこともあるものだ」 
軽い調子で笑いながら、石切丸が茶をすすめる。 そこは石切丸の部屋……その部屋を訪ねてきたのは太郎太刀だ。 「貴方の方が、私よりも現世に精通していると思いまして……」 「さて、どうだろうね?私も君同様、神社暮らしが長いから」 そう言って肩をすくめて笑う石切丸��、太郎太刀は、少しだけ困惑した表情をした。 「まあ、神社暮らしとはいえ、君よりも人に近いだろうことは確かだから……なにかあったのかい?」 首を傾げて尋ねる石切丸に、しばらくは躊躇っていた太郎太刀だったけれど、次第にポツポツと事のあらましと自分の気持ちを話し始める。 「……ふむ……つまり君の中に、今まで感じたこともない、名も知らぬ感情が芽生えているわけだね?」 「大雑把に言ってしまうと。しかし、私の中の感情は……その、あまりたちの良いものでは無いと感じているのです。このまま、この感情を抱えたままでは、すべてが終わった時……私は、天上へと還れなくなってしまうのではないかと……」
そう言って、どこかしょんぼりと頭を垂れる太郎太刀の姿を前に、顎に手を当て考え込んでいた石切丸。 そうしてしばらく黙っていた石切丸だったけれど、なにやら彼の中で結論が出たらしく、一度深く頷いた。
「所謂、雲中の白鶴なり。燕雀の網の能く網する所に非ざるなり」
静か��告げられた石切丸の言葉に、きょとんとした表情で目を瞬かせる太郎太刀。 「“雲中白鶴”……高潔な人間のたとえで、日ノ本の外の言葉だそうだけれど……いやはや、君にぴったりの言葉だと思ってね。君は長いこと上に居過ぎたからか、いやに潔癖なところがあるようだ」 「……その言葉が、私となんの関係が?」
「君はもっと、俗世に溺れてみても良いのではないかな……と。私はまだ、経験したことがないのだけれど、どうやら恋とはとても良いものらしいからね」
「こ、恋……っ!?」 突然、石切丸に恋という単語を発せられた太郎太刀は、ぎょっとしつつ目に見えて狼狽える。 「あ、恋はわかるかな?」 「そのくらいはわかります!そんな……恋などと……」 神に仕える身であるのに、そんな浅ましいことを……と、太郎太刀が自問自答している声が、石切丸の耳にうっすらと聞こえてくる。
「ゆっくり見極めてみたら、良いんじゃないかな?こんなときくらいしか、現世の生活など味わえないだろうし。折角、考え、伝え、触れ合える器があるのだから、現世の人間がするように振舞ってみるのも、一興なんじゃないかと私は思うんだけれどね」
そう言って微笑む石切丸に、いまいち納得がいかぬといった表情の太郎太刀。 これは一筋縄ではいかなそうだなぁ……と思いつつも、こっそりと二人がうまくいくよう願う石切丸なのであった。
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runa-neta-note · 7 years
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じじいと御手杵
じいちゃんに興味を持った御手杵が、コンタクトを取る話。 御手杵は勘が鋭く、普通に気も利くので、たぬきの上位相互な感じだと思っている。
同田貫と御手杵、二人は似通った境遇をしていた。 それ故、とても話があったし、何となく馬も合うとでもいうのか、顔を合わせたその日から、話し込んだりふざけったりする仲となった。
「刀は斬れてこそ。腰にぶら下がったまんまで、装飾品まがいの使われ方や、美術品のような扱いをされるなんて、間違っているし刀として有るまじきだ」
言葉を交わす間柄になってからというもの、そんな発言を事あるごとに口にした同田貫。 ……ところが、その同田貫曰く、刀としてあるまじきな存在の三日月と、何故だか仲良くしてるらしい……という話……いや、現場を、御手杵は目撃したのだ。 しかも、しつこく同田貫にからんで、邪険にされている三日月の姿を……。
三日月に釣り合うような見目も育ちも良い刀剣は、この本丸に何人もいる。 そして、三日月が求めたならば、それはまるで姫様のように、相手から大切に慈しまれるのだろうことも予想がつく。 なのに、何故わざわざ、嫌がられている相手に付きまとうのだろうか? 不思議に思った御手杵は、聞くが早いと、直接本人に問いただしてみることにした。
その日、三日月は日の当たる縁側で、一人うとうととしていた。
「よう、じいちゃん」 「ん……お前は……確かたぬきと仲の良い、槍の……」 「御手杵だよ、よろしく」 「ん、よろしく頼む」
自己紹介から入った会話は、しばらくの間、何気ない雑談で続けられる。 そして、ふと会話が途切れたとき、間延びした唸り声を上げ、やや戸惑った雰囲気で御手杵が本題に入った。
「あのさぁ……じいさん、同田貫と仲良いんだな」 「そう見えるか?」 「他の奴等とよりは、仲良く見えるかな」 「んん、そうかそうか」 御手杵に言われ、三日月は嬉しそうに笑う。 「ところで、何故そのようなことを聞く?」 「え、あー……っと……」
「ふふ、たぬきは俺のような“御飾り”を疎んでいるものな。その俺と、たぬきが親しくしていることを、お前は不思議に思っているんだろう?」
三日月からの問いかけに、なんと答えようかと考えていた御手杵だったが……次の瞬間、ずばり聞きたかった事を相手に言い当てられ、思わす苦笑いを浮かべた。 「……俺の考えてること、お見通しなんだな」 「お前はよく、たぬきと話し込んでいるようだからな。あれの主張も、嫌というほど聞いていることくらいは察しがつく。だからなんとなく、そんなところだろうと思っていた」 はははと笑う三日月を、なんだか食えないやつだなぁ……と思う御手杵。 「そこまでわかっているならはっきり聞くけど、なんで同田貫なんだ?アンタを大切にしてくれて、釣り合うほど見た目の良い刀なら、ここには腐るほどいるだろう?」 「んん、はて、何でだったかな?爺故、忘れた」 そう言って、またわははと笑う三日月に、今度は呆れた表情を御手杵は浮かべた。
「曰く、人は自分に無いものを持つ者に、求め惹かれるのだそうだ。たぬきは俺に無いものを、沢山持っている。例えば……真っ直ぐで純なところだとか、あとは……見た目通りの愚直さだとかな」
「はぁ……」 突然、真面目な表情で忘れたはずの理由について、語りだした三日月。 それに対して、御手杵は唖然とし間の抜けた返事を返した。 「それにアレは、俺に対しても他の誰に対しても、遠慮も裏もない。たぬきに惚れた理由は、まぁそんなところだろう」  飄々とはしているが、恋する乙女の表情で三日月は告げる。 そんな相手の雰囲気に、少し驚いた表情をし、ふーん……と、微妙な表情で頷いた御手杵。 「お前の納得のいく答えは、できんかったかもしれんがな、勘弁してくれ」 「いや、別に……」
「しかし御手杵よ。ある種お前は、たぬきに似ている。もし、たぬきより先にお前に出会っていたなら……俺はお前に、惚れていたのかもしれんな」
恐らく単なる世辞であろうとは思うが……三日月に恥じらいをまとった可憐な笑みで告げられ、御手杵は思わず心臓を高鳴らせる。 なるほど、この呆けた爺さんのどこが人を惹きつけるのか?と思ってはいたけれど……始終こんな調子であるならば、並の男はやられてしまうだろうと、御手杵は実感した。
それから後日……。
「お前さぁ……」 「あ?」 「よくもまぁ、あのじいちゃんの面倒、見てられんな」 「は?なんだいきなり、どういう意味だ?」 「いやぁ、だって、あのじいちゃんは特別だよ」 御手杵の言葉に、こいつもか……とでも言いたげな表情で、深く長い溜息をついた同田貫。 「それ、みんな言うけどよ、あのじじいのどこが、他の刀と違うんだよ?確かに、他の連中よりボケてて面倒臭えなとは思うけど……」 「……いや、ボケとか……それも含めて、あれは魔性だろ?」 「マショー?あんな、ボケたじじいのどこかだ?とにかく、他の奴等はそうやってじじいを甘やかし過ぎなんだよ」 そこからしばらく、三日月に対する愚痴が、ノンストップで続いた。
「……はは、そっか……そんなお前だから、うまくいくんだな……」 なるほど色恋に疎い同田貫だからこそ、この爺さんと相性が良いのだろうと、御手杵は悟る。 それと同時に、この同田貫相手では、さしもの三日月であろうと、その恋は前途多難、試練の嵐だろうことが想像に難くなく、御手杵はほんの少しだけ、魔性の老人に同情するのであった。
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runa-neta-note · 7 years
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雨夜の月
『月に叢雲、花に風』の番外的な話。
男士は本体(刀剣)が無事であれば、人型は欠損等があり、重傷・重症であっても、自然修復&治癒が可能なものだと勝手に思っています。
某日、同田貫が戦より重傷で帰還した。
本体である刀剣の損傷が酷く、本丸内でできる手入れの範疇を越えていたそれは、本丸の外へと修繕に出されることに。 しばらく本丸内で養生をしていた同田貫も、自分の目の届かないところで何をされているのか、心配でならないのだろう。 外へと出された本体を追って、本丸を旅立っていった。
その留守の間のこと……。
本丸へ来てからというもの、自分の世話係となっていた同田貫がはじめて側にいない日々が続いている三日月は、正門の見える縁側で、ぼんやりとしている姿を見かけることが多くなった。 仕事もこなせば、出陣もするが、どことなく覇気のない三日月に、周囲の刀剣たちもやきもきする日々が続いていた。
