●イルギス -Ergis- / ザマゼンタ
■ 頑張り屋な性格 で 物音に敏感
■ ?歳(外見年齢20代後半~30代前半) / 182cm
■まどろみの森出身
■ 俺 / お前、君 / あいつ、あの方
「無理強いはしない。だが……叶うのならこの先も俺達に力を貸してくれないか」
「生まれた芽を育てるなら、彼ら自身が根をおろさなければ、そこには種も何も残らない! 俺達がすべきなのは彼らを敵の前に曝すことより、暖かい春に芽吹くまで守ってやることだろ!」
鋼戦の盾王
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Profile
ガラル地方の片隅で都市伝説のように存在が広まっている、『赤狼』と呼ばれる男。
真夜中に人気のない場所で怪物の影や鳴き声があった時、瞬く間に赤く照らされた霧に覆われ、その中に狼のシルエットを見るという。
その正体は今では忘れ去られた伝説の英雄『鋼戦の盾王』であり、現代に即した姿で社会に紛れ込みながら人目を憚って『変異体』にされた者達に接触し、加護を与えることで理性を安定させ安全な場所に保護している。
保護した『変異体』の中で協力者になってくれた者もおり、ワイルドエリアの預け屋で活動の支援や運ばれてきた者の介抱を任せているが、同じ英雄のローレイルが率いる劇団に比べると「組織」と言うには心もとなく常に一回ごとの活動を成功させるのに精一杯な状況である。
そんな「一回の人助け」を愚直に繰り返すうちに噂を辿った同郷のセランザと再会し、彼女が連れてきたリベラック達『SUGAR HIVE』一行との出会いにより、やがて地方に変革をもたらす大願となっていく。
ストイックで口数が少なく、良く言えば一匹狼然とした雰囲気だが、実際は気が付くのに気が利かない口下手な性格でリベラック達をして「コミュ障の陰キャ」と言われてしまう。
目的を共にする彼らと合流して以降はエンジンシティの『SUGAR HIVE』事務所に身を置いて行動方針を講じるようになり、表向きは企業の社長ということにされてしまった。まだ赤ん坊のレーズンの子守も任されており、不馴れながらも目をかけているうちにすっかり彼の遊び相手として懐かれている。
自分なりに譲れないものもあるらしく、自分一人で終わらせた方が軋轢を生まなくて済むと考える所があるが、何も言わなかったがために意図しない状況になることも多く、リベラックからたびたび「意気地無し」となじられている。
遠い昔はまどろみの森で同じ伝説の名を冠するローレイルやエバーザレトと暮らしており、師のアーダンのもとで人々に忘れ去られた伝説を正しい形で現代に蘇らせるための教育に従事していた。
森の民だった幼いセランザが遺跡まで一人でやって来たところに出会い、伝説を信じて慕ってくる彼女と日々親睦を深めるが、20年前に起きたある事件で自身の発言をきっかけにローレイルと袂を分かち、森からいなくなった彼を探して外の世界へと出て行った。
その後地方を奔走する中で出会った『変異体』達を保護するようになるが、途方もない状況の中で次第に「感謝されることはあっても手を差し伸べてくれる者はいない」という思いから同志を求め、唯一それに応えてくれたのが自分を探し当ててきた成長したセランザであった。
それ以来彼女の存在は王と民を超えた自分だけの愛する者になるが、そんなセランザとの関係もローレイルに与えた誤解も「アーダンの教えを全うする」という使命で蓋をしている。
Episode
Battle style
■武器:格闘技(近距離) / シールド(遠距離)
手をかざすと出現する『鋼戦の盾王』の紋章から赤く光る結界(シールド)を展開させる。盾として攻撃を防いだり、複数出現させたものをブーメランのように投げ飛ばし敵を切り裂く。
卓越した格闘技を心得ており生身での肉弾戦にも強く、主に足技を駆使して戦う。敵の背後に出現させたシールドめがけて蹴り飛ばし、跳ね返っては叩き付けるのを繰り返しトドメの一撃を喰らわせる。
■真器:聖盾イージス
伝説の王ザマゼンタが作り出し継承した、伝説の武器の一つである不屈の盾。
手を掲げると浮かぶ紋章を中心に巨大な結界(シールド)が展開され、天高くそびえる壁のごとき広さ��硬度を誇る。初めて受ける攻撃と、展開した直後に受けた攻撃は必ず防ぐことができる。それ以外のダメージで力負けすると結界が破損・消失する。
さらに聖盾からの一回の加護につき一度だけ、いかなる肉体的ダメージもはね退け命を守る。
Personal relations
【因縁】
グレイム / オーロンゲ♂→グレイム
20年前に真の伝説に記された存在である自分達をおびき出すため、故郷のまどろみの森を火の海にした人物。森の民は彼の差し向けた兵士に襲われながらも率先して自分を逃し、一人で飛び出したローレイルを追って森の外へ出ることとなった。
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【戦友→両片想い】
セランザ / アーマーガア♀→セラ
