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#ベネチオ・デル・トロ
roomofsdc · 2 years
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「チェ 28歳の革命〜39歳 別れの手紙」
1964年ニューヨークの国連総会、キューバの代表として演説を行うエルンスト・ゲバラ。アルゼンチン生まれの医学生だった彼がなぜキューバ革命の立役者として国家主席にまで上り詰めたのか、そしてなぜ彼はキューバを捨てて再び異国で革命戦争に身を投じ、そして死んだのか。 キューバ革命の初期から国連総会での演説までの前半を「チェ:28歳の革命」、その後キューバから離れボリビアで政府軍に処刑されるまでの後半を「チェ:39歳 別れの手紙」として公開された、総計で4時間を超える超大作の一応商業映画である。主役の「チェ」を演じたのは、プエルトリコ出身の名優ベネチオ・デル・トロ。主要な製作者に名を連ねる彼は、入念にチェ・ゲバラの人生のリサーチを行い、フィデル・カストロにまで面会して役作りを徹底した。メガホンをとったのは「トラフィック(2000)」でもタッグを組んだソダーバーグ。彼らの熱情が映画を推し進めているのが画面からも伝わってくる。 ただ21世紀の日本人の多くにとってゲバラはあまりに遠い存在。キューバ革命からボリビアでのゲリラ活動まで、彼の軌跡は「共産ゲリラ」とひとくくりにされているので、汚らしい髭面の男が、なぜかくも犠牲的な精神で他国の革命に命をかけているのかがすぐには理解し切れない。 そんな大多数の日本人がこの映画を楽しむ為には、まず彼の青年期を描いた「モーターサイクルダイアリーズ(2004)」を見ておくことがお勧め。この映画でのチェ・ゲバラは激しいアジテーションの革命家ではなく、他者を愛する、静かでそして内に熱い情熱を秘めた一人の若者として描かれている。その眼差しは憂いに満ちているが、一方で険しく鋭い。この作品を見た後で「チェ」前後編を観ると、アルゼンチンからメキシコ、キューバ、そしてボリビアと流転する若者(スクリーン上のデルトロは残念ながら決して20代の若者には見えないが)の運命に共感することも容易いはずだ。 「チェ」は「29歳」「39歳」の二部作になっているが、やはりソダーバーグらの当初の予定通り、通して鑑賞するのが「正しい見方」だろう。私自身は別々の日に観たが、通して観ようものなら、完全にこの半世紀ほど前の革命家に心酔してしまっていたに違いない。本作品は、アメリカで製作された商業映画でありながら、ある意味で強力な洗脳効果をもたらしかねないストレートな政治的映画に仕上がっているのだ。 前評判が異常に高かった割に全米での評価が低かったのは、共産主義アレルギーの強い米国ならではの事情も大きいと推測される。特に9.11以降のアメリカ第一主義の台頭は、チェという自由の偶像をテロリストの一人として過去の遺物にしておきたかったに違いない。それでも今もこのような政治的作品を作り続けているソダーバーグ監督がアメリカにまだいる、という事実は私たちを勇気づけてくれはしないだろうか。
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