そんなある日のこと、いつものように縁側でぼんやりとしていると、歌仙兼定が声をかけてきた。
「やあ翁、今日は寒いね」 「ああ」 「あまり外にいては、体を冷やしてしまうよ?」 「ああ」 「ここ数日の翁は、実に貴方らしくない」 輝きが失われ、雅さのかけらもないと歌仙が笑う。 それに対し、相変わらず物憂げな表情で頷く三日月の様子に、歌仙は苦笑しながら、彼の横に腰をおろした。
「翁は好いているのかい?」
あの青年を……と、不意に歌仙が尋ねる。 歌仙の問いかけに、はじめて相手を見た三日月は、しばらく歌仙を見つめ、それから何かを探すかのように、視線を彷徨わせた。
「わからぬ」
三日月がぽつりと呟く。
「ただ……他人に対して、その姿を愛おしと思ったり、傷つくことを悲しいと感じたり……そんな気持になるのは、これがはじめてだ。これを“好いている”というのだとしたら、俺は、たぬきを好いているのかもしれない」
時折答えを探すように詰まりながら、ゆっくりと歌仙の問いかけに答えた三日月。 そして、その三日月の答えが、どうやら予想外であったらしい歌仙は、目を丸くして驚嘆の表情をみせていた。 「なんと……どうやら僕は、勘違いをしていたようだ」 そう独りごちたかと思うと、ふと笑う歌仙に、三日月は首を傾げる。
「僕は今まで、彼が貴方を求めているのだとばかり思っていた。だから、冗談のつもりで“好いているのか?”と聞いたのだけれど……本当はそうじゃなかった」
翁は“恋”をしているのだね。
歌仙の言葉に、今度は三日月が驚嘆の表情をみせた。 「こい?」
「そうさ、恋さ。翁はあの青年に惚れ、求めているんだ。彼のすべてが欲しいとね」
純粋で美しい想いだと笑う歌仙に、ようやく自分の気持ちを自覚して、三日月は赤面する。 「お、俺は……恋をしているのか?たぬきに、俺が……?」 「そうだよ。だから、彼の体を誰よりも心配し、その帰りを待っているんだろう?月明かりもささないような、こんな暗闇で……」
今宵の月は雲に隠れて、まるで貴方の心のようだ。 そう言って、歌仙は立ち上がる。
「さて、僕は部屋へ戻るよ。だいぶ冷えてきたからね。翁も風邪をひく前に、部屋へ戻るといい。青年は明日、帰ってくるよ。僕はそれを伝えに来たんだ」
じゃあ、と軽く手をあげて歌仙は去っていった。 彼からの伝言に、目を丸くし三日月は呆然とする。 「そ、そういうことは、早く伝えんか……」 歌仙の後出しに、少しすねたような表情をする三日月だったけれど、同田貫が帰ると知って、その口元が自然とゆるむのだった。
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runa-neta-note · 7 years
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三日月ホイホイ
たぬきいるところに、三日月あり。
三日月に用事があるときは、まず同田貫を探して、同田貫が「知らない」と言ったら、自力で探すという流れができている本丸。
某日、本丸……鯰尾が、薪割り中の同田貫を尋ねてくる。
「あ、たぬきさん!探してたんですよー」 「あ?ああ、ナマズか。なんだよ?」 「たぬきさん、三日月さん知りません?」 「はぁ〜?知らねえよ」 「え〜……うーん、そっかぁ……すみません、有難うございました」 「おい、なあ……」 「はい?」 「なんでみんな、じじいの居場所を俺に聞くんだ?」
「なんでって、たぬきさんが三日月さんのお世話係だからでしょ?」
「……はぁ〜〜〜〜〜っ!?!?」 鯰尾の発言に、同田貫は思わず間抜けな声を出してしまう。
「三日月さん、色んなとこ徘徊するじゃないですか。だから探しづらいでしょ?でも、徘徊後はたいだいたぬきさんの側に帰るから、たぬきさんを探した方が早いんですよ。たぬきさん、三日月さんホイホイなんで」
「なっ…!?」 「“たぬきの側に三日月あり”この本丸の常識ですよ」 鯰尾に言われ、思い起こせば身に覚えがありまくる同田貫は、真っ赤になって唇を噛みしめる。
そこへタイミングよく、嬉しそうに駆け寄ってくる三日月。
「ほらね、来た」 「くっ……クッソじじい……!」
そして審神者や蜂須賀も、三日月のスケジュールを同田貫に告げてきて、流れで聞くものの、ふと冷静になったときに「なんでじじいの予定を俺に?」と、微妙な気持ちになり、苦虫噛んだような表情になる同田貫なのだった。
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runa-neta-note · 7 years
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続・数珠丸恒次という男
続き。 国広兄弟登場と、数珠丸が本丸を徘徊するネタ。
……同日本丸、国広兄弟の部屋。
「……という訳で、本日より、拙僧は数珠丸殿の世話をすることになった。お前たちも、良くしてやって欲しい」 「宜しくお願い致します」
山伏に紹介をされ、静かに横に座っていた数珠丸は、目の前の弟二人に頭を下げる。 そんな数珠丸を、目をひんむき、硬直しながら見つめる山姥と、「こちらこそ」とニコニコ微笑みながら、頭を下げる堀川。 「それで……実は、数珠丸殿はまだ部屋と布団がないのだそうだ」 「あ、そっかぁ……思ったより、早い到着だったみたいだね」 「うむ、まだ迎え入れる手筈が整っていなかったらしい」 「そういうの、早めに用意しちゃうと案外来なかったりするし……主さんも悩んだんだろうね、難しいよね」 そう言って苦笑する堀川に、山伏は深く頷いた。
「だから、その二つが揃うまで、数珠丸殿には、拙僧のものをお貸ししようと思っている」
その発言を聞き、さらに驚く山姥と流石に笑顔で固まる堀川。 「あ、あのぉ……山伏兄さん、それはいくらなんでも……」 堀川が引きつった笑顔で、山伏に突っ込もうとすると…… 「そのことなのですが……」 ……と、主の部屋で聞いてきた事情を、国広兄弟に語った。
「……ですので、双方ともご心配には及びません」 「なら良かったですね!“自分”の布団がないのは、きついですもん」 そう言って胸を撫で下ろす堀川に、数珠丸は頷く。 「しかし、部屋の方は……」 もごもごと言い淀みながら、数珠丸はチラチラと山伏を見ていた。 「なぁに、心配には及ばん!数珠丸殿が立派に独り立ちできるまで、拙僧が、しかと面倒を見よう!」 胸を叩き、豪快に笑う山伏に、ホッとした表情で「有難う御座います」と数珠丸は返す。 目の前の二人の雰囲気に微笑みを浮かべつつも、堀川の脳内では、もう一振りの天下五剣の笑い声が脳内再生されていた。
「あ、でも、これでまた兄弟離れ離れだね。兄弟水入らず、短かったなぁ……」
なんとなく、空気に耐えられなくなった堀川が、少しわざとらしく残念そうに呟く。 「うむ、そうだな。だが兄弟、部屋は違えど同じ屋根の下だ!気軽に茶でも飲みに訪ねて来ると良い」 堀川の呟きに、はじめは神妙に頷いたものの、最後はいつものように弟二人に笑いかける山伏と、それに頷く堀川。
……と、そこではじめて山姥が口を開いた。
「……お前、コイツのことを好い゛っ!」
ようやく言葉を発した山姥だったが、言い終わる前に、笑顔の堀川に強か尻をつねられる。 「どうした兄弟?」 「山姥兄さんってば、ずっと一緒にいてくれた山伏兄さんが離れてしまうから、寂しいんだって」 「あの、でしたら私は……」 堀川の誤魔化しに、数珠丸が変な気を回してしまったらしく、そう言うことなら……と身を引こう告げてくる。 「ああ、良いんです!山姥兄さんも、そろそろ兄離れしなきゃ!ねっ!?」 そう尋ねてきた堀川に、再び尻をつねられた山姥は、脂汗をかきながら何度も首を縦に振った。 「そうか……お前たちも、成長をしているんだな……」 そんな弟二人の様子に感動し、目を潤ませ鼻をすする山伏。 苦笑する堀川と、つねられた尻を撫でながら拗ねた表情を見せる山姥。 「……あ!とりあえず、今の話を主さんに報告して来たら?」 「うむ、そうだな。主殿に報告をしなくては。では早速、数珠丸殿、参ろう」
山伏の呼びかけに数珠丸が頷くと、仲良く連れ立って部屋を出ていった。 そして、部屋に残された兄弟二人。
「……春だね」 遠い目をしながらぽつんとつぶやいた堀川を、きっと睨む山姥。 「おい、なぜ俺をつねった?」 「山姥兄さんはストレートすぎなんだよ!お互い、気付いていないかもしれないのに」 もっと考えて発言しなよと弟に指摘され、うっと言葉に詰まる山姥。 顔を伏せ、自身を包んだ布を深く引いて、より顔を隠した。 「……俺は、写しだから……」 「気まずくなるとそれで誤魔化す癖、やめなよ」 ジト目の堀川に突っこまれ、再び言葉につまる山姥。
そうして国広兄弟の手を借りて、片付けと引っ越しを終えた数珠丸の本丸生活がはじまったのである。
……それから数日後、昼、本丸の縁側。
三日月の部屋の前、その縁側で、茶を飲んでのんびりする天下五剣と、その様子を部屋の中から遠巻きに見ている同田貫。
「今日も元気で茶がうまい!」
はっはっはと笑いながら、最早何本目かもわからない団子を頬張る三日月。
「そうですね」
それに頷きながら、静かに茶をすする数珠丸。
「……時に、三日月殿」 「ん、なにかな?」 「昔と比べ、いささか鋭さがなくなったような気がするのですが……?」 「ん゛っ…!?」 数珠丸の言葉に、ギクリとした三日月は、口の中の団子をゴクリと飲み込む。 数珠丸の言葉に、ぼんやりして見えるがなかなか鋭い奴だな……と、同田貫は関心をした。 「はて?俺は今も昔も、俺のままだがなぁ……」 視線を彷徨わせ、考えている風を装ってトボける気満々の三日月。 「丸くなりました」 相手のオトボケもどこ吹く風、ズ���ッと指摘し、再び茶をすする数珠丸。 「……………」 「……………」