自身を信仰対象として言い伝える故郷の民であり、変異体を保護するために活動を共にしてきた戦友。伝説の存在が実在すると知って心から慕っていたあどけなさはどこへやら、今では彼女の尻に敷かれている。「感謝はされても手を差し伸べてくれる者はいない」と疲弊していた中で自ら探し出してくれた唯一の存在で、その想いは伝説の王としての庇護から一人の男として彼女を必要とする愛に変わっていく。
【継承】
リベラック / エースバーン♂→リベラック
セランザが同郷の者以外で信頼を置く相手として彼に協力を願い、尻に敷かれる苦労話や咄嗟の援護などで息の合う仲になる。多くを語らずとも共感し合う付かず離れずな距離感を心地よく思っていたが、実は彼が変異体になった切欠に関わっていたことが判明し、互いに現実と本心に向き合う覚悟を決めて受け入れ合った親友となった。
【保護】
レーズン / エレズン♂→レーズン
『SUGAR HIVE』事務所の留守を共に任され、その間面倒を見ている変異体の赤ん坊。大体のことには動じず自由奔放に動き回るため、小さくか弱い相手に慣れていない自分の方が狼狽えることが多い。バトルカフェへの送り迎えにも行っており、少々甘やかしがちなこともあってすっかり懐かれている。そのことでセランザに小言を言われ慰められることもしばしば。
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【対立】
ローレイル / ザシアン→レイ
先代の伝説の英雄から共に力を受け継ぎ、彼らが眠る石碑から生まれた双子の兄弟。純粋で感化されやすい彼(女?)に気苦労を負うことが多く、先に生まれたエバーザレトの影響か物心ついた頃には一方的に「姉」と呼ばされていた。
グレイムに森を焼かれた夜、アーダンの亡骸の前に立っている自分と遭遇し「殺したのか」と問われたが、否定せず突き放した一言によって袂を別つ確執を生んでしまい、今では『変異体』を救う王の座を巡った因縁の相手になってしまった。
【同郷】
エバーザレト / ムゲンダイナ→エリーゼ
自分たちより少し先に生まれ、共にアーダンの手で育てられた姉のような存在。一番無邪気で天真爛漫な彼女にやや強引に連れ回されることが日常茶飯事で、アーダンからも「お前を見張り役につけていないと心配」と言われるほど。森の外の世界に憧れ、外から来たヴァーサイト達と知り合いはしゃぐ彼女を心配していたが……
【恩師】
アーダン / ムゲンダイナ→アーダン、師
先代の伝説の英雄の石碑を守り、そこから生まれた自分達双子を育てた父親同然の存在。先代の武器を継承し正しい歴史を蘇らせ、再び災厄が迫った際にガラル地方を守る王者となるべく日々教育を受けていた。「責任感が人一倍強く人をよく見守っている」と褒めてくれた彼を慕い期待に応えようと日々鍛錬を積んでいたが、グレイムに森を焼かれた夜に死にかけているアーダンを発見し……
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7.roșu
「ハッピーバースデートゥーユー」
ハッピーバースデートゥーユー。
ハッピーバースデーディアアイリちゃん。
ハッピーバースデートゥーユー。
ってね。
さっきから何回歌ったかわかんないね、コレ。そうです、今日はアイリちゃんのお誕生日です。一年、サンビャクロクジューゴニチのうちで、一番おめでたい日です。おめでとう。おめでとうアイリちゃん。
「にしても、高かったなァ」
ケーキの箱を持ち上げて、ちょっとだけ苦笑い。
おれは銀座から日比谷に向かって、晴海通りを歩いてた。その理由は少しでも電車賃を節約するためです。おれの財布とは正反対にずっしりと重いケーキの箱を、ガサゴソと振ってみる。ウーン、なんともいい音がするね。そりゃそうよね、だってこのケーキ、赤いフルーツのタルトね、なんとワンホールで四千八百九十円。
銀座にあるケーキ屋『グランメゾン銀座』の赤いフルーツのタルトをユダが買ってきてくれたのは、去年の夏だった。それを食べたアイリはもうエラい感動しちゃってさ。こんなおいしいケーキ生まれて初めて食べた、って涙まで流すもんだからさ。あのときのアイリの顔が忘れらんないのよね。だからこうして仕事帰りにわざわざ銀座までやってきて、コレを買ったってわけ。マダムたちのおれを見る目が冷たかったけど、そんなの気にしないもんね。おれは赤いフルーツのタルトが買えればそれで、いいの。
「赤いフルーツのタルト、一番デッカいやつ!」
ガラスケースをバシンと叩いて、こう叫んだ。
すると、店員のお姉ちゃんはヒッと声をあげて店の奥へ逃げてっちゃった。あらあらいったいどーしたんでしょうね。おれのこのサングラスが怖いのかな? それともこの格好がマズかったかな? まあいいや。笑えるほど高い帽子をかぶった男の人が出てきて、ちゃんとケーキは売ってもらえたし。
ねえアイリちゃん。いや、今日からキミはハタチだから“アイリさん”って呼ぼうかな? そうほうがいいかな? ねえ、キミはどっちがいいかな?
