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ショートショート-5
夜空よりもなお暗い瞳がこちらをうつす。当たり障りないようなことを、あたかも世間話をしているような声色でこちらに問うそれは、異質ではあった。 大きなデモの最中、こちらの視線に気づきデモからこちらに意識を移すその行為は、まるで世間話をする為に編み物を辞める女のような、そのような瑣末事に思える。──これが、デモの最中でなければ、ダヴィートヴィチもそこまで警戒をしなかったかもしれない。 ダヴィートヴィチは薄く瞳をあけ、金色のそれにその人物をうつした。 とくにこれといって挙げられる身体的特徴は見当たらず、しかして普遍というにもその表情は薄く笑みを浮かべたままだ。 「……なぜ、このような集団の中に?」 ダヴィートヴィチは疑問を投げかける。その黒の瞳の持ち主は動揺もないまま、こちらに一歩近づいた。 「あなたは、普通の人間でしょう」 ダヴィートヴィチのその言葉はデモの大きな音にかき消されるような小さなものだった。しかし、目の前の青年はそれを聞き、穏やかに笑う。それが、異質と言わずしてなんというのだろうか。 革命を起こす気すらなさそうなその当たり障りない笑顔を見ると、ダヴィートヴィチはすこしだけ彼に近づいたのだった。
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