「現世の茶菓子には、うまいものが多いのだ!俺のせいではない、現世の茶菓子が悪い!ひいてはこんな悪しきものを、俺に口にさせた主が悪い!!」
そう言って、三日月はパクパクと団子をやけ食いする。 そんな三日月の様子に、困ったように眉根をよせる数珠丸と、呆れて溜息をつく同田貫。 「三日月殿、煩悩や執着はお捨てなさい」 ぼそりと呟いた数珠丸に、三日月は頬を膨らませてすねた表情を見せる。 「ふんだ!こんなうまいものが食えなくなるのなら、俺は煩悩の塊でいい!」
ぷいとへそを曲げた三日月は、自分と数珠丸の間に置いてある数珠丸の団子にまで手をつけはじめ、相手をより困惑させた。 そして、その様子をずっと見ていた同田貫は、心底呆れた……という表情で、深い溜息をついた。
そこから数時間後……数珠丸が、一人で本丸を散策していたときのこと。
「あ、新しい人」
対面からやってきた人物の言葉に、数珠丸がそちらを向く。 「指してはいけません」 「あ、ごめんなさい……」
そこには、袈裟をまとった小さな少年と、同じく袈裟をまとった長髪の青年がたたずんでいた。
「数珠丸恒次殿、ですか……?」 青年が、数珠丸に尋ねてくる。 「……貴方は、どなたでしょう?」 「失礼いたしました。私は、江雪左文字と申します。この子は小夜左文字、私の弟です」 「はじめまして」 江雪の紹介で、左文字兄弟と数珠丸はお互い頭を下げる。
「天下五剣である御方やってこられたと言うのに……この頃出陣が多いもので、あまり本丸に居ず、ご挨拶が遅れました」
さらに頭をさげる江雪に、少し焦りながら「お気遣いなく」と頭を上げさせる数珠丸。 「貴方とは、一度話をしてみたいと思っておりました」 「はあ……」 「貴方も仏道を重んじる身……やはり、戦に出る事には迷いや躊躇いも、お有りでしょう」 どうやら自分と同じ考えであると思ったらしい江雪は、戦う事においての自分の考えについて、数珠丸に同意を求めようとしていた。
しかし、当の数珠丸は……
「いえ、私は……現世へ降りてきたその時から、戦いは避けられぬことと、重々承知しておりますから……」
ですから迷いはありません……と、はっきり口にする。 瞬間、目を細めチベットスナギツネ顔に変化する江雪と、チラチラと兄の様子を見ながら複雑な表情をする小夜。
「どうやら、貴方と私は相容れないようです」
先程の親しげな態度一転、冷めた態度で頭をさげ、さっさと行ってしまう江雪。 その態度に、困惑の表情で小首を傾げる数珠丸。 「ごめんね、兄さんのことは気にしないで」 「私は、何か気に触ることをしたのでしょうか?」 「そんなことはないよ。ただ、兄さんは働きたくない人なんだ。だから、貴方のことも、そういう人だと勘違いしていたみたいで……貴方は何も悪くないから、本当に気にしないで」 そう言って、小走りで兄の後を追いかけていく小夜に、「はあ……」と気の抜けた返事を返す数珠丸。
「何だか、個性的な者の多い本丸なのですね……」
二人が過ぎ去っていった先を、ぽかんと見つめながらぼやいた数珠丸は、この本丸に馴染めるだろうか?と思いながら、またゆっくりと散策の足を進めた。
そこからさらに、十数分後……。
「神職の御方ですか?」
散策を続けていた数珠丸は、ちょうど部屋から出てきた太郎太刀に遭遇する。 「はじめてお目にかかる方……貴方は?」 「数珠丸恒次と申します」 頭をさげる数珠丸に、 「太郎太刀、見た目の通りの大太刀です」 ……と、太郎太刀も頭をさげる。 「現世へ降りる以前は、天上にて御仕えしておりました」 「それは興味深い」 「貴方は、仏道の方ですか?」 「はい。私は、長らく仏道に身を置いて参りました。ですが、後学のため、神道に身を置く方のお話も、是非お聞きしてみたいと思いまして」 そう言って、ふと微笑む数珠丸に、太郎太刀はほんの少し困惑の表情を見せた。 「なにか?」 「……あ、いえ……その……私のような者が、神の道を語るなど……おこがましいと思いまして……」 「どういう意味でしょう?」
「……私は、人の欲に溺れる穢れ者……浅ましい煩悩にまみれた、業深き者なのです……」
そう、数珠丸の問いに答える太郎太刀の表情は、ほんのりと頬を染め、朱を引いた伏せ目がちの瞳を潤ませる。 そのなんとも色っぽい表情に、数珠丸は酷く驚いた。 「神道の話であれば、石切丸という大太刀がおります。そちらに尋ねるが、重畳でしょう」 そう言って、太郎太刀は軽く頭をさげると、そそくさと数珠丸から離れて行ってしまう。 「……不思議な御方だ」 太郎太刀の背を見つめながら、小首を傾げる数珠丸。
その後、石切丸の元へ辿り着いた数珠丸は、神道の話とともに太郎太刀はいた言葉の子細を聞いたのだった。
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runa-neta-note · 7 years
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数珠丸恒次という男
打てると思っていなかったので、舞い上がった勢いで書いたネタ。 それと伏数珠はいいぞ、という気持ちも込めて。
「天下五剣の一振、数珠丸恒次と申します」
「……来ちゃったね」 「……そうだね」 「……あの、私はお邪魔でしたでしょうか?」
やや困惑の表情で顔を見あわせる審神者と蜂須賀に、これまた困惑の表情で数珠丸が尋ねる。
「あ、ああ、いえいえ、むしろお越しいただいてとても嬉しいんですけど……貴方が来るまでに、もう少し時間がかかるものかと、我々の方で勝手に思っていて……その、貴方の部屋や、諸々用意がまだ……」 「ああ、そうでしたか」 言い淀む主に、どうやら自分の存在が迷惑でないことを悟った数珠丸は、表情を和らげた。 「いらん心配させてしまってすみません。俺、普段はあまり運がないもんで……自分でも驚いているんですわ」 「いえ、私の存在がご迷惑でなければ良いのです」 「ところで主、部屋はともかく布団、どうする?」 「とりあえず、力と時間のあまってる奴等に布団だけは買いに行かせるか」 「了解、手配は俺がしておくよ」 「よろしく。じゃあ、そうだな……数珠丸さん、とりあえず出陣してみる?」 「出陣……ですか?」 「うん、諸々様子を見てみたいし……あっと……もしかして、戦うの、嫌?」 主と蜂須賀の脳裏に、顔をしかめて出陣を嫌がる件の太刀の顔が浮かび、再び顔を見合わせる。
「いえ、此処へ来た以上、戦うことは避けられないとわかっていますから」
しかし、主と蜂須賀の予想とは裏腹、戦うことへの決心をしっかりした口調で告げてくる数珠丸に、二人はほっと胸を撫でおろした。
「じゃあはっち、出陣の準備を……」 「いいけど、彼一人で行かせるわけにはいかないよ?」 「ああ、そうだ……場所はもう決まっているとして……誰と一緒がいいかなぁ……?」 蜂須賀から問われ、眉根を寄せて唸る主とその指示を待つ蜂須賀。 しばらく刀帳とにらめっこをしていた主が、首を捻りつつ顔をあげた。 「……ここはやっぱり、にっかりかなぁ?」 「彼ならば遠戦も可能だし、刀派も同じだから、話も通じやすそうだ。悪くはないと思うよ」 「じゃあ……」 にっかりと出陣を……と、主が告げようとしたとき、
「主殿!畑仕事、終わりましたぞ!」
……と、豪快に笑いながら山伏がやってくる。 「ああ、お疲れさん」 主からのねぎらいを聞いた山伏は、ふと主人の前にいる、見慣れない者に気付いた。 「主殿、そこにいるのは……新しいお仲間の方か?」 「あ、私は……」 「そうだ、ちょうどいい!山伏、出陣しないか?」 山伏からの問いかけに、数珠丸が答えようとしたが……その間もなく、主に言葉をかぶせられ、有耶無耶となってしまう。 「おお!拙僧も丁度、修行がしたいと思っていたところ!任されよ」 「じゃあ、出陣の準備をして待機所で待っていてくれ」 「あいわかった!」 主からの出陣の命に、二つ返事で引き受けた山伏は、豪快に笑いながら自室へと戻っていった。 「……というわけで、少しうるさいかもしれんけど、あの人と出陣してくれ」 「わかりました」 「はっち、待機所で一緒に山伏を待ってやって。あとは……」 「重々承知しているよ」 主人の言葉に頷き「行こう」と数珠丸を促し、蜂須賀と数珠丸は待機所へと向かう。
……そして十数分後、待機所。
「待たせたな」 「内番後すぐの出陣、ばたばたさせてすまない」 「なに、気にすることはない。これもまた修行のため」 「そう言ってもらえると助かるよ。今回の君の役目は、彼の護衛だよ」 「ふむ…先程、主殿の部屋におった御方だな」 「そうさ、ついさっき配属になった……」 「数珠丸恒次と申します」 静かに自己紹介をした数珠丸に、山伏は驚いた表情をする。 「なんと……来たのか!?」 「そう、来たんだ」 珍しく、ひそめるように問いかけてきた山伏に、こちらもまた声をひそめるように返した蜂須賀。 「だから、まずは彼の能力を見たいんだ。そのために、主は君に協力をと」 「うむ、そういうことなれば、拙僧にどんと任されよ!」 蜂須賀からの言伝に、山伏は豪快に笑いながら頷く。 「宜しくお願い致します」 「じゃあ、俺は装具の準備をするから。準備が整ったら呼びにくるよ」
そう言って、待機所を出て行く蜂須賀。 残された山伏は、これまた残された数珠丸を眺めていた。
「……あの、なにか?」 「……いや、同じような格好をしてると思ってな」 「格好だけで、何がわかるというのでしょう」