こんなこと言うと恥ずかしがるかもしれないけど、二十年間おれが必至に守り抜いてきた目の見えない天使、それがアイリさん、キミ、いやアナタですよ。アナタがいたからオニーチャンは頑張れました。貧乏すぎてまともに学校に行けなくたって、酒飲んだ親父にブン殴られたって、ラブラブ首吊り自殺をした両親の死体の第一発見者になったって、ヘンタイウンコ野郎にカマ掘られたって、ドブネズミと仲良く歌舞伎町でゴミ漁りしたって、ヤクザになったって、オニーチャンは平気でした。アナタのためだったらなんだってできましたよ。
キミがオニーチャン、っておれを頼りにしてくれる限り、オニーチャンはアナタのオニーチャンですからね。だからこのケーキは、アナタとユダとおれの三人で、おいしく食べましょうね。おれとユダは一切れずつあればいいからさ、あとはぜーんぶ、アナタが食べていいですからね。
ねえねえアイリさん? このケーキを見たら、ううん、正確にはこのケーキの香りをかいだら、口に入れたら、アナタはどんな顔をするんでしょうね。イチゴ、ブルーベリー、ラズベリー、あとはよく知らない。とにかく赤いフルーツがいっぱい乗っかったこのケーキをおれが買ってきたって知ったとき、アナタはどんなふうに笑うんでしょうね。
ああ、早く帰りたい。早く帰って、アイリの笑った顔が見たい。
おれは歩くスピードを上げる。歩くっていうよりもう、ほとんど小走り。で、気がついたときにはゼンリョクシッソー。アイリに会いたい気持ちがおさえきれなくて、晴海通りを猛ダッシュ。数十メートル走ったところで自分がケーキの箱を持っていたことを思い出したけど、もう今さら遅い。そんな気がした。それにこのケーキはショートケーキとかそーゆうんじゃないから、ちょっとやそっと振り回したって平気。たぶんね。
家に、ユダのマンションに、おれとアイリの家に、一秒でも早くたどり着く。それがなによりも、どんなことよりも大切なように思えた。アイリと、ユダと、おれ。さっさと帰って、三人でちょっと潰れたかもしれないケーキを食べる。はずだったのになあ。
『Mi-ar plăcea să te sărut...シュウ』
なあ。
「よしなさい。みんなの前だろう」
「どうしてコイツらに気をつかわなくちゃいけない? ねえ、だからキスしよう」
「ふむ。では、どうして気遣いが必要なのか、おまえに教えてあげようね」
「ああ」
「いいかい。ここはユダの家で、ここの主はユダだ。それはわかるかな?」
「そんなの、わかるにきまってる」
「そうか、わかるのか。偉いなあおまえは」
「簡単なことだ。バカにするな」
「では聞き分けなさい。わたしとおまえは客人なのだよ。しかも突然、アポイントもなしに押しかけたんだ。それなりの振る舞いをする必要がある。礼儀正しく、奥ゆかしくしてこその日本人だ」
「……フン。オレは半分、ルーマニア人だ」
なんでおれは会長と姐さんのためにケーキを切り分けてんだろーな。
なんでユダは会長と姐さんのためにコーヒーを落としてんだろーな。なんでアイリは会長と姐さんのためにテーブルを拭いてんだろーな。なんでコイツらはユダの部屋のリビングで、ソファに座ってイチャイチャしてんだろーな。やれやれ、意味わかんねえわ。頭こんがらがってるわ。
ちょっと潰れたケーキにナイフを入れようとした瞬間、鼻の頭が急にツンと痛くなった。あれ? おれ、ひょっとして泣きそうになってんのかな? は? なんで? 泣く必要なんて、あんのか?