そこから、軽い問答をはじめた二人。
「御教授、有難う御座います」 ……と、数珠丸が頭を下げたところで、蜂須賀が再び顔を出し、二人は出陣となった。
……そして、無事帰還。
「お疲れ様」 「はい」 「どうだった?」
「……とても、頼りになる方でした」
「……ん?」 数珠丸の言葉に、主は一瞬首を傾げる。 「不出来な私を、愚痴の一つも言わずに、支えて下さいました」 そこでようやく、自分と数珠丸の話の対象が違うことに主が気付く。 「……あっと……山伏のことじゃなくて……自分自身、出陣してみてどうだったかって聞きたかったんだけれど」 「はっ!そうでしたか……はい、人の体に馴染むには、まだ時間がかかりそうですが……悪くはないと思います」 「そっか。まぁ人になってすぐだからね、ゆっくりと慣れていけば良いと思うよ。うちの本丸は無理をしないのが信条だから」 へらへらと笑う主を、蜂須賀が視線で牽制する。 その視線に、主は気まずそうな表情を返した。 「それで、出陣前におっしゃっていた部屋と寝具のことなのですが」 「ああ、それなんだけど、布団は今……」
「山伏殿にお話ししましたら、もし良ければ、自分の寝具で寝てはどうか……と仰って下さいまして……」
顔色一つ変えず爆弾を投下する数珠丸に、主と蜂須賀は驚愕の表情で固まる。 そして、しばし流れる沈黙。
「……そ、それは……その……」 長い沈黙を裂き、先に言葉を発したのは蜂須賀だった。
「一つの布団に、二人で……?」
引きつった笑顔の蜂須賀に指摘され、初めて少し頬を赤らめて数珠丸は焦りはじめる。 「ああ、いえ、違います。自分は布団などなくても眠れる、私が気にするようであれば、しばし山籠りにでも出るからと……」 そうもごもごと告げて、少し困ったような表情をする数珠丸。 その返答に、安心するやら困惑するやらの二人。 「布団は今買いに行かせてる。そろそろ使いから帰ってくる頃だから、今日から新しい布団で眠れるよ。貸し出しはいいですって、山伏に断っておいて」 「そうでしたか……」 「……ねえ、少し残念そうなの、なんで?」 「俺に聞かないでくれ……」 数珠丸のリアクションに、主がぼそぼそとツッコミを入れる。
「でも、部屋割りはまだ決まってないんだ」
そう言えば……と、手を打ちながら言う主に、数珠丸の表情が少し明るくなった。 「では、私のわがままが通るのであれば、山伏殿と同室にして頂きたい」「彼、兄弟で一部屋だったよね、部屋あまってたっけ?」 「そうだね……軽く物置状態になっている部屋があるから、そこを片付ければ……」 「だって、どうする?」 「寝具のことを伝えるがてら、御本人に尋ねてみます」 「そう、じゃあ、頑張って……」
「では」と軽く頭を下げ、そそくさと部屋を出ていく数珠丸を二人は無言で見送る。 気配が消えたところで、仲良く盛大な溜息をついた。
「あの雰囲気……」 「ああ」 「まったく……うちの天下五剣は、なんでこうも……頭が痛い」 「そうだね……」
そう言って、頭を抱え溜息をつく主の肩を、同情をこめて叩く蜂須賀という。
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runa-neta-note · 7 years
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きつねのよめいり
花丸を見ていて、そういえば書いてないと思って。 狐といえば、これだよねという話。
──某時刻、小狐丸捜索部隊出陣でのこと。
「一体、どれだけ探し回ればいいのかしら……」 樹木に体を預け、溜息をつきつつ座り込んでいるのは次郎太刀。 「だらしがない、立ちなさい」 そんな次郎太刀を諌めるのは、彼の兄である太郎太刀。 「だってぇ……もうずっと戦い続けているのよ、流石に体が悲鳴をあげてるわ。持ってきたお酒ももう無くなっちゃうし、早く帰りたい……」 真面目な性格ゆえ、弟を諭した太郎太刀ではあったが、酒云々以外の部分に関しては自分自身にも心当たりがあるらしい。 次郎太刀の返しに対し、つまってしまった言葉のかわりに、溜息を落とした。
「主は、運がないから」
その隙をつき、呟いた骨喰の言葉に、一同重い空気になる。
「まあまあ皆様!そう気を落とさず、鍛刀の方も並行してなさっているようですから、そちらに期待を致しましょう」
重たくなった場の空気を盛り上げようと、お供が励ますように告げ、それに追従するようにお供の主である鳴狐も「鍛刀運はいい」と呟いた。 「……そうね、鍛刀運はいい方だからね…早く打ち上げて貰えると助かるわ」 「まあそういうことなら、俺達は、小狐丸探索ってより、鍛えるために走り回ってると思った方が気が楽だな」 そう、苦笑いで告げた和泉の言葉に部隊員たちが頷く。 「では、そろそろ出発と致しましょう」 予定外な小休止の間に気持ちを割り切ったのか、そこそこ良くなった部隊の空気に、部隊長である鳴狐が出立の号令を出す。 そうしてめいめいに出立の準備をはじめていると……空からぽつりと、一滴の雫が落ちてきた。 その一滴の雫が、二滴、三滴……そして、数えきれぬほどの雨粒となって落ちてくるにまでは、そうそう時間がかからなかった。
「降られちゃったわね」 急いで移動をし、なんとか雨宿りができそうな場所を見つけた部隊は、しばらく逗留を余儀なくされる。 「滅茶苦茶晴れてたのになぁ……」 そう言って溜息をついた和泉に「今だって晴れてる」と、空を指して骨喰が突っ込んだ。
「狐の嫁入りね」 「狐の嫁入りなら、雨の向こうからお目当てさんが、来てくれないもんかねぇ……」 「狐だものね……」 「狐だからな……」 次郎太刀のぼやきに和泉が皮肉で返すと、二人揃って溜息をつく。 そのやり取りを横目で見ていた鳴狐だったが……突然、何かに気付いたお供が、耳を立てたかと思うと、ひらりと肩から降りて雨の向こうへと走り去ってしまった。
「お供……!」 「ちょっとアンタ、どこいくの!?」 「皆はそこにいて」 次郎太刀の問いかけにそれだけを答えると、お供の後を追って、鳴狐も雨の中へ飛び出していく。 そんな鳴狐の後を、骨喰が少しだけ追いかけはしたが、強くなる雨と何故か立ち込めはじめた霧のせいで悪くなる視界に、追跡不可能となってしまった。
雨の中を、鳴狐はお供を探して走り回る。 とっくに姿を見失ってしまっていたし、いつもならば感じる気配も、今はなぜだか追うことができない。 そうして木々の間を闇雲に走り回っていると、雨に濡れた草を踏みしめる多数の足音が微かにだが聞こえてきた。 それは、鳴狐の真正面から自分に向かって進んできている。 すわ敵か……と思った鳴狐が、刀に手をかけ、いつでも抜刀できるよう構えていると……雨霧の向こうから、おかしな集団が姿を表した。
所謂、花嫁行列というものである。
とりあえず、敵でないことは一目でわかったが……「何故、こんなところにこんなものが?」と、鳴狐はきょとんとする。 その鳴狐が、ふと目に止めたのは……花嫁が乗っているらしい籠に付き添う、稚児の姿だった。
「お供……?」
……と鳴狐が呼ぶと、その幼子はにこりと笑う。 驚いた鳴狐が、再び目をぱちくりさせていると……籠が音もなく開き、そこから真っ白な影が降りてきた。 その影は、お供らしい幼子と共に鳴狐の前へと進み、立ち止まる。 角隠しで顔が見えぬままの相手に、鳴狐は首を傾げた。 「誰……?」 鳴狐が尋ねるが、白装束の者は微笑んだ口元を見せるだけだ。 「貴方は、誰?」 もう一度、鳴狐が尋ねると……相手が顔を上げた。
赤い瞳が、鳴狐を見つめている。 さあさあと振り続ける雨の中、その瞳だけが燃える炎のように、赤々と輝いていた。
「参ります」
印象的な瞳に魅入られていた鳴狐は、相手の発した言葉に我に返る。 「……?」 「もうすぐ、貴方様のお側に参ります」 「俺の?」 「その時は、どうぞ大切にして下さいませ」 相手はそれだけを告げると、浅く腰を折って、籠へと戻っていった。 そうして再び、花嫁行列は進んでゆく。 鳴狐が色んな疑問を投げかける暇もなく、不思議な花嫁とその行列は、雨の彼方へと消えていった。
頬になにかが触れた感覚で、鳴狐は意識を取り戻す。
いつの間にか閉じていたまぶたを開くと、お供が不安そうな表情で覗き込んでいた。 どうやら、知らぬうちに倒れ、そして気絶までしていたらしい。
「大丈夫ですか、鳴狐?」 「……うん」 「急に倒れてしまって、驚きました」 「お供は、どこへ行っていたの?」 鳴狐からの問いかけに、お供はきょとんとした表情を見せ、
「わたくしは、ずっと鳴狐と一緒でしたよ?」
以外な答えを返してきた。 「嘘。急に肩から降りて、どこかへ……」 「あんな雨の中、そんなことをするはずがありません」 「でも……」 お供の至極まっとうな反論に、さらに反論をしようとした鳴狐だったけれど……ふと、先程自分が見たものを思い出し、口をつぐむ。
「鳴狐?」 「……化かされた」 「化かされた?」 「そう」 「……狐なのに?」 「狐なのに」
短いなりとも、鳴狐の言葉からなんとなく察したお供のやや呆れたような返しに、頷きながら飄々と答える鳴狐。 お供が溜息をつき、首を振ったところで、鳴狐は立ち上がり装束の汚れをはらう。 「帰ろう」と告げた鳴狐の肩にお供が乗ったことを確認すると、一瞬だけうしろ……行列の消えた彼方を確認して、その場をあとにした。
その後、雨宿り���していた部隊員と合流し、これといった成果もなく帰還。
「雨が過ぎるのを待ったことで、だいぶ時間がかかりました。主殿が、なにも期待していなければ良いのですが……」 「胃が痛い」 待機所から主である審神者の部屋までの道中、今回の出陣も不発だったことを気にしながら歩いていた鳴狐……だったが、途中、なんだか妙に浮かれている今剣とすれ違う。 「なにやら、浮かれているようですね……」 そのうしろ姿を見送り、お供の呟きに鳴狐は頷く。 お供とともに、首を傾げながら主の部屋までやってくると、柄にもなく深呼吸をして障子を引いた。
審神者の部屋、その中央に、部屋の主と近侍である蜂須賀の他、知らぬ影がひとつ。 自分を見る燃えるような赤い瞳に、鳴狐はどきりとする。
「ちょうどいい、座って」 主に声をかけられ、鳴狐は呆けたまま赤い目の男の横に腰をおろした。 「紹介する。やっと打ち上がった、小狐丸」 「知ってる」 主からの紹介に間髪入れず鳴狐が返すと、隣に座る小狐丸が少し驚いた様子を見せる。 「あ、そう。で、君の隣にいる少年が、今日から君と同室になる鳴狐」 主から鳴狐を紹介された小狐丸は気の抜けた返事を返したあと、急に眉をしかめ「あの……」と言葉を挟む。 どうやら、見も知らぬ者と同室になることが気に入らないらしく、主と軽い言い合いをはじめてしまった。
その様子を、そして相手の横顔を、鳴狐はじいっと見つめている。
「鳴狐、鳴狐……」
そこへ鳴狐にだけ聞こえるように、お供が声をかけてきた。 「はじめてお会いする方を、そのように見つめては不躾ですよ」 決して視線をそらすことはなかったが、声は聞こえているようで、鳴狐は生返事を返す。 それに対して、お供はさらに小言を言おうとしたけれど……小狐丸を見つめる瞳が、やけにキラキラと輝いていることに気付いたお供は、溜息をついて、諦めの表情をみせて口をつぐんでしまったのだった。
鳴狐との同室を了承した小狐丸……相部屋までの道中。
「ヌシは、よくも私が小狐だとわかったのう」 「ん……」 「確信があったのか?なにがそう思わせた?」 「……夢で見た」 「夢ぇ?」
小狐丸の呆れたような声音に、鳴狐はほんの少し眉をしかめる。
「……馬鹿にした」 「いやいや、少し驚いただけじゃ」 「同じ目の色の……その、もうすぐ来るからって言った」 「何故、途中で言い淀んだ?」 「別に……」 「何を隠している?すべてを吐け、ワッパ」 「……大切にする」 「なんじゃ急に」 「大切にしてって、言った」 「夢でか?ヌシに、私が?」 「そう」 「何を言う!ワッパのお前に、私が守られるなど……」
「大切にするよ」
そう告げて小狐丸を見つめる鳴狐の瞳は、先程までとは違う、ほのかに大人の男の色を帯びていた。
「……まぁ、相手が誰であろうと、大事にされるのは悪くない。勝手にすると良い」 「うん」
相手の雰囲気に気圧され、やや頬を赤く染めた小狐丸が、すました調子で返す。 そんな小狐丸の言葉に、心なしか嬉しそうな鳴狐が、珍しくはっきりした調子で頷いたのだった。
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runa-neta-note · 7 years
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包丁狂いの光忠君【3】
日本刀とは?そして燭台切の存在理由とは?というネタを中心に。 これカップリングでいうなら、燭台切×包丁(ゾーリンゲン)とかになるのか…と、頭にはてなマークを乱打する日々。
みんなで筍掘���に行っても、1人御勝手に残って筍を煮る燭台切。 みんなでキノコ狩りに行っても、1人御勝手に残ってキノコを焼く燭台切。 みんなで魚釣りに行くと、1人河原で魚を焼く燭台切。
燭「みんな!待ってるよ!!(嬉々としながら)」
たまに「燭台切は留守番でいいの?」って他の刀剣に聞かれるけれど、「あの人はあれで良いんだよ……」ってしみじみ返す審神者。 おらが本丸の燭台切は、料理だけをして生きてるように見えるけれど、いわく「趣味があってこその本業」なので、一応きちんと出陣もしている。
一つ目の神はタタラ神であるという話を聞いた、燭台切。
燭「主、片目で描かれる神は、鍛冶の神なんだよ」 主「そうなんだ」 燭「ところで、僕も片目なんだけれど……」 主「そうだね」 燭「主、ゾーリンゲン(と書いて嫁と読む)はまだかな?」 主「君はどこへ行きたくて、何をしたいんだい?」
「我が本丸の燭台切君は、どうやら鍛冶屋へ転職する様だ」との審神者の弁。
本業:料理人 副業:鍛冶師 趣味:刀剣(として戦う)
…と、皮肉られている燭台切。
燭「倶利ちゃん、僕も修行に出ようと思うんだ……」 倶「ついにお前の番が回ってきたのか……それで、どこへ行くつもりなんだ?勿論、奥州……」 燭「ドイツへ」 倶「待て、お前は何を極めるつもりだ?」
「確かにドイツも“欧州”だけどさぁ……」と、審神者が呆れる中、颯爽とドイツへ旅立っていく燭台切光忠なのだった…。 そして修行の旅に出た燭台切が、ちょっと切れ味の良い包丁鍛冶に進化して帰って来る感じの極修行。
心からゾーリンゲンを愛する男の話。
主「他の本丸では、君のカップリング人気が高い」 燭「なんだい、その聞き慣れない横文字は」 主「男色の今風な言い方」 燭「ああ」 主「長谷部君とか、大倶利伽羅君とか」 燭「倶利ちゃんとは、今でも熟年夫婦みたいなものじゃないか」 主「よく君の相手ができるなと、彼を尊敬してるよ」 燭「それで、何故そんなことを?」 主「うちもどうだろうと思って……お金的な意味で」 燭「無理だね」 主「考える隙もなく……」 燭「主、僕はね操を立てているんだ」 主「誰に」
燭「ゾーリンゲンさ」
主「……」 燭「僕は、ゾーリンゲン意外と寝るような安い男ではないんだよ」 主「……そうですか……」
御上からの情報で、大包平か貞ちゃんがくるんだな…と思っている横から、 「貞ちゃんと、もう片方はゾーリンゲンかな?」 …などと燭台切が言い出して、「お前はいい加減にしろ」と思う審神者。
倶「何をしている?」 燭「ドイツ語の勉強だよ」 倶「何故そんなことをしている?」 燭「僕はね、ゆくゆくは燭台切・ヘンケルス・光忠になるんだよ、国際結婚だ。御相手の母国語をきちんと覚えておかないと、失礼じゃないか」 倶「……そうか」
最後は怒涛の包丁狂いの燭台切ネタ乱打。
主「燭台切君、そんなに包丁が好きなんだったら、人型にしてあげようか?」 燭「ああ、ダメダメ!余計なことしないで!“彼女”はこの姿が一番セクシーなんだから!」 主「……女なんだ……」
主「そんなにドイツ包丁が欲しければ、ヘンケルスさんちの子になっちゃいなさい!」 燭「なれるものならなりたいよっ!!!!!!!!!!」 主「しっかりしろ!日本刀!!」
蜂「一年も経てば、君にも審美眼が備わっただろう?」 主「うん」 蜂「これは?」 主「斬れる」 蜂「これは?」 主「斬れる」 蜂「これは?」 主「とてもよく斬れる」 燭「包丁の話と聞いて(ガラッ」
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runa-neta-note · 7 years
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包丁狂いの光忠君【2】
非番の日にやることがなくてつまらないという長谷部に通信講座のパンフレットを渡したら、ガンガン資格とりはじめたみたいなネタ。 それにからんだ、燭台切と長谷部や倶利ちゃんとの関係性。
暇つぶしに資格を取りはじめた長谷部に、食に関する資格を強く勧めたはいいものの、彼に資格を取られたら、自分の作る料理に絶対にケチをつけてくるだろうと気付いて引き下がったら、逆に長谷部に激怒される燭台切など。
燭「資格を取るなら、フードコーディネーターとか、栄養管理士とか取ろうよ!」 へ「いらん、食に関する資格は、主の業務に対して役には立たんからな」 燭「でも、食事は主の健康を保つために大切なことだよ?」 へ「む、それは……確かにそうだが……」 燭「そうだろう?」 へ「栄養だけでなく、見た目や……衛生管理の面でも、主にとって必要かもしれんな……」 燭「え……(なんか、難しく考えはじめてる……ていうか、ここまで深く考えるようなら、資格なんて取ったら僕の作るものにいちいち小言を言ってくるのでは?)……ああ、でも、よくよく考えたら必要ないかも」 へ「はぁ?」 燭「うん、資格を持った君、僕の料理にケチつけてきそうだしね。それこそ姑のように」 へ「……なんなんだ貴様は」
RT : ふと「馴れ合い」って「仲良し」となにが違うんだろう、と思ってggってみたんだけど、単に人との関わりを避けてるんじゃなくて、真面目さを欠いた関係を嫌ってるのなら、大倶利伽羅君は人と真剣に向き合いたいと思ってるのかと思ったら涙出てきた
我が本丸の大倶利伽羅は燭台切に対してなあなあな対応。 しかしそれは全面的に燭台切が悪いのであまり擁護は出来ない…。
燭台切が大倶利伽羅にする世間話といえば、主に調理器具とそれを買ってくれない審神者への愚痴。 我が本丸で一番貞ちゃんを待ち望んでいるのは、他でもない大倶利伽羅かもしれないって思うくらい、ずっと話を振られるので、もうなあなあで流すしかないという彼なりの処世術。
燭台切のマシンガントークっぷりは、長谷部に対して、半日の間、延々鍋の話をして辟易させるだけの能力。 しかも、元来の性格から長谷部も真面目に聞いてしまうから、話が終わる頃には、やけに鍋について詳しくなってるし、疲労感半端ないという…。
燭「長谷部君とは、結構気が合いそうなんだけれどねぇ……」 主「長谷部君を調理器具沼に落とそうとしてるんじゃないよね?」