「お兄ちゃん、私、お邪魔でしょう? 部屋に戻ってるよ」
アイリはこのおかしな空気をビンカンに感じたらしく、気をつかって自分の部屋に引っこもうとしてる。
礼儀正しく、奥ゆかしい。会長、それってこの、アイリさんみたいな子のことをいうんだと思うのよね。ああ、そっか。だからおれ、泣きたくなったんだ。今日からアイリさんになったこの子に食べさせるつもりで買ってきた、このケーキ。それなのにアイリさんは、そのことを知らない。
タッダイマ! こう叫んで玄関のドアを開けるなりユダに首根っこをつかまれて、カイチョーがオコシだって、すっげえ怖い顔で言われて。アイリさんにハッピーバースデーを伝える間もなく、お祝いの歌を歌ってあげる間もなく床にブン投げられた。おれが歌を聴かせてやれたのは晴海通りを歩いてた人たちだけ。アイリさんじゃない。
「ここはあなたの家なんですから、そう遠慮することないんですよ」
アイリの様子に気がついたらしく、会長が笑いながらこう言った。
その隣では早くもフォークを握った姐さんが、たいして興味もなさそうにアイリを見つめてる。姐さんの冷たくて青い目がアイリに向けられてるのを見ると、どうもソワソワ落ち着かない気持ちになった。
「でも……お仕事のお話があるんじゃ」
「いえ、今日はそんな堅っ苦しい用事できたんじゃありません。いわゆるあれですよ。プライベエト」
「……そうですか」
これじゃあケーキがあんまりにもカワイソウだ。
自分がアイリさんっていう天使のために買われたってことを知らないまま食われちまうこのケーキが、あんまりにもカワイソウだった。イチゴもブルーベリーもラズベリーも、あとはよく知らないけどとにかく赤いフルーツたちもみんな、カワイソウだった。キミたちはアイリさんのためにここにきて、アイリさんに喜んでもらって、アイリさんに真っ先に食べてもらえるはずだったのにね。
「会長。いったい、今日はどうしたっていうんです」
さっすがはユダだ。
おれが一番聞きたかったことを、質問したかった、でもできなかったことをいとも簡単に聞いてくれる。これがキョウダイサカズキを交わす、ってことなのか? おれにはまったく縁のないことだけど、ユダは会長と盃を交わしている。しかも会長とユダは五分の兄弟なのだと聞いたことがある。
兄弟盃っていってもいろいろある。交わした二人がほとんど対等な五分、兄貴の方がちょっとだけ強い四分六、七三、二八。何度も言うけど、会長とユダは五分の兄弟。つまりさ、二人はほとんど平等ってこと。だって、五分なんだからね。それってホントにすげーことだ。この会長と五分の兄弟。ユダはホントに、ホントにすごい。
「どうしたってことはないさ。ただ、おまえの住まいを見てみたくなった。それだけだ」
「携帯は?」
「うん? 携帯?」
「ええ」
「五日ほど前に新しい機種に変えたぞ。ようやく操作にも慣れてきた」
「そうですか。それなら、連絡をくれても良かったんじゃあないですか? これから行く、そんな電話を一本おれに寄越すぐらい、たいした手間じゃないでしょう。あなたはおれの番号をご存知のはずだ」
「ユダ」
「はい?」
「怒っているなら怒っていると、ハッキリそう言ってくれないか。おまえにそういう態度をとられるのはどうも、むずがゆくてしかたない」
ユダは黙りこんだ。
どうやらユダは困ってるみたいだった。コイツとずっと一緒に暮らしてるおれにはそれがわかった。ユダは、なにも言わないままコーヒーを配り終えると、会長と姐さんが座っているソファに垂直に置かれた一人がけ用のソファに腰をおろした。視線が落ち着かない。いつものユダじゃない。おれは心配になってユダの顔をのぞきこむ。それに気づいたユダは口唇を軽く噛んだだけで、ハッキリと笑ってはくれなかった。
自分がした質問に対して、ユダが困ってると知った会長は、なんていうんだろ、とにかく、めちゃくちゃ嬉しそうに笑った。もともと細い会長の目が、もっと細くなる。まるでユダの態度に満足してるみたいに。