そんな2人がある日、包丁が日本製か海外製かで言い合いをしている場面を目にする審神者。 「今は、海外製にも日本の技術が使われてるじゃない」と審神者に指摘され、堅い握手とともに仲直る燭台切と長谷部。 そして長谷部もついに、燭台切と同じ沼へ落ちたか…と、溜息をつく主人。
世間の本丸のスパダリ感、三高感なんて、ちっとも匂わすことのない、 おらが本丸の燭台切光忠である。
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runa-neta-note · 7 years
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包丁狂いの光忠君【1】
ゾーリンゲン部隊を、目をぎらつかせて、舌なめずりしながら迎え撃つ燭台切を受信した結果。
燭「主、今度の敵は“ゾーリンゲン部隊”なんだろう?敵の亡骸を持ち帰れば、良い包丁に打ち直せるんじゃないかなぁ……?(恍惚)」 主「し、燭台切君が狂気に飲まれている……!(;・`д・´)燭台切君、池田屋には太刀以上の刀は出陣させないつもりだから、悪いけど君の出番はないよ」 燭「ナ、ナンダッテー!?(`・д´・ ;)」
燭「倶利ちゃん!君、打刀だろう!?頼む、持ち帰ってきてくれ!僕のゾーリンゲンを持ち帰ってきてくれ!少しでいいんだ!そう、包丁1本打てる程度で!!」 倶「俺は経験値が足りないから、戦に出されることはないだろう」 燭「な、なん……だと……!?ならば、長谷部君!」 へ「右に同じ」 燭「アーッ!僕のゾーリンゲン!!」
そして闇落ち一歩手前の燭台切を見て、 「刀剣ってこんなに簡単に、しかも訳のわからない理由で闇堕ちするの?なんで包丁1本でここまで暗黒面に堕ちれるの?ここの刀、変な方向���センシティブで面倒臭い……」 …と、うんざりな表情で思う審神者。
彼の性格上、『道具にもこだわる=良い包丁はゾーリンゲン』で、同じ刃物でもあるため「ゾーリンゲンは俺の嫁」的な意識になってしまっている燭台切。 食について語らせると、生真面目な長谷部ですら拒否をするような男である。
そして、そんな男だから、自分が折れてでも迎えに行く!と、無茶苦茶なことを主人に進言してしまう。
燭「倶利ちゃんも、長谷部君もいけないとなれば……仕方がない……ここは、僕がたとえ折れてでも、ゾーリンゲンを迎えに行こう!」 主「いや、折れたら困るし。そもそも君が折れたら、敵の鋼を回収してもなんの意味もなくなるじゃん。だって君だけが欲しがってるものなんだから」 燭「(´・ω・`)」
料理さえ絡まなければ温厚で常識人な刀剣・燭台切光忠。 本当に食さえ絡まなければ…。
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runa-neta-note · 7 years
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月に叢雲、花に風
たぬきがじいちゃんを気にしている、それに気づいたかも…という話。 『いとしとかいてふじの花』の続きとして読めなくもないです。
「撤退だ!引けーっ!!」
鋼のぶつかり合う音と怒号飛び交う戦場で、聞き慣れた声が同田貫の耳に届く。敵部隊は、殿を残してすでに撤退を始めていたため、その後を追う気満々だった同田貫は、険しい表情で声の主の元へと歩み寄っていった。 「撤退たぁどういうことだ!?」 敵を斬り捨てる時と同じ剣幕で、同田貫が噛み付いたのは、部隊長である長曽袮虎徹だ。 「主からの下知だ。予想以上にこちらの消耗も激しいらしい。一度兵を引き、再度部隊編成と備えを見直すそうだ」 長曽袮の言葉に、同田貫は周囲を見回す。 足元には壊れた刀装の残骸が、さらに仲間の刀剣も、大なり小なり負傷をしているものばかりだった。
かく言う同田貫も、肩口を斬られ、指先まで鮮血が滴っている。 もしかしたら、この部隊の中で一番深手を負っているのは、自分かもかもしれない……と、同田貫は思った。
しかし、根っからの戦者である同田貫にとって、敵を一掃できるこのチャンスを、みすみす逃すことなどできるはずもない。 「……そうか。だが、俺は敵を追う。なんせ奴等を全滅できる、好機なんだからな」 同田貫はそう手短に告げると、敵を追うため踵を返す。 「馬鹿なことを言って駄々をこねるな。撤退は、主からの下知だと言っている」 ところが当然、行かせまいとする長曽袮に腕を掴んで引き戻され、再度主からの指示であると、嗜めるよう告げられた。 「命令だろうが何だろうか、俺には関係ねえ!俺一人でも、奴等をぶっ倒してみせる!」 「主からは、お前を連れて帰るよう殊更言われている。俺から見ても、お前はもう、まともに戦えるような体ではない」 吐き捨てるように告げられた長曽袮からの言葉は、同田貫自身が何よりも実感していることだった。だからこそ、それを指摘された同田貫は、思わず言葉につまってしまった。 「うるせえ……俺はまだ、戦えんだ……!」 それでも、ギラギラとした瞳で長曽袮を睨み据え、今にも噛み付かんばかりの表情をみせる。 どちらも引く様子を見せず、無言の睨み合いが続いた。 ところがしばらくすると、重い溜息を吐いた長曽袮が、視線をそらして頭をかく。相手がようやく折れたと、ほくそ笑んだ同田貫だったが……。
瞬間、同田貫は背後に、何者かの気配を感じ取る。
背後を取られたことに焦り、同田貫は咄嗟に振り返ろうとした。 だが、それよりも早く動いた何者かからの攻撃に、彼は背後を確認する間もなく、ぐらりと地面に倒れこんだ。
「バッカじゃねーの、後先考えず、一人ではりきっちゃって」 そう言うは、加州清光……長曽袮の意図を悟り、同田貫を気絶させたのは、他ならぬ彼だった。 「言ってくれるな清光。敵を追いたいというこいつの気持ち、わからんでもないからな……」
──だが、今はその時ではない。
長曽袮の言葉を耳にした同田貫は、何故かその言葉が妙に頭に響いた。 だから、自分だけが行くと言った。 自分一人だけの犠牲で、戦に勝つことができるのならば、安いものだろうから。 朧げな意識の中で、二人に向かってそう吠えた同田貫。けれど、声にならない言葉は、勿論誰にも伝わるはずなどなく……。 彼の意識は、そこでぷつりと途絶えてしまった。 ふと意識を戻すと、慣れた香の香りが、同田貫の鼻をくすぐる。
重い瞼を開くと……見慣れた軒先と、暮夜の空に浮かぶ弓張り月が見えた。 「……起きたか?」 まだ完全に覚醒しないまま、ぼんやりと月を眺めていた同田貫に、頭上から優しげな声音が聞こえてくる。月を捉えていた瞳を、声がした方へ向けると……淡い部屋灯りに照らされた、柔和な微笑みが目に飛び込んできた。
「……じいさん?」
微笑みの主は、三日月宗近だ。
「そうだ、じじいだ」 そう言って、クスクスと笑う三日月に、同田貫の頭は混乱する。 「ここは……?」
──さっきまで、自分は戦場で戦っていた。その戦場で敵を逃して、後を追うと、他の奴と言い争いになった……それで……。
同田貫は自分の脳内に残る、先程までの記憶を、回らない頭で必死に整理しようとしていた。 仲間の刀剣に気絶をさせられたような記憶が、確かに残っている。 その間、本丸に帰還したのならば、この状況に何らおかしなことはない。 それならば、何故深く斬り付けられた肩の傷が、すっかりなくなってしまっているのだろうか? 確証はないが、つい先程までの戦の記憶が、絶対に夢ではないという自信が同田貫にはある。 しかし次の瞬間、笑いながら告げられた三日月の言葉に、いよいよ同田貫はわけがわからなくなってしまった。
「いつの間にか、眠ってしまっていたようだな。すっかり日が暮れてしまった」
珍しく、疲れた顔をしていた同田貫が気になって、嫌がるお前に、無理矢理膝枕をしたんだ……と、まるで子供をあやすかのように、同田貫の頭を撫でながら三日月は語る。 普段の硬派な同田貫であれば、こうして三日月から、膝枕を受けることも、頭を撫でられることも、邪険に振り払い怒鳴り散らすに違いない。 ……しかし、何故か今だけは、そんな気になどならなかった。 頭が混乱していて、怒るどころではないということもあったが、三日月からされる行為のすべてが、心地いいと同田貫は感じていたのだ。 「戦続きで疲れているんだろう。無理せずゆっくりと休むが重畳だな」 「……けど、戦はまだ……」 「たぬきよ、たまには素直に、じじいの言うことを聞け」 声音は柔らかいながらも、強い心根が透けて見える三日月の言葉に、同田貫は少しだけ気圧される。 「……休みなんて、必要ねえよ」 しばらくもごもごと、言葉を探していた同田貫は、ぶっきらぼうに言葉を返した。 「ん、まあ……お前なら、そういうと思っていた」 そう言って、おおらかに笑った三日月は、同田貫の頭に置いていた手を、おもむろに目元へと乗せてくる。 そうして、三日月の手で優しく視界を覆われてしまえば……さしもの同田貫も、反射的に瞼を閉じるしかない状態になった。この柳のような老人に、文句を言うことすら面倒になった同田貫は、されるがまま、仕方なく目を瞑ったまま横になる。すると、徐々にうとうとと眠気に襲われ、意識も途切れ途切れになってきた。
「急いでは事を仕損じる……たぬき、今はまだ、その時ではない」
ふと、聞き覚えのある言葉が、三日月の口から発せられ、同田貫は一瞬だけ意識を取り戻す。 確かに……焦っても満足のいく結果が得られぬことなど、自分自身が一番よくわかっていたことだ。 ただ、あの時は自分の思うような戦いができずに、苛立ち、意固地になっていた。 しかし、冷静に考えてみたならば、腕を斬られ、刀を振るうことに支障をきたすような体で、最後まで敵を追うことができたのだろうか……?
──まあ、いい……今はもう寝ちまおう。小難しいことは全部、起きてから、考えよう……。
様々考えてはみたものの、元来考え事の苦手な男が、ただでさえ眠たい頭で、結論など出せるはずもない。 何より、三日月の手の暖かさが心地良くて……同田貫は、いつしかまどろみの中に意識を手放した。 再び意識が戻ると、自分を覗きこむ蜂須賀の顔が視界に飛び込んでくる。
「意識が戻ったようだね」 ゆっくりを頭を動かし、周囲を見回していた同田貫は、ほっとした表情の蜂須賀に声をかけられた。 「ここは、どこだ?」 口の中が切れているため、痛みで喋り方がたどたどしい。同田貫は、ゆっくりと短い言葉で蜂須賀に尋ねた。
「本丸だよ。一人で突っ走ろうとした君を、他の刀剣が気絶させて運んできてくれた」
よくよく見てみれば、部屋も布団も見慣れた同田貫のものである。 部屋の中には、障子越しに柔らかな陽の光が差し込んでいて、丁度良い明るさを保っていた。
「君がここへ運ばれてきて、そこから半日経っている」 そう自分の状態を告げてきた蜂須賀に、同田貫は眉根を寄せてしかめっ面を見せる。 「戦の成り行きが気になるかい?」 同田貫の表情を見た蜂須賀は、彼を起こしながら問いかけた。 「あたりまえだ」 「君を連れて帰還した後、部隊の再編成をして、今は残党狩りに出ているよ」 「……そうか」
「勿論、翁もね」
「じじいもか?」 蜂須賀の言葉に、意外だ……とでも言いたげに、同田貫は目をまん丸にして驚く。 「珍しく、やる気のある顔をしていたよ」 君が一緒ではないのに……と、同田貫の怪我の様子を見ながら、蜂須賀が苦笑した。 そんなことを言われた同田貫は、驚きの表情を、今度は呆れの表情へと変化させる。 「まあ、あの調子だったら……首級を持った翁が帰ってくるのは、時間の問題だろう」 少々愉快そうに告げてきた蜂須賀に、同田貫は大袈裟に溜息を吐きながら「槍が降る……」と、ぼやく。そんな同田貫の独り言に、蜂須賀が「ふ」と少しだけ吹き出して、口元を緩ませた。
「……さて、包帯も変えたし、体の調子もさほど悪くはなさそうだ」 手際良く手当てを終えた蜂須賀は、道具をまとめながら、同田貫に声をかける。 「翁が帰ってくるまで、もうしばらく眠るといい」 「ああ、そうする」 「翁が帰っ��きたら、君はゆっくり休めないだろうしね」 そう言って笑う蜂須賀の言葉の意味が、容易に想像できた同田貫は、ああ…と、うんざりした声音と表情で唸った。
「あいつがいると、調子が狂う……」
今回の出陣だってそうだ。 例え自分が折れ、命尽きたとしても、自らの手で逃がした敵の首級を上げたいと、心から望んでいたのに……。 あの夢を見てしまった今では、すっかりそんな気は失せてしまっていた。 以前の同田貫ならば、もう今頃は、戦地に向かって駆け出していることだろう……休むという甘い考えは、天地がひっくり返っても、しなかったはずだ。 「じじいのせいで、すっかり腑抜けちまった……」 ぽつりとぼやいた同田貫の言葉に、部屋を出ようとしていた蜂須賀が、立ち止まり振り返った。
「月に叢雲、花に風。たぬきには、三日月……かな?まあ、多少腑抜けてもらった方が、俺達は扱いやすくなって助かるんだけれどね」
クスクスと笑いながら、おやすみ……と告げ、蜂須賀は部屋を出て行く。
障子の閉じられた部屋は静寂を取り戻し、 日常生活を営む刀剣たちの音が遠く聞こえるのみだ。 もう少ししたならば、この部屋にも、自分を気遣う者で溢れかえり、賑やかを通り越してうるさくなるに違いない。
そして……きっとその筆頭にいるであろう、三日月の安堵の微笑みが、無意識に脳裏に浮かぶ。
そこで同田貫は我に返った。 自分は一体、何を考えているのだと……。 彼が来てからというもの……いや、彼が来る以前から、自分はどこかおかしくなっていたと、同田貫は思う。 「勘弁してくれ……」 たった一振りの刀に、自分を変えられてしまうなど……ありえない話だし、あってたまるものか……と。 同田貫は吐き捨てるように呟くと、乱暴に布団をかぶり、再び眠りについた。
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runa-neta-note · 7 years
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いとしとかいてふじの花
たぬきがじいちゃんを気にする話。 たぬきが始終思春期男子なリアクション。
タイトルは「いとし藤」から。 http://wind.ap.teacup.com/element/131.html
【藤の花言葉】
「優しさ」「決して離れない」「恋に酔う」 「歓迎」「佳客」「ようこそ美しき未知の方」
その刀の名は、三日月宗近。
天下五剣の一振りにして、最も美しいとされている。
それが実在することは知っていたし、すでに在席している本丸もあるらしい……との噂も聞いていた。 年寄りだと自称する割には強いんだとも耳にして、そんな刀とは、一体どんなものなのだろうかと内心気にはなっていた。 早いとこ、自分の本丸にも来ないものか……そう淡い期待を抱いてはいたものの、そこはやはりの天下五剣……なかなかどうにも、上手くはいかないようだった。 「刀である前にお宝……そうそう簡単に、お目にかかれるわけねぇか……」 残念半分、やっかみ半分……同田貫は、誰にともなくそう呟く。そうして言葉にしたことで、自分の中に何やら見切りがついたのか、同田貫は、徐々に三日月への興味を失っていったのだった。
三日月への興味が薄れて、いつの日かのち──。
ふと気が付くと、そこは見知った本丸の庭だった。 もうそろそろ、初夏に差し掛かろうかという太陽の日差しが、開いたばかりの目を軽く眩ませる。その眩しさに目が慣れると……同田貫の視界に、見慣れない美しく立派な藤棚が飛び込んできた。 淡い紫の花をつけた房が潤沢に垂れ下がり、地面に淡い影を優しく落としている。眼前の不思議な光景を、しばらく茫然と見ていた同田貫だったけれど、そよりと吹き抜けた風と共に運ばれてきた芳香に、はっと意識を戻した。 再び焦点を藤棚に合わせると……香りの元であろう、見慣れない紺色の背高な影がぽつりと立っている。 その見慣れない影の名を、同田貫は直感した。
「三日月、宗近……」
同田貫の声に、影はゆるりと振り返る。 「なんだたぬき?お前が俺の名を呼ぶなど、珍しいこともあるものだ」 その清楚な顔には、嬉しそうなそしてほんの少し恥じらったような、そんな艶やかな微笑みが浮かんでいた。 相手の、自分とはまるで昔からの知り合いであるかのような親しげな態度に、同田貫はきょとんとした表情で三日月を見つめる。そんな間の抜けた表情を見た三日月は、彼の顔を覗き込むと「俺の顔に、なにか付いているか?」と楽しそうに、くすくすと笑った。 「アンタ……俺のこと、知ってんのか?」 三日月の随分と気安い態度に、訝しげな表情を見せる同田貫。 「なにを言う。たぬきは、たぬきだろう?同田貫正国……だったかな?」 「いや……そうだけど……」 「おかしなたぬきだな」 そう言って、からからと笑う三日月。
一体なんだ?自分の知らぬ間に、三日月宗近が本丸に来たのだろうか? しかし、自分はそんな話も噂も耳にしてすらいない……本丸の、他の刀剣も騒いじゃいなかった。 そもそも、目の前の男は、本当に三日月宗近なのだろうか?
同田貫の頭に、様々な疑問や考えが津波のように押し寄せる。しばらく考えてはみたものの、元来深く考えることが苦手な男だったからか、いまいち納得のいくような結論が導き出せずにいた。
──ウダウダと考えていても仕方ねえ。こういうことは、直接本人に聞いちまった方が早い。
考えることが面倒臭くなった同田貫は、三日月に直接仔細を尋ねようと思い至る。目の前の三日月をまっすぐに見つめ「なあ、アンタは……」と口にした時……。
同田貫は目を覚ました。
しばらくぼんやりと天井を見つめ、少し頭を動かして薄明るい部屋を見回す。そこは紛れもない、居慣れた自分の部屋だった。 「……夢か」 体を起こして、上半身を外気にさらす。まだ寒さの抜けきらない朝の空気に、同田貫は悟った。季節はまだ春先……桜の花も咲くか咲かぬかの、藤の花からは、まだまだ程遠い頃だと。 「なんつう夢を見てんだ……」 夢の余韻が抜けきらぬ頭を抱え、同田貫は唸る。見たことも無い、知るはずも無い、三日月宗近の姿を妄想し、あまつさえ夢にまで見るなんて……これでは、自分はまるで……とまで考えて、同田貫ははっと我に返った。
顔も知らぬ相手に、そんな浮ついた感情を持つはずが無い。
夢の中の三日月の甘い微笑みを思い出して、思わず顔を紅潮させる。そんな先程までの夢と、甘い考えを散らすかのように、同田貫は激しく首を振った
……例の夢から少しだけ歳月は過ぎ、麗らかな暖かさを感じる日が増えてきた頃──。
「この出陣が終われば、まず一山越えたことになる」と審神者に告げられた、戦場。 怒号と、鋼のぶつかり合う音の合間に、時折、断末魔の叫びと肉の打ち割られる音が聞こえる。一山……と言うだけあって、今までの敵部隊とは戦闘能力に格段の差があった。 「チッ、無駄に頑丈な体しやがって……!」 敵の太刀と斬り合っている同田貫は、頬に滲む血の線を、乱暴に手で拭う。軽く息を整えると、最後に深く息を吐き、もう一度刀を構えなおした。 威嚇するかのように低く唸る敵を、睨み据える。しばらくその状態のまま、間合いをはかっていた両者だったが……ついに焦れた敵が、咆哮を上げ、同田貫目掛けて勢いよく向かってきた。 先に向かってきた敵に合わせるように、同田貫も動き出し、相手の攻撃を上手く凪ぐと、返す刀で斬り付ける。斬り付けた刃が肉に食い込んだ感覚が手に伝わると、一気に刃を引いた。 斬られた敵は叫声を上げ、状態をぐらつかせる。そうして二歩、三歩とよろめくと、傷口から脂と鮮血をしたたらせ、土埃を上げて地面へと倒れ込んだ。
周囲に立ち込めるむせる様な血の臭いで、相手が絶命したであろう事を、同田貫はとうに悟ってはいたようだ。だが、用心するに越したことは無い。いつまた相手が起き上がって来ないとも限らないと、無意識に数本後ろへ下がった。 しばらく亡骸を睨み据え、相手が起き上がってこないことを確認する。辺りをざっと見渡し、ところどころで上がる勝ち鬨を耳にしたところで、ようやく長かった戦闘が終わったのだと、同田貫は実感した。上がった息を整えて、血を払って刀を鞘に収める。ふと、自分の斬った敵が倒れたあたりに目をやると、そこには寂れた刀が一振り、ぽつんと落ちていた。
「おい、刀が出たぞ!」
戦場で敵を倒すと、こんなふうに稀に刀が出現する事がある。刀剣たちの主人である審神者は、この現象を“ドロップ”と呼んでいて、これを手入れし、邪を払えば、自分たちの味方になるのだと言っていた。 「これは……随分と古い刀のようだね、状態もあまり良くないみたいだ。たぬき、悪いけれどこの刀、君が本丸まで運んでくれるかい?慎重にね」 今回の部隊長である蜂須賀にそう言われ、頷いた同田貫は、寂れた刀を首の布で包んて背負う。それを確認した蜂須賀は、同田貫を促して、他の刀剣と合流するため歩き出し��。 「しかし、こんなにボロい刀が、おいそれと斬れるようになるもんかぁ……?」 短い道中、背の刀に目をやり、うろんな表情で同田貫が呟く。 「そう修繕するのが、鍛冶や研ぎ師、ひいては主の役目だからね。仕上げて貰わなきゃ困る」 それを聞いた蜂須賀は、苦笑しながらも、強い口調でそうきっぱりと返してきた。 刀身も拵えも損傷が激しく、本当に修繕の見込みがあるのかどうかすらわからないような、刀なのに……。 「まあ、そうなんだけどよ……」 蜂須賀の発言に、いまいち釈然としないまま、けれど、どう言葉にして良いものか……良い文言が見つからず、口をつぐむしかなくなった同田貫。