ふと会長の隣に座っている姐さんを見ると、姐さんは会長の腕に自分の腕を絡めて、会長の太ももの上に自分の太ももを乗せたカッコのままおれを見つめていた。ユダじゃなくて、おれを。姐さんはずっと、じーっとおれを見つめていた。会長の二の腕に頬を寄せたり、会長の太ももを撫でたりしながら。それでもじっと、おれのことを見つめていた。
その眼差しに気がついたおれはギクッとした。それから戸惑った。だってさ、姐さん。会長の前なのに、そんなふうにおれを見ることないんじゃないの? 会長に勘づかれでもしたら、どーすんのよ。ハラハラしちゃうよね。コンクリ詰めはヤダよ、マジで。
それからしばらく経って、会長に甘えるのに飽きたらしい姐さんは、フォークを手にとって赤いフルーツに突き刺した。アイリさんが真っ先に食べる予定だった赤いフルーツのタルト。イチゴ、ブルーベリー、ラズベリー。それぞれが姐さんの口のなかで酸っぱさをはじけさせてるみたいだった。姐さんは食べるのがヘタクソで、赤い汁をたくさん垂らす。皿の上にも、自分の膝の上にも。でもそんなのぜんぜん気にしてない。口唇は、口紅塗ったみたいな赤い色。赤。赤は血の色。おれたちになじみ深い、ザンコクな色。姐さんがケーキを口に放りこむたびに飛び出しそうになるため息を、おれは必死に飲みこんだ。
赤い果物。イチゴはどっかビンカンな場所を、ブルーベリーは愛すべき場所を、ラズベリーは触れちゃいけない場所を連想させる。ソイツらが姐さんの白い歯によって噛み砕かれて、飲みこまれてく。
「うまいか?」
ユダはまだ質問に答えられなくて、肩をいからせて固まってる。
まるでそんなユダを無視するみたいに、会長は姐さんに向かって声をかける。明るくて穏やかな声。それを受けた姐さんは口の端から垂れた赤い汁を、会長の上着の袖で拭いた。
「ん、うまい。イチゴ、好き。ラズベリーも」
「ふ……そうか。それはよかった」
二人のやり取りを黙ってみていたユダから、ふう、とため息がもれた。
ユダの顔には諦めが浮かんでる。この人にはかなわない、そんなユダの声が、今にも聞こえてきそう。おれはユダのことが心配になって、おそるおそるユダの上着の袖をつかむ。するとすぐにそれに気づいたユダは、ちらりとおれのことを見て、口の端を少しだけ持ち上げた。
「それじゃあ言わしてもらいます。会長、なぜ、いきなりここにいらしたんです?」
会長に向けられたユダの言葉は、透明だった。
にごりがぜんぜんない。ユダ、コイツは普段からハッキリとものを言うやつだけど、今のは特別だ。おれの耳にはそう聞こえた。
「おまえが拾った兄妹のことを、よく見たくなった。それだけだ」
「きょうだいというと……この二人ですか? レイと、アイリ」
「そうだ。人と交わることを嫌い、いつでも一匹狼だったおまえが他人を、しかも二人も家に住まわせるとはいったいどういうことだろうと、ずっと気になっていたんだよ」
軽快な口調で喋る会長とは正反対に、ユダの話し方は重たい。
レイとアイリ、自分の名前が出たことでアイリはハッと動きを止めたけど、すぐにまたコーヒーにミルクを入れる作業に戻っていった。自分が混ざるべき話題ではないと、理解したんだろう。アイリはおれに似て賢い子だ。
「どうです? 気に入りましたか?」
なんだか投げやりなようにも聞こえるユダの言葉。
ユダはまずおれを、それからアイリをアゴでしゃくる。それから自分の膝に頬杖をついて、上目づかいで会長を見た。
「そうだな。レイに会うのはずいぶん久しぶりのような気がするが、顔に精悍さが出てきたようだ。これからが楽しみだ」
「……レイ」
「あ、ハイ。ありがとう、ございます」
「それにアイリさん」
「え、あ……」
「あなたはとても聡明で、美しい女性だ。なにか困ったことがあれば、いつでも言ってください」
「あ、りがとう、ございます……」
「しかしあれだな、レイはちっとも似ていないな。わたしと」
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