そうして審神者に渡したその刀は、長期間の修繕に出されることとなった。
そこから、再び歳月は過ぎ……徐々に暑いと思う日も増えてきた頃──。
同田貫は稽古場の出入り口から、蜂須賀に手招きをされた。 「稽古中にすまない。少し使いを頼まれてくれるかな?」 「俺が?なんだよ」 「以前、君が見つけた刀を覚えているかな?」 「……ああ、あのボロボロの屑みてぇな奴だった」 「そう。アレの直しが終わったと、さっき連絡が入ってね」 「マジか……アレ、直ったのかよ」 「それで、君に受け取りに行って欲しいと、主が言っているんだ」 「……はぁ?俺が?」 一拍おいて、同田貫から上がる素っ頓狂な声。軍事以外の雑事など、てんで興味のない同田貫である。それをわかっているからこそ、審神者も普段は、まったくと言っていいほど、同田貫には使いなどを頼まないのに……蜂須賀からの言伝に、当たり前のようにあからさまな不快感を表した。 「そう面倒臭がらずに、頼むよ」 「他の奴らは?」 「みんな別の仕事があるからね。それに主は、刀を見つけた君が、責任を持って迎えに行くのが重畳だと言うんだ……」 明らかに行く気がないという空気を醸し出している同田貫に、蜂須賀の表情は曇り始めている。この本丸の審神者は非常にいい加減な人間で、こうして適当な理由を最もそうな言葉で誤魔化しては、近侍である蜂須賀や刀剣達を困らせることが多々あった。
他の刀剣に、一から説明するのは面倒臭い。 かと言って、蜂須賀に抜けられては仕事が回らない。 ……今回は、そんなところか。
「ったく、相変わらず適当な奴だな……ま、どうせ当分戦には出れねぇし、たまには雑用でもなんでもしてやるよ」 「そうかい、良かった。じゃあ、宜しく頼むよ」 ほっとした表情を見せて去って行った蜂須賀の背中を見送り、同田貫は大きく溜息をつく。眉間に深い皺を作りながら、“重畳”なんて大袈裟な単語を使ってまで、雑事を押し付けてくる自分の主人に、心底呆れたものだと心中で思った。 「まぁ……面倒っちゃ面倒だが、あんな寂れたなまくらの正体、気にならねぇ訳じゃねえし……」 自ら行くとは言ったものの、この使いにいまいち乗り切れない自分自身に言い聞かせるよう、同田貫はそうぼやく。
──面倒くせえもん拾っちまったな……。
そんなことをふと思い、再度溜息をつきながら、頭をガシガシと乱暴に掻いた。
本丸から、少し離れた場所にある鍛冶場……。
「ちわっす」と声をかけて足を踏み入れると、同田貫の側に、一人の小さな刀工が歩み寄ってきた。 「あーっと……前に預けた刀のことだけど……」 「それならば、すでにお目覚めですよ。ここに来るまでに、すれ違いませんでしたか?」 「いや、会ってねぇな。てかなんだよ、もう出歩いてんのか?」 「目覚めて早々、私達が止める間もなくフラフラと出て行かれました」 そう言って呆れた顔をした刀工は、自由すぎて困る……とでもぼやくように、溜息をひとつつく。そんな刀工の言葉に、同田貫は唖然とした表情を見せる。そうして、彼が固まっている間に、刀工は軽く会釈をして、さっさと奥へ引っ込んでしまった。 その場に、一人ぽつんと残される同田貫。自由過ぎるにもほどがあるだろう……とひとりごちる彼が、とあることに気付くのに、早々時間はかからなかった。
「……俺が探しに行くのか?」
それに気付いた瞬間、無意識に「うへぇ……」と口から零れる。なんで自分がそんな面倒なことを……と、言葉にしなくてもわかる程に、同田貫は渋い表情を見せた。探しに行くことが面倒ならば、その場で帰りを待つことも出来る……が、もしもこのまま件の刀が帰って来なかったら……なんて考えも、ふと彼の頭をよぎる。もしもそうなってしまったら、存外どケチな主人が、死ぬまで自分に文句を言ってくるだろうことは、想像に難くなかった。それに、この同田貫という青年は、言動に反して意外と律儀なところがあるのだ。 「はぁ……ここまで来たら乗り掛かった船だ。しゃあねえ行くか……」 この日何度目かの溜息をつき、そうして頭をかく。また戻るからと刀工に声をかけて、同田貫はもと来た道をのそのそと歩き出した。
周囲を気にしながら、見慣れた道をゆっくりと歩いていく。とうに頭のてっぺんまで登った日は、季節の割にはじりじりと、刺すように暑い。「畜生、なんで俺が……」と吐き捨てた同田貫は、自然と影を求めるように、建ち並ぶ屋敷の垣根に身を寄せた。 空気の暑さは変わらないが、照りつける日の光が遮られるだけでも、幾分か涼しく感じる。そうしてしばらく垣根伝いに進んでいくと、鍛冶場から少し離れた場所に立つ屋敷の中の一軒、その垣根から、立派な藤棚であろう無数の蔓が目に飛び込んできた。 「藤……もうそんな季節か……」 そういえば、近頃暑くなってきたな……そんなことをぼんやり考えながら、屋敷の前を通り過ぎる。その屋敷の前を、まさに通り過ぎようとした瞬間……同田貫は、視界の端に小さな人影を捉えた。 過ぎた道を数歩戻り、垣根の出入り口から人影を注視する。……が、自分の位置からでは、どうにも距離がありすぎて、その影が誰なのか、うまく見ることができないでいた。一歩踏み出して、そこは見も知らぬ、他人の家だとふと気付く。しかし、気になり始めたらどうにも確認せずにはいられない。悪いとは思いながらも、それが誰なのかどうにも気になって仕方のない同田貫は、そろりとその影に近付いていった。
目の前の影はぼんやりとしているのか、どうやらこちらが近付いていることに、気付いていない様子だ。そんな影に一歩、また一歩と近付いて、どこかで見覚えがあると同田貫は首を捻った。 そして、ふと脳裏をかすめる光景……。
薄紫色が落ちる、紺色の影……夢で見たそのもの──。
「三日月……宗近?」
無意識で呼んだ名前に、目の前の影が振り向いた。 「ん、そうだ。俺は三日月宗近だ」 そう穏やかに告げた影は、優しく微笑んでいる。目の前の光景に、驚き立ち尽くす同田貫。その同田貫の様子に、不思議そうな表情で首を傾げた三日月は、ゆっくりと歩み寄ってきた。 「お前は誰だ?何故、俺の名を知っている?」 同田貫の目の前に立つ三日月は、彼にうろんな表情で問いかける。その問いかけに、はっと気を戻した同田貫は、顔を紅潮させ、それを隠すように俯いて黙ってしまった。
──お前を夢に見たんだ。
そんな臭い台詞を、硬派な性格の同田貫が口が裂けても言えるわけなど無い。 「どうした?気でも悪いのか?」 黙りこくった同田貫の顔を覗き込み、三日月は眉根を寄せて困った表情を見せる。それでも、うんともすんとも言わない彼に、三日月は腕を組み、途方に暮れて唸り出してしまった。 互いが互いに何も言えぬまま、時間だけが過ぎていく。ただひたすら、黙りこくったままの名も素性も知らぬ青年に、三日月は、少しづつ居心地が悪くなっているのだろう。相変わらず、おもはゆい表情で、何かを考えるかのように目線を上へ送る。それでも、やはりなにも思いつかなかったのだろう「とりあえず、俺が居た所へ戻ろう…」と、三日月が告げてきた。その時……。
「俺は、同田貫……同田貫正国。アンタと同じ、刀だ」
普段の威勢はどこへ行ったのか、絞り出すようにそれだけを告げて、同田貫はまた黙りこくってしまう。どこかむっつりとした表情を見せる同田貫の頬は、いまだほんのりと朱に染まっていた。 そんな相手の様子を、目を瞬かせて三日月は見つめる。しかし、今度は先程までとは少々状況が違う。ようやく名前を聞いた三日月は、「ふむ」と頷き、組んでいた腕をといて、朗らかに微笑んだ。
「なるほど、“たぬき”か」
納得したように、うんうんとうなづく三日月の言葉に、同田貫はわなわなと震える。“たぬき”と呼ばれることに慣れていない訳ではないが、それは付き合いのある者達に対しての話で、初対面の人間にまで不躾に呼ぶことを許すような男ではなかった。 「たぬっ……!たぬきじゃねえっ!同・田・貫っ!」 「ん、だから、たぬきだろう?」 「こ、こいつ……」 「ところで、たぬきは何をしにここへ来たんだ?」
三日月にそう問われ、同田貫はすっかり忘れていた使いの目的を思い出す。
思えばこの使いは、主人である審神者の、適当な言い分で押し付けられたものだ。同田貫にしてみれば、そこからすでに気に食わないというのに、さらに勝手気ままに行動をする三日月の奔放さに、もとよりそうそう高くはないだろう怒りの沸点が、ここへ来て一気に上昇したようだった。
「なにしにって……アンタを迎えに来たんだよ!そんで迎えに来てみりゃ、当の本人はうろちょろ出歩いてるわ、ソイツに俺は、クソ程不愉快な呼ばれ方をするわ!」 「そうかそうか、それはご苦労だったな」
元よりきつい目つきをさらに尖らせて、大声で怒鳴る同田貫を、三日月はなんでもないとでも言うように、軽く笑い飛ばしていなしてしまう。そんな食え無い相手の態度に、同田貫は言葉をつまらせて、悔しそうな表情を見せた。 「こいつ……他人事みたいに……」 「んん、そんなふうには思っていないぞ?」 「……チッ、しゃあしゃあと言いやがる」 「はっはっは!まあまあ、これから長い付き合いになるんだ。よろしく頼むぞ、たぬき」 そう言って、人好きのする笑顔を見せた三日月は、同田貫に手を差し出してくる。相手は握手を求めているのだろうと察したが、同田貫にはそんなことをする気など、毛頭ない。眉根を深く寄せ、三日月の手を握る。その手を乱暴に引っ張って、無言で歩き出した。 予想外の同田貫の行動に、三日月は驚き焦る。強い力で引っ張られながら、足がもつれないよう必死でついて行くのがやっとらしい。 「た、たぬき、待て早い……!」 三日月の悲鳴を聞いて、ようやく同田貫は立ち止まった。 「だらしねえぞ、三日月宗近」 「俺は爺故、若い者にはついて行けん……」 「まったく……しょうがねえジジイだな。ゆっくり歩いてやるから、フラフラすんなよ!」 想像もしなかった言葉をかけられて、三日月はきょとんと同田貫を見つめている。けれど、それも一瞬のことで「あいわかった」と微笑むと、優しく手を握り返してきた。
それを確認すると、同田貫は再び三日月を伴って歩き始める。
「ところで、アンタ今なんで言葉につまった?」 「んん、そうだったか?」 「とぼけんな」
「ん、まあ……言動に反して、意外と優しい奴だと思ってな」
同田貫の問いかけに、ニコニコと手を引っ張られながら素直に答える三日月。そんな三日月の返事に、羞恥で言葉を詰まらせて、顔を赤く染める同田貫。
「うっせぇ!意外で悪かったな!」
その羞恥を掻き消すように大声で吠えると、三日月は嬉しそうに笑った